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特表2023-529645架橋デンプン誘導体をベースとしたマトリックス
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  • 特表-架橋デンプン誘導体をベースとしたマトリックス 図1
  • 特表-架橋デンプン誘導体をベースとしたマトリックス 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】架橋デンプン誘導体をベースとしたマトリックス
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20230704BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K47/40
A61K47/02
A61K9/06
A61K9/16
A61K9/19
A61K38/28
A61P3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574654
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2021025211
(87)【国際公開番号】W WO2021254662
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】20305659.3
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】パルク、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウィッツ、ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】イングレット、マキシム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA29
4C076AA31
4C076BB01
4C076CC21
4C076CC30
4C076CC50
4C076DD26
4C076EE38
4C076EE39
4C076EE47
4C076FF32
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB34
4C084MA28
4C084MA41
4C084MA44
4C084MA52
4C084NA10
4C084NA12
4C084ZC351
4C084ZC352
(57)【要約】

本発明は、架橋剤がトリメタリン酸ナトリウム(STMP)である水不溶性の固体架橋デキストリンをベースとしたマトリックス、その使用及び調製方法に関する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの調製方法であって、
a.少なくとも1種のデキストリン又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンを準備する工程、
b.アルカリ剤を含有する水性媒体中で、前記デキストリン又はデキストリンとシクロデキストリンをトリメタリン酸ナトリウム(STMP)で架橋して、前記水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスを形成する工程、及び
c.前記水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスと前記水性媒体との混合物を回収する工程を含む、調製方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のデキストリンがマルトデキストリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のデキストリンがピロデキストリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋が、有機溶媒が存在しない条件下で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種のデキストリン又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンがトリメタリン酸ナトリウムで架橋されている、水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックス。
【請求項6】
前記少なくとも1種のデキストリンがマルトデキストリンである、請求項5に記載の架橋デキストリンをベースとしたマトリックス。
【請求項7】
前記少なくとも1種のデキストリンがピロデキストリンである、請求項5に記載の架橋デキストリンをベースとしたマトリックス。
【請求項8】
有機化合物の担体としての、請求項5~7のいずれか一項に記載の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの使用。
【請求項9】
前記有機化合物が活性成分から選択され、特に薬学的活性成分、生体活性成分、及び食品活性成分から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記活性成分がインスリンである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
請求項5~8のいずれか一項に記載の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスと活性成分とを含む経口送達システムであって、前記マトリックスに前記活性成分が担持される、経口送達システム。
【請求項12】
前記活性成分が、特に薬学的活性成分、生体活性成分又は食品活性成分活性成分から選択される活性成分である、請求項11に記載の経口送達システム。
【請求項13】
前記活性成分がインスリンである、請求項12に記載の経口送達システム。
【請求項14】
水中又は空気中の汚染物質を捕捉するための、請求項5~8のいずれか一項に記載の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、架橋剤がトリメタリン酸ナトリウム(STMP)である水不溶性の固体架橋デキストリンをベースとしたマトリックス、及び、例えば活性成分の持続放出のためのその使用に関する。本発明はまた、当該架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの調製方法にも関する。
【0002】
先行技術の説明
ヒドロゲルは産業、特に製薬及び医療産業においてよく知られている。ヒドロゲルは化学的又は物理的に架橋された親水性ポリマーの三次元ネットワークである。ヒドロゲルはこれらに限定されないが、組織工学、薬物又はsiRNAの担持及び送達、食品用増粘剤、水処理などの様々な用途に使用することができる。
【0003】
Wintgensらは(Carbohydrate Polymers 98(2013)896~904:Carbohydrate Polymers 132(2015)80~88)、トリメタリン酸ナトリウムで架橋して調製したシクロデキストリン及びシクロデキストリン/デキストランをベースとしたヒドロゲルを報告している。これらの論文によれば、シクロデキストリンをベースとしたヒドロゲルは生体活性分子の担体として有望な材料であり、シクロデキストリン/デキストランをベースとしたヒドロゲルは生体活性分子及び骨再生の担体として有望である。
【0004】
国際特許出願2016/100861(A1)号には架橋多糖ポリマー及び流動性の止血組成物としてのそれらの使用が記載されている。例示された組成物はエピクロロヒドリンで架橋されたマルトデキストリンをベースとしている。しかしながら、この出願には当業者による実施例の実施を可能にする操作手順が何も提供されていないため、これらの組成物を調製することはできない。
【0005】
制御された薬物放出のための水不溶性のデンプン誘導体をベースとしたマトリックスは、当技術分野において既知である。それらは一般に、デンプン誘導体を有機架橋剤で架橋することによって製造される。国際特許出願2019/011964(A1)号には、二無水物、特にピロメリット酸二無水物で架橋されたマルトデキストリン、及びインスリンなどの生物学的活性物質の投与におけるそれらの使用が記載されている。これらの二無水物で架橋したマルトデキストリンの合成は、トリエチルアミンの存在下、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で行われている。有機溶媒及びトリメチルアミンなどの有害な試薬の使用は一般に回避されなければならない。
【0006】
活性成分、特に薬学的活性成分の担体として有用であり、また、有機溶媒及び/又は有害な有機試薬の使用を必要としないか、又は少なくともその使用が制限された新しい材料が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、このような材料が、以下で「デキストリン」という用語で定義され分類される特定のデキストリンを、特殊な網状化剤であるトリメタリン酸ナトリウム(STMP)を用いて網状化することによって得られ、この反応が水性媒体中、アルカリ剤の存在下で行われることを見出した。
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの調製方法に関し、方法は、以下の工程、すなわち、
a.少なくとも1種のデキストリン又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンを準備する工程、
b.アルカリ剤を含有する水性媒体中で、前記デキストリン又はデキストリンとシクロデキストリンをトリメタリン酸ナトリウム(STMP)で架橋して、水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスを形成する工程、及び
c.水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスと水性媒体との混合物を回収する工程を含む。
【0009】
第2の態様において、本発明は、デキストリンがトリメタリン酸ナトリウム(STMP)で架橋された架橋デキストリンをベースとしたマトリックスに関する。
【0010】
更なる態様において、本発明は、架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの、例えば、経口送達システムにおける、またフィルターメディアとしての有機化合物を封入するための様々な使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスを調製する本発明の方法は、以下の工程、すなわち、
a.少なくとも1種のデキストリン又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンを準備する工程、
b.アルカリ剤を含有する水性媒体中で、前記デキストリン又はデキストリンとシクロデキストリンをトリメタリン酸ナトリウム(STMP)で架橋して、水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスを形成する工程、及び
c.水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスと水性媒体との混合物を回収する工程を含む。
【0012】
本発明により得られる架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは水不溶性である。本発明の意味において、「水不溶性」という用語は、マトリックスが室温、すなわち18~25℃、pH7で水に溶解しないことを意味する。本発明の好ましい架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、室温、5~9の範囲のpHで水に不溶である。
【0013】
本明細書で使用されるとき、「デキストリン」という用語は、マルトデキストリン、20~30のデキストロース当量(DE)のグルコースシロップ、及びピロデキストリンを含む。本発明の意味において好ましいデキストリンはマルトデキストリン及びピロデキストリンである。マルトデキストリンは、デンプンの酸及び/又は酵素加水分解によって得られ、20以下のDE(又はデキストロース当量)を有する。ピロデキストリンは、酸性条件下でデンプンを乾式加熱することによって得られ、これによって一般に、デンプンの加水分解と、それに続くα-1,6結合による再結合が生じる。これらのピロデキストリンは、使用される温度、酸性度及び湿度条件に応じて、白色又は黄色デキストリン、あるいは「ブリティッシュガム」と呼ばれる。本明細書で使用される「デキストリン」という用語はシクロデキストリンを含まない。
【0014】
本発明での使用に適したデキストリンは、任意のタイプのデンプンから調製することができる。デンプン源の非限定的な例としては、塊茎、穀類及び豆類デンプンが挙げられるが、これらに限定されない。塊茎デンプンの非限定的な例は、ジャガイモ及びタピオカデンプンである。穀物デンプンの例としては、コムギ、トウモロコシ(コーンとも呼ばれる)及びオオムギデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。豆類デンプンの例としては、エンドウマメ、マメ、ソラマメ(ブロードビーン)、ホースビーン、レンズマメ、アルファルファ、ルパンマメ、及びソラマメ(ファバビーン)デンプンが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本発明で使用されるデキストリンは、ジャガイモ、タピオカ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、エンドウマメ、マメ、ソラマメ(ブロードビーン)、ホースビーン、レンズマメ、アルファルファ、ルパンマメ、ソラマメ(ファバビーン)のデキストリン及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、デキストリンは、エンドウマメ、ソラマメ(ファバビーン)及びトウモロコシのデキストリンから、より好ましくはエンドウマメ及びトウモロコシのデキストリンから、特にエンドウマメ及びトウモロコシのマルトデキストリン又はピロデキストリンから選択される。
【0015】
一実施形態において、少なくとも1種のデキストリンは、トウモロコシのデキストリン、特にトウモロコシのピロエキストリン(pyroextrin)である。
【0016】
別の実施形態では、本発明の方法で使用される少なくとも1種のデキストリンはマメ科のデキストリンであり、好ましくは、このデキストリンは、25%~50%、好ましくは30%~40%、特には35%~40%、より優先的には35%~38%のアミロース含有量を有するマメ科のデンプンに由来し、ここで、これらのパーセンテージはデンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される。マメ科のデキストリンは、エンドウマメ、マメ、ソラマメ(ブロードビーン)、ホースビーン、レンズマメ、アルファルファ、ルパンマメ、及びソラマメ(ファバビーン)のデキストリンからなる群から選択される。好ましくは、デキストリンはエンドウマメのデキストリン又はソラマメ(ファバビーン)のデキストリンであり、より好ましくはエンドウマメのデキストリンである。
【0017】
本明細書において、「エンドウマメ」という用語は、その最も広い意味とみなされ、特に、当該品種の通常の使用目的(ヒトの食品、動物用飼料及び/又は他の用途)に関わらず、「丸エンドウマメ」の全ての野生品種、及び「丸エンドウマメ」と「しわエンドウマメ」の全ての変異品種を含む。当該変異品種は、具体的にはC-L HEYDLEYらの論文(HEYDLEY C-L (1996)”Developing novel pea starches” Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemistry Society,pp.77~87)に記載されている「r突然変異体」、「rb突然変異体」、「rug3突然変異体」、「rug4突然変異体」、「rug5突然変異体」及び「lam突然変異体」として知られているものである。好ましいエンドウマメ品種は、丸エンドウマメ品種、特に野生の丸エンドウマメ品種である。
【0018】
本発明で使用される少なくとも1種のデキストリンは、マルトデキストリン、特にマメ科のマルトデキストリン、特にソラマメ(ファバビーン)又はエンドウマメのマルトデキストリン、より具体的にはエンドウマメのマルトデキストリンから選択される。好ましくは、マルトデキストリンは、5000~15000ダルトン(Da)、好ましくは10000~15000Da、より好ましくは10000~14000Daの範囲内で選択される重量平均分子量を有する。重量平均分子量は立体排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定することができる。
【0019】
マルトデキストリン、特にマメ科のマルトデキストリン、具体的にはソラマメ(ファバビーン)又はエンドウマメのマルトデキストリン、より具体的にはエンドウマメのマルトデキストリンの使用は、特に膨潤に関して、特別に有利な特性を有する架橋マトリックスが得られることから、特に興味深い。
【0020】
本発明で使用される少なくとも1種のデキストリンはまた、ピロデキストリン、特にトウモロコシのピロデキストリンから選択されてもよい。
【0021】
少なくとも1種のデキストリンは、特にピロデキストリンの場合、架橋工程の前に加熱してもよい。得られたペーストを、好ましくは、架橋の前に室温まで冷却する。
【0022】
少なくとも1種のデキストリンは、単独で、又は少なくとも1種のシクロデキストリンと一緒に使用することができる。本出願において使用される「シクロデキストリン」という用語は、炭素1と炭素4の間の共有結合によって連結された6~12個のグルコース単位を含有する天然で無置換のシクロデキストリンなどの当分野で公知のすべてのシクロデキストリンを含み、それぞれ6個、7個及び8個のグルコース単位を含有するα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンなどが挙げられる。本発明の好ましいシクロデキストリンは、α-、β-及びγ-シクロデキストリンであり、天然のβ-シクロデキストリンが最も好ましい。
【0023】
本発明の方法の工程b)において、少なくとも1種のデキストリン、又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンを、アルカリ剤を含有する水性媒体中でトリメタリン酸ナトリウム(STMP)を用いて架橋して、水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスを形成させる。
【0024】
有益なことに、工程bは有機溶媒が存在しない条件下で行われ、すなわち、水性媒体は有機溶媒を含有しない。当業者は、反応条件及び使用する試薬の量を容易に決定することができる。
【0025】
本明細書で使用される「アルカリ剤」という用語は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性イオン塩、例えば水酸化物又は炭酸塩を意味する。アルカリ剤は、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合物から選択される。好ましいアルカリ剤は水酸化ナトリウムである。
【0026】
好ましくは、アルカリ剤は、1超、好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、更に好ましくは2.5以上のアルカリ剤/STMPのモル比で用いられる。実際、本発明者らは、アルカリ剤/STMP、特にNaOH/STMPのモル比が1未満又は2未満の場合に、網状化よりもデキストリン及び/又はシクロデキストリンのリン酸化が進むことを見出した。好ましくは、このモル比は、5.0未満、更に好ましくは4.5以下、更に好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.5以下である。更に好ましくは約3、例えば3.1である。
【0027】
好ましくは、アルカリ剤は、デキストリンとトリメタリン酸ナトリウムを添加する前の水性媒体のpHが8~14、好ましくは10~14、特には約12であるような量で存在する。
【0028】
架橋反応は、18℃~40℃、好ましくは18℃~30℃の温度で行われる。一般的には、架橋工程は室温、すなわち18~25℃の温度で行われる。
【0029】
反応時間は、架橋を実施する温度と関係し、当業者は容易に調整することができる。それは一般に10分~5時間、好ましくは15分~4時間である。
【0030】
STMP/デキストリン又はSTMP/(デキストリンとシクロデキストリン)比は、使用するデキストリン又はデキストリン/シクロデキストリン混合物に応じて変化する。当業者の基本的な専門知識によって適切な比を選択することができる。好ましくは、乾燥重量/乾燥重量で表されるこの比は、80%以下、好ましくは70%以下、好ましくは60%以下、好ましくは10%~60%、更により好ましくは15%~50%である。好ましくは15%超、更に好ましくは20%超、更に好ましくは25%以上、更に好ましくは25%超、更に好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上である。例えば、約50%である。
【0031】
水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスが工程cで形成された後、このマトリックスと水性媒体との混合物を工程c)で回収する。次いで、この混合物に対して水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスを水性媒体から分離する工程d)を行なってもよい。分離は、遠心濾過、濾過、凍結乾燥などの当分野で公知の任意の適切な方法によって行なうことができる。
【0032】
分離されたマトリックスは、工程e)で乾燥させてもよい。任意で、分離されたマトリックスを、分離工程d)の後且つ乾燥の前に、例えば、脱塩水及び/又はエタノールなどのアルコールで洗浄してもよい。
【0033】
第2の態様では、本発明は、少なくとも1種のデキストリン又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンがトリメタリン酸ナトリウムで架橋された水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスに関する。少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンは、上記の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの調製方法において使用されるものである。本発明のデキストリンをベースとしたマトリックスは、この方法に従って得ることができる。したがって、本発明のデキストリンをベースとしたマトリックスは、好ましくは、いかなる有機溶媒も含まない。本発明の意味における「有機溶媒を含まない」という表現は、1種以上の有機溶媒を使用する調製方法から生じる痕跡量の有機溶媒さえもマトリックスが含有しないことを意味する。
【0034】
本開示の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、前記デキストリンをベースとしたマトリックスの所望の特性に干渉しない限り、デキストリンとシクロデキストリン以外の架橋成分を含有することができる。しかしながら、本開示の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、好ましくは、デキストリンとシクロデキストリン以外の架橋成分を乾燥重量で30%以下、好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0%含有する。架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、上記の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの調製方法に従って得ることができることから、それは好ましくは、トリメタリン酸ナトリウムで架橋された少なくとも1種のデキストリン又は少なくとも1種のデキストリンと少なくとも1種のシクロデキストリンからなる。言い換えれば、本開示のデキストリンをベースとしたマトリックスは、好ましくは、デキストリンとシクロデキストリン以外の架橋成分を含まない。
【0035】
本発明の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは水不溶性である。本発明の意味において、「水不溶性」という用語は、マトリックスが室温、すなわち18~25℃、pH7で水に溶解しないことを意味する。本発明の好ましい架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、室温、5~9の範囲のpHで水に不溶である。
【0036】
しかしながら、本発明の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは水中で膨潤する。マトリックスの膨潤能力は、下のように定義される膨潤指数(SI)によって特徴付けることができ、
SI%=(Ws-Wd)/Wd100
式中、Wd=マトリックスの乾燥重量であり、Ws=膨潤マトリックスの重量である。SI%を決定するためには、1gの乾燥マトリックスを100mLの脱塩水に分散させ、24時間静置して膨潤させる。24時間接触させた後、水中に分散したマトリックスの混合物を遠心分離して、上澄み(水)と下層(膨潤したマトリックス又はゲル)とを分離する。次いで、膨潤したマトリックスを秤量する。
【0037】
本発明の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの膨潤指数は、好ましくは少なくとも200%、より好ましくは少なくとも500%、更により好ましくは少なくとも600%である。更に好ましくは700%以上、更に好ましくは800%以上、更に好ましくは900%以上、更に好ましくは1000%以上、更に好ましくは1000%超、更に好ましくは1100%以上、更に好ましくは1200%以上、更に好ましくは1300%以上、更に好ましくは1400%以上、更に好ましくは1500%以上、更に好ましくは1600%以上である。それは一般に4000%以下、更には3500%以下、更には3000%以下、更には2500%以下、更には2000%以下である。
【0038】
有益なことに、本発明の水不溶性の架橋マトリックスは負のゼータ電位を有する。好ましくは、ゼータ電位は-10mV~-50mV、より好ましくは-20mV~-30mVである。ゼータ電位は、実施例のセクションに記載されるように電気泳動移動度によって決定することができる。
【0039】
本発明の水不溶性の架橋マトリックスは粒子の形態であることができる。マトリックス粒子の平均直径は、例えば、100nm~1000nm、具体的には150nm~500nm、より具体的には200nm~300nmである。適切な粒径を得るために、マトリックスを粉砕してもよい。好ましくは、マトリックスは、0.10~0.50、好ましくは0.15~0.45、より好ましくは0.20~0.40の多分散指数を有する。平均直径及び多分散指数は、実施例のセクションに記載されるように、レーザー光散乱によって決定することができる。
【0040】
一実施形態では、STMPで架橋された少なくとも1種のデキストリンは、トウモロコシのデキストリン、特にトウモロコシのピロデキストリンである。
【0041】
別の実施形態では、STMPで架橋された少なくとも1種のデキストリンは、マメ科のデキストリンであり、好ましくは、このデキストリンは、25%~50%、好ましくは30%~40%、特には35%~40%、より優先的には35%~38%のアミロース含有量を有するマメ科のデンプンに由来し、ここで、これらのパーセンテージはデンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される。マメ科のデキストリンは、エンドウマメ、マメ、ソラマメ(ブロードビーン)、ホースビーン、レンズマメ、アルファルファ、ルパンマメ、及びソラマメ(ファバビーン)のデキストリンからなる群から選択される。好ましくは、デキストリンはエンドウマメのデキストリン又はソラマメ(ファバビーン)のデキストリンであり、より好ましくはエンドウマメのデキストリンである。
【0042】
本明細書において、「エンドウマメ」という用語は、その最も広い意味とみなされ、特に、当該品種の通常の使用目的(ヒトの食品、動物用飼料及び/又は他の用途)に関わらず、「丸エンドウマメ」の全ての野生品種、及び「丸エンドウマメ」と「しわエンドウマメ」の全ての変異品種を含む。当該変異品種は、具体的にはC-L HEYDLEYらの論文(HEYDLEY C-L(1996)”Developing novel pea starches”Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemistry Society,pp.77~87)に記載されている「r突然変異体」、「rb突然変異体」、「rug3突然変異体」、「rug4突然変異体」、「rug5突然変異体」及び「lam突然変異体」として知られているものである。好ましいエンドウマメ品種は、丸エンドウマメ品種、特に野生の丸エンドウマメ品種である。
【0043】
別の実施形態では、STMPで架橋される少なくとも1種のデキストリンは、25%~50%、好ましくは30%~40%、特には35%~40%、より優先的には35%~38%のアミロース含有量を有するデンプンに由来し、ここで、これらのパーセンテージはデンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される。これらのデキストリンは好ましくはマメ科のデキストリンである。これらのデキストリンは、エンドウマメ、マメ、ソラマメ(ブロードビーン)、ホースビーン、レンズマメ、アルファルファ、ルパンマメ、及びソラマメ(ファバビーン)のデキストリンからなる群から選択される。好ましくは、デキストリンはエンドウマメのデキストリン又はソラマメ(ファバビーン)のデキストリンであり、より好ましくはエンドウマメのデキストリンである。
【0044】
少なくとも1種のデキストリンが上記のようなアミロース含有量を有するデンプンに由来する水不溶性の架橋マトリックスは、特に膨潤に関して特別に有利な特性を有する。
【0045】
本発明のマトリックス中の架橋された少なくとも1種のデキストリンは、マルトデキストリン、特にマメ科のマルトデキストリン、具体的にはソラマメ(ファバビーン)又はエンドウマメのマルトデキストリン、より具体的にはエンドウマメのマルトデキストリンから選択される。好ましくは、マルトデキストリンは、5000~15000ダルトン(Da)、好ましくは10000~15000Da、より好ましくは10000~14000Daの範囲内で選択される重量平均分子量を有する。重量平均分子量は立体排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定することができる。
【0046】
少なくとも1種のデキストリンがマルトデキストリン、特にマメ科のマルトデキストリン、具体的にはソラマメ(ファバビーン)又はエンドウマメのマルトデキストリン、より具体的にはエンドウマメのマルトデキストリンである水不溶性の架橋マトリックスは、特に膨潤に関して特別に有利な特性を有する。
【0047】
本発明のマトリックス中の架橋された少なくとも1種のデキストリンはまた、ピロデキストリン、特にトウモロコシのピロデキストリンから選択されてもよい。
【0048】
少なくとも1種のデキストリンは、特にピロデキストリンの場合、架橋工程の前に加熱してもよい。得られたペーストを、好ましくは、架橋の前に室温まで冷却する。
【0049】
少なくとも1種のデキストリンは、単独で、又は少なくとも1種のシクロデキストリンと共にSTMPで架橋される。本出願において使用される「シクロデキストリン」という用語は、炭素1と炭素4の間の共有結合によって連結された6~12個のグルコース単位を含有する天然で無置換のシクロデキストリンなどの当分野で公知のすべてのシクロデキストリンを含み、それぞれ6個、7個及び8個のグルコース単位を含有するα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンなどが挙げられる。本発明の好ましいシクロデキストリンは、α-、β-及びγ-シクロデキストリンであり、天然のβ-シクロデキストリンが最も好ましい。
【0050】
本発明の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは活性成分を担持させることができる。したがって、本発明の第3の態様は、有機化合物の担体としての、本発明の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスの使用に関する。本発明のマトリックスには、実際に、カチオン性化合物、非イオン性化合物、及びポリペプチドなどの複雑な化合物を含む様々なタイプの有機化合物を担持させることができる。これらの有機化合物は特に、活性成分から選択される。本発明の意味の範囲において「薬学的活性成分」という用語は、低分子活性成分並びに高分子活性成分を含む。高分子活性成分には、インスリンなどのタンパク質、抗体、及びヌクレオチドが含まれるが、これらに限定されない。活性成分は、例えば、薬学的活性成分、生体活性成分、又は食品活性成分であってもよい。好ましくは、本開示の活性成分は高分子である。更に好ましくは、本開示の活性成分はタンパク質であり、更に好ましくはインスリンである。
【0051】
本発明の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、経口投与によるヒト又は動物の体内での活性成分の持続放出に特に有用である。したがって、第4の態様において、本発明は、本発明の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスと活性成分とを含む経口送達システムに関し、ここで、活性成分はマトリックスに担持される。言い換えれば、本発明の水不溶性の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは活性成分の担体として使用される。適切な活性成分は上記のものである。
【0052】
化合物を保持するその能力によって、本発明の水不溶性の架橋マトリックスはまた、水又は空気中の汚染物質の捕捉にも有用である。特に、カチオン性有機汚染物質又は金属カチオンを保持するために使用することができる。カチオン性有機汚染物質としては、例えば、カチオン性低分子活性成分及びカチオン性染料が挙げられる。本発明の架橋デキストリンをベースとしたマトリックスは、例えば、空気又は水を濾過するためのフィルターメディアとして使用することができる。
【0053】
本発明は、以下の例示的且つ非限定的な実施例及び図面を参照することによって、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明のインスリン担持マトリックスからのpH=1.2での経時的なインスリン放出を示す。
図2】本発明のインスリン担持マトリックスからのpH=6.8での経時的なインスリン放出を示す。
【実施例
【0055】
以下の出発物質を架橋マトリックスの合成に使用した。
【0056】
KLEPTOSE Linecaps(登録商標)17(Roquette Freres):エンドウマメのマルトデキストリン。
【0057】
Stabilys(登録商標)A025(Roquette Freres):トウモロコシのピロデキストリン。
【0058】
Stabilys(登録商標)A053(Roquette Freres):トウモロコシのピロデキストリン。
【0059】
トリメタリン酸ナトリウム(STMP、Na、CAS No.7785-84-4):シグマ・アルドリッチ、純度95%。
【0060】
実施例1:60%のSTMPで架橋された本発明のマルトデキストリンをベースとしたマトリックスの合成
メカニカルスターラーを備えたガラス製反応器に、105.2gのLinecaps17(残留水分4.9重量%、100gの乾燥物質)を入れた。
【0061】
デンプンの乾燥重量に基づいて20重量%のNaOH(20g、0.5モル)を10%NaOH溶液(200g)を用いて撹拌下に添加した。
【0062】
反応物を室温(約20~25℃)で撹拌下に3.5時間置いた。
【0063】
デンプンの乾燥重量に基づいて60重量%のトリメタリン酸ナトリウム(60g、0.196モル)を撹拌下で添加した。反応混合物を1.5時間置いた。
【0064】
数分後に混合物のゼリー化が観察され、撹拌を停止した。
【0065】
その後、粗物質を回収した。
【0066】
固体を粉砕し、十分な量の水に分散させて、撹拌した懸濁液を得た。残存pHが6.5になるまでHClを添加して粗生成物を中和した。
【0067】
混合物を、VMRのMega Star 1.6遠心分離機を使用して4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で洗浄した。15分間撹拌した後、混合物を、前と同じ遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたゲルを脱塩水で更に2回洗浄した。
【0068】
最終マトリックスを回収し、撹拌しながらエタノール中で沈殿させた。得られた白色粉末を濾過し、真空下で乾燥させた。生成物を59%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物に加えた乾燥Linecaps+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0069】
実施例2:50%のSTMPで架橋された本発明のマルトデキストリンをベースとしたマトリックスの合成
メカニカルスターラーを備えたガラス製反応器に、105.2gのLinecaps17(残留水分4.9%、100gの乾燥物質)を入れた。
【0070】
デンプンの乾燥重量に基づいて20重量%のNaOH(20g、0.5モル)を10%NaOH溶液(200g)を用いて撹拌下に添加した。
【0071】
反応物を室温(約20~25℃)で撹拌下に3.5時間置いた。
【0072】
デンプンの乾燥重量に基づいて50重量%のトリメタリン酸ナトリウム(50g、0.163モル)を撹拌下で添加した。反応混合物を1.5時間置いた。
【0073】
数分後に混合物のゼリー化が観察され、撹拌を停止した。
【0074】
その後、粗物質を回収した。
【0075】
固体を粉砕し、十分な量の水に分散させて、撹拌した懸濁液を得た。残存pHが6.5になるまでHClを添加して粗生成物を中和した。
【0076】
反応混合物を、VMRのMega Star 1.6遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたゲルを脱塩水で洗浄した。15分間撹拌した後、混合物を、前と同じ遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で更に2回洗浄した。
【0077】
最終マトリックスを回収し、撹拌しながらエタノール中で沈殿させた。得られた白色粉末を濾過し、真空下で乾燥させた。生成物を54%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物中に加えた乾燥Linecaps+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0078】
実施例3:40%のSTMPで架橋された本発明のマルトデキストリンをベースとしたマトリックスの合成
メカニカルスターラーを備えたガラス製反応器に、525.8gのLinecaps17(残留水分4.9%、500gの乾燥物質)を入れた。
【0079】
デンプンの乾燥重量に基づいて16重量%のNaOH(80g、2モル)を10%NaOH溶液(800g)を用いて撹拌下に添加した。
【0080】
反応物を室温(約20~25℃)で撹拌下に3.5時間置いた。
【0081】
デンプンの乾燥重量に基づいて40重量%のトリメタリン酸ナトリウム(200g、0.653モル)を撹拌下で添加した。反応混合物を1.5時間置いた。
【0082】
数分後に混合物のゼリー化が観察され、撹拌を停止した。
【0083】
その後、粗物質を回収した。
【0084】
固体を粉砕し、十分な量の水に分散させて、撹拌した懸濁液を得た。残存pHが6.5になるまでHClを添加して粗生成物を中和した。
【0085】
反応混合物を、VMRのMega Star 1.6遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたゲルを脱塩水で洗浄した。15分間撹拌した後、混合物を、前と同じ遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で更に2回洗浄した。
【0086】
最終マトリックスを回収し、撹拌しながらエタノール中で沈殿させた。得られた白色粉末を濾過し、真空下で乾燥させた。生成物を59%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物に加えた乾燥Linecaps+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0087】
実施例4:25%のSTMPで架橋された本発明のマルトデキストリンをベースとしたマトリックスの合成
メカニカルスターラーを備えたガラス製反応器に、525.8gのLinecaps17(残留水分4.9%、500gの乾燥物質)を入れた。
【0088】
デンプンの乾燥重量に基づいて10重量%のNaOH(50g、1.25モル)を10%NaOH溶液(500g)を用いて撹拌下に添加した。
【0089】
50gの脱塩水を反応混合物に添加して、良好に撹拌できるようにした。
【0090】
反応物を室温(約20~25℃)で撹拌下に3.5時間置いた。
【0091】
デンプンの乾燥重量に基づいて25重量%のトリメタリン酸ナトリウム(125g、0.408モル)を撹拌下で添加した。反応混合物を1.5時間置いた。
【0092】
数分後に混合物のゼリー化が観察され、撹拌を停止した。
【0093】
その後、粗物質を回収した。
【0094】
固体を粉砕し、十分な量の水に分散させて、撹拌した懸濁液を得た。残存pHが6.5になるまでHClを添加して粗生成物を中和した。
【0095】
反応混合物を、VMRのMega Star 1.6遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたゲルを脱塩水で洗浄した。15分間撹拌した後、混合物を、前と同じ遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で更に2回洗浄した。
【0096】
最終マトリックスを回収し、撹拌しながらエタノール中で沈殿させた。得られた白色粉末を濾過し、真空下で乾燥させた。生成物を58%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物中に加えた乾燥Linecaps+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0097】
実施例5:20%のSTMPで架橋された本発明のマルトデキストリンをベースとしたマトリックスの合成
メカニカルスターラーを備えたガラス製反応器に、525.8gのLinecaps17(残留水分4.9%、500gの乾燥物質)を入れた。
【0098】
デンプンの乾燥重量に基づいて8重量%のNaOH(40g、1モル)を、10%NaOH溶液(400g)を用いて撹拌下に添加した。
【0099】
140gの脱塩水を反応混合物に添加して、良好に撹拌できるようにした。
【0100】
反応物を室温(約20~25℃)で撹拌下に3.5時間置いた。
【0101】
デンプンの乾燥重量に基づいて20重量%のトリメタリン酸ナトリウム(100g、0.327モル)を撹拌下で添加した。反応混合物を1.5時間置いた。
【0102】
数分後に混合物のゼリー化が観察され、撹拌を停止した。
【0103】
その後、粗物質を回収した。
【0104】
固体を粉砕し、十分な量の水に分散させて、撹拌した懸濁液を得た。残存pHが6.5になるまでHClを添加して粗生成物を中和した。
【0105】
反応混合物を、VMRのMega Star 1.6遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたゲルを脱塩水で洗浄した。15分間撹拌した後、混合物を、前と同じ遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で更に2回洗浄した。
【0106】
最終マトリックスを回収し、撹拌しながらエタノール中で沈殿させた。得られた白色粉末を濾過し、真空下で乾燥させた。生成物を57%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物中に導入された乾燥Linecaps+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0107】
実施例6:60%のSTMPで架橋された本発明のピロデキストリンをベースとしたマトリックスの合成
実施例6a:メカニカルスターラーを備えたガラス製反応器に、100gの乾燥Stabilys(登録商標)A053(残留水分の測定後に計算された量、100gの乾燥物質)と400gの脱塩水からなる乾燥物質が20重量%であるスラリーを入れた。この調製物を95℃に加熱し、スラリーはペースト(黄色)になった。95℃で30分間加熱した後、水酸化ナトリウム溶液を添加する前に反応混合物を25℃に冷却した。
【0108】
デンプンの乾燥重量に基づいて20重量%のNaOH(20g、0.5モル)を10%NaOH溶液(200g)を用いて撹拌下で添加した。
【0109】
反応物を室温(約20~25℃)で撹拌下で3.5時間置いた。
【0110】
デンプンの乾燥重量に基づいて60重量%のトリメタリン酸ナトリウム(60g、0.196モル)を撹拌下で添加した。反応混合物を1.5時間置いた。
【0111】
数分後に混合物のゼリー化が観察され、撹拌を停止した。
【0112】
その後、粗物質を回収した。
【0113】
固体を粉砕し、十分な量の水に分散させて、撹拌した懸濁液を得た。残存pHが6.5になるまでHClを添加して粗生成物を中和した。
【0114】
反応混合物を、VWMのMega Star1.6遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で洗浄した。15分間撹拌した後、混合物を、前と同じ遠心分離機を用いて4700rpmで15分間遠心分離した。上澄みを除去し、得られたマトリックスを脱塩水で更に2回洗浄した。
【0115】
最終マトリックスを回収し、撹拌しながらエタノール中で沈殿させた。得られた白色粉末を濾過し、真空下で乾燥させた。生成物を58%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物中に加えた乾燥Stabilys(登録商標)A053+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0116】
実施例6b:Stabilys(登録商標)A053の乾燥物質が20重量%のスラリーを、Stabilys(登録商標)A025の乾燥物質が15重量%のスラリー(425gの脱塩水中の75gのStabilys(登録商標)A025)で置き換えて、実施例3aを繰り返した。生成物を68%の収率(回収された生成物の乾燥重量/反応混合物中に加えた乾燥Stabilys(登録商標)A025+STMPの初期量に基づく)で回収した。
【0117】
実施例7:本発明のマトリックスの溶解性
水中における実施例1~3のマトリックスの溶解度を以下のプロトコルに従って決定した。
【0118】
各マトリックス250mgをバイアルに取った。各バイアルに5mLの脱イオン水を加えた。全ての試料を定期的に撹拌し、定期的に観察を行なった。
【0119】
各試料の膨潤及び溶解を72時間まで観察した。溶解性を確認するために、上澄み液(水)の粘度と透明度を拡大鏡で注意深く観察した。試料の膨潤と溶解は、この目視による評価によって明確に区別することができる。
【0120】
各マトリックスについて、試験をpH7、pH5(HClの添加)及びpH9(NaOHの添加)で行った。
【0121】
全ての試料は試験条件下で不溶性であった。しかしながら、それらは大きな膨潤を示した。
【0122】
実施例8:本発明のマトリックスの膨潤能力
実施例2~4のマトリックスの膨潤指数(SI)を以下のプロトコルに従って測定した。
【0123】
1g(乾燥重量)の生成物をメスシリンダーの中で100mLの脱塩水中に分散させ、24時間置いて膨潤させた。24時間接触させた後、ゲルが分散した水の混合物を遠心分離して、上澄みと下層(膨潤ゲル)を分離した。膨潤したゲルを秤量して、吸収された水の量を決定した。
【0124】
SIは上記のように計算した。
【0125】
結果を下の表1に示す。
【表1】
【0126】
実施例9:本発明のマトリックスのpH値、平均直径及び多分散性
実施例2、3、4及び5のマトリックスのpH値をpHメーター(Orionモデル420A)を用いて決定した。
【0127】
実施例2、3、4、及び5のマトリックスの平均直径及び多分散指数を90plus Instrument(Brookhaven、ニューヨーク、米国)を用いてレーザー光散乱によって決定し、ゼータ電位を同じ機器を用いて電気泳動移動度によって決定した。
【0128】
それぞれの分析を以下のように調製したマトリックス懸濁液について行った。
1. 10mg/mLの濃度で蒸留水中に粗い粉末を入れ、室温で撹拌して懸濁液を調製する。
2. 高せん断ホモジナイザー(Ultraturrax(登録商標)、IKA、ケーニッヒスヴィンター、ドイツ)を用いて24000rpm、10分間で懸濁液を分散させる。
3. EmulsiFlex C5装置(Avastin、米国)を用いて、500バールの背圧で90分間高圧ホモジナイズして、更にサイズを減少させる。
4. ホモジナイズしたナノ懸濁液を透析(Spectrapore、セルロース膜、カットオフ12000Da)して精製し、潜在的に存在し得る合成の残留物を除去する。
5. 4℃でナノ懸濁液を保存する。
【0129】
結果を下の表2に示す。
【表2】
【0130】
実施例10:本発明のマトリックスのメチレンブルーの担持能力
有機カチオン化合物のモデルとしてメチレンブルーを使用して、本発明のマトリックスの有機カチオン化合物の保持能力を実証した。
【0131】
2g(乾燥重量)の架橋されたマトリックスを10-5Mのメチレンブルー水溶液100mL中に分散させ、24時間置いて膨潤させた。24時間接触させた後に、メチレンブルー水溶液中に分散したゲルの混合物を遠心分離して、上澄みと下層(青色の膨潤ゲル)を分離した。
【0132】
UV-可視分光法を用いて上澄み中に残留するメチレンブルーの濃度を決定した。
【0133】
メチレンブルー吸収能力(%)を、マトリックスによって保持されたメチレンブルーの量/最初に入れたメチレンブルーの量の比×100として計算した。マトリックスによって保持されたメチレンブルーの量は、最初に入れたメチレンブルーの量と上澄み中に存在するメチレンブルーの量との差に相当する。
【0134】
結果を下の表2に示す。
【表3】
【0135】
実施例11:本発明のマトリックスのインスリンの担持
ウシ膵臓粉末由来のインスリンを使用し、リン酸を用いてpH2.3に調整した蒸留水中の2mg/mL溶液を調製した。インスリン溶液を、(実施例9に記載のプロトコルに従って)予め形成した架橋マトリックスの水性ナノ懸濁液に、インスリン溶液:ナノ懸濁液の重量比1:5で添加した。混合物を室温で30分間撹拌し、次いで遠心分離した。上澄みを沈殿物から分離し、沈殿物を集めて凍結乾燥した。
【0136】
この手順に従って、凍結乾燥インスリン担持マトリックスを実施例1及び2のマトリックスから調製した。
【0137】
インスリン担持能力
以下のプロトコルに従って、凍結乾燥インスリン担持試料から担持能力を決定した。
【0138】
2~3mgの凍結乾燥インスリン担持架橋マトリックスを5mLの蒸留水に分散させた。超音波処理(15分、100W)及び遠心分離処理を行って、送達システムからインスリンを放出させた。次いで、上澄みを分析してインスリンの定量測定を行なった。
【0139】
インスリンの定量測定は、分光光度計検出器(Flexar UV/Vis LC、パーキンエルマー、ウォルサム、マサチューセッツ)を備えた高速液体クロマトグラフィ(HPLC)(パーキンエルマー250B、ウォルサム、マサチューセッツ)で行った。分析カラムC18(250mm×4.6mm、ODS Ultrasphere 5μm;ベックマン・インスツルメント、米国)を使用した。移動相は、蒸留水とアセトニトリル(72:28v/v)中0.1Mの硫酸ナトリウムの混合物からなり、使用前に0.45μmのナイロン膜を通して濾過し、超音波で脱気した。紫外線検出を214nmに固定して、流速を1mL/分に設定した。標準検量線に基づいて外部標準法を用いてインスリン濃度を計算した。この目的のために、1mgのインスリンを秤量し、10mLのフラスコに入れ、リン酸でpH 2.3に調整した蒸留水に溶解させて母液を得た。次いで、この溶液を移動相を用いて希釈して一連の標準溶液を調製して、HPLCシステムに注入した。0、5~25μg/mLの濃度範囲にわたって、回帰係数0.999で直線プロットされる直線の標準曲線を得た。
【0140】
送達システムのインスリン担持容量(%)は以下のように計算した。[インスリンの重量/凍結乾燥架橋マトリックスの重量]×100。
【0141】
結果を下の表3に示す。
【表4】
【0142】
実施例12:インスリンの放出
インビトロの薬物放出動態
インビトロの薬物放出実験は、反対側のレシーバーセルからセルロース膜(スペクトラポア、カットオフ50kDa)によって分離された片側のいくつかのドナーセルから構成されたマルチコンパートメント回転ディスク(ドナーコンパートメントから膜によって分離されたドナーチャンバーを含む拡散セルシステム)で行った。実施例2のマトリックスから実施例11で調製した凍結乾燥インスリン担持架橋マトリックスをドナーセル(1mL)に入れた。レシーバーセルをpH1.2及びpH6.8のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で別々に満たした。インビトロの放出試験を24時間実施し、ここで、レシーバー相を規則的な間隔で回収して同量の新しいPBS溶液と交換した。調べたサンプリングの時間は、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、6、22及び24時間であった。回収した試料中のインスリン濃度を、後からHPLCによって検出した。
【0143】
結果を図1及び図2に示す。図1には、3時間後には放出がなかったことから、3時間までの結果のみを示す。
【0144】
本発明の架橋マトリックスは、胃のpH(図1、pH1.2)ではインスリンを放出しないが、腸のpH(図2、pH6.8)ではインスリンを放出することができる。言い換えれば、本発明のマトリックスは、胃の高い酸性度のためにインスリンが加水分解されるpHでインスリンを放出せず、インスリンの吸収が望まれる腸ではインスリンを放出することができる。図2にはまた、本発明のマトリックスが数時間にわたってインスリンを放出し続けることを示す。
【0145】
更に、本発明の架橋マトリックスは、有益なことにインスリンの徐放が可能である。このことは、インスリンが長時間にわたって生物学的に利用できる可能性があること、及び本発明の架橋マトリックスを摂取した後の血中インスリンの急激な上昇を引き起こす可能性が低いことを意味している。したがって、本発明の架橋マトリックスは、血中インスリンの急激な上昇によって引き起こされる有害な低血糖のリスクを低減する。
【0146】
インビボの実験
実施例2のマトリックスから実施例11で調製した凍結乾燥インスリン担持架橋マトリックスを、ラットの胃に強制経口投与した。投与したインスリンの用量は、2.10mg/kgであった。様々な時点で血液試料を採取した。
【0147】
以下のプロトコールに従って、採取した血液試料から得た血漿試料からインスリンを抽出した。各100μlの血漿に、100μlのPBS(pH7.4)、50μlのアセトニトリル、20μlのエチルパラベン、及び3mLのジクロロメタン/n-ヘキサン(1:1 v/v)を加えた。混合物を2分間ボルテックスで混合し、次いで5000rpmで10分間遠心分離した。上澄みを試験チューブに移した。次いで、300μlの0.05N HClを添加し、混合物を窒素流下で2分間ボルテックスで混合した。窒素流下で有機相を完全に蒸発させた後、残りの上澄みを15000rpmで10分間遠心分離した。透明な上澄みを得た。上澄み試料を-18℃の冷凍庫に保存し、HPLC及びELISAによって分析した。
【0148】
HPLC分析:
HPLC分析をパーキンエルマー250B HPLCシステムで行い、Chromeraソフトウェアを用いてピーク積分した。HPLCの実験条件は以下の通りであった。
ループ:20μl
流速:1ml/分
圧力:180バール
カラム:アジレントTC-C18(2)5メールμm(4.6mm×150mm、米国)。
λ:214nm
装置:パーキンエルマー250B、ウォルサム、マサチューセッツ
溶離液:42容量の移動相A(28.4gの無水硫酸ナトリウムを1000mLの水に溶解した溶液、リン酸を使用してpH=2.3)と58容量の移動相B(550mLの移動相Aと450mLのアセトニトリルとの混合物)との混合物。
【0149】
結果を表4に示す。
【表5】
【0150】
ELISAアッセイ
ELISAアッセイ(シグマ・アルドリッチELISAキット)を、15分、60分及び360分で採取した試料について行った。それらを、パーキンエルマーの装置で測定した450nmでの平均吸収読取り値及び対応する濃度(μIU/mL)と共に以下の表に列挙する。結果を表5に示す。
【表6】
【0151】
シグマ・アルドリッチから提供されているELISAキットの「分析証明書」に示されたプロトコルに従って作成されたインスリンの検量線を使用して計算した。線形回帰方程式は以下の通りであった。
y=0.0061x+0.0819であり、相関係数は0.954である。
【0152】
**試料を1:4に希釈した。
【0153】
HPLC分析とELISAアッセイの結果は、投与されたインスリンが血液中に見られることを示し、したがって、本発明のマトリックスがインスリンの経口投与に有用であることが確認される。
図1
図2
【国際調査報告】