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特表2023-529677溶融強度が向上した低曇価かつ低着色性の可塑化セルロースエステル組成物およびそれから形成された物品
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  • 特表-溶融強度が向上した低曇価かつ低着色性の可塑化セルロースエステル組成物およびそれから形成された物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】溶融強度が向上した低曇価かつ低着色性の可塑化セルロースエステル組成物およびそれから形成された物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/08 20060101AFI20230704BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20230704BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20230704BHJP
   B32B 23/00 20060101ALI20230704BHJP
   B32B 23/18 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C08L1/08
C08K3/01
C08K3/36
C08K5/10
B32B23/00
B32B23/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575722
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 US2021035601
(87)【国際公開番号】W WO2021252253
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】63/035,902
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594055158
【氏名又は名称】イーストマン ケミカル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,ロバート・エリック
(72)【発明者】
【氏名】ドネルソン,マイケル・ユージン
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AA20H
4F100AJ06A
4F100AP00B
4F100AT00
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10
4F100CA23A
4F100CA23H
4F100GB07
4F100GB08
4F100JK07
4J002AB021
4J002CD162
4J002DJ016
4J002DL006
4J002EH057
4J002EH097
4J002FD010
4J002FD022
4J002FD027
4J002FD050
4J002FD160
4J002FD170
4J002FD206
4J002GL00
(57)【要約】
可塑化セルロースエステル組成物が開示される。本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。関連の物品もまた記載される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑化セルロースエステル、および前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む、可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項2】
前記組成物は、少なくとも1つのセルロースエステルおよび少なくとも1つの可塑剤を含む、請求項1に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項3】
前記組成物は、前記組成物の総重量基準で1重量%~35重量%の可塑剤を含む、請求項2に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項4】
前記組成物は、前記組成物の総重量基準で5重量%~30重量%の可塑剤を含む、請求項2~3のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項5】
前記無機流動性改質剤は、非晶質シリカ、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、ガラスビーズ、ガラス繊維からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項6】
前記無機流動性改質剤はシリカである、請求項5に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項7】
前記シリカは100~600m/gの比表面積を有する、請求項6に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項8】
前記組成物の総重量基準で0.25重量%~10.0重量%の量のシリカを含む、請求項6~7のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項9】
前記可塑剤は、トリエチレングリコール2-ヘキサン酸エチル、アジピン酸ジオクチル、アゼライン酸ジ-n-ヘキシル、エポキシ化大豆油、アセチルクエン酸トリエチル、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2~8のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項10】
前記組成物はさらに、ロール剥離剤、加工助剤、潤滑剤、ワックス、耐衝撃性改良剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、難燃剤、潤滑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、分散助剤、殺生物剤、帯電防止剤、撥水性添加剤、および殺鼠剤のうちの1つ以上を含む、請求項2~9のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つのセルロースエステルは、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2~10のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項12】
前記可塑化セルロースエステル組成物は、20%以下のASTM E1348に従って測定された曇価を示す、請求項1~11のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項13】
前記可塑化セルロースエステル組成物は、2.5単位以下のCIELAB b値を示す、請求項1~12のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項14】
前記可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも86%のASTM E1348に従って測定された全光透過率を示す、請求項1~13のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物の摩耗層を含む多層弾性床材物品。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物の露出表面を有する物品。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか1項に記載の可塑化セルロースエステル組成物の外層を含む多層物品。
【請求項18】
請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物から形成されたカレンダー加工物品。
【請求項19】
前記カレンダー加工物品は、シートまたはフィルムである、請求項18に記載のカレンダー加工物品。
【請求項20】
前記シートまたはフィルムは、多層弾性床材物品の磨耗層としての使用に適する、請求項19に記載のカレンダー加工物品。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
[0001]本発明は、一般に、可塑化セルロースエステル組成物および前記組成物から形成された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]化学産業界および消費者が特定の化学物質に対する環境に優しい代替物を探究するのにつれて、セルロースエステルの普及が著しく進展してきた。セルロースエステルは、木材、植物、および綿などの植物製品に見られる多糖類であるセルロースに由来する植物系の化合物である。セルロースエステルは、被覆物や被覆成分、各種物品、例えば眼鏡フレーム、使い捨てナイフ、フォーク、スプーン、皿、カップおよびストロー、歯ブラシの柄、自動車装備品、カメラ部品、および使い捨て注射器などの様々な消費者向けおよび産業用の最終製品用途に使用されている。セルロースエステルはまた、多くの場合に、繊維、フィルム、シートなどの形態で中間製品および企業間(B2B)製品にも使用されている。公開済みの調査報告では、セルロースエステル市場は、2018年の92.7億米ドルから2023年までに124.3億米ドルに成長し、2018年から2023年までの年平均成長率(CAGR)が6%になると予測されている。
【0003】
[0003]環境への懸念により評判が低下している特定のポリマーの1つとして、ポリ塩化ビニル(PVC)がある。PVCは、身分証明カードやクレジットカード用の被覆フィルム、壁装材や床材用の透明な外側フィルム層など、可撓性、強靭性、および視覚透明性を一般的に必要とする用途に、好ましくはなくとも以前から使用されてきたが、その環境面の欠点により「より環境に優しい」材料による置き換えの候補となっている。PVCの使用からの移行は、主にそのエコロジカル・フットプリント(地球環境への負荷指標)を元に推進されるが、検討中の任意の代替品が受け入れられるには、消費者からの性能への期待にさらに応える必要があることは自明である。従って上述の用途では、許容可能な代替品は、例えば(ゼロではなくとも)低い曇価および着色性、視覚透明性、高い光透過率、可撓性、および耐擦傷性を示す必要がある。本発明の権利者に与えられた国際特許出願WO2018/017652A1号およびWO2018/089591A1号には、種々の用途での環境に優しいセルロースエステルの利用を促進する、この権利者による発明を説明および例示している。
【0004】
[0004]適切なものにするには、代替材料はまた、コストおよび加工性などの製造者の期待を満たす必要がある。この点に関しては、特定の用途でセルロースエステルを利用する際にはまだ課題が存在することは当技術分野では認識されている。例えば米国公開特許出願第2016/0068656号には、セルロースエステルは一般的に環境に優しいポリマーと考えられ、木材パルプなどの再生可能な資源に由来するものの、特定の加工困難性によりプラスチック組成物に広く使用されてはいないと述べている。セルロースエステルを用いるフィルムおよびシートの製造が、歴史的には標準的な押出法および溶媒流延法に限定されてきたという事実もまた、本発明の権利者に与えられた上記に参照のWO2018/017652A1号で述べられている。
【0005】
[0005]加工性に関する重要な特性は、組成物の溶融強度である。溶融強度は、剪断力の下での延伸または破断に対する溶融組成物の抵抗力として説明でき、一般的に組成物の分子鎖の絡み合いおよび歪み下でその分子鎖が解けることに対する抵抗力に関連する可能性がある。鎖の絡み合いの抵抗力および絡み合いを解く抵抗力が増大するにつれて、低剪断速度での溶融強度を向上させることができる。溶融強度の定量指標は、(ほぼゼロの)低剪断での溶融形態の組成物の複素粘度であり、低剪断でのより高い複素粘度はより高い溶融強度と相関し、これは言い換えると加工中の弛みに対する抵抗力の向上と相関し、ロールからロールへの移転時の延伸を低減することになる。
【0006】
[0006]配合物または組成物の加工性と一般的に相関し、かつこの加工性に望まれる当技術分野で知られる別の特性は、「ずり減粘(shear thinning)」と呼ばれる特性である。ずり減粘は、一般的に、増大する剪断歪み力の下に置かれた際の流体の粘度変化、より具体的には、低い剪断速度から比較的高い剪断速度まで測定された特定の試料の複素粘度の低下として定義される。有益な水準のずり減粘特性を有する組成物は、エネルギーコストが低く装置の摩耗が少ない状態で容易に加工でき、例えば、組成物を混合かつ均質化する混合プロセス、および組成物をフィルムやシートなどの有用な物品に成型する押出、射出成形、カレンダー加工などのプロセスで容易に加工できる。床材に使用される多くのPVC材料、特にカレンダー加工によって形成された床材製品または部品と組み合わせて使用されるPVC材料は、典型的には、本来的に加工時にずり減粘を有している。従って、ずり減粘は、弾性床材市場でポリ塩化ビニルの代替組成物を追求する上に特に重要な特性となる。
【発明の概要】
【0007】
[0007]溶融強度の最大化は加工性にとって重要であるが、その強度はずり減粘からの組成物の粘度低下の維持と慎重に釣り合っていなければならない。従って弾性床材物品、特に多層弾性床材物品でのPVCの代替物として有用な組成物は、望ましくは高い溶融強度を示すとともに、フィルムまたは層などの最終用途の形態に(例えば押出加工またはカレンダー加工を通して)加工が容易なように十分なずり減粘を示す必要がある。さらに上記の最終用途におけるPVC代替物として有用な組成物は、(ゼロではなくとも)低い曇価および着色性、視覚透明性、高い光透過率、可撓性、および耐擦傷性を有する必要がある。技術の進展にも拘わらず、ポリ塩化ビニルの特性を超えないとしてもそれに匹敵する加工性および性能特性を示しつつ、環境に優しい材料を使用する組成物に対する達成されていない必要性が依然として存在している。
【0008】
[0008]第1の側面では、本発明は可塑化セルロースエステル組成物に関する。本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、可塑化セルロースエステル、および可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。
【0009】
[0009]別の側面では、本発明は一物品に関する。本発明のこの物品は、可塑化セルロースエステル、および可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む可塑化セルロースエステル組成物の露出した外面を含む。
【0010】
[0010]本発明のさらなる側面は、本明細書で開示かつ請求される通りである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[0011]図1は、本発明の多層物品の一実施態様の側面図である。
【発明の詳細な説明】
【0012】
[0012]疑義を避けるために、本発明の一側面の特性または要素に関する本明細書内の情報および説明は、本発明の他の側面に関して説明する場合に、これらの特性および要素にも適用可能であると明示的に断言され、またこれらの特性および要素の裏付けのためにも依拠されることが明示的に規定される。
【0013】
[0013]第1の側面では、本発明は可塑化セルロースエステル組成物に関する。本発明のこの側面の可塑化セルロースエステル組成物は、可塑化セルロースエステル、および可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機粒子状流動性改質剤を含む。本明細書で使用される語句「可塑化セルロースエステル」は、限定はされないが、典型的にはセルロースエステルを可塑剤に曝露することによって、その弾性を増大させるか、あるいはその粘度を低下させるように修飾されたセルロースエステルを表すことを意図している。1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも1種のセルロースエステルおよび少なくとも1種の可塑剤を含む。1つ以上の実施態様では、無機粒子状流動性改質剤は、ガラスビーズ、ガラス繊維、非晶質シリカ、ヒュームドシリカ、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0014】
[0014]本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、可塑化セルロースエステルを含み、好ましくはセルロースエステルおよび可塑剤を含む。セルロースエステルは、一般に、1つ以上のカルボン酸のセルロースエステルを含むと定義され、例えば本発明の権利者に与えられた米国特許第5,929,229号に記載されており、その内容および開示は参照により本明細書に組み込まれる。セルロースエステルの非限定的な例としては、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロースと酢酸セルロースなどのいわゆる混合酸エステル、およびそれらの組合せが挙げられる。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のセルロースエステルは、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、または酢酸酪酸セルロース、およびそれらの組合せから選択される。1つ以上の実施態様では、セルロースエステルは酢酸セルロースである。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のセルロースエステルは酢酸プロピオン酸セルロースである。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のセルロースエステルは酢酸酪酸セルロースである。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のセルロースエステルは、酢酸プロピオン酸セルロースと酢酸酪酸セルロースとの組合せである。1つ以上の実施態様では、セルロースエステルは、1.45からおよび1.49からの屈折率を有する。
【0015】
[0015]1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの量は、25重量%~99重量%、または35重量%~99重量%、または45重量%~99重量%であり、全ての量は可塑化セルロースエステル組成物の総重量に基づく。
【0016】
[0016]本発明のセルロースエステルは、1つ以上の特性を用いて特徴付けてもよい。例えば、1つ以上の実施態様では、セルロースエステルは、20,000Da~100,000Daの範囲の数平均分子量(「Mn」)を有してもよい。1つ以上の実施態様では、セルロースエステルは、約20,000Da~約80,000Daの範囲のMnを有する。
【0017】
[0017]セルロースエステルは、1つ以上の実施態様では、2~30秒、または4~25秒、または5~20秒のASTM D817によって測定された液中落球式粘度を有してもよい。
【0018】
[0018]セルロースエステルは、1つ以上の実施態様では、0.1~1.0のヒドロキシル置換基(DSOH)の置換度、または0.1~0.8のアセチルの置換度(DSAC)を有してもよい。簡潔な予備知識として、DSOHおよびDSACは、特定のセルロースエステルでのエステル化度の尺度となる。セルロースは、C2、C3、およびC6炭素に位置する無水グルコース単位当たりに3個のヒドロキシルを持ち、様々なアシル基によって種々の程度にかつ種々の比率でエステル化されてもよく、ヒドロキシル基の官能化に応じて各種のセルロースエステルが形成される。例えば、セルロースの実質的に全てのヒドロキシル基がアセチル基で官能化されている三酢酸セルロースの場合には、アセチルの置換度(「DSAC」)は約2.90であり、ヒドロキシルの置換度(「DSOH」)は約0.10である。二酢酸セルロースのDSACは約2.5であり、DSOHは約0.5である。
【0019】
[0019]セルロースエステルのガラス転移温度(Tg)は、1つ以上の実施態様では、50℃~150℃、または70℃~120℃、または160℃以下であってもよい。
[0020]セルロースエステルの百分率での結晶化度は、1つ以上の実施態様では、20%未満、または15%未満、または10%未満、または5%未満、または5%~10%、または5%~15%、または5%~20%、または10%~約20%であってもよい。結晶化度は、ASTM D3418に従って、かつセルロースエステルの融解エンタルピーを14cal/gと仮定して、第2の加熱サイクルを用いて本明細書内で説明され、かつ本発明の文脈内では第2の加熱サイクルから測定される。この方法では、結晶化度の量は、ASTM D3418に従って、DSCでの所定の加熱履歴、より具体的には「第2のサイクル」の冷却および加熱の下で測定される。この方法では、試料をまずDSC内でその融解温度以上に加熱し、過去のいずれかの結晶化度を消去する(すなわち「第1の熱サイクル」)。次いで試料を毎分20℃の速度でTg未満まで冷却し、次に同一の速度で融解温度を超えるまで再加熱する(「第2の加熱サイクル」)。この冷却と第2の加熱の間に、材料はある程度再結晶化し、この結晶化の量が、融解温度での融解のエンタルピーとして走査中に測定される。
【0020】
[0021]本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、可塑剤をさらに含んでもよい。1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、前記組成物の総重量基準で、1重量%~35重量%、または5重量%~30重量%、または10重量%~30重量%の可塑剤を含む。
【0021】
[0022]可塑剤としては、セルロースエステルを可塑化するのに有用な当技術分野で既知の任意の可塑剤であってよく、例えば、芳香族リン酸エステル系可塑剤、アルキルリン酸エステル系可塑剤、ジアルキルエーテルジエステル系可塑剤、トリカルボン酸エステル系可塑剤、高分子ポリエステル系可塑剤、ポリグリコールジエステル系可塑剤、ポリエステル樹脂可塑剤、芳香族ジエステル系可塑剤、芳香族トリエステル系可塑剤、脂肪族ジエステル系可塑剤、カーボナート系可塑剤、エポキシ化エステル系可塑剤、エポキシ化油系可塑剤、安息香酸系可塑剤、ポリオール安息香酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、フタル酸系可塑剤、グリコール酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ヒドロキシル官能性可塑剤、固形状非結晶性樹脂可塑剤、またはそれらの組合せが挙げられる。1つ以上の実施態様では、可塑剤は、トリエチレングリコール2-ヘキサン酸エチル、エポキシ化大豆油、クエン酸アセチルトリエチル、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0022】
[0023]本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、無機流動性改質剤をさらに含む。語句「無機流動性改質剤」は、組成物または配合物に添加されてその流動特性および/または安定性に影響を及ぼす無機材料を含むことを意図している。無機流動性改質剤は、可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、前記組成物の総重量基準で、0.1重量%~15.0重量%、または0.5重量%からまたは8重量%からの量の無機流動性改質剤を含む。1つ以上の実施態様では、無機流動性改質剤は無機粒子状流動性改質剤である。
【0023】
[0024]1つ以上の実施態様では、無機流動性改質剤は、ガラスビーズ、ガラス繊維、非晶質シリカ、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、クリストバライト、水酸化リチウム、クゼライト、およびそれらの組合せからなる群から選択される。1つ以上の実施態様では、無機流動性改質剤は、シリカを含む、あるいは本質的にシリカからなる、あるいはシリカからなる。適切なシリカには、非限定のシリカ、例えばヒュームドシリカ、疎水性シリカ、沈降シリカ、非晶質シリカ、微結晶質シリカ、および処理済シリカが含まれる。適切なシリカとして、Aerosil(商標)R972、Aerosil(商標)974、およびAerosil(商標)R104の商品名でエボニック社から市販されているシリカが例示されてもよい。シリカは、5nmから300μmの大きさまでの1種以上の平均粒子サイズによって特徴付けられてもよい。さらにシリカの表面積は、50~600m/g、または100m/g超、または100~600m/g、または105~600m/g、または110~600m/gの範囲であってもよい。
【0024】
[0025]1つ以上の実施態様では、無機流動性改質剤はまた、溶融強度向上添加剤として機能できる。溶融強度向上添加剤には、可塑化セルロースエステル組成物中に有効量で含まれると、同一の組成物ではあるが溶融強度向上添加剤を含まない対照に比較して組成物の複素粘度を増大させる添加剤が含まれる。
【0025】
[0026]本明細書の他の部分で考察するように、溶融強度は、剪断力下での延伸または破断に対する溶融組成物の抵抗力として説明でき、一般的に、組成物の分子鎖の絡み合いおよび歪み下で分子鎖が解けるその抵抗力に関連する可能性がある。溶融強度は、例えば組成物の複素粘度を、低い剪断でまたは殆ど剪断なしで測定することによって定量できる。同様に溶融強度の改善または向上は、例えば、低い剪断でまたは殆ど剪断なしで対照と試料との間の複素粘度差を測定することによって定量できる。この出願の目的における溶融強度の向上とは、本明細書に記載の組成物の複素粘度を1/秒で測定した場合に、同一の組成物ではあるが溶融強度向上添加剤を含まない対照の可塑化セルロースエステル組成物に対する溶融強度向上添加剤を含む可塑化セルロースエステル組成物での複素溶融粘度の増加を意味する。
【0026】
[0027]本発明の組成物は、ロール剥離剤、加工助剤、潤滑剤、ワックス、耐衝撃性改質剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、難燃剤、潤滑剤、光安定剤、紫外線安定剤、分散助剤、殺生物剤、帯電防止剤、撥水性添加剤、および殺鼠剤のうちの1つ以上をさらに含んでもよい。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも1種のロール剥離剤を含んでもよい。適切なロール剥離剤は、当技術分野では知られており、例えば米国特許第6,551,688号に記載されており、その内容および開示は参照により本明細書に組み込まれる。適切なロール剥離剤の例として、限定はされないが、アミドワックスなどのワックス、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸塩、鹸化脂肪酸塩、およびそれらの組合せによって例示される潤滑剤が含まれる。脂肪酸エステルの例には、モンタン酸のエステルが含まれる。1つ以上の実施態様では、ロール剥離剤は、モンタン酸のブチレングリコールエステル、モンタン酸のグリセリンエステル、モンタン酸のペンタエリスリトールエステル、およびそれらの組合せからなる群から選択される脂肪酸エステルである。
【0027】
[0028]本発明に含まれる少なくとも1種のロール剥離剤は、典型的には、組成物の総重量基準で0.1重量%~約2.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のロール剥離剤は、組成物の総重量基準で0.1重量%~1.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のロール剥離剤は、組成物の総重量基準で0.1重量%~0.5重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のロール剥離剤は、組成物の総重量基準で0.5重量%~1.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のロール剥離剤は、組成物の総重量基準で1.0重量%~2.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種のロール剥離剤は、組成物の総重量基準で1.5重量%~2.0重量%の量で存在する。
【0028】
[0029]本発明は、少なくとも1種の加工助剤をさらに含んでもよい。加工助剤は、例えば、溶融物の集合組織および「融合」を改善し、溶融強度を改善し、組成物の溶融時間を短縮し、全体の加工時間を短縮し、かつカレンダーロールからの金属剥離を支援する。加工助剤は当技術分野では知られており、スチレン、カーボナート、ポリエステル、他のオレフィン、およびシロキサンに基づく加工助剤は既知であり市販されてはいるが、例えばアクリル樹脂やアクリル共重合体から誘導されてもよい。適切な加工助剤は、商業的に入手可能であり、限定はされないが、ダウ・ケミカル社から入手可能なParaloid(商標)K-125;カネカ社から入手可能なKane-Ace(登録商標)PA-20、PA-610、B622、MR01、およびMP90;およびイーストマン・ケミカル社から入手可能なEcdel(商標)が挙げられる。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種の加工助剤は、アクリルポリマー、アクリル共重合体、スチレンポリマー、カーボナートポリマー、ポリエステルポリマー、オレフィンポリマー、およびシロキサンポリマーのうちの1種以上を含む。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種の加工助剤は、アクリルポリマーまたはアクリル共重合体からなる群から選択される。一実施態様では、加工助剤は、Kane-Ace(登録商標)アクリル加工助剤を含む。
【0029】
[0030]本発明に存在する少なくとも1種の加工助剤の量は、加工助剤の種類およびその分子量および粘度、組成物中の他の成分、ならびに組成物の最終用途に応じて変更してもよい。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種の加工助剤は、組成物の総重量基準で0重量%~約3.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種の加工助剤は、組成物の総重量基準で0.1重量%~6.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、少なくとも1種の加工助剤は、組成物の総重量基準で0.5重量%~6.0重量%の量で存在する。1つ以上の実施態様では、加工助剤は、組成物の総重量基準で0.5重量%~3.0重量%の量で存在する。
【0030】
[0031]本発明はまた、少なくとも1種の耐衝撃性改良剤を含んでもよい。耐衝撃性改良剤の例としては、アクリルポリマー、メタクリル酸ブタジエンスチレン(MBS)ポリマー、シリコーン-アクリルポリマー、およびそれらの組合せを含む、アクリル系コア-シェルポリマーが挙げられる。その他の適切な耐衝撃性改良剤には、アクリロニトリル-ブタジエンスチレン(ABS)、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン共重合体、およびそれらの組合せが含まれる。少なくとも1種の耐衝撃性改良剤は、存在する場合には、組成物の総重量基準で、典型的には1重量%~約20重量%の量で存在する。
【0031】
[0032]本発明の組成物はさらに、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、およびガラス繊維などの充填剤、難燃剤、光および紫外線安定剤などの安定剤および吸収剤、潤滑剤、顔料、分散助剤、殺生物剤、帯電防止剤、撥水添加剤、殺鼠剤、染料、着色剤などの1つ以上の他の成分または構成要素を含んでもよい。1つ以上の実施態様では、本発明の組成物は、ベンゾトリアゾール紫外線安定剤を含む。適切なベンゾトリアゾール紫外線安定剤は、ソルベイ社からCyasorb(商標)5411の商品名で市販されている。ベンゾトリアゾール紫外線安定剤は、組成物の総重量基準で0.2重量%~3重量%の量で存在してもよい。
【0032】
[0033]本発明の可塑化セルロースエステル組成物の重要な特徴は、シート、フィルム、カレンダー加工フィルムなどの物品、多層物品、および弾性多層床材物品におけるその有用性であり、これには最小の視覚歪みおよび最大の視覚透明性が要求される。従って1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、12.5%以下、または15%以下、または20%以下、または25%以下のASTM D65/10に従って測定された曇価を示す。1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、2.5未満、または3未満、または4未満、または2未満、または1.5未満、または1未満のCIELAB b値を示す。実施態様によっては、可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%のASTM D65/10に従って測定された全光透過率を示す。
【0033】
[0034]上記に付随して、本発明の可塑化セルロースエステル組成物の別の重要な特徴は、最小の視覚歪みおよび最大の視覚透明性が必要とされる、シート、フィルム、カレンダー加工フィルムなどの物品、多層物品、および弾性多層床材物品に使用される場合に、最大の視覚透明性と最小の視覚歪みを経時的に保持する能力、すなわち摩滅および擦傷に耐えることによるその能力である。
【0034】
[0035]本発明の可塑化セルロースエステル組成物の別の重要な特徴は、対照と比較した場合に予想外に高い複素粘度で表わされるように、その溶融強度が飛躍的に向上していることである。これは、特に低い曇価と着色性を持ちながら溶融強度を高めることとなり、いくつかの用途では高い光学透明性の恩恵を得ることになる。一般には、低剪断粘度の絶対水準により、試料の処理に必要な温度が決定される。本発明の可塑化セルロースエステル組成物の飛躍的な溶融強度特性を明示するために、本出願人らは、1/秒の剪断速度で測定された本発明の組成物でのポイズ単位の複素粘度を、溶融強度向上添加剤の存在を除いて本発明のセルロースエステル組成物に組成的に一致する対照樹脂と比較している。この比較の定量的な計算値を、次の式に従って計算できる溶融強度の向上、すなわち「MSE」にすることができる。
【0035】
【数1】
【0036】
式中、V1は、本発明の組成物(以下の表中に配合物および試料1~12および14として示される組成物)の1/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度であり、V2は、対照組成物(以下の表中に配合物および試料13として示される組成物)の1/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度である。正のMSE(%)は、材料が向上した溶融強度を持ち、例えば対象に比較して加工中の弛みに対してより抵抗力が有ることを示している。剪断速度は、ASTM D-4440に従って185℃の温度で測定してもよい。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも2%、または少なくとも3%、または少なくとも12%のMSEを示す。
【0037】
[0036]本発明の可塑化セルロースエステル組成物の別の重要な特徴は、その予想外の水準のずり減粘である。ずり減粘とは、流体を増大する剪断速度の力に供すると流体の複素粘度が低下する、組成物や配合物などの流体の特性である。上述のように、ずり減粘とは、低い剪断速度から比較的高い剪断速度までの特定の試料の複素粘度の変化である。比較的低い剪断速度での組成物の複素粘度を比較的高い剪断速度での複素粘度と比較することで、ずり減粘を定量することができる。本発明の可塑化セルロースエステル組成物の飛躍的なずり減粘特性を明示するために、本出願人らは、本明細書では、1/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度を400/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度と比較して、次の式に従って全複素粘度の低下(TCVR)を決定している。
【0038】
【数2】
【0039】
式中、Vは、1/秒の剪断速度での組成物のポイズ単位の複素粘度であり、Vは、400/秒の剪断速度での組成物の複素粘度である。剪断速度は、ASTM D-4440に従って185℃の温度で測定してもよい。TCVR値が高い程、ずり減粘の水準が高いことを示す。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも89%、または少なくとも90%、または少なくとも91%の全複素粘度の低下(TCVR)を示す。
【0040】
[0037]1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも3%、または少なくとも15%、または少なくとも45%の溶融強度の向上(MSE)、および少なくとも89%、または少なくとも90%、または少なくとも91%の全複素粘度の低下(TCVR)を示す。
【0041】
[0038]本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、多くの有用な物品を形成するのに適する、あるいは形成することができる。従って一側面では、本発明は、可塑化セルロースエステル組成物の露出表面を有する物品に関し、前記組成物は、可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。1つ以上の実施態様では、物品は、可塑化セルロースエステル組成物の少なくとも1つの露出層または最上層を含む多層物品であり、前記組成物は、可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。1つ以上の実施態様では、物品は、可塑化セルロースエステル組成物から形成されたシートまたはフィルムなどのカレンダー加工物品であり、前記組成物は、可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。以下でより詳細に考察する1つ以上の実施態様では、物品は、可塑化セルロースエステル組成物の最上層すなわち摩耗層を有する多層弾性床材物品などの床材物品であり、前記組成物は、可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。前述のように、本発明の可塑化セルロースエステル組成物の一側面または他の側面の特徴および要素に関して本明細書に記載されている情報および説明は、この物品の一側面または他の側面に適用可能であり、かつそれら側面を完全に裏付けることを意図している。
【0042】
[0039]語句「カレンダー加工物品」の使用により、本発明は、溶融ポリマーを用いるカレンダー加工法を活用して形成されたフィルムまたはシートなどの物品を説明することを意図しており、この方法では、溶融ポリマーを反対方向に回転するロールに挟んでフィルムまたはシートを形成し、場合によっては類似の反対方向に回転する配置を有する追加のロール(このロールの配置は、典型的には「積重ね(stack)」と呼ばれる)を通過させて、最終的な厚さのフィルムまたはシートに徐々に圧搾する。このフィルムまたはシートを、例えば延伸、焼き鈍し、切り込みなどの追加の処理に供して、その後に最終物品を巻取機に巻き取ってもよい。本明細書で用いられるカレンダー加工およびカレンダー加工物品は、本発明の権利者に与えられた米国公開特許出願第2019/0256674号により詳細に記載されており、その内容および開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
[0040]これらの実施態様のうちの1つ以上では、可塑化セルロースエステル組成物は、190℃の温度かつ628/秒の剪断速度で、1000ポイズ~5000ポイズ、または2000ポイズ~5000ポイズのASTM 3835に従う溶融粘度を有する。これらの実施態様のうちの1つ以上では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、組成物中のセルロースエステルの総ガラス転移温度より20℃低い温度から、組成物中のセルロースエステルの総ガラス転移温度より50℃高い温度の範囲でカレンダー加工することができる。これらの実施態様を考慮して、本発明の一側面は、本発明の可塑化セルロースエステル組成物から形成されたカレンダー加工物品であり、詳しくはカレンダー加工物品は、フィルムまたはシートであり、より詳しくはカレンダー加工物品は、多層弾性床材物品の層を形成するのに有用なシートまたはフィルムである。
【0044】
[0041]本発明の一側面は、カレンダー加工およびカレンダー加工物品の分野での本発明の可塑化セルロースエステル組成物の有用性を述べているが、当業者なら、本発明の組成物はまた、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、付加製造(三次元印刷)、異型押出成形、ブローフィルム成形、多層フィルム成形、シート積層などの他の既知の方法による物品の形成に有用であることは分かっている。さらに本発明の一側面は、組成物の低い曇価、低い着色性、高い光透過性、耐擦傷性、および他の特性を考慮して、物品の露出面としての有用性を述べているが、当業者なら、本発明の組成物はまた、物品の非露出あるいは内部の表面または構成要素、例えば多層物品の内側層または内部層にも有用であり得ることは分かっている。
【0045】
[0042]本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、床材物品、カレンダー加工床材物品、またはより詳しくは床材物品の層または床材物品のカレンダー加工層を形成するのに有用な可能性がある。従って、別の側面では本発明は床材物品に関する。本発明のこの側面の床材物品は、少なくとも1つの層を含む。1つ以上の実施態様では、少なくとも1つの層はカレンダー加工層である。1つ以上の実施態様では、少なくとも1つの層は、本発明の可塑化セルロースエステル組成物から形成される。従って少なくとも1つの層は、可塑化セルロースエステル組成物を含み、前記組成物は、可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む。本発明の範囲内にあると考えられる床材物品には、限定はされないが、部屋または建物の歩行面または下部面への使用、設置、または応用を意図された任意の材料または構造物が含まれる。床材物品の非限定的な例には、圧延床材である四角板、タイル、厚板、シート、積層板などが含まれ、これらは、例えば、いわゆる「浮き張り(floating)」床または「接着固定(glued-down)」床の組立品として設置してもよい。前述のように、本発明の可塑化セルロースエステル組成物の一側面または他の側面の特性および要素に関する情報および説明は、床材物品に関する本側面に適用可能であり、かつ本側面を完全に裏付けることを意図している。
【0046】
[0043]1つ以上の実施態様では、床材物品は弾性床材物品である。1つ以上の実施態様では、弾性床材物品は、多層弾性床材物品または積層床材物品である。図1に示される多層弾性床材物品の非限定的な実施態様例では、本発明の多層弾性床材物品10は、コア層20および最上層40を含む。多層弾性床材物品はまた、コア層20と最上層40との間に、場合によっては印刷層30を含む。最上層すなわち摩耗層40は、下部にある任意の印刷層の最上面を貫通する視認性を可能とする設計にするとともに、耐擦傷性および耐摩耗性を提供し、典型的には15ミル~25ミルの厚さを有する。基材すなわちコア層20は、寸法安定性を提供し、典型的には少なくとも75ミルの厚さを有する。印刷層30は、視覚的な色調および/または図案を、例えば幾何学的パターンまたは画像の形態で提供でき、典型的には3ミル~5ミルの厚さを有する。本明細書の他の部分で考察するように、コア層20、最上層40、および印刷層30はそれぞれ、カレンダー加工シートまたはカレンダー加工フィルムであってもよい。着脱可能な裏打ち層、接着剤層などの他の任意の層を含んでもよい。本明細書で想定される形態での多層弾性床材物品は、当技術分野では一般的に知られており、例えば、米国特許第8,071,193号に記載されており、その内容および開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
[0044]1つ以上の実施態様では、本発明の床材物品は、本発明の可塑化セルロースエステル組成物の少なくとも1つの層を含む多層弾性床材物品であってもよい。1つ以上の実施態様では、少なくとも1つの層は、カレンダー加工層、またはカレンダー加工シート、またはカレンダー加工フィルムである。1つ以上の実施態様では、本発明の床材物品は、本発明の可塑化セルロースエステル組成物、あるいは可塑化セルロースエステルおよび前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む可塑化セルロースエステル組成物の最上層すなわち摩耗層を含む多層弾性床材物品であってもよい。前述のように、本発明の低い曇価、低い着色性、高い光透過性、耐擦傷性、およびその他の特性の組成物は、多層弾性床材物品の最上層すなわち摩耗層として効果的に利用され、当業者なら、本発明の組成物は、多層弾性床材物品の印刷層および/またはコア層としても利用できることは分かっている。
【0048】
特定の実施態様
[0045]実施態様1:可塑化セルロースエステル、および前記可塑化セルロースエステルの屈折率と0.03以下の屈折率単位だけ異なる屈折率を有する有効量の無機流動性改質剤を含む、可塑化セルロースエステル組成物。
【0049】
実施態様2:前記組成物は、少なくとも1つのセルロースエステルおよび少なくとも1つの可塑剤を含む、実施態様1の可塑化セルロースエステル組成物。
実施態様3:前記組成物は、前記組成物の総重量基準で1重量%~35重量%の可塑剤を含む、実施態様2の可塑化セルロースエステル組成物。
【0050】
実施態様4:前記組成物は、前記組成物の総重量基準で5重量%~30重量%の可塑剤を含む、実施態様2~3のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
実施態様5:前記無機流動性改質剤は、非晶質シリカ、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、ガラスビーズ、ガラス繊維からなる群から選択される、実施態様1~4のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
【0051】
実施態様6:前記無機流動性改質剤はシリカである、実施態様5の可塑化セルロースエステル組成物。
実施態様7:前記シリカは100~600m/gの比表面積を有する、実施態様6の可塑化セルロースエステル組成物。
【0052】
実施態様8:前記組成物の総重量基準で0.25重量%~10.0重量%の量のシリカを含む、実施態様6~7のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
実施態様9:前記可塑剤は、トリエチレングリコール2-ヘキサン酸エチル、アジピン酸ジオクチル、アゼライン酸ジ-n-ヘキシル、エポキシ化大豆油、アセチルクエン酸トリエチル、およびそれらの組合せからなる群から選択される、実施態様2~8のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
【0053】
実施態様10:前記組成物はさらに、ロール剥離剤、加工助剤、潤滑剤、ワックス、耐衝撃性改良剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、難燃剤、潤滑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、分散助剤、殺生物剤、帯電防止剤、撥水性添加剤、殺鼠剤のうちの1つ以上を含む、実施態様2~9のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
【0054】
実施態様11:前記少なくとも1つのセルロースエステルは、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、およびそれらの組合せからなる群から選択される、実施態様2~10のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
【0055】
実施態様12:前記可塑化セルロースエステル組成物は、20%以下のASTM E1348に従って測定された曇価を示す、実施態様1~11のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
【0056】
実施態様13:前記可塑化セルロースエステル組成物は、3単位以下のCIELAB b値を示す、実施態様1~12のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
実施態様14:前記可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも86%のASTM E1348に従って測定された全光透過率を示す、実施態様1~13のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物。
【0057】
実施態様15:実施態様1~13のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物の摩耗層を含む多層弾性床材物品。
実施態様16:実施態様1~13のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物の露出表面を有する物品。
【0058】
実施態様17:実施態様1~13のいずれか1つの可塑化セルロースエステル組成物の外層を含む多層物品。
実施態様18:実施態様1~13のいずれか1つの組成物から形成されたカレンダー加工物品。
【0059】
実施態様19:前記カレンダー加工物品は、シートまたはフィルムである、実施態様18のカレンダー加工物品。
実施態様20:前記シートまたはフィルムは、多層弾性床材物品の磨耗層としての使用に適する、実施態様19のカレンダー加工物品。
【0060】
実施態様21:前記少なくとも1つのセルロースエステルは、酢酸プロピオン酸セルロースである、実施態様11の可塑化セルロースエステル組成物。
【実施例
【0061】
[0046]以下の実施例を、本発明の多くの態様および利点を具体的かつ詳細に説明するために提供するが、決してその範囲を限定するものとして解釈すべきではない。本発明の趣旨から逸脱する変形、修正、および適合は、当業者なら容易に分かる。
【0062】
試料調製
[0047]表1は、配合物を調製するのに使用された添加剤を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
[0048]本発明を実証するために、本発明の可塑化セルロースエステル組成物のいくつかの試料を調合し、(セルロースエステルと可塑剤から形成される)1.47の屈折率を有する可塑化セルロースエステル、および1.46の屈折率を有する無機流動性改質剤を含んだ。無機流動性改質剤を省いた対照組成物もまた調製した。本発明のそれぞれの組成物ならびに対照に関する詳細を以下の表2に示し、対照を試料1として特定し、本発明の組成物を試料2、3、4、5、6、および9~17として特定した。
【0065】
【表2-1】
【0066】
【表2-2】
【0067】
[0049]表2に列記された成分に関しては以下の通り。CAP482-20は、イーストマン・ケミカル社から入手可能な高粘度の酢酸プロピオン酸セルロースであり、20秒のASTM D817によって測定される液中落球式粘度を有する。トリエチレングリコールビス(2-ヘキサン酸エチル)(TEGEH)は、イーストマン・ケミカル社から入手可能な可塑剤である。PA20(商標)は、カネカ社から入手可能なKane-Ace(登録商標)中分子量加工助剤である。Licowax(商標)OPは、ワックスであり、より詳しくはモンタン酸の部分鹸化カルシウム塩であり、クラリアント社から入手可能である。Cloisite(登録商標)11Bは、ビックケミー社から入手可能な粘土である。ZSCタルクは、イメリス社から入手可能なタルクである。Aerosil(登録商標)R972シリカ、Aerosil(登録商標)R974シリカ、Aerosil(登録商標)R104シリカ、Sipernat(登録商標)50Sシリカ、Sipernat(登録商標)500LSシリカ、Sipernat(登録商標)340シリカ、Spheilex(登録商標)30ABシリカは、エボニック社から入手可能なシリカである。
【0068】
各配合物を生成するために、成分を表2の配合に示される百分率で、メトラー・トレド社のトップローディング式天秤を用いて秤量し、全質量を150gにしてポリエチレンバッグに入れて、次いで混合物が視覚的に均一に見えるまで振盪した。次に試料をブラベンダー・ラボ混合器を用いて170℃かつ60rpmで4分間溶融混合した。次いで試料をコリン社の二本ロール混合器を用いて、前方ロール温度を170℃および後方ロール温度を165℃に設定し、かつロール速度を10rpmに設定して十分な時間処理して、粉末材料をプラスチック形態にした(処理時間を記録した)。次いで得られたプラスチック材料を、圧延機から厚さ0.010インチ(250ミクロン)の連続フィルムとして取り出して冷却した。複素粘度を、ASTM D4440に従って1~400/秒の剪断速度かつ185℃で測定した。色調、曇価、および光透過率を、D65光源および10°の観測器を用いて、ASTM E1348に従って測定した。
【0069】
分析方法
[0050]上述のように調製した表2に列記の各試料を、ASTM D-4440に従って、剪断速度を1/秒から始めて400/秒まで増加させて、(ポイズで表す)複素粘度を試験した。試験温度を185℃に一定に保持した。複素粘度の試験結果を以下の表3に示す。各試料のTCVR値およびMSE値を、本明細書に記載の式に従って計算し、以下の表4に示す。
【0070】
[0051]本発明の可塑化セルロースエステル組成物の重要な特徴は、対照に比較した場合に予想外に高い複素粘度で表されるように、その溶融強度が飛躍的に向上していることである。一般には、低剪断粘度の絶対水準により試料の処理に必要な温度が決定される。本発明の可塑化セルロースエステル組成物の飛躍的な溶融強度特性を明示するために、本出願人らは、1/秒の剪断速度で測定された本発明の組成物のポイズ単位での複素粘度を、溶融強度向上添加剤の存在を除いて本発明のセルロースエステル組成物に組成的に一致する対照樹脂と比較している。この比較の定量的な計算値を、次の式に従って計算できる溶融強度の向上、すなわち「MSE」にすることができる。
【0071】
【数3】
【0072】
式中、V1は、本発明の組成物(以下の表中に配合物および試料1~12および14として示される組成物)の1/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度であり、V2は、対照組成物(以下の表中に配合物および試料13として示される組成物)の1/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度である。正のMSE(%)は、材料が向上した溶融強度を持ち、例えば対照に比較して加工中の弛みに対してより抵抗力が有ることを示している。剪断速度は、ASTM D-4440に従って185℃の温度で測定してもよい。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも20%、または少なくとも50%、または少なくとも80%のMSEを示す。
【0073】
[0052]本発明の可塑化セルロースエステル組成物の別の重要な特徴は、その予想外の水準のずり減粘である。ずり減粘とは、流体を増大する剪断速度の力に供すると流体の複素粘度が低下する、組成物や配合物などの流体の特性である。上述のように、ずり減粘とは、低い剪断速度から比較的高い剪断速度までの特定の試料の複素粘度の変化である。比較的低い剪断速度での組成物の複素粘度を比較的高い剪断速度での複素粘度と比較することで、ずり減粘を定量することができる。本発明の可塑化セルロースエステル組成物の飛躍的なずり減粘特性を明示するために、本出願人らは、本明細書では、1/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度を400/秒の剪断速度でのポイズ単位の複素粘度と比較して、次の式に従って総複素粘度の低下(TCVR)を決定している。
【0074】
【数4】
【0075】
式中、Vは、1/秒の剪断速度での組成物のポイズ単位の複素粘度であり、Vは、400/秒の剪断速度での組成物の複素粘度である。剪断速度は、ASTM D-4440に従って185℃の温度で測定してもよい。TCVR値が高い程、ずり減粘の水準が高いことを示す。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも89%、または少なくとも90%、または少なくとも91%の全複素粘度の低下(TCVR)を示す。
【0076】
1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも3%の溶融強度の向上(MSE)を示す。
【0077】
【表3-1】
【0078】
【表3-2】
【0079】
【表4-1】
【0080】
【表4-2】
【0081】
D65光源および10°の観測器によるASTM E1348を用いて、フィルム試料の色調、透過率、および曇価を測定した。結果を以下の表5に示す。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも2.5未満のCIELAB b値を示す。1つ以上の実施態様では、本発明の可塑化セルロースエステル組成物は、少なくとも12.5%未満の曇価を示す。本発明の1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、2.5単位未満のCIELAB b値を示し、同時に少なくとも3%のMSEを有する。本発明の1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、12.5%未満の曇価を示し、同時に少なくとも3%のMSEを有する。本発明の1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、2.5単位未満のCIELAB b値、12.5%未満の曇価、および少なくとも3%のMSEを示す。本発明の1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、3単位未満のCIELAB b値、20%未満の曇価、および少なくとも3%のMSEを示す。本発明の1つ以上の実施態様では、可塑化セルロースエステル組成物は、105~600m/gの表面積を有するシリカを含み、3単位未満のCIELAB b値、20%未満の曇価、および少なくとも3%のMSEを示す。
【0082】
【表5】
【0083】
[0053]上記の表に示されるように、本発明の組成物は、対照に比較して溶融強度(MSE)の予想外の大幅な向上を達成し、同時にまた対照試料の曇価、色調、光透過率、および(比較可能なTCVRによって明示される)ずり減粘の各特性を維持している。
【0084】
[0054]本発明の種々の実施態様の前述の説明は、例示および説明の目的で提示されている。全てを網羅すること、または開示されたその通りの実施態様に本発明を限定することを意図してはいない。上記の教示に照らして、多数の変更または変形が可能である。検討された実施態様は、本発明の原理およびその実際の応用の最良の例示を提示するために選択かつ説明されていて、それによって当業者には、想定する特定の用途に適合するように、様々な実施態様で種々の変更とともに本発明を利用することが可能になる。そのような全ての変更および変形は、公正に、法的に、および公平に権利が与えられる領域に従って解釈される場合に、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内となる。
図1
【国際調査報告】