(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】DNAナノ構造体を含む凍結保護用組成物及びその利用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230705BHJP
C12N 15/00 20060101ALI20230705BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20230705BHJP
A23L 3/375 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/00 100Z
C07K4/00
A23L3/375
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573705
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 KR2021003087
(87)【国際公開番号】W WO2022119054
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0168844
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】アン, ドン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ド ニュン
(72)【発明者】
【氏名】リ, イェ ダム
(72)【発明者】
【氏名】リ, チャン ソク
【テーマコード(参考)】
4B022
4H045
【Fターム(参考)】
4B022LJ04
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA54
4H045EA01
(57)【要約】
本発明は、既に決定された位置で折り曲げられて複数の鎖をなすスキャフォールド核酸、および少なくとも一部が前記スキャフォールド核酸と相補的な配列を有し、前記複数の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖を形成する複数のステープル核酸を含む核酸構造体と、前記核酸構造体の少なくとも一部に結合したリンカーと、前記リンカーの少なくとも一部に結合したペプチドとを含むことにより、凍結保護効果に優れ、細胞および組織の凍結保存時の細胞生存率を高めることができ、食品凍結に使用時にもその食品の食感を維持できる凍結保護用組成物に関するものである。
【選択図】
図29
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既に決定された位置で折り曲げられて複数の鎖をなすスキャフォールド核酸、その配列の少なくとも一部が前記スキャフォールド核酸と相補的な配列を有し、前記スキャフォールド核酸の前記複数の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖を形成する複数の第1のステープル核酸、およびその配列の少なくとも一部は、前記スキャフォールド核酸と相補的であり、少なくとも一端はそうではなく、前記スキャフォールド核酸の前記複数の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖および末端に一本鎖を形成する複数の第2のステープル核酸を含む核酸構造体と、
前記核酸構造体の一本鎖の少なくとも一つに結合したリンカーと、
前記リンカーの少なくとも一つに結合した凍結防止ペプチドとを含むことを特徴とする、凍結保護用組成物。
【請求項2】
前記リンカーは、DNA、RNA、またはPNAである、請求項1に記載の凍結保護用組成物。
【請求項3】
前記リンカーは、長さが5ヌクレオチド~20ヌクレオチドである、請求項1に記載の凍結保護用組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、長さが1~10アミノ酸からなる、請求項1に記載の凍結保護用組成物。
【請求項5】
前記アミノ酸は、アラニンまたはトレオニンである、請求項4に記載の凍結保護用組成物。
【請求項6】
前記核酸構造体は、2つ以上のヘリックスバンドルを含み、かつ氷結晶と接触できる面を含む、請求項1に記載の凍結保護用組成物。
【請求項7】
前記核酸構造体は、ねじれを持つか、または曲線のヘリックスバンドルを含む、請求項1に記載の凍結保護用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の凍結保護用組成物を含む、細胞または組織凍結保護用組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の凍結保護用組成物を含む、食品凍結保護用組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の細胞または組織凍結保護用組成物の存在下で対象の細胞または組織を零下の温度にさらすステップを含む、細胞または組織の凍結保護方法。
【請求項11】
請求項9に記載の食品凍結保護用組成物の存在下で対象の食品を零下の温度にさらすステップを含む、食品の凍結保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAナノ構造体を含む凍結保護用組成物およびその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結防止素材は、溶液中に存在するとき、0℃下の温度にさらされた溶液における氷結晶の形成を低減または阻害できる化合物である。現在の凍結防止素材は、小分子、合成ポリマー、および凍結防止剤タンパク質を含む。現在使用している小分子の場合は、非常に高い有効濃度が求められ(例えば、60%以上)、組織毒性がある場合がある。また、自然に存在するタンパク質の場合は、精製および大量生産が難しく、価格が非常に高い点で限界がある。
【0003】
極低温の環境で生きる生命体には、体液の凍結を防止して細胞および組織を保護する凍結防止タンパク質(antifreezing protein)が存在する。凍結防止タンパク質はそれぞれ固有の構造を持っているが、トレオニン(threonine)というペプチドの規則的な配列が氷結晶の特定の面と噛み合って結晶の成長を抑制する効果があると知られている。
【0004】
DNAオリガミとは、DNAの固有の4つの塩基間の相補的な自己結合特性を利用して、通常7000個以上の塩基を有するスキャフォールド(scaffold)DNAと呼ばれる非常に長い一本鎖DNAと、それを特定の形状に接合するための多数の短いステープルDNA(staple DNA)を使用してナノ構造物を作成するボトムアップ(bottom-up)作成手法である。
【0005】
このDNAオリガミ技術は、数ナノメートル(nm)以内の高精度で、従来のトップダウン手法では作成できない複雑な形状の2次元/3次元ナノ構造物を作成することができる。これにより、多様なナノ材料を所望の位置に精密に配置するなどの応用が可能であり、また生体分子を利用するので、作成されたナノ構造物は生体適合性に非常に優れている。
【0006】
凍結保護剤は細胞内および細胞外で複合的に作用する。細胞内に吸収された構造体は細胞内の氷結晶の形成および成長を抑制し、細胞外の構造体は細胞周囲の氷結晶の形成および成長を抑制するとともに、細胞外の氷結晶が細胞膜を刺して細胞が損傷することを防ぐ機能を果たす。
【0007】
一方、市販の細胞凍結保存剤として広く使用されているジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide, DMSO)の場合は、細胞培養液との混合比率が10%(v/v)程度で非常に多い量を使用し、細胞毒性を有する物質であるので、細胞生存率に悪影響を与え、解凍後早い時間内に取り除かなければならない問題がある。
【0008】
また、DNAオリガミ素材が細胞毒性を発生しないことについては先行研究が存在するが、凍結防止性能を有するペプチドが結合している場合の細胞毒性の有無および多様な細胞に対する細胞毒性の有無についてはまだ明確になっていない部分があるので、商用化のためには前記部分の評価がさらに必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、DNAナノ構造体を含む細胞または組織凍結保護用組成物を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、DNAナノ構造体を含む食品凍結保護用組成物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、細胞または組織の凍結保護方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、食品の凍結保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1.既に決定された位置で折り曲げられて複数の鎖をなすスキャフォールド核酸、その配列の少なくとも一部が前記スキャフォールド核酸と相補的な配列を有し、前記スキャフォールド核酸の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖を形成する複数の第1のステープル核酸、およびその配列の少なくとも一部は、前記スキャフォールド核酸と相補的であり、少なくとも一端はそうではなく、前記スキャフォールド核酸の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖および末端に一本鎖を形成する複数の第2のステープル核酸を含む核酸構造体と、
前記核酸構造体の一本鎖の少なくとも一つに結合したリンカーと、
前記リンカーの少なくとも一つに結合した凍結防止ペプチドとを含む、凍結保護用組成物。
【0014】
2.前記項目1において、前記リンカーはDNA、RNA、またはPNAである、組成物。
【0015】
3.前記項目1において、前記リンカーは長さが5ヌクレオチド~20ヌクレオチドである、組成物。
【0016】
4.前記項目1において、前記ペプチドは長さが1~10アミノ酸からなる、請求項1に記載の組成物。
【0017】
5.前記項目4において、前記アミノ酸はアラニンまたはトレオニンである、組成物。
【0018】
6.前記項目1において、前記核酸構造体は、2つ以上のヘリックスバンドルを含み、かつ氷結晶と接触できる面を含む、組成物。
【0019】
7.前記項目1において、前記核酸構造体は、ねじれを持つか、または曲線のヘリックスバンドルを含む、組成物。
【0020】
8.前記項目1~7のいずれかに記載の組成物を含む、細胞または組織凍結保護用組成物。
【0021】
9.前記項目1~7のいずれかに記載の組成物を含む、食品凍結保護用組成物。
【0022】
10.前記項目8に記載の組成物の存在下で、対象の細胞または組織を零下の温度にさらすステップを含む、細胞または組織の凍結保護方法。
【0023】
11.前記項目9の組成物の存在下で、対象の食品を零下の温度にさらすステップを含む、食品の凍結保護方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の組成物は、細胞および組織の凍結保護効果に優れる。
【0025】
本発明の組成物を用いて細胞凍結保存時、細胞の生存率を高めることができる。
【0026】
本発明の組成物は、食品の凍結保護効果に優れる。
【0027】
本発明の組成物を用いて食品凍結時、前記食品の食感を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、スキャフォールド核酸とステープル核酸が結合して構造体を形成する場合を示す図である。
【
図2】
図2は、様々な核酸オリガミ構造体を示すものである。Aは4ヘリックスバンドル(堅固構造)、Bは4ヘリックスバンドル(柔軟構造)、Cは24ヘリックスパッチ構造、Dは12ヘリックスバンドル(堅固構造)、Eは12ヘリックスバンドル(90度曲がった構造)、Fは12ヘリックスバンドル(45度曲がった構造)である。
【
図3】
図3は、4、6、12ヘリックスバンドルの堅固構造を示すものである。
【
図4】
図4は、4ヘリックスバンドルの柔軟構造、6ヘリックスバンドルの柔軟構造を示すものである。
【
図5】
図5は、ギャップを有するかまたは有しないオリガミ構造体を示すものである。
【
図6】
図6は、RI効果の測定方法を示す概略図である。
【
図7】
図7は、純粋な蒸留水にMgCl
2のみが含有されたバッファ溶液のRI測定結果である。
【
図8】
図8は、純粋な蒸留水にMgCl
2のみが含有されたバッファ溶液のRI測定結果である。
【
図9】
図9は、構造化されていない一本鎖状態のDNAが存在する溶液のRI測定結果である。
【
図10】
図10は、構造化されていない一本鎖状態のDNAが存在する溶液のRI測定結果である。
【
図11】
図11は、スキャフォールドDNA試料のRI測定結果である。
【
図12】
図12は、スキャフォールドDNA試料のRI測定結果である。
【
図13】
図13は、4ヘリックスバンドルの堅固構造および柔軟構造を示すものである。
【
図14】
図14は、6ヘリックスバンドルの堅固構造および柔軟構造を示すものである。
【
図15】
図15は、24ヘリックスパッチ構造を示すものである。
【
図16】
図16は、12ヘリックスバンドルの堅固構造および曲がった構造を示すものである。
【
図17】
図17は、DNAオリガミ構造体のRI効果を示すものである。
【
図18】
図18は、DNAオリガミ構造体のRI効果を示すものである。
【
図19】
図19は、DNAオリガミ構造体のRI効果を示すものである。
【
図20】
図20は、DNAオリガミ構造体のRI効果を示すものである。
【
図21】
図21は、6ヘリックスバンドルの堅固構造に対して、観察時間による氷結晶の成長過程を示すものである。
【
図22】
図22は、DNA-PNA-ペプチドパッチの設計図を示すものである。
【
図23】
図23は、完成したDNA-PNA-ペプチドパッチのアガロースゲル電気泳動結果を示すものである。
【
図24】
図24は、実験に用いたDNAオリガミ構造体の実際の様子を原子間力顕微鏡(AFM)画像で観察した結果である。
【
図25】
図25は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)および細胞培養液(DMEM)中で構造体(ペプチドのないパッチ構造)の安定性をテストしたアガロースゲル電気泳動実験の結果である。
【
図26】
図26は、PBSおよび細胞培養液中で構造体(ペプチドのないパッチ構造)の安定性をテストした後、アガロースゲル電気泳動実験を行った結果である。
【
図27】
図27は、HSC-3細胞内に吸収されたかまたは外部に吸着した構造体の分布を示すものである(紫色:ペプチドパッチ、青色:細胞核)。
【
図28】
図28は、DNAパッチまたは対照群(PBSバッファ)を含む場合、凍結後解凍時の細胞保護性能を観察した結果である。
【
図29】
図29は、DMSO 10%に対して、各オリガミナノ構造体のインキュベーション時間による細胞生存率(凍結保存時間は24時間で同じ。)を示すグラフである。
【
図30】
図30は、2時間のインキュベーションおよび1ヶ月間の凍結保存後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。
【
図31】
図31は、DNAオリガミの凍結保護効果をIn-situで確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明は、DNAナノ構造体を含む凍結保護用組成物に関するものである。
【0031】
本発明で「凍結保護」とは、細胞、組織及び食品などの凍結保存時に起こり得る凍結損傷から前記細胞、組織及び食品などを保護することをいう。
【0032】
本発明で「凍結損傷」とは、細胞、組織及び食品などが凍結されるとき、前記細胞、組織及び食品などに発生し得る損傷をいう。例えば水の氷結晶化により、細胞膜の損傷が起こり得る。また、非浸透性の凍結保護剤を使用すると、ただ細胞外の塩分濃度のみに影響するので、これによる高い溶質濃度は細胞膜に浸透性ストレス(osmotic stress)を引き起こす可能性がある。さらに、ガラス化に必要な高濃度の凍結保護剤は、低い水の化学ポテンシャルまたは化学毒性のために損傷を引き起こすこともある。ただし、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明で「凍結保護」とは、細胞および組織の内部および外部におけるDNAナノ構造体の複合的な作用によって示され得る。例えば、細胞内に吸収された構造体は、細胞内の氷結晶の形成および成長を抑制し、細胞外に存在する構造体は、細胞周囲の氷結晶の形成および成長を抑制するとともに、細胞外の氷結晶が細胞膜を刺して細胞を損傷することを防ぐことを指す。ただし、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明で「凍結保護用組成物」とは、生体組織、細胞または有機体および食品を凍結損傷から保護するために使用する物質であってもよい。
【0035】
本発明の一実施形態では、凍結保護用組成物は氷結晶の形成または成長を抑制することができる。
【0036】
氷の結晶は、氷の再結晶化により成長できるが、これは小さな氷結晶から更に大きな氷結晶に成長する過程を意味する。この成長は、オストヴァルト熟成(Ostwald ripening)のメカニズムにより起こる。オストヴァルト熟成(Ostwald ripening)は、常温と結晶の間の表面エネルギーの差による圧力によって、融解-拡散-再凍結または昇華-拡散-凝縮のメカニズムで進行され得る。換言すれば、氷結晶の成長は、氷同士がくっついて成長するのではなく、小さな氷結晶が結晶の間で融解して大きな氷結晶に向かって拡散した後、大きな氷結晶の一部となって再凍結して起こる。
【0037】
氷結晶の成長抑制は、氷が形成されないようにするか氷の形成速度を遅らせたり、氷の再結晶化が行われないようにしたり、氷再結晶化の速度を遅らせたり、氷結晶の大きさを小さく維持する作用を意味する。
【0038】
本発明の凍結保護用組成物は、細胞または組織の凍結を防止することができる。また、細胞の凍結保存後解凍時に細胞の生存率を向上させることができる。
【0039】
前記組成物に含まれるDNAナノ構造体を構成する塩基の種類、構造などによる氷親和的(icephilic)性質の程度によって、細胞または組織の凍結を防止及び抑制する効果が異なり得る。
【0040】
本発明の凍結保護用組成物は核酸構造体を含む。
【0041】
核酸構造体は核酸オリガミ構造体であってもよい。
【0042】
核酸はDNA、RNAまたはPNAであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
核酸オリガミ構造体は、
図1に示されるように、スキャフォールド核酸が複数のステープル核酸と結合し、スキャフォールド核酸の所定の部分が折り曲げられて形成される構造体である。
【0044】
スキャフォールド核酸は、一本鎖の核酸であり、その長さは形成しようとする構造体の長さ、大きさ、形状等によって適宜選択でき、通常7,000~8,000ヌクレオチド(nt)程度の長さを有する種類を使用することができる。本発明の具体的な実施例では、7,249ntの長さのM13mp18DNAを使用しているが、これに限定されるものではない。M13mp18スキャフォールドDNAを用いてDNA構造体を作製した場合、作られた構造体一つの分子量は約5メガダルトンであり、これは約10-20kgに相当するが、これに限定されるものではない。
【0045】
ステープル核酸は、その配列の少なくとも一部が前記スキャフォールド核酸と相補的な配列を有し、スキャフォールド核酸が特定の位置で折り曲げられるか、固定されるようにすることができる。
【0046】
本発明におけるステープル核酸は、前記スキャフォールド核酸の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖を形成する複数のステープル核酸(以下、「第1のステープル核酸」)であってもよい。また、ステープル核酸は、その配列の少なくとも一部が前記スキャフォールド核酸と相補的であり、少なくとも一端はそうではなく、前記スキャフォールド核酸の鎖の少なくとも一つに結合して二本鎖および末端に一本鎖を形成する複数のステープル核酸(以下、「第2のステープル核酸」)であってもよい。
【0047】
第1のステープル核酸は、スキャフォールド核酸と相補的な配列を有し、スキャフォールド核酸と結合して二本鎖を形成することができる。
【0048】
第2のステープル核酸は、スキャフォールド核酸と相補的な配列を有する部分、および少なくとも一方の末端(一端)がスキャフォールド核酸と相補的でない部分を含むことができる。例えば、一端がスキャフォールド核酸と相補的でなくてもよく、両端がスキャフォールド核酸と相補的でなくてもよい。ただし、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明におけるステープル核酸は、複数の第1のステープル核酸単独、複数の第2のステープル核酸単独、または複数の第1及び第2のステープル核酸を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
ステープル核酸は、その長さは、形成しようとする構造体の長さ、大きさ、形状などによって適宜選択することができ、例えば20~50ntであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明において、前記第2のステープル核酸におけるスキャフォールド核酸と相補的でない少なくとも一端の部分は、ステープル核酸の塩基配列の設計時に一部の長さを伸ばして、ステープル核酸の塩基配列のうち、スキャフォールド核酸の塩基配列と少なくとも一端が相補的な結合をしないように設計された部位であってもよい。第2のステープル核酸がスキャフォールド核酸と結合すると、前記少なくとも一端は核酸オリガミの一方の面に露出することができる。以下、これを「ハンドル」と称する。核酸オリガミ構造体は、ステープル核酸がスキャフォールド核酸の特定の位置に結合し、ステープル核酸が特定の位置で折り曲げられて特定の構造体を形成するものであり、ステープル核酸はスキャフォールド核酸がそのような特定の構造体を持つように設計される。
【0052】
ステープル核酸の設計は、通常の方法によって行うことができ、例えばcaDNAnoなどのデザインプログラムを使用できるが、これに限定されるものではない。
【0053】
核酸オリガミ構造体は、通常の熱アニーリング(thermal annealing)手法を用いて作製することができる。
【0054】
これは、原材料であるスキャフォールド核酸とステープル核酸を高温(例えば、80~95℃)で加熱して、すべての核酸鎖が一本鎖の状態にあるようにすることから始まる。核酸鎖は、塩基配列によって融点(melting temperature)が存在し、その温度以上であると、主に一本鎖で、その温度以下であると、主に二本鎖で存在することになる。その後、反応溶液の温度を徐々に下げると、核酸鎖が相補的に結合して二本鎖で存在し始め、核酸オリガミでは200個程度のステープル核酸が協力的に結合しながら設計位置に結合し、所望の形状の構造体が生成される。
【0055】
ステープル核酸ごとに塩基配列が異なるので結合時点が少しずつ異なるが、通常の熱アニーリング手法では十分な時間(数時間以上)にわたって徐々に温度を下げるため、すべてのステープル核酸が結合するに十分な条件である。したがって、構成するステープル核酸の塩基配列とは無関係に所望の形状を有するように作製することができる。
【0056】
スキャフォールド核酸は、既に決定された位置で折り曲げられて複数の鎖を成す。ステープル核酸は、スキャフォールド核酸が既に決定された位置で折り曲げられるように設計された配列を有するものであり、前記方法でスキャフォールド核酸に結合し、スキャフォールド核酸が所定の構造を形成するようにする。
【0057】
スキャフォールド核酸鎖とステープル核酸が結合して二本鎖(二重らせん)をなし得るが、核酸オリガミ構造体は、例えば、2~50、2~45、2~40、2~35、2~30、2~25または2~20、2~12、4~12ヘリックスバンドル(helix bundle)を持つことができる。具体的には、4ヘリックスバンドル~12ヘリックスバンドルを持つことができるが、これらに限定されるものではない。
図2及び4には、様々なヘリックスバンドルを持つ核酸オリガミ構造体が示されている。
【0058】
リンカーは、核酸構造体の一本鎖の少なくとも一つに結合することができる。具体的には、リンカーは、核酸構造体をなす第2のステープル核酸の末端に存在する一本鎖の少なくとも一つに結合することができるが、これに限定されるものではない。
【0059】
リンカーは、例えば、少なくとも一部が前記ハンドルに相補的な塩基配列を有する核酸であってもよく、例えば、DNA、RNA、PNAなどの核酸鎖であってもよい。リンカーはその末端に蛍光物質、ペプチドなどの機能性物質がさらに付着している鎖であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0060】
リンカーは、前記ハンドルの少なくとも一つに結合するものであり、1つまたは複数、若しくは全てのハンドルに結合することができるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
前記リンカーの長さは、前記ハンドルの長さおよび塩基構成、形成しようとする構造体の長さ、大きさ、形状などによって適宜選択することができ、例えば、5ヌクレオチド~50ヌクレオチド、具体的には5ヌクレオチド~30ヌクレオチドであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明における凍結防止ペプチドは、前記リンカーの少なくとも一つに結合したペプチドであってもよい。
【0063】
前記凍結防止ペプチドは、リンカーの少なくとも一部に結合することができる。前記「リンカーの少なくとも一部に結合する」というのは、核酸構造体の一本鎖の1つまたは複数に結合すること、または前記リンカーの1つの全塩基配列の全部または一部に結合することであり得る。例えば、前記ペプチドは、リンカーの一端に結合してもよく、前記リンカーの両端に結合してもよい。前記リンカーと凍結防止ペプチドとの結合は、水素結合、共有結合、ペプチド結合などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の一実施形態では、前記ハンドル部位の塩基配列と相補的な塩基を有するリンカー(例えば、ペプチド核酸鎖(PNA))を設計し、前記リンカーの少なくとも一つにペプチドを結合させることができる(以下、「プローブ」)。前記プローブは、水溶液中で核酸オリガミ構造体が作られる過程で設計された部位であるハンドルに結合することができる(
図24を参照)。
【0065】
本発明で「ペプチド」とは、凍結防止効果を示すペプチドを指す。前記ペプチドの種類による氷親和的(icephilic)特性の程度および前記ペプチド配列の密度によって、氷結晶の成長を抑制する効果が異なり得る。
【0066】
本発明の一実施形態では、前記ペプチドは単一または複合型のアミノ酸重合体であってもよい。前記アミノ酸は凍結防止効果を有するものであってもよい。例えば、前記アミノ酸はアラニン(alanine)またはトレオニン(threonine)であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0067】
前記アミノ酸重合体の長さは、前記リンカーの長さおよび塩基構成、前記露出した一本鎖の長さおよび塩基構成、形成しようとする構造体の長さ、大きさ、形状などによって適宜選択することができ、例えば、1個~20個のアミノ酸、1個~10個のアミノ酸、2個~10個のアミノ酸であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明で核酸オリガミ構造体には、一定の間隔で凍結防止ペプチドが配列されていてもよい。本発明の一実施形態では、核酸オリガミシート構造の一方の面に凍結防止ペプチドの配列を生成することができる。
【0069】
本発明では、オリガミ構造体が有するハンドルの数が多いほど、前記ハンドルに付着する凍結防止ペプチドの数が増加し、凍結防止効率がより高くなり得る。本発明の一実施形態では、核酸オリガミシート構造の一方の面に、横方向に16ヌクレオチド間隔で96個の凍結防止ペプチド配列を有するオリガミ構造体(
図22の全てのハンドル位置部分に凍結防止ペプチドが配列された構造体)は、横方向に32ヌクレオチド間隔で48個の凍結防止ペプチド配列を有するオリガミ構造体よりも細胞生存率が高かった(
図29を参照)。
【0070】
本発明の構造体は、細胞内に吸収されるか、または細胞外壁にくっつく形で細胞を包むことができる。細胞内に吸収された素材は、細胞の冷・解凍過程で、その内部で発生する氷結晶の形成および成長を抑制することができる。また、細胞内に吸収された素材は、細胞および組織の凍結を防止および抑制することができる。さらに、細胞の凍結保存後解凍時に細胞の生存率を向上させることができる。
【0071】
細胞外にくっついた構造体は、細胞周囲で発生する氷結晶の形成および成長を抑制し、氷結晶の細胞内への浸透を抑制し、細胞膜の損傷から保護することができる。また、細胞外にくっついた構造体は、細胞および組織の凍結を防止および抑制し、損傷を防止することができる。さらに、細胞の凍結保存後解凍時に細胞の生存率を向上させることができる。
【0072】
本発明で使用される構造体は、水溶液中で約0.001%~0.03%、細胞培養液中で0.001%~0.003%の重量/体積比(weight/volume percent)を有することができる。
【0073】
従来、組織保存に使用される浸透性の小分子は、数十パーセントに達する高い重量/体積比(weight/volume percent)が求められるのに対して、本発明の核酸オリガミ構造体は、はるかに低い重量比でも氷結晶の成長抑制効果を有し、細胞または組織の凍結防止効果を有することができる。また、細胞の凍結保存後解凍時に細胞の生存率を向上させることができる。
【0074】
本発明による核酸オリガミ構造体は、ねじれを持つか、または曲線のヘリックスバンドルを含むことができる。
【0075】
例えば、ヘリックスバンドルのねじれ方向は塩基の挿入または欠失で調節できるものであり、ヘリックスに塩基が挿入されてバンドルが右方向にねじれるか、または塩基が欠失されて左方向にねじれ得る。ねじれの程度は、塩基の数で調節することができる。挿入または欠失される塩基の数は、ヘリックスが二度回転する毎21塩基長さ当たり1個または2個であってもよく、それ以上であっても、構造を維持するのに問題がなければ特に制限されない。
【0076】
また、例えば複数のヘリックスのうち、一側のヘリックスに塩基を挿入し、他側のヘリックスに塩基を挿入しないか、塩基を欠失させ、ヘリックス間に長さの差を生じさせてヘリックスバンドルを曲線にすることができる。
【0077】
また、核酸オリガミ構造体は、氷結晶の生成または成長抑制の側面で、氷結晶の成長面と接触できる面を含むことができる。線状ではなく、面形状の広い面積で氷結晶の成長面と接触して、氷結晶の生成または成長の抑制効果を最大化することができる。また、面の形態で広い面積を有し、細胞または組織の凍結防止効果を最大化することができる。
【0078】
また、本発明は、前記組成物を含む細胞または組織凍結保護用組成物に関するものである。
【0079】
細胞または組織を凍結保存すると、その後の使用時、凍結された細胞または組織を溶かす過程で、氷の再結晶化は、細胞膜の損傷、細胞の脱水を進行させ、細胞および組織に損傷を与える。低温環境で生きる有機体は、氷の再結晶化によってより簡単に損傷してしまうことがある。
【0080】
本発明の組成物に含まれるナノ構造体は、細胞および組織の内部に吸収されるか、または細胞および組織の外壁にくっつく形で食品を包むことができる。細胞および組織内に吸収された素材は、細胞および組織の冷・解凍過程で、その内部で発生する氷結晶の形成および成長を抑制することができる。また、細胞および組織内に吸収された素材は、食品の凍結を防止および抑制することができる。さらに、細胞および組織の外部にくっついた構造体は、細胞および組織の凍結を防止および抑制し、損傷を防止することができる。
【0081】
本発明の組成物は、通常的に保存のために凍結して使用するすべての細胞がその適用対象となり、例えば、原核細胞;真核細胞;微生物;動物細胞;癌細胞、精子;卵子;成体幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞を含む幹細胞;臍帯血、白血球、赤血球、および血小板を含む血液細胞;腎細胞、肝細胞および筋肉細胞を含む組織細胞であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0082】
また、組織は、同様に保存のために凍結して使用するすべての組織がその適用対象となり、例えば、角膜、腎臓、心臓、小腸、膵臓、肺、肝臓などのすべての組織を制限なく使用することができる。
【0083】
本発明の組成物は、細胞、組織を凍結保存するための保存液を含むことができる。保存液は水、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline))、様々な細胞培養液などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明の組成物は、核酸構造体を0.001~0.5%(w/v)、具体的には0.001~0.03%(w/v)含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
従来、組織保存に使用される浸透性の小分子は、最大数十パーセントに達する高い重量比が求められるのに対して、本発明の核酸オリガミ構造体は、はるかに低い含有量でも氷結晶の成長抑制効果を有し、細胞および組織の保存にさらに有利であり得る。また、細胞の凍結保存後解凍時に細胞の生存率を向上させることができる。
【0086】
また、本発明は、前記組成物の存在下で対象の細胞または組織を零下の温度にさらすステップを含む、細胞または組織の凍結保護方法に関するものである。
【0087】
前記組成物の存在下で対象の細胞または組織を凍結させると、その後の解凍時の氷再結晶を阻害し、細胞または組織が損傷することを防止できる。また、細胞の凍結保存後解凍時に細胞の生存率を向上させることができる。
【0088】
また、本発明は、前記組成物を含む食品凍結保護用組成物、そして前記組成物の存在下で食品を零下の温度にさらすステップを含む食品の凍結保護方法に関するものである。
【0089】
本発明の組成物は、すべての冷凍食品に適用できるものであり、これを使用することにより、解凍時にその食品の食感が低下することを最小限に抑えることができる。
【0090】
例えば、本発明の構造体は、食品内に吸収されるか、または食品外壁にくっつく形で食品を包むことができる。食品内に吸収された素材は、食品の冷・解凍過程で、その内部で発生する氷結晶の形成および成長を抑制することができる。また、食品内に吸収された素材は、食品の凍結を防止および抑制することができる。さらに、食品外部にくっついた構造体は、食品の凍結を防止および抑制し、損傷を防止することができる。
【0091】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明することとする。
【0092】
実施例
1.実験による陽イオンおよびDNA構造体による氷結晶の成長抑制効果の確認
1.1.氷結晶の成長の実験方法
RI効果を測定するために、通常知られているスプラット冷却(splat cooling)法を用いた(
図6を参照)。まず、液体窒素で予め冷却された金属板の上にカバーグラスを載せて(カバーガラスの表面温度は約-150℃)、約1.5mの高さから、RI効果を測定しようとする素材が分散された溶液を20μl落とす。溶液は、カバーガラスの上に触れてすぐに急速冷却されながら薄く広がって凍りつくことになり、急激な冷却によって非常に小さな氷結晶が多数生成される。その後、カバーガラスを、穴があいていて光学顕微鏡で観察可能なコールドステージ(cold stage)に移す。コールドステージは-6℃に維持され、30分間小さい結晶がだんだん集まって氷結晶(ice grain)が成長する様子を観測する。その後、氷結晶の大きさを測定し、対照群(氷結防止素材のない溶液のみのサンプル)と比べて氷結晶がいかに少なく成長したのかを比較する。
【0093】
1.2.陽イオンが含まれた水溶液および構造化されていないDNA試料のRI効果の観測
まず、純粋な蒸留水にMgCl
2のみを含有するバッファ溶液に対してRI測定実験を行い、イオン濃度が増加するにつれて氷結晶の成長が抑制されることを確認した(
図7及び8を参照)。本実験結果に基づいて、後の実験での基準(reference)バッファ溶液のMgCl
2濃度は5ミリモル(mM)とした。試料のRI性能は、基準バッファに対して試料の相対的なRI性能を比較して測定した。値が小さいほどRI性能が高いことを意味する。
【0094】
次に、構造化されていない一本鎖状態のDNAが存在する溶液に対してRI測定実験を行った。実験で使用したDNAの濃度は、通常の製造工程により作られたDNA構造体の濃度と類似した50~200ng/uLとした。6ヘリックスバンドルの堅固構造を構成する169種類のステープルDNAが一本鎖状態で混ぜられた試料のRI性能を測定したところ、0.87から1.0の間で、バッファに比べて氷結晶の成長抑制効果がほとんどないことが観察された(
図9及び10を参照)。つまり、DNA鎖がMg
2+イオンを結集する効果があるとはいえ、水溶液中で一定の形状及び剛性を有する構造体を成していないと、Mg
2+イオンを捕まえておくことができないため、巨視的にはRI効果がほとんど発生しないことを実験的に確認した。
【0095】
また、同様な方式で行ったスキャフォールドDNA試料のRI値は、最大0.7程度に測定された(
図11及び12を参照)。スキャフォールドDNAがステープルDNAに比べて若干のRI性能を有する理由は、長さの長いスキャフォールドDNAの特性上、全領域が一本鎖状態で存在するのではなく、一部が互いに相補性を持って二本鎖に結合する二次構造(secondary structure)を形成しているためであると推定される。
【0096】
1.3.構造化されたDNAオリガミの設計
DNA鎖同士が密集して連結されて一定の断面形状および剛性を有するDNA構造体に対して実験を行った。DNAオリガミ手法の例として設計された9種の構造体は、
(1)4ヘリックスバンドルの堅固構造、
(2)4ヘリックスバンドルの柔軟構造(ギャップ5nt)、
(3)6ヘリックスバンドルの堅固構造、
(4)6ヘリックスバンドルの柔軟構造(ギャップ3nt)、
(5)6ヘリックスバンドルの柔軟構造(ギャップ5nt)、
(6)24ヘリックスパッチ、
(7)12ヘリックスバンドルの堅固構造、
(8)12ヘリックスバンドルの曲がった構造(90°)、
(9)12ヘリックスバンドルの曲がった構造(45°)である。
【0097】
それぞれの構造体の設計方法は、以下の通りである。
【0098】
(1)4ヘリックスバンドルの堅固構造、及び(2)4ヘリックスバンドルの柔軟構造(ギャップ5nt)
(1)番及び(2)番の構造体は、断面が4つの二本鎖DNAで構成されており、一辺が約4.5nmの正四角形状にパッキング(packing)されている(
図13)。約192ntの長さを基本にして同じ形態の連結が繰り返される構造を有し、構造体の合計の長さは約600nmである。(1)番の堅固構造体は、構造内に存在するすべてのステープルDNAの両末端(5'末端と3'末端)が直接当接するように設計されている。(2)番の柔軟構造体は、150個の隣接するステープルDNAの両末端の間が5ntのssDNAで構成されている。
【0099】
(3)6ヘリックスバンドルの堅固構造、(4)6ヘリックスバンドルの柔軟構造(ギャップ3nt)、及び(5)6ヘリックスバンドルの柔軟構造(ギャップ5nt)
(3)、(4)、(5)番の構造体は、断面が6つの二本鎖DNAで構成されており、六角形状にパッキング(packing)されている(
図14)。約168ntの長さを基本にして同じ形態の連結が繰り返される構造を有し、構造体の合計の長さは約400nmである。(3)番の堅固構造体は、構造内に存在するすべてのステープルDNAの両末端が直接当接するように設計されている。(4)、(5)番の柔軟構造体は、169個の隣接するステープルDNAの両末端の間がそれぞれ3nt及び5ntのssDNAで構成されている。
【0100】
(6)24ヘリックスパッチ
(6)番の構造体は、断面が24個の二本鎖DNAで構成されており、一直線に配列されてシート状をなす(
図15)。構造体の長さは256ntで約90nmであり、幅は約55nmである。構造内に存在する192個のステープルDNAのすべての末端は、直接当接するように設計されている。
【0101】
(7)12ヘリックスバンドルの堅固構造、(8)12ヘリックスバンドルの曲がった構造(90°)、及び(9)12ヘリックスバンドルの曲がった構造(45°)
(7)、(8)、(9)番の構造体は、断面が12個の二本鎖DNAで構成されており、六角形の格子状にパッキング(packing)されている(
図16)。(7)番の堅固構造体は、180個のステープルDNAのすべての末端が直接当接するように設計されている。(8)番及び(9)番の構造体は、構造体の中間に存在するステープルDNAの11個を除去して42ntの長さの柔軟部位を作成し、構造物の両端を連結するDNAの長さをそれぞれ357nt及び189ntに短くして、構造の中央が90度及び45度に曲がった形状に作製した。
【0102】
1.4.DNAオリガミの作製およびRI効果の観測
一定の断面形状およびサイズを有するように構造化されたDNA構造体の氷結晶の成長抑制効果を確認した。DNAオリガミ構造体の作製過程は原材料とバッファーとを混ぜて80℃に加熱した後、65℃まで1時間かけて温度を下げ、その後、25℃まで1時間当たり1℃ずつ温度を下げる熱アニーリング手法を用いた。熱アニーリング手法で作製された構造体を別々に分離するために、Amicon社製の遠心分離精製フィルターを用いて、反応していない余分な材料をろ過した。精製後の構造体の濃度は、260nm波長における吸光度を用いて測定した。バッファによって希釈する方式で目標濃度に合わせた。
【0103】
前記の設計によって作製された構造体の形状は、原子間力顕微鏡によって測定された(
図17、18及び19の最初列の画像を参照)。少なくとも2種類の異なる密度を持つ前記9種類のDNA構造体に対して、30分間零下6℃で氷結晶の成長過程を観察するRI実験を行ったところ、最大0.53のRI値が測定された(
図20を参照)。断面の面積が最も狭い4ヘリックスバンドル(1、2番のサンプル)に比べて、残りのサンプルがさらに高いRI性能を示し、構造体の濃度が高いほど全体的にRI性能が向上する傾向を示した。これは、断面の広さが一定レベルになって初めて、RI性能が発揮される程度のMg
2+イオンを十分に結集させることができ、水溶液中で構造体の数が多いほど、氷結晶の成長を抑制できる領域が増加するからであると考えられる。6ヘリックスバンドルの堅固構造に対して30分後の氷結晶の成長過程を観察したところ、2時間ほど経過すると、素材が含まれていないバッファーの氷結晶と類似した大きさに成長することを観測した(
図21を参照) 。
【0104】
一連の実験を通して、陽イオンが結集したDNA構造体を含む組成物は、構造体を形成していないDNAと比較して、より高い氷結晶の成長抑制効果を発揮できることを実証した。
【0105】
2.DNA-PNA-ペプチドオリガミ構造体の作製
2.1.DNA-PNA-ペプチドオリガミ構造体の設計
DNA-PNA-ペプチド構造体を、スキャフォールドDNA、ステープルDNA、ハンドル、Cy3 dye、およびPNA-ペプチド結合部位を有するようにして設計した(
図22を参照)。
【0106】
2.2.DNA-PNA-ペプチドオリガミ構造体の作製(
図23を参照)
PNA-ペプチドプローブが付着した構造体を作製するために、構造体を構成する全ての核酸材料であるスキャフォールドDNA、ハンドルを含むステープルDNAとPNA-ペプチドを同時に混合した。その後、DNAオリガミ構造体の作製過程と同様の熱アニーリングを経てDNAオリガミのハンドル部位にPNA-ペプチドプローブが付着したDNA-PNA-ペプチド構造を形成した。前記で形成されたDNA-PNA-ペプチド構造体の精製過程もまた、DNAオリガミ構造体と同様に行った。
【0107】
3.各DNA構造体による細胞保護性能の確認
3.1.実験材料および条件
本発明の実施例は、癌細胞であるHSC-3細胞を用いて実施した。実験で使用した核酸オリガミ構造体の濃度は100ng/uLおよび200ng/uLとし、ペプチドプローブを付着した場合には、最大300ng/uLとした。細胞培養液と前記凍結保護素材を9:1の体積比で混合し、細胞実験に用いた最終素材の濃度は10ng/uLから30ng/uLとした。
【0108】
まず、核酸オリガミ構造体に対して、ペプチドプローブなしで構造自体のみの凍結保護効果を測定した。その後、凍結防止ペプチドであるアラニン(alanine)およびトレオニン(threonine)が付いたPNAプローブを用いて、DNA-ペプチド複合素材の凍結保護性能を測定する実験を行った。
【0109】
細胞保護性能の確認に用いた核酸オリガミの形状は、(1)4ヘリックスバンドル構造、(2)6ヘリックスバンドル構造、(3)12ヘリックスバンドル構造、(4)24ヘリックスパッチ構造であった。前記設計によって作製された構造体の形状は原子間力顕微鏡で測定した(
図24を参照)。
【0110】
3.2.生理食塩水および細胞培養液の条件下での構造安定性の確認
DNAオリガミ構造体が細胞と相互作用する期間中に構造を維持できるかを確認するために、10%リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびDMEM細胞培養液にDNA構造体を9:1の割合で混合し、最大8時間37℃でインキュベートした。
【0111】
0、1、2、4及び8時間目にインキュベーションを完了し、原子間力顕微鏡(AFM)およびアガロースゲル電気泳動によりDNA構造体の様子を観察し、構造的安定性を確認した(
図25、26を参照)。
【0112】
3.3.細胞吸収有無の確認
作製したパッチ構造が細胞の内/外に吸収および付着するかどうかを共焦点蛍光顕微鏡で確認した(
図27を参照)。
【0113】
蛍光標識として、細胞核の染色にはHoechst 33258、DNAオリガミ素材にはCy3を用いた。核は青色で表示され、オリガミが位置する箇所はマゼンタ色で表示された。
【0114】
DNA-PNA-ペプチドパッチが含まれた溶液を細胞培養液の10%割合で混合してインキュベートし、インキュベーションの直後、1時間経過後、および2時間経過後をそれぞれ観察したところ、インキュベーション時間が経過するにつれて、細胞内/外に存在するパッチの量がますます増加することを確認した。
【0115】
3.4.細胞生存率の確認
3.4.1.凍結直後解凍時の顕微鏡による細胞生存率の変化の確認
まず、一般のDNAパッチ構造の凍結保護性能を顕微鏡で確認した。細胞をPBS 10%およびDNAパッチ構造と混ぜてインキュベートした後、RI実験と同様に冷凍後解凍の過程を経て細胞の生存可否を画像から確認した。実験の結果、PBS状態ではほぼ全ての細胞が破壊されたのに対し、DNAパッチ構造と混合された場合には、相当数の細胞が生存することを確認した(
図28を参照)。
【0116】
3.4.2.24時間凍結保存後に解凍時のMTTアッセイによる細胞生存率の確認
各DNA構造体およびそれと結合した各PNA-ペプチドを含む細胞培養液中で細胞を37℃でインキュベートした場合における、時間による細胞生存率を確認した(
図29を参照)。
【0117】
パッチ(PNA-ペプチドプローブ)を含むサンプルでは、2時間インキュベートした場合に最も高い細胞生存率を示した。この中でも、トレオニン5個(Thr x5)のプローブが付いた300mg/ul濃度のDNA構造体を液体窒素温度で2時間インキュベートし、24時間凍結保存後に解凍した場合に、全サンプルの中で最も高い細胞生存率を示した。
【0118】
一方、バンドル形態の構造体では、インキュベーション時間によって細胞生存率が増加する傾向を示した。
【0119】
各DNAオリガミ構造体のサンプルと凍結保存剤DMSO 10%との細胞生存率を比較して確認した(
図29を参照)。
【0120】
単層形態のパッチ構造で最も優れた細胞保護性能が示されたが、これは素材の体積に対する断面積が最も広く、構造が柔軟であるので、細胞膜と効率的に相互作用して凍結保護性能を示すためであると判断される。
【0121】
パッチ構造にアラニンおよびトレオニンペプチドを付着した素材の場合は、はるかに高い凍結保護性能を示すことを確認することができた。これにより、凍結保護性能を有するペプチドが細胞内及び周囲で、優れた氷結晶の形成および成長抑制性能を発揮することを確認した。96個のプローブを用いてトレオニンを付着した素材の場合は、市販の凍結保護剤であるDMSO 10%よりも優れた性能を示すことを確認することができた。
【0122】
3.4.2.長期凍結保存後解凍時の細胞生存率の確認
最も高い細胞生存率を示した、2時間インキュベートする実験条件を基本とし、24時間よりも長時間凍結保存したときの細胞生存率を確認するために、液体窒素温度で1ヶ月間凍結保存後に解凍して細胞生存率を測定した(
図30を参照)。
【0123】
その結果、24時間凍結保存した結果と同様に、Thr x5プローブが付いたDNA構造体の細胞生存率が最も高く、200ng/ulおよび300ng/ulの濃度でDMSO 10%の対照群と比較して、依然としてより高い性能を維持していることを確認した。これにより、オリガミ構造体を用いた凍結保存剤を長期凍結保存にも使用できることが分かった。
【0124】
3.5.In-situにおけるRIおよび細胞状態の確認
実施例1.1での実験方法と同様に、-6℃で30分間細胞内における素材のRI性能測定実験を行った。細胞の細胞核部分(青色染色)、細胞質部分(緑色)、細胞膜部分(赤色)をそれぞれ染色した後、蛍光顕微鏡によって温度変化による特性を観察した。対照群(PBSバッファ)の場合は、低温凍結を経た細胞の核は損傷が起こり、形状が一定でなくて、核を確認することが困難であった。細胞質の場合は、RI測定過程で細胞内の氷結晶の大きさが急激に増加し、解凍後はほとんど残っておらず、細胞損傷によって細胞質のほとんどが消えたことを確認することができた。また、細胞膜の場合は、初期に歪んだ状態を示し、破壊されることが確認できた(
図31を参照)。
【0125】
パッチ構造を10%濃度で細胞培養液と混合した実験群の場合は、低温凍結を経た細胞の核は初期と同様に維持されることを確認した。細胞質から観察した細胞内の氷結晶の大きさもまた、対照群に比べてはるかに小さいことから、素材が細胞内においても氷結晶の成長を抑制する効果があることを確認した。また、凍結後解凍した状態でも細胞質の明るさが維持されることから、細胞の損傷が非常に少ないことが確認できた。また、細胞膜の蛍光画像でも凍結及び解凍後に類似した形態を維持していることから、素材の細胞凍結保護効果を確認した。
【国際調査報告】