IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2023-529895がん治療のための無機ナノ粒子をベースとしたワクチン組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】がん治療のための無機ナノ粒子をベースとしたワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230705BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/39
A61P35/00
A61P37/04
A61K47/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575761
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(85)【翻訳文提出日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 CU2021050005
(87)【国際公開番号】W WO2021259397
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】CU-2020-0032
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500185689
【氏名又は名称】セントロ ド インムノロジア モレキュラー
(71)【出願人】
【識別番号】518390697
【氏名又は名称】ウニベルシダ デ ラ ハバナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ルイス、グスタヴォ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス マルティネス、ダヴィッド アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ボルダーリョ レオン、フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス ラミレス、ベリンダ
(72)【発明者】
【氏名】レオン モンソン、カレット
(72)【発明者】
【氏名】エチェヴェリア ルナ、イエランディー
(72)【発明者】
【氏名】ルザルド ロレンツォ、マリア デル カルメン
(72)【発明者】
【氏名】クルス ロドリゲス、マベル
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス パロモ、アディス
(72)【発明者】
【氏名】サント トマス ポムパ、フリオ フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア アルタレホ、フデイ アイメッド
(72)【発明者】
【氏名】ルイス カストロ、エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス マティージャ、リエン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA99
4C076BB11
4C076CC06
4C076DD26
4C076EE59
4C085AA03
4C085BA99
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF01
(57)【要約】
本発明は、バイオテクノロジー、特にヒトの健康分野に関する。本発明は、ナノメートル又はサブマイクロメートルのスケール次元を有する無機ナノ粒子によって構成される核に結合した、組換えヒトEGF又はそのペプチド、及びキャリアタンパク質又はペプチドを含む系を活性原理として含む、新しいワクチン組成物を提供する。これらのワクチン組成物は、がんの慢性治療での使用に適しており、注射部位での副作用を引き起こさず、体内に蓄積されないという利点を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮成長因子(EGF)に対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物であって、無機ナノ粒子によって形成された核に結合した、組換えヒトEGF(rhEGF)又はそのペプチド、及びキャリアタンパク質を含む系を活性原理として含む、上記ワクチン組成物。
【請求項2】
無機核が、カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、ベリリウム、ケイ素、又はこれらの2種以上の混合物を含む群から選択される塩、酸化物又は水酸化物により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
無機核がリン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
リン酸カルシウムがヒドロキシアパタイト(HAp)であることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
HApが非晶質型であることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
HApが低結晶性を有することを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
ヒドロキシアパタイトは、有機リガンドによって部分的にコーティングされていることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のワクチン組成物。
【請求項8】
有機リガンドがクエン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
キャリアタンパク質が、
‐コレラ毒素Bサブユニット、
‐破傷風トキソイド、
‐KLH及び
‐髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のP64k
を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
活性原理がHApナノ粒子の表面にあることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載のワクチン組成物。
【請求項11】
活性原理が以下の方法:
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドとの化学コンジュゲートと、HApナノ粒子との共有結合、
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドと、HApナノ粒子との独立した方法での共有結合、
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドと、HApナノ粒子との連続的な共有結合、
‐HApの表面でのrhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドの多重コンジュゲーション、
‐HApの表面でのrhEGFとキャリアタンパク質又はペプチドとのカプセル化又は物理的結合、
の1つによってHApナノ粒子に結合されていることを特徴とする、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
‐不完全なフロイントアジュバント、
‐スクアレンベースのアジュバント、
‐合成起源アジュバント、
‐鉱物起源アジュバント、
‐植物起源アジュバント、
‐動物起源アジュバント、
‐微粒子タンパク質アジュバント、及び
‐リポソーム
を含む群から選択される他のアジュバントと組み合わせた、請求項1~9のいずれかに記載のワクチン組成物。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のワクチン組成物の、がんの慢性的治療への使用。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載のワクチン組成物の治療有効量を投与することを含む、それを必要とする対象の治療方法。
【請求項15】
前の免疫応答誘導段階が、EGFに対する別のワクチン組成物で達成される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー、特に人間の健康分野に関するものである。特に、上皮成長因子に対する免疫応答を誘導するナノ粒子化系を含み、したがってがん治療薬として有用な新しいワクチン製剤を記載するものである。
【背景技術】
【0002】
上皮起源組織の腫瘍は、一般にその表面に上皮成長因子(EGF)の受容体を過剰に発現している。自己EGFがその受容体(EGFR)に結合することで、腫瘍を増殖させ、免疫系による防御から逃れる腫瘍のメカニズムが活性化される。この知見に基づき、1990年代以降、EGFは肺がんやその他の上皮起源がんの治療標的として同定され、EGFとその受容体の結合が関連することが分かってきた。
【0003】
EGFR‐標的抗体を用いた受動的免疫療法の評価を目的とした多くの研究が行われている。以前は、マウス起源の抗体による受容体の特異的認識が、悪性細胞の分裂促進を阻害することが示された(Sato J.D.et al.,Methods in Enzymology(1987)146:63‐81)。US5,891,996特許に公開された別の研究では、EGFRの過剰発現を有する腫瘍において診断又は治療の役割を果たすことができるキメラ及びヒト化モノクローナル抗体が記載されている。
【0004】
能動免疫療法は、がんと闘い、慢性的に管理可能な疾患に変える可能性があることから、ここ数年、その使用が急速に拡大している。受動的療法とは異なり、能動的療法は、腫瘍やその発生を促す他の要素に対して作用するように免疫系を刺激することに基づくものである。特に、必要な投与量が少量の活性物質を含むだけなので、毒性が軽減されるという利点がある。
【0005】
US5,894,018特許に言及されている製剤は、自己EGFに対する免疫応答を引き起こすワクチン組成物を特許請求している。これは、水酸化アルミニウムでアジュバントされたキャリアタンパク質(コレラ毒素Bサブユニット、破傷風トキソイド、モノクローナル抗体又は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)の外膜からのタンパク質)に結合した自己EGFを含む。一方、US8,778,879特許は、がん患者における治療的使用のためのワクチン組成物を記載しており、活性原理として、組み換えヒトEGF(rhEGF)と組み換えタンパク質P64kの化学コンジュゲートを有している。これには、化学コンジュゲートの純度と免疫原性活性を向上させる化学コンジュゲートの精製手順が記載されている。この組成物は、水酸化アルミニウム又はモンタニド(Montanide)であり得るアジュバントを含む。
【0006】
その後の臨床試験により、前述の発明に由来する治療用ワクチンは、進行期の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に対して安全かつ有効であることが実証された(Rodriguez P.C.at al.,Clinical Cancer Research(2016),22(15):3782‐3790)。しかし、高い生存率(5年以上)を達成した患者は、アジュバントが含む鉱油の蓄積の結果、注射部位の筋肉(三角筋と臀部)の損傷に苦しむことが証明された。そのため、最終的には治療を中断せざるを得なくなったり、リンパ器官からより離れた筋肉への接種が必要になったりする患者がいる。
【0007】
免疫学的アジュバントは、組換えタンパク質から開発されたワクチンの免疫原性を高める必要性から発生した。最初に使用されたアジュバントは、1926年のアルミニウムの二重硫酸塩であった。その後、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ジルコニウム、セリウム、ベリリウム、シリコンなど、さまざまな無機アジュバントが評価された。しかし、ヒトではアルミニウム塩とカルシウム塩の使用のみが承認されている(Paneque‐Quevedo A.,Applied Biotechnology(2013)30:243‐249)。これまでに行われたすべての研究において、無機アジュバントは異種抗原と組み合わせて使用された。
【0008】
水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムのアジュバントは、アルミニウムが有毒で人体での代謝が悪いため、慢性的な治療にはあまり適していない。アルミニウムの蓄積によるヒトの健康への影響は十分に立証されており、具体的には中枢神経系、筋骨格系、呼吸器系、循環器系、内分泌系、泌尿器系、生殖器系などへの影響である(Nayak P.,Environmental Research Section TO(2002),89:101‐115;Verstraeten S.A.et al.,Arch Toxicol(2008)82:789‐802;Flaten T.P.,Brain Research Bulletin(2001)2:187‐196)。
【0009】
一方、リン酸カルシウム(以下CaP)は、免疫学的アジュバントとして有用であることが実証されている無機物質である。米国特許2,967,802号では、丹毒抗原と水和CaPゲルの混合物が特許請求されている。研究及びその後の特許において、CaPに吸着されたいくつかの病原性及びアレルギー性微生物によって引き起こされる感染に対する予防ワクチンが開発された(US3,608,071,US4016252;US4350686;US20120121714;Coursaget,P.et al.,Infect Immun(1986)51(3):784‐787)。
【0010】
水酸化物やリン酸アルミニウムの場合と同様に、CaPアジュバントの免疫学的効果は、ゆっくりと放出される抗原のデポの形成に基づいており、これにより、接種した抗原に対する応答を生成するのに十分な免疫系への提示時間を延長することができる。US8,333,996特許は、以下のような抗原の吸着によって形成される免疫原性系の開発を特許請求している:百日咳菌(Bordetella pertusis)、アレルゲン、ヒト免疫不全症(HIV‐2)不活性化ウイルス、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ジフテリア、破傷風トキソイド、連鎖球菌、弱毒性細菌又はウイルス、ポリオ及びA型及びB型肝炎に対するワクチン。それらは、さらにDNA及びサイトカイン吸着、例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)なども含まれている。
【0011】
US6,355,271特許では、300~4000nmの直径を持つCaP粒子の調製方法が特許請求されており、これは塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムの水性混合物をベースとしており、HSV‐1、HSV‐2、EBVウイルス、DNA、並びにオボバルブミン、結核菌抗原を吸着させるためのものである。
【0012】
最近の研究では、CaPをワクチンアジュバントとして、あるいは様々な医薬品の放出に使用することが評価されている。その中でも、粒子状のヒドロキシアパタイト系(Ca10(PO(OH)、以下HAp)の開発、好ましくはナノ粒子の形態での開発を評価する研究が関連している。この物質は、骨組織の主な無機成分であるため、その生体適合性が保証される。さらに、非晶質又は低結晶性のHApは、生体媒体と接触することで生分解される。粒子径の縮小と選択された材料により、水酸化アルミニウムと比較して、アジュバントとして優れた特性を発揮する。それらは、よりバランスのとれたTh1/Th2応答を生じさせ、IgE型抗体の生成を少なくする(Qing,H.et al.Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology(2000)7(6):899‐903;Jones,S.et al.,Vaccine(2014)32:4234‐4242;Lin,Y.et al.Expert Review of Vaccines(2017),16(9):895‐906。また、この物質は生体適合性があり、非晶質形態では生分解性であるため、注射部位の副作用を軽減する。
【0013】
WO2005084637特許は、CaPナノ粒子の核と、核の粒子に封入された生物学的に活性な高分子と、表面修飾剤とを含む系を特許請求している。生物学的に活性な高分子は、タンパク質、ポリペプチド、多糖類、核酸、ポリヌクレオチド、脂質、又は炭水化物であり得る。
【0014】
一方、WO2003051394発明は、アジュバントとして使用するために、1つの製剤に異なるタイプのコーティングを施したナノ粒子化されたHApを示している。その中で、ナノ粒子は、粘膜の表面に適用されるネイティブ又は組換え抗原又は他の薬理学的薬剤のキャリアとして採用されている。
他の研究、一般的にCaPの、特にHApナノ粒子の免疫学的アジュバント又は活性物質キャリアとしての開発及び応用は、がんを含む感染性又は免疫系疾患の治療のために採用されると主張している(US5,443,832;US6,355,271;US6,767,550;US20020068090;US7,776,600;WO2017025359)。
【0015】
これまでの報告には、CaP粒子の表面に構築された、rhEGF分子とキャリアタンパク質との化学的結合から独立して、又は両者のコンジュゲーション(結合)によって、EGF又は他の自己タンパク質に対する特異的免疫応答を誘導するワクチン組成物は、記載されていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明の新規性は、自己抗原と化学的に連結した生分解性無機ナノ粒子を核とする、がんの慢性的治療のための新しいワクチン組成物を提供することである。ナノメートル又はサブマイクロメートルの大きさのCaP粒子、特にHApと、rhEGF又はそのペプチド、及びEGFに対する免疫応答を引き起こすことができる別のタンパク質又はキャリアペプチドとの結合により。これらの新規組成物は、EGFに対する応答を起こす既存の組成物に比べ、注射部位での副作用がなく、体内に蓄積されないという点で優れている。また、1本のバイアルに分注されるため、使用時に混合液や乳化液の調製などの追加的な手順を必要としない。
【0017】
発明の簡単な説明
一実施形態において、本発明は、EGFに対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物に関するものである。rhEGF又はそのペプチドと、塩、カルシウム酸化物又は水酸化物、鉄、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、ベリリウム、ケイ素、又はそれらの2つ以上の混合物であり得る生分解性無機ナノ粒子によって形成された核に連結したキャリアタンパク質又はペプチドとを含む系を活性原理として含むことを特徴とする。好ましくは、無機核は、CaP、より詳細にはHAp型を含む。このHApは、好ましくは非晶質又は低結晶性であり、部分的又は全体的に有機リガンド、特にクエン酸ナトリウムでコーティングされている。
【0018】
さらに、タンパク質又はペプチドキャリアは、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風トキソイド、KLH、及び髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のP64kを含む群から選択される。
【0019】
また、本発明のワクチン組成物の活性原理は、以下のいずれかの方法によって結合したHApナノ粒子の表面にある:
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドとの化学コンジュゲートと、HApナノ粒子との共有結合(HAp‐rhEGF‐rP64k)。
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドと、HApナノ粒子との独立した方法での共有結合(HAp‐PI)。
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドと、HApナノ粒子との連続的な共有結合。
‐HApの表面でのrhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドとの間の多重コンジュゲーション(HAp‐CM)。
‐HApの表面でのrhEGFとキャリアタンパク質又はペプチドとのカプセル化又は物理的吸着。
【0020】
本発明の別の態様は、本明細書に記載のワクチン組成物と、不完全フロイントアジュバント、スクアレンベースアジュバント、合成起源アジュバント、鉱物起源アジュバント、植物起源アジュバント、動物起源アジュバント、微粒子タンパク質アジュバント及びリポソームを含む群から選択されるアジュバントとの組み合わせを企図するものである。
【0021】
追加の実施形態では、本発明の目的は、がんの慢性的な治療のための本明細書に記載されたワクチン組成物の使用である。
【0022】
本発明のさらなる目的は、本明細書に記載されたワクチン組成物の治療有効量を投与することを含む、それを必要とする対象の治療方法を提供することである。この方法は、EGFに対する別のワクチン組成物で達成された免疫応答の誘導を維持するという点で特に特徴的である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、有機リガンドでコーティングされた生分解性無機ナノ粒子の合成、その化学的活性化、及び共有結合又は静電相互作用による、EGFに対する特異的免疫応答を誘導する抗原との結合と、この粒子表面への構築を含む。
【0024】
生分解性無機ナノ粒子の取得と活性化
本発明は、ナノメートル、サブマイクロメートル又はマイクロメートルのスケールサイズの生分解性無機粒子を形成することを含む。これらの粒子は、有機リガンド、好ましくはクエン酸ナトリウムでコーティングされ、沈殿によって得られるが、この方法は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0025】
生分解性粒子は、塩、酸化物又は水酸化カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、ベリリウム、ケイ素、又はそれらの2つ以上の混合物によって形成される無機核を有する。好ましくはCaP、より好ましくは非晶質HAp、又は1種以上の金属が同型置換された非晶質HApにより形成される。
【0026】
無機粒子の形成には、カルシウムイオンとリン酸イオンの供給源と、表面電荷と生体分子との化学結合を可能にする官能基をそれらに付与する有機リガンドが使用される。
【0027】
本発明に記載の免疫治療系に用いられる粒子は、以下の特性のうち少なくとも1つを有することを特徴とする:
‐それらは、金属又は他のイオンの同型置換を有することができる生分解性無機粒子によって形成される。
‐それらは、好ましくは湿式合成によって、より好ましくは沈殿によって得られるが、この方法は本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
‐それらは、マイクロメートル、サブマイクロメートル、ナノメートルサイズ、又はそれらの組み合わせを有する。
‐それらは、球状、円筒状、又は板状の形態又はそれらの組み合わせを有するが、これらの形態は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
‐それらは、好ましくは、抗原とのコンジュゲーションを可能にする表面電荷及び官能基をそれらに付与する有機リガンドでコーティングされる。
【0028】
本発明に記載の無機微粒子を得るために、好ましくは、以下のことが必要である:
‐カチオンとアニオンのモル比を1:4の間に維持すること。
‐クエン酸ナトリウム又は反応物に同様の効果を有する他の有機リガンドを、カルシウムイオン含有量に対して3:5の間のモル比を提供するのに十分な量で添加すること。
‐アルカリ、好ましくは水酸化アンモニウム又は水酸化ナトリウムの添加によって、pHを7~13に調整すること。
‐1~4時間、好ましくは室温(20±5℃)で反応を行うこと。
‐真空乾燥プロセスを室温で行うこと。
【0029】
先に述べた条件で得られた、カルボキシレート基を含む有機リガンド、好ましくはクエン酸ナトリウムで部分的又は完全にコーティングされた無機粒子は、カルボジイミド系の架橋試薬又は同様の機能を有する別のものを添加することにより活性化される。このプロセスでは、試薬/粒子の質量比は1~6、好ましくは2~5mg/mgのものが使用される。懸濁液は室温(20±5℃)で1~4時間、好ましくは0.5~3時間攪拌下に保たれる。その後、活性化された粒子は、好ましくは遠心分離又は濾過のプロセスによって精製される。
【0030】
先に述べた手順により、表面が活性化され、官能基が露出したタンパク質に結合する能力を有する、主なサイズが≦200nmの粒子が得られる。上記の特性により、活性原理のカプセル化又は物理的吸着のために無機粒子から開発された以前のものより優れたものとなる。
【0031】
抗EGF応答の誘導のためのナノ粒子系の達成
先に活性化した粒子を、組換えタンパク質rhEGF及びrP64kからの化学コンジュゲートと、rhEGF‐rP64k/HAp質量比1~10、好ましくは2~7mg/mgで、混合する。先に述べた反応により、コンジュゲートのアミン基(NH)と粒子表面のカルボキシレート基(COO)の間にアミド型の共有結合が生じる。また、HApの表面に残っているカルシウム基とrhEGF‐rP64kコンジュゲートの間には静電的な相互作用が生じ、それは負に帯電し、カルボキシル基が露出させる。次に、コロイド懸濁液は、好ましくはEDTAで分散され、最後にそのpHが6.7から7.3の間の値に調整される。
【0032】
別の実現形態では、組換えタンパク質rhEGFとrP64kの化学的コンジュゲートは、rP64k又は別のキャリアタンパク質とrhEGFの1つ又はいくつかのペプチドのコンジュゲートによって置換される。
【0033】
本発明に記載のコンジュゲートの無機粒子の表面への結合、これは先に規定した手順によって起こる。その結果、US5,894,018特許及びUS8,778,879特許に記載のワクチン製剤とは実質的に異なる組成を有する、がんの治療のための、このタイプの最初の新規な系が得られる。この系を接種すると、循環するEGFを捕捉し、腫瘍表面の受容体への結合を阻止することができる抗EGF抗体の生成を含む免疫応答が生じる。
【0034】
無機粒子への抗原の共有結合によって得られた系は安定で、非経口製剤に要求されるような長期間の保存が可能である。この特徴により、この系は、無機粒子から出発して活性原理のカプセル化又は吸着法により先に開発された免疫療法又は薬物送達系より優れている。
【0035】
抗EGF応答の誘導のための、共有結合と静電相互作用による無機粒子上のコンジュゲートのコンフォメーション
本発明は、共有結合と静電相互作用によって、抗EGF免疫応答を誘導する系の構築のための他の方法を含んでおり、次に詳述される。
【0036】
‐無機ナノ粒子へのrhEGF又はそのペプチド及びキャリアタンパク質又はそのペプチドの結合。
先に述べた方法論で得られた、予めカルボジイミド、好ましくは1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)で活性化した粒子を、rhEGFとrP64kをrhEGF/rP64kモル比3~9、好ましくは4~8で含む、pH7±0のリン酸塩緩衝液(PBS)滅菌液と混合する。また、使用するHAp/rP64k及びHAp/rhEGFの質量比は、1~6、好ましくは2~5mg/mgである。その後、懸濁液を室温で1~4時間、より好ましくは2~3時間攪拌を続ける。
【0037】
さらなる実現形態では、組換えタンパク質rP64kは、破傷風トキソイド、KLH等のキャリアタンパク質に置換される。本発明はまた、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドによるrP64kタンパク質の置換を含む。
【0038】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0039】
上記の方法により、rhEGF及びrP64kタンパク質が、互いに結合することなく、化学的及び静電的相互作用によりナノ粒子に結合した系が得られる。無機粒子は、系の免疫原性を確保する連結のための構造要素を構成している。さらに、系の形成に必要なrhEGFの量を40%まで減らし、US5,894,018発明及びUS8,778,879発明に使用されているグルタルアルデヒドの毒性に関連するリスクを軽減する。
【0040】
‐2つの反応ステップによる、rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はそのペプチドのコンジュゲーション。
先に記載した方法論で得られた、カルボジイミド、好ましくはEDCで予め活性化されたナノ粒子を、1~6、好ましくは2~5の質量比でrP64kを含むPBS、pH7±0.3の溶液と混合する。この懸濁液を室温で1~4時間、好ましくは2~3時間撹拌し続ける。その後、過剰のタンパク質rP64kを除去し、好ましくはEDCで活性化し、次に過剰のEDCを除去し、rP64k当たりrhEGFの1~10、好ましくは2~6のモル比でrhEGFと混ぜ合わせる。
【0041】
さらなる実現形態では、破傷風トキソイド、KLH又は別のキャリアタンパク質が、組換えタンパク質rP64kを置換する。本発明はまた、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドによるrP64kタンパク質の置換を含む。
【0042】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0043】
この手法では、キャリアタンパク質が生分解性無機ナノ粒子と化学的又は静電的相互作用によって結合し、さらにrhEGFと結合した系が生成される。この方法では、遊離のrhEGFやrP64kを含まない、2層の高純度タンパク質から形成されるrhEGF‐rP64kコンジュゲートが生成される。このコンジュゲートは、US5,894,018及びUS8,778,879発明のrhEGF‐rP64kコンジュゲートに比べて優れており、得られたrhEGFの40%超は生物学的な関連性のない遊離型である。また、前述の2つの発明で使用されているグルタルアルデヒドの毒性に関連するリスクを低減する。
【0044】
‐無機粒子の表面へのrhEGF又はそのペプチドと、キャリアタンパク質又はそのペプチドの多重コンジュゲーション。
先に述べた方法論で得られた、カルボジイミド、好ましくはEDCであらかじめ活性化された粒子を、rhEGF及びrP64kを含むPBS、pH7±0.3の溶液と混合する。両タンパク質は、活性化された粒子及び活性化後に溶解して残る過剰なEDCと反応し、タンパク質同士及び粒子表面と結合する。この結果を得るためには、rhEGF/rP64kのモル比が3~9、好ましくは4~8を採用する必要がある。また、使用する粒子/rP64k及び粒子/rhEGFの質量比は1~6、好ましくは2~5の間である。これらは、室温で1~4時間、より好ましくは2~3時間攪拌を継続する。
【0045】
さらなる実現形態では、破傷風トキソイド、KLH又は別のキャリアタンパク質がrP64k組換えタンパク質を置換する。本発明はまた、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドによるrP64kタンパク質の置換を含む。
【0046】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0047】
rhEGF‐rP64kコンジュゲートの複合マトリックスが生成され、これらのタンパク質は無機ナノ粒子をコーティングするリガンドと連結している。これまでの実現例と同様に、この系でも抗EGF抗体による免疫応答が生じる。また、系の形成に必要なrhEGFの量を最大40%低減し、US5,894,018及びUS8,778,879の発明で使用されたグルタルアルデヒドの毒性に関連するリスクを低減する。
【0048】
無機粒子へのカプセル化又は吸着による抗EGF応答を誘導するための系の構築
先に述べた手順で得られた化学結合系は、より安定でワクチン製剤に適しているが、抗原のカプセル化や吸着もまた有用な手順である。そのため、本発明は、無機核とrhEGF‐rP64kコンジュゲート又はrhEGFとrP64k又はそのペプチドを、粒子内部又は表面に吸着させた免疫原を合成する方法を提供するものである。
【0049】
‐rhEGFコンジュゲートとキャリアタンパク質又はそのペプチドの無機粒子へのカプセル化。
カルシウムイオンとリン酸イオンを有するソースを水溶液中で混合し、陽イオンと陰イオンの適切なモル比1.4~3.5が維持されることを確認する。rhEGF‐P64kコンジュゲートを、rhEGF‐rP64k/無機ナノ粒子の質量比が1~10、より好ましくは2~7となるように添加する。その後、水酸化アンモニウム又は水酸化ナトリウムをpH8~10になるまで添加し、室温で1~4時間撹拌下に反応を継続する。反応が終了したら、好ましくは精製水で洗浄し、濾過により分離する。この手順により、粒子の正電荷基とコンジュゲートのカルボキシレート基の間、及び粒子の負電荷基とコンジュゲートのアミン基の間の相互作用により結合したrhEGF‐rP64kコンジュゲートを内部及び表面に含むナノ粒子及びマイクロ粒子が生成される。
【0050】
さらなる実現形態では、破傷風トキソイド、KLH又は別のキャリアタンパク質が、組換えrP64kタンパク質を置換する。本発明はまた、rP64kタンパク質を、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドで置換することを含む。
【0051】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0052】
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はそのペプチドの無機粒子へのカプセル化。
この手順は、先に述べたものと同様であるが、rhEGFとrP64kが、rhEGF‐rP64kコンジュゲートの代わりに、1~10の質量比、さらに好ましくは2~7で溶解物に添加される点のみが異なる。このプロセスの間、rP64kあたり1~10のrhEGFのモル比が維持され、より好ましくはrP64kあたり2~5のrhEGFが維持される。反応が終了したら、好ましくは精製水で洗浄し、濾過により分離する。この手順により、粒子の正電荷基とコンジュゲートのカルボキシレート基との間の静電相互作用、及び粒子の負電荷基とコンジュゲートのアミン基との間の静電相互作用により結合したrhEGF‐rP64kコンジュゲートを、内部及び表面に含むナノ粒子及びマイクロ粒子を生成させる。
【0053】
別の実現形態では、破傷風トキソイド、KLH又は別のキャリアタンパク質が、組換えタンパク質rP64kを置換する。本発明はまた、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドによるrP64kタンパク質の置換を含む。
【0054】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0055】
‐無機粒子へのrhEGFコンジュゲート及びキャリアタンパク質又はそのペプチドの吸着。
クエン酸ナトリウムでコーティングされた前述の粒子を、rhEGF‐rP64kコンジュゲートを1~10の質量比で、さらに好ましくは2~7の質量比で含むPBS溶解液、pH7±0.3と混合する。それらを室温で1~4時間、より好ましくは2~3時間攪拌を保つ。この手順から得られる系は、200nmより小さい寸法のナノ粒子が主体である。rhEGF‐rP64kコンジュゲートは、ナノ粒子表面の正電荷基とコンジュゲートのカルボキシレート基との間の静電相互作用、及びクエン酸塩のカルボキシレート基とコンジュゲートのアミン基との間の静電相互作用によって結合されている。
【0056】
他の実現形態では、破傷風トキソイド、KLH又は他のキャリアタンパク質が、組換えタンパク質rP64kを置換する。本発明はまた、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドによるrP64kタンパク質の置換を含む。
【0057】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0058】
‐無機粒子へのrhEGF又はそのペプチド及び担体タンパク質又はそのペプチドの吸着。
rhEGF‐rP64kコンジュゲートの代わりに、rhEGFとrP64kを1~10質量比、より好ましくは2~7質量比で溶液に添加することのみが異なる、先の実現形態に記載したものと同様の手順を実施する。このプロセスでは、rP64kあたりrhEGFの1~10のモル比、より好ましくはrP64kあたりrhEGFの2~5を維持することが必要である。この手順により、粒子の正電荷基とタンパク質のカルボキシレート基との間の相互作用、及び粒子の負電荷基とタンパク質のアミン基との間の相互作用によって結合したrhEGF及びrP64k分子を表面に含むナノ粒子及び微粒子が生成される。
【0059】
さらなる実現形態では、破傷風トキソイド、KLH又は別のキャリアタンパク質が、組換えタンパク質rP64kを置換する。本発明はまた、天然又は合成起源の1つ又はいくつかの免疫原性ペプチドによるrP64kタンパク質の置換を含む。
【0060】
さらなる実現形態では、rhEGFは、その1つ又はいくつかのペプチドによって置換される。
【0061】
先に述べた新規な微粒子系は、生分解性無機コア上に形成される。このコアは、自己抗原、好ましくは組換えタンパク質rhEGF及びrP64kの化学コンジュゲート、又は前記タンパク質若しくはそのペプチドに個別に結合している。これらの系は、アミド型共有結合、カプセル化、又はナノ粒子表面への吸着によって維持される。それらはEDTAで分散し、pHを7±0.3に調整した後、非経口的に投与されるがん治療用ワクチン製剤の基剤となるものである。
【0062】
医薬組成物及び治療方法
本発明から得られる医薬製剤は、上皮組織起源がんの治療に有用である。例えば:扁平上皮細胞がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、肝細胞がん、胃がん、胃腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、頭頸部及び子宮がん、グリア芽腫、唾液腺がん、腎臓がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肛門がん及び陰茎がんなどである。
【0063】
これらは単独で、あるいはアジュバントと組み合わせて使用することができ、これらによって生成される抗EGF抗体応答を増強あるいは補完することができる。
【0064】
特に、rhEGF‐rP64kタンパク質に結合した生分解性無機ナノ粒子系と、不完全フロイントアジュバント、スクアレンベースアジュバント、合成、鉱物、植物又は動物起源アジュバントなどの油脂性アジュバントとの組み合わせは本発明の目的である。また、同様に、粒子状タンパク質アジュバント及びリポソーム、又は液性免疫応答若しくは細胞媒介性免疫応答を生成若しくは増強することができる他のアジュバント若しくは系、又はこれらの組合せも挙げられる。上記の系は、US8,778,879特許に記載の製剤で、又は同様の結果を提供する別の系で生成された、抗EGF抗体免疫応答の以前の誘導を効果的に維持するものである。
【0065】
先に述べた組み合わせは、それで処置すると注射部位での体内異物の蓄積を避け、それゆえ投与に伴う毒性をもたらさないため、上皮組織起源がんの慢性治療に有利である。
【0066】
本発明に含まれる抗EGF系は、薬学的に適切な賦形剤を使用する。これらの賦形剤には、注射用水、塩化ナトリウム、リン及びカリウム塩、塩化カルシウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及びEDTAが含まれるが、これらに限定されるものではない。これらは、タンパク質濃度0.5~5mg/mL、投与量20~70μL/kg又は総タンパク質20~70μg/kg又は総タンパク質5mgまで、より好ましくは30~60μg/kgの範囲で、非経口製剤として上皮組織起源がんの患者に接種することができる。投与する本発明で定義される無機成分の用量は、ヒトにおける筋肉内又は皮下経路による投与のための承認された用量範囲内であれば、2~4.5mg/kg、好ましくは3~4mg/kgの間であろう。
【0067】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに詳しく説明される。ただし、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】X線回折パターン:A)本発明で得られた非晶質HAp粒子。B)標準的なHApパターン‐JCPDS:PDF Ref.09‐0432。
図2】FTIRスペクトル:A)本発明で得られた非晶質HAp粒子。B)クエン酸ナトリウム。
図3】電子透過顕微鏡で測定した、本発明で得られた非晶質HAp粒子のサイズ。A)25000倍の倍率で記録された粒子の画像。B)500000倍の倍率で記録された粒子の画像。C)粒子のサイズ分布。
図4】本発明で得られた非晶質HApナノ粒子のサーモグラム。
図5】動的光散乱(DLS)の方法で決定した、共有結合したHAp‐rhEGF‐rP64k系のサイズ分布。
【0069】
図6】以下によるHAp‐rhEGF‐rP64k系の特性評価。A)SDS‐PAGE:1‐分子量パターン。2‐US8,778,879発明に従って生成したrhEGF‐rP64kコンジュゲートの陽性対照。3‐HAp‐rhEGF‐rP64k系。B)ウェスタンブロットプロファイル:1‐rhEGF‐rP64kコンジュゲートの陽性対照、2‐HAp‐rhEGF‐rP64k系。
図7】HAp‐rhEGF‐rP64k系を共有結合して免疫したC57BL/6マウスと対照グループ(Montanide‐rhEGF‐rP64k)の抗EGF抗体応答。
図8】HAp‐rhEGF‐rP64k系で免疫したC57BL/6マウスと対照グループ(Montanide‐rhEGF‐rP64k)の血清に含まれる抗体サブクラス(IgG2b+IgG2c)/IgG1の比率。
図9】BALB/cマウスにおけるHAp‐rhEGF‐rP64k系とMontanide‐rhEGF‐rP64k系の注射部位の効果の写真。A)Montanide‐rhEGF‐rP64k系の効果。B)HAp‐rhEGF‐rP64k系の効果。
図10】HAp‐rhEGF‐rP64k系とVSSPを組み合わせたもので、及びリポソームにカプセル化したrhEGF‐rP64kで、免疫したC57BL/6マウスにおける抗EGF抗体応答。
【0070】
図11】HAp‐rhEGF‐rP64k系とVSSPを組み合わせたもので、及びリポソームにカプセル化したrhEGF‐rP64kで、免疫したC57BL/6マウスの血清に含まれる抗体サブクラス(IgG2b+IgG2c)/IgG1の比率。
図12】以前に1回又は2回のMontanide‐rhEGF‐rP64k系の投与により免疫応答を誘導した、HAp‐rhEGF‐rP64k系の抗EGF抗体応答の維持。
図13】DLSにより測定した、粒子上に構築されたHAp‐PI系のサイズ分布。
図14】A)SDS‐PAGE:1‐分子量パターン、2‐rP64kの陽性対照、3‐rhEGFの陽性対照、4‐HAp‐PI系、及びB)ウェスタンブロットプロファイル:1‐rP64kの陽性対照、2‐HAp‐PI系、によるHAp‐PI系の特性評価。
図15】DLSで測定したHAp‐CM系のサイズ分布。
【0071】
図16】A)SDS‐PAGE:1‐分子量パターン、2‐US8,778,879発明に従って生成したrhEGF‐rP64kコンジュゲートの陽性対照、3‐HAp‐CM系、及びB)ウェスタンブロットプロファイル 1‐rhEGF‐rP64kコンジュゲートの陽性対照、2‐HAp‐CM系、によるHAp‐CM系の特性評価。
図17】HAp‐rhEGF‐rP64k、HAp‐PI及びHAp‐CM系で免疫したC57BL/6マウスにおける抗EGF抗体応答。
図18】HAp‐rhEGF‐rP64k、HAp‐PI及びHAp‐CM系及びMontanide‐rhEGF‐rP64k対照で免疫したC57BL/6マウスの血清に含まれる抗体サブクラス(IgG2b+IgG2c)/IgG1の比率。
図19】C57BL/6マウスの接種部位で抽出した筋組織と隣接する筋組織の組織切片の写真画像、10倍拡大。★は線維芽細胞性修復組織を表す。マウスには、以下のものを投与した。A‐C:Montanide‐rhEGF‐rP64k、D:HAp‐rhEGF‐rP64k、E:HAp‐CM、F:HAp‐PI。
図20】HAp‐rhEGF‐rP64k、HAp‐PI及びHAp‐CM系、及びMontanide‐rhEGF‐rP64k対照で免疫したC57BL/6マウスの注射部位の組織で見られた病変の数。
【実施例
【0072】
例1 HApナノ粒子の合成、特性評価、及び活性化
Koroleva M.,et al.,Russian Journal of inorganic chemistry(2016),61(6)674‐680)によって記載された手順の修正された変形版に従って、クエン酸ナトリウムでコーティングされた非晶質HApのナノ粒子を得た。環境条件を制御して、CaCl 0.05mol/Lとクエン酸ナトリウムをクエン酸ナトリウム/カルシウムのモル比4:1で形成した溶液を調製した(A液)。次に、NaHPO 0.06mol/Lで形成された無菌B液を、Ca/Pモル比1.67を維持しながら1mL/minの流速で添加した。その後、反応液を水酸化ナトリウムの溶解液でpH10に調整し、室温で3時間攪拌を継続した。反応が終了したら、精製水で洗浄し、10kDaのアミコンポリエーテルスルホン膜を用いて濾過分離した。得られた固体を室温で真空乾燥した。次に、純水蒸気で120℃で30分間滅菌した後、真空乾燥した。
【0073】
X線回折法により、結晶化度9.3%、結晶子サイズ16.5nmのHAp非晶質ナノ粒子が生成していることが実証された(図1)。この方法では、45kV、40mAで作動する管内の銅放射線(CuKα)が使用された。範囲は10°から90°で、9秒間隔で0.013°のステップで照射した。
【0074】
図2に、ナノ粒子(A)と対照として用いたクエン酸ナトリウム(B)のフーリエ変換赤外分光スペクトル(FTIR)を示す。ナノ粒子のスペクトルにおいて、1090,1030,962,604,561,472cm-1に観測されるバンドから、HApに対応するリン酸基の存在が確認された。また、3400cm-1には、残留水とOH基に起因する広いバンドが観測された。また、両スペクトルにおいて1610cm-1と1413cm-1にクエン酸のカルボキシル基のバンドが観測され、表面上にこのリガンドが存在することが確認された。
【0075】
電子透過顕微鏡で測定したナノ粒子は、球状の形態を示し(図3A及び3B)、平均サイズは62±13nmであった(図3C)。
サーモグラフィーでは、ナノ粒子表面のクエン酸ナトリウムの存在に関連し、200℃超の温度で6.2%の質量減少が確認された(図4)。分析温度範囲は25℃~1000℃、加熱速度は20K/分、アルゴン流量は60mL/分で行った。
【0076】
非晶質HApのナノ粒子は、制御された環境条件下で、質量比EDC/HApを2:1に維持したEDCの無菌溶解液で1時間処理された。その後、懸濁液を6708gで遠心分離し、過剰なEDCを除去した。
【0077】
例2 非晶質HApナノ粒子とrhEGF‐rP64kコンジュゲートの間の共有結合によるHAp‐rhEGF‐rP64k系の獲得
例1に記載の手順で得られ活性化された非晶質HApのナノ粒子を、制御された環境条件下で、US8,778,879発明に記載の方法論で得られたrhEGF‐rP64k化学コンジュゲートを含むPBS、pH7±0.3の無菌溶液と、rhEGF‐rP64k/HAp質量比1:2.5で混合した。形成された懸濁液を、室温で2時間、毎分140サイクルの振盪下に保った。
【0078】
得られたHAp‐rhEGF‐rP64k系をEDTAで分散し、PBSと水酸化ナトリウムの滅菌溶液でpH7±0.3、タンパク質濃度1±0.2mg/mLに調整した。
【0079】
DLSアッセイにより、平均流体力学的直径97.5nm、多分散性指数0.36のナノ粒子の存在が確認された。得られた系は、強度で測定した粒子径が9~366nmの範囲にある多分散性であった(図5)。
【0080】
先に説明した手順によって得られたナノ粒子系を、SDS‐PAGE及びウェスタンブロットによって特性評価した(図6)。電気泳動では、rhEGF‐rP64kコンジュゲートは、陽性対照のものと類似したバンドのパターン(すなわち、66kDa以上の分子量を有する優勢なバンド)を有し、これは系内のコンジュゲートの存在を示していた。ウェスタンブロットアッセイでは、遊離のrhEGF‐rP64kコンジュゲートの対照と同様のバンドが観察され、分子量200kDa超のコンジュゲートにrhEGFが存在することが示された。この分析により、ナノ粒子に結合したrhEGF‐rP64kコンジュゲートは、抗EGF抗体によって依然として認識されるという事実によって確認されるように、その構造的及び機能的完全性を維持することができることが証明された。
【0081】
例3 HAp‐rhEGF‐rP64k系は、注射部位に目に見える副作用なしに、EGFに対する液性応答を生成する。
C57BL/6(n=5)マウスを、例2に記載の系に含まれる、63μgのタンパク質で免疫化した。US8,778,879発明に記載の方法論で得られた生成物のバッチ(Montanide‐rhEGF‐rP64k)を、アッセイの陽性対照として使用した。4回の投与からなる免疫化プロトコルを適用した(日数:0、14、28、42)。
【0082】
免疫プロトコルを開始する2日前、及び35日目と56日目に、EGFに対する総IgG抗体価を、両グループのマウスでELISA法により測定した。また、56日目の免疫血清において、EGFに特異的な比率(IgG2b+IgG2c)/IgG1が測定された。統計解析は、Kruskal‐Wallisの平均値の比較検定を用いて行い、異なる文字は統計的に有意な差(p<0.05)を示した。
【0083】
HAp‐rhEGF‐rP64k系は抗EGF抗体を生成し、それは56日目に1/10000の希釈で免疫血清中に検出することができた(図7)。この結果は、rhEGF‐rP64kコンジュゲートの粒子への結合がコンジュゲートの完全性に影響を与えないこと、そしてHApがグループ間対照のものよりも著しく低いにもかかわらず抗EGF液性応答を増強させることを示している。一方、比率(IgG2b+IgG2c)/IgG1では、HAp‐rhEGF‐rP64k系と対照(Montanide‐rhEGF‐rP64k)で得られた応答に統計的に有意差はなかった(図8)。どちらの系でも、優勢な応答は液性タイプ(Th2)であり、これにより上皮組織起源がんの治療の一環として、EGFの枯渇に非常に適した系となっている。
【0084】
注入部位におけるHAp‐rhEGF‐rP64k系の効果を決定した。この目的のために、5匹のBALB/cマウスを例2に記載の抗EGF系(HaP‐rhEGF‐rP64k)で処理し、5匹をMontanide‐rhEGF‐rP64k対照で処理した。ワクチン接種プロトコルは、以前に記載したものと同様であった。実験を終了した後、2つの処理グループからのマウスの注射部位の写真画像を撮影した。図9Aに見られるように、対照グループのマウスでは、注入部位にモンタニド(Montanide)投与に起因する鉱油の蓄積が見られた。一方、例2に記載の手順に従って製造したHAp‐rhEGF‐rP64k系で処理したマウスでは(図9B)、注射部位に損傷は見られなかった。これらの結果から、本発明で開発した新規な系は、注射部位の損傷を大幅に軽減することができ、慢性投与、特に数年にわたる定期的な接種を必要とするがんの治療に大きな可能性を示すことがわかった。
【0085】
例4 HAp‐rhEGF‐rP64k系と粒子状アジュバントとの組み合わせにより、抗EGFIgG抗体応答を生じさせ、Th1型応答パターンを誘導する。
5匹ずつ3グループに分けたC57BL/6マウスを使用した。動物は以下の方法で免疫された。
【0086】
グループ1:US8,778,879に記載のワクチン組成物のタンパク質63μg(Montanide‐rhEGF‐rhP64k)(陽性対照)。
グループ2:HAp‐rhEGF‐rP64k系のタンパク質63μgとナノ粒子アジュバントVSSPのタンパク質100μg。
グループ3:脱水‐再水和の方法論によって得られたリポソーム小胞(DRV)中にカプセル化された、HAp‐rhEGF‐rP64k系のタンパク質31.5μg及びrhEGF‐rP64kコンジュゲート31.5μg(Kirby及びGregoriadis,Biotechnology,(1984)2:979~984)。
【0087】
免疫は0日目、14日目、28日目、42日目に行った。プロトコル開始の2日前、及び35日目、56日目に採血を行い、得られた血清中のEGFに対する総IgG抗体価をELISA法により測定した。血清中のEGFに特異的な比率(IgG2b+IgG2c)/IgG1も56日目に決定した。統計解析は、Kruskal‐Wallisの平均値の比較検定によって行い、異なる文字は統計的に有意な差(p<0.05)を示す。
【0088】
抗EGF抗体の生成は、調査した3つのグループで証明された。HAp‐rhEGF‐rP64k系とVSSP及びDRVリポソームの組み合わせは、1/10000の希釈まで免疫血清中で検出可能で、2回の抽出の間に同じだった抗体を生み出した(図10)。対照に対する組み合わせの統計的な有意差の存在が示された。
【0089】
56日目にEGFに特異的な比率(IgG2b+IgG2c)/IgG1を解析したところ、どちらのアジュバントの組み合わせも同様の応答を示し、対照と比較して両方とも統計的に優れていた(図11)。これらの結果は、HApベースの製剤と他の粒子状アジュバントとの組み合わせが、標的がん治療に最も好ましい優れたTh1応答パターンを誘導するEGFに対する特異的免疫応答を増強することを実証した。
【0090】
例5 HAp‐rhEGF‐rP64k系は、Montanide‐rhEGF‐rP64kで以前に誘導された抗EGFIgG抗体応答を維持する。
3グループのC57BL/6マウスを用い(n=5)、これを0、14、28、42、70日目に以下の免疫スケジュールで免疫した。
【0091】
グループ1。(対照)マウスを、US8,778,879特許に記載の系(Montanide‐rhEGF‐rhP64k)に含まれるタンパク質63μgで免疫した。
グループ2。マウスを、0日目にMontanide‐rhEGF‐rhP64k系に含まれる63μgのタンパク質で免疫し、残りの免疫時には同量のHAp‐rhEGF‐rhP64k系に含まれるタンパク質で免疫した。
グループ3。マウスを、0日目と14日目にMontanide‐rhEGF‐rhP64k系に含まれるタンパク質63μgで免疫し、残りの免疫時にはHAp‐rhEGF‐rP64k系に含まれるタンパク質を同じ量で免疫した。
【0092】
初回免疫の2日前に免疫前血清を抽出し、35、56、84日目に免疫血清の抽出を行い、ELISA法によりEGFに対する総IgG抗体価を定量化した。
【0093】
抗EGF抗体価は、調査した3つの時期において、35日目の1/50000希釈、56日目と84日目の1/100000希釈で、3グループ間で統計的有意差なく検出可能であった(図12)。HAp‐rhEGF‐rP64k系の接種により、Montanide‐rhEGF‐rP64k系によって誘導された抗EGF IgG抗体応答を、調査した期間中、維持することが可能であった。この結果は、抗EGF免疫応答の維持段階におけるrhEGF‐rP64kコンジュゲートのアジュバントとして、モンタニド(Montanide)の代わりにHApを用いることが可能であり、上皮起源がんの慢性治療における適性を支持するものである。
【0094】
例6 非晶質HApナノ粒子表面へのrhEGF及びrP64kタンパク質の共有結合によるHAp‐PI系の構築
例1に記載の方法論に従って得られた、クエン酸ナトリウムであらかじめコーティングされ、EDCで活性化されたHApナノ粒子を、rhEGFとrP64kをrP64kあたり6rhEGFのモル比及びタンパク質/HApの質量比1:2.5で含む無菌PBS溶液、pH7±0.3と制御環境条件の下で混合した。形成された懸濁液を、室温で2時間、毎分140サイクルの振盪下に保った。この手順により、タンパク質がHApナノ粒子に結合しているが、互いに結合していないという特徴を持つrhEGF‐HAp‐rP64k系が得られた。この系をEDTAで分散させ、pHを7±0.3に、タンパク質濃度を1±0.2mg/mLに調整した。
【0095】
図13にDLSで測定した粒子径プロファイルを示す。平均直径は111.2nmであり、多分散性指数は0.347であった。得られた系は、サイズ、多分散性及びDLSプロファイルの点で、例2で生成されたものと同様であった。以上のことから、rhEGFとrP64kが互いに結合せず、HApナノ粒子に結合している場合、rhEGF‐rP64kコンジュゲートのものと同様の分散性を有していたことが示される。
【0096】
SDS‐PAGEアッセイの結果を示す図14Aに見られるように、HAp‐PI系に対応するレーンでは、rP64kタンパク質に特徴的な66kDaの高さにメインバンドが現れ、さらにrhEGF対照(6kDa)と同様の高さに別のバンドが現れている。これらの結果から、両組換えタンパク質はHApナノ粒子に結合しており、還元しても互いに結合していないため、特徴的な分子量を維持していることが示された。
【0097】
図14Bに示すように、レーン1と2に約66kDaの高さのバンドがあり、HAp‐PI系内にrP64kタンパク質が存在すること、さらにタンパク質がHApナノ粒子に結合したときにその完全性を維持することが確認された。
【0098】
例7 rhEGFとrP64kタンパク質の多重コンジュゲーションによる非晶質HApナノ粒子表面へのHAp‐CM系の構築
例1で得られた非晶質HApナノ粒子を、HApあたりのEDCの質量比を2.7に保ちながら、滅菌EDC溶液で環境条件を制御して1時間処理した。次に、rhEGFとrP64kをrP64kあたり6rhEGFのモル比、タンパク質/HApの質量比1:2.5で含む滅菌PBS溶液(pH7±0.3)を添加した。形成された懸濁液は、室温で2時間、毎分140回の振盪下に保たれた。
【0099】
この手順の結果、互いに結合した組み換えタンパク質とナノ粒子に結合した組み換えタンパク質の両方でコーティングされたHApナノ粒子によって形成される系が得られた。この系をEDTAで分散させ、pHを7±0.3に調整した。その後、タンパク質濃度が1±0.2mg/mLになるまでPBS溶液で希釈した。
【0100】
先に述べた多重コンジュゲーションにより、DLSで測定した平均サイズが90.2nm、多分散性指数が0.337の複合体HAp‐rhEGF‐rP64k系が得られた(図15)。
【0101】
SDS‐PAGE電気泳動及びウェスタンブロットによる特性評価により、タンパク質のコンジュゲーションが確認された。抗EGF抗体を認識するrhEGF‐rP64k陽性対照と同様の生成物が得られた(図16)。
【0102】
例8 HApナノ粒子上に構築された新しい系は、抗EGF IgG抗体応答を生成し、注射部位でより少ない数の表皮病変を生成する
C57BL/6マウス5匹ずつの3つのグループを、以下の系に含まれる、63μgのタンパク質で免疫した。
【0103】
グループ1:例2に記載の方法論に従って得られたHAp‐rhEGF‐rhP64k系。
グループ2:例6に記載の方法論に従って得られたHAp‐PI系。
グループ3:例7に記載の方法論に従って得られたHAp‐CM系。
【0104】
免疫は0日目、14日目、28日目、42日目に行った。採血は、プロトコル開始の2日前、及び35日目、56日目に行った。得られた血清中のEGFに対する総IgG抗体価を、ELISA法により測定した。血清中のEGFに特異的な比率(IgG2b+IgG2c)/IgG1も56日目に決定した。統計解析は、Kruskal‐Wallisの平均値の比較検定によって行い、異なる文字は統計的に有意な差(p<0.05)を示す。
【0105】
HAp‐rhEGF‐rP64kとHAp‐CM系は、35日目と56日目に免疫血清中に1/10000希釈まで、HAp‐PI系では1/8000希釈まで検出可能な抗EGF抗体を生成した(図17)。SDS‐PAGEとウェスタンブロットで得られた結果を確認すると(例6と7)、HAp‐PI系ではrhEGFがrP64kと共有結合していないが、HApナノ粒子上に構築した系はすべて免疫原性であることが実証された。この系は、rhEGFをキャリアタンパク質に化学的に結合させることなく、抗EGF応答免疫を引き起こす系を作り出すことが可能であることを示す証拠となる。
【0106】
(IgG2b IgG2c)/IgG1の比率を解析した結果、両者の応答に統計的な有意差は見られなかった。優勢な応答は液性タイプ(Th2)であり、上皮組織起源がんの治療の一部として、EGFの枯渇に適していた(図18)。
【0107】
実験開始後120日目にC57BL/6マウスを犠牲にし、あらかじめヘマトキシリン・エオジンで染色して、解剖病理学的解析のために注射部位の組織標本を抽出した。組織切片は中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋法により処理した。対照グループ(Montanide‐rhEGF‐rP64k)の結果を示す図19A~Cから分かるように、接種部位の筋肉組織の正常な構造の喪失が見られる。Aゾーンは、炎症性浸潤と血管の拡張が見られ、隣接する筋組織との間に不連続性が見られることが特徴である。図19B及びCでは、線維芽細胞性修復組織の応答の侵入を伴う接種部位の隣接筋肉組織の縦方向(B)及び横方向(C)の繊維が観察され得る。しかし、本発明の新規系対象物を投与したマウスの結果を示す図19D~Fでは、接種部位及び隣接する筋肉組織に正常な構造が観察され得る。D:HAp‐rhEGF‐rP64k。E:HAp‐CM。F:HAp‐PI。
【0108】
先の3つのグループの各マウスにおいて、以下の病変の有無を評価した。
‐表皮の不連続性と真皮のリンパ球浸潤。
‐炎症性浸潤。
‐筋組織の浸潤。
‐上皮細胞の空胞変性。
‐血管の拡張。
【0109】
病変が見つかるたびに1点ずつ加算し、各グループのマウスに対応する値を合計してグラフにした。
【0110】
この試験により、本発明で開発した系で処理したグループは、Montanide‐rhEGF‐rP64k系を接種した対照グループで観察されたのとは逆に、非常に少ない数の病変を示したことが証明された(図20)。この結果は、例3の視覚的観察を確認するものである。
【0111】
これらの結果は、HApナノ粒子に基づく抗EGF系の低毒性と、Montanide‐rhEGF‐rP64k系に含まれる鉱油による注入部位の副作用を裏付けるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
図20
【手続補正書】
【提出日】2022-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮成長因子(EGF)に対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物であって、無機ナノ粒子によって形成された核に結合した、組換えヒトEGF(rhEGF)又はそのペプチド、及びキャリアタンパク質を含む系を活性原理として含む、上記ワクチン組成物。
【請求項2】
無機核が、カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、ベリリウム、ケイ素、又はこれらの2種以上の混合物を含む群から選択される塩、酸化物又は水酸化物により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
無機核がリン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
リン酸カルシウムがヒドロキシアパタイト(HAp)であることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
HApが非晶質型であることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
HApが低結晶性を有することを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
ヒドロキシアパタイトは、有機リガンドによって部分的にコーティングされていることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のワクチン組成物。
【請求項8】
有機リガンドがクエン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
キャリアタンパク質が、
‐コレラ毒素Bサブユニット、
‐破傷風トキソイド、
‐KLH及び
‐髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のP64k
を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
活性原理がHApナノ粒子の表面にあることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載のワクチン組成物。
【請求項11】
活性原理が以下の方法:
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドとの化学コンジュゲートと、HApナノ粒子との共有結合、
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドと、HApナノ粒子との独立した方法での共有結合、
‐rhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドと、HApナノ粒子との連続的な共有結合、
‐HApの表面でのrhEGF又はそのペプチドとキャリアタンパク質又はペプチドの多重コンジュゲーション、
‐HApの表面でのrhEGFとキャリアタンパク質又はペプチドとのカプセル化又は物理的結合、
の1つによってHApナノ粒子に結合されていることを特徴とする、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
‐不完全なフロイントアジュバント、
‐スクアレンベースのアジュバント、
‐合成起源アジュバント、
‐鉱物起源アジュバント、
‐植物起源アジュバント、
‐動物起源アジュバント、
‐微粒子タンパク質アジュバント、及び
‐リポソーム
を含む群から選択される他のアジュバントと組み合わせた、請求項1~9のいずれかに記載のワクチン組成物。
【国際調査報告】