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特表2023-529955生分解性ポリエステルを含む医療用デバイスおよび材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】生分解性ポリエステルを含む医療用デバイスおよび材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 17/00 20060101AFI20230705BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 17/14 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 17/12 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230705BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61L17/00 100
A61K38/06
A61L17/14 100
A61L17/12
A61L29/08 100
A61L31/10
A61L27/34
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/10
A61L27/54
A61L31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576534
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2021065984
(87)【国際公開番号】W WO2021250283
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2008980.1
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518176345
【氏名又は名称】アミコート エイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ステンセン、ウェンチ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンセン、ジョン、シガード
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AB06
4C081AC02
4C081AC03
4C081AC08
4C081BA16
4C081BB06
4C081CA161
4C081CA162
4C081CA171
4C081CE01
4C081EA06
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA15
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA67
4C084NA12
4C084ZB352
(57)【要約】
本発明は、式(I):AA-AA-AA-X-Yの化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤を提供する。本発明は、このような製剤の製造方法、当該製剤を含む縫合糸などの医療用デバイス、および当該デバイスの製造方法をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
AA-AA-AA-X-Y (I)
の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤であって、
前記AA(アミノ酸)部分のうち、順序を問わないが、2つは、カチオン性アミノ酸であり、1つは、14~27個の非水素原子を有する親油性R基を有するアミノ酸であり、
Xは、N原子であり、N、O、およびSから選択されるヘテロ原子が最大2個まで組み込まれていてもよい分岐または非分岐のC1~C10アルキル基またはアリール基で置換されていてもよく、
Yは、R1-R2-R3、R1-R2-R2-R3、R2-R2-R1-R3、R1-R3、およびR4からなる群から選択され、
式中、
1は、C、O、S、またはNであり、
2は、Cであり、
1およびR2のそれぞれは、C1~C4アルキル基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよく、
3は、5個または6個の非水素原子をそれぞれが含む1~3個の環状基を含む基であり、前記環状基のうちの2個以上が縮合していてもよく、前記環状基のうちの1個以上は置換されていてもよく、R3には、最大15個の非水素原子が組み込まれており、
4は、2~20個の非水素原子を有する、直鎖、分岐、または環状の脂肪族部分である、製剤。
【請求項2】
前記化合物がペプチドである、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記カチオン性アミノ酸が、アルギニンおよび/またはリシンである、請求項2の請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記親油性R基が、2個以上の縮合または連結していてもよい環状基を含む、請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記親油性R基を有するアミノ酸が、トリブチルトリプトファン(Tbt)、またはPhe(4-(2-ナフチル))、Phe(4-(1-ナフチル))、Bip(4-n-Bu)、Bip(4-Ph)、もしくはBip(4-T-Bu)から選択されるビフェニルアラニン誘導体から選択される、請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
前記化合物が、式(II)
AA1-AA2-AA1-X-Y (II)
の化合物であって、
式中、
AA1は、カチオン性アミノ酸であり、
AA2は、14~27個の非水素原子を有する親油性R基を有するアミノ酸であり、
XおよびYは、請求項1に定義された通りである、請求項1から請求項5のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
前記化合物が、下記の構造式を有する、請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【化4】
【請求項8】
前記ポリエステルが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、およびポリカプロラクトン、ならびにこれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
前記ポリエステルの固有粘度が0.1~8dL/gである、請求項1から請求項8のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項10】
前記ポリエステルの分子量が3,000~30,000である、請求項1から請求項9のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項11】
前記ポリエステルが、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド)、またはポリカプロラクトンである、請求項1から請求項10のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項12】
放出制御製剤である、請求項1から請求項11のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
前記式(I)の化合物が、前記ポリエステルに放出可能に分散している、請求項1から請求項12のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項14】
請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤を含むか、または該製剤からなる、医療用デバイスであって、好ましくは、前記製剤をコーティングとして含む医療用デバイス。
【請求項15】
外科用固定材またはインプラントである、請求項14に記載の医療用デバイス。
【請求項16】
縫合糸である、請求項15に記載の医療用デバイス。
【請求項17】
請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤の製造方法であって、生分解性ポリエステルを式(I)の化合物との混和物中で溶融することを含む、方法。
【請求項18】
請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤の製造方法であって、式(I)の化合物と生分解性ポリエステルと前記化合物および前記ポリエステルを溶解可能な1種以上の溶媒との混合物を形成することを含む、方法。
【請求項19】
(i)式(I)の化合物を含む第1の溶液を準備することと、
(ii)生分解性ポリエステルを含む、前記第1の溶液と混和性のある第2の溶液を準備することと、
(iii)前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合することと、
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項14から請求項16のうちのいずれか一項に記載の医療用デバイスの製造方法であって、(i)請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤を準備することと、(ii)前記製剤を医療用デバイスに塗布することと、を含む、方法。
【請求項21】
前記製剤の塗布を、前記デバイスを前記製剤に浸漬するかまたは前記製剤を前記デバイスに塗装することによって行う、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記製剤を前記医療用デバイスに塗布した後、乾燥させる、請求項20または請求項21に記載の方法。
【請求項23】
療法に使用するための、請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項24】
対象における感染の治療または予防に使用するための、請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項25】
感染を治療または予防する方法であって、該方法を必要とする対象を、治療上有効な量の、請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の製剤に接触させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌製剤に関し、特に、小さなペプチドまたはペプチド様分子を配合したポリマーを含む製剤に関する。これらの製剤は、特に医療用デバイスにおいて使用される。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、整形外科用デバイス、およびその他のインプラント、ならびに縫合糸などの外科用固定材などの医療用デバイスの使用が増加している。デバイス設計や外科的手順の改善にもかかわらず、このような医療用デバイスに関連する感染は依然として大きな懸念事項となっている。従来の抗生物質治療は、実際の感染部位における抗生物質のレベルが低いことに起因して失敗することがよくある。薬剤耐性株の存在と同様に、導入されたバイオマテリアル/バイオデバイス上のバイオフィルムの存在が抗生物質治療の効力を損なう可能性がある。
【0003】
縫合糸やカテーテルなどの医療用デバイスのための抗生物質放出コーティングが知られている。しかしながら、患者が耐性菌に感染している場合があり、局所的放出という方式のために抗生物質の濃度勾配が生じ、そのことによって耐性菌の競合的淘汰のリスクが高まる。特に、トリクロサンを含浸させた縫合糸が販売されているが、この抗生物質は、過剰使用されたことにより耐性菌株が発生したことが認識されており、さらに、他の抗生物質に対する交差耐性に寄与することが知られている。そのため、保健当局から使用を制限するよう圧力がかかっている。トリクロサンでコーティングされた縫合糸は手術部位感染の発生を減らすことが研究で示されているが、クロルヘキシジンなどの他の活性剤でコーティングされた縫合糸についてはデータが限られている(Onestiら、2018年「European Review for Medical and Pharmacological Sciences」、第22巻、5729~5739頁)。
【0004】
手術後の創感染は、米国で3番目に多い院内感染である。手術部位感染は、患者に多大な不快感を与え、生命を脅かす可能性があり、入院期間を長引かせる。縫合糸やその他の手術用固定材の表面への微生物付着は、切開創感染を引き起こす原因の1つと認識されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Onestiら、2018年「European Review for Medical and Pharmacological Sciences」、第22巻、5729~5739頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、デバイス自体のコロニー形成を制限するだけでなく抗菌剤の放出を制御するように作用し得る代替の縫合糸やその他の医療用デバイスが明らかに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ある種の小さな抗菌ペプチドを生分解性ポリエステルと組み合わせて、それ自体で使用できる材料(例えば、3D印刷で作製されたデバイス)、あるいは、別の医療用デバイスのコーティングとして使用できる材料、を提供することが可能であることを見出した。
【0008】
抗菌ペプチドは、抗生物質耐性株を含む広範囲の浮遊性細菌およびバイオフィルムに対して活性であるため、新しい抗菌剤として有望な候補である。また、これらの速効性ペプチドは、タンパク質標的に作用するのではなく脂質膜の破壊を含む作用機序のため、細菌が耐性を獲得する可能性が低い。しかしながら、放出を制御できる基材にペプチドを調合することは簡単ではなく、これは、ペプチドが、一般に他の種類の薬剤に比べて溶解性が低く、通常、基材にペプチドをブレンドまたは配合するのに必要とされ得る温度で分解されるためである。
【0009】
本発明者らは、活性抗菌剤の放出を制御するために使用できる材料を調製した。すなわち、抗菌剤は、浸出可能であり、周囲環境における細菌増殖を阻害できる。抗菌剤はまた、材料内での微生物増殖、および/または、ポリマーと抗菌剤とのブレンドでコーティングされたデバイス上での微生物増殖を制御する作用も有する。
【0010】
よって、1つの態様において、本発明は、下記の式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤を提供する。
【0011】
AA-AA-AA-X-Y (I)
式中、AA(アミノ酸)部分のうち、順序を問わないが、2つは、カチオン性アミノ酸、好ましくはリシンまたはアルギニンであるが、ヒスチジン、または、pH7.0で正電荷を持つ、任意の、遺伝子にコードされていないアミノ酸もしくは修飾されたアミノ酸であってもよく、AAのうちの1つは、大きな親油性R基を有するアミノ酸であり、該R基は、14~27個の非水素原子を有し、かつ、好ましくは、2個以上、例えば2個または3個の、縮合または連結していてもよい環状基を含み、これらの環状基は、典型的には、5個または6個の非水素原子、好ましくは6個の非水素原子を含み(縮合環の場合、当然ながら、これらの非水素原子は共有されていてもよい)、
Xは、N原子であり、N、O、およびSから選択されるヘテロ原子が最大2個まで組み込まれていてもよい分岐または非分岐のC1~C10アルキル基またはアリール基、例えばメチル基、エチル基、またはフェニル基で置換されていてもよいが、好ましくは置換されておらず、
Yは、R1-R2-R3、R1-R2-R2-R3、R2-R2-R1-R3、R1-R3、およびR4からなる群から選択され、
式中、
1は、C、O、S、またはN、好ましくはCであり、
2は、Cであり、
1およびR2のそれぞれは、C1~C4アルキル基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよく、好ましくは、Yは、-R1-R2-R3(R1はCであることが好ましい)であり、この基は置換されていないことが好ましく、Yが-R1-R2-R2-R3またはR2-R2-R1-R3である場合は、R1およびR2の1つ以上が置換されていることが好ましく、
3は、5個または6個の非水素原子(好ましくはすべてがC原子であるが、N、O、またはSも含んでいてもよい)をそれぞれが含む1~3個の環状基を含む基であり、該環状基のうちの2個以上が縮合していてもよく、該環状基のうちの1個以上が置換されていてもよく、これらの置換は、通常は含まないが極性基を含んでいてもよく、好適な置換基としては、ハロゲン、好ましくは臭素またはフッ素、およびC1~C4アルキル基が挙げられ、R3には、最大15個、好ましくは5~12個の非水素原子が組み込まれ、最も好ましくはR3はフェニル基であり、
4は、2~20個の非水素原子を有する脂肪族部分であり、好ましくはこれらの非水素原子は炭素原子であるが、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子が組み込まれていてもよく、好ましくは、R4は、3~10個、最も好ましくは3~6個の非水素原子を含み、上記脂肪族部分は、直鎖、分岐、または環状であってもよい。R4基が環状基を含む場合、これはXの窒素原子に直接結合していることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486に対し、化合物2を用いて1日局所投与を行った効果を示すグラフである。コロニー形成単位(CFU)数をY軸に示し、マウスに適用した局所投与の種類をX軸に示す。化合物2は、本明細書中、AMC-109ともいう。
図2図2は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に対し、化合物2を用いて1日局所投与を行った効果を示すグラフである。コロニー形成単位(CFU)数をY軸に示し、マウスに適用した局所投与の種類をX軸に示す。化合物2は、本明細書中、AMC-109ともいう。
図3図3は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486に対し、1日局所投与を行った効果を示すグラフである。午前9時、正午12時、および午後3時に、各マウスへの投与を行った。午後6時に、皮膚生検体を採取した。中央値を示す。
図4図4は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿連連鎖球菌CS301に対し、1日局所投与を行った効果を示すグラフである。午前7時、午前10時、および午後1時に、各マウスへの投与を行った。午後4時に、皮膚生検体を採取した。中央値を示す。
図5図5は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486に対し、1日局所投与を行った効果を示すグラフである。午前9時、正午12時、および午後3時に、各マウスへの投与を行った。午後6時に、皮膚生検体を採取した。中央値を示す。
図6図6は、コーティングされた縫合糸の抽出によって放出されたAMC-109の量の定量分析を示すグラフである。1つ目のデータセットはTest-01バッチから得られたものであり、それ以降の3つのデータセットはTest-02バッチにおける3種類の縫合糸である。
図7図7は、初回使用時の黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する増殖阻害アッセイの結果を示す写真である。
図8図8は、AMCコーティングされた縫合糸が液体培地中の細菌増殖に与える影響を、当該縫合糸への曝露後の増殖培地中のCFUによって測定したものを示すグラフである。
図9図9は、実施例9で説明する発育阻止帯を示す写真である。
図10図10は、接種したTSBに種々の縫合糸を投入したウェルの写真である。番号を付けたウェルは下記の通りである。
【0013】
1:黄色ブドウ球菌、AMC-109でコーティングされたEthibond(エチボンド)
2:黄色ブドウ球菌、コーティングされていないEthibond
3:黄色ブドウ球菌、増殖対照
4:表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、AMC-109でコーティングされたEthibond
5:表皮ブドウ球菌、コーティングされていないEthibond
6:表皮ブドウ球菌、増殖対照
図11図11は、生体吸収性ポリエステルRG502およびL206Sを含有するAMC-109の漏出量(総量に対する割合)を時間(分)に対して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい化合物には、直鎖または分岐のR4基、特に、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基およびそれらの異性体、ヘキシル基およびそれらの異性体などを含む直鎖または分岐のアルキル基が組み込まれており、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、およびイソブチル基が特に好ましい。
【0015】
いくつかの実施形態では、R4は、6~16個の非水素原子を有する脂肪族部分(好ましくはアルキル基)であり、好ましくはこれらの非水素原子は炭素原子であるが、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子が組み込まれていてもよく、上記脂肪族部分は、直鎖、分岐、または環状であってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、R4は、イソプロピル基である。
【0017】
環状基を含むR4基のうちで好ましいのは、R4がシクロヘキシル基またはシクロペンチル基である分子である。
【0018】
カチオン性アミノ酸を提供することができる、好適な、遺伝子にコードされていないアミノ酸および修飾されたアミノ酸としては、ホモリシン、オルニチン、ジアミノ酪酸、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸、およびホモアルギニンなどの、リシン、アルギニン、およびヒスチジンの類縁体、ならびに、トリメチルリシンおよびトリメチルオルニチン、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、4-アミノ-1-カルバミミドイルピペリジン-4-カルボン酸、および4-グアニジノフェニルアラニンが挙げられる。
【0019】
上記AAの大きな親油性R基は、O、N、またはSなどのヘテロ原子を含んでいてもよく、典型的にはヘテロ原子は1個以下であり、好ましくは窒素である。このR基は、2個以下の極性基を有することが好ましく、より好ましくは0または1個の極性基を有し、最も好ましくは極性基を有さない。
【0020】
好ましくはペプチドである上記化合物は、下記の式(II)の化合物であることが好ましい。
【0021】
AA1-AA2-AA1-X-Y (II)
式中、
AA1は、カチオン性アミノ酸、好ましくはリシンまたはアルギニンであるが、ヒスチジン、または、pH7.0で正電荷を持つ、任意の、遺伝子にコードされていないアミノ酸もしくは修飾されたアミノ酸であってもよく、
AA2は、大きな親油性R基を有するアミノ酸であり、該R基は、14~27個の非水素原子を有し、好ましくは、2個以上、例えば2個または3個の、縮合または連結していてもよい環状基を含み、これらの環状基は、典型的に、5個または6個の非水素原子、好ましくは6個の非水素原子を含み、
XおよびYは、上記で定義した通りである。
【0022】
さらに好ましい化合物は、下記の式(III)および(IV)の化合物が挙げられる。
【0023】
AA2-AA1-AA1-X-Y (III)
AA1-AA1-AA2-X-Y (IV)
式中、AA1、AA2、X、およびYは、上記で定義した通りである。式(II)の分子がより好ましい。
【0024】
上記化合物の中で、ある特定の化合物が特に好ましい。特に、本明細書において便宜上AA2と呼ぶ、大きな親油性R基を有するアミノ酸が、トリブチルトリプトファン(Tbt)、または、Phe(4-(2-ナフチル))[本明細書中、Bip(4-(2-ナフチル)ともいう]、Phe(4-(1-ナフチル))[本明細書中、Bip(4-(1-ナフチル)ともいう]、Bip(4-n-Bu)、Bip(4-Ph)、もしくはBip(4-T-Bu)などのビフェニルアラニン誘導体である化合物が好ましく、Phe(4-(2-ナフチル))とTbtである化合物が最も好ましい。いくつかの好ましい実施形態では、大きな親油性R基を有するアミノ酸は、トリブチルトリプトファン(Tbt)である。
【0025】
別の好ましい化合物群は、Yが上記で定義した-R1-R2-R3である化合物であって、好ましくはR1およびR2が非置換、最も好ましくはR1およびR2の両方が炭素原子である化合物である。
【0026】
さらに好ましい化合物群は、-X-Yが一緒になって-NHCH2CH2Ph基である化合物である。
【0027】
上記化合物は、すべてのエナンチオマー形態、すなわち、D-アミノ酸およびL-アミノ酸の両方、ならびに、アミノ酸R基およびC末端キャッピング基「-X-Y」内のキラル中心に起因するエナンチオマーを含む。「アミノ酸」という用語にはαアミノ酸だけでなくβアミノ酸およびγアミノ酸も含まれ、すべてAA単位と考えられるN-置換グリシン類も同様である。本発明の分子は、ベータペプチドおよびデプシペプチドを含む。
【0028】
最も好ましい化合物は、以下のものである。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
-Buは、第3級ブチル基を表す。アミノ酸2,5,7-トリス-tert-ブチル-L-トリプトファンを組み込んだこの2つ目の化合物は、本発明で使用される最も好ましい化合物である(本明細書中、AMC-109ともいう)。Argの代わりに他のカチオン性残基、特にLysを組み込んだ、この化合物の類縁体も非常に好ましい。上記で定義したような代替のC末端キャッピング基を組み込んだ類縁体も非常に好ましい。
【0032】
さらに好ましい化合物群は、-X-Yが一緒になって、-NHCH(CH32、-NH(CH25CH3、-NH(CH23CH3、-NH(CH22CH3、-NHCH2CH(CH32、-NHシクロヘキシル、および-NHシクロペンチルからなる群から選択される化合物であり、特に好ましいのは、-X-Yが、-NHCH(CH32基または-NH(CH25CH3基である化合物である。特に好ましい化合物群は、-X-Yが一緒になってNHCH(CH32である化合物である。
【0033】
好ましい化合物は、AA1がアルギニンであり、AA2がトリブチルトリプトファンであり、-X-Yが一緒になってNHCH(CH32である化合物である。
【0034】
本発明で使用される化合物はペプチドであることが好ましい。
【0035】
上記式(I)~(IV)の化合物は、ペプチド模倣体であってもよく、本明細書中に記載および定義されるペプチドのペプチド模倣体もまた、本発明に従って使用される化合物を表す。ペプチド模倣体とは、典型的には、そのペプチド等価体の極性、三次元的な大きさ、および機能性(生物活性)を保持しているが、ペプチド結合が、しばしばより安定した結合に、置き換えられていることを特徴とするものである。「安定した」とは、加水分解酵素による酵素分解に対して、より抵抗性があるという意味である。一般に、アミド結合に置き換わる結合(アミド結合サロゲート)は、当該アミド結合の多くの特性、例えばコンフォメーション、立体容積、静電特性、水素結合の可能性などを維持している。「Drug Design and Development」、Krogsgaard、Larsen、Liljefors、およびMadsen(編)、1996年、Horwood Acad. Pub発行の第14章に、ペプチド模倣体の設計と合成のための技術の一般的な議論が提示されている。本件の場合は、分子が酵素の特定の活性部位ではなく膜と反応しているため、親和性および効力または基質機能(substrate function)を正確に模倣することに関して記載された問題のいくつかは関係なく、所与のペプチド構造または必要とされる官能基のモチーフに基づいてペプチド模倣体を容易に調製することができる。好適なアミド結合サロゲートとしては、以下の基が挙げられる:N-アルキル化(Schmidt,R.ら、「Int. J. Peptide Protein Res.」、1995年、第46巻、47頁)、レトロインバースアミド(Chorev,MおよびGoodman,M.、「Acc. Chem. Res.」、1993年、第26巻、266頁)、チオアミド(Sherman D.B.およびSpatola,A.F.、「J. Am. Chem. Soc.」、1990年、第112巻、433頁)、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン(Hoffman,R.V.およびKim,H.O.、「J. Org. Chem.」、1995年、第60巻、5107頁)、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル(Allmendinger,T.ら、「Tetrahydron Lett.」、1990年、第31巻、7297頁)、ビニル、メチレンアミノ(Sasaki,YおよびAbe,J.、「Chem. Pharm. Bull.」、1997年、第45巻、13頁)、メチレンチオ(Spatola,A.F.、「Methods Neurosci.」、1993年、第13号、19頁)、アルカン(Lavielle,S.ら、「Int. J. Peptide Protein Res.」、1993年、第42号、270頁)、およびスルホンアミド(Luisi,G.ら、「Tetrahedron Lett.」、1993年、第34巻、2391頁)。
【0036】
本発明のペプチド模倣化合物は、典型的には、大きさおよび機能がアミノ酸(AA単位)とほぼ同等の3つの同定可能なサブユニットを有する。したがって、「アミノ酸」という用語は、本明細書において、あるペプチド模倣化合物の同等のサブユニットをいうために便宜的に用いられる場合がある。また、ペプチド模倣体は、アミノ酸のR基と同等の基を有していてもよく、好適なR基とN末端修飾基およびC末端修飾基とについての本明細書中の記述は、ペプチド模倣化合物にも準用される。
【0037】
上記で参照した教科書に述べられているように、ペプチド模倣体は、アミド結合の置き換えだけでなく、より大きな構造部分がジペプチド模倣構造またはトリペプチド模倣構造に置き換えられることを含む場合があり、この場合、アゾール由来の模倣体などの、ペプチド結合を含む模倣部分が、ジペプチドへと置き換わるものとして用いられ得る。しかしながら、上述のようにアミド結合が置き換えられたペプチド模倣体ひいてはペプチド模倣体骨格が好ましい。
【0038】
好適なペプチド模倣体としては、アミド結合を還元剤、例えば、ボランまたは水素化リチウムアルミニウムなどの水素化物試薬で処理することによってメチレンアミンに還元した還元ペプチドが挙げられる。このような還元は、分子の全体のカチオン性を高めるという追加の利点を有する。
【0039】
他のペプチド模倣体としては、例えば、アミド官能化ポリグリシンの段階的合成によって形成されたペプトイドが挙げられる。いくつかのペプチド模倣体骨格は、パーメチル化されたペプチドなどの、それらのペプチド前駆体から容易に得ることができ、好適な方法が、Ostresh,J.M.らにより、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」(1994年)、第91巻、11138-11142頁に記載されている。強塩基性条件は、O-メチル化よりもN-メチル化に有利であり、ペプチド結合内の窒素原子の一部または全部とN末端窒素とがメチル化されることになる。
【0040】
好ましいペプチド模倣体骨格としては、ポリエステル類、ポリアミン類、およびそれらの誘導体、ならびに置換アルカン類および置換アルケン類が挙げられる。ペプチド模倣体は、本明細書で述べるように修飾されていてもよいN末端およびC末端を有することが好ましい。
【0041】
本発明に従って使用される化合物(例えば、ペプチド)は、抗菌活性(典型的には、抗細菌活性)を示し、特に、膜に直接影響を与えるメカニズムによって細胞傷害効果を発揮するものであり、膜作用性抗菌剤と呼ぶことができる。これらの化合物は、溶菌性を有しており、細胞膜を不安定化し、あるいは穿孔さえする。このことは、標的細胞のタンパク質成分、例えば細胞表面受容体に作用または相互作用する薬剤に比べて、明瞭な治療上の優位性をもたらす。突然変異によって標的タンパク質が新しい形態となり、抗生物質耐性を獲得することはあるが、脂質膜の急激な変化が起こって細胞傷害効果を防ぐようになる可能性は、はるかに低い。溶菌効果は、非常に急速な細胞死を引き起こすため、細菌をそれらが増殖する機会を得る前に死滅させるという利点を有する。その上、上記分子は、標的微生物を死滅または損傷させる他の有用な特性、例えばタンパク質合成阻害能力を有していることもあり、したがって、多標的活性を有し得る。
【0042】
本発明において使用する化合物は、任意の好都合な方法で合成することができる。一般に、存在する反応性基(例えば、アミノ基、チオール基、および/またはカルボキシル基)は、合成期間の全体にわたって保護される。したがって、合成の最終工程は、保護された本発明の誘導体の脱保護である。
【0043】
ペプチドを構築する際は、原則的にC末端またはN末端のどちらからでも開始することができるが、C末端から開始する手順の方が好ましい。
【0044】
ペプチド合成の方法は当該技術分野においてよく知られているが、本発明では、固相支持体上で合成を行うことが特に好都合であり得、そのような支持体は当該技術分野においてよく知られている。
【0045】
アミノ酸の保護基は幅広い選択肢が知られており、好適なアミン保護基としては、カルボベンゾキシ(Zとも表す)、t-ブトキシカルボニル(Bocとも表す)、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtr)、および9-フルオレニルメトキシ-カルボニル(Fmocとも表す)を挙げることができる。ペプチドをC末端から構築する場合、付加された新しい残基それぞれのα-アミノ基上にアミン保護基が存在することになり、次のカップリング工程の前に選択的に除去する必要があることが理解されるであろう。
【0046】
例えば採用し得るカルボキシル保護基としては、ベンジル(Bzl)基、p-ニトロベンジル(ONb)基、ペンタクロロフェニル(OPClP)基、ペンタフルオロフェニル(OPfp)基、またはt-ブチル(OtBu)基などの易切断型(readily cleaved)エステル基、および、固体支持体上のカップリング基、例えばポリスチレンに結合したメチル基が挙げられる。
【0047】
チオール保護基としては、p-メトキシベンジル(Mob)、トリチル(Trt)、およびアセトアミドメチル(Acm)が挙げられる。
【0048】
アミン保護基やカルボキシル保護基を除去するための手順はさまざまなものが存在している。しかしながら、これらは採用する合成戦略に合致したものでなければならない。側鎖保護基は、次のカップリング工程の前に一時的なα-アミノ保護基を除去するために用いられる条件に対して安定でなければならない。
【0049】
Bocなどのアミン保護基およびtBuなどのカルボキシル保護基は、例えばトリフルオロ酢酸を用いた酸処理によって同時に除去することができる。Trtなどのチオール保護基は、ヨウ素などの酸化剤を用いて選択的に除去することができる。
【0050】
配合する(「配合される」)とは、2種のポリマーを、またはあるポリマーと1種以上の添加剤とを、混合および/またはブレンドすることを言い表すために用いる用語である。これは、溶融状態でブレンドすること、または、溶液中で複数の成分を組み合わせることにより、便利に達成することができる。これらのアプローチの両方を本明細書中に説明する。得られる混合物は、理想的には均質またはほぼ均質である。疑義が生じるのを避けるために、配合するとは、ポリエステルと式(I)の化合物との間の共有結合を必要とするものではなく、むしろ、配合することにより、ポリエステルと式(I)の化合物との間に非共有結合による放出可能な会合が得られる。したがって、化合物は、放出可能にポリエステルに会合していると考えることもできる。
【0051】
したがって、式(I)の化合物は、本発明の製剤から放出(または浸出もしくは拡散)可能である。このことは、本発明の文脈においては、式(I)の化合物が抗菌活性を有することから重要であり、例えば、創傷、手術部位、または医療用デバイスの埋植部位の感染を予防または治療するために、化合物は使用時に製剤から抗菌活性を必要とする領域に放出可能であることが望ましい。
【0052】
好ましくは、使用時に、製剤から式(I)の化合物が制御放出(すなわち、持続放出)される。例えば、治療上有効な量の化合物が、少なくとも6時間、8時間、12時間、または14時間放出され得る。治療上有効な量とは、好ましくは、標的細菌に対する化合物の最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration:MIC)を超える濃度の化合物が局所環境へ送達されることになる量である。放出時間は、本発明の製剤の上に、(例えば、医療用デバイスの外層として、)活性化合物が配合されていない生分解性ポリエステルの層を塗布することによって延長することができる。
【0053】
本発明の製剤からの活性化合物の放出能力は、任意の好適な方法によって容易に測定することができ、当業者はそのような方法に精通している。好適な方法を本明細書の実施例に記載する。例えば、本発明に従って製剤でコーティングされた縫合糸を、細菌(例えば、ブドウ球菌(Staphylococcus)属の細菌)を接種した寒天プレートと接触させることができ、適切な培養時間の後、縫合糸の周囲に「発育阻止帯(zone of inhibition)」(すなわち、細菌増殖がないかまたは細菌増殖が抑制されたゾーン)がないか、プレートを検査することができる。「発育阻止帯」があれば(例えば、抗菌化合物を含まない対照縫合糸での試験と比較して)、化合物が製剤から放出可能であることを示している。
【0054】
本発明の製剤は、インビボで式(I)の化合物を放出する放出制御製剤とみなすことができる。式(I)の化合物は、ポリエステルに分散(放出可能に分散)している(あるいは、少なくとも部分的に分散している)と考えることができる。
【0055】
式(I)の化合物は、ポリエステルに、微生物コロニー形成およびバイオフィルム形成に対する耐性を付与する。そのため、コーティングおよび/またはデバイスは、有効にそれ自体を清潔に保つ。このことは、留置デバイスまたはその他の医療用デバイスがしばしば微生物の付着および増殖の場となるため、非常に有利である。
【0056】
活性化合物の放出とその抗コロニー形成効果との両方を評価するには、液体培地試験を用いることができる。本発明のポリエステルでコーティングされたデバイスを、液体細菌ブロスに浸漬する。漏出効力(放出)は、ブロス中に残存している細菌数を数えることによって測定され、抗コロニー形成効力は、細菌ブロスへの曝露後のデバイスに付着している生細菌数を数えることによって測定される。
【0057】
本発明で使用される生分解性ポリマーは、エステル基の繰り返しを含むことからポリエステル類に分類されるが、他の官能基を含んでいてもよい。典型的にはエステル基を末端に有するが、遊離カルボン酸基またはアルキルエステル基が末端基として用いられてもよい。エステル末端基やアルキルエステル基でキャッピングされたポリマーは、典型的に、遊離カルボン酸基よりも長い分解時間を示す。
【0058】
特に好適なポリマーとしては、ポリラクチド類(D体またはL体)、ポリグリコリド類、ポリジオキサノン類、およびポリカプロラクトン類が挙げられる。これらの同じモノマーを組み込んだコポリマー(ブロックコポリマーを含む)、例えば、D-ラクチドとL-ラクチドとのコポリマー(但し、L-ラクチドポリマーが好ましい)、ラクチドとグリコリドとのコポリマー、およびラクチドとカプロラクトンとのコポリマーを用いてもよい。ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)の50:50のエナンチオマー混合物が好ましい。トリメチレンカーボネートモノマーを含むコポリマーをはじめとするポリマーも好適であり得る。コポリマーにおけるモノマー比はさまざまであるが、ラクチドを含むコポリマーは、典型的に、50%以上、例えば少なくとも60%または70%のラクチドモノマーを含む。したがって、本製剤は、単一種類のポリマー、単一のコポリマー、または1種以上のポリマーおよび/もしくはコポリマーの混合物を含み得る。
【0059】
生分解性ポリマーは、典型的には合成されたものである。生分解性ポリマーの使用は生物医学分野ではよく知られている。本発明で使用される生分解性ポリマーは、非毒性でなければならず、患者に異物として認識されてはならない。生分解生成物もまた、非細胞毒性でなければならず、体内から容易に排出されるものでなければならない。
【0060】
生分解性は、使用時の、すなわち動物の体内(または、動物の体に接触した状態)での、分解速度によって判断される。生分解性ポリエステルは、生体吸収性である(すなわち、体内で分解・吸収される)と言うこともできる。分解は、ポリマーごとに大きく異なるが、典型的には1週間または2週間~4年以上である。インサイチュで、ポリエステルが、6ヶ月未満、例えば2~4ヶ月以内で完全に分解されることが好ましい。但し、他の好ましい実施形態では、ポリマーが最長4年間、またはそれ以上、存続する場合もある。当業者であれば、該当するさまざまなポリマーの分解時間を知っており、用途に応じてポリマーを選択することができる。例えば、縫合糸は、ほんの1週間または数週間だけ持続することが望まれるかもしれないが、いくつかのインプラント、例えば、整形外科用インプラントまたは心臓インプラントは、何年も体内に留まり続けるかもしれない。式(I)の化合物を配合することがポリマーの分解速度に重大な影響を与えることはない。
【0061】
ポリマーの固有粘度(dL/gで測定)も、ポリマーによって異なり、典型的には、0.1または0.2~6または8、好ましくは、0.5~2.5、より好ましくは、0.8~2.2、最も好ましくは、0.8~1.2である。
【0062】
分子量(重量平均)も、選択されたポリマーと、該当する特定の医療用途とに依存する。典型的な分子量は、3,000~30,000、例えば、5,000~25,000である。但し、場合によっては、最大で50,000、80,000、100,000、またはそれ以上の分子量を用いてもよい。好ましい分子量は、3,000~20,000であり、例えば、3,000~10,000または15,000である。
【0063】
固有粘度と分子量の両方を測定するには、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いることができる。
【0064】
好適な医療グレードの生分解性ポリエステルの供給業者としては、エボニック社(Evonik)(同社のResomer(リソマー)(登録商標)製品ライン)が挙げられる。好適なポリマーは、市販されていて容易に入手可能であり、アルコールと酸の直接縮合、開環重合、および金属触媒重合反応をはじめとするいくつかの反応によって便利に合成することができる。
【0065】
本発明の製剤の製造においては、2つの異なるアプローチを便利に採用することができる。
【0066】
第1に、ポリエステルと式(I)の化合物は、双方を一緒に溶融させることによって、ブレンドすることができる。ポリマーを先に溶融させてから式(I)の化合物を添加してもよく、溶融前に化合物を添加してもよい。化合物の添加がポリマーの融点に重大な影響を与えることはない。式(I)の化合物、特に式(I)のペプチドが生分解性ポリエステルとの配合に必要な加熱に耐えることができることは、非常に驚くべきことである。これらの分子は、予想外の熱安定性を示す。
【0067】
したがって、別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤の製造方法であって、生分解性ポリエステルを式(I)の化合物との混和物中で溶融させることを含む方法を提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。この溶融による配合法は、好ましくは、急速加熱によって行われ、例えば、5分未満、例えば約3分などの4分未満で、120~230℃(ポリエステルの融点に応じて異なる)まで加熱することによって行われる。このようにして、ペプチドが分解する前にポリマーが溶融する。式(I)の化合物は、高温(例えば、100度超)に最長で2分間または3分間曝露されるだけである(それにより混合物への熱伝達を可能にする)ことが好ましい。混合物は、ポリエステルが溶融して式(I)の化合物と混ざるとすぐに熱源から外される。この実施形態では、融点が約230℃よりも低いポリエステルが好ましい。
【0068】
あるいは、好ましくは、ポリマーと式(I)の化合物は、溶媒を用いて配合することができる。一実施形態では、第1の溶媒に生分解性ポリマーを溶解させ、第1の溶媒と混和性のある第2の溶媒に式(I)の化合物を溶解させ、その後、2つの溶液を混合する。どちらの溶媒も、有機溶媒であることが好ましく、ある程度の極性を有していることが好ましい。
【0069】
2つの溶媒は、互いに混和性があるもので、ポリマーと式(I)の化合物をそれぞれ溶解可能なものを選択しなければならない。また、これらの溶媒は、混合時にそれらの成分を溶媒和する能力を保持するものでなければならい。互いに混和性のある溶媒であっても混合すると成分の1つが沈殿する場合があるからである。ポリマーに好適な溶媒としては、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、およびテトラヒドロフラン(THF)が挙げられ、極性非プロトン性溶媒が好ましい場合がある。式(I)の化合物に好適な溶媒は、より多様であり、水、メタノール、エタノール、クロロホルム、THF、およびDMSOが挙げられる。好ましい溶媒は、ポリマーについては酢酸エチルであり、式(I)の化合物についてはアルコール、例えばエタノールである。
【0070】
あるいは、式(I)の化合物とポリマーとの両方を、混合前、混合時、または混合後に、単一の溶媒に溶解させてもよい。このアプローチに好適な溶媒は、THFおよびクロロホルムが挙げられる。式(I)の化合物を溶媒、例えばTHFと長時間、例えば、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも12時間、もしかすると1日以上、場合によっては最長で7日または14日間、組み合わせておく必要があることもある。AMC-109のような式(I)の化合物がTHFやクロロホルムに可溶であることは非常に驚くべきことである。
【0071】
したがって、別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤の製造方法であって、式(I)の化合物と生分解性ポリエステルと上記化合物および上記ポリエステルを溶解可能な1種以上の溶媒との混合物を形成することと、任意に上記混合物を乾燥させることと、を含む方法を提供する。
【0072】
好ましい実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤の製造方法であって、(i)式(I)の化合物を含む第1の溶液を準備することと、(ii)生分解性ポリエステルを含む、上記第1の溶液と混和性のある第2の溶液を準備することと、(iii)上記第1の溶液と上記第2の溶液とを混合することと、を含む方法を提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。第1および第2の溶液を作るために使用する溶媒は、同じであってもよく異なっていてもよい。好ましい溶媒は上記の通りである。
【0073】
混合後、得られた混合物を乾燥させてもよく、これは、能動的なプロセスであってもよく受動的なプロセスであってもよい。受動的な乾燥プロセスは、数日、例えば1日~6日を要する場合がある。
【0074】
ポリエステルに式(I)の化合物を配合する別の方法として、エレクトロスピニングが挙げられる。エレクトロスピニングは、ポリマー溶液から繊維を作ることができる、電気流体力学的現象に支配された周知の電圧駆動プロセスである。エレクトロスピニング法によって本発明に従って製剤を得るには、ポリエステルを含む溶液(つまり「紡糸溶液」)と式(I)の化合物とを電界紡糸して化合物を含む繊維を形成する。この溶液は、好都合には、上述したように、互いに混和性があり、かつ個々にポリマーまたは式(I)の化合物を溶解することができる、2種の溶媒を含み得る。あるいは、THFなどの単一の溶媒を用いてもよい。好適なエレクトロスピニング法は、Scaffaroら、「European Polymer Journal」、第96巻(2017年)、266~277頁に記載されている通りである。
【0075】
配合されたポリマー製剤中の式(I)の化合物の量は、重量/重量基準で、わずか2または3%~25または30%まで、典型的には4~15または20%であり得る。
【0076】
本発明の製剤は、好ましくは、コーティングとして医療用デバイスに追加される。但し、一部の医療用デバイスは本発明の製剤からなるものであってもよく、例えば3D印刷によって該製剤から作製された部分または部品を医療用デバイスが有していてもよい。したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書中で定義する本発明の製剤でコーティング(部分的コーティングを含む)された医療用デバイスである。好ましくは、デバイスの外面全体が本発明の製剤でコーティングされる。このコーティングにより、デバイスの表面(体液との接触を含む、体と接触する任意の表面)上に製剤の層が形成される。この層の厚さは、所望の機能性が発揮されるように、特に、インサイチュで所望の放出制御プロファイルが得られるように、選択される。
【0077】
本発明のなおさらなる態様においては、医療用デバイスに塗布された、本明細書中で定義する本発明の製剤が提供される。
【0078】
デバイスとしては、縫合糸、外科用固定材、カテーテル、ラインなどや、股関節インプラントや膝関節インプラントなどの整形外科用インプラントおよび歯科用インプラントをはじめとするインプラント、ピン、ステント、心調律デバイス、ならびに深部脳刺激デバイスが挙げられる。縫合糸が特に好ましい。
【0079】
コーティング対象のデバイスを、溶融状態の本発明の製剤中、または、生分解性ポリエステルおよび式(I)の化合物の両方と1種以上の溶媒とを含む混合物中に、浸漬(おそらく数回、例えば、3~10回)し、乾燥または自然乾燥させることができる。好適な溶媒および混和性混合溶媒は上記の通りである。浸漬法は、縫合糸のようなデバイスに特に適している。あるいは、本発明の製剤を、医療用デバイス、例えばインプラントに、例えばスプレー塗装によって当該デバイス表面に塗装することにより、塗布することができる。本発明の製剤を組み込んだ医療用デバイスは、3D印刷によって製造することもできる。
【0080】
本発明の製剤を塗布し得る好適な縫合糸としては、吸収性の縫合糸が挙げられ、これは編組糸であってもよい。このような縫合糸は、ナイロン製であってもよく、Ethicon(エチコン)縫合糸、Surgilon(サージロン)縫合糸、およびNurolan(ニューロロン)縫合糸が挙げられる。本発明の製剤以外のコーティングを一切含まないかまたはその量を少なくした縫合糸を使用することが好ましい場合もある。例えば、縫合糸を最初に処理してシリコーンコーティングを除去してもよい。
【0081】
吸収性(生分解性)縫合糸は、本発明に係る好ましい医療用デバイスであり、次のように形成することができる。それらは、好都合には、乳酸(エナンチオマー形態の両方(単独または組み合わせ))、グリコール酸、カプロラクトン、およびジオキサノンを含む群から選択されるモノマー由来のポリエステルから作製される。縫合糸の特性を調整するには、これらのモノマーの2種(以上)を共重合するか、または、場合により、異なるホモポリマーの短鎖をブロック重合することが一般的である。吸収性縫合糸において最もよく使われるポリマーは、L-乳酸とグリコール酸のコポリマーであるPLGAであり、好ましくは、約90%のグリコール酸と約10%のL-乳酸とからなるものである。Polyglactin 910(ポリグラクチン910)は、このようなコポリマーの一つであり、引張強度が高く、吸収性縫合糸におけるフィラメントとして好都合に用いられている。コーティングは、好ましくは、モル比65/35のラクチド-グリコリドコポリマー(例えば、Polyglactin 370(ポリグラクチン370))をフィラメント質量の2~10%の量で塗布したものである。取り扱い性のために、等量のステアリン酸カルシウムを添加してもよい(すなわち、コーティングポリマーと等量である)。式(I)の化合物は、上記コーティング中、または上記コーティングに塗布されるさらなるコーティング中に配合されるのが好ましいが、フィラメント中に配合されてもよい。
【0082】
本発明の縫合糸は、式(I)の化合物を、縫合糸の長さ1m当たり0.5~10mg、好ましくは、1~5mg/m、例えば、1~3mg/m含み得る。
【0083】
別の態様において、本発明は、本発明の医療用デバイスの製造方法であって、(i)式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤を準備することと、(ii)上記製剤を医療用デバイスに塗布する(例えば、デバイスを上記製剤中に浸漬するか、または上記製剤をデバイス上、もしくは縫合糸のフィラメント部分のようなデバイスのコア上に塗装、例えばスプレー塗装することによって)ことと、を含む方法を提供する。製剤を医療用デバイスに塗布した後、能動的に乾燥(例えば、適度に加熱するかまたは気流を当てることにより)させてもよく、自然乾燥させてもよい。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。製剤を含有する溶媒を塗布すると、乾燥時に溶媒が蒸発し、上記医療用デバイス上に、本発明の製剤を含むかまたは本発明の製剤からなるコーティング(もしくは層)が残る。
【0084】
類似の方法として、本発明は、本発明の医療用デバイスの製造方法であって、(i)式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤を準備することと、(ii)上記製剤をバッキングシートまたは他の担体に塗布することと、を含む方法を提供する。このようにして、本発明の製剤からなる、または本質的に本発明の製剤からなる、医療用デバイスを作製し、例えばフィルム、膜、シート、または接着剤を形成することができる。
【0085】
さらなる態様は、本発明の方法によって製造された、式(I)の化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤、または、そのような製剤が塗布された医療用デバイスを提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0086】
本発明のさらなる態様は、療法(therapy)に使用するための本発明の製剤およびデバイスを提供する。
【0087】
「療法」には治療と予防が含まれる。すなわち、治療のための使用と予防のための使用の両方が含まれる。
【0088】
いくつかの実施形態では、本発明は、対象における感染の治療または予防に使用するための、本発明の製剤または医療用デバイスを提供する。いくつかの好ましい実施形態では、上記感染または潜在的感染は、手術部位感染または創傷感染であり、例えば、縫合または他の外科用固定材による閉鎖が必要な創部または他の部位である。他の好ましい実施形態では、上記感染または潜在的感染は、インプラント(上術のような)に関連するものであり、デバイス上またはデバイス周囲のバイオフィルム形成を含む。
【0089】
好ましくは、上記感染は、細菌感染、例えばグラム陽性菌(例えば、ブドウ球菌属または連鎖球菌(Streptococcus)属の細菌)による感染である。いくつかの実施形態では、上記感染は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による感染である。いくつかの実施形態では、上記感染は、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)による感染である。
【0090】
本発明の製剤、デバイス、使用、および方法は、好ましくは、広範囲の細菌、特にグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して有効であり(活性化合物の放出による周辺環境における細菌増殖の完全阻害もしくは部分的阻害、および/または、完全なもしくは部分的な抗コロニー形成効果)、例えば、黄色ブドウ球菌、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、およびエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)のすべてに対して有効である。
【0091】
本発明のさらなる態様は、対象における細菌増殖の阻害に使用するための本発明の製剤または医療用デバイスを提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0092】
本発明のさらなる態様は、療法に使用するため、好ましくは、対象における感染の治療または予防に使用するための、本発明の製剤または医療用デバイスを提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0093】
別の観点では、本発明は、感染を治療または予防する方法であって、該方法を必要としている対象に対して、本発明の製剤または医療用デバイスを適用(または投与)することを含む方法を提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0094】
別の観点では、本発明は、感染を治療または予防する方法であって、該方法を必要としている対象に対して、治療上有効な量の本発明の製剤または医療用デバイスを適用(または投与)することを含む方法を提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0095】
治療上有効な量は、臨床的評価と、選択された式(I)の化合物の標的細菌に対するMIC値とに基づいて決定される。
【0096】
本発明のさらなる態様は、療法に使用するため、好ましくは、対象における感染の治療または予防に使用するための式(I)の化合物であって、該化合物を配合した生分解性ポリエステルを含む製剤として、あるいは、そのような製剤が塗布された医療用デバイスの形態で、対象に投与(または適用)される化合物を提供する。本明細書中に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0097】
本明細書で用いられる「対象」または「患者」という用語は、任意の哺乳類、例えばヒト、および任意の畜産動物(livestock animal)、家畜動物(domestic animal)、または実験動物を含む。具体例としては、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、ウシ、サルなどが挙げられる。しかしながら、好ましくは、対象または患者は、ヒトである。したがって、本発明に従って治療される対象または患者は、好ましくはヒトである。
【0098】
いくつかの実施形態では、対象または患者は、感染を有するもの、または感染の疑いがあるもの、または感染を有する(もしくは感染に罹患する)リスクがあるものである。リスクのある患者が好ましい患者群であり、医療用インプラントを必要とする患者、または、手術を受ける必要がある患者、または、手術創もしくはその他の創傷を閉鎖する必要がある患者が挙げられる。これらの患者のために、本発明に係る医療用デバイス、例えば、本発明の製剤を組み込んだ縫合糸、その他の固定材、または整形外科用インプラントを選択することが可能である。このようなデバイスは、式(I)の抗菌化合物を放出してデバイス周囲の患者の体に感染のない局所環境の形成を促進し、また、デバイス上/デバイス内に式(I)の化合物が存在することによって、細菌によるデバイス自体のコロニー形成が抑制される。
【0099】
本発明はまた、本発明の医療用デバイスの1つ以上を含むキットも提供する。好ましくは、上記キットは、本明細書中に記載の治療的な方法および用途に使用するためのものである。好ましくは、上記キットは、キット構成要素の使用説明書を含む。好ましくは、上記キットは、例えば本明細書中の他の箇所に記載するように、感染を治療または予防するためのものであり、任意に、そのような感染の治療にキットの構成要素を使用するための使用説明書を含む。
【0100】
本願全体において用いられる「a」および「an」という用語は、その後で上限が具体的に記載されている場合を除き、言及された構成要素または工程の「少なくとも1つ」、「少なくとも第1の」、「1つ以上」、または「複数」を意味するという意味で用いられている。
【0101】
また、本明細書において「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「有する(has)」、もしくは「有する(having)」という用語、または他の同等の用語が用いられる場合、いくつかのより具体的な実施形態においては、これらの用語は、「~からなる(consists of)」もしくは「本質的に~からなる(consists essentially of)」という用語、または他の同等の用語を含んでいる。
【0102】
次に、以下の非限定的な実施例および図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【0103】
図1は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486に対し、化合物2を用いて1日局所投与を行った効果を示すグラフである。コロニー形成単位(CFU)数をY軸に示し、マウスに適用した局所投与の種類をX軸に示す。化合物2は、本明細書中、AMC-109ともいう。
【0104】
図2は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に対し、化合物2を用いて1日局所投与を行った効果を示すグラフである。コロニー形成単位(CFU)数をY軸に示し、マウスに適用した局所投与の種類をX軸に示す。化合物2は、本明細書中、AMC-109ともいう。
【0105】
図3は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486に対し、1日局所投与を行った効果を示すグラフである。午前9時、正午12時、および午後3時に、各マウスへの投与を行った。午後6時に、皮膚生検体を採取した。中央値を示す。
【0106】
図4は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿連連鎖球菌CS301に対し、1日局所投与を行った効果を示すグラフである。午前7時、午前10時、および午後1時に、各マウスへの投与を行った。午後4時に、皮膚生検体を採取した。中央値を示す。
【0107】
図5は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486に対し、1日局所投与を行った効果を示すグラフである。午前9時、正午12時、および午後3時に、各マウスへの投与を行った。午後6時に、皮膚生検体を採取した。中央値を示す。
【0108】
図6は、コーティングされた縫合糸の抽出によって放出されたAMC-109の量の定量分析を示すグラフである。1つ目のデータセットはTest-01バッチから得られたものであり、それ以降の3つのデータセットはTest-02バッチにおける3種類の縫合糸である。
【0109】
図7は、初回使用時の黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する増殖阻害アッセイの結果を示す写真である。
【0110】
図8は、AMCコーティングされた縫合糸が液体培地中の細菌増殖に与える影響を、当該縫合糸への曝露後の増殖培地中のCFUによって測定したものを示すグラフである。
【0111】
図9は、実施例9で説明する発育阻止帯を示す写真である。
【0112】
図10は、接種したTSBに種々の縫合糸を投入したウェルの写真である。番号を付けたウェルは下記の通りである。
【0113】
1:黄色ブドウ球菌、AMC-109でコーティングされたEthibond(エチボンド)
2:黄色ブドウ球菌、コーティングされていないEthibond
3:黄色ブドウ球菌、増殖対照
4:表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、AMC-109でコーティングされたEthibond
5:表皮ブドウ球菌、コーティングされていないEthibond
6:表皮ブドウ球菌、増殖対照
図11は、生体吸収性ポリエステルRG502およびL206Sを含有するAMC-109の漏出量(総量に対する割合)を時間(分)に対して示すグラフである。
【0114】
<実施例1>
<ペプチド合成>
[化学薬品]
保護アミノ酸である、Boc-Trp-OH、Boc-Arg-OH、Boc-4-フェニル-Phe、およびAc-Arg-OHは、バッケム社(Bachem AG)から購入し、Boc-4-ヨードフェニルアラニン、Boc-3,3-ジフェニルアラニン、およびBoc-(9-アントリル)アラニンは、アルドリッチ社(Aldrich)から購入した。ペプチドのC末端を形成する、ベンジルアミン、2-フェニルエチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、(R)-2-フェニルプロピルアミン、(S)-2-フェニルプロピルアミン、N,N-メチルベンジルアミン、N,N-エチルベンジルアミン、およびN,N-ジベンジルアミンは、N-エチルベンジルアミンをアクロス社(Acros)から購入した以外は、フルカ社(Fluka)から購入した。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-HOBt)、クロロトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyCloP)、およびO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)は、フルカ社から購入した。4-n-ブチルフェニルボロン酸、4-t-ブチルフェニルボロン酸、4-ビフェニルボロン酸、2-ナフチルボロン酸、トリオルソ-トリホスフィン、ベンジルブロミド、および酢酸パラジウムは、アルドリッチ社から購入した。溶媒は、メルク社(Merck)、リーデル・デ・ハーン社(Riedel-de Haen)、またはアルドリッチ社から購入した。
【0115】
[アミノ酸の調製]
Boc-2,5,7-トリ-tert-ブチルトリプトファン-OHの調製:トリフルオロ酢酸(19mL)中のH2N-Trp-OH(1.8g、8.8mmol)とt-BuOH(4.7g、63.4mmol)の混合物を、70℃で3時間撹拌する。得られた中褐色半透明溶液の体積をロータリーエバポレータで室温で30分間減少させた後、60mLの7%(重量基準)NaHCO3を滴下することによって粉砕する。次いで、得られた灰色/白色の粒状固体を、真空ろ過により回収し、室温で24時間真空乾燥する。生成物を、水にエタノール40%を混合した近沸点混合物からの結晶化により単離する。体積は、典型的には、粗生成物1グラム当たり約20mLである。
【0116】
粗生成物からの最初の結晶化により、試料中の他のすべての物質に対して80~83%の純度(HPLC)、公知のTBT類縁体に対して約94~95%の純度の単離生成物が生成される。この段階での収率は、60~65%の範囲である。
【0117】
Boc-4-ヨードフェニルアラニンのベンジル化:Boc-4-ヨードフェニルアラニン(1当量)を90%メタノール水溶液に溶解させ、炭酸セシウムを加えて弱アルカリ性のpH(リトマス紙で測定)になるまで中和した。溶媒を回転蒸発によって除去し、Boc-4-ヨードフェニルアラニンのセシウム塩に残存する水をトルエンでの共沸蒸留を繰り返してさらに減少させた。得られた乾燥塩をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、ベンジルブロミド(1.2当量)を加え、得られた混合物を6~8時間撹拌した。反応終了時にDMFを減圧下で除去し、標題の化合物を含む油を生成する。この油を酢酸エチルに溶解させ、得られた溶液を等量のクエン酸溶液(3回)、重炭酸ナトリウム溶液、およびブラインで洗浄した。ジクロロメタン:酢酸エチル(95:5)を溶離液としたフラッシュクロマトグラフィーにより、標題の化合物を淡黄色油として85%の収率で単離した。n-ヘプタンからの再結晶化により、結晶性ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニンを得ることができた。
【0118】
鈴木カップリングの一般的な手順:ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニン(1当量)、アリールボロン酸(1.5当量)、炭酸ナトリウム(2当量)、酢酸パラジウム(0.05当量)、およびトリオルソ-トリルホスフィン(0.1当量)を、ジメトキシエタン(ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニン1mmol当たり6ml)および水(ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニン1mmol当たり1ml)の脱気混合物に加えた。反応混合物をアルゴン下で保持し、80℃まで4~6時間加熱した。室温まで冷却した後、混合物をシリカゲルと炭酸ナトリウムのショートパッドでろ過する。ろ過ケーキを酢酸エチルでさらに洗浄した。ろ液を合わせ、溶媒を減圧除去した。酢酸エチルとn-ヘキサンの混合物を溶離液として用いたフラッシュクロマトグラフィーにより、生成物を単離した。
【0119】
Boc-Bip(n-Bu)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-n-ブチルフェニルボロン酸から標題の化合物を収率53%で調製した。Boc-Bip(n-Bu)-OBnは、80:20の酢酸エチル:n-ヘキサン溶離液を用いて単離した。
【0120】
Boc-Bip(t-Bu)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-t-ブチルフェニルボロン酸から標題の化合物を収率79%で調製した。Boc-Bip(t-Bu)-OBnは、80:20の酢酸エチル:n-ヘキサン溶離液を用いて単離した。
【0121】
Boc-Bip(4-Ph)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-ビフェニルボロン酸から標題の化合物を収率61%で調製した。Boc-Bip(4-Ph)-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0122】
Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、2-ナフチルボロン酸から標題の化合物を収率68%で調製した。Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0123】
Boc-Bip(4-(1-ナフチル))-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、2-ナフチルボロン酸から標題の化合物を調製した。Boc-Bip(4-(1-ナフチル))-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0124】
ベンジルエステルの脱エステル化の一般的な手順:ベンジルエステルをDMFに溶解させ、10%Pd炭素を触媒として用いて周囲圧力で2日間水素化する。反応終了後、触媒を濾去し、溶媒を減圧下で除去する。ジエチルエーテルからの再結晶化により、遊離酸を単離する。
【0125】
Boc-Bip(4-n-Bu)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(n-Bu)-OBnから標題の化合物を収率61%で調製した。
【0126】
Boc-Bip(4-t-Bu)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(t-Bu)-OBnから標題の化合物を収率65%で調製した。
【0127】
Boc-Bip(4-Ph)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(4-ph)-OBnから標題の化合物を収率61%で調製した。
【0128】
Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnから標題の化合物を収率68%で調製した。
【0129】
Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnから標題の化合物を収率68%で調製した。
【0130】
HBTUを用いた溶液相ペプチド合成の一般的な手順:以下の一般的な手順に従い、Boc保護戦略を用いた段階的アミノ酸カップリングにより、溶液中でペプチドを調製した。遊離アミノ基を有するC末端ペプチド部分(1当量)とBoc保護アミノ酸(1.05当量)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-HOBt)(1.8当量)とを、DMF(アミノ成分1mmol当たり2~4ml)に溶解させた後、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(4.8当量)を添加した。混合物を氷冷し、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)(1.2当量)を加えた。反応混合物を周囲温度で1~2時間振盪した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、クエン酸、重炭酸ナトリウム、およびブラインで洗浄した。溶媒を真空下で除去し、得られたペプチドのBoc保護基を、95%TFAまたは塩化アセチルの無水メタノール溶液を用いて暗所で脱保護した。
【0131】
PyCloPを用いた溶液相アミド形成。Boc-Arg-N(CH2Ph)2の合成。乾燥DCM(アルミナでろ過後)(2ml)およびDMF(1ml)中のBoc-Arg-OH(1当量)、NH(CH2Ph)2(1.1当量)、およびPyCloP(1当量)の溶液。この溶液を氷冷し、攪拌しながらDIPEA(2当量)を加えた。この溶液を室温で1時間攪拌した。反応混合物を蒸発させ、酢酸エチルに再溶解させ、クエン酸、重炭酸ナトリウム、およびブラインで洗浄した。溶媒を真空下で除去し、得られたペプチドのBoc保護基を、95%TFAを用いて暗所で脱保護した。
【0132】
ペプチドの精製と分析。水とアセトニトリル(共に0.1%TFA含有)を溶離液とするDelta-Pak(ウォーターズ社(Waters))C18カラム(100Å、15μm、25×100mm)での逆相HPLCを用いて、ペプチドを精製した。分析用Delta-Pak(ウォーターズ社)C18カラム(100Å、5μm、3.9×150mm)を用いたRP-HPLCと、VG Quattro四重極質量分析計(VGインスツルメンツ社(VG Instruments Inc.)、オールトリンガム(Altringham)、英国)での陽イオンエレクトロスプレー質量分析とによって、ペプチドを分析した。
【0133】
<実施例2>
<本明細書において定義されるペプチドのインビトロ活性>
[材料と方法]
(抗菌剤)
あらかじめ秤量した化合物1および化合物2のバイアルは、リティクス・バイオファーマ社(Lytix Biopharma AS)から供給された。
【0134】
【表1】
【0135】
(細菌分離株)
本研究で使用した細菌分離株は、GRマイクロ社(GR Micro Ltd.)で保管されている世界中のさまざまな供給源からのもので、最小限の継代培養で、未希釈のウマ血清の高タンパク質マトリックス中の高密度懸濁液として、-70℃で凍結保存されて維持されているものであった。使用した菌種とそれらの特徴を表1に示す。その内訳は、グラム陽性菌54種、グラム陰性菌33種、および真菌10種である。
【0136】
(最小発育阻止濃度(MIC)の測定)
MICの測定は、臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute)(CLSI、旧NCCLS)によって公表された下記の抗菌薬感受性試験用微量液体希釈法(microbroth dilution methods)を用いて行った。
【0137】
M7-A6、Vol.23、No.2、2003年1月、「Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that Grow Aerobically; Approved Standard-Sixth Edition(好気的に増殖する細菌の希釈抗菌薬感受性試験のための方法;承認標準-第6版)」。M100-S15、Vol.25、No.1、2005年1月、「Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Fifteenth Informational Supplement(抗菌薬感受性試験のための標準法:第15版補足情報)」。M11-A6、Vol.24、No.2、「Methods for Antimicrobial Susceptibility Testing of Anaerobic Bacteria; Approved Standard-Sixth Edition(嫌気性菌の抗菌薬感受性試験法;承認標準-第6版)」。M27-A2、Vol.22、No.15、「Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts; Approved Standard-Second Edition(酵母の液体希釈抗真菌薬感受性試験のための基準方法;承認標準-第2版)」。M38-A、Vol.22、No.16、「Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Filamentous Fungi; Approved Standard(糸状菌の液体希釈抗真菌薬感受性試験のための基準方法;承認標準)」。
【0138】
MICの評価は、GRマイクロ社で調製された、抗細菌薬または抗真菌薬が入ったウェットプレートを用いて行った。
【0139】
陽イオン調整ミューラー・ヒントンブロス(オキソイド社(Oxoid Ltd.)、ベイジングストーク、英国、および、トレック・ダイアグノスティック・システムズ社(Trek Diagnostic Systems Ltd.)、イースト・グリンステッド、英国)(連鎖球菌属細菌(Streptococcus spp.)、コリネバクテリウム・ジェイケイウム(Corynebacterium jeikeium)、およびリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)については、5%ウマ溶血血液を補充)を好気性菌に使用し、約105コロニー形成単位(CFU)/mLの初期接種量とした。
【0140】
ヘモフィルス試験培地(0.5%酵母抽出物含有ミューラー・ヒントンブロス、および、ヘマチンとNADとをそれぞれ15mg/L含有するヘモフィルス試験培地用サプリメント、すべてオキソイド社、ベイジングストーク、英国から入手)をインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)に使用し、約105CFU/mLで接種した。
【0141】
嫌気性菌株には、サプリメント添加ブルセラブロス(SBB)を使用し、接種量は約106CFU/mLとした。SBBは、1%ペプトンと、0.5%「Lab-lemco(ラブ-レムコ)」と、1%グルコースと、5μg/Lのヘミンおよび1μg/LのビタミンK(どちらもシグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich Ltd.)から入手)を添加した0.5%塩化ナトリウムとからなるブロスである。
【0142】
酵母および糸状菌のMICは、MOPS緩衝RPMI1640培地中で行った(MOPS緩衝液はシグマ・アルドリッチ社から入手し、RPMI1640はインビトロジェン社(Invitrogen Ltd.)(ペイズリー、スコットランド)から入手した)。酵母接種量は7.5×102~4×103CFU/mLの範囲、糸状菌接種量は約8×103~1×105CFU/mLとした。
【0143】
常法に従って、ミューラー・ヒントンブロスを含有するすべてのプレートを予め調製し、調製日に-70℃で凍結しておき、使用日に解凍した。真菌、ヘモフィルス属菌、および嫌気性菌のMICはいずれも、同日に調製したプレートで測定した。
【0144】
凍結がペプチドの活性に影響を与えたかどうかを評価するために、一部のMIC測定を、新しく調製したミューラー・ヒントンブロスを含有するプレートを用いて繰り返した。
【0145】
(対照菌株)
以下の対照(参照)菌株を、試験菌株のパネルに含めた。
【0146】
大腸菌:ATCC25922
黄色ブドウ球菌:ATCC29213
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis):ATCC29212
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae):ATCC49619
緑膿菌:ATCC27853
カンジダ・クルーセイ(Candida krusei):ATCC6258
下記の対照菌株は、試験菌株のパネルに追加して用いたものであり、必要に応じて、対照薬が範囲内であることを確認するために含めた。
【0147】
インフルエンザ菌:ATCC49247
カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis):ATCC22019
バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis):ATCC25285
エガセラ・レンタ(Eggerthella lenta):ATCC43055。
【0148】
[結果]
結果を表1にシングルラインリスト表示で示す。また、繰り返し対照菌株の結果を表2に示す。対照菌株の結果は、凍結保存した、または調製したてを用いたミューラー・ヒントンブロスを含有するプレートから得られたデータも含め、非常に再現性が高いことがわかる。プレートの凍結は、他の細菌株のMICにも影響を与えなかった。
【0149】
得られたMICデータは非常に有望なものであり、ペプチドが非常に幅広い活性スペクトルを持つことを示している。
【0150】
【表2】
【0151】
【表3】
【0152】
<実施例3 トリプシン分解に対する安定性と抗菌活性>
式AA1-AA2-AA1NHCH2CH2Phで表される化合物のトリプシン耐性および抗菌活性を調べた。
【0153】
[ペプチドの半減期の測定と計算]
それぞれのペプチドを0.1M NH4HCO3緩衝液(pH6.5)に溶解させ、最終的なペプチド濃度を1mg/mlとした。トリプシン1mgを0.1M NH4HCO3緩衝液(pH8.2)50mlに溶解させてトリプシン溶液を調製した。安定性を測定するために、新しく調製したトリプシン溶液250μlと、ペプチド溶液250μlとを、ロッキングテーブル上で37℃にて0.1M NH4HCO3緩衝液(pH8.6)2ml中でインキュベートした。様々な時間間隔で0.5mlのアリコートをサンプリングし、1%TFAを含有する水:アセトニトリル(60:40v/v)0.5mlで希釈し、上述したようにRP-HPLCで分析した。37℃で0時間および20時間後に採取したトリプシン非添加試料を陰性対照とした。本アッセイの最初の5時間の間に採取した試料の254nmにおけるピーク面積の積分を用いて、τ1/2を求めた。最初の24時間に分解が見られなかったペプチドは、安定として分類した。
【0154】
[抗菌性アッセイ]
黄色ブドウ球菌ATCC25923株、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC33591株、およびメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)ATCC27626株のMIC測定は、標準法を用いてToslab ASにより行った。ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ社(Williams and Wilkins Co.)(ボルティモア)、「Antibiotics in Laboratory Medicine、第4版、(Lorian,V.編)」、75~78頁における、Amsterdam,D.著(1996年)「Susceptibility testing of antimicrobials in liquid media(液体培地中の抗菌剤の感受性試験)」。
【0155】
【表4】
【0156】
<実施例4 化合物2のインビボ活性>
マウスの皮膚を黄色ブドウ球菌または化膿連鎖球菌に感染させ、その後、3時間間隔で合計3回の投与を行った。最後の投与から3時間後、皮膚生検体を採取し、皮膚試料に存在するコロニー形成単位(CFU)数を測定した。結果を、マウス1匹当たりのコロニー形成単位数として、図1および図2に示す。
【0157】
実験1(図1)では、化合物2を、2%(w/w)の化合物2を含有するクリームまたはゲルの一部として、マウスの皮膚に塗布した。化合物2を含有しない同じクリームまたはゲルを陰性対照(プラセボ)として用いた。化合物2を含有するクリームまたはゲルをマウスの皮膚に塗布すると、陰性対照と比較してCFU数が減少したことが明確にわかり、化合物2が黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果を発揮したことを示している。担体、つまりクリームまたはゲルの性質は有意な影響を与えなかった。
【0158】
実験2(図2)では、化合物2を2つの異なる濃度で、すなわち1%または2%のゲルとして塗布した。プラセボゲルおよび公知の抗菌薬「バクトロバン(bactroban)」を対照として使用した。化合物2を含有するゲルは、プラセボゲルやバクトロバンよりもCFU数を減少させる効果が高かったことがわかる。また、化合物2を2%含有するゲルは、化合物2を1%しか含有しないゲルよりも効果が高かった。
【0159】
<実施例5>
<本発明で使用される化合物の調製とその物性、抗菌特性、および溶血特性>
<ペプチド合成>-関連情報は実施例1にも記載されている。
【0160】
(化学薬品)
保護アミノ酸Boc-Arg-OHおよびBoc-4-フェニル-Pheはバッケム社から購入し、Boc-4-ヨードフェニルアラニンはアルドリッチ社から購入した。ペプチドのC末端を形成する、イソプロピルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、ブチルアミン、ヘキサデシルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、およびシクロペンチルアミンは、フルカ社から購入した。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-HOBt)、クロロトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyCloP)、およびO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)を、フルカ社から購入した。4-n-ブチルフェニルボロン酸、4-t-ブチルフェニルボロン酸、4-ビフェニルボロン酸、2-ナフチルボロン酸、トリオルソ-トリホスフィン、ベンジルブロミド、および酢酸パラジウムは、アルドリッチ社から購入した。溶媒は、メルク社、リーデル・デ・ハーン社、またはアルドリッチ社から購入した。
【0161】
Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-ビフェニルボロン酸から標題の化合物を収率61%で調製した。Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0162】
Boc-Phe(4-(2’-ナフチル))-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、2-ナフチルボロン酸から標題の化合物を収率68%で調製した。Boc-Phe(4-(2’-ナフチル))-OBnは、n-ヘプタンからの粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0163】
Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OBnから標題の化合物を収率61%で調製した。
【0164】
Boc-Phe(4-(2’-ナフチル))-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Phe(4-(2-ナフチル))-OBnから標題の化合物を収率68%で調製した。
【0165】
HBTUを用いた溶液相ペプチド合成の一般的な手順は、実施例1に記載した通りである。
【0166】
PyCloPを用いた溶液相アミド形成は、実施例1に記載した通りである。
【0167】
ペプチドの精製と分析は、実施例1に記載した通りである。
【0168】
【表5】
【0169】
[抗菌性アッセイ]
黄色ブドウ球菌ATCC25923株、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC33591株、およびメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)ATCC27626株のMIC測定は、標準法を用いてToslab ASにより行った。ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ社(ボルティモア)、「Antibiotics in Laboratory Medicine、第4版、(Lorian,V.編)」、75~78頁における、Amsterdam,D.著(1996年)「Susceptibility testing of antimicrobials in liquid media(液体培地中の抗菌剤の感受性試験)」。
【0170】
【表6】
【0171】
<実施例6>
<選択した化合物のインビトロブロードパネルスクリーニング>
[材料と方法]
(抗菌剤)
あらかじめ秤量した化合物7および化合物8のバイアルは、リティクス・バイオファーマ社から供給された。
【0172】
【表7】
【0173】
(細菌分離株)
本研究で使用した細菌分離株は、実施例2に記載した通りである。
(最小発育阻止濃度(MIC)の測定)
実施例2に記載したようにMICを測定した。
【0174】
[結果]
結果を表6にシングルラインリスト表示で示す。
【0175】
得られたMICデータは非常に有望なものであり、ペプチドが非常に幅広い活性スペクトルを持つことを示している。
【0176】
【表8】
【0177】
<実施例7 化合物7および化合物8のインビボ活性>
マウスの皮膚を黄色ブドウ球菌または化膿連鎖球菌に感染させ、その後、3時間間隔で合計3回の投与を行った。最後の投与から3時間後、皮膚生検体を採取し、皮膚試料に存在するコロニー形成単位(CFU)数を測定した。結果を、マウス1匹当たりのコロニー形成単位数として、図3図4、および図5に示す。
【0178】
実験1(図3)では、化合物7を、2%(w/w)の化合物7を含有するクリームまたはゲルの一部として、マウスの皮膚に塗布した。化合物7を含有しない同じクリームまたはゲルを陰性対照(プラセボ)として用いた。バクトロバン2%クリームを陽性対照として用いた。化合物7を含有するクリームまたはゲルをマウスの皮膚に塗布すると陰性対照と比較してCFU数が減少したことが明確にわかり、化合物7が黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果を発揮したことを示している。標準臨床治療であるバクトロバン2%クリームの効力は、本投与計画下では有意な影響を与えなかった。担体、つまりクリームまたはゲルの性質は有意な影響を与えなかった。
【0179】
実験2(図4)では、化合物7を2つの異なる濃度で、つまり1%または2%のゲルとして塗布した。プラセボゲルおよび公知の抗菌剤「バクトロバン(ムペリシン(mupericin))」を対照として使用した。化合物7を含有するゲルは、プラセボゲルやバクトロバンよりも、化膿連鎖球菌CS301感染に由来するCFU数を減少させる効果が高かったことがわかる。また、化合物7を2%含有するゲルは、化合物7を1%しか含有しないゲルよりも効果が高かった。
【0180】
実験3(図5)では、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486感染に対して、化合物8を2%クリーム製剤中で適用した。プラセボクリーム1種と公知の抗菌剤2種、「フシジン(Fucidin)(フシジン酸)軟膏2%」および「バクトロバン(ムペリシン)クリーム2%」を対照として用いた。化合物8を含有するクリームは、プラセボやフシジンまたはバクトロバンよりも、CFU数を減少させる効果が高かったことがわかる。
【0181】
<実施例8 AMC-109含有コーティングを用いた吸収性編組縫合糸の作製>
AMC-109を含有する典型的な生分解性ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマーを用いた編組縫合糸の溶液コーティングを調査することを目的とした。研究は下記の4つの領域で行った。
【0182】
1.ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマーとAMC-109を溶解させることができる溶媒(または混合溶媒)を調製する。
【0183】
2.「裸の」編組吸収性縫合糸材料を、上記項目1の溶液でコーティングする。
【0184】
3.コーティングされた縫合糸からのAMC-109の漏出を調査する。
【0185】
4.コーティングされた縫合糸の微生物学的効力を調査する。
【0186】
[材料と方法]
(ポリマー)
Resomer(登録商標)RG502、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、シグマ・アルドリッチ社、製品番号719889は、ラクチドとグリコリドが50:50で混合された、エステルを末端に有し、重量平均分子量(Mw)が7,000~17,000である生分解性ポリマーである。市販の吸収性縫合糸のコーティングに一般に使用される生分解性ポリマーと類似している。化学構造を以下に示す。
【0187】
【化3】
【0188】
(ペプチド)
AMC-109は、本明細書中では「化合物2」と呼ばれ、式Arg-Tbt-Arg-NHCH2CH2Phを有する。
【0189】
(縫合糸)
シリコーンコーティングされたナイロン製編組縫合糸である、Syneture Surgilonのサイズ4-0を研究に使用した。
【0190】
(コーティングされた縫合糸の作製手順)
縫合糸を酢酸エチルで洗浄して既存のコーティング層の大部分を除去してからコーティングを行った。
【0191】
Resomer(登録商標)RG502を酢酸エチルに溶解させ、AMC-109をエタノールに溶解させた。最初の試験Test-01では、50mgのRG502を酢酸エチル300μlに溶解させ、エタノール50μlに溶解させた10mgのAMC-109と混合した。2回目の試験Test-02では、50mgのRG502を酢酸エチル400μlに溶解させ、エタノール110μlに溶解させた10mgのAMC-109と混合した。得られた混合溶媒は均質であった。
【0192】
縫合糸基材(酢酸エチルでの洗浄後)を、コーティング用混合溶媒に繰り返し浸漬することによりコーティングした。
【0193】
(微生物学的評価)
・細菌株:黄色ブドウ球菌
・CFU(コロニー形成単位)の計数に使用した縫合糸:
○RG502ポリマーでコーティングした縫合糸Surgilon 4-0、対照
○RG502ポリマー/AMC-109でコーティングした縫合糸Surgilon 4-0
○縫合糸Surgilon 4-0(コーティングなし)、対照
・液体トリプティックソイブロス(TSB)
・ミューラー・ヒントン(MH)寒天プレート
血液寒天プレートから黄色ブドウ球菌のコロニーを採取し、0.5マクファーランドの溶液を作成した(CFU数:1×108)。この溶液を用いて、
1.MH寒天プレートに接種し、
2.TSB中で希釈してCFU数を1×105とした。
【0194】
縫合糸を、寒天プレートに載せ、発育阻止帯を観察するとともに、TSBに投入して接種し、コーティングされた縫合糸の抗菌効果をコーティングされていない縫合糸に対して調べた。
【0195】
試料は、37℃で16時間インキュベートした。
【0196】
TSB中で縫合糸に接種した試験管の培養液を用いて、段階希釈によりCFU測定を行った。コーティングされた縫合糸の長期的効果を調べるために、縫合糸をすすぎ、TSB中で37℃で16時間、細菌を再接種した。
【0197】
並行実験を3回行った。
【0198】
コロニー計数後にCFUを決定した。
【0199】
[結果]
(コーティングされた縫合糸の作製)
縫合糸をResomer RG-502とAMC-109との溶液で処理することにより、コーティングされた縫合糸を容易に製造することができた。混合溶媒の組成は、Resomer RG-502とAMC-109の両方を溶解・混合する(かつ、相分離や沈殿を回避する)能力にとって重要であった。
【0200】
(AMC-109の放出量の定量分析)
コーティングされた縫合糸を水で抽出した。コーティングされた縫合糸を、水0.4mlに入れ、30分間静置した。縫合糸を取り出し、乾燥させ、2回目の抽出を22時間行った。抽出液を分析し、抽出によって放出されたAMC-109の量を求めた。結果を図6に示す。
【0201】
[AMC-109でコーティングされた縫合糸の抗菌効果の測定]
Resomer RG-502およびAMC-109でコーティングされた縫合糸の抗菌効果を、寒天増殖阻害アッセイおよび液体ブロスアッセイによって評価した。
【0202】
(1日目)
AMC-109でコーティングされた縫合糸の周囲の発育阻止帯を、コーティングなしの対照縫合糸およびRG-502(AMC-109添加せず)でコーティングされた縫合糸と比較して、観察した(図7)。
【0203】
1日目、AMC-109でコーティングされた縫合糸が入った試験管内のTSB培地において明白な増殖は見られなかった。CFU計数のための希釈を行ったところ、AMC-109でコーティングされた縫合糸のCFU数は、0、500、および3×103であった。対照が入った試験管においては、目視可能な増殖が見られ、CFU数は、5.8×108および4.7×108(数値は並行試験の平均値)であった(図8)。
【0204】
(2日目)
2日目、すべての試験管において目視可能な増殖が見られた。RG502/AMCでコーティングされたSurgilonが入った試験管と対照との間に目視可能な差異は見られなかった。
【0205】
[結論]
生分解性ポリマーとAMC-109との溶液によって縫合糸を容易にコーティングすることができる。結果として得られる、AMCでコーティングされた縫合糸は16時間にわたって抗菌効果を発揮する。AMC-109を含まない最終のResomer層を追加することで、即時拡散を抑え、より長く持続する効果を得ることができる。
【0206】
<実施例9 AMC-109/ポリマーでコーティングされた縫合糸>
[材料と方法]
細菌株:黄色ブドウ球菌ATCC29213および表皮ブドウ球菌RP42A
縫合糸:Ethibond(登録商標)Excelポリマー縫合糸(ジョンソン・エンド・ジョンソン社(Johnson & Johnson))を、ポリカプロラクトン+5%AMC-109のコーティングで被覆した。ポリマー(すなわち、ポリカプロラクトン、平均分子量(MW):約14,000)とペプチドとを、ガラスバイアル内で120℃まで急速加熱(約3分超)することによって溶融し、ポリカプロラクトンが溶融したときに混合を行った。縫合糸をこの溶融混合物中に浸してコーティングした。
【0207】
対照:コーティングされていないEthibond(登録商標)Excel縫合糸
1つの実験では、細菌コロニーを0.5マクファーランドに希釈したものをミューラー・ヒントン寒天プレート上に広げ、2つ目の実験では、コロニーを0.5マクファーランドに希釈し、かつトリプティックソイブロス(TSB)で1:100に希釈した。
【0208】
最初の実験では、AMCコーティングされた縫合糸とコーティングされていない対照とを、接種したプレートに載せた。プレートを37℃で16時間インキュベートした。2つ目の実験では、AMCコーティングされた縫合糸とコーティングされていない対照とを、接種した培地に投入し、37℃中で16時間振盪培養した。
【0209】
[結果]
表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌の両方について、AMC-109でコーティングされた縫合糸の周囲の寒天プレートに、対照と比較して明らかな発育阻止帯が観察された(図9)。
【0210】
AMCでコーティングされたEthibond縫合糸の一部を加えたウェル1およびウェル4では細菌増殖が明らかに阻害された(図10)。
【0211】
縫合糸をSyto9およびヨウ化プロピジウムでさらに染色し、蛍光顕微鏡法で調べた。コーティングされた縫合糸とコーティングされていない縫合糸との間に明らかな違いがあり、コーティングされていない縫合糸では大量の細菌増殖が見られた。
<実施例10 AMC-109でコーティングされた吸収性縫合糸>
説明するプロセスは、スケーラブルであり、産業上の開発に適している。
【0212】
[材料と方法]
(縫合糸)
・コヴィディエン社(Coviden)(メドトロニック社(Medtronic))、Polysorb(ポリゾーブ) 3-0
・Ethicon、Vicryl plus(バイクリルプラス) 3-0(トリクロサン含有、陽性対照)
どちらの縫合糸も、Polyglactin 910で構成された内側の編組フィラメントと、それを被覆する外側のより軟質な潤滑層とからなるものであり、該潤滑層は、ステアリン酸カルシウムと混合したポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(ラクチド:グリコリド=65:35)で構成されている。Vicryl plus縫合糸は、その外層にトリクロサンを活性成分として追加的に含有する。
【0213】
(ポリマー)
Resomer(エボニック社)RG-502、分解性ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(ラクチド:グリコリド=50:50)、Mw:7000~17000、分解時間:3ヶ月未満。
【0214】
(ペプチド)
上記と同様にAMC-109を使用。
【0215】
(縫合糸の剥離)
Polysorb縫合糸の外層を、縫合糸を酢酸エチルで10分間洗浄した後、水で2分間洗浄することにより、(部分的に)除去した。縫合糸を乾燥させてからコーティングした。
【0216】
(縫合糸コーティング用混合液)
1つのバイアル内でRG-502を酢酸エチルに溶解させ、別のバイアル内でAMC-109をエタノールに溶解させることにより、コーティング用混合液を調製した。2つの溶液を混合するとやや混濁した溶液が生じ、酢酸エチル0.5mlを添加すると透明になった。
【0217】
(縫合糸のコーティング)
Polysorb縫合糸(6cmの断片に切断)を、コーティング用混合液に10分間浸し、乾燥させた後、新しく調製したコーティング用混合液に2分間浸した。
【0218】
縫合糸は2バッチ分を準備した。一方は、化学抽出分析と発育阻止帯試験(実験1)のためのものであり、他方は、液体培地中での効力試験(実験2)のためのものであった。
【0219】
【表9】
【0220】
(抽出)
縫合糸の試料を選択し、水性抽出を行った。
【0221】
(1回目の抽出)
縫合糸をバイアルに入れ、水(1ml)を添加した。試料を1時間静置した。抽出試料をHPLCで分析した。
【0222】
(2回目の抽出)
1回目の抽出から得られた縫合糸試料を新しいバイアルに入れ、水(1ml)を添加し、3.5時間抽出した。2回目の抽出試料をHPLCで分析した。
【0223】
(微生物学的評価)
細菌株:
・黄色ブドウ球菌(8325)
・緑膿菌(PAO1)
・大腸菌
・エンテロコッカス・フェシウム
上記さまざまな細菌株の一晩培養したコロニーを用いて、0.5%NaCl中で、0.5マクファーランド(1×108CFU/ml)の溶液を作成し、LB(溶原性ブロス)2mlが入った試験管内でさらに希釈して105CFU/mlとした。この菌液を、発育阻止帯試験用の寒天プレートへの接種と、LB培地中での縫合糸試験試料への直接接種と、に使用した。すべての試料を37℃で18時間インキュベートした。CFUの数え上げは、i)試験試料への接種を行った溶液(LB培地)、または、ii)試料をすすいでボルテックス(20秒)した溶液(1mlのNaCl、0.5%)から段階希釈液を作成することによって行った。段階希釈液(10-1~10-6)は、1mlのNaClで作成した。異なる希釈液から100μlを血液寒天プレート上に広げ、37℃で18時間さらにインキュベートした。
【0224】
[結果]
(AMC-109放出量の定量)
【0225】
【表10】
【0226】
縫合糸はコーティングにより0.4~0.5mg増加した。水性抽出液中のAMC-109濃度を表8にまとめた。データから、高配合の縫合糸からは合計4.5時間の抽出で25マイクログラムのAMC-109が水溶液中に遊離したことがわかった。低配合の縫合糸からは同様の条件下で5マイクログラムのAMC-109が遊離した。
【0227】
これらのAMC-109の量は、高配合のコーティングに埋め込まれたAMC-109の少なくとも30%が4.5時間以内に水中に放出されることを示唆している。低配合の縫合糸からの放出量は、これよりもやや低いようである。
【0228】
(微生物学的評価)
15%AMC-RG502でコーティングされたPolysorbの周囲には常に発育阻止帯が観察された。これに対して、Vicryl・トリクロサンの場合は、黄色ブドウ球菌および大腸菌の発育阻止しか見られなかった(表9)。
【0229】
【表11】
【0230】
菌液中での縫合糸試験材料の直接接種によると、15%AMC-109でコーティングされた縫合糸では、すべての菌株について、LB培地中で細菌増殖が抑制された。トリクロサンでコーティングされた縫合糸は、黄色ブドウ球菌の増殖を阻害したのみであった(表10)。
【0231】
【表12】
【0232】
[結論]
AMC-109は、説明した溶液コーティング技術を用いて吸収性縫合糸に組み込むことができる。コーティング溶液は混濁しており、過飽和溶液であることを示唆している。これにより、コーティング効率が向上し得る。
【0233】
AMCコーティングされた縫合糸は、4.5時間以内にそのAMC-109含有量の少なくとも30%を水性環境に遊離させた。AMC-109の放出量は、縫合糸中に配合された量に依存する。
【0234】
AMC-109でコーティングされた縫合糸は、トリクロサンが効かない重要な病原体をはじめとするさまざまなグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して抗コロニー形成効果を発揮する。
【0235】
<実施例11 AMC-109含有生体吸収性薄膜フィルムのキャスティング>
[11.1 生体吸収性ポリマー]
・ジクロロメタン(DCM)に溶解させたResomer L206S(エステルを末端に有するポリL-ラクチド)(シグマ・アルドリッチ社、製品番号719854)、クロロホルムに溶解させたAMC-109
・テトラヒドロフラン(THF)に溶解させたResomer RG502(ポリ-D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(シグマ・アルドリッチ社、製品番号719889)、同じくTHFに溶解させたAMC-109
[11.2 生体吸収性薄膜フィルムの作製]
(キャスト溶液)
生体吸収性ポリマー材料であるResomer RG502と、AMC-109とを、最終的な塗装液中の生体吸収性ポリマーに対するAMC-109の量が5%となるように、別々にTHFに溶解させた。AMC-109をTHFに溶解させるのに数時間かかった。
【0236】
生体吸収性ポリマー材料であるResomer L206Sと、AMC-109とを、それぞれジクロロメタンとクロロホルムとに別々に溶解させた。AMC-109とL206Sの比率は上記と同じとした。
【0237】
(キャストプロセス)
浅い窪みのあるアルミニウム箔上にキャスト溶液8mlを流延するかまたは塗装液を時計皿上に注ぐことにより、薄膜フィルム試料を作製した。乾燥(数日)後、薄膜状のキャストフィルムをその表面から機械的に剥離した。
【0238】
[11.3 AMC-109含有生体吸収性薄膜フィルムからのAMC-109漏出量の測定]
(抽出)
薄膜キャストフィルムから試料を切り出し、正確に秤量し(100~150mg)、試料中のAMC-109の量を計算した。試料をバイアルに入れ、水(2ml)を添加し、バイアルを振盪した。抽出を6回連続して行った。抽出の各回において、前の抽出液を脱イオン水(2ml)に置き換えた。抽出は、振盪時間を10秒、5分、30分、3時間、22時間、および48時間として行った。各抽出液中のAMC-109の量を、予め作成した標準曲線を用いて280nmでUV分光光度法により測定した。結果を図11にグラフで示す。
【0239】
[11.4 AMC-109含有生体吸収性薄膜フィルムの微生物学的評価]
(細菌株)
・黄色ブドウ球菌8325
(変形AATCC-100法)
黄色ブドウ球菌の一晩培養したコロニーを、0.9%NaCl中で0.5マクファーランドに希釈し、細菌数が1×108となる細菌濃度にした。この溶液をTSB中でさらに希釈し、細菌数を1×105とした。
【0240】
L206Sの薄膜フィルム材料を約0.4×0.4cmの断片にカットした。この材料をdH2O中に2分間浸し、風乾してから使用した。試料に菌液(1×105)50μlを接種した。これらの試料を、スライドガラスに載せ、湿潤チャンバ内で37℃で24時間インキュベートした。各試験材料について2回の生物学的反復を行った。
【0241】
インキュベーション後、薄膜フィルム材料を2分間十分に洗浄し、容易に抽出可能な、つまり、表面上に直接存在するAMC-109を除去した。その後、1000μlのNaClに投入し、45秒間ボルテックスした後、段階希釈液(0~10-6)を作成し、100μlをプレーティングしてCFU計数を行った。
【0242】
(微生物学的効力)
(コロニー形成単位)
AMC含有材料については、CFU数は検出限界未満であった。対照材料と比較して、CFU数は7log減少した(下記表参照)。
【0243】
【表13】
【0244】
[11.5 結論]
・Resomerは一部の溶媒で溶解可能であり、THFとジクロロメタンは試験した溶媒の中で最も一般的な適用性があった。
【0245】
・AMC-109はTHF溶液またはクロロホルム溶液中で溶解ポリマーに混合することができる。AMC-109を溶解する溶媒は、Resomerを溶解するために用いられる溶媒との混和性を有していなければならない。
【0246】
・得られるキャスト溶液は、いくつかの表面に塗布することもでき、薄膜フィルムのキャスティングに用いることもできる。
【0247】
・薄膜キャストフィルムは、AMC-109を、最初は急速に漏出させ、そして、Resomerの性質によって異なるが少なくとも2日間にわたってより低濃度で漏出させる。
【0248】
・Resomer RG502薄膜フィルムは、興味深い漏出挙動を示す。このポリマーは、時間の経過とともに崩壊し、AMC-109を長期にわたって継続的に漏出させる。
【0249】
・Resomer L206S薄膜フィルムは、Resomer RG502ほど急速には崩壊せず、より長期間にわたって活性を有し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】