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特表2023-529993血栓塞栓状態の治療のための改良されたトロンビン阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】血栓塞栓状態の治療のための改良されたトロンビン阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230705BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230705BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20230705BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/435 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K38/16
A61K45/00
A61P7/02
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P29/00
A61P43/00 121
C12N9/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577488
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 AU2020050626
(87)【国際公開番号】W WO2021253067
(87)【国際公開日】2021-12-23
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2019年6月20日 ウェブサイトのアドレス https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1905177116
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.EMPOWER
(71)【出願人】
【識別番号】500026418
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
(71)【出願人】
【識別番号】519223745
【氏名又は名称】ザ ハート リサーチ インスティテュート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペイン リチャード ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ワトソン エマ
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン ショーン フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA23
4C084DC35
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA45
4C084ZA54
4C084ZB11
4C084ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、血栓塞栓状態の治療、フィブリン血餅形成及び関連するトロンビン活性並びに化合物、詳細にはトロンビンによるフィブリノゲンの切断を阻害又は改変するためのペプチド及びポリペプチドの調製に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチド。
【請求項2】
配列番号1又は配列番号2の少なくとも1つの残基は、硫酸化されたチロシン残基である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号1内の第32位のチロシンと第35位のチロシンとは、硫酸化されている、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号2内の第33位のチロシンと第36位のチロシンとは、硫酸化されている、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
式1:
A-B
(式中、
Aは、請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチドであり;
Bは、配列番号3~5の1つに示された配列を有するペプチドである)
の融合ペプチド。
【請求項7】
トロンビンを少なくとも部分的に阻害する、請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
約500pM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害し、配列番号1に示された通りのアミノ酸配列を含み、配列番号1内の第32位のチロシンと第35位のチロシンとは、硫酸化されている、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、前記ペプチド及び公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて凝固時間を少なくとも20%減少させる、請求項1~8のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項10】
インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用して測定された場合、約4μg/mL超の濃度で約60秒~約200秒の凝固時間を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項11】
インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用してエクスビボで測定された場合、個人に前記個人の1kg当たり約1μg~前記個人の1kg当たり約10mgの量で投与されたときに約60秒~約200秒の凝固時間をもたらす、請求項1~10のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項12】
著しい失血をもたらさない、請求項1~11のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項13】
著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、前記ペプチド及び前記公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて失血を少なくとも10倍減少させる、請求項1~12のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項14】
前記公知のトロンビン阻害剤は、ヒルジンである、請求項9又は13に記載のペプチド。
【請求項15】
薬学的に有効な担体、希釈剤又は賦形剤と共に、請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチドを含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項16に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又は発現コンストラクト。
【請求項18】
請求項16に記載のポリヌクレオチド又は請求項17に記載のベクター若しくはコンストラクトを含む細胞。
【請求項19】
チロシン残基の硫酸化を可能にするタンパク質チロシン硫酸転移酵素を含む、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
血栓塞栓状態の予防又は治療を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の、請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項15に記載の医薬組成物を前記個人に投与し、それにより前記個人における前記血栓塞栓状態を予防又は治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法。
【請求項21】
個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させる方法であって、治療有効量の、請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項15に記載の医薬組成物を、それを必要とする前記個人に投与し、それにより前記個人における前記血栓塞栓状態を治療するか又は前記血栓塞栓状態の前記症状の重症度を減少させることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法。
【請求項22】
血栓塞栓状態の予防又は治療を、それを必要とする個人において行うための医薬品の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
血栓塞栓状態の予防又は治療を、それを必要とする個人において行うのに使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記血栓塞栓状態は、心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、末梢動脈閉塞、播種性血管内凝固、心血管及び脳血管血栓症、術後外傷に伴う血栓症、肥満、妊娠、経口避妊薬の副作用、長期の不動及び血液、免疫又はリウマチ性障害に伴う過凝固状態、不安定狭心症、動脈硬化症、バルーンカテーテルでの血管形成術後の血管の再閉塞又は血液透析における血液凝固から選択される、請求項20若しくは21に記載の方法、請求項22に記載の使用又は請求項23に記載のペプチド。
【請求項25】
前記血栓塞栓状態は、脳卒中である、請求項22に記載の方法、使用又はペプチド。
【請求項26】
個人におけるウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にするための方法であって、治療有効量の、請求項1~14のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項15に記載の医薬組成物を、ウイルス感染によって引き起こされる炎症を経験している個人に投与し、それにより前記個人における血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にすることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法。
【請求項27】
前記ペプチドは、1種以上の血栓溶解剤、1種以上の血小板阻害剤又はその組み合わせと組み合わせて投与される、請求項20、21若しくは24~26のいずれか一項に記載の方法、請求項22、24若しくは25のいずれか一項に記載の使用又は請求項23~25のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項28】
前記ペプチドは、ボーラス注入又は静脈内注入によって投与される、請求項20、21若しくは24~27のいずれか一項に記載の方法、請求項22、24、25若しくは27のいずれか一項に記載の使用又は請求項23~25若しくは27のいずれか一項に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血栓塞栓状態の治療、フィブリン血餅形成及び関連するトロンビン活性並びに化合物、詳細にはトロンビンによるフィブリノゲンの切断を阻害又は改変するためのペプチド及びポリペプチドの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書におけるあらゆる従来技術への言及は、この従来技術が、オーストラリア又は他のあらゆる管轄区域における通常の一般的知識を形成するという承認又はいずれかの形態の示唆とみなされず、且つみなされるべきではない。
【0003】
虚血性脳卒中は、脳循環内の血餅又は塞栓の発達によって引き起こされ、世界的に死因の第3位である。脳卒中イベントは、世界中で身体障害の原因の第1位でもあり、長期で資源消費型の費用がかかるリハビリテーションプログラムを伴う。
【0004】
現在、虚血脳の急速な血流再開を促進し、それにより脳卒中イベントを最小限にするための、脳卒中のための唯一の承認された薬理学的治療法は、血栓溶解剤、組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)の静脈内(i.v.)送達である。rtPAは、プラスミノーゲンをプラスミンに活性化し、その後、プラスミンがフィブリン及び他の血餅結合タンパク質を分解し、それにより罹患した血管を通る血流を向上させる。
【0005】
rtPAベースの治療法は、その広範な臨床用途にもかかわらず、有効性及び適用の両方においていくつかの制限を有する。特に懸念されていることは、rtPA療法後に患者の20~30%のみが完全な動脈再開通を経験し、これらの患者の20~30%は、再閉塞を経験するであろうことである。rtPAによって誘導されるプラスミンが血餅中のフィブリンを分解することから、この問題は、フィブリノゲンのフィブリンへの切断に対する活性を保持する血餅結合トロンビンに起因すると考えられる。
【0006】
さらなる懸念は、血栓溶解療法のために与えることができるrtPAの用量を実質的に制限する、rtPA療法に伴う頭蓋内出血(ICH)の発生率増大の知見である。
【0007】
rtPA療法の大幅な制限は、改良された血栓溶解療法の開発への新たな関心を引き起こしている。
【0008】
トロンビンは、主に不溶性のフィブリンの生成を介して血餅形成における中心的役割を果たす。したがって、トロンビン阻害剤は、rtPAと共に補助的な治療法として使用するための有望な候補として浮上している。
【0009】
今日まで、間接トロンビン阻害剤ヘパリン及び直接トロンビン阻害剤(DTI)ヒルジン及びアルガトロバンが研究されている。血管再開通の全般的改善が認められたが、これらの併用療法に伴って出血及び症候性ICHのリスクが増大した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
虚血性脳卒中の予後を改善するために使用することができるトロンビン阻害剤の必要性が存在する。
【0011】
虚血性脳卒中の予後を改善するためにrtPAと併用して使用することができるトロンビン阻害剤の必要性も存在する。
【0012】
他の血栓形成性疾患又は凝固性障害を改善するために使用することができるトロンビン阻害剤の必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上に言及した必要性又は制限の1つ以上への対処を模索し、一実施形態では、配列番号1:
YPESDSAKDDGNQEKEKALLVKVQERSDDGDYDEYDNDETTHTPDPSAPTARPRIREHQA
に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドを提供する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、配列番号2:
YPERDSAKDGNEEQERALPVNVQERGEVADADYDDYDEEGTTPTVDPTAQTARPRLQGNQS
に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドを提供する。
【0015】
好ましくは、ペプチドは、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列からなる。より好ましくは、ペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなる。
【0016】
別の実施形態では、ペプチドは、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列の生物学的に活性な断片又はバリアントを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる。
【0017】
ペプチドは、組換え、単離された又は合成のペプチドであり得る。
【0018】
いずれかの態様において、ペプチドは、トロンビンを少なくとも部分的に阻害する。
【0019】
典型的には、ペプチドの少なくとも1つの残基は、硫酸化されたチロシン又は硫酸化されたチロシン模倣体残基、好ましくは硫酸化されたチロシン残基である。
【0020】
好ましくは、配列番号1内の第32位のチロシンは、硫酸化されており、第35位のチロシンは、硫酸化されている。
【0021】
別の実施形態では、配列番号1内の第32位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号1内の第35位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0022】
別の実施形態では、配列番号1内の第35位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号1内の第32位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0023】
好ましくは、配列番号2内の第33位のチロシンは、硫酸化されており、第36位のチロシンは、硫酸化されている。
【0024】
別の実施形態では、配列番号2内の第33位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号2内の第36位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0025】
別の実施形態では、配列番号2内の第36位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号2内の第33位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0026】
別の実施形態では、式1:
A-B
の融合ペプチドが提供され、式中、
Aは、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドであり、上に記載された1つ以上の特性を含み;
Bは、配列番号3:
DFEEIPEEYLQ
又は配列番号4:
DEDYAAIEASLSETF
又は配列番号5:
PFDFEAIPEEYLDDES
に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドである。
【0027】
好ましくは、Bは、トロンビンのエキソサイトIに結合する。
【0028】
領域Aは、BのN末端に位置し得る。別の実施形態では、Bは、AのN末端に位置する。
【0029】
一実施形態では、A及びBは、直接連結され得る。別の実施形態では、A及びBは、リンカーを含むことができる。
【0030】
いずれかの態様において、本発明のペプチドは、トロンビンを少なくとも部分的に阻害する。好ましくは、本発明のペプチドは、トロンビン活性を少なくとも部分的に少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、60%、70%、80%又は90%以上阻害する。好ましくは、本発明のペプチドは、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、約200pM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。
【0031】
一実施形態では、本発明のペプチドは、本明細書に記載されたインビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用して測定された場合、著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、ペプチド及び公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて凝固時間を少なくとも20%減少させる。好ましくは、公知のトロンビン阻害剤は、ヒルジンである。
【0032】
一実施形態では、本発明のペプチドは、インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用して測定された場合、約4μg/mL超の濃度で約60秒~約200秒の凝固時間を含む。
【0033】
一実施形態では、本発明のペプチドは、インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用してエクスビボで測定された場合、個人に個人の1kg当たり約1μg~個人の1kg当たり約10mgの量で投与されたときに約60秒~約200秒の凝固時間をもたらす。
【0034】
一実施形態では、本発明のペプチドは、著しい失血をもたらさない。好ましくは、ペプチドは、失血を決定する能力を有するいずれかのアッセイを使用して測定された場合に著しい失血をもたらさない。より好ましくは、ペプチドは、個人に投与された場合、著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、ペプチド及び公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて失血を少なくとも10倍減少させる。好ましくは、公知のトロンビン阻害剤は、ヒルジン又はアルガトロバン、より好ましくはヒルジンである。
【0035】
一実施形態では、本発明のペプチドは、個人に投与された場合、ヒルジンと比較して、ペプチド及びヒルジンのモル当量に基づいて症候性脳内出血(sICH)を減少させる。
【0036】
別の実施形態では、上に概ね記載された通りの配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか若しくはそれからなるペプチド又は上に記載された式1のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、好ましくはcDNA並びに前記ポリヌクレオチドを含有するベクター、発現コンストラクト及び細胞が提供される。
【0037】
好ましくは、この細胞は、チロシンの硫酸化を可能にする硫酸転移酵素を含有する。
【0038】
一実施形態では、スルホチロシンは、アンバーコドンサプレッションにより、本発明によるペプチドに遺伝的に組み込まれている。
【0039】
別の実施形態では、上に概ね記載された通りの配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか若しくはそれからなるペプチド又は上に記載された式1のペプチドと、薬学的に有効な担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0040】
本発明は、血栓塞栓状態の予防又は治療を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態を予防又は治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法も提供する。
【0041】
本発明は、個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させる方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、それを必要とする個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法も提供する。
【0042】
別の態様では、本発明は、個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にするための方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、血栓塞栓状態の症状を経験している個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にすることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0043】
したがって、さらなる態様では、本発明は、血栓塞栓状態の重症度の減少を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、それを必要とする個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態の重症度を減少させるステップを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0044】
別の態様では、本発明は、個人におけるウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にするための方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、ウイルス感染によって引き起こされる炎症を経験している個人に投与し、それにより個人における血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にすることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0045】
したがって、さらなる態様では、本発明は、ウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の重症度の減少を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、それを必要とする個人に投与し、それにより個人における血餅形成の重症度を減少させるステップを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0046】
別の態様では、本発明は、
・個人における血栓塞栓状態を予防又は治療すること;
・個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させること;
・個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にすること;及び/又は
・個人における血栓塞栓状態の重症度を減少させること;
・個人におけるウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にすること;及び/又は
・ウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の重症度を減少させること
のための医薬品の製造における、本発明のペプチドの使用も提供する。
【0047】
別の態様では、本発明は、
・個人における血栓塞栓状態を予防又は治療すること;
・個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させること;
・個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にすること;
・個人における血栓塞栓状態の重症度を減少させること;
・個人におけるウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にすること;及び/又は
・ウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の重症度を減少させること
において使用するための本発明のペプチドも提供する。
【0048】
別の態様では、本発明は、
・個人における血栓塞栓状態を予防又は治療すること;
・個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させること;
・個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にすること;
・個人における血栓塞栓状態の重症度を減少させること;
・個人におけるウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にすること;及び/又は
・ウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の重症度を減少させること
において使用するための、本発明のペプチドと、薬学的に許容し得る担体、希釈剤又は賦形剤とを含むか、それらから本質的になるか又はそれらからなる医薬組成物も提供する。
【0049】
別の態様では、本発明は、活性成分としての本発明のペプチドと、薬学的に許容し得る希釈剤、賦形剤又は担体とを含む、個人における血栓塞栓状態を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。一実施形態では、この組成物中に存在する唯一の活性成分は、本発明のペプチドである。
【0050】
別の態様では、本発明は、主成分としての本発明のペプチドと、薬学的に許容し得る希釈剤、賦形剤又は担体とを含む、個人における血栓塞栓状態を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。一実施形態では、この組成物中に存在する唯一の活性成分は、本発明のペプチドである。
【0051】
上に記載された本発明のいずれかの方法、使用又は組成物において、組成物中に存在する唯一の活性成分は、本発明のペプチドである。
【0052】
代わりに、上に記載された本発明のいずれかの方法、使用又は組成物において、組成物は、好ましくは、rtPA療法、血小板阻害剤又はその組み合わせから選択されるさらなる活性成分を任意選択的に含むことができる。
【0053】
上に記載された本発明のいずれかの方法、使用又は組成物において、本発明のペプチドは、1種以上の活性物質と組み合わせて投与することができる。好ましくは、1種以上の活性物質は、rtPA療法、血小板阻害剤又はその組み合わせから選択される。本発明のペプチド及び活性物質の投与には、同時、逐次及び/又は個別(即時若しくは長時間遅延)投与が含まれ得る。逐次及び/又は個別投与は、任意の順序であり得る。例えば、本発明のペプチドは、活性物質の投与前又は後に個人に投与することができる。好ましくは、活性物質がrtPA療法である場合、ペプチドは、活性物質の投与後に投与される。
【0054】
本明細書に記載された本発明のいずれかの方法又は使用において、本発明のペプチドは、非経口的に、好ましくは静脈内に投与することができる。
【0055】
別の態様では、本発明は、本発明の方法における使用のためのキット又は使用される場合には本発明の方法におけるキットであって、
- 本発明のペプチド;及び任意選択的に、
- 本発明の方法における本発明のペプチドの使用について説明する書面による説明書
を含むか、それらから本質的になるか又はそれらからなるキットも提供する。
【0056】
本明細書で使用する場合、文脈によって別途必要とされる場合を除いて、「含む(comprise)」という用語並びにこの用語の変化形、例えば「含んでいる」、「含む(comprises)」及び「含まれる」は、さらなる添加剤、構成成分、整数又はステップを排除することを意図しない。
【0057】
本発明のさらなる態様及び先行する段落に記載された態様のさらなる実施形態は、例として与えられる以下の説明から且つ添付の図面を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】配列番号1(MDL-2)同族体の異なる具合に硫酸化されたペプチドによるヒトトロンビンの阻害;Un(硫酸化されていない)、Y32(Y32で硫酸化されている)、Y35(Y35で硫酸化されている)、DS(Y32とY35で硫酸化されている)。(A)生データ;(B)阻害定数(Ki)の表。
図2】配列番号2(MDL-1)同族体の異なる具合に硫酸化されたペプチドによるヒトトロンビンの阻害;Un(硫酸化されていない)、Y33(Y33で硫酸化されている)、Y36(Y36で硫酸化されている)、DS(Y33とY36で硫酸化されている)。(A)生データ;(B)阻害定数(Ki)の表。
図3】ヒルジン、アルガトロバン及び配列番号1(MDL-2)の抗凝固及び出血の比較プロファイル:(A)ヒルジン(n=5)、アルガトロバン(n=3)及びMDL-2(n=5)を比較する、マウス血漿の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)用量反応曲線;(B)経時的なインビボでのMDL-2凝固活性;(C)経時的なMDL-2ヒト血漿安定性。
図4】マウス尾出血時間に対するヒルジン、アルガトロバン及び配列番号1(MDL-2)の影響。
図5】(A)実験的血栓溶解-rtPA/抗凝固剤の組み合わせ及び血管再開通の概略図。シャム対照マウス(損傷されていない血管)から切除された頸動脈(B)又は頸動脈閉塞の10分(C~D)又は1時間後(E)に切除された頸動脈にCarstairの組織染色を実施した。染色により、血小板(青色/紫色)、フィブリン(深紅色/紫色)及び赤血球(黄色/橙色)(5μmの輪切り、パラフィン包埋組織)が明らかになる。血管壁のコラーゲンは、血栓の周囲の青色で示される。
図6】rtPA/抗凝固剤組み合わせ及び血管再開通:(A)治療なし;(B)rtPA(10mg/kg);(C)rtPA(10mg/kg)とヒルジン(1mg/kg);(D)rtPA(10mg/kg)及び配列番号1(MDL-2)(10mg/kg)。
図7】精製された配列番号1(MadL2(1~30)セレノエステルの分析用HPLCトレース(A)及び質量スペクトル(B)。
図8】精製された配列番号1(MadL2)DS(31~60)ジセレニドの分析用HPLCトレース(A)及び質量スペクトル(B)。
図9】(A)未精製の連結、(B)未精製の脱セレン化、(C)未精製のネオペンチルエステル脱保護、及び(D)精製された配列番号1(MadL2)DSの分析用HPLCトレース(5分かけて0~50% B、0.1%v/v TFA、λ=214nm)及び質量スペクトル。
図10】配列番号1(MadL2)DS(A)4000~20000m/z及び(B)6600~7400m/zのMALDI-TOF質量スペクトル。
図11】精製された配列番号2(MadL1)(1~28)セレノエステルの分析用HPLCトレース(A)及び質量スペクトル(B)。
図12】精製された配列番号2(MadL1)DS(29~61)ジセレニドの分析用HPLCトレース(A)及び質量スペクトル(B)。
図13】(A)未精製の連結、(B)未精製の脱セレン化、(C)未精製のネオペンチルエステル脱保護、及び(D)精製された配列番号2(MadL1)DSの分析用HPLCトレース(30分かけて0~50% B、0.1%v/v TFA、λ=214nm)及び質量スペクトル。
図14】配列番号2(MadL1)DS(A)4000~22000m/z及び(B)6800~7300m/zのMALDI-TOF質量スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本明細書において開示及び定義される本発明は、言及された又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の2つ以上の他のすべての組み合わせに拡大されることが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせのすべてが本発明の種々の代替態様を構成する。
【0060】
ここで、本発明のある種の実施形態に関して詳細に言及する。本発明を実施形態と併用して説明するが、その目的は、本発明をこれらの実施形態に限定することではないことが理解されるであろう。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれ得るすべての代替形態、改変形態及び均等物を包含することが意図される。
【0061】
本明細書に開示されるのは、トロンビンを阻害するペプチドである。本発明者らは、驚くべきことに、本明細書に開示されるトロンビン阻害剤ペプチドは、他の公知のトロンビン阻害剤と比較して実質的な失血を誘発せず、これによりトロンビンの生成及び/又は作用と関連する状態を予防するか、治療するか又はその進行を遅らせるのに有用となることを発見した。例えば、本発明のトロンビン阻害剤ペプチドは、血栓塞栓状態を予防するか、治療するか又はその進行を遅らせるのに有用である。特に好ましい実施形態では、血栓塞栓状態は、脳卒中である。本発明のトロンビン阻害剤ペプチドは、特にrtPA療法、任意選択的にさらに血小板阻害剤と組み合わされる場合、脳卒中の治療に有用であり得る。
【0062】
血餅結合トロンビンによるフィブリン形成を阻害するために、これらのトロンビン阻害剤ペプチドを利用し、それによりrtPA療法に伴う再開通に関する問題のいくつかに対処することができることが提案される。トロンビン阻害剤ペプチドは、トロンビン活性部位及び/又はトロンビンエキソサイトに結合して機能を遮断する他のペプチドの結合親和性及び/又は機能を改変するために使用することもできる。
【0063】
全般
本明細書全体を通して、他に特に記述されない限り又は文脈上そうではないことが必要とされる場合を除いて、単一のステップ、物質組成、ステップの群又は物質組成の群に対する指示物は、1つ及び複数(すなわち1つ以上)のこれらのステップ、物質組成、ステップの群又は物質組成の群を包含すると解釈されるものとする。したがって、本明細書で使用する場合、文脈によって他に明確に指示されない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」には、複数の態様が含まれ、逆も同様である。例えば、「1つの(a)」に対する指示物は、単一及び2つ以上を含み;「1つの(an)」に対する指示物は、単一及び2つ以上を含み;「その」に対する指示物は、単一及び2つ以上を含むなどである。
【0064】
当業者は、本発明について、具体的に記載されたもの以外の変更形態及び改変形態が可能であることを理解するであろう。本発明には、すべてのこうした変更形態及び改変形態が含まれることが理解されるであろう。本発明は、個別に又は集合的に、本明細書で言及されるか又は示されるステップ、特徴、組成物及び化合物のすべて並びに前記ステップ及び特徴のいずれか及びすべての組み合わせ又はいずれか2つ以上も含む。
【0065】
当業者は、本発明の実施に使用できる可能性がある、本明細書に記載されたものと同様の又は均等な多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は、記載された方法及び材料に決して限定されない。
【0066】
本明細書に言及されるすべての特許及び刊行物の全体を参照によって組み込む。
【0067】
本発明は、単に例示のためのみのものである、本明細書に記載された具体例による範囲に限定されるべきではない。機能的に均等な生成物、組成物及び方法は、明らかに本発明の範囲内である。
【0068】
本明細書の本発明のあらゆる実施例又は実施形態は、他に特に記述されない限り、本発明の他のいずれかの実施例又は実施形態に必要に応じて変更を加えて適用されると解釈されるものとする。
【0069】
他に特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術及び科学用語は、当技術分野(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学及び生化学分野)の技術者によって共通に理解されるのと同じ意味を有すると解釈されるものとする。
【0070】
「及び/又は」、例えば「X及び/又はY」という用語は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解されるものとし、両方の意味への又は一方の意味への明確な支持を提供すると解釈されるものとする。
【0071】
「約」という用語の使用は、値又はパラメータ自体を含む及び表す。例えば、「約x」は、「x」自体を含む及び表す。いくつかの実施形態では、測定値に関して使用される又は値、単位、定数又は値の範囲を修飾するために使用される場合の「約」という用語は、±10%の変動を指す。例えば、いくつかの実施形態では、「約60」には、54~66が含まれる。
【0072】
定義の選択
「トロンビン」は、フィブリノゲンのフィブリンへの転換を通して止血における中心的役割を有するセリンプロテアーゼである。
【0073】
「トロンビン活性部位」は、フィブリノゲン、フィブリノペプチド、第V因子、第VIII因子、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)、糖タンパク質V、第XI因子、第XIII因子、ADAMTS13、プロテインCを含めた様々な基質を切断する触媒部位である。
【0074】
「トロンビンエキソサイトII」(「ヘパリン結合エキソサイト」としても公知である)は、基質及び補因子結合、具体的にはフィブリノゲン、Gp1bα及びヘパリンに影響を及ぼす、正に帯電した認識表面である。これには、残基R93、R101、R126、K236、K240及びR233が含まれ得る。
【0075】
「トロンビンエキソサイトI」(「フィブリノゲン結合エキソサイト」としても公知である)は、基質及び補因子結合、具体的にはフィブリノゲン、第V因子、第VIII因子、ADAMTS13、第XIII因子、PAR-1、第XI因子及びトロンボモジュリンに影響を及ぼす、正に帯電した認識表面である。これには、残基K36、H71、R73、R75、Y76及びR77が含まれ得る。
【0076】
トロンビンは、トロンビン活性部位並びにエキソサイトI及びIIを含めて、Lane D.et al.2005 Blood J.106:2605-2612に概ね論述されている。
【0077】
「硫酸化されたチロシン残基」、「チロシン-O-硫酸」、「sTyr」及び「TyrSO」は、硫黄含有基の、チロシンのヒドロキシル側鎖への転移から生じる残基である。この残基は、タンパク質チロシン硫酸転移酵素(TPST)の作用により生じることができる。
【0078】
「硫酸化されたチロシン模倣体」は、限定はされないが、スルホン酸チロシン及びジフルオロスルホン酸チロシンを含む、硫酸化されたチロシン残基の模倣体を指す。
【0079】
「トロンビン阻害剤」及び「抗凝固剤」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0080】
「トロンビンを阻害する」という語句は、本発明のペプチドがトロンビン活性を阻害するか又は減少させることを意味することが理解されるであろう。トロンビン活性は、トロンビンがフィブリノゲンをフィブリンに転換する能力を指す。さらに、その活性は、好適な、インビトロの、細胞の又はインビボのアッセイを使用して測定され、また、トロンビン活性は、このペプチドを用いない同じ条件下での同じアッセイでのトロンビン活性と比較して少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、60%、70%、80%又は90%以上阻止又は減少される。
【0081】
「凝固時間」は、一般に、フィブリン血餅の形成に必要とされる時間を指す。典型的には、凝固時間は、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)検査によって評価される。
【0082】
「失血」は、一般に、過剰な出血又は血液流出を指す。微量の血液流出は、臨床的に有意ではない出血を指す。重大な血液流出は、内出血又は個人が血行動態の不安定性を引き起こすのに十分な量の血液を失う場合を指す。失血は、血圧、脈拍数、ヘモグロビンレベル、血液中の尿素レベルを測定すること及び/又は造影によって臨床的に測定することができる。重大な血液流出の指標は、当業者に明らかであろう。失血は、例えば、マウス尾切断から収集された血液の総体積を測定することによって実験的に決定することもでき、指定された観察期間(例えば20分)中に失われた血液の総体積中に存在するヘモグロビン(mg/dL)の測定によって定量化することができる。総ヘモグロビンは、市販品として入手可能なヘモグロビン比色アッセイキット(カタログ番号MAK115;Sigma-Aldrich)によって評価することができる。
【0083】
本明細書で使用する場合、「著しい失血」という語句は、過剰な失血を意味すると理解されるものとし、活性薬剤を用いない同じ条件下での同じアッセイでのヘモグロビンの量と比較してヘモグロビンの量の少なくとも約5倍、10倍、20倍、50倍又はそれを超える増大を意味する。本明細書で使用する場合、「著しい失血を誘発しない」という語句は、活性薬剤を用いない同じ条件下での同じアッセイでのヘモグロビンの量の約5倍、4倍、3倍、2倍又はそれ未満のヘモグロビンの量と理解されるものとする。
【0084】
本明細書で使用する場合、「失血を減少させる」という語句は、個人に投与された場合、著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、ペプチド及び公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて少なくとも約10倍、20倍、50倍、100倍、1000倍又はそれを超えるヘモグロビンの量の減少を意味すると理解することができる。
【0085】
失血を誘発する「公知のトロンビン阻害剤」の例としては、ビタミンKアンタゴニスト(又はクマリン系抗凝固剤)、低分子量ヘパリン(LMWH)、直接トロンビン阻害剤(DTI)又は第Xa因子阻害剤が挙げられる。LMWHには、例えば、ベミパリン、セルトパリン、ダルテパリン、エノキサパリン、ナドロパリン、パルナパリン、レビパリン及びチンザパリンが含まれる。DTIには、例えば、レピルジン、デシルジン、ビバリルジン、アルガトロバン、ダビガトラン及びアンチトロンビンIIIが含まれる。第Xa因子阻害剤には、例えば、アピキサバン、フォンダパリヌクス、リバーロキサバン及びエドキサバンが含まれる。一例では、公知のトロンビン阻害剤は、ヒルジンである。「ヒルジン」は、65個のアミノ酸からなる低分子量ペプチド(7kDa)であり(Dodt et al.,1984 FEBS Lett.,165:180-4)、血液が、エキソサイトI及びトロンビン活性部位への結合によって凝固するのを妨げる(Stone and Hofsteenge,1986 Biochem,25:4622-28)。
【0086】
本明細書で使用する場合、「状態」という用語は、正常な機能の破壊又は妨害を指し、いずれかの特定の状態に限定されるべきではなく、また疾患又は障害を含む。
【0087】
本明細書で使用する場合、「予防すること」、「予防する」又は「予防」という用語には、本発明のペプチドを投与し、それによりある状態の少なくとも1つの症状の発生を停止させるか又は遅らせることが含まれる。この用語は、再発を予防するか又は遅らせるための寛解期における対象の治療も包含する。
【0088】
本明細書で使用する場合、「治療すること」、「治療する」又は「治療」という用語には、本明細書に記載されたペプチドを投与し、それにより特定の状態の少なくとも1つの症状を軽減するか又は取り除くことが含まれる。
【0089】
「治療有効量」という語句は、一般に、(i)特定の疾患、状態又は障害を治療する、(ii)特定の疾患、状態又は障害の1つ以上の症状を減弱するか、寛解させるか又は取り除くか、又は(iii)本明細書に記載された特定の疾患、状態又は障害の1つ以上の症状の開始を遅らせる、本発明の1種以上のペプチドの量を指す。一般に、治療有効量は、インビトロ凝固時間を治療指標に応じて2~3倍又はそれを超えて延長させるのに十分である、トロンビン産生を減少させるか又はトロンビン活性を直接阻害するのに有効な量である。
【0090】
本明細書で使用する場合、「個人」という用語は、ヒトを含めたあらゆる動物、例えば哺乳類を意味すると解釈されるものとする。例示的な個人としては、限定はされないが、ヒト及び非ヒト霊長類が挙げられる。例えば、個人は、ヒトである。本発明は、ヒトにおける適用が特に見いだされるが、獣医学的治療目的でも有用である。本発明は、飼育動物又は家畜、例えばウシ、ヒツジ、ウマ及び家禽に;伴侶動物、例えばネコ及びイヌに;及び動物園の動物に有用である。
【0091】
本明細書で使用される「ペプチド」は、アミノ酸残基のポリマー並びにアミノ酸残基のポリマーのバリアント及び合成類似体を指す。したがって、この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類似体などの合成の天然に存在しないアミノ酸であるアミノ酸ポリマー並びに天然に存在するアミノ酸ポリマーに適用される。この用語は、アミノ酸の側鎖又はペプチドのN又はC末端に対する修飾を排除しない。
【0092】
本明細書に記載されたトロンビン阻害剤ペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸残基の保存的置換を有することができる。好ましくは、この保存的置換は、ペプチドの全体的な立体構造又は機能を変化させない。好ましくは、保存的置換は、あるアミノ酸の、1つ以上の類似の特性を有する別のものとの置き換えを含む。
【0093】
類似の特性を有するアミノ酸は、当技術分野で周知である。例えば、交換可能であり得る極性/親水性アミノ酸には、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ;交換可能であり得る非極性/疎水性アミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンが含まれ;交換可能であり得る酸性アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ、交換可能であり得る塩基性アミノ酸には、ヒスチジン、リジン及びアルギニンが含まれる。
【0094】
本明細書に記載されたペプチドには、天然ではない又は非天然のアミノ酸を組み込むことができる。他に指定されない限り、いかなるアミノ酸も天然又は天然ではない/非通常であり得る。タンパク質合成中に非天然のアミノ酸及び誘導体を組み込むことの例としては、限定はされないが、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン及び/又はアミノ酸のD異性体の使用が挙げられる。
【0095】
本明細書で使用される「MDL-2」、「MadL-2」及び「マダニン様(madanin-like)2」は、配列番号1に示された通りのアミノ酸配列を指す。
【0096】
本明細書で使用される「MDL-1」、「MadL-1」及び「マダニン様1」は、配列番号2に示された通りのアミノ酸配列を指す。
【0097】
トロンビン阻害剤ペプチド
一実施形態では、配列番号1:
YPESDSAKDDGNQEKEKALLVKVQERSDDGDYDEYDNDETTHTPDPSAPTARPRIREHQA
に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドが提供される。
【0098】
別の実施形態では、配列番号2:
YPERDSAKDGNEEQERALPVNVQERGEVADADYDDYDEEGTTPTVDPTAQTARPRLQGNQS
に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドが提供される。
【0099】
好ましくは、ペプチドは、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列からなる。より好ましくは、ペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなる。
【0100】
ペプチドは、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列の生物学的に活性な断片又はバリアントを含むか、それから本質的になるか又はそれからなり得る。
【0101】
本明細書で使用する場合、「生物学的に活性な断片」は、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列を含むペプチドの生物活性の10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、よりいっそう好ましくは75%、80%、85%、90%又は95%以上を有するそのドメインを含む、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列の部分又は部分配列を表す。こうした活性は、一般にこうした活性を明らかにするのに有用であると当業者によって認識できる標準の試験方法及びバイオアッセイを使用して評価することができる。
【0102】
配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列の断片は、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列の、60個未満、50個未満、40個未満、30個未満、20個未満又は10個未満の連続アミノ酸を構成することができる。配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列の複数の断片も企図される。
【0103】
「ドメイン」(タンパク質の)は、共通の構造的、生理化学的及び機能的特徴(例えば、疎水性、極性、球状若しくはヘリカルドメイン)又は特性(例えば、タンパク質結合ドメイン、例えばエキソサイトII結合ドメイン若しくはトロンビン活性部位ドメイン、受容体結合ドメイン、補因子結合ドメインなど)を共有するタンパク質の部分を意味する。
【0104】
企図されるのは、野生型の配列番号1/配列番号2と比較して、配列番号1(若しくはその断片)又は配列番号2(若しくはその断片)内に1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含む、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列のバリアントでもある。
【0105】
典型的には、タンパク質に関して、「バリアント」タンパク質は、異なるアミノ酸によって置き換えられている1種以上のアミノ酸も有する。あるアミノ酸を、タンパク質の活性の性質を変化させることなく、概ね同様の特性を有する他のアミノ酸に変化させ得ること(すなわち保存的置換)は、十分に理解されている。
【0106】
配列番号1/配列番号2(又はその断片)などの基準配列の1つ以上のアミノ酸残基を、配列番号1/配列番号2(又はその断片)に示されたアミノ酸配列の生物活性を実質的に変化させずに修飾するか若しくは欠失させるか、又は追加の配列を付加することができることも理解されるであろう。こうした活性は、一般にこうした活性を明らかにするのに有用であると当業者によって認識できる標準の試験方法及びバイオアッセイを使用して評価することができる。
【0107】
一実施形態では、タンパク質バリアントは、配列番号1又は配列番号2に記述された基準アミノ酸配列との、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、95%、98%又は99%の配列同一性を共有する。
【0108】
好ましくは、配列同一性は、基準配列の、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%若しくはより好ましくは少なくとも95%、98%又は実質的に完全長にわたって測定される。
【0109】
配列同一性(パーセント)を決定するために、コンピュータによるアルゴリズムの実行(IntelligeneticsによるGeneworksプログラム;Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0,Genetics Computer Group,WI,USAにおける、GAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)又は選択される種々の方法のいずれかによってもたらされる調査及び最良のアラインメント(すなわち比較ウィンドウを通して最も高いパーセンテージの相同性をもたらすこと)により、アミノ酸及び/又はヌクレオチド配列の最適アラインメントを行うことができる。例えばAltschul et al.,Nucl.Acids Res.25:3389-402,1997によって開示されているプログラムのBLASTファミリーも、参考として挙げることができる。
【0110】
配列分析の詳細な論考は、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY Eds.Ausubel et al.(John Wiley&Sons Inc NY,1995-1999)のUnit 19.3において参照することができる。
【0111】
ペプチドは、トロンビンを少なくとも部分的に阻害する。したがって、ペプチドは、rtPA血栓溶解療法の対象の血餅から、血餅結合トロンビンを除去するか又は減少させ、それによりrtPA療法と他の点で関連する減少した再開通の発生を最小限にすることができる。
【0112】
典型的には、ペプチドの少なくとも1つの残基は、硫酸化されたチロシン残基又は硫酸化されたチロシン模倣体残基、好ましくは硫酸化されたチロシン残基である。
【0113】
好ましくは、配列番号1内の第32位のチロシンは、硫酸化されており、第35位のチロシンは、硫酸化されている。
【0114】
別の実施形態では、配列番号1内の第32位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号1内の第35位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0115】
別の実施形態では、配列番号1内の第35位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号1内の第32位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0116】
好ましくは、配列番号2内の第33位のチロシンは、硫酸化されており、第36位のチロシンは、硫酸化されている。
【0117】
別の実施形態では、配列番号2内の第33位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号2内の第36位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0118】
別の実施形態では、配列番号2内の第36位のチロシンは、硫酸化されている。配列番号2内の第33位のチロシンは、硫酸化されていない可能性がある。
【0119】
本明細書の実施例に記載する通り、片方又は両方のチロシン残基の硫酸化は、トロンビン活性の阻害の向上と関連する。
【0120】
ペプチドは、組換え、単離された又は合成のペプチドであり得る。
【0121】
一実施形態では、チロシン残基の硫酸化は、タンパク質チロシン硫酸転移酵素(TPST)を含有する細胞中において、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させることによって達成することができる。より詳細には、無機硫酸塩をアデノシン-5’-ホスホ硫酸(APS)及び3’-ホスホアデノシン-5’-ホスホ硫酸(PAPS)の形態でそれぞれATPスルフリラーゼ及びAPSキナーゼによって活性化させることができる。次いで、活性化された硫酸塩をゴルジ体内でTPSTによってチロシンに転移させることができる。
【0122】
本発明によるペプチド中の硫酸化されたチロシン残基を得るための別の手法は、ペプチドの組換えによる合成中にスルホチロシンがペプチドに組み込まれることを可能にするアンバーコドンサプレッションを含む組換え発現系を利用することである(Liu,CC and Schultz PG,Nature Biotechnology 2006;Italia JS et al Nature Chemical Biology 2020)。
【0123】
本明細書の実施例では、本発明者らは、硫酸化されたペプチドの均一組成物(すなわち1つのみの硫酸化プロファイルを有するペプチドを含有する組成物)の生成を可能にする合成方法を提供する。
【0124】
トロンビン阻害剤融合ペプチド
さらなる実施形態では、本発明は、トロンビン活性の新規の阻害剤の設計、改変及び/又は生成、特にトロンビンによるフィブリノゲン又はフィブリノペプチドの切断を予防するか又は少なくとも最小限にするための阻害剤のために、本明細書に開示されるトロンビン阻害剤ペプチドを利用することに関する。これらのトロンビン阻害剤ペプチドは、エキソサイトIへの結合に対する向上された親和性を有する阻害剤を提供することができる。
【0125】
トロンビン阻害剤融合ペプチドは、式1:
A-B
によって記載することができ、式中、
Aは、配列番号1又は配列番号2に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドであり、上に記載された1つ以上の特性を有し;
Bは、配列番号3:
DFEEIPEEYLQ
又は配列番号4:
DEDYAAIEASLSETF
又は配列番号5:
PFDFEAIPEEYLDDES
に示されたアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドである。
【0126】
好ましくは、Bは、トロンビンのエキソサイトIに結合する。
【0127】
領域Aは、BのN末端に位置し得る。別の実施形態では、Bは、AのN末端に位置する。
【0128】
一実施形態では、A及びBは、直接連結され得る。
【0129】
別の実施形態では、A及びBは、リンカーを含むことができる。式1のトロンビン阻害剤融合ペプチドは、B()をAと連結させる、ペプチド配列(例えば、Gly及びAlaなどの2つ以上のアミノ酸残基を含むペプチド)又は他のポリマー(例えば、ジエチレングリコールリンカー)の形態のリンカーを含むことができる。ペプチド配列の例は、ポリAla又はポリGlyペプチドを含む。リンカーペプチドの長さは、トロンビン上の異なる部位間の分子距離に従って決定することができる。
【0130】
ペプチド合成
上に記載したペプチド及び融合ペプチドは、固相ペプチド合成によって調製することができる。例えば、式1の融合ペプチドは、Aの固相合成、Bの固相合成及びAのBへの連結又は最終ステップにおける代替としてAのリンカーへの連結及びA-リンカー複合体のBへの連結によるAリンカー-B複合体の形成のステップを含む方法によって調製することができる。代わりに、A-Bは、連結を用いない単一固相ペプチド合成によって調製することができる。
【0131】
他の実施形態では、ペプチドは、組換えDNA技術によって合成することができる。この技術で使用される細胞株は、(i)無機硫酸塩の存在下で成長する能力がある、且つ(ii)無機硫酸塩を、生物系、特にチロシン残基の翻訳後修飾を含む系に同化する能力があることが特に好ましい。こうした細胞株は、一般に、1種以上のチロシン-O-硫酸残基の形成を可能にする、ゴルジ体内のタンパク質チロシン硫酸転移酵素を含む。ある種の実施形態では、発現産物は、チロシン硫酸化パターンに関して不均一であり得る。チロシン-硫酸化されたアイソフォームの均一集団は、チロシン-硫酸化された表現型に基づくアイソフォームの区別を可能にするクロマトグラフシステムを含めた様々な分離システム上で発現産物を精製することによって得ることができる。
【0132】
ペプチドの活性のアッセイ
トロンビンへの結合
本明細書に記載されたペプチドを、血液凝固カスケードからのトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、レプチラーゼ及び第Xa因子及び活性化プロテインCを含むプロテアーゼのパネルに対するカウンタースクリーニングにより、トロンビン選択性について調べることができる。阻害剤は、上に記載された通りに蛍光偏光アッセイを使用して、最初に単一の濃度(5μM)でスクリーニングされる。
【0133】
本明細書に記載された阻害剤によるトロンビン認識及び阻害の分子的詳細は、トロンビンとのその複合体の三次元構造を解明することによって決定することができる。簡単に言うと、トロンビン-阻害剤複合体をインビトロで調製し、結晶化条件についての広範なマイクロリットル以下のスケールのスクリーニングにかける。予備的な条件を精緻化し、カスタムグリッドスクリーンを使用して最適化する。凍結保護条件の決定及び最初の試料特性決定を、X線回折計を使用して実施する。高分解能X線回折データを高輝度シンクロトロン源で収集し、得られたモデルにおける適切な詳細度を確実にする。探索モデルとしてのリガンド非結合のヒトトロンビンの座標を使用する分子置換技術によって構造を解明し、コンピュータのプラットフォームを使用して精緻化及び解釈する。これらのデータは、阻害剤の結合機序についての詳細を提供し、トロンビンとの鍵となる相互作用を明らかにする。
【0134】
阻害活性の決定
ペプチドのトロンビン阻害活性を、発色基質としてTos-Gly-Pro-Arg-p-ニトロアニリドを使用して、ヒトα-トロンビンのアミド分解活性の阻害を分光光度的に測定することによって決定することができる。阻害アッセイは、0.2nM酵素、100μM基質及び漸増濃度のペプチドを使用して実施することができる。ペプチドの濃度は、Direct Detect赤外分光計を使用して決定することができる。ペプチドの阻害定数(Ki)は、定常状態速度阻害データをモリソン式に当てはめることにより、強結合モデルに従って決定することができる。反応進行は、マイクロプレートリーダー上において405nmで1~2時間モニタリングすることができる。用量反応曲線を使用して、Ki値を決定することができる。
【0135】
好ましくは、本発明のペプチドは、トロンビン活性を少なくとも部分的に少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、60%、70%、80%又は90%以上阻害する。
【0136】
好ましくは、本発明のペプチドは、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、約200pM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。好ましくは、ペプチドの少なくとも1つの残基が、硫酸化されたチロシン残基である、配列番号1に示された通りのアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドは、約3nM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。より好ましくは、配列番号1内の第32位のチロシンが硫酸化されており、且つ第35位のチロシンが硫酸化されている、配列番号1に示された通りのアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドは、約200pM、好ましくは約160pM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。好ましくは、ペプチドの少なくとも1つの残基が、硫酸化されたチロシン残基である、配列番号2に示された通りのアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドは、約20nM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。より好ましくは、配列番号2内の第33位のチロシンが硫酸化されている、配列番号2に示された通りのアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドは、約4nM未満の阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。より好ましくは、配列番号2内の第33位のチロシンが硫酸化されており、且つ第36位のチロシンが硫酸化されている、配列番号2に示された通りのアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるペプチドは、約2nMの阻害定数Kiでトロンビンを阻害する。
【0137】
抗凝固活性の決定
本明細書に開示されるペプチドの抗凝固活性(トロンビン時間、TT)は、臨床TTアッセイを使用して、インビトロでヒト血漿の凝固を遅らせるその能力を測定することによって決定される。簡単に言うと、健康なドナーからのヒト血漿(800μL)をある濃度範囲のペプチドと混合し、トロンビンの添加によって凝固を開始し、凝固計(coagulometer)を使用して凝固時間を測定する。50nMの濃度で凝固時間を≧30秒に延長するペプチドを活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)についてインビトロ/エクスビボでさらに調べることができる。手短に言うと、C57BL6/Jマウスからのプールされたクエン酸添加された血漿を種々の濃度(0~12μg/mL)のペプチドと共に予備インキュベートする。各血漿試料のaPTTを凝固活性化因子及びCaClの添加後に定量化する。エクスビボアッセイでは、マウスにペプチド(インビトロaPTTから決定された固定濃度)をi.v.注射し、投与の0、15、30、45、60、90及び/又は120分後に全血をクエン酸ナトリウム(約130μL)に収集する。aPTTを、凝固時間を測定するためにモニタリングされるフィブリン産生を用いて、Siemans aPTTキット(アクチンFS及びCaCl溶液)を使用して、単離された血漿に対して定量化する。
【0138】
本明細書に開示されるペプチドの抗凝固活性(aPTT)は、臨床aPTTアッセイ(Siemens Healthineers,Erlangen,Germany)を使用して、インビトロでヒト血漿の凝固を遅らせるその能力を測定することによって決定することができる。ヒト血漿(Stago,Franceからの凍結乾燥粉末)を使用して、ペプチドの用量反応を決定することができる。ヒト血漿(100μL)をある範囲のペプチド(0~1000μg/ml)と混合する。aPTTを、高速作動型濃度(turbodensitometric)検出技術を使用するBFT IIアナライザー(Siemens)により、混合血漿に対して定量化する。
【0139】
凝固時間及び失血の決定
本発明者らは、実施例において、上に記載されたペプチドが、公知の抗凝固剤と比較して、凝固時間の減少及び失血の減少と共に強力なインビボの抗血栓活性を有することを示す。多くの抗血栓薬物は、出血(脳卒中治療法における頭蓋内出血が含まれる)のリスクに起因してその使用が制限されるため、これは、有利である。
【0140】
抗凝固剤療法を受けている患者では、出血リスクが著しく増大するため、失血は、臨床的に重要な問題である。特に、ヒルジンを含めた公知の抗凝固剤によって引き起こされる出血に対して、利用可能な有効な治療は存在しない。したがって、失血を減少させる薬剤の必要性が存在する。
【0141】
本発明者らは、本発明による硫酸化されたポリペプチドが、公知の抗凝固剤ヒルジンと比較して有意に少ない出血を示すという驚くべき効果を実証する。
【0142】
一実施形態では、本発明のペプチドは、インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用して測定された場合、著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、ペプチド及び公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて凝固時間を少なくとも20%減少させる。好ましくは、凝固時間は、公知のトロンビン阻害剤と比較して20%よりも大きく、30%よりも大きく、40%よりも大きく、50%よりも大きく又は60%よりも大きく減少される。好ましくは、公知のトロンビン阻害剤は、ヒルジン又はアルガトロバン、より好ましくはヒルジンである。
【0143】
一実施形態では、本発明のペプチドは、インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用して測定された場合、約4μg/mL超の濃度で約60秒~約200秒の凝固時間を含む。好ましくは、凝固時間は、約60秒~約150秒、より好ましくは約60秒~約100秒である。
【0144】
一実施形態では、本発明のペプチドは、インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用してエクスビボで測定された場合、個人に個人の1kg当たり約1μg~個人の1kg当たり約10mgの量で投与されたときに約60秒~約200秒の凝固時間をもたらす。好ましくは、凝固時間は、約60秒~約150秒、より好ましくは約60秒~約100秒である。ペプチドの量は、少なくとも約1μg/kg、5μg/kg、10μg/kg、20μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、250μg/kg、500μg/kg、750μg/kg、1mg/kg、2mg/kg、5mg/kg又は10mg/kgであり得る。
【0145】
一実施形態では、本発明のペプチドは、著しい失血をもたらさない。好ましくは、ペプチドは、失血を決定する能力を有する本明細書に記載されたいずれかのアッセイを使用して測定された場合に著しい失血をもたらさない。より好ましくは、ペプチドは、個人に投与された場合、著しい失血をもたらす公知のトロンビン阻害剤と比較して、ペプチド及び公知のトロンビン阻害剤のモル当量に基づいて失血を少なくとも10倍減少させる。別の実施形態では、本発明のペプチドは、公知のトロンビン阻害剤と比較して失血を少なくとも20倍、50倍、100倍、1000倍又はそれを超えて減少させる。好ましくは、公知のトロンビン阻害剤は、ヒルジン又はアルガトロバン、より好ましくはヒルジンである。
【0146】
治療の方法
開示されるペプチド及び組成物を、例えば病理学的血栓症が望まれないヒトなどの対象におけるトロンビン活性を阻害するのに十分な抗血栓量でトロンビン活性を阻害するために使用することができる。したがって、本発明のペプチドは、哺乳類における血栓塞栓状態の予防又は治療に有用である。
【0147】
したがって、血栓塞栓状態の予防又は治療を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態を予防又は治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0148】
本発明は、個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させる方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、それを必要とする個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態を治療するか又は血栓塞栓状態の症状の重症度を減少させることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法も提供する。
【0149】
別の態様では、本発明は、個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にするための方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、血栓塞栓状態の症状を経験している個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態の症状の進行を阻害するか又は最小限にすることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法も提供する。
【0150】
したがって、さらなる態様では、本発明は、血栓塞栓状態の重症度の減少を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、それを必要とする個人に投与し、それにより個人における血栓塞栓状態の重症度を減少させるステップを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0151】
本明細書で使用される「血栓塞栓状態」という用語には、心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、末梢動脈閉塞、播種性血管内凝固、心血管及び脳血管血栓症、術後外傷に伴う血栓症、肥満、妊娠、経口避妊薬の副作用、長期の不動及び血液、免疫又はリウマチ性障害に伴う過凝固状態、不安定狭心症、動脈硬化症、バルーンカテーテルでの血管形成術後の血管の再閉塞又は血液透析における血液凝固、人工心臓弁、体外式膜型人工肺又はステント留置が含まれる。
【0152】
血栓塞栓状態の症状は、徴候によって決まる可能性があり、当業者に明らかであろう。脳卒中の症状の例としては、体の片側又は両側の、顔面、腕又は脚の脱力又はしびれ又は麻痺;言語障害;眩暈;平衡障害;視覚障害;頭痛;急性せん妄;認知障害が挙げられる。好ましくは、個人は、血栓塞栓状態の1つ以上の症状、好ましくは血栓塞栓状態の少なくとも2、3又は4つの症状を有すると特定されているか又は有することが疑われている。
【0153】
トロンビンは、凝固プロセスに対するその効果に加えて、多くの細胞(好中球、線維芽細胞、内皮細胞、平滑筋細胞など)を活性化することが示されている。したがって、本発明のペプチドは、成人呼吸促迫症候群、敗血症性ショック、敗血症、炎症反応(限定はされないが、浮腫を含む)、急性又は慢性アテローム性動脈硬化症及び再灌流障害の治療又は予防に有用でもあり得る。
【0154】
別の態様では、本発明は、個人におけるウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にするための方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、ウイルス感染によって引き起こされる炎症を経験している個人に投与し、それにより個人における血餅形成の進行を阻害するか又は最小限にすることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法も提供する。
【0155】
したがって、さらなる態様では、本発明は、ウイルス感染によって引き起こされる炎症に伴う血餅形成の重症度の減少を、それを必要とする個人において行う方法であって、治療有効量の本発明のペプチドを、それを必要とする個人に投与し、それにより個人における血餅形成の重症度を減少させるステップを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる方法を提供する。
【0156】
ウイルスは、好ましくは、コロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、RSウイルス(RSV)、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、デングウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス及びエンテロウイルスから選択される。より好ましくは、ウイルスは、コロナウイルス又はインフルエンザである。よりいっそう好ましくは、ウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、最も好ましくはSARS-CoV-2である。
【0157】
本発明のペプチドは、透析及び手術(冠動脈バイパス手術など)において必要なものなどの体外血液回路における抗凝固剤として使用することもできる。
【0158】
本発明のペプチドは、単独療法として使用することができる。別の実施形態では、本発明のペプチドは、1種以上の血栓溶解剤、1種以上の血小板阻害剤又はその組み合わせと組み合わせて投与することができる。本発明は、承認された適応症に従って処方された用量の又はそれよりも低いペプチドと組み合わせて使用された場合、ある用量の血栓溶解剤及び/又は血小板阻害剤を提供する。
【0159】
上に記載された通り、虚血性脳卒中のためのrtPA療法を受けた患者の少なくとも20~30%は、rtPA療法後に完全な動脈再開通を経験することになり、これらのうちの20~30%は、再閉塞を経験するであろう。人によっては、これが、rtPA療法が、血餅に捕捉されたトロンビン(これは、エキソサイトIIを介して血餅に結合することが分かっている)を曝露し、トロンビンの活性部位が、フィブリノゲン及びフィブリノペプチドを切断して、血餅を増幅及び構築することを可能にする場合に生じると考える。したがって、本明細書に記載されたトロンビン阻害剤を、rtPA療法を受けている個人に提供して、フィブリン血餅からの血餅結合トロンビンの溶離を可能にし、それによりフィブリン生成及び血餅拡大を別に引き起こすであろう血餅でのトロンビンの量を最小限にすることができる。
【0160】
したがって、一実施形態では、本発明のペプチドを血栓溶解剤、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子(天然又は組換え)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、アニソール化ストレプトキナーゼ・プラスミノーゲン活性化因子複合体(ASPAC)、動物唾液腺プラスミノーゲン活性化因子などと組み合わせて使用することができる。本発明のペプチドは、相乗様式で作用して、成功した血栓溶解療法後の再閉塞を予防する及び/又は血流再開までの時間を減少させることができる。本発明のペプチドは、使用される血栓溶解剤の用量減少も可能にし、したがって出血性副作用の可能性を最小限にすることができる。好ましい実施形態では、血栓溶解剤は、rtPAである。
【0161】
本発明のペプチドは、血小板阻害剤、例えばアスピリン;トリフルサル;カングレロル、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル、チクロピジンを含めたアデノシン二リン酸受容体阻害剤;ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えばシロスタゾール;プロテアーゼ活性化受容体-1アンタゴニスト、例えばボラパクサール;糖タンパク質IIB/IIA阻害剤、例えばアブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン;アデノシン再取り込み阻害剤、例えばジピリダモール;及びトロンボキサン阻害剤と組み合わせて使用することもできる。
【0162】
本発明のペプチドは、血栓溶解剤、好ましくは組織プラスミノーゲン活性化因子及び血小板阻害剤と組み合わせて使用することができる。
【0163】
組成物
医薬組成物は、あらゆる適切な投与経路、好ましくは非経口投与のために製剤化することができる。本明細書で使用される「非経口」という用語には、皮下、皮内、血管内(例えば、静脈内)、筋肉内、脊髄、頭蓋内、くも膜下腔内、眼内、眼周囲、眼窩内、滑液嚢内及び腹腔内注射並びにあらゆる同様の注射又は注入技術が含まれる。典型的には、トロンビン阻害剤ペプチドは、i.v.投与のために適合された組成物の形態で提供される。
【0164】
ペプチドを対象への投与に適した形態(例えば、医薬組成物)に調製するための方法は、当技術分野で公知であり、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990)及びU.S.Pharmacopeia:National Formulary(Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1984)に記載された方法が含まれる。
【0165】
本発明の医薬組成物は、非経口投与、例えば静脈内投与又は器官又は関節の体腔若しくは管腔への投与に特に有用である。投与のための組成物は、一般に、薬学的に許容し得る担体、例えば水性の担体に溶解された本発明のペプチドの溶液を含む。様々な水性の担体、例えば、緩衝生理食塩水などを使用することができる。組成物は、必要に応じて、生理学的条件に近づけるために、薬学的に許容し得る補助物質、例えば、pH調節及び緩衝剤、毒性調節剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有することができる。これらの製剤中の本発明のペプチドの濃度は、広範にわたって変動する可能性があり、選択される特定の投与様式及び患者の必要性に従い、主に流体体積、粘度、体重などに基づいて選択される。例示的な担体としては、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。油混合物及びオレイン酸エチルなどの非水性賦形剤も使用することができる。リポソームを担体として使用することもできる。賦形剤は、等張性及び化学安定性を高める微量の添加剤、例えば緩衝液及び保存剤を含有することができる。
【0166】
一実施形態では、ペプチドは、血栓が形成されている部位に局所的に投与される。
【0167】
別の実施形態では、ペプチドは、血栓に直接投与される。
【0168】
別の実施形態では、ペプチドは、ボーラスとして投与される。ボーラスは、静脈内ボーラス又は定常状態レベルを維持するためのボーラス+注入であり得る。好ましくは、ペプチドは、血栓塞栓状態の最初の確認後、12時間以内、好ましくは3時間、2時間、1時間又はそれよりも短い時間以内に本発明に従って個人に投与される。
【0169】
投与は、好ましくは、好ましくは血栓塞栓症の確認後にできるだけ早くボーラス注入又は静脈内注入によって行われる。
【0170】
投与される量は、個人の年齢、健康及び体重に依存する。
【0171】
典型的には、トロンビン阻害剤ペプチドは、約1μg/kg~10mg/kg(レシピエント)の量で提供される。
【実施例
【0172】
実施例1 - ペプチド合成
配列番号1及び配列番号2のペプチドは、本明細書に記載された通り、ジセレニドセレノエステル連結及び脱セレン化を含む化学合成並びに固相ペプチド合成によって調製することができる。
【0173】
材料
ペプチドグレードのジメチルホルムアミド(DMF)は、Labscanから入手した。Fmoc-固相ペプチド合成(SPPS)のためのアミノ酸、カップリング試薬及び樹脂は、Novabiochem又はGL Biochemから入手した。SPPSは、Torviqから購入した、Teflonフィルターを備え付けたポリプロピレンシリンジ中で実施した。分析用逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、PDA eλ検出器(λ=210~400nm)、Sample Manager FAN及びQuaternary Solvvent Manager(H-class)モジュールを備え付けたWaters Acquity UPLCシステム又は2996フォトダイオードアレイ検出器を備えたWaters System 2695セパレーションモジュール上で実施した。ペプチドは、HPLCシステム上において0.2mL min-1の流速でXBridge BEH 5μm、2.1×150mmワイドポアカラム(C-18)を、又はUPLCシステム上において0.6mL min-1の流速でWaters Acquity UPLC BEH 1.7μm 2.1×50mmカラム(C-18)を使用して分析した。いずれの機器も、示された通りに直線勾配の0.1%トリフルオロ酢酸(HO溶液)(溶媒A)及び0.1%トリフルオロ酢酸(アセトニトリル溶液)(溶媒B)で構成される移動相を使用して作動させた。クロマトグラムの分析は、Empower 3 Proソフトウェア(2010)を使用して行い、純粋なペプチド及びタンパク質の保持時間(Rt min)は、指定された勾配を用いて報告する。
【0174】
分取及びセミ分取逆相HPLCは、214、230、254又は280nmで作動させるWaters 490Eプログラム可能波長検出器を用いて、Rheodyne 7725i注入バルブ(4mLローディングループ)及びWaters 500ポンプを備えたWaters 600E Multisolvent Delivery Systemを使用して実施した。分取逆相HPLCは、7mL min-1の流速でWaters Sunfire C18カラム(5μm、10×250mm)を使用して実施した。セミ分取逆相HPLCは、4mL min-1の流速でWaters XBridge-BEH300ワイドポアC18カラム(5μm、10×250mm)を使用して実施した。遊離の硫酸化されたチロシン(sTyr)残基を有するペプチド及びタンパク質は、示された直線勾配を使用する0.1%ギ酸(水溶液)(溶媒A)及び0.1%ギ酸(アセトニトリル溶液)(溶媒B)の移動相を使用して精製した。指定された直線勾配を使用する他のすべての場合において、0.1%トリフルオロ酢酸(水溶液)(溶媒A)及び0.1%トリフルオロ酢酸(アセトニトリル溶液)(溶媒B)の移動相を使用した。凍結乾燥後、ペプチドをクロマトグラフィー溶離液に応じたTFA又はギ酸塩として単離した。
【0175】
LC-MSは、他に記述がない限りポジティブモードで作動させるShimadzu 2020質量分析計(ESI)に連結させた、LC-M20Aポンプ及びSPD-20A UV/Vis検出器からなるShimadzu LC-MS 2020機器上又はSPD-M30Aダイオードアレイ検出器以外にはLC-MSシステムと同じモジュールを備え付けたShimadzu UPLC-MS上で実施した。分離は、LC-MSシステム上において、0.2mL min-1の流速で作動させる、Waters Sunfire 5μm、2.1×150mmカラム(C-18)又はワイドポアの均等物で実施した。UPLC-MSシステム上での分離は、0.6mL min-1の流速でWaters Acquity UPLC BEH 1.7μm 2.1×50mmカラム(C-8)を使用して実施した。分離は、0.1%ギ酸(水溶液)(溶媒A)及び0.1%ギ酸(アセトニトリル溶液)(溶媒B)の移動相並びにLC-MSシステムでは30分かけて0~50% B及びUPLC-MSシステムでは8分かけて0~50% Bの直線勾配を使用して実施した。
【0176】
低分解能質量スペクトルは、示された通りにポジティブ又はネガティブモードで作動させるShimadzu 2020質量分析計(ESI)で記録した。低分解能MALDI-TOF質量スペクトルは、TFAを含まない10mg/mLシナピン酸(水溶液/アセトニトリル溶液(1:1 v/v))のマトリックスを使用して、リニアモードで作動させるBruker Autoflex(商標)Speed MALDI-TOF質量分析計で記録した。
【0177】
一般ペプチド合成手順
Fmoc戦略SPPS一般手順(100~200μmolスケール)
塩化2-クロロトリチル樹脂ローディング
塩化2-クロロトリチル樹脂(1.22mmol/gローディング)を乾燥CHCl中で30分間膨潤させ、それに続いてCHCl(10×3mL)で洗浄した。Fmoc-Xaa-OH(0.7mmol/g(樹脂))とiPrNEt(樹脂官能基化に対して4当量)のCHCl溶液(アミノ酸の最終濃度0.125M)をこの樹脂に添加し、これを室温で16時間振盪した。次いで、この樹脂をCHCl(5×3mL)、DMF(5×3mL)及びCHCl(5×3mL)で洗浄した。次いで、この樹脂を、室温での40分間の17:2:1 v/v/v CHCl:MeOH:iPrNEt(5mL)での処理を介してキャップ形成した。次いで、この樹脂を、第1のアミノ酸の推定されるローディングの決定前にCHCl(5×3mL)、DMF(5×3mL)及びCHCl(5×3mL)で再び洗浄した。
【0178】
Rinkアミド樹脂ローディング
Rinkアミド樹脂(0.7mmol/gローディング)を乾燥CHCl中で30分間膨潤させ、それに続いてCHCl(10×3mL)で洗浄した。この樹脂をピペリジン/DMF(1:4 v/v、3mL、2×5分)で処理し、次いでDMF(5×3mL)、CHCl(5×3mL)及びDMF(5×3mL)で洗浄した。Fmoc-Xaa-OH(0.7mmol/g(樹脂))と、PyBOP(樹脂官能基化に対して4当量)と、N-メチル-モルホリン(樹脂官能基化に対して8当量)とをDMF又はNMPに入れた溶液(アミノ酸の最終濃度0.125M)をこの樹脂に添加し、これを室温で2時間振盪した。次いで、この樹脂を、室温での5分間の9:1 v/v ピリジン:AcO(5mL)での処理を介するキャップ形成前にDMF(5×3mL)及びCHCl(5×3mL)で洗浄した。次いで、この樹脂を、第1のアミノ酸の推定されるローディングの決定前にCHCl(5×3mL)、DMF(5×3mL)及びCHCl(5×3mL)で再び洗浄した。
【0179】
第1のアミノ酸のローディング推定
この樹脂をピペリジン/DMF(1:4 v/v、3mL、2×5分)で処理し、次いでDMF(5×3mL)、CHCl(5×3mL)及びDMF(5×3mL)で洗浄した。次いで、合わせた脱保護溶液を新しいピペリジン/DMF(1:4 v/v)で10mLにした。この溶液を新しいピペリジン/DMF(1:4 v/v)で50~100倍希釈し、ピペリジン-フルベン付加物のUV吸光度を測定して(λ=301nm、ε=7800M-1cm-1)、樹脂にロードされたアミノ酸の量を推定した。
【0180】
反復的SPPSを介するペプチド組み立て
ペプチドを0.05~0.2mmolスケールで段階的Fmoc-SPPSによって組み立てた。各アミノ酸(4当量)のカップリングを、PyBOP(4当量)及びNMM(8当量)(DMF中)(0.1M)を使用して、室温で1時間かけて達成した。他に指定されない限り、すべてのステップ後、0.3M無水酢酸及び0.3M iPrNEt(DMF中)を室温で3分間使用するキャップ形成ステップを導入した。Fmoc-脱保護ステップを室温での20%v/vピペリジン(DMF中)での処理(2×5分)によって実施した。それぞれのカップリング、キャップ形成又は脱保護ステップ後、樹脂をDMF(5×3mL)、CHCl(5×3mL)及びDMF(5×3mL)で洗浄した。
【0181】
Fmoc-Tyr[SO-CHC(CH]-OHのカップリング
アミノ酸(2.0当量)、DIC(2.0当量)及びHOAt(2.0当量)の、DMF(0.1M)溶液を樹脂に添加し、室温で16時間振盪した。次いで、この樹脂をDMF(5×3mL)、CHCl(5×3mL)及びDMF(5×3mL)で洗浄し、キャップ形成ステップを上に記載された通りに実施した。次いで、反復的Fmoc-SPPSを使用して、所望される断片の合成を完了した。
【0182】
Boc-Asp(SePMB)-OH又はBoc-Sec(PMB)-OHのカップリング
アミノ酸(1.5当量)、DIC(1.5当量)及びHOAt(1.5当量)の、DMF(0.05M)溶液を樹脂に添加し、室温で16時間振盪した。次いで、この樹脂をDMF(5×3mL)、CHCl(5×3mL)及びDMF(5×3mL)で洗浄した。
【0183】
反復的完全自動マイクロ波アシストSPPSを介するペプチド組み立て
ペプチドを、0.1~0.2mmolスケールで作動させるProtein Technologies Symphonyペプチド合成装置で段階的マイクロ波アシストFmoc-SPPSによって組み立てた。Fmoc保護されたアミノ酸(0.3M溶液(DMF中))を入れる活性化を、最初の樹脂ローディングよりも4当量過剰で0.3M Oxyma(DMF中)/0.3M DIC(DMF中)(1:1:1のモル比)を使用して実施した。カップリングステップは、25℃で45分間実施した。他に指定されない限り、各カップリングステップ後にキャップ形成ステップを導入し、0.3M無水酢酸/0.3M iPrNEt溶液(DMF中)(1×3分)での処理によって実施した。Fmoc-脱保護ステップを室温での20%v/vピペリジンのDMF溶液での処理(2×3分)によって実施した。それぞれのカップリング、キャップ形成又は脱保護ステップ後、樹脂をDMF(4×30秒)で洗浄した。ペプチド鎖が完全に組み立てられたら、樹脂をCHCl(5×30秒)で洗浄し、窒素流下で穏やかに乾燥させた。
【0184】
樹脂からの切断
完全に脱保護されたペプチド
樹脂に結合されたペプチドをTFA:iPrSiH:水の氷冷混合物(90:5:5 v/v/v、5mL)で処理し、室温で2時間振盪させた。この時点で樹脂を濾過し、新しい切断カクテルで洗浄した。合わせた切断溶液を、以下に記載される通りに後処理した。
【0185】
側鎖保護されたペプチド
樹脂をCHCl(5×3mL)で洗浄し、その後、HFIP/CHCl(3:7 v/v、4mL)の溶液で処理し、室温で40分間、振盪した。樹脂を濾過し、CHCl(3×3mL)で洗浄した。合わせた切断溶液及び洗浄液を窒素流下で濃縮して、未精製の側鎖保護された生成物をもたらした。
【0186】
液相セレノエステル化
完全に側鎖保護されたペプチドの乾燥DMF溶液(20mM)をアルゴン雰囲気中、-30℃において4~5時間、ジフェニルジセレニド(10当量)及びトリブチルホスフィン(10当量)で処理した。次いで、この溶液を窒素流下で濃縮し、完全に脱保護されたペプチドについて記載された酸性の脱保護条件にかけた。
【0187】
後処理及び精製
氷冷ジエチルエーテル(30mL)を、濃縮された切断溶液に滴下して、未精製のペプチドを沈殿させた。次いで、この沈殿を、遠心分離を介して収集し、さらなるジエチルエーテルで洗浄して、残存するあらゆるスカベンジャーを除去した。残留ジエチルエーテルを穏やかな窒素流下で除去し、0.1%v/v TFA水性緩衝液に溶解した(必要に応じて溶解を促進するためにMeCNの最小限の添加を行った)。未精製のペプチドをLC-MS(ESI)によって分析し、RP-HPLCによって精製した。
【0188】
樹脂上でのBoc保護、アリル脱保護及びセレノエステル化
配列の合成が完了した後、Fmoc脱保護を、上に記載された通りに実施した。次いで、樹脂(10~90μmol)を室温で4時間、Boc無水物(2当量、4~40mg)及びピリジン(2当量、2~14.5μL)(DMF中)(0.01~0.03M)で処理した。次いで、樹脂を上述の通りに洗浄し、室温で1時間、Pd(PPh(0.9当量、10~100mg)及びフェニルシラン(40当量、50~450μL)(DCM中)(0.01~0.03M)で処理した。次いで、この手順を1回繰り返し、樹脂を上述の通りに洗浄した。最後に、樹脂を0℃で3時間、DPDS(30当量、90~850mg)及びBuP(30当量、75~675μL)(DMF中)(0.01~0.03M)で処理した。全体の切断条件にかける前に、上に記載された通りに再び樹脂を洗浄した。
【0189】
Ct断片のPMB脱保護及び精製
未精製のC末端断片をTFA:緩衝液(6M Gn.HCl、100mM HEPES、pH4~5):DMSOの12:5:3 v/v/v混合物に溶解し(7mg/mL)、室温で1~4時間撹拌させておき、その後、RP-HPLCによる精製前に水で希釈した。
【0190】
ワンポット連結-脱セレン化の一般的プロトコル
ペプチドジセレニド二量体(1.0当量)を連結緩衝液(6M Gn.HCl、100mM NaHPO、pH6.3に調節されたもの)に入れた5mM溶液を適切なペプチドセレノエステル(2.0~3.0当量)に添加した。得られた溶液を1M KOHで慎重にpH6.2~7.5に再調節し、この反応物を25℃で20分間インキュベートした。相当する/対応する連結生成物に完全に転換したら(UPLC-MSモニタリングにより判断される)、TCEP(500mM)とジチオスレイトール(50mM)を緩衝液(6M Gn.HCl、100mM NaHPO、pH4~5)に入れた溶液を添加して、最終の250mM濃度のTCEP、25mM濃度のジチオスレイトール及びペプチドジセレニド二量体出発物質については2.5mMの最終濃度を与えた。次いで、この反応物を25℃で10分間インキュベートした。UPLC-MS分析により、脱セレン化された生成物への転換の完了が示された後、反応混合物を37℃で6時間インキュベートして、ネオペンチル基を除去した。次いで、連結混合物を希釈し、RP-HPLCによって精製した。
【0191】
実施例1A:ジセレニド-セレノエステル連結(DSL)及び脱セレン化を介する配列番号1の合成
配列番号1(マダニン様2)断片合成
【化1】
MadL2(1~30)セレノエステルを、Boc保護されたアミノ酸としてカップリングされるN末端アミノ酸を用いて、塩化2-クロロトリチル樹脂(100μmol)上において、自動合成と手動合成の組み合わせによるFmoc戦略SPPSに従って調製した。樹脂に結合されたペプチド断片が完成したら、一般手順に概説した通り、HFIPによって媒介される切断及びジフェニルジセレニド(DPDS)(927mg、30当量)を用いる液相セレノエステル化を完了した。すべての酸不安定な保護基の除去を、未精製のペプチドセレノエステルの、TFA/iPrSiH/HO(90:5:5 v/v/v、4mL)の溶液における室温での2時間の処理を介して達成した。次いで、この脱保護溶液を窒素流下で濃縮し、氷冷ジエチルエーテルから未精製のセレノエステルを沈殿させた。分取RP-HPLC(40分かけて0~30% B、0.1%v/v TFA)による未精製のペプチドの精製により、凍結乾燥後にふわふわした白色固体としてMadL2(1~30)セレノエステルがもたらされた(27.88mg、収率7.98%)。
【0192】
【化2】
MadL2 DS(31~60)ジセレニドを塩化2-クロロトリチル樹脂(50μmol)上において、自動合成と手動合成の組み合わせによるFmoc戦略SPPSに従って調製した。酸不安定な保護基のすべての除去を、未精製のペプチドの、TFA/iPrSiH/HO(90:5:5 v/v/v、4mL)の溶液における室温での2時間の処理を介して達成した。次いで、この脱保護溶液を窒素流下で濃縮し、氷冷ジエチルエーテルから未精製のペプチドを沈殿させた。次いで、PMB基を、上に記載された通りに除去した。分取RP-HPLC(40分かけて0~50% B、0.1%v/v TFA)による未精製のペプチドの精製により、凍結乾燥後にふわふわした白色固体としてMadL2 DS(31~60)ジセレニドがもたらされた(4.36mg、収率2.24%)。
【0193】
配列番号1(MadL2)DS
DSL-脱セレン化を介する配列番号1(MadL2)DSの合成スキーム
【化3】
MadL2(1~30)セレノエステル(2.7mg、0.77μmol)及びMadL2 DS(31~60)ジセレニド(2.0mg、0.52μmol)のワンポットペプチド連結、それに続くインサイチュの脱セレン化を、緩衝液体積の10%をDMFと置き換える一般手順に従って実施した。分取HPLC(40分かけて0~40% B、0.1%v/vギ酸)を介する精製、それに続く凍結乾燥により、白色固体として最終のタンパク質MadL2 DSがもたらされた(1.99mg、55%)。分析用HPLC(精製された最終生成物):Rt 3.84min(5分かけて0~50% B、0.1%v/v TFA、λ=214nm);質量計算値[M+4H]4+:1747.5[M+5H]5+:1398.2[M+6H]6+:1165.4、[M+7H]7+:999.0、[M+8H]8+:874.3、[M+9H]9+:777.2質量実測値(ESI)1748.9[M+4H]4+、1399.2[M+5H]5+、1166.2[M+6H]6+、999.8[M+7H]7+、874.9[M+8H]8+、777.9[M+9H]9+。高分解能(ESI+):C28543785117に対する計算値:[M+8H]8+、874.89037。実測値:874.88897[M+8H]8+。差:1.6ppm。
【0194】
実施例1B:ジセレニド-セレノエステル連結(DSL)及び脱セレン化を介する配列番号2の合成
配列番号2(マダニン様1)断片合成
【化4】
MadL1(1~28)セレノエステルをFmoc-Val-OHの塩化2-クロロトリチル樹脂(62.5μmol)へのローディングによって調製し、Boc保護されたアミノ酸としてカップリングされるN末端アミノ酸を用いて、自動合成と手動合成の組み合わせにより、Fmoc戦略SPPSを介して伸長した。樹脂に結合されたペプチド断片が完成したら、一般手順に概説した通り、HFIPによって媒介される切断及びジフェニルジセレニド(DPDS)(590mg、30当量)を用いる液相セレノエステル化を完了した。酸不安定な保護基のすべての除去を、未精製のペプチドセレノエステルの、TFA/iPrSiH/HO(90:5:5 v/v/v、4mL)の溶液における室温での2時間の処理を介して達成した。次いで、この脱保護溶液を窒素流下で濃縮し、氷冷ジエチルエーテルから未精製のセレノエステルを沈殿させた。分取RP-HPLC(5分間の0% B、5分かけて0%~15% B、次いで40分かけて15%~35% B、0.1%v/v TFA)による未精製のペプチドの精製により、凍結乾燥後にふわふわした白色固体としてMadL1(1~28)セレノエステルがもたらされた(56mg、収率27%)。
【0195】
【化5】
MadL1 DS(29~61)ジセレニドを塩化2-クロロトリチル樹脂(50μmol)上において、自動合成と手動合成の組み合わせによるFmoc戦略SPPSに従って調製した。酸不安定な保護基のすべての除去を、未精製のペプチドの、TFA/iPrSiH/HO(90:5:5 v/v/v、4mL)の溶液における室温での2時間の処理を介して達成した。次いで、この脱保護溶液を窒素流下で濃縮し、氷冷ジエチルエーテルから未精製のペプチドを沈殿させた。次いで、PMB基を、上に記載された通りに除去した。分取RP-HPLC(5分かけて0%~35% B、5分間の35% B、それに続いて40分かけて35%~55% B、0.1%v/v TFA)による未精製のペプチドの精製により、凍結乾燥後にふわふわした白色固体としてMadL1 DS(29~61)ジセレニドがもたらされた(6.2mg、収率3%)。
【0196】
配列番号2(MadL1)DS
DSL-脱セレン化を介する配列番号2(MadL1)DSの合成スキーム
【化6】
MadL1(1~28)セレノエステル(2.5mg、0.75μmol)及びMadL1 DS(29~61)ジセレニド(2.0mg、0.50μmol)のワンポットペプチド連結、それに続くインサイチュの脱セレン化を一般手順に従って実施した。分取HPLC(5分間の0%、40分かけて0~40% B、0.1%v/vギ酸)を介する精製、それに続く凍結乾燥により、白色固体として最終のタンパク質MadL1 DSがもたらされた(2.1mg、67%)。分析用HPLC(精製された最終生成物):Rt 26.0min(30分かけて0~50% B、0.1%v/v TFA、λ=214nm);質量計算値[M+4H]4+:1740.0[M+5H]5+:1392.2[M+6H]6+:1160.4質量実測値(ESI)1740.3[M+4H]4+、1392.4[M+5H]5+、1160.5[M+6H]6+
【0197】
実施例1C:固相ペプチド合成を介する配列番号1の合成
SPPSを介する単一ビーズ上での配列番号1(MDL2)(1~60)Y32、Y35の合成
【化7】
MadL2(1~60)Y32、Y35は、上述の一般手順に記載した通り、市販品として入手可能なFmoc-Tyr[SOCHC(CH]-OHビルディングブロックを使用してY32及びY35位置(
【化8】
と示される)にネオペンチルで保護された硫酸チロシンを組み込む以下に記載されるプロトコルを使用する、SYROペプチド合成装置上での50℃でのFmoc-SPPSを介する、あらかじめロードされた(100μmolの)Fmoc-Ala-Wangポリスチレン樹脂からのものであった。アスパルチミド(aspartimide)形成を防止するために、Fmoc-Asp(OtBu)-(Dmb)Gly-OHジペプチドも、同じ合成条件を使用して、必要に応じて組み込んだ(
【化9】
と示される)。樹脂支持体からの同時の切断を伴う、すべての酸不安定な保護基の除去を、TFA/iPrSiH/HO(90:5:5 v/v/v、4mL)の溶液における室温での2時間の処理を介して達成した。次いで、この脱保護溶液を窒素流下で濃縮し、氷冷ジエチルエーテルから未精製のペプチドを沈殿させた。分取RP-HPLC(40分かけて0~40% B、0.1%v/v TFA)によるこの未精製のペプチドの精製により、Y32、Y35にネオペンチルで保護されたsTyr残基を有するMadL2(1~60)が凍結乾燥後にふわふわした白色固体としてもたらされた。次いで、ネオペンチルで保護されたペプチドを6M Gn.HCl、0.1M NaHPO、250mM TCEP、25mM DTT(pH5)に溶解して2.5mMの濃度にし、37℃で16時間インキュベートして、ネオペンチル保護基を除去し、それに続いて分取RP-HPLC(40分かけて0~40% B、0.1%v/vギ酸)を行って、凍結乾燥後にふわふわした白色固体としてMadL2(1~60)Y32、Y35をもたらした。収率:40.6mg、5.7%。注:すべての特性決定データは、連結戦略由来の材料について得られたデータと一致していた。
【0198】
Biotage SYRO I自動ペプチド合成装置プロトコル
Fmoc脱保護:樹脂をピペリジン:DMF(2×4分間、20%のものを1.6mL)で処理した。樹脂を濾過し、DMF(4×1.7mL)で洗浄した。
【0199】
タンパク質を構成するアミノ酸のカップリング:Fmoc-AA-OH(0.8mL、0.5M)、DIC(0.8mL、0.5M)及びOxyma(0.8mL、0.55M)をストック溶液(DMF中)から樹脂に分注した。この反応物を50℃に加熱し、30分間混合した。樹脂を濾過し、DMF(4×2.5mL)で洗浄した。
【0200】
キャップ形成:樹脂を、5%無水酢酸及び10% iPr2NEt(DMF中)(0.8mL)を含有するキャップ形成溶液で6分間処理した。樹脂を濾過し、DMF(4×2.5mL)で洗浄した。
【0201】
実施例2 - 生物学的データ
硫酸化された形態の配列番号1及び配列番号2によるトロンビンの阻害
ヒトα-トロンビン(Haematologic Technologies)のアミド分解活性の阻害を、発色基質としてTos-Gly-Pro-Arg-p-ニトロアニリド(Chromozym TH;Roche)を使用して、分光光度的に追跡した。阻害アッセイは、0.2nM酵素、100μM基質及び漸増濃度のペプチドを使用して実施した。各ペプチドの濃度は、Direct Detect赤外分光計(Millipore)を使用して決定した。各ペプチドの阻害定数(Ki)は、定常状態速度阻害データをモリソン式(Williams JW&Morrison JF(1979))に当てはめることにより、強結合モデルに従って決定した。すべての反応は、96ウェルマイクロタイタープレートで50 mM Tris-HCl pH8.0、50mM NaCl、1mg/mL BSA中において37℃で実施した。反応進行は、Synergy2 Multimodeマイクロプレートリーダー(BioTek)上において405nmで1~2時間モニタリングした。用量反応曲線を使用して、Prism 8.0(GraphPad Software)を使用してKi値を決定した。各ペプチドに対して、酵素が存在しない対照反応物と共に2連の反応物を用いる少なくとも2つの独立した実験を実施した。すべての曲線について、適合度パラメータR2は、0.989~0.999であった。
【0202】
本発明者らは、図1に示された通り、配列番号1の硫酸化されたペプチドが、約3nM未満のKでトロンビンを阻害することを実証する。さらに、このペプチドの2重に硫酸化されたバリアントは、ヒトトロンビンの阻害剤として、インビトロで、硫酸化されていない対応物よりも2桁超強力である。
【0203】
本発明者らは、図2に示された通り、配列番号2の硫酸化されたペプチドが、約20nM未満のKでトロンビンを阻害することを実証する。さらに、このペプチドの2重に硫酸化されたバリアントは、ヒトトロンビンの阻害剤として、インビトロで、硫酸化されていない対応物よりも1桁強力である。
【0204】
配列番号1のペプチドの凝固及び出血時間
配列番号1についてのマウス血漿の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPPT)用量反応曲線をヒルジン及びアルガトロバンと比較した。
【0205】
本明細書に開示されるペプチドの抗凝固活性(トロンビン時間、TT)は、臨床TTアッセイを使用して、インビトロでヒト血漿の凝固を遅らせるその能力を測定することによって決定される。簡単に言うと、健康なドナーからのヒト血漿(800μL)をある濃度範囲のペプチドと混合し、トロンビンの添加によって凝固を開始し、凝固計を使用して凝固時間を測定する。50nMの濃度で凝固時間を≧30秒に延長するペプチドを活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)についてインビトロ/エクスビボでさらに調べることができる。手短に言うと、C57BL6/Jマウスからのプールされたクエン酸添加された血漿を種々の濃度(0~12μg/mL)のペプチドと共に予備インキュベートする。各血漿試料のaPTTを凝固活性化因子及びCaClの添加後に定量化する。エクスビボアッセイでは、マウスにペプチド(インビトロaPTTから決定された固定濃度)をi.v.注射し、投与の0、15、30、45、60、90及び/又は120分後に全血をクエン酸ナトリウム(約130μL)に収集する。aPTTを、凝固時間を測定するためにモニタリングされるフィブリン産生を用いて、Siemans aPTTキット(アクチンFS及びCaCl溶液)を使用して、単離された血漿に対して定量化する。
【0206】
本明細書に開示されるペプチドの抗凝固活性(aPTT)は、臨床aPTTアッセイ(Siemens Healthineers,Erlangen,Germany)を使用して、インビトロでヒト血漿の凝固を遅らせるその能力を測定することによって決定することができる。ヒト血漿(Stago,Franceからの凍結乾燥粉末)を使用して、ペプチドの用量反応を決定することができる。ヒト血漿(100μL)をある範囲のペプチド(0~1000μg/ml)と混合する。aPTTを、高速作動型濃度検出技術を使用するBFT IIアナライザー(Siemens)により、混合血漿に対して定量化する。
【0207】
本発明者らは、配列番号1のペプチドが、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイにおけるインビトロでの凝固時間を延長する能力を調べた(図3A)。これらの研究は、ヒルジン及びアルガトロバンが、約12μg/mLを超える濃度において、200秒を超えるAAPTを呈するのに対して、配列番号1は、約4μg/mL~約600μg/mLの濃度において、約60秒~約200秒のAAPTを伴ってより安全な凝固時間範囲内のままであったことを実証している。
【0208】
経時的なインビボでの配列番号1(MDL-2)凝固活性
マウスにMDL-2(10mg/kg)を投与し、示された時間経過にわたる顎下(頬)採血を介して血液を収集した。各試料について、血漿を単離し、aPTTを、本明細書に記載した通り、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイを使用して、インビトロで定量化した。
【0209】
血漿安定性
配列番号1(MDL-2)のペプチドの血漿安定性を、Teufel et al.(Teufel,Bennett et al.2018)によって以前に記載された改変された方法を使用して決定した。陽性対照:臭化プロパンテリン(10mMストック(DMSO中))。
【0210】
MDL-2(5mMストック(0.05M NaOH水溶液中))及び臭化プロパンテリンをヒト血漿(Sigma Aldrichのクエン酸添加されたプールされた血漿)に添加して、200μMの最終濃度にした。MDL-2及び陽性対照を37℃で0、30、60、120又は180分間インキュベートし、その後、3体積の1:1 v/v MeOH:MeCNで急冷した。試料を13,500rpmで5分間遠心分離し、その後、上清の一定分量(50μL)を除去し、逆相UHPLC及び質量分析によって分析した。開始ピーク下の面積(クロマトグラム下の総面積に対して正規化されたもの)を使用して、残存する切断されていないペプチドの量を定量化した。
【0211】
図3Cに示された通り、配列番号1(MDL-2)のペプチドは、最大約180分間、血漿中で安定なままである。
【0212】
失血
失血を、げっ歯類における3mm尾切断(切り落とし(lop))を実施することによって評価して、化合物/薬物投与後の失血を評価した。尾の切り落としは、尾の先端から3mmの標準の切断を使用して実施した(Schoenwaelder et al,2011,Blood)。尾は、あらかじめ温めた滅菌生理食塩水(37℃)に直ちに浸し、切断後30分間、出血停止までの時間及び再出血事象を観察した。血液試料を4,000rpmで15分間遠心分離し、ペレットを室温で少なくとも30分間、2mlのRBC溶解緩衝液に再懸濁した。失血を、ヘモグロビン標準及びCLARIOstarプレートリーダーを使用して得られた測定値を使用して、製造者の指示(カタログ番号MAK115;Sigma-Aldrich)の通りにヘモグロビンアッセイキットを使用して定量化した。
【0213】
図4に示された通り、配列番号1(MDL-2)のペプチドは、10mg/kg又は20mg/kgの濃度において、1mg/kgのヒルジン(約2000mg/dLを超える)及び10mg/kgのアルガトロバン(約2000mg/dLを超える)と比較して有意に減少された失血をもたらす。
【0214】
げっ歯類における実験的な血栓症及び血栓溶解のモデル
血栓症:電気分解傷害を使用して、記載された通りに(Jackson et al,Nature Medicine 2005;Schoenwaelder et al,J Biol Chem,2007)、麻酔下のマウスにおいて、インサイチュで頸動脈の血栓性閉塞をもたらした。頸動脈を通るベースライン血流を、超音波Dopplerフロープローブを使用して測定した。フロープローブを除去し、遠位止血鉗子の配置を介して、血行停止の存在下で血管傷害を与えた(Micro Serrefine Clamp、18055-05、Fine Science Tools,Canada)。組織脱水を防止するために傷害部位を生理食塩水で常に洗い流しながら、病変作成装置(Model 53500、Ugo Basile,Comerio,VA,Italy)を使用して、電流(8mA又は28mA、3分間)の送達を達成した。傷害後、止血鉗子及び電極を除去し、フロープローブを頸動脈に再び取り付けて、残りの実験手順(傷害後60分)についての血流のモニタリングを可能にした。安定な閉塞は、10分間の0ml/分/100gへの血流の減少と定義した。
【0215】
血栓溶解:静脈内血栓溶解は、フロープローブで観察される、安定な血栓性血管閉塞の15分後に開始した。抗凝固剤の非存在又は存在下でHarvard Apparatusシリンジポンプ(カタログ番号704504;Pump Elite 11 I/W Single Syringe Pump、NSW,Australia)を使用して、頸静脈カテーテルを介して、rtPAを投与した(rtPA、10mg/kgボーラス/注入)。頸動脈血流を治療の開始後60分間評価した。静脈内注入の完了時に頸静脈カテーテルを除去し、近位の(心臓に向かう側)留め具を締めて失血を防止した。血栓溶解療法後、LabChartソフトウェア(バージョン7.0、ADInstruments,NSW,Australia)で記録された平均血流を使用して、頸動脈血流の回復を評価した。再開通は、血流の回復によって特定し、安定、不安定、一過性又は回復しないと分類した。回復しないは、再開通事象を伴わない、モニタリングの期間の持続的な閉塞を表し;一過性の血流は、一過性の再開通事象、それに続く再閉塞によって特徴付けられ;完全な血管再閉塞を伴わない平均血流の変動は、不安定な血流と定義され;安定な血流は、平均血流において再閉塞も変動も伴わない血流と特徴付けられた。
【0216】
本発明者らは、配列番号1のペプチドが、実験的血栓溶解アッセイにおいて、rtPA療法と併用して、閉塞された血管を再開通させる能力を調べた。実験的血栓溶解タイムラインの概略図を、図5B~Eに示される、血餅形成を含む典型的な傷害の画像と共に図5Aに示す。図6は、治療なし(A)、rtPA療法単独(B)、ヒルジンと組み合わせたrtPA療法(C)及びMDL-2と組み合わせたrtPA療法(D)で得られた結果を示す。これらの結果は、血管が、治療がない場合及びrtPA療法単独では閉塞されたままであることを示す。MDL-2が存在する場合のrtPA療法は、モル当量に基づいてヒルジンと比較して血流の有意な増大をもたらす。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14-1】
図14-2】
【配列表】
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【国際調査報告】