IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ユニバーシティ オブ バーミンガムの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】多糖組成物及び治療用ゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20230706BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20230706BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230706BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230706BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230706BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230706BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230706BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230706BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230706BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K31/727
A61P27/06
A61P43/00 105
A61K9/06
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576159
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 GB2021051458
(87)【国際公開番号】W WO2021250423
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2008919.9
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597134902
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ バーミンガム
【氏名又は名称原語表記】The University of Birmingham
【住所又は居所原語表記】Edgbaston Birmingham B15 2TT United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハンナ・ボットフィールド
(72)【発明者】
【氏名】リサ・ヒル
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・モークス
(72)【発明者】
【氏名】リアム・グローヴァー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB24
4C076CC10
4C076CC26
4C076EE03G
4C076EE09G
4C076EE23G
4C076EE24G
4C076EE26G
4C076EE30G
4C076EE36G
4C076EE37G
4C076EE43G
4C076FF17
4C076FF35
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086EA27
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA27
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZB21
(57)【要約】
硫酸化多糖及び剪断減粘性流体ゲルを含む薬学的組成物が提供される。硫酸化多糖は、例として、10,000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択されてもよい。剪断減粘性流体ゲルは、ゲラン、アルギン酸塩、カラギーナン、アガロース、キトサン、ペクチン、アガロース、寒天またはゼラチンの群のうちの1つ以上から好適に選択される、マイクロゲル粒子形成ポリマーを含んでもよい。開示される組成物は、緑内障の予防及び/または治療のために使用されてもよい。これらの組成物は、線維症の阻害または低減のために使用されてもよい。本発明はまた、硫酸化多糖の医学的使用、及び剪断減粘性流体ゲルの医学的使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化多糖及び剪断減粘性流体ゲルを含む、薬学的組成物。
【請求項2】
緑内障の予防及び/または治療における使用のための請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記緑内障の治療における局所医薬品としての使用のための請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記緑内障の治療における局所点眼薬としての使用のための請求項2または請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
線維症の阻害または低減による前記緑内障の治療における使用のための請求項2~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
線維症の阻害または低減における使用のための請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記線維症の阻害または低減における局所医薬品としての使用のための請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記硫酸化多糖が、1~3の繰り返し糖単位当たりの平均硫酸エステル数を有する、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記硫酸化多糖が、10,000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記デキストラン硫酸が、1850及び3,500Dの間隔を有する、核磁気共鳴分光法によって測定される数平均分子量Mnを有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記デキストラン硫酸が、2.5~3.0のグルコース単位当たりの平均硫酸エステル数を有する、請求項9または請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記デキストラン硫酸が、少なくとも90%の、前記デキストラン硫酸のグルコース単位におけるC2位の平均硫酸化を有する、請求項9~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記硫酸化多糖が、5~1,000kDaの分子量を有する、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記硫酸化多糖が、8~800kDaの分子量を有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記硫酸化多糖がヘパラン硫酸を含む、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記ヘパラン硫酸が約8kDaの分子量を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記ヘパラン硫酸が、2.4~2.7の二糖単位当たりの平均硫酸エステル数を有する、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項18】
前記硫酸化多糖がフコイダンを含む、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項19】
前記フコイダンが約20kDaの分子量を有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記フコイダンが、1~2の二糖単位当たりの平均硫酸エステル数を有する、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記硫酸化多糖が、15重量%~40重量%のエステル硫酸を含む、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項22】
前記硫酸化多糖が、20重量%~35重量%のエステル硫酸を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記硫酸化多糖が、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、請求項13、14、21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記硫酸化多糖がポリギーナンを含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記ポリギーナンが20~30kDaの分子量を有する、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記硫酸化多糖がフルセラランを含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項27】
前記フルセラランが20~80kDaの分子量を有する、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記硫酸化多糖がカラギーナンを含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項29】
前記カラギーナンが、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン、及びラムダカラギーナンからなる群から選択される、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記カラギーナンがイオタカラギーナンを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記イオタカラギーナンの二糖単位当たりの平均硫酸エステル数が2である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記カラギーナンがカッパカラギーナンを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
前記カッパカラギーナンの二糖単位当たりの平均硫酸エステル数が1である、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記カラギーナンがラムダカラギーナンを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項35】
前記ラムダカラギーナンの二糖単位当たりの平均硫酸エステル数が3である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記剪断減粘性流体ゲルが、ゼロ剪断にさらされるときに0.1Pa.s以上の粘度を有し、前記剪断減粘性流体ゲルが剪断に供されるときに前記粘度が低下する、請求項1~35のいずれかに記載の組成物。
【請求項37】
前記剪断減粘性流体ゲルがゼロ剪断にさらされるときに5Pa.s以上の粘度を有し、前記剪断減粘性流体ゲルが剪断に供されるときに前記粘度が1Pa.sより下に低下する、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記剪断減粘性流体ゲルが、水性媒体中に分散した0.1~10%w/v(0.1~5%w/v、または0.1~2.5%w/vなど)のマイクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性ヒドロゲル組成物を含み、前記ヒドロゲルが剪断にさらされるときに前記剪断減粘性組成物の粘度及び/または弾性率が低下する、請求項1~37のいずれかに記載の組成物。
【請求項39】
前記剪断減粘性ヒドロゲル組成物が、架橋剤として0.5~100mMの一価及び/または多価金属イオン塩をさらに含む、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記剪断減粘性流体ゲルが、ゲラン、アルギン酸塩、カラギーナン、アガロース、キトサン、ペクチン、アガロース、寒天またはゼラチンの群のうちの1つ以上から選択されるマイクロゲル粒子形成ポリマーを含む、請求項1~39のいずれかに記載の組成物。
【請求項41】
前記剪断減粘性流体ゲルがゲランを含む、請求項1~40のいずれかに記載の組成物。
【請求項42】
前記剪断減粘性流体ゲルが約0.9%w/vのゲランを含む、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
前記剪断減粘性流体ゲルが、ポリオール(ポリアルキレングリコールなど)、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン、ポリスチレン及びポリアクリレートのうちの1つ以上から選択される合成マイクロゲル粒子形成ポリマーを含む、請求項1~39のいずれかに記載の組成物。
【請求項44】
前記剪断減粘性流体ゲルが非硫酸化流体ゲルである、請求項1~43のいずれかに記載の組成物。
【請求項45】
前記剪断減粘性流体ゲルのマイクロゲル粒子形成ポリマーが非硫酸化ポリマーである、請求項1~44のいずれかに記載の組成物。
【請求項46】
緑内障の予防及び/または治療において剪断減粘性流体ゲルと組み合わせて使用するための硫酸化多糖。
【請求項47】
線維症の阻害または低減において剪断減粘性流体ゲルと組み合わせて使用するための硫酸化多糖。
【請求項48】
前記硫酸化多糖が請求項8~35のいずれかに定義される通りである、請求項46または47に記載の使用のための硫酸化多糖。
【請求項49】
前記硫酸化多糖が、10,000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、請求項46~48のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
【請求項50】
前記剪断減粘性流体ゲルが、請求項36~45のいずれかに定義される通りである、請求項46~49のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
【請求項51】
前記剪断減粘性流体ゲルがゲランを含む、請求項46~50のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
【請求項52】
緑内障の予防及び/または治療において硫酸化多糖とともに使用するための剪断減粘性流体ゲル。
【請求項53】
線維症の阻害または低減において、硫酸化多糖とともに使用するための剪断減粘性流体ゲル。
【請求項54】
前記剪断減粘性流体ゲルが、請求項36~45のいずれかに定義される通りである、請求項50または51に記載の使用のための剪断減粘性流体ゲル。
【請求項55】
前記剪断減粘性流体ゲルがゲランを含む、請求項52~54のいずれかに記載の使用のための剪断減粘性流体ゲル。
【請求項56】
前記硫酸化多糖が請求項8~35のいずれかに定義される通りである、請求項52~55のいずれかに記載の使用のための剪断減粘性流体ゲル。
【請求項57】
前記硫酸化多糖が、10,000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、請求項52~56のいずれかに記載の使用のための剪断減粘性流体ゲル。
【請求項58】
線維症の阻害または低減における使用のための、ヘパラン硫酸、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、硫酸化多糖。
【請求項59】
線維症の阻害または低減における使用のためのヘパラン硫酸を含む硫酸化多糖。
【請求項60】
線維症の阻害または低減における使用のためのカラギーナンを含む硫酸化多糖。
【請求項61】
局所医薬品としての、請求項58~60のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
【請求項62】
局所点眼薬としての、請求項58~61のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
【請求項63】
緑内障の予防及び/または治療における点眼薬としての使用のためのゲラン剪断減粘性流体ゲル。
【請求項64】
線維症の阻害または低減における使用のためのゲラン剪断減粘性流体ゲル。
【請求項65】
前記剪断減粘性流体ゲルが約0.9%w/vのゲランを含む、請求項63または請求項64に記載の使用のためのゲラン剪断減粘性流体ゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的組成物に関する。これらの組成物は、緑内障の予防及び/または治療のために使用され得る。これらの組成物は、線維症の阻害または低減のために使用され得る。本発明はまた、硫酸化多糖の医学的使用、及び剪断減粘性流体ゲルの医学的使用にも関する。
【0002】
序論
緑内障は、網膜への永久的な損傷のために不可逆的な失明につながる眼の一群の変性疾患である。緑内障を発症する主な危険因子は、眼圧の上昇であり、それ自体は、シュレム管及び/または小柱網の線維症によって引き起こされる眼からの排出の減少の結果である。この状態を治療するために使用される薬物は、眼内の液体の生成を変更することによって行われ、この疾患の根本的な原因である線維症を逆転させることはない。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】剪断ゲル化を受ける様々なNaCl濃度を有するゲラン溶液のフロープロファイルを示すグラフである。プラトーは高温及び低温において見ることができる。より高い温度のプラトーは、そのゾル相にある系であり、より低い温度のプラトーは、剪断と粒子の形成との間の平衡を示し、中間の指数関数的増加はゲル化プロファイル(粒子の形成)を強調する。
図2】PEG中で希釈したゲラン流体ゲルの位相差顕微鏡写真である。スケールバーは100μmを表す。
図3】剪断速度を増加及び減少させるための時間依存データを示す、ゲラン流体ゲル点眼薬のフロープロファイルを示すグラフである。
図4】大規模変形剪断後の時間の関数としてのゲランベースの流体ゲル点眼薬に関する機械的データを示すグラフである。左軸は弾性的に支配された構造(G’>G’’)の回復を示し、一方、右軸は材料相角(45°=ゲル化点)の変化を示す。
図5】単回使用アプリケータから分配されるゲラン流体ゲル点眼薬の写真である(流体ゲルは、可視化目的のために染色されている)。
図6】市販の点眼薬の材料貯蔵弾性率(左パネル)及び粘度(右パネル)を示す。点線は、比較対象としてのゲランベースの点眼薬の値を示す。
図7】流体ゲル点眼剤の適用前(左)及び適用後(右)の眼のOCT画像を示す。
図8】適用後2時間の期間にわたる眼表面上のゲラン流体ゲル層の高さを示すグラフである。データセットは、眼の3つの領域(経鼻的、中心的、及び一時的)から得られる。
図9】90分にわたる低粘度流体(PBS-右手パネル)と比較した流体ゲル点眼薬(左手パネル)のOCT画像である。画像は、ゲランが時間枠全体にわたって保持される一方で、PBSが取り出されることを示す。
図10】種々の流体ゲルマトリックスからのデキストラン(左側パネル)及び化学修飾デキストラン(青色-右側パネル)の累積放出プロファイルを提示する。
図11】様々な濃度の硫酸化デキストラン(ヘパラン硫酸)についてのコラーゲン原線維形成データを示すグラフである。データポイントを結ぶ線は、眼を誘導するためのものであり、点線の黒い線は、EC50濃度を強調する。
図12】非流体ゲル局所製剤中の修飾デキストラン硫酸(ILB)を提供される緑内障の動物モデルにおける眼間圧力の変化を示すグラフである。
図13】注射用製剤中の修飾デキストラン硫酸(ILB)を提供される緑内障の動物モデルにおける眼間圧力の変化を示すグラフである。
図14】局所流体ゲル製剤(本発明の組成物の実験バージョン)中の修飾デキストラン硫酸(ILB)を提供された緑内障の動物モデルにおける眼間圧力の変化を示すグラフである。
図15】ゲラン流体ゲル点眼剤を単独で提供する(すなわち、図14に示される結果を生成するときに修飾されたデキストラン硫酸が存在しない)緑内障の動物モデルにおける眼間圧力の変化を示すグラフである。
図16】硫酸化多糖類カラギーナン及びヘパラン硫酸が、用量依存的様式でコラーゲン線維形成(抗線維活性を示す)を阻害することができることを示すグラフである。
図17】標準的なケア(破線)を表す点眼薬で処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧と、未処置の動物モデル(実線)とを比較するグラフである。
図18】デキストラン硫酸(破線)を含む本発明の例示的な組成物の点眼薬で処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧を、未処置の動物モデル(実線)と比較するグラフである。
図19】フコイダン(破線)を含む本発明の例示的な組成物の点眼薬で処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧を、未処置の動物モデル(実線)と比較するグラフである。
図20】ヘパラン硫酸(破線)を含む本発明の例示的な組成物の点眼薬で処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧を、未処置の動物モデル(実線)と比較するグラフである。
図21】ケアの標準を表す点眼薬(破線)またはデキストラン硫酸(実線)を含む本発明の例示的な組成物の点眼薬のいずれかで処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧を比較するグラフである。
図22】ケアの標準を表す点眼薬(破線)またはフコイダンを含む本発明の例示的な組成物の点眼薬(実線)のいずれかで処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧を比較するグラフである。
図23】ケアの標準を表す点眼薬(破線)またはヘパラン硫酸(実線)を含む本発明の例示的な組成物の点眼薬のいずれかで処置された緑内障の動物モデルにおける眼内圧を比較するグラフである。
【発明の概要】
【0004】
第1の態様において、本発明は、硫酸化多糖及び剪断減粘性流体ゲルを含む、薬学的組成物を提供する。本発明の第1の態様に従う組成物は、緑内障の予防及び/または治療における医学的使用のために使用され得る。本発明の第1の態様に従う組成物は、このような予防及び/または治療を必要とする対象における緑内障の予防及び/または治療方法において使用され得る。本発明の第1の態様に従う組成物は、線維症の阻害または低減における医学的使用のために使用され得る。本発明の第1の態様に従う組成物は、このような阻害または低減を必要とする対象における線維症の阻害または低減方法に使用され得る。
【0005】
第2の態様において、本発明は、緑内障の予防及び/または治療における剪断減粘性流体ゲルと組み合わせた使用のための硫酸化多糖を提供する。好適には、剪断減粘性流体ゲルはゲランを含む。本発明のこの態様はまた、このような予防及び/または治療を必要とする対象における緑内障を予防し及び/または治療する方法を提供し、本方法は、剪断減粘性流体ゲルが提供された対象に硫酸化多糖を提供することを含む。
【0006】
第3の態様において、本発明は、線維症の阻害または低減における剪断減粘性流体ゲルと組み合わせた使用のための硫酸化多糖を提供する。好適には、剪断減粘性流体ゲルはゲランを含む。本発明のこの態様はまた、そのような低減及び/または阻害を必要とする対象において線維症を阻害するかまたは低減する方法も提供し、この方法は、剪断減粘性流体ゲルが提供された対象に硫酸化多糖を提供することを含む。
【0007】
第4の態様において、本発明は、緑内障の予防及び/または治療において硫酸化多糖とともに使用するための剪断減粘性流体ゲルを提供する。好適には、剪断減粘性流体ゲルはゲランを含む。本発明のこの態様はまた、このような予防及び/または治療を必要とする対象において緑内障を予防し及び/または治療する方法を提供し、この方法は、硫酸化多糖が提供された対象に剪断減粘性流体ゲルを提供することを含む。
【0008】
第5の態様において、本発明は、線維症の阻害または低減において硫酸化多糖とともに使用するための剪断減粘性流体ゲルを提供する。好適には、剪断減粘性流体ゲルはゲランを含む。本発明のこの態様はまた、そのような低減及び/または阻害を必要とする対象において線維症を阻害しまたは低減する方法も提供し、この方法は、剪断減粘性流体ゲルを、硫酸化多糖が提供された対象に提供することを含む。
【0009】
第6の態様において、本発明は、線維症の阻害または低減における使用のための、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される硫酸化多糖を提供する。好適には、硫酸化多糖は、ヘパラン硫酸及びカラギーナンからなる群から選択される。好適には、硫酸化多糖はカラギーナンである。好適なカラギーナンは、本明細書の他の箇所に開示されている。本発明のこの態様はまた、それを必要とする対象における線維症を阻害または低減する方法を提供し、この方法は、対象に、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される硫酸化多糖を提供することを含む。
【0010】
第7の態様において、本発明は、緑内障の予防及び/または治療における点眼薬としての使用のためのゲラン剪断減粘性流体ゲルを提供する。点眼薬は、ゲラン剪断減粘性流体ゲル以外の活性治療剤を含んでいなくてもよい。本発明のこの態様はまた、そのような予防及び/または治療を必要とする対象における緑内障を予防及び/または治療する方法も提供し、この方法は、治療有効量のゲラン剪断減粘性流体ゲル点眼薬を対象に提供することを含む。
【0011】
第8の態様において、本発明は、線維症の阻害または低減における使用のためのゲラン剪断減粘性流体ゲルを提供する。流体ゲルは、ゲラン剪断減粘性流体ゲル以外の活性治療剤を含んでいなくてもよい。本発明のこの態様はまた、そのような阻害または低減を必要とする対象における線維症を阻害または低減する方法を提供し、この方法は、治療有効量のゲラン剪断減粘性流体ゲルを対象に提供することを含む。
【0012】
本発明は、硫酸化多糖、特に剪断減粘性流体ゲルと組み合わせて使用される場合、または剪断減粘性流体ゲルと組み合わせて組成物として使用される場合、顕著に緑内障及び線維症を改善することができるという発明者らの知見に大きく基づいている。本発明はまた、特定の態様及び実施形態において、ゲラン剪断減粘性ヒドロゲルが、他の活性治療剤の不在下でさえも緑内障及び線維症を改善することができるという本発明者らの知見に基づいている。
【0013】
本明細書に開示される組成物及び医療的使用は、緑内障を引き起こす線維症を標的化することができ、したがって、眼の排出構造内の線維症を逆転させる潜在能力を有する。このことは、これらが症状を緩和するのみならず、治癒を提供する治療の見込みを提供することを意味する。この種の緑内障の現在の治療は、患者の生涯にわたって維持されなければならない。本明細書に記載される種類の治癒療法は、線維症が逆転するまでのみ患者が治療を必要とすることを意味する。
【0014】
ここで、本発明は、本明細書で使用される特定の用語を定義する以下の段落を参照してさらに説明される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
硫酸化多糖
硫酸化多糖は、本発明の組成物、または本明細書に開示される医学的使用もしくは治療の方法のいずれにおいても、本発明の様々な態様で利用される。
【0016】
好適な硫酸化多糖は、1~3の繰り返し糖単位当たりの平均硫酸エステル数を有し得る。
【0017】
好適な実施形態では、硫酸化多糖は、平均分子量10,000Da以下のデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される。
【0018】
ヘパラン硫酸の場合、二糖単位当たりの平均硫酸エステル数は、2.4~2.7であり得る。
【0019】
フコイダンの場合、繰り返し糖単位はフコース単位である。フコース単位当たりの平均硫酸エステル数は、1~2であり得る。好適には、フコース単位の前の平均硫酸エステル数は、1または2であり得る。
【0020】
カラギーナンまたはヘパラン硫酸の場合、繰り返し糖単位は二糖単位であってもよい。カッパカラギーナンの場合、二糖単位当たりの平均硫酸エステル数は1である。イオタカラギーナンの場合、二糖単位当たりの平均硫酸エステル数は2である。ラムダカラギーナンの場合、二糖単位当たりの平均硫酸エステル数は3である。
【0021】
本発明の様々な態様において使用され得るデキストラン硫酸及び代替の硫酸化多糖のさらなる詳細は、以下に記載される。
【0022】
デキストラン硫酸
文脈が別途必要とする場合を除き、例えば、特定の代替の名称の多糖の場合、本明細書における硫酸化多糖への任意の言及は、10,000Da(10kDa)以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸への言及とみなされ得る。
【0023】
好適なデキストラン硫酸は、この節の他の段落のいずれかに定義されるようなデキストラン硫酸であってもよく、1850及び3,500Daの間隔を有する核磁気共鳴分光法によって測定されるような数平均分子量、Mnを有してもよい。好適には、デキストラン硫酸は、1850及び2,500Daの間隔を有する核磁気共鳴分光法によって測定されるような数平均分子量Mnを有する。好適には、デキストラン硫酸は、1850及び2,300Daの間隔を有する核磁気共鳴分光法によって測定されるような数平均分子量Mnを有する。
【0024】
好適なデキストラン硫酸は、この節の他の段落のいずれかに定義されるようなデキストラン硫酸であり得るが、2.5~3.0のグルコース単位当たりの平均硫酸エステル数を有し得る。好適には、デキストラン硫酸は、2.5~2.8のグルコース単位当たりの平均硫酸エステル数を有する。好適には、デキストラン硫酸は、2.6~2.7のグルコース単位当たりの平均硫酸エステル数を有する。
【0025】
適切なデキストラン硫酸は、この節の他の段落のいずれかに定義されるようなデキストラン硫酸であってもよく、少なくとも90%の、デキストラン硫酸のグルコース単位におけるC2位の平均硫酸化を有してもよい。好適には、デキストラン硫酸は、少なくとも95%の、デキストラン硫酸のグルコース単位におけるC2位の平均硫酸化率を有してもよい。
【0026】
好適なデキストラン硫酸は、この節の他の段落のいずれかに定義されるようなデキストラン硫酸であってもよく、2.2及び2.6の間隔内で、デキストラン硫酸のグルコース単位におけるC2、C3、及びC4位の平均硫酸エステル数を有してもよい。好適には、デキストラン硫酸は、2.3及び2.5の間隔内のデキストラン硫酸のグルコース単位におけるC2、C3、及びC4位に平均硫酸エステル数を有する。
【0027】
好適なデキストラン硫酸は、この節の他の段落のいずれかに定義されるようなデキストラン硫酸であってもよく、4.0及び6.0の間隔内の平均グルコース単位数を有してもよい。好適には、デキストラン硫酸は、4.5及び5.5の間隔内の平均グルコース単位数を有する。好適には、デキストラン硫酸は、5.0及び5.2の間隔内の平均グルコース単位数を有する。
【0028】
好適なデキストラン硫酸は、この節の他の段落のいずれかに定義されるようなデキストラン硫酸であってもよく、3.0%未満のグルコース単位の平均分岐を有してもよい。好適には、デキストラン硫酸は、1.5%未満であるグルコース単位の平均分岐を有する。
【0029】
文脈が別途必要とする場合を除き、本開示における「デキストラン硫酸」への言及は、そのようなデキストラン硫酸の薬学的に許容される塩をも包含するものとみなされるべきである。
【0030】
代替硫酸化多糖類
文脈が別途必要とする場合を除き、例えば、デキストラン硫酸への特定の参照の場合、本明細書中の硫酸化多糖への任意の言及は、必要な生物学的及び治療的有用性を達成することができる任意の硫酸化多糖への言及とみなされ得る。例えば、このような言及は、以下の段落に記載される硫酸化多糖類のいずれかを指すものとみなされ得る。
【0031】
好適な硫酸化多糖は、その分子量を参照して選択され得る。好適な実施形態では、硫酸化多糖は、5~1,000kDaの分子量を有する。好適な実施形態では、硫酸化多糖は、8~800kDaの分子量を有する。
【0032】
好適な実施形態では、硫酸化多糖は、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される。カラギーナンは、さらに、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン、及びラムダカラギーナンからなる群から選択され得る。
【0033】
これらの代替的な硫酸化多糖の分子量は大きく異なることが理解される。ヘパラン硫酸は、約8kDaの分子量を有し得る。フコイダンは、約20kDaの分子量を有し得る。ポリギーナンは、20~30kDaの分子量を有し得る。フルセラランは、20~80kDaの分子量を有し得る。好適なカラギーナンは、100~800kDaの分子量を有し得る。
【0034】
好適な硫酸化多糖は、そのエステル硫酸含有量を参照して選択することができる。好適な硫酸化多糖は、15重量%~40重量%のエステル硫酸エステルを含み得る。好適な硫酸化多糖は、20重量%~35重量%のエステル硫酸エステルを含んでよい。好適な実施形態では、硫酸化多糖は、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択され得る。
【0035】
好適なカラギーナンは、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン、及びラムダカラギーナンからなる群から選択され得る。
【0036】
単なる例示として、カッパカラギーナンは約20重量%のエステル硫酸を含むが、イオタカラギーナンは約32重量%のエステル硫酸を含み、ラムダカラギーナンは約35重量%のエステル硫酸を含む。
【0037】
本発明者らは、ヘパラン硫酸及びカラギーナンからなる群から選択される硫酸化多糖が、線維症の阻害または低減に使用され得ることを、本明細書において初めて開示する。実施例において実証されるように、これらの硫酸化多糖は、用量依存的様式でコラーゲン線維形成を阻害することができる。コラーゲンなどの細胞外マトリックス成分の沈着、及び線維形成などの関連するプロセスは、線維化の開始及び発達に不可欠である。したがって、カラギーナン(カッパカラギーナン及び/またはイオタカラギーナンなど)及びヘパラン硫酸がコラーゲン線維形成を破壊することができるというこの知見は、線維化を阻害または低減するための医学的使用に適していることを示している。
【0038】
本発明のさらなる態様は、線維症の阻害または低減における使用のためのカラギーナンを提供する。カラギーナンは、カッパカラギーナンまたはイオタカラギーナンであってもよい。カラギーナンは、局所的に投与され得る。
【0039】
本発明のなおさらなる態様は、線維症の阻害または低減における使用のためのヘパラン硫酸を提供する。ヘパラン硫酸は、局所的に投与され得る。
【0040】
流体ゲル及びマイクロゲル
「流体ゲル」という用語は、本明細書において、水性媒体内に分散したマイクロゲル粒子の懸濁液を指すために使用され、これは、静止時に固体のような特性を与えるように相互作用するが、大きな変形(例えば、機械的剪断)下で可逆的に流れる。
【0041】
「マイクロゲル」という用語は、本明細書において、ポリマーの微小フィラメントのネットワークから形成されるゲルの微小粒子を指すために使用される。
【0042】
好適な剪断減粘性流体ゲルの特性のさらなる詳細は、本明細書の他の箇所に記載されている。本明細書に開示される種々の剪断減粘性流体ゲルのうち、約0.9%w/vのゲランを含むこのような流体ゲルは、本発明の任意の適切な態様において特に有用であり得るが、本発明者らは、このような流体ゲルが、線維症の予防及び/または治療において、ならびに線維症の阻害または低減において予期せぬ利益を有することを見出した。
【0043】
緑内障の予防及び/または治療
好適な実施形態では、本発明の組成物は、緑内障の予防及び/または治療における使用のためのものである。本発明の他の態様は、緑内障の予防及び/または治療のための医学的使用または治療方法に関する。
【0044】
本開示における緑内障の予防への言及は、予防療法を包含するものとみなされるべきである。そのような予防は、検出可能な緑内障の症状が生じる前に用いられ得ることが理解される。緑内障の予防を必要とする対象は、緑内障に対する遺伝的素因に基づいて、または緑内障の発症リスクの増加を引き起こす他の要因に基づいて、そのように識別され得る。
【0045】
本開示における緑内障の治療への言及は、既存の緑内障を緩和するために有効である任意の療法を包含するものとみなされるべきである。治療は、緑内障の1つ以上の症状の部分的または完全な緩和を生じ得る。対象は、1つ以上のそのような症状の存在に基づいて、緑内障の治療から利益を受ける可能性が高いと特定され得る。
【0046】
実施例の節において実証されるように、本発明の例示的な組成物は、緑内障の実験モデルにおいて眼内圧を著しく低下させることができ、この状態の予防及び/または治療における使用へのそれらの適合性を例証する。
【0047】
さらに、以下でより詳細に考察されるように、本発明の組成物、医学的使用、または治療方法はまた、緑内障の根底にある病理学的プロセス(特に、線維症によって駆動されるもの)に有益に影響を与えることができる。これにより、当技術分野に既知の療法によっては現在達成できない様式での緑内障の治療的治療が可能になる。
【0048】
線維症の阻害または低減
好適な実施形態では、本発明の組成物は、線維症の阻害または低減における使用のためのものである。本発明の他の態様は、線維症の阻害または低減のための医学的使用または治療方法に関する。
【0049】
本開示の目的のために、線維症の阻害は、線維症の開始の予防または進行の遅延(その結果、治療が提供されない場合に生じる線維症の程度と比較して、治療後に生じる線維症の程度が阻害される)を包含するものとみなされるべきである。
【0050】
本開示の目的のために、線維症の低減は、既に生じている線維症の逆転または解消(その結果、治療後の線維症のレベルが、治療前のレベルと比較して低下する)を包含するものとみなされるべきである。
【0051】
線維症の阻害または低減に関する本発明の態様または実施形態は、(本明細書の他の箇所でより詳細に考慮されるように)緑内障の予防及び/または治療を含むがこれらに限定されない広範囲の治療的適用における使用を有する。好適には、阻害または低減される線維症は、緑内障に関連する線維症である。好適には、阻害または低減される線維症は、瘢痕形成と関連付けられる。このような実施形態では、瘢痕形成は、外科的または非外科的創傷の治癒の結果としてであり得る。適切には、予防または治療される線維症は、線維性障害に関連付けられる。
【0052】
線維症は、多くの臨床的文脈において有害な効果をもたらすことが認識されている。例えば、眼の線維症は、視力の喪失、及び失明のリスクに関連付けられ得るが、皮膚における線維症は、例えば、瘢痕形成の結果として、移動性の低下、不快感、及び外観を損なうこと(心理的困難を引き起こす可能性がある)に関連付けられ得る。
【0053】
線維症はまた、外科的処置において合併症を引き起こし、したがって有効性が低下する可能性がある。単なる例として、ステントの外科的挿入(緑内障の治療のためなど)の後に生じる線維症は、ステント内の通路を完全にまたは部分的に閉塞し、したがって、手術を無効にする可能性がある。
【0054】
「線維症の阻害または低減」は、線維症の部分的な阻害または減少、及び線維症の完全な阻害または低減の両方を包含することが理解される。本発明に従って線維症が阻害され得る程度に関する好適な値を以下にさらに記載する。
【0055】
本発明の組成物または医学的使用は、多くの身体部位における線維症または瘢痕形成の阻害または低減において有用であり得る。単なる例として、本発明の組成物または医学的使用は、眼の線維症、皮膚の線維症、筋肉または腱の線維症、神経の線維症、肝臓または肺などの内臓の線維症、または外科的接着もしくは大網接着などの接着の形成の阻害または低減において使用され得る。
【0056】
本発明の組成物の医学的使用または医学的使用によって阻害され得る種類の眼における線維症としては、角膜の線維症、網膜の線維症、眼表面の線維症、及び視神経の中とその周囲の線維症が挙げられる。本発明の組成物または医学的使用は局所使用のために適しているが、局所投与される薬剤は、内部解剖学的構造に効果を及ぼし得ることが理解される。したがって、眼表面に投与される組成物は、眼内線維症を阻害する際に有効であり得る。
【0057】
本発明の組成物の医学的使用によって阻害され得る眼内の線維症は、感染または緑内障に関連する線維症も含み得る。
【0058】
角膜炎はまた、傷害の結果として、または関節リウマチまたはシェーグレン症候群などの自己免疫疾患を含む障害の結果として生じ得る。本発明の組成物及び方法はまた、これらの原因の結果として生じる線維症を阻害する際にも使用され得る。
【0059】
本発明の組成物の医学的使用によって阻害され得る眼における線維症は、ステントの挿入のための手術(例えば、緑内障の治療における)などの手術、及びLASIKまたはLASEK手術などの外科的処置に関連する線維症、ならびに偶発的な損傷に関連する線維症も含み得る。
【0060】
当業者は、線維症の判定及び定量化を可能にする多くの好適な方法論を認識する。これらの方法論はまた、線維症の阻害または低減を判定するために使用されてもよい。したがって、それらを使用して、本発明の組成物の有効な医学的使用を例証し、本明細書に開示される医学的使用または治療の方法における治療有効用量を判定することができる。
【0061】
当業者は、眼の線維症の阻害または減少を評価することができる多くのパラメータが存在することを認識する。これらのいくつか、例えば、筋線維芽細胞またはECM構成要素の誘導などは、眼以外の身体部位にも共通であり、他のものは眼に特異的である。
【0062】
線維症はまた、ECM成分の発現及び沈着にも関連する。沈着したECMの量は、線維症において増加し得、ECMの配置は、損傷のない比較組織において見出されるものとは異なり得る。実施例に提示されたデータは、本発明の組成物を使用した治療が、ECM構成要素の配置が傷ついていない組織の配置により近い組織を生じさせることを例証し、したがって、線維症の阻害または低減におけるこれらの組成物の有用性を例証する。
【0063】
本発明の組成物または医学的使用は、皮膚創傷に関連する線維症の阻害または低減において使用され得る。適切な皮膚創傷は、火傷、切開、切除、擦過傷、慢性創傷、及び刺激に対する身体の反応から生じる創傷からなる群から選択され得る。この後者のカテゴリーの例としては、皮膚が重度に水疱化して脱落することを引き起こす全身化学反応及び/またはアレルギー反応、ならびに皮膚構造及び恒常性を損なうことをもたらす遺伝子関連疾患が挙げられる。これらの反応または疾患は、皮膚の水疱形成、剥離、ならびに(比較的軽微な接触からであっても)創傷のリスク及び重症度の劇的に増加につながる可能性がある。このような疾患の例としては、表皮溶解性大疱瘡(例えば、単純型表皮水疱症、接合部型表皮水疱症、またはジストロフィー型表皮水疱症)及びキンドラー症候群が挙げられる。本発明の組成物または方法は、このような疾患を有する対象における線維症の阻害または低減における使用のために好適である。
【0064】
本発明の組成物は、外科的切開の部位での使用に適しており、そうでなければそのような外科的創傷の治癒に関連し得る線維症を阻害する。
【0065】
本発明の組成物または医学的使用は、好適な対照剤と比較して、少なくとも5%の線維症の阻害または低減を達成することができ得る。例えば、本発明の組成物または医学的使用は、好適な対照剤と比較して、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の阻害または低減を達成することができ得る。本発明の組成物は、好適な対照剤と比較して、線維症の実質的に完全な阻害または低減を達成することができ得る。
【0066】
同様に、線維症を阻害または低減するための、本発明の組成物の医学的使用、またはこのような組成物を使用する医学的使用もしくは治療方法は、好適な対照と比較して、少なくとも5%の阻害または低減を達成し得る。例えば、そのような医学的使用または治療方法は、好適な対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の阻害または低減を達成し得る。本発明の医学的使用または治療方法は、好適な対照と比較して、線維症の実質的に完全な阻害または低減を達成し得る。
【0067】
好適な対照の選択は、当業者によって容易に決定される。単なる例として、本発明の組成物が眼の線維症を阻害する能力を評価するための好適な対照は、認識されている標準的なケア、またはその実験的プロキシによって提供され得る。
【0068】
局所医薬品
好適な実施形態では、本発明の組成物は、局所医薬品としての使用のためのものである。同様に、本発明の医学的使用は、局所医薬品における1つ以上の列挙された治療剤のうちの提供を伴ってもよい。このような局所医薬品は、緑内障の治療に使用され得る。このような局所医薬品は、線維症の阻害または低減に使用され得る。
【0069】
硫酸化多糖の例は、緑内障の治療のために公知であるが、これらの以前の治療的使用は、例えば、皮下または静脈内注射を介した硫酸化多糖の注射を伴っていた。実施例において実証されるように、デキストラン硫酸は、従来の経路、例えば、非流動ゲル点眼薬の形態で局所投与される場合、緑内障の治療において有効ではない。しかしながら、驚くべきことに、本発明者らは、硫酸化多糖が、剪断減粘性流体ゲルを含む薬学的組成物中に組み込まれる場合、その治療効果が顕著に改善されることを見出した。これらの新規組成物は、局所投与された硫酸化多糖の眼内圧を低減する能力を顕著に増加させ、それによって、硫酸化多糖を、緑内障の予防及び/または治療における治療剤としての使用のために好適にする。
【0070】
点眼薬などの局所治療は、皮下または静脈内のいずれにせよ、注射であるよりも、患者にとっては自己投与することがはるかに容易であり、かつ快適であることが理解される。医師などの別の人によって投与された場合でも、局所治療の使用に付随する痛みはより少ない。この腫の容易さ及び快適性の改善は、患者の経験及び生活の質に有益な影響を与えるだけでなく、治療レジメンに伴うコンプライアンスを増加させ、したがって、治療効果を改善する。
【0071】
疑義を避けるために、硫酸化多糖が活性剤である緑内障治療のための以前に開示された組成物は、剪断減粘性流体ゲルを伴う組成物中での、または剪断減粘性流体ゲルと組み合わせての、硫酸化多糖の使用を行っていなかったことが理解される。本発明の組成物中で使用される種類の剪断減粘性流体ゲルは、典型的には、注射用組成物中では利用されない。実際には、剪断減粘性流体ゲルを、本発明の文脈における使用(点眼薬などの局所医薬品として)のために適するものにしている剪断減粘性流体ゲルの特性は、注射用医薬品において望ましくない場合があり得、ここでは、組成物(注射されるとともに剪断を受けなくなる)は、より堅固な稠度をとる。
【0072】
局所点眼薬
好適な実施形態では、緑内障の治療における局所医薬品として使用するための本発明の組成物は、点眼薬として製剤化される。
【0073】
上述したように、本発明者らは、驚くべきことに、硫酸化多糖及び剪断減粘性流体ゲルを含む本発明の組成物が、他の点眼薬製剤によって付与されない治療有効性を提供することを見出した。
【0074】
同様に、ゲランを含む剪断減粘性流体ゲル(例えば、約0.9%w/vの濃度で)は、緑内障の実験モデルにおいて予想外の有効性を示す。
【0075】
本発明の組成物または医学的使用の剪断減粘性流体ゲルは、特に、点眼薬として使用するために適している。特に、剪断減粘性流体ゲルは、ゲルが剪断の適用下にあるとき(点眼薬を通して押し出されるときなど)に液体であるが、次いで、剪断が除去されるときに(例えば、軟質コンタクトレンズのものに類似した)より固体の稠度をとるように製造することができる。したがって、組成物は、点眼薬から分配されたときに液体であり、それが適用される眼の角膜表面に広がることができる。一旦組成物が広がると、組成物をその場で保持する、より堅固な一貫性をとる。好適な実施形態では、このような組成物は、硫酸化多糖の放出のためのデポとして機能することができる。
【0076】
特に有利な製剤では、本発明の点眼剤組成物は、まばたきの間のまぶたの掃引によって組成物の表面がインサイチュで液体化されるように製剤化され得る。本発明の組成物の実施形態では、このような製剤は、経時的に硫酸化多糖のパルス状送達を可能にし、これは、治療を必要とする部位における治療有効量の硫酸化多糖の維持を容易にする。
【0077】
他の箇所に記載されるように、ゲランを含む剪断減粘性流体ゲルは、本発明の組成物、医学的使用、または治療方法に関連する局所点眼薬として特に有用である。そのような用途は、他の治療的活性剤なしで、または他の箇所で論じられているように、硫酸化多糖と組み合わせて、または硫酸化多糖と組み合わせた組成物中であってもよい。
【0078】
線維症の阻害または減少による緑内障の予防及び/または治療
好適な実施形態では、本発明の組成物または本発明の医学的使用は、線維症の阻害または低減による緑内障の予防及び/または治療における使用のためのものである。
【0079】
序論において言及されているように、線維症、特にシュレム管及び/または小柱網の線維症は、緑内障の発症の根底にある。現在の緑内障療法は、この線維症に対処しようとするものではなく、代わりに、(眼内圧などの緑内障の症状を軽減することを目的として)眼内の液体の生成を修正することによって状態を治療する。
【0080】
緑内障の治療における使用のための活性剤としては、以前から硫酸化多糖類が提案されていたが、現在に至るまで緑内障の症状に対処することによってそれらの効果を発揮していると考えられてきた。これとは対照的に、本発明者らは、硫酸化多糖類及び剪断減粘性流体ゲル、またはゲラン剪断減粘性流体ゲルを含む本発明の組成物が、この疾患の発症及び進行に関連する線維症を阻害及び/または低減することによって、緑内障を治療することができることを見出した。
【0081】
以上のことから、線維症の阻害または低減による緑内障の治療のための活性剤としての硫酸化多糖の使用は、以前に示唆されていなかったこれらの治療剤の作用様式を構成することが理解される。同様に、この作用様式は、ゲラン剪断減粘性流体ゲル点眼薬に関連して以前に記載されていない。
【0082】
当業者は、本発明の組成物(例えば、剪断減粘性流体ゲル中に硫酸化多糖を含むもの、またはゲラン剪断減粘性流体ゲル)が、線維症を阻害または低減することによって緑内障を治療することができるという知見が、新たな臨床用途を開くことを認識する。なぜなら、これは、単に眼内圧などのこの疾患に関連する症状を低減することができるのではなく、緑内障の根底にある病態を標的とすることができる薬剤として本発明の組成物を特定するからである。
【0083】
この知見は、新しい治療的文脈の中での使用を可能にすることが認識される。例えば、本発明の組成物または医学的使用は、緑内障に関連する症状の緩和ではなく、緑内障の治癒的治療において利用され得る。
【0084】
剪断減粘性流体ゲル
「剪断減粘性」という用語は、本明細書では、本発明の流体ゲル組成物を定義するために使用される。この用語は、当該技術分野において十分に理解されており、剪断力が流体ゲルに適用されるときに減少する粘度を有する流体ゲル組成物を指す。本発明の剪断減粘性流体ゲル組成物は、(いかなる適用される剪断力も存在しない場合に)「静止」粘度を有し、及び剪断力が適用されたときにより低い粘度を有する。流体ゲル組成物のこの特性は、剪断力が適用されるとき(例えば、本発明の流体ゲル組成物を含むチューブまたはディスペンサーに力を適用することによって)、流体ゲル組成物が流れ、身体に投与されることを可能にする。一旦剪断力の適用下に適用され、適用された剪断力が除去されると、流体ゲル組成物の粘度が増加する。典型的には、本発明の流体ゲル組成物は、ヒドロゲル組成物を投与するための剪断力に供されるとき、1Pa.sより下の粘度を有する。1Pa.s未満の粘度において、流体ゲル組成物は、流動することができる。静止時粘度は、典型的には、1Pa.s超、例えば、2Pa.s超、3Pa.s超、または4Pa.s超である。
【0085】
本発明の組成物の好適な実施形態では、剪断減粘性流体ゲルは、ゼロ剪断にさらされるときに0.1Pa.s以上の粘度を有し、剪断減粘性流体ゲルが剪断にさらされるときに粘度が低下する。
【0086】
好適には、剪断減粘性流体ゲルは、ゼロ剪断に曝露されたときに5Pa.s以上の粘度を有し、剪断減粘性流体ゲルが剪断にさらされるときに、粘度は1Pa.sより下に低下する。
【0087】
好適な組成物において、剪断減粘性流体ゲルは、水性媒体中に分散した0.1~10%w/v(例えば、0.1~5%w/v、または0.1~2.5%w/v)のマイクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性ヒドロゲル組成物を含み、剪断減粘性組成物の粘度及び/または弾性率は、ヒドロゲルが剪断に曝露されるときに低下する。
【0088】
好適な組成物において、剪断減粘性ヒドロゲル組成物は、架橋剤として0.5~100mMの一価及び/または多価金属イオン塩をさらに含む。
【0089】
好適な組成物において、剪断減粘性流体ゲルは、ゲラン、アルギン酸塩、カラギーナン、アガロース、キトサン、ペクチン、アガロース、寒天またはゼラチンの1つ以上の群から選択されるマイクロゲル粒子形成ポリマーを含む。
【0090】
本発明の好適な組成物において、剪断減粘性流体ゲルは、ゲランを含む。好適な例では、剪断減粘性流体ゲルは、約0.9%w/vのゲランを含む。
【0091】
好適な組成物では、剪断減粘性流体ゲルは、ポリオール(ポリアルキレングリコールなど)、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン、ポリスチレン、及びポリアクリレートのうちの1つ以上から選択される合成マイクロゲル粒子形成ポリマーを含む。
【0092】
好適な実施形態では、剪断減粘性流体ゲルは、硫酸化されていない。例えば、好適な組成物では、剪断減粘性流体ゲルは、非硫酸化ポリマーであるマイクロゲル形成ポリマーを含む。好適には、本発明の組成物の剪断減粘性流体ゲル中に存在するマイクロゲル粒子形成ポリマーの全て(または実質的に全て)は、非硫酸化ポリマーであってもよい。
【0093】
本発明者らは、本明細書に記載された様式で硫酸化多糖を送達するための非硫酸化剪断減粘性ゲルの使用が、それ自体での硫酸化多糖によって提供されるものと比較した場合、治療活性の改善の点で驚くべき利点を提供することを見出した。いかなる仮説にも拘束されることを望まないが、本発明者らは、この効果は、治療上有効な硫酸化多糖分子を含む増加した量の水溶液に結合する非硫酸化剪断減粘性ゲルの結果として生じ得るものであり、これにより、これらの分子のより高い局所濃度が、本発明の組成物が提供される体表面に送達されることを可能にすると考えている。
【0094】
薬学的組成物
以下は、硫酸化多糖及び剪断減粘性流体ゲルを含む本発明の薬学的組成物の製剤化のための多数の例示的な方法を提供する。
【0095】
温度によって設定された剪断減粘性流体ゲル中の硫酸化多糖活性剤を含む組成物の調製のための方法論
これらのプロトコルには、活性を追加できる3つの異なる点:「*」、「**」、及び「**」がある。
【0096】
PBS中で安定した活性物質の場合
a.PBS中の活性物質(カラギーナン(イオタ、カッパ、ラムダ);デキストランまたはデキストラン誘導体;ヘパラン硫酸)を調製し、混合(20倍希釈)すると、最終濃度が必要な用量範囲(0.005~0.5%(w/v))内になるようにする。
(この範囲は、イオタ-カラギーナン、カッパ-カラギーナン、及びヘパラン硫酸のEC50値を含む範囲として選択されている)
b.混合容器に脱イオン水90mlを添加する。
c.100ml中の最終濃度が10~200mM(0.2M)になるように、水性金属塩(モノまたは多価カチオン、例えば、NaClまたはCaCl)を5ml添加する。
d.この水溶液に、熱ゲル化バイオポリマー(例えば、ゲラン(低アシル)、カラギーナン(カッパ)、アガロース、寒天)を添加し、100ml中の最終ポリマー濃度が0.5~2%(w/v)であるようにする。
e.系を撹拌して、ポリマーが分散することを可能にする。
f.全てのポリマーが溶解するまで、ポリマー溶液を約90℃に加熱する。
*熱的に安定した活性物質の場合、PBS中の活性物質を5ml添加し、混合させる。
g.混合物を(0.5~5℃.分-1の冷却速度で)40℃に冷却しながら、一定の混合/剪断(100~1500rpm、200~1000s-1)を維持する。
**半熱的に不安定な活性物質の場合、混合/剪断を続けながら、水中に活性物質を5ml添加する。
h.混合/剪断を維持しながら、ゲル化プロファイル全体にわたって混合物を冷却し続ける(10~20℃の範囲の温度まで)。
***熱的に不安定な活性物質の場合は、混合/剪断を続けながら、水中の活性物質を5ml添加する。
i.混合を停止し、保管する。
【0097】
PBS中で不安定な活性物質の場合
a.脱イオン水中の活性物質を調製し、混合(20倍希釈)時に最終濃度が必要な用量範囲内(0.005~0.5%(w/v))になるようにする。
b.混合容器に85mlの脱イオン水を添加する。
c.PBSを5ml添加する。
d.100ml中の最終濃度が10~200mM(0.2M)になるように、水性金属塩(モノまたは多価カチオン、例えば、NaClまたはCaCl)を5ml添加する。
e.水溶液に、熱ゲル化バイオポリマー(例えば、ゲラン(低アシル)、カラギーナン(カッパ)、アガロース、寒天)を添加し、100ml中の最終ポリマー濃度が0.5~2%(w/v)であるようにする。
f.系を撹拌して、ポリマーの分散を可能にする。
g.全てのポリマーが溶解するまで、ポリマー溶液を約70℃に加熱する。
*熱的に安定した活性物質の場合、水に活性物質5mlを加え、混合する。
h.混合物を(0.5~5℃.分-1の冷却速度で)40℃に冷却しながら、一定の混合/剪断(100~1500rpm、200~1000s-1)を維持する。
**半ば熱的に不安定な活性物質の場合、混合/剪断を続けながら、水中に活性物質を5ml添加する。
i.混合/剪断を維持しながら、ゲル化プロファイル(10~20℃の範囲の温度)全体にわたって混合物を冷却し続ける。
***熱的に不安定な活性物質の場合は、混合/剪断を続けながら、水中の活性物質を5ml添加する。
j.混合を停止し、保管する。
【0098】
ラジカルの作用によって設定される、剪断減粘性流体ゲル中の硫酸化多糖活性剤を含む組成物の調製のための方法論
PBS中で安定した活性物質の場合
a.PBS中のラジカルゲル化ポリマー(例えば、PEGDA)を用いて、ポリマー濃度が1~10%の範囲になるようにポリマー溶液を調製する。
b.ポリマー溶液50mlを撹拌容器に添加する。
c.活性物質(カラギーナン(イオタ、カッパ、ラムダ)、デキストランまたはデキストラン誘導体、ヘパラン硫酸)をポリマー溶液に添加し、最終濃度が必要な用量範囲(0.005~0.5%(w/v))内になるようにする。
d.ラジカル形成開始剤(例えば、irgacure1173(UV)、AIBN(熱))を添加して、濃度が0.1~1%の範囲になるようにする。
e.定常的な混合/剪断(100~1500rpm、200~1000s-1)を適用する。
f.ゲル化が完了するまで混合/剪断を維持しながら、ゲル化のための刺激(紫外線、加熱)を加える
g.混合を停止し、保管する。
【0099】
PBS中で不安定な活性物質の場合
a.脱イオン水中のラジカルゲル化ポリマー(例えば、PEGDA)を用いて、ポリマー濃度が1~10%の範囲になるようにポリマー溶液を調製する。
b.ポリマー溶液50mlを撹拌容器に添加する。
c.活性物質(カラギーナン(イオタ、カッパ、ラムダ)、デキストランまたはデキストラン誘導体、ヘパラン硫酸)をポリマー溶液に添加し、最終濃度が必要な用量範囲(0.005~0.5%(w/v))内になるようにする。
d.ラジカル形成開始剤(例えば、irgacure1173(UV)、AIBN(熱))を添加して、濃度が0.1~1%の範囲になるようにする。
e.定常的な混合/剪断(100~1500rpm、200~1000s-1)を適用する。
f.ゲル化が完了するまで混合/剪断を維持しながら、ゲル化のための刺激(紫外線、加熱)を加える。
g.混合を停止し、保管する。
【0100】
イオノトロピック作用によって設定される、剪断減粘性流体ゲル中の硫酸化多糖活性剤を含む組成物の調製方法
PBS中で安定した活性物質の場合
h.PBS中の活性物質(カラギーナン(イオタ、カッパ、ラムダ)、デキストランまたはデキストラン誘導体、ヘパラン硫酸)を調製し、最終濃度が必要な用量範囲(0.005~0.5%(w/v))内になるように混合(20倍希釈)する。
(この範囲は、イオタ-カラギーナン、カッパ-カラギーナン、及びヘパラン硫酸のEC50値を包含する範囲として選択されている)
i.混合容器に脱イオン水90mlを添加する。
j.水に、100ml中の最終ポリマー濃度が0.5~2%(w/v)であるように、イオノトロピックゲル化バイオポリマー(例えば、アルギン酸塩、ペクチン)を添加する。
k.系を撹拌して、ポリマーの分散を可能にする。
l.5mlの活性溶液をポリマー溶液に添加する。
m.20倍に希釈した場合の最終濃度が10~200mMであるように、金属塩(多価カチオン、例えばCaCl)水溶液を調製する。
n.5mlが添加されるまで、金属イオン溶液をゆっくりと添加しながら(0.1~5ml.分-1の一定速度で)、定常的な混合/剪断(100~1500rpm、200~1000s-1)を維持する。
o.混合を停止し、保管する。
【0101】
PBS中で不安定な活性物質の場合
a.脱イオン水中の活性物質を調製し、混合(20倍希釈)時に最終濃度が必要な用量範囲内(0.005~0.5%(w/v))になるようにする。
b.混合容器に脱イオン水90mlを添加する。
c.水に、100ml中の最終ポリマー濃度が0.5~2%(w/v)であるように、イオン誘導ゲル化バイオポリマー(例えば、アルギン酸塩、ペクチン)を添加する。
d.系を撹拌して、ポリマーの分散を可能にする。
e.5mlの活性溶液をポリマー溶液に添加する。
f.20倍に希釈した場合の最終濃度が10~200mMであるように、金属塩(多価カチオン、例えばCaCl)水溶液を調製する。
g.5mlが添加されるまで、金属イオン溶液をゆっくりと添加しながら(0.1~5ml.分-1の一定速度で)、定常的な混合/剪断(100~1500rpm、200~1000s-1)を維持する。
h.混合を停止し、保管する。
【実施例
【0102】
これから、本発明を、以下の非限定的な実施例を参照してさらに説明する。
【0103】
研究1
材料及び方法
IOP実験のためのゲラン流体ゲルの調製
概要
ゲランFGは、動物モデルにおける組成物のIOPへの影響を研究するために、ILB添加のために調製した。
【0104】
装置
・はかり
・セル撹拌フラック(100ml)
・ホットプレート/撹拌機
・デジタル温度計
・ピペット(10ml)
・ピペットボーイ
・小型計量艇
・スパチュラ
【0105】
材料
・ゲラン(CGLA)(Kelcogel;ロット番号:5C1623A)
・NaCl(Fisher Chemicals、ロット番号:1665066、2016年4月11日開封)
・PBS
【0106】
方法
1.塩化ナトリウム溶液(0.2M)の調製:
a.容量100mlのフラスコにセルグレードの水を半分充填する
b.高精度スケールを使用して11.68gのNaClを秤量する
c.容量フラスコに塩を加える
d.容量フラスコにラインまで充填し、溶解するまで反転させる
2.ゲラン流体ゲルの調製:
a.細胞撹拌フラスコに90mlを質量で添加する。
b.5mlの0.2M NaClをフラスコに添加した。
c.5mlのPBSをフラスコに添加した。
d.ゲラン(0.9g;実際の質量0.908g)を小型の計量ボートに計量した。
e.計量ボートを挟み、水中の塊の発生を防ぐために軽くノックすることにより、ゲランをセルフラスコに添加した。フラスコを定期的に旋回させて粉末層を分散させた。
f.ゲランを撹拌し、分散させる。
g.フラスコをオートクレーブのために適切に密封し、培地設定でオートクレーブした。
h.オートクレーブした後(まだ熱いうち)、フラスコを取り出し、撹拌した。ゲランゾルが約20℃まで完全に冷却されるまで、撹拌を続けた。
i.一旦完全に冷却すると、撹拌を停止した。
3.パッケージング:
a.層流フードを使用して、ゲランFGをファルコンチューブにデカントした。
【0107】
B レオロジー:IOPのための流体ゲルの機械的特性評価
概要
製造中及び製造後に、流体ゲルの機械的特性を試験した。さらに、様々な範囲の市販の点眼薬を、それらの機械的特性について試験して、流体ゲルと比較した。
【0108】
装置
・流速計
・40mm鋸歯状平行板
・カップとベーンの形状
【0109】
材料
・ゲラン流体ゲル製剤
・「IOP実験のためのゲラン流体ゲルの調製」
・市販の点眼薬.
【0110】
方法
1)製造中のゲランの流量プロファイル:
a.カップとベーンの形状をレオメータに装填する。
b.カップを50℃に設定する。
c.カップにゲランゾルを加え、ベーンを下げる。
d.温度ランプで単一の剪断速度を実行する。
i.500/秒
ii.50~20℃
iii.1℃/分
2)流体ゲルのヒステリシス:
a.鋸歯状平行プレートをレオメータに装填する
b.温度を20℃に設定する
c.サンプル及び下部トッププレートを1mmのギャップ高さに装填する。
d.剪断速度ランプを実行する(増加及び減少):
i.0.1~600/秒
ii.1分間のランプ時間
3)弾性率回復:
a.鋸歯状平行プレートをレオメータに装填する
b.温度を20℃に設定する
c.サンプル及び下部トッププレートを1mmのギャップ高さに装填する。
d.剪断前、続いて単一の周波数テストを実行する。
i.剪断前
1.600/秒で30秒間の剪断
ii.単一周波数
1.1Hz
2.0.5%の歪み
3.60秒
4)業務用点眼薬レオロジー
a.鋸歯状平行プレートをレオメータに装填する
b.温度を20℃に設定する
c.サンプル及び下部トッププレートを1mmのギャップ高さに装填する。
d.剪断前、続いてに単一の周波数テストを実行する。
i.コンディショニングステップ
1温度平衡20℃、1分
2剪断なし
ii.振幅スイープ(歪み制御)
0.0.1~100%
1.1Hz周波数
2.20℃
iii.粘度曲線
0.0.1~600/秒
1.20℃
【0111】
C コラーゲン線維形成試験
概要
コラーゲン原線維形成は、Corningから入手したコラーゲンを使用して、異なる程度の硫酸化を有するカラギーナン、ゲランガム(LA)及びヘパラン硫酸の、原線維形成を変化させる能力を評価した。
【0112】
装置
・ピペット及びチップ:20uL、200uL、1000uL
・マルチチャンネルピペット 200ul
・96ウェルプレート
・プレートリーダー(405nm)
・スパチュラ
・小型計量ボート
・100mlビーカー(蓋またはカバー付き)
・はかり
・小さな磁気フレア
・ホットプレート/撹拌機
【0113】
材料
・PBS-ダルベッコPBS pH7.4
・カラギーナン(イオタ及びカッパ)(Sigma)
・(CGLA)(Kelcogel;ロット番号:5C1623A)
・ヘパラン硫酸(Tinzaparin-mw約9000)
・コラーゲン-ラットテール-Corning4.04mg/ml
・脱イオン水
【0114】
方法
1.ストック液の調製:
a.カラギーナン、ゲラン及びヘパランの両方の水溶液の0.2%(w/v)を調製した。(水50ml中のポリマー0.1g)
b.混合物を完全に分散/水和するまで撹拌した(ビーカーにカバーをすることにより水分損失を防止する)。
2.緩衝液の調製:
a.PBS希釈剤緩衝液;
i.200ml脱イオン水にリン酸ナトリウム(0.35g)(0.348g)及び塩化ナトリウム(2.05g)(2.061g)を添加する
ii.pHを7.40に調整し、最終体積を250mlに調整する。
iii.室温で保管する。
b.PBS反応緩衝液;
i.200ml脱イオン水にリン酸ナトリウム(2.07g)(2.081g)及び塩化ナトリウム(4.09g)(4.091g)を添加する
ii.pHを7.40に調整する。
iii.脱イオン水を加えて最終体積を250mlにする。
iv.室温で保管する。
3.コラーゲン線維形成アッセイ:
a.75mlの緩衝液(PBS)を、ブランクのためにA行及びB行にピペットで注入する。
b.希釈プレートで生成された標準曲線。各調製物150mlをC1、D1、E1に添加する。
c.行F1、G1、及びH1に150mLのサンプルを添加する。
d.追加のカラム2~12に75mlの緩衝液(PBS)を添加する。
e.マルチチャンネルピペットを使用し、カラム1からカラム2に75mlを移して2倍希釈する。12列まで連続希釈を続ける。カラム12から余分の75mlを廃棄する。
f.冷却水中800mg/mlの濃度で10ml(1プレート用に十分)を作製するために必要なコラーゲンの体積を計算し、静かに混合する。(ボルテックス禁止)ピペットまたは反転で混合する-氷の上に保つ。
【0115】
標的濃度(0.8mg/ml)コラーゲンストック濃度mg/ml×10=mlのコラーゲンが必要
必要なコラーゲン10ml-?ml=必要な水??ml
a.各列(B~H)に75mlのコラーゲンを添加する。
b.全てのウェルに150mlのリン酸緩衝液を添加する。
c.室温で2~4時間インキュベートし、405nmのプレートリーダーを使用して分析した(570nmの参照を使用してプレートについて較正)。
【0116】
各試料を3回、各プレートに2つのポリマー(合計2プレート)で複製した。コラーゲン標準及びpbsのみを各プレートで得た。
【0117】
結果
データは、線維形成がバイオポリマーの添加を通じて制御され得ることを示す。スルホン化の程度及び線維形成を防止する能力への直接的な連関を引き出すことができ、より高い程度(イオタ>ラムダ>ゲラン)は、濁度の50%低減を達成するためにより低い用量を必要とする。
【0118】
D FG及びFG+ILBインビボ研究のための方法
流体ゲルの製造方法は、上述の通りであった。
【0119】
インビボ研究のための方法:
CiCインビボ実験のための処置群(いくつかの無関係な群は省略されている)
実験の開始(0日目)から終了(28日目)まで、全てのラットに、3.5μl 5μg/ml TGFβ1を週に2回注射した。これが緑内障モデルである。
【0120】
IOP対策は、リバウンドトノメータを使用して、午前9~11時の間(IOPの概日変動を低減するため)からTGFβ注射前までの間、毎週2回実施した。
【0121】
14日目に、次いで、ラットは、14日目から28日目までの間、毎日、1日2回、ピペットの使用によって、点眼剤を投与された。
【0122】
群は以下の通りであった。
【表1】
【0123】
上記の表に従って点眼剤を塗布する順序で、各場面で最後に流体ゲルを塗布した。
【0124】
例示的なデキストラン硫酸ILB:5.1μl中の100μg ILB=19.6mg/ml ILB溶液
各点眼液の総体積は10.2μlであった。
【0125】
結果
図8は、ゲラン剪断減粘性流体ゲルの点眼薬の眼表面上の保持を実証する。グラフは、時間とともに、表面上の定義された位置にある点眼薬総の厚さを示す。
【0126】
類似の結果は、図9に見ることができ、これは、ゲラン流体ゲル点眼薬の完全な90分間のモニタリング期間の保持を図示する。
【0127】
図10は、(粒子形成ポリマーゲラン、PEG及びアルギン酸塩を利用した)例示的な剪断減粘性流体ゲルマトリックスからの例示的な硫酸化多糖(左パネルのデキストラン、及び右パネルの化学修飾デキストラン(青色))についての累積放出プロファイルを例証する。見ることができるように、これらの例示的な剪断減粘性流体ゲルのそれぞれは、広範囲に匹敵する放出プロファイルを示し、硫酸化多糖の送達のための薬学的組成物において広範囲のそのような流体ゲルが使用され得ることを示す。
【0128】
図11は、様々な濃度の硫酸化多糖(この場合はデキストラン硫酸)の存在下でのコラーゲン原線維形成のデータを示す。見ることができるように、硫酸化多糖は、コラーゲン線維形成を阻害する用量依存的能力を有し、線維化の阻害または低減における有用性を示す。
【0129】
図12~15は、上述した緑内障の動物モデルにおける眼内圧(IOP)の変化を調べた研究結果を示す。デキストラン硫酸(ILBと称され、WO2016/076780に記載されているようなものであり-この全体が、このデキストラン硫酸の製造及び特徴付けを説明する限りにおいて参照により組み込まれる)は、例示的な硫酸化多糖として使用される。
【0130】
図12において、ILBは、非流体ゲル点眼薬製剤で提供された。見ることができるように、このような様式で投与されたデキストラン硫酸は、対照と比較した場合に、IOPの有意な低減を達成しなかった。
【0131】
図13では、ILBを注射用製剤中で提供した。この投与の結果は様々であり、処置動物のIOPは、特定の時点(例えば、14日目)での対照よりも高く、他の時点(例えば、28日目)での対照よりも低かった。
【0132】
図14は、ILBを点眼薬として投与し、その後剪断減粘性流体ゲル点眼薬(この場合、約0.9%w/vゲランを含むゲラン流体ゲル)を投与したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、処置動物におけるIOPは、対照におけるIOPよりも有意に低かったことが見て取れる。このことは、流体ゲルの存在によって、図12または図13のいずれにも見られない様式で、硫酸化多糖がIPOを減少させることができることを示し、緑内障の療法としてのこの実験的処置の適合性を実証する。
【0133】
図15は、療法として0.9% w/vのゲラン剪断減粘性流体ゲル点眼薬を使用して達成された結果を示す。繰り返すが、時間の経過とともに、処置動物におけるIOPは、対照におけるIOPよりも有意に低かったことが見て取れる。上記のように、これは、緑内障に対する療法としてのこの実験的治療の適合性を実証する。
【0134】
図16は、様々なポリマー(ゲラン、及び硫酸化多糖類ヘパラン硫酸、カッパカラギーナン、及びイオタカラギーナン)の線維形成に対する増大用量の効果を比較した、コラーゲン線維形成アッセイの結果を示す。ヘパラン硫酸とカラギーナンの両方の硫酸化多糖は、コラーゲン線維形成を阻害し、線維化を阻害または低減する能力を示し、したがって、これらの治療的有用性を示すことが見て取れる。
【0135】
研究2
本発明者らは、緑内障の治療のための剪断減粘性流体ゲル中の硫酸化多糖類を含む本発明のさらなる組成物の治療的有用性を研究した。この第2の研究の詳細は以下の通りである。
【0136】
実験設計
緑内障のラット実験モデルを使用した。全てのラットは、実験の開始(0日目)から終了(28日目)まで、3.5μl 5μg/ml TGFβ1の週2回の根管内(intracameral)(IC)注射を受けた。これにより実験的緑内障モデルが確立される。
【0137】
眼内圧(IOP)測定を、リバウンドトノメータを使用して、午前9時~11時の間(IOPの概日変動を低減するため)、及びTGFβ注射を投与する前に、週に2回行った。
【0138】
14日目に、ラットは、次いで、本発明の組成物またはケアの標準を表す組成物のいずれかの単一の10μl点眼(ED)を受けた。点眼薬は、14日目から28日目まで毎日、1日2回ピペットで投与した。ゲラン流体ゲルを上述のように調製し、調べた種々の硫酸化多糖類(デキストラン硫酸、フコイダン、またはヘパラン硫酸)を、単一の製剤点眼剤として投与する前に、1mg/mlの濃度で流体ゲルに混合した。
【0139】
緑内障の治療のために臨床的に処方される最も一般的な点眼薬は、ラタノプロスト50μg/ml(Xalatan(登録商標))である。したがって、この治療は、標準治療(SOC)のために本研究で使用された。
【0140】
本研究において調べた群は以下の通りであった。
【表2】
【0141】
生体内緑内障研究の結果
図17~23は、上記のげっ歯類緑内障モデルにおける眼内圧(IOP)の変化を、以下の1つを用いて調べる研究の結果を示す:
・SOC、
・デキストラン硫酸、
・フコイダン、または
・ヘパラン硫酸処理。
【0142】
デキストラン硫酸、フコイダン、及びヘパラン硫酸を含む組成物は、剪断減粘性流体ゲル中に硫酸化多糖を含む本発明の例示的な組成物として使用される。
【0143】
図17は、緑内障の眼においてSOCを投与した際に達成された結果を示す。SOCは、いかなる治療も行わない緑内障の眼と比較して、28日目の実験終了時のIOPを有意に減少させた。
【0144】
図18は、デキストラン硫酸を含有する流体ゲルを含む本発明の実験組成物を点眼剤として投与したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、緑内障を有する処置動物におけるIOPは、いかなる処置も行わない緑内障におけるIOPよりも有意に低かったことが見て取れる。
【0145】
図19は、フコイダンを含有する流体ゲルを含む本発明の実験組成物を点眼剤として投与したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、緑内障を有する処置動物におけるIOPは、いかなる処置も行わない緑内障におけるIOPよりも有意に低かったことが見て取れる。
【0146】
図20は、ヘパラン硫酸を含有する流体ゲルを含む本発明の実験組成物を点眼剤として投与したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、緑内障を有する処置動物におけるIOPは、いかなる処置も行わない緑内障と比較して低かったことが見て取れる。
【0147】
図21は、デキストラン硫酸を含有する流体ゲルを含む本発明の実験組成物をSOCと比較したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、デキストラン硫酸を含有する流体ゲル点眼剤で処置した動物におけるIOPは、28日目までにケアの標準と同様に有効であったことが見て取れる。
【0148】
図22は、フコイダンを含有する流体ゲルを含む本発明の実験組成物をSOCと比較したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、フコイダンを含有する流体ゲル点眼剤で処置した動物におけるIOPは、28日目までにケアの標準と同様に有効であったことが見て取れる。
【0149】
図23は、ヘパラン硫酸を含有する流体ゲルを含む本発明の実験組成物をSOCと比較したときに達成された結果を示す。ここで、時間の経過とともに、ヘパラン硫酸を含有する流体ゲル点眼剤で処置した動物におけるIOPが、28日目までにケアの標準と同様に有効であったことが見て取れる。
【0150】
ラタノプロストを使用したSOC治療は、代替の排出経路を開くことによって、緑内障の症状に対処するのに役立ち、したがって、IOPを低減する様式で、眼からの水性流体の流出を増加させる。しかしながら、これは、IOP増加の根底にある原因である線維症を解消するものではなく、SOCに対する患者の応答は時間の経過とともに低下することも知られていることが理解される。本発明の組成物は、線維症を低減することができるデキストラン硫酸などの硫酸化多糖を送達することにより、短期的にSOCによって提供されるものと同等の緩和(約28日以内に等価である症状の低減)を提供するだけでなく、IOPの上昇を引き起こす眼の主要な排出経路の機能障害の長期的解決の見通しを提供し、したがって、現在のSOCよりも完全でかつ長期間持続する治療溶液を提供する。
【0151】
本発明を説明する条項
以下の条項では、本発明の主題についてさらに説明し、上記の発明のいずれかの記述を検討する際に考慮され得る。
1.硫酸化多糖及び剪断減粘性流体ゲルを含む、薬学的組成物。
2.緑内障の治療における局所点眼薬としての使用のための条項1に記載の組成物。
3.線維症の阻害または低減による前記緑内障の治療における使用のための条項2に記載の組成物。
4.前記線維症の阻害または低減における局所医薬品としての使用のための条項1に記載の組成物。
5.前記硫酸化多糖が、1~3の繰り返し糖単位当たりの平均硫酸エステル数を有する、先行条項のいずれかに記載の組成物。
6.前記硫酸化多糖が、10,000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、フコイダン、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、先行条項のいずれかに記載の組成物。
7.前記デキストラン硫酸が、1850及び3,500Dの間隔を有する、核磁気共鳴分光法によって測定される数平均分子量Mnを有する、条項6に記載の組成物。
8.前記デキストラン硫酸が、
2.5~3.0のグルコース単位当たりの平均硫酸エステル数を有する、条項6または条項7に記載の組成物。
9.前記デキストラン硫酸が、少なくとも90%の、前記デキストラン硫酸の前記グルコース単位におけるC2位の平均硫酸化を有する、条項6~8のいずれかに記載の組成物。
10.前記硫酸化多糖が、5~1,000kDaの分子量を有する、条項1~6のいずれかに記載の組成物。
11.前記硫酸化多糖が、8~800kDaの分子量を有する、条項10に記載の組成物。
12.前記カラギーナンが、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン、及びラムダカラギーナンからなる群から選択される、条項6に記載の組成物。
13.前記剪断減粘性流体ゲルが、ゼロ剪断にさらされるときに0.1Pa.s以上の粘度を有し、前記剪断減粘性流体ゲルが剪断に供されるときに粘度が低下する、先行条項のいずれかに記載の組成物。
14.前記剪断減粘性流体ゲルが、ゼロ剪断にさらされるときに5Pa.s以上の粘度を有し、かつ前記剪断減粘性流体ゲルが剪断に供されるときに粘度が1Pa.s未満に低下する、条項13に記載の組成物。
15.前記剪断減粘性流体ゲルが、水性媒体中に分散したマイクロゲル粒子形成ポリマーの0.1~10%w/v(例えば、0.1~5%%w/v、または0.1~2.5%w/v)を含む剪断減粘性ヒドロゲル組成物を含み、前記ヒドロゲルが剪断に曝露されると、前記剪断減粘性組成物の粘度及び/または弾性率が低下する、先行条項のいずれかに記載の組成物。
16.前記剪断減粘性ヒドロゲル組成物が、架橋剤として0.5~100mMの一価及び/または多価金属イオン塩をさらに含む、条項15に記載の組成物。
17.前記剪断減粘性流体ゲルが、ゲラン、アルギン酸塩、カラギーナン、アガロース、キトサン、ペクチン、アガロース、寒天またはゼラチンのうちの1つ以上の群から選択されるマイクロゲル粒子形成ポリマーを含む、先行条項のいずれかに記載の組成物。
18.前記剪断減粘性流体ゲルがゲランを含む、先行条項のいずれかに記載の組成物。
19.前記剪断減粘性流体ゲルが約0.9%w/vのゲランを含む、条項18に記載の組成物。
20.前記剪断減粘性流体ゲルが、ポリオール(ポリアルキレングリコールなど)、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン、ポリスチレン及びポリアクリレートのうちの1つ以上から選択される合成マイクロゲル粒子形成ポリマーを含む、条項1~16のいずれかに記載の組成物。
21.緑内障の予防及び/または治療において剪断減粘性流体ゲルと組み合わせて使用するための硫酸化多糖。
22.線維症の阻害または低減において剪断減粘性流体ゲルと組み合わせて使用するための硫酸化多糖。
23.前記硫酸化多糖が、10,000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、ポリギーナン、フルセララン、及びカラギーナンからなる群から選択される、条項21または22に記載の使用のための硫酸化多糖。
24.前記剪断減粘性流体ゲルが、条項13~20のいずれかに定義される通りである、条項21~23のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
25.前記剪断減粘性流体ゲルがゲランを含む、条項21~24のいずれかに記載の使用のための硫酸化多糖。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【国際調査報告】