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特表2023-530098間葉系前駆細胞又は幹細胞の3D培養
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】間葉系前駆細胞又は幹細胞の3D培養
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20230706BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20230706BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230706BHJP
   C07K 14/49 20060101ALN20230706BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20230706BHJP
   C07K 14/485 20060101ALN20230706BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20230706BHJP
   C12N 9/14 20060101ALN20230706BHJP
【FI】
C12N5/0775
C07K14/78
C12M3/00 A
C07K14/49
C07K14/50
C07K14/485
C12M1/00 D
C12N9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576173
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 IB2021055055
(87)【国際公開番号】W WO2021250583
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2020901931
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ポール・シモンズ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DB01
4B029DG08
4B029DG10
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BA30
4B065BB23
4B065BC08
4B065BC42
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA61
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、血清を含まない幹細胞培養の改善された方法、特に、バイオリアクターにおける3D培養、並びにそれに使用するための細胞培養培地及び組成物に関する。このような方法は、大規模な細胞製造に特に好適であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元培養において間葉系前駆細胞又は幹細胞を培養する方法であって、前記方法が、細胞培養培地中の接着材料上で間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を培養することを含み、前記間葉系前駆細胞又は幹細胞が前記接着材料に付着しており、前記細胞培養培地が動物血清を含まない、方法。
【請求項2】
前記細胞培養培地が、血小板由来増殖因子(PDGF)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞培養培地がまた、EGFも含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記間葉系前駆細胞又は幹細胞が、バイオリアクター中で培養される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記接着材料が、マイクロキャリアである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記マイクロキャリアが、分解可能なコアを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロキャリアが、炭水化物ポリマー又は糖タンパク質コアを有する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記接着材料又はマイクロキャリアが、糖タンパク質でコーティングされている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記糖タンパク質が、コラーゲン又はビトロネクチンである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記ビトロネクチンが、ヒトビトロネクチン又はその合成模倣物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記糖タンパク質が合成である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記炭水化物ポリマーが、カルシウム依存様式で連結されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記培養培地が、0.5g/L~5g/Lのマイクロキャリアを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロキャリアが、多孔質マイクロキャリアである、請求項5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロキャリアが、マクロ多孔質マイクロキャリアである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記培養培地が、動物成分を含まない、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
培地の約70%が、24時間の培養毎に交換される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記間葉系前駆細胞又は幹細胞を解離剤と接触させることによって、前記接着材料からそれらを解離することを更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記接着材料から前記間葉系前駆細胞又は幹細胞を放出するのに十分な振動数及び振幅で一定期間、前記接着材料を振動させることを更に含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記接着材料を分解することを更に含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記接着材料が、前記培養培地に酵素を添加することによって分解される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、5,000~20,000細胞/mlで播種される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、10,000細胞/mlで播種される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、マスター細胞バンクから培養拡大されている、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記間葉系前駆細胞又は幹細胞が、二次元培養形式でマスター細胞バンクから培養拡大されている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記培養培地から前記細胞を回収し、前記回収した細胞を凍結保存することを更に含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記回収した細胞が、凍結保存の前に洗浄及び濃縮される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記間葉系前駆細胞又は幹細胞が、少なくとも6日間、好ましくは5~8日間、より好ましくは7日間、三次元培養で培養される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記バイオリアクターが、撹拌タンク及び/又は充填床バイオリアクターである、請求項4~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団及び細胞培養培地を含む組成物であって、前記細胞培養培地が動物血清を含まず、接着材料、PDGF及びFGF2を含み、前記間葉系前駆細胞又は幹細胞が、前記接着材料に付着される、組成物。
【請求項31】
前記接着材料が、請求項5~15のいずれか一項に定義される通りである、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記間葉系前駆細胞又は幹細胞が、間葉前駆細胞又は間葉幹細胞である、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法又は請求項30若しくは31に記載の組成物。
【請求項33】
前記培養培地中の前記PDGFが、PDGF-BBである、請求項1~29若しくは32のいずれか一項に記載の方法、又は請求項30若しくは31に記載の組成物。
【請求項34】
前記培養培地が、
-3.0ng/ml~120ng/mlのPDGF-BBを含み、
-2pg/ml~6ng/mlのFGF2を含み、
-0.8ng/ml未満のFGF2を含み、
-EGFを更に含む、請求項1~29若しくは32若しくは33のいずれか一項に記載の方法、又は請求項30~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記培養培地が、0.08ng/ml~7ng/mlのEGFを更に含む、請求項1~29若しくは32~34のいずれか一項に記載の方法、又は請求項30~34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記培養培地が、アルファ-最小必須培地又はウシ胎仔血清を含まない拡大培地を含む、請求項1~29若しくは32~35のいずれか一項に記載の方法、又は請求項30~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記培養培地が、前記幹細胞を未分化状態に維持する、請求項1~29、32~36のいずれか一項に記載の方法、又は請求項30~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
幹細胞をバイオリアクター中で培養する方法であって、前記方法が、細胞培養培地を含むバイオリアクター中で間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を培養することを含み、前記細胞培養培地が、動物血清を含まず、血小板由来増殖因子(PDGF)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、並びに任意選択でEGFを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血清を含まない幹細胞培養の改善された方法、特に、バイオリアクターにおける3D培養、並びにそれに使用するための細胞培養培地及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性間葉系細胞(MLC)は、それらの高い増殖能及び分化能、並びに免疫調節及び他の有益な特性のために、治療応用のための魅力的な候補として提案されている(Caplan AI(2007)J.Cell Physiol.,213,341-347、Prockop DJ(2007)Clin Pharmacol Ther.,82,241-243)。しかしながら、直面する最も重要で即時的な課題のうちの1つは、細胞製品の高度に個別化されたインビトロ要件を、再現可能でロバストで安全な大規模で合理化されたバイオプロセスに変換する必要性である。
【0003】
MSCを単離及び増殖させるために使用される従来の培地は、その刺激性増殖因子の高い含量のために、ウシ胎仔血清を補充した定義された基礎培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又はα-改変最小必須培地(α-MEM))からなる。これらの培地は、一般に、複数の継代についてMSCの増殖を支持すると報告されているが、ウシ胎仔血清に関連した潜在的リスクのために懸念が生じてきている(Dimarakis&Levicar(2006)Stem Cells.,24,1407-1408、Mannello&Tonti(2007)Stem Cells.,25,1603-1609)。特に、ウシ胎仔血清は、プリオン、ウイルス及び人畜共通感染因子等の有害な汚染物質を含み得、免疫反応を誘発し得る。更に、ウシ胎仔血清の不十分に定義された性質、及びバッチ間でのその高い程度のばらつきは培地の増殖支持特性の一貫性のなさを生じ、したがって、細胞産生プロセスの標準化を困難にする可能性がある。
【0004】
ヒト血清及び血小板溶解物等のヒト由来のサプリメントが、ウシ胎仔血清の代替物として研究されている。ヒト血清は、一般的に、その入手可能性の欠如及び一貫性のない増殖促進能力のために好適な代替物とは考えられていない。最近では、血小板溶解物(hPL)及び血小板が豊富な血漿等のヒト血小板由来のサプリメントが優れた代替案として提案されている(Doucet et al.(2005)J Cell Physiol.,205,228-236、Muller et al.(2006),Cytotherapy.,8,437-444、Capelli et al.(2007)Bone Marrow Transplant.,40,785-91、Lange et al.(2007)J Cell Physiol.,213,18-26、Reinisch et al.(2007)Regen Med.,2,371-82)。これらの研究は、プールされたヒト血小板誘導体のかなりの増殖促進特性を示したが、それらのMLC増殖に対する影響は一貫していない(Bieback et al.(2008)Transfus Med Hemother.,35,286-294)。更に、これらのhPL製剤の高いコストは、商業的細胞培養にとっては法外に高価であり得る。
【0005】
したがって、ウシ胎仔血清を含まない細胞培養におけるMSCの単離及び迅速な拡大の両方を支持する、費用対効果の高い方法に対する必要性が依然として満たされていないままである。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、ウシ胎仔血清が、二次元(2D)状況における間葉系細胞又は幹細胞増殖のための有効な刺激であるにもかかわらず、三次元(3D)バイオリアクター培養における間葉系細胞又は幹細胞増殖のための驚くほど不十分な刺激であることを特定した。したがって、本発明者らは、2D状況で有効な増殖培地が、3D状況では有効ではない場合があることを指摘した。更に、本発明者らは、培養培地から動物血清を除去することにより、ヒト血小板溶解物(hPL)等の他の非動物増殖刺激が、3D状況における幹細胞の増殖を促進するのに特に有効であることを特定した。したがって、一例では、本開示は、三次元培養において間葉系前駆細胞又は幹細胞を培養する方法であって、該方法が、細胞培養培地中で間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を培養することを含み、該細胞培養培地が動物血清を含まない、方法に関する。
【0007】
hPLは、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)及び表皮増殖因子(EGF)等の様々な増殖因子を含む。本発明者らは、3D状況における間葉系細胞又は幹細胞を促進する際のPDGF及びFGF2の重要性を特定した。したがって、一例では、培養培地は、動物血清を含まず、PDGF及びFGF2を含む。別の例では、培養培地は、EGFを更に含む。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクター中で培養される。
【0008】
また、本発明者らは、培養培地が動物血清を含まない場合、3D培養において接着材料上で間葉系細胞又は幹細胞を培養することが、3D状況での増殖に重要であることを特定した。したがって、別の例では、本開示は、三次元培養において間葉系前駆細胞又は幹細胞を培養する方法であって、該方法が、細胞培養培地中の接着材料上で間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を培養することを含み、該間葉系前駆細胞又は幹細胞が接着材料に付着しており、該細胞培養培地が動物血清を含まない、方法に関する。一例では、培養培地は、PDGF及びFGF2を更に含む。別の例では、培養培地は、EGFを更に含む。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクター中で培養される。一例では、接着材料は、マイクロキャリアである。
【0009】
本発明者らは、その後、生存細胞数がピーク細胞密度において又はその周辺で著しく低下するため、3D培養において特定の接着材料上で間葉系前駆細胞又は幹細胞を培養することが問題であることを特定した。驚くべきことに、この問題は、特定の接着材料、特に、分解可能なマイクロキャリア、例えば、分解可能なコアを有するもの及び/又は低密度のマイクロキャリア上で間葉系細胞又は幹細胞を培養することによって軽減された。したがって、一例では、マイクロキャリアは、分解可能である。別の例では、マイクロキャリアは、分解可能なコアを有する。別の例では、マイクロキャリアは、炭水化物ポリマー又は糖タンパク質コアを有する。
【0010】
様々な例では、マイクロキャリア等の接着材料は、コーティングされ得る。一例では、接着材料は、コーティングされる。別の例では、マイクロキャリアは、コーティングされる。一例では、接着材料又はマイクロキャリアは、糖タンパク質でコーティングされる。一例では、糖タンパク質は、コラーゲン又はビトロネクチンである。一例では、ビトロネクチンは、ヒトビトロネクチン又はその合成模倣物である。ビトロネクチンの合成模倣物は、それらの表面上の間葉系前駆細胞又は幹細胞の増殖を強制及び支持することができる。別の例では、糖タンパク質は、合成である。したがって、一例では、本開示は、細胞培養培地中の接着材料上で間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を培養することを含み、間葉系前駆細胞又は幹細胞が接着材料に付着しており、細胞培養培地が動物血清を含まず、接着材料が、ネクチン又はコラーゲン等の糖タンパク質でコーティングされる、3D細胞培養を包含する。
【0011】
別の例では、マイクロキャリアは、炭水化物ポリマーコアを含み、炭水化物ポリマーは、カルシウム依存様式で連結されている。
【0012】
一例では、マイクロキャリアは、約0.5~5g/mlの密度を有する。別の例では、マイクロキャリアは、約0.5~3g/mlの密度を有する。一例では、培養培地は、0.5g/L~5g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、0.5g/L~3g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、0.5g/L~2g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、約1g/Lのマイクロキャリアを含む。
【0013】
一例では、マイクロキャリアは、多孔質である。別の例では、マイクロキャリアは、マクロ多孔質である。
【0014】
一例では、細胞培養培地は、動物成分を含まない。
【0015】
本発明者らはまた、驚くべきことに、バイオリアクター培養において24時間毎に特定の量の培地を交換することが、細胞増殖の改善と関連していることを見出した。したがって、一例では、本開示の方法は、24時間の培養毎に培地の60~80%を交換することを含む。別の例では、本開示の方法は、24時間の培養毎に培地の約70%を交換することを含む。これらの例では、培地交換は、バイオリアクターでの培養の2日目から4日目までに開始することができる。一例では、培地交換は、バイオリアクターでの培養の3日目から開始する。
【0016】
一例では、本開示の方法は、間葉系前駆細胞又は幹細胞を解離剤と接触させることによって、接着材料からそれらを解離することを更に含む。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、ピーク細胞密度に達した後に接着材料から解離される。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクターでの約7日の培養後に解離される。
【0017】
一例では、本開示の方法は、接着材料又はマイクロキャリアを分解することを更に含む。一例では、接着材料又はマイクロキャリアは、培養培地に酵素を添加することによって分解される。一例では、マイクロキャリアは、例えば、ビトロネクチンを含み、ビトロネクチンでコーティングされ、酵素は組換えペクチナーゼである。この例では、マイクロキャリアは、カルシウム依存様式で連結された炭水化物コアを含んでもよく、その場合、EDTA及び組換えペクチナーゼ等の酵素が、培養培地に添加されてもよい。
【0018】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、5,000~20,000細胞/mlで3D培養中に播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、10,000細胞/mlで播種される。
【0019】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、マスター細胞バンクから培養拡大されている。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、二次元培養形式でマスター細胞バンクから培養拡大されている。
【0020】
別の例では、本開示の方法は、培養培地から細胞を回収し、回収した細胞を凍結保存することを更に含む。一例では、回収した細胞は、凍結保存の前に洗浄及び濃縮される。
【0021】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも6日間、好ましくは5~8日間、より好ましくは7日間、三次元培養で培養される。
【0022】
一例では、バイオリアクターは、撹拌タンクバイオリアクターである。別の例では、バイオリアクターは、充填床バイオリアクターである。別の例では、バイオリアクターは、撹拌タンク及び/又は充填床バイオリアクターである。
【0023】
別の例では、本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団及び細胞培養培地を含む組成物であって、細胞培養培地が動物血清を含まず、接着材料、PDGF及びFGF2を含み、間葉系前駆細胞又は幹細胞が、接着材料に付着される、組成物を包含する。一例では、接着材料は、上記で定義される通りである。例えば、接着材料は、マイクロキャリアであってもよい。
【0024】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、間葉前駆細胞又は間葉幹細胞である。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、間葉前駆細胞である。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、間葉幹細胞である。
【0025】
一例では、培養培地中のPDGFは、PDGF-BBである。一例では、培養培地は、3.0ng/ml~120ng/mlのPDGF-BBを含む。別の例では、培養培地は、2pg/ml~6ng/mlのFGF2を含む。別の例では、培養培地は、0.8ng/ml未満のFGF2を含む。別の例では、培養培地は、EGFを更に含む。別の例では、培養培地は、0.08ng/ml~7ng/mlのEGFを更に含む。
【0026】
一例では、培養培地は、アルファ-最小必須培地又はウシ胎仔血清を含まない拡大培地を含む。一例では、培養培地は、血清を含まない。一例では、培養培地は、幹細胞を未分化状態に維持する。
【0027】
別の例では、本開示は、幹細胞をバイオリアクター中で培養する方法であって、該方法が、細胞培養培地を含むバイオリアクター中で間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を培養することを含み、細胞培養培地が、動物血清を含まず、血小板由来増殖因子(PDGF)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、並びに任意選択でEGFを含む、方法に関する。したがって、この例では、培養培地は、EGFを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】記載した濃度でhPLを補充した培地を用いたEMD-Milliporeによる間葉系細胞(MLC)培養後の増殖及び最大細胞密度。ウシ胎仔血清中の同じMLCバンクを用いて実施した以前の実行の結果を比較のために示す。
図2】V2.2は、Millipore Mobius50L Cell ReadyバイオリアクターにおけるMLCのロバストな増殖を支持する。
図3】異なるドナー由来のMLCは、V2.2において異なる増殖動態及び収量を示す。
図4】シードを調製するために使用した培地交換/収集戦略は、スピナーフラスコ内のV2.2で生成されるその後の収量に影響を及ぼさない。
図5】4日目の培地交換(D4MX/D6H)の後、6日目に8つの異なるドナー由来の単一のMCBを播種したCF10細胞工場を採取すると、7/8MCBについて目標数の4億個の細胞が生成される。
図6】BioBLU3c内でのV2.2培地中のCultispher-GマイクロキャリアとSolohillコラーゲンコーティングマイクロキャリアの性能の比較。
図7】BioBLU50c単回使用BioRとともにCultispher-Gマイクロキャリアを使用すると、V2.2によって駆動されるMLCの高度に再現性のある収量、及びピーク数が達成された後の安定したプラトーが生じる。
図8】Cultispher G、Solohillコラーゲンでコーティングされたマイクロキャリアのスピナーフラスコにおける性能と、コラーゲン又はSynthemaxのいずれかでコーティングされたCorning DMCの性能との比較。
図9】異なるMLCバンクにわたって、Corning Synthemax DMCを使用して、スピナーフラスコ(100mL容量)内で得られた収量の比較。
図10】V2.2及びCorning Synthemaxマイクロキャリアを使用した、BioBLU50c内のMLCの高度に再現性のある収量。収量はDOの調節による影響を受けない
図11】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中の増殖後のMCB019由来のMLCの解凍後の生存率。溶存酸素(DO)制御なしで生成されたもの-青色、DO制御ありのもの-赤色。
図12】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中の増殖後に生成された凍結保存MLCの解凍直後の細胞直径。DO制御なしで生成されたもの-青色、DO制御ありのもの-赤色。
図13】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成された凍結保存MLCの解凍後の増殖動態。
図14】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成された凍結保存MLCによって生成された6日目のウェル当たりの平均細胞数。DO制御なしで生成されたもの-青色、DO制御ありのもの-赤色。
図15】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成された凍結保存MLC解凍後のMLC同一性(上パネル)及びMLC純度マーカー発現(下パネル)のフローサイトメトリー分析。
図16】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成されたMLCの馴化培地中のSDF-1αレベル。
図17】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成されたMLC由来の馴化培地中のSDF-1α依存性遊走アッセイを用いて測定したときのSDF-1α生物活性。
図18】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成されたMLCの馴化培地中のVEGF-Aレベル。
図19】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成されたMLCの馴化培地中のANGPT1レベル。
図20】BioBLU50cバイオリアクター内のCorning Synthemax DMC上のV2.2中で生成されたMLCは、活性化された同種T細胞の増殖を阻害する強力な能力を一貫して示す。
図21】MLC製造のためのバイオリアクタープロセスの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一般的な技術及び定義
特に別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的用語及び科学的用語は、当該技術(例えば、細胞培養、分子生物学、幹細胞培養、免疫学、及び生化学)における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有すると解釈されるものとする。
【0030】
別段に示されない限り、本開示で利用される細胞培養技術及びアッセイは、当業者に周知の標準的な手順である。そのような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(editors),and F.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,現時点までの全ての更新を含む)、Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley&Sons(現時点までの全ての更新を含む)等の出典の文献を通して記載され、説明されている。
【0031】
「及び/又は」という用語、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味又はいずれかの意味について明示的な支持を提供するものと解釈されるものとする。
【0032】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、反対の記載がない限り、指定値の+/-10%、より好ましくは+/-5%を指す。
【0033】
「レベル」という用語は、本開示の細胞培養培地及び組成物中に存在する特定の物質の量を定義するために使用される。例えば、特定の濃度、重量、パーセンテージ(例えば、v/v%)又は比率を使用して、特定の物質のレベルを定義することができる。
【0034】
「十分な」という用語は、本明細書では、幹細胞培養培地中に溶解したときに特定の濃度をもたらす増殖因子の量を定義するために使用される。この文脈において、「十分な量」は、必要とされる培養培地の体積によって決定される。例えば、幹細胞培養培地中のFGF2の必要濃度が約10pg/mlであり、500mlの細胞培養培地が必要とされる場合、十分な量は約5ngとなる。
【0035】
間葉系前駆細胞又は幹細胞を接着材料から放出する文脈において、「十分な」という用語は、一定の期間、並びに間葉系前駆細胞又は幹細胞を接着材料から放出するのに十分な振動数及び振幅での振動を指すために使用される。
【0036】
「播種する」という用語は、本明細書では、細胞を三次元(3D)培養に導入するプロセスを指すために使用される。一例では、本開示の方法は、細胞が接着材料に付着すると、培養培地を混合し続ける、動的播種を包含する。別の例では、細胞を3D培養に播種し、培養培地中の接着材料に付着するのに十分な期間放置し、その結果、細胞が材料に付着できるようにする。いくつかの実施形態では、バイオリアクター内に細胞を播種するステップは、バイオリアクター内の流れが、播種後少なくとも10時間遮断されている間に行われる。
【0037】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、5,000~20,000細胞/mlで播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、8,000~20,000細胞/mlで播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、8,000~15,000細胞/mlで播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、5,000細胞/mlで播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、8,000細胞/mlで播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも8,000細胞/mlで播種される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、10,000細胞/mlで播種される。
【0038】
「回収する」という用語は、本明細書では、2D又は3D培養物から細胞を除去することを指すために使用される。例えば、細胞は、本明細書で開示されるバイオリアクター培養物から回収され得る。一例では、回収された細胞は、生理食塩水又は同等の溶液で最初に洗浄される(例えば、2~3回)。洗浄ステップの後、接着材料上で解離ステップが行われてもよい。一例では、好適な解離酵素が、解離ステップの間に利用される。一例では、3D培養物から回収された細胞は洗浄され、濃縮され、その後、凍結保存される。一例では、洗浄及び濃縮された細胞は、貯蔵、充填、仕上げ、及び目視検査され、その後、凍結保存され得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、「解離剤」は、細胞と、細胞が付着している表面との間の結合点を破壊するように機能する任意の化合物である。いくつかの実施形態では、解離剤は酵素である。特定の実施形態では、酵素は、組換えトリプシンを含むトリプシン、パパイン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼタイプ1、コラゲナーゼタイプ2、コラゲナーゼタイプ3、コラゲナーゼタイプ4、又はディスパーゼを含む、トリプシンである。一例では、解離剤は、EDTAを含む。一例では、解離剤は、EDTA及び酵素を含む。例えば、解離剤は、EDTA及びペクチナーゼを含んでもよい。一例では、解離剤は、EDTA及びコラゲナーゼを含んでもよい。当業者であれば、EDTAが、炭水化物コアがカルシウム依存様式で連結されたマイクロキャリアのための適切な解離剤であり得ることを理解するであろう。一例では、解離剤はまた、マイクロキャリアを分解する。例えば、解離剤は、マイクロキャリアコアを分解することができる。
【0040】
一例では、細胞は、解離剤を使用して、本明細書に開示される接着材料から解離され得る。例えば、解離剤は、必要に応じて細胞を解離するために、本明細書に開示されるバイオリアクター内に供給され得る。一例では、細胞培養物は、適切な解離剤と接触する前に、濾過又は部分的に濾過されてもよい。例えば、細胞は、ピーク細胞密度に達した後、解離剤と接触することができる。別の例では、培養細胞は、振動により接着材料から解離され得る。「振動」とは、平衡点に関する機械的振動を意味する。振動は周期的であってもランダムであってもよい。一実施形態では、振動は、振幅及び振動数に関して制御される往復運動の線形振動に起因する。いくつかの実施形態では、振動の振幅及び振動数は一定であり、一方他の実施形態では、振幅又は振動数のいずれか又は両方は、細胞の解離を達成するために所望に応じて変化し得る。他の例では、振動についての期間の持続時間はまた、当該技術分野において従来の手段及びデバイスを使用して制御される。いくつかの例では、振動は、電気機械デバイス、例えば、その駆動軸上に不均衡な質量を有する電気モータによって提供される。他の例では、振動は電気デバイスによって提供される。振動を与えることができるデバイスの様々な例が当該技術分野で公知である。
【0041】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変化形は、記載された要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の除外を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0042】
本明細書全体を通して、特に別段の定めがない限り、又は文脈が他を必要としない限り、単一のステップ、物質の組成物、ステップの群、又は物質の組成物の群への言及は、それらのステップ、物質の組成物、ステップの群、又は物質の組成物の群のうちの1つ及び複数(すなわち、1つ以上)を包含すると解釈されるものとする。
【0043】
当業者は、本明細書に記載される開示が、具体的に記載されるもの以外の変形及び改変を受けやすいことを理解するであろう。本開示は、全てのそのような変形及び改変を含むことが理解されるべきである。本開示はまた、本明細書において個別に又は集合的に言及され又は示されるステップ、特徴、組成物及び化合物の全て、並びに上述のステップ又は特徴のうちのいずれか及び全ての組み合わせ又はいずれかの2つ以上を含む。
【0044】
本開示は、例示のみを目的とすることを意図した、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。機能的に等価な生成物、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本開示の範囲内である。
【0045】
本明細書に開示される任意の例は、特に別段の定めがない限り、任意の他の例に準用されることとする。
【0046】
間葉系前駆細胞
本明細書で使用される場合、「間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)」という用語は、未分化の多能性細胞を指し、これは多能性を維持しながら自己再生する能力を有し、間葉起源の多くの細胞型、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱、又は非中胚葉起源、例えば、肝細胞、神経細胞及び上皮細胞のいずれかに分化する能力を有する。疑義を回避するために、「間葉系前駆細胞」は、骨、軟骨、筋肉及び脂肪細胞等の間葉細胞、及び線維性結合組織に分化できる細胞を指す。
【0047】
「間葉系前駆細胞又は幹細胞」という用語は、親細胞及びそれらの未分化子孫の両方を含む。この用語はまた、間葉前駆細胞、多能性間質細胞、間葉幹細胞(MSC)、血管周囲間葉前駆細胞、及びそれらの未分化子孫をも含む。
【0048】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、自己、同種異系、異種、シンジェニック又はアイソジェニックであり得る。自己細胞は、それらが再移植される同じ個体から単離される。同種異系細胞は、同じ種のドナーから単離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。シンジェニック又はアイソジェニック細胞は、双子、クローン、又は高度に近交系の研究動物モデル等の遺伝的に同一の生物から単離される。
【0049】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、同種異系である。一例では、同種異系間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養拡大され、凍結保存される。
【0050】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、主に骨髄に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、海綿骨及び歯髄を含む多様な宿主組織に存在することも示されている。これらはまた、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜中に見られ、中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉等の生殖系列に分化することができる。したがって、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織、筋肉組織、及び線維性結合組織を含むが、これらに限定されない多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が入る特定の分化系列決定及び分化経路は、機械的影響、及び/又は内因性生物活性因子、例えば、増殖因子、サイトカイン、及び/又は宿主組織によって樹立された局所微小環境条件からの様々な影響に依存する。
【0051】
「富化された」、「富化」という用語又はそれらの変形は、本明細書では、1つの特定の細胞型の割合又はいくつかの特定の細胞型の割合が、未処理の細胞の集団(例えば、それらの本来の環境における細胞)と比較して増加した細胞の集団を説明するために使用される。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞について富化された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%の間葉系前駆細胞又は幹細胞を含む。これ関して、「間葉系前駆細胞又は幹細胞について富化された細胞の集団」という用語は、「X%の間葉系前駆細胞又は幹細胞を含む細胞の集団」という用語を明示的に支持するものと解釈され、X%は、本明細書に記載のパーセンテージである。間葉系前駆細胞又は幹細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニーを形成することができ、例えば、CFU-F(線維芽細胞)又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は80%又は90%又は95%)は、この活性を有することができる。
【0052】
本開示の一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、間葉幹細胞(MSC)である。MSCは、均質な組成物であり得るか、又はMSCが富化された混合細胞集団であり得る。均質なMSC組成物は、接着性骨髄又は骨膜細胞を培養することによって得ることができ、MSCは、特有のモノクローナル抗体で同定される特定の細胞表面マーカーによって同定することができる。MSCが富化された細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。MSCについての代替供給源には、限定されないが、血管、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が含まれる。一例では、MSCは、同種異系である。一例では、MSCは、凍結保存される。一例では、MSCは、培養拡大され、凍結保存される。
【0053】
別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+MSCである。
【0054】
単離又は富化された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養によってインビトロで拡大され得る。単離又は富化された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、凍結保存され、解凍され、その後、培養によってインビトロで拡大され得る。
【0055】
一例では、単離又は富化された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養培地(血清を含まない又は血清を補充された)、例えば、5%ウシ胎仔血清(FBS)及びグルタミンを補充されたアルファ最小必須培地(αMEM)中で50,000個の生細胞/cmで播種され、37℃、20%Oで一晩、培養容器に付着させることができる。その後、培養培地は、必要に応じて交換及び/又は変更され、細胞は更に68~72時間、37℃、5%Oで培養される。
【0056】
当業者に理解されるように、培養された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、インビボでは細胞と表現型に異なる。例えば、一実施形態では、それらは、以下のマーカー、CD44、NG2、DC146及びCD140bのうちの1つ以上を発現する。培養された間葉系前駆細胞又は幹細胞はまた、インビボでは細胞と生物学的に異なり、インビボでは主に非周期(静止)細胞と比較して高い増殖速度を有する。
【0057】
一例では、細胞の集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から富化される。これに関して、「選択可能な形態」という用語は、細胞が、STRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーは、STRO-1であることができるが、そうである必要はない。例えば、本明細書に記載及び/又は例示されるように、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、間葉前駆細胞)は、STRO-1(及びSTRO-1ブライト(bright)であり得る)も発現する。したがって、細胞がSTRO-1+であるという指定は、細胞がSTRO-1発現のみによって選択されることを意味しない。一例では、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、それらは、STRO-3+(TNAP+)である。
【0058】
細胞又はその集団の選択への言及は、特定の組織源からの選択を必ずしも必要としない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択され得るか、又は単離され得るか、又は富化され得る。すなわち、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば、間葉前駆細胞)を含むいずれかの組織、又は血管新生組織、又は周皮細胞(例えば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織、又は本明細書に列挙される組織のうちのいずれか1つ以上からの選択のための支持を提供する。
【0059】
一例では、本開示において使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から個別に又は集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0060】
「個別に」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカーの群を別々に包含することを意味し、個々のマーカー又はマーカーの群が本明細書に別々に列挙されていない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、そのようなマーカー又はマーカーの群を別々にかつ相互に可分的に定義し得ることを意味する。
【0061】
「集合的に」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカーの群の任意の数又は組み合わせを包含することを意味し、マーカー又はマーカーの群のそのような数又は組み合わせが、本明細書に具体的に列挙されていない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、そのような組み合わせ又はサブコンビネーションを、マーカー又はマーカーの群の任意の他の組み合わせから別々にかつ可分的に定義し得ることを意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。一例では、本明細書で使用される場合、TNAPは、2005年12月19日に受託番号PTA-7282としてブダペスト条約の規定の下にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株により産生されるSTRO-3抗体に結合できる分子を指す。
【0063】
更に、一例では、STRO-1+細胞は、クローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0064】
一例では、かなりの割合のSTRO-1+細胞は、少なくとも2つの異なる生殖系列への分化が可能である。STRO-1+細胞が関与し得る系統の非限定的な例には、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞について多分化能である肝細胞前駆体;希突起膠細胞及び星状細胞へと進行するグリア細胞前駆体を生成し得る神経拘束細胞;ニューロンへと進行するニューロン前駆体;心筋及び心筋細胞の前駆体、グルコース応答性インスリン分泌膵臓ベータ細胞株が含まれる。他の系統には、限定されないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、並びに以下の前駆細胞が含まれる:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト等の皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管(renal duct)上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮細胞、神経膠細胞、神経細胞、星状細胞及び希突起膠細胞。
【0065】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得られ、ドナー試料又は間葉系前駆細胞又は幹細胞はその後プールされ、次いで培養拡大される。
【0066】
本開示に包含される間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象に投与する前に凍結保存されてもよい。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象に投与する前に培養拡大及び凍結保存される。
【0067】
一例では、本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞、並びにその子孫、それから誘導される可溶性因子、及び/又はそれから単離される細胞外小胞を包含する。別の例では、本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞、並びにそれらから単離される細胞外小胞を包含する。例えば、一定期間、及び細胞培養培地への細胞外小胞の分泌に好適な条件下で、本開示の間葉前駆系細胞又は幹細胞を培養拡大することが可能である。分泌された細胞外小胞は、その後、治療に使用するための培養培地から得ることができる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「細胞外小胞」という用語は、細胞から自然に放出され、約30nm~最大で10ミクロンのサイズの範囲であるが、典型的には、200nm未満のサイズである脂質粒子を指す。それらは、タンパク質、核酸、脂質、代謝産物、又は放出細胞由来のオルガネラ(例えば、間葉幹細胞;STRO-1細胞)を含有することができる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「エクソソーム」という用語は、概して、約30nm~約150nmのサイズの範囲であり、それらが細胞膜に輸送されて放出される哺乳動物細胞のエンドソーム区画に由来する細胞外小胞の型を指す。それらは、核酸(例えば、RNA;マイクロRNA)、タンパク質、脂質、及び代謝産物を含有することができ、1つの細胞から分泌され、他の細胞に取り込まれて、それらのカーゴを送達することによって、細胞間通信において機能する。
【0070】
細胞の培養拡大
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養拡大される。「培養拡大された」間葉系前駆細胞又は幹細胞培地は、それらが細胞培養培地中で培養され、継代された(すなわち、継代培養された)という点で、新たに単離された細胞と区別される。一例では、培養拡大された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、約4~10回の継代のために培養拡大される。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回の継代のために培養拡大される。例えば、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5回の継代のために培養拡大され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~10回の継代のために培養拡大され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~8回の継代のために培養拡大され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~7回の継代のために培養拡大され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、10回を超える継代のために培養拡大され得る。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、7回を超える継代のために培養拡大され得る。これらの例では、幹細胞は、凍結保存される前に培養拡大されて、中間体の凍結保存されたMLPSC集団を提供することができる。一例では、本開示の方法は、中間体の凍結保存されたMLPSC集団からの細胞を培養する。
【0071】
一実施形態では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得ることができ、ドナー試料又は間葉系前駆細胞又は幹細胞はその後プールされ、次いで培養拡大される。一例では、培養拡大プロセスは、
i.継代拡大によって生存細胞の数を拡大して、少なくとも約10億個の生存細胞の調製物を提供することであって、継代拡大は、単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞の初代培養物を確立し、次いで、前の培養物から単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞の第1の非初代(P1)培養物を連続的に確立することを含む、提供することと、
ii.継代拡大によって、単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞のP1培養物を、間葉系前駆細胞又は幹細胞の第2の非初代(P2)培養物に拡大することと、
iii.間葉系前駆細胞又は幹細胞のP2培養物から得られるプロセス内の中間体の間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物を調製し、凍結保存することと、
iv.凍結保存されたプロセス内の中間体の間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物を解凍し、プロセス内の中間体の間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物を継代拡大することによって拡大することと、を含む。
一例では、拡大された間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物は、
i.約0.75%未満のCD45+細胞、
ii.少なくとも約95%のCD105+細胞、
iii.少なくとも約95%のCD166+細胞を含む、抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する。
【0072】
一例では、拡大された間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物は、対照と比較して、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2Ra発現を少なくとも約30%阻害することができる。
【0073】
一例では、培養拡大された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、約4~10回の継代のために培養拡大され、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、更なる培養拡大の前に少なくとも2回又は3回の継代後に凍結保存されている。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回の継代のために培養拡大され、凍結保存され、次いで、本開示の方法に従って培養される前に、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回の継代のために更に培養拡大される。
【0074】
間葉系前駆細胞又は幹細胞単離及びエクスビボ拡大のプロセスは、当該技術分野で公知の任意の機器及び細胞処理方法を使用して実施され得る。本開示の様々な培養拡大の実施形態は、細胞の操作を必要とするステップ、例えば、播種、供給、接着培養物の解離、又は洗浄のステップを利用する。細胞を操作する任意のステップは、細胞を損傷させる可能性がある。間葉系前駆細胞又は幹細胞は、一般に、調製中に一定量の損傷に耐えることができるが、細胞への損傷を最小限に抑えながら、所与のステップを適切に実施する処理手順及び/又は機器によって、細胞を操作することが好ましい。
【0075】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS6,251,295に記載されるように、細胞源バッグ、洗浄液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する回転膜フィルター、濾液バッグ、混合ゾーン、洗浄細胞のための最終生成物バッグ、並びに適切なチューブを含む装置において洗浄される。
【0076】
一例では、本開示に従って培養された間葉系前駆細胞又は幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であり、CD45陰性であることに関して95%均質である。一例では、この均質性は、エクスビボ拡大、すなわち、複数の集団の倍加を通じて持続する。
【0077】
一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、3D培養の前に2D培養で培養拡大される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、マスター細胞バンクから拡大された培養物である。一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、3D培養で播種する前に、2D培養におけるマスター細胞バンクから培養拡大される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクター内に3D培養で播種する前に、2D培養中のマスター細胞バンクから少なくとも3日間培養拡大される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクター内に3D培養で播種する前に、2D培養中のマスター細胞バンクから少なくとも4日間培養拡大される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクター内に3D培養で播種する前に、2D培養中のマスター細胞バンクから3~5日間培養拡大される。これらの例では、2D培養は、細胞工場において行うことができる。様々な細胞工場製品が市販されている(例えば、Thermofisher、Sigma)。
【0078】
細胞の改変
本開示に従って培養した間葉系前駆細胞又は幹細胞は、投与時に細胞の溶解が阻害されるような方法で変更させることができる。抗原の変更は、免疫学的非応答性又は寛容性を誘導することができ、それによって、正常な免疫応答における外来細胞の拒絶に最終的に関与する免疫応答のエフェクター相(例えば、細胞傷害性T細胞生成、抗体産生等)の誘導を防止することができる。この目標を達成するために変更され得る抗原としては、例えば、MHCクラスI抗原、MHCクラスII抗原、LFA-3及びICAM-1が挙げられる。
【0079】
間葉系前駆細胞又は幹細胞はまた、線状骨格筋細胞の分化及び/又は維持のために重要なタンパク質を発現するように遺伝子改変されてもよい。例示的なタンパク質としては、増殖因子(TGF-β、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、FGF、筋原性因子(例えば、myoD、ミオゲニン、筋原性因子5(Myf5)、筋原性調節因子(MRF))、転写因子(例えば、GATA-4)、サイトカイン(例えば、カルジオトロピン(cardiotropin)-1)、ニューレギュリンファミリーのメンバー(例えば、ニューレギュリン1、2及び3)、並びにホメオボックス遺伝子(例えば、Csx、ティンマン(tinman)及びNKxファミリー)が挙げられる。
【0080】
細胞培養培地
本開示の方法は、間葉系前駆細胞又は幹細胞増殖を促進する増殖因子を含むウシ胎仔血清を含まない幹細胞培養培地を使用する。一実施形態では、培養培地は、血清を含まない幹細胞培養培地である。一例では、以下に説明する接着材料に加えて、本開示の方法において使用される細胞培養培地は、
基礎培地、
血小板由来増殖因子(PDGF)、
線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む。
【0081】
本開示の文脈で使用される場合、「培地」又は「培地(複数)」という用語は、細胞を取り囲む環境の成分を含む。培地は、細胞の増殖を可能にするのに好適な条件に寄与する及び/又はその条件を提供する。培地は、固体、液体、気体、又は相及び材料の混合物であり得る。培地は、液体増殖培地、及び細胞増殖を維持しない液体培地を含むことができる。培地にはまた、寒天、アガロース、ゼラチン、及びコラーゲンマトリックス等のゼラチン状培地も含まれる。例示的な気体培地には、ペトリ皿又は他の固体若しくは半固体支持体上で増殖する細胞が曝露される気相が含まれる。「培地」という用語はまた、細胞とまだ接触していなくても、細胞培養に使用することを意図した材料も指す。
【0082】
本開示の培養培地は、基礎培養培地を使用することによって調製することができる。本開示の文脈において、「基礎培養培地」とは、細胞、例えば、間葉前駆系細胞又は幹細胞に曝露するのに好適な非補充培地を指す。基礎培養培地としては、例えば、イーグル最小必須(MEM)培養培地、アルファ改変MEM培養培地、StemSpan(商標)、及びそれらの混合培養培地が挙げられ、幹細胞の培養に使用することができるものであれば、特に制限されない。
【0083】
更に、本開示の細胞培養培地は、脂肪酸又は脂質、ビタミン、サイトカイン、酸化防止剤、緩衝剤、無機塩等のような任意の成分を含有することができる。
【0084】
本開示において使用される細胞培養培地は、全ての必須アミノ酸を含有し、非必須アミノ酸も含有し得る。一般に、アミノ酸は、必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Lys、His)、及び非必須アミノ酸(Gly、Ala、Ser、Cys、Gln、Asn、Asp、Tyr、Arg、Pro)に分類される。
【0085】
当業者は、最適な結果のために、基礎培地が、細胞増殖を増強するのに十分なレベルで利用可能な主要栄養素を有して、目的の細胞株に適切でなければならないことを理解するであろう。例えば、基礎培地中のグルコース(又は他のエネルギー源)のレベルを増加させること、又はこのエネルギー源が枯渇し、したがって細胞増殖を制限することが見出される場合、培養の過程の間にグルコース(又は他のエネルギー源)を添加することが必要であり得る。一例では、溶存酸素(DO)レベルも制御することができる。
【0086】
一例では、本開示の細胞培養培地は、ヒト由来の添加物を含有する。例えば、ヒト血清及びヒト血小板細胞溶解物を、本開示の方法において使用される細胞培養培地に添加することができる。
【0087】
一例では、本開示の細胞培養培地は、ヒト由来の添加剤のみを含有する。したがって、一例では、細胞培養培地は、ゼノフリーである。疑義を回避するために、これらの例では、培養培地は動物性タンパク質を含まない。一例では、本開示の方法において使用される細胞培養培地は、動物成分を含まない。
【0088】
アスコルビン酸
アスコルビン酸は、培養における様々な種類の細胞の増殖及び分化に必須のサプリメントである。特定のアスコルビン酸誘導体は、特に中性pH及び37℃の通常の細胞培養条件下では、溶液中で安定でないため、「短時間作用性」であることが現在理解されている。これらの短時間作用性誘導体は、シュウ酸又はトレオン酸に急速に酸化する。37℃の培養培地(pH7)において、酸化は24時間でこれらの短時間作用性アスコルビン酸誘導体のレベルを約80~90%低下させる。したがって、短時間作用性アスコルビン酸誘導体は、様々な細胞型の従来の細胞培養において、より安定した「長時間作用性」アスコルビン酸誘導体に置き換えられている。
【0089】
本開示の文脈において、「短時間作用性」という用語は、中性pH及び37℃の培養条件下で、24時間の細胞培養後に約80~90%酸化されるアスコルビン酸誘導体を包含する。一例では、短時間作用性のL-アスコルビン酸誘導体は、L-アスコルビン酸塩である。例えば、本開示の文脈において、L-アスコルビン酸ナトリウム塩は、「短時間作用性」アスコルビン酸誘導体である。
【0090】
対照的に、「長時間作用性」という用語は、中性pH及び37℃の培養条件下で24時間の細胞培養後に約80~90%酸化されないアスコルビン酸誘導体を包含する。一例では、本開示の文脈において、L-アスコルビン酸-2-ホスフェートは、「長時間作用性」アスコルビン酸誘導体である。長時間作用性アスコルビン酸誘導体の他の例としては、テトラヘキシルデシルアスコルビン酸マグネシウムアスコルビルリン酸及び2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸が挙げられる。本開示の細胞培養培地は、短時間作用性アスコルビン酸誘導体、長時間作用性アスコルビン酸誘導体、又はそれらの混合物を含有することができる。
【0091】
分裂促進因子
PDGF及びFGF2は、インビトロでのウシ胎仔血清を含まない細胞培養において、幹細胞増殖を相乗的に促進する。
【0092】
PDGFは、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)に結合する細胞増殖及び分裂の調節因子である。化学用語では、PDGFは、2つのA(-AA)若しくは2つのB(-BB)鎖、又は2つ(-AB)の組み合わせから構成される二量体糖タンパク質である。PDGF-ABは、PDGFアルファ及びベータ受容体サブユニットに結合して、PDGFアルファベータ及びアルファアルファ受容体二量体を形成することが示されている。本開示の文脈において、PDGFは、PDGF-BB及びPDGF-ABを包含する。
【0093】
BFGF、FGFB、HBGF-2としても知られている塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーのメンバーである。FGF2もまた、細胞増殖及び分裂の調節因子である。PDGF及びFGF2の両方は、細胞が細胞分裂を開始することを促進するという点で、マイトジェンとして分類することができる。
【0094】
一例では、本開示の方法は、血小板由来増殖因子(PDGF)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む、ウシ胎仔血清を含まない細胞培養培地中で幹細胞の集団を培養することを含み、FGF2のレベルは、約6ng/ml未満である。例えば、FGF2のレベルは、約5ng/ml未満、約4ng/ml未満、約3ng/ml未満、約2ng/ml未満、約1ng/ml未満であり得る。他の例では、FGF2のレベルは、約0.9ng/ml未満、約0.8ng/ml未満、約0.7ng/ml未満、約0.6ng/ml未満、約0.5ng/ml未満、約0.4ng/ml未満、約0.3ng/ml未満、約0.2ng/ml未満である。
【0095】
別の例では、FGF2のレベルは、約1pg/ml~100pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、約5pg/ml~80pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、約10pg/ml~40pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約10pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約11pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約12pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約13pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約14pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約15pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約16pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約17pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約18pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約19pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約20pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約21pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約22pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約23pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約24pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約25pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約26pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約27pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約28pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約29pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、少なくとも約30pg/mlである。
【0096】
一例では、PDGFは、PDGF-BBである。一例では、PDGF-BBのレベルは、約1ng/ml~150ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、約7.5ng/ml~120ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、約15ng/ml~60ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約10ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約15ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約20ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約21ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約22ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約23ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約24ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約25ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約26ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約27ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約28ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約29ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約30ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約31ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約32ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約33ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約34ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約35ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約36ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約37ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約38ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約39ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約40ng/mlである。
【0097】
別の例では、PDGFは、PDGF-ABである。一例では、PDGF-ABのレベルは、約1ng/ml~150ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、約7.5ng/ml~120ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、約15ng/ml~60ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約10ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約15ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約20ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約21ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約22ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約23ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約24ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約25ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約26ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約27ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約28ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約29ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約30ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約31ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約32ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約33ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約34ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約35ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約36ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約37ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約38ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約39ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約40ng/mlである。
【0098】
他の例では、追加の因子を本発明の細胞培養培地に添加することができる。一例では、本開示の方法は、EGFを更に含む、ウシ胎仔血清を含まない細胞培養培地において幹細胞の集団を培養することを含む。EGFは、その受容体EGFRに結合することによって細胞増殖を刺激する増殖因子である。一例では、本開示の方法は、EGFを更に含む、ウシ胎仔血清を含まない細胞培養培地において幹細胞の集団を培養することを含む。一例では、EGFのレベルは、約0.1~7ng/mlである。例えば、EGFのレベルは、少なくとも約5ng/mlであり得る。
【0099】
別の例では、EGFのレベルは、約0.2ng/ml~3.2ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、約0.4ng/ml~1.6ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、約0.2ng/mlの間である。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.3ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.4ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.5ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.6ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.7ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.8ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.9ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約1.0ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約1.1ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約1.2ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約1.3ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは、少なくとも約1.4ng/mlである。
【0100】
一例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約3.2ng/mlであり、EGFのレベルは少なくとも約0.8ng/mlであり、FGF2のレベルは少なくとも約0.002ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約9.6ng/mlであり、EGFのレベルは少なくとも約0.24ng/mlであり、FGF2のレベルは少なくとも約0.006ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約16ng/mlであり、EGFのレベルは少なくとも約0.40ng/mlであり、FGF2のレベルは少なくとも約0.01ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約32ng/mlであり、EGFのレベルは少なくとも約0.80ng/mlであり、FGF2のレベルは少なくとも約0.01ng/mlである。
【0101】
一例では、培養培地は、3.2ng/mlのPDGF-BB、0.08ng/mlのEGF、及び0.002ng/mlのFGFを含む。別の例では、培養培地は、9.6ng/mlのPDGF-BB、0.24ng/mlのEGF、及び0.006ng/mlのFGFを含む。別の例では、培養培地は、16ng/mlのPDGF-BB、0.4ng/mlのEGF、及び0.01ng/mlのFGFを含む。別の例では、培養培地は、32ng/mlのPDGF-BB、0.8ng/mlのEGF、及び0.02ng/mlのFGFを含む。これらの例では、Alpha MEM又はStemSpan(商標)等の基礎培地は、参照量の増殖因子を補充することができる。一例では、培養培地は、32ng/mlのPDGF-BB、0.8ng/mlのEGF、及び0.02ng/mlのFGFを補充したAlpha MEM又はStemSpan(商標)を含む。
【0102】
他の例では、追加の因子を本開示の細胞培養培地に添加することができる。例えば、細胞培養培地は、表皮増殖因子(EGF)、lα,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-lβ(IL-lβ)及び間質由来因子lα(SDF-lα)からなる群から選択される1つ以上の刺激因子を補充することができる。別の実施形態では、細胞はまた、細胞の増殖を支持するのに十分な量の少なくとも1つのサイトカインの存在下で培養されてもよい。別の実施形態では、細胞は、ヘパリン又はその誘導体の存在下で培養されてもよい。例えば、細胞培養培地は、約50ng/mlのヘパリンを含有することができる。他の例では、細胞培養培地は、約60ng/mlのヘパリン、約70ng/mlのヘパリン、約80ng/mlのヘパリン、約90ng/mlのヘパリン、約100ng/mlのヘパリン、約110ng/mlのヘパリン、約110ng/mlのヘパリン、約120ng/mlのヘパリン、約130ng/mlのヘパリン、約140ng/mlのヘパリン、約150ng/mlのヘパリン又はその誘導体を含有する。一例では、ヘパリン誘導体はサルフェートである。ヘパリン硫酸の様々な形態が当該技術分野で公知であり、ヘパリン硫酸2(HS2)を含む。HS2は、例えば、雄及び/又は雌の哺乳動物の肝臓を含む様々な供給源に由来し得る。したがって、例示的なヘパリン硫酸には、雄の肝臓ヘパリン硫酸(MML HS)及び雌の肝臓ヘパリン硫酸(FML HS)が含まれる。
【0103】
別の例では、本開示の細胞培養培地は、幹細胞を未分化状態に維持しながら、幹細胞の増殖を促進する。幹細胞は、特定の分化系統に関与していない場合、未分化であると考えられる。上記で論じたように、幹細胞は、分化した細胞とそれらを区別する形態学的特徴を示す。更に、未分化幹細胞は、分化状態を検出するためのマーカーとして使用され得る遺伝子を発現する。ポリペプチド産物はまた、分化状態を検出するためのマーカーとして使用され得る。したがって、当業者は、慣用的な形態学的、遺伝学的、及び/又はプロテオーム分析を使用して、本開示の方法が、幹細胞を未分化状態に維持するかどうかを容易に決定することができる。
【0104】
血清
従来、幹細胞は、少なくとも約10~15%v/vの血清、一般的には子ウシ胎仔血清(FCS)としても知られているウシ胎仔血清(FBS)を補充した培地を使用して、細胞培養中で維持される。本開示の方法において使用される細胞培養培地は、ウシ胎仔血清を含まない細胞培養培地である。一実施形態では、細胞培養培地は、非胎仔血清で補充される。例えば、培養培地は、新生仔血清又は成体血清で補充されてもよい
【0105】
別の実施形態では、細胞培養培地は、ヒト血清で補充される。一例では、細胞培養培地は、ヒト非胎仔血清で補充されてもよい。例えば、細胞培養培地は、少なくとも約1%v/v、少なくとも約2%v/v、少なくとも約3%v/v、少なくとも約4%v/v、少なくとも約5%v/v、少なくとも約6%v/v、少なくとも約7%v/v、少なくとも約8%v/v、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%v/vのヒト非胎仔血清で補充されてもよい。
【0106】
別の例では、細胞培養培地は、ヒト新生児血清で補充されてもよい。例えば、細胞培養培地は、少なくとも約1%v/v、少なくとも約2%v/v、少なくとも約3%v/v、少なくとも約4%v/v、少なくとも約5%v/v、少なくとも約6%v/v、少なくとも約7%v/v、少なくとも約8%v/v、少なくとも約9%v/vのヒト新生児血清で補充されてもよい。一例では、ヒト新生児血清は、臍帯血(umbilical cord blood)である「臍帯血(cord blood)」から得られる。
【0107】
別の例では、細胞培養培地は、ヒト成人血清で補充されてもよい。例えば、培養培地は、少なくとも約1%v/v、少なくとも約2%v/v、少なくとも約3%v/v、少なくとも約4%v/v、少なくとも約5%v/v、少なくとも約6%v/v、少なくとも約7%v/v、少なくとも約8%v/v、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%v/vのヒト成人血清で補充されてもよい。
【0108】
一例では、ヒト成人血清は、ヒトAB血清である。例えば、細胞培養培地は、少なくとも約1%v/v、少なくとも約2%v/v、少なくとも約3%v/v、少なくとも約4%v/v、少なくとも約5%v/v、少なくとも約6%v/v、少なくとも約7%v/v、少なくとも約8%v/v、少なくとも約9%v/vのヒトAB血清で補充されてもよい。一例では、細胞培養培地は、少なくとも約3%のヒトAB血清で補充される。
【0109】
本開示の細胞培養培地はまた、既知の血清代替物を含有してもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン(例えば、脂質が豊富なアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール又は3’-チオールグリセロール、血小板溶解物、血小板が豊富な血漿、又は血清等価物を適切に含有するものであり得る。このような血清代替物は、例えば、国際公開第WO93/30679号に記載されている方法によって調製することができ、市販の製品も使用することができる。
【0110】
一実施形態では、培養培地は、血清を含まない。一実施形態では、3D培養は、FBS血清を含まない。一実施形態では、3D培養培地は、上記に参照したゼノフリー血清で補充される。一実施形態では、3D培養培地は、血清を含まない。
【0111】
接着材料及びマイクロキャリア
「接着材料」とは、細胞を表面上に保持し得るか、又は細胞が表面に付着することを可能にし得る、化学構造(例えば、荷電表面露出基)を有する、合成、天然に存在する、又はそれらの組み合わせの非細胞傷害性(すなわち、生物学的に適合する)材料を指す。一例では、接着材料は、マイクロキャリアである。「マイクロキャリア」は、バイオリアクターにおける接着細胞の増殖を可能にする支持マトリックスである。一例では、マイクロキャリアは、125~250マイクロメートルの球体である。一例では、マイクロキャリアは、穏やかな撹拌で懸濁液中に維持されるのに十分な密度を有する。マイクロキャリアは、DEAE-デキストラン、ガラス、ポリスチレンプラスチック、アクリルアミド、コラーゲン、及びアルギン酸塩を含むいくつかの異なる材料から作製することができる。一例では、マイクロキャリアは、多孔質である。別の例では、マイクロキャリアは、マクロ多孔質である。例えば、マイクロキャリアは、約50nmを超える孔径を有することができる。例えば、マイクロキャリアは、約50nm~約500nmの孔径を有することができる。他の例では、マイクロキャリアは、約50nm~約250nm、約50nm~約150nm、約50nm~約100nmの孔径を有する。一例では、マイクロキャリアは、溶解性粒子である。一例では、マイクロキャリアは、糖タンパク質を含む。一例では、糖タンパク質は、合成である。一例では、マイクロキャリアは、セルロース、ガラス繊維、セラミック粒子、マトリゲル、細胞外マトリックス成分、コラーゲン、ポリ-L-乳酸、デキストラン、不活性金属繊維、シリカ、ガラス、キトサン、又は植物性スポンジを含む。一例では、マイクロキャリアは、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロネクチン、又はラミニンのうちの1つ以上を含む。例えば、マイクロキャリアは、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロネクチン、又はラミニンのうちの1つ以上でコーティングすることができる。他の例では、マイクロキャリアは、静電気的に帯電している。一例では、マイクロキャリアは、糖タンパク質でコーティングされる。他の例では、マイクロキャリアは、コラーゲン又はゼラチンでコーティングされる。他の例では、マイクロキャリアは、コラーゲン又はビトロネクチンでコーティングされる。一例では、マイクロキャリアは、ビトロネクチン(例えば、ヒトビトロネクチン(vitronectin))でコーティングされる。一例では、マイクロキャリアは、誘導体化ビトロネクチン(例えば、ヒトビトロネクチン)でコーティングされる。一例では、コーティングは、合成である。一例では、コーティングは、ゼノフリーである。
【0112】
一例では、マイクロキャリアは、分解可能である。例えば、マイクロキャリアは、酵素的に分解可能であり得る。一例では、マイクロキャリアは、分解可能であり、多孔質である。一例では、マイクロキャリアは、分解可能であり、マクロ多孔質である。例では、マイクロキャリアは、分解可能なコアを有する。別の例では、マイクロキャリアは、ポリマーコアを有する。例えば、マイクロキャリアは、炭水化物ポリマーコアを有することができる。例えば、マイクロキャリアは、合成炭水化物ポリマーコアを有することができる。一例では、炭水化物ポリマーは、カルシウム依存様式で連結されている。これらの例では、マイクロキャリアコアは、コーティングされ得る。例示的なコーティングは、上記に説明されている。例えば、マイクロキャリアコアは、コラーゲン又はビトロネクチンコーティングを有することができる。
【0113】
一例では、マイクロキャリアは、0.5~3g/mlの密度を有する。別の例では、マイクロキャリアは、0.5~2g/mlの密度を有する。一例では、マイクロキャリアは、約1g/mlの密度を有する。
【0114】
マイクロキャリアの他の例は、Chen et al.2020 Biotechnology Letters.,42:1-10に要約されている。
【0115】
本開示での使用に好適なマイクロキャリアの例としては、Cultispher-Gマイクロキャリア及びCorning DMCマイクロキャリアが挙げられる。一例では、これらのマイクロキャリアは、ゼノフリーコーティングでコーティングされ得る。一例では、これらのマイクロキャリアは、糖タンパク質でコーティングされる。例えば、マイクロキャリアは、コラーゲン若しくはビトロネクチン等のネクチン、又はそれらの合成誘導体でコーティングされ得る。
【0116】
一例では、本明細書に開示される接着材料及びマイクロキャリアは、本明細書に開示される方法の一部として分解される。当業者は、接着材料又はマイクロキャリアを分解するための手段がそれらの組成物によって規定されることになることを理解するであろう。例えば、接着材料又はマイクロキャリアは、酵素消化によって分解され得る。例えば、ビトロネクチンでコーティングされたマイクロキャリアは、rPectinaseを使用して分解され得る。これらの例では、接着材料又はマイクロキャリアは、培養培地に酵素を添加することによって分解され得る。好適な酵素の他の例としては、必要とされる分解の性質に応じて、TrypLE及びコラゲナーゼが挙げられる。
【0117】
一例では、培養培地は、0.5~12g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、0.5~10g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、0.5~5g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、0.5~3g/Lのマイクロキャリアを含む。別の例では、培養培地は、1g/Lのマイクロキャリアを含む。例えば、培養培地は、1g/Lのコラーゲンコーティングマイクロキャリアを含むことができる。別の例では、培養培地は、1g/Lのビトロネクチンでコーティングされたマイクロキャリアを含むことができる。
【0118】
3D培養及びバイオリアクター
いくつかの実施形態では、本開示による培養は、3D培養で行われる。例えば、3D培養は、バイオリアクター内で実施され得る。このようなバイオリアクターの例としては、限定されないが、プラグフローバイオリアクター、連続撹拌タンクバイオリアクター、及び固定床バイオリアクターが挙げられる。例えば、三次元プラグフローバイオリアクター(米国特許第6,911,201号に記載されている)は、本明細書に記載される接着細胞の増殖及び長期維持を支持することができる。このバイオリアクターにおいて、接着間質細胞は、上記に説明したマイクロキャリア上に播種され、カラム内に充填され、それによって比較的小さな体積での多くの細胞数の増殖を可能にする。他の3Dバイオリアクターを本開示で使用することができる。別の例は、連続撹拌タンクバイオリアクターである。様々な撹拌タンクバイオリアクターが、市販されている。当業者は、インペラ位置が最適化される必要があり得ることを理解するであろう。他の例としては、固定床バイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、細胞播種灌流バイオリアクター、及び半径流灌流バイオリアクターが挙げられる。本開示に従って使用され得る他のバイオリアクターは、米国特許第6,277,151号、同第6,197,575号、同第6,139,578号、同第6,132,463号、同第5,902,741号及び同第5,629,186号に記載されている。別の例では、バイオリアクターは、撹拌タンクバイオリアクターである。別の例では、バイオリアクターは、充填床バイオリアクターである。一例では、充填床バイオリアクターは、撹拌タンク型の使い捨て容器である。一例では、充填床バイオリアクターは、Eppendorf製のBioBLUシリーズの容器である。
【0119】
一例では、細胞は、3D培養で少なくとも5日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で少なくとも6日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で少なくとも7日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で少なくとも8日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で少なくとも9日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で少なくとも10日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で5~10日間培養される。別の例では、細胞は、3D培養で6~8日間培養される。当業者は、細胞が、一般に、細胞密度がピークに達するまで培養されることを理解するであろう。ピーク細胞密度までの時間は、播種された細胞の数によって決定され得る。したがって、別の例では、細胞は、約10,000細胞/mlで播種され、3D培養で少なくとも6日間培養される。別の例では、細胞は、約10,000細胞/mlで播種され、3D培養で少なくとも7日間培養される。別の例では、細胞は、約10,000細胞/mlで播種され、3D培養で6~8日間培養される。
【0120】
一例では、培地の60~80%は、24時間毎に交換される。別の例では、培地の65~75%は、24時間毎に交換される。一例では、培地の約70%は、24時間毎に交換される。これらの例では、培地は、バイオリアクターへの及びバイオリアクターからの培地の灌流によって交換され得る。これらの例では、培地は、バイオリアクター内での3日目の培養から交換される。
【0121】
ピーク細胞密度
本開示の方法を実施する場合、一例では、細胞は、3D培養において細胞密度がピークに達するまで培養される。例えば、細胞は、バイオリアクター内で細胞密度がピークに達するまで培養され得る。一例では、本開示の方法に従って培養すると、ピーク細胞密度に達した後に生存細胞数がプラトーになる。一例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから24時間後に75%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから24時間後に80%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから24時間後に85%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから24時間後に90%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから24時間後に95%超である。一例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから48時間後に75%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから48時間後に80%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから48時間後に85%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから48時間後に90%超である。別の例では、生存細胞数は、ピーク細胞密度に達してから48時間後に95%超である。
【0122】
一例では、本開示の方法は、50Lのバイオリアクターにおいて150億~200億個の細胞を産生する。別の例では、本開示の方法は、50Lのバイオリアクターにおいて150億~180億個の細胞を産生する。別の例では、本開示の方法は、50Lのバイオリアクターにおいて150~200億個の細胞を産生し、開始培養培地の体積は40Lである。別の例では、本開示の方法は、50Lのバイオリアクターにおいて150~180億個の細胞を産生し、開始培養培地の体積は40Lである。これらの例では、当業者によって理解されるように、開始培養培地は経時的に交換される必要があり、したがって、細胞の指定数に到達するために使用される培養培地の総体積は、40Lを超えるであろう。
【0123】
組成物
本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団及び細胞培養培地を含む組成物であって、細胞培養培地が血清を含まず、接着材料、PDGF及びFGF2を含み、間葉系前駆細胞又は幹細胞が、接着材料に付着される、組成物を包含する。一例では、接着材料は、上記に参照したマイクロキャリアである。
【0124】
一例では、組成物は、任意選択で、特定の濃度をもたらすように、組成物を細胞培養培地と混合すること等の、所望の目的のために、書面による説明書とともに好適な容器に包装することができる。
【0125】
一例では、組成物は、バイオリアクター内に提供される。
【0126】
広範に記載されている本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように本発明に多数の変形及び/又は改変が行われ得ることは、当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0127】
本明細書において説明及び/又は参照される全ての刊行物は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0128】
本明細書に含まれる文書、作用、材料、デバイス、物品等の任意の説明は、本発明のための文脈を提供することのみを目的としている。これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術の基礎の一部を形成するか、又は本出願の各請求項の優先日以前に存在したために本発明に関連する分野における一般的な知識であったことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0129】
本出願は、2020年6月11日に出願されたAU2020/901931からの優先権を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0130】
実施例1:培地調製
ヒト血小板溶解物
ヒト血小板溶解物(hPL)は、ウシ胎仔血清(FBS)よりも間葉系細胞(MLC)増殖のための有意により強力な刺激であることが、公表されている幹細胞の文献において広範に報告されている。4つの異なる供給業者からの2つのロットのhPLを、96ウェルプレートにおける短期増殖アッセイにおいて3つの異なるロットのMLC(各々異なるドナーに由来する)の増殖を刺激するそれらの能力についてスクリーニングした。この初期スクリーニングに基づいて、1つのロットのMLCに対して単一の供給業者からの追加の7つのロットのhPLの性能を調べた。結果は、約5%vol/volでのhPLプラトーの濃度の増加に応答するMLCの用量依存的刺激を示した。公表された文献に従って、最適濃度のhPLでは、増殖は、同じアッセイにおいて10%FBSによって誘発されたものよりも2倍超大きかった(データ示せず)。これらのデータに基づき、hPLを、FBSを含む培養培地を用いた以前の実行で使用したものと同じMLCバンクを使用して、Millipore Mobius50L CellReadyバイオリアクター内の3回の複製BioR実行におけるFBSの代替として使用した。これらの3つの実行を、Solohillコラーゲンコーティングマイクロキャリア(コラーゲンコーティングポリスチレンマイクロキャリア)を使用し実施した。
【0131】
図1に示すのは、5%及び7.5%vol/vol hPLを補充した培地中で行った実行である。これらの実行は、実行が終了した日に、MLCが110億(7日目)~247億(10日目)の間の細胞数に達した細胞増殖速度の顕著な増加を示した。3つの実行では、括弧内に示した日に107億(11日目)、112億(9日目)、及び199億(10日目)のMLCのピーク数が発生した。まとめると、これらのデータにより、培地組成が、MLCの製造のための高収量バイオリアクター(BioR)プロセスを確実にするために重要であることが示される。FBSは、明らかに、Millipore Mobius50L SUBにおけるマイクロキャリア上でのMLC増殖のための非常に不十分な刺激であり、一方、hPLは、2-DにおけるMLC増殖に対する効果と一致して、はるかに強力な刺激を表す。
【0132】
V2.2培地
しかしながら、商業規模でのMLC製造のためのhPLの使用に関する重大な懸念は、十分な量の利用可能性である。細胞療法製品の製造に利用可能な供給を推定するための徹底したサプライチェーン分析が不足している。更に、hPLのロットサイズは現在小さく、複数のドナーからのプールが必要である。最後に、現在、ヒト病原体の伝播の可能性を排除するために必要な最も適切な病原体枯渇戦略についてのコンセンサスは存在しない。これらの理由のために、V2.2培地が開発された。この培地は、動物成分を含まず、MLCの増殖のための組換えマイトジェンの標的化された組み合わせを含有する。V2.2培地は、FGF2、PDGF及びEGFを補充した基礎培地を、細胞増殖のための他の要件とともに含む。したがって、V2.2培地は、hPLの使用を制限する供給制約及び安全性の問題の両方を排除する。
【0133】
V2.2の試験を、変数としてのMLCを排除し、他の変化する変数とのデータの相互比較を可能にするために、前の実験で使用したものと同じMLC細胞バンクで再び行った。再度、15g/LでSolohillコラーゲンコーティングマイクロキャリアを含有するMillipore Mobius50L Cell Readyバイオリアクター内に、細胞を6億個で播種した。図2に示すように、3回の複製実行において、V2.2は、8日目の全ての3回の複製において急速にピーク密度に達する拡大したMLCの非常にロバストな増殖を支持し、このときのピーク細胞密度は、152億~177億個の間の細胞で変動した。その後、次の24~48時間にわたって細胞数の急激かつ問題のある減少があった。
【0134】
MCB010及びMCB020の2つの追加のドナーからのMLCと並行してマスター細胞バンク(MCB)MCB006を使用して試験した場合、V2.2は、3つ全ての増殖を支持した。しかしながら、MCB006のピーク細胞密度に達した後に以前に観察された細胞数の急速な減少も、試験した2つの追加のドナーについて観察された(図3)。
【0135】
要約すると、V2.2は、コラーゲンコーティングマイクロキャリア上で増殖させた場合、Millipore Mobius50L CellReadyバイオリアクターにおいて、複数のドナーからのMLCのロバストな増殖を支持する能力を示した。しかしながら、各実行において細胞密度がピークに達した後、細胞数は急速に減少した。崩壊時の乳酸塩及びアンモニウムレベルの測定は、毒性レベルを示さず、グルコースレベル又は組換えサイトカインのレベルを制限することも示さなかった。更に、減少時近くの培地交換の頻度を増加させることによって細胞数のこの崩壊を防止しようとした実行では、崩壊を防止することはできなかった。しかしながら、以下の実施例3に示すように、マイクロキャリア及びバイオリアクターの設計を変更することにより、ピーク細胞密度における安定したプラトーを達成した。
【0136】
実施例2:マイクロキャリアのシード調製及び播種の最適化
以下の一連の実験は、マイクロキャリアの播種の最適化及びシード自体の調製を目的としたV2.2培地を使用したBioRプロセス開発の他の成分を強調する。上記のように、この時点までにFBS、hPL及びV2.2におけるMillipore Mobius50L CellReadyバイオリアクター内の全ての実験は、6億個の細胞のシードを使用して実施した。V2.2培地中にSolohillコラーゲンコーティングマイクロキャリアを播種するための最適な播種密度を決定するために、実験をCorning125mLスピナーフラスコ内で行った。
【0137】
7日目の採取時に回収したMLCの最終数に対する播種細胞密度の効果を調べた(データは示さず)。100mLのV2.2及び15g/Lでコラーゲンコーティングマイクロキャリアを含有するスピナー(3連)に、1,000、2,000、5,000、8,000、10,000及び20,000個のMLC/mLの播種密度に相当する、100,000~200万個のMLCを播種した。エンドポイントで採取した細胞の数は、0.1~50万個に徐々に増加し、播種した細胞は約80万個の細胞でプラトーに到達した。これらのデータに基づき、小規模及び大規模の全ての後続の実験における1mL当たりの播種した細胞の数は10,000/mLであった。
【0138】
上記のように、1mL当たりの最適なシード密度は、ドナー細胞バンク段階で10,000個のMLCであることが決定された。40LのBioR容積の場合、これは4億個の細胞に相当する。V2.2培地中の1つのCF10細胞工場内の単一のMCBバイアルの内容物からこの数の細胞を再現可能に生成するのに必要な最適な培地交換/採取時間を決定するために、高収量又は低収量を一貫して生成する2つの異なるドナー由来のMCBを用いて予備実験を行った。各ドナーの単一のバイアルの内容物を、3つのCF10細胞工場に播種し、以下のV2.2培地交換/採取時プロトコルに供して、採取時にどの状態が4億個を超える細胞を生じたかを特定した。
3日目の培地交換/5日目の採取
4日目の培地交換/6日目の採取
3日目及び5日目の培地交換/7日目の採取
【0139】
B群(4日目の培地交換/6日目の採取)(D4MX/D6H)は、低収量及び高収量のMCBの両方からこの細胞数を生成するために必要な最小条件として現れた。次いで、D4MX/D6H戦略及び他の2つの群からの細胞をスピナーにおいて試験し、15g/Lでの100mLのV2.2+コラーゲンコーティングMC中に10,000/mL及び20,000/mLの両方で播種した。特に、培地交換/採取プロトコルは、図4に示すように、スピナーにおけるMLCの収量に影響を及ぼさないように見えた。
【0140】
図5に、8つの異なるドナーからのMCBへのこのD4MX/D6Hプロトコルの適用を示す。1つを除く全てのMCBは、4億個の細胞の最小目標数が得られた。これらのデータに基づき、残りの実施例について、シード調製のためのD4MX/D6Hプロトコルを採用した。
【0141】
実施例3:マイクロキャリアの選択及びバイオリアクターの設計
前の実施例では、スピナー及び50Lスケールの両方の全ての実行を、Solohillコラーゲンコーティングマイクロキャリアで行った。これらのポリスチレンキャリアの使用に関する1つの問題は、プロセスの下流処理段階の間の実行の終了時にそれらを除去する必要があることである。更に、50Lのバイオリアクターにおいて0.75kgに相当する15g/Lを使用する必要性は、商品のコストに影響する。
【0142】
MLCがコラーゲンに十分に結合することを考慮して、Cultispher-Gマイクロキャリアを評価した。Cultispher-Gマイクロキャリアは、Percell Biolytica製のブタコラーゲンから構成されるマクロ多孔質マイクロキャリアである。これらのキャリアによって提供されるより大きな表面積以外に、別の利点は、実行終了時に、ゼラチンの酵素消化によって単純に除去することができることである。予備実験では、2倍の最終濃度でのTryPLEは、キャリアを完全に溶解するのに十分であり、この濃度及び消化期間は、MLCの生存に有害な影響を及ぼさないと判定された。
【0143】
更に、追加のバイオリアクタープラットフォームである、Eppendorf製のBioBLUシリーズの容器を評価した。スピナー及び中間スケール(BioBLU3c)の両方で、Cultispher-Gマイクロキャリアを使用した一連の実験を行った。代表的な実験を図6に示す。MCB019を、Cultispher-Gマイクロキャリア(1g/L)又はSolohillコラーゲンコーティングマイクロキャリア(15g/L)のいずれかを含有するV2.2中の3連のBioBLU3c容器に、完全な容器容積(2.5L)において10,000/mLで播種した。4日目及びその後毎日において、培地の体積の70%を、新鮮なV2.2と交換した(バッチプロセス)。Cultispher-Gマイクロキャリア及びBioBLU容器の組み合わせは、約7日目に安定したプラトーに到達したMLC数/mLの安定した増加をもたらし、3回の実行でのピーク数は738,000、637,000、及び708,000/mLであった。対照的に、Solohillキャリアを用いて行った実行のうちの1つは、5日目にわずか382,000/mLのピーク細胞密度を達成し、その後安定したプラトーであったが、第2の実行では、細胞数は9日目まで漸進的に増加したが(635,000/mL)、次の24時間にわたって441,000/mLまで有意な数の減少を示した。これらのデータにより、Cultispher-Gマイクロキャリア及び/又はBioBLU容器設計等の糖タンパク質コーティングマイクロキャリアの使用は、Millipore Mobius BioR容器内でSolohillマイクロキャリアの組み合わせを使用したときに以前に見られた細胞数の劇的な崩壊を防止することができることが示唆される。この影響は、BioBLU3c(データは示さず)を使用した追加の実験の結果によって更に支持され、Cultispher-Gマイクロキャリア/BioBLU容器の設計の組み合わせの使用が、ピーク細胞密度の達成後の細胞数における安定したプラトーの生成と一貫して関連付けられ、Solohillマイクロキャリア/Millipore Mobiusの組み合わせで観察された細胞数の有意な減少を排除するように見えたことが確認された。
【0144】
この仮説を完全なスケールで試験するために、Cultispher-G(1g/L)キャリアを、比較のために、Solohillキャリア及びMobius50Lバイオリアクターを用いた前のPD実行で使用したものと同じMLCバンクMCB006を使用して、BioBLU50c容器(40Lスケール)において試験した3回の実行を行った。これらの3回の実行をV2.2中で行い、細胞を10,000/mLで播種した。供給は、培地の70%が、実行の4日目からその終了まで交換されるバッチプロセスによって行った。
【0145】
図7に示すように、Cultispher-GマイクロキャリアとBioBLU50cとの組み合わせの使用は、3回の複製の実行の全てにおいて細胞数の定常的で指数関数的な増加をもたらし、7日目に平均で191億個の細胞でピークに達した。最も重要なことに、かつBioBLU3cスケールのデータと完全に一致して(図6)、10日目の実行の終了まで、全ての3回の実行における細胞数の安定したプラトーが存在し、Millipore Mobius50L/Solohillコラーゲンコーティングマイクロキャリアの組み合わせで実施された以前の実行を特徴付ける細胞数の劇的な減少とは対照的である(図2及び図3)。
【0146】
最後に、完全に合成された動物成分を含まない溶解性マイクロキャリア(DMC)製剤を、これらのキャリアのスピナースケールでの性能について、Cultispher-G及びSolohillコラーゲンコーティングポリスチレンマイクロキャリアのものと比較した。DMC製剤は、ゼノフリーコラーゲン又は合成、可撓性ビトロネクチンベースのペプチド基質であるSynthemaxのいずれかでコーティングされたCorning DMC粒子を含んだ。DMC製剤を評価して、プロセスが、ブタコラーゲンを含むCultispher-Gマイクロキャリアを用いて行われる場合、それらの明らかな利点にもかかわらず、プロセスが全体として明らかに動物性タンパク質を含まないことはないという懸念に対処した。
【0147】
全ての群を、V2.2中の3連のスピナーを使用して実施し、MCB MB006由来の細胞を10,000細胞/mLで播種した。培地交換は、4日目から7日目まで、70%培地交換を伴うバッチプロセスによって行った。
【0148】
7日目の採取時に、MLCは、570,000/mL(Solohill)~730,000/mL(Corning DMC-Synthemax;Cultispher-G)の密度に達した。コラーゲンでコーティングされたCorning DMC及び合成ビトロネクチンペプチド、SynthemaxでコーティングされたCorning-DMCの両方は、Solohillキャリアを使用して得られたものよりも有意に高い収量を示した。Cultispher-Gマイクロキャリアによって支持されたものに対して、Corning-DMC-コラーゲン又はCorning DMC-Synthemax製剤のいずれかによって得られた収量の間に有意差はなかった(図8)。スピナーフラスコにおいて得られた収量と、様々な異なる細胞バンクにわたるCorning DMC-Synthemaxとの比較は、典型的には、MLCドナー間で観察される予測される変動を示した(図9)。重要なことに、全てが高レベルの増殖を示す。例えば、440,000細胞/mLのMCB019は、BioBLU50cにおいて40Lスケールで約170億個の細胞に外挿し、このcMLC細胞バンクでの50cの実行で実際に得られたものに近い数字である(図10を参照のこと)。これらのスピナーフラスコ培養物で示されたCorning DMC-Synthemaxの性能に基づいて、次にそれらの性能をBioBLU50cにおいて評価した。
【0149】
BioBLU50cにおける培地交換のための灌流ベースの方法論も最適化した。この方法論は、バッチ供給プロセスの欠点を回避し、バッチプロセスと同様に、3日目から24時間毎に容器内の体積の70%を交換する(データは示さず)。
【0150】
Corning DMC-Synthemaxを使用して実行終了時に細胞を採取するためのプロトコルも最適化されており、細胞間接触を分解するためのTryPLEの短時間の使用とともに、マイクロキャリア溶解に関するCorningの推奨プロトコルを含んだ。得られた細胞懸濁液をバッグ(Flex Concepts)に収集し、製品の凍結保存の前に洗浄及び濃縮のためにkSep400に通した。灌流ベースの培地交換戦略及び下流の採取方法論の両方を、kSep洗浄及び濃縮ステップとともに組み込んだ7回の実行を行った。実行は、単一のMCB、MCB019を用いて行った。4回の実行において、溶存酸素(DO)を維持し、残りの3回ではそれを制御しなかった。シードを上記のように調製し、1g/LでCorning Synthemax DMCを含有する40LのV2.2培地に10,000細胞/mLで播種した。分析物及び細胞計数を毎日測定した。7日目に1Lの採取を実施し、8日目に残りの細胞を完全に採取した。
【0151】
図10は、BioBLU50cにおいて40LスケールでCorning DMC-Synthemaxで得られたMLCの高度に再現性のある収量を示す。平均14億3千万+9千万で、DO制御の非存在下での収量は、15億6千万+8億6千万でのDO制御で得られた収量と有意差はない(p=0.176)。
【0152】
上記を考慮して、Corning DMC-Synthemax等の糖タンパク質コーティング粒子及びBioBLUバイオリアクターの使用は、予想外に、それ自体で、特に、培養物がピーク細胞密度に達した後の細胞数の急速な減少を阻止することに関して有利であることが示された。したがって、これらのデータは、MLPSCの3D培養において、Synthemax等のネクチンペプチドでコーティングされたマイクロキャリアの使用を支持する。
【0153】
上記の実施例はまた、7日目に再現可能に高いレベルのMLC収量を支持する動物成分を含まないBioRプロセスとして、Eppendorf BioBLU50cバイオリアクター、Corning DMC-Synthemax微粒子及びV2.2培地の組み合わせを特定した。
【0154】
実施例4:V2.2/2-Dダウンスケールプロセスにおいて生成されたMSC製品の拡大された特性評価
上記に概説したように増殖させたMLCが、適切な同一性、純度、及び効力マーカーを示すかどうかを調べるために、各実行から採取した細胞を凍結保存し、解凍時に、細胞の重要な品質特性(CQA)に対するいずれかの効果を決定するための包括的な範囲の生物学的分析に供した。拡大された特性評価分析には、T細胞増殖を阻害する能力によって測定した場合、解凍後の生存率及び回復、細胞サイズ、増殖能力、同一性、純度、サイトカイン分泌及び免疫調節潜在力が含まれた。
【0155】
解凍後の生存率及び回復
7つの試験試料の各々からの凍結保存されたMLCを、RD.SOP.04.06に従って解凍し、解凍直後の生存率を、PR-031に記載されている方法論に従ってトリパンブルー排除によって測定した。解凍後の生存率は、96~97%の範囲で全ての試料間で極めて一貫しており、有意差+DO調節はなかった(図11)。
【0156】
解凍後のMSCの直径
凍結保存された8個の試験物品の各々の解凍後の懸濁液中のMLCサイズを、既知のサイズのマイクロビーズを参照基準として使用してフローサイトメトリーによって推定した。マイクロビーズのサイズを、走査型電子顕微鏡及び国立標準技術研究所(NIST)の追跡可能な粒子を使用して製造業者によって決定した。Spherotec製のマイクロビーズを以下の細胞直径についての参照として使用した:2μm、3μm、5μm、7μm、10μm及び14.5μm、一方、Bangs Laboratories製のマイクロビーズを、20μm、25μm、30μm及びそれ以上の細胞サイズのために使用した。フローサイトメトリー(線形又は対数ピーク最大値、FS-中央値)によって決定されるその前方散乱(FS)シグナルに対してマイクロビーズサイズをプロットすることにより、様々な参照基準(典型的には5~30μmにわたる)から標準曲線を生成した。したがって、ceMSC試験試料のサイズを、試料のFS-中央値を使用して標準曲線から決定した。新たに解凍した試料に対して試験を実施した。図12に示すように、BioBLU50cにおけるV2.2中のCorning DMC-Synthemaxキャリア上で生成された7つの試験物品の全てが、21μm(実行#8)~24.8μmの範囲の非常に類似した細胞直径を示した。DO制御の非存在下で生成されたものが、22.6+1.63μmの平均細胞直径を示し、一方、DO制御で生成されたものが、22.6+0.36μmの平均直径を示した(p=0.477)。
【0157】
解凍後の増殖能
凍結保存からの解凍後の培養におけるMLCの増殖動態の分析は、細胞生存率の即時測定以外にMSC機能の定量的測定を提供する。バイオリアクター実行において生成された7ロットのMLCの各々を、96ウェルプレート中の血清補充増殖培地中に、ウェル当たり2,000細胞で3連で播種した。間葉系細胞(MLC)ロットを継代5に拡大し、最小必須培地アルファ(αMEM)中の10%ウシ胎仔血清(FBS)中に播種し、適合性の対照として使用した。この適合性の対照は、このアッセイにおいて確実に増殖活性を実証している。したがって、各実験実行でのその活性は、試験手順に使用される必須の試薬、材料、及び機器の適合性を示す役割を果たす。更に、陰性対照として、適合性の対照を含む各試料を、血清を含まない(基礎)培地に播種した。培養物を、5%CO、37±2℃で設定した加湿細胞培養インキュベーターに適合させたIncuCyte(登録商標)ZOOMライブイメージング顕微鏡(Essen BioScience)内で140~146時間インキュベートし、6時間毎に同時にイメージングした。インキュベーション時間の終了時に、緑色フィルターセットを使用してIncuCyte Zoom内のプレートをスキャンする前に、Vybrant(商標)DyeCycle(商標)Green(Invitrogen)を添加した。インキュベーション時間の終了時に試験した各条件に存在する核/ウェルの数及びアッセイ期間にわたる集密度パーセントを、統合されたアルゴリズムを適用して試薬で染色した核又は細胞によって占有された領域をそれぞれマスクした後に決定した。図13に示すように、BioR生成物の7つ全ては、現在の2-D/FBSプロセスで増殖した適合性の対照2014CC006と非常に類似した増殖動態を示し、アッセイの6日目のエンドポイントにおいて72%(実行#7)~93.6%(実行#10)の範囲の集密度のレベルに達した。DO制御の存在下又は非存在下で、6日目に達成された集密度のレベルに有意差はなかった(p=0.212)。これに従って、ウェル当たりの細胞数を測定するためのVybrant(商標)DyeCycle(商標)Greenの使用(図14)は、6日目のウェル当たりの細胞数が、DO制御アームとDO非制御アームとの間で有意に変化しなかったことを同様に示した(p=0.257)。
【0158】
MLC同一性及び純度のフローサイトメトリー分析
新たに解凍された試験試料を、ヒトCD146、STRO-4(MLC同一性のマーカーとして)に対するモノクローナル抗体、並びにCD45、CD31、CD80、CD86及びHLA-DR(MLC純度のマーカーとして)に対する抗体、並びに非結合アイソタイプ一致陰性対照抗体とインキュベートした。使用した抗体は、蛍光色素R-フィコエリトリン(PE)と直接コンジュゲートさせた。DAPIを使用して、生細胞と死細胞とを区別した。純度マーカー(CD80 CD86、HLA-DR)の各々について、陽性対照細胞株を、ceMSC試料と並行して実行して、アッセイのシステム適合性を確認した。試料をフローサイトメトリーによって分析した。DAPI染色による光散乱特性及び死細胞に基づくデブリの排除後、抗体染色試料とそのアイソタイプ陰性対照との蛍光の比較によって、各マーカーの発現レベルを決定した。これらの分析の結果を図15に示す。7回のBioRの実行からの全ての試験物品は、純度マーカーCD146を86.8%超のレベルで発現し、STRO-4を96~99.9%、及び99.76~99.9%で発現した。分析した5つの純度マーカーの各々について、染色は、いずれの1つの試料においても1.3%を超えず、大部分については1%未満であった。
【0159】
実施例5:MLCの機能活性
様々な治療指標におけるMLCの作用の多様な機序の基礎となる主要な属性は、細胞の修復及び免疫調節機能をまとめて媒介するパラクリン活性の多様なレパートリーを分泌するそれらの能力である。7つのロットのMLCによるいくつかの血管新生因子の分泌を、新たな血管の発生の促進を通じて組織修復を刺激する際のMLCの作用の尺度として調べた。それらの免疫調節特性の尺度として、T細胞増殖を阻害する細胞の能力も評価した。
【0160】
SDF-1α
間葉系細胞は、新たな血管の形成に因果的な役割を果たすように十分に裏付けられた複数の増殖因子のロバストなレベルを分泌する。これらには、SDF-1α、VEGF-A及びアンジオポエチン-1(ANGPT1)が含まれる。解凍後、様々な試験試料を等しい生存細胞密度で培養物中に播種し、血清を含まない条件下で馴化培地を生成させた。馴化培地の収集後、目的のタンパク質の各々を、ELISA(R&D Systems)によって定量した。
【0161】
馴化培地中のSDF-1αレベルは、約3198pg/mL~6022pg/mL(平均4246+802pg/mL)の範囲で7つのMLC試験物品ロット間で変動した(図16)。4069+203pg/mL及び4379+1027pg/mLでは、それぞれ、DO維持の非存在下対存在下で分泌されたSDF-1αの平均レベルは、有意差はなかった(p=0.34)。
【0162】
SDF-1α濃度のELISA測定に使用したものと同じ試験物品馴化培地試料におけるSDF-1αの生物活性の測定も行った。SDF-1αバイオアッセイについては、高レベルのCXCR4を発現する細胞株(U937)をトランスウェルインサートに播種し、血清を含まないMLC馴化培地を24ウェルプレートの下部ウェルに配置した。細胞を、MLC馴化培地又は組換えヒトSDF-1αに3時間移行させた。馴化されておらず、測定可能なレベルのSDF-1αを含有していない、血清を含まない基礎培地を陰性対照として使用し、3ng/mlの組換えヒトSDF-1αをシステム適合性アッセイ対照として使用した。指定された3時間の時点の後、底部チャンバに移行した細胞を収集し、CountBright Absolute Counting Beads(Invitrogen、C36950)と混合し、移行した細胞の数を、各チューブに添加した標準数のカウントビーズに対してフローサイトメトリーを使用して定量した。
【0163】
移行アッセイからのデータを図17に示す。U937細胞のMLC馴化培地の様々な試料への移行の観察されたレベルは、ELISAによって対応する試料中で測定されたSDF-1αのレベルを非常に密接に反映する。全ての7つの試料(70,610+9067細胞)にわたって観察された平均移行レベルは、2-D/FBSプロセスにおいて製造されたMLCについて観察されたレベルに近く、これらのアッセイのための適合性対照として使用した。
【0164】
VEGF-A
馴化培地試料中のVEGFのレベルをELISAによって同様に測定した。4204pg/mLのレベルでVEGFを分泌した1つの異常値の実行#9を除いて、残りの6回の実行で生成されたMLCによって分泌されたVEGFのレベルは、2290+148pg/mLの平均と極めて一貫していた(図18)。
【0165】
ANGPT1
馴化培地中のANGPT1のレベルは、4269+672pg/mLの全ての7回の実行にわたって平均分泌レベルで実行間の中程度の変動を示した(図19)。DO制御の非存在下で行った3回の実行について、ANGPTレベルは最小限の変動を示した(平均3794+187pg/mL)が、DOを制御して行った実行では、レベルはいくらかより可変であった(4625+684)が、これらの相違にもかかわらず、DO維持の非存在下対存在下で分泌されたANGPT1の平均レベルは、有意差はなかった(p=0.073;p<0.05では有意ではない)。
【0166】
実施例6:免疫調節活性
7つのバイオリアクター実行の各々において生成されたMLCを、それらの免疫抑制能力及び細胞品質の直接の尺度として、活性化されたT細胞増殖を抑制する能力について評価した。簡単に述べると、このアッセイのために、PBMCをCD3及びCD28抗体で刺激し、様々な比率(1:5、1:10及び1:20)でMLCと共培養し、活性化されたT細胞増殖を、EdU組み込み及び多色フローサイトメトリーによって測定した。このアッセイについての対照には、非刺激PBMC単独、刺激PBMC単独、及び上記のようにFBSで製造されたMLCロット(適合性対照)が含まれる。
【0167】
図20に示すように、BioBLU50cバイオリアクターにおけるCorning DMC-Synthemax上でV2.2中で生成された7/7のMLC試験物品は、T細胞増殖を1:10の比で阻害する非常に強力な能力を示し、3/7は90%超の増殖を阻害し、92%のレベルまで阻害された適合性対照のものに非常に近いレベルであった。残りの4つのBioR生成試料について、達成された阻害レベルは依然として非常に高く、73~88%の範囲であった。
【0168】
実施例7:概要
本開示において要約される作業の最高点を表すバイオリアクタープロセスの概略図を図21に示す。マスター細胞バンク(MCB)の単一のバイアルから始まり、これを単一のCF10細胞工場に移し、上記の条件下で6日間にわたって必要な4億個のシードを生成するために使用する。次いで、採取したシードを、40LのV2.2及び1g/LのCorning DMC-Synthemaxを含有するBioBLU50cに移す。MLCは、3日目から開始する灌流による培地の交換により、更に7日間(合計13日のキャンペーン期間)容器内で増殖させ、24時間毎にV2.2の体積の70%を交換する。合計160LのV2.2培地を、BioBLU50cの実行毎に使用する。細胞の採取は、容器内で行われ、キャリアの沈降及び使用済み培地の35Lの除去に続く。これに続いて、EDTA及びペクチナーゼ(Corning DMC-Synthemaxの溶解のため)及び2×TrypLEを30分間添加し、その後、洗浄及び濃縮のために容器の内容物をバッグ(FlexConcepts)を介して蠕動ポンプによってkSep400に移す。次いで、洗浄及び濃縮された生成物は、凍結保存される前に充填され、仕上げられ、目視検査される。
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【国際調査報告】