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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】流体ゲル組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20230706BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230706BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230706BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230706BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230706BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K47/10
A61K47/36
A61K47/42
A61P27/02
A61P27/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576181
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 GB2021051457
(87)【国際公開番号】W WO2021250422
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2008857.1
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597134902
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ バーミンガム
【氏名又は名称原語表記】The University of Birmingham
【住所又は居所原語表記】Edgbaston Birmingham B15 2TT United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・メトカーフ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ウィリアムズ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・モークス
(72)【発明者】
【氏名】リアム・グローヴァー
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC05
4C076CC32
4C076EE23
4C076EE36
4C076EE42
4C076EE46
4C076EE47
4C076FF32
4C076GG50
(57)【要約】
水性媒体中に分散されたミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法を開示する。流体ゲル組成物の粘度は、ゲルが剪断にさらされると低下する。そのような方法によって得られる剪断減粘性流体ゲル組成物、及びそのような組成物の医学的使用もまた開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に分散された0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法であって、
a)複数の架橋性官能基を含むミクロゲル粒子形成ポリマーを提供するステップ、
b)ステップa)で提供された前記ミクロゲル粒子形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)の濃度で溶解してポリマー溶液を形成するステップ、
c)ステップb)で形成された前記ポリマー溶液と、前記ポリマーの前記架橋性官能基を架橋可能な薬剤とを混合するステップ、及び
d)ゲル化が完了するまで前記混合物を撹拌するステップ
を含み、
ステップc)の前記架橋剤が金属イオン塩ではなく、
前記剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率が、前記ゲルが剪断にさらされると可逆的に減少する、方法。
【請求項2】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、合成ポリマー、バイオポリマー、または複数の架橋性官能基を含むように合成的に官能化されたバイオポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーを、前記水性媒体中に2~8重量/体積%の濃度で溶解する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップd)における前記撹拌を、100~1000rpm(例えば、300~700rpm、好ましくは300~500rpm)で実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップd)における前記撹拌を、前記混合物の粘度がそれ以上上昇しなくなるまで実施する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップc)における前記架橋剤が、ラジカル開始剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ラジカル開始剤が、ホスフィンオキシド(TPOなど)、プロピオフェノン(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンまたは2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノンなど)、プロパンジオン(カンファーキノンなど)及びアゾニトリル(AIBNなど)から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、ポリオール、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン、ポリスチレン及びポリアクリレートのうちの1つ以上から選択される合成ポリマーである、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリオールが、複数の架橋性官能基を含むポリアルキレングリコール(PEGなど)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋性官能基が、炭素-炭素二重結合を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記架橋性官能基が、オレフィン、アクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、エポキシド、ニトリル、アルデヒド及びケトンのうちの1つ以上である、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記架橋性官能基が、以下の構造を有し、
【化1】
式中、
【化2】
が、前記官能基の前記ポリマー残部への結合点を表し、R、R及びRが、水素及びC1-4アルキルから独立して選択される、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
式中、R及びRが水素であり、Rが、水素またはC1-4アルキルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、アクリレートまたはメタクリレート官能基を含むポリエチレングリコールである、請求項6または7に記載の方法。
【請求項15】
ステップd)における前記撹拌を、光照射下で実施する、請求項6~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記光照射の波長が、200~500nm(例えば、320~500nm、200~400nm、250~380nmまたは365nm)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーを、前記水性媒体中に3~5重量/体積%の濃度で溶解する、請求項6~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ラジカル開始剤を、0.01~1体積/体積%(例えば、0.05~0.5体積/体積%、または0.1体積/体積%)の濃度で前記ポリマー溶液と混合する、請求項6~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップc)における前記架橋剤が、酵素である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、トランスグルタミナーゼ(TG)、チロシナーゼ、またはリパーゼから選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記酵素が西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)であり、前記ミクロゲル粒子形成ポリマーの前記架橋性官能基がフェノール基またはカルボン酸基を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、チラミン基を含むように合成的に官能化されたバイオポリマー(例えば、チラミンと複合体化したヒアルロン酸またはチラミンと複合体化したデキストラン)である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップd)における前記混合物が、過酸化水素も含む、請求項21または22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記酵素がトランスグルタミナーゼ(TG)であり、前記ミクロゲル粒子形成ポリマーの前記架橋性官能基が、アミド及びアミン基を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、グルタミン及びリジン残基を含むように官能化されている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーがゼラチンである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記酵素がチロシナーゼであり、前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーを含み、前記1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーの前記架橋性官能基が、アミン、アルコール及び/またはフェノール官能基を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーが、キトサン及びゼラチンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記酵素を、0.1~3重量/体積%(0.1~1.0重量/体積%など)の濃度で前記ポリマー溶液と混合する、請求項19~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
ステップd)を、20~40℃(例えば、約25℃、約30℃、約35℃、または約37℃)で実施する、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
ステップc)における前記架橋剤が、酸または塩基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記複数の架橋性官能基が、イオン性基または両性イオン基を含み、その結果、pHの変化によって正及び負に荷電した部分が存在し、これらがイオン引力を介して架橋され得る、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ステップa)で提供される前記ミクロゲル粒子形成ポリマーがアルギン酸塩であり、ステップc)における前記架橋剤が酸である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
水性媒体中に分散された0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法であって、
a)複数の架橋性官能基を含むミクロゲル粒子形成ポリマーを提供するステップ、
b)ステップa)で提供されたミクロゲル粒子形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)の濃度で溶解してポリマー溶液を形成するステップ、
c)ステップb)で形成されたポリマー溶液と、前記ポリマーの前記架橋性官能基を共有結合で架橋することを誘導可能な薬剤とを混合するステップ、及び
d)ゲル化が完了するまで前記混合物を撹拌するステップ
を含み、
前記剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率が、前記ゲルが剪断にさらされると可逆的に減少する、方法。
【請求項35】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、合成ポリマー、バイオポリマー、または複数の架橋性官能基を含むように合成的に官能化されたバイオポリマーである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーを、前記水性媒体中に2~8重量/体積%の濃度で溶解する、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
ステップd)における前記撹拌を、100~1000rpm(例えば、300~700rpm、好ましくは300~500rpm)で実施する、請求項34~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
ステップd)における前記撹拌を、前記混合物の粘度がそれ以上上昇しなくなるまで実施する、請求項34~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
ステップc)における前記架橋剤が、ラジカル開始剤である、請求項34~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記ラジカル開始剤が、ホスフィンオキシド(TPOなど)、プロピオフェノン(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンまたは2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノンなど)、プロパンジオン(カンファーキノンなど)及びアゾニトリル(AIBNなど)から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、ポリオール、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン、ポリスチレン及びポリアクリレートのうちの1つ以上から選択される合成ポリマーである、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記ポリオールが、複数の架橋性官能基を含むポリアルキレングリコール(PEGなど)である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記架橋性官能基が、炭素-炭素二重結合を含む、請求項39~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記架橋性官能基が、オレフィン、アクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、エポキシド、ニトリル、アルデヒド及びケトンのうちの1つ以上である、請求項39~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記架橋性官能基が、以下の構造を有し、
【化3】
式中、
【化4】
が、前記官能基の前記ポリマー残部への結合点を表し、R、R及びRが、水素及びC1-4アルキルから独立して選択される、請求項39~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
式中、R及びRが水素であり、Rが、水素またはC1-4アルキルである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、アクリレートまたはメタクリレート官能基を含むポリエチレングリコールである、請求項39または40に記載の方法。
【請求項48】
ステップd)における前記撹拌を、光照射下で実施する、請求項39~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記光照射の波長が、200~500nm(例えば、320~500nm、200~400nm、250~380nmまたは365nm)である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーを、前記水性媒体中に3~5重量/体積%の濃度で溶解する、請求項39~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記ラジカル開始剤を、0.01~1体積/体積%(例えば、0.05~0.5体積/体積%、または0.1体積/体積%)の濃度で前記ポリマー溶液と混合する、請求項39~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
ステップc)における前記架橋剤が、酵素である、請求項34~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、トランスグルタミナーゼ(TG)、チロシナーゼ、またはリパーゼから選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記酵素が西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)であり、前記ミクロゲル粒子形成ポリマーの前記架橋性官能基がフェノール基またはカルボン酸基を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、チラミン基を含むように合成的に官能化されたバイオポリマー(例えば、チラミンと複合体化したヒアルロン酸またはチラミンと複合体化したデキストラン)である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
ステップd)における前記混合物が、過酸化水素も含む、請求項54または55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記酵素がトランスグルタミナーゼ(TG)であり、前記ミクロゲル粒子形成ポリマーの前記架橋性官能基が、アミド及びアミン基を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項58】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが、グルタミン及びリジン残基を含むように官能化されている、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記ミクロゲル粒子形成ポリマーがゼラチンである、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記酵素がチロシナーゼであり、前記ミクロゲル粒子形成ポリマーが1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーを含み、前記1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーの前記架橋性官能基が、アミン、アルコール及び/またはフェノール官能基を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項61】
前記1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーが、キトサン及びゼラチンである、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記酵素を、0.1~3重量/体積%(0.1~1.0重量/体積%など)の濃度で前記ポリマー溶液と混合する、請求項52~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
ステップd)を、20~40℃(例えば、約25℃、約30℃、約35℃、または約37℃)で実施する、請求項52~62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
請求項1~63のいずれか1項に記載の方法によって取得可能な、取得する、または直接的に取得する剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項65】
i)ゼロ剪断に供された場合に0.1Pa・s以上(例えば、0.1~500Pa・s)の粘度を有し、前記流体ゲル組成物が剪断を受けると、粘度が低下する(例えば、0.1Pa・s未満に)、
ii)ゼロ剪断に供された場合に1Pa・s以上(例えば、0.1~200Pa・s)の粘度を有し、前記流体ゲル組成物が剪断を受けると、粘度が低下する(例えば、1Pa・s未満に)、または
iii)ゼロ剪断に供された場合に10Pa・s以上(例えば、10~100Pa・s)の粘度を有し、前記流体ゲル組成物が剪断を受けると、粘度が低下する(例えば、10Pa・s未満に)、請求項64に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項66】
前記組成物が、静止状態で、0.1~10Hzの周波数範囲にわたって粘性率よりも優位な弾性率を有する、請求項64または請求項65に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項67】
前記流体ゲル組成物が、静止状態で、0.1~1000Paの弾性率を有する、請求項64~66のいずれか1項に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項68】
前記組成物が、1つ以上の薬理学的に活性な薬剤をさらに含む、請求項64~67のいずれか1項に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項69】
前記組成物が、抗線維化剤(デコリンなど)、抗感染症剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗増殖剤、角質溶解剤、細胞外マトリックス修飾剤、細胞接合調節剤、基底膜修飾剤、生物学的潤滑剤、及び色素沈着調節剤からなる群から選択される1つ以上の薬理学的に活性な薬剤を含む、請求項68に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項70】
前記組成物が、約0.1mg/mL~0.5mg/mLの濃度のデコリンを含む、請求項69に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項71】
治療に使用するための、請求項68~70のいずれか1項に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物。
【請求項72】
局所投与に適した局所ゲル組成物であって、前記局所ゲル組成物が、請求項64~70のいずれか1項に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物である、前記局所ゲル組成物。
【請求項73】
眼への投与に適した眼用ゲル組成物であって、前記眼用ゲル組成物が、請求項64~70のいずれか1項に記載の剪断減粘性流体ゲル組成物である、前記眼用ゲル組成物。
【請求項74】
前記組成物が、ステロイド(例えば、プレドニゾロン)及び/または抗菌剤(例えば、ゲンタマイシン)をさらに含む、請求項73に記載の眼用ゲル組成物。
【請求項75】
緑内障の予防もしくは治療、または眼の瘢痕の抑制に使用するための、請求項73または請求項74に記載の眼用ゲル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体ゲル組成物の調製方法、及びそのような方法によって調製される流体ゲル組成物に関する。本発明はさらに、治療応用、特に眼及び局所での治療応用のための流体ゲル組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医学及び組織工学における生体材料の役割は、近年注目を集めているが、その使用法は何千年も前から文書化されている。科学的及び技術的進歩により、ヘルスケアに大幅な改善がもたらされ、ますます複雑化する次世代の材料の開発を活気づけている1,2。そのような飛躍の1つが1930年代に示され、合成ポリマーの進歩により、心臓血管、整形外科、眼科、歯科、神経など、人体の解剖学全体にわたる応用につながった。これらの高分子足場により、固有の再生特性を有さない「不活性」標準治療は、例えば骨伝導機構を刺激することができる標準治療に置き換えられた。細胞浸潤及び自然治癒プロセスのための足場を提供する原理は、骨に限定されない。合成足場を使用することで多くの軟部組織への応用が行われてきたが、多くの疾患の性質は複雑なため、より良い統合及び/または機能性が要求されている。細胞外マトリックス(ECM)が天然の環境の直接的な模倣物を提供するため、そのような問題に対処するために脱細胞化された組織の足場が提案されている。これは理論的には理想的であるが、過酷な化学処理の要件、バッチ間の潜在的な変動、及び患者の拒否のために、大規模に採用されてこなかった。したがって、移植用の細胞を固定化するためのECM様構造を提供する、ヒドロゲルがこの要求を満たす最先端の材料であった6-8。それらの生体適合性、高含水量、大量輸送、及び汎用性の直接的な結果として、そのような材料が多数の組織工学及び薬物送達用途に採用されることとなった。しかしながら、細胞事象の調節における化学的、物理的、及び形態学的役割に起因する毒物学研究に多額の費用がかかるため、これらの新規材料への置き換えは依然として遅れている10
【0003】
置き換えプロセスによってもたらされる高コスト及び高リスクを回避する1つの手段は、現在承認されている材料を使用し、微細構造設計プロセスを通じてそれらを再構築することである11。多くの業界で一般的に使用されている製剤工学への微細構造設計アプローチは、原材料、加工、及び材料特性の3つの主要領域間の相互作用に焦点を当てている12。この場合も、ヒドロゲルはそのようなアプローチに適しており13,14、ポリマー濃度、鎖長、化学骨格(疎水性/親水性バランス)、荷電及び分岐15、並びに処理パラメータ、硬化/ゲル化の程度16などの化学的特性を慎重に制御することにより、強度、弾性、及び収量を含む材料の挙動を迅速に操作することができる。流体ゲルは通常、対応する静止固体とは対照的に、剪断ゲル化及びFDA承認済みの材料との協働により、同一の組成を保持しながら、流動性を生じる17,18
【0004】
流体ゲルは通常、閉じ込め技術、一般的には、ジェラン、アルギン酸塩またはカラギーナンなどの多糖類のゾル-ゲル転移(剪断-ゲル処理)時の剪断/混合によって製造される19。そのような遷移は、多くの場合、冷却及び/またはイオン種の添加によって熱的またはイオン的に駆動される。したがって、ゲル化キネティクスは、製造プロセス中に極めて重要な役割を果たし、急速なゲルの成長とその後の分解、または剪断流内の粒子の成長のいずれかを介して粒子形成を促進する20。最終的に、これらの密に詰まったゲル化粒子は、大きな引っ張り下で互いに「押しつぶす」能力を有し、顕著な剪断減粘能力を有する静止時の疑似固体挙動を示す21-23
【0005】
流体ゲルの剪断減粘特性により、生物学的に活性な薬剤が送達できる可能性がある。例えば、眼への活性薬剤の投与は、注射可能な液体ゲルを眼の表面に塗布することによって向上し得る。しかしこのゲルは、静止時には高粘度の固体様ゲルとして存在するものの、瞬目(剪断)時の粘度減少によって活性薬剤の遅延放出を引き起こし得る。あるいは、規定の活性薬剤の放出特性は、プログラム可能なゲルを介して達成可能である場合がある。これにより、化学的に高感度な結合を使用してゲル上に治療薬を保持し、生物学的合図によって放出が刺激される24
【0006】
残念なことに、流体ゲルを製剤化するために現在使用されている多糖類の構造は、生物医学的用途のための多目的な足場になり得る、調整可能な化学的性質またはプログラム可能な放出(ポリマー主鎖への活性薬剤の化学的結合によるなど)を備えた官能化流体ゲルの調製に直ちに役立つものではない。
【0007】
本発明は、上記を念頭に置いて考案された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様では、水性媒体中に分散された0.5~20重量/体積%のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性(shear-thinning)流体ゲル組成物の形成方法を提供し、この方法は、
a)複数の架橋性官能基を含むミクロゲル粒子形成ポリマーを提供するステップ、
b)ステップa)で提供されたミクロゲル形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%の濃度で溶解してポリマー溶液を形成するステップ、
c)ステップb)で形成されたポリマー溶液と、ポリマーの架橋性官能基を架橋可能な薬剤とを混合するステップ、及び
d)ゲル化が完了するまで混合物を撹拌するステップ
を含み、
ステップc)の架橋剤は金属イオン塩ではなく、
剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率は、ゲルが剪断されると可逆的に減少する。
【0009】
本発明の第2の態様では、水性媒体中に調製された0.5~20重量/体積%のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法を提供し、この方法は、
a)複数の架橋性官能基を含むミクロゲル粒子形成ポリマーを提供するステップ、
b)ステップa)で提供されたミクロゲル形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%の濃度で溶解してポリマー溶液を形成するステップ、
c)ステップb)で形成されたポリマー溶液と、ポリマーの架橋性官能基を共有結合で架橋することを誘導可能な薬剤とを混合するステップ、
d)ゲル化が完了するまで混合物を撹拌するステップ
を含み、
剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率は、ゲルが剪断にさらされると可逆的に減少する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、本明細書で定義される調製方法のいずれかによって取得可能な、取得する、または直接的に取得する剪断減粘性流体ゲル組成物を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、治療に使用するための、本明細書で定義される剪断減粘性流体ゲル組成物を提供する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、局所投与に適した局所ゲル組成物を提供するが、この局所ゲル組成物は、本明細書で定義される剪断減粘性流体ゲル組成物である。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、眼への投与に適した眼用ゲル組成物を提供するが、この眼用ゲル組成物は、本明細書で定義される剪断減粘性流体ゲル組成物である。
【0014】
本発明の好適な実施形態では、本発明による眼用ゲル組成物は、緑内障の予防もしくは治療、または眼の瘢痕の抑制に使用するためのものである。
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して以下にさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による流体ゲルの固有の材料特性を示す。(A)一般的な局所投与アプリケータから分配される流体ゲル(ゲルは写真で目視可能なように染色されている)(B)剪断速度の増加と減少を示す一般的な流体ゲルのフロー特性。剪断の増加に伴い流体粘度が低下する。
図2】概略図(左)は、流体ゲルを生成するプロセスを示す。ゲル化を受けている間に混合装置を介して転送された初期ポリマーゾル、及び混合装置から結果として得られる流体ゲルが示されている。(右)は、(i)ラジカルによるゲル化(ii)酵素によるゲル化、及び(iii)pH変化によるゲル化を含むゲル化ステップが進行する様々なメカニズムを示す。
図3】ラジカル誘導合成PEG-DAミクロゲル懸濁液の製造の概略図及び提案するゲル化メカニズムを示す。(i)ラジカル形成(ii)開始及び成長、並びに(iii)末端粒子の形成を行うための適用された剪断によるゲル成長の制限が示されている。
図4】(a)300rpm(実施例5.1)または700rpm(実施例5.5)で調製されたPEG-DA合成ミクロゲルの「ゲル化」特性。特性は、初期の液体の高さからの偏差を時間の関数として測定することによって得られた(700rpmの試料の0秒、75秒、及び120秒での写真表現で示している)(b)実施例5.1(300rpm)~5.5(700rpm)の遠心分離を用いたゲル化相の特性決定。17,000rcfで10分間遠心分離した後、0.5gアリコートから処理混合速度の関数として除去された連続相の質量[統計的有意性は、p<0.05、**p<0.01及び***p<0.001として示される]。
図5】合成PEG-DAミクロゲル粒子の形状及びサイズ(a)様々な混合速度で調製したゲルの静的光散乱データ(実施例5)。(i)処理速度の関数としての粒子サイズ分布、及び(ii)適用した混合の関数としてサイズが線形に減少する傾向を示す分布から取得される体積加重平均(D[4,3])(b)様々な混合速度で調製した希釈(1:4)ミクロゲル系の位相差顕微鏡を使用して得られた光学顕微鏡写真(実施例5)。(c)粒子厚を示すために90及び180°回転させた3DスタックCSLM画像。ゲル化粒子(実施例5.1)をローダミン6Gで染色し、543nmレーザーを使用して画像化した[スケールバーは100μmを表す]。
図6】[A]弾性率[B]周波数依存データ(弾性率及び粘性率)並びに[C]適用される剪断力の増加に伴う流体ゲル粘度の変化に関してPEG-DAラジカル誘導流体ゲルの引っ張りの増加によって引き起こされる変化を示す機械的スペクトル(PBS中の3%,3.5%,4%及び5%(体積/体積)ポリマー)を示す。
図7】PEG-DA合成ミクロゲル系の機械的挙動。(a)300または700rpmで調製したミクロゲル懸濁液の振幅掃引、応力制御、(b)300rpm及び700rpmで調製したミクロゲルの0.04Pa応力で得られた周波数掃引、(c)周波数掃引(0.04Pa応力)を介して処理速度(凡例に示されている線の式で各データセットに追加された最適な線)の関数として得られた貯蔵弾性率(G’)、(d)様々な処理速度で調製したミクロゲルの振幅掃引の崩壊、並びに(e)ミクロゲル硬化中に使用する処理速度の関数としてのTanδの変化。
図8】PEG-DA合成ミクロゲル懸濁液の流動挙動。(a)1分間の掃引で得られた300及び700rpmで調製したミクロゲルの剪断速度傾斜(適用したCrossモデルにフィッティングさせた)、(b)処理速度の関数としてプロットしたCrossフィッティングを使用して得られたゼロ剪断粘度(η)データ、及び(c)図4(b)に示す遠心分離データを使用して決定した粒子体積分率(φgel)の関数としてプロットしたゼロ剪断粘度(濃縮系(M>M)のMark-Houwink方程式;η=KM にフィッティングされており、式中、Kはフィッティング係数として使用され、Mは粒子体積分率φgelに置き換えられている)。
図9】様々なポリマー濃度で調製した試料に関する、(A)貯蔵弾性率に対する応力の増加によって引き起こされる変化、及び(B)1Hzでの貯蔵弾性率の変化を示すPEG-DAラジカル誘導静止ゲルの機械的スペクトル(PBS中の3.5%,3.8%,4%,4.2%,4.4%,4.6%,4.8%及び5%(体積/体積)ポリマー-比較例1)。
図10】ヒツジ軟骨細胞に対するPEG-DAベースのミクロゲルの細胞毒性。(a)PEG-DA製剤の各構成部分について得られた代謝活性(プレストブルー)データ、(b)軟骨細胞の代謝活性に対する処理速度の影響、(c)過剰な非ゲル化PEG-DAの洗浄及び除去が細胞の代謝活性に及ぼす影響、(d)(i)ゲルなし(対照)、または(ii)300rpm(iii)400rpm(iv)500rpm(v)600rpm及び(vi)700rpmで調製したPEG-DAミクロゲルで処理した、細胞の位相差顕微鏡写真[統計的有意性はp<0.05、**p<0.01及び***p<0.001として示される。スケールバーは100μmを表す]。
図11】フィブロネクチン(FN)官能化PEG-DAミクロゲル粒子。(a)フィブロネクチンを使用した粒子の官能化の提案されたメカニズムを示す概略図。メカニズムは一般的なマイケル型反応に基づいており、反応物から生成物までの仮定された反応ステップは、i~iiiで強調されている。(b)フィブロネクチンが表面に付着した、実施例5.1に従って調製したゲル化粒子の蛍光顕微鏡写真。(c)FN処理ミクロゲル系と非処理ミクロゲル系との間の細胞代謝活性の相対的変化。(d)軟骨細胞が表面に付着したFN-ミクロゲル粒子の顕微鏡写真[統計的有意性は***p<0.001として示される。スケールバーは100μmを表す]。
図12】実施例5.3に従って調製したPEG-DA流体ゲルからの一連の治療薬の5時間にわたる累積放出プロット。
図13】実施例5.3に従って調製したPEG-DA流体ゲルへの充填後の様々な時点での典型的なECM修飾因子(プロテイナーゼK)の活性のin vitro実証。同等のプロテイナーゼKのみ及び対照実験も示す。
図14】実施例5.3に従って調製したPEG-DA流体ゲルへの充填後のE.coli及びS.aureusに対するペニシリン-ストレプトマイシンの抗生物質活性の阻害ゾーンのin vitro実証。同等のペニシリン-ストレプトマイシンのみの実験も示す。
図15】剪断への曝露後、実施例5.1に従って調製した流体ゲルの粘度及び弾性率(G’)の可逆的減少を示す実験(3体積/体積%のPEG-DA、300rpm剪断混合)。(A)応力の傾斜の増加及び減少に続くFGの粘度、(B)1Paの応力(左)、続いて10Paの応力(中央)、次いで再度1Paの応力に戻した(右)時のFGの粘度を示す3段階粘度特性、(C)10Pa剪断応力での初期予剪断後(黒四角)の弾性(貯蔵)率(G’)の回復を示すプロット(黒丸)(損失率(G’’)は白丸として示す)。
図16】実施例11に従って調製した酵素的に架橋された流体ゲルの機械的挙動。(A)0.5%引っ張りで得られた周波数掃引、(B)引っ張り掃引(1Hzで取得)、及び(c)適用される剪断の増加に伴う粘度の変化。
図17】実施例12に従って酸誘導ゲル化によって調製した流体ゲル(流体-実施例12A)の機械的挙動と、剪断なしで調製した従来の(静止-実施例12B)ヒドロゲルとの比較。(A)0.5%の引っ張りで得られる周波数掃引、(B)引っ張り掃引(1Hzで取得)、(C)適用される剪断の増加に伴う実施例12Aの粘度の変化。
図18】(A)は、酸誘導ゲル化によって調製した流体ゲル(実施例12A)を示し、(B)は、剪断の影響なしで調製した比較用の静止ゲル(実施例12B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
用語「流体ゲル」は、本明細書では、静止状態では相互作用して固体様の特性を与えるが、大きな変形(例えば、機械的剪断)下では可逆的に流体となる、水性媒体内に調製したミクロゲル粒子の懸濁液を指すために使用される。
【0017】
用語「水性媒体」は、本明細書では、水または水性流体(例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液または血清などの生理学的流体)を指すために使用される。
【0018】
用語「ミクロゲル」は、本明細書では、ポリマーの微細なフィラメントのネットワークから形成されたゲルの微細な粒子を指すために使用される。
【0019】
用語「剪断減粘性(shear-thinning)」は、本明細書では、本発明の流体ゲル組成物を定義するために使用される。この用語は当技術分野でよく理解されており、流体ゲルに剪断力が加えられると粘度が低下する流体ゲル組成物を指す。本発明の剪断減粘性流体ゲル組成物は、「静止」粘度(適用される剪断力がない場合)を有し、剪断力が適用される場合には、より低い粘度を有する。流体ゲル組成物のこの特性により、剪断力が加えられると(例えば、本発明の流体ゲル組成物を含むチューブまたはディスペンサーに力を加えることによって)、それらが流動し、身体に投与可能になる。剪断を加えて塗布し、加えた剪断力を取り除くと、流体ゲル組成物の粘度が上昇する。通常、本発明の流体ゲル組成物は、ヒドロゲル組成物を投与するために剪断力を受けた場合、1Pa・s未満の粘度を有する。1Pa・s未満の粘度では、流体ゲル組成物は流動可能である。静止粘度は、通常、1Pa・sを上回り、例えば2Pa・s超、3Pa・s超、または4Pa・s超である。
【0020】
「処置」または「治療」への言及は、病態の確立された症状の予防及び緩和を含むことを理解されたい。したがって、状態、障害あるいは病態の「処置」または「治療」には、状態、障害あるいは病態に罹患しているか、または罹患しやすい可能性があるが、状態、障害あるいは病態の臨床症状または無症候性症状をまだ経験または呈していないヒトにおいて、発症する状態、障害あるいは病態の臨床症状の出現を予防または遅延させるか、(2)状態、障害あるいは病態を阻害する、すなわち、疾患の発症もしくは再発(維持治療の場合)、またはその少なくとも1つの臨床症状もしくは無症候性症状を停止、軽減または遅延させるか、あるいは(3)疾患を緩和または減弱させる、すなわち、状態、障害もしくは病態、またはその臨床症状もしくは無症候性症状の少なくとも1つを退行させることが含まれる。
【0021】
「治療有効量」とは、疾患を治療するために哺乳類に投与した場合に、その疾患についてそのような治療を実行するのに十分な化合物の量を意味する。「治療有効量」は、化合物、疾患及びその重症度並びに治療される哺乳類の年齢、体重などに依存して変化する。
【0022】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、「含む」及び「含有する」という文言、及びその文言の変形は、「含むが、これらに限定されない」を意味し、他の添加物、成分、整数またはステップを除外することを意図しない(除外しない)。本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、単数形は、文脈上別段の要求がない限り、複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈上別段の要求がない限り、単一性だけでなく複数性も考慮していると理解されるべきである。
【0023】
流体ゲル組成物の形成方法
本発明による流体ゲルの調製には、好適なポリマー溶液がそのゾル-ゲル転移全体にわたって剪断を受け、その間、ラジカル誘導、酵素誘導またはpH誘導ゲル化などのポリマーの架橋性官能基の架橋を介してゲル化を受けるように誘導されることが含まれる(図2)。この剪断混合は、静止ゲルの形成で通常観察される長距離秩序を制限し、ゲル核の成長を個別の粒子に制限する19,20
【0024】
流体ゲルのユニークな特性は、静止時には疑似固体特性を示すが、力がかかると流動可能になることである。系にかかる剪断力を増加させると、高度に凝集または濃縮されたポリマー分散液/溶液に典型的な、非ニュートン剪断減粘挙動が生じる25図1(b))。これにより、ミクロゲル懸濁液はスポイトボトルを介した塗布に理想的になり、局所塗布(例えば、眼)においてノズルを介して急速に剪断減粘する(図1(a))。低剪断では、一般的な水性点眼薬よりも数桁高い大きな粘度が観察され、塗布及びその後のまばたきの間に流れ中の粒子のもつれが解かれ整列することで減粘する26,27。塗布時に剪断減粘する能力と、剪断後に迅速に再構築できることにより、本発明の流体ゲルは、眼表面に塗布され、バリアとして作用する点眼薬としての使用に非常に適したものとなる。
【0025】
本発明の第1の態様では、以下のステップを含む、水性媒体中に分散された0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法を提供し、この方法は、
a)複数の架橋性官能基を含むミクロゲル粒子形成ポリマーを提供するステップ、
b)ステップa)で提供されたミクロゲル形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)の濃度で溶解してポリマー溶液を形成するステップ、
c)ステップb)で形成されたポリマー溶液と、ポリマーの架橋性官能基を架橋可能な薬剤とを混合するステップ、及び
d)ゲル化が完了するまで混合物を撹拌するステップ
を含み、
ステップc)の架橋剤は金属イオン塩ではなく、
剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率は、ゲルが剪断にさらされると可逆的に減少する。
【0026】
本発明の第2の態様では、水性媒体中に分散された0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法を提供し、この方法は、
a)複数の架橋性官能基を含むミクロゲル粒子形成ポリマーを提供するステップ、
b)ステップa)で提供されたミクロゲル形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%(例えば、1~10重量/体積%)の濃度で溶解してポリマー溶液を形成するステップ、
c)ステップb)で形成されたポリマー溶液と、ポリマーの架橋性官能基を共有結合で架橋することを誘導可能な薬剤とを混合するステップ、及び
d)ゲル化が完了するまで混合物を撹拌するステップ
を含み、
剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率は、ゲルが剪断にさらされると可逆的に減少する。
【0027】
本発明は、ポリマー溶液のゲル化を誘導することができる薬剤の存在下で好適なポリマー溶液を剪断混合することを含む、剪断減粘性流体ゲル組成物の形成方法を記載する。これにより、ポリマー溶液は、混合が連続ゲルマトリックスの形成を防止するのに十分であるように一定の混合下でゲル転移を受ける。結果として得られる流体ゲル組成物は剪断減粘性であり、これは、流体ゲルが剪断にさらされると、組成物の粘度と弾性率が可逆的に低下することを意味する。
【0028】
本発明は、静止ゲルの形成とは区別され、混合することなくまたは連続ゲルマトリックスの形成を防止するには不十分な混合を行うことによりゲル化を実施する。静止ゲルは固体のように振る舞い、剪断力にさらされても流動することはできず、そのような力は、連続ゲル化マトリックスの破砕と崩壊をもたらすだけである。
【0029】
本発明の第1または第2の態様のステップa)で提供するミクロゲル粒子形成ポリマーは、水性媒体中でミクロゲル粒子を形成可能な任意のポリマーであってよい。ミクロゲル粒子形成ポリマーから形成されるミクロゲル粒子は、任意の好適な形態(例えば、それらは、直線フィラメントまたは規則的もしくは不規則な形状の粒子であり得る)及び/または粒子サイズを有し得る。マクロゲル構造とは対照的に、ミクロゲル粒子の形成は、所望の剪断減粘特性を促進する。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、剪断がない場合または低レベルの剪断では、ミクロゲル粒子が互いに結合し、流体ゲルのバルクフローが実質的に妨げられると仮定される。しかしながら、剪断力を加えると、隣接するミクロゲル粒子間の相互作用が克服され、粘度が低下し、それによって流体ゲル組成物が流動できるようになる。適用された剪断力が取り除かれると、隣接するミクロゲル粒子間の相互作用が再形成され、粘度が再び上昇し、流動する能力が容易に妨げられる。
【0030】
ミクロゲル粒子形成ポリマーは、複数の架橋性官能基を含む。そのような官能基は、ポリマー主鎖の一部であってもよいし、ポリマー側鎖に結合したペンダント基であってもよい。官能基は、ポリマー鎖を架橋してポリマーゲル化を引き起こすことができる。通常、架橋性官能基は、架橋を誘発するために別の薬剤または触媒を必要とする。一実施形態では、ポリマーは複数の架橋性官能基を含み、官能基は同一である。別の実施形態では、ポリマーは複数の架橋性官能基を含み、官能基は複数種類の官能基を含む。一実施形態では、ポリマーは複数の架橋性官能基を含み、官能基は2種類の官能基を含む。したがって、ポリマーは、タイプA(例えば、酸)の複数の架橋性官能基及びタイプB(例えば、アルコール)の複数の架橋性官能基を含み得る。続いて、同じタイプの官能基(例えば、A-AもしくはB-B)間、または異なるタイプの官能基(例えば、A-B)間で架橋を実施してもよい。
【0031】
一実施形態では、架橋性官能基は、酸、アミン、アルコール、アミド、エステル、ニトリル、オレフィン、アクリレート及びフェノールから選択される。好ましい実施形態では、架橋性官能基は、アミン、アミド、酸アクリレート及びフェノールから選択される。最も好ましい実施形態では、架橋性官能基はアクリレートである。
【0032】
好ましい実施形態では、架橋性官能基は以下の構造を有する:
【化1】
式中、
【化2】
は、官能基のポリマーの残部への結合点を表し、R、R及びRは、独立して、水素及びC1-4アルキルから選択される。好ましい実施形態では、R及びRは水素であり、Rは水素またはC1-4アルキルである。より好ましい実施形態では、R、R及びRは水素である。別の好ましい実施形態では、R及びRは水素であり、Rはメチルである。
【0033】
一実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、合成ポリマー、バイオポリマー、または複数の架橋性官能基を含むように合成的に官能化されたバイオポリマーである。
【0034】
好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは合成ポリマーである。合成ポリマーは、ポリマー鎖の主鎖または側鎖のいずれかに結合した架橋性官能基を含むように誘導体化することができる場合がある。あるいは、合成ポリマーは、架橋性官能基をすでに有するモノマーから形成されていてもよい。好適には、合成ポリマーは、ポリオール(例えばPEGなどのポリアルキレングリコール)、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン(例えばポリエチレン)、ポリスチレン及びポリアクリレートの1つ以上から選択される。好ましくは、合成ポリマーは、ポリオール(例えば、PEGなどのポリアルキレングリコール)及びポリアクリレートのうちの1つ以上から選択される。
【0035】
別の実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、複数の架橋性官能基を含むように合成的に官能化されたバイオポリマーである。バイオポリマーは、複数の架橋性官能基を含むように誘導体化することができる任意の天然ポリマーであり得る。好適なバイオポリマーには、多糖類(デキストラン、アルギン酸またはキトサンなど)及びグリコサミノグリカン(ヒアルロン酸など)が含まれる。
【0036】
別の実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、例えばタンパク質またはポリペプチド(例えばゼラチン)などの架橋性官能基を天然に含むバイオポリマーである。
【0037】
一実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、アクリレートまたはメタクリレート官能基、ポリアクリレート、複数のフェノール基で官能化されたポリマー、並びに複数のアミド及びアミン基で官能化されたポリマーを含むポリエチレングリコールのうちの1つ以上から選択される。好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、1つ以上のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、及びポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)から選択される。別の実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、チラミン基(ヒアルロン酸-チラミンまたはデキストラン-チラミンなど)と複合体化したバイオポリマーである。さらに別の実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、複数の第一級アミド(RC(O)-NH、例えば、グルタミン残基)及びアミン(R’-NH;例えばリジン残基)官能基を含む合成ポリマーまたはバイオポリマーである。さらに別の実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、複数の酸、アミンまたはアルコール官能基を含む1つ以上のバイオポリマーである。
【0038】
この方法のステップb)では、ステップa)で提供されたミクロゲル形成ポリマーを、水性媒体に0.5~20重量/体積%の濃度で溶解してポリマー溶液を形成する。
【0039】
一実施形態では、水性媒体は、水または水性緩衝液である。一実施形態では、水性媒体は、水である。一実施形態では、水性媒体は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0040】
一実施形態では、ミクロゲル粒子形成ポリマーを、水性媒体中に1~10%、1~9%、1~8%、1~7%、1~6%、1~5%、2~10%、2~9%、2~8%、2~7%、2~6%、2~5%、3~9%、3~8%、3~7%、3~6%、3~5%、4~9%、4~8%、4~7%、4~6%、または4~5%(重量/体積)の濃度で溶解する。好ましくは、ミクロゲル粒子形成ポリマーを、水性媒体中に3~6%、例えば、3~5.5%、3.5~5.5%、または3.5~5%(重量/体積)の濃度で溶解する。
【0041】
一実施形態では、ミクロゲル粒子形成ポリマーを、0.5~20体積/体積%の濃度で水性媒体に溶解して、ポリマー溶液を形成する。好適には、ミクロゲル粒子形成ポリマーを、水性媒体中に1~10%、1~9%、1~8%、1~7%、1~6%、1~5%、2~10%、2~9%、2~8%、2~7%、2~6%、2~5%、3~9%、3~8%、3~7%、3~6%、3~5%、4~9%、4~8%、4~7%、4~6%、または4~5%(体積/体積)の濃度で溶解する。好ましくは、ミクロゲル粒子形成ポリマーを、水性媒体中に3~6%、例えば、3~5.5%、3.5~5.5%、または3.5~5%(体積/体積)の濃度で溶解する。
【0042】
一実施形態では、ステップb)は、混合物を加熱及び/または撹拌してポリマーの溶解を促進することをさらに含む。
【0043】
この方法のステップc)では、ステップb)で形成されたポリマー溶液を、ポリマーの架橋性官能基を架橋することができる薬剤と混合する。
【0044】
好適には、ステップc)において、ステップb)由来の溶液を、架橋剤の添加前、添加中及び/または添加後に連続的に撹拌する。例えば、混合物を50~1000rpmの速度で混合して、確実に完全な混合を行うことができる。
【0045】
この方法のステップd)において、ステップc)で形成された混合物を、ゲル化が完了するまで撹拌する。このステップは、ゲル化プロセス全体をとおして剪断混合が発生することを確実にするのに重要であり、連続的なゲル化ネットワークではなく流体ゲルが形成される。
【0046】
当業者は、所望のレベルの剪断/撹拌を提供するように混合速度及び混合装置を変更できることを理解するであろう。添付の実施例では、40mmスターラーバーを含む混合容器(直径64mm、高さ130mm)を備えたマグネティックスターラープレート(Thermo Scientific HPS RT2 Advanced)を使用して、必要な剪断を提供する。
【0047】
一実施形態では、ステップd)は、100rpm超の速度、例えば、150rpm超、200rpm超、250rpm超、または300rpm超で混合物を撹拌することを含む。
【0048】
一実施形態では、ステップd)における撹拌は、ポリマー溶液のゲル化中に継続して撹拌するまたはかき混ぜることを含む。好適には、ステップd)における混合を、50~1000rpm、例えば100~1000rpm、200~900rpm、250~800rpm、300~700rpm、300~600rpm、300~500rpm、200~700rpm、200~600rpm、200~500rpm、400~700rpm、400~600rpm、400~500rpm、500~700rpm、または500~600rpmで継続的に撹拌することによって実施する。好ましくは、ステップd)における撹拌を、200~700rpm、例えば300~700rpm、または最も好ましくは300~500rpmで継続的に撹拌することによって実施する。
【0049】
一実施形態では、ステップd)における撹拌を、約100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000rpmで継続的に撹拌することによって実施する。好ましい実施形態では、ステップc)における撹拌を、約300、400、500または600rpmで継続的に撹拌することによって実施する。
【0050】
一実施形態では、ステップd)における撹拌を、10~100℃、例えば15~70℃、15~50℃、20~45℃、20~40℃、25~40℃、25~35℃、または30~40℃で実施する。好ましくは、ステップd)における撹拌を、20~40℃で実施する。
【0051】
一実施形態では、ステップd)における撹拌を、約15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、または100℃で実施する。好ましい実施形態では、ステップd)における撹拌を、約20℃、約25℃、約30℃、約35℃、約37℃、または約40℃で実施する。
【0052】
ステップd)では、ゲル化が完了するまで混合物を撹拌する。ゲル化の完了は、当業者には明らかであるように、様々な手段によって決定することができる。一実施形態では、ステップd)は、混合物の粘度がそれ以上増加しなくなるまで、ゲル化中に混合物を撹拌することを含む。一実施形態では、ステップd)は、混合物の粘度が一定に保たれるまで、ゲル化中に混合物を撹拌することを含む。架橋剤がポリマーの官能基の架橋を誘発すると、ポリマーはゲル化を受け、その粘度が増加する。混合物の粘度は、剪断とゲル化の間で平衡が認められるまで増加し続け、この時点以降、混合物の粘度は実質的に一定のままであり、それ以上増加しない。別の実施形態では、ステップd)は、混合物の粘度が実質的に一定の撹拌速度及び温度でそれ以上増加しなくなるまで、ゲル化中に混合物を撹拌することを含む。
【0053】
撹拌中の混合物の粘度の変化は、例えば液体の高さの変化と相関している場合がある。本実施例、特に図4aから分かるように、撹拌中の渦(液体高さ)の減少を、ゲル化を測定するための定性的手段として使用してもよい。したがって、一実施形態では、ステップd)は、混合物の高さがさらに減少しなくなるまで、及び/または実質的に一定のままとなるまで、ゲル化中に混合物を撹拌することを含む。この点に関して、「実質的に一定」とは、好ましくは少なくとも60秒間にわたって、レベルが±10%を超えて変化しないことを意味する。所与の混合物の高さは、撹拌機の速度に応じて変化する可能性があり、撹拌機の速度を上げると通常、混合物の高さが増加する。さらなる実施形態では、ステップd)は、一定の撹拌速度で、混合物の高さがさらに減少しなくなるまで、及び/または実質的に一定のままとなるまで、ゲル化中に混合物を撹拌することを含む。
【0054】
あるいは、ゲル化プロセスを、様々な機器(例えば、レオメーター)を使用して粘度の変化によってモニタリングしてもよい。そのため、粘度の増加を時間の関数としても測定可能であり、ステップd)における撹拌を、混合物の粘度がそれ以上増加しなくなるまで実施する。
【0055】
本明細書で定義されるプロセスに従って形成される剪断減粘性流体ゲル組成物の粘度及び弾性率は、本出願で調製される流体ゲルの実施例によって示されるように、ゲルが剪断にさらされると可逆的に低下する(実施例10、図15及び関連する考察を参照のこと)。ゲルのこれらの剪断減粘特性は、当技術分野で公知の標準的な技術によって容易に決定することが可能である。ゲルの粘度及び弾性率は、一般的知識に基づいて当業者には自明であるように、本出願に記載の手順に従ってレオメーターによって測定することができる。
【0056】
本発明の第1の態様によれば、ポリマー鎖の架橋は、共有結合またはイオン相互作用/引力を介して達成され得る。これは、官能基の架橋をもたらし得る薬剤または触媒の使用によって達成される。剪断混合下でポリアニオン性バイオポリマーを架橋するために金属イオン塩を使用することが報告されているが、イオン相互作用を介したポリマー架橋(イオンチャネル型架橋)及びゲル化を誘導するために金属イオン塩を使用することは、本発明の一部を形成しない。したがって、第1の態様によれば、ステップc)の架橋剤は、金属イオン塩(例えば、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムまたはマンガン塩)ではない。
【0057】
第1の態様の実施形態では、架橋剤は、ラジカル開始剤、酵素、酸及び塩基から選択される。好ましくは、架橋剤は、ラジカル開始剤及び酵素から選択される。最も好ましくは、架橋剤はラジカル開始剤である。
【0058】
本発明の第2の態様によれば、ステップc)において、ステップb)で形成されたポリマー溶液を、ポリマーの架橋性官能基の共有結合架橋を誘導可能な薬剤と混合する。第2の態様の実施形態では、架橋剤は、ラジカル開始剤及び酵素から選択される。最も好ましくは、架橋剤はラジカル開始剤である。
【0059】
ラジカル誘導ゲル化
本発明の第1または第2の態様の一実施形態では、ステップc)の架橋剤は、ホスフィンオキシド(TPOなど)、プロピオフェノン(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンまたは2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノンなど)、プロパンジオン(カンファーキノンなど)及びアゾニトリル(AIBNなど)から選択されるラジカル開始剤である。好ましい実施形態では、ラジカル開始剤は、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Igracure2959として市販されている)及び2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン(Omnirad1173として市販されている)から選択されるプロピオフェノンである。
【0060】
本発明の第1または第2の態様の好ましい実施形態では、ミクロゲル粒子形成ポリマーの架橋性官能基は、炭素-炭素二重結合(アクリレート、メタクリレートまたはビニル基など)を含み、ステップc)における架橋剤はラジカル開始剤である。
【0061】
好ましくは、架橋性官能基は、以下の構造を有する。
【化3】
式中、
【化4】
は、官能基のポリマーの残部への結合点を表し、R、R及びRは、独立して、水素及びC1-4アルキルから選択され;ステップc)における架橋剤はラジカル開始剤である。
【0062】
より好ましくは、架橋性官能基は、以下の構造を有する。
【化5】
式中、
【化6】
は、官能基のポリマーの残部への結合点を表し、R及びRは水素であり、Rは、水素またはC1-4アルキルであり;ステップc)における架橋剤はプロピオフェノンラジカル開始剤である。
【0063】
最も好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、アクリレートまたはメタクリレート官能基を含むポリエチレングリコール(例えば、PEG-ジアクリレートまたはPEG-ジメチルアクリレート)であり;ステップc)における架橋剤は、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンまたは2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノンである。
【0064】
一実施形態では、ラジカル開始剤を、0.01~1体積/体積%、例えば、0.05~0.5体積/体積%、または約0.1体積/体積%の濃度でポリマー溶液と混合する。
【0065】
通常、ポリマー溶液にUV光を照射して、ラジカル形成とポリマー架橋を開始させる(図3を参照のこと)。したがって、好ましい実施形態では、ステップd)における撹拌を、光照射下で実施する。当業者は、使用するラジカル開始剤に応じて、最適な光照射の波長を決定することができる。一実施形態では、光照射の波長は、100~500nm、例えば、100~400nm、320~500nm、200~400nm、250~380nm、または約365nmである。
【0066】
ステップd)におけるゲル化をラジカル誘導重合によって実施する場合、ポリマーは、好ましくは3~5重量/体積%、または3~5体積/体積%の濃度で存在する。好ましい実施形態では、ミクロゲル粒子形成ポリマーは、アクリレートまたはメタクリレート官能基を含むポリエチレングリコールであり、ポリマーを、水性媒体中に3~5重量/体積%の濃度で溶解する。好ましい実施形態では、ミクロゲル粒子形成ポリマーは、アクリレートまたはメタクリレート官能基を含むポリエチレングリコールであり、ポリマーを、水性媒体中に3~5体積/体積%の濃度で溶解する。
【0067】
酵素誘導ゲル化
本発明の第1または第2の態様の実施形態では、ステップc)における架橋剤は酵素である。好ましくは、酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、トランスグルタミナーゼ(TG)、チロシナーゼ及びリパーゼから選択される。好ましい実施形態では、酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、トランスグルタミナーゼ(TG)またはチロシナーゼである。
【0068】
本発明の第1または第2の態様の好ましい実施形態では、酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)であり、ミクロゲル粒子形成ポリマーの架橋性官能基は、フェノール基またはカルボン酸基を含む。HRPは、フェノール官能基を有するポリマーの酸化的架橋を実行することができる。
【0069】
本発明の第1または第2の態様の好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、複数のフェノール性及び/または酸性官能基を含む合成ポリマーまたはバイオポリマーであり、ステップc)における架橋剤は西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)である。
【0070】
本発明の第1または第2の態様のより好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、チラミン基(チラミンと複合体化したヒアルロン酸またはチラミンと複合体化したデキストランなど)を含むように合成的に官能化されたバイオポリマーであり、ステップc)における架橋剤はHRPである。
【0071】
通常、酵素がHRPである場合、ステップc)において過酸化水素も添加して、フェノール性または酸性官能基の架橋を促進する。したがって、好ましい実施形態では、酵素はHRPであり、ステップc)において混合物に過酸化水素も添加する。
【0072】
一実施形態では、酵素はHRPであり、ステップd)を、20~40℃、例えば、20~30℃、または好ましくは約25℃で実施する。
【0073】
本発明の第1または第2の態様の別の好ましい実施形態では、酵素はトランスグルタミナーゼ(TG)であり、ミクロゲル粒子形成ポリマーの架橋性官能基は、第一級アミド(R-C(O)-NH、例えば、グルタミン残基)及びアミン(R’-NH、例えば、リジン残基)官能基を含む。TGは、アミド及びアミン官能基を有するポリマーの架橋を実行することができる。
【化7】
【0074】
本発明の第1または第2の態様の好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、複数の第一級アミド(R-C(O)-NH、例えば、グルタミン残基)及びアミン(R’-NH、例えば、リジン残基)官能基を含む合成ポリマーまたはバイオポリマーであり、ステップc)における架橋剤はトランスグルタミナーゼ(TG)である。好適には、酵素がTGである場合、ポリマーは、複数のグルタミン及びリジン残基を含むポリペプチドであってもよい。一実施形態では、ポリマーはゼラチンである。
【0075】
一実施形態では、酵素はTGであり、ステップd)を、30~45℃、例えば、35~40℃、または好ましくは約37℃で実施する。
【0076】
一実施形態において、酵素を、0.1~3重量/体積%、例えば、0.1~1.0重量/体積%、0.1~0.3重量/体積%、または0.8~1.0重量/体積%の濃度でポリマー溶液と混合する。
【0077】
本発明の第1または第2の態様の別の好ましい実施形態では、酵素は酸化酵素であり、1つ以上のミクロゲル粒子形成ポリマーの架橋性官能基は、アミン、アルコール及び/またはフェノール官能基を含む。好適な酸化酵素の例は、チロシナーゼ、ラッカーゼ及びペルオキシダーゼを含むモノフェノールモノオキシゲナーゼである。好都合な実施形態では、モノフェノールモノオキシゲナーゼはチロシナーゼである。チロシナーゼは、フェノール官能基を酸化することができ、酸化された部分は次いで、同じかまたは異なるポリマーで見出される求核性官能基(例えばアミン/アルコール基)と反応し得る。
【0078】
本発明の第1または第2の態様の好適な実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、キトサン及びゼラチンから選択されるバイオポリマーであり;ステップc)における架橋剤は酸化酵素(モノフェノールモノオキシゲナーゼなど)である。本発明の第1または第2の態様の好ましい実施形態では、ステップa)で提供されるミクロゲル粒子形成ポリマーは、キトサン及びゼラチンから選択されるバイオポリマーであり、ステップc)における架橋剤はチロシナーゼである。好適には、酵素がモノフェノールモノオキシゲナーゼ(チロシナーゼなど)である場合、バイオポリマーはキトサンとゼラチンの組み合わせである。
【0079】
一実施形態では、酵素はチロシナーゼであり、ステップd)を、30~45℃、例えば、30~40℃、または好ましくは約35℃で実施する。
【0080】
ステップd)におけるゲル化が酵素誘導重合によって起こる場合、ポリマーは、好ましくは1~10重量/体積%、または1~10体積/体積%(好適には2~10重量/体積%、または2~10体積/体積%)の濃度で存在する。
【0081】
pH誘導ゲル化
本発明の第1の態様の実施形態では、ステップc)における架橋剤は、酸または塩基である。
【0082】
一実施形態では、酸または塩基の添加によるpH変化により、ミクロゲル粒子形成ポリマー内に存在する官能基のイオン化状態に変化を引き起こすことが可能であり、それにより、複数の正に荷電した基及び複数の負に荷電した基が形成される。したがって、官能基間の静電引力は、イオン架橋によりポリマー鎖の結合を促進させ得る。したがって、好ましい実施形態では、複数の架橋性官能基がイオン性基または両性イオン基を含むため、pHの変化によって正及び負に荷電した部分が存在する結果となり、これらはイオン引力を介して架橋され得る。
【0083】
別の実施形態では、ポリマーは、互いに反発する複数の荷電官能基を含んでもよく、その結果、正味の電荷がポリマーの凝集または架橋を防止する。等電点へのpHの変化は、電荷を中和し、ポリマーの凝集を可能にする。
【0084】
一実施形態では、ポリマーは変性ホエイタンパク質単離物であり、水性媒体に1~10重量/体積%の濃度で溶解してポリマー溶液を形成し、pHを3未満または8超に調整する。ステップc)において、ポリマー溶液を酸または塩基と適宜混合して、ゾルのpHを約5.5にすると、ステップd)において剪断混合下でゲル化が生じる。
【0085】
一実施形態では、ポリマーはアルギン酸塩であり、0.5~10重量/体積%(例えば約1重量/体積%)の濃度で水性媒体に溶解してポリマー溶液を形成する。ステップc)において、ポリマー溶液を酸と混合すると、ステップd)において剪断混合下でゲル化が生じる。溶液のpHをアルギン酸塩ポリマーのpKa未満に下げるのに十分な量の酸を添加し、ゲルを分子間水素結合ネットワークによって安定化させる。アルギン酸塩では、マンヌロン酸塩残基のpKaは3.38であり、グルロン酸塩残基のpKaは3.65である。したがって、一実施形態では、ポリマー溶液のpHが約3.38未満になるまで、ステップc)において酸を添加する。好適には、ステップc)の間に塩酸を添加する。
【0086】
剪断減粘性流体ゲル組成物
本発明のさらなる態様では、本発明の第1または第2の態様のいずれかによる方法によって取得可能な、取得する、または直接的に取得する剪断減粘性流体ゲル組成物を提供する。
【0087】
流体ゲル組成物は、0.5~20重量/体積%(1~10重量/体積%など)の水性媒体中に分散したミクロゲル粒子形成ポリマーを含む。一実施形態では、流体ゲル組成物は、水性媒体中に分散した1~10%、1~9%、1~8%、1~7%、1~6%、1~5%、2~10%、2~9%、2~8%、2~7%、2~6%、2~5%、3~9%、3~8%、3~7%、3~6%、3~5%、4~9%、4~8%、4~7%、4~6%、または4~5重量/体積%のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む。好ましくは、流体ゲル組成物は、水性媒体中に分散した3~6%、例えば、3~5.5%、3.5~5.5%、または3.5~5重量/体積%のミクロゲル粒子形成ポリマーを含む。
【0088】
通常、本発明の流体ゲル組成物は、剪断力を受けた場合、1Pa・s未満の粘度を有する。1Pa・s未満の粘度では、流体ゲル組成物は流動可能である。静止粘度は、通常、1Pa・sを上回り、例えば2Pa・s超、3Pa・s超、または4Pa・s超である。
【0089】
好適には、本発明の流体ゲル組成物は、1Pa・s以上(例えば、1Pa・s~200Pa・sまたは1Pa・s~100Pa・s)の静止粘度(すなわち、ゼロ剪断における粘度)を有する。より好適には、静止粘度は、2Pa・s以上(例えば、2Pa・s~200Pa・sまたは2Pa・s~100Pa・s)、3Pa・s以上(例えば、3Pa・s~200Pa・sまたは3Pa・s~100Pa・s)、4Pa・s以上(例えば、4Pa・s~200Pa・sまたは4Pa・s~100Pa・s)、または5Pa・s以上(例えば、5Pa・s~200Pa・sまたは5Pa・s~100Pa・s)である。
【0090】
流体ゲル組成物が剪断力を受けると、粘度が低下する。好適には、ゲルが流動して投与可能な静止粘度未満の値まで粘度を低下させる。通常、剪断力が加えられると、粘度は1Pa・s未満の値に低下する。
【0091】
一実施形態では、流体ゲル組成物は、1Pa・s以上(例えば、1Pa・s~200Pa・sまたは1Pa・s~100Pa・s)の静止粘度を有し、剪断力を受けると、粘度が1Pa・s未満に低下する。
【0092】
別の実施形態では、流体ゲル組成物は、2Pa・s以上(例えば、2Pa・s~200Pa・sまたは2Pa・s~100Pa・s)の静止粘度を有し、剪断力を受けると、粘度が2Pa・s未満(例えば、1Pa・s未満)に低下する。
【0093】
別の実施形態では、流体ゲル組成物は、3Pa・s以上(例えば、3Pa・s~200Pa・sまたは3Pa・s~100Pa・s)の静止粘度を有し、剪断力を受けると、粘度が3Pa・s未満(例えば、1Pa・s未満)に低下する。
【0094】
別の実施形態では、流体ゲル組成物は、4Pa・s以上(例えば、4Pa・s~200Pa・sまたは4Pa・s~100Pa・s)の静止粘度を有し、剪断力を受けると、粘度が4Pa・s未満(例えば、1Pa・s未満)に低下する。
【0095】
別の実施形態では、流体ゲル組成物は、5Pa・s以上(例えば、5Pa・s~200Pa・sまたは5Pa・s~100Pa・s)の静止粘度を有し、剪断力を受けると、粘度が5Pa・s未満(例えば、1Pa・s未満)に低下する。
【0096】
一実施形態では、流体ゲル組成物は、以下の粘度を有する:
i.ゼロ剪断に供された場合に0.1Pa・s以上(例えば、0.1~500Pa・s)であり、流体ゲル組成物が剪断を受けると、粘度が低下する(例えば、0.1Pa・s未満に)、
ii.ゼロ剪断に供された場合に1Pa・s以上(例えば、0.1~200Pa・s)であり、流体ゲル組成物が剪断を受けると、粘度が低下する(例えば、1Pa・s未満に)、または
iii.ゼロ剪断に供された場合に10Pa・s以上(例えば、10~100Pa・s)であり、流体ゲル組成物が剪断を受けると、粘度が低下する(例えば、10Pa・s未満に)。
【0097】
誤解を避けるため、本明細書に引用されているすべての粘度値は、20℃の通常の周囲温度で引用されている。本発明の流体ゲル組成物の粘度は、当技術分野で周知の標準的な技術を使用して測定することができる。例えば、粘度特性は、20℃でサンドブラスト平行板(40mm,ギャップ高さ1mm)を装備したAR-G2(TA Instruments,英国)レオメーターを使用して取得することができる。
【0098】
一実施形態では、静止状態(ゼロ剪断)の流体ゲル組成物は、0.1~10Hzの周波数範囲にわたって粘性率よりも優位な弾性率を有する。
【0099】
一実施形態では、静止時の流体ゲル組成物は、0.1~1000Paの弾性率を有する。好適には、静止時の流体ゲル組成物は、5~40Paの弾性率を有する。
【0100】
本発明の流体ゲルの弾性率は、当技術分野で周知の技術によって測定することができる。
【0101】
治療組成物
本発明のさらなる態様において、流体ゲル組成物は、1つ以上の薬理学的に活性な薬剤をさらに含んでもよい。任意の好適な薬理活性薬剤が存在してもよい。例えば、流体ゲル組成物は、以下からなる群から選択される1つ以上の薬理学的に活性な薬剤を含んでもよい。抗線維化剤、抗感染症剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗増殖剤、角質溶解剤、細胞外マトリックス修飾剤、細胞接合調節剤、基底膜修飾剤、生物学的潤滑剤及び色素沈着調節剤。
【0102】
誤解を避けるために、本発明の組成物は、好適に、複数の活性薬剤を含み得る。組成物が2つ以上の活性薬剤を含む場合、これは、活性薬剤の特定のクラス内の2つ以上の活性薬剤(例えば、2つ以上の抗線維化剤)、または2つ以上の異なるクラスから選択される剤の組み合わせ(例えば、抗線維化剤と抗感染症剤、または抗線維化剤と鎮痛剤)であり得る。
【0103】
抗線維化剤
抗線維化剤は、それらを提供する対象、または身体部位の瘢痕の抑制をもたらし得る薬剤である。
【0104】
多くの抗線維化剤が当業者に公知である。したがって、当業者は、瘢痕の抑制に使用するための本発明の組成物に有効に組み込み得る抗線維化剤を容易に特定することができる。以下に、そのような使用に適した抗線維化剤の例の非排他的リストを示す。好適な抗線維化剤は、抗線維化細胞外マトリックス(ECM)成分、抗線維化増殖因子(本開示の目的のために、抗線維化サイトカイン、ケモカインなども包含すると見なされるべきである)、デキストランまたは修飾デキストラン硫酸塩などのポリマー、及び機能遮断抗体などの線維化剤の阻害剤からなる群から選択され得る。そのような薬剤の治療有効性は、本発明の組成物によって提供される用量に依存することは理解されよう。当業者であれば、必要な治療目的を達成するために列挙される薬剤のいずれかの好適な用量を選択できるようにするための広範囲の文献及び臨床資源を認識するであろう。
【0105】
デキストラン、または修飾デキストラン硫酸塩は、in vivoで抗線維化効果と線維化促進効果の両方を発揮することができる。デキストランまたは修飾デキストラン硫酸塩の抗線維化使用に関して、当業者は、抗線維化目的のための好適な用量が0.1~10mg/kg対象体重であり得ることを理解するであろう。好適な実施形態では、本発明の組成物で使用するためのデキストランまたは修飾デキストラン硫酸は、10kDa以下の分子量を有し得る。
【0106】
抗体は、細胞シグナル伝達物質に結合することにより、その物質の活性によって引き起こされる機能を遮断して特定の細胞活動を妨害するのに有用である。遮断し得るそのような活動の例として、細胞増殖、細胞遊走、プロテアーゼ産生、アポトーシス及びアノイキスが挙げられる。ほんの一例として、好適な遮断抗体は、以下の群の1つ以上の細胞シグナル伝達物質に結合し得る。ECM成分、増殖因子、サイトカイン、ケモカインまたはマトリキン。
【0107】
デコリンは、本発明の組成物に有利に組み込み得る抗線維化ECM成分の例である。デコリンは、ヒトデコリンであってもよい。好適には、デコリンは、ヒト組換えデコリンであり得る。本発明の組成物に組み込み得るヒト組換えデコリンの例は、Catalent Pharma Solutions,Inc.によって「Galacorin(商標)」という名称で製造及び販売されているデコリンである。
【0108】
本発明の組成物に組み込むためのデコリンは、このプロテオグリカンの全長天然バージョンであってもよい。あるいは、本発明の組成物は、天然のデコリンの抗線維化断片または抗線維化バリアントを使用してもよい。
【0109】
天然のデコリンはプロテオグリカンである。プロテオグリカン(コアタンパク質及びグリコサミノグリカン鎖の両方を含む)またはその断片を、本発明の流体ゲル組成物において使用してもよい。あるいは、本明細書におけるデコリン(またはその断片もしくはバリアント)への言及は、グリコサミノグリカン鎖を含まないコアタンパク質を対象としていると解釈され得る。本発明者らは、線維化増殖因子(TGF-βなど)に結合し、それらの生物学的機能を遮断する働きをするのは、デコリンのコアタンパク質であると考えている。
【0110】
デコリンの好適な抗線維化断片は、全長の天然分子の最大50%、全長の天然分子の最大75%、または全長の天然分子の最大90%を構成し得る。デコリンの好適な抗線維化断片は、デコリンのTGF-β結合部分を含み得る。
【0111】
デコリンの抗線維化バリアントは、コアタンパク質のアミノ酸配列に1つ以上の変異が存在することにおいて、天然のプロテオグリカンとは異なる。これらの変異は、コアタンパク質に存在する1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換を引き起こし得る。ほんの一例として、本発明の組成物に組み込むのに適したデコリンの好適な抗線維化バリアントは、天然のコアタンパク質のアミノ酸配列と比較して、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20の変異を含み得る。
【0112】
文脈上別段の要求がある場合を除き、本明細書におけるデコリンへの言及は、本発明の組成物へのこの薬剤の組み込みに関連して、デコリンの抗線維化断片または抗線維化バリアントの使用を包含するものとしても解釈されるべきである。
【0113】
好適な実施形態では、デコリンは、本発明の組成物中に存在する唯一のECM成分を構成する。
【0114】
本発明の組成物に組み込むのに適した抗線維化増殖因子としては、形質転換増殖因子-β3、血小板由来増殖因子AA、インスリン様増殖因子-1、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子(FGF)2、FGF7、FGF10、FGF22、血管内皮増殖因子A、ケラチノサイト細胞増殖因子、及び肝細胞増殖因子から成る群より選択されるものなどがある。
【0115】
線維化剤の阻害剤は、本発明の組成物に組み込み得る好適な抗線維化剤を表す。そのような阻害剤の例には、線維化剤に結合することにより、その活性を遮断する薬剤が含まれる。そのような阻害剤の例には、機能遮断抗体(詳細は上記で述べた)、または線維化剤の細胞シグナル伝達の誘導を促進する細胞受容体の可溶性断片が含まれる。そのような阻害剤の他の例には、線維化剤の発現を予防する薬剤が含まれる。これらの種類の阻害剤の例として、アンチセンスオリゴヌクレオチド及び干渉RNA配列からなる群から選択される阻害剤が挙げられる。
【0116】
抗感染症剤
抗感染症剤の例として、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、または抗蠕虫剤が挙げられる。抗菌剤の場合、適切な抗感染剤は、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン(ペニシリン-ストレプトマイシンとして任意に組み合わせて)、またはバンコマイシンなどの抗生物質であり得る。さらなる抗生物質を含む、本発明の組成物に組み込み得る抗菌剤の他の多くの好適な例は、当業者に周知である。
【0117】
鎮痛剤
本発明の組成物に活性薬剤として組み込むのに好適な鎮痛剤は、鎮痛剤、麻酔剤(例えば、ベンゾカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アルチカイン、ジブカイン、リドカイン、プリロカイン、プラモキシン及びジクロニン、またはそのエステル、アミドもしくはエーテル)、サリチル酸(例えば、サリチル酸またはアセチルサリチル酸)、発赤剤(例えば、メントール、カプサイシン及び/または樟脳)、並びに非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、イブプロフェン)からなる群から選択され得る。
【0118】
抗炎症剤
本発明の組成物に活性薬剤として組み込むための抗炎症剤は、ステロイド(例えば、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロンまたはデキサメタゾン))、NSAID(例えば、イブプロフェン、またはCOX-1及び/またはCOX-2酵素阻害剤)、抗ヒスタミン薬(例えば、H1受容体アンタゴニスト)、インターロイキン-10、ピルフェニドン、免疫調節剤、並びにヘパリン様薬剤からなる群から選択され得る。デキストラン、または修飾デキストラン硫酸塩、及びデコリンもまた、抗炎症剤として本発明の組成物に組み込み得る好適な薬剤の代表である。当業者であれば、これらの分子がin vivoで抗炎症効果または炎症促進効果を発揮することができることを理解するだろうが、科学文献及び臨床文献が提供する豊富な情報により、所望の活性(抗炎症性または炎症誘発性の)を発揮するための適切な用量の選択が可能となることを認識するであろう。
【0119】
抗増殖剤
本発明の組成物に活性薬剤として組み込むための抗増殖剤は、toll様受容体7(TLR7)アゴニスト、toll様受容体2(TLR2)アゴニスト、toll様受容体4(TLR4)アゴニスト、toll様受容体9(TLR9)アゴニスト、及び代謝拮抗薬からなる群から選択され得る。そのようなTLR7アゴニストの好適な例は、イミキモドである。そのような代謝拮抗薬の好適な例は、フルオロウラシル(5-FU)である。
【0120】
角質溶解剤
本発明の組成物に活性薬剤として組み込むための角質溶解剤は、酸(例えば、サリチル酸、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸及び/または乳酸)、酵素(例えば、パパイン及び/またはブロメライン)、並びにレチノイド(例えば、レチノール及び/またはトレチノイン)からなる群から選択され得る。
【0121】
細胞外マトリックス修飾剤
本発明の組成物に組み込むのに好適な細胞外マトリックス修飾剤は、プロテイナーゼ(プロテイナーゼKなど)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、膜型MMP(MTMMP)、アダマリシン(ADAM)、トロンボリシンを含むADAM(ADAMTS)、ディスインテグリン、メタロプロテイナーゼの組織阻害剤(TIMP)、ウロキナーゼなどのセリンプロテアーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、エラスターゼ、マトリプターゼ、並びにマトリックスのリモデリングプロセスに関与するカテプシン、ヘパラナーゼ、スルファターゼなどの酵素からなる群から選択され得る。
【0122】
細胞接合調節剤
本発明の組成物に組み込むのに好適な細胞接合調節剤は、アデノシン三リン酸(ATP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、イノシトール三リン酸(IP3)、グルコース、グルタチオン、グルタミン酸、及びナトリウム、カリウム及びカルシウムイオンから選択されるイオンからなる群から選択され得る。好適には、そのような細胞接合調節剤は、コネキシンなどの細胞接合の成分に影響を与える抗体または他のペプチドであり得る。そのようなタンパク質の例として、カドヘリン、α-及びβ-カテニンが挙げられる。好適には、そのような薬剤は、微小管干渉を達成し得る。タイトジャンクションは、オクルディン、クローディン(複数可)及び接合部接着分子-1(JAM-1)などの成分との干渉によって影響を受ける可能性がある。
【0123】
基底膜修飾剤
本発明の組成物に組み込むのに好適な基底膜修飾剤は、接着に関する薬剤であり得る。そのような薬剤は、インテグリン、ラミニン、または接着斑の成分(ビンキュリン、タリン、α-アクチニン、キンドリンなど)の活性を阻害する遮断抗体または競合ペプチドからなる群から選択され得る。あるいは、好適な基底膜修飾剤は、プロテイナーゼKなどのプロテイナーゼを含み得る。
【0124】
生物学的潤滑剤
生物学的潤滑剤は、本開示の目的のために、生物学的供給源に由来し、潤滑剤として機能し得る薬剤であると見なされるべきである。好適な実施形態では、本発明のヒドロゲル組成物に組み込むための生物学的潤滑剤は血清であり得る。血清は、眼の多くの障害の治療に有用性を有する。したがって、血清を含む本発明の流体ゲル組成物は、点眼薬として眼への投与に好適であり得る。
【0125】
色素調節剤
本発明の組成物に活性薬剤として組み込むための色素調節剤は、脱色剤、及び色素沈着促進剤からなる群から選択され得る。
【0126】
本発明の組成物に組み込むのに好適な脱色剤は、ターメリック、メラニン生成抑制剤、及び抗酸化剤からなる群から選択され得る。メラニン生成抑制剤の好適な例として、ヒドロキノン、レゾルシノール、レスベラトロール、またはアゼライン酸が挙げられ得る。抗酸化剤の好適な例として、ビタミンC、ビタミンE、グルタチオン、ターメリック、またはフェルラ酸が挙げられる。
【0127】
本発明の組成物に組み込むのに好適な色素沈着促進剤には、メラニン経路の構成要素に影響を与える物質が含まれる。これらは、チロシン(チロシナーゼによってL-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)にヒドロキシル化される)、及びDOPA(DOPAキノンに酸化され、システイン基の存在下でフェオメラニンが生成される)からなる群から選択され得る。ユーメラニンの生成には、2つの酵素、チロシナーゼ関連タンパク質1(TRP1)及び2(TRP2/Dct)の作用が必要である(これは、DOPAクローム(DOPAキノンの自発的な環状酸化から生成される)を再配置して、DHI-2-カルボン酸(DHICA)を形成する)。これらの酵素またはそれらの基質はまた、好適な色素沈着調節剤を代表し得る。
【0128】
本発明の第1または第2の態様による流体ゲル調製方法に、薬理学的に活性な薬剤を加えてもよい。
i)ステップb)の間、または
ii)ステップc)の間。
【0129】
好適には、薬理学的に活性な薬剤を、本方法のステップb)において混合物に添加する。好適には、薬理学的に活性な薬剤を、ステップb)またはステップc)のいずれかにおいて水溶液の形態で混合物に添加する。
【0130】
一実施形態では、薬理活性薬剤はデコリンである。
【0131】
本発明に関して、本発明の流体ゲル組成物にデコリンを組み込む場合、デコリンは、流体ゲル自体の成分としてではなく、流体ゲルに組み込まれる活性薬剤として存在し得ることが理解されるだろう。
【0132】
流体ゲル組成物は、任意の好適な量の薬理活性薬剤を含み得る。例えば、流体ゲル組成物は、0.01~50重量%の薬理学的に活性な薬剤を含み得る。
【0133】
一実施形態では、流体ゲル組成物は、デコリンを任意選択で、0.1~1.0mg/ml、0.1~0.5mg/ml、0.1~0.4mg/ml、または0.2~0.3mg/mlの量で含む。
【0134】
一実施形態では、流体ゲル組成物は、1~5mg/mlの量で存在し得る抗生物質ゲンタマイシンなどの抗感染症剤を含む。例えば、ゲンタマイシンなどの抗感染症剤は、1~4mg/ml、1~3mg/ml、または1~2mg/mlの量で存在し得る。ゲンタマイシンなどの抗感染症剤は、2~4mg/ml、または2.5~3.5mg/mlの量で存在し得る。
【0135】
一実施形態では、流体ゲル組成物は、0.5~250mg/mlの量で存在し得るステロイドプレドニゾロンなどの抗炎症剤を含む。好適には、プレドニゾロンなどの抗炎症剤は、1.25~170mg/ml、例えば、1.25~50mg/ml、または1.25~10mg/mlの量で存在し得る。
【0136】
局所用組成物
本発明の流体ゲル組成物は、対象への局所投与に好適である。誤解を避けるために、本開示の文脈において、「局所投与」とは、体の表面または臓器の表面への組成物の直接投与に関連すると解釈される。そのような局所投与に好適な本発明の組成物は、本発明の局所用組成物と呼ばれ得る。
【0137】
好適には、本発明の局所用組成物は、眼の表面、皮膚、脳の表面、及び粘膜からなる群から選択される1つ以上の身体表面への投与用であり得る。例として、本発明の局所用組成物を、手術中または手術後に体表面に投与してもよい。好適には、本発明の局所用組成物を、腹部手術(例えば、癒着形成を阻害するため)または脳手術(例えば、脳に所望の治療薬を提供するため)に関連してそのような表面に投与してもよい。
【0138】
本発明の局所用組成物は、体表面の感染または損傷(擦過傷、熱傷、及び刺し傷を含むが、これらに限定されない)の部位に投与するためのものであってもよい。例えば、本発明の組成物は、眼の表面の感染または損傷の部位(細菌性角膜炎の部位など)、または皮膚の感染または損傷の部位(皮膚の熱傷または擦過傷など)に投与するためのものであってもよい。
【0139】
局所用組成物は、そのような状況で使用するための従来の方法で製剤化され得ることが理解されるであろう。例えば、好適な局所用組成物は、それを投与する感染症または損傷領域の刺激または炎症を誘発しないように製剤化され得る。
【0140】
局所用組成物は、注射可能な組成物として製剤化され得る。すなわち、組成物は、例えば、創傷部位(例えば、熱傷、切開、切除、擦過傷、慢性創傷、または刺激に対する体の反応から生じる創傷を治療するため)、関節内(例えば、軟骨変性または変形性関節症の予防及び/または治療のため)、または神経再生及び/または調整に好適な部位であり得る、治療部位に注射可能なように製剤化され得る。
【0141】
したがって、さらなる態様では、本発明は、局所投与に適したゲル組成物を提供し、この局所ゲル組成物は、上記で定義した剪断減粘性流体ゲル組成物である。
【0142】
本発明のさらなる態様では、身体への局所塗布に適した局所ゲル組成物を提供し、この局所ゲル組成物は、上記で定義した剪断減粘性流体ゲル組成物を含む、あるいはそれから本質的に成る、またはそれから成る。一実施形態では、この局所ゲル組成物は、注射による投与に好適である。
【0143】
眼用組成物
さらなる態様では、本発明は、眼への投与に適した眼用ゲル組成物を提供し、この眼用ゲル組成物は、上記で定義した剪断減粘性流体ゲル組成物である。
【0144】
本発明のさらなる態様では、眼への塗布に適した眼用ゲル組成物を提供し、この眼用ゲル組成物は、上記で定義した剪断減粘性流体ゲル組成物を含む、あるいはそれから本質的になる、またはそれからなる。
【0145】
本発明の眼液流体ゲル組成物は、眼への塗布に適合する。
【0146】
一実施形態では、眼用ゲル組成物は、デコリンを含み、任意選択で、ステロイド(例えば、プレドニゾロン)及び/または抗菌剤(例えば、ゲンタマイシン)をさらに含む。
【0147】
本発明の組成物の医学的使用、及び本発明の組成物を使用する治療方法
本発明の一態様は、薬剤として使用するための本発明の流体ゲル組成物を提供する。また、治療に使用するための、本明細書で定義される剪断減粘性流体ゲル組成物も提供する。
【0148】
本発明の流体ゲル組成物は、瘢痕の抑制並びに感染症の予防及び/または治療、疼痛の予防及び/または治療、炎症の予防及び/または治療、並びに増殖性疾患の予防及び/または治療における医療用途に適している。そのような医療用途で使用するための組成物は、必要に応じて、抗線維化剤、抗感染症剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗増殖剤、角質溶解剤、細胞外マトリックス修飾剤、細胞接合調節剤、基底膜修飾剤、生物学的潤滑剤及び色素沈着調節剤からなる群から選択される1つ以上の薬理学的に活性な薬剤を含み得る。
【0149】
本発明の流体ゲル組成物はまた、医学的治療方法での使用にも適していることが理解されるであろう。例えば、本発明の組成物は、瘢痕の抑制方法、感染症の予防方法及び/または治療方法、疼痛の予防方法及び/または治療方法、炎症の予防方法及び/または治療方法、増殖性疾患の予防方法及び/または治療方法、色素沈着過剰の予防方法及び/または治療方法、色素脱失の予防方法及び/または治療方法、角質溶解の誘導方法、細胞外マトリックスの修飾を必要とする方法、細胞接合部の調節を必要とする方法、並びに基底膜の修飾を必要とする方法からなる群から選択される方法において使用され得る。
【0150】
そのような方法の実施において、本発明の組成物は、必要に応じて、瘢痕の抑制を必要とする対象、感染症の予防及び/または治療を必要とする対象、疼痛の予防及び/または治療を必要とする対象、炎症の予防及び/または治療を必要とする対象、増殖性疾患の予防及び/または治療を必要とする対象、色素沈着過剰の予防及び/または治療を必要とする対象、色素脱失の予防及び/または治療を必要とする対象、角質溶解を必要とする対象、細胞外マトリックスの修飾を必要とする対象、細胞接合部の調節を必要とする対象、並びに基底膜の修飾を必要とする対象に投与され得る。
【0151】
上記のように、そのような治療方法で使用するための組成物は、必要に応じて、抗線維化剤、抗感染症剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗増殖剤、角質溶解剤、細胞外マトリックス修飾剤、細胞接合調節剤、基底膜修飾剤、生物学的潤滑剤及び色素沈着調節剤からなる群から選択される活性薬剤を含み得る。
【0152】
抗感染症剤を含む本発明の組成物は、感染症の予防方法及び/または治療方法に使用してもよい。したがって、そのような組成物は、感染症の予防及び/または治療を必要とする対象に投与してもよいことが理解されるであろう。そのような予防及び/または治療を必要とする対象は、慢性創傷または感染性創傷を有する対象であり得る。一例として、慢性創傷を発症するリスクのある対象は、真性糖尿病、慢性静脈不全、または末梢動脈閉塞性疾患を有する対象であり得る。抗感染症剤を使用する本発明の組成物または方法の実施形態は、感染症に関連し得る瘢痕などの障害(細菌性角膜炎など)の予防または治療にも有用であり得る。
【0153】
鎮痛剤を含む本発明の組成物は、疼痛の予防方法及び/または治療方法に使用してもよい。したがって、そのような組成物を、疼痛の予防及び/または治療を必要とする対象に投与してもよい。好適には、そのような予防及び/または治療を必要とする対象は、皮膚もしくは筋骨格の疼痛に関連する病態を有するか、またはそのリスクがある対象であり得る。
【0154】
抗炎症剤を含む本発明の組成物は、炎症の予防方法及び/または治療方法に使用してもよい。したがって、そのような組成物を、炎症の予防及び/または治療を必要とする対象に投与してもよい。好適には、対象は、慢性炎症または急性炎症を有するか、または発症するリスクがある対象であり得る。一例として、慢性炎症は関節リウマチまたは皮膚炎に関連している可能性がある。急性炎症は、傷が原因であり得る。
【0155】
抗増殖剤を含む本発明の組成物は、増殖性障害の予防方法及び/または治療方法に使用してもよい。したがって、そのような組成物を、増殖性障害の予防及び/または治療を必要とする対象に投与してもよい。好適には、対象は、乾癬、がん(例えば、黒色腫または非黒色腫皮膚癌)、湿疹、または魚鱗癬などの皮膚増殖性障害を有するか、または発症するリスクがある対象であり得る。
【0156】
角質溶解剤(ブロメラインなど)を使用する本発明の組成物または方法を、熱傷などの創傷のデブリードマンに使用してもよい。
【0157】
細胞外マトリックス修飾剤を使用する本発明の組成物または方法を、ECMの調節及びリモデリング及び/または細胞間接着及び細胞-マトリックス相互作用の調節を必要とする用途に使用してもよい。例として、そのような用途には、肥厚性またはケロイド性瘢痕の治療が含まれ得る。そのような実施形態による組成物または方法は、コラーゲン比の有益なバランスを促進することによって、またはコラーゲンなどのECM成分の産生を直接標的にすることによって、臨床上の利点を提供し得る。
【0158】
細胞接合調節剤を使用する本発明の組成物または方法は、治癒しにくい潰瘍などの慢性創傷の治療に使用してもよい。
【0159】
基底膜修飾剤を使用する本発明の組成物または方法はまた、治癒しにくい潰瘍などの慢性創傷の治療に使用してもよい。
【0160】
血清などの生物学的潤滑剤を使用する本発明の組成物または方法は、ドライアイ症候群、及びシェーグレン症候群からなる群から選択される病態を含む病態の予防及び/または治療に使用してもよい。
【0161】
色素沈着調節剤を使用する本発明の組成物または方法を、望ましくない脱色または過剰色素沈着に関連する広範囲の臨床状況で使用してもよい。これらには、手術後の瘢痕または病理学的瘢痕(肥厚性またはケロイド性瘢痕など)が含まれる。
【0162】
脱色剤を含む本発明の組成物は、色素沈着過剰障害の予防方法及び/または治療方法に使用してもよい。したがって、そのような組成物を、色素沈着過剰障害の予防及び/または治療を必要とする対象に投与してもよい。好適には、対象は、肝斑、炎症後色素沈着過剰、またはアジソン病を有するか、またはそれらのリスクがある対象であり得る。
【0163】
瘢痕化の抑制を、以下でより一般的に検討する。
【0164】
瘢痕化の抑制
瘢痕化は、多くの臨床状況で有害な影響をもたらすことが認識されている。例えば、眼の瘢痕化は失明及び盲目のリスクに関連している可能性があり、一方、皮膚の瘢痕化は運動能力の低下、不快感、及び外観の損傷(心理的困難を引き起こし得る)に関連している可能性がある。
【0165】
瘢痕はまた、外科的処置において合併症を引き起こし、その結果、有効性を低下させる可能性がある。ほんの一例として、(緑内障の治療などのための)ステントの外科的挿入後に生じる瘢痕は、ステントの通路を完全にまたは部分的に塞ぎ、手術を無効にする可能性がある。
【0166】
「瘢痕の抑制」は、瘢痕の部分的抑制及び瘢痕の完全な抑制の両方を包含することを理解されたい。
【0167】
本発明の組成物は、多くの身体部位における瘢痕または線維症の抑制に有用であり得る。ほんの一例として、本発明の組成物は、眼の瘢痕化、皮膚の瘢痕化;、筋肉または腱の瘢痕化、神経の瘢痕化、肝臓または肺などの内臓の線維症、または外科的癒着もしくは大網癒着などの癒着の形成の抑制に使用してもよい。
【0168】
本発明の組成物の医学的使用によって阻害され得る種類の眼の瘢痕化には、角膜の瘢痕化、網膜の瘢痕化、眼球表面の瘢痕化、並びに視神経内及び視神経周囲の瘢痕化が含まれる。本発明の組成物は局所使用に適しているが、局所的に投与した薬剤が内部解剖学的構造に影響を及ぼし得ることが理解されるであろう。したがって、眼の表面に投与する組成物は、眼内瘢痕化の抑制に有効であり得る。
【0169】
本発明の組成物の医学的使用によって抑制され得る眼の瘢痕化には、角膜炎などの感染症に関連する瘢痕化も含まれ得る。そのような角膜炎は、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症、または真菌感染症の結果として発生する可能性がある。
【0170】
角膜炎は、外傷の、または関節リウマチもしくはシェーグレン症候群などの自己免疫疾患を含む障害の結果として発生することもある。本発明の組成物及び方法はまた、これらの原因の結果として生じる角膜炎に関連する瘢痕化の抑制にも使用され得る。
【0171】
本発明の組成物の医学的使用によって抑制され得る眼の瘢痕化には、手術に関連する瘢痕化、例えば、緑内障の治療のための手術(例えば、ステントの挿入による)、並びにLASIKまたはLASEK手術などの外科的処置、及び偶発的な外傷に関連する瘢痕化も含まれ得る。
【0172】
本発明の組成物への抗線維化剤の組み込みは、瘢痕化の抑制において有益な特性を提供し得る。ほんの一例として、デコリンは、瘢痕化の抑制に使用するための本発明の組成物に組み込むのに適したそのような抗線維化剤の代表的な例である。
【0173】
当業者であれば、瘢痕化の同定及び定量化を可能にする多くの好適な方法論を認識するであろう。これらの方法論は、瘢痕化の抑制を確認するためにも使用し得る。したがって、それらは、本発明の組成物の有効な医学的使用を説明するため、抗線維化剤の治療有効用量を特定するため、及び本発明の組成物に組み込まれる抗線維化剤の特定及び/または選択においても使用され得る。
【0174】
当業者は、眼の瘢痕化の抑制を評価することができる多くのパラメータが存在することを認識するであろう。筋線維芽細胞またはECM成分の誘導など、これらのいくつかは眼以外の身体部位にも共通するが、他のものは眼に固有のものである。
【0175】
例えば、眼の瘢痕化は、角膜混濁の増加によって示され得る。角膜不透明度のそのような増加は、不透明な角膜の面積の増加によって示され得る。したがって、瘢痕化の抑制は、好適な対照と比較した角膜混濁の減少によって示され得る。角膜不透明度のそのような減少は、不透明な角膜の面積の減少によって示され得る。
【0176】
本発明の組成物を、皮膚創傷に関連する瘢痕化の抑制に使用してもよい。好適な皮膚創傷は、切開、切除、擦過傷、慢性創傷、及び刺激に対する体の反応から生じる創傷からなる群から選択され得る。この後者のカテゴリの例には、皮膚に重度の水ぶくれや脱落を引き起こす全身性化学反応及び/またはアレルギー反応、並びに皮膚の構造と恒常性を損なわせる遺伝性関連疾患が含まれる。これらの反応または疾患は、皮膚の水ぶくれ、剥離、及び創傷のリスクと重症度の劇的な増加をもたらし得る(比較的軽い接触であっても)。そのような疾患の例として、表皮水疱症(例えば、単純表皮水疱症、接合性表皮水疱症、または異栄養性表皮水疱症)及びキンドラー症候群が挙げられる。本発明の組成物または方法は、そのような疾患を有する対象における瘢痕化の抑制における使用に適している。
【0177】
瘢痕化を示す他のパラメータは、多くの異なる組織に共通している場合がある。例えば、多くの身体部位の瘢痕化は、筋線維芽細胞の存在の増加によって示され得る。そのような増加は、α-平滑筋アクチン発現の増加によって示され得る。したがって、瘢痕化の抑制は、好適な対照と比較した筋線維芽細胞数の減少によって示され得る。この種の筋線維芽細胞数の減少は、α-平滑筋アクチン発現の減少によって示され得る。
【0178】
抗線維化剤デコリンを含む本発明の流体ゲル組成物は、筋線維芽細胞の分化を阻害することができ、したがって細菌性角膜炎の治療に有用であり得る。
【0179】
本発明の組成物は、外科的切開部位での使用に適しており、使用しなかった場合にそのような外科的創傷の治癒に関連し得る瘢痕化を抑制する。
【0180】
本発明の組成物に組み込むのに適した抗線維化剤は、好適な対照薬剤と比較して、少なくとも5%の線維症の阻害を達成可能であり得る。例えば、好適な抗線維化剤は、好適な対照薬剤と比較して、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の阻害を達成可能であり得る。本発明の組成物に組み込むのに適した抗線維化剤は、好適な対照薬剤と比較して、瘢痕化の実質的に完全な阻害を達成可能であり得る。
【0181】
同様に、瘢痕化を抑制するための本発明の組成物の医学的使用、またはそのような組成物を使用する治療方法は、好適な対照と比較して、少なくとも5%の阻害を達成し得る。例えば、そのような医学的使用または治療方法は、好適な対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の阻害を達成し得る。本発明の医学的使用または治療方法は、好適な対照と比較して、実質的に完全な瘢痕化の抑制を達成し得る。
【0182】
好適な対照の選択は、当業者によって容易に決定される。ほんの一例として、本発明の組成物が眼の瘢痕化を阻害する能力を評価するための好適な対照は、認知された標準治療またはその実験的代用物によって提供され得る。
一実施形態では、緑内障の予防もしくは治療、または眼の瘢痕化の抑制に使用するための、本発明による眼用ゲル組成物を提供する。
【実施例
【0183】
材料
・ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート-PEG-DA(Mn700)(Sigma Aldrich)、
・リン酸緩衝生理食塩水(Sigma Aldrich)、
・フィブロネクチン(Sigma Aldrich)、
・1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(Irgacure2959)(Sigma Aldrich)、
・2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン(Omnirad1173)(IMG Resins)、
・ローダミン6G、1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Cell Signaling Technology(登録商標))、
・抗フィブロネクチン抗体(Abcam32419)、
・ヤギ抗ウサギ抗体FITC(Bertin Pharma)、
・PrestoBlue(商標)(Invitrogen)、
・NucBlue(商標)(Invitrogen)、
・キトサン(Sigma Aldrich)、
・ゼラチン(ブタ皮膚由来A型;Sigma Aldrich)、
・チロシナーゼ(キノコ由来;Sigma Aldrich)、
・アルギン酸塩(Bioreagent;Sigma Aldrich)。
装置
・UV光源Omnicure s2000:5mmライトガイド搭載(320~500nmフィルター)
・Malvern Mastersizer MS2000(Malvern Panalytical,英国)
・EVOS M5000(Invitrogen,英国)顕微鏡
・Olympus IX81(Olympus,英国)共焦点顕微鏡
・Kinexus Ultra(Malvern Panalytical,英国)レオメーター
【0184】
流動ゲルの調製
実施例1-10体積/体積%PEG-DA原液の調製
50mlのPEG-DAを琥珀色のガラス瓶(500ml)に加えた。次いでPEG-DAに440mlのPBSを、続いて0.25g(0.5重量/体積%)の開始剤(Irgacure2959)を添加した。10mlのPBSを使用して、PEG-DA/PBS溶液内の開始剤を洗浄した。
【0185】
混合物をウォーターバスに入れ、開始剤がすべて溶解するまで60℃に温めた。次いで混合物を、さらに使用するまで室温で暗所に保管した。
【0186】
実施例2-様々なポリマー濃度のPEG-DA流体ゲルの調製
実施例1で調製した10体積/体積%の原液を、以下の表に示す比率に従ってPBSで希釈して、3.5、4.0、4.5及び5.0%(体積/体積)のポリマー溶液を調製した。
【表1】
【0187】
最終容量が50mlになるように、過剰のPEG-DA溶液をフラスコから除去した。
【表2】
【0188】
フラスコを周囲条件に設定されたホットプレート上に置き、400rpmで撹拌した。流体粘度の変化(渦の減少)を注意深くモニタリングしながら、UV光を最大120秒間照射した。この時点でUV光を取り除き、撹拌を1500rpmに上げた。UV光をさらに120秒間再照射し、系を剪断下で完全にゲル化させた。硬化ステップの後、UV光を取り除き、試料をサンプルポットに詰めた。試験前に試料をベンチトップで室温にて保存した。
【0189】
実施例3-様々な剪断処理を行った3.5体積/体積%のPEG-DA流体ゲルの調製
実施例1で調製した10体積/体積%の原液を、実施例2に記載のようにPBSで希釈して、3.5体積/体積%のポリマー溶液を調製した。50mlの3.5体積/体積%のPEG-DA溶液を含有する各フラスコに、50μl(0.1体積/体積%)のOmnirad-1173開始剤を添加し、UV硬化前に混合物を数秒間撹拌した。
【0190】
以下の表に記載されているように、系を剪断下で照射した。
【表3】
【0191】
硬化後、UV光を取り除き、試料をサンプルポットに詰めた。試験前に試料をベンチトップで室温にて保存した。
【0192】
実施例4-様々なポリマー濃度のPEG-DA流体ゲルの調製
以下の表に従って、PEG DAをPBSに添加して総量を500mlにすることにより原液(3.5、4及び5%(体積/体積))を調製した。
【表4】
【0193】
50mlの原液をセルスターラータンクに加えた。50μl(0.1体積/体積%)のOmnirad-1173開始剤をゾルに添加し、混合物をおよそ30秒間で数回撹拌した(400rpm)。
【0194】
次いで、フラスコを700rpmで撹拌し、OmniCure s2000 lightを撹拌フラスコの上部に配置し、混合物を照射するために使用した。系の粘度が上昇し始めるにつれて、UV照射を停止し、撹拌を1250rpmに上げた。その後、UV光をさらに2分間照射した。硬化ステップの後、UV光を取り除き、試料をサンプルポットに詰めた。さらなる試験まで、試料をベンチトップで室温にて保存した。
【0195】
実施例5-様々な剪断速度を有する3体積/体積%のPEG-DA流体ゲルの調製
リン酸緩衝生理食塩水(30ml)中の5体積/体積%PEG-DAをPBS(20ml)で希釈し、3体積/体積%の溶液を得た。セルスターラーフラスコに移した後、溶液を混合し、50μl(0.1体積/体積%)のOmnirad-1173を加え、30秒間混合した。混合したら、撹拌を300、400、500、600または700rpmに設定した(それぞれ、実施例5.1、5.2、5.3、5.4及び5.5)。OmniCure s2000のUV光を撹拌フラスコの上部に配置し、混合物を4分間照射するために使用した。
【0196】
Veho USB顕微鏡を使用して、硬化プロセス全体の液体の高さの変化を記録した。照射後、混合をさらに30秒間続けて、剪断非存在下での剰余の硬化を防止した。次いで、さらなる使用まで、試料を4℃で保存した。
【0197】
実施例6-3体積/体積%PEG-DA流体ゲルのフィブロネクチン(FN)官能化
実施例5に従って調製した3体積/体積%PEG-DA流体ゲルを過剰量のフィブロネクチン(100μg/mL)と混合した。混合物を簡単に混合し、次いでウォーターバス中で40℃にて1時間加温して、タンパク質とゲルを反応させた。得られたゲルを、さらなる使用まで、4℃で保存した。
【0198】
実施例7-PEG-DA流体ゲル組成物からの治療活性薬剤の放出
活性薬剤の調製
・有効量:ペニシリン-ストレプトマイシン(0.1ml)、デキサメタゾン(50mg)、プロテイナーゼK(10mg)、イブプロフェン(200mg)、デキストラン(300mg)、デキストランブルー(100mg)、
・有効量をPBSに加えて、総量を1mlとする。
・溶けるまでボルテックスミキサーでよく混合する。
【0199】
活性充填ゲルの調製
・実施例5.3に従って調製した3体積/体積%のPEG-DA流体ゲル0.9mlをエッペンドルフに加える。
・各ゲルにPBS中の活性物質0.1mlを加える。
・ボルテックスミキサーでよく混合する。
・試験する前に24時間冷蔵する。
【0200】
標準曲線の決定
・PBS中に標準濃度の活性物質を調製した。
・標準をピペットで石英キュベットに入れた(光路長1mm)。
・UV/Vis分光法を使用して、波長200~700nmの吸光度を測定した。
・曲線をプロットし、これを使用して標準曲線を決定し、これを用いて濃度を決定した。
【0201】
放出アッセイ
・0.5mlのPBSを24ウェルプレートのウェルに添加した。
・PBSを37℃でインキュベートして平衡化した。
・活性物質を含有する流体ゲル0.1mlをトランスウェルインサートに入れた。
・トランスウェルインサートをPBSを含有するウェルに入れた。
・一定時間後、トランスウェルインサートを取り出し、新しいPBSの入ったウェルに入れた。
・次いで、放出媒体を取り出し、UV/Vis分光法を用いて分析した。濃度を標準曲線から導出し、累積放出を時間の関数としてプロットした。
【0202】
実施例8-PEG-DA流体ゲルから放出されたプロテイナーゼKのin vitro作用
活性薬剤の調製
・プロテイナーゼK(10mg)をPBSに加えて、全量を1mlとする。
・溶けるまでボルテックスミキサーでよく混合する。
【0203】
活性充填ゲルの調製
・実施例5.3に従って調製した3体積/体積%のPEG-DA流体ゲル0.9mlをエッペンドルフに加える。
・各ゲルにPBS中の活性物質0.1mlを加える。
・ボルテックスミキサーでよく混合する。
・試験する前に24時間冷蔵する。
【0204】
マトリックス分解アッセイ
・フィブリンゲル0.5ml(8.5mg/ml)を24ウェルプレートのウェルに形成させた。
・0.5mlのPBSを各ウェルに添加した。
・0.1mlの活性物質を含有する流体ゲルをトランスウェルインサートに添加し、フィブリンゲルの上に置いた。
・試料を60℃でインキュベートして、プロテイナーゼKを活性化した。
・画像は様々な時点で撮影し、(a)フィブリンゲル+PBSのみを含有する対照ウェル、(b)フィブリンゲル+プロテイナーゼkを含有するウェル(流体ゲル担体なし)と比較した。
【0205】
実施例9-PEG-DA流体ゲルからのペニシリン-ストレプトマイシンのin vitro放出及び活性
活性物質の調製
・ペニシリン-ストレプトマイシン(100μl)をPBSに加えて、全量を1mlとする。
・溶けるまでボルテックスミキサーでよく混合する。
【0206】
活性充填ゲルの調製
・実施例5.3に従って調製した3体積/体積%のPEG-DA流体ゲル0.9mlをエッペンドルフに加える。
・各ゲルにPBS中の活性物質0.1mlを加える。
・ボルテックスミキサーでよく混合する。
・試験する前に24時間冷蔵する。
【0207】
微生物の調製
・TSAを水に溶解し、オートクレーブで滅菌し、90mmのペトリ皿に入れて、TSAプレートを調製する。
・プレートを冷却する。
・微生物(E.coli及びS.aureus)を培養し、プレーティングする。
・微生物がlawnを形成できるようにする。
・ゲルに穴を開け、除去してウェルを提供する。
【0208】
阻害アッセイのゾーン
・各プレートのウェルに活性物質を含有する0.25mlの流体ゲルを加える。
・対照プレートにPBS中のペニシリン-ストレプトマイシンを加える。
・プレートをカバーし、24時間インキュベートする。
・微生物培養物が除去された面積を測定する。
【0209】
実施例10-PEG-DA流体ゲルのレオロジーヒステリシス
実施例5.1に従って調製したPEG-DA流体ゲル(3体積/体積%PEG-DA、300rpm剪断混合)を剪断時のヒステリシスについて調べた。
【0210】
流体ゲルを、大小の変形で特徴付けた。すべての実験は、ギャップの高さが2mmの40mmの鋸歯状の平行プレートを使用して20℃で実施した(大型の粒子が存在するため、大きなギャップ高さを使用した)。試料をレオメーター(Kinexus Ultra+,Malvern Panalytical)上に充填し、熱平衡に到達させた。これに続いて、以下の3つの試験を実施した。
(a)剪断応力の上昇及び下降
・温度20℃
・0.1~最大100Pa。
・傾斜時間1分
・ディケードあたり20試料
(b)3ステップ剪断
・温度20℃
・2秒ごとにサンプリングして1Paで30秒間。
・2秒ごとにサンプリングして10Paで30秒間。
・1秒ごとにサンプリングして1Paで30秒間。
(c)剪断前及び回収
・温度20℃
・剪断前
a.単一剪断応力10Paで10秒間。
・回収
a.周波数-1Hz、
b.応力-0.04Pa
c.サンプリング時間は30秒間に対して1秒。
【0211】
これらのレオロジーヒステリシス実験の結果を図15に示し、以下で説明する。
【0212】
比較例1-様々なポリマー濃度の静止PEG-DA流体ゲルの調製
0.1体積/体積%Igracure2959開始剤を含むPEG-DA溶液を、実施例1の原液をPBSで希釈して調製し、様々な濃度のポリマー溶液(3.5、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、及び5.0体積/体積%PEG-DA)を得た。
【0213】
Kinexus Ultra+レオメーターの電源を入れ、ソフトウェアを開いた。ジオメトリは25C、ギャップゼロに設定した。下のプレートを取り外し、UVランプを頭上に備えたドラフト内に配置した。プレートの中央に金型(上部を取り除いた30mlユニバーサル)を置き、ピペットを使用して1mlのゾルを金型に加えた。OmniCure s2000のUV光を使用して、in situでゲルを硬化させた。合計硬化時間は、4分(2×2分バースト)であった。次いで型を取り外し、プレートをレオメーターに戻した。
【0214】
周波数掃引と振幅掃引の両方として微小変形を介してゲルをレオロジー特性評価に供した(レオロジーについて以下に説明する手順に従って)。
【0215】
流体ゲルの特性評価
硬化プロセスのビデオ分析
硬化中の材料の変化を、MATLAB(登録商標)(MathWorks)でのビデオ分析を使用して確認した。簡潔に述べると、マスキングを適用して関心領域(細胞撹拌フラスコ)を画定した。ビデオを、1秒に1つずつ、時間に基づいて画像に分割した。次いで、しきい値処理を利用して流体の上部を画定し、マーカーとして使用して元の位置からの高さの変化を時間の関数として追跡した。
【0216】
硬化度の測定
単純な物質収支を使用して、硬化度及び粒子形成度を測定した。流体ゲル(0.5mL)を17,000gで10分間遠心分離して、ゲル化粒子相を非ゲル化連続培地から分離した。上清の質量を回収し、秤量した。したがって、ゲル化の程度は、残りのゲル化相の質量に等しいと定義された。
【0217】
粒子体積分率(φgel)をGarrecらによって概説された同様の方法を使用して測定した24(式1):
【数1】
式中、φは、ゲル(φgel)、同等の静止ゲル(φQgel)、及び連続相(φcont)の体積分率である。ここで、粒子シネレシスの影響
【数2】
は無視できると仮定され、ゲルが占める体積は、総体積から上清を差し引いた体積に等しい物質収支を提供する(式2)。したがって、上清の質量を体積に変換し(PBSの密度、1.065g/cm)、0.5mLの初期試料の量から差し引いた。
【0218】
粒度分析
静的光散乱を使用して粒度分布を測定した。Hydro SM手動少量サンプル分散ユニットを搭載したMalvern Mastersizer MS2000を使用して、粒度分布を取得した。この技術は、Mie理論を使用して粒度を計算するため、粒子は単分散の均質な球体であると想定された。多重散乱を避けるため、ゲル粒子を蒸留水で希釈して試料を調製した(RI=1.33)。
【0219】
光学/蛍光顕微鏡検査
EVOS M5000顕微鏡で位相差モードを使用して、FN処置/非処置流体ゲル及び細胞について光学/蛍光顕微鏡検査を実施した。流体ゲルを、最初にPBS中に比率1:4で希釈した後、カバーガラス付きの標準スライドに塗布した。フィブロネクチン官能化粒子を、免疫組織化学的手法を使用して画像化し、これにより、粒子を、1%BSA、一次抗フィブロネクチン抗体、次いで二次ヤギ抗ウサギFITC抗体の段階的レジームで処理した。各ステップを1時間の撹拌インキュベーションで分割し、続いてPBSにより複数回の洗浄/遠心分離(4,000g、2分)を行った。
【0220】
共焦点レーザー走査型顕微鏡
CLSMを使用して、粒子の形態を決定した。室温で20分間混合することにより、粒子をローダミン6G(0.1mM)で染色した。次いで、PBSとの混合及び遠心分離(4,000gで30秒間)を繰り返すことにより、系を洗浄した。その後、試料をPBS中で1:4の比率で希釈し、スライドとカバースリップの間に配置した。次いで、Olympus IX81共焦点顕微鏡を使用して、543nmレーザーと1μmの間隔(zスタック)を使用して粒子を画像化した。画像を、イメージング ソフトウェア(ImageJ)を使用してコンパイルした。
【0221】
レオロジー特性評価
すべてのレオメトリーは、40mmの鋸歯状の平行プレート形状を備えたKinexus Ultraレオメーターを使用して実施した。すべての試験は、2mmのギャップ高(粒度が大きいため)を使用して20℃で実施した。いずれの場合も、試料をレオメーターに充填し、試験前に5分間平衡化させた。
【0222】
線形レオロジー 振幅掃引を、1Hzの一定周波数で0.01~100Paの範囲内の応力制御モードで実施した。周波数依存性のデータを、0.01~10Hzの周波数範囲にわたって、すべての試料(0.04Pa)のLVeR内で認められた一定の応力を使用して取得した。より高い周波数範囲で収集したデータは、ジオメトリの慣性の影響を受けたため、提示したデータから削除した。
【0223】
非線形レオロジー 0.1~100Paの応力制御モードで1分間の傾斜時間で粘度特性評価を実施した。より低い粘度の試料については、ギャップからの試料の排出を防ぐために、第2のニュートンプラトーに到達した時点で試験を停止した。
【0224】
細胞毒性の特性評価
すべての細胞研究は、初代ヒツジ軟骨細胞で実施した。細胞を最初に増殖させ、次いでウェルに播種し、24時間後に流体ゲルを適用した。処理を加えた後、細胞をさらに3日間培養し、代謝活性と細胞生存率の両方を試験した。官能化された粒子の存在下で、懸濁液ウェルを使用して、プラスチックから離れたゲル化粒子への接着を促進させた。
【0225】
代謝活性アッセイを、PrestoBlue(商標)アッセイキット(Invitrogen)を使用して行った。簡潔に述べると、細胞をダルベッコのPBSで洗浄し、1mLのPrestoBlue(商標)を添加した培地(10%)を各ウェルに加え、4時間インキュベートした。各ウェルから50μLの上清を96ウェルプレートの1つのウェルに移し、励起/発光波長550/620nmに設定されたTecan Spark(Tecan Group Ltd,英国)プレートリーダーを使用して蛍光を測定した。
【0226】
ReadyProbes(商標)Cell Viability Imagingキット(Invitrogen)を使用して生死判定アッセイを実施した。アッセイは、製造元の指示に従って、2滴のNucBlue(商標)live試薬と2滴のNucGreen(商標)dead試薬を、1mLの培養培地を含む各ウェルに直接加え、15分間インキュベートすることにより実施した。405及び488nmレーザーを搭載した蛍光顕微鏡を使用して細胞を画像化した。
【0227】
示されたすべてのデータは、少なくとも3回の繰り返しの平均を表しており、エラーバーは95%信頼区間を示している。統計的有意性は、一元配置及び二元配置分散分析とp値を使用して調査した。p<0.05;**p<0.01及び***p<0.001。
【0228】
結果
流体ゲル懸濁液の調製
ゾル-ゲル転移を受けるポリマーゾルに剪断を適用することによって合成流体ゲル懸濁液を調製した。このプロセスを図3に示す。この図は、UV光を使用してラジカル開始剤からのラジカルの形成を刺激し(図3(i))、次いでフリーラジカル重合を促進し、アクリレート基内のカルボニル種を介して伝播させることを強調している。しかしながら、一般的な重合プロセスとは異なり、成長の終了は剪断の存在によって制御され、単一の連続したネットワークではなく粒子状の懸濁液が生じる(図3(iii))。粒子形成と粘度増加の間には直接的な相関関係が示されている19,20,23ため、増粘の結果としての渦(液体の高さ)の減少を、ゲル化を測定するための定性的な手段として使用した(図4a)。適用した混合に関係なく、すべての系が約65秒の同じ長さの照射後、ゲル化し始めたことが観察され(変化の開始として定義される)、二次プラトー/平衡に到達するまで渦の高さの減少を受けた。特性を比較することにより、「ゲル化速度」のシフトが強調され、混合速度が速い場合(例えば、実施例5.5-700rpm)は、混合速度が遅い場合(例えば、実施例5.1-300rpm)に比べて硬化が遅かった。
【0229】
ゲル化の程度を、遠心分離を使用してさらに調べ、ゲル化相と連続相を分離した(図4b)。処理中に適用する剪断を増やすと、抽出可能な連続相で線形に増加し(p<0.01)、硬化中に形成されるゲル化粒子の程度の減少が強調された。
【0230】
粒度と形態の両方に対する混合の影響を図5に示す。静的光散乱法を使用して、すべての流体ゲル系のサイズ分布を決定した(図5(a)(i))。様々な剪断速度で調製した流体ゲル(実施例5.1~5.5)は、広い単峰性ピークを示し、一定範囲の粒度が示唆された。
【0231】
平均粒度D[4,3]値を決定し、粒度の平均変化を示した(図5(a)(ii))。この場合でも、適用した混合と得られた粒度との間の線形関係が明確に観察され、低い混合速度(300rpmで308±28μm、実施例5.1)ではより大きな粒子が形成され、より高い処理速度(700rpmで24±0.8μm、実施例5.5)ではより小さな粒子が形成された。
【0232】
粒子顕微鏡写真はサイジングデータと一致しており、適用した混合の関数としてサイズが縮小していることを示している(図5b)。粒子の形態は、混合が増加するにつれて均一性が増加するように見え、長さと幅の比率が高くなることを特徴としていた。共焦点顕微鏡を使用した粒子構造のより詳細な分析により、厚さ約10μmの「円板様」形状で表される、粒子に対して比較的薄い構造が強調された(図5c)。
【0233】
懸濁材料特性
図6は、実施例4で調製した流体ゲルの粘弾性及びポリマー濃度による変化を示す。すべての系は、ポリマー濃度に依存する材料の挙動を示し、ポリマー含有量を増加させると、より強力な系(より高いG’)が得られた。これは、ポリマー間で形成される架橋の数が増加した結果である。3%及び5%の両方で調製した系の周波数掃引は、ある範囲の周波数にわたってG’がG’’より優位であることを示し(わずかな周波数依存性)、弱いゲル様挙動を示した。4つすべての試料の貯蔵弾性率(G’)及び粘度は、適用する応力の増加と共に減少し(それぞれ図6(a)及び6(c))、ゲル様から液体様への移行を示している。これは、すべての系が剪断減粘を示すフロー特性でも示されている。本明細書で提供するデータは、流動ゲル系の典型的なデータであり、静止状態では固体として機能するが、染色/応力下では可逆的に流動する。
【0234】
流体ゲルの粘弾性を、微小変形(図7)と大変形(図8)の両方で試験した。1Hzでは、すべての流体ゲル系は、損失弾性率(G’’)よりも優位な貯蔵弾性率(G’)を特徴としていた。系に適用する応力を増加させると、平衡状態(LVeR)から、損失が優位な系(G’’>G’)へのクロスオーバーが発生する程度までシフトした(図7(a))。増加する応力下での貯蔵弾性率の機械的スペクトルは、重なり合うことを示すために折りたたまれており、すべての曲線は同じLVeRとその後のG’の減少を示した(図7(d))。すべての系のLVeR内の応力で得られた周波数依存性データにより、最低の混合速度である300rpmで調製した流体ゲルが、最初は損失弾性率が優位であり、より高い周波数においてG’優位へクロスオーバーする粘弾性液体として振る舞うことが強調された。しかしながら、他のすべての系では、調査した全周波数範囲(0.01~10Hz)にわたって、G’がG’’よりも優位であり、ゲル様の挙動を示唆した。ゲル強度は、G’と損失正接(tanδ)の両方の大きさを特徴としていた。すべての系は、tanδの値が0.2~0.9の範囲の弱いゲル様の挙動を示し(図7(e))、スペクトルは様々な周波数依存性を示した。データにフィッティングを適用し、べき指数を比較することによって周波数依存性を定量化し(図7(c))、300rpmで調製した系の依存性0.14が、それぞれ、400、500、600、及び700rpmで調製した系では0.15、0.29、0.46、及び0.66に増加することに比べて、少ないことを示している。
【0235】
非線形レオロジーは、Crossモデルに密接にフィットし得る高度に剪断減粘する懸濁液を示した(図8(a))。Crossモデルへのフィッティングから得られたデータ(表A)は、すべての系に関して、流動を誘発するために必要な臨界剪断速度(1/C)及び減粘指数(m)について同様の値を示しており、これは、図7(d)に示す振幅データと密接に相関している。ゼロ剪断粘度(η)の変化を、処理速度(図8(b))及び粒子体積分率(φgel)(図8(c))の関数としてプロットした。ηは、ゲル強度について収集したデータと密接に相関し、300rpmで14.02±8.9Pa・s~700rpmで0.6±0.2Pa・sに減少した。ゲル化の程度について収集したデータ(図4(b))を使用して、除去した上清の密度をPBSの密度(1.065g/cm)と仮定し、粒子体積分率(φgel)を決定した。式中、ηはφgelに依存することが観察され、濃縮された軟質直鎖状ポリマー溶液(式3)3,4について、提案されたモデルにフィッティングし、その場合、ポリマー長に関する元の用語をφgelに置き換えている。
【数3】
式中、Kはフィッティング係数として使用され、Mは粒子体積分率φgelに置き換えられている。
【表5】
【0236】
実施例10に従って実施したレオロジーヒステリシス実験は、本発明の流体ゲルの剪断減粘粘弾性挙動の可逆性を示し、図15は、代表的なPEG-DA流体ゲル(実施例5.1)の粘度及び貯蔵弾性率のプロットを示す。
【0237】
図15(a)のプロットは、応力傾斜の増加及び減少後の粘度を示し、特性が最初に重なり合った、系の粘度の急速な回復を示している。動的降伏応力の存在は、系の粘度のわずかな増加を強調する、より低い応力での偏差を説明し得る。図15(b)は、1Paの応力、続いて10Paの応力、その後再び1Paの応力に戻る粘度の3段階特性を示しており、高応力から低応力に戻った後、粘度が完全に回復するまでのヒステリシスはほとんど認められない。図15(c)は、10Paの剪断応力での最初の予備剪断後の弾性(貯蔵)率(G’)の回復を示す。損失弾性率(G’’)よりも優位な弾性(貯蔵)弾性率(G’)への移行は、ネットワークの回復と、剪断応力の除去後の固体様の挙動への復帰を示している。
【0238】
本発明の流体ゲルとの比較として、予想通り、剪断処理なしで調製した静止PEG-DAゲル(比較例1)は、剪断減粘粘弾性挙動を示さなかった(図9を参照のこと)。図7(a)と比較すると、静止ゲルの貯蔵弾性率(G’)は、同等の流体ゲルで認められるものよりもはるかに大きいことが分かる。静止ゲルの貯蔵弾性率(G’)は、高応力で連続ゲル化ネットワークの最終的な破壊が発生する前に、応力が増加しても一定のままであった(図9(a))。
【0239】
PEG-DA流体ゲルの細胞毒性
初代ヒツジ軟骨細胞を用いて生体適合性を調べた。個々のPEG-DA液体ゲル成分の評価を最初に調べた(図10(a))。代謝活性データは、統計的ではないが、UV開始剤Omnirad-1173について、この分野で使用される一般的に報告されている開始剤(Irgacure-2959)と同様の細胞代謝のわずかな減少を示した。ポリマーPEG-DAが硬化していない場合、試験した両方の濃度(3.5%及び5%)について、ブランク対照と共に、それらの代謝活性を減少させる高レベルの細胞毒性(p<0.001)が観察された。
【0240】
いったん処理すると、細胞活性は大幅に向上し、処理中に適用する混合速度との相関関係が示された(図10(b))。過剰なポリマーと開始剤を除去するために細胞試験前に流体ゲルを洗浄すると、細胞応答が著しく向上し、未処置の対照群と比較して代謝活性に統計的な差はなかった(図10(c))。PEG-DA流体ゲルの存在下での細胞の挙動も、光学顕微鏡によって評価した(図10(d))。対照群の細胞(図10(d)i))は、脱分化した軟骨細胞に典型的な紡錘体の形態を示し28,29、これは300rpmの流体ゲルの存在下で維持され(実施例5.1(図10(d)ii)))、材料がより高い混合速度(400~700rpm、それぞれ図10(d)iii)~vi)で処理されるにつれて、次第に球状になった。生死判定データからは、代謝活性の低下と、それに伴って、流体ゲルがより高い混合速度で製造されるにつれて細胞死のレベルが増加したことが確認された(対照及び300rpmの試料では無視できる程度の死細胞しか観察されなかったのに対し、700rpmの試料では有意な数の死細胞が観察された)。
【0241】
PEG-DA流体ゲルのフィブロネクチン官能化
PEG系粒子のフィブロネクチン官能化は、タンパク質のシステイン残基と粒子表面の遊離アクリレート基との間のマイケル型反応を介して起こることが提案されており30、これは、ポリマー末端とゲル接合ゾーンに認められる(図11(a))。粒子表面へのタンパク質の結合を、フィブロネクチンの免疫組織化学染色を使用して判定した。顕微鏡写真は、粒子の表面へのフィブロネクチンの局在を示した(図11(b))が、タンパク質結合の密度はすべての粒子にわたって均一ではなく、一部の粒子はコーティングされていないままであった。さらに、フィブロネクチンは、流体ゲルを700rpmで作製した場合、もはや粒子表面に見えなくなった。そのような観察は、代謝活性と生死判定データの両方に反映された。未処置の対照細胞と比較して、代謝活性は、粒子が官能化された場合に強化され、700rpmの系の場合を除いて、官能化されていない系(図11(c))に比べて有意な増加を示した(p<0.001)が、その場合、コーティングは改善をもたらさなかった。生死判定染色は、代謝活性データを補完し、低レベルの細胞死が観察され、形態は健康な細胞を示していた。さらに、粒子が官能化されていた場合、細胞の結合が認められた。しかしながら、これもすべての粒子にわたって均一ではなく、より球状の性質に向かう形態学的変化をもたらした(図11(d))。
【0242】
FG組成物からの活性薬剤の放出
図12は、実施例7に記載のように、500rpmの剪断混合で調製した3体積/体積%PEG-DA流体ゲルに由来する様々な治療活性薬剤(ペニシリン-ストレプトマイシン、デキサメタゾン、プロテイナーゼK、イブプロフェン、デキストラン、及びデキストランブルー)の累積放出プロットを示している。
【0243】
結果は、流体ゲルが小分子(イブプロフェン、デキサメタゾン、ペニシリン-ストレプトマイシン)と高分子(デキストラン、デキストランブルー、プロテイナーゼK)の両方を放出することができたことを示している。これは、本発明によるゲル組成物を使用して広範囲の治療薬を送達することができることを示唆している。この方法による送達のための治療薬の適合性は、分子のサイズまたはタイプ(タンパク質または多糖)に左右されるようには思われないが、(この試験では)薬剤の水溶性に依存する。これは、広範な適応症の治療に使用するのに適した活性薬剤の例として示されている。
【0244】
FG組成物から放出されるプロテイナーゼKの活性
実施例8に記載するように、細胞外マトリックス再構築剤であるプロテイナーゼKは、剪断減粘性流体ゲル組成物から放出された後もその生物学的活性を保持する。図13は、本発明によるPEG-DA剪断減粘性流体ゲル組成物から放出された活性薬剤プロテイナーゼKの作用下での例示的なECM分子フィブリン(写真では白いゲルとして示される)の経時的な分解を示す写真を示す。
【0245】
フィブリンゲルの分解は、対照群を除いてすべての事例で発生した。フィブリンゲルの分解は、プロテイナーゼKのみの群の方が速かったが、流体ゲルから放出されたプロテイナーゼKからも有意なフィブリン分解があり、放出後も薬剤が依然として強力であることを示している。
【0246】
FG組成物から放出される抗生物質の活性
抗感染症剤(ペニシリン-ストレプトマイシン)は、実施例9に記載するように、剪断減粘性流体ゲル組成物から放出された後、その生物学的活性を保持する。図14は、抗生物質(ペニシリン-ストレプトマイシン)と併用して、本発明によるPEG-DA剪断減粘性流体ゲル組成物を用いた阻害ゾーンアッセイの結果を表す写真を示す。これらの結果は、E.coli及びS.Aureusに対する有効性を示している。FG組成物の阻害ゾーンは、FGの非存在下でのみペニシリン-ストレプトマイシンで観察されたものと同等であり、E.coli及びS.Aureusに対して、ペニシリン-ストレプトマイシンのみの実験ではそれぞれ35mm及び55mmであったのに対し、FG+ペニシリン-ストレプトマイシン実験では、それぞれ直径32mm及び50mmの阻害ゾーンが示された。
【0247】
結論
本発明者らは、剪断ゲル技術を用いて合成前駆体を使用してミクロゲル懸濁液を調製することができることを発見した。ラジカル誘導ゲル化、pH誘導ゲル化、もしくは酵素誘導ゲル化、またはこれらの方法の組み合わせなど、様々な方法を使用して、剪断混合下でゲル化を刺激してもよい。ミクロゲル懸濁液の形成は剪断プロセスによって終了するが、これにより製造方法が制御可能となる。本発明の流体ゲルの機械的特性は、軟質コロイド状/粒子ガラスと同様であり、レオロジーは製造時の加工条件に依存する。最終的に、これらは粒子が占める相の体積によって左右され、より高い剪断でのゲル化の防止により、充填密度が低くなり、したがって隣接する粒子によって形成されるケージ内の自由度が高くなった。ゲル化中の混合(剪断分離)の増加により、粒子形成の程度が低下し、ゲル化していない残留ポリマーが増加した。
【0248】
興味深いことに、貯蔵弾性率(G’)の大きさは、製造中に適用する混合の程度に応じて変化したが、一度崩壊すると、すべてのプロットが同一となった。これにより、懸濁液の安定性と破壊は同様のメカニズムであることが示唆された。そのような推論を、フロー特性をCrossモデルにフィッティングして大変形データで繰り返したところ、臨界流値(1/C)及び減粘指数(m)全体にわたる類似性が強調された。粒子体積分率(φgel)の関数としてのゼロ剪断粘度(η)の比較により、濃縮された軟質直鎖状ポリマー鎖のMark-Houwink式へのフィッティングが提供された31。そのような挙動は、粒子表面の未反応ポリマーと非ゲル化ポリマーが二次的な非ゲル化格子間相を形成することから生じることが示唆されており、粒子が連続水相を効果的に捕捉するため、次いでこの相がφgelでますます濃縮される。この目的のために、系は、軟質粒子及びコロイド状ガラス32-36について記載されている系と同様に、非晶質ポリマーに囲まれた半結晶性マトリックスと考えることができる。そのため、流動ゲルの微小変形レオロジーは、同じ方法で説明することができ35、低い応力/引っ張りでは固体として挙動し、一方、それらの非線形レジームでは剪断減粘し、液体様の挙動を示す32,37。φgelが増加するにつれて、系はますます閉じ込められ、系内でブラウン運動がもはや不可能になり、系の閉塞に到達する(通常、約0.83)まで、立体的に移動を阻む「ケージ」を粒子が形成するため32,33、動的停止がもたらされる38。そのような観察結果は振動データに反映され、粒子はより低い処理速度で形成される(>φgel)。これは、結果として生じる閉じ込めによりポリマーの緩和動力学が増加するため、周波数依存性が少ないことを示している33,36
【0249】
これらの重要なレオロジー、軟質粒子ガラスの特性が、再生医療においてこの材料を非常に用途の広いものにする原動力となっている。大きな引っ張り下で粒子を通過する粒子が摺動する性質は、静止ゲルの分解に関連する破片ベースの不純物の形成を防ぐだけでなく、そのような材料に関連する高い保持時間を大幅に提供する。通常、体の関節領域に関連する動的な振動運動の下で、互いを通過する粒子が「圧搾」し始めると、軟質ガラスの産出が起こることが提唱されている39。しかしながら、粒子はかご状の周囲環境(隣接する粒子に囲まれた単一の粒子)内で相互作用できるため、完全な破砕が防止され、連続的な流動ネットワークが形成される39。これらの相互作用とケージングが、操作中に表面間の排出を防ぎ、「弾性様の」流体をもたらし得る。このように、マトリックスは、動的な条件下で拡張された治療送達を提供するための完璧な環境を提供する。
【0250】
細胞適合性も処理の関数であることが観察され、この場合も、ゲル化していないポリマーが多く残っている場合、細胞の生存率は低くなった。モデルタンパク質であるフィブロネクチンによる粒子の官能化により、材料に対する細胞応答が強化され、細胞は接着の兆候を示した。実験は、活性薬剤の活性に明らかな障害を与えることなく、広範囲の小型及び大型の治療活性薬剤を流体ゲル組成物から首尾よく放出できることを示した。このように、これらの系は再生医療において用途の広い材料を提供し、身体の高度に操作された領域での吸引と保持を可能にする重要な機械的挙動を備えている。これらの系はまた、治療薬を送達するか、または細胞浸潤のための動的な足場を提供して、例えば、3次元細胞アッセイ、及び変形性関節症などの疾患の用途における修復を支援する可能性を提供する。
【0251】
実施例11-酵素的に架橋されたキトサン-ゼラチン流体ゲルの調製
2MのHClでpHを4に下げ、40℃に加熱して、1重量/体積%の低分子量キトサン溶液を調製した。
【0252】
40℃に加熱することによって、10重量/体積%のゼラチン溶液を調製した。
【0253】
次いで、2つの溶液を1:1の体積/体積比で混合し、40℃に維持し、1MのNaOHを添加してpHをpH6に調整した。次いで、混合物を35℃でカップアンドベーン形状のレオメーターに入れ、200秒-1で剪断した。5分後、チロシナーゼを40U/mLの濃度で添加し、次いで、剪断混合を35℃で3時間継続し、酵素反応を生じさせた。
【0254】
混合物をレオメーター内で25℃に冷却し、200秒-1で剪断して流動ゲルを得た(実施例11A)。
【0255】
比較用静止ゲル(実施例11B)を、剪断せずに冷却をペトリ皿で行ったことを除いて、同じ方法で調製した。
【0256】
実施例12-酸誘導ゲル化によるアルギン酸塩流体ゲルの調製
1重量/体積%のアルギン酸塩の溶液を、25℃で撹拌することにより調製した。
【0257】
アルギン酸塩溶液に、アルギン酸塩溶液1mLあたり50μLの2M塩酸を加え、800rpmで10分間撹拌して流動ゲルを得た(実施例12A)。
【0258】
比較用静止ゲル(実施例12B)を、酸をペトリ皿内のアルギン酸塩溶液に静的に添加したことを除いて、同じ方法によって調製した。
【0259】
実施例13-実施例11及び実施例12の流体ゲル試料の機械的分析
図16は、実施例11において酵素的に誘導した架橋によって調製した流体ゲルの機械的分析を示す。図16(a)に示す実施例11Aの周波数掃引は、酵素的にゲル化された系が流体ゲル系に典型的な機械的特性を示すことを示している。図16(b)に示す実施例11Aの引っ張り掃引は、線形粘弾性領域の増加を示しており、酵素的にゲル化された系が、液体様に作用する前に、他の流体ゲルよりもはるかに大きく変形することができることを示唆している。実施例11Aの粘度特性(図16(c))は、それが剪断減粘性流体ゲルとして挙動している、すなわち、このゲルが大きな引っ張り下で液体様に作用することを示している。
【0260】
図17は、実施例12において酸誘導ゲル化によって調製した流体ゲルの機械的分析を示す。図17(a)に示す流体ゲル(実施例12A)と比較用静止ゲル(実施例12B)の周波数掃引は、ゲル化中の剪断の存在により、静止時に流体ゲルが固体様の動作を示す系がもたらされることを示している。しかしながら、実施例12Aは、実施例12Bに比べてわずかに弱いゲルであるように思われる。図17(b)に示す流体ゲル(実施例12A)と比較用静止ゲル(実施例12B)の引っ張り掃引は、予想どおり、ゲル化中の剪断の存在が構造全体を弱めている一方で、微小変形で依然として固体様の特性を保持していることを示している。実施例12Aの粘度特性(図17(c))は、それが剪断減粘性流体ゲルとして挙動している、すなわち、このゲルが大きな引っ張り下で液体様に作用することを示している。
【0261】
図18(a)は、酸誘導ゲル化によって調製した流体ゲル(実施例12A)を示し、図18(b)は、剪断の影響なしで調製した比較用の静止ゲル(実施例12B)を示す。剪断によって処理する場合(図18(a))、剪断混合により、連続的な3Dネットワークの形成が妨げられる。得られた流体ゲルは、固体及び液体の両方の方法で作用することができる。他方、比較用静止ゲル(図18(b))は、静的固体状態のままである。
【0262】
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【国際調査報告】