(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】分岐動脈瘤を治療するためのインプラントのための挿入システム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/954 20130101AFI20230706BHJP
【FI】
A61F2/954
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576505
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(85)【翻訳文提出日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2021065959
(87)【国際公開番号】W WO2021250282
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】102020115614.6
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】トレースケン,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】ロッラ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267AA51
4C267AA56
4C267BB02
4C267BB07
4C267BB11
4C267BB17
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC10
4C267CC11
4C267DD08
4C267GG05
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG24
4C267GG34
(57)【要約】
本発明は、血管分岐部に位置する動脈瘤(22)の領域における血流に影響を与えるためのインプラント(1)のための挿入システムに関する。インプラント(1)は、親血管(20)から分岐する血管(21)内に配置されるように意図され、分岐点(4)で互いに接続される2つの遠位管状インプラント部分(2)を有する。挿入システムは、それぞれ遠位管状インプラント部分(2)を保持するように設計された2つのスリーブ(5)を有する。2つのスリーブ(5)は、それぞれ遠位スリーブ部分(6)を有し、遠位スリーブ部分(6)は、それぞれ長手方向に延びる開口ゾーン(7)を有する。遠位スリーブ部分(6)は、近位部分(8)によって近位方向に隣接され、それによって、スリーブ(5)を近位方向に引き戻すことができ、開口ゾーン(7)が開放し、遠位管状インプラント部分(2)は、それぞれ開口ゾーン(7)を通過し、分岐血管(21)内に解放される。あるいは、インプラント(1)を段階的に解放するための開口ゾーンを有する個々のスリーブ、またはインプラント(1)が外側に取外し可能に取り付けられた挿入システムを使用することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管分岐部に位置する動脈瘤(22)の領域における血流に影響を与えるためのインプラント(1)のための挿入システムであって、前記インプラント(1)は、親血管(20)から分岐する血管(21)内に配置されることを意図され、分岐点(4)において互いに接続される2つの遠位管状インプラント部分(2)を有し、
前記挿入システムは、それぞれ遠位管状インプラント部分(2)を収容するように構成された2つのスリーブ(5)を備え、前記2つのスリーブ(5)は、それぞれ遠位スリーブ部分(6)を備え、前記遠位スリーブ部分(6)は、それぞれ長手方向に延びる開口ゾーン(7)を有しており、前記遠位スリーブ部分(6)の各々に近位方向に隣接して近位部分(8)が存在し、これを介して前記スリーブ(5)を近位方向に引き戻すことができ、それによって、前記開口ゾーン(7)が開放し、前記遠位管状インプラント部分(2)が、それぞれ前記開口ゾーン(7)を通過し、前記分岐血管(21)において解放される、
ことを特徴とする、挿入システム。
【請求項2】
前記開口ゾーン(7)が、長手方向スロットの形態で提供されることを特徴とする、請求項1に記載の挿入システム。
【請求項3】
前記スリーブ(5)が、少なくとも前記遠位スリーブ部分(6)の領域において、可撓性の管状材料からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の挿入システム。
【請求項4】
前記近位部分(8)が、スリーブ形状または管状に設計されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項5】
前記近位部分(8)が、ワイヤ、フィラメントまたはストリップの形状に設計されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項6】
前記挿入システムが、前記インプラント(1)の管状の幹部分(3)を収容するために設けられた幹スリーブ(9)を有し、該幹スリーブ(9)は、前記幹部分(3)を解放するために近位方向に引き戻されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項7】
前記幹スリーブ(9)が、可撓性の管状材料から作製されていることを特徴とする、請求項6に記載の挿入システム。
【請求項8】
血管分岐部に位置する動脈瘤(22)の領域における血流に影響を与えるためのインプラント(1)のための挿入システムであって、前記インプラント(1)は、親血管(20)から分岐する血管(21)内に配置されることを意図され、分岐点(4)において互いに接続される2つの遠位管状インプラント部分(2)を有し、
前記挿入システムは、それぞれ遠位管状インプラント部分(2)を収容するように構成され、互いに接続された2つの遠位スリーブアーム(12)を有するスリーブ(11)を備え、該スリーブ(11)は、遠位方向に連続的な開口ゾーン(14、15)を有し、前記スリーブ(11)は、近位部分(13)を有し、これを介して前記スリーブ(11)を近位方向に引き戻すことができ、それによって、前記開口ゾーン(14、15)が開放し、前記遠位管状インプラント部分(2)が、それぞれ前記開口ゾーン(14、15)を通過し、前記分岐血管(21)において解放され、
前記開口ゾーン(14、15)は、前記インプラント(1)が解放されると、前記スリーブ(11)が前記遠位スリーブアーム(12)の遠位端から近位方向に順次開くように設計される、
ことを特徴とする、挿入システム。
【請求項9】
前記開口ゾーン(14、15)が、遠位方向を向く連続スロット(14)を含み、該スロット(14)のエッジが、少なくとも部分的に重なり合い、重なりが遠位から近位に向かって増加することを特徴とする、請求項8に記載の挿入システム。
【請求項10】
前記開口ゾーン(14、15)が、遠位方向を向く弱化ゾーンを含み、該弱化ゾーンは、開口に必要な力が遠位から近位に向かって増加するように設計されていることを特徴とする、請求項8に記載の挿入システム。
【請求項11】
前記弱化ゾーンが穿孔(15)であることを特徴とする、請求項10に記載の挿入システム。
【請求項12】
前記近位部分(13)が、前記インプラント(1)の前記管状幹部分(3)を収容するために設けられた近位スリーブアームであることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項13】
血管分岐部に位置する動脈瘤(22)の領域における血流に影響を与えるためのインプラント(1)のための挿入システムであって、前記インプラント(1)は、親血管(20)から分岐する血管(21)内に配置されることを意図され、分岐点(4)において互いに接続される2つの遠位管状インプラント部分(2)を有し、
前記2つの遠位管状インプラント部分(2)は、分岐血管(21)に移植された拡張状態で、および、血管系を通って移動可能である収縮状態で存在し、
前記挿入システムは、前記遠位管状インプラント部分(2)を通って延在し、分岐点(4)に隣接して互いに接続された2つの遠位シャフト部分(16)を有し、前記遠位シャフト部分(16)の接続は、近位部分(17)により近位方向に続き、これを介して前記遠位シャフト部分(16)を近位方向に引き戻すことができ、前記遠位管状インプラント部分(2)は、前記遠位シャフト部分(16)に取外し可能に固定されて、前記遠位管状インプラント部分(2)は、固定が解除された後、その拡張構造をとり、分岐血管(21)内で解放される、
ことを特徴とする、挿入システム。
【請求項14】
前記固定点(19)が、前記インプラント(1)の少なくとも遠位端において、前記遠位管状インプラント部分(2)と前記遠位シャフト部分(16)との間に配置されることを特徴とする請求項13に記載の挿入システム。
【請求項15】
前記遠位シャフト部分(16)が、可撓性の管状材料から構成されていることを特徴とする、請求項13または14に記載の挿入システム。
【請求項16】
前記近位部分(17)がシャフト部分であることを特徴とする、請求項13~15のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項17】
前記近位シャフト部分(17)が可撓性の管状材料から作製されていることを特徴とする、請求項16に記載の挿入システム。
【請求項18】
前記インプラント(1)が、親血管(20)内に配置されるように意図された第3の近位管状インプラント部分(3)を有し、該近位管状インプラント部分(3)は、分岐点(4)において分岐血管(21)のための2つの遠位管状インプラント部分(2)に接続され、前記近位管状インプラント部分(3)は、前記近位シャフト部分(17)上に配置されることを特徴とする、請求項16または17に記載の挿入システム。
【請求項19】
前記近位管状インプラント部分(3)が、前記近位シャフト部分(17)との少なくとも1つの化学的、熱的、電解的または機械的に分離可能な接続点を備えることを特徴とする、請求項18に記載の挿入システム。
【請求項20】
前記遠位管状インプラント部分(3)と前記遠位シャフト部分(16)との間の前記固定点(19)が、化学的、熱的、電解的または機械的に固定が分離可能な接続点であることを特徴とする、請求項13~19のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項21】
前記接続点(19)の少なくとも一部が接着接続であることを特徴とする、請求項19または20に記載の挿入システム。
【請求項22】
溶剤のための供給システムによって特徴付けられ、前記システムが、少なくとも一時的に前記シャフト部分(16、17)の内腔を通って延在し、これを通って溶剤を前記接着接続点(19)に塗布できることを特徴とする、請求項21に記載の挿入システム。
【請求項23】
接続点(19)の少なくとも一部が、電解的に取外し可能な金属接続であることを特徴とする、請求項19または20に記載の挿入システム。
【請求項24】
前記金属接続点(19)が、マグネシウムまたはマグネシウム合金から構成されていることを特徴とする、請求項23に記載の挿入システム。
【請求項25】
前記分岐血管(21)内に配置することを意図された前記2つの遠位管状インプラント部分(2)が、前記遠位インプラント部分(16)の半径方向の拡張を防止するキャップ(23)が前記遠位管状インプラント部分(2)の遠位端に配置されるように、前記遠位シャフト部分(16)に固定され、前記キャップは、前記インプラント(1)の解放を達成するために遠位端から遠位方向に押して取り外すことができることを特徴とする、請求項13~20のいずれか一項に記載の挿入システム。
【請求項26】
少なくとも2つのプッシュワイヤ(24)が、前記分岐血管(21)のための遠位管状インプラント部(2)がその上に配置された前記遠位シャフト部(16)の内腔を通って少なくとも一時的に延び、前記プッシュワイヤ(24)は、遠位方向へプッシュワイヤ(24)を前進させることよって前記キャップ(23)が前記遠位管状インプラント部分(2)の遠位端から押して取り外されるように設計されていることを特徴とする、請求項25に記載の挿入システム。
【請求項27】
前記プッシュワイヤ(24)が、前記キャップ(23)に設けられた開口部を通って延びており、前記プッシュワイヤ(24)は、前記開口部の遠位および近位に厚肉部(25)を備えることを特徴とする、請求項26に記載の挿入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管分岐部に位置する動脈瘤の領域における血流に影響を与えることを目的としたインプラントのための挿入システムに関する。このタイプの動脈瘤は、分岐動脈瘤としても知られる。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤は、通常、血管壁の嚢状または紡錘状の拡張であり、血液の一定の圧力によって血管壁の構造的に弱くなった領域で主に生じる。したがって、動脈瘤の血管内壁は、敏感であり、損傷を受けやすい。動脈瘤の破裂は、通常、重大な健康障害を引き起こし、脳動脈瘤の場合、神経障害および患者の死亡にまで至る。
【0003】
例えば動脈瘤がクリップによって挟み込まれる外科的手術の他に、動脈瘤の処置のために特に血管内方法が知られており、主に2つのアプローチが追及される。1つのオプションは、動脈瘤を、特にいわゆるコイル(プラチナスパイラル)を用いて、閉塞手段で充填することを含む。コイルは、血栓形成を促進し、したがって動脈瘤の閉塞を確実にする。他方では、ステント状のインプラントを用いて、血管側から、動脈瘤へのアクセス、例えば針状動脈瘤の頸部を遮断し、このようにして血流から切り離すことが知られている。いずれの方法も、動脈瘤内への血流を減少させ、このようにして、動脈瘤に作用する圧力を減少させ、理想的な場合には除去し、したがって、動脈瘤の破裂の危険性を低減するよう作用する。
【0004】
動脈瘤にコイルを充填する際、動脈瘤への充填が不十分であることが起こり得、これによって動脈瘤内への血流が許容され、このようにして、その内壁に圧力がかかり続ける。動脈瘤が連続的に拡張し、最終的にその破裂する危険性は、弱められた形態であっても依然として存在する。さらに、この治療方法は、比較的狭い頸部を有する動脈瘤、いわゆる針状動脈瘤にしか適していない-そうでなければ、コイルが広い動脈瘤の頸部から血管内に突出し、そこで血栓形成し、血管内に閉塞をもたらす危険性がある。最悪の場合、コイルは動脈瘤から完全に流れ出て、他の位置で血管を閉塞する。コイルを動脈瘤の嚢内の所定の位置に保持するために、動脈瘤の頸部はしばしば付加的に特別なステントで覆われる。
【0005】
別の血管内治療アプローチは、いわゆるフローダイバータに焦点を当てる。これらのインプラントは、狭窄部の治療に使用されるステントの外観に類似している。しかしながら、これらのフローダイバータの目的は、血管を開くのではなく、血管側における動脈瘤へのアクセスの遮断であるので、メッシュ幅は非常に狭い;あるいは、この種のインプラントは膜で覆われる。これらのインプラントの欠点は、治療すべき動脈瘤のすぐ近くにある出口の側枝も時に覆われ、それによって中長期的に閉塞されるという危険性である。
【0006】
血管分岐、特に血管分岐部の領域における動脈瘤は、非常に頻繁に発生する現象である。血管壁が弱い場合、動脈を流れて分岐部の前壁に作用する血流は、すぐに突起や膨らみを生じ、これはさらに急速に拡張する傾向がある。このような分岐部動脈瘤は、少なからず広い頸部を有し、これによって閉塞コイルのみを用いて治療を行うことが困難になる。
【0007】
血管分岐の領域において動脈瘤入口のこのような「バーリング」をもたらすのに適した血管インプラントは、例えば、特許文献1または特許文献2に開示されている。インプラントが所定の位置に配置された後に挿入される閉塞コイルの結果として、動脈瘤を非危険状態にすることができる。また、インプラント自体が動脈瘤を血流から十分に分離することも可能である。このために、例えば、インプラントは、動脈瘤頸部の領域内または動脈瘤頸部の前に配置される膜を有することができる。有用または好都合であると考えられる場合、動脈瘤への血流は、閉塞コイルまたは他の閉塞手段の動脈瘤への追加の導入を省くことができる程度まで、フィラメントのみ、典型的には小さな直径のワイヤを用いて低減することができる。
【0008】
特許文献3から、分岐動脈瘤を治療するためのフローダイバータシステムが知られており、これによって、側方開口部を有するステント状フローダイバータが、まず血管内に挿入される。その後、側方開口部を有する別のステント状フローダイバータが、第1のフローダイバータの開口部に全体としてY字型状を形成するように通過され、Y字における分岐が分岐動脈瘤の手前に位置する。このアプローチでは、動脈瘤は血流から遮断されるが、分岐血管への血流はほとんど影響を受けないままである。
【0009】
この従来技術のアプローチの欠点は、最終的なフローダイバータの2つの構成要素を1つずつ挿入しなければならないことである。このために、まず、第1のフローダイバータを正確に配置してから、第2のフローダイバータを、動脈瘤に対してならびに第1のフローダイバータに対して血管内に正確に配置しなければならない。頭蓋内領域の分岐動脈瘤の治療のために、インプラントは概して大腿動脈を介して挿入されるという事実のために、治療医は、かなりの距離にわたって非常に正確に制御し実行しなければならず、インプラントの視覚化、特に体内の開口部の正確な位置合わせが困難であるという追加の障害がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2012/113554号
【特許文献2】国際公開第2014/029835号
【特許文献3】国際公開第2018/208662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、分岐動脈の領域における血流に影響を与えるためのインプラントのための挿入システムを提供することであって、これにより、インプラントを1つの工程で挿入することができる。これは、親血管から分岐する血管に配置される少なくとも2つの遠位管状インプラント部分を有するインプラントを含む。特に、これらのインプラントは、分岐する血管のための2つの遠位管状インプラント部分と、親血管内に配置するための第3の近位管状インプラント部分(幹部分)とから構成されるY字型構造を有してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の実施形態によると、この目的は、血管分岐部に位置する動脈瘤の領域内の血流に影響を与えるためのインプラントのための挿入システムを提供することによって達成され、インプラントは、親血管から分岐する血管内に配置されることを意図され、分岐点において互いに接続される2つの遠位管状インプラント部分を有し、挿入システムは、それぞれ遠位管状インプラント部分を収容するように構成された2つのスリーブを備え、2つのスリーブは、それぞれ遠位スリーブ部分を有し、遠位スリーブ部分は、それぞれ長手方向に延びる開口ゾーンを有し、各遠位スリーブ部分に近位方向に隣接して、近位部分が存在し、近位部分を介してスリーブを近位方向に引き戻すことができ、それによって、開口ゾーンは開放され、遠位管状インプラント部分が、それぞれ開口ゾーンを通過し、分岐血管において解放される。
【0013】
本発明によって提供されるように、挿入システムは、親血管から分岐する血管のうちの1つに配置される2つの遠位管状インプラント部分の各々のためのスリーブを含む。スリーブは、遠位インプラント部分を制限し、遠位インプラント部分が半径方向に拡張することを防止する。少なくとも遠位領域において、両方のスリーブは、長手方向に延びる開口ゾーンを備え、スリーブが近位方向に引き戻されたときに、この開口ゾーンを通って遠位インプラント部分が通過して解放されることができる。あるいは、スリーブを近位部分によって所定の位置に保持しながら、2つの遠位インプラント部分を有するインプラントを遠位方向に前進させることによって、インプラントの解放を行うこともできる。スリーブとインプラントとの間の相対運動が解放にとって重要であり、スリーブの相対運動が近位方向に作用する一方で、インプラントの相対運動が遠位方向に作用する。これに関連して、送り装置を使用して、スリーブが近位方向に引っ張られる間にインプラントを所定の位置に保持するために、またはインプラントを遠位方向に前進させるために、インプラントに近位方向に力を加えることができる。
【0014】
この場合、開口ゾーンとは、遠位スリーブ部分の遠位端から近位方向に、典型的には近位部分の始点まで長手方向に延びる遠位スリーブ部分の領域を称する。好ましくは、開口ゾーンは、遠位インプラント部分が出ることを容易にするために、遠位方向に向く。開口ゾーンは、インプラントの少なくとも十分に長い部分がスリーブによって収容され、挿入中にインプラントが挿入システムによって確実に保持される程度に、近位方向に到達しなければならない。しかしながら、遠位スリーブ部分の近位端では、遠位インプラント部分はスリーブから突出し、一方、スリーブは近位方向にさらに延びる近位部分を備える。
【0015】
特に、開口ゾーンは、スリーブが近位方向に引き戻されるときにインプラント部分が通過することができる長手方向スロットで構成されてもよい。長手方向スロットの長手方向に延びるエッジは、隣接していてもよいし、ある程度重なり合っていてもよく、それぞれの場合においてインプラント部分の通過が可能なままであることが確保される。これに関連して長手方向とは、開口ゾーンが遠位スリーブ部分の遠位端から近位方向に延びなければならないことを意味するが、その際、一定の半径方向成分を有するコースも「長手方向」であると理解され、例えば螺旋状のコースである。
【0016】
長手方向スロットを配置する代わりに、長手方向スロットが解放プロセス中にのみ作成される別の開口ゾーンを設けることも可能である。例えば、これは、スリーブ部分の引き戻し時に開口する穿孔が設けられている弱化ゾーンとすることができ、あるいは、別のオプションは、材料の薄肉化に基づく弱化ゾーンを提供することである。
【0017】
解放されるべき遠位インプラント部分が遠位から近位へ解放されるように、開口ゾーンを設けることも好都合であると考えられ、これは、インプラントの2つの遠位端が最初に解放され、最終的に、依然としてスリーブ内に位置する遠位インプラント部分の最近位領域も遠位スリーブ部分から出ることを意味する。これは、例えば、開口ゾーンを遠位から近位に向かって開けるために近位方向に加えられる力を増加することによって達成することができる。例えば、弱化ゾーンの抵抗は、材料の厚さを増加すること、異なる材料を使用すること、または、近位方向に厚さが増加する中間セグメントおよび/または遠位方向に増加する開口部を有する穿孔を使用することによって、遠位から近位方向に強くなり得る。長手方向スロットが設けられる場合、長手方向スロットのエッジの重なりは、遠位から近位に向かって増加し、その結果、インプラントの遠位端が最初に解放される。
【0018】
Y字型インプラントを配置するための挿入システムは、国際公開第2018/134097号にも記載されている。このシステムでは、同様にY字型であり、遠位インプラント部分を収容するための分岐部を有している挿入カテーテルが使用される。挿入カテーテルの遠位端には、連続的な長手方向スロットが配置されており、これを通ってインプラントは挿入カテーテルの引き戻し時に出て解放されることができる。
【0019】
従来技術に対する本発明によって提案される解決策の利点は、分岐する血管内に配置された遠位インプラント部分のために2つの別個のスリーブが設けられているので、インプラントの部分を連続して解放することができることである。スリーブは、互いに独立して操作可能であり、通常、挿入システムの別個の部品として提供される。したがって、まず、それぞれのスリーブを近位方向に引き戻すことによって、第1の遠位インプラント部分を解放し、続いて、第2の遠位インプラント部分を解放することが可能である。さらに、別個のスリーブを有する挿入システムの製造がより簡単である。
【0020】
スリーブからインプラントが出ることを容易にするために、遠位スリーブ部分の開口ゾーンは容易に開かなければならない。このために、スリーブを、少なくとも遠位スリーブ部分の領域において、可撓性の管状材料から製造することが好都合であり、これはスリーブの引き戻し時に曲がり、インプラント部分が通過することを可能にする。
【0021】
スリーブの近位部分もまた、スリーブ形状または管状形状であってもよい。この場合、スリーブは、遠位スリーブ部分から近位部分まで好ましくは基本的に変化せずに延びるが、近位部分は、開口ゾーン、長手方向スロットなどを通常含まないという点で遠位スリーブ部分とは異なっている。近位部分はインプラントの構成要素を含まないので、これらはこの領域では不要である。近位方向への近位部分の伸長は、治療医が、遠位インプラント部分が遠位スリーブ部分から解放されるようにインプラントを固定すると同時にスリーブを引っ込めるか、逆に、近位部分を用いて遠位スリーブ部分を固定し、インプラントを遠位方向に前進させるのに十分なものである。
【0022】
近位部分のスリーブ状または管状の設計は、このようにしてガイドワイヤをスリーブに通すことができ、これによって、スリーブを、血管系を通って分岐血管内に前進させることができるという点で有利である。しかしながら、原理的には、近位部分を別の形状、例えばワイヤ状、フィラメント状またはストリップ状に設計することも可能である。例えば、遠位部分に使用される管状材料から、細いストリップを切断し、スリーブを引き戻すための近位部分として使用することができる。近位部分の直径を小さくし、例えばワイヤを使用することにより、このようにして挿入システムの外径を小さく保つことができるという利点が提供される。これは、挿入システムがインプラントと共に通常マイクロカテーテルを通して標的位置に前進されるという事実のため、特に有利である。
【0023】
近位部分の近位端には、例えば、カテーテル技術の分野で従来技術から知られているように、ハブを設けることができる。ハブの領域では、標準的なルアーまたはルアーロック接続を使用することが望ましい。このような接続部を介して、補助手段、例えばガイドワイヤを近位部分の内部に導入することができる。接続要素は、例えば、ポリカルボネート、ポリアミド、ポリプロピレンまたは他のポリマーから製造することができる。概して、材料は、実際のスリーブ部分に使用される材料よりも剛性が高い。
【0024】
有利には、挿入システムは、インプラントの管状の幹部分を収容するために設けられた幹スリーブをさらに有する。インプラントの管状幹部分は親血管内に配置される。インプラントの幹部分を遠位インプラント部分のためのスリーブとは独立して解放するために、幹スリーブを近位方向に引き戻すことができ、あるいは、幹スリーブは、遠位方向へ前進させることよってインプラントの幹部分も解放するように保持することができる。したがって、幹スリーブは近位方向に連続しなければならず、近位領域は必ずしもスリーブ形状である必要はなく、例えばワイヤなどから構成されてもよい。しかしながら、治療医が幹スリーブを効果的に制御できることが重要である。幹スリーブは、このために設けられた1つまたは複数のガイドワイヤの上を摺動することができる。この場合、幹スリーブの形状は、体外まで近位に続くことができる、すなわち、幹スリーブはオーバー・ザ・ワイヤ(OTW)システムに相当するが、ラピッドエクスチェンジ(Rx)カテーテルの場合と同様に、ガイドワイヤがさらに遠位に出ることも可能である。特に、ガイドワイヤは、インプラントの幹部分の内部を通って2つの遠位インプラント部分内に通されてもよい。
【0025】
その性質上、幹部分を収容するための幹スリーブを有する挿入システムは、インプラントが分岐する血管のための2つの遠位管状インプラント部分だけでなく、親血管に位置する近位インプラント部分も有する場合に有用である。基本的に、インプラントは、Y字形状であり、近位幹部分が拡張状態で管状であり親血管内に配置され、2つの遠位管状インプラント部分が分岐血管のためにそこから分岐する。しかしながら、遠位インプラント部分のための2つのスリーブとは異なり、幹スリーブには開口ゾーンは必要ない。血液が親血管から2つの分岐血管に流れることができるように、個々のインプラント部分が接続されることが非常に重要である。
【0026】
しかしながら、原理的には、分岐する血管のための2つの遠位管状インプラント部分のみを有するが、親血管のための追加のインプラント部分を有しないインプラントを配置するための挿入システムの実施形態を提供することも考えられる。とはいえ、この場合も、親血管から2つの分岐血管への血流を確保すること、すなわち、インプラントが2つの遠位インプラント部分に分岐する領域において、インプラントは近位方向に開口部を有し、この開口部を通して血液が親血管から流入し、分岐血管にさらに流入し続けることができることが最も重要である。
【0027】
幹スリーブが設けられる場合、挿入システムは、3つのスリーブ、すなわち、それぞれが開口ゾーンを有する遠位スリーブ部分を有する2つのスリーブと、さらに近位に位置するインプラント部分のための幹スリーブとを有する。3つのスリーブは、インプラントを解放するために別々に使用することができる。例えば、最初に第1の遠位インプラント部分を解放し、続いて第2の遠位インプラント部分を解放し、最後にインプラントの近位に位置する幹部分を解放することができる。
【0028】
幹スリーブはまた、可撓性管状材料から構成されてもよいが、基本的には、インプラントの幹部分が開口ゾーンまたはスロットを通過する必要はなく、単に幹スリーブを引き戻すことによって解放されるので、より硬質のスリーブ材料を使用することができる。
【0029】
遠位インプラント部分のための2つのスリーブと、場合によっては近位インプラント部分のための幹スリーブとを備えた本発明による挿入システムは、マイクロカテーテルを通して血管系内に導入することができる。最初に、挿入システムがマイクロカテーテルを通して遠位方向に前進される前に、マイクロカテーテルは、所望の標的部位にもたらされる。挿入システムは、2つの分岐血管に挿入された2つのガイドワイヤを介して前進させることができる。その後、インプラントを解放するためにスリーブ自体が近位方向に引き戻される前に、まずマイクロカテーテルを、インプラントが周囲のスリーブと共に露出する程度まで引き戻すことができる。最後に、インプラントの配置が所望の方法で完了されると、挿入システムを含むマイクロカテーテルを血管系から近位方向に引き出して取り外すことができる。
【0030】
必要に応じて、これらの動作を行う際に補正を行うこともできる。例えば、システムの位置決めを最適化する必要があるかまたはその他の問題が生じることが判明した場合に、スリーブを備えたインプラントを再びマイクロカテーテル内に引き戻すことができる。マイクロカテーテル内へのこのような引き戻しは、インプラントが遠位端で部分的に解放されている場合でも可能である。
【0031】
本発明は、それぞれが遠位インプラント部分を収容するための遠位スリーブ部分を有する2つのスリーブと、場合によっては幹スリーブとを有する上述の挿入システムに関する。しかしながら、本発明は、挿入システムとインプラントおよび/またはマイクロカテーテル、ならびに、分岐動脈瘤の前にインプラントを配置するために必要または有用な他の要素の組合せにも関する。これには、例えばガイドワイヤが含まれる。
【0032】
インプラントの配置プロセスに関して、「近位」および「遠位」なる用語は、治療医の方向を向いているインプラントの部分(近位)、または、場合によっては、治療医から離れる部分(遠位)を称するものと理解されるべきである。「軸方向」という用語は、近位から遠位へ延びるインプラントの長手方向軸を指し、「半径方向」という用語は、これに対して垂直に延びるレベル/平面を指す。
【0033】
第2の実施形態によれば、本発明は、血管分岐部に位置する動脈瘤の領域における血流に影響を与えるためのインプラントのための挿入システムを提供し、インプラントは、親血管から分岐する血管内に配置されるように意図され、分岐位置において互いに接続される、2つの遠位管状インプラント部分を有し、挿入システムは、それぞれが遠位管状インプラント部分を収容するように構成され、互いに接続される、2つの遠位スリーブアームを有するスリーブを含み、スリーブは、遠位方向に連続的な開口ゾーンを有し、スリーブは、近位部分を有し、この近位部分を介してスリーブが近位方向に引き戻されることによって開口ゾーンが開放され、それによって、遠位管状インプラント部分がそれぞれ開口ゾーンを通過し、分岐血管内で解放されることが可能であり、開口ゾーンは、インプラントの解放時に、スリーブが遠位スリーブアームの遠位端から近位方向に順次開かれるように構成される。
【0034】
第2の実施形態による挿入システムは、国際公開第2018/134097号に記載されているような挿入システムに基づく。ここで、既に上述したように、Y字型インプラントは、同様にY字型の挿入カテーテルによって解放され、この挿入カテーテルは、遠位端に連続的な長手方向スロットを有し、挿入カテーテルが引き戻されると、これを通ってインプラントが出る。
【0035】
この挿入システムの欠点は、インプラントが全幅にわたって同時に解放されることである。しかしながら、インプラントの遠位端を最初に解放し、より近位に位置する領域を徐々に解放することが望ましい場合がある。これを達成するために、解放時に、スリーブが遠位端から近位方向に徐々に開くように開口ゾーンが構成される挿入システムが有利である。したがって、インプラントの遠位端、すなわち分岐する血管のために設けられたインプラント部分の遠位端は、最初にスリーブから解放されて拡張し、その後、段階的に遠位インプラント部分の残りの部分がスリーブから出て血管内壁に適合することができる。このようなアプローチは、解放プロセス中に最大限の制御を行うために、治療医にとってしばしば有利である。遠位インプラント部分が解放される前に、スリーブは、それらが半径方向に拡張するのを制限および防止する。
【0036】
この目的を達成するために、開口ゾーンは様々な方法で設計することができる。特に、最初から、開口ゾーンは連続的なスロットを有してもよく、これらは遠位方向に延びるが、スロットのエッジは少なくとも部分的に重なり合う。この重なりは、スリーブアームの2つの遠位端から近位方向に増加すべきである。言い換えれば、スリーブアームの遠位端におけるスロットのそれぞれのエッジは、重ならないか、またはせいぜいわずかに重なる程度であるが、スリーブアームが接合して互いに結合される場所では、スロットの2つのエッジは大きく重なっている。したがって、スリーブアームの遠位端における遠位インプラント部分の解放に必要な力は最小限であるが、この力は、スリーブアームが接合する場所で比較的大きい。したがって、スロットは、まずスリーブアームの遠位端で開き、近位方向に連続して開き、インプラントはその後中央で解放される。この中心は、典型的には動脈瘤頸部の前に配置される位置と一致する。
【0037】
別の実施形態によれば、開口ゾーンは、遠位方向に延びる弱化ゾーンを備え、開口に必要な力は、この弱化ゾーンにおいて遠位から近位へ増加する。この弱化ゾーンは、例えば、開口部間のウェブの厚さが遠位から近位に向かって増加する、および/または開口部のサイズが近位から遠位に向かって増加する穿孔を介して達成することができる。別の可能性は、弱化ゾーンの領域に材料の薄化または材料の変形を提供することであり、その結果、弱化ゾーンは、スリーブが近位方向に引き戻されるときにスリーブアームの遠位端で最初に破断し、弱化ゾーンの開口部は近位方向に、すなわちスリーブの分岐点まで伝播する。したがって、弱化ゾーンの特徴により、スリーブがスリーブアームの遠位端からスリーブアームが接合する位置まで引き戻されるときに開裂する。これによって、遠位インプラント部分の順次の解放が確保され、より遠位に配置された領域がまず解放されて拡張し、より近位の領域がわずかに後に解放される。
【0038】
遠位スリーブアームは、互いに接続され、インプラントがスリーブ内にある場合、接続点は、遠位インプラント部分の分岐点に隣接して配置される。有利には、スリーブは、スリーブの近位部分を形成し、インプラントの管状近位幹部分を収容するように設計される、近位スリーブアームも有する。言い換えれば、スリーブは全体としてY字形状を有し、2つの遠位スリーブアームは分岐血管用の遠位インプラント部分を収容する一方、近位スリーブアームは、インプラントの近位に位置する幹部分のために設けられる。個々のスリーブアームは接合点で互いに接続されていて、全体として同様にY字型のインプラントを収容するための中空空間を形成している。したがって、近位スリーブアームが近位方向に引き戻されると、近位インプラント部分(幹部分)も解放され、インプラント全体が解放される。インプラントの幹部分は、解放後にそれに応じて拡張し、このようにしてインプラントを親血管内に固定する。しかしながら、原理的には、分岐する血管のための2つの遠位管状インプラント部分のみを有するが、親血管のための追加のインプラント部分を有しない、インプラントを配置するための挿入システムの実施形態も考えられる。しかしながら、この場合も、親血管から2つの分岐血管への血流を確保することが重要であり、すなわち、インプラントが2つの遠位インプラント部分に分岐する領域において、インプラントは近位方向に開口部を有し、この開口部を通して血液が親血管から流入して分岐血管に流入し続けることが最も重要である。
【0039】
近位部分のスリーブ形状は、体外まで延びる必要はなく、近位管状インプラント部分が近位スリーブ部分内に完全に収容される点までスリーブ形状が延びていれば十分である。この点において、スリーブを近位方向に引き戻すことを可能にするワイヤまたは同様の要素が接続されていてもよい。近位部分の近位端には、例えば、カテーテル技術の分野で従来技術から知られているようなハブを設けることができる。
【0040】
インプラントを含むスリーブは、2つのガイドワイヤを介して、およびマイクロカテーテルを通って、標的部位に移動することができ、ガイドワイヤのうちの1つは、第1の遠位スリーブアームを通って第1の分岐血管内に入り、第2のガイドワイヤは、第2の遠位スリーブアームを通って第2の分岐血管内に入る。ガイドワイヤは、近位スリーブアームを含むスリーブ全体を通って体外まで延びてもよい(OTW構成)、またはこの目的のために設けられたポートを通ってインプラントの近位でスリーブから出てもよい(Rx構成)。
【0041】
インプラントを有する挿入システムは、マイクロカテーテルを介して目標位置に前進させることができる。解放のために、例えば、前進装置によってインプラントに遠位方向に力を加え、スリーブを近位方向に引き戻し、その後インプラントが開口ゾーンを通って出ることが可能である。必要に応じて、インプラントの配置の修正を行うために、または全体の移植プロセスを中断するために、マクロカテーテル内へのインプラントの部分的な解放が既に行われた後でも、挿入システムおよびインプラントからなるシステムを引き戻すことができる。遠位方向に作用する力をインプラントに加えるための前進装置は、本特許出願に記載されている全ての実施形態において実装することができる。
【0042】
挿入システムは、他の構成要素、特にインプラント自体、マイクロカテーテル、ガイドワイヤ、前進装置などと組み合わせることができ、このような組合せも本発明の範囲に含まれる。
【0043】
本発明の第3の実施形態によると、血管分岐部に位置する動脈瘤の領域内の血流に影響を与えるためのインプラントのための挿入システムが提供され、インプラントは、親血管から分岐する血管内に配置されることを意図され、分岐点において互いに接続される、2つの遠位管状インプラント部分を有し、2つの遠位管状インプラント部分は、分岐血管に移植された拡張状態、および、血管系を通って移動可能な収縮状態で存在し、挿入システムは、遠位管状インプラント部分を通って延び、分岐点に隣接して互いに接続される2つの遠位シャフト部を有し、遠位シャフト部の接続点は、遠位シャフト部を近位方向に引き戻すことができる近位部の近位に続き、遠位管状インプラント部分は、遠位シャフト部分に取外し可能に固定されており、遠位管状インプラント部分は、固定が解除された後、その拡張構造をとり、分岐血管内で解放される。
【0044】
本発明の最初の2つの実施形態とは異なり、第3の実施形態では、インプラントはスリーブ内で所望の位置に配置されるのではなく、挿入システムのシャフト部分に固定される。少なくとも2つのシャフト部分は、親血管から分岐する血管内に配置することを意図された遠位管状インプラント部分を通って延びる。2つの遠位インプラント部分が互いに接続される場所では、内側シャフト部分も対応する接続部を有し、近位部分は、シャフト部分のこの接続部に近位に隣接し、それを介してシャフト部分を近位方向に引き戻すことができる。管状インプラント部分は、シャフト部分に取外し可能に固定され、固定が解除された後に管状インプラント部分はその膨張構造をとり、分岐血管内で解放される。
【0045】
言い換えれば、インプラントは、所望の標的部位に移動されると挿入システム上に配置される。正しい配置が行われるとすぐに、シャフト部分へのインプラントの固定が解除される。その後、インプラントは拡張し、血管内壁に適合し、2つの遠位管状インプラント部分は、2つの分岐血管の内壁に適合する。しかしながら、ほとんどの場合、別の近位管状インプラント部分が親血管のために設けられる。概して、インプラントは自己拡張するように設計される。
【0046】
遠位管状インプラント部分を遠位シャフト部分に固定する固定点は、少なくともインプラントの遠位端に配置されることが有用である。遠位端における固定点が解除されるとすぐに、インプラントの拡張が始まる。さらに近位に配置された追加の固定点も可能であるが、さらに近位で発生する解放は、インプラントおよび挿入システムを取り囲むマイクロカテーテルを介して制御され得るため、これらは必ずしも必要ではない。
【0047】
シャフト部分は、特に可撓性の管状材料から構成することができ、これは、インプラントが管状材料に良好に付着し、インプラントと管状材料との間に追加の摩擦接続が生じるという利点がある。しかしながら、例えば、インプラントが取り付けられて固定される金属製シャフトを使用することも絶対的に考えられる。
【0048】
有利には、近位部分は、特に、遠位インプラント部分に位置する遠位シャフト部分を近位方向に引き戻す役割を果たし、近位管状インプラント部分がこの近位シャフト部分上に配置され得るという意味で、それ自体がシャフト部分である。近位シャフト部分は、可撓性管状材料から構成することもできる。この場合、インプラント自体は、典型的には、上述したY字形状であり、それぞれの内側シャフト部分は、インプラントの3つのアームの全てに対して設けられる。しかしながら、近位部分は、必ずしもシャフト形状を有するように設計される必要はなく、例えば、近位インプラント部分が配置される近位シャフト部分に、シャフト部分の作動を可能にするワイヤ等をさらに近位に取り付けることができる。近位部分の近位端には、例えば、カテーテル技術の分野で従来技術から知られているようなハブを設けることができる。ハブの領域において、慣用のルアーまたはルアーロック接続の使用が好都合である。このような接続を介して、補助手段、例えばガイドワイヤまたは接続点の分離を誘発するための手段を近位部分の内部に導入することができる。これらには、溶剤を供給するための手段、シャフトの領域で加熱するための手段、または電圧を印加するための手段が含まれてもよい。ルアーロック接続が使用される場合、さらなる要素への接続は、この目的のために設けられたネジを介したネジ留めによって追加的に行われる。接続要素は、例えばポリカルボネート、ポリアミド、ポリプロピレンまたは他のポリマーから製造することができる。概して、材料は、実際のシャフト部分に使用される材料よりも剛性が高い。
【0049】
便宜上、シャフト部は、1つまたは複数のガイドワイヤを通過させることを可能にするので内部ルーメンを有し、これを介して挿入システムを所望の位置に移動させることができる。特に、複数のガイドワイヤを使用することもでき、そのうちの1つは、例えば、第1の分岐血管内にガイドされ、他方は、第2の分岐血管内にガイドされ、これにより、挿入システムを所望の標的部位に前進させることができる。ガイドワイヤを貫通させることに関して、近位部分は全体として、内部ルーメンを有するシャフト形状に設計することができる(オーバー・ザ・ワイヤ=OTW技術)。
【0050】
しかしながら、Rxカテーテル(ラピッドエクステンジカテーテル)を用いて使用する配置と同様に、ガイドワイヤをインプラントの近位のポートを介して出すことも可能である。
【0051】
インプラントは、親血管内に配置されるように設計された第3の近位管状インプラント部分を有するY字形状を特徴とすることができる。分岐位置において、この第3の近位インプラント部分は、分岐血管のための他の2つの管状遠位インプラント部分に接続されて、親血管から分岐血管への血流を確保する。第3の管状インプラント部分は、近位シャフト部分上に配置される、すなわち、近位インプラント部分は近位シャフト部分を取り囲む。
【0052】
第3の管状インプラント部分は、近位シャフト部分との1つまたは複数の取外し可能な接続点を有することができ、特に化学的、熱的、電解的または機械的に取外し可能な接続点が含まれる。このタイプの着脱手段の取外し方法は、基本的に当該技術において知られている。
【0053】
管状の遠位インプラント部分をシャフト部分に結合する固定点も、化学的、熱的、電解的または機械的に取外し可能な結合接続部の形態で提供されてもよい。接続点の分離は、それぞれのパラメータを適切に設定することにより好適に制御することができる。
【0054】
化学的、熱的または電解的に取外し可能な接続点は、少なくともインプラントのそれぞれの部分がシャフト部分から分離する程度に、化学的または熱的な作用によって、または電圧の印加によって電解的に、分解可能な接続部であると理解される。
【0055】
結合点は、好ましくはポリマー接着剤を使用して作成される接着結合とすることができる。この場合、インプラントは、典型的には、接着剤を少なくとも部分的に溶解する溶剤の塗布によって、化学的に分離される。溶剤として、例えばDMSO(ジメチルスルホキシド)を使用することができる。化学的に取外し可能な接続点は、周囲の血液への暴露のみによって分離する結合としても理解される。
【0056】
溶媒を接続点に塗布するための様々な方法が存在する。例えば、管または他の同様のものをインプラントおよびシャフト部分の外側に沿って通し、接続点で溶剤を放出することができる。それでも、少なくとも一時的にシャフト部分の内部空洞を通って延びる供給システムを介して、シャフト部分の内部を通って、接続点に溶剤を供給することが好ましい。これは、管を通して、またはこの目的のためにシャフト部分の内部に設けられた管を通しても行うことができる。このための前提条件は、当然ながら、シャフト部分が、一方では内部空洞を有し、他方では外壁が十分に透過性であり、内部で塗布された溶剤は、シャフト部分を通過して接着結合を分離することができることである。さらに、接続点の領域に、外部から制御および開放することができる1つまたは複数の溶剤リザーバを配置することも可能であり、これによって、溶剤が接続部に効果的に作用することが可能となる。このような溶剤リザーバは、原理的には、シャフト部分の外側に設けられていてもよいが、溶剤の放出を体外から制御できることが条件である。
【0057】
別の可能な方法は、接続部の電解分離である。この場合、接続点の少なくとも部分的な溶解は、電圧の印加によって達成される。ほとんどの場合、これは直流電流であり、低い電流強度(<3mA)で十分である。接続点は通常金属から作製され、電圧の印加時にアノードとして作用し、金属の酸化およびしたがって溶解が行われる。
【0058】
電解分離は、電源を用いて接続部に電圧を印加することによって行われる。インプラントの電解分離は、従来技術から十分に知られており、例えば動脈瘤を閉鎖するための閉塞コイルについては、例えば国際公開第2011/147567号を参照されたい。接合点がアノードとして機能する一方で、カソードは、例えば、身体表面上に配置することができる。あるいは、デバイスの別の領域をカソードとして使用してもよい。当然ながら、接続点は、電源と電気的に導電する態様で接続されていなければならないことを理解されたい。シャフト部分自体が導電体として機能することができる;あるいは、導電体は、シャフト部分の内部を通って、またはインプラントの外側に沿って延びることができる。カソードが体表面に配置され、生じる腐食電流はカソードの面積によって制御されるので、カソードの面積はアノードの面積よりも著しく大きく選択されるべきである。接続点の溶解速度は、アノード面積に対するカソード面積の選択によってある程度制御することができる。したがって、本発明によって提案される装置は、電源、および、適用可能または適切な場合には、身体表面上に配置可能な電極を備えていてもよい。電解溶解される接続部のための適切な材料としては、ステンレス鋼、マグネシウム、マグネシウム合金またはコバルト-クロム合金が挙げられる。特に好ましいマグネシウム合金は、Resoloy(登録商標)であり、これはSarstedt/GermanyのMeKo社によって開発された(国際公開第2013/024125号参照)。これは、マグネシウムと、特にランタノイド、特にジスプロシウムとからなる合金である。マグネシウムおよびマグネシウム合金を使用する場合の別の利点は、体内に残留するマグネシウムが生理学的に問題ないことである。
【0059】
熱的に取外し可能な接続部の場合、インプラントを解放するために、分離すべき接続点に熱源を作用させることができる。これは、熱源をインプラントに通して熱エネルギーを接続点に適用させることによって、外部から行うことができる。しかしながら、好ましくは、シャフト部分の内部は中空であるように設計され、その結果、熱源を、シャフト部分の内部を通って、分離されるべき接続点にもたらすことができる。接続点が外側に位置する位置で、それぞれのシャフト部分の内部を加熱することにより、接続点の解放が確保される。体温の作用によってのみ分離する熱的に取外し可能な接続点を設けることも可能であるが、この場合、例えば、マイクロカテーテル内の温度を低くして、挿入システムおよびインプラントをマイクロカテーテルを通して標的部位に導入および移動させることによって、早期の分離を防止しなければならない。
【0060】
結局、別の選択肢は、接続点が溶解してインプラントを解放させる程度に、シャフト部分のすべてまたは単一の部分を加熱する工程を含む。
【0061】
接続点が熱的に取外し可能であるように設計される場合、その設計は、一方ではインプラントがシャフト部分上に確実に保持されるが、他方では分離を達成するために過度の温度を適用する必要がないことを確保すべきである。好ましくは、接続点の少なくとも部分的な溶解は、40~80℃、特に50~70℃の温度で行われる。接続点のための適切な材料、例えばポリマーまたは低融点金属は、従来技術から知られている。
【0062】
分岐血管内に配置することを意図された管状インプラント部にシャフト部を固定する別のアプローチは、遠位管状インプラント部の遠位端にキャップを配置し、インプラント部が半径方向に拡張することを防止することである。これらのキャップは、このようにインプラントの解放を達成するために、遠位端から遠位方向に取り外すことができ、特に、押して取り外すことができる。
【0063】
特に、キャップは円筒形にすることができ、概して、キャップの遠位端は、後述するようにワイヤを通すための小さな開口を除いて、ほぼ完全に閉じられている。キャップの内径は、キャップが所定の位置にあるときに遠位インプラント部分の拡張および解放が防止されるようなものでなければならない。
【0064】
特に、キャップの取り外しは、特に、遠位シャフト部分の内腔を通って少なくとも一時的にプッシュワイヤを通過させることによってもたらされ得る。これらのプッシュワイヤは、遠位方向へのプッシュワイヤの前進によって、キャップが遠位インプラント部分の遠位端から滑り落ちるように設計される。このために、プッシュワイヤは、例えば遠位端または遠位端の近傍に配置された厚肉部を有することができる。
【0065】
特に好ましいのは、キャップにこの目的のために設けられた開口部を通って延びるプッシュワイヤを提供することであり、プッシュワイヤは開口部の遠位側および近位側に厚肉部を有し、さらに近位側に位置する厚肉部は、遠位方向への前進中に厚肉部がキャップの内部に対して残り、力が加えられ続けるとキャップをインプラントから押し離すことを確保し、一方で、遠位の厚肉部は、プッシュワイヤがその位置に保持され、キャップの開口から抜け出ないことを確保する。厚肉部は、プッシュワイヤのために設けられたキャップの開口の直径よりも大きい直径を有するべきであり、さもなければ、キャップがプッシュワイヤから外れる可能性があるからである。特に、厚肉部は球状であることができる。
【0066】
動脈瘤の閉塞をさらに改善するために、インプラントによって血流から動脈瘤を隔離することに加えて、閉塞手段、例えば、従来技術において知られているようなコイルを動脈瘤に導入してもよい。また、オニキス、エチレンビニルアルコールコポリマー、またはセルロースアセテートポリマーなどの粘性の塞栓剤の挿入も可能である。
【0067】
インプラントに関する以下の説明は、本願に記載されている挿入システムの様々な実施形態とは無関係に適用される。
【0068】
インプラント自体は、2つ、好ましくは3つの管状インプラント部分から構成され、インプラントは、血管内に移植される拡張状態、および血管を通って移動可能である収縮状態で存在し得る。分岐血管内に配置するための2つの管状インプラント部分は必須であり、好ましくは、親血管内に配置するための第3の近位インプラント部分が存在する。インプラントは、分岐点の遠位方向に面した側が動脈瘤の前に位置して、血流から遮断するように配置される。したがって、分岐点のこちら側はできるだけ密封されるべきである。他方、インプラントの内部は閉塞されていないため、親血管および2つの分岐血管を通る血流は妨げられない。好ましくは、インプラント部分は、近位端または遠位端から見て円形断面を有する。しかしながら、原理的には、円形からの逸脱、例えば楕円形の断面も可能である。本発明の文脈で管状インプラント部分が言及される場合、これは、特にインプラントの拡張状態を意味するが、それぞれのインプラント部分は、より小さな断面でも、収縮状態で概して管状である。
【0069】
インプラントの基本設計に関しては、典型的には、従来技術において側壁動脈瘤用の単純な管状物体として長い間知られているようなフローダイバータとみなすことができる。しかしながら、本発明のフローダイバータは、分岐動脈瘤の治療に特に適合されており、すなわち分岐フローダイバータである。概して、これはワイヤ、フィラメントまたはストラットからなる格子構造であり、それらの間に開口部が配置される。インプラントの格子構造は、編組構造であってもよく、すなわち、互いに編組され、ワイヤ/ワイヤストランドが交差する点において互いに上下に延びるストラットとしての個々のワイヤまたはワイヤストランドから構成されてもよい。同様に、適切な直径の管からレーザを用いて格子構造が切断される切断構造であってもよい。材料は通常は金属であるが、プラスチック材料を使用することもできる。材料の弾性は、収縮を可能にし、さらに、解放時に所望の直径になるように拡張するのに十分でなければならない。さらに、格子構造を電解研磨で処理することによって、より滑らかかつ丸みを帯びた形状にし、より外傷性を低くすることが便宜である。これによってまた、細菌または他の不純物が付着する危険性が減少する。ストラットまたはワイヤは、円形、楕円形、正方形、矩形または台形の断面を有することができ、正方形、矩形または台形の断面の場合、エッジの丸み付けが有利である。薄いストリップ、特に金属ストリップの形態の平坦なウェブ/ワイヤの使用も可能である。
【0070】
ワイヤの少なくとも一部が動脈瘤頸部の前に静止するので、インプラントは、分岐動脈瘤を血流からかなりの程度にまたは完全に隔離する。対照的に、親血管を通って分岐血管に入る血流は、実質的に影響を受けない。その結果、動脈瘤内の血液の動きがないことにより、動脈瘤が萎縮し、血栓が形成されて動脈動脈が閉塞する。
【0071】
分岐のためまたは分岐動脈瘤の治療のためにフローダイバータを提供する場合、例えば、分岐血管用の側枝を従来のフローダイバータに取り付けることが可能であり、当然ながら、側枝への血流が分岐位置において確保されなければならないことが理解される。あるいは、親血管用の追加の分岐を配置することができ、これは、動脈瘤自体の領域に動脈瘤への血流の遮断に悪影響を及ぼす可能性がある縫合または継ぎ目が生じないという利点を提供する。さらに、2つの遠位管状インプラント部分が分岐血管に配置され、親血管には部分が配置されない、2アームインプラントのみも考えられる。この場合も、当然ながら、血液が親血管から分岐血管に流れることが確保されなければならず、そのために、インプラントは親血管の方向に開口部を有する。親血管のための部分を配置する場合と同様に、動脈瘤自体の領域では、継ぎ目、縫合または他の不規則な編組またはメッシュ密度が存在しないことが有利であると考えられなければならない。
【0072】
インプラントの好ましい実施形態によれば、インプラントは、拡張状態で管状でありその壁が互いに編まれた個々のワイヤから構成される第1の編組構造からなり、第1の編組構造は、分岐端に位置する分岐点において、第2および第3の編組構造に分岐し、第2および第3の編組構造は、拡張状態で管状でありその壁が互いに編まれた個々のワイヤから構成され、第1の編組構造を形成するワイヤの一部は、分岐位置で第2の編組構造に移行し、第1の編組構造を形成するワイヤの別の部分は、分岐位置で第3の編組構造に移行する。
【0073】
このような分岐フローダイバータは、編組Y構造を有する、すなわち、インプラントは、互いに上下に通過することによって編み合わされるワイヤからなる。このような構造は、血管内に放出された後、拡張して血管壁に適合するのに特に適している。インプラントは、互いに接続された3つの管状編組構造を有し、第2および第3の編組構造は、第1の編組構造から生じている。この文脈では、第1の編組構造を形成するワイヤが、少なくとも部分的に第2または第3の編組構造へ移行されることが重要である。言い換えれば、第1の編組構造を形成するワイヤの一部は、分岐位置で第2の編組構造へ移行し、別の部分は第3の編組構造へ移行する。好ましくは、インプラントは、第1の編組構造が他の2つの編組構造に当たる第1の編組構造の端部(分岐端)に存在するすべてのワイヤが、第2および第3の編組構造に、一部が第2の編組構造に、一部が第3の編組構造に移行する、ように構成される。このようにして、血管へのインプラントの特に良好な適合が達成され、さらに、動脈瘤頸部の領域において十分に高い表面が被覆され、これは、動脈瘤への血流が遮断され、したがって動脈瘤を萎縮し機能不全にする作用をすることが判明した。第1の編組構造を形成するワイヤの数は、例えば、24~96の範囲とすることができる。例えば、第1の編組構造の分岐端において交点を形成する各2つのワイヤのうち、1つのワイヤは第2の編組構造へ移行し、1つのワイヤは第3の編組構造へ移行することができる。あるいは、例えば、第1の編組構造の分岐端において第1の交点を形成する各2つのワイヤが、第2の編組構造に移行し、第1の編組構造の分岐端において第1の交点に隣接する交点を形成する各2つのワイヤが、第3の編組構造に移行してもよい。
【0074】
Y字型分岐フローダイバータインプラントを提供する別のアプローチは、拡張状態で管状であり、その壁が互いに編まれた個々のワイヤから構成されている、第1および第2の編組部を提供することであり、第1および第2の編組部は、それぞれ壁に開口部を有し、少なくとも第2の編組部に位置する開口部の大きさは、第1の編組部が通過するのに十分であり、開口部の一において編組部を形成するワイヤを半径方向に変位することによって壁の開口部が作成され、第1の編組部は、第2の編組部の壁の開口部を通過されて、第1の編組部の壁の開口部は、第2の編組部の壁の開口部に面する。
【0075】
編組部の開口部は、編組部を形成するワイヤを編組部の周囲にわたって側方に、すなわち半径方向に変位させることによって、それぞれの位置に形成される。したがって、ワイヤを切断することによって開口部が作成されるのではなく、ワイヤ自体は、ワイヤに切れ目を入れることなく影響を受けずに維持される。ワイヤは、単に横方向に移動されるまたはシフトされる。これは、圧縮/収縮状態のインプラントを目標位置まで確実に操作することができる点で重要である。遮断されたワイヤの前進/供給は、しばしば容易には不可能であることを留意すべきである。さらに、遮断されていないワイヤを有するインプラントの設計は、血管内の目標位置のインプラントを問題なく拡張することを可能にする。本発明によれば、ワイヤは遮断されないので、膨張は問題なく行われる。さらに、血管壁を損傷し得る好ましくない緩いワイヤ端部の形成が回避される。各編組部を形成するワイヤの数は、編組部当たりの数として、有利には24~96、より好ましくは36~64である。第1および第2の編組部は、開口部の領域で互いに取り付けられる、例えば縫合されていてよい。
【0076】
このようなインプラントは、まずそれぞれが側壁に開口部を備えた2つの編組部を作成することによって製造することができる。続いて、第1の編組部を第2編組部の開口部に通し、部分的に第2編組部の内部に通して引っ張る。編組部の2つの開口部が互いに向かい合うように位置合わせが行われる。このようにして、移行領域に通路が作成されるので、親血管から流入する血液は両分岐血管に容易に流入して入ることができる。
【0077】
第1および第2の編組部は、2つの編組部が一緒に延びるセグメントの外側端部で互いに結合されていてよい。この場合、異なるインプラント製造方法が典型的に適用される、すなわち、まず、拡張状態で管状であり、その壁が互いに編まれた個々のワイヤから構成される、編組構造を提供し、編組構造は、長手方向に隣接して互いの背後に配置される第1および第2の編組部を有し、両編組部は、それぞれ壁に開口部を有しており、少なくとも第2の編組部における開口部の大きさは、編組構造がその中を通過するために十分であり、2つの開口部は、編組構造の両側に配置され、第1の編組部は、内側に折り返され、第2の編組部の内部を通過し、第2の編組部における開口部を通って内側から外側へ延び、第1の編組部の壁における開口部は、第2の編組部の壁における開口部に面する。したがって、編組構造は、2つの編組部を有すると考えられ、靴下を裏返すのに類似した方法で、第1の編組部が、まずそれ自体の内部を通って引っ張られ、次いで少なくとも部分的に第2の編組部の内部を通って引っ張られる。2つの編組部が一緒に延びるセグメントの外側端部において互いに接続される、すなわち二重層構造であるという事実のために、この点において自由ワイヤ端部は存在せず、これは、血管壁の損傷の危険性が低減されるという点で有利である。さらに、ワイヤ端部が血管内腔内に突出して(いわゆるフィッシュマウス効果)血流を阻害することが防止される。
【0078】
インプラントが血管内で放出されたときに、自動的に拡張して血管の内壁に適合することを確保するために、ワイヤを少なくとも部分的に形状記憶特性を有する材料から作製することが好ましい。これに関連して、ニッケル-チタン合金、例えばニチノール、または三元系ニッケル-チタン-クロム-合金またはニッケル-チタン-銅合金が特に好ましい。しかしながら、他の形状記憶材料、例えば他の合金または形状記憶ポリマーも考えられる。形状記憶特性を有する材料によって、インプラントに二次構造を付与することが可能となり、これによって、拡張が妨げられなくなるとすぐに自動的に採用するようになる。
【0079】
いわゆるDFT(登録商標)ワイヤ、すなわち、ワイヤのコアがコアを囲むシースとは異なる材料からなるワイヤを使用することも可能である。特に、放射線不透過性材料のコアおよび形状記憶特性を有する材料のシースを有するワイヤを使用することが便宜である。放射線不透過性材料は、例えば白金、白金-イリジウム合金またはタンタルであってよく、形状記憶特性を有する材料は既に述べたように、好ましくはニッケル-チタン-合金である。このようなDFTワイヤは、例えば、Fort Wayne Metalsから提供されている。
【0080】
それぞれのワイヤは、2つの材料の有利な特性を組み合わせる。形状記憶特性を有するシースは、インプラントが拡張して血管壁に適合できることを確保し、放射線不透過性材料は、インプラントがX線画像において可視であり、したがって治療医によって観察され、必要に応じて位置決めできることを確保する。
【0081】
ワイヤの遠位端および近位端は、好ましくは、血管壁への損傷を防止する観点で構成される。例えば、ワイヤは、端部が丸みを帯びていてよく、その結果非外傷性に作製できる。適切な成形は、レーザを用いた再溶融によって行うことができる。それぞれの端部で1つまたは複数のワイヤを結合し、その結果適切な非外傷性の終端部を形成することも可能である。特に、鋭いワイヤ端部を回避することが有利である。
【0082】
有利なインプラントの被覆率は、特に、動脈瘤頸部がインプラントによって被覆される分岐点においても、拡張状態のインプラントについて、45~75%、好ましくは35~65%である。
【0083】
文脈が他に示さない限り、本発明の意味における拡張状態という用語は、インプラントが任意の外部の制限を受けていない場合に想定される状態を示すと理解される。インプラントが移植される血管の直径に応じて、インプラントが完全に拡張した状態に達することができない場合があるので、血管系内の拡張状態は、外部の制限がない場合に存在する拡張状態とは異なり得る。完全に拡張された状態において、インプラント部分は、有利には、1.5mm~7mmの範囲の外径を有し、この外径は血管系におけるそれぞれの標的部位に適合させることができる。拡張状態におけるインプラントの全長は、概して5mm~100mmであり、特に、インプラントが、分岐血管のためのY字型インプラントの2つの遠位インプラント部分が平衡であり、親血管のための近位インプラント部分と同じ方向に延びるように配置される場合、10~50mmである。インプラントに用いられるワイヤまたはストラットは、例えば20~60μmの直径または厚さを有することができる
【0084】
他方で、インプラントは収縮状態または圧縮状態で存在してもよく、この用語は、インプラントまたはインプラント部分が収縮/圧縮状態で拡張状態よりも著しく小さい半径方向の伸長を有するという意味で、本発明の文脈で同義的に使用される。収縮/圧縮状態は、例えば、インプラントがカテーテルを通って標的部位に供給され、スリーブ内またはシャフト部分上で位置決めされるときに想定される。
【0085】
記載されたシャフト部分またはスリーブの形態の本発明によるインプラントおよび/または挿入システムは、概して、移植部位での可視化および配置を容易にする放射線不透過性マーカー要素を備える。このようなマーカー要素は、例えば、ワイヤコイルの形態で、スリーブとして、およびインプラントおよび/または挿入システムに固定されるスロット付き管状部分として提供することができる。前記マーカー要素には、特に白金および白金合金材料が適しており、例えば、白金およびイリジウムの合金は、マーキング目的でおよび閉塞コイルの材料として最新技術により頻繁に使用されるため適している。他の使用可能な放射線不透過性金属は、タンタル、金およびタングステンである。別の選択肢は、すでに上述したように、放射線不透過性材料によるワイヤの充填である。インプラント、特にワイヤに、放射線不透過性材料からなるコーティングを設けることも可能であり、例えば金コーティングを適用する。このコーティングは、例えば1~6μmの厚さを有することができる。放射線不透過性材料のコーティングは、インプラント全体に適用される必要はない。しかしながら、放射線不透過性コーティングを適用する場合でも、インプラント、特にインプラントの遠位端に、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを配置することが有用であると考えられる。
【0086】
インプラントはまた、インプラント部分を少なくとも部分的に覆う膜を備えることができ、インプラント部分のより大きな領域にわたって延びる膜を使用してもよく、または複数の小さな膜を備えてもよい。このような膜は、動脈瘤を血流から遮断するために動脈瘤頸部において、すなわち遠位方向の分岐点において、特に有用である。
【0087】
膜による被覆は、任意のタイプの被覆を意味すると理解される、すなわち、膜は、インプラント部分の外側に適用されてもよく、インプラント部分の内側に取り付けられてもよく、またはインプラント部分のワイヤ/ストラットが膜に埋め込まれてもよい。
【0088】
1つまたは複数の膜を使用する場合、放射線に不透過性の物質を膜に導入することも可能である。これらは、放射線技術目的のために造影剤として通常使用されるような放射線不透過性粒子であってよい。このような放射線不透過性物質は、例えば、硫酸バリウムのような重金属塩またはヨウ素化合物である。放射線不透過性膜は、インプラントの配置中および局在化のために有益であることが証明され、マーカー要素に加えてまたはマーカー要素の代わりに使用することができる。
【0089】
膜は、抗血栓性効果または内皮形成を促進する効果を有するように設計することもできる。このような効果は、血管を通る血流が損なわれず、さらに血管系内でのインプラントの良好な固定が達成されるべきであるため、インプラントが正常な血管壁に隣接する場合に特に望ましい。膜は、材料の適切な選択によってそれ自体で所望の特性を有することができるが、所望の効果を生じるコーティングを備えることもできる。
【0090】
本発明の意味において、膜は、構造が液体に対して透過性であるか、不透過性であるか、または部分的に透過性であるかにかかわらず、平らな表面を有する薄い構造体である。しかしながら、動脈瘤の治療の目的を達成するために、膜は、血液などの液体に対して完全にまたは少なくとも実質的に不透過性であることが好ましい。さらに、膜は、特に動脈瘤頸部の領域において、閉塞剤を動脈瘤に導入することができる孔を備えていてもよい。別の選択肢は、閉塞剤を導入するためのマイクロカテーテルによって、または閉塞剤自体によって、貫通することができるように膜を設計することである。
【0091】
膜は、ポリマー繊維またはポリマーフィルムから作製されていてよい。好ましくは、膜は、エレクトロスピニングによって製造される。このプロセスでは、ワイヤは通常、膜内に埋め込まれる。これは、ワイヤの周りに繊維を織るまたは編むことによって達成することができる。
【0092】
エレクトロスピニングでは、フィブリルまたは繊維がポリマー溶液から分離され、電流を印加することによって基板上に堆積される。この堆積により、フィブリルは凝集して不織布となる。通常、フィブリルは100~3000nmの範囲の直径を有する。エレクトロスピニングによって作成される膜は、非常に均一なテクスチャを有する。膜は、頑強であり、機械的応力に耐え、機械的に貫通しても開口部から亀裂が伝播することがない。フィブリルの厚さおよび空隙の程度は、プロセスパラメータを適切に選択することによって制御することができる。膜の製造の文脈においておよびこの目的に適した材料に関連して、国際公開第2008/049386号、独国特許出願公開第2806030号明細書、およびそこで言及される文献に特別な注意が向けられる。
【0093】
エレクトロスピニングの代わりに、膜を浸漬または噴霧プロセス、例えばスプレーコーティングによって製造することもできる。膜に使用される材料に関して、血管系にインプラントが挿入される際に生じる機械的応力によって損傷しないことが重要である。このために、膜は十分な弾性を有するべきである。
【0094】
膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィンまたはポリスルホンなどのポリマー材料から構成することができる。ポリカーボネートウレタン(PCU)が特に好ましい。特に、膜とワイヤとの間の一体的な接続が望ましい。このような一体的な接続は、膜とワイヤとの間に設けられた共有結合によって達成することができる。共有結合の形成は、ワイヤのシラン化によって、すなわちワイヤの表面の少なくとも一部にケイ素化合物、特にシラン化合物を化学的に結合することによって促進される。表面上で、ケイ素およびシラン化合物は、例えばヒドロキシおよびカルボキシ基に結合する。基本的に、シラン化の他に、ワイヤと膜との間の接着を媒介する他の方法も考えられる。
【0095】
関連する実施形態とは無関係に、本発明は、特に神経血管分野において適用することができるが、血管系の他の領域、例えば心血管および末梢における装置の適用も可能である。使用目的に応じて、挿入システムの構成要素の寸法は、互いに一致され、適合されなければならない。したがって、特に小さい血管では、小さい断面の管状インプラント部分を有するインプラントが使用される。したがって、スリーブ、スリーブ部分およびシャフト部分の外径および内腔もインプラントに適合されるべきである。
【0096】
本発明の文脈において、ガイドワイヤという用語は広く理解すべきであり、ガイドワイヤは、断面が中実に形成されていても、内部空洞/ルーメンを備えていてもよい。
【0097】
挿入システム自体の他に、本発明は、挿入システム、インプラント、マイクロカテーテル、および/または、ガイドワイヤおよび前進装置のような他の補助具の組合せにも関する。本発明の範囲内において、特に、2つの分岐血管内にインプラントを配置するために2つのガイドワイヤを使用することができる。さらに、本発明は、動静脈奇形、特に(分岐)動脈瘤を治療するためのインプラントの配置のための挿入システムの使用に関する。さらに、本発明は、関連する方法にも関する。挿入システム自体を参照してなされた全ての説明は、さらなる構成要素との組合せ、使用および方法にも同様の態様で適用される。
【0098】
本発明を添付の図面によって例示的に説明する。図は、本発明の好ましい実施形態のバリエーションを示すが、本発明自体はこれに限定されないことに留意されたい。技術的に便宜である限り、本発明は、特に、特許請求の範囲または明細書において本発明に関連するものとして記載されている技術的特徴の任意の組合せを包含する。本発明の一実施形態に関してなされた全ての説明は、文脈が他に示す場合を除き、本発明の他の実施形態にも同様に適用される。
【0099】
本発明は、以下の図によって明確化される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】2つの遠位および1つの近位管状インプラント部分を有するY字型インプラントを示す図
【
図2】2つの遠位および1つの近位管状インプラント部分を有する別のY字型インプラントを示す図
【
図3】近位インプラント部分を有しない2つの遠位管状インプラント部分を有するインプラントを示す図
【
図4】第1の実施形態による本発明の挿入システムを示す図
【
図5】第2の実施形態による本発明の挿入システムを示す図
【
図7a】第3の実施形態による本発明の挿入システムを示す図
【
図8】インプラントが動脈瘤の前に配置された
図7a、bによる挿入システムを示す図
【
図9】
図8に従って配置されたインプラントを有する挿入システムの断面図
【
図10】挿入システムの第3の実施形態の別の変形例
【発明を実施するための形態】
【0101】
図1は、インプラント1、すなわち分岐フローダイバータを示し、これは、本発明により提案される挿入システムを用いて血管系に導入され、分岐動脈瘤の前に配置され得る。インプラント1は、3つの管状インプラント部分2、3を有し、そのうちの2つの遠位インプラント部分2は分岐血管に配置され、近位幹部分3は親血管に固定される。動脈瘤は、2つの遠位インプラント部分2の間の分岐点4の遠位に位置する。親血管から2つの分岐血管への血流が矢印で示されている。
【0102】
ここに図示されるインプラント1は、本質的に、近位幹部分3から2つの遠位インプラント部分2のうちの1つに合流する丸編みであり、追加の分岐アームが追加の遠位インプラント部分2として設けられる。当然のことながら、個々のインプラント部分2、3の間の接続部の構成により、第2の装着遠位インプラント部分2への血流が生じることが確保されることが必須である。さらに、使用されるワイヤまたはストラットを密に編むことによって、動脈瘤が良好にカバーされなければならない。
【0103】
図2は、
図1に示されるインプラントに本質的に類似するインプラント1を示すが、この場合、2つの分岐血管のために連続した管状構造が設けられ、近位幹部分3として側枝が取り付けられる。ここでも、当然ながら、親血管から2つの分岐血管への血流の通過が、矢印で示す方向に確保されなければならない。
図1に示されるバリエーションに対する特定の利点は、分岐点4の遠位領域では、場合によっては動脈瘤の方向への過度に高い透過性を引き起こし得る継ぎ目または不規則なメッシュまたは編み目密度が予想されないという事実に見ることができる。
【0104】
図3は、近位幹部分を有さず、2つの遠位インプラント部分2のみからなる別のインプラント1の図である。この場合も、分岐点4の遠位で動脈瘤を覆うことが必須である;さらに、親血管から2つの遠位インプラント部分2への血流が確保されなければならず、そのために、近位方向にインプラント構造に開口部が配置され、これを通して矢印によって表されるように血液が流れることができる。
【0105】
図4は、所定の位置に配置されるインプラント1と共に、本発明による挿入システムの第1の実施形態を示す。挿入システムは、2つのスリーブ5を備え、その遠位スリーブ部分6は、遠位インプラント部分2を収容する。近位方向において、近位部分8はそれぞれ、遠位スリーブ部分6に結合しており、スリーブ5は、全体として近位方向に引き戻されてインプラント1を解放することができる。近位部分8はまた、スリーブ状または管状に設計することができる。第3のスリーブは、幹スリーブ9として設けられ、インプラント1の近位幹部分3を囲む。近位幹部分3を解放するために、幹スリーブ9を近位方向に後退させることもできる。
【0106】
インプラント1および遠位インプラント部分2が遠位スリーブ部分6から出ることができるように、これらは開口ゾーン7を備えている。これらは、長手方向に所定の領域にわたってスリーブ5に沿って延びる長手方向スロットの形態で配置される。この場合、開口ゾーン7は、遠位スリーブ部分6の遠位端から近位方向に、スリーブ5が近位方向に引き戻されたときに遠位インプラント部分2が完全に通過することができる程度に延在する。他方、開口ゾーン7の近位では、インプラント1の通過がこの領域ではもはや問題ではないので、スリーブ5は、本質的に単純なスリーブまたは管として設計され得る。
【0107】
挿入システムは、マイクロカテーテル10によって意図した位置にもたらされる。この位置に達するとすぐに、マイクロカテーテル10は、最初に、少なくとも、インプラント1を内部に有する挿入システムが露出する程度まで近位方向に十分に引き戻されることができる。次いで、スリーブ5は、2つの遠位インプラント部分2を解放するために近位方向に同時にまたは連続して引き戻され、そこでそれらは拡張し、分岐血管の血管内壁に接触する。概して、近位インプラント部分3は、挿入システムの幹スリーブ9を近位方向に引き戻すことによって最終的に解放される。
【0108】
図5には、第2の実施形態による挿入システムの第1の変形例が示されており、インプラントは図示されない。挿入システムは、2つの遠位スリーブアーム12を有するスリーブ11を備えている。遠位スリーブアーム12は、遠位インプラント部分2を収容するために設けられている。近位スリーブアーム13が、2つの遠位スリーブアーム12に接続され、その中にインプラントの近位幹部分3が配置される。
【0109】
2つの遠位スリーブアーム12は、第1の遠位スリーブアーム12の遠位端から第2の遠位スリーブアーム12の遠位端まで延びるスロット14を備えている。スロット14は、スロット14に沿ったエッジが遠位スリーブアーム12の遠位端において重なり合わないように構成されるが、近位スリーブアーム13が2つの遠位スリーブアーム12に分岐する領域では、スロットエッジの重なりが存在する。この効果は、スリーブ11が引き戻されると、インプラントはまず遠位インプラント部分2の遠位端でスロット14から出て拡張し始め、一方、さらに近位に位置するインプラント1の領域は、少し遅れてスリーブ11から出るだけであるということである。したがって、インプラント1の遠位に位置する領域は、まず血管内壁に適合し、少し後にのみ、より近位に位置する領域が壁に接触し、これは、インプラント1の制御放出に関して有利である。
【0110】
図6は、
図5に示されたものと本質的に同一である挿入システムを示すが、この場合、開口ゾーンは、スロット14の形態ではなく、穿孔15の形態で提供される。この場合、穿孔15に配置された開口部の大きさは、近位から遠位へ増加する、すなわち、2つのスリーブアーム12間の分岐の領域では、開口部の大きさは比較的小さく、遠位スリーブアーム12の遠位端では著しく大きい。したがって、穿孔15は、スリーブ11が近位方向に引き戻されると、まず遠位スリーブアーム12の遠位端で裂け、この位置でもインプラントがまずスリーブ11から出て、次いで拡張することができる。わずかに遅れて、インプラントもさらに近位に解放されるが、これは、穿孔15の開裂はより多くの力が印加されることを必要とするためである。したがって、インプラントは、遠位から近位に向かって徐々に解放される。
【0111】
図7aでは、挿入されるインプラントが外側に配置されている第3の実施形態による挿入システムが示される。インプラント自体はここでは図示されていない。これは、2つの遠位シャフト部分16に分岐する近位シャフト部分17を有するY字型内側シャフトシステムである。挿入システムは、2つのガイドワイヤ18を介して目的の位置に移動され、ガイドワイヤ18の一方は第1の分岐血管内に導入され、他方のガイドワイヤ18は第2の分岐血管内に導入されて、その後ガイドワイヤ18を介して挿入システムを目的の位置に移動することができ、同時に2つの遠位シャフト部分16はそれぞれの分岐血管内にガイドされる。
【0112】
図7bは、
図7aに示される挿入システムの断面図である、すなわち、ガイドワイヤ18が、まず近位シャフト部分17を通って平行に延び、次いで2つの遠位シャフト部分16に分岐する様子を見ることができる。
【0113】
図8では、
図7からのシステムが、インプラント1を血管系に適用した状態で示される。挿入システムは動脈瘤22の前に配置され、2つの遠位シャフト部分16は分岐血管21に配置され、近位シャフト部分17は親血管20に配置されている。インプラント1はここでも、2つの遠位インプラント部分2とインプラントの近位幹部分3とを有する。インプラント1は、遠位インプラント部分2の2つの遠位端において、固定点19を介して遠位シャフト部分16に接続される。固定点19は、例えば、化学的または電解的に溶解可能な接続点とすることができる、すなわち、遠位シャフト部分16からのインプラント1の分離は、インプラント1を拡張させ、シャフト部分から解放させる。次いで、挿入システムの一部を形成するシャフト部分16、17は、インプラント1が動脈瘤頸部の前方に血管系内の所望の位置に留まる間、近位方向に引き戻すことができる。
【0114】
インプラント1を含む挿入システムは、マイクロカテーテル10を介して所望の位置にもたらされる。近位インプラント幹部分3の領域におけるインプラント1の解放は、典型的には、近位方向へのマイクロカテーテル10の引き戻しによって行われる。
【0115】
図9は、
図8のインプラント1を有する挿入システムを断面図で示し、ガイドワイヤ18が幹部分16、17の内部を通過し、遠位インプラント部分2が2つの遠位幹部分16上に配置され、近位インプラント幹部分3が近位幹部分17上に着座している様子を見ることができる。
【0116】
最後に、
図10は、遠位インプラント部分2を挿入システムに固定するための代替形態を示しており、ここでは遠位シャフト部分はほとんど省略されている。キャップ23が遠位インプラント部分2上の所定の位置にある間に、遠位インプラント部分2が拡張するのを防止するために、キャップ23が遠位インプラント部分2の各々の遠位端の上に配置される。キャップをインプラント部分2から取り外すために、プッシュワイヤ24が遠位方向に前進される。プッシュワイヤ24は、キャップ23の遠位端の小さな開口部を通って延在し、厚肉部25を備えており、プッシュワイヤ24が遠位に進められると、さらに近位に位置する厚肉部25がキャップ23を前進させ、このようにしてインプラント部分2からキャップ23を取り外す。さらに遠位に位置する厚肉部25は、キャップ23からプッシュワイヤ24が脱落することを防止するために設けられている。さらに、近位シャフト部分17には、移植プロセスの可視化を可能にする放射線不透過性マーカー26が設けられている。
【国際調査報告】