(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】筋肉内及び心臓内でのSGCGの適切な発現を可能にする遺伝子療法発現系
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20230706BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230706BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230706BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230706BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230706BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230706BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230706BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230706BHJP
A61K 38/17 20060101ALN20230706BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/11 Z
A61P43/00 111
A61P21/00
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577725
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2021066626
(87)【国際公開番号】W WO2021255245
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・プピオ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC411
4C084ZC412
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA94
4C087ZC41
(57)【要約】
本発明は、骨格筋内及び心臓内でのガンマサルコグリカン(SGCG)の適切な発現を可能にするプロモーターの制御下に置かれたSGCGをコードする配列を含む、全身投与用の発現系、並びに肢帯型筋ジストロフィーC型を処置するためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格筋内及び心臓内でのガンマサルコグリカン(SGCG)の発現を可能にするプロモーターの制御下に置かれたSGCGをコードする配列を含む全身投与用の発現系であって、前記骨格筋内でのSGCG発現と前記心臓内でのSGCG発現との間の比が0.9を超えるか又はそれに等しい発現系。
【請求項2】
内因性数量の0.3倍を超えるか又はそれに等しい数量で、前記骨格筋内でのSGCGの発現を可能にする、請求項1に記載の発現系。
【請求項3】
内因性数量の8倍未満又はそれに等しい数量で、前記心臓内でのSGCGの発現を可能にする、請求項1又は2に記載の発現系。
【請求項4】
前記プロモーターが、有利には配列番号4の配列のtMCKプロモーターである、請求項1から3のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項5】
SGCGタンパク質が、配列番号1又は配列番号2、有利には配列番号1の配列を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項6】
前記SGCGタンパク質をコードする配列が配列番号3の配列を有する、請求項5に記載の発現系。
【請求項7】
配列番号5又は配列番号6を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項8】
ウイルスベクター、有利には、好ましくは血清型8又は9のアデノ関連ウイルスベクター(AAV)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項9】
AAV2/8又はAAV2/9ベクターを含む、請求項8に記載の発現系。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の発現系を含む医薬組成物。
【請求項11】
遺伝子療法で使用するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の発現系又は請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
SGCG欠乏症により引き起こされた病理の処置における使用のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の発現系又は請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
SGCG欠乏症により引き起こされた前記病理が、肢帯型筋ジストロフィーC型(LGMD2C又はLGMD R5)である、請求項12に記載の使用のための発現系又は医薬組成物。
【請求項14】
全身的に、好ましくは静脈内注射により投与される、請求項12又は13に記載の使用のための発現系又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格筋内及び心臓内でSGCG(γ-サルコグリカン)を適切に発現させること、有利には、骨格筋内のSGCGタンパク質の数量は、心臓内のSGCGタンパク質の数量を超えるか又はそれに等しいことが有益であるという認識に基づく。本発明は、導入遺伝子とプロモーター配列とを併せ持つ発現系であって、心臓内での過剰生成を回避する発現系を提供する。次に本発明は、肢帯型筋ジストロフィー2C型(LGMD2C)(肢帯型筋ジストロフィーR5型(LGMD R5)と新たに命名された)を処置するための有用且つ安全な治療ツールを提供する。そのような発現プロファイルは、その他のサルコグリカン、すなわちアルファ(α)サルコグリカン(SGCA)、ベータ(β)サルコグリカン(SGCB)、及びデルタ(δ)サルコグリカン(SGCD)にとっても意義深い。
【背景技術】
【0002】
サルコグリカン異常症(SG)という用語は、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)のより大きな群に属する4つの異なる稀な疾患: LGMD2C又はγ-SG、LGMD2D又はα-SG、LGMD2E又はβ-SG、及びLGMD2F又はδ-SGを含む。興味深いことに、各形態の相対的な頻度は、地域が異なれば大いに異なる。例えば、LGMD2Fは、ブラジルにおいてSGの約14%を占める一方、それ以外では極めて稀であり(Moreira E.S.ら、J. Med. Genet. 2003; 40:E12)、またLGMD2Cは、北アフリカ及びローマの集団においてほとんど排他的に生ずる形態である(Bonnemann C.G.ら、Neuromuscul. Disord. 1998;8:193~197頁; Dalichaouche I.ら、Muscle Nerve. 2017;56:129~135頁; Piccolo F.ら、Hum. Mol. Genet. 1996;5:2019~2022頁; Ben Othmane K.ら、Am. J. Hum. Genet. 1995;57:732~734頁)。
【0003】
LGMD2C(LGMD R5)は、γ-サルコグリカンをコードするγ-サルコグリカン(SGCG)遺伝子内の突然変異に起因する。SGCGは、分子量35kDaのシングルパス膜貫通型糖タンパク質であり、N末端に位置する小型の細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、及びN-グリコシル化部位を含有する大型の細胞外ドメインから構成される。α、β、及びδ-サルコグリカンと共に、SGCGは、横紋筋中に存在するサルコグリカンサブ複合体の一部分を形成する。このサブ複合体は、ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)の重要なメンバーであり、筋細胞膜下細胞骨格及び細胞外マトリックス間の結合維持において重要な役割を演じている。サルコグリカンのいずれかにおける突然変異はDGC複合体形成を乱し、筋細胞膜上のその他のサルコグリカンについて二次的欠乏を様々なレベルで引き起こす。この複合体が不安定化することで、筋細胞膜における安定性の喪失及び収縮誘発性損傷からの筋線維保護の喪失が誘発される(Petrof B.J.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1993;90:3710~3714頁; Cohn R.D.、及びCampbell K.P, Muscle Nerve. 2000;23:1456~1471頁)。
【0004】
この保護の喪失により、LGMD2Cにおける遺伝的欠陥が生じ、壊死性の変性再生プロセスが誘発され、進行性の筋肉消耗が引き起こされる。疾患は、四肢における顕著な近位筋力低下(ほとんどの場合下肢において開始する)、一般的な腓腹筋肥大、及び初期の関節拘縮により特徴づけられる。呼吸器系機能不全及び拡張型心筋症の頻度は変動的である。臨床的重症度は、残存タンパク質の数量と通常相関関係を有し、また遺伝子型-表現型の相関関係が認められる場合もある。ヌル突然変異は、タンパク質の不存在及び重度のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)様の表現型と通常関連する一方、ミスセンス突然変異は、タンパク質量の低下及びより軽度のLGMD様の表現型と関連する(Semplicini C.ら、Neurology. 2015;84:1772~1781頁; Magri F.ら、Muscle Nerve. 2017;55:55~68頁)。
【0005】
今日までに、LMGD2Cについて利用可能な処置法は存在しない。
【0006】
近年、病理を修正するための遺伝子療法アプローチが、γ-SGが欠損しているマウスモデルにおいて実証された(Cordier L.ら、Mol. Ther. 2000;1:119~129頁)。2012年には、デスミンプロモーターの制御下でヒトγ-SG遺伝子を発現するAAV1を筋肉内注射するという、LGMD2Cに対する第I~II相臨床トライアルの結果が報告された(Herson S.ら、Brain. 2012;135:483~492頁)。このトライアルの後、Israeliら(Mol Ther Methods Clin Dev. 2019; 13:494~502頁)は、Sgcg-/-マウスにおいて、同じコンストラクトを担持する、すなわちデスミンプロモーターの制御下でγ-SGを発現するAAV2/8を全身投与した後の筋肉修復に重点が置かれた用量効果試験の結果を報告した。
【0007】
一方、文書国際公開第2019/152474号は、AAVrh74ベクターにより担持され、そしてMHCK7プロモーターの制御下で発現される、SGCGをコードするコドン最適化配列について開示している。
【0008】
従って、SGCGに基づく遺伝子置換療法は、SGCG欠乏症に起因する病理に対する有望な処置法と考えられる。しかしながら、安全且つ有効な処置法に対する必要性がなおも存在する。
【0009】
遺伝子療法に関連して、安全な発現系とは、治療有効量のタンパク質の生成を、標的組織において、すなわち前記タンパク質が必要とされる組織において確実にし、とりわけ必須且つ重要な臓器又は組織において、毒性を一切呈することなく、天然タンパク質の欠乏とリンクした異常を矯正する系として定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2019/152474号
【特許文献2】国際公開第2007/000668号
【特許文献3】米国特許第7,282,199号
【特許文献4】国際公開第2005/033321号
【特許文献5】米国特許第6,156,303号
【特許文献6】国際公開第2003/042397号
【特許文献7】国際公開第2003/123503号
【特許文献8】国際公開第2019/193119号
【特許文献9】欧州特許第2020/061380号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Moreira E.S.ら、J. Med. Genet. 2003; 40:E12
【非特許文献2】Bonnemann C.G.ら、Neuromuscul. Disord. 1998;8:193~197頁
【非特許文献3】Dalichaouche I.ら、Muscle Nerve. 2017;56:129~135頁
【非特許文献4】Piccolo F.ら、Hum. Mol. Genet. 1996;5:2019~2022頁
【非特許文献5】Ben Othmane K.ら、Am. J. Hum. Genet. 1995;57:732~734頁
【非特許文献6】Petrof B.J.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1993;90:3710~3714頁
【非特許文献7】Cohn R.D.、及びCampbell K.P, Muscle Nerve. 2000;23:1456~1471頁
【非特許文献8】Semplicini C.ら、Neurology. 2015;84:1772~1781頁
【非特許文献9】Magri F.ら、Muscle Nerve. 2017;55:55~68頁
【非特許文献10】Cordier L.ら、Mol. Ther. 2000;1:119~129頁
【非特許文献11】Herson S.ら、Brain. 2012;135:483~492頁
【非特許文献12】Israeliら、Mol Ther Methods Clin Dev. 2019; 13:494~502頁
【非特許文献13】Calvoら、Neuromuscul. Disord. 2000; 10(8):560~6頁
【非特許文献14】Van der Kooiら、Heart 1998; 79(1):73~7頁
【非特許文献15】Gaoら、The Journal of Clinical Investigation, 2015; 125(11): 4186~95頁
【非特許文献16】Wangら、2008, Gene Therapy, Vol. 15, 1489~99頁
【非特許文献17】Piekarowiczら、2017, European Society Of Gene & Cell Therapy conference, poster P096; HUMAN GENE THERAPY 28:A44 (2017), DOI: 10.1089/hum.2017.29055.abstracts
【非特許文献18】Corinら、1995, Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 92, 6185~89頁
【非特許文献19】Blainら、2010, Human Gene Therapy, Vol. 21, 127~34頁
【非特許文献20】E. W. Martin、「Remington's Pharmaceutical Sciences」
【非特許文献21】「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook, 2012年)
【非特許文献22】「Oligonucleotide Synthesis」(Gait, 1984年)
【非特許文献23】「Culture of Animal Cells」(Freshney, 2010年)
【非特許文献24】「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir, 1997年)
【非特許文献25】「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos, 1987年)
【非特許文献26】「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel, 2002年)
【非特許文献27】「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」, (Babar, 2011年)
【非特許文献28】「Current Protocols in Immunology」(Coligan, 2002年)
【非特許文献29】Hackら、J. Cell. Biol. 1998;142:1279~87頁
【非特許文献30】Goncalvesら、Mol Ther. 2011;19(7): 1331~41頁
【非特許文献31】Wangら、Gene Therapy 2008;15:1489~99頁
【非特許文献32】Scheuermannら、EMBO J. 2013; 32(13): 1805~16頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、骨格筋内及び心臓内で、適切量、すなわち有毒とはならない治療有効量のタンパク質の生成を確実にする発現系を提供することにより、γ-サルコグリカン(SGCG)欠乏症とリンクした破壊的病理、例えば肢帯型筋ジストロフィー2C型(LGMD2C)等を緩和又は矯正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
比較的重要な数の患者を対象として心臓表現型の観察結果を考慮しつつ、あるレベルのSGCG発現が心臓において必要とされることが十分に立証されたとしても(Calvoら、Neuromuscul. Disord. 2000; 10(8):560~6頁; Van der Kooiら、Heart 1998; 79(1):73~7頁)、内因的バランスを重視し、またあらゆる毒性を回避するために、心臓内では過度の過剰生成を引き起こさず、骨格筋内では適切なレベルでのSGCG発現を可能にする発現系を有することが極めて望ましい。
【0014】
定義
別途定義されなければ、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。説明で使用される専門用語は、単に特定の実施形態を記載するためであり、また限定を意図するものではない。
【0015】
冠詞「a」及び「an」は、該冠詞の文法的目的語について、その1つ又は1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために、本明細書において使用される。例として、「an element(エレメント)」とは、1つのエレメント又は1つより多くのエレメントを意味する。
【0016】
「約」又は「およそ」は、本明細書で使用される場合、測定可能な値、例えば分量、時間等と紐付けられるとき、規定された数値から±20%、又は±10%、より好ましくは±5%、いっそうより好ましくは±1%、及びなおもより好ましくは±0.1%の変動を包含するように意図されており、従ってそのような変動は、開示される方法を実施するのに妥当である。
【0017】
範囲:本開示全体を通じて、本発明の様々な態様が範囲形式で提示されうる。範囲形式での記載は、単に便宜性及び簡潔性のためであると理解すべきであり、また本発明の範囲に対する変更不能な制限として解釈するべきでない。従って、範囲の記載は、範囲内のすべての考えうる部分範囲並びに個々の数値を具体的に開示したと考えるべきである。例えば、範囲の記載、例えば1~6は、部分範囲、例えば1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等、並びに当該範囲内の個々の数字、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6を具体的に開示したものと考えるべきである。これは範囲の幅を問わず当てはまる。
【0018】
「単離された」とは、天然状態から変化したか又は除去されたことを意味する。例えば、生きている動物中に天然に存在する核酸又はペプチドは「単離された」状態にないが、しかしその天然の状態の共存物質から部分的又は完全に分離された同一の核酸又はペプチドは、「単離された」状態にある。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在しうるか、又は非天然環境、例えば宿主細胞等内に存在しうる。
【0019】
本発明の文脈において、下記の略号が普通に存在する核酸塩基に対して使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、及び「U」はウリジンを指す。
【0020】
「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、相互に縮退バージョンであり、そして同一のアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質、又はRNA若しくはcDNAをコードするヌクレオチド配列という慣用句には、タンパク質をコードするヌクレオチド配列はいくつかのバージョンにおいてイントロンを含有する場合があるという範囲でイントロンも含まれうる。
【0021】
「~をコードする」とは、生物学的プロセスにおいて、ヌクレオチドの定義された配列(すなわち、rRNA、tRNA、及びmRNA)、又はアミノ酸の定義された配列、並びにそれに起因する生物学的特性を有するその他のポリマー及びマクロ分子を合成するためのテンプレートとしての役目を果たす、ポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNA、又はmRNA等内のヌクレオチドの特定の配列の固有の特質を指す。従って、遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が細胞又はその他の生体系内でタンパク質を生成する場合、当該遺伝子はタンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、そして配列リストに通常提示されるコーディング鎖、及び遺伝子又はcDNAを転写するためのテンプレートとして使用されるノンコーディング鎖のいずれも、当該遺伝子又はcDNAのタンパク質又はその他産物をコードするということができる。
【0022】
用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、ヌクレオチドの鎖として定義される。更に、核酸はヌクレオチドのポリマーである。従って、核酸及びポリヌクレオチドは、本明細書で使用される場合、交換可能である。当業者は、核酸が、単量体「ヌクレオチド」に加水分解されうるポリヌクレオチドであるという一般的な知識を有する。単量体ヌクレオチドはヌクレオシドに加水分解されうる。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドには、通常のクローニング技術やPCR等を使用し、また合成手段により、組換え手段、すなわち組換えライブラリー又は細胞ゲノムから核酸配列をクローニングすることを含む、当技術分野において利用可能な任意の手段により取得されるすべての核酸配列が含まれるが、但しこれに限定されない。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は、交換可能に使用され、そしてペプチド結合により共有結合的にリンクしたアミノ酸残基からなる化合物を指す。タンパク質又はペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、またタンパク質の配列又はペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合により相互に連結した2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチド又はタンパク質が含まれる。本明細書で使用される場合、同用語は、当技術分野において、例えばペプチド、オリゴペプチド、及びオリゴマーとも一般的に呼ばれる短い鎖、並びに当技術分野においてタンパク質(多くの種類が存在する)と一般的に呼ばれるより長い鎖の両方を指す。「ポリペプチド」には、とりわけ、例えば生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、改変されたポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、又はそれらの組合せが含まれる。
【0024】
タンパク質は「変更」されうるが、またサイレント変化を生み出し、機能的等価物をもたらすアミノ酸残基の欠損、挿入、又は置換を含有しうる。計画的なアミノ酸置換が、生物学的活性が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性における類似性に基づいてなされうる。例えば、負に荷電したアミノ酸としてアスパラギン酸及びグルタミン酸を挙げることができ;正荷電アミノ酸としてリジン及びアルギニンを挙げることができ;そして類似した親水性値を有する非荷電極性頭部基を備えたアミノ酸としてロイシン、イソロイシン、並びにバリン、グリシン及びアラニン、アスパラギン及びグルタミン、セリン及びトレオニン、並びにフェニルアラニン及びチロシンを挙げることができる。
【0025】
「バリアント」とは、本明細書で使用される場合、1つ又は複数のアミノ酸によって変化したアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似した構造的又は化学特性を有する「保存的」変化、例えばロイシンとイソロイシンとの置換を有しうる。バリアントは、「非保存的」変化、例えばグリシンとトリプトファンとの置換も有しうる。類似する軽微な変化には、アミノ酸の欠損若しくは挿入、又はその両方も含まれうる。生物学的又は免疫学的活性を無効にすることなく、アミノ酸残基を、置換、挿入、又は削除することができるか判定する際の指針は、当技術分野において周知のコンピュータープログラムを使用して見出されうる。
【0026】
「同一」又は「相同的」とは、2つのポリペプチド間又は2つの核酸分子間の配列同一性又は配列類似性を指す。比較される2つの配列の両方において、ある位置が同一の塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットにより占められるとき、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおいて、ある位置がアデニンにより占められる場合には、その結果当該分子は当該位置において相同的又は同一である。2つの配列間の相同性/同一性のパーセントは、2つの配列により共有されるマッチング位置の数を比較される位置の数で割り算し、それを100倍する関数に該当する。例えば、2つの配列内の10箇所のうち6箇所が一致する場合、その結果2つの配列は60%同一である。一般的に、2つの配列が最大の相同性/同一性が得られるようにアライメントされたときに比較が行われる。
【0027】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、そして単離された核酸を細胞の内部に送達するのに使用可能である物質からなる構成物である。イオン性又は両親媒性化合物、プラスミド、及びウイルスと関連する直鎖状ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含む、但しこれらに限定されない非常に多くのベクターが、当技術分野において公知である。従って、用語「ベクター」には、自律複製プラスミド又はウイルスが含まれる。該用語には、細胞中への核酸の移送を円滑化する非プラスミド及び非ウイルス性化合物、例えばポリリジン化合物、リポソーム等も含まれるものともやはり解釈されるべきである。ウイルスベクターの例として、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0028】
「発現ベクター」とは、発現されるヌクレオチド配列と作動的にリンクした発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは発現にとって十分なシス作用性エレメントを含む;発現のためのその他のエレメントは、宿主細胞により、又はin vitro発現系内に供給されうる。発現ベクターには、当技術分野において公知のすべてのベクター、例えばコスミド、プラスミド(例えば、ネイキッド又はリポソーム内含有型)、及び組換えポリヌクレオチドを取り込んだウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ関連ウイルス)等が含まれる。
【0029】
用語「プロモーター」は、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するのに必要とされる、細胞の合成機構又は導入された合成機構により認識されるDNA配列として定義される。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター/制御配列」とは、該プロモーター/制御配列と作動可能にリンクした遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味する。いくつかの事例では、この配列はコアプロモーター配列でありうるが、またその他の事例では、この配列は、遺伝子産物の発現に必要とされるエンハンサー配列及びその他の制御エレメントも含みうる。プロモーター/制御配列は、例えば組織特異的に遺伝子産物を発現するものでありうる。
【0031】
「構成的」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするか又は規定するポリヌクレオチドと作動可能にリンクするとき、細胞のほとんど又はすべての生理条件下において、細胞内での遺伝子産物の生成を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0032】
「誘導可能」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするか又は規定するポリヌクレオチドと作動可能にリンクするとき、実質的に、プロモーターに対応する誘導物質が細胞内に存在するときにのみ、細胞内での遺伝子産物の生成を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0033】
「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子をコードするか又はそれにより規定されるポリヌクレオチドと作動可能にリンクするとき、細胞がプロモーターに対応する組織型の細胞である場合に、当該細胞内での遺伝子産物の生成を選好的に引き起こすヌクレオチド配列である。
【0034】
用語「異常」とは、生物、組織、細胞、又はそのコンポーネントの文脈で使用されるとき、「正常な」(予期される)個々の特性を示す生物、組織、細胞、又はそのコンポーネントと、少なくとも1つの観測可能又は検出可能な特性(例えば、年齢、処理、日時等)において異なる生物、組織、細胞、又はそのコンポーネントを指す。1つの細胞又は組織型にとって正常であるか又は予期される特性は、異なる細胞又は組織型にとっては異常である場合もある。
【0035】
用語「患者」、「対象」、「個人」等は、本明細書では交換可能に使用され、また任意の動物又はその細胞を指し、in vitro又はin situにおいて、本明細書に記載される方法になじむかどうかによらない。対象は、哺乳動物、例えばヒト、イヌのほか、マウス、ラット、又は非ヒト霊長類でもありうる。ある特定の非限定的な実施形態では、患者、対象、又は個人はヒトである。
【0036】
「疾患」又は「病理」は、対象がホメオスタシスを維持することができず、そして疾患が良化しない場合には次いで対象の健康が継続して増悪するという、対象の健康状態である。対照的に、対象における「障害」は、対象がホメオスタシスを維持することができているが、しかし障害が存在しない場合よりも対象の健康状態が好ましくない健康状態である。未処置のまま放置しても、障害はかならずしも対象の健康状態の更なる劣化を引き起こすわけではない。
【0037】
疾患又は障害の症状の重症度、そのような症状を患者が経験する頻度、又はその両方が低下する場合に、疾患又は障害は、「緩和する」又は「良化する」。これには、疾患又は障害の進行停止も含まれる。疾患若しくは障害の症状の重症度、そのような症状を患者が経験する頻度、又はその両方が取り除かれる場合、疾患又は障害は治癒する。
【0038】
「治療的」処置とは、病理の兆候を呈する対象に対して、そのような兆候を軽減又は除去することを目的として投与される処置である。「予防的」処置は、病理の兆候を示さない、又は当該病理についてまだ診断されていない対象に対して、そのような兆候の発生を防止するか又は遅らせることを目的として投与される処置である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「疾患又は障害を処置すること」とは、対象が経験する疾患又は障害の少なくとも1つの兆候又は症状の頻度又は重症度を低下させることを意味する。疾患及び障害は、本明細書では、処置の文脈において交換可能に使用される。
【0040】
化合物の「有効量」は、化合物が投与される対象に対して有益な効果を提供するのに十分な化合物の分量である。慣用句「治療有効量」とは、本明細書で使用される場合、疾患又は状態を防止又は処置する(その発現を遅延させるか又は防止し、その進行を阻止し、それを阻害し、減少又は逆転させる)のに、そのような疾患の症状を緩和することを含め、十分又は有効である分量を指す。送達媒体の「有効量」は、化合物に効率的に結合するか又はそれを送達するのに十分な分量である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、心臓内SGCGの内因的な数量が、骨格筋内SGCGの内因的な数量と一般的に類似しているか、又はそれよりも少ないという本発明者ら認識に基づく。従って、発現系から生み出されるSGCGの発現量(骨格筋よりも心臓においてかなり多い)は有害となるおそれがあり、回避されるべきである。
【0042】
本発明は、この新規に特定された問題、特にSGCG導入遺伝子、より一般的にはサルコグリカンの骨格筋発現量を除く、心臓における過剰発現に関する問題に対する技術的解決策を提供する。
【0043】
従って一般的に、本発明は、骨格筋内及び心臓内でのガンマサルコグリカン(SGCG)の適切な発現を可能にするプロモーターの制御下に置かれたSGCGをコードする配列を含む、全身投与用の発現系に関する。
【0044】
換言すれば、本発明はSGCGタンパク質をコードする配列を含む発現系に関し、前記発現系は:
- 標的組織において、有利には骨格筋内及び心臓内で、治療上許容されるレベルでタンパク質を発現させること;但し
- あらゆる潜在的な心臓毒性を回避するために、骨格筋におけるタンパク質の発現レベルと比較して、心臓において適切なレベルでタンパク質を発現させること
を可能にする。
【0045】
本発明の枠組みにおいて、発現系は、SGCGのin vivo生成を可能にするポリヌクレオチドとして一般的に定義される。1つの態様によれば、前記系は、SGCGタンパク質をコードする核酸、並びにその発現に必要とされる制御エレメント(少なくともプロモーター)を含む。従って、前記発現系は、発現カセットに対応することができる。或いは、前記発現カセットはベクター又はプラスミドにより担持されうる。「発現系」という文言は、本明細書で使用される場合、すべての態様を網羅する。
【0046】
本発明によれば、標的組織は、タンパク質が治療的役割を演ずる組織又は臓器として定義される(特に、このタンパク質をコードする天然遺伝子に欠陥がある場合)。本発明の特別な実施形態によれば、標的組織には、横紋骨格筋(以後骨格筋と呼ぶ)、すなわち、運動能力に関与するすべての筋肉、及び横隔膜、及び平滑筋が含まれる。標的骨格筋の非限定的な例は、前脛骨筋(TA)、腓腹筋、ヒラメ筋、四頭筋、腰筋、デルトイド、横隔膜、殿筋、長趾伸筋(EDL)、上腕二頭筋等である。
【0047】
上記のように、心臓は、SGCG欠乏症とリンクした様々な疾患において毀損するおそれがあり、従ってやはり潜在的な標的組織である。しかしながら、本出願の枠組みにおいて、SGCGは、既存の発現系から過剰に高い数量で産生されるとき、心臓において有毒となりうる過剰レベルに達する可能性があることが明らかにされている。従って、遺伝子移入に関連して、発現系は、心臓内及び骨格筋内での適切なSGCG発現を重視すべきであり、好ましくは内因的に、すなわち天然の遺伝子について観察されるプロファイルに匹敵すべきである。
【0048】
従って、SGCGが心臓内で果たす治療的役割を有するにしても、このタンパク質がこの組織内で過剰になれば、害を及ぼす又は致命的にさえなり、従って有毒となりうるので、その発現のレベルは厳密に制御されるべきである。
【0049】
従って、特別な態様によれば、本発明は、骨格筋内及び心臓内でのSGCGの適切な発現を可能にするプロモーターの制御下に置かれたガンマサルコグリカン(SGCG)をコードする配列を含む、全身投与用の発現系に関する。
【0050】
第1の特性によれば、本発明の発現系は、導入遺伝子に対応する、ガンマサルコグリカン(SGCG又はγ-SG)をコードする配列を含む。本発明の文脈において、用語「導入遺伝子」とは、配列、好ましくは本発明の発現系を使用して、トランスで提供されるオープンリーディングフレームを指す。
【0051】
特別な実施形態によれば、この配列は、発現系が導入される身体のゲノム中に存在する内因性配列のコピー、同一物、又は等価物である。
【0052】
別の実施形態によれば、内因性配列は、タンパク質を部分的若しくは完全に非機能的となすか、又は該タンパク質をなくしてしまうか(内因性タンパク質の発現又は活性の喪失)、又は所望の細胞内コンパートメントにおけるその配置を乱す1つ又は複数の突然変異を有する。換言すれば、本発明の発現系は、タンパク質をコードする配列のコピーに欠陥を有し、そして関連する病理を有する対象に投与されるように意図されている。
【0053】
従って、本発明の発現系により保有される配列は、SGCG欠乏症とリンクした病理の文脈において治療活性を有するタンパク質をコードすることとして定義されうる。治療活性の概念は、用語「治療上許容されるレベル」と関連づけて下記のように定義される。
【0054】
SGCGをコードする配列は、「オープンリーディングフレーム」に対応するORFとも命名される核酸配列又はポリヌクレオチドであり、また特に一本鎖又は二本鎖DNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)、又はcDNA(相補的デオキシリボ核酸)でありうる。
【0055】
有利には、前記配列は、とりわけ骨格筋において、機能的タンパク質、すなわちその本来の又は必須の機能を確実にする能力を有するタンパク質をコードする。これは、本発明の発現系を使用して生成されるタンパク質は、適正に発現及び配置され、そして活性であることを示唆する。
【0056】
好ましい実施形態によれば、前記配列は天然タンパク質をコードし、前記タンパク質は好ましくはヒト起源のタンパク質である。前記配列は、このタンパク質の誘導体又は断片でもありうるが、但し該誘導体又は断片が所望の活性を保持することが前提である。好ましくは、用語「誘導体」又は「断片」とは、ヒトSGCG配列と、少なくとも50%、好ましくは60%、いっそうより好ましくは70%、又はなおも80%、85%、90%、95%、若しくは99%の同一性を有するタンパク質配列を指す。別の起源(ヒト以外の哺乳動物等)に由来し、又はトランケートされ、又はなおも突然変異したタンパク質であって、但し例えば活性なタンパク質が包含される。従って、本発明の文脈において、用語「タンパク質」は、その起源を問わず完全長タンパク質、並びにその機能的誘導体及び断片として理解される。
【0057】
本発明の文脈において目的のタンパク質は、例えばマウス、ラット、又はイヌバージョン(その配列はデータベースにおいて入手可能である)が使用可能であるとしても、有利にはヒト起源のSGCGである。
【0058】
特定の実施形態によれば、SGCGタンパク質は、配列番号1(291個のaaからなるタンパク質に対応する)で表されるか、又は1つの位置(1つの残基)において配列番号1とは異なり、そしてその天然バリアントに対応する配列番号2で表されるアミノ酸配列から構成されるか又はそれを含むタンパク質である。
【0059】
特定の実施形態によれば、SGCGは、配列番号1又は配列番号2によりコードされる天然ヒトSGCGと同一の機能、とりわけα-、β-、及びδ-サルコグリカンと相互作用して、サルコグリカンサブ複合体(ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DCG)のメンバー)の部分を形成する能力、並びに/或いはSGCG内の欠陥と関連する症状のうちの1つ又は複数、とりわけ上記で開示したようなLGMD2C表現型を少なくとも部分的に緩和する能力を有するタンパク質である。SGCGは、その断片及び/又は誘導体でありうる。1つの実施形態によれば、前記SGCG配列は、配列番号1又は配列番号2の配列と50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はなおも99%を上回るかそれに等しい同一性を有する。例として、Gaoら(The Journal of Clinical Investigation, 2015; 125(11): 4186~95頁)が、エクソン4~7がスキップしたmRNAによりコードされるいわゆるMini-Gammaについて開示している。
【0060】
これらのタンパク質、それらの機能的治療用誘導体又は断片をコードする任意の配列が、本発明の発現系の一部として導入されうる。例として、対応するヌクレオチド配列(cDNA)は、国際公開第2019/152474号において特定される配列である。
【0061】
特定の実施形態によれば、SGCGをコードする配列は、配列番号3の配列を含み若しくはそれから構成されるか、又は配列番号5の配列のヌクレオチド1186~2061、又は配列番号6の配列のヌクレオチド1357~2232に対応する。配列番号3の配列と80%、90%、95%、若しくはなおも99%を上回るか又はそれに等しい同一性を有し、そして好ましくは配列番号1又は配列番号2の配列のSGCGタンパク質をコードする任意の配列も目的である。
【0062】
本発明は、1つ又は複数の標的組織内、とりわけ骨格筋内、及びおそらくは心臓内で疾患を引き起こす突然変異を有するSGCGタンパク質について言及する。
【0063】
SGCG遺伝子内の突然変異は、公知の方式で、肢帯型筋ジストロフィー2C型(LGMD2C又はLGMD R5)と命名される病理を全範囲にわたり生み出す可能性がある。臨床的重症度は残存タンパク質の数量と通常相関関係を有し、また遺伝子型-表現型間で相関関係が観察されうる:ヌル突然変異は、重度デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)様の表現型と通常関連する一方、ミスセンス突然変異は、より軽度のLGMD様の表現型と関連する。従って、遺伝子の置換又は移送に関する戦略によれば、例えば、天然の治療用SGCGをコードする配列をトランスで提供すれば、前記病理を処置するのに役立つ。
【0064】
本発明によれば、また有利には、発現系又は前記発現系中に存在するプロモーターは、骨格筋内及びおそらくは心臓内で、治療上許容されるレベルでのSGCGタンパク質の発現を可能にしなければならない。好ましい実施形態によれば、また本出願において報告されるように、治療上許容されるレベルのSGCGは、標的組織内、とりわけ骨格筋内及びおそらくは心臓内の内因性タンパク質の数量の少なくとも30%(0.3倍)に対応する。換言すれば、また有利には、とりわけ骨格筋内のSGCGの数量と、前記組織内の内因性SGCGの数量との間の比は、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、若しくは1を超えるか又はそれに等しいか、或いはなおも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10に達する場合もある。
【0065】
それに加えて、また別の好ましい実施形態によれば、本発明の発現系、又は前記発現系中に存在するプロモーターは、毒性的に許容されるレベルでのSGCGの発現を心臓内で可能にしなければならない。好ましい実施形態によれば、また本出願で報告されるように、毒性的に許容されるレベルのSGCGは、心臓内で、内因性タンパク質の数量の800%(8倍)を超えない。換言すれば、また有利には、心臓内のSGCGの数量と、前記組織内の内因性SGCGの数量との間の比は、20、15、10、又は9未満か又はそれに等しく、有利には8、7、6、5、4、3、2、又はなおも1未満か又はそれに等しい。
【0066】
本発明の文脈において、用語「タンパク質発現」は、「タンパク質の生成」として理解されうる。従って、発現系は、タンパク質の転写及び翻訳を、その両方について上記で定義したレベルで可能にしなければならない。また、前記タンパク質の正しいフォールディング及び局在化もやはり重要である。
【0067】
本発明の文脈で定義されるレベル、すなわち「治療上許容される」及び「毒性的に許容される」は、下記で定義されるようなタンパク質の分量又は数量、並びにその活性と関連する。
【0068】
所与の組織内で生成したタンパク質の量の評価は、前記タンパク質を標的とする抗体を使用する免疫検出法により、例えばウェスタンブロット法若しくはELISA法により、又はマススペクトロメトリー法により実施可能である。或いは、対応するメッセンジャーRNAが、例えばPCR又はRT-PCRにより定量されうる。この定量は、組織の1つのサンプルにおいて、又はいくつかのサンプルにおいて実施可能である。従って、標的組織が骨格筋である場合には、1筋肉型又はいくつかの筋肉の型(例えば、四頭筋、横隔膜、前脛骨筋、三頭筋等)において実施されうる。
【0069】
本発明の文脈において、用語「治療上許容されるレベル」とは、本発明の発現系から生成されるタンパク質が、患者の病理学的状態を、特に生活の質又は寿命に関して改善するのに役立つ、という事実を指す。従って、骨格筋に影響を及ぼす疾患と関連づけて、これは、疾患に罹患した対象の筋肉状態を改善すること、又は健康な対象の筋肉表現型と類似した筋肉表現型を回復させることと関係する。上記したように、筋肉状態は、筋肉の強度、サイズ、組織構造、及び機能により主に定義され、当技術分野において公知の異なる方法、例えば筋肉の生検、強度、筋緊張、容積、又は運動性の測定、臨床検査、医学的画像化、バイオマーカー等により評価可能である。
【0070】
従って、骨格筋に関して治療ベネフィットを評価するのに役立ち、また処理後の異なる時間において評価可能である基準は、特に下記事項のうちの少なくとも1つである:
- 平均余命の延長;
- 筋肉強度の向上
- 組織構造の改善;及び/又は
- 横隔膜の機能性の改善。
【0071】
本発明の文脈において、用語「毒性的に許容されるレベル」とは、本発明の発現系から生成されるタンパク質が、組織に重大な変化を、とりわけ組織学的、生理学的、及び/又は機能的に引き起こさない、という事実を指す。特に、タンパク質の発現は致死性であってはならない。組織内での毒性は、組織学的、生理学的、及び機能的に評価可能である。
【0072】
心臓の特定の場合では、タンパク質の毒性のいずれも、形態及び心機能の試験により、臨床検査、電気生理学、画像化、バイオマーカー、平均余命のモニタリングにより、或いは線維化及び/又は細胞浸潤及び/又は炎症の検出を含む組織学的分析により、例えばシリウスレッド若しくはヘマトキシリンを用いた染色(例えば、ヘマトキシリン-エオシン-サフラン(Saffran)(HES)、若しくはヘマトキシリン-フロキシン-サフロン(Saffron)(HFS))により評価可能である。
【0073】
有利には、本発明による発現系の有効性及び/又は毒性のレベルが、動物において、おそらくはタンパク質をコードする遺伝子のコピーに欠陥を有し、従って関連する病理に罹患した動物においてin vivoで評価される。好ましくは、発現系は、例えば静脈内(i.v.)注射により全身的に投与される。
【0074】
本発明によれば、また好ましくは、発現系は、骨格筋内及び心臓内でのSGCGの適切な発現を可能にする少なくとも1つの配列を含む。
【0075】
別の実施形態によれば、本発明による発現系は、プロモーターの制御下に置かれたガンマサルコグリカン(SGCG)をコードする配列を含み、骨格筋内及び心臓内でのSGCGの適切な発現を可能にする。
【0076】
好適には、本発明の発現系は、タンパク質をコードする配列の転写を統制する、好ましくは導入遺伝子の5'に配置され、そしてそれと機能的にリンクしたプロモーター配列を含む。好ましくは、本発明の発現系は、上記で定義したように、骨格筋内及びおそらくは心臓内のタンパク質について治療上許容されるレベル、並びに心臓内では毒性的に許容されるレベルの発現を確実にする。
【0077】
本発明による特徴的な方式において、そのようなプロモーターは、心臓内及び骨格筋内、例えばTA筋肉内でのSGCGの適切な発現を更に確実にすべきである。
【0078】
本発明の枠組みにおいて、用語「適切な(adequate)」は、「適する(appropriate)」、「適合した(adapted)」、又は「バランスのとれた(blanced)」と等価であり、そして有利には、発現プロファイルが、内因的に、すなわち天然遺伝子について観察されるプロファイルに匹敵することを意味する。実施例で報告されるように、心臓内のSGCGタンパク質の数量は、有利には骨格筋内のSGCGタンパク質の数量を上回ってはならない。すでに記載したように、前記数量は、当技術分野において公知の任意の技術により、例えばウェスタンブロッティングにおいて対応するバンドの強度を評価することにより評価可能である。
【0079】
内因性遺伝子と関連して観察されるように、骨格筋において本発明による発現系から生成されるSGCGの数量は、有利には心臓内で生成される量を超えるか又はそれに等しい。
【0080】
これは、心臓内のSGCG量と、骨格筋内、例えばTA筋肉内のSGCG量との間の比を計算することにより評価可能である。
【0081】
一実施形態によれば、この比は5を上回ってはならない。有利には、この比は、4、3、2、又はなおも1未満か又はそれに等しくあるべきである。より有利には、この比は1未満である。
【0082】
反対に、前記比は、骨格筋内、例えばTA筋肉内SGCG量と、心臓内SGCG量との間の比として表現されうる。
【0083】
一実施形態によれば、この比は0.2未満であってはならない。有利には、この比は、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又はなおも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10を上回るか又はそれに等しい。より有利には、この比は、少なくとも0.9又はなおも1に等しい。
【0084】
これには、誘導可能又は構成的な天然又は合成(人工的)プロモーターが含まれうる。同様に、プロモーターは、導入遺伝子と同一起源又は別の起源の、任意の起源(ヒトを含む)のプロモーターでありうる。
【0085】
これには、骨格筋内及び心臓内で上記定義の発現プロファイルを示す任意のプロモーター、例えば:
- 筋クレアチンキナーゼプロモーター、とりわけダブル(dMCK)又はトリプル(tMCK)タンデム構造のMCKエンハンサーを有するトランケート型MCKプロモーター、又はCK6プロモーターの誘導体(Wangら、2008, Gene Therapy, Vol. 15, 1489~99頁);
- 筋肉ハイブリッド(MH)プロモーター(Piekarowiczら、2017, European Society Of Gene & Cell Therapy conference, poster P096; HUMAN GENE THERAPY 28:A44 (2017), DOI: 10.1089/hum.2017.29055.abstracts);
- 例えば、トロポニンIプロモーター配列において同定されるような、少なくとも1つのUSE(UpStream Enhancer)の配列を含有するプロモーター(Corinら、1995, Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 92, 6185~89頁)、又はおそらくは3倍(×3)又は4倍(×4)コピー型のその100bp欠損体(ΔUSE; Blainら、2010, Human Gene Therapy, Vol. 21, 127~34頁)。DeltaUSEx3(DUSEx3)プロモーター及びDeltaUSEx4(DUSEx4)プロモーターが特に目的である;
- ガンマサルコグリカン遺伝子のプロモーター;
- 骨格筋型アルファアクチン(ACTA1)プロモーター又はその誘導バージョン
が含まれる。
【0086】
特定の実施形態によれば、そのようなプロモーターは、例えば、配列番号13の配列のデスミンプロモーターでもなければ、また例えば、配列番号14の配列のCK8プロモーターでもない。別の実施形態によれば、そのようなプロモーターは、例えば国際公開第2019/152474号に開示されるようなMHCK7プロモーターではない。
【0087】
有利には、本発明の枠組み内で使用されるプロモーターは、tMCKプロモーターである。好ましい実施形態によれば、tMCKプロモーターは、配列番号4で表される配列を有する。
【0088】
前記配列に由来するプロモーター配列、又はその断片に対応するが、しかし特に組織特異性及びおそらくは有効性に関して類似したプロモーター活性を有するプロモーター配列も、本発明の対象とされる。好ましくは、用語「誘導体」又は「断片」とは、前記配列と、有利には配列番号4と少なくとも60%、好ましくは70%、いっそうより好ましくは80%、又はなおも90%、95%、若しくは99%の同一性を有する配列を指す。上記で定義したように、心臓内及び骨格筋内での適切なSGCG発現を可能にするプロモーター配列が特に目的である。
【0089】
特定の実施形態によれば、本発明は、従って、上記で定義したように、配列番号4の配列を有するプロモーターの制御下に置かれた、好ましくは配列番号3の配列のSGCGをコードする配列、又はその誘導体若しくは断片を含む発現系に関する。
【0090】
有利には、本発明の発現系は、以下に対応する配列:
- 配列番号5のヌクレオチド1~2061;又は
- 配列番号6のヌクレオチド172~2232
を含む。
【0091】
特定の実施形態によれば、目的とするプロモーターは、非標的組織内(すなわちSGCGが治療効果を有さないか又はSGCGが本来発現されない組織内)での低発現若しくは無発現を可能にするその能力について更に選択される。上記のように、また有利には、筋肉(平滑筋及び骨格筋)及び心臓は、前記非標的組織から除外される。逆に肝臓は非標的組織とみなすことができる。
【0092】
特定の実施形態によれば、骨格筋内及び心臓内でのSGCGの適切な発現を可能にするプロモーターは、非標的組織内、例えば肝臓内で活性を有さないか又はその活性は低い。或いは、本発明による発現系は、非標的組織内、とりわけ肝臓内でのSGCG発現の防止又は減少を可能にする配列を更に含む。
【0093】
本発明の文脈において、専門用語「発現を防止する」とは、好ましくは、発現が認められない場合(たとえ前記配列が存在しなくても)を指す一方、専門用語「発現のレベルを減少させる」とは、前記配列の提供により発現が減少する(又は低下する)場合を指す。
【0094】
有利には、前記配列は、タンパク質の発現が有毒でありうる、又は望ましくない非標的組織において、SGCGの発現を防止するか又はその発現のレベルを低下させる能力を有する。この作用は、特に:
- タンパク質をコードする配列の転写レベルに関する;
- タンパク質をコードする配列の転写に起因する転写物に関する(例えば、その分解を経由する);
- 転写物のタンパク質への翻訳に関する
様々な機構に基づき実施されうる。
【0095】
そのような配列は、好ましくは、例えば、下記の群:
- マイクロRNA;
- 内因性の低分子干渉RNA又はsiRNA;
- トランスファーRNA(tRNA)の低分子断片;
- 遺伝子間領域のRNA;
- リボソームRNA(rRNA);
- 核内低分子RNA(snRNA);
- 核小体低分子RNA(snoRNA);
- piwiタンパク質と相互作用するRNA(piRNA)
から選択される小型のRNA分子の標的である。
【0096】
1つの実施形態によれば、この配列は、標的組織内、とりわけ骨格筋内及び心臓内でのSGCG発現に影響を及ぼさない。
【0097】
好ましくは、そのような配列は、タンパク質の発現が治療活性を有さないか又は有毒でさえある組織におけるその有効性について選択される。この配列の有効性は組織に依存して変化しうるので、これらの配列のいくつかを組み合わせる(前記組織内でのその有効性について選択される)必要がありうる。
【0098】
好ましい実施形態によれば、この配列はマイクロRNA(miRNA)の標的配列である。公知のように、そのようなしかるべく選択された配列は、選択された組織内での遺伝子発現を特異的に抑制するのに役立つ。
【0099】
従って、特別な実施形態によれば、本発明の発現系は、タンパク質の発現が治療活性を有さず、及び/又は有毒である組織内、例えば肝臓内で発現されるか又はその中に存在するマイクロRNA(miRNA)の標的配列を含む。好適には、標的組織、とりわけ骨格筋及び心臓中に存在するこのmiRNAの数量は、SGCGが無用であるか若しくは有毒でさえある組織中に存在する数量未満であるか、又はこのmiRNAは、標的組織内で発現さえしていない可能性がある。特別な実施形態によれば、標的miRNAは、骨格筋内及びおそらくは心臓内で発現していない。別の特別な実施形態によれば、標的miRNAは、肝臓において特異的又は排他的にさえ発現している。
【0100】
当業者にとって公知のように、特に所与の組織におけるmiRNAの存在又はその発現のレベルは、PCR、好ましくはRT-PCRにより、又はノーザンブロットにより評価されうる。
【0101】
異なるmiRNA、並びにその標的配列及びその組織特異性は当業者にとって公知であり、また例えば、文書国際公開第2007/000668号に記載されている。肝臓内で発現しているMiRNAは、例えばmiR-122である。
【0102】
特定の実施形態によれば、本発明による発現系は、心臓内で発現しているmiRNA、例えばmiR208aの標的配列を一切含まない。
【0103】
本発明によれば、発現系又は発現カセットは、導入遺伝子の発現が存在するのに必要なエレメントを含む。導入遺伝子の発現を確実にし、調節するための、上記で定義した配列等の配列に付加して、そのような系は、その他の配列、例えば:
- 転写物安定化のための配列、例えばヒトβグロビン(HBB2)をコードする遺伝子のイントロン2/エクソン3(改変型)、例えば配列番号5のヌクレオチド734~1179、又は配列番号6のヌクレオチド905~1350に対応する。前記配列に示すように、前記HBB2イントロンには、有利には、翻訳の開始を改善するための、mRNA内のAUG開始コドンの前に含まれるコンセンサスKozak配列(GCCACC)が後続する;
- 有利にはSGCGをコードする配列の3'側における、ポリアデニル化シグナル、例えば対象とする遺伝子のポリA、SV40又はベータヘモグロビン(HBB2)のポリA。好ましい例として、HBB2のポリAは、配列番号5のヌクレオチド2072~2833又は配列番号6のヌクレオチド2243~3004に対応する;
- エンハンサー配列
を含みうる。
【0104】
本発明による発現系は、細胞、組織、又は身体内、特にヒトに導入されうる。当業者にとって公知の方式で、例えばトランスフェクション又は形質導入により、導入がex vivo又はin vivoで実施可能である。別の態様によれば、本発明は、従って、本発明の発現系を含む、好ましくはヒト起源の細胞又は組織を包含する。
【0105】
本発明による発現系、この場合単離された核酸は、すなわちネイキッドDNAの形態で対象内に投与可能である。この核酸の細胞中への導入を円滑化するために、異なる化学的手段、例えばコロイド分散系(高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ)又は脂質系(水中油型エマルジョン、ミセル、リポソーム)と組み合わせることができる。
【0106】
或いは、別の好ましい実施形態によれば、本発明の発現系は、プラスミド又はベクターを含む。有利には、そのようなベクターはウイルスベクターである。ヒトを含む哺乳動物における遺伝子療法で一般的に使用されるウイルスベクターは、当業者にとって公知である。そのようなウイルスベクターは、好ましくは、下記のリスト:ヘルペスウイルスに由来するベクター、バキュロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びアデノ関連ウイルスベクター(AAV)から選択される。
【0107】
本発明の特定の実施形態によれば、発現系を含有するウイルスベクターは、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターである。
【0108】
アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターは、様々な障害を処置するための強力な遺伝子送達ツールとなった。AAVベクターは、病原性の欠如、中程度の免疫原性、並びに有糸分裂後細胞及び組織に安定且つ効果的な方式で形質導入する能力を含むいくつかの特徴(AAVベクターが遺伝子療法に対して理想的に適合するようにする)を有する。AAV血清型、プロモーター、及び送達方法の適する組合せを選択することにより、AAVベクターに含まれる特定の遺伝子の発現が、1つ又は複数の種類の細胞に対して特異的標的となりうる。
【0109】
1つの実施形態では、コーディング配列はAAVベクター内に含まれる。AAVについて100を超える自然発生的な血清型が公知である。AAVカプシドには多くの天然バリアントが存在し、ジストロフィー病理に特に適する特性を有するAAVの特定及び使用が可能である。従来の分子生物学技術を使用してAAVウイルスを工学操作することができ、核酸配列を細胞特異的に送達するために、免疫原性を最低限に抑えるために、安定性及び粒子の寿命を調節するために、効率的に分解するように、核に正確に送達されるように、これらの粒子を最適化することが可能である。
【0110】
上記のように、AAVベクターは比較的無毒性であり、効率的な遺伝子移入を実現し、及び特定の目的に対して容易に最適化されうるので、AAVベクターの使用はDNAの外因的送達の一般的なモードである。ヒト又は非ヒト霊長類(NHP)から単離され、そして十分に特徴づけられたAAVの血清型のなかでも、ヒト血清型2が遺伝子移入ベクターとして開発された最初のAAVである。現在使用されているその他のAAV血清型には、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAVrh74、AAV11、及びAAV12が含まれる。それに加えて、非天然の工学操作されたバリアント及びキメラAAVも有用でありうる。
【0111】
ベクターに組み込むための望ましいAAV断片は、vp1、vp2、vp3、及び高度可変領域を含むcapタンパク質、rep 78、rep 68、rep 52、及びrep 40を含むrepタンパク質、及びこれらのタンパク質をコードする配列を含む。これらの断片は、様々なベクター系及び宿主細胞において容易に利用されうる。
【0112】
そのような断片は、単独で、その他のAAV血清型配列若しくは断片と組み合わせて、又はその他のAAV若しくは非AAVウイルス配列に由来するエレメントと組み合わせて使用されうる。本明細書で使用される場合、人工的AAV血清型には、非限定的に、非自然発生的なカプシドタンパク質を有するAAVが含まれる。そのような人工的カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質の断片)を、異なる選択されたAAV血清型、同一AAV血清型の非連続的な部分から取得され、非AAVウイルス源又は非ウイルス源から取得されうる異種の配列と組み合わせて使用する、任意の適する技術により生成されうる。人工的AAV血清型は、非限定的に、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドでありうる。従って例示的AAV又は人工的AAVには、なかでもAAV2/8(米国特許第7,282,199号)、AAV2/5(国立衛生研究所から入手可能)、AAV2/9(国際公開第2005/033321号)、AAV2/6(米国特許第6,156,303号)、AAVrh10(国際公開第2003/042397号)、AAVrh74(国際公開第2003/123503号)、AAV9-rh74ハイブリッド、又はAAV9-rh74-P1ハイブリッド(国際公開第2019/193119号)、PCT/欧州特許第2020/061380号で開示されるAAVバリアントが含まれる。1つの実施形態では、本明細書に記載される組成物及び方法において有用なベクターは、選択されたAAV血清型カプシド、例えばAAV8カプシド又はその断片をコードする配列を最低限含有する。別の実施形態では、有用なベクターは、選択されたAAV血清型repタンパク質、例えばAAV8 repタンパク質又はその断片をコードする配列を最低限含有する。任意選択的に、そのようなベクターは、AAV capタンパク質及びrepタンパク質の両方を含有しうる。AAV rep及びcapの両方が提供されるベクターにおいて、AAV rep配列及びAAV cap配列のいずれも、1つの血清型起源、例えばすべてAAV8起源の配列でありうる。或いは、rep配列がある1つのAAV血清型(cap配列を提供する血清型とは異なる)に由来するベクターが使用されうる。1つの実施形態では、rep配列及びcap配列は、別の供給源(例えば、別のベクター又は宿主細胞及びベクター)から発現される。別の実施形態では、これらのrep配列は、異なるAAV血清型のcap配列にインフレーム融合してキメラAAVベクター、例えばAAV2/8(米国特許第7,282,199号)を形成する。
【0113】
1つの実施形態によれば、組成物は、血清型2、5、8、若しくは9のAAV、又はAAVrh74を含む。有利には、主張されるベクターは、AAV8又はAAV9ベクター、とりわけAAV2/8又はAAV2/9ベクターである。
【0114】
本発明で使用されるAAVベクターにおいて、AAVゲノムは、一本鎖(ss)核酸、又は二本鎖(ds)/自己相補的(sc)核酸分子のどちらかでありうる。
【0115】
有利には、SGCGをコードするポリヌクレオチドが、AAVベクターのITR(≪末端逆位反復≫)配列の間に挿入される。代表的なITR配列は、配列番号6のヌクレオチド1~145(5'ITR配列)、及び配列番号6のヌクレオチド3005~3149(3'ITR配列)に対応する。
【0116】
組換えウイルス粒子は、当業者にとって公知の任意の方法により、例えば293 HEK細胞の同時トランスフェクションにより、単純ヘルペスウイルス系により、及びバキュロウイルス系により取得可能である。ベクター力価は、ウイルスゲノム数/1mL(vg/mL)として通常表される。
【0117】
1つの実施形態では、ベクターは、有利には上記したように、制御配列、とりわけプロモーター配列を含む。
【0118】
配列番号1の配列をコードするポリヌクレオチドに関連して、本発明のベクターは、配列番号5又は配列番号6で表される配列を含みうる。
【0119】
好ましい実施形態によれば、本発明の発現系は、適する指向性(tropism)、この場合タンパク質の発現が有毒でありうる組織に対するよりも、標的組織、有利には骨格筋及び心臓、おそらくは平滑筋に対してより高い指向性を有するベクターを含む。
【0120】
本発明の更なる態様は下記事項に関する:
- 上記で開示したように、本発明の発現系を含む細胞、又は前記発現系を含むベクター。
細胞は、任意の種類の細胞、すなわち原核生物細胞又は真核生物細胞でありうる。細胞はベクターの増殖に使用可能であり、又は宿主若しくは対象内に更に導入(例えば、移植)されうる。発現系又はベクターは、当技術分野において公知の任意の手段により、例えば変換、エレクトロポレーション、又はトランスフェクションにより細胞内に導入されうる。細胞に由来する小胞も使用可能である。
- 上記で開示したように、有利にはヒト以外の、本発明の発現系を含む遺伝子導入動物、前記発現系を含むベクター、又は前記発現系若しくは前記ベクターを含む細胞。
【0121】
本発明の別の態様は、医薬として使用される、上記で開示したような発現系、ベクター、又は細胞を含む組成物に関する。
【0122】
一実施形態によれば、組成物は、同一の疾患又は別の疾患の処置に特化した、少なくとも前記遺伝子療法生成物(発現系、ベクター、又は細胞)、及び場合によりその他の活性分子(その他の遺伝子療法生成物、化学分子、ペプチド、タンパク質等)を含む。
【0123】
特定の実施形態によれば、本発明による発現系の使用は、抗炎症薬、例えばコルチコイドの使用と併用される。
【0124】
本発明は、次に本発明の発現系、ベクター、又は細胞を含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、治療有効量の治療薬(本発明の発現系又はベクター又は細胞)及び薬学的に許容される担体を含む。特定の実施形態では、用語「薬学的に許容される」とは、連邦若しくは州政府の規制当局により承認されていること、或いは米国若しくは欧州薬局方、又は動物及びヒト用途のその他の一般的に認識されている薬局方に掲載されていることを意味する。用語「担体」とは、治療薬と共に投与される稀釈剤、アジュバント、賦形剤、又は媒体を指す。そのような医薬担体は、滅菌性の液体、例えば石油、動物、野菜、又は合成起源、例えばピーナッツ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油等の液体を含む水及び油でありうる。医薬組成物が静脈内投与されるとき、水が好ましい担体である。生理食塩溶液及び水性デキストロース及びグリセロール溶液も、特に注射液用の液体担体として利用可能である。適する薬学的賦形剤には、スターチ、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0125】
組成物は、所望の場合には、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することもできる。これらの組成物は、溶液、懸濁物質、エマルジョン、徐放性製剤等の形態を採ることができる。適する医薬担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、適する量の担体(対象に対して適切に投与するための形態を提供するため)と共に、治療有効量の治療薬を、好ましくは精製された形態で含有する。
【0126】
好ましい実施形態では、組成物は、ヒトに対して静脈内投与するように構成された医薬組成物として、ルーチン手順に基づき処方化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性バッファー内の溶液である。必要な場合には、注射部位の疼痛を取り除くために、組成物は、可溶化剤及びリドカイン等の局所麻酔薬も含みうる。
【0127】
1つの実施形態では、本発明による組成物は、ヒトを対象とする投与に適する。組成物は、好ましくは液体形態、有利には生理食塩水組成物、より有利にはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)組成物、又はリンガー乳酸溶液の形態を採る。
【0128】
標的疾患の処置に有効であろう本発明の治療薬(すなわち、発現系又はベクター又は細胞)の量は、標準的な臨床技術により決定可能である。それに加えて、in vivo及び/又はin vitroアッセイが、最適な投薬範囲を予測するのに役立つように任意選択的に採用されうる。製剤化で採用される正確な用量は、投与経路、体重、及び疾患の重篤度にも依存し、そして専門家の判断及び各患者の状況に従って決定されるべきである。
【0129】
適する投与は、標的組織、とりわけ骨格筋及びおそらくは心臓に対する治療有効量の遺伝子療法生成物の送達を可能にすべきである。本発明の文脈において、遺伝子療法生成物が、ヒトSGCGをコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターであるとき、治療的用量は、対象1キログラム(kg)に対して投与されるSGCG配列を含有するウイルス粒子の数量(ウイルスゲノムの場合vg)として定義される。
【0130】
利用可能な投与経路は、局部的(topical)(局所的(local))、経腸(系全体にわたる効果、但し胃腸(GI)管を通じて送達される)、又は非経口(全身作用、但しGI管以外の経路により送達される)である。本明細書で開示される組成物の好ましい投与経路は、筋肉内投与(すなわち、筋肉中)及び全身投与(すなわち、循環系中)を含む非経口である。この文脈において、用語「注射」(又は「潅流」又は「輸液」)は、血管内、特に静脈内(IV)、筋肉内(IM)、眼内、髄腔内、又は脳内投与を包含する。注射は、シリンジ又はカテーテルを使用して通常実施される。
【0131】
1つの実施形態では、組成物の全身送達は、組成物を局所的処置部位近傍、すなわち衰弱した筋肉近傍の静脈又は動脈内に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本発明は、全身的効果を生み出す組成物の局所送達を含む。この投与経路は、「領域(局所領域的)輸液」、「分離式四肢灌流による投与」、又は「高圧経静脈四肢灌流法」と通常呼ばれ、筋ジストロフィーにおいて遺伝子送達法として使用され、成功を収めている。
【0132】
1つの態様によれば、組成物は、輸液又は潅流により分離した四肢(局所領域的)に投与される。換言すれば、本発明は、圧力を加えながら、血管内投与経路、すなわち静脈(経静脈的)又は動脈により、脚部及び/又は腕部内に組成物を領域送達することを含む。これは、例えばToromanoffら(2008)により開示されるように、輸液される生成物の領域的拡散を可能にしつつ、止血帯を使用して血液の循環を一時的に停止させることにより通常達成される。
【0133】
1つの実施形態では、組成物は対象の四肢内に注入される。対象がヒトであるとき、四肢は腕部又は脚部でありうる。1つの実施形態によれば、組成物は、対象の下半身内、例えばひざより下部、又は対象の上半身内、例えば肘より下部に投与される。
【0134】
本発明による投与の好ましい方法は全身投与法である。全身注射は、心臓及び横隔膜を含む対象の身体の全筋肉に到達するように全身に注射する方法、従ってこのような全身的でなおも不治性疾患の実際の処置を可能にする。ある特定の実施形態では、全身送達は、組成物が対象の身体全体を通じてアクセス可能となるように、対象への組成物の送達を含む。
【0135】
好ましい実施形態によれば、全身投与は、血管内への組成物の注射、すなわち血管内(静脈内又は動脈内)投与を介して生ずる。1つの実施形態によれば、組成物は、末梢静脈を通じて静脈内注射により投与される。
【0136】
全身投与は、下記の条件において典型的には実施される:
- 1~10mL/分、有利には1~5mL/分、例えば、3mL/分の流速;
- 注射される全容積は、対象1kg当たりベクター調製物1~20mLの間で変化しうるが、好ましくは5mLである。注射される容積は、全血液量の10%を超えてはならず、好ましくは6%程度である。
【0137】
全身的に送達されるとき、組成物は、好ましくは1015vg/kg又はなおも1014vg/kg未満又はそれに等しいか、有利には1010、1011、又はなおも1012vg/kgを超えるか又はそれに等しい用量で投与される。具体的には、用量は、5.1012vg/kg~1014vg/kg、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、又は9.1013vg/kgでありうる。例えば1、2、3、4、5、6、7、8、又は9.1012vg/kgの低用量も、潜在的毒性及び/又は免疫反応を回避するために検討されうる。当業者にとって公知のように、有効性に関して満足の行く結果をもたらす、できる限り低い用量が好ましい。
【0138】
特定の実施形態では、処置は組成物の単回投与を含む。
【0139】
そのような組成物は、遺伝子療法の用途、特に対象における肢帯型筋ジストロフィー2C型(LGMD2C又はLGMD R5)又はγ-サルコグリカン異常症を処置する用途が特に意図されている。
【0140】
本発明の組成物から利益を享受する対象には、そのような疾患を有すると診断されたか又はそのような疾患を発症するリスクに晒されているすべての患者が含まれる。処置される対象は、次にSGCG遺伝子内の突然変異又は欠損の同定に基づき、例えばSGCG遺伝子のシークエンシングを含む、当業者にとって公知の任意の方法により、及び/又は当業者にとって公知の任意の方法によるSGCGの発現のレベル若しくは活性のレベルの評価を通じて選択されうる。従って、前記対象には、そのような疾患の症状をすでに呈している対象、及び前記疾患を発症するリスクに晒されている対象の両方が含まれる。1つの実施形態では、前記対象には、そのような疾患の症状をすでに呈している対象が含まれる。別の実施形態では、前記対象は、歩行可能な患者及び初期の非歩行患者である。
【0141】
より一般的に及び更なる実施形態によれば、本発明による発現系は:
- 対象における筋力、筋持久力、及び/又は筋肉量を増加させること;
- 対象における線維化を低下させること;
- 対象における収縮誘発性の傷害を低下させること;
- 対象における筋ジストロフィーを処置すること;
- 筋ジストロフィーに罹患した対象において線維の変性又は線維の壊死を低下させること;
- 筋ジストロフィーに罹患した対象において炎症を低下させること;
- 筋ジストロフィーに罹患した対象においてクレアチンキナーゼ(又は任意のその他のジストロフィーマーカー)のレベルを低下させること;
- 筋ジストロフィーに罹患した対象における筋線維萎縮及び肥大を処置すること;
- 筋ジストロフィーに罹患した対象におけるジストロフィー性石灰化を減少させること;
- 対象における脂肪浸潤を減少させること;
- 対象における中心核形成を減少させること
にとって有用である。
【0142】
1つの実施形態によれば、本発明は、そのような状態を処置するための方法であって、上記で開示したような遺伝子療法生成物(発現系、ベクター、又は細胞)を対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0143】
有利には、発現系は、身体において、特に動物において、有利には哺乳動物において、より好ましくはヒトにおいて全身的に投与される。
【0144】
本発明を実践する際には、別途表示されない限り、当業者に十分理解されている分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術が採用される。そのような技術は、文献、例えば「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook, 2012年);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait, 1984年);「Culture of Animal Cells」(Freshney, 2010年);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir, 1997年);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos, 1987年);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel, 2002年);「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」, (Babar, 2011年);「Current Protocols in Immunology」(Coligan, 2002年)に漏れなく記載されている。これらの技術が、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの生成に適用され、従って本発明を実現及び実践する際に検討されうる。特別な実施形態にとって特に有用な技術は以下のセクションで議論される。
【0145】
特許、特許出願、及び本明細書で引用された公開資料の開示は、いずれもみな、本明細書によって、参照によりそのまま本明細書に組み込まれている。
【0146】
更に説明しなくても、当業者は、これまでの説明及び下記の例証的実施例を使用して、本発明の化合物を作成及び利用し、並びに主張された方法を実践することができると考えられる。
【実施例】
【0147】
実験実施例
本発明は、下記の実験実施例及び添付の図面を参照することにより更に詳記される。これらの実施例は単に例示目的で提示され、限定の意図を有さない。
【0148】
特に、本発明は、tMCKプロモーターの制御下に置かれたSGCGをコードする配列を含むAAV8ベクターと関連して例証される。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【
図1】A/ γ-サルコグリカン抗体(Ab203113-Abcam社)を使用した、マウス又はサルの前脛骨筋(TA)及び心臓内でのγ-サルコグリカン(SGCG)発現のウェスタンブロット検出を示す図である。B/ (A)において検出されたシグナルに基づく各組織内SGCG発現のグラフ式表現を示す図である。統計的ANOVA検定:(*)は0.05未満のP値を表す(統計的に有意)。ns:有意差無し
【
図2】AAV9-prom-GFP-Luc(Des、CK8、及びtMCK)を注射したC57Bl6アルビノマウスから得られた、TA筋及び心臓内の総タンパク質量により標準化した後のGFP-Luc導入遺伝子のルシフェラーゼ活性を示す図である。
【
図3】デスミンプロモーター(AAV8-Des-SGCG)、又はCK8プロモーター(AAV8-CK8-SGCG)、又はtMCKプロモーター(AAV8-tMCK-SGCG)の制御下のSGCGを担持するAAV8ベクターを静脈内注射したSgcg-/-マウス3群から得られた組織(TA、心臓、及び肝臓)において、QPCRにより測定した1ディプロイドゲノム当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN)を示す図である。
【
図4A】デスミンプロモーター(AAV8-Des-SGCG)、又はCK8プロモーター(AAV8-CK8-SGCG)、又はtMCKプロモーター(AAV8-tMCK-SGCG)の制御下のSGCGを担持するAAV8ベクターを静脈内注射したSgcg-/-マウス3群から得られた組織(TA、心臓、及び肝臓)において、RT-QPCRにより測定したP0内因レベルで標準化した後のSGCG mRNAを示す図である。
【
図4B】各組織内のSGCG/P0 mRNA及びVGCNの相対的存在量間の比を示す図である。
【
図4C】TA筋に対する、心臓内SGCG mRNAの相対的存在量の比を示す図である。点線は、1の比に対応する(心臓及びTA筋肉において発現レベルが同じ)。統計的ANOVA検定:(*)は0.05未満のP値を表す(統計的に有意)。
【
図5】A/ 各群のマウス(デスミンプロモーター(AAV8-Des-SGCG)、又はCK8プロモーター(AAV8-CK8-SGCG)、又はtMCKプロモーター(AAV8-tMCK-SGCG)の制御下のSGCGを担持するAAV8ベクターを静脈内注射したSgcg-/-マウス)5匹のTA筋及び心臓におけるヒトγ-サルコグリカン発現のウェスタンブロット検出(ヒト特異的γ-サルコグリカン抗体(Ab203112-Abcam社)を使用)を示す図である。 B/ (A)において検出されたシグナルに基づく、各組織(Ht:心臓;TA:前脛骨筋)内SGCG発現のグラフ式表現を示す図である。統計的ANOVA検定:(*)は、0.05未満のP値を表す(統計的に有意)。ns:有意差無し
【
図6】デスミンプロモーター(AAV8-Des-SGCG)、又はCK8プロモーター(AAV8-CK8-SGCG)、又はtMCKプロモーター(AAV8-tMCK-SGCG)の制御下のSGCGを担持するAAV8ベクターを静脈内注射したSgcg-/-マウスのTA及び心臓において実施した抗SGCG免疫染色を示す図である。スケールバー=100μm
【
図7】A/ SGCG発現のパーセンテージと中心核形成した線維のパーセンテージとの間の相関図を示す図である。 黒色の点はWTマウスから得られた筋肉に対応し、そして白色の点はKO-Sgcgマウスから得られた筋肉に対応する。灰色の点は、異なるAAV形質導入効率レベル(5e12vg/kg、1e13vg/kg、及び5e13vg/kgのAAV8-Des-SGCG)で注射したKO-Sgcgから得られた筋肉に対応する。 B/ PBS又はAAV8-Des-SGCG(3
e14vg/kg)を静脈内注射したWTマウスのTA筋及び心臓内γ-サルコグリカン発現のウェスタンブロット検出(γ-サルコグリカン抗体(Ab203113-Abcam社)を使用)を示す図である。 C/ (B)において検出されたシグナルに基づく、各組織(Ht:心臓;TA:前脛骨筋)内SGCG発現のグラフ式表現を示す図である。
【
図8】A/ 各群のラット(tMCKプロモーター(AAV8 tMCK)、デスミンプロモーター(AAV8デスミン)、及びMHCK7プロモーター(AAV8 MHCK7)の制御下のSGCGを担持するAAV8ベクターを静脈内注射したスプラーグドーリー系)のTA筋及び心臓内ヒトγ-サルコグリカン発現のウェスタンブロット検出(ヒト特異的γ-サルコグリカン抗体(Ab203112-Abcam社)を使用)を示す図である。 B/ (A)において検出されたシグナルに基づく、各組織(心臓; TA:前脛骨筋)内SGCG発現のグラフ式表現を示す図である。統計的スチューデント検定:(*)は0.05未満のP値を表し、(***)は、0.001未満のP値を表す(統計的に有意)ns:有意差無し
【
図9】PBS、又はtMCKプロモーター(AAV8-tMCK-SGCG)、デスミンプロモーター(AAV8-デスミン-SGCG)、及びMHCK7プロモーター(AAV8-MHCK7-SGCG)の制御下のSGCGを担持するAAV8ベクターを静脈内注射したスプラーグドーリーラット3群から得られた心臓内のRT-QPCR転写物により測定したrMyh6/rMyh7分子比を示す図である。統計的ANOVA検定:(**)は0.001未満のP値を表す。
【0150】
材料及び方法:
動物モデル
動物試験は、動物飼育及び実験法(2010/63/EU)に関する最新の欧州法令に従い実施し、またフランス、EvryのCentre d'Exploration et de Recherche Fonctionnelle Experimentaleの倫理委員会より承認を受けた(プロトコールAPAFIS DAP 2018-024-B#19736)。
【0151】
Sgcg-/-マウス株(Hackら、J. Cell. Biol. 1998;142:1279~87頁)をこの試験で使用した。このマウスを、C57BL/6Jバックグラウンド上で10回交配させることにより、純粋なC57BL/6Jバックグラウンド内で飼育した。C57Bl/6J及びC57Bl6アルビノマウスは、Charles River Facilityに発注した。サル由来のサンプルは、Inserm UMR 1089、Atlantic Gene Therapies、Institut de Recherche Therapeutique (IRT 1) Universite de Nantes (フランス)、及びSilabe (67207 Niederhausbergen、フランス)より提供された。
【0152】
1月齢オススプラーグドーリーラットもこの試験で使用した。
【0153】
発現カセット及びAAV媒介式の遺伝子移入
3つの異なるAAVカセットを、同一のITR配列、導入遺伝子GFP-Luc、及びポリA HBB2を使用して設計した。プロモーターは、コンストラクト間で異なる唯一のエレメントであった。この試験では、ヒトデスミン(Des)プロモーター(配列番号13)、CK8プロモーター(Goncalvesら、Mol Ther. 2011;19(7): 1331~41頁;配列番号14)、及びtMCKプロモーター(Wangら、Gene Therapy 2008;15:1489~99頁;配列番号4)を比較した。血清型9を、GFP-Luc組換えアデノ関連ウイルス(AAV9-prom-GFP-Luc)の生成に使用した。
【0154】
同一のプロモーターを使用し、但しSGCG導入遺伝子を含め、3つのその他のAAVカセットも設計した(tMCKプロモーターに関連して配列番号6を参照)。それに加えて、国際公開第2019/152474号に開示されるようなMHCK7プロモーター(配列番号15)を、この状況において更にテストした。血清型8を組換えSGCGアデノ関連ウイルスを生成するのに使用した(AAV8-prom-SGCG)。
【0155】
プライマー対及びポリA HBB2配列に対して特異的なTaqMan(商標)プローブ:
FWD: 5'-CCAGGCGAGGAGAAACCA-3'(配列番号7)、
REV: 5'-CTTGACTCCACTCAGTTCTCTTGCT-3'(配列番号8)、及び
プローブ: 5'-CTCGCCGTAAAACATGGAAGGAACACTTC-3'(配列番号9)
を使用して、TaqMan(商標)リアルタイムPCRアッセイにより、ウイルスゲノムを定量した。
【0156】
オスの1月齢C57Bl6アルビノマウスにおいてGFP-Luc導入遺伝子を発現させ、又はメスの5週齢Sgcg-/-マウスの筋肉においてγ-サルコグリカン発現を修復するために、異なるベクターを尾静脈内単回全身投与により注射した。注射したベクターの用量を、マウスの体重によって、5e13vg/kgのAAV9-prom-GFP-Luc、又は5e12vg/kg、1e13vg/kg、5e13vg/kg、又は3e14vg/kgのAAV8-prom-SGCGにより標準化した。処置から3又は2週間後に、それぞれマウスを絶命させ、そして組織を収集した。前脛骨(TA)筋を代表的な骨格筋として選択した。
【0157】
更に、オスの1月齢スプラーグドーリーラットに、3つのAAV8ベクター(MHCK7-hSGCG、デスミン-hSGCG、及びtMCK-hSCGC)を、3e14vg/kgの用量で尾静脈中に静脈内注射した。PBSを注射した別のラット群もコントロールとして含めた。注射から1ヶ月後、ラットを絶命させた。心臓及び前脛骨(TA)筋を収集した。
【0158】
ルシフェラーゼアッセイによるルシフェラーゼルの定量
サンプルを、0.2%のトリトンX-100及びプロテアーゼ阻害剤カクテルPIC(Roche社)を含むアッセイバッファー(トリス/リン酸塩、25mM;グリセロール、15%; DTT、1mM; EDTA、1mM; MgCl2、8mM)、500μLを用いて最初にホモジナイズした。10μlのライセートを、白色不透明96ウェルプレートの平底ウェル中に負荷した。発光の定量には、Enspire分光光度計を使用した。ポンピングシステムにより、D-ルシフェリン(167μM; Interchim社)及びATP(40nM)を含むアッセイバッファー(Sigma-Aldrich社)をプレートの各ウェルに送達する。各サンプル間で2秒の遅延を設けながら、D-ルシフェリン及びATPをそれぞれ搬送した後に相対発光量(RLU)のシグナルを測定した。BCAタンパク質の定量(Thermo Scientific社)を実施して、各サンプル中のタンパク質の数量を標準化した。結果を、タンパク質量により標準化されたRLUのレベルとして表した。
【0159】
組織学及び免疫組織化学分析
8マイクロメートルの横方向凍結切片を、液体窒素冷却イソペンタンで凍結したTA筋又は心臓から切り出した。横方向凍結切片を、次に20%のウシ胎仔血清(FCS)を含有するPBSで1時間ブロックし、そしてヒトγ-サルコグリカンタンパク質を標的とするウサギモノクロナール一次抗体(Abcam社-ab203112)と共に、4℃、オーバーナイトでインキュベートした。PBSを用いて洗浄した後、切片を、AlexaFluor 594色素とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ二次抗体(Thermo Fisher Scientific社)と共に、室温で1時間インキュベートした。
【0160】
PBSを用いて洗浄した後、切片をFluoromount-G及びDAPI(SouthernBiotech社)を用いて封入し、そして蛍光顕微鏡(Zeiss社-Zeiss Axiophot2)上で可視化した。すべての切片の完全画像取得を、AXIOSCAN顕微鏡(Zeiss社)を使用して最終的に実施した。
【0161】
中心核形成した線維の数を決定する場合、切片を、二次抗体としてAlexaFluor 488色素とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ抗体(Thermo Fisher Scientific社)を使用し、ウサギ抗ラミニン抗体(DAKO-Z0097)を用いて標識し、そしてFluoromount-G及びDAPI(SouthernBiotech社)を用いて封入した。すべての切片の画像取得を、AXIOSCAN顕微鏡(Zeiss社)を使用して最終的に実施した。中心核形成線維の数(CNF/mm2)を定義する骨格筋の形態測定分析を以下のように実施した:
核及び線維をセグメント化するために、FIJIソフトウェアを使用し、8ビットチャンネルのラミニン免疫蛍光、及び10×倍率で捕捉したDAPI染色を含むスキャン後のRGB画像を処理する。核のセグメント化は、大域的二値化(IsoData)及び粒子分析を使用してDAPI強度に基づき実施する。線維は、MorphoLibプラグイン型「形態学的セグメンテーション」ツール(境界画像オプション)、及びImageJ粒子分析ツール(オブジェクト真円度>.2、筋肉型及び種に応じてオブジェクトサイズフィルター)を使用して、ラミニン染色に基づきセグメント化する。
【0162】
核及び線維の対象領域(ROI)を、Rソフトウェア(RimageJROI、spatstat、及びspライブラリー)を使用して空間オブジェクトに変換し、そして線維内核を、核及び線維オブジェクトの交点から同定する。線維内核では、その線維重心及び膜の最近接点までの距離を計算する。
【0163】
サイズ、形状、蛍光強度のフィルタリングを実施して、アーチファクトを除外する(神経は、線維、悪意線維(spited fiber)又は癒着線維として同定される)。
【0164】
核と最近接膜との間の距離(線維フェレット直径と比較して、又は絶対的距離、ユーザー選択による)に基づき、中心核形成型線維が同定される。
【0165】
組織におけるウイルスゲノムコピー数(VGCN)測定
製造業者の指示に従い、KingFisherロボット(Thermo Fisher Scientific社)と共にNucleoMag病原体キット(Macherey Nagel社)を使用し、ゲノムDNAを凍結組織から抽出した。ベクターゲノムコピー数を、qPCRを使用して20ngのゲノムDNAから決定した。アンプリコン毎に1つのコピーを担持するプラスミドのDNAサンプルを連続稀釈し、その稀釈物を標準曲線として使用した。0.2μMの各プライマー及び0.1μMのプローブと共にLightCycler480(Roche社)を使用して、Absolute QPCR Rox Mix(Thermo Fisher Scientific社)のプロトコールに従い、リアルタイムPCRを実施した。カセットのポリA HBB2に位置する配列を、ウイルスゲノムを定量するのに使用した。プライマー対及びポリA HBB2配列に対して特異的なTaqman(商標)プローブは、上記開示のもの(配列番号7~9)と同一であった。
【0166】
遍在性酸性リボソームリンタンパク質(P0)を、ゲノムDNAの定量に使用した。P0増幅で使用したプライマー対及びTaqman(商標)プローブは:
FWD: 5'-CTCCAAGCAGATGCAGCAGA-3'(配列番号10)、
REV: 5'-ATAGCCTTGCGCATCATGGT-3'(配列番号11)、及び
プローブ: 5'-CCGTGGTGCTGATGGGCAAGAA-3'(配列番号12)
であった。
【0167】
ディプロイドゲノムの数はP0遺伝子のコピー数の半分である。組織の形質導入レベルは、1ディプロイドゲノム当たりのVGCNにより決定される。
【0168】
mRNAの定量
凍結組織からの全RNA抽出を、NucleoZOLに対応するNucleoSpin(登録商標) RNA Setのプロトコール(Macherey Nagel社)に従い実施した。抽出したRNAを60μlのRNaseを含まない水の中に溶出させ、そしてTURBO(商標) DNaseキット(Ambion社)を用いて処理することで残存するDNAを取り除いた。全RNAを、Nanodrop分光光度計(ND8000 Labtech社)を使用して定量した。
【0169】
導入遺伝子の発現を定量するために、1μgのRNAを、RevertAid Hマイナス逆転写酵素キット(Thermo Fisher Scientific社)、及びランダムオリゴヌクレオチドとオリゴ-dTとからなる混合物を使用して逆転写した。リアルタイムPCRを、市販のプライマーセット及びヒトγ-サルコグリカンを定量するためのプローブ(Hs00165089_m1;Thermo Fisher Scientific社)を使用し、LightCycler480(Roche社)を使用して実施した。マウスサンプルでは、遍在性酸性リボソームリンタンパク質;(P0)を、サンプル間でデータを標準化し、並びにこれまでに記載したVGCNを定量化するために使用した。
【0170】
各実験を重複して実施した。2nd Derivative Max法を使用するLightCycler(登録商標) 480 SW 1.5.1を用いて、定量サイクル(Cq)値を計算した。生Cqとして表されるRT-qPCR結果を、P0に対して標準化した。相対的発現量を、2-ΔCt Livak法を使用して計算した。
【0171】
転写物比Myh6/Myh7の測定
Myh6及びMyh7の転写物を、市販のプライマーセット、並びにrMyh6を定量するためのプローブ(Rn00691721_g1;Thermo Fisher Scientific社)、及びrMyh7を定量するためのプローブ(Rn01488777_g1;Thermo Fisher Scientific社)を使用して、RT-QPCRにより定量した。結果を、Myh7転写物に対するMyh6転写物の分子比として表す。
【0172】
ウェスタンブロット分析
およそ1mmの組織(肝臓、心臓、又はTA筋)の凍結切片を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)バッファー中で可溶化した。タンパク質抽出物を、BCA(ビシンコニン酸)タンパク質アッセイ(Pierce社)により定量した。抗γ-サルコグリカン抗体(ヒト特異的:Ab203112、並びにマウス、ヒト、及びサル形態の共通認識用:Abcam社; Ab203113)を使用して、30μgの総タンパク質をウェスタンブロット分析用に処理した。
【0173】
二次抗体の蛍光シグナルをOdyssey画像システム上で読み取り、そしてバンド強度をOdysseyアプリケーションソフトウェア(LI-COR Biosciences社、バージョン2.1)により測定した。
【0174】
統計分析
統計分析を、GraphPad Prismバージョン6.04(GraphPad Software社、San Diego、CA)を使用して実施した。統計分析を、統計ANOVA又はスチューデント検定を使用して、表示の通り実施した。データを平均値±SDとして表した。0.05未満のP値を統計的に有意(*)とみなした。
【0175】
結果:
I/ マウス及びサルにおける内因性SGCG発現プロファイル:
異なる種における心臓及び骨格筋間の内因性SGCGの相対的割合を定義するために、SGCGタンパク質の相対的存在量を、野生型マウス又はサルの異なる組織(骨格筋を代表するものとしてTA筋、及び心臓)において調査した。
【0176】
図1より、マウスにおいて、TA筋内及び心臓内でSGCGが類似したレベルで生成することが明らかである。ヒトに対応する哺乳動物モデルであるサルにおいては、心臓内のSGCGの数量は、TA筋内のSGCG数量よりも劇的に低下していることが観察される。
【0177】
II/ C57BL6マウスにおける異なるプロモーターの評価:
心臓及びTA筋において、内因遺伝子について観測されるプロファイルとできる限り類似した、すなわち心臓内よりもTA筋内で類似したレベル又はなおもより高いレベルで発現している発現プロファイルを示す発現コンストラクトを特定するための試験を実施した。
【0178】
このために、筋肉活性を有することが知られている異なるプロモーターについて、レポーター遺伝子GFP-Lucを使用して試験した。
【0179】
デスミンプロモーター、CK8プロモーター、及びtMCKプロモーターを比較する実験を実施した。デスミンプロモーターは、Israeliら(Mol Ther Methods Clin Dev. 2019; 13:494~502頁)により試験されたプロモーター(筋肉活性の修復におけるその有効性が報告された)に対応することから選択した。
【0180】
図2より:
- AAV9-CK8-GFP-Lucベクターは、心臓及びTA筋の両方において形質導入するのにより有効である;
- AAV9-tMCK-GFP-Lucは、プロモーター強度に関してより弱いと思われるが、しかし心臓発現と骨格筋発現の間でより平衡化している
ことが明らかとなる。
【0181】
tMCKプロモーターが有望な候補であり、マウス及びサルにおいて内因性遺伝子について観測されたように、心臓及びTA筋内での適切な発現を確実にすることは明白である。逆に、デスミン及びCK8プロモーターは、TA筋内で観察された発現を超える非常に高い発現を心臓内で惹起し、心臓毒性と関連するおそれがある。
【0182】
III/ Sgcg-/-マウスにおけるtMCKプロモーターの検証:
これらの観察を検証するために、SGCG欠乏マウスを対象として静脈内注射された3つの異なるSGCG AAV8ベクターを比較する更なる試験を実施した。有望なtMCKプロモーターを、上記で試験した2つのその他プロモーター、すなわちデスミンプロモーター及びCK8プロモーターと比較した。
【0183】
第1に、形質導入の有効性を3つのコンストラクト間で比較した。
図3より示されたように、組織が同一であればその形質導入のレベルも同一であったので、3ベクターの感染力についてバイアスは認められない。肝臓は、その形質導入が最も高い臓器であったことが明らかである(約1VGCN/ディプロイドゲノム)。心臓及びTA筋の形質導入は類似し、0,01VGCN/ディプロイドゲノム程度に達した。感染レベルがこれだけ低ければ、後続する分析を妨害するおそれのある飽和効果に達するリスクは存在しない。
【0184】
次に、3つのプロモーターの転写活性を比較した。TA筋内のSGCG mRNAレベルは、3群のマウス間で明確に異ならなかった。逆に、tMCKプロモーターの活性は、マウスのその他2群と比較して、心臓においてかなり低く現れ、少なくともCK8プロモーターとの比較において統計的に有意な差を有した。肝臓内の形質導入された細胞の数は非常に高く、SGCG mRNAのレベルもやはり高い(
図4A)。
【0185】
VGCNによりmRNA SGCG存在量を標準化することで、tMCKプロモーター活性は、Desプロモーター及びCK8プロモーター活性の両方とは有意に異なることが確認された(
図4B)。
【0186】
最終的に、tMCKプロモーターを用いて取得されたTA筋に対する心臓のSGCG mRNA比(約0.6)は、内因性の状態とより高い同等性を示し(
図4C)、すなわち心臓内よりもTA筋内での発現の方が高かった。
【0187】
これらの観察は、これらの異なる組織においてSGCGタンパク質発現を調査することにより確認された:
図5から明らかなように、導入遺伝子タンパク質の分量は、AAV8-CK8-SGCGベクター及びAAV8-Des-SGCGベクターを注射したマウスの群において、TA筋内よりも心臓内において有意に高い一方、これはAAV8-tMCK-SGCGベクターを注射したマウスの場合には当てはまらない:SGCCGの数量は心臓とTA筋との間で有意に異ならない。それに加えて、TA筋内のSGCGタンパク質のレベルは、使用したプロモーターによらず類似していることに留意すること。これらの結果に基づき、tMCKが適切な発現プロファイルを有することが確認される、すなわち:
- TA筋においては、デスミン及びCK8プロモーターと類似する高い活性;
- 心臓においては、デスミン及びCK8プロモーターよりも低い活性。
TA及び心臓組織を直接観察し(
図6)、TA筋内でのSGCGの発現は3群のマウス間で明確に異ならないことが確認された。逆に、AAV8-tMCK-SGCGベクターを注射したマウスから得られた心臓は、その他2群のマウスと比較してより少ない陽性線維を呈した。
【0188】
IV/ 筋肉及び心臓におけるSCGC臨界量の決定:
筋肉におけるSGCGの最低治療有効量、及び心臓におけるSGCGの最大非毒性量を決定するために、TA筋において適切なレベルの発現をもたらすが、しかし心臓において過剰レベルの発現をもたらし、おそらくは有毒であることが上記で明らかにされたAAV8-Des-SGCGベクターを使用して、更なる実験を実施した。
【0189】
許容される中心核形成レベル(WTマウスの筋肉において観察されたレベルに匹敵するか又はなおもわずかに超える、すなわち最大20%)に達するためには、発現系は、骨格筋において正常なSGCGレベルの少なくとも30%を発現することを可能にすべきであると、
図7Aから結論付けることができる。
【0190】
一方、
図7B及び
図7Cから、心臓においておそらくは有毒である前記系は、WTマウスの心臓において観察されたレベルを8倍上回る心臓内SGCGレベルをもたらすことが明らかである。
【0191】
V/ ラットにおける異なるプロモーターの評価:
V-1/ タンパク質SGCG発現プロファイル:
マウスにおける上記開示の実験を、新たな被試験プロモーターとして、MHCK7プロモーター(AAV8-MHCK7-SGCGベクター)を追加して、ラットにおいて更に実施した。
【0192】
図8より、ラットでは、導入遺伝子タンパク質の分量は、AAV8デスミン-SGCGベクター及びAAV8 MHCK7-SGCGベクターを注射したラットの群において、TA筋内よりも心臓内において有意に高いことが明らかである。
【0193】
逆に、AAV8 tMCK-SGCGベクターを用いた場合、導入遺伝子タンパク質は、TA筋内及び心臓内で同程度に発現していた。
【0194】
AAV8デスミン-SGCGベクター及びAAV8 tMCK-SGCGベクターを用いて取得される発現プロファイル比は、マウス及びラットにおいて類似することに留意すること。
【0195】
V-2/ 心臓に対する影響:
転写物比Myh6/Myh7の測定は、心臓内でストレス誘発性の病理学的状態を伴う心組織の変化を検出する優良な指標である(Scheuermannら、EMBO J. 2013; 32(13): 1805~16頁)。
【0196】
図9は、この比はPBSコントロール群(10.2)と比較して、AAV8 tMCK-SGCGベクターを注射したラットの群(8.3)において有意に変化しなかったことを示す。同図より、統計的に異ならないとしても、比は、AAV8デスミン-SGCGベクターを注射したラットの心臓において大きく低下したこと(1.8)が更に明白である。最終的に、比は、PBSコントロール群及びAAV8-tMCK群のラットと比較して、AAV8 MHCK7-SGCGベクターを注射したラットの心臓(0.8)において有意に低下した。
【0197】
全体として、tMCKプロモーターは心臓及び骨格筋間で等しい発現を推進する一方、その他2つのプロモーター(デスミン及びMHCK7)の場合、SGCGは、ラット及びマウスの両方において観測されたように、骨格筋よりも心臓においてより多く発現している。それに加えて、tMCKプロモーターのみが、適正なMyh6/Myh7比を保存する一方、この比はその他2つのプロモーターでは変化しており、心臓における細胞ストレスが示唆される。
【0198】
結論
当技術分野において公知なように、LGMD2C患者を処置するための標的とされる必要がある2つの最も重要な臓器は、骨格筋及び心臓である。
【0199】
野生型マウス及びサルにおける内因性SGCGタンパク質の測定に基づき、心臓内での発現は、骨格筋内での発現と同一レベルであるか又はなおも低めの方が好ましいと結論付けられた。
【0200】
これらの異なる態様に関して、AAV8-tMCK-SGCGベクターが、非常に有望な候補であることが確認された。発現のレベルは、その他3つのプロモーターと比較して、心臓において有意に低下した。更に、TA筋において、導入遺伝子の発現量は、AAV8-Des-SGCGベクター(骨格筋の形質導入、及び筋肉活性の修復に有効であるとして幅広く記載されているベクター(例えば、Israeliら、Mol Ther Methods Clin Dev. 2019; 13:494~502頁を参照))を用いて取得された発現量に近い。
【配列表】
【国際調査報告】