(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】抗ANG-2抗体とその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230706BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20230706BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230706BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230706BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230706BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230706BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230706BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230706BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230706BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230706BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230706BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230706BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230706BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230706BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230706BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230706BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230706BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230706BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230706BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20230706BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/24
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K45/00
A61K38/17
A61K47/68
A61P9/00
A61P35/00
A61P27/02
A61P43/00 121
A61P9/14
A61P11/00
A61P31/12
A61P29/00
A61P43/00 111
A61K39/395 N
A61K47/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579029
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 CN2021101243
(87)【国際公開番号】W WO2021259200
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】202010573625.2
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011428549.2
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】リー イーミン
(72)【発明者】
【氏名】リー リー
(72)【発明者】
【氏名】フー フォンケン
(72)【発明者】
【氏名】チン ホア
(72)【発明者】
【氏名】リウ チュンチエン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
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4H045AA11
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4H045AA30
4H045BA10
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、アンジオポエチン2(ANG-2)に特異的に結合する新型抗体、及び抗体断片、並びに該抗体又は抗体断片を含有する組成物に関する。さらに、本発明は、前記抗体或いはその抗体断片をコードする核酸及びそれを含む宿主細胞、並びに関連する用途に関する。また、本発明は、これらの抗体及び抗体断片の治療及び診断用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ANG-2に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、及び軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含み、その中に:
(a)HCDR1はSEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:5に示されるアミノ酸配列を含む;かつLCDR3は、SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を含む;又は、
(b)HCDR1はSEQ ID NO:7に示すアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:10に示すアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含む;かつLCDR3は、SEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を含む;又は、
(c)HCDR1はSEQ ID NO:13に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:15に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:17に示されるアミノ酸配列を含む;かつLCDR3はSEQ ID NO:18に示されるアミノ酸配列を含む;又は、
(d)HCDR1はSEQ ID NO:54に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:55に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:56に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:57に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:58に示されるアミノ酸配列を含む;かつLCDR3はSEQ ID NO:59に示されるアミノ酸配列を含む、
抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
(i)SEQ ID NO:25に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変領域、及びSEQ ID NO:26に示されるミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変領域;
(ii)SEQ ID NO:27に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変領域、及びSEQ ID NO:28に示されるミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変領域;
(iii)SEQ ID NO:29に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変領域、及びSEQ ID NO:30に示されるミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変領域;
(iv)SEQ ID NO:19に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変領域、及びSEQ ID NO:20に示されるミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変領域;
(v)SEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変領域、及びSEQ ID NO:22に示されるミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変領域;又は
(vi)SEQ ID NO:23に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変領域、及びSEQ ID NO:24に示されるミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変領域、
からなる群より選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記抗体がIgG1、IgG2、又はIgG4形式の抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくはヒトIgG1 Fc部分を含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片をコードする単離された核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含む、ベクター又は宿主細胞であって、好ましくは前記ベクターは発現ベクターであり、かつ好ましくは前記宿主細胞は原核細胞若しくは真核細胞であり、より好ましくは酵母細胞、哺乳動物細胞、例えば、293細胞若しくはCHO細胞である、ベクター又は宿主細胞。
【請求項6】
抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片の調製方法であって、前記方法は、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を発現するための適当な条件下で、請求項5に記載の宿主細胞を培養すること、及び任意に前記抗体又はその抗原結合断片を単離することを含む方法であって、
任意に前記方法はさらに前記宿主細胞から前記抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片を回収することを含む方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片、及び任意に医薬用添加物を含む医薬組成物であって、
任意に、前記医薬組成物は、さらに第2の治療剤を含み;好ましくは、前記第2の治療剤は、血管関連疾患の治療薬、例えば、抗VEGF薬等の抗血管新生薬からなる群より選択される、医薬組成物。
【請求項8】
前記第2の治療剤が抗VEGF薬であって、前記抗VEGF薬がVEGFR-1の免疫グロブリン様領域2、VEGFR-2の免疫グロブリン様領域3、及びヒト免疫グロブリンFcから形成される融合タンパク質であり、前記Fcの前に構造的な柔軟性を高めるペプチドリンカーが挿入される、請求項7に記載の医薬組成物であって;
好ましくは、前記抗VEGF薬は、SEQ ID NO:60に示されている分子、又はそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%を超えて同一性を有する分子である、医薬組成物。
【請求項9】
対象においてANG2生物学的活性に関連する疾患又は障害、例えば、血管関連疾患、例えば眼底血管新生疾患及び固形腫瘍を予防又は治療する方法であって、前記方法は請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片、又は請求項7に記載の医薬組成物の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗Ang-2抗体又はその抗原断片をそれを必要とする対象に投与することを含む、
血管漏出及び/又は血管炎症を伴う疾患を予防又は治療する方法、又は血管透過性を調節する方法、又は血管漏出を低減する方法、及び/又は血管炎症状態を改善する方法であって、
好ましくは、前記抗Ang-2抗体又はその抗原断片が:
-SEQ ID NO:1のHCDR1配列;
-SEQ ID NO:2のHCDR2配列;
-SEQ ID NO:3のHCDR3配列;
-SEQ ID NO:4のLCDR1配列;
-SEQ ID NO:5のLCDR2配列;及び
-SEQ ID NO:6のLCDR3配列;
を含む、方法。
【請求項11】
前記血管漏出を伴う疾患が、血管漏出症候群、急性呼吸窮迫症候群、若しくは急性肺損傷であり、かつ/又は前記血管炎症を伴う疾患が血管感染若しくは肺の炎症である、請求項10に記載の方法であって、
好ましくは、前記疾患は、急性呼吸窮迫症候群又は急性肺炎、例えば、ウイルス性肺炎又は細菌性肺炎である、方法。
【請求項12】
前記疾患が急性呼吸窮迫症候群であり、前記抗体の投与により:
(1)肺組織の炎症細胞の浸潤度、例えば、白血球の総浸潤量、及び/又は好中球、リンパ球、及び単球のいずれか若しくはそれらの任意の組み合わせの炎症細胞浸潤量;
(2)前記対象の血中酸素飽和濃度、例えば、酸素分圧(PO
2)及び/又は酸素化指数(PaO
2/FiO
2);
(3)肺水腫の程度又は肺重量体重インデックス;
(4)肺組織の炎症性変化の強さ;
(5)肺の画像(例えば、X線画像又はCT画像);並びに
(6)動物対象の生存率、
の1つ或いは複数の疾患パラメータが改善される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記血管透過性の増加が、VEGFなどの炎症誘発性サイトカイン、又は細菌若しくはウイルス感染又は細菌内毒素により誘発される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記抗ANG2抗体の投与により、血管内皮細胞の炎症マーカーの発現が抑制される、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法であって、好ましくは前記炎症マーカーがICAM-1及び/又はVCAM-1である、方法。
【請求項15】
前記対象が、ARDSを発症するリスクのある個体であるか、又は前記対象が既にARDSと診断された個体若しくはARDSの疑いがある個体である、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記抗ANG2抗体又はその抗原結合断片が:
-SEQ ID NO:25のVH配列、又はそれと少なくとも85%、90%、95%、又は99%の同一性を有する配列;及び
-SEQ ID NO:26のVL配列、又はそれと少なくとも85%、90%、95%、又は99%の同一性を有する配列を含む、請求項10に記載の方法であって、
任意に、前記抗ANG2抗体が、重鎖Fc部分、例えばIgG1、IgG2若しくはIgG4アイソタイプのFc部分、好ましくはヒトIgG1-Fc部分を含み、かつ/又はκ軽鎖定常領域、例えばヒトκ軽鎖定常領域を含む、方法。
【請求項17】
前記抗ANG2抗体が、SEQ ID NO:37の重鎖及びSEQ ID NO:38の軽鎖を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記抗ANG2抗体が、単剤として投与される、又は前記抗ANG2抗体が第2の治療薬と併用して投与される、請求項10~17に記載の方法であって、好ましくは、前記第2の治療薬がVEGF阻害剤である、方法。
【請求項19】
前記抗ANG2抗体が単剤若しくは多剤で投与される、請求項10~18に記載の方法であって、好ましくは、前記抗ANG2抗体の少なくとも1用量は、前記対象が細菌、ウイルス、細菌毒素などの炎症性物質に曝露される前又は後に投与され、より好ましくは前記対象において肺の炎症細胞浸潤が発現される前に投与される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、アンジオポエチン-2(ANG-2)に特異的に結合する新型抗体、及び抗体断片、並びに該抗体又は抗体断片を含有する組成物に関する。さらに、本発明は、前記抗体或いはその抗体断片をコードする核酸及びその核酸を含む宿主細胞、並びにそれらの用途に関する。また、本発明は、その抗体及び抗体断片の治療及び診断用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオポエチン-2(Angiopoietin-2、ANGPT2、或いはAng2とも呼ばれる)は、アンジオポエチンファミリーの一員である。アンジオポエチンファミリーは、Ang1、Ang2及びAng3/4を含む、4つのものからなる。アンジオポエチン-1(Ang1)及びアンジオポイエチン-2(Ang2)は、Tie2(Ig及びEGF相同ドメインを有するチロシンキナーゼ、TEKとも呼ばれる)受容体のリガンドとして、血管内皮細胞上に発現するTie2に競合的に結合し、血管関連の様々な生理学的、病理学的過程に関与している。
【0003】
生理学的条件下では、Ang1は血管周皮細胞に発現され、そのTie2への結合は、Tie2のリン酸化を引き起こし、シグナル伝達経路を活性化し、成熟の血管構造と機能の完全性を維持する作用を有する。Ang-1の天然拮抗剤であるAng-2は、ANG-1/Tie2シグナル伝達経路を拮抗することにより、血管を不安定化する作用があると考えられている。Peters S.らの研究により、in vitroで、内皮細胞を含む培養液にang-2、或いはang-2及びVEGFの両方を添加すると、内皮細胞の透過性が増加することを明らかにした(Peters S.ら, Angiopoietin-2 multiplies the permeability enhancing effect of vascular endothelial growth factor on retinal endothelial cells. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004, 45:1901-1906)。また、Laura Hakanpaaら(endothelial destabilization by angiopoietin-2 via integrin β1 activation, Nature Communications, 6: 5962(2015))は、Ang2がまたインテグリンに結合することによって、Tie2に非依存的な方式で内皮の不安定化を引き起こす可能性があることを示唆した。
【0004】
炎症、肺炎、マイコプラズマ肺炎感染、敗血症、各種固形腫瘍、及び眼底疾患等の、多様な疾患が血管透過性や血管新生と関連していることが知られている。
【0005】
異常な血管新生によって引き起こされる加齢黄斑変性(AMD)及び糖尿病網膜症(DR)は、不可逆的な失明に至りうる。急性眼炎症モデル及び脈絡膜新生血管モデル(CNVモデル)を用いた前臨床試験により、ang-2とVEGFが病的血管新生と血管透過性に相乗的に関与していることが示された。したがって、抗VEGF療法以外でも、Tie2/アンジオポエチン伝達経路はまた、血管関連網膜症(例えば、新生血管加齢黄斑変性nAMD及び糖尿病黄斑浮腫DME)の治療標的とされてきた。一例として、Nesvacumab(Regeneron, Tarrytown, NY, USA)はIgG1型モノクローナル抗体であり、Ang2に高親和性で選択的に結合し、Tie2受容体へのAng2の結合を特異的にブロックし、aflibercept(抗VEGF-A)との併用により、nAMD及びDMEを治療することが提案されている。なお、VEGF-AとANG2を抑制する二重特異性抗体であるFaricimab(Roche、Basel、Switzerland及びGenentech、South San Francisco、CA、USAが共同開発)も、nAMD及びDMEの治療を提案されている。しかし、現在の治療法では、効果や治療負担の面ではまだ限界があると考えられている。Rehan M. Hussainら, Tie-2/Angiopoietin pathway modulation as a therapeutic strategy for retinal disease, Expert Opinion on Investigational Drugs, 2019, https://doi.org/10.1080/13543784.2019.1667333を参照されたい。
【0006】
急性細菌性或いはウイルス性肺炎、及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び急性肺損傷などの肺の炎症性疾患の特徴は、白血球の集積と微小血管の透過性の増加である。ARDSは、重度の肺損傷と高い死亡率につながるため懸念されている。ARDSの症状は、重度の低酸素、肺コンプライアンスの低下、びまん性肺胞障害、及び両側性肺浸潤を含む。ARDSは、直接的又は間接的な肺損傷によって引き起こされ、ここで肺の炎症が肺胞毛細血管関門の損傷を誘導し、それがARDSへと繋がる一つの重要な直接要因でありうる。現在、ARDS患者に対する治療の主要方法は機械的換気である。また、機械的換気以外の治療法として、肺水除去及び液体管理、肺胞表面活性物質の補給療法、β作動薬の投与、スタチン系薬の投与、並びに糖質コルチコイドの投与など様々な方法が提案されているが、それらのほとんどの確実な効果が確認されていなかった。さらに、炎症による肺損傷(SARSやCOVID-19ウイルスによる肺炎など)に対して、ホルモン剤であるデキサメタゾンの治療効果は臨床上に認められているが(DOI:10.1056/NEJMoa2021436)、その薬剤は大きな副作用を有し、かつ患者のその後の生活に対する薬剤の影響も次第に報告されている。
【0007】
血管透過性や血管新生におけるANG-2の役割を考えると、当該分野では、高特異的かつ選択的にANG-2を標的とし、ANG-2の生物活性を調節する新薬分子(抗ANG-2抗体など)及びその併用療法を継続的に開発し、血管関連疾患の治療に応用する需要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、抗ANG-2抗体、そのコード遺伝子及びその用途を提供した。本発明の発明者は、ハイブリドーマのスクリーニング、キメラ抗体の構築、ヒト化、及び親和性成熟(affinity maturation)を通じて、高親和性と特異性を有する本発明の抗ヒトANG-2抗体を得た。本発明の抗体は、ANG-2/受容体TIE2シグナル伝送経路、及びANG-2/インテグリンシグナル伝送経路を効果的にブロックでき、かつ脈絡膜新生血管動物モデルにおいて抗VAGE薬との相乗効果により、血管漏出を低減させ、新生血管を抑制し、かつ血管の完全性を改善した。また、本発明の抗体は、多種の網膜由来細胞へ低い非特異的結合性を示し、それによって眼底疾患治療のための硝子体内高濃度投与が容易となる。
【0009】
なお、本発明の発明者は、本発明の抗ANG2抗体が血管透過性、血管漏出、及び血管の炎症状態を改善でき、かつ肺の炎症性疾患、特にARDSにおいて肺の炎症細胞浸潤、血中酸素飽和度、肺水腫の重症度、肺重量体重インデックス(肺活量と体重の比率)、及び動物生存率等の各種パラメーターを改善する効果を発見した。さらに、本発明の抗ANG2抗体による本治療法は、ホルモン非依存的であり、かつ、一部のパラメータにおいてホルモン薬のデキサメタゾンの効果にも劣らず、むしろ優れた効果をもたらしうる。
【0010】
したがって、ある面において、本発明は、新しい抗ANG-2抗体及びその抗原結合断片を提供する。
【0011】
いくつかの実施態様において、本発明の抗ANG-2抗体は以下の一つ或いは複数の特性を有する。
(i)ヒトANG-2に高親和性で結合するが、ヒトANG-1には結合しない。
(ii)サルANG-2との交差免疫反応性を有する。
(iii)細胞表面のANG-2に効果的に結合する。
(iv)ANG-2と受容体TIE2の結合をブロックする。
(v)ANG-2とインテグリンとの結合をブロックする。
(vi)脈絡膜血管新生などの血管関連疾患において、抗VAGE薬と相乗的に作用し、血管漏出を低減させ、かつ新生血管形成を抑制し、そして血管完全性の改善する。
(viii)Ang2を発現しない細胞に対して、低い非特異的な結合活性を有する。
【0012】
いくつかの実施態様においては、本発明は、ANG-2に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、以下のものを含む:SEQ ID NO:19、21、23、25、27、及び29に示される重鎖可変領域の1つのHCDR1、2及び3配列;及び/又はSEQ ID NO:20、22、24、26、28、30に示される軽鎖可変領域の1つのLCDR1、2及び3;又は前記CDR配列コンビネーションのバリアント。
【0013】
いくつかの実施態様においては、本発明はまた抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片を提供し、前記抗体又はその抗原結合断片と本発明の例示的抗体(例えば、表Bに示すVH及びVL配列コンビネーションを有する抗体)とは同じ又は重複するエピトープに結合し、及び/又はANG-2に競合的に結合し、及び/又は本発明の例示的抗体を抑制する(例えば、競合的に抑制する)。
【0014】
いくつかの実施態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含むベクター、及び前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0015】
いくつかの実施態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片を調製する方法を提供する。
【0016】
いくつかの実施態様において、本発明は、本発明の抗体を含む、免疫コンジュゲート、多重特異性抗体、医薬組成物及びコンビネーション製品を提供した。
【0017】
いくつかの実施態様において、本発明はまた、サンプル中にヒト及び/又はカニクイザルANG-2を検出する方法に関する。
【0018】
一方で、本発明はまた本発明の抗体を用いて、対象におけるANG-2媒介の生物学的活性をブロックする方法を提供した。
【0019】
いくつかの実施態様において、本発明は、本発明の抗体を用いて、眼底血管新生疾患、肺の炎症、及び各種の固形腫瘍などの血管関連疾患を予防又は治療する方法を提供した。
【0020】
いくつかの実施態様において、本発明は、血管漏出及び/又は血管炎症状態に関連する疾患又は障害の治療における本発明の抗ANG2抗体の使用を提供した。その臨床応用において、本発明の方法で治療できる疾患又は障害には、ANG2により媒介される血管内皮透過性の増加をブロック(即ち、改善、抑制、寛解或いは軽減)することにより緩和される任意の疾患或いは障害、及び/又はANG2活性に関連する血管炎症候のある任意の疾患又は障害、例えば、血管漏出及び/又は血管炎を伴う任意の疾患又は障害が含まれる。これらの疾患又は障害としては、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、湿性加齢黄斑変性症(湿性AMD)、糖尿病網膜症、癌、敗血症、毛細血管漏出症候群、肺の炎性性疾患、血管浮腫、血管漏出症候群などが含まれるが、これらに限定されない。好ましい一実施態様において、前記疾患又は障害は、肺の炎症性疾患、例えば、ウイルス或いは細菌等の感染による肺の炎症(例えば、ウイルス性肺炎)、及び例えば、肺の炎症による、急性肺損傷或いは急性呼吸窮迫症候群等である。好ましい一実施態様において、前記疾患又は障害は、急性肺損傷(ALI)である。好ましい一実施態様において、前記疾患又は障害は、急性呼吸窮迫症候群である。
【0021】
一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に治療有効量の本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片、或いはそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、血管透過性を低減する方法を提供する。
【0022】
一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に、治療有効量の本発明における抗ANG2抗体或いは抗原結合断片、或いはそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、血管漏出の低減、及び/又は血管炎症状態を改善する方法を提供する。
【0023】
別の一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に、治療有効量の本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片、或いはそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、血管漏出を伴う疾患或いは障害を予防及び/又は治療する方法を提供する。
【0024】
別の一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に、治療有効量の本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片、或いはそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、血管の炎症を伴う疾患或いは障害を予防及び/又は治療する方法を提供する。
【0025】
別の一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に、治療有効量の本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片、或いはそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、肺の炎症性疾患、特に急性呼吸窮迫症候群及び急性肺損傷を予防及び/又は治療する方法を提供する。
【0026】
さらに別の一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に、治療有効量の本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片、或いはそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、肺組織の炎症細胞浸潤度、血中酸素飽和度、肺水腫の重症度、肺重量体重インデックス、肺組織の炎症性変化の程度、肺CT画像及び生存率の1つ或いは複数の急性呼吸窮迫症のパラメータを改善する方法に関する。
【0027】
いくつかの実施態様において、急性呼吸窮迫症候群は、肺の炎症性損傷(例えば、細菌或いはウイルス感染、又は細菌内毒素LPSなどの炎症誘発剤の使用)によって引き起こされる。好ましい一実施態様において、前記方法は予防的であり、ARDSを発症するリスクのある個体に使用される。さらに別の実施態様において、前記方法は治療的であり、既にARDSと診断された、或いはARDSの疑いがある個体に使用される。
【0028】
本発明の実施態様において、好ましくは、本発明の抗ANG2抗体は、ヒトANG-2と血管内皮細胞表面のヒトTIE2との結合、及び/又はヒトANG-2とインテグリンとの結合をブロックする。好ましくは、本発明の抗ANG2抗体は、ヒトANG-2により誘発される細胞内Tie2リン酸化を抑制する。
【0029】
本発明の実施態様において、好ましくは、本発明の抗ANG2抗体は、SEQ ID NO:1のHCDR1配列、SEQ ID NO:2のHCDR2配列、SEQ ID NO:3のHCDR3配列、SEQ ID NO:4のLCDR1配列、SEQ ID NO:5のLCDR2配列、及びSEQ ID NO:6のLCDR3配列を含む。より好ましくは、本発明のANG2抗体は、SEQ ID NO:25の重鎖可変領域VH配列とSEQ ID NO:26の軽鎖可変領域VL配列を含む。
【0030】
いくつかの実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、単剤として投与される。いくつかの実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、第2の治療剤と併用される。いくつかの実施態様において、第2の治療剤は、抗VEGF阻害剤である。いくつかの実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、VEGF阻害剤分子などのVEGF伝達経路阻害剤と別に(即ち、併用せず)単独で投与される。
【0031】
以下のような添付図面及び特定の実施態様により本発明を詳しく説明する。しかし、これらの添付図面及び特定の実施態様は、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではなく、当業者が容易に思いつく変更は、本発明の精神及び添付される請求項の保護範囲内に含まれるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1A-B】
図1A-1Bは、ELISA法により、抗体とhANG2タンパク質との結合活性を測定することを示す。
【
図2A-B】
図2A-2Fは、ELISA法により、抗体のAng2/Tie2結合に対する遮断作用を測定することを示す。
【
図2C-D】
図2A-2Fは、ELISA法により、抗体のAng2/Tie2結合に対する遮断作用を測定することを示す。
【
図2E-F】
図2A-2Fは、ELISA法により、抗体のAng2/Tie2結合に対する遮断作用を測定することを示す。
【
図3】
図3は、セルベースアッセイにおいて測定されるように、Ang2-Fc/Tieタンパク質結合に対する抗体の遮断作用を示す。
【
図4】
図4は、セルベースアッセイにおいて測定されるように、Ang2-Fcにより誘発されるTie2リン酸化に対する抗体の抑制効果を示す。
【
図5A-B】
図5A-5Bは、セルベースアッセイにおいて測定されるように、Ang2/インテグリン媒介の細胞接着に対する抗体の抑制効果を示す。
【
図6】
図6は、抗ANG2抗体hz81H10.4の非特異的な細胞結合の測定結果を示す。フローサイトメトリーを利用して、CHO細胞において発現された本発明の抗体が、ANG2を発現しない及びANG2を発現する各種由来の細胞における結合活性を測定し比較した。IgGアイソタイプ対照抗体を陰性対照とし、及びCHO細胞における発現されたNesvacumabを陽性対照とする。また、この図も、抗VEGF阻害剤分子(IBI304)の異なる細胞への結合を示す。
【
図7】
図7は、内皮細胞上の炎症マーカー分子発現に対する抗ANG2抗体hz81H10.4の影響を示す。
図7Aは、ANG1存在下でHUVEC-Tie2細胞におけるAng2感作した、TNFα誘発したCD54及びCD106発現を示す(*はp<0.05、**はp<0.01を示す)。
図7Bは、内皮細胞におけるANG2感作したCD54及びCD106発現に対する本発明の抗体及び陽性対照抗体の抑制効果を示し比較する。
【
図8】
図8は、HUVEC-Tie2内皮細胞試験において、抗ANG2抗体hz81H10.4の血管漏出に対する抑制効果を示す。
【
図9】
図9は、低用量LPSにより誘発されるARDS動物モデルにおいて、抗体hz81H10.4を投与した後、肺胞洗浄液中の白血球数及び細胞仕分け計数の結果を示す。
【
図10】
図10は、異なる用量のLPSにより誘発されるARDS動物モデルにおいて、塩化ナトリウム溶液の投与と比較した、動物の肺重量体重インデックスへの抗体hz81H10.4の投与の影響を示す。
【
図11】
図11は、異なる用量のLPSにより誘発されるARDS動物モデルにおいて、塩化ナトリウム溶液投与と比較した、動物生存率への抗体hz81H10.4投与の影響を示す。
【
図12】
図12は、LPSにより誘発されるARDSモデル動物における、抗ANG2抗体投与による肺の病理所見の改善効果を示す。各列は、LPS低用量、LPS中用量、及びLPS高用量によりARDSを誘発した動物において、抗体投与群及び対照の塩化ナトリウム溶液投与群の肺病理切片をそれぞれ示す。
【
図13】
図13は、LPSにより誘発されるARDS動物モデルにおいて、異なる用量の抗体hz81H10.4を投与した後、肺胞洗浄液中での白血球数及び細胞仕分け計数の結果を示す。対照群と比べ、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001、nsは統計的に有意でないことを示す。
【
図14】
図14は、ARDSモデル動物において、異なる濃度の抗体hz81H10.4とデキサメタゾンにより誘発される、血中酸素飽和度の改善度を示し比較する。対照群と比べ、**はp<0.01、***はp<0.001を示す。
【
図15】
図15は、ARDSモデルに対して、異なる濃度のhz81H10.4抗体とデキサメタゾンの投与による、肺の病理所見の改善度を示し比較する。各小図は、投与後のD7日に、塩化ナトリウム溶液投与の対照ARDS動物、2 mg/kgのデキサメタゾン投与のARDS動物、並びに5 mg/kg、15 mg/kg、及び25 mg/kgの抗体hz81H10.4の投与のARDS動物の肺病理切片の結果をそれぞれ示す。
【
図16】
図16は、異なる濃度の抗体hz81H10.4とデキサメタゾンの投与による、ARDS動物モデルの肺組織の炎症性病変の強度に対する影響を示す。
【
図17】
図17は、異なる濃度の抗体hz81H10.4とデキサメタゾンの投与による、ARDS動物モデルの肺部CT画像に対する改善度を示す。
【
図18】
図18は、レーザー誘発した脈絡膜新生血管モデルにおける、異なる処置後(対照、抗VEGF分子IBI304単剤、抗VEGF分子IBI304と本発明の抗体との併用)の血管造影の結果を示す。
【
図19】
図19は、レーザー誘発した脈絡膜新生血管モデルにおける、異なる処置後(対照、抗VEGF分子IBI304単剤、抗VEGF分子IBI304と本発明の抗体との併用)の血管漏出面積の減少を示す。
【
図20】
図20は、レーザーによる脈絡膜新生血管モデルにおいて、異なる投与後時間にレーザー損傷部位の血管漏出度のスコアを示す。
【
図21】
図21は、慣習のHE染色の病理組織学検査により、異なる処置後のレーザー損傷部位の組織において観察される、形態学的変化を示し、及び損傷し肥大した領域を比較する。
【
図22】
図22は、網膜の脈絡膜切片のCD31免疫組織化学染色の結果を示す。
【
図23】
図23は、網膜脈絡膜切片のCD31染色により統計されたCD31陽性細胞の割合を示す。
【
図24】
図24は、網膜の脈絡膜切片におけるCD31とDesminの二重蛍光染色により統計されたDesmin陽性細胞/CD31陽性細胞の割合を示す。
【
図26】
図26は、本発明の例示的抗体のVH及びVL配列を示す。
【
図27】
図27は、ヒトANG2の例示的アミノ酸配列、並びに本発明のキメラ抗体及びヒト化抗体を構築するために用いられる重鎖定常領域及び軽鎖定常領域のアミノ酸配列、並びに本発明の抗体と併用での使用のための例示的な抗VEGF分子のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、他に定義されない限り、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を持つ。本発明の目的のため、以下の用語が定義される。
【0034】
用語「約」は、数字・数値と組み合わせて使用する場合、下限が指定の数値より5%小さく、上限が指定の数値より5%大きいという範囲内の数値を指す。
【0035】
用語「及び/又は」は、選択肢のうちのいずれか、又は選択肢のうちの任意2つ以上の組み合わせを指すことと理解されるべきである。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「含む」又は「包括する」は、前記の要素、整数或いはステップを含むことを指すが、他の要素、整数或いはステップを除外しない。本明細書には、用語「含む」又は「包括する」が使用される場合、他を示さない限り、前記の要素、整数或いはステップをカバーすることをも指す。例えば、ある特定の配列を「含む」抗体可変領域と記載する場合、その特定の配列から成る抗体可変領域をカバーすることをも指す。
【0037】
本明細書において、用語「抗体」は、少なくとも軽鎖又は重鎖の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを指し、その免疫グロブリン可変領域が抗原を特異的に認識し結合する。その用語は、種々の抗体構造を包含し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖又は多鎖抗体、単一特異性抗体又は多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、キメラ抗体或いはヒト化抗体、完全抗体及び抗体断片等を含むが、これらに限定されなく、所望の抗原結合活性が示されればよい。
【0038】
当業者に理解されるように、「全抗体」(本明細書では「完全長抗体」、「完全抗体」及び「全長抗体」と互換的に使用することができる)は、少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書では「VH」と略される)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、CH3からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書では「VL」と略される)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、一つのドメインCLからなる。可変領域は、抗体の重鎖又は軽鎖において抗体とその抗原の結合に関与するドメインである。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、様々なエフェクター機能を呈する。抗体の軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、κ(カッパ)とλ(ラムダ)2種類のどちらかに属する。抗体の重鎖は、重鎖定数領域のアミノ酸配列に応じて、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5「タイプ」に分けられ、これらのタイプにおけるいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4、IgA1及びIgA2等のサブタイプにさらに分かれる。抗体の異なるタイプに対応する重鎖定常領域は、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。用語「アイソタイプ」は、抗体重鎖の定常領域によって決定される抗体タイプを指す。例えば、「Fundamental Immunology,Ch.7(Paul,W編.,第二版,Raven Press,N.Y.(1989)」を参照する(その全体を参照によってすべての目的のために本明細書に組み込む)。好ましい一実施態様において、本発明の方法では、2本の重鎖と2本の軽鎖を含む完全抗体、特にIgG型抗体を使用した。
【0039】
抗体の「抗原結合部分」という用語(本明細書において「抗体断片」及び「抗原結合断片」と互換的に使用できる)は、非完全な抗体の分子を指し、完全抗体におけるその完全抗体に結合するために結合される抗原部分を含む。当業者に理解されるように、抗体の抗原結合部分は、通常には、「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基を含む。抗原結合断片は、組換えDNA技術、或いは酵素又は化学的な手段で完全抗体を切断することにより調製することができる。抗原結合断片としては、Fab、scFab、Fab'、F(ab')2、Fab'-SH、Fv、一本鎖Fv、二本鎖抗体(diabody)、三本鎖抗体(triabody)、四本鎖抗体(tetrabody)、マイクロ抗体(minibody)、単一ドメイン抗体(sdAb)などが含まれるが、それらに限定されない。抗体断片のより詳細な説明については、「Fundamental Immunology,W.E.Paul編集,Raven Press,N.Y.(1993);Shao Rongguang, et al. (Editor), Research and Application of Antibody-based Drugs. People's Medical Publishing House (2013);Hollinger et al.,PNAS USA 90:6444-6448(1993);Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)」等を参照してもよい。
【0040】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合断片は、以下のような構造の可変領域と定常領域の組み合わせ(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;及び(xiv)VL-CLを含みうる。
【0041】
用語「キメラ抗体」は、可変領域の配列がある種に由来し、定常領域の配列が他種に由来する抗体を指す。例えば、可変領域の配列がマウス抗体に由来し、定常領域の配列がヒト抗体に由来する抗体である。
【0042】
用語「ヒト化抗体」は、マウス系統などの他の哺乳類に由来するCDR配列をヒトのフレームワーク配列に結合させる抗体を指す。ヒトのフレームワーク配列内にフレームワーク領域をさらに修飾することが可能である。
【0043】
「単離の」抗体とは、その自然環境の構成要素から分離された抗体を指す。いくつかの実施態様において、抗体は、95%超又は99%の純度に精製される。前記純度は、電気泳動法(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)等により確認される。抗体の純度を評価する方法の概括評価については、例えば、「Flatman,S.等,J.Chrom.B 848(2007)79-87」を参照する。
【0044】
用語「エピトープ」は、抗体により結合される抗原の領域を指す。エピトープは、連続のアミノ酸により形成され、或いはタンパク質のフォールディング(三次元構造)により並置された非連続のアミノ酸により形成されうる。
【0045】
本明細書において、用語「ANG-2」及び「ANG2」は互換的に使用してもよく、アンジオポエチン2を指す。その表現はANG-2のバリアント、アイソタイプ、ホモログ及び種ホモログを含む。用語「ヒトANG-2」は、ヒト配列のANG-2を指す。特定のヒトANG-2の配列は、SEQ ID NO:51に示されている。いくつかの実施態様において、ヒトANG-2配列は、SEQ ID NO:51におけるヒトANG-2アミノ酸配列に対して少なくとも95%、又はさらに少なくとも96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列の同一性を有する。マウスやサル等他種のANG-2タンパク質のアミノ酸配列は、NCBIのタンパク質配列データベースにより、例えば登録番号NP_031452及びBAE89705.1から入手できる。本明細書において、ANG-2は、ANG-2の断片をも包括する。例えば、完全のANG-2分子の生物学的機能を発揮できる断片、例えば、C末端FLDドメインを含む断片。本明細書において、用語「ANG2」は、非ヒト由来(例えば、「マウスANG2」又は「サルANG2」)であることを明示しない場合、ヒト由来のANG2又はその生物学的活性断片を指す。
【0046】
本明細書において、用語「ANG1又はANG-1」は、アンジオポエチン1を指す。これまでの研究により、Ang1は血管の定常状態の維持や成人の血管漏出の防止に有益な作用を持つことが示されている。本明細書において、ANG2とANG1は相当のアミノ酸配列同一性を有し、TIE2受容体の同じ部位に競合的に結合するにもかかわらず、本発明の抗体はANG2に結合し、ANG1には結合しない。ヒトANG1のアミノ酸配列は、NCBIのタンパク質配列データベースにより登録番号AAB50557から入手できる。本明細書において、用語「ANG1」は、非ヒト由来(例えば、「マウスANG1」又は「サルANG1」)であることを明示しない場合、ヒト由来のANG1又はその生物学的活性断片を指す。
【0047】
本明細書において、用語「Tie2」(「TEK」とも称される)は、Ig及びEGF相同ドメインを有するチロシンキナーゼ2を指す。本明細書において、非ヒト由来(例えば、「マウスTIE2」又は「サルTIE2」)であることを明示しない場合、用語「TIE2」は、ヒト由来のTIE2又はその生理学活性断片を指す。ヒトTIE2のアミノ酸配列は、NCBIの配列データベースにより登録番号AAA61130から入手できる。
【0048】
用語「特異的に結合する」は、抗体が抗原に選択的又は優先的に結合することを指す。生体光干渉測定において、抗体は、約5×10-7M以下、約1×10-7M以下、約5×10-8M以下、約1×10-8M以下、又は約5×10-9M以下のKDでヒトANG-2に結合する場合、その抗体は「ヒトANG-2に特異的に結合する」抗体である。しかし、ヒトANG-2に特異的に結合する抗体は、他種由来のANG-2タンパク質と交差反応性を有しうる。例えば、いくつかの実施態様において、ヒトANG-2に特異的に結合する抗体は、カニクイザル由来ANG-2タンパク質と交差反応を起こるが、マウス由来ANG-2とは交差反応を起こらない。交差反応性を測定する方法は、実施例に記載される方法及び当該分野で既知の標準測定法、例えば、生体光干渉、フローサイトメトリーを用いることによる方法を含む。
【0049】
「親和性」又は「結合親和性」は、結合ペアのメンバー間の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XとそのパートナーYとの親和性は、通常には、解離速度定数と結合速度定数(kdisとkon)の比である平衡解離定数(KD)で表す。親和性は、当業界で既知の一般的な方法で測定することができる。親和性を測定するための具体的な方法は、本明細書におけるForteBio動力学測定法である。
【0050】
IgG抗体について、用語「高親和性」は、その抗体が1x10-7M以下、好ましくは5x10-8M以下、より好ましくは約1x10-8M以下、さらに好ましくは約5x10-9M以下のKDで標的抗原に結合することを指す。しかし、「高親和性」結合は、抗体のアイソタイプによって異なる。例えば、IgMアイソタイプの場合、「高親和性」とは、抗体が1x10-6M以下、好ましくは1x10-7M以下、より好ましくは約1x10-8M以下のKDを有することを指す。
【0051】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、ANG2中和抗体又はブロッキング抗体である。その抗体は、ANG2に結合すると、ANG2とその受容体(TIE2)及び/又はインテグリンとの相互作用をブロックし、及び/又はANG2の少なくとも1つの生物学的活性を抑制する。当業界で周知の測定方法又は本明細書に記載の測定方法、例えば、実施例に例示された方法を使用し、前記中和抗体及びブロッキング抗体の活性を測定する。
【0052】
抗原(例えば、ANG-2)に結合する参照抗体と「競合的に結合する抗体」について、前記抗体が競合試験において参照抗体と抗原(例えば、ANG-2)との結合を50%以上ブロックし、一方で、競合試験において参照抗体はその抗体と抗原(例えば、ANG-2)の結合を50%以上ブロックする。例示的競合試験は、「“Antibodies”,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY)」に記載されている。「競合的に結合する抗体」は、参照抗体と同じエピトープ領域、例えば、同じエピトープ、隣接するエピトープ、又は重複するエピトープに結合することができる。
【0053】
参照抗体とその抗原との結合を抑制する(例えば、競合的に抑制する)抗体とは、前記参照抗体とその抗原との結合を50%、60%、70%、80%、90%又は95%より高く抑制する抗体である。一方で、また参照抗体は、その抗体と抗原との結合を50%、60%、70%、80%、90%又は95%より高く抑制する。抗体とその抗原との結合は、親和性(例えば、平衡解離定数等)で測定することができる。親和性を測定する方法は当該分野で既知である。
【0054】
参照抗体と相同又は類似の結合親和性及び/又は特異性を示す抗体とは、参照抗体の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%以上の結合親和性及び/又は特異性を有する抗体である。それは、当該分野において既知の任意の結合親和性及び/又は特異性の測定法によって測定する。
【0055】
本明細書において、用語「Fc部分」は、少なくとも定常領域の一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。その用語は、天然配列のFc部分とバリアントFc部分を含む。一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc部分は、重鎖のCys226、或いはPro230からカルボキシル基末端まで延びている。しかし、Fc部分のC末端リジン(Lys447)は存在してもしなくてもよい。本明細書において、特に示さない限り、Fc部分又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号は、EU番号付けシステム(EU検索データベースとも称される)に基づいて記載される。例えば、「Kabat,E.A.等,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91-3242」のように記載される。
【0056】
抗体に関連する用語「バリアント」は、本明細書において、参照抗体と比べ、少なくとも1個、例えば1~30、又は1~20、又は1~10、例えば1又は2、3、4、5個のアミノ酸置換、欠失及び/又は挿入によりアミノ酸変化を有する標的抗体領域を含む抗体を指す。その中に記載のバリアントは、変化前の抗体分子の少なくとも1つの生物学特性(例えば、抗原結合能)を実質的に維持する。標的抗体領域は、抗体の全長、或いは重鎖可変領域、或いは軽鎖可変領域、又はそれらの組み合わせ、或いは(1つ又は複数)重鎖CDR領域、或いは(1つ又は複数)軽鎖CDR領域、又はそれらの組み合わせであってもよい。 本明細書において、参照抗体領域に対し、アミノ酸変化を有する抗体領域をその抗体領域の「バリアント」とも称される。
【0057】
本明細書において、「配列同一性」とは、比較ウインドウ内にヌクレオチド単位又はアミノ酸単位で比較する場合、配列相同の度合いを指す。「配列同一性パーセント」は、比較ウインドウ内の最もよく一致する2つの配列を比較し、両配列に一致する核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は一致するアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys及びMet)の位置数を決定することによりマッチング位置の数を求め、マッチング位置の数で比較ウインドウ内の全位置数(即ち、ウインドウ範囲)を割り、またその結果を100をかけ、配列同一性パーセントを算出する。配列同一性パーセントを確認するために行われる最適な比較は、当業界で既知の様々な方法で達成することができる。例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等開示されたコンピュータソフトウェアを使用する。当業者は、配列を比較するための適切なパラメータを決定することができる。比較される全長配列範囲内又は標的配列領域内で最大限の比較を達成するために必要な任意のアルゴリズムが含まれる。
【0058】
本発明において、抗体配列の場合、アミノ酸の配列同一性パーセントは、候補抗体配列と参照抗体配列を最適に比較した後に決定される。好ましい実施態様においては、Kabat番号付け規則に基づき、最適に比較した後に決定される。本明細書において、比較ウインドウ(即ち、比較待ちの標的抗体領域)を指定しない場合、参照抗体配列の全長にわたる比較に適用される。いくつかの実施態様において、抗体について、配列の同一性は、重鎖可変領域全体及び/又は軽鎖可変領域全体に当たってもよく、或いは配列同一性パーセントは、フレームワーク領域のみに限定されるが、CDR領域に対応する配列は100%の同一性を維持する。
【0059】
同様に、抗体配列について、比較することに基づき、参照抗体に対して標的抗体領域にアミノ酸変化を有する候補抗体を決定することができる。
【0060】
本発明において、「保守的置換」(conservative substitution)とは、あるアミノ酸を化学的に類似したアミノ酸に置き換えることによるアミノ酸変化と指す。当業界で既知される標準方法(例えば、部位特異的変異導入(Site-directed mutagenesis)やPCR媒介の変異導入等)によって、置換などのアミノ酸修飾を本発明の抗体に導入することができる。機能的に類似するアミノ酸の保守的置換一覧表を提供することは、当業界で周知されている。好ましい態様において、保守的置換の残基は、以下の保守的置換一覧表Aに由来し、好ましくは、表Aに示される好ましい保守的置換の残基である。
【表1】
【0061】
いくつかの実施態様において、本発明の方法において使用される本発明の抗体は、保守的置換を有する抗体配列、例えば、1つ以上の保守的置換、特に表Aにおける好ましい保守的置換を本発明の例示的抗体配列(例えば、SEQ ID NO:1‐10のいずれか又は組み合わせ)に導入することによって得られる抗体配列であってもよい。
【0062】
本明細書において、用語「個体」又は「対象」は互換的に使用されてもよい、哺乳動物を指す。哺乳動物には、家畜(例えば、乳牛、羊、猫、犬及び馬)、霊長類(例えば、ヒト、サルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類動物(例えば、マウス及びラット)などが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、対象がヒトであること。
【0063】
本明細書において、「治療」とは、1)診断された病的状態又は疾患の症状を治癒、緩和、軽減し、及び/又はその診断された病的状態又は疾患の進行を中止させる治療的な措置、2)病的状態又は疾患の進行を予防及び/又は緩和させる予防或いは防止的な措置などを意味する。したがって、治療を必要とする対象は、すでに疾患のある個体、疾患にかかりやすい個体、疾患を予防したい個体などを含む。前記個体は、前記治療又は予防的な措置によりベネフィットを受け、前記処置を受けない個体と比べ、疾患、障害、病状、及び/又は症状の発症、再発或いは進行の緩和又は改善が示される。いくつかの実施態様において、本発明は、疾患又は障害の治療に関する。別のいくつかの実施態様において、本発明は、疾患又は障害の予防に関する。
【0064】
本発明によるいくつかのの実施態様において、疾患又は障害の「治療」は、疾患又は障害の改善(即ち、疾患の進行或いは少なくとも1つの臨床症状が緩和、中止又は軽減された)を意味する。別のいくつかの実施態様において、「治療」とは、患者により判断できない身体的パラメータ等を含む少なくとも1つの生理的パラメータの寛解或いは改善を意味する。別のいくつかの実施態様において、「治療」とは、身体上(例えば、安定的に識別可能の症状)、生理上(例えば、安定的な身体パラメータ)、又はその両方から疾患或いは障害を治療することを意味する。本明細書に明らかに記載されていない限り、疾患又は障害の治療効果及び/又は予防効果を評価する方法は、当業分野において一般的に既知される方法である。
【0065】
本発明によるいくつかの実施態様において、疾患又は障害の「治療」は、疾患又は障害の「予防」を指し、疾患又は障害或いは特定の疾患又は障害の症状の発症又は進行を抑制することを含む。いくつかの実施態様において、対象は、予防療法における候補者である。通常、用語「予防」は、疾患又は障害の徴候或いは症状の発症前(特に疾患リスクのある対象)に薬剤を投与することを指す。
【0066】
本明細書において、用語「治療有効量」、「予防有効量」又は「有効量」は、細胞、組織又は対象に本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片を単独で又は他の薬剤と組み合わせて投与する場合、一種類以上の疾患又は障害の症状、若しくはその疾患又は障害の進行を効果的に予防又は改善する用量を指す。治療有効量とは、また、十分に症状の改善をもたらす抗体又はその抗原結合断片の用量を意味し、例えば、関連病状を治療、治癒、予防或いは改善する用量、或いはその病状の治療、治癒、予防或いは改善を加速させる用量を指す。ある有効成分を単独で個体に投与する場合、治療有効量は、その成分の量のみを指す。一つ以上の有効成分を併用する場合、治療有効量は、並行投与、順次投与、また同時投与にかかわらず、治療効果をもたらす有効成分の合計量を指す。治療薬の有効量は、診断基準或いはパラメータを少なくとも10%、通常には20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは40%以上、最も好ましくは50%以上向上させる。
【0067】
本明細書において、VEGF阻害剤は、VEGF又はVEGF受容体の機能・活性をブロックする抗VEGF薬を指す。抗VEGF薬としては、例えば、VEGF-Aに特異的に結合するモノクローナル抗体、そのメカニズムがVEGFに結合することによりVEGFとその受容体との結合をブロックする目的を達成する。また、VEGF受容体の細胞外断片と免疫グロブリンFc部分からなるVEGFR阻害剤は、VEGFに対して天然的な高特異性を有する。抗VEGF剤の他の例としては、VEGF-Trap(例えばUS7,087,411を参照)、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ)、VEGF受容体の低分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ)などが挙げられる。本発明の一実施態様において、本発明の抗体と併用するための第2の治療剤は、VEGF阻害剤である。本発明の一実施態様において、本発明の抗体は、VEGF阻害剤と別々単独(併用せず)で投与される。
【0068】
本発明の各面について、以下の各項目で詳しく説明する。
I.本発明の抗ANG-2抗体について
本発明の一態様において、ANG-2 、好ましくはヒトANG-2タンパク質(例えば、SEQ ID NO:51のヒトANG-2配列)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。いくつかの実施態様において、本発明の抗体の抗原結合断片は、以下の抗体断片から選択される:Fab、Fab'、Fab'-SH、Fv、単鎖抗体(例えば、scFv)、(Fab')2断片、単一ドメイン抗体、二重抗体(dAb)、及び線形抗体(linear antibody)。
【0069】
抗体の有利な生物学特性
いくつかの実施態様において、好ましくは、本発明の抗体は、以下のものからなる群より選択される1つ或いは複数の有利な特性を有する:
(i)ヒトANG-2に高親和性で結合するが、ヒトANG-1に結合しない。一実施態様において、ForteBio親和性測定(例えば、実施例3.1に記載の測定方法)によって、抗体は、約0.1-10x10-9MのKD値でヒトANG2に結合するが、ヒトANG1に結合しない(結合せず解離する傾向)。一実施態様において、表面プラズモン共鳴アフィニティーアッセイ(例えば、実施例3.2に記載の測定方法)に基づいて、抗体は約1-10x10-11MのKD値でヒトang2に結合する。
(ii)サル及びウサギのANG-2と交差免疫反応性を有するが、マウス由来のANG-2と交差反応を起こらない。一実施態様において、ForteBio親和性測定(例えば、実施例3.1に記載の測定方法)によって、抗体は約1-10x10-8MのKD値でカニクイザルANG2のC末端FLDドメインに結合する。一実施態様において、表面プラズモン共鳴アフィニティーアッセイ(例えば、実施例3.2に記載の測定方法)に基づいて、抗体は約1-10×10-10MのKD値でアカゲザル及び/又はウサギのang2に結合する。
(iii)ヒトANG-2とヒトTie2タンパク質との結合をブロックする。いくつかの実施態様において、ヒトAng2或いはSA-ビオチン-ANG2に基づくELISA測定法(例えば、実施例5に記載される測定方法)において、抗体のIC50値を測定する。いくつかの実施態様において、本発明の抗体が約0.1‐5 nMのIC50値を有する。
(iv)ヒトANG-2と細胞表面のヒトTie2の結合をブロックする。いくつかの実施態様において、FACS測定方法(例えば、実施例6に記載の測定方法)において、例えば、ヒトTIE2を発現する293細胞を用いて、抗体のIC50値を測定する。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は約1~5 nMのIC50値を有する。いくつかの実施態様において、本発明の抗体が完全にANG2とTie2発現細胞との結合をブロックする。
(v)ヒトANG-2による内皮細胞内Tie2リン酸化を抑制する。いくつかの実施態様において、実施例7に記載されるように、抗体とヒトANG-2及びTIE2を発現する細胞(例えば、293細胞)と共インキュベートすることにより、抗体による細胞内にリン酸化されたTIE2の量の変化を測定し、抗体のIC50値を確認する。いくつかの実施態様において、前記IC50値は約1-5 nMである。
(vi)ヒトANG-2とインテグリンとの結合をブロックし、ANG2/インテグリン媒介の細胞接着を抑制する。いくつかの実施態様において、実施例8に示されるように、CellTiter-Glo(登録商標)発光アッセイを用いて、インテグリンを発現する細胞(例えば、U87細胞)上に、hANG2/インテグリン媒介の細胞接着に対する抗体の抑制作用を測定する。
(vii)ANG2を発現しない細胞と比べ、ANG2発現細胞に高い結合特異性と選択性が示される。
【0070】
好ましくは、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、上記の特性のうち少なくとも1つ、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくは3つ以上、4つ以上、又は5つ以上、さらにすべての特性を示す。好ましくは、本発明の抗体は、ヒト化抗体である。さらに好ましくは、本発明の抗体は、CHO細胞などの哺乳類動物の生殖細胞から産生・単離される抗体である。
【0071】
抗体CDR領域
「相補性決定領域」又は「CDR領域」又は「CDR」(本明細書において超可変領域「HVR」と互換的に使用できる)は、抗体の可変領域に抗原エピトープとの結合を主に担うアミノ酸領域である。重鎖及び軽鎖のCDRは通常にCDR1、CDR2及びCDR3と呼ばれ、N末端から順次に番号がつけられる。抗体重鎖の可変ドメイン内にあるCDRはHCDR1、HCDR2及びHCDR3と呼ばれ、抗体軽鎖の可変ドメイン内にあるCDRはLCDR1、LCDR2、LCDR3と呼ばれる。
【0072】
本発明におけるいくつかの例示的抗体のVH及びVL配列コンビネーションは、以下の表Bに示される。
【表2】
【0073】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明の抗体は、(i)SEQ ID NO:25のVHにおけるHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列;及び(ii)SEQ ID NO:26のVLにおけるLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列を含む。
【0074】
与えられたVH或いはVLのアミノ酸配列においてそのCDR配列を決定するための様々な方案は、当該分野でよく知られている。例えば、Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列の変異性に基づき決定され、かつ一般的に使用されているものである(Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。Chothiaのスキームは構造ループの位置を指す(Chothia and Lesk,J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM HVRはKabat HVRとChothia構造ループの間の折衷であり、またOxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアに使用される。「接触性」(Contact)HVRは、入手可能な複合体の結晶構造の解析に基づく。異なるCDRの決定方案に応じて、これらのHVRにおける各HVR/CDRの残基が以下のように記載される。
【表3】
【0075】
また、HVRは、Kabat番号付けシステムにより、以下のKabat残基位置にあるHVR配列である:
VLにおける位置24~36或いは24~34(LCDR1)、位置46~56或いは50~56(LCDR2)、位置89~97或いは89~96(LCDR3);並びにVHにおける位置26~35或いは27~35B(HCDR1)、位置50~65或いは49~65(HCDR2)、及び位置93~102、94~102或いは95~102(HCDR3)。
【0076】
一実施態様において、本発明の抗体のHVRは、Kabat番号付けシステムにより、以下のKabat残基位置にあるHVR配列である:
VLにおける位置24~34(LCDR1)、位置50~56(LCDR2)、位置89~97(LCDR3)、並びにVHにおける位置26~35(HCDR1)、位置50~65(HCDR2)、位置95~102(HCDR3)。
【0077】
HVRはまた、参照CDR配列(例えば、本発明における例示的なCDRのいずれか;例えば、配列SEQ ID NOs:1-6)と同じKabat番号付け位置を有することに基づき決定されてもよい。
【0078】
特に説明しない限り、本発明において、用語「CDR」又は「CDR配列」又は「HVR」又は「HVR配列」は上記のいずれかの方法で決定されるHVR又はCDR配列を包含する。
【0079】
特に説明しない限り、本発明において、抗体の可変領域における残基の位置(重鎖可変領域残基及び軽鎖可変領域残基を含む)に言及する場合、Kabat番号付けシステム(Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))による番号の位置を指す。
【表4】
【0080】
一実施態様において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。その中に記載の抗体は、以下のものを含む:
(i)表Bに記載のいずれかの抗体におけるVH及びVL配列に含まれる6つのCDR配列、又は
(ii)表Cに記載のいずれかのコンビネーション中の6つのCDR配列、又は
(iii)(i)又は(ii)の配列に対して、6つのCDR領域に少なくとも1つ、且つ10又は5、4、3、2、1以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保守的置換)を含む配列。
【0081】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、以下のものを含む:
(i)SEQ ID NO:19、21、又は23に示される重鎖可変領域のHCDR1、2、及び3配列、並びにSEQ ID NO:20、22、又は24に示される軽鎖可変領域のLCDR1、2、及び3配列。
(ii)SEQ ID NO:25に示される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3配列、並びにSEQ ID NO:26に示される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3配列。
(iii)SEQ ID NO:27に示される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3配列、並びにSEQ ID NO:28に示される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3配列、又は、
(iv)SEQ ID NO:29に示される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3配列、並びにSEQ ID NO:30に示される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3配列。
【0082】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、及び軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含み、その中に
-HCDR1は、SEQ ID NO:1、7、13及び54から選択されるアミノ酸配列を含む、又はそれらからなる。
-HCDR2は、SEQ ID NO:2、8、14又は55から選択されるのアミノ酸配列を含む、又はそれらからなる。
-HCDR3は、SEQ ID NO:3、9、25又は56から選択されるのアミノ酸配列を含む、又はそれらからなる。
-LCDR1は、SEQ ID NO:4、10、16又は57からのアミノ酸配列を含む、又はそれらからなる。
-LCDR2は、SEQ ID NO:5、11、17又は58からのアミノ酸配列を含む、又はそれらからなる。且
-LCDR3は、SEQ ID NO:6、12、18又は59からのアミノ酸配列を含む、又はそれらからなる。
【0083】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、及び軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含み、その中に
(a)HCDR1はSEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を含む。HCDR2はSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含む。HCDR3はSEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含む。LCDR1はSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含む。LCDR2はSEQ ID NO:5に示されるアミノ酸配列を含む。かつLCDR3は、SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を含む。又は、
(b)HCDR1はSEQ ID NO:7に示すアミノ酸配列を含む。HCDR2はSEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含む。HCDR3はSEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含む。LCDR1はSEQ ID NO:10に示すアミノ酸配列を含む。LCDR2はSEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含む。かつLCDR3は、SEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を含む。又は、
(c)HCDR1はSEQ ID NO:13に示されるアミノ酸配列を含む。HCDR2はSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を含む。HCDR3はSEQ ID NO:15に示されるアミノ酸配列を含む。LCDR1はSEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を含む。LCDR2はSEQ ID NO:17に示されるアミノ酸配列を含む。かつLCDR3はSEQ ID NO:18に示されるアミノ酸配列を含む。又は、
(d)HCDR1はSEQ ID NO:54に示されるアミノ酸配列を含む。HCDR2はSEQ ID NO:55に示されるアミノ酸配列を含む。HCDR3はSEQ ID NO:56に示されるアミノ酸配列を含む。LCDR1はSEQ ID NO:57に示されるアミノ酸配列を含む。LCDR2はSEQ ID NO:58に示されるアミノ酸配列を含む。かつLCDR3はSEQ ID NO:59に示されるアミノ酸配列を含む。
【0084】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、及び軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含み、その中に
-HCDR1は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を含む、或いはそれからなる。
-HCDR2は、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含む、或いはそれからなる。
-HCDR3は、SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含む、或いはそれからなる。
-LCDR1は、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含む、或いはそれからなる。
-LCDR2は、SEQ ID NO:5に示されるアミノ酸配列を含む、或いはそれからなる。且つ、
-LCDR3は、SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を含む、或いはそれからなる。
【0085】
いくつかの実施態様において、本発明は本明細書に提供されるCDR配列のバリアントを含む抗体も考える。例えば、Kabat法、Chothia法、AbM法、Contact法のうち2種類以上の方法を使用し、最小重複領域を特定し、抗原結合用の「最小結合単位」を提供する。最小結合単位の以外、CDR配列の残りの部分の残基は、抗体の構造及びタンパク質の折り畳みによって特定できることは、当業者には了承されている。したがって、CDRバリアントの例として、最小結合単位のアミノ酸残基が変化ないことを維持し、Kabat又はChothiaスキームに従う残りのCDR残基の1つ以上を、例えば表Aに提供される保守的アミノ酸残基に置換することができる。本明細書に記載の方法(例えば、実施例に記載の方法)を用いて、その抗体の活性、例えばヒトANG-2との結合活性、ANG-2とTie2及び/又はインテグリンとの結合をブロックする活性、及び/又は血管透過性及び/又は血管炎症状態を調節する活性が特徴付けられる。各CDRは、個別に修飾してもよいし、組み合わせて修飾してもよいことが理解されるだろう。好ましくは、アミノ酸修飾はアミノ酸置換、特に保守的アミノ酸置換であり、例えば、表Aに記載の好ましい保守的アミノ酸置換である。いくつかの実施態様において、アミノ酸置換は、好ましくは、本明細書に提供される共通のCDR配列(例えば、SEQ ID NO:54、55、56、57、58、59)のX残基に対応するアミノ酸位置で発生する。
【0086】
抗体可変領域
「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖における抗体とその抗原との結合に関与するドメインである。重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)は、さらに超可変領域(HVR、相補性決定領域(CDR)も呼ばれる)に細分化され、その間に保守的領域(即ち、フレームワーク領域(FR))が挿入される。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に並べる。
【0087】
当該分野では既知のであるように、二つ可変領域のうちの一つ或いは両者(即ち、VH及び/又はVL)における1つ以上の残基を修飾でき、例えば、1つ以上のCDR領域及び/又1つ以上のフレームワーク領域における残基を修飾すること、特に保守的残基置換を行うことができる。また、得られた修飾された抗体は依然として修飾前と比べて、抗体分子の1つ以上の生物学的特性(例えば、抗原結合能)をほとんど保持する。変異後の抗体の結合特性或いは他の機能特性は、in vitro又はin vivo試験で評価することができる。例えば、抗体の特性を向上するために、フレームワーク領域の残基を変異させることができる。例えば、1つ以上のフレームワーク残基を対応の生殖細胞系列の配列残基に「復帰突然変異(reverse mutation)」することができる。
【0088】
CDR移植は、当業界で既知のほかの抗体可変領域修飾の方法である。CDR配列はほとんどの抗体-抗原相互作用を担うため、既知の抗体の特性を模倣した組換え抗体バリアントを構築することができる。該当抗体バリアントにおいて、既知の抗体のCDR配列は、異なる特性を有する異なる抗体のフレームワーク領域に移植される。したがって、一実施態様において、本発明は、これらの抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片に関し、前記抗体は、表Bにおける抗体の重鎖及び軽鎖可変領域からのCDR配列を含むが、異なるフレームワーク領域配列を有する。そのような置換のためのフレームワーク領域配列は、生殖細胞系列抗体遺伝子配列を含む共通DNAデータベース、或いは公開されたANG-2抗体配列から入手できる。例えば、GenBankデータベースからヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子をコードする生殖細胞系列DNAを利用できる。抗体タンパク質の配列は、Gapped BLASTなどの配列類似性検索ツールを用いて、データベース内のタンパク質配列と比較することができる。好ましくは、置換のためのフレームワーク配列は、修飾のために選択された本発明の抗体のフレームワーク配列と比較して、構造的な類似性を有し、例えば、少なくとも80%、85%、若しくは90%、又は95%、96%、97%、98%、若しくは99%を超える配列同一性を有するフレーム配列である。
【0089】
したがって、一実施態様において、本発明の抗体は、表Bに記載のいずれかの抗体の重鎖可変領域VH配列を含むか又はそれからなる。一実施態様において、本発明の抗体は、前記VH配列のバリアントを含む。
【0090】
別の一実施態様において、本発明の抗体は、表Bに記載のいずれかの抗体の軽鎖可変領域VL配列を含むか又はそれからなる。一実施態様において、本発明の抗体は、前記VL配列のバリアントを含む。
【0091】
一実施態様において、本発明の抗体は、以下のものを含む:
(i)SEQ ID NO:19又は21又は23に示されるアミノ酸配列を含むVH配列又はそのバリアント、及び/又はSEQ ID NO:20又は22又は24に示されるアミノ酸配列を含むVL配列又はそのバリアント、又は、
(ii)SEQ ID NO:25又は27又は29に示されるアミノ酸配列を含むVH配列又はそのバリアント、及び/又はSEQ ID NO:26又は28又は30に示されるアミノ酸配列を含むVL配列又はそのバリアント。
【0092】
一実施態様において、VH配列のバリアントは、アミノ酸配列において、参照VH配列と比較し、(好ましくは、全長又はCDR1、2及び3の3領域において)、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上同一性を有する。一実施態様において、VH配列のバリアントは、アミノ酸配列において、参照VH配列と比較し、(好ましくは、全長又はCDR1、2及び3の3領域において)、1つ以上且つ30、10以下、又は5、4、3、2、1、0のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保守的置換)を含む。好ましくは、配列の違いは、CDR領域で生じらない。
【0093】
好ましい一実施態様において、VL配列のバリアントは、アミノ酸配列において、参照VL配列と比較し、(好ましくは、全長にわたり又はCDR1、2、3の3領域において)、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上同一性を有する。好ましい一実施態様において、VL配列のバリアントは、アミノ酸配列において、参照VL配列と比較し、(好ましくは、全長又はCDR1、2、3の3領域において)、1つ以上且つ30、10以下、又は5、4、3、2、1、0のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保守的置換)を含む。好ましくは、配列の違いは、CDR領域で生じらない。
【0094】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、表Bに記載のいずれかの抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域VH/VL配列ペアを含むか、又はそれらからなる。また、本発明は、当該抗体のバリアントを、例えば、VH、VL或いはVH及びVLの両方において少なくとも95~99%の同一性を有するバリアント、或いは10以下のアミノ酸変化を含むバリアントを提供する。好ましくは、配列の違いは、CDR領域で生じない。
【0095】
いくつかの実施態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合断片を提供し、以下のものを含む:
(i)SEQ ID NO:19、21、又は23に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される重鎖可変領域;及び/又はSEQ ID NO:20、22、又は24に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される軽鎖可変領域。又は
(ii)SEQ ID NO:25、27、又は29に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される重鎖可変領域;及び/又はSEQ ID NO:26、28、又は30に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される軽鎖可変領域。
【0096】
いくつかの実施態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合断片を提供し、以下のものからなる群から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む:
(i)SEQID NO:19、21、又は23に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される重鎖可変領域;及びSEQ ID NO:20、22、又は24に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される軽鎖可変領域。
(ii)SEQ ID NO:25、27、又は29に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される重鎖可変領域;及びSEQ ID NO:26、28、又は30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は前記アミノ酸配列から構成される軽鎖可変領域。
【0097】
本発明の好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、重鎖可変領域を含む。その重鎖可変領域は、SEQ ID NO:25配列を含むか、又はそれからなる。本発明の好ましい一実施態様でにおいて、本発明の抗体は、軽鎖可変領域を含む。その軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:26配列を含むか、又はそれからなる。より好ましい実施態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:25の重鎖可変領域VH配列及びSEQ ID NO:26の軽鎖可変領域配列を含む。
【0098】
本発明のいくつかの実施態様において、本発明の抗体は、以下のものを含む。
(i)SEQ ID NO:25に示されるアミノ酸配列を含むVH配列、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、又は95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する配列。及び/又は、
(ii)SEQ ID NO:26に示されるアミノ酸配列を含むVL配列、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、又は95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する配列。好ましくは、配列の違いは、CDR領域で生じない。
【0099】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明は、抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片及びその使用に関する。前記抗体は、重鎖可変領域SEQ ID NO:25及び軽鎖可変領域SEQ ID NO:26からのCDR配列を含むが、異なるフレームワーク領域配列を有する。好ましくは、置換のためのフレーム配列は、変化させた本発明の抗体のフレーム配列と構造的な類似性を有し、例えば、少なくとも80%、85%、90%、又は95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する。
【0100】
抗体重鎖及び軽鎖
いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、重鎖Fc部分、例えば、IgG1、IgG2又はIgG4アイソタイプのFc部分等を含む。一実施態様において、本発明の抗体は、IgG1-Fc部分を含む。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、κ軽鎖定常領域を含む。例えば、ヒトκ軽鎖定常領域。
【0101】
好ましい一実施態様において、Fc部分は、SEQ ID NO:52のアミノ酸配列を含み、或いはSEQ ID NO:52のアミノ酸配列に対して少なくとも1、2又は3、ただし20、10又は5以下のアミノ酸変化を包含するアミノ酸配列を含む。又はSEQ ID NO:52のアミノ酸配列と少なくとも95~99%同一性の配列を有する。
【0102】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、軽鎖定常領域を含む。好ましい一実施態様において、軽鎖定常領域は、ヒトκ軽鎖定常領域である。好ましい一実施態様において、軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含み、或いはSEQ ID NO:53のアミノ酸配列に対して少なくとも1、2又は3、ただし20、10もしくは5以下のアミノ酸変化を包含するアミノ酸配列を含む。又はSEQ ID NO:53のアミノ酸配列と少なくとも95~99%同一性の配列を有する。
【0103】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明の抗体は重鎖を含む。また、前記重鎖は、SEQ ID NO:31、33、35、37、39、41からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、又はそれに対して少なくとも1、2又は3、ただし20、10又は5以下のアミノ酸変化を包含するアミノ酸配列を含み、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上同一性のアミノ酸配列を有する。好ましくは、アミノ酸変化は、CDR領域で生じない。より好ましくは、可変領域では生じない。
【0104】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明の抗体は軽鎖を含む。また、前記軽鎖は、SEQ ID NO:32、34、36、38、40、42から選択されるアミノ酸配列を含み、又はそれに対して少なくとも1、2又は3、ただし20、10又は5以下のアミノ酸変化を包含するアミノ酸配列を含み、又は少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上同一性のアミノ酸配列を有する。好ましくは、アミノ酸変化は、CDR領域で生じない。より好ましくは、可変領域では生じない。
【0105】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、以下の重鎖配列及び/又は軽鎖配列から選択されるものを含む:
(a)SEQ ID NO:31から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列、或いはそのバリアント;及び/又はSEQ ID NO:32のアミノ酸配列を含む軽鎖配列、或いはそのバリアント。
(b)SEQ ID NO:33から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列、或いはそのバリアント;及び/又はSEQ ID NO:34のアミノ酸配列を含む軽鎖配列、或いはそのバリアント。
(c)SEQ ID NO:35から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列、或いはそのバリアント;及び/又はSEQ ID NO:36のアミノ酸配列を含む軽鎖配列、或いはそのバリアント。
(d)SEQ ID NO:37から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列、或いはそのバリアント;及び/又はSEQ ID NO:38のアミノ酸配列を含む軽鎖配列、或いはそのバリアント。
(e)SEQ ID NO:39から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列、或いはそのバリアント;及び/又はSEQ ID NO:40のアミノ酸配列を含む軽鎖配列、或いはそのバリアント。
(d)SEQ ID NO:41から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列、或いはそのバリアント;及び/又はSEQ ID NO:42のアミノ酸配列を含む軽鎖配列、或いはそのバリアント。
【0106】
その中に、前記バリアントは、対応の参照配列と比べ、少なくとも1、2又は3、ただし20、10又は5以下のアミノ酸変化のアミノ酸配列を含み、又は少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上同一性のアミノ酸配列を有する。好ましくは、アミノ酸変化は、CDR領域で生じない。より好ましくは、可変領域では生じない。
【0107】
一実施態様において、抗体の定常領域で残基の修飾を行うことにより、例えば、抗体の特性(例えば、エフェクター機能)を変化させる。
【0108】
好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:37の重鎖配列及びSEQ ID NO:38の軽鎖配列を含む。
【0109】
例示的抗体配列
本発明は、実施例において単離及び特徴付けられた、ANG-2(例えば、ヒトANG-2)に特異的に結合する完全ヒト由来の抗体を提供する。
図26は、本発明におけるこれらの例示的抗体の抗体可変領域VH及びVL配列を示した。
図25は、抗体の例示的なCDR配列を示した。配列表には、本発明の例示的抗体の重鎖や軽鎖のアミノ酸配列、並びに可変領域VH及びVLをコードするヌクレオチド配列が示された。
【0110】
抗体バリアント
一態様において、本発明は、本明細書に記載の任意の抗体、特に表Bに記載の例示的抗体のバリアントを提供する。一実施態様において、抗体バリアントは、変化前の抗体の生物学的活性(例えば、抗原結合能)の少なくとも60%、70%、80%、90%、又は100%を維持する。いくつかの実施態様において、前記変化は、抗体バリアントが抗原への結合を失うことをもたらさないが、向上される抗原親和性及び異なるエフェクター機能などの特性を任意に付与することができる。
【0111】
抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域、又は各CDR領域は、個別に又は組み合わせて変化することが考えられるだろう。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表Dに記載の抗体のいずれ)と比べ、重鎖可変領域において少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の配列同一性を有する。一実施態様において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表Dに記載の抗体の1つ)と比べ、軽鎖可変領域において少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の配列同一性を有する。別の一実施態様において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表Dに記載の抗体のいずれ)と比べ、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域において少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の配列同一性を有する。
【0112】
また、抗体のFc部分を変化させてもよい。Fc部分の変化は、単独で行ってもよいし、或いは上記のフレームワーク及び/又はCDR領域の変化と組み合わせて行ってもよい。Fc部分を変化することにより、抗体の1つ或いは複数の機能、例えば、血清半減期、補体固定化、Fc受容体結合、及び/又は抗原依存性細胞傷害を変化させることができる。また、本発明の抗体に対して化学修飾することが可能であり(例えば、PEGに連結する)、あるいはそのグリコシル化パターンを変化させることができる。
【0113】
いくつかの実施態様において、Fc部分は、ADCC活性を向上させる1つ以上のアミノ酸置換を有するFc部分、例えば、Fc部分の位置298、333及び/又は334の置換(残基のEU番号付けスキーム)を含んでもよい。いくつかの実施態様において、Fc領域を変化することにより、C1q結合の変化及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)の変化(即ち、向上又は低下)をもたらす(例えば、「US6,194,551、WO99/51642及びIdusogie,E. E.等,J. Immunol. 164(2000)4178-4184」を参照)。
【0114】
いくつかの実施態様において、Fc部分を変化することにより、そのグリコシル化の程度を増加又は減少させ、及び/又はそのグリコシル化パターンを変化させる。Fc部分へのグリコシル化部位の添加又は欠失は、アミノ酸配列を変化させ、1つ以上のグリコシル化部位を生成又は除去することにより、容易に達成することができる。例として、1つ以上のアミノ酸置換を実施して、1つ以上のグリコシル化部位を除去し、それによって、その部位でのグリコシル化を除去することができる。変化したグリコシル化パターンを有する抗体、例えば、少量のフコシル残基を有する低フコシル化抗体又は無フコシル化抗体、或いは増加したバイセクト糖鎖(bisecting GlcNac)構造を有する抗体を調製することが可能である。このような変化されるグリコシル化パターンは、抗体のADCC活性を向上できることを示した。また、本発明は、Fc部分に連結するオリゴ糖に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体バリアントをも考慮する。これらの抗体バリアントは、向上されるCDC機能を有しうる。
【0115】
いくつかの実施態様において、また本発明は、すべてではないが一部のエフェクター機能を有する抗体バリアントをも考慮する。そして、前記バリアントがいくつかの適用の最適な候補になり、前記の適用において抗体の体内半減期が重要であるが、一部のエフェクター機能(例えば、補体及びADCC)が不必要又は有害である。例えば、Fc部分は、変異P329G及び/又はL234A及びL235Aを有するヒトIgG1 Fc部分、又は変異P329G及び/又はS228P及びL235Eを有するヒトIgG4 Fc部分のような、エフェクター機能を除去又は低下する突然変異を含む。
【0116】
いくつかの実施態様において、Fc部分にCross-mAb形態で抗体を容易に産生する変異(例えば、knob-into-hole変異)を導入する。例えば、WO2016075035を参照されたい。
【0117】
いくつかの実施態様において、システインによる工学的に改変される抗体を産生する必要がある。例えば、「チオMab」は、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基により置換される。例えば、抗体のヒンジ領域におけるシステイン残基の数を変化させることにより、例えば、軽鎖と重鎖の組み立てを促進し、又は抗体の安定性を向上又は低下させる。例えば、米国特許第5,677,425号を参照されたい。
【0118】
いくつかの実施態様において、本明細書に提供される抗体は、さらに修飾されることにより、非タンパク質部分を含む抗体になりうる。抗体由来に適する部分としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、それに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な実例としては、抗体(例えば、血清中)の半減期を延ばすために用いられうる、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるが、それに限定されない。タンパク質のPEG化のための方法は当該分野で既知の方法であり、本発明の抗体に適用できる。例えば、EP 0154316及びEP 0401384を参照されたい。
【0119】
II. ポリヌクレオチド、ベクター及び宿主
本発明は、上記の任意の抗ANG-2抗体又はその断片をコードする核酸を提供する。また、前記核酸を含むベクターも提供する。一実施態様において、ベクターは、発現ベクターである。また、前記核酸或いは前記ベクターを含む宿主細胞も提供する。一実施態様において、宿主細胞は真核細胞である。一実施態様において、宿主細胞は、酵母細胞、及び哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞又は293細胞)から選択される。一実施態様において、宿主細胞は原核細胞である。
【0120】
一態様において、本発明は、上記の任意の抗ANG-2抗体又はその断片をコードする核酸を提供する。前記核酸は、抗体の軽鎖可変領域及び/又は重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードする核酸を含む、或いは抗体の軽鎖及び/又は重鎖のアミノ酸配列をコードする核酸を含む。適切な発現ベクターから発現される場合、これらのポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドは、ANG-2抗原結合能を示すことができる。
【0121】
本発明は、また上記に記載のANG-2に結合する抗体の重鎖VH又は軽鎖VL配列由来の少なくとも1つのCDR領域、そして一般的に3つのCDR領域全てをコードする、ポリヌクレオチドをも提供する。いくつかの実施態様において、ポリヌクレオチドは、本明細書の上記に記載されるように、ANG-2に結合する抗体の重鎖及び/又は軽鎖の全ての又は実質的に全ての可変領域配列をコードする。
【0122】
当業者により理解されるように、コドンの縮重(degeneracy)のため、各抗体又はポリペプチドのアミノ酸配列は、複数の核酸配列によりコードされることが可能である。
【0123】
当該分野に周知の方法を使用し、ANG-2に結合する抗体又はその抗原結合断片をコードする配列の固相DNAのデノボ合成、あるいはPCR変異誘発によりにより、これらのポリヌクレオチド配列を産生できる。
【0124】
一実施態様において、本発明の核酸を含む1つ以上のベクターを提供する。一実施態様において、ベクターは、真核発現ベクターのような発現ベクターである。ベクターとしては、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージ、又は酵母人工染色体(YAC)などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施態様において、本発明の発現ベクターは、pTT5発現ベクターである。
【0125】
一実施態様において、前記ベクターを含む宿主細胞が提供される。抗体をコードするベクターをクローニング又は発現するための適切な宿主細胞としては、本明細書に記載の原核細胞或いは真核細胞を含む。例えば、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能を必要としない場合は、抗体は細菌中で産生することができる。例えば、抗体又は抗体断片は、大腸菌中で発現させる。発現後、抗体は細菌細胞ペースト又は可溶性画分から単離でき、さらに精製される。
【0126】
一実施態様において、宿主細胞は真核細胞である。一実施態様において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞、又は抗体或いはその抗原結合断片の産生に適する細胞から選択される。例えば、糸状菌或いは酵母などの真核微生物は、抗体をコードするベクターをクローニングする又は発現するために適切である。例えば、グリコシル化経路で「ヒト化」された真菌や酵母株は、部分的又は完全なヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生しうる。グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物、脊椎動物)にも由来する。また、脊椎動物の細胞も宿主として使用されてもよい。例えば、懸濁培養に適するように改変された哺乳動物細胞株を使用しうる。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の実例は、SV40で形質転換されたサル腎臓CV1細胞株(COS-7)、ヒト胚性腎臓細胞株(293HEK又は293細胞)等が挙げられる。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞等のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及びY0、NS0、Sp2/0等の骨髄腫細胞株を含む。
【0127】
III.抗体の調製
【0128】
一実施態様において、抗ANG-2抗体の調製方法を提供した。前記方法には、抗体発現に適した条件下で、前記抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養し、上記のように提供されること、及び任意に前記宿主細胞(或いは宿主細胞培地)から前記抗体を回収することが含まれる。抗ANG-2抗体を組換えて作製するために、抗体(例えば、上記の抗体)をコードする核酸を単離し、それを一つ以上のベクターに挿入し、宿主細胞内でクローニング及び/又は発現に用いる。このような核酸は、従来のプロトコル(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって行う)により容易に単離及び配列決定する。
【0129】
IV.測定方法
【0130】
当該分野で知られている様々な測定法によって、本明細書に提供される抗ANG-2抗体に対して、その物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性を同定、スクリーニング、又は特徴化することができる。
【0131】
一方、本発明の抗体の抗原結合活性を試験する。例えば、ELISA、ウェスタンブロッティングなどの当業界で既知の方法、或いは本明細書の実施態様に開示される例示的方法(例えば、実施例3又は4の方法)により、ヒトANG-2との結合を測定する。例えば、結合速度論(例えば、KD値)を含む抗体の結合特性は、組換えANG-2タンパク質或いはそのC末端FLD断片を使用し、生体光干渉測定法で測定することができる。いくつかの実施態様において、Fortebio親和性測定法を用いて、ヒト或いは他種(例えば、カニクイザル)由来のANG2及び/又はANG1に対する抗体の結合親和性を特定する。
【0132】
一態様において、ANG2/TIE2結合又はANG2/インテグリン結合に対する抗体の遮断作用を測定する。例えば、フローサイトメトリーを用いて測定する。その抗体はANG2及びTIE或いはインテグリンを発現する細胞株、例えば、トランスフェクトにより細胞表面にヒトTIE2を発現する293細胞或いは様々なインテグリンを発現するU87細胞と反応する。
【0133】
一方、競合測定法を用いて、本明細書に開示される任意の抗ANG-2抗体と競合的にANG-2に結合する抗体を同定することは可能である。いくつかの実施態様において、それらの競合的な抗体は、本明細書に開示される任意の抗ANG-2抗体に結合されるエピトープと同一或いは重複エピトープ(例えば、線形或いは配座エピトープ)に結合する。
【0134】
また、本発明は、生物学的活性を有する抗ANG-2抗体を同定するための測定法を提供した。生物学的活性としては、例えば、ANG-2(例えば、結合ヒトANG-2)に結合すること、ANG-2(例えば、結合ヒトANG-2)とTie2分子又はインテグリンとの結合をブロックすること、抗VEGF剤と併用して、例えば脈絡膜新生血管形成モデルにおける血管透過性及び/又は新血管の形成を抑制し、血管完全性を改善することが挙げられる。本願の実施例において様々な例示的な測定法が記載されている。
【0135】
本発明の免疫コンジュゲート或いは多重特異性抗体を使用し、抗ANG-2抗体を置換或いは補充して、上記の任意の測定を行うことが考えられる。
【0136】
V.多重特異性抗体
【0137】
一態様において、本発明は、ANG-2(好ましくはヒトANG-2)に特異的に結合する多重特異性(二重特異性を含む)抗体分子を提供する。一実施態様において、多重特異性抗体において、本発明の抗体(或いはその抗原結合断片)は、ANG-2に対する第一結合特異性を持つ。一実施態様において、前記多重特異性抗体は、さらにVEGF-Aに対する第二特異性を有する。
【0138】
一実施態様において、結合特異性は、抗体の「結合部位」又は「抗原結合部位」(抗体分子の中に実際に抗原に結合する領域)によって提供される。好ましい一実施態様において、抗原結合部位は、抗体軽鎖の可変ドメイン(VL)と抗体重鎖の可変ドメイン(VH)からなるVH/VLペアから構成される。したがって、一実施態様において、「多重特異性」抗体は、少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体であり、前記少なくとも2つの抗原結合部位の各々は、同じ抗原の異なるエピトープ或いは異なる抗原の異なるエピトープに結合することができる。
【0139】
VI.免疫コンジュゲート
【0140】
一態様において、本発明は、本発明の抗体を異種分子にコンジュゲートさせることによって産生される免疫コンジュゲートを提供する。一実施態様において、免疫コンジュゲートにおいて、本発明の抗体(又はその抗原結合断片)は、治療薬或いは診断薬とコンジュゲートする。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、完全抗体或いは抗体断片の形態で異種分子と、例えば、Fab断片、Fab'断片、F(ab)'2断片、単鎖scFab抗体、単鎖scFvなどの断片形態でコンジュゲートされうる。
【0141】
リンカーを使用することによって、コンジュゲートの異なるエンティティを共有結合することができる。適切なリンカーとしては、ケミカルリンカー或いはペプチドリンカーが含まれる。有利には、リンカーは、標的部位に送達する後にペプチドの放出を容易にする「分解可能なリンカー」である。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー或いはジスルフィド含有リンカーを使用することができる。
【0142】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、診断薬或いは検出可能な薬剤とコンジュゲートすることができる。これらのコンジュゲートは、臨床検査方法の一部(例えば、特定療法の有効性を判断する)として、疾患或いは障害の発症、発生、進行及び/又は重症度をモニタリング又は予測することに使用されうる。このような診断及び検査は、抗体を検出可能な薬剤にカップリングさせることによって達成できる。前記検出可能な薬剤としては、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの複数の酵素が含まれるが、これらに限定されない;ストレプトアビジン/ビオチン及びアンチオチン蛋白/ビオチン等の補因子が含まれるが、これらに限定されない;蛍光物質;発光物質;放射性物質;種々のポジトロン放出イメージングで使用されるポジトロン放出金属及び非放射性常磁性金属イオンが挙げられる。
【0143】
VII.医薬組成物、医薬製剤及びコンビネーション製品
本発明は、また抗ANG-2抗体或いはその免疫コンジュゲート或いは多重特異性抗体を含む組成物(医薬組成物或いは医薬製剤を含む)、及び抗ANG-2抗体或いはその免疫コンジュゲート或いは多重特異性抗体をコードするポリヌクレオチドを含む組成物をも包含する。これらの組成物は、任意に好適な医薬添加剤をも包含し、例えば、当該分野で既知の医薬用担体、医薬賦形剤等、緩衝剤も含まれる。
【0144】
本発明の抗体は、任一の適切な製剤形態に調製することができる。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、眼内投与に適する製剤形態、例えば、硝子体注射投与に適する形態に調製される。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、静脈内投与に適する製剤形態に調製される。
【0145】
本発明の製剤の調製に適する医薬用担体としては、緩衝液、酸化防止剤、防腐剤、安定剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
所望の純度を有する本発明の抗ANG-2抗体、免疫コンジュゲート又は多重特異性抗体を1つ以上の任意の医薬添加剤(Remington′ s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.編(1980))と混合することにより、本発明を含む医薬製剤を、好ましくは凍結乾燥品或いは水溶液の形態において、調製することができる。
【0147】
また、徐放性製剤を調製することも可能である。徐放性製剤の好適な実例としては、抗体の固体疎水性ポリマーを含む半透過性マトリックスが挙げられ、前記マトリックスはフィルム又はマイクロカプセルのような成形品の形態を呈する。
【0148】
本発明の医薬組成物又は製剤は、1つ以上の他の活性成分と組み合わせることもでき、前記活性成分は、治療される特定の適応症に必要とされ、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有する活性成分である。例えば、化学療法剤、PD-1軸結合拮抗薬(例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体又は抗PD-L2抗体)或いは抗血管新生剤(例えば、ベバシズマブ)などの他の抗癌活性成分も提供することが望ましい。前記活性成分は、目的用途に有効的な量で、好適に組み合わせて存在する。
【0149】
したがって、一態様において、本発明は医薬コンビネーション製品をも提供する。一実施態様において、前記コンビネーション製品は、同じ医薬組成物或いは製剤に調製された本発明の抗体、免疫コンジュゲート或いは多重特異性抗体、及び第2の治療剤を含む。一実施態様において、前記コンビネーション製品は、異なる医薬組成物或いは製剤に別々に含まれる本発明の抗体、免疫コンジュゲート或いは多重特異性抗体、第2の治療剤を含む。第2の治療剤は、本発明の抗体の投与前、同時(例えば、同じ製剤中又は異なる製剤中)、又は投与後に投与することができる。
【0150】
いくつかの実施態様において、本発明に適する第2の治療剤は、ANG2阻害剤と有利に併用される任意の治療剤、例えば、治療されるべき血管関連疾患に有効な薬剤である。
【0151】
VEGFシグナル伝達経路が血管新生に対して重要であるため、VEGF或いはVEGF受容体をブロックする目的の抗VEGF剤が血管新生阻害剤として提案され、癌及び網膜病変などの新生血管関連疾患の治療に使用されている。新生血管を対象とする抗VEGF薬としては、例えば、VEGF-Aに特異的に結合するモノクローナル抗体が挙げられ、その作用メカニズムはVEGFに結合することによりVEGFとその受容体の結合をブロックする。また、VEGF受容体の細胞外断片と免疫グロブリンFc部分からなるVEGFR阻害剤は、VEGFに対する天然に高い特異性を有する。CN200510115530.1に有効な抗VEGF薬剤分子が開示された。その薬剤分子はVEGFR-1の免疫グロブリン様領域2、VEGFR-2の免疫グロブリン様領域3、及びヒト免疫グロブリンFcから構成され、ここでFcの前に構造的な柔軟性を高めるペプチド結合セグメントを挿入することにより、融合タンパク質の安定性及び生物活性が高められ、in vitro及び動物体内の両方において、より効果的にVEGFに結合及び中和し、血管新生をブロックし、腫瘍の進行を抑制しうる。したがって、本発明の好ましい一実施態様において、本発明の抗体と併用される第2の治療剤は、抗VEGF薬である。好ましい一実施態様において、前記抗VEGF薬は、VEGFR-1の免疫グロブリン様領域2、VEGFR-2の免疫グロブリン様領域3、及びヒト免疫グロブリンFcから形成される融合タンパク質であり、ここでFcの前に構造的な柔軟性を高めるペプチド結合セグメント、例えば、SEQ ID NO:60に示される分子又は少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上同一性を有する分子が挿入される。また、本発明では、他の抗VEGF薬、例えば、VEGF-Trap(例えば、US7,087,411を参照)、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ)、VEGF受容体の低分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ)をも使用することができる。
【0152】
本発明に使用できる第2の治療剤には、また、血管新生を抑制或いは低減する他の薬剤、抗炎症剤、抗PD1剤及び抗CD40剤などの免疫チェックポイント剤、化学療法剤も含まれるが、これらに限定されない。
【0153】
いくつかの実施態様において、本発明の医薬組成物又は医薬製剤及びコンビネーション製品は、血管関連疾患(血管新生及び/又は血管透過性に起因する疾患又は障害、又はそれと関連する任意の疾患又は障害を含む)の予防又は治療に適応される。
【0154】
本発明の医薬組成物、医薬製剤及びコンビネーション製品は、本明細書に記載の疾患及び/又は障害の治療、予防及び/又は診断のための製造品として提供されうる。その製造品は、容器及びラベル又は添付文書を含みうる。好適な容器としては、ボトル、シリンジ、IV点滴バッグなどが含まれる。容器は、ガラスやプラスチックなど多様な材質で作製できる。一実施態様において、製造品は、(a)本発明の抗体又はその断片、免疫コンジュゲート又は多重特異性抗体を含む第1容器、及び任意に(b)第2の治療剤を含む第2容器を包含しうる。なお、製造品は、ビジネス及びユーザーの観点から望ましい他の材質、例えば緩衝液、注射用滅菌水などの医薬用希釈剤、針、注射器、シリンジポンプを含んでもよい。
【0155】
VIII. 治療方法と用途
本明細書において、用語「個体」及び「対象」は互換的に使用されてもよい、哺乳動物を指す。哺乳動物には、家畜(例えば、乳牛、羊、猫、犬及び馬)、霊長類(例えば、ヒト、サルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類動物(例えば、マウス及びラット)などが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、対象はヒトである。
【0156】
本明細書では、用語「治療」は、治療を受けている個体に対して疾患の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指す。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を予防すること、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。
【0157】
一態様において、本発明は、ANG-2媒介の生物活性を抑制する方法を提供し、治療有効量の本発明の抗体を投与することを含む。したがって、一実施態様において、本発明は、本発明の抗体を用いり、ANG2活性に関連する疾患又は障害を予防又は治療する方法に関する。前記ANG2活性に関連する疾患又は障害は、ANG2活性を除去、抑制又は低減することによって改善、寛解、予防又は治療できる任意の疾患又は障害を含む。好ましくは、本発明の抗体は、血管新生に起因する、又はそれと関連する任意の疾患又は障害を含む血管関連疾患を治療するために使用される。そのような疾患の実例には、限定されないが、癌、炎症性疾患、敗血症、血管性眼疾患などが含まれる。
【0158】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、固形腫瘍の治療に使用される。該当治療において、本発明の抗体は、単剤で使用してもよいし、他の抗腫瘍剤と併用してもよい。
【0159】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、血管性眼疾患の治療に使用してもよい。そのような眼疾患は、血管新生異常或いは血管の狭窄或いは閉塞により引き起こされる。本発明の抗体による治療されうる(特に抗VEGF剤との併用療法)例示的な眼疾患には、限定されないが、例えば、眼底新生血管疾患、及び脈絡膜新生血管、網膜水腫及び炎症に関連する眼疾患が含まれる。いくつかの実施態様において、血管関連疾患、例えば、脈絡膜血管新生(CNV)などの眼疾患において、抗VEGF剤と本発明の抗体(例えば、本発明の分子hz81H10.4と同じの6CDR配列又はVH及びVL配列を有する抗体分子)を併用することにより、血管漏出の低減、新生血管の抑制、及び血管完全性の改善等の1つ又は複数の結果になる。例えば、フルオレセイン蛍光眼底造影検査、又は組織化学染色病理検査により、血管漏出、網膜形態、血管新生及び血管の完全性(例えば、従来のHE染色を用いて網膜の損傷及び浮腫領域の面積等の網膜形態を検査すること、CD31及びDESMIN蛍光二重染色を用いて血管内皮細胞及び周皮細胞/平滑筋細胞数を評価すること)を評価する。好ましくは、抗VEGF剤単独投与と比べ、本発明の抗体と抗VEGF剤が併用されることにより、血管漏出の抑制、網膜形態の改善、血管新生の減少、血管完全性の改善等の治療効果がより向上される。
【0160】
なお、ANG2の発現は多様な炎症及び/又は感染症と関連していることが証明された。Racheal G. Akwiiら, Role of Angiopoietin-2 in Vascular Physiology and Pathophysiology, Cells 2019, 8, 471; DOI:10.3390/cells8050471。したがって、いくつかの実施態様において、本発明の抗体又は抗体断片は、感染症の治療に使用できる。例示的な感染症には、限定されないが、敗血症、肺炎などが含まれる。
【0161】
本発明の治療方法においては、本発明の抗体を単独で投与してもよいし、第2の治療剤(例えば、上記の第2の治療剤)等と併用してもよい。その併用投与は、同時投与(2種類或いは複数の治療剤が同一又は異なる製剤に含まれる)及び別々の投与を含む(本発明の抗体は、他の治療剤(1種類以上)の投与前、同時又は投与後に投与してもよい)。
【0162】
本発明の抗体(及びそれを含む医薬組成物又は免疫コンジュゲート、並びに任意の他の治療剤)は、非経口投与、肺内投与及び鼻内投与を含む任意の適切な投与方式により投与することができる。なお、局所治療を必要とする場合、病巣内投与も可能である。非経口経路の点滴には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内或いは皮下投与が含まれる。その投与が短期的また長期的であるかどうかに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射によって投与してもよい。本明細書において、多様な投与スケジュールには、限定されないが、単回投与又は複数の時点で反復投与、ボーラス投与及びポンプ輸液が含まれる。
【0163】
疾患の予防又は治療のために、本発明の抗体の好適な用量(単独又は1つ以上の他の治療剤と併用する場合)は、治療すべき疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、その抗体が予防又は治療目的で投与されるかどうか、既往の治療、患者の臨床歴及び前記抗体に対する反応、並びに主治医の判断に依存して選択されるだろう。前記抗体は、1回の治療で或いは一連の治療で、患者に好適に投与される。
【0164】
上記の本発明の方法においては、本発明の抗体又は抗原結合部の代わりに、本発明の組成物、多重特異性抗体又は免疫コンジュゲートを投与できる。或いは、これらの方法において、本発明の抗体又は抗原結合部分の投与に加えて、さらに本発明の組成物、多重特異性抗体又は免疫コンジュゲートを投与できる。
【0165】
一態様において、本発明は、前述の方法(例えば、治療のため)における使用のための薬剤の製造における本発明の抗ANG-2抗体、組成物、免疫コンジュゲート、及び多重特異性抗体の使用を提供する。
【0166】
IX.血管漏出及び/又は血管炎症を伴う疾患における本発明の抗体の方法及び用途
一態様において、本発明は、本発明の抗ANG2抗体又はその抗原結合断片を用いて、ANG-2により誘発される血管透過性を調節する(特に低下させる)方法を提供する。前記方法は、in vitroの方法であってもよいし、in vivoの方法であってもよい。
【0167】
一実施態様において、前記方法は、in vitroの方法である。前記方法は、本発明の抗ANG2抗体と組み合わせて、血管内皮透過性を調節する(例えば、低下させる。例えば、相乗的又は相加的に低下させる)分子をスクリーニングすることに使用できる。前記候補分子は、ANG1類似薬、VEGF阻害薬などのペプチド又は低分子化合物である。
【0168】
好ましくは、一実施態様において、前記方法は、in vivoの方法であり、それを必要とする個体に、治療有効量の本発明の抗体又はその抗原結合断片を投与することを含む。一実施態様において、前記方法は、血管透過性の異常増加に関連する疾患又は障害(例えば、急性肺炎、急性肺損傷及び急性呼吸窮迫)を予防、緩和、改善及び/又は治療するための方法である。一実施態様において、前記血管内皮透過性の異常増加は、VEGFと関連しており、ANG-2により増感されうる。一実施態様において、前記血管内皮透過性の異常増加は、LPSなどの炎症誘発剤、又は細菌或いはウイルス感染によって引き起こされる。一実施態様において、前記方法は、肺の血管内皮透過性の異常増加を低減することに使用される。一実施態様において、前記方法は、さらに本発明の抗ANG2抗体の投与前に、血管透過性の低減を必要とする対象を同定するステップをも含む。
【0169】
一実施態様において、前記方法において、本発明の抗ANG2抗体を投与することにより、血管内皮細胞上の炎症マーカー分子の発現を低下させる。好ましくは、前記炎症マーカー分子は、急性炎症反応の分子マーカーである。いくつかの場合において、血管内皮細胞上の前記炎症マーカーの発現は、TNFαなどの炎症性サイトカイン又は細菌内毒素LPSなどの炎症誘発物質の誘導に応答することにより増加する。好ましくは、前記炎症マーカー分子は、ICAM-1及び/又はVCAM-1である。一実施態様において、前記方法は、本発明の抗ANG2抗体の投与前に、内皮細胞炎症マーカー分子のレベルを検出するステップをも含む。一実施態様において、本発明の抗体を投与すべき対象は、ICAM-1及び/又はVCAM-1などの内皮細胞炎症性マーカー分子のレベルが上昇していることを有する。一実施態様において、本発明の抗体を投与すべき対象は、ARDS又は急性肺損傷のリスクが高く、ICAM-1及び/又はVCAM-1などの内皮細胞炎症マーカー分子のレベルが上昇していることを有する個体である。
【0170】
一態様において、本発明は、本発明の抗体を用いて血管漏出を予防又は治療する方法に関し、前記方法は、治療有効量の本発明の抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に投与することを含む。一実施態様において、本発明の抗ANG2抗体の投与により、ANG2活性をブロックし、抑制し又は低下することによって、血管漏出又はそれに関連する1種類以上の病状を改善、緩和、予防又は治療する。一実施態様において、前記方法は、さらに本発明の抗ANG2抗体を投与する前に、血管漏出のブロックを必要とする対象を同定するステップをも含む。
【0171】
一態様において、本発明は、血管炎症状態を予防又は治療する方法に関し、前記方法は、治療有効量の本発明の抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に投与することを含む。一実施態様において、本発明の抗ANG2抗体の投与により、ANG2活性をブロックし、阻害し又は低下することによって、血管炎症状態を改善、緩和、予防又は治療する。一実施態様において、前記方法は、さらに本発明の抗ANG2抗体の投与前に、血管炎症状態の緩和を必要とする対象を同定するステップをも含む。
【0172】
一態様において、本発明はまた、本発明の抗体を用いて、血管漏出及び/又は血管炎症状態を伴う任意の疾患又は障害を予防又は治療することに関し、前記方法は、治療有効量の本発明の抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に投与することを含む。一実施態様において、前記疾患又は障害は、血管漏出を伴う疾患又は障害である。一実施態様において、前記疾患又は障害は、血管炎症を伴う疾患又は障害である。前記疾患又は障害の実例としては、肺炎、急性肺損傷(ALI)、及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの肺の炎症性疾患、並びに敗血症が含まれるが、これらに限定されない。
【0173】
肺炎症或いは肺炎は、肺の炎症を特徴とする疾患である。最も一般的なのは、該当疾患は肺感染によって引き起こされる。本発明の方法及び用途における好ましい実施態様において、肺炎は、急性肺炎、特にARDS或いは急性肺損傷(ALI)を発症するリスクのある急性肺炎である。好ましくは、本発明の方法及び用途における実施態様において、抗ANG2抗体の投与は、肺の炎症プロセスをブロック、予防、緩和又は軽減させた。肺組織生検或いは肺CT画像によって、肺の炎症プロセスの改善を観察することができる。
【0174】
急性肺障害(acute lung injury、ALI)は、肺胞上皮細胞や毛細血管内皮細胞が様々な直接的及び間接的な損傷要因によって損傷され、びまん性の肺間質及び肺胞の水腫が発生し、急性低酸素性呼吸不全に至る。ALI の病態生理学的特徴として、肺活量減少、肺コンプライアンス低下、換気/血流のアンバランスが含まれる。臨床症状としては、進行性低酸素血症が認められる。ある程度まで損傷すると、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が発症する。
【0175】
急性呼吸窮迫症候群はまたARDSとも呼ばれる。該当疾患は肺の広範囲に及ぶ炎症を特徴とする急性肺損傷である。ARDS患者は通常、両肺の浸潤と重度の低酸素血症が認められる。ARDSの診断には、発症時間、肺部画像(例えば、胸部X腺写真或いはCT)、肺水腫、及び酸素欠乏の重症度が含まれる。ARDSにおける低酸素血症の診断は、例えば、患者の動脈血酸素飽和度(PaO2/FiO2、即ち、動脈血酸素ガス分圧と酸素吸入濃度の比)により定義される。2012年にARDSのベルリン定義では、PaO2/FiO2ににより決定された低酸素度に基づき、ARDSを軽度ARDS(PaO2/FiO2 200~300 mmHg)、中等度ARDS(PaO2/FiO2 100~200 mmHg)、及び重度ARDS(PaO2/FiO2 ~100 mmHg)に分類された。(例えば、「The ARDS Definition Task Force, JAMA 307(23):2526-2533, 2012).」を参照されたい)。本明細書では、ARDSが、2012年のベルリン定義を含む当該分野で既知の任意の適切なARDS臨床定義をカバーすることが理解されるだろう。本明細書では、ARDSのリスクのある個体は、ARDSに罹患しやすい個体を指す。外傷、大量出血、重症肺炎、インフルエンザウイルス又はSRAS/新型コロナウイルス感染、及び/又は敗血症は、ARDSを引き起こすリスク因子である。これらのリスク因子を持つ個体は、ARDSのリスクのある個体であってもよい。
【0176】
いくつかの実施態様において、ARDS、ALI、又は肺炎などの肺の炎症疾患は、肺感染により引き起こされる。感染症は、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、又は他の種類の微生物による感染症である。いくつかの実施態様において、細菌感染は、腸内桿菌科種、肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、炭疽桿菌、インフルエンザ好血桿菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、百日咳菌、肺炎クラミジア、レジオネラ菌、或いは肺炎マイコプラズマ菌により引き起こされる。いくつかの実施態様において、ウイルス感染は、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、間質性肺炎ウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、天然痘ウイルス、デングウイルス、ライノウイルス、ボカウイルス、中東呼吸器症候群或いは新型コロナウイルスにより引き起こされる。感染による宿主の主な反応のひとつは炎症反応であり、肺微小血管の漏出や肺損傷を引き起こし、時にはさらに呼吸不全を引き起こす。微小血管の漏出及び/又は血管の炎症状態を抑制することにより、ウイルス感染、細菌感染などの感染症の症状を改善する。いくつかの実施態様において、本発明の抗ANG2抗体又はその医薬組成物は、感染症の臨床症状の発現前に投与される。例えば、本発明の抗ANG2抗体又はその医薬組成物は、患者のサンプルから感染因子(例えば、細菌或いはウイルス)が検出された後、又は患者が感染因子(例えば、細菌或いはウイルス、既に感染されたが、無症状、及び/又は症状のある個体と密接な接触を含む)に暴露された後に投与する。いくつかの実施態様において、本発明の抗ANG2抗体又はその医薬組成物は、感染症の最初の症状が発症した後に投与される。
【0177】
一態様において、本発明は、本発明の抗体を用いて、急性呼吸窮迫症候群を予防又は治療する方法、又は急性呼吸窮迫症候群の1つ以上のパラメータを改善する方法に関し、前記方法は、それを必要とする対象に、治療有効量の本発明の抗体又はその抗原結合断片を投与することを含む。一実施態様において、前記パラメータは、肺炎細胞浸潤度(肺洗浄液白血球数及び好中球、リンパ球及び単球などの各種炎症細胞の数を含むが、これらに限定されない)、肺組織の炎症病変の重症度(病変重症度のグレードを含むが、これに限定されない)、動脈酸素飽和度(PO2、PCO2、pH、sO2%値を含むが、これらに限定されない)、肺部画像(X線画像或いはCT画像)、肺水腫の重症度、肺重量体重インデックス、及び/又は生存率のうちの一項目又はそれらの任意の組み合わせから選ばれる。好ましくは、前記パラメータは、肺の炎症細胞の浸潤度を含む。さらに好ましくは、前記パラメータは、動脈血酸素飽和度を含む。一実施態様において、前記方法は、本発明の抗ANG2抗体の投与前に、急性呼吸窮迫症候群の予防或いは治療に適する個体、又はARDSの上記1つ或いは複数のパラメータの改善に適する個体を同定することをも含む。一実施態様において、前記対象は、軽度、中等度、又は重度の低酸素血症を有する。一実施態様において、対象は低酸素血症を発症するリスクがあるため、本発明の抗ANG2抗体は予防的に投与される。一実施態様において、対象は肺の炎症を有し、少なくとも軽微、軽度、中等度、又は重度の肺組織の炎症性病変が発現された。一実施態様において、対象は肺組織の炎症性病変が発現するリスクがあるため、本発明の抗ANG2抗体は予防的に投与される。
【0178】
肺組織の炎症性病変の重症度は、当該分野で周知の方法により評価できる。例えば、肺組織切片で、病理学的変化の増加の程度及び/又は複雑さに基づき、1-軽微(Minimal)、2-軽度(Mild)、3-中等度(Moderate)、及び4-重度(Severe)の4グレードを用いて病理組織学的グレードを評価しうる。例えば、肺胞/間質/気管支/胸膜の炎症細胞浸潤度、肺水腫/線維性物質の滲出度、血栓症の重症度、血管/気管支/肺胞/間質の変性/壊死の重症度、膿瘍の程度、肺胞壁肥厚の程度、並びに肺胞腔/胸膜出血の重症度などを検査することにより、肺組織の炎症性病変の重症度を評価できる。
【0179】
血中酸素飽和度は、当該分野で既知の方法により評価できる。例えば、血液ガス分析装置を用いて、採取された動脈血のPO2、PCO2、pH、sO2%値を測定し、(例えば、本発明の抗体の投与前及び投与後に)対象の低酸素血症の状況を検査する。
【0180】
いくつかの実施態様において、本発明の方法は、ARDSの1つ或いは複数の症状、例えば、軽度、中等度、又は重度の低酸素血症などを治療することを含む。いくつかの実施態様において、低酸素症の対象は、酸素分圧、酸素化指数(PaO2/FiO2、即ち、酸素吸入濃度に対する動脈血酸素分圧の比)、肺のCT画像(例えば、局所の肺の炎症、両側肺紋理の増加、両肺の低透光性)、1つ又は複数の炎症マーカー分子のレベルなどの1つ又は複数のパラメータが認められ、健康の対象に対して変化がある。
【0181】
一態様において、本発明は薬剤とする本発明の抗ANG2抗体の用途、又は薬剤の調製における用途に関し、前記薬剤は、本発明の上記の任一1つ或いは複数の方法に使用されてもよい。一実施態様において、前記抗ANG2抗体は、ANG-2による血管内皮透過性を調節する(特に低減する)ことに使用される。一実施態様において、前記抗ANG2抗体は、ANG2活性に関連する血管漏出及び/又は血管の炎症状態を予防又は治療することに使用される。一実施態様において、前記抗ANG2抗体は、血管漏出を伴う及び/又は血管の炎症状態に関連する任意の疾患又は障害を予防或いは治療することに使用される。好ましい実施態様において、前記疾患或いは障害は、肺の炎症性疾患(特に、急性炎症性疾患)、敗血症、急性肺損傷、及び急性呼吸窮迫からなる群より選択される。
【0182】
本発明の治療方法及び本発明の用途についての任意の実施態様において、本発明の抗ANG2抗体が、対象の内皮細胞のANG2に結合し、ANG2と受容体(例えば、TIE2又はインテグリン)との結合をブロックする。一実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、ANG2とTIE2との相互作用をブロックする。一実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、ANG2とインテグリンとの相互作用をブロックする。一実施態様において、抗ANG2抗体の投与は、内皮細胞の炎症マーカーの発現を抑制する。一実施態様において、抗ANG2抗体の投与は、血管透過性の増加を抑制する(例えば、サイトカイン又はLPSなどの炎症性物質により引き起こされる)。
【0183】
本発明の治療方法及び用途において、本発明の抗体は単独で投与する、或いは第2の治療剤と併用投与できる。好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、唯一の活性化薬として投与される。一実施態様において、本発明の抗体は、他の治療剤と併用投与される。前記併用投与は、同時投与(2つ或いは複数の治療剤が同一又は異なる製剤に含まれる)及び別々の投与を含み、本発明の抗体は、他の治療剤(一つ或いは複数)の投与前、同時又は投与後に投与される。第2の治療剤としては、例えば、デキサメタゾン等の糖質コルチコイド;抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤等の抗感染剤;β2作動薬などの気管支拡張剤;イソプロテレノール 、フェニレフリン等の昇圧剤;プロフォール、エスシタロプラム、モルヒネ等の鎮静剤が挙げられる。
【0184】
いくつかの実施態様において、対象は哺乳動物である。好ましい実施態様において、対象はヒトである。いくつかの実施態様において、対象は、血管内皮炎症マーカー、動脈血ガス、一部の酸素分圧(PaO2)、一部の二酸化炭素分圧(PaCO2)、肺の炎症性浸潤の重症度、胸部画像のうちの1つ或いは複数の検査によって治療を必要とする個体と同定される。
【0185】
上記の本発明の任意の方法及び用途において、本発明の抗体又は抗原結合部分の代わりに本発明の組成物を投与することができる。或いは、これらの方法において、本発明の抗体又は抗原結合部分を投与することに加えて、さらに本発明の組成物を投与してもよい。
【0186】
本発明の方法又は用途のいくつかの実施態様において、本発明の抗体は、医薬組成物の形態で投与される。本発明の医薬組成物は、好適な担体、賦形剤、及び適切な転移、送達、耐性などを提供する他の物質を用いて調製することができる。大量の好適な製剤が、すべての薬学者に知られる日本薬局方「Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PA」に見出される。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゲル、ワックス、オイル、脂質、脂質含有(カチオン或いはアニオン)ベシクル(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収性ペースト、水中油型及び油中水型エマルジョン、カーボンワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)エマルジョン、半固形ゲル、及びカーボンワックスを含む半固形混合物などを包含する。
【0187】
本発明の方法に従って患者に投与される抗体の用量は、患者の年齢や体格、症状、障害、投与経路等に応じて変化する。通常、体重或いは体表面積を基づいて用量を算出する。疾病の重症度に応じて、治療の頻度や期間を調整しうる。抗ANG2抗体を含む医薬組成物の投与有効量及び投与レジメンは、経験により決定してもよい。例えば、定期的に評価することにより患者の経過を観察し、それに応じて用量を調整する。また、当該分野で周知の方法を用いて投与量の種間スケーリングを行うことができる。
【0188】
様々な送達系が既知であり、本発明の抗ANG2抗体を含む医薬組成物を投与するために用いることができる。例えば、シリンジ、プレフィルドシリンジ、オートインジェクター、マイクロ輸液ポンプ、ガラスバイアル、リポソーム中への封入、マイクロ粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現することができる組み換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシス(endocytosis)が挙げられる。投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、経口などが挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、任意の都合の良い経路により、例えば、輸注或いはボーラス注射により、上皮或いは粘膜皮膚系列(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介する吸収により投与されてもよく、他の生物活性剤と一緒に投与してもよい。
【0189】
本発明の医薬組成物は、標準的な注射針及びシリンジを用いて、皮下又は静脈内に送達することができる。一実施態様において、シリンジは、プレフィルドシリンジである。このようなプレフィルドシリンジは、単回用量のものであってもよい。 一実施態様において、本発明の医薬組成物は、オートインジェクターを用いて皮下或いは静脈内に投与される。前記オートインジェクターには、プレフィルドシリンジが含まれる。なお、皮下投与の場合、ペン型送達デバイスは本発明の医薬組成物を送達するのに容易に適用可能である。そのようなペン型送達デバイスは、再使用可能であるか、使い捨てであってもよい。 再使用可能なペン型送達デバイスには一般に、医薬組成物を含む交換式カートリッジが使用する。一度、カートリッジ内のすべての薬剤組成物が投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジを簡単に廃棄でき、薬剤組成物を含む新しいカートリッジと交換することができる。その後、ペン型送達デバイスを再使用することができる。使い捨てのペン型送達デバイスにおいては、カートリッジは交換できない。むしろ、使い捨てのペン型送達デバイスは、デバイス内のリザーバ中に保持される薬物組成物を予め充填されるようになる。一度、リザーバの薬剤組成物が空になったら、デバイス全体が廃棄される。
【0190】
多くの再使用可能なシリンジ、ペン及びオートインジェクター等の送達システムは、本発明の医薬組成物の皮下投与において適用可能である。例としては、限定されるものではないが、ほんの数例を挙げると、 AUTOPEN(商標)(Owen Mumford, Inc., Woodstock, UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems, Bergdorf, Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標) ペン、HUMALOG(商標) ペン、HUMALIN 70/30(商標) ペン(Eli Lilly and Co., Indianapolis, IN)、NOVOPEN(商標) I、II及びIII(Novo Nordisk, Copenhagen, Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk, Copenhagen, Denmark)、BD(商標) ペン(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)及びOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis, Frankfurt, Germany)が挙げられる。本発明の医薬組成物の皮下投与に使用する使い捨てのペン投与装置の実例としては、SOLOSTAR(商標) pen(Sanofi-Aventis)、 FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)及びKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、 SURECLICKTMオートインジェクター(Amgen, Thousand Oaks, CA)、PENLET(商標)(Haselmeier, Stuttgart, Germany)、EPIPEN(Dey, L.P.)及びHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs, Abbott Park IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0191】
ある特定の状況において、医薬組成物を制御放出系において送達することができる。一実施態様において、ポンプを用いることができる。別の実施態様において、ポリマー材料を用いることができる。更に別の実施態様において、制御放出系を、組成物の標的の近くに配置し、全身用量の一部のみを要するようにすることができる。
【0192】
注射用調製物は、静脈内、皮下、皮内、及び筋肉内注射、点滴等のための剤形を含んでもよい。これらの注射用調製物を、当該分野で既知の方法を用いて製造することができる。例えば、注射用調製物を、例えば、注射のために従来用いられる滅菌水性媒体或いは油性媒体中に、上記の抗体又はその塩を溶解、懸濁又は乳化することにより製造することができる。注射のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖及び他の補助剤などを含有する等張液等が存在し、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50 mol)付加物)]等の適切な可溶化剤と組み合わせて用いることができる。油性媒体としては、ごま油、大豆油等が用いられ、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の可溶化剤と組み合わせて用いることができる。かくして製造された注射液は、適切なアンプル中に充填することができる。
【0193】
有利には、上記の経口或いは非経口用の医薬組成物は、活性成分の用量を適合するように合わせた単位用量の剤形に製剤化することができる。単位用量中のそのような剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射液剤(アンプル剤)、坐剤等が挙げられる。
【0194】
本発明の任意の方法又は用途において、本発明の抗体(及びそれらを含む医薬組成物、及び任意の他の治療剤)は、非経口投与、肺内投与及び鼻腔内投与を含む任意の適切な投与方式により投与することができる。なお、局所治療を必要とする場合、病巣内投与も可能である。非経口経路の点滴には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内或いは皮下投与が含まれる。投与が短期的また長期的であるかどうかに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射を採用してもよい。本明細書において、多様な投与スケジュールには、これらに限定されないが、単回投与又は複数の時点での多数回投与、ボーラス投与及びパルス点滴が含まれる。
【0195】
疾患の予防又は治療のために、本発明の抗体の好適な用量(単独又は1つ以上の他の治療剤と併用する場合)は、治療すべき疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、前記抗体が予防又は治療目的で投与されるかどうか、既往の治療、患者の臨床歴及び前記抗体に対する反応、並びに主治医の判断に依存して選択されるだろう。前記抗体は、1回の治療で或いは一連の治療で、患者に好適に投与される。
【0196】
本発明の方法又は用途のいくつかの好ましい実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、皮下又は腹腔内に投与される。いくつかの好ましい実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、単剤又は多剤で投与される。好ましくは、本発明の抗ANG2抗体の少なくとも1用量は、対象が細菌、ウイルス、細菌毒素などの炎症誘発剤に曝露される前又は直後に投与され、より好ましくは、対象において肺の炎症性細胞の浸潤が発現される前に投与される。いくつかの実施態様において、抗体は、液体組成物として製剤化される。いくつかの実施態様において、抗体は、吸入、吹き入れ、噴霧、又は注射投与用に製剤化され、或いは経口、直腸、局所、又は腹腔内投与のための医薬組成物として製剤化される。いくつかの実施態様において、注射は静脈内注射である。いくつかの好ましい部実施態様において、本発明の抗ANG2抗体は、医薬組成物に含まれ、かつ、任意に前記医薬組成物は、ガラスバイアル、シリンジ、プレフィルドシリンジ、オートインジェクター、及びマイクロ輸液セットからなる群より選択される容器に保持される。
【0197】
一態様において、本発明は、上記の方法又は用途における使用のための併用薬剤又は医薬組成物に関し、それらが本発明の抗ANG2抗体及び薬学的な担体を含む。いくつかの実施態様において、併用薬剤又は医薬組成物は、第2の治療剤をも含む。
【0198】
一態様において、本発明は、上記の方法又は用途における使用のための医薬用容器に関し、それらが本発明の医薬組成物を含有する容器、及び添付文書を含む。一実施態様において、医薬用容器は、第2の治療剤を含有する容器を含む。
【0199】
X. 診断及び検査のための方法及び組成物
一態様において、本発明は、検測サンプル中のANG-2を検査する方法及び試薬キットに関する。前記方法は、(a)前記サンプルを本発明の抗体或いはその抗原結合断片或いは免疫コンジュゲートと接触させること、及び(b)前記抗体或いはその抗原結合断片或いは免疫コンジュゲートがANG-2タンパク質との複合体の形成を検出することを含む。いくつかの実施態様において、サンプルは、癌患者或いは眼疾患患者からのものである。 前記サンプルは、組織生検、組織切片、体液、例えば、血液、血漿、或いは血清であってもよい。前記検査は、in vitro又はin vivoで実施されてもよい。
【0200】
用語「検査」が本明細書に用いられる場合、定量的又は定性的な検査を含む。例示的検査方法は、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー(例えば、FACS)、抗体分子磁気ビーズ、ELISA測定法、及びPCR-技術(例えば、RT-PCR)に関してもよい。いくつかの実施態様において、検査すべきのANG-2は、ヒトANG-2或いはカニクイザルANG-2である。
【0201】
一実施態様において、抗ANG-2抗体は、抗ANG-2抗体の治療に適する対象を選択するために用いられ、例えば、そのANG-2は、前記対象を選択するために用いられるバイオマーカーである。一実施態様において、本発明の抗体を用いて、例えば、腫瘍或いは敗血症等の感染症等の血管関連疾患を診断し、また、対象において本明細書に記載の疾患の治療或いは進行、その診断及び/又は病期を評価する(例えば、モニタリング)。
【0202】
いくつかの実施態様において、ラベル化した抗ANG-2抗体を提供する。ラベルには、直接に検出されるラベル又は部分(例えば、蛍光ラベル、発色団ラベル、電子密度ラベル、化学発光ラベル、及び放射性標識)、及び間接に検出される部分、例えば、酵素或いはリガンド、例えば、酵素反応或いは分子による相互作用が挙げられるが、これらに限定されない。例示的ラベルとしては、放射性同位元素32P、14C、125I、3H及び131I、希土類キレート化合物或いはフルオレセイン及びその誘導体などの蛍光体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル(dansyl)、ウンベリフェロン(umbelliferone)、ホタルルシフェラーゼ及び細菌性 ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)等のルシフェラーゼ(luceriferase)、フルオレセイン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HR)、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、α-アミラーゼ、リゾチーム、グルコースオキシダーゼ、ガラクトース酸化酵素、グルコース6リン酸脱水素酵素などのグルコース酸化酵素、ウリカーゼ及びキサンチン酸化酵素等の複素環酸化酵素、及びHR、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ(microperoxidase)等の過酸化水素酸化染料前駆体を使用するログナーゼ、ビオチン/アフィン、スピンラベル、ファージ標識、安定なフリーラジカルなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0203】
本発明をよく理解するため、以下の実施例について説明する。任意の方式で実施例を本発明の保護範囲を限定することに意図的に解釈すべきではない。
【実施例】
【0204】
実施例1.ハイブリドーマ細胞の調製
本実験では、ヒトアンジオポエチン2(Ang2)タンパク質によりマウスを免疫し、またマウスの脾臓細胞を採取し、骨髄腫細胞と融合させ、陽性抗体を発現できるハイブリドーマ細胞を得る。
ハイブリドーマの融合
【表5】
【0205】
細胞融合:
免疫された動物から脾臓を採取し、脾臓細胞懸濁液を作成する。赤血球をろ過・分解する後、脾臓細胞を20 mlの基本培地に懸濁して、計数する。
【表6】
【0206】
20 mlの基本培地でマウス骨髄腫細胞SP2/0細胞(ATCC、CRL-1581)を再懸濁して計数する。SP2/0細胞と脾臓細胞を1:2~1:1の比率で混合し、1000 rpmで6分間遠心分離する。上清液を除去し、混合された細胞を10 mlの融合緩衝液(BTXpress、47-0001)に再懸濁させる。15 mlの融合緩衝液を加え、1000 rpmで5分間遠心分離し、上清液を除去する。上記のステップを1回繰り返した後、細胞を適量の融合緩衝液で再懸濁し、混合された細胞の密度を1x10
7個細胞/mlまでに調整する。電気融合装置のパラメータは、以下のように設定する。各電気融合用ディッシュに細胞懸濁液を2 mlずつ加え、電気融合を行う。
【表7】
【0207】
電気融合後のスクリーニング:
細胞を電気融合用ディッシュに室温で5分間静置する。細胞を遠心管に移し、スクリーニング用培地(下表を参照)で1~2×10
4個細胞/mlまでに希釈する。96ウェルプレートの各ウェルに100 μlの細胞懸濁液を加える。融合後7日目にスクリーニング用培地を交換する。培養10日目(或いはそれ以上、細胞の増殖状況による)以降にスクリーニングを行う。Elisa法で特異性抗hAng2抗体を発現するハイブリドーマ細胞をスクリーニングする。
【表8】
【0208】
スクリーニングされたハイブリドーマ細胞を発現する抗体に対して、PCRにより配列決定を行い、抗体の可変領域遺伝子を特定し、キメラ抗体のスクリーニング、ヒト化、及び親和性成熟(affinity maturation) を行い、本発明の抗体配列を得る。
本発明に例示された6つの抗体(キメラ抗体81H10、86E9、107H7;ヒト化抗体hz81H10.4;親和性成熟抗体Amhz81H10.4.30、Amhz81H10.4.49)のCDR領域、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域、軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列、及び対応のヌクレオチド配列は以下の表Dに示す。
【表9】
【0209】
実施例2.抗体の作製及び精製
(1)GS-CHO細胞中の発現及び精製:
メーカーの添付文書に従って、GS Xcee(商標) Gene Expression Systemキット(Lonza社)を使用し、抗体を発現するCHO-S細胞株を作製する。まず、抗体分子の重鎖と軽鎖のDNA配列を、同じpCHO1.0プラスミドに挿入し、その重鎖が軽鎖の上流にある。続いて、構築されたpCHO1.0プラスミドをCHO細胞株に化学的トランスフェクション法及びエレクトロポレーション法で導入し、48時間後ForteBioにより抗体の収量を測定し、トランスフェクション効率を判定する。トランスフェクション後の細胞は、10 ug/mlと50 ug/mlピューロマイシンで2回の圧力スクリーニングを行い、高いレベル発現の抗体の細胞プール(pool)を得る。その後、細胞プールを拡張し、抗体を大量に発現させ、細胞上清用のプロテインAを回収し、細胞上清液を精製し、抗体の純度を95%超に達成させる。
【0210】
(2)HEK293細胞中の発現及び精製:
HEK293細胞中の抗体の一過性発現に対して、pcDNA3.1等の従来のプラスミドを使用して行うことができる。まず、抗体の重鎖と軽鎖をコードするcDNAをpcDNA3.1ベクターにクローニングする。そして、化学的トランスフェクション法を用いて、抗体分子の重鎖と軽鎖を持つベクターをHEK293細胞に導入する。使用された化学的トランスフェクション試薬はPEI(Polysciences社より購入)であり、メーカーが提供するプロトコルに従って、培養された293HEK(Invitrogen社)を一過性にトランスフェクションする。トランスフェクション後、培地を廃棄し、細胞を新鮮なEXPI293培地(Gibco)で4x106/mlまでに希釈する。37℃、5%CO2の条件下で細胞を7日間培養し、48時間ごとに新鮮な培地を加える。7日後、細胞を1300 rpmで20分間遠心分離する。上清液を取り、上清液をプロテインA(Protein A)で精製して、抗体の純度を95%超に達成させる。
【0211】
実施例3.本発明の抗体及び抗原の結合動力学の測定
実施例3.1
バイオ光干渉法(ForteBio)を用いて、ヒトAng2(hAng2)、カニクイザルAng2(cAng2)、マウスAng2(mAng2)、及びヒトAng1(hAng1)に結合する本発明の上記例示的抗体の平衡解離定数(KD)を測定する。
ForteBio親和性測定は、既存の方法(Estep, Pら,High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning. MAbs, 2013.5(2): p. 270-8)に従って行う。簡単に説明すると、センサーが分析緩衝液の中に30分間オフラインで平衡化し、その後オンラインで60秒間検査しベースラインを確立し、上記のように得られた精製抗体をAHQセンサー(ForteBio)にオンラインでロードして、ForteBio親和性測定を行う。ロードされた抗体を有するセンサーを100 nMのhAng2、cAng2、mAng2、hAng1抗原に5分間暴露し、その後、センサーを分析緩衝液に移し、5分間解離して、解離速度の測定に用いる。1:1結合モデルによる動力学的な解析を行う。
【0212】
上記の測定法に従って行った実験において、81H10、86E9、107H7、hhz81H10.4、Amhz81H10.4.30、Amhz81H10.4.49及び対照抗体Nesvacumab(Regeneron)の親和性を表1に示す。
【0213】
【0214】
上記一覧表の結果から、本発明の上記例示的抗体はいずれも非常に高い親和性を示し、hz81H10.4及びAm81H10.4.49は対照抗体Nesvacumabよりも高親和性を有することが分かる。
【0215】
実施例3.2
hz81H10.4を選択し、Biacore instrument T200を用いて、hz81H10.4がヒトANG2(Human ANG2)、アカゲザルANG2(Rhesus ANG2)、ラットANG2(Rat ANG2)、マウスANG2(Mouse ANG2)、ウサギANG2(Rabbit ANG2)等異なる種のANG2タンパク質との結合力を検討した。
抗体とANG2との親和性測定について、Protein Gチップの2チャンネルを選択し、抗体を捕捉する。実験の流速が10 μL/分である。1 μg/mLまでに希釈した抗体をチャンネル2に捕捉し、捕捉時間が30秒であり、1チャンネルがブランクコントロールチャンネルとする。勾配希釈後のヒトANG2、アカゲザルANG2、ウサギANG2、ラットANG2又はマウスANG2を、低濃度から高濃度(0~32 nM)まで、30 μL/minの流速で1サイクルごとに一つの濃度を測定し、チップ1、2に順次注入し、25℃での結合時間が180秒、解離時間が1200秒であった。最後にGlycine pH 1.5を用いり、30μL/minで30秒注入することによりチップを再生する。親和性測定は3回繰り返す。
【表11】
【0216】
実施例4 抗体とヒトAng2タンパク質との結合
本発明の抗hAng2抗体とヒトAng2タンパク質のELISA実験
ELISAに基づく測定法において、上記例示的キメラ抗体81H10、86E9及び107H7に対応する親マウス由来のハイブリドーマ抗体とヒトhAng2との結合を測定した。
【0217】
ヒトang2タンパク質(Sino Biological、品番:10691-H08H)をPBSで0.25 ug/mlまでに希釈し、ウェルごとに100 ulでELISAプレートにコーティングし、4°で一晩置く。PBSTで3回洗浄した後、5% BSAでブロッキングする。勾配希釈された抗体(最大濃度20 nM、1:2等倍希釈)を取り、ELISAプレートに加え、2時間インキュベートする。PBSTで3回洗浄した後、1:10,000で希釈したAnti-mouse IgG、HRP-linked Antibody(Cell Signaling、品番:7076P2)を加え、60分間インキュベートし、PBSTで6回洗浄する。100 ulのTMBで発色して、100 ulの2N硫酸で終了させる。酵素キャリブレータ―示度はOD450 - OD620。そのOD450 - OD620に基づき、GraphPadを用いて濃度依存曲線をフィッティングする。
【0218】
抗体81H10、86E9及び107H7に対応するマウス由来ハイブリドーマ抗体の結果を
図1に示す。
【0219】
SA-ビオチンAng2に基づくELISA測定法で、本発明の81H10及びhz81H10.4とヒトビオチンAng2タンパク質との結合を測定する。
【0220】
SAタンパク質(Thermo Fisher)を PBS で 1 ug/mlまでに希釈し、ウェルごとに100 ulでELISAプレートにコーティングし、4°で一晩置く。PBSTで3回洗浄し、5% BSAで1時間ブロッキングする。ビオチンAng2(R&D、品番:BT623B/CF)を0.5 ug/mlの濃度で1時間インキュベートする。勾配希釈された抗体(最大濃度20 nM、1:3等倍希釈)をELISAプレートに加え、2時間インキュベートし、PBSTで3回洗浄する。1:10,000で希釈されたAnti-human IgG、HRP-linked Antibody(Bethyl、品番:A80-104P)を加え、60分間インキュベートする。PBSTで6回洗浄する。100 ulのTMBで発色して、100 ulの2N硫酸で終了させる。酵素キャリブレータ―示度はOD450 - OD620。そのOD450 - OD620に基づき、GraphPadを用いて濃度依存曲線をフィッティングする。
【0221】
抗体81H10及びhz81H10.4についての結果を
図2に示す。
上記の測定法に従って行った実験において、81H10、86E9及び107H7、hz81H10.4はhAng2に結合し、EC50値が対照抗体-Nesvacumabと相当である(
図1A及び
図1Bを参照)。
【0222】
実施例5 抗体はヒトAng2タンパク質とTie2タンパク質との結合をブロックする
ELISAにより81H10、86E9、107H7、hz81H10.4、Amhz81H10.4.30、Amhz81H10.4.49及び対照抗体 Nesvacumab及びfaricimabによるヒトAng2とhTie2との結合をブロックする能力を検証した。Faricimabは、ロシュ社により開発される臨床試験中の二重特異性抗体薬剤であり、アンジオポエチン-2(Ang-2)とVEGF-Aの両方を標的とする。
【0223】
hTie2タンパク質(Sino Biological、品番:10700-H03H)をPBSで再懸濁し、2 ug/mlの濃度までに溶解し、ELISAプレートにコーティングし、一晩置く。5%BSAで1時間ブロッキングする。ビオチン抗原Recombinant Biotinylated hAngiopoietin-2タンパク質(R&D、品番:BT623B/CF)を600 ng/mlまでに希釈し、50 μl/ウェルでELISAプレートに加える。上記のように調製された抗体(81H10、86E9、107H7、hhz81H10.4、Amhz81H10.4.30、Amhz81H10.4.49)を最大濃度から合計8或いは12の希釈グラジエントで希釈し、50 μl/ウェルでELISAプレートに加え、PBS中に氷上で30分間インキュベーションする。その後、ELISAプレートに50 ulの抗原溶液を加え、抗原の最終濃度が300 ng/mlである。抗原抗体混合液を含むELISAプレートを90分間インキュベートする。PBSで3回洗浄し、上清を廃棄し、ウェルごとに1:10000で希釈したAvidin-HRP(Invitrogen)100 μlを加え、常温で30分インキュベートし、PBSで6回洗浄する。ウェルごとに100 ulのTMB 発色液(solarbio)で1分間発色し、ウェルごとに100 ulのストップバッファー(solarbio)で終了させる。
【0224】
マイクロプレートリーダーを用いて、OD
450 - OD
620の吸光度値を測定する。
実験結果から、81H10、86E9、107H7、hz81H10.4、Amhz81H10.4.30、Amhz81H10.4.49及び対照抗体Nesvacumabは完全な遮断作用を達成し、IC50値においては、hz81H10.4は対照抗体Nesvacumab及びfaricimabより優れることが示された。(
図2(A)~(F)を参照)
【0225】
実施例6 抗体はヒトAng2-Fcタンパク質とTie2を過剰発現する293細胞との結合をブロックする
フローサイトメトリー検査(FACS)により、hz81H10.4及び対照抗体NesvacumabがヒトAng2-hFcと細胞表面のTie2との結合をブロックする能力を検証した。
MCSにクローニングされたヒトTie2遺伝子を搭載するpCHO1.0ベクター(Invitrogen)をトランスフェクションすることにより、ヒトTie2を過剰発現するexpi-293細胞(293-tie2細胞)を産生する。抗原hAng2-Fcタンパク質(Sino Biological、品番:10691-H02H)を4 ug/mlまでに希釈し、50 μl/ウェルでプレートのウェルに加える。上記のように調製された抗体(hz81H10.4及び対照抗体Nesvacumab)を最大濃度800 nMから合計12希釈グラジエントで2倍勾配希釈し、50 μl/ウェルでウェルに加え、PBS中に30分インキュベートし、抗原の最終濃度が2 ug/ml、抗体の最終濃度が400 nMである。293-tie2細胞を2x10
5細胞/ウェルに調整し、100 μl/ウェルでプレートのウェルに加える。細胞を300 gで5分間遠心分離し、上清を廃棄し、抗原抗体混合液に再懸濁する。氷上で30分インキュベートし、100 μl/ウェルのPBSを加え、300gで5分間遠心分離し、PBSで1回洗浄する。ウェルごとに1:200で希釈した100 μlのGoat anti-human IgG-PE(Southern Biotech、品番:2040-09)を加え、氷上で20分インキュベートする。100 μl/ウェルのPBSを加え、300 gで5分間遠心分離し、PBSで1回洗浄する。100 μlのPBSで再懸濁し、フローサイトメトリー(BD Biosciences社)で細胞蛍光シグナル値を測定する。そのMFIに基づき、GraphPadを用いて濃度依存曲線をフィッティングする。その結果を
図3に示す。hz81H10.4は、対照抗体Nesvacumabより優れるIC50値を有する。
【0226】
実施例7 抗体はヒトAng2-Fcタンパク質にる293-tie2細胞中のTie2リン酸化をブロックする
hAng2-Fcによるtie2リン酸化に対する抗体HZ81H10.4と陽性対照抗体Nesvacumab(Regeneron,抗体HC/LC配列SEQ ID No:11/12)の抑制作用を検測し比較する。
簡単に言えば、抗体と組み換えhAng2-Fcタンパク質で、tie2を過剰発現するexpi293細胞、293-tie2を共同インキュベートし、系内のリン酸化Tie2の含有量を測定することにより、hAng2-Fc誘導のTie2のリン酸化に対する抗体の抑制作用を反映する。
Tie2を過剰発現する293-tie2細胞を採取し、2×106細胞/mlまでに希釈し、ウェルごとに100 ulを96ウェルプレートに加え、400 gで5分間遠心分離し、上清を除去する。Expi293培地(Gibco)を用いて、実験用培地を製造する。試験抗体をプレートウェルに加え、最大の最終濃度が60 ug/mlとなり、順次に1:2等倍希釈する。その後、hAng2-Fcを加え、最終濃度が2.5 ug/mlとなる。細胞をウェルごとに100 ulの実験用培地で再懸濁し、37℃で15分間インキュベートする。培地を遠心分離で除去し、1%のプロテアーゼとホスファターゼ阻害剤を含むNP-40ライセートを100 ul加え、氷上で30分間置く。2000 gで遠心分離し、タンパク質上清を集め、-80℃で冷蔵庫で保存する。
【0227】
リン酸化tie2 ELISAキット(R&D社、品番:DYC2720E)のプロトコルに従って、pTie2濃度を測定する。capture antibodyを4 ug/mlの濃度でELISAプレートにコーティングし、4℃で一晩置く。PBST で3回洗浄し、5%BSAでブロッキングする。検査すべきサンプル(2~3 倍希釈)100 ul及び対照pTie2(検量線を作成するため)を加え、室温で 2 時間インキュベートする。PBSTで3回洗浄し、HRPをコンジュゲートした抗pTyr抗体を100 μL加える。PBSTで6回洗浄し、100 ulのTMBを加えて発色させ、15分後に100 ulのストップバッファーを加えて反応を終了させる。OD
450 - OD
620を測定する。実験結果を
図4に示す。
【0228】
その結果から、本発明の抗体は、in vitroにおいてhAng2-Fcによる293-Tie2のリン酸化を効果的に抑制することができ、活性に対する抑制作用は陽性対照抗体Nesvacumabと同程度であることが示された。
【0229】
実施例8 抗体はヒトAng2タンパク質とインテグリン媒介の細胞接着をブロックする
様々のRGDインテグリンを発現するU87細胞(ヒト神経膠腫細胞)を用いて、抗体存在下でELISAプレートに接着したU87細胞数をCelltiter(Promega)により測定し、hAng2/インテグリン媒介の細胞接着に対する抗体の抑制作用を検討し、陽性対照抗体Nesvacumabと比較する。
【0230】
簡単に言えば、ELISAプレートを紫外線で滅菌し、組み換えhAng2(Sino Biological、品番:10691-H08H)を2.5 ug/mlまでに希釈し、ELISAプレートにコーティングし、4°で一晩置く。PBSで3回洗浄し、DMEM中の10%FBSでELISAプレートを1時間ブロッキングする。ブロッキング液を廃棄し、本発明の抗体を加え、IgGアイソタイプ対照抗体を陰性対照とし、Nesvacumabを陽性対照とする。抗体の最大濃度が100 ug/mlであり、1:4等倍希釈して、合計6濃度勾配となる。100 ul/ウェルの抗体を加え、90分間インキュベートする。PBSで3回洗浄する。無血清DMEMを1X105細胞/ml濃度のU87MG細胞に希釈し、各ウェルに100 ulずつ加える。37℃で、CO2インキュベータで30分間インキュベートする。100 ul/ウェルのPBSで3回洗浄し、上清を慎重に廃棄する。ウェルに100 ulのCellTiter-Glo(Promega、品番:G7572)を加え、2分間振とうする。メーカーの添付文書に従って、マイクロプレートリーダーで吸光度を測定する。
【0231】
実験結果を
図5A及び5Bに示す。抗体hz81H10.4及びNesvacumabは、いずれもhAng2とインテグリンの相互作用を効果的にブロックでき、また同等の効力を有する。
【0232】
実施例9 異なる由来の細胞に対する抗体の非特異的結合
異なる網膜由来の細胞に対する抗体の結合を検査し、抗体の非特異的な細胞結合性を同定する。
1*10
6/mlのARPE-19、Muller、Astrocyte、HUVEC及びSP2-0細胞(いずれもATCCより入手可能)からトータルRNAを抽出し、RT-PCRによりARPE-19、Muller、Astrocyte細胞においてAng2遺伝子の転写がないことを検証する。その結果を
図3の電気泳動図に示す。上側の電気泳動図は、増幅により生成されたAng2PCRバンドを示す。陽性対照細胞HUVECを除いて、ARPE-19、Muller、AstrocyteにおいていずれもAng2遺伝子が転写されなかった。下側の電気泳動図は対照遺伝子β-アクチンの増幅バンドを示す。
【0233】
1*106/ml ARPE-19、Muller或いはAstrocyte細胞を取り、96ウェルU底プレートにウェルごとに100 ulを加え、遠心分離により培地を除去する。勾配希釈のAng2抗体(最大1 mg/ml、1:2等倍希釈)を製造する。勾配希釈された抗体を被験細胞に加え、4℃で1時間インキュベートする。200 ul/ウェルのPBSを加え、400 gで5分間遠心分離し、上清を除去する。1:200で希釈したPE-anti human Fc(Southern Biotech)蛍光二次抗体を各ウェルに加え、4℃で30分間インキュベートする。上清を廃棄し、100 ul/ウェルのPBSを加え再懸濁し、フローサイトメトリーでMFI値を測定する。
【0234】
実験結果を
図6に示す。抗体hz81H10.4は、高濃度下でAng2を発現しない細胞に非特異的結合が対照抗体Nesvacumabより弱い。このことは、抗体hz81H10.4がより高い選択性を有することを示しており、抗体の体内投与に、特に局所の高濃度投与に有益であり、例えば、硝子体腔の高濃度注射による眼疾患の治療に用いる。
【0235】
実施例10 抗Ang2抗体によるHUVEC細胞を抑制するICAM-1/VCAM-1発現試験
生理的な条件下では、Ang1は血管周皮細胞から産生され、Ang2は血管内皮細胞から産生される。Ang1とAng2は血管内皮細胞上に発現されるTIE2受容体と競合的に結合し、下流の事象を引き起こす。本実施態様において、ANG1及びANG2の両方の存在下で、内皮細胞の炎症マーカーの発現に対する抗ANG2抗体の影響を検討する。
【0236】
簡単にいえば、レンチウイルスを用いりHUVEC細胞をトランスフェクションして、Tie2を過剰発現するHUVEC-Tie2細胞を得る。Huvec-Tie2細胞を2x105細胞/mlの濃度で24ウェル又は96ウェルプレートに接種する。
【0237】
第一群の試験では、Huvec-Tie2細胞を24時間培養する後、以下の条件培地に変更する。
Blank群:EGM培地(内皮細胞培地、LONZA)。
TNFα群:EGM培地+100 pg/ml TNFα。
TNFα +ang1群:EGM培地+100 pg/ml TNFα+50 ng/ml Ang1。
TNFα+ang1+ang2群:EGM培地+100 pg/ml TNFα+50 ng/ml Ang1+500 ng/ml Ang2。TNFα誘導のHUVEC-Tie2細胞のCD54及びCD106発現に対するAng2の影響を検討することに用いる。
【0238】
第二群の試験では、Huvec-Tie2細胞を24時間培養する後、以下の条件培地に変更し、抗ang2抗体の存在下でCD54及びCD106発現に対するang2の影響をさらに検討する。
Control 群:EGM培地+100 pg/ml TNFα+50 ng/ml Ang1+500 ng/ml Ang2。
hz81H10.4群:EGM培地+100 pg/ml TNFα+50 ng/ml Ang1+500 ng/ml Ang2+15 ug/ml HZ81H10.4。
Nesvacumab群:EGM培地+100 pg/ml TNFα+50 ng/ml Ang1+500 ng/ml Ang2+15 ug/ml Nesvacumab。
【0239】
条件培地で24時間培養後、細胞をPBSで3回洗浄し、100 ulの膵酵素で消化し、CD54抗体(Biolegend Cat:353108)及びCD106抗体(Biolegend Cat:305810)を使用し抗体染色(1:500希釈、ウェルごとに500 ul)を行う。染色・洗浄の後、フローサイトメトリーで細胞のCD54及びCD106の発現量を測定する。
【0240】
試験結果(
図7)から、hz81H10.4は、Ang2とその関連する受容体の結合をブロックすることにより、血管内皮細胞の炎症マーカーCD54(ICAM-1)及びCD106(VCAM-1)の発現を抑制することができることが示された。
【0241】
図7Aに示すように、ANG1の存在下でも、Ang2はTNFα誘導のHUVEC細胞のCD54及びCD106発現を依然に増感することができる。一方、
図7Bに示すように、HZ81H10.4はAng2の該当機能を著しく抑制することができ、陽性対照抗体Nesvacumabと同等又はそれ以上の効果がある(
図7B)。ICAM-1及びVCAM-1は、uniportにおいてGO生物学的過程GO:0002438(抗原性刺激に対する急性炎症反応)に注釈され、血管内皮を越える白血球の移動に関与する。抗体によるICAM-1/VCAM-1の発現抑制は、抗体が急性炎症反応における血管内皮を越える白血球の移動及び炎症組織への白血球の浸潤を有効的に予防できることを示唆した。
【0242】
実施例11 HUVEC-Tie2漏出試験
Ang2/Tie2とAng2/インテグリンのシグナル伝送経路は、病態状況下の血管内皮細胞の透過性増加及び血管漏出と関連する。hz81H10.4分子はAng2/Tie2とAng2/インテグリンのその機能をブロックすることができるため、HUVEC-Tie2漏出試験により血管漏出に対する抗体の影響を更なる同定する。
【0243】
レンチウイルスを用いてHUVEC細胞をトランスフェクションして、Tie2を過剰発現するHUVEC-Tie2細胞を得る。mini-well96ウェルのセルカルチャーインサートを使用し、下層に300 ulの培地を置く。単層培養(monolayer culture)されたHUVEC-Tie2(自己分泌のAng2)を消化し、培地を用いて1x107細胞/mlまで再懸濁し、100 ul/ウェルでペトリ皿の上層に置く。24時間ごとに下層培地を交換し、48時間後に上層培地を実験用培地に交換する。
【0244】
Blank群:EGM-2 medium(内皮細胞培地、LONZA)。
Control群:EGM-2 medium+5 ng/ml VEGF+200 ng/ml Ang1。
IgGアイソタイプ対照群:EGM-2 medium+5 ng/ml VEGF+200 ng/ml Ang1+1 ug/ml IgGアイソタイプ対照抗体。
hz81H10.4群:EGM-2 medium+5 ng/ml VEGF+200 ng/ml Ang1+1 ug/ml hz81H10.4。
Nesvacumab群:EGM-2 medium+5 ng/ml VEGF+200 ng/ml Ang1+1 ug/ml Nesvacumab。
【0245】
37℃、5%CO2で細胞を培養する。24時間後、上層にFITC-Dextran(4 mg/ml)10 ulをウェルごとに加え、37℃、5% CO2で置く。30分後、下層の培地を取り、PBSで1:10で希釈して、その後多機能酵素キャリブレータ―で測定する。使用される励起光波長が488 nm、放出光波長が535 nmである。
【0246】
試験結果を
図8に示す。図に示すように、Ang1存在下でもVEGFはHUVEC細胞に著しい血管漏出を起こしたが、抗Ang2抗体を添加した後、VEGFによる血管漏出は有意に抑制された。ang1存在下でのVEGFによる血管内皮細胞透過性の上昇に対して、抗体hz81H10.4の投与はほぼ完全に抑制し、効果が陽性対照抗体Nesvacumabより優れる。
【0247】
実施例12 急性呼吸窮迫症候群試験
実施例12.1 抗Ang2抗体による異なる濃度のLPS誘発の急性呼吸窮迫症候群を抑制する試験
【0248】
急性呼吸促迫症候群(ARDS)は、重度の呼吸窮迫と進行性の呼吸不全を主症状とする臨床救急疾患である。その病理特徴は肺胞上皮バリアと肺毛細血管内皮バリアのびまん性障害により、炎症性サイトカインの浸潤と肺重量の増加である。LPS誘発のニュージーランドウサギ急性呼吸窮迫症候群モデルを用いて、急性炎症性肺損傷等による人患者の肺機能異常を模倣し、肺炎に罹する動物個体において、肺胞毛細血管バリアに対する抗Ang2抗体の補助回復機能を検測した。
【0249】
動物モデリング
動物種:ニュージーランドウサギ(2~5ヶ月齢)、Suzhou Genescience Biotechnology Co., Ltd.から購入。実験用動物の生産許可番号:SCXK(Su)2020-0002。実験用動物の品質証明番号:20200907214。飼養1週間後に試験を開始する。
リポ多糖(LPS) SIGMA社から購入、品番:L2630-100MG-PW、ロット番号:0000082412。
動物モデルに試薬リポ多糖を投与する当日に、適量のリポ多糖(LPS)を正確に量り、適量の塩化ナトリウム注射液を加え、ボルテックス振盪混合し、最終的にリポ多糖を0.5 mg/mL、1 mg/mL、2 mg/mL、5 mg/mLの濃度に調製する。無菌的に適量のHZ81H10.4原液を取り、適量の無菌PBSを加え、ボルテックス混合し、最終的に試料溶液の濃度を7.5 mg/mLに調製する。検疫合格の雄12匹を秤量する後、LPS低用量群、LPS中用量群、LPS高用量群にランダムに分け、群ごとに4匹、各群の動物の平均体重は同等である。動物に対してすべで腹腔内注射と気道内霧化を併用しモデリング試薬リポ多糖(LPS)を投与する。詳細は下表に示す。
【0250】
【0251】
モデリング方法:
3つのLPS用量群は、3バッチでモデリング作業を行う。
D0日に、各群の動物の体重に応じて、モデリング試薬(リポ多糖、LPS)を採取し、腹腔内注射でリポ多糖を投与する。
D1日に、各群の動物にリポ多糖を腹腔内注射する16時間(±30分)後、各群の動物が上記表2の用量に従って、気管内注入でリポ多糖を投与する。
【0252】
リポ多糖(LPS)の腹腔内投与は以下のように行う:直近に秤量した動物の体重に応じて、各動物に投与するリポ多糖の量を使い捨てのシリンジで採取し、その量のリポ多糖を腹腔内投与する。投与されたリポ多糖の容積は小数点以下1桁まで求め、LPSの容積が2つの容積インデックスラインの間である場合、上位のインデックスラインの容積量にしたがって引く。
【0253】
リポ多糖(LPS)の気道内噴霧は以下のように行う:動物にZoletil(登録商標)50(チレタミン・ゾラゼパム配合剤)(8 mg/kg、50 mg/mL)とキシラジン塩酸塩(0.3 mg/kg, 20 mg/mL)を筋肉内注射で併用して麻酔し、30°で置かれたウサギ固定器上に固定する。動物用麻酔喉頭鏡を使用し、動物の舌根を押し下げ、声帯を露出させる。定量のリポ多糖(LPS)溶液を採取した肺ミニネブライザーの針(鈍性)を気管にやさしく挿入し、ピストンを急速に押し、噴霧されるLPS溶液を肺に注入してから、針をすばやく引き抜き、動物を固定器から取り外し、頭を上向き、左右に回転させ、LPSを各肺葉にできるだけ均一に分布させる。投与されたLPSの容積は小数点以下1桁まで求め、リポ多糖の容積は2つのインデックスラインの間である場合、上位のインデックスラインの容積量にしたがって引く。
【0254】
抗体投与量及び投与レジメン
試薬LPSを動物に腹腔内注射した後約0.5時間に、下記表3に従って抗体被験物質の投与を行う。
【表13】
【0255】
結果
抗hAng2抗体hz81H10.4による肺胞白血球浸潤の抑制
D7に動物を安楽死させた後、左気管支に気管カニューレを挿入し、縫合糸で気管支とカニューレを固定した。合計10 mL/kgの塩化ナトリウム注射液緩衝液を注射器で採取してから、ゆっくり注入し、肺を満たし、肺胞を3回繰り返し洗浄し、毎回の洗浄は約10秒間停留し、洗浄液を容量適切な遠心管に回収した。回収された洗浄液は1匹あたり2 mLを保留し、4℃下、約3000 rpmで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、1 mLのPBS緩衝液で再懸濁し沈殿させ、総白血球数と仕分け計数に用いられた。
抗hAng2抗体hz81H10.4は、ARDS動物の肺胞における白血球及び各種炎症性細胞の浸潤を効果的に抑制した。LPS低用量投与群の結果を
図9に示す。図に示すように、LPS誘発のARDS動物に抗体薬剤を投与する後、肺胞洗浄液中の総白血球数及び仕分け計数(好中球、リンパ球、単球等の炎症細胞の数)が、塩化ナトリウム注射の対照群と比べ有意に低下した。
【0256】
抗hAng2抗体hz81H10.4による肺重量体重インデックスの改善
各群のすべての動物(死亡、瀕死、安楽死の動物を含む)を解剖し、組織を保管する。勤務時間外に動物が死亡した場合は、冷蔵庫で2~8℃で保管し、なるべく24時間以内に解剖を行う。肺組織及び気管支を解剖し保管する。剖検の際、動物の肺、気管及び気管支に異常がないかを観察する。肺を切り取り、重量を量り、肺重量体重インデックスの算出に用いる(肺重量体重インデックス=肺重量/体重×100%)。
【0257】
図10は、肺重量体重インデックスの結果を示した。ニュージーランド雄ウサギの正常の肺重量体重インデックスは約0.3である(「Study on the Chief Organ Weight and Coefficients of Different Species of Experimental Rabbits」、Chinese Journal of Comparative Medicine,2004年12月,14巻6号)。対照個体において、3種類のLPS投与量により肺重量体重インデックスが有意に上昇した。一方、抗体投与はLPSによる肺重量体重インデックスの上昇を抑制する傾向が見られた。
抗hAng2抗体hz81H10.4による動物生存率の改善
【0258】
D7に安楽死を計画した後、試験期間中の各群の動物生存数と各群の総動物数の比率を算出する。生存率(%)=群内生存動物数/群内総動物数×100%。結果は
図11に示す。全体的に、抗体投与はARDS動物モデルにおいて動物の生存率を向上させた。
【0259】
抗hAng2抗体hz81H10.4による動物肺病理の改善
剖検の際、左肺を切り取り、肺胞洗浄液の回収に用いる。残された右肺組織と気管支を10%の中性ホルマリン緩衝液に置いて固定し、パラフィン包埋、切片、標本作製、HE染色を行い、肺の病理組織形態を観察する。標準用語を用いて診断と分類(DOI:10.1177/0192623318761348)を行い、4段階評価法(軽微、軽度、中等度、重度)に従って肺組織の病理検査を行う。
【0260】
図12は、ARDSモデルにおける肺の病理切片の染色結果を示した。
●LPS低用量+hz81H10.4群(左上):右肺肺胞/間質の軽微の炎症細胞浸潤。
●LPS低用量+Control群(左下):右肺肺胞/間質/気管支/胸膜の重度の炎症細胞浸潤、重度の水腫/フィブリノイド滲出、中等度の血栓、血管/気管支/肺胞/間質の重度の変性/壊死、軽度の膿瘍、軽度の肺胞壁肥厚、軽微の胸膜出血。
●LPS中用量+hz81H10.4群(中上):右肺に異常な病理変化が認められない。
●LPS中用量+Control群(左下):右肺肺胞/間質/気管支/胸膜の軽度の炎症細胞浸潤、軽微の膿瘍、軽度の肺胞壁肥厚。
●LPS高用量+hz81H10.4群(右上):右肺肺胞/間質/気管支の軽度の炎症細胞浸潤、軽度の肺胞壁肥厚、軽度の水腫/フィブリノイド滲出。
●LPS高用量+Control群(右下):重度の右肺鬱血、肺胞/間質の中等度の炎症細胞浸潤、軽微の水腫/フィブリノイド滲出、軽微の肺胞腔内出血。
【0261】
病理検査の結果から、hz81H10.4の投与は、LPSによる肺胞/間質/気管支/胸膜の炎症細胞浸潤、水腫/フィブリノイド滲出、肺膿瘍、血管/気管支/肺胞/間質の変性/壊死、肺胞壁肥厚、血栓、胸膜出血を改善する効果が示された。
【0262】
候補薬剤がARDSに対する治療効果を検討するため、Mohammad Reza Mokhber Defouliらにより(https://doi.org/10.1186/s13054-018-2272-x)、400 ug/kgでLPSの肺内投与によりARDSウサギ動物モデルを確立することが報告された。本実施例において、低用量、中用量、高用量の3種類のLPS投与により確立されるADRS動物モデルについて検討した。LPSの3用量はいずれも対照試験動物個体においてADRS症状を誘発し、測定されるADRSパラメータにより3用量群間に有意な差は示されなかった。一方、3つのLPS投与群では、抗ANG2抗体の投与により、ADRS動物の肺の炎症細胞浸潤が改善されただけじゃなく、全体的にはADRS動物の他の症状も緩和され、動物の生存率も向上される傾向が認められた。
【0263】
実施例12.2 異なる濃度の抗Ang2抗体のLPSによる急性呼吸窮迫症候群の抑制試験
本実施例では、LPSによるARDSモデルに対する異なる濃度の抗Ang2抗体の治療効果を検討するため、低用量(5 mg/kg)、中用量(15 mg/kg)、高用量(25 mg/kg)HZ81H10.4抗体を投与し、LPSによるARDS動物を治療した。
【0264】
動物は実施例12.1と同じである。
【0265】
グループ分けの前に検疫合格の雄36匹の体重を量り、動物をモデル対照群(9匹、塩化ナトリウム溶液を注射)、抗体被験物質低用量群(7匹)、抗体被験物質中用量群(7匹)、抗体被験物質高用量群(7匹)、陽性対照群(6匹、デキサメタゾン2 mg/kgを注射)に無作為に分ける。各群の動物の平均体重は同程度である。動物の体重に応じて、モデリング試薬(リポ多糖、LPS)を採取し、リポ多糖を腹腔内投与(0.2 mg/kg、0.2 mL/kg)し、腹腔内投与から16時間(±30分)後に、気管内噴霧でリポ多糖(0.5 mg/kg、0.5 mL/kg)を投与する。
【0266】
動物のLPSの腹腔内注射によりモデリングしてから約0.5時間後、投与(単回)を行い、第1~4群は静脈内投与、第5群は腹腔内投与であった。モデリング動物は、腹腔内注射後7日目にCTと血液ガス分析を行い、その後安楽死をさせ、肺胞洗浄液を採取・分析し、同時に病理切片の作製のため、肺組織包埋を行う。
【表14】
【0267】
結果:
抗hAng2抗体による肺胞の白血球浸潤の抑制
実施例8のように肺胞洗浄液の検査を行い、ARDS動物における肺胞白血球の浸潤状態を検討する。結果は
図10に示す。実施例8の結果と一致した。抗体hz81H10.4の投与は、ARDS動物の肺胞における白血球の浸潤を有意に抑制した(*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001)。なお、用量依存性が示され、25 mg/mlの抗体投与量の場合、肺胞白血球及び各種炎症細胞(好中球、リンパ球及び単球)浸潤に対する抗体の最大の改善効果が得られた。また、総白血球数及び好中球数の減少においてはデキサメタゾンの治療効果と同等であり、リンパ球及び単球の浸潤の抑制においてはデキサメタゾンより優れる。
【0268】
抗hAng2抗体によるモデル動物の血中酸素飽和度の向上
血液ガス分析により、モデル動物の血中酸素飽和度に対する抗体の影響を検討した。動物のCT検査終了後、動物に麻酔をかけ、腹部正中線を縦に切開し、腹部大動脈を分離し、動脈血採取器を用いて動脈血を約0.5 mL採取する。動脈血を採取した後、針をテストカードの血液注入口にやさしく差し込み、ゆっくりと血液を押し込み、サンプル注入チューブに充填する。血液が注入ポジションに達した場合、サンプルの注入を止め、キャップを閉めてから、血液は自動的に試験管に入る。テストカードをi-STAT(登録商標)1ハンドヘルド型血液ガス分析装置(300-G. Abott Point of Care Inc.USA)に挿入する。PO2(mmHg)、PCO2(mmHg)、pH、sO2%を測定指標とする。
【0269】
PO
2の測定結果を
図14に示す。対照群では、ARDSモデル動物に低酸素血症が認められ、酸素分圧が80 mmHg未満であった。抗体投与群では、ARDSモデル動物の血中酸素飽和度が用量依存的に改善され、15 mg/mlと25 mg/mlの用量において統計的な有意水準に達した(*:p<0.05、**:p<0.01、**:p<0.001)。また、25 mg/mlの抗体投与は、モデル動物の血中酸素飽和度の改善効果においてデキサメタゾン投与と同等であった。
【0270】
抗hAng2抗体による動物の肺病理の改善
剖検の際、左肺を切り取り、肺胞洗浄液の回収に用いる。残された右肺組織と気管支を10%の中性ホルマリン緩衝液に置いて固定し、パラフィン包埋、切片、標本作製、HE染色を行い、肺の病理組織形態を観察する。標準用語を用いて診断と分類を行い、4段階評価法(軽微、軽度、中等度、重度)に従って肺組織の病理検査を行う。
図15は、ARDS動物の肺病理切片の染色結果を示した。
図16は、異なる投与群において異なる肺組織炎症病変グレードの動物個体の割合を示した。
【0271】
病理検査では、対照群の肺組織に、軽度の血管/肺胞/気管支周囲/気管支上皮/間質/胸膜の炎症細胞浸潤、肺胞壁肥厚、軽度の肺胞/気管支/間質の変性/壊死、軽微の胸膜線維化、軽度の肺胞フィブリノイド滲出が認められた。対照群と比べ、hz81H10.4の低、中、高用量投与と陽性対照のデキサメタゾン投与が、LPSによる肺胞/気管支周囲/間質の炎症細胞浸潤、肺胞壁肥厚、肺胞内フィブリノイド滲出、肺胞壁/気管支/間質の変性/壊死、胸膜線維化、動脈血栓性血管炎、胸膜炎に対する緩和効果は示された。
【0272】
抗hAng2抗体による動物CT画像の改善
D7に、Zoletil(登録商標)50(チレタミン・ゾラゼパム配合剤)(8 mg/kg、50 mg/mL)及びキシラジン塩酸塩注射液(0.5 mg/kg、20 mg/mL)の筋肉内注射により動物を麻酔し、動物をCTスキャンベッドに横にして、
図17に示すように肺のCT検査を行う。
【0273】
CT画像では、hz81H10.4群において、肺の局所炎症、両肺紋理の増加、両肺の低透光度等のCT症状の改善が認められた。
【0274】
実施例12.3 抗Ang2抗体によるLPS誘発のARDS動物の生存率の改善の試験
ウサギモデルにLPS投与(0.2 mg/kg腹腔内注射+0.5 mg/kg気管内投与)及びhz81H10.4抗体(5 mg/kg)の静脈内投与を実施する。動物モデリングとその後の投与方法は実施例9と同様である。また、陰性対照として、抗体の代わりに塩化ナトリウム注射液を静脈内投与し、陽性対照として、デキサメタゾン(2 mg/kg)を腹腔内投与する。各群に7匹ずつを使用する。抗体投与後7日目に動物を処理し、肺重量体重インデックスと生存率の統計を行う。
【0275】
抗hAng2抗体による肺重量体重インデックスの改善
モデル動物の肺重量体重インデックスを抗体投与後に測定し、ARDS動物の肺重量体重インデックスに対する抗体の改善効果を検討する。抗体投与群では、モデル動物の肺重量体重インデックスが対照群と比べ有意に改善された。
【0276】
抗hAng2抗体による動物の生存率の改善
実施例12.1に記載したように動物の生存率を決定する。簡単に言えば、D7日に安楽死を計画する後、試験期間中の各群の生存動物数と各群の総動物数の比率を算出する。生存率(%)=群内の生存動物数/群内の総動物数×100%として算出する。対照群と比べ、抗体投与により、ARDSモデル動物の生存率が改善された。
【0277】
実施例13 抗Ang2抗体による眼底新生血管疾患の改善
動物in vivo薬効薬理試験
本試験では、アカゲザルのレーザーによる脈絡膜新生血管モデルを用い、本発明のhz81H10.4抗体と抗VEGF阻害剤(IBI304、配列がSEQ ID NO:60に示される)との併用による、血管漏出を伴う眼底新生血管疾患の改善効果を検証した。
アカゲザル:
種系:Macaca mulatta;グレード:普通;体重:購入時3.30~4.20 kg;モデリング時の体重:3.35~4.35 kg。購入先:Sichuan Greenhouse Biotechnology Co., Ltd.。生産許可番号:SCXK(Chuan)2014-013。実験品質証明書番号:0022202。
【0278】
本試験では、アカゲザル眼底黄斑の中心凹の周辺をレーザーで凝固することにより、眼底の脈絡膜新生血管を誘発し、ヒトの脈絡膜新生血管に類似する動物モデルを確立する。光凝固前と光凝固後20日に、フルオレセイン眼底血管造影を行い、モデリング動物の状態を確認し、モデリング合格の12匹アカゲザル(オスとメス半々)を選び、モデル対照群、IBI304群、IBI304+hz81H10.4群の3群に分け、群ごとに4匹、オスとメス半々である。光凝固後21日にそれぞれに30 μg/眼、30+90 μg/眼で、IBI304群に0.6 mg/mLのIBI304を、IBI304+81H10.4群に0.6 mg/mLのIBI304及び1.8 mg/mLのhz81H10.4を両眼に硝子体注射し、モデル対照群に等量の0.9%塩化ナトリウム注射液を投与する。各群の動物に対して、投与後7日、14日、21日、28日にカラー眼底写真撮影及びフルオレセイン眼底血管造影を行い、被験物質による脈絡膜新生血管の抑制効果を観察する。投与後29日に動物を安楽死させ、HE染色により両眼の組織学検査を行う。
【表15】
【0279】
フルオレセイン眼底血管造影検査
フルオレセイン漏出面積の改善率
フルオレセイン漏出面積の改善率=(投与前フルオレセイン漏出面積×相対蛍光強度-投与後フルオレセイン漏出面積×相対蛍光強度)/投与前フルオレセイン漏出面積×相対蛍光強度
相対蛍光強度=蛍光スポット漏出領域の平均蛍光強度-バックグラウンド領域の平均蛍光強度
アカゲザルの蛍光眼底撮影を
図18~19に示す。IBI304+hz81H10.4の併用投与群では、day0と比べ良好な血管漏出抑制効果が示され、またその効果がday7からday28まで続いた。day28の時点で、IBI304+hz81H10.4の併用投与群では、IBI304単剤群より有意に優れる効果が認められた。
【0280】
蛍光スポットの評価
モデリングした後、フルオレセイン造影により撮影される蛍光スポットのグレーディング基準は以下の通り:グレード1:蛍光スポットの過蛍光なし;グレード2:蛍光スポットの過蛍光が認められるが、フルオレセイン漏出なし;グレード3:蛍光スポットの過蛍光、軽度のフルオレセイン漏出が認められるが、漏出が蛍光スポットの辺縁を越えていない;グレード4:蛍光スポットの過蛍光、著しいフルオレセイン漏出が認められ、漏出も蛍光スポットの辺縁を越えている。グレード2~4の蛍光スポットを統計する。その結果、本動物モデルの後期において、IBI304+hz81H10.4群ではIBI304群及び対照群に比べ、グレード2~ 4の蛍光スポットの改善率(グレード2~4の蛍光スポット数の減少率)が良好であることが示された(
図20)。
これらの結果から、本発明の抗体は、投与後28日に顕著な新生血管抑制効果及び血管漏出改善効果が示された(
図18~20)ため、本発明の抗体が抗VEGF阻害剤と併用する場合、レーザーによる眼底新生血管に対する抑制効果が顕著であり、同時に血管の完全性を保護する機能も有することが証明された。
【0281】
染色による組織学的検査
投与29日後に体重に応じてペントバルビタールナトリウム(約30 mg/kgで静脈注射、動物の健康状態により投与量を調整する)でアカゲザルを麻酔し、腹部大動脈或いは大腿動脈から出血させ安楽死を行い、体の全体状態を観察し両眼を摘出する。
【0282】
各群動物の8眼から6眼を無作為に選び、その眼球組織を改良されたDavidson’s固定液で固定し、パラフィン包埋切片を作成し、レーザーによるモデリングされた部位を選択し、通常のHE染色、CD31 IHC染色とCD31/Desmin蛍光二重染色の病理検査を行う。
【0283】
レーザーによる損傷部位の組織過形成、浮腫、網膜剥離等のエリアをH&Eで観察し、Image Jを用いて損傷と浮腫エリアの面積を算出する。その結果、対照群では、レーザーによるモデリングされたエリアに広範囲の浮腫が発現され、また重度の網膜形態不規則及び組織の過形成を伴うこと、IBI304投与後に浮腫は著しく軽減したこと、なおIBI304+hz81H10.4投与群では、IBI304単剤投与の上に、レーザーによるモデリングされたエリアの網膜形態と組織の過形成がさらに改善されることが示された。結果は
図21に示す。
【0284】
図22~23に示すように、レーザーによるモデリングされたエリアの新生血管の程度を組織学上に観察するため、レーザーによるモデリングされたエリアに対してCD31(新生血管マーカー)染色を行ったところ、対照群ではレーザーによるモデリングされたエリアに多数の血管細胞が認められ、治療後のIBI304群では血管細胞が著しく減少し、IBI304+hz81H10.4投与群ではIBI304単剤投与の上にさらに新生血管細胞を減少させることが認められ、モデリング部位の新生血管を抑制する目的を達成した。
【0285】
血管の完全性に対する抗体の影響を検討ため、レーザーによるモデリングされた部分の血管状態をCD31とDesminの蛍光二重染色で評価した。その結果、対照群では、レーザーによるモデリングされたエリアでCD31陽性細胞(血管内皮細胞)は多数あるが、Desmin陽性細胞(周皮細胞、平滑筋細胞)が少なかった。一方、IBI304群では、CD31陽性細胞は著しく減少したが、Desmin陽性細胞は有意な増加が認められなかった。IBI304+hz81H10.4投与群では、CD31陽性細胞数が著しく減少しただけではなく、同時にCD31陽性細胞近傍にDesmin陽性細胞が有意に増加し、血管の完全性が著しく改善されることが示された。
図24は、対照群、IBI304群及びIBI304+ hz81H10.4群では、レーザーによるモデリングされたエリアにおけるDesmin+細胞とCD31+細胞の比率を示した。
【0286】
病理切片の結果は、本発明の抗体と抗VEGFを併用することが、抗VEGF剤単剤投与に比べ、網膜形態の改善、網膜脈絡膜新生血管の抑制、血管の完全性の向上に対してより優れた機能が認められたことを反映している。
【表16-1】
【表16-2】
【0287】
本発明のいくつかの実施態様
A1、ANG-2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、以下のものを含む:
(i)SEQ ID NO:19、21、又は23に示される重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列、並びにSEQ ID NO:20、22、又は24に示される軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列、又は、
(ii)SEQ ID NO:25に示される重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列、並びにSEQ ID NO:26に示される軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列、又は、
(iii)SEQ ID NO:27に示される重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列、並びにSEQ ID NO:28に示される軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列、又は、
(iv)SEQ ID NO:29に示される重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列、並びにSEQ ID NO:30に示される軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列。
【0288】
A2、ANG-2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、及び軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含み、その中に:
(a)HCDR1はSEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:5に示されるアミノ酸配列を含む、かつLCDR3は、SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を含む、又は、
(b)HCDR1はSEQ ID NO:7に示すアミノ酸配列を含む、HCDR2はSEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:10に示すアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含む、かつLCDR3は、SEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を含む;又は、
(c)HCDR1はSEQ ID NO:13に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:15に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:17に示されるアミノ酸配列を含む、かつLCDR3はSEQ ID NO:18に示されるアミノ酸配列を含む;又は、
(d)HCDR1はSEQ ID NO:54に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR2はSEQ ID NO:55に示されるアミノ酸配列を含む;HCDR3はSEQ ID NO:56に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR1はSEQ ID NO:57に示されるアミノ酸配列を含む;LCDR2はSEQ ID NO:58に示されるアミノ酸配列を含む、かつLCDR3はSEQ ID NO:59に示されるアミノ酸配列を含む。
【0289】
A3、実施態様A1又はA2に記載の抗体又はその抗原結合断片について、前記抗体が、前記CDR配列の組み合わせのバリアントを含み、また前記バリアントが、1、2、3、4、5又は好ましくは6CDR領域に合計少なくとも1つ、且つ12、11、10又は5、4、3、2又は1以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保守的置換)を含み、好ましくはその重鎖CDR3及びその軽鎖CDR3は変化がないままである。
【0290】
A4、実施態様A1~A3のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片は、以下のものを含む:
(i)SEQ ID NO:19、21、又は23に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる重鎖可変領域;及び/又はSEQ ID NO:20、22、又は24に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる軽鎖可変領域;又は、
(ii)SEQ ID NO:25、27、又は29に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる重鎖可変領域;及び/又はSEQ ID NO:26、28、又は30に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる軽鎖可変領域。
【0291】
A5、実施態様A1~A4のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片は、以下のものからなる群より選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む:
(i)SEQ ID NO:19、21、又は23に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる重鎖可変領域;及びSEQ ID NO:20、22、又は24に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる軽鎖可変領域;又は
(ii)SEQ ID NO:25、27、又は29に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる重鎖可変領域;及びSEQ ID NO:26、28、又は30に示されるアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる軽鎖可変領域。
【0292】
A6、上記実施態様A1~A5のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体がIgG1、IgG2、又はIgG4型の抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくはヒトIgG1 Fc部分を含む。
【0293】
A7、上記実施態様A1~A6のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体である。
【0294】
A8、上記実施態様A1~A7のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗原結合断片が、Fab、Fab'、Fab'-SH、Fv、単鎖抗体(例えば、scFv)、(Fab')2断片、単一ドメイン抗体、二重抗体(dAb)、又は線形抗体(linear antibody)からなる群より選択される抗体断片。
【0295】
A9、抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体が以下の1つ或いは複数の特性を有する:
(i)実施態様1‐8に記載のいずれかの抗体とヒトANG-2との結合を抑制する(例えば、競合的に抑制する);
(ii)実施態様A1‐A8に記載のいずれかの抗体と同じ又は重複するエピトープに結合する;
(iii)実施態様A1‐A8に記載のいずれかの抗体と競合的にヒトANG-2に結合する、
又は、
前記抗体は、以下の1つ又は複数の特性を有する:
(i)ヒトANG-2に高親和性で結合するが、ヒトANG-1には結合しない;
(ii)サルANG-2との交差免疫反応性を有する;
(iii)ヒトANG-2とヒトTie2タンパク質との結合をブロックする;
(iv)ヒトANG-2と細胞表面のヒトTie2との結合をブロックする;
(v)ヒトANG-2により誘導される細胞内Tie2のリン酸化をブロックする;
(vi)ヒトANG-2とインテグリンとの結合をブロックし、かつANG2/インテグリン媒介の細胞接着を抑制する;
(vii)網膜細胞等のANG2を発現しない細胞に対して低い非特異的結合能を有する;
(viii)血管関連疾患、例えば脈絡膜血管新生(CNV)などの眼疾患において、抗VEGF薬との併用により用いられる場合、以下の1つ或いは複数の効果をもたらす:血管漏出の低減、新生血管形成の抑制、及び血管完全性。
【0296】
A10、一種類の単離された核酸であって、上記実施態様A1~A9のいずれか1項に記載の抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片をコードする。
【0297】
A11、一種類のベクターであって、実施態様A10の核酸を含み、好ましくは、前記ベクターは発現ベクターである。
【0298】
A12、一種類の宿主細胞であって、実施態様A10に記載の核酸又は実施態様A11に記載のベクターを含み、好ましくは、その宿主細胞が原核細胞或いは真核細胞であり、より好ましくは酵母細胞、哺乳動物細胞(例えば、293細胞或いはCHO細胞)である。
【0299】
A13、抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片の調製方法であって、ここで前記方法は、上記実施態様A1~A9のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を発現するのに適した条件下で実施態様A12の宿主細胞を培養すること、任意に前記抗体又はその抗原結合断片を単離することを含み、任意に前記方法はさらに前記宿主細胞から前記抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片を回収することを含む。
【0300】
A14、上記実施態様A1~A9に記載のいずれか1つの実施態様の抗体又はその抗原結合断片を含む免疫コンジュゲートが、治療薬或いは診断薬にコンジュゲートされる。
【0301】
A15、上記実施態様A1~A9に記載のいずれか1つの実施形態の抗体又はその抗原結合断片を含む多重特異性抗体であって、好ましくは、ここで前記多重特異性抗体は、ANG-2及びVEGF-Aに結合する二重特異性抗体である。
【0302】
A16、医薬組成物であって、上記実施態様A1~A9のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片、或いは実施態様A14に記載の免疫コンジュゲート、或いは実施態様A15に記載の多重特異性抗体、及び任意に医薬添加物を含む。
【0303】
A17、実施態様A16に記載の医薬組成物であって、第2の治療剤を含み、ここで好ましくは、前記第2の治療剤は、血管関連疾患の治療薬、例えば、抗血管新生薬、及び抗VEGF薬からなる群より選択される。
【0304】
A18、実施態様A17に記載の医薬組成物であって、ここで第2の治療薬が抗VEGF薬であって、ここで前記抗VEGF薬が、VEGFR-1の免疫グロブリン様領域2、VEGFR-2の免疫グロブリン様領域3、及びヒト免疫グロブリンFcから形成される融合タンパク質であり、ここでそのFcの前に構造的な柔軟性を高めるペプチドリンカーが挿入され;好ましくは、前記抗VEGF薬は、SEQ ID NO:60に示される分子、又はそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は 99%を超えて同一性を有する分子である。
【0305】
A19、対象において、ANG2生物学的活性に関連する疾患或いは障害、例えば、血管関連疾患を予防又は治療する方法であって、前記方法は上記実施態様A1~A10のいずれか1つの実施態様に記載の抗ANG-2抗体又はその抗原結合断片、或いは実施態様A15に記載の免疫コンジュゲート、或いは実施態様A16に記載の多重特異抗体、或いは実施態様A17又はA18に記載の医薬組成物を有効量で前記対象に投与することを含み;好ましくは、前記疾患は眼底血管新生疾患及び固形腫瘍からなる群より選択される。
【0306】
A20、サンプル中のANG-2を検出する方法であって、前記方法は、以下のことを含む:
(a)そのサンプルを上記実施態様A1~A9のいずれか1つの実施態様に記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させる、及び
(b)前記抗体又はその抗原結合断片とANG-2との複合体の形成を検出し;任意に、その抗体は検出可能に標識される。
【0307】
本発明の更なるいくつかの実施態様:
B1.血管漏出及び/又は血管炎症を伴う疾患を予防又は治療する方法であって、それを必要とする対象に抗Ang-2抗体又はその抗原断片を投与することを含み、好ましくは、前記抗Ang-2抗体又はその抗原断片が、以下のものを含む:
-SEQ ID NO:7を含む重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列、及び
-SEQ ID NO:8を含む軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列。
【0308】
B2.実施態様B1に記載の方法であって、その血管漏出を伴う疾患が血管漏出症候群、急性呼吸窮迫症候群、又は急性肺損傷であり;及び/又はその血管炎症を伴う疾患が血管感染又は肺炎症であって、
好ましくは、前記疾患は、急性呼吸窮迫症候群或いは急性肺炎(例えば、ウイルス性肺炎或いは細菌性肺炎)である。
【0309】
B3.実施態様B1に記載の方法であって、前記疾患が急性呼吸窮迫症候群であり、前記抗体の投与により、以下の1つ或いは複数の疾患パラメータが改善される:
(1)肺組織の炎症細胞の浸潤度、例えば、白血球の総浸潤量、及び/又は好中球、リンパ球、単球のいずれか或いはそれらの任意の組み合わせの炎症細胞浸潤量;
(2)対象の血中酸素飽和濃度、例えば、酸素分圧(PO2)及び/又は酸素化指数(PaO2/FiO2);
(3)肺水腫の重症度或いは肺重量体重インデックス;
(4)肺組織の炎症性変化の程度;
(5)肺の画像(例えば、X線画像或いはCT画像);
(5)動物対象の生存率。
【0310】
B4.血管透過性の調節、或いは血管漏出の低減及び/又は血管炎症状態の改善のための方法であって、その方法は抗Ang-2抗体又はその抗原断片を投与することを含み、ここで前記抗Ang-2抗体又はその抗原断片が、以下のものを含む:
-SEQ ID NO:7を含む重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3配列、及び
-SEQ ID NO:8を含む軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3配列。
【0311】
B5.実施態様B4に記載の方法であって、血管透過性の増加が、VEGFなどの炎症誘発性サイトカイン、又は細菌或いはウイルス感染、又は細菌内毒素により誘発される。
【0312】
B6.実施態様B1~B5のいずれか1つの実施態様に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体の投与により、血管内皮細胞の炎症マーカーの発現が抑制され、好ましくは前記炎症マーカーがICAM-1及び/又はVCAM-1である。
【0313】
B7.実施態様B1~B6のいずれか1つの実施態様に記載の方法であって、前記対象が、ARDSを発症するリスクのある個体であり、又はその対象が、既にARDSと診断された個体、或いはARDSの疑いがある個体である。
【0314】
B8.実施態様B1~B7に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体又はその抗原結合断片が、ヒトANG2に特異的に結合し、かつ任意に以下の一つ或いは複数の特性を有する:
(i)ヒトANG-2に高親和性で結合するが、ヒトANG-1に結合しない、好ましくは例えば実施例2に記載される、Biacore親和性測定法により測定されるように、その抗体が約0.1~10x10-10MのKD値でヒトANG-2に結合する;
(ii)サル及びウサギのANG-2と交差免疫反応性を有するが、マウス由来のANG-2とは交差反応をしない;
(iii)ヒトANG-2とヒトTIE2タンパク質、例えば、細胞表面のヒトTIE2との結合をブロックする;
(iv)ヒトANG-2による細胞内のTie2のリン酸化を抑制する;
(v)ヒトANG-2とインテグリンとの結合をブロックする;
(vi)ANG2/インテグリンにより媒介される細胞接着を抑制する;
(vii)ANG2を発現しない細胞と比べ、ANG2発現の細胞に対して高い結合特異性と選択性が示される。
【0315】
B9.実施態様B1~B7に記載の方法又は使用であって、前記抗ANG2抗体又はその抗原結合断片が、以下のを含む:
-SEQ ID NO:1のHCDR1配列、
-SEQ ID NO:2のHCDR2配列、
-SEQ ID NO:3のHCDR3配列、
-SEQ ID NO:4のLCDR1配列、
-SEQ ID NO:5のLCDR2配列、及び
-SEQ ID NO:6のLCDR3配列。
【0316】
B10.実施態様B9に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体又はその抗原結合断片が、以下のものを含む:
-SEQ ID NO:7のVH配列、又はそれと少なくとも85%、90%、95%、又は99%の同一性を有する配列、及び
-SEQ ID NO:8のVL配列、又はそれと少なくとも85%、90%、95%、又は99%の同一性を有する配列。
【0317】
B11.実施態様B1~B10に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が、重鎖Fc部分、例えばIgG1、IgG2或いはIgG4アイソタイプのFc部分、好ましくはヒトIgG1-Fc部分を含み;かつ/又はκ軽鎖定常領域、例えばヒトκ軽鎖定常領域を含む。
【0318】
B12.実施態様B11に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が、SEQ ID NO:9の重鎖及びSEQ ID NO:10の軽鎖を有する。
【0319】
B13.実施態様B1~B12に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が単剤の治療薬として投与される。
【0320】
B14.実施態様B1~B13に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が第2の治療剤と併用されて投与され、好ましくは、その第2の治療剤がVEGF阻害剤である。
【0321】
B15.実施態様B1~B14に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が皮下又は腹腔内に投与される。
【0322】
B16.実施態様B1~B15に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が単剤或いは多剤で投与され、好ましくは、前記ANG2抗体の少なくとも1用量は、対象が細菌、ウイルス、細菌毒素などの炎症性物質に曝露される前又は後に投与され、より好ましくは対象において肺の炎症細胞浸潤が発現される前に投与される。
【0323】
B17.実施態様B1-~B16に記載の方法であって、前記抗ANG2抗体が医薬組成物に含まれ、また任意に前記医薬組成物がガラスバイアル、シリンジ、プレフィルドシリンジ、オートインジェクター、及びマイクロ輸液セットから選択される容器に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】