(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(54)【発明の名称】高分子量ヒアルロン酸の眼科用薬物輸送ビヒクルとしての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20230706BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20230706BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230706BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20230706BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230706BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230706BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20230706BHJP
A61K 31/4535 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K9/127
A61P27/06
A61P27/14
A61P27/02
A61K9/08
A61K38/13
A61K31/4535
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579032
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 IB2021000426
(87)【国際公開番号】W WO2021260430
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519135437
【氏名又は名称】アイ.コム メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー-リアハイム、ウォルフガング ゲオルグ コンラッド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA19
4C076AA22
4C076AA95
4C076BB24
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC10
4C076DD23
4C076DD26
4C076EE37N
4C076FF34
4C076FF67
4C084AA30
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA24
4C084MA23
4C084MA58
4C084NA11
4C084NA13
4C084ZA331
4C086AA10
4C086BC16
4C086GA04
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA23
4C086MA24
4C086MA58
4C086NA11
4C086NA13
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】人間の眼に天然には存在しないいかなる添加剤も必要とせずに、生物活性剤の安定な水溶液を提供する。
【解決手段】
本発明は、副作用を最小限に抑えた、眼科用薬および他の医薬品有効成分(API)などの生物活性剤のための輸送ビヒクルとしての超高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)の使用に関する。本発明の一態様は、HMWHA流体および生物活性剤を含む眼科用薬物送達システム(ODS)であって、上記ヒアルロン酸は少なくとも2.5m3/kg(すなわち、2.5m3/kg以上)の固有粘度を有し、上記HMWHA流体は上記生物活性剤を眼に輸送することができるODS;生物活性剤を眼に送達するための方法;ヒトまたは動物被験体における眼障害を治療、予防、および/またはその発症もしくは再発を遅延するための方法;ならびに本発明の方法を実施するために使用され得るキットを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)流体および生物活性剤を含む眼科用薬物送達システム(ODS)であって、
前記ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m
3/kgの固有粘度を有し、
前記HMWHA流体は、前記生物活性剤を眼に輸送することができる
ODS。
【請求項2】
請求項1に記載のODSであって、
眼表面の上皮を介して前記生物活性剤を輸送することができる
ODS。
【請求項3】
請求項1に記載のODSであって、
眼表面の上皮を介して、ならびに前記眼表面の頂端上皮細胞のグリコカリックスおよび脂質二重層を介して、前記生物活性剤を輸送することができる
ODS。
【請求項4】
請求項1に記載のODSであって、
傍細胞バリアを介して細胞外マトリックス(ECM)に前記生物活性剤を輸送することができる
ODS。
【請求項5】
請求項1に記載のODSであって、
前記生物活性剤は、前記HMWHAなしで眼障害を治療および/または予防するのに有効である濃度よりも低い濃度で前記ODS中に存在する
ODS。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
前記生物活性剤は、低分子薬物または生物学的製剤などの治療剤である
ODS。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
前記生物活性剤は、抗緑内障剤、抗アレルギー剤、または抗炎症剤である
ODS。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
前記生物活性剤は、疎水性および/または難水溶性である
ODS。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
前記生物活性剤は、リソソームまたはナノ粒子に封入または付着される
ODS。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
前記ODSは、2つ以上の生物活性剤を含み、
前記HMWHA流体は、前記2つ以上の生物活性剤を前記眼に輸送することができる
ODS。
【請求項11】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
前記生物活性剤は、ナノ粒子(例えば、ナノスフェアまたはナノカプセル)、リポソーム、ニオソーム、ディスコソーム、ミセル、デンドリマー、またはヒドロゲルと会合する(例えば、結合する、それによって封入される、またはその上に積まれる)
ODS。
【請求項12】
請求項1~5のいずれかに記載のODSであって、
点眼薬、洗眼剤、またはコンタクトレンズ(例えば、角膜または強膜)として、前記眼表面への局所投与のために製剤化される
ODS。
【請求項13】
生物活性剤を眼に送達するための方法であって、
高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)流体および生物活性剤をヒトまたは動物被験体の眼表面に局所的に共投与し、
前記ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m
3/kgの固有粘度を有し、
前記HMWHA流体は、前記生物活性剤を前記眼に輸送する
送達方法。
【請求項14】
請求項13に記載の送達方法であって、
前記HMWHA流体および前記生物活性剤は、別々の製剤として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与される
送達方法。
【請求項15】
請求項13に記載の送達方法であって、
前記HMWHA流体および前記生物活性剤は、請求項1に記載のODSとして、一緒に共投与される
送達方法。
【請求項16】
請求項13に記載の送達方法であって、
前記生物活性剤は、前記HMWHAなしで眼障害を治療および/または予防するのに有効である濃度よりも低い濃度で投与される
送達方法。
【請求項17】
ヒトまたは動物被験体における眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延するための方法であって、
高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)流体および生物活性剤を前記ヒトまたは動物被験体の眼表面に局所的に共投与し、
ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m
3/kgの固有粘度を有し、
前記生物活性剤は、前記眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延することができ、
前記HMWHA流体は、前記生物活性剤を前記眼に輸送する
方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、
前記HMWHA流体および前記生物活性剤は、別々の製剤として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与される
方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、
前記HMWHA流体および前記生物活性剤は、請求項1に記載のODSとして、一緒に共投与される
方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法であって、
前記生物活性剤は、前記HMWHAなしで前記眼障害を治療および/または予防するのに有効である濃度よりも低い濃度で共投与される
方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法であって、
前記眼障害は、高眼圧症、緑内障(低眼圧、正常眼圧、および高眼圧緑内障を含む)、アレルギー、慢性炎症、眼表面障害、加齢黄斑変性症(AMD;萎縮性(非滲出性または乾性)または新生血管(滲出性または湿性))、若年性黄斑変性症(例えば、シュタルガルト病)、黄斑毛細血管拡張症、黄斑症(例えば、加齢黄斑症[ARM]および糖尿病性黄斑症[DMP](部分虚血DMPを含む))、黄斑浮腫(例えば、糖尿病性黄斑浮腫[DME、臨床的に有意なDME、限局性DMEおよびびまん性DMEを含む]、アーバイン・ガス(Irvine-Gass)症候群[術後黄斑浮腫]、および網膜静脈閉塞症(RVO[中心RVOおよび分岐RVOを含む])に伴う黄斑浮腫)、網膜症(例えば、糖尿病性網膜症[DR、DME患者におけるものを含む]、増殖性硝子体網膜症[PVR]、パーチャー(Purtscher)網膜症、および放射線網膜症を含む)、網膜動脈閉塞症(RAO、例えば、中心RAOおよび分岐RAO)、網膜静脈閉塞症(RVO、例えば、中心RVO[嚢胞様黄斑浮腫{CME}を伴う中心RVOを含む]および分岐RVO[CMEを伴う分岐RVOを含む])、高眼圧症、網膜炎(例えば、コーツ病[滲出性網膜炎]および網膜色素変性症[RP])、脈絡網膜炎、脈絡膜炎(例えば、匐行性脈絡膜炎)、ブドウ膜炎(CMEを伴うまたは伴わない前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、後部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および非感染性ブドウ膜炎を含む)、網膜剥離(例えば、フォン・ヒッペル・リンドウ病におけるもの)、網膜色素上皮(RPE)剥離、桿体および/または錐体のジストロフィー、ならびにAMDに加えて細胞内または細胞外の脂質貯蔵または蓄積の増加に関連する疾患から選択される
方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、
前記眼障害は、緑内障であり、
前記生物活性剤は、(例えば、房水産生を低下させることによって、または眼内区画からの房水の流出を増加させることによって)眼圧を低下させる抗緑内障剤である
方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、
前記抗緑内障剤は、縮瞳薬(例えば、ピロカルピンまたはエセリン)、βアドレナリン拮抗薬(例えば、マレイン酸チモロールまたはベタキソロール)、αアドレナリン作動薬(例えば、エピネフリンまたはジピベフリン)、炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ドルゾラミド)、Rhoキナーゼ阻害剤(例えば、ネタルスジル)、およびプロスタグランジンF2a(例えば、ラタノプロスト)のプロドラッグの中から選択される薬理学的薬剤である
方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法であって、
前記眼障害は、慢性障害である
方法。
【請求項25】
請求項17に記載の方法であって、
前記被験体は、18歳未満の子供(例えば、幼児、青年、または少年)である
方法。
【請求項26】
請求項17に記載の方法であって、
前記被験体は、成人である
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副作用を最小限に抑え、局所毒性を有さない、眼科用薬および他の医薬品有効成分(API)などの生物活性剤のための輸送ビヒクルとしての超高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は2020年6月21日に出願された米国仮特許出願第63/041937号の利益を主張するものであり、すべての図、表、拡散配列、アミノ酸配列、または図面を含むその開示全体が参照により本明細書に援用される。
【0003】
緑内障、慢性炎症、アレルギー、およびアトピーなどの眼疾患の局所治療のための点眼薬は、ビヒクル中に溶解または懸濁された薬理学的、代謝的または免疫学的活性を有する医薬品有効成分(API)から構成されている。ビヒクルの潜在的な機能としては、APIを溶解または懸濁すること、点眼薬の保存期間中および患者の使用中において溶液を安定化すること、APIと眼表面との間の接触時間を延長すること、APIの眼表面への浸透をサポートすること、および点眼薬の生体適合性を高めることが挙げられる[非特許文献1、2]。
【0004】
ほとんどの点眼薬は、添加剤、特に親油性APIを溶解するための界面活性剤を必要とする水溶液である。点眼薬は無菌である必要があり、これは、患者の使用中において、使い捨て容器(単回投与)、微生物汚染を防止する特定のディスペンサーを備えたボトル、または塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤の添加のいずれかによって達成することができる。眼表面との接触時間は、溶液の粘度を増加させるポリマーの添加によって延長することができる。さらに、ヒアルロン酸などの粘膜付着性添加剤は、頂端上皮細胞のグリコカリックスに付着することができ、これにより、APIと眼表面との間の接触を促進する。浸透促進剤は、経細胞または傍細胞の上皮バリア機能を弱め、これにより、APIの眼表面への拡散を促進する。塩は浸透圧を調整するために添加され、緩衝剤は点眼薬のpH値を生理学的レベルに調整および安定化し、かつ、点眼薬を安定化させるために添加される。
【0005】
界面活性剤は、頂端上皮細胞のグリコカリックス中の細胞結合ムチンを置換することができ、細胞膜を形成する脂質二重層に組み込まれ、これにより、細胞バリア機能を弱め、細胞膜を介したAPIの細胞への輸送をサポートする[非特許文献3、4]。塩化ベンザルコニウム(BAK、塩化セタルコニウム)およびポリクオタニウムと呼ばれるカチオン性ポリマーなどの界面活性剤は、APIを水溶液に溶解し、APIの眼表面への浸透を高め、同時に、溶液を微生物増殖から保護するという複合効果を有するため、眼科用薬において依然として広く使用されている。これらの利点は、局所刺激および悲惨な長期の眼表面疾患を犠牲にしたものである[非特許文献5、6]。
【0006】
エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(EDTA)などの添加剤は、上皮細胞間の密着結合からCa2+イオンを奪い、これにより、上皮の傍細胞バリア機能を弱める。
【0007】
緑内障および慢性眼炎症の治療のための現在の点眼薬は、かなりの割合の患者に重篤な副作用を引き起こす。これらの眼への副作用は、APIのみならず、大部分は、使用されるビヒクルによっても引き起こされる。薬事承認および保険償還のための臨床試験では、新しい局所眼科薬の安全性および性能が、ビヒクルのみと比較して試験されることが多い。この戦略により、ビヒクルの悪影響を排除し、製品の効果を引き立たせることが可能となる。
【0008】
眼表面を傷つけず、かつ、そのバリア機能を損なうことなく、眼上皮バリアを越えてAPIを輸送することができ、より低濃度のAPIの使用で意図した治療効果を得ることを可能にし、それによって、APIに関連する可能性がある固有の副作用を低減することができるビヒクルを利用可能にすることは有利であろう。そのようなビヒクルを含有する点眼薬は、緑内障および慢性眼炎症などの視力を脅かす疾患を治療するための次世代の局所眼科薬の開発のためのプラットフォームになる可能性を有するであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Morrison, P.W. and V.V. Khutoryanskiy, Advances in ophthalmic drug delivery. Ther Deliv, 2014. 5(12): p. 1297-315.
【非特許文献2】Moiseev, R.V., et al., Penetration Enhancers in Ocular Drug Delivery. Pharmaceutics, 2019. 11(7).
【非特許文献3】Kaur, I.P. and R. Smitha, Penetration enhancers and ocular bioadhesives: two new avenues for ophthalmic drug delivery. Drug Dev Ind Pharm, 2002. 28(4): p. 353-69.
【非特許文献4】Patel, A., et al., Ocular drug delivery systems: An overview. World J Pharmacol, 2013. 2(2): p. 47-64.
【非特許文献5】Patel, P.B., et al., Ophthalmic Drug Delivery System: Challenges and Approaches. Systematic Reviews in Pharmacy, 2010. 1(2): p. 113-120.
【非特許文献6】Burgalassi, S., et al., Cytotoxicity of potential ocular permeation enhancers evaluated on rabbit and human corneal epithelial cell lines. Toxicol Lett, 2001. 122(1): p. 1-8.
【非特許文献7】Dogru, M., et al., Alterations of the ocular surface epithelial mucins 1, 2, 4 and the tear functions in patients with atopic keratoconjunctivitis. Clin Exp Allergy, 2006. 36(12): p. 1556-65.
【非特許文献8】Dogru, M., et al., Alterations of the ocular surface epithelial MUC16 and goblet cell MUC5AC in patients with atopic keratoconjunctivitis. Allergy, 2008. 63(10): p. 1324-34.
【非特許文献9】Mantelli, F. and P. Argueso, Functions of ocular surface mucins in health and disease. Curr Opin Allergy Clin Immunol, 2008. 8(5): p. 477-83.
【非特許文献10】Gurny, R., et al., Design and evaluation of controlled release systems for the eye. J Controlled Release, 1987. 6: p. 367-373.
【非特許文献11】Saettone, M.F., et al., Evaluation of muco-adhesive properties and in vivo activity of ophthalmic vihicles based on hyaluronic acid. Int J Pharm, 1989. 51: p. 203-212.
【非特許文献12】Saettone, M.F., et al., Evaluation of high- and low-molecular-weight fractions of sodium hyaluronate and an ionic complex as adjuvants for ophthalmic vehicles containing pilocarpine. Int J Pharm, 1991. 72: p. 131-139.
【非特許文献13】Brown, M.B. and S.A. Jones, Hyaluronic acid: a unique topical vehicle for the localized delivery of drugs to the skin. J Eur Acad Dermatol Venereol, 2005. 19(3): p. 308-18.
【非特許文献14】Liao, Y.H., et al., Hyaluronan: pharmaceutical characterization and drug delivery. Drug Deliv, 2005. 12(6): p. 327-42.
【非特許文献15】Khan, R., B. Mahendhiran, and V. Aroulmoji, Chemistry of hyaluronic acid and its significance in drug delivery strategies: a review. Int J Pharm Sci & Res, 2013. 4(10): p. 3699-3710.
【非特許文献16】Park, K. and J.R. Robinson, Bioadhesive polymers as platforms for oral-controlled drug delivery: method to study bioadhesion. Int J Pharm, 1984. 19(2): p. 107-127.
【非特許文献17】Wysenbeek, Y.S., et al., The effect of sodium hyaluronate on the corneal epithelium. An ultrastructural study. Invest Ophthalmol Vis Sci, 1988. 29(2): p. 194-9.
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【非特許文献19】Liu, X., et al., Therapeutic Effects of Sodium Hyaluronate on Ocular Surface Damage Induced by Benzalkonium Chloride Preserved Anti-glaucoma Medications. Chin Med J (Engl), 2015. 128(18): p. 2444-9.
【非特許文献20】Pauloin, T., et al., In vitro modulation of preservative toxicity: high molecular weight hyaluronan decreases apoptosis and oxidative stress induced by benzalkonium chloride. Eur J Pharm Sci, 2008. 34(4-5): p. 263-73.
【非特許文献21】Sodium Hyaluronate - Natrii Hyaluronas, in European Pharmacopoeia (Ph.Eur.) 10th Edition, T.E.P. Commission, Editor. 2019, European Directorate for the Quality of Medicines & Healthcare.
【非特許文献22】Purified Sodium Hyaluronate, in Japanese Pharmacopoeia (JP XVII). 2016, The Ministry of Health, Labour and Welfare. p. 1575-1576.
【非特許文献23】Wilcox M.D.P. et al., TFOS DEWS II Tear Film Report, Ocul Surf., 2017. 15(3):366-403.
【非特許文献24】Gipson, I.K. and P Argueso, Role of Mucins in the Function of the Corneal and Conjunctival Epithelia. International Review of Cytology, 2003. 231:1-49.
【非特許文献25】Sandri, G, et al., Mucoadhesive and penetration enhancement properties of three grades of hyaluronic acid using porcine buccal and vaginal tissue, Caco-2 cell lines, and rat jejunum. J Pharm Pharmacol, 2004. 56(9)1083-90).
【非特許文献26】Patel A. et al., Ocular drug delivery systems: An overview, World J Pharmacol, 2013. 2(2): 47-64.
【非特許文献27】Fathi M. et al., Hydrogels for ocular delivery and tissue engineering. Bioimpacts, 2015. 5(4):159-164.
【非特許文献28】Baranowski P. et al., Ophthalmic drug dosage forms: characterization and research methods. The Scientific World Journal, 2014. Volume 2014:1-14.
【非特許文献29】Berge S. M. et al., Pharmaceutical Salts, Journal of Pharmaceutical Science, 1997. 66:1-19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
眼への送達における主な課題は、眼疾患を治療するために、またはその薬理作用を発揮するために十分な量の治療用分子が所望の区画または組織に浸透することができるように、眼の保護バリアを回避することである。溶液、懸濁液、ゲル、軟膏、および挿入物などの従来の薬物送達システムは、眼への送達の制御のために研究されているが、点眼溶液の排出不良、涙のターンオーバー、角膜透過性不良、鼻涙液排出、体内吸収、およびかすみ目などの問題を抱えている。眼科用薬における従来の浸透促進剤は、角膜上皮構造の連続性を改変することによって、その角膜吸収を高める。研究によると、そのような特性は、キレート剤、防腐剤(塩化ベンザルコニウムなど)、界面活性剤、および胆汁酸塩によって示される。しかしながら、これらの物質は局所毒性を示すため、眼科用薬の形態での使用が制限されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、HMWHA流体および生物活性剤を含む眼科用薬物送達システム(ODS)であって、上記ヒアルロン酸は少なくとも2.5m3/kg(すなわち、2.5m3/kg以上)の固有粘度を有し、上記HMWHA流体は上記生物活性剤を眼に輸送することができるODSを含む。いくつかの実施形態では、上記ODSは、眼表面の上皮を介して上記生物活性剤を輸送することができる。いくつかの実施形態では、上記ODSは、眼表面の上皮を介して、ならびに上記眼表面の頂端上皮細胞のグリコカリックスおよび脂質二重層を介して、上記生物活性剤を輸送することができる。いくつかの実施形態では、上記ODSは、傍細胞バリアを介して細胞外マトリックス(ECM)に上記生物活性剤を輸送することができる。任意の生物活性剤を利用してもよい。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、低分子であってもよい。他の実施形態では、上記生物活性剤は、核酸、ペプチドもしくはタンパク質、またはその抗体もしくは抗原結合フラグメントなどの生物学的製剤である。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、組合せ製剤(低分子と生物学的製剤との組合せ)である。いくつかの実施形態では、上記ODSは、2つ以上の生物活性剤を含む。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、抗緑内障剤、抗アレルギー剤、または抗炎症剤である。
【0012】
本発明者は、HAが不活性増粘ポリマーではなく、むしろ、薬物などの生物活性剤の作用部位への輸送に積極的に寄与することを突き止めた。実施例1に示されるように、本発明のHAビヒクルに溶解した1ミリリットルあたり20マイクログラムのラタノプロストは、眼表面バリアを弱めることによってラタノプロストを眼内に輸送することが知られている塩化ベンザルコニウムを含有する「ゴールドスタンダード」のキサラタン(Xalatan)(登録商標)液滴における1ミリリットルあたり50マイクログラムのラタノプロストよりも眼圧を低下させるのに有効である。副作用が軽減されたこの強化された有効性により、患者コンプライアンスが向上する。
【0013】
本発明は、人間の眼に天然には存在しないいかなる添加剤も必要とせずに、生物活性剤の安定な水溶液を提供する。したがって、その眼科用組成物は、完全に生体適合性であり、非感作性であり、眼への生物活性剤の送達における長期使用に特に有用である。さらに、ODSのHAは、実施例1のラタノプロストで実証されるように、当該ODSに含まれる生物活性剤の溶解度を高めることができる。
【0014】
本発明の別の態様は、生物活性剤を眼に送達するための方法であって、ヒトまたは動物被験体の眼表面にHMWHA流体および生物活性剤を局所的に共投与し、ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kgの固有粘度を有し、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送することができる送達方法に関する。上記HMWHA流体および上記生物活性剤は、別々の製剤または組成物として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与されてもよく、あるいは、上記のODSと同じ製剤または組成物で一緒に投与されてもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、ヒトまたは動物被験体における眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延するための方法であって、ヒトまたは動物被験体の眼表面にHMWHA流体および生物活性剤を局所的に共投与し、上記ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kgの固有粘度を有し、上記生物活性剤は、上記眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延することができ、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送する治療方法に関する。上記HMWHA流体および上記生物活性剤は、別々の製剤または組成物として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与されてもよく、あるいは、上記のODSと同じ製剤または組成物で一緒に投与されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
眼科用薬物ビヒクルにおけるヒアルロン酸(HA)の使用は、非特許文献[3、10~16]において示唆されている。HAは、眼上皮に対する物質の刺激作用を打ち消す効果を有することが示されている[非特許文献17~20]。3つの異なる分子量のヒアルロン酸をブタ頬および膣組織ならびに細胞単層(Caco-2細胞株)を用いて調べたところ、最も低い分子量を有するヒアルロン酸は、試験した各基質で粘膜付着性能の向上および最高の浸透増強を示した[非特許文献25]。
【0017】
本発明者は、高分子量HA(HMWHA)、すなわち、少なくとも2.5m3/kg(2.5m3/kg以上)の固有粘度を有するHAは、眼表面を傷つけず、かつ、そのバリア機能を損なうことなく、眼上皮バリアを越えてAPIを輸送することができることを提案する。薬物ビヒクルにおいてHMWHAを使用すると、より低濃度のAPIで意図した治療効果を得ることが可能になる。これにより、APIの固有の副作用をさらに低減することができる。HMWHAを副作用のないビヒクルとして含む点眼薬は、視力を脅かす疾患を治療するための次世代の局所眼科薬の開発のためのプラットフォームになる可能性を有する。特に、輸送ビヒクルとしての役割を果たすことによって、HMWHAは、現在の点眼製剤における現在の浸透促進剤に取って代わることができ、高眼圧症、緑内障、アレルギー/アトピー、および慢性眼炎症などの眼疾患の長期局所治療における副作用を有意に低減する。
【0018】
健康な眼表面上皮は、組織分布的に平滑である。頂端角膜上皮細胞の脂質二重層原形質膜は、抗接着剤、水結合、保護性グリコカリックスで裏打ちされた微絨(microplicae)によって織り込まれる(Wilcox MDPら、[非特許文献23]、特に
図3、元々はGipson IKおよびP Arguesoによる[非特許文献24]に公開されている)。グリコカリックスは、主に膜結合ムチンからなり、水結合と、主に結膜杯細胞によって分泌される溶解したゲル形成ムチンMUC5ACによる潤滑特性とを有する粘液性涙液膜で覆われている[非特許文献7~9]。最大の膜結合ムチンであるMUC16は、微絨の頂点から粘液性涙液層に伸び、細胞接着ならびに細菌の付着および侵入を防止する。MUC16は、細胞上皮バリア機能に重要な役割を果たすだけでなく、上皮細胞間の密着結合、ひいては傍細胞バリア機能にも寄与する。
【0019】
輸送ビヒクルとしての作用機序の理論に拘束されることを望まないが、本発明者は、HMWHAが、上皮バリア機能を安定化させ、抗炎症剤として作用し、眼表面への生物活性剤(例えば、API)の密接な接触を促進することに加えて、頂端上皮細胞のグリコカリックス中のMUC16に結合すること;角膜・結膜上皮の頂端表面上の接着分子CD44に結合すること;角膜・結膜上皮の頂端表面上のヒアルロン酸媒介運動性(RHAMM)のためのヒアルロン酸受容体に結合すること;局所的な組織の水和を増加させることで、傍細胞経路に沿った生物活性剤の細胞移動および輸送を可能にする経路または「ハイウェイ」を作成し得る一時的な細胞脱離を可能にすること;ならびに角膜・結膜上皮の頂端面のエンドサイトーシス用HA受容体(HARE)に結合して、上皮細胞の細胞質への生物活性剤のHARE媒介エンドサイトーシスを引き起こすこと、のうちの1つまたは複数を行うことを提案する。後者の提案された作用機序に関して、眼上皮細胞の表面にHARE受容体が存在すると、それらはエンドサイトーシスによってHAを内部移行させる。これは、上皮細胞の細胞膜を損傷することなく、当該細胞膜を介して、ビヒクルとしてHMWHA分子を有する生物活性剤を輸送するための新しい選択肢である。
【0020】
被験者において、50μg/mlのラタノプロストを含有する市販の点眼薬は3.24mmHgの平均眼圧(IOP)減少を誘導したが、19μg/mlのラタノプロストを含有するプロトタイプの点眼薬は5.87mmHgの平均IOP減少を誘導したことがわかった。この知見は、ラタノプロストと高分子量ヒアルロン酸との併用がラタノプロスト単独よりもIOPを低下させるのに有効であることを示唆している。
【0021】
HAが角膜毒性物質の悪影響を緩和する能力[非特許文献17~20]と併せて、患者、特に緑内障などの疾患の長期局所治療を必要とする患者であって、現在それらの治療の副作用に苦しんでいる患者は、HMWHAを用いたこの新たな技術から恩恵を受けることが予想される。
【0022】
点眼薬中のHAの特性は、鎖長と濃度に依存する。HAの濃度は、通常、最終製品のラベル表示の一部であるが、鎖長に関する情報を含むことはほとんどない。これにより、文献で報告されている異なる製品の性能を相関させることが非常に困難になる。ヒアルロン酸分子の平均鎖長または分子量は、通常、ゲル電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー、または小角光散乱によって決定され、あるいは、固有粘度[η]から計算される。ヒアルロン酸の固有粘度を決定するための方法のみが、欧州および日本の薬局方において標準化され、公開されている[非特許文献21、22]。さらに、超高分子量HA(すなわち、2.5m3/kg以上の固有粘度を有する)を含有する点眼薬の臨床的性能は、低分子量HA(1.8m3/kg未満)~中分子量HA(1.8m3/kg~2.5m3/kg未満)を含有する点眼薬の臨床的性能とは全く異なっている。したがって、HA含有点眼薬に関する将来の刊行物におけるHAの固有粘度の詳述が非常に推奨される。
【0023】
本発明で使用する高分子量ヒアルロン酸または「HMWHA」とは、欧州薬局方9.0「ヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)」、3584頁[非特許文献21]に記載の方法より測定される、少なくとも2.5m3/kg(すなわち、2.5m3/kg以上)の固有粘度を有するヒアルロン酸を指す。簡潔に述べると、固有粘度[η]は、マーチン(Martin)式:Log10(nr-1/c)=log10[η]+κ[η]cを用いた線形最小二乗回帰分析によって計算される。いくつかの実施形態では、高分子量ヒアルロン酸は、少なくとも2.9m3/kg(すなわち、2.9m3/kg以上)の固有粘度を有する。
【0024】
本発明の一態様は、HMWHA流体および生物活性剤を含む眼科用薬物送達システム(ODS)であって、上記ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kgの固有粘度を有し、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送することができるODSを含む。いくつかの実施形態では、上記ODSは、眼表面の上皮を介して上記生物活性剤を輸送することができる。いくつかの実施形態では、上記ODSは、眼表面の上皮を介して、ならびに上記眼表面の頂端上皮細胞のグリコカリックスおよび脂質二重層を介して、上記生物活性剤を輸送することができる。いくつかの実施形態では、上記ODSは、傍細胞バリアを介して細胞外マトリックス(ECM)に上記生物活性剤を輸送することができる。任意の生物活性剤を利用してもよい。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、低分子であってもよい。他の実施形態では、上記生物活性剤は、核酸、ペプチドもしくはタンパク質、またはその抗体もしくは抗原結合フラグメントなどの生物学的製剤である。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、組合せ製剤(低分子と生物学的製剤との組合せ)である。いくつかの実施形態では、上記ODSは、2つ以上の生物活性剤を含む。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、抗緑内障剤、抗アレルギー剤、または抗炎症剤である。
【0025】
いくつかの実施形態では、上記ODSは、浸透促進剤を含まない。
【0026】
いくつかの実施形態では、上記ODSは、1つまたは複数の生物活性剤と、HMWHA流体からなるか、または本質的にHMWHA流体からなる輸送ビヒクルとを含み、上記HMWHA流体は、上記1つまたは複数の生物活性剤を(例えば、眼表面の上皮、眼表面の頂端上皮細胞のグリコカリックスおよび脂質二重層、ならびに細胞外マトリックス(ECM)への傍細胞バリアのうちの1つまたは複数を介して)眼に輸送することができる。
【0027】
有利なことに、上記ODSは、保存安定性である。いくつかの実施形態では、上記ODSは、(i)15~25℃の温度、(ii)2~8℃の温度、または(iii)相対湿度60%で25℃の温度、のうちの1つまたは複数の条件下で、少なくとも4週間、少なくとも3ヶ月間、または少なくとも6ヶ月間安定である水溶液である。
【0028】
本発明の別の態様は、生物活性剤を眼に送達するための方法であって、ヒトまたは動物被験体の眼表面にHMWHA流体および生物活性剤を局所的に共投与し、ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kgの固有粘度を有し、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送することができる送達方法に関する。上記HMWHA流体および上記生物活性剤は、別々の製剤または組成物として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与されてもよく、あるいは、上記のODSと同じ製剤または組成物で一緒に投与されてもよい。
【0029】
本発明の別の態様は、ヒトまたは動物被験体における眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延するための方法であって、ヒトまたは動物被験体の眼表面にHMWHA流体および生物活性剤を局所的に共投与し、ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kgの固有粘度を有し、上記生物活性剤は、上記眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延することができ、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送する治療方法に関する。上記HMWHA流体および上記生物活性剤は、別々の製剤または組成物として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与されてもよく、あるいは、上記のODSと同じ製剤または組成物で一緒に投与されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、浸透促進剤は、上記生物活性剤およびHMWHAの局所投与の前、間、および/または後に、上記眼表面に局所投与されない。
【0031】
いくつかの実施形態では、上記ヒアルロン酸は、0.2%w/v未満の濃度を有する。いくつかの実施形態では、上記ヒアルロン酸は、0.1~0.19%w/vの濃度を有する。いくつかの実施形態では、上記ヒアルロン酸は、0.15%w/vの濃度を有する。
【0032】
いくつかの実施形態では、上記HMWHA流体は、コンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)防腐剤非含有ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬の組成/特性に対応する以下の組成/特性を有する。
a)pH6.8~7.6;
b)浸透圧240~330mOsmol/kg;
c)NaCl濃度7.6~10.5g/l;および/または
d)リン酸塩濃度1.0~1.4mmol/l
【0033】
いくつかの実施形態では、上記流体は、目に見える不純物を含まない、無色透明の溶液である。上記流体は無菌であることが想定される。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明による流体は、コンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)防腐剤非含有ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬である。
【0035】
いくつかの実施形態では、上記HAは、マーク・ホーウィンク(Mark-Houwink)の式によって計算されるように、少なくとも300万ドルトンの分子量を有する。いくつかの実施形態では、上記HAは、マーク・ホーウィンク(Mark-Houwink)の式によって計算されるように、300万~400万ドルトンの範囲の分子量を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、上記HMWHAは、ヒアルロン酸である。いくつかの実施形態では、上記HMWHAは、架橋されている。いくつかの実施形態では、上記HMWHAは、架橋されていない。いくつかの実施形態では、上記HMWHAは、線状である。いくつかの実施形態では、HMWHAは非線状(例えば、分枝)である。いくつかの実施形態では、上記HMWHAは、エステル誘導体、アミド誘導体、もしくは硫酸化誘導体などのヒアルロン酸の誘導体、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせである。
【0037】
本発明のODS、方法、およびキットに関連して本明細書で使用される場合、「生物活性剤」という用語は、組織に影響を及ぼすのに有効な量で投与された場合に、ヒトまたはヒト以外の動物被験体に影響を及ぼす任意の物質を指す。生物活性剤は、薬物分子または生物学的製剤(例えば、ポリペプチド、炭水化物、糖タンパク質、免疫グロブリン、核酸)などの任意の種類の物質であってもよく、天然物または人工的に生成されたものであってもよく、薬理学的、免疫学的、または代謝的メカニズムなどの任意のメカニズムによって作用してもよい。生物活性剤の種類の例としては、眼圧を調節する物質(例えば、酵素阻害剤)および抗血管新生剤が挙げられる。生物活性剤のいくつかの具体的な例としては、ステロイド(例えば、コルチコステロイド)、抗生物質、免疫抑制剤、免疫調節剤、タクロリムス、プラスミン活性剤、抗プラスミン、およびシクロスポリンAが挙げられる。いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、眼感染症を治療、その発症を遅延、または予防するためのステロイドまたは抗生物質;プロスタグランジン類似体、β遮断薬、αアゴニスト、または炭酸脱水酵素阻害剤などの緑内障または高眼圧症薬;抗ヒスタミン薬または非ステロイド性抗炎症薬などのアレルギーアイリリーフ;または散瞳薬である。
【0038】
いくつかの実施形態では、治療、予防、またはその発症が遅延される上記眼障害は、高眼圧症または緑内障であり、上記生物活性剤は、プロスタグランジン類似体である。いくつかの実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト、プロスタグランジンF2a-エタノールアミド、ビマトプロスト(遊離酸)-d4、ビマトプロスト-d4、ラタノプロストエチルアミド、ウノプロストン、およびウノプロストンイソプロピルエステルから選択されるF2a類似体、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせである。
【0039】
いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、低分子薬物または生物学的製剤などの治療剤である。
【0040】
いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、抗緑内障剤、抗アレルギー剤、または抗炎症剤である。
【0041】
いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、疎水性および/または難水溶性である。
【0042】
いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、リソソームまたはナノ粒子に封入または付着される。
【0043】
いくつかの実施形態では、2つ以上の生物活性剤が本発明のODS、方法、およびキットにおいて使用され、上記HMWHA流体は、上記2つ以上の生物活性剤を上記眼に輸送することができる。例えば、本発明のODS、方法、およびキットの第1の生物活性剤は、プロスタグランジン類似体とすることができ、第2の生物活性剤は、眼圧を低下させる別の薬剤、例えば、上記プロスタグランジン類似体の作用機序とは異なる作用機序によって眼圧を低下させる薬剤とすることができる。いくつかの実施形態では、追加の薬剤がβアドレナリン遮断薬(例えば、チモロール)、コリン作動性アゴニスト、炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ドルゾラミド、ブリンゾラミド)、またはアドレナリン受容体遮断薬(例えば、ブリモニジン)である。いくつかの実施形態では、上記追加の薬剤は、チモロール(例えば、マレイン酸チモロール)を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、ナノ粒子(例えば、ナノスフェアまたはナノカプセル)、リポソーム、ニオソーム、ディスコソーム、ミセル、デンドリマー、またはヒドロゲルなどの担体または送達システムと会合する(例えば、結合する、それによって封入される、またはその上に積まれる)[非特許文献26~28]。
【0045】
残念ながら、HMWHA流体と共投与される(複数の)生物活性剤は、眼を刺激または損傷する場合がある(例えば、シクロスポリンA)。有利なことに、流体中のHMWHAは、そのレオロジー特性および他の特性により、流体中の(複数の)生物活性剤の刺激および/または損傷作用を緩和し、かつ/あるいはそれら作用から眼を保護することができる(すなわち、生物活性剤はHMWHAなしで投与された場合、目に対してより刺激性であるか、またはより損傷を与えるであろう)。
【0046】
いくつかの実施形態では、上記ODSは、上記(複数の)生物活性剤以外に、人間の目には天然に存在しない物質を含まない。
【0047】
好ましくは、上記HMWHA流体またはHMWHA流体を含有するODSは、防腐剤または洗浄剤を含有しない(すなわち、上記流体は防腐剤を含まず、かつ、洗浄剤を含まない)。
【0048】
いくつかの実施形態では、上記HMWHAまたはHMWHAを含有するODSは、化学防腐剤または酸化防腐剤を含有しない。
【0049】
いくつかの実施形態では、上記HMWHAまたはHMWHAを含有するODSは、微生物の細胞膜の脂質構造を破壊することによって感受性微生物細胞を死滅させ、それによって微生物の細胞膜透過性を増加させる防腐剤または洗浄剤を含有しない。
【0050】
いくつかの実施形態では、上記HMWHAまたはHMWHAを含有するODSは、角膜上皮、内皮、間質、および膜などの界面などの角膜組織に損傷を通常引き起こす防腐剤または洗浄剤を含有しない。
【0051】
いくつかの実施形態では、上記HMWHAまたはHMWHAを含有するODSは、以下の防腐剤または洗浄剤の1つまたは複数(またはいずれか)を含有しない:第四級アンモニウム防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム(BAK)または塩化セタルコニウム)、クロロブタノール、エデト酸二ナトリウム(EDTA)、ポリクオタニウム-1(例えば、ポリクアド(POLYQUAD)(商標)防腐剤)、安定化酸化剤(例えば、安定化オキシクロロ錯体(例えば、ピュライト(PURITE)(商標)防腐剤))、イオン緩衝系防腐剤(例えば、ソフジア(SOFZIA)(商標)防腐剤)、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、過ホウ酸ナトリウム(例えば、ジェンアクア(GENAQUA)(商標)防腐剤)、チロキサポール、およびソルビン酸塩。
【0052】
いくつかの実施形態では、上記HMWHA流体は、少なくとも本質的にムチンを含まない。あるいは、言い換えると、ムチン濃度が0.3%w/v未満である。
【0053】
流体は、任意の局所投与方法によって、被験者の片眼または両眼の眼表面に投与されてもよい。例えば、流体は、点眼器などの点眼薬を投薬するための機器から1つまたは複数の液滴として投与されてもよい。流体は、自己投与されてもよく、または第三者によって投与されてもよい。単回または複数回用量として眼表面に投与される用量は、患者の状態および特性、症状の程度、併用治療、治療の頻度、ならびに所望の効果を含む様々な要因に応じて変化する。例えば、1つまたは複数の液滴(例えば、それぞれ約30マイクロリットル)を投与してもよい。
【0054】
1日1~3回の1~3滴の投与は、状況によっては、生物活性剤の送達に十分な場合があるが、例えば、1~3滴を1日4、5、6、7、8、9、10回、またはそれ以上などの、より頻繁な局所共投与が必要とされる場合もある。いくつかの実施形態では、3滴以上が1日に1回以上投与される。
【0055】
本発明の一般的な態様は、生物活性剤を眼に送達するための方法であって、ヒトまたは動物被験体の眼表面にHMWHA流体および生物活性剤を局所的に共投与し、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送する送達方法を提供する。本発明のより具体的な態様は、ヒトまたは動物被験体における眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延するための方法であって、ヒトまたは動物被験体の眼表面にHMWHA流体および生物活性剤を局所的に共投与し、上記生物活性剤は、上記眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延することができ、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送する治療方法を提供する。
【0056】
本発明の前述の方法のいくつかの実施形態では、浸透促進剤が、上記HMWHAおよび/または生物活性剤の局所投与の前、間、および/または後に上記HMWHAおよび/または生物活性剤と同じ製剤中であろうと、別々の製剤中であろうと、上記眼表面に局所投与されない。
【0057】
本発明の前述の方法のいくつかの実施形態では、HMWHA流体からなるか、または本質的にHMWHA流体からなる輸送ビヒクルが上記眼表面に局所投与され、上記HMWHA流体は、上記1つまたは複数の生物活性剤を上記眼に輸送することができる(例えば、眼表面の上皮、眼表面の頂端上皮細胞のグリコカリックスおよび脂質二重層、ならびに細胞外マトリックス(ECM)への傍細胞バリアのうちの1つまたは複数を介して)。
【0058】
本発明の前述の方法の両方において、上記HMWHA流体は、ヒトまたは動物被験体の眼表面に生物活性剤と共に局所的に共投与され、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送する。HMWHA流体および生物活性剤は、別々の製剤として、同時にまたは任意の順序で連続して局所的に共投与することができる。同時に共投与される場合、HMWHA流体および生物活性剤は別々の製剤で共投与されてもよく、あるいはそれらは本発明のODSとして単一の製剤で一緒に共投与されてもよい。
【0059】
HMWHAが同じ製剤中で、ODSとして、または別々の製剤中で、生物活性剤と共に共投与されるかどうかにかかわらず、HMWHA流体は、生物活性剤を眼に輸送する輸送ビヒクルとして作用するのに十分な量および持続時間で、眼の眼表面に局所的に共投与される。本方法のいくつかの実施形態では、上記HMWHA流体は、上記眼表面の上記上皮を介して上記生物活性剤を輸送するのに十分な量および持続時間で、上記眼の上記眼表面に局所的に共投与される。本方法のいくつかの実施形態では、上記HMWHA流体は、上記眼表面の上記上皮を介して、ならびに上記眼表面の頂端上皮細胞のグリコカリックスおよび脂質二重層を介して上記生物活性剤を輸送するのに十分な量および持続時間で、上記眼の上記眼表面に局所的に共投与される。本方法のいくつかの実施形態では、上記HMWHA流体は、傍細胞バリアを介して細胞外マトリックス(ECM)に上記生物活性剤を輸送するのに十分な量および持続時間で、上記眼の上記眼表面に局所的に共投与される。
【0060】
いくつかの実施形態では、上記HMWHAまたはODSは、点眼薬、洗眼剤、またはコンタクトレンズ(例えば、角膜または強膜)として、上記眼表面への局所投与のために製剤化される。
【0061】
本発明の別の態様は、ヒトまたは動物被験体における眼障害の治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延するための治療方法であって、高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)流体および生物活性剤を上記ヒトまたは動物被験体の眼表面に局所的に共投与し、ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kgの固有粘度を有し、上記生物活性剤は、上記眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延することができ、上記HMWHA流体は、上記生物活性剤を上記眼に輸送する治療方法に関する。
【0062】
いくつかの実施形態では、上記眼障害は、緑内障(低眼圧、正常眼圧、および高眼圧緑内障を含む)、高眼圧症、アレルギー、慢性炎症、眼表面障害、加齢黄斑変性症(AMD;萎縮性(非滲出性または乾性)または新生血管(滲出性または湿性))、若年性黄斑変性症(例えば、シュタルガルト病)、黄斑毛細血管拡張症、黄斑症(例えば、加齢黄斑症[ARM]および糖尿病性黄斑症[DMP](部分虚血DMPを含む))、黄斑浮腫(例えば、糖尿病性黄斑浮腫[DME、臨床的に有意なDME、限局性DMEおよびびまん性DMEを含む]、アーバイン・ガス(Irvine-Gass)症候群[術後黄斑浮腫]、および網膜静脈閉塞症(RVO[中心RVOおよび分岐RVOを含む])に伴う黄斑浮腫)、網膜症(例えば、糖尿病性網膜症[DR、DME患者におけるものを含む]、増殖性硝子体網膜症[PVR]、パーチャー(Purtscher)網膜症、および放射線網膜症を含む)、網膜動脈閉塞症(RAO、例えば、中心RAOおよび分岐RAO)、網膜静脈閉塞症(RVO、例えば、中心RVO[嚢胞様黄斑浮腫{CME}を伴う中心RVOを含む]および分岐RVO[CMEを伴う分岐RVOを含む])、高眼圧症、網膜炎(例えば、コーツ病[滲出性網膜炎]および網膜色素変性症[RP])、脈絡網膜炎、脈絡膜炎(例えば、匐行性脈絡膜炎)、ブドウ膜炎(CMEを伴うまたは伴わない前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、後部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および非感染性ブドウ膜炎を含む)、網膜剥離(例えば、フォン・ヒッペル・リンドウ病におけるもの)、網膜色素上皮(RPE)剥離、桿体および/または錐体のジストロフィー、ならびにAMDに加えて細胞内または細胞外の脂質貯蔵または蓄積の増加に関連する疾患から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態では、上記眼障害は、緑内障または高眼圧症であり、上記生物活性剤は、プロスタグランジン類似体または(例えば、房水産生を低下させることによって、または眼内区画からの房水の流出を増加させることによって)眼圧を低下させる他の抗緑内障剤である。いくつかの実施形態では、上記抗緑内障剤は、縮瞳薬またはコリン作動薬(例えば、ピロカルピンまたはエセリン)、βアドレナリン拮抗薬または「β遮断薬」(例えば、マレイン酸チモロールまたはベタキソロール)、αアドレナリン作動薬(例えば、エピネフリンまたはジピベフリン)、炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ドルゾラミド)、Rhoキナーゼ阻害剤(例えば、ネタルスジル)、およびプロスタグランジンF2a(例えば、ラタノプロスト)のプロドラッグの中から選択される薬理学的薬剤である。
【0064】
いくつかの実施形態では、上記生物活性剤は、上記HAなしで(すなわち、上記HAの非存在下で、または上記生物活性剤単独で)上記眼障害を治療および/または予防するのに有効である濃度よりも低い濃度で存在する。例えば、上記生物活性剤がラタノプロストなどのプロスタグランジン類似体を含む実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、上記HAなしで高眼圧症または緑内障を治療および/または予防するのに有効である濃度よりも低い濃度で存在する。
【0065】
いくつかの実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、ラタノプロストであり、1ミリリットルあたり50マイクログラム未満(50μg/mL未満)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ラタノプロストは、上記眼科用組成物の総体積(w/v)に対して重量で0.005%未満の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ラタノプロストは、1ミリリットルあたり30マイクログラム未満の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ラタノプロストは、1ミリリットルあたり約2マイクログラム~1ミリリットルあたり約45マイクログラム、1ミリリットルあたり約10マイクログラム~1ミリリットルあたり約40マイクログラム、1ミリリットルあたり約15マイクログラム~1ミリリットルあたり約25マイクログラム、または1ミリリットルあたり約20マイクログラム~1ミリリットルあたり約25マイクログラムの範囲内の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ラタノプロストは、1ミリリットルあたり約20マイクログラムの濃度で存在する。
【0066】
上記プロスタグランジン類似体は、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト、プロスタグランジンF2a-エタノールアミド、ビマトプロスト(遊離酸)-d4、ビマトプロスト-d4、ラタノプロストエチルアミド、ウノプロストン、およびウノプロストンイソプロピルエステルなどのF2a類似体、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、上記少なくとも1つのプロスタグランジンは、ラタノプロストを含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、上記少なくとも1つのプロスタグランジンは、ラタノプロストを含み、上記ラタノプロストは、1ミリリットルあたり約20マイクログラム~1ミリリットルあたり約25マイクログラムの範囲の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記少なくとも1つのプロスタグランジンは、ラタノプロストを含み、上記ラタノプロストは、1ミリリットルあたり約20マイクログラムの濃度で存在する。
【0068】
いくつかの実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、ビマトプロストであり、1ミリリットルあたり100マイクログラム未満(100μg/mL未満)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ビマトプロストは、1ミリリットルあたり90マイクログラム未満の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ビマトプロストは、1ミリリットルあたり約5マイクログラム~1ミリリットルあたり約90マイクログラム、1ミリリットルあたり約10マイクログラム~1ミリリットルあたり約80マイクログラム、1ミリリットルあたり約20マイクログラム~1ミリリットルあたり約70マイクログラム、または1ミリリットルあたり約20マイクログラム~1ミリリットルあたり約60マイクログラムの範囲内の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ビマトプロストは、1ミリリットルあたり50マイクログラムの濃度で存在する。
【0069】
いくつかの実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、トラボプロストであり、1ミリリットルあたり30マイクログラム未満(30μg/mL未満)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記トラボプロストは、1ミリリットルあたり25マイクログラム未満の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記トラボプロストは、1ミリリットルあたり約2マイクログラム~1ミリリットルあたり約25マイクログラム、1ミリリットルあたり約3マイクログラム~1ミリリットルあたり約25マイクログラム、1ミリリットルあたり約5マイクログラム~1ミリリットルあたり約20マイクログラム、または1ミリリットルあたり約10マイクログラム~1ミリリットルあたり約15マイクログラムの範囲内の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記トラボプロストは、1ミリリットルあたり約15マイクログラムの濃度で存在する。
【0070】
いくつかの実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、タフルプロストであり、1ミリリットルあたり15マイクログラム未満(15μg/mL未満)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記タフルプロストは、1ミリリットルあたり12マイクログラム未満の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記タフルプロストは、1ミリリットルあたり約1マイクログラム~1ミリリットルあたり約12マイクログラム、1ミリリットルあたり約2マイクログラム~1ミリリットルあたり約10マイクログラム、1ミリリットルあたり約2マイクログラム~1ミリリットルあたり約10マイクログラム、または1ミリリットルあたり約3マイクログラム~1ミリリットルあたり約9マイクログラムの範囲内の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記タフルプロストは、1ミリリットルあたり約7.5マイクログラムの濃度で存在する。
【0071】
いくつかの実施形態では、上記プロスタグランジン類似体は、ウノプロストンであり、1ミリリットルあたり1500マイクログラム未満(1500μg/mL未満)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ウノプロストンは、1ミリリットルあたり1350マイクログラム未満の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ウノプロストンは、1ミリリットルあたり約50マイクログラム~1ミリリットルあたり約1350マイクログラム、1ミリリットルあたり約100マイクログラム~1ミリリットルあたり約1200マイクログラム、1ミリリットルあたり約200マイクログラム~1ミリリットルあたり約1000マイクログラム、または1ミリリットル約250マイクログラム~1ミリリットル約900マイクログラムの範囲内の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、上記ウノプロストンは、1ミリリットルあたり約750マイクログラムの濃度で存在する。
【0072】
いくつかの実施形態では、上記眼障害は、アレルギーであり、上記生物活性剤は、抗ヒスタミン薬および/または肥満細胞安定剤(例えばケトチフェン)などの抗アレルギー剤である。
【0073】
いくつかの実施形態では、上記眼障害は、慢性眼炎症であり、上記生物活性剤はシクロスポリンAなどの免疫抑制剤である。
【0074】
好ましくは、上記HMWHAは、眼障害が存在するか、または潜在的に発症する可能性がある眼内の解剖学的部位、および/または眼障害によって影響を受けるか、または眼障害によって潜在的に影響を受ける可能性がある眼内の組織に、上記生物活性剤を輸送する。
【0075】
いくつかの実施形態では、上記眼障害は、上記眼の前眼部の障害であり、上記HMWHAは、上記生物活性剤を上記眼の上記前眼部に輸送する。
【0076】
いくつかの実施形態では、上記眼障害は、上記眼の後眼部の障害であり、上記HMWHAは、上記生物活性剤を上記眼の上記後眼部に輸送する。
【0077】
眼障害は、任意の段階であってもよく、急性障害または慢性障害であってもよい。例えば、HMWHAおよび生物活性剤は、眼障害の初期段階、中間段階、または進行段階で共投与されてもよい。眼障害は、任意の重篤度(例えば、軽度、中等度、または重度)のものであってもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、上記HMWHA流体および生物活性剤が局所的に共投与される被験体は、18歳未満の子供(例えば、幼児、青年、または少年)である。他の実施形態では、上記被験体は、成人である。
【0079】
被験体が共投与の時点で眼障害を有する治療的実施形態について、治療方法は、HMWHA流体および生物活性剤の局所共投与の前に、上記被験体を上記眼障害を有するものとして同定するステップを含んでもよい。被験体は、1つまたは複数の試験および/または診断検査により、眼障害を有する被験体を診断することによって同定されてもよい。例えば、緑内障は、眼圧測定(眼圧を測定)、検眼鏡検査(視神経を検査)、視野測定(視力喪失の領域を特定するために、被検者の視野のマップを作成する視野検査)、隅角鏡検査(虹彩が角膜に接する角度が開いているか、広いか、または狭く閉じているかを判断する)、および角膜厚測定(角膜の厚さを測定)のうちの1つまたは複数を使用して検出されてもよい。眼圧は、高眼圧症または緑内障の状態およびその変化、例えば進行、安定化、または改善を評価するための最良の測定基準である(Konstas AGら、「Expert Opinion On Drug Safety」、2021 Apr;20(4):453-466;Kass MAら、「JAMA Ophthalmol」、2021;139(5):558-566;およびAllis Kら、「Cureus」、2020 Nov; 12(11): e11686)。眼圧は、眼圧の測定のためのゴールドスタンダード機器であるゴールドマン圧平眼圧計を使用して測定されてもよい。
【0080】
任意選択で、被験体は、治療中および/または治療後に1回または複数回監視され、結果を以前の結果と比較して、眼障害の治療の状態および進行を評価することができる。
【0081】
任意選択で、本方法は、上記HMWHA流体の投与前に、上記被験体を、上記眼障害の1つまたは複数の徴候または症状を有するものとして同定するステップを含む。例えば、緑内障の場合、徴候および症状は、障害の種類および段階に応じて変化する。例えば、開放隅角緑内障において、いくつかの徴候および症状には、しばしば両眼に現れる、被験体の側方(周辺)視野または中心視野における斑状の盲点;および進行期におけるトンネル視野が含まれる。急性閉塞隅角緑内障では、いくつかの徴候および症状には、重度の頭痛、眼痛、悪心および嘔吐、かすみ目、光の周りのハロー、ならびに眼の発赤が含まれる。
【0082】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の本発明の方法、すなわち、生物活性剤を眼に送達するための方法および眼障害を治療、予防、またはその発症もしくは再発を遅延するための方法を実施するために使用され得るキットに関する。上記キットは、本明細書に記載のHMWHA流体、および任意選択で1つまたは複数の生物活性剤を含む。上記生物活性剤が含まれる場合、上記生物活性剤は、上記HMWHA流体と一緒に同じ容器内に包装されてもよく、上記HMWHA流体とは別個に別々の容器内に包装されてもよい。したがって、上記キットには、1つまたは複数の生物活性剤が上記HMWHAとは別の容器中に入っていてもよく、あるいは同じ容器中に一緒に(例えば、「予め混合されて」)入っていてもよい。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラスやプラスチックなど種々の材料で形成されてもよい。
【0083】
キットは、眼表面または眼の他の部分と接触させられる送達剤(別々にまたは流体と一緒に)を含んでもよい。例えば、キットは、流体でコーティングされ、かつ/あるいは、眼表面上に流体を放出する粒子(例えば、微粒子またはナノ粒子)を含んでもよい。
【0084】
任意選択で、キットは、点眼薬を投薬するための機器(例えば、点眼器)を含んでもよく、この機器は、キットの外側パッケージがアクセスされる(例えば、開封される)前に、キット内のHMWHA流体のための容器として機能してもしなくてもよい。すなわち、点眼薬投薬機器は、未アクセス(未開封)キット内に提供される流体を収容するように機能してもよく、あるいは、空で、キットがアクセスされた後に流体を受容してもよい。任意選択で、キットは、例えば、本発明の方法を実施するための、キットの使用に関する印刷された指示またはデジタルの指示が記載されたラベルまたは包装挿入物を含んでもよい。
【0085】
キットは、バイアル、チューブなどの1つまたは複数の容器を収容するように区画化された包装材料を含むことができ、各容器は、本明細書に記載の方法で使用される別個の要素の1つを含む。医薬品を包装する際に使用するための包装材料としては、ほんの一例として、米国特許第5,323,907号、5,052,558号、および5,033,252号が挙げられる。医薬品包装材料の例としては、ブリスターパック、ボトル、チューブ、ポンプ、バッグ、バイアル、遮光密閉容器、シリンジ、ボトル、ならびに選択された製剤および意図された投与および治療の様式に適した任意の包装材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
キットは、1つまたは複数の追加の容器を含んでもよく、各容器は、本明細書に記載の組成物を使用するための商業的および使用者の観点から望ましい様々な材料のうちの1つまたは複数を有する。そのような材料の非限定的な例としては、緩衝剤、希釈剤、担体、パッケージ、容器、バイアルおよび/またはチューブラベルで内容物および/または使用説明書が記載されているもの、ならびに使用説明書を含む包装挿入物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
ラベルは、容器上に存在することができ、あるいは、容器と関連付けることもできる。ラベルは、当該ラベルを形成する文字、数字、または他の文字が容器自体に取り付けられ、成形され、またはエッチングされる場合に、容器上に存在することができる。ラベルは、例えば、包装挿入物として、容器も保持するレセプタクルまたは担体内に存在する場合、容器と関連付けることができる。ラベルを使用して、内容物が特定の治療用途のために使用されるべきであることを示すことができる。ラベルは、本明細書に記載の方法におけるものなどの、内容物の使用のための指示を示すこともできる。
【0088】
キットのいくつかの実施形態では、上記HMWHA流体は、本明細書に開示される組成物を含有する1つまたは複数の単位用量形を含有することができるパックまたはディスペンサーデバイス中に存在することができる。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属またはプラスチックホイルを含むことができる。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書を添付することができる。
【0089】
HMWHA流体の作製
上記流体の上記ヒアルロン酸は、少なくとも2.5m3/kg(すなわち、2.5m3/kg以上)の固有粘度を有し、好ましくは、0.2%w/v未満の固有粘度を有する。 いくつかの実施形態では、上記ヒアルロン酸は、少なくとも2.9m3/kg(2.9m3/kg以上)の固有粘度を有する。
【0090】
粘弾性は、粘性特性と弾性特性の両方を有する流体の特性として定義される。ゼロせん断粘度は、消失せん断速度での定常せん断プラトー粘度として決定される。高粘度製剤については、制御された応力レオメーターを用いた測定が好ましい。
【0091】
m3/kg単位の分子量と固有粘度[η]との関係は、以下のマーク・ホーウィンク(Mark-Houwink)の式によって与えられる。
[η]=k・(Mrm)a
(Mrmは、MDaの分子量であり、
係数k=1.3327・10-4であり、
係数a=0.6691であり、
kとaの値が最も予測的であることが判明した。)
【0092】
HMWHA流体は、充填ラインを滅菌し;精製水または注射用水(WFI)をステンレス鋼の混合タンクに添加し;混合しながら塩を添加し;HAをゆっくり添加し、均一な溶液/流体が得られるまで混合し;任意選択で、1つまたは複数の生物活性剤を添加し;必要に応じて、混合処理を継続しながら、NaOHまたはHClを添加することによってpH値を調整し;1μmの細孔サイズのフィルターカートリッジを介して溶液を無菌保持タンクに移し;滅菌濾過により溶液を無菌一次パッケージ(単回投与またはバイアル)に無菌的に充填することによって製造されてもよい。単回投与の場合、これは、ブローフィルシール(BFS)プロセスによって行ってもよい。
【0093】
好ましくは、HMWHA流体は、少なくとも本質的にムチンを含まないか、言い換えれば、0.3%w/v未満のムチン濃度を有する。これは、被験体の涙液中に天然に存在し、その流動挙動に主に関与するムチンによってではなく、ヒアルロン酸によって、流動挙動または流動特性が本質的に得られまたは調整されることを意味する。
【0094】
粘度を増加させる物質が添加される場合、それらは、最終工程に向かって、またはその間に、または最終工程として添加されることが好ましい。混合は、均一な混合物が得られるように行われる。代替として、またはそれに加えて、最初に、ベースとして精製水または注射用水を提供し、その後、任意選択で、電解質、緩衝剤、および粘度を増加させない物質を、最初に、当該精製水または注射用水に添加することが好ましい。
【0095】
HAは、欧州薬局方9.0、3583頁(「ヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)」)のモノグラフにさらに記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0096】
一実施形態では、本発明の眼科用薬物送達システム(ODS)、方法、およびキットに使用される流体は、表1に列挙される特性を有する。
【0097】
【0098】
定義
本発明の文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)使用される用語「a」、「an」、「the」および同様の用語は、本明細書において別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。したがって、例えば、「細胞」または「生物活性剤」への言及は、別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単一の細胞または単一の生物活性剤と複数の細胞または複数の生物活性剤との両方を包含すると解釈されるべきである。同様に、用語「または」は文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、「および」を含むことが意図される。略語「e.g.」は、ラテン語の「exempli gratia」に由来し、非限定的な例を示すために本明細書で使用される。したがって、「e.g.」という略語は、「例えば(for example)」という用語と同義である。
【0099】
用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」、および「含有する(containing)」(およびこれらの文法上の変形)は互換的であり、明示的に言及されていない1つまたは複数の追加の要素、成分、またはプロセスステップの存在を除外しない開かれた(包括的)用語である。一方、用語「からなる(consisting of)」およびその文法上の変形は、明示的に言及されていない他の追加の要素、ステップ、または成分の存在を除外する閉じた用語である。用語「から本質的になる」およびその文法上の変形は、1つまたは複数の追加の要素、成分、またはステップが本質的に本発明の基本的かつ新規な特性に影響を及ぼさない限り、これらの追加の要素、成分、またはステップの存在を排除しない部分的に開いた用語である。したがって、移行用語「含む(comprising)」(または「含む(comprises/comprise)」などの文法上の変形)は、用語「からなる(consisting of)」、ならびに用語「から本質的になる(essentially consisting of)」およびその文法上の変形を含む。移行用語/句(およびその任意の文法上の変形)「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、「含む(comprise)」、「から本質的になる(consisting essentially of)」、「から本質的になる(consists essentially of)」、「からなる(consisting of)」、および「からなる(consists of)」は、各用語に関連する特定の意味を付加するために互換的に使用することができる。
【0100】
HMWHAおよび1つまたは複数の生物活性剤の共投与の文脈における「共投与」という用語は、同じ組成物または別々の組成物内で、同時にまたは任意の順序で連続して、HMWHA流体および1つまたは複数の生物活性剤を眼表面に局所投与することを指す。連続的に投与される場合、HMWHA流体および1つまたは複数の生物活性剤は、HMWHAが1つまたは複数の生物活性剤の眼への輸送に寄与するのに十分に近い時間で投与される。
【0101】
本発明の投与流体の文脈における「有効量」という用語は、所望の結果を得るために必要な流体の量、例えば、生物活性剤を眼に輸送するために必要な量を意味する。
【0102】
「単離された」という用語は、組成物の修飾語句として使用される場合、組成物がヒトの介入によって作製されるか、あるいはそれらの天然に存在するインビボ(in vivo)環境から分離されることを意味する。一般に、そのように単離された組成物は、それらが天然で通常会合する1つまたは複数の材料、例えば、1つまたは複数のタンパク質、核酸、脂質、炭水化物、細胞膜を実質的に含まない。「実質的に純粋な」分子は、1つ以上の他の分子と組み合わせることができる。したがって、「実質的に純粋な」という用語は、組成物の組み合わせを除外しない。実質的な純度は、分子の少なくとも約60質量%以上であってもよい。また、純度は、約70%または80%以上であってもよく、それ以上、例えば、90%以上であってもよい。純度は、例えば、UV分光法、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、気相)、ゲル電気泳動(例えば、銀またはクーマシー染色)、および配列分析(核酸およびペプチドについて)を含む、任意の適切な方法によって決定することができる。
【0103】
本明細書で使用される場合、「ヒアルロン酸」(HA)という用語は、ヒアルロナンとしても知られる、天然に見出されるN-アセチルグルコサミンおよびグルクロン酸の二糖反復から構成されるグリコサミノグリカン(例えば、二糖[-D-グルクロン酸-b1,3-N-アセチル-D-グルコサミン-b1,4-]nの繰り返し単位から形成される直鎖グリコサミノグリカンポリマー)、ならびにヒアルロン酸のエステル、アミド誘導体、アルキルアミン誘導体、ヒアルロン酸の低分子量形態および高分子量形態、およびヒランなどの架橋形態などの化学修飾を有するヒアルロン酸の誘導体を指す。したがって、二糖鎖は、直鎖または非直鎖であってもよい。ヒアルロン酸は、チオール、メタクリレート、ヘキサデシルアミド、およびチラミンなどの架橋剤を結合させることによって架橋することができる。ヒアルロン酸は、ホルムアルデヒドおよびジビニルスルホンと直接架橋することもできる。ヒランの例としては、ヒランA、ヒランB、およびヒランG-F20(Hargittai M and I Hargittai、「More Conversations with Hyaluronan Scientists」、from Hyaluronan - From Basic Science to Clinical Applications、Balazs EA、Ed., Vol. 3、2011、PubMatrix、Edgewater、NJ;Cowman MKら、Carbohydrate Polymers 2000、41:229-235;Takigami Sら、Carbohydrate Polymers、1993、22:153-160;Balazs EAら、「Hyaluronan, its cross-linked derivative-Hylan-and their medical applications」、in Cellulosics Utilization: Research and Rewards in Cellulosics、Proceedings of Nisshinbo International Conference on Cellulosics Utilization in the Near Future (Eds Inagaki、H and Phillips GO)、Elsevier Applied Science (1989)、NY、pp.233-241;Koehler Lら、Scientific Reports、2017、7、article no. 1210;およびPavan Mら、Carbohydr Polym、2013、97(2): 321-326。これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される)が含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
「ヒアルロン酸」またはHAという用語は、HA自体、およびヒアルロン酸ナトリウムなどのその薬学的に許容される塩を含む。HAは、薬学的に許容される塩形態に製剤化することができる。HAの薬学的に許容される塩は、従来の技術を用いて調製することができる。
【0105】
「高分子量」または「HMW」という用語は、本発明のヒアルロン酸の文脈において、欧州薬局方9.0(「ヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)」)、3584頁(その全体が参照により本明細書に援用される)の方法によって決定される、少なくとも2.5m3/kg(すなわち、2.5m3/kg以上)の固有粘度を有するヒアルロン酸を指す。簡潔に述べると、固有粘度[η]は、マーチン(Martin)式:Log10(nr-1/c)=log10[η]+κ[η]cを用いた線形最小二乗回帰分析によって計算される。いくつかの実施形態では、上記高分子量ヒアルロン酸は、少なくとも2.9m3/kg(すなわち、2.9m3/kg以上)の固有粘度を有する。
【0106】
本明細書で使用される場合、「眼障害」という用語は、(治療的または予防的に)共投与される生物活性剤から利益を得る可能性のある眼の任意の異常(例えば、疾患、病気、外傷)を広く含むことが意図される。障害は、任意の段階であってよく、急性障害または慢性障害であってよい。例えば、HMWHAおよび生物活性剤は、眼障害の初期段階、中間段階、または進行段階で共投与されてもよい。障害は、任意の重篤度(例えば、軽度、中等度、または重度)のものであってもよい。いくつかの実施形態では、上記眼障害は、前眼部、後眼部、またはその両方の障害である。
【0107】
本明細書で使用される場合、「眼表面」という用語は、角膜および結膜、ならびに上眼瞼及び下眼瞼を覆う結膜を含むその一部分を指す。HMWHA流体および1つまたは複数の生物活性剤は、眼表面の1つまたは複数の部分(例えば、眼表面全体を含む)に局所的に共投与されてもよい。
【0108】
本明細書で使用される場合、「浸透促進剤」という用語は、上皮に作用するなどの任意の作用機序によって、角膜などのそうでなければ不透過性または透過性が制限された膜を越えて、薬物などの生物活性剤の送達を促進することができる薬剤を指す。浸透促進剤は、上記の浸透促進剤として機能する任意の種類の物質であってもよい。例えば、浸透促進剤は、薬物分子または生物学的製剤であってもよく、天然物または人工的に生成されたものであってもよく、それ自体でまたは別の薬剤と協働して浸透を促進するための任意のメカニズムによって作用してもよい。浸透促進剤の具体例および浸透促進剤の種類は、Moiseev, R.V.らによる「Penetration Enhancers in Ocular Drug Delivery」、Pharmaceutics、2019. 11(7)(その全体が参照により本明細書に援用される)において同定されている。その例としては、シクロデキストリン、キレート剤、防腐剤(塩化ベンザルコニウムなど)、界面活性剤、クラウンエーテル、胆汁酸、胆汁酸塩、細胞透過性ペプチド、および他の両親媒性化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
「薬学的に許容される塩」は、酸付加塩および塩基付加塩の両方を含む。本明細書に記載のHAの薬学的に許容される塩または他の化合物のいずれか1つは、任意のおよびすべての薬学的に適切な塩形態を包含することが意図される。本明細書に記載の好ましい薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸付加塩および薬学的に許容される塩基付加塩である。
【0110】
「薬学的に許容される酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的有効性および特性を保持し、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではなく、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、亜リン酸などの無機酸と形成される塩を指す。また、脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの有機酸で形成される塩も含まれ、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸なども含まれる。したがって、例示的な塩としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソ酪酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸などが挙げられる。また、アルギン酸塩、グルコン酸塩、およびガラクツロン酸塩などのアミノ酸の塩も企図される(例えば、Berge S. M.ら、[非特許文献29]を参照。その全体が参照により本明細書に援用される)。塩基性化合物の酸付加塩は、当業者が精通している方法および技術に従って、遊離塩基形態を十分な量の所望の酸と接触させて塩を生成させることによって調製されてもよい。
【0111】
「薬学的に許容される塩基付加塩」は、遊離酸の生物学的有効性および特性を保持し、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない塩を指す。これらの塩は、無機塩基または有機塩基を遊離酸に付加することによって調製される。薬学的に許容される塩基付加塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属またはアミンを用いて形成されてもよい。無機塩基に由来する塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩などが挙げられるが、これらに限定されない。有機塩基に由来する塩としては、第一級、第二級、および第三級アミンの塩、天然に存在する置換アミンなどの置換アミン、環状アミンおよび塩基性イオン交換樹脂、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、エチレンジアニリン、N-メチルグルカミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない(Bergeらによる上記文献を参照)。いくつかの実施形態では、上記薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩である(参照により本明細書に援用される、欧州薬局方9.0の3583頁の「ヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)」を参照)。
【0112】
本明細書で使用される場合、「被験体」、「患者」、および「個体」という用語は、ヒトまたはヒト以外の動物を指す。被験体はまた、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚、鳥などを指す。いくつかの実施形態では、被験体は、哺乳動物である。いくつかの実施形態では、被験体はヒトである。いくつかの実施形態では、被験体は、鳥または魚である。したがって、本方法は、医療環境および獣医環境において実施されてもよい。ヒト以外の動物被験体は、例えば、眼疾患または非眼疾患のペットまたは動物モデルであってもよい。いくつかの実施形態では、上記被験体は、成人である。他の実施形態では、上記被験体は、18歳未満の子供(例えば、幼児、青年、または少年)である。
【0113】
「局所投与」という語句は、本明細書では、眼表面などの所望の解剖学的部位への局所送達を意味する従来の意味で使用される。高分子量ヒアルロン酸を含む流体は、有効量の流体と眼表面とが接触することを可能にする任意の方法によって、眼表面に直接的または間接的に適用されてもよい。例えば、流体は、点眼薬または洗浄液などを介して眼表面に直接適用されてもよく、あるいは眼表面または眼の他の部分と接触させられる送達剤(すなわち、流体送達剤)を介して間接的に適用されてもよい。送達剤の例は、流体でコーティングされ、かつ/あるいは、眼表面上に流体を放出する粒子(例えば、微粒子またはナノ粒子)である。そのような粒子は、天然または合成ポリマーなどの種々の材料から構成されてもよい。いくつかの実施形態では、上記送達剤は、それ自体、滴剤として投与されてもよい。
【0114】
「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、および「治療(treatment)」という用語は、眼障害などの医学的異常、またはその異常に関連する1つまたは複数の症状もしくは合併症を緩和、改善、その進行の抑制、逆行、または抑止すること、およびその異常の1つまたは複数の原因を緩和、改善、または根絶することを含む。
【0115】
本発明は、明細書および図面の実施形態によって例示的にのみ説明され、それらに限定されるものではなく、専門家がその特定の知識を考慮して、かつ/あるいはそれらの特定の知識と組み合わせて、本出願の完全な文書から取り得るすべての変形、修正、置換、および組み合わせを含む。
【0116】
本明細書で言及または引用した全特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、それらが本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、その図面および表を含む全体が参照により本明細書に援用される。
【0117】
以下は、本発明を実施するための手順を示す実施例である。これらの実施例は、限定と解釈されるべきではない。特に注意がない限り、全てのパーセンテージは、重量で示されており、全ての溶媒混合比率は、体積比で示されている。
【0118】
(実施例1-眼圧の低下におけるラタノプロストおよび高分子量ヒアルロン酸の組み合わせとラタノプロスト単独との比較)
材料及び方法
コンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)MDS点眼薬(i.com medical GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を製造するための無菌バルク溶液を、プロトタイプのラタノプロストバルク溶液(PLBS)の作製のためのビヒクルとして使用した。ビヒクルは、リン酸緩衝生理食塩水(8.035g/lのNaCl;1.2mmol/lのNa2HPO4/NaH2PO4;pH7.4)に溶解した0.15%w/vのヒランA(2.9m3/kgの固有粘性を有するHA)を含有した。ラタノプロストは、Yonsung Fine Chemicals Co. Ltd.(京畿道、韓国)から入手した。PLBSは、medi-pharm Laboratorium GmbH(ファルケンゼー、ドイツ)によって、20±1μg/mlのラタノプロストをビヒクルに溶解することで調製された。
【0119】
眼科用圧搾ディスペンサー(OSD;Ophthalmic Squeeze Dispenser)を備えた無菌10mlボトルを、Aptar Radolfzell GmbH(ラドルフツェル、ドイツ)から入手した。Medi-pharm Laboratorium GmbHは、9mlのPLBSを当該Aptarボトルに無菌的に充填し、それらをOSDで閉じることによって、安定性スクリーニング用のプロトタイプのラタノプロスト試験サンプル(PLTS-A)を2バッチ調製した。バルブ径1.6mmの無菌ノベリア(Novelia)(登録商標)11mlソフトボトルおよびピュアフロー(PureFlow)(登録商標)1500滴下器を、ネメラ(ラ・ヴェルピリエール、フランス)から入手した。Pharmpur GmbH(ケーニヒスブルン、ドイツ)は、無菌Noveliaボトルに10mlのPLBSを無菌的に充填し、点滴器でそれらを閉じることにより、IOP自己試験のためのプロトタイプのラタノプロスト試験サンプル(PLTS-N)を調製した。ラタノプロストは点滴器に含まれるシリコーン部分に吸着する傾向があるので、これらの試験サンプルは、溶液と点滴器との間の接触を最小限に抑えるために垂直に保たれなければならなかった。自己試験に使用したPLTS-Nボトル中のラタノプロスト濃度は、19μg/mlであった。
【0120】
50μg/mlのラタノプロスト、0.2mg/mlの塩化ベンザルコニウム、および6.3mg/mlのリン酸塩を含有するキサラタン(Xalatan)(登録商標)点眼薬(PFIZER OFG Germany GmbH、ベルリン、ドイツ)を、IOP自己試験における比較サンプルとして使用した。
【0121】
プロトタイプのラタノプロスト試験サンプルのビヒクルからなるコンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)MDS0.15%ヒランA点眼薬(i.com medical GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を、IOP自己試験のウォッシュアウト期間中に対照として使用した。
【0122】
被験者
被験者(TS)は、71歳の男性で、健康な眼表面を有し、眼の外傷や眼の手術の病歴または保存された点眼薬の使用歴がなく、緑内障に関連しない未治療の高眼圧症を患っている。
【0123】
方法
予備試験において、25μg/mlおよび50μg/mlのラタノプロストをビヒクルに添加し、溶液を40℃で18時間撹拌した。ラタノプロスト含有量は、5μm、150.0×4.0mmのHypersil BDS C18カラム(VDS optilab)およびUV検出器(200nm)を使用してHPLCにより決定した。開始量とは無関係に、12.9μg/mlのラタノプロストの水への溶解度(PubChem Compound Summary for CID 5311221、Latanoprost。アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information))と比較して、20.8μg/mlのラタノプロストが、ビヒクルに溶解することが分かった。
【0124】
2バッチのPLTS-Aからの試料を、室温(15~25℃)、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、および40℃/75%RHで6ヶ月間保存した。当初、4週間後、3ヶ月後、および6ヶ月後に、サンプルを外観(透明度)および粒子の有無について目視検査し、pH値、ラタノプロスト含有量、および減量について試験した。
【0125】
自己試験を通して、IOPを、自己使用を目的としたリバウンド式アイケアHOME手持眼圧計(hand-held icare HOME Model rebound tonometer)TA022(Icare Finland Oy、ヴァンター、フィンランド)(Liu, J.ら、Icare Home Tonometer: A Review of Characteristics and Clinical Utility、Clin Ophthalmol、2020. 14: p. 4031-4045)を用いて測定した。3回測定し、平均値を記録した。
【0126】
IOPは24時間(概日)の間に大きく変動することが知られており、さらに、IOPのピークの時間は患者によって異なることが知られている(Barkana, Y.ら、「Clinical utility of intraocular pressure monitoring outside of normal office hours in patients with glaucoma」、Arch Ophthalmol、2006. 124(6): p. 793-7;Mansouri, K.ら、「Review of the measurement and management of 24-hour intraocular pressure in patients with glaucoma」、Surv Ophthalmol、2020. 65(2): p. 171-186)。IOPの日々の(日間)変動についてはあまり知られていない。したがって、TSは、08:00(午前8時)、11:00(午前11時)、15:00(午後3時)、19:00(午後7時)、および22:00(午後10時)に7日連続で両眼のIOPを測定した。TSのピークIOPの個々の時間(11:00)を、スクリーニング試験を通してIOP監視のために選択した。
【0127】
自己試験の8週間前に、TSは、朝と夕方にコンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)点眼薬(=ビヒクル)を各眼に1滴ずつ点眼した。自己試験は5週間続き、両眼のIOPを毎日11:00に測定した。1週目、3週目、および4週目には、ビヒクルを朝と夕方に塗布した。第2週の間および第5週の間、ビヒクルは朝(7:00~8:00)にのみ適用され、ラタノプロスト点眼薬1滴は夕方の19:00~20:00の間に各眼に点眼された。第2週の間、キサラタン(Xalatan)(登録商標)点眼薬(50μg/mlラタノプロスト)を適用し、第第5週の間、PLTS-N点眼薬(19μg/mlラタノプロスト)を点眼した。
【0128】
結果
安定性スクリーニング
プロトタイプのラタノプロスト試験サンプル(PLTS-A)の2つのバッチについての安定性スクリーニングの結果を表2および表3にまとめる。
【0129】
表2 PLTS-A、バッチE030219の安定性試験の結果
【表2】
【0130】
表3 PLTS-A、バッチE040219の安定性試験の結果
【表3】
*n.d.=未決定(not determined)
【0131】
IOP自己試験
個々の概日リズムおよび日内変動を研究するために、TSは、7日連続でIOP測定を行った。TSのIOPは朝遅くにピークに達し、その後、夕方まで連続的に減少した(表4を参照)。
【0132】
表4 TSの右目(OD)および左目(OS)におけるIOPの概日変動および日内変動
【表4】
【0133】
このため、午前11時にIOP測定を実施し、TSの眼におけるラタノプロスト点眼薬の有効性を比較することとした。また、日毎に有意差が認められたため、ラタノプロスト点眼薬を使用した場合と使用しない場合のIOP測定を7日間連続して実施した。自己試験の結果を表5にまとめる。
【0134】
表5 市販のラタノプロスト点眼薬50μg/mLの適用前(1週目)および適用中(2週目)、ならびにPLTS-N19μg/mLラタノプロスト点眼薬の適用前(4週目)および適用中(5週目)のIOP値
【表5】
【0135】
50μg/mlのラタノプロストを含有する市販の点眼薬を適用すると、眼圧は、平均ベースライン値27.62mmHgから平均値24.38mmHgまで3.24mmHg低下した。一方、19μg/mlのみのラタノプロストを含有するプロトタイプのラタノプロスト試験サンプルPLTS-Nを適用すると、IOPは、平均ベースライン値27.30mmHgから平均値21.43mmHgまで5.87mmHg低下した。
【0136】
結論
被験者(TS)の眼において、50μg/mlのラタノプロストを含有する市販の点眼薬は、IOPを平均で3.24mmHg減少させた。一方、19μg/mlのラタノプロストを含有するプロトタイプの点眼薬PL20は、IOPを平均で5.87mmHg減少させた。この知見は、ラタノプロストと高分子量ヒアルロン酸の併用がラタノプロスト単独よりもIOPを低下させるのに有効であることを示唆している。
【0137】
実施例2-マトリックス溶液としてのHMWHA流体中の有効成分としてのシクロスポリンおよびケトチフェン
免疫抑制薬シクロスポリンは、代用涙液による治療にもかかわらず改善されていないドライアイの成人における重度の角膜炎の治療のために眼科において使用される。例えば、イケルビス(IKERVIS)(登録商標)1mg/ml点眼薬の商品名でSanten GmbH社によって市販されている。
【0138】
シクロスポリン(C62H111N11O12、分子量1202.62)は、強い疎水性/親油性を有する11アミノ酸のpH中性環状ペプチドである。この物質は、水にほとんど溶けない。これらの特性により、有効かつ眼に許容される調製物を製剤化することが非常に困難になる。原則として、薬学的投薬形態の懸濁液、エマルジョン、または溶液で眼に適用するためのシクロスポリンを製造することが可能である。文献には、シクロスポリン点眼薬の製剤についての様々な示唆がある。多くの特許出願において、製剤も提案され、特定の組成物が発明として特許請求されている。
【0139】
シクロスポリン点眼薬を製剤化する場合、以下の問題に直面する。
【0140】
1.エマルジョンの製剤
シクロスポリンは、中鎖トリグリセリドなどの親油性溶媒に溶解され、界面活性物質(界面活性剤)を用いて水中で乳化される。一般に、安定なエマルジョンを得るためには、比較的高い割合の界面活性剤が必要とされる。界面活性剤は、石けんのように作用し、眼にはほとんど忍容されない。発赤、灼熱感、かゆみ、および異物感がしばしば起こる。それらはまた、涙液膜の安定性に悪影響を及ぼす。Santenの製品イケルビス(Ikervis)(登録商標)は、エマルジョン点眼薬である。
【0141】
2.溶液の製剤
シクロスポリンは、その化学的性質のため、実質的に水に不溶性である。したがって、有効成分は、親油性溶媒にしか溶解されない。中鎖トリグリセリド(中性油)またはヒマシ油などの植物油が好適である。油性の点眼薬は、眼による忍容性が低く、適用後に著しい視覚障害をもたらす。したがって、それらは通常、患者によって拒絶される。ここ数年、水不溶性物質といわゆるシクロデキストリンとの錯体形成についても、何度も議論されてきた。このようにして得られた活性物質シクロデキストリン錯体は、改善された水溶性を示し得る。しかしながら、長期安定性、長期使用中の眼への適合性、および有効性(バイオアベイラビリティ)のための必要条件である複合体からの有効成分の放出など、眼への広範な適用のためには、依然として多くの疑問が明らかにされる必要がある。
【0142】
3.懸濁液としての製剤
水不溶性有効成分は、微粉化して微細に分散させることができる。しかしながら、さらなる添加剤なしでは、微粉化された有効成分の粒子が事実上即座に沈殿し、振盪することが困難または不可能な凝集体として安定する。製剤中のこれらの問題は、通常、増粘添加剤および界面活性剤を添加することによって軽減される。セルロース誘導体、例えばメチルセルロース(MC)またはメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)は、増粘添加剤としてよく使用される。しかしながら、沈殿傾向を抑えるために、これらの添加剤を比較的高い濃度で使用する必要がある。これにより、眼に適用した場合、癒着および不適合が引き起こされる可能性がある。
【0143】
シクロスポリン点眼薬の新規製剤の開発を検討した結果、ベース(マトリックス溶液)としてコンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)点眼薬(i.com medical GmbH)を使用するというアイデアが生まれた。コンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)は、比較的低い粘度を有するヒアルロン酸を含有する点眼薬である。これらは、ドライアイの治療に非常に成功裏に使用され、極めて良好な忍容性を有する。
【0144】
シクロスポリンは、コンフォート・シールド(COMFORT SHIELD)(登録商標)マトリックス溶液中に0.05%の濃度で微粉末として導入され、撹拌によって均一に分散された。有効成分の粒子の濡れ性を改善するために、少量のポリソルベート80(十分に許容される界面活性剤)を添加した。驚くべきことに、有効成分の粒子は、マトリックス溶液中に迅速かつ均一に分散された。数時間に及ぶ長時間の放置後にのみ、わずかな沈殿が生じた。再度均一な懸濁液を得るには、短時間の振盪で十分であった。固形のほとんど振盪されない凝集沈殿物、恐ろしい「ケーキング」は、数週間静置した後でも観察することができなかった。
【0145】
配合表:
シクロスポリン:500mg
ツイーン(Tween)80:2.5ml
マトリックス溶液:1000ml
【0146】
製造
まず、2.5mlのツイーン(Tween)80を総量700mlのマトリックス溶液に加えた。その混合物をツイーン(Tween)80が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、総量500mgのシクロスポリンを、残りの約300mlのマトリックス溶液に移した。次いで、活性物質シクロスポリンが完全かつ均一に分散されるまで、調製物全体をマグネチックスターラーで撹拌した。
【0147】
シクロスポリン懸濁液を、保存されていない点眼薬用の特別な容器に充填した。これらの容器は、最大容量10mlの点眼薬用の従来のプラスチックボトルと、液滴離脱中の細菌の侵入を防止する上部とからなる。この革新的な概念を利用することによって、防腐剤の添加を回避することができた。
【0148】
このようにして、シクロスポリン点眼薬を2バッチ製造し、充填した(バッチE281019-1およびバッチE281019-2)。
【0149】
シクロスポリン点眼薬のサンプルを異なる気候条件下で保存して、それらの保存寿命を試験した。これらの安定性試験の条件は、以下のとおりである。
保存条件 試験ポイント
2°C~8°C T=0、T=4週、T=3月
15°C~25°C T=0、T=4週、T=3月
25°C/60%rH T=0、T=4週、T=3月
40°C/75%rH T=0、T=4週、T=3月
rH=相対湿度
T=試験時間(製造直後は、T=0)
【0150】
安定性結果の考察
活性物質シクロスポリンの含有量の判定は、シクロスポリン標準品に対してHPLC法を用いて行った。さらなる試験パラメータは、懸濁液の外観およびpH値とした。
【0151】
バッチE281019-1
試験時間T=0、すなわち製造直後の懸濁液のpH値は、7.21であった。シクロスポリン含有量は、100.89%であった。懸濁液の外観は、白色~クリーム色であり、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0152】
試験時間T=4週間および2℃~8℃で保存したときのpH値は、6.23であった。シクロスポリン含有量は、100.31%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0153】
試験時間T=3ヶ月および2℃~8℃で保存したときのpH値は、6.93であった。シクロスポリン含有量は、96.71%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0154】
試験時間T=4週間および15℃~25℃で保存したときのpHは、6.27であった。シクロスポリン含有量は、99.63%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0155】
試験時間T=3ヶ月および15℃~25℃で保存したときのpH値は、6.93であった。シクロスポリン含有量は、94.04%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0156】
試験時間T=4週間および25℃/60%rHで保存したときのpH値は、6.29であった。シクロスポリン含有量は、98.62%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0157】
試験時間T=3ヶ月および25℃/60%rHで保存したときのpH値は、6.94であった。シクロスポリン含有量は、97.88%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0158】
試験時間T=4週間および40℃/75%rHで保存したときのpH値は、6.24であった。シクロスポリン含有量は、93.47%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0159】
試験時間T=3ヶ月および40℃/75%rHで保存したときのpH値は、6.71であった。シクロスポリン含有量は、98.37%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0160】
結果は、調製物の良好な保存寿命を示す。
【0161】
製造後に最初に測定された約7.2のpH値は、4週間以内に約6.3に低下し、3ヶ月の保存期間後に約6.9に再び上昇した。4週間の保存期間後に測定されたpH値は、明らかに正しくない。おそらく、使用したpHメーターが正しく較正されていなかった。シクロスポリンの含有量は、3ヶ月の保存時間まで、いかなる保存条件下でも有意に減少しなかった。40°C/75%rH(ストレステスト)で保存しても結果は目立たなかった。これらのストレス条件下での4週間の保存期間後のいくらか低い含有量の値は、依然として、ほぼ測定精度の範囲内である。
【0162】
バッチE281019-2
試験時間T=0、すなわち製造直後の懸濁液のpH値は、7.36であった。シクロスポリン含有量は、100.43%であった。懸濁液の外観は、白色~クリーム色であり、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0163】
試験時間T=4週間および2℃~8℃で保存したときのpH値は、6.26であった。シクロスポリン含有量は、99.17%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0164】
試験時間T=3ヵ月および2℃~8℃で保存したときのpH値は、6.93であった。シクロスポリン含有量は、96.87%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0165】
試験時間T=4週間および15℃~25℃で保存したときのpH値は、6.29であった。シクロスポリン含有量は、78.86%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0166】
試験時間T=3ヶ月および15℃~25℃で保存したときのpH値は、6.93であった。シクロスポリン含有量は、93.65%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0167】
試験時間T=4週間および25℃/60%rHで保存したときのpH値は、6.26であった。シクロスポリン含有量は、57.12%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0168】
試験時間T=3ヶ月および25℃/60%rHで保存したときのpH値は、6.90であった。シクロスポリン含有量は、73.56%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0169】
試験時間T=4週間および40℃/75%rHで保存したときのpH値は、6.23であった。シクロスポリン含有量は、92.65%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0170】
試験時間T=3ヶ月および40℃/75%rHで保存したときのpH値は、6.80であった。シクロスポリン含有量は、97.12%であった。懸濁液の外観は、白色からクリーム色で変化せず、懸濁液は、問題なく振盪することができた。
【0171】
結果は、部分的に矛盾しているように見える。しかしながら、測定されたpH値は、pHメーターが適切に較正されていなかったというバッチE281019-1について記載された観察結果を裏付けている。
【0172】
製造後に最初に測定された約7.2のpH値は、4週間以内に約6.3に低下し、3ヶ月の保存期間後に約6.9に再び上昇した。4週間の保存期間後に測定されたpH値は、明らかに正しくない。おそらく、使用したpHメーターが正しく較正されていなかった(バッチE281019-1を参照)。シクロスポリンの含有量は、いずれの保存条件下でも3ヶ月の保存時間まで有意に減少しなかった。40℃/75%rH(ストレステスト)で保存しても結果は目立たなかった。これらのストレス条件下での4週間の保存期間後のいくらか低い含有量の値は、依然として、ほぼ測定精度の範囲内である。
【0173】
表6 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号E281019-1、15°C~25°Cで保存
【表6】
【0174】
表7 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号E281019-1、2°C~8°Cで保存
【表7】
【0175】
表8 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号281019-1、25°C/60%RHで保存
【表8】
【0176】
表9 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号E281019-1、40°C/75%RHで保存
【表9】
【0177】
表10 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号E281019-2、15°C~25°Cで保存
【表10】
【0178】
表11 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号E281019-2、2°C~8°Cで保存
【表11】
【0179】
表12 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号281019-2、25°C/60%RHで保存
【表12】
【0180】
表13 シクロスポリンA点眼薬、10ml、バッチ番号E281019-2、40°C/75%RHで保存
【表13】
【0181】
まとめ
シクロスポリン点眼薬を2バッチ(バッチE281019-1およびE281019-2)調製し、保存されていない点眼薬用の特別な点眼ボトルに充填し、異なる気候条件下で3ヶ月間保存した。保存したサンプルの安定性を、製造直後ならびに4週間および3ヶ月の保存期間後の保存寿命について試験した。両方のバッチは、ストレス条件下(40℃/75%rH)で保存した場合でも、3ヶ月の保存期間まで良好な安定性を示した。
【0182】
本製剤は、2.5mlのツイーン(Tween)80を除いて、粘度を増加させるためのセルロース誘導体または懸濁された有効成分粒子を湿らせるための界面活性剤などの、懸濁点眼薬に通常必要とされる補助剤を省くことができるので、文献に記載されている製剤よりも、また市販されている製剤(イケルビス(Ikervis)(登録商標)点眼薬)よりも進歩している。
【0183】
ケトチフェンを2バッチ(バッチE180419-1およびE180419-2)調製し、保存されていない点眼薬用の特別な点眼ボトルに同様に充填し、異なる気候条件下で3~6ヶ月間保存した。
【0184】
表14 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-1、15°C~25°Cで保存
【表14】
【0185】
表15 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-1、2°C~8°Cで保存
【表15】
【0186】
表16 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-1、25°C/60%RHで保存
【表16】
【0187】
表17 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-1、40°C/75%RHで保存
【表17】
【0188】
表18 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-2、15°C~25°Cで保存
【表18】
【0189】
表19 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-2、2°C~8°Cで保存
【表19】
【0190】
表20 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-2、25°C/60%RHで保存
【表20】
【0191】
表21 ケトチフェン点眼薬、9ml、バッチ番号E180419-2、40°C/75%RHで保存
【表21】
【0192】
本明細書に記載の実施例および実施形態は、例示のみを目的としており、それに照らした様々な修正または変更が当業者に提案され、それらも本出願の趣旨および範囲ならびに添付の請求の範囲に含まれると理解すべきである。さらに、本明細書に開示された任意の発明またはその実施形態の任意の要素または制限は、本明細書に開示された任意の他の発明またはその実施形態の任意のおよび/または全ての他の要素または制限(個別にまたは任意の組み合わせで)と組み合わせることができ、全てのそのような組み合わせは、本発明の範囲内で意図されており、それに限定されるものではない。
【国際調査報告】