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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-14
(54)【発明の名称】全方向移動車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/14 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
B62D7/14 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575787
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 US2021035995
(87)【国際公開番号】W WO2021252291
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】63/035,826
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/035,941
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/198,227
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522477333
【氏名又は名称】チャオ、レイモンド
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、レイモンド
【テーマコード(参考)】
3D034
【Fターム(参考)】
3D034CA01
3D034CC01
3D034CC09
3D034CC12
3D034CC13
3D034CE02
3D034CE03
3D034CE09
3D034CE13
(57)【要約】
全方向に移動する車両34を提供する。当該車両34は、前方、後方、側方、および車両34の中心まわりの回転の3自由度で移動可能である。車両34の制御方法も併せて提供する。この方法で、従来の自動車のホイール14,23、タイヤ15,16、サスペンション、ドライブシャフト26,27、および操舵部品を利用することにより、車両34の移動を全方向に制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御システムに基づいて操舵し、
前記制御システムが第1操舵構成を示す場合、
前記車両のフロントホイールとリアホイールを同じ回転方向に回転させて、前記車両を前方または後方に移動させ、
前記制御システムが第2操舵構成を示す場合、
前記車両の前記フロントホイールと前記リアホイールがそれぞれ反対の回転方向に回転するように駆動されることにより、前記車両を左または右に移動させる
方法であって、
前記車両は、一緒に操舵される二つの前記フロントホイールと一緒に操舵される二つの前記リアホイールとを備え、前記二つのフロントホイールおよび前記二つのリアホイールはそれぞれが45度未満の最大操舵角度に制限される、
方法。
【請求項2】
前記制御システムが第3操舵構成を示す場合、
前記車両の向きを変更する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記制御システムが第3操舵構成を示す場合、
前記リアホイールは前記フロントホイールと同じ方向に旋回し、かつ前記フロントホイールと前記リアホイールがそれぞれ反対の回転方向に回転するように駆動されることにより前記車両を回転する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記制御システムが前記第2操舵構成を示す場合、
前記車両は、前記フロントホイールの第1操舵角度および前記リアホイールの第2操舵角度によって決定される角度で左または右に走行する、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記制御システムは、前記車両を特定の向きにするために、前記第1操舵角度および前記第2操舵角度を計算する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記制御システムが前記第2操舵構成を示す場合、
前記リアホイールは前記フロントホイールとは反対の方向に旋回する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記制御システムが通常運転モードを示す場合、
前記フロントホイールは操舵され、前記リアホイールは操舵されず、
前記制御システムが全方向運転モードを示す場合、
前記フロントホイールおよび前記リアホイールが操舵される、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記制御システムは、ユーザインターフェイスから左手動入力および右手動入力を受信する、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記制御システムの第1手動入力を用いて向きの変更が示され、前記制御システムの第2手動入力を用いて走行の方向が示される、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2手動入力が特定の操舵角度内にある操舵角度を示す場合、
前記リアホイールが前記フロントホイールと同じ方向に旋回するように操舵されることにより、クラブ操舵を実行する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2手動入力が前記特定の操舵角度を超える操舵角度を示す場合、
前記フロントホイールおよび前記リアホイールがそれぞれ反対の回転方向に回転するように駆動されることにより、前記車両を左または右に移動させる、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
それぞれが45度未満の最大操舵角度に制限される、一緒に操舵される二つのフロントホイールと一緒に操舵される二つのリアホイールと、
制御システムと、
を備える車両であって、
前記制御システムが第1操舵構成を示す場合、
前記車両の前記フロントホイールと前記リアホイールが同じ回転方向に回転させて、前記車両を前方または後方に移動させ、
前記制御システムが第2操舵構成を示す場合、
前記車両の前記フロントホイールと前記リアホイールがそれぞれ反対の回転方向に回転するように駆動されることにより、前記車両を左または右に移動させる、
車両。
【請求項13】
前記制御システムが第3操舵構成を示す場合、
前記リアホイールが前記フロントホイールと同じ方向に旋回し、
前記フロントホイールと前記リアホイールがそれぞれ反対の回転方向に回転するように駆動されることにより、前記車両を回転させる、
請求項12に記載の車両。
【請求項14】
前記制御システムが前記第2操舵構成を示す場合、
前記車両は、前記フロントホイールの第1操舵角度と前記リアホイールの第2操舵角度によって決定される角度で左または右に走行し、
前記制御システムは、前記車両を特定の向きにするため、前記第1操舵角度および前記第2操舵角度を計算する、
請求項12に記載の車両。
【請求項15】
前記制御システムが前記第2操舵構成を示す場合、
前記リアホイールは前記フロントホイールとは反対の方向に旋回する、
請求項12に記載の車両。
【請求項16】
前記制御システムが通常運転モードを示す場合、
前記フロントホイールは操舵され、前記リアホイールは操舵されず、
前記制御システムが全方向運転モードを示す場合、
前記フロントホイールおよび前記リアホイールが操舵される、
請求項12に記載の車両。
【請求項17】
前記制御システムが、ユーザインターフェイスから左手動入力および右手動入力を受信する、
請求項12に記載の車両。
【請求項18】
前記制御システムの第1手動入力を用いて向きの変更を示され、前記制御システムの第2手動入力を用いて走行の方向が示される、
請求項12に記載の車両。
【請求項19】
前記第2手動入力が特定の操舵角度内にある操舵角度を示す場合、
前記リアホイールが前記フロントホイールと同じ方向に旋回するように操舵されることにより、クラブ操舵を実行する、
請求項18に記載の車両。
【請求項20】
前記第2手動入力が前記特定の操舵角度を超える操舵角度を示す場合、
前記フロントホイールおよび前記リアホイールをそれぞれ反対の回転方向に回転するように駆動することにより、車両を左または右に移動させる、
請求項19に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して車両に関するものであり、特に、3自由度でどの方向にも移動可能な全方向移動車両である自動車車両に関する。この3自由度とは、前方後方(Y軸)、左右の側方(X軸)、並びに時計回り及び反時計回りのその場回転(Z軸)、並びにそれらの組み合わせである。
【背景技術】
【0002】
[関連技術の説明]
自動車車両は、設計および施工において多くの点でそれぞれ異なるが、現代のほぼ全ての自動車はホイール、タイヤ、ブレーキ、サスペンション、ドライブシャフト、ステアリングなどの標準的な構成要素を使用している。標準的なホイールとは、標準的なタイヤを用いることのできる車両に装着可能なホイールである。標準的なタイヤとは通常、加硫ゴムトレッドを備えた、スチールベルト付きラジアルチューブレス空気タイヤのことである。標準的なサスペンションとは通常、コイルスプリング、リーフスプリング、またはトーションバーであり、適応型ダンパー、非適応型ダンパー、アクティブダンパー、またはパッシブダンパーと組み合わせて使用されることにより、ホイールスピンドルを車両の車体に接続する。標準的なステアリングサスペンションの例には、ストラット式サスペンションとダブルウィシュボーン式サスペンションが含まれる。標準的なドライブシャフトとは、ドライブトレインからスピンドルを介して標準的なホイールに動力を伝達するスプライン付きの端部を通常有する、シングルピースシャフトまたはマルチピースシャフトである。標準的なステアリングシステムは通常、左右のホイールを一緒にハンドルに接続するパワーアシストラックアンドピニオンステアリングシステムである。
【発明の概要】
【0003】
[概要]
本開示の中には、全方向運転が可能な車両に関する実施形態がある。その車両には、フロントホイールとリアホイールがあり、それぞれ最大操舵角度が45度未満に制限されている。二本のフロントホイールが一緒に操舵され、二本のリアホイールが一緒に操舵される。制御システムが第1操舵構成を示すと、車両のフロントホイールとリアホイールが同じ回転方向に回転し、車両が前方または後方に動く。制御システムが第2操舵構成を示すと、車両のフロントホイールとリアホイールはそれぞれ反対の回転方向に回転するよう駆動され、車両が左方向または右方向に動く。制御システムが第3操舵構成を示すと、リアホイールはフロントホイールと同じ方向に旋回し、フロントホイールとリアホイールはそれぞれ反対の回転方向に回転するよう駆動され、車両を回転させる。制御システムが通常運転モードを示すと、フロントホイールは操舵されるがリアホイールは操舵されない。制御システムが全方向運転モードを示すと、フロントホイールおよびリアホイールが操舵される。
【0004】
実施形態によっては、制御システムが第2操舵構成を示すと、リアホイールがフロントホイールとは反対の方向に旋回し、車両は、フロントホイールの第1操舵角度およびリアホイールの第2操舵角度によって決定される角度で左方向または右方向に走行する。車両の特定の方向を求めるために、制御システムが第1操舵角度および第2操舵角度を算出する。
【0005】
実施形態によっては、車両の制御システムが、ユーザインターフェイスから左手動入力および右手動入力を受信する。左手動入力は、向きの変更を示すために用いられ、制御システムの右手動入力は、走行の方向を示すために用いられる。右手動入力によって特定の操舵角度内での操舵角度が示されると、リアホイールがフロントホイールと同じ方向に旋回するように操舵されることによりクラブ操舵が行われ、右手動入力によって、特定の操舵角度を超える操舵角度が示されると、フロントホイールとリアホイールがそれぞれ反対の回転方向に回転し、車両を左または右に横移動させる実施形態もある。
【0006】
上記した概要は、本開示のいくつかの実施形態を簡単に紹介するものである。本明細書で開示されるすべての発明的主題の紹介または概要を意図するものではない。以下の詳細な説明、および詳細な説明で参照される図面は、概要に記載された実施形態およびその他の実施形態をさらに説明する。このように、概要、詳細な説明、および図面は、本明細書で説明されるすべての実施形態の理解のために提示される。さらに、特許請求された主題は、概要、詳細な説明、および図面の例示的な詳細によって限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲によって定義されるべきである。なぜなら、この主題は、その精神から逸脱することなく、他の具体的な形式で実現できるためである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
[図面の簡単な説明]
図面は、実施形態を例示したものである。図面には全ての実施形態が示されているわけではない。これに加えて、もしくはこれに代えて、他の実施形態が用いられてもよい。明らかな詳細、または不要な詳細は、スペースを節約するため、またはより効果的な説明のために省略される場合がある。一部の実施形態は、追加の構成要素またはステップを用いて、および/または図示されている構成要素またはステップのすべてを用いることなく実施することができる。同じ数字が異なる図面にある場合は、同じまたは類似の構成要素またはステップを指す。
【0008】
図1図1は、全方向移動車両の構成要素を概念的に示す。
図2図2は、全方向移動車両の通常の旋回動作を示す。
図3図3は、フロントホイールとリアホイールが反対方向に回転することによる全方向移動車両の側方向または横方向への動作を示す。
図4図4は、全方向移動車両の斜めの動作を示す。
図5図5は、全方向移動車両の旋回半径ゼロの回転動作を示す。
図6a】例示的な実施形態と一致する、全方向移動車両を制御するために使用されるジョイパッド(モード1)を示す。
図6b】例示的な実施形態と一致する、全方向移動車両を制御するために使用されるジョイパッド(モード2)を示す。
図7図7は、モード1でのジョイパッドの様々な入力状態とそれに対応する自動車車両の反応を示す。
図8図8は、右ジョイスティックを使用して行う四輪操舵を示す。
図9図9は、右ジョイスティックを使用して行う側方向または横方向への運転を示す。
図10図10は、左ジョイスティックを用いて行う車両の回転または向きの変更を示す。
図11図11は、全方向移動車両のコンピュータ制御を概念的に示す。
図12図12は、全方向移動車両を制御する際の、左右のジョイスティックからの混合入力を示す。
図13図13は、ミキシングシステムによって制御される全方向移動車両の例を示す。
図14図14は、自動側方向駐車時の不要な時計回りの回転の修正を示す。
図15図15は、自動側方向駐車時の不要な横方向への動作の修正を示す。
図16図16は、全方向移動車両を制御するための工程1600を概念的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[詳細な説明]
以下の詳細な説明では、関連する教示を完全に理解するために、多数の具体的な詳細が例として示される。しかしながら、本教示がそのような詳細なしに実施され得ることは明らかである。他の例では、周知の方法、手順、構成要素、および/または回路は、本教示の側面を不必要に曖昧にすることを避けるために、詳細を省いて比較的高いレベルで説明されている。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態は、全方向移動が可能な自動車車両(全方向移動車両とも呼ばれる)に関する。全方向移動車両は、3自由度で全方向に移動可能である。全方向移動車両が、ホイール、タイヤ、サスペンション、ドライブシャフト、およびステアリング等の標準的な自動車部品を使用して構築される実施形態もある。全方向移動車両が、構造フレームと、標準的なドライブシャフト、サスペンション、およびステアリングを有する4つの標準的なホイールおよびタイヤを介して車両を駆動する、一つまたは複数のエンジンおよび/またはモータとを有する実施形態もある。全方向移動車両のホイールは、従来の車両のように制限されているため標準的であり、各ホイールは、例えば30度または45度(0度では直進方向)など、実質的に90度よりも小さい、特定の最大旋回角度以下で、旋回または回転するように操舵される。さらに、車両の二つのフロントホイールがほぼ同じ角速度で回転するよう制限されることにより前進または後退し、車両の二つのリアホイールがほぼ同じ角速度で回転するよう制限されることにより前進または後退する。
【0011】
車両が二つのモータを有する実施形態もあり、一つは二つのフロントホイール用で、もう一つは二つのリアホイール用である。二つのモータは、電気モータ、内燃エンジン、またはその他の任意のタイプのモータであってよい。そのため、フロントホイールはリアホイールと同じ方向または反対方向に回転可能である。例えば、全方向移動車両のフロントホイールは前進(右から見て時計回り、左から見て反時計回り)するように回転してもよく、全方向移動車両のリアホイールは後退(右から見て反時計回り、左から見て時計回り)するように回転してもよく、その逆でもよい。
【0012】
二つのフロントホイールはフロントホイールを操舵するフロントステアリング機構に連結され、二つのリアホイールはフロントホイールとは独立してリアホイールを操舵するリアステアリング機構に連結されている。これらの実施形態のいくつかでは、フロントステアリング機構がパワーアシストステアリングコラムに接続されてもよく、車両のドライバによって直接制御され、通常の自動車のように操舵されることが可能であり、全方向移動制御コンピュータによって直接制御されることも可能である。リアステアリング機構は電気モータに接続され、御全方向移動制御コンピュータによって直接制御されることが可能である。
【0013】
いくつかの実施形態に対応して、図1は、全方向移動車両34の構成要素を概念的に示す。図示されているように、全方向移動自動車車両34は、中に乗客を収容するキャビン2があるフレーム1を有する。当該キャビンには、操舵装置を備えた運転席3が設けられている。当該操舵装置4は、運転席前方に位置するハンドルを備える。運転席前方のキャビンの床面にアクセルペダル5が設けられており、ドライバが足で踏むことができる。制御パッドは、二つの多方向ジョイスティック(ジョイパッド)6を有し、自動車を電子的に遠隔制御できるように、キャビンのドライバの手の届く範囲内に設けられている。ユーザまたはドライバは、ジョイパッド6を使用して、モード1およびモード2と呼ばれる二つの異なる運転モードで車両を制御することができる。モード1(または通常運転モード)では、ジョイパッドによって、公知の四輪操舵を含む公知の制御方法論に従って、通常の自動車として移動するように車両を制御可能である。モード2(または全方向運転モード)では、ジョイパッドによって車両34を全方向移動制御で任意の方向および任意の向きに移動するように制御可能である。モード1およびモード2の車両の制御については、図6図10を参照して以下にさらに説明する。
【0014】
また、ドライバの手の届くところに、ドライバが、通常運転モード、全方向運転モード、または自動運転モードを選択できるようにするモード選択制御6が設置される。ハンドル4から一体的に前方に延びるステアリングシャフト7は、ステアリングコラム8を介して車両フレームに支持されながら回転可能である。ステアリングシャフト7には、ハンドルの回転角度を検出する操舵角度センサ9が設けられている。トルクセンサ9が前記ステアリングシャフトに取り付けられており、ハンドルに回転力が加えられたことを検出する。電気モータ10がステアリングシャフトに取り付けられており、前記トルクセンサの読み取り値に応じてドライバの操舵を補助するため、またはドライバの入力なしにフロントホイールの操舵を完全に制御するために、前記モータが追加の操舵力を提供する。ステアリングシャフトの下端は、ステアリングシャフトと同じ速さで回転するピニオンギヤに接続される。ピニオンギヤと噛み合う対応する歯付きラック11が、ステアリングピニオンが回転すると横方向に移動する。ラックの各端部は、ナックルスピンドルアームに接続されたときに、ボールジョイント12を介して回転可能なタイロッドによって接続される。標準的なサスペンション部品(図示せず)を介してフレームに支持されるナックルスピンドル13は、標準的なフロントホイール14およびタイヤ15(15Lおよび15Rを含む)に接続される。ドライバがハンドルを回すと、ステアリングラックが横方向に動き、フロントナックルとフロントホイール、およびタイヤをハンドルの方向に対応して回転させる。
【0015】
追加の(第2の)電気モータ19は、リアピニオンギヤに取り付けられるが、当該リアピニオンギヤは、全方向運転中の車両の動作を計算し制御するマイクロプロセッサである、全方向移動制御ユニット(OCU)によって制御されて回転する。ステアリングピニオンが回転すると、対応する後方の歯付きラック20が横方向に移動するピニオンギヤと噛み合う。後部ラックの各端部は、リアナックルスピンドルアームに接続されたときに、ボールジョイント21を介して回転可能なタイロッドを介して接続される。リアナックルスピンドル22は、標準的なリアホイール23およびタイヤ16(16Lおよび16Rを含む)に接続される。リアステアリングモータがOCUによって回されると、ステアリングラックが横方向に移動し、OCUによって決定されたとおりにリアナックルとリアホイールを回転させる。車両のホイールについてさらに言及すると、各ホイールには一つのユニットとして同じ方向に回転するタイヤが取り付けられている。
【0016】
フロントホイールをリアホイールと同じ方向または反対方向に独立して駆動するために、単数または複数のエンジンまたはモータが設けられる。実施形態によっては、二つのフロントホイール(15Lおよび15R)を駆動するフロントモータ24と、二つのリアホイール(16Lおよび16R)を駆動するリアモータ25の、二つのモータがある。フロントモータはフロントインバータ/コンバータに接続されており、ドライバのペダルによる入力またはジョイパッド入力に応じた、OCUからの信号に基づいてフロントモータを電子的に駆動する。フロントモータに取り付けられているのは、標準的な左右のフロントドライブシャフト26間で道路状況に応じて動力を分割するフロントディファレンシャルギヤである。フロントドライブシャフト26は、フロントナックルスピンドルに接続してフロントホイールに動力を供給する。リアモータ25は、ドライバのペダルによる入力またはジョイパッドによる入力に応じた、OCUからの信号に基づいてリアモータを電子的に駆動するリアインバータ/リアコンバータに接続されている。リアモータに取り付けられているのは、標準的な左右のリアドライブシャフト27間で道路状況に応じて動力を分割するリアディファレンシャルギヤである。後部ドライブシャフトは、後部ナックルスピンドル22に接続して、リアホイールに動力を供給する。
【0017】
(全方向移動車両の動作)
いくつかの実施形態では、フロントモータ24およびフロントホイール15は、リアモータ25およびリアホイール16と同じ方向または反対方向のいずれかに回転するように動力を供給される。フロントホイールが操舵に使用され、フロントモータとリアモータが同じ方向に回転するように動力が供給されている場合(たとえば、フロントホイールとリアホイールがすべて前進する場合)、車両は通常の自動車車両が通常の旋回動作を行っているように動作する。ある実施形態に対応して、図2は、前記全方向移動車両の通常の旋回動作を示す。リアホイールもまた操舵に使用され、フロントモータとリアモータが同じ回転方向に回転するように動力を供給される場合、車両は四輪操舵モードで動作し、これにより車両の旋回半径が小さくなったり、車両がクラブ操舵能力を有するようになる。四輪操舵モードでは、リアホイール操舵の自動コンピュータ制御を使用すると、コーナリング能力が向上する。
【0018】
いくつかの実施形態では、フロントホイールおよびリアホイールが反対方向に操舵され(フロントホイールが時計回りに旋回し、リアホイールが反時計回りに旋回する、もしくはフロントホイールが反時計回りに旋回し、リアホイールが時計回りに旋回する)、モータおよびホイールが動力を与えられて、車両の中心から離れるように、反対方向に回転する場合(たとえば、フロントホイールが前方に回転し、リアホイールが後方に回転する)、相反する前方向と後方向への力が互いに打ち消し合い、その結果として生じる横方向への力によって、車両の向きを同じにしたまま、車両がX軸に沿って側方向に移動する。図3は、フロントホイールとリアホイールが反対方向に回転することによる全方向移動車両の側方向または横方向の動作を示す。
【0019】
いくつかの実施形態では、フロントホイールおよびリアホイールが反対方向に操舵され、モータおよびホイールが動力を与えられて、車両の中心から離れるように、反対方向に回転する場合、車両の回転中心に作用するトルクは互いに打ち消し合い、結果として生じる横方向への力によって、車両は同じ向きを維持しながら、特定の角度で斜めに移動するようにフロントの操舵角度またはリアの操舵角度が調整される。図4は、全方向移動車両の斜めの動作を示す。
【0020】
フロントホイールとリアホイールが同じ方向に操舵され(フロントホイールとリアホイールがすべて時計回りに旋回するか、フロントホイールとリアホイールがすべて反時計回りに旋回する)、モータおよびホイールが、動力を与えられて、車両の中心から離れるように反対方向に回転する場合、片方のフロントホイールと片方のリアホイールが車両の中心に向かって並び、もう一方のフロントホイールとリアホイールが車両の中心から離れる方向を向く。車両の中心に向かって配置されたフロントホイールとリアホイールは、車両の中心まわりのより小さいトルクを生成する一方、車両の中心から離れる方向を向くフロントホイールとリアホイールは、車両中心からの距離が大きいため、車両の中心まわりでより大きなトルクを生成する。これにより、車両がその場回転する(Z軸を中心とした旋回半径ゼロの回転動作)。図5は、全方向移動車両の旋回半径ゼロの回転動作を示す。
【0021】
フロントホイールとリアホイールの回転速さと回転方向、およびフロントホイールとリアホイールの操舵角度と操舵方向の組み合わせを使用することで、車両は全方向移動自動車車両として任意の方向および/または任意の向きに移動および回転することができる。
【0022】
(全方向移動車両の手動制御)
標準的なハンドル、スロットルペダル、およびブレーキペダルに加えて、またはその代わりに、全方向移動車両は、全方向運転インターフェイス(または補助的なユーザインターフェイス)によって制御可能である。いくつかの実施形態では、全方向運転インターフェイスは、車両のユーザまたはドライバから左手動入力(第1のユーザ入力として)および右手動入力(第2のユーザ入力として)を受信する。全方向運転インターフェイスは、左右の手動入力を受信するための二つのジョイスティックを含むジョイパッド(例えば、図1のジョイパッド6)などの物理的なコントローラとして実現され得る。全方向運転インターフェイスは、左右の手動入力またはユーザのジェスチャを受け取るための二つのグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)要素を有するタッチスクリーンデバイス上の仮想コントローラとして実装することもできる。全方向運転インターフェイスは、単一の取り外し可能なユニットであってもよいし、ハンドルまたは車両の他の部分への組み込みアタッチメントであってもよい。本明細書では、「ジョイパッド」という用語は、全方向運転インターフェイスを指す。「右ジョイスティック」および「左ジョイスティック」という用語は、右および左の手動入力をそれぞれ受け取るユーザインターフェイスの部品を指す。図6aおよび6bは、例示的な実施形態と一致する、全方向移動車両を制御するために用いられるジョイパッドを示している。図示のように、ジョイパッド6は、左ジョイスティック28および右ジョイスティック29を有する。ユーザは、前記ジョイパッドを使用して、車両をモード1およびモード2に制御することができる。
【0023】
通常運転、つまりモード1では、ハンドルまたはジョイパッドを使用して車両を操作できる。図6aは、モード1または通常運転操作で全方向移動車両を操作するために使用されるときのジョイパッドを示す。図示のように、モード1の操作では、左ジョイスティック28のみが使用される。左ジョイスティック28を前方に押すことは、モータが前方向への動作状態にある間にスロットルペダルを押すことと同等であり、左ジョイスティックが中心から動く距離はスロットル量と同等である。車両が前進中に左ジョイスティックを下または後ろに押すことは、ブレーキペダルを踏むことと同等である。車両が停止しているときに、左ジョイスティックを下または後方に押すことは、モータが逆方向への動作状態ある間にスロットルペダルを押すことと同等である。
【0024】
図7は、モード1での様々なジョイパッドの入力状態とそれに対応する自動車車両の反応を示す。左ジョイスティック28を左に押すことは、ハンドルを左または反時計回りに回すことと同等である。左ジョイスティック28を右に押すことは、ハンドルを右または時計回りに回すことと同等である。特定の方向への操舵の量は、その特定の方向への左ジョイスティック28の中心位置からの距離によって決定される。左ジョイスティックを左上隅に押すことは、スロットルペダルを押しながら左に操舵するのと同等である。左ジョイスティック28を放してセンタリングすることは、ニュートラル、または該当する場合は回生ブレーキを適用することと同等である。つまり、モード1で操作中におけるジョイパッドによって、通常運転中の自動車のすべての局面を1本の指で制御することができる。
【0025】
図6bは、全方向移動車両をモード2または全方向運転操作で操作するために用いられるときのジョイパッドを示す。全方向運転、またはモード2の場合、一部の実施形態では、標準的なハンドルではなくジョイパッドを使用して車両を操作する。実施形態によっては、ドライバがモード選択制御でモード2を選択すると、車両はジョイパッドのみに応答し、標準のハンドルには応答しない。モード2の操作では、ジョイパッドの左右両方のジョイスティックを使用する。左ジョイスティック28は、車両の向きを決定し、右ジョイスティック29は、左ジョイスティック28によって決定された向きに基づいて、車両の移動の方向および速さを決定する。
【0026】
右ジョイスティック29の可動範囲は、二種類の異なる制御領域に分けられる。右ジョイスティック29が操舵角度30(クラブ操舵角度)内にあるとき、全方向移動車両は、フロントホイールおよびリアホイールが同じ方向に操舵され、同じ方向に回転する(例えば、フロントホイールおよびリアホイールがすべて時計回りに旋回する、およびフロントホイールとリアホイールはすべて前方に回転する)クラブ動作を行う。右ジョイスティック29が操舵角度31(横方向操舵角度)内にあるとき、全方向移動車両は、図3および図4に示されるように、側方向動作または横方向動作を行う。すなわち、フロントホイールとリアホイールは、反対方向に操舵され(例えば、フロントホイールが時計回りに旋回し、リアホイールが反時計回りに旋回する)、反対方向に回転する(例えば、フロントホイールが前方に回転し、リアホイールが後方に回転する)。
【0027】
図8~10は、モード2におけるジョイパッドの様々な入力状態とそれらに対応する自動車車両の反応を示す。
【0028】
図8は、右ジョイスティックを使用して行う四輪操舵を示す。四輪操舵中、車両のフロントホイールとリアホイールは同じ方向に動くように回転する一方、フロントホイールとリアホイールは、ジョイパッド入力に基づき、同じ方向に旋回する(クラブ操舵)ように、または反対方向に旋回する(より狭い旋回半径)ように操舵されてよい。図示のように、右ジョイスティック29を前方に押すと、車両は、右ジョイスティックが中心点から変位した距離に基づいて決定される速さで前進する。右ジョイスティック29を下方または後方に押すと、車両は、右ジョイスティックが中心点から変位した距離に基づいて決定される速さで後退する。クラブ操舵角度30内で右ジョイスティック29を斜めに押すと、車両はクラブ操舵され、斜め前または斜め後ろに移動する。
【0029】
図9は、側方向または横方向の運転に右ジョイスティックを使用することを示している。側方向または横方向への運転中、車両のフロントホイールとリアホイールが反対方向に旋回するよう操舵される間(たとえば、それぞれ時計回りと反時計回り)、車両のフロントホイールとリアホイールは反対方向(それぞれ前方と後方)に回転して動く。図示のように、右ジョイスティック29を左へ押すと、車両は、右ジョイスティックが中心点から変位した距離に基づいて決定される速さで左へ横方向にスライドする。右ジョイスティック29を右に押すと、右ジョイスティックが中心点から変位した距離に基づいて決定される速さで、車両は右へ横方向にスライドする。右ジョイスティック29を斜め方向(側方向操舵角度31内でクラブ操舵角度30の外側)に押すと、車両は同じ斜め方向に移動する。
【0030】
図10は、車両の回転または向きを変更するために左ジョイスティックを使用することを示している。図示のように、左ジョイスティック28を左に押すと、車両は反時計回りにその場回転する。左ジョイスティック28を右に押すと、車両は時計回りにその場回転する。右ジョイスティック29を任意の方向に押しながら左ジョイスティック28を右または左に押すと、車両は回転するだけでなく、右ジョイスティックによって指定された方向にも移動する。二つのジョイスティックを同じ方向に動かすと、リアホイールの方向や向きが変わる。二つのジョイスティックを反対方向に動かすと、フロントホイールの方向や向き変わる。
【0031】
右ジョイスティックを離してセンタリングすると、車両はあらゆる方向(前後左右または斜め方向)への移動を停止する。右ジョイスティック29による車両の移動方向は、車両の現在位置に対するものであり、元の位置に対するものではない。言い換えれば、モード2で操作中のジョイパッドは、車両を全方向移動制御で任意の方向に任意の向きで移動させることができる。
【0032】
(全方向移動車両のコンピュータ制御)
いくつかの実施形態では、全方向移動車両は、自動運転、自動駐車、および向きの制御など、さまざまな操作および操縦のためのコンピュータ制御を含む場合がある。例えば、特定の操縦、特に側方向への縦列駐車は、全方向移動制御ユニット(OCU)によって自動的に実行され、勾配や地形によるドリフトを最小限に抑えることができる。フロントおよび/またはリアの操舵とフロントおよび/またはリアのモータ速さを変化させることによる車両の不要な回転とドリフトを決定して制限するためのメカニズムおよび電子デバイスと同様に、加速度計、ジャイロスコープ、磁力計、GPS受信機、ビデオカメラ、レーダー、ソナー、ライダーを含むがこれらに限定されないさまざまなセンサを追加して車両の性能と安全性を向上させるために、制御方法論を使用することができる。いくつかの実施形態では、標準的な比例、積分、微分(PID)制御を使用して、側方向への移動前に車両の向きを決定して記憶することにより、側方向へ移動する場合の車両の向きを修正する。車両の向きは、磁気コンパスセンサを使用して絶対的に決定することも、または地面に向けたオプティカルフローカメラを使用して相対的に決定することもできる。さらに、車両は90度の垂直方向の動きからドリフトする可能性があり、ドリフトは地面に向けられたオプティカルフローカメラによって相対的に判定でき、偏差はPID制御を使用して修正可能である。いくつかの実施形態では、自動制御ユニット(ACU)は、状況に応じて、モード1、モード2、または二つのモードの組み合わせで車両を操作して、全方向移動車両における自動運転を実施することができる。
【0033】
図11は、全方向移動車両のコンピュータ制御を概念的に示す。図示のように、全方向移動車両34は、全方向移動制御ユニット(OCU)32および自動制御ユニット(ACU)33を備える。OCU32は、車両のステアリングモータおよびモータインバータコンバータの動作を制御する。ACU33は、カメラおよびGPSからの入力を使用して、OCU32の制御を生成する。車両34には、GPS、カメラ、速さセンサ、近接センサ、トルクセンサ、角度センサなどを含む様々なセンサも装備されており、これらセンサのデータがOCU32とACU33に提供される。
【0034】
全方向移動車両の自動運転は、標準的な自動車における自動運転よりも簡単に達成可能である。標準的な自動車の場合、A地点からB地点に移動するとき、ACU33ユニットは、車両の向きを考慮して、フロントホイールの操舵と標準的な自動車のより大きな旋回半径を用いて、車両の最適な経路を計算する必要がある。B地点での向きが重要な場合、B地点に到達する前に、アプローチ軌道、操舵、および最終的な向きを計算するために、ACU33は、より大きな旋回半径の制限を用いなければならない。移動スペースが限られている行き止まりに直面した場合、ACUは、潜在的に小さくて未知の環境で最適な3点方向転換を計算する必要があり、前進、後退、方向転換、停止を何度も繰り返さなければならない。
【0035】
一方、全方向移動車両の場合、同じA地点からB地点への運転は、ACUが、A地点で車両をその場回転させ、B地点まで運転することによって達成可能である。B地点での向きが重要な場合は、ACUはB地点で全方向移動車両をその場回転させることができる。移動スペースが限られている行き止まりに直面した場合、ACUは、全方向移動車両をその場回転させ、反対方向に戻すことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、右ジョイスティック29からの入力をOCU32に送信して、X軸に対する図4に示す角度A3を制御することができる。右ジョイスティックの入力の大きさは、車両の動きの速度に直接関係する。角度A3が与えられると、OCU32は、ジョイパッド入力によって示される方向に、車両をその中心まわりに回転させることなく移動させるために、Y軸に対する角度A2として示される、ハンドルの最適角度を計算する。車両の片側の操舵角度は最大操舵角度A1に固定され、角度A2は、計算され、望ましくない横方向または回転方向の動きを修正するために変更される。左右の操舵角度が同一またはほぼ同一であり、前後の操舵角度が対称またはほぼ対称であり、左右のホイールの速さが同一またはほぼ同一であるとすると、図4に示される三角形の線図は、車両の回転中心の両側に等しいトルクベクトルを生成するA2の最適角度を求めるために使用することができる。角度A2は、以下の表1の手順に従って解くことができる。
【0037】
【表1】
【0038】
図4の前記線図を参照すると、長さd1は、後車軸の中心から長さd4の基部までの距離である。長さd4は、車両の中心線から前後の操舵の操舵角度の交点までの距離である。長さd4は、前記線図に示されている三つの三角形に共通である。長さd3は、車両の回転中心から長さd4までの距離である。長さd2は、前車軸の中心から車両の回転中心までの距離であり、車両について測定できる固定長f2に等しい。固定長f1は、後車軸の中心から車両の回転中心までの距離である。
【0039】
角度A2が決定されると、右ジョイスティック29の前記大きさに対して前記ベクトルの方向を角度A3に一致させるようにフロントホイールおよびリアホイールの速度を決定することができる。フロントホイールは順方向に回転し、リアホイールは逆方向に回転する。結果として得られる前記ベクトルの方向が角度A3のベクトルの方向と一致する場合、車両は、角度A3に対応する方向にその中心まわりに回転せずに移動する。結果として得られる前記ベクトルの方向が角度A3のベクトルの方向と一致しない場合、中心点まわりに小さな正味の回転(向きの変化)が生じ、これにより不要な回転を修正したり、ジョイパッドの左ジョイスティックによって決定される所望の回転を実行したりする。A3が0度または180度の場合、d3は0となり、全方向移動車両は図3に示すように純粋に横方向に移動する。角度A2は、以下の表2の手順に従って計算できる。
【0040】
【表2】
【0041】
A2 = tan-1((f1 * tan(A1)) / f2)は、固定値である。角度A2が計算され、フロントホイールおよびリアホイールの速度が、0または180度である角度A3の前記ベクトルの方向に一致するように決定されると、車両は、図3に示すように、右ジョイスティック29からの入力の大きさに基づいて決定される速さで側方向に移動する。
【0042】
いくつかの実施形態では、モード2で操作中に、左ジョイスティック28が左または右に動かされると、車両は、そのZ軸または車両の回転中心まわりに回転または向きを変えることができる。左ジョイスティック28の横入力の大きさは、車両の回転数に直接関係する。左ジョイスティック28への非ゼロ入力は、フロントホイールおよびリアホイールを左方向に最大に操舵する。左ジョイスティック28の大きさによって決定される回転速さで、フロントホイールは順方向に回転し、リアホイールは逆方向に回転する。
【0043】
左右の操舵角度が同一またはほぼ同一で、前後の操舵角度が同一またはほぼ同一であり、左右のホイールの速さが同一またはほぼ同一であると仮定すると、図5に示される二つの三角形の線図に基づいて、車両の回転中心まわりの等しいトルクが計算される。図5によれば、f1とf2が測定可能な固定距離であり、A1とA2が等しく設定されているので、距離d1とd2およびそれに対応するフロントホイールとリアホイールの速度を求めることができる。d1/f1=d2/f2であるため、d1とd2の関係は既知であり、それに応じて前記速度をスケーリングできる。車両の中心まわりに作用する等しいトルクにより、車両が、左ジョイスティックの入力の大きさによって決定される回転数で、図5に示すように、旋回半径ゼロでその場回転する。
【0044】
その場回転する場合(図5)、車両の旋回半径はゼロになる。側方向に移動する場合(図3)、車両の旋回半径は無限大である。旋回半径ゼロと旋回半径無限大との間における車両の配置の違いは、ただ1組のホイールの操舵角度である。いくつかの実施形態では、ジョイパッドの左右のジョイスティックの入力の大きさが両方とも非ゼロである場合、ミキシングシステムを使用することにより、結果として得られる操舵方向が決定される。ステアリングの方向を決定するミキシングシステムは、ジョイパッドの左右のジョイスティックの方向に基づいている。方向や向きを変えたホイールの操舵角度は、OCU32によって決定される。
【0045】
図12は、全方向移動車両を制御する際の左右のジョイスティックからの混合入力を示す。図に示すように、Afは、-max(反時計回りの最大回転を指す)から+max(時計回りの最大回転を指す)の範囲のフロントホイールの操舵角度である。Arは、同じ範囲の値を持つリアホイールの操舵角度である。その上、mLは、左ジョイスティック入力のX軸成分の大きさであって、左端は-100、右端は+100、中央は0であり、mRは、同じ範囲の値を持つ右ジョイスティック29のX軸成分の大きさである。さらに、以下の関係式が成り立つ。
【0046】
mL<0かつmR<0である場合、
Ar=max*(|mR|-|mL|)/100,Af=-max
mL>0かつmR>0である場合、
Ar=max*(|mL|-|mR|)/100,Af=max
mL<0かつmR>0である場合、
Af=max*(|mR|-|mL|)/100,Ar=-max
mL>0かつmR<0である場合、
Af=max*(|mL|-|mR|)/100,Ar=max
【0047】
右ジョイスティック29の入力のY軸成分が非ゼロの場合、ミキシングシステムは、OCU32によって決定されるようにホイールの速さを上げる。具体的には、mVは、右ジョイスティック入力のY軸成分の大きさであって、下端は-100、上端は+100、中央は0である。mV>0の場合、フロントホイールの速さは|mV|/100*倍率に正比例して増加する。mV<0の場合、リアホイールの速さは|mV|/100*倍率に正比例して増加する。倍率は、モード2の操作で使用可能な最大のホイール速さまで増加することを制限し、車両固有の形状とユーザの好みに合わせて調整するために用いられる。図13は、ミキシングシステムによって制御される全方向移動車両の例を示す。図示の例では、右ジョイスティック入力は右端(+100)であり、左ジョイスティック入力は左端(-100)である。
【0048】
いくつかの実施形態では、全方向移動車両は、自動側方向運転および側方向への縦列駐車を行う。具体的には、全方向移動車両にはさまざまなセンサ(例えば、磁気コンパス、ジャイロ、加速度計、GPS、オプティカルフローカメラ、近接センサ)が装備され、車両の向き(または回転)を決定し、傾斜や地形による望ましくない横方向または回転方向の移動を修正する。
【0049】
自動側方向運転を行うために、ドライバが操作を実行するために選択する制御入力またはモード選択が提供される。OCU32は、移動前および移動中に近接センサをチェックして、操作を安全に実行できるかどうかを判断する。近接センサをチェックして、車両が2台の車の間の最適な位置にあるかどうかを確認できる。操作を安全に実行でき、かつ車両が最適な位置にある場合、OCUは磁気コンパスを数回読み取って、車両が静止しており、センサが安定していることを確認する。次に、OCU32は、方位設定点として磁気コンパスの読みを記憶する。
【0050】
車両が側方向に移動している場合(例えば図3)、磁気コンパス、ジャイロ、加速度計、GPS、オプティカルフローカメラ、近接センサを使用して、車両の相対位置と絶対位置、および車両の向きを特定することができる。センサデータを使用してエラー信号を作成でき、OCUがこのエラー信号を用いて、標準的な比例、積分、微分(PID)制御を使用して、望ましくない横方向および回転方向の動きを修正できる。この実施形態では、回転のP成分(比例)誤差は、設定点の磁気コンパスの読みから現在の磁気コンパスの読みを差し引いたものである。回転のI成分(積分)誤差は、回転の前記P成分誤差の積分であり、これは、前回の回転のI成分誤差に、時定数を乗じた今回の回転の前記P成分誤差を加算したものの累計になる。回転のD成分(微分)誤差は、1秒あたりの角度で変換されたジャイロの読み取り値のZ値である。前記P成分、前記I成分、および前記D成分は、それらの調整係数によって各々スケーリングされ、合計されて、回転信号の総誤差が作成される。OCUは、前記回転信号の総誤差を使用して、特定のホイールの修正操舵角度と、特定のホイールの修正ホイール回転速さを計算する。図14は、自動側方向駐車中の望ましくない時計回りの回転の修正を示している。図示の例では、OCU32はフロントホイールの操舵角度を小さくし、リアホイールの速さを大きくする。これにより、正味の側方向ベクトルだけでなく正味の反時計回りの回転も生成され、望ましくない時計回りの回転に対抗する。
【0051】
いくつかの実施形態では、横方向誤差のP成分はY軸方向のオプティカルフローカメラの読み取り値であるが、これは車両がX方向から離れるように移動したことを示す。横方向誤差のI成分は横方向誤差のP成分の積分であり、これは、前回のI横方向誤差に、時定数を乗じた今回のP横方向誤差を加算したものの累計である。横方向誤差のD成分は、Y軸方向の加速度センサの読み取り値である。前記P成分、前記I成分、および前記D成分はそれらの調整係数によって各々スケーリングされ、合計されて、総横方向誤差信号が作成される。図15は、自動側方向駐車中の望ましくない横方向への動きの修正を示している。この例では、OCU32は、エラー信号のベクトルに対して横方向に反対の最適ベクトルを計算する。近接センサとカメラを使用して、自動側方向駐車の停止位置を特定することで、操作を完了することができる。
【0052】
図16は、例示的な実施形態と一致する、全方向移動車両を制御するための工程1600を概念的に示す。全方向移動車両は、工程1600を実行するとも言える。いくつかの実施形態では、全方向移動車両(例えば、全方向移動車両34)の制御システムを実装する演算装置の一つ以上の処理ユニット(例えば、プロセッサ)は、コンピュータ可読媒体に格納された命令を実行することによって工程1600を実行する。前記制御システムは、前記全方向移動制御ユニット(例えば、OCU32)および前記自動制御ユニット(例えば、ACU33)を含み得る。車両には二つのフロントホイールと二つのリアホイールがあり、それぞれが45度未満の最大操舵角度に制限されている。二つのフロントホイールが一緒に操舵され、二つのリアホイールが一緒に操舵される。いくつかの実施形態では、工程1600は、ジョイパッドからの入力変更を処理するために定期的に再起動される。いくつかの実施形態では、工程1600は、ジョイパッドが何らかの入力変更を受信するたびに開始される(例えば、ユーザまたはドライバが、右ジョイスティックおよび/または左ジョイスティックを動かしたりジェスチャをしたりして、異なる位置または角度に移動させる)。
【0053】
車両は、(ブロック1610で)通常運転を行うか全方向運転を行うかを決定する。いくつかの実施形態では、車両は、ドライバまたはユーザがジョイパッドでモード1(通常運転)またはモード2(全方向運転)を選択したかに基づいて、通常運転または全方向運転を行うかどうかを決定する。モード1またはモード2が選択されているかどうかに基づいて、かつジョイパッドの左右のジョイスティックからの入力に基づいて、前記制御システムは、フロントホイール/リアホイールの操舵と回転方向のさまざまな組み合わせに対応するさまざまな操舵構成を示すことができる。通常運転が選択された場合、工程は1615に進む。全方向運転が選択された場合、工程は1620に進む。
【0054】
ブロック1615で、車両は通常運転を行う。すなわち、フロントホイールとリアホイールを同じ方向に動かし、フロントホイールだけを操舵する(上記の図2を参照して説明したように)。いくつかの実施形態では、車両は、リアホイールを操舵して、旋回半径をより小さくすることもできる。
【0055】
ブロック1620で、前記制御システムは、車両が並進移動するかどうか、すなわち、モード2の下で車両の中心を移動するように車両を移動させるかどうかを決定する。いくつかの実施形態では、モード2の下で、ユーザがジョイパッドを使用して右ジョイスティックを中心の中立位置から離すように押すと、車両は並進移動する。車両が並進移動している場合、工程は1640に進む。車両が並進移動していない場合は、工程は1630に進む。
【0056】
前記制御システムは、(ブロック1630で)車両がその場回転するか、すなわちゼロ半径旋回を実行するかを決定する。車両がその場回転する場合、工程は1634に進む。車両がその場回転していない場合、車両は(1632で)停止する、すなわち、例えばブレーキまたは他の停止機構を適用することによって並進移動も回転移動もしない。
【0057】
ブロック1634で、車両はゼロ半径旋回またはその場回転を実行する。具体的には、リアホイールはフロントホイールと同じ方向に旋回するように操舵され、フロントホイールとリアホイールは反対方向に動くように駆動される(上記の図5を参照して説明したように)。いくつかの実施形態では、車両が時計回りにその場回転するか反時計回りにその場回転するかは、ユーザのジョイパッド(例えば、左ジョイスティック)を用いた入力によって決定される。
【0058】
ブロック1640で、前記制御システムは、車両がクラブ操舵または横方向操舵(側方向操舵)を実行するかどうかを決定する。いくつかの実施形態では、上記の図6bを参照して説明したように、車両は、ユーザがクラブ操舵範囲内(例えば、最大操舵角度内)の操舵角度を示す場合、クラブ操舵を実行し、ユーザが右ジョイスティックを使用して、横方向操舵範囲内(最大操舵角度を超える)にある操舵角度を示す場合、横方向操舵を実行する。車両がクラブ操舵を実行する場合、工程は1644に進む。車両が側方向または横方向の操舵を実行する場合、工程は1642に進む。
【0059】
ブロック1642で、横方向操舵を実行する(すなわち、向きを変えずに左または右に移動する)ため、車両はフロントホイールおよびリアホイールを反対方向に回転するように駆動し、フロントホイールおよびリアホイールを反対方向に旋回させるように操舵する(例えば、フロントホイールが前方に回転し、リアホイールが後方に回転する)。横方向への操舵は、上記の図3および4を参照して説明される。そして、工程は1650に進む。
【0060】
ブロック1644で、上記の図8を参照して説明したように、クラブ操舵を実行するため、車両はフロントホイールとリアホイールを同じ方向に回転するように駆動し(例えば、フロントホイールとリアホイールの両方が前方に回転する)、フロントホイールとリアホイールを同じ方向に旋回するように操舵する。そして、工程は1650に進む。
【0061】
ブロック1650で、前記制御システムは、回転動作を並進動作と混合するかどうか、すなわち横方向操舵またはクラブ操舵を実行している間に、車両を回転させるか向きを変えるかどうかを決定する。車両が並進移動中に向きを変える場合、工程は1654に進む。車両が回転せずに並進移動する場合、工程は1652に進み、追加の回転動作を加えずに並進動作(例えば、クラブ操舵または横方向操舵)を継続する。
【0062】
ブロック1654で、前記制御システムは、フロントホイールおよびリアホイールの操舵方向を決定することにより、並進動作を回転動作と混合する。いくつかの実施形態では、前記制御システムは、ジョイパッドの左右のジョイスティックの方向に基づいて操舵方向を決定するミキシングシステムを備えている。並進動作と回転動作の混合は、上記の図12を参照して説明される。
【0063】
全方向移動車両の上記の説明は、二つのフロントホイールと二つのリアホイールを備えた車両に基づいているが、全方向移動車両は任意の数(≧1)のフロントホイールと任意の数(≧1)のリアホイールを備えていてよい。本開示の様々な実施形態の説明が上記の通り適用される。
【0064】
本開示の様々な実施形態の説明は、例示を目的として提示されたものであり、網羅的であること、または開示された実施形態に限定されることを意図していない。当業者には、多くの修正および変形が、記載の実施形態の範囲および精神から逸脱しない範囲で、明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理や、市場で見られる技術に対する実際の適用、または技術的改善を最もよく説明するために、または他の当業者が本明細書で開示される実施形態を理解できるようにするために選択されたものである
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2022-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図10
【補正方法】変更
【補正の内容】
図10
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図12
【補正方法】変更
【補正の内容】
図12
【国際調査報告】