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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-14
(54)【発明の名称】TREM2キメラ受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230707BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230707BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230707BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230707BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230707BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230707BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230707BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20230707BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20230707BHJP
   C12N 5/0787 20100101ALI20230707BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230707BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20230707BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K14/705 ZNA
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N5/0786
C12N5/0784
C12N5/0787
A61K35/17
A61K35/15
A61P25/00
A61P1/16
A61P21/00
A61P25/28
A61P9/10
A61P25/14
A61P25/16
A61P19/08
A61P25/24
A61P25/18
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P9/10 101
A61P13/12
A61P11/00
A61P1/04
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576197
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(85)【翻訳文提出日】2023-02-09
(86)【国際出願番号】 GB2021051464
(87)【国際公開番号】W WO2021250428
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2008855.5
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2017263.1
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522164226
【氏名又は名称】クウェル セラピューティックス リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】513200313
【氏名又は名称】キングス・カレッジ・ロンドン
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス‐ローデラ、マーク
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス‐フエヨ、アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ボルンシャイン、ジーモン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA12
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA18
4C087ZA36
4C087ZA45
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB21
4C087ZC54
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、TREM2リガンドに結合するキメラ受容体(たとえば、単鎖CARおよび多鎖CARの両方を含むCAR)、および治療法におけるその使用に関する。特に、本発明は、(a)TREM2のリガンド結合ドメインまたはその機能的変異体を含むエキソドメインであって、場合によっては前記エキソドメインはシェダーゼによる切断に対して耐性がある、エキソドメイン、(b)膜貫通ドメイン、および(c)細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインと、を含むキメラ受容体を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)TREM2のリガンド結合ドメインまたはその機能的変異体を含むエキソドメイン、
(b)膜貫通ドメイン、および
(c)細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメイン、を含むキメラ受容体。
【請求項2】
前記エキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性がある、請求項1に記載のキメラ受容体。
【請求項3】
前記キメラ受容体は、(a)~(c)を単鎖ポリペプチド鎖に含む、請求項1または2に記載のキメラ受容体。
【請求項4】
前記キメラ受容体は、2つ以上のポリペプチド鎖を含み、前記ポリペプチド鎖の少なくとも1つが2つ以上のタンパク質に由来する連結ドメインを含み、場合によっては、前記エキソドメインおよび前記エンドドメインが異なるポリペプチド鎖に存在する、請求項1、2、または3に記載のキメラ受容体。
【請求項5】
前記シェダーゼは、ADAM(ディスインテグリンメタロプロテアーゼ)タンパク質ファミリーのメンバーであるか、またはメプリンβなどメタロプロテアーゼのメンバーである、請求項2~4のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項6】
前記シェダーゼは、ADAM10および/またはADAM17である、請求項2~5のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項7】
前記エキソドメインは、
(i)配列番号3に示すアミノ酸配列の機能的変異体、または
(ii)配列番号4に示すアミノ酸配列の機能的変異体を含み、
ここで、配列番号4の78位と同等である部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンである、請求項1~6のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項8】
前記エキソドメインは、配列番号5もしくは6に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体を含むか、または配列番号5もしくは6に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体からなり、
ここで、配列番号6の78位と同等である部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンである、請求項1~7のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項9】
前記エキソドメインは、
(i)配列番号7もしくは8に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体を含むか、または配列番号7もしくは8に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体からなり、
ここで、
(a)配列番号8の78位と同等である部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンであり、
(b)配列番号7または8の139~140位と同等である部位のアミノ酸が、
(1)それぞれ、ヒスチジンおよび/もしくはセリンではなく、ならびに/または、
(2)前記エキソドメインに前記シェダーゼによる切断に対する耐性を持たせるために改変されており、場合によっては、
(c)配列番号7または8の118~119位と同等である部位のアミノ酸が、
(1)それぞれ、アルギニンおよび/もしくはアスパラギン酸ではなく、ならびに/または
(2)前記エキソドメインにシェダーゼによる切断に対する耐性を持たせるために改変されている、
請求項1~7のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項10】
前記キメラ受容体は、前記TREM2のリガンド結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間にヒンジドメインを含む、請求項1~9のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項11】
前記ヒンジドメインは、ヒトのCD8α、CD4、CD28、CD7もしくはTREM2のヒンジ領域またはストークであるか、またはヒトのCD8α、CD4、CD28、CD7もしくはTREM2のヒンジ領域またはストークに由来する、請求項10に記載のキメラ受容体。
【請求項12】
前記キメラ受容体は、前記TREM2のリガンド結合ドメインの上流にシグナル配列を含む、請求項1~11のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項13】
前記シグナル配列は、CD8αシグナル配列である、請求項12に記載のキメラ受容体。
【請求項14】
前記キメラ受容体は、1つ以上の共刺激シグナリングドメインを含む、請求項1~13のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項15】
前記1つ以上の共刺激シグナリングドメインは、CD27、CD28、4-IBB(CD137)、OX40(CD134)、CD30、CD40、ICOS(CD278)、LFA-1、CD2、CD7、LIGHT、NKD2C、B7-H2、および、特異的にCD83に結合するリガンドから選択されるタンパク質に由来する、請求項14に記載のキメラ受容体。
【請求項16】
前記膜貫通ドメインは、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、M-CSF受容体、CSF-1R、Kit、TIE3、ITAM含有タンパク質、DAP12、DAP10、Fc受容体、FcR-ガンマ、FcR-イプシロン、FcR-ベータ、TCR-ゼータ、CD3-ガンマ、CD3-デルタ、CD3-イプシロン、CD3-ゼータ、CD3-イータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、TNF-アルファ、NF-カッパB、TLR(Toll様受容体)、TLR5、Myd88、リンパ球受容体鎖、IL-2受容体、IgE、IgG、CD16α、FcγRIII、FcγRII、CD28、4-1BB、CD4、CD8、たとえばCD8α、NKG2D(CD314)、およびTREM2から選択されるタンパク質に由来する、請求項1~15のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項17】
前記細胞内シグナリングドメインは、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、M-CSF受容体、CSF-1R、Kit、TIE3、ITAM含有タンパク質、DAP12、DAP10、Fc受容体、FcR-ガンマ、FcR-イプシロン、FcR-ベータ、TCR-ゼータ、CD3-ガンマ、CD3-デルタ、CD3-イプシロン、CD3-ゼータ、CD3-イータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、TNF-アルファ、NF-カッパB、TLR(Toll様受容体)、TLR5、Myd88、TOR/CD3複合体、リンパ球受容体鎖、IL-2受容体、IgE、IgG、CD16α、FcγRIII、FcγCD28、4-1BB、およびそれらのなんらかの組み合わせから選択されるタンパク質に由来する、請求項1~16のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項18】
前記キメラ受容体は、CD8α由来のシグナルペプチド;CD28由来のヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン;、およびCD3ζ細胞内シグナリングドメインを含む、請求項1~17のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項19】
前記キメラ受容体は、配列番号32、33もしくは40~56のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%(たとえば少なくとも95%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~18のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかに記載のキメラ受容体をコードする1または複数の核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載の1または複数の核酸分子を含むベクターであって、場合によっては、配列番号32、33もしくは40~56のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を有するキメラ受容体をコードする、ベクター。
【請求項22】
請求項20に記載の1または複数の核酸分子、または請求項21に記載のベクターを含み、および/または、請求項1~19のいずれかに記載のキメラ受容体を発現する、細胞、好ましくは免疫細胞。
【請求項23】
前記細胞は、NK細胞、樹状細胞、NKT細胞、MDSC、好中球、マクロファージ、またはT細胞であり、T細胞は、細胞障害性Tリンパ球(CTL)、ヘルパーT細胞もしくはTreg細胞などである、請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
請求項22または23の細胞を含む細胞集団。
【請求項25】
請求項22もしくは23に記載の細胞、または請求項24に記載の細胞集団を含む医薬組成物。
【請求項26】
治療法における使用のための、先行する請求項のいずれかに記載の細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【請求項27】
先行する請求項のいずれかに記載の細胞、細胞集団、または医薬組成物であって、それを必要とする個体における、神経性の疾患、障害もしくは損傷、または肝臓の疾患の予防、リスク低減または治療に使用するための、細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【請求項28】
前記神経性疾患、障害または損傷は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、混合型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、ハンチントン病、タウオパチー病、那須・ハコラ病、中枢神経系ループス、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(シャイ・ドレーガー症候群)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核神経節変性症、急性散在性脳脊髄炎、発作、脊髄損傷、外傷性脳損傷(たとえば虚血性脳損傷および外傷性脳損傷)、うつ病、自閉症スペクトラム障害、および多発性硬化症から選択される、請求項27に記載の使用のための細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【請求項29】
前記神経性疾患は筋萎縮性側索硬化症(ALS)であり、前記細胞は制御性T細胞(Treg)であり、前記細胞集団は制御性T細胞(Treg)集団である、請求項27に記載の使用のための細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【請求項30】
前記肝疾患は、肝蛭症、肝炎(たとえばウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、または自己免疫性肝炎)、アルコール性肝疾患、脂肪性肝疾患(脂肪肝、および/または脂肪性肝炎)、ヘモクロマトーシス、ジルベール症候群、硬変、原発性胆汁性硬変、および原発性硬化性胆管炎から選択される、請求項27に記載の使用のための細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【請求項31】
先行する請求項のいずれかに記載の細胞、細胞集団、または医薬組成物であって、それを必要とする個体における、線維症もしくはアテローム性動脈硬化の予防、リスク低減、または治療に使用するための細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【請求項32】
前記線維症は、腎臓、肺、肝臓、脳、腸、心臓、またはそれらの組み合わせの線維症である、請求項31に記載の使用のための細胞、細胞集団、または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、キメラ受容体の分野、TREM2生物学、および神経損傷、神経炎症、または神経変性を特徴とする神経障害の治療などの関連療法に関連する。特に、前記発明は、TREM2リガンド(たとえばApoE、Aβオリゴマーなど)に結合し免疫細胞(たとえばTreg)で発現するキメラ抗原受容体(CAR)(単鎖CARおよび多鎖CARの両方)を提供する。かかる免疫細胞は、TREM2発現細胞および/または可溶性TREM2の蓄積に関連する疾患や病状の治療に有用であり、または、TREM2リガンドが存在し、および/または発現する疾患や病状の治療に有用である。前記発明はさらに、たとえば免疫細胞などの宿主細胞を改変してCARを発現させるために使用されうる、かかるCARをコードする核酸分子と、前記核酸分子を含むベクターとを提供する。
【背景技術】
【0002】
炎症とは、損傷や感染に対する身体の生物学的な応答であり、細胞の損傷の初期原因を解消して修復させるように機能する。しかしながら、慢性炎症をひきおこす免疫応答は、組織を損傷させ、最終的に破壊することもありうる。慢性炎症は、不適切な免疫応答の結果である場合が多い。
【0003】
神経系の炎症(「神経炎症」)は、特に長期間持続する場合には、とりわけ有害でありうる。炎症は、それ自体は病因とはならないが、末梢神経系の発病(たとえば神経障害性疼痛や線維筋痛など)と中枢神経系の発病(たとえば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症や、その他の脱髄性疾患、虚血性脳損傷、外傷性脳損傷、うつ病、自閉症スペクトラム障害など)との両方にわたって、発病の一因となりうる。神経系と免疫系との間のコミュニケーションは、神経炎症における重要な要因であろう。
【0004】
ミクログリアは、生後発達期に細胞死と神経発生とを制御しシナプス刈り込みに寄与することによって、神経系の恒常性の維持に決定的な役割を果たす、マクロファージのような骨髄細胞である。ミクログリアの主要な特性は、環境の変化に基づいてその活性状態を変化させる能力である。したがって、神経の損傷や神経変性/神経炎症疾患では、ミクログリアが活性化し、細胞デブリの食作用や神経栄養媒介物質の分泌などの保護作用を発揮する。しかしながら、場合によっては、ミクログリアは毒性の分子を生成し、サイトカイン/ケモカインを放出し、抗原をT細胞に提示し、前記損傷したニューロンを貪食することにより、神経組織の損傷を増幅することがある。世界人口中の神経炎症障害および神経変性障害の患者の割合が増加していることを考えると、これら疾患を治療する手段としてミクログリア活性および可塑性を調節する新たな療法が至急必要とされている。
【0005】
TREM2は、ミクログリア(およびその他の骨髄細胞サブセット)上に発現するIgスーパーファミリーのタイプ1膜貫通タンパク質メンバーであり、神経およびグリアの損傷中に放出されるアニオン性脂質およびDNAと結合し、アミロイドベータオリゴマー(Aβ)などのその他の分子とも結合する。TREM2はDAP12と複合体を形成し、DAP12は、TREM2へのリガンド結合の際に、ITAMモチーフを介してシグナルを細胞質へ伝達する。TREM2がミクログリア代謝を支援し、細胞の移動、サイトカイン放出、食作用、増殖および生存を促進すると報告されている一方、特定の疾患の病状におけるTREM2の役割は複雑である。特に、TREM2/DAP12媒介ミクログリア活性化が一部の疾患に有害である一方、別の病状にとっては有益であると報告されており、炎症誘発性分子または抗炎症性分子としてのTREM2の役割は不明である。したがって、一部のグループから提案されているTREM2/DAP12自体を標的とすることに基づく療法は、特別な病状を治療する特定のアプローチを代表するにすぎない。したがって、神経炎症や神経変性の幅広い病状に対処するために、ミクログリア活性化状態を調節し損傷した神経組織を保護する、上記療法にとってかわる療法が求められている。
【0006】
CD4+Foxp3+制御性T細胞(Treg)は、様々なエフェクター免疫細胞サブセットの機能を阻害することによって優勢な免疫寛容を維持するために必須であるリンパ球サブセットであり、マクロファージや樹状細胞などの骨髄細胞を含む。その上、Tregは組織修復および再生を促進することも知られている。Tregは、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、ならびに虚血性脳損傷および外傷性脳損傷などの神経炎症障害の制御に関与することが知られている。免疫病理を改善し炎症性疾患における寛容を復旧することが期待でき、このことがTregに基づく免疫療法の臨床展開についての関心を喚起してきた。Treg免疫療法が成功するためには、組織損傷部位へのTregのトラフィッキングを促進してインサイチュでの活性化を誘導する方法を開発することが非常に重要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、TREM2経路に関連した(すなわち、可溶性TREM2またはTREM2発現細胞の蓄積に関連した)神経変性およびその他の病状を治療するための包括的な療法が、TREM2自体の細胞外ドメインを含むキメラ抗原受容体を免疫細胞サブセットに配することによって開発されうると考えてきた。当該技術分野で提案されてきた、他の直接的TREM2ターゲティングアプローチとは異なり、TREM2の細胞外ドメインを利用する本発明者らのアプローチは、TREM2が発現した分子または細胞を直接的には標的にしないことにより、特定の病状におけるTREM2の役割が不明であるという問題を解消している。特に、本発発明者らは、シェダーゼ酵素による前記ドメインの切断を防止するために、TREM2の改変された細胞外ドメインを使用することによって機能的CARを作成してもよいことを発見した。とりわけ、いったん活性化すると免疫応答を低減して骨髄細胞およびその他の免疫細胞サブセットの活性化状態を調節するという、良く知られているTregのバイスタンダー効果(bystander effect)とその能力を鑑みると、TREM2が疾患の部位に局所的に発現する場合、Tregの表面上におけるかかるCARの発現が、炎症に関連した病状の治療のために使用できる包括的な療法を提供するかもしれない。
【0008】
それゆえ、一態様において、本発明は、
(a)TREM2のリガンド結合ドメインまたはその機能的変異体を含むエキソドメインと、
(b)膜貫通ドメインと、
(c)細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインと、を含むキメラ受容体を提供する。
【0009】
特定の態様において、本発明は、
(a)TREM2のリガンド結合ドメインまたはその機能的変異体を含むエキソドメインであって、前記エキソドメインはシェダーゼによる切断に対して耐性がある、エキソドメインと、
(b)膜貫通ドメインと、
(c)細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインと、を含むキメラ受容体を提供する。さらに別の態様では、本発明は、本発明のキメラ受容体をコードする核酸分子を提供する。
【0010】
他の態様では、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0011】
本発明はまた、本発明のキメラ受容体を発現する細胞(たとえば免疫細胞)、および/または本発明のキメラ受容体をコードする核酸分子を含む細胞(たとえば免疫細胞)を提供する。前記細胞は細胞集団において提供されてもよく、前記細胞集団は本発明のさらなる態様を形成する。
【0012】
他の態様では、本発明は、本発明の細胞または細胞集団を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明はさらに、本発明の核酸またはベクターを細胞に導入することを含む、本発明の細胞を製造する方法を提供する。
【0014】
本発明はさらに、本発明に係る細胞、細胞集団、または医薬組成物を対象に投与する工程を含む、前記対象における疾患または病状(たとえば神経性疾患または神経性の病状)を治療および/または予防する方法を提供する。
【0015】
別の観点から、本発明は、治療法(たとえば神経性疾患または神経性の病状の治療および/または予防)における使用のための、本発明に係る細胞、細胞集団、または医薬組成物を提供する。
【0016】
詳細な説明
「キメラ受容体」という用語は、2つ以上のタンパク質に由来する連結ドメイン(Linked domain)を含む受容体タンパク質のことをいい、たとえば、第一のタンパク質由来のエキソドメインと第二のタンパク質由来のエンドドメインとを含む受容体タンパク質のことをいう。典型的には、前記ドメインの少なくとも1つが受容体タンパク質に由来する。したがって、キメラ受容体は、「操作された受容体」とみなしてもよく、これらの用語は本明細書において同義に使用される。
【0017】
キメラ受容体は、単一のポリペプチド鎖(1つの連続鎖)上に連結ドメインを含んでもよく、または2つ以上のポリペプチド鎖を含んでもよく(多鎖キメラ受容体)、前記ポリペプチド鎖の少なくとも1つは、2つ以上のタンパク質由来の連結ドメインを含む。よって、多鎖受容体である本発明のキメラ受容体は、第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖とを含んでもよい。したがって、キメラ受容体は、共発現した時に互いに関連し合う少なくとも2つのポリペプチド鎖を含んでもよく、特にそれらの膜貫通ドメインを介して関連し合う、および/またはその代わりとなる二量体化部位を介して関連し合う、少なくとも2つのポリペプチド鎖を、含んでもよい。典型的には、多鎖キメラ受容体内の各ポリペプチド鎖は、2つ以上の連結ドメインを含み、たとえば第一のポリペプチド鎖が細胞外ドメインと膜貫通ドメインとを含んでもよく、かつ第二のポリペプチドが膜貫通ドメインとエンドドメインとを含んでもよく、または第一のポリペプチドが細胞外ドメインと膜貫通ドメインとエンドドメインとを含んでもよく、第二のポリペプチドが膜貫通ドメインとエンドドメインとを含んでもよい。しかしながら、ポリペプチド鎖のうちの1つが、単一のドメインを含むのみであることも可能であり、典型的にはエンドドメインを含みのみであることも可能である。したがって、本発明のキメラ受容体が、2つ以上の特定のドメインを、同じポリペプチド鎖の中に含んでもよく、または異なるポリペプチド鎖の中に含んでもよいことは、理解されるであろう。たとえば、前記キメラ受容体が多鎖キメラ受容体である場合、前記キメラ受容体は2つの膜貫通ドメインおよび/または2つのエンドドメインを含んでもよく、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0018】
「キメラ抗原受容体」、「CAR」または「CARコンストラクト」は、抗原特異性を細胞(たとえばTregなどの免疫細胞)に付与できる操作された受容体のことである。上述したように、CARは、単一のポリペプチド鎖を含んでもよく、または2つ以上のポリペプチド鎖(たとえば第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖と)を含んでもよい。具体的には、CARは、細胞が特定の抗原、たとえば標的タンパク質など標的分子に、特異的に結合することを可能にし、その際に前記CARのエンドドメイン(細胞内シグナリングドメインを含む)によってシグナル、たとえば前記細胞の活性化を起こすシグナルが生成される。CARはまた、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体として知られている。したがって、本発明のキメラ受容体は、ApoEなどのTREM2リガンドに特異的に結合する能力を、前記受容体を発現する細胞(たとえばTreg)に付与すよう機能するので、CARとしてみなされてもよい。
【0019】
CARの構造は当該技術分野において周知であり、いくつかの世代のCARが作成されている。たとえば、最小のものとして、CARは、前記CARのエキソドメインの一部であるかまたはそれを形成する(細胞外ドメインまたはエクトドメインとして知られる)細胞外抗原特異的ターゲティング領域、抗原結合ドメインまたはリガンド結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナリングドメイン(エンドドメインであるか、またはエンドドメイン内に含まれる)とを含んでもよい。しかしながら、前記CARはその機能性を改善するためにさらなるドメインを含んでもよく、たとえば、T細胞の増殖、サイトカイン分泌、アポトーシスに対する耐性、および生体内での(in vivo)持続性を改善するために1つ以上の共刺激ドメインを含んでもよい。上述したように、CARは2つ以上のポリペプチド鎖を含んでもよく、そのため前記ドメインは、同じポリペプチド内または異なるポリペプチド内に生じてもよく、典型的には互いに関連付けられた異なるポリペプチド内に生じてもよい。したがって、一実施形態において、CARは2つのポリペプチドを含み、前記第一のポリペプチドが細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、場合によってはエンドドメインとを含み、前記第二のポリペプチドがエンドドメインと、場合によってはさらに膜貫通ドメインとを含みうる。特に、多鎖CAR中の少なくとも1つのエンドドメインは、細胞内シグナリングドメインを含むだろう。
【0020】
したがって、CARコンストラクトは、一般的に、抗原またはリガンド結合ドメインと、場合によってはCARが発現する細胞(たとえば免疫細胞)のプラズマメンブレンから前記抗原またはリガンド結合ドメインを遠ざけるように伸長させるためのスペーサーとして機能するヒンジドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナリングドメイン(たとえば、TcR複合体のCD3分子のゼータ鎖(CD3ζ)由来のシグナリングドメイン、またはその同等物)と、場合によっては前記CARを発現する細胞のシグナリングまたは機能を補佐してもよい1つ以上の共刺激ドメインと、を含む。CARはまた、前記タンパク質に前記膜を標的とさせる機能を有し、前記CARのエキソドメインの一部を形成しうるシグナルもしくはリーダーの配列またはドメインを含みうる。異なるドメイン同士は、直接連結され(linked)てもよく、リンカーによって連結されてもよく、および/または異なるポリペプチド、たとえば、互いに関連する2つのポリペプチドに生じてもよい。下記に詳細に述べられるように、これら異なるドメインとリンカーとには、様々な選択肢がある。
【0021】
本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、TREM2のリガンド結合ドメインもしくはその機能的変異体を含む抗原またはリガンド結合ドメインを含む。前記エキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0022】
TREM2のヒトアイソフォーム1(配列番号1)は、エキソドメイン(配列番号1の1~174位のアミノ酸)、膜貫通ドメイン(配列番号1の175~195位のアミノ酸)、およびエンドドメイン(配列番号1の196~230位のアミノ酸)を含む。TREM2のエキソドメイン(配列番号2)は、少なくとも次の3つのドメインを含む:シグナル配列またはリーダー配列(配列番号2の1~18位のアミノ酸);リガンド結合ドメイン(配列番号2の19~130位のアミノ酸);およびストーク領域(stalk region)(配列番号2の131~174位のアミノ酸)を含む。前記リガンド結合ドメインおよび前記ストーク領域は、配列番号3(配列番号2の19~174位のアミノ酸)に示されるような配列を有する。前記エキソドメインのリガンド結合ドメインは、3つの相補性決定領域(CDR1:配列番号1の38~47位のアミノ酸、CDR2:配列番号1の65~75位のアミノ酸、およびCDR3:配列番号1の88~91位のアミノ酸)を含む。前記TREM2のエキソドメインはまた、ジペプチドシェダーゼ切断部位(配列番号1の157~158位のアミノ酸)を含み、これはディスインテグリン・メタロプロテアーゼドメイン含有タンパク質(ADAM)10と、それより低い程度でADAM17とによって切断される。TREM2のエキソドメインはさらに、配列番号1の136~137位のアミノ酸の間にメプリンベータ切断部位を含んでもよい。
【0023】
したがって、上述したように、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン(配列番号2の19~130位のアミノ酸残基を含んでもよい)、またはその機能的変異体を含む。前記エキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。したがって、一実施形態において、エキソドメインは、TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン(配列番号2の19~130位のアミノ酸残基)、またはその機能的変異体から成ってもよく、または追加の配列を含む。本発明によると、追加の配列が存在する場合(たとえば、TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン(配列番号2の19~130位のアミノ酸)またはその機能的変異体と、本発明のキメラ受容体の膜貫通ドメインとの間に存在する場合)、前記追加の配列はTREM2の野生型配列またはその機能的変異体に対応してもよく、かつシェダーゼによる切断に対して耐性があってもよいことが、理解されるであろう。前記エキソドメインは、追加の配列を(たとえば、TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン(配列番号2の19~130位のアミノ酸残基)またはその機能的変異体と膜貫通ドメインとの間に)含んでもよく、前記配列はシェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。特に、前記エキソドメインは、TREM2のエキソドメインのストーク領域(配列番号2の131~174位のアミノ酸)または前記ストーク領域の変異体を含んでもよく、前記ストーク領域の変異体はシェダーゼによる切断(たとえば、切断(truncate)および/または変異による)に対して耐性(たとえば、全面的または部分的な耐性)があってもよく、または、シェダーゼによる切断に耐性が無くてもよい。たとえば、前記エキソドメインは、配列番号2の131~156もしくは157位のアミノ酸、または配列番号2の131~135もしくは136位のアミノ酸を含んでもよい。かかる実施形態において、前記エキソドメインは、配列番号2の19~156もしくは157位のアミノ酸残基または配列番号2の19~135もしくは136位のアミノ酸残基、またはその機能的変異体を含んでもよい。前記TREM2ストークの切断(truncate)された変異体を使用することにより、TREM2内に自然に生じる切断部位を除去して本発明のCARのエキソドメインにそれが生じることを防ぐことが、理解されるであろう。その代わりに、またはそれに追加して、あらゆる自然に生じる切断部位は、変異(欠失変異など)により除去されてもよく、または前記切断部位の保護により除去されてもよい。
【0024】
それゆえ、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、
(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、または、
(ii)配列番号3に示すアミノ酸配列の機能的変異体を含む。前記エキソドメインの機能的変異体は、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0025】
「機能的変異体」という用語は、TREM2エキソドメインの変異体(たとえば、配列番号2または配列番号3の変異体)のことをいい、特に、そのリガンド結合ドメインの変異体(たとえば配列番号2のアミノ酸残基19~130)のことをいう。それらはTREM2リガンド、とりわけApoE、細胞デブリ、死んでいるかまたは死にかけている(すなわち、プログラム細胞死(apototic)/壊死(necrotic)した)細胞に、たとえばTREM2と同じ親和性、同様の親和性、またはそれよりも大きい親和性で、特異的に結合することができる。このように、キメラ受容体のTREM2エキソドメインの機能的変異体、またはキメラ受容体のTREM2エキソドメインのリガンド結合ドメインの機能的変異体は、前記キメラ受容体がTREM2リガンド、特に、ApoE、細胞デブリ、死んでいるかまたは死にかけている(すなわち、プログラム細胞死/壊死した)細胞に、特異的に結合できるように機能する。
【0026】
「同様の親和性」とは、TREM2リガンド(たとえば、ヒトTREM2リガンド)に対する前記機能的変異体の結合親和性が、TREM2受容体と類似していることを意味し、たとえばその差異が20倍以下であることを意味する。より好ましくは、前記結合親和性の差が15倍より小さく、さらに好ましくは10倍より小さく、最も好ましくは5倍、4倍、3倍または2倍より小さい。
【0027】
特に、前記TREM2エキソドメインの機能的変異体、とりわけTREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン(たとえば配列番号2の残基19~130)の機能的変異体は、前記キメラ受容体の抗原/リガンド結合ドメイン(それ自体がキメラ受容体のエキソドメインの一部を形成する)を形成し、特にキメラ受容体が細胞(たとえば免疫細胞)の表面に発現した場合に、TREM2リガンド(たとえばApoEまたは細胞デブリ)に特異的に結合することができる。特異的な結合は、標的でない抗原(本件の場合、ApoE以外の抗原など、TREM2リガンド以外の抗原)への非特異的な結合から区別されてもよい。このように、本発明に係るキメラ受容体を発現する細胞、特に免疫細胞(たとえばTreg)が、TREM2リガンドに、特にApoEに、特異的に結合するようにされる。
【0028】
一部の実施形態において、TREM2リガンド(たとえばApoE)への特異的な結合とは、TREM2エキソドメインの機能的変異体、TREM2リガンド結合ドメイン、たとえば配列番号2の19~130位の残基を有するTREM2リガンド結合ドメインの機能的変異体、または前記TREM2エキソドメインの機能的変異体もしくはTREM2リガンド結合ドメインの機能的変異体を含むキメラ受容体が、約105-1以上、たとえば少なくとも約106-1、107-1、もしくは108-1以上または同等の親和性またはKa(すなわち、平衡会合定数)で、TREM2リガンドに結合するか、または関連づけられることを意味する。
【0029】
TREM2リガンド、たとえばApoEに対する親和性の高い前記TREM2リガンド結合ドメインの変異体が、当該技術分野で知られており、かかる変異体は本発明のキメラ受容体に使用されてもよい。したがって、一部の実施形態において、前記キメラ受容体のエキソドメインは、TREM2リガンド、好ましくはApoEに対する親和性の高い前記TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメインの機能的変異体を含む。
【0030】
特に、配列番号1の96位のチロシン残基のリジンへの変異が、ApoEに対する前記エキソドメインの結合親和性を増加させることが示されている。したがって、一部の実施形態において、前記TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメインの機能的変異体は、96位のチロシンの塩基性アミノ酸残基への置換、たとえばリジンまたはアルギニン、好ましくはリジンなどへの置換を含む。
【0031】
したがって、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、
配列番号4に示すアミノ酸配列、または、その機能的変異体を含み、
ここで、配列番号4の78位と同等である(すなわち、配列番号1および2の96位と同等である)部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンであり、かつ前記エキソドメインがシェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。特に、本発明のキメラ受容体のリガンド結合ドメインは、配列番号4に示すアミノ酸配列からなる。
【0032】
本明細書において言及されるような機能的変異体は、前記変異体が上記の機能、すなわちTREM2リガンドへの特異的結合および場合によってはシェダーゼによる切断に対する耐性を保持するかぎり、TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン中に(たとえば、配列番号2の19~130位のアミノ酸の中に)、および/または追加のTREM2配列が存在するTREM2エキソドメインの内のその他の位置に、少なくとも1つの変化(alteration)(たとえば、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、および/または付加など)を含んでもよいことが、理解されるであろう。したがって、特に、前記キメラ受容体のエキソドメインが配列番号3の機能的変異体を含む場合、前記変異体は、TREM2のエキソドメインのリガンド結合ドメイン(すなわち、たとえば配列番号4に示されるように、配列番号2の19~130位のアミノ酸)中に、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、または付加を含んでもよく、および/または、TREM2のエキソドメインのストーク(配列番号2のアミノ酸残基131~174)中に、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、および/または付加を含んでもよい。下記にさらに詳細に述べるように、特にこのような配列番号3の機能的変異体は、シェダーゼによって切断されうるなんらかのアミノ酸残基(特に、ストーク領域中、たとえば配列番号2のアミノ酸残基131~174)の欠失(たとえば切断(truncation))または置換を含んでもよい。
【0033】
上述したように、前記TREM2のリガンド結合ドメインは、3つのCDR、すなわちCDR1(配列番号1の38~47位のアミノ酸残基)、CDR2(配列番号1の65~75位のアミノ酸残基)、およびCDR3(配列番号1の88~91位のアミノ酸残基)を含む。本発明の特定の実施形態において、前記TREM2のリガンド結合ドメインの機能的変異体は、CDR1~3の野生型配列を含んでもよく、または、これらの領域は、小さな改変のみ、たとえば1つ、2つ、または3つのアミノ酸置換、特に保存的アミノ酸置換などを有してもよい。しがたって、前記TREM2のリガンド結合ドメインの機能的変異体は、特に、CDR領域の外に改変を含んでいてもよく、たとえば、配列番号2の19~37位、48~64位、76~87位、および/または92~130位のアミノ酸に改変を含んでもよい。
【0034】
この点で、本発明はまた、
(a)TREM2のCDR1(配列番号1の38~47位のアミノ酸残基)、CDR2(配列番号1の65~75位のアミノ酸残基)およびCDR3(配列番号1の88~91位のアミノ酸残基)を含むリガンド結合ドメインを含むエキソドメイン、またはCDR1、CDR2および/またはCDR3内に1つ、2つもしくは3つのアミノ酸置換(特に保存的アミノ酸置換)を有する、前記リガンド結合ドメインの機能的変異体を含むエキソドメインであって、前記エキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい、エキソドメインと、
(b)膜貫通ドメインと、
(c)細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインと、を含むキメラ受容体を提供する。
【0035】
「シェダーゼによる切断に対して耐性がある」という用語は、本発明のキメラ受容体のエキソドメインが、適切な条件下、すなわちシェダーゼ酵素が機能するのに適した条件下で接した場合に、実質的には切断されない(たとえば、全面的に切断されていない、または部分的にのみ切断されている)ことをいう。一部の実施形態において、シェダーゼ酵素により、キメラ受容体のエキソドメインの約80%未満、たとえば、約80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、または10%未満が切断され、好ましくは60%未満、たとえば40%未満、30%未満、20%未満、または10%未満が切断され、より好ましくは約5%未満、たとえば4、3、2、1、0.5、または0.1%未満が切断される。
【0036】
本発明のキメラ受容体のエキソドメインの切断は、当該技術分野で公知のなんらかの適した手段を用いて測定してもよい。たとえば、本発明のキメラ受容体を発現する細胞は、特定の時間、シェダーゼの活性に適した条件下でシェダーゼ酵素に接触させてもよく、キメラ受容体から切断されたエキソドメインの量は、たとえばSDS-PAGEやELISAなどによって、測定されてもよい。都合に応じて、本発明のキメラ受容体から切断されたエキソドメインの量は、同じ条件下で同じ期間シェダーゼ酵素に接触させた未修飾(野生型)のTREM2エキソドメインを含む同等のキメラ受容体を発現している細胞から切断されたエキソドメインの量と比較してもよい。本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、シェダーゼ酵素により、キメラ受容体のエキソドメインの約80%未満、たとえば、約80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、または10%未満が切断され、好ましくは60%未満、たとえば40%未満、30%未満、20%未満、または10%未満が切断され、より好ましくは約5%未満、たとえば4、3、2、1、0.5、または0.1%未満が切断される場合、シェダーゼ酵素による切断に対して耐性があるとみなされてもよい。
【0037】
キメラ受容体を発現する細胞をシェダーゼ酵素に接触させることは、キメラ受容体と同じ細胞中にシェダーゼ酵素を発現させることにより行ってもよい。一部の実施形態において、誘導性プロモーターの制御下でシェダーゼ酵素の発現を行い、前記細胞のシェダーゼとの接触が、ある一定時間のあいだ、前記細胞をシェダーゼ酵素の発現を誘導する薬剤とともに培養する工程を含むようにしてもよい。一部の実施形態において、キメラ受容体を発現する細胞をシェダーゼ酵素に接触させることは、シェダーゼ酵素を発現する細胞に、キメラ受容体を発現する細胞を接触させることにより行ってもよい。
【0038】
「シェダーゼ」および「シェダーゼ酵素」は、本明細書において同義に使用され、膜貫通タンパク質の細胞外ドメインを切断する膜結合性酵素のことをいう。一部の実施形態において、前記シェダーゼは、ADAM(ディスインテグリン・メタロプロテアーゼ)タンパク質ファミリーのメンバーであり、酵素グループEC3.4.24.81のタンパク質(たとえばADAM10)またはADAM17などである。他の実施形態において、前記シェダーゼは、メプリンβなど、メタロプロテアーゼのメンバーである。
【0039】
したがって、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、ADAMタンパク質ファミリーの1つ以上のメンバー、たとえば、酵素グループEC 3.4.24.81のタンパク質などによる切断に対して耐性があるか、および/または、メタロプロテアーゼの1つ以上のメンバー、たとえばメプリンβなどによる切断に対して、耐性がある。好ましい実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、ADAM10および/またはADAM17、好ましくはADAM10による切断に対して耐性がある。他の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、メプリンβによる切断に対して耐性がある。
【0040】
シェダーゼ酵素に適した条件は、前記酵素がその標的タンパク質を効率よく切断できるような条件であってもよい。当業者であれば、シェダーゼ活性に適した条件を容易に判断できるであろう。
【0041】
本発明者らは、有利なことに、TREM2リガンド(たとえばApoE、細胞デブリ、プログラム細胞死細胞、または壊死細胞)に特異的に結合することができるキメラ受容体が、野生型TREM2または変異型(たとえば切断(truncated)および/または変異された)TREM2エキソドメインを用いて、すなわち、TREM2エキソドメインの機能的変異体(たとえば部分)、たとえばシェダーゼによる切断に耐性がある機能的変異体を用いて作成できうると考えた。特に、本発明者らは、シェダーゼ酵素による切断に対して耐性がある一方、TREM2リガンド(たとえばApoE、細胞デブリ、プログラム細胞死細胞、または壊死細胞)に特異的に結合することができるキメラ受容体を作成するに十分なTREM2エキソドメインの部分を同定した。
【0042】
好ましい実施形態において、キメラ受容体のエキソドメインは、TREM2エキソドメインのリガンド結合ドメイン、たとえば配列番号2の19~130位のアミノ酸、またはその機能的変異体を含む。TREM2エキソドメインのかかる部分は、ジペプチドシェダーゼ切断部位(単数または複数)を含んでいなくてもよいことは、理解されるであろう。一部の実施形態において、前記キメラ受容体のエキソドメインは、さらにTREM2のストークドメインの部分、および/またはTREM2のストークドメインの変異体を含んでもよく、それらはジペプチドシェダーゼ切断部位(たとえば157~158位、(たとえば配列番号2の19~156位のアミノ酸)、または136-137位(たとえば配列番号2の19~135位のアミノ酸))を含まなくてもよい。一部の実施形態において、キメラ受容体のエキソドメインは、配列番号2の19~138位のアミノ酸、またはその機能的変異体(たとえば配列番号2の136~137位の切断部位が改変されている、または欠失している)を含む。その他の実施形態において、キメラ受容体のエキソドメインは、配列番号2の19~135位のアミノ酸、またはその機能的変異体を含む。
【0043】
したがって、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、
配列番号5もしくは6に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体を含むか、またはそれからなり、
配列番号6の78位と同等である(すなわち、配列番号1および2の96位と同等である)部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンであり、ここで、前記エキソドメインがシェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0044】
一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、たとえば変異するなどの改変をして前記エキソドメインにシェダーゼ酵素による切断に対して耐性を持たせる、前記TREM2エキソドメインの機能的変異体を含む。たとえば、前記エキソドメインにシェダーゼ酵素による切断に対して耐性をもたせるために、ジペプチドシェダーゼ切断ドメインを形成する残基(配列番号1および2の157~158位のアミノ酸ならびに/または配列番号1および2の136~137位のアミノ酸)の1つまたは両方が置換されていてもよく、欠失していてもよく、またはそれらの組み合わせでもよい。一実施形態において、前記TREM2エキソドメインの機能的変異体は、、シェダーゼによる切断に対して耐性を付与するために、配列番号1または2の157~158位のアミノ酸を除去するためのC末端の切断(truncation)と、配列番号1または2の136~137位のアミノ酸の1つ以上の変異とを含みエキソドメインを提供する。
【0045】
したがって、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、
配列番号7もしくは8に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体を含むか、またはそれからなり、
(a)配列番号8の78位と同等である(すなわち、配列番号1および2の96位と同等である)部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンであり、
(b)配列番号7または8の139~140位と同等である(すなわち、配列番号2の157~158位と同等である)部位のアミノ酸が、
(1)それぞれ、ヒスチジンおよび/もしくはセリンではなく、ならびに/または、
(2)前記エキソドメインにシェダーゼによる切断に対する耐性を持たせるために改変され、場合によっては、
(c)配列番号7または8の118~119位と同等である(すなわち、配列番号2の136~137位と同等である)部位のアミノ酸が、
(1)それぞれ、アルギニンおよび/もしくはアスパラギン酸ではなく、ならびに/または
(2)前記エキソドメインにシェダーゼによる切断に対する耐性を持たせるために改変されている。したがって、上記に定義された前記エキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0046】
好ましい実施形態において、配列番号7または8の139位と同等である(すなわち、配列番号2の157位と同等である)部位のアミノ酸は、チロシンではない。
【0047】
したがって、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、
配列番号36もしくは37に示すアミノ酸配列またはその機能的変異体を含むか、またはそれからなり、
(a)配列番号37の78位と同等である(すなわち、配列番号1および2の96位と同等である)部位のアミノ酸が、塩基性アミノ酸であり、好ましくはリジンまたはアルギニンであり、
(b)配列番号36または37の139~140位と同等である(すなわち、配列番号2の157~158位と同等である)部位のアミノ酸が、
(1)それぞれ、ヒスチジンではなく(好ましくはチロシンではなく)、および/またはセリンではなく、
(2)前記エキソドメインにシェダーゼによる切断に対する耐性を持たせるために改変され、
(c)配列番号36または37の118~119位と同等である(すなわち、配列番号2の136~137位と同等である)部位のアミノ酸が、
(1)それぞれ、アルギニンおよび/もしくはアスパラギン酸ではなく、ならびに/または
(2)前記エキソドメインにシェダーゼによる切断に対する耐性を持たせるために改変されている。
【0048】
したがって、上記に定義された前記エキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0049】
一部の実施形態において、配列番号7もしくは8の139~140位と同等である(すなわち、配列番号2の157~158位と同等である)部位、および/または配列番号7もしくは8の118~119位と同等である(すなわち、配列番号2の136~137位と同等である)部位のアミノ酸は、野生型配列におけるアミノ酸と比較して、保存的置換であるか、非保存的置換であり、好ましくは非保存的置換である。
【0050】
一部の実施形態において、配列番号7もしくは8の139~140位と同等である(すなわち、配列番号2の157~158位と同等である)部位、および/または配列番号7もしくは8の118~119位と同等である(すなわち、配列番号2の136~137位と同等である)部位のアミノ酸は、欠失している。
【0051】
したがって、一部の実施形態において、本発明のキメラ受容体のエキソドメインは、配列番号67もしくは68に示すアミノ酸配列、またはその機能的変異体、たとえば、配列番号67または68に対する配列同一性が少なくとも80%であるアミノ酸配列を、含むかまたはそれからなる。
【0052】
配列番号67または68の機能的変異体において、配列番号67の139~140位と同等である部位のアミノ酸、または配列番号68の157~158位と同等である(すなわち、配列番号2の157~158位と同等である)部位のアミノ酸が、それぞれセセリンおよびアルギニンであるか、または、それぞれヒスチジンおよびセリン以外のそれらの保存的置換または非保存的置換である。
【0053】
配列番号67または68の機能的変異体は、前述のその他の改変された残基を含んでもよい。
【0054】
一部の実施形態において、前記ジペプチドシェダーゼ切断部位(単数または複数)の外のアミノ酸残基は、変異されてもよく(たとえば、欠失してもよく、または置換されてもよく)、これら変異がシェダーゼ酵素に対する耐性を付与してもよい。これら変異は、上記の変異に対する付加であっても、またはそれらの代替であってもよい。一部の実施形態において、ジペプチドシェダーゼ切断部位の10個のアミノ酸内(すなわち、配列番号2の147~156位および/もしくは159~168位と同等である残基、ならびに/または配列番号2の125~135位および/もしくは138~148位と同等である残基)における1つ以上の変異(たとえば2、3、4、5、6、7、8、9または10個の変異)が、シェダーゼ酵素に対する耐性を付与してもよい。
【0055】
保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸を、ポリペプチドの物理化学的特徴を保存する別のアミノ酸で置き換える(たとえば、HをRまたはKで置き換えてもよく、その逆でもよく、またSをTで置き換えてもよく、その逆でもよい)ことをいう。したがって、一部の実施形態において、置換するアミノ酸は、たとえば、疎水性、親水性、電気陰性度、かさ高い側鎖など、置換されるアミノ酸と同様の特性を有する。
【0056】
非保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸を、ポリペプチドの物理化学的特徴を保存しない別のアミノ酸で置き換える(たとえば、HをEまたはDで置き換えてもよく、SをV、L、I、Wなどで置き換えてもよい)ことをいう。したがって、一部の実施形態において、置換するアミノ酸は、たとえば、疎水性、親水性、電気陰性度、かさ高い側鎖など、置換されるアミノ酸とは異なる特性を有する。
【0057】
一部の実施形態において、本発明の機能的変異体は、たとえば、1~50個、1~45個、1~40個、1~35個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、たとえば1個、2個、または3個のアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失によって、前記の配列とは異なってもよく、好ましくは1~23個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、たとえば1個、2~3個アミノ酸置換および/または1~33個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、たとえば1個、2個または3個のアミノ酸の欠失によって、変異前の配列と異なってもよい。下記で述べるように、一部の実施形態において、欠失はN末端および/またはC末端にあること、すなわち短縮であることが好ましく、それにより上記に定義された配列の部分を生じさせる。上記に述べたように、機能的変異体は上記に詳述したように変異前の配列とは異なってもよいが、好ましくは、もっと数の少ない修飾が、前記リガンド結合ドメインのCDR(たとえば、TREM2リガンド結合ドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3)に生じてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。CDR領域内の改変は、好ましくは保存的アミノ酸置換であるか、または特に、CDR配列が改変されないままであってもよい。アミノ酸の改変は、特にCDR領域の外で生じてもよく、とりわけ、キメラ受容体のエキソドメインに含まれているなんらかのTREM2ストークに生じてもよい。
【0058】
したがって、前記機能的変異体には、配列番号2に示す野生型TREM2エキソドメインに構造的に類似しているTREM2エキソドメインの変異形態(すなわち、本明細書においては、相同体、変異体、または誘導体と称される)が含まれる。前記機能的変異体は、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0059】
機能的変異体が、変異前の配列と比較して、たとえば欠失または挿入などの変異を含む場合、前記変異配列における、それらと同等であるアミノ酸部位には、上記の残基が存在する。一部の実施形態において、本発明の変異体における欠失は、N末端および/またはC末端の切断(truncation)ではない。
【0060】
しかしながら、上述のように、上記の機能的変異体は、たとえばApoE、細胞デブリ、またはプログラム細胞死/壊死した細胞などのTREM2リガンドへの結合親和性を著しく低減することなく、N末端および/またはC末端で短縮されてもよいと考えられている。したがって、一部の実施形態において、上述の配列(たとえば、配列番号1または2の配列)は、N末端のアミノ酸を20個以下(たとえば、5個、10個、または15個のアミノ酸)切断(truncated)されてもよく、および/またはC末端のアミノ酸を36個以下(たとえば5個、10個、15個、20個、25個、30個、または35個のアミノ酸)切断(truncated)されてもよい。したがって本明細書で使用される「変異体」という用語は、例に挙げられたポリペプチドの切断型変異体をも意味する。特に好ましい切断(truncation)(部分)は上記に定義されている。
【0061】
一部の実施形態において、「部分」とは、上記に定義された配列(たとえば、配列番号1~8、36、または37のうちのいずれか1つ以上の配列)の、少なくとも90、95、100、105、110、120、またはそれ以上のアミノ酸を含む。したがって、当該部分は、前記配列(たとえば、配列番号1~8、36または37のうちのいずれか1つ以上の配列)の中央部分、N末端部分、またはC末端部分から得られてもよい。好ましくは、当該部分は、前記中央部分(たとえば、配列番号2の中央部分)から得られ、すなわち上記に定義されたように、N末端および/またはC末端の切断(truncation)を含む。とりわけ、本明細書に記載の「部分」とは、本発明のポリペプチドであり、したがって、本明細書で言及されている同一性(類似の領域と比較して)の条件および機能的同等性の条件を満足する。
【0062】
一部の実施形態において、上記に定義されたように、本発明の機能的変異体は、1~5個、1~4個、たとえば1個、2個、3個などのアミノ酸の置換、挿入および/または欠失により、好ましくは置換により、変異前の配列と異なっていてもよい。一部の実施形態において、本発明の変異体は、上記に定義されたように配列番号2から異なっていてもよい。
【0063】
配列同一性は、当該技術分野において公知のなんらかの適切な手段によって決定されてもよく、たとえば、可変性のパムファクター(variable pamfactor)、12.0に設定されたギャップクリエーションペナルティ(gap creation penalty)および4.0に設定されたギャップエクステンションペナルティ(gap extension penalty)、ならびに2個のアミノ酸のウインドウと共にFASTA pep-cmpを使用するSWISS-PROTタンパク質配列データバンク(SWISS-PROT protein sequence databank)を使用して決定されてもよい。アミノ酸配列同一性を決定するための他のプログラムには、ウィスコンシン大学のジェネティック・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group)(GCG)バージョン10ソフトウェアパッケージのBestFitプログラムがある。前記プログラムは、デフォルト値を用いたスミス・ウォーターマンの局所的相同性アルゴリズムを使用する。ギャップクリエーションペナルティ=-8、ギャップエクステンションペナルティ=2、アベレージマッチ=2.912、アベレージミスマッチ=-2.003
【0064】
一部の実施形態において、本発明の機能的変異体および/または部分(たとえば配列番号2の19~130位、19~135位、19~136位、19~137位、19~138位、19~156位、19~157位、または19~158位のアミノ酸残基)は、比較対象である本明細書で定義された配列、たとえばTREM2の野生型配列またはその部分、たとえば配列番号1~3または5の1つに対する配列同一性が、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%である。
【0065】
好ましくは、当該比較は前記配列の全長に対してなされるが、比較のより小さいウインドウに対してなされてもよく、たとえば100個、80個、または50個より少ない連続したアミノ酸に対してなされてもよい。
【0066】
好ましくは、変異体(たとえば配列同一性関連変異体)は、上記に定義されたように、たとえばApoE、細胞デブリ、プログラム細胞死細胞、または壊死した細胞などのTREM2リガンドへの結合親和性について、機能的に野生型エキソドメインと同等である。
【0067】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチドの同等の部位は、配列番号1または2のアミノ酸配列を参照して決定される。前記相同部位または対応する部位は、相同体(変異種、変異体、または誘導体)ポリペプチドの配列、および前記配列間の相同性または同一性に基づく配列番号1または2の配列を列挙することにより、たとえばBLASTアルゴリズムを使用して、容易に推論できる。
【0068】
「TREM2リガンド」または「TREM2-L」は、TREM2がその細胞外ドメインを介して、特にそのリガンド結合ドメインを介して、特異的に結合するなんらかのリガンドのことをいい、したがって本発明のキメラ受容体が結合してもよいなんらかのリガンドのことをいう。TREM2は、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、硫糖脂質、アポリポタンパク質、低密度リポタンパク質、高密度リポタンパク質、熱ショックタンパク質60、DNA、大腸菌、プログラム細胞死細胞および壊死細胞、細胞デブリ、およびアミロイドβペプチドに結合すると報告されている。したがって、本発明のキメラ受容体、特にそのエキソドメインは、上記のリガンドの1つ以上に結合してもよい。特に好ましい実施の形態において、キメラ受容体のエキソドメイン(および、したがって、キメラ受容体)は、ApoEに特異的に結合し、すなわち前記エキソドメインのなんらかの機能的部分および/または変異体は、少なくともApoEに特異的に結合しなければならない。
【0069】
前記キメラ受容体のリガンド結合ドメイン(たとえばエキソドメイン)のその標的抗原(TREM2リガンド、たとえばApoE)への結合は、キメラ受容体含有細胞(たとえばTreg)に活性化刺激を与え、その結果、細胞シグナリング経路を誘導する。標的抗原への結合は、それによって、前記細胞の効果を媒介できる分子、たとえばTregによってもたらされる免疫抑制効果を媒介することができる分子の、増殖、サイトカイン産生、溶菌活性、および/または、産生の引き金になってもよい。CD3ζまたはFcRγ由来のシグナリングドメインのみを含む細胞内ドメインを含むキメラ受容体が、免疫細胞の活性および機能の強力なシグナルを送ってもよいが、それらキメラ受容体は、付随する共刺激シグナルが無い場合に、免疫エフェクター細胞の生存および増殖を促進するシグナルを引き出すほど十分でなくともよい。それゆえ、前記キメラ受容体が、1つ以上の共刺激シグナリングドメインを含むことが好適でありうる。
【0070】
本発明のCARは、したがって、一般的に下記のように少なくとも3つ、4つ、または5つのドメインを含む。
(1)上記に定義されたリガンド結合ドメインを含むエキソドメイン、および
場合によっては、前記リガンド結合ドメインを前記細胞(たとえば免疫細胞)の表面から遠ざけるように伸長させるヒンジドメイン、
(2)前記キメラ受容体を前記細胞に固定し、前記抗原結合ドメインを含むエキソドメインをエンドドメイン(存在する場合、または同じポリペプチド鎖に存在する場合)に連結する膜貫通ドメイン、
(3)細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメイン、
場合によってはまたは好ましくは、
1つ以上の共刺激シグナリングドメイン。
【0071】
前記CARのドメインは、単一の連続するポリペプチド内に生じてもよく、または、互いに関連する2つ(またはそれ以上の)他のポリペプチド鎖であって、前記キメラ抗原受容体がその標的抗原に結合すると、互いに結合して前記細胞にシグナルを供給するポリペプチド鎖内に存在してもよい。
【0072】
前記キメラ受容体は、シグナル配列(すなわちターゲティングドメイン)をさらに含んでもよく、特に、前記キメラ受容体に前記細胞(たとえば免疫細胞、たとえばTreg)のプラズマメンブレンを標的とさせる配列をさらに含んでもよい。一般的には、これは前記リガンド結合ドメインに隣接または近接して、一般的に前記リガンド結合ドメインの上流に、前記キメラ受容体分子/コンストラクトの端部に位置する。
【0073】
したがって、前記キメラ受容体が、リガンド結合ドメインおよびシグナル配列を含むエキソドメインを含み、もし存在すれば、任意のヒンジドメインを介して、膜貫通ドメインに連結していてもよいことがわかる。前記膜貫通ドメインは、1つ以上のシグナリングドメインを含むエンドドメインに連結されてもよく、またはその代わりにもしくはそれに追加して、前記エンドドメインは、第一のポリペプチド(連結するリガンド結合ドメインおよびシグナル配列を含むエキソドメインを含み、もし存在すれば、任意のヒンジドメインを介して、膜貫通ドメインに連結する)に関連する第二のポリペプチド内に設けられてもよい。一態様において、前記膜貫通ドメインおよびエンドドメインは、CARコンストラクトにおける「シグナリングテール(signaling tail)」とみなされてもよい。単一ポリペプチドCARコンストラクトにおいて前記ドメインが配置されている順序は、N末端からC末端にかけて、エキソドメイン-任意のヒンジドメイン-膜貫通ドメイン-エンドドメインの順である。エキソドメインおよびエンドドメイン内に、個々のドメインがどんな順序で配置されていてもよい。しかしながら好ましくは、前記順序は、エキソドメイン中で、シグナル配列-リガンド結合ドメイン(-ヒンジドメイン(存在する場合))の順である。一実施形態において、エンドドメイン中で、前記順序は、共刺激ドメイン(単数または複数)-細胞内シグナリングドメイン(単数または複数)の順であってもよい。他の実施形態において、前記順序は、細胞内シグナリングドメイン(単数または複数)-共刺激ドメイン(単数または複数)の順であってもよい。多鎖CARコンストラクト内で、前記ドメインの順序は、第一のポリペプチド鎖でのN端末からC端末-エキソドメイン-任意のヒンジドメイン-膜貫通ドメイン-任意のエンドドメインであってもよく、また、第二のポリペプチド鎖でのN末端からC末端-任意の膜貫通ドメイン-エンドドメインであってもよい。エキソドメインおよびエンドドメイン内に、個々のドメインがどんな順序で配置されていてもよい。しかしながら好ましくは、前記順序は、エキソドメイン中で、シグナル配列-リガンド結合ドメイン(-ヒンジドメイン(存在する場合))の順である。一実施形態において、エンドドメイン中で、前記順序は、共刺激ドメイン(単数または複数)-細胞内シグナリングドメイン(単数または複数)の順であってもよい。他の実施形態において、前記順序は、細胞内シグナリングドメイン(単数または複数)-共刺激ドメイン(単数または複数)の順であってもよい。下記に詳細に述べられるように、本発明の多鎖キメラ受容体において、1つのポリペプチド鎖がそのエンドドメイン内に細胞内シグナリング配列を含み、かつ、他方のポリペプチド鎖がエンドドメインを含まないか、または細胞内シグナリングドメインを含まないエンドドメインを含むことが可能である。または、両方のポリペプチド鎖が、細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインを含んでもよい。同様に、1つのポリペプチド鎖が、エンドドメイン(細胞内シグナリングドメインを含む、または含まない)内に少なくとも1つの共刺激ドメインを含むことが可能である。両方のポリペプチド鎖が、少なくとも1つの共刺激ドメインを含んでもよい。
【0074】
前述のように、前記キメラ受容体、とりわけそのエキソドメインも、シグナル配列(またはターゲティングドメイン)を含んでもよい。かかる配列は、前記分子(コンストラクト)のN末端の端部に一般的には配置され、同時翻訳または翻訳後に、前記分子の移動を指示するように機能してもよい。特に、前記シグナル配列は、前記キメラ受容体に免疫細胞(たとえばTreg)のプラズマメンブレンを標的とさせる配列であってもよい。一部の実施形態において、前記シグナル配列は、CD8αシグナル配列(たとえば配列番号9)である。一部の実施形態において、前記シグナル配列は、前記TREM2シグナル配列(たとえば配列番号10)である。これは、直接的または間接的に(たとえばリンカー配列を介して)前記リガンド結合ドメインに連結し、一般的に前記リガンド結合ドメインの上流に、前記キメラ受容体分子/コンストラクトのN末端端部に位置する。
【0075】
前記リンカー配列は、1~30個のアミノ酸長、より好ましくは1~25個、1~22個、または1~20個のアミノ酸長であってもよい。前記リンカーは、フレキシブルリンカーであってもよい。好適なリンカーは、容易に選択でき、1個のアミノ酸(たとえばGly)~20個のアミノ酸、2個のアミノ酸~15個のアミノ酸、3個のアミノ酸~12個のアミノ酸などの好適なアミノ酸長のいずれでも可能であり、その例としては4個のアミノ酸~10個のアミノ酸、5個のアミノ酸~9個のアミノ酸、6個のアミノ酸~8個のアミノ酸、または7個のアミノ酸~8個のアミノ酸などがあり、1個、2個、3個、4個、5個、6個、または7個もしくはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。
【0076】
フレキシブルリンカーの例としては、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー、nが少なくとも1の整数であり、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および当該技術分野において知られているその他のフレキシブルリンカーがある。グリシンおよびグリシン-セリンポリマーは、比較的不定形であり、したがって、本明細書に記載のキメラ受容体などの融合タンパク質のドメイン間で中立的テザー(neutral tether)として働くことができうる。一実施形態において、前記シグナル配列は、前記リガンド結合ドメインのN末端端部、たとえば、TREM2のリガンド結合ドメインまたはその機能的変異体のN末端端部に、直接連結する。
【0077】
前記キメラ受容体のリガンド結合ドメインのあとに、場合によってはヒンジドメインが続く。キメラ受容体における前記ヒンジ領域は、一般的には膜貫通ドメインとリガンド結合ドメインとの間にある。ある実施形態において、ヒンジ領域は、免疫グロブリンヒンジ領域(たとえば、IgG1、IgG2またはIgG4に由来する)であり、野生型免疫グロブリンヒンジ領域または野生型を変化させた(altered wild type)免疫グロブリンヒンジ領域、たとえば切断(truncated)ヒンジ領域であってもよい。一部の実施形態において、前記ヒンジ領域は、1型膜タンパク質、CD8α、CD4、CD28およびCD7などの細胞外領域に由来してもよく、前記領域は、これら分子の野生型ヒンジ領域であってもよいし、または該野生型ヒンジ領域を変化させたものであってもよい。一部の実施形態において、前記エキソドメインは、ジペプチドシェダーゼ切断部位を含まない、前記のようなTREM2エキソドメインの部分および/または変異型ストーク領域を含む(たとえば、前記切断部位は、上記のように欠失や変異があり、または前記ストークドメインはシェダーゼ酵素に対する耐性を付与するよう改変されている)。したがって、一部の実施形態において、TREM2エキソドメインの部分または変異型ストークドメインは、キメラ受容体のヒンジドメインとみなされてもよい。別の観点から、前記ヒンジドメインは、TREM2のエキソドメインに由来してもよく、たとえばストークドメインに由来してもよい。
【0078】
したがって、一部の実施形態において、前記ヒンジ領域は、ヒトのCD8α、CD4、CD28、CD7もしくはTREM2のヒンジ領域であるか、またはそれに由来する。前記ヒンジ領域を、別に(かつ交換可能に)スペーサーまたはスペーサー領域と称する。
【0079】
「野生型を変化させたヒンジ領域」または「変化させた(altered)ヒンジ領域」または「変化させた(altered)スペーサー」とは、(a)30%以下のアミノ酸変化(たとえば、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下のアミノ酸変化、たとえば、アミノ酸の置換または欠失)を伴う野生型ヒンジ領域、(b)少なくとも10個のアミノ酸(たとえば、少なくとも12個、13個、14個、または15個のアミノ酸)の長さの、野生型ヒンジ領域の部分であって、30%以下のアミノ酸変化(たとえば25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下の、置換や欠失などのアミノ酸変化)を伴う野生型ヒンジ領域の部分、または(c)コアヒンジ領域(長さがアミノ酸4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、または15個、または長さがアミノ酸少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、または少なくとも15個)を含む、野生型ヒンジ領域の部分、のことをいう。野生型を変化させたヒンジ領域が、TREM2リガンド結合ドメインと、本明細書に記載のキメラ受容体の別の領域(たとえば、膜貫通ドメイン)との間にあってそれらを接続する場合、それによりキメラ受容体がTREM2リガンドへの特異的結合、たとえばApoE、細胞デブリ、死んだ細胞、または死にかけている細胞への特異的結合を維持できるようにする。
【0080】
ある実施形態において、野生型免疫グロブリンヒンジ領域における1つ以上のシステイン残基が、1つ以上の他のアミノ酸残基(たとえば、1つ以上のセリン残基)で置換されてもよい。変化させた免疫グロブリンヒンジ領域は、その代わりにまたはそれに追加して、別のアミノ酸残基(たとえば、セリン残基)で置換された野生型免疫グロブリンヒンジ領域のプロリン残基を有してもよい。
CH2およびCH3の定常領域ドメインを含むヒンジ領域は、キメラ受容体における使用について、当該技術分野で記載されている(たとえば、「Fcヒンジ」または「IgGヒンジ」と称される、CH2CH3ヒンジ)。しかしながら、ヒンジドメインが、免疫グロブリンに基づくか、または免疫グロブリンに由来する場合、ヒンジドメインは、CH3ドメインを含まず、たとえば、CH3を含むことなく、CH2ドメインもしくはその断片または一部を含むかまたはそれからなってもよいことが好ましい。
【0081】
一つの好ましい実施形態において、前記ヒンジドメインは、配列番号11のアミノ酸配列(CD28のヒンジドメインを表す)もしくはこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、または含む。
【0082】
本発明のキメラ受容体の前記膜貫通ドメインは、いずれの膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインに基いてもよく、またはそれから由来してもよい。典型的には、前記膜貫通ドメインは、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、M-CSF受容体、CSF-1R、Kit、TIE3、ITAM含有タンパク質、DAP12、DAP10、Fc受容体、FcR-ガンマ、FcR-イプシロン、FcR-ベータ、TCR-ゼータ、CD3-ガンマ、CD3-デルタ、CD3-イプシロン、CD3-ゼータ、CD3-イータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、TNF-アルファ、NF-カッパB、TLR(Toll様受容体)、TLR5、Myd88、リンパ球受容体鎖、IL-2受容体、IgE、IgG、CD16α、FcγRIII、FcγRII、CD28、4-1BB、CD4、CD8、たとえばCD8α、NKG2D(CD314)、およびTREM2から選択され、好ましくは、ヒトの上記タンパク質から選択されるタンパク質からの膜貫通ドメインであってもよく、または当該タンパク質からの膜貫通ドメインから由来してもよい。一実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD8α、CD28、CD4、CD3ζ、NKG2DまたはTREM2からの膜貫通ドメインであるか、またはそれから由来してもよく、好ましくはヒトの当該タンパク質からの膜貫通ドメインであるか、それから由来してもよい。他の実施形態において、前記膜貫通ドメインは、主に疎水性の残基、ロイシンやバリンなどを含む場合、合成でもあってもよい。
【0083】
好ましい実施形態において、前記膜貫通ドメインは、配列番号12のアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するCD28膜貫通ドメインである。
【0084】
一部の実施形態において、前記膜貫通ドメインは、DAP10もしくはDAP12(DNAX活性化タンパク質10または12)でヘテロ二量体化するタンパク質の膜貫通ドメインであるか、またはそれから由来してもよい。たとえば、NKG2D(CD314)はDAP10で二量体化し、TREM2タンパク質はDAP12で二量体化する。したがって、一部の実施形態において、前記膜貫通ドメインは、NKG2DもしくはTREM2の膜貫通ドメインであるか、またはそれから由来してもよい。
【0085】
前記「エンドドメイン」は、キメラ受容体が細胞内で発現した場合に細胞の内側または内に存在するキメラ受容体のドメインである。本発明のキメラ受容体は、細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインを含む。本発明の単鎖キメラ受容体では、典型的には下記に述べるように、細胞内シグナリングドメインを含み、かつそれに加えて少なくとも1つの共刺激ドメインを含む、1つのエンドドメインがある。2つのポリペプチド鎖を含む本発明の多鎖キメラ受容体、たとえば2つのポリペプチド鎖を含む本発明の多鎖キメラ受容体において、前記鎖の少なくとも一方は、細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインを含む。一実施形態において、両方の鎖がエンドドメインを含んでもよく、したがってキメラ受容体は、2つのエンドドメインを含んでもよい。一方のエンドドメインのみが細胞内シグナリングドメインを含む必要があるが、両方の鎖がこのドメインを含むことも可能であり、前記ドメインは同一であっても異なっていてもよいことは、理解されるであろう。本発明の多鎖キメラ受容体内に存在するいずれのエンドドメインも、1つの、または共刺激のドメインを含んでもよい。
【0086】
前記「細胞内シグナリングドメイン」は、標的抗原(たとえばTREM2リガンド)に結合する有効なキメラ受容体のメッセージを、免疫細胞など特定の細胞の内部に伝達して、キメラ受容体のエキソドメインへのリガンドの結合により誘導される細胞機能、たとえば活性化、サイトカイン産生、増殖、その他細胞応答などを誘導することにかかわる、キメラ受容体の一部のことである。前記細胞内シグナリングドメインは、前記受容体のエンドドメイン内に含まれる。「細胞機能」という用語は、細胞の専門的な機能のことをいう。T細胞の細胞機能は、たとえば、細胞溶解の活性もしくはヘルプ、サイトカインの分泌を含む活性、または免疫抑制活性であってもよい。したがって、「細胞内シグナリングドメイン」という用語は、機能シグナルを伝達し、かつ細胞に専門的な機能を行うように指示するタンパク質の部分のことをいう。タンパク質の細胞内シグナリングドメイン全体が使用できる一方で、多くの場合、ドメイン全体を使用する必要が無い。細胞内シグナリングドメインの短縮部分が使用されるからには、短縮部分がエフェクター機能シグナルを伝達する限りドメイン全体の代わりに短縮部分が使用されてもよい。「細胞内シグナリングドメイン」という用語は、したがって、機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナリングドメインの短縮部分を含んでいる。前記細胞内シグナリングドメインはまた、「シグナル伝達ドメイン」としても知られ、典型的には、ヒトCD3ζ鎖またはFcRy鎖の部分から由来している。その代わりに、またはそれに追加して、前記シグナル伝達ドメインはDAP12/DAP10から由来してもよい。本発明のキメラ受容体は、細胞内シグナリングドメインが細胞機能を誘導できなくてもよいような、前駆体または前駆細胞などの細胞に導入されてもよいことは、理解されるであろう。しかしながら、キメラ受容体は、適切な細胞タイプ、たとえばT細胞などの免疫細胞内に発現すれば、シグナリングできるべきである。
【0087】
キメラ受容体内のITAM配列の数を最適化するために、2つ以上のITAM配列を含む細胞内シグナリングドメインが改変されてもよいことは、当業者には理解されるであろう。したがって、細胞内シグナリングドメインは、より少ないITAMを含むように改変されてもよい。たとえば、現在あるITAM配列の1つ以上を欠失させてもよいし、またはITAM配列の1つ以上を構成するアミノ酸残基を改変または変異させ(たとえば置換し)てそれがシグナリングできないようにしてもよい。好ましくは、少なくとも1つまたは2つの機能的ITAM配列を、細胞内シグナリングドメイン内に保持してもよい。
【0088】
特定の実施形態において、CD3ゼータの細胞内シグナリングドメインまたはその部分を改変して1つまたは2つのITAM配列を欠失させるか置換してもよい。前記CD3ゼータのシグナル部分は3つのITAM配列を含み、一実施形態において、1つまたは2つの機能的ITAMのみを含むCD3ゼータまたはその部分を利用することが望ましく、特にCD3ゼータまたはその部分が、他の細胞内シグナリングドメイン、たとえばDAP10またはDAP12からの細胞内シグナリングドメインと直接組み合わせて使用される場合、1つまたは2つの機能的ITAMのみを含むCD3ゼータまたはその部分を利用することが望ましい。
【0089】
さらに、前記細胞、たとえば免疫細胞の全面的な活性化を可能にするかまたは増加させるために、キメラ受容体が、1つ以上の二次性または共刺激ドメインを、キメラ受容体のエンドドメイン内に含むようにしてもよい。したがって、細胞内シグナリングドメインは、リガンド依存一次活性化を開始してもよく(すなわち、一次細胞質シグナリング配列であってもよく)、前記共刺激ドメインは、リガンド非依存的に動作して二次または共刺激シグナル(二次細胞質シグナリング配列)を提供してもよい。一次細胞質シグナリング配列は、一次活性化を、阻害的制御も含め、制御してもよい。共刺激的に動作する一次細胞質シグナリング配列は、免疫受容体チロシン系活性化モチーフまたはITAMとして知られる、シグナリングモチーフを含んでもよい。
【0090】
一部の実施形態において、前記一次シグナリングドメインは、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、M-CSF受容体、CSF-1R、Kit、TIE3、ITAM含有タンパク質、DAP12、DAP10、Fc受容体、FcR-ガンマ、FcR-イプシロン、FcR-ベータ、TCR-ゼータ、CD3-ガンマ、CD3-デルタ、CD3-イプシロン、CD3-ゼータ、CD3-イータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、TNF-アルファ、NF-カッパ、TLR(Toll様受容体)、TLR5、Myd88、TOR/CD3複合体、リンパ球受容体鎖、IL-2受容体、IgE、IgG、CD16α、FcγRIII、FcγCD28、4-1BB、およびそれらのなんらかの組み合わせから選択されるタンパク質からのシグナリングドメインである。一部の実施形態において、前記シグナリングドメインは、4-1BB細胞内ドメイン、CD3-ゼータITAMドメイン、CD3-ゼータ細胞内ドメイン、CSF-1R受容体チロシンキナーゼ(RTK)細胞内ドメイン、DAP12細胞内ドメイン、TCR-ゼータ細胞内ドメイン、TLR5細胞内ドメイン、CD28細胞内ドメイン、DAP10細胞内ドメイン、FcRガンマ細胞内ドメイン、およびそれらのなんらかの組み合わせから選択されたシグナリングドメインである。
【0091】
本発明で使用されてもよい一次細胞質シグナリング配列を含有するITAMの例としては、TCRζ、FcRy、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66d由来のものがある。一部の実施形態において、前記細胞内シグナリングドメインは、CD3ζまたはFcRγ、好ましくはヒトCD3ζまたはFcRγに由来する。
【0092】
好ましい代表的な実施形態において、本発明で使用されるような前記細胞内シグナリングドメインは、好ましくはヒトCD3ζドメインであり、より好ましくは、配列番号13のアミノ酸配列またはこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するヒトCD3ζドメインである。
【0093】
「共刺激シグナリングドメイン」または「共刺激ドメイン」という用語は、共刺激分子の細胞内ドメインを含むキメラ受容体の部分のことをいう。共刺激分子は、抗原への結合の際に免疫細胞(たとえばT細胞)を効果的に活性化し機能させるために通常必要とされる二次性シグナルを提供する、抗原受容体またはFc受容体以外の細胞表面分子である。かかる共刺激分子の例としては、CD27、CD28、4-IBB(CD137)、OX40(CD134)、CD30、CD40、ICOS(CD278)、LFA-1、CD2、CD7、LIGHT、NKD2C、B7-H2、および、CD83に結合するリガンドがあり、特に、かかる分子の細胞内ドメインがある。好ましくは、前記分子はヒトの分子である。それゆえ、一部の好ましい実施の形態において、共刺激ドメインは、4-1BB、CD28、またはOX40(CD134)に由来するが、他の共刺激ドメインが本明細書に記載されるキメラ受容体と使用されることも可能であると考えられる。前記共刺激ドメインは、単独で使用されてもよく、または組み合わせで使用されてもよい(すなわち、1つ以上の共刺激ドメインが含まれていてもよい)。1つ以上の共刺激シグナリングドメインを含めることにより、キメラ受容体を発現する免疫細胞の効能および増殖を高めてもよい。
【0094】
この態様において、WO2020/044055(この参照によりその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、STAT5関連モチーフ、ならびにJAK1および/またはJAK2結合モチーフを含むキメラ受容体のエンドドメインの中にドメインを含むと都合よいだろう。これは、かかる受容体が、外因性IL-2の投与を必要とせず、産生IL-2シグナルを抗原特異的な方法で提供することにより、養子移入されたTregの高IL-2依存性に関連する問題に対処するため、T細胞(たとえばTreg)中にキメラ受容体が発現する場合にとりわけ役に立つだろう。
【0095】
「シグナル伝達性転写因子5」(STAT5)は、IL-2シグナリング経路に関与する転写因子であり、FOXP3、IL2RAおよびBCLXLなどの遺伝子の発現を促進することによって、Tregの機能、安定性、および生存において鍵となる役割を果たす。機能し、かつ核移行するためには、STAT5はリン酸化する必要がある。IL-2ライゲーションの結果、IL-2Rβ鎖およびIL-2Rγ鎖のそれぞれに存在する特異的なシグナリングドメインを介してJak1/Jak2およびJak3キナーゼを活性化することにより、STAT5がリン酸化する。Jak1(またはJak2)は、Jak3を必要とせずにSTAT5をリン酸化できるが、STAT5の活性は、Jak1/Jak2とJak3との両方をトランスリン酸化することにより増加し、これにより活性が安定する。
【0096】
本明細書における「STAT5関連モチーフ」とは、チロシンを含みSTAT5ポリペプチドと結合することのできるアミノ酸モチーフのことである。タンパク質ータンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において公知のあらゆる方法を用いて、関連モチーフがSTAT5と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0097】
好適には、本発明で使用されるようなCARエンドドメインは、本明細書で定義された2個以上のSTAT5関連モチーフを含んでいてもよい。たとえば、本発明で使用されるCARエンドドメインは、本明細書で定義された2個、3個、4個、5個またはそれ以上のSTAT5関連モチーフを含んでいてもよい。好ましくは、CARエンドドメインは、本明細書で定義された2個または3個のSTAT5関連モチーフを含んでいてもよい。
好適には、前記STAT5関連モチーフは、膜貫通タンパク質の細胞質ドメイン中に内在してもよい。たとえば、前記STAT5関連モチーフは、インターロイキン受容体(IL)受容体エンドドメインまたはホルモン受容体から由来してもよい。
【0098】
本発明で使用されるCARエンドドメインは、STAT5が下流成分であるインターロイキン受容体の鎖のいずれかから選択されたアミノ酸配列を含んでもよく、たとえば、IL-2受容体β鎖のアミノ酸番号266~551(米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)標準配列(REFSEQ):NP_000869.1、配列番号14)、IL-7Rα鎖のアミノ酸番号265~459(NCBI REFSEQ:NP_002176.2、配列番号15)、IL-9R鎖のアミノ酸番号292~521(NCBI REFSEQ:NP_002177.2、配列番号16)、IL-4Rα鎖のアミノ酸番号257~825(NCBI REFSEQ:NPJD00409.1、配列番号17)、IL-3Rβ鎖のアミノ酸番号461~897(NCBI REFSEQ:NP_000386.1、配列番号18)、IL-17Rβ鎖のアミノ酸番号314~502(NCBI REFSEQ:NP_061195.2、配列番号19)、または、切断型のIL-7Rα鎖(配列番号20)を含む細胞質ドメインを使用してもよい。インターロイキン受容体鎖の細胞質ドメインの領域全体が使用されてもよい。
【0099】
本発明で使用されるCARエンドドメインは、配列番号14~20として示されるアミノ酸配列を含むSTAT5関連モチーフ、または配列番号14~20に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。たとえば、前記変異体は、配列番号14~20の1つとして示されるアミノ酸配列の結合レベルの、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルで、STAT5と結合できればよい。前記変異体または誘導体は、配列番号14~20の1つのレベルに近いもしくは同じレベルでSTAT5と結合できてもよく、または、配列番号14~20の1つとして示されるアミノ酸配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)でSTAT5と結合できてもよい。
【0100】
たとえば、前記STAT5関連モチーフは、IL2Rβ、IL7Rα、IL-3Rβ(CSF2RB)、IL-9R、IL-17Rβ、エリスロポエチン受容体、トロンボポエチン受容体、成長ホルモン受容体、およびプロラクチン受容体に由来してもよい。
【0101】
本明細書における「JAK1および/またはJAK2結合モチーフ」とは、チロシンキナーゼJAK1および/またはJAK2関連付けをもたらすBOXモチーフのことである。好適なJAK1およびJAK2結合モチーフは、たとえば、Ferrao & Lupardus(Frontiers in Endocrinology; 2017; 8(71);この参照により本明細書に援用される)により記載されている。
【0102】
JAK1および/またはJAK2結合モチーフは、膜貫通タンパク質の細胞質ドメイン内に内在的に生じてもよい。
【0103】
たとえば、JAK1および/またはJAK2結合モチーフは、インターフェロンラムダ受容体1(IFNLR1)、インターフェロンアルファ受容体1(IFNAR)、インターフェロンガンマ受容体1(IFNGR1)、IL10RA、IL20RA、IL22RA、インターフェロンガンマ受容体2(IFNGR2)、またはIL10RBに由来してもよい。
【0104】
JAK1結合モチーフは、配列番号21~27として示されたアミノ酸モチーフ、またはJAK1と結合可能なその変異体を含んでもよい。
【0105】
配列番号21~27の変異体は、配列番号21~27のいずれかと比較して1個、2個または3個のアミノ酸の差異を含んでいてもよく、かつJAK1と結合する能力を保持しうる。
【0106】
前記変異体は、配列番号21~27のいずれか1つに対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有していてもよく、かつJAK1と結合する能力を保持しうる。
【0107】
好ましい実施形態において、JAK1結合ドメインは、配列番号21、またはJAK1と結合可能なその変異体を含んでいてもよい。
【0108】
たとえば、前記変異体は、対応する参照配列の結合レベルの、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルで、JAK1と結合できればよい。前記変異体または誘導体は、対応する参照配列のレベルに近いもしくは同じレベルでJAK1と結合できてもよく、または、対応する参照配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)でJAK1と結合できればよい。
【0109】
JAK2結合モチーフは、配列番号28~30として示されたアミノ酸モチーフ、またはJAK2と結合可能なその変異体を含んでもよい。
【0110】
配列番号28~30の変異体は、配列番号28~30のいずれかと比較して1個、2個または3個のアミノ酸の差異を含んでいてもよく、かつJAK2と結合する能力を保持しうる。
【0111】
たとえば、前記変異体は、対応する参照配列の結合レベルの、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルで、JAK2と結合できればよい。前記変異体または誘導体は、対応する参照配列のレベルに近いもしくは同じレベルでJAK2と結合できてもよく、または、対応する参照配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)でJAK2と結合できればよい。
【0112】
タンパク質-タンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、JAK1結合モチーフまたはJAK2結合モチーフがJAK1またはJAK2と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0113】
本発明のキメラ受容体のエンドドメインは、さらにJAK3結合モチーフを含んでもよい。
【0114】
本明細書における「JAK3結合モチーフ」とは、チロシンキナーゼJAK3をもたらすBOXモチーフのことである。好適なJAK3結合モチーフは、たとえば、Ferrao & Lupardus(Frontiers in Endocrinology; 2017; 8(71);この参照により本明細書に援用される)により記載されている。
【0115】
タンパク質-タンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、モチーフがJAK3と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0116】
JAK3結合モチーフは、膜貫通タンパク質の細胞質ドメイン内に内在的に生じてもよい。
【0117】
たとえば、前記JAK3結合モチーフは、IL-2Rγポリペプチドに由来してもよい。
【0118】
JAK3結合モチーフは、配列番号38もしくは配列番号39として示されたアミノ酸モチーフ、またはJAK3と結合可能なその変異体を含んでもよい。
【0119】
前記変異体は、配列番号38もしくは配列番号39に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有してもよい。
【0120】
好ましい実施形態において、前記CARエンドドメインは、1個以上のJAK1結合ドメインと、少なくとも1個のJAK3結合ドメインとを含む。
【0121】
一部の実施形態において、キメラ受容体のエンドドメインは、DAP10および/またはDAP12とヘテロ二量体化する受容体の膜貫通ドメインまたはその一部を含んでもよい。したがって、一部の実施形態において、前記キメラ受容体の膜貫通ドメインは、NKG2D(CD314)もしくはTREM2由来の膜貫通ドメインまたはその部分であってもよい。
【0122】
NKG2D(CD314)はII型膜貫通タンパク質であるため、本発明のキメラ受容体においては反転の向きで、このタンパク質由来のドメイン(たとえば、膜貫通および/またはシグナリングドメイン)を提供する必要があるだろう。
【0123】
特定の実施形態において、本発明のキメラ受容体がDAP10および/またはDAP12でヘテロ二量体化したドメインまたは部分を含む場合、DAP10および/またはDAP12を介しての細胞へシグナリング(キメラ受容体がリガンドに結合したならば)が、前記細胞に発現しえた内因性DAP10および/またはDAP12を介して生じてもよく、または、前記細胞の中における外因性DAP10および/またはDAP12の発現を介して生じてもよいことは、当業者に理解されるであろう。特に、本発明のキメラ受容体がDAP12および/またはDAP10、またはその部分を含んでいないとしても、前記キメラ受容体がDAP12および/またはDAP10を介してシグナリングしうることが、理解されるであろう。したがって、前記ベクターは、DAP12/DAP10で、または、その部分もしくは変異体でヘテロ二量体化し、前記DAP12/DAP10が別個のポリペプチドとして存在または発現してもよい。外因性DAP12/DAP10が細胞内で発現する場合、前記DAP12/DAP10は本発明のキメラ受容体の同じベクターまたは異なるベクターから発現してもよい。したがって、下記に述べるように、本発明のベクターはDAP10および/またはDAP12、またはその機能的変異体(たとえば、野生型DAP10および/もしくはDAP12のシグナル機能の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%を有する変異体)をさらにコードしてもよい。
【0124】
外因性DAP10またはDAP12が本発明の単一のキメラ受容体ポリペプチドと組み合わせて細胞に導入されることは、多鎖キメラ受容体システムとしてみなされてもよい。特定の実施形態において、第一のポリペプチド鎖は、本明細書に記載のように細胞外ドメインと、膜貫通ドメイン(たとえばTREM2由来)と、場合によっては、少なくとも1つの共刺激ドメインおよび/または少なくとも1つの細胞内シグナリングドメインエンドドメインを含んでもよいエンドドメインとを含むように設けられてもよく、第二のポリペプチドを伴い、前記第二のポリペプチドは、DAP10またはDAP12(またはその一部)を含み、場合によってはさらに少なくとも1つの共刺激ドメインおよび/または少なくとも1つの細胞内シグナリングドメインを含んでもよい。共刺激および細胞内シグナリングドメインの多数の異なる組み合わせを、本実施形態において使用してもよい。たとえば、前記第二のポリペプチドは、DAP10もしくはDAP12の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むか、またはそれらからなってもよく、場合によっては、少なくとも1つの共刺激ドメイン(たとえばCD28)および/または少なくとも1つの細胞内シグナリングドメイン(たとえばCD3ゼータ由来)により修飾され、または、DAP10もしくはDAP12の膜貫通ドメインと、少なくとも1つの共刺激ドメイン(たとえばCD28)および/または少なくとも1つの異種細胞内シグナリングドメイン(たとえばCD3ゼータ由来)との組み合わせを含むか、またはそれらからなってもよい。前記第二のポリペプチドは、したがって、異なるタンパク質に由来するドメインを含むキメラポリペプチドであってもよい。
【0125】
しかしながら、下記組み合わせが特に好ましい。
1.共刺激ドメイン(たとえばCD28由来)を含むエンドドメインを含む第一のポリペプチドと、細胞内シグナリングドメイン(たとえばDAP10またはDAP12由来)を含むエンドドメインを含む第二のポリペプチド。
2.細胞内シグナリングドメイン(たとえばCD3ゼータ由来)を含むエンドドメインを含む第一のポリペプチドと、共刺激ドメイン(たとえばCD28由来)および細胞内シグナリングドメイン(たとえばDAP10またはDAP12由来)とを含むエンドドメインを含む第二のポリペプチド。
3.共刺激ドメイン(たとえばCD28由来)を含むエンドドメインを含む第一のポリペプチドと、CD3ゼータ由来の細胞内シグナリングドメインと細胞内シグナリングドメイン(たとえばDAP10またはDAP12由来)とを含むエンドドメインを含む第二のポリペプチド。
4.共刺激ドメインまたは細胞内シグナリングドメインを含むエンドドメインを含む第一のポリペプチドと、共刺激ドメイン(たとえばCD28由来)と、共刺激ドメインたとえばCD3ゼータ由来、および細胞内シグナリングドメイン(たとえばDAP10またはDAP12由来)とを含む第二のポリペプチド。
【0126】
本発明のキメラ受容体の好ましい実施形態において、前記共刺激ドメインは、ヒトCD28の細胞内ドメインであってもよく、またはヒトCD28の細胞内ドメインを含んでいてもよい。したがって、一部の実施形態において、前記共刺激ドメインは、配列番号31のアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するドメインを含む。
【0127】
エンドドメイン内にあるドメイン、たとえば前記細胞内シグナリングドメインと1つ以上共刺激シグナリングドメインとは、任意の順序で縦に(in tandem)膜貫通ドメインのカルボキシル末端に連結してもよい。前記ドメインは、膜貫通ドメインのカルボキシル末端に、直接的にまたは間接的に、たとえば本明細書中の他の箇所に記載のリンカーまたはヒンジドメインを介して、連結してもよい。
【0128】
本発明の好ましい実施形態において、前記キメラ受容体は、CD8α由来の任意のシグナルペプチドと;本明細書で定義されているように配列番号2の19~130位のアミノ酸残基(TREM2のリガンド結合ドメイン)またはその機能的変異体と;任意のヒンジ、膜貫通ドメイン、CD28由来の共刺激ドメインと;CD3ζ細胞内シグナリングドメインとを含む。
【0129】
したがって、一部の実施形態において、前記キメラ受容体は、配列番号32、33もしくは40~56のアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%(たとえば少なくとも95%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記キメラ受容体は、本明細書で定義された機能性特性を有し、特に、前記キメラ受容体は、TREM2リガンド、好ましくはApoEに特異的に結合する。前記キメラ受容体、すなわち前記キメラ受容体のエキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0130】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、前記キメラ受容体は、CD8α由来のシグナルペプチドと;配列番号2の19~130位のアミノ酸残基(TREM2のリガンド結合ドメイン)、任意のヒンジ、配列番号1の175~195位のアミノ酸残基(TREM2の膜貫通ドメイン)と;本明細書で定義されたようなCD3ζ細胞内シグナリングドメインまたはその機能的変異体と、を含む。前記キメラ受容体、すなわち前記キメラ受容体のエキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0131】
前記キメラ受容体は、配列番号40~61および69のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(たとえばこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性)を有する配列を含んでもよい。一実施形態において、前記キメラ受容体は、配列番号44、45、46もしくは48のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(たとえばこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性)を有する配列を含んでもよい。一実施形態において、前記キメラ受容体は、配列番号57、58、59、60もしくは61のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(たとえばこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性)を有する配列を含んでもよい。一実施形態において、前記キメラ受容体は、配列番号57、58、59もしくは60のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(たとえばこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性)を有する配列を含んでもよい。一実施形態において、前記キメラ受容体は、配列番号69のアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(たとえばこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性)を有する配列を含んでもよい。他の実施形態において、前記キメラ受容体は、配列番号40~56のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(たとえばこのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性)を有する配列を含んでもよい。前記キメラ受容体、すなわち前記キメラ受容体のエキソドメインは、シェダーゼによる切断に対して耐性があってもよい。
【0132】
当業者であれば、遺伝暗号の縮重の結果、本明細書に記載のキメラ受容体をコードし得るヌクレオチド配列が多数あるということを理解するであろう。
【0133】
それゆえ、さらに別の態様では、本発明は、本明細書で定義されたキメラ受容体をコードする核酸分子を提供する。
【0134】
本発明の核酸分子は、配列番号34もしくは配列番号35のヌクレオチド配列、または、このヌクレオチド配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0135】
前記核酸は、細胞により発現すると、コードされたポリペプチド(単数または複数)(すなわちキメラ受容体)を前記細胞の細胞表面で発現させる。
【0136】
前記核酸分子は、RNAでも、cDNAなどのDNAでもよい。
【0137】
前記核酸分子は、細胞内での発現のためのmRNAまたはDNAとして、細胞内に、特に免疫細胞内に導入されてもよい。核酸分子を細胞へ移入するために、または移入のための核酸を産生するために(たとえば、移入のためのmRNAを産生するために、または細胞への移入のための発現ベクターを用意するための核酸分子を産生するために)、ベクターを使用してもよい。
【0138】
したがって、さらに別の態様では、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0139】
一部の実施形態において、前記ベクターは、前記ポリペプチド(単数または複数)(すなわちキメラ受容体)を発現するように、細胞(たとえばTreg)に対して遺伝子導入または形質導入することができる。
【0140】
前記ベクターは、プラスミドなど非ウイルスベクターであってもよい。当該技術分野のなんらかの周知の方法を使用して、たとえばリン酸カルシウム、リポソーム、または細胞浸透ペプチド(たとえば両親媒性細胞浸透ペプチド)を使用して、プラスミドを細胞に導入してもよい。
【0141】
前記ベクターは、ウイルスベクター、たとえばレンチウイルスベクターやガンマレトロウイルスベクターなどのレトロウイルスベクターであってもよい。
【0142】
哺乳類の細胞での発現のために核酸を送達するのに適しているベクターは、当該技術分野において周知であり、かかるベクターのいずれをも使用してもよい。ベクターは、1つ以上の調節エレメント、たとえばプロモーターを含んでもよい。
【0143】
核酸分子を細胞に導入するためのベクターに依拠しない送達システムも、当該技術分野で利用可能であり、たとえば、トランスポゾン、CRISPR/TALENの送達、およびmRNAの送達に基づくシステムなどがある。本発明にしたがって、核酸分子を送達するために、いずれかのかかるシステムが使用されてもよい。
【0144】
一部の実施形態において、細胞内に2つ以上のポリペプチドを発現することは、有用であってもよく、または必要であってもよい。代表的な実施形態において、上述したように、本発明のキメラ受容体は、2つ以上のポリペプチド鎖を含んでもよく、たとえば、多鎖キメラ受容体の場合に、互いによってヘテロ二量体化する2つのポリペプチド鎖を含んでもよい。また、本発明のキメラ受容体は、別のタンパク質(たとえばアクセサリータンパク質)でヘテロ二量体化してもよい(すなわち、キメラ受容体が別のタンパク質(たとえばアクセサリータンパク質)でヘテロ二量体化できるように機能する1つ以上のドメインを含む)。前記他方のタンパク質(たとえばアクセサリータンパク質)が宿主細胞に存在してもよい一方で、一部の実施形態においては、たとえば前記細胞が前記タンパク質を内在的に産生しないか、または、産生するが低いレベルである場合、前記他方のタンパク質を発現するように前記細胞を修飾することが都合よいだろう。
【0145】
したがって、一部の実施形態において、DAP10またはDAP12タンパク質、好ましくはヒトのDAP10またはDAP12タンパク質をコードする核酸分子(たとえばベクター)を細胞に導入してもよい(たとえば遺伝子導入または形質導入してもよい)。上述したように、前記DAP10またはDAP12を、さらに他の細胞内シグナリングドメインおよび/または共刺激ドメインにさらに連結してもよく、および/または、DAP10/DAP12の部分(たとえば、膜貫通部分、および/または細胞内シグナリング部分)を含むように改変してもよい。
【0146】
したがって、一部の実施形態において、前記ベクターは、多鎖キメラ受容体の第一のポリペプチドをコードする核酸および第二のポリペプチドをコードする核酸を含むか、または、キメラ受容体をコードする核酸および別のポリペプチド(たとえばアクセサリータンパク質)をコードする核酸を含んでもよい。ベクターは、核酸分子を別々のものとして含んでもよく、または、単一のヌクレオチド配列として含んでもよい。それらが単一のヌクレオチド配列として存在する場合、前記2つのコードする部分の間に、下流の配列が翻訳されるように、1つ以上の配列内リボソーム進入部位(IRES)配列、または、その他の翻訳カップリング配列を含んでいてもよい。2A切断部位(たとえばT2A、F2A、またはP2A)などの切断部位は、核酸によってコードしてもよい。または、前記ベクターは、多鎖キメラ受容体の第一のポリペプチドをコードする核酸および第二のポリペプチドをコードする核酸、または、本発明のキメラ受容体をコードする核酸および別のタンパク質をコードする核酸は、別々のものとして、たとえば異なるベクター上で、細胞に導入されてもよい。
【0147】
本発明の一態様において、前記ベクターは、配列番号40~61のいずれか1つのアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性(たとえば少なくとも95%の配列同一性)を有するキメラ受容体をコードし、前記キメラ受容体は、本明細書で定義された機能性特性を有し、特に、前記キメラ受容体は、TREM2リガンドに、好ましくはApoEに特異的に結合する。
【0148】
その他のポリペプチドもさらに、本発明の核酸またはベクターでコードされてもよく、たとえば、活性化すると細胞溶解を誘導することができて安全切り替えの特徴を提供するポリペプチドでコードされてもよい。
【0149】
本発明はまた、本発明のキメラ受容体を発現する細胞を提供する。前記細胞は、細胞表面に、前記キメラ受容体とさらに別のポリペプチド(たとえばDAP10またはDAP12)を共発現してもよい。
【0150】
本発明はまた、本発明のキメラ受容体をコードする核酸分子またはベクターを含む細胞を提供する。
【0151】
前記細胞は、本明細書に記載のような核酸分子またはベクターが導入された細胞であってもよい。前記細胞は、前記発明に係るベクターで形質導入または遺伝子導入されていてもよい。
【0152】
前記細胞は、養子細胞療法に適していてもよい。
【0153】
前記細胞は、いかなる細胞でもよいが、特に免疫細胞またはその前駆体であってもよい。前駆体細胞(precursor cell)は、前駆細胞(progenitor cell)とも称されてもよく、本明細書において前記2つの用語は同義的に使用される。免疫細胞の前駆体は、たとえば誘導性PSC(iPSC)などの多能性幹細胞(pluripotent stem cell)、または多能幹細胞(multipotent stem cell)など分化の指向性がより高い前駆細胞(more committed progenitors)、またはある系統(lineage)へと分化するように方向付けられた細胞などがある。前駆体細胞は、インビボまたはインビトロで免疫細胞に分化するよう誘導できる。一態様において、前駆体細胞は、免疫細胞にトランス分化できる体細胞であってもよい。
【0154】
とりわけ、前記細胞は、免疫細胞であってもよく、たとえば、NK細胞、樹状細胞、NKT細胞、MDSC、好中球、マクロファージ、または、細胞障害性Tリンパ球(CTL、CD8+T細胞)、ヘルパーT細胞(HTL、CD4+T細胞)もしくは制御性T細胞(Treg細胞)などのT細胞等であってもよい。メモリーT細胞集団またはナイーブT細胞集団を使用してもよい。前記T細胞は既存の特異性を有していてもよい。たとえば、エプスタイン・バーウイルス(EBV)特異的T細胞であってもよい。または、前記T細胞は、たとえば外因性または異種性のTCRまたはキメラ受容体(たとえばCAR)を導入することにより、リダイレクトされた特異性を有していてもよい。
【0155】
好ましい実施形態において、前記免疫細胞はTreg細胞である。「制御性T細胞(Treg)またはT制御性細胞」は、細胞障害性免疫応答を制御する免疫抑制機能を有する免疫細胞であり、免疫寛容の維持に不可欠である。本明細書において、Tregという用語は、免疫抑制機能を有するT細胞のことである。
【0156】
好適には、免疫抑制機能とは、病原体、同種抗原、または自己抗原などの刺激に反応して免疫系によって促進される多数の生理的効果および細胞効果の1つ以上を低減または阻害するTregの能力を表してもよい。かかる効果の例には、従来のT細胞(Tconv)の増殖の強化、および炎症性サイトカインの分泌などがある。かかる効果はいずれも、免疫応答の強さの指標として使用してもよい。Tregの存在下でTconvによる免疫応答が相対的に弱くなることは、Tregの免疫応答を抑制する能力を示すといえる。たとえば、サイトカインの分泌が相対的に低下することは、免疫応答の弱まりを示し、したがって、Tregの免疫応答を抑制する能力を示すといえる。Tregはまた、B細胞、樹状細胞およびマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)上の共刺激分子の発現を調節することにより、免疫応答を抑制することもできる。CD80およびCD86の発現レベルは、活性化されたTregの共存培養後のインビトロでの抑制能を評価するために使用できる。
【0157】
免疫応答の強度の指標を測定し、それによってTregの抑制能を測定するためのアッセイが、当該技術分野で公知である。具体的には、抗原特異的なTconv細胞をTregと共培養し、対応する抗原のペプチドを前記共培養物に加えてTconv細胞からの応答を刺激してもよい。Tconv細胞の増殖の度合いおよび/または前記ペプチドの添加に応答してTconv細胞が分泌したサイトカインIL-2の量を、共培養したTregの抑制能の指標として使用してもよい。本明細書に記載のようにTregと共培養された抗原特異的なTconv細胞の増殖は、本明細書に記載のようなTregの非存在下で培養された同じTconv細胞の増殖と比較して、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、または99%少なくてもよい。
【0158】
Tregと共存培養された抗原特異的なTconv細胞は、Tregの非存在下で培養された対応するTconv細胞と比較して、エフェクターサイトカインの発現が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%少ないエフェクターサイトカイン少ない場合がある。エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、およびIL-13から選択されてもよい。
【0159】
好適には、エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、およびIFN-γから選択されてもよい。
【0160】
異なる特定のマーカーまたは異なるレベルの特定のマーカーを発現しうる、いくつかの異なるTregの亜集団が同定されている。一般的に、Tregは、CD4、CD25およびFOXP3というマーカーを発現するT細胞である(CD4+CD25+FOXP3+)。「FOXP3」は、フォークヘッドボックスP3タンパク質の略称である。FOXP3は、転写因子のFOXタンパク質ファミリーのメンバーであり、制御性T細胞の発生(development)および機能における調節経路の主要制御因子として機能する。
【0161】
Tregはまた、CTLA-4(細胞障害性Tリンパ球関連分子-4)またはGITR(グルココルチコイド誘導性TNF受容体)を発現しうる。
【0162】
Tregは、細胞表面マーカーCD4およびCD25を、表面タンパク質CD127の非存在下で、または低レベルで発現した表面タンパク質CD127との組み合わせを用いて(CD4+CD25+CD127-、またはCD4+CD25+CD127low)、同定してもよい。かかるマーカーをTregの同定のために使用することは、当該技術分野において公知であり、たとえばLiu et al.(JEM; 2006; 203; 7(10); 1701-1711)に記載されている。
【0163】
Tregは、CD4+CD25+FOXP3+T細胞、CD4+CD25+CD127-T細胞、またはCD4+CD25+FOXP3+CD127-/lowT細胞であってもよい。
【0164】
前記Tregは、脱メチル化されたTregに特異的な脱メチル化領域(TSDR)を有してもよい。TSDRは、Foxp3の発現を調節する、重要なメチル化感受性因子である(Polansky, J.K., et al.,2008. European journal of immunology, 38(6), pp.1654-1663)。
【0165】
Tregの異なる亜集団の存在が知られており、ナイーブTreg(CD45RA+FoxP3low)、エフェクター/メモリーTreg(CD45RA-FoxP3high)、およびサイトカイン産生Treg(CD45RA-FoxP3low)などがある。「メモリーTreg」は、CD45ROを発現しCD45RO+であると考えられるTregである。これらの細胞は、ナイーブTregと比較して、CD45ROのレベルを増加させ(たとえば、CD45ROが少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多い)、かつ、好ましくは、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、またはナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)のレベルが低い(ナイーブTregと比較して、たとえばCD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)。「サイトカイン産生Treg」は、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、またはナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)のレベルが低く(ナイーブTregと比較して、たとえばCD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)、かつ、メモリーTregと比較して、FOXP3のレベルが低く、たとえばメモリーTregと比較して、FOXP3が50%、60%、70%、80%、または90%少ない、Tregである。サイトカイン産生Tregは、インターフェロンガンマを産生してもよく、ナイーブTregと比較して、インビトロでの抑制力が低くてもよい(たとえば、ナイーブTregよりも、抑制力が50%、60%、70%、80%、または90%低くてもよい)。本明細書における発現レベルの参照については、mRNAまたはタンパク質の発現を参照してもよい。特に、CD45RA、CD25、CD4、CD45ROなどの細胞表面マーカーについて、発現は、細胞表面の発現を参照してもよく、すなわち、細胞表面に発現したマーカータンパク質の量または相対量を参照してもよい。発現レベルは、当該技術分野の公知の方法によって決定してもよい。たとえば、mRNA発現レベルは、ノーザンブロット/アレイ解析によって決定してもよく、タンパク質の発現は、ウエスタンブロットによって、または好ましくは細胞表面発現用の抗体染色を用いたFACSによって決定してもよい。
【0166】
特に、Tregはナイーブ細胞であってもよい。本明細書において同義に用いられる「ナイーブ制御性T細胞、ナイーブT制御性細胞、またはナイーブTreg」は、CD45RAを発現する(特に、細胞表面にCD45RAを発現する)Treg細胞のことをいう。したがって、ナイーブTregは、CD45RA+と記載される。ナイーブTregは、一般的に、ペプチド/MHCによってその内因性TCRを介して活性化されたTregを表し、エフェクター/メモリーTregは、刺激によってその内因性TCRを介して活性化されたTregに関する。典型的には、ナイーブTregは、ナイーブ以外のTreg(たとえばメモリーTreg細胞)よりも、CD45RAを少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多く発現してもよい。別の観点から見ると、ナイーブTreg細胞は、非ナイーブTreg(たとえばメモリーTreg細胞)と比較して、CD45RAを、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、または100倍の量で発現してもよい。CD45RAの発現レベルは、当該技術分野の方法、たとえば市販の抗体を用いたフローサイトメトリーによって、容易に決定できる。典型的には、非ナイーブTreg細胞は、CD45RAを発現しないか、またはCD45RAのレベルが低い。
【0167】
特に、ナイーブTregはCD45ROを発現しなくてもよく、CD45RO-であると考えられてもよい。したがって、ナイーブTreg細胞は、メモリーTregと比較して、CD45RAの発現が、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%少なくてもよく、また別の観点から見ると、メモリーTreg細胞と比較して、CD45RAの発現が、少なくとも2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1、50分の1、または100分の1の量であってもよい。
【0168】
ナイーブTregは、上述したようにCD25を発現するが、ナイーブTregの由来によっては、CD25の発現レベルは、メモリーTregでの発現レベルより低くてもよい。たとえば、末梢血から単離されたナイーブTregについては、CD25の発現レベルが、メモリーTregよりも、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低くてもよい。かかるナイーブTregは、中レベルないし低レベルのCD25を発現すると考えられてもよい。しかしながら、臍帯血から単離されたナイーブTregがこの差異を示さない場合があることは、当業者は理解するであろう。
【0169】
本明細書で定義されたナイーブTregは、典型的には、CD4+、CD25+、FOXP3+、CD127low、CD45RA+であってもよい。
【0170】
本明細書で使用されるような、CD127の低い発現とは、同じ対象またはドナーからのCD4+非制御性細胞またはTcon細胞と比較して、CD127の発現レベルが低いことをいう。特に、ナイーブTregは、同じ対象またはドナーからのCD4+非制御性細胞またはTcon細胞と比較して、D127の発現が90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、または10%未満であってもよい。CD127のレベルは、抗CD127抗体を用いて染色した細胞のフローサイトメトリーなど、当該技術分野における標準的な方法で評価することができる。
【0171】
典型的には、ナイーブTregは、CCR4、HLA-DR、CXCR3および/またはCCR6を発現しないか、または低いレベルで発現する。特に、ナイーブTregは、メモリーTregよりもさらに低いレベルで、CCR4、HLA-DR、CXCR3、およびCCR6を発現してもよく、たとえば発現レベルが少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低くてもよい。
【0172】
ナイーブTregは、CCR7+およびCD31+を含む、さらに他のマーカーを発現してもよい。
【0173】
単離されたナイーブTregは、当該技術分野において公知の方法で同定すればよく、たとえば、単離された細胞の細胞表面における、上記に述べられたマーカーのいずれか1つ以上の一団の有無を判断することによる方法などで同定してもよい。たとえば、細胞がナイーブTregかどうかを決定するために、CD45RA、CD4、CD25、およびCD127lowが使用できる。単離された細胞がナイーブTregであるか、または望ましい表現型を有しているか否か、を決定する方法は、本発明の一部として行ってもよい追加の工程に関連して、下記に述べるように、行うことができ、細胞マーカーの存在および/または発現レベルを決定する方法は、当該技術分野において周知であり、たとえば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーがある。
【0174】
一部の実施形態において、キメラ受容体をコードする前記核酸分子を、前記細胞、たとえば免疫細胞(たとえばTreg)に、ウイルスベクター、たとえばレトロウイルスベクターを用いて、移入する。このように、多数の抗原特異的細胞(たとえば免疫細胞)を、細胞の養子細胞移入のために生成できる。前記キメラ受容体が標的抗原(すなわちTREM2リガンド)と結合すると、その結果、キメラ受容体が発現する免疫細胞(たとえばTreg)に活性化シグナルが伝達される。このように、前記キメラ受容体は、前記細胞(たとえば免疫細胞)(たとえばTreg)の特異性を、標的抗原を発現する細胞へ向ける。それゆえ、本発明の核酸分子を含む細胞は、「操作された細胞」とみなしてもよい。
【0175】
本明細書における「操作された細胞」は、細胞によって自然にコードされないポリヌクレオチドを含むかまたは発現するように改変された細胞を意味する。細胞を操作する方法は、当該技術分野で公知であり、たとえば、細胞の遺伝子的改変(genetic modification)があり、それはたとえば、レトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入などの形質導入、リポフェクション法、ポリエチレングリコール法、リン酸カルシウム法およびエレクトロポレーション法を含む遺伝子導入(DNAまたはRNAの一過性形質転換など)によるものであるが、これらに限定されるわけではない。核酸分子を細胞に導入するために、いずれかの好適な方法が使用されればよい。本発明によれば、核酸分子を導入するために両親媒性細胞浸透ペプチドなどの非ウイルス性技術を使用してもよい。
【0176】
それゆえ、本発明の核酸分子は、対応する改変飾細胞により自然に発現されてはいない。好適には、操作された細胞は、改変された細胞であり、たとえば形質導入または遺伝子導入により改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、改変またはゲノム改変された細胞であり、たとえば形質導入または遺伝子導入によって、改変またはゲノム改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、レトロウイルス形質導入によって、改変またはゲノム改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、レンチウイルス形質導入によって、改変またはゲノム改変された細胞である。
【0177】
本明細書において、「導入された」という用語は、外来DNAまたはRNAを細胞に挿入するための方法のことである。本明細書において、「導入された」という用語は、形質導入法および遺伝子導入法の両方を含む。遺伝子導入は、非ウイルス法により核酸を細胞内に導入するプロセスである。形質導入は、ウイルスベクターを介して細胞に外来のDNAまたはRNAを導入するプロセスである。本発明に係る操作された細胞は、ウイルスベクターを用いた形質導入や、DNAまたはRNAを用いた遺伝子導入を含む多数の手段のうちのひとつによって、本明細書に記載のキメラ受容体をコードするDNAまたはRNAを導入することにより、生成されてもよい。細胞は、本明細書に記載のキメラ受容体をコードするポリヌクレオチドを導入する前または後に、活性化および/または増殖させてもよく、たとえば、抗CD3モノクローナル抗体または抗CD3モノクローナル抗体および抗CD28モノクローナル抗体の両方での処理により、活性化および/または増殖させてもよい。また、Tregは、抗CD3モノクローナル抗体および抗CD28モノクローナル抗体をIL-2と組み合わせた存在下で、増殖させてもよい。好適には、IL-2はIL-15と置換されてもよい。Treg増殖プロトコルで使用されてもよい別の成分としては、ラパマイシン、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、およびTGFβがあるが、これらに限定されるわけではない。本明細書において、「活性化される」とは、細胞が刺激されて、細胞の増殖が起こることを意味する。本明細書において、「増殖される」とは、細胞または細胞の集団の増殖が誘導されることを意味する。細胞の集団の増殖は、たとえば、集団に存在する細胞の数をカウントすることにより測定してもよい。細胞の表現型は、フローサイトメトリーなど当該技術分野で公知の方法によって判定してもよい。
【0178】
キメラ受容体が発現する前記細胞(たとえばTreg)は、患者、すなわち、治療される対象に由来してもよい。たとえば、前記細胞は、対象から取り出され、本発明に係るベクターでエクスビボで形質導入または遺伝子導入され、操作された細胞を得てもよい。または、前記細胞は、レシピエント対象に移入するためのドナー細胞であってもよく、または、細胞株、たとえばNK細胞株に由来してもよい。前記細胞はさらに、望ましい標的細胞型、たとえばT細胞、特にTregへ分化しうる多能性細胞(たとえばiPSC)であってもよい。
【0179】
ACTに適したT細胞集団としては、バルク末梢血単核球(PBMC)、CD8+細胞(たとえば、CD4枯渇PBMC);制御性T細胞(Treg)を選択的に枯渇したPBMC;単離セントラルメモリ(Tern)細胞;EBV特異的CTL;および三ウイルス特異的CTL(tri-virus-specific CTLs)、ならびに上述したようなTreg細胞製剤およびTreg細胞集団がある。
【0180】
本発明はまた、本発明に係る細胞(たとえば操作されたTreg細胞)を含む細胞集団を含む。前記細胞集団は、本発明に係るベクターによって形質導入されていてもよい。その細胞集団の細胞の一部は、細胞表面に、本発明に係るキメラ受容体を発現してもよい。その細胞集団の細胞の一部は、本発明に係るキメラ受容体を、さらに別のポリペプチド(たとえば、DAP10またはDAP12など)と共発現してもよい。前記細胞集団は、エクスビボにおける患者由来細胞集団であってもよい。細胞集団内の細胞すべてが、本発明のキメラ受容体を発現しなくてもよいことは、理解されるであろう。しかしながら、特定の実施形態において、細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%が前記キメラ受容体を発現する。
【0181】
遺伝的に改変された細胞(たとえば免疫細胞)(すなわち、操作された細胞)、たとえばT細胞などの養子移入は、抗腫瘍免疫応答などの望ましい免疫応答を生じさせるため、または不要な免疫応答を抑制または防止するための、魅力的な方法である。
【0182】
したがって、さらに別の態様では、本発明は、本発明の細胞または細胞集団(すなわち、本発明のキメラ受容体を発現する、操作されたTregなどの操作された細胞、または操作された細胞を含む細胞集団)を含む医薬組成物を提供する。
【0183】
医薬組成物は、治療上有効な量の医薬的に活性な薬剤、すなわち本発明の細胞もしくは細胞集団を含む、またはそれから成る、組成物である。好ましくは、医薬組成物は、医薬的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含む。治療目的の使用のために許容される担体または希釈剤は、薬学的技術分野で周知であり、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A. R. Gennaro編 1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路と標準的な薬務とを考慮して選択できる。前記医薬組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として、またはそれらに加えて、適した結合剤、滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、または可溶化剤を含んでいてもよい。
【0184】
「医薬的に許容される」とは、製剤が滅菌済であり、発熱物質を含まないという意味を含む。担体、希釈剤および/または賦形剤は、細胞(たとえばTreg)と親和性があり、レシピエントに対して有害ではないという意味において、「許容可能」でなければならない。典型的には、担体、希釈剤および/または賦形剤は、滅菌済であり、発熱物質を含まない生理的媒体または輸液媒体であるが、他の許容可能な担体、希釈剤および賦形剤を用いてもよい。
【0185】
医薬的に許容される担体の例としては、たとえば、水、塩類溶液、アルコール、シリコーン、蝋、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、珪酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、ペトロエスラル脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどがある。
【0186】
本発明に係る医薬組成物は、本明細書に記載の疾患を治療および/または予防するのに適した様式で投与されてもよい。投与量および投与頻度は、対象の状態ならびに対象の疾患の種類および重症度などの要因によって決定されるが、適切な投与量は、臨床治験によって決定されてもよい。前記医薬組成物は、それに従って処方されればよい。
【0187】
本発明の医薬組成物、または本発明のキメラ受容体、核酸、ベクター、細胞もしくは細胞集団は、非経口投与、たとえば静脈内投与でき、または輸液技術により投与してもよい。本明細書で使用される非経口投与とは、経腸投与や局所投与以外の投与形態、一般的には、注入を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、関節内、経気管、皮内、腹腔内、皮下、表皮下、嚢下、くも膜下、脊髄内ならびに胸骨内の、注射および点滴などがある。本発明の医薬組成物、または本発明のキメラ受容体、核酸、ベクター、細胞もしくは細胞集団は、髄腔内投与してもよい。前記医薬組成物は、血液と等張にするために、たとえば十分な塩類やグルコースなど、他の物質を含んだ滅菌済水溶液の形態で投与してもよい。前記水溶液は、好適に緩衝してもよい(好ましくはpH3~9)。前記医薬組成物は、それに従って処方されればよい。滅菌条件のもとでの好適な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な薬学的技術によって容易に成しえる。
【0188】
前記医薬組成物は、輸液媒体、たとえば滅菌済等張溶液中に、本発明の細胞を含んでいてもよい。前記医薬組成物は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器もしくは複数回投与バイアルに封入してもよい。
【0189】
前記医薬組成物は、単回または複数回で投与されてもよい。特に、前記医薬組成物は、単回の使い切りで投与されてもよい。前記医薬組成物は、それに従って処方されればよい。
【0190】
前記医薬組成物は、さらに、1つ以上の活性な薬剤を含んでもよい。
【0191】
前記医薬組成物はさらに、リンパ球枯渇剤(たとえば、サイモグロブリン、キャンパスー1H、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、シクロホスファミド、フルダラビン)、mTOR阻害剤(たとえば、シロリムス、エベロリムス)、共刺激経路を阻害する薬剤(たとえば、抗CD40/CD40L、CTAL4Ig)、および/または特異的なサイトカイン(IL-6、IL-17、TNFアルファ、IL18)などの、1つ以上の他の治療薬を含んでいてもよい。
【0192】
治療する疾患や対象、投与経路によって、前記医薬組成物が様々な投与量(たとえば、細胞数/kgまたは細胞数/対象で測定)で投与されてもよい。いずれにしても、医師が個体対象にとって最も適した実際の投与量を判定するものであり、それはその対象の年齢、体重、および反応に応じて変わるであろう。しかしながら典型的には、本発明の細胞(たとえばTreg)については、投与量として対象一人当たり5x107~3x109個の細胞、または108~2x109個の細胞が投与されてもよい。
【0193】
前記細胞は、医薬組成物に使用するために適切に改変されてもよい。たとえば、細胞(たとえばTreg)は、対象に注入される前に、凍結保存されて適切な時間に解凍されてもよい。
【0194】
本発明は、さらに本発明の核酸、ベクター、細胞、および/または医薬組成物を含むキットの使用を含みうる。好ましくは、当該キットは、本明細書に記載の前記方法および使用、たとえば、本明細書に記載の治療方法に用いられるためのものである。好ましくは、当該キットは、キットの構成部分の使用についての指示書を含む。
【0195】
本発明は、本発明にかかる細胞、細胞集団または医薬組成物を対象に投与する工程を含む、前記対象における疾患もしくは病状を治療および/または予防する方法を提供する。前記方法は、対象へ細胞の集団を投与する工程を含んでもよい。
前記方法は、以下の工程を含んでもよい。
(i)血液試料などの細胞試料を患者から採取すること、
(ii)免疫細胞、たとえばT細胞を抽出すること、
(iii)本発明のキメラ受容体をコードする本発明のベクターまたは核酸を、前記細胞に導入すること(たとえば前記細胞を形質導入または遺伝子導入すること)、
(iv)前記核酸またはベクターを含む前記細胞(すなわち、前記改変または操作された細胞)をエクスビボで増殖すること、
(v)前記対象に、前記細胞を戻すこと。
【0196】
一部の実施形態において、工程(i)および(ii)は、細胞含有試料(たとえばTreg試料)、特に対象から得られた細胞含有試料を提供するとみなされてもよい。
【0197】
前記改変された(すなわち操作された)細胞は、免疫抑制活性、または標的細胞を特異的に標的化し致死させる、などの望ましい治療特性を有していてもよい。前記細胞が治療される対象の同種またはそれ自身のものであることは、当業者に理解されるであろう。
【0198】
したがって、本発明は、さらに別の態様では、治療法における使用のための、本明細書で定義された細胞、細胞集団、または医薬組成物を提供する。
【0199】
本発明の細胞、細胞集団および医薬組成物は、ApoEなどのTREM2リガンドを発現または放出する細胞に関連する障害、TREM2リガンドが疾患の部位に位置するかまたはその部位の近くに位置するような障害、特に、本発明の細胞の免疫抑制活性または標的致死活性から恩恵を受けるような障害の治療に特に有用性があってもよい。一部の実施形態において、前記障害は、炎症性障害、アレルギー性障害、または自己免疫性障害(たとえばI型糖尿病)、特に神経障害または肝疾患である。炎症性障害は、不必要な炎症に関連した病状や、炎症の増大に関連した病状である。炎症性障害は、炎症性腸疾患などの病状を含む。自己免疫疾患またはアレルギー疾患は、乾癬や皮膚炎(たとえば、アトピー性皮膚炎)を含む炎症性皮膚病;炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)に関連した反応;皮膚炎;食物アレルギー、湿疹および喘息などのアレルギー症状;慢性関節リュウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE)(ループス腎炎、皮膚ループスを含む);真性糖尿病(たとえば、I型真性糖尿病またはインスリン依存性糖尿病);多発性硬化症および若年型糖尿病から選択されうる。
【0200】
「標的細胞」という用語は、本発明の細胞がその治療効果を発揮するために標的とする、TREM2リガンドを発現する細胞のことをいう。一部の実施形態において、前記標的細胞は、疾患の部位のマーカーとして機能する、すなわち、免疫抑制効果を提供する本発明の細胞を引き寄せる。一部の実施形態において、前記標的細胞は、本発明の細胞によって致死させられる、または抑止される。前述のように、一部の実施形態において、前記標的細胞はミクログリア細胞であろう。一部の実施形態において、前記標的細胞は、肝臓の細胞(たとえば肝細胞)である。TREM2リガンドはまた、細胞から分泌されてもよく、したがって本発明の細胞は、細胞内または細胞上に存在しない分泌されたタンパク質を対象としてもよいことは、当業者に理解されるであろう。
【0201】
一部の実施形態において、治療される前記疾患または障害は、神経性疾患または障害/病状である。一部の実施形態において、前記神経性疾患または障害は、炎症と関連している。したがって、一部の実施形態において、本発明は、神経炎症もしくは関連した疾患または障害を治療、または予防(たとえばそのリスクを低減)することにおいて有用性があってもよい。前記神経炎症は、慢性または急性であってもよく、好ましくは慢性である。前記神経炎症は、中枢神経系または末梢神経系の神経炎症であってもよく、好ましくは中枢神経系であってもよい。
【0202】
したがって、さらに別の態様では、本発明は、神経性の疾患、障害もしくは損傷、または肝臓の疾患を予防する、リスク低減する、または治療する方法を提供し、前記方法は、本明細書に記載の細胞、細胞集団、または医薬組成物の治療上有効な量を、それを必要とする個体に投与する工程を含む。
【0203】
別の観点から見ると、本発明は、本明細書で定義された細胞、細胞集団、または医薬組成物であって、それを必要とする個体における神経性の疾患、障害もしくは損傷、または肝臓の疾患の予防、リスク低減、または治療に使用するための、細胞、細胞集団、または医薬組成物を提供する。
【0204】
さらに他の態様において、本発明は、本発明の細胞または細胞集団の使用であって、それを必要とする個体における神経性の疾患、障害もしくは損傷、または肝臓の疾患を予防する、リスク低減する、または治療するための薬品の製造における、前記細胞または細胞集団の使用を提供する。
【0205】
一部の実施形態において、前記神経性疾患、障害、または損傷は、特に炎症と関連している神経変性疾患または病状である。したがって、一部の実施形態において、前記神経性疾患、障害、または損傷は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、混合型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、ハンチントン病、タウオパチー病、那須・ハコラ病、中枢神経系ループス、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(シャイ・ドレーガー症候群)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核神経節変性症、急性散在性脳脊髄炎、発作、脊髄損傷、外傷性脳損傷(たとえば虚血性脳損傷および外傷性脳損傷)、うつ病、自閉症スペクトラム障害、および多発性硬化症から選択される。一部の実施形態において、前記神経性疾患、障害、または損傷は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、虚血性脳損傷、外傷性脳損傷、うつ病、および自閉症スペクトラム障害である。
【0206】
一実施形態において、前記神経性疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。
【0207】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(運動ニューロン疾患または、ルー・ゲーリック病としても知られる)は、急速進行性の衰弱、筋萎縮および線維束性収縮、筋肉痙縮、発話困難(構音障害)、嚥下困難(嚥下障害)、および呼吸困難(呼吸窮迫)を特徴とする、様々な病因を有する衰弱性疾患のことをいう。
【0208】
TREM2リガンドの発現、たとえばApoE、細胞デブリ、および死んだ細胞または死にかけている細胞の発現は、ALS患者の中枢神経系(CNS)で増加する。その上、制御性表現型の内因性T細胞が、ALSのSOD1マウスモデル中では、CNSに向かう。理論に束縛されるものではないが、本発明の実施例で示されたデータに基づいて、本発明者らは、本明細書に記載のキメラ受容体を発現するTreg(すなわち、TREM2リガンド結合ドメインを有する)が、ALSに関連する疾患部位へ向かい、そこで活性化され、それによりその部位で前記Tregの治療効果、たとえば組織修復および再生の促進、炎症の低減などを発揮する、仮説を立てている。したがって、特定の実施形態において、本発明は、ALSの治療に使用するための、本明細書に記載のキメラ受容体を発現する制御性T細胞(Treg)(すなわちTREM2リガンド結合ドメインを有する)を提供する。別の観点から見ると、本発明は、ALSを予防する、リスク低減する、または治療する方法であって、本明細書に記載のキメラ受容体を発現するTregの治療上有効な量を、それを必要とする個体に投与することを含む方法を提供する。
【0209】
認知症は、以前は障害のなかったヒトにおける、正常な加齢から予測され得る低下を越える全認知能の重篤な低下として現れる非特異的症候群(すなわち、一連の徴候および症状)である。認知症は、独特な全脳損傷の結果として、変化がほとんどない(static)ことがある。あるいは、認知症は、進行性であり得、身体の損傷または疾患による長期衰退をもたらしうる。認知症は、老人個体群においてはるかに一般的であるが、65歳未満でも起こり得る。認知症により影響を受ける認知領域には、限定ではないが、記憶、注意持続時間、言語、および問題解決が含まれる。一般に、症状は、個体が認知症と診断される前までに少なくとも6カ月間にわたって存在する必要がある。
【0210】
認知症の例示的な形態には、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、混合型認知症、語義認知症、およびレビー小体型認知症が含まれる。
【0211】
前頭側頭型認知症(FTD)は、脳の前頭葉の進行性の劣化から生じる状態である。経時的に、その変性は、側頭葉まで進行し得る。有病率においてアルツハイマー病(AD)に次いで第2位で、FTDは、初老期認知症症例の20%を占める。FTDの臨床的特徴には、記憶欠損、挙動異常、人格変化、および言語障害が含まれる。
【0212】
FTD症例のかなりの割合が、常染色体優性様式で遺伝性であるが、1家族においても、症状は、挙動障害を伴うFTDから、原発性進行性失語症、皮質基底核神経節変性(Cortico-Basal Ganglionic Degeneration)まで多岐にわたり得る。FTDは、多くの神経変性疾患と同様に、罹患した脳における特異的なタンパク質凝集の病的存在(たとえば、神経原線維濃縮体またはピック体内の、超リン酸化タウタンパク質のニューロン内蓄積)によって特徴づけられ得る。
【0213】
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も一般的な形態である。この疾患に治癒はなく、進行するにつれて悪化し、最終的に死に至る。最も多くの場合に、ADは、65歳超のヒトにおいて診断される。しかしながら、有病率の低い早発型アルツハイマー病は、かなり早期に起こり得る。
【0214】
アルツハイマー病に共通する症状には、行動症状、たとえば、最近の事象を記憶することの困難、認知症状、錯乱、過敏性および攻撃性、気分変動、言語障害、ならびに長期記憶の低下が含まれる。疾患が進行するにつれて、身体機能が低下し、最終的に死に至る。アルツハイマー病は、完全に顕れるまでに、分からないままかなりの時間量にわたって進展し、診断されずに数年間にわたって進行し得る。
【0215】
那須・ハコラ病(NHD)は、硬化性白質脳症を伴う多発嚢胞性脂肪膜性骨異型性(PLOSL)と呼ばれることもあり、稀にしか遺伝しない白質ジストロフィーであり、下肢および上肢の多嚢胞性骨様病変のために、再発性骨折を伴う進行性の初老期認知症である。NHD疾患経過は、一般に、4つのステージ、すなわち、潜在期、骨期、前期神経期、および後期神経期にわけられる。小児期(潜在期)の間の正常な発達後、NHDは、若年成人期の間に(通常の発症年齢20~30歳)手、手首、足首および足の疼痛を伴って現れ始める。次いで、患者は、肢の骨における多嚢胞性骨様および骨粗鬆症性病変による再発性骨折に苦しみ始める(骨期)。20代又は30代の間に(前期神経期)、患者は、前頭葉症候群に特有の明白な人格変化を示す(たとえば、多幸感、集中の欠如、判断の喪失および社会的抑制)。患者は、典型的には、進行性の記憶撹乱にも苦しむ。てんかん性発作も頻繁に観察される。最後に(後期神経期)、患者は、重度の認知症に進行し、話すことも、動くこともできず、通常、50歳までに死亡する。
【0216】
パーキンソン病は、特発性または原発性パーキンソン症候群、低運動性硬直症候群(HRS)、または振戦麻痺と称されることもあり、運動系制御に影響を及ぼす神経変性脳障害である。脳におけるドーパミン産生細胞の進行死が、パーキンソン病の主な症状をもたらしている。最も多くの場合に、パーキンソン病は、50歳超の人において診断される。パーキンソン病は、多くのヒトにおいて特発性(既知の原因を有さない)である。しかしながら、遺伝的因子も、この疾患において役割を果たす。
【0217】
パーキンソン病の症状には、限定ではないが、手、腕、足、顎、および顔の振戦、四肢および体躯の筋硬直、運動の緩慢さ(運動緩慢)、姿勢動揺、歩行困難、神経精神病学的異常、発話または行動の変化、うつ病、不安、疼痛、精神病、認知症、幻覚、ならびに睡眠障害が含まれる。
【0218】
ハンチントン病(HD)は、ハンチンチン遺伝子(HTT)における常染色体優性変異に起因する遺伝性神経変性疾患である。ハンチンチン遺伝子内のサイトカインーアデニンーグアニン(CAG)トリプレット反復の伸長が、その遺伝子によりコードされるハンチンチンタンパク質(Htt)の変異体型の産生をもたらす。この変異ハンチンチンタンパク質(mHtt)は、毒性であり、ニューロン死に寄与する。ハンチントン病の症状は最も一般的には、35歳から44歳の間に現れるが、いずれの年齢でも現れ得る。
【0219】
ハンチントン病の症状には、限定ではないが、運動制御の異常、律動性でランダムな運動(舞踏病)、異常な眼運動、平衡障害、発作、咀嚼困難、嚥下困難、認知の異常、発話の変化、記憶欠損、思考困難、不眠症、倦怠、認知症、人格の変化、うつ病、不安、および強迫行動が含まれる。
【0220】
タウオパチー病、またはタウオパシーは、脳内での微小管関連タンパク質であるタウの凝縮に起因する一群の神経変性疾患である。アルツハイマー病(AD)は、最も周知のタウオパチー病であり、不溶性神経原線維濃縮体(NFT)の形態でのニューロン内でのタウタンパク質の蓄積に関係する。他のタウオパチー病および障害には、進行性核上性麻痺、ボクサー認知症(慢性外傷性脳外傷)、染色体17に関連付けられる前頭側頭型認知症およびパーキンソン症候群、リティコ-ボディグ病(Lytico-Bodig disease)(グアムのパーキンソン-認知症複合疾患)、神経原線維優位型認知症(Tangle-predominant dementia)、神経節膠腫および神経節細胞腫、髄膜血管腫症(Meningioangiomatosis)、亜急性硬化性全脳炎(Subacute sclerosing panencephalitis)、鉛脳障害、結節性硬化症、ハレルフォルデン-スパッツ病(Hallervorden-Spatz disease)、およびリポフスチン沈着症(lipofuscinosis)、ピック病、大脳皮質基底核神経節変性症、嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain disease、AGD)、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、ならびに前頭側頭型大葉変性が含まれる。
【0221】
多発性硬化症(MS)は、播種性硬化症または播種性脳脊髄炎とも称され得る。MSは、脳および脊髄の軸索周囲の脂肪ミエリン鞘が損傷を受け、脱髄および瘢痕化、さらには、広域な徴候および症状をもたらす炎症性疾患である。MSは、相互に効果的に伝達する脳および脊髄における神経細胞の能力に影響を及ぼす。神経細胞は、活動電位と呼ばれる電気シグナルを、ミエリンと呼ばれる絶縁物質内に含有される軸索と呼ばれる長線維へと送ることにより伝達する。MSでは、身体の自己免疫系がミエリンを攻撃し、それに損傷を与える。ミエリンが失われると、軸索は、シグナルをもはや効果的に伝導することができない。MSの発症は通常、若年成人で起こり、女性においてより一般的である。
【0222】
MSの症状には、次のようなものがある:感覚の変化、たとえば、感受性の喪失または刺痛;刺されている感覚(pricking)または無感覚、たとえば、感覚減退および感覚異常;筋肉衰弱;クローヌス;筋肉痙攣;移動困難;協調および平衡の困難、たとえば、運動失調;たとえば構音障害など発話の異常、または嚥下障害など嚥下の異常;視覚異常、たとえば、眼振、眼内閃光を含む視神経炎、および複視;倦怠;急性または慢性疼痛;ならびに膀胱および腸の困難;様々な程度の認知障害;うつ病または不安定な気分の情動的症状;ウートホフ現象(通常よりも高い周囲温度への曝露による、現存症状の増悪);ならびにレールミット徴候(頸部を曲げたときに背部に流れ下る電気感覚)。
【0223】
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、孤発性、医原性、および家族性の形態を有するプリオン病である。CJDは、海綿状変性(たとえば、脳に微小な空洞が生じること、一般的には灰白質おいて顕著)、神経細胞の消失、神経細胞消失にたいして不釣り合いな星状細胞の増殖、および異常なアミロイド形成タンパク質の蓄積を特徴とし、これら特徴を、脳の別々のプラークに有することがある。プリオン、これら疾患を感染させる感染病原体は、核酸成分についての化学的または物理的根拠が感染性物質において再現性よく検出されていないという点で、ウイルスやウイロイドとは明らかに異なる。
【0224】
中枢神経系(CNS)ループスは、全身性エリテマトーデス(SLE)の神経における症状であり、多重全身性自己免疫結合組織障害である。CNSループスは、頭痛、混乱、倦怠、うつ病、発作、脳卒中、視力異常、気分変動、集中困難を含む神経症状を伴う深刻な病である。
【0225】
シャイ・ドレーガー症候群としても知られる多系統萎縮症(MSA)は、自律神経系と運動との両方に影響する症状を特徴とする進行性神経変性障害である。症状は、脳および脊髄における異なるタイプの神経細胞の進行性の機能喪失および死滅の結果であり、失神の発作、心拍の異常、および膀胱のコントロールなどがある。運動障害には、振戦、硬直、筋協調の喪失、および発話ならびに歩行の困難がある。MSAには、歴史的にシャイ・ドレーガー症候群と称されてきた障害、オリーブ橋小脳萎縮症、および線条体黒質変性症がある。MSAの際立った特徴は、脳の神経細胞を支える細胞であるグリア中にタンパク質アルファシヌクレインが蓄積することである。
【0226】
進行性核上性麻痺(PSP)は、脳の神経細胞に対する損傷の結果、まれに起こる脳障害である。PSPは、運動、歩行制御、バランス、発話、嚥下、視力、気分、挙動、思考、および眼球運動の制御に影響する。PSPの前記症状は、脳の中の2~3の特定の領域、主に脳幹と呼ばれる領域にある脳細胞がゆるやかに劣化することにより起こる。PSPは、脳の中の神経細胞にタンパク質タウが異常に沈積することを特徴とする。
【0227】
大脳皮質基底核神経節変性症(CBGD)は、大脳皮質および基底核が関与する珍しい進行性神経変性疾患である。CBGDの症状には、運動と認識の機能障害、パーキンソン症、エイリアンハンド症候群、および精神障害がある。CBGD病理は、脳内に星状細胞異常が存在すること、およびタンパク質タウの不適切な蓄積を特徴とする。
【0228】
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)または急性脱髄性脳脊髄炎は、脳および脊髄の広範囲の炎症を特徴とする、珍しい自己免疫疾患である。ADEMはまた、CNSの神経上のミエリン絶縁体に損傷を与え、白質を破壊する。ADEMは、大脳半球、小脳、脳幹、および脊髄の皮質下白質、中枢白質、皮質灰白質-白質接合部、脳幹、および脊髄における多数の炎症性病変を特徴とする。
【0229】
神経損傷は、脳卒中、急性精神的外傷、慢性精神的外傷、発作、脊髄損傷、外傷性脳損傷(TBI)、アルコール乱用、またはビタミンB欠乏の結果生じうる。神経損傷は、神経認知欠損、妄想、発話または運動の異常、知的障害、睡眠障害、精神的疲労、人格変化、昏睡、遷延性植物状態などの欠陥や障害を起こしうる。
【0230】
肝臓の疾患または肝疾患とは、一般的に肝臓の損傷または疾患のことをいう。一部の実施形態において、肝臓の疾患は、炎症性肝疾患である。一部の実施形態において、肝臓の疾患は、慢性肝疾患である。
【0231】
一部の実施形態において、肝疾患は、肝蛭症、肝炎(たとえばウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、または自己免疫性肝炎)、アルコール性肝疾患、脂肪性肝疾患(脂肪肝、および脂肪性肝炎)、ヘモクロマトーシス、ジルベール症候群、硬変、原発性胆汁性硬変、および原発性硬化性胆管炎から選択される。
【0232】
TREM2は、線維症(たとえば腎線維症)やアテローム性動脈硬化プラークなどの様々な疾患および/または疾患部位と関連するマクロファージに発現する。したがって、一部の実施形態において、治療される前記疾患または障害は、TREM2を発現するマクロファージに関連する疾患または障害/病状である。
【0233】
線維症は、結合組織が正常な実質組織と置き換わって、組織再構築および瘢痕組織の形成が起こった病状のことをいう。したがって、線維症は、線維性瘢痕としても知られている。線維症は、繰り返した損傷および/または慢性炎症の結果、生じてもよい。
【0234】
線維症は、腎臓、肺、肝臓、脳、腸、および心臓など、様々な組織および臓器に生じうる。一部の特定の実施形態において、本発明は、腎臓の線維症の治療、すなわち、腎線維症、たとえば尿細管間質性腎線維症の治療に有用である。
【0235】
「アテローム性動脈硬化」は、プラークが蓄積して動脈の内部が狭くなり、どの動脈が影響を受けるかに応じて、冠動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患、または腎臓の異常が生じる。
【0236】
したがって、さらに別の態様では、本発明は、線維症(たとえば腎線維症)またはアテローム性動脈硬化を予防する、リスク低減する、または治療する方法を提供し、前記方法は、本明細書に記載の細胞、細胞集団、または医薬組成物の治療上有効な量を、それを必要とする個体に投与する工程を含む。
【0237】
別の観点から見ると、本発明は、本明細書で定義された細胞、細胞集団、または医薬組成物であって、それを必要とする個体における線維症(たとえば腎線維症)またはアテローム性動脈硬化の予防、リスク低減、または治療に使用するための、細胞、細胞集団、または医薬組成物を提供する。
【0238】
さらに他の態様において、本発明は、本発明の細胞または細胞集団の使用であって、それを必要とする個体における線維症(たとえば腎線維症)またはアテローム性動脈硬化を予防する、リスク低減する、または治療するための薬品の製造における、前記細胞または細胞集団の使用を提供する。
【0239】
本明細書において、「予防する」という用語は、個体における特定の疾患、障害、または病状の発生または再発に対して予防を提供することを含む。個体は、特定の疾患、障害、または病状に対して罹りやすくてもよく、感染しやすくてもよく、またはそのような疾患、障害、または病状になるリスクがあってもよいが、前記疾患、障害、または病状であるとはまだ診断されていない。
【0240】
本明細書において、特定の疾患、障害、または病状になる「リスクがある」個体は、本明細書に記載の治療方法の以前に、検出可能な疾患、または疾患の症状があってもよいし無くてもよく、検出可能な疾患、または疾患の症状を呈していても呈していなくてもよい。「リスクがある」とは、個体が1つ以上のリスク要因を有していることを示し、前記リスク要因は、当該技術分野で周知のように、特定の疾患、障害、または病状になることと相関する測定可能なパラメータである。これらのリスク要因の1つ以上を有する個体は、これらのリスク要因の1つ以上を有さない個体よりも、特定の疾患、障害、または病状になる確率が高い。
【0241】
本明細書において、「治療」という用語は、治療されている個体の自然経過を、臨床病理において変更することを企図した臨床的介入のことをいう。治療の望ましい効果としては、進行速度の低下、病理的状態の改善または軽減、特定の疾患、障害、または病状の寛解または改善された予後、などがある。たとえば、特定の疾患、障害、または病状に関連した1つ以上の症状が軽減されるかまたは解消されれば、個体の「治療」が成功したことになる。
【0242】
「有効量」とは、治療または予防の望ましい結果を得るために、必要な用量および期間で、少なくとも有効な量のことをいう。有効量は、1回以上の投与で提供できる。
【0243】
「治療上有効な量」は、特定の疾患、障害、または病状の測定可能な改善に影響するために必要な少なくとも最小の濃度である。本明細書における治療上有効な量は、疾患の状態、年齢、性別、患者の体重、個体においてキメラ受容体が望ましい応答を誘導する能力などの要因に応じて異なってもよい。治療上有効な量とは、細胞、細胞集団、または医薬組成物の毒性または有害な効果がもしあれば、治療的に有益な効果がそれを上回るような量でもある。
【0244】
「対象」、「患者」、および「個体」という用語は、本明細書において同義に使用され、哺乳動物、好ましくはヒトのことをいう。特に、対象、患者、および個体という用語は、本明細書で定義された、治療を必要とする疾患や障害を有するヒトのことをいう。
【0245】
本発明のいくつかの実施形態において、患者は、本発明の治療の前に、それと同時に、またはその後、別の治療を受けてもよい。たとえば、一部の実施形態において、患者は、前記疾患または障害と関連する症状の治療のための他の処置で治療を受けてもよい。
【0246】
一部の実施形態において、本発明の細胞、細胞集団、または医薬組成物を、前記疾患または障害またはその他基礎疾患と関連する症状の治療のための治療薬と組み合わせて、投与してもよい。
【0247】
したがって、一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、1つ以上の追加の治療薬を含んでもよく、または1つ以上の追加の治療薬と共に投与されてもよい。
【0248】
一部の実施形態において、前記医薬組成物は、神経性疾患もしくは肝疾患の治療において有用なさらに別の治療薬を含むか、またはそれとともに投与されてもよい。
【0249】
前記その他の治療薬は、本発明の細胞または細胞集団および前記その他の治療薬を、混合物という形態ですでに含む、同一の組成物の一部であってもよく、前記細胞または細胞集団および前記その他の治療薬は、同一の医薬的に許容される溶媒および/または担体中で、またはそれとともに、混合されていてもよい。または、前記その他の治療薬は、別々の組成物の一部として別々に用意されてもよく、当該別の組成物は、別に提供されてもよいし、それらをまとめたキットの形態で一緒に提供されてもよい。
【0250】
したがって、本発明の細胞、細胞集団、または医薬組成物を、前記その他の治療薬を伴って、それらを別々に、同時にもしくは逐次的に投与してもよい。たとえば、本発明の細胞、細胞集団、または医薬組成物を、第一の追加の治療薬と同時に投与してもよく、または当該第一の追加の治療薬の投与の後に続いて、またはその前に、投与してもよい。治療レジメンまたはスケジュールが2つ以上の追加の治療薬を使用する場合、前記複数の薬剤は、部分的に同時に投与してもよいし、部分的に色々な組み合わせで逐次的に投与してもよい。
【0251】
したがって、一部の実施形態において、本発明は、本明細書で定義された疾患もしくは障害の治療または予防に使用するための、別々の、同時の、または逐次の投与のための別の治療薬と組み合わせた製品として、本発明の細胞、細胞集団、または医薬組成物を提供する。
【0252】
別の観点から見ると、本発明の方法は、別の治療薬を前記対象に投与する工程をさらに含み、前記治療薬は、本発明の細胞、細胞集団もしくは医薬組成物とは別々に、同時に、または逐次的に投与される。
【0253】
本発明の細胞、細胞集団、または医薬組成物と組み合わせて使用される治療薬は、上記に定義されたように医薬組成物として提供されてもよく、また、上記に定義されたように投与されてもよい。したがって、追加の治療薬を含む組成物は、かかる製剤に適した医薬的に許容される賦形剤、溶媒、および希釈剤を含んでもよい。
【0254】
当業者であれば、いかなる追加の治療薬であってもその適切な用量の範囲は、わかるであろう。好ましい実施形態において、前記追加の治療薬は、その典型的な容量の範囲で、医薬組成物中に存在し、または対象に投与される。
【0255】
本発明を図および実施例によりさらに説明するが、これは本発明を実施する際に当業者を支援するためのものであり、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0256】
図1図1は、本発明の単鎖キメラ受容体の概略を示し、前記単鎖キメラ受容体は、CD28またはCD8アルファ由来のストークおよび膜貫通ドメインTMと、CD28由来の共刺激ドメインと、CD3ゼータ由来の細胞内シグナリングドメインとともに、野生型配列またはT96K変異体を有するTREM2に由来するリガンド結合ドメインを含む。
図2図2は、本発明の多鎖キメラ受容体の概略を示し、前記多鎖キメラ受容体は、野生型配列またはT96K変異体を有するTREM2に由来するリガンド結合ドメインを含む。第一の例は、CD3ゼータ細胞内シグナリングドメインを含む第一のポリペプチドと、DAP10を含む第二のポリペプチドとを含む。第二の例は、CD3ゼータ細胞内シグナリングドメインを含む第一のポリペプチドと、DAP10およびCD28共刺激ドメインを含む第二のポリペプチドとを示す。第三の例は、細胞内シグナリング配列も共刺激ドメインも含まない第一のポリペプチドと、DAP10およびCD3ゼータの細胞内シグナリングドメインを含む第二のポリペプチドとを示す。
図3図3は、本発明の多鎖キメラ受容体の概略を示し、前記多鎖キメラ受容体は、野生型配列またはT96K変異体を有するTREM2に由来するリガンド結合ドメインを含む。第一の例は、CD28共刺激ドメインを含む第一のポリペプチドと、DAP12を含む第二のポリペプチドとを含む。第二の例は、CD28共刺激ドメインを含む第一のポリペプチドと、DAP12およびCD3ゼータ細胞内シグナリングドメインを含む第二のポリペプチドとを示す。第三の例は、細胞内シグナリング配列も共刺激ドメインも含まない第一のポリペプチドと、DAP12およびCD28共刺激ドメインを含む第二のポリペプチドとを示す。
図4図4は、本発明の多鎖キメラ受容体の概略を示し、前記多鎖キメラ受容体は、野生型配列またはT96K変異体を有するTREM2に由来するリガンド結合ドメインを含む。第一の例は、CD28共刺激ドメインを含む第一のポリペプチドと、DAP12を含む第二のポリペプチドとを含む。第二の例は、CD3ゼータ細胞内シグナリングドメインを含む第一のポリペプチドと、切断(truncated)DAP12(膜貫通のみ)およびCD28共刺激ドメインを含む第二のポリペプチドとを示す。第三の例は、細胞内シグナリング配列も共刺激ドメインも含まない第一のポリペプチドと、切断(truncated)DAP12(膜貫通のみ)、CD28共刺激ドメインおよびCD3ゼータ細胞内シグナリングドメインを含む第二のポリペプチドとを示す。第四の例は、細胞内シグナリング配列も共刺激ドメインも含まない第一のポリペプチドと、切断(truncated)DAP12(膜貫通のみ)、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ゼータ細胞内シグナリングドメインを含む第二のポリペプチドであって、1つのITAM配列が欠失している、第二のポリペプチドとを示す。
図5図5は、様々なプロテアーゼのTregにおける発現を示す。ADAM10およびADAM17が発現する一方、メプリンベータ(MEP1B)は発現していない。
図6図6は、抗TREM2抗体を用いた、2つの異なる濃度のウイルスを用いた形質導入後の、Jurkat細胞における本発明のさまざまなキメラコンストラクト(配列番号40および42~56)の発現を示す。
図7図7は、本発明のさまざまなキメラコンストラクト(配列番号44~54)が形質導入されたJurkat細胞の、抗TREM2抗体を用いた活性化を示す。
図8図8は、本発明のさまざまなキメラコンストラクト(配列番号44~54)が形質導入されたJurkat細胞の、壊死K562細胞を用いた活性化を示す。
図9図9は、本発明のさまざまなキメラコンストラクト(配列番号44~56)が形質導入されたJurkat細胞の、HEK細胞デブリを用いた活性化を示す。
図10図10は、形質導入後のTreg細胞における本発明のさまざまなキメラコンストラクト(配列番号57~61)の発現を示す。追加の2A切断配列およびeGFP配列を含むこと以外は、配列番号57、58、59、60および61は、配列番号44、45、46、48および49と対応している。これらコンストラクトは、図10では追加のeGFPを示すために、5G、6G、7G、9G、および10Gと符号が付されている。
図11A-B】 図11は、野生型TREM2エキソドメイン(配列番号69)を含む本発明のキメラコンストラクトと比較した、変異型TREM2エキソドメイン(配列番号57~60)を含む本発明のさまざまなキメラコンストラクトにおける、TREM2切断の量を示す。図11aは、11日目に回収した細胞からの試料のウエスタンブロットである。図11bは、14日目に回収した細胞からの試料のウエスタンブロットである。
図11C図11cは、24日目および31日目に回収した細胞からの培地を用いたTREM2についてのELISAである。
【実施例
【0257】
実施例1a:TREM2コンストラクトのスクリーニング-発現
TREM2 CARの異なるコンストラクト(配列番号40および42~56をコードする)を、ピューロマイシン耐性遺伝子をコードするレンチウイルスバックボーンにクローニングした。そこでは、TREM2のリガンド結合ドメイン(野生型またはmut(T96K))を用いてCARコンストラクトに特異性を付与した。Jurkat T細胞株の形質導入のために、ウイルスベクターを作成して使用した。形質導入2日後、4μg/mlのピューロマイシンで一週間かけてJurkat細胞を選択した。細胞をカウントし、0.5×106個の細胞を抗TREM2抗体(R&Dシステムズ社のヒト/マウスTREM2 APC接合抗体(FAB17291A))により染色して、CAR発現のレベルを決定する。CAR発現をフローサイトメトリーによって評価した。結果を図6に示す。
【0258】
実施例1b:TREM2コンストラクトのスクリーニング-抗体による活性化
Jurkat細胞を、配列番号44~54をコードするコンストラクトで、実施例1aに記載のように形質導入した。ただし、レンチウイルスバックボーンはピューロマイシン耐性遺伝子を含まず、ピューロマイシンを使用したJurkat細胞の選択は行わなかった。形質導入された細胞を、抗TREM2抗体で活性化した。CAR依存活性化レベルを、CD69染色を用いたフローサイトメトリーによって評価した。その結果を図7に示す。
【0259】
実施例1c:TREM2コンストラクトのスクリーニング-死細胞または細胞デブリによる活性化
Jurkat細胞を、配列番号44~54(図8)または配列番号44~56(図9)をコードするコンストラクトで、実施例1aに記載のように形質導入した。ただし、レンチウイルスバックボーンはピューロマイシン耐性遺伝子を含まず、ピューロマイシンを使用したJurkat細胞の選択は行わなかった。形質導入された細胞は、コントロールとしてのRPMIと共存培養し、また壊死K562細胞と共存培養して、活性化させた(図8)。または、形質導入された細胞は、24時間または48時間、コントロールとしてのRPMIと共存培養し、またHEK細胞デブリと共存培養して活性化させた。CAR依存活性化レベルを、CD69染色を用いたフローサイトメトリーによって評価した。その結果を図8および9にそれぞれ示す。
【0260】
実施例2:CARコンストラクトのNFAT/NfkB/STAT5シグナリング
TREM2 CARの異なるコンストラクトを、ピューロマイシン耐性遺伝子をコードするレンチウイルスバックボーンにクローニングした。NFAT細胞株、NfkB細胞株、およびSTAT5 Jurkatレポーター細胞株の形質導入のために、ウイルスベクターを作成して使用した。ここで、NFAT応答エレメント、NfkB応答エレメント、またはSTAT5応答エレメントは、luc2レポーター遺伝子の活性を制御する。形質導入2日後、4μg/mlのピューロマイシンで一週間かけてJurkat細胞を選択した。ついで、細胞培養プレートに塗布したApoE2組換えタンパク質またはApoE4組換えタンパク質を用いて細胞を活性化させ、活性化より8時間後、ONE-GloTMルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)を用いて、異なるレポーター細胞株の中で、ルシフェラーゼを評価した。
【0261】
実施例3:TREM2 CARを発現する制御性T細胞の生成
制御性T細胞を精製して、健康なドナーからのCD4+CD25+CD127-細胞としてFACSソーティングする。インターロイキン-2(1000IU/ml)の存在下で、X-Vivo培地(Lonza)において、ヒトT-アクチベーターCD3/CD28 DynabeadsTM(ThermoFisher Scientific社)を用いて細胞を活性化する。活性化48時間後、TREM2 CARコンストラクトをコードするか、またはTREM2の代わりにHLA-A2を含むコントロールコンストラクトをコードするレンチウイルス粒子を細胞に形質導入する。すべてのコンストラクトは、eGFPもコードする。細胞をさらに増殖させ、異なる条件の間で増殖速度を比較する。14日目、細胞を回収しカウントする。0.5×106個の細胞を、抗TREM2抗体で染色する。CAR発現レベルと形質導入効率とを、抗TREM2抗体の比率とGFP発現の比率とにそれぞれ注目したフローサイトメトリーで評価した。Treg表現型を、抗CD4、抗CD25、抗CD127、抗CD8、抗GITR、抗CD39、抗CD45RA、抗CD45RO、抗ICOSでの表面染色と、抗FOXP3および抗HELIOSでの細胞内染色とを行い、その後固定し透過処理して評価する(Transcription Factor Staining Buffer Set, ThermoFisher Scientific社)。
図10は、制御性T細胞中での、本発明の様々なTREM2 CARコンストラクトの発現を示す。制御性T細胞は、TREM2の代わりにHLA-A2を含むコントロールコンストラクトを形質導入するか、または配列番号57、58、59、60および61を含むコンストラクトを形質導入した。
【0262】
実施例4:Treg抑制活性
エフェクターT細胞の活性化を抑制するTregの能力を評価するために、Teff細胞をCFSE染料で標識化する。異なる濃度のTreg細胞で、Teff細胞を共存培養するか(Treg:Teff比が、1:1、1:2、1:4、1:8、1:16、1:32、1:64、1:124)、またはTreg細胞無しでTeff細胞を培養する。活性化のために、CD3/28ビーズ(1:100)を添加する。CAR依存活性化のために、ApoE2またはApoE4組換えタンパク質を添加する。72時間の活性化後、細胞を回収しフローサイトメトリーで解析する。Teff細胞の増殖について代替マーカーとしてCFSE希釈を使用する。
【0263】
実施例5:Treg活性化解析
CAR依存Treg活性化の解析のために、ApoE2またはApoE4組換えタンパク質の存在下でTregを培養する。ここで、0.1×106個のTregを培養する。ネガティブコントロールとして、組換えタンパク質の非存在下でTregを培養する。ポジティブコントロールとして、CD3/CD28活性化ビーズの存在下でTregを培養する。24時間後、細胞を回収し、抗CD4抗体、抗CD25抗体、抗CD69抗体、抗CD137抗体、および抗GARP抗体で染色する。フローサイトメーター上で細胞を取得し、刺激後のCD69、CD137およびGARPの上方制御の比率を算出する。
【0264】
実施例6:エフェクターCAR-T細胞の生成
Teff CAR-T細胞の生成のために、抗CD3抗体(OKT3)で48時間PBMCを活性化させた。活性化後、細胞を洗浄し、TREM2 CARをコードするレンチウイルスベクターで細胞を形質導入する。形質導入48時間後、細胞を洗浄し、10日目まで増殖させるために播種する。10日目、細胞を回収し、さらに別の解析のために凍結保存する。CAR発現を評価するため、細胞をカウントし、0.5×106個の細胞をTREM2 APC接合抗体により染色し、CAR発現のレベルを決定する。CAR発現をフローサイトメトリーによって評価する。細胞表現型を、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD45RA抗体、抗CD45RO抗体、抗CD62L抗体、抗CCR7抗体、抗CD25抗体および抗CD69抗体を用いてフローサイトメトリー染色により評価する。
【0265】
実施例7:TREM2切断
本発明のキメラコンストラクト中の変異型TREM2エンドドメインが、ADAMシェダーゼによる切断に対して耐性があることを確認するために、Jurkat細胞に、変異型TREM2エキソドメインを含む本発明の4つのキメラコンストラクト、すなわち配列番号57、58、59、および60を形質導入し、また、野生型TREM2エキソドメインを含む本発明のキメラコンストラクト、すなわち配列番号69を形質導入した。
【0266】
前記Jurkat細胞の培養を維持しながら、39日目まで、3~4日毎にTREM2抗体で染色し、細胞膜中での前記コンストラクトの安定的な発現を確認した。細胞培養培地を、染色と同じ日に回収した。回収した培地は後のELISAによる解析のために凍結するか、またはウエスタンブロットによる解析のためにタンパク質を抽出した。TREM2抗体を用いて、図11aおよび11bのウエスタンブロットにおいて約28kDaである、TREM2の切断された細胞外部分を検出した。本発明のキメラコンストラクト(配列番号61)を形質導入したJurkat細胞の細胞溶解物を、TREM2抗体の特異性を証明するためのウエスタンブロット用のポジティブコントロールとして使用し、形質導入されていないJurkat細胞からの培地(UTD-Jurkat培地)をネガティブコントロールとして使用した。
【0267】
図11aおよび図11bのウエスタンブロットは、変異型TREM2エキソドメイン(配列番号57~60)を含む上記コンストラクトがADAMシェダーゼによる切断に対して耐性がある、ということを示している。というのは、野生型TREM2エキソドメイン(配列番号69)を含むコンストラクトを形質導入した細胞からの培地と比較して、変異型TREM2エキソドメイン(配列番号57~60)を含むコンストラクトを形質導入した細胞からの培地では、切断されたTREM2が少なく検出されているからである。このことは、11日目(図11a)と14日目(図11b)という異なる2つの時点で同じであった。同様に、図11cのELISAで、24日目と31日目という2つの異なる時点で、野生型TREM2エキソドメイン(配列番号69)を含む細胞と比較して、変異型TREM2エキソドメイン(配列番号57~60)を含むコンストラクトを形質導入した細胞からの培地では、切断されたTREM2が少なかったことがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A-B】
図11C
【配列表】
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【国際調査報告】