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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-14
(54)【発明の名称】悪液質の治療のための糞便物質
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20230707BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P9/04
A61P11/00
A61P13/12
A61P31/18
A61P43/00
A61K45/00
A61K31/7068
A61K31/282
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577367
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(85)【翻訳文提出日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2021065909
(87)【国際公開番号】W WO2021254937
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】2025863
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515134151
【氏名又は名称】アカデミス・メディス・セントルム
(71)【出願人】
【識別番号】521518792
【氏名又は名称】ヴァーヘニンゲン・ウニヴェルシテイト
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マックス・ニーウドルプ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィレム・メインデルト・デ・フォス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA16
4C084MA34
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC551
4C084ZC751
4C084ZC801
4C084ZC802
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZB26
4C086ZC75
4C086ZC80
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB70
4C087MA52
4C087MA56
4C087NA05
4C087NA06
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA81
4C087ZB26
4C087ZC55
4C087ZC80
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB15
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA06
4C206ZB26
4C206ZC75
4C206ZC80
(57)【要約】
本発明は、悪液質及び/又はがんの治療のための同種異系糞便物質の使用に関し、この同種異系糞便物質は、少なくとも1人のドナー対象から得られ、少なくとも1人のこのドナー対象は、少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、2.5mg/dL未満のHOMA-IR値、及び/又は60歳未満の年齢を有する。前記少なくとも1人のこのドナー対象由来の糞便物質は、がん及び/又は関連状態を治療するのに使用し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪液質の治療における使用のための同種異系糞便物質であって、同種異系糞便物質が、少なくとも1人のドナー対象から得られ、少なくとも1人のドナー対象が、
- 少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、並びに
- 最高で2.5mg/dLのHOMA-IR及び/又は最高で60歳の年齢
を有する、同種異系糞便物質。
【請求項2】
少なくとも1人のドナー対象が、少なくとも31kg/m2のBMI、より好ましくは、少なくとも32kg/m2のBMI、更により好ましくは、少なくとも33kg/m2のBMI、最も好ましくは、少なくとも34kg/m2のBMIを有する、請求項1に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項3】
少なくとも1人のドナー対象が、最高で2.0mg/dLのHOMA-IR、好ましくは、最高で1.7mg/dLのHOMA-IR、より好ましくは、最高で1.3mg/dLのHOMA-IR、最も好ましくは、最高で1.0mg/dLのHOMA-IRを有する、請求項1又は2に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項4】
少なくとも1人のドナー対象が、最高で40歳の年齢、より好ましくは、最高で30歳の年齢、最も好ましくは、最高で25歳の年齢を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項5】
少なくとも1人のドナー対象が、代謝症候群を有しない、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項6】
使用が、対象のプールのBMI、HOMA-IR、年齢、代謝症候群の1つ又は複数の決定、及び
その後の、請求項1から5のいずれか一項に規定の1人又は複数のドナー対象の選択
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項7】
悪液質が、がん、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎疾患、又はAIDSと関連する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項8】
がんが、食道がん、胃がん、胃-食道がん及び膵臓がんから選択される、請求項7に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項9】
使用が、生存期間、好ましくは、無増悪生存(PFS)の延長のためである、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項10】
使用が、治療に対する応答の向上、及び/又は治療副作用の減少のためである、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項11】
使用が、体重の増加及び/又はBMIの上昇のためではない、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項12】
使用が、生活の質の向上、好ましくは、疾患関連症状若しくは合併症の減少、及び/又は治療関連症状若しくは合併症の減少のためである、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項13】
レシピエント対象の小腸、好ましくは、十二指腸に投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項14】
糞便又はその一部、好ましくは、精製したその一部である、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項15】
液体媒体中に含まれ、及び/又は10、25、50、75、100、200、400、600、800若しくは1000μmを超える直径を有する固体を含まず、好ましくは、同種異系糞便を水性媒体と混合し、その後濾過及び/又は遠心分離することにより得られる、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項16】
好ましくは、カペシタビン又はオキサリプラチンからなる群から選択される、化学療法剤と組み合わせる、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項17】
組成物、好ましくは、医薬組成物、より好ましくは、液体又は固体剤形、最も好ましくは、カプセル、錠剤、又は散剤に含まれる、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【請求項18】
対象が、哺乳動物、好ましくは、ヒトである、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のための同種異系糞便物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪液質、特に、がん関連悪液質の治療のための糞便物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、体細胞が異常に増殖して腫瘍の形成を引き起こす疾患の一群である。良性腫瘍とは異なり、がんにより生じる腫瘍は、悪性であり、体の他の部位に転移及び/又は伝播する可能性を有する。がんは、新形成の一型であり、ここで、細胞の増殖は、周囲の健常組織と協調しない。がん細胞は、無制限に増殖可能であり、プログラム細胞死を回避する。生存率は、がんの型、診断時期、及び根治的治療の利用に大幅に依存する。
【0003】
がんと診断された患者は、様々な種類の根治的治療を受けることが多く、これは、手術、及び放射線療法を含む局所治療、並びに免疫療法、標的療法、及び化学療法を含む全身治療に分けることができる。がんと診断された患者のための別の種類の治療は、緩和ケアである。この種類の治療は、がん患者の苦痛を減少させ、生活の質を向上させることを目標とする。がん患者のための緩和ケアは、独占的ではないが、末期がんと関連することが最も多く、ここで、がんは、治癒させることができず、患者が死に至ることが予想される。緩和ケアは、根治的治療と組み合わせることができる。
【0004】
根治的がん治療及び緩和がん治療は、筋肉量の低下を生じる複合症候群である悪液質により複雑となり得る。悪液質は、消耗症候群としても知られ、多様な病状により生じ得るが、末期がんと関連することが最も多く、がん悪液質として知られる。骨格筋量及び機能の低下に特徴づけられる状態であるサルコペニアとは異なり、悪液質は、正確かつ十分な栄養の投与により治療することができない。悪液質は、胃腸がん及び膵臓がんと診断された患者において特に蔓延している。終末又は末期がん患者の全5人のうち4人が、悪液質を患っている。がん患者における悪液質により、生活の質が低下し、死亡率が上昇している。
【0005】
Herremansら、(2019年、Int J Mol Sci)では、ディスバイオシスとして知られる、腸内微生物叢の不均衡が、がん悪液質に影響することが示されたことを開示している。がん悪液質の表現型は、乳酸桿菌(Lactobacillaceae)のレベルの低下、並びに腸内細菌(Enterobacteriaceae)及びパラバクテロイデス(Parabacteroides)のレベルの上昇と関連している。
【0006】
国際公開第2016/196605号では、共生微生物叢(ミクロフローラとしても知られる)の操作によるがんの治療及び/又は予防の方法を開示している。特に、対象における微生物叢(例えば、腸内微生物叢)の量、同一性、存在、及び/又は比率を操作して、1つ又は複数の同時治療を促進する。
【0007】
国際公開第2014/121298号では、糞便材料を提供し、この材料を治療工程に供して、芽胞形成細菌の精製を生じることにより生成する、芽胞形成細菌の精製集団を含む治療組成物の対象への投与を開示している。
【0008】
国際公開第2019/171012号では、糞便微生物叢を移植するための便採取方法及び試料調製方法を開示している。糞便微生物叢の得られた同種混合物を、腸ディスバイオシスの治療及びこのようなディスバイオシスと関連する病態の治療のために使用し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2016/196605号
【特許文献2】国際公開第2014/121298号2
【特許文献3】国際公開第2019/171012号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Herremansら、(2019年、Int J Mol Sci)
【非特許文献2】Biagiら(PLoS One. 2010年5月17;5(5):e10667)
【非特許文献3】T. R. Ackland、B. Elliott及びJ. BloomfieldによるApplied Anatomy and Biomechanics in Sport、第2版、2009年
【非特許文献4】Clarkeら、Exercise and associated dietary extremes impact on gut microbial diversity、Gut microbiota、2014年
【非特許文献5】Tian HらJ Clin Gastroenterol. 2015年
【非特許文献6】Hecker MTらOpen Forum Infect Dis. 2016年
【非特許文献7】Pradoら
【非特許文献8】蘭国血液バンク協会(Dutch Blood Bank Association)ガイドライン(節:ドナー除外基準)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の方法では、がん及びこれと関連する状態、特に、悪液質の治療における改善の余地を残している。新たな又は改善した治療戦略を開発して、患者の生活の質を向上させ、平均余命を上昇させ、治療の副作用を減少させ、疾患合併症を減少させ、及び/又は治療に対する応答を増強する必要性が残存している。この必要性を満たすことが、本開示の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、レシピエントであるがん患者に対する自家(自己)ソース由来糞便物質移植(FMT)又は同種異系ドナー由来FMTのいずれかの作用を研究した。ここで、同種異系ドナーは、肥満度指数(BMI)、HOMA-IR及び年齢の様々な値を有し、一方、代謝症候群を有するか又は有しなかった。
【0013】
また、本発明者らは、がんと関連し得る状態、特に、悪液質に対する前記同種異系FMTの作用を研究した。前記状態は、基礎疾患であるがんにより生じ得るか又はがん治療の結果であり得る。
【0014】
驚くべきことに、本発明者らは、
- 少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、並びに/又は
- 最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値及び/若しくは最高で60歳の年齢
を有する少なくとも1人のドナー対象から得られる同種異系糞便物質の使用により、がん又は悪液質の治療において、並びに自家FMTと比較するだけでなく、低BMI及び/又は高HOMA-IR値及び/又は高年齢を有するドナーとも比較して、全生存の延長、無増悪生存(PFS)の向上、治療(例えば、化学療法)に対するより良い応答、若しくはその毒性/副作用の減少、及び/又は生活の質の向上が生じることを見出した。
【0015】
前記同種異系FMTを受けて6カ月後のがん関連悪液質患者のPFSは、自家FMTを受けた患者と比較して、ほぼ倍増することが見出された。加えて、前記使用により、(がん関連) 症状若しくは合併症の減少及び/又は(がん)治療関連症状若しくは合併症の減少に至り得る。
【0016】
本発明者らは、自家糞便物質を受けたレシピエントと比較しても、30kg/m2未満のBMI及び/又は2.5を超えるHOMA-IR値及び/又は60歳を超える年齢を有するドナー由来の同種異系糞便物質を受けたレシピエントと比較しても、前記同種異系糞便物質を受けたレシピエントの体重増加又はBMI上昇は観察しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】同種異系糞便物質移植(FMT)を受けたすべての対象(0期間においてREEが最も高い線)及び自家FMTを受けたすべての対象(0期間においてREEが最も低い線)の平均安静時エネルギー消費量(REE)を示す図である。影付きの領域は、平均値の標準偏差を示す。
図2】同種異系FMTを受けたすべての対象(0期間において脂肪率が最も低い線)及び自家FMTを受けたすべての対象(0期間において脂肪率が最も高い線)の平均体脂肪率(生体インピーダンス解析、BIAにより測定)を示す図である。影付きの領域は、平均値の標準偏差を示す。
図3】同種異系FMTを受けたすべての対象(0期間においてVASスコアが最も低い線)及び自家FMTを受けたすべての対象(0期間においてVASスコアが最も高い線)の平均食欲(視覚的アナログ尺度、VAS、アンケートにより測定)を示す図である。影付きの領域は、平均値の標準偏差を示す。
図4】同種異系FMTを受けたすべての対象(0期間においてBMIが最も低い線)及び自家FMTを受けたすべての対象(0期間においてBMIが最も高い線)の平均肥満度指数(BMI)を示す図である。影付きの領域は、平均値の標準偏差を示す。
図5】同種異系FMTを受けた対象(左3つの棒)及び自家FMTを受けた対象(右3つの棒)の応答を示す図である。各対象は、3つのカテゴリー:部分奏効、疾患安定、及び増悪のうちの1つに分類した。
図6】同種異系FMTを受けた対象(破線)及び自家FMTを受けた対象(実線)の無増悪生存確率を経時的に示す図である。
図7】同種異系FMTを受けた対象(100%から始まる点線)及び自家FMTを受けた対象(100%から始まる破線)の生存確率を経時的に示す図である。
図8】同種異系FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが最も高い太線)及び自家FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが最も低い太線ではない線)の累積生存を1年の期間にわたって示す図である。
図9】ドナー23由来の同種異系FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが最も高い線)、他のすべてのドナー由来の同種異系FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが2番目に高い線)及び自家FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが最も低い線)の累積生存を1年の期間にわたって示す図である。
図10】ドナー21由来の同種異系FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが最も高い線)、ドナー23由来の同種異系FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが2番目に高い線)、ドナー14由来の同種異系FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが3番目に高い線)、ドナー22由来の同種異系FMTを受けた対象(200日前にゼロで終わる線)及び自家FMTを受けた対象(「+」印で示す1年後のエンドポイントが最も低い線)の累積生存を1年の期間にわたって示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、悪液質及び/又はがん、特に、がん関連悪液質の治療のための同種異系糞便物質の使用に関し、同種異系糞便物質は、少なくとも1人のドナー対象、例えば、少なくとも2、3、4人のドナー対象から得られ、少なくとも1人のドナー対象は、
- 少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、並びに/又は
- 最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値及び/若しくは最高で60歳の年齢
を有する。
【0019】
したがって、本開示は、本明細書に記載の同種異系糞便物質を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、悪液質又はがん、特に、がん関連悪液質を治療する方法に関する。
【0020】
前記治療により、全生存、無増悪生存(PFS)、(化学)療法に対する応答、生活の質を著しく向上させ、及び/又は(化学)療法の毒性/副作用を減少させることができる。
【0021】
生存期間は、疾患の診断と死亡時間との間の期間である。無増悪生存(PFS)は、その疾患の治療の間及び後に患者が疾患とともに生存し、更に、疾患が増悪しない期間の長さである。疾患の増悪は、疾患の発達、伝播、又は悪化である。増悪は、臓器不全又は患者の死が生じるまで継続し得る。したがって、PFSは、疾患(の増悪)が(一時的に)停止するため、治療の有効性を意味する。
【0022】
本開示による治療は、好ましくは、体重の増加及び/又はBMIの上昇のためではない。本開示による同種異系糞便物質の移植は、レシピエントの体重及び/又はBMIの上昇を典型的に生じない。
【0023】
別の態様によれば、本開示による治療は、生活の質の向上、好ましくは、疾患関連症状若しくは合併症の減少、及び/又は(がん)治療関連症状若しくは合併症の減少のためである。驚くべきことに生活の質は、本開示による同種異系糞便物質の移植によって大きく向上する。
【0024】
生活の質(QOL)は、本明細書において使用する場合、主観的福利の自己又はグループ認知に関するヒトの客観的要求が満たされる程度を意味する。QOLにおける変化は、種々の時点における幸福、生活上の満足度、有用性、及び/又は福祉についての同一の質問に対する少なくとも2つの回答を比較することにより定量することができる。
【0025】
「ドナー」の用語は、本明細書において使用する場合、糞便物質を提供する対象を意味する。したがって、本開示による糞便物質は、ドナーから得られ、レシピエントに投与され得る。「同種異系」の用語は、本明細書において使用する場合、糞便物質が、患者の糞便物質ではなく、正確には、例えば、同一種の別の対象由来であることを意味する。任意選択で、処理後、糞便物質を患者に投与する。同種異系は「自家」の対義語であり、後者は、糞便物質が対象自身の糞便物質である、すなわち、同一対象から得られ、任意選択で、処理後に、同一対象に投与することを意味する。
【0026】
「肥満度指数」又は「BMI」の用語は、本明細書において使用する場合、ヒトの体重をヒトの身長の二乗で割ることにより得られ、kg/m2で表す値を意味する。30kg/m2を超えるBMIを有するドナーは、肥満として典型的に分類する。好ましくは、少なくとも1人のドナー対象が、少なくとも31kg/m2の(平均)肥満度指数(BMI)、より好ましくは、少なくとも32kg/m2の(平均)BMI、更により好ましくは、少なくとも33kg/m2の(平均)BMI、最も好ましくは、少なくとも34kg/m2の(平均)BMIを有する。このようなドナー対象の糞便物質により、この糞便物質を使用するFMTを受けるがん患者の無増悪生存が増強され、全生存期間が向上する。
【0027】
「HOMA-IR」の用語は、本明細書において使用する場合、インスリン抵抗性のホメオスタシスモデル評価の略称である。「HOMA-IR」は、ヒトの血中のインスリン及びグルコースレベルを割ることにより得られる、インスリン抵抗性の推定を表す値を意味する。HOMA-IR値は、次の式により算出することができる。
【0028】
【数1】
【0029】
式中、Hは、mg/dLで表すHOMA-IR値であり、グルコースは、mmol/Lで表す血中の空腹時グルコースレベルを表し、インスリンは、mIU/Lで表す血中の空腹時インスリンレベルを表す。IU(酵素活性に関する)は、国際単位の略称であり、酵素単位とも呼ばれる。酵素活性は、1単位時間に変換された基質の量である。1IUは、1分あたり1μmolの基質変換に等しい。
【0030】
好ましくは、及び前述に従って、少なくとも1人のドナー対象が、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5未満又は2.4、2.3、2.2、2.1若しくは2.0mg/dL未満のHOMA-IR値、好ましくは、1.9、1.8又は1.7mg/dL未満のHOMA-IR値、より好ましくは、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1mg/dL未満のHOMA-IR値、最も好ましくは、1.0未満のHOMA-IR値を有する。このようなドナーから得られる糞便物質により、肯定的応答者(すなわち、がんが安定化したか又は増悪しなかったがん患者)の数が増加することが見出された。
【0031】
或いは、又は同時に、少なくとも1人のドナー対象は、好ましくは、最高で60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50の年齢より好ましくは、最高で49、48、47、46、45、44、43、42、41の年齢、更により好ましくは、最高で40、39、38、37、36、35歳の年齢、またより好ましくは、34、33、32、31、30歳の年齢、最も好ましくは、最高で29、28、27、26、25歳の年齢を有する。若年者は、相対的に低いHOMA-IR値を有することが多い。発明者らは、最高で例えば、60、50又は40歳のドナーに由来する糞便物質が、より高齢のドナーから得られる糞便物質と比較して、がんの治療において有効であると考える。腸内微生物叢は、個人間で及び経時的に変動する、微生物の大いに複雑なコンソーシアムである。したがって、ドナーの糞便物質の年齢は、がん及び関連状態の増悪に対する同種異系糞便物質の有効性に影響すると考えられる。高齢者の微生物叢が、若年ドナーの微生物叢とは大きく異なることが知られている。例えば、Biagiら(PLoS One. 2010年5月17;5(5):e10667)を参照されたい。
【0032】
好ましくは、本開示による少なくとも1人のドナー対象は、代謝症候群を有しない。全生存を更に延長可能であり、PFSを更に増強可能であり、(がん)治療の副作用及び疾患合併症を更に減少可能であり、悪液質又はがん患者の生活の質を増強可能であるため、ドナー対象における代謝症候群の非存在によって、このようなドナー対象由来の糞便物質を使用する治療に対する有効性を更に向上させることができる。代謝症候群は、BMIに基づいて肥満として分類されるヒトの約50%に存在する。驚くべきことには、代謝症候群を有するヒトをドナー群から除外することにより、上記の向上を観察することができる。代謝症候群を有するドナーの除外により、FMTレシピエントのインスリン抵抗性又はインスリン感受性に対する作用が生じるとは考えられなかった。
【0033】
5つの病状のうち3つのクラスターが相互に関係すると考えられる場合、ヒトが代謝症候群を有すると考えることができる。国立コレステロール教育プログラム(NCEP)成人治療パネルIII(ATP III)の定義及び本明細書において使用するように、次の5つの判断基準:
- 40インチ若しくは102cmを超えるか(男性)又は35インチ若しくは89cmを超える(女性)ウエスト周、
- 130/85mmHgを超える血圧、
- 150mg/dLを超える空腹時トリグリセリド(TG)レベル、
- 40mg/dL未満(男性)又は50mg/dL未満(女性)の空腹時高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル、及び
- 100mg/dLを超える空腹時血糖レベル
のうち3つ以上を満たす場合、代謝症候群が存在する。
【0034】
対象の血中の空腹時血糖(グルコース)レベル、空腹時トリグリセリドレベル及び空腹時高密度リポタンパク質コレステロールレベルを測定するために、少なくとも8時間、対象が水以外は食事も飲料も摂らなかった後に対象から血液を採取する。当業者は、このようなレベルの定量に使用する方法に精通している。
【0035】
少なくとも1人のドナー対象は、少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値、及び/又は最高で60歳の年齢を有することに加えて、最高で40、39、38、37、36mm、好ましくは、最高で35、34、33mm、より好ましくは、最高で32、31、30mm、最も好ましくは、最高で29、28、27、26、25mmの脊柱上皮下脂肪厚を有することにより更に選択することができる。このような脊柱上皮下脂肪厚を有するドナー由来の糞便物質の移植によって、PFSが更に向上する可能性があり、がん患者の化学療法に対するより良い応答、化学療法の毒性/副作用の減少、及び/又は生活の質の向上、並びに全生存の延長が生じ得る。したがって、少なくとも1人のドナー対象の好ましい脊柱上皮下脂肪厚は、14~36mm、例えば、16~34mm、又は18~32mm、又は20~30mm、又は22~28mm、又は24~28mmの範囲に及び得る。
【0036】
脊柱上皮下脂肪厚は、腸骨上部位としても知られる脊柱上皮下脂肪部位において測定する。脊柱上皮下脂肪部位は、2つの線:(1)腸骨脊柱から前腋窩の縁までの線、及び(2)腸骨稜点の高さの水平線の交差点の部位である。腸骨脊柱は、上前腸骨棘(ASIS)の先端の最も下位、すなわち一番下の部位である。腸骨稜点は、中腋窩(脇の下の中央)から体の縦軸上に引いた腺が腸骨と出会う腸骨稜上の点である。
【0037】
皮下脂肪キャリパーを使用して皮下脂肪測定を行い、この部位の皮膚の厚さを決定することができる。キャリパーは、物体の相対する部位間の距離を測定するのに使用可能なデバイスである。通常、測定は、体の右側において実施する。脊柱上皮下脂肪部位の皮膚を引き延ばして保持する(「つまむ」)ことにより、皮膚及び下層の脂肪組織の二重層を、測定した対象のウエストから頭部の方向に対してほぼ平行な縦方向に外端を有するように作製する。キャリパーを二重皮膚層の外端の1cm下に、皮下脂肪の縦方向に対して垂直な角度で適用する。キャリパーを使用して皮下脂肪をつまんだ2秒後に、ミリメートル(mm)で読取りを行う。脊柱上皮下脂肪厚は、このような2回の皮下脂肪測定及び関連する読取りの平均値として算出する。
【0038】
或いは、又は同時に、少なくとも1人のドナー対象の肩甲下皮下脂肪厚は、好ましくは、最高で45、44、43、42、41、40mm、好ましくは、最高で39、38、37、36、35mm、より好ましくは、最高で34、33、32、31、30mm、最も好ましくは、最高で29、28、27mm、例えば、17~35mmである。肩甲下皮下脂肪測定は、ドナー対象が直立している場合、肩甲下から45°の角度で外側かつ斜め下方に走る線に2cm(0.8インチ)沿った部位の肩甲下皮下脂肪部位において、上記の脊柱上皮下脂肪厚と同様の方法で行うことができる。肩甲下は、肩甲骨の下角の一番下の先端である。
【0039】
他の種類の皮下脂肪部位を本開示に使用することができ、例えば、T. R. Ackland、B. Elliott及びJ. BloomfieldによるApplied Anatomy and Biomechanics in Sport、第2版、2009年に記載されている。皮下脂肪部位は、三頭筋皮下脂肪部位、正中線上の中肩峰-橈骨点のランドマークの高さにおける三頭筋後部;二頭筋皮下脂肪部位、中肩峰-橈骨点のランドマークの高さにおける二頭筋最前部;腹部皮下脂肪部位、臍又は臍部の中点から右5cm(2インチ)の部位;内腓腹皮下脂肪部位、最高周囲長の高さにおける腓腹の最内側面上の部位;並びに大腿前面皮下脂肪部位、大腿の正中線上の鼠経ひだ及び膝蓋骨前面から等距離の部位を含むが、これらに限定されない。ここで、肩峰は、対象が腕を楽にして垂直に垂らしながら直立する場合、最も上位かつ肩峰突起の外側縁の点であり、橈骨点は、最も基部かつ橈骨頭の外側縁の点であり、中肩峰-橈骨点は、肩峰及び橈骨点のランドマークから等距離の点である。
【0040】
上記の皮下脂肪部位又は他の皮下脂肪部位のいずれかにおける皮下脂肪厚を測定して、本開示による治療における使用のための同種異系糞便物質を提供可能な少なくとも1人のドナー対象を選択することが可能であることは、本開示の範囲内に存在し、ここで、同種異系糞便物質は、本明細書に定義するものである。
【0041】
少なくとも1人のドナー対象は、少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値、及び/又は最高で60歳の年齢を有することに加えて、最高で40mm、好ましくは、最高で32mm、例えば、20~30mmの三頭筋皮下脂肪部位の厚さを有することにより選択することができる。二頭筋皮下脂肪部位では、最高で25mm、好ましくは、最高で18mm、例えば、9~17mmであり得る。内腓腹皮下脂肪部位では、最高で39mm、好ましくは、最高で32mm、例えば、16~31mmであり得る。腹部皮下脂肪部位では、最高で46mm、好ましくは、最高で38mm、例えば、28~37mmであり得る。
【0042】
本開示によれば、少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値、及び/又は最高で60歳の年齢を有することに加えて、少なくとも1人のドナー対象は、好ましくは、0.45~0.70m/m、より好ましくは、0.50~0.65m/m、更により好ましくは、0.55~0.65m/m、最も好ましくは、0.58~0.62m/mのウエスト周対身長比を有するように選択される。したがって、ウエスト周は、メートルによるドナー対象の身長を、メートルによるウエスト周で割ったものである。このようなウエスト周対身長比を有するドナー由来の糞便物質の移植により、PFSが更に向上する可能性があり、がん患者の化学療法に対して更に、レシピエントの応答が増強され、化学療法の毒性/副作用が減少し、及び/又は生活の質が向上し、及び/又は全生存が延長され得る。
【0043】
腹囲としても知られるウエスト周は、本明細書において使用する場合、臍部の高さにおいて測定したウエスト外周を指す。臍部の高さは、へそ又は臍とも呼ばれる臍部が位置する高さである。ウエスト周は、巻尺により、へその位置において測定することができ、ここで、巻尺の縦方向は、ウエスト周を測定する対象の足から頭部まで伸びる縦軸に対して垂直である。
【0044】
或いは、又は同時に、好ましくは、少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値、及び/又は最高で60歳の年齢を有することに加えて、少なくとも1人のドナー対象は、男性対象では、例えば、最高で10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、及び/又は女性対象では、例えば、最高で10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30の体脂肪率を有するように選択され得る。DEXA/DXAスキャンは、的確な体脂肪率検査として一般に考えられているが、当業者は、体脂肪率を決定するのに適する他の方法、例えば、生体電気インピーダンス解析(BIA)を十分に理解している。
【0045】
本開示の別の態様では、少なくとも1人のドナー対象の血漿クレアチンキナーゼレベルが、好ましくは、少なくとも500IU/L、好ましくは、少なくとも650IU/L、最も好ましくは、少なくとも800IU/Lである。これにより、がん及び/又は悪液質患者の全生存の延長、無増悪生存(PFS)の延長、化学療法に対するより良い応答、化学療法の毒性/副作用の減少、及び/又は生活の質の向上が生じ得る。
【0046】
クレアチンキナーゼは、ホスホクレアチンキナーゼ又はクレアチンホスホキナーゼ(酵素委員会番号2.7.3.2)としても知られる。これは、クレアチンのホスホクレアチンへの可逆反応を触媒する。血漿中のクレアチンキナーゼの正常活性値は、60~400IU/Lの範囲に及ぶ。
【0047】
本開示による使用は、対象のプールのBMI値、HOMA-IR値、年齢、ウエスト周、ウエスト周対身長比、体脂肪率、空腹時血中インスリンレベル、空腹時血中グルコースレベル、血中トリグリセリドレベル、空腹時高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル及び血圧、脊柱上皮下脂肪厚、肩甲下皮下脂肪厚、及び血圧の1つ又は複数の決定、並びにその後の、本明細書において定義する1人又は複数のドナー対象、例えば、本明細書に定義するBMI、HOMA-IR、年齢、ウエスト周、ウエスト周対身長比、体脂肪率、空腹時血中インスリンレベル、空腹時血中グルコースレベル、血中トリグリセリドレベル、空腹時高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル、血圧、脊柱上皮下脂肪厚、及び/又は肩甲下皮下脂肪厚を有する1人又は複数のドナー対象の選択を含み得る。
【0048】
選択されたドナーは、例えば、関連する次の特徴:30~40kg/m2の範囲に及び得る、例えば、32~35kg/m2のBMI値;0.3~2.5mg/dL、例えば、0.5~0.9mg/dLのHOMA-IR値;18~60歳、例えば、20~40歳の年齢;80~120cm、例えば、95~105cmのウエスト周;0.45~0.70m/m、例えば、0.55~0.65m/mのウエスト周対身長比;男性対象では20%未満及び女性対象では25%未満の体脂肪率;最高で25mIU/L、例えば、3~8 mIU/Lの空腹時血中インスリンレベル;最高で130mg/dL、例えば、70~100mg/dLの空腹時血中グルコースレベル;最高で150mg/dL、例えば、50~150mg/dLの血中トリグリセリドレベル;最高で男性では40mg/dL及び女性では50mg/dL、例えば、男性では50~90mg/dL及び女性では60~90mg/dLの空腹時高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル;最高で36 mm、例えば、20~30mmの厚さの脊柱上皮下脂肪厚;最高で40mm、例えば、20~32mmの厚さの肩甲下皮下脂肪厚;並びに/又は最高で140/90mmHgの血圧、例えば、90/60~120/80mmHgの血圧のいずれか又はそれらの組合せを有し得る。
【0049】
選択されたドナー対象は、30~40kg/m2のBMI、0.5~1.5mg/dLのHOMA-IR値、及び/又は30歳未満の年齢を有し得る。このようなドナー対象のBMIは、30~35kg/m2、例えば、32~34kg/m2の範囲に及び得る。このようなドナー対象のHOMA-IR値は、0.5~1.2mg/dL、例えば、0.5~0 9mg/dLの範囲に及び得る。ドナー対象は、18~30歳、例えば、20~25歳の年齢を有し得る。
【0050】
好ましくは、ドナー対象は、32~36kg/m2のBMI、0.3~1.0mg/dLのHOMA-IR値、及び20~30歳の年齢を有する。このようなドナーの脊柱上皮下脂肪厚は、16~32mm、例えば、20~28mmであり得る。このドナー対象は、腹囲が非常に大きいか又は102cmを超えるウエスト周を有し得るが、代謝症候群を有しない可能性がある。
【0051】
好ましくは、ドナー対象は、32~36kg/m2のBMI、0.3~2.0又は0.3~1.0mg/dLのHOMA-IR値、及び20~30歳の年齢を有する。このようなドナーのウエスト周対身長比は、0.54~0.64m/m、例えば、0.56~0.62m/mであり得る。このドナー対象は、腹囲が非常に大きいか又は102cmを超えるウエスト周を有し得るが、好ましくは、代謝症候群を有しない。
【0052】
本開示による糞便物質は、糞便、すなわち、腸(肛門)から排出された排泄物、例えば、(朝の)便、若しくはその一部、及び/又はこれに由来する組成物であり得る。糞便物質を精製、媒体に懸濁、濾過、遠心分離、さもなければ処理、例えば、安定化及び凍結乾燥して、経口投与又は治療を受ける対象の胃腸管における投与に適する組成物を得ることができる。
【0053】
本開示の一態様では、糞便物質は、細菌門及び古細菌門から選択される、合計で少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12種の異なる門、好ましくは、少なくとも16種の異なる門、より好ましくは、少なくとも18種の異なる門、最も好ましくは、20~34種の異なる門を含む。これにより、がん及び/又は悪液質患者の更なる全生存の延長、無増悪生存(PFS)の延長、(化学)療法に対するより良い応答、(化学)療法の毒性/副作用の減少、及び/又は生活の質の向上が生じ得る。
【0054】
門の全数は、Clarkeら、Exercise and associated dietary extremes impact on gut microbial diversity、Gut microbiota、2014年に記載されている16S rRNAアンプリコンシーケンシングにより決定することができる。
【0055】
門は、細菌門:アシドバクテリウム門(Acidobacteria)、放線菌門(Actinobacteria)、アクウィフェクス門(Aquificae)、アルマティモナス門(Armatimonadetes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、カルディセリクム門(Caldiserica)、クラミジア門(Chlamydiae)、緑色硫黄細菌門(Chlorobi)、緑色非硫黄細菌門(Chloroflexi)、クリシオゲネス門(Chrysiogenetes)、シアノバクテリア門(Cyanobacteria)、デフェリバクター門(Deferribacteres)、ディノコッカス門(Deinococcus)、ディクチオグロムス門(Dictyoglomi)、エルシミクロビウム門(Elusimicrobia)、フィブロバクター門(Fibrobacteres)、ファーミキューテス門(Firmicutes)、フソバクテリウム門(Fusobacteria)、ゲンマティモナス門(Gemmatimonadetes)、レンティスファエラ門(Lentisphaerae)、ニトロスピラ門(Nitrospira)、プランクトミケス門(Planctomycetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、スピロヘータ門(Spirochaetes)、シネルギステス門(Synergistetes)、テネリクテス門(Tenericutes)、サーモデスルフォバクテリア門(Thermodesulfobacteria)、テルモトガ門(Thermotogae)及びベルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)を含む群、並びに/又は古細菌門:クレン古細菌門(Crenarchaeota)、ユーリ古細菌門(Euryarchaeota)、コル古細菌門(Korarchaeota)、ナノ古細菌門(Nanoarchaeota)及びタウム古細菌門(Thaumarchaeota)を含む群から選択することができる。好ましくは、本開示による糞便物質は、バクテロイデス門、ファーミキューテス門、プロテオバクテリア門、放線菌門、並びに/又はベルコミクロビウム門(/Verrucomicrobia)(及びユーリ古細菌門)を含む。
【0056】
本開示の文脈では、がんは、全身性及び限局性(臓器特異性)のがんを含む任意の型のがんであり得る。がんは、膀胱がん、骨がん、脳がん、乳がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん(gastric cancer)、胃-食道がん、頭頸部がん、肝臓がん、肺がん、リンパ腫、口腔がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、胃がん(stomach cancer)、咽喉がん、甲状腺がん又は子宮頸がんであり得る。
【0057】
本開示の特定の実施形態では、がんは、食道がん、胃がん、胃-食道接合部がん及び膵臓がんから選択される。このような型のこのようながんのうちの1つを有する患者は、例えば、少なくとも1人のドナー対象から得られる、本明細書に記載の同種異系糞便物質から特に利益を得、ここで、少なくとも1人のドナー対象は、
- 少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、並びに
- 最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値及び/又は最高で60若しくは最高で40歳の年齢
を有する。
【0058】
本明細書に記載の同種異系ドナー由来のFMTを受ける、このような型のがんを有する患者の平均全生存期間は、自家ドナー由来のFMTを受ける患者と比較して25%向上し得る。加えて、25を超えるBMI、例えば、30を超えるBMI及び2.5未満、例えば、1.0未満のHOMA-IR値、及び40歳未満の年齢を有するドナーから得られる糞便物質は、このような型のがん患者の全生存期間及び無増悪生存を向上させるのに特に適する。
【0059】
食道がん(oesophageal cancer)又は食道がん(esophageal cancer)は、咽喉を胃に接続する細長い中空の管である食道の細胞内で生じる。食道は、嚥下した食物を胃に移動させる。食道がんを原因として食道内で腫瘍が形成されることより、食道管の狭小化によってこの移動が妨害される。食道がんの一般的症状は、嚥下困難、嗄声、及び胃の周囲領域の疼痛である。食道がんは、2つの主な型:食道扁平上皮癌(ESCC)及び食道腺癌(EAC)に分類することができる。ESCCのリスク因子としては、喫煙、飲酒、及び貧しい食生活が挙げられる。EACでは、リスク因子としては、喫煙、呑酸、及び肥満が挙げられる。
【0060】
食道がんの予後は不良であり、診断後、患者の13~18%がわずかに5年生存している状況である。重要な理由は、診断が相対的に遅いことであり、これは、食道がんが進行期となって初めて症状が生じることが多いためである。
【0061】
stomach cancer(胃がん)としても知られるgastric cancer(胃がん)は、胃の細胞内で生じる。胃は、食道と十二指腸との間に位置する中空の消化器官である。胃酸及び種々の酵素が胃により分泌されて、食物の消化に役立つ。胃がんの一般的症状は、食欲低下、悪心及び嘔吐、胃酸過多、メレナ並びに体重減少である。胃がんのリスク因子は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染、喫煙、貧しい食生活、及び肥満である。胃がんの予後も非常に不良である。診断後、患者の約32%が5年生存している。食道がんと同様に、症状は、がんが進行期に達したときに生じることが最も多く、このため予後不良が生じる。
【0062】
胃-食道接合部がんは、胃と接続する食道下部の胃-食道接合部付近に位置する腺細胞内で生じる。胃-食道がんの一般的症状としては、嚥下時の疼痛、体重減少、並びに悪心及び嘔吐が挙げられる。胃-食道がんは、食道がんの一型であると考えられ、同様に治療する。リスク因子としては、肥満、喫煙、飲酒、及び貧しい食生活が挙げられる。食道がん及び胃がんと同様に、胃-食道がんの5年生存率は、診断時のがんの病期に大幅に依存し、5~43%の範囲に及ぶ。
【0063】
膵臓がんは、血糖レベルを制御し、十二指腸に進入する酸を中和する、胃の付近に位置する消化器系の臓器である膵臓の細胞内で生じる。膵臓がんの最も一般的な型は、膵臓腺癌である。膵臓がんの一般的症状としては、食欲低下、体重減少、皮膚黄染、及び背痛が挙げられる。リスク因子としては、喫煙、糖尿病、及び肥満が挙げられる。膵臓がんの予後は、非常に不良であり、平均5年生存率がわずかに6%の状況である。
【0064】
本開示によれば、がんは、転移性がんであり得る。転移性がんは、原発巣から近くの組織に移動することにより局所的に伝播したがんである。多くの型のがんでは、転移性がんをステージIVのがんと呼ぶ。がんの伝播のプロセスを転移と呼ぶ。転移性がんは、限局性がんと比較して、治療が更に困難である。緩和ケアは、転移性がんにおいて、更に頻繁に適用する。発明者らは、転移性がんの症例において、同種異系FMTにより、生活の質(QoL)が大きく向上することを見出した。
【0065】
このがんのがん型は、腺癌、扁平上皮癌、及び未分化癌から選択され得る。腺癌(AC)は、体の種々の部位において発生し得る。これは、体のいずれかに放出する物質を合成する上皮細胞(腺細胞)の過剰かつ異常な増殖の一種である。腺癌は、食道がん、膵臓がん、胃がん及び胃-食道がんの一般型である。
【0066】
扁平上皮癌は、扁平細胞で生じる。このような細胞は、上から見ると多角形の板のように見える。このような細胞は、体腔内の組織の表面付近に位置し、このような細胞(表層細胞)を通じて化合物の拡散が可能となる。扁平上皮癌は、食道がんの一般型である。
【0067】
いかなる正常腺細胞又は表層細胞にも類似しない場合、癌は未分化型である。未分化癌は、予後が非常に不良であり、臨床経過は、分化癌、例えば、腺癌及び扁平上皮癌よりも侵襲性である。
【0068】
本開示の更なる態様では、がんは、悪液質及び/又はサルコペニアを併発する。本開示により、体に対する悪液質の有害作用が減少し、全生存の延長、無増悪生存(PFS)の延長、化学療法に対するより良い応答、化学療法の毒性/副作用の減少、及び/又は生活の質の向上が生じる。
【0069】
悪液質は、不可逆的消耗、すなわち、がんと関連し得る、体の進行性の衰弱及び痩衰の状態として説明することができる。加齢性の生理学的筋肉消耗及び衰弱は、サルコペニアとして知られている。サルコペニアは、高齢者において、悪液質と併せて生じ得る。悪液質では、骨格筋及び脂肪組織が体の栄養に使用され、がん患者が化学療法及び放射線療法によるがん治療に耐える能力が低下する。一般には、体重減少が25~30%を超える場合、悪液質を有するがん患者は死亡する。
【0070】
また、本開示は、悪液質、サルコペニア及び/又は神経性食欲不振症の治療のための、本明細書に記載の同種異系糞便物質に関し、例えば、同種異系糞便物質は、少なくとも1人のドナー対象から得られ、少なくとも1人のドナー対象は、本明細書に記載の対象であり、例えば、
- 少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、
- 最高で2.5mg/dLのHOMA-IR値及び/又は最高で60歳の年齢
を有する。
【0071】
うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎疾患、及びAIDSも悪液質及びサルコペニアを併発する可能性があり、このため、本開示に包含する。神経性食欲不振症も本開示に包含し、体重減少、食事制限、体重増加への恐れ及び痩せることへの強い願望により特徴づけることができる。診断基準(DSM5)は、低体重を生じる、必要量に対するエネルギー摂取の制限、体重増加への激しい恐れ、又は体重増加を妨げる持続的行動、及びそのヒトが経験する体重若しくは体形の撹乱、又は低体重のリスクについての認識の欠如を含む。
【0072】
本開示による同種異系糞便物質は、対象の小腸、好ましくは、十二指腸に投与され得る。糞便物質が、十二指腸の上流の胃腸管の他の部位、例えば、胃に影響されないため、十二指腸への投与は有益である。十二指腸は、空腸及び回腸に先行する、小腸の第1の節であり、小腸の最も短い部位である。ヒトでは、十二指腸は、25~38cmの中空管であり、胃を十二指腸遠位部に接続する。これは、十二指腸球部で始まり、十二指腸提筋で終わる。
【0073】
好ましくは、本開示による使用のための同種異系糞便物質は、糞便又はその一部、好ましくは、精製したその一部である。糞便物質を精製することにより、糞便物質は、治療を受ける対象の十二指腸に、更に好都合に導入することができる。精製糞便物質中にデブリの存在が少ないため、糞便物質の投与に使用するプローブを通じた流量が増強されて、プローブの厚さが削減され、これにより、治療を受ける対象の不快感が減少する。
【0074】
糞便物質の一部は、本明細書において使用する場合、限定されないが、酵素、タンパク質、脂質、分子、微生物、ウイルス、細菌、真菌、酵母、古細菌、化合物、複合物、固体、液体、粒子、及び線維を含む成分の1つ又は複数の特定の群を意味する。
【0075】
糞便物質の精製した一部は、本明細書において使用する場合、望まない成分群が糞便物質中に存在しないことを意味する。
【0076】
好ましくは、本開示による使用のための同種異系糞便物質は、液体媒体中に含まれ、及び/又は10、25、50、75、100、200、400、600、800若しくは1000μmを超える直径を有する固体を含まず、好ましくは、同種異系糞便を水性媒体と混合し、その後濾過及び/又は遠心分離することにより得られる。これにより、粘性が大いに低下し、糞便物質の流量が増強されて、治療を受ける対象の胃腸管又は十二指腸への糞便物質の投与が促進される。液体媒体は、水、又は他の種類の液体を含んでもよく、これは他の成分、例えば、塩を追加して、等張液を作製し得る。
【0077】
好ましくは、本開示による使用のための同種異系糞便物質は、好ましくは、カペシタビン又はオキサリプラチンからなる群から選択される、化学療法剤と混合する。化学療法剤とのこの組合せは、全生存、累積生存を延長し、PFSを増強し、がん及びがん治療の副作用を減少させるため、がんの治療において非常に有効であり得る。
【0078】
カペシタビンは、種々のがん型、例えば、食道がん、胃がん及び乳がんを治療するために使用する化学療法剤である。これは、チミジル酸シンターゼ阻害物質である5-フルオロウラシルに体内で変換される。チミジル酸シンターゼは、de novoでのDNA合成に必要とされる。細胞分裂にはDNA合成を必要とするため、カペシタビンにより、がん細胞の形成が阻害される。
【0079】
オキサリプラチンは、カペシタビンとともに使用可能な、白金原子を含む化学療法剤である。オキサリプラチンは、細胞傷害性であり、DNAにおいて架橋形成して、この複製及び転写を防ぐことにより、細胞死を生じる。オキサリプラチンは、結腸直腸がんを治療するために使用することが多い。
【0080】
本開示の一態様によれば、本開示による糞便物質は、組成物、好ましくは、医薬組成物、より好ましくは、液体又は固体剤形、最も好ましくは、カプセル、錠剤、又は散剤に含まれ、糞便物質のレシピエントへの投与が促進される。
【0081】
本開示による糞便物質が、凍結乾燥及び/又はマイクロカプセル化形態で存在することが更に予想される。このような形態により糞便物質の保存が可能となり、長期間、例えば、数カ月又は数年のその貯蔵が可能となる。
【0082】
本開示による使用は、好ましくは、少なくとも1人のドナー対象から得られる糞便物質の、レシピエントの例えば、小腸、好ましくは、十二指腸への少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回別々の投与を含み、好ましくは、前記別々の投与の間に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8週間の間隔を有する。
【0083】
本開示によれば、糞便物質は、経腸、好ましくは、経口、経鼻若しくは直腸投与、及び/又は経鼻十二指腸チューブにより投与され得る。
【0084】
経口投与では、糞便物質、例えば、自家糞便の1つ又は複数の成分、好ましくは、その凍結乾燥形態(例えば、Tian HらJ Clin Gastroenterol. 2015年、又はHecker MTらOpen Forum Infect Dis. 2016年を参照)は、固体剤形、例えば、カプセル、錠剤、及び散剤、又は液体剤形、例えば、エリキシル剤、シロップ及び懸濁剤で投与され得る。また、担体、例えば、活性炭素を適用することができる。
【0085】
糞便物質は、医薬として使用し、及び/又は生理学的に許容される担体を伴ってもよく、これは、任意の不活性担体であり得る。例えば、適する生理学的又は薬学的に許容される担体の非限定的な例としては、周知の任意の生理学的又は薬学的担体、緩衝液、希釈剤、及び賦形剤が挙げられる。適する生理学的担体の選択は、本明細書において教示する組成物の意図する投与方法(例えば、経口)及び組成物の意図する形態(例えば、飲料、ヨーグルト、散剤、カプセル等)に依存することが明らかである。当業者は、本明細書に教示する使用のための組成物に適するか又はこれと適合する、生理学的に許容される担体を選択する方法を理解している。
【0086】
糞便物質は、(腸溶)コーティングに含まれ、及び/又はカプセル化することが予想され、ここで、好ましくは、前記コーティングは、対象の胃環境において溶解及び/又は崩壊しない。このようなコーティングは、胃の酸性環境により分解してしまうことなく、糞便物質が意図する送達部位、例えば、十二指腸に達するのに役立ち得る。好ましい(腸溶)コーティングは、胃において見出される高度に酸性のpHでは安定であるが、より低いpHではより急速に分解する表面を呈することにより作用する。例えば、これは、胃の胃酸(pH約3)では溶解しないが、小腸又は十二指腸において存在するアルカリ(pH7~9)環境では溶解する。
【0087】
この文書及び特許請求の範囲では、「含む」の動詞及びこの活用は、非限定的意味において使用し、この単語に続く項目を含むが、詳細に言及しない項目を除外しないことを意味する。加えて、「a」又は「an」の不定冠詞による要素に言及する場合、唯一の要素が存在することを文脈上明白に必要としない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を除外しない。したがって、「a」又は「an」の不定冠詞は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【実施例1】
【0088】
ランダム化二重盲検プラセボ対照介入試験をデザインした。これは、標準的第1緩和化学療法を受けた、転移性又は局所進行性食道又は胃がんを有する16人の患者を含むことを目的とした。この治療は、3週サイクルのカペシタビン(1000mg/m2、1~14日目まで1日2回)及びオキサリプラチン(1日目に130mg/m2)とともに最長で6連続サイクルの後、カペシタビン維持療法を含む(Table1(表1))。
【0089】
【表1】
【0090】
スクリーニング及び組み入れ
スクリーニング来診をAMC(Academisch Medisch Centrum、Amsterdam)において実施した。このスクリーニングでは、組み入れ及び除外基準を検証し、口頭及び書面での試験説明の後、インフォームドコンセントを得た。病歴を記録し、体重、身長、ウエスト及びヒップ周並びに血圧を含む理学的検査を行った。患者が試験に適格であることが見出された場合、次の2つの治療群にランダム化した。
1.自家糞便移植(n=12)
2.肥満対象由来同種異系糞便移植(n=12)
【0091】
試験来診及び測定
ベースライン及び4週間後に2回の追加試験来診を行った(12週の来診は定期的外来診療と併せて行った)。毎来診前に、対象は一晩絶食した。この試験中に得られた血液の総量は、180ml:0、4及び12週に60mlであった(最後の12週は、外来診療室において、定期的治療経過観察中の定期的な血液と併せて採取した)。CTスキャンを実施して治療奏効を評価する標準的手順であるため、筋肉量測定(サルコペニア)のための更なる画像診断は、この試験に必要としなかった。
【0092】
試験来診患者:ベースライン、4及び12週
両来診の前に、対象は、48時間の糞便試料、朝の便試料、及び24時間の尿を採取した。はじめに、安静時エネルギー消費量(REE)及び生体インピーダンス解析(BIA)を評価した。加えて、対象を秤量してBMIを決定し、採血した(1来診あたり60ml)。空腹レベルについてのアンケートの記入と同時に、化学療法毒性を評価し、有害事象共通用語基準(CTCAE)により段階分けを行った。ベースラインでは、十二指腸チューブの留置(coretrackを使用)により糞便移植を実施した。十二指腸チューブの留置後、糞便注入を実施した(ランダム化に従って自家又は同種異系)。糞便移植の前日、夕食後(7p.m.~深夜)にマクロゴール1リットルを飲むことによって腸洗浄を実施した。
【0093】
試験来診ドナー:ベースライン
ベースラインでは、ドナーは、48時間の糞便試料、朝の便試料(移植用)及び24時間の尿を採取した。はじめに、安静時エネルギー消費量(REE)及び生体インピーダンス解析(BIA)を評価した。空腹レベルについてのアンケートが記入された。新鮮な朝の糞便を各提供に使用した。
【0094】
対象組み入れ基準
この試験の参加に適格とするために、患者は、次の基準のすべてを満たさなければならない。
- 標準的第1緩和化学療法(カペシタビン/オキサリプラチン)を受けた転移性又は局所進行性食道及び/又は胃がんを有する男性又は女性
- 30~70歳の年齢
- コンピュータ断層撮影(CT)スキャンを使用したサルコペニアの基準を満たしていること:L3筋領域表面を患者の身長に対して正規化して、L3筋肉指数を算出し、cm2/m2で表す。サルコペニアに使用するカットオフ値は、Pradoら2の方法に基づいて、男性では52.4cm2/m2であり、女性では38.5cm2/m2である。
- 機能、障害及び健康の国際分類(ICF)3、WHO 1、2又は3を満たすこと
- 安定な医薬の使用、すべての対象がPPIを使用する。
- 対象はインフォームドコンセントに同意することが可能であり、自発的にこれに同意しなければならないこと
【0095】
対象除外基準
次の基準のいずれかを満たす潜在的対象は、この試験の参加から除外される。
- 喫煙、XTC、アンフェタミン又はコカイン乱用
- アルコール乱用(>3/日)
- 胆嚢摘出
- CD4数<240のHIV感染
- 悪性腫瘍による慢性的悪心、味覚の変化、嚥下困難又は機械的閉塞
- 神経疾患又は精神障害の病歴
- 真性糖尿病を有する患者(高レベルのNLRが進行中の血管炎症を反映し、DMの病態生理学及び前糖尿病においても重要な役割を果たすことを示すいくつかの研究が存在する)4
【0096】
対象のスクリーニング
対象46人から開始して、3人が真性糖尿病を有し、1人が抗生物質を受け、2人がCAPOX治療を受けず、2人が機能、障害及び健康の国際分類(ICF)3を満たさなかったため除外された。残りの対象38人のうち、対象10人は、試験が彼らにとってあまりにもストレス性又は負担となったために除外され、別の対象4人は、移動距離が広域であったために除外された。残りの患者24人は、2群にランダム化した。患者12人を自家移植群に配置し、残りの患者12人を同種異系移植群に配置した。以下のTable2(表2)は、両群(自家(n=12)及び同種異系(n=12))におけるこのような患者の特性を示す。ここで、nは、対象の数を意味し、角括弧は、最低及び最高値を含み(年齢又はBMI)、括弧間の百分率は、特定のクラス(男性又は女性)における対象の数を、群(自家又は同種異系)のうちの1つにおける全対象数で割ったものを示し、百分率として表す。
【0097】
【表2】
【0098】
選択された対象24人のうち、8人が試験中に除外された。このような対象8人のうち、3人が試験中に抗生物質を受け、対象3人が死亡し、対象4人が試験を中止した。最終的には、対象16人が試験を終えた。
【0099】
ドナー組み入れ基準
この試験における糞便ドナーとしての参加に適格とするために、対象は、次の基準のすべてを満たさなければならない。
- コーカサス人種の男性又は女性
- 18~70歳の年齢
- BMI>30kg/m2
【0100】
ドナー除外基準
次の基準のいずれかを満たす潜在的ドナーは、この試験におけるドナーとしての参加から除外される。
- 慢性的な軽度の炎症の存在又は代謝症候群の基準
- PPI及び抗生物質を含む任意の医薬の使用
- 2型糖尿病又は高血圧の存在
- 下痢
- 胆嚢摘出
- HIV、HAV、HBV、HCV、活性CMV、活性EBV、IBD
- 危険な性行為(アンケート)
- 糞便細菌病原体(サルモネラ(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、カンピロバクター(Campylobacter)、エルシニア(Yersinia))又は寄生虫の存在
- C.ディフィシル(C. difficile)陽性便検査
【0101】
上の条件のうちの1つに対するリスク増大(同性愛的接触、最近の輸血)を有する個人は除外され、ドナーは、医療提供者内では採用されない。
【0102】
サンプルサイズ算出
サンプルサイズ算出は、満腹(主要エンドポイント)及び食欲(二次エンドポイント)に関する視覚的アナログ尺度(VAS)結果に基づいた。同種異系除脂肪ドナーFMTでは15mm(SD 10mm)のVASスコアにおける増加、対して自家FMTでは5mmの増加の予想平均に基づいた。0.05の両側p値(アルファ)及び80%の検出力を考慮して、合計で対象16人を必要とした。理想的には、がん患者を1人の健常肥満ドナーに割り当てるため、糞便提供に最高で8人のドナーを必要とする。このような患者16人の中間解析を行って、検出力算出を再度行った。
【0103】
主要試験パラメータ/エンドポイント
-満腹、視覚的アナログ尺度(VAS)アンケートにより測定
- 体組成、生体インピーダンス解析(BIA)により測定
- 治療奏効、ベースライン及び化学療法のはじめの3サイクル後(12週目)にCTスキャンにより測定
- 全生存(PA診断後の生存日数として定義)
【0104】
ランダム化、盲検化及び治療割当て
患者をコンピュータプログラム(ALEA)によりランダム化した。盲検化は、両群において、混合糞便移植により保証された。糞便移植日に、対象及びドナーの両方は、朝の糞便を提供する。糞便のランダム化及び調製は、研究助手の1人により実施した。彼/彼女は、対象が受けた治療を知る唯一の人であり、試験へのこれ以上の参加はない。糞便は、500mlのガラス瓶内に置いた。これは、ドナー又は対象から糞便とは認識できない褐色の液体のように見え、経鼻十二指腸チューブ注入を実施する研究者に渡された。対象、ドナー及び研究者は、すべて盲検で行った。この手順によって十分な経験(最近8年のAMCにおける>300件の糞便移植)が得られた。
【0105】
糞便ドナーのスクリーニング
我々のMETCによりこれまでに承認された糞便及び脂肪減少試験(FAECAL & FATLOSE trial)(MEC 07/114及び11/023)において使用したプロトコールに従って、潜在的ドナーを徹底的にスクリーニングする。ドナー糞便は、蘭国血液バンク協会(Dutch Blood Bank Association)ガイドライン(節:ドナー除外基準)に従ってスクリーニングした肥満ドナーから採取した。ドナーは、間接熱量測定(エネルギー消費を生じる)及び生体インピーダンス解析(BIA)並びに血液試料採取(60ml)を受けた。
【0106】
糞便移植のための糞便浣腸の調製
ドナー及びレシピエントは、注入日に、新鮮糞便試料(平均150~250グラム)を提供した(使用前24時間以内に生成する)。プラスチックフラスコ内に採取後、糞便を食塩水で覆い、室温で貯蔵した。採取時間を記録した。AMCの臨床細菌学部において、すべての手順を実施した。すべての工程は、ドラフトにおいて、経験を有する研究室の同僚又は研究者により実施した。新鮮糞便溶液は、完全に均質化されるまで10分間混合した。この後、糞便溶液は、清浄な金属篩に注いで濾し、大型の食物由来のデブリを除去した。この工程を反復した。この後、均質化溶液を清浄な金属漏斗を通して1000mlの無菌ガラス瓶内にデカントした。その後、処理した糞便注入液の試料を後の解析用に採取し、瓶を患者が腸洗浄を終えるまで標準室温(17℃)に維持した。
【0107】
腸洗浄
腸は、対象の体重に応じて(>60kgは4リットル、<60kgは3リットル)マクロゴール(Klean Prep)3~4リットルで、糞便移植前の晩に(標準プロトコールに従って)洗浄して、完全腸洗浄(持続時間3~4時間)を確実とした。
【0108】
糞便注入
最終的に、濾過及び混合した糞便移植物(処理後<6時間)を、十二指腸チューブを介して十二指腸に注入した。
【0109】
安静時エネルギー消費量(REE)
REEをベースライン及び4週間後に間接熱量測定により測定した。酸素消費及びCO2産生を20分間、換気フードシステムを使用して測定した。このような測定値により、REE及び呼吸商(RQ)を算出した。RQは、個人により吐出した二酸化炭素の消費された酸素量に対する比率を表し、全身基質酸化(グルコース、脂質及びタンパク質酸化)を表す。Weirの簡易式を使用して24時間のエネルギー消費を推定した。
【0110】
同種異系及び自家群間の対象のREEにおける有意差は、12週間にわたって観察されなかった(図1)。加えて、各群内の対象のREEにおける有意差も、経時的に観察されなかった。したがって、FMTは、FMTを受けた対象のREEに対する作用を有しないと考えられる。
【0111】
生体インピーダンス解析(BIA)
体組成は、BIAを使用して、ベースライン並びに4及び12週間後に測定した。BIAにより体組織を通じた電流の電気インピーダンスを決定し、次いで、これを使用して体脂肪を算出及び推定することができる。BIAは、体組成を評価する安全、非侵襲性かつ安価な臨床方法である5
【0112】
同種異系及び自家群間の対象の脂肪率における有意差は、12週間にわたって観察されなかった(図2)。加えて、各群内の対象の脂肪率における有意差も、経時的に観察されなかった。したがって、FMTは、FMTを受けた対象の脂肪率に対する作用を有しないと考えられる。
【0113】
食欲の評価(VASアンケート)
ベースライン並びに移植後4及び12週に、食欲レベルを測定するために、対象に(満腹VASに次いで)次のアンケートへの記入も依頼した:視覚的アナログ尺度(VAS):食欲レベルの測定。
【0114】
視覚的アナログ尺度により測定した食欲に対するFMTの作用は存在しないと考えられる(図3)。同種異系及び自家群間の対象の食欲における有意差は、12週間にわたって観察されなかった(図3)。加えて、各群内の対象の食欲における有意差は、経時的に観察されなかった。したがって、FMTは、FMTを受けた対象の食欲に対する作用を有しないと考えられる。
【0115】
対象のBMI測定
対象のBMIを、試験の開始時(ベースライン)並びに4週及び12週に測定した。図4に観察できるような、両群(同種異系及び自家)の対象のBMIの経時的に有意な変化は、観察されなかった。
【0116】
CTスキャンにより測定する治療奏効
FMTに対する対象の応答を、CTスキャンによってベースライン及び化学療法のはじめの3サイクル後(12週目)に測定した。応答は、固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)を使用して、部分奏効、疾患安定、及び増悪に分類した。同種異系FMTを受けた群と比較して、増悪は、自家FMTを受けた群において著しく高くなり、部分奏効は、この群において低くなる(図5)。
【0117】
無増悪生存
自家FMT群の対象の無増悪生存期間中央値は139日であり、一方、同種異系FMT群の対象の無増悪生存期間中央値は243日であった(図6)。104日の差(p=0.11)は、同種異系FMTが、無増悪生存期間に対する著明な作用を有することを示す。以下のTable3(表3)は、両群における対象の無増悪生存(PFS)期間及び対応する百分率を示す。
【0118】
【表3】
【0119】
Cox回帰を使用して、自家及び同種異系FMTを受けた対象間のがん増悪のハザードにおける差を研究した。0.497のCoxハザード比(P=0.13)が得られ、同種異系群の対象が、自家群の対象と比較して49.7%低いがん増悪ハザードを有することを示した。
【0120】
全生存
自家FMT群の対象の生存期間中央値は331日であり、同種異系FMT群の対象の生存期間中央値は414日であった(図7)。したがって、同種異系群の対象の生存期間中央値は、83日向上する(ログランク検定P=0.22)。自家群の6カ月生存確率は36.6%であり、これと比較して、同種異系群の対象では91.6%である。1年生存確率(なお進行中)は、自家群の対象では32.7%であり、これと比較して、同種異系群の対象では58.3%である。
【0121】
Coxハザード比は0.561であり、同種異系FMTを受けた対象が、自家FMTを受けた対象と比較して56.1%低い死亡ハザードを有することを示す。
【0122】
生活の質
食道がんの生存期間は、非常に不良であり、殆どのヒトが診断後1年以内に死亡する。したがって、同種異系糞便物質移植(FMT)を受けた対象の無増悪生存104日の向上は、自家FMTを受けた対象と比較して非常に明白な作用である。この点については、生存期間中央値の83日の向上も同様であり、同種異系FMTを支持する。予想外に、肥満ドナー由来の糞便物質を受けた対象の食欲は、向上しなかった(図3)。
【0123】
生存の向上に加えて、同種異系FMTを受けた対象の生活の質は、著しく向上する。緩和ケアの主要目的は、生活の質の最適化である。この目的は、同種異系FMTを受けた対象において悪液質の症状が減少するため、本開示により特に達成される。
【実施例2】
【0124】
同種異系糞便物質移植(FMT)は、糞便物質ドナーが少なくとも30のBMIを有する場合、最も有効であった。しかし、この同種異系群内のドナー間のFMT有効性において差が存在すると考えられる。この作用を更に試験した。
【0125】
FMTドナー
同種異系FMTを受けた患者の群内では、4人の異なるドナー(ドナー14、21、22及び23)が存在した。このようなドナーのいくつかの特性をTable4(表4)に列挙する。
【0126】
【表4】
【0127】
Table4(表4)に列挙する提供は、指示するドナー由来のFMTを受けた同種異系FMT群の患者数を示す。例えば、4人の患者が、ドナー22由来のFMTを受けた。上記ドナー由来のFMTに対する同種異系群の患者の応答をTable5(表5)に示す。
【0128】
【表5】
【0129】
自家FMT群の患者12人のうち、7人が疾患増悪を示したが、5人が疾患安定又は部分奏効を示した。対象的に、同種異系FMT群の患者12人のうちわずか2人が疾患増悪を示し、一方、圧倒的多数の患者10人が疾患安定又は部分奏効を示した。
【0130】
累積生存
累積生存は、所与の期間を超えて生存する患者の割合である。1年後の両群(自家FMT群及び同種異系FMT群)における患者の累積生存を図8に示す。
【0131】
図8に示すように、同種異系FMTを受けた患者は、自家FMTを受けた患者と比較して、1年後の累積生存が高い。
【0132】
図9では、ドナー23由来の同種異系FMTを受けた患者(1年後のエンドポイントが最も高い線)の累積生存を、同種異系及び自家両群の他のすべての患者(1年後のエンドポイントが最も低い線)並びに同種異系FMT群の他のすべての患者(エンドポイントが中等度である他の2線間の線)と比較する。したがって、ドナー23由来FMTの大幅に肯定的な作用を観察することができる(図9)。
【0133】
図10は、特定の各ドナーについての患者の累積生存を、自家FMT群と比較して示す。図に示すように、ドナー21由来のFMTを受けた唯一の患者(Table5(表5)参照)は、1年後になお生存しており(1年後のエンドポイントが最も高い線)、一方、ドナー22由来のFMTを受けた患者は、1年時点より前に亡くなった。ドナー23由来のFMTを受けた患者6人のうち4人が、1年後になお生存しており(1年後のエンドポイントが2番目に高い線)、ドナー14由来のFMTを受けた患者4人のうち2人が、1年後になお生存している(1年後のエンドポイントが3番目に高い線)。自家FMTを受けた患者12人のうちわずか2人が、1年後になお生存している。
【0134】
同種異系FMTの有効性に影響する因子
したがって、同種異系FMTの有効性に影響するドナー特異的な態様が存在すると考えられる。最も好ましくは、FMTドナーのBMIは、30を超える。BMIが、ドナー23並びにドナー21及び22を区別する尺度ではないため、本発明者らは、ドナーのインスリン抵抗性を定量した。
【0135】
インスリン抵抗性(IR)及びベータ細胞機能(β)は、ホメオスタシスモデル評価(HOMA)により定量することができる。空腹時グルコース及びインスリンレベルを使用することにより、インスリン抵抗性(HOMA-IR)及びベータ細胞機能(HOMA-β)の推定を行うことができる。同種異系FMTを受けた患者群では、ドナー23由来のFMTを受けた患者6人がすべて応答を示した。ドナー23は、健常な若いラグビー選手であり、一方、ドナー14及び21は、高齢であってHOMA-IR値が高い可能性がある。ドナー23のHOMA-IR値は、2.5未満であり、一方、ドナー14及び21のHOMA-IR値は、ともに2.5を超える。
【0136】
ラグビー選手のようなアスリートにおいて肥満を診断するために、皮下脂肪測定、さもなければウエスト周対身長比の測定によって、体脂肪を評価することができる。アスリートの推定72%が、彼らのBMIにより、肥満として誤って分類される。
【0137】
加えて、ドナー23は、ドナー21及び22よりもはるかに若い。したがって、FMTのアウトカムに対してドナー年齢の影響も存在すると考えられる。好ましくは、ドナーの年齢は、40未満である。ドナー23に基づくと、上述の因子に加えて、体脂肪が低く筋力が高いドナー由来のFMTを受けた患者に対して有益な作用が存在すると考えられる。
【実施例3】
【0138】
種々の型のがんを有すると診断されたレシピエントへの様々なドナーに由来する同種異系糞便物質の投与
以下に示すがん型を有する患者(レシピエント)は、次の3つの治療群に従って、腸洗浄後に十二指腸チューブ投与により(実施例1のように)同種異系糞便物質を受ける。
1. 0、8及び16週におけるレシピエントへの18~30kg/m2のBMIを有するドナー由来の同種異系糞便物質移植。
2. 0、8及び16週におけるレシピエントへの少なくとも30kg/m2のBMIを有するドナー由来の同種異系糞便物質移植。
2a. ドナーが2.5mg/dL未満のHOMA-IR値を有する、治療群2における同種異系糞便物質移植。
2b. ドナーが40歳以下である、治療群2における同種異系糞便物質移植。
2c. ドナーが代謝症候群を有しない、治療群2aにおける同種異系糞便物質移植。
2d. ドナーが36mm未満の脊柱上皮下脂肪厚及び0.50~0.65m/mのウエスト周対身長比を有する、治療群2cにおける同種異系糞便物質移植。
【0139】
【表6】
【0140】
PFS及びQOLの類似する結果が、がん診断有り無しいずれかの悪液質又はサルコペニアに罹患しているレシピエントについて得られ得る。更に、上のtable6(表6)に示す推定作用に類似する結果が、大型の患者コホートにより得ることができることが予想される。
【0141】
[参考文献]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-01-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪液質の治療における使用のための同種異系糞便物質を含む組成物であって、同種異系糞便物質が、少なくとも1人のドナー対象から得られ、少なくとも1人のドナー対象が、
- 少なくとも30kg/m2の肥満度指数(BMI)、並びに
- 最高で2.5mg/dLのHOMA-IR及び/又は最高で60歳の年齢
を有する、組成物
【請求項2】
少なくとも1人のドナー対象が、少なくとも31kg/m2のBMIを有する、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
少なくとも1人のドナー対象が、最高で2.0mg/dLのHOMA-IRを有する、請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
少なくとも1人のドナー対象が、最高で40歳の年齢を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】
少なくとも1人のドナー対象が、代謝症候群を有しない、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
使用が、対象のプールのBMI、HOMA-IR、年齢、代謝症候群の1つ又は複数の決定、及び
その後の、請求項1から5のいずれか一項に規定の1人又は複数のドナー対象の選択
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
悪液質が、がん、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎疾患、又はAIDSと関連する、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
がんが、食道がん、胃がん、胃-食道がん及び膵臓がんから選択される、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
使用が、生存期間の延長のためである、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
使用が、治療に対する応答の向上、及び/又は治療副作用の減少のためである、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
使用が、体重の増加及び/又はBMIの上昇のためではない、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
使用が、生活の質の向上のためである、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
使用が、疾患関連症状若しくは合併症の減少、及び/又は、治療関連症状若しくは合併症の減少のためである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
同種異系糞便物質が、レシピエント対象の小腸に投与される、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項15】
同種異系糞便物質が、糞便又はその一部である、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物
【請求項16】
同種異系糞便物質が、精製した糞便の一部である、請求項15に記載の組成物
【請求項17】
糞便物質が、液体媒体中に含まれ、及び/又は10、25、50、75、100、200、400、600、800若しくは1000μmを超える直径を有する固体を含まない、請求項1から16のいずれか一項に記載の組成物
【請求項18】
糞便物質が、化学療法剤と組み合わされる、請求項1から17のいずれか一項に記載の組成物
【請求項19】
化学療法剤が、カペシタビン又はオキサリプラチンからなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
同種異系糞便物質が、医薬組成物に含まれる、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物
【請求項21】
同種異系糞便物質が、液体又は固体剤形に含まれる、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
同種異系糞便物質が、カプセル、錠剤、又は散剤に含まれる、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
対象が、哺乳動物である、請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物
【請求項24】
対象が、ヒトである、請求項23に記載の組成物。
【国際調査報告】