(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20230710BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230710BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20230710BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230710BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230710BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230710BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/118
B29C64/40
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561037
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(85)【翻訳文提出日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 GB2021050848
(87)【国際公開番号】W WO2021205162
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローパー,デイヴィッド マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ベスト,セレーナ ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】クウォン,キュン-アー
(72)【発明者】
【氏名】キャメロン,ルース エリザベス
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AR01
4F213AR06
4F213AR08
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL32
4F213WL52
4F213WL62
4F213WL85
4F213WL96
(57)【要約】
積層造形のさまざまな方法およびそのような製造法によって得ることができる対象物が、開示される。特に、積層造形方法であって、材料の層を表面上に堆積することと、材料の材料特性を層内で変化させるように堆積を制御することと、を含む、積層造形方法が、提供される。また、積層造形方法であって、材料の少なくとも一つの層を犠牲層上に堆積することを含み、材料の層は、400ミクロン以下の厚さを有し、犠牲層は、ベース表面上に位置する、積層造形方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形方法であって、
材料の層を表面上に堆積することと、
前記材料の材料特性を前記層内で変化させるように前記堆積を制御することと、を含む、積層造形方法。
【請求項2】
前記堆積することは、印刷ヘッドを前記表面に対して第1の方向に移動させることによって実施され、前記材料特性の前記変化は、前記第1の方向において前記層に沿うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記材料特性は、ポリマー鎖整列である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記材料特性は、屈折率である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記材料特性は、遅延である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記材料特性は、複屈折である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記制御することは、印刷ヘッドと前記材料の層が堆積される前記表面との相対速度を変化させることを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記制御することは、材料が印刷ヘッドに送り出される速度を変化させることを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記制御することは、押出し係数を変化させることを含み、該押出し係数は、印刷ヘッドが進行する距離に対する、該印刷ヘッドが押し出すフィラメントの長さの比である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記制御することは、印刷ヘッドと前記材料の層が堆積される前記表面との間の距離を変化させることを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記制御することは、前記材料に加えられる伸展力を変化させ、それによって前記材料特性を変化させることを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記制御することは、前記材料に加えられる歪み速度を変化させ、それによって前記材料特性を変化させることを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記制御することは、前記材料が堆積される前記表面の温度を空間的および/または時間的に変化させ、それによって前記材料特性を変化させることを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記材料特性は、結晶度である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記制御することは、前記層内のポリマー鎖整列を制御することによって、結晶化の配向を制御することを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、材料の二つの層を連続的に堆積することを含み、該堆積は、両方の層の厚さを変化させるように制御される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記二つの層は、異なる材料で形成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記二つの層の厚さは、前記二つの層の組み合わせられた合計の厚さが、前記層に沿って一定であるように変化する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記方法は、材料の複数の層を連続的に堆積することを含み、該堆積は、少なくとも一つの材料特性を少なくとも一つの層に沿って変化させるように制御される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記材料の層は、犠牲層上に堆積され、前記材料の層は、200ミクロン以下の厚さを有し、前記犠牲層は、ベース表面上に位置する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
光子デバイスを形成することを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
心臓ステントを形成することを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ポリマー材料の一つ以上の層を備える光子デバイスであって、少なくとも一つの材料特性は、少なくとも一つの層内で変化する、光子デバイス。
【請求項24】
複数の細長いストラットを備える心臓ステントであって、少なくとも一つのストラットは、少なくとも一つの層を備え、少なくとも一つの材料特性は、前記層内で変化する、心臓ステント。
【請求項25】
前記ステントは、ポリマー材料で形成される、請求項24に記載のステント。
【請求項26】
前記少なくとも一つの層は、付加製造を使用して生み出される、請求項23に記載の光子デバイス、または請求項24もしくは25に記載の心臓ステント。
【請求項27】
積層造形方法であって、犠牲層上に材料の層を少なくとも一つ堆積することを含み、前記材料の層は、400ミクロン以下の厚さを有し、
前記犠牲層は、ベース表面上に位置する、積層造形方法。
【請求項28】
前記方法は、前記犠牲層および前記材料の層を前記ベース表面から取り外すことをさらに含む、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記方法は、前記犠牲層を前記材料の層から取り外すことをさらに含む、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27もしくは28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記方法は、前記材料の層を堆積する前に、前記ベース表面上に前記犠牲層を堆積することを含む、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記犠牲層を前記堆積することは、後続の層の前記堆積のための平坦面を提供する、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記犠牲層および材料の前記層を堆積するために同一の装置が使用される、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記材料の層を前記犠牲層上に堆積する前に、前記犠牲層の表面にパターンを付することをさらに含む、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記犠牲層の前記堆積を制御して、その厚さを変化させることをさらに含む、請求項20、または請求項20に従属する場合の請求項21もしくは22、または請求項27から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記方法は、前記堆積を制御して、前記材料の少なくとも一つの材料特性を前記層に沿って変化させることをさらに含む、請求項27から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記積層造形は、熱溶解フィラメント方式である、請求項1から22および27から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
請求項1から36のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる対象物。
【請求項38】
前記対象物は、心臓ステントである、請求項37に記載の対象物。
【請求項39】
前記対象物は、光子デバイスである、請求項37に記載の対象物。
【請求項40】
前記対象物は、材料特性の変化によって表される、隠された情報を含む、請求項37に記載の対象物。
【請求項41】
前記対象物は、物理複製困難関数である、請求項37または40に記載の対象物。
【請求項42】
前記隠された情報は、画像である、請求項40または41に記載の対象物。
【請求項43】
前記材料特性は、屈折率および/または複屈折である、請求項40から42のいずれか一項に記載の対象物。
【請求項44】
前記画像は、色画像である、請求項42または43に記載の対象物。
【請求項45】
前記画像は、白黒画像である、請求項42または43に記載の対象物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法およびそのような方法によって得ることができる対象物に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形、または3D印刷は、当技術分野においてよく知られている。積層造形の一つの知られている方法は、熱溶解フィラメント方式(fused filament fabrication)(熱溶解積層方式(fused deposition modelling)としても知られている)である。この方法は、材料のフィラメントを使用し、このフィラメントは、加熱された印刷ヘッドを通って送り出され、(印刷ベッドとして知られている)表面上に堆積される。印刷ヘッドの移動、および材料がヘッドに送り出される速度が、所望の形状の対象物をプリンタから生成するために制御される。使用される材料は、通常、ポリマー材料、特に熱可塑性ポリマーである。
【0003】
しかし、積層造形の従来の方法は、複雑なアイテム、特に、アイテム内の物理的特性または材料特性を特に緻密なスケールで変動させることを必要とするアイテムを生み出すことが難しいという問題を有し得る。ある程度までは、そのような変動は、異なる材料で形成された隣接する層(すなわち層間変動)または異なるラスタ内に異なる材料を有する層を印刷することによって達成することができるが、これは、異なる材料間に望ましくない脆弱点を生じさせる可能性がある。印刷パラメータを変動させて仕上げられた対象物の特性を変化させることができるさまざまな構成が、提案されている。しかし、これらの文献はここでも、層間の特性を変動させること(すなわち層間変動)に言及しており、十分に緻密なスケールでの変動を提供することはできていない。積層造形の従来の方法に関連付けられる別の問題は、非常に薄い部分、または非常に薄い層を有する部分を生み出すことが難しくなり得るということである。これは、そのような部分が印刷ヘッドによって印刷された後で、これらの部分を印刷表面から取り出し、取り扱うことが難しいためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記で留意した問題に少なくとも部分的に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、積層造形方法であって、材料の層を表面上に堆積することと、材料の材料特性を層内で変化させるように堆積を制御することと、を含む、積層造形方法が、提供される。すなわち材料特性の変化は、層内変化である。
【0006】
任意選択により、方法は、層内の材料の材料特性および層の厚さのうちの少なくとも一方を変化させるように堆積を制御すること、および/または層の厚さ(のみ)を変化させるように堆積を制御することを含むことができる。
【0007】
任意選択により、材料は、ポリマーである。任意選択により、ポリマーは、PLLA(ポリ-L-乳酸)である。
【0008】
任意選択により、堆積することは、印刷ヘッドを表面に対して第1の方向に移動させることによって実施され、材料特性の変化は、第1の方向において層に沿うものである。
【0009】
任意選択により、材料特性は、ポリマー鎖整列である。
【0010】
任意選択により、材料特性は、光学特性である。
【0011】
任意選択により、材料特性は、屈折率である。
【0012】
任意選択により、材料特性は、遅延(すなわち光遅延)である。
【0013】
任意選択により、材料特性は、複屈折である。
【0014】
任意選択により、制御することは、印刷ヘッドと材料の層が堆積される表面との相対速度を変化させることを含む。これは、材料に加えられる伸展力および/または歪みおよび/または歪み速度を変化させることができる。
【0015】
任意選択により、制御することは、材料が印刷ヘッドに送り出される速度を変化させることを含む。これは、材料に加えられる伸展力および/または歪みおよび/または歪み速度を変化させることができる。
【0016】
任意選択により、制御することは、押出し係数を変化させることを含み、押出し係数は、印刷ヘッドが進行する距離に対する、印刷ヘッドが押し出すフィラメントの長さの比である。これは、材料に加えられる伸展力および/または歪みおよび/または歪み速度を変化させることができる。
【0017】
任意選択により、制御することは、印刷ヘッドと、材料の層が堆積される表面との間の距離を変化させることを含む。これは、材料に加えられる伸展力および/または歪みおよび/または歪み速度を変化させることができる。
【0018】
任意選択により、制御することは、材料に加えられる伸展力を変化させ、それによって材料特性を変化させることを含む。
【0019】
任意選択により、制御することは、材料に加えられる歪み速度を変化させ、それによって材料特性を変化させることを含む。
【0020】
任意選択により、制御することは、材料が堆積される表面の温度を空間的および/または時間的に変化させ、それによって材料特性を変化させることを含む。
【0021】
任意選択により、材料特性は、結晶度である。
【0022】
任意選択により、制御することは、層内のポリマー鎖整列を制御することによって結晶化の配向を制御することを含む。
【0023】
任意選択により、方法は、材料の二つの層を連続的に堆積することを含み、堆積は、両方の層の厚さを変化させるように制御される。
【0024】
任意選択により、二つの層は、異なる材料で形成される。これにより、異なる材料の特性を一緒に使用することが、可能になり得る。
【0025】
任意選択により、二つの層の厚さは、二つの層の組み合わせられた合計の厚さが、層に沿って一定であるように変化する。これは、均一な厚さを維持しながら、物理的特性の変化を可能にすることができる。
【0026】
任意選択により、方法は、材料の複数の層を連続的に堆積することを含み、堆積は、少なくとも一つの材料特性を少なくとも一つの層に沿って変化させるように制御される。
【0027】
任意選択により、材料の層は、犠牲層上に堆積され、材料の層は、200ミクロン以下の厚さを有し、犠牲層は、ベース表面上に位置する。
【0028】
任意選択により、方法は、光子デバイスを形成することを含む。
【0029】
任意選択により、方法は、心臓ステントを形成することを含む。
【0030】
本開示によれば、ポリマー材料の一つ以上の層を備える光子デバイスであって、少なくとも一つの材料特性は、少なくとも一つの層内で変化する、光子デバイスも提供される。少なくとも一つの層は、付加製造を使用して生み出され得る。
【0031】
本開示によれば、複数の細長いストラットを備える心臓ステントであって、少なくとも一つのストラットは、少なくとも一つの層を備え、少なくとも一つの材料特性は、層内で変化する、心臓ステントも提供される。少なくとも一つの層は、付加製造を使用して生み出される。
【0032】
任意選択により、ステントは、ポリマー材料で形成される。
【0033】
本開示によれば、積層造形方法であって、材料の少なくとも一つの層を犠牲層上に堆積することを含み、材料の層は、400ミクロン以下の厚さを有し、犠牲層は、ベース表面上に位置する、積層造形方法も提供される。これにより、小さい厚さの部分を、これが印刷される表面からこの部分を取り外すときに損傷を与えずに印刷することが、可能になり得る。
【0034】
任意選択により、方法は、犠牲層および材料の層をベース表面から取り外すことをさらに含む。
【0035】
任意選択により、方法は、犠牲層を材料の層から取り外すことをさらに含む。
【0036】
任意選択により、犠牲層を堆積することは、後続の層の堆積のための平坦面を提供する。
【0037】
任意選択により、方法は、材料の層を堆積する前に、ベース表面上に犠牲層を堆積することを含む。
【0038】
任意選択により、犠牲層および材料の層を堆積するために同一の装置が使用される。これにより、ベース表面内の不整合性の影響を低減または排除することが、可能になり得る。
【0039】
任意選択により、材料の層を犠牲層上に堆積する前に、犠牲層の表面にパターンを付することをさらに含む。これにより、印刷される部分の表面特性に対する緻密な制御が、可能になり得る。
【0040】
任意選択により、方法は、犠牲層の堆積を制御して、その厚さを変化させることをさらに含む。
【0041】
任意選択により、方法は、堆積を制御して、材料の少なくとも一つの材料特性を層に沿って変化させることをさらに含む。
【0042】
任意選択により、積層造形は、熱溶解フィラメント方式である。
【0043】
本開示によれば、上述した方法によって得ることができる対象物も提供される。
【0044】
任意選択により、対象物は、心臓ステントである。
【0045】
任意選択により、対象物は、光子デバイスである。
【0046】
任意選択により、対象物は、材料特性の変化によって表される、隠された情報を含む。
【0047】
任意選択により、対象物は、物理複製困難関数(physical unclonable function)である。
【0048】
任意選択により、隠された情報は、画像である。
【0049】
任意選択により、材料特性は、屈折率および/または複屈折である。
【0050】
任意選択により、画像は、色画像である。
【0051】
任意選択により、画像は、白黒画像である。
【0052】
次に、添付の図を参照しながら、本発明を非限定的な例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図3】本発明による第3の方法の第3の概略図である。
【
図4】犠牲層および犠牲層上に堆積された材料の層を示す図である。
【
図5】犠牲層が材料の層から取り外された、
図4の図である。
【
図6A】犠牲層上に堆積された材料の層を生み出すために使用される本発明者の構成の断面図である。
【
図7A】本発明による多層ステントの概略図である。
【
図8】本発明の方法を使用して生み出された光子デバイスを示す図である。
【
図9A】光源によって照明される、隠された情報を含む三つの対象物を示す図である。
【
図10B】交差偏向フィルタ間に見られる、
図10Aに示す印刷された対象物の写真である。
【
図10D】印刷スピードごとの予測される遅延値および干渉色を示す図である。
【
図11A】層を傾斜ベッド上に印刷する概略図である。
【
図11B】犠牲層および主要層を傾斜ベッド上に印刷する概略図である。
【
図12A】犠牲層を、表面不均一性を有するベッド上に印刷する概略図である。
【
図13A】裸眼で見た、隠された情報を含む対象物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本開示は、積層造形方法に関する。特に、方法は、材料の層を表面上に堆積することと、層内の材料の材料特性および層の厚さのうちの少なくとも一方を変化させるように堆積を制御することと、を含むことができる。表面上に堆積される材料の層または複数の層は、対象物を構成(すなわち製造)するために使用される。
【0055】
図1に示すように、3Dプリンタの一部を形成する印刷ヘッドを使用して材料の層12を表面11上に堆積して、対象物を生み出すことができる。材料は通常、熱可塑性材料などのポリマー材料である。材料が堆積される表面11は、通常、印刷ベース、印刷表面または印刷ベッドとして知られている。対象物が印刷されているときに材料の第1の層が、表面上に直接堆積され、第1の層の上部の後続の層は、多層状部分が生み出されているときに第1の層の上部に堆積され得ることが、理解されよう。すなわち、後続の層は、それまでの材料の層を間にして表面上11に堆積される。
【0056】
材料が堆積されているとき、伸展力が、堆積プロセス中に材料に加えられる。この力は、材料が印刷ヘッドを出る速度(押し出されている材料の流量に関連する)と、印刷ヘッドが印刷表面にわたって移動する速度との間に相違があることによるものである。材料が印刷ヘッドを出る速度が印刷ヘッドの平行移動速度未満であるとき、材料は、「押出し不足(underextruded)」となる。すなわち、材料は、ノズルを離れてから表面上に堆積されるまでの間で伸張される(すなわち、材料が歪みを受ける)。
【0057】
したがって、堆積中、材料は、伸展力を受ける。この伸展力は、材料が、ノズルを離れてから堆積されるまでの間に、ノズルの移動によって受ける加速に起因するものである。換言すれば、伸展力は、材料が印刷ヘッドを離れてから(したがって印刷ヘッドに対して下方向の速度を有する)、その後材料が、速度と方向の両方を変化させて(すなわち加速されて)、材料が堆積されるときに印刷ヘッドに対して印刷ベッドと同一の水平速度で移動するまでの、印刷される材料の速度の変化(すなわち加速)によって引き起こされる。換言すれば、材料は、堆積中、印刷ヘッドと印刷ベッドとの間の相対水平速度に合致するように加速される。この加速の結果、力が、材料に加えられる。力が加えられる間、材料は、伸展性の歪み速度を受ける。
【0058】
したがって、歪みまたは伸展力または歪み速度が、印刷ヘッドが移動する速度、ポリマーがノズルから押し出される速度、印刷ヘッドと、堆積が行われている表面(上述したように、印刷ベッドまたはそれまで堆積された材料の層であってもよい)との間の距離を含む、いくつかの要因によって影響されることが、理解されよう。
【0059】
特に、方法は、熱溶解フィラメント方式(FFF)3Dプリンタを使用して実施され得る。そのようなプリンタでは、材料のフィラメントが、加熱された印刷ヘッドに送り出され、フィラメントは、ヘッドを通って押し出される。そのようなプリンタは、市販されており、そのようなプリンタの例は、「アルティメーカー(Ultimaker)」(商標)および「プルサ(Prusa)」(商標)プリンタを含む。しかし、他のFFF 3Dプリンタ、実際には他のタイプの3Dプリンタが使用されてもよいことが、理解されよう。
【0060】
全般的に、本開示は、製作されている対象物を構成する層または複数の層の堆積を制御することに関する。この制御は、材料の材料特性を変化させることができ、その変化は、材料の層内にある。すなわち、制御は、加熱された印刷ヘッドに送り出される、実質的に均一の材料特性を有する材料のフィラメントから、堆積された層内の材料の材料特性に変化を作りだすことができる。他の構成では、制御は、層の厚さ(すなわち材料が堆積される表面の平面に対して垂直の方向)を変化させることができる。
【0061】
換言すれば、層内の材料特性および/または層自体の厚さの変化は、単一の層の堆積中に能動的に制御される。以下で説明するように、これは、いくつかの利点を提供することができる。
【0062】
単一の層内で材料特性を変化させ(すなわち層内変化)、単一の層内のそのような変化を能動的に制御することは、対象物が互いに異なる特性を有する層(すなわち層間変化)を有して印刷されるが、各層内の特性は変化しない、知られている構成とは区別されることが、認識されよう。当然ながら、対象物の単一の層内の材料特性の変化は、個々の層内および層間の変化を有して生み出されている多層状対象物を排除しない。換言すれば、本開示の方法および対象物は、材料特性の層内変化に加えて層間変化を含むことができる。実際には、層間および層内の材料特性の変化は、結果として生じる対象物の特性に対してさらに改善された制御を実現することができる。
【0063】
材料特性は、降伏強さ、ヤング係数、および破砕靱性などの、堆積されている材料のバルク物理的特性を示し得ることが、理解されよう。これはまた、結晶性およびポリマー鎖整列(すなわち分子整列)などの、材料の本質的にバルク特性ではない材料特性も示し得る。これはまた、光学特性(屈折率、遅延、および複屈折を含む)、電気特性、ならびに分解速度、破損時の歪み、破断時の歪み、層接着、および曲げ強度を含む他の特性などの他の材料特性も示し得る。
【0064】
第1の構成では、上述したように、材料が堆積中に受ける伸展力および/または歪みおよび/または歪み速度は、
図1に概略的に示すように、層12の材料特性を変化させる(したがってその変化を制御する)ために制御される。特に、堆積されている材料のポリマー鎖整列は、伸展力または歪み速度を変化させることによって制御される。
【0065】
堆積中、堆積材料が受ける歪みは、堆積材料によって受け入れられて連続的堆積を確実にする。歪みは、ポリマー鎖の互いに対する滑りおよび/またはポリマー鎖の直線化を通して受け入れられ得る。印刷ヘッドの平行移動速度と印刷ヘッドからの吐出速度との間の相違が大きいとき、その溶融物が受ける歪みは、より大きくなることが理解されよう。また、一定の歪みの場合、材料が受ける歪み速度が増大した結果、鎖の直線化は、鎖の滑りより顕著になり得、これは、このプロセスが、鎖の滑りより短い時間間隔にわたって行われているためであることも理解されよう。
【0066】
より大きい伸展力が(たとえば印刷ヘッドをより高速で移動させることによって)加えられるとき、ポリマー鎖は、伸展力によって「引っ張られ」(すなわち歪められ、配向されて)、材料のポリマー鎖整列を強めることが、理解されよう。歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度は、したがって、層内のポリマー鎖整列を制御し、変化させ、さらには層内の結晶化の配向を制御するために使用することができる。
【0067】
図1に示すグラフの縦軸は、層に沿った印刷ヘッドの(さらに材料に加えられる伸展力および/または歪み速度を変化させる)速度を示す。層12の内側に示す線は、層内のポリマー鎖の概略図である。速度(したがって伸展力および/または歪み速度)が大きくなる領域では、ポリマー鎖整列は、これに対応してより高まる。印刷速度の変化は、いくつかの領域内では、鎖整列が(伸展力および/または歪み速度が小さいために)ほとんど見られず、他の領域では、(伸展力および/または歪み速度がより大きいために)鎖整列が顕著になるようなものであり得る。
【0068】
歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度(したがって鎖整列)は、単一層内でいくつかの方法で変化され得る。上述したように、伸展力を変化させる一つの有意な方法は、印刷ヘッド10と材料の層が堆積される表面11との相対速度を変化させることである。いくつかの構成では、変化させるのは印刷ヘッド10自体の速度であるが、上述した二つの部分間の相対速度を変化させる他の構成も可能であることが、理解されよう。たとえば、表面11が、移動するように制御されてもよく、または印刷ヘッド10と表面11の両方が、移動するように制御されてもよい。
【0069】
歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度を変化させることは、いくつかの他の方法で達成されてもよい。たとえば、材料が印刷ヘッドに送り出される速度を変化させてもよい。これにより、印刷ヘッド10によって吐出されるか、または押し出される材料の量が変化し、したがって材料の堆積速度が変化する。さらに、印刷ヘッドが進行する距離に対する、印刷ヘッドによって吐出される材料の量(押し出されるフィラメントの長さによって測定される)の比を制御して、溶融物が受ける歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度、したがって鎖整列を変化させることができる。この比は、通常、押出し比または押出し係数として知られている。押出し係数を低減させると、印刷表面に対して平行移動する印刷ヘッドの所与の平行移動速度に対して、吐出される材料の速度は低下する。このようにして、堆積される材料が受ける歪みは、増大される。その理由は、吐出されている材料が少ないために、所与の平行移動速度に合わせて、材料がより「伸張される」ためである。同様に、押出し係数を低減させると、材料が受ける歪み速度は、増大する。
【0070】
変化させる(制御する)ことができる別の印刷パラメータは、層分離である。層分離は、層間をノズルが移動する垂直距離として定義される。この量は、印刷ヘッドと、堆積が行われている表面との間の距離に関連付けられるが、必ずしも同一ではない。正しく較正された単一層印刷、または多層印刷の第1の層の場合、層分離は、印刷ベッドとノズルとの間の距離と同一である。しかし、多層印刷内の後続の層の場合、層分離(すなわち層間をノズルが移動する垂直距離)は、ノズルと、堆積が行われている層との間の距離と必ずしも同一ではない。これは、層が堆積されるとき、層は、これが堆積される表面とノズルとの間の高さ全体を必ずしも充填するわけではないためである。したがって、ノズルが層間を上方に移動するとき、次の層が堆積される層までの距離は、層分離と、ノズルとそれまでの層の堆積中にそれまでに堆積された層の上端との間の距離に対応するオフセットとの合計である。
【0071】
堆積された層の厚さもまた、層分離と必ずしも同一ではない。その理由は、印刷層は、ノズルと堆積が行われている層との間の距離すべてを必ずしも充填するわけではないためである。印刷層は、通常、押出し係数に応じて、ノズルと堆積が行われている層との間の空間よりも小さい空間を充填する。安定した印刷状態は、堆積された層の厚さが、計画された層分離と等しいように定義することができる。多層印刷では、これまでの層の累積効果によって安定した印刷に向かって進む。安定した状態が達成されるそのような多層印刷では、層厚さは、層分離に等しい。安定した印刷状態に到達しなかった場合、ノズルからベッドまでの距離は、層が堆積される度に増大し、最終的には材料を堆積できなくなる。これは、実際には多層印刷では観察されず、したがって、この安定した印刷状態は、実際のところは、多層状印刷の場合に達成される。
【0072】
層分離の変化もまた、堆積中に材料に加えられる伸展力および/または歪み速度および/または歪みを変化させる結果となり得る。その理由は、層分離の変化は、ノズルを離れてから表面に堆積されるまでの間で材料が受ける加速を変化させることができるためである。特に、層分離が小さくなると、上述したような、印刷ヘッドを離れてから堆積されるまでの材料の速度の変化は、より小さい距離にわたって起こる。これにより、加速度はより大きくなり、したがって材料に加えられる伸展力および/または歪みは、より大きくなり得る。したがって、層分離を変化させることもまた、材料の鎖整列を変化させることができる。
【0073】
上述したように、堆積中にポリマーに加えられる歪みおよび/または歪み速度および/または伸展力を変化させることにより、特に堆積されている途中の材料のポリマー鎖整列を変化させることができる。さらに鎖整列の変化は、ヤング係数、破断時の歪み、破断時の伸展、破損応力、靱性、降伏応力を含む機械的特性などの材料の他の物理的特性にも影響を与えることができる。この変化はまた、たとえば、材料の光学的、電気的、および物理的分解特性、ならびに材料の結晶性に影響を与えることもできる。
【0074】
特に材料の鎖整列の変化は、材料の屈折率の変化をもたらすことができる。さらに、鎖整列の変化を使用して、複屈折である材料を生み出すことができ、および/または材料の複屈折を(したがって光遅延も)制御することができる。すなわち、ポリマー鎖整列の変化は、光の偏光および伝播方向へのその屈折率の依存度を変化させることができる。特に、鎖整列が高まると、複屈折は増大することができる。その理由は、印刷材料の異方性が、鎖整列が強まるときに増大するためである。
【0075】
以下で説明するように、複屈折のこの変化を制御することは、いくつかの異なる用途において有用である。3D印刷される対象物の屈折率および/または複屈折の変化を使用して、印刷が成功したかどうかを判定することができる。たとえば、印刷後、印刷された対象物は、屈折率および/または複屈折の予期せぬ変化について分析されてもよく、この変化は、さらに、印刷における欠陥またはエラーを示すことができる。
【0076】
層内の複屈折を制御する一つの例では、犠牲PVA層を最初に、0.04の押出し係数、200μmの層分離、55℃のベッド温度、および195℃の押出し温度で印刷してから、PLLA(ポリ-L-乳酸)の層を、0.01の押出し係数、50μmの層分離、および215℃の押出し温度で印刷した。PLLA層を剥離することによってPVAから分離し、厚さを断面光学顕微鏡を通して測定した。次いで、遅延値(すなわち、材料の高速軸および低速軸に沿って伝播する波間の経路相違)を、スイフト(Swift)偏光顕微鏡およびツァイスエーリングハウス(Zeiss Ehringhaus)補償器を使用して、製造元支給の較正曲線に従って取得し、(遅延/サンプル厚さとして定義される)複屈折の以下の値を、さまざまな印刷速度について得た。
【0077】
【0078】
したがって、印刷速度が増大するにつれて、上述した理由により、複屈折も増大することが分かる。したがって、印刷速度を単一層の印刷プロセス中に変化させて、単一の印刷層内の複屈折の変化を制御することができる。すなわち、単一層において、複屈折は、その層内でその長さに沿って、層が印刷されている間の印刷速度を変化させることによって、変化され得る。
【0079】
また、印刷速度以外のパラメータを変化させることによって、単一層内の複屈折を制御し、変化させることができることも理解されよう。上述したように、層分離を変化させることにより、材料が受ける伸展力、歪み速度、および歪みを変化させることができ、その結果、結果として生じる材料の鎖整列を変化させることができる。これは、さらに、印刷材料の複屈折も変化させることができる。特に、層分離が小さいとき、(材料がより短い時間にわたって加速し、その結果加速の大きさがより大きくなり、力がより大きくなるため)堆積中に材料に加えられる伸展力および/または歪み速度は、結果としてより大きくなり、鎖整列の強化および結果的に複屈折の増大につながることができる。この効果は、以下の表で観察することができる。この表は、4000mm/分および6000mm/分の印刷速度で印刷された、0.01の押出し係数を有する単一の印刷されたPLLA層について(上記のように測定された)測定された複屈折の変化を実証している。
【0080】
【0081】
これは、一定の印刷速度において層分離を低下させると、複屈折が増大することを示しており、さらに、層分離が一定の場合、複屈折は、印刷速度に伴って増大するという上記の説明も示している。ここでもこれらのパラメータのいずれかまたは両方を単一の層の印刷の際に制御された態様で変化させて、層内の複屈折を制御することができる。
【0082】
図10Aから
図10Dは、個々の印刷層内の印刷速度を変化させることによって、遅延(したがって複屈折)の制御された変化をどのように達成することができるかの例を示している。特に、印刷速度の変化を使用して、干渉色チャート(またはミシェルレヴィ(MiChel-Levy)チャート)の一部を生み出し、これを顕微鏡内で使用して、干渉色を関連付けて特定の材料を分類する。この印刷された対象物は、遅延および複屈折をどのように制御できるかの実証として使用されるにすぎず、遅延および複屈折の制御された変化を有する対象物は、任意の所望の目的のために本開示の技術を使用して生み出されてよいことが、理解されよう。解釈を助けるために、黄色、赤色、青色、および緑色のエリアは、「Y」、「R」、「B」、および「G」それぞれによって
図10Bおよび
図10Dに標識される。これらの図内の色は、徐々に変化し、標識される色は、二つの図間の同様の色の識別を助けるために使用されるにすぎないことが、理解されよう。
【0083】
図10Aは、印刷された対象物の物理的構成を示す。
図10Aに矢印によって示すように、印刷速度を対象物に沿って左から右に増大させた(ここで印刷中のノズルの移動方向は、矢印に対して垂直である)。対象物は、40層PLLAブロックであり、各層は、50μmの層分離と、0.01の押出し係数と、を有しており、印刷速度は、500mm/分から9000mm/分まで漸進的に増大する。各層は、交互に整列したラスタパターンを有し、印刷速度は、隣接するラスタの対間で、各印刷速度に対して二つの印刷線が存在するように増大する。これらの層は、200μmの層分離、0.04の押出し比、および1000mm/分の印刷速度での支持PLLA層、および200μmの層分離、0.04の押出し比、および1000mm/分の印刷速度でのPVAの取り外し可能な犠牲層の上に印刷された。
【0084】
図10Bは、複屈折を示すために、(印刷方向が偏光方向に対して45度に配向されているときの)交差偏光フィルタ間で見たときの印刷された対象物の写真を示している。色は、
図10Bに示す図では左から右に変化して、異なる印刷速度についての複屈折の変化を示すことが、見られる。また、
図10Bの(印刷ヘッドが移動する方向に対応する)各垂直線に対して、色は、対象物の中央に向かって変化することにも留意されよう。これは、ノズルが、各印刷線について固定位置から始まり、固定位置で終了するためである。ノズルは、静止状態からその公称印刷速度まで垂直線に沿って加速し、したがって垂直方向に複屈折の変化を引き起こし、この変化は、垂直方向の色の変化に対応する。これは、複屈折の変化を単一の印刷ラスタに沿って、印刷速度の変化によって制御する能力の別の説明を提供している。
【0085】
図10Cは、
図10Aおよび
図10Bの対象物における各線の印刷速度と、各印刷速度について測定された遅延との関係を示している。印刷速度が増大するにつれて、遅延(したがって複屈折)が増大することが、見られる。印刷速度が増大するにつれて、遅延は無限には増大せず、最大値に向かう傾向であることに留意されよう。これは、上述したように、遅延の増大が、印刷速度が増加することによる分子(すなわちポリマー鎖)整列の強化に起因するためである。しかし、ポリマー鎖整列の値が高まるにつれて、その達成は漸進的により難しくなっていき、その結果、複屈折の増大は、印刷速度の増分が大きくなるにつれて小さくなっていく。
【0086】
図10Dは、各印刷速度についての予測された遅延と、(計算されたミシェルレヴィ(MiChel-Levy)チャートの一部の色に対応する)干渉色と、を示す。
図10B、
図10C、および
図10Dの比較から、測定された遅延は、予想値に厳密に合致し、仕上げられた対象物の色は、予測された色に対応する(そしてミシェルレヴィ(MiChel-Levy)チャートの色に合致する)ことが分かる。
【0087】
第2の構成では、
図2に示すように、材料が堆積される表面の局所温度は、層12の層内の材料特性を変化させる(およびその変化を制御する)ために制御される。すなわち、印刷ベッドの特定の部分の温度は、単一の印刷層内の材料特性に変化をもたらすために制御される。
【0088】
いくつかの構成では、温度は、材料が堆積される表面上で空間的に変化され得る。換言すれば、表面の異なる領域を制御して、異なる温度を有するようにし、局所的に変化させ、それによって単一層内の材料特性を変更することができる。これは、たとえば、ワイヤをベース表面内に設けることによって達成され得る。これらのワイヤは、必要に応じて、電流を選択的に通過させてワイヤのすべてまたはいくつかを加温し、したがってベースの温度を変化させることができる。温度はまた、時間的および空間的に変化することもできる。温度の変化は、ベース表面上に直接印刷される層だけに影響を与え得るだけでなく、後続の層にも影響を与え得ることが、理解されよう。
【0089】
特に、印刷が行われている表面の温度の変化の結果、材料の結晶性が変化し、したがって堆積された材料の硬さおよび密度を変化させることができる。ここでも、結晶性のこの変化は、いくつかの異なる用途において有用であり得る。
図2に示すグラフの縦軸は、層に沿った印刷ベッドの温度を示す。印刷ベッドの温度がより高い領域に対応する層12の内側の陰影が付された領域は、層の結晶性の概略的な表現である。温度がより高い領域では、結晶性は、それに対応してより高くなる。
【0090】
結晶性の変化は、ヤング係数、破断時の歪み、破断時の伸展、破損応力、靱性および降伏応力を含む機械的特性などの、材料の他の物理的特性にも影響を与えることができる。この変化はまた、たとえば、材料の光学的(屈折率および複屈折を含む)、電気的、および物理的分解特性、ならびに材料の鎖整列に影響を与えることもできる。
【0091】
第3の構成では、堆積されている層の厚さが、層の堆積中に制御され得る。すなわち、層の厚さを層自体に沿って能動的に変化させて、厚さに局所的変化をもたらすことができる。これは、個々の層が異なる厚さで、ただし各層に沿って一定の厚さで印刷される、知られている構成とは異なることが、理解されよう。
【0092】
いくつかの構成では、単一層の厚さをその層に沿って変化させることができる。他の構成では、
図3に示すように、材料の二つの層(すなわち第1の層12および第2の層13)を互いの上部に堆積することができ、この堆積を制御して、層の一方または両方の厚さを変化させることができる。厚さは、押出し係数、印刷ヘッドと表面との間の距離、および/または印刷速度などのいくつかのパラメータを印刷中に制御することによって、変化され得る。この場合、二つの層間の境界面は、印刷が実施されている表面に対して角度を付けており、この表面に対して(一定の厚さを有する層が印刷されている場合のように)平行ではない。
【0093】
いくつかの構成では、これも
図3に示すように、二つの層12、13の厚さは、二つの層の組み合わせられた合計厚さが層に沿って一定であるように変化され得る。換言すれば、層の一つの厚さが低減される領域では、他の層の厚さがそれに従って増大され、それによって二つの層の合計厚さは、一定になる。以下でより詳細に論じるように、これは、特定の全体厚さが必要とされるが、物理的特性の変化がその厚さの長さに沿って望まれる場合に有利である。
【0094】
図3に示す例では、線L1は、第1の層12の押出し係数を示し、線L2は、第2の層13の押出し係数を示す。この例では、いずれの所与の点においても、線L1とL2の合計は、同一の値であるが、他の構成では、線の合計は、同一の値である必要はなく、変化してもよいことが、理解されよう。
【0095】
線L3は、第1の層12を印刷しているときの印刷ヘッドの経路(垂直方向)を示し、線L4は、第2の層13を印刷しているときの印刷ヘッドの経路(垂直方向)を示す。したがって、線L3に示すように、印刷ヘッドは、第1の層12を印刷する中央に向かって下方に(すなわち印刷ベッドに近づいて)移動する。線L4に示すように、印刷ヘッドは、第2の層13の印刷の間にわたって実質的に同一の高さに留まる。点線で示す印刷ヘッドは、第1の層の印刷の終了時の印刷ヘッドの位置を示し、実線で示す印刷ヘッドは、第2の層の印刷の終了時の印刷ヘッドの位置を示す。
【0096】
押出し係数(すなわち進行する距離に対する、押し出されるフィラメント材料の長さの比)は、第1の層12の中央部分ではより低く、ヘッドは、印刷ベッドにより近づいて移動され、その結果、層は、この領域内ではより薄くなることに留意されよう。印刷ヘッドは、第2の層13の印刷中、同一の高さに留まるが、それまでに堆積された層上方の相対高さは、その層の高さが均一でないために変化することになる。さらに、中央領域内の押出し係数の増大は、第2の層13の厚さがこの領域内で増大することを意味する。
【0097】
堆積されている途中の材料の層の厚さが、印刷ヘッドの速度、押出し係数、ベッド温度、押出し温度、および層分離を含むパラメータの異なる組合せを使用して制御され得ることが、理解されよう。単に一例として、層をいくつかの方法でより薄くすることができ、この方法は、少ない材料が所与の領域上に所与の時間に堆積されるように印刷速度を(一定の送り出し速度で)増大させること、層分離を変化させること、押出し係数を変化させること、および押出し温度を変化させることなどを含む。これにより、(複屈折および結晶性を含む)層の物理的特性および層の厚さを互いに独立的に制御することが、可能になり得る。
【0098】
ヘッドは、
図3では(線L3およびL4の矢印によって示すように)両方の層について同一の方向に移動するが、いくつかの構成では、後続の層は、印刷ヘッド10が印刷表面11上を反対方向に移動することによって形成されてもよいことが、理解されよう。この結果、印刷ヘッド10は材料を両方向に堆積するため、印刷は、より迅速になり得る。
【0099】
二つの層が存在する構成では、二つの層は、異なる材料で形成され得る。これにより、組み合わせられた層の物理的特性を厳密に制御することが、可能になり得る。たとえば、高い剛性および低い靱性を有する材料の第1の層を使用することができ、高い靱性および低い剛性を有する材料の第2の層を使用することができる。この構成では、層の厚さは、高い剛性が必要とされるところでは、高剛性材料層がより厚くなり、高い靱性が必要とされるところでは、高靱性材料層がより厚くなるように制御することができる。単に一例として、一つの層をPLLA(ポリ-L-乳酸)で形成することができ、他の層をPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)で形成することができる。好ましい例では、一つの層をPLLAで形成することができ、他の層をPLLAおよびPHAの混合物で形成することができる。
【0100】
二つの層に関連する上記の構成が、二つの層が存在することだけに限定されず、追加の層が提供されてもよいことが、理解されよう。他の構成では、三つ以上の層が、提供されてもよく、このとき層の一つ以上の厚さは、上述したように堆積を制御することによって変化されられ得る。
【0101】
層の厚さに関連する上記の構成はまた、上述したように、材料に加えられる歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度、あるいは材料が堆積される表面の温度を変化させることと組み合わせて、鎖整列、複屈折、および結晶性などの他の材料特性を個々の層内で、または個々の層に沿って変化させることもできる。これにより、積層造形によって生み出される対象物の材料特性に対する緻密で局所的な制御が、実現され得る。
【0102】
上記の構成のいずれにおいても、材料の堆積は、印刷ヘッドを、堆積が行われている表面に対して所与の第1の方向に移動させることによって実施される。材料特性および/または層内の厚さの変化は第1の方向にあり得ることが、理解されよう。すなわち、印刷ヘッドが移動する方向に沿って、材料特性または厚さは、同一の方向に変化する。
【0103】
第4の構成では、
図4および
図5に示すように、材料の層12(すなわち印刷される対象物を形成する層)は、犠牲層14上(すなわち印刷プロセス中に使用されるが、印刷される対象物の部分を形成しない、層)に堆積され得る。材料の層12は、400ミクロン以下の厚さを有することができ、好ましくは、200ミクロン以下、より好ましくは100ミクロン以下、さらにより好ましくは50ミクロン以下の厚さを有することができる。犠牲層14は、ベース表面11(たとえば上述したような印刷ベッド)上に位置することができる。換言すれば、犠牲層14は、ベース表面11と材料の層12との間に間置される。
【0104】
この構成により、特に薄い構造を3Dプリンタを使用して印刷することが、可能になり得る。特に、知られている方法を使用して印刷される薄い部分は、その厚さが非常に小さいために取り扱うことが難しくなり得る。すなわち、薄い層(200ミクロン以下の厚さを有するものなど)が、ベース表面上に直接堆積される場合、この層は、ベース表面から取り外されるときに損傷されやすくなり得る。材料の層とベース表面との間に犠牲層を採用することにより、犠牲層14および材料の層12(すなわち印刷された部分)を、材料の層12に損傷を与えることなくベース表面から一緒に取り外すことが、可能になり得る。これはまた、以下で論じるような他の利点を有することもできる。
【0105】
200μmの層分離および0.04の押出し係数でPVAの犠牲層を印刷することにより、25μmから200μmの層分離を有するPLLAの層を首尾良く印刷し、犠牲層から取り外すことができることが、実験によって発見された。特に、25μm、50μm、150μm、175μm、200μm、225μm、250μm、275μm、および300μmの厚さを印刷した。これらの厚さの層を(そして特にこの範囲の下端に向かうほど)印刷することは、薄い(脆くなり得る)層を印刷ベッドから取り外すことが難しいために、これまで非常に難しいものであった。したがって、犠牲層を使用する本開示の方法により、材料の薄い層を印刷し、材料に損傷を与えずに取り外すことが、可能になる。以下で説明するように、これは、いくつかの用途において有用になり得る。
【0106】
方法は、犠牲層14を材料の層12から取り外すことをさらに含むことができる。これは、犠牲層を機械的に取り外す(たとえば犠牲層を剥離して印刷部分から除去する)か、または犠牲層を溶解するなどの化学的プロセスを使用することによって行われ得る。そのような化学的プロセスは、犠牲層に使用される材料に依存する。しかし、たとえば、材料の層12が水溶性ではない条件で、(たとえば、ポリビニルアルコール(PVA)で形成された)水溶性犠牲層14を水によって溶解させて除去することができる。
【0107】
犠牲層は、任意の適切なプロセスによって形成することができ、任意の適切な形状および断面積のものであることができる。しかし、単に一例として、200ミクロン以下の部分が印刷されているとき、犠牲層は、通常、100から400ミクロンの厚さおよび600から900ミクロンの幅を有する円形縁を有する矩形形状を有することができる。
【0108】
いくつかの構成では、材料の層12を堆積する前に、犠牲層14をベース表面11上に堆積することができ、特に、同一の装置を使用して犠牲層および材料の層を堆積することができる。すなわち、印刷ヘッドを有する3Dプリンタが使用されるとき、同一の印刷ヘッドおよび3Dプリンタを使用して最初に犠牲層14をベース表面上に堆積し、次いで、材料の層12を堆積して所望の部分を形成することができる。
【0109】
この所望の部分を形成する材料の層と同一の装置を使用して犠牲層を堆積することは、いくつかの利点をもたらすことができる。たとえば、犠牲層の厚さは、印刷中、上述したような材料の層の厚さと同一の方法で制御され得る。しかし、堆積の厚さは、能動的に制御される必要はなく、たとえば、ベースの傾斜または不均一性によって引き起こされる余分な空間すべてを犠牲層の材料が「充填する」結果として、受動的に変化することができる。
【0110】
塗布中の犠牲層の厚さの変化は、いくつかの利点をもたらすことができる。ベース表面の傾斜または不均一性の結果、ベース表面と印刷ヘッドとの間の距離が一定でなくなることがあり、その結果、ムラのある印刷が、生じ得る。非常に薄い部分が印刷されているとき、ベース表面の非常に小さい傾斜または不均一性は、不相応に大きい影響を印刷に及ぼし得る。その理由は、ベース表面は、通常、印刷される層の厚さに対して大きいためである。しかし、犠牲層が最初に、その非常に薄い部分を形成する材料の層が印刷される同一のデバイスを使用して印刷される場合、そのような変化の影響を回避することができる。
【0111】
したがって、いくつかの構成では、犠牲層の印刷は、ベース表面を「平坦にすること」ができる。その理由は、犠牲層は、利用可能な空間を充填するため、ベース表面内の変化を受動的に補償することができるためである。上記と同一の理由により、これは、薄い層(たとえば、上述したように400ミクロン未満の厚さの層)が印刷されているとき、特に有利であり得る。
【0112】
そのような「平坦化」が受動的に起こる概略図が、
図11A、
図11B、
図12A、および
図12Bに示されている。これらの図に示す相対寸法、サイズ、形状、および角度は、単に概略的であり、この概念を説明する目的のためであることが、理解されよう。実際には、説明する角度および変化は、これらの図に示すものよりかなり小さくなり得る。
【0113】
図11Aでは、層12を傾斜ベッド11(すなわちベース表面)上に直接印刷する図が、示される。印刷される層の厚さは、ベッドの傾斜によって変化することが、分かる。他方では、
図11Bでは、犠牲層14が、最初にベッド11上に印刷され、次いで(非犠牲または主要)層12が、犠牲層14の上に印刷される。犠牲層の上面は平坦であるため、主要層は、平坦面上に印刷され、その結果、主要層の厚さは、均一になる。
【0114】
上述したように、
図11Aおよび
図11Bは、単なる概略図である。実際には、平坦であるように意図されるベッドは、たとえば、誤較正または移動により、わずかな傾斜(すなわち
図11Aおよび
図11Bに示す角度未満)を有し得る。しかしわずかな傾斜であっても、(上述したように)非常に薄い層が印刷されるときには不相応に大きな影響を及ぼし得る。したがって、犠牲層の使用により、印刷される非常に薄い後続層の厚さに対する改善された一貫性および制御が、傾斜ベッド(またはベース表面)の影響を打ち消すことによって可能になり得る。
【0115】
同様に、犠牲層の使用は、傷または凹みなどのベース表面(すなわち印刷ベッド)内の不均一性を補償することができる。これは、
図12Aおよび
図12Bに概略的に示され、ここでは、いくつかのくぼみ40がベース表面11内に存在することが、示されている。犠牲層14が印刷され、犠牲層は、後続の層12を印刷することができる平坦面を提供しながら、くぼみを充填する。実際には、くぼみまたは不均一性は、印刷ベッドに対する損傷または磨耗によるもの、製造欠陥によるもの、またはベッドが形成される材料の特性によるものであり得る。
【0116】
したがって、犠牲層の使用は、頻繁に使用する印刷ベッドの寿命を延ばすことができ、または印刷部分において良好な表面仕上げおよび均一な厚さを維持しながらも、ベッドの平坦度、および平滑性の製造公差を低減することができる。ここでも、これは、上述したような非常に薄い部分が印刷されている場合に特に重要になり得る。実際には、不均一性は、印刷ベッドのサイズに対して小さくなり得る(そして裸眼では見えないことがある)が、それにも関わらず、層12が非常に薄い場合、印刷されるこれらの層に不相応に大きい影響を及ぼす。したがって、ここでも、犠牲層の使用により、印刷される非常に薄い後続の層の厚さに対する改善された一貫性および制御が、ベース表面内の不整合または不均一性を補償することによって可能になり得る。
【0117】
さらに、犠牲層の使用は、印刷ベッドが水平であるかどうかに関わらず、プリンタ間または印刷ラン間の一貫性を可能にすることができる。たとえば、二つの異なる印刷機を使用して同一の部分を生み出すことができる。犠牲層を使用しない場合、二つの機械が全く同一の方法で較正されないと、二つの機械によって生み出される仕上げ部分間には、変動が存在し得る。同様に、特に機械がラン間で再較正されている場合、類似の変動が、同一の機械の印刷ラン間で生じ得る。ここでも、この影響は、印刷されている部分が非常に薄い場合に特に著しくなり得る。これは、小さい絶対変動が、その部分の厚さに対して不相応に大きい影響を及ぼすためである。しかし、犠牲層が最初に印刷され、材料の主要層が犠牲層上に印刷される場合、印刷が行われている表面からの正確な距離が(その表面が犠牲層として堆積されているために)知られているため、較正エラーを回避または低減する。換言すれば、犠牲層は、主要層の堆積が行われるデータム面として作用し、後続の層のノズルの高さは、正確に制御され得る。したがって、犠牲層の使用は、異なるプリンタ間、または同一のプリンタの異なるラン間の変動を打ち消すことができる。
【0118】
いくつかの構成では、材料の層を犠牲層上に堆積する前に、犠牲層14にパターンを付すことができる。これにより、いくつかの利点が、もたらされ得る。特に、非常に小さいスケールのパターンを犠牲層上に生み出すことができ、このパターンは、次いで、犠牲層によって、印刷されている部分上に付与される。これは、
図4および
図5のステップ状パターンとして示される。当然ながら、
図4および
図5に示すステップ状パターンは、単なる概略であり、パターンは、印刷される部分のスケールよりかなり小さくてもよく、任意の特定の形状のものでもよいことが、理解されよう。いくつかの例では、パターンは、細胞接着を制御または案内するように構成された表面性状(texture)を有することができ、これは、印刷される材料が、以下で説明するように(それだけに限定されないが)ステントなどの医療デバイスにおいて使用されるとき、有利であり得る。
【0119】
犠牲層に関する上記の構成が、上述した他の構成の一つ以上と組み合わせられてもよいことが、理解されよう。たとえば、犠牲層上に印刷すると共に、堆積を制御して、犠牲層上に堆積される材料の層の一つ以上の厚さを変化させることができる。さらに、層のいずれの堆積も、材料の少なくとも一つの特性を層に沿って、上述した方法のいずれかにおいて変化させるように制御され得る。
【0120】
いくつかの構成では、
図6Aおよび
図6Bに示すように、犠牲層14および印刷される部分を形成する材料の層12は、回転式ドラム(またはマンドレル)15上に印刷され得る。この結果、全体的に管状の部分が、印刷され得る。
図6aに示すように、犠牲層14の厚さを変化させることができ、それにより、印刷が行われている回転式ドラム15が均一な断面を有する場合でも、可変の断面を有する部分を生み出すことができる。したがって、犠牲層の使用により、印刷が行われている表面に関係なく、印刷される形状の変化が、可能になり得る。ドラム自体の形状を代替的または追加的に変化させて、印刷される部分の形状(たとえば断面)に変化をもたらすことができる。犠牲層に関連して上述したように、ドラム上の犠牲層の使用(およびその後の取り外し)により、管状部分を損傷することなくドラムから取り外すことが、可能になり得る。
【0121】
上記の方法およびその組合せを使用して、数多くの異なる対象物を生み出すことができる。これらのプロセスによって有利に生み出され得るいくつかの特定の対象物を以下で説明する。しかし、これらのプロセスによって生み出される対象物がそれらに限定されないことが、理解されよう。
【0122】
特に、上述した方法は、心臓ステントを生み出すために特に有用であり得る。すなわち、上述する方法のうち、任意のものを使用して、心臓ステントを形成することができる。そのような心臓ステントは、通常、冠動脈疾患(CAD)の治療に使用される。CADは、動脈壁上にプラークが積み重なることによって冠動脈が狭小化し、心臓への血液の供給を制限することによって引き起こされる。CADの外科的治療は、通常、罹患した動脈内にステントを留置して、その管腔を開き、血流を復活させることを伴う。
【0123】
従来のステントは、通常、金属および薬剤溶出ポリマーの組合せから作製され、恒久的に定位置に留まるように設計される。ステントは、膨脹可能なバルーン上にクリンプされ、このバルーンは、腕または鼠径部内の動脈を通して送り出すことによって、標的部位に送達され得る。定位置になると、バルーンを膨脹させることができ、それによってステントを恒久的に強制拡張して、損傷した動脈を広げる。バルーンは、その後取り出され、正常な血流が、復活される。
【0124】
ステントのパフォーマンスは、しばしば、動脈を開いたままにし、再狭窄(標的動脈の異常な狭小化の再発生)を回避する能力に基づいて査定される。故に、ステントは、動脈の収縮に耐え、バルーンが取り出された後の弾性反跳を最小限にするのに十分な剛性を有しなければならない。大きな反跳は、望ましくない。これは、反跳が大きいと、ステントを拡張してステントのその後の収縮(すなわち反跳)を補償するときに、損傷した血管の過度の拡張を必要とし、血管を穿孔するリスクがあるためである。経時的なステントのさらなる反跳はまた、再狭窄につながって血管の再閉塞につながり得る。追加的に、埋め込み中または埋め込み後のステントの破砕は、機械的パフォーマンスの大きな低減、ならびに再狭窄および脳卒中の機会の増大につながる可能性がある。
【0125】
さらに、ステント厚さは、再狭窄率との強い相関関係を示し、ステントが薄いほど、より良好な臨床的パフォーマンスが表示される。140ミクロン未満の厚さが、通常使用される。再狭窄のリスクは、埋め込み6ヶ月後に大きく低減されるが、従来の金属製ステントは、体内に無限に残り、それによって、動脈壁の硬化につながり、ステントの部位は炎症するようになり得る。これらの問題に対処するために、生体吸収性ステント(bioresorbable stents)(BRS)が、開発されており、その分解時間は、約2年である。利用可能な生体吸収性材料の範囲のうち、ポリマーが、BRSの必要とされる機械的特性および分解特性を満たすために選択されている。特に、BRSは、ポリ乳酸(PLLA)から作製されている。
【0126】
しかし、生体吸収性ステントの臨床的パフォーマンスは、一様に成功しているわけではなく、再狭窄および脳卒中の発生の増大が、患者において観察されている。生体吸収性ステントは、通常、上述した140ミクロンより大きい厚さを有する。これは、従来の金属ベースステントよりもポリマーベースステントの主な複雑性の一つを強調している。すなわち、ポリマー加工は、金属加工とは異なる。ポリマーステントは、通常、レーザ機械加工によって製作され、レーザ機械加工は、製作中に熱勾配を生じさせることがあり、熱勾配はさらに、ポリマー結晶性の制御されない変化により、機械的および分解的特性に異方性を生じさせ得る。そのような制御されない変化は、短いパルスを有する高速繰り返し速度のレーザ(たとえば、フェムト秒レーザ(femtosecond lasers))を使用して、望まれない特性を有するステントの部分を切り出すことによって低減され得る。しかし、そのようなデバイスは、通常、大きく、非常に高価である。ポリマーステントの特性をより好都合に高い費用効果で制御することが、必要とされている。ポリマーステントに(動脈を開いたままにするのに)十分な剛性を生じさせる材料特性は、脆性破損およびステント破砕の可能性を増大し得る。対照的に、より低い係数を有するより靱性のあるポリマーは、脆性破損のリスクを低減するが、ステント全体にわたる弾性反跳によって制限される。
【0127】
本開示の方法を使用して生み出されるステントは、層内の材料特性または厚さの変化によってこれらの問題に対処することができる。特に、ステントは、ポリマー材料を使用して、上述した方法のいずれか一つ(または組合せ)によって印刷することができ、これらの方法は、ポリマー材料の特性を緻密スケールで制御することを可能にする。これは、ステントのさまざまな部分が、必要とされるところで高い剛性を、必要とされる他の場所で高い靱性を有するように設計することができることを意味する。たとえば、ステントが(たとえばストラットの細長い部分がその周りを移動するステントの「ヒンジ」領域において)変形するように設計される部分は、低い剛性を有して変形を可能にすることができ、(ストラットの細長い部分などの)拡張後に通常反跳する部分は、高い剛性を有して、望ましくない弾性反跳を低減することができる。これは、上述したように、層内の材料特性の変化によって達成され得る。
【0128】
本開示の方法を使用して生み出されるステントのさらなる利点は、ポリマーの鎖整列の制御により、ステントの特性を改善することが可能になり得ることである。すなわち、ポリマー鎖の配向は、印刷方向であり、この方向はさらに、ステントを構成する個々のストラットの長さ方向に沿うものである。この方向は、力がステントに加えられる方向でもある。他方では、従来のポリマーステントの場合、ポリマーチューブが押し出され、レーザ切断されて、ステントを形成する。この状況では、鎖の配向は、チューブの軸に沿うものである。部材がレーザを使用して切り出されると、残っているストラットは、チューブの軸に平行ではなく、したがって、ポリマー配向は、ストラットに沿うものではない。
【0129】
図7A、
図7B、および
図7Cは、本開示の方法を使用して生み出されたステント16の一例を示す。ステントは、いくつかの細長いストラット17で形成され、これらのストラットは、ヒンジ領域18においてまとまって接合される。細長いストラットおよびヒンジ領域は、連続構造で一緒に印刷され得る。各ストラットは、複数の層で形成され、これは、
図7Bおよび
図7Cの断面図で示されている。
図7Bおよび
図7Cはまた、血管19の内側に配置されたステントを示す。
図7Bおよび
図7Cでは、明るい色の層は、高い靱性および低い剛性を有する材料を示し、暗い色の層は、高い剛性および低い靱性を有する材料を示す。
【0130】
図7Bに示す(
図7Aの線A-Aを通る)断面は、ストラットに沿って途中の場所で切り取られ、ここでは、ステントは、剛性材料で形成される。これは、各層内の材料特性を印刷中、ステントのこの部分を構成する層17aの大部分(この例では、最も内側の層以外のすべて)が高剛性材料で形成されるように、上述した方法を使用して変化させることによって達成される。したがって、望ましくない弾性変形を低減することができる。
【0131】
他方では、
図7Cに示す(
図7Aの線B-Bを通る)断面は、ヒンジ領域が位置する場所において切り取られ、ここではステントは、靱性がより高く、剛性がより低い材料で形成される。これは、各層内の材料特性を印刷中、ステントのこの部分を構成する層18aの大部分(この例では、最も外側の層以外のすべて)がより柔軟(すなわちより低い剛性)であるが、より高い靱性で形成されるように、上述した方法を使用して変化させることによって達成される。したがって、ステントは、他の領域内の望ましくない変形を低減しながら、ヒンジ領域内で必要な分だけ変形することができる。
【0132】
上述したように、本開示の方法はまた、非常に薄い層を、印刷ベッドからこの層が取り外されるときに損傷を与えることなく印刷することを可能にすることができる。これは、心臓ステントを印刷するときに特に有利であり得る。その理由は、上述したように、ステントは、通常、(通常140ミクロン程度の厚さを有する)薄いストラットで形成されるためである。ステントのストラットを形成する部分が、単一の印刷層で、層の材料特性および/または厚さをストラットに沿って変化させながら形成されてもよく、あるいは複数の層で形成されてもよいことが、理解されよう。複数の層が使用されるとき、材料特性および/または厚さの変化は、複数の層のうち、一つだけ、または二つ以上、またはすべてにおいてあってもよい。
【0133】
さらに、本開示の方法は、ステントを「個人向けにする」ことを可能にすることができる。すなわち、患者の血管のスキャンを取得することができ、(材料特性および/または厚さの変化を含む)ステントの形状は、患者の特定の血管形状の要求事項を満たすように設計することができる。ステントを、上述したように回転式ドラム上に印刷して、適切な形状を生み出すことができる。回転式ドラム上に印刷される部分に関連して概して上述したように、ドラム自体の形状を変化させて、ステントの形状を変化させることもできる。
【0134】
上述したように、仕上げ印刷の複屈折の変化を検出することによって印刷における欠陥またはエラーを検出することは、「個人向けにされる」ステントに特に有用であることができ、ここでは、使用される特定の設計は、まだ印刷されていない。
【0135】
本開示の方法によって生み出されるステントはまた、患者に損傷を引き起こす分解を受ける部分のリスクを低減するように特定の方法で分解するように設計することができる。換言すれば、ステントのさまざまな部分の材料特性は、分解を受けたとき(またはステントが損傷した場合)、ステントが、安全ガラスの破断のような形で、容易に吸収され得る小さい部分に破断するように制御され得る。
【0136】
有利には、本開示の方法を使用して、(それだけに限定されないが)導波管、リング共振器、および光結合器を含む、光子デバイスを生み出すこともできる。
【0137】
特に、
図8に示すように、層内の材料特性(上述したような屈折率および/または複屈折)の変化は、光子デバイス20のさまざまな部分の光伝動特性の変化につながることができ、この変化は、本開示の方法を使用して小さいスケールで制御することができる。すなわち、材料特性および/または厚さの変化を使用して、光を光子デバイスを通して案内することができる。特に、層は、ポリマー層であってもよい。
図8に示すように、デバイスは、いくつかの異なる層および領域を有することができ、層の特性(屈折率を含む)を上述したように制御して、そこを通る光の通過を可能にする、ブロックする、または変更することができる。光の通過を変更することは、それだけに限定されないが、光の位相または偏光を変化させる、光を反射する、光を屈折する、光を回折する、または光の伝播の速度を変化させることを含むことができることが、理解されよう。
【0138】
特に、デバイス20は、光を内部に導入することができる一つ以上の入力部21と、光がそこを通って案内される一つ以上の案内領域または通路22(より暗い陰影で示す)と、光がそこを通ってデバイスを離れることができる一つ以上の出力部24と、を含むことができる。入力部、通路、および出力部のすべては、光がこれらを通過することができるように形成される。デバイスは、光がそこを通って案内されない非案内領域23(より明るい陰影で示す)を含むこともできる。非案内領域は、光が通過することを可能にしない光ブロック領域であってもよく、または光が依然として伝播することができるが、優先的にはこれらの領域に案内されない領域であってもよいことが、理解されよう。したがって、光は、入力部、通路、および出力部によってデバイスを通って案内される。入力部、通路、および出力部ならびに光ブロック領域が、単一の3D印刷層内に、層の光学特性を上述したように層内で変化させながら形成され得ることが、理解されよう。代替的には、デバイスのさまざまな部分は、異なる層内に形成されてもよい。
【0139】
本開示の方法を使用してそのような光子デバイスを生み出すことにより、デバイスを素早く、安価に、3D印刷を使用して生み出すことが可能になり、層内の変化による光子デバイスの機能に対する緻密な制御を保持しながら、デバイスを素早く再設計およびカスタマイズすることが、可能になり得る。
【0140】
さらに別の用途では、本開示の方法を使用して対象物を生み出すことができ、この対象物は、材料特性の変化によって表される隠された情報を含む。これは、ステガノグラフィ(steganography)の形態である。特に、上述したような複屈折などの材料特性の変化を使用して、対象物内に「符合化された」(または隠された)情報を有する対象物を生み出すことができる。隠された情報は、任意の適切な手段によって検出され得る。たとえば、情報は、特定のセットのフィルタを通してのみ検出可能であってもよい。あるいは、スペクトル分析器、または光の特性の変化を検出するための任意の他の構成を使用して、隠された情報を検出してもよい。複屈折の場合、複屈折は、たとえば、材料を交差偏光フィルタ間に置くことによって観察され得る。
【0141】
対象物内に隠された情報は、画像、バーコード、単一ビットのデータ、または任意の他の情報を含む、任意の形態であり得る。また、そのような情報を(交差偏光フィルタまたはスペクトル分析を使用して)検出するために使用される光が、可視スペクトル内である必要がないことも理解されよう。画像の場合、画像は、色画像または白黒画像であってもよい。「画像」または他の「隠された情報」は、可視光を使用して見えなくてもよいが、可視波長外の光用の検出器を使用して「視認されるか」またはアクセスされてもよいことが、理解されよう。
【0142】
たとえば、印刷された対象物の特定の層は、第1の歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度で印刷された領域と、第2の(異なる)歪みおよび/または伸展力および/または歪み速度で印刷された他の領域と、を有することができる。これらの領域が交差偏光フィルタを通して見られるとき、これらは、(上述したような)複屈折の変化によって異なる色を有し得る。この原理を使用して、情報(たとえば、画像または上述したような他の情報)を層内に隠すことができ、この情報は、正しいフィルタが使用されたときのみ検出可能である(および可視光の場合、見ることができる)。
【0143】
図9Aおよび
図9Bは、複屈折の変化を使用する際の、隠された情報を有する対象物の一例を示す。
図9Aは、光源31の正面に置かれた、三つのそのようなステガノグラフィ(steganographic)対象物30a、30b、30Cの斜視図を示しており、そのうち第1の30aは、交差偏光フィルタ32間に置かれず、第2および第3の30b、30cは、交差偏光フィルタ32間に置かれる。
図9Bの平面図で見ると(すなわち
図9Aに概略的に示す目で見ると)、対象物30a、30b、30cは、光源31によって下から照明される。隠された情報(すなわち文字「CCMM」)は、通常裸眼では見ることができない複屈折の変化によって画定されるため、交差偏光フィルタ間に置かれないときはパターンを見ることができない(すなわち対象物は無地の単色に見える)ことが、分かる。
【0144】
しかし、対象物30bおよび30cが、交差偏光フィルタ32間に置かれたとき、(隠すことができる情報の一例である)文字「CCMM」のパターンを見ることができる。これは、底部フィルタ(すなわち光源と対象物との間のフィルタ)を通過する光の偏光状態が、材料の複屈折部分によって可変の遅延度を導入することによって変えられ、光の特定の波長が上側フィルタを通過することを可能にするためである。複屈折特性を有さない対象物の領域は、暗く現れる。その理由は、底部フィルタを通過する偏光された光は、光の偏光状態に対して90度に配向された第2のフィルタを通過することができないためである。
【0145】
図9Aまたは
図9Bに示すような文字または別の対象物の画像などの画像を含むいかなる情報も、上述した対象物内に隠すことができることが、理解されよう。さらに、対象物の層(または複数層)内の異なる部分の複屈折は、本開示の方法を使用して、異なる波長の光がフィルタを通過することができるように調整され、したがって対象物30cのような色画像を提供することができる。あるいは、白黒画像が、光の単一の波長(または波長の組合せ)を通過させることだけを可能にすることによって、対象物30bのように提供されてもよい。
【0146】
印刷速度などの印刷パラメータに対する緻密な制御の結果、対象物内に隠された画像に対して緻密な制御が行われ得る。特に、層内の複屈折を、印刷速度を(上述したように)変化させることによって変化させて、対象物が交差偏光フィルタ間で見られるときに隠された画像内の色変化を提供することができる。
【0147】
そのような対象物の一例が、
図13Aおよび
図13Bに示され、ここでは、漫画のキャラクタの色画像が、印刷された材料の層内で印刷速度を変化させることによって生み出されている(対象物内に隠されている)。
図13Aは、裸眼で見える対象物を示す。画像は、この図では見ることができない。
図13Bは、色画像を露出させる交差偏光フィルタ間に置かれたときの対象物を示す。(ピクセルに分解することができる)画像内の色に対する緻密な制御により、大量の情報を画像内に保存することが、可能になり得る。すなわち、(各ピクセルが、情報を保存する目的で0または1の値を有するように考えることができる)白黒画像を使用するのではなく、各ピクセルを値の範囲を有するように「符合化する」ことができ、このとき、この値は、印刷されるピクセルの制御された複屈折によって示されている。
図13Aおよび
図13Bは、5つの異なる色の使用の一例を提供する。しかし、ヒトの目ではなく測定装置を使用することで、複屈折のかなり小さい変化を検出することができるので、個々のピクセルを多くのより可能な値を有するように変化させることができることが、理解されよう。これにより、大量の情報を画像内に隠して「符合化する」ことが、可能になり得る。
【0148】
この画像を生み出すために、ベッドを平坦にする取り外し可能な犠牲PVA層を、200μmの層分離、0.04の押出し係数、および1000mm/分の印刷速度で最初に堆積し、続けて、200μmの層分離、0.04の押出し係数、および1000mm/分の印刷速度で支持PLLA層を堆積させた。次いで、印刷速度を変化させ、その結果、遅延および複屈折を変化させて、画像を形成した。この変化は、交互のラスタパターン、50μmの層分離、および、0.01の押出し係数による40層のPLLAブロックの個々の層内で印刷速度を空間的に変化させることによるものである。
【0149】
画像を形成するPLLA層では、印刷速度を500mm/分から6000mm/分までの間で変化させて、層内の色変化を生み出した。特に、500、750、1000、2000および6000mm/分の速度を使用して、黒、灰色、白、肌色、および赤色をそれぞれ生み出した。印刷方向は、
図13Bに示す配向では水平方向(すなわち左から右および右から左)からであるため、色が画像内の水平線に沿って変化する場合、これは、印刷速度がそれぞれの印刷層に沿って変化し、その結果、層内に複屈折の変化が生じた結果である。
【0150】
そのような対象物は、たとえば、暗号化(encryption)、暗号法(cryptography)、および偽造防止法を含む数多くの分野で特に有用であり得る。本開示の技術をこれらの分野に適用することは、いくつかの利益を有することができる。これは、現場において立証者の全管理下で、隠された情報(アクセストークンなど)を有する対象物を生み出すことを可能にすることができる。これは、立証者が対象物の製造と検証の両方を完全に制御し、したがって、たとえば第三者によって生み出されるアクセストークンの使用と比べて、セキュリティの増大をもたらすことを意味している。たとえば、政府機関は、外国において生み出されたアクセストークンを警戒し得る。さらに、このようにしてアクセストークン(または他のそのような対象物)を生み出すことにより、立証者が素早く設計を変えて、その機能の知識を有する人数を限定することが、可能になり、また、たとえば部署用に新しいアクセスカードを印刷する際にアクセストークンを素早く発行することが、可能になり得る。
【0151】
単一層内の複屈折の制御された変化によって(または上述したような他の技術を使用して)印刷される対象物のさらなる可能な用途は、物理複製困難関数(PUF)を生み出すことであり、物理複製困難関数もまた、認証トークンの一タイプであると考えることができる。特に、物理複製困難関数(PUF)は、製造プロセスにおける固有の相違に基づく一意的識別を提供する対象物である。所与の入力(チャレンジ)に対して、PUFは、対象物を識別する一意的出力(応答)を返す。したがって、PUFは、製造プロセスに関連付けられたその固有の特性に基づいて検証することができ、第三者によって複製することはできない。
【0152】
本開示の技術、特に(それだけに限定されないが)印刷される層内の複屈折の制御は、PUFを生み出す際に使用され得る。対象物が、層内の材料特性の制御された変化を伴って、本開示に従って印刷されるとき、通常は追加の変動も存在し、この変動は、制御される変化よりも小さいスケールで検出可能である。たとえば、複屈折が、特定の公称値になるように上記の方法によって制御されるとき、公称値からの複屈折の(かなり小さい)変動も存在し、この変動は、たとえば、使用される特有の供給原料、プリンタのタイプおよびモデル、ならびに印刷環境に関連付けられ得る。この例では、(能動的に)制御される、誘発された複屈折と、特有の供給原料、プリンタ、印刷環境、印刷間の変動に固有のこのより小さい変動の両方を、一意的識別子として使用することができ、このときより小さいスケールの変動は、PUFとして作用する。換言すれば、第三者は、たとえ複屈折の制御されたすべての変化を再現することができる場合でも、新しい印刷内にこの特有の、より小さいスケールの複屈折の変化を再現して、対象物から伝えられる(そして検出される)全く同一のスペクトルを達成することはできない。
【0153】
特に、入力チャレンジ(光のスペクトル)は、可変の複屈折を有する印刷されたポリマーの領域(関数)によって変更され、その結果、検証することができる出力応答の変更(光のスペクトルの変更)が生じる。PUFを3D印刷を使用して生み出すことができることは、すでに(国際公開第2015/077471号で)仮定されている。しかし、この文献は、別個の印刷されるマトリクスと、検出可能な要素(検出可能な要素はPUFを生成するのに関与している)と、を有するデバイスを説明している。本開示の技術を使用することにより、PUFは、印刷されるマトリクスそれ自体の特性によって、(すなわち、印刷される層内の複屈折の特性における検出可能な変動によって)形成される。
【0154】
本開示の方法はまた、他の対象物、たとえば高速の開発サイクルを有し、したがって迅速な試作から利益を有するもの、ならびに上述したような隠された情報を組み込むことによって達成され得る、マーキングおよび/またはラベリングの利益となる部分などを生み出す際に有用であり得る。本開示の方法はまた、「ラボオンチップ(lab on chip)」デバイス、またはステント以外の医療デバイス、たとえば他のタイプのインプラントなどを生み出すのに有益であることができ、このインプラントでは、特性の変化を使用して、たとえば、上述したような屈折率の制御された変化を使用する光結合器が一体化された、計装されたインプラントを生み出すことができる。
【0155】
本発明を例示的な実施形態を参照して説明してきたが、これは、開示された例示的な実施形態に限定されないことを、当業者は理解すべきである。さまざまな改変形態、組合せ、副組合せ、および代替形態が、これらが添付の特許請求の範囲またはその等価物の範囲内にある限り、設計要求事項および他の要因に応じて見出されてもよい。本開示の任意の例または実施形態からの特徴を、本開示の任意の他の例または実施形態からの特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0156】
10 印刷ヘッド
11 ベース表面
12、13 材料の層
14 犠牲層
16 ステント
17 ストラット
20 光子デバイス
30a、30b、30c 対象物
【国際調査報告】