(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】抗微生物銀配位錯体
(51)【国際特許分類】
C07D 277/36 20060101AFI20230710BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230710BHJP
A61K 33/38 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230710BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230710BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230710BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230710BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230710BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20230710BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C07D277/36 CSP
A61P31/00
A61K33/38
A61K9/06
A61K47/20
A61K47/10
A61K47/22
A61K47/36
A61K31/28
A61L26/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563178
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2020060686
(87)【国際公開番号】W WO2021209134
(87)【国際公開日】2021-10-21
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522405831
【氏名又は名称】ペンタ サイエンス インダストリーズ ホールディング ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Penta Science Industries Holding B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ビグノッツィ, カルロ, アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】クイント, ベルトゥス, ヨゼフ
(72)【発明者】
【氏名】コゴ, アルベルト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC31
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD55
4C076DD59
4C076EE37
4C076FF63
4C076GG45
4C081AA06
4C081AA12
4C081BA14
4C081BB06
4C081CD081
4C081CE01
4C081DA12
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086HA01
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA16
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZB32
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JB01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA48
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZB32
(57)【要約】
アニオン性二配位銀(I)錯体は、抗微生物活性及び一般式[Ag
+(L
2-)
2]
3-[式中、L
2-は、2-メルカプト-4-メチル-5-チアゾールアセテート、3-メルカプト-1-プロパンスルホネート、2-メルカプト-5-ベンゾイミダゾールスルホネート及びチオサリチレートからなる群から選択される配位子である]を有する。前記のアニオン性二配位銀(I)錯体のナトリウム塩は、抗微生物活性及び一般式Na
+3[Ag
+(L
2-)
2]
3-を有する。前記のアニオン性二配位銀(I)錯体の塩は、抗微生物活性及び一般式(W
+)
3[Ag
+(L
2-)
2]
n[式中、W
+は、オクテニジン、クロルヘキシジン、ベンザルコニウム及びジデシルジメチルアンモニウムからなる群から選択されるカチオン性表面活性剤であり、nは、1又は2である]を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗微生物活性及び一般式:
[Ag
+(L
2-)
2]
3-
[式中、L
2-は、2-メルカプト-4-メチル-5-チアゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホネート、2-メルカプト-5-ベンゾイミダゾールスルホネート及びチオサリチレートの二価アニオン性形態からなる群から選択される配位子である]
を有する、アニオン性二配位銀(I)錯体。
【請求項2】
抗微生物活性及び一般式:
Na
+
3[Ag
+(L
2-)
2]
3-
を有する、請求項1に記載のアニオン性二配位銀(I)錯体のナトリウム塩。
【請求項3】
抗微生物活性を有する、請求項2に記載のナトリウム塩の水溶液。
【請求項4】
抗微生物活性を有する医薬として使用するための、請求項1に記載の二配位銀(I)錯体を含有するヒアルロン酸組成物。
【請求項5】
抗微生物活性を有する医薬として使用するための、請求項2に記載のナトリウム塩を含有するヒアルロン酸組成物。
【請求項6】
リン酸アスコルビルナトリウムをさらに含有する、請求項4又は5に記載のヒアルロン酸組成物。
【請求項7】
液体包帯として使用するための、請求項4~6のいずれか一項に記載のヒアルロン酸組成物。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸が、ヒアルロン酸ナトリウムの形態である、請求項4~7のいずれか一項に記載のヒアルロン酸組成物。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸ナトリウムの含有率が、0.8~1.4%の間に含まれる、請求項8に記載のヒアルロン酸組成物。
【請求項10】
抗微生物活性及び一般式:
(W
+)
3[Ag
+(L
2-)
2]
n
[式中、
W
+は、オクテニジン、クロルヘキシジン、ベンザルコニウム及びジデシルジメチルアンモニウムからなる群から選択されるカチオン性表面活性剤であり、
W
+がオクテニジン又はクロルヘキシジンである場合、nは、2であり、
W
+がベンザルコニウム又はジデシルジメチルアンモニウムである場合、nは、1である]
を有する、請求項1に記載のアニオン性二配位銀(I)錯体の塩。
【請求項11】
抗微生物活性を有する、請求項10に記載の塩のアルコール溶液。
【請求項12】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群から選択される、請求項11に記載のアルコール溶液。
【請求項13】
抗微生物活性を有する、請求項10に記載の塩のジメチルスルホキシド溶液。
【請求項14】
請求項10に記載の塩、又は請求項11若しくは12に記載のアルコール溶液、又は請求項13に記載のジメチルスルホキシド溶液を含有する、固体表面をコーティングするための抗微生物溶液。
【請求項15】
抗微生物局所処置において使用するための、シリカ粒子から作製した粉末であって、請求項11に記載の塩、又は請求項11若しくは12に記載のアルコール溶液、又は請求項13に記載のジメチルスルホキシド溶液が前記粒子に吸着されている、粉末。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、抗微生物活性が備わっている配位錯体に関する。前記の配位錯体は、ヒアルロン酸組成物に組み込まれることができ、界面活性剤と塩を形成することができる。前記の配位錯体及び前記の配位錯体によって形成された塩を組み込んでいるヒアルロン酸組成物は、医学的使用に、特に局所処置に好適である。
【0002】
【先行技術】
【0003】
ヒアルロン酸(HA)は、繰り返し二糖単位で構成された線状多糖類であり、これが今度はグルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンからなる。ヒアルロン酸は、生理学的に及び薬学的に許容できる塩の形態で、特にナトリウム塩(ヒアルロン酸ナトリウム)の形態で、一般に使用されている。
【0004】
ヒアルロン酸は、コラーゲン及びエラスチン等のマトリックスの細胞及び繊維構成要素が包埋されている主なマトリックス物質の1つである。ヒアルロン酸のもう1つの独自の特性は、その極めて高い水結合能である。水溶液中、ヒアルロン酸は、柔軟な及びらせん状になった配置を有し、この配置は、試料採取されたポリマーのおよそ1000倍の水を含有することができる(Biopolymers 1970;9:799~810)。この特殊な特性は、ヒアルロン酸が、細胞外空間の維持に大きく寄与すること及び組織の水分補給を制御することを可能にする。
【0005】
ヒアルロン酸は、その発見以来(J.Biol.Chem.1934、107、629~634)、多用途及び高機能バイオポリマーとして大きな注目を集めてきた(BioDrugs 2012、26、257~268、Carbohydr.Polym.2013、92、1262~1279.2~6)。臨床的に、ヒアルロン酸は、薬物送達システムとして眼科(Optom.Vis.Sci.2014、91、32~38)、変形性関節症処置のための整形外科において(すなわち粘弾性補充)(Eur.Rev.Med.Pharmacol.Sci.2014、18、3326~3338)及びダーマルフィラーとして(Facial Plast.Surg.2014、30、81~83、16、17)を含む、いくつかの用途において使用されてきた。
【0006】
ヒアルロン酸は、炎症部位における細胞外マトリックスの細胞の炎症性浸潤を変調するフィブリンクロットとの相互作用を介して構造フレームワークを設置する等、初期炎症段階において若干数の役割を有する。その上、ヒアルロン酸は、すべての歯周組織において同定されており、歯肉及び歯周靭帯等の非石灰化組織において特に顕著であり、セメント質及び歯槽骨等の石灰化組織にはわずかな分量のみ含有されている。歯周組織は歯周病を被る場合があり、歯周病は、細菌感染によって引き起こされて、歯周組織の進行性破壊及び最終的に歯の喪失を伴う炎症応答を誘発することが公知である。
【0007】
ヒアルロン酸マトリックスへの銀錯体(銀配位化合物)の包含により、いくつかの用途に、例えば歯周病の処置に特に有用な、抗微生物製剤を取得することができる。実際に、抗微生物剤としての銀の活性は、過去数年間で十分に確立されてきた(Prog.Med.Chem.1994)。銀イオンの抗微生物作用機序は、酵素及びタンパク質に含まれるチオール基との銀イオンの相互作用と密接に関連しているが、他の細胞成分が関与していることがある。銀イオンの殺ウイルス特性は、SH基との銀イオンの結合能を考慮して(Crit.Rev.Environ.Control 1989、18:295~315.)、及びDNA中の塩基との銀イオンの優先的な相互作用を通して(Chem.Rev.1971、71:439~471)、説明されることもある。
【0008】
しかしながら、公知の銀ベース組成物の有意な欠陥は、組成物が、非常に多くの場合、熱的及び光化学的不安定性並びに低い溶解度に見舞われることである。加えて、アニオン性銀錯体はヒアルロン酸ナトリウムの水溶液と適合することができるが、これらの抗微生物調製物の熱的安定性は、依然として解決すべき課題である。
【0009】
したがって、熱的及び光化学的不安定性、低い溶解度等の前述の欠陥に影響を受けない、抗微生物銀ベース組成物の強い必要性が感じられる。特に、銀イオンがヒアルロン酸マトリックスに組み込まれており、熱的に安定である、抗微生物銀ベース組成物の強い必要性が感じられる。
【0010】
【発明の目的】
【0011】
本発明の目的は、公知の抗微生物銀ベース組成物を改良することである。
【0012】
別の目的は、銀イオンがヒアルロン酸マトリックスに組み込まれている、公知の抗微生物組成物を改良することである。
【0013】
別の目的は、銀イオンを含有し、好適な熱的及び光化学的安定性並びに高い溶解度が備わっている、利用可能な抗微生物組成物を作製することである。
【0014】
さらに別の目的は、銀イオンを含有し、熱的に及び光化学的に安定並びに高可溶性であり、局所治療的処置において有効に使用され得る、利用可能な抗微生物組成物を作製することである。
【0015】
【発明の簡単な説明】
【0016】
本発明によれば、請求項1で定義されているとおりの、抗微生物活性を有するアニオン性二配位銀(I)錯体が提供される。
【0017】
本発明は、公知の抗微生物銀ベース組成物の、特に抗微生物銀含有ヒアルロン酸組成物の欠陥を、克服することができる。実際に、本発明のおかげで、-3の負電荷を有し、銀イオン(Ag+)が2つのアニオン性配位子と結合している、アニオン性銀錯体が提供される。出願人は、本発明に従う錯体が、著しい抗微生物活性を保有することを見出し、実験的に検証した。前記の錯体は、抗微生物(透明及び無臭)ゲルがヒアルロン酸ナトリウム及びリン酸アスコルビルナトリウム(ビタミンCの安定形態)と会合して調製されることを可能にする。前記の抗微生物ゲルは、前例のない熱的及び光化学的安定性を呈し、医学的使用に好適である。特に、抗微生物ゲルは、局所使用のための液体包帯として使用されてもよく、液体包帯は、皮膚又は歯肉の創傷を微生物の攻撃から保護するために好適である。抗微生物ゲルは、抗真菌特性も示しており、この特性のおかげで、抗微生物ゲルは婦人科分野において使用され得る。歯科分野において出願は予見され得る。
【0018】
加えて、出願人は、前述の負電荷(3-)のおかげで、アニオン性銀錯体が、塩を形成するように、ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、クロルヘキシジン及びオクテニジン等の表面活性剤及び消毒剤であるカチオン性化合物と会合し得ることを見出し、実験的に検証した。これらの錯体含有塩は、水には不溶性であるが、メタノール、エタノール、n-プロパノール及び(程度は少ないが)2-プロパノール等のアルコール系溶媒には非常に可溶性である。錯体含有塩は、いかなる種類の固体表面に対しても非常に高い親和性を示し、例えばシリカ粒子(官能化シリカ粒子)に吸着させることができ、故に、医学的使用に、すなわち局所処置に好適な抗微生物粉末及び溶液を形成することを可能にする。
【0019】
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明は、その実施形態を非限定的な例として例証する同封図面を参照して、よりよく理解及び実施され得る。
【0021】
【
図1】ナトリウム塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体を含む水溶液の試料の堆積後に観察された微生物成長阻害ハローを示す、ペトリ皿の写真である。
【0022】
【
図2】ナトリウム塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体を含有するヒアルロン酸ゲルの試料の堆積後(左側のペトリ皿)及び対照ゲルの試料の堆積後(右側のペトリ皿)に観察された微生物成長阻害ハローを示す、2つのペトリ皿の写真である。
【0023】
【
図3】ベンザルコニウム塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体と接触後(右側のペトリ皿)及び接触なし(左側のペトリ皿)の異なる微生物増殖を示す、2つのペトリ皿の写真である。
【0024】
【
図4】ジデシルジメチルアンモニウム塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体の存在下での微生物増殖(左側のペトリ皿)と、オクテニジン塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体の存在下での微生物増殖(右側のペトリ皿)との間の比較を示す、2つのペトリ皿の写真である。
【0025】
【
図5】ベンザルコニウム塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体の存在下での微生物増殖(左側のペトリ皿)と、ジデシルジメチルアンモニウム塩の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体の存在下での微生物増殖(右側のペトリ皿)との間の比較を示す、2つのペトリ皿の写真である。
【0026】
【
図8】オクテニジン塩(
図6)、クロルヘキシジン塩(
図7)及びベンザルコニウム塩(
図8)の形態の本発明に従うアニオン性銀錯体でシリカ粒子が官能化された、シリカ粒子の堆積後に観察された微生物成長阻害ハローを示す、ペトリ皿の3枚の写真である。
【0027】
【
図9】本発明に従うアニオン性銀錯体を含有する組成物による局所処置の前の、慢性皮膚病変を示す写真である。
【0028】
【
図10】本発明に従うアニオン性銀錯体を含有する組成物による3週間に及ぶ局所処置後の、
図9の同じ慢性皮膚病変を示す写真である。
【0029】
【発明の詳細な説明】
【0030】
本明細書において及び添付の請求項において、
用語「銀イオン」及び対応する化学記号「Ag+」又は「Ag(I)」は、交換可能に使用され、
用語「錯体(複数可)」、「配位錯体(複数可)」及び「配位化合物(複数可)」は同義語であると考えられ、交換可能に使用することができ、
用語「微小生物(複数可)」及び「微生物(複数可)」は同義語であると考えられ、交換可能に使用することができ、
用語「抗微生物」は、物質又は物質の混合物の、微小生物を概して死滅させる及び/又は微小生物の発育を予防する能力を定義し、
用語「抗細菌(抗菌)」は、物質又は物質の混合物の、細菌を特異的に死滅させる(殺細菌(殺菌)作用)及び/又は細菌の発育を特異的に予防する(静細菌(静菌)作用)能力を定義する。
【0031】
本発明に従うアニオン性二配位銀錯体は、以下の一般式:
[Ag+(L2-)(L2-)]3-又は[Ag+(L2-)2]3-
を有する。
【0032】
上記の一般式から分かるように、銀イオンは2つの配位子と結合し、配位子のそれぞれは2個の負電荷を担持している。したがって、錯体の全電荷は3-であり、この電荷のおかげで、本発明に従う錯体によって形成され、以下の一般式:
Na+
3[Ag+(L2-)(L2-)]3-又はNa+
3[Ag+(L2-)2]3-
を有するナトリウム塩による、水溶液への高い溶解度が呈される。
【0033】
微生物種に対する銀錯体の活性は、銀錯体の溶解度、熱的安定性及び光化学的安定性と厳密に結びついている。これらの特性は、好適な配位子(L)の選択によって、並びに配位子の立体及び電子効果におけるわずかな変調によって厳格に支配されている。そのような配位子の同定及び配位子の電荷のヒアルロン酸のアニオン性形態との適合性は、並外れた抗微生物力を有するゲルを調製することを可能にするであろう。
【0034】
出願人によって同定された好適な配位子をここで以下に開示する。
【0035】
好適な配位子は、2-メルカプト-4-メチル-5-チアゾール酢酸(MW=189.26g/mol;CAS:34272-64-5)、以後「MPA」:
【化1】
に由来する。
【0036】
MPAのカルボン酸(-COOH)及びメルカプト(-SH)基の脱プロトン化後、2-メルカプト-4-メチル-5-チアゾール酢酸の二価アニオン性形態が取得される。2-メルカプト-4-メチル-5-チアゾール酢酸の二価アニオン性形態、以後「MPA
2-」配位子は、二配位アニオン性錯体が形成されることを可能にし、この二配位錯体は、以下の分子式:
[Ag
+(MPA
2-)
2]
3-
及び以下の構造式:
【化2】
を有する。
【0037】
上記の二配位錯体は、ナトリウム塩を形成することができ、この塩は、水溶液への非常に高い溶解度を呈し、以下の一般式:
Na+
3[Ag+(MPA2-)2]3-
を有する。
【0038】
別の好適な配位子は、3-メルカプト-1-プロパンスルホネートナトリウム塩(MW=178.21g/mol;CAS17636-10-1)、以後「NaMPS」:
【化3】
に由来する、3-メルカプト-1-プロパンスルホネート、以後「MPS
2-」に由来する。
【0039】
MPS
2-配位子は、以下の分子式:
[Ag
+(MPS
2-)
2]
3-
及び以下の構造式:
【化4】
を有する、二配位負電荷(3-)錯体が形成されることを可能にする。
【0040】
上記の二配位アニオン性錯体は、ナトリウム塩を形成することができ、この塩は、水溶液への非常に高い溶解度を呈し、以下の式:
Na+
3[Ag+(MPS2-)2]3-
を有する。
【0041】
上記で開示した二配位アニオン性錯体[Ag+(MPA2-)2]3-及び[Ag+(MPS2-)2]3-の両方は、水溶液中で著しい光化学的及び熱的安定性を示す。その上、両方のアニオン性錯体は、ヒアルロン酸ナトリウムと完全に適合しており、そのため、高濃度のヒアルロン酸ナトリウム、すなわち0.8~1.4%の範囲内の濃度のヒアルロン酸ナトリウムを含有する、安定なヒアルロン酸ナトリウムゲル溶液が調製され得る。前記のゲル溶液は、電子吸収スペクトル及び粘度をモニターすることによって検証されていることから、熱的に安定である。55℃で40日後、粘度の及び/又は電子吸収における変化は観察されず、このことは、本発明に従う銀錯体とヒアルロン酸ナトリウム組成物との間の実質的に最適な適合性を指し示す。錯体含有ヒアルロン酸ナトリウムゲル溶液は、医学的使用に、特に、局所又は歯肉の創傷を微生物の攻撃から保護するために好適な液体包帯として、好適である。
【0042】
上記の錯体の-及びより一般的には本発明に従う錯体の-さらなる独特の特性は、錯体がリン酸アスコルビルナトリウム(SAP)の存在下で安定であること、今度はSAPがビタミンCの安定形態であり、還元剤及びラジカルスカベンジャーとして作用することが公知であることである。錯体中に存在する銀イオンは、SAPによって還元されず、故に、本発明に従う銀錯体に基づく異なる製剤に添加され得る。
【0043】
さらなる好適な配位子は、2-メルカプト-5-ベンゾイミダゾールスルホン酸のナトリウム塩、以後「NaX」:
【化5】
に由来する、2-メルカプト-5-ベンゾイミダゾールスルホネート、以後「X
2-」である。
【0044】
SH部分の脱プロトン化後、X2-配位子は、以下の分子式:
[Ag+(X2-)2]3-
を有する二配位負電荷(3-)錯体が形成されることを可能にする。
【0045】
上記の二配位アニオン性錯体は、ナトリウム塩を形成することができ、この塩は、水溶液への非常に高い溶解度を呈し、熱的に及び光化学的に安定であり、以下の式:
Na+3[Ag+(X2-)2]3-
を有する。
【0046】
またさらなる好適な配位子は、チオサリチル酸:
【化6】
に由来する、チオサリチレート、以後「TS
2-」である。
【0047】
カルボン酸(-COOH)及びメルカプト(-SH)基の脱プロトン化後、TS2-配位子は、以下の分子式:
[Ag+(TS2-)2]3-
を有する配位負電荷(3-)錯体が形成されることを可能にする。
【0048】
上記の二配位アニオン性錯体は、ナトリウム塩を形成することができ、この塩は、水溶液への非常に高い溶解度を呈し、熱的に及び光化学的に安定であり、以下の式:
Na+3[Ag+(TS2-)2]3-
を有する。
【0049】
また、二配位アニオン性錯体[Ag+(X2-)2]3-及び[Ag+(TS2-)2]3は、ヒアルロン酸ナトリウムと適合しており、そのため、[Ag+(X2-)2]3-又は[Ag+(TS2-)2]3を組み込んでいる安定なヒアルロン酸ナトリウムゲル溶液が調製され得る。
【0050】
本発明に従うアニオン性銀錯体の追加の及び著しく興味深い特性は、カチオン性表面活性剤と塩(錯塩)を形成する錯体の能力である。中性塩は、ナトリウム塩の形態の化学量論量の銀錯体-すなわち、Na+
3[Ag+(MPA2-)2]3-、Na+
3[Ag+(MPS2-)2]3-、Na+3[Ag+(X2-)2]3-又はNa+3[Ag+(TS2-)2]3--を、そのような使用に好適として(出願人によって)同定されている公知の抗微生物表面活性剤に添加することによって、取得され得る。好適な表面活性剤は、以下を含む:
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
ジデシルジメチルアンモニウム(以後「DDA」)
【化10】
【0055】
アニオン性銀錯体の高い負電荷(3-)のおかげで、アニオンとカチオンとの間に強い相互作用が起こり、水には不溶性であるが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒には、及び(程度は少ないが)2-プロパノールにも驚くほど非常に可溶性である塩をもたらす。新たな塩は、いかなる種類の固体表面にも非常に高い親和性を示し、シリカ粒子(官能化シリカ粒子)に吸着させることができ、故に、医学的使用に、すなわち局所処置に好適である抗微生物粉末及び溶液が製剤化されることを可能にする。
【0056】
カチオンOCT、CHL(2+)及びBZ、DDA(1+)の正電荷を考慮して、前記の塩の得られる分子式は、次のとおりである:
【0057】
(OCT)3[Ag+(MPA2-)2]2、(CHL)3[Ag+(MPA2-)2]2、(BZ)3[Ag+(MPA2-)2]、(DDA)3[Ag+(MPA2)2];
【0058】
(OCT)3[Ag+(MPS2-)2]2、(CHL)3[Ag+(MPS2-)2]2、(BZ)3[Ag+(MPS2-)2]、(DDA)3[Ag+(MPS2)2];
【0059】
(OCT)3[Ag+(X2-)2]2、(CHL)3[Ag+(X2-)2]2、(BZ)3[Ag+(X2-)2];(DDA)3[Ag+(X2-)2];
【0060】
(OCT)3[Ag+(TS2-)2]2、(CHL)3[Ag+(TS2-)2]2、(BZ)3[Ag+(TS2-)2]、(DDA)3[Ag+(TS2-)2]。
【0061】
上記で開示した種々の塩は、以下の一般式:
(W)3[Ag+(L2-)2]n
[式中、
Wは、オクテニジン、クロルヘキシジン、ベンザルコニウム及びジデシルジメチルアンモニウムからなる群から選択されるカチオン性表面活性剤であり、
Wがオクテニジン又はクロルヘキシジンである場合、nは、2であり、
Wがベンザルコニウム又はジデシルジメチルアンモニウムである場合、nは、1である]
によって包括され得る。
【0062】
前記の塩は、水には不溶性であるが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のアルコール系溶媒には可溶性であり、ジメチルスルホキシド(DMSO)にも非常に可溶性である。本発明に従う塩は、異なる材料-例えば、ガラス、金属、プラスチック、木材、グラファイト及びセルロース等-から作製することができ、ファンデルワールス力のおかげで塩が吸着できる、固体表面に対して非常に高い親和性を示す。
【0063】
故に、本発明に従う塩を使用して、表面コーティングのための興味深い抗微生物溶液、例えば抗微生物揮発性スプレー溶液を製剤化することができる。前記の表面コーティングの実施形態の例は、建造物、自動車、航空機、クリーンルームにおける空気調節のための導管及びフィルターのコーティング;空気除染デバイスのためのコーティング;保護マスクのコーティング;チタン及びステンレス鋼外科用インプラントのコーティングを含むがこれらに限定されない。
【0064】
その上、本発明に従う塩を使用して、抗微生物粉末の形態の医薬を製造することができる。これらの粉末は、局所使用が意図されており、抗微生物塩が吸着されているシリカ粒子(官能化シリカ粒子)から作製されている。換言すれば、抗微生物局所処置において使用するための、本発明に従う塩が吸着したシリカ粒子を含む粉末を調製することが可能である。固体、例えばシリカ粒子に塩を吸着させるために好適な方法及び装置は、当業者に公知であり、故に、本明細書では開示されない。
【0065】
本発明をよりよく説明し、本発明の理解を容易にするために、ただし本発明の範囲を限定せずに、以下の実施例が開示される:Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3を含有する水溶液の調製(実施例1);Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3を含有するヒアルロン酸ゲルの調製(実施例2);Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3及びリン酸アスコルビルナトリウムを含有するヒアルロン酸ゲルの調製(実施例3);Na+
3[Ag+(MPS-2)2]-3を含有する水溶液の調製(実施例4);Na+
3[Ag+(MPS-2)2]-3を含有するヒアルロン酸ゲルの調製(実施例5);Na+
3[Ag+(MPS-2)2]-3及びリン酸アスコルビルナトリウムを含有するヒアルロン酸ゲルの調製(実施例6);Na+
3[Ag+(X-2)2]-3を含有する水溶液の調製(実施例7);Na+
3[Ag+(TS-2)2]-3を含有する水溶液の調製(実施例8);銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成される塩の調製(実施例9);実験的使用のための微生物プールの調製(実施例10);本発明に従う銀錯体を含有する溶液及びゲルに対する試験(実施例11);本発明に従う銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成された塩のエタノール溶液に対する表面試験(実施例12);本発明に従う銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成された塩で官能化されたシリカ粒子に対する試験(実施例13);慢性皮膚病変の局所処置(実施例14)。
【0066】
実施例1 Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3を含有する水溶液の調製
【0067】
反応物質:MPA=2-メルカプト-4-メチル-5-チアゾール酢酸(thiazolacetic acid)、MW=189.26、CAS:34272-64-5;Ag(NO3)、MW169.87、CAS7761-88-8。
【0068】
1.135gのMPA量に、12.36gの1M NaOH水溶液を添加する。そのようにして取得した懸濁液に、次いで、186.5gの蒸留水を添加し、溶液を5分間にわたって撹拌しながら保つ。0.51gのdi AgNO3を含有する100gの水溶液を最後に添加し、黄色溶液が取得され、この溶液を追加で30分間にわたって撹拌しながら保つ。過剰のアセトンを添加することによってNa+
3[Ag+(MPA-2)2]-3錯体含有塩を沈殿させ、濾過し、風乾させる。%Ag+=0.108%。
【0069】
固体生成物についての元素分析により、以下の結果を得た:Na3AgC12N2S4O4H10の計算値:C、26.14;N、5.08;H、1.83;Ag、19.57。実測値:C、25.87;N、5.0;H、1.88;Ag、19.46。
【0070】
炭素、窒素及び水素の元素分析は、LECO CHN分析器を用いて実施した。銀は、Perkin Elmerオプティマ3100XLによるプラズマ原子吸光分析を通して決定した。
【0071】
実施例2 Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3を含有するヒアルロン酸ゲルの調製
【0072】
実施例1で開示されているNa+
3[Ag+(MPA-2)2]-3の300g量の水溶液に、96gの蒸留水及び4gのヒアルロン酸ナトリウムを添加し、混合物を完全なゼリー化まで12~16時間にわたって穏やかに撹拌しながら保つ。%Ag+=0.081%
【0073】
実施例3 Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3及びリン酸アスコルビルナトリウムを含有するヒアルロン酸ゲルの調製
【0074】
実施例1で開示されているNa+
3[Ag+(MPA-2)2]-3の300g量の水溶液に、20gのリン酸アスコルビルナトリウム、続いて、76gの蒸留水及び4gのヒアルロン酸ナトリウムを添加する。混合物を完全なゼリー化まで12~16時間にわたって穏やかに撹拌しながら保つ。%Ag+=0.081%。
【0075】
実施例4 Na+
3[Ag+(MPS-2)2]-3を含有する水溶液の調製
【0076】
反応物質:NaMPS=3-メルカプト-1-プロパンスルホネートナトリウム塩、MW=178.21g/mol、CAS:17636-10-1;Ag(NO3)、MW169.87、CAS7761-88-8。
【0077】
1.648gのNaMPSを、9.58gの1M NaOH溶液に添加する。溶解後、250gの蒸留水を添加し、続いて、溶解された0.79gのAgNO3を含有する238.8gの水溶液を添加する。銀塩の添加後、溶液は薄黄色になる。過剰のアセトンの添加によってNa+
3[Ag+(MPS-2)2]-3錯体含有塩を沈殿させ、濾過し、風乾させる。%Ag+=0.1%。
【0078】
固体生成物についての元素分析により、以下の結果を得た:Na3AgS4O6C6H12の計算値:C、14.85;S、26.43;H、2.49;Ag、22.23。実測値:C、14.32;S、26.24;H、2.58;Ag、21.90。炭素、窒素及び水素の元素分析は、LECO CHN分析器を用いて実施した。銀は、Perkin Elmerオプティマ3100XLによるプラズマ原子吸光分析を通して決定した。
【0079】
実施例5 Na+
3[Ag+(MPS-2)2]-3を含有するヒアルロン酸ゲルの調製
【0080】
実施例4で開示されているNa+
3[Ag+(MPS-2)2]-3の200g量の水溶液に、4,97gの蒸留水及び3gのヒアルロン酸ナトリウムを添加し、混合物を完全なゼリー化まで12~16時間にわたって穏やかに撹拌しながら保つ。%Ag+=0.07%
【0081】
実施例6 Na+
3[Ag+(MPS-2)2]-3及びリン酸アスコルビルナトリウムを含有するヒアルロン酸ゲルの調製
【0082】
実施例4で開示されているNa+
3[Ag+(MPS-2)2]-3の300g量の水溶液に、20gのリン酸アスコルビルナトリウム、続いて、76gの蒸留水及び4gのヒアルロン酸ナトリウムを添加する。混合物を完全なゼリー化まで12~16時間にわたって穏やかに撹拌しながら保つ。%Ag+=0.08%。
【0083】
実施例7 Na+
3[Ag+(X-2)2]-3を含有する水溶液の調製
【0084】
反応物質:NaX=2-メルカプト-5-ベンゾイミダゾールスルホン酸、ナトリウム塩二水和物;CAS:207511-11-3;MW=288.28;Ag(NO3)、MW169.87、CAS7761-88-8。
【0085】
1.9g量のNaXを898gの水に溶解し、99.44gの水に溶解した0.56gのAgNO3を、撹拌しながら添加する。溶液を30分間にわたって撹拌しながら保つ。アセトンの添加によって白色固体銀錯体を沈殿させ、60℃で乾燥させる。
【0086】
固体生成物についての元素分析により、以下の結果を得た:Na3AgS4N4O6C14H8の計算値:C、26.55;N、8.85;H、1.27;Ag、17.03。実測値:C、25.89;N、8.60;H、1.32;Ag、16.90。炭素、窒素及び水素の元素分析は、LECO CHN分析器を用いて実施した。銀は、Perkin Elmerオプティマ3100XLによるプラズマ原子吸光分析を通して決定した。
【0087】
Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3及びNa+
3[Ag+(MPS-2)2]-3を参照して先に開示したとおり、Na+
3[Ag+(X-2)2]-3でも、類似の手順を使用することによってヒアルロン酸ナトリウム及びリン酸アスコルビルナトリウムの存在下で安定なゲル溶液が調製された。
【0088】
実施例8 Na+
3[Ag+(TS-2)2]-3を含有する水溶液の調製
【0089】
水酸化ナトリウムを硝酸銀とともに2:1の化学量論比で添加し、先の実施例1、4及び7で開示されているものに類似の手順に準拠することによって、TS2-配位子の反応のための錯体の水溶液を取得した。アセトンの添加によって固体錯体を沈殿させ、60℃で乾燥させた。
【0090】
固体生成物についての元素分析により、以下の結果を得た:Na3AgS2O4C14H8の計算値:C、34.94;H、1.68;Ag、22.42。実測値:C、34.26;H、1.78;Ag、21.76。炭素、窒素及び水素の元素分析は、LECO CHN分析器を用いて実施した。銀は、Perkin Elmerオプティマ3100XLによるプラズマ原子吸光分析を通して決定した。
【0091】
実施例9 銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成される塩の調製
【0092】
(本発明に従う)銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成されるすべての塩は、以下の中性塩を得るために、水に溶解された化学量論量の銀錯体を、カチオン性表面活性剤の水溶液と混合することによって、調製されている:
【0093】
(OCT)3[Ag+(MPA2-)2]2、(CHL)3[Ag+(MPA2-)2]2、(BZ)3[Ag+(MPA2-)2]、(DDA)3[Ag+(MPA2-)2];
【0094】
(OCT)3[Ag+(MPS2-)2]2、(CHL)3[Ag+(MPS2-)2]2、(BZ)3[Ag+(MPS2-)2]、(DDA)3[Ag+(MPS2-)2];
【0095】
(OCT)3[Ag+(X2-)2]2、(CHL)3[Ag+(X2-)2]2、(BZ)3[Ag+(X2-)2];(DDA)3[Ag+(X2-)2];
【0096】
(OCT)3[Ag+(TS2-)2]2、(CHL)3[Ag+(TS2-)2]2、(BZ)3[Ag+(TS2-)2]、(DDA)3[Ag+(TS2-)2]。
【0097】
2つの溶液を混合した後、中性塩の沈殿が直ちに生じ、すべての固形物を、真空濾過によって簡単に単離し、多量の水で洗浄し、風乾させ、最後に、換気オーブン内、50℃で乾燥させることができる。
【0098】
炭素、窒素及び水素の元素分析は、LECO CHN分析器を用いて実施した。銀は、Perkin Elmerオプティマ3100XLによるプラズマ原子吸光分析を通して決定した。以下で報告される炭素、窒素及び水素含有量の元素分析は、錯塩のすべての製剤と一致している:
【0099】
(OCT)3[Ag+(MPA2-)2]2:Ag2C129N16H182S8O8の計算値:C、60.59;H、7.17;N、8.76;Ag、8.44;O、5.01;S、10.03。実測値:C、59.23;H、7.66;N、8.45。
【0100】
(OCT)3[Ag+(MPS2-)2]2:Ag2C117N12H186S8O12の計算値:C、57.95;H、7.73;N、6.93;Ag、8.90;O、7.92;S、10.58。実測値:C、56.78;H、8.14;N、6.12。
【0101】
(CHL)3[Ag+(MPA2-)2]2:Ag2C90N34H116S8O8Cl6の計算値:C、44.03;H、4.76;N、19.40;Ag、8.79;O、3.91;S、10.45;Cl、8.66。実測値:C、43.12;H、5.02;N、18.87。
【0102】
(CHL)3[Ag+(MPS2-)2]2:Ag2C90N34H116S8O8Cl6の計算値:C、44.03;H、4.76;N、19.40;Ag、8.79;O、3.91;S、10.45;Cl、8.66。実測値:C、43.12;H、5.02;N、18.87。
【0103】
(DDA)3[Ag+(MPA2-)2]:AgC78N5H154S4O4の計算値:C、64.07;H、10.62;N、4.79;Ag、7.36;O、4.38;S、8.72。実測値:C、63.66;H、11.27;N、4.34。
【0104】
(DDA)3[Ag+(MPS2-)2]:AgC72N3H156S4O6の計算値:C、61.94;H、11.26;N、3.01;Ag、7.73;O、6.88;S、9.19。実測値:C、60.32;H、12.08;N、2.86。
【0105】
ベンザルコニウム含有塩の元素分析は、塩化ベンザルコニウム生成物中に常に存在することが公知である、C14及びC16と比べて普及しているC12アルキル鎖の存在と合致していた:
【0106】
(BZ)3[Ag+(MPA2-)2]:AgC69N5H112S4O4の計算値:C、63.18;H、8.61;N、5.34;実測値:C、60.72;H、9.74;N、4.84。
【0107】
(BZ)3[Ag+(MPS2-)2]:AgC63N3H114S4O6の計算値:C、60.74;H、9.22;N、3.37;実測値:C、58.83;H、10.07;N、2.98。
【0108】
アニオン性錯体[Ag+(X2-)2]3-及び[Ag+(TS2-)2]3-を含有する塩についての元素分析は実施しなかった。
【0109】
固体塩は、第四級アンモニウム塩の及び銀錯体の水溶液を3:1のモル比で混合することによって、並びにクロルヘキシジン又はオクテニジンの水溶液を銀錯体の水溶液と3:2のモル比で混合することによっても取得された。
【0110】
実施例10 実験的使用のための微生物混合物の調製
【0111】
銀錯体の水溶液の並びにヒアルロン酸ナトリウム及びリン酸アスコルビルナトリウムを含有する対応するゲル製剤の抗微生物活性を、以下の表1に示す微生物菌株(Diagnostic International Distribution SpAから購入した)の混合物に対して試験した:
【0112】
【0113】
それぞれの種について、1.5×109~5.5×109(CFU)の範囲内の濃度を持つ表1の異なる菌株の混合物を調製した。
【0114】
表1の微生物プールの種は、皮膚創傷において、及び歯周病(歯周炎)が生じている場合の口腔において一般に見られることから、選択された(Daniluk T.ら、Advances in Medical Sciences第51巻、2006、付録1.)。特に、ヒト歯周炎は、グラム陽性及びグラム陰性細菌の両方を包括する、広く異種の及び複雑な歯肉縁下の微生物叢に関連する。酵母、とりわけカンジダ・アルビカンスは、口腔内の歯周ポケットから大量に回収されている(Reynaud AHら、J.Clin Periodontol、2001;28)。その上、口腔酵母は、エナメル及び根面齲蝕に関係するとされてきており(Jarvensivu Aら、Oral.Dis.2004;10:106~12)、好気性細菌は、嫌気性細菌と比較して歯肉縁上プラークからさらに頻繁に単離される。したがって、表1の微生物プールは、皮膚創傷において及び口腔において最も頻繁に見られる微生物集団を表す。
【0115】
実施例11 本発明に従う銀錯体を含有する水溶液及びゲルに対する試験
【0116】
この実施例で開示されている結果は、Na+
3[Ag+(MPA2-)2]3-を含有する水溶液及びゲルの試料に対して行われた試験と関連している。しかしながら、Na+
3[Ag+(MPS2-)2]3-を含有する同様の溶液及びゲルについて類似の結果が取得されている。
【0117】
それぞれの種について1.5×109~5.5×109CFU/mlの範囲内の濃度を有する表1の異なる菌株の混合物を調製し、混合物の100μlアリコートを、固体(寒天化)培養培地としてトリプトン大豆寒天(TSA)を含有するペトリ皿に接種した。接種は、公知の及び標準化された分析方法に従って、すなわち、マイクロピペットを通して液体アリコートを寒天の表面に堆積させ、滅菌ガラスビーズを使用することにより液体アリコートを寒天の表面に分配することによって行った。水溶液中又はゲル中の銀錯体Na+
3[Ag+(MPA2-)2]3-の100μlの試料を、ペトリ皿の内側、寒天の実質的に中心の区画に堆積させた。次いで、ペトリ皿を37℃で24時間にわたってインキュベートした。この時間が経過した後、堆積した銀錯体周囲のコロニーの増殖及び阻害ハロー(すなわち、微生物増殖が阻害された培養培地の部分)を評価するために、ペトリ皿を検査した。
【0118】
図1及び2に示すとおり、堆積した銀錯体周囲の明確な阻害ハローが水溶液及びゲルの両方について観察され、錯体形成した銀イオンを含有する試料が、1.5×10
9~5.5×10
9CFU/mlのグラム陽性及びグラム陰性細菌の、並びに真菌種カンジダ・アルビカンスの成長を、阻害できることをこのように指し示している。
【0119】
図1は、濃度1.5×10
9~5.5×10
9CFU/mlを有する100μlの微生物混合物の存在下、Na
+
3[Ag
+(MPA
2-)
2]
3-(実施例1に従って調製した)を含有する100μlの水溶液の試料の堆積後、阻害ハローが観察されている、ペトリ皿を示す。
【0120】
図2において、左側のペトリ皿は、濃度1.5×10
9~5.5×10
9CFU/mlを有する100μlの微生物混合物の存在下、Na
+
3[Ag
+(MPA
2-)
2]
3-(実施例3に従って調製した)を含有する100μlのゲルの試料の堆積後に観察された阻害ハローを示すのに対し、右側のペトリ皿は、実施例3で開示されている同量のリン酸アスコルビルナトリウムを含有する(が本発明に従う銀錯体を含有しない)対照ヒアルロン酸ゲルの堆積後の対照ペトリ皿(阻害ハローなし)である。
【0121】
実施例2、実施例3、実施例5及び実施例6で開示されているゲル製剤は、皮膚に塗布されると固体障壁を形成し、故に、創傷治癒に都合が良いことに留意すべきである。特に、この効果の証拠は、実施例6のゲル製剤、以後「液体銀包帯」を参照して、実施例14(以下を参照)で開示されている。
【0122】
実施例12 本発明に従う銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成された塩のエタノール溶液に対する包含試験
【0123】
この実施例で開示されている結果は、[Ag+(MPA2-)2]3-及びカチオン性表面活性剤によって形成された塩を含有するエタノール溶液(試験エタノール溶液)に対して行われた試験と関連している。[Ag+(MPS2-)2]3-又は[Ag+(X2-)2]3-及び同じカチオン性表面活性剤を含有する同様の溶液に対して試験を行うことにより、類似の結果が取得された。
【0124】
それぞれの種について1.5×109~5.5×109CFU/mlの範囲内の濃度を有する表1の異なる菌株の混合物を調製し、混合物の100μlアリコートをペトリ皿に接種し、実施例9で開示されている塩を含有する100μlの試験エタノール溶液の乾燥試料と5分間にわたって接触させた。トリプトン大豆寒天をペトリ皿に注ぎ入れ、TSAを凝固させた後、ペトリ皿を37℃で24時間にわたってインキュベートした。この時間が経過した後、コロニーの増殖を評価するために、ペトリ皿を検査した。
【0125】
図3及び4に示すとおり、アニオン性錯体[Ag
+(MPA
2-)
2]
3-及びカチオン性表面活性剤によって形成された塩を含有するペトリ皿において、微生物コロニーの成長は実質的に観察されない。
【0126】
図3は、濃度1.5×10
9~5.5×10
9CFU/mlの微生物混合物の100μlアリコートを接種した対照ペトリ皿(左側)、及び塩(BZ)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]と(5分)接触させた100μlアリコートを接種したペトリ皿(右側)を示す。対照ペトリ皿において微生物コロニーの成長は明白であるのに対し、右側のペトリ皿において成長は観察されない。
【0127】
図4は、塩(DDA)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]と(5分)接触させた100μlアリコートを接種した第1のペトリ皿(左側)、及び塩(OCT)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]
2と(5分)接触させた100μlアリコートを接種した第2のペトリ皿(右側)を示す。コロニーの成長は両方のペトリ皿において観察されない。
【0128】
図5は、塩(BZ)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]と(5分)接触させた100μlアリコートを接種した第1のペトリ皿(左側)、及び塩(DDA)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]と(5分)接触させた100μlアリコートを接種した第2のペトリ皿(右側)を示す。コロニーの成長は両方のペトリ皿において観察されない。
【0129】
実施例13 本発明に従う銀錯体によってカチオン性表面活性剤と形成された塩で官能化されたシリカ粒子に対する試験
【0130】
この実施例で開示されている結果は、[Ag+(MPA2-)2]3-及びカチオン性表面活性剤によって形成された塩が吸着したシリカ粒子(官能化シリカ粒子)に対して行われた試験と関連している。[Ag+(MPS2-)2]3-及び同じカチオン性表面活性剤によって形成された塩で官能化されたシリカ粒子に対して試験を行うことにより、類似の結果が取得された。
【0131】
それぞれの種について1.5×109~5.5×109CFU/mlの範囲内の濃度を有する表1の異なる菌株の混合物を調製し、混合物の100μlアリコートを、トリプトン大豆寒天を含有するペトリ皿に接種した。塩で官能化されたシリカ粒子からなる粉末の試料を、ペトリ皿の内側の寒天表面に広げた。次いで、ペトリ皿を37℃で24時間にわたってインキュベートした。この時間が経過した後、官能化シリカ粒子周囲の阻害ハローを評価するために、ペトリ皿を検査した。
【0132】
図6、
図7、
図8に示すとおり、堆積した粉末周囲の明確な阻害ハローがいずれの事例でも観察され、官能化シリカ粒子が、1.5×10
9~5.5×10
9CFU/mlのグラム陽性及びグラム陰性細菌の、並びに真菌種カンジダ・アルビカンスの成長を、阻害できることを指し示している。
【0133】
図6は、塩(OCT)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]
2で官能化されたシリカ粒子を含有するペトリ皿を示し、
図7は、塩(CHL)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]
2で官能化されたシリカ粒子を含有するペトリ皿を示し、
図8は、塩(BZ)
3[Ag
+(MPA
2-)
2]で官能化されたシリカ粒子を含有するペトリ皿を示す。
【0134】
実施例14 慢性皮膚病変の局所処置
【0135】
皮膚創傷は、急性又は慢性いずれであっても及び創傷の起源とは無関係に、微生物汚染を常に被り、同じ状況が粘膜及び歯周病において生じる。急性皮膚又は粘膜創傷の微生物のコロニー形成は高速過程であり、宿主において炎症応答を誘発する。炎症は、創傷治癒過程における最初の必須の及び時間制限のあるステップである。しかしながら、多くの場合、バイオフィルム形成により、微生物負荷が制御されていない場合、炎症は、必要とされる期間にわたって持続する。持続的な炎症は、創傷床において高濃度のメタロプロテアーゼ及び好中球由来のエステラーゼを誘発する。これらのタンパク質は、細胞外マトリックスを破壊し、そのため、損傷した組織の再構成が妨害され、治癒過程が慢性状態で停止する。したがって、皮膚又は粘膜創傷床における微生物負荷の制御は、創傷治癒を取得するための前提条件であると考えられる。その上、創傷治癒を取得するために、全処置期間を通して、適正な湿潤環境が維持されなくてはならない。
【0136】
実施例3のゲル製剤、又は液体銀包帯(Na+
3[Ag+(MPA-2)2]-3及びリン酸アスコルビルナトリウムを含有するヒアルロン酸ゲル)は、微生物負荷を制御し、皮膚又は粘膜創傷床において湿潤環境を維持するために特に好適である。前記の液体銀包帯は、イオン性銀の存在のおかげで有効な抗微生物活性を発揮し、液体銀包帯の塗布は、ヒアルロン酸塩の存在のおかげで、創傷床において最適な湿潤環境を維持することができる。創傷床に塗布されると、ヒアルロン酸塩は凝固し、ガス交換を可能にするが周囲の皮膚からの微小外傷及び微生物汚染を防ぐ、障壁を形成する。その上、そのような障壁は、患者において疼痛を低減させる観点から有益である。
【0137】
液体銀包帯は、創傷床を適正に清浄化した直後に、あらゆる種類の皮膚及び粘膜創傷に塗布することができる。創傷の種類-すなわち、急性又は慢性-に応じて、創傷は、生理食塩水で単にすすぐことによって、又は外科的創面切除術を実施することによって、適正に清浄化することができる。
【0138】
非限定的な例として、液体銀包帯の使用のための手順を以下にまとめる:
清浄化した創傷床からの出血は止まっていなくてはならない;
創傷床を滅菌ガーゼで慎重に乾燥させなくてはならない;
清浄な及び乾燥した創傷床に塗布すると、液体銀包帯は迅速に凝固する;
可変要因(例えば、創傷の種類、創傷の部位、患者の種類)に応じて、二次被覆材を塗布してもよい、又はしなくてもよい;
その後で、液体銀包帯を、必要に応じて何度でも塗布することができる(例えば、非滲出性創傷においては1日1回及び滲出性創傷においてはさらに頻繁に)。
【0139】
図9及び
図10は、実施例6の液体包帯の3週間に及ぶ塗布の前及び後の慢性皮膚創傷をそれぞれ示す。
図10は、皮膚創傷が完全治癒に進化したことを明確に及び曖昧さを残さず示す。
【0140】
当業者ならば、上記で開示したものに対する変形及び/又は追加が可能であることを理解するであろう。例えば、先に開示した組成物は実験室スケールで調製されたが、当業者ならば、工業スケールでの製造に好適な調製手順を提供することができる。
【国際調査報告】