(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20230710BHJP
H01M 8/04089 20160101ALI20230710BHJP
F16K 1/36 20060101ALI20230710BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04089
F16K1/36 G
F16K31/06 305L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573578
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-11-26
(86)【国際出願番号】 EP2021064346
(87)【国際公開番号】W WO2021239945
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】102020114410.5
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517368246
【氏名又は名称】ヘルビガー・アントリープステヒニーク・ホールディング・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】HOERBIGER ANTRIEBSTECHNIK HOLDING GMBH
【住所又は居所原語表記】BERNBEURENER STRASSE 13, 86956 SCHONGAU, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】シャイブル,ヨッヒェン
(72)【発明者】
【氏名】ローテ,フェリクス
(72)【発明者】
【氏名】ポテシル,クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】ノッツ,ローベルト
(72)【発明者】
【氏名】フォルツォイ,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ペリセヴィック,アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
3H052
3H106
5H127
【Fターム(参考)】
3H052AA01
3H052BA21
3H052CA01
3H052CB02
3H052CB18
3H052CC03
3H052EA01
3H052EA16
3H106DA07
3H106DA13
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE29
3H106FA04
3H106KK01
5H127AA05
5H127AB02
5H127AB03
5H127AB04
5H127AC05
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA56
5H127BA57
5H127BA59
5H127DC02
5H127EE18
5H127EE19
(57)【要約】
燃料電池システムが、燃料電池と、インテーク接続部(17)と圧力接続部(19)によって燃料電池のアノードチャンバ(7)に接続された噴流ポンプ調節バルブユニット(5)を備える。その噴流ポンプ調節バルブユニットの流体工学的に燃料ガス源と噴流ポンプ(13)の間に接続された燃料ガス調節バルブ(15)が、第1のシール面(79)を有していて少なくとも2本の通流管路(85)を備えるバルブシート(69)と、第2のシール面(82)を有する可動式のバルブ体(71)を含む。前記バルブ体は、少なくとも1個のバルブ体アクチュエータ(73)によって遮断位置と通流位置に移動可能で、前記遮断位置において前記第1のシール面(79)と第2のシール面(82)が共通のシーリング平面(E)内で相互に接触して相互にシーリングし、他方前記通流位置においては前記第1のシール面(79)と第2のシール面(82)の間のストローク間隙が形成される。前記第1のシール面(79)および/または第2のシール面(82)が隆起したプラトー(81)上に配置される。前記第1のシール面(79)の領域内のバルブシート表面および/または前記第2のシール面(82)の領域内のバルブ体表面が最大で1μmの平均の粗さ深度を有する。噴流ポンプ調節バルブユニット(5)の噴射ノズル(67)によって生成可能な噴流の容積流がパルス幅変調されたバルブ体アクチュエータ(73)の付勢によって調節可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードチャンバ(7)とカソードチャンバ(9)を有する燃料電池(3)と、インテーク接続部(17)と圧力接続部(19)によって前記アノードチャンバ(7)に接続され、アノードガスの再循環とアノードチャンバ(7)への燃料ガスの配量された給入のために作用するもので、噴流ポンプ(13)と燃料ガス調節バルブ(15)を備える噴流ポンプ調節バルブユニット(5)を含み、前記燃料ガス調節バルブ(15)が流体工学的に燃料ガス源(25)と噴流ポンプ(13)の間に接続される燃料電池システム(1)であって:
- 前記燃料ガス調節バルブ(15)が、第1のシール面(79)を有していて少なくとも2本の通流管路(85)を備えるバルブシート(69)と、第2のシール面(82)を有する可動式のバルブ体(71)を含み;
- 前記バルブ体(71)はバルブ体アクチュエータ(73)によって遮断位置と通流位置に移動可能で、前記遮断位置において前記第1のシール面(79)と第2のシール面(82)が共通のシーリング平面(E)内で相互に接触して相互にシーリングし、他方前記通流位置においては前記第1のシール面(79)と第2のシール面(82)の間のストローク間隙が形成され;
- 前記第1のシール面(79)および/または第2のシール面(82)が隆起したプラトー(81)上に配置され;
- 前記第1のシール面(79)の領域内のバルブシート表面および/または前記第2のシール面(82)の領域内のバルブ体表面が最大で1μmの平均の粗さ深度を有し;
- 噴流ポンプ調節バルブユニット(5)の噴射ノズル(67)によって生成可能な噴流の容積流がパルス幅変調されたバルブ体アクチュエータ(73)の付勢によって調節可能である、
各特徴を有してなる燃料電池システム。
【請求項2】
第1のシール面(79)が隆起した密封プラトー(81)上に配置されるとともに少なくとも1つの環状面(84B)によって形成され、その中で少なくとも2本の通流管路(85B)がそれぞれ1つの通流管路接続口(87B)に接続することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項3】
通流管路流入口(87)が円形、楕円形、三角形、あるいは台形に構成されることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの環状面(84B)の基準周囲あるいは基準周囲の合計が通流位置におけるストローク間隙より少なくとも60倍、好適には少なくとも80倍、特に好適には少なくとも100倍大きくなることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項5】
第1のシール面(79)が隆起した密封プラトー(81)上に配置されて少なくとも2つの面セクション(83)によって形成され、その内部でそれぞれ通流管路(85)が通流管路接続口(87)に接続することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項6】
少なくとも2つの面セクション(83)がそれぞれ円形、楕円形、三角形、あるいは台形に構成されることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項7】
少なくとも2つの面セクション(83)の周囲の合計が通流位置におけるストローク間隙の少なくとも150倍、好適には少なくとも250倍、特に好適には少なくとも350倍大きくなることを特徴とする請求項5または6に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項8】
バルブ体アクチュエータ(73)がフローコンセントレータ(97)と、バルブ体(71)と結合されたアンカ(99)を備え、通流位置において前記アンカ(99)とフローコンセントレータ(97)の間に空隙が形成されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項9】
バルブ体(71)あるいは場合によって設けられるバルブ体アクチュエータ(73)のアンカ(99)が通流位置において少なくとも1個の、特に弾力的および/または吸音性に形成された、当接要素(74)に当接することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項10】
バルブ体(71)が動作軸(A)に沿って遮断位置と通流位置に移動可能であり、燃料ガスが前記動作軸に対して横断方向で燃料ガス調節バルブ(15)内に流入可能でかつ動作軸(A)に沿って燃料ガス調節バルブ(15)から流出可能であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項11】
噴射ノズル(67)が噴射ノズル排出口(67´)を有し、その噴射ノズル排出口(67´)と第1のシール面(79)との間の距離が、開放された燃料ガス調節バルブにおけるストローク間隙より最大で160倍、好適には最大で130倍大きくなるようにすることを特徴とする請求項2ないし7のいずれかに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項12】
バルブ体(71)が動作軸(A)に沿って遮断位置と通流位置に移動可能であり、前記バルブ体(71)がバルブシート(69)の方向を向いた端面(91)上に少なくとも1つの、特に止まり穴(93)あるいは環状の溝の形式に形成された、窪み部(95)を備え、その窪み部が動作軸(A)に対して横断方向にバルブ体(71)の周囲に向かって延在する少なくとも1本の合流管路(96)と流体工学的に結合されることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項13】
燃料ガス調節バルブ(15)がスリーブ形状のバルブハウジング(59)を備え、そのバルブハウジングにバルブシート(69)とバルブ体(71)とバルブ体アクチュエータ(73)を収容することを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項14】
バルブ体(71)がバルブハウジング(59)を介して案内されて動作軸(A)に沿って遮断位置と通流位置の間で移動可能であり、バルブハウジング(59)の環状の接触領域(K)内でバルブハウジング(59)と接触し、
前記接触領域(K)を起点にしてバルブシート(69)の方向のバルブハウジング(59)の領域内に動作軸(A)に対して横断方向に延在する少なくとも1個の合流口(109)が形成され、接触領域(K)を起点にしてバルブシート(69)と逆の方向のバルブハウジング(59)の領域内には動作軸(A)に対して横断方向に延在する少なくとも1個の平衡化開口(111)が形成される、
ことを特徴とする請求項13に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項15】
シール面(79,82)に隣接するバルブ体(71)あるいはバルブシート(69)の端面領域に対する密封プラトー(81)の軸方向の隆起、すなわち相互に対向して位置するバルブシート(69)とバルブ体(71)の端面(90,91)の間に形成される圧力空間(D)の軸方向の高さが、バルブ体ストロークの少なくとも1.5倍、特に好適には少なくとも3倍であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アノードチャンバとカソードチャンバを有する燃料電池と、インテーク接続部と圧力接続部によって前記アノードチャンバに接続され、アノードガスの再循環とアノードチャンバへの燃料ガスの配量された給入のために作用するもので、噴流ポンプと燃料ガス調節バルブを備える噴流ポンプ調節バルブユニットを含み、前記燃料ガス調節バルブが流体工学的に燃料ガス源と噴流ポンプの間に接続される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の作用によって、通常アノードチャンバに供給された燃料ガス(例えば水素あるいは水素を含有する混合ガス)がカソードチャンバに供給された酸素を含むガス/混合ガス(例えば周囲空気)と反応生成物(例えば水)を形成しながら化学反応することによって、電流を生成することができる。その場合に、通常アノードチャンバが電解質膜によってカソードチャンバから分離される。化学反応の間に生成される反応生成物は、大部分がカソードチャンバ内に沈降する。燃料電池内の非密封性と不要な副反応のため、当然アノードチャンバ内でも凝縮液と随伴ガス(例えば窒素)が集積されて燃料電池の機能が影響を受けることが考えられる。従って、凝縮液と随伴ガスをアノードチャンバから除去するための技術的な装備(例えば排出バルブ、フラッシュバルブ等)が通常設けられる。
【0003】
アノードへの燃料ガス(例えば水素)の十分な供給を保証するために、一般的に超化学量論的に燃料ガスを供給し、アノードチャンバのインテーク接続部を介してアノードガスを吸引し、その後アノードチャンバの圧力接続部を介して再びアノードチャンバに供給する(再循環)。その場合にアノードガスの再循環は、外部(例えば電気)駆動される回転ファンか、あるいは圧力下にある燃料ガス自体によって内部駆動される噴流ポンプのいずれによっても達成することができる。
【0004】
その場合噴流ポンプにおいて、圧力がかかった燃料ガスが通常噴射ノズルによって噴流を形成しながら噴流ポンプの混合チャンバ内に到達する。アノードガスは噴流のインパルス交換作用によって搬送され、それによって吸引および推進される。再循環されるアノードガスの、そのために消費された燃料ガスに対する容積流の比率は、再循環比と呼称される。再循環比は燃料電池システムの稼働方式に従って変動し、通常燃料電池システムの動作点がより低負荷の方向に低下することに伴って増加し、特に少ない部分負荷での動作において10およびそれ以上の数値となることがあり得る。
【0005】
外部駆動される回転ファンと異なって、噴流ポンプは(電気)エネルギーを使用して駆動する必要がなく、そのことは燃料電池システムのエネルギー効率において有利である。加えて、噴流ポンプは(流体力学的に脆弱な)稼働部品を省略することができるため、長い寿命と高い信頼性を有することを特徴とする。勿論、噴流ポンプは一般的に所定の最小燃料ガス容積流を上回った場合に初めてそれのポンプ効果が作用するため、噴流ポンプの使用は一般的に部分負荷動作中の燃料電池の動作に対しての束縛も伴う。
【0006】
冒頭に述べた種類の(アノードガスの再循環のために噴流ポンプが使用される)燃料電池システムは長年知られている。例えば、ドイツ国特許出願公開第102011105054号(A1)明細書およびドイツ国特許出願公開第102010043618号(A1)明細書、さらに例えば欧州特許出願公開第2565970号(A1)明細書、米国特許第9,029,032号(B2)明細書、ドイツ国特許出願公開第102011086917号(A1)明細書、ドイツ国特許出願公開第102011114797号(A1)明細書、米国特許出願公開第2019/0148746号(A1)号明細書、および米国特許出願公開第2007/0248858号(A1)明細書が挙げられ、それらは既に実用化されていて、特に固定型の利用(例えば動力-熱連結装置、ネットワークから独立した発電機等)ならびに移動式の利用(例えば自動車、船、飛行機等)のいずれにおいても実用化されている。特に移動式の利用の場合に、寿命、信頼性等の要求、さらに過酷な使用および環境要件、部分負荷許容性、低い騒音発生、ならびに高いエネルギー効率等も特に注目される。
【0007】
その種の燃料電池システムの詳細な態様が多様な特許文献の対象になっている。すなわち、例えば上述したドイツ国特許出願公開第102011114797号(A1)明細書は噴流ポンプの噴射ノズルの(時間に依る)加熱に係り;さらにドイツ国特許出願公開第102018200314号(A1)明細書は、燃料電池動力を有する自動車内で使用するために設計されていて、水素あるいはその他のガスを制御するように機能する特殊なドージングバルブを備える噴流ポンプユニットに関する。
【0008】
その他の点についての燃料電池技術、すなわちここで問題になっている燃料電池システム以外に関して多数の先行技術が存在している。例えば、ドイツ国特許出願公開第102015224333号(A1)明細書は、燃料電池自動車の動作中のアノード正常性を判定する方法に関し、そこで特に自動車稼働中の燃料電池内の水素流に基づいた、自動車の出力に負の影響を与えないアノード漏れ試験が提案されている。また、ドイツ国特許出願公開第102010043614号(A1)明細書は、燃料電池動力を有する車両の燃料電池へのガス状の水素の供給を制御するように作用し、そのために適している比例バルブを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第102011105054号(A1)明細書
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第102010043618号(A1)明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2565970号(A1)明細書
【特許文献4】米国特許第9,029,032号(B2)明細書
【特許文献5】ドイツ国特許出願公開第102011086917号(A1)明細書
【特許文献6】ドイツ国特許出願公開第102011114797号(A1)明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2019/0148746号(A1)号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2007/0248858号(A1)明細書
【特許文献9】ドイツ国特許出願公開第102018200314号(A1)明細書
【特許文献10】ドイツ国特許出願公開第102015224333号(A1)明細書
【特許文献11】ドイツ国特許出願公開第102010043614号(A1)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、特に寿命、部分負荷許容性、ならびにエネルギー効率に関してより改善されていて極めて有効な実用性を特徴とする、冒頭に述べた種類の燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題は、以下の相乗的に作用する各特徴を有する、冒頭に述べた種類の燃料電池システムによって解決される:
- 燃料ガス調節バルブが第1のシール面と少なくとも2本の通流管路を備えるバルブシートと、第2のシール面を備える可動式のバルブ体を含む。
- 前記バルブ体はバルブ体アクチュエータによって遮断位置と通流位置に移動可能で、その場合に前記遮断位置において前記第1のシール面と第2のシール面が共通のシーリング平面内で相互に接触して相互に密封し、他方前記通流位置においては前記第1のシール面と第2のシール面の間のストローク間隙が形成される。
- 前記第1のシール面および/または第2のシール面が隆起したプラトー上に配置される。
- 第1のシール面の領域内のバルブシート表面および/または第2のシール面の領域内のバルブ体表面が最大で1μmの平均の粗さ深度を有する。
- 噴流ポンプ調節バルブユニットの噴射ノズルによって生成可能な噴流の容積流がパルス幅変調されたバルブ体アクチュエータの付勢によって調節可能である。
【0012】
バルブ体アクチュエータをパルス幅変調して付勢することによって、噴流の容積流が、連続的ばかりでなく、容積流無しの遮断インタバル(バルブ体が遮断位置に存在する際)と大きな容積流を有する通流インタバル(バルブ体が通流位置に存在する際)とが交互になるような方式で不連続式に制御される。遮断インタバルと通流インタバルの長さ(パルス幅)を調節することによって、長期の平均である平均容積流を調節することができる。
【0013】
その場合に、遮断および通流インタバルの連続に対応して拍動する噴流が、噴流ポンプによって同様に拍動し(通流管路を介して)アノードチャンバに流入する、再循環したアノードガスと(新鮮な)燃料ガスとからなる混合ガス流と、同様に拍動してアノードチャンバから(インテーク接続部を介して)吸引されたアノードガス流を形成する。
【0014】
その場合に、本発明の各特徴の相乗作用によって、(通流インタバル中に発生する)極めて急勾配で上昇および下降するインパルス流動変化(「インパルス拍動」)を噴流に付加することができ、それによって本発明に係る燃料電池システムの実用性を高める一連の卓越した利点が達成される。
【0015】
まず、アノードガス流がいわば多少衝撃的にアノードチャンバからインテーク接続部を介して噴流ポンプ内に吸引されるように、噴流のインパルス拍動が作用することができる。その場合に、拍動する衝撃性の吸引が、(連続的な吸引と比べて)より大きな容積のアノードガスが噴流ポンプ内に吸引されることを促進する。従って、再循環比を高めることができ、そのことが燃料電池システムの部分負荷許容性において有利になる。加えて、衝撃性の吸引は、アノードチャンバ内に存在する(不要な)凝縮液が衝撃性の吸引によって大部分アノードガスと共に排出されアノードチャンバ内の表面への沈着が防止されるため、その凝縮液の除去にも寄与する。いずれの効果も、揺動および共振現象を利用することによって極めて有効になり得る。
【0016】
他方、噴流のインパルス拍動は、混合ガス流が同様に衝撃的に圧力接続部を介してアノードチャンバ内に流入することを支援することができ、それによってアノードチャンバ内におけるガスの混合を促進し得るとともに、流体工学的な死角を縮小することができる。いずれの場合も、アノードへのガスの供給あるいは充填が改善され、従って出力、エネルギー効率、および寿命の改善に寄与する。
【0017】
本発明の各特徴ならびにその相互作用は、(パルス幅変調されたバルブ体アクチュエータの動作から得られる反復パターンに追従する)可能な限り顕著な噴流ガスおよび混合ガス流内のインパルス流動変化を可能にするように共通して方向付けられる:
【0018】
その場合に、バルブ体表面ならびにバルブシート表面に存在する表面仕上によって燃料バルブがバルブ体および/またはバルブシートの弾力性の変形を伴わない密封を可能にすることができる。従って、硬質に密封する燃料調節バルブの構成が達成可能になる。それによって、「柔軟に密封する」、すなわち特にバルブシートおよび/またはバルブ体上にエラストマ層を有するバルブとは異なって、バルブ体とバルブシートの解離動作が即座かつ直接的にバルブシートからのバルブ体の離昇につながり、従って即座かつ直接的に燃料ガスの通流が解放され、バルブ体とバルブシートを相互に解離させる前に、先行したバルブの閉鎖に際して実行されたバルブ体および/またはバルブシートの弾力性の変形を先に元に戻す必要がなくなる。そのことが、衝撃的なインパルス流動変化の実現性を促進する。
【0019】
加えて、密封工程中にバルブ体とバルブシートに変形が要求されないため、材料劣化作用に関して重要なバルブ体およびバルブシートの機械的な要求特性が低くなり、従って寿命を延長することができる。そのことは、(密封接触につながる極めて多数回のバルブ体動作を伴った)パルス幅変調された燃料調節バルブの動作方式に対して有利である。勿論、上述したような変形を伴わない(「硬質の」)密封方式に付随して遮断インタバル中に僅かな漏れ燃料流が発生したとしても、本発明によって達成可能な極めて重要な利点を考えれば許容可能である。
【0020】
前記の硬質の密封を達成するために、両方のうち少なくとも一方の密封相手(バルブ体あるいはバルブシート)において該当するシール面上に最大で1μm、好適には最大で0.25μm、特に好適には最大で0.1μmの平均の粗さ深度が存在する。両方の密封相手が、特にそれぞれのシール面に同じ材料が使用されているため、同等に硬質のシール面を有する場合、前記の表面特性が両方の密封相手に該当する。他方、両方の密封相手のうち一方のシール面が他方の密封相手よりも硬質で、例えばバルブ体が鋼鉄製のバルブ体表面を有し、一方バルブシートは樹脂製のバルブシート表面を有する場合に、(燃料ガス調節バルブの稼働前に)より硬度が小さい方のシール面上の表面特性がより硬質な方のシール面のものより(例えば一桁のレベルで)下回っても問題にならない。従って、例えば当初の平均の粗さ深度が最大で10μm、好適には最大で2.5μm、特に好適には最大で1μmであることを特徴とする表面特性を有する、充填プラスチック(特にPEEK;後述)から製造されたバルブシートを(機能性への負の影響を伴うことなく)使用することができる。初期局面において燃料ガス調節バルブのパルス幅変調された動作の結果の両方の密封相手の高周波の相互接触の効果のため、両方の密封相手のうちのより硬質な方によって短時間の間に硬度が低い方におけるシール面の平滑化が達成される。前述した「平均の粗さ深度」は、例えばDIN EN4287およびDIN EN4288に従って定義し測定された平均の粗さ深度(粗さパラメータ)Rzに関する。
【0021】
その場合に、上述したバルブ体表面あるいはバルブシート表面の高品質の表面特性は、例えばラップ磨き、ホーニング、および研磨等の機械的な表面の微細加工によって達成することができる。バルブ体およびバルブシートの原料としては、特に金属ならびに添加鉱物を含んだ金属、炭素あるいはグラスファイバを充填した樹脂、中でもポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルシロキサン(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、およびポリフタルアミド(PPA)が挙げられる。
【0022】
同様に、対応する要素(バルブシートあるいはバルブ体)の隣接する端面領域から突立する、隆起した密封プラトー上に少なくとも1つのシール面を配置することが、衝動的な噴流のインパルス流動変化を可能にすることへの重要な影響を有する。それによって、燃料ガス調節バルブが閉鎖されている(遮断位置)際に、圧力がかけられた燃料ガスを、燃料ガス源から相互に向かい合って位置するバルブシートとバルブ体の端面の間で前記隆起した密封プラトーによって加圧されて延在する圧力空間内に集積させることを達成可能になる。すなわち、バルブ体の遮断位置において圧力がかけられ従って相当に圧縮された燃料ガスが可能な限り短い距離で協働作用するシール面に極近接して存在し、燃料調節バルブの開放時(バルブ体が通流位置に移動)に通流管路内に向かって衝撃的に膨張することができる。この方式によって、両方のシール面が相互に解離する際に、少なくとも2本の通流路内に流入して衝撃的な流動形成を可能にするために十分に圧力がかけられた燃料ガスを即座かつ直接的に形成することによって、衝撃性の噴流形成の改善を達成することができる。
【0023】
上記の作用も、極めて小さいバルブ体のストロークを有する燃料ガス調節バルブの動作を可能になる。典型的な適用形態において、0.5mm未満のストロークで十分である。特に好適な構成形態においてバルブ体のストロークは0.3mm未満、例えば0.2mmである。そのように小さなストロークが、動作特性に良好な効果を与える。極めて好適な燃料ガス調節バルブの動作特性に対して、相互に対向して位置するバルブシートとバルブ体の端面によって形成される圧力空間(上述参照)の軸方向の長さがバルブ体ストロークの好適には少なくとも1.5倍、特に好適には少なくとも3倍となる。
【0024】
本発明は、本発明の概念において有意義である、衝撃的な燃料ガス流の形成および遮断を有する断続的な噴流が本発明の各特徴の組み合わせによって初めて達成可能になるという知見を利用する。
【0025】
本発明の第1の追加構成によれば、第1のシール面が隆起した密封プラトー上に配置されるとともに少なくとも1つの環状面によって形成され、その中で少なくとも2本の通流管路がそれぞれ1つの通流管路接続口に接続する。その場合に好適な方式において、通流管路接続口が円形、楕円形、三角形、あるいは台形に構成される。その方式によって、圧力空間がバルブ体とバルブシートの間の環状面の内側および外側のいずれにも延在し、従ってバルブの開放によって燃料ガスが2つの方向から少なくとも2本の通流管路内に膨張および流入することができ、それによって衝撃的な噴流の形成が促進される。
【0026】
その場合に、少なくとも1つの環状面の基準周囲あるいは基準周囲の合計が通流位置におけるストローク間隙より少なくとも60倍、好適には少なくとも80倍、特に好適には少なくとも100倍大きくなることが極めて有効である。その場合に、環状面の基準周囲は、該当する環状面の外周および内周の算術平均として定義される。その方式によって、通流位置においてバルブシートに対するバルブ体の極めて僅かな動作の後に既に燃料ガス通流路のために決定的な通流断面積に到達することが達成可能になる。移動距離の最小化によって同時に必要な付勢時間と使用される付勢エネルギーが削減され、従って動作に比例する部品摩耗とさらに燃料ガス調節バルブの寿命に良好な影響を与える。
【0027】
他方、本発明の第2の追加構成において、第1のシール面が隆起した密封プラトー上に配置されて少なくとも2つの(シーリング平面内で相互に結合していない)面セクションによって形成され、その内部でそれぞれ(少なくとも)1つの通流管路が通流管路接続口に接続し、前記少なくとも2つの面セクションが好適にはそれぞれ円形、楕円形、三角形、あるいは台形に構成される。この方式によって、バルブ体とバルブシートの間において各面セクションの外側で圧力空間が環状に延在し、従ってバルブ開放によって全ての方向から該当する通流管路内に燃料ガスが膨張および流入することができ、そのことが衝撃的な噴流の形成を促進する。
【0028】
その場合に、極めて好適な方式によれば、前記少なくとも2つの面セクションの周囲の合計が通流位置におけるストローク間隙の少なくとも150倍、好適には少なくとも250倍、特に好適には少なくとも350倍大きくなる。従って、(バルブ体ストロークに対して)周囲長を適宜に極めて大きく累積すれば、(上述において既に同様な方式で説明したように)通流位置における燃料ガス通流に対して決定的である通流断面積がバルブシートに対するバルブ体の極僅かな相対動作後に既に達成され、それによって可能になる利点を極めて顕著な方式で達成することができる。
【0029】
本発明に係る燃料電池システムの別の追加構成によれば、バルブ体アクチュエータがフローコンセントレータと、バルブ体と結合されたアンカを備え、通流位置において前記アンカとフローコンセントレータの間に空隙が形成されることを特徴とする。前記の空隙によって、通流位置においてアンカがフローコンセントレータと接触し(磁力および/または表面張力によって誘導されて)そこに「固着する」ことを防止することがき、その固着は遮断位置へのバルブ体の再動作を少なくとも妨害および低速化させ従ってバルブ体の動性に負の影響を与え得るものである。
【0030】
別の追加構成によれば、バルブ体あるいは場合によって設けられるバルブ体アクチュエータのアンカが通流位置において少なくとも1個の、特に弾力的および/または吸音性に形成された、当接要素に当接する。それによって、(前述した追加構成の場合の)フローコンセントレータとアンカが通流位置において相互に接触することを簡便かつ確実に防止することができる。加えて、一般的に当接要素の適宜な構成、特に弾力的および/または吸音性の構成によって、通流位置に到達した際の燃料ガス調節バルブの騒音発生を削減し、従って燃料電池システムの実用性を高めることが達成可能になる。この措置によって燃料調節バルブの寿命にも有利になる。
【0031】
本発明の別の追加構成は、バルブ体が動作軸に沿って遮断位置と通流位置に移動可能であり、その場合に燃料ガスが前記動作軸に対して横断方向で燃料ガス調節バルブ内に流入可能でかつ動作軸に沿って燃料ガス調節バルブから流出可能であることを特徴とする。そのため、燃料ガス流が燃料ガス調節バルブを貫流する際に単に約90°方向転換するだけでよくなり、従って急角度の方向転換に伴って生じる圧力損失を回避することができ、そのことが衝撃的な噴流の形成に対して有利になる。
【0032】
別の追加構成において、噴射ノズルが噴射ノズル排出口を有し、その噴射ノズル排出口と第1のシール面との間の距離を開放された燃料ガス調節バルブにおけるストローク間隙より最大で160倍、好適には最大で130倍大きくすることによって、通流管路内への燃料ガスの流入と噴射ノズルからの噴流の流出との間に発生する摩擦作用による、急激な噴流のインパルス流動変化に対する負の影響を最小化することができる。他方で、噴射ノズル内における噴流ガスの抑制された加速を達成するために、前記の距離があまり小さくならないようにすることもできる。その距離は、開放された燃料ガス調節バルブにおけるストローク間隙より少なくとも70倍、好適には100倍大きくすることが有効である。前記の数値を維持することによって、極めて良好な動作特性が達成される。
【0033】
本発明の別の追加構成によれば、バルブ体が動作軸に沿って遮断位置と通流位置に移動可能であり、その場合にバルブ体がバルブシートの方向を向いた端面上に少なくとも1つの、特に止まり穴あるいは環状の溝の形式に形成された、窪み部を備え、その窪み部が動作軸に対して横断方向にバルブ体の周囲に向かって延在する少なくとも1本の合流管路と流体工学的に結合される。それによって、前記合流管路(あるいは複数の合流管路)と窪み部を介して燃料ガスが圧力空間に到達し、燃料ガス調節バルブが開放されている(バルブ体の通流位置)際にさらに通流管路に向かって通流することができる。理想的には、一方で前記少なくとも1本の合流管路と窪み部を介し、他方でバルブ体の側方の周回流動による、圧力空間への燃料ガスの二重の供給が達成される。
【0034】
別の追加構成によれば、燃料ガス調節バルブがスリーブ形状のバルブハウジングを備え、そのバルブハウジングにバルブシートとバルブ体とバルブ体アクチュエータを収容すれば、極めてコンパクトな燃料ガス調節バルブを有する、本発明に係る燃料電池システムを実現することができる。その場合に、バルブ体が前記バルブハウジングを介して案内されて動作軸に沿って遮断位置と通流位置の間で移動可能であり、前記の案内を実行するよう作用するバルブハウジングの環状の接触領域内でバルブハウジングと接触することが好適である。その場合にさらに、接触領域を起点にしてバルブシートの方向のバルブハウジングの領域内に動作軸に対して横断方向に延在する(燃料ガスのための)少なくとも1個の合流口が形成され、接触領域を起点にしてバルブシートと逆の方向のバルブハウジングの領域内には動作軸に対して横断方向に延在する(燃料ガスのための)少なくとも1個の平衡化開口が形成されることが好適である。このバルブハウジング内のバルブ体のそれぞれ異なった方向への少なくとも1個の合流口と少なくとも1個の平衡化開口の配置によって、バルブ体の平衡化開口の側と合流口の側に等しい圧力を有する燃料ガスが存在し、従って発生した圧力がバルブ体を介して相互に平衡化する(圧力平衡)。この圧力平衡が、動作軸に沿ったバルブ体の高速かつエネルギー消費が少ない動作を可能にする。
【0035】
その場合に、バルブ体が滑りリングを備え、その滑りリングを使用してバルブ体がバルブハウジング内で誘導されてバルブハウジングの環状の接触領域と接触することが極めて好適である。その場合に、前記の滑りリングによってバルブ体の「浮遊支承」を達成することができ、それによって遮断位置においてバルブ体をバルブシート上に整合させることができ、そのことがバルブ体とバルブシートの間のシーリングの緊密性に対して有利になる。
【0036】
本発明の中心的な態様は、明らかに噴流ポンプ調節バルブユニットに関するものである。そのため本願の出願人は、そのような独立したユニットに関する請求権も保有する。
【0037】
当業者においては敢えて言及しなくても上述の説明と技術的な知見から自明である考えられるが、上述した追加構成の個々の特徴をその追加構成の別の特徴から切り離して具現化することもでき、また他の追加構成の個々の特徴と組み合わせることも可能であることは勿論である。
【0038】
次に、本発明の実施例につき、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明に係る燃料電池システムを示した概略構成図である。
【
図2】本発明に係る燃料電池システムの噴流ポンプ調節バルブユニットを示した軸方向断面図である。
【
図3】
図2の噴流ポンプ調節バルブユニットの燃料ガス調節バルブを拡大して示した軸方向断面図である。
【
図4a】
図3の燃料ガス調節バルブのバルブ体の側面図である。
【
図4b】
図3の燃料ガス調節バルブのバルブ体の放射断面図である。
【
図5a】本発明に係る燃料電池システムのバルブシートの一実施形態を示した上面図である。
【
図5b】
図5aの本発明に係る燃料電池システムのバルブシートの実施形態を示した軸方向断面図である。
【
図6a】本発明に係る燃料電池システムのバルブシートの別の実施形態を示した上面図である。
【
図6b】
図6aの本発明に係る燃料電池システムのバルブシートの実施形態を示した軸方向断面図である。
【
図7】本発明に係る燃料電池システムの別の4個の異なったバルブシートを示した部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1には、本発明に係る燃料電池システム1が概略的に示されており、このシステムは燃料電池3と噴流ポンプ調節バルブユニット5を含む。燃料電池3は、周知の通りアノードチャンバ7と、カソードチャンバ9と、アノードチャンバ7とカソードチャンバ9を相互に分離する電解膜11を有する。
【0041】
噴流ポンプ調節バルブユニット5は、噴流ポンプ13と燃料ガス調節バルブ15を備え、インテーク接続部17と圧力接続部19を介してアノードチャンバ7に接続され、アノードガスの再循環とアノードチャンバ7への燃料ガスのドージングされた供給を行うように機能する。
【0042】
そのため、燃料ガス源25内に高圧で存在する燃料ガスは、減圧器29内で減圧され、その燃料ガスが燃料ガス調節バルブ15内に流入する前に、まず解放された遮断バルブ27を通過する。その後、燃料ガスが燃料ガス調節バルブによって調節されて噴流ポンプ13内に流入し、(周知の通り)そこでアノードガスを合流させ、そのアノードガスはインテーク接続部17を介して吸引されて(新鮮な)燃料ガスと混合されて混合ガスになる。その混合ガスは、圧力接続部19を介して噴流ポンプ13から流出し、アノードチャンバ流入口39を介して燃料電池3のアノードチャンバ7内に流入する前に、安全バルブ35を通過し、また(選択的に)第1の凝縮物セパレータ37を通って通流する。アノードチャンバ流入口39の領域内において、制御および動作のために重要な混合ガスの状態パラメータ(例えば温度、圧力、混合比等)が、センサ41を使用して検出される。アノードチャンバ7からアノードチャンバ流出口43を介して吸引されたアノードガスは、凝縮液を分離するように作用する(第2の)凝縮物セパレータ45を通過し、アノードチャンバ内に集積した同伴ガス(例えば窒素)の除去を可能にする洗浄バルブ47を通って通流する。場合によって設けられる第1の凝縮物セパレータ43あるいは第2の凝縮物セパレータ45内で分離された凝縮液は、凝縮物排出バルブ49を介して排出することができる。上述の内容において、図示された実施例は当業者において周知の先行技術に基づいており、さらなる説明は省略する。
【0043】
図2には、(明瞭化の理由のため細部が一部実際の縮尺と異なるが)燃料調節バルブ15と噴流ポンプ13を有する本発明に係る燃料電池システム1の噴流ポンプ調節バルブユニット5が軸方向断面で示されている。噴流ポンプ13は噴流ポンプハウジング51を備え、そのハウジング内にインテーク接続部17と圧力接続部19と噴流接続部53が設けられ、噴流接続部は混合空間55と拡散領域57を形成する。噴流ポンプ調節バルブユニットは、当業者において先行技術から周知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0044】
燃料ガス調節バルブ15は、スリーブ形状のバルブハウジング59とバルブシート69とバルブ体71とバルブ体アクチュエータ73を備え、この燃料ガス調節バルブ15を収容して噴流ポンプハウジング51に直接隣接するバルブソケット61内に装着される。2本のOリングによってバルブハウジング59がバルブソケット61に対してシーリングされる。その場合に、図示された構成とは異なるが、バルブソケット61と噴流ポンプハウジング51を一体型に形成することもできる。
【0045】
バルブソケット61内に燃料ガス接続部63が設けられ、それを介して燃料ガス源25がバルブソケット61とバルブハウジング59の間に形成された燃料環状空間65と流体工学的に結合される。(明瞭化のために断面の平面内に図示されている燃料ガス接続部63は、実用上においてはそうではなく、むしろ断面に対して直角でインテーク接続部17の方向に指向している。)
【0046】
バルブハウジング59に対して、噴流接続部53を介して噴流ポンプ13の混合空間55内に挿入される噴流ノズル67が噴流ポンプ側に隣接する。その場合に、噴流ノズル67が噴流ノズル排出口67´を備える。燃料ガス接続部63を介して燃料環状空間65内に流入し燃料調節バルブ15が開放されている際にその燃料調節バルブを通過する燃料ガスは、その後噴流を形成する噴流ノズル67を介して噴流ポンプ13の混合空間55内に流入する。そこでその噴流がインテーク接続部17を介して吸引されたアノードガスを捕捉してそれと共に拡散領域57内に流入する。噴流ポンプ調節バルブユニット5の噴流ノズル67によって形成可能な噴流の容積流は、パルス幅変調されたバルブ体アクチュエータ73の付勢によって制御可能である。図示された実施形態に代えて、噴射ノズル67をバルブハウジング59あるいは噴流ポンプハウジング51と一体的に形成することもできる。
【0047】
図3には、(ここでも明瞭化の理由から細部が一部実際の縮尺と異なるが)
図2の噴流ポンプ調節バルブユニット5の燃料ガス調節バルブ15が(バルブハウジング59内にネジ固定された噴流ノズル67と共に)拡大した軸方向断面において示されている。スリーブ形状のバルブハウジング59内に、バルブシート69とバルブ体71とバルブ体アクチュエータ73と当接要素74とバルブカバー75が収容される。
【0048】
Oリング77によってバルブハウジング59に対してシーリングされる、強度に充填されたPEEK製のバルブシート69が、バルブ体71の方向を向いた端面90上に第1のシール面79を備える。その場合に、第1のシール面79は、端面90の隣接領域から突立する、隆起した密封プラトー81上に配置され、円形に形成された8個の面セクション83(
図3にはそのうち2個のみが示されている)によって形成される。各面セクション83内において、いずれも通流管路85が通流管路流入口87に接続する。バルブシート表面は、第1のシール面79の領域内で(初期、すなわち燃料ガス調節バルブの稼働前に測定して)約2.5μmの平均の粗さ深度を有する。
【0049】
鋼鉄製のバルブ体71が滑りリング89を備え、またバルブシート69の方向を向いた端面91上に第2のシール面82ならびに止まり穴93として形成された窪み部95を備え、その窪み部がバルブ体71の周囲に向かって延在する6本の流入管路96と流体工学的に接続される(
図4aおよび
図4bも参照)。バルブ体表面は、第2のシール面82の領域内で約0.25μmの平均の粗さ深度を有する。
【0050】
バルブ体アクチュエータ73は、電磁石Mと、フローコンセントレータ97と、バルブ体71に結合されたアンカ99を含む。フローコンセントレータ97は、Oリング101によってバルブハウジング59に対してシーリングされる。電磁石Mは2本の接触端子103を介してケーブル105と結合され、そのケーブルがバルブカバー75を貫通するスリーブ107を介して外側に向かって延在する。
【0051】
バルブ体アクチュエータ73ならびに(一方でバルブ体71と他方で当接要素74に対して支持される)バネ108によって、アンカ99とバルブ体71からなるユニットが動作軸Aに沿って遮断位置および通流位置に移動可能であり、(
図3に示された)遮断位置において第1のシール面79と第2のシール面82が共通のシーリング平面E内で相互に接触して相互にシーリングし、他方、(図示されていない)通流位置においては(バルブシート69から持ち上げられた)バルブ体71が当接要素74に当接し、第1のシール面79と第2のシール面82の間にストローク間隙が形成される。その場合に、バルブ体71は、滑りリング89によってバルブハウジング59を介して案内され、バルブハウジング59の環状の接触領域K内でバルブハウジング59と接触する。
【0052】
バルブハウジング59は、8個の合流口109と8個の平衡化開口111と1個の排出口113を備え、
図3においては2個の合流口109と2個の平衡化開口111のみが示されている。その場合に、合流口109は、接触領域Kを起点にしてバルブシート69の方向のバルブハウジング59の部分内で動作軸Aに対して横断方向に延在するように形成され、一方平衡化開口111は、接触領域Kを起点にしてバルブシート69と逆側のバルブハウジング59の部分内で動作軸Aに対して横断方向に延在するように形成される。
【0053】
燃料ガス調節バルブ15が閉鎖され、すなわちバルブ体71が遮断位置に存在する場合、隆起した密封プラトー81によって形成されてバルブシート69とバルブシート69の相互に対向する端面90,91の間に延在する圧力空間D内に燃料ガスが集積される。その場合、圧力空間Dに、一方で合流口96および止まり穴93として形成された窪み部95を通じて、他方でバルブ体71の側面の周囲流によって燃料ガスを供給することができる。すなわち、バルブ体71の遮断位置において圧力がかけられ従って相当に圧縮された燃料ガスが、相互作用するシール面79,82に対して直接的に最短の距離で存在し、燃料ガス調節バルブ15の開放に際して通流管路85内に膨張して、それによって流出口113を介して燃料調節バルブ15から動作軸Aに沿って流出する。
【0054】
図5a,5bおよび
図6a,6bには、それぞれ本発明に係る燃料電池システム1の別の2つの実施形態のバルブシート69A,69Bが上面図および軸方向断面図によって示されている。
【0055】
図5aおよび
図5bによれば、(ここでも強度に充填されたPEEK製の)バルブシート69Aが第1のシール面79Aを備え、それが端面90Aの隣接領域から突立した、隆起した密封プラトー81A上に配置される。その場合に、シール面79Aが24個の円形に形成された面セクション83Aによって形成され、それらが2個の同心円K1,K2に沿って配置される。各面セクション83A内において、それぞれ通流管路85Aが通流管路流入口87Aに接続する。バルブシート表面79´Aが、第1のシール面79Aの領域内で約2.5μmの初期の平均の粗さ深度を有する。
【0056】
他方、
図6aおよび
図6bによれば、(ここでも強度に充填されたPEEK製の)バルブシート69Bが第1のシール面79Bを備え、それが端面90Bの隣接領域から突立した、隆起した密封プラトー81B上に配置され、環状面84Bによって形成される。環状面84B内において、10本の通流管路85Bが10個の円形に形成された(仮想の円K3に沿って配置された)通流管路流入口87Bに接続する。バルブシート表面79´Bが、第1のシール面79Bの領域内で約2.5μmの初期の平均の粗さ深度を有する。
【0057】
図7には、本発明に係る燃料電池システム1の別の実施形態の4個の異なったバルブシート69C,69D,69Eおよび69Fが上面図で示されている。その場合に、4個のバルブシート69Cないし69Fがそれぞれ第1のシール面79Cないし79Fを備え、それらが隆起した密封プラトー81Cないし81F上に配置される。その場合に、シール面79Cないし79Fが複数の面セクション83Cないし83Fからそれぞれ形成され、それらが縦長の面セクション83C、楕円形の面セクション83D、三角形の面セクション83E、あるいは台形の面セクション83Fとして形成される。各面セクション83Cないし83F内において、それぞれ通流管路が通流管路流入口87Cないし87Fに接続する。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
冒頭に述べた種類の(アノードガスの再循環のために噴流ポンプが使用される)燃料電池システムは長年知られている。例えば、ドイツ国特許出願公開第102011105054号(A1)明細書およびドイツ国特許出願公開第102010043618号(A1)明細書、さらに例えば欧州特許出願公開第2565970号(A1)明細書、米国特許第9,029,032号(B2)明細書、ドイツ国特許出願公開第102011086917号(A1)明細書、ドイツ国特許出願公開第102011114797号(A1)明細書、ドイツ国特許出願公開第102016218923号(A1)明細書、米国特許出願公開第2019/0148746号(A1)号明細書、および米国特許出願公開第2007/0248858号(A1)明細書が挙げられ、それらは既に実用化されていて、特に固定型の利用(例えば動力-熱連結装置、ネットワークから独立した発電機等)ならびに移動式の利用(例えば自動車、船、飛行機等)のいずれにおいても実用化されている。特に移動式の利用の場合に、寿命、信頼性等の要求、さらに過酷な使用および環境要件、部分負荷許容性、低い騒音発生、ならびに高いエネルギー効率等も特に注目される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
その種の燃料電池システムの詳細な態様が多様な特許文献の対象になっている。すなわち、例えば上述したドイツ国特許出願公開第102011114797号(A1)明細書は噴流ポンプの噴射ノズルの(時間に依る)加熱に係り;さらにドイツ国特許出願公開第102018200314号(A1)明細書ならびにドイツ国特許第102017212726号(B3)明細書は、燃料電池動力を有する自動車内で使用するために設計されていて、水素あるいはその他のガスを制御するように機能する特殊なドージングバルブを備える噴流ポンプユニットに関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第102011105054号(A1)明細書
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第102010043618号(A1)明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2565970号(A1)明細書
【特許文献4】米国特許第9,029,032号(B2)明細書
【特許文献5】ドイツ国特許出願公開第102011086917号(A1)明細書
【特許文献6】ドイツ国特許出願公開第102011114797号(A1)明細書
【特許文献7】ドイツ国特許出願公開第102016218923号(A1)明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2019/0148746号(A1)号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2007/0248858号(A1)明細書
【特許文献10】ドイツ国特許出願公開第102018200314号(A1)明細書
【特許文献11】ドイツ国特許第102017212726号(B3)明細書
【特許文献12】ドイツ国特許出願公開第102015224333号(A1)明細書
【特許文献13】ドイツ国特許出願公開第102010043614号(A1)明細書
【国際調査報告】