(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】転写因子ETV2遺伝子を用いた直接インビボリプログラミングによる内皮細胞および血管の形成
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20230710BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230710BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230710BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230710BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230710BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230710BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230710BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230710BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230710BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20230710BHJP
C12N 15/87 20060101ALN20230710BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20230710BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K38/16
A61K35/76
A61K35/761
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/04
A61P17/02
C12N15/12
C12N7/01
C12N15/87 Z
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576150
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 US2021037261
(87)【国際公開番号】W WO2021253007
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504391260
【氏名又は名称】エモリー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ヨンソプ
(72)【発明者】
【氏名】イ,サンホ
(72)【発明者】
【氏名】ペ,ソンホ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084BA03
4C084BA44
4C084CA53
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA45
4C084ZA89
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA45
4C087ZA89
(57)【要約】
本発明は、DNA、RNA、mRNA、ETV2タンパク質もしくはタンパク質含有エクソソームを含む、ETV2遺伝子または遺伝子産物を用いて、インサイチュウで、すなわちETV2が注入された身体または組織において、宿主の常在非内皮細胞を内皮細胞に直接リプログラミングして転換させることに関する。特定の態様において、直接リプログラミングされ転換された内皮細胞は、血管が損傷を受けた組織において血管再生を促進することが企図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞に転換させることを含む、非内皮細胞を内皮細胞に転換させる方法。
【請求項2】
核酸がDNAまたはRNAである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
核酸がmRNAである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ETV2をコードする核酸またはベクターが、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを、対象の身体または組織に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞に転換させることを含む、非内皮細胞を内皮細胞に転換させる方法。
【請求項6】
タンパク質がエクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、組織中に血管を生成する方法。
【請求項8】
核酸がDNAまたはRNAである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
核酸がmRNAである、請求項7記載の方法。
【請求項10】
ETV2をコードする核酸またはベクターが、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、組織中に血管を生成する方法。
【請求項12】
タンパク質がエクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、血管が損傷を受けた組織における血管再生を促進する方法。
【請求項14】
核酸がDNAまたはRNAである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
核酸がmRNAである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ETV2をコードする核酸またはベクターが、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、血管が損傷を受けた組織における血管再生を促進する方法。
【請求項18】
タンパク質がエクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、組織における新生血管の形成方法。
【請求項20】
核酸がDNAまたはRNAである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
核酸がmRNAである、請求項19記載の方法。
【請求項22】
ETV2をコードする核酸またはベクターが、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、組織における新生血管の形成方法。
【請求項24】
タンパク質がエクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、血行再建を必要とする疾患を処置する方法。
【請求項26】
核酸がDNAまたはRNAである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
核酸がmRNAである、請求項25記載の方法。
【請求項28】
ETV2をコードする核酸またはベクターが、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項25記載の方法。
【請求項29】
血行再建を必要とする疾患が、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒である、請求項25記載の方法。
【請求項30】
ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与し、組織中の非内皮細胞を内皮細胞および血管に転換させることを含む、血行再建を必要とする疾患を処置する方法。
【請求項31】
タンパク質がエクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる、請求項30記載の方法。
【請求項32】
血行再建を必要とする疾患が、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒である、請求項30記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年6月12日出願の米国仮特許出願第63/038,215号に基づく優先権の利益を主張する。この出願の内容全体は、あらゆる目的のために引用により本明細書中に包含される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所から授与されたHL127759およびHL129511の政府支援を受けて行われた。連邦政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
虚血性心疾患は、冠動脈疾患(例えば、心筋梗塞)および末梢動脈疾患(例えば、重症虚血肢)を含み、罹患率および死亡率の原因として頻度の高い疾患である。これらの臨床症状の主な原因は、血管の消失である。内皮細胞(EC)は、血管の重要な構成要素であり、傷ついた組織または虚血組織の修復に不可欠である。したがって、これらの疾患および関連する病状を治療的に管理するための改善された方法を確立する必要がある。
【0004】
Margaritiらは、線維芽細胞を血管新生および組織工学的血管の再内皮化能を有する内皮細胞にリプログラミングすることを報告している(Proc Natl Acad Sci U S A, 2012, 109:13793-13798)。
【0005】
Leeらは、ETV2を用いてヒト皮膚線維芽細胞を内皮細胞へ直接リプログラミングすることを報告している(Circulation, 2014, 130: A18205)。
【0006】
Moritaらは、ETV2がヒト線維芽細胞を機能的な内皮細胞に直接転換することを報告している(Proc Natl Acad Sci U S A, 2015, 112(1):160-165)。
【0007】
Liuらは、ETS転写因子ER71/ETV2による造血細胞および内皮細胞プログラムの誘導を報告している(EMBO reports (2015) embr.201439939)。
【0008】
Leeらは、ER71/ETV2を用いてヒト皮膚線維芽細胞を内皮細胞へ直接リプログラミングすることを報告している(Circulation Research. 2017, 120:848-861)。
【0009】
Leeらは、新しい内皮細胞の供給源による血管再生を報告している(Circ Res. 2019, 124(1):29-31)。
【0010】
Leeらは、インビボでのETV2導入により、心筋梗塞後の心臓機能の改善および血管の再生を誘導することを報告している(Experimental & Molecular Medicine (2019) 51:13)。
【0011】
Yoonらは、転写因子ETV2に曝された線維芽細胞から培養された内皮細胞または内皮様細胞について報告している(米国特許第10,023,842号)。
【0012】
本明細書で引用した文献は、先行技術を認めるものではない。
【発明の概要】
【0013】
概要
本発明は、DNA、RNA、mRNA、ETV2タンパク質もしくはタンパク質含有エクソソームを含む、ETV2遺伝子または遺伝子産物を用いて、インサイチュウで、すなわちETV2材料が注入される身体または組織の場所で、直接リプログラミングして宿主の常在非内皮細胞を内皮細胞に転換することに関する。特定の態様において、直接的にリプログラムされ転換された内皮細胞は、血管が損傷し、適切な機能のために新しい血管が要求される組織における血管再生を促進することが企図される。
【0014】
特定の態様において、ETV2材料の直接送達は、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒を含むが、これらに限定されない血行再建を要する疾患の処置に使用できる。特定の態様において、ETV2遺伝子または遺伝子産物は、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびmRNAなどの様々な形態で局所注入により疾患部位に送達できる。
【0015】
特定の態様において、本発明は、非内皮細胞を内皮細胞に転換する方法に関する。特定の態様において、内皮細胞に転換する非内皮細胞は、注射部位から10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mmまたは100mmの直径内にある。特定の態様において、組織は、筋肉組織または心臓組織である。
【0016】
特定の態様において、本発明は、本明細書に記載される転写因子ETV2をコードするタンパク質、エクソソーム、核酸またはベクターなどのETV2材料を、注射部位または血管系における非内皮細胞が内皮細胞に転換する身体または組織の場所で対象に投与することを含む、非内皮細胞を内皮細胞へ転換する方法に関する。
【0017】
特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするDNAまたはRNAである。特定の態様において、ETV2をコードする核酸またはベクターは、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするmRNAである。特定の態様において、ETV2タンパク質は、エクソソームまたは他の粒子状構造体の内部または外表面に含まれる。
【0018】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換し、または注射部位の内皮細胞が血管に転換する組織において、ETV2材料、例えば、本明細書に記載のETV2、核酸、タンパク質、結合体または粒子を対象に投与することを含む、組織において血管を生成する方法に関する。
【0019】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換するか、注射部位の内皮細胞が血管に転換する組織において、ETV2材料を対象に投与することを含む、血管が損傷した組織における血管再生を増強する方法に関する。
【0020】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が血管に転換する組織において、ETV2材料を対象に投与することを含む、組織において新しい血管を生成する方法に関する。
【0021】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が内皮細胞および/または血管に転換する組織において、ETV2材料を対象に投与することを含む、血行再建を要する疾患を処置する方法に関する。
【0022】
特定の態様において、血行再建を必要とする疾患は、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒である。特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が内皮細胞および/または血管に転換または発達する組織において、ETV2材料を対象に投与することを含む、血行再建を必要とする疾患を処置する方法に関する。特定の態様において、血行再建を必要とする疾患は、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒である。処置が想定される他の疾患としては、狭心症、石灰性大動脈弁疾患、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、不整脈、先天性心疾患、心臓弁膜症、心臓炎、大動脈瘤、血栓塞栓症、静脈血栓症が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、Ad-ETV2を注入した、Fsp1-Cre;R26 R-tdTomatoマウスの虚血後肢組織(右)および心筋梗塞を起こした心臓組織(左)の共焦点顕微鏡画像である。線維芽細胞をFsp1プロモーター駆動のCreリコンビナーゼで発現を誘導したtdTomatoで標識し、灌流可能な血管はBSL1で標識した。矢尻:取り込まれていない、またはリプログラムされていない、または遊離の線維芽細胞(FSP1+)、矢印:取り込まれ、リプログラムされた線維芽細胞、スケールバー:50μm。
【
図2】
図2Aは、心筋梗塞を起こした心臓にAd-ETV2を注射したときの駆出率のデータである。心筋梗塞の誘発後、(ETV2)または(対照)Ad-ETV2注射なし(n=3)で、1、3、4週目に心エコー検査を実施した。各時点の駆出率は、Ad-ETV2投与群および非投与群で比較した。
図2Bは、3週目および4週目の駆出率の1週目に対する倍率の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本発明をより詳細に説明する前に、本発明は、記載された特定の態様に限定されず、そのように、当然ながら、変化してもよいことが理解されるべきである。また、本明細書で用いる用語は、特定の態様を説明するためのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0025】
他に特記されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似のまたは同等の何らかの方法および材料も、本発明の実施または試験に用いることができるが、好ましい方法および材料について、以下に記載する。
【0026】
本明細書で引用されるすべての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が引用により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているように、引用により本明細書に包含され、刊行物が引用される方法および/または材料を開示および説明するために引用により本明細書に包含される。刊行物の引用は、出願日前のその開示のためであり、本発明が先行開示により当該刊行物に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提示された公開日が実際の公開日と異なる可能性があり、独自に確認する必要がある。
【0027】
本明細書を読めば当業者には明らかなように、本明細書の記載および図示した個々の態様の各々は、本発明の範囲または精神から逸脱することなく他のいくつかの態様の特徴から容易に分離またはそれと組み合わせることができる個別の構成要素および特徴を有している。記載された方法はいずれも、記載された事象の順序で実行することも、論理的に可能な他の順序で実行することもできる。
【0028】
本発明の態様は、特にこれに反する記載がない限り、当業者の技術範囲内である医学、有機化学、生化学、分子生物学、薬学などの技術を用い得る。このような技術については、文献で十分説明されている。
【0029】
用語“態様”の使用は、そのような要素(複数可)が例示(複数可)であることを推測させるが、必ずしも例示(複数可)に限定されない。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる、単数形“a”、“an”および“the”は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、“核酸”または“ベクター”への言及は、当業者に知られている1つまたは複数の核酸またはベクターおよびその等価物などへの言及を含む。さらに、特許請求の範囲の記載は、何れかの任意の要素を除外するように記載され得ることが特記される。
【0031】
他に特記されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲全体を通じて、用語“含む(comprise)”およびその変形、例えば、“comprises”、“comprising”、“including”、“containing”または“characterized by”は、限定されない(open)かつ包括的な意味で、すなわち“~を含むが、これに限定されない”と解釈すべきであり、追加の、再現されていない要素または方法工程を除外しない。対照的に、“~からなる(consisting of)”は、特許請求された発明の基本的かつ新規な特徴に重大な影響を与えない、請求項に明記されていない要素、工程または成分を除外する。用語“含む(comprising)”が実質的に“consisting of”として用いられる態様または請求項において、そのような態様は、用語“comprising”を用語“consisting of”に置き換えることによって理解され得る。
【0032】
用語“ETV2”は、転写因子variant 2(ETV2)を意味する。ヒトETV2は、NCBI Reference Sequenceで報告されているように3つのアイソフォームを有する:NP_055024.2, NP_001287903.1, NP_001291478.1。すべてのアイソフォームは、本明細書に記載の用途に意図される。変異型ETV2タンパク質は、ポリペプチド翻訳のための適切なコドン代替物を生成するためにベクターを変異させることによって製造できる。コンピュータ・モデリングを用いて、活性な変異体およびフラグメントを高い確率で同定できる。Shihabらは、オンラインゲノムトレランスブラウザを報告している(BMC Bioinformatics, 2017, 18(1):20)。Ngらは、タンパク質の機能に対するアミノ酸置換の影響を予測する方法を報告している(Annu Rev Genomics Hum Genet, 2006, 7:61-80)。Tengらは、タンパク質の機能および相互作用に対する非同義一塩基多型の効果予測のためのアプローチおよび供給源(Curr Pharm Biotechnol, 2008, 9(2):123-33)。
【0033】
内皮細胞は、例えば血管、毛細血管および心臓の内壁など、血流に接する組織を形成している。血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2、遺伝子KDRの産物)は、特定の内皮細胞および内皮前駆細胞に発現されている。カドヘリン5、タイプ2(VE-カドヘリン、CDH5遺伝子の産物)は、血管内皮に発現している。Muellerらの、Expression of the endothelial marker platelet/endothelial cell adhesion molecule 1 (PECAM-1), Von Willebrand factor (vWF), and CD34 in vivo and in vitroも参照のこと(Exp Mol Pathol.2002, 72(3):221-9)。内皮チロシンキナーゼ受容体であるTie2(TEKとも呼ばれる)は、内皮表現型を示すマーカーである(Anghelina et al. J Cell Mol Med.2005, 9(1):113-21)。
【0034】
当業者であれば、望ましい結合特性を有すると予期される多数の操作可能な変異体を製造できることを理解し得る。ETV2遺伝子は、ある生物種から別の生物種まで、重要な相同性を共有するメンバーが知られている。配列は同一ではない。あるものは保存された置換(プラス記号)である。あるものは保存された置換ではない。当業者であれば、多数の変異操作可能な態様を特定することができる。当業者であれば、移行錯誤して無作為な組み合わせを試すのではなく、コンピュータプログラムを活用して安定した置換を行うことができる。コンピュータ・モデリングにより、活性のある変異体およびフラグメントを高い確率で同定できる。当業者であれば、ある種の保存された置換が望ましいと知り得る。さらに、当業者であれば、通常、進化的に保存された位置を変更することはない(Saldano et al. Evolutionary Conserved Position Define Protein Conformational Diversity, PLoS Comput Biol. 2016, 12(3):e1004775)を参照。
【0035】
所望のアミノ酸置換(保存的か非保存的かを問わない)は、かかる置換が望まれる時点で当業者によって決定され得る。生物学的活性を失うことなく、どのアミノ酸残基をどれだけ置換、挿入または欠失させることができるかを決定するための指針は、当技術分野において周知のコンピュータプログラム、例えば、RaptorX、ESyPred3D、HHpred、HyperChem用Homology Modeling Professional、DNAStar、SPARKS-X、EVfold、PhyreおよびPhyre2ソフトウェアを用いて見出し得る。また、Saldanoらの、Evolutionary Conserved Positions Define Protein Conformational Diversity, PLoS Comput Biol. 2016, 12(3):e1004775;Marksらの、Protein structure from sequence variation, Nat Biotechnol. 2012, 30(11):1072-80;Mackenzieらの、Curr Opin Struct Biol, 2017, 44:161-167;Mackenzieらの、Proc Natl Acad Sci U S A. 113(47):E7438-E7447 (2016);Josephらの、J R Soc Interface, 2014, 11(95):20131147、Weiらの、Int. J. Mol. Sci. 2016, 17(12), 2118も参照のこと。変異体を機能アッセイで試験することができる。ある種の変異体は、10%未満、好ましくは5%未満、さらに好ましくは2%未満の変異(置換、欠失などのいずれであってもよい)を有する。
【0036】
特定の態様において、本発明は、本明細書に記載のETV2タンパク質が変異体であってもよいことを企図する。変異体は、1個または2個のアミノ酸置換または保存された置換を含んでいてよい。変異体は、3個または4個のアミノ酸置換または保存された置換を含んでいてよい。変異体は、5個または6個以上のアミノ酸置換または保存された置換を含んでいてよい。変異体は、アミノ酸の1%以下または2%以下が置換されているものを含む。変異体は、アミノ酸の3%以下または4%以下が置換されているものを含む。変異体には、80%、89%、90%、95%、98%または99%以上の同一性または類似性を有するタンパク質が含まれる。
【0037】
配列“同一性”とは、2つの配列間の配列アラインメントにおいて、完全に一致するアミノ酸の数(パーセントで表示)を、最短配列または内部ギャップが等価位置として計数されるオーバーハングを除く等価位置の数の大きい方で割った同一位置の数を用いて計算されたである。特定の態様において、本明細書で示す配列同一性の何れかの記載は、配列類似性に置き換えられてもよい。“類似性”パーセントは、アラインメントの2つの配列間の類似性を定量的に示すために用いられる。この方法は、ある種のアミノ酸が同一でなくても一致することを除けば、同一性の判断と同じである。アミノ酸は、以下のアミノ酸群により、類似した性質を有するグループ内であるとき、一致として分類される:芳香性-F Y W;疎水性-A V I L;正電荷を有する-R K H;負電荷を有する-D E;極性-S T N Q。アミノ酸群も保存された置換とみなされる。
【0038】
同一性パーセントは、例えば、ウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)から入手可能なGAPコンピュータプログラム、バージョン6.0を用いて配列情報を比較することにより決定できる。GAPプログラムは、Smith and Waterman (Adv Appl Math 1981 2:482)によって改訂されたNeedleman and Wunsch (J Mol Biol 1970 48:443)のアライメント法を利用している。簡単には、GAPプログラムでは、同一性を、2つの配列のうち短い方の配列に含まれる記号の総数で割った、同一の記号(ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数として定義する。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータは以下の通りである:(1) Schwartz and Dayhoff (eds., Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C. 1979, pp.353-358)によって記載されているように、ユニタリ比較行列(同一性を1、非同一性を0とする)およびGribskov and Burgessの重み付け比較行列(Nucl Acids Res 1986 14:6745);(2)各ギャップに対して3.0のペナルティ、各ギャップ内の記号に対してさらに0.10のペナルティ;および、(3)エンドギャップに対するペナルティはなし。
【0039】
“対象”とは、何れかの動物を意味するが、好ましくは、例えばヒト、サル、マウスまたはウサギなどの哺乳動物である。
【0040】
本明細書で用いる用語“予防する”および“予防”は、再発、拡散または発症の予防を含む。本発明は、完全な予防に限定されることを意図していない。ある態様において、発症が遅延されるか、または疾患の重症度が低減される。
【0041】
本明細書で用いる用語“処置する”および“処置”は、対象(例えば、患者)が治癒し、疾患が根絶される場合に限定されない。むしろ、本発明の態様は、単に症状を軽減し、および/または疾患の進行を遅らせるだけの処置もまた企図する。
【0042】
用語“有効量”は、疾患処置を含むがこれに限定されない意図された適用を行うために十分な、本明細書に記載の化合物、ペプチド、核酸、ベクターまたは医薬組成物の量を意味する。併用療法に関して、“有効量”は、薬剤の組合せにより、個々の薬剤と比較して相乗的または相加的な効果が得られることを意味する。治療有効量は、意図された用途(インビトロまたはインビボ)、または処置すべき対象および疾患、例えば、対象の体重および年齢、病状の重症度、投与方法等に応じて変化してよく、これらは当業者であれば容易に決定することができる。具体的な投与量は、例えば、選択された特定の化合物、従うべき投与レジメン、他の薬剤と組み合わせて投与するかどうか、投与のタイミング、投与される組織、および送致される物理的送達システムによって変わる。
【0043】
用語“遺伝子”は、RNA、ポリペプチドまたはその前駆体(例えば、プロインスリン)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNAまたはRNA)配列を意味する。機能性ポリペプチドは、ポリペプチドの所望の活性または機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達など)が保持されている限り、全長コード配列またはコード配列の何れかの部分によってコードされ得る。
【0044】
用語“遺伝子”はまた、構造遺伝子のコード領域を包含し、遺伝子が全長mRNAの長さに対応するように、どちらかの末端の約1kbの距離の5’末端および3’末端の両端でコード領域に隣接して位置する配列も含まれる。コーディング領域の5’側に位置し、mRNA上に存在する配列を5’非翻訳配列と称する。コーディング領域の3’または下流に位置し、mRNA上に存在する配列を3’非翻訳配列と称する。用語“遺伝子”は、遺伝子のcDNA型およびゲノム型の両方が含まれる。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、“イントロン”または“介在領域”または“介在配列”と呼ばれる非コーディング配列で中断されたコーディング領域を含む。イントロンは核内RNA(mRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり、エンハンサーなどの制御因子を含み得る。イントロンは、核内または一次転写物から除かれるか、または“スプライスアウト”される。したがって、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは翻訳中に、生成されるポリペプチドのアミノ酸の配列または順序を特定するように機能する。
【0045】
イントロンの包含に加えて、遺伝子のゲノム形態は、RNA転写物上に存在する配列の5’末端および3’末端の両方に位置する配列を含んでいてもよい。これらの配列は“隣接”配列または領域と呼ばれる(これらの隣接配列は、mRNA転写産物上に存在する非翻訳配列の5’または3’に位置する)。5’側の隣接領域には、遺伝子の転写を制御する、または影響を与えるプロモーターおよびエンハンサーなどの制御配列が含まれ得る。3’側の隣接領域には、転写の終結、転写後の切断、ポリアデニル化を指示する配列が含まれ得る。
【0046】
“異種”核酸配列またはペプチド配列は、例えば、配列全体が、他の植物、細菌、ウイルス、他の生物由来のセグメントを含むか、または同じ生物に発生するが、同じ生物または何れかの天然状態で自然に生じない方法で互いに結合されている2つの配列の結合体を含むため、天然でない核酸配列またはペプチド配列を意味する。
【0047】
“異種遺伝子”は、天然環境にない(人の手によって改変されている)因子をコードする遺伝子を意味する。例えば、異種遺伝子とは、ある種由来の遺伝子を他の種に導入したものを含む。異種遺伝子にはまた、ある方法で改変された生物に固有の遺伝子も含まれる(例えば、変異、複数コピーの付加、非天然プロモーターまたはエンハンサー配列への結合など)。異種遺伝子は、植物遺伝子のcDNA形態を含む植物遺伝子配列を含み得る。cDNA配列は、センス(mRNAを生成する)またはアンチセンス(mRNA転写物と相補的なアンチセンスRNA転写物を生成する)のいずれかの方向で発現され得る。
【0048】
“遺伝子をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド”または特定のポリペプチド“をコードする核酸配列”とは、遺伝子のコード領域を含む核酸配列、または換言すれば、遺伝子産物をコードする核酸配列を意味する。コーディング領域は、cDNA、ゲノムDNAまたはRNAのいずれかの形態で存在していてもよい。DNA形態で存在するとき、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸は、一本鎖(すなわち、センス鎖)または二本鎖であってもよい。エンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、ポリアデニル化シグナルなどの適切な調節エレメントは、転写の適当な開始および/または一次RNA転写物の正しいプロセシングを可能にするために必要ならば、遺伝子のコード領域に近接して配置され得る。あるいは、本発明の発現ベクターに利用されるコード領域は、内生エンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、介在配列、ポリアデニル化シグナルなどを含んでいてもよく、または内生および外生の両方の調節エレメントを組み合わせてもよい。
【0049】
用語“操作可能な組み合わせで”、“操作可能な順序で”、“操作可能に連結された”とは、所定の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を指示できる核酸分子が生成されるように、核酸配列が連結されていることを意味する。また、機能的タンパク質が生成されるように、アミノ酸配列を結合させることも意味する。
【0050】
用語“調節エレメント”とは、核酸配列の発現のある面を調節する遺伝子エレメントを意味する。例えば、プロモーターは、作動可能に連結されたコード領域の転写開始を促進する調節エレメントである。その他の調節エレメントとしては、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルなどがある。
【0051】
プロモーターは、構成的または制御的であり得る。プロモーターに関する用語“構成的”とは、プロモーターが、刺激(例えば、熱ショック、化学物質、光など)の不存在下で作動可能に連結した核酸配列の転写を指示することが可能であることを意味する。一般的に、構成的プロモーターは、実質的にあらゆる細胞および組織において導入遺伝子の発現を誘導することが可能である。一方、“制御的”または“誘導可能”なプロモーターは、刺激(熱ショック、化学物質、光など)の存在下で、刺激のない場合の作動可能に連結された核酸配列の転写レベルとは異なる、作動可能に連結した核酸配列の転写レベルを指示できるものである。
【0052】
エンハンサーおよび/またはプロモーターは、“内生”または“外生”または“異種”であってもよい。“内生”エンハンサーまたはプロモーターは、ゲノム内で特定の遺伝子と天然に結合しているものである。“外生”または“異種”エンハンサーまたはプロモーターは、遺伝子の転写が、連結したエンハンサーまたはプロモーターによって指示されるように、遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技術)の手段によって遺伝子と並置されるものである。例えば、第一の遺伝子と作動可能に組み合わされた内生プロモーターを単離し、除去し、第二の遺伝子と作動可能に組み合わせることにより、第二の遺伝子と作動可能に組み合わされた“異種プロモーター”とすることができる。このような組み合わせは様々に考えられる(例えば、第1および第2の遺伝子は、同種由来であってもよいし、異種由来であってもよい)。
【0053】
核酸分子に言及するときの用語“組換え”は、核酸配列全体が天然に存在しない、すなわち、個々のセグメントは天然に存在しても、配列全体が天然に存在しないような変異が配列全体に少なくとも1つ存在する場合に、分子生物学的手法によって互いに結合した核酸セグメントを含む核酸分子を意味する。セグメントは、最初から最後までの核酸配列全体が天然には存在しないような、変化した配置で結合されることもある。タンパク質またはポリペプチドに言及するとき用語“組換え”は、組換え核酸分子を用いて発現されるタンパク質分子を意味する。
【0054】
特定の態様において、本発明は、ETV2をコードする組換えベクターを企図する。特定の態様において、組換えベクターは、プラスミドまたはウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。ウイルスベクターは、ほとんどのタンパク質コーディング配列が除去され、その代わりに(例えば、ETV2を発現させるように)設計された治療用遺伝子発現カセットを有するゲノムをカプシドで包んでいる。ウイルス起源の配列は、一般的に、ウイルス逆末端反復配列(ITR)であり、ベクター生産時にゲノム複製およびパッケージングを誘導する。
【0055】
ベクターおよび核酸に関する用語“組換えベクター”は、核酸のセグメントが分子生物学的手法により互いに結合されてなる核酸分子を意味する。組換え核酸という用語は、相同染色体間の遺伝子組み換えによって生じる天然組換え体とは区別される。本明細書で用いる組換え核酸は、通常、異なる生物に由来する非相同な供給源からの核酸の非天然結合体である。組換えベクターは、DNAおよびRNAを含むがこれらに限定されない何れかのタイプのヌクレオチドを含んでいてよく、それらは一本鎖または二本鎖であり、合成されるかまたは部分的に天然源から得られてもよく、天然、非天然または変化したヌクレオチドを含み得る。組換え発現ベクターは、天然ヌクレオチド間結合、非天然ヌクレオチド間結合、またはその両タイプの結合を含み得る。好ましくは、非天然ヌクレオチドまたは変化したヌクレオチドまたはヌクレオチド間結合は、ベクターの転写または複製を妨げない。本発明の組換えベクターは、何れかの適切な組換えベクターであってよく、何れかの適切な宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするために用いられ得る。適切なベクターとしては、増殖用(for propagation and expansion)、発現用、またはその両方を目的としたもの、例えばプラスミドおよびウイルスが挙げられる。
【0056】
特定の態様において、組換えベクターは、該ベクターが導入される宿主細胞(例えば、細菌、真菌、植物または動物)の種類に特異的な転写および翻訳の開始コドンおよび終結コドンなどの調節配列を、適宜、ベクターがDNAベースかRNAベースかを考慮しながら、包含する。
【0057】
組換えベクターは、1以上のマーカー遺伝子を含んでいてよく、これにより形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞を選択できる。マーカー遺伝子としては、殺生物剤耐性、例えば、抗生物質、重金属等に対する耐性、栄養要求性宿主細胞に原栄養性を供する補完性などが挙げられる。
【0058】
特定の態様において、ベクターは、要すれば、選択可能マーカー領域、lacオペロン、CMVプロモーター、ハイブリッドチキンB-アクチン/CMVエンハンサー(CAG)プロモーター、tacプロモーター、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、SP6 RNAポリメラーゼプロモーター、SV40プロモーター、内部リボソーム進入部位(IRES)配列、シス作用型ウッドチャック後期調節因子(WPRE)、足場付着領域(SAR)、逆末端反復(ITR)、FLAGタグコーディング領域、c-mycタグコーディング領域、金属親和性タグコーディング領域、ストレプトアビジン結合ペプチドタグコーディング領域、ポリHisタグコーディング領域、HAタグコーディング領域、MBPタグコーディング領域、GSTタグコーディング領域、ポリアデニル化コーディング領域、SV40ポリアデニル化シグナル、SV40複製起点、Col E1複製起点、f1起点、pBR322起点、またはpUC起点、TEVプロテアーゼ認識部位、loxP部位、Creリコンビナーゼコーディング領域、あるいは50または60ヌクレオチド未満の連続セグメント内に5個、6個または7個以上の制限部位を有する、または20または30ヌクレオチド未満の連続セグメント内に3個または4個以上の制限部位を有するような、マルチクローニング部位などの遺伝子ベクター要素(核酸)を含んでいてよい。
【0059】
“選択可能マーカー”とは、人為的な選択または同定に適した形質を与えるポリペプチドをコードする、ベクターに導入される核酸(レポーター遺伝子)であり、例えばβ-ラクタマーゼは抗生物質耐性を与え、β-ラクタマーゼを発現する生物は抗生物質存在下で増殖培地中で生存できる。別の例はチミジンキナーゼであり、宿主をガンシクロビル選択に対して感受性にする。予期される色の有無に基づいて必要な細胞および不必要な細胞を区別できるスクリーニング可能なマーカーであってもよい。例えば、lac-z遺伝子は、X-gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトシド)存在下で青色を呈するβ-ガラクトシダーゼ酵素を産生する。組換え挿入によりlac-z遺伝子が不活性化されるとき、得られるコロニーは無色となる。1以上の選択可能なマーカー、例えば、発現生物がその成長に必要な特定の化合物を合成できないことを補完できる酵素(栄養要求性)、および成長にとって有害な化合物を別のものに変換できる酵素が存在してもよい。オロチジン-5’リン酸脱炭酸酵素であるURA3は、ウラシルの生合成に必要であり、ウラシルを要求するura3変異体を補完できる。また、URA3は5-フルオロオロチン酸を毒性化合物である5-フルオロウラシルに変換する。さらに、意図される選択可能なマーカーとして、抗菌性を付与する遺伝子または蛍光タンパク質を発現する遺伝子も挙げられる。例えば、以下のような遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない:AmpR、CamR、TetR、BlasticidinR、NeoR、HygR、AbxR、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII型遺伝子(nptII)、p-グルクロニダーゼ(gus)、緑色蛍光タンパク質(gfp)、egfp、yfp、mCherry、p-ガラクトシダーゼ(lacZ)、lacZa、lacZAM15、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)、アルカリホスファターゼ(phoA)、細菌ルシフェラーゼ(luxAB)、ビアラホス耐性遺伝子(bar)、ホスホマンノースイソメラーゼ(pmi)、キシロースイソメラーゼ(xylA)、アラビニトール脱水素酵素(atlD)、UDP-グルコース:ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼI(galT)、アントラニル酸合成酵素のフィードバック非感受性αサブユニット(OASA1D)、2-デオキシグルコース(2-DOGR)、ベンジルアデニン-N-3-グルクロニド、大腸菌スレオニンデアミナーゼ、グルタミン酸1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼ(GSA-AT)、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)、塩耐性遺伝子(rstB)、フェレドキシン様タンパク質(pflp)、トレハロース-6-P合成酵素遺伝子(AtTPS1)、リシンラセマーゼ(lysr)、ジヒドロジピコリン酸合成酵素(dapA)、トリプトファン合成酵素β1(AtTSB1)、デハロゲナーゼ(dhlA)、マンノース-6-リン酸還元酵素遺伝子(M6PR)、ハイグロマイシンリン酸転移酵素(HPT)、D-セリンアンモニアリアーゼ(dsdA)。
【0060】
組換えベクターは、ETV2タンパク質をコードするヌクレオチド配列(その機能的変異体を含む)、またはETV2タンパク質をコードするヌクレオチド配列(その機能的変異体を含む)に相補的であるか、またはそれにハイブリダイズするヌクレオチド配列に作動可能に連結した天然または非天然プロモーターを含み得る。例えば、強い、弱い、誘導可能、組織特異的および発生特異的などの、プロモーターの選択は、当業者の通常の技術範囲内である。同様に、ヌクレオチド配列とプロモーターの組合せも当業者の技術範囲内である。
【0061】
組換えベクターは、一過性発現用、安定発現用のいずれか、または両方に設計できる。また、組換えベクターは、構成的発現用または誘導的発現用に作製できる。さらに、組換え発現ベクターは、細胞死遺伝子を含むように作製できる。本明細書で用いる用語“細胞死遺伝子”は、細胞死遺伝子を発現する細胞を死滅させる遺伝子を意味する。細胞死遺伝子は、その遺伝子が発現している細胞に薬物、例えば薬剤に対する感受性を付与し、細胞が該薬物に接触または曝露されたときにその細胞を死滅させる遺伝子であり得る。細胞死遺伝子は、当技術分野で知られており(例えば、Suicide Gene Therapyを参照:Methods and Reviews, Springer, Caroline J. (Cancer Research UK Centre for Cancer Therapeutics at the Institute of Cancer Research, Sutton, Surrey, UK), Humana Press, 2004)、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびニトロレダクターゼなどが挙げられる。
【0062】
タンパク質の“発現系”とは、インビボよびインビトロ(無細胞)系を意味する。組換えタンパク質の発現系は、一般的に、鋳型を含むDNA発現ベクターでトランスフェクトした体細胞を利用する。細胞は、目的タンパク質を翻訳するような条件下で培養される。発現されたタンパク質は、その後の精製のために抽出される。原核細胞および真核細胞を用いるインビボタンパク質発現系はよく知られている。また、あるタンパク質は、変性剤およびタンパク質のリフォールディング手順を用いて回収される。インビトロ(無細胞)タンパク質発現システムは、一般的に、全細胞の翻訳適合性抽出物、またはRNAポリメラーゼ、制御タンパク質因子、転写因子、リボソーム、tRNA補因子、アミノ酸およびヌクレオチドなどの転写、翻訳および要すれば翻訳後修飾に十分な成分を含む組成物を用いる。発現ベクターの存在下で、これらの抽出物および成分は、目的のタンパク質を合成できる。無細胞系は一般的にプロテアーゼを含まず、タンパク質を修飾アミノ酸で標識することが可能である。ある無細胞システムは、発現ベクターに翻訳するためのコード化された成分を包含した。例えば、Shimizu et al., Cell-free translation reconstituted with purified components, 2001, Nat.Biotechnol., 19, 751-755およびAsahara & Chong, Nucleic Acids Research, 2010, 38(13): e141を参照のこと。いずれも引用によりその内容全体を本明細書に包含させる。
【0063】
特定の態様において、本発明は、本明細書に記載の組換え発現ベクターのいずれかを含む宿主細胞に関する。本明細書で用いる用語“宿主細胞”は、組換え発現ベクターを含み得るあらゆる種類の細胞を意味する。宿主細胞は、真核細胞、例えば植物、動物、菌類または藻類であってよいか、または原核細胞、例えば、細菌または原生動物であってよい。宿主細胞は、培養細胞であっても、初代細胞、すなわち、生物、例えばヒトから直接単離された細胞であってもよい。宿主細胞は、付着細胞であっても、浮遊細胞、すなわち、懸濁状態で増殖する細胞であってもよい。適切な宿主細胞は当技術分野で知られており、例えば、DH5α大腸菌細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、サルVERO細胞、COS細胞、HEK293細胞等が挙げられる。
【0064】
使用方法
本発明は、ETV2材料、例えばmRNA、タンパク質、タンパク質含有エクソソームを含む遺伝子または遺伝子産物を用いて、インサイチュウで、すなわちETV2材料が注入される身体または組織の場所で、直接リプログラミングして宿主の常在非内皮細胞を内皮細胞または血管に転換することに関する。ある特定の態様において、直接的にリプログラムされ転換された内皮細胞は、血管が損傷を受け、身体の適切な機能のために新しい血管が必要とされる組織において、血管再生を促進することが企図され得る。特定の態様において、ETV2材料の直接送達は、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒を含むが、これらに限定されない、血行再建を要する疾患の処置に使用できる。特定の態様において、ETV2材料は、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびmRNAなどの様々な形態で、局所注入部位によって疾患部位に送達できる。
【0065】
特定の態様において、本発明は、注射部位または血管系における非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換する身体または組織の場所で対象に、転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを投与することを含む、非内皮細胞を内皮細胞に転換させる方法に関する。
【0066】
特定の態様において、注射部位は、筋肉組織または心筋組織である。特定の態様において、筋組織は、線条筋または骨格筋である。特定の態様において、心筋組織は、心筋、心膜または心内膜である。
【0067】
特定の態様において、本発明は、非内皮細胞を内皮細胞または血管に転換する方法に関する。特定の態様において、内皮細胞または血管に転換する非内皮細胞は、注射部位から10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mmまたは100mmの直径内にある。特定の態様において、組織は、筋肉組織または心臓組織である。
【0068】
特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするmRNAである。特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするDNAまたはRNAである。特定の態様において、ETV2をコードする核酸またはベクターは、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0069】
特定の態様において、本発明は、注射部位または血管系における非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換する身体または組織の場所で対象に、ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを投与することを含む、非内皮細胞を内皮細胞に転換する方法に関する。特定の態様において、本発明は、タンパク質がエクソソームまたは他の粒子状構造内に包含される方法に関する。
【0070】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換する組織において、転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与することを含む、組織における血管を生成する方法に関する。
【0071】
特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするmRNAである。特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするDNAまたはRNAである。特定の態様において、ETV2をコードする核酸またはベクターは、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0072】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換する組織において、ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与することを含む、組織における血管を生成する方法に関する。特定の態様において、タンパク質は、エクソソームまたは他の粒子状構造内に包含される。
【0073】
特定の態様において、本発明は、組織内に血管を生成する方法に関する。特定の態様において、血管は、注射部位から10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mmまたは100mmの直径内に形成される。特定の態様において、組織は、筋肉組織または心臓組織である。
【0074】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換する組織において、転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与することを含む、血管が損傷を受けた組織における血管再生を増強する方法に関する。
【0075】
特定の態様において、本発明は、組織における血管再生の方法に関する。特定の態様において、血管再生は、注射部位から10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mmまたは100mmの直径の範囲内にある。特定の態様において、組織は、筋肉組織または心臓組織である。
【0076】
特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするmRNAである。特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするDNAまたはRNAである。特定の態様において、ETV2をコードする核酸またはベクターは、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0077】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞が内皮細胞または血管に転換する組織において、ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与することを含む、血管が損傷を受けた組織における血管再生を増強する方法に関する。特定の態様において、タンパク質は、エクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる。
【0078】
特定の態様において、本発明は、損傷した組織における血管再生を促進する方法に関する。特定の態様において、損傷血管再生は、注射部位から10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mmまたは100mmの直径の範囲内にある。特定の態様において、組織は、筋肉組織または心臓組織である。
【0079】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が血管に転換する組織において、転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与することを含む、組織において新しい血管を産生する方法に関する。
【0080】
特定の態様において、発明は、組織において新生血管を形成する方法に関する。特定の態様において、新生血管は、注射部位から10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mmまたは100mmの直径の範囲内にある。特定の態様において、組織は、筋肉組織または心臓組織である。
【0081】
特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするmRNAである。特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするDNAまたはRNAである。特定の態様において、ETV2をコードする核酸またはベクターは、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0082】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が血管に転換する組織において、ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与することを含む、組織において新しい血管を生成する方法に関する。特定の態様において、タンパク質は、エクソソームまたは他の粒子状構造内に含まれる。
【0083】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が血管に転換する組織において、転写因子ETV2をコードする核酸またはベクターを対象に投与することを含む、血行再建を必要とする疾患を処置する方法に関する。
【0084】
特定の態様において、血行再建を必要とする疾患は、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒である。その他の疾患例としては、狭心症、石灰性大動脈弁疾患、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、不整脈、先天性心疾患、心臓弁膜症、心臓炎、大動脈瘤、血栓塞栓症、静脈血栓症などが挙げられる。
【0085】
特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするmRNAである。特定の態様において、核酸は、ETV2をコードするDNAまたはRNAである。特定の態様において、ETV2をコードする核酸またはベクターは、組換えレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0086】
特定の態様において、組織は、線維芽細胞と比較して増加レベルの内皮表面マーカーを発現し、ここで、該表面マーカーは、KDR、CDH5、PECAM1、TEKまたはそれらの組合せであり、それによって内皮様細胞が提供される。
【0087】
特定の態様において、ETV2医薬組成物、タンパク質、エクソソーム、タンパク質粒子、核酸または組換えベクターの使用は、ERGもしくはFLI1タンパク質またはERGもしくはFLI1をコードする核酸を含むかまたは含まないか、あるいはFOXC2、MEF2C、SOX17、NANOGもしくはHEY1タンパク質またはそれらをコードする核酸を含むかまたは含まないかである。
【0088】
特定の態様において、本発明は、注射部位の非内皮細胞または内皮細胞が血管に転換する組織において、ETV2タンパク質またはその機能的フラグメントを対象に投与することを含む、血行再建を必要とする疾患を予防または処置する方法に関する。特定の態様において、血行再建を必要とする疾患は、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症虚血肢、脳卒中、糖尿病合併症および損傷治癒である。特定の態様において、タンパク質は、エクソソームまたは他の粒子状構造体の表面上の内部に含まれる。
【0089】
特定の態様において、組織内の細胞は、正常組織と比較して増加レベルの内皮表面マーカーを発現し、ここで、該表面マーカーは、KDR、CDH5、PECAM1、TEKまたはそれらの組合せであり、それによって内皮細胞および/または血管形成細胞が提供される。
【0090】
特定の態様において、ETV2材料の使用は、ERGもしくはFLI1タンパク質またはERGもしくはFLI1をコードする核酸を含むかまたは含まないか、あるいはFOXC2、MEF2C、SOX17、NANOGもしくはHEY1タンパク質またはそれらをコードする核酸を含むかまたは含まないかである。
【0091】
医薬組成物
(ETV2材料をまとめて)ETV2タンパク質、タンパク質粒子、エクソソーム、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞(その集団を含む)は、医薬組成物などの組成物に製剤することができる。この点に関して、本発明は、本明細書に記載のETV2タンパク質の機能的部分、機能的変異体、核酸、発現ベクター、宿主細胞(その集団を含む)のいずれか、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を企図する。本発明は、ETV2材料のいずれかを含む医薬組成物が、2以上のポリペプチドおよび核酸、あるいは2つまたはそれ以上の異なるETV2材料を含み得ることを企図する。あるいは、医薬組成物は、ETV2材料と他の薬学的に活性な薬物(複数可)または薬剤(複数可)を組み合わせて含むことも可能である。
【0092】
非経腸注射に適した組成物は、生理学的に許容される滅菌水性または非水性溶液、分散液、懸濁液または乳濁液、および滅菌注射用溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末を含んでいてもよい。適切な水性および非水性担体、希釈剤溶媒またはビークルの例としては、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールなど)、それらの適切な混合物、植物(オリーブオイル、ゴマ油、ビスコレオなど)およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステル類が挙げられる。
【0093】
微生物の作用の予防は、各種抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などのいずれかを添加することにより制御できる。また、等張剤、例えば糖類、塩化ナトリウムなどを含むことが好ましい場合もある。注射用医薬品の吸収の延長は、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤の使用によってもたらされ得る。
【0094】
好ましくは、ETV2材料は、注射によって、例えば、筋肉内または心筋内に投与される。注射用の薬学的に許容される担体は、例えば、通常の生理食塩水(水中約0.90%w/vのNaCl、水中約300mOsm/LのNaCl、または水1リットル当たり約9.0gのNaCl)、水中約5%のデキストロース、または乳酸リンゲル液などの何れかの等張担体を含んでいてもよい。
【0095】
医薬組成物は、容器に入った組成物に適切な薬学的に許容される希釈剤を添加するだけで、ワンステップ工程で提供することができる。特定の態様において、容器は、希釈剤と接触した後の再構成された医薬組成物を投与するための注射器であることが好ましい。特定の態様において、ETV2材料はシリンジに充填され、その後、シリンジをストッパーで閉じることができる。希釈剤は、所望の最終濃度を達成するための量で用いられる。医薬組成物は、他の有用な成分、例えばイオン、緩衝剤、賦形剤、安定剤などを含んでいてもよい。
【0096】
“乾燥”医薬組成物は、一般的には残留水分量のみを有し、これは比較可能な市販製品の水分量にほぼ対応でき、例えば、乾燥製品として約12%の水分を有する。通常、本発明の乾燥医薬組成物は、好ましくは10%以下の水分量、より好ましくは5%以下の水分量、とりわけ1%以下の水分量を有する。医薬組成物はまた、より低い水分含量、例えば、0.1%またはそれ以下であり得る。特定の態様において、分解を防止し、保存安定性を可能にするために、医薬組成物は乾燥状態で提供される。
【0097】
容器は、シリンジ、バイアル、チューブなどの医薬組成物を収容(および保存)するのに適した何れかの容器であり得る。次いで、医薬組成物は、好ましくは、注射器の特定の針を介して、または適切なカテーテルを介して適用され得る。一般的な希釈剤は、注射用水、NaCl(好ましくは50~150mM、とりわけ110mM)、CaCl2(好ましくは10~80mM、とりわけ40mM)、酢酸ナトリウム(好ましくは0~50mM、とりわけ20mM)およびマンニトール(好ましくは10%w/wまで、とりわけ2%w/wまで)を含む。好ましくは、希釈剤は、再構成された乾燥組成物のpHを緩衝するように、緩衝剤または緩衝系を含むこともでき、好ましくはpH6.2~7.5、特にpH6.9~7.1で緩衝させる。
【0098】
特定の態様において、希釈剤は別の容器で提供される。これは、好ましくはシリンジであり得る。シリンジ内の希釈液は、乾燥組成物を再構成するための容器に容易に適用できる。容器がシリンジでもある場合、両方のシリンジを共にパッケージして仕上げることができる。したがって、乾燥組成物を注射器で提供することが好ましく、この注射器は、該乾燥かつ安定な組成物を再構成するための薬学的に許容される希釈剤を有する希釈注射器として仕上げられる。
【0099】
特定の態様において、本発明は、本明細書に記載の医薬組成物および適切な希釈剤を有する容器を含むキットを企図する。キットのさらなる構成要素は、使用説明書、注射器、カテーテル、ブラシなどの投与手段(組成物が投与手段にまだ提供されていない場合)、または代替針もしくはカテーテル、追加のバイアル、またはさらなる創傷被覆手段などの医療(外科)行為における使用に必要な他の構成要素であってもよい。特定の態様において、キットは、乾燥かつ安定な止血材組成物を含む注射器および希釈剤を含む注射器(または他の希釈剤容器から希釈剤を取り込むために提供される)を含む。
【実施例】
【0100】
線維芽細胞の内皮細胞への直接インビボリプログラミング
末梢動脈疾患を模倣した後肢虚血(HLI)モデルおよび虚血性冠動脈疾患を模倣した急性心筋梗塞(MI)モデルの2つの心血管疾患モデルを用いて、遺伝子導入マウス系統(Fsp1-Cre;R26R-tdTomato)において、線維芽細胞の内皮細胞への直接インビボリプログラミングを確認した。このトランスジェニックマウス株では、線維芽細胞(FSP1+)がTdTomato赤色蛍光タンパク質を発現し、標識されている。
【0101】
12週齢のマウスに、後肢の動脈を切除してHLIを誘発した。具体的には、マウスをメロキシカム-イソフルランで麻酔した。脚の脱毛後、後肢中央部の皮膚を切開して動脈露出を行い、大腿動脈近位端および伏在動脈遠位部を結紮して大腿動脈を切離した。アデノウイルスETV2(1x108 IFU/100μl PBS/25g マウス)を大腿筋の4-5箇所に筋肉内注射した。
【0102】
10週齢のマウスに、左前下行冠動脈を結紮し、心筋梗塞を誘発した。具体的には、マウスをメロキシカム-イソフルランで麻酔した。胸毛を機械的に除去した後、ベタジンおよびアルコールによる消毒を実施した。動物を、テープで拘束してプラットホームに配置した。呼吸器による補助のもと、左胸骨傍第4肋間に1cmの切開を行った。心臓を露出させ、左前下行冠動脈を8-0 Prolene(商標)縫合糸で結紮して心筋梗塞(MI)を誘発させ、切開閉鎖後に胸部から空気を抜いた。切開部は非吸収性縫合糸による連続縫合で閉鎖した。アデノウイルスETV2(5x107 IFU/50 μl PBS/25g マウス)をMI心臓に直接注入した。注射後4週間目に、FITC標識BSL1レクチンを用いて血管中の機能性ECを標識したマウスを灌流し、後肢筋および心臓の組織を採取した。採取した組織を共焦点顕微鏡で観察した。一部のTdTomato+細胞(FSP1+、線維芽細胞)はFITC(BSL1-レクチン)と共局在していることが検出され、線維芽細胞が機能性ECに直接リプログラミングされていることが示唆された。TdTomato+細胞の一部は血管に取り込まれ(BSL1-レクチン)、一部は取り込まれていない。これらの結果から、Ad-ETV2を注入することで、生体内の線維芽細胞をECにリプログラミングし、さらに血管形成に貢献できることが確認された。
【0103】
Ad-ETV2を注入したMI誘導マウス
Ad-ETV2または対照が注入されたMI誘発マウスについて、術後1週目、3週目および4週目に心エコー検査を行い、心臓の機能を評価した(
図2A-B)。Ad-ETV2を投与したマウスは、対照群では時間の経過とともに駆出率が減少していくのに対し、駆出率の維持が確認された(
図2A)。3週目および4週目の駆出率を1週目の駆出率と比較したところ、Ad-ETV2注射により心機能低下の進行が抑制されることが示された(
図2B)。これらのデータは、Ad-ETV2注入により心機能が改善されたことを示す。
【0104】
マウスモデル
今後、ETV2の心血管疾患に対する治療効果を、マウスのMIおよびHLIモデルでさらに検証していく。ETV2投与後1週目、3週目、4週目、2カ月目、4カ月目および6カ月目において、以下の4つの基準で治療効果を判定した。HLIについては、1)ETV2投与による虚血傷害の回復の改善を、虚血傷害後4週目の四肢欠損の程度で評価し、2)虚血後肢の血流改善を、D0、D3、D7、D14、D21およびD28のレーザー・ドップラー流体画像(LDPI)により評価し、3)新生血管効果を、後肢の全体的な血管状態:後肢虚血モデルにおける血管数、体積、直径、分離、連結および血管のリモデリング、の解析のために、術後1週目、3週目、4週目、3カ月目、6カ月目および10カ月目にマイクロCTで評価し、そして4)毛細血管密度の増加を、PECAM1抗体による虚血後肢筋組織の免疫組織化学またはBSL1による灌流で評価した。MIについては、1)マッソントリクローム染色による心筋線維化の程度、2)マイクロCTによる血管新生の効果、および3)MI心臓組織の免疫組織化学による毛細血管密度の増加、を評価した。アデノウイルスETV2(またはレンチウイルスETV2、AAV-ETV2)を、手術直後にMI心臓または誘導虚血後肢に直接注入する。ETV2投与による回復の改善および血管新生の促進がもたらされ得る。
【国際調査報告】