(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】コロナウイルスを治療するための化合物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20230710BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576421
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2021065356
(87)【国際公開番号】W WO2021250038
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522480274
【氏名又は名称】アプテウス
(71)【出願人】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】305023584
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
(71)【出願人】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(71)【出願人】
【識別番号】517347447
【氏名又は名称】サントレ ホスピタリエール ユニベルシテール デ リール
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ベギャン, テランス
(72)【発明者】
【氏名】デプレ, ブノア
(72)【発明者】
【氏名】ベルザール, サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブロダン, プリシル
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB33
(57)【要約】
本発明は、コロナウイルスによって生じる疾患、特にCovid-19の予防または治療におけるクロフォクトールの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスによって生じる疾患の予防または治療における使用のためのクロフォクトール。
【請求項2】
上記コロナウイルスはSARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV2である、請求項1に記載の使用のためのクロフォクトール。
【請求項3】
上記疾患はCovid-19である、請求項1に記載の使用のためのクロフォクトール。
【請求項4】
少なくとも1種の他の有効成分と組み合わせて投与される、請求項1~3の何れかに記載の使用のためのクロフォクトール。
【請求項5】
上記少なくとも1種の他の有効成分は同時、順次、または所定の期間に亘って投与される、請求項4に記載の使用のためのクロフォクトール。
【請求項6】
少なくとも1種の医薬的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物の形態で投与される、請求項1~5の何れかに記載の使用のためのクロフォクトール。
【請求項7】
必要とする対象にクロフォクトールを投与することを含む、コロナウイルスによって生じる疾患を予防または治療する方法。
【請求項8】
上記コロナウイルスはSARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV2である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記疾患はCovid-19である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
上記対象に少なくとも1種の他の有効成分を投与することをさらに含む、請求項7~9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
上記少なくとも1種の他の有効成分は同時、順次、または所定の期間に亘って投与される、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルスによって生じる疾患、特にCovid-19を治療するためのクロフォクトールの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスはコロナウイルスファミリー(ニドウイルス目)に属し、一本鎖プラス鎖RNAゲノムの大きさが約26~32kbであるウイルスを含む。コロナウイルスファミリーは、アルファコロナウイルス(αCoV)、ベータコロナウイルス(βCoV)、デルタコロナウイルス(δCoV)、およびガンマコロナウイルス(γCoV)を含む。コウモリおよびげっ歯類がαCoVおよびβCoVのリザーバーだと考えられている。現在、δCoVおよびγCoVのリザーバーとなっている動物についてはあまり明らかになっていない。コロナウイルスは、電子顕微鏡下での外観に応じて命名されており、これらのウイルスは、エンベロープ上にスパイク糖タンパク質が存在するため、コロナまたは王冠のように取り囲む尖った構造で覆われているように見える。
【0003】
21世紀初頭から、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、およびSARS-CoV-2(2019-nCoVとしても知られている)という3種のコロナウイルスが種の境界を越えてヒトで致死性の肺炎を発症させた。SARS-CoV-2は、エンベロープを持つプラス鎖一本鎖RNAウイルスであって、βCoV属に属する。この属はまた、SARS-CoVおよびMERS-CoVを含む。SARS-CoV-2は、コウモリSARS様CoVと89%のヌクレオチド同一性を有し、ヒトSARS-CoVと82%の同一性を有する。ヒトに感染し得る他のコロナウイルスは、ヒトコロナウイルスNL63(HcoV-NL63)、ヒトコロナウイルスOC43(HcoV-OC43)、ヒトコロナウイルスHKU1(HcoV-HKU1)、およびヒトコロナウイルス229E(HcoV-229E)を含む。
【0004】
コロナウイルスの宿主細胞への侵入は、ウイルス表面から突出しているホモ三量体を形成する膜貫通スパイク(S)糖タンパク質により媒介される。SARS-CoVは、直接の膜融合に加えて、エンドサイトーシス経路から細胞に侵入することができ、このエンドサイトーシス感染がウイルス遺伝子の発現に繋がることが示されている(Cell Research 2008;18:290-301)。SARS-CoV-2については、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が細胞へのSARS-CoV-2 S介在性侵入を媒介し、この新たに出現したコロナウイルスの機能的受容体として確立されているが、SARS-CoV-2 Sは、SARS-CoV Sと同程度の親和性でヒトACE2に結合することが示唆されている(Cell 2020;180:281-292)。また、SARS-CoV-2は、Sタンパク質プライミングに膜貫通プロテアーゼであるセリン2(TMPRSS2)を用いることが示されている(Cell 2020;181:271-280)。
【0005】
SARS-CoV-2の出現および関連疾患Covid-19の大流行以来、研究段階にあるかまたは既に市場に出回っている多くの薬剤が、Covid-19の作用を治療/軽減する有効性の可能性について試験されてきた。本発明者らの知る限りでは、これらの薬剤はいずれも、SARS-CoV-2の両侵入経路、すなわち、エンドサイトーシス侵入および融合侵入が細胞において利用できる場合、許容できる用法用量で感染組織において到達され得る濃度でウイルスサイクルを阻止することが示されなかった。
【0006】
クロフォクトール(2-(2,4-ジクロロベンジル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、CAS番号37693-01-9、PubChem CID 2799)は、グラム陽性バクテリアによって生じる感染の治療に適応される静菌性抗生物質であり、最初に、仏国特許出願第2101076号に記載された。この化合物は、次いで、小胞体ストレス応答経路を活性化することが示され、前立腺癌治療用の有望な薬剤候補となった(British Journal of Pharmacology 2014;171:4478-4489)。より最近では、クロフォクトールは、EBV溶解性遺伝子発現を活性化すること(Journal of Virology 2019;93(20):e00998-19)、およびKLF13を活性化して神経膠腫幹細胞の増殖を抑制すること(J Clin Invest.2019;129(8):3072-3085)が示された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
このたび、SARS-CoV-2の両侵入経路、すなわち、エンドサイトーシス侵入及び融合侵入が細胞で利用できる場合、クロフォクトールはウイルスサイクルを阻止することが分かった。結果として、クロフォクトールは、SARS-CoV-2によって誘発される細胞変性効果を抑制し、かつウイルスに感染した細胞におけるウイルス量を低減させるのに有効であることが分かった。
【0008】
従って、本発明は、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、またはHCoV-229Eなどのコロナウイルスによって生じる疾患の予防または治療における使用のためのクロフォクトールに関する。本発明はまた、必要とする対象にクロフォクトールを投与することを含む、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、またはHCoV-229Eなどのコロナウイルスによって生じる疾患を治療する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】形質導入されていないVero81細胞(
図1)に感染するSARS-CoV-2の細胞変性効果に対する様々な濃度のクロフォクトールの有効性を示す。
【
図2】SARS-CoV-2に感染させた、形質導入されていないVero81細胞(
図2)の増殖向上に対する様々な濃度のクロフォクトールの有効性を示す。
【
図3】TMPRSS2遺伝子により形質導入されたVero81細胞(
図3)に感染するSARS-CoV-2の細胞変性効果に対する様々な濃度のクロフォクトールの有効性を示す。
【
図4】SARS-CoV-2に感染させた、TMPRSS2遺伝子により形質導入されたVero81細胞(
図4)の増殖向上に対する様々な濃度のクロフォクトールの有効性を示す。
【
図5】SARS-CoV-2に感染させた、Vero81細胞およびTMPRSS2により形質導入されたVero81細胞におけるSARS-CoV-2のゲノム複製に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図6】SARS-CoV-2に感染させた、Vero81細胞およびTMPRSS2により形質導入されたVero81細胞におけるSARS-CoV-2のゲノム複製に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図7】SARS-CoV-2に感染させた、Vero81細胞およびTMPRSS2遺伝子により形質導入されたVero81細胞におけるSARS-CoV-2量に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図8】SARS-CoV-2に感染させたCalu-3細胞におけるSARS-CoV-2のゲノム複製に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図9】C57BL/6Jマウスにおけるクロフォクトールの薬物動態を示す。
【
図10】K18-hACE2遺伝子組み換えC57BL/6JマウスにおけるSARS-CoV-2感染に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図11】SARS-CoV-2の異なる2種の変異体に感染させたVero81細胞におけるSARS-CoV-2のゲノム複製に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図12】Huh-7細胞でのHCoV-229E-Rlucウイルス増殖阻害に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図13】感染Vero81細胞(下の曲線)およびTMPRSS2により形質導入された感染Vero81細胞(上の曲線)におけるウイルス分泌に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図14】感染Vero81細胞(上の曲線)およびTMPRSS2により形質導入された感染Vero81細胞(下の曲線)におけるウイルス複製に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図15】感染させたヒト気管支上皮におけるウイルス分泌に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【
図16】感染させたヒト気管支上皮におけるウイルス分泌に及ぼすクロフォクトールの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の文脈において、以後記載する様々な実施形態は組み合わせることができる。
【0011】
第一の態様では、本発明は、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、またはHCoV-229Eなどのコロナウイルスによって生じる疾患の予防または治療における使用のためのクロフォクトールに関する。特に、クロフォクトールは、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2などのコロナウイルスによって生じる疾患の予防または治療に特に好適である。
【0012】
一実施形態では、上記コロナウイルスはSARS-CoV-2であり、対応する疾患はCovid-19である。当業者であれば自明であるが、SARS-CoV-2の変異体は総称「SARS-CoV-2」によって包含される。そのような変異体の例としては、D614G変異を有するB.1変異体、それに由来するB.1.1.7変異体(「英国」変異体としても知られている)、ニューヨーク市で最初に同定されたB.1.526変異体、「南アフリカ」変異体としても知られているB.1.351変異体、「ブラジル」変異体としても知られているB.1.1.248変異体、特にカリフォルニアで同定されたB.1.427およびB.1.429変異体、「インド」変異体としても知られているB.1.617変異体が挙げられる。
【0013】
一実施形態では、クロフォクトールは、SARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2の治療のためのまたは該治療について研究段階にある少なくとも1種の他の有効成分(小分子または生物学的成分)と組み合わせて投与される。上記少なくとも1種の他の有効成分の投与は、クロフォクトールの投与に対して同時、順次、または所定の期間に亘って行うことができる。
【0014】
一実施形態では、上記少なくとも1種の他の有効成分は、以下から選択される:
アベマシクリブ、アルミトリンビスメシラート、アモジアキン、アナキンラ、アンジオテンシン1-7、アニデュラファンギン、アピキサバン、アスピリン、アバトロンボパグ、アジスロマイシン、バムラニビマブ、バリシチニブ、バゼドキシフェン、ベルバミン、ブレクスピプラゾール、ブロムヘキシン、カモスタット、カナキヌマブ、カシリビマブ、セファランチン、セリチニブ、セチルピリジニウム、クロロキン、クロルプロマジン、シクレソニド、クロミフェンクエン酸塩、コビシスタット、クロコナゾール、シクロスポリン、ダノプレビル、ダルナビル、デキサメタゾン、ジギトキシン、ジゴキシン、ジヒドロアルテミシニン、ジヒドロガンボギン酸、ジルチアゼム、ドロネダロン、ドロタベリン、エバスチン、エルトロンボパグ、エマパルマブ、エテセビマブ、エタベリン、ファビピラビル、フィンゴリモド、フルナリジン、ギルテリチニブ、ハリングトニン、ヘマトポルフィリン、ヘキサクロロフェン、ヒドロコルチゾン、ヒドロキシクロロキン、ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸塩、イムデビマブ、IMU-838、インターフェロンβ-1A、インターフェロンβ-1B、イソオサジン、イソポミフェリン、イソトレチノイン、イバカフトル、イベルメクチン、JS016、ケトコナゾール、リドフラジン、ロペラミド、ロピナビル、ロラタジン、エタボン酸ロテプレドノール、ルストロンボパグ、LY-CoV555、メフロキン、メチルプレドニゾロン、モルヌピラビル、ナファモスタット、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オマセタキシンメペスクシナート、オサジン、オセルタミビル、オシメルチニブ、オチリマブ、ウアバイン、オキシコナゾール、オキシクロザニド、オザニモド、パパベリン、ペグインターフェロンλ、マレイン酸ペルヘキシリン、ペキシダルチニブ、PF-07321332、フェナゾピリジン、ポリドカノール、ポサコナゾール、プレドニゾン、組み換えヒトインターフェロンα1β、組み換えインターフェロンα-2b、レゴラフェニブ、レムデシビル、リバビリン、リトナビル、ルキソリチニブ、シタグリプチン、ソフォスブビル、ソニデギブ、ソラフェニブ、タモキシフェン、タリドミド、チメロサール、チオリダジン、サイモシンα1、チロロン、チオグアニン、トシリズマブ、トレミフェン、トリパラノール、チルホスチン、ウミフェノビル。
【0015】
一実施形態では、クロフォクトールは、(クロフォクトールに加えて)少なくとも1種の医薬的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物の形態で投与される。賦形剤、医薬組成物、およびそれらの調製方法は当該分野でよく知られている(例えば、Handbook of pharmaceutical Excipients,Rowe et al,seventh edition,June 2012;Rules and Guidance For Pharma Manufacturers and distributors 205,Medecines and Healthcare products Regulatory Agency,London UKを参照のこと)。
【0016】
他の態様では、本発明は、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、またはHCoV-229Eなどのコロナウイルスによって生じる疾患を予防または治療する方法に関する。この方法は、必要とする対象にクロフォクトールを投与することを含む。実施形態によっては、上記コロナウイルスはSARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2である。実施形態によっては、上記コロナウイルスはSARS-CoV-2であり、対応する疾患はCovid-19である。
【0017】
現在のクロフォクトールの投与経路は直腸経路である。100mg、200mg、または750mgのクロフォクトールを含む座薬は、好適な医薬的に許容可能な賦形剤を用いて調製することができる。
【0018】
一実施形態では、上記対象は、過体重、肥満、糖尿病、脂質異常症、動脈高血圧症、心臓血管疾患、慢性腎臓病、免疫抑制のうち1つ以上の症状または疾患を有する。
【0019】
一実施形態では、上記方法は、少なくとも1種の他の有効成分を上記対象に投与することをさらに含む。上記少なくとも1種の他の有効成分の投与は、クロフォクトールの投与に対して同時、順次、または所定の期間に亘って行うことができる。
【0020】
一実施形態では、上記少なくとも1種の他の有効成分は上で定義した通りである。
【0021】
クロフォクトールは、Vero81細胞の他、TMPRSS2により形質導入されたVero81細胞およびヒトCalu-3細胞においてhSARS-CoV2の細胞変性効果を抑制することが示されている。Vero81細胞は、エンドサイトーシスに基づく侵入路によりウイルスに対して許容状態である。TMPRSS2により形質導入された場合、Vero81細胞はエンドサイトーシスおよび融合という2つの侵入路によりウイルスに対して許容状態になる。クロフォクトールはまた、同細胞、および同様にウイルスに対して両侵入を提供するヒトCalu-3細胞におけるウイルスゲノム複製を阻害することが示されている。クロフォクトールはさらに、ウイルスに感染させた細胞培養物(Vero81細胞およびTMPRSS2により形質導入されたVero81細胞)のウイルス量を低減させることが示されている。クロフォクトールはさらに、SARS-CoV-2に感染させたマウス(K18-hACE2)の肺におけるウイルス量を低減させることが示されている。クロフォクトールはさらに、SARS-CoV-2の異なる2つの変異体のウイルスゲノム複製を阻害することが示されている。クロフォクトールはさらに、α-コロナウイルスであるHCoV-229Eの複製を阻害することが示されている。
【0022】
以下の実施例は例示の目的で含められたもので、いかなる形であっても限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0023】
ウイルスの単離および増幅
ヒトコロナウイルスSARS-CoV2(hSARS-CoV2)を患者の試料から単離して、βCoV/France/IDF0372/2020と注記を付けた。これをインビトロで用いて、TMPRSS2を発現するVERO-81細胞において増殖させ、プレートで培養し、細胞単層が完全に崩壊するまでインキュベートした。B1.1.7系統のSARS-CoV-2(GISAID登録番号EPI_ISL_1653931)は、インビトロで用いられたSARS-CoV-2の第二の変異体である。回収後、2%FBS(ウシ胎児血清)を補充したDMEMでインキュベートしたVERO-81細胞に分配した上清の10倍の連続希釈液(10-1~10-8)によって、ウイルス力価測定を行った。プレートを5%CO2、37℃で5日間インキュベートした。その後、倒立顕微鏡(ZEISS Primovert)を用いてプレートを調べて、細胞培養物におけるウイルス誘発細胞変性効果の程度を評価した。推定ウイルス濃度の計算は、スピアマン-カーバー法によって行い、log10 TCID50/mL(50%組織培養物感染用量、すなわち、感染細胞の50%で細胞変性効果が得られるウイルス量)として表した。この方法の検出限界は1.5TCID50/mlであった。
【0024】
また、SARS-CoV-2のhCoV-19_IPL_France株(NCBI MW575140)をインビトロおよびインビボの実験で用いた。TMPRSS2を発現するVero-E6細胞においてMOI0.01で接種してウイルスを伝播させた。細胞上清培地を感染後72時間目に回収して、少量ずつに分けて-80℃で冷凍貯蔵した。
【0025】
TMPRSS2形質導入
Vero-81細胞を、TMPRSS2を発現するレンチウイルスにより形質導入した。TMPRSS2をpTRIPベクターにクローニングして、Turbofect(商標)(ThermoFischer)を用い、製造者の指示に従って、pTRIP-TMPRSS2、phCMV-VSVG、およびHIV gag-polによりHEK293T細胞の遺伝子導入を行ってレンチウイルスベクターを作製した。レンチウイルスベクターを含む上清を用いて細胞に形質導入した。そして、形質導入の72時間後に細胞を実験で用いた。
【0026】
細胞変性効果の測定
細胞培養
5%CO2、37℃の加湿雰囲気で10%ウシ胎児血清(FBS)およびGlutaMAX(商標)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)でベロ細胞[ATCC(登録商標)CCL-81(商標)、ECACC、Sigma-Aldrich、仏国、以後、「Vero81」細胞]を培養した。
【0027】
熱で非活性化された10%ウシ胎児血清(FBS、Eurobio)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)でHuh-7細胞を37℃、5%CO2で増殖させた。
【0028】
glutamax(Gibco)および熱で非活性化された10%FBSを補充した最小必須培地(Gibco、MEM)でCalu-3細胞(Clinisciences、EP-CL-0054)を増殖させた。
【0029】
熱で非活性化された10%ウシ胎児血清(FBS、Eurobio)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)でVero-E6細胞(ATCC、CRL-1586)を37℃、5%CO2で増殖させた。
【0030】
試験化合物:実験で所望の濃度になるのに必要な濃度でクロフォクトールのDMSO溶液を調製した。溶液を生細胞に分注した。DMSOの最大濃度は0.15%であった。
【0031】
細胞感染:様々な濃度のクロフォクトールまたは対照溶媒を加えた後、細胞を感染させた。感染倍数は0.01であった。
【0032】
試薬:Hoechst33342トリヒドロクロリド三水和物(Ref H3570、ThermoFischer)およびヨウ化プロピジウム(Ref P1304MP、ThermoFisher)をそれぞれ10μg/mlおよび1μg/mlで用いて、クロフォクトールのウイルス細胞変性効果(CPE)を監視した。これらはいずれも、72時間インキュベートした後に加えた。
【0033】
細胞に作用するウイルスの毒性を代替するPI陽性核の割合(%)、およびウイルスによって及ぼされる細胞増殖阻害に対応する核の数を分析することで結果を得た。
【0034】
ウイルスゲノム複製の測定
細胞培養:5%CO2、37℃の加湿雰囲気で10%ウシ胎児血清(FBS)およびGlutaMAX(商標)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)でVero81細胞およびTMPRSS2により形質導入されたVero-81細胞を培養した。
【0035】
試験化合物:実験で所望の濃度になるのに必要な濃度でクロフォクトールのDMSO溶液を調製した。溶液を生細胞に分注した。DMSOの最大濃度は0.15%であった。
【0036】
細胞感染:様々な濃度のクロフォクトールまたは対照溶媒を加えた後、細胞を感染させた。感染倍数は0.25であった。
【0037】
ウイルス量を代替する、全細胞RNAに関連するウイルスRNAを投与することにより結果を得た。
【0038】
RNA投与:6時間インキュベーションした後、Nucleospin RNAキット(Macherey-Nagel)を製造者によって推奨されているように使用して全細胞RNAを抽出し、定量RT-PCRによってSARS-CoV-2ゲノムを測定した。高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を用いてRNAを逆転写した。次いで、QuantStudio3にてTaqManユニバーサルPCRマスターミックス(Applied Biosystems)を用いてリアルタイムPCRを行った。E遺伝子のオープンリーディングフレームを標的とするプライマーおよびプローブ(WHOプロトコル)を用いた。単位複製配列に対応するインビトロ転写RNAを用いて標準曲線を作成した。
【0039】
インビトロのウイルス量の決定
Vero-81およびVero-81-TMPRSS2細胞をMOI0.25で1時間感染させ、次いで、細胞をPBSで3回洗浄し、さらに、クロフォクトールの濃度を増加させながらその存在下で16時間インキュベートした。それぞれの条件を2連で行った。細胞上清を回収して、ウイルス力価をTCID50法で測定した。
【0040】
マウスの肺におけるウイルス量の決定
肺におけるウイルス量を決定するために、ミキサーミルMM400(Retsch)(15分-15Hz)を用いて、1mLのPBSを含むLysing Matrix D管(mpbio)中で右葉の半分をホモジナイズした。11,000rpmで5分間遠心分離した後、ウイルス力価測定のために清澄上清を回収した。1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEMにて上清の各希釈を行い、TCID50アッセイのために各希釈液を96ウェルプレート内のVero-E6細胞に移した。
【0041】
RTqPCRによる遺伝子発現の評価
20mMのTCEPを含むNucleoSpin RNAキットのRA1緩衝液1mL中で右葉の半分をホモジナイズした。組織ホモジネート中の全RNAをMacherey Nagel製NucleoSpin RNAで抽出した。RNAを60μLの水で溶出した。
【0042】
RNAを高容量cDNA Archive Kit(Life Technologies、米国)で逆転写した。SYBR Greenに基づくリアルタイムPCRおよびQuantStudio(商標)12K FlexリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems(商標)、米国)を用い、製造者のプロトコルに従って、得られたcDNAを増幅した。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)をコードする遺伝子を用いて相対的定量化を行った。Primer Expressソフトウェア(Applied Biosystems、仏国ヴィルボン=シュル=イヴェット)を用いて特異的プライマーを設計し、Eurofins Scientifics(独国エーバースベルク)に注文した。(a)対象遺伝子とハウスキーピング遺伝子のPCRサイクル閾値(Ct)を比較(ΔCt)し、(b)治療群と対照群のΔCt値を比較(ΔΔCt)することにより、相対的mRNA量(2ΔΔCt)を求めた。データは、gapdh遺伝子の発現に対して正規化し、モック処置マウスでの平均遺伝子発現量に対する増加倍数として表す。ウイルス量は、Gapdh発現量(ΔCt)に対して正規化されたウイルスRNAとして表す。
【0043】
実施例1
1:3で希釈後の様々な濃度のクロフォクトールを加えて、MOI0.01(感染倍数(MOI)0.01は、ウイルス使用量が1細胞あたり0.01であることを意味する)で72時間hSARS-CoV2に感染させることにより、hSARS-CoV2に感染させたVero81細胞に及ぼすクロフォクトールの効果を評価した。2回の技術的反復で2回の生物学的反復を行った。
【0044】
結果は、陽性(0%感染細胞)対照および陰性(100%感染細胞)対照で規定されたスケールに対するCPE率(%)として表されるPI陽性核の割合(%)を分析して得た。
図1から分かるように、クロフォクトールのCPEを95%低減させる濃度(IC
95)は9.2μMである。
【0045】
実施例2
1:3で希釈後の様々な濃度のクロフォクトールを加えて、MOI0.01で72時間hSARS-CoV2に感染させることにより、hSARS-CoV2に感染させたVero81細胞に及ぼすクロフォクトールの効果を評価した。3回の技術的反復で2回または3回の生物学的反復を行った。
【0046】
結果は、正常細胞増殖(非感染対照)および非細胞増殖(感染対照)で規定されたスケールに対する細胞増殖向上率(%)として表される生細胞数を分析して得た。
図2から分かるように、クロフォクトールの最大応答の95%が観察される濃度(EC
95)は21μMと推定される。
【0047】
実施例3
1:3で希釈後の様々な濃度のクロフォクトールを加えて、MOI0.01で72時間hSARS-CoV2に感染させることにより、hSARS-CoV2に感染させたTMPRSS2形質導入Vero81細胞に及ぼすクロフォクトールの効果を評価した。3回の生物学的反復を行った。
【0048】
結果は、陽性(0%感染細胞)対照および陰性(100%感染細胞)対照により規定されたスケールに対するCPE率(%)として表されるPI陽性核の割合(%)を分析して得た。
図3から分かるように、クロフォクトールのIC
95は8.7μMである。
【0049】
実施例4
1:3で希釈後の様々な濃度のクロフォクトールを加えて、MOI0.01で72時間hSARS-CoV2に感染させることにより、hSARS-CoV2に感染させたTMPRSS2形質導入Vero81細胞に及ぼすクロフォクトールの効果を評価した。3回の生物学的反復を行った。
【0050】
結果は、正常細胞増殖(非感染対照)および非細胞増殖(感染対照)で規定されたスケールに対する細胞増殖向上率(%)として表される生細胞数を分析して得た。
図4から分かるように、クロフォクトールの推定EC
95は25μMである。
【0051】
実施例5
1:2.5で希釈後の様々な濃度のクロフォクトールを加えて、MOI0.25で6時間hSARS-CoV2に感染させることにより、hSARS-CoV2に感染させたVero81およびTMPRSS2形質導入Vero81細胞に及ぼすクロフォクトールの効果を評価した。2回の生物学的反復を行った。
【0052】
ウイルスRNAを投与することにより結果を得て、ウイルス量を試料の全RNA(RNAt)に対するウイルスRNAの比として表した。
図5から分かるように、クロフォクトールのIC
95は11μMである。
【0053】
実施例1~5の結果によって示されるように、クロフォクトールのIC95は約9μM~約11μM、すなわち、手術前または手術中にクロフォクトールが投与されて、肺切除または肺全摘を受けた患者のヒト肺組織において報告されたクロフォクトールのCmax(約250μM)(Journal of Antimicrobial Chemotherapy 1987;19:679-683)に対して約25分の1の値で変動している。同様に、クロフォクトールのEC95は約21μM~約25μM、すなわち、ヒト肺組織において報告されたCmax(上記を参照のこと)に対して約10の1の値で変動している。
【0054】
実施例6
クロフォクトールの濃度を増加させながらその存在下でMOI0.25で6時間Vero-81細胞およびVero-81-TMPRSS2細胞を感染させた。次いで、全RNAを抽出して、ウイルスRNAをRT-qPCRで定量した。結果は、全RNA量で正規化し、2連で行った3回の独立した実験の平均値を表している。結果を
図6に示すが、クロフォクトールはSARS-CoV-2のゲノム複製を阻害することが分かる。
【0055】
実施例7
Vero-81細胞およびVero-81-TMPRSS2細胞をMOI0.25でSARS-CoV-2に感染させた。1時間後、接種材料を除去して、細胞をPBSで洗浄した後、クロフォクトールで処置した。次いで、細胞をさらに16時間インキュベートした。その後、上清を回収して、感染性ウイルスの分泌量を定量した。点線は検出限界(1.5TCID
50/mL)を示している。これらのデータは、3回の独立した実験(N=3)の平均値を表している。実験は、それぞれの条件について2連で行った。結果を
図7に示すが、クロフォクトールの濃度が増加するにつれ、SARS-CoV-2量は減少することが分かる。
【0056】
実施例8
クロフォクトールの濃度を増加させながらその存在下でCalu-3細胞をMOI0.25で24時間感染させた。次いで、全細胞RNAを抽出して、ウイルスRNAをRT-qPCRで定量した。結果を
図8に示すが、クロフォクトールはCalu-3細胞でのSARS-CoV-2複製を阻害することが分かる。
【0057】
実施例6~8の結果から、クロフォクトールはSars-CoV2に対する抗ウイルス活性を示すことが分かった。
【0058】
実施例9
1.75%の最終Kolliphor(登録商標)RH40(07076、Sigma)および1.4%の最終エタノールの塩化ナトリウム溶液で希釈したクロフォクトールを腹腔内注射に用いた。メスの8~10週齢のC57BL/6Jマウスに対してクロフォクトールの単回投与量(62.5mg/kg)を用いて腹腔内投与して処置し、その後、異なる各時点で犠牲死させた(
図9、左パネル)。別の実験では、マウスに対してクロフォクトールの1回の投与量(62.5mg/kg)を用いて1日2回2日間腹腔内投与して処置し、最後の注射の1時間後にマウスを犠牲死させた(
図9、右パネル)。処置マウスの血漿中および肺中のクロフォクトール濃度は、以下のようにして測定した。血漿試料および肺組織を回収し、それぞれ1~10および1~50の比率で無水エタノールで処理した。肺組織を機械的溶解システム(Tissue Lyzer II)でホモジナイズした。遠心分離により上清を得た後、LC-MS/MSに注入した。UPLCシステムAcquity I Class(Waters)をトリプル四重極質量分析計Xevo TQD(Waters)と組み合わせて用いて、試料を分析した。40℃に置いたカラムは、Acquity BEH C8 50*2.1mm,1.7μmカラム(Waters)であり、用いた移動相は、溶媒(A)として5mMのギ酸アンモニウム(pH3.75)の水溶液、溶媒(B)として5mMのギ酸アンモニウム(pH3.75)のアセトニトリル溶液であった。
図9に示された結果は、3連(肺)または2連(血漿)で行った3回の独立した実験の平均値を表している。クロフォクトールは肺において非常に顕著な量で分配されることが分かる。
【0059】
実施例10
K18-ヒトACE2を発現する8週齢のメスC57BL/6マウス(B6.Cg-Tg(K18-hACE2)2Prlmn/J)をJackson Laboratoryから購入した。感染させるために、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を腹腔内注射してマウスを麻酔し、次いで、5×102TCID50のSARS-CoV-2のhCoV-19_IPL_France株(NCBI MW575140)を含む(またはモック試料では含まない)50μlのDMEMを鼻腔内投与して感染させた。すべての実験は、現在の国および機関の規則と倫理ガイドラインとに従って行われた。プロトコルは、機関の倫理委員会“Comite d’Ethique en Experimentation Animale”(CEEA)75,Nord Pas-de-Calais(仏国)によって承認された。
【0060】
マウスにSARS-CoV-2(マウス当たり5×10
2TCID
50)を鼻腔内接種してから1時間後および8時間後、並びに感染後1日目に1日2回、クロフォクトール(62.5mg/kg)または媒体を腹腔内投与して処置した(
図10、左パネル)。感染後2日目および4日目に動物を犠牲死させた。Vero-81細胞に力価測定(
図10、中央パネル)およびRT-qPCR(
図10、右パネル)(感染後2日目)を行ってウイルス量を求めた。
【0061】
クロフォクトール処置はマウスにおいてSARS-CoV-2感染を顕著に低減させることが分かる。
【0062】
実施例11
D614G変異を含むB1系統のSARS-CoV-2(SARS-CoV-2/ヒト/FRA/Lille_Vero-TMPRSS2/2020)またはB1.1.7系統のSARS-CoV-2(GISAID登録番号EPI_ISL_1653931)にVero-81細胞を感染させた。ウイルスゲノムをRT-qPCRにより定量した。結果は、全RNA量で正規化し、2連で行った3回の独立した実験の平均値を表している。
図11から分かるように、クロフォクトールはSARS-CoV-2の変異体のゲノム複製を阻害する。
【0063】
実施例12
異なる濃度のクロフォクトールの存在下、Huh-7細胞をHCoV-229E-Rlucに感染させた。感染の7時間後、細胞を溶解して、ルシフェラーゼ活性を定量した。結果を
図12に示すが、対照に対する%として示されており、3連で行った3回の独立した実験の平均値を表している。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。
図12から分かるように、クロフォクトールは、Sars-CoV2とは異なるコロナウイルスであるHCoV-229Eに対して活性がある。
【0064】
実施例1~12における上記データは、Covid-19など、コロナウイルスによって生じる疾患の予防または治療のためのクロフォクトールの有用性を裏付けるものである。
【0065】
実施例13
10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地において、Vero81細胞およびTMPRSS2により形質導入されたVero-81細胞をMOI0.25でhSARS-CoV-2に感染させた。1時間後、接種材料を除去し、細胞をPBSで洗浄した後、異なる各濃度のクロフォクトールで処置した。次いで、5%CO
2、37℃の加湿雰囲気で細胞を16時間インキュベートした。その後、上清を回収して、上清中に分泌されたウイルスの量をTCID
50で評価し、Log10 TCID
50/mLとして表した。
図13に報告されたデータは、2つの異なる経験(n=2)の平均値を表している。それぞれの条件を2連で行った。図中の点線は、本方法の検出限界である1.5TCID
50/mlを表している。
【0066】
図13から分かるように、クロフォクトールは感染細胞によるhSARS-CoV-2の分泌を阻害する。
【0067】
実施例14
10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地において異なる各濃度のクロフォクトールの存在下、Vero81細胞およびTMPRSS2により形質導入されたVero-81をMOI0.25でhSARS-CoV-2に感染させた。6時間後、接種材料を除去し、Nucleospin RNAキット(Macherey-Nagel)を用い、製造者の指示に従って細胞を溶解して、全RNAを抽出した。E遺伝子のオープンリーディングフレームを標的とするプライマーおよびプローブ(WHOプロトコル)を用いて定量RT-PCRによりSARS-CoV-2ゲノムを測定した。結果は、各試料の全RNA量によって正規化し、
図14に示すように未処置対照に対する%として表した。実験は2回行った(n=2)。各実験中、それぞれの条件を2連で行った。
【0068】
図14から分かるように、クロフォクトールは感染細胞においてhSARS-CoV2の複製を阻害する。
【0069】
実施例15
ヒト気管支上皮(MucilAir(商標)、Epithelix社製)にクロフォクトールを頂端投与して処置した。まず、異なる各濃度のクロフォクトールを含むMucilair(登録商標)培養培地で上皮を洗浄した後、依然としてクロフォクトールの存在下で1時間、MOI0.2でhSARS-CoV-2に感染させた。次いで、接種材料を除去し、上皮をPBSで洗浄した後、異なる各濃度のクロフォクトールを含むMucilair(登録商標)培養培地25μlを頂端極に加えた。37℃で72時間インキュベートした後、200μlのMucilAir(登録商標)培養培地を上皮の頂端極に加えて、5分間インキュベートした後に回収した。これらの上清を用いて、分泌されたウイルスの量をTCID
50で評価して定量した。結果を
図15に示すが、図中、点線はレムデシビルの検出限界を表している。また、Nucleospin RNAキット(Macherey-Nagel)を用いて全RNAを抽出した後、RT-qPCRでゲノムを定量した。結果は、利用できる全RNA量が少なかったため正規化できなかったが、
図16に示す。
図15および
図16のデータはいずれも、3回の技術的反復(n=3)の平均値および標準偏差を表している。
【0070】
図15および
図16から分かるように、クロフォクトールは、インビトロでヒト気管支上皮の粘液において測定されたウイルス力価を、30μMで100倍超低減させる。これはウイルスRNAの定量の減少によって確認された。
【国際調査報告】