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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】オートトランスポーター系
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230710BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230710BHJP
   C12N 15/80 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 39/112 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230710BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20230710BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/21 ZNA
C12N15/80 Z
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/10
A61P33/00
A61P35/00
A61K39/112
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K45/00
C07K14/195
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578708
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 GB2021051561
(87)【国際公開番号】W WO2021255480
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】2009411.6
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521339784
【氏名又は名称】プロカリウム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カレラ,マーク ビアーンズ
(72)【発明者】
【氏名】ソウリアー,アネライズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA41X
4B065AA46X
4B065BA02
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZB321
4C084ZB331
4C084ZB351
4C084ZB371
4C084ZC751
4C085BA24
4C085BB23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085EE06
4C085FF24
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、改変オートトランスポーター、並びに感染性疾患および腫瘍性疾患の治療における前記改変オートトランスポーターを含む遺伝子改変微生物の使用を提供する。したがって、本発明は前記遺伝子改変微生物を含むワクチン組成物および免疫療法用組成物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラム陰性菌の内膜および外膜を通過して移行するための、標的ポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列の挿入を可能とするように改変されたオートトランスポーターコンストラクトであって、
i)N末端シグナル配列をコードするポリヌクレオチド配列;ii)前記標的ポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列が挿入されることとなるパッセンジャー領域、およびiii)トランスロケーションドメインをコードするポリヌクレオチド配列を含み;前記パッセンジャー領域は制限酵素認識配列で挟まれた合成ポリヌクレオチド配列を含み、前記合成ポリヌクレオチド配列は第1ポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列を含む、
オートトランスポーターコンストラクト。
【請求項2】
前記パッセンジャー領域がリンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列をさらに含み、好ましくは前記リンカーがセリン-グリシンリンカーである、請求項1に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項3】
前記パッセンジャー領域が第2ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列をさらに含み、好ましくは前記第2ポリペプチドタグがHisタグである、請求項1または2に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項4】
前記パッセンジャー領域が切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列をさらに含み、好ましくは前記切断部位がカスパーゼ-3切断部位および/またはOmpT切断部位である、請求項1~3に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項5】
前記第2ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列が前記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の上流に存在する、請求項1~4に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項6】
前記第1ポリペプチドタグが前記オートトランスポーターのインフレーム翻訳を可能にする任意の合成ポリヌクレオチド配列であり、好ましくは前記第1ポリペプチドタグがFLAGタグである、請求項1~5に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項7】
前記第2ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列が前記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の上流に位置し、前記リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列が前記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に位置し、前記切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列が前記リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に位置する、請求項1~6のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項8】
前記改変されたオートトランスポーターがEstA、MisL、Hbp、AIDA-1、EstPまたはPetである、請求項1~7のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項9】
標的ペプチドまたは標的タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項10】
前記異種ポリヌクレオチドが治療用タンパク質をコードする、請求項1~9のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項11】
前記異種ポリヌクレオチドが抗がん性の治療用分子または免疫原性分子をコードする、請求項9または10に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項12】
前記抗がん性の治療用分子または免疫原性分子がサイトカイン、ケモカイン、抗体もしくはその断片、細胞傷害性薬物、がん抗原、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項11に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項13】
前記異種ポリヌクレオチドがIFNα、IFNβ、IL-18をコードする、請求項9~12のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクト。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクトを含む、遺伝子改変微生物。
【請求項15】
弱毒化細菌であり、好ましくはグラム陰性菌である、請求項14に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項16】
サルモネラ属種(Salmonella spp)であり、好ましくはサルモネラ菌(Salmonella enterica)、さらにより好ましくはチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)またはネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)である、請求項14または15に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項17】
サルモネラ属種(Salmonella spp.)に由来し、SPI-2(Salmonella Pathogenicity Island 2)遺伝子に弱毒化変異を含み、第2遺伝子に弱毒化変異を含み、好ましくは前記第2遺伝子がaro遺伝子である、請求項14~16に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項18】
チフス菌ZH9(Salmonella enterica serovar Typhi ZH9)である、請求項14~17に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項19】
チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)由来であり、前記菌株がパラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A)のO2群O抗原リポ多糖および/または鞭毛タンパク質が発現される改変を含む、請求項14~18に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載のオートトランスポーターコンストラクトを含むワクチン組成物。
【請求項21】
アジュバント、薬剤的に許容できる担体、または賦形剤をさらに含む、請求項20に記載のワクチン組成物。
【請求項22】
感染性疾患または腫瘍性疾患の予防的処置または治療的処置で使用するための、請求項20または21に記載のワクチン組成物。
【請求項23】
前記感染性疾患がウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および/または寄生虫感染症である、請求項22に記載の使用に供するためのワクチン組成物。
【請求項24】
前記腫瘍性疾患が前立腺がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、乳がん、膵がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頸がん、卵巣がん、甲状腺がん、メラノーマ、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、または肉腫から選択される
がんと関連している、請求項22に記載の使用に供するためのワクチン組成物。
【請求項25】
請求項1~19のいずれか一項に記載の改変オートトランスポーターを含む免疫療法用組成物。
【請求項26】
チェックポイント阻害剤、抗原特異的T細胞、抗体医薬、がんワクチン、または他の免疫系の細胞性成分と組み合わせて得られる、請求項25に記載の免疫療法用組成物。
【請求項27】
感染性疾患の予防的処置または治療的処置で使用するための、請求項25または26に記載の免疫療法用組成物。
【請求項28】
前記感染性疾患がウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および/または寄生虫感染症である、請求項27に記載の使用に供するための免疫療法用組成物。
【請求項29】
腫瘍性疾患の予防的処置または治療的処置で使用するための、請求項25または26に記載の使用に供するための免疫療法用組成物。
【請求項30】
前記腫瘍性疾患が前立腺がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、膀胱がん、膵がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頸がん、卵巣がん、甲状腺がん、メラノーマ、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、または肉腫から選択されるがんと関連している、請求項29に記載の使用に供するための免疫療法用組成物。
【請求項31】
グラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法であって、
i)パッセンジャー領域からパッセンジャードメインを除去すること、ii)第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列を、制限酵素認識配列で挟まれた前記パッセンジャー領域に導入すること、iii)前記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の上流の前記パッセンジャー領域内に第2ポリペプチドタグをコードし、前記制限酵素認識配列の境界の外側に位置する、合成ポリヌクレオチド配列を導入すること、iv)リンカーをコードし、前記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に存在し、前記制限酵素認識配列の境界の外側に位置する、合成ポリヌクレオチド配列を導入すること、並びに、v)切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列を、前記リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流の前記パッセンジャー領域内に導入すること、を含む、
方法。
【請求項32】
前記第1ポリペプチドタグがFLAGタグまたは前記オートトランスポーターのインフレーム翻訳を可能にする任意の他のタグである、請求項31に記載のグラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法。
【請求項33】
前記第2ポリペプチドタグがHisタグである、請求項31または32に記載のグラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法。
【請求項34】
前記リンカーがセリン-グリシンリンカーである、請求項31~33に記載のグラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法。
【請求項35】
前記切断部位がカスパーゼ-3切断部位および/またはOmpT切断部位である、請求項31~34に記載のグラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適なタンパク質送達系を実現するための細菌性オートトランスポーターの改変に関する。本発明はまた、本明細書に開示された改変オートトランスポーターを含む遺伝子改変微生物と、それに続く、感染性疾患および腫瘍性疾患の治療における上記遺伝子改変微生物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
オートトランスポーターは、ATまたはV型分泌系とも称され、グラム陰性菌の内膜(IM)および外膜(OM)の両方を通過するのに必要な全ての情報を含有する単一遺伝子である。オートトランスポーターは、Sec分泌系を標的とするN末端シグナルペプチド(非特許文献1)を含有し、これはペリプラズムにおけるタンパク質のフォールディングを防ぐのに重要であることが示されており(非特許文献2;続いて、タンパク質の機能的領域である「パッセンジャー」領域を含有し、このパッセンジャー領域は、オートシャペロンドメイン(AC)として知られるβ-ヘリックス構造によって促進可能な、OM通過のために使用されるβバレル構造(トランスロケーションユニット、TU)に連結されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。いくつかのATは、パッセンジャー領域にも拡張したβ-ヘリックスを有し、そこから機能的領域が突出している(例えば、Hbp(非特許文献5))。このパッセンジャー領域は大部分が切断され、その後、このβドメインを通じて細菌表面に再アンカーリングされる可能性がある。
【0003】
弱毒化されたサルモネラなどの細菌を用いたワクチン開発との関連において、異種抗原の提示は通常、小型エピトープの融合により達成される(非特許文献5、非特許文献6)。例えば、サルモネラ菌(Salmonella enterica)由来のATであるMisLは、バイオフィルム形成の促進による腸における細菌の生存に関与しており、8アミノ酸、16アミノ酸、または69アミノ酸のエピトープを提示させるために使用された(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。
【0004】
これらの系は、比較的単純である(すなわち、1遺伝子だけが発現される)という点で魅力的であるが、パッセンジャーのサイズやジスルフィド結合の有無などのいくつかの制限により影響を受ける可能性がある。さらに、異種タンパク質とATのC末端との間の相互作用は、ペリプラズムにおける未熟な凝集をもたらすおそれがあり、低収率の一因となる。
【0005】
以上から、上記の制限を克服する方法で種々のカーゴを送達するために使用することができる改善された送達系が、この分野では必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/158240号
【特許文献2】国際公開第2020/157203号
【特許文献3】欧州特許第109942号明細書
【特許文献4】欧州特許第180564号明細書
【特許文献5】欧州特許第231039号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Green and Mecsas, 2016, Microbiology Spectrum, 4(1-19)
【非特許文献2】Szabady et al., 2005, PNAS, 102(221-226)
【非特許文献3】Renn et al., 2004, Biopolymers, 89(420-427)
【非特許文献4】Velarde et al., 2004, Journal of Biological Chemistry, 279(31495-31504)
【非特許文献5】Jong et al., 2012, Microbial Cell Factories, 11(1-11)
【非特許文献6】Jong et al., 2014, Microbial Cell Factories, 13(162)
【非特許文献7】Luria-Perez, 2007, Vaccine, 25(5071-5085)
【非特許文献8】Mateos-Chavez et al., 2019, Frontiers in Immunology, 10(2562)
【非特許文献9】Zhu et al., 2006, Vaccine, 24(3821-3831)
【非特許文献10】Ruiz-Perez et al., 2002, Infection and Immunity, 70(3611-3620)
【非特許文献11】Yang et al., 2010, Journal of Biotechnology, 146(126-129)
【非特許文献12】Jong et al., 2012, Microbial Cell Factories, 11(85)
【非特許文献13】Benz and Scmidt, 1992, Molecular Microbiology, 6(1539-1546)
【非特許文献14】Skillman et al., 2005, Molecular Microbiology, 58(945-958)
【非特許文献15】Sevastsyanovich et al., 2012, Microbial Cell Factories, 11(1-10)
【非特許文献16】Chen et al., 2013 (Adv Drug Deliv Rev, 65(10)
【非特許文献17】Waldo et al., 1999, Nature biotechnology, 17 (691-695)
【非特許文献18】Srikanth et al., 2010(Science, 330: 390-393)
【非特許文献19】Engler et al., 2008, PLoS ONE, 3(11)
【非特許文献20】Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., HaRBor Laboratory Press 2001)
【非特許文献21】Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al. eds., John Wiley & Sons 1999)
【非特許文献22】Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996)
【非特許文献23】Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329
【非特許文献24】Rohaan et al. 2019
【非特許文献25】Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990
【発明の概要】
【0008】
本発明の発明者らは、既知のオートトランスポーターを本明細書に記載された方法で改変することで、様々なカーゴを迅速に導入することが可能な改善された送達系が得られるという、驚くべき発見をした。そのような改変が、ペリプラズムに送達されるべきタンパク質の未熟な凝集により、低収率や非効率的なプロセスにつながるなど、送達系としてのオートトランスポーターの既知の制限を克服した、送達系の改善をもたらすことは、驚くべき発見である。
【0009】
第1の態様において、本発明は、グラム陰性菌の内膜および外膜を通過して移行するための、標的ポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列の挿入を可能とするように改変されたオートトランスポーターコンストラクトであって、i)N末端シグナル配列をコードするポリヌクレオチド配列;ii)上記標的ポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列が挿入されることとなるパッセンジャー領域、およびiii)トランスロケーションドメインをコードするポリヌクレオチド配列を含み、上記パッセンジャー領域はIIS型制限酵素認識配列で挟まれた合成ポリヌクレオチド配列を含み、上記合成ポリヌクレオチド配列は第1ポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列を含む、オートトランスポーターコンストラクトを提供する。
【0010】
第2の態様において、本発明は、本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトを含む遺伝子改変微生物を提供する。
【0011】
第3の態様において、本発明は、本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトを含むワクチン組成物を提供する。
【0012】
第4の態様において、本発明は、本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトを含む免疫療法用組成物を提供する。
【0013】
第5の態様において、本発明は、感染性疾患または腫瘍性疾患の予防的処置または治療的処置で使用するための、本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトを含むワクチン組成物または免疫療法用組成物を提供する。
【0014】
第6の態様において、本発明は、グラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法であって、i)パッセンジャー領域からパッセンジャードメインを除去すること、ii)第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列を、制限酵素認識配列で挟まれた上記パッセンジャー領域に導入すること、iii)上記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の上流の上記パッセンジャー領域内に第2ポリペプチドタグをコードし、上記制限酵素認識配列の境界の外側に位置する、合成ポリヌクレオチド配列を導入すること、iv)リンカーをコードし、上記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に存在し、上記制限酵素認識配列の境界の外側に位置する、合成ポリヌクレオチド配列を導入すること、並びに、v)切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列を、上記リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流の上記パッセンジャー領域内に導入すること、を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の説明は以下の図面を参照して行う:
図1図1は、改変オートトランスポーター(AT)の例示的な模式図を示している。各ATは、野生型同族リボソーム結合部位(RBS)、直鎖ペプチドのペリプラズムへのトランスロケーションを可能にするシグナルペプチド、BbsI-Golden Gate適合性パッセンジャーを積んだ領域、パッセンジャー切断部位をコードする領域、およびトランスロケーションユニットを含み得る。
図2図2は、標準的なPCR増幅を可能にする標準化された5’DNA領域および3’DNA領域、並びに、任意のカーゴの改変オートトランスポーターへの迅速な導入を可能にする2つのBbsI制限酵素認識部位を含む、カーゴ分子の例示的な模式図を示している。
図3図3は、各培養菌株の濃縮上清を用いた、本明細書で使用されたアンピシリン生存暴露アッセイを表す模式図を示している。
図4図4は、本明細書で使用されたアンピシリン生存暴露アッセイから得られた、例示的な寒天板を示している。アンピシリン感受性(Amp)指示菌株(大腸菌DH5α)のコンフルエント菌叢を、100μg/mLのアンピシリンを添加した溶原培地(LB)に播種した。カーゴとしてβラクタマーゼ(bla)遺伝子を含む表示のオートトランスポーター(Hbp、EspP、EstA、AIDA-I、Pet、MisL)を発現する各ZH9株の使用済みPCN培地を100倍濃縮しフィルター滅菌した体積1μL。プレートを、37℃で16~18時間増殖させた。
図5図5は、漸増レベルのアンピシリン(ng/mL)の存在下で、漸増レベルのアンピシリン(ng/mL)と、カーゴとしてβラクタマーゼ(bla)遺伝子を含む表示のオートトランスポーター(Hbp、EspP、EstA、AIDA-I、Pet、MisL)を発現する各ZH9株の使用済みPCN培地を100倍濃縮しフィルター滅菌したもの1μLとを添加した100μLの溶原培地(LB)における、アンピシリン感受性(Amp)指示菌株大腸菌DH5αの最終細胞密度を示している。Hbp、EspP、EstA、AIDA、およびPetから得られた抽出物の添加は、Amp指示菌株の増殖を可能にする。
図6図6は、ウエスタンブロット解析により、各種改変オートトランスポーター(Hbp、EspP、EstA、AIDA-I、Pet、MisL)を含む菌株の細胞ペレットおよび上清における、βラクタマーゼカーゴの発現および分泌を示している。Blaタンパク質は、当該タンパク質がオートトランスポーター(例えば、EstaAまたはAIDA)に融合された菌株においては、上清にのみ検出されている。
図7図7は、漸増レベルのアンピシリン(ng/mL)と、トランスロケーションユニットを有するまたは有さない(欠如している場合ΔTUと表示)、且つ、カーゴとしてβラクタマーゼ(bla)遺伝子を有する、表示のオートトランスポーター(Hbp、EspP、EstA、AIDA-I、Pet、MisL)を発現する各種ZH9株のペリプラズムタンパク質抽出物(氷水およびマグネシウム(II)の添加による破壊によって抽出)1μLとを添加した100μLの溶原培地(LB)における、アンピシリン感受性(Amp)指示菌株(DH5α)の最終細胞密度を示している。このアッセイ結果は、トランスロケーションユニットの欠如は、カーゴがZH9のペリプラズムに局在化することを妨げるものではないことを示している。
図8図8は、漸増レベルのアンピシリン(ng/mL)と、トランスロケーションユニットを有するまたは有さない(欠如している場合ΔTUと表示)、且つ、カーゴとしてβラクタマーゼ(bla)遺伝子を有する、表示のオートトランスポーター(Hbp、EspP、EstA、AIDA-I、Pet、MisL)を発現する各種ZH9株の使用済みPCN培地を100倍濃縮しフィルター滅菌したもの1μLと、を添加した100μLの溶原培地(LB)における、アンピシリン感受性(Amp)指示菌株(DH5α)の最終細胞密度を示している。これらの結果は、トランスロケーションユニットの欠如が、通常、カーゴの上清への搬出を妨げるものであることを示している。
図9図9は、βラクタマーゼ(bla)がパッセンジャーコンストラクトであり、トランスロケーションユニットを含むまたは含まない(欠如はΔTUと示される)オートトランスポーターコンストラクトを発現するサルモネラZH9株の細胞ペレット(サイトゾルの可溶性画分および不溶性画分、並びにペリプラズム)、および上清中に存在するタンパク質の、例示的なSDS-PAGEゲルおよび対応する抗6×ヒスチジンウエスタンブロットを示している。これらの結果は図8から得られた結果と相関している。
図10図10は、パッセンジャー領域を積まれ、ペスト菌(Yersinia pestis)由来V抗原またはサイトカインIL-18を含む、表示のオートトランスポーターを発現するZH9株を増殖させた後の使用済みPCN培地の濃縮物中に存在するタンパク質の、例示的なSDS-PAGEゲルおよび対応するウエスタンブロットを示している。
図11図11は、βラクタマーゼ(bla)がパッセンジャーコンストラクトであるオートトランスポーターコンストラクトを発現するZH9培養物の最終細胞密度を示している。これらの結果は、オートトランスポーターの過剰発現は菌株の適応度に影響を与えないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を理解し易くするために、まず特定用語の定義を行う。追加の定義については、発明を実施するための形態の全体を通じて記載を行う。
【0017】
「オートトランスポーター」、「AT」、および「V型分泌系」という語は、同義的に使用され、細菌の膜系を通過するそれ自体の独立した輸送と、細胞表面への最終的な経路選択とを促進する能力を有する、外膜/分泌タンパク質のファミリー(および、上記タンパク質をコードする対応ポリヌクレオチド配列)を指す。このようなタンパク質は3つの重要な構造モチーフ、シグナル配列、パッセンジャードメイン、およびトランスロケータードメインを有することが知られている。よって、「改変オートトランスポーター」という語は、改変オートトランスポーターが未改変形態と比較した場合に変化した機能を有するように、特徴の除去や新規特徴の追加によって何らかの形で変化したオートトランスポーターを指す。本明細書に開示された改変オートトランスポーターは、グラム陰性菌に存在するオートトランスポーターの改変型、特に、サルモネラ属種(Salmonella spp)、大腸菌(E. coli)、またはシュードモナス属種(Pseudomonas spp)に存在するオートトランスポーターの改変型であることが好ましい。特に好ましいオートトランスポーターとしては、EstAオートトランスポーター、MisLオートトランスポーター、Hbpオートトランスポーター、AIDA-1オートトランスポーター、EstPオートトランスポーター、またはPetオートトランスポーターが挙げられ、これらの未改変配列は非特許文献11(EstA)、非特許文献8(MisL)、非特許文献12(Hbp)、非特許文献13(AIDA-I)、非特許文献14(EstP)、または非特許文献15(Pet)で見つけることができ、これら各々の内容は参照によって本明細書に援用される。
【0018】
「パッセンジャードメイン」という語は、オートトランスポーターのN末端細胞外ドメインを指す。パッセンジャードメインとは、搬出されるタンパク質をコードしている、オートトランスポーターの一部を指し、そのため、長さと配列は共に可変である。本明細書に開示された改変オートトランスポーターのパッセンジャードメインは、種々のカーゴを例えば微生物、好ましくはサルモネラ細菌に効率的且つ確実に組み込むことができる点で、特に有利である。本明細書に開示された改変オートトランスポーターは、種々のカーゴを、異なる改変オートトランスポーター、例えば、好ましくはサルモネラ属種(Salmonella spp)、大腸菌(E.coli)、またはシュードモナス属種(Pseudomonas spp)由来の改変オートトランスポーター、より好ましくはEstA、MisL、Hbp、AIDA-1、EstP、またはPetに対するスクリーニングにかけ、当該カーゴを送達するのに最も効率的/信頼性の高い改変オートトランスポーターを決定することを可能にする。したがって、本発明は、改変オートトランスポーター/カーゴの適合性に基づいて、異種分子を対象/患者において効率的且つ確実に送達できることで、送達される特定のカーゴに応じた適応性と柔軟性が高いアプローチを可能にする方法を提供するものである。したがって、本明細書に開示された改変オートトランスポーターは、標的化された様式で治療用分子を送達できることが非常に望ましい腫瘍学の分野で特に有用な可能性がある。
【0019】
「シグナル配列」という語は、オートトランスポーターのN末端シグナル配列を指し、これを含むことにより、ターゲティング経路と細菌膜を介したトランスロケーションとが媒介される。本発明との関連においては、このようなシグナル配列は、特定の標的ペプチドまたは標的タンパク質の細菌膜を介したトランスロケーションを媒介できるものである。
【0020】
「ポリペプチドタグ」という語は、発現系に通常組み込まれる合成ペプチド配列を指す。このようなポリペプチドタグは、精製、検出、および局在化を目的として使用することができる。
【0021】
本明細書で使用される「弱毒化された」という語は、本発明との関連においては、微生物の変化であって、その生存率を維持しながら、その病原性を低減し、それを宿主に対して無害なものにするようなものを指す。この方法は、許容可能な安全性プロファイルを維持しながら、非常に特異的な免疫応答を誘導できるため、ワクチン開発で広く利用されている。そのようなワクチンの開発は、いくつかの方法を用いている場合があり、例えば、病原性が失われるまでインビトロ条件下で病原体を継代すること、化学的突然変異誘発、および遺伝子工学技術が挙げられるが、これらに限定はされない。そのような弱毒化された微生物は、生きていない微生物も開示されているが、生きている弱毒化微生物が好ましい。
【0022】
「遺伝子改変微生物」とは、天然細胞に対し変化がなされているように遺伝子的に改変または「操作」された、任意の微生物、例えば、細菌(原核生物)細胞を意味する。このような遺伝子改変は、例えば、追加の遺伝情報を細胞に組み込む場合、既存の遺伝情報を改変する場合、さらには、既存の遺伝情報を除去する場合すらある。これは、例えば、組換えプラスミドを細胞に形質転換することで達成できる。
【0023】
「不活性化変異」とは、遺伝子の天然の機能が消失、もしくは測定不可な程度まで低減されるように、特定の遺伝子が適切に転写または翻訳されないような、または、非活性タンパク質へと発現されるような、ヌクレオチドコードの変化、またはヌクレオチドのセクションの欠失、または非コードヌクレオチドもしくは非天然ヌクレオチドの付加による改変などの、特定の遺伝子またはその遺伝子と関連した遺伝子プロモーターの天然遺伝暗号の改変を意味する。すなわち、この遺伝子の変異は、この遺伝子の機能またはこの遺伝子がコードするタンパク質の機能を不活性化するものである。
【0024】
「予防的処置」という語は、本明細書で使用される場合、感染症または疾患を治療または治癒するというよりも、それを予防することを目的とした医療処置を指す。本発明においては、このことは特にワクチン組成物に適用される。「予防する」という語は、本明細書で使用される場合、絶対的なものであることは意図されておらず、感染症もしくは疾患、および/または上記感染症または疾患の1もしくは複数の症状の部分的な予防を含む場合もある。対して、「治療的処置」という語は、当該技術分野において理解されるように、感染症もしくは疾患、またはその関連症状を治療または治癒することを目的とした医療処置を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「異種ポリヌクレオチド」とは、微生物、例えば細菌に導入されたポリヌクレオチドを指し、すなわち、以前は存在していなかったポリヌクレオチドの導入のことをいう。ポリヌクレオチドは細菌にとって外来性であってもよく、これは
、これらの語が当該技術分野において通常意味するものである。内在性ポリヌクレオチドについては、これは、上記1または複数の内在性ポリヌクレオチドの追加の1または複数のコピーを異種的に導入することを含む場合がある。1または複数の内在性ポリヌクレオチドは、上記1または複数のポリヌクレオチドの優性バリアントを宿主細菌に導入することを含む場合もあり、ここで「優性」とは、異種ポリヌクレオチドが、天然に存在する内在性の対応物に機能的に打ち勝つことができることを言う。本発明との関連において、異種ポリヌクレオチドは、対象において送達、すなわち搬出と分泌、が意図された標的ポリペプチドをコードすることとなる。得られたポリペプチドは「カーゴ」または「カーゴ分子」とも称される。
【0026】
「ワクチン組成物」、または「ワクチン」という語は、本明細書では同義的に「組成物」のことを言う場合もあり、特定の疾患に対する能動的獲得免疫を与える生物学的製剤に関する。典型的には、上記ワクチンは上記疾患を引き起こす病原体に似た薬剤、または「外来性」薬剤を含有する。このような外来性薬剤の例は、タンパク質、またはウイルス性のタンパク質、カプセル、DNA、もしくはRNAの断片であり得る。このような外来性薬剤は、ワクチンを受けた者の免疫系に認識され、この免疫系が上記薬剤を破壊し、同じまたは類似の病原体に由来する将来における感染症または疾患に対するあるレベルの持続的保護を含む、病原菌に対する「記憶」を発達させる。本発明のワクチン組成物を含む、ワクチン接種の経路を通じて、ワクチン接種後の対象が再度、上記対象がワクチン接種を受けたものと同じ病原体または病原体単離物と遭遇したとき、その個体の免疫系が、上記病原体または病原体単離物を認識し、感染症または疾患に対するより効果的な防御を誘導し得ることが企図される。ワクチンの結果として対象に誘導される能動的獲得免疫は、実際は、体液性および/または細胞性であり得る。
【0027】
「免疫療法用組成物」とは、免疫治療剤を含む任意の組成物を指す。免疫療法用組成物の例には、薬剤的に許容できる担体、免疫応答を増強する生物学的応答調節物質、および/またはアジュバント/賦形剤もしくは希釈剤などの追加成分が含まれる場合もある。
【0028】
「免疫応答」という語は、例えば、感染性疾患の結果として存在するがん性細胞または病原体に対する選択的な損傷、その選択的な破壊、または人体からのその選択的な除去をもたらす、リンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球、および上記細胞または肝臓によって産生される可溶性高分子(抗体、サイトカイン、および補体を含む)の作用を指す。
【0029】
「チェックポイント阻害剤」は、表面タンパク質に対し作用する薬剤であって、CTLA-4、PD-1、TIM-3、BTLA、VISTA、TIGIT、LAG-3、および/またはこれらの各リガンド(PD-L1を含む)から選択される負の共起刺激分子に結合する薬剤を含む、TNF受容体またはB7スーパーファミリーのメンバーである。
【0030】
「抗体医薬」という語は、本明細書で言われる場合、治療効果をもたらす、全長抗体および任意のその抗原結合性フラグメント(すなわち、「抗原結合性部分」)または一本鎖を包含する。上記抗体医薬はモノクローナル抗体であることが好ましく、さらにより好ましくは、上記抗体医薬および/またはモノクローナル抗体はヒト抗体またはヒト型化抗体であってもよく、その意味は当業者によって容易に理解される。
【0031】
「免疫系の細胞性成分」とは、プリオン抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、酵母抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、腫瘍関連抗原、もしくは腫瘍特異的抗原、または特定の疾患、障害、もしくは状態と関連した他の抗原などの特異的抗原を認識し得る、Tリンパ球およびBリンパ球γδT細胞、並びにNK細胞など、リンパ球などの免疫細胞を指す。他の免疫細胞としては、白血球が挙げられ、顆粒白血球または無顆粒白血球であり得る。免疫細胞の例としては、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、およびマクロファージが挙げられる。樹状細胞、小膠細胞などの抗原提示細胞もこの定義に含まれる。
【0032】
「腫瘍」、「がん」、および「新形成」という語は、同義的に使用され、成長、増殖、または生存が正常な対応細胞の成長、増殖、または生存よりも大きい細胞または細胞集団を指す(例えば細胞増殖障害または細胞分化障害)。通常、上記成長は制御されない成長である。「悪性腫瘍」という語は、近くの組織の浸潤を指す。「転移」という語は、腫瘍、がん、または新形成の対象内の他の部位、位置、または領域への拡散または伝播を指し、この部位、位置、または領域は原発性の腫瘍またはがんとは異なっている。
【0033】
「有効量」または「薬剤有効量」という語は、所望の生物学的結果または治療結果を与えるのに十分な薬剤の量を指す。その結果は、疾患の徴候、症状、もしくは原因のうちの1もしくは複数の抑制、改善、一時的緩和、軽減、遅延、および/もしくは低減、または生物系のあらゆる他の望ましい変化とすることができる。がんに関しては、有効量は、腫瘍を縮小させるのに、および/または腫瘍の成長速度を減少(腫瘍成長の抑制など)させるのに、または他の望まれない細胞増殖を防止もしくは遅延するのに、十分な量を含むものとしてもよい。いくつかの実施形態では、有効量は、がんまたは腫瘍の、発生を遅延する、または生存を延長する、または安定化を誘導するのに十分な量である。感染性疾患に関しては、有効量は、ウイルス量を減少させるのに、または上記ウイルスと関連した症状を改善させるのに十分な量を含むものとしてもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、治療有効量は、再発を防止または遅延するのに十分な量である。治療有効量は、一回または複数回の投与で投与することができる。
【0035】
「治療」または「治療法」という語は、統計的に有意に、状態(例えば、疾患)、状態の症状を解消、治癒、緩和、軽減、変化、軽快、緩解、改善、もしくは影響を与える目的で、または、症状、合併症、生化学的な病徴の発生を防止もしくは遅延する目的で、または、疾患、状態、もしくは障害のさらなる発達を抑止もしくは阻害する目的で、活性薬剤を投与することを指す。
【0036】
「薬剤的に許容できる」という表現は、ヒトに適宜投与された場合に有害反応も、アレルギー反応も、他の不都合な反応も引き起こさない、分子種および組成物を指す。本発明のワクチン組成物または免疫療法用組成物を含有する医薬組成物の調製は、本開示に照らして、当業者に公知となる。さらに、ヒト投与においては、調製が、無菌性、発熱原性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきであることは理解されるところである。本明細書に記載されているような薬理学的に許容できる担体の具体例としては、ホウ酸塩緩衝液または無菌生理食塩水(0.9%NaCl)がある。
【0037】
本明細書で使用される場合、「対象」という語は、ヒトおよびヒト以外の動物を包含する意図がある。好ましい対象としては、免疫応答の増強を必要としているヒト患者が挙げられる。上記方法は、免疫応答を増強することで治療可能である障害を有するヒト患者を治療するのに特に好適である。特定の実施形態では、上記方法は、インビボでの、がん細胞および感染性疾患、例えばウイルス感染症の治療に特に好適である。
【0038】
本明細書で使用される場合、「併用投与」、または「併用して」、または「同時の」という語は、投与が同日に行われることを意味する。「順次投与」または「順次に」または「別々の」という語は、投与が異なる日に行われることを意味する。
【0039】
択一(例えば、「または」)の使用は、択一物の一方、両方、またはそのあらゆる組み合わせを意味すると理解されたい。本明細書で使用される場合、不定冠詞「a」または「an」は、記載または列挙された任意成分が「1または複数」であることを指すと理解されたい。
【0040】
本明細書で使用される場合、「約」という語は、当業者によって決定されるような、特定の値に関する許容可能な誤差範囲内であることを意味し、その値がどのように測定または定量されたか、すなわち測定系の限界に部分的に依存することとなる。例えば、「約」は、当該技術分野の慣行に従えば、標準偏差が1以内であることを意味することもあり、あるいは1より大きいことを意味することもある。あるいは、「約」は20%までの範囲を意味することもある。本願および特許請求の範囲において特定の値が与えられている場合、特に記載がない限り、「約」の意味は、その特定の値の許容誤差範囲内であると考えられるべきである。
【0041】
第1の態様において、本発明は、グラム陰性菌の内膜および外膜を通過して移行するための、標的をコードする異種ポリヌクレオチド配列の挿入を可能とするように改変されたオートトランスポーターコンストラクトであって、i)N末端シグナル配列をコードするポリヌクレオチド配列;ii)上記標的ポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列が挿入されることとなるパッセンジャー領域、およびiii)トランスロケーションドメインをコードするポリヌクレオチド配列を含み、上記パッセンジャー領域はIIS型制限酵素認識配列で挟まれた合成ポリヌクレオチド配列を含み、上記合成ポリヌクレオチド配列は第1ポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列を含む、オートトランスポーターコンストラクトを提供する。
【0042】
上記の方法におけるオートトランスポーターの改変は、種々様々な「カーゴ」を迅速に導入することができる、改善された送達系の形成を可能にする。さらに、そのような改変は、様々な改変オートトランスポーター、例えば、グラム陰性菌に存在するオートトランスポーターの改変型、特にサルモネラ属種(Salmonella spp)、大腸菌(E.coli)、またはシュードモナス属種(Pseudomonas spp)に存在するものの改変型、例えば、EstA、Hbp、AIDA-1、EstP、またはPetの改変型を、それらの適合性に基づいてカーゴと対応させることで、特定の患者のニーズに合うように容易に適合できる改善/標準化された送達系を提供するものであり、これは、1つのオートトランスポーターが全ての種類のカーゴの最適な送達源になり得るという考えとは対照的である。例示的な改変オートトランスポーターを図1に示す。
【0043】
本発明の第1ポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列は、カーゴ分子を導入できるまで、プレースホルダーとして働くことができ、それ自体は機能効果を持たない、任意のポリヌクレオチドであってよい。このようなポリヌクレオチドは、隣接するセグメントとの望まれない相互作用が最小限となるように、長さがより短いものが好ましい。以上のことから、第1ポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列は、ニュートラル配列またはニュートラル領域と呼ばれる場合もあり、それ自体は生物学的に活性な分子をコードしない。「長さがより短い」とは、第1ポリペプチドタグ配列が、カーゴ配列のサイズと比較して、サイズがより小さいことを意図しており、したがって、第1ポリペプチドタグ配列の正確な長さは、搬出されるカーゴのサイズに依存すると理解される。例えば、未改変EstAオートトランスポーターはおよそ20~60kDaのカーゴサイズを搬出することができ、未改変MisLオートトランスポーターはおよそ10kDaのカーゴサイズを搬出することができ、未改変Hbpオートトランスポーターはおよそ5~60kDaのカーゴサイズを搬出することができ、未改変オートトランスポーターAIDA-1はおよそ5~70kDaのカーゴサイズを搬出することができ、未改変オートトランスポーターEstPはおよそ10kDaのカーゴサイズを搬出することができ、未改変オートトランスポーターPetはおよそ5~110kDaのカーゴサイズを搬出することができることが知られている。したがって、搬出されるカーゴおよび使用される改変オートトランスポーターに応じて、本明細書に開示されたプレースホルダー/ニュートラル配列は、上記で開示されたカーゴサイズよりも短くなる。上記の機能を果たすいかなるポリペプチドタグも好適であり得るが、1つの実施形態では、第1ポリペプチドタグ配列は、配列DYKDDDDK(配列番号1)を有するFLAGタグであってよい。特定の状況下で、例えば、カーゴのオートトランスポーターへのプールハイスループットクローニングおよび発現の評価という状況では、カーゴを積載できなかった細胞を特定し処分するために、このようなポリペプチドタグを用いることができる。例えば、種々のカーゴを改変オートトランスポーターに導入した後、いくつかの単一コロニーのタンパク質発現を利用して、そのようなポリペプチドタグを用いた分泌の評価を行ってもよく、タグ、例えばFLAGタグが陽性である場合、これはカーゴの積載が生じていないことを表すため、その細胞を破棄することができる。別の実施形態では、第1ポリペプチドタグ配列は、オートトランスポーターのインフレーム翻訳を可能にするいかなる合成ポリヌクレオチド配列であってもよい。「インフレーム」とは、ヌクレオチドの翻訳が、特定のタンパク質の産生を可能にする特定の順番であることを言う。翻訳がインフレームでない場合、異なるタンパク質が得られる。本発明との関連においては、インフレーム挿入は、トランスロケーションユニット(パッセンジャー領域の下流に位置する)の正しい翻訳を可能にする。インフレームでない場合、例えば、ヌクレオチドが欠けている場合、組み込まれたアミノ酸は正しいアミノ酸とはならず、異なるポリペプチド配列をもたらし、および/または、翻訳終結の早発または遅延を引き起こす。
【0044】
第1ポリペプチドタグ、例えばFLAGタグをコードするポリヌクレオチド配列は、制限酵素認識部位に挟まれることで、当該部位に特異的な制限酵素によって認識されることが企図される。本発明の制限酵素認識部位は、I型、II型、III型、IV型、またはV型制限酵素によって認識され得る。好ましい実施形態では、第1ポリペプチドタグをコードするポリヌクレオチド配列は、IIS型制限酵素認識部位に挟まれることで、当該部位に特異的なIIS型制限酵素、例えば、それぞれGGTCTCN(配列番号2)、CGTCTCN(配列番号3)、およびGAAGACNN(配列番号4)という制限部位(5’→3’)を有するBsaI、BsmBI、またはBbsIによって認識されることとなる。認識部位に隣接された場合の第1ポリペプチドタグ配列の長さは少なくとも6塩基対であることが好ましい。IIS型制限酵素を使用することが好ましいが、他の制限酵素は除外されない。IIS型制限酵素は、非対称のDNA配列を認識し、その認識配列の外側の定められた距離、通常は1~20ヌクレオチド以内において切断を起こす、特定の酵素群から構成される。そのような酵素は、Golden Gateクローニングなどのクローニング技術で広く使用されており、カーゴのハイスループットクローニングを可能にしている。本発明で使用するために好適なIIS型制限酵素の例は、BbsI、BsaI、およびBsmBIであり、使用される制限酵素はBbsIであることが好ましい。
【0045】
本明細書に開示された改変オートトランスポーターコンストラクトは、リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列を含むようにさらに改変されていてもよい。上記リンカーは、カーゴを、オートトランスポーターのトランスロケーションユニットから分離することを可能にする。好ましい実施形態では、上記リンカー配列はセリン-グリシンリンカーであってもよいが、所望の効果を達成するいかなるリンカーも好適であり得ることは理解される。したがって、カーゴとトランスロケーションユニットとの間でリンカーまたは「スペーサー」として働くことができる任意の短アミノ酸配列が、本明細書に開示される。上記リンカーは、1~100アミノ酸長、1~90アミノ酸長、1~80アミノ酸長、1~70アミノ酸長、1~60アミノ酸長、1~50アミノ酸長、1~40アミノ酸長、1~30アミノ酸長、1~20アミノ酸長、1~10アミノ酸長、1~5アミノ酸長、10~100アミノ酸長、10~90アミノ酸長、10~80アミノ酸長、10~70アミノ酸長、10~60アミノ酸長、10~50アミノ酸長、10~40アミノ酸長、10~30アミノ酸長、10~20アミノ酸長、20~100アミノ酸長、20~90アミノ酸長、20~80アミノ酸長、20~70アミノ酸長、20~60アミノ酸長、20~50アミノ酸長、20~40アミノ酸長、20~30アミノ酸長、30~100アミノ酸長、30~90アミノ酸長、30~80アミノ酸長、30~70アミノ酸長、30~60アミノ酸長、30~50アミノ酸長、30~40アミノ酸長、40~100アミノ酸長、40~90アミノ酸長、40~80アミノ酸長、40~70アミノ酸長、40~60アミノ酸長、40~50アミノ酸長、50~100アミノ酸長、50~90アミノ酸長、50~80アミノ酸長、50~70アミノ酸長、50~60アミノ酸長、60~100アミノ酸長、60~90アミノ酸長、60~80アミノ酸長、60~70アミノ酸長、70~100アミノ酸長、70~90アミノ酸長、70~80アミノ酸長、80~100アミノ酸長、80~90アミノ酸長、または90~100アミノ酸長であり得る。本発明で使用するための好適なリンカーの例を下記の表1に示すが(配列番号2~24)、下付きの値は括弧内の配列の反復数を表し、「/」はリンカーが切断可能な場所を表す:
【0046】
【表1】
【0047】
好ましいリンカーは可動性および可溶性を有する、すなわちセリンおよびグリシンなどの小型アミノ酸から構成されるリンカーである。好適な可動性リンカーおよびその特性は非特許文献16でさらなる定義がなされており、参照によって本明細書に援用される。本発明の好ましいリンカー配列は下記の配列番号25に示されている。このようなリンカーは、反復ユニットを含まないことで、望ましくない組換え現象を起こしにくい(非特許文献17)ことから好ましいが、表1に開示されたリンカーでも十分であることは理解されたい。
配列番号28:GSAGSAAGSGEF
【0048】
本明細書に開示されたリンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列は、第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流、且つ、制限酵素認識部位の下流に位置してもよい。
【0049】
本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトは、第2ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列をさらに含んでもよい。第2ポリペプチドタグ配列を含むことで、標的タンパク質を他のサイズが似たタンパク質から識別することが可能になり、また、タンパク質をアフィニティー技術を介し生物試料から精製することができる。したがって、第2ポリペプチドタグは、カーゴが細胞外(すなわち、上清)に分泌されているかどうかを評価するための簡単な検出法を可能にする。また、第2ポリペプチドタグは、Ni-NTAカラム、または他の適切な方法を使用することによる、外部媒体(すなわち、上清)中のタンパク質の精製および濃縮を可能にし、迅速な定性的検出および相対的定量化(ウエスタンブロットまたはSDS-PAGEでの2つ以上の試料間の濃度測定強度の相対比較に基づいた)を可能にする。各種ポリペプチドタグがこの目的を果たすことができ、そのようなタグとしては、限定はされないが、ALFAタグ、Aviタグ、Cタグ、カルモジュリンタグ、ポリグルタミン酸タグ、EEタグ、FLAGタグ、HAタグ、Hisタグ、Mycタグ、NEタグ、Rho1D4タグ、Sタグ、SBPタグ、Spotタグ、Strepタグ、T7タグ、Tyタグ、V5タグ、VSVタグ、Xpressタグが挙げられる。好ましい実施形態では、上記第2ポリペプチドタグ配列は、ポリヒスチジンタグとしても知られているHisタグをコードしていてもよい。そのようなタグは、4~10残基の範囲のヒスチジン残基鎖からなるが、6ヒスチジン残基鎖を使用することが好ましい。
【0050】
したがって、場合によっては、可能性として、第1ポリペプチドタグと第2ポリペプチドタグは同じであってもよいが、ポリペプチドタグの一方の目的が第2ポリペプチドタグの目的を妨げないように異なっていることが好ましい。
【0051】
第2ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列は、第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の上流、且つ、制限酵素認識部位の上流に位置してもよい。
【0052】
1つの実施形態では、オートトランスポーターコンストラクトは、切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列をさらに含んでもよい。好ましい実施形態では、上記切断部位は、カスパーゼ-3切断部位および/またはOmpT切断部位である。そのような切断部位を含むことは、表面に暴露されるだけであるカーゴとは対照的に、改変オートトランスポーターによって送達されたカーゴが分泌されるようにするために役立つ。切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列は、使用された場合に、異種カーゴが切断され、オートトランスポーター送達系の他の成分から分離されるように、第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に位置してもよい。カスパーゼ-3切断部位の使用は、マクロファージの内部で改変オートトランスポーターからの「カーゴ」の切断をプログラムするため、および/または、マクロファージの内部で分泌されたカーゴを修飾(例えば酵素の活性化)するために、使用され得ることが、特に企図される。これにより、抗原提示細胞内部の組換え型免疫賦活成分の予めプログラムされた活性化が可能になる。カスパーゼ-3切断部位が好ましいが、カスパーゼ-1切断部位およびカスパーゼ-11切断部位もこの目的に好適であり得る。好適なカスパーゼ-3切断部位の例を、下記の配列番号29~37に記載するが、さらなる詳細は非特許文献18で得ることができる:
配列番号29:DEVD
配列番号30:DKAD
配列番号31:DSFD
配列番号32:DCTD
配列番号32:DGKD
配列番号34:DYND
配列番号35:DFRD
配列番号36:DRPD
配列番号37:DNVD
【0053】
本明細書に開示された切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列は、リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に位置してもよい。
【0054】
所望により、本明細書に開示された改変オートトランスポーターは、リボソーム結合部位(RBS)も含んでもよい。例えば、好ましい実施形態では、野生型同族リボソーム結合部位が存在する。別の実施形態では、合成RBSを使用してもよい。
【0055】
本開示はまた、所望の標的タンパク質またはペプチドである「カーゴ」をコードする異種ポリヌクレオチドを、最適な改変オートトランスポーターに、例えば、グラム陰性菌に存在するオートトランスポーターの改変型、特にサルモネラ属種(Salmonella
spp)、大腸菌(E.coli)、またはシュードモナス属種(Pseudomonas spp)に存在するものの改変型、例えば、EstA、Hbp、AIDA-1、EstP、またはPetの改変型に、Golden Gate法(非特許文献19)、または当業者が知ることが容易である任意の他の類似の方法を用いて迅速にクローニングできる、「カーゴ分子」の設計を提供する。上記カーゴ分子は、異種ポリヌクレオチドの5’および3’に位置する設計されたヌクレオチド配列を有する(各末端は、ベクター内の配列に相補的な合計4bpを含み、これらの4bpの上流を「ランダムな」DNAセクションとすることで、同じプライマーを用いての任意のカーゴの増幅が可能となり、制限酵素による適切な切断がサポートされる)ことで、PCR増幅とその後のクローニングが可能となる。そのようなカーゴ分子の例を図2に示す。
【0056】
実施形態において、改変されたオートトランスポーターは、グラム陰性菌に存在する改変オートトランスポーター、特にサルモネラ属種(Salmonella spp)、大腸菌(E.coli)、またはシュードモナス属種(Pseudomonas spp)に存在するもの、例えば、EstA、MisL、Hbp、AIDA-1、EstP、またはPetであってよい。EstAおよびMisLはそれぞれ緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびサルモネラ菌(Salmonella enterica)に由来し、一方、Hbp、AIDA-1、EstP、およびPetは大腸菌(Escherichia coli)に由来する。上記オートトランスポーターの詳細を表2に示す。本明細書で使用される場合、「切断」という語は、「自己触媒ドメイン」と呼ばれるドメインを有するオートトランスポーターが、パッセンジャーのトランスロケーションユニットからの自己切断を促進することを言う。上記自己触媒ドメインは、パッセンジャードメインとトランスロケーションユニットとの間に位置する特定のアミノ酸配列(オートトランスポーターに依存)であって、自然に切断されることで、パッセンジャーがトランスロケーションユニット(細菌細胞膜に付着する)から遊離することとなる。本発明は、種々様々なサイズのカーゴの迅速な導入と、上記カーゴの効率的な切断を可能にするこれらのオートトランスポーターの、最適な改変オートトランスポーターへの改変を可能にする。例えば、上記カーゴは、1~100kDa、1~90kDa、1~80kDa、1~70kDa、1~60kDa、1~50kDa、1~40kDa、1~30kDa、1~20kDa、1~10kDa、1~5kDa、10~100kDa、10~90kDa、10~80kDa、10~70kDa、10~60kDa、10~50kDa、10~40kDa、10~30kDa、10~20kDa、20~100kDa、20~90kDa、20~80kDa、20~70kDa、20~60kDa、20~50kDa、20~40kDa、20~30kDa、30~100kDa、30~90kDa、30~80kDa、30~70kDa、30~60kDa、30~50kDa、30~40kDa、40~100kDa、40~90kDa、40~80kDa、40~70kDa、40~60kDa、40~50kDa、50~ kDa、50~90kDa、50~80kDa、50~70kDa、50~60kDa、60~100kDa、60~90kDa、60~80kDa、60~70kDa、70~100kDa、70~90kDa、70~80kDa、80~100kDa、80~90kDa、または90~100kDaであってよい。したがって、本発明は、種々の治療状況で効率的且つ確実な送達系を提供するための、カーゴと改変オートトランスポーターのペアリングの改善を可能にする。さらに、本発明は、種々様々な改変オートトランスポーター、例えば、EstA、MisL、Hbp、AIDA-1、EstP、またはPetを、選択されたカーゴを搬出および分泌する能力について効率的にスクリーニングできる簡易な方法を可能にする。上記のオートトランスポーターが好ましいが、本明細書に記載の改変はいかなる細菌性オートトランスポーターにも適用できる。
【0057】
【表2】
【0058】
好ましい実施形態では、オートトランスポーターコンストラクトは、標的ペプチドまたは標的タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドをさらに含んでもよい。好ましくは、上記異種ポリヌクレオチドは、本明細書に開示された改変オートトランスポーターによる送達に好適な任意の治療用タンパク質をコードする。好ましくは、上記異種ポリヌクレオチドは、抗がん性の治療用分子または免疫原性分子をコードし、そのため、腫瘍学分野および/またはワクチン分野で特に有用なものであり得る。したがって、実施形態において、上記異種ポリヌクレオチドは、対象において免疫応答をトリガーするもの、すなわち免疫原性なものであり得る。さらにより好ましい実施形態では、上記抗がん性の治療用分子または免疫原性分子は、サイトカイン、ケモカイン、抗体もしくはその断片、細胞傷害性薬物、がん抗原、またはこれらの任意の組み合わせである。1つの好ましい実施形態では、上記異種ポリヌクレオチドは、サイトカインおよびがん抗原の両方をコードするものであり得る。好ましい組み合わせが、2つの成分が一緒になって働いてより効果的な作用を生み出す組み合わせ、および/または、成分の一方が他方の治療作用をサポートする組み合わせであることは、当業者には容易に理解される。そのような標的ペプチドもしくは標的タンパク質、または「カーゴ」は、例えば、IFNβ、IFNγ、および/またはIL-18、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1または複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物などの、ヒト免疫細胞の刺激分子(例えば、サイトカイン、ケモカイン、細胞傷害性薬物)であり得る。上記カーゴ分子、またはその組み合わせのいずれかを、上記のオートトランスポーターのいずれか1つと組み合わせることができると理解される。例えば、EstAは、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1もしくは複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物、またはこれらの任意の組み合わせをコードする異種ヌクレオチドを含み得る。MisLは、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1もしくは複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物、またはこれらの任意の組み合わせをコードする異種ヌクレオチドを含み得る。Hbpは、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1もしくは複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物、またはこれらの任意の組み合わせをコードする異種ヌクレオチドを含み得る。AIDA-1は、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1もしくは複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物、またはこれらの任意の組み合わせをコードする異種ヌクレオチドを含み得る。EstPは、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1もしくは複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物、またはこれらの任意の組み合わせをコードする異種ヌクレオチドを含み得る。Petは、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗体フラグメント、ワクチンとして使用される1もしくは複数のエピトープを含有するポリペプチド、細胞毒性化合物、またはこれらの任意の組み合わせをコードする異種ヌクレオチドを含み得る。第2の態様において、本発明は、本明細書に記載の改変オートトランスポーターコンストラクトを含む遺伝子改変微生物を提供する。したがって、本発明は、上記の標的ペプチドまたは標的タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む遺伝子改変微生物を提供する。本発明はまた、改変オートトランスポーターを含む遺伝子改変微生物であって、上記オートトランスポーターは遺伝子改変される微生物とは異なる微生物、例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、および大腸菌(Escherichia coli)に由来するものであってもよい、遺伝子改変微生物を提供する。さらに、本発明は、本明細書に記載の改変オートトランスポーターコンストラクトのうちの少なくとも1つを含む遺伝子改変微生物を提供する。したがって、上記遺伝子改変微生物は、それぞれが同じカーゴ、または異なるカーゴをコードする、多数、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つの、改変オートトランスポーター(同じであっても異なっていてもよい)を有し得る。改変オートトランスポーターの正確な数は、いくつかの要素、例えば所望の目的および/または発現条件に依存するものと理解される。1つの実施形態では、上記遺伝子改変微生物は、本明細書で定義される改変オートトランスポーターを2つ有し得る。別の実施形態では、上記遺伝子改変微生物は、本明細書で定義される改変オートトランスポーターを3つ有し得る。そのような状況では、多数の疾患を同時に標的にできること、あるいは、1つの疾患、例えば特定のがん/腫瘍性疾患を多面的に標的にできることが、当業者には認識される。
【0059】
1つの実施形態では、上記遺伝子改変微生物は弱毒化細菌であってもよく、好ましくは
、上記遺伝子改変細菌はグラム陰性菌である。本発明で使用するためのグラム陰性菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ属(Salmonella)、赤痢菌属(Shigella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、モラクセラ属(Moraxella)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、デロビブリオ属(Bdellovibrio)、レジオネラ属(Legionella)、クラミジア属(Chlamydia)、およびエルシニア属(Yersinia)が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくは、上記弱毒化細菌は生きた弱毒化細菌である。
【0060】
好ましくは、上記遺伝子改変微生物は、サルモネラ属種(Salmonella spp)であり得る。本発明で使用するためのサルモネラ属種の例は、サルモネラ菌(Salmonella enterica)およびサルモネラ・ボンゴリ(Salmonella bongori)であり、好ましくはサルモネラ菌(Salmonella enterica)が使用される。サルモネラ菌(Salmonella enterica)は種々の血清型または血液型亜型にさらに細別することができる。本発明で使用するための上記血清型または血液型亜型の例は、チフス菌(Salmonella enterica Typhi)、パラチフスA菌(Salmonella enterica Paratyphi A)、パラチフスB菌(Salmonella enterica Paratyphi B)、パラチフスC菌(Salmonella enterica Paratyphi C)、ネズミチフス菌(Salmonella enterica
Typhimurium)、および腸炎菌(Salmonella enterica
Enteritidis)である。好ましい実施形態では、上記遺伝子改変微生物は、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)またはネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)である。任意の弱毒化された非病原性のチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)株/ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株が、本明細書に記載されたように使用され得ることが企図され、そのような菌株の例としては、Ty21a、CVD908-htrA、CVD909、Ty800、M01ZH09(ZH9とも称される)、x9633、x9640、x8444、ZH9PA、DTY88、MD58、WT05、ZH26、SL7838、SL7207、VNP20009、またはA1-Rが挙げられるが、これらに限定はされない。上記チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)株はチフス菌ZH9(Salmonella enterica serovar Typhi ZH9)株であることが好ましい。
【0061】
本発明は、本明細書に記載された改変オートトランスポーターコンストラクトを含むように設計された遺伝子改変微生物を開示する。したがって、本発明は、対象における異種タンパク質送達に使用され得る遺伝子改変微生物を開示する。上記遺伝子改変微生物は、弱毒化株、例えば、効果的な異種タンパク質のキャリアおよび送達系でありながら、許容できる安全性プロファイルを維持している菌種が得られるように変異されたものである。
【0062】
当業者には理解されるところであるが、目的の遺伝子にターゲティングされた組換えプラスミドによる相同組換えなど、当該技術分野において周知のいくつかの方法によって遺伝子は変異され得る。その場合、標的遺伝子と相同性を有する設計遺伝子を、適切な核酸ベクター(プラスミドまたはバクテリオファージなど)に組み込み、これを標的細胞にトランスフェクトする。次いで、この相同的な設計遺伝子を天然遺伝子と再度組み合わせてそれを置換または変異させ、所望の不活性化変異を達成する。このような改変は、遺伝子のコード部分にあってもよいし、あるいはプロモーター領域などの任意の調節部分にあってもよい。当業者には理解されるところであるが、目的の遺伝子を変異させるために、C
RISPR/Cas系(例えばCRISPR/Cas9)などの、任意の適切な遺伝子改変技術を使用してよい。
【0063】
このように、菌種を遺伝子操作するための多数の方法および技術が、当業者に周知である。これらの技術としては、染色体組み込みを介した、または安定な常染色体自己複製遺伝因子の導入を介した、異種遺伝子を細菌に導入するのに必要な技術が挙げられる。細菌細胞を遺伝子改変(「形質転換」または「操作」とも称される)するための例示的な方法としては、バクテリオファージ感染、形質導入、接合、リポフェクション、またはエレクトロポレーションが挙げられる。分子生化学および細胞生化学におけるこれらおよび他の方法に関する一般的な議論は、非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22などの標準的な教科書に見出すことができ;これらは参照によって本明細書に援用される。
【0064】
好ましい実施形態では、遺伝子改変微生物はサルモネラ属種由来であってもよく、SPI-2(Salmonella Pathogenicity Island 2)遺伝子に弱毒化変異を含み、第2遺伝子に弱毒化変異を含む。好適な遺伝子およびそのような生きた弱毒化細菌の詳細については、その全体が参照によって本明細書に援用される、特許文献1に記載されている。
【0065】
1つの実施形態では、SPI-2遺伝子はssa遺伝子であってもよい。例えば、本発明は、ssaV、ssaJ、ssaU、ssaK、ssaL、ssaM、ssaO、ssaP、ssaQ、ssaR、ssaS、ssaT、ssaD、ssaE、ssaG、ssaI、ssaC、およびssaHのうちの1または複数に弱毒化変異を含む。好ましくは、上記弱毒化変異はssaV遺伝子またはssaJ遺伝子に存在する。さらにより好ましくは、上記弱毒化変異はssaV遺伝子に存在していてもよい。
【0066】
遺伝子改変微生物は、第2遺伝子にも弱毒化変異を含んでもよく、この弱毒化変異はSPI-2領域にあってもなくてもよい。上記変異は、SPI-2領域の外側に存在し、芳香族化合物の生合成に関与するものであってもよい。例えば、1つの実施形態では、本発明はaro遺伝子に弱毒化変異を含む。好ましい実施形態では、aro遺伝子はaroAまたはaroCであってもよい。さらにより好ましくは、aro遺伝子はaroCである。
【0067】
好ましい実施形態では、本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトを含む遺伝子改変微生物は、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)株またはネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株である。最も好ましい実施形態では、本明細書に開示されたオートトランスポーターコンストラクトを含む遺伝子改変微生物は、チフス菌ZH9(Salmonella enterica serovar Typhi ZH9)株である。したがって、本発明はまた、改変EstAオートトランスポーター、改変MisLオートトランスポーター、改変Hbpオートトランスポーター、改変AIDA-1オートトランスポーター、改変EstPオートトランスポーター、または改変Petオートトランスポーターを含み、上記改変オートトランスポーターが、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)/ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)/チフス菌ZH9(Salmonella enterica serovar Typhi ZH9)株の内膜および外膜を通過する異種カーゴを保因し分泌することが可能である、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)株、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株、またはチフス菌ZH9(Salmonella enterica serovar Typhi ZH9)株を開示する。上記菌株
はいかなる異種カーゴも保因し分泌し得ると理解される一方、好ましい実施形態では、異種カーゴはサイトカイン、ケモカイン、細胞傷害性薬物、またはがん抗原である。
【0068】
別の好ましい実施形態では、遺伝子改変微生物は、パラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A)のO群O抗原リポ多糖が発現される改変を含む、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)由来のものであってもよい。さらに別の好ましい実施形態では、遺伝子改変微生物は、パラチフスA菌(Salmonella enterica
serovar Paratyphi A)の鞭毛タンパク質が発現される改変を含む、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)由来のものである。場合によっては、遺伝子改変微生物は、パラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A)のO群O抗原リポ多糖および鞭毛タンパク質が両方発現される改変を含む、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)由来のものであってもよく、すなわちZH9PA株である。
【0069】
弱毒化生菌株は、上記によれば、付与される血清型がHd血清型からHa血清型に変わるように、そのネイティブfliC遺伝子がパラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A)のfliC遺伝子と置換されたものであってもよく、ここで「血清型」とは、細菌種内の別個のバリエーションを指す。そのような改変の詳細については、特許文献2に見出すことができる。
【0070】
上記の弱毒化生菌株は、長鎖O抗原鎖が生成されるように機能的なfepE遺伝子を含むようにさらに改変されていてもよく、上記O抗原鎖は三糖反復単位100個からなる骨格長を有することが好ましい。そのような改変の詳細については、特許文献2に見出すことができる。
【0071】
上記の弱毒化生菌株は、gtrCを構成的に発現するように改変されてもよいし、あるいはgtrCをトランス型で発現するように改変されてもよいことが、さらに企図される。そのような改変の詳細については、特許文献2に見出すことができる。
【0072】
上記の弱毒化生菌株は、ファゴソーム誘導型プロモーターの制御下に追加のtviA遺伝子コピーを含むようにさらに改変されてもよいことが、さらに企図される。そのような改変の詳細については、特許文献2に見出すことができる。
【0073】
第3の態様において、本発明は、本明細書に開示された改変オートトランスポーターを含むワクチン組成物を提供する。したがって、本発明はまた、上記改変オートトランスポーターのキャリアとして働く、本明細書に開示された遺伝子改変微生物を含むワクチン組成物を提供する。
【0074】
1つの実施形態では、ワクチン組成物は、アジュバント、薬剤的に許容できる担体、または賦形剤をさらに含んでもよい。
【0075】
本明細書で使用される場合、「薬剤的に許容できる担体/アジュバント/希釈剤/賦形剤」は、当業者に公知であろう、あらゆる全ての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤(isotonic agent)、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬剤、薬剤安定化剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤、色素、同様の物質、およびこれらの組み合わせを包含する(例えば、非特許文献23を参照)。例としては、リン酸水素二ナトリウム、大豆ペプトン、リン酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、
塩化カルシウム、スクロース、ホウ酸塩緩衝液、無菌生理食塩水(0.9%NaCl)、および滅菌水が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0076】
本発明のワクチン組成物中に使用されてもよい好適な水性担体および非水性担体としては、水、エタノール、ポリオール類(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物油、並びに、オレイン酸エチルなどの注射用有機酸エステル類が挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材の使用によって、分散液の場合で必要な粒径の維持によって、および、界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0077】
本明細書に開示されたワクチン組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤をさらに含有してもよい。望ましくない微生物の存在の防止は、上述の滅菌法と、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸(phenol sorbic acid)などを含ませることの両方によって、確実に行ってもよい。糖類、塩化ナトリウムなどの等張化剤を上記組成物に含ませることが望ましい場合もある。加えて、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延する薬剤を含ませることで、注射用剤形の持続的吸収を実現してもよい。上記ワクチン組成物は、例えば感染性疾患または腫瘍性疾患において効果的であることが知られている追加の治療薬を所望により含んでもよい。したがって、本明細書に開示されたワクチン組成物は、抗レトロウイルス薬、抗生物質、抗真菌薬、抗寄生虫薬、および化学療法薬を含んでもよい。
【0078】
上記ワクチン組成物は、投与後の対象における免疫応答を増強することを目的とした追加成分を含んでもよい。そのような追加成分の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定はされない;水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、フロイント完全アジュバントおよびフロイント不完全アジュバントなどの油性アジュバント、ミコール酸系アジュバント(例えば、トレハロースジミコール酸)、細菌性リポ多糖類(LPS)、ペプチドグリカン(例えば、ムレイン、ムコペプチド、または、N-Opaca、ムラミルジペプチド[MDP]、もしくはMDP類似体などの糖タンパク質)、プロテオグリカン(例えば、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)から抽出されたもの)、連鎖球菌製剤(例えば、OK432)、ムラミルジペプチド、免疫刺激複合体(特許文献3、特許文献4、および特許文献5に開示されたような「Iscom」)、サポニン、DEAE-デキストラン、中性油(ミグリオールなど)、植物油(ラッカセイ油など)、リポソーム、ポリオール、RIBIアジュバントシステム(例えば、GB-A-2 189 141参照)、ビタミンE、カーボポール、インターフェロン(例えば、IFN-α、IFN-γ、またはIFN-β)またはインターロイキン、特に細胞性免疫を刺激するもの(例えば、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、およびIL-17)。
【0079】
上記ワクチン組成物は、単独で、または並行して/同時に、もしくは完全に別々に、追加の治療法と組み合わせて、与えられてもよい。「並行した」および「同時の」という語は、前記治療法の投与を同日に行うことを言う。「別々に」という語は、前記治療法の投与を異なる日に行うことを言う。
【0080】
第4の態様において、本発明は、本明細書に開示された改変オートトランスポーターを含む免疫療法用組成物を提供する。したがって、本発明はまた、上記改変オートトランスポーターのキャリアとして働く、本明細書に開示された遺伝子改変微生物を含む免疫療法用組成物を提供する。そのような場合、改変オートトランスポーターのカーゴは、がん抗原、または対象における免疫応答を刺激および/もしくは増強(例えば、T細胞応答を増
強)できる他のタンパク質をコードしてもよい。そのような他のタンパク質の例としては、サイトカイン、ケモカイン、または細胞傷害性薬物が挙げられる。そのようなサイトカインおよびケモカインの例としては、GM-CSF、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、およびIL-17、Il-21、IFNα、IFNβ、IFNγ、TNFα、CXCL9、CXCL10、CCL5、およびMIP1αが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0081】
1つの実施形態では、上記免疫療法用組成物は、チェックポイント阻害剤、抗原特異的T細胞、抗体医薬、がんワクチン、または他の免疫系細胞性成分をさらに含んでもよい。
【0082】
上記免疫療法用組成物は、免疫チェックポイントに対する遮断剤を含んでもよい。上記遮断剤は、拮抗薬、阻害剤、または阻止抗体であってもよい。したがって、上記遮断剤は、小分子または生物学的薬剤であってもよく、特定の例ではモノクローナル抗体である。好ましい実施形態では、上記チェックポイント阻害剤は、CTLA-4に対するもの、PD-1に対するもの、PD-L1に対するもの、LAG-3に対するもの、TIM-3に対するもの、BTLAに対するもの、TIGITに対するもの、VISTAに対するもの、またはこれらの任意の組み合わせである。例えば、上記免疫療法用組成物は、PD-1に対するチェックポイント阻害剤とPD-L1に対するチェックポイント阻害剤、PD-1に対するチェックポイント阻害剤とCTLA-4に対するチェックポイント阻害剤、PD-L1に対するチェックポイント阻害剤とCTLA-4に対するチェックポイント阻害剤を含んでもよい。
【0083】
さらにより好ましくは、上記チェックポイント阻害剤は、CTLA-4に対するもの、PD-1に対するもの、またはPD-L1に対するものである。場合により、上記遮断剤は、イピリムマブ(Yervoy(登録商標);CTLA-4をターゲティング)、ニボルマブ(nivolumba)(Opdivo(登録商標);PD-1をターゲティング)、ペンブロリズマブ(Keytruda(登録商標);これもPD-1をターゲティング)、アテゾリズマブ(Tecentriq(登録商標);PD-L1をターゲティング)、またはデュルバルマブ(Imfinzi(登録商標);PD-L1をターゲティング)であってもよい。
【0084】
PD-L1/PD-1シグナル伝達経路は、いくつかの理由から、がんの免疫回避の主要機構となっている。第一に、最も重要なこととして、この経路が、末梢に存在する活性化エフェクターT細胞の免疫応答の負の調節に関与している点。第二に、PD-L1ががん微小環境においてアップレギュレートされており、PD-1も活性化腫瘍浸潤性T細胞上でアップレギュレートされていることから、阻害の悪循環を強めている可能性がある点。第三に、この経路が、二方向性のシグナル伝達を通じて自然免疫制御および適応免疫制御の両方に複雑に関与している点。これらの要因が、PD-1/PD-L1複合体を、それを通じてがんが免疫応答を操作し、それ自体の進行を促進することができる中心点としている。結果として、腫瘍は阻害性免疫チェックポイント分子経路を活性化することができ、免疫系が抑制され、がん性細胞の増殖が妨げられずに継続されることとなる。T細胞が活性化されると、CTLA-4がその表面に輸送され、そこで、抗原提示細胞(APC)上と同じリガンドに対しCD28と競合し、CD28が抑制され、続いてT細胞の活性化および増殖が抑制される。PD-1、PD-L1、およびCTLA-4のターゲティングは、これらのイベントが起こることを防ぐことを目的としている。
【0085】
上記免疫療法用組成物は、養子免疫T細胞療法の結果である、抗原特異的T細胞を含んでもよい。「養子免疫T細胞療法」とは、T細胞を対象に移植することを意図している。上記T細胞は、上記対象由来(自家)であってもよく、あるいは別の対象由来(同種)で
あってもよい。そのような養子免疫T細胞療法の例としては、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、改変T細胞受容体(TCR)療法、およびキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、上記養子免疫T細胞療法はCAR-T細胞療法であってもよいことが企図される。場合により、上記CAR-T細胞療法は、B細胞由来がんに存在するCD19抗原を対象としたものである。したがって、そのような治療法は、急性リンパ芽球白血病(ALL)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)などのB細胞由来がんに特に好適であり得る。他の場合では、CAR-T細胞療法は腫瘍関連抗原(TAA)を対象としたものであり、したがって、固形腫瘍の治療により適している。そのような抗原の例としては、CD133、CD138、CEA、EGFR、EpCAM、GD2、GPC3、HER2、HerinCAR-PD1、MSLN、MG7、MUC1、LMP1、BCMA、PSMA、およびPSCAが挙げられるが、これらに限定はされない。このような手法は当業者に公知であり、読者は、さらなる情報については、「Adoptive cellular therapies: the current landscape」と題されたレビュー(非特許文献24)を参照されたい。
【0086】
上記免疫療法用組成物は、がんまたは腫瘍を対象とした抗体医薬を含んでもよい。特定の実施形態では、上記抗体医薬は、モノクローナル抗体であってもよく、さらにより好ましくは、ヒト化モノクローナル抗体またはヒトモノクローナル抗体である。このようなモノクローナル抗体を得る方法は当業者に公知である。上記抗体医薬は、がん細胞における異常タンパク質を遮断するものであってもよいし、または、がん細胞上の特定のタンパク質に結合するものであってもよい。後者の場合、がん細胞に、免疫系に向けた目印が付けられ、それ以後、免疫系の細胞性成分がこの異常細胞を標的とし破壊できるようになる。場合により、上記モノクローナル抗体もチェックポイント阻害剤であってもよい。例えば、イピリムマブ(Yervoy(登録商標))、ニボルマブ(nivolumba)(Opdivo(登録商標))およびペンブロリズマブ(Keytruda(登録商標))は全て、モノクローナル抗体であり、同時にチェックポイント阻害剤である。がんの治療用の、チェックポイント阻害剤ではないモノクローナル抗体の例としては、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、パニツムマブ(Vectibix(登録商標))、リツキシマブ(Rituxan(登録商標)およびMabthera(登録商標))、アレムツズマブ(Campath(登録商標))、オファツムマブ(Arzerra(登録商標))、ゲムツズマブオゾガマイシン(Mylotarg(登録商標))、およびブレンツキシマブ・ベドチン(Adcetris(登録商標))が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0087】
上記免疫療法用組成物は、がんワクチンを含んでもよい。上記がんワクチンは予防ワクチンまたは治療ワクチンであってもよく、上記ワクチンは治療ワクチンであることが好ましい。がんワクチンを使用することで、がん性細胞が提示する抗原を認識し破壊する免疫系の能力が高められる。このようなワクチンは、反応をさらに増強するのに役立つアジュバントを含んでもよい。養子免疫T細胞療法と同様に、上記がんワクチンは自家がんワクチンまたは同種がんワクチンであってもよい。
【0088】
上記免疫療法用組成物は、任意の他の免疫系細胞性成分を含んでもよく、この任意の他の免疫系細胞性成分は免疫療法で使用するのに好適なものであればよい。
【0089】
上記免疫療法用組成物が、本明細書に記載の改変オートトランスポーターに加えて、上記の免疫療法のうちの1または複数を含んでもよいことは理解される。例えば、養子免疫T細胞療法とチェックポイント阻害剤とを併用してもよい。
【0090】
第5の態様において、本発明は、感染性疾患または腫瘍性疾患の予防的処置または治療的処置で使用するための、本明細書に開示されたワクチン組成物または免疫療法用組成物を提供する。
【0091】
1つの実施形態では、上記感染性疾患は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および/または寄生虫感染症であってもよい。1つの実施形態では、上記ウイルス感染症は、コロナウイルスによって引き起こされるものであってもよい。コロナウイルスの例としては、SARS-CoV-2、MERS-CoV、およびSARS-CoVが挙げられる。好ましい実施形態では、上記ウイルス感染症は、SARS-CoV-2によって引き起こされるものである。別の実施形態では、上記細菌感染症は、ペスト菌(Yersinia pestis)、毒素原性大腸菌、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、および/またはトラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis)によって引き起こされるものであってもよい。本明細書に開示された改変オートトランスポーターにはいかなる微生物抗原も導入できるため、種々様々な感染性疾患、例えば、ウイルス、細菌、真菌、または寄生虫によって引き起こされる感染症の治療に適していることは、当業者には容易に理解される。1つの実施形態では、上記腫瘍性疾患は、前立腺がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、乳がん、膵がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頸がん、卵巣がん、甲状腺がん、メラノーマ、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、および肉腫から選択されるがんと関連したものであってもよい。好ましい実施形態では、上記腫瘍性疾患は、肺がん、膀胱がん、胃がん、卵巣がん、結腸直腸がん、頭頚部がん、メラノーマ、腎がん、および乳がんから選択されるがんと関連したものである。しかし、本発明は、広範囲のがんに好適であることを企図したものである。したがって、新形成、腫瘍、およびがんは、良性、悪性、転移性、および非転移性の種類を包含し、あらゆるステージ(I、II、III、IV、またはV)もしくはグレード(G1、G2、G3など)の新形成、腫瘍、もしくはがん、または、進行中、増悪中、安定化した、もしくは寛解した新形成、腫瘍、がん、もしくは転移を包含する。本発明に従って治療され得るがんとしては、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯茎、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頚部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮の細胞または新生物が挙げられるが、これらに限定はされない。加えて、上記がんは、具体的には、以下の組織学的種類のものであってもよく、ただし以下に限定はされない:悪性新生物;癌腫;未分化癌腫;巨大紡錘細胞癌;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;悪性ガストリノーマ;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌および胆管癌の組み合わせ;索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープにおける腺癌;家族性大腸ポリポーシス腺癌;固形癌;悪性カルチノイド腫瘍;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;色素嫌性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状濾胞腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜癌(endometroid carcinoma);皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞性癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性乳管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;乳房パジェット病;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平化生を伴う腺癌;悪性胸腺腫;悪性卵巣間質腫瘍;悪性莢膜細胞腫;悪性顆粒膜細胞腫;悪性セルトリ間質細胞腫瘍;セルトリ細胞癌;悪性ライディッヒ細胞腫;悪性脂質細胞腫;悪性傍神経節腫;悪性乳房外傍神経節腫;褐色細胞腫;血管球血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑における悪性黒色腫;類上皮細胞メラノーマ;悪性青色母斑;肉腫;線維肉腫;悪性線維性組織球腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣状横紋筋肉腫;間質性肉腫;混合腫瘍;ミュラー管混合腫瘍;腎芽細胞腫;肝芽腫;癌肉腫;悪性間葉細胞腫;悪性ブレンナー腫瘍;悪性葉状腫瘍;滑膜肉腫;悪性中皮腫;未分化胚細胞腫;胎生期癌;悪性奇形腫;悪性卵巣甲状腺腫;絨毛癌;悪性中腎腫;血管肉腫;悪性血管内皮腫;カポジ肉腫;悪性血管周囲細胞腫;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;悪性軟骨芽細胞腫;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫;ユーイング肉腫;悪性歯原性腫瘍;エナメル上皮歯牙肉腫;悪性エナメル上皮腫;エナメル上皮線維肉腫;悪性松果体腫;脊索腫;悪性神経膠腫;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星細胞腫;星状芽細胞腫;グリア芽腫;乏突起神経膠腫;乏突起神経膠芽細胞腫;原始神経外胚葉性(primitive neuroectodermal);小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅神経原性腫瘍;悪性髄膜腫;神経線維肉腫;悪性神経鞘腫;悪性顆粒細胞腫;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン(Hodgkin’s);側肉芽腫;悪性小リンパ球性リンパ腫;悪性びまん性大細胞型リンパ腫;悪性濾胞性リンパ腫;菌状息肉腫;他の特定された非ホジキンリンパ腫;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;マスト細胞 肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ様白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄肉腫;および毛様細胞性白血病。好ましくは、上記腫瘍性疾患は、前立腺がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、膵がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頸がん、卵巣がん、甲状腺がん、メラノーマ、頭頚部がん、皮膚がん、および軟部肉腫から選択されるがん、並びに/または他の形態の癌腫と関連した腫瘍であってもよい。上記腫瘍は、転移性腫瘍または悪性腫瘍であってもよい。
【0092】
したがって、本発明を、感染性疾患およびがんとの関連において治療効果を達成するために使用してもよいことが企図される。治療効果の非限定的な具体例としては、当該ウイルスのウイルス量の減少、上記ウイルスと関連した症状の低減、新形成、腫瘍、もしくはがん、もしくは転移の体積(サイズもしくは細胞量)もしくは細胞数の減少、新形成、腫瘍、もしくはがんの体積の増加の阻害もしくは防止(例えば、安定化)、新形成、腫瘍、もしくはがんの進行、増悪、もしくは転移の減速もしくは阻害、または、新形成、腫瘍、もしくはがんの増殖、成長、もしくは転移の阻害が挙げられる。
【0093】
本明細書に開示されたワクチン組成物および免疫療法用組成物は、通常、改変オートトランスポーターを含む遺伝子改変微生物の有効量を含み、薬剤的に許容できる担体/アジュバント/希釈剤または賦形剤をさらに含む組成物中で、対象に投与され、これらの定義は上述の通りである。
【0094】
好ましくは、上記遺伝子改変微生物を含み、すなわち本明細書に開示された改変オートトランスポーターを含む、上記ワクチン組成物および免疫療法用組成物は、経口的に投与されてもよいが、他の投与法を場合によっては使用してもよいことが企図される。したがって、ある場合では、本発明の遺伝子改変微生物は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、硝子体内に、腟内に、直腸内に、表面に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、結膜下に、膀胱内に、経粘膜で、心膜内に、臍帯内に、眼内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、表面に、局所に、吸入(例えばエアゾール吸入)によって、カテーテルを介して、洗浄液を介して、または当業者には公知であろう他の方法もしくは上述のものの任意の組み合わせによって(例えば、非特許文献25参照)、注射、点滴、持続点滴によって投与されてもよい。
【0095】
本発明のワクチンまたは免疫療法用組成物の投与は適切な投与計画に従って実施されることが企図される。「適切な投与計画」という語は、本発明の組成物1回または複数回の投与のスケジュールまたはタイムスケールと解釈されるべきものであり、その結果として、上記組成物を投与している対象の効力および安全性を考慮して、最も効果的な結果を生み出し得るものである。例えば、本明細書に開示された組成物は、単回投与量または複数回投与量、例えば2回または投与量、を含んでもよい。場合により、初回投与の後、初回投与のおよそ3週間後に、次の投与を与えてもよい。本明細書に開示された改変オートトランスポーターを含む遺伝子改変微生物の投与は、10~1012CFUの範囲であってもよく、好ましく10~1010CFUの範囲であることが企図され、CFUはコロニー形成単位である。当業者はこのような単位の使用に精通している。CFUは、試料中の生きた微生物の数を評価するために使用される単位である。例えば、好適な投与量は、10~10CFU、10~10CFU、10~10CFU、10~10CFU、10~1010CFU、10~1011CFU、10~10CFU、10~10CFU、10~10CFU、10、~1010CFU、10~1011CFU、10~1012CFU、10~10CFU、10~10CFU、10~1010CFU、107~1011CFU、107~1012CFU、10~10CFU、10~1010CFU、108~1011CFU、10~1012CFU、10~1010CFU、10~1011CFU、10~1012CFU、1010~1011CFU、1010~1012CFU、または1011~1012CFUであり得る。
【0096】
さらに、より長い期間の後にブースト投与をさらに実施するという可能性も存在する。これは、対象の免疫グロブリンG(IgG)抗体レベルまたはT細胞応答が、決められた保護レベルを下回る場合に適した処置として選択され得る。したがって、いくつかの実施形態では、適切な投与計画は、「ブースター」として実施され得る。このようなブースターは、年1回、または必要と思われる場合に5~10年毎に、実施され得ることが企図される。
【0097】
第6の態様において、本発明は、グラム陰性菌性オートトランスポーターを改変する方法であって、i)パッセンジャー領域からパッセンジャードメインを除去すること、ii)第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列を、制限酵素認識配列で挟まれた上記パッセンジャー領域に導入すること、iii)上記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の上流の上記パッセンジャー領域内に第2ポリペプチドタグをコードし、上記IIS型制限酵素認識配列の境界の外側に位置する、合成ポリヌクレオチド配列を導入すること、iv)リンカーをコードし、上記第1ポリペプチドタグをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流に存在し、上記制限酵素認識配列の境界の外側に位置する、合成ポリヌクレオチド配列を導入すること、並びに、v)切断部位をコードする合成ポリヌクレオチド配列を、上記リンカーをコードする合成ポリヌクレオチド配列の下流の上記パッセンジャー領域内に導入すること、を含む方法を提供する。
【0098】
上記第2ポリペプチドタグおよび上記リンカーは、制限酵素認識配列境界の外側に位置しているため、Golden Gateクローニングなどの方法を実施した場合に除去されず、オートトランスポーター上に残ると、当業者には認識される。
【0099】
好ましい実施形態では、上記第1ポリペプチドタグは、FLAGタグ、またはオートトランスポーターのインフレーム翻訳を可能にする他のタグであってもよく、上記第2ポリペプチドタグはHisタグであってもよく、上記リンカーはセリン-グリシンリンカーであってもよく、上記切断部位はカスパーゼ-3切断部位またはOmpT切断部位であってもよい。
【0100】
本発明はまた、異種ポリヌクレオチド配列がまだ導入されていない、カーゴの送達で使用するための改変オートトランスポーターを提供する。したがって、本発明はまた、カーゴ分子をコードするポリヌクレオチド配列を含むまたは含まない、改変オートトランスポーターを、微生物に挿入することによって、カーゴ分子、またはポリペプチドを送達する方法を提供する。
【0101】
本発明者らは、驚くべきことに、異種カーゴを簡単、効率的、且つ確実に対象/患者に送達できるように既知のオートトランスポーターを改変する方法を発見した。以下の非限
定的な実施例を参照して本発明をさらに説明する。
【実施例
【0102】
異種カーゴを送達するために以前に使用されたことがある6種の異なるオートトランスポーターを文献から確認した。それぞれのオートトランスポーターにおいては、パッセンジャー領域をコードする配列を「プレースホルダー」配列と置換した。上記プレースホルダー配列は、1)構造的・配列的な完全性を維持するための第1ポリペプチドタグ、および2)種々のカーゴのハイスループットクローニングを可能にするための制限酵素認識部位、並びに、所望により、3)カーゴをトランスロケーションユニットから分離するための可動性リンカー、および4)Casp-3切断部位付近のompT切断部位を含む。
【0103】
オートトランスポーターを合成した後、それを、マクロファージ誘導性(サルモネラ含有小胞内で誘導)であり、シュードモナスCN寒天(PCN)人工培地上で活性を有することが以前に示された、pBR322ori(約15~20コピー/細胞)と、下流のssaGプロモーター(ssaGp)とを有する、プラスミドにクローニングした。
【0104】
カーゴは標準的な反応条件を用いたGolden Gate反応を用いてクローニングした。
【0105】
実施例1
カーゴを運ぶオートトランスポーターの検証
本明細書に記載の改変オートトランスポーターの異種カーゴの分泌を確認するための検証実験を実施した。分泌の成功を示すための試験用カーゴとして、βラクタマーゼ遺伝子(bla)を選択した。このβラクタマーゼ遺伝子は、抗生物質アンピシリンのラクタム環を開裂して効果をなくさせることで殺菌を妨げる酵素をコードしている。βラクタマーゼは、サイトゾルに残っていると上記抗生物質と接触することができないことから、ペリプラズムに移されて初めて有効となることと、シグナルペプチドが除去されると内膜を通過できないことが知られている。
【0106】
βラクタマーゼタンパク質をコードする改変オートトランスポーターは、Hbp、EspP、EstA、AIDA-1、MisL、およびPetとした。これらの改変オートトランスポーターを発現するグラム陰性菌株、例えば、チフス菌ZH9(Salmonella enterica serovar Typhi ZH9)は、空ベクター対照およびbla単独対照と比較して有意な増殖欠陥がないことが分かり(図11参照)、このことから、改変オートトランスポーターをそのような菌株に組み入れても、当該菌株の生存率に影響しないことが示された。
【0107】
また、各培養菌株の上清濃縮物を用いたアンピシリン生存暴露アッセイを実施した(図3参照)。このようなアッセイは、指示菌株(例えば、大腸菌(E. coli))を抗生物質アンピシリンに暴露することを含む。通常の条件ではこれらの細胞は生存しないが、βラクタマーゼ酵素が上清中に存在すると、上記抗生物質が分解されるため、細胞が増殖可能になる。重要なこととして、βラクタマーゼが多く存在するほど、細胞が耐えることができ、したがって生存できるアンピシリンの濃度は高くなる。よって、このようなアッセイによって、改変オートトランスポーターを、異種カーゴ、例えばβラクタマーゼを搬出する能力について順位付けすることが可能である。改変オートトランスポーターHbp、EstP、EstA、およびAIDA-1は、異種カーゴ、すなわちβラクタマーゼを培養上清中に分泌できるが、一方、PetおよびMisLは分泌が控えめである(MisLにおける切断部位が欠けていた可能性がある)ことが分かった。図4および図5を参照されたい。
【0108】
また、ウエスタンブロットでも、いくつかの場合で、例えば、改変オートトランスポーターを改変型のEstAまたはAIDAオートトランスポーターとして、βラクタマーゼの分泌を確認した(図6参照)。以前に収集された結果(ここには示されていない)と一致して、6種中3種のオートトランスポーターにおいて、6×ヒスチジンタグ(すなわち第2ポリペプチドタグ)はウエスタンブロットで検出不可であった。理論に制限されるものではないが、これは、構造またはシグナルペプチドとの相互作用によるものと考えられる。
【0109】
実施例2
改変菌株における分泌機構の評価
カーゴのペリプラズムへのトランスロケーションが、分泌を達成するのに十分な条件であるかどうか(すなわち受動分泌)、または、オートトランスポーターのトランスロケーションユニットが、カーゴを搬出するために必要であるかどうか(すなわち能動分泌)を確認するためのさらなる実験を実施した。4種の改変オートトランスポーター(Hbp、EspP、AIDA、およびPet)のトランスロケーションユニットの切断後の、培養上清中およびペリプラズム中のβラクタマーゼレベルを評価した(図7および図8参照)。得られたデータは、トランスロケーションユニットを除去した後もいくらかのβラクタマーゼ分泌はなされることを示したが(サルモネラ属(Salmonella)株では外膜がある程度の有孔性を示すという知見と一致)、トランスロケーションユニットがβラクタマーゼを上手く分泌させるための必要条件であると思われる(図7および図8参照)。
【0110】
これらの結果と一致して、6×ヒスチジンタグを標的としたウェスタンブロッティングによる解析でも、カーゴは、トランスロケーションユニットを除去したオートトランスポーターのバリアントの使用済みPCN培地には検出されず、完全長AIDA-Iには検出され、また、切断型AIDA-Iおよび完全長AIDA-Iのペリプラズムに検出された(図9参照)。
【0111】
実施例3
各種カーゴタンパク質の分泌の評価
最後に、オートトランスポーターが任意の所望のカーゴを搬出できるかどうかを評価するためのさらなる実験を実施した。概念実証研究として、抗原性カーゴの分泌を例示するためにペスト菌(Yersinia pestis)由来のV抗原を選択し、本発明をどのように免疫腫瘍学分野に応用できるかの例としてサイトカインIL-18の分泌を選択した。これらのタンパク質をコードするDNA配列を必要な制限酵素認識部位を含むように設計し(図2参照)、全てのオートトランスポーターにパッセンジャーとして導入した。これらのプラスミドをZH9に導入し、PCN培地中、37℃で5時間発現させた。
【0112】
その後、使用済み培地を濃縮し、カーゴ特異的抗体(V抗原の場合にはサーモフィッシャー社製MA1-23088、IL-18の場合にはアブカム社製ab191152)を用いたウエスタンブロットでカーゴの存在について評価した(図10参照)。これらの結果は、両方の例において、2種以上のATでカーゴを搬出できたことを示している。
【0113】
以上から、本明細書における結果は、所望のカーゴを上清中に搬出できることを示しており、本明細書で開示されたオートトランスポーターコンストラクトの、様々な用途、例えばワクチン分野および免疫療法分野での適合性を明らかにしている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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【国際調査報告】