(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】血管攣縮の治療及び予防のための医療機器、治療方法及び診断方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/14 20060101AFI20230711BHJP
A61M 1/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61M5/14
A61M1/00 130
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546667
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 IB2021050962
(87)【国際公開番号】W WO2021156820
(87)【国際公開日】2021-08-12
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522304062
【氏名又は名称】株式会社シルビアン
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストーン,ヴィクター
【テーマコード(参考)】
4C066
4C077
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE14
4C066FF05
4C066HH12
4C066QQ61
4C077AA16
4C077CC02
4C077EE04
4C077HH06
4C077HH17
(57)【要約】
血管攣縮を治療する方法が、ベースラインバイオマーカー値を得るために脳脊髄液(CSF)を測定するステップを含み得る。この方法は、トレハロース溶液の第1投与量を投与するステップを含み得る。この方法は、現在の頭蓋内圧(ICP)を維持するためCSFを排出するステップを含み得る。この方法は、CSF中のトレハロース濃度を測定するステップを含み得る。この方法は、CSF中のバイオマーカー値を測定するステップを含み得る。この方法は、測定されたバイオマーカー値が所定のバイオマーカー濃度を示すという判断に基づいて終了し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管攣縮を治療するための方法であって、
ベースラインバイオマーカー値を取得するために脳脊髄液(CSF)を測定するステップと、
トレハロース溶液の第1投与量を投与するステップと、
現在の頭蓋内圧(ICP)を維持するために前記CSFを排出するステップと、
前記CSF中のトレハロース濃度を測定するステップと、
前記CSF中のバイオマーカー値を測定するステップと、
測定された前記バイオマーカー値が所定のバイオマーカー濃度を示した場合に、血管攣縮を治療する方法を終了するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
所定のトレハロース濃度に達したかどうかを判定するステップと、
前記所定のトレハロース濃度に達していない場合、前記トレハロース溶液の第2投与量又はそれ以降の投与量を投与するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投与と前記排出とが同時に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与と前記排出とが交互に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が脳ドレナージシステムを用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記脳ドレナージシステムがシングルルーメンカテーテルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記脳ドレナージシステムがデュアルルーメンカテーテルである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記トレハロース溶液が約5wt%~40wt%のトレハロース溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記CSF中の前記測定された前記トレハロース濃度が治療範囲の内である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記治療範囲が約7wt%~約10wt%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記トレハロース溶液が、被験者の代謝速度に基づく速度で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記測定されたバイオマーカー値が、炎症マーカー値又は血中代謝産物値である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記炎症マーカー値が、真核翻訳開始因子4E(4EBP1)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アルテミン(ARTN)、AXIN1、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ベータ神経成長因子(BetaNGF)、CASP8、C-Cモチーフケモカインリガンド(CCL)11、CCL13/単球走化性タンパク質(MCP)4、CCL19、CCL2/MCP1、CCL20、CCL23、CCL25、CCL28、CCL3/マクロファージ炎症タンパク質(MIP)1アルファ、CCL4、CCL7/MCP3、CCL8/MCP2、分化クラスタ(CD)244、CD40、CD5、CD6、CDCP1、コロニー刺激因子(CSF)1、CST5、CX3CL1、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL5、CXCL6、CXCL9、DNER、EN-RAGE、線維芽細胞増殖因子(FGF)19、FGF21、FGF23、FGF5、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インターフェロン(IFN)ガンマ、インターロイキン(IL)10、IL10RA、IL10RB、IL12B、IL13、IL15RA、IL17A、IL17C、IL18、IL18R1、IL1アルファ、IL2、IL20、IL20RA、IL22RA1、IL24、IL2RB、IL33、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8/CXCL8、KITLG/SCF、白血病阻害因子(LIF)、LIF受容体(LIFR)、リンホトキシンアルファ(LTA)/腫瘍壊死因子(TNF)B、マトリックスメタロペプチダーゼ(MMP)1、MMP10、ニュールツリン(NRTN)、ニューロトロフィン(NTF)3/NT3、オンコスタチンM(OSM)、プログラムされたデスリガンド(PDL)1、プラスミノーゲンアクチベーターウロキナーゼ(PLAU)/uPA、SIRT2、シグナル伝達リンパ球活性化分子ファミリーメンバー(SLAMF)1、STAMBP、SULT1A1/ST1A1、TGFアルファ、TGFB1/、TNF、TNFRSF11B/OPG、TNFRSF9、TNFSF10/TRAIL、TNFSF11/TRANCE、TNFSF12/TWEAK、TNFSF14、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、又は血管内皮増殖因子(VEGF)Aの濃度を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記血中代謝産物値が、ヘモグロビン、ビリベルジン、一酸化炭素(CO)、遊離第一鉄(FeII)、NF-kB、内皮細胞接着分子(ECAM)、血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、細胞内細胞接着分子-1(ICAM-1)、P-セレクチン、ハプトグロビン、ヘモペキシン、又は、フィコシアノビリン関連分子の濃度を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月8日に出願された米国仮出願特許第62/971,945号の優先権及び利益を主張し、その開示全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本開示は、医療機器及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
漿果状動脈瘤は、脳の動脈(血管)を侵す病気である。動脈壁における小さい弱部が、脳深部の特定の部位に局在する薄壁を特徴とするバルーン状の構造物になる。動脈血圧が薄壁に連続的に負担をかけ、動脈瘤は、破裂の可能性を持ったまま常に成長し続ける。漿果状動脈瘤が破裂すると、くも膜下出血(SAH)(「脳出血」(“wet stroke”)としても知られている)状態になる。漿果状動脈瘤は比較的良性の状態であるが、SAHは突然発症し、患者に壊滅的な結果をもたらす状態である。
【0004】
動脈瘤が破裂すると、破裂部位から大量の血液が、脳室と呼ばれる脳内の槽(洞穴)に流れ込む。この血液の異常な流れは2つの問題を生じる。すなわち、(a)破裂部位より遠位の脳内物質が血液を受け取ることができず虚血(血液不足)に陥り、その結果、神経障害を引き起こし、(b)脳室内の血液全体が炎症反応のカスケードを生じさせる。(b)の主な結果として、最初の破裂から4日~5日後に動脈の攣縮(血管攣縮)が起こり、脳の広い範囲に遅発性脳虚血(DCI)を引き起こす。漿果状動脈瘤の破裂が即座に脳に虚血障害をもたらし、また、血管攣縮が、脳のより広い範囲に遅発性虚血障害をもたらすことに留意することが重要である。
【0005】
SAHの治療のためには、破裂した動脈瘤を修復する必要がある。これは、切開手術(外科医が、破裂した動脈を露出させ、クリップで固定する)、或いは、血管内手術(コイル又は血餅形成足場材を漿果状動脈瘤内に配置して、破裂部を血餅形成により固定する)により行われる。脳神経外科では、破裂部位を固定する治療法が大きく進歩した。しかし、脳室内の出血による合併症の治療にはまだ大きな進歩が見られない。
【0006】
数多くの治療法が、血管攣縮(動脈瘤の固定後)を治療し、DCIを予防するために試みられてきた。従来の治療法には、伝統的なトリプルH療法(人為的高血圧、循環血液量の増加、血液希釈)、及び、カルシウム拮抗薬であるニモジピンがある。臨床試験のデータベースには、静脈内低分子療法であるクラゾセンタン(ET-1阻害剤)などの新規化合物を用いた様々な試みが示され、大動脈の血管攣縮の回復を実証している。
【発明の概要】
【0007】
本明細書で開示するのは、血管攣縮の治療及び予防のための医療機器、治療方法、及び診断方法の実施形態である。一態様において、血管攣縮を治療するための方法は、ベースラインバイオマーカー値を得るために脳脊髄液(CSF)を測定するステップを含み得る。この方法は、トレハロース溶液の第1投与量を投与するステップを含み得る。この方法は、現在の頭蓋内圧(ICP)を維持するために前記CSFを排出するステップを含み得る。この方法は、前記CSF中のトレハロース濃度を測定するステップを含み得る。この方法は、前記CSF中のバイオマーカー値を測定するステップを含み得る。この方法は、測定された前記バイオマーカー値が所定のバイオマーカー濃度を示すという判定に基づいて終了し得る。
【0008】
1以上の態様において、この方法は、さらに、所定のトレハロース濃度に達したかどうかを判定するステップを含み得る。1以上の態様において、この方法は、トレハロース溶液の第2投与量を投与するステップを含み得る。当該トレハロース溶液の第2投与量は、所定のトレハロース濃度に達していないことを条件に投与され得る。この方法は、トレハロース溶液をさらに投与するステップを含み得る。
【0009】
1以上の態様において、投与と排出とが同時に行われ得る。1以上の態様において、投与と排出が交互に実行され得る。1以上の態様において、この方法は、脳ドレナージシステムを使用して実施され得る。1以上の態様において、脳ドレナージシステムは、シングルルーメンカテーテル又はデュアルルーメンカテーテルであり得る。
【0010】
1以上の態様において、前記トレハロース溶液は、約5wt%~40wt%のトレハロース溶液であり得る。1以上の態様において、CSF中の測定される前記トレハロース濃度は、治療範囲の内であり得る。前記治療範囲は、約7wt%~約10wt%であり得る。1以上の態様において、前記トレハロース溶液は、被験者の代謝速度に基づく速度で投与され得る。1以上の態様において、前記測定されたバイオマーカー値は、炎症マーカー値又は血中代謝産物値であり得る。1以上の態様において、前記炎症マーカー値は、インターロイキン-2(IL-2)濃度、腫瘍壊死因子(TNF)濃度、任意のサイトカイン濃度、又はこれらの任意の組合せを含み得る。1以上の態様において、血中代謝産物値は、ビリルビン濃度又は赤血球の代謝中間体を含み得る。
【0011】
本開示は、添付図面と併せて読むと、以下の詳細な説明から最良に理解される。一般的な慣例に従い、図面の様々な特徴物が正確な縮尺ではないことを強調しておく。むしろ、様々な特徴物の寸法は、明確化のために任意に拡大又は縮小されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態による、血管攣縮を治療するための使用方法の一例のフロー図である。
【
図2】本開示の実施形態による、血管攣縮を治療するための使用方法の一例の図である。
【
図3】本開示の実施形態による、血管攣縮の治療中のトレハロース及びバイオマーカーの濃度を示すグラフである。
【
図4A】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【
図4B】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【
図4C】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【
図4D】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【
図4E】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【
図4F】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【
図4G】臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
米国特許第8,283,337号に記載されているように、トレハロースを血管攣縮の治療剤又は予防剤として使用し得る。この特許の内容を参照により本明細書に組み込む。後述の例において示されているように、本明細書に記載の実施形態による薬剤は、トレハロースを、血管攣縮の治療及び予防のための有効成分として含む。この薬剤を有効濃度のトレハロースを含む灌流剤として使用することにより、血管攣縮を効果的に予防することが可能であろう。
【0014】
血管攣縮は、脳虚血などの虚血を誘発する。本発明の薬剤は、虚血を予防でき、且つ虚血の進行を予防又は抑制するための改善剤として使用され得る。改善剤は、虚血、例えば脳虚血の治療及び/又は予防に有効であり得る。
【0015】
血管攣縮は脳梗塞を誘発する。本発明の薬剤は脳梗塞を予防することができ、脳梗塞の予防又は進行抑制のための改善剤として使用され得る。本発明の改善剤は、脳梗塞の治療及び/又は予防に有効であり得る。
【0016】
トレハロースは、二糖類化合物(2つの糖分子が2つ結合したもの)であり、一般的に食品保存料と見なされている。この化合物は、組織上に被膜を形成して細胞膜を安定化させることにより、細胞保護(細胞を守る)効果を有する。シモハタ(Shimohata)らは、SAHに関するトレハロースの治療効果の可能性を報告している(シモハタらによる、「実験的くも膜下出血後の脳腔内の血液凝固のトレハロースによる減少」("Trehalose decreases blood clotting in the cerebral space after experimental subarachnoid hemorrhage.")日本獣医学会雑誌、2020年 5月、82巻5号、566~570頁を参照)。トレハロースを頭蓋(脳)に、腔高濃度(~7%)で入れると、トレハロースは動脈表面上で全血と置換され、また、血小板を含む血液成分の周囲に被膜を形成する。動物実験により、SAHに伴う炎症カスケード又は血管攣縮の有意な抑制が示されている。トレハロースには、血管攣縮及び遅発性脳虚血(DCI)を予防する可能性がある。
【0017】
脳室には容易にアクセスできないが、進行したSAHの治療のためにはカテーテルを介してアクセス可能である。頭皮、頭蓋、硬膜に局所的に開口を形成し、カテーテルを脳質に通して側脳室又はその他の脳室、硬膜下腔にアクセスする。カテーテルは、流体の灌流(投与)と脳脊髄液(CSF)の吸引(排出)とを同時に行うことができるデュアルルーメンカテーテルであってよい。
【0018】
トレハロースの含有量は、用途、製剤形態、患者、又はそれらの組合せに基づいて調整され得る。薬剤が頭蓋内投与用の液剤である場合、トレハロースの含有量は、薬剤中、好ましくは5wt%~40wt%であり、より好ましくは、CSFトレハロース濃度が約2wt%~約12wt%になるように調整された量で投与される。より好ましくは、薬剤は、CSFトレハロース濃度が約7wt%~約10wt%になるように投与され得る。
【0019】
本明細書に開示する実施形態は、体内で合成された場合のCSFの排出を含み得る。例えば、トレハロースが、脳の側脳室及び血管系に浸透するように導入され得る。トレハロースが分解すると、脳ドレナージシステムを介して排出され得る。血液は分解され、溶血液が浸透し、さらなる分解をもたらす。その後、血液が排出され得て、動脈上に付着した溶血液が炎症反応を生じる。トレハロースが溶血液に取って代わり、炎症が軽減される。
【0020】
本明細書に開示する実施形態は、側脳室内にトレーサー化合物を、脳の血管系に浸透するように投与することを含み得る。トレーサー化合物は、トレハロースの代理として機能する分子であり得る。例えば、トレーサー化合物は、IVISなどの蛍光色素、又は、ポジトロン放出断層撮影法(PET)で使用され得る放射性化合物であり得る。トレーサー化合物は、排出され、測定され得る。トレーサー化合物はトレハロース分子に付着され得る。
【0021】
本明細書に開示する実施形態は、トレハロース及びトレーサー化合物を側脳室のCSFに、デュアルルーメンカテーテルを介して投与することを含み得る。この例では、デュアルルーメンカテーテルは、ICPが維持されるようにCSFを同時に吸引するために使用され得る。
【0022】
本明細書に開示する実施形態は、側脳室のCSFにトレハロースを、シングルルーメンカテーテルを介して投与することを含み得る。この例では、CSFは、ICPを維持するために、シングルルーメンカテーテルを介して断続的に吸引され得る。
【0023】
本明細書に開示する実施形態は、以下の薬物代謝及び薬物動態(DMPK)因子を仮定し得る。例えば、可溶性化合物及びバイオマーカーは、動物モデルからシミュレートされた所与の期間にCSF内の平衡を達成し得る。ヒトの髄腔内系にはトレハラーゼが無いため、CSF中のトレハロースの、モノサッカライドへの分解は非常に低い速度で生じ得る。髄腔内トレハロースのクリアランスの大部分は、CSFから全身血管系への流れによって起こり得、その後、全身血管系における代謝が起こり得る。
【0024】
動物モデルからシミュレートされた持続的なCSF濃度が、治療効果をもたらし得る。治療効果を、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴(MR)、頭蓋ドップラー、又はこれらの組合せにより追跡できる。脳は、動物モデルからシミュレートされた範囲のCSF変動に、重大なダメージを生じずに耐え得る。
【0025】
図1は、本開示の実施形態による血管攣縮を治療する方法100の一例のフロー図である。方法100は、くも膜下出血の後にDCIを防止するために実行され得る。方法100は、ベースラインバイオマーカー値を得るためにCSFを測定するステップ110を含む。バイオマーカー値は、炎症、感染、又はその両方を検出するために使用され得る。バイオマーカー値は、炎症マーカー値、血中代謝産物値、又はその両方を含み得る。例示的な炎症マーカーは、以下を含む。すなわち、真核翻訳開始因子4E(4EBP1)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アルテミン(ARTN)、AXIN1、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ベータ神経成長因子(BetaNGF)、CASP8、C-Cモチーフケモカインリガンド(CCL)11、CCL13/単球走化性タンパク質(MCP)4、CCL19、CCL2/MCP1、CCL20、CCL23、CCL25、CCL28、CCL3/マクロファージ炎症タンパク質(MIP)1アルファ、CCL4、CCL7/MCP3、CCL8/MCP2、分化クラスタ(CD)244、CD40、CD5、CD6、CDCP1、コロニー刺激因子(CSF)1、CST5、CX3CL1、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL5、CXCL6、CXCL9、DNER、EN-RAGE、線維芽細胞増殖因子(FGF)19、FGF21、FGF23、FGF5、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インターフェロン(IFN)ガンマ、インターロイキン(IL)10、IL10RA、IL10RB、IL12B、IL13、IL15RA、IL17A、IL17C、IL18、IL18R1、IL1アルファ、IL2、IL20、IL20RA、IL22RA1、IL24、IL2RB、IL33、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8/CXCL8、KITLG/SCF、白血病阻害因子(LIF)、LIF受容体(LIFR)、リンホトキシンアルファ(LTA)/腫瘍壊死因子(TNF)B、マトリックスメタロペプチダーゼ(MMP)1、MMP10、ニュールツリン(NRTN)、ニューロトロフィン(NTF)3/NT3、オンコスタチンM(OSM)、プログラムされたデスリガンド(PDL)1、プラスミノーゲンアクチベーターウロキナーゼ(PLAU)/uPA、SIRT2、シグナル伝達リンパ球活性化分子ファミリーメンバー(SLAMF)1、STAMBP、SULT1A1/ST1A1、TGFアルファ、TGFB1/、TNF、TNFRSF11B/OPG、TNFRSF9、TNFSF10/TRAIL、TNFSF11/TRANCE、TNFSF12/TWEAK、TNFSF14、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、血管内皮増殖因子(VEGF)A、又は、炎症反応に関連するその他の既知の分子である。例示的な血中代謝産物は、ビリルビン及び血液成分の代謝中間体を含み得る。例えば、血中代謝産物は、ヘモグロビン、ビリベルジン、一酸化炭素(CO)、遊離第一鉄(FeII)、NF-kB、内皮細胞接着分子(ECAM)、血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、細胞内細胞接着分子-1(ICAM-1)、P-セレクチン、ハプトグロビン、ヘモペキシン、又は、フィコシアノビリン関連分子を含み得る。CSFは、脳ドレナージシステム、例えば、シングルルーメンカテーテル、デュアルルーメンカテーテル、又は、
図2に示した脳ドレナージシステムを用いて得られるであろう。
【0026】
方法100は、トレハロース溶液を脳内に、例えば側脳室内に投与するステップ120を含む。トレハロース溶液は脳内に、脳ドレナージシステムを用いて投与され得る。投与されるトレハロースの濃度は、約5wt%~40wt%のトレハロース溶液であり得る。トレハロース溶液の投与速度は、トレハロースを代謝する個々の被験者の代謝に依存し得る。
【0027】
方法100は、現在の頭蓋内圧(ICP)を維持するために、脳ドレナージシステムを介してCSFを排出するステップ130を含む。幾つかの実施形態において、CSFは、トレハロース溶液が投与されるのと同時に排出され得る。幾つかの実施形態において、トレハロース溶液の投与とCSFの排出とが交互に実行され得る。
【0028】
方法100は、排出されたCSF中のトレハロース濃度を測定するステップ140を含む。トレハロース濃度は、例えば質量分析を含むアッセイにより測定され得る。
【0029】
方法100は、CSF中のトレハロースが所定濃度に達したかどうかを決定するステップ150を含む。トレハロースの所定濃度は、CSF中のトレハロースの治療的濃度範囲に関連し得る。例えば、CSF中のトレハロースの治療的濃度範囲は、約7wt%~約10wt%であり得る。CSF中のトレハロース濃度は、所定濃度が達成及び/又は維持されているかどうかを決定するために、定期的又は連続的に監視され得る。トレハロースの所定濃度に達していない場合、方法100は、トレハロース溶液を脳内に投与するステップ120を含む。
【0030】
トレハロースの所定濃度に達したならば、方法100は、バイオマーカーに関してCSFを測定するステップ160を含む。方法100は、CSF中の所定のバイオマーカー濃度に達したかどうかを決定するステップ170を含む。所定のバイオマーカー濃度は、CSF中に、炎症、感染、血中代謝産物、又はそれらの任意の組合せの量が許容可能であるか又は全く無いことを示し得る。所定のバイオマーカー濃度に達していない場合、方法100は、CSF中の所定のトレハロース濃度を維持し、バイオマーカーに関してCSFを測定するステップ160を継続する。CSFは、治療中、定期的に又は連続的にバイオマーカーに関してモニターされ得る。所定のバイオマーカー濃度に達したならば、トレハロース治療はステップ180にて終了し得る。
【0031】
図2は、本開示の実施形態による、血管攣縮を治療する方法200の一例の図である。方法200は、DCIを防止するために、動脈瘤のクリッピング又はコイリングの約72時間後に実行され得る。
図2に示されているように、くも膜下出血を経験している被験者205の側脳室207内に血液が存在する。
【0032】
図2に示されているように、方法200は、脳ドレナージシステム210の使用を含む。脳ドレナージシステム210は、現在のICPを維持するように構成されている。幾つかの実施形態において、脳ドレナージシステム210は、シングルルーメンカテーテル又はデュアルルーメンカテーテルであり得る。
図2に示されているように、脳ドレナージシステム210は、収集チャンバ220及び圧力設定コンポーネント230を含み得る。圧力設定コンポーネント230は、圧力目盛りのゼロを示すインジケータ240を含む。インジケータ240は、被験者250の耳珠と水平高さになるように配置され得る。脳ドレナージシステム210はドレナージバッグ260を含む。
【0033】
脳ドレナージシステム210は、アクセスポート270に、チューブ280を介して取り付けられている。アクセスポート270は脳室カテーテルであってよく、被験者205の側脳室207に挿入され得る。アクセスポート270は、側脳室へのアクセスを可能にし、被験者205の頭皮に固定される。チューブ280は、透明な部分を含み得る。チューブ280は、アクセスポート270に、チューブの一部が被験者205の頭皮よりも鉛直方向に高い位置に配置されるように固定され得る。
【0034】
クランプ290が、側脳室207からCSFを排出してICPを維持するために開かれ得る。CSFは、チューブ280を介して収集チャンバ220に排出され、その後、最終的に収集バッグ260に排出され得る。幾つかの実施形態において、チューブ280は空気中に、チューブ280の一部が被験者205の頭皮よりも高い位置に配置された状態で開放され得る。チューブ280が空気中に開放されている実施形態において、側脳室207と、チューブ280の開放端付近の流体/空気境界との間の鉛直方向距離によりICPが概算される。幾つかの実施形態において、流体/空気の境界はインジケータ240により表示され得る。
【0035】
排出されたCSFは、ベースラインバイオマーカー値を得るために測定され得る。バイオマーカー値は、炎症、感染、又はその両方を検出するために使用され得る。バイオマーカー値は、炎症マーカー値、血中代謝産物値、又はその両方を含み得る。例示的な炎症マーカーは、4EBP1、ADA、ARTN、AXIN1、BDNF、BetaNGF、CASP8、CCL11、CCL13/MCP4、CCL19、CCL2/MCP1、CCL20、CCL23、CCL25、CCL28、CCL3/MIP1アルファ、CCL4、CCL7/MCP3、CCL8/MCP2、CD244、CD40、CD5、CD6、CDCP1、CSF1、CST5、CX3CL1、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL5、CXCL6、CXCL9、DNER、EN-RAGE、FGF19、FGF21、FGF23、FGF5、FLT3L、GDNF、HGF、IFNガンマ、IL10、IL10RA、IL10RB、IL12B、IL13、IL15RA、IL17A、IL17C、IL18、IL18R1、IL1アルファ、IL2、IL20、IL20RA、IL22RA1、IL24、IL2RB、IL33、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8/CXCL8、KITLG/SCF、LIF、LIFR、LTA/TNFB、MMP1、MMP10、NRTN、NTF3/NT3、OSM、PDL1、PLAU/uPA、SIRT2、SLAMF1、STAMBP、SULT1A1/ST1A1、TGFアルファ、TGFB1/、TNF、TNFRSF11B/OPG、TNFRSF9、TNFSF10/TRAIL、TNFSF11/TRANCE、TNFSF12/TWEAK、TNFSF14、TSLP、VEGFA、又は、炎症反応に関するその他の既知の分子を含み得る。例示的な血中代謝産物は、ヘモグロビン、ビリベルジン、CO、FeII、NF-kB、ECAM、VCAM-1、ICAM-1、P-セレクチン、ハプトグロビン、ヘモペキシン、又はフィコシアノビリン関連の分子を含み得る。
【0036】
図2に示されているように、トレハロース溶液295は、側脳室207内にチューブ280を介して投与され得る。クランプ290を用いることで、チューブ280が密閉され、側脳室207内にトレハロース溶液295が投与され得る。トレハロース溶液295は、脳内に、脳ドレナージシステム210を用いて投与され得る。投与されるトレハロースの濃度は、約5wt%~40wt%のトレハロース溶液であり得る。トレハロース溶液295の投与速度は、トレハロースを代謝する個々の被験者の代謝に依存し得る。幾つかの実施形態において、CSFが、トレハロース溶液295の投与と同時に排出され得る。幾つかの実施形態において、トレハロース溶液295の投与とCSFの排出とが交互に実行され得る。
【0037】
トレハロース溶液295の投与後、トレハロースの所定濃度が達成及び/又は維持されたかどうかを判断するために、CSFを定期的又は連続的にサンプリングし得る。トレハロースの所定濃度は、CSF中のトレハロースの治療的濃度範囲に関連し得る。例えば、CSF中のトレハロースの治療的濃度範囲は、約7wt%~約10wt%であり得る。トレハロースの所定濃度に達していない場合、方法200は、トレハロース溶液295を脳内に投与するステップを含む。
【0038】
トレハロースの所定濃度に達したならば、方法200は、CSFをバイオマーカーに関して測定するステップを含む。方法200は、CSF中の所定のバイオマーカー濃度に達したかどうかを判断するステップを含む。所定のバイオマーカー濃度は、CSF中に、炎症、感染、血中代謝産物、又はそれらの任意の組合せの量が許容可能か又は全く無いことのいずれかであることを示し得る。所定のバイオマーカー濃度に達していない場合、方法200は、CSF中の所定のトレハロース濃度を維持し、CSFをバイオマーカーに関して測定するステップを継続する。CSFは、治療中、定期的又は連続的にバイオマーカーに関してモニターされ得る。所定のバイオマーカー濃度に達したならば、トレハロースの治療を終了し得る。トレハロース溶液の投与は定期的に行われ得る。例えば、トレハロース溶液を、最初の48時間は30分毎に投与し、その後、CSF中のトレハロース濃度のモニタリングに基づいて調整してよい。トレハロース治療の期間は、数日から2週間以上であってよい。
【0039】
図3は、本開示の実施形態、例えば
図1の方法100及び
図2の方法200による、血管攣縮の治療中のトレハロース310及びバイオマーカー320の濃度を示すグラフ300である。
図3に示されているように、トレハロース310の濃度は、治療の開始時には低く、バイオマーカー320の濃度は高い。治療を継続すると、トレハロース310の濃度は、治療範囲330に達するまで増大する。トレハロース310の濃度は、治療が終了するまで治療範囲330に維持される。治療中、バイオマーカー320の濃度は、検出不能か又は許容範囲内になるまで減少する。バイオマーカー320の濃度が検出不能又は許容範囲内になったとき、治療が終了する。
【0040】
図4A~4Gは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度のシミュレーションを示すグラフである。シミュレーションは、ヒトのCSF体積が約140mLであり、CSF交換速度が約500mL/hrであると仮定している。トレハロースはCSF中で有意な速度で分解しないため、CSFからのトレハロースの消失はCSF交換速度に基づく。シミュレーションでは、トレハロースはボーラス注射で投与され、注射直後にCSF中で均等に分布される。以下のシミュレーションでは、飽和トレハロース溶液を、20℃の水100gに対して68.9gのトレハロースを溶解することにより調製した。
【0041】
図4Aは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、注射直後のCSF中の7wt%のトレハロース濃度を達成するために、9.8gのトレハロースが必要であると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、約14mLの飽和トレハロース溶液を注入した。
図4Aに示されているように、トレハロース濃度410は、24時間の間に急速に減少している。
【0042】
図4Bは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、1回の注射の24時間後にCSF中の7wt%のトレハロース濃度を達成するために、350gのトレハロースが必要であると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、約500mLの飽和トレハロース溶液を注入した。グラフ400に示されているように、トレハロース濃度410は24時間の間に急速に消散する。従って、この投与方法は治療的価値を有さない。
【0043】
図4Cは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、CSF中のトレハロース濃度を7wt%以上にするために、60gのトレハロースを2回注射する(1日に2回、12時間間隔の注射)必要があると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、1回の注射で約90mLの飽和トレハロース溶液を注射した。
図4Cに示されているように、トレハロース濃度410は、2回目の注射までの最初の12時間で急速に減少する。2回目の注射の後、トレハロース濃度410は急上昇し、その後再び急速に減少する。
【0044】
図4Dは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、1回の投与量につき24gのトレハロースが必要であると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、各投与量に対して約35mLの飽和トレハロース溶液が推定される。シミュレーションでは、CSF中のトレハロース濃度が7wt%以上となるように、濃縮トレハロース35mLを1日に4回、6時間間隔で投与した。
図4Dに示されているように、2回目の注射までの最初の6時間で、トレハロース濃度410は急速に減少する。2回目以降の注射の後、トレハロース濃度410は急上昇し、その後、再び急速に減少する。しかし、各注射後、トレハロース濃度410の底値は、後続の各注射後にわずかに増大する。
【0045】
図4Eは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、1回の投与量につき15gのトレハロースが必要であると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、各投与量に対して約22mLの飽和トレハロース溶液が推定される。シミュレーションでは、CSF中のトレハロース濃度が7wt%以上になるように、濃縮トレハロース22mLを1日8回、3時間間隔で投与した。
図4Eに示されているように、2回目の注射までの最初の3時間で、トレハロース濃度410は急速に減少する。2回目以降の注射の後、トレハロース濃度410は急上昇し、その後、再び急速に減少する。しかし、各注射の後、トレハロース濃度410の底値は、後続の各注射後にわずかに増大する。
【0046】
図4Fは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、1回の投与量につき11gのトレハロースが必要であると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、各投与量に対して約15mLの飽和トレハロース溶液が推定される。シミュレーションでは、CSF中のトレハロース濃度が7wt%以上になるように、濃縮トレハロース15mLを1時間間隔で1日に24回投与した。
図4Fに示されているように、2回目の注射までの最初の1時間に、トレハロース濃度410がわずかに減少している。2回目以降の注射の後、トレハロース濃度410は急上昇し、その後、再びわずかに減少する。しかし、各注射後、トレハロース濃度410の底値は、ほぼ定常状態が観察されるまで、後続の各注射後にわずかに増大する。CSFにおけるトレハロースの蓄積が観察されると推定されるため、約7wt%のトラフ濃度が得られる投与量が推定される。
【0047】
図4Gは、臨床用量レジメンを決定するための、ヒトCSF中のトレハロース濃度410のシミュレーションを示すグラフ400である。この例示的なシミュレーションでは、1回の投与量につき1.6gのトレハロースが必要であると推定された。トレハロースの溶解度が0.689g/mLであるため、各投与量に対して約2.3mLの飽和トレハロース溶液が推定される。シミュレーションでは、定常状態でCSF中のトレハロース濃度が7wt%以上になるように、濃縮トレハロース2.3mLを1時間間隔で1日24回投与した。
図4Fに示されているように、2回目の注射までの最初の1時間に、トレハロース濃度410はわずかに減少する。2回目以降の注射の後、トレハロース濃度410は急上昇し、その後、再びわずかに減少する。しかし、各注射の後、トレハロース濃度410の底値は、ほぼ定常状態が観察されるまで、後続の各注射後にわずかに増大する。
【0048】
実験結果
第1の実験は、ラットへの髄腔内投与(IT)の手順を確立して、30分間の生理食塩水のIT投与による最大投与量を決定するために行われた。麻酔をしたラット6匹に、約30μLの1.0%エバンスブルー溶液を、大槽(cisternal magna)のくも膜下腔に配置したカテーテルを介して投与した。投与後、ラットを剖検し、脳及び頚髄を含む中枢神経系(CNS)を肉眼観察してエバンスブルー溶液の分布を確認した。また、ラットのCSF総量の、それぞれ約1/2、等倍、2倍、4倍に相当する生理食塩水0.125mL、0.25mL、0.5mL、1.0mLを、1投与量につき1匹又は3匹の無麻酔ラットに投与した。生理食塩水を輸液ポンプを用いて30分間投与した。投与中及び投与後1時間まで、臨床症状を観察した。投与翌日に動物を剖検し、CNSを肉眼観察した。肉眼観察により、全ての動物においてエバンスブルー溶液が、大槽のくも膜下腔,脳底部及び頚髄に分布していることが分かった。
【0049】
エバンスブルー溶液はIT投与により大槽のくも膜下腔に分布し、全ての動物において、脳底部及び頸髄を検証した。投与量が0.5mL/ラット/30分、及び、1.0mL/ラット/30分の各動物において、生理食塩水の注入開始から約12分又は27分後に強直性痙攣が見られた。また、発声及び異常呼吸音が、1.0mL/ラット/30分の投与量の誘発性痙攣中に観察された。投与量0.5mL/ラット/30分の誘発性痙攣では、運動量の増加、ローリング、頻呼吸、逃避行動、及び、左目の眼振が見られた。運動量の増加、ローリング、及び運動量の減少が、0.25mL/ラット/30分、及び、0.5mL/ラット/30分の投与量での生理食塩水の注入中に観察された。これとは対照的に、0.125mL/ラット/30分の投与量での生理食塩水の注入中に観察された運動量の減少は一時的なものであった。いずれの動物においても、いずれの投与量においても脳及び頚髄に異常は認められなかった。以上より、拘束条件下における意識下ラットの生理食塩水の最大可能投与量は、約0.125mL/ラット/30分である。
【0050】
第2の実験が、イヌへの髄腔内投与(IT)の手順を確立して、30分間の生理食塩水のIT投与による最大投与量を決定するために行われた。麻酔をしたイヌ4頭に、約1mLの0.5%エバンスブルー溶液を、ブレグマ付近のくも膜下腔に配置したカテーテルを介して投与した。投与後、動物を剖検し、CNSを肉眼観察し、エバンスブルー溶液の分布を確認した。さらに、無麻酔のイヌ6頭に、CSF総量の約1/2又は1/4に相当する8mL又は4mLの生理食塩水を拘束状態下で投与した。生理食塩水は、投与中及び投与1時間後まで投与された。投与翌日に動物を剖検し、CNSを肉眼観察した。
【0051】
エバンスブルー溶液は、実験動物6頭の全てにおいて、IT投与により大脳皮質全体のくも膜下腔に分布された。投与量8mL/イヌ/30分で生理食塩水の注入を開始してから約26分後に、1匹に強直性痙攣及び唾液分泌が見られた。4mL/イヌ/30分の投与量では、他の5匹には、30分間の生理食塩水投与中、臨床症状は見られなかった。いずれの動物においても、脳や頚髄に異常は見られなかった。上記に基づき、拘束条件下で意識のある犬に対する生理食塩水の最大可能投与量は、約4mL/イヌ/30分である。
【0052】
本開示における全ての範囲において、範囲の端点は範囲に含まれる。本開示を、特定の実施形態に関して記載してきたが、本開示は、開示された実施形態に限定されるものではなく、逆に、添付の特許請求の範囲内に含まれる様々な組合せ、修正及び均等な構成をカバーし、この範囲が、法の下で許可される全てのこのような修正及び均等な構成を包含するように最も広い解釈を与えられることが意図されていると理解されよう。
【符号の説明】
【0053】
205,250 被験者
207 側脳室
210 脳ドレナージシステム
220 収集チャンバ
230 圧力設定コンポーネント
240 インジケータ
260 ドレナージバッグ
270 アクセスポート
280 チューブ
290 クランプ
【国際調査報告】