(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】水素及び/又は合成ガスの生成触媒、それを得る方法、及び水蒸気改質プロセスにおける使用
(51)【国際特許分類】
B01J 23/888 20060101AFI20230711BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20230711BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20230711BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230711BHJP
C01B 3/40 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B01J23/888 M
B01J37/03 B
B01J37/16
B01J37/08
C01B3/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560288
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 BR2021050126
(87)【国際公開番号】W WO2021195728
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】BR1020200068334
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(71)【出願人】
【識別番号】520488469
【氏名又は名称】ウニヴェルシダーデ フェデラル ド リオ デ ジャネイロ-ユ-エフアールジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】ディアス バルボサ レナト
(72)【発明者】
【氏名】ポンテス ビッテンコート ロベルト カルロス
(72)【発明者】
【氏名】メネゼス パッサレッリ ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ドス サントス テイシェイラ ダ シルヴァ ヴィクトル ルイス
(72)【発明者】
【氏名】フォンセカ ビダルト アントニオ マルコス
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ シルヴァ ジュリアナ
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EC01
4G140EC02
4G169AA02
4G169AA03
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4G169BA05A
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4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04C
4G169BB05B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB12C
4G169BB16C
4G169BC01A
4G169BC02A
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4G169EC03Y
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4G169FA08
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4G169FB30
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4G169FB57
4G169FB77
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC08
4G169FC10
(57)【要約】
本発明は、水素及び/又は合成ガスを生成するための触媒及びそれを得るための方法に関する。より具体的には、本発明は、天然ガス又は他の炭化水素ストリーム(精製ガス、プロパン、ブタン、ナフサ又はそれらの任意の混合物)の水蒸気改質プロセス用のニッケル、モリブデン及びタングステンをベースとする触媒であって、コークス堆積による失活に対して高い耐性を示す触媒を記載する。本発明によれば、触媒は、NiMoWをその活性相として有し、バルク形態、及び/又はアルミナ酸化物及び他の高表面積酸化物支持体上に担持されており、他のプロモーターを含有してもよい。さらに、本発明は、NiMoWの活性相が炭化水素の水蒸気改質反応に対して高い活性を有する触媒の製造を教示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の水蒸気改質プロセスによる水素及び/又は合成ガスの生成のための触媒であって、
a) 活性相は、ニッケル、モリブデン及びタングステン(NiMoW)によって形成され、Ni/(Mo+W)の原子比は6:1~5:1の間であり、Mo/Wの原子比は2:1~1:1の間であり、
b) 表面積は、20~150m
2/gの間の範囲にあり、
c) それ自体バルク形態で存在するか、又は全組成物に対して95重量%~65重量%の割合で15m
2/gを超える表面積を有する耐火性酸化物支持体を使用し、
d) 任意選択で、0.2重量%~15重量%の範囲の濃度でアルカリ金属を含有し、
e) 任意選択で、Pt、Pd、Ru及びRhを含む群から選択されるプロモーター貴金属、ならびにそれらの組み合わせを、任意の割合で、金属元素として計算して0.01重量%~1重量%の範囲の濃度で含有する、触媒。
【請求項2】
前記耐火性酸化物支持体は、アルミナ、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタニア、ランタン及び酸化セリウム、ヘキサアルミネート、ならびに任意の割合でのそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記活性相は、4:1~3:1.2の間のNi/(Mo+W)の原子比及び1.2:1~0.8:1の間のMo/Wの原子比を有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記活性相は、3:1~0.5:1の間のNi/(Mo+W)の原子比及び0.8:1~0.05:1のMo/Wの原子比を有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
最終触媒組成物は、任意に95重量%~65重量%の耐火性酸化物支持体を含有し、その面積は20m
2/g~100m
2/gの間である、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記アルカリ金属は、好ましくはカリウムであり、K
2Oとして計算して1重量%~7重量%の範囲の濃度である、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
前記プロモーター貴金属は、好ましくは白金である、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
前記プロモーター貴金属は、金属元素として計算して0.01重量%~0.2重量%の範囲の濃度で存在する、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
触媒を得るための方法であって、
a) アンモニア性媒体中において、パラタングステン酸塩及び/又はメタタングステン酸塩の形態で選択されるタングステンの可溶性塩の溶液、好ましくは水性溶液を調製する工程と、
b) 硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、アンモニア性塩及びアンモニア性錯体の群から選択されるニッケル及びモリブデン塩を含有する溶液、好ましくは水性溶液を調製する工程と、
c) ステップa)及びb)からの溶液を混合し、形成された沈殿物をNH
4OH溶液で再溶解する工程と、
d) 前記溶液を5~8の範囲のpHに達するまで2~10時間リフローし、前記溶液を室温で1~24時間撹拌下に維持する工程と、
e) NiMoW-NH
4の前記沈殿物を80~120℃の範囲の温度で1~24時間乾燥させ、200~650℃の範囲の温度で1~24時間の焼成を行う工程と、
f) 任意選択で、工程c)からのアルミナ、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、希土類ヘキサアルミネート、チタニア又はそれらの混合物から選択される無機酸化物支持体上にトリメタル酸化物を含浸させる工程と、
g) 選択的に、無機支持体上の酸化物が所望の含有量に達するまで、工程f)を繰り返す工程と、
h) 選択的に、より良好なpH制御、溶解度の増大及び/又は溶解度の減少のために、工程a)、b)及びc)で生成された水溶液中に共溶媒及び他の化学化合物を使用し得る工程と、を含む、請求項1に記載の触媒を得るための方法。
【請求項10】
前記焼成(工程e)は、好ましくは、200~350℃の範囲の温度で行われる、請求項9に記載の触媒を得るための方法。
【請求項11】
前記無機支持体中の前記トリメタル酸化物の含有量は、5%~35%(w/w)の間、好ましくは12%~20%(w/w)の間で変動する、請求項9に記載の触媒を得るための方法。
【請求項12】
前記工程h)の前記共溶媒は、硝酸、硫酸、リン酸、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、メタノール、エタノール、アセトン、過酸化水素(H
2O
2)、糖類又はこれらの化合物の組み合わせであり得る、請求項9に記載の触媒を得るための方法。
【請求項13】
前記焼成は、還元剤の流れにおける直接還元によって置き換えることができる、請求項9に記載の触媒を得るための方法。
【請求項14】
前記還元剤は、水素、ホルムアルデヒド、メタノール又は天然ガスから選択される、請求項9に記載の触媒を得るための方法。
【請求項15】
水蒸気改質による水素又は合成ガスの製造方法のためのプロセスであって、
a) 請求項1~8に記載の触媒を改質器にチャージする工程と、
b) 水蒸気ならびに水素、天然ガス、アンモニア及びメタノールから選択される還元剤の存在下で触媒を「in situ」で活性化する工程と、
c) 前記活性化の終わりに炭化水素チャージを導入して、水素及び/又は合成ガスの製造を開始する工程を有する、水蒸気改質による水素又は合成ガスの製造方法のためのプロセス。
【請求項16】
前記改質管の上部3分の1が好ましくは前記触媒でチャージされる、請求項15に記載の水蒸気改質による水素又は合成ガスの製造方法のためのプロセス。
【請求項17】
前記炭化水素チャージは、天然ガス、精製ガス、液化石油ガス、プロパン、ブタン、ナフサ、及び任意の割合でのそれらの混合物を含む群から選択することができる、請求項15に記載の水蒸気改質による水素又は合成ガスの製造方法のためのプロセス。
【請求項18】
前記改質管の入口での水蒸気/炭素比(mol/mol)が0.5~6.0の範囲で作動する、請求項15に記載の水蒸気改質による水素又は合成ガスの製造方法のためのプロセス。
【請求項19】
1.5未満の水蒸気/炭素比及び70%までの濃度のCO
2を含有する前記炭化水素チャージを使用する、請求項15に記載の水蒸気改質による水素又は合成ガスの製造方法のためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の水蒸気改質から水素及び/又は合成ガスを生成するための触媒及びそれを得るための方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、天然ガス又は他の炭化水素ストリーム(精製ガス、プロパン、ブタン、ナフサ又はそれらの任意の混合物)の水蒸気改質プロセスのためのニッケル、モリブデン及びタングステンをベースとする触媒であって、コークス堆積による失活に対して高い耐性を有する触媒に関する。ニッケル、モリブデン及びタングステンから構成される活性相はまた、改質反応に対して高い触媒活性を提供し、水素生成ユニットのキャンペーン時間を延長し、水素及び合成ガスを生成するコストを低減する。
【背景技術】
【0003】
水蒸気触媒改質は、天然ガス及び他の炭化水素を合成ガス及び水素に変換するための主な工業プロセスである。このプロセスは、精製プロセス用の水素、及び合成燃料(GTL)、メタノール、アンモニア、尿素及び石油化学製品の生産用の合成ガスを得るために広く研究されている(Tao,Y.,「Recent Advances in Hydrogen Production Via Autothermal Reforming Process(ATR)」):A Review of Patents and Research Articles Recent Patents on Chemical Engineering,v.6,pp.8-42,2013、Li,D.、Tomishige,K.「Methane reforming to syngas over Ni catalysts modified with noble metals」,Applied Catalysis A:General,v.408,pp.1-24,2011年11月)。
【0004】
現在、水素及び一酸化炭素に富むガスは、合成ガスとして知られており、主にメタン又はナフサの水蒸気改質プロセスによって工業的に製造されている。水蒸気改質プロセスで生じる主な反応を以下に示す(反応1、2及び3):
CnHm+nH2O=nCO+(n+1/2m)H2(吸熱反応)反応1
CH4+H2O=CO+3H2(吸熱、206.4kJ/mol)反応2
CO+H2O=CO2+H2(発熱、-41.2kJ/mol)反応3
【0005】
水蒸気改質プロセスは、チャージ(charge、充填物、注入物)の種類及び生成される水素リッチガスの所望の用途に応じて、異なる構成を有することができる。水蒸気改質は、通常、予め精製された炭化水素(チャージ)及び水蒸気を改質反応器に導入することによって行われる。そのような反応器は、外径7cm~15cm、高さ10m~13mの金属管で構成され、反応に必要な熱を供給する加熱炉の中に設置される。この金属管と加熱炉の集合体を一次改質器と呼ぶ。
【0006】
一次改質器における典型的なチャージ入口温度は400℃~550℃の範囲であり、出力温度は750℃~950℃の範囲、圧力は10kgf/cm2(0.981MPa)~35kgf/cm2(3.432MPa)が一般的である。これらの過酷な状況は、管を作製するために特殊な金属合金の使用を必要とする。それらの高い価格に起因して、改質器は、プロセスの固定コストのかなりの割合を占める。
【0007】
水蒸気改質に使用される触媒は、高い活性、適度に長い寿命、良好な熱伝達、低い圧力損失、高い熱安定性及び優れた機械的強度などの特徴を有していなければならない。水蒸気改質触媒の活性は、アプローチ温度、一次改質器の流出メタン含有量、改質管の壁面温度など、業界で知られているパラメーターによって定義できる(Rostrup-Nielsen,J.R.「Catalytic Steam Reforming」,Spring-Verlag,1984)。
【0008】
耐火性支持体上でのニッケル系触媒の活性の低下をもたらす主な問題の中で、炭素(コークス)の堆積が際立っている(Rostrup-Nielsen,J.R.「Coking on nickel catalysts for steam reforming of hydrocarbon」,Journal of Catalysis,v.33,pp.184-201,1974、及びBorowiecki,T.「Nickel catalytics for steam reforming of hydrocarbons:direct and indirect factors informing the Coking rate」,Applied Catalysis,v.31,pp.207-220,1987)、 硫黄化合物による被毒(Rostrup-Nielsen,J.R.「Catalytic Steam Reforming」,Spring-Verlag,1984)、高温への曝露(焼結)による塩化物汚染及び失活(Sehested,J.、Carlsson,A.、Janssens,T.V.W.、Hansen,P.L.、Datye,A.K.「Sintering of Nickel Steam-Reforming Catalysts on MgAl2O4 Spinel Supports」,Journal of Catalysis,v.197,pp.200-209, 2001年1月、及びSehested,J.、Gelten,J.A.P.、emediakis,I. N.、Bengaard,H.、Norskov,J.K.「Sintering of nickel steam-reforming catalysts:effects of temperature and steam and hydrogen pressures」,Journal of Catalysis,v.223,pp.432-443,2004年4月)。
【0009】
触媒中に存在する酸化ニッケル種の還元度が低いことによって引き起こされる触媒の活性に対する悪影響は、文献上あまりよく知られていない。通常、水蒸気改質プロセスにおいて工業的に使用される触媒は、一般に10m2/g未満の低表面積耐火性支持体上に堆積された酸化ニッケル種で構成される。
【0010】
このような種は、触媒が炭化水素を水素に変換する活性を示すように、金属ニッケルに還元される必要がある。通常、この還元工程は、水素、アンモニア、メタノール、及び天然ガスから選択される還元剤を用いて、相当量の水蒸気の存在下で、反応器自体で実施される。この酸化ニッケル種の金属ニッケルへの還元度が低いと、触媒活性が損なわれる。この状況は、温度が低い反応器の頂部でより重大であり、低温では酸化ニッケル種を金属ニッケルに還元することが困難であることが知られている(Kim,P.、Kim,Y.、Kim,H.、Song,I.K.、i, J.「Synthesis and characterization of mesoporous alumina with incorporated the partial oxidation of methane of syngas」,Applied Catalysis A:General,. 272,pp.157)-166、2004年9月)。
【0011】
文献は、担持ニッケル触媒の特定の特徴が、存在するニッケル含有量などのその還元速度に影響を与えること(Kim,P.、Kim,Y.、Kim,H.、Song,I.K.、Yi,J.「Synthesis and characterization of mesoporous alumina with incorporated for use in the partial oxidation of methane into syngas」、Applied Catalysis A:General、v.272、pp.157-166、2004年9月))、その製造工程中の焼成工程で用いる温度 (Teixeira,A.C.S.C.、iudici, R.「Deactivation of steam reforming catalysts by sintering:experiments and simulation」,Chemical Engineering Science,v.54,pp.3609-3618,1999年7月)及び耐火性支持体の種類を教示している。文献に通常見られる傾向は、アルミン酸マグネシウム又はアルミン酸カルシウム支持体を使用する水蒸気改質触媒は、アルファ-アルミナに基づくものよりも高い温度で酸化ニッケル種の金属ニッケルへの還元を促進する能力を有するとするものである。
【0012】
還元されにくいが、例えばアルミン酸マグネシウム又はアルミン酸カルシウムなどの塩基性支持体を使用する水蒸気改質触媒は、C4より長い鎖を有する炭化水素を含有するナフサ又は天然ガスなどのコークスを形成しやすいチャージを処理するために推奨される。文献によれば、水蒸気改質触媒の調製には、理論的には活性相(金属ニッケル)の分散度を高め、その結果として水蒸気改質活性を高めることができる高い表面積を有する支持体を使用することが望ましいとされている。
【0013】
特許出願PI1000656-7は、アルカリ金属、特にカリウムによって促進されたアルミン酸マグネシウム上に担持されたニッケル型水蒸気改質触媒の調製を教示し、コークス失活に対する耐性が高く、従来技術による材料よりも活性が高いことを教示する。
【0014】
特許文献WO91113831及びUS4,880,757は、酸化ジルコニウムなどのプロモーター(促進剤)を配合物に添加することによる高表面積アルミン酸マグネシウムの調製を教示している。しかしながら、実際には、高表面積支持体上のニッケル系水蒸気改質触媒の活性は予想よりも低く、低表面積支持体上の同様の触媒の活性よりもさらに低いことが観察される。
【0015】
文献によれば、セリウムは、十分な耐熱性及び機械的強度を有し、また高い酸素貯蔵容量を有することから、セリウムがメタンの水蒸気改質反応における触媒の支持体及び/又は触媒として広く使用されていることが教示されている(Purnomo,A.、Gallardo,S.、Abella,L.,Salim,C.,Hinode,H.「Effect of ceria loading on the carbon formation during low temperature methane steam reforming over a Ni/CeO2/ZrO2 catalyst」,React Kinet Catal Lett,v.95,pp.213-220,2008、及び Andreeva,D.、Idakiev,V.、Tabakova,T.、Ilieva,L.、Falaras,P.、Bourlinhos,A.、Travlos,A.「Low-temperature water-gas shift reaction over Au/CeO2 catalysts」,Catalysis Today,v.72,pp.51-57,2002年2月)。この最後の特徴は、支持体の表面上に形成された炭素質前駆体の酸化による除去に大きく寄与する。
【0016】
触媒が還元状態にあるとき、酸素空孔がセリウム表面に存在する。酸素が気相中に存在しなくても、生成した水及び/又はCO2は酸化媒体として機能することができる。H2O及び/又はCO2分子は材料の表面上で解離し、生成した原子状酸素はセリウムを再酸化する。多数の空孔は、炭素質堆積物の酸化剤としても作用し得る原子状酸素の移動性を促進する(Sekini,Y.、Haraguchi,M.、Matsukata,M.、Kikuchi,E.「Low temperature steam reforming of methane over metal catalyst supported on CexZr1-xO2 in a electric field」,Catalysis Today,v.171,pp.116-125,2011年8月、Koo,K.Y.、Seo,D.J.、Yonn,W.L.、Bin,S.「Coke study on MgO-promoted Ni/Al2O3 catalyst in combined H2O and CO2 reforming of methane for gas to liquid(GTL)process」,Applied Catalysis A General,v.340,pp.183-190,62008年6月、及びVagia,E.C.、Lemonidou,A.A.「Investigations on the properties of ceria-zirconia-supported Ni and Rh catalysts and the performance in acetic acid steam reforming」,Journal of Catalysis,v.269(2010),pp.388-396,2010年2月)。
【0017】
CeO2及びLa2O3によるAl2O3支持体の改質を含む研究は、7%(m/m)のNi/Al2O3を含有する触媒中のCeO2及びLa2O3の添加が触媒の形態学的特性を変化させ、ニッケルの比表面積及び分散の増加をもたらし、その結果として触媒特性を改善することを示した。7%(m/m)Ni/Al2O3触媒への6%(m/m)セリウムの添加は、550℃でのメタン転化率が約10%向上をもたらした(セリウム無添加のメタン転化率=70%、セリウム添加のメタン転化率=82%)。6%(m/m)のLa2O3で促進された7%(m/m)Ni/Al2O3触媒は、プロモーターを添加しない材料で得られた550℃での転化率とほぼ同じに達した(ランタンで促進された触媒を用いたメタン転化率=74%)(Dan,M.ら、「低温メタン蒸気改質のための担持ニッケル触媒、金属添加物と支持体改質の比較」Reaction Kinetics Mechanisms and Catalysis,v.105,pp.173-193,2012年2月)。
【0018】
文献(Liu,C.J.、Ye,J.、Jiang,J.、Pan.,Y.「Progresses in the Preparation of Coke Resistant Ni-based Catalyst for Steam and CO2 Reforming of Methane」,ChemCatChem,v.3,pp.529-541,2011年2月)によると、耐コークスNi触媒の開発の重要な点は、結晶子サイズ制御である。プロモーター及び支持体の両方としてのCeO2及びZrO2の使用は、活性を増加させ、さらにより重要なことには、コークス生成傾向の抑制という点で利点を有することを強調する価値がある。
【0019】
文献PI0903348-3は、高表面積支持体上でのニッケル触媒の低活性は、酸化ニッケル種を金属ニッケルに還元するのがより困難であることから生じることを教示している。この現象は、特に還元ステップ中に水蒸気が大量に過剰となる工業的条件下で観察され、高表面積担体との酸化ニッケル種の相互作用が大きくなることで説明することができる(Bittencourt,R.C.P,Cavalcante,R.M.,Silva,M.R.G.,Fonseca,D.L.,Correa,A.A.L.「Avaliacao(cはセディーユ付き、aはチルダ付き)comparativa entre gama-alumina e alfa-alumina como suporte de catalisadores de reforma a vapor pela tecnica(eはアキュート付き)de TPR na presenca(cはセディーユ付き)de vapor 」-14th Brazilian Congress of Catalysis, 2007及びBittencourt,.C.P.,Correa,A.A.L.,Fonseca,D.L.,ello, G.C.,Silva,M.R.G.,Nascimento,T.L.P.M.,「Caracterizacao(cはセディーユ付き、aはチルダ付き)por reducao(cはセディーユ付き、aはチルダ付き)a temperatura programada(TPR)de catalisadores de reforma a vapor-aplicacao(cはセディーユ付き、aはチルダ付き)em condicoes(cはセディーユ付き、2つ目のoはチルダ付き)industriais 」-15th Brazilian Congress of Catalysis、2009)。
【0020】
明らかに、工業的適用の観点から、高表面積支持体、特に、θ-アルミナタイプの高表面積支持体、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム及び混合物での酸化ニッケル種の還元度を高める方法が望まれている。一次改質器の工業的条件下での触媒の還元が困難であることに関連する問題を最小化する技術的に可能な方法は、その予備還元、すなわち、その製造段階における触媒を還元処置に付し、その後、引火性の危険なしに安全に輸送できるように不動態化を行うことである。予備還元手順の採用により、一次改質器において、特に温度が低い管の上部セクションにおいて実施される工業的条件下で容易に還元可能なニッケルの含有量を多くすることが可能である。しかしながら、技術的には可能であるが、市販の予備還元水蒸気改質触媒がある場合、このタイプの手順の採用は、適切な設備を有するための固定投資の増加を意味し、最終製品のコストの増大につながる。
【0021】
水蒸気改質触媒を調製する観点から、異なる支持体、特に高表面積を有する支持体に適用され得るニッケルの還元の程度を制御する実用的な方法を有することが非常に望ましい。文献は、部分酸化プロセスにおける水素及び/又は合成ガスの生成のための担持ニッケル型触媒の配合物における第2の金属の使用を教示している。
【0022】
例えば、特許文献US7,223,354には、Cr、Mn、Mo、W、Sn、Re、Rh、Ru、Ir、La、Ce、Sm、Yb、Lu、Bi、Sb、In及びPの群から選択される少なくとも1つのプロモーターによって促進された酸化マグネシウムを有する固溶体中のニッケルをベースとする触媒を使用する、軽質炭化水素の部分酸化による合成ガスの製造のための触媒の発明が報告されている。
【0023】
文献は、水蒸気改質触媒配合物における活性金属又は活性プロモーターとしてのPt族金属の使用を教示している(Wei,J.,Iglesia,E.「Reaction Pathways and Site Requirements for the Activation and Chemical Conversion of Methane on Ru-Based Catalysts」,Journal Physical Chemistry B,v.108,pp.7253-7262,2004年4月、Rostrupnielsen,J.R.、Hansen,J.H.B.「CO2-Reforming of Methane over Transition Metals」,Journal of Catalyst,v.144,pp.38-49,1993年11月、Wei,J.,Iglesia,E.「Structural requirements and reaction pathways in methane activation and chemical catalyzed by rodium」,Journal of Catalysis,v.225,pp.116-127,2004年7月、及びWei,J.、Iglesia,E.「Isotopic and kinetic assessment of the mechanism of methane reforming and decomposition reactions on supported iridium catalysts 」,Physical Chemistry Chemical Physics,v.6,pp.3754-3759,2004、Nitz,M.,et al.「Structural Origin of the High Affinity of a Chemically Evolved Lanthanide-Binding Peptide」,Chemie International Edition,v.43,pp.3682-3685,2004年7月、及びWei,J.Iglesia,E.「Mechanism and Site Requirements for Activation and Chemical Conversion of Methane on Supported Pt Clusters and Turnover Rate Comparisons of Noble Metals」,Journal of Physical Chemistry B,v.108,pp.4094-4103,2004年3月)。しかしながら、Pt族金属を用いて製造された触媒は、ニッケルを用いて製造されたものよりもはるかに高価であるが、炭素を形成する傾向は低い。
【0024】
特許文献EP1,338,335には、酸化アルミナ及び酸化セリウムからなる支持体上に、01%(0.1%)w/w~20%w/wの含有量のコバルト又はニッケル、01%(0.1%)~8%w/wの含有量のPt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群から選ばれる成分からなる水蒸気改質触媒が記載されている。
【0025】
米国特許文献4,998,661には、アルミナ及びCa、Ba又はMrの群から選択される酸化物から構成される支持体上に酸化ニッケル、酸化コバルト又は酸化白金から選択される少なくとも1つの金属酸化物を含有する水蒸気改質触媒が記載される。
【0026】
特許文献US7,309,480には、支持体上にPt、Pd又はIrの群から選択される少なくとも1種の活性金属からなる水蒸気改質触媒が記載されている。しかしながら、触媒酸化ニッケル種の還元速度を増大させるための金属プロモーターの使用については言及されていない。
【0027】
当該文献では、耐火性支持体上のニッケル型水蒸気改質触媒に金属系プロモーターを使用することで、コークス含有量を低減する効果があることを教示している。
【0028】
特許文献US4,060,498では、コークスの形成を抑えるためのプロモーターとして、ニッケル系触媒100グラム当たり少なくとも2mgのレベルで銀を使用することが記載されている。
【0029】
US特許文献5,599,517であって、Ge、Sn及びPbからなる群から選択される金属を、ニッケル系触媒中の含有量がそれぞれ1%~5%、0.5%~3.5%及び0.5~1%(w/w)で、コークスの生成を低減するためのプロモーターとして使用することが記載されている。いずれの特許文献においても、金属はコークス形成の速度を低下させるプロモーターとして添加されており、触媒の活性を低下させる望ましくない効果を伴っている。
【0030】
特許文献WO2007/015620は、Ru又はPtを0.001%~1.0%w/wの範囲で含浸させたニッケル系水蒸気改質触媒を用い、予備還元工程を行わずに380~400℃の温度範囲で水蒸気改質活性を示すことができることを記載している。この発明によれば、頻繁な停止及び開始サイクルに供される小型水素製造ステーションにおける燃料電池で使用するための触媒は、水素又はアンモニアなどの還元剤供給のための補助設備の使用を省くという利点を有する。
【0031】
Ru及びPtなどの貴金属の価格が高いことを考慮すると、水蒸気改質触媒への使用が商業的に成功するためには、特に触媒を大量に使用する大型ユニットでは、その使用を厳密に必要なものだけに抑える必要がある。大型水蒸気改質ユニットでは、酸化ニッケル相の還元速度を増加させるためにプロモーター(助触媒、促進剤)を使用する必要があるのは、最低温度領域である反応器入口領域だけである。さらに、天然ガス(又はプロパン又はブタン)を原料とする水蒸気改質触媒と、ナフサを原料とする触媒との還元手順を区別する必要がある。工業的慣行及び商業的触媒製造業者の推奨によれば、反応器にナフサ供給物を導入する前に、還元剤(天然ガス、水素、アンモニア又はメタノールであり得る)の添加を伴う還元ステップを行うことが必須である。この還元工程は、大量に過剰となる蒸気の存在下で行われ、その目的は、非還元触媒上での蒸気及びナフサの直接供給によって生じるであろうコークスの急速かつ過剰な形成によって触媒の機能が低下することを防ぐことである。このように、ナフサを原料とする工業用水蒸気改質装置は、触媒還元の前工程及び必須工程の設備及び条件を有している。文献はまた、担持酸化ニッケル系触媒への貴金属の添加が、還元剤として乾燥H2を使用して酸化ニッケル種の金属ニッケルへの還元に有利であることを教示している(Nowak,E・J.Koros,R・M.「Activation of supported nickel oxide by platinum and palladium」,Journal of Catalysis,v.7,p50-56,1967年1月、及びLi,X.、Chang,J,S.,Park,S.E.「CO2 reforming of methane over zirconia-supported nickel catalysts,I.Catalytic specificity」,Reaction Kinetics Catalysis Letters,v.67,pp.375-381,1999年7月)。
【0032】
文献はまた、水蒸気の存在が担持酸化ニッケルの還元を妨げることを教示している(Richardson,J.T.、Lei,M.、Turk,B.、Forster,K.、Twigg,V.「Reduction of model steam reforming catalysts:NiO/α-Al2O3 」,Applied Catalysis A:General,v.10,pp.217-237,1994年3月,及びZielinski,J.「Effect of water on the reduction of nickel/alumina catalysts Catalyst characterization by temperature-programmed reduction」,Journal of Chemical Society,Farady Transactions,v.93,pp.3577-3580,1997)。
【0033】
文献PI0903348-3は、低い貴金属含有量が、特に高表面積支持体を使用する場合に、酸化ニッケル種の還元速度に対する水蒸気の悪影響を排除することができることを教示している。
【0034】
したがって、専門文献には、耐火性支持体上のニッケル系水蒸気改質触媒の調製における第2の金属の使用を伴うプロセスのいくつかの引用及び説明があるが、これらのプロセスは、水蒸気の存在下で、及び高表面積支持体を使用して調製された触媒を用いて、酸化ニッケル種の還元速度を加速するための第2の金属の使用を特徴付けていない。さらに、文献PI0903348-3は、水蒸気改質プロセス反応器の低温領域においてのみ、より具体的には反応器の上部セクションにおいて、好ましくは一次改質器の頂部から30%までの深さにおいて、促進触媒の使用を教示し、これは、プロセスに供給される原材料及び触媒を調製するために使用される支持体の種類に幅広く適用することができる。
【0035】
文献はまた、Ni/MgAl2O4及びNi/Al2O3触媒におけるプロモーターとして、コークス失活に対する耐性を高めるために金を使用することが示されている(Dan,M.ら、「Supported neckel catalysts for low temperature methane steam reforming:「Reaction Kinetics Mechanisms and Catalysis,v.105,pp.173-193,2012年2月、及びChin,Y.H.ら「Structure and reactivity investigations on supported bimetallic Au-Ni catalysts used for hydrocarbon stem reforming」,Journal of Catalysis, v.244,pp.153-162,2006年12月)。文献によれば、バイナリーNi-Au系は塊状の合金を形成せず、表面合金を形成するだけである。この合金において、金は、炭素形成に関与する部位(sites)をブロックする(Chin,Y.H.ら「Structure and reactivity investigations on supported bimetallic Au-Ni catalysts used for hydrocarbon steam reforming」,Journal of Catalysis,v.244,pp.153-162,2006年12月)。Ni-Au/Al2O3触媒は、550℃での水蒸気改質反応において、Ni/Al2O3触媒(X=75%)と比較してCH4転化率の10%の増加を示した(X=85%)。Au促進触媒の活性部位当たりの反応速度(ターンオーバー周波数-TOF)は、Ni/Al2O3触媒で得られたものと比較してわずかに高い値を示した(Dan,M.ら、「Supported nickel catalysts for low temperature methane steam reforming: Comparison between metal additives and support modification」Reaction Kinetics Mechanisms and Catalysis,v.105,pp.173-193,2012年2月)。文献は、Ni/MgAl2O4触媒における分散を改善し、コークス形成に対する耐性を高めるためのプロモーターとしてのLa、Rh及びBの使用を教示している(Ligthart,D.A.J.M.、Pieterse,J.A.Z.、Hensen,E.J.M.「The role of promoters for Ni catalysts in low temperature(membrane)steam methane reforming」,Applied Catalysis A General,v.405,pp.108-119,2011年10月)。ランタンは、金属分散を改善し、コークス形成を防止するので、プロモーターとして選択された。一方、ホウ素はバルク内の炭素拡散を抑制する。ロジウムは、コークス形成に対するその耐性及びメタンの水蒸気改質における高い活性のために選択された。
【0036】
コークスの形成に関して、文献は、ニッケル系触媒における1~2%(m/m)の範囲の濃度でのSn、Sb、Bi、Ag、Zn及びPbなどの添加剤の使用を教示している。これらの金属の添加はコークス堆積の低減に寄与し、提案された抑制メカニズムは、これらの金属のp又はd電子準位と3d電子との相互作用が、炭化ニッケル(コークス前駆体)の形成に関与する炭素(2p)-ニッケル(3d)結合の形成を防止することができるという仮説に基づいていた。Snを1.75%(m/m)添加した場合、水蒸気改質率とコークス形成率との比率が最良となった。Snで促進された触媒は、同様の反応条件下で、促進されていないNi触媒と比較して、はるかに高い活性及びより低いコークス形成率を示した(Trimm,D.L.「Catalysts for the control of coking during steam reforming」,Catalysis Today,v.49,pp.3-10,1999年2月)。
【0037】
また、n-ブタン水蒸気改質反応において、Mo(0.5%)、W(2.0%)、Ba(2.0%)、K(1.0%)及びCe(0.2%、0.5%、1.0%、2.0%)の酸化物によって促進されるニッケル/α-アルミナ触媒の使用も文献において教示されている。セリウムを添加した触媒は、プロモーターを伴わない触媒と比較して、金属面積及び活性の増加を呈することが観察された。他の金属で促進された触媒の場合、金属面積及び活性の両方が減少した。コークス形成の傾向に関して、K、Ba、Mo及びWで促進された触媒は、Ceで促進された触媒及びプロモーターなしで促進された触媒よりも緩やかな失活プロセスを示した。コークス失活に対する耐性に関しては、最良の結果は、0.5%のWO3又はMoO3の添加によって得られた(Armor,J.N.,「The Multiple Roles for Catalysis in the Production of H2」,Applied Catalysis A:General,v.21,pp.159-176,1999、Barelli,L.、Bidini,G.、Corradetti,A.、Desideri,U.「Production of hydrogen through the carbonation-calcination reaction applied to CH4/CO2 mixtures」,Energy,v.32,pp.834-843,2007年5月、Borowiecki,T、Golebiowski(eはセディーユ付き),A.、Ryczkowski,,J.、Stasinska,B.「The influence of promoters on the coking rate of nickel catalysts in the steam reforming of hydrocarbons」,Studies in Surface Science and Catalysis,v.119,pp.711、1998年、及びBorowiecki,T.、Golcebiowski,A.「Influence of molybdenum and tungsten additives on the properties of nickel steam reforming catalysts」,Catalysis Letters,v.25,pp.309-313,1994年9月)。
【0038】
メタン水蒸気改質反応のための2%までのモリブデンで促進されたNi/Al2O3触媒の使用もまた、文献において教示されている(Maluf,S.、Assaf,E.M.「Ni catalysts with Mo promoter for methane steam reforming」,Fuel,v.88,pp.1547-1553,2009年9月)。4に等しい水蒸気/炭素比で行われた反応は、全ての調製された触媒(0.00%、0.05%、0.5%、1.0%及び2.0%モリブデン)が高い活性及び安定性を示すことを示した。しかし、蒸気/炭素比を2.0に減少させると、0.00%、0.5%、1.0%、及び2.0%のモリブデンを含有する触媒は、約400分の反応後に失活を示し、0.05%のモリブデンで促進された触媒のみが、長期間(30時間を超える反応)にわたってコークス形成に対する安定性を示した。0.05%Moを含有する触媒の場合、このような挙動を示す理由は、モリブデン種及びニッケル種間の電子相互作用が発生する可能性があるためであると考えられる。この場合、MoOx種は、金属Niに電子を移動させる。この効果は、Ni部位の電子密度の増加をもたらし、利用可能な部位の数を減少させるが、それらをより活性にする。したがって、メタン脱水素反応は、より少ない割合で起こり、より少ない炭素生成量をもたらす。この場合、フィラメントの形態で形成される少量の炭素は、より容易にガス化されるであろう。モリブデンが多いと、MoOx種による活性Ni部位がブロックされ、これは、触媒表面上の「クラスター」の形成をもたらし、電子移動効率を低下させる可能性がある。
【0039】
上記で見られるように、活性、炭素形成に対する抵抗性を増加させ、また水蒸気改質プロセスの異なるチャージに対して同じ触媒を使用することを可能にするために、ニッケルを他の金属、特に貴金属と併用する可能性が広く研究されている。しかしながら、水蒸気改質触媒の配合物におけるRu及びPtなどの貴金属の使用は、(非常に少量で使用される)プロモーターの機能であっても、水素及び/又は合成ガスの製造コストに直接影響を及ぼす。したがって、より低い製造コスト、高い水熱安定性及びコークス形成に対する高い耐性を有する触媒の探索は、依然として克服すべき課題である。それにもかかわらず、非貴金属触媒については、失活及び炭素堆積が、新しい材料開発の主な障害になっている。
【0040】
これに関連して、本発明は、NiMoWタイプの活性系をベースとする、バルク形態の、又はアルミナ酸化物及び他の酸化物支持体上に担持された、コークスによる失活に対して高い耐性を有する新規な水蒸気改質触媒を教示する。この触媒は、石油化学プロセス(GTL、メタノールなど)で使用するための低いH2/CO比を有する合成ガスを得ることが望ましい場合、より低い水蒸気/炭素比で作業することを可能にするため、蒸気消費量が少ないという利点もある。さらに、その製造コストは、貴金属を含有する触媒と比較して低い。
【0041】
本触媒が低い蒸気/炭素比の条件で作動した場合、コークスの形成による失活に対する本触媒の高い耐性は、炭化/酸化機構を介して改質反応を促進する一定の能力を依然として維持するモリブデン及びタングステン炭化物の形成に関連し得る。このメカニズムは、乾式改質反応においてこれらの炭化物を使用する場合に文献において教示されている(Zhang,A.ら「In-situ synthesis of nickel modified molybdenum carbide catalyst for dry reforming of methane 」,Catalysis Communications,v.12,pp.803-807,2011年4月、Shi,C.ら「Ni-modified Mo2C Catalysis for methane dry reforming」,pplied CatalysisA:General,v.431-432,pp.164-170,2012年7月、York,A.P.E.,Claridge,J.B.,Brungs,A.J.,Tsang,S.C.及びGreen,M.L.H.(1997)「Molybdenum and Tungsten Carbides as Catalysts for the Conversion of Methane to Syngas using Stoichiometric Feedstocks」、Chemical Communications,pp.39-40,1997)。β-Mo2Cは、8バール(0.8MPa)の圧力及び847~947℃の範囲の温度の条件下で、表面上に炭素堆積を示すことなく、乾式改質、水蒸気改質及びメタンの合成ガスへの部分酸化において活性であった。炭化物の周期的酸化/再炭化メカニズムにおいて、Mo2CはCO2(CO2→CO+1/2O2)酸化(MoOx)の活性化に関与し、ニッケル(Ni0)はCH4(CH4→C(s)+2H2)の分解に関与する、その後、酸化モリブデンは、Ni0部位に堆積した炭素によって自己熱的に再炭化される(Zhang,A.ら「In-situ synthesis of nickel modified molybdenum carbide catalyst for dry reforming」,Catalysis Communications,v.12,pp.803-807,2011年4月、及びShi,C.ら,「Ni-modified Mo2C catals for methane dry reforming」,Applied Catalysis A:General,v.431-432,pp.164-170,2012年7月)。しかしながら、この場合、触媒が長いキャンペーン期間中に活性を維持し安定であるためには、CO2及びCH4の消費率が等しいことが必要である。
【0042】
このシナリオでは、本発明は、活性NiMoW相が炭化水素蒸気改質反応に対して高い活性を有し、ニッケルがメタンのH2及びC(複数可)への分解の主な原因であり、他の金属が触媒の活性及びコークス形成に対する抵抗性に対して相乗作用を有する触媒の製造を教示する。この場合、NiMoW触媒が低い蒸気/炭素比の条件下で動作するとき、モリブデン及びタングステン炭化物が形成されると考えられ、浸炭/酸化機構を介して改質反応を促進する一定の能力を依然として維持し、したがって、結果として生じるニッケル活性部位の炭素堆積による失活を軽減する。蒸気-炭素比が元のレベルに戻ると、触媒の脱炭が促進され、水蒸気改質プロセスに対する活性が高まると考えられる。文献WO2018/117339、WO00/42119、US2019/0126254及びBR1120180156159は、石油及び誘導体の水素化精製反応/プロセス(脱硫、水素化脱窒素、水素化分解など)ストリームのための硫化物形態で使用されるNiMoW触媒を調製する方法を教示している。水素化処理反応及びプロセスは、関与する反応物、生成物、動力学、熱力学及び反応機構の観点から、ならびにプロセス条件(とりわけ、温度、圧力、空間速度)の観点からの両方で、水蒸気改質反応とは全く異なる。本発明のような炭化水素の水蒸気改質から水素及び/又は合成ガスを生成するためのコークス失活に対する高い耐性を有するNiMoW触媒を開示する技術分野の文献は存在しない。
【0043】
本発明において、前例のない方法で、NiMoWo(硫化物ではない)のトリメタル形態は、炭化水素ストリームの水蒸気改質のプロセスにおいて直接使用される。本発明において、トリメタルNiMoW触媒は、パラタングステン酸塩及び/又はメタタングステン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム及び硝酸ニッケルの混合物のアンモニア性媒体中での共沈、3時間のリフロー(reflow)、熟成、乾燥及び焼成を介して調製される。
【0044】
市販の炭化水素の水蒸気改質触媒は、熱水及びコークス失活に対する耐性が低いため、水素及び合成ガス生成ユニットのキャンペーン時間の短縮につながり、CAPEXの増加及びより頻繁な生産停止を招くことになる。
【0045】
水素生成ユニットのキャンペーン時間を増大させ、したがって水素及び合成ガスを生成するコストを低減するために、本発明は、水素及び/又は合成ガスの製造のための水蒸気改質炭化水素ストリーム(天然ガス、精製ガス、プロパン、ブタン又はナフサ、又はそれらの混合物)にニッケル、モリブデン及びタングステンをベースとする触媒を提案し、炭素堆積(コークス)による失活に対する高い耐性を有する触媒を提案するものである。本発明によれば、改質プロセスのための触媒は、バルク形態、及び/又はアルミナ酸化物及び他の高表面積酸化物支持体上に担持されたNiMoWをその活性相として有し、他のプロモーターを含有してもよい。本発明は、NiMoWの活性相が炭化水素の水蒸気改質反応に対して高い活性を有する触媒の製造を教示し、ニッケルはメタンのH2とC(複数可)の分解を主に担い、他の金属は触媒の活性及びコークス形成に対する抵抗性を考慮すると相乗的な作用を有することを示す。
【0046】
本発明によれば、触媒は、水蒸気改質プロセスによる水素又は合成ガスの生成のための大容量の工業ユニットにおける使用に特に適しており、また、触媒床全体又は反応器の上半分、好ましくは反応器の30%上方の領域で、コークスによる失活に対する高い抵抗性を呈し、キャンペーン時間を増加させ、合成ガス及び/又は水素の生産コストを最小にするために使用することができる。
【0047】
本発明はまた、ニッケルを貴金属で置換せず(触媒製造の低コストをもたらす)、低い蒸気/炭素比での運転を可能にし、コークス形成による失活プロセスに対するより大きな耐性を提示し、したがって水素及び合成ガス生成ユニットのキャンペーン時間の延長に寄与するため、さらなる経済的利益を提示する。
【0048】
さらに、本発明の触媒の失活に対するより大きな耐性は、より大きな操作リスクを伴う在庫交換操作の頻度を減らすことができる。その結果、固体廃棄物(重金属)の生成が少なくなり、使用済み触媒の廃棄に関連するコストが低くなる。
【0049】
本発明の触媒の別のさらなる利点は、Mo2C及びWC炭化物などの活性相の形成により、高濃度のCO2(70%までの範囲)を有する天然ガス、例えば、プレソルト及び高レベルのCO2を含有する他の炭化水素ストリームからの天然ガスを、従来使用されていたものに比べて少ない量の水蒸気を使用して、水蒸気改質チャージとして使用することができる点である。また、硫黄被毒による失活に対するより高い耐性も予想される。
【発明の概要】
【0050】
本発明は、水素及び/又は合成ガスの生成のための炭化水素の水蒸気改質触媒(天然ガス、精製ガス、プロパン、ブタン又はナフサ、又はそれらの混合物)において、炭素の堆積(コークス)による失活(deactivation、不活性化)に対する高い耐性を実現することを目的とする。この触媒はまた、従来の触媒よりも低い蒸気/炭素比でも失活することなく、またCO2を多く含む流体(最大70%)でも使用することを可能にする。水蒸気改質プロセスのための触媒は、NiMoWをベースとし、バルク形態及び/又はアルミナ酸化物及び高表面積の他の酸化物支持体(oxide supports)上に担持される。したがって、本発明は、有利なことには、ニッケルを貴金属で置換せず、より低い水蒸気/炭素比での運転を可能にし、かつ、技術水準によれば、ニッケルのみをベースとする触媒よりもコークス形成による失活プロセスに対して大きな耐性を呈するので、合成ガス及び/又は水素の製造コストを最小限に抑えることが可能であるという経済的利益がある。
【0051】
本発明は、添付の図面を参照して以下により詳細に説明され、添付の図面は、本発明の範囲の非限定的な方法で、その実施形態の実施例を表す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】850℃の温度及び20バール(2MPa)でのメタンの水蒸気改質反応における転化率の時間依存性グラフであり、触媒の活性は、まず蒸気/炭素比3、GHSV36000h
-1(ベースライン)を用いて測定し、失活工程中、蒸気/炭素比を1.0に低下させ、他の反応条件を維持したグラフである。
【
図2】実施例1及び2のXRD結果を示す図である。
【
図3】NiMoW触媒(300℃で焼成)の走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真であり、それぞれ2000倍、10000倍及び20000倍の倍率で示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
よりよく理解され評価され得るように、水素生成プロセス及び/又は合成ガス生成に使用するための、コークスによる失活に対して高い耐性を有するNiMoWトリメタル触媒及びその生成プロセスと、炭化水素の水蒸気改質により水素及び/又は合成ガスを生成するために前記触媒を使用するプロセスとの両方が、ここで詳細に説明される。
【0054】
本発明は、水素及び/又は合成ガスの生成のために、水蒸気の存在下及び酸素の非存在下で炭化水素を改質するプロセスにおいて使用される触媒に関し、
炭化水素ストリームは、天然ガス、精製ガス、プロパン、ブタン又はナフサ、又はこれらの混合物であり、低い蒸気/炭素比で作動するのに特に適しており、炭素堆積によって失活する傾向が低いことを特徴とするものである。
【0055】
本発明は、20~150m2/gの表面積を有するトリメタルNiMoW触媒の調製に関する。形成されたアンモニア前駆体は、例えばアルミナ、特に「アルファ」及び「θ-アルミナ」のアルミナの群、アルミン酸カルシウム又はアルミン酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、ランタン又はセリウム、ヘキサ-アルミネート、チタニア又はこれらの混合物に属する耐火性支持体上に、任意の割合で担持させることもでき、これはアルカリ金属、好ましくはカリウムを0.2%~15%、好ましくは0.5%~6%w/w(K2Oとして表される)の含量で、さらに含有することができる。耐火性支持体の表面積は、15m2/gより大きくなければならず、より好ましくは20m2/g~100m2/gでなければならない。耐火性支持体及び/又はバルク形態の酸化物触媒の粒子は、水蒸気改質プロセスにおける工業的使用に適していると考えられる最も多様な形態であり得、これらは、球状、中心に孔を有する円筒形(ラッシングリング)及びいくつかの孔を有する円筒形、好ましくは4、6、7又は10個の孔を有するものから選択され、また、円筒表面は波状であってもよい。支持体及び/又はバルク触媒粒子は、好ましくは直径13mm~20mm及び高さ10mm~20mmの範囲であり、最小壁厚は2mm~8mm、好ましくは3mm~6mmである。
【0056】
担持されたバルクトリメタルNiMoW触媒は、パラタングステン酸塩及び/又はメタタングステン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム及び硝酸ニッケルの混合物のアンモニア性媒体(NH4OH)中での共沈、3時間のリフロー、熟成、乾燥及び焼成を介して調製される。
【0057】
より具体的には、バルク又は担持形態のNiMoWのトリメタル酸化物をベースとする触媒を調製するプロセスは、以下のステップに従う。
1) アンモニア性媒体中の、好ましくはパラタングステン酸塩及び/又はメタタングステン酸塩の形態の、タングステンの可溶性塩の溶液、好ましくは水性溶液を調製する。
2) ニッケル塩及びモリブデン塩を、好ましくは硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びアンモニア性化合物及び/又は錯体の群のものを含む溶液、好ましくは水性溶液を調製する。
3) 両方の溶液を混合し、形成された沈殿物をNH4OH溶液で再溶解する。
4) pHが5~8の値に達するまで溶液を2~10時間リフローし、撹拌下、室温で5~24時間、懸濁液中のNiMoW-NH4沈殿物がゆっくりと形成され及び成長するのを待つ。
5) NiMoW-NH4沈殿物を80~120℃の温度で1~24時間乾燥させ、200~650℃の温度で1~8時間、好ましくは200~350℃で焼成する。
6) ステップ3で形成されたトリメタル前駆体の無機酸化物支持体、好ましくはアルミナ又はアルミン酸カルシウム又はアルミン酸マグネシウム又はこれらの混合物への含浸は、細孔容積技術(湿潤スポット)を使用することによって、とりわけ過剰溶液法、沈殿法などによって行うことができる。
7) あるいは、無機支持体上にトリメタル前駆体を含浸させ、その後乾燥させ、焼成する工程は、無機支持体上の酸化物の所望の含有量が得られるまで繰り返すことができる。無機支持体上のトリメタル前駆体の割合は、5%~35%(w/w)、好ましくは12%~20%(w/w)で変動し得る。
8) あるいは、触媒の焼成(工程5)は、300~800℃の温度条件下で1~24時間、水素、ホルムアルデヒド又はメタノールから選択される還元剤の流れを直接還元し、続いて20~60℃の温度で1~5時間、空気流によって冷却することにより、触媒が取り扱い時に発火することを防ぐために置き換えることが可能である。
【0058】
さらに、pH制御、溶解度増加、又は溶液成分の沈殿を制御するための化合物を、生成された水溶液中の添加剤として含めることができる。これらの化合物の非限定的な例としては、硝酸、硫酸、リン酸、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニア、過酸化水素(H2O2)、メタノール、エタノール、糖類など、又はこれらの化合物の組み合わせが挙げられる。
【0059】
このように調製された触媒は、工業的使用の前に、酸化ニッケル相を金属ニッケルに還元することによって活性化される必要がある。活性化は、好ましくは、改質器の始動手順中に工業ユニットにおいて「in-situ」で行われ、反応器の上部では400℃~550℃、出口では750℃~850℃の間で変化する温度で、蒸気の存在下で天然ガス、水素、アンモニア又はメタノールから選択された還元剤を通過させる。活性化工程の圧力は、1kgf/cm2(98.1kPa)からユニットの最大設計圧力までで選択することができる。還元工程の持続時間は1~15時間、好ましくは2~6時間であり、その終了は、従来確立されている工業的慣行に従って、活性化工程において天然ガスと蒸気との混合物を使用する場合、管の壁面温度によって、又は反応器流出物中のメタン含有量によって示される。触媒の「in situ」活性化工程は、以下のように実施される。
a) 窒素流の有無にかかわらず、触媒を含有する改質器を、活性化プロセスを実施するために選択された圧力で水蒸気の露点より約50℃高い温度に加熱し、この時点で反応器に水蒸気を導入する。
b) 一次改質器を加熱しながら、天然ガス、水素、アンモニア又はメタノールなどの還元剤を水蒸気と共に改質器の管に通すことによって、活性化手順を開始し、
管の入口でのプロセスガス温度は400℃~550℃であり、出口温度は750℃~850℃、圧力範囲が1kgf/cm2(98.1kPa)からユニットの最大設計圧力(典型的には最大40kgf/cm2(3.923MPa))までの範囲の圧力となるようにする。
c) 1~15時間、好ましくは2~6時間、又は反応器流出ガス中のメタン含有量が、活性化プロセスの終了を示す最小レベルで安定するまで、運転を維持する。
d) 水素生成プロセスを開始するために、炭化水素供給物を導入し、運転条件(蒸気/チャージ比、再循環/チャージ水素比、改質器入口及び出口の温度及び圧力)を調整する。
【0060】
このように調製された触媒は、炭化水素の水蒸気改質プロセスによる水素及び/又は合成ガスの生成に使用することができ、圧力は1kgf/cm2(98.1kPa)~50kgf/cm2(4.903MPa)の範囲、温度は400℃~850℃で、これらのプロセスは、合成ガス(CO、CO2、H2及びメタン)の生成のための炭化水素及び水蒸気反応工程の存在を特徴とする。
【0061】
この目的に適した炭化水素は、天然ガス、精製ガス、液化石油ガス(LPG)、プロパン、ブタン又はナフサ、又はこれらの混合物である。典型的には、水素及び/又は合成ガス生成期間の定常運転条件は、以下を含む。
1. 一次改質器の処理ガスで測定した管状反応器の入口温度は400℃~600℃である。
2. 一次改質器のプロセスガス中で測定される管状反応器の出口温度は、700℃~900℃、好ましくは750℃~850℃である。
3. 一次改質器の管状反応器の出口圧力は、1kgf/cm2(98.1kPa)~50kgf/cm2(4.903MPa)、好ましくは10kgf/cm2(0.981MPa)~30kgf/cm2(2.942MPa)である。
4. 天然ガス、プロパン、ブタン及びLPGからなる装入物を使用する場合、蒸気/炭素比(mol/mol)は1.5~5.0、好ましくは2.5~3.5である。
5. ナフサを含む炭化水素チャージを使用する場合、蒸気/炭素比(mol/mol)は2.5~6.0、好ましくは2.6~4.0である。
【0062】
図1は、メタン水蒸気改質反応について、トリメタルNiMoW触媒の安定性を、文献に伝統的に見出される触媒配合物及び市販の触媒(Benchmark)との関係で比較するための、温度850℃及び20バール(2MPa)での、メタン転化率の時間関数グラフを示す。試験した各種触媒の活性は、まず蒸気/炭素比3,及びGHSV36000h
-1(ベースライン)を用いて測定された。失活工程では、蒸気/炭素比を1.0に下げ、他の反応条件を維持した。失活工程の間、0.1%のRh、Pt及びPdで促進されたNiMo酸化物を含有する反応器の圧力降下の増加が観察された。市販の参照触媒(1G SR CENPES-Benchmark)でも圧力低下を示した。上記の触媒を含有する反応器床で観察された大きな圧力低下は、これらの運転の中断をもたらした。トリメタルNiMoW触媒(バルク形態で2回テストした)は、コークス失活プロセスに対してより大きな耐性を示し、水蒸気/炭素比をベースラインに戻したときに活性の急速な回復を示した。バイメタルNiMo触媒はまた、蒸気/炭素比の増加と共に活性の良好な回復を示した。
【0063】
実施例
以下の実施例は、本発明の触媒のコークス失活に対する高い耐性を例示するが、しかしながら、その内容を限定するものとみなされるものではない。
【0064】
実施例1
この実施例は、バルクベースのNiMoWトリメタル触媒の調製を示す。タングステン含有溶液(溶液A)を最初に500mLビーカー中で調製した。9.6753gのパラタングステン酸アンモニウム、150mlのNH
4OH(30~32%w/w)及び150mlのH
2Oを添加した。最初に形成された懸濁液(pH=13)を80℃で1時間撹拌下に保ち、パラタングステン酸塩がメタタングステン酸塩へ変化した結果、透明な溶液(pH=9.8)が得られた。ニッケル及びモリブデン酸塩を含有する溶液(溶液B)を100mLビーカー中で調製した。21.5122gの硝酸ニッケル及び30mlのH
2Oを添加した。室温(25℃)で5分間撹拌し続けた。次いで、6.5432gのモリブデン酸アンモニウムを添加した。これを室温(25℃)で5分間撹拌し続け、pHが3.5に近い緑色の透明な溶液を得た。溶液(A)及び(B)を単一のビーカー中で混合した。混合中、シアン色の沈殿物の形成が観察された。その後すぐに、120mLのNH
4OHを添加し、最初に形成された沈殿物を再溶解し、透明なメチレンブルー溶液(pH=10.7)を得た。次いで、混合物を2つ口フラスコ(1L)に移した。これをシリコンバス中で約3時間リフローしながら撹拌加熱し、そのpH及び温度を30分毎に測定した。pH値は、室温に近い温度で、定期的に5mLのアリコートを取り出して測定した。3時間後、リフローシステムを取り出した。約1.5時間の反応後、沈殿過程に起因する濁りと色の変化(青色からシアン色)が観察された。反応混合物が7に近いpH(pH=7.3)に達した時点で、加熱を停止した。混合物を約15時間攪拌下に保ち、懸濁したNiMoW-NH
4沈殿物のゆっくりとした形成と成長を促進させた。濾過は、室温、真空下、定量濾紙を用いて、バンカー漏斗で行った。濾液(洗浄なし)を120℃のオーブン中で約24時間乾燥させ、プロセスの終了時に14.4gのNiMoW-NH
4前駆体の質量を得た。
図2は、X線回折法(XRD)による前駆体(実施例01)中に存在する結晶相の特徴付けの結果を示す。化学組成は蛍光X線(XRF)によって得られ、モル比Ni/(Mo+W)は2.6であり、モル比Mo/Wは0.6であることが観察された。この前駆体は、120℃で乾燥させ、次いで300℃で焼成した場合、65m
2/gのBET面積及び25Å(A)の平均細孔径を示した。300℃で焼成された前駆体をX線回折法で分析した結果、NiMoWは結晶性が低い(微結晶又はほぼ非晶質)であることが分かった。
【0065】
金属酸化物(NiO、MoO
3及びWO
3)の偏析相の存在も観察されなかった。
図3に示す、300℃で焼成した試料の走査型電子顕微鏡(SEM)結果は、バルク触媒は板状(ラメラ)であり、規則的(長方形)及び不規則(丸い)幾何学的形状を呈しており、異なる粒子径を有していることがわかる。
【0066】
例2
本発明によるこの実施例は、バルクベースのNiMoWトリメタル触媒の調製を示す。タングステン含有溶液(溶液A)を最初に500mLビーカー中で調製した。4.80gのパラタングステン酸アンモニウム、75mlのNH
4OH(30~32%m/m)及び75mlのH
2Oを添加した。最初に形成した懸濁液(pH=13)を80~90℃の温度で攪拌下に2時間保持し、パラタングステン酸塩がメタタングステン酸塩へ変化した結果、透明な溶液(pH=9.8)が得られた。ニッケル及びモリブデン酸塩を含有する溶液(溶液B)を100mLビーカー中で調製した。10.80gの硝酸ニッケル及び15mlのH
2Oを添加した。室温(25℃)で5分間撹拌し続けた。次いで、3.3gのモリブデン酸アンモニウムを添加した。これを室温(25℃)で5分間撹拌し続け、pHが3.5に近い緑色の透明な溶液を得た。溶液(A)及び(B)を単一のビーカー中で混合した。混合中、シアン色の沈殿物の形成が観察された。その後すぐに、50mLのNH
4OHを添加し、最初に形成された沈殿物を再溶解し、透明なメチレンブルー溶液(pH=10.0)を得た。次いで、混合物を2つ口フラスコ(1L)に移した。これをシリコンバス中で約3時間リフローしながら撹拌加熱し、そのpH及び温度を30分毎に測定した。pH値の測定は、室温に近い温度で、定期的に5mLのアリコートを取り出して行った。3時間後、リフローシステムを取り出した。約1.5時間の反応後、沈殿過程に起因する濁り及び色の変化(青色からシアン色へ)が観察された。反応混合物がpH=7に達した時点で、加熱を停止した。混合物を約15時間撹拌し、懸濁したNiMoW-NH
4沈殿物のゆっくりとした形成及び成長を促進した。濾過は、室温、真空下、定量濾紙を用いて、バンカー漏斗で行った。濾液(洗浄なし)を120℃のオーブンで約24時間乾燥させ、プロセスの終了時に9gの質量のNiMoW-NH
4前駆体を得た。
図2は、X線回折(XRD)による前駆体(実施例01)中に存在する結晶相の特徴付け(characterization)の結果を示す。化学組成は蛍光X線(FRX)によって得られ、Ni/(Mo+W)モル比は2.0であり、Mo/Wモル比は1.1であった。実施例1及び2の前駆体には、120℃で乾燥されたNiMoW-NH
4は、N
2の流れにおいて、300℃での焼成中に分解する熱不安定相(Mo及びWのオキシアンモニア水酸化物)が存在する。
【0067】
例3:
本発明によるこの実施例は、溶液(A)及び(B)を単一ビーカー中で混合し、50mLのNH4OHで再溶解し、1リットルの二重首フラスコに移すところまで、実施例2と同様の方法でトリメタルNiMoW触媒の調製を説明する。この時点で、共溶媒としてエタノール20mLを加え、シリコンバスで、リフロー下、約3時間、攪拌加熱下に保ち、30分毎にそのpHと温度を測定した。pH値の測定は、室温に近い温度で、定期的に5mLのアリコートを取り出して行った。3時間後、リフローシステムを取り出した。約1.5時間の反応後、沈殿過程に起因する濁り及び色の変化(青色からシアン色へ)が観察された。反応混合物がpH=7に達した時点で、加熱を停止した。混合物を約15時間撹拌し、懸濁したNiMoW-NH4沈殿物のゆっくりとした形成及び成長を促進した。濾過は、室温、真空下、定量濾紙を用いて、バンカー漏斗で行った。濾液(洗浄なし)を120℃のオーブンで約24時間乾燥させ、プロセスの終了時に9gの質量のNiMoW-NH4前駆体を得た。
【0068】
例4:
本発明による実施例は、溶液(A)及び(B)を単一ビーカー中で混合し、50mLのNH4OHを再溶解し、1リットルの二重首フラスコに移すところまで、実施例2と同様の方法でNiMoWトリメタル酸化物をベースとする触媒の調製を説明する。この時点で、100グラムのθ-アルミナ(Axens社製のSPH 508Fは、直径3~4mmの球状で0.7cm3/gの細孔容積を有する)をフラスコに添加した。この混合物全体を攪拌加熱しながら、シリコンバスで、リフロー下で約3時間保持し、そのpH及び温度を30分毎に測定した。pH値は、室温に近い温度で、定期的に5mLのアリコートを取り出して測定した。3時間後、リフローシステムを取り出した。約1.5時間の反応後、沈殿過程に起因する濁りと色の変化(青色からシアン色)が観察された。反応混合物がpH=7に達した時点で、加熱を停止した。混合物を約15時間撹拌し、懸濁したNiMoW-NH4沈殿物のゆっくりとした形成及び成長を促進した。室温で、真空下、定量濾紙を使って、バンカー漏斗で濾過を行った。濾液(洗浄なし)を120℃のオーブンで約24時間乾燥させ、プロセスの終わりに、θ-アルミナに含浸されたNiMoW-NH4前駆体を得た。
【0069】
例5:
この実施例は、本発明の触媒が工業的使用に特に適しており、運転条件下で、又は低温でさえ活性化され得ることを示す。試験は、同時に16個までの触媒を評価することができる多目的コンビナトリアル触媒ユニットにおいて、同じプロセス条件下で、及び/又は各マイクロリアクターの条件を独立して変化させながら実施した。試験は、140メッシュ以下の粒度分布を有する粉末の形態で700mgの実施例2からの触媒を用いて実施した。触媒試験では、それぞれ0.1%のRh、Pt及びPdを含むNi
0.2MoO
xバイメタル酸化物及び促進されたNi
0.2MoO
xバイメタル酸化物も評価した。全ての試料は、実験室で同じ粒度に調製された。本発明の利点を比較するために、コークス失活に対して高い耐性を有する市販のニッケル系触媒700mg(Benchmark)も評価した。バイメタル及びトリメタル酸化物の活性化反応は、水素を用いて400℃で、1.5℃/分の加熱速度で行い、この状態で4時間維持した。この段階の終わりに、1.5℃/分の速度で温度を500℃まで上昇させた。市販の触媒を、1.5℃/分の加熱速度を用いて205℃の温度まで上昇させ、水素で活性化した。この温度で、水蒸気を6~10mol/molの範囲の水蒸気:水素比に達するまで導入し、水蒸気と水素の流量を維持しながら、温度を1.5℃/分の速度で750℃まで上昇させた。反応器をこの状態で6時間維持して還元を完了させた。触媒試験のために確立された条件は、圧力20バール(2MPa)g、温度850℃、蒸気/CH
4比3mol/mol、H
2/CH
4比0.05mol/mol及びGHSV36000h
-1である。反応器からの流出ガスを、熱伝導率検出器(TCD)を使用するガスクロマトグラフィーによって分析した。活性をメタン変換の程度によって測定した。コークス化(coking)による失活工程は、水蒸気/炭素比を3mol/molから1mol/molに下げ、他の反応条件を一定に保つことにより行った。失活工程の後、蒸気/炭素比を増加させることによって初期試験条件を再確立した。
図1は、様々な触媒について、温度850℃及び圧力20バール(2MPa)でのメタン蒸気改質反応についてのメタン転化率の時間関数グラフを示す。失活工程の間、0.1%のRh、Pt、及びPdで促進されたNiMo酸化物を含有する反応器の圧力降下の大幅な増加が観察され、流れの減少及びシステムの目詰まりを生じた。市販の参照触媒はまた、高い圧力降下を示し、この運転を継続することを不可能にした。トリメタルNiMoW触媒(バルク形態で複製して試験した)は、コークスによる失活に対してより大きな耐性を示し、初期試験条件が回復したときに活性の急速な回復を示した(水蒸気/炭素比3)。促進されていないNiMo酸化物バイメタル触媒はまた、蒸気/炭素比の増加と共に活性の良好な回復を示した。
【0070】
実施例5は、本発明の触媒が、長期間厳しいコーキング条件にさらされた後でも、高いレベルの転化率に戻り、先行技術に基づくものより優れたコークスによる失活に対する耐性を有することを示している。
【0071】
結果は、本発明が上記に列挙した所望の目的を有利に達成することを明確に実証する。しかしながら、そのような例は、単なる例示であり、本明細書に記載される発明概念に対する限定を構成するものではないことは明らかである。当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、当該の事項に適切かつ適合する変形、修正、変更、適合及び等価物を想定及び実施することができるであろう。
【0072】
要するに、本発明によれば、コークスの堆積による触媒の失活を低減する技術的解決策は、結果として圧力降下の低減及びH2及び合成ガスの生成ユニットのキャンペーン時間の増大を伴い、ニッケル、モリブデン及びタングステンをベースとする触媒によって行われる。記載される触媒は、水蒸気改質プロセスによる水素又は合成ガスの生成のための大容量を有する工業ユニットにおける使用に特に適しており、コークスによる失活に対するその高い耐性のため、触媒床全体において、又は反応器の上半分において、又は好ましくは反応器の上30%の領域において使用することができる。したがって、本発明の触媒は、有利なことには、より低い蒸気/炭素モル比でのユニットの操作を通して、その組成物中に貴金属を使用しないこと、及びプロセスのエネルギー消費を低減することの経済的利益をもたらし、これは、最新技術のニッケル系触媒と比較して、コークス形成に対するそのより高い耐性により可能である。これらの経済的利点は、合成ガス及び/又は水素の製造コストの低減を意味する。
【国際調査報告】