(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】鶏卵卵白からのタンパク質の新規精製方法とSARS-COV-2に対する抗ウイルス剤としての使用法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/36 20060101AFI20230711BHJP
C07K 14/465 20060101ALI20230711BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230711BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20230711BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230711BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230711BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230711BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20230711BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20230711BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20230711BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20230711BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230711BHJP
C07K 1/20 20060101ALN20230711BHJP
C07K 1/22 20060101ALN20230711BHJP
C07K 1/36 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
C12N9/36
C07K14/465
A61P31/14
A61K38/46
A61P43/00 121
A61K31/4706
A61K39/395 S
A61K38/13
A61K31/436
A61K31/4965
A61K31/53
A61K38/16
C07K1/20
C07K1/22
C07K1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022569195
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 IB2021053999
(87)【国際公開番号】W WO2021229430
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】102020000016663
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522442227
【氏名又は名称】バイオセウティカ ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】BIOSEUTICA BV
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ、 ヴァレリオ マリア
(72)【発明者】
【氏名】バッジオ、 マリア カーラ
(72)【発明者】
【氏名】グリセンティ、 パリデ
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050FF11E
4B050FF14E
4B050HH03
4B050JJ03
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4C086MA60
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4H045AA10
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4H045DA89
4H045EA29
4H045FA71
4H045GA25
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】鶏卵白からのタンパク質の精製とSARS-COV-2に対する抗ウイルス剤としての使用方法を提供する。
【解決手段】本発明は、鶏卵白(HEW)からリゾチーム塩酸塩を高い化学純度で製造するための新規方法、および任意に他の抗ウイルス剤および/または免疫抑制剤およびオボトランスフェリンと組み合わせた、SARS-CoV-2に対する前記抗ウイルス剤の使用について説明するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏卵白からリゾチーム塩酸塩を精製する方法であって、
a)原液の鶏卵白(HEW)から弱酸性カチオン樹脂を用い、攪拌下で粗リゾチーム塩基を単離し、その後、生理食塩水で処理する工程、
b)リゾチーム塩酸塩の粗溶液を調製する工程、
c)無機塩類を除去する工程、
d)ウイルスの不活性化/抗ウイルス剤の活性化をする工程、
e)スプレードライ法により非晶質リゾチーム塩酸塩を分離する工程、
f)工程e)で得られたリゾチーム塩酸塩を熱処理する工程、
を含む方法。
【請求項2】
工程a)において、pH7.0~9.0に事前調整された、粒径範囲300~1600μmの弱酸性ポリアクリルマクロポーラスカチオニック樹脂が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、炭酸ナトリウムの15%w/w水溶液でpHを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)において、原液のHEWと樹脂との相対比が8~12l/lの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程a)において、樹脂を最大60rpmの攪拌速度および25℃から40℃の範囲の温度で攪拌下に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、弱酸性カチオン性樹脂がピューロライト
(R)C106EPまたは同等品であり、総容量≧2.7eq/lである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、樹脂を25~40℃、好ましくは30~35℃の範囲の温度で2~7%NaCl溶液で処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程b)において、工程a)で溶出したNaClの水溶液を、0~8℃の範囲の温度で4~24時間、最終pH値が10~11の間に達するまで水性無機塩基で処理して、まずろ過によって回収し、次に最終pHが2.5~3.5の範囲になるまで塩酸の水溶液に溶解してリゾチーム塩基を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程b)の水性無機塩基が水酸化ナトリウムの4~8%w/v水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程b)において、粗リゾチーム塩基を、HEWの初期量に対して1/30~1/60v/vの範囲の相対比で脱塩水中に分散させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程c)において、粗リゾチーム塩酸塩溶液を、2~8%塩酸水溶液を用いて、最終pH3.0~4.0の範囲に調整し、限外ろ過および/または透析ろ過により無機塩を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程c)が、10kダルトンのカットオフを有する限外ろ過膜および透析ろ過膜を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程d)において、限外濾過/透析ろ過水溶液を任意に40℃~100℃の範囲の温度で最大7日間、好ましくは90℃で2~6分間加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程f)において、工程e)で得られた粉末に対して、任意に、40℃~100℃の範囲の温度で最大7日間、好ましくは74℃で1時間又は99℃で40分間、リゾチーム塩酸塩の熱処理を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
加熱処理したリゾチームが、処理終了時に不変のクロマトグラフィー純度および酵素活性を示す(±1.0%)、請求項13および14に記載の方法。
【請求項16】
工程e)において、工程c)またはd)で得られた溶液を40℃で加熱し、スプレードライヤーで処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
工程e)において、脱溶媒室の温度が160~220℃の範囲にあり、純粋な非晶質リゾチーム塩酸塩を提供する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
SARS-CoV-2に対する抗ウイルス剤として使用するための、請求項1~17に記載の方法により得られるリゾチーム塩酸塩。
【請求項19】
クロロキン、ファビラビル、レムデシビル、アビガン、トシリズマブ、シクロスポリンA、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ミコフェノール酸モフェチル及びピメクロリムスから選ばれる抗ウイルス剤及び/又は免疫抑制剤と組み合わせて用いる、請求項18による使用のためのリゾチーム塩酸塩。
【請求項20】
オボトランスフェリンと組み合わせて用いる、請求項19に記載の使用のためのリゾチーム塩酸塩。
【請求項21】
SARS-CoV-2の予防及び治療のための、経口、局所、吸入、注射、静脈内、胃腸内、腹腔内、胸膜内、気管支内、鼻腔内又は直腸用の医薬組成物であって、抗ウイルス有効量のリゾチーム塩酸塩、任意でオボトランスフェリンと適切な担体及び/又は賦形剤との組み合わせを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏卵白(HEW)からリゾチーム塩酸塩を高い化学純度で製造するための新規プロセス、および任意に他の抗ウイルス剤および/または免疫抑制剤およびオボトランスフェリンと組み合わせた、SARS-CoV-2に対する前記抗ウイルス剤の使用について開示している。
【背景技術】
【0002】
HEWのタンパク質組成は、まだ十分に解明されていない。卵白に含まれるタンパク質の混合物は特に複雑で、分子量が非常に異なるため(12.7x103から240x106ダルトンの範囲)、分析上の特殊な問題がある。卵白におけるそれらの濃度も大きく異なり、オボアルブミンはもっとも豊富なタンパク質である。プロテオミクス技術は、HEWの解析に応用され、前記タンパク質組成の同定・定量に用いられてきた。HEWに存在する全タンパク質の約50%を占めるオボアルブミンのほか、オボトランスフェリン、オボムコイド、アビジン、リゾチーム、オボグロブリンが代表的なタンパク質である。具体的には、リゾチームとオボトランスフェリンがHEWに存在する全タンパク質のそれぞれ3.5%と12-13%を占めている(J.Agric.Food Chem,2001,49,4553-456)。
【0003】
リゾチーム(別名ムラミダーゼ)は、抗生物質および抗ウイルス作用を有する粘液溶解酵素であり、Alexander Flemingによって初めて発見された(Proc.Roy.Soc.London 93B,306(1922))。リゾチームは自然界にも広く存在し、HEWだけでなく、涙、鼻粘液、牛乳、唾液、血清、脊椎動物、無脊椎動物を問わず様々な動物の組織や分泌物、カビの一部、植物の乳液にも含まれる。リゾチームはその起源が異なるため、細菌細胞壁の主要ポリマーであるペプチドグリカンのN-アセチルムラム酸とN-アセチルグルコサミン間のグリコシドβ-(1,4)結合を切断するという共通の特徴を持つ、異なるタイプのものが同定されている。前記加水分解酵素は、グリコシラーゼファミリーに属し、Enzyme Commission(EC)により3.2.1.17の番号で同定されるものである。HEWリゾチームは分子量約14,836ダルトンで、その一次、二次、三次構造は1963年に完全に明らかにされた(Canfield,R.E.ら、Journal of Biological Chemistry,240(5),997-2002;Blake CCFら、Nature,196,1173,1962)。
【0004】
オボトランスフェリン(別名コンアルブミン)は、HEWに存在するタンパク質で、1900年に初めて記載され(Osborne,Campbell,J.Am.Chem.Soc.22,422(1900);卵白に存在する他のタンパク質からその精製は、1940年に初めて報告された(Longworthら、Ibid.62,2580(1940))。鶏のオボトランスフェリンの一次構造、およびその精製、特性、鉄イオン結合特性は1982年から知られている(J.Williamsら、Eur.J.Biochem.122,297(1982);w.m.Keungら、J.ビオールケム257,1177,1184(1982))。前記タンパク質は、約76,000ダルトンの分子量を有し、抗菌活性(P.Valentiら、Antimicrob.Ag.Chemother.21,840(1982))、抗ウイルス活性を有する(F.Giansantiら、Biochem.Biophys.Ris.Comm.331,(2005),69-73)。また、鉄を結合・放出する特性から、ヒトの鉄分補給剤としての利用も視野に入れた評価が行われている(F.Giansantiら、2011,1820(3),218-25)。
【0005】
リゾチームを有効成分として使用するためには、クロマトグラフィーの純度が高く、天然由来の鳥類ウイルス(鳥アブラウイルス1型、インフルエンザH5N1、H7N1、H7N9など)を含まない製品を提供する精製方法を工業規模で研究・開発する必要がある。塩または溶媒による沈殿によってHEWからリゾチームを単離するための実験室の手順の種々の例が既に記載されており、タンパク質の変性または低純度によるいくつかの欠点を伴う(Linz R.ら、Comptes Rendus des Seances de la Societe de Biologie et de Ses Filiales,26,1279-80;Aldertonら、,J.Biol.Chem.157,43(1945);Alderton,Fevold,ibid.164,1(1946);Biochem.Prepns 1,67(1949);Sophianopoulosら,J.Biol.Chem,237,1107(1962))。
【0006】
液体クロマトグラフィー、特にイオン交換クロマトグラフィーを用いたHEWタンパク質の精製プロセスは、この場合、タンパク質の電荷と移動相のイオン強度に依存して分離されるため、より効果的であることが証明された。しかし、この方法は、HEWの原液で操作する大規模生産には、当該製品の密度が吸着問題を引き起こし、低い溶出流量を引き起こすという欠点がある。さらに、文献に報告されているデータから、卵タンパク質間で許容できるクロマトグラフィー分離を得るために、樹脂の容量以下で操作する必要があり、大量の固定相を操作する必要があることが確認されている。例えば、イオン交換カラム(Q Sepharose(R) Fast Flowなどの第4級アンモニウム樹脂を使用)、グラジエント溶出(pH9のTris塩酸塩緩衝液と0.3%のNaCl水溶液)を用いた場合、リゾチームの回収率は60%と非常に低くなる。リゾチームとオボトランスフェリンを分離するために開発されたこの方法は、リゾチームのクロマトグラフィー純度が99%と88%(2つのピークに分かれている)の許容範囲であるのに対し、分離したオボトランスフェリンのクロマトグラフィー純度は75%に過ぎない(Vachier,MCら、Journal of Chromatography B,664(1995),201-210)。さらに、異なるイオン交換樹脂、すなわちIRC50樹脂(カルボン酸官能基を有する弱酸性樹脂)を選択し、移動相としてpH7.18のリン酸バッファーを用いても、純度や収率の面で悪い結果となっている(Steinら、Ciba Foundation Symposium、Chem.Structure Proteins,1952,17-30)。
【0007】
HEWリゾチームとオボトランスフェリンを工業規模で調製するためのより効率的なクロマトグラフィー工程の必要性から、アフィニティークロマトグラフィー、より効率の高い樹脂の使用、特に陽イオン交換樹脂、磁気安定化流動床、表面インプリント技術を用いたクロマトグラフィー、クライオゲルの使用などのクロマトグラフィー代替アプローチの研究が行われている。
【0008】
アフィニティークロマトグラフィーは1993年にChiang B.H.らによってテストされ(Journal of Food Science,58(2),303-6,1993)、最近ではFederico J.W.らが発表している(European Food Research and Technology,231,181-188(2010))。この技術は、リゾチームとキチンのN-アセチル-D-グルコサミンモノマーとの親和性相互作用を利用したものである。特に、Federico J.W.らが説明したプロセスは、HEWリゾチームの原液のバッチ精製プロセスを提供し、80%のリゾチームがHEWから除去され、マトリックスがフィルターを通してろ過により回収され、総収率が64%であることを特徴とする。このプロセスでは、酸化ケイ素マトリックスの層間にキチン質を非共有結合で保持した生体用吸着剤複合体を用いるが、このマトリックスは本研究グループが独自に開発したものである。前記固定相が商業的に入手できないこと、前記固定相の再使用を保証するための試験回数が少ないこと、および前記固定相におけるリゾチームの吸収速度が極めて遅いこと(約10時間)は、この方法のスケールアップの可能性についての未解決の問題である。
【0009】
卵白リゾチームのクロマトグラフィー精製に陽イオン交換樹脂を用いた例も報告されているが、純度、収率ともに悪い結果であった。例えば、2003年のHyoung W.K.ら(Hwahak Konghak,41(3),332-336,2003)は、同文献で報告されているSDS-PAGE分析で示されるように、低い収率と純度をもたらすNaClグラジエントで異なる溶出を行う弱カチオン交換樹脂の性能を評価している。SPセファロースFFのような強陽イオン交換樹脂を用いても、リゾチームのクロマトグラフィー精製性能は向上せず、あらかじめオボムチンを沈殿分離した希釈HEWから出発し、そのろ液を前記SPセファロースFF樹脂で精製したプロセスシミュレーションでは、リゾチームの回収率は80%に達している(Biotechnology Progress,27(3),733-43,2011)。
【0010】
最近では、磁気安定流動床(MSFB)を用いた希薄なHEWからのリゾチームの精製プロセスも報告されている。例えば、Fe2O4ナノ粉末の存在下、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの懸濁液中で重合して調製した平均球形粒子径80-120μmのMSFBを用いて、リゾチームの分離は、SDS-PAGEによる純度が87%、回収率が80%で達成されている(International Journal of Biological Macromolecules,41(3),234-42,2007)。さらに、鶏卵白リゾチームの疎水性親和性を利用して、ポリ(グリシジルメタクリレート-N-メタクリル-L-トリプトファン)のモノサイズ磁性マイクロビーズ(直径1.6μm)も使用した。リゾチーム吸着試験は、磁気安定化流動床システムにおいて、異なる実験条件(リゾチーム濃度、温度、イオン抵抗など)で実施した(Materials Science&Engineering,C:Materials for Biological Applications,29(5),1627-1634,2009)。しかし、希釈したHEWで操作する必要があること(これらの固定相の粒子径が小さいため)、工業用大型カラムで磁場を使用するという未解決の技術的問題、リゾチームの非定量回収、およびこれらの固定相が商業的に入手できないことが、これらの技術のスケールアップに制限を与えている。
【0011】
また、分子インプリント技術は、希釈したHEWからリゾチームを分離・精製するためにも使用されている。この手法を用いて、ヒドロキシエチルメタクリレートから二重重合性結合を導入できるように、β-シクロデキストリンとアクリルアミドを機能性モノマーとして表面にグラフトさせたポリ(グリシジルメタクリレート)マイクロビーズを作製した(Biomedical Chromatography,28,(4),534-540,2014)。このポリマーを分子インプリンティングすることで、80%のリゾチームをクロマトグラフィーで濃縮できることを発見し、「実サンプル」での産業利用の可能性を想定している。使用した固定相のサイズ(約5ミクロン)が高い操作圧力を必要とすることと、このテストが希釈したHEWに対して行われたという事実は、この技術のスケールアップの可能性に対して未解決の問題を示している。
【0012】
最後に、HEWリゾチームの精製における最新のクロマトグラフィーアプローチの1つに、クライオジェルを使用する方法がある。クライオゲルは一般に、特定のモノマーやポリマー前駆体を氷点下で低温ゲル化することにより発現する超多孔質ゲルのネットワークである(Russ.Chem.Rev.,2002,71,489-511)。この手順は、モノマーまたはポリマー前駆体を含むコロイド溶液または分散液を適度に凍結し、凍結状態で保存し、その後解凍することで行われる。前記クライオゲルの三次元構造は特異であり、例えばポリアクリルアミドクライオゲルは、主にクライオトロピックゲル化温度によってスポンジ状のモルフォロジーが誘起される。HEWリゾチームを精製するための前記クライオゲルシステムには、その表面に様々なリガンドを結合させたり、ポリマー鎖をクライオゲルの表面にグラフト化させたりする様々な改良が開発されてきた。例えば、分散重合で製造したポリ(グリシジルメタクリレート-N-メタクリロイル-(L)-トリプトファンメチルエステル)[PGMATryp]ビーズをポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)[PHEMA]クライオゲルにロードし、-12℃でN,N,N’,N’-テトラメチレンジアミンと過硫酸アンモニウムを用いて複合クライオゲルを提供した(Colloids and Surfaces,B:Biointerfaces,123,859-865,(2014))。前記複合クライオゲルを固定相として用い、pH7で希釈したHEWからリゾチームを精製し、エチレングリコールを含むpH4の移動相で溶出後、純度85%、収率78%のリゾチームを得ることができた。前記複合クライオゲルの最大吸収容量は、ポリマー1gあたり約350mgのリゾチームであった。希釈したHEWから得られたリゾチームを精製するために用いられるビーズに組み込まれた複合クライオジェルの他の使用例としては、最終回収収率が報告されていない、ポリマー1gあたり57mgのリゾチームの最大吸収容量を有するポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート-N-メタクリロイル)-L-フェニルアラニンの固定相(Biotechnology and Applied Biochemistry,62(2),200-7,2015);および、反応性色素(シバクロンブルーF3BAおよびアルカリブルー6Bブルー)を固定化して調製した、ポリマー1gあたり103~107mgの最大吸収容量を有するポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)からなるクライオゲルディスクがある(Applied Biochemistry and Biotechnology,175(6),2795-805,2015)。この場合、前記ディスクを溶液中で使用してバッチ処理を行い、チオシアン酸カリウムの水溶液で脱着を行って吸収容量を測定した。
【0013】
これらのアプローチには、非商用固定相やクライオゲルディスクの使用、希釈したHEWでの操作(固定相の粒径分布が約5ミクロンと小さいため、クロマトグラフィー精製にはこれが不可欠)という共通の制約がある。さらに、上記のプロセスの中には、脱着段階でエチレングリコールやチオシアン酸カリウム(人体に有毒)など、最終製品から徹底的に除去しなければならない有毒化合物を使用しているものもある。
【0014】
そのため、より簡便かつ効果的に精製し、抗ウイルス剤や抗菌剤の原薬として使用可能な純度で収率のよいリゾチームを得ることが求められている。
【0015】
リゾチーム(ヒトまたはHEWから分離)の潜在的な抗ウイルスおよび抗菌活性について、単独または他の抗生物質や抗ウイルス剤との併用について、様々な文献で研究されている。特に、リゾチームの抗ウイルス活性は、パラインフルエンザウイルス3型(NY State Dept.Health,Ann.Rept.Div.Lab.Res,55,1961)、HIV-1感染(Appl Biochem Biotechnol(2018)185:786-798)、単純ヘルペスウイルス1型(Current Microbiology,10(1984),35-40)、A型肝炎ウイルス(International Journal of Food Microbiology266(2018)104-108)、牛ウイルス下痢ウイルス(Veterinary Research(2019)15:318)およびポリオウイルス(https://www.researchgate.net/publishing/320238010)などがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
当該ウイルス株に対するリゾチームの抗ウイルス作用のメカニズムは未だ不明であるが、ヘルペスの場合、低ポリソチーム血症が起こると感染が再発する傾向があり(フレミングのリゾチーム、Edizioni Minerva Medica、1976)、ウイルス感染とリゾチームの生理濃度の直接的相関が示唆されている。リゾチームの抗ウイルス剤としての治療的使用は、in vitroおよびin vivoで試験されているが、HEWから分離したリゾチームをウイルス感染に対する予防的細胞保護および/または既に感染した細胞の治療のためのAPIとして使用するための明確な証拠はこれまでに提供されていない。
【0017】
2019年12月、中国保健当局は武漢市(中国湖北省)で原因不明の肺炎患者群を報告し、当該患者の病原体は、未だ有効な治療法が見つかっていない新規コロナウイルス(仮称:2019-nCoV)であることが確認された。COVID-19の原因ウイルスは、国際ウイルス分類委員会コロナウイルス研究グループ(CSG)によりSARS-CoV-2と分類され、指定されている。最近では、Caco-2細胞をモデルとして得られた実験結果から、「ネイティブ」リゾチーム(ヒト好中球および鶏卵白から精製)はSARS-CoV-2感染を防御しないこと、特に直接的な抗ウイルス活性を有しないことが示唆されている(Carina Conzelmannら、An enzyme-based immunodetection assay to quantify SARS-CoV-2 infection,Antiviral Research.Doi:10.1016/j.antiviral.2020.104882)。
【0018】
したがって、SARS-CoV-2に対して活性を持ち、できれば低毒性で化学純度の高い新しい抗ウイルス剤を得ることが緊急かつ必要である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
定義
Vero細胞は、アフリカミドリザル(Chlorocebus sp.)から抽出した腎臓上皮細胞から分離した細胞培養に用いる細胞株である。前記細胞株は、多数の分裂サイクルを経て複製することができ、かつ、老化しない。
【0020】
MOI(Multiplicity of infection)とは、病原体(ウイルスや細菌など)と感染細胞の比率のことである。
【0021】
ΔCtは、未処理細胞の上清と処理した感染細胞の上清のCt(cycle threshold)値の差を表す(ΔCt=未処理細胞の上清のCt-感染細胞の上清のCt)。
【0022】
PFU(Plaque-forming Unit)は、ウイルス学において、単位体積あたりにプラークを形成することができるウイルス粒子の数を表すために使用される測定値である。PFU/mLは試料中の感染性粒子の数を表し、形成されたプラークがそれぞれ感染性ウイルス粒子を代表していると仮定した結果である。
【0023】
本発明は、HEWから、アブラウイルス1やインフルエンザウイルスH5N1、H7N1、H7N9などの鳥類ウイルスを含まない高化学純度のリゾチーム塩酸塩を製造する新規プロセスを開示し、得られた生成物を、任意に他の抗ウイルス剤および免疫抑制剤および/またはオボトランスフェリンと組み合わせてSARS-COV-2に対する抗ウイルス剤として使用することを開示する。
【0024】
本発明に従って製造されたリゾチーム塩酸塩は、SARS-CoV-2感染に対する防御剤としてin vitro試験で有効性が証明されており、既に感染した細胞におけるウイルスの複製を減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、鶏卵白から分離したリゾチーム塩酸塩を精製するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
a)原液の鶏卵白から弱酸性カチオン樹脂を用い、攪拌下で粗リゾチーム塩基を単離し、その後、生理食塩水での処理する工程;
b)リゾチーム塩酸塩の粗溶液を調製する工程;
c)無機塩類を除去する工程;
d)ウイルスの不活性化/抗ウイルスの活性化をする工程;
e)スプレードライ法による非晶質リゾチーム塩酸塩を分離する工程;
f)工程e)で得られたリゾチーム塩酸塩を熱処理する工程。
【0026】
工程a)は、例えば炭酸ナトリウムの15%w/w水溶液を加えてpH7.0~9.0に事前調整した、粒径300~1600μmの弱酸性ポリアクリルマクロポーラスカチオニック樹脂で行うのが好ましい。原液HEWと樹脂との相対比は8~12l/lの範囲であり、樹脂は通常、最大60rpmの攪拌速度、25℃から40℃の範囲の温度で攪拌下に維持される。工程a)で使用される弱酸性カチオン性樹脂は、好ましくはピューロライト(R)C106EPまたは全容量≧2.7eq/lを有する同等の樹脂で、好ましくは25~40℃、好ましくは30~35℃の範囲の温度で2~7%NaCl溶液で処理される。
【0027】
工程b)では、工程a)で溶出したNaClの水溶液を、0~8℃の温度で4~24時間、最終pH値が10~11の間に達するまで無機塩基水溶液で処理して、リゾチーム塩基を得、これをまずろ過により回収し、次に最終pH間隔2.5~3.5になるまで塩酸水溶液に溶解させる。
【0028】
工程b)で使用する無機塩基水溶液は、水酸化ナトリウムの4~8%w/v水溶液であることが好ましい。
【0029】
工程b)では、粗リゾチーム塩基を、HEWの初期量に対して1/30~1/60v/vの範囲の相対比で脱塩水中に分散させる。
【0030】
粗リゾチーム塩酸塩溶液は、工程c)で、2~8%の塩酸水溶液を用いて最終的なpH間隔を3.0~4.0に補正し、カットオフ10kダルトンの限外ろ過膜と透析ろ過膜を用いて、無機塩を除去する限外ろ過及び/又は透析ろ過を行う。
【0031】
次に、工程d)において、限外ろ過/透析ろ過された水溶液を任意に、40℃~100℃の範囲の温度で最大7日間、好ましくは74℃で1時間、または90℃で2~6分間加熱される。
【0032】
工程c)またはd)で得られた溶液を最後に40℃に加熱し、脱溶媒室温度が160~220℃の範囲でスプレードライ処理し、純粋な非晶質リゾチーム塩酸塩を得ることができる。
【0033】
工程d)は、40℃~100℃の範囲の温度で最大7日間、好ましくは74℃で1時間のスプレードライ処理後に得られた粉末状リゾチーム塩酸塩に対して代替的/同時に実施することができる(工程e)。
【0034】
本発明はまた、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス剤として、ヒトSARS-CoV-2感染症の予防または治療に使用するためのリゾチーム塩酸塩を提供し、任意に他の抗ウイルス剤および/または免疫抑制剤および/またはオボトランスフェリンと併用することができる。前記薬剤の例としては、クロロキン、ファビラビル、レムデシビル、アビガン、トシリズマブ、シクロスポリンA、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ミコフェノール酸モフェチル及びピメクロリムスなどが挙げられる。
【0035】
必要な治療用途のために、リゾチーム塩酸塩は、適切な医薬組成物を用いて、経口、局所、吸入または注射、静脈内、胃腸内、腹腔内、気管支内、鼻腔内または直腸内に投与される。
【0036】
次に、独立請求項に定義された範囲内の主題、条件およびパラメータの変形が本発明に含まれることを但し書きして、以下に報告される実施形態例によって、本発明を詳細に説明する。
【0037】
本発明に従って製造されたリゾチーム塩酸塩は、以下の一連の精製手順:HEWに存在する他の卵タンパク質からの粗リゾチーム塩基の分離、粗リゾチーム塩酸塩溶液の調製、無機塩の除去、ウイルスの不活化およびスプレードライ法による固体リゾチーム塩酸塩の分離、その後の熱処理、を含む精製プロセスによってHEWから分離される。
【0038】
前記精製工程に従って製造されたリゾチーム塩酸塩は、SARS-CoV-2感染に対して抗ウイルス活性を示す。特に、リゾチーム塩酸塩は、未感染細胞ではSARS-CoV-2感染に対する予防的細胞保護作用を示し、既感染細胞では抗ウイルス作用を示した。
【0039】
粗HEWリゾチームは、以下の精製工程で精製した。原液のHEWを、粒径300~1600μm、容量≧2.7eq/lのポリアクリルカチオン樹脂にロードし、pH間隔9.0~7.0で前処理を施した。HEWと樹脂の相対比は8~12l/lの範囲で、樹脂は1.0~1.5ベッド量の蒸留水で2回洗浄した。その後、樹脂を、2~7%の範囲の濃度および25~40℃の範囲の温度のNaClの水溶液の1.5~2.1ベッド容量で洗浄した。前記工程を実行するとき、樹脂は任意に、最大60rpmの攪拌速度で攪拌下に維持することができる。
【0040】
NaClの水溶液で溶出したフラクションを、4~8%w/v水酸化ナトリウムの水溶液で最終pH値が10~11の範囲で塩基処理を行い、得られた混合物を0~8℃で4~24時間撹拌下に維持した。得られた沈殿物を吸引して回収した。湿潤固体を脱塩水(脱塩水と初期HEWとの相対比1/60~1/100l/l)中に撹拌下に分散させ、得られた混合物を20~50℃の範囲の温度で30分~2時間撹拌下に維持し、塩酸の4~8%w/v水溶液で最終pH間隔2.5~3.5に調整した。次に、得られた溶液を攪拌下に20~60℃の範囲の温度で30分~2時間加熱した後、冷却し、1~4%w/vの水酸化ナトリウム水溶液を添加して最終pH値を8.0~10の範囲の間隔に調整した。前記溶液を活性炭(粉末)で1~4時間撹拌下に処理し、次いでろ過した(フィルターは任意に脱塩水で洗浄することができる)。その後、ろ液(任意で洗浄水も)を2~8%塩酸水溶液で最終pHを3.0~4.0に調整し、限外ろ過および/または透析ろ過して無機塩を除去した。次に、得られた水溶液を任意に40℃から100℃の範囲の温度で7日間まで加熱した後、40℃まで冷却し、または直接40℃まで加熱し、スプレードライヤー(脱溶媒室温度160~220℃)で処理して、純粋な非晶質リゾチーム塩酸塩を象牙色粉末(回収率99%以上)として得た。また、スプレードライ処理後に得られた粉末状のリゾチーム塩酸塩に対して、溶液中のリゾチーム塩酸塩を40℃~100℃の温度で最大7日間(好ましくは74℃で1時間)熱処理する上記工程を交互/同時に行うことも可能である。
【0041】
前記制御された熱処理は、本明細書に記載の製造方法により調製されたリゾチームに、前記処理後、HPLC純度及び酵素活性が変化しないリゾチームを変性させずに、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス/殺ウイルス活性を付与するものである。特に、リゾチームを変性させない前記加熱処理であることが好ましく:
1.固形リゾチーム塩酸塩の場合:99℃、40分または74℃、1時間での処理
2.リゾチーム塩酸塩の水溶液の場合:90℃、2~6分間の加熱処理
が好ましい。
【0042】
前記工程で得られたリゾチーム塩酸塩は、鳥アブラウイルス1、インフルエンザウイルスH5N1、H7N1、H7N9などの鳥類ウイルスを含まず、乾物に対する酵素測定値(酵素比濁法)>97.0%、好ましくは>98.0%、およびHPLC純度>99.0%、好ましくは>99.5%を呈する。
【0043】
前記リゾチーム塩酸塩は、in vitro試験において、0.75~1.5mg/mlの範囲でSARS-CoV-2感染に対して高い抗ウイルス活性を示した。
【0044】
リゾチーム塩酸塩の活性は、実質的に同じ濃度で、ウイルス感染にさらされた未感染細胞と既に感染した細胞に対して、細胞保護作用を示すことが確認されている。実際、リゾチーム塩酸塩の濃度が0.75~1.5mg/mlの範囲では、ウイルスの複製率は非常に低く、ゼロに近い状態であった。
【0045】
さらに、我々が発見したリゾチーム塩酸塩とオボトランスフェリンを3種類の濃度(1.25、2.5、5mg/l)で併用した場合のin vitro抗ウイルス活性は、相乗効果があることが証明された。当該条件下では、オボトランスフェリン1.25mg/mlの濃度が最も高い相乗効果を発揮した。得られた相乗的な抗ウイルス効果は用量依存的であり、リゾチーム濃度0.75mg/mlでウイルスの複製を完全に除去した(この濃度のリゾチーム塩酸塩、およびオボトランスフェリン非存在下では、ウイルスの複製は約62%抑制された)。オボトランスフェリン単独で、10mg/mlから1.25mg/mlの範囲で濃度を変えて試験したが、当該範囲では抗ウイルス活性は検出されなかった。
【0046】
SARS-CoV-2に対するリゾチーム塩酸塩の抗ウイルス活性は、リゾチーム塩酸塩(溶液および粉末)の熱処理と密接な関係があり、抗ウイルス活性と殺ウイルス活性の両方を示した。
【実施例】
【0047】
材料と方法
in vitro試験に使用したオボトランスフェリン(製品コード 501P2001O90)は、Bioseutica BV(Landbouwweg 83 3899 Zeewolde BD(オランダ))で製造されている。
【0048】
リゾチーム塩酸塩のクロマトグラフィーによる純度測定のHPLC法
・HPLCカラム:TSKgel逆相HPLCカラム(ポリマーベース、Phenyl-5PW RP)、ID 4.6mmx7.5cm(10μm);東ソー・バイオサイエンス社製
・検出器:UV
・波長:281nm
・試料の調製:リゾチーム塩酸塩80mgを水で20mlに希釈(4μg/μl)
・インジェクション量:25μl
・移動相A:水/アセトニトリル=90/10v/v、0.2%トリフルオロ酢酸含有
・移動相B:水/アセトニトリル=30/70v/v、0.2%トリフルオロ酢酸含有
・溶出:以下の組成による。
【0049】
【0050】
測定値の決定(Micrococcus lysodeikticus細胞を用いた酵素比濁法):FIP法(Pharmaceutical Enzyme,Ed 1997,84,375)およびJ Pharm Pharmacol.誌による。2001;53(4);549-54。
【実施例1】
【0051】
HEWのクロマトグラフィーによる精製
吸収段階:30リットルのHEWを3リットル/時間の供給速度で、300~1600μmの範囲の粒子径と2.7eq/l以上の容量を有する弱酸性マクロポーラスカチオニックポリアクリル樹脂2.9リットルを含むNutscheフィルターを備えた乾燥機にロードし、炭酸ナトリウムの水溶液(15%w/w)でpH8.0に前調整し、水で洗浄して窒素で流し、重力で溶離液を収集した。その後、樹脂を攪拌下に維持しながら1ベッド量の脱塩水を投入し、得られた懸濁液を攪拌下に20分間維持した後、重力により水を排出し、当該処理を同じ実験条件でもう1度繰り返した。
【0052】
溶出段階:30~35℃の3.5%NaCl水溶液(1.8ベッド容量)を重力で溶出させる。
【0053】
粗リゾチーム塩基の沈殿:6%NaOHの水溶液(w/v)を、20~25℃で攪拌しながら、最終pH値が10.5±2になるまで、先の粗リゾチーム塩基の2%水溶液に添加した。その後、得られた溶液を12~18時間で4℃まで冷却し、攪拌下に当該温度で6時間維持した。得られた沈殿物を吸引して回収した。
【0054】
精製リゾチーム塩酸塩の非晶質粉末の調製:前工程で得られた湿潤固体を、35℃の脱塩水(0.66l)中で1時間撹拌下に分散させ、その後、6%w/v塩酸水溶液を最終pH値2.9±0.1に達するまで添加した。次に、得られた溶液を40℃で1時間攪拌下に加熱した後、冷却し、2%w/v水酸化ナトリウム水溶液を加えて最終pH値が8.5から9.0の範囲となるようにした。前記溶液にチャコール(粉末)(2.5g)を加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。次に得られた懸濁液を吸引ろ過し、そのフィルターを水(16ml)で洗浄した。ろ液と洗浄水を回収し、6%w/v塩酸水溶液を32℃以下の温度で最終pH値3.6±0.2になるまで添加した。得られた溶液を限外ろ過(カットオフ10kダルトン)し、30%w/vのリゾチーム塩酸塩含量を得、透析ろ過(カットオフ10kダルトン)して存在する無機塩類を除去した。次に、得られた水溶液を74℃で1時間、あるいは90℃で2~6分間加熱した後、40℃に冷却し、スプレードライヤー(脱溶媒室温度180℃)で処理して、純粋な非晶質リゾチーム塩酸塩を象牙色粉末(105g、回収効率99%)として得た。
【0055】
得られた生成物のアッセイ値(比濁法)は98.6%、HPLC純度は99.7%であった。
【0056】
SARS-CoV-2に対するリゾチーム塩酸塩のin vitro抗ウイルス活性の評価
リゾチーム塩酸塩の無毒性濃度の測定
細胞毒性は、Vero細胞(サル腎臓の上皮細胞)に対するリゾチーム塩酸塩の効果を確立することによってモニターされた。1x104細胞/ウェルの濃度で96-ウェルプレートに播種した。播種から24時間後、リゾチーム塩酸塩またはクロロキン(対照として)の連続希釈液で、最終容量200μlで、細胞を3重に処理した。5%CO2、37℃で72時間培養後、細胞生存率をMTTアッセイで測定した(D’Alessandro,M.ら、,Differential effects on angiogenesis of two antimalarial compounds, dihydroartemisinin and artemisone:Implications for embryotoxicity,Toxicology.241(2007)66-74.Doi:10.1016/j.tox.2007.08.084)。
【0057】
データは、下記式により細胞生存率(%)として算出した。
[(サンプルの吸光度-無細胞サンプルのブランク)/培地の対照の平均吸光度]x100。
【0058】
未処理の対照細胞に比べ、50%のVero細胞を死滅させる50%細胞毒性濃度(CC50)を決定した。光学顕微鏡で目に見える形態変化を観察した。
【0059】
Vero細胞に対するリゾチーム塩酸塩のCC50は13.3mg/mlと測定された。
【0060】
オボトランスフェリンとクロロキンの無毒性濃度の測定
オボトランスフェリンとクロロキン(CQ)の細胞毒性は、リゾチーム塩酸塩で用いた方法と同様にMTTアッセイで測定した。オボトランスフェリンは最大濃度(10mg/ml)で無毒であることが証明された(対照細胞と比較して100%の生存率)。CQのCC50とCC10はそれぞれ95.3±18と20.93±4.39μgであることが証明された。
【0061】
鼻咽頭スワブからのSARS-CoV-2の分離
SARS-CoV-2は500μlの鼻咽頭スワブから分離し、80%コンフルエントのVero細胞に添加した。37℃、5%CO2で3時間培養した後に接種物を除去し、細胞障害作用が明らかになった時点で37℃、5%CO2で72時間培養をした。
【0062】
細胞上清中のウイルスコピー数は、特異的定量的リアルタイムRT-PCR(qRT-PCR)で測定した((世界保健機関(WHO)。コロナウイルス感染症(COVID-19)技術ガイダンス。ヒトにおける2019-nCoVの検査室検査。US CDC Real-time RT-PCR Panel for Detection 2019-Novel Coronavirus(2020年1月28日)。Available at:https://www.fda.gov/media/134922/download[last access 20 March 2020]。
【0063】
SARS-CoV-2は製造元の指示に従いPEGで沈殿させ、10~109の希釈倍率でPlaque Assayによりウイルス量を測定した。
【0064】
以下の実験では、ウイルスの感染多重度(MOI)が0.05となるように使用した。
【0065】
細胞感染と化合物の処理
Vero細胞を96ウェルプレートに1×104個/ウェルの密度で播種し、5%CO2、37℃で24時間培養した。その後、MOI 0.05(1000PFU/ウェル)で感染させ、5%CO2、37℃で2時間培養した。その後、ウイルスを除去し、リゾチーム塩酸塩またはクロロキン(対照として)を異なる濃度で含む培地で処理し、37℃、5%CO2で72時間培養した。プレインキュベーションの工程を追加したプロトコルを実施した。細胞単層に添加する前に、様々な濃度のリゾチーム塩酸塩の存在下で37℃、1時間ウイルス(MOI 0.05)を培養した。
【0066】
リゾチーム塩酸塩の抗ウイルス作用の評価
細胞上清中のウイルスコピー数は、特異的定量リアルタイムRT-PCR(qRT-PCR)により定量化した。
【0067】
結果(表1)は、未処理の感染Vero細胞での複製を考慮し、100%となるようにウイルス複製率で表した。
【0068】
さらに、化合物の殺ウイルス活性を確認するために、6ウェルプレートに植え付けたウイルス+化合物の細胞に接種した後、プラークテストを実施した。簡単に説明すると、接種後、細胞を0.3%のアガロースで覆い、細胞培地に溶かし、37℃、5%CO2で72時間培養したものである。アガロースを除去した後、4%ホルムアルデヒド溶液で細胞を固定し、メチレンブルーで染色した。各ウェルのプラークを数え、結果をプラーク形成単位(PFU)/mLとして、また未処理対照と処理細胞のPFU間の比率として表した。
【0069】
【0070】
各実験は二重または三重に行われ、独立した2つの実験が行われた。
【0071】
SARS-CoV-2に対するリゾチーム塩酸塩およびオボトランスフェリンの抗ウイルス活性
オボトランスフェリン単独で、10mg/mlから1.25mg/mlの範囲で濃度を変えて試験したが、当該区間では抗ウイルス活性は検出されなかった。表2は、リゾチーム塩酸塩と3つの異なる濃度のオボトランスフェリンを組み合わせた場合の抗ウイルス活性を、ΔCtとウイルス複製率(3回の実験の平均値)で表したものである。すべての条件下で、オボトランスフェリンはリゾチーム塩酸塩の抗ウイルス活性を増加させた。興味深いことに、最低濃度のオボトランスフェリン(1.25mg/ml)が最も高い相乗効果を示した。得られた抗ウイルス作用の相乗効果は、用量依存的である。
【0072】
【0073】
表3は、リゾチーム塩酸塩とリゾチーム塩酸塩にオボトランスフェリンを配合した場合のウイルス複製率の比較データを示す。
【0074】
【0075】
殺ウイルス活性
リゾチーム塩酸塩の殺ウイルス活性を確認するために、熱処理したリゾチーム塩酸塩(99℃、40分)と非熱処理したリゾチーム塩酸塩を用いて、プラークのアッセイを実施した。表4は、得られた結果を平均PFU/mlで表したものである(3回の実験の平均値)。SARS-CoV-2の感染力は、0.42mg/ml、0.56mg/ml、1mg/mlで、それぞれ57.2%、58.9%、69.6%減少した。非加熱処理したリゾチーム塩酸塩は、どの用量でもSARS-CoV-2の感染力を低下させることはなかった(表4)。
【0076】
【0077】
表5では、異なる実験条件で熱処理したリゾチーム塩酸塩の試料の酵素活性とHPLC純度を比較分析し、異なる温度、乾燥処理時間(固体製品上)または水溶液中での処理時間を評価し、1試料あたり平均9回の実験でウイルスの複製度で表される活性との比較により検討した。得られたデータから、実施したすべての熱処理が高い抗ウイルス活性をもたらすことが確認され、調べたすべてのサンプルで熱劣化(変性)がないことが確認された。ただし、水溶液で6分を超える時間処理したサンプルでは、HPLC純度の著しい低下(-3~-4%)と酵素活性の著しい低下(-8~-12%)が観察された。
【0078】
最初にHPLC分析と酵素活性で確認した、調べた試料に熱劣化がないことは、さらにD2O溶液中の試料のHSQC NMR(異核一量子相関核磁気共鳴)分析で確認された。熱処理していないネイティブなリゾチームと乾熱処理(99℃、40分)したリゾチームの1H-13C-HSQCスペクトルは同じであり、熱処理したリゾチームが変性していないことが確認された。
【0079】
【手続補正書】
【提出日】2022-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏卵白からリゾチーム塩酸塩を精製する方法であって、
a)原液の鶏卵白から弱酸性カチオン樹脂を用い、攪拌下で粗リゾチーム塩基を単離し、その後、生理食塩水で
溶出する工程、
b)
工程a)で溶出した生理食塩水を、0~8℃の温度で4~24時間、最終pH値が10~11の間に達するまで無機塩基水溶液で処理し、まずろ過により回収した後、最終pH間隔2.5~3.5となるまで塩酸の水溶液に溶かしてリゾチーム塩基を得ることにより、リゾチーム塩酸塩の粗溶液を調製する工程、
c)無機塩類を除去する工程、
d)ウイルスの不活性化/抗ウイルス剤の活性化をする工程、
e)スプレードライ法により非晶質リゾチーム塩酸塩を分離する工程、
f)工程e)で得られたリゾチーム塩酸塩を熱処理する工程、
を含む方法。
【請求項2】
工程a)において、pH7.0~9.0に事前調整された、粒径範囲300~1600μmの弱酸性ポリアクリルマクロポーラスカチオニック樹脂が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、炭酸ナトリウムの15%w/w水溶液でpHを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)において、原液の
鶏卵白と樹脂との相対比が8~12l/lの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程a)において、樹脂を最大60rpmの攪拌速度および25℃から40℃の範囲の温度で攪拌下に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、弱酸性カチオン性樹脂がピューロライト
(R)C106EPまたは同等品であり、総容量≧2.7eq/lである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、樹脂を25~40℃、好ましくは30~35℃の範囲の温度で2~7%NaCl溶液で
溶出する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程b)の水性無機塩基が水酸化ナトリウムの4~8%w/v水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程b)において、粗リゾチーム塩基を、
鶏卵白の初期量に対して1/30~1/60v/vの範囲の相対比で脱塩水中に
溶解させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程c)において、粗リゾチーム塩酸塩溶液を、2~8%塩酸水溶液を用いて、最終pH3.0~4.0の範囲に調整し、限外ろ過および/または透析ろ過により無機塩を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程c)が、10kダルトンのカットオフを有する限外ろ過膜および透析ろ過膜を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程d)において、限外濾過/透析ろ過水溶液を
40℃~100℃の範囲の温度で最大7日間、好ましくは90℃で2~6分間加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程f)において、工程e)で得られた粉末に対して、
40℃~100℃の範囲の温度で最大7日間、好ましくは74℃で1時間又は99℃で40分間、リゾチーム塩酸塩の熱処理を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
加熱処理したリゾチームが、処理終了時に不変のクロマトグラフィー純度および酵素活性を示す(±1.0%)、
請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
工程e)において、工程c)またはd)で得られた溶液を40℃で加熱し、スプレードライヤーで処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
工程e)において、脱溶媒室の温度が160~220℃の範囲にあり、純粋な非晶質リゾチーム塩酸塩を提供する、
請求項13に記載の方法。
【請求項17】
SARS-CoV-2に対する抗ウイルス剤として使用するための、
請求項1~16に記載の方法により得られるリゾチーム塩酸塩。
【請求項18】
クロロキン、ファビラビル、レムデシビル、アビガン、トシリズマブ、シクロスポリンA、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ミコフェノール酸モフェチル及びピメクロリムスから選ばれる抗ウイルス剤及び/又は免疫抑制剤と組み合わせて用いる、
請求項17による使用のためのリゾチーム塩酸塩。
【請求項19】
オボトランスフェリンと組み合わせて用いる、
請求項18に記載の使用のためのリゾチーム塩酸塩。
【請求項20】
SARS-CoV-2の予防及び治療のための、経口、局所、吸入、注射、静脈内、胃腸内、腹腔内、胸膜内、気管支内、鼻腔内又は直腸用の医薬組成物であって、抗ウイルス有効量のリゾチーム塩酸塩、任意でオボトランスフェリンと適切な担体及び/又は賦形剤との組み合わせを含む、医薬組成物。
【国際調査報告】