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▶ イオン ビーム アプリケーションズ ソシエテ アノニムの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】コンフォーマル粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
A61N5/10 N
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570107
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2021067393
(87)【国際公開番号】W WO2022002760
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】20184077.4
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】318004198
【氏名又は名称】イオン ビーム アプリケーションズ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Ion Beam Applications S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラバルブ、ルディ
(72)【発明者】
【氏名】オトイウ、ルシアン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ ノイター、セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】コリグノン、ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ピン、アルノー
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG42
(57)【要約】
所望の3D線量分布に合致して荷電粒子を標的体積1に照射するように適合された粒子治療システム。そのような所望の3D線量分布は、入射単エネルギー荷電粒子ビーム6と交差するエネルギー成形デバイス10の出力において複数の粒子エネルギー分布を送達しながら達成される。エネルギー成形デバイスは、エネルギー成形要素11、21の複数のグループ12、22を含み、エネルギー成形要素11、21のそれぞれは、流体又は固体物質13の個々の層を含み、層の厚さは、制御ユニット14によって個別に適合される。流体又は固体物質の構成可能な層を使用することで、エネルギー成形デバイスを様々な患者の治療に再利用できるようになる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者内の標的体積(1)に荷電粒子ビーム(6)を照射するための治療システム(100)であって、
- 荷電粒子ビーム生成器(3)と、
- 前記荷電粒子ビーム(6)を輸送するためのビーム輸送システム(4)と、
- 前記荷電粒子ビーム(6)を前記標的体積(1)に送達するための照射デバイス(5)と、
- 前記荷電粒子ビームの経路を横断するように設置されたエネルギー成形デバイス(10)であって、前記エネルギー成形デバイスが、荷電粒子ビーム(6)の粒子と交差するとき、エネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)の出力において第1の所望の粒子エネルギー分布を送達するように適合された、隣接するエネルギー成形要素(11)の前記第1の事前定義されたグループ(12)と、少なくとも、荷電粒子ビームの粒子と交差するとき、エネルギー成形要素(21)の第2の事前定義されたグループ(22)の出力において第2の所望の粒子エネルギー分布を送達するように適合された、隣接するエネルギー成形要素(21)の前記第2の事前定義されたグループ(22)とを備え、前記第2の所望の粒子エネルギー分布が前記第1の所望の粒子エネルギー分布と異なる、エネルギー成形デバイスと
を備える治療システム(100)において、
- エネルギー成形要素の前記第1及び第2の事前定義されたグループ(12、22)のそれぞれの各エネルギー成形要素(11、21)が流体(13)又は固体物質の個々の層を含み、
- 前記治療システムが、
- 前記照射デバイスが前記粒子ビームを第1の主ビーム方向に従って前記標的体積に送達するように配向されたとき、前記第1の所望の粒子エネルギー分布を得るために、隣接するエネルギー成形要素(11)の前記第1の事前定義されたグループ(12)の前記エネルギー成形要素(11)の流体又は固体物質(13)の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整し、
- 前記照射デバイスが前記粒子ビームを前記第1の主ビーム方向に従って前記標的体積に送達するように配向されたとき、前記第2の所望の粒子エネルギー分布を得るために、前記隣接するエネルギー成形要素(21)の前記第2の事前定義されたグループ(22)の前記エネルギー成形要素(21)の流体又は固体物質(13)の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整する
ように構成された制御ユニット(14)をさらに備え、
各流体又は固体物質の前記厚さが、前記荷電粒子ビームの前記荷電粒子の伝播方向における厚さである
ことを特徴とする、治療システム(100)。
【請求項2】
- 前記第1の所望の粒子エネルギー分布が、第1の最小エネルギー(Emin1)における第1の粒子比(PRmin1)と、第1の最大エネルギー(Emax1)における第2の粒子比(PRmax1)とを含み、
- 前記第2の所望の粒子エネルギー分布が、第2の最小エネルギー(Emin2)における第3の粒子比(PRmin2)と、第2の最大エネルギー(Emax2)における第4の粒子比(PRmax2)とを含み、
Emax1がEmax2と異なる
ことを特徴とする、請求項1に記載の治療システム(100)。
【請求項3】
PRmax1がPRmax2と異なることを特徴とする、請求項2に記載の治療システム(100)。
【請求項4】
Emin1がEmin2と異なることを特徴とする、請求項2又は3に記載の治療システム(100)。
【請求項5】
PRmin1がPRmin2と異なることを特徴とする、請求項4に記載の治療システム(100)。
【請求項6】
(Emax1-Emin1)が(Emax2-Emin2)と異なることを特徴とする、請求項2から5までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項7】
各エネルギー成形要素(11、21)が円筒面を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項8】
すべてのエネルギー成形要素(11、21)が同じ六角形の断面を有することを特徴とする、請求項7に記載の治療システム(100)。
【請求項9】
各エネルギー成形要素(11、21)が、前記流体又は前記固体物質を収容する管であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項10】
前記エネルギー成形要素(11、21)が、前記エネルギー成形要素(11、21)と交差する前記荷電粒子ビーム(6)の前記粒子の伝播方向に整列されることを特徴とする、請求項1から9までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項11】
エネルギー成形要素(11、21)の各グループ(12、22)が前記入射粒子ビーム(6)の前記粒子の伝播方向(Z1x、Z2x、Z3x)に対して整列されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項12】
前記治療システムが、前記標的体積(1)上で前記荷電粒子ビーム(6)を走査するためのビーム・スキャナを備え、前記エネルギー成形デバイス(10)の前の前記荷電粒子ビーム(6)のスポット・サイズが、隣接するエネルギー成形要素(11)の前記第1の事前定義されたグループ(12)の断面に実質的に等しく、隣接するエネルギー成形要素(21)の前記第2の事前定義されたグループ(22)の断面に実質的に等しいことを特徴とする、請求項1から11までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項13】
前記エネルギー成形要素(11、21)が、前記荷電粒子ビーム(6)の前記粒子の伝播方向に対して横方向に、好ましくは前記荷電粒子ビームの前記粒子の伝播方向に対して垂直に配置されることを特徴とする、請求項1から9までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項14】
前記荷電粒子ビーム生成器(3)がサイクロトロン又はシンクロトロンであることを特徴とする、請求項1から13までのいずれかに記載の治療システム(100)。
【請求項15】
前記荷電粒子ビーム生成器(3)の出力における公称ビーム・エネルギーが70MeVから250MeVまでの範囲内にあることを特徴とする、請求項14に記載の治療システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子治療システムに関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、患者内の標的体積に荷電粒子ビームを照射するための治療システムに関し、治療システムは、荷電粒子ビーム生成器と、荷電粒子ビームを輸送するためのビーム輸送システムと、荷電粒子ビームを標的体積に送達するための照射デバイスと、荷電粒子ビームの経路を横断するように設置されたエネルギー成形デバイスとを備える。
【0003】
エネルギー成形デバイスは、標的体積の照射が標的体積の3D形状に多かれ少なかれ一致することを目的として、異なる粒子エネルギーの混合物がそれらの出力で送達されて標的体積の対応する領域に拡大ブラッグ・ピーク(SOBP:Spread-Out Bragg Peak)を形成するように、単エネルギー粒子ビームの入射粒子のエネルギーを変更するようにそれぞれ設計された複数のエネルギー成形要素を備える。
【背景技術】
【0004】
荷電粒子治療システムは、当技術分野においてよく知られている。それらの機能は、標的体積に陽子ビーム、イオン・ビームなどの荷電粒子ビームを照射することによって、生物(以下「患者」)の特定の3D領域(以下「標的体積」)内の不健康な細胞を破壊することである。現在、標的に粒子ビームを照射するための照射技法がいくつか存在する。これらの技法は、大まかに散乱技法と走査技法とに分類され得る。第1の分類では、広い散乱ビームが標的体積全体を照射し、第2の分類では、狭いビームが標的体積を走査しながら標的体積を照射する。
【0005】
照射技法がどのようなものであれ、目的は常に、横方向(X,Y)と深さ方向(Z)との両方で、標的体積の外側にある患者の細胞への不要な照射を減らすことである。この目的は、しばしば「コンフォーマル照射(conformal irradiation)の改善」と呼ばれる。
【0006】
特に深さ方向のコンフォーマル照射を改善することを目的として、粒子ビームの経路にエネルギー成形デバイス(エネルギー変調器とも呼ばれることもある)(例えば、リッジ・フィルタ、飛程補償体(range compensator)、エネルギー選択システム)を配置するなど、いくつかの解決策が提案されている。
【0007】
そのようなエネルギー変調器を含む治療システムの実例が、米国特許出願第2018068753(A1)号に開示されている。そのような公知のシステムによれば、エネルギー変調器(米国特許出願第2018068753(A1)号では「リッジ・フィルタ」と呼ばれる)が、荷電粒子ビーム生成器と患者との間のビーム経路を横断するように設置される。エネルギー変調器の上流にあるビーム拡散デバイス(「散乱体」と呼ばれることもある)が、エネルギー変調器の表面に粒子ビームを拡散する。エネルギー変調器は複数の減衰要素から構成され、各減衰要素は、照射方向に沿って段階的に変化する断面積を有する。荷電粒子がそのような減衰要素を通過すると、減衰要素の出力において粒子エネルギーの特定の分布が生成され、この特定のエネルギー分布は、標的体積が減衰要素を介して粒子ビームによって照射されたとき、標的体積の交差領域において、対応する特定の拡大ブラッグ・ピークのプロファイル(SOBP)を生み出す。よく知られているように、減衰要素の出力における粒子エネルギーの分布は、減衰要素の材料及び形状、より具体的には、階段ステップの様々な幅及び高さに依存する。階段ステップの高さはその出力での平均粒子エネルギーを決定し、一方、階段ステップの幅は粒子比を決定する。
【0008】
このような公知のエネルギー変調器は、所与の患者及び特定の照射野に合わせて特注で作られ、したがって、別の患者又は別のビーム配向に再利用することはできない。
【0009】
そのようなエネルギー変調器を含む公知の治療システムの別の実例が、韓国特許第101546656号に開示されている。そのような公知のシステムによれば、エネルギー変調器(韓国特許第101546656号では「可変補償器」と呼ばれる)は、複数の減衰要素から構成され、各減衰要素は、照射方向に延在するある一定の高さの流体の柱を備える。荷電粒子がそのような減衰要素を通過すると、それらのエネルギーが減少し、それによって、柱内の流体の高さとの関連で、標的体積内の対応するブラッグ・ピークの深さが減少する。さらに、各減衰要素の流体の柱の高さは、制御ユニットによって個別に制御され、照射ビームの荷電粒子の侵入深さを標的体積の遠位端に適合させることが可能になる。しかしながら、このような公知の粒子治療システムは、標的体積内でSOBPを達成するように適合されていない。
【0010】
そのようなエネルギー変調器を含む公知の治療システムの別の実例が、米国特許出願公開第2008/0260098号に開示されている。そのような知られているエネルギー変調器は、韓国特許第101546656号の変調器に類似しており、したがって、標的体積の遠位端のみに一致するようにブラッグ・ピークの深さを変調することも意図されている。ビームが単一の主ビーム方向に従って標的に照射されるとき、標的体積の各3D領域に患者固有の計画されたSOBPを送達することは不可能であり、又は少なくともそのように構成されない。最終的に、このようなシステムを用いて様々な減衰要素の減衰力を複数の照射角度で変化させながら様々な主ビーム方向に従って標的を照射することによって、SOBPが生成され得るが、これが具体的にどのように達成され得るかは、本文献からは明らかではない。どのような場合においても、治療の最中に主ビーム方向を変更しなければならないこと及び様々な減衰要素の減衰力を変更しなければならないことにより、治療時間が長くなり、これは望ましくない。さらに、このような手法では、様々な照射角度で送達される線量の相互依存性が原因で、十分な自由度を伴って標的に3Dコンフォーマル線量を送達することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願第2018068753(A1)号
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0260098号
【特許文献3】韓国特許第101546656号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、標的体積内の所望の3D線量分布に、より良好に合致して標的体積を照射するように適合され、且つ、異なる患者及び/若しくは異なる照射野に対してエネルギー変調器を再利用又は再構成することができる、治療システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のために、本発明は、患者内の標的体積に荷電粒子ビームを照射するための治療システムであって、
- 荷電粒子ビーム生成器と、
- 荷電粒子ビームを輸送するためのビーム輸送システムと、
- 荷電粒子ビームを標的体積に送達するための照射デバイスと、
- 荷電粒子ビームの経路を横断するように設置されたエネルギー成形デバイスであって、前記エネルギー成形デバイスが、荷電粒子ビームの粒子と交差するとき、エネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループの出力において第1の所望の粒子エネルギー分布を送達するように適合された、隣接するエネルギー成形要素の前記第1の事前定義されたグループと、少なくとも、荷電粒子ビームの粒子と交差するとき、エネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループの出力において第2の所望の粒子エネルギー分布を送達するように適合された、隣接するエネルギー成形要素の前記第2の事前定義されたグループとを備え、前記第2の所望の粒子エネルギー分布が前記第1の所望の粒子エネルギー分布と異なる、エネルギー成形デバイスと
を備える治療システムを提供する。
【0014】
エネルギー成形要素の第1及び第2の事前定義されたグループのそれぞれの各エネルギー成形要素は、流体又は固体物質の個々の層を含む。
【0015】
治療システムは、
- 照射デバイスが粒子ビームを第1の主ビーム方向に従って標的体積に送達するように配向されたとき、前記第1の所望の粒子エネルギー分布を得るために、隣接するエネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループのエネルギー成形要素の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整し、
- 照射デバイスが粒子ビームを第1の主ビーム方向に従って標的体積に送達するように配向されたとき、前記第2の所望の粒子エネルギー分布を得るために、隣接するエネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループのエネルギー成形要素の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整する
ように構成された制御ユニットをさらに備え、各流体又は固体物質の前記厚さは、荷電粒子ビームの荷電粒子の伝播方向における厚さである。
【0016】
本発明の文脈において、「エネルギー成形要素のグループの出力における粒子エネルギー分布」は、一般に、粒子エネルギーの確率密度関数として理解されるべきであり、この関数は、粒子エネルギー値ごとに、エネルギー成形要素のグループの出力において前記粒子エネルギー値を有する粒子の数と、エネルギー成形要素のグループの出力における粒子の総数との比を与える。
【0017】
本発明の文脈において、隣接するエネルギー成形要素の事前定義されたグループとは、そのようなグループが「エネルギー成形要素の任意のグループ」と見なされるべきではなく、明確に定義され且つ予め制御ユニットに知られている隣接するエネルギー成形要素のグループであることを意味する。隣接するエネルギー成形要素の事前定義されたグループは、一般に、標的体積の特定の事前定義された領域に対応し、その領域の中では、荷電粒子ビームの粒子が前記事前定義されたグループのエネルギー成形要素と交差した後、標的の事前定義された領域が荷電粒子ビームで照射されたとき、所望の又は計画された線量分布、したがって所望の又は計画されたSOBPが達成される。前記所望の又は計画された線量分布は、例えば、治療計画システムから得られてもよい。
【0018】
米国特許出願第2018068753(A1)号に開示されたシステムとは異なり、本発明による治療システムは、治療すべき特定の標的体積に従って流体又は固体物質の厚さを調整することによって異なる標的体積に対して再利用され得る。
【0019】
韓国特許第101546656号に開示された発明とは異なり、本発明による治療システムは、標的体積の様々な3D領域において特別に計画されたSOBPを生成するように適合され、単一の構成可能なデバイスを用いたより良好なコンフォーマル照射が可能である。
【0020】
米国特許出願公開第2008/0260098号に開示されたシステムとは異なり、本発明による治療システムは、ビームが単一の主ビーム方向に従って標的体積に向けられている間、標的体積の様々な3D領域において特別に計画されたSOBPを生成するように適合され、したがって、より高速であり、より正確である。
【0021】
好ましくは、制御ユニットは、
- 第1の所望の粒子エネルギー分布は、第1の最小エネルギー(Emin1)における第1の粒子比(PRmin1)と、第1の最大エネルギー(Emax1)における第2の粒子比(PRmax1)とを含み、
- 第2の所望の粒子エネルギー分布は、第2の最小エネルギー(Emin2)における第3の粒子比(PRmin2)と、第2の最大エネルギー(Emax2)における第4の粒子比(PRmax2)とを含む
ように、またEmax1がEmax2と異なるように
構成される。そのような好ましい治療システムを用いることにより、標的体積の遠位縁へのより良好な照射適合性を達成することができる。
【0022】
より好ましくは、制御ユニットは、PRmax1がPRmax2と異なるように構成される。そのような好ましい治療システムを用いることにより、標的体積に対するさらに良好な照射適合性を達成することができる。
【0023】
好ましくは、制御ユニットは、Emin1がEmin2と異なるように構成される。そのような好ましい治療システムを用いることにより、標的体積の近位端へのより良好な照射適合性を達成することができる。
【0024】
さらに好ましくは、制御ユニットは、PRmin1がPRmin2と異なるように構成される。そのような好ましい治療システムを用いることにより、標的体積に対するさらに良好な照射適合性を達成することができる。
【0025】
好ましくは、制御ユニットは、(Emax1-Emin1)が(Emax2-Emin2)と異なるように構成される。そのような好ましい治療システムを用いることにより、標的体積に対するさらに良好な照射適合性を達成することができる。
【0026】
好ましくは、各エネルギー成形要素は円筒面を有する。そのような好ましい治療システムを用いることにより、エネルギー成形要素を互いに近接して整列させることができ、したがって、スペースが節約され、コンパクト性が向上する。
【0027】
より好ましくは、すべてのエネルギー成形要素は同じ六角形の断面を有し、これにより、最もコンパクトなエネルギー成形デバイスが可能になる。
【0028】
好ましくは、各エネルギー成形要素は、流体又は固体物質を収容する管である。そのような好ましい治療システムを用いることにより、流体又は固体物質の各層の厚さを、制御ユニットによって容易に調整することができる。また、異なるエネルギー成形要素は、異なる阻止能を有する異なる流体又は固体物質を保持することができる。
【0029】
好ましくは、前記流体は液体である。例示的な液体は、フラン(CO)、及びグルコース(C12)の溶液である。好ましくは、前記固体物質は粒状固体物質である。
【0030】
好ましくは、エネルギー成形要素は、エネルギー成形要素と交差する荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に整列される。
【0031】
より好ましくは、エネルギー成形要素の各グループは、入射荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して整列される。
【0032】
好ましくは、治療システムは、標的体積上で荷電粒子ビームを走査するためのビーム・スキャナを備え、エネルギー成形デバイスの前の荷電粒子ビームのスポット・サイズは、第1の事前定義されたグループの隣接するエネルギー成形要素の断面に実質的に等しく、第2の事前定義されたグループのエネルギー成形デバイスの断面に実質的に等しい。
【0033】
代替として、エネルギー成形要素は、荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して横方向に、好ましくは荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して垂直に配置される。そのような代替手段を用いることにより、エネルギー成形要素は、粒子の伝播方向を横断するように積層され得、エネルギー成形要素の積層された層の数、その層のそれぞれの配向、その層のそれぞれの高さ及び断面、並びにその層が収容する流体又は固体物質は、標的体積において所望のSOBPを達成するように適合され得る。
【0034】
好ましくは、荷電粒子ビーム生成器は、サイクロトロン又はシンクロトロンである。好ましくは、荷電粒子ビーム生成器の出力における公称ビーム・エネルギーは、70MeVから250MeVまでの範囲内にある。
【0035】
本発明のこれらの態様及びさらなる態様について、添付の図面を参照しながら実例としてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明による治療システムの概略図である。
図2a】本発明による治療システムの例示的なエネルギー成形デバイスの3D図である。
図2b図2aのエネルギー成形デバイスの断面図である。
図2c】本発明による治療システムの好ましいエネルギー成形デバイスの断面図である。
図3a】動作中の図1の治療システムのより詳細な図である。
図3b図3aの治療システムを使用したときのXZ平面内の様々なビーム方向に沿った例示的な線量分布を示す図である。
図3c図3aの治療システムを使用したときの前記XZ平面内の様々なビーム方向に沿った例示的な粒子エネルギー分布を示す図である。
図4】本発明によるエネルギー成形要素のグループを示す図であり、エネルギー成形要素は、荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に整列した管である。
図5a】本発明によるエネルギー成形要素のグループを示す図であり、エネルギー成形要素は、荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して横方向に配置された管である。
図5b図5aの隣接するエネルギー成形要素の拡大図である。
図6図5aのように配置されているが、液体の代わりに固体物質で充填されたエネルギー成形要素を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
特に指示のない限り、図は一定の縮尺で描かれていない。概して、同一の構成要素は、図面において同じ参照番号によって示されている。
【0038】
図1は、本発明による例示的な治療システム(100)の概略図を示す。システムは、陽子若しくは炭素イオン又は任意の他の種類のイオンなどの荷電粒子の典型的には単エネルギー・ビームを生成するための荷電粒子ビーム生成器(3)(例えば、サイクロトロン又はシンクロトロンなど)を備える。荷電粒子ビーム生成器(3)によって送達される典型的なビーム・エネルギーは、例えば、70MeVから250MeVまでの範囲内にある。システムは、荷電粒子ビームを粒子ビーム生成器(3)から照射デバイス(5)(ノズルと呼ばれることもある)まで輸送するためのビーム輸送システム(4)も備える。照射デバイス(5)は、主ビーム軸(Z)(主ビーム方向とも呼ばれる)を有し、荷電粒子ビーム(6)を適切な形式で患者(ここでは示されていない患者)内の標的体積(1)に送達するように適合される。システムは、生成器(3)と標的体積(1)との間のビーム経路に設置されたエネルギー成形デバイス(10)も備える。この実例では、エネルギー成形デバイス(10)は、照射デバイス(5)と患者との間のビーム経路に設置されるが、照射デバイス(5)に統合されなくてもよい。
【0039】
そのような治療システムは、ビーム散乱、ビーム揺動(wobbling)、ビーム走査、又は他の方法などの様々な標的照射技法を適用し得る。エネルギー成形デバイス(10)は、前記ビーム散乱、ビーム揺動、又はビーム走査を実行するデバイスの下流に設置される。照射デバイス(5)は、アイソセンタを中心とした前記デバイスの回転のためにガントリに取り付けられ得るか、又は固定ビーム・ライン・タイプ又は任意の他のタイプのものであり得る。このようなシステムは当技術分野ではよく知られており、したがって、これ以上は詳細に説明しない。
【0040】
ここで興味深いのは、エネルギー成形デバイス(10)であり、エネルギー成形デバイス(10)は、荷電粒子ビーム(6)の粒子と交差するとき、エネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループ(12)の出力において第1の所望の粒子エネルギー分布を送達するように適合された、隣接するエネルギー成形要素(11)の前記第1の事前定義されたグループ(12)と、少なくとも、荷電粒子ビームの粒子と交差するとき、エネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループ(22)の出力において第2の所望の粒子エネルギー分布を送達するように適合された、隣接するエネルギー成形要素(21)の前記第2の事前定義されたグループ(22)とを備え、前記第2の所望の粒子エネルギー分布は、前記第1の所望の粒子エネルギー分布と異なる。
【0041】
この実例では、各エネルギー成形要素は、厚さを有する流体(13)又は固体物質の個々の層を含む。好ましくは、前記流体は液体である。例示的な液体は、フラン(CO)、及びグルコース(C12)の溶液である。好ましくは、固体物質は、粒状物質又は粉末形状の物質である。例示的な粒状固体物質は、ポリメチル・メタクリレート(PMMA:polymethyl methacrylate)の粒、ポリスチレンの粒、レキサンの粒、高密度ポリエチレンの粒である。
【0042】
システムは、
- 照射デバイスが第1の主ビーム方向(図1上のZ方向)に従って粒子ビームを標的体積に送達するように配向されたとき、前記第1の所望の粒子エネルギー分布を得るために、第1の事前定義されたグループ(12)のエネルギー成形要素(11)の流体又は固体物質(13)の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整し、
- 照射デバイスが第1の主ビーム方向(図1上の同じZ方向)に従って粒子ビームを標的体積に送達するように配向されたとき、前記第2の所望の粒子エネルギー分布を得るために、第2の事前定義されたグループ(22)のエネルギー成形要素(21)の流体又は固体物質(13)の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整する
ように構成された制御ユニット(14)をさらに備える。
【0043】
本発明の文脈において、各流体又は固体物質の前記厚さは、荷電粒子の伝播方向における前記流体又は固体物質の厚さである。
【0044】
エネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループの流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さは、エネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループを出力する荷電粒子によって照射される標的体積(1)の第1の領域における第1の所望の空間線量分布に従って、制御ユニットによって調整される。前記所望の第1の空間線量分布は、例えば、当該標的体積(1)の前記第1の領域に対する治療計画によって規定される線量分布である。
【0045】
エネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループの流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さは、エネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループを出力する荷電粒子によって照射される標的体積(1)の第2の領域における第2の所望の空間線量分布に従って、制御ユニットによって調整される。前記所望の第2の空間線量分布は、例えば、当該標的体積(1)の前記第2の領域に対する治療計画によって規定される線量分布である。
【0046】
好ましくは、制御ユニット(14)は、粒子ビーム(6)がオンになる前に、エネルギー成形要素の第1及び第2の事前定義されたグループの流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整する。
【0047】
図1の実例では、第1及び第2の所定のグループ(12、22)のエネルギー成形要素(11、21)は、Z方向に配向された円筒管であり、例えば、液体、又は粒状固体物質などの固体物質で少なくとも部分的に充填されている。
【0048】
しかしながら、照射デバイスが第1の主ビーム方向(図1上のZ方向)に従って粒子ビームを標的体積に送達するように配向されている間に、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)の出力において及び隣接するエネルギー成形要素(21)の第2の事前定義されたグループ(22)の出力において所望の粒子エネルギー分布を達成することを目的として、流体又は固体物質のそのような層の(荷電粒子の伝播方向における)厚さが制御ユニット(14)によって調整される限り、流体又は固体物質の層を荷電粒子の経路を横断するように配置する任意の他の実施例も適合する。
【0049】
Z方向に(又は前記管と交差する荷電粒子の伝播方向に従って)配向されたそのような円筒管をエネルギー成形要素として用いることにより、例えば、空気などの気体から液体を分離するために管内に設置されたピストンを使用することによって、特定の管の液体の厚さを調整することができる。この実例では、第1のピストンは、第1のピストンの両側の液体及び気体の圧力に従って、それらのそれぞれの圧力の平衡が達成されるまで、管内を移動する。液体及び気体はそれぞれ専用のタンク内に保持され得、各タンクは管の両端にそれぞれ流体接続され、それらのそれぞれの圧力は制御ユニット(14)によって、例えば液体タンク内の第2のピストンを移動させることによって調整される。例えば、シャフトを介して第2のピストンに作用するステッパ・モータを用いて液体タンク内のピストンを前後に移動させることができ、モータの各ステップは最終的に、管内の液体の厚さの変化につながる。液体タンクは、例えば注射器とすることができ、ステッパ・モータは注射器のピストンに接続される。管の端部とタンクとの間の接続は、タンクが粒子ビームの経路の外にあるよう適合される。前記接続は、例えば、90°の曲がりを有するエルボとして成形され、タンクを粒子ビームの経路の外に配置するのに十分な長さを有することができる。この実例では、すべての管が同じように装備されており、様々な接続の長さは管の数に対応するように適合され、それらのステッパ・モータはそれぞれ制御ユニット(14)によって個別に制御される。同様のシステムを使用して、液体の代わりに管内の粒状固体物質の厚さを調整することができる。
【0050】
図2aは、図1のエネルギー成形デバイス(10)の3D図を示し、図2bは、図1のエネルギー成形デバイス(10)の、主ビーム軸(Z)に垂直な平面(XY)における断面図を示す。これらの図は、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)及び隣接するエネルギー成形要素(21)の第2の事前定義されたグループ(22)を図示する。これらの図において、エネルギー成形要素(11、21)は、様々な断面を有する、Z軸に整列された管である。隣接するエネルギー成形要素の各グループ(12、22)におけるそのような管の数及びそれらのそれぞれの断面は、隣接するエネルギー成形要素のそのグループの出力において達成されるべき粒子エネルギー分布に従って選択される。
【0051】
隣接するエネルギー成形要素の所与のグループ(12、22)に属する管の数、及びそれらのそれぞれの断面は、隣接するエネルギー形成要素のその所与のグループを出力する荷電粒子の経路に沿って標的体積(1)の前端と遠位端との間で所望のSOBPを達成するように選択されなければならない。
【0052】
エネルギー成形要素の所与のグループの各管が制御ユニットによって異なる厚さの同じ液体又は同じ固体物質で充填される例示的な事例では、隣接するエネルギー成形要素のその所与のグループの各管は、異なるエネルギーの荷電粒子を出力し、各エネルギーは、標的体積内の所望のSOBPの特定のブラッグ曲線(及びブラッグ・ピーク)の原点にある。隣接するエネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループ(12)を出力する特定のエネルギーの荷電粒子の割合は、特定のエネルギーの荷電粒子を出力するように制御ユニット(14)によって流体又は固体物質の厚さが調整された、隣接するエネルギー成形要素のその所与のグループ(12)に属する管の断面にほぼ比例する。
【0053】
制御ユニット(14)は、隣接するエネルギー成形要素の所与のグループの出力における所望の/計画された粒子エネルギー分布を個々の液体又は固体物質の厚さに変え、それに応じてそのグループの様々なエネルギー成形要素を充填する。
【0054】
エネルギー成形要素の第1又は第2の事前定義されたグループ内の管の数及びそれらのそれぞれの断面は、例えば前記治療計画(空間線量分布)によって定義されるような、標的体積内に照射されるべき対応する円筒形副体積の直径にも準拠しなければならない。実際、エネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループ(12)の全体の断面は、標的体積内の前記対応する円筒形副体積の断面に可能な限り適合しなければならない。当然ながら、隣接するエネルギー成形要素の第2の所定のグループ(22)についても同じことが当てはまる。
【0055】
ペンシル・ビーム・スキャニング(PBS:pencil beam scanning)の事例では、隣接するエネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループ(11)の全体的な断面、同様に、隣接するエネルギー成形要素の第1の事前定義されたグループ(11)の前記入力におけるPBSスポットのサイズ及び形状に可能な限り適合しなければならない。当然ながら、隣接するエネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループ(22)についても同じことが当てはまる。
【0056】
これらの実例では、各管(11、21)は、例えば、2mmから10mmの間の直径を有し、管の第1の事前定義されたグループは、例えば5本から15本の管(11)を含み、管の第2の事前定義されたグループは、例えば5本から15本の管(21)を含む。
【0057】
図2cは、本発明による治療システムの好ましいエネルギー成形デバイスのXY平面における断面図を示す。そのような好ましい実施例では、エネルギー成形要素(11、21)はすべて、ハニカム様式で配置された同じ六角形断面の管である。
【0058】
このようなエネルギー成形デバイス(10)は、入射荷電粒子のエネルギーを低減するように特別に設計され、その結果、隣接するエネルギー成形要素の事前定義されたグループの出力において所望の粒子エネルギー分布が存在する。
【0059】
隣接するエネルギー形成要素の所与のグループを出力する荷電粒子が標的体積(1)に入ると、標的体積(1)の対応する領域にいくつかのブラッグ・ピークが生成され、それらの組合せにより、いわゆる「拡大ブラッグ・ピーク」(SOBP)がもたらされる。そのようなエネルギー成形デバイスの機能及び基本的な動作自体は、当技術分野ではよく知られており、したがって、これ以上は説明しない。
【0060】
図3aは、図1の治療システム(100)の動作中、すなわち、制御ユニット(14)が、前記第1の所望の粒子エネルギー分布を得るために、第1の所定のグループ(12)のエネルギー成形要素のエネルギー成形要素の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整し、前記第2の所望の粒子エネルギー分布を得るために、第2の事前定義されたグループ(22)のエネルギー成形要素の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整した後、且つ、荷電粒子ビームが第1の方向(図3a上のZ方向)に従って標的体積(1)を照射している間の図を示す。
【0061】
図3aは、特定の標的体積(1)のXZ平面における断面、並びにエネルギー成形デバイス(10)の同じXZ平面における対応する断面をより詳細に示す。このXZ平面において、粒子ビーム(6)の荷電粒子は、例えば、2つの第1の点(A1x、B1x)による深さで区切られた標的体積(1)の第1の領域を切り取る第1のビーム方向(Z1x)に進み得る。これらの荷電粒子は、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)と交差し、これらの荷電粒子が第1のビーム方向(Z1x)に進むときに、標的体積(1)内に第1のSOBP(SOBP-Z1x)を作り出し、この第1のSOBP(SOBP-Z1x)のプロファイル(本質的に幅、高さ、及び深さの位置)は、前記第1の領域における所望の線量分布に実質的に対応する。図3bのグラフには、第1のビーム方向(Z1x)に沿った所望の線量プロファイル及び所望の第1のSOBP(SOBP-Z1x)が示されており、横軸ZixはZ1x又はZ2xなどのビーム方向を表す。第2のビーム方向(Z2x)に進む荷電粒子にも同じことが当てはまる。
【0062】
図3cには、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)の出力において作り出される粒子エネルギーの対応する所望の第1の分布が示されており、横軸は、直線に目盛りが刻まれたスケール(目盛り)上に範囲内の平均値によって表された粒子エネルギー(E)を示し、縦軸は、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)の出力において平均粒子エネルギーを有する粒子の数と、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)と交差する粒子の総数との比を示す。
【0063】
図3cに示すように、前記第1のエネルギー分布は、第1の最小エネルギー(Emin1)における第1の粒子比(PRmin1)と、第1の最大エネルギー(Emax1)における第2の粒子比(PRmax1)とを含む。第1の最小エネルギー(Emin1)及び第1の最大エネルギー(Emax1)は、標的体積(1)における第1の点(A1x)の深さ及び第2の点(B1x)の深さにそれぞれ対応する。
【0064】
粒子エネルギーのこの所望の第1の分布から、隣接するエネルギー成形要素(11)の第1の事前定義されたグループ(12)の流体又は固体物質の層の特定の厚さが、知られている方法に従って計算され、次いで、標的体積の照射が開始される前に制御ユニットによって設定され得る。
【0065】
図3a、図3b、及び図3cはまた、隣接するエネルギー成形要素(21)の第2の事前定義されたグループ(22)と、粒子ビーム(6)の粒子がXZ平面内の第2のビーム方向(Z2x)に進むときの、対応する所望の線量プロファイル及びSOBP(SOBP-Z2x))と、所望の第2の所望の粒子エネルギー分布とを示す。図3cから分かるように、第2の所望の粒子エネルギー分布は、第2の最小エネルギー(Emin2)における第3の粒子比(PRmin2)と、第2の最大エネルギー(Emax2)における第4の粒子比(PRmax2)とを含む。第2の最小エネルギー(Emin2)及び第2の最大エネルギー(Emax2)は、標的体積(1)における別の第1の点(A2x)の深さ及び別の第2の点(B2x)の深さにそれぞれ対応する。
【0066】
同様に、粒子エネルギーのこの所望の第2の分布から、隣接するエネルギー成形要素の第2の事前定義されたグループ(22)の流体又は固体物質の層の特定の厚さが、知られている方法に従って計算され、次いで、標的体積の照射が開始される前に制御ユニットによって設定され得る。
【0067】
さらに理解されるように、同じ高さの同じ流体又は固体物質で充填されたいくつかの隣接するエネルギー成形要素のフィルタリング効果は、同じ高さの同じ流体又は固体物質で充填された、より大きい断面(すなわち、管の数を乗算した断面)の単一エネルギー成形要素のフィルタリング効果と多かれ少なかれ同等である。
【0068】
図3cから分かるように、制御ユニットは、好ましくは、Emax1がEmax2と異なるように、好ましくは同様にPRmax1がPRmax2と異なるように、好ましくは同様にEmin1がEmin2と異なるように、好ましくは同様にPRmin1がPRmin2と異なるように、好ましくは同様に(Emax1-Emin1)が(Emax2-Emin2と異なるように、第1の事前定義されたグループ(12)のエネルギー成形要素(11)の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整し、第2の事前定義されたグループ(22)のエネルギー成形要素の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整するように構成される。このような能力を用いることにより、標的体積の良好なコンフォーマル照射を得ることができる。
【0069】
そのような所望の粒子エネルギー分布は、例えば、制御ユニット(14)が、前記所望の粒子エネルギー分布を達成するためにエネルギー成形要素の流体又は固体物質の各個々の層の各流体又は固体物質の厚さを調整した後、エネルギー成形デバイス(10)上で粒子ビーム(6)を走査している間に達成され得る。
【0070】
そのような事例では、治療システムは、好ましくは、エネルギー成形デバイス上で荷電粒子ビームを走査するためのビーム・スキャナを備える。このようなビーム・スキャナは、当技術分野ではよく知られており、例えば、粒子ビーム(6)をX方向及びY方向に偏向させるためにビーム・ラインの周りに設置された電磁石を備える得る。したがって、例えば固定エネルギーを有する粒子ビーム(6)をエネルギー成形デバイス(10)上で走査すると、好ましくは単一の走査で、すなわち、エネルギー成形要素の事前定義された各グループを粒子ビームが1回だけ通過するだけで、標的体積の良好な深さのコンフォーマル照射を達成することができる。
【0071】
例えば、知られているペンシル・ビーム・スキャニング(PBS)技法を使用する場合など、治療システムがビームを走査する事例では、エネルギー成形要素は、エネルギー成形デバイス(10)の前の荷電粒子ビーム(6)のスポット・サイズが第1の事前定義されたグループ(12)の断面に実質的に等しく、隣接するエネルギー成形要素(21)の第2の事前定義されたグループ(22)の断面に実質的に等しくなるように、サイズ変更される。
【0072】
このような所望の粒子エネルギー分布は、荷電粒子ビームがエネルギー成形デバイスに到達する前に荷電粒子ビームを1回又は2回散乱させることによっても達成され得る。そのような実施例では、ビームは、エネルギー成形要素の実質的にすべての事前定義されたグループが散乱荷電粒子と交差するように散乱される。任意選択として、散乱ビームが標的体積(1)の横方向の境界に一致していることを保証するために、最終的なコリメータが使用されてもよい。
【0073】
図4は、本発明の例示的な実施例による、隣接するエネルギー成形要素(11、21、31)の3つの事前定義されたグループ(12、22、32)を示し、エネルギー成形要素の各事前定義されたグループ(12、22、32)は、入射粒子ビーム(6)の粒子の伝播方向(Z1x、Z2x、Z3x)に対して整列される。好ましくは、所与の所定のグループ(12、22、32)のすべてのエネルギー成形要素は、入射粒子ビーム(6)の伝播方向(Z1x、Z2x、Z3x)に整列される。そのような好ましい実施例では、入射荷電粒子は、単一のエネルギー成形要素のみと交差する。例えば、このような実施例を走査入射法と併せて使用することができ、その場合、隣接するエネルギー成形要素の各事前定義されたグループ(12、22、32)はそれぞれ入射走査ビームの伝播方向(Z1x、Z2x、Z3x)に配置及び整列される。
【0074】
ペンシル・ビーム・スキャニング(PBS)の事例では、図4に示すように、隣接するエネルギー成形要素(12)の各事前定義されたグループの全体的な断面は、好ましくは、隣接するエネルギー成形要素の前記各事前定義されたグループの入力におけるPBSスポット(60)のサイズに可能な限り適合しなければならない。
【0075】
図4は、六角形断面の管であるエネルギー成形要素を示す。しかしながら、管の断面は任意の形状とすることができ、管のそれぞれの断面は変更することができる。
【0076】
図5aは、本発明による治療システム(100)の代替の実施例を示す。これは上記の治療システムと同様であるが、相違点は、Zを主ビーム方向とするXYZ基準軸を用いた図5aに示すように、ここではエネルギー成形要素(11)が荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して横方向に、好ましくは荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して垂直に配置されることである。
【0077】
この実例では、エネルギー成形要素(11)は、積層された層に隣り合わせに配置された矩形断面の管であり、各層は、荷電粒子ビームの粒子の主伝播方向(Z)に垂直な平面内にある(図5aでは、粒子ビームの主な伝播方向(Z)は、シートの平面に対して垂直であるか又は傾斜している)。管の各層は、異なる高さを有し、またその平面内で異なる配向を有する。図5aは、4つの層(35a、35b、35c、35d)を含む実施例を示しているが、任意の数の層が可能である。また、管の断面は矩形以外の別の形状を有していてもよい。各管(11)は個別に、制御ユニット(14)によって上記と同じ又は同様の基準に従って、流体、好ましくは、例えばフラン(CO)若しくはグルコース(C12)の溶液などの液体で、若しくは、例えば粒状固体物質などの固体物質で充填され得るか、又は、空のままにされ得る。また、流体又は固体物質の種類は管ごとに異なり得る。そのような実施例によれば、隣接するエネルギー成形要素の事前定義されたグループは、複数の層からの1つ又は複数の管を含む。図5aは、第1の事前定義されたグループの隣接するエネルギー成形要素のそのような例示的な選択を、それらの太字の境界で強調表示している。管の層は、図5aで破線の円(40)で強調されているように、隣接するエネルギー成形要素が異なる断面の流体又は固体物質の積層体を画定するように配向及び配置される。これらの断面が図5bに示されており、ここでは、それぞれ異なる断面及び異なる阻止能を有する流体又は固体物質の7つの積層体(41から47)を見ることができる。治療システムが、エネルギー成形デバイス(10)上で粒子ビームを走査するためのスキャナを備える場合、破線の円(40)の面積は、好ましくは、この位置における粒子ビームのスポット・サイズに実質的に対応する。
【0078】
より一般的には、事前定義されたグループのエネルギー成形要素は、入射荷電粒子の経路に沿って流体又は固体物質の層の様々な積層体を画定することを目的として個別に配置され、各流体又は固体物質は、阻止能が場合によっては異なることを特徴とし、各積層体は、入射荷電粒子ビームと交差するエリアが異なる可能性があることを特徴とする。したがって、流体又は固体物質の層の各積層体は、積層体を作る流体又は固体物質の層の厚さ及び阻止能の違いに起因する所与のエネルギー(又は、入射粒子ビームの範囲の幅と同様の幅の範囲内のエネルギー)の粒子を出力し、その所与のエネルギー(又は複数のエネルギー)を有する入射荷電粒子の割合は、流体又は固体物質の層の積層体の交差エリア(すなわち、入射荷電粒子ビームの荷電粒子と交差するエリア)に依存することになる。図5a及び図5bに示す実施例の場合、流体又は固体物質の層の各積層体は管で作られており、交差エリアは管の断面である。
【0079】
エネルギー成形要素が荷電粒子ビームの粒子の伝播方向に対して横方向に配置される事例では、エネルギー成形要素(11)は、流体又は固体物質で充填された管の代わりに、代替として、固体物質の単純なロッドであってもよい。
【0080】
したがって、上記で説明し、図5a及び図5bに示したことは、エネルギー成形要素が固体物質の単純なロッドである場合にも適用される。幾何学的な考慮事項は引き続き有効であり、関与する固体物質を適切に選択することにより、固体物質の層の積層体の阻止能を適合させることができる。そのような固体物質は、例えば、ポリメチル・メタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、レキサン、高密度ポリエチレン、又は真鍮若しくはタングステンなどの金属などの異なるタイプのプラスチックとすることができる。流体とは異なり、固体物質は、任意の単一のエネルギー成形要素に複数の物質を混合する可能性を提供する。より正確には、図6に示すように、様々な固体物質を互いに隣り合わせでエネルギー成形要素(11)に含めることができ、図6では、このようなエネルギー成形要素(11)は中空管である。図6の実例では、3つの異なる固体物質(51、52、53)が存在しており、それぞれが中空管(11)の一部を占めている。具体的には、各エネルギー成形要素(11)は個別の数の固体物質(51、52、53)を含むことができ、様々な固体物質間の境界の位置も個別に選択することができる。このような構成は、コンフォーマル照射を達成するための自由度を増加させる。
【0081】
固体物質の単純なロッドで作られたエネルギー成形要素は、制御ユニットによって、適切な治療構成で、例えばマルチリーフ・コリメータと同様の方法で、すなわち、ロッドをそれぞれの治療位置で横方向に前後に移動するステッパ・モータによって、移動され得る。
【0082】
固体物質で充填された管で作られたエネルギー成形要素は、制御ユニットによって、例えば各管の一端又は他端から管内の固体物質のロッドを押すステッパ・モータを制御することによって、適切な治療構成で配置され得る。
【0083】
本発明を特定の実施例に関して説明してきたが、これらは本発明を例示するものであり、限定するものと解釈されるべきではない。特許請求の範囲における参照番号は、その保護範囲を限定しない。「~を備える」、「~を含む」、「~から構成される」又は何らかの他の変形の動詞及びそれらのそれぞれの活用形の使用は、記載されているもの以外の要素の存在を排除するものではない。要素の前に「a」、「an」又は「the」という冠詞の使用は、そのような要素が複数存在することを排除するものではない。
【0084】
本発明は、以下のように説明することもできる:
所望の3D線量分布に合致して荷電粒子を標的体積(1)に照射するように適合された粒子治療システム。そのような所望の3D線量分布は、入射単エネルギー荷電粒子ビーム(6)と交差するエネルギー成形デバイス(10)の出力において複数の粒子エネルギー分布を送達しながら達成される。エネルギー成形デバイスは、エネルギー成形要素(11、21)の複数の事前定義されたグループ(12、22)を含み、各グループの各エネルギー成形要素は流体又は固体物質(13)の個々の層を含み、流体又は固体物質(13)の厚さは、後に単一の主ビーム方向(Z)に従って標的体積が照射されている間に前記所望の3D線量分布を得るために、照射前に制御ユニット(14)によって個別に適合される。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4
図5a
図5b
図6
【国際調査報告】