(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ブタの健康及び発育成績を向上させるブタ由来のプロバイオティクス
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230711BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230711BHJP
A23K 50/30 20160101ALI20230711BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20230711BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20230711BHJP
A23K 20/179 20160101ALI20230711BHJP
A23K 20/174 20160101ALI20230711BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
A23L33/135
A23K50/30
A23K10/18
A23K10/16
A23K20/179
A23K20/174
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576415
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 US2021036804
(87)【国際公開番号】W WO2021252760
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500467264
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ アーカンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】ザオ ジャンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン シャオファン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ ツォンチェン
(72)【発明者】
【氏名】マックスウェル チャールズ ヴイ
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
2B005EA11
2B005EA12
2B150AA03
2B150AA04
2B150AB03
2B150AC06
2B150AC07
2B150AE05
2B150AE12
2B150AE16
2B150DE01
4B018LE01
4B018LE02
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4B018LE05
4B018MD85
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4B065AA30X
4B065AA49X
4B065BD06
4B065BD10
4B065BD11
4B065CA43
(57)【要約】
本発明は、本明細書においてLactX、StrepX1及びStrepX3と称される単離された細菌株を含むプロバイオティクス組成物を提供する。ブタの発育速度を増加させるため、及びブタの生産を向上させるために、組成物を使用する方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の単離された細菌株を含む組成物であって、前記細菌株の少なくとも1つが、
a)配列番号4の16S rRNA配列を有するラクトバチルス株LactX;及び
b)配列番号2の16S rRNA配列を有するストレプトコッカス株StrepX3又はStrepX1
から選択される、組成物。
【請求項2】
LactXを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
StrepX3又はStrepX1を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
LactX、StrepX1及びStrepX3の少なくとも2つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
LactXが受託番号NRRL XXXXXとして寄託された細菌であり、StrepX1が受託番号ATCC XXXXとして寄託された細菌であり、及びStrepX3が受託番号ATCC XXXXXとして寄託された細菌である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
凍結乾燥形態又は乾燥形態である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
液体形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ペースト、ゲル、カプセル、エアゾールスプレー、又は錠剤の形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記細菌の少なくとも一部が、消化管内での放出のために処方されたコーティングで被覆されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
担体、保存剤、安定剤、界面活性剤、香味増強剤、着色剤、ビタミン、栄養素、プレバイオティクス、又は付加的なプロバイオティクスを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
直接給与生菌組成物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ブタの発育速度を増加させる方法であって、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物をブタに投与することを含む、方法。
【請求項13】
発育速度の増加が、対照ブタと比較した場合の前記ブタの体重の増加を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ブタの体重が、前記対照ブタと比較して、少なくとも約2%、3%、4%、5%、10%、12%、15%、20%、又は25%増加する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ブタの体重が、育成期、肥育前期、及び肥育後期のうちの1つ以上において測定される、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
ブタの離乳が発育に及ぼす悪影響を緩和するための方法であって、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を前記ブタに投与することを含む、方法。
【請求項17】
ブタの出生から市場出荷可能体重までの時間を短縮するための方法であって、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を前記ブタに投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記組成物が経口投与される、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記経口投与が以下:
a)前記ブタによって消費される飼料製品中に前記組成物を提供すること、
b)前記ブタによって消費される水の中に前記組成物を提供すること、
c)前記ブタを養育している母ブタの乳首上に前記組成物を提供すること、又は
d)強制経口投与により組成物を提供すること
の1以上を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、単回投与で前記ブタに投与される、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、初回投与及び1以上の付加的投与として前記ブタに投与される、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ブタが、
a)離乳期前、
b)離乳期、又は
c)育成期
にある際に前記単回投与又は前記初回投与が行われる、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記ブタが、
a)約1~約61日齢の間、
b)約18~約28日齢の間、又は
c)約18~約22日齢の間
である際に前記単回投与又は前記初回投与が行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ブタが、
a)育成期、又は
b)育成期2の終了時
にある際に少なくとも1回の前記付加的投与が行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記ブタが、
a)約45~約60日齢の間、又は
b)約48~約52日齢の間
である際に少なくとも1回の前記付加的投与が行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ブタに投与される前記組成物が、10
7~10
10コロニー形成単位の前記細菌株を含む、請求項12~25のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行出願の相互参照
本願は、2020年6月10日出願の米国仮出願第63/037,435号の優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書の一部として援用される。
配列表
配列表が本願に添付され、2021年5月26日に作成された4.29KBサイズの「169946_00625_ST25.txt」という名称の配列表のASCIIテキストファイルとして提出された。この配列表は本願と共にEFS-Webを介して電子的に提出され、その全体が参照により本明細書の一部として援用される。
【背景技術】
【0002】
緒言
養豚業において、離乳期とそれに続く育成期は、ブタの消化管及び免疫力が不安定になる時期である。飼料は、離乳前の乳飼料から、育成期の終わりまでに、複合糖質を含有するトウモロコシ-ダイズミール系飼料に迅速に変更される。この急激な飼料の変更に対して、ブタの消化管は新たに利用可能になった基質に迅速に適応する必要があり、これは離乳初期の飼料摂取量の減少を伴う。これらのストレス要因は、病原性細菌が消化管に定着するのに最適な環境を提供し、消化管バリアの完全性の破壊及び感染性疾患に対する感受性の増大を招く。肥育前期及び肥育後期において、腸内マイクロバイオームの異常、病原体の感染、及び飼料効率は、ブタの健康及び発育成績にとって大きな脅威となる。
有害な病原性微生物の定着を防ぐため、育成期のブタには発育成績を向上させるための抗生物質が日常的に給与されている。しかしながら、抗生物質に対する耐性の懸念から、抗生物質の使用は社会的に厳しくなってきており、畜産業界は代替となるものを見つける必要に迫られている。
【発明の概要】
【0003】
腸内マイクロバイオームは、宿主の免疫系の恒常性、栄養利用、及び消化管バリアの完全性に重要な影響を及ぼしている。このように、プロバイオティクス又はプレバイオティクスを用いてブタの腸内マイクロバイオームを調節することは、病原体の侵入を防ぎ、有益な細菌の定着を促進するための有望な手段となっている。しかしながら、プロバイオティクスが健康及び発育成績を向上させる能力を検討した研究では、一貫性のない結果が報告されている。従って、養豚業では、ブタの発育成績を向上させることができる、プロバイオティクスサプリメントに対するニーズが依然として存在する。
【0004】
要約
本発明は、1以上の単離された細菌株を含む組成物を提供し、これらの細菌株のうち少なくとも1つは、(a)ラクトバチルス(Lactobacillus)株LactX、(b)ストレプトコッカス(Streptococcus)株StrepX3及び(c)ストレプトコッカス株StrepX1から選択される。
第2の態様において、本発明は、ブタの発育速度を増加させるための方法を提供する。本方法は、本明細書に開示される組成物をブタに投与することを含む。
第3の態様において、本発明は、ブタの離乳が発育に及ぼす悪影響を緩和するための方法を提供する。本方法は、本明細書に開示される組成物をブタに投与することを含む。
第4の態様において、本発明は、ブタの出生から市場出荷可能体重までの時間を短縮するための方法を提供する。本方法は、本明細書に開示される組成物をブタに投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】ブタの腸内マイクロバイオーム群集の多様性(a、c、e)及び豊富さ(b、d、f)の、テスト試験(a及びb)、並びに検証試験の対照群(c及びd)及び糞便マイクロバイオータ移植(FMT)群(e及びf)の、出生から市場までの経時的変化を示す。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期は、それぞれ青(1~20日)、紫(27~61日)、緑(76~116日)及び赤(130~174日)で表される。
【
図2】異なる発育段階のブタの腸内マイクロバイオーム菌種構成の経時的変化を示す。ブレイ-カーティス距離に基づく主座標分析(PCoA)プロットは、テスト試験(a)、並びに検証試験の対照群(b)及び糞便マイクロバイオータ移植(FMT)群(c)、及び全ての群を合わせたもの(d)において明確なクラスターを示した。哺乳期、育成期、肥育前期及び肥育後期は色(それぞれ青、紫、緑及び赤)並びに形(それぞれ四角、丸、菱形、及び三角)で区別されている。FMT群のブタドナーは黄色の菱形で表示されている。同じ色の濃さのサンプルは、同じ日に採取されたものである。
【
図3】テスト試験(a)だけではなく検証試験の対照群(b)、及びFMT群(c)において同定された上位30の特徴量を示す。各色は、積み上げ棒グラフ上の細菌分類群の相対存在量を表している。
【
図4】ブタの腸内マイクロバイオームの経時的な出現パターンを示す。各日の平均相対存在量に基づく上位700の特徴量を用いて出現パターンをまとめた。青丸は細菌分類群の存在を示し、黄丸は不在を示す。混色の丸は、各段階又は期間における「存在」と「不在」の間の移行を意味する。
【
図5】テスト試験において、線形判別分析の効果量(LEfSe;LDA>2)により特定された91の段階に関連する細菌分類群を示すヒートマップである。上位1000の特徴量(d0のサンプルを除く)をLEfSe分析に使用した。ヒートマップは、対数スケール上の平均相対存在量を示す。
【
図6】異なる発育段階における細菌分類群間の相互作用のネットワーク解析を示す。細菌分類群間の関係を計算するために、SparCCを使用した。ネットワークの描画には、Rパッケージのigraphを使用した。
【
図7】糞便マイクロバイオータ移植(FMT;各フェーズの右側のバー)が、(a)離乳時及びその後の発育段階における平均日増体重(ADG)、及び(b)ブタの最終体重及び温枝肉質量(HCW)に及ぼす影響を、対照(CON;各フェーズのグラフの左側のバー)と比較して示したものである。全てのブタの体重を各フェーズの開始時と終了時に測定し、ADG及び市場体重を決定した。この試験の終わりに、全てのブタは、枝肉特性データを収集する工場に移された。1個のアスタリスク(
*)は、有意差がある傾向を示す(0.05<P<0.10);2個のアスタリスク(
**)は有意差を示す(P≦0.05)。
【
図8】テスト試験で特定された発育成績関連の特徴量を示す。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期で特定された上位50の発育関連細菌が示されている。最後の列は、段階全体(Overall)の上位50の特徴量を示している。上位50の特徴量は、各段階(哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期)又は段階全体(Overall)の上位500の特徴量からRの回帰ベースのランダムフォレストアルゴリズムを用いて選択されたものである。
【
図9】テスト試験で出生から市場まで追跡した母ブタ及び屠蓄前ブタにおけるブタの腸内マイクロバイオーム群集の多様性(a)及び豊富さ(b)、並びに群集の均等度(シャノンの均等度)(c)の経時的変化を示す。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期は、飼料の構成及び生理的な発達に基づき、それぞれ青(1~20日)、紫(27~61日)、緑(76~116日)、及び赤(130~174日)に色分けされている。他の飼育群から分娩日に採取された母ブタの直腸スワブは黄色で表示されている。
【
図10】ブタの腸内マイクロバイオーム菌種構成の異なる発育段階における経時的変化を示す。ジャッカード距離に基づく主座標分析(PCoA)プロットは、テスト試験(a)、検証試験の対照群(b)、FMT群(c)、及び3つの群を合わせた全てのサンプル(d)において、明確なクラスターを示した。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期は色(それぞれ青、紫、緑及び赤)並びに形(それぞれ四角、丸、菱形、及び三角)で区別されている。同じ色の濃さのサンプルは、同じ日に採取されたものである。FMT群のブタドナーは黄色の菱形で表示されている。
【
図11】テスト試験(a)、検証試験の対照群(b)及び糞便マイクロバイオータ移植(FMT)群(c)における、ブタの腸内マイクロバイオーム組成物の門レベルでの経時的変化を示す積み上げ棒グラフである。
【
図12】テスト試験のブタの腸内マイクロバイオームの、上位10種のうちの8種の細菌の特徴量の出生から市場までの動態を示す箱ひげ図である。
【
図13】検証試験における対照群及びFMT群のブタの腸内マイクロバイオームを示すPCoAプロットである。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期は色(それぞれ青、紫、緑及び赤)で区別されている。同じ色の濃さのサンプルは、同じ日に採取されたものである。対照群(Con)及び糞便マイクロバイオータ移植群(FMT)は、それぞれ三角、及び丸で示す。ブタドナーは黄色で表示されている。
【
図14】テスト試験群、検証試験-対照群、検証試験-FMT群に共通する屠蓄前の定住菌として特定された「コア」マイクロバイオームを示すベン図である。
【
図15】検証試験の対照群(a)及びFMT群(b)において、上位1000の特徴量(d22及び23のサンプルを除く)に基づき、LEfSeが特定した段階において豊富な特徴量を示す。ヒートマップは、対照群(c)及びFMT群(d)における、段階において豊富な特徴量(LDA>2)の対数スケールでの平均相対存在量を反映し、赤は存在量が多いことを、青は存在量が少ないことを示している。
【
図16】テスト試験における、経時的な腸内マイクロバイオーム群集のPCoAプロットであり、飼料、母ブタ、性別により区別されている。哺乳期、育成期、肥育前期及び肥育後期は、形(それぞれ四角、丸、菱形、及び三角)により区別されている。
【
図17】個々のブタの経時的な腸内マイクロバイオームのPCoAプロット(ブレイ-カーティス)であり、各プロットに耳刻番号が示されている。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期は、形(それぞれ四角、丸、菱形、及び三角)により区別されている。同じ色の濃さのサンプルは、同じ日に採取されたものである。欠測データ又は特定のブタのd0からのサンプルは示していない。
【
図18】初期段階の腸内マイクロバイオームの後期段階への寄与のSourceTracker分析を示す。4つの箱ひげ図は、d0サンプル~d11(哺乳期)、d20(離乳期)~d27(育成期フェーズ1)、d61(育成期終了)~d76(肥育前期フェーズ1)、及びd116(肥育前期フェーズ2終了)~d134(肥育後期フェーズ1)の寄与率を示している。
【
図19】検証試験におけるd42(a)及びd61(b)で、LEfSeにより、対照群と糞便マイクロバイオータ移植(FMT)群の間で差異があることが確認された特徴量と、(c)異なる時点における対照群(明)及びFMT群(暗)の特徴量2の相対存在量(右Y軸)及び体重(左Y軸)である。
【
図20】検証試験の異なる時点における糞便マイクロバイオータ移植(FMT)群において豊富な細菌分類群を示す。各日における青(左)及び赤(右)のバーは、それぞれ対照群及びFMT群におけるこれらの細菌の特徴量の相対存在量を示す。
【
図21】検証試験で特定された発育成績関連の特徴量を示したものである。哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期に特定された上位50の有益な細菌が示されている。最後の列は、段階全体(overall)の上位50の特徴量を示している。上位50の特徴量は、各段階及び段階全体(Overall)の上位500の特徴量からRの回帰ベースのランダムフォレストアルゴリズムを用いて選択されたものである。
【
図22】テスト試験の陰性対照、模擬群集、及びd0の子ブタの腸内マイクロバイオームのPCoAプロットを示したものである。
【
図23】対照群(Con)及び単離群(ISO)のd21、64、及び78のF2の相対存在量を示したものである。
【
図24】対照ブタ(Con)及び異なる細菌株(F2_Str1、F2_Str3、及びLact_Str4)を給与したブタの発育成績を示す。体重は、育成期の3時点:d34、d53、及びd66、並びに肥育前期フェーズの1時点:d94で測定した。細菌株StrepX_3(F2_Str3)及びLactX(Lact_Str4)は、ブタの体重を有意に増加させた。
【
図25】第3の動物試験(即ち、F2_Str3の検証試験)において離乳から市場出荷までのブタの平均日増体重(ADG)に及ぼすF2補給及び抗生物質の影響を示したものである。F2処置群に割り当てられたブタは、離乳日(d0)、d1、及び育成期2フェーズの終わり(d28)に再びF2を投与された。抗生物質処置群には、フェーズ1にカルバドックス(Mecadox(登録商標)10、Phibro Animal Health Corporation、ティーネック、NJ)、及びフェーズ2にチアムリンフマル酸水素塩(Denagard(登録商標))+クロルテトラサイクリン塩酸塩(CTC(登録商標)、Novartis Animal Health US Inc、グリーンズボロ、NC)を追加した。a.b.共通の上付き文字を持たない最小二乗平均は、p≦0.05で有意に異なる。
【
図26】第3の動物試験における離乳から市場出荷までのブタの体重(BW)に及ぼすF2補給及び抗生物質の影響を示したものである。ブタは、上記の
図25の説明に記載のとおりに処置した。(a)育成期終了から肥育後期フェーズ3終了までの3つの処置群の体重。(b)最終時点(d162)における3つの処置群の体重。x.y.共通の上付き文字を持たない最小二乗平均は、0.05<p≦0.1で異なる傾向がある。星はp≦0.05で統計的に有意な差であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
ブタの腸内マイクロバイオームと動物の健康及び生産との関係は、いくつかの研究において特徴付けられている[1~6]。腸内マイクロバイオームのバランスが崩れた状態(ディスバイオーシス)は、離乳期の高い死亡率、腸管バリア機能の低下、及び病原体感染の増加などと関連し、養豚業における大きな損失の一因とされている。プロバイオティクス又はプレバイオティクスを用いてブタの腸内マイクロバイオームを調節することは、病原体感染を防ぎ、有益な細菌の定着を促進する有望な手段である[7]。最近の研究では、ブタの腸内マイクロバイオームが消化管の生物地理学的特徴[5]、肥満症[3]、栄養素消化率[4]、及び発育成績[6]と関連していることが明らかになり、その理解が深まっている。特に、クリステンセネラ(Christensenellaceae)、オシリバクタ―(Oscillibacter)、デフルビタレア・インケルタエ・セディス (Defluviitaleaceae incertae sedis)、セルロシライティカム(Cellulosilyticum)、及びコリネバクテリウム(Corynebacterium)などの細菌分類群の存在は、養豚業にとって重要な指標である飼料効率と正の相関がある[8]。
【0007】
本願において、本発明者らは、発育の哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期を対象として、出生から市場までのブタの腸内マイクロバイオームの経時的変化を特徴付けた。彼らはこれらの段階間でブタの腸内マイクロバイオームが大きく変化していることを確認し、段階及び発育に関連する細菌を特定した。この発見を検証するため、本発明者らは、離乳期のブタに、成熟した肥育前期のブタの腸内マイクロバイオータを接種した。糞便マイクロバイオータ移植(FMT)は離乳期のブタの発育成績を有意に向上させたが、腸内マイクロバイオームの菌種の組成全体には変化が見られなかった。しかしながら、ストレプトコッカス及びクロストリジウム(Clostridiaceae)に関連する細菌を含む少数の分類群がFMTブタにおいて豊富であり、これらの細菌が動物の発育成績を促進する役割を担っている可能性が示唆された。
次に、本発明者らは、ランダムフォレスト機械学習を用いて、異なる段階のブタの発育成績と正の相関がある細菌株を特定した。カルチャロミクスアプローチを用いて、特定された細菌株のうち15株をブタから単離した。これらの細菌株の酸性pH及び胆汁酸に対する耐性をスクリーニングした結果、本発明者らは3つの細菌株をプロバイオティクス候補として選択した。選択した細菌株をブタに給与することにより、本明細書においてLactX及びStrepX3と称される2つの細菌株が、ブタの体重を有意に増加させることを見出した。
【0008】
定義:
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で定義され使用される全ての定義は、辞書の定義、本明細書の一部として援用される文献における定義、及び/又は定義された用語の通常の意味に優先すると理解すべきである。
本明細書及び請求項で使用される不定冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、別段の明示がない限り、「少なくとも1つの」を意味すると理解すべきである。
範囲は、各個のメンバーを含む。従って、例えば、1~3のメンバーを持つ群とは、1、2、又は3のメンバーを持つ群を指す。
別段の明示がない限り、2つ以上のステップ又は行為を含む、本明細書で請求される任意の方法において、本方法のステップ又は行為の順序は、本方法のステップ又は行為が記載された順序に必ずしも限定されるものではないことも理解すべきである。
【0009】
修飾動詞「してもよい(may)」は、複数の記載された実施形態又はその中に含まれる特徴のうち、1以上の任意選択肢又は選択肢の好ましい使用又は選択を意味する。特定の実施形態又はその中に含まれる特徴に関して任意選択肢又は選択肢が開示されていない場合、修飾動詞「してもよい(may)」は、記載された実施形態又はその中に含まれる特徴の態様の作り方又は使用に関する肯定的な行為、又は記載された実施形態又はその中に含まれる特徴に関する特定の技能を使用する最終的な決定を意味する。この後者の文脈では、修飾動詞「してもよい(may)」は助動詞「できる(can)」と同じ意味と含意を持つ。
請求項並びにその上記の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)」、などの全ての移行句は、オープンエンドである、即ち、含むがこれに限定されないことを意味すると理解されるものである。「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句だけが、それぞれクローズド又はセミクローズドの移行句であるものとする。
【0010】
本明細書で使用される場合、用語「プロバイオティクス」は、腸内微生物のバランスを改善することによって宿主動物に有益な影響を与える生きた微生物飼料サプリメントを指す。一般に、プロバイオティクスは生きた微生物である。異なるプロバイオティクスは消化管内で異なる作用を有する可能性があり、そのため異なるプロバイオティクスが個別に、又は相乗的に作用して有益な効果をもたらし得る。プロバイオティクスに関連する有益な効果は好ましいものであるにもかかわらず、研究者らは一般的な結論を出すことに慎重である。なぜなら、摂取するプロバイオティクスの種類や量、並びに特定のプロバイオティクスの組合せによって有益な効果は異なるからである。従って、プロバイオティクス細菌の特定の菌株、又は菌株の特定の組合せは、哺乳類に重要な健康上の利益をもたらし得る。本発明のプロバイオティクス組成物は、単離された細菌株LactX、StrepX3、StrepX1及びこれらの組合せを含む。
本明細書で使用される場合、用語「プレバイオティクス」は消化管内の特定の微生物の増殖を増大させる非消化性の食品成分を指す。「シンバイオティクス」は、少なくとも1つのプロバイオティクスと少なくとも1つのプレバイオティクスを含む組成物である。そのような組成物は、有益な細菌(例えば、プロバイオティクス)の増殖を促進すると理解される。例示的な実施例として、発酵乳製品は、生きた細菌とその餌を含んでいるため、しばしばシンバイオティクスとみなされる。
【0011】
本発明は、細菌を用いて、動物、特に農用動物の健康を増進するものである。好ましくは、動物は、家畜、家畜化された動物又はそれ自体は家畜ではない若しくは家畜化されていないが(即ち、野生)家畜動物と同じ種又は属に属する動物である。例えば野性のブタは、家畜のブタと同じ種に属するので、この定義に含まれることになる。処置され得る家畜動物の例としては、限定されるものではないが、イヌ、ネコ及びそれ以外の愛玩動物、ウマ、ウシ、ニワトリ及びそれ以外の家禽、ブタ、ヒツジ、ヤギなどが含まれる。動物は、農場又は農業用動物であってもよく、これらの動物には、限定されるものではないが、ウマ、ウシ、ニワトリ及びそれ以外の家禽、ブタ、ヒツジ、ヤギなどが含まれる。より好ましくは、動物は猪豚亜目である。猪豚(Suina)亜目(Suiformesとしても知られる)は、哺乳類の系統であり、イノシシ科及びペッカリー科のブタ及びペッカリーを含む。ブタ(Swine)又はブタ(pig)は、野生又は家畜のいずれでも、特に好ましい。
【0012】
本明細書で使用される場合、用語「単離された」は、本来の状態ならば通常付随する成分を実質的又は本質的に含まない材料を指す。例えば、単離された細菌株は、その天然に存在する環境に存在する、天然又は非天然に存在する成分を精製又は除去された細菌株を指す場合がある。
本明細書で使用される場合、用語「体重」(BW)は、ブタの質量(mass)又は質量(weight)を表し、用語「体重増加」(BWG)は、ブタの体重の増加を表す。ブタの体重又は体重増加は、ポンド(lbs)で測定され得る。プロバイオティクス組成物を投与されたブタは、プロバイオティクス組成物を投与されなかったブタの体重又は体重増加と比較して、体重又は体重増加の増加を示し得る。
本明細書で使用される場合、用語「飼料要求率(feed conversion ratio)」又は「飼料要求率(feed conversion rate)」は、飼料の体重への変換の測定値である。飼料要求率は、例えば、グラム単位の飼料摂取量をグラム単位のブタの体重増加量で割った商として測定することができる。改善は、飼料要求率の低下として測定される。理論に縛られるものではないが、飼料要求率が改善されたブタは、ブタの吸収能力の変化及び/又はブタの消化管内でより多くの栄養素を利用できることにより、多くの栄養素をより効果的に吸収することができる可能性がある。
本明細書で使用される場合、用語「飼料摂取量」は、定期的な給餌間隔の間に動物によって摂取された飼料の量を含んでもよい。動物の飼料摂取量は、動物によって摂取された飼料の量(例えばグラム単位)として測定されてもよい。動物の飼料摂取量は、動物の体重又は体重増加に対して否定的な影響又は悪影響を及ぼすことなく、プロバイオティクス組成物を含む飼料を提供された動物において減少し得る。飼料摂取量の減少は、プロバイオティクス組成物を含む飼料を提供された動物における体重又は体重増加の増加に対応し得る。
用語「発育速度の増加」、「発育生産の増加」、及び「発育の増大」は、対照ブタ(即ち、同じ条件下で飼育されたが、本発明のプロバイオティクス組成物を投与されなかった比較対象のブタ)の反応と比較して、ブタの体重、体重増加、又は飼料摂取量の増加、若しくは飼料要求率の減少をもたらすプロバイオティクス組成物の能力を指す。「増加」量は、一般に、統計的に有意な量である。
【0013】
ブタの生産を高めるための方法:
本発明は、ブタの発育速度を増加させるための方法を提供する。これらの方法は、本明細書に記載のプロバイオティクス組成物をブタに投与することを含む。
いくつかの実施形態では、発育速度の増加は、対照ブタと比較した場合のブタの体重の増加を含む。本明細書で使用される場合、用語「対照ブタ」は同じ又は同等の条件(例えば飼料、離乳プロトコールなど)下で飼育されたが、本発明のプロバイオティクス組成物を投与されなかった同等のブタ(例えば、同じ品種、性別、及び日齢)を指す。いくつかの実施形態では、ブタの体重が、対照ブタと比較して少なくとも約2%、3%、4%、5%、10%、12%、15%、20%、又は25%増加する。
【0014】
本発明は、ブタの離乳が発育に及ぼす悪影響を緩和するための方法も提供する。本方法は、本明細書に記載のプロバイオティクス組成物をブタに投与することを含む。離乳は、飼料、母体環境、及び収容施設の移行を含む、突然の移行によって特徴付けられる。これらの障害は、しばしば子ブタの下痢、ストレス、飼料摂取量の減少、発育の遅れ、腸内バリア機能の低下、及び病原体に対する感受性増大などを招く。本発明の細菌株は、ブタにおける発育成績を向上させる能力に基づいて選択された。特定の理論に縛られることを望むものではないが、本開示のプロバイオティクス組成物は、機能の中でも消化管機能を改善することによって(例えば、栄養利用率及び/又は飼料要求率の改善を通じて)、発育成績を向上させ得ると考えられる。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、日和見病原菌の過度の増殖を低減し、腸管の炎症を低減し、消化管バリアを越えた細菌の漏出を低減し、下痢を低減し、及び/又は免疫機能を向上させる。腸管機能のこれらの測定は、当技術分野で公知の標準的な技術を用いて評価することができる。実施例で議論されているように、日和見病原菌の増殖は、糞便スワブからDNAを抽出し配列決定(例えば、16S rRNA配列決定)を行うことによってモニタリングすることができる。腸管の炎症は、例えば、免疫細胞の浸潤(例えば、T細胞を標識する免疫組織化学を用いる)又は炎症誘発性サイトカイン遺伝子の発現(例えば、qPCRを用いる)を見ることによって評価することができる。バリア機能は、色素浸透アッセイ(例えば、腸漿膜側のFITC-デキストラン濃度の測定)、経上皮電気抵抗値(TEER)の測定、密着結合タンパク質の発現レベルの測定、又はグルコース若しくはマンニトールの傍細胞移行性の評価によって評価することができる。
【0015】
更に、本発明は、本明細書に開示される組成物を投与することにより、ブタの出生から市場出荷可能体重までの時間を短縮する方法を提供する。ブタは、飼料が効率的に筋肉に変換されなくなるポイントに到達するまで(即ち、飼料要求率が底値になる)、かなり一貫した速度で飼料を肉に変換する。この時点で、飼料の投下に対するリターンは劇的に低下する。このように、ブタは代謝が変化し、肉の筋肉が迅速につかなくなった時点で理想的な市場体重に達する。ブタの最高体重は市場の需要によって大きく変動し、一般に、114~131kg(250~300ポンド)である。いくつかの実施形態では、ブタの最高体重は、約2~5%、約5~10%、約10~15%、約15~20%、約20~25%、約25~30%、約30~35%、約35~40%、又は40%より大きく増加する。他の実施形態では、出生から市場出荷可能体重までの時間は、約1~3日、約3~5日、約1週間、約2週間、又は約3週間短縮される。
【0016】
例示的な発育フェーズ又は発育段階の区分及び給餌レジメンは、下記及び実施例に示されている。給餌レジメン及び発育速度はブタの種及び農業条件によって異なることが理解されるが、当業者ならば、本明細書に概説した発育フェーズ及び給餌レジメンと、他の特定の条件との間に類似性を見出し比較することができるであろう。
ブタの生産は、業界では大まかに4つの段階に区分されている。まず、妊娠中の母ブタが妊娠110日目頃になると、およそ3~4週間、分娩クレートに移され、そこで母ブタは出産(分娩)し、保護された環境の中で子ブタを育てる。この期間(即ち、誕生から離乳まで)、子ブタは泌乳中の母ブタから母乳を与えられ、「哺乳期フェーズ」にあると言われる。子ブタは約20日齢(d20)で離乳(即ち、母ブタから離し、固形飼料を給餌)する。離乳後、子ブタは育成施設に移され、8~10週間の「育成期フェーズ」で体重は8~25kgになる。肥育前期(25~71kg)及び肥育後期(71~130kg)と呼ばれる、ブタの生産の最後の2段階において、ブタは市場体重に達するまで給餌される。通常、ブタは生後約6ヵ月齢で市場体重に達する。「屠蓄前の期間」には、これらの4つの段階(即ち、哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期)が全て含まれる。
【0017】
実施例1において、本発明者らは動物試験1及び2において、それぞれ7段階及び8段階の給餌レジメンを実施した。動物試験1において用いた7段階のレジメンは、3つの育成期フェーズ(NP1:d20~33;NP2:d33~50;NP3:d50~61)を含む育成期、2つの肥育前期フェーズ(GP1:d61~90;GP2:d90~116)を含む肥育前期、及び2つの肥育後期フェーズ(FP1:d116~146;FP2:d146~174)を含む肥育後期からなる。個々のブタの体重(BW)及び直腸スワブは、哺乳期フェーズの3時点(d0、d11、及びd20)、育成期の各フェーズの終了時(d27、d33、d41、d50、及びd61)、肥育前期の各フェーズの中間及び終了時(d76、d90、d104、及びd116)、及び肥育後期の各フェーズの中間及び終了時(d130、d146、d159、及びd174)に採取した。
動物試験2において用いた8段階のレジメンは、3つの育成期フェーズ(NP1:d21~29;NP2:d29~42;NP3:d42~61)を含む育成期、2つの肥育前期フェーズ(GP1:d61~84;GP2:d84~99)を含む肥育前期、及び3つの肥育後期フェーズ(FP1:d99~138;FP2:d138~159;FP3:159~187)を含む肥育後期からなる。この試験では、各ブタに、健康な肥育前期フェーズ2のブタの糞便マイクロバイオータ混合物(FMT)を連続2日間(d21及びd22)、強制経口投与した。個々のブタのBW及び直腸スワブは、離乳時(d21)及び各フェーズの終了時、具体的には、育成期の付加的な4時点(d22、d23、d29、d42、及びd61)、肥育前期の2時点(d84及びd99)、及び肥育後期の3時点(d138、d159、及びd183)に採取した。
第3の試験は、動物試験2で発育成績の向上と関連した特定の細菌株(即ち、StrepX及びLactX)をブタのプロバイオティクスとして使用する能力を評価するために実施した。この試験では、動物試験1で用いたものと同じ7段階給餌レジメンを用いてブタに給餌した。本試験において、本発明者らは、離乳時、各育成期終了時、及び肥育前期フェーズの2時点(d66、及びd94)のブタの体重を測定した。実施例2において、本発明者らはこの試験を継続し、屠蓄前の全期間にわたってStrepXで処置したブタの発育を評価した。彼らは、離乳時にStrepXで処置すると、枝肉特性に影響を及ぼすことなく、抗生物質を投与した場合と比較してブタの発育速度が増加することを実証している。従って、いくつかの実施形態では、ブタの体重が、育成期、肥育前期、及び肥育後期のうちの1つ以上において測定される。
【0018】
離乳前及び育成期は、ブタの生産にとって重要な時期であり、特に離乳後の最初の2~3週間は重要である。離乳によるストレスは、育成期初期にしばしば発育の遅れをもたらし、それが肥育前期にも及ぶ可能性がある。従って、いくつかの実施形態では、本発明のプロバイオティクス組成物は、この重要なフェーズに観察される発育ラグを緩和、軽減、又は取り除くために投与される。
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、単回投与でブタに投与される。他の実施形態では、プロバイオティクス組成物のブースター補給は、最初の投与の後に提供される。他の実施形態では、ブースター補給は、追加で1回以上投与される。いくつかの実施形態では、ブタは、プロバイオティクス組成物を継続的に補給される。
いくつかの実施形態では、単回又は最初の投与は、ブタが離乳前の段階、離乳時、又は育成期にある時に行われる。特定の実施形態では、単回又は最初の投与は、ブタが約1~約61日齢、約18~約28日齢、又は約18~約22日齢の間にある時に行われる。
【0019】
上述のように、場合によっては、複数回の投与を介してプロバイオティクス組成物を提供することが有利であろう。実施例において、本発明者らは離乳時(即ち、ブタが約21日齢の時)にLactX又はStrepX3を子ブタに連続2日間、強制経口投与し、育成期フェーズ2の終わりに(d50)最終ブースターを投与した。従って、いくつかの実施形態では、少なくとも1回の付加的な投与は、ブタが育成期又は育成期2の終わりにある時に行われる。特定の実施形態では、少なくとも1回の付加的な投与は、ブタが約45~約60日齢の間、又は約48~約52日齢の間にある時に行われる。
【0020】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物の単回投与後13~73日で、又は複数回投与レジメン後12~72日で測定可能な改善(即ち、発育速度の増加、日和見病原菌の増殖の低減、腸管の炎症の低減、消化管バリアを越えた細菌の漏出の低減、下痢の低減、及び/又は免疫機能の向上)が認められる。例えば、離乳時に単回投与又は初めての投与を行う場合、育成期フェーズのd34及びd53、及び肥育前期フェーズのd66、及びd94に測定可能な改善を認めることができる。しかしながら、単回投与又は初めての投与が離乳前の段階で行われた場合には、測定可能な改善が発達の早い時点で認められる場合があり、一方、育成期の段階で行われた場合には、測定可能な(measureable)改善が発達の明らかに遅い段階で認められる場合がある。他の実施形態では、測定可能な改善は、出生から市場出荷可能体重までの時間の短縮又はブタの最高体重の増加であり、それは、ブタが最高体重に到達する肥育後期段階に必ず測定される。
図26に示されるように、体重の測定可能な改善は、104~134日目の間、又は162日目までといった発達の後期段階で生じることがある。
【0021】
組成物:
本発明は、1以上の単離された細菌株を含む組成物を提供し、細菌株の少なくとも1つは、ラクトバチルス細菌LactX及びストレプトコッカス細菌StrepX3又はStrepX1から選択される。細菌は、例えば、生きた細菌、死んだ又は不活化された細菌、又は複製能力のない細菌としてなど、いくつかの形態でこれらの組成物に含まれ得る。これらの組成物は、本明細書において「プロバイオティクス組成物」又は「プロバイオティクス製剤」と称される。
本明細書に記載された細菌、即ちLactX、StrepX3及びStrepX1は、リボソームRNA遺伝子配列決定データを用いたRibosomal Database Project[17]の現在の細菌の分類に基づいて分類された。16S rRNA及び23S rRNAなどのリボソームRNA(rRNA)遺伝子の配列は、ほぼ全ての生命体に存在するため、試料内に存在する細菌や真菌の、特定や比較によく利用される。細菌の名称や菌株の表示は、より多くの情報が得られるにつれて、時と共に変化することがあることを当業者ならば理解するであろう。従って、本願はこれらの実験が完了した時点でこれらの配列に関連する細菌株の名称に加えて、試料中に検出された特定のリボソーム配列(即ち、16S rRNA遺伝子のV4領域の配列)も提供するものである。注目すべきは、特徴量2(F2;配列番号1)として特定された16s rDNA v4領域が細菌株StrepX(配列番号2)と関連しており、及び特徴量3546(F3546;配列番号3)として特定された16s rDNA v4領域が細菌株LactX(配列番号4)と関連していたことである。
【0022】
ラクトバチルスは、グラム陽性で通性嫌気性菌又は微好気性菌、桿菌、無芽胞性菌、乳酸菌属を指す。ラクトバチルスは腸管内でバイオフィルムを形成し、厳しい環境条件下でも生存することができる。本明細書で使用される場合、「LactX」は1以上の以下の特徴を有するラクトバチルス菌を指す:(a)配列番号4の16S rRNA配列;又は(b)寄託受託番号NRRL XXXXX。
ストレプトコッカスは、グラム陽性の球菌又は球形細菌の属を指す。多くのストレプトコッカスは通性嫌気性菌であり、好気的、嫌気的の両方での生育が可能である。本明細書で使用される場合、「StrepX3」及び「StrepX1」は以下の特徴を有するストレプトコッカス細菌を指す:(a)配列番号2の16S rRNA配列;又は(b)それぞれ寄託受託番号NRRL XXXXX又はNRRL XXXX。
【0023】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、約107~1010コロニー形成単位(cfu)の間の細菌(例えば、107~1010cfuのLactX、107~1010cfuのStrepX3又はStrepX1、又は107~1010cfuの3つの細菌単離株の組合せ)、約108~1010cfuの間の細菌、又は約108~109cfuの間の細菌を含有する。細菌が動物飼料に含まれる実施形態では、動物飼料は動物飼料1グラム当たり約1×107、約1×108、約1×109又は約1×1010cfuの細菌を含み得る。いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、1用量当たり約1×107、約1×108、約1×109又は約1×1010cfuの細菌を含むように処方されている。1つの特定の実施形態では、プロバイオティクス組成物は1用量当たり約3×108cfuを含むように処方されている。動物飼料は、1つの細菌株又は2つ以上の細菌株の組合せを含むプロバイオティクス組成物を含んでもよい。
本明細書に開示されるプロバイオティクス組成物は、1以上のLactX、StrepX1及びStrepX3に加えて、1以上の薬学上許容される賦形剤を含んでもよい。「薬学上許容される」という語句は、本明細書において、健全な農業及び/又は畜産業の基準及び/又は医学/獣医学の判断の範囲内で、毒性、刺激作用、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を伴う対象の組織と接触して使用するために、妥当なベネフィット/リスク比に相応して適している、それらの化合物、材料、組成物、及び/又は投与形について使用するために採用される。
【0024】
本明細書で使用される場合、「薬学上許容される賦形剤」という語句は、対象への投与のために治療用化合物を担持する又は輸送することに関与する、界面活性剤、保存剤、安定剤、香味増強剤、着色剤、ビタミン、栄養素、プレバイオティクス、付加的なプロバイオティクス、液体又は固体増量剤、希釈剤、製造補助剤(例えば、滑沢剤、タルクマグネシウム、カルシウム又はステアリン酸亜鉛、又はステアリン酸(steric acid))、溶媒又は封入剤などの許容される材料、組成物又はビヒクルを指す。各賦形剤は、製剤の他の成分と適合し、対象に害を与えないという意味で「許容される」べきである。農業上許容される担体としては、例えば、鉱物質土類(例えば、シリカ、石灰、炭酸カルシウム、チョーク、粘土など)、及び植物由来の粉砕物(例えば、穀粉、木粉、籾殻、小麦ふすま、セルロース粉末など)が含まれる。好適な界面活性剤は、配合される有効成分の性質に応じて、元より非イオン性、陽イオン性及び/又は陰イオン性のもの、並びに乳化、分散及び湿潤特性を有する界面活性剤混合物であってよい。プロバイオティクス製剤は油(例えば、鉱油)も含んでもよい。薬学上許容される賦形剤として供することができる材料の付加的な例としては:糖類、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース;デンプン、例えばコーンスターチ及びジャガイモデンプン;セルロース及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;ゼラチン;タルク;蝋;油、例えば、落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及びダイズ油;グリコール類、例えば、エチレングリコール及びプロピレングリコール;ポリオール類、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;エステル類、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤;水;等張生理食塩水;pH緩衝溶液;及び医薬製剤で用いられる他の無毒性適合物質などが挙げられる。所望により、特定の香料及び/又は着色剤を添加することができる。
【0025】
当業者であれば、プロバイオティクス組成物は、その意図された使用、即ち投与経路に従って、日常的に処方されることを認識するであろう。本明細書に開示されるプロバイオティクス組成物、即ち1以上のLactX及びStrepX3を含む組成物は、乾燥又は液体の形態、経口投与のために処方することができる。例として、本発明の経口プロバイオティクス組成物は、チュアブル製剤、溶解する又は溶解した製剤、カプセル化/コーティング製剤、多層トローチ剤(有効成分及び/又は有効成分と賦形剤を分離するため)、緩徐放出/時限放出製剤の形態、又は当技術分野で公知の経口送達に適した他の形態であってよい。錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル、粉末、顆粒、及び水性又は非水性溶液又は懸濁液、スプレー、水薬、又はシロップ、冷凍、又は凍結乾燥の形態であってよい。プロバイオティクス製剤はフレーバー付きであってもよく、様々な形状又は色であってもよい。
経口投与のためには、いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は凍結乾燥又は乾燥された形態、例えば、乾燥粉末である。いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、水又は有機溶媒に可溶な乾燥粉末として処方されるか、又は加工若しくは製造中に動物飼料に直接添加されてもよい。他の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、液体形態、例えば、懸濁液又は溶液である。いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、例えば、ペースト、クリーム、ゲル、カプセル、エアゾールスプレー、又は錠剤の形態で処方される。いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、強制経口投与又は水薬により送達されるよう処方される。いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、消化管内で放出されるように処方されたコーティングで被覆される。いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、ブタによって消費される水の中に提供される。
【0026】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、直接給与生菌組成物を含む。本明細書で使用される場合、「直接給与生菌(DFM)」は、飼料を通して供給される生きた(生育可能な)微生物を指す。DFM組成物は、動物の飼料に継続的に添加してもよく、特定の発達段階(例えば、離乳時)にボーラス投与してもよい。
プロバイオティクス組成物は、飼料加工前、加工中、又は加工後に、ブタの飼料中に取り入れてもよい。例えば、組成物はペレット化段階の後に飼料製品にまぶされてもよい。重要なことは、飼料に添加される細菌の少なくとも一部は、それらが受ける飼料加工及び調製のあらゆる局面において(例えば、ペレット化段階で用いられる高温への曝露)生き延びることができなければならないことである。
更なる実施形態では、組成物はブタに授乳する母ブタの乳首に適用されるように処方される(例えば、スプレー、クリーム、ペースト、ゲル、液体などとして)。
【0027】
本発明の組成物の利点:
子ブタ用として市販されているプロバイオティクス製品はいくつか存在する(例えば、Diamond V社のSynGenX(登録商標))。しかし、これらの市販品の多くは、免疫機能及び腸内の健康の向上を目的として設計されており、発育成績を直接的に向上させる能力はまだ実証されていない。更に、ほとんどのプロバイオティクス製品は完全な特徴付けを欠いており、それらの最適な送達時間及び発育成績に対する効果が不明のままである。対照的に、本発明の組成物及び方法は、いくつかの、例示的な、非限定的な利点を提供する:(1)発育成績を向上させ、業界の利益に直接影響する;(2)選択された菌株(例えば、StrepX)は、ブタの腸内マイクロバイオームの優勢種であり(即ち、ブタの生涯を通じて4番目に多い菌株とされる)、ブタの腸に定着できる可能性が高い;(3)選択された菌株は丈夫で(例えば、胆汁酸及び塩酸に耐えられる)、好気性であり培養が簡単で、製造及び経口投与が比較的容易である。
【実施例】
【0028】
実施例1.発育成績を予測するブタのマイクロバイオーム内細菌の特定
近年、様々な発育段階におけるブタの腸内マイクロバイオームに関する理解が進んでいるにもかかわらず、ブタの生涯(出生から市場まで)にわたる腸内マイクロバイオームの動態に関する包括的な長期的研究は不足している。
この知見のギャップを埋めるために、本発明者らは、哺乳期(0、11、20日目)、育成期(27、33、41、50、61日目)、肥育前期(76、90、104、116日目)、及び肥育後期(130、146、159、174日目)の発達段階にある18頭のブタから合計273本の直腸スワブを採取した。DNAを抽出し、16S rRNA遺伝子のV4領域をターゲットとしたIllumina Miseqシークエンサーを用いた配列決定に供した。配列はQIIME2パッケージのDeblurアルゴリズムで解析された。ブタの腸内マイクロバイオームには、試験した発達段階を通じて17の門が検出され、ファーミキューテス門(Firmicutes)及びバクテロイデス門(Bacteroidetes)が最も豊富であった。α多様性は、群集の豊富さ(例えば、観察された特徴量の数)及び多様性(例えば、シャノン指数)として測定され、ブタの生涯を通じて全体的に増加した。異なる発育段階ごとにマイクロバイオーム菌種構成の明確なシフトが観察され、LEfSe分析により段階特異的な91の細菌の特徴量が明らかとなった。そこで、本発明者らは有望なプロバイオティクスとして利用可能な発育成績に関連した細菌分類群を特定しようとした。
【0029】
このため、本発明者らはまず、回帰ベースのランダムフォレスト解析を行い、各段階における発育成績を予測する上位50の細菌特徴量を特定した。これらの発見を検証するために、肥育前期のブタの成熟した糞便マイクロバイオータを離乳期のブタに接種して、糞便マイクロバイオータ移植(FMT)を行った。FMTは発育成績を著しく向上させたが、ブタの腸内マイクロバイオーム全体には変化はなかった。FMTブタ及びその同腹子において、マイクロバイオームの多様性及び菌種構成における同様の段階特異的パターンが観察され、ブタの腸内マイクロバイオームのより重要な決定要因は飼料(特にトウモロコシ由来の粗繊維)であることも示された。しかし、ストレプトコッカス及びクロストリジウムに関連する細菌を含むいくつかの分類群がFMTブタにおいて豊富であり、これらの細菌が動物の発育成績を促進する役割を担っている可能性が示唆された。従って、この試験は、動物の健康と生産を向上させるために、段階特異的なプロバイオティクスを最適化することの重要性を強調している。
【0030】
材料及び方法:
試験デザイン及び動物
動物試験1(テスト試験):
ブタは、動物実験委員会(IACUC)承認のプロトコール#19017に従って管理した。3頭の母ブタ(経産回数2回)から生まれた18頭のブタ(PIC29
*380)より直腸スワブを採取した。これらのブタのうち、17頭は全ての異なる発育段階を通して追跡調査した。子ブタは、哺乳期には20日目(d20)の離乳まで母ブタから母乳を与えられ、その後、敷地外の育成施設に移された。子ブタは、母ブタごとに層別化し、1つの囲いに2頭の同腹の子ブタを収容した。d61において、同じ囲いにいたブタと共に肥育前期・肥育後期施設にブタを移した。全てのブタに、3つの育成期フェーズ(NP1:d20~33;NP2:d33~50;NP3:d50~61)、2つの肥育前期フェーズ(GP1:d61~90;GP2:d90~116)、及び2つの肥育後期フェーズ(FP1:d116~146;FP2:d146~174)の7給餌フェーズレジメンで給餌した。全ての飼料は抗生物質不使用で、飼料中の栄養素はNRC(2012年)の推奨を満たしているか、それ以上であった。個々のブタの体重(BW)及び直腸スワブは、哺乳期のd0、11、及び20、育成期の各フェーズの終了時、肥育前期/肥育後期の各フェーズの中間及び終了時に収集した(表1)。
【表1】
【0031】
動物試験2(検証試験):
試験1の発見を検証するため、合計24頭の離乳ブタ(PIC29
*380)を選択した。ブタは、母ブタごとにブロック化し、敷地内の育成施設にある4つの囲いのうちの1つに割り当てた(1つの囲いあたりブタ6頭)。離乳日(生後21日目)に、ブタの半数(n=12)に糞便マイクロバイオータ移植(FMT)を実施した。FMTは、肥育前期フェーズ2の成熟健常ブタの直腸マッサージ後に排便された新鮮な糞便を肛門から採取し、その後、PBS中20%グリセロールを入れた孔径0.33mmの滅菌Whirl-Pak(登録商標)フィルターバッグ(Nasco Fort Atkinson、WI)に移し替えた。Stomacher(商標)400(Seward Ltd、ウエストサセックス、UK)を用いて高速で2分間振盪した後、糞便から細菌細胞を分離した。次に、濾液を50mlコニカルチューブに移し、-80℃のフリーザーで保存した。各ブタに3mlの濾液を連続2日間(d21及びd22)強制経口投与した。本試験では、ブタには合計8つの給餌フェーズレジメンで給餌した:3つの育成期フェーズ(NP1:d21~29;NP2:d29~42;NP3:d42~61)、2つの肥育後期フェーズ(GP1:d61~84;GP2:d84~99)、及び3つの肥育後期フェーズ(FP1:99~138;FP2:d138~159;FP3:159~187)。全ての飼料は抗生物質不使用で、ブタの各段階の栄養要求量に関するNRC(2012年)の推奨を満たしているか、それ以上であった。個々のブタの体重(BW)及び直腸スワブは離乳時及び各フェーズの終了時に収集した(表2)。
【表2】
【0032】
サンプル採取、DNA抽出、及び配列決定
動物試験1において、哺乳期(d0、11、20)、育成期(d27、33、41、50、61)、肥育前期(d76、90、104、116)、及び肥育後期(d130、146、159、及び174)に17頭のブタから合計273本の直腸スワブ(Puritan(登録商標)Opti-Swab(登録商標)Liquid Amies Collection & transport System;Puritan LLC、ギルフォード、ME)を繰り返し採取し、更に哺乳期段階で死亡した18頭目のブタからサンプル2本を追加採取した。試験2では、試験1で得られた知見を検証するために、哺乳期終了時(d21)、育成期(d22、23、29、42、及び61)、肥育前期(d84及び99)、及び肥育後期(d138、159及び183)に、24頭のブタから合計246本の直腸スワブを繰り返し採取した(表2)。これらのスワブは、DNA抽出を行うまで-80℃で保存した。
【0033】
合計200μLの糞便スワブ溶液を使用し、PowerLyzer PowerSoil DNA Isolation Kit(Qiagen、ヒルデン、ドイツ)を用い、製造業者のプロトコールに従ってDNA抽出を行った。抽出したDNAはNanoDrop(Thermo Fisher Scientific、ウィルミントン、DE、USA)を用いて定量し、DNアーゼ及びRNアーゼフリー水を用いて10ng/μLに希釈した。ライブラリーは、公開されたプロトコールに従って構築した[14]。簡単に述べれば、細菌16S rRNA遺伝子のV4領域を、ユニバーサルプライマー(F:5’-GTGCCAGCMGCCGCGGTAA-3’(配列番号5)及びR:5’-GGACTACHVGGGTWTCTAAT-3’(配列番号6))を用いて増幅した。アガロースゲル電気泳動を行いアンプリコンの大きさを確認した。PCR産物のクリーンアップと正規化には、SequalPrep Normalization Plate Kit(Invitrogen、カールスバッド、CA、USA)を使用した。正規化したアンプリコンを等量ずつプールし、それらの質及び量をAgilent bioanalyzer 2100(Agilent、サンタクララ、CA、USA)及び定量RT-PCRでそれぞれ測定した。Illumina MiSeq 2×250bpペアードエンドシークエンシング(MiSeq Reagent Kit v2、500サイクル、20%PhiX)を使用して、プールしたアンプリコンの配列決定を行った。品質管理のために、DNA抽出及びPCR増幅の陰性対照、模擬群集(ZymoBIOMICS(商標)Microbial Community Standard(Zymo、アーバイン、CA、USA))及び多くのドナーが、各MiSeqの実施に含められた。
【0034】
マイクロバイオームデータの解析
Illumina MiSeq fastqリードをQIIME2プラットフォーム(バージョン2.4)に取り込み、サンプル内のエラープロファイルに基づき1塩基分解能を得るDeblurプログラム[15]で処理した。Deblurがノイズ除去した配列は通常、アンプリコンシーケンスバリアント(ASV)、完全シーケンスバリアント(exact sequence variants)(ESV)、又は準操作的分類単位(sub-operational taxonomic units)(sub-OTU)と呼ばれる。本試験において、これらの配列をASV、ESV、及びsub-OTUと同義である細菌の特徴量に割り当て、異なる特徴量間の配列は1塩基レベルで異なっていた。Deblurは、異なる試験間で比較できるようなユニークな特徴量を生成する。α及びβ多様性測定におけるシークエンシング深度の影響を最小化するために、各サンプルからのリード数を4,000に希釈し、それでも平均97.90%というGoodのカバレッジが得られた。これらの特徴量の分類は、Greengenes参照データベース(13-8版)の分類器に99%の類似度で割り当てられた。Qiime2のqiime vsearch cluster-features-closed-referenceコマンドを用いて特徴量テーブルを作成した。α及びβ多様性の決定と類似性解析(ANOSIM)もqiime2で実施した。このデータ解析パイプラインは、模擬群集の8つの細菌分類群が各実施で予想通り一貫した相対存在量で検出されたことから示唆されるように、高品質の配列をもたらした。
【0035】
ブタの腸内マイクロバイオームの動態を形成する因子を特定するために、並べ替え多変量分散分析(PERMANOVA)を実施した。PERMANOVAは、分布のないアルゴリズムで、ランダム効果、反復測定、及びアンバランスなデータセットに対応する[16]。PERMANOVA分析には、デフォルト設定(ブレイ-カーティス距離と999個の並べ替え)で、異なる独立変数(例えば、日齢、性別、飼料)を含むRのveganパッケージのadonis関数を使用した。反復測定のためのブタのランダム効果を考慮して、strata=ブタIDを使用した。段階依存性の特徴量は、デフォルト設定(例えば、LDAスコア>2)の線形判別分析(LDA)効果量(LEfSe)を用いて特定した[17]。発育成績(体重)と相関する細菌の特徴量を特定するために、ランダムフォレストパッケージRプロジェクトのデフォルト設定を用いて、回帰ベースのランダムフォレストモデルを開発した[18]。LEfSeは、検証試験において対照群とFMT群の間で異なる表現を示す細菌の特徴量を特定するためにも使用した。
ネットワーク解析には、組成ネットワークから相関関係を推定することができるSparCCアルゴリズムを用いた。ネットワークは、Rのigraphパッケージを用いて、相関係数が0.6を超える、又は-0.6未満のノード(細菌分類群)間を結ぶエッジで示された。クラスターは、Girvan-Newmanアルゴリズムで算出した媒介中心性に基づいて生成した[19]。
【0036】
発育成績のデータ解析
データは、SAS(Cary、NC)の一般線形モデルを用いて、処置を固定効果とする完全ブロックデザインとして解析した。各個のブタを実験単位として用いた。因子レベルの最小二乗平均間の差異を検定するためにPDIFFオプションを使用した。
データの利用可能性
本試験で生成及び解析したデータセットは、Sequence Read Archive(SRA)リポジトリ、www.ncbi.nlm.nih.gov/bioproject/531671(SRA受託番号:PRJNA531671、2019年5月30日より利用可能)にて公開されている。
【0037】
結果:
出生から市場出荷までのブタの腸内マイクロバイオームの動態
本発明者らはまず、テスト試験において、出生時(d0)から市場出荷時(d174)までに採取した合計273本の直腸スワブを分析することで、ブタの腸内マイクロバイオームの動態を特徴付けた。1塩基分解能で3,358の特徴量から1サンプルあたり平均10,916のリードで、合計2,980,303の高品質リードを生成した。サンプルリードを4,000に希釈した後、270サンプルからの合計3,254の特徴量(合計1,080,000リード)を、ブタ腸内微生物群集動態の下流解析に含めた。配列リード数が4,000以下の他の3つのサンプルは更なる解析から除外した。
胎便(d0)において、観察された細菌の特徴量の数及びシャノン指数を含む高い微生物多様性が観察され、これは本試験の成ブタの多様性(
図1a及びb)並びに他の試験の母ブタの多様性(
図9)と同等であった。高い微生物多様性は11日目に急激に低下し、離乳前の20日目に増加した。離乳後に固形飼料を与えたにもかかわらず、育成期の最初の4週間はα多様性に大きな変化は見られなかった。観察期間中(d0を除く)のシャノン指数(H’、
図1a)及び観察された特徴量の数(
図1b)で示されたように、全体的なα多様性は、育成期の終わりから経時的に増加した。肥育後期においてわずかに増加したにもかかわらず、群集の均等度に大きな変化は見られなかった(
図9c)。
ブレイ-カーティス距離(
図2a)及びジャッカード距離(
図10a)に基づく主座標分析(PCoA)プロットでは、哺乳期、育成期、肥育前期及び肥育後期に群集メンバー及び菌種構成の著しいシフトが観察された。0日目のサンプルは、哺乳期の他の2時点(11日目及び20日目)のサンプルとは異なっていた。ブタに固形飼料を給餌した場合、育成期、肥育前期及び肥育後期でブタの腸内マイクロバイオームが異なっていた(表3及び4)が、ブタが母ブタから母乳を与えられた哺乳期マイクロバイオーム(ANOSIM、R>0.97、全ての固形飼料段階と哺乳期の比較でP=0.001;表3及び
図10a)よりも、互いにより類似していた(ANOSIM、育成期と肥育前期の比較:R=0.425;肥育前期と肥育後期の比較:R=0.554、共にP=0.001)。
【表3】
【表4】
【0038】
「コア」及び段階関連マイクロバイオーム
次に、屠蓄前セクションの異なる段階での細菌分類群の到達順序及び時期を検討した。門レベルでは、ファーミキューテス門(Firmicutes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)を含む合計19門が観察され、各段階でファーミキューテス門が最も多く、バクテロイデス門がそれに続いた(
図11a)。これらの2つの門は、全配列の70%を占めた。sub-OTUレベルでは、上位30種の最も豊富な細菌の特徴量が積み上げ棒グラフで表示されている。これらの上位30の分類群のうち、11分類群はプレボテラ(Prevotella)属に属し、ほとんどの段階、特に固形飼料導入後の段階で最も多様で優勢な属であった(
図3a)。
ブタの腸内マイクロバイオームのメンバーの出現順序と出現時間を
図4にまとめた。上位700の特徴量のうち、125の特徴量は、平均相対存在量に基づいて、屠蓄前の生涯を通じて存在し、ブタ消化管の「コア」マイクロバイオーム又は定住菌と定義される。特定の段階のみに出現する特徴量は「段階に関連する」と言われる。例えば、F250(アシネトバクター(Acinetobacter))は、出生時(d0)のみ観察された。特徴量20(プレボテラ・ステルコレア(Prevotella stercorea))は哺乳期に多く見られたが、それ以降の段階では著しく減少した。特徴量7(大腸菌(Escherichia coli))は、哺乳期に存在し、育成期の終わりまで持続した後、段階的に減少した。他方、プレボテラ・コプリ(Prevotella copri)に関連するF3は、固形飼料導入後の最初の育成期終了後に急激に増加した。それ以外の特徴量、例えばF4(未分類クロストリジウム)、10(バクテロイデス YRC22)、及び27(クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum))など、哺乳期及び育成期にはほとんど見られなかった特徴量が、肥育前期及び肥育後期に急速に増加した(
図3a)。メガスファエラ(Megaphaera)属、ラクトバチルス属、及びストレプトコッカス属など他の優勢属に属する細菌の特徴量の相対存在量も、様々な時点で変動が見られた(
図3a及び
図12)。最後に、ある段階で散発的に出現し、後に消失する特徴量を「パッセンジャー」と呼ぶ(
図4b)。
【0039】
段階に関連する細菌の特徴量は、統計的有意性のみならず生物学的整合性にも注目したアルゴリズムであるLEfSeにより特定された[17]。これらの特徴量の存在量を、ヒートマップで可視化した(
図5)。なお、0日目のサンプルはLEfSe分析に含めなかったが、これは、胎便マイクロバイオームは11日目及び20日目の典型的な哺乳期マイクロバイオームと著しく異なり、段階特異的なデータに偏りが生じる可能性があるためである。LEfSe分析により、上記の観測結果のほとんどが確認された。例えば、いずれの分類群もプレボテラ属に属すにも関わらず、F20は哺乳期に関連する細菌と分類されたのに対し、F3は育成期に特異的であった。注目すべきは、コアマイクロバイオームメンバーは屠蓄前セクション全体を通じて存続しているものの、その存在は段階特異的なパターンも示していることである。例えば、メガスファエラ(F1)及びストレプトコッカス・ルテシア(Streptococcus luteciae)(F2)はd0から試験終了まで検出されたが、その存在量は哺乳期段階には相対的に少なかった。その存在量は、育成期フェーズ1から増加し始め、育成期3終了時及び肥育前期にピークとなり、その後減少し始めるという単峰性のパターンを示した(
図5及び
図12)。
SparCCアルゴリズムを用いたネットワーク解析でも、細菌の特徴量間の、段階に関連する相互作用が示された(
図6)。ネットワーク内には、段階に関連する特徴量が互いに結びつけられた3つの大きなクラスターが観察された。黄色と緑色のクラスターは、それぞれ哺乳期及び肥育後期に関連するノード(細菌の特徴量)を結び、ピンク色のクラスターは、F3(プレボテラ・コプリ)及び22(ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae))の2つのハブノードによってこれら2つのクラスターをつなぐ橋渡し役となっている。育成期及び肥育前期において豊富な細菌の特徴量は、このクラスターに分類された。
【0040】
段階に関連するブタの腸内マイクロバイオームの検証
次に、第2の動物試験(即ち、検証試験;動物試験2)で、段階に関連するブタの腸内マイクロバイオームを検証した。離乳時に12頭のブタに、肥育前期ブタ(肥育前期フェーズ2)から単離した成熟腸内マイクロバイオータを接種した。対照群の同腹子と比較すると、FMTレシピエントは、育成期フェーズ2(0.30対0.25kg、P=0.087)、肥育前期フェーズ1(0.60対0.53kg、P=0.042)、肥育後期フェーズ1(1.05対0.9kg、P=0.068)、及び肥育後期フェーズ2(0.98対0.81kg、P=0.018)で、平均日増体重(ADG)が大きかったが、肥育前期フェーズ2(0.75対0.96kg、P=0.042)ではそうではなかった。統計的に有意ではなかったが、FMTブタは2回目の試験終了時に2.3kg重く、その温枝肉質量(HCW)は同腹のブタより3.5kg重かった(P=0.09、
図7)。
腸内マイクロバイオームの発達における同様のパターンは、検証試験においても対照群及びFMT群の両方で観察された。α多様性は、両群とも離乳時(d21)から肥育後期終了まで増加傾向を維持した(
図1c~f)。固形飼料の導入は、ブタの腸内マイクロバイオームをすぐには変化させなかった。育成期の最初の2日間(d22及び23)のマイクロバイオータは、離乳期に採取したものと共になおクラスター化していた(ANOSIM、R<0.1、P>0.05;表5)。固形飼料摂取8日後の、育成期フェーズ1終了時のd29に群集の菌種構成の有意な変化が観察され(表5、
図2b及びc)、動物試験1と一致した(
図2a)。一般に、ブタの腸内マイクロバイオームには、個々の動物試験でも、それらを組み合わせた場合でも、明確なクラスターが観察された(
図2d及び
図10d)。FMTは動物の発育成績を向上させたが、ブタの腸内マイクロバイオームを劇的に変化させることはなかった(
図13)。d42(ANOSIM、R=0.24、P<0.05)及びd61(ANOSIM、R=0.16、P<0.05)には、ブタの腸内マイクロバイオームのわずかな変化しか観察されなかった。
【表5】
【0041】
コアマイクロバイオームについては、上位700の特徴量のうち、動物試験2の対照群及びFMT群から、それぞれ147及び125の特徴量が特定された。更に、これらのコアマイクロバイオームの特徴量のうち69は、3群のブタ(試験1、試験2-対照群、及び試験2-FMT群(
図14))で共有されていた。更に、対照群(N=31)及びFMT群(N=32)共に、第2の試験でも段階に関連するブタの腸内マイクロバイオームの特徴量を示した(
図15)。これらの特徴量のうち、2つ(F87及びF101)、6つ(F16、F40、F59、F117、F128及びF143)、4つ(F170、F114、F388及びF453)、並びに3つ(F18、F195、及びF333)の特徴量が、それぞれ哺乳期、育成期、肥育前期、及び肥育後期においてテスト試験群と検証試験対照群の間で共有されていた。
【0042】
飼料がブタの段階特異的腸内マイクロバイオームを形成する
段階に関連するブタの腸内マイクロバイオーム構築の基礎にあるメカニズムを解明するために、並べ替え多変量分散分析(PERMANOVA)を実施した。日齢、体重、飼料、性別、個々のブタ、及び母ブタなどの因子を検討した。飼料は、テスト試験の哺乳期(母乳)、育成期(NP1、NP2、及びNP3)、肥育前期(GP1及びGP2)、及び肥育後期(FP1及びFP2)の飼料の8つのカテゴリーを含むカテゴリー変数として使用した。本発明者らは、ブタの腸内マイクロバイオームの形成に最も重要な因子を決定するため、一連のモデルを開発した。まず、単変量モデルを用いてPERMANOVAを施行した。飼料、日齢、及び体重は全て、ブタの腸内マイクロバイオームを形成する重要な因子であり、約35%の変動は飼料に起因した。ブタの個体差(ブタID)もブタの腸内マイクロバイオームの変動の約12%を説明したが、性別及び母ブタはブタの腸内マイクロバイオームにほとんど影響を与えなかった(表6a)。日齢と体重は高い相関があったことから、以降の多変量モデルではBWを除外した。飼料は多変量モデルにおいて最も重要な因子であり、F値は22.2であり、変動の約35%を説明した(表6b)。
飼料中のどの栄養素がブタの腸内マイクロバイオームに最も寄与しているかを調べるための別の多変量モデルで、飼料を中性デタージェント繊維(NDF)、粗繊維、粗タンパク質、及び粗脂肪を含む異なる成分に分解した(表6c)。母乳中の栄養素は測定しなかったため、哺乳期のサンプルは以降のモデルから除外した。飼料は新しいモデルでも最も重要な変数であり、変動の約34%を説明した(表7a)。NDFはブタの腸内マイクロバイオームの形成において最も重要な飼料栄養素であった。具体的には、トウモロコシ由来のNDFが最も強い効果を示し、擬似F値は66で変動の約19%を説明し、次いでダイズ由来のNDF(F=20、R
2=0.06)及びDDGS(F=10、R
2=0.03)であった(表7b)。
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表7】
【0043】
PCoAプロットはブタの腸内マイクロバイオームに対するこれらの因子の影響も一貫して示している。ブレイ-カーティス距離に基づくPCoAプロットでは、飼料による8つの明確なクラスターが形成された。PCoAプロットでは性別又は母ブタによる明らかなクラスター化は観察されなかった(
図16)。腸内マイクロバイオームの一般的な遷移パターンが個々のブタで観察されたが、異なる段階で群集菌種構成の顕著なブタ間差が示された(
図17)。
更に、ブタの腸内マイクロバイオータの構築に優先効果、即ち、種の到来の順番及びタイミングが何らかの役割を果たすかどうかを評価するため、初期段階のマイクロバイオームメンバーの後期段階への寄与を測定するsourcetrackerを実施した。ブタの腸内マイクロバイオームのうち、初期の時点に由来するものはごくわずかであり、哺乳期のマイクロバイオームのうち、d0サンプルに由来するものはわずか3%であった。更に、ブタに固形飼料を導入した場合、哺乳期のマイクロバイオームは育成期の腸内マイクロバイオームに対して8%しか寄与していなかった。一方、固形飼料を摂取した場合、育成期及び肥育前期のマイクロバイオームは後期段階のマイクロバイオームに大きく寄与した。肥育前期のマイクロバイオームは、89%がその後の肥育後期に寄与し、そのメンバーの81%が育成期に由来していた(
図18)。
【0044】
各段階における発育成績に関連する細菌分類群
次に、潜在的プロバイオティクスとして使用される発育成績に関連する細菌分類群を同定することを目指した。この目的のために、まず体重(BW)を結果とし、テスト試験の各発育段階の上位500の細菌の特徴量を予測因子として、回帰ベースのランダムフォレストを施行した。各段階での発育成績を予測する細菌の特徴量上位50を
図8に示す。これらの特徴量には、コアマイクロバイオームと段階特異的マイクロバイオームの両方のメンバーが含まれる。例えば、F1及びF2は哺乳期及び育成期の発育成績関連の特徴量として挙げられ、一方、F4は肥育前期の細菌であった。酪酸産生菌である特徴量27(クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum))は、F4及びF26と共に肥育前期及び肥育後期においてBWと正の相関を示した(d146を除く)。さらに、F18及びF19は日齢の高いブタ(それぞれd90~174及びd116~174)においてBWと正の相関があった。
興味深いことに、肥育前期ドナーからのFMTは、育成期のブタの腸内マイクロバイオームを変化させなかったが、即ち、ドナーの腸内マイクロバイオームの大部分はレシピエントに定着しなかったが、発育成績は向上させた。LEfSeによる個々の細菌の特徴量のより深い分析により、d42及びd61で、FMTによって濃縮された、F2(d42のみ)、F41、F454、F309及びF348を含むいくつかの特徴量が同定された(
図19)。これらの特徴量の相対存在量は、その後FMT後の時点で増加した(
図20)。特に、F2及びF454はそれぞれ肥育前期と育成期のBWと相関のある上位の特徴量に挙げられている(
図21)。
【0045】
発育成績を向上させるブタプロバイオティクスの単離及び検証
本試験で同定された、段階特異的な、成長を促進する細菌には、養豚業で使用できる有望なプロバイオティクス候補となる菌株がいくつか含まれている。例えば、有望な候補の一つであるStrepXは(その関連する特徴量から、本明細書では「F2」とも呼ばれる)、16S リボソームRNAのV4領域の配列決定及びGreengeneデータベースに基づき、ファーミキューテス門、ストレプトコッカス属、ルテシア(luteciae)種に属す菌株である。StrepXはFMTにより濃縮されるだけではなく、ブタの腸管内で4番目に多い特徴量としてもランク付けされている。更に、StrepXは、本発明者らのこれまでの異なる条件下での研究のうち4つにおいて同定された。例えば、StrepXは、ブタをアイソレーターで飼育し、代用乳とクリープフィードを与えた研究の発育成績良好群において豊富に認められた。
【0046】
将来のプロバイオティクス単離に向けて、ブタ腸内細菌の大部分を保存するため、4つの異なる日齢(d20、61、116及び174)のブタ3頭から、培地、酸素、及び血液瓶のプレインキュベーションの組合せを変えた計76種類の培養方法を用いて、繰り返し糞便マイクロバイオームの培養を行った。3~5日間の培養後、各プレートから全てのコロニーを集め、20%グリセロールで個別に-80℃で保存した。各培養細胞液の50μLのアリコートを、Miseqを用いて配列決定し、培養可能な細菌のカタログを作成した。この方法を用いて、d116又はd174のブタから3株のStrepX菌株及び2株のラクトバチルス(LactX)菌株を、改変Gifu嫌気性培地(MGAM;HyServe社製)寒天平板を用いて37℃好気性条件下で培養して単離し、SangerDNAシークエンシングを用いて16 rRNA遺伝子の配列を決定することにより菌株の同一性を検証した。
次に、2つのStrepX菌株及び1つのラクトバチルス(LactX)菌株が2%w/vのブタ胆汁中で3時間のインキュベーションに耐えられることを明らかにした。この能力は、これらの菌株が消化管内で生存するのに役立ち、直接給与プロバイオティクスの良い候補となる。
【0047】
ブタプロバイオティクスのin vivo検証
次に、2つのStrepX菌株及び1つのLactX株を、動物試験1で使用したのと同じ7段階給餌レジメンを用いて給餌した生存ブタで評価した。MGAM培養液中で保存した各単離菌株の純粋培養物を遠心分離し、20%グリセロールを含むPBSに再懸濁させた。この細胞懸濁液をOD0.25に調整し、およそ10
8細胞/mLの密度とした。これらの純粋培養物は使用するまで-80℃で保存した。離乳期のブタを合計48頭選択し、対照、StrepX1、StrepX3又はLactXのいずれか(処置/菌株あたり12頭)を、各菌株溶液又はビヒクル(20%グリセロールを含むPBS)3mLとして連続2日間、強制経口投与した。ブースターの水薬は、育成期2の終了時に投与した。離乳時から肥育前期のフェーズ1までの、個々のブタの体重及び囲いでの飼料摂取量をモニタリングした。注目すべきは、離乳時にStrepX3又はLactXのいずれかを強制経口投与した子ブタは、育成期及び肥育前期フェーズ1を通じて、対照群のブタよりも体重が重かったことである(表8及び
図24)。具体的には、StrepX3を強制経口投与した子ブタは、育成期フェーズの34、53、及び66日目に体重が0.83キログラム(1.84ポンド)(15.3%)、2.89キログラム(6.37ポンド)(25.8%)、及び3.13キログラム(6.89ポンド)(15.9%)増加し、肥育前期フェーズ1終了時には体重が約10.40キログラム(約22.92ポンド)(26.2%)増加しており、一方、LactXを強制経口投与した子ブタは、育成期フェーズの34、53、及び66日目に体重が1.13キログラム(2.5ポンド)(20.9%)、3.58キログラム(7.89ポンド)(32.0%)、及び4.25キログラム(9.38ポンド)(21.6%)増加し、肥育前期フェーズ1の終了時には体重が約6.00キログラム(約13.22ポンド)(15.1%)増加した。
【表8】
【0048】
α多様性
ブタの屠蓄前の生存期間中に、腸内マイクロバイオームのα群集多様性及び豊富さが全体的に増加する傾向が観察され、以前の研究と一致していた[10、12]。商業用ブタにおいて、離乳前の10日目から離乳後の21日目にかけての豊富さと多様性の増加が示された[12]。群集の多様性(シャノン指数)はd146でプラトーに達したが、豊富さ指数(観察された特徴量の数)は、ブタが食肉処理に出荷される実験終了まで増加し続けた。d174の高いα多様性は、母ブタのそれと極めて類似しており、市場出荷前にブタの腸内マイクロバイオームが完全に発達していることを示している。本発明者らの研究では、市場出荷前の最終サンプル採取日に腸内マイクロバイオームの多様性の低下は観察されなかったが、これは過去の報告と矛盾する。Han(2018)は、飼料に抗生物質を補給した場合、d63からα多様性の低下が始まることを観察した[13]。最近の研究では、De Rodasら(2018)が、出生時からd84まで、消化管に沿った異なる場所でα多様性が増加したことを報告した。興味深いことに、彼らは市場出荷サンプルにおいても多様性の低下を観察していた[11]。なお、彼らの研究では、本発明者らの研究と同様に、ブタに抗生物質を含まない飼料を給餌しているが、育成期には医薬品レベルの亜鉛を補給していた。従って、α多様性に関するこれらの研究間の違いは、亜鉛レベルが高いことに起因している可能性がある。ヒトのマイクロバイオームの多様性は、幼年期から群集が成熟する成人期にかけて増加し、その後安定した状態を保つが、加齢と共に減少する。これはおそらく、食事、歯列、投薬、及び腸内生態系の生理学の変化によるものであろう[20]。家畜ブタの寿命は20年にも及ぶが、本研究及び多くの商業農場で飼育されている屠蓄前のブタは、主に食用として育てられ、屠殺前の6~7か月間のみ飼育されている。そのため、ブタの腸内マイクロバイオームがいつプラトー状態になるのか、ブタの腸内マイクロバイオームが加齢に伴ってどのように変化するのかを見極めることは困難である。それでも、エンドポイントのブタの腸内マイクロバイオームの多様性は母ブタのそれと同等であり、ブタの腸内マイクロバイオームは、肥育後期の後に成熟することを示唆している。
【0049】
β多様性:ブタの腸内マイクロバイオームを形成する因子
本研究は、異なる発育段階にある同一セットのブタから経時的に糞便サンプルを採取することにより、ブタの出生から市場出荷までの腸内マイクロバイオームの包括的な遷移像を示す。このような研究デザインにより、ブタの腸内マイクロバイオームに関する、1)ブタの腸内マイクロバイオームは異なる発育段階において経時的にどのように変化するのか、2)これらの変化の根本的な決定要因は何かという、いくつかの重要な生態学的疑問点を解決することができた。
【0050】
本研究では、2つの異なる動物試験で得られた3群のブタの間で、異なる発育段階に沿ったブタの腸内マイクロバイオームの一貫した遷移パターンが示された。出生時、胎便サンプルは、他の2つの哺乳期サンプルよりも幅広い群集の多様性を示した。ブタに母乳を与えた場合、d11及びd20に、群集多様性の劇的な低下と群集菌種構成の著しい変化が観察された。子宮内環境が無菌状態であるかどうかは、ヒトのマイクロバイオーム領域で議論のある問題となっている。ブタが初乳を吸う可能性のある分娩後6時間以内に胎便サンプルを採取した。従って、初乳や、母ブタの乳首の皮膚又は環境からの細菌が生後に定着する可能性は除外できない。しかしながら、胎便サンプルが黒色で粘着性があり、他の哺乳期糞便サンプルと大きく異なっていたこと、及び胎便マイクロバイオームが11及び20日目の糞便マイクロバイオームと著しく異なっていたことから、胎便マイクロバイオームは、他のソースからの細菌によって急速に定着したというよりも、母ブタから垂直伝播した可能性が高い。本発明者らの研究では、胎便の細菌バイオマスは低く、DNA濃度も非常に低い(10ng/μl以下)ものの、胎便マイクロバイオームは、陰性対照、及び模擬群集とは異なることから、汚染の結果とは考えにくいことが示される(
図22)。従って、本発明者らのデータは、胎便サンプルが、その後の時点におけるブタの腸内マイクロバイオームの発達を促す、又は生後の自然免疫応答及び適応免疫応答を教育するための播種菌として機能し得る多様な微生物を(低菌量ながら)保有していることを示している[21]。初乳及び母乳の摂取は、消化管の形態、免疫機能、及び腸内マイクロバイオームの発達には不可欠である。母乳中のオリゴ糖、アミノ酸、及び脂肪などの栄養素は、消化酵素及び化学物質の分泌を活性化し、マイクロバイオーム定着のために腸管の生態系を変化させる[22]。d11の群集の多様性の劇的な減少は、生後10日間の腸管の生態系は、高度に多様な微生物定着に対応していないことを示す。
【0051】
d20(哺乳期終了時)及びd27(離乳後7日)の間にも群集の菌種構成に大きな変化が見られたが、これは離乳期のストレス及び/又は固形飼料の導入に起因すると思われる。離乳期のストレスには、飼料や及び環境の変化、母ブタからの分離などがあり、一般に飼料摂取量及び発育成績の低下、並びに下痢の高い発生率をもたらす[23]。ストレスは、免疫及び内分泌系に影響を与える様々な程度の微生物異常の一因となることが報告されている[24]。離乳移行期には飼料が大きな課題となり、消化管の物理的及び代謝的の両方の再構築を引き起こす。母乳は非常に口当たりが良く、消化が良いのに対し、飼料は粗く、固形で味が劣り、消化もあまり良くない[25]。固形飼料への急激な移行は、短期間の絨毛委縮及び陰窩の過形成を誘発し、その結果、消化効率及び腸の完全性が損なわれる。「漏出しやすい」腸管は、病原体の侵入及び栄養素の損失を増加させる可能性がある。
離乳後7日目には、群集の菌種構成及び組成の両方に劇的な変化が観察された。ブレイ-カーティス及びジャッカードに基づくPCoAプロットでは、哺乳期と育成期のマイクロバイオームが完全に分離された明確なクラスターが示された。興味深いことに、このようなマイクロバイオームの大きな変化は1日では起きなかった。本発明者らの検証試験では、最初の2日間(d22及び23)に採取したマイクロバイオームは哺乳期終了期(d21)のサンプルと区別がつかなかった。試験1のd27のサンプルと試験2のd29のサンプルが哺乳期終了時のd20のサンプルと区別できたことから、ブタの腸内マイクロバイオームが新たな飼料と腸内生理に適応するには7~9日間かかると推測される。
【0052】
ブタの腸内マイクロバイオームは、宿主の遺伝的特徴、日齢、飼料、環境、体重、健康状態、及び抗生物質などの複数の因子によって左右される。経時的な研究は、動物が自身の対照として機能し、多くの交絡因子が考慮されることを考えれば、強力である。しかしながら、ブタの腸内マイクロバイオームではこれらの因子の多くが相関関係にあることを考えれば、こうした研究では、どれが主要なドライバーなのかを特定することは困難である。例えば、ブタの日齢が上がると、体重、飼育環境、及び飼料の種類もそれに応じて変化する。従って、PERMANOVAモデルでは、飼料、性別、母ブタの由来、ブタIDと共に日齢のみを変数として選択した。飼料は、間違いなく、ブタの腸内マイクロバイオームを形成する最も重要な因子であった。特にトウモロコシNDFは、ブタの腸内マイクロバイオーム形成に最も強い影響を及ぼした。NDFにはリグニン、ヘミセルロース、及びセルロースなど、植物細胞内の構造成分の大半が含まれているが、これらはブタでは消化できず、結果としてブタの腸内マイクロバイオータによる発酵のために結腸に送られることになる。本発明者らのデータは、先行研究と一致している。Freseら(2015)は、ブタに固形飼料を導入した後、消化管の異化経路が母乳由来のグリカン代謝から植物のグリカン分解と消費に移行したことを報告した[26]。本発明者らの以前の知見では、哺乳期に固形飼料と共に代用乳を与えられた新生ブタは、母ブタの母乳を与えられた同腹子とは異なる微生物群集菌種構成を有することが示されており、同齢のブタの腸内マイクロバイオームに飼料が大きく影響することが示唆された[6]。同様に、Bianら(2016)も、日齢及び飼料が腸内マイクロバイオームの遷移に与える影響が母ブタの遺伝的特徴を上回ることを指摘している[27]。
日齢はブタの腸内マイクロバイオームに影響を与えるもう1つの因子である。日齢は身体的成熟の指標であり、代謝、免疫、ホルモン分泌、筋肉や骨の発達、及び神経系における包括的な機能的変化を伴う[28、29]。これらの日齢に依存する生物学的変化は全て、マイクロバイオーム菌種構成の変化を生じさせる[30~32]。
【0053】
ブタの腸内マイクロバイオームの「コア」メンバー、定住菌、パッセンジャー、及び起源
この研究により、1)コアとなる腸内マイクロバイオームは何か、2)どの細菌分類群が、出生から市場出荷までの屠蓄前の全期間に持続して存続する定住菌であるか、3)どの細菌が、ある時点にのみ存在するパッセンジャーであるか、4)ブタの腸内マイクロバイオームの起源は何か(例えば、母ブタ、飼料、環境など)を含む、ブタの腸内マイクロバイオームに関連するいくつかの他の重要な生物学的疑問にも取り組むことができた。
2つの動物試験で、これらの細菌分類群は全ての時点で各群の少なくとも1頭のブタに存在していたという定義に基づき、合計69のコアマイクロバイオームのメンバーが3群のブタの間で共有されていた。注目すべきは、これらのメンバーのサブセット(69のうち13)が、出生から市場出荷までの少なくとも150日間、ブタの少なくとも50%に存在していたことである。これらのメンバーには、特徴量1、5、8、9、13、17、23、46、50、62、77、112、及び132が含まれる。これらの特徴量のうち、5つ(特徴量1、5、17、62、及び132)はd0(胎便)を含む全ての時点で検出され、これらの細菌分類群が母ブタから垂直伝播していることが示された。これらの特徴量は、ブタの腸内に早期に定着した菌株であり、母ブタの母乳に基づく哺乳期から固形飼料に基づく育成期、肥育前期及び肥育後期まで、屠蓄前の全生涯を通じて存続した。
【0054】
固形飼料導入後、いくつかの新たに定着する菌株が出現し、存続した。これらの特徴量には、特徴量3、6、12、52、63、及び153が含まれる。特に、F3及びF52はd0サンプルでも検出され、哺乳期には消失し、その後、育成期に固形飼料を補給した後に再出現した。従って、これらの分類群も同様に垂直伝播していたと考えられるが、哺乳期には検出できないレベルまで抑制され、栄養素及び環境がより有利になると増殖した。これらの特徴量の多くはプレボテラ属に属し、これは固形飼料段階のほとんどの時点でブタの腸内マイクロバイオームで最大の属であった。プレボテラ属のメンバーは、植物性食品に基づく飼料及び繊維の消化に関連している[33]。興味深いことに、この属の中の存在量と動態には、sub-OTUレベルの有意な差が観察された。例えば、プレボテラ・コプリのメンバー(特徴量3、6、14、及び36)は、育成期に増殖し、その後の段階では漸減したが、未分類のプレボテラの特徴量(例えば、F9)はブタの消化管の定住菌の1つであり、哺乳期から肥育後期終了時まで存在した。P.コプリがヒトの健康において果たす役割については議論の余地があった。最近の研究では、De Filippisら(2019)がメタゲノム研究によってP.コプリの特徴的な株を検出し、食事が特徴的なP.コプリ集団を選択する可能性を示した[34]。欧米型の食生活をしている人で薬物代謝に関わる遺伝子が豊富であったのに対し、繊維が豊富な食事をとっている人では複合糖質分解に関わる遺伝子が豊富であった[34]。育成期の繊維質を多く含む固形飼料の導入により、P.コプリの存在量の増加を少なくとも部分的に説明することができる。P.コプリと同様に、メガスファエラ(Megaspheara)(F1)、及びブラウティア(Blautia)(F16)のメンバーも離乳後に増加し、これは以前の報告とも一致する[12]。プレボテラと同様に、メガスファエラ(Megaspheara)、及びブラウティアのメンバーも、炭水化物を効率的に分解することができる[35~37]。このため、離乳後のブタに植物性炭水化物飼料を与えると、これらの微生物が増殖した。
【0055】
肥育前期の後半には、後期定着菌が出現し、肥育後期全体を通じて存続した。これらの後期定着菌には、特徴量4、10、18、及び19が含まれる。パッセンジャーとは、屠蓄前セクションの初期又は中期に出現し、後期段階には消失又はフェードアウトした細菌分類群を指す。大腸菌(F7)に関連するメンバーは、パッセンジャーのカテゴリーに属す。これまでのブタの離乳期[38~40]及びヒトの乳幼児の腸内マイクロバイオーム研究[41、42]と同様に、大腸菌は出生時(d0)及び哺乳期に多かったが、離乳以降は段階的に減少し、これは免疫系の成熟又は他の細菌による抑制によるものである可能性があった。粘液は食物媒介性病原体を結合し、宿主から遠ざけるという重要な役割を担っており、粘膜の物理的構造は年齢に依存している[43、44]。未熟な動物における粘液の病原体結合親和性は、成熟動物よりも低い[45]。
【0056】
有望なプロバイオティクス
細菌の代謝特性は飼料変換率に直接相関し、宿主の栄養供給に寄与する。飼料効率を向上させるために腸内マイクロバイオームを調節することは、畜産業における新たな戦略となっている。本発明者らの研究では、成ブタのBWと最も正の相関を示す上位の細菌分類群を特定した。特徴量26はツリシバクター(Turicibacter)と関連しており、d90、104、116、130、159、及び174のBWと正の相関が認められた。特に、ツリシバクターは宿主の免疫に関係し、宿主の消化管の生理的条件に敏感であることが注目される。免疫不全マウスでは、野生型対応マウスに比べてツリシバクターの個体数が少なかった[46、47]。更に、ツリシバクターは、血液抗原の合成を担う血液群糖転移酵素β-1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(B4galnt2)の発現が欠損したマウスにおいて、サルモネラ感染症に対する感受性を低下させることができた。従って、ツリシバクターはブタのマイクロバイオーム免疫相互作用において何らかのプラスの役割を果たし、その結果、発育成績の向上を促進している可能性がある。
【0057】
特徴量27は、クロストリジウム・ブチリカム(C.ブチリカム)のメンバーで、d130、159、及び174でBWと正の相関があり、C.ブチリカムは、家畜及び消化管上皮維持に最も有効なエネルギー源となる酪酸を産生する。離乳期の子ブタの飼料へのC.ブチリカムの補給は、下痢スコアを低下させ、腸絨毛の高さが増すことが報告されている[48]。肥育前期-肥育後期のブタにブチリカムを補給すると、エネルギー変換率が向上することが示された[49]。更に、C.ブチリカムは、消化管の免疫抑制の調節にも関与している。Chenら[48]は、離乳期のC.ブチリカムの補給が、粘膜IL-10の増加及び血漿中腫瘍壊死因子(TNF)-αの減少によって示される炎症誘発性応答を抑制することを示した[48]。従って、C.ブチリカムは、より多くのエネルギーを供給すること、及び/又は免疫系を改善することによって発育成績を向上させ得る。特徴量4及び18は、全てクロストリジウムに関連している。これらの分類群は後期段階(肥育前期-肥育後期)に増殖し、BWと正の相関があった。特に、F4はこれらの段階で顕著に多かったことに注目される(d174で約8%)。特徴量4及び18は、最後7回のサンプル採取日のほぼ全てで、BWと正の相関が認められた。
【0058】
特徴量2(ストレプトコッカス)及び454(ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillus mucosae))は、最初の動物試験において育成期フェーズの発育関連分類群として特定された。第2の検証試験では、FMTは全体の群集の菌種構成を大きく変化させることはなかったが、動物の発育成績は改善された。興味深いことに、これらの2つの特徴量の両方の存在量がFMTによって増加したことから、これらの特徴量が定着し、動物の発育を促進する役割を担っている可能性が示唆された。ラクトバチルス・ムコーサエはブタから粘液結合活性を有するものが初めて単離された[50]。この群のメンバーは、上皮の透過性を低下させ、バリア機能を改善することが報告されている。別の独立した研究では、アイソレーターでクリープ飼料を用いて飼育したブタの群において、発育成績の向上が認められた。その研究では、F2は高成績群においても豊富であった(
図23)[6]。発育成績における機能を証明するためには、これらのF2菌株を単離してブタにフィードバックする試験が必要であるが、これら3つの試験の全てで本発明者らのデータは、F2が強力なプロバイオティクス候補であることを裏付けている。
【0059】
結論
ブタは最も重要なタンパク源であると同時に、ヒトの疾患の優れた生物医学的モデルであることから、ブタの腸内マイクロバイオームはますます注目を集めている。近年の研究により、ブタの腸内マイクロバイオームに関する我々の理解は目覚ましく進んでいるが、多くの重要な生態学上の疑問がまだ残されている。本研究において、本発明者らはテスト動物試験でブタの全ての異なる発育段階にわたる経時的な動態を特徴づけ、検証試験でこれらの発見を検証した。
本発明者らは、両方の動物試験において、異なる発育段階に沿ったブタの腸内マイクロバイオーム菌種構成の変化について、一貫したパターンを観察した。飼料、特にトウモロコシのNDGは、ブタの腸内マイクロバイオームの主要な推進因子であった。本発明者らは、2つの動物試験に共通する69のコアマイクロバイオームメンバーを特定し、ブタ腸管の定住菌、パッセンジャー、早期定着菌及び後期定着菌も特定した。菌種の到来の順序と時期、即ち優先効果は、固形飼料を導入した後期発育段階においてより顕著であった。FMTはレシピエントの腸内マイクロバイオームを有意に変化させなかったが、少数の細菌分類群を富化させ、発育成績の向上と相関があった。
本発明者らの研究は、ブタの腸内マイクロバイオームにおける重要な生態学的疑問のいくつかに答え、動物の健康と生産の向上を目指した研究の基礎となる。
【0060】
【0061】
実施例2.肥育前期/肥育後期のブタの発育成績及び枝肉品質に及ぼす細菌の特徴量F2の影響の評価
実施例1において、本発明者らは、細菌株StrepX(配列番号2)に関連する細菌の特徴量2(F2;配列番号1)が、ブタの体重と相関することを発見した(Wangら、2019)。この相関関係は、複数の独立した試験での相互検討により検証した。しかし、この細菌が肥育前期/肥育後期のブタの発育成績及び枝肉品質に及ぼす影響は、不明なままであった。
ブタの発育成績に対する直接給与微生物の影響を調べたこれまでの研究では、飼料添加物が発育成績を、抗生物質で達成したものと同等のレベルまで改善する能力に関して、一貫性のない結果が得られている(Liuら、2018)。発育成績の向上を促すことに加えて、選択したプロバイオティクスが肉質及び食品の安全性に及ぼす影響を理解することは不可欠である(Markowiak及びSlizewska、2018)。
F2の有益な効果をより良く理解するために、実施例1で開始した、育成期のブタにF2を補給する試験を継続した。ここでは、F2補給の発育成績に及ぼす影響を屠蓄前期間全体にわたって評価する。本発明者らは、離乳時のF2投与が枝肉特性に影響を与えることなく、抗生物質投与と同程度にブタの発育速度を増加させることを実証した。
【0062】
材料及び方法
動物の管理及び給餌
離乳日に、初期体重6.19±0.3kgのブタ96頭(PIC1050×DNA600)を選抜し、40日間の育成期試験のために育成施設へ移した。新施設には、カップ式給水器と2穴式給餌器を備えた金網床の囲いが24基設置されている。子ブタは育成期試験を通じて1つの囲い(サイズ:1.5×1.2m2)あたり4頭ずつ収容し、飼料及び水を自由に摂らせた。子ブタは、性別内の離乳時体重に基づいて8つのブロックに群分けし、次に、各ブロック内のブタを、3つの処置に無作為に割り付けた3つの囲いのうちの1つに割り当てた。各囲いには、未経産の雌ブタ2頭と去勢した雄ブタ2頭を収容した。従って、合計32頭のブタを各処置に割り当てた。離乳時、ブタを各性別の離乳時体重で層別化し、次に、フェーズ1及びフェーズ2の3つの処置のうち1つに割り当てた:1)対照:トウモロコシ-SBMに基づく飼料;2)F2:対照飼料+F2強制経口投与;3)抗生物質:対照飼料+抗生物質。全ての子ブタに共通のフェーズ3飼料を給餌した。F2処置群に割り当てたブタに、離乳日(d0)、1日目(d1)及び育成期フェーズ2の終わり(d28)に再びF2(およそ109CFU/ブタ)を投与した。抗生物質処置群には、フェーズ1及びフェーズ2にそれぞれ、カルバドックス(メカドックス(登録商標)10、Phibro Animal Health Corporation、ティーネック、NJ)及びチアムリンフマル酸水素塩(Denagard(登録商標))+クロルテトラサイクリン塩酸塩(CTC(登録商標)、Novartis Animal Health US Inc、グリーンズボロ、NC)を追加した。
【0063】
飼料は、育成期のブタに対するNRC(2012年)の推奨を満たすかそれ以上になるように調製した。全ての飼料はマッシュ状であった。飼料を調製し、将来の栄養分析に備えて各飼料のサブサンプルを-20℃で保存した。育成期には、フェーズ1(d0~14)、フェーズ2(d14~28)、及びフェーズ3(d28~40)の3フェーズの食餌レジメンを用いた。実験用飼料はフェーズ1及び2で与えられ、フェーズ3では全てのブタに共通の抗生物質不使用の飼料が給餌された。育成期フェーズ1、育成期フェーズ2、育成期フェーズ3、及び肥育前期/肥育後期に与えた飼料の組成を以下の表9~12に示す。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【0064】
育成期終了時に、全てのブタを育成施設から肥育後期施設に移した。ブタを肥育後期施設に移す際、育成期施設から同じ囲いの個体の組合せを維持した。ブタには、5フェーズの肥育前期/肥育後期レジメンで給餌した。フェーズは体重に応じて変更した:肥育前期フェーズ1(23~41キログラム(50~90ポンド))、肥育前期フェーズ2(41~64キログラム(90~140ポンド))、肥育後期フェーズ1(64~84キログラム(140~185ポンド))、肥育後期フェーズ2(84~103キログラム(185~230ポンド))、及び肥育後期フェーズ3(103~127キログラム(230~280ポンド)。一般に、ブタには各フェーズの飼料をおよそ3週間給餌した。試験期間中、全てのブタに飼料及び水を自由に摂らせた。ブタは、スノコ床のサイドカーテン式の建物に収容し、各1.5×3.0メートル(4.9×9.8フィート)の囲いには、飼料及び水を自由に摂取できるように、単穴式給餌器と離乳期-肥育後期までのカップ式給水器を取り付けた。周囲温度はSOP番号302.01に従って維持した。毎日の温度(最低温度及び最高温度)を記録し、投薬が必要な場合は記録し、報告した。コンピュータ制御の最低温度を、以下の表13に示す。
【表13】
【0065】
サンプル採取
各フェーズ終了時に体重及び飼料摂取量を記録し、各フェーズにおける平均日増体重(ADG)、平均1日飼料摂取量(ADFI)、及び増体/飼料比(G:F)を計算した。
直腸スワブ及び糞便は、育成期フェーズ2及び肥育前期フェーズ2の終了時に、全ての囲いで囲いの平均体重に近い子ブタ2頭、合計48頭の子ブタから採取し、最終的に合計96スワブと96の糞便サンプルとした。スワブのサンプル採取には、Puritan Opti-Swab Liquid Amies Collection and Transport System(Puritan Medical products、ギルフォード、メーン州)を使用した。スワブはマイクロバイオーム解析に、糞便サンプルはメタゲノム解析とメタボローム解析に使用した。
離乳時(d0)、育成期フェーズ2終了時、育成期終了時(d40)、及び肥育前期フェーズ2終了時(d104)に、全ての囲いで囲いの平均体重に近い子ブタ1頭から頸静脈穿刺によりEDTA含有真空チューブに血液サンプルを採取し、合計96サンプルとした。血液サンプルは3000g、4℃で10分間遠心分離した。血漿を5mlのポリプロピレンサンプルチューブに吸引し、メタボローム解析のために-80℃で保存した。
試験終了後、合計24頭のブタ(1つの囲いあたり1頭)を屠畜し、枝肉品質を分析した。最長筋(LM)及び第10肋骨の脂肪の深さをFat-O-Meater探針でオンライン測定し、各ブタ/枝肉について温枝肉質量を記録した。屠蓄後、更なる枝肉品質分析のために、ロイン及びバラ肉を片側ずつ取り除いた。
【0066】
枝肉品質
枝肉品質評価には、最長筋(LM)及び脂肪の深さ、温枝肉質量、ロインの肉質(色調及びマーブリングスコア、柔らかさ、剪断力、調理損失、及び一般分析)及びブタバラ肉品質(脂肪酸プロファイル分析、ヨウ素価、バラ肉厚、及びバラ肉硬度)の評価が含まれる。
ロイン及びバラ肉を採取した後、ロインは20分間のブルーム期間の後、全米豚肉委員会のガイドラインに従って、色調及びマーブリングスコアを分析した。色調はAMSA色調ガイドラインに従い、HunterLab MiniScan EZ分光光度計を使用して客観的に分析した。色調分析後、ロインを厚さ2.54cmのチョップに切断した。加工後、チョップ対を10日間熟成させ、以下の分析に無作為に割り当てた:柔らかさ、調理損失、及び一般分析。機器による柔らかさの測定は、AMSAセンサリーガイドラインに概説されたプロトコールに従い、Warner-Bratzler剪断力を用いて測定した。簡単に述べれば、チョップを内部温度が71℃になるまで加熱した後、一晩冷却した。筋線維の方向に平行な1.27cmコアを6本取り出し、垂直に剪断した。チョップのコアの長さの平均をとって各ロインの値を算出した。同じチョップについて、調理損失の評価を行った。調理前の生重及びその後、調理後量を測定し(生量-調理後量)/生重×100として算出した。一般分析では、サンプルを液体窒素でホモジナイズし、均質な粉末とした。その後、AOACに承認された水分及び脂質の分析法によりサンプルを分析した。
【0067】
バラ肉は、脂肪酸プロファイル分析、ヨウ素価、バラ肉の厚さ、及びバラ肉の硬さを通じた豚肉品質分析に供した。バラ肉は、Browneら(2013)により記載された厚さ及び硬さの測定に供した。脂肪酸分析には、O’Fallonら(2007)により記載されたプロトコールを用いる。簡単に述べれば、バラ肉の切片を液体窒素でホモジナイズする。粉末試料1グラムを20mlのガラス製バイアルに秤量した後、内部標準物質として1mLのC13:0を試料に添加する。内部標準物質を添加した後、0.7mLの10Nの水酸化カリウム及び5.3mLのメタノールをチューブに加えて誘導体化し、そのチューブを55℃で1.5時間インキュベートする。温水浴の後、チューブを冷水に20分間浸漬する。0.58mLの24N硫酸をチューブに加えた後、前の条件下で再インキュベートする。最終インキュベーション後、3mLのヘキサンをチューブに加え、5分間ボルテックスで撹拌した後、3500RPMで5分間遠心分離する。FAMESを含むヘキサン層をラベル付きのガスクロマトグラフィーバイアルに入れる。脂肪酸濃度の検出には、ガスクロマトグラフィー-水素炎イオン化検出器を使用する。分離後、外部標準物質を用いて脂肪酸の同一性と量を確認し、質量ベースで算出する。観測された脂肪酸濃度は、Browneら(2013)の記載に従ってヨウ素価を計算するために使用する。
【0068】
統計解析
量的形質は、処置を固定効果として、体重ブロックをランダム効果として、SASプロシージャのPROC Mixed(SAS Institute,Inc.、カリー、NC)を用いて解析した。各囲いは、ANOVAのための試験単位とした。処置間の比較は、p値≦0.05の時に有意差ありと見なした。
【0069】
結果:
全試験期間中、育成期に抗生物質処置群から1頭(死亡)のブタが失われ、一方、肥育前期及び肥育後期には、抗生物質処置群からは2頭(器官脱出)、対照群からは3頭(死亡1、器官脱出1、股関節脱臼1)、及びF2処置群からは3頭(死亡1、器官脱出1、血便1)のブタが失われた。発育成績は表14~17に示した。
抗生物質を給与されたブタは、対照飼料を給与されたブタに比べて平均日増体重(ADG)が増加したが、F2の水薬をd0及びd1に投与されたブタはd0からd7まで中間のADG(p=0.0528)を示した(表14)。d7以降、F2処置ブタは、育成期フェーズ2(d14~28、p=0.0237)、肥育前期フェーズ1(d77~104、p=0.0134)、肥育前期-肥育後期全体(d40~162、p=0.047、
図25)及び試験期間全体(d0~162、p=0.033、
図25)で、抗生物質処置ブタで見られたものと同様のADG増加を示した。肥育後期フェーズ2では、F2処置ブタにおいてADGの有意な減少が観察された(d126~134、p=0.0082)。これは、回腸炎の発生によりタイラン水薬が投与されたためと考えられる。F2処置ブタではその後のフェーズで代償性の体重増加が認められ、このため肥育後期フェーズ3では対照ブタ及び抗生物質処置ブタと比較して優れた体重増加を示した(p=0.028)。
【表14】
【0070】
育成期における体重(BW)は、処置群間で差がなかった(表15)。抗生物質処置ブタ及びF2処置ブタのADGの改善により、G2(p=0.0128)及びF1(p=0.0505)終了時のBWはより大きな増加を示した。試験終了時に、抗生物質処置ブタ及びF2処置ブタは、対照飼料を与えたブタと比較して、それぞれ5.77kg及び6.37kg重かった(
図26、p=0.0575)。
【表15】
【0071】
ADG及びBWとは異なり、平均1日飼料摂取量は試験期間中、処置間で有意に異なることはなかった(表16)。しかしながら、d126~134及びd134~162の飼料効率(増体/飼料比、G:Fとして表される)には、処置が有意に影響した(表17)。対照飼料を給与したブタ及び抗生物質を給与したブタは、d126~134にF2を給与したブタよりもG:Fが高く(p=0.0058)、一方、d134~162に対照飼料を給与したブタと比較して、抗生物質又はF2を給与したブタでは、より大きなG:Fが観察された(p=0.0091)。F2処置ブタのG:Fにおける一貫性のない影響は、上述の水薬投与後の体重増加反応と関連している。
【表16】
【表17】
【0072】
枝肉特性の結果を表18に示す。処置ごとの反復数が少ないため(n=8)、腹背部の厚さを除いて処置間の枝肉特性に差は認められず、腹背部の厚さは、対照飼料を給与されたブタと比較してF2処置ブタでは厚く、抗生物質処置ブタは中間であった(p=0.035)。枝肉品質を決定するために選択されたブタは、元の同じ囲いの個体と類似した発育速度及び最終体重を示していた。抗生物質処置ブタ及びF2処置ブタの体重は、対照ブタと比較して4.7kg及び5.7kg重く、温枝肉重量は4kg及び3kg重かった(それぞれp=0.394及び0.466)。
【表18】
【0073】
要約すると、離乳時のF2処置により、抗生物質処置時と同等の、対照ブタを上回る発育速度の向上が確認された。抗生物質処置と同様に、F2処置は飼料効率にほとんど又は全く影響を及ぼさない。さらに、F2処置ブタは、対照ブタ及び抗生物質処置ブタと同等の枝肉特性を示した。これらの結果は、F2補給が豚肉の品質に有害な影響を与えることなく、抗生物質の代替物として使用できるという強い証拠を与えるものである。
【0074】
今後の研究:
現在進行中の研究では、16S rRNAシークエンシングと組み合わせたメタゲノミクス及びメタボロミクスを使用して、育成期(nursey)のF2補給により、屠蓄前期間を通じて子ブタの腸内マイクロバイオームがどのように変化するかが明らかにされるであろう。具体的には、マイクロバイオームの多様性、メンバー構成、菌種構成、組成、安定性、機能だけでなく、ブタの糞便及び血液中に見られる代謝産物、及びF2とそれ以外の、有益な細菌及び病原菌の両方を含む細菌分類群との相互作用の可能性が評価される。PowerSoilキット(Qiagen)を用いて糞便からDNAを抽出し、濃度を10ng/μlに正規化する。マイクロバイオームは、次世代シークエンサー(Illumina Miseq)を用いて特性決定を行う。配列はQIIME2ソフトウエアパッケージを用いて解析する。有益な細菌OTUは、機械学習アプローチであるランダムフォレストを用いて同定する。糞便から抽出したDNAは、種レベルの解明及び機能アノテーションのためのメタゲノムツールも用いて解析する。血漿サンプル及び糞便サンプルに対してもメタボロミクス解析を行う。
【0075】
【0076】
寄託情報
上記に開示され、添付の特許請求の範囲に列挙されたアーカンソー大学農学部独自の細菌単離株は、ARS Culture Collection(NRRL)(1815 N.University Street、ピオリア、IL 61604)又はAmerican Type Culture Collection(ATCC)(マナッサス、バージニア)に寄託されている。具体的には、1つのラクトバチルス(LactX)及び2つのストレプトコッカス(StrepX1及びStrepX3)単離株が寄託されている。寄託日は2021年6月X日である。寄託は、2021年6月X日に生存が確認された各単離株の5つの液体窒素保存株を含む。全ての制限は、特許が付与された時点で変更不可で除去され、寄託は、連邦規則集第37編第1.801条~第1.809条の全ての要件を満たすことが意図される。受託番号はXXXXX、XXXXX、及びXXXXXである。寄託は、30年間、又は最後の請求から5年間、又は特許の実施可能期間のうち長いほうの寄託期間だけ維持され、その期間中に必要に応じて交換される。
【配列表】
【国際調査報告】