(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】未処理C末端リジンを正確に測定するための重ペプチドアプローチ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230711BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230711BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230711BHJP
C07K 1/13 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N33/50 U
G01N33/68
C07K1/13 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577499
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 US2021038136
(87)【国際公開番号】W WO2021258017
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】グリーア タイラー
(72)【発明者】
【氏名】チェイコフ ミロス
(72)【発明者】
【氏名】オブライエン ジョンソン リード
(72)【発明者】
【氏名】ジェン シャオジン
(72)【発明者】
【氏名】リ ニン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041FA22
2G041FA24
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA05
2G041LA09
2G045DA37
2G045FB06
2G045FB07
4H045AA30
4H045BA50
4H045EA65
(57)【要約】
本開示は、抗体などのタンパク質における翻訳後修飾を正確に測定するための方法を提供する。特に、本方法は、修飾ペプチドの正確な定量化を可能にする検量線を生成するための、重同位体標準物質の使用に関する。本方法は、質量分析を使用して抗体のC末端切断を正確に定量化するために使用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化するための方法であって、
(a)前記関心対象のタンパク質を含む試料を消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を得ることと、
(b)前記ペプチド消化物に重ペプチド標準物質のセットを添加することであって、少なくとも1つの重ペプチド標準物質が、前記翻訳後修飾を含み、かつ少なくとも1つの重ペプチド標準物質が、前記翻訳後修飾を含まない、添加することと、
(c)前記ペプチド消化物を、添加された前記重ペプチド標準物質とともに、液体クロマトグラフィ-質量分析を使用する分析に供して、前記ペプチド消化物及び重ペプチド標準物質の各ペプチドに対応するシグナルを取得することと、
(d)前記翻訳後修飾を含まない前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質と比較した、前記翻訳後修飾を含む前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質の相対シグナルを使用して、検量線を生成することと、
(e)前記翻訳後修飾を含まない前記関心対象のタンパク質からの少なくとも1つのペプチドと比較した、前記翻訳後修飾を含む前記関心対象のタンパク質からの少なくとも1つのペプチドの前記相対シグナルを使用して、前記関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化することと、
(f)前記(d)の検量線を使用して(e)の結果を正規化して、前記関心対象のタンパク質の前記翻訳後修飾を更に定量化することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記関心対象のタンパク質が、治療用タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療用タンパク質が、抗体、可溶性受容体、抗体-薬物コンジュゲート、及び酵素からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記関心対象のタンパク質が、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記関心対象のタンパク質が、二重特異性抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記翻訳後修飾が、未処理C末端リジンの存在である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記重ペプチド標準物質が、少なくとも1つの他の重ペプチド標準物質に対して、約1:1~約1:1000のモル比で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記重ペプチド標準物質が、約1~約16個の重同位体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記重ペプチド標準物質が、C
13、N
15、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記消化酵素が、トリプシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記液体クロマトグラフィ法が、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、例えば、Orbitrap質量分析計、Q-TOF質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、前記質量分析計が、前記液体クロマトグラフィシステムに結合され、かつ前記質量分析計が、LC-MS、LC-MRM-MS、及び/又はLC-MS/MS分析を実行することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化するためのキットであって、
(a)翻訳後修飾を含む少なくとも1つの重ペプチド標準物質を含む第1の組成物と、
(b)前記翻訳後修飾を含まない少なくとも1つの重ペプチド標準物質を含む第2の組成物と
を含み、
前記第1及び第2の組成物は、ペプチド消化物に添加することができ、
質量分析によって分析した場合に、前記翻訳後修飾を含まない前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質と比較した、前記翻訳後修飾を含む前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質の相対シグナルを使用して、検量線を生成することができ、かつ
前記検量線を使用して、関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化することができる、
キット。
【請求項14】
前記翻訳後修飾が、未処理C末端リジンの存在である、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記重ペプチド標準物質が、少なくとも1つの他の重ペプチド標準物質に対して、約1:1~約1:1000のモル比で存在する、請求項13に記載のキット。
【請求項16】
前記重ペプチド標準物質が、約1~約16個の重同位体を含む、請求項13に記載のキット。
【請求項17】
前記重ペプチド標準物質が、C
13、N
15、又はそれらの組み合わせを含む、請求項13に記載のキット。
【請求項18】
少なくとも1つの軽ペプチド標準物質を更に含む、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月18日に出願された米国仮特許出願第63/041,015号の優先権及び恩典を主張し、これは、参照により本明細書に援用される。
【0002】
分野
本出願は、液体クロマトグラフィ-質量分析における重同位体標準物質(heavy isotopic standard)を使用して、関心対象のタンパク質における翻訳後修飾(PTM)を同定及び定量化するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
治療用モノクローナル抗体(mAb)及び二重特異性抗体(bsAb)は、多くの障害の治療において重要な役割を果たす。このクラスの薬物の利点は、広範囲にわたる様々な分子標的に対する高い特異性及び親和性を含み、これらの利点は、薬物の継続的な開発を保証し、中でも、喘息、関節リウマチ、及び低密度リポタンパク質コレステロール上昇などの健康状態の治療に対する承認につながってきている。治療用抗体の商業的及び科学的な成功は前例のないものであるが、それらの固有の利点は、それらの大きなサイズ、複雑性、及び化学的不均一性によって減じられ、それらの安全性及び有効性を評価するために多くの方法を使用する必要がある。
【0004】
これらの方法のかなりの部分は、多くの場合、翻訳後修飾(PTM)、製品の品質属性、並びに質量及び電荷の不均一性の主要な原因の評価に費やされる。高感度質量分析計検出器と、ますます多くの液体クロマトグラフィカラム化学及び酵素処理条件との統合により、一連の成熟したPTMの特性評価法が得られた。質量分析(MS)ベースのペプチドマッピングアッセイは、全ての関連するPTMの同定、局在化、及び定量化を可能にし、例えば、最適条件下で、0.1%未満の検出限界を有する。
【0005】
抽出イオンクロマトグラム(XIC)によるPTM定量化の利点は、その方法の精度(accuracy)及び精度(precision)に影響を与えるいくつかの課題を伴っている。これらの問題の多くは、非修飾ペプチドと修飾形態とのイオン化の違いに関連している。例えば、C末端K切断(des-K)値は、特に、未処理形態(K、z=2+)と比較して、イオン化効率の違いによる及びペプチドの優位な電荷状態の1+への低減による影響を受ける可能性がある。未処理C末端Kのパーセント相対存在量は、典型的には、K及びdes-Kの合計と関連して計算されるが、ペプチドマッピング定量化中ではKのパーセンテージが過大に評価され得ることが、以前の取り組みで見出されている。これは、例えば、ペプチド配列のC末端上の追加のKが、des-Kペプチドに比べてイオン化効率を増加させるためである。
【0006】
この誤差を最小化するためのいくつかの試みは、各ペプチドについてのXIC曲線下面積(AUC)を計算するために最も豊富な電荷状態のみを使用すること、又は等モル量の各ペプチドをLCカラムに注入し、質量分析計の応答を測定することによって決定される補正係数を使用することを含む。しかしながら、第1の方法は、未処理C末端K値の大きさを減少させ得るが、この値をどの程度減少させるべきかについての経験的な知識がないか又はほとんどない状態で行われる。補正係数法は、補正係数が、未処理C末端Kの可能な濃度範囲にわたって、潜在的に共溶出するペプチドの存在下で、及び異なる質量分析計間で、静的なままであると仮定する。これらの因子の変動は、静的補正係数を使用した場合に補償されない可能性のある未処理C末端Kに対する処理C末端Kの測定値の、より大きな不正確さにつながるであろう。
【0007】
したがって、修飾及び非修飾ペプチドのイオン化効率の差を補正する、関心対象のタンパク質中のPTMの存在を正確に定量化する方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明は、重ペプチドアプローチを使用して、抗体などのタンパク質中のPTMを正確かつ精密に特徴付けるための方法を提供する。より具体的には、本開示は、抗体における未処理C末端リジン(K)の定量化方法を提供する。重ペプチドアプローチを使用してC末端Kを定量化する方法が提供される。
【0009】
一部の例示的な実施形態では、本方法は、(a)当該関心対象のタンパク質を含む試料を消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を得ることと、(b)当該ペプチド消化物に重ペプチド標準物質のセットを添加することであって、少なくとも1つの重ペプチド標準物質が、当該翻訳後修飾を含み、かつ少なくとも1つの重ペプチド標準物質が、当該翻訳後修飾を含まない、添加することと、(c)当該ペプチド消化物を、当該添加した重ペプチド標準物質とともに、液体クロマトグラフィ-質量分析を使用する分析に供して、ペプチド消化物及び重ペプチド標準物質の各ペプチドに対応するシグナルを取得することと、(d)当該翻訳後修飾を含まない少なくとも1つの重ペプチド標準物質と比較した、当該翻訳後修飾を含む少なくとも1つの重ペプチド標準物質の相対シグナルを使用して、検量線を生成することと、(e)当該翻訳後修飾を含まない当該関心対象のタンパク質からの少なくとも1つのペプチドと比較した、当該翻訳後修飾を含む当該関心対象のタンパク質からの少なくとも1つのペプチドの相対シグナルを使用して、当該関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化することと、(f)(d)の検量線を使用して(e)の結果を補正して、当該関心対象のタンパク質の当該翻訳後修飾を更に定量化することと、を含む。
【0010】
一態様では、関心対象のタンパク質は、治療用タンパク質である。特定の態様では、当該治療用タンパク質は、抗体、可溶性受容体、抗体-薬物コンジュゲート、及び酵素からなる群から選択される。
【0011】
一態様では、当該関心対象のタンパク質は、モノクローナル抗体である。別の態様では、当該関心対象のタンパク質は、二重特異性抗体である。
【0012】
一態様では、当該翻訳後修飾は、未処理C末端リジンの存在である。
【0013】
一態様では、当該重ペプチド標準物質は、少なくとも1つの他の重ペプチド標準物質に対して、約1:1~約1:1000のモル比で存在する。別の態様では、当該重ペプチド標準物質は、約1~約16個の重同位体を含む。更なる態様では、当該重ペプチド標準物質は、C13、N15、又はそれらの組み合わせを含む。
【0014】
一態様では、当該消化酵素は、トリプシンである。
【0015】
一態様では、当該液体クロマトグラフィ法は、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む。
【0016】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、例えば、Orbitrap質量分析計、Q-TOF質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、当該質量分析計は、当該液体クロマトグラフィシステムに結合され、かつ当該質量分析計は、LC-MS、LC-MRM-MS、及び/又はLC-MS/MS分析を実行することができる。
【0017】
本開示は、本発明の方法を実施するためのキットを更に提供する。一部の例示的な実施形態では、キットは、翻訳後修飾を含む少なくとも1つの重ペプチド標準物質を含む第1の組成物と、当該翻訳後修飾を含まない少なくとも1つの重ペプチド標準物質を含む第2の組成物と、を含み、質量分析によって分析した場合に、当該翻訳後修飾を含まない少なくとも1つの重ペプチド標準物質と比較した、当該翻訳後修飾を含む少なくとも1つの重ペプチド標準物質の相対シグナルを使用して、検量線を生成することができ、かつ当該検量線を使用して、関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化することができる。
【0018】
一態様では、当該翻訳後修飾は、未処理C末端リジンの存在である。
【0019】
一態様では、当該重ペプチド標準物質は、少なくとも1つの他の重ペプチド標準物質に対して、約1:1~約1:1000のモル比で存在する。別の態様では、当該重ペプチド標準物質は、約1~約16個の重同位体を含む。更なる態様では、当該重ペプチド標準物質は、C13、N15、又はそれらの組み合わせを含む。
【0020】
一態様では、キットは、少なくとも1つの軽ペプチド標準物質(light peptide standard)を更に含む。
【0021】
一態様では、キットの組成物は、水性媒体又は凍結乾燥形態のいずれかで包装され得る。
【0022】
一態様では、組成物は、容器内に提供され得る。キットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、又は他の容器手段を含み、構成要素が、その中に配置され得、好適には、アリコートされ得る。別の態様では、キットの組成物は、乾燥粉末として提供され得る。試薬及び/又は構成要素が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、好適な溶媒の添加によって再構成され得る。溶媒はまた、別の容器手段でも提供され得ることが想定される。
【0023】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修飾、追加、又は再配置は、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1Aは、例示的な実施形態による、本発明のアッセイの概略図を示す。「クリップされた(clipped)」ペプチド(C末端リジンを欠くタンパク質のC末端に対応する)を、4つの「クリップされていない(unclipped)」ペプチド(C末端リジンを有するタンパク質のC末端に対応する)と混合して、ペプチド混合物の応答曲線(検量線)を形成する。次いで、この応答曲線ペプチド混合物を、潜在的な抗体製造試料(mAb消化物)を表す試料と混合して、抗体試料中に存在するC末端リジンの量を正確に定量化する。
図1Bは、例示的な実施形態による、液体クロマトグラフィ-質量分析に供したときのペプチド種の各々について観察される分析ピークを示す。
【
図2】
図2A~2Eは、例示的な実施形態による、
13C及び
15Nの同位体(●で示されている)を含有する4つのSLSLSLGK(配列番号1)の「クリップされていない」重ペプチド標準物質の構造を示す。
図2A~2Dに示される同位体重鎖(HC)C末端ペプチド標準物質は、それぞれ、Δ4、Δ8、Δ12、及びΔ16Kペプチドである。
図2Eは、
13C及び
15Nの同位体(●で示されている)を含有する重SLSLSLG(配列番号1)標準物質Δ4 des-Kを示す。
【
図3】例示的な実施形態による、「クリップされた」ペプチドと「クリップされていない」ペプチドとの間の比例関係を示す検量線(CC)を示す。
【
図4】例示的な実施形態による、重鎖(HC)C末端ペプチドを使用した例示的な応答曲線を示す。
【
図5】
図5Aは、例示的な実施形態による、「クリップされていない」SLSLPGK(配列番号4)及び「クリップされた」SLSLSPG(配列番号3)の等モル混合物のUVクロマトグラムを示す。
図5Bは、例示的な実施形態による、SLSLPGK(配列番号4)及びSLSLSPG(配列番号3)試薬セットの等モル量の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
治療用モノクローナル抗体(mAb)及び二重特異性抗体(bsAb)は、多くの障害の治療において重要な役割を果たす。このクラスの薬物の利点は、広範囲にわたる様々な分子標的に対する高い特異性及び親和性を含み、これらの利点は、薬物の継続的な開発を保証し、中でも、喘息、関節リウマチ、及び低密度リポタンパク質コレステロール上昇などの健康状態の治療に対する承認につながってきている。治療用抗体の商業的及び科学的な成功は前例のないものであるが、それらの固有の利点は、それらの大きなサイズ、複雑性、及び化学的不均一性によって減じられ、それらの安全性及び有効性を評価するために多くの方法を使用する必要がある。
【0026】
これらの方法のかなりの部分は、PTM、製品の品質属性、並びに質量及び電荷の不均一性の主要な原因の評価に費やされる。単一抗体のPTM補体は多様であるが、ほぼ全てのmAb及びbsAb間で、共通の修飾(例えば、C末端リジン切断、グリコシル化、N末端ピログルタミン酸形成、酸化、アミド化、脱アミド化、スクシンイミド中間体形成、糖化、異性化、システイニル化、及びトリスルフィド結合)が共有されている。
【0027】
これらのPTMレベルを慎重に監視することで、所定の受け入れ基準を通してそれらを管理することが可能になり、2つの異なる理由で共通の戦略となっている。第一に、多くの報告は、PTMが、特に相補性決定領域(CDR)に位置する場合、抗体の安定性及び生物活性に影響を及ぼす可能性があることを示している。第二に、PTMレベルのばらつきは、プロセス制御の欠如を示す可能性がある。
【0028】
翻訳後修飾は、クロマトグラフィ及び電気泳動技術を用いてグローバルレベルでアッセイされ、これには、サイズ排除クロマトグラフィ-多角度レーザー光走査(multi angle laser light scanning)(SEC-MALLS)、キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)、イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)、及びカチオン交換クロマトグラフィ(CEX)などの方法が含まれる。そのような方法は、広く受け入れられているが、典型的には、アミノ酸配列内のそれらの特定の位置を決定することなく、最も豊富な修飾のみを同定する。
【0029】
例えば、CEXクロマトグラムにおける酸性種は、脱アミド化、糖化、及びシステイニル化のようなPTMを含む可能性が最も高く、塩基性種は、未処理C末端K、酸化、及び異性化のような修飾からなるであろう。しかしながら、これらのPTMのアミノ酸位置は、グローバル分析において決定不能であるため、それらがCDR内に位置しているか、及びどの程度存在しているかを決定することは困難である。
【0030】
高感度質量分析計検出器と、ますます多くの液体クロマトグラフィカラム化学及び酵素処理条件との統合により、一連の成熟したPTMの特性評価法が得られた。液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)を介した抗体のインタクト質量分析は、部位特異的PTMデータをもたらさないが、最小限の試料調製を必要とし、質量同定の追加の利点を有するより大きなPTMの分析を提供することができる。
【0031】
IdeS、パパイン、GingisKHAN(登録商標)、及びFabALACTICA(登録商標)などの酵素によるジスルフィド結合還元及び/又は限定的な消化は、試料調製の時間がわずかに増えるが、PTM局在化のサブユニットレベルの分解能が可能になり、これは、電子移動解離(ETD)又は別のタンデム質量分析(MS/MS又はMS2)アプローチを使用して各サブユニットを断片化することによって更に増加され得る。しかしながら、広いダイナミックレンジにわたるPTMの部位特異的局在化及び定量化は、ペプチドマッピングと呼ばれる技術を使用して「ボトムアップ」で行われるのが最も一般的である。
【0032】
ペプチドマッピングの方法は、抗体の酵素消化を必要とし、ペプチド混合物が生成され、これを、液体クロマトグラフィで分離し、紫外線/可視(UV/Vis)吸光度で検出した後、イオン化し、質量分析計に注入する。完全なMSスペクトルを取得し、ペプチドを選択し、断片化して、MS/MSスペクトルを生成させ、これらを使用して、ペプチドの同一性を検証するか、又は1つより多くの潜在的な修飾部位を含有するペプチド上のPTMを局在化する。ペプチドマッピングは、潜在的に、抗体配列への調製関連アーチファクトに寄与し、実験の時間及び複雑性を著しく増加させることができるが、一般に、部位特異的であるだけでなく、最も感度の高いPTMの特性評価法でもある。
【0033】
各修飾の定量化は、UVを使用して、又は質量分析からの抽出イオンクロマトグラム(XIC)を使用して、行うことができる。UV定量化は、共溶出ペプチドによって難読化され、現代の質量分析計よりも本質的に感度が低い。このため、XICベースの定量化が日常的に行われ、MSベースのペプチドマッピングアッセイは、最適な条件下、約0.1%未満の検出限界で、全ての関連するPTMの同定、局在化、及び定量化を可能にする。
【0034】
XICによるPTM定量化の利点は、その方法の精度(accuracy)及び精度(precision)に影響を与えるいくつかの固有の課題を伴っている。これらの問題の多くは、いくつかの潜在的な理由による、非修飾ペプチドと修飾形態とのイオン化の違いに関連している。共溶出ペプチドピークからの一方又は両方のペプチド形態のイオン抑制があり得る。溶媒環境には、別々の保持時間で溶出する2つのペプチド形態間に差があり得る。修飾ペプチドと非修飾ペプチドとの間には、イオン化効率の差があり得る。そして、最後に、質量分析計間には変動があり得る。全てのPTMのペプチドマッピング定量化は、これらの要因に影響を受けるが、C末端K切断(des-K)の定量化は、特に、2+の優位な電荷状態を有する未処理形態(K)と比較して、イオン化効率の違いによる及びペプチドの優位な電荷状態の1+への低減による影響を受ける可能性がある。
【0035】
C末端K切断は、哺乳類組織培養細胞からの産生中に、カルボキシペプチダーゼ活性のために容易に生じる。結果として、組換えmAb又はbsAbにおける優位な形態は、des-Kである。未処理C末端Kのパーセント相対存在量は、典型的には、K及びdes-Kの合計と関連して計算される。未処理C末端Kは、CDRには存在せず、およそ1時間の半減期で注射時に急速に失われることが示されているため、抗体における有効性又は安全性の懸念であるとは考えられない。しかしながら、このPTMの慎重なモニタリングは、プロセス制御を示し、より塩基性のpI値を有する抗体はまた、組織への取り込み及び血液でのクリアランスの増加を有する可能性が報告されている。
【0036】
これらの理由から、未処理C末端K測定は依然として重要であり、ペプチドマッピング定量化中ではKのパーセンテージが過大に評価され得ることが、以前の取り組みで見出されている。これは、ペプチド配列のC末端上の追加のKが、des-Kペプチドに比べてイオン化効率を増加させるためである。
【0037】
この誤差を最小化するためのいくつかの試みは、各ペプチドについてのXIC曲線下面積(AUC)を計算するために最も豊富な電荷状態のみを使用すること、又は等モル量の各ペプチドをLCカラムに注入し、質量分析計の応答を測定することによって決定される補正係数を使用することを含む。しかしながら、第1の方法は、未処理C末端K値の大きさを減少させるが、この値がどの程度減少されるべきかについての経験的な知識がないか、又はほとんどない状態で行われる。補正係数法は、補正係数が、未処理C末端Kの可能な濃度範囲にわたって、潜在的に共溶出するペプチドの存在下で、及び異なる質量分析計間で、静的なままであると仮定する。これらの因子の変動は、静的補正係数を使用した場合に補償されない可能性のある未処理C末端Kに対する処理C末端Kの測定値の、より大きな不正確さにつながるであろう。
【0038】
組換えタンパク質、例えば、組換え抗体の未処理C末端リジンにおけるPTMを正確に定量化する課題に対処するために、重同位体ペプチド標準物質を使用して、修飾ペプチドと非修飾ペプチドとの間の検出差を正規化する検量線を生成するための方法及びキットが、本明細書に記載される。
【0039】
図1A及び
図1Bに、本発明の例示的な実施形態が示されており、5つの重ペプチドは、抗体消化物の存在下で共インキュベートされて、検出可能なシグナルを生成する。検出可能なシグナルは、「クリップされた」及び「クリップされていない」C末端リジン(K)の正確な測定値を示すことができる。
【0040】
重ペプチドの新規のセット及び分析化学(例えば、液体クロマトグラフィ及び質量分析)を使用した本発明のアッセイを較正して、非常に正確な測定値を提供することができる。このアッセイの忠実性は、複合タンパク質分子(例えば、ヒト患者に導入されるように設計された治療用抗体)の製造にとって重要である。
【0041】
本発明は、本発明のアッセイを実施するためのキットも提供する。例示的な実施形態では、PTM、例えば、C末端リジン(K)の存在の正確かつ真の測定値を決定するためのアッセイにおける重要なステップは、適切な標準物質及び試料と混合した場合に読み取り可能なシグナルを提供するような、複数の十分な1つ以上の重ペプチドを使用することである。シグナルは、典型的には、分析化学、例えば、液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)を使用して測定される。
【0042】
したがって、本発明の方法を実施するためのキットの例示的な構成要素は、関心対象のPTMを含まない標準的なペプチド(例えば、C末端リジンの「クリップされた」ペプチド)、関心対象のPTMを有する標準的なペプチド(例えば、「クリップされていない」ペプチド)、例えば、本明細書に開示される以下の例示的なペプチドのうちの1つ以上を含む(「クリップされた」及び「クリップされていない」)標準的な重ペプチド、並びに、例えば、較正、データ抽出、分析、及び解釈のための説明を含む使用説明書を含み得る。
【0043】
したがって、本発明は、重要な抗体製造の化学、製造、及び品質管理(chemistry,manufacturing and control)(CMC)エンドポイントを改善するための便利な検査キット及び説明書を提供する。
【0044】
本発明は、治療用抗体などの治療用タンパク質の微細構造及び正確なアミノ酸配列の正確な決定を提供することを理解されたい。したがって、本発明は、治療用抗体などの任意の市販の治療用タンパク質のCMC(化学、製造、及び品質管理)を補完及び改善する。
【0045】
例えば、本発明は、いくつかの抗体療法の製造及び保護の改善を可能にする。かかる抗体療法には、アブシキシマブ、アダリムマブ、アダリムマブ-atto、ado-トラスツズマブ、エムタンシン、アレムツズマブ、アリロクマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カプロマブ・ペンデチド、セルトリズマブ・ペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ(Zenapax)、ダクリズマブ(Zinbryta)、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エボロクマブ、ゴリムマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブ・チウキセタン、イダルシズマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-abda、インフリキシマブ-dyyb、イピリムマブ・イキセキズマブ、メポリズマブ、ナタリズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、サリルマブ、リツキシマブ、ヒアルロニダーゼ・グセルクマブ、イノツズマブ・オゾガマイシン、アダリムマブ-adbm、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、ベバシズマブ-awwb、ベンラリズマブ、エミシズマブ-kxwh、トラスツズマブ-dkst、インフリキシマブ-qbtx、イバリズマブ-uiyk、チルドラキズマブ-asmn、ブロスマブ-twza、及びエレヌマブ-aooeが含まれる。
【0046】
本発明の対象となる様々な適応症のための他の関心対象の治療用抗体としては、眼障害を治療するためのアフリベルセプト、失明及び転移性大腸がんを治療するためのリロナセプト、家族性高コレステロール血症又は臨床的アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を治療するためのアリロクマブ、アトピー性皮膚炎を治療するためのデュピルマブ、関節リウマチ及びCOVID-19を治療するためのサリルマブ、PD-1関連疾患を治療するためのセミプリマブ、並びにエボラを治療するための抗体が挙げられる。
【0047】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。当業者に既知の本明細書に記載のものと同様又は同等の方法及び材料を、本明細書に記載の特定の実施形態の実施に使用することができる。言及される全ての刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。
【0048】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。「約」及び「およそ」という用語は、当業者に理解されるように標準的な変形例を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることが意図され、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味することが理解される。
【0049】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「関心対象のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含むことができる。タンパク質は、一般に「ポリペプチド」として当該技術分野で既知の1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連した天然に存在する構造バリアント、及びペプチド結合を介して連結された合成の天然に存在しないそれらの類似体、関連した天然に存在する構造バリアント、及び合成の天然に存在しないそれらの類似体からなるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が、当業者に既知である。タンパク質は、単一の機能的生体分子を形成する、1つ又は複数のポリペプチドを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。関心対象のタンパク質は、バイオ治療用タンパク質、研究又は療法で使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のうちのいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルスシステム、酵母システム(例えば、ピキア属の種(Pichia sp.))、又は哺乳類システム(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞などのCHO派生物)などの組換え細胞ベースの産生システムを使用して産生され得る。バイオ治療用タンパク質とその産生を論じる最近の総説については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)を参照されたい(その教示の全体が参照により本明細書に援用される)。タンパク質は、組成物及び溶解度に基づいて分類され得、したがって、単純タンパク質(例えば、球状タンパク質及び線維性タンパク質)、複合タンパク質(例えば、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リン酸化タンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質)、並びに誘導タンパク質(例えば、一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質)を含むことができる。
【0050】
一部の例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞に導入された組換え発現ベクター上に担持された遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生されるタンパク質を指す。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体)であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、以下からなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る:IgG、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgE。
【0052】
本明細書で使用される「抗体」という用語には、免疫グロブリン分子が含まれ、これは、ジスルフィド結合によって相互接続された4本のポリペプチド鎖である2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVR又はVHと略記される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、以下の3つのドメインを含む:CH1、CH2、及びCH3。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVR又はVLと略記される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、以下の1つのドメインを含む:CL1。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に更に細分化され得、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域により散在する。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の異なる実施形態では、抗ビッグET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、又は天然であり得るか、若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの対比分析(side-by-side analysis)に基づいて定義され得る。本明細書で使用される「抗体」という用語には、完全な抗体分子の抗原結合断片も含まれる。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成若しくは遺伝子操作ポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質消化などの任意の好適な標準技術、又は抗体の可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子操作技術を使用して、完全な抗体分子に由来し得る。かかるDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成することができる。DNAを、配列決定し、化学的に又は分子生物学的技術を使用すること(例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な構成に配置するか、又はコドンを導入するか、システイン残基を作製するか、アミノ酸を改変するか、付加するか、若しくは欠失させるかなど)によって操作してもよい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、インタクトな抗体の一部、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などを含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びに抗体断片から形成されるトリアボディ、テトラボディ、線状抗体、単鎖抗体分子、並びに多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせである。ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖可変領域がペプチドリンカーによって連結された組換え単鎖ポリペプチド分子である。一部の例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、一部の例示的な実施形態では、断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合し、かつ/又は抗原への結合について親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的又は化学的に産生されてもよく、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に産生されてもよい。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、完全に又は部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、単鎖抗体断片を含んでもよい。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結される複数の鎖を含んでもよい。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含んでもよい。機能的抗体断片は、典型的には、少なくとも約50アミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200アミノ酸を含む。
【0054】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖が、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子(例えば、同じ抗原)上のいずれかで、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1の重鎖の第1のエピトープに対する親和性は、概して、第1の重鎖の第2のエピトープに対する親和性よりも少なくとも1~2桁又は3桁若しくは4桁低くなるであろうし、逆もまた同様である。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、かかる配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞で発現させることができる。
【0055】
典型的な二重特異性抗体は、2つの重鎖を有し、その各々が、3つの重鎖CDRを有し、続いて、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有し、並びに免疫グロブリン軽鎖であって、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合することができるか、又は各重鎖と会合することができ、かつ重鎖抗原結合領域が結合するエピトープのうちの1つ以上と結合することができるか、又は各重鎖と会合することができ、かつ一方若しくは両方の重鎖が一方若しくは両方のエピトープと結合することを可能にする、免疫グロブリン軽鎖を有する。BsAbは、Fc領域(IgG様)を有するものとFc領域を欠くものとの2つの主要なクラスに分類することができ、後者は、通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、異なる形式、例えば、限定されないが、トリオマブ、ノブ・イントゥ・ホールIgG(kih IgG)、クロスMab、オルト-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツー・イン・ワンFab若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG-単鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディを有することができる。非IgG様の異なる形式としては、タンデムscFv、ダイアボディ形式、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドック・アンド・ロック(DNL)法によって産生される抗体(Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130;Dafne Muller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、これらの教示全体は、参照により本明細書に援用される)が挙げられる。bsAbを産生する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を伴う化学的コンジュゲーション、及び組換えDNA技術を利用した遺伝的アプローチに限定されない。bsAbの例としては、以下の特許出願に開示されているものが挙げられる(参照により本明細書に援用される):2010年6月25日に出願された米国特許第12/823838号、2012年6月5日に出願された米国特許第13/488628号、2013年9月19日に出願された米国特許第14/031075号、2015年7月24日に出願された米国特許第14/808171号、2017年9月22日に出願された米国特許第15/713574号、2017年9月22日に出願された米国特許第15/713569号、2016年12月21日に出願された米国特許第15/386453号、2016年12月21日に出願された米国特許第15/386443号、2016年7月29日に出願された米国特許第15/22343号、及び2017年11月15日に出願された米国特許第15814095号。低レベルのホモ二量体不純物は、二重特異性抗体の製造中のいくつかのステップで存在し得る。かかるホモ二量体不純物の検出は、インタクト質量分析を使用して実施した場合、困難である可能性があり、通常の液体クロマトグラフィ法を使用して実施した場合、ホモ二量体不純物の存在量が少なく、これらの不純物と主要種とが共溶出するためである。
【0056】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つの異なる抗原に対する特異性を有する抗体を指す。かかる分子は、通常、2つの抗原のみに結合するが(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)、三重特異性抗体及びKIH三重特異性抗体などの追加の特異性を有する抗体は、本明細書に開示されるシステム及び方法によっても対処することができる。
【0057】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術を通して産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野で利用可能又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一のクローンに由来し得る。本開示に有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野で既知の多種多様な技法を使用して調製することができる。
【0058】
「組換え宿主細胞」(又は単に「宿主細胞」)という語句は、関心対象のタンパク質をコードする組換え発現ベクターが導入された細胞を含む。かかる用語は、特定の対象細胞だけでなく、かかる細胞の子孫も指すことが意図されていることが理解されるべきである。特定の修飾は、変異又は環境の影響のいずれかにより後の世代で生じ得るため、かかる子孫は、実際には、親細胞と同一ではないが、依然として本明細書で使用される「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。一実施形態では、宿主細胞は、生物界のいずれかから選択される原核細胞及び真核細胞を含む。一態様では、真核細胞は、原生生物、真菌、植物、及び動物細胞を含む。更なる態様では、宿主細胞は、植物細胞及び/又は動物細胞などの真核細胞を含む。細胞は、哺乳動物細胞、魚類細胞、昆虫細胞、両生類細胞、又は鳥類細胞であり得る。特定の態様では、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。培養物中での増殖に好適な多種多様な哺乳動物細胞株は、American Type Culture Collection(Manassas,Va.)及び他の保管所貯蔵所並びに商業ベンダーから入手可能である。本発明のプロセスで使用することができる細胞としては、MK2.7細胞、PER-C6細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、例えば、CHO-K1(ATCC CCL-61)、DG44(Chasin et al.,1986,Som.Cell Molec.Genet.,12:555-556、Kolkekar et al.,1997,Biochemistry,36:10901-10909、及びWO01/92337A2)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ陰性CHO細胞(CHO/-DHFR、Urlaub and Chasin,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216)、及びdp12.CHO細胞(米国特許第5,721,121号)、サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL-70)、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞(COS細胞、COS-7、ATCC CRL-1651)、HEK293細胞、及びSp2/0細胞、5L8ハイブリドーマ細胞、Daudi細胞、EL4細胞、HeLa細胞、HL-60細胞、K562細胞、Jurkat細胞、THP-1細胞、Sp2/0細胞、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞、及び網膜上皮細胞)、並びに樹立細胞株及びそれらの株(例えば、ヒト胎児腎臓細胞、293細胞、又は浮遊培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞、Graham et al.,1977,J.Gen.Virol.,36:59)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL-10)、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,1980,Biol.Reprod.,23:243-251)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA、ATCC CCL-2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL-34)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL-75)、ヒト肝細胞がん細胞(HEP-G2、HB8065)、マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562、ATCC CCL-51)、バッファローラット肝臓細胞(BRL3A、ATCC CRL-1442)、TRI細胞(Mather,1982,Annals NY Acad.Sci.,383:44-68)、MCR5細胞、FS4細胞、PER-C6網膜細胞,MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、BeWo細胞、Chang細胞、デトロイト(Detroit)562細胞、HeLa229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LS180細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-1細胞、LLC-PK1細胞、PK(15)細胞、GH1細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MH1C1細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、若しくはそれらの誘導体)、任意の組織若しくは臓器(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、咽頭扁桃、扁桃、骨髄、及び血液)、脾臓を含むが、これらに限定されない)からの線維芽細胞、並びに線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、デンプシー細胞、デトロイト551細胞、デトロイト510細胞、デトロイト525細胞、デトロイト529細胞、デトロイト532細胞、デトロイト539細胞、デトロイト548細胞、デトロイト573細胞、HEL299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、MiCl1細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587;VERO、ATCC CCL-81)、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDM1C3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、Strain2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、インドキョン細胞、SIRC細胞、CII細胞、及びJensen細胞、若しくはそれらの誘導体)、又は当業者に既知の任意の他の細胞型が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本明細書で使用される場合、「治療用タンパク質」という用語は、疾患又は障害の治療のために対象に投与され得る任意のタンパク質を指す。治療用タンパク質は、薬理学的効果を有する任意のタンパク質(例えば、抗体、可溶性受容体、抗体-薬物コンジュゲート、又は酵素)であり得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィ」という用語は、液体によって担持される生体/化学混合物が、静止した液体又は固相を通って(又はその中に)流れる成分の差次的分布の結果として、成分に分離され得るプロセスを指す。液体クロマトグラフィの非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ、又は混合モードクロマトグラフィが挙げられる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドを特徴付けることができる任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、3つの主要な部分であるイオン源、質量分析器、及び検出器を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物の原子、分子、又はクラスターを、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)又は別々のプロセスを介してのいずれかで、気相に移し、イオン化することができる。イオン源の選択は、用途に依存する。
【0062】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数の段階の質量選択及び質量分離を使用することによって、試料分子に関する構造情報が得られる技術を含む。前提条件は、第1の質量選択ステップの後、断片が予測可能かつ制御可能な様式で形成されるように、試料分子を気相に移し、イオン化することである。多段階MS/MS(すなわち、MSn)は、まず、前駆体イオン(MS2)を選択し、単離し、断片化し、一次断片イオン(MS3)を単離し、断片化し、二次断片イオン(MS4)を単離するなど、有意義な情報を得ることができるか又は断片イオンのシグナルが検出可能である限り、実施することができる。タンデムMSは、多種多様な分析器の組み合わせで成功裏に実行されている。特定の用途のために組み合わせる分析器は、感度、選択性、及び速度などの多くの異なる要因によって決定することができるが、サイズ、コスト、及び可用性も同様である。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、タンデム・イン・スペース(tandem-in-space)及びタンデム・イン・タイム(tandem-in-time)であるが、タンデム・イン・タイム分析器が空間的に結合されるか、又はタンデム・イン・スペース分析器と結合されるハイブリッドも存在する。タンデム・イン・スペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化デバイス、及び少なくとも2つの非捕捉型質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器のあるセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、次いで、プロダクトイオンが、m/z分離及びデータ収集のために別の分析器に伝送されるように設計することができる。タンデム・イン・タイム質量分析計では、イオン源で生成されたイオンを、同じ物理デバイスで捕捉、単離、断片化、及びm/z分離することができる。質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理代表として使用することができる。これらは、実験データと理論的MS/MSデータとを相関させることによって、タンパク質の特徴付けに使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能性のあるペプチドから生成される。この特徴付けには、限定されないが、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列の決定、タンパク質デノボ配列決定、翻訳後修飾の位置決定、若しくは翻訳後修飾の同定、若しくは比較可能性分析、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0063】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在し得るタンパク質配列のコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究対象の種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公開データベースには、例えば、UniProt又はSwiss-Protによってホストされているデータベースが含まれた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるデータベースを使用して検索され得る。バイオインフォマティクスツールは、データベース内の全ての可能な配列に対して解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、解釈された(注釈付けられた)MS/MSスペクトルを出力として提供する。そのようなツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)、又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0064】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、液体クロマトグラフィシステムに結合することができる。一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、液体クロマトグラフィ-多重反応モニタリングシステムに結合することができる。より一般的には、質量分析計は、連続反応モニタリング(CRM)及び並列反応モニタリング(PRM)を含む、選択反応モニタリング(SRM)による分析が可能であり得る。
【0065】
本明細書で使用される場合、「多重反応モニタリング」又は「MRM」は、質量分析ベースの技術を指し、これは、高感度、高特異性、及び幅広いダイナミックレンジで複雑なマトリックス内の低分子、ペプチド、及びタンパク質を正確に定量化することができる(Paola Picotti & Ruedi Aebersold,Selected reaction monitoring-based proteomics:workflows,potential,pitfalls and future directions,9 NATURE METHODS 555-566(2012))。MRMは、典型的には、トリプル四重極質量分析計を用いて実施することができ、選択された小分子/ペプチドに対応する前駆体イオンが第1の四重極内で選択され、前駆体イオンの断片イオンが第3の四重極内でモニタリングするために選択される(Yong Seok Choi et al.,Targeted human cerebrospinal fluid proteomics for the validation of multiple Alzheimers disease biomarker candidates,930 JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY B 129-135(2013))。
【0066】
一部の態様では、本出願の方法又はシステムにおける質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であってもよく、質量分析計を、液体クロマトグラフィシステムに結合することができ、質量分析計が、LC-MS(液体クロマトグラフィ-質量分析)又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィ-多重反応モニタリング-質量分析)分析を実行することができる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤(例えば、酵素消化又は非酵素消化)を使用して、試料中のタンパク質の消化を行うためのいくつかのアプローチがある。
【0068】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる薬剤のうちのいずれかを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、Aspergillus saitoi由来プロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)、又は外膜タンパク質T(OmpT)のプロテアーゼ、Streptococcus pyogenesの免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ、若しくは生物活性断片、若しくはそれらのホモログ、又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化のための利用可能な技術を論じる最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera & Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。
【0069】
消化酵素の量及び消化に要する時間を適切に選択することができる。酵素対基質比が不適切に高い場合、これに対応して、高い消化率により、ペプチドが質量分析計によって分析されるのに十分な時間が得られず、配列カバレッジが損なわれる。その一方、酵素対基質の比率が低いと、消化時間を長くする必要があるため、データ取得時間が長くなる。酵素対基質の比率は、約1:0.5~約1:200の範囲であり得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」又は「PTM」という一般用語は、ポリペプチドがリボソーム合成中(翻訳時修飾)又は合成後(翻訳後修飾)のいずれかで受ける共有結合修飾を指す。PTMは、一般に、特定の酵素又は酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャー配列)の部位で生じる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は必然的に、タンパク質の構造又は機能の一部の態様に影響を及ぼす(Walsh,G.“Proteins”(2014)second edition,published by Wiley and Sons,Ltd.,ISBN:9780470669853)。様々な翻訳後修飾には、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(アセチル基の付加、通常はタンパク質のN末端)、アルキル化(通常はリジン又はアルギニン残基におけるアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内又は間の共有結合架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリジンのヒドロキシル化及びカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンK依存性修飾(ビタミンKがグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子であり、γ-カルボキシグルタミン酸(グルタミン酸残基)の形成をもたらす)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(グリシン残基の共有結合)、グリコシル化(アスパラギン、ヒドロキシリジン、セリン、又はスレオニンのいずれかへのグリコシル基の付加、糖タンパク質をもたらす)、イソプレニル化(ファルネソール及びゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポ酸官能基の付加)、ホスホパンテテイン化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド、及びロイシン生合成における、補酵素Aからの4’-ホスホパンテテイニル部分の付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニン、又はヒスチジンへのリン酸基の付加)、並びに硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)が含まれるが、これらに限定されない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾には、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸へ又はアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が含まれるが、これらに限定されない。構造変化を伴う翻訳後修飾には、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質分解切断(タンパク質のペプチド結合における切断)が含まれるが、これらに限定されない。例示的な一実施形態では、翻訳後修飾は、タンパク質C末端におけるリジンの切断である。特定の翻訳後修飾は、他のタンパク質又はペプチドの付加、例えば、ISG化(ISG15タンパク質への共有結合(インターフェロン刺激遺伝子))、SUMO化(SUMOタンパク質への共有結合(低分子ユビキチン様修飾因子))、及びユビキチン化(タンパク質ユビキチンへの共有結合)を伴う。UniProtによって精選されたPTMのより詳細な統制語彙については、欧州バイオインフォマティクス研究所のタンパク質情報リソースSIBスイスバイオインフォマティクス研究所、EUROPEAN BIOINFORMATICS INSTITUTE DRS-DROSOMYCIN PRECURSOR-DROSOPHILA MELANOGASTER(FRUIT FLY)-DRS GENE&PROTEIN、http://www.uniprot.org/docs/ptmlistを参照されたい。
【0071】
本明細書で使用される場合、「C末端リジン(K)」又は「Kペプチド」という用語は、アミノ酸配列の末端に存在し得るか又は存在しないアミノ酸リジン残基又は「K」残基を指す。例示的な実施形態では、C末端リジンは、抗体の重鎖上にある。「切断ペプチド」又は「(des-K)」という用語は、C末端リジン(K)を欠くC末端アミノ酸配列を有するタンパク質の代表的な部分を指す。
【0072】
本明細書で使用される場合、「クリップされていない」という用語は、C末端配列が末端リジン(K)アミノ酸残基を有するタンパク質のC末端配列を指す。本明細書で使用される場合、「クリップされた」という用語は、C末端配列が末端リジン(K)アミノ酸残基を欠くタンパク質のC末端配列を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、「Kペプチドのパーセンテージを分析及び定量化する」という用語は、タンパク質配列のC末端リジンの相対的な存在又は不在を確認するのに十分な第1のアッセイシグナルと第2のアッセイシグナルとの間の差を比較することを指す。例示的な一実施形態では、タンパク質配列は、抗体重鎖である。
【0074】
本明細書で使用される場合、「重ペプチド」という用語は、本発明の任意のペプチド又はその等価物を指し、ペプチドの少なくとも1つ以上の炭素原子又は窒素原子は、その重同位体、例えば、13C及び15Nの同位体である。
【0075】
本明細書で使用される場合、「ペプチド消化物」という用語は、タンパク質を、タンパク質配列を消化することができる1つ以上の酵素と接触させることによって生じるペプチドの混合物を指す。例示的な一実施形態では、ペプチド消化物は、消化したタンパク質のC末端を表すポリペプチド配列を含む。
【0076】
本発明は、前述の関心対象のタンパク質、治療用タンパク質、組換えタンパク質、組換え宿主細胞、抗体、液体クロマトグラフィシステム、質量分析計、データベース、バイオインフォマティクスツール、消化酵素、翻訳後修飾、又は重ペプチドのうちのいずれかに限定されず、任意の関心対象のタンパク質、治療用タンパク質、組換えタンパク質、組換え宿主細胞、抗体、液体クロマトグラフィシステム、質量分析計、データベース、バイオインフォマティクスツール、消化酵素、翻訳後修飾、又は重ペプチドは、任意の好適な手段によって選択することができることが理解されよう。
【0077】
本発明は、以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。しかしながら、それらは、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0078】
材料及び方法。本発明は、当業者によって実施される場合、薬化学、免疫学、分子生物学、細胞生物学、組換えDNA技術、及びアッセイ技術の分野における従来の技術を利用することができ、例えば、Sambrook et al.“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,3rd ed.2001、Ausubel et al.“Short Protocols in Molecular Biology”,5th ed.1995、“Methods in Enzymology”,Academic Press,Inc.、MacPherson,Hames and Taylor(eds.).“PCR 2:A practical approach”,1995、“Harlow and Lane(eds.)“Antibodies,a Laboratory Manual”1988、Freshney(ed.)“Culture of Animal Cells”,4th ed.2000、“Methods in Molecular Biology”vol.149(“The ELISA Guidebook”by John Crowther)Humana Press 2001、及びこれらの専門書の以降の版(例えば、“Molecular Cloning”by Michael Green(4th Ed.2012)及び“Culture of Animal Cells”by Freshney(7th Ed.,2015)、並びに現在の電子版に記載されている。
【0079】
タンパク質のPTMを定量化及び分析するのに有用な方法が、本開示内に提供される。より具体的には、本開示は、タンパク質、例えば、抗体のC末端リジン(K)を定量化及び分析するための方法を提供する。本方法は、重C末端ペプチド標準物質のセットを、消化したタンパク質に適用することを含む。タンパク質は、トリプシンなどのプロテアーゼ及び他の好適な酵素によって消化され得る。
【0080】
本発明の方法は、検量線を抗体消化物にスパイクすることと、各LC-MS/MSの実行において、およそ等モル量の重des-Kペプチドと消化したdes-Kペプチドをカラムに注入することと、を含み得る。未処理C末端Kは、1回のLC-MS/MSペプチドマッピング実験で定量化することができる。
【0081】
本発明の方法は、約1:1000~1:1のK対des-Kペプチドの比率範囲にわたって検量線を生成することを含み得る。検量線は、約10%未満、約9%未満、又は約8%未満の誤差を有し得る。
【0082】
質量スペクトルは、例えば、Thermo Q-Exactive Plus3、Q-Exactive Plus4、又はOrbitrap Fusion Lumos質量分析計などの様々な分光計を使用して定量化することができる。
【0083】
以下の実施例は、組換えタンパク質におけるPTMを同定及び定量化するための例示的な方法を示す。
【0084】
実施例1.アッセイ設計及び較正方法
本実施例は、PTMで修飾されたペプチドと、当該PTMを含まない同じペプチドとの比率を正確に評価するための検量線を生成するための、本発明のアッセイの実験設計を示す。
【0085】
全ての軽及び重同位体ペプチド標準物質は、New England Peptide(Gardner,MA)から購入した。トリフルオロ酢酸(TFA)、ギ酸(FA)、トリス[2-カルボキシルエチル]ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、及びOptima LC/MSグレードアセトニトリル(ACN)は、Thermo Fisher Scientific(Rockford,IL)から入手し、氷酢酸及びヨードアセトアミド(IAM)は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から入手した。配列決定グレード修飾トリプシン、超高純度尿素、及び超高純度1Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)は、それぞれ、Promega(Madison,WI)、Alfa Aesar(Haverhill,MA)、及びInvitrogen(Carlsbad,CA)から購入した。Milli-Q水は、Millipore Milli-Q Advantage A10水精製システムによって精製した。
【0086】
同位体HC C末端ペプチド標準物質を使用して、対応する光未処理ペプチドと処理ペプチドとの間の質量分析計応答を正規化した。ペプチド標準物質には、SLSLSLG(配列番号1)、SLSLSLGK(配列番号2)、SLSLSPG(配列番号3)、及びSLSLSPGK(配列番号4)が含まれた。
【0087】
図1に、重同位体SLSLSLGK(配列番号2)標準物質を示す。
13C及び
15Nは、●で示されている。Δ4(例えば、炭素又は窒素の4つの重同位体を含む)、Δ8、Δ12、及びΔ16Kペプチドを、それぞれ
図1A、1B、1C、及び1Dに示す。
図2に、重同位体SLSLSLG(配列番号1)標準物質、Δ4 des-Kを示す。
13C及び
15Nは、●で示されている。
【0088】
ペプチド標準物質を、10%のACN、0.1%のTFAに溶解し、C末端配列(LGK又はPGK)に従って2つの検量線セットへと組み合わせた。各セットは、等モル濃度のΔ4 des-K及びKペプチド、並びにそれぞれ1:10、1:100、及び1:1000のK対des-Kのモル比でΔ8、Δ12、及びΔ16Kペプチドを含有した。
図3に示すように、混合物をXICによって分析した。
【0089】
図4Aに示すように、SLSLSPGK(配列番号4)及びSLSLSPG(配列番号3)の等モル混合物を、UVクロマトグラフィによって定量化した。PGKペプチドの対応するK AUC値/des-K AUC値は、1.08であった。同様に、LGKペプチドのK AUC値/des-K AUC値は、1.07であった。
図4Bに示すように、等モル量のSLSLSPGK(配列番号4)及びSLSLSPG(配列番号3)の試薬セットを、XICによって定量化した。表1に、PGK及びLGKペプチドの重AUC/軽AUC値を示す。
【0090】
【0091】
表1に示すように、重ペプチドのシグナルは、対応する軽ペプチドとほぼ等しく、軽ペプチドに適用可能な検量線を生成する際の、重ペプチドの使用を検証した。
【0092】
本方法の精度を測定するために、既知の量の軽des-K及びKを、1:10~1:1000のKペプチド対des-Kペプチドの比率範囲にわたって試薬セットにスパイクし、検量線補正法を使用して測定した。表2に示すように、検量線補正値(又は「正規化」値)は、予想されるリジンの割合(%)とほぼ一致した。
【0093】
【0094】
実施例2.mAbの未処理C末端リジンの定量化
この実施例は、組換えタンパク質のC末端リジン(K)を正確に定量化するための本発明のアッセイの実験設計を示す。
【0095】
抗体分析のために、検量線を抗体消化物にスパイクし、各LC-MS/MSの実行において、およそ等モル量の重des-Kペプチドと消化したdes-Kペプチドをカラムに注入した。
【0096】
抗体の消化。等重量の5つのIgG4 mAb試料を、5mMの酢酸及び5mMのTCEP-HClに緩衝液交換し、その後80℃で10分間の変性及び還元を行った。試料を、4Mの尿素/0.1MのTris-HCl(pH7.5)中で更に変性させ、暗所で室温で30分間5mMのIAMでアルキル化した。0.1MのTris-HCl(pH7.4)を添加することによって、尿素濃度を1Mに低下させ、1:20の抗体対トリプシンの比率で、抗体を37℃で4時間消化した。試料を0.2%のTFA中で酸性化することによって、酵素活性をクエンチした。
【0097】
LC-MS及びLC-MS/MSのパラメータ。5μgの抗体消化物のアリコートを、1.7μmの粒子を含む2.1mm×150mmのWaters Acquity超高性能液体クロマトグラフィ(UPLC)荷電表面ハイブリッド(CSH)C18カラムに注入した。ペプチドを、250μL/分の流速及び40℃のカラム温度に設定したWaters Acquity I-Class UPLCで、このカラム上で分離した。勾配は、有機移動相(ACN及び0.1%のFA)を水及び0.1%のFAに対して95分間にわたって0.1%から35%に増加させることから構成された。
【0098】
QE Plus3及び4システム及び/又はOrbitrap Fusion Lumos質量分析計を使用して、Thermo Q-Exactive Plusを使用して質量データを得た。Q-Exactive Plusで完全質量スキャンを行い、自動ゲイン制御(AGC)目標を1×106に、又は最大イオン注入時間(最大IT)を50msに設定することよって制限されたイオン集団に対して、分解能140,000(m/z 200)で300~2000のm/z範囲を取得した。
【0099】
データ依存的取得(DDA)によるMS/MS同定を必要とする実験の場合、単一のdd-MS/MSループは、正規化衝突エネルギーが30で高エネルギー衝突解離(HCD)を使用して、5つの最も強いペプチドイオンの各々を、1.5Thウインドウで単離し、断片化することによって開始した。
【0100】
断片イオン集団データを、1×105のAGC標的又は100msの最大ITを使用して収集し、次いで、17,500の分解能でスキャンし、その時点で、サンプリングされた前駆体を除外リストに10秒間配置して、強度の低いイオンの分析を確実にした。
【0101】
MS取得のためのOrbitrap Fusion Lumosパラメータは、QE-Plusと同じであったが、分解能を120,000(m/z 200)に設定し、ACG目標を5×105に設定した点で異なった。MS/MS設定の違いは以下のとおりであった:前駆体の数ではなく1秒のサイクル時間でDDAを制限すること、AGC標的を2×104に設定すること、最大ITを50msで制御するが、並列化可能な時間がある場合は連続注入を可能にすること、及び分解能15,000(m/z 200)でスキャンすること。
【0102】
関連するLC-MS/MSの生ファイルを、以下のパラメータに従って、各抗体についてカスタムfastaファイルを使用してByonic 3.0で分析した。(1)切断部位:R,K、(2)切断側:C末端、(3)消化特異性:完全に特異的、(4)前駆体質量許容差:10ppm、(5)断片化の種類:QTOF/HCD、(6)断片質量許容差:20ppm、(7)固定修飾及び可変修飾:(固定)Cカルバミドメチル、(可変)M酸化、(可変)E/QからpE、及び(可変)C末端K欠失、並びに(8)グリカン修飾:50の一般的な二分岐N-グリカン。軽C末端ペプチド及び重C末端ペプチドの1+及び2+電荷状態のイオンクロマトグラムを、Genesisアルゴリズムによって、m/z許容差を10ppmに設定することによって、Thermo Xcalibur 3.1で抽出した。定量的なAUC測定値を、Microsoft Excelにエクスポートし、1:1000~1:1のK対K-desの範囲の検量線を構築して、各試料中の未処理C末端Kの割合(%)を計算した。
【0103】
表3は、通常の未補正ペプチドマッピングと比較した、検量線補正法を使用して得られた結果を示す。表3に示すように、C末端リジンの割合(%)は、本開示の検量線(CC)補正法と比較して、未補正ペプチドマッピングを使用したペプチドの定量中では過大に評価される。したがって、本発明の方法は、組換えタンパク質のPTM、例えば、抗体のC末端リジンの定量化のための重要な補正を提供する。
【0104】
【0105】
実施例3.二重特異性抗体(bsAb)の未処理C末端リジンの定量化
本実施例は、二重特異性抗体(bsAb)のPTMを正確に定量化するための本発明のアッセイの実験設計を示す。
【0106】
上記のように、SLSLSLGK(配列番号2)及びSLSLSPGK(配列番号4)のC末端配列の両方を含有する7つのIgG4ベースのbsAbを消化した。検量線を抗体消化物にスパイクし、各LC-MS/MSの実行において、およそ等モル量の重des-Kペプチドと消化したdes-Kペプチドをカラムに注入した。対照bsAb消化物を、従来の未補正ペプチドマッピングに供した。
【0107】
表4は、PGKのC末端配列の通常の未補正ペプチドマッピングと比較した、検量線補正法を使用して得られた結果を示す。表4に示すように、C末端リジンの割合(%)は、本開示のCC補正方法と比較して、未補正ペプチドマッピングを使用したペプチド定量中では有意に過大に評価される。
【0108】
【0109】
表5は、LGKのC末端配列の未補正ペプチドマッピングと比較した、検量線補正法を使用して得られた結果を示す。表5に示すように、C末端リジンの割合(%)は、本開示のCC補正方法と比較して、未補正ペプチドマッピングを使用したペプチド定量中では有意に過大に評価される。
【0110】
【0111】
更なる実験を実施して、本発明の方法を用いた場合の機器間の定量の変動を調べた。上記のように、5つのIgG4 mAb及び1つのIgG1 mAbを消化した。検量線を抗体消化物にスパイクし、各LC-MS/MSの実行において、およそ等モル量の重des-Kペプチドと消化したdes-Kペプチドをカラムに注入した。対照mAb消化物を、従来の未補正ペプチドマッピングに供した。Thermo Q-Exactive Plus及びOrbitrap Fusion Lumos質量分析計を使用して、質量データを得た。
【0112】
表6に示すように、CC補正法を使用した場合、QE-Plus又はFusion質量分析計のいずれかを使用して定量化した場合、リジンの割合(%)における差はゼロから僅かであった。しかしながら、未補正ペプチドマッピングを使用した場合、機器間で、リジンの割合(%)により大きな変動が見られた。
【0113】
【0114】
本発明の方法を使用して、bsAbに適用したときに機器に起因するシグナルの変動を調べるために追加の実験を行った。上記のように、7つのIgG4ベースのbsAb(SLSLSLGK(配列番号2)及びSLSLSPGK(配列番号4)のC末端配列の両方を含有する)を消化した。検量線を抗体消化物にスパイクし、各LC-MS/MSの実行において、およそ等モル量の重des-Kペプチドと消化したdes-Kペプチドをカラムに注入した。対照bsAb消化物を、従来の未補正ペプチドマッピングに供した。
【0115】
Thermo Q-Exactive Plus及びOrbitrap Fusion Lumos質量分析計を使用して、質量データを得た。表7に示すように、CC補正法を使用した場合、QE-Plus又はFusion質量分析計のいずれかを使用して定量化した場合、リジンの割合(%)における差はゼロから僅かであった。しかしながら、未補正ペプチドマッピングを使用した場合、機器間で、リジンの割合(%)により大きな変動が見られた。
【0116】
【手続補正書】
【提出日】2023-04-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
[本発明1001]
関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化するための方法であって、
(a)前記関心対象のタンパク質を含む試料を消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を得ることと、
(b)前記ペプチド消化物に重ペプチド標準物質のセットを添加することであって、少なくとも1つの重ペプチド標準物質が、前記翻訳後修飾を含み、かつ少なくとも1つの重ペプチド標準物質が、前記翻訳後修飾を含まない、添加することと、
(c)前記ペプチド消化物を、添加された前記重ペプチド標準物質とともに、液体クロマトグラフィ-質量分析を使用する分析に供して、前記ペプチド消化物及び重ペプチド標準物質の各ペプチドに対応するシグナルを取得することと、
(d)前記翻訳後修飾を含まない前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質と比較した、前記翻訳後修飾を含む前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質の相対シグナルを使用して、検量線を生成することと、
(e)前記翻訳後修飾を含まない前記関心対象のタンパク質からの少なくとも1つのペプチドと比較した、前記翻訳後修飾を含む前記関心対象のタンパク質からの少なくとも1つのペプチドの前記相対シグナルを使用して、前記関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化することと、
(f)前記(d)の検量線を使用して(e)の結果を正規化して、前記関心対象のタンパク質の前記翻訳後修飾を更に定量化することと
を含む、方法。
[本発明1002]
前記関心対象のタンパク質が、治療用タンパク質である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記治療用タンパク質が、抗体、可溶性受容体、抗体-薬物コンジュゲート、及び酵素からなる群から選択される、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記関心対象のタンパク質が、モノクローナル抗体である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記関心対象のタンパク質が、二重特異性抗体である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記翻訳後修飾が、未処理C末端リジンの存在である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記重ペプチド標準物質が、少なくとも1つの他の重ペプチド標準物質に対して、約1:1~約1:1000のモル比で存在する、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記重ペプチド標準物質が、約1~約16個の重同位体を含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記重ペプチド標準物質が、C
13
、N
15
、又はそれらの組み合わせを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記消化酵素が、トリプシンである、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記液体クロマトグラフィ法が、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、例えば、Orbitrap質量分析計、Q-TOF質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、前記質量分析計が、前記液体クロマトグラフィシステムに結合され、かつ前記質量分析計が、LC-MS、LC-MRM-MS、及び/又はLC-MS/MS分析を実行することができる、本発明1001の方法。
[本発明1013]
関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化するためのキットであって、
(a)翻訳後修飾を含む少なくとも1つの重ペプチド標準物質を含む第1の組成物と、
(b)前記翻訳後修飾を含まない少なくとも1つの重ペプチド標準物質を含む第2の組成物と
を含み、
前記第1及び第2の組成物は、ペプチド消化物に添加することができ、
質量分析によって分析した場合に、前記翻訳後修飾を含まない前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質と比較した、前記翻訳後修飾を含む前記少なくとも1つの重ペプチド標準物質の相対シグナルを使用して、検量線を生成することができ、かつ
前記検量線を使用して、関心対象のタンパク質の翻訳後修飾を定量化することができる、
キット。
[本発明1014]
前記翻訳後修飾が、未処理C末端リジンの存在である、本発明1013のキット。
[本発明1015]
前記重ペプチド標準物質が、少なくとも1つの他の重ペプチド標準物質に対して、約1:1~約1:1000のモル比で存在する、本発明1013のキット。
[本発明1016]
前記重ペプチド標準物質が、約1~約16個の重同位体を含む、本発明1013のキット。
[本発明1017]
前記重ペプチド標準物質が、C
13
、N
15
、又はそれらの組み合わせを含む、本発明1013のキット。
[本発明1018]
少なくとも1つの軽ペプチド標準物質を更に含む、本発明1013のキット。
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修飾、追加、又は再配置は、本発明の範囲内で行われ得る。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
【
図1】
図1Aは、例示的な実施形態による、本発明のアッセイの概略図を示す。「クリップされた(clipped)」ペプチド(C末端リジンを欠くタンパク質のC末端に対応する)を、4つの「クリップされていない(unclipped)」ペプチド(C末端リジンを有するタンパク質のC末端に対応する)と混合して、ペプチド混合物の応答曲線(検量線)を形成する。次いで、この応答曲線ペプチド混合物を、潜在的な抗体製造試料(mAb消化物)を表す試料と混合して、抗体試料中に存在するC末端リジンの量を正確に定量化する。
図1Bは、例示的な実施形態による、液体クロマトグラフィ-質量分析に供したときのペプチド種の各々について観察される分析ピークを示す。
【
図2】
図2A~2Eは、例示的な実施形態による、
13C及び
15Nの同位体(●で示されている)を含有する4つのSLSLSLGK(配列番号
2)の「クリップされていない」重ペプチド標準物質の構造を示す。
図2A~2Dに示される同位体重鎖(HC)C末端ペプチド標準物質は、それぞれ、Δ4、Δ8、Δ12、及びΔ16Kペプチドである。
図2Eは、
13C及び
15Nの同位体(●で示されている)を含有する重SLSLSLG(配列番号1)標準物質Δ4 des-Kを示す。
【
図3】例示的な実施形態による、「クリップされた」ペプチドと「クリップされていない」ペプチドとの間の比例関係を示す検量線(CC)を示す。
【
図4】例示的な実施形態による、重鎖(HC)C末端ペプチドを使用した例示的な応答曲線を示す。
【
図5】
図5Aは、例示的な実施形態による、「クリップされていない」SLSLPGK(配列番号4)及び「クリップされた」SLSLSPG(配列番号3)の等モル混合物のUVクロマトグラムを示す。
図5Bは、例示的な実施形態による、SLSLPGK(配列番号4)及びSLSLSPG(配列番号3)試薬セットの等モル量の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示す。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】