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特表2023-530771改善された特性を有する生物由来のポリエポキシドを得る方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(54)【発明の名称】改善された特性を有する生物由来のポリエポキシドを得る方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/04 20060101AFI20230711BHJP
   C08G 59/26 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C07D493/04 101D
C08G59/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579119
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2021025235
(87)【国際公開番号】W WO2022002438
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】2006915
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンベシアン、テオドール
(72)【発明者】
【氏名】アメドロ、エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】サユ、オードリー
(72)【発明者】
【氏名】サン-ルー、レネ
【テーマコード(参考)】
4C071
4J036
【Fターム(参考)】
4C071AA01
4C071BB01
4C071CC12
4C071DD04
4C071EE05
4C071FF15
4C071HH05
4C071JJ06
4C071KK11
4C071LL03
4J036AJ11
4J036DC03
4J036DC04
4J036JA01
4J036JA06
(57)【要約】
本発明は、グリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物の調製方法に関し、当該方法は以下の工程、すなわち、
a)ジアンヒドロヘキシトールを別のアルコールと接触させて、アルコールの組成物を得る工程、
b)工程a)で得られたアルコールの組成物をエピハロヒドリンと反応させて、グリシジルエーテルを含む反応混合物を得る工程、
c)工程b)の終わりに得られた反応混合物からグリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物を回収する工程を含む。
本発明はまた、当該方法によって得ることができるエポキシプレポリマー組成物、当該エポキシプレポリマー組成物を含む硬化性組成物、当該硬化性組成物を硬化させて得られるポリエポキシド、及び当該ポリエポキシドを含む複合材料、コーティング又は接着剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物の調製方法であって、前記方法が、以下の工程、すなわち、
a)ジアンヒドロヘキシトールを別のアルコールと接触させて、アルコールの組成物を得る工程、
b)工程a)で得られた前記アルコールの組成物をエピハロヒドリンと反応させて、グリシジルエーテルを含む反応混合物を得る工程、
c)工程b)の終わりに得られた前記反応混合物からグリシジルエーテルを含む前記エポキシプレポリマー組成物を回収する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ジアンヒドロヘキシトールが、イソヘキシトールであり、好ましくはイソソルビド、イソマンニド又はイソイジドから選択され、より好ましくはイソソルビドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記他のアルコールが、以下のアルコール、すなわち、
- トリメチロールエタン、
- トリメチロールプロパン、
- スピログリコール、
- トリシクロデカンジメタノール、
- グリセロール、
- ヘキサン-1,6-ジオール、
- C脂肪族ジオール、式中、n≧7、
- シクロヘキサン-1,m-ジメタノール、式中、m=2、3又は4、
- フラン-p,q-ジメタノール、式中、{p,q}={1,4}、{1,3}又は{2,3}、
- チオフェン-p,q-ジメタノール、式中、{p,q}={1,4}、{1,3}又は{2,3}、
- イソボルネオール、
- ドデカノール、又は
- デカノールから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記他のアルコールが、少なくとも2つのアルコール官能基を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記他のアルコールをエピハロヒドリンでエーテル化する方法によって得られたエポキシプレポリマー組成物を硬化する方法によって得られるポリエポキシドが、好ましくは、前記他のアルコールをジアンヒドロヘキシトールで置き換える以外は同じ硬化及びエーテル化方法によって得られるポリエポキシドの前記同じ方法に従って測定される吸水率よりも低い吸水率を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エピハロヒドリンが、エピブロモヒドリン、エピフルオロヒドリン、エピヨードヒドリン、エピクロロヒドリン、又はそれらの混合物から選択され、好ましくはエピハロヒドリンがエピクロロヒドリンであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールの組成物をエピハロヒドリンと反応させる工程b)が、以下の工程、すなわち、
b1)前記アルコールの組成物をエピハロヒドリンと接触させて、反応混合物を得る工程、
b2)工程b1)で得られた前記反応混合物を真空下に置いて、100ミリバール~1,000ミリバールの負圧を得る工程、
b3)工程b2)で得られた前記反応混合物を、前記負圧を維持しながら、50℃~120℃の温度で加熱して、エピハロハイドレートを蒸留する工程、
b4)前記反応混合物を前記負圧及び前記温度に維持しながら、1時間~10時間の時間で、工程b3)で得られた前記反応混合物に塩基性試薬を添加して、前記水-エピハロヒドリン共沸混合物の共沸蒸留を行なう工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性試薬が、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムから選択され、好ましくは水溶液の形態であり、より好ましくは水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
相間移動触媒が工程b1)の間に添加されることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記相間移動触媒が、テトラアルキルアンモニウムのハライド、硫酸又は硫酸水素塩から選択され、好ましくはテトラブチルアンモニウムブロミド又はテトラブチルアンモニウムヨージドから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記相間移動触媒の量が、ジアンヒドロヘキシトールと他のアルコールの質量の合計によって表される合計に対して、0.01~5重量%、好ましくは0.1~2重量%、より好ましくは1重量%であることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程c)が、工程b)の終わりに得られた前記反応媒体を濾過して、エポキシプレポリマー組成物を含む濾液を得る工程を含み、好ましくは、前記濾過工程の後に、前記濾液の濃縮工程及び/又は前記濾液の精製工程が続くことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、エポキシプレポリマー組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のエポキシプレポリマー組成物を含む硬化性組成物であって、少なくとも1種の促進剤及び/又は少なくとも1種の硬化剤を更に含み、好ましくは前記硬化性組成物がアミン型硬化剤を含み、より優先的には前記硬化剤がイソホロンジアミンであることを特徴とする、硬化性組成物。
【請求項15】
前記促進剤及び/又は硬化剤が、前記エポキシプレポリマー組成物に直接組み込まれることを特徴とする、請求項14に記載の硬化性組成物。
【請求項16】
前記促進剤及び/又は前記硬化剤が、前記エポキシプレポリマー組成物とは別に包装されていることを特徴とする、請求項15に記載の硬化性組成物。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化させて得られる、ポリエポキシド。
【請求項18】
請求項17に記載のポリエポキシドを含む、複合材料、コーティング材料又は接着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリエポキシドの分野に関し、特に、ジアンヒドロヘキシトールユニットのグリシジルエーテル、並びに他のアルコールユニットのグリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマーの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
エポキシドポリマーとも呼ばれ、又は一般に「エポキシ」と呼ばれるポリエポキシドは、例えば接着剤又はコーティングの製造の表面材料として、また、例えば複合材料のマトリックスとしての構造材料として、同様に広く使用されている。
【0003】
ポリエポキシドは、エポキシプレポリマーを含む硬化性組成物を硬化させて得られる。
【0004】
本発明の目的において、エポキシプレポリマーは、その後に重合させてポリエポキシドを与えることができるエポキシド官能基を含む分子の混合物である。エポキシプレポリマーは、オリゴマー画分を含んでも含まなくてもよい。それらは、ポリマー画分を含んでも含まなくてもよい。
【0005】
接着剤、コーティング、又は複合材料のマトリックスを製造するために特に使用されるエポキシプレポリマーを含む硬化性組成物のほとんどは、エポキシプレポリマーの他に、少なくとも1種の硬化剤及び/又は少なくとも1種の促進剤を含有する。
【0006】
エポキシプレポリマーを含む硬化性組成物を硬化させると、エポキシプレポリマーのエポキシド官能基の開環反応によって、エポキシプレポリマーの分子間及び/又はエポキシプレポリマーと硬化剤の間に化学結合が形成される。これにより、三次元高分子ネットワークが形成される。
【0007】
「促進剤」という用語は、2つのエポキシド官能基の間の単独重合反応又はエポキシド官能基と触媒される硬化剤との間の反応を生じさせる化合物を意味すると理解される。ルイス酸、ルイス塩基及び光開始剤がその例である。
【0008】
「硬化剤」という用語は、当該プレポリマーのエポキシド官能基と反応して三次元ネットワークを形成する、エポキシプレポリマーとは異なる任意の化合物を意味すると理解される。アミン、アミドアミン、マンニッヒ塩基、有機酸(末端カルボン酸官能基のポリエステルを含む)、有機酸無水物、(シアナミド、イミダゾール型などの)潜在性硬化剤がその例である。
【0009】
単一成分の硬化性組成物では、促進剤及び/又は硬化剤はエポキシプレポリマー組成物中に直接組み込まれる:1Kシステムを参照する。2成分の硬化性組成物では、促進剤及び/又は硬化剤はエポキシプレポリマー組成物とは別に包装され、硬化性組成物を成形するときにのみ混合する:2Kシステムを参照する。
【0010】
エポキシプレポリマーを含む硬化性組成物はまた、有機又は無機充填剤(シリカ、砂、酸化アルミニウム、タルク、炭酸カルシウムなど)、顔料、可塑剤、安定剤、チキソトロープ剤を含有することができる。
【0011】
式(i)のビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)は、エポキシプレポリマーとして現在非常に広く使用されている化学化合物である。
【0012】
[化1]
【化1】
【0013】
BADGEは石油から得られる製品であり、それは価格の上昇及び/又は石油資源の不足という状況では不利である。
【0014】
更に、ビスフェノールAは現在、内分泌かく乱物質であると認識されている。
【0015】
このことから、ビスフェノールAをベースとしたエポキシプレポリマーの取り扱い、又はBADGEから得られたポリエポキシドとの接触は健康を害する可能性がある。
【0016】
ここ数年、BADGEをイソソルビドジグリシジルエーテルを含有する混合物によって置き換えできることが知られており、イソソルビドジグリシジルエーテルは、生物由来の生成物であり、その構造を以下に示す(式(ii))。
【0017】
[化2]
【化2】
【0018】
ジアンヒドロヘキシトールジグリシジルエーテルのより一般的なクラスに属するこの化合物は現在広く知られており、その合成方法と同様に、文献に記載されている。例えば、ジアンヒドロヘキシトールジグリシジルエーテルの合成方法を開示している文献米国特許第3272845号、米国特許第4770871号、国際公開第2008/147472号、国際公開第2008/147473号、米国特許第3041300号、国際公開第2012/157832号及び国際公開第2015/110758号を挙げることができる。
【0019】
前述の文献に記載されている方法のいずれか1つを実施すると、ジアンヒドロヘキシトールジグリシジルエーテルに加えて、ジアンヒドロヘキシトールモノグリシジルエーテル、及びジアンヒドロヘキシトールユニットとグリセリルユニットとを含むオリゴマーを含有するエポキシプレポリマー組成物が実際に得られ、これらのオリゴマーは、ジアンヒドロヘキシトールユニット及び/又はグリセリルユニットに担持される1つ以上のグリシジルエーテル基を含む。
【0020】
本出願において、「アルコールをベースとしたエポキシプレポリマー」とは、エポキシド官能基が本質的にグリシジルエーテル基に含まれ、グリシジルエーテル基が、当該アルコールユニット又はそれ自体が当該アルコールユニットに結合しているグリセリルユニットに本質的に担持されているエポキシプレポリマーを指す。
【0021】
例えば、イソソルビドをベースとしたエポキシプレポリマーでは、グリシジルエーテル基は、本質的に、イソソルビドユニット及びイソソルビドユニットに結合したグリセリルユニットによって担持される。したがって、グリシジルエーテル基は、例えば、イソソルビドモノ-若しくはジ-グリシジルエーテルの形態、又はオリゴマー中のグリシジルエーテル-イソソルビド-...ユニットの形態である。
【0022】
したがって、前述の文献に記載されている方法を実施して得られるエポキシプレポリマー組成物は、ジアンヒドロヘキシトールをベースとした、又はイソソルビドをベースとしたエポキシプレポリマーである。
【0023】
本出願において、「アルコールをベースとしたポリエポキシド」とは、当該アルコールをベースとしたエポキシプレポリマーを硬化させて得られるポリエポキシドを指す。
【0024】
ジオールをベースとしたエポキシプレポリマー中にジグリシジルエーテル化合物の他にモノグリシジルエーテル化合物及び/又はオリゴマーが存在すると、硬化性組成物がエポキシプレポリマーとして当該純粋なジオールのジグリシジルエーテルを含む場合に得られるものと比較して、当該エポキシプレポリマーを含む硬化性組成物を硬化させて得られる三次元高分子ネットワーク中の架橋密度を低下させる。
【0025】
この架橋密度は、ポリエポキシドのガラス転移温度(Tg)に関連する。高い架橋密度によって、より高いガラス転移温度(Tg)を有し、より化学的及び機械的に耐性である材料を得ることができる。
【0026】
エポキシプレポリマー中のオリゴマー及び/又はモノグリシジルエーテルの存在は、1当量のグリシジルエーテル基を含有するエポキシプレポリマーの質量として定義されるエポキシ当量(EEW)に直接関連する。例えば、258g/molの分子量を有し、2つのグリシジルエーテル基を含有する純粋なイソソルビドジグリシジルエーテル(式ii)は、129g/eqのエポキシ当量を有する。
【0027】
ジオールをベースとしたエポキシプレポリマーにおいて、当該エポキシプレポリマーが当該純粋なジオールのジグリシジルエーテルである場合に、EEWは最小である。当該エポキシプレポリマー中の当該ジオールのオリゴマー及び/又はモノグリシジルエーテルの含有量が増加すると、当該エポキシプレポリマーのEEWは増加する。
【0028】
イソソルビドジグリシジルエーテルをベースとしたエポキシプレポリマーからポリエポキシドが調製された。
【0029】
しかしながら、BADGEなどの石油由来化合物から得られるポリエポキシドと同等の性能能力を有する生物由来のポリエポキシドを得ることは依然として困難である。
【0030】
文献米国特許出願公開第2015/0353676A1号には、特に、イソソルビドをベースとしたポリエポキシド及び硬化剤としてのシス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸が記載されている。
【0031】
文献米国特許出願公開第2018/0230261A1号には、イソソルビドをベースとしたポリエポキシド及び硬化剤としてのポリアミドが記載されている。
【0032】
文献国際公開第2015/110758A1号には、イソソルビドをベースとしたポリエポキシド及び硬化剤としてのイソホロンジアミンが記載されている。これらのポリエポキシドは、95~100℃程度のガラス転移温度を有する。
【0033】
同様に、文献米国特許出願公開第2017/0253692号及び日本特許第2014189713号には、様々な硬化剤を含むイソソルビドをベースとしたポリエポキシドが記載されている。
【0034】
イソソルビドをベースとしたポリエポキシドで現在まで遭遇する繰り返し生じる問題は、それらの著しい吸水であり、言い換えれば、水分子がポリエポキシドの三次元高分子ネットワーク中に容易に拡散する。したがって、湿気又は液状水の存在下では、これらのポリエポキシドは吸水しやすい傾向があり、特にそれはポリエポキシドを可塑化し(そのガラス転移温度の低下)、それを膨潤させて、その粘着又は接着特性を低下させる。
【0035】
したがって、著しい吸水は、ポリエポキシドの多くの用途(特に、接着剤、複合材料用のマトリックス)に適さず、それは、現在のジアンヒドロヘキシトールをベースとしたポリエポキシドの幅広い使用に対する主要な障害の1つである。
【0036】
本出願人によって開発されたこの問題に対する1つの解決策は、ジアンヒドロヘキシトールをベースとしたエポキシプレポリマーと他のアルコールをベースとしたエポキシプレポリマーとの混合物からポリエポキシドを調製することからなる。
【0037】
その目的は、ジアンヒドロヘキシトールをベースとしたポリエポキシドの特性と他のアルコールをベースとしたポリエポキシドの特性とを組み合わせて、それらのそれぞれの欠点を補うことである。
【0038】
その研究を続けながら、本出願人の会社は、ジアンヒドロヘキシトールと他のアルコールとをエポキシプレポリマーを合成する工程の前に混合した場合に、ジアンヒドロヘキシトール及び他のアルコールから別々に合成されたエポキシプレポリマーの混合物から得られるポリエポキシドよりも、得られるポリエポキシドにおいてより良好な特性、特により低い吸水特性が得られることを見出した。この驚くべき効果が本発明の主題である。
【発明の概要】
【0039】
本開示は、吸水性が改善されたポリエポキシドを得ることができるジアンヒドロヘキシトールグリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマーの調製に関する。
【0040】
したがって、グリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物の調製方法を提案し、当該方法は以下の工程、すなわち、
a.ジアンヒドロヘキシトールを別のアルコールと接触させて、アルコールの組成物を得る工程、
b.工程a)で得られたアルコールの組成物をエピハロヒドリンと反応させて、グリシジルエーテルを含む反応混合物を得る工程、
c.工程b)の終わりに得られた反応混合物からグリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物を回収する工程を含む。
【0041】
別の態様において、本発明の方法によって得ることができるエポキシプレポリマー組成物を提案する。
【0042】
別の態様において、少なくとも1種の促進剤及び/又は少なくとも1種の硬化剤を更に含むことを特徴とする本発明のエポキシプレポリマー組成物を含む硬化性組成物を提案する。
【0043】
別の態様において、本発明の硬化性組成物を硬化させて得られるポリエポキシドを提案する。
【0044】
別の態様において、本発明のポリエポキシドを含む複合材料、コーティング又は接着剤を提案する。
【0045】
本発明の更なる特徴及び利点を以下の詳細な説明によって明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本特許出願において、「...~...に含まれる」という表現は境界値を含むと理解されるべきである。
【0047】
グリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物の調製方法を提案し、当該方法は以下の工程、すなわち、
a)ジアンヒドロヘキシトールを別のアルコールと接触させて、アルコールの組成物を得る工程、
b)工程a)で得られたアルコールの組成物をエピハロヒドリンと反応させて、グリシジルエーテルを含む反応混合物を得る工程、
c)工程b)の終わりに得られた反応混合物からグリシジルエーテルを含むエポキシプレポリマー組成物を回収する工程を含む。
【0048】
したがって、本発明の方法の第1の工程(工程a)は、ジアンヒドロヘキシトールを別のアルコールと接触させることからなる。
【0049】
ジアンヒドロヘキシトール及び他のアルコールは、2つの化合物を混合することによって、例えば、ジアンヒドロヘキシトール及び他のアルコールを溶液中に入れることによって、又はジアンヒドロヘキシトール及び他のアルコールが液体状態で混和性である場合にはそれらを溶融することによって、又はこれらの化合物を固体の状態で、例えば粉末形態で混合することによって接触させることができる。
【0050】
ジアンヒドロヘキシトールは、ヘキシトール(例えば、イジトール、マンニトール又はソルビトール)の二分子の水の脱水によって得られる複素環式化合物である。したがって、これらはジオールである。ジアンヒドロヘキシトールの中で、イソヘキシドは1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールに対応し、イソソルビド、イソイジド及びイソマンニドを含む。
【0051】
本発明の方法において、ジアンヒドロヘキシトールは、好ましくはイソヘキシトールであり、より優先的にはイソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選択され、最も優先的にはイソソルビドである。
【0052】
本発明の方法において、エピハロヒドリンと反応させる工程bによって、ジアンヒドロヘキシトール及び他のアルコールのアルコール官能基をグリシジルエーテル基に変換することができる。この工程において、オリゴマーもまた形成され得る。これらのオリゴマーの中で、あるものはジアンヒドロヘキシトールユニット又は他のアルコールユニットを含み、また、あるものはジアンヒドロヘキシトールユニットと他のアルコールユニットとの混合物を含む。
【0053】
したがって、工程bの終了時の反応混合物は、ジアンヒドロヘキシトールユニットが担持するグリシジルエーテル基と、他のアルコールユニットが担持するグリシジルエーテル基とを含むエポキシプレポリマー組成物を含有する。
【0054】
工程aにおいて、言い換えれば、エピハロヒドリンと反応させる工程bの前に、少なくとも1種のジアンヒドロヘキシトールと少なくとも1種の他のアルコールとを混合することによって、予想外の効果が得られる。
【0055】
実際に、本発明の方法によって得られたエポキシプレポリマー組成物を含む硬化性組成物を硬化させて得られるポリエポキシドは、ジアンヒドロヘキシトールをベースとしたエポキシプレポリマーと他のアルコールをベースとしたエポキシプレポリマーとを混合して得られた対応する硬化性組成物を硬化させて得られるポリエポキシドの特性と比較して改善された特性、例えば、吸水特性を示す。
【0056】
本発明の範囲をいかなる理論にも限定することを望むものではないが、ポリエポキシドのこの予想外の改善は、本発明の方法によって得られるエポキシプレポリマー組成物中のジアンヒドロヘキシトールユニットと他のアルコールユニットの両方を含むオリゴマーの存在に関連すると考えることができる。
【0057】
本発明の方法において、工程aでジアンヒドロヘキシトールと接触させる他のアルコールは、好ましくは、ジアンヒドロヘキシトールではない。
【0058】
より優先的には、工程aにおいてジアンヒドロヘキシトールと接触させる他のアルコールは、以下のアルコール、すなわち、
- トリメチロールエタン、
- トリメチロールプロパン、
- スピログリコール、
- トリシクロデカンジメタノール、
- グリセロール、
- ヘキサン-1,6-ジオール、
- C脂肪族ジオール、式中、n≧7、
- シクロヘキサン-1,m-ジメタノール、式中、m=2、3又は4、
- フラン-p,q-ジメタノール、式中、{p,q}={1,4}、{1,3}又は{2,3}、
- チオフェン-p,q-ジメタノール、式中、{p,q}={1,4}、{1,3}又は{2,3}、
- イソボルネオール、
- ドデカノール、又は
- デカノールから選択される。
【0059】
本発明の方法の一実施形態では、他のアルコールは、少なくとも2つのアルコール官能基を含む。
【0060】
他のアルコールが1つのアルコール官能基のみを含む場合、それは、本発明の方法によって得られるエポキシプレポリマー組成物中に含有されるジアンヒドロヘキシトールユニットと他のアルコールユニットの両方を含むオリゴマー中の鎖の末端にのみ組み込まれ得る。他のアルコールが少なくとも2つのアルコール官能基を含む場合、本発明の方法によって得られるエポキシプレポリマー組成物は、...-ジアンヒドロヘキシトール-グリセリル-他のアルコール-グリセリルユニット、又は...-ジアンヒドロヘキシトール-グリセリル-他のアルコール-グリシジルユニットを含むオリゴマーを含み得る。
【0061】
好ましくは、本発明の方法の工程aにおいてジアンヒドロヘキシトールと接触させる他のアルコールは、前記他のアルコールをベースとしたポリエポキシドが、前記ジアンヒドロヘキシトールをベースとしたポリエポキシドよりも低い吸水率を有するように選択される。
【0062】
言い換えれば、エピハロヒドリンによる他のアルコールのエーテル化のための方法によって得られたエポキシプレポリマー組成物を硬化させる方法によって得られるポリエポキシドは、好ましくは、他のアルコールをジアンヒドロヘキシトールで置き換える以外は同じ硬化及びエーテル化方法によって得られるポリエポキシドの同じ方法に従って測定される吸水率よりも低い吸水率を有する。
【0063】
本発明の方法において、他のアルコールは、好ましくは1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)である。
【0064】
本発明の方法において、ジアンヒドロヘキシトールのモル数と、他のアルコールのモル数及びジアンヒドロヘキシトールのモル数の合計との比r(r=nジアンヒドロヘキシトール/(nジアンヒドロヘキシトール+n他のアルコール))は、好ましくは0.05~0.95、より好ましくは0.1~0.9である。
【0065】
本発明の方法において、エピハロヒドリンは、好ましくは、エピブロモヒドリン、エピフルオロヒドリン、エピヨードヒドリン及びエピクロロヒドリンから選択され、より優先的には、エピクロロヒドリンである。
【0066】
本発明の方法において、エピハロヒドリンと反応させる工程bによって、ジアンヒドロヘキシトール及び他のアルコールのアルコール官能基をグリシジルエーテル基に変換することができる。
【0067】
それは、ジアンヒドロヘキシトールと他のアルコールのアルコール官能基をグリシジルエーテル基に変換することができる当業者に公知の任意の方法、例えば、文献米国特許第3272845号、米国特許第4770871号、国際公開第2008/147472号、国際公開第2008/147473号、米国特許出願公開第US3041300号、国際公開第2012/157832号及び国際公開第2015/110758号に記載されている方法、好ましくは文献国際公開第2015/110758号に記載されている方法に従って行うことができる。
【0068】
したがって、本発明の方法において、アルコールの組成物をエピハロヒドリンと反応させる工程b)は、好ましくは以下の工程、すなわち、
b1)アルコールの組成物をエピハロヒドリンと接触させて、反応混合物を得る工程、
b2)工程b1)で得られた反応混合物を真空下に置いて、100ミリバール~1,000ミリバールの負圧を得る工程、
b3)工程b2)で得られた反応混合物を、当該負圧を維持しながら、50℃~120℃の温度で加熱して、エピハロヒドリンを蒸留する工程、
b4)反応混合物を当該負圧及び当該温度に維持しながら、1時間~10時間の時間で、工程b3)で得られた反応混合物に塩基性試薬を添加して、水-エピハロヒドリン共沸混合物の共沸蒸留を行なう工程を含む。
【0069】
アルコールの組成物とエピハロヒドリンとを接触させる工程b1)は、化学試薬を接触させることができ、加熱及び撹拌構成要素を備えた当業者に公知の任意の装置で行われる。例として、それは二重ジャケット付き反応器であってもよい。問題の装置はまた、部分真空を生成するための構成要素と、コンデンサを載せたリバース型ディーン-スタークアセンブリなどの共沸蒸留を行うための構成要素とを備えていなければならない。
【0070】
エピハロヒドリンは、好ましくは、(ジアンヒドロヘキシトールと他のアルコールとを含む)アルコールの組成物中に存在するアルコールのヒドロキシル官能基に対して過剰に導入される。したがって、1モルのヒドロキシル官能基に対して、好ましくは1~5モルのエピハロヒドリン、より好ましくは約2.5モルのエピハロヒドリンが導入される。
【0071】
接触させるこの第1の工程(工程b1)の後、真空ポンプを使用して装置内に部分真空を生成し、対応する負圧は100ミリバール~1,000ミリバールである(工程b2)。これは、反応器内の圧力が大気圧(1,013ミリバール)と負圧(100ミリバール~1,000ミリバール)との差に等しいか、又は反応器内の圧力が13ミリバール~913ミリバールであることを意味する。
【0072】
一実施形態において、工程b2は、300~900ミリバール、特に500~800ミリバールの負圧を得るように行われる。
【0073】
工程b3)の間、混合物を、アルコールの組成物とエピハロヒドリンとの間で、50℃~120℃の温度で加熱する。
【0074】
好ましくは、反応器の加熱構成要素の設定温度は、エピハロヒドリンの蒸留が始まるように、使用されるエピハロヒドリンの沸点と少なくとも等しくなるように調節されなければならない。考慮すべき沸点は、反応器中の圧力でのエピハロヒドリンの沸点である。
【0075】
この第1の蒸留段階の間、その蒸留はエピハロヒドリンのみに関する。更に、エピハロヒドリンの一部のみが蒸留される。この蒸留された部分は、例えば、リバース型ディーン-スタークで回収することができ、任意で反応混合物中に再導入してもよい。
【0076】
例として、エピクロロヒドリンは、大気圧で116℃の沸点を有し、この沸点は、反応器内の圧力が275ミリバール(これは738ミリバールの負圧に相当)であるときの80℃にほぼ等しい。簡便には、反応器の加熱構成要素の設定点温度を、考慮されるエピハロヒドリン及び負荷される負圧の沸点よりもわずかに高い温度(約30℃高い)に調整する。
【0077】
工程b4)の間、塩基性試薬をアルコールの組成物/エピハロヒドリンに、1時間~10時間の時間で添加する。
【0078】
塩基性試薬の量は、好ましくは、アルコールの組成物中に存在するアルコールのヒドロキシル官能基の数に対する化学量論量である。それにもかかわらず、この化学量論に対してわずかに過剰に決定してもよい。
【0079】
塩基性試薬は、好ましくは、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムから選択され、好ましくは水溶液の形態であり、より好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0080】
アルコールの組成物中に存在するアルコールのヒドロキシル官能基のモル数に対する塩基性試薬と共に導入されるOHのモル数の比は、好ましくは0.9~1.2である。
【0081】
水溶液の形態の塩基性試薬の導入によって追加の水が添加されてもよいのと同様に、塩基性試薬が導入されるとすぐに(工程b4)、アルコールの組成物とエピハロヒドリンとの間の反応によって水が形成される。蒸留は、水とエピハロヒドリンとの混合物の共沸蒸留である。言い換えると、水-エピハロヒドリン共沸混合物が蒸留される。蒸留された共沸混合物が沈降した後、水を除去してエピハロヒドリンを反応媒体に戻す。リバース型ディーン-スターク装置の場合、水が除去される上相を構成し、一方、下部のエピハロヒドリンは反応媒体中に再導入される。
【0082】
共沸蒸留は、好ましくは、水が完全に除去されるまで続ける。したがって、反応媒体を、塩基性試薬の添加を終了した後30分~1時間、依然として加熱する。
【0083】
好ましくは、相間移動触媒を工程b1)の間に添加する。このようにして、ジアンヒドロヘキシトールモノグリシジルエーテルに対するジアンヒドロヘキシトールジグリシジルエーテルの割合を非常に高く維持しながら、製造された生成物の粘度を著しく低下させることができる。
【0084】
相間移動触媒は、好ましくはテトラアルキルアンモニウムのハライド、硫酸塩又は硫酸水素塩から選択され、より優先的にはテトラブチルアンモニウムブロミド又はテトラブチルアンモニウムヨージドから選択される。
【0085】
相間移動触媒の量は、ジアンヒドロヘキシトールと他のアルコールの質量の合計によって表される総量に対して、好ましくは0.01~5重量%、より優先的には0.1~2重量%、更により優先的には1重量%である。このようにして、得られるエポキシプレポリマー組成物のEEWを非常に大幅に低下させることができる。
【0086】
好ましくは、工程c)は、工程b)の終わりに得られた反応媒体を濾過して、エポキシプレポリマー組成物を含む濾液を得る工程を含む。この濾過工程によって、エピハロヒドリンとアルコールの組成物との間の反応中に形成された塩、例えばエピクロロヒドリンの場合では塩化ナトリウムを除去することができる。濾過によって分離した塩を、好ましくはエピハロヒドリンでもう一度洗浄する。次いで、第1の濾液と洗浄エピハロヒドリンを合わせて、エポキシプレポリマー組成物を含む濾液を構成する。
【0087】
濾過工程(除去した塩の洗浄を含む)の後に、好ましくは、濾液の濃縮工程及び/又は濾液の精製工程を行う。
【0088】
濃縮工程によって、例えば、未反応エピハロヒドリン及び/又は洗浄エピハロヒドリンを除去することができる。これは、例えば、真空蒸留によって、例えば、ロータリーエバポレーター及び/又はワイプドフィルムエバポレーター装置で行うことができる。この濃縮工程の間、粗生成物又はエポキシプレポリマー組成物を、例えば、140℃まで徐々に加熱し、圧力は、例えば、1ミリバール(1,012ミリバールの負圧に対応)まで低下させる。
【0089】
精製工程は、例えば、減圧蒸留(圧力<1ミリバール、負圧>1,012ミリバールに相当)によって行うことができ、ジアンヒドロヘキシトールジグリシジルエーテル化合物又は他のアルコールからオリゴマー化合物を分離するために、拭き取り式熱交換器を用いて行うことができる。この工程は、前の段落で説明したものとは異なる。
【0090】
本発明の別の態様では、本発明の方法によって得ることができるエポキシプレポリマー組成物を提案する。
【0091】
本発明の方法によって得ることができるエポキシプレポリマー組成物は、ジアンヒドロヘキシトールに別のアルコールを添加せずに、同じ方法によって得られるジアンヒドロヘキシトールをベースとしたエポキシプレポリマーと比較して、粘度が低いという利点を有する。
【0092】
有益なことに、本発明の方法によって得ることができるエポキシプレポリマー組成物は、ジグリシジルエーテル化合物からオリゴマー化合物を分離する精製工程を必要とせずに、25℃で測定して4,000mPa.s未満、好ましくは1,000mPa.s未満のブルックフィールド粘度を有する。
【0093】
低粘度によって、エポキシプレポリマーの成形及び加工性が容易になる。例えば、マトリックスとしてポリエポキシドを含む複合材料のキャスティング、コーティング、注入、含浸、積層、射出、引抜成形、又はフィラメントワインディングによる製造が容易になる。低粘度はまた、例えば、コーティング又は接着剤としてポリエポキシドを使用する際に、薄層の堆積、スプレーガンの使用、ローラーの使用を容易にする。
【0094】
粘度は、ブルックフィールドDV-II+型粘度計を使用して測定する。測定は、サーモスタットで制御された水浴を使用して25℃に維持された媒体を安定させた後に行なう。粘度測定値は、10~100%の間の粘度計の最大トルクの%としてのトルクで得る。
【0095】
本出願を通して、ブルックフィールド粘度が測定される速度は示していない。当業者は実際に、粘度計の最大トルクの10~100%の範囲に入るように、ロータの選択に対してそれをどのように調整するかを知っている。
【0096】
調製した後、本発明のエポキシプレポリマー組成物を架橋させて硬化ポリエポキシドを形成させることができる。硬化剤及び/又は促進剤を添加して、架橋を開始又は促進することが好ましい場合がある。
【0097】
本発明の別の態様では、少なくとも1種の促進剤及び/又は少なくとも1種の硬化剤を更に含むことを特徴とする本発明のエポキシプレポリマー組成物を含む硬化性組成物を提案する。
【0098】
「硬化性組成物」とは、重合して架橋した(硬化した)樹脂を形成することができる液体混合物を意味することを意図している。例えば、エポキシプレポリマーを含む硬化性組成物は、重合してポリエポキシドを形成することができる液体混合物であり、定義により、ポリエポキシドは架橋樹脂である。
【0099】
好ましくは、硬化性組成物は、アミン型硬化剤を含む。
【0100】
アミン硬化剤は、例えば、以下から選択することができる。
- 直鎖脂肪族ジアミン類、具体的には1,2-ジアミノメタン、1,3-ジアミノプロパン、ブタン-1,4-ジアミン、ペンタン-1,5-ジアミン、1,6-ジアミノヘキサン、又は1,12-ジアミノドデカン、
- 環状脂肪族ジアミン類、具体的にはイソホロンジアミン(IPDA)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、1,2-ジアミノシクロヘキサン(DACH)、メンタンジアミン、又は1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3BAC)、
- 芳香族ジアミン類、具体的には4,4’-メチレンビス(2-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルアミノフェニルフルオレン(BAFL)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)(MOEA)、m-キシレンジアミン、m-フェニレンジアミン(MPDA)又は4,4’-ジアミノジフェニルメタン、
- トリアミン類、具体的にはジエチレントリアミン(DTA)、
- テトラミン類、具体的にはトリエチレンテトラミン、
- ペンタミン類、具体的にはテトラエチレンペンタミン、
- 脂肪酸二量体のジアミン類、具体的にはCrodaのPriamine(登録商標)1074、
- ポリエーテルアミン類、具体的にはポリ(オキシプロピレン)ジアミン(Huntsman Petrochemical LLCのJeffamine(登録商標)D-230)、又はポリ(オキシプロピレン)トリアミン(Huntsman Petrochemical LLCのJeffamine(登録商標)T-403)、又は
- 任意の他のポリアミン、具体的にはポリエチレンイミン(例えば、BASFのLupasol(登録商標)FG)、ジプロペンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン、ジシアンジアミド(Dicy)、
- 又はそれらの混合物から選択される。
【0101】
好ましくは、硬化剤はイソホロンジアミンである。
【0102】
本発明の硬化性組成物によって形成されるエポキシ/アミン系は、化学量論的であってもよく、又は過剰のアミン官能基若しくは過剰のエポキシ官能基を含有してもよい。
【0103】
したがって、硬化剤(D)の式中のN-H結合の数とエポキシプレポリマー組成物のエポキシ基の数との比は、1:2~2:1、特には2:3~3:2、より具体的には1:1に等しい(化学量論的混合物)。
【0104】
例えば、一級アミン官能基は2つのN-H結合を含む。したがって、イソホロンジアミン1分子当たりでは4個のN-H結合が数えられる。
【0105】
好ましくは、本発明の硬化性組成物において、促進剤は、ルイス酸、三級アミン又はイミダゾール及びそれらの誘導体から選択される。
【0106】
一実施形態では、本発明の硬化性組成物において、促進剤及び/又は硬化剤は、エポキシプレポリマー組成物中に直接組み込まれる。したがって、本発明の硬化性組成物は一成分型(1Kシステム)である。
【0107】
一実施形態では、本発明の硬化性組成物において、促進剤及び/又は硬化剤はエポキシプレポリマー組成物とは別に包装される。したがって、本発明の硬化性組成物は2成分型(2Kシステム)である。
【0108】
本発明の別の態様では、本発明の硬化性組成物を硬化させて得られるポリエポキシドを提案する。
【0109】
本発明の硬化性組成物の硬化(すなわち、架橋)は、自発的に起こってもよく、又は加熱若しくはUV放射線による照射を必要としてもよい。
【0110】
具体的には、本発明の硬化性組成物は、5℃~260℃の温度で架橋される。
【0111】
より具体的には、本発明の硬化性組成物は、任意で、環境温度での時間の後に、30℃~260℃の間の上昇する温度での1つ以上の加熱時間を含む硬化サイクルを行なうことができる。例えば、本発明の硬化性組成物は、80℃で1時間、続いて180℃で2時間の硬化サイクルを行なうことができる。
【0112】
好ましくは、本発明のポリエポキシドは、70℃以上、特には70℃~210℃、より具体的には90℃~200℃のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0113】
本発明のポリエポキシドのガラス転移温度は、当業者に公知の技術によって、特に示差走査熱量測定(DSC)によって、例えば、10℃/分で0℃から200℃までの加熱/冷却/加熱サイクルの開放るつぼ中でDSC Q20装置を使用して、又は動的粘弾性測定(DMA)によって、例えば、5℃/分で25℃から250℃までの制御された温度及び1Hzの周波数でテンションクランプを備えたアントンパールのMCR501レオメーターを使用して決定することができる。
【0114】
更に、本発明のポリエポキシドは、15%以下、特には0.1%~11%、より具体的には0.5%~9.5%、好ましくは1%~9%、より具体的には1.5%~8.5%、更により具体的には2%~8%の吸水率を有する。
【0115】
ポリエポキシドの吸水率は、環境温度で十分な時間、水中に浸すことによって得られる水で飽和させる前後の試料の質量を測定することによって決定される。例えば、ポリエポキシドの吸水率は、環境温度で96時間、水中に浸した50mm×25mm×2mmの平行六面体試料について、以下の式に従って決定することができる。
【0116】
[計算式1]
【数1】
【0117】
本発明の別の態様では、本発明のポリエポキシドを含む、複合材料、コーティング材料又は接着材料を提案する。
【0118】
本発明の複合材料は、ポリエポキシド/繊維型の複合材料であってもよく、その繊維は特に、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、植物繊維(亜麻、麻)から選択されてもよい。
【0119】
本発明の複合材料は、例えば、自動車分野、船舶分野、航空分野、又は更にはスポーツ及びレジャー分野などにおいて、構造的性能能力を有する部品の製造に有用であり得る。
【実施例
【0120】
試料の吸水率は、50mm×25mm×2mmの平行六面体試料を環境温度で96時間水中に浸して、以下の式に従って決定される。
【0121】
[計算式2]
【数2】
【0122】
ガラス転移温度(Tg)は、以下の条件下の示差走査熱量測定(DSC)によって決定される。
装置:DSC Q20
10~20mgの生成物を開放るつぼに置く。加熱/冷却/加熱サイクルを0℃から200℃まで10℃/分で行なう。
【0123】
粘度を、ブルックフィールドDV-II+回転粘度計を使用して測定する。測定は、サーモスタットで制御された水浴を使用して25℃に維持した媒体を安定させた後に行なう。粘度の測定値は、10~100%の間の粘度計の最大トルクの%としてのトルクで得る。
【0124】
エポキシ当量(EEW)は、ISO 3001又はASTM D1652の規格に従って測定する。
【0125】
実施例1:イソソルビド100%(比較例)
【0126】
200gのイソソルビド、633gのエピクロロヒドリン(ジオールに対して5モル当量)及び2gのテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB、ジオールの質量に対して1質量%)を、撹拌ブレードとコンテンサを載せたリバース型ディーン-スタークとを備えた2.5L容量の二重ジャケット付き反応器に入れる。ベーンポンプによって確保された275ミリバールの部分真空(1,013-275=738ミリバールの負圧に対応)下で反応媒体を加熱する(設定点温度:110℃)。リバース型ディーン-スタークを満たすのに十分な量のエピクロロヒドリンを蒸留した後、50質量%の水酸化ナトリウム水溶液230gを、蠕動ポンプを使用して3時間かけて導入する。硫酸ナトリウムの添加中に、水-エピクロロヒドリン共沸混合物の蒸留とディーン-スターク中での分離によって、反応中に導入され、形成された水を除去することができる。硫酸ナトリウムの添加が完了したら、媒体を加温して媒体が90℃の温度に達するまで蒸留する。この温度に達したら、加熱を停止して媒体を環境温度で放冷する。次いで媒体をストリッピングし、反応中に形成された塩をポロシティ3の焼結ガラスを用いて濾過する。次いで塩のケーキを150gのアセトンを用いて洗浄する。濾液を回収する。ロータリーエバポレーターを用いて真空下で蒸留して、洗浄溶媒及び残留エピクロロヒドリンを除去する。黄色の均質な粘性油338gを得る。得られたエポキシプレポリマーについて行った分析の結果を表1に示す。
【表1】
【0127】
実施例2:イソソルビド25%/CHDM75%(本発明の実施例)
【0128】
10gのイソソルビド、29.3gのCHDM、126gのエピクロロヒドリン(ジオールに対して5モル当量)及び400mgのテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB、ジオールに対して1質量%)を、撹拌ブレードとコンデンサを載せたリバース型ディーン-スタークとを備えた500mL容量の二重ジャケット付き反応器に入れる。ベーンポンプによって確保された275ミリバールの部分真空(1,013-275=738 ミリバールの負圧に対応)下で反応媒体を加熱する(設定点温度:110℃)。リバース型ディーン-スタークを満たすのに十分な量のエピクロロヒドリンを蒸留した後、50質量%の水酸化ナトリウム水溶液45gを、蠕動ポンプを使用して3時間かけて導入する。硫酸ナトリウムの添加中に、水-エピクロロヒドリン共沸混合物の蒸留とディーン-スターク中での分離によって、反応中に導入され、形成された水を除去することができる。硫酸ナトリウムの添加が完了したら、媒体を加温して媒体が90℃の温度に達するまで蒸留する。この温度に達したら、加熱を停止して媒体を環境温度で放冷する。次いで媒体をストリッピングし、反応中に形成された塩をポロシティ3の焼結ガラスを用いて濾過する。次いで塩のケーキを50gのアセトンを用いて洗浄する。濾液を回収する。ロータリーエバポレーターを用いて真空下で蒸留して、洗浄溶媒及び残留エピクロロヒドリンを除去する。黄色の均質な粘性油67gを得る。得られたエポキシプレポリマーについて行った分析の結果を表1に示す。
【0129】
実施例3:イソソルビド75%/CHDM25%(本発明の実施例)
【0130】
174.6gのイソソルビド、58.2gのCHDM、644gのエピクロロヒドリン(ジオールに対して5モル当量)及び2.32gのテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB、ジオールの質量に対して1質量%)を、撹拌ブレードとコンデンサを載せたリバース型ディーン-スタークとを備えた2.5L容量の二重ジャケット付き反応器に入れる。ベーンポンプによって確保された275ミリバールの部分真空(1,013-275=738ミリバールの負圧に対応)下で反応媒体を加熱する(設定点温度:110℃)。リバース型ディーン-スタークを満たすのに十分な量のエピクロロヒドリンを蒸留した後、50質量%の水酸化ナトリウム水溶液235gを、蠕動ポンプを使用して3時間かけて導入する。硫酸ナトリウムの添加中に、水-エピクロロヒドリン共沸混合物の蒸留とディーン-スターク中での分離によって、反応中に導入され、形成された水を除去することができる。硫酸ナトリウムの添加が完了したら、媒体を加温して媒体が90℃の温度に達するまで蒸留する。この温度に達したら、加熱を停止して媒体を環境温度で放冷する。次いで媒体をストリッピングし、反応中に形成された塩をポロシティ3の焼結ガラスを用いて濾過する。次いで塩のケーキを150gのアセトンを用いて洗浄する。濾液を回収する。ロータリーエバポレーターを用いて真空下で蒸留して、洗浄溶媒及び残留エピクロロヒドリンを除去する。黄色の均質な粘性油352gを得る。得られたエポキシプレポリマーについて行った分析の結果を表1に示す。
【0131】
実施例2及び3からの生成物(それぞれイソソルビド25%/CHDM75%及びイソソルビド75%/CHDM25%)をイソホロンジアミン(IPDA)で架橋した。したがって
【0132】
実施例4:5グラムの実施例2の生成物を1.30gのIPDAと混合した後、80℃で1時間、続いて180℃で2時間の硬化サイクルを行った。
【0133】
実施例5:5グラムの実施例3の生成物を1.27gのIPDAと混合した後、80℃で1時間、続いて180℃で2時間の硬化サイクルを行った。
【0134】
このようにして得られた架橋生成物のガラス転移温度及び吸水率を測定した。
【0135】
結果を表2に示す。
【表2】
【0136】
比較として、イソソルビド/CHDMグリシジルエーテルのイソソルビド混合物の架橋を行なった。したがって
【0137】
実施例6:25モル%のイソソルビドジグリシジルエーテル(EEW=189g/eq)と75モル%のCHDMのジグリシジルエーテル(EEW=159g/eq)とを含む5グラムの組成物を、1.28gのIPDAと5分間激しく混合した後、オーブン中で80℃で1時間、続いて180℃で2時間の硬化サイクルを行った。
【0138】
実施例7:75モル%のイソソルビドジグリシジルエーテル(EEW=189g/eq)と25モル%のCHDMのジグリシジルエーテル(EEW=159 g/eq)とを含む5グラムの組成物を、1.17gのIPDAと5分間激しく混合した後、オーブン内で80℃で1時間、続いて180℃で2時間の硬化サイクルを行った。
【0139】
このようにして得られた架橋生成物のガラス転移温度及び吸水率を測定した。
【0140】
結果を表2に示す。
【0141】
本発明の材料とエポキシプレポリマー混合物から製造された材料との比較は、第1の材料がより良好な耐水性(より低い吸水率)を有することを示している。
【0142】
比較として、IPDAを用いたイソソルビドジグリシジルエーテルの架橋を行った。したがって
【0143】
実施例8:5グラムのイソソルビドジグリシジルエーテル(EEW=189g/eq)を1.12gのIPDAと5分間激しく混合した後、オーブン中で80℃で1時間、続いて180℃で2時間の硬化サイクルを行った。
【0144】
本発明の材料とイソソルビドジグリシジルエーテル単独から得られたポリエポキシドとの比較は、第1の材料の耐水性が著しく改善され、耐熱性が低下したことを示している。
【国際調査報告】