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特表2023-530911フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法
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  • 特表-フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-20
(54)【発明の名称】フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/124 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
B22D11/124 L
B22D11/124 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576137
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 CN2021102405
(87)【国際公開番号】W WO2021259376
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】202010592850.0
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 迎春
(72)【発明者】
【氏名】徐 国▲棟▼
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲栄▼▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】范 正▲潔▼
(72)【発明者】
【氏名】阮 ▲暁▼明
(72)【発明者】
【氏名】王 妍
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA01
4E004KA07
4E004KA12
4E004KA14
(57)【要約】
フェライト相を使用することにより鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法が提供される。鋳造スラブが長時間にわたって鋼のオーステナイト・フェライト相転移温度の付近で一定に保たれるように、鋳造機の矯正部の前に鋳造スラブの表面層温度を制御するのに冷却水が使用される。長時間の一定温度ゆえに、鋳造スラブの表面層にフェライト層が形成されることによって、鋳造スラブの表面層構造でのフェライトの比率を高め、フェライトの高可塑性の特性により鋳造スラブの表面層構造の可塑性を高め、こうして矯正エリアにおいて引張応力下で鋳造スラブの内表面に生成される亀裂を軽減する。この方法は、鋳造スラブの表面層構造を制御するばかりでなく鋳造スラブの表面の可塑性も高め、鋳造スラブの表面亀裂を軽減できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の方法であって、連続冶金鋳造の生産において、鋳造スラブの表面層温度が制御されてオーステナイト・フェライト転移温度を長時間にわたって保つことにより、鋳造機の矯正点の前に前記鋳造スラブの表面層での前記フェライト相の比率が35%以上に達するように高比率のフェライト相を得る方法。
【請求項2】
0<C≦0.25%の炭素含有量を持つ鋼により前記鋳造スラブが形成され、前記鋳造機の前記矯正点の前に前記鋳造スラブの前記表面層での前記フェライト相の比率が35%以上に達してから前記鋳造スラブが前記鋳造機の前記矯正点に入るように、前記鋳造スラブの前記表面層温度を制御して前記オーステナイト・フェライト転移温度の範囲内に温度を保つ、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鋼の前記鋳造スラブを前記フェライト相に変態させる為の冷却速度の範囲が、前記鋼の連続冷却特性CCT曲線により判断され、前記鋳造スラブの前記表面層温度が前記オーステナイト・フェライト転移温度の範囲まで降下されてから前記鋳造機の湾曲部で前記鋳造スラブの前記表面層温度が制御されるように、前記鋳造スラブを前記冷却速度の範囲内で冷却する、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鋳造スラブの前記表面層温度が前記鋳造機の湾曲部で制御され、鋼の連続冷却特性CCT曲線により判断される前記鋼の前記フェライト相の冷却速度が3~0.05℃/秒である、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記鋳造スラブの前記表面層温度が前記鋳造機の湾曲部で制御され、鋼の連続冷却特性CCT曲線により判断される前記鋼の前記フェライト相の冷却速度が3~0.1℃/秒である、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記鋳造機の前記矯正点の前に前記鋳造スラブの前記表面層での前記フェライト相の比率が35%~75%に達するように、前記鋳造スラブの前記表面層温度が制御される、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減するための請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記鋳造スラブの前記表面層が0.44~35分にわたって900℃~600℃のオーステナイト・フェライト転移温度に保たれる、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記鋳造スラブの前記表面層温度が冷却水により制御され、前記鋳造スラブの前記表面層温度に必要な前記冷却水の量が連続鋳造オンラインモデルにより計算される、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記鋳造スラブの前記表面層が長時間にわたって前記オーステナイト・フェライト転移温度に保たれ、良好な噴射特性を持つ二次冷却ノズルが少ない水流量で均一冷却を達成するのに使用される、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記鋳造スラブの前記表面層が、水以外の噴射冷却により長時間にわたって前記オーステナイト・フェライト転移温度に保たれ、前記鋳造機の湾曲部の支持ローラが内部から冷却されて前記支持ローラの表面温度を550℃以下に制御して前記湾曲部の破損を防止する、鋳造スラブの表面亀裂をフェライト相により軽減する為の請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造の技術分野に関しており、具体的にはフェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続冶金鋳造の生産プロセスにおいて、冶工は鋳造スラブの内部及び外部品質に細心の注意を払う。鋳造スラブの内部品質問題は、主に不均質な組成、緩み、引け巣、亀裂、及び他の欠陥において顕著であるのに対して、外部品質問題は、スラグ巻込み、亀裂、及び他の欠陥を含む。これらの欠陥は、続いて圧延を受ける製品に引き継がれるので、優れた内部及び外部構造を持つ鋳造スラブが望ましい。
【0003】
鋳造スラブにおける亀裂の形成は、連続鋳造プロセスでの金属学的及び機械的因子の複合作用の結果である。鋳造スラブに亀裂が現れるかどうかは、鋼の構造性能、金属学的な固化挙動、鋳造機のプロセスパラメータ、及び設備の稼働状況に依存する。鋳造スラブの構造の制御は、材料の包括的特性を向上させる有効な手法の一つである。連続鋳造プロセスでは、鋳造スラブの鋳放し構造は一般的に、溶鋼の過冷却度の制御、電磁攪拌、あるいはアルミニウム、チタン、又は希土類元素のような核生成剤の追加により制御される。連続鋳造プロセスでは、鋳造スラブの冷却速度及び加熱プロセスを変えることによっても鋳造スラブの表面層構造が制御され得る。鋳造スラブは鋳型を出る時にはまだオーステナイト単相領域にあるので、鋳型の冷却強度は表面層の構造にとって極めて重要である。鋳造スラブの一般的な表面亀裂は、鋳造スラブが矯正作用を受ける鋳造機の矯正部で起こって鋳造スラブの内表面に引張応力を発生させ、こうして引張応力の作用下で鋳造スラブの低可塑性構造での亀裂を招く。それゆえ、矯正部に入る前に鋳造機で鋳造スラブに制御冷却を実施すると、鋳造スラブの構造を効果的に制御して鋳造スラブの機械的特性を向上させることができる。
【0004】
特許文献1では、フェライトにより生じる鋳造スラブの表面亀裂を回避する為に、噴射角度の小さい冷却水ノズルの列が矯正部の手前に追加され、表面での初析晶フェライトを回避して鋳造スラブの表面亀裂を制御するように狭域強力冷却が行われる。特許文献2では、鋳造スラブの脆化を回避して可塑性を高めることにより鋳造スラブの表面亀裂を軽減するように鋳造スラブの表面層でのフェライト及び炭窒化物の析出を回避するのに、集中冷却焼入れも使用される。特許文献3では、二次冷却水噴射フレームの昇降装置が設置されて、二次冷却水冷却エリアの動的制御と水流量の自動調節とを達成できる。こうして、二次冷却水は鋳造スラブの角部を直接的に冷却せず、極度の低温又は温度変化により生じる角部亀裂を回避する。
【0005】
鋳造スラブの表面亀裂を解決するには主に二つの技術的経路があることが上記特許から分かる。一つの経路は、高温状態で作動して鋳造スラブの表面層温度を上昇させることによりフェライト膜の相転移及び析出と、粒子境界での析出炭窒化物とを防止することである。こうして、連続鋳造機は高温状態に保たれ、設備の精度及び耐用年数に大きな作用を与えるだろう。他の経路は、低温状態で作動して鋼の第3脆性エリアを回避することである。このような方法は大量の冷却水を必要とし、これはエネルギーと環境とに大きく影響する。それゆえ、鋼の可塑性を高め得る構造状態を鋼そのものから発見することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第110653352号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第107695313号明細書
【特許文献3】中国特許第105478704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鋳造スラブの表面層に高比率のフェライト構造を形成して鋳造スラブの表面亀裂を軽減する、フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法を提供することを目的とする。この方法は、鋳造スラブの表面層構造を制御するばかりでなく、鋳造スラブの表面層の可塑性を高めて鋳造スラブの表面亀裂を軽減できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の技術的解決法は以下の通りである。
【0009】
フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法であって、連続鋳造のプロセスにおいて、鋳造スラブの表面層温度が制御されて長時間にわたってオーステナイト・フェライト転移温度を保つことにより、鋳造機の矯正点の前に鋳造スラブの表面層でのフェライト相の比率が35%以上に達するように高比率のフェライト相が得られる。
【0010】
具体的に記すと、フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の本発明の方法では、連続冶金鋳造の生産において、0<C≦0.25%の炭素含有量を持つ鋼により鋳造スラブが形成され、鋳造機の矯正点の前に鋳造スラブの表面層でのフェライト相の比率が35%以上に達するように、鋳造スラブの表面層温度を制御してオーステナイト・フェライト転移温度内に温度を保つ。
【0011】
連続鋳造のプロセスでは、製錬鋼が鋳型で固化して或る厚さを有する固体鋳造スラブを形成し、この時点で、鋳造スラブの温度は1000~1250℃である。その後、鋳造スラブが冷却され、冷却しながら支持ローラにより搬送される。曲げ加工後に、鋳造スラブは湾曲部に入り、矯正の為に鋳造機の矯正点まで更に搬送される。そして鋳造スラブは完全固化の為に鋳造機の水平部を通過し、鋳造機から搬出される。
【0012】
本発明では、鋳造スラブの表面温度の制御は、鋳造スラブが鋳造機の矯正点に達する前に行われる。最初に、鋳型を通過している固化後の鋳造スラブは比較的高温であり、冷却水により冷却されて鋳造スラブの表面層温度をオーステナイト・フェライト転移温度内に保つ。冷却速度は、鋼の連続冷却特性CCT曲線により判断され得る。本発明は、オーステナイトからフェライトへの変態を達成するように、鋳造スラブの表面層温度を制御してオーステナイト・フェライト転移温度の範囲内に温度を維持することを中心とする。鋳造機の矯正点の前に鋳造スラブの表面層でのフェライト相の比率が35%以上に達する必要があることが、研究を通して判明した。この条件を満たした後に、所望の相比率を持つ鋳造スラブが鋳造機の矯正点へ入って、スラブを水平鋳造スラブに矯正できる。
【0013】
本発明では、鋳造スラブを冷却するかオーステナイト・フェライト転移温度の範囲内に温度を保つ為の正確な時間は、鋳造機の矯正点の前の鋳造スラブの表面層でのフェライト相の比率が35%以上である限り、生産条件に従って調節され得る。鋳造スラブの表面層は、10mm以下の鋳造スラブ厚さを持つ部分を指す。鋳造スラブの表面層でのフェライト相の比率を35%以上に制御することと、鋳造スラブの表面層温度を制御することとは、ともに、10mm以下の鋳造スラブ厚さを持つ部分に対して実施される。
【0014】
フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の本発明の方法によれば、フェライト相までの鋳造スラブの冷却速度の範囲は、鋼の連続冷却特性CCT曲線により判断される。鋳造スラブの表面層温度がオーステナイト・フェライト転移温度の範囲まで降下されて上記の温度範囲内に維持されるように、鋳造スラブは冷却速度の範囲内で冷却される。具体的に記すと、鋳造スラブの表面層温度が鋳造機の湾曲部で制御されて、オーステナイト・フェライト転移温度の範囲内に保たれる。
【0015】
好ましくは、鋼の連続冷却温度特性CCT曲線によれば、鋼のフェライト相の冷却速度の範囲は3~0.05℃/秒である。好ましくは、冷却温度範囲は3~0.1℃/秒、より好ましくは1.5~0.08℃/秒である。冷却速度は、プログラムモデルでパラメータを構成することにより制御され、フェライトの形成を促進するように鋳造スラブの温度をフェライトの相転移温度の付近に保つのに役立つ。
【0016】
好ましくは、鋳造機の矯正点の前に、鋳造スラブの表面層でのフェライト相の比率が35%~100%、好ましくは35%~75%に達するように、鋳造スラブの表面層温度が制御される。フェライトの比率により、鋳造スラブの表面層が良好な可塑性を得ることが可能である。更に、この比率のフェライトを形成する為の時間は達成及び制御が容易である。
【0017】
好ましくは、本発明の鋼に関して、鋳造スラブの表面層が900℃から600℃のオーステナイト・フェライト転移温度範囲内に保たれて0.44~35分にわたって保持されることが、研究から判明している。
【0018】
フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法によれば、鋳造スラブの表面層温度は冷却水により制御される。温度を低下させる上述の冷却と異なり、本明細書に記載の冷却は温度を維持する冷却である。温度を低下させる上述の冷却と区別する為に、鋳造スラブの表面層温度をオーステナイト・フェライト転移温度まで冷却する冷却は第1冷却と呼ばれ、オーステナイト・フェライト転移温度に温度を維持する冷却は第2冷却と呼ばれる。鋳造スラブの表面層が所定の温度範囲まで冷却された後に、所定の温度範囲内になるように鋳造スラブの表面層温度を制御することも必要である。本発明では、冷却水を噴射することにより鋳造スラブの表面温度が維持され得る(すなわち上述の第2冷却)。これは、鋳造スラブの中心温度が比較的高く、冷却が行われない場合には、中心の熱が鋳造スラブの表面層に伝達されて鋳造スラブの表面層温度を上昇させるからである。それゆえ、鋳造スラブの表面層温度が冷却水により制御され得る。
【0019】
鋳造スラブの表面層温度がオーステナイト・フェライト転移温度の範囲内に保たれるのに必要な冷却水の流量は、連続鋳造オンラインモデルにより計算される。具体的に記すと、モデルは当該技術での共通モデルであって、本発明の連続鋳造オンラインモデルは連続鋳造及び二次冷却オンラインモデルであり、鋳造スラブの表面温度は、溶鋼温度、鋳造スラブ鋳造速度、及び冷却水などの連続鋳造プロセス条件との組み合わせで熱伝達原理に従って計算される。モデルは、鋳造スラブの温度を制御するように、プロセスにより設定された目標温度に従って鋳造スラブの多様なエリアに必要な冷却水の流量を計算できる。使用中には、鋳造スラブの表面層について維持される必要のある温度を設定するだけで、連続鋳造及び二次冷却オンラインモデルにより噴射水の流量が計算され、そして鋳造スラブの表面層温度を冷却で所定の範囲内に制御するように水が噴射される。
【0020】
研究の後、一般的に、二次冷却の為の冷却水の水噴射流量は、0~0.87L/kgの範囲内(0と0.87を含む)に適切に制御され、こうして、鋳造スラブの表面層温度をオーステナイト・フェライト転移温度の範囲内に制御できる。水噴射流量の単位であるL/kgは、単位質量の鋼により必要とされる水噴射体積を指す。
【0021】
フェライト相により鋳造スラブの表面亀裂を軽減する為の方法によれば、好ましくは、鋳造スラブの表面層は、冷却水により長時間にわたってオーステナイト・フェライト転移温度に保たれ、鋳造スラブの表面層温度を制御するように、冷却の為に鋳造スラブの表面層に水を噴射するのに二次冷却ノズルが使用される。具体的に記すと、本発明については、少ない水体積(0~0.62L/kg)で均一な冷却が達成され得る。
【0022】
代替的に、鋳造スラブの表面層を長時間にわたってオーステナイト・フェライト転移温度に保つ為に、低い第1冷却速度が時には必要とされ、それゆえ、水以外の噴射冷却が採用されてもよい、すなわち空気冷却状態を保ってもよく、これは乾燥冷却とも呼ばれる。同様に、鋳造スラブの表面層温度をオーステナイト・フェライト転移温度内に保つ為に、低い第2冷却速度が必要とされる場合には乾燥冷却も使用され得る。具体的に記すと、連続鋳造及び二次冷却オンライモデルの適用中、低い第2冷却速度が必要とされる時に、このモデルでは、水噴射流量を減少させて鋳造スラブの表面層温度の低下を回避する。また、温度の降下が急速過ぎる時に、モデルは、空気冷却を使用して鋳造スラブの表面温度を保つ。鋳造スラブの表面層温度が空気冷却により制御される時には、鋳造機の湾曲部の支持ローラを冷却する冷却水が使用されないという事実ゆえに、これに応じて比較的高い温度が容易に生じる。それゆえ、鋳造機の湾曲部の支持ローラを冷却する必要がある。本開示において、鋳造機の湾曲部の支持ローラは内部から冷却される。具体的に記すと、湾曲部の破損を防止するように、冷却水が支持ローラの内側に供給されて支持ローラの表面温度を550℃以下までに制御し得る。ここで湾曲部は湾曲部とも呼ばれる。
【0023】
本発明の方法によれば、鋳造スラブの表面温度が長時間にわたってオーステナイト・フェライト転移温度の付近で一定に保たれるように、冷却水が使用されて鋳造機の矯正部の前に鋳造スラブの表面層温度を制御する。冷却水により鋳造スラブの表面層温度をより良好に制御する為に、良好な噴霧作用及び均一な噴射を持つ二次冷却ノズルが必要とされる。水体積が少ない条件下で均一な噴射冷却を行なうことのできるノズルが、特に必要である。幾つかの実用的なケースでは、乾燥冷却、すなわち連続鋳造の為に二次冷却水以外が噴射されることが、鋳造スラブが温度を一定に保つのに必要とされる。このケースでは、鋳造スラブの高い温度により生じる湾曲部の支持ローラ及び軸受の破損を回避するように、湾曲部の支持ローラが良好な内部冷却を必要とする。鋳造スラブの表面層温度を或る温度に制御する為に、鋳造スラブの表面層温度をオンラインで、またリアルタイムに制御するのに連続鋳造モデルが必要とされる。現在、多くの鋳造機は連続鋳造オンライン制御モデルを備えている。このモデルによって、鋳造スラブの表面層温度に必要な冷却水の量が構成され得る。長時間にわたって温度を一定に保つことにより、鋳造スラブの表面層にフェライト層が形成され、これにより、鋳造スラブの表面層構造でのフェライトの比率が高くなるにつれて、フェライトの高可塑性により鋳造スラブの表面層の可塑性が高められ、これにより矯正部での引張応力ゆえに鋳造スラブの内表面に発生する亀裂を軽減する。
【0024】
連続鋳造プロセスでは、鋳型を出た後の鋳造スラブの表面層温度は、概ね1000~1250℃の高温範囲にある。その瞬間の鋳造スラブの表面層構造はオーステナイト領域にある。鋼は単相のケースでは比較的高い可塑性を有して亀裂を発生させないだろう。しかしながら、湾曲部で鋳造スラブが冷却水により冷却されるので、鋳造スラブの表面層構造の温度が連続的に低下する。温度が相転移温度に達すると、鋳造スラブのオーステナイトの初析晶フェライトへの変態は、拡散型の相転移に属する。比較的低い冷却速度では、初析晶フェライトが最初に初期オーステナイト粒子境界で核生成し、粒子境界で成長する。連続冷却後に、粒子状のフェライトが核生成を開始する。その瞬間には、比較的粗い初析晶フェライト膜が初期オーステナイト粒子境界に形成されている。鋳造スラブが矯正エリアを通過する時に、オーステナイト粒子境界でのフェライト膜上の亀裂を招く矯正引張応力を構造が受け、後の段階で亀裂が徐々に広がる。鋳造スラブの矯正中には、鋳造スラブの構造でのフェライトの比率が低い、つまり35%未満である場合には、初析晶フェライト膜が容易に応力集中を起こして亀裂を形成するが、フェライトの比率が35%を超えている場合には、応力集中は発生せず、こうして亀裂を回避できる。熱力学的及び力学的因子、つまり温度と持続時間とはともに、フェライトの析出比率に影響する。鋼の連続冷却特性CCT曲線に従って、多様な冷却速度での相転移温度が求められる。概して、3~0.05℃/秒の冷却速度と900℃から600℃の温度範囲内で、鋼にフェライトが形成され得る。相転移温度の付近で長時間にわたって鋳造スラブの表面層が制御される場合には、鋳造スラブの表面層に大量のフェライトが形成されるだろう。本発明の保持時間は0.44~35分である。フェライトの比率が35%を超えた時に、鋳造スラブの構造の可塑性が著しく高くなり、こうして亀裂を回避できる。それゆえ、鋳造スラブが曲げ部、すなわち湾曲部を通過した後に、3℃/秒未満の冷却速度での冷却方式で弱い冷却が実施されて、鋳造スラブの表面層温度をオーステナイト・フェライト転移温度の範囲内で一定に保ち、矯正部までこの温度を維持する。こうして、オーステナイト粒子境界のみでの低比率フェライト膜に代わって、鋳造スラブの表面層に高比率フェライト相が形成される。高比率フェライト層を有する鋳造スラブは、矯正部を通過する時に応力集中により生じる亀裂に直面しない。本発明の一つの革新的な点は、この方法が鋳造スラブの表面温度を長時間にわたってオーステナイト・フェライト転移温度の付近で一定に保つことである。二つの主要な点がある。一方は長時間にわたって温度を保つことであり、他方は相転移温度の付近に温度を制御することである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は以下の有益な技術的作用を有する。
【0026】
本発明の方法は、鋳造スラブの表面層温度が長時間にわたって鋼の相転移温度の付近で一定であり、プロセスを通して多数のフェライト相が鋳造スラブの表面に形成されるように、鋳造機の湾曲部での鋳造スラブの表面層温度を制御する。高比率のフェライト相を持つ鋳造スラブが鋳造機の矯正部を通過する時には、多数のフェライト相が構造に見られるので、鋳造スラブの内表面の引張応力が粒子境界に集中せず、粒子境界を分断せず、ゆえに鋳造スラブの表面亀裂を回避する。この技術は鋳造スラブの表面可塑性を高めるのに非常に役立つ一方で、鋳造スラブの表面亀裂を軽減して製品の表面品質を高める。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】比較例1の鋳造スラブの表面層における微細構造を示す概略図である。
図1B】実施形態3の鋳造スラブの表面層における微細構造を示す概略図である。
図2】実施形態1の鋼の連続鋳造冷却特性CCT曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では更に、実施形態との組み合わせで本発明が記載される。実施形態が例に過ぎず、本発明に対する限定とする意図はないことを当業者は理解するはずである。
【0029】
本発明の方法の実行プロセスが以下で詳しく記載される。
【0030】
最初に、フェライトを形成する鋼の第1冷却速度の範囲つまり3~0.05℃/秒と、多様な冷却速度でのオーステナイト/フェライト転移温度つまり900℃から600℃とが得られるように、鋼の連続冷却特性CCT曲線が試行又は計算される。冷却後に、0.44~35分にわたって温度が900℃から600℃に保たれ、矯正点の前にプロセスが完了する。
【0031】
図2に示されているように、以下の実施形態1での鋼のCCT曲線は、幾つかの冷却速度における鋼構造の変遷と温度と時間との間の関係を示す。或る冷却速度におけるオーステナイト・フェライト転移温度と、或る比率のフェライトを形成する為の時間とが、図から求められる。図2で、図のX軸は冷却時間を表してY軸は温度を表し、一方で放物線に類似した図の多数の曲線は冷却速度を表す。図でFと記されたエリアはフェライトが形成されるエリアである。図でPと記されたエリアはパーライトを表す。図でBと記されたエリアはベイナイトを表す。エリアFに含まれる冷却速度は、フェライトを形成し得る冷却速度の範囲である。図2のCCT曲線によれば、オーステナイト・フェライト転移温度つまり560~620℃も求められる。実施形態1におけるオーステナイト・フェライト転移温度の保持時間について、鋳造スラブの表面でのフェライト相の比率が35%以上に達することが0.44~35分の保持時間により保証されることが、研究判断により本発明で得られる。
【0032】
実施形態1:鋼1は、0.08%のC、0.14%のSi、1.69%のMn、0.41%のCr、0.02%のMo、またその他として鉄と不可避の不純物を含む。連続冷却特性によれば、フェライトが形成され得る冷却速度範囲は0.1℃/秒未満である。本実施形態は冷却速度として0.1℃/秒を採用する。この冷却速度では、35%を超える比率のフェライトが鋳造スラブの表面層に形成され得るように、オーステナイト・フェライト転移温度は620℃であって保持時間は11.67分である。このプロセスは矯正点の前に完了する。生産後に、金属顕微鏡による鋳造スラブ標本の観察と計算とにより35%を超えるフェライトが形成されたと判断され得る。
【0033】
実施形態2:鋼2は、0.16%のC、0.07%のSi、1.04%のMn、0.88%のCr、0.02%のTi、またその他として鉄と不可避の不純物を含む。連続冷却特性によれば、フェライトが形成され得る冷却速度範囲は0.1~3℃/秒であり、オーステナイト・フェライト転移温度は0.1℃/秒の冷却速度では750℃、3℃/秒の冷却速度では630℃である。実施形態2では、0.2℃/秒の冷却速度で冷却が行われてから、鋳造スラブの表面層温度が10分にわたって720℃に保たれる。このプロセスは矯正点の前に完了する。生産後に、金属顕微鏡による鋳造スラブ標本の観察と計算とにより35%を超えるフェライトが形成されたと判断され得る。
【0034】
実施形態3:鋼3は、0.077%のC、0.09%のSi、1.45%のMn、0.03%のCr、0.01%のMo、またその他として鉄と不可避の不純物を含む。連続冷却特性によれば、フェライトが形成され得る冷却速度範囲は0.1~3℃/秒である。オーステナイト・フェライト転移温度は0.1℃/秒の冷却速度では790℃、3℃/秒の冷却速度では730℃である。実施形態3では、0.3℃/秒の冷却速度で冷却が行われてから、鋳造スラブの表面層温度が7.22分にわたって780℃に保たれる。このプロセスは矯正点の前に完了する。生産後に、金属顕微鏡により観察される鋳造スラブ標本の観察と計算とにより35%を超えるフェライトが形成されたと判断され得る。
【0035】
実施形態4:鋼4は、0.09%のC、0.17%のSi、0.83%のMn、0.02%のCr、またその他として鉄と不可避の不純物を含む。連続冷却特性によれば、フェライトが形成され得る冷却速度範囲は0.1~3℃/秒である。オーステナイト・フェライト転移温度は0.1℃/秒の冷却速度では830℃、3℃/秒の冷却速度では780℃である。実施形態4では、0.5℃/秒の冷却速度で冷却が行われてから、鋳造スラブの表面層温度が5.67分にわたって820℃に保たれる。このプロセスは矯正点の前に完了する。生産後に、鋳造スラブ標本の観察と計算とにより35%を超えるフェライトが形成されたと判断され得る。
【0036】
比較例1:比較例1の鋼は、0.077%のC、0.09%のSi、1.45%のMn、0.03%のCr、0.01%のMo、またその他として鉄と不可避の不純物を含む。鋳造は従来のプロセスにより実施される。鋳型を出た後に鋳造スラブが冷却される。鋳型の出口での鋳造スラブの表面温度は1200℃である。鋳造スラブの表面温度は、湾曲部で二次冷却水により徐々に低下し、鋳造スラブが矯正点に入る時に750℃に達する。その瞬間、鋳造スラブの表面の構造では、図1Aに示されているようにオーステナイト粒子境界でフェライトが析出する。矯正ゆえに鋳造スラブの表面には引張応力が発生して、オーステナイト粒子境界でフェライトが析出する位置に亀裂が形成される。
【0037】
上では四つの鋼種についての冷却速度と相転移温度と時間との組み合わせのみが挙げられているが、他の種類の鋼の他のプロセスパラメータの組み合わせが除外されるわけではない。
【0038】
図1A及び1Bは、比較例1及び実施形態3における鋼の鋳造スラブが矯正点を通過した後の冷却後の鋳造スラブを示し、鋳造スラブの表面の微細構造の百分率が測定される。比較例1での鋳造スラブの表面の微細構造が主にオーステナイトであってフェライトの含有量がわずか8%であることが図から分かる。それゆえ、フェライトでは応力集中が容易に生じ、外力の作用を受けて亀裂を形成する。実施形態3で、鋳造スラブは0.3℃/秒の冷却速度で780℃に保たれ、7.22分にわたって保持される。鋳造スラブが矯正点に入る時には、フェライトの95%が鋳造スラブの表面に形成される。このような構造では外力による応力集中は発生せず、フェライトは良好な可塑性を有するので、亀裂は形成されない。
【0039】
言うまでもなく、上の実施形態は本発明を例示するのに使用されているに過ぎず、本発明を限定していないことを当業者は認識するはずである。本発明の本質的な趣旨の範囲内で上記の実施形態に加えられる変更及び変形は全て、本発明の請求項の範囲に包含されるものとする。
図1A
図1B
図2
【国際調査報告】