(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-20
(54)【発明の名称】核酸リガンド、およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230712BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230712BHJP
C12Q 1/25 20060101ALI20230712BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20230712BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/25
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578880
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 CN2021101244
(87)【国際公開番号】W WO2021259201
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】202010576818.3
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517056088
【氏名又は名称】▲蘇▼州新海生物科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NUHIGH BIOTECHNOLOGIES CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Suite 301, C8, 218 Xinghu St., Suzhou Industrial Park, Suzhou, Jiangsu 215213, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】ビー、ワンリー
(72)【発明者】
【氏名】ハ―、ウェンロン
(72)【発明者】
【氏名】フー、ドンクー
(72)【発明者】
【氏名】パン、ジェ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ヤードン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヂーチン
(72)【発明者】
【氏名】チン、ピンピン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)またはその混合物、およびその使用を提供する。核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物は、2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログを含む。核酸ポリメラーゼ基質アナログは、分子内相補対を形成する単一の核酸分子または核酸分子アナログ、あるいは分子間相補対を形成する単一もしくは2つの、核酸分子または核酸分子アナログであり、それによって形成される構造は、核酸ポリメラーゼ基質の特性を有する。増幅反応混合物が一定温度以下のとき、核酸ポリメラーゼの酵素活性は核酸リガンドによって阻害され、酵素活性は残存しない。反応混合物を加熱すると、核酸ポリメラーゼは核酸ポリメラーゼ基質アナログから分離して活性を発揮し、プライマー伸長生成物を形成するため、非特異的増幅を抑制する。本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログは、すべてのポリメラーゼに適し、核酸増幅の分野で広く使用でき、核酸リガンドの3’末端は、その伸長を阻害する修飾を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)であって、
前記核酸リガンドは、分子内相補対を形成する単一の核酸分子もしくは核酸分子アナログ、または分子間相補対を形成する単一もしくは2つの核酸分子もしくは核酸分子アナログであり、
前記核酸リガンドは、3’末端に修飾を有することにより、その伸長が抑制されており、
前記核酸リガンドは、温度が一定温度以下に維持されるとき、核酸ポリメラーゼと安定な構造を形成し、このとき前記核酸ポリメラーゼの酵素活性が阻害され、かつ、温度が前記一定温度より高いとき、前記核酸ポリメラーゼが前記核酸リガンドから脱離してその活性を発揮することを特徴とする、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)。
【請求項2】
前記一定温度は、前記核酸ポリメラーゼがその活性を発揮する温度であることを特徴とする、請求項1に記載の核酸リガンド。
【請求項3】
前記相補対の数が8~35であることを特徴とする、請求項1に記載の核酸リガンド。
【請求項4】
前記修飾が、ジデオキシ修飾、リン酸化修飾、またはアミノ修飾であることを特徴とする、請求項1に記載の核酸リガンド。
【請求項5】
前記核酸ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼであることを特徴とする、請求項1に記載の核酸リガンド。
【請求項6】
前記DNAポリメラーゼが、ファミリーAおよびファミリーBのポリメラーゼからなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の核酸リガンド。
【請求項7】
前記RNAポリメラーゼが、AMVファミリーまたはMMLVファミリーの逆転写酵素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の核酸リガンド。
【請求項8】
核酸増幅、核酸増幅キットの調製、または核酸伸長反応混合物の調製における、請求項1から7のいずれか一項に記載の前記核酸リガンドの使用。
【請求項9】
以下の工程を含む、核酸増幅方法。
工程1:標的核酸を含む被検試料を以下の増幅反応試薬と接触させ、反応混合物を形成させる。
(a)標的核酸にハイブリダイズすることができるプライマー
(b)核酸ポリメラーゼ
(c)請求項1から7のいずれか一項に記載の前記核酸リガンド
(d)ヌクレオシド三リン酸
工程2:反応混合物を加熱して、前記核酸リガンドの対のヌクレオチドを一本鎖に分離させ、前記核酸ポリメラーゼを前記核酸リガンドから脱離させてその活性を発揮させ、それによってプライマー伸長生成物を形成させる。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の前記核酸リガンドを含む、核酸増幅キット。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の前記核酸リガンド、核酸ポリメラーゼ、少なくとも1つのプライマー、核酸鋳型、およびヌクレオシド三リン酸を含む、核酸伸長反応混合物。
【請求項12】
以下の特徴を有する、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物。
(a)2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログを含む。
(b)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが、分子内相補対を形成する単一のオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログ、または分子間相補対を形成する単一もしくは2つのオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログであり、
前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼ基質の特徴を有する構造を形成している。
(c)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、3’末端で修飾されていることにより、その伸長が阻害されている。
(d)前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログにおいて、温度適応範囲の幅が異なる。
(e)温度が第1の温度以下に維持されるとき、前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログが核酸ポリメラーゼと混合され、両者は核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成する。このとき、前記核酸ポリメラーゼの酵素活性は、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが存在しないときと比較して著しく低下する。
(f)温度が前記第1の温度より高いとき、(e)に記載の前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体は分解し、前記核酸ポリメラーゼの活性の一部または全部が放出される。
【請求項13】
以下の特徴を有する、核酸ポリメラーゼと核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物との混合物。
(a)2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログを含む。
(b)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが、分子内相補対を形成する単一のオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログ、または分子間相補対を形成する単一もしくは2つのオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログであり、
前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼ基質の特徴を有する構造を形成し、かつ、核酸ポリメラーゼと結合することが可能であり、各核酸ポリメラーゼ基質アナログの分子数は、核酸ポリメラーゼの分子数より大きい。
(c)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、3’末端で修飾されていることにより、その伸長が阻害されている。
(d)前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログにおいて、温度適応範囲の幅が異なる。
(e)温度が第1の温度以下に維持されるとき、前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログは核酸ポリメラーゼと混合され、両者は核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成する。このとき、前記核酸ポリメラーゼの酵素活性は、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが存在しないときと比較して著しく低下する。
(f)温度が前記第1の温度より高いとき、(e)に記載の前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体が分解し、前記核酸ポリメラーゼの活性の一部または全部が放出される。
【請求項14】
以下の特徴を有する、請求項12または13に記載の混合物。
(g)温度が第2の温度以下に維持されるとき、温度適応範囲の広い前記核酸ポリメラーゼ基質アナログと前記核酸ポリメラーゼは、核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成し、温度適応範囲の狭い前記核酸ポリメラーゼ基質は、前記核酸ポリメラーゼと前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成しない。ただし、前記第1の温度は、前記第2の温度よりも高い。
【請求項15】
前記第1の温度と前記第2の温度との間に、5℃以上の温度差がある、請求項12から14のいずれかに記載の混合物。
【請求項16】
前記核酸ポリメラーゼ基質アナログの温度適応範囲の幅が、分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数に関連し、好ましくは、温度が前記第2の温度以下に維持されるとき、より少ない相補的塩基対を有する前記核酸ポリメラーゼ基質アナログと前記核酸ポリメラーゼは前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成するが、より多くの相補的塩基対を有する前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは前記核酸ポリメラーゼと前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成しない、請求項12から15のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項17】
前記相補的塩基対の数が8~35であり、好ましくは、前記相補的塩基対の数が10~30であり、より好ましくは、前記相補的塩基対の数が10~20であり、さらに好ましくは、前記分子内相補的塩基対の数が8~20であり、前記分子間相補的塩基対の数は10~32である、請求項12から16のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項18】
前記核酸ポリメラーゼ基質アナログの3’末端が非OH基であり、好ましくは、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログの3’末端における、その伸長を阻害する修飾が、ジデオキシ修飾、リン酸化修飾またはアミノ修飾を含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項19】
前記核酸ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼであり、好ましくは、前記DNAポリメラーゼは耐熱性DNAポリメラーゼであり、前記RNAポリメラーゼは逆転写酵素である、請求項12から18のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項20】
核酸増幅キットの調製または核酸伸長反応混合物の調製における、核酸増幅のための請求項12から19のいずれか一項に記載の混合物の使用。
【請求項21】
以下の工程を含む、核酸増幅方法。
工程1:標的核酸を含む被検試料を以下の増幅反応試薬と接触させ、反応混合物を形成させる。
(a)標的核酸にハイブリダイズすることができるプライマー
(b)核酸ポリメラーゼ
(c)核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物
(d)ヌクレオシド三リン酸、デオキシヌクレオシド三リン酸もしくはそれらの混合物、またはヌクレオシド/デオキシヌクレオシド三リン酸アナログ
工程2:前記反応混合物を加熱して、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログの対になったヌクレオチドを一本鎖に分離させ、前記核酸ポリメラーゼを前記核酸ポリメラーゼ基質アナログから脱離させてその活性を発揮させ、それによってプライマー伸長生成物を形成させる。
【請求項22】
請求項12から19のいずれか一項に記載の混合物を含む、核酸増幅キット。
【請求項23】
請求項12から19のいずれか一項に記載の混合物を含む核酸伸長反応混合物であり、任意に核酸ポリメラーゼ、少なくとも1つのプライマー、核酸鋳型、およびヌクレオシド三リン酸、デオキシヌクレオシド三リン酸もしくはそれらの混合物、またはヌクレオシド/デオキシヌクレオシド三リン酸アナログを含んでいてもよい、核酸伸長反応混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、より詳細には、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)およびその使用、ならびに核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、特定のDNA断片を増幅するために使用される分子生物学的手法である。これは、試験管内での特殊なDNA複製方法であり、微量のDNAを大幅に増幅させることができる。PCRは、変性、アニーリング、伸長、の3段階の基本的反応から構成される。
(1)鋳型DNAの変性は、鋳型DNAを93℃程度で一定時間加熱することで、鋳型DNAの二本鎖やPCR増幅により形成された二本鎖が解離し、一本鎖となり、次の反応のプライマーに結合する。
(2)鋳型DNAとプライマーとのアニーリング(再アニーリング)は、鋳型DNAを加熱して一本鎖に変性させた後、55℃程度に温度を下げ、鋳型DNA一本鎖の相補配列にプライマーを対合させる。
(3)プライマーの伸長は、72℃でのDNAポリメラーゼ(Taq DNA polymeraseなど)の作用で、dNTPを出発物質とし、標的配列を鋳型として、鋳型DNAとプライマーの組み合わせにより、鋳型DNA鎖に相補的な新しい半保存的複製鎖を、相補的塩基対と半保存的複製の原理で合成する。
変性、アニーリング、伸長の3つの工程を繰り返すことで、より多くの「半保存的複製鎖」が得られ、この新しい鎖が次のサイクルの鋳型として機能することができる。1サイクルにかかる時間は2~4分で、目的の遺伝子を数百万~数十億倍に増幅するのには、2~3時間かかる。
【0003】
PCRは、生物医学の分野で広く用いられているが、PCRの副反応による非特異的な増幅が、しばしば大きな問題となる。特に臨床診断の分野では、大量のバックグラウンドDNAの中から微量の目的のDNAを増幅する必要があり、このような場合、非特異的増幅は偽陽性を引き起こす可能性がある。非特異的増幅の主な原因は、酵素が非特異的にアニールしたプライマーを、室温で伸長させることである。したがって、室温でのポリメラーゼの活性を阻害することで、非特異的増幅を大幅に抑制できる。
【0004】
操作の過程で非特異的増幅の発生を抑えるため、あるいは回避するために、ホットスタートPCRが考案され、ホットスタートポリメラーゼが開発および使用されてきた。ホットスタート酵素は、低温での系内のミスマッチをホットスタートによって回避することができ、その原理は、化学修飾または抗体修飾によって酵素の活性中心を阻害することである。
【0005】
化学修飾では、いくつかの分子基を用いて、酵素の活性中心に結合させ、温度が一定温度(一般に、アニーリング温度以前)に達すると、小分子は酵素の活性中心から離れ、酵素の活性中心が露出して活性を発揮し、系の増幅を誘導する。しかし、化学的に修飾されたホットスタート酵素の性能は、不安定である。
【0006】
抗体修飾では、修飾したポリメラーゼを抗原として実験動物に免疫をもたせ、対応する抗体を作製し、一連のスクリーニングを経て、モノクローナル抗体技術により大量に抗体を調製する。その後、抗体の生物活性を利用して、PCR反応において高温で不活性化、および脱離させ、ホットスタートの効果を得る。ただし、特異的な抗体の作製には非常に長いスクリーニング期間を必要とし、また、抗体修飾は外因性DNAが混入しやすい。抗体は、一般に高温でポリメラーゼから解離するため、逆転写酵素のような高温に耐性のないポリメラーゼには不向きである。
【0007】
特許文献1および特許文献2には、耐熱性Taq酵素、Tth酵素、TZ05酵素に特異的に結合し、室温でポリメラーゼ活性を阻害することができるオリゴヌクレオチドアプタマーが開示されている。アプタマーのスクリーニングは、一般に結合、分離、溶出、増幅、変調の5つの基本工程からなり、その反復サイクルを経て、目的のアプタマーを得ることができる。全スクリーニング工程は、比較的時間がかかり、複雑な、非常に長いサイクルを必要とする。そして、特定の方法でスクリーニングされたアプタマーは、対応するリガンド(ポリメラーゼ)に対する特異性が高いため、ポリメラーゼごとに異なるアプタマーが必要となる。
【0008】
したがって、核酸ポリメラーゼの酵素活性を阻害する核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)をより汎用的に使用でき、より多くの種類の核酸ポリメラーゼに対応できるようにするために、核酸ポリメラーゼを可逆的に阻害する、より簡便な方法が必要とされている。
【0009】
本発明による核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)およびその混合物は、一定温度で、核酸ポリメラーゼの酵素活性をより効果的に阻害する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6183967
【特許文献2】米国特許第6020130
【発明の概要】
【0011】
そのため、本発明の目的は、核酸ポリメラーゼに起因する非特異的増幅産物を、室温で効果的に低減することができ、より汎用性の高い、あらゆるタイプの核酸ポリメラーゼに適した核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)およびその混合物を提供することにある。
【0012】
本発明による核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼに結合する基質を模倣して核酸ポリメラーゼに結合するため、核酸ポリメラーゼ基質アナログと称される。温度制御下で、核酸ポリメラーゼの活性を失わせることや、回復させることができる。前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、すべての核酸ポリメラーゼに適応することが可能である。
【0013】
ここで、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが、分子内相補対を形成する単一の核酸分子または核酸分子アナログである場合の、核酸ポリメラーゼとの相互作用の模式図を、
図1に示し、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが、分子間相補対を形成する単一または2つの核酸分子または核酸分子アナログである場合の模式図を、
図2に示す。
【0014】
本発明の別の目的は、前記核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)およびその混合物の、核酸増幅における使用、核酸増幅キットの調製における使用、および核酸伸長反応混合物の調製における使用を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、被検試料中の標的核酸を増幅するための、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログまたはその混合物を使用する核酸増幅方法を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前記核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)またはその混合物を含む、核酸増幅キットおよび核酸伸長反応混合物を提供することにある。
【0017】
上述した発明の目的を実現するために、本発明は、以下の技術的解決策を提供する。
【0018】
本発明による核酸リガンドは、分子内相補対を形成する単一の核酸分子もしくは核酸分子アナログ、または分子間相補対を形成する単一もしくは2つの核酸分子もしくは核酸分子アナログである。前記核酸リガンドは、3’末端が修飾されているため、伸長が抑制され、温度が一定温度以下に維持されるときには、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成し、またこのとき核酸ポリメラーゼの酵素活性が抑制されるが、一方で、温度が前記一定温度より高いときには、核酸ポリメラーゼが前記核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)から脱離し、その活性を発揮する。
【0019】
本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、核酸ポリメラーゼに結合する基質を模倣して核酸ポリメラーゼに結合するため、核酸ポリメラーゼ基質アナログとも称することができる。温度制御下で、核酸ポリメラーゼに活性を失わせることや、回復させることができる。前記核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、すべての核酸ポリメラーゼに好適に使用することができる。
【0020】
ここで、前記核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)が、分子内相補対を形成する単一の核酸分子または核酸分子アナログである場合の、核酸ポリメラーゼとの相互作用を示す模式図を、
図1に示す。また、前記核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)が、分子間相補対を形成する単一もしくは2つの核酸分子または核酸分子アナログである場合の模式図を、
図2に示す。
【0021】
前記一定温度は、好ましくは、核酸ポリメラーゼがその活性を発揮する温度であり、本発明の実施形態における前記一定温度は、好ましくは、反応温度より著しく低い温度である。例えば、PCRで用いられる耐熱性DNAポリメラーゼの場合には、その温度は50℃である。
【0022】
前記相補対の数は、好ましくは、8~35、または10~30、または10~20であり、本発明の実施形態では、好ましくは、分子内相補対の数は8~20であり、分子間相補対の数は10~32である。
【0023】
前記核酸分子または前記核酸分子アナログは、好ましくは、3’末端を修飾されることにより、その伸長が抑制されており、その修飾には、ジデオキシ修飾、リン酸化、またはアミノ修飾などが含まれる。
【0024】
また、本発明は、以下のような核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の混合物を提供する。
(a)2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログを含む。
(b)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、分子内相補対を形成する単一のオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログ、または分子間相補対を形成する単一もしくは2つのオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログであり、
前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼ基質の特性を有する構造を形成している。
(c)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、3’末端が修飾されていることにより、その伸長が阻害されている。
(d)前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログにおいて、温度適応範囲の幅が異なる。
(e)温度が第1の温度以下に維持されるとき、前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログが核酸ポリメラーゼと混合され、両者は核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成する。このとき、前記核酸ポリメラーゼの酵素活性は、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログがないときと比べて、著しく低下する。
(f)温度が前記第1の温度より高いとき、(e)に記載の前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体は分離し、前記核酸ポリメラーゼの活性の一部または全部が放出される。
【0025】
また、本発明は、以下のような核酸ポリメラーゼの混合物と核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の混合物を提供する。
(a)2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログを含む。
(b)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが、分子内相補対を形成する単一のオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログ、または分子間相補対を形成する単一もしくは2つのオリゴマー核酸分子もしくは核酸分子アナログであり、
前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼ基質の特徴を有する構造を形成し、かつ、核酸ポリメラーゼに結合することが可能であり、各核酸ポリメラーゼ基質アナログの分子数は、核酸ポリメラーゼの分子数より大きい。すなわち、各核酸ポリメラーゼ基質アナログのモル濃度は、核酸ポリメラーゼのモル濃度よりも大きい。
(c)前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、3’末端で修飾されていることにより、その伸長が阻害されている。
(d)前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログにおいて、温度適応範囲の幅が異なる。
(e)温度が第1の温度以下に維持されるとき、前記2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログは核酸ポリメラーゼと混合され、両者は核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成する。このとき、前記核酸ポリメラーゼの酵素活性は、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログが存在しないときと比べて、著しく低下する。
(f)温度が前記第1の温度より高いとき、(e)に記載の前記核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体が分解し、前記核酸ポリメラーゼの活性の一部または全部が放出される。
本発明の好ましい実施形態において、(g)温度が第2の温度以下に維持されるとき、温度適応範囲の広い前記核酸ポリメラーゼ基質アナログと前記核酸ポリメラーゼは、核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成する。他方、温度適応範囲の狭い前記核酸ポリメラーゼ基質は、前記核酸ポリメラーゼと核酸ポリメラーゼ基質アナログ複合体を形成することができない。前記第1の温度は、前記第2の温度より高い。
【0026】
本発明によれば、2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログは、異なる温度適応範囲の幅を有する。温度が第1の温度以下に維持されるとき、2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成し、このとき、核酸ポリメラーゼの酵素活性は阻害される。温度が第2の温度以下(第1の温度以下)に維持されるとき、温度適応範囲の広い核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成するが、温度適応範囲の狭い核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定な構造を形成することができない。すなわち、温度適応範囲の狭い核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼを阻害する能力を失い、核酸ポリメラーゼの酵素活性は、より安定した別の核酸ポリメラーゼ基質アナログによってのみ、阻害される。ここで、温度が前記第1の温度より高いとき、2つ以上の核酸ポリメラーゼは、核酸ポリメラーゼ基質アナログから分離し、活性を発揮する。
【0027】
本発明によれば、温度適応範囲の幅とは、核酸ポリメラーゼ基質アナログが核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成できる温度範囲(例えば、2~70℃、5~65℃など)をいう。また、温度適応範囲の広い核酸ポリメラーゼ基質アナログとは、第1の温度と第2の温度の両方において、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成することができる核酸ポリメラーゼ基質アナログのことである。他方、温度適応範囲の狭い核酸ポリメラーゼ基質アナログとは、前記第1の温度においては、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成することができるが、前記第2の温度においては、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成することができない核酸ポリメラーゼ基質アナログのことである。
【0028】
本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログは、NTP(ヌクレオシド三リン酸)やdNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)などの核酸ポリメラーゼに結合する基質を模倣して、核酸ポリメラーゼに結合するもので、一定の温度制御により、核酸ポリメラーゼの活性を失わせることや回復させることができる。前記核酸ポリメラーゼ基質アナログは、すべての核酸ポリメラーゼに適応することができる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、前記第1の温度と前記第2の温度との間に、5℃以上の温度差がある。
【0030】
例えば、本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物と核酸ポリメラーゼとの特異的な相互作用は、以下のように定められる。
【0031】
核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物が、それぞれ、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログ、すなわち第一の核酸ポリメラーゼ基質アナログと第二の核酸ポリメラーゼ基質アナログを含む場合、第1の温度は50℃であり、第2の温度は4℃である。温度が50℃以下に維持されるとき、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログは共に核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成でき、またこのとき、核酸ポリメラーゼの酵素活性は抑制される。一方で、温度を4℃以下に維持するとき、より安定な核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成するが、より不安定な核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定な構造を形成することができない。すなわち、より不安定な核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼを阻害する能力を失い、核酸ポリメラーゼの酵素活性は、別のより安定な核酸ポリメラーゼ基質アナログによってのみ阻害される。また、50℃より高い温度では、2つ以上の核酸ポリメラーゼが核酸ポリメラーゼ基質アナログから脱離し、活性を発揮する。
【0032】
本発明者らは、核酸ポリメラーゼ基質アナログの温度適応範囲の幅が、その分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数に関係していることを見出した。すなわち、本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物において、2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログでは、分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数が異なっている。温度が第2の温度以下に維持されるとき、より少ない相補的塩基対を有する核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成するが、より多くの相補的塩基対を有する核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成することができない。すなわち、より多くの相補的塩基対を有する核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼを阻害する能力を失い、このとき、核酸ポリメラーゼの酵素活性は、より少ない相補的塩基対を有する核酸ポリメラーゼ基質アナログによってのみ、阻害される。しかし、温度が前記第2の温度以上かつ第1の温度以下に維持されるとき、2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼと安定した構造を形成し、核酸ポリメラーゼの活性を阻害することができる。
【0033】
本発明者らが、分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数が、酵素活性に及ぼす阻害作用について調査したところ、塩基対の数が増加するにつれて、酵素活性に対する阻害が徐々に増加し、後に減少することを見出した。例として、本発明の好ましい実施形態において、相補的塩基対の数は8~35であり、好ましくは、相補的塩基対の数は10~30であり、より好ましくは、相補的塩基対の数は10~20であり、さらに好ましくは、分子内相補的塩基対の数が8~20であり、分子間相補的塩基対の数は10~32である。
【0034】
核酸ポリメラーゼ基質アナログの温度適応範囲の幅は、その分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数に関係しており、自身の核酸配列とは、ほとんど相関がない。そこで、本発明は、核酸ポリメラーゼ基質アナログの温度適応範囲の幅を異なる温度にすることにより、一定温度(特に低温)での酵素活性に対する抑制を実現し、非特異増幅に対する抑制を可能にするものである。したがって、本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログと核酸ポリメラーゼとの相互作用の仕組みに基づ、核酸ポリメラーゼ基質アナログの相補的塩基対の数が本発明の条件を満たし、かつ2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログの分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数が異なる限り、本発明において、核酸配列は特に規定されない。また、本発明は、1つの核酸ポリメラーゼ基質アナログに、1つ、2つ、3つまたは4つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを加えることにより、一定温度(特に低温)において非特異的増幅を効果的に抑制すること、すなわち、本発明による非特異的増幅に対する阻害は、核酸ポリメラーゼ基質アナログ自体の配列とは、ほとんど相関がなく、主にその分子内相補的塩基対または分子間相補的塩基対の数に依存することを、実施例で確認している。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、核酸ポリメラーゼ基質アナログは、非OH基である3’末端を有する。その原理は、3’末端における任意の-OH基が、核酸ポリメラーゼと複合体を形成するからである。核酸ポリメラーゼ基質アナログの3’末端における、その伸長を阻害する修飾としては、ジデオキシ修飾、リン酸化、またはアミノ修飾などが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明者らは、ジデオキシ法を利用し、3’末端を修飾して末端の伸長を停止させ、一方で、3’末端を修飾していない核酸分子をコントロールとして用いることで、3’末端を修飾していない核酸分子も酵素活性を阻害することができるかを調べた。その結果、コントロールの核酸リガンドを添加した場合には、酵素活性は完全な活量を保ち、急速に上昇することがわかった。一方、修飾した核酸リガンドを添加した系では、酵素活性が大きく阻害され、望み通りの結果を得ることができず、系を妨げるとわかった。この分析により、核酸リガンドの3’末端における修飾が、ヌクレアーゼの酵素活性を阻害するために重要であると示された。
【0037】
本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)およびその混合物は、DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼを含む、すべてのポリメラーゼに好適である。DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するような耐熱性DNAポリメラーゼであって、例えば、Thermus aquaticus、Thermus thermophilus、Thermus filiformis、Thermus flavu、Bacillus stearothermophilusなどであり、または、ファミリーBに属するような、例えば、Pyrococcus furiosus、Thermococcus Kodakaraensisなどである。RNAポリメラーゼは、AMV(トリ骨髄芽球症ウイルス)群や、MMLV(マウス白血病ウイルス)群などに属する逆転写酵素である。また、本発明の実施例は、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物が、一定温度において、逆転写酵素またはDNAポリメラーゼの活性を阻害し、温度が一定温度以上のとき、核酸ポリメラーゼの活性が一部または完全に放出されることを示す。このことは、本発明による核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物が、一定温度において、あらゆる種類の核酸ポリメラーゼの酵素活性を阻害することができ、より普遍性的に、あらゆる種類の核酸ポリメラーゼに好適であることを示している。
【0038】
本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)による標的遺伝子の増幅は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加しないコントロールと比較して、非特異的増幅を有意に抑制することができる。したがって、本発明は、核酸増幅、核酸増幅キットの調製、または核酸伸長反応混合物の調製における、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の使用も提供する。
【0039】
本発明による核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物は、2つ以上の核酸ポリメラーゼ基質アナログからなり、少なくとも2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログの温度適応範囲の幅が異なることにより、1種の核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加したコントロールと比較して、一定温度での核酸ポリメラーゼの酵素活性をよりよく阻害し、それによって、非特異増幅をよりよく阻害することができる。したがって、本発明は、核酸増幅、核酸増幅キットの調製、または核酸伸長反応混合物の調製における、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物の使用も提供する。
【0040】
本発明は、以下の工程を含む核酸増幅方法を提供する。
(工程1):検査すべき標的核酸を含む試料を、以下の増幅反応試薬と接触させ、反応混合物を形成させる。
a)標的核酸にハイブリダイズすることができるプライマー
b)核酸ポリメラーゼ
c)本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)
d)ヌクレオシド三リン酸
(工程2):反応混合物を加熱して、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の対のヌクレオチドを一本鎖に分離させ、前記核酸ポリメラーゼを核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)から脱離させてその活性を発揮させ、それによってプライマー伸長生成物を形成させる。
前記核酸増幅方法において、前記ヌクレオシド三リン酸は、好ましくは、dUTP(デオキシウリジン三リン酸)、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、dTTP(チミジン三リン酸)を含む。また、前記被検試料中の標的核酸を増幅する方法は、好ましくは、プライマー伸長生成物を検出することをさらに含む。
【0041】
本発明は、以下の工程を含む核酸増幅方法を提供する。
(工程1):検査すべき標的核酸を含む試料を、以下の増幅反応試薬と接触させ、反応混合物を形成する。
a)標的核酸にハイブリダイズすることができるプライマー
b)核酸ポリメラーゼ
c)核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物
d)ヌクレオシド三リン酸、デオキシヌクレオシド三リン酸もしくはそれらの混合物、またはヌクレオシド/デオキシヌクレオシド三リン酸アナログ
(工程2):前記反応混合物を加熱して、前記核酸ポリメラーゼ基質アナログの対になったヌクレオチドを一本鎖に分離させ、核酸ポリメラーゼを前記核酸ポリメラーゼ基質アナログから分離させてその活性を発揮させ、それによってプライマー伸長生成物を形成させる。
好ましい実施形態において、ヌクレオシド三リン酸は、dUTP(デオキシウリジン三リン酸)、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、またはdTTP(チミジン三リン酸)を含む。また、好ましい実施形態では、前記核酸増幅方法は、プライマー伸長生成物を検出することをさらに含む。
【0042】
さらに、本発明は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を含む核酸増幅キットを提供する。また、本発明は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)、核酸ポリメラーゼ、少なくとも1つのプライマー、核酸鋳型、およびヌクレオシド三リン酸を含む、核酸伸長反応混合物を提供する。
【0043】
さらに、本発明は、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物、または核酸ポリメラーゼと核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を含む、核酸増幅キットを提供する。
【0044】
また、本発明は、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物、または核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物と核酸ポリメラーゼとを含む混合物であって、核酸ポリメラーゼを含んでいてもよく、かつ、少なくとも1つのプライマー、核酸鋳型を含み、ヌクレオシド三リン酸、デオキシリボヌクレオシド三リン酸、およびその両方の混合物、またはヌクレオシド三リン酸/デオキシリボヌクレオシド三リン酸アナログを含む、核酸伸長反応混合物を提供する。
【0045】
また、前記技術的解決手段からわかるように、本発明は、以下のような核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を提供する。増幅反応混合物の温度がある温度以下に維持されるとき、核酸ポリメラーゼの酵素活性は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)によって阻害され、酵素活性が残存することはない。また、反応混合物が加熱されるとき、核酸ポリメラーゼは核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)から脱離してその活動を発揮し、それによってプライマー伸長生成物が形成され、非特異増幅抑制の効果が達成される。本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、全てのポリメラーゼに適しており、核酸増幅の分野で広く使用することができ、これにより非特異的増幅を抑制することができる。
【0046】
さらに、本発明は、以下のような核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を提供する。増幅反応混合物の温度をある温度以下に維持するとき、核酸ポリメラーゼの酵素活性は、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物によって阻害され、酵素活性が残存しない。また、反応混合物を加熱すると、核酸ポリメラーゼは核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物から分離し、その活動を発揮するので、プライマー伸長生成物が形成され、非特異増幅抑制の効果が達成される。本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物は、すべてのポリメラーゼに適しており、核酸増幅の分野で広く使用することができ、これにより非特異的増幅を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)(分子内相補対)と核酸ポリメラーゼとの相互作用を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)(分子間相補対)と核酸ポリメラーゼとの相互作用を示す模式図である。
【
図3】
図3は、試験法におけるコントロール酵素の酵素活性の標準曲線図である。
【
図4】
図4は、70℃における等温伸長増幅の結果を示すグラフである。左のグラフは、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示し、右のグラフは、核酸リガンドを添加しない場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示すものである。
【
図5】
図5は、60℃における等温伸長増幅の結果を示すグラフである。左のグラフは、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示し、右のグラフは、核酸リガンドを添加しない場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示すものである。
【
図6】
図6は、50℃における等温伸長増幅の結果を示すグラフである。左のグラフは、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示し、右のグラフは、核酸リガンドを添加しない場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示すものである。
【
図7】
図7は、40℃における等温伸長増幅の結果を示すグラフである。左のグラフは、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示し、右のグラフは、核酸リガンドを添加しない場合(上は増幅曲線、下は反応温度)を示すものである。
【
図8】
図8は、3’末端を修飾した核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を用いた場合の増幅と、3’末端を修飾しない核酸リガンドを用いた場合の増幅との比較結果である。
【
図9】
図9は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の酵素活性阻害効果(分子内相補的塩基対の数が異なる/温度安定性が異なる)を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)のTaq酵素の酵素活性に対する阻害効果(分子間相補対の有無)を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)のKOD DNAポリメラーゼの酵素活性に対する阻害効果(分子間相補対形成)を示す図である。
【
図12】
図12は、鋳型量0.025ngおよび0.05ngでの、ヒトゲノム9948の増幅結果である。上から順に、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加しない場合の鋳型量0.025ngでの増幅結果、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合の鋳型量0.025ngでの増幅結果、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加しない場合の鋳型量0.05ngでの増幅結果、そして、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合の鋳型量0.05ngでの増幅結果を示している。
【
図13】
図13は、鋳型量0.1ngおよび0.2ngでの、ヒトゲノム9948の増幅結果である。上から順に、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加しない場合の鋳型量0.1ngでの増幅結果、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合の鋳型量0.1ngでの増幅結果、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加しない場合の鋳型量0.2ngでの増幅結果、そして、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合の鋳型量0.2ngでの増幅結果を示している。
【
図14】
図14は、3’末端の修飾が異なる核酸リガンド間の比較を示す図である。
【
図15】
図15は、3’末端の修飾が異なる核酸リガンド間の比較を示す図である。
【
図16】
図16は、37℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の、逆転写酵素の酵素活性を示す。上のグラフは、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の酵素活性であり、下のグラフは、反応温度による曲線である。
【
図17】
図17は、55℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の、逆転写酵素の酵素活性を示す。上のグラフは、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の酵素活性の曲線であり、下のグラフは、その反応温度の曲線である。
【
図18】
図18は、45℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、1つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の、DNAポリメラーゼ(BST DNA Polymerase)の酵素活性を示す。上のグラフは、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合の酵素活性および1つの核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の曲線であり、下のグラフは、反応温度の曲線である。
【
図19】
図19は、65℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、1種の核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の、DNAポリメラーゼ(BST DNA Polymerase)の酵素活性を示す。上のグラフは、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合および1種の核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加した場合の酵素活性の曲線であり、下のグラフは、反応温度の曲線である。
【
図20】
図20は、65℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2のそれぞれを添加した場合の、Taq酵素の酵素活性を示す図である。
【
図21】
図21は、40℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2のそれぞれを添加した場合の、Taq酵素の酵素活性を示す図である。
【
図22】
図22は、50℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2のそれぞれを添加した場合の、Taq酵素の酵素活性を示す図である。
【
図23】
図23は、60℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2のそれぞれを添加した場合の、Taq酵素の酵素活性を示す図である。
【
図24】
図24は、70℃での等温伸長における、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しない場合と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2のそれぞれを添加した場合の、Taq酵素の酵素活性を示す図である。
【
図25】
図25は、鋳型量0.03125ngのヒトゲノムM2の増幅結果を示す図である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1で修飾したTaq酵素を用いた鋳型量0.03125ngの増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2で修飾したTaq酵素を用いた鋳型量0.03125ngの増幅結果、そして、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と核酸ポリメラーゼ基質アナログ2を等しい比率で混合し、Taq酵素を修飾したものを用いた鋳型量0.03125ngの増幅結果を示す。
【
図26】
図26は、鋳型量0.0625ngのヒトゲノムM2の増幅結果を示す図である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1で修飾したTaq酵素を用いた鋳型量0.0625ngの増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2で修飾したTaq酵素を用いた鋳型量0.0625ngの増幅結果、そして、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と核酸ポリメラーゼ基質アナログ2を等しい比率で混合し、Taq酵素を修飾したものを用いた鋳型量0.0625ngの増幅結果を示す。
【
図27】
図27は、鋳型量0.125ngのヒトゲノムM2の増幅結果を示す図である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1で修飾したTaq酵素を用いた鋳型量0.125ngの増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2で修飾したTaq酵素を用いた鋳型量0.0625ngの増幅結果、そして、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と核酸ポリメラーゼ基質アナログ2を等しい比率で混合し、Taq酵素を修飾したものを用いた鋳型量0.125ngの増幅結果を示す。
【
図28】
図28は、鋳型量0.03125ngのヒトゲノム遺伝子に、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、4℃で1日静置した場合の増幅結果を示す図である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物を添加した場合の増幅結果を示す。
【
図29】
図29は、鋳型量0.0625ngのヒトゲノム遺伝子に、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、4℃で1日静置した場合の増幅結果を示す図である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物を添加した場合の増幅結果を示す。
【
図30】
図30は、鋳型量0.125ngのヒトゲノム遺伝子に、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、4℃で1日静置した場合の増幅結果を示す図である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物を添加した場合の増幅結果を示す。
【
図31】
図31は、鋳型量0.03125ngのヒトゲノム遺伝子に、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、静置せずに直接増幅した結果である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物を添加した場合の増幅結果を示す。
【
図32】
図32は、鋳型量0.0625ngのヒトゲノム遺伝子を、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、静置せずに直接増幅した結果である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物を添加した場合の増幅結果を示す。
【
図33】
図33は、鋳型量0.125ngのヒトゲノム遺伝子に、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、静置せずに直接増幅した結果である。上から順に、それぞれ、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物を添加した場合の増幅結果、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物を添加した場合の増幅結果を示す。
【
図34】
図34は、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加せずに、4℃で1日静置した、鋳型量の異なるヒトゲノム遺伝子の増幅結果を示している。上から順に、それぞれ、鋳型量0.03125ng、0.0625ng、そして0.125ngのヒトゲノム遺伝子の増幅結果を示す。
【
図35】
図35は、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、3および4の混合物を添加し、4℃で1日間静置した場合の、鋳型量の異なるヒトゲノム遺伝子の増幅結果を示している。上から順に、それぞれ、鋳型量0.03125ng、0.0625ng、そして0.125ngのヒトゲノム遺伝子の増幅結果を示す。
【
図36】
図36は、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、3、4および5の混合物を添加し、4℃で1日間静置した場合の、鋳型量の異なるヒトゲノム遺伝子の増幅結果を示している。上から順に、それぞれ、鋳型量0.03125ng、0.0625ng、そして0.125ngのヒトゲノム遺伝子の増幅結果を示す。
【発明の詳細な説明】
【0048】
本発明は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)またはその混合物、およびその使用を開示しており、当業者は、本明細書の内容から学び、プロセスパラメータを適切に改良し、実現することが可能である。特に指摘すべきは、すべての類似する代用および変更は、当業者にとって自明であり、それらは本発明に含まれるものとみなされることである。本発明による核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)、またはその混合物、およびその使用について、好ましい実施例を通じて説明するが、当業者は、本発明の内容、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)およびその使用に対して、明らかな変更、または適切な修正を加え、組み合わせることで、本発明の技術を実現および適用することができる。
【0049】
本発明の具体的な実施形態において、提供される比較試験の各処理群で使用される原料は同一であり、各群の他の試験条件は、然るべき差異を除いて同一に保たれる。本発明に関わる原料、試薬などは、特に定義しない限り、市販のルートで入手することが可能である。
【0050】
本発明における科学技術用語は、特に定義しない限り、当業者の多くが一般的に理解するものと同じである。当技術分野の専門用語の多くは、以下の文献において一般的な意味を有するが、本発明における全ての専門用語は、上記の文献に記載されているものと同じである。
【0051】
「ヌクレオチド」という用語は、一般に、エステル結合を介して、酸性分子または基と結合したヌクレオシドから形成される化合物を指す。例えば、ヌクレオシドリン酸は、一般に、ヌクレオシドのグリコシル基の5位に、1つ、2つまたは3つのリン酸基を、共有結合で有している。場合によっては、ヌクレオチドの定義には、いくつかの典型的なヌクレオチドの同族体または類似体も含まれる。また、2’デオキシヌクレオチド三リン酸は、一般に、DNAポリメラーゼがDNAを合成するために使用される。
【0052】
「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、DNA-RNAハイブリッド、オリゴヌクレオチド、アプタマー、ペプチド核酸(PNA)、PNA-DNAハイブリッド、PNA-RNAハイブリッド、などを含む。また、すべての直鎖状(一本鎖または二本鎖)または分岐状の共有結合で結合された核酸が含まれる。一般的な核酸は、一本鎖または二本鎖であり、ホスホジエステル結合で構成されている。
【0053】
「増幅」とは、核酸ポリメラーゼの作用により、標的核酸の断片の数を増やすことをいい、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明の実施例において、「増幅」とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を指す。鋳型を変性および解離させた後、オリゴヌクレオチドプライマーをアニールし、鋳型にハイブリダイズさせ、ヌクレオチドの付加と、鎖の伸長を伴う。これを一定サイクル繰り返すことにより、標的のヌクレオチドの断片を増幅する。
【0055】
「好熱性酵素」とは、熱に対して安定で、ヌクレオチドの重合を促進し、ポリヌクレオチド伸長生成物を形成する酵素のことである。一般的に、好熱性で安定なポリメラーゼは、熱サイクルにおいてよく使用される。PCRサイクリングにおいて、二本鎖ヌクレオチドは高温(例えば95℃)により変性する。PCR増幅反応での使用に有効な、本明細書に記載の好熱性酵素は、少なくとも1つの基準、すなわち、二本鎖ヌクレオチドの変性を達成するのに必要な時間、昇温状態にさらされたときに、酵素が変性されないという基準を満たすものである。実験系によっては、好熱性酵素は、90℃から100℃までは変性しない。
【0056】
本明細書で使用する「核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)」とは、核酸ポリメラーゼに望ましい作用を及ぼす、非天然型の核酸のことである。
【0057】
「核酸ポリメラーゼ基質アナログ」は、核酸ポリメラーゼと非共有結合できる非天然物質であり、オリゴマー核酸から構成される。好ましい実施形態では、核酸ポリメラーゼ基質アナログは、核酸ポリメラーゼ分子に対する結合親和性を有し、核酸ポリメラーゼ基質アナログは、標的分子と結合する既知の生理機能を有する核酸ではない。
【0058】
ここで用いられる核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、核酸ポリメラーゼの基質を模倣して核酸ポリメラーゼに結合し、分子内または分子間で相補的な対を形成できる単一または二つの核酸分子または核酸分子アナログである。これらの核酸分子または核酸分子アナログは、ポリメラーゼの伸長を阻害するように3’末端で修飾されており、一定の温度以下では安定である。対になったヌクレオチドは、加熱状態で一本鎖に分離し、核酸ポリメラーゼが核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)から脱離して、本来の機能を発揮する。
【0059】
「核酸」とは、一本鎖または二本鎖であるDNA、RNAを指し、任意の化学的修飾を有していてもよい。修飾には、核酸リガンド塩基または核酸リガンド全体に、追加の電荷、分極率、水素結合、静電相互作用、および融剤を組み込んだ他の化学基を提供するものが含まれるが、これらに限定されない。このような修飾には、2’位糖修飾、5位ピリミジン修飾、8位プリン修飾、外環アミンの修飾、4-チオウリジンの置換、5-ブロモまたは5-ヨードの置換などがあるが、これらに限定されない。ウラシル、主鎖上の修飾、メチル化、そして、イソ塩基、イソシチジン、イソグアニジンなどの特異的な塩基対の組み合わせなどがある。また、修飾には、キャッピングなどの3’および5’の修飾を含んでいてもよい。
【0060】
「等温伸長法による酵素活性測定」の方法は、ポリメラーゼと理想的に相互作用する核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を選択し、その性能を評価する。本発明では、核酸ポリメラーゼに対する核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、等温伸長法による酵素活性測定法を用いて検証される。
【0061】
本明細書で使用する「核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)用」とは、等温伸長法により同定された核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)で、温度安定性パラメータに基づいて、そのTaq酵素への親和性を調節する。好ましい実施形態では、主要なパラメータは温度であり、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)のTaq酵素に対する親和性は、温度が高くなると低下する。
【0062】
本明細書において、「核酸ポリメラーゼ」とは、DNAまたはRNA(逆転写酵素)を鋳型として、DNA鎖にデオキシリボヌクレオチド単位を付加することにより、DNAの合成を触媒するあらゆる酵素のことをいう。
【0063】
「スイッチ」とは、何らかの特定の反応条件に応じて、反応を開始または停止させる作用を有する化合物を指す。本発明において、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の機能は、以下の条件に従って、PCRを「スイッチオン」または「スイッチオフ」することである。
【0064】
本発明の核酸ポリメラーゼ基質アナログの3’末端は、その伸長を阻害する修飾を有しており、その修飾としては、ジデオキシ修飾、リン酸化修飾またはアミノ修飾などが挙げられるが、これらに限定されない。ジデオキシ修飾、リン酸化修飾またはアミノ修飾は、当技術分野で公知の方法を用いて実施することができる。例えば、ジデオキシ修飾は、DNA分子の3’ヒドロキシ末端に、デオキシヌクレオチド(dNTPs)またはジデオキシヌクレオチド(ddNTPs)の結合を触媒するターミナルトランスフェラーゼ(TdT)の性質を利用して、4種類のジデオキシヌクレオチド(ddATP、ddTTP、ddCTP、ddGTP)のうちいずれか1つと、プライマーを混合することができる。TdTは、プライマーの3’末端にジデオキシヌクレオチドを付加することができ、結果として生じたddNTP修飾プライマーは、DNAポリメラーゼによって伸長することができない。また、Invitrogen社は、3’末端でのアミノ修飾(AminolinkerC6/7/12)を提供している。3’末端のリン酸化は、一般に、リン酸-ON(化学的リン酸化試薬(CPR)としても知られている)を用いて、例えば、任意の支持体(例えば、dTカラム)に、添加により3’リン酸を取り込むことで達成される。3’-リン酸化は、酵素の活性を阻害するために用いられる。
【0065】
本発明の具体的な実施形態において、本発明は、様々な核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を提供するものであり、分子内相補対を有する核酸リガンドの配列を配列番号配列番号:1~11に示し、分子間相補対を有する核酸リガンドの一方の鎖の配列を配列番号配列番号:12に示し、他方の鎖の配列を配列番号:13~20に示す。本発明の具体的な実施形態では、主に、TaqポリメラーゼおよびKODポリメラーゼを例として使用しているが、実際には、本明細書に記載の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、全ての核酸ポリメラーゼおよび核酸増幅反応に適している。
【0066】
本発明の他の具体的な実施形態において、本発明は、配列番号:21~28に示すような様々な核酸ポリメラーゼ基質アナログを提供する。本発明の具体的な実施形態では、主に、逆転写酵素、BST DNAポリメラーゼ、およびTAQ酵素が例として使用されるが、実際には、本明細書に記載された核酸ポリメラーゼ基質アナログは、すべての核酸ポリメラーゼおよび核酸増幅反応に適している。
【0067】
本発明により提供される技術的解決策は、以下の実施例を通じてさらに説明される。以下の実施例は、単に本発明を実証するために用いられるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0068】
実施例1は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)によるポリメラーゼ活性の阻害の分析評価である。
【0069】
酵素活性は、市販のNEB M13一本鎖DNAと関連するプライマーを用いた一本鎖伸長法により測定する。リアルタイム検出は、Roche LC480IIを用いた蛍光定量法により行う。
【0070】
プライマーM13Rの配列と増幅系は、以下のように定められている。
M13R プライマー1:ACGCTCGTCATCAAAATCACTCGCATCAACCAAACCGTTAT
【0071】
【0072】
ここで、10X バッファーAは、30mM Tris 8.0、50mM KCl、TWEEN20 0.05%、10mM メルカプトエタノールから調製した緩衝液を指す。本反応系は、元の酵素に対して、0.04~0.008Uの範囲で高い精度の再現性を有している。
【0073】
等温伸長反応の反応プログラムは、(72℃、30秒)×22サイクルとし、反応系は25μlとした。ポリメラーゼは、以下のように0.04U~0.008Uに希釈した。
【0074】
【0075】
図3の結果からわかるように、R2>0.99であり、線形理論に合致している。この反応は、異なる温度範囲におけるDNAポリメラーゼの遮断効果を検出するのに、十分な感応性を有しているといえる。
【実施例】
【0076】
実施例2は、ポリメラーゼの遮断実験(核酸リガンドをスクリーニングするために最適な等温伸長条件の選定)である。
【0077】
実施例1の方法に従って、70℃、60℃、50℃、40℃での伸長をそれぞれ行い、どの核酸リガンドが望ましい効果を発揮し得るかをスクリーニングした。例えば、以下の核酸リガンドを用いた。
【0078】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)1(配列番号:1に示す):
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC(3’末端にジデオキシ修飾を有する)
【0079】
DNA酵素 6Uと上記核酸リガンド1を混合し、さらに100uM 0.05ulの系に対して、DNA酵素 約6Uを添加により混合し、その混合物を-20℃で一晩試験した。一方、核酸リガンドを含まない系をコントロールの系とし、実施例1の活性測定にしたがって、2つの系の酵素活性をそれぞれ試験した。
【0080】
図4~7から、核酸リガンドを添加しない系では、40℃と50℃でポリメラーゼのシグナルが大きく増加するのに対し、核酸リガンドを添加した系では、ポリメラーゼの活性が一部阻害され、特に50℃以下では完全に失われていることがわかる。また、PCR実験では、一般的に元の酵素の添加量が6Uと多いが、実際のPCR実験での添加量は、6Uより遥かに少ない。温度が50℃以下であれば、この系はポリメラーゼの活性を完全にブロックして残存酵素活性を失わせることができ、それによって非特異的増幅を抑制する効果を得ることができる。
【0081】
そこで、最終的に以下の実施例を50℃で検証し、試験用核酸リガンドのスクリーニングを行った。
【実施例】
【0082】
実施例3は、ポリメラーゼの遮断実験である。
【0083】
核酸分子または核酸分子アナログの3’末端での修飾は、増幅防止のための従来からの形態(ジデオキシ修飾、リン酸化修飾、アミノ修飾など)でよく、本実施例では、末端伸長の終結にジデオキシ法が選択されている。また、3’末端を修飾していない核酸分子をコントロールとして用いることで、修飾していない核酸分子も酵素活性を阻害することができるか否かを試験した。実験方法は、実施例1を参照することができる。2つの核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の配列は、以下のように定められる。
【0084】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)1(配列番号:1に示す):
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC(3’末端にジデオキシ修飾を有する)
【0085】
コントロール核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ):
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC(3’末端が未修飾)
【0086】
DNAポリメラーゼ 6Uを、上記核酸分子2および核酸分子3とそれぞれ混合し、得られた酵素系を用いて実験を行った。100uM 0.05ulの系では、約6UのDNA酵素を添加した。この混合物を、-20℃で一晩試験した。
【0087】
その結果を
図8に示す。コントロールの核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した系では、酵素活性は完全な活性を保ち、急激に上昇したが、修飾された核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)1を添加した系では、酵素活性はほとんど抑制されるという望ましい結果が得られ、系をブロックすることが可能であるとわかった。この実験により、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の3’修飾(ジデオキシ修飾に限定されず、DNA酵素の伸長を妨げる可能性のあるすべての3’修飾を含む)が、本発明にとって重要であることが示された。
【実施例】
【0088】
実施例4は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の3’末端における、異なる修飾の比較である。
【0089】
本実施例では、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)1は、3’末端の最後の塩基が、ジデオキシ修飾、リン酸化修飾、アミノ修飾のそれぞれで修飾されている。3’末端の修飾が異なる核酸リガンドが、45℃および70℃での等温伸長時に酵素活性を阻害するかどうかを検証した。
【0090】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)1(配列番号に示す):
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC(3’末端にジデオキシ修飾、リン酸化修飾、アミノ修飾を有する)
【0091】
コントロール核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ):
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC(3’末端が未修飾)
【0092】
【0093】
実験結果を
図14に示す。実験結果から、コントロールの核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合の酵素活性は、完全な活性を保ち、急激に上昇することがわかる。一方、3’末端にジデオキシ修飾、リン酸化修飾、またはアミノ修飾を有する核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した場合は、45℃での等温伸長時のポリメラーゼ活性を、有効に阻害できることがわかる。
【0094】
その実験結果を
図15に示す。実験結果から、3’末端にジデオキシ修飾、リン酸化修飾またはアミノ修飾を有する核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加することで、70℃の等温伸長時に、ポリメラーゼ活性を100%解放できることがわかる。
【実施例】
【0095】
実施例5は、ポリメラーゼ結合配列(分子内)のスクリーニングである。
【0096】
以下の核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)(その配列を配列番号:2~11に順次示す)は、3’末端の最後の塩基を修飾したものである。本実施例では、3’末端をジデオキシ修飾したものを使用する。
【0097】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)2:TCGAACGGGTATACC
【0098】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)3:
TCGAACGGGATATATCC
【0099】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)4:
TCGAACGGGATTATAATCC
【0100】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)5:
TCGAACGGGATATATATATCC
【0101】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)6:
TCGAACGGGATATACTATAGTATATCC
【0102】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)7:
TCGAAGTGTATATACTATAGTATATAC
【0103】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)8:
TCGGAGTGTATATACTATAGTATATACACTC
【0104】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)9:
TCGGAGTGTATATACTATAGTATATACACTCC
【0105】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)10:
TGAGAGTGTATATACTATAGTATATACACTCTC
【0106】
核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)11:
GGAGAGTGTATATACTATAGTATATACACTCTCC
【0107】
本実施例では、DNAポリメラーゼの核酸分子として、分子内にヘアピン構造を有する一本鎖の核酸分子を用いて、DNAポリメラーゼに対する阻害効果を検出した。これらの核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)は、相補的に対である4から全てのヌクレオチド(相補的塩基対には下線を引いている)を有している。これらの核酸分子について、実施例1の方法を用いて、50℃でのDNAポリメラーゼの遮断効果を分析した。
【0108】
図9から、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)2~11の酵素活性に対する阻害効果は、塩基対の数が増えるにつれて徐々に増加し、その後減少することがわかる。塩基対の数が4~80(ただし、この相補対の数に限定されない)個の場合、いずれの核酸リガンドも一定の酵素阻害効果を有するが、その阻害効果は異なる。なお、本実施例のグラフには、代表的なパターンのデータのみを示した。本実験では、塩基対の数は、8~20個が好ましい。
【実施例】
【0109】
実施例6は、ポリメラーゼ結合配列(分子間)のスクリーニングである。
【0110】
本実施例では、DNAポリメラーゼの核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)として、2分子間で相補対を形成することができる3’末端を修飾した核酸分子を用いて、DNAポリメラーゼに対する阻害効果を検出する。
【0111】
以下の核酸分子は、いずれも3’末端が修飾(ジデオキシ修飾)されている。配列を、配列番号:12~20に順次示す。
【0112】
核酸分子12:GAGGAGTTCAGTAGCATGAGCTGTGTAGACGTATATAC
【0113】
核酸分子13:TATATACGTC
【0114】
核酸分子14:TATATACGTCTAC
【0115】
核酸分子15:TATATACGTCTACAC
【0116】
核酸分子16:TATATACGTCTACACAGC
【0117】
核酸分子17:TATATACGTCTACACAGCTC
【0118】
核酸分子18:TATATACGTCTACACAGCTCATGC
【0119】
核酸分子19:TATATACGTCTACACAGCTCATGCTAC
【0120】
核酸分子20:TATATACGTCTACACAGCTCATGCTACTGAAC
【0121】
核酸分子15~22を、それぞれ核酸分子14と混合(それぞれ10uM、10uMで混合)し、最終濃度が5uMである核酸分子の混合物を、実験対象(すなわち、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)12~19)として調整した。また、実施例2の混合比に従い、実施例1の反応の添加量を参考に、ファミリーAのDNAポリメラーゼTaqと、ファミリーBのKODポリメラーゼの3-5’エキソヌクレアーゼを除去したものを使用し、50℃におけるDNAポリメラーゼの酵素活性の変化を試験した。
【0122】
図10に示すように、2つの核酸分子間での対となるヌクレオチドの数が増加すると、酵素活性は連続的に最小値まで低下し、その後上昇することから、2つの核酸分子のヌクレオチドの一部が対となった後に、酵素活性を阻害する役割を果たすには、ある程度の数の対になった塩基が必要であることがわかる。ここでは、酵素活性を阻害する効果を得るために、10~32個の塩基対が選択されているが、阻害効果の度合いは異なっている。
【0123】
図11に示すように、KOD酵素に対する阻害効果は、Taq酵素に対する阻害効果と同様であり、そのパターンは一貫している。すなわち、対になる配列が増えるにつれて酵素活性は低下し、その後上昇する。ある範囲内で、酵素活性を完全に阻害することができる。
【実施例】
【0124】
実施例7は、機能性実験試験である。
【0125】
本発明による標的核酸の増幅方法を用いて、鋳型量の異なるヒトゲノムテンプレート18断片の増幅を行った。一方の反応系では、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)6を添加し、他方の反応系では、コントロールとして、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加せずに、標的断片を増幅する効果をそれぞれ試験した。
【0126】
反応系は、以下の通りである。
2ul 18サイトプライマー、
5ul バッファー(Tris-HCl 8.8 30mM、NaCl 30mM、MgCl2 2.0mM、BSA 1mg/ml、brij58 0.5%、proclin950 0.05%)、
dATP:dTTP:dCTP:dGTPは、0.2mM:0.2mM:0.2mM:0.2mMとし、
0.4ul Taq酵素 10U/ul、
5uM 核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)6(TCGAACGGGATATACTAGTATCC)、
1ul 0.025ng/ul、0.05ng/ul、0.1ng/ul、0.2ng/ul 9948(鋳型)、
であり、水で10ulまで作成する。
【0127】
反応条件は、95℃で10分、30サイクル(95℃で10秒、59℃で90秒を1サイクル)、60℃で10分とする。
【0128】
図12および
図13は、鋳型量が、それぞれ0.025ng、0.05ng、0.1ng、0.2ngの場合における、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)あり、なしの増幅結果を示したものである。低鋳型濃度(0.025ng、および0.05ng)で増幅した場合、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)添加なしの系では、前部の環の位置に非特異的増幅バンドがいくつか現れ、実験判定の精度に影響する。一方、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)を添加した系の場合、非特異的増幅バンドは著しく減少する。本実施例は、核酸リガンド(核酸ポリメラーゼ基質アナログ)の添加により、非特異的増幅を大幅に低減できることを示すものである。
【実施例】
【0129】
実施例8は、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物が、逆転写酵素活性に与える影響を示す。
【0130】
分子間対を形成する、核酸ポリメラーゼ基質アナログ6と核酸ポリメラーゼ基質アナログ7の2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を用いて、37℃での等温伸長時に酵素活性を阻害できるか、および、55℃での等温伸長時にRT(逆転写酵素)の酵素活性を放出できるかを試験した。なお、本実施例における核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物は、核酸ポリメラーゼ基質アナログ6と核酸ポリメラーゼ基質アナログ7を等しい比率で混合したものである。
【0131】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ6(配列番号:21):
TCGAACGGGACGGCTGGCTGTGTGTGT(3’末端にリン酸化修飾を有するRNA)
【0132】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ7(配列番号:22):
CCAGCCGTCC (3’末端にジデオキシ修飾を有するDNA)
【0133】
【0134】
酵素活性は、市販のRNAと関連プライマーを用いた一本鎖伸長法により測定する。リアルタイム検出は、Roche LC480IIの器具を用いた蛍光定量法により行う。
【0135】
等温伸長法は、上記の反応系で、(37℃、30秒)×45サイクル、(55℃、30秒)×45サイクルの反応条件で実施した。
【0136】
37℃での等温伸長における酵素活性を、
図16に示す。
図16からわかるように、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加していないRT酵素(逆転写酵素)の曲線は、37℃での等温伸長中の14サイクルで曲がり始めた。なお、最初の14サイクルのデータを選択して計算を行った。核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加していないRT酵素の残存酵素活性を100%として基準とすると、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を添加したRT酵素の残存酵素活性は16%であり、核酸ポリメラーゼ基質アナログ(核酸ポリメラーゼ基質アナログ6および7)の混合物の添加により、RT(逆転写酵素)の酵素活性を有効に阻害できることを示している。
【0137】
【0138】
55℃での等温伸長における酵素活性を、
図17に示す。
図17からわかるように、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を添加したRT酵素と、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しないRT酵素の曲線は、いずれも8サイクル目で曲がり始め、55℃での等温伸長における15サイクル目で、酵素活性の最高信号値に達している。よって、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物(核酸ポリメラーゼ基質アナログ6および7)の添加により、RT(逆転写酵素)の酵素活性を完全(100%)解放できることがわかる。
【実施例】
【0139】
実施例9は、核酸ポリメラーゼ基質アナログが、BST DNAポリメラーゼ(DNA Polymerase)活性に及ぼす影響を示す。
【0140】
本実施例では、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8を用いて、45℃での等温伸長時に酵素活性を阻害し、また、65℃での等温伸長時にBST DNAポリメラーゼの酵素活性を解放できるか否かを試験した。
【0141】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ8(配列番号:23):
TTGATGACTGATCATGCATGATCAGTC
【0142】
【0143】
酵素活性は、市販のDNAと、関連するプライマーを用いた一本鎖伸長法により測定する。検出は、Roche LC480IIの器具を用い、蛍光定量法で行った。
【0144】
等温伸長法は、上記の反応系で、(45℃、2秒)×99サイクル、(65℃、2秒)×99サイクルの反応条件で実施した。
【0145】
45℃での等温伸長における酵素活性を、
図18に示す。
図18からわかるように、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8を添加していないBST酵素の曲線は、45℃での等温伸長における48サイクル目で曲がり始めている。なお、最初の48サイクルのデータを選択して計算を行った。核酸ポリメラーゼ基質アナログ8を添加していないBST酵素の残存酵素活性を100%として基準とすると、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8を添加したBST酵素の残存酵素活性は8%となり、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8がBST酵素の活性を効果的に阻害できることがわかった。
【0146】
【0147】
65℃での等温伸長時の酵素活性を、
図19に示す。
図19からわかるように、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8を添加したBST酵素と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8を添加しないBST酵素の曲線は、いずれも8サイクル目で曲がり始め、65℃での等温伸長における18サイクル目で、酵素活性の最高信号値にほぼ達している。よって、核酸ポリメラーゼ基質アナログ8の添加により、BST DNAポリメラーゼの酵素活性を完全に(100%)解放できることがわかる。
【実施例】
【0148】
実施例10では、核酸ポリメラーゼ基質アナログの違いによる、TAQ酵素活性への影響について検証する。
【0149】
本実施例では、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2をそれぞれ用いて、異なる温度(30℃、40℃、50℃、60℃、そして70℃)でのTAQ酵素活性の阻害および放出を試験した。
【0150】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1(配列番号:24):
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC
【0151】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ2(配列番号:25):
TCGAACGGATTACAGCTGTAATC
【0152】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2は、いずれも3’末端がジデオキシ修飾されたものである。
【0153】
1.TAQ酵素活性の阻害と放出の比較
反応系:
【表F】
【0154】
反応条件は、(30/40/50/60/70℃で、30秒)×30サイクルで実施した。
【0155】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2の酵素活性の阻害および放出は、異なる温度での等温条件下で異なっている。異なる温度での等温伸長下での酵素活性を、それぞれ
図20~24に示す。
図20~24からわかるように、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1および2は、30℃および40℃のいずれにおいても、TAQ酵素活性の放出を抑制している。まず、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2を添加したTAQ酵素は、50℃で酵素活性の放出を開始し、60℃以上で完全に酵素活性を放出した。一方、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1は、60℃で酵素活性を放出し始め、70℃で酵素活性を完全に放出した。
【実施例】
【0156】
実施例11は、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物で修飾したTAQ酵素と、単一の核酸ポリメラーゼ基質アナログで修飾したTAQ酵素との、機能試験の比較である。
【0157】
実験方法としては、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2、および核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の等しいモル比の混合物を、それぞれTAQ酵素と混合し、PCR増幅を実施し、酵素の増幅効果を比較した。
【0158】
【0159】
反応条件は、95℃で1分、(95℃で10秒、59℃で1分、72℃で20秒)×29サイクル、60℃で10分、で実施した。
【0160】
図25~27は、それぞれ鋳型量0.03125ng、0.0625ng、0.125ngのヒトゲノムM2について、異なる核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加し、増幅させた結果である。
図25~27からわかるように、単一の核酸ポリメラーゼ基質アナログで修飾したTAQ酵素を含む系の増幅試験では、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物で修飾したTAQ酵素を含む系の増幅試験に比べ、小さな断片の非特異増幅が著しく多い。これは、単一の核酸ポリメラーゼ基質アナログによる増幅の前部の環の非特異的増幅バンドが、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログによる増幅のそれよりも、著しく多いという事実によって示されている。したがって、核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物によって修飾された酵素の効果は、単一の核酸ポリメラーゼ基質アナログによって修飾された酵素の効果よりも良好である。
【実施例】
【0161】
実施例12は、単一の核酸ポリメラーゼ基質アナログ、2つの核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物、および3つの核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を、低温および通常の大気温度でTaq酵素と混合し、PCR増幅した結果である。
【0162】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、および3の混合物を、それぞれTaq酵素と混合し、PCR増幅を行った。その際、酵素の増幅効果を比較した。核酸ポリメラーゼ基質アナログは、3’末端の最後の塩基を修飾したもので、本実施例では、3’末端にジデオキシ修飾を有するものである。核酸ポリメラーゼ基質アナログ1に、Taq DNAポリメラーゼを混合し、コントロールとした。また、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2および核酸ポリメラーゼ基質アナログ3は、それぞれ酵素と混合し、試験用の酵素量4Uを調製した。核酸ポリメラーゼ基質アナログ1と2の混合物の合計濃度は、酵素1Uに、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2を3um(3umol/L)、コントロールに基づいて加えたものであり、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2および3の混合物の合計濃度は、酵素1Uに、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2および核酸ポリメラーゼ基質アナログ3をそれぞれ3um(3umol/L)、コントロールに基づいて加えたものである。
【0163】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1:
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC
【0164】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ2:
TCGAACGGATTACAGCTGTAATC
【0165】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ3(配列番号:26):
TCGAACGGCTACAGCTGTAGC
【0166】
反応条件と添加量は、以下の通りである。NH25:95℃で1分、(95℃で10秒、59℃で1分、72℃で20秒)×29サイクル、60℃で10分。
【0167】
【0168】
図28~30は、反応混合物を4℃で1日放置した後の試験結果である。試験結果から、鋳型濃度が0.03125ng、0.0625ng、0.125ngでは、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2を添加しない場合、もしくは核酸ポリメラーゼ基質アナログ2および3を添加しない場合に、濃度の異なるDNAの増幅が明らかに悪くなっており、これは、前部の環の中に、分類できないような非特異的な増幅バンドがいくつか出現していることから、実験の判定精度に影響を及ぼしたことが示されている。一方、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2、または核酸ポリメラーゼ基質アナログ2および3を添加した系では、非特異的な増幅バンドが著しく減少している。本実施例は、2つまたは3種の核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を添加することにより、低温での非特異的増幅を大幅に低減できることを実証している。
【0169】
図31~33は、反応混合物を放置せずに直接試験した結果である。試験結果からわかるように、鋳型濃度が0.03125ng、0.0625ng、0.125ngの場合、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2の添加や、核酸ポリメラーゼ基質アナログ2および3の添加は、標準試験に影響を与えず、正しく分類することができる。
【実施例】
【0170】
実施例13は、4種または5種の核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物と、Taq酵素を、低温で混合してPCR増幅した結果である。
【0171】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、3、および4の混合物と、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、3、4および5の混合物を、それぞれ酵素と混合し、PCR増幅を実施し、酵素の増幅効果を比較した。核酸ポリメラーゼ基質アナログは、3’末端の最後の塩基を修飾したもので、本実施例では、3’末端にジデオキシ修飾を有するものである。
【0172】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ1:
TCGAACGGTATATATATTAATATATATATAC
【0173】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ2:
TCGAACGGATTACAGCTGTAATC
【0174】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ3:
TCGAACGGCTACAGCTGTAGC
【0175】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ4(配列番号:27):
TCGAACGGGATATATCC
【0176】
核酸ポリメラーゼ基質アナログ5(配列番号:28):
TCGAACGGGTATACC
【0177】
実験方法は、実施例12と同様である。
【0178】
図34は、核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加せず、反応混合物を4℃で1日静置した後の試験結果である。
図34の試験結果からわかるように、鋳型濃度が0.03125ng、0.0625ng、0.125ngでは、核酸ポリメラーゼ基質アナログの添加なしでは増幅効果が悪くなり、正しく分類できないことができる。
【0179】
図35は、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、3および4の混合物を添加し、4℃で1日放置した後の試験結果である。
図35の試験結果からわかるように、鋳型濃度が0.03125ng、0.0625ng、0.125ngの場合、4種類の核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しても、標準試験には影響がなく、正しく分類することができる。
【0180】
図36は、核酸ポリメラーゼ基質アナログ1、2、3、4および5の混合物を添加し、4℃で1日静置した後の試験結果である。
図36の試験結果からわかるように、鋳型濃度が0.03125ng、0.0625ng、0.125ngの場合、5種類の核酸ポリメラーゼ基質アナログを添加しても、標準試験には影響がなく、正しく分類することができる。
【0181】
本実施例は、4種または5種の核酸ポリメラーゼ基質アナログの混合物を添加することで、低温での非特異的増幅を大幅に低減できることを実証している。
【0182】
上述した内容は、本発明の好ましい実施形態に過ぎず、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良および変更が可能であり、これらの改良および変更は、本発明の保護範囲と見なされるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】