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特表2023-531066リポ多糖結合オリゴマータンパク質に関する使用、方法および製品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-20
(54)【発明の名称】リポ多糖結合オリゴマータンパク質に関する使用、方法および製品
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/39 20060101AFI20230712BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C07K14/39 ZNA
G01N33/53 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580048
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2021067413
(87)【国際公開番号】W WO2021260144
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】2009730.9
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トライトン
(71)【出願人】
【識別番号】510179537
【氏名又は名称】ウニヴァーシテテット イ オスロ
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 1072,Blindern,0316 Oslo Norway
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハットレム, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】リンケ, ダーク
(72)【発明者】
【氏名】バーバーズ, ステファニー ブリジット
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA60
4H045BA70
4H045CA15
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明においては、リポ多糖(LPS)に結合するための結合剤としてのオリゴマータンパク質の使用が提供され、記載され、このオリゴマータンパク質は、少なくとも2つのモノマーペプチドを含むコイルドコイル構造を有し、各モノマーペプチドは、同じであっても異なっていてもよく、α-ヘリックスを形成することができ、配列番号1のヘプタッド(7アミノ酸)繰り返し配列と少なくとも60%の配列同一性を有する少なくとも1つのコア配列を含む。本発明においてはまた、LPSに結合する方法、LPSを検出する方法およびLPSを除去する方法と、このオリゴマータンパク質を含む製品とが提供され、記載される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ多糖(LPS)に結合するための結合剤としてのオリゴマータンパク質の使用であって、前記オリゴマータンパク質は、少なくとも2つのモノマーペプチドを含むコイルドコイル構造を有し、各モノマーペプチドは同じであっても異なっていてもよく、α-ヘリックスを形成することができ、配列番号1のヘプタッド(7アミノ酸)繰り返し配列と少なくとも60%の配列同一性を有する少なくとも1つのコア配列を含む、オリゴマータンパク質の使用。
【請求項2】
前記コア配列は、少なくとも3つのヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gまたはそれらの変異形を含み、各変異形は、前記ヘプタッドモチーフに対する1つを超えない挿入または欠失を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ヘプタッドモチーフまたはそれらの変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、疎水性残基である、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記コア配列は、一方の側または両方の側でフランキングアミノ酸配列と接している、請求項1~3の何れか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記フランキング配列は、1つ以上のヘプタッドモチーフ、および/またはそれらの1つ以上の部分を含み、好ましくは、前記ヘプタッドモチーフ中のアミノ酸残基aおよびdの少なくとも1つは、疎水性残基であるという前提条件で、前記フランキング配列中の前記ヘプタッドモチーフは、配列番号1またはそれと少なくとも80%の配列同一性を有する配列において見いだされるヘプタッドモチーフに対応する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記フランキング配列は、配列番号1、またはその一部、またはそれと少なくとも50%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1またはその変異形のヘプタッドモチーフの位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、疎水性残基である、請求項4または5に記載の使用。
【請求項7】
前記フランキング配列は、1つ以上のリンカー配列を含む、請求項3~6の何れか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記モノマーペプチドは、それぞれが2つ以上のコア配列を含み、前記コア配列は、同じであっても異なっていてもよい、請求項1~7の何れか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記オリゴマータンパク質は、二量体、三量体または四量体である、請求項1~8の何れか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記オリゴマータンパク質は、三量体である、請求項1~9の何れか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記モノマーペプチドは、別々の鎖として提供される、請求項1~10の何れか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記モノマーペプチドは、繋ぎ合わされている、請求項1~10の何れか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記モノマーペプチドは、繋がれて単一の鎖になっているか、または前記モノマーペプチドは、1つ以上の化学架橋によって繋がれている、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記ヘプタッドモチーフまたはその変異形の中の各疎水性残基は、独立に、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニンおよびそれらの化学誘導体からなる群から選ばれる、請求項1~13の何れか一項に記載の使用。
【請求項15】
各疎水性残基は、独立に、ロイシンおよびイソロイシンあるいはそれらの化学誘導体から選ばれる、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記化学誘導体は、フルオロロイシンまたはフルオロイソロイシンである、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記疎水性残基の少なくとも50%は、イソロイシンまたはフルオロイソロイシンである、請求項1~16の何れか一項に記載の使用。
【請求項18】
(i)前記ヘプタッド繰り返しまたはそれらの変異形の中の位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、極性残基であり;および/または
(ii)前記ヘプタッド繰り返しまたはそれらの変異形の中の位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも5%は、脂肪族残基である、
請求項1~17の何れか一項に記載の使用。
【請求項19】
各モノマーペプチドは、18~40アミノ酸を含む、請求項1~18の何れか一項に記載の使用。
【請求項20】
各モノマーペプチドは、前記コア配列内に少なくとも4つの陽イオンアミノ酸を含む、請求項1~19の何れか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記オリゴマータンパク質は、ナノモル濃度以下の大きさ範囲のKDでLPSに結合する、請求項1~20の何れか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記オリゴマータンパク質は、
(i)1つ以上の追加の成分との接合体または融合体の形である;
(ii)固体基質上に固定されている;または
(iii)直接的に検出可能な検出用部分と接合されている、
請求項1~21の何れか一項に記載の使用。
【請求項23】
(i)前記タンパク質は、検出用部分、オリゴマー化用部分もしくは固定化用部分と接合されている、または融合相手との融合タンパク質の形である;
(ii)前記タンパク質は、ビーズもしくは樹脂上に、またはウェル、容器、カラムもしくはフィルター材料の中もしくは上に、または検出装置の表面の上に固定される;あるいは、
(iii)前記検出用部分は、分光測光法的にまたは分光法的に検出可能な標識である、
請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記オリゴマータンパク質の使用は、試料中のまたは試料からのLPSの検出および/または除去を含む、請求項1~23の何れか一項に記載の使用。
【請求項25】
LPSに結合する方法であって、前記LPS、または前記LPSを含有する試料を請求項1~23の何れか一項において定義されるオリゴマータンパク質と接触させて前記タンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するように前記LPSに結合することを可能にするステップを含む方法。
【請求項26】
前記方法は、試料中のLPSの存在を検出することをさらに含み、前記方法は、
(a)前記試料を請求項1~23の何れか一項において定義されるオリゴマータンパク質と接触させて前記タンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するように前記LPSに結合することを可能にするステップと;
(b)タンパク質-リポ多糖複合体の存在を検出するステップと、
を含む、請求項25の方法。
【請求項27】
前記方法は、試料からLPSを除去することをさらに含み、前記方法は、
(a)前記試料を請求項1~23の何れか一項において定義されるオリゴマータンパク質と接触させて前記タンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するように前記LPSに結合することを可能にするステップと;
(b)前記試料から前記ペプチド-リポ多糖複合体を分離するステップと、
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記オリゴマータンパク質は、検出可能な標識を含む接合体の形であり、および/または前記オリゴマータンパク質は、固体基質上に固定化されている、請求項25~27の何れか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記試料は、患者に由来する臨床試料またはエンドトキシン汚染を検査するための製品の試料である、請求項25~28の何れか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記試料は、血液試料または血液試料に由来する試料である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
(i)請求項1~17の何れか一項において定義されるオリゴマータンパク質と;
(ii)少なくとも1種類の非変性型界面活性剤と、
を含むキット。
【請求項32】
前記キットは、請求項1~24の何れか一項に記載の使用または請求項25~30の何れか一項に記載の方法における使用のためである、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
固体基質上に固定化されたオリゴマータンパク質を含み、前記オリゴマータンパク質は、請求項1~21の何れか一項において定義されている通りである、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書においては、コイルドコイル構造を有するオリゴマータンパク質の、リポ多糖(LPS)に結合するための結合剤としての使用が記載される。本明細書においてはまた、LPSに結合する方法、LPSを検出する方法およびLPSを除去する方法とこのオリゴマータンパク質を含む製品とが記載される。
【背景技術】
【0002】
リポ多糖、別名エンドトキシン(本明細書において用語「LPS」と「エンドトキシン」とは区別なく用いられる)は、グラム陰性菌の外膜の必須成分である。リポ多糖は、リピドA部分と;コアオリゴ糖と;O抗原との3つの構造成分で構成される。リピドA成分は、Oで繋がれた4本のアシル鎖とNで繋がれた2本のアシル鎖とを有する2つのホスホグルコサミン分子を含み、これらのアシル鎖が細菌の外膜中に埋め込まれ、従ってLPSを細菌膜中に繋ぎ止めている。コアオリゴ糖(COS)は、様々な糖で構成される繰り返しのない構造体であり、グリコシド結合によってリピドAに繋がっている。最後に、O抗原は、4~40単位の間の4糖モノマー繰り返し構造で構成されるポリマーであり、平均30の繰り返しが存在する(非特許文献1)。O抗原は、リピドAと反対側の端においてCOSの最後から2番目の糖に繋がっているが、LPSのいくつかの形ではO抗原がない。O抗原が欠けているLPSは、慣習として、野生型『スムース』LPSとの対比で『ラフ』LPSと呼ばれる(非特許文献2)。
【0003】
LPSのリピドA構成要素およびそれにもっとも近位の糖は、グラム陰性細菌種全体にわたり高度に保存される一方、コアオリゴ糖の残りとO抗原とは保存の度合いが顕著に低く、細菌種の間で、および血清型の間でも変わり得る(非特許文献3)。
【0004】
エンドトキシンは、Toll様受容体4を活性化するリピドAの傾向に起因して、動物、特にヒトへの毒性が極めて強く、従ってkg体重あたり1μgという低い用量で敗血症および毒性ショックを引き起こし得る極端な免疫反応を誘発する。生物環境におけるグラム陰性菌の遍在に起因して、エンドトキシンは、薬、ワクチンならびに実験装置および試薬の製造におけるありふれた不純物である。エンドトキシン汚染と関連する潜在的な健康影響を考慮すると、ヒトによる消費を目的とする製品中に存在することがあるあらゆるエンドトキシンを可能な限り使用前に除去することが重要である。
【0005】
現在、エンドトキシン除去のための様々な方法および製品が利用可能である。検査室使用の場合、これらの方法および製品は、1種類以上のエンドトキシン結合性分子に繋がれている樹脂を充填したスピンカラムフィルターまたはフローカラムを含む。これらのフィルターまたはカラムに試料がアプライされることが可能であり、エンドトキシン結合性分子は、存在するあらゆるエンドトキシンに結合し、従ってそれらを試料から除去する。これらの製品において用いることができる公知のエンドトキシン結合性分子は、リピドA結合性抗生物質ポリミキシンBおよび静電相互作用によってエンドトキシンと結合するポリリジンポリマーを含む。しかし、現在利用可能なこれらのエンドトキシン結合性分子には課題がある。報告されているポリミキシンBの結合親和力は、問題の菌株によってはマイクロモル濃度の範囲でしかなく、そのため低濃度のエンドトキシンに結合し試料から除去するには不適当である。その一方で、ポリリジンは、強い正電荷を有し、従ってリピドAおよびコアオリゴ糖の負電荷を有するリン酸基と非特異的に相互作用する。従って、この作用機序は、すべてのpH値においてまたはすべてのLPSタイプでの使用に不適切である。そのうえ、ポリリジンは、試料中に存在し得る負電荷を有する他の分子とも相互作用し、従って除去することがある。
【0006】
他の方法は、イオン交換クロマトグラフィーを含む。イオン交換クロマトグラフィーは、医薬製品の精製のために医薬品産業において普通に用いられており、典型的には、負電荷を有するLPSと正電荷を有する固定化されたリガンドとの間の静電相互作用に依拠している。しかし、強い電荷を有する試料からエンドトキシンを除去するためにイオン交換クロマトグラフィーを用いると問題を引き起こしかねない。例えば、試料が強い正電荷を有する粒子を含有する場合、これらの粒子は、LPSを捕捉しようとして固定化されたリガンドと競合するだろう。反対に、試料が強い負電荷を有する(LPSではない)粒子を含む場合、これらの粒子は、固定化されたリガンドと結合しようとしてLPSと競合するだろう。両方の場合に、これらの望ましくない反応は、LPS除去の効率を低下させる。イオン交換クロマトグラフィー法の土台である静電相互作用は、高いイオン強度を有する試料中であっても撹乱される可能性があり、従ってこれらの方法は、すべてのシナリオにおいて適切なものではない。
【0007】
試料からエンドトキシンを除去することに加えて、エンドトキシンを検出することができ、それによって治療用の製品、装置、試薬等を「エンドトキシンフリー」、従って治療用途の使用に安全であると保証することができることも望ましい。これに関して、エンドトキシンを検出するもっとも普通の方法は、現在、カブトガニ アメボサイト溶解液(LAL:Lumulus amebocyte lysate)アッセイである。LALアッセイは、FDAおよびEFSAによって医療用および治療用の製品中のエンドトキシンの検出用に承認され、検出範囲は1ピコモル濃度(0.1EU/mL)に達している。このアッセイは、カブトガニ(Limulus)属のカブトガニ(horseshoe crabs)の血液中に見いだされるアメボサイト(amebocyte)の溶解液(lysate)を用い、この溶解液は、タンパク質と酵素との複雑な混合物を含有する。詳しくは、LALアッセイは、LPS結合すると始動される酵素「(カブトガニ凝固)C因子」(普通は単にC因子として知られる)の活性に基づく。C因子は、最終的にはLPSの存在を示す、下流への酵素反応の複雑なカスケードを活性化するトリプシンタイプのセリンプロテアーゼである。しかし、この反応カスケードは、ある範囲の細菌、菌類および植物中に普通に見いだされるβ-グルカンによっても活性化され得る。よって、β-グルカンは、LALアッセイにおいて偽陽性の結果を引き起こし得る。そのうえ、アメボサイト溶解液は、製造するのが非常に高価であり、現行の製造方法は、持続可能でない。
【0008】
カブトガニの乱獲から、エンドトキシン検出のための代替方法の開発が求められることになった。色素生成基質を開裂させるために、組み換え法によって発現されたC因子を用いる類似のアッセイが開発され、従ってLPSがより直接的に検出されることが可能になった。しかしながら、組成の複雑さに起因して、依然として価格が高い。
【0009】
さらに、C因子の活性は、例えば温度またはpHの変動、有機溶媒、尿素または強い界面活性剤などの変性化合物および通常のプロテアーゼ阻害剤に起因して容易に撹乱され得る。異なるC因子調製物の間にはバッチ間変動もあり得る。このことは、この酵素を使いにくくし、C因子に依拠するLALアッセイを用いて得られる結果が多くの場合に特に一貫性または再現性が高くないことを意味する。
【0010】
すべての検出方法に影響を及ぼす、LPSの検出におけるさらなる課題は、LPSが凝集する傾向である。エンドトキシン分子には水溶液中で凝集体を形成する傾向があることは、当分野において公知である。この凝集は、溶液中の陽イオン(特にCa2+およびMg2+などの2価陽イオン)の存在によって、またLPSの周りにミセルを形成することができる界面活性剤の存在によって増大する。この凝集は、溶液中の測定可能なLPSの量を減らす影響を及ぼし、従って低濃度のLPSの検出を妨げる。この影響は、「LPSマスキング」として知られ、広い範囲の種々の薬剤が原因となり得る。例えば、血液試料中にはLPSをマスクすることができるいくつかの化合物、例えばLPS結合タンパク質、抗LPS抗体および2価陽イオンがある。さらに、異なる細菌源からのエンドトキシン分子は、異なる分子量を有することがあり、異なる凝集挙動を示すことがあり、そのことが異なる供給源由来の同じ濃度のLPSを測定するときに変動し得る結果をもたらす結果を生む。よって、LPSを除去するかまたは検出するために用いることができる、改善されたLPS結合剤を提供すると有用な場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ピーターソン(Peterson)、A.A.およびマグローティ(McGroarty)、E.J.、「サルモネラ・ティフィムリウム、サルモネラ・ミネソタおよび大腸菌のリポ多糖中の高分子量成分(High-molecular-weight components in lipopolysaccharides of Salmonella typhimurium, Salmonella minnesota, and Escherichia coli)」、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)、162巻738~745頁(1985年)。
【非特許文献2】ヒッチコック(Hitchcock)、P.J.ら、「リポ多糖命名法―過去、現在および未来(Lipopolysaccharide nomenclature ― past, present, and future)」、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、doi:10.1128/jb.166.3.699-705.1986。
【非特許文献3】ベルターニ(Bertani)、B.およびルイス(Ruiz)、N.、「リポ多糖の機能および生物発生説(Function and Biogenesis of Lipopolysaccharides)」、エコサル・プラス(EcoSal Plus)、8巻1号、doi:10.1128/ecosalplus.esp-0001-2018。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、α-ヘリックスコイルドコイル構造を有するオリゴマータンパク質の形の新規なLPS結合剤を開発した。
【0013】
本明細書において開示される新しいLPS結合剤は、酵母転写因子GCN4中に見いだされ得るα-ヘリックスコイルドコイル構造に基づいており、このタンパク質の短いC末端区間(stretch)がロイシンジッパーと呼ばれる、高度に安定な二量体コイルドコイル構造を形成する。
【0014】
よって、第1の側面では、本明細書において、リポ多糖(LPS)に結合するための結合剤としてのオリゴマータンパク質の使用が提供され、該オリゴマータンパク質は、コイルドコイル構造を有し、少なくとも2つのモノマーペプチドを含み、各モノマーペプチドは同じであっても異なっていてもよく、α-ヘリックスを形成することができ、配列番号1のヘプタッド(7アミノ酸)繰り返し配列と少なくとも60%の配列同一性を有する少なくとも1つのコア配列を含む。
【0015】
両親媒性α-ヘリックス(もしくはα-ヘリックス鎖)を含むか、または両親媒性α-ヘリックス(もしくはα-ヘリックス鎖)で構成されたコイルドコイルタンパク質の特性に違わず、コイルドコイルオリゴマータンパク質は、疎水性コアを有する。疎水性コアは、疎水性コア構造中で互いに向かい合っている疎水性残基を含む。
【0016】
従って、詳しくは、ペプチドモノマーのコア配列は、少なくとも3つのヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gまたはその変異形を含むことがあり、各変異形は、ヘプタッドモチーフへの1つ以下の挿入または欠失を含む。さらに、一実施形態においてヘプタッドモチーフまたはその変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、疎水性残基である。別の実施形態において、ヘプタッドモチーフまたはその変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも75%は、疎水性残基である。
【0017】
よって、この側面の一実施形態において、本明細書において、リポ多糖(LPS)に結合するための結合剤としてのオリゴマータンパク質の使用が提供され、該オリゴマータンパク質は、コイルドコイル構造を有し、少なくとも2つのモノマーペプチドを含み、各モノマーペプチドは同じであっても異なっていてもよく、α-ヘリックスを形成することができ、配列番号1のヘプタッド繰り返し配列と少なくとも60%の配列同一性を有する少なくとも1つのコア配列を含み、該コア配列は、少なくとも3つのヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gまたはその変異形を含み、各変異形は、ヘプタッドモチーフへの1つ以下の挿入または欠失を含み、該ヘプタッドモチーフまたはその変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、疎水性残基である。
【0018】
コイルドコイルタンパク質の疎水性コアのアミノ酸残基の組成は、完全に疎水性残基であるかまたは疎水性残基だけである必要はなく、親水性残基、例えば極性残基を含む他の残基が存在してよい。従って、特定の実施形態において、ヘプタッドモチーフまたはその変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも52.5、55、60、62.5、70または75%は、疎水性残基である。
【0019】
第2の側面では、本明細書において、LPSに結合する方法が提供され、該方法は、LPSまたはLPSを含有する試料を本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と接触させて該タンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するようにLPSに結合することを可能にするステップを含む。
【0020】
一実施形態において、本方法は、インビトロの方法である。
【0021】
第3の側面では、本明細書において、本明細書において定義される、LPSに結合するための結合剤として使用されるか、または本明細書において定義されるLPSに結合する方法において使用されるキットであって、
(i)本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と;
(ii)少なくとも1種類の非変性型界面活性剤と、
を含むキットが提供される。
【0022】
本明細書における使用および方法は、試料中のLPSまたは試料からLPSを検出および/または除去する際に使用されることがある。
【0023】
高い親和力で広い範囲のエンドトキシンに結合するその能力に起因して、本オリゴマータンパク質は、エンドトキシン結合、検出および除去を含む様々な用途において使用されるのに適している。これに関して、本オリゴマータンパク質は、固体基質上に固定化されることがある。例えば、このオリゴマータンパク質は、カラムまたはフィルター、例えばスピンカラムフィルターまたはフローカラムにおいて使用されるために樹脂上に固定され、上記で概略が示されたエンドトキシン除去方法におけるように前記フィルターまたはカラムにアプライされた試料からのエンドトキシンに結合し、除去することがある。本オリゴマータンパク質は、所定の試料中のエンドトキシンの存在を検出することと、また試料、試薬、製品等がエンドトキシンフリーであってエンドトキシンが検出されないことを保証することとの両方のために、エンドトキシン検出システム中でも用いられることがある。これに関して、オリゴマータンパク質は、エンドトキシンの検出を容易にするために第2の成分との接合体または融合体、例えば検出用部分との接合体または適当な融合相手との融合タンパク質の形で提供されることがある。
【0024】
第4の側面では、本明細書において、固体基質上に固定化された、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質を含む製品が提供される。
【0025】
上記のように、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、リピドA成分を介してLPSと相互作用すると理解される。従って、第5の側面では、本明細書において、LPSのリピドAに結合するための結合剤としての本明細書において定義されるオリゴマータンパク質の使用が提供される。
【0026】
同様に、第6の側面では、本明細書において、LPSのリピドAに結合する方法が提供され、該方法は、リピドAまたはリピドAを含有する試料を本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と接触させて、該タンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するようにリピドAと結合することを可能にするステップを含む。
【0027】
第7の側面では、本明細書において、本明細書において定義されるリピドAに結合するための結合剤として使用される、または本明細書において定義されるリピドAに結合する方法において使用されるキットが提供され、該キットは、
(i)本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と;
(ii)少なくとも1種類の非変性型界面活性剤と、
を含む。
【0028】
本明細書に記載されるオリゴマータンパク質は、LPSに結合するための代替結合剤を提供する。一実施形態において、本明細書における開示は、LPSのための改善された結合剤を提供する。
【0029】
本明細書におけるLPS結合剤は、複数の利点を有する。さらに、本結合剤は、公知のLPS結合方法および検出方法と関連した、上記で概略が示された複数の課題に対処していることが分かる。
【0030】
LPS検出の観点で、本明細書において記載されるオリゴマータンパク質は、カブトガニから採取される高価な溶解液を用いる必要をなくし、C因子の使用に依拠するLPS検出方法、例えばLALアッセイおよびその組み換え体変法の使用に関連する一貫性および再現性の課題を回避する。
【0031】
さらに、本明細書において記載されるオリゴマータンパク質は、LPS凝集体を溶解させることができる。よって、本オリゴマータンパク質は、LPSマスキングを軽減し、そのようなLPS凝集体を含む試料中のLPSの測定可能な濃度を効果的に増大させることができる。このことによって、試料中の低濃度のLPSが検出されることが可能になる。
【0032】
本明細書において記載されるオリゴマータンパク質は、比較的短いペプチド配列を含み、従っていくつかの実施形態において、本オリゴマータンパク質は、合成的に製造され、生物発現システムをまったく必要としないことがある。
【0033】
次に、以下の図面を参照し、以下の記載および非限定的な実施例において本発明をより詳しく記載する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A図1Aは、PDB-ID 2YO0(ハートマン(Hartmann)ら、2012年)出典のGCN4-pII三量体の構造を示す側面図である。
図1B図1Bは、PDB-ID 2YO0(ハートマンら、2012年)出典のGCN4-pII三量体の構造を示す正面図であり、位置aおよびdのコアイソロイシン残基が緑に着色されている。
図2図2は、S.ティフィムリウム(S.typhimurium)由来LPSに基づく、LPSの一般的構造の概略版を示す。リピドA部分(挿入図)は、2つのホスホグルコサミンからなり、Oで繋がれた4つのアシル鎖とNで繋がれた2つのアシル鎖が外膜に埋め込まれている。コアオリゴ糖(COS)は、グリコシド結合によってリピドAに繋がれ、最後から2番目のCOS糖にO抗原が繋がれている。O抗原は、4~40繰り返し単位の間で変わる数の4糖繰り返しからなり、平均は30繰り返しである(ピーターソン(Peterson)およびマグローティ(McGroarty)、1985年)。リピドAおよび近位の2つの3-デオキシ-D-マンノ-オクタ-2-ウロソン酸(KDO)糖は、グラム陰性種の中では高度に保存され、一方、COSの残りおよびO抗原は、細菌種の間および血清型の間でそれぞれ保存されている。
図3図3A図3Dは、固定化されたK9-GCN4-PIIへの種々のLPS成分の注入後のSPR結合曲線を示す。垂直な線は、注入の開始および終了を示す。図3Aは、LPS全体(whole LPS)の注入を示す。図3Bは、O抗原を欠くラフLPSの注入を示す。図3Cは、2つの近位KDO以外のすべての糖を欠くディープラフLPSの注入を示す。図3Dは、リピドAを欠くLPS多糖の注入を示す。
図4図4は、図3において試験されたLPS成分のそれぞれについて、リガンドのモル濃度で規格化された、注入の終了時のSPR差分値のグラフを示す。
図5図5は、2つのGCN4含有コンストラクトK9-His(左)およびK14-His(右)へのLPSのELITA結合曲線を示す。
図6図6は、LPS単独(上)ならびにLPSとGCN4-pII(下)との4k倍(左)および8k(右)倍のTEM像を示す。
図7図7は、産生されたコンストラクトの図式的な概観を示す。SadAに由来するコンストラクトは、アルバレス(Alvarez)ら(アルバレスら、2008年)およびハートマン(Hartman)ら(ハートマンら、2012年)に初めて記載された。アンドレイNルパス(andreinlvpas)コンストラクトは、ダイス(Deiss)ら(ダイスら、2014年)によって初めて記載された。GCN4コンストラクトは、ジェンスクリプト(GenScript)(ジェンスクリプトパイオテック社(GenScript Biotech Corp))によって合成された。
図8図8A図8Dは、種々のS.ティフィムリウムLPS成分とともに固定化されたK9についてのSPR Fc1、Fc2およびFc1-F2曲線を示す。図8Aは、スムースLPSの場合である。図8Bは、ラフLPSの場合である。図8Cは、ディープラフLPSの場合である。図8Dは、LPSに由来する多糖の場合である。
図9図9A図9Dは、種々のS.ティフィムリウムLPS成分とともに固定化されたK14についてのSPR Fc1、Fc2およびFc1-F2曲線を示す。図9Aは、スムースLPSの場合である。図9Bは、ラフLPSの場合である。図9Cは、ディープラフLPSの場合である。図9Dは、LPSに由来する多糖の場合である。
図10図10A図10Dは、種々のS.ティフィムリウムLPS成分を有する固定化されたK3(Fc1チャンネル)およびK3-His(Fc2チャンネル)についてのSPR Fc1、Fc2およびFc1-F2比較曲線を示す。図10Aは、スムースLPSの場合である。図10Bは、ラフLPSの場合である。図10Cは、ディープラフLPSの場合である。図10Dは、LPSに由来する多糖の場合である。
図11図11は、K9およびK14によるELITA実験の絶対値(上)ならびに構成および陰性対照(下)を示す。SadA=サルモネラ成分K9またはK14。BSA=ウシ血清アルブミン。TSP=ファージテールスパイクタンパク質。ST-HRP=セイヨウワサビペルオキシダーゼ接合ストレプトアクチン。
図12図12は、GCN4-pII単独およびLPS存在時のCDスペクトルを示す。LPSへの結合の前後でGCN4-pIIの二次構造組成において最小限の変化があることが分かる。
図13図13は、0.5EU/mLのLPSでスパイクされた10~0.1μMの範囲の濃度のGCN4-pIIのマスキング効果を示すLALアッセイの結果のグラフを示す。1μM GCN4-pIIにおいて最適なマスキングが観測され、マスキング効果は全信号の89%であった。
図14図14は、GCN4-pIIの2D 1H-1H TOCSY NMRスペクトルのフィンガープリント領域を示す。予測された29のスピン系のすべてが良好に分解され、ピーク分裂の徴候がなく帰属可能であり、試料は溶液中で均一であることを示した。
図15図15は、検出のためにビオチン化LPSを用いたGCN4-pII利用ELISAの結果のグラフを示す。
図16図16は、図15のアッセイの場合と同じ試料を用いたLALアッセイの結果のグラフを示す。
図17図17は、GCN4-pII利用ELISAとLALアッセイとの結果を比較するグラフを示す。
図18図18は、様々なLPSタイプおよび対照としてのランニングバッファーであるPBS-EについてのSPR結合曲線を示す。
図19図19は、実施例5において用いられたLPS変異体の系統発生分布を示す。この図は、ベルン(Bern)およびゴールドバーグ(Goldberg)、2005年出典である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
説明
本明細書において開示されるオリゴマータンパク質は、α-へリックスコイルドコイルオリゴマー構造を有する。コイルドコイルは、巻きとられてスーパーコイル型バンドルとなった2つ以上の両親媒性α-ヘリックスからなる(ルーパス(Lupas)およびグルーバー(Gruber)、2005年)遍在性のタンパク質要素である。両親媒性α-ヘリックスコイルドコイルの主要な特性は、繰り返しヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gである。ここで、位置aおよびdは、主に疎水性親水性残基によって占められ、位置b、c、e、fおよびgは、主に親水性残基によって占められている。α-ヘリックスは、1巻きあたり3.6残基を含み、そのことは、繰り返しヘプタッドモチーフが位置aおよびdの残基をヘリックス構造の同じ面に配置することを意味する。このことは、疎水性残基は、疎水性コアと呼ばれるものの中で互いに内向きに向かい合う一方で、親水性残基は、外側を向いている、高度に安定なスーパーコイルの形成を容易にする。なお、コイルドコイルタンパク質の疎水性コアは、典型的には主に疎水性残基を含むが、コア構造中の残基のすべてが疎水性である必要はなく、コア構造中に位置する他の残基、例えば極性残基を含むことがあるが、それでもコイルドコイル型構造を保持することができるコイルドコイルタンパク質が知られている。
【0036】
本明細書におけるオリゴマータンパク質は、GCN4-pILとして知られているタンパク質GCN4のロイシンジッパー配列の変異形に基づいている。ここで、GCN4-p'ad’は、ヘプタッドモチーフ中の位置aおよびdに存在するアミノ酸を指す。位置aおよびdに存在する疎水性コア残基を、詳しくはこれらの位置に存在するロイシン残基とイソロイシン残基との比を変えることによって変異させると、タンパク質構造の好ましいオリゴマー状態を二量体から三量体(GCN4-pII)および四量体(GCN4-pLI)に変えることが可能であることが実証された(ハーベリー(Harbury)ら、1993年;デラノ(Delano)およびブリュンガー(Bruenger)、1994年)。
【0037】
これらのコイルドコイル要素の安定性とオリゴマーを形成するそれらの傾向とは、オリゴマー化を誘導し融合タンパク質中のオリゴマー構造を安定化すると同時にそのようなタンパク質の溶解性を増大させるキメラ拡張体(すなわち融合相手)としてのGCN4コイルドコイル構造の使用をもたらした。これに関して、本発明者らは、当初、LPSと三量体オートトランスポーターアドヘシンSadAに属する2つのドメインとの間で推定される相互作用を検討することを意図していた。このタンパク質を調べるために、2種類のSadAコンストラクト、K9およびK14が調製され(下記実施例1参照)、両方とも隣接GCN4-pIIセグメントによって安定化された。しかし、驚くべきことに、SadAコンストラクトを安定化するために用いられていたGCN4-pIIアダプターは、LPSに対してナノモル濃度の範囲のKDを有する極めて高い親和力を示すことが見いだされた。
【0038】
セレンディピティー的なこの発見の後に、本発明者らは、LPSに結合するための結合剤として用いることができる、GCN4-pIIタンパク質に基づくコイルドコイル構造を有するオリゴマータンパク質を開発した。さらに実験を行い、このタンパク質とLPSとの間の相互作用が、LPSのリピドA成分へのこのタンパク質の結合によって生じることを明らかにした。上記のように、リピドA成分の構造は、グラム陰性の細菌種の間で高度に保存され、従って本オリゴマータンパク質は、極めて高い親和力で広い範囲の細菌エンドトキシンに結合することができると理解される。さらに、本オリゴマータンパク質は、典型的な発現システムにおいて組み換え法により過剰発現させることができ、いかなる天然エンドトキシンとも相互作用することなく封入体から精製することができ、そのことが大規模で、持続可能でコスト効率のよい製造を可能にする。
【0039】
本明細書において記載されるオリゴマータンパク質は、少なくとも2つのモノマーペプチドを含む。これらのモノマーペプチドは、総体としてオリゴマータンパク質を構成する個々のサブユニットを代表する。各モノマーは、α-ヘリックスを形成することができる。これらのモノマーは、一緒になってオリゴマータンパク質を形成するように相互作用する別々のペプチド鎖または鎖という意味で、別々のペプチドとして提供されることがある。従って、そのような実施形態において、ペプチドモノマーは、タンパク質の個々のサブユニット、すなわち別々のモノマーペプチド単位とみなされることがある。従って、いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質中の各α-ヘリックスは、別々のモノマーに対応するとみなされることがある。
【0040】
他の実施形態において、モノマーペプチドは、繋ぎ合わされることがある。従って、モノマーペプチドは、リンカー配列によって繋がれるかまたは結合されることがある。そのような実施形態において、オリゴマータンパク質は、その一次構造または配列という観点で一本鎖形式を有するが、もちろんモノマーペプチドは、コイルドコイル構造を形成するように相互作用する「鎖」を有すると見ることができるオリゴマーコイルドコイル構造を形成するように相互作用する。そのような実施形態において、モノマーペプチドは、一本鎖タンパク質配列のドメインとみなされることがある。より詳しくは、オリゴマータンパク質は、モノマーペプチドドメインで構成された3D構造を有すると見られることがある。
【0041】
各モノマーペプチドは、配列番号1のヘプタッド繰り返し配列と少なくとも60%の配列同一性を有する少なくとも1つのコア配列を含む。配列番号1は、モデルペプチドGCN4-pIIの配列の変異形を表し、該変異形は、GCN4タンパク質のC末端にある二量体化モチーフ由来の配列に基づき、かつモチーフ中の位置aおよびdには以下に示されるようにイソロイシン残基が存在する繰り返しヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gを含む。いくつかの実施形態において、コア配列は、配列番号1と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を有することがある。いくつかの実施形態において、コア配列は、配列番号1の配列を含むかまたは配列番号1の配列からなることがある。
【0042】
配列同一性は、当分野において公知の何れかの適当な手段、例えば、可変のpamfactorでギャップクリエーションペナルティーを12.0に設定し、ギャップエクステンションペナルティーを4.0に設定し、2アミノ酸のwindowでFASTA pep-cmpを使用し、SWISS-PROTタンパク質配列データバンクを用いることによって決定されることがある。アミノ酸配列同一性を決定するための他のプログラムは、ウィスコンシン大学(the University of Wisconsin)からのジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group(GCG)のベストフィット(BestFit)プログラム、バージョン10ソフトウエアパッケージを含む。このプログラムは、スミス(Smith)およびウォーターマン(Waterman)の局所相同性アルゴリズムを使用し、既定値は、ギャップクリエーションペナルティー-8、ギャップエクステンションペナルティー=2、平均マッチ=2.912、平均ミスマッチ=-2.003である。一実施形態において、前記比較は、コア配列の全長にわたって行われる。
【0043】
【表1】
【0044】
配列番号1は、いくつかのa-b-c-d-e-f-gヘプタッドモチーフの繰り返しを含むことが分かる。上記で示されるように、a残基およびd残基は、Iである。しかし、下記でもっと詳しく考察されるように、a残基およびd残基は、変わることがあり、一実施形態において、a残基およびd残基は、IもしくはL、またはそれらの誘導体、あるいは他の疎水性残基のことがある。上記のように、ヘプタッドモチーフ中のa残基とd残基とのすべてが疎水性である必要はない。オリゴマーコイルドコイル構造が形成するのに十分な疎水性残基があれば十分である。このことは、配列の状況とモノマーペプチドの配列中に存在する他の残基とによって決まる。
【0045】
実施形態において、各モノマーペプチドのコア配列は、少なくとも3つのヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gまたはそれらの変異形を含む。ヘプタッドモチーフは、便宜的にa-b-c-d-e-f-gと書かれるが、実際にはコア配列中のヘプタッド繰り返し配列が位置aで始まるという要件はない。このモチーフは、位置aが位置gの後になって繰り返し、従って、ヘプタッドモチーフは、7つの位置a-b-c-d-e-f-gすべてを連続する順序で含むことを前提として、何れの位置から始まってもよい。よって、例えばモチーフd-e-f-g-a-b-cは、正しいヘプタッドモチーフである。
【0046】
いくつかの実施形態において、コア配列は、ヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gの1種類以上の変異形を含むことがあり、各変異形は、ヘプタッドモチーフへの1つ以下の挿入または欠失を含む。挿入または欠失を含むヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gのこれらの変異形は、まとめて「変異形モチーフ」と呼ばれる。この状況において、用語「挿入」および「欠失」は、ヘプタッドモチーフへの単一の残基の追加およびヘプタッドモチーフからの単一の残基の欠失をそれぞれ指している。
【0047】
挿入または欠失は、ヘプタッドモチーフのどちらの端も含むヘプタッドモチーフ内のあらゆる位置において行われることがある。例えば、モチーフa-b-c-d-e-f-gへの残基Xの挿入を考えると、得られるモチーフは、X-a-b-c-d-e-f-g、a-X-b-c-d-e-f-g、a-b-X-c-d-e-f-g等のことがある。重要な点として、モチーフ内の残りの位置の表示の仕方は変らないままであることが分かる。このことは、挿入と欠失との両方の場合にあてはまる。従って、例えば位置bにある残基が欠失される場合、残りのモチーフは、配列a-c-d-e-f-gを含む。
【0048】
連続するいくつかの残基の挿入または欠失は、1つの挿入または欠失であるとはみなされない。よって、各コア配列中に存在する少なくとも3つのヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフは、存在する変異形モチーフの総数より多いヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gへの挿入および欠失を含んではならない。コア配列中で互いに隣接している挿入または欠失は、連続する変異形モチーフの隣接している端にあり、かつ連続する変異形モチーフがそれぞれただ1つの挿入または欠失を含む場合にだけ許容される。そのような場合、隣接している挿入/欠失は、2つの別々の変異形モチーフ中の2つの別々の挿入/欠失の産物であると見ることができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、コア配列は、少なくとも4つのヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフを含む。いくつかの実施形態において、コア配列は、3~5のヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフを含む。例えば、コア配列は、3、4または5のヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフを含むことがある。いくつかの実施形態において、コア配列は、少なくとも3つのヘプタッドモチーフを含み、変異形モチーフを含まないことがある。他の実施形態において、コア配列は、少なくとも3つの変異形モチーフを含み、ヘプタッドモチーフを含まないことがある。さらに、コア配列は、少なくとも3つのヘプタッドモチーフと変異形モチーフとの何れかの組み合わせを含むことがあり、これらのヘプタッドモチーフおよび変異形モチーフはあらゆる順に配置されることがある。
【0050】
上記で考察されたように、コイルドコイルタンパク質構造は、各α-ヘリックス中に存在する繰り返しヘプタッドモチーフ内の疎水性残基の組織的な配置に依存する。各αヘリックス内の疎水性残基は、主にそのαヘリックスの単一の面において提示されるように配置される。表現を換えると、各αヘリックス内の残基は、そのαヘリックスの一つの面に提示される残基が主に疎水性であるように配置される。このことは、オリゴマータンパク質中の各αヘリックスの疎水性の面がタンパク質構造の中心において安定な疎水性コアを形成することを可能にする。ヘプタッドモチーフのあらゆる繰り返し内の位置aと位置bとの両方に疎水性残基が存在することは必須ではないが、典型的には、これらの位置の大部分は疎水性残基によって占められている。本明細書において定義されるコイルドコイルオリゴマータンパク質中のこの構造を容易にするために、一実施形態において、コア配列内でヘプタッドモチーフまたはその変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、疎水性残基である。上記の構成に示されるように、配列番号1におけるヘプタッドモチーフの位置aおよびdは、配列の位置4、8、11、15、18、22、25および29によって表される。従って、代りの定義として、配列番号1の位置4、8、11、15、18、22、25および29に対応する位置におけるアミノ酸残基の少なくとも50%は疎水性残基であることが分かる。従って、一実施形態において、配列番号1のヘプタッド繰り返し配列中の8つの「a」または「d」位置のうち少なくとも4つは、疎水性残基である。
【0051】
より詳しくは、配列番号1のヘプタッド繰り返し配列中のヘプタッドモチーフの位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも52.5%、55%、60%、62.5%または70%は、疎水性である。しかし、代表的な一実施形態において、配列番号1のヘプタッド繰り返し配列中のヘプタッドモチーフの位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも75%は、疎水性である。従って、一実施形態において、配列番号1のヘプタッド繰り返し配列中の8つの「a」または「d」位置のうち少なくとも6つは、疎水性残基である。
【0052】
代表的な例として、配列番号1の配列においてa残基またはd残基、すなわち配列番号1の位置4、8、11、15、18、22、25および29に対応する残基のうち、少なくとも4つ、5つ、6つまたは7つは、疎水性残基のことがある。
【0053】
コイルドコイルタンパク質構造および配列の知識に基づけば、配列番号1の改変されたペプチドまたは変異形ペプチドに基づくコイルドコイル構造を得るために配列改変を行うことは、ヘプタッドモチーフ中の他の位置に対して位置aおよびdにおける残基の置換を含めて当業者の日常的な知識の範囲内であろう。
【0054】
本明細書において用いられる用語「疎水性残基」は、当分野において疎水性であると認識または特定されるあらゆるアミノ酸の残基を含む。そのようなアミノ酸は、以下のタンパク質構成アミノ酸;ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリンおよびグリシンを含む。しかし、実施形態において、疎水性残基は、アミノ酸ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、あるいはそれらの化学誘導体から選ばれる。別の実施形態において、疎水性残基は、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニンおよびメチオニンならびにこれらのアミノ酸の化学誘導体から選ばれる。コア配列中に存在する疎水性残基は、非従来型疎水性アミノ酸、すなわち標準的な遺伝コードによってコードされない側鎖を有する疎水性アミノ酸も含むことがある。詳しくは、これらのアミノ酸のフルオロ誘導体、例えばフルオロイソロイシンおよびフルオロロイシンが含まれる。他の公知の誘導体は、セレノ誘導体、例えばセレノメチオニンを含む。そのような非従来型疎水性アミノ酸のさらなる例が、上記で定義された従来型疎水性アミノ酸のD-アミノ酸変異形(D-アミノ酸が含まれる場合、すべてのアミノ酸がD-アミノ酸のことがある)、L-N-メチルアミノ酸変異形、D-αメチルアミノ酸変異形およびD-N-メチルアミノ酸変異形を含めて下表1に列挙されている。
【0055】


【表2-1】
【0056】
【表2-2】
【0057】
いくつかの実施形態において、ヘプタッドモチーフまたはそれらの変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%は、疎水性残基である。表現を換えると、配列番号1の位置4、8、11、15、18、22、25および29に対応する位置におけるアミノ酸残基の少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%は、疎水性残基である。
【0058】
いくつかの実施形態において、ヘプタッドモチーフまたはそれらの変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の100%は、疎水性残基である。表現を換えると、配列番号1の位置4、8、11、15、18、22、25および29に対応する位置におけるアミノ酸残基の100%は、疎水性残基である。
【0059】
コア配列内の疎水性残基は、すべてが同じであるか、または互いに異なることがある。いくつかの実施形態において、ヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ中の各疎水性残基は、独立に、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニンならびにそれらのフルオロ誘導体を含むそれらの化学誘導体からなる群から選ばれる。一実施形態において、ヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ中の各疎水性残基は、独立に、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニンならびにそれらのフルオロ誘導体またはセレノ誘導体を含むそれらの化学誘導体からなる群から選ばれる。一実施形態において、ヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ中の各疎水性残基は、独立に、ロイシン、イソロイシンならびにそれらの化学誘導体、例えばフルオロロイシンおよびフルオロイソロイシンからなる群から選ばれる。
【0060】
いくつかの実施形態において、ヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ中の疎水性残基の少なくとも50%は、イソロイシンまたはフルオロイソロイシンである。いくつかの実施形態において、ヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ中の疎水性残基の少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%は、イソロイシンまたはフルオロイソロイシンである。いくつかの実施形態において、ヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ中の疎水性残基の100%は、イソロイシンまたはフルオロイソロイシンである。
【0061】
コイルドコイル構造の疎水性コアの一部を形成しない残基、すなわち位置b、c、e、fおよびgにおける残基は、一般にタンパク質の表面により近く、従って環境に露出されている。これらの残基が何であるかは重要ではなく、これらの残基は、変ってよい。いくつかの実施形態において、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%は、極性残基である。いくつかの実施形態において、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%は、極性残基である。いくつかの実施形態において、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の100%は、極性残基である。
【0062】
本明細書において用いられる用語「極性残基」は、当分野において極性と認識または特定されているあらゆるアミノ酸の残基を含む。この用語は、電荷を有するアミノ酸を含む。極性アミノ酸残基は、アミノ酸セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アルギニン、リジン、チロシン、システイン、トリプトファン、メチオニンならびにこれらのアミノ酸の化学誘導体の残基から選ばれることがある。一実施形態において、極性アミノ酸残基は、アミノ酸セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アルギニン、リジン、チロシンの残基から選ばれることがある。さらに、コア配列中に存在する極性残基は、非従来型極性アミノ酸、すなわち標準的な遺伝コードによってコードされない側鎖を有する極性アミノ酸も含むことがある。そのような非従来型極性アミノ酸の例が、上記で定義された従来型極性アミノ酸のDアミノ酸変化形、アミドイソスター変化形(N-メチルアミド、レトロ-インバースアミド、チオアミド、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル、(E)-ビニル、メチレンアミノ、メチレンチオまたはアルカンなど)、L-N-メチルアミノ酸変化形、D-αメチルアミノ酸変化形およびD-N-メチルアミノ酸変化形を含めて、下表2に列挙されている。上記のように、D-アミノ酸が用いられる場合、モノマーペプチド中のすべてのアミノ酸がD-アミノ酸のことがある。
【0063】
【表3-1】
【0064】
【表3-2】
【0065】
ヘプタッドモチーフ内の疎水性アミノ酸と極性アミノ酸との首尾一貫した配置がコイルドコイルタンパク質の構造の原因であるが、残基の位置に関する一般的な規則は、不変というわけではない。すなわち、コア配列のヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ内の位置aまたはdに対応する残基は、すべてが疎水性というわけではないのと同様に、コア配列のヘプタッドモチーフまたは変異形モチーフ内の位置b、c、e、fまたはgに対応する残基は、すべてが極性でなければならないわけではない。いくつかの実施形態において、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも5%は、脂肪族残基のことがある。いくつかの実施形態において、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも10%または少なくとも15%は、脂肪族残基のことがある。
【0066】
本明細書において用いられる用語「脂肪族残基」は、アミノ酸グリシン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、バリンおよびメチオニンならびにこれらのアミノ酸の化学誘導体、特にフルオロロイシンおよびフルオロイソロイシンを含むそれらのフルオロ誘導体を含む。さらに、コア配列中に存在する脂肪族残基は、非従来型脂肪族アミノ酸、すなわち標準的な遺伝コードによってコードされない側鎖を有する脂肪族アミノ酸、例えばDアミノ酸変化形およびその他の非従来型脂肪族アミノ酸も含むことがある。
【0067】
コア配列は、上記で定義された特定の百分率の極性残基と、上記で定義された特定の百分率の脂肪族残基とを含むことがある。例えば、いくつかの実施形態において、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%(または上記で定義された50%超)は、極性残基のことがあり、位置b、c、e、fおよびgに対応するアミノ酸残基の少なくとも5%(または上記で定義された5%超)は、脂肪族極性残基のことがある。しかし、このことは、不可欠ではなく、上記のように変ってよい。
【0068】
いくつかの実施形態において、本明細書において定義されるコア配列は、一方の側または両方の側でフランキングアミノ酸配列と接していることがある。コア配列が両方の側で挟まれている場合、コア配列の一方の側のフランキング配列は、コア配列の他方の側のフランキング配列と同じであることも異なることもある。フランキング配列は、オリゴマータンパク質のコイルドコイル構造の一部を形成することも形成しないこともある。従って、フランキング配列は、モノマーペプチドのα-ヘリックス構造に寄与するかまたはα-ヘリックス構造の一部となることがあり、ならびに/あるいは別の面でコイルドコイル構造に寄与するかまたはコイルドコイル構造の一部を形成することがあり、あるいは、モノマーペプチド配列の別の一部になることがある。フランキング配列は、様々な機能を実行するかまたはオリゴマータンパク質に特性を付与するために用いられることがある。フランキング配列は、例えば、モノマーペプチドのヘプタッド繰り返し配列を延ばすために、モノマーペプチドのオリゴマー化を支援するために、モノマーペプチドを繋ぐ(例えば一本鎖コンストラクト内で)ために、またはオリゴマータンパク質に個別の機能部分を提供するために用いられることがある。
【0069】
フランキング配列の長さは、重要ではなく、フランキング配列の必要および所望、あるいは性質および/またはその目的によって変わることがある。例えば、フランキング配列の長さは、1~300アミノ酸、例えば2、3、4、5、6または7アミノ酸の何れか1つ~270、250、240、230、220、210または200アミノ酸の何れか1つのことがある。これらの範囲は、例としてだけ示され、フランキング配列の長さに対する制限はない。実施されるいくつかの実施形態において、フランキング配列は、最高170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、20または10アミノ酸のことがある。いくつかの実施形態において、例えば最大20、15、12、10、8、7または6の短いフランキング配列が好ましい。
【0070】
よって、いくつかの実施形態において、フランキング配列は、1つ以上のヘプタッドモチーフおよび/または1つ以上のヘプタッドモチーフの一部を含むことがある。この状況において、ヘプタッドモチーフの一部は、ヘプタッドモチーフの連続する部分を構成する1、2、3、4または5つの残基を含むことがある。いくつかの実施形態において、フランキング配列中のヘプタッドモチーフは、ヘプタッドモチーフの位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも1つが疎水性残基であるという前提で、配列番号1またはそれと少なくとも60%(例えば少なくとも70%、80%、90%)の配列同一性を有する配列において見いだされるヘプタッドモチーフに対応する。いくつかの実施形態において、フランキング配列は、配列番号1、またはその一部、またはそれと少なくとも60%(例えば少なくとも70%、80%、90%)の配列同一性を有する配列を含むことがある。さらに、そのような実施形態において配列番号1のヘプタッドモチーフまたはその変異形の位置aおよびdに対応するアミノ酸残基の少なくとも50%(例えば少なくとも75%)は、疎水性残基である。
【0071】
フランキング配列が1つ以上のヘプタッドモチーフ、または1つ以上のヘプタッドモチーフの一部を含むとき、そのような部分をコア配列のヘプタッドモチーフの続きとして見ることがある。その結果、オリゴマータンパク質のコイルドコイル構造の一部を形成するモノマータンパク質のα-ヘリックスは、コア配列の端を超えて延びることがある。
【0072】
いくつかの実施形態において、コア配列のヘプタッドモチーフとフランキング配列のヘプタッドモチーフとは、連続している。すなわち、フランキング配列の第1の残基(すなわちコア配列の端に直接隣接する残基)は、コア配列の隣接する末端残基に対応する位置の次のヘプタッドモチーフの位置に対応する。このようにして、繰り返しヘプタッドモチーフa-b-c-d-e-f-gは維持され、コア配列のヘプタッドモチーフとフランキング配列のヘプタッドモチーフとの間には隙間がない。
【0073】
他の実施形態において、フランキング配列は、コア配列のヘプタッドモチーフと完全に連続してはいない1つ以上のヘプタッドモチーフを含むことがある。すなわち、コア配列中のヘプタッド繰り返しと、連続する繰り返しヘプタッドモチーフの一部を形成しないフランキング配列中のヘプタッド繰り返しと、の間に1つ以上の残基がある場合がある。
【0074】
いくつかの実施形態において、コア配列とフランキング配列とは、各モノマーペプチドがヘプタッドモチーフの8より多い繰り返しを含まないように配置されることがある。いくつかの実施形態において、モノマーペプチドは、ヘプタッドモチーフの7より多い繰り返し、6より多い繰り返しまたは5より多い繰り返しを含まない。言い換えると、オリゴマータンパク質のモノマーペプチドは、最大8、7、6または5のヘプタッド繰り返しを含むことがある。
【0075】
いくつかの実施形態において、モノマーペプチドのフランキング配列は、コア配列と、連続するα-ヘリックスを完全には形成しないことがあり、従って完全にはオリゴマーペプチドのコイルドコイル構造の一部でないことがある。
【0076】
いくつかの実施形態において、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、1つ以上の追加の成分または部分との接合体または融合体の形のことがある。下記でより詳しく示されるように、オリゴマータンパク質は、検出用部分、オリゴマー化用部分または固定化用部分、あるいは実際に何れかの所望の成分または部分、例えば機能用または構造用の成分または部分との接合体の形のことがある。接合された部分は、あらゆる化学的または物理的な性質、例えば小分子または高分子のことがある。オリゴマータンパク質は、融合相手との融合タンパク質の形のことがある。従って、検出用部分または固定化用部分、あるいは他の追加部分は、事実上、タンパク質性のことがある。すなわち、そのような部分は、ポリペプチド成分であることもないこともある(本明細書において用語「ポリペプチド」は、長さに関わらずあらゆるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を含むために用いられる)。オリゴマー化用部分は、ポリペプチドのことがある。さらに、オリゴマータンパク質は、固体基質上に固定化されることがある。よって、いくつかの実施形態において、1つ以上の追加の成分は、検出用部分、オリゴマー化用部分、固定化用部分または融合相手のことがある。
【0077】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質が接合または融合される相手の1つ以上の追加成分は、オリゴマータンパク質を構成するモノマーペプチドの1つ以上の中のフランキング配列の全部または一部を形成することがある。他の実施形態において、接合される部分は、別個の成分(すなわちオリゴマータンパク質またはそのモノマーペプチドとは別個)のことがある。
【0078】
フランキング配列内の追加の成分の存在は、同じフランキング配列の中の1つ以上のヘプタッドモチーフの存在に加えて、または同じフランキング配列の中の1つ以上のヘプタッドモチーフに代り得ることが理解されよう。すなわち、所定のフランキング配列は、1つ以上のヘプタッドモチーフまたはそれらの一部と、1つ以上の追加の成分と、の両方を含むことがある。フランキング配列が1つ以上のヘプタッドモチーフまたはそれらの一部と、1つ以上の追加の成分と、を実際に含む場合、フランキング配列は、1つ以上のヘプタッドモチーフまたはそれらの一部が1つ以上の追加の成分よりコア配列に近くなるように配置されることがある。
【0079】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、単一の追加の成分との融合体または接合体の形である。追加の成分は、モノマーペプチドの1つの中のフランキング配列の全部または一部を形成することがある。あるいは、オリゴマータンパク質は、2つ以上の追加の成分との融合体または接合体の形のことがある。いくつかの実施形態において、追加の成分は、同じモノマーペプチド内の同じフランキング配列の全部または一部を形成することがある。いくつかの実施形態において、単一のモノマーペプチドは、両方の側でフランキング配列によって挟まれ、各フランキング配列が1つ以上の追加の成分を含む、コア配列を含むことがある。さらに、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、上記で示された配置の何れにおいても1つ以上追加の成分をそれぞれが含むいくつかのモノマーペプチドを含むことがある。
【0080】
オリゴマー化用部分との接合体の形のオリゴマータンパク質の場合、オリゴマー化用部分は、いくつかのオリゴマー化用配列で構成されることがあり、各モノマーペプチドは、オリゴマー化用配列を含む。よって、オリゴマータンパク質は、少なくとも2つのモノマーペプチドで構成されることがあり、各モノマーペプチドは、フランキング配列中にオリゴマー化用配列を含む。
【0081】
本明細書において開示されるオリゴマータンパク質のコイルドコイル構造は、モノマーペプチドが互いに接触させられるとき自発的に形成することがある。あるいは、オリゴマー構造の形成は、速度論的障壁を乗り越えるためおよびモノマーペプチド同士を一緒にするために『トリガー』を必要とすることがある。さらに、いくつかの実施形態において、タンパク質のオリゴマーコイルドコイル構造を安定化させることが必要な場合がある。オリゴマーコイルドコイル構造のこの始動および安定化は、オリゴマー化用配列によって実現されることがある。オリゴマー化用配列とは、オリゴマー化する、すなわちオリゴマーを形成するためにそれ自体の他のコピーと相互作用することができるタンパク質配列である。オリゴマー化は、協同的である、すなわち、より大きなタンパク質の特定の部分が容易におよび安定的にオリゴマー化することができる場合、このことは、そうでない場合には起こらない、タンパク質構造の残りの中でのオリゴマー化を誘導する助けとなり得ることが理解されよう。例えば、付着タンパク質の頭部ドメイン、例えばYadA頭部ドメインは、他のドメインでは形成するのに十分なほど安定ではないコイルドコイル構造の形成を誘導することができることが当分野において公知である。GCN4タンパク質も三量体自己輸送体付着因子を安定化させるために同様な方法で用いられた(ハートマン(Hartmann)ら、2012年)。従って、このドメインまたは当分野において公知の他の同等なドメインがオリゴマー配列として用いられることがある。上記のように、オリゴマータンパク質がオリゴマー化用部分と接合されるとき、オリゴマータンパク質内の各モノマーペプチドは、オリゴマー化用配列を含むことがある。
【0082】
さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態において、コイルドコイル構造の始動および安定化は、モノマーペプチドを繋ぎ合わせることによって実行されることがある。
【0083】
本明細書において定義されるモノマーペプチドは、ある程度孤立状態において考えることができるが、いくつかの実施形態において、本明細書において開示されるオリゴマータンパク質内のモノマーペプチドの2つ以上が繋ぎ合されることがある。よって、フランキング配列は、1つ以上のリンカー配列を含むことがある。フランキング配列は、1つ以上のヘプタッドモチーフまたはそれらの一部ならびにフランキング配列の中に含まれることがある1つ以上の追加の成分に加わるか、またはそれに代わることがある。フランキング配列は、ヘプタッドモチーフおよび/またはそれらの一部、1つ以上の追加の成分および/または1つ以上のリンカー配列のあらゆる組み合わせを含むことがあることが理解されよう。
【0084】
リンカー配列は、オリゴマータンパク質の少なくとも一部分内の単一のペプチド鎖を形成するように、1つのモノマーペプチドを別のモノマーペプチドに繋ぐことができる。2つのモノマーペプチドがリンカー配列を介して繋がれる場合、モノマーペプチドの一方(すなわち第1のモノマーペプチド)は、リンカー配列全体を含むフランキング配列を含み、リンカー配列は、他方のモノマーペプチドのコア配列に直接接合する(すなわちコア配列のその端にフランキング配列を有する第2のモノマーペプチドはない)と考えられることがある。あるいは、2つのモノマーペプチドの間の繋がりは、一部は第1のモノマーペプチドのフランキング配列で、一部は第2のモノマーペプチドのフランキング配列で構成されている(すなわち両方のモノマーペプチドがリンカー配列を含むフランキング配列を含んでいる)と考えられることがある。
【0085】
モノマーペプチドの中にそのモノマーペプチドを繋ぎ合せるためにリンカー配列が含まれる場合、2つのモノマーペプチドの間のフランキング配列がリンカー配列および任意選択としてヘプタッド繰り返しモチーフまたはそれらの一部以外に何も含まないと好都合なことがある。しかし、繋がれたモノマーペプチドの鎖のどちらかの端におけるフランキング配列は、追加の配列(例えば上記で考察された)を含むことがある。表現を換えると、そのような、繋がれた、例えば単一鎖コンストラクトにおいて、オリゴマータンパク質は、追加の部分との接合体の形のことがある。言い換えると、追加の部分は、モノマーペプチドの一部ではなく、それに接合されていることがある。
【0086】
リンカー配列は、可変長さおよび/または配列のことがある。リンカー配列は、モノマーペプチドによって形成されたヘリックスが集ってコイルドコイルになることを可能にするのに十分な長さでなければならないことが理解され得る。しかし、リンカー配列の最大長さについて機能上の制約はない。よって、リンカー配列は、長さが少なくとも2残基、例えば長さが少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25または30残基のことがある。
【0087】
例えば、他の実施形態において、リンカー配列は、2~60残基、特に5~55、10~50、15~45または20~40残基を含むことがある。一実施形態において、リンカー配列は、2~50、3~40、4~30、5~20または6~15残基を含むことがある。リンカー配列の中に存在する残基の性質は、重要ではない。残基は、あらゆるアミノ酸、例えば中性アミノ酸または脂肪族アミノ酸のことがあり、あるいは、極性アミノ酸または電荷を有するアミノ酸または構造形成アミノ酸、例えばプロリンのことがある。実施形態において、リンカー配列は、柔軟なリンカー配列である。用いられる可能性がある種々の柔軟なリンカーが公知であり、当分野において広く記載されている。代表的な例として、リンカー配列中のアミノ酸の少なくとも70%は、グリシン、セリン、トレオニン、アラニン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リジン、アルギニンあるいはそれらの誘導体から選ばれることがある。いくつかの実施形態において、リンカーは、グリシンの多い配列またはグリシン-セリンの多い配列である。
【0088】
各モノマーペプチドは、上記において定義されたように、少なくとも1つのコア配列を含む。いくつかの実施形態において、モノマーペプチドの1つ以上は、同じであることも互いに異なることもある2つ以上のコア配列を含むことがある。上記で示されたように、各コア配列は、一方の側または両方の側でフランキング配列と接していることがある。コア配列が両方の側で挟まれている場合、2つのフランキング配列は、同じであることも異なることもある。従って、各モノマーペプチドは、2つ以上のコア配列を含むことがあり、各コア配列は、一方の側または両方の側でフランキング配列によって挟まれている。よって、モノマーペプチドが2つ以上のコア配列を含む場合、モノマーペプチドは各コア配列あたり最大2つのフランキング配列をさらに含むことがあることが理解されよう。従って、2つのコア配列を含むモノマーペプチドは、最大4つのフランキング配列を含むことがある。例えば、モノマーペプチドは、F-C-F-F-C-Fと配置されることがある。Fは、フランキング配列を表し、Cはコア配列を表す。
【0089】
いくつかの実施形態において、モノマーペプチドは、2つのコア配列と3つのフランキング配列とをF-C-F-C-Fの配置で含むことがある。他の実施形態において、モノマーペプチドは、2つのコア配列と2つのフランキング配列とをF-C-C-Fの配置で含むことがある。他の実施形態において、モノマーペプチドは、2つのコア配列と単一のフランキング配列とをC-C-Fの配置で含むことがある。いくつかの実施形態において、モノマーペプチドは、両方の側でF-C-Fの配置でフランキング配列によって挟まれている単一のコア配列、または単一のコア配列および単一のフランキング配列を含むことがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、フランキング配列を含むただ1つのモノマーペプチドを含むことがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質中のモノマーペプチドのそれぞれは、1つのコア配列だけからなる。
【0090】
本明細書において定義される各コア配列は、30残基を含む配列番号1と少なくとも60%の同一性を有し、従って各コア配列は、18~42残基の長さを有することがあることが理解されよう。いくつかの実施形態において、モノマーペプチド中のコア配列は、19~41残基、例えば20~40、21~39、22~38、23~37、24~36、25~35、26~34、27~33、28~32または29~31残基の長さを有することがある。いくつかの実施形態において、コア配列は、30残基を含むことがある。2つ以上のコア配列がある場合がある。各コア配列は、一方の側または両方の側でフランキング配列と接していることがある。上記のように、前記フランキング配列は、1つ以上のヘプタッドモチーフまたはそれらの一部、1つ以上の追加の成分、および/または1つ以上のリンカー配列を含むことがある。よって、いくつかの実施形態において、全体としてのモノマーペプチドは、コア配列より顕著に長いことがある。いくつかの実施形態において、モノマーペプチドは、24~1000残基、例えば24~900、24~800、24~700、24~600、24~600、24~500、24~400、24~300、24~250、24~200、24~150、24~100、24~75、24~50または24~40残基を含むことがある。
【0091】
本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、少なくとも2つのモノマーペプチドを含むコイルドコイル構造を有する。上記のように、このオリゴマータンパク質は、GCN4転写因子のC末端区間に基づいている。野生型のC末端GCN4配列は、二量体コイルドコイル構造、すなわち2つのモノマーペプチドを含む構造を形成する。しかし、個々のモノマーペプチド中のヘプタッドモチーフ内の位置aおよびdにおける残基を変えることによって、全体としてのタンパク質のオリゴマー状態を、三量体構造または四量体構造を形成するように変えることができることが観察された。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、二量体、三量体または四量体である。すなわち、オリゴマータンパク質は、2つ、3つまたは4つのモノマーペプチドを含む。好ましい実施形態において、オリゴマータンパク質は、三量体である。
【0092】
オリゴマータンパク質内の各モノマーペプチドは、同じであることも異なることもある。このことは、コア配列の配列だけでなく1つ以上のフランキング配列(の配列)の有無も含む。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、同一のコア配列を有する2つ以上のモノマーペプチドを含むことがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、2つ以上の完全に同一のモノマーペプチドを含むことがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質中のモノマーペプチドのすべてが同一のことがある。オリゴマータンパク質内のモノマーペプチドが互いに同一である必要はないが、モノマーペプチドの間に最小限の変動だけが存在することが好ましい。
【0093】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質内の各モノマーペプチドは、別々のペプチド鎖として提供されることがある。この場合、各モノマーペプチドは、オリゴマータンパク質複合体の物理的に別々のサブユニットであると見られることがある。あるいは、いくつかの実施形態において、モノマーペプチドのうち2つ以上が繋ぎ合わされることがある。上記に概略が示されるように、個々のモノマーペプチドが1つ以上のリンカー配列によって繋ぎ合わされて単一のペプチド鎖となる、すなわち第1のモノマーペプチドの一端が第2のモノマーペプチドの一端に繋がれることがある。いくつかの実施形態において、モノマーペプチドのすべてが繋がれて単一のペプチド鎖となることがある。この場合、モノマーペプチドは、単一鎖、複数ドメインタンパク質コンストラクトの個別のドメインであるとみなされることがある。
【0094】
さらにまたはあるいは、化学架橋によってモノマーペプチド間の1箇所以上の化学架橋の形でモノマーペプチドが繋ぎ合わされることがある。個々のペプチド間に共有結合を形成して繋ぎ合わせるための複数の方法が当分野において公知であり、オリゴマータンパク質内の2つ以上のモノマーペプチドを繋ぎ合わせるためにそのようなあらゆる適当な化学架橋方法が使用されることがある。例えば、モノマーペプチド中の特定のシステイン残基の間の1つ以上のジスルフィド結合によって2つ以上のモノマーペプチドが繋がれることがある。あるいは、モノマーペプチド中に存在するリジン残基との共有結合の形成を促進することができる、ホルムアルデヒドなどの架橋剤を用いることによって、2つ以上のモノマーペプチドが確率論的に繋がれることがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、単一のペプチド鎖の形でおよび/または化学架橋によって繋ぎ合されているモノマーペプチドと、別々のペプチド鎖上に提供され、繋がれていないいくつかのモノマーとの組み合わせを含むことがある。
【0095】
本明細書において開示されるオリゴマータンパク質は、合成的に、例えばアミノ酸または合成的に生成された小ペプチドの連結により、あるいは前記タンパク質またはその1つ以上のモノマーペプチドをコードする核酸分子の組み換え発現によって生成されることがある。そのような核酸分子は、当分野において公知の適当なあらゆる手段によって合成的に生成されることがある。従って、オリゴマータンパク質は、組み換えまたは合成または人工オリゴマータンパク質のことがある。
【0096】
本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、LPSに結合するための結合剤として提供される。上記のように、リポ多糖は、すべてのグラム陰性細菌の外膜中の必要不可欠な成分である。しかし、すべてのグラム陰性細菌が厳密に同じリポ多糖を外膜中に有するわけではない。本明細書において用いられる用語「LPS」または用語「エンドトキシン」(上記のように「LPS」と区別なく用いられる)は、グラム陰性細菌の外膜中に存在するあらゆるリポ多糖を指す。
【0097】
有利な点として、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、極めて高い親和力でLPSに結合することができる。この高い親和力は、LPSが非常に低い濃度で存在するときでもオリゴマータンパク質がLPSに効果的に結合することを可能にし、その結果、LPSは、検出および/または除去され得る。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、ナノモル濃度またはピコモル濃度、またはさらに低い範囲のKDでLPSに結合する。例えば、いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、10nM以下、例えば5nM以下、1000pM以下、750pM以下、500pM以下、250pM以下、100pM以下、50pM以下、10pM以下、5pM以下、1pM以下または500fM以下のKDでLPSに結合する。よって、本明細書において定義されるオリゴマーペプチドは、LPSが少なくとも100pMの濃度で存在する試料中のLPSを検出することができる場合がある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、LPSが少なくとも75pMの濃度で、より詳しくは少なくとも50pM、少なくとも25pM、少なくとも10pM、少なくとも5pM、少なくとも3pM、少なくとも1pM、少なくとも750fM、少なくとも500fM、少なくとも250fMまたは少なくとも100fMの濃度で存在する試料中のLPSを検出することができる。
【0098】
理論に縛られることは望まないが、本発明者らは、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質のLPSへの結合は、全体としてのタンパク質のコイルドコイル構造と、LPSとタンパク質内の個々の残基との間の相互作用と、の両方に依拠すると考える。これに関して、オリゴマータンパク質内の正電荷を有する残基の存在は、結合の親和力を増大させる助けとなることがあると思われる。ここでも、理論に縛られることは望まないが、正電荷を有する残基は、LPSのリピドA領域中の負電荷を有するリン酸基との静電相互作用に関与することがあると仮定される。よって、いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、モノマーペプチドのコア配列内に合計少なくとも6つの陽イオン残基を含む。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、モノマーペプチドのコア配列内に合計少なくとも7つの陽イオン残基、例えば少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10、少なくとも12または少なくとも15の陽イオン残基を含むことがある。
【0099】
本明細書において用いられる用語「陽イオン残基」は、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびpH7.0において正電荷を帯びる、遺伝的にコードされていないかまたは改変されたあらゆるアミノ酸残基を含む。遺伝的にコードされていないかまたは改変された適当な陽イオン残基は、リジン、アルギニンおよびヒスチジンの類縁体、例えばホモリジン、オルニチン、ジアミノ酪酸、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸、ホモアルギニン、トリメチルリジン、トリメチルオルニチン、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、4-アミノ-1-カルバムイミドイルピペリジン-4-カルボン酸および4-グアニジノフェニルアラニンを含む。
【0100】
前述の陽イオン残基は、単一のモノマーペプチドの少なくとも1つのコア配列内に存在することがあるか、またはオリゴマータンパク質中のいくつかのモノマーペプチドのコア配列にわたって分散していることがある。いくつかの実施形態において、各モノマーペプチドは、コア配列中に少なくとも2つの陽イオン残基を含む。いくつかの実施形態において、各モノマーペプチドは、コア配列中に少なくとも3つ、少なくとも4つまたは少なくとも5つの陽イオン残基を含む。
【0101】
上記で考察されたように、オリゴマータンパク質は、リピドA成分を介してLPSと相互作用する。従って、本明細書においては、リピドAに結合するための結合剤として本明細書において定義されるオリゴマータンパク質の使用も提供される。本明細書において用いられる用語「リピドA」は、β-1,6-結合によって結ばれ、Oで繋がれた4つのアシル鎖とNで繋がれた2つのアシル鎖とを併せて有する2つのホスホグルコサミン糖分子を含み、グラム陰性細菌の外膜と相互作用することができるLPSのリピドA成分を指す。
【0102】
いくつかの実施形態において、上記のように、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、1つ以上の追加の成分または部分との接合体または融合体の形になることがある。特に、オリゴマータンパク質は、検出用部分または固定化用部分と接合されることがある。追加の部分は、ポリペプチドの形のことがあり、従って、オリゴマータンパク質は、融合相手との融合タンパク質の形になることがある。融合相手は、オリゴマータンパク質とは別の、融合タンパク質のポリペプチド成分である。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、固体基質上に固定化されることがある。
【0103】
オリゴマータンパク質は、適当なあらゆる検出用部分、すなわち検出することができる信号を提供することができるあらゆる部分と接合されることがある。検出用部分は、標識であるとみなされることがあり、直接的にまたは間接的に検出可能のことがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、直接的に検出可能である検出用部分と接合されることがある。直接的に検出可能である部分とは、追加の試薬を使わずに直接検出することができるものである。例えば、直接的に検出可能である適当な検出用部分は、蛍光分子(例えば蛍光タンパク質または有機蛍光物質)、発色部分(例えば色のある分子またはナノ粒子)、粒子、例えば金粒子または銀粒子、量子ドット、放射性同位体標識、化学発光分子などを含むことがある。特に、直接的に検出可能な部分においては分光測光法的にまたは分光法的に検出可能なあらゆるラベルが用いられることがある。検出可能な標識は、色によって区別可能なことがあるが、他のあらゆるパラメータ、例えばサイズ、電荷等が用いられることがある。
【0104】
間接的に検出可能な部分とは、1種類以上の追加の試薬を使用することによって検出可能である、例えば、その部分が2つ以上の成分で構成された信号発生システムの一部であるものである。例えば、検出用部分は、検出可能な信号、例えば色変化を作り出す反応を触媒することができるセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素を含むことがある。よって、検出用部分を酵素にとっての基質と接触させると、反応が進み、検出可能な信号が生成される。
【0105】
オリゴマータンパク質は、融合相手との融合タンパク質の形のことがある。いくつかの実施形態において、融合相手は、検出可能部分のことがある。すなわち、検出可能部分との接合体の形のオリゴマータンパク質は、検出可能な融合相手との融合タンパク質の形のオリゴマータンパク質と同等であるとみなされることがある。しかし、オリゴマータンパク質は、検出可能部分以外の融合相手との融合タンパク質の形のことがある。原則として、オリゴマータンパク質が依然としてLPSに結合するための結合剤として機能することができるという前提で、融合相手は、あらゆるポリペプチドのことがある。
【0106】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、固体基質(すなわち固相担体または固体担体)上に固定化されることがある。この固定化は、あらゆる簡便な方法で実現されることがある。従って、固定化の方法または手段と固体基質とは、選択に従って、当分野において広く知られ、文献に記載されているあらゆる数の固定化手段と固体基質とから選ばれることがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、固定化を促進するために固定化用部分と接合されることがある。固定化用部分は、固体基質に直接結合される(例えば化学的に架橋される)ことがある。例えば、いくつかの実施形態において、固定化用部分は、ジスルフィド架橋の形で基質上のシステイン残基にカップリングされることができるシステイン残基を含むことがある。いくつかの実施形態において、固定化用部分は、リンカー基によるかまたは1つ以上の仲介結合基によって、より間接的に基質に結合されることがある。いくつかの実施形態において、固定化用部分は、例えば、その結合相手、すなわち固体基質上に提供されている同族結合相手、例えばストレプトアビジンまたは抗体に結合することができる親和力結合相手、例えばビオチンまたはハプテンのことがある。従って、オリゴマータンパク質は、固定化用部分を介して固体基質に共有結合によりまたは非共有結合により繋がれることがある。繋がりは、可逆的な(例えば開裂可能な)繋がりのことも不可逆的な繋がりのこともある。いくつかの実施形態において、繋がりは、酵素的に、化学的にまたは光で開裂されることがあり、例えば、繋がりは、感光性の繋がりのことがある。
【0107】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質と固体基質との間の相互作用は、洗浄ステップを可能にするのに十分なほど強固でなければならない。すなわち、オリゴマータンパク質と固体基質との間の相互作用は、洗浄ステップによって撹乱されない(あまり撹乱されない)。例えば、一実施形態において、オリゴマータンパク質の5%未満が各洗浄ステップで固体基質から除去または溶出される。一実施形態において、オリゴマータンパク質の4、3、2、1、0.5または0.1%未満が各洗浄ステップで固体基質から除去または溶出される。
【0108】
固体基質は、固定化、分離等のために現在広く用いられているかまたは提案されている周知の基質またはマトリックスの何れかのことがある。これらは、粒子(例えば、磁性、常磁性または非磁性のことがあるビーズ)、シート、ゲル、フィルター、膜、繊維、毛管、スライド、アレイ、チップまたはマイクロタイターストリップ、チューブ、プレートまたはウェル等の形のことがある。
【0109】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、ビーズもしくは樹脂上に、あるいはウェルもしくは容器またはカラムもしくはフィルター材料の中または上に、あるいは検出用装置の表面に固定化される。
【0110】
基質は、ガラス、シリカ、ラテックス、アパタイトまたはポリマー材料でできていることがある。いくつかの状況において、高い表面積を有する材料が特に適していることがある。そのような基質は、不規則な表面を有することがあり、例えば多孔性または粒状、例えば粒子、繊維、ウェブ、シンターまたはシーブのことがある。粒状材料、例えばビーズ、特にポリマービーズは、それらのより大きな結合容量に起因して有用である。これらのビーズは、当分野において公知であるように、あらゆる適当な構成で提供されることがあることが理解されよう。例えば、ビーズは、カラム、例えば濾過用カラムに充填されることがある。
【0111】
都合の良いことに、本開示によって用いられる粒状固体基質は、球状ビーズを含むことがある。ビーズのサイズは、重要ではないが、ビーズは、例えば少なくとも1μmのオーダーの直径のことがある。一実施形態において、ビーズは、少なくとも2μmの直径を有することがある。一実施形態において、ビーズは、10μmより大きくない、例えば6μmより大きくない最大直径を有することがある。単分散粒子、すなわちサイズが実質的に均一(例えば5%未満の直径標準偏差を有するサイズ)であるものは、非常に均一な反応再現性を提供するという利点を有する。代表的な単分散ポリマー粒子は、米国特許出願公開第4336173号に記載されている技法によって製造されることがある。
【0112】
いくつかの実施形態において、固体基質は、樹脂、例えばアミロース樹脂のことがある。樹脂は、適当なあらゆる形、例えばスピンカラムフィルターまたはフローカラムで提供されることがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、ウェルまたは容器、例えばマルチウェルプレートの中または上に固定化されることがある。
【0113】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、検出用装置、例えばチップまたはマイクロアレイの表面に固定化されることがある。これに関して、オリゴマータンパク質は、LPSに結合し、LPSを検出することができるキャプチャーアレイまたはバイオセンサーを形成することがある。いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、表面プラズモン共鳴(SPR)チップ上に固定化されることがある。固定化されたキャプチャータンパク質への標的の結合に対応する信号を測定することができるバイオセンサーは、当分野において周知であり、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質は、そのような適当なあらゆる装置において提供されることがある。
【0114】
従って、本明細書において定義されるオリゴマータンパク質の、LPSに結合するための結合剤としての使用は、試料中のLPSまたは試料からのLPSを検出および/または除去するオリゴマータンパク質の使用を含むことがあることが分かる。
【0115】
よって、本明細書において定義され、記載されるオリゴマータンパク質の使用は、特にインビトロの、すなわちLPSがインビトロで結合され、検出され、または除去される、使用を含む。
【0116】
これに関して、本明細書においては、LPSに結合する方法であって、LPSまたはLPSを含有する試料を本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と接触させてタンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するようにLPSに結合することを可能にすることを含む方法が提供される。LPSに結合する際に使用されるオリゴマータンパク質に関する上記の開示は、同じオリゴマータンパク質が関与するLPSに結合するための方法に等しく適用されることが理解されよう。
【0117】
一実施形態において、本方法は、インビトロ方法である。
【0118】
本明細書において用いられる用語「試料」は、LPSを含むことがあるかまたはLPSで汚染されることがある、あるいは検査することが望まれるあらゆる試料を含む。そのような試料は、患者またはより一般的には被験者に由来する臨床試料、環境試料、およびエンドトキシン汚染を検査される製品の試料を含む。患者に由来する臨床試料は、体液または組織のあらゆる試料、例えば患者から採取された、血液試料、リンパ試料、唾液試料、尿試料、糞便試料、脳脊髄液試料または他の適切なあらゆる生体試料のことがある。好ましい実施形態において、臨床試料は、血液試料である。
【0119】
エンドトキシン汚染について検査されるべき製品の試料は、エンドトキシンによる汚染が疑われるあらゆる製品、特にヒトの消費またはヒトとの相互作用を目的とするような製品に由来する試料のことがある。そのような製品は、例えば、医薬産業および医療産業からの製品、例えば試薬、医療用具、装置、消耗品、薬、ワクチン等を含む。同様に、試料は、食品産業および飲料産業における製品または環境試料、例えば飲料水、地下水等に由来することもある。
【0120】
一実施形態において、試料は、検査されるべき製品の一部分を含む液体試料のことがあるが、固体製品、例えば医療用具、または表面、例えば手術室もしくは別の滅菌環境における表面のエンドトキシン汚染を検査することが望ましい、製品の表面に由来する試料のこともある。そのような試料は、例えば、製品の表面から採取されたスワブまたは洗浄液を含むことがある。
【0121】
いくつかの実施形態において、LPSに結合する方法は、試料中のLPSの存在を検出する方法であり、この方法は、
(a)試料を本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と接触させてタンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するようにLPSに結合することを可能にするステップと;
(b)タンパク質-リポ多糖複合体の存在を検出するステップと、
を含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、LPSに結合する方法は、グラム陰性細菌を含有することが疑われる試料中のグラム陰性細菌の存在を検出する方法のことがあり、この方法は、
(a)試料を本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と接触させてタンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するようにグラム陰性細菌の外膜中のLPSに結合することを可能にするステップと;
(b)タンパク質-リポ多糖複合体の存在を検出するステップと、
を含む。
【0123】
タンパク質-リポ多糖複合体を検出するステップは、当分野において公知の適当なあらゆる手段によって実行されることがあると理解されよう。タンパク質-リポ多糖複合体は、直接的にまたは間接的に検出されることがある。タンパク質-リポ多糖複合体を検出する適切な方法は、試料がオリゴマータンパク質と接触させられる方法に応じて選ばれることがある。
【0124】
試料をオリゴマータンパク質と接触させるステップは、上記で概略が示されたように、オリゴマータンパク質が固定化されている基質に試料をアプライすることを含むことがあり、基質は、オリゴマータンパク質への試料の結合を測定することができるように構成される。いくつかの実施形態において、例えば、オリゴマータンパク質は、上記で概略が示された試料とオリゴマータンパク質との間の相互作用を検出することができる検出装置、例えばSPRチップまたは適当な別のバイオセンサーの表面に固定化されることがある。よって、試料をオリゴマータンパク質と接触させるステップは、オリゴマータンパク質が固定化された固体基質に試料をアプライすることを含むことがある。
【0125】
他の実施形態において、例えば、オリゴマータンパク質は、LPSアッセイを形成するためにマルチウェルプレートのウェル中に固定化されることがある。そのようなアッセイは、当分野において周知である。固定化されたオリゴマータンパク質を含むプレートに試料がアプライされると、試料中に存在するあらゆるLPSは、オリゴマータンパク質によって結合され、試料中の他の成分は、洗い流され得る。よって、試料をオリゴマータンパク質と接触させるステップは、オリゴマータンパク質が固定化されたマルチウェルプレートに試料をアプライすることを含む。さらに、試料中のLPSの存在を検出する方法は、結合していない試料の成分を除去し、従って本方法の正確さを向上させるために、検出のステップの前にタンパク質-リポ多糖複合体を洗浄するステップをさらに含むことがある。そのような洗浄ステップのための適当な試薬およびプロトコルは、当分野において周知である。次に、プレート中に保持されているタンパク質-リポ多糖複合体は、LPSに結合することができる適当なあらゆる検出用部分を用いて検出され得る。検出用部分は、直接的にまたは間接的に検出可能なことがある。下記でより詳細に概略が示されるように、本発明者らは、シュミット(Schmidt)ら、2016年によって最初に報告されたサルモネラファージのテールスパイクタンパク質を用いるELISA様アッセイ(ELITA)を、LPSを検出するように適応させた。このアッセイは、タンパク質-リポ多糖複合体を検出するために、LPSに結合することができ、N末端ストレプタグ(StrepTag)を含むテールスパイクタンパク質とストレプトアビジン接合セイヨウワサビペルオキシダーゼとを用いる。酵素基質2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)がプレートに加えられると検出可能な色変化が誘導される。よって、タンパク質-リポ多糖複合体の存在を検出するステップは、タンパク質-リポ多糖複合体を、LPSに結合することができ、かつ検出可能な信号を発生する反応を触媒することができる酵素を含む検出用部分ならびにそのような検出可能な信号を誘導する適切な基質と、接触させることを含む場合があることが分かる。
【0126】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、上記で概略が示されたように、検出用部分それ自体を含む接合体の形のことがある。よって、タンパク質-リポ多糖複合体は、オリゴマータンパク質と接合している検出用部分からの信号を検出することによって検出されることがある。この検出は、問題の検出用部分からの信号を検出するために適切であるあらゆる方法によって、例えばオリゴマータンパク質と接合されている蛍光標識を観測するために蛍光顕微鏡法を用いて、実行されることがある。
【0127】
いくつかの実施形態において、LPSに結合する方法は、試料からLPSを除去する方法であり、この方法は、
(a)試料を本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と接触させてタンパク質がタンパク質-リポ多糖複合体を形成するようにLPSに結合することを可能にするステップと;
(b)試料からタンパク質-リポ多糖複合体を分離するステップと、
を含む。
【0128】
ここでも、試料からタンパク質-リポ多糖複合体を分離するステップは、当分野において公知の適当なあらゆる手段によって実行される場合があること、およびこの手段は、試料がオリゴマータンパク質と接触させられる方法に依存することが理解されよう。
【0129】
いくつかの実施形態において、オリゴマータンパク質は、固体基質上に固定化されることがあり、従って試料をオリゴマータンパク質と接触させるステップは、オリゴマータンパク質が固定化されている固体基質に試料をアプライするステップを含むことがある。上記のように、オリゴマータンパク質は、当分野において公知の適当なあらゆる基質上に固定化されることがある。詳しくは、固体基質は、粒子(例えばビーズ)、フィルターまたはカラムの形のことがある。ここでも、結合された標的分子を試料から分離するためにそのような基質を用いるための適当な試薬およびプロトコルが当分野において周知である。
【0130】
上記のように、オリゴマータンパク質は、ビーズに固定化されることがあり、ビーズは、磁性のことがある。本明細書において用いられる用語「磁性」は、基質が、磁場に置かれたとき付与される磁気モーメントを有することができ、従ってその磁場の作用を受けて移動可能であることを意味する。言い換えると、磁性粉子を含む基質は、磁性凝集によって容易に除去されることがあり、そのことは、試料からタンパク質-リポ多糖複合体を、複合体が形成されたら分離する迅速、簡単かつ効率的な方法を提供する。
【0131】
別の実施形態において、例えば、オリゴマータンパク質は、カラムに充填される樹脂上に固定化されることがある。この例において、試料がオリゴマータンパク質と接触させられると、すなわち試料がカラムにアプライされると、LPSは、オリゴマータンパク質によって結合され、カラムの中に保持され、試料の残りは、カラムを通り抜ける。いくつかの実施形態において、本方法は、LPSのすべてが結合されることを確実にするために試料をオリゴマータンパク質と接触させるいくつかのステップを含むことがある。すなわち、試料は、カラムに数回アプライされることがある。さらに、本方法は、LPSに加えて他の成分をうっかり試料から除去することを避けるために、分離のステップの前にタンパク質-リポ多糖複合体を洗うステップを含むことがある。すなわちカラムは、適切な試薬で洗浄されることがある。
【0132】
LPSに結合するとき、試料中のLPSの存在を検出するとき、または試料からLPSを除去するとき、結合するステップ、検出するステップまたは除去するステップに関与する試薬、特にオリゴマータンパク質を再使用することができれば有利である。よって、本明細書において開示される方法は、オリゴマータンパク質からLPSを除去するために、すなわち、タンパク質-リポ多糖複合体を分裂させ、それによってオリゴマータンパク質を再使用することができるように、タンパク質-リポ多糖複合体を少なくとも1種類の非変性型界面活性剤と接触させるステップをさらに含むことがある。
【0133】
これに関して、本明細書においては、本明細書において定義されるLPSのための結合剤として使用されるか、または本明細書において定義される方法において使用されるキットが提供され、前記キットは、
(i)本明細書において定義されるオリゴマータンパク質と;
(ii)少なくとも1種類の非変性型界面活性剤と、
を含む。
【0134】
非変性型界面活性剤は、当分野において周知であり、当業者は、適当なあらゆる非変性型界面活性剤を用いることがある。例えば、少なくとも1種類の非変性型界面活性剤は、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤または双性イオン界面活性剤あるいはそれらのあらゆる組み合わせから選ばれることがある。これに関して、少なくとも1種類の非変性型界面活性剤は、直鎖ポリエチレングリコール(PEG)基、ポリソルベート基、β-グリコシド糖基、N-メチルグルカミン基、N-オキシド基、ジメチルアンモニウム-1-プロパンスルホネート基、カルボン酸基、スルフェート基または第四アミン基から選ばれた頭基を有することがある。少なくとも1種類の非変性型界面活性剤は、CHAPS、ツゥイッタージェント(zwittergent)3-12、ポリソルベート80、ポリソルベート20、トライトンX-100またはそれらのあらゆる組み合わせから選ばれることがある。いくつかの実施形態において、少なくとも1種類の非変性型界面活性剤は、非変性型界面活性剤の混合物のことがある。いくつかの実施形態において、非変性型界面活性剤の混合物は、CHAPS、ツゥイッタージェント3-12、ポリソルベート80、ポリソルベート20およびトライトンX-100を含むかまたはからなる。
【0135】
界面活性剤は、オリゴマータンパク質の機能が恒久的に弱められるような高い濃度になることなく、タンパク質-リポ多糖複合体を分裂させるのに十分な濃度で存在しなければならないことが理解されよう。いくつかの実施形態において、界面活性剤は、少なくとも0.1%(重量/重量)または0.1%(体積/体積)の総濃度、すなわち存在するすべての界面活性剤の濃度で存在することがある。いくつかの実施形態において、界面活性剤の濃度は、少なくとも0.15%(重量/重量)もしくは少なくとも0.15%(体積/体積)、例えば少なくとも0.2%(重量/重量)もしくは少なくとも0.2%(体積/体積)、少なくとも0.25%(重量/重量)もしくは少なくとも0.25%(体積/体積)または少なくとも0.5%(重量/重量)もしくは少なくとも0.5%(体積/体積)のことがある。一実施形態において、少なくとも1種類の非変性型界面活性剤は、0.05%(重量/重量)CHAPS、0.05%(重量/重量)ツゥイッタージェント3-12、0.05%(体積/体積)トゥイーン80、0.05%(体積/体積)トゥイーン20および0.05%(体積/体積)トライトンX-100の組み合わせを含む。
【0136】
さらなる実施形態では、本明細書において、固体基質上に固定化されたオリゴマータンパク質を含む製品であって、オリゴマータンパク質は、本明細書において定義された通りである製品が提供される。固体基質は、本明細書において開示されるあらゆる固体基質のことがある。すなわち、オリゴマータンパク質が固体基質上に固定化されているオリゴマータンパク質の使用に関する上記の開示は、固体基質上に固定化されているオリゴマータンパク質を含む製品の状況において同等に適用される。これに関して、固体基質は、シート、ゲル、フィルター、膜、繊維、毛管、スライド、アレイ、チップ、マイクロタイターストリップ、チューブ、プレートまたはウェルのことがある。特に、オリゴマータンパク質は、検出装置、例えばSPRチップまたはバイオセンサーの表面に固定化されることがある。
【0137】
本明細書において記載されるオリゴマータンパク質は、LPSに結合するためおよびLPSを検出するための公知の方法に伴う複数の問題に対処し得る、LPSに結合するための代替結合剤を提供することが上記開示から了解されよう。詳しくは、本明細書において記載されるオリゴマータンパク質は、LPS凝集体を分解させることができる。よって、本オリゴマータンパク質は、凝集によって引き起こされるLPSマスキングの影響を減らし、従って試料中の測定可能なLPSの濃度を効果的に増大させることができる。従って、このオリゴマータンパク質は、低濃度のLPSを検出することができるLPSの検出方法を支援する。
【0138】
さらに、この検出方法は、LALアッセイに関連する課題、例えばアメボサイト溶解物の高価かつ非持続可能な採収を回避する。そのうえ、この方法は、C因子の使用に関連するあらゆる潜在的な問題を回避する。潜在的な問題は、LALアッセイの組み換え型変化形の場合にも存在することがある。
【実施例
【0139】
方法
タンパク質の発現および精製
GCN4アダプターによって挟まれたサルモネラアドヘシンA(SadA)コンストラクト(図7に示される)を、既に記載されている(アルバレスら、2008年;ハートマンら、2012年)通りに産生させた。形質転換されたBL21-ゴールド(DE3)を2LのZYP-5052自己誘導培地(ストゥディアー(Studier)、2005年)中で増殖させ、200ng/mLのアンヒドロテトラサイクリン(AHTC)をOD600=0.6で加えた後に30℃で一晩発現させることによって過剰発現を誘導した。細胞を6000×g(ベックマンJLA8.1000ローター)30分間でペレット化させ、200μLのEDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル(メルク)およびDNIを含有する20mLのトリス/HCl pH 7.4、40mM NaCl、5mM MgCl2中で再懸濁させた。再懸濁後、フレンチプレスによって細胞を溶解させ、得られた溶解液を50mL平衡バッファー(20mMトリス/HCl pH7.9、5M塩酸グアニジン、0.5M NaCl、10%グリセロール)中に希釈し、撹拌しながら室温で1時間をインキュベートした後に、溶解していない粒状物をすべて除去するために75,000×gで1時間遠心分離(ベックマンTi70ローター)した。得られた溶液を、平衡バッファーで前もって平衡化した20mL Niセファロースエクセルカラム(GEライフサイエンセズ)に載せた。試料のアプライ後、カラムの4倍の体積の平衡化バッファーでカラムを洗い、0~100%のグラジエント溶出バッファー(20mMトリス/HCl、pH7.5、5M塩酸グアニジン、0.5M NaCl、10%グリセロール、500mMイミダゾール)を用いて溶出させた。溶出した画分をSDS-PAGEによって分析し、目的のタンパク質を含有する画分をプールし、2Lのリフォールディング用バッファー(20mM MOPS、pH7.4、350mM NaCl、10%グリセロール)に対して一晩透析を2回することによってリフォールドさせた。
【0140】
LPS産生および精製
単一細菌コロニー(使用された菌株については下表3参照)から20mL溶原ブロス(LB)前培養を接種することによってLPSを産生させ、37℃で一晩増殖させた。
【0141】
【表4】
【0142】
前培養からバッフル付き2Lフラスコ中の1L培養物6組に接種し、振盪機上37℃で一晩増殖させた。6000×gで30分間遠心分離(ベックマンJLA 8.1000ロータ)することによって細菌を採収した。その後の精製は、LPSのタイプに応じて2つの異なる方法に従った。
【0143】
ガラノス(Galanos)らによって記載されているプロトコル(ガラノス(Galanos)、リューデリッツ(Luederitz)およびヴェストファール(Westphal)、1969年)に従い、フェノール-クロロホルム-石油エーテル抽出を用いてラフLPSを精製した。採収後、細菌ペレットを40mLエタノールで3回およびアセトンで1回洗浄し、次に空気流下に一晩置いた。乳鉢および乳棒を用いて乾燥ペレットをホモジナイズし、90%(重量/体積)液体フェノール、クロロホルムおよび石油エーテルの2:5:8の比の40ml混合物に溶解させた。振盪機上1時間のインキュベーション後、未溶解物質を4200×g15分間でペレット化し、上清を集めた。空気流下で4時間またはフェノールが結晶化し始めるまでクロロホルムおよび石油エーテルを除去した。溶液を40℃に熱することによって再懸濁させ、LPSが沈殿するまで撹拌しながら水を滴下して加えた(5滴×3回)。LPSを4200×g15分間でペレット化させ、残りのLPSをすべて集めるために上清にさらに水を加えた。ペレットを10mLの80%(重量/体積)フェノールで2回洗浄し、20mLのミリQ水に取り込んだ後に100,000×gで1時間遠心分離した(ベックマン、MLA-50ローター)。最終的なペレットを50mLのミリQ水に取り込み、純LPSを得るために凍結乾燥した。
【0144】
スムースLPSは、ダルボー(Darveau)らによって記載されているプロトコル(ダルボー(Darveau)およびハンコック(Hancock)、1983年)に従って精製した。細菌を2回洗浄し、40mLの10mM トリス-HCl pH8.0、2mM MgCl2に再懸濁させ、フレンチプレスによって溶解した後に超音波処理によってさらに破壊した。得られた懸濁液を200μg/mL DNaseI、50μg/mL RNaseAとともに撹拌しながら37℃で一晩インキュベートした。15mLの懸濁液に、0.5M EDTAを含む10mM トリス-HCL pH8.0を5mL、20%SDSを含む10mM トリス-HCl pH8.0を2.5mL、および10mM トリス-HCl pH8.0を2.5mLを加え、超音波処理によってLPSミセルをさらに破壊した。未溶解の細胞成分をペレット化するために溶液を20℃において39 000×gで30分間遠心分離し(ソーバル(Sorvall)、SS-34ローター)、上清を凍結乾燥させた。凍結乾燥した粗抽出物を少量の水に溶解させ、2倍体積の氷冷エタノールおよび0.375M MgCl2を用いて-40℃で一晩LPSを沈殿させた。沈殿したLPSを4℃において11 000×gで15分間遠心分離(Sorvall、SLA3000ローター)させ、得られたペレットを同じ体積の90%(重量/体積)フェノール中に65℃で30分間撹拌しながら再懸濁させた。相分離を速めるために、混合物を4000×gで10分間遠心分離した。水相を集め、フェノール相をもう一度水で抽出した。分離した水相をプールし、1/4体積のクロロホルムを用いてフェノールを抽出した。残っている有機溶媒をすべて蒸発させるために水相を空気流下に一晩置き、MWCO500の透析膜を用いてMQ水に対して3日間透析した。純LPSを得るために、透析したLPSを凍結乾燥した。
【0145】
単離したLPS製品の純度をトリシン-SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(マロルダ(Marolda)ら、2006年)によって管理した。
【0146】
O抗原多糖の調製
リピドAを近位KDO糖に繋いでいるグリコシド結合の穏やかな酸加水分解(ラエツ(Raetz)およびホイットフィールド(Whitfield)、2002年a)によって野生型S.ティフィムリウム(スムース)LPSから多糖を単離した。4~5mg/mLのS.ティフィムリウムLPSを10%酢酸に溶解させ、100℃で1時間インキュベートした。得られたリピドAを4℃における10 000×gで30分間の遠心分離によって溶液から除去し、多糖を含有する上清を一晩凍結乾燥した。
【0147】
ELISA様テールスパイク吸着(ELITA)アッセイ
ELITAアッセイは、細菌全体を用いてシュミットらにより初めて記載された(シュミット(Schmidt)ら、2016年)。本発明においては、ヌンクマキシソープ(Nunc MaxiSorp)96ウェルフラットウェルプレート中の精製タンパク質でこのアッセイを用いるために改変した(図11に示す)。PBS-バッファー中10μg/mLのK9-HisまたはK14-Hisのどちらか100μlとともに一晩インキュベートすることによってウェルを飽和させた。PBS中2%ウシ血清アルブミン(BSA)による2時間のブロッキングステップ後、サルモネラ・ティフィムリウムLPSの200μg/mL~0.0023μg/mLの範囲の希釈液100μLを結合相手として加え、1時間インキュベートした。N末端ストレプ-タグ(Strep-Tag)(登録商標)II(IBA)を有するP22テールスパイクタンパク質(P22TSP)100μLを1時間加えた後、最後にウェルを100μLの1:10 000ストレプタクチン(StrepTactin)接合セイヨウワサビペルオキシダーゼ(IBA、ゲッチンゲン)とともに1時間インキュベートし、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS、シグマ‐アルドリッチ)で30~60分間現像し、プレートリーダーを用いて407nmで読み取った。上記ステップのそれぞれの間に0.1%BSAを含有する150μLのPBSバッファーでウェルを3回洗浄した(トゥイーン-20は、このアッセイに干渉するのでこれらの実験では除いた)。各平均信号から平均バックグラウンド信号(0μg/mL LPS)を減じ、3つ組についての個々の標準偏差を直交座標のベースラインに加えることによって誤差伝播を計算した(
【0148】
【数1】
【0149】
、ここでδQは、和Qの組み合わせの不確定性である)。データを以下のヒル式
【0150】
【数2】
【0151】
、ここで、Yは占有された受容体結合部位の割合、Ymaxは最大結合、[L]は遊離リガンドの濃度、nは結合部位の数である、に曲線フィッティングすることによって用量-応答曲線および解離定数KDを計算した。各コンストラクトは2つのGCN4-PIIモチーフを有するが、それらのモチーフはこのタンパク質の相対する末端に位置し、従って協同するとは予測されないので、nは1に等しいとして取り扱った。スムースS.ティフィムリウムLPSの平均分子量は、報告(ピーターソンおよびマグローティ、1985年;ラエツおよびホイットフィールド、2002年b;シュミットら、2016年)にあるように平均30のO抗原繰り返し多糖構造を仮定して、22kDaと計算した。
【0152】
表面プラズモン共鳴実験(実施例1~3)
すべてのSPR実験は、ライヘルト2SPRシステムにおいてPBS-E(PBS pH 7.4+5mM EDTA)ランニングバッファーを用いて周囲温度で行なった。タンパク質を20mM酢酸ナトリウムバッファーpH 4.5中で50μg/mLに希釈し、NHS-EDCアミンカップリング(フィッシャー、2010)を用いてCMD200センサーチップ(ザンテック・バイオアナリティックス(Xantec Bioanalytics)、デュッセルドルフ、ドイツ)に2000~9000μRIUの応答となるように固定化した。種々の参照化合物(エタノールアミン、BSA、カゼインおよびスキムミルク)の比較(ペテルフィ(Peterfi)ら、2000)の後に、すべての実験のための参照チャンネル用の標準コーティングとしてエタノールアミンを選んだ。
【0153】
押し出し(70℃で100μmフィルターを通る21回の通過)によってすべてのリガンドをランニングバッファー中1mg/mLに溶解させた。50μL/分の流速で3回1組の実験を行った。各試料を測定チャンネルと参照チャンネルとの両方に90秒間注入した後、300秒間解離させた。再生用バッファー(0.05%(重量/重量)CHAPS、0.05%(重量/重量)ツイッタージェント(zwittergent)3-12、0.05%(体積/体積)トゥイーン80、0.05%(体積/体積)トゥイーン20および0.05%(体積/体積)トライトンX-100)の30秒間の注入を2回行うことによってチップを再生した(アンデルスゾーン(Andersson)、アレスコウグ(Areskoug)およびハーデンボルグ(Hardenborg)、1999年)。測定データを処理のためにトレースドローワー(TraceDrawer)(リッジビュー(RidgeView)インストルメンツラブ(instrument Lab))にエクスポートし、オリジン(Origin)(オリジンラブ(OriginLab)コーポレーション)を用いて最終的な曲線を発生させた。次式
【0154】
【数3】
【0155】
ここで、Sは、規格化された信号S0である、を用いて各コンストラクトについての信号をK9に規格化した。
【0156】
表面プラズモン共鳴実験(実施例4および5)
PBS-E(PBS pH7.4+5mM EDTA)ランニングバッファーを用いてニコヤ(Nicoya)オープンSPR(OpenSPR)システム上、周囲温度でSPR実験を行なった。SadA K9を10mM酢酸ナトリウムバッファーpH4.5中で50μg/mLに希釈し、NHS-EDCアミンカップリング(フィッシャー、2010年)を用いて700RUの応答となるようにカルボキシセンサー(オープンSPR)に固定化した。
【0157】
押し出し(70℃で100μmフィルターを通る21回の通過)によってすべてのリガンドをランニングバッファー中1mg/mLに溶解させた。35μL/分の流速で3回1組の実験を行った。各試料を測定チャンネルと参照チャンネルとの両方に125秒間注入した後、300秒間解離させた。再生用バッファー(0.05%(重量/重量)CHAPS、0.05%(重量/重量)ツイッタージェント3-12、0.05%(体積/体積)トゥイーン80、0.05%(体積/体積)トゥイーン20および0.05%(体積/体積)トライトンX-100)(アンデルスゾーンら、1999)の125秒間の注入によってチップを再生させた。測定データを処理のためにトレースドローワー(リッジビューインスツルメンツラブ)にエクスポートし、オリジン(オリジンラブコーポレーション)を用いて最終的なグラフを発生させた。
【0158】
電子顕微鏡法
測定用グリッドに試料を付着させ、1%酢酸ウラニルで1分間染色し、1.8%メチルセルロース/0.4%酢酸ウラニル中に埋め込んだ。オリンパスクエメサ(Quemesa)カメラを用いてフィリップス(Philips)CM100透過型電子顕微鏡における80kVでの像を記録した。
【0159】
リムルスアメボサイト溶解液(LAL)アッセイ
LAL-アッセイ(ピアス(Pierce)、サーモフィッシャー(Thermofisher))を用いてLPSに対するGCN4-PIIのマスキング効果を試験した。200μg/mL~20pg/mLの範囲のGCN4-PII濃度にmL LPSあたり0.5エンドトキシン単位(EU/mL)をスパイクし、提供されたプロトコルに従って現像した。
【0160】
円偏光二色性
ジャスコJ-810分光旋光計(ジャスコインタナショナル株式会社)を用いてスペクトルを記録した。1.0cm光路長石英セルを用いて測定を行った。0.5nmのバンド幅で50nm/分のスキャン速度を用い、190~250nmの範囲で各試料を5回スキャンした。10mMトリス、pH7.4中37℃において、LPSに対するGCN4-pIIの比0、0.5、1、3および9でスペクトルを記録した。K2D2を用いてペプチドの近似的なα-ヘリックス含量を計算した。
【0161】
核磁気共鳴(NMR)分光法
50mM NaCl中1.5mM合成FMet-GCN4-PII(ジェンスクリプト(Genscript)、中国)、7%D2Oおよび0.2mMの4,4-ジメチル-4-シラペンタン-スルホン酸(DSS)450μLを収容するベル-アート(Bel-Art)(商標)SPサイエンスウェア(Sciencware)(商標)5mm外径シンウォールドプレシジョンNMRチューブ中で帰属のためのNMR実験を行った。5mm 1H/13C/15N-クライオプローブ(cryoprobe)を備えたブルーカー(Bruker)アバンス(Avance)II 600MHz NMR分光計上308Kでスペクトルを取得した。DSSを内部化学シフト標準として用い、記載されている周波数比(ウィシャート(Wishart)ら、1995年)を用いて13Cおよび15Nを参照した。帰属を目的として以下のスペクトルを集めた。60および80msのミキシングタイムを用いる13C-1H-HSQC、15N-1H-HSQC、1H-1H COSY、1H-1H TOCSYならびに80および100msのミキシングタイムを用いる1H-1H NOESY。トップスピン(Topspin)4.0を用いてすべてのスペクトルを処理し、カラ(CARA)1.9.1(ケラー(Keller)、2004年)を用いてピークを選択した。
【0162】
ビオチン-LPS(B-LPS)利用ELISA
PBSバッファー中10μg/mL SadA K9(コールドスプリングハーバー(Cold spring harbor))100μlを4℃で一晩インキュベートすることによってブラック96ウェルグレイナー(Greiner)マイクロプレートにコートした。翌日、PBS中2%ウシ血清アルブミン(BSA)150μLをインキュベートすることによってウェルをブロックした。4ng/mL~0.06ng/mLの範囲のビオチン化LPSの希釈液100μLを結合相手として加え、1時間インキュベートした。プレートを150μLのPBS+0.1%BSAで3回、100μLの1:10 000ストレプタクチン接合セイヨウワサビペルオキシダーゼ(IBA)で1時間洗い、クァンタレッド(QuantaRed)蛍光基質(サーモ(Thermo)で15分間現像し、Ex:550nm、Em:610nmで蛍光を読み取った。
【0163】
プロトコル
1.10μg/mL SadAフラグメント溶液100μLを加え、4℃で一晩置くことによって96ウェルブラックグレイナー/ヌンクマキシソーププレートにコートする。
2.ウェルを空にし、PBS中5%BSA 150μLで2時間ブロックする。
3.PBS中0.1%BSA 150μLで3回洗う。
4.ウェルを空にし、ビオチン化LPS希釈液100μLを加える。
5.PBS中0.1%BSA 150μlで3回洗う。
6.60分間100μL ストレプ-タクチン接合HRP(IBA)(PBS+0.35M NaCl、50mM MgSO4、0.1%BSA中の1:20,000希釈物)を加える。
7.PBS+0.35M NaCl、50mM MgSO4、0.1%BSA 150μLで4回、次にPBS+0.1%BSAで1回洗う。
8.クァンタレッドHRP-基質とともにインキュベートし、15分後に反応停止する。
9.励起波長:550nm、発光波長:610nmで蛍光を読み取る。
【0164】
すべての基質を売り手の指示に従って調製した。信号からバックグラウンドを減じる場合、繰り返しについての個々の標準偏差を直交座標のベースラインに加えることによって誤差の伝播率を計算した(δQ=√(δa2+δb2+・・・+δz2)、ここで、δQは、和Qの組み合わせの不確定性である)。エラーバーは、1つの標準偏差を表す。
【0165】
実施例1 ― GCN4-PIIはリピドAと結合する
LPSと三量体オートトランスポーターアドヘシンSadAに属する2つのドメインとの間で推定される相互作用を調べることを意図した。既に記載されている2種類のSadAコンストラクト(アルバレスら、2008年;ハートマンら、2012年)であって、ともにフランキングGCN4-PIIセグメントによって安定化されているK9およびK14を用いた。K9またはK14を共有結合によってSPRチップに繋ぎ、様々なLPS成分を注入した。参照用にLPSの構造の概略版を図2において提供する。
【0166】
スムースLPSの注入は直ちに応答を生じ、応答は、注入の終了に向かって定常状態に近づいた(図3a)。次の解離段階時に、信号は、プラトーにとどまり、オフ速度がないことを示した。ラフLPS変異形およびディープラフLPS変異形の注入(図3bおよび3c)は、解離段階時の信号の若干の上昇を除いて同様な結合曲線を示し、その一方で精製された多糖は、結合特性を示さなかった(図3d)。
【0167】
これらの結果は、リピドA部分を含有するすべての変異形がGCN4-PIIに強く結合するが、純多糖は結合せず、従って相互作用をリピドA部分に局所化することを示した。しかし、オフ速度がないことと、溶液中で凝集体を形成するLPSの傾向(ササキ(Sasaki)およびホワイト(White)、2008年;リヒター(Richter)ら、2011年)とは、この相互作用の生物物理特性のキャラクタリゼーションが潜在的に複雑であり、これらの結果を定性的にしか解釈することができないことを意味した。LPSのラフ変異形およびディープラフ変異形の注入後の信号の増加は、各変異形中に存在する糖残基の数に反比例すると考えられる。特に、ディープラフLPSは、顕著により高い疎水性対親水性の比を有し、より長い糖部分を有するLPSと比較してより大きな、流動性のより少ない形態となる(リヒターら、2011年)。従って、注入後の信号増大は、スムース変異形と比較してより遅いディープラフ凝集体の再組織化および分解に起因すると解釈された。
【0168】
非特異的結合に起因して精製時にエンドトキシン欠乏効果を有することが暗に示された(マック(Mack)ら、2014年)6×His-タグを用いてコンストラクトを精製した。結合に対するHis-タグの効果を評価するために、His-タグを除けば同一である、GCN4-pIIで挟まれた2種類のSadAコンストラクト(K3およびK3-His)を比較した。これらのコンストラクトは、互いに、かつ従来のコンストラクトに対してほとんど同一の曲線を示し、His-タグが結合に影響を及ぼさないことを示した(図10)。
【0169】
GcN4-PIIとLPSとの間の相互作用の性質は、疎水的であるか、静電的であるか、または両方の組み合わせであるかを考えた。再生溶液の選択がこれを決定する助けとなった。実験の前に適当な再生用バッファーを試験する過程において、1M NaClは効果がないが、0.3%までの非変性型界面活性剤の混合物は60秒未満で試料を再生させることが見いだされた。この結果は、相互作用の中に強い疎水的な因子が含まれることを示した。
【0170】
実施例2 ― GCN4-PIIは高い親和力で結合する
SPR結果は、GCN4-pII/LPS相互作用の結合速度を決定するには適していなかった。親和力を定量するために、精製されたタンパク質を細菌全体の代りに用いることによって既に記載されているELISA様テールスパイク吸着(ELITA)アッセイ(シュミットら、2016年)を修正した。このアッセイは、LPSのO抗原を認識するファージテールスパイクタンパク質で抗体を置き換えたことを除けば従来法のELISAと同様であった(図11)。結果は、両方のコンストラクトが低pM範囲において、極めて高い結合親和力を示すことを示し、これは、SPR実験において観測されたオフ速度なしと一致する(図5)。この構成は、修正しなかったら解釈を複雑にしただろうスムースLPSの臨界ミセル濃度(CMC)未満のLPS濃度の使用(ユウ(Yu)ら、2006;ササキおよびホワイト、2008年)を可能にするので有利であることが証明された。しかし、ブロッキングの前にマイクロタイターウェルをコートするLPSの傾向に起因して、間接的なリガンド-受容体相互作用構成は、可能でなかった。
【0171】
実施例3 ― GCN4-pIIはLPS凝集体を溶解させる
GCN4-PIIをLPSに加えるとLPS凝集体の目に見える分解を引き起こすことが観測された。透過型電子顕微鏡を用いて種々のGCN4-pII比におけるラフLPSの構造を比較することによってこの現象を調べた(図6)。実験の前に、LALマスキングアッセイ(シュヴァルツ(Schwarz)ら、2017年)、円偏光二色性およびNMRを用いて、合成GCN4-pIIはLPSに結合し、そのα-ヘリックス構造を保持することを確認した。NMRスペクトルは、このペプチドが相同なα-ヘリックス状態(図14)で存在し、この状態がLPS結合しても保持され(図12)、1μMのGCN4-pII濃度においてLPSに対して少なくとも89%の中和化効果(結合)を示す(図13)ことを確認した。
【0172】
ラフLPSは、既にクライオ‐EMによって報告された(リヒター(Richter)ら、2011年;ブレーカー(Broeker)ら、2018年)ように、10nm前後の半径と最大数100nmの範囲の長さとを有する管状ミセル(図6、上)を形成することがTEMによって観測された。等モル濃度のGCN4-PIIとのインキュベーション後に、ミセル構造は完全に消失し、おそらくペプチド-LPS複合体の若干の凝集によって引き起こされる時折の凝集体が残った(図6、下)。
【0173】
結果の考察(実施例1~3)
三量体SadAドメインとLPSとの間で推定される相互作用を調べることを初めて試みた。しかしながら、本発明者らの結果は、本発明者らのコンストラクトを安定化するために用いたGCN4-pIIアダプターが極めて高いLPSへの親和力を表すことを示している。興味深いことに、ピコモル濃度の範囲のKDを有するGCN4-pIIの親和力は、ヒトLPS免疫受容体TLR4(141μM)、CD14(74nM)、MD-2(2.33μM)およびLPS結合タンパク質(3.5nM)より3~5桁高い。本発明者らがGCN4-pIIで得た解離定数もポリミキシンB(48μM)や、達成可能な最も高い親和力を目的として特に設計されたペプチドアビボディと比べても1~6桁高い。そのうえ、上述の結合相手のいくつかとは対照的に、本発明者らは、GCN4-pIIがリピドAに特異的であることを示した。本発明者らは、界面活性剤を用いてこの相互作用が可逆的であることと、GCN4-pIIが溶液中でLPS凝集体を容易に分解させることとを実証し、相互作用は大部分が疎水的であることを示した。本発明者らが知る限り、本出願は、LPSに結合する三量体コイルドコイルモチーフの初めての報告である。既に報告されたGCN4-pII含有結晶構造(ハートマンら、2012年)は、コアイソロイシンに属するγ2およびδ-炭素がコアから突き出し、コイルドコイルグルーブに沿って疎水性表面を形成することを示している。リピドAアシル鎖の1つ以上が極めて強い相互作用を形成するようにこれらのグルーブに沿って並ぶことができるという、GCN4-pIIがどのようにLPS凝集体を分解することができるかも説明するモデルが想定可能である。しかし、GCN4-pIIは、陽イオン残基のC末端パッチも有し、これらも相互作用に寄与し得る。
【0174】
実施例4 ― GCN4-pII利用ELISAの感度
この実施例の目的は、原理的に、本出願においてGCN4-pIIで示される、LPSへのオリゴマータンパク質の結合は、LALアッセイと同等また同様な感度でLPS量を検出することができることを示すことであった。実施例1~3におけるように、SadA利用コンストラクト、特に上記に記載のK9コンストラクトを用いた。
【0175】
このアッセイの完全な再現性を確実にするために、最適化された最終的な条件を用いて4回繰り返しで感度実験を行なった。エッジ効果を打ち消すために、内部のランダム化したウェルだけを用いた。唯一の例外は、もっとも高い濃度の試料用に確保したA3:A10であった。比較のために、続いて同じ試料をLALアッセイで測定した。繰り返しの1つだけを結果に含めた。
【0176】
ビオチン化LPS(B-LPS)を検出のために用いるGCN4-pII利用ELISA(図15)において、0.06~1ng/mLのLPS濃度範囲内で線形の信号応答が観測された。これは、このアッセイが最も低濃度の希釈物(0.06ng/mL)まで一貫してB-LPSを検出することができることを意味する。
【0177】
比較のためにLALアッセイも行なった。LALアッセイにおいて用いたLPSの濃度範囲は、0.01~0.1EU/mLであった。明確な信号を与えた最も低い濃度の希釈液は、0,13ng/mL(図16)であった。これは、GNC4-pII利用アッセイがLALアッセイと同程度の感度を有することを意味する。これら2つのアッセイの結果の比較を図17に示す。
【0178】
実施例5 ― GCN4-pIIとLPSとの間の結合の強さ
GCN4-pIIと種々のLPSタイプとの間の結合の強さを検討するために、様々な病原体およびプロテオバクテリア(表4)から集めた広範な選択のLPS-変異形をチェックするべくSPRを用いた。要約すると、EDC-NHS利用アミンカップリングを用いてSPRチップ上のカルボキシルマトリックスにK9を固定化した。信号を観測するために0.5mg/mLで種々のLPSタイプを3回繰り返しで注入した。
【0179】
【表5】
【0180】
以前の検討において、本発明者らは、γ-プロテオバクテリア、すなわちS.エンテリカ(S.enterica)、S.アナツム(S.anatum)および大腸菌BL21から供給されるLPSの結合を比較した。LPSの注入は、即座に応答を与え、この応答は、注入の終了に向かって定常状態に近づいた。それに続く解離段階時に、信号は、プラトーにとどまり、測定可能なオフ速度がないことを示した。種々の曲線の形状は非常に類似していたが、最終的な応答(μRIU)は、互いの間でLPS分子あたりの糖部分の量と逆相関して変化した。これは、ラフLPSタイプ(O抗原が欠けている)は、典型的にはスムースな対応物(O抗原繰り返しを有する)と比較して顕著に強い信号を与えたことを意味する。すべてのLPSタイプを同じ重量濃度(mg/mL)で注入したので、応答の差は、おそらく高分子量変異形のより低いモル濃度を反映していた。
【0181】
本発明者らが本発明の検討においてチェックしたLPSタイプの結合曲線(図18)はすべて、オフ速度のない同様な結合曲線を共有して、強い結合を示す。S.ティフィムリウムWaaL LPSは、ラフタイプであり、注入されるとやや高い応答を与えると予測される。N.ラクタミカ(N.lactamica)およびB.ヘンセラ(B.henselae)は、両方が大きなラフ変異形であり、WaaLと同じ範囲の応答を与えると予測されたが、N.ラクタミカは、ほとんど2倍であった大きさの応答を与え、これはコア糖への大量のシアル酸修飾形によって説明することができる。V.コレラエ(V.cholerae)は、ラフLPSと低分子量スムースLPSとの混合物を有する。従って、WaaL信号の1/3前後の応答は意外であった。P.ジンジバリス(P.gingivalis)LPSの応答は低く、中から大のスムースLPSタイプを示唆した。市販のP.ジンジバリスLPSに添付されている書類は、菌株または変異形の名称を掲げていなかったので、SDS-PAGEによって重量を確かめなければならない。
【0182】
結論として、GCN4-pIIは試験したすべてのLPSタイプに結合した。
【0183】
結果の考察(実施例4および5)
LALアッセイは、少量のLPSに対して高感度であるカブトガニの血液中の酵素カスケードを使用する(リー(Lee)、2007年)。直接の比較においてLALアッセイを用いて、本発明者らは、GCN4-pIIペプチドがLALアッセイでかろうじて検出可能な濃度のビオチン化LPSに結合することができることと、それでも、蛍光酵素基質とカップリングされたビオチンのための日常的な検出方法を用いたとき、この結合が結果として目に見える信号を生むことと、を示すことができた。重要な点として、この検出方法は、種々のバッファーバックグラウンドで、また、注射可能な薬物バックグラウンドで機能した。本発明は、LALアッセイと同程度である0.01 EU/mL LPSの感度を実現し、本発明のデータは、例えば洗浄用バッファー条件を微調整することによって、本発明のELISA様アッセイでもっと高い感度さえ実現することができることを示唆している。
【0184】
本発明は、α-プロテオバクテリア~γ-プロテオバクテリアの範囲のプロテオバクテリアの種々の系統群ならびにバクテロイデテス門(図19)由来のLPS変異形を使用した。本発明の選択細菌は、腸管病原体(ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)、サルモネラ属、大腸菌)、細胞内病原体(バルトネラ・ヘンセラ(Bartonella henselae))および口腔病原体(ポルフィノモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis))ならびに共生細菌(ナイセリア・ラクタミカ(Neisseria lactamica))を包含する。使用される種の1つは、強い免疫応答を誘発しないLPS変異形を有することが知られている(バルトネラ・ヘンセラ)(ツェーリンガー(Zaehringer)ら、2004年)。
【0185】
図19に示されるツリーにおいてサルモネラ属は、エシェリキア(Escherichia)属とともに配置され、別々には示されていない。なお、この図において、バルトネラ(Bartonella)属は、表示されたブルセラ(Brucella)に最も近く、ポルフィノモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)は、バクテロイデス(Bacteroides)の一部である。さらに、フィルミクテス門(Firmicutes)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)およびスピロヘータ門(Spirochaetes)の大きな群は、膜成分の一部としてのLPSを有しない。
【0186】
まとめると、SPRを使用して、本発明は、使用したすべてのLPS変異形がGCN4-pIIペプチドに強く結合することを示すことができた。LPS変異形の何れについても結合の「オン速度」には目に見える差があったが、検出可能な「オフ速度」がなく、このペプチドは、これらの変異形のすべてを同じように(結合速度にわずかな差はあったが)検出することができることを示唆した。
【0187】
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【国際調査報告】