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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】Fcバリアント及びその調製
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20230713BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230713BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230713BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230713BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230713BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230713BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230713BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230713BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230713BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230713BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
C07K16/28
A61P43/00 111
A61P31/00 ZNA
A61P37/06
A61P35/00
A61K47/68
A61K45/00
A61K38/02
A61K39/00 H
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 Q
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K39/395 W
A61K39/395 Y
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022568631
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 IB2021054423
(87)【国際公開番号】W WO2021234655
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】202021021451
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522224933
【氏名又は名称】ザイダス・ライフサイエンシーズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サンジーヴ・クマール・メンディラッタ
(72)【発明者】
【氏名】ラムクラシャン・カセラ
(72)【発明者】
【氏名】アルン・クマール・シン
(72)【発明者】
【氏名】アーシニ・パリク
(72)【発明者】
【氏名】パンカジ・カリタ
(72)【発明者】
【氏名】サティシュ・ハンダ
(72)【発明者】
【氏名】アヌシュレー・シャー
(72)【発明者】
【氏名】ヘーナ・パテル
(72)【発明者】
【氏名】ハーディク・パーンディヤ
(72)【発明者】
【氏名】ビブティ・シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】チラグ・パテル
(72)【発明者】
【氏名】スワガット・ソニ
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤニ・ヴィアス
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE59
4C076EE59M
4C076FF31
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA03
4C084DC50
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZB081
4C084ZB261
4C084ZB311
4C084ZC411
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA25
4C085AA26
4C085BB11
4C085BB42
4C085CC05
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、Fcバリアントタンパク質及びその調製に関する。前記Fcバリアントは、FcRnに対する改変された結合親和性を有する。本発明によって調製されたFcバリアントは、FcRnアンタゴニスト組成物を作製するために使用され得、又はエフェクター機能が改変されたFcバリアント含有薬物又は分子を作製するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号117、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121、配列番号122、配列番号123、配列番号124、配列番号125、配列番号126、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号130、配列番号131、配列番号132、配列番号133、配列番号134、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142、配列番号143、配列番号144、配列番号145、配列番号146、配列番号147、配列番号148、配列番号149、配列番号150、配列番号151、配列番号152、配列番号153、配列番号154、配列番号155、配列番号156、配列番号157、配列番号158、配列番号159、配列番号160、配列番号161、配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、配列番号188、配列番号189、配列番号190、配列番号191、配列番号192、配列番号193、配列番号194、配列番号195、配列番号196、配列番号197、配列番号198、配列番号199、配列番号200、配列番号201、配列番号202、配列番号203、配列番号204、配列番号205、配列番号206、配列番号207、配列番号208、配列番号209、配列番号210、配列番号211、配列番号212、配列番号213、配列番号214、配列番号215、配列番号216、配列番号217、配列番号218、配列番号219、配列番号220、配列番号221、配列番号222、配列番号223、配列番号224、配列番号225、配列番号226、配列番号227、配列番号228、配列番号229、配列番号230、配列番号231、配列番号232、配列番号233、配列番号234、配列番号235、配列番号236、配列番号237、配列番号238、配列番号239、配列番号240、配列番号241、配列番号242、配列番号243、配列番号244、配列番号245、配列番号246、配列番号247、配列番号248、配列番号249、配列番号250、配列番号251、配列番号252、配列番号253、配列番号254、配列番号255、配列番号256、配列番号257、配列番号258、配列番号259、配列番号260、配列番号261、配列番号262、配列番号263、配列番号264、配列番号265、配列番号266、配列番号267、配列番号268、配列番号269、配列番号270、配列番号271、配列番号272、配列番号273、配列番号274、配列番号275、配列番号276、配列番号277、配列番号278、配列番号279、配列番号280、配列番号281、配列番号282、配列番号283、配列番号284、配列番号285、配列番号286、配列番号287、配列番号288、配列番号289、配列番号290、配列番号291、配列番号292、配列番号293、配列番号294、配列番号295、配列番号296、配列番号297、配列番号298、配列番号299、配列番号300、配列番号301、配列番号302、配列番号303、配列番号304、配列番号305、配列番号306、配列番号307、配列番号308、配列番号309、配列番号310、配列番号311、配列番号312、配列番号313、配列番号314、配列番号315、配列番号316、配列番号317、配列番号318、配列番号319、配列番号320、配列番号321、配列番号322、配列番号323、配列番号324、配列番号325、配列番号326、配列番号327、配列番号328、配列番号329、配列番号330、配列番号331、配列番号332、配列番号333、配列番号334、配列番号335、配列番号336、配列番号337、配列番号338、配列番号339、配列番号340、配列番号341、配列番号342、配列番号343、配列番号344、配列番号345、配列番号346及び配列番号347から選択されるアミノ酸配列を含む、野生型Fcタンパク質の特定のEU位での置換アミノ酸の組合せを含むFcバリアント。
【請求項2】
野生型Fcタンパク質と比較して、ヒトFcRnに高い親和性で結合する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項3】
中性pHでの結合親和性と比較して、pH6.0でFcRnに対するより高い前記結合親和性を有する、請求項2に記載のFcバリアント。
【請求項4】
FcRnに対して10-8M以下、より好ましくは10-10M以下のKDを有する、請求項2に記載のFcバリアント。
【請求項5】
ヒト以外の種由来のFcRnと交差反応する、請求項2に記載のFcバリアント。
【請求項6】
IgG1、IgG2、IgG3、IgG4又はIgG2/G4アイソタイプ、好ましくはIgG1アイソタイプのFcタンパク質に存在する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項7】
多量体形態で発現され、Fcバリアントのより高いアビディティを介して分子サイズ及び親和性を増大することによって半減期を延長する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項8】
二量体、三量体、四量体、五量体、及び六量体から選択される、請求項7に記載の多量体形態。
【請求項9】
完全長の抗体形態で存在する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項10】
Fcガンマ受容体に対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、前記Fcガンマ受容体に対する改変された親和性を有する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項11】
アロタイプV158及びF158を含むFcγRIIIaに対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、FcγRIIIa(CD16a)に対する増大された親和性を有する、請求項10に記載のFcバリアント。
【請求項12】
以下の特徴:
a)対象において延長された半減期を有する;
b)野生型Fcタンパク質と比較して、低下されたADCC活性を有すること/ADCC活性を有さない;
c)FcγRによって媒介される食作用を阻害する、及び、
d)FcγRによって媒介されるサイトカイン放出を阻害する
のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載のFcバリアント。
【請求項13】
薬物又は治療用ペプチド又はポリエチレングリコール又は免疫原又は中和抗体に融合される、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項14】
EU297位に脱フコシル化N結合型グリカンを含む、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項15】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48及び配列番号49に記載の配列から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項16】
配列番号3、配列番号5、配列番号10、配列番号20又は配列番号22に記載の配列から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項17】
配列番号22が置換T307N、V308P、L309Y、H433R及びN434Wを含む、請求項16に記載のFcバリアント。
【請求項18】
配列番号22が、配列番号22a、配列番号22b、配列番号22c、配列番号22d、配列番号22e及び配列番号22f及び配列番号22gから選択されるアミノ酸配列を有する、請求項17に記載のFcバリアント。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載のFcバリアントと許容される担体とを含む組成物。
【請求項20】
FcRnの活性が有害である疾患を処置するため、又は薬物の循環半減期を延長するため、又はある特定の細胞若しくは組織に薬物をターゲティングするための薬物の調製における使用のための請求項1から18のいずれか一項に記載のFcバリアント。
【請求項21】
疾患が感染症、がん、及び自己免疫障害から選択される、請求項20に記載のFcバリアント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fcバリアントタンパク質及びその調製に関する。前記Fcバリアントは、FcRnに対する改変された結合親和性を有する。本発明によって調製されたFcバリアントは、FcRnアンタゴニスト組成物を作製するために使用され得、又はエフェクター機能が改変されたFcバリアント含有薬物又は分子を作製するために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
新生児Fc受容体(FcRn)は、可溶性軽鎖であるβ2-ミクログロブリン(β2m)と非共有結合するI型膜貫通重鎖からなる主要組織適合複合体(MHC)クラスIヘテロ二量体分子と構造的に相同である。β2mは、FcRn、並びに他のMHCクラスIホモログの適切なフォールディング、輸送、及び機能にとって必須である。FcRn重鎖は、3つの可溶性細胞外ドメイン(α1、α2、及びα3)、単一膜貫通ヘリックス、並びに細胞質側末端を含んでいる。MHCクラスI分子とは異なり、FcRnは、ペプチド結合を破壊するFcRn上面の点変異により、T細胞に抗原を直接提示しない。FcRnがIgGを細胞内異化から保護する能力は、IgGのFc部分との特異的なpH依存性相互作用の結果である。IgGは、IgG FcのCH2-CH3ドメイン内の調整可能なヒスチジン残基とFcRnのα2-ドメイン上の酸性残基との間の静電気により媒介される中性pH(>7)ではなく酸性pH(<6.5)で厳正にpH依存的にFcRnに結合する。結合は、一連の疎水性相互作用と、FcとFcRn α2ドメイン及びβ2m軽鎖N末端内の残基との間の水素結合によって更に安定化される。IgGのホモ二量体の性質により、1つのIgG分子が2つのFcRn分子に同時に結合することができ、相互作用のアビディティが増加するため、pH6でFcRnとIgGとの間の相互作用は高親和性となる。FcRnとIgGの間の2:1の相互作用は、FcRn発現細胞における効率的な結合、リサイクル、及びトランスサイトーシスにとって重要であり、最終的には、IgGの長期血清持続性が維持され、その結果、保護抗体分子はB細胞により繰り返し産生される必要がなくなり、それにより感染に対する効率的な免疫が提供される。残念なことに、この同じ相互作用はまた、自己抗原に対して反応するIgG分子の病原性にも関与しており、多くの自己免疫障害を引き起こしている。FcRnを欠損したマウスは、IgG媒介性自己免疫疾患から保護されるが、このことは、FcRnが、循環で病原性IgGをより長く維持することにより自己免疫に少なくとも部分的に寄与することを示唆している。FcRnはIgGの血清持続性に寄与するので、IgG-FcRn相互作用を遮断する治療法は、IgG媒介性自己免疫の処置のモダリティとしての可能性を示す。実際、高用量免疫グロブリン静注療法(IVIg)は、IgG媒介性自己免疫疾患の処置においてFDA認可を受けており、FcRn受容体を飽和させ、それにより病原性IgGの異化を増強することによって部分的な治療上の利点を提供する。しかし、IVIg療法には複数の問題がある。例えば、血液由来の製品であるため、HIV、HBV、HCV等のヒト病原体に汚染されやすく、したがって、自己免疫疾患等の慢性障害の処置は、レシピエント患者にとって非常にリスクが高くなる。また、多くの献血ドナーの血漿からのIgG抽出を必要とするため、高価である。また、ヒトドナーに依存する製品であるという理由から、スケーラビリティにも懸念がある。したがって、安全でスケーラブルであり、費用対効果の高い代替処置の選択肢を提供するために、新規の遺伝子組換えアプローチが今必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8,067,232号
【特許文献2】米国特許第7,083,970号
【特許文献3】米国特許第7,524,647号
【特許文献4】国際公開第2007/017903号
【特許文献5】国際公開第2012/046255号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
モノクローナル抗体ベースのアンタゴニストが、内因性IgG-FcRn相互作用を阻害するために開発されている。アプローチの1つは、古典的な抗体:抗原結合メカニズムを介して作用するFcRnに対するモノクローナル抗体の使用である。そのような抗体の例はM281及びUCB7665であり、これらは、ヒトFcRnに結合してFcRnへのIgG結合を阻害し、それにより内因性IgGのクリアランスを促進する。M281では、用量依存的な内因性IgGの平均減少率が25~80%の範囲であることが確認された。更に、30mg/kg又は60mg/kgでM281を単回投与すると、それぞれ、18日間及び27日間、血清IgGがベースラインの50%以下に維持された(1)。健康な対象においては、血清中のIgG濃度は、UCB7665の7mg/kgの単回IV投与で最大50%低下した。本研究において観察された血清IgG濃度の低下は数週間持続し、7日目~10日目までに最大の低下が達成され、その後57日目まで徐々にベースラインまで戻った(2)。
【0005】
血清中のIgGレベルを低下させるための別の抗体操作アプローチは、pH6とpH7.4の両方でFcRnに高い親和性を有するように、IgGのFcドメインを操作することである。「Abdegs」(すなわち、IgG分解を促進する抗体)技術を使用して開発されたこのような分子は、IVIgよりも25~50倍低い用量で関節炎のマウスモデルを処置するのに有効であることが確認されており、このことは、IgG-FcRn相互作用のIgG-FcRnベース強力アンタゴニストが自己免疫における代替治療介入であることを示唆している。この分子、Efgartigimodは、オランダ拠点のバイオテクノロジー企業であるarGEN-X社によって臨床開発中である。
【0006】
更に最近、FcRnへの結合に対してIgGと競合する合成ペプチドがファージライブラリーから同定された。pH6及びpH7.4でFcRnにナノモル以下の親和性で結合する化学的に最適化されたペプチド二量体(SYN1436)は、マウスにおける外因性IgG並びにサルにおける内因性IgGのクリアランスの増加に効果的であったが、IgG媒介性自己免疫の治療モデルにおいては評価されていない。或いは、Fc自体の代わりにCH2-CH3ドメイン界面で結合してIgG-FcRn相互作用を遮断するさらなる分子には、ファージディスプレイによって選択された13アミノ酸環状ペプチド(FcIII)、コンピューターによって設計されたIgG-Fc結合タンパク質(FcBP6.1)、及び内在性Fc受容体のTRIM21が含まれる(3)。したがって、本発明は、FcRn活性のダウンレギュレーション、様々な薬物の循環半減期の延長、薬剤及び/又はワクチンの特定の細胞型へのターゲティング等、未だ対処されていない様々なニーズを解決するFcRnバインダーを提供する。本発明のFcRnバインダーは、様々な疾患の処置に使用され得る。
【0007】
免疫複合体(IC)の形成及び免疫複合体を介したFcγR媒介性活性化をターゲットとする別のクラスの分子がある。このクラスの分子は、Pf-06755347(GL-2045)及びCSL730(M230)等の組換えFc多量体である。これらの分子は構造の点で複雑であり、非常に不均一な集団となり得る。これらの分子は、自己免疫疾患を処置するために開発されている。したがって、異なるメカニズムをターゲットとする分子は、ヒト血漿の供給への依存と、治療に必要とされる最大2g/kg体重の大量投与を回避するために、静脈内免疫グロブリン(IVIg)及び皮下免疫グロブリン(SCIg)の代わりとして開発されている、初期の臨床試験下にある。この状況で、FcRn遮断、FcγR活性化の阻害、及び/又は完全補体活性化の阻害等の複数の作用機序の効果を併せ持つ単一の薬物を得ることは有利である。
【0008】
一態様では、本発明は、FcRnバインダー並びにFcγRバインダーであり、FcRn活性のダウンレギュレーション、様々な薬物の循環半減期の延長、IC阻害、IC形成により媒介されるサイトカイン放出の阻害、FcγR活性化により媒介される食作用の阻害等の様々なニーズを一緒に解決することができるFcバリアント分子を提供する。好ましくは、本発明により調製したFcバリアント分子は、IVIgの用量と比較して、より少ない用量で上述の前記所望する効果の1つ又は複数を提供する。
【0009】
本発明は、FcRnに対する改変された結合親和性、好ましくはFcRnに対するより高い結合親和性を持つ新規のFcバリアントを提供する。一態様では、本発明のFcバリアントは、FcγRに対する改変された結合親和性、好ましくはFcγRに対するより高い結合親和性を有する。好ましくは、前記Fcバリアントは、FcRnアンタゴニスト機能又は延長された循環半減期を持つ薬剤組成物を開発するために、或いは特定の細胞及び/又は組織をターゲティングするために使用され得る。本発明はまた、新規のFcバリアントを作製する方法も提供する。本発明によるFcバリアントは、更に、FcRnの活性が有害である疾患を処置するため、又は薬物の循環半減期を延長するため、又はある特定の細胞若しくは組織に薬物をターゲティングするための薬物の調製において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のFcバリアントを作製するためにライブラリー作製に使用されるベクターのマップを示す図である。
図2】本発明のFc単量体及びFc二量体の作製に使用されるベクターのマップを示す図である。
図3】本発明のFc単量体を含むモノクローナル抗体の作製に使用されるベクターのマップを示す図である。
図4】野生型マウスにおける総IgG血清レベルに対するFcバリアント(Fc二量体)及びIVIgの効果を決定するための実験結果を示す図である。
図5】野生型マウスにおける血清アルブミンレベルに対するFcバリアント(Fc二量体)及びIVIgの効果を決定するための実験結果を示す図である。
図6】ADCC活性に対するFcバリアントの効果を決定するための実験結果を示す図である。
図7】急性免疫性血小板減少症(ITP)のマウスモデルにおける血小板数に対するFcバリアントの効果を決定するための実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書で使用される場合の「脱フコシル化」という用語は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8067232号に記載のコアフコース分子を欠くN結合型グリカンを有するグリコシル化タンパク質を指す。
【0012】
本明細書で使用される場合の「アミノ酸修飾」という用語は、ポリペプチド配列におけるアミノ酸の置換、挿入、及び/又は欠失である。
【0013】
本明細書で使用される場合の「アミノ酸置換」又は「置換」という用語は、親ポリペプチド配列の特定の位置のアミノ酸を別のアミノ酸で置換することである。例えば、置換T307Nは、307位のスレオニンがアスパラギンで置換されているバリアントポリペプチド、この場合にはFcバリアントを指す。
【0014】
本発明による「抗原結合分子」という用語は、ターゲット抗原に結合することができ、「FcRn結合ドメイン」を含むタンパク質を指す。本発明によるFcRn結合ドメインは、Fcタンパク質中に存在し、好ましくは、本発明のFcバリアント中に存在する。本発明による好ましい「抗原結合分子」は、本発明のFcバリアントを含む抗体又はペプチボディ又は融合タンパク質を含み得る。
【0015】
本明細書で使用される場合の「抗体」という用語は、抗体全体及び任意の抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重鎖(H)及び2本の軽鎖(L)を含む糖タンパク質、又はその抗原結合部分を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略記)及び重鎖定常領域(Fc)から構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインから構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、CLという1つのドメインから構成される。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる変動性の高い領域に更に細分化され得る。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される、3つのCDRと4つのFRで構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、NK細胞、T細胞、マクロファージ、及び樹状細胞等のエフェクター細胞)並びに古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0016】
「作動可能に連結された」という用語は、ベクター内の転写及び翻訳制御配列が、そのような遺伝子の転写及び翻訳を制御する意図された機能を果たすように、遺伝子がベクターにライゲートされることを意味することを意図する。
【0017】
「Ka」という用語は2分子間の相互作用の結合速度であり、「Kd」という用語は2分子間の相互作用の解離速度である。「KD」という用語は親和性速度定数であり、KdのKaに対する比から得られる。これは、当技術分野で周知の表面プラズマ共鳴法を使用することにより測定することができる。
【0018】
本明細書で使用される場合の「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を意味する。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性及び親和性を示す。「二重特異性抗体」という用語は、2つの異なる抗原決定基、又はエピトープの高度に特異的な認識及び結合に関与する均一な抗体集団を意味する。本明細書で使用される場合の「組換え抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製又は単離されるすべての抗体を含む。しかし、ある特定の実施形態では、そのような組換え抗体は、in vitro変異誘発によって得ることができ、したがって、本明細書に記載の組換え抗体のVH領域及びVL領域のアミノ酸配列は、in vivoでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しない可能性がある配列である。本明細書で使用される場合の「エフェクター機能」という用語は、抗体Fc領域とFc受容体又はリガンドとの相互作用に起因する生化学的事象である。エフェクター機能には、限定するものではないが、ADCC、ADCP、及びCDCが含まれる。この用語はまた、薬物の循環半減期又は特定の細胞型若しくは組織型への薬物のターゲティング等の生理的事象も表す。
【0019】
本明細書で使用される場合の「ADCC」又は「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」という用語は、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、ターゲット細胞上の結合抗体を認識し、続いてターゲット細胞の溶解を引き起こす、細胞媒介性反応である。
【0020】
本明細書で使用される場合の「ADCP」又は「抗体依存性細胞媒介性食作用」という用語は、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、ターゲット細胞上の結合抗体を認識し、続いてターゲット細胞の食作用を引き起こす、細胞媒介反応である。
【0021】
本明細書で使用される場合の「エフェクター細胞」という用語は、1つ又は複数のFc受容体を発現し、1つ又は複数のエフェクター機能を媒介する細胞である。エフェクター細胞としては、限定するものではないが、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びγδT細胞が挙げられ、また限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、サルを含む任意の生物由来であり得る。
【0022】
「Fc」フラグメントという用語は、その名称が容易に結晶化する能力を反映している。ヒトIgGのFc領域の結晶構造が決定されている(4)。ヒトのIgG分子では、Fc領域は、N末端からCys226までのパパイン切断により生成される。Fc領域は、抗体のエフェクター機能の中心である。
【0023】
本明細書で使用される場合の「Fcタンパク質」という用語は、パパイン切断部位のすぐ上流のヒンジ領域で始まり、抗体のC末端で終わる単一の免疫グロブリン重鎖の部分を意味する。したがって、完全なFcドメインは、ヒンジ(例えば、上部、中間、及び/又は下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、並びにCH3ドメインの少なくとも一部を含む。
【0024】
本明細書で使用される場合の「Fcバリアント含有タンパク質」という用語は、本発明のFcバリアントを含む任意の分子を意味する。好ましくは、Fcバリアント含有タンパク質には、抗体、融合タンパク質、及びペプチボディが含まれる。本明細書で言及される場合の抗体、融合タンパク質及びペプチボディには、承認済みの、又は臨床試験中若しくは前臨床試験中の抗体、融合タンパク質及びペプチボディが含まれる。
【0025】
本明細書で使用される場合の「Fcバリアント含有分子」という用語は、本発明のFcバリアントを含む任意の分子を意味する。それは、本発明のFcバリアントが薬物に連結されたか、又はコンジュゲートされた融合生成物であってもよく、薬物は低分子ペプチド又は受容体又は毒素又は任意の化学分子であり得る。
【0026】
本明細書で使用される場合の「Fcバリアントタンパク質」又は「Fcタンパク質バリアント」又は「Fcバリアント」という用語は、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって野生型Fcタンパク質のものとは異なるFcタンパク質である。Fcバリアントは、Fcバリアントそれ自体、Fcバリアントを含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を意味し得る。好ましくは、Fcバリアントは、親タンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾を有し、例えば、親と比較して約1~約10個のアミノ酸修飾、好ましくは約1~約5個のアミノ酸修飾を有する。
【0027】
本明細書で使用される場合の「EU位」という用語は、参考文献5に記載されているFc領域のEUナンバリング規則におけるアミノ酸位置を意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合の「CH1ドメイン」という用語は、約EU118位~215位から延びる免疫グロブリン重鎖の最初の(最もアミノ末端の)定常領域ドメインを意味する。CH1ドメインは、免疫グロブリン重鎖分子のVHドメイン及びヒンジ領域のアミノ末端に隣接しており、免疫グロブリン重鎖のFc領域の一部を形成しない。
【0029】
本明細書で使用される場合の「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインに連結する重鎖分子の部分を意味する。このヒンジ領域は約25残基を含み、フレキシブルであるため、2つのN末端抗原結合領域は独立して動くことができる。ヒンジ領域は、上部ヒンジドメイン、中央ヒンジドメイン、下部ヒンジドメインの3つの異なるドメインに細分され得る(6)。本発明のFcバリアントは、ヒンジ領域の全部又は一部を含み得る。
【0030】
本明細書で使用される場合の「CH2ドメイン」という用語は、約EU231位~340位から延びる重鎖免疫グロブリン分子の部分を意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合の「CH3ドメイン」という用語は、CH2ドメインのN末端から約110残基、例えば約341位~446位(EUナンバリングシステム)から延びる重鎖免疫グロブリン分子の部分を意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合の「Fcガンマ受容体」又は「FcγR」という用語は、IgG抗体Fc領域に結合し、FcγR遺伝子によってコードされているタンパク質ファミリーのメンバーを意味する。ヒトでは、このファミリーには、限定するものではないが、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb及びFcγRIcを含む、FcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131及びR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb1及びFcγRIIb2を含む)、並びにFcγRIIcを含む、FcγRII(CD32);アイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)、並びにFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIbNA1及びFcγRIIIbNA2を含む)を含む、FcγRIII(CD16)(7)、並びに任意の未発見のヒトFcγR若しくはFcγRアイソフォーム、又はアロタイプが含まれる。FcγRは、限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ及びサルを含む、任意の生物に由来し得る。マウスFcγRには、限定するものではないが、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、及びFcγRIII-2(CD16-2)、並びに任意の未発見のマウスFcγR若しくはFcγRアイソフォーム又はアロタイプが含まれる。
【0033】
本明細書で使用される場合の「FcRn」又は「新生児Fc受容体」という用語は、IgG抗体Fc領域に結合し、FcRn遺伝子によって少なくとも部分的にコードされているタンパク質である。FcRnは、限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ及びサルを含む、任意の生物由来であり得る。当技術分野では公知であるように、機能的FcRnタンパク質は、多くの場合、重鎖及び軽鎖と呼ばれる2つのポリペプチドを含む。軽鎖はベータ-2-ミクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によってコードされている。本明細書では、特段の断りのない限り、FcRn又はFcRnタンパク質は、FcRn重鎖とベータ-2-ミクログロブリンとの複合体を意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合の「野生型Fc」という用語は、後で修飾されてバリアントを生成する未修飾Fcポリペプチドを意味する。野生型Fcは、天然に存在するポリペプチドであってもよく、又は天然に存在するポリペプチドの組換えバージョンであってもよい。野生型Fcは、非修飾Fcポリペプチドそれ自体、非修飾Fcポリペプチドを含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を意味し得る。
【0035】
本明細書で使用される場合の「位置」という用語は、タンパク質の配列における場所である。位置は、先頭から順にナンバリングされ得るか、又は確立された形式、例えば、KabatのようなEUインデックスに従ってナンバリングされ得る。例えば、305位は、ヒト抗体IgG1における位置である。
【0036】
「患者」及び「対象」という用語は互換的に使用され、本発明の組成物の投与によって予防又は処置され得る状態に罹患しているか、又は罹患しやすい生体を意味するその従来の意味で使用され、ヒト及び非ヒト動物の両方が含まれる。対象の例としては、限定するものではないが、ヒト、チンパンジー、及び他の類人猿、及びサルの種;家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、及びウマ;飼うための哺乳動物、例えば、イヌ及びネコ;マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類を含む実験動物;ニワトリ、シチメンチョウ、及び他のキジ科の鳥、アヒル、ガチョウ等の家禽、野鳥、狩猟鳥を含む鳥類が挙げられる。この用語は特定の年齢を示すものではない。したがって、成体、幼若体、生まれて間もない個体が対象とされる。
【0037】
本明細書で使用される場合の「残基」という用語は、タンパク質中の位置とそれに関連するアミノ酸同一性である。例えば、スレオニン307(またThr307ともいい、またT307ともいう)は、ヒト抗体IgG1中の残基である。
【0038】
本明細書で使用される場合の「免疫コンジュゲート」又は「コンジュゲート」という用語は、細胞結合物質(すなわち、本明細書に記載の抗体又はFcバリアント)に連結される化合物又はその誘導体を意味し、一般式:A-L-Dにより定義され、式中、Aは本発明の細胞結合物質又は抗体又はFcバリアントであり、Lはリンカーであり、Dは薬物(毒素又は医薬品)である。免疫コンジュゲートは、A-L-Dの逆順の一般式により定義することもできる。
【0039】
「リンカー」という用語は、化合物、通常は、メイタンシノイド又はアウリスタチン等の薬物を、抗FcRn又はそのフラグメント等の細胞結合物質に安定的な共有結合様式で連結させることができる任意の化学部分である。リンカーは、化合物又は抗体が活性を維持する条件下で、酸誘発切断、光誘発切断、ペプチダーゼ誘発切断、エステラーゼ誘発切断、及びジスルフィド結合切断に対して感受性であり得るか、又は実質的に抵抗性であり得る。適切なリンカーは当技術分野では周知であり、例えば、ジスルフィド基、チオエーテル基、酸不安定基、光不安定基、ペプチダーゼ不安定基及びエステラーゼ不安定基が含まれる。またリンカーには、荷電リンカー、及び本明細書に記載されており当技術分野で公知であるその親水性形態も含まれる。
【0040】
「アンタゴニスト」という用語は、FcRn等のそれが結合する抗原の生物学的活性を阻害又は低下させるものである。ある特定の実施形態では、アンタゴニストは、FcRn等の抗原の生物学的活性を実質的に又は完全に阻害する。望ましくは、生物学的活性は、10%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、95%、更には100%低下する。
【0041】
本明細書で使用される場合の「処置」又は「治療」という用語は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を意味する。これには、(a)疾患に罹患しやすいか、又は疾患にかかるリスクがあるが、まだ疾患を有すると診断されていない対象において、疾患が発生するのを予防すること;(b)疾患を抑制すること、すなわち発病を阻止すること;及び(c)疾患を緩和すること、すなわち疾患の退縮を引き起こすこと、が含まれる。
【0042】
本明細書では「野生型」又は「WT」という用語は、対立遺伝子変異を含む、天然で確認されるアミノ酸配列又はヌクレオチド配列である。WTタンパク質は、意図的に修飾されていないアミノ酸配列又はヌクレオチド配列を有する。
【0043】
「天然にコードされていないアミノ酸」という用語は、一般的なアミノ酸、又はピロリジン、ピロリン-カルボキシ-リジン、若しくはセレノシステインのうちのいずれでもないアミノ酸を意味する。「天然にコードされていないアミノ酸」という用語と同義に使用され得る他の用語は、「非天然(non-natural)アミノ酸」、「非天然(unnatural)アミノ酸」、「非天然起源のアミノ酸」及び様々なそのハイフン化及び非ハイフン化されたバージョンである。「天然にコードされていないアミノ酸」という用語は、限定するものではないが、天然にコードされているアミノ酸(限定するものではないが、20種類の一般的なアミノ酸、又はピロリジン、ピロリン-カルボキシ-リジン、及びセレノシステインを含む)の修飾(例えば、翻訳後修飾)により生じるが、それ自体は翻訳複合体により成長中のポリペプチド鎖に天然には組み込まれないアミノ酸も含む。そのような非天然起源のアミノ酸の例には、限定するものではないが、N-アセチルグルコサミニル(acetylglucosaminyl)-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-トレオニン、及びO-ホスホチロシン(Ophosphotyrosine)が含まれる。
【0044】
【表1】
【0045】
今回の特許出願で使用した他の略語:
%:パーセンテージ
℃:摂氏温度
μg:マイクログラム
μL:マイクロリットル
A:アデニン
ADCC:抗体依存性細胞傷害性
C:シトシン
CDC:補体依存性細胞傷害性
CFU:コロニー形成単位
CHO:チャイニーズハムスター卵巣
DNA:デオキシリボ核酸
ELISA:酵素結合免疫吸着測定法
EC50:薬物の最大有効濃度の50%
EC75:薬物の最大有効濃度の75%
Fc:結晶化可能なフラグメント
FcGRT:IgG受容体及びトランスポーターのFcフラグメント
FcRn:新生児Fc受容体
FcγRs:Fcガンマ受容体
G:グアニン
h:時間
H2SO4:硫酸
HRP:西洋ワサビペルオキシダーゼ
IC:免疫複合体
IgG:免疫グロブリン
IPTG:イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド
ITP:急性免疫性血小板減少症
IVIg:静脈内免疫グロブリン
Ka/kassoc:結合定数
Kd/kdissoc:解離定数
KD:平衡解離定数
M:モル
mg:ミリグラム
MgCl2:塩化マグネシウム
min:分
mL:ミリリットル
mM:ミリモル
MOI:感染症の多発性
NaCl:塩化ナトリウム
NaHCO3:重炭酸ナトリウム
ng:ナノグラム
nm:ナノメーター
OD:光学密度
OPD:o-フェニレンジアミン二塩酸塩
PBS:リン酸バッファー生理食塩水
PBST:ツイーン0.05%を含むリン酸バッファー生理食塩水
PEG:ポリエチレングリコール
PFU:プラーク形成ユニット
rFcRn:組換え新生児Fc受容体
rhFcRn:組換えヒト新生児Fc受容体
rpm:1分間あたりの回転数
s:秒
SCIg:皮下免疫グロブリン
SEQ/seq:配列
SPR:表面プラズモン共鳴
T:チミン
YT培地:酵母エキス・トリプトン培地
【0046】
発明の実施形態
本発明の開示は、治療目的において使用され得る新規のFcバリアントタンパク質に関する。
【0047】
一実施形態では、本発明のFcバリアントタンパク質又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子は、野生型Fcタンパク質と比較して、ヒトFcRnに高い親和性で結合する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcRnに対して10-8M以下、更に好ましくは10-10M以下のKDを有する。KD値は、抗体のそのターゲット抗原に対する結合親和性の測定値である。
【0048】
一実施形態では、本発明によるFcバリアントは、Fcガンマ受容体に対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、前記Fcガンマ受容体に対する改変された(増大又は低下された)親和性を有する。ある特定の実施形態では、Fcバリアントは、FcγRIIIa(CD16a)に対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、FcγRIIIa(CD16a)に対する増大された親和性を有する。
【0049】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、アロタイプV158及びF158を含むFcγRIIIa(CD16a)に対して10-7M以下のKDを有する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、ADCCの阻害によって評価した場合、免疫複合体媒介性FcγR活性化を阻害する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcγRによって媒介される食作用を阻害する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcγRによって媒介されるIL-6又はIL-8等のサイトカイン放出を阻害する。
【0050】
一実施形態では、Fcバリアントのアミノ酸配列は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4又はIgG2/G4アイソタイプ、好ましくはIgG1アイソタイプの配列である。
【0051】
別の実施形態では、本発明の1つ又は複数のFcバリアントは、エフェクター機能が変化若しくは低減しているか、又はエフェクター機能を有していない。一実施形態では、本発明のFcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質は、ADCC及びCDCの安全性の問題を引き起こす可能性が低下している。好ましい一実施形態では、本発明のFcバリアントは、CDC活性を有していない。好ましい一実施形態では、本発明のFcバリアントは、野生型FcのADCC活性又はIVIgのADCC活性と比較して、ADCC活性が低下している。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、ADCP活性が低下しているか、又は有していない。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcRnのアルブミンへの結合特性を妨げない。
【0052】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、ヒト以外の種由来のFcRnと交差反応する。
【0053】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、ヒトFcRnに対するより高い結合特異性を有する。
【0054】
一実施形態では、本発明のFcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子は、対象において延長された半減期を有する。ある特定の実施形態では、ポリエチレングリコール又はヒト血清アルブミンは、本発明のFcバリアントに連結して、前記Fcバリアントの半減期を更に延長することができる。代替の実施形態では、本発明のFcバリアントは、変異を含ませて、対象におけるその半減期を延長することができる。別の代替の実施形態では、本発明のFcバリアントは、多量体形態で発現され、Fcバリアントのより高いアビディティを介して分子サイズ及び親和性を増大することによって半減期を延長することができる。本明細書で使用される場合の「多量体形態」という用語は、1単位を超えるタンパク質、好ましくは本明細書ではFcタンパク質を含むタンパク質の形態である。例えば、それは二量体、三量体、四量体、五量体、六量体等であり得る。例えば、単量体のFcタンパク質は、FcRn並びにFcγRに対する2つの結合部位を有する。同様に、本発明によるFc二量体は、FcRn並びにFcγRsに対する4つの結合部位を有する。
【0055】
別の実施形態では、本発明のFcバリアントは、サルFcRnに結合することができ、関連の動物薬理学及び毒性学のモデルを提供することにより、薬物の開発を容易にすることができる。
【0056】
ある特定の実施形態では、Fcバリアントは、EU297位に脱フコシル化N結合型グリカンを含むバリアントFc領域を含む。
【0057】
一実施形態では、Fcバリアントは、野生型IgGと比較して、高いシアリル化を含むバリアントFc領域を含む。
【0058】
一実施形態では、本発明は、Fcバリアントタンパク質又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子と、許容される担体とを含む組成物を提供する。
【0059】
別の実施形態では、本発明のFcバリアントタンパク質又はFcバリアント含有タンパク質は、感染症、各種のがん、自己免疫障害等の疾患の処置において使用され得る。
【0060】
ある特定の実施形態では、Fcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子は、配列番号1~配列番号347に記載の配列から選択されるアミノ酸配列を含む。1~347の配列番号を含む配列は、本明細書のTable 3(表3)に記載されている。
【0061】
別の実施形態では、本発明のFcバリアントを使用して、従来のFc領域の代わりに本発明のFcバリアントを有する完全長の抗体を作製することができる。前記抗体は、既に承認されているか、又は発見されている抗体の修飾された形態であってもよく、既存の抗体の修飾された形態は、本発明のFcバリアントを有する。それはあらゆるターゲットに対して開発された新規の抗体であり得る。
【0062】
個別の実施形態では、本発明のFcバリアントは、延長された半減期をもつ薬物の製造に使用され得、本発明のFcバリアントは、循環中の元の半減期が短い薬物に融合されるか、連結されるか、又はコンジュゲートされる。
【0063】
別の実施形態では、本発明のFcバリアントを使用して、FcRn受容体を介した再循環を増加させることにより、ADCの半減期を延長し、オフターゲット毒性を低減することができる。
【0064】
一実施形態では、本発明のFcバリアントを任意の薬物と融合させて、その半減期及びin-vivo安定性を改善することができる。
【0065】
一実施形態では、本発明のFcバリアントを使用してアルブミン融合薬中のアルブミンを置き換え、薬物動態を改善することができる。
【0066】
一実施形態では、本発明のFcバリアント中の変異を使用して、pH6でのFcRnに対する完全抗体の親和性を改善し、異化作用を低下させることによりその循環半減期を延長することができる。
【0067】
一実施形態では、Fcバリアントを含有する抗体分子は、TNFアルファ、VEGF等の病原性タンパク質又は毒素を循環から除去するスカベンジャーとして使用され得る。
【0068】
一実施形態では、Fcバリアントを含有する抗体分子又はタンパク質は、トラッパーとして使用し、環境から所望のタンパク質、ペプチド、炭水化物又は薬物を捕捉し、FcRn発現ターゲット細胞内に取り込ませることができる。
【0069】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、任意の治療用ペプチドと融合した単量体Fc融合タンパク質の開発に使用し、FcRn結合活性を保持するとともに、組織への浸透性を向上させることができる。
【0070】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、PEGと融合させて、その循環半減期を更に改善することができる。
【0071】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、肺投与のような非侵襲的経路を介して薬物を送達するために使用され得る。
【0072】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcRn上のIgG結合部位を遮断し、内在性IgGとFcRnを競合させることにより内在性IgGのクリアランスを速くする。
【0073】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、薬物動態学的半減期とは無関係に、薬物の効力/有効性を改善することができる。
【0074】
一実施形態では、免疫原/抗原と融合した本発明のFcバリアントは、FcRnを発現するAPCへの抗原の送達を改善し、免疫応答を改善することができる。
【0075】
一実施形態では、本発明のFcバリアントは、ナノ粒子を含む薬物を、腸管上皮を介して様々な臓器に経口的に送達するために使用され得る。
【0076】
一実施形態では、ペプチド/免疫原と融合した本発明のFcバリアントは、多くの粘膜病原体に対するサブユニットワクチンの一般的な送達経路として、鼻腔内免疫に使用され得る。
【0077】
一実施形態では、任意の広域中和抗体と融合した本発明のFcバリアントは、そのような抗体の半減期を延長するために使用され得、また、消化管又は子宮頸膣管へのウイルスの侵入に対する免疫保護を付与する粘膜局在化を増強するために使用され得る。
【0078】
本発明の詳細な説明
一実施形態では、本発明のFcバリアントタンパク質又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子は、ヒトFcRnに高い親和性で結合する。本発明のFcバリアントは、pH6.0でのFcRnへの結合に関して、天然Fcよりも低いKD値を有する。本発明のFcバリアントは、pH6.0でFcRnに対して10-8M以下、更に好ましくは10-10M以下のKDを有する。KD値は、抗体のそのターゲット抗原に対する結合親和性の測定値である。
【0079】
Fcバリアントのアミノ酸配列
本発明のFcバリアントは、Fcタンパク質のCH2ドメイン若しくはCH3ドメインに、又はCH2及びCH3ドメインにアミノ酸置換を含む。更に好ましくは、本発明のFcバリアントは、EU250、EU251、EU252、EU253、EU254、EU255、EU256、EU257、EU258、EU259、EU307、EU308、EU309、EU310、EU311、EU375、EU377、EU379、EU380、EU381、EU432、EU433、EU434及びEU435から選択される1種又は複数の残基にアミノ酸置換を有する。EU250位、EU251位、EU252位、EU253位、EU307位、EU308位、EU309位、EU375位、EU377位、EU379位、EU380位、EU381位、EU432位、EU433位、EU434位、EU435位、EU436位、及びEU437位の好ましい置換アミノ酸をTable 2(表2)に示す。
【0080】
【表2A】
【0081】
【表2B】
【0082】
好ましい実施形態では、本発明によるFcバリアントのアミノ酸置換は、T250Q、T250R、T250A、T250H、T250V、T250K、L251H、L251A、L251E、L251Q、L251R、L251Y、L251C、L251V、M252L、M252V、M252Q、M252Y、M252H、M252F、I253P、I253S、I253Q、I253R、I253T、I253N、I253Y、S254H、R255Q、T256Q、P257Q、E258Y、E258W、V259R、V259G、T307N、T307Y、T307Q、V308P、V308D、V308T、V308S、L309Y、L309S、L309T、L309Q、H310P、H310V、Q311H、Q311N、S375R、I377L、V379I、E380Q、W381Q、L432S、L432C、L432Q、L432Y、L432P、L432W、L432F、L432A、L432M、H433R、H433T、H433Q、H433P、H433K、H433F、H433S、H433N、H433M、N434W、N434Y、N434H、N434F、N434D、N434G、N434I、N434L、N434T、N434Q、H435Q、H435K、H435P、H435N、H435D、Y436F、T437N及びそれらの適切な組合せから選択される。
【0083】
本発明のFcバリアントは、野生型Fcの2つ以上の位置での置換を含んでいてもよく、本明細書ではこれは置換の「組合せ」と呼ばれる。野生型Fcのアミノ酸配列は、配列番号348として言及されている。Fcバリアントのアミノ酸置換の好ましい組合せをTable 3(表3)に示す。組合せで存在するアミノ酸置換は、「/」の記号で区切られている。
【0084】
【表3A】
【0085】
【表3B】
【0086】
【表3C】
【0087】
【表3D】
【0088】
【表3E】
【0089】
【表3F】
【0090】
【表3G】
【0091】
【表3H】
【0092】
【表3I】
【0093】
【表3J】
【0094】
【表3K】
【0095】
【表3L】
【0096】
【表3M】
【0097】
【表3N】
【0098】
好ましい実施形態では、本発明によるFcバリアント中の特定のEU位での置換アミノ酸の組合せは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号117、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121、配列番号122、配列番号123、配列番号124、配列番号125、配列番号126、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号130、配列番号131、配列番号132、配列番号133、配列番号134、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142、配列番号143、配列番号144、配列番号145、配列番号146、配列番号147、配列番号148、配列番号149、配列番号150、配列番号151、配列番号152、配列番号153、配列番号154、配列番号155、配列番号156、配列番号157、配列番号158、配列番号159、配列番号160、配列番号161、配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、配列番号188、配列番号189、配列番号190、配列番号191、配列番号192、配列番号193、配列番号194、配列番号195、配列番号196、配列番号197、配列番号198、配列番号199、配列番号200、配列番号201、配列番号202、配列番号203、配列番号204、配列番号205、配列番号206、配列番号207、配列番号208、配列番号209、配列番号210、配列番号211、配列番号212、配列番号213、配列番号214、配列番号215、配列番号216、配列番号217、配列番号218、配列番号219、配列番号220、配列番号221、配列番号222、配列番号223、配列番号224、配列番号225、配列番号226、配列番号227、配列番号228、配列番号229、配列番号230、配列番号231、配列番号232、配列番号233、配列番号234、配列番号235、配列番号236、配列番号237、配列番号238、配列番号239、配列番号240、配列番号241、配列番号242、配列番号243、配列番号244、配列番号245、配列番号246、配列番号247、配列番号248、配列番号249、配列番号250、配列番号251、配列番号252、配列番号253、配列番号254、配列番号255、配列番号256、配列番号257、配列番号258、配列番号259、配列番号260、配列番号261、配列番号262、配列番号263、配列番号264、配列番号265、配列番号266、配列番号267、配列番号268、配列番号269、配列番号270、配列番号271、配列番号272、配列番号273、配列番号274、配列番号275、配列番号276、配列番号277、配列番号278、配列番号279、配列番号280、配列番号281、配列番号282、配列番号283、配列番号284、配列番号285、配列番号286、配列番号287、配列番号288、配列番号289、配列番号290、配列番号291、配列番号292、配列番号293、配列番号294、配列番号295、配列番号296、配列番号297、配列番号298、配列番号299、配列番号300、配列番号301、配列番号302、配列番号303、配列番号304、配列番号305、配列番号306、配列番号307、配列番号308、配列番号309、配列番号310、配列番号311、配列番号312、配列番号313、配列番号314、配列番号315、配列番号316、配列番号317、配列番号318、配列番号319、配列番号320、配列番号321、配列番号322、配列番号323、配列番号324、配列番号325、配列番号326、配列番号327、配列番号328、配列番号329、配列番号330、配列番号331、配列番号332、配列番号333、配列番号334、配列番号335、配列番号336、配列番号337、配列番号338、配列番号339、配列番号340、配列番号341、配列番号342、配列番号343、配列番号344、配列番号345、配列番号346及び配列番号347に記載の配列から選択される。
【0099】
好ましい一実施形態では、本発明によるFcバリアント中の特定のEU位での置換アミノ酸の組合せは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48及び配列番号49に記載の配列から選択される。
【0100】
好ましい一実施形態では、本発明によるFcバリアント中の特定のEU位での置換アミノ酸の組合せは、配列番号3、配列番号5、配列番号10、配列番号20又は配列番号22に記載の配列から選択される。
【0101】
より好ましい実施形態では、本発明のFcバリアントのアミノ酸配列は、配列番号22a、配列番号22b、配列番号22c、配列番号22d、配列番号22e及び配列番号22f及び配列番号22gから選択される。
【0102】
本明細書に記載のFcバリアントの残基、それらのそれぞれのアミノ酸置換、及び特定の残基のアミノ酸置換の組合せは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4又はIgG2/G4アイソタイプ、好ましくはIgG1アイソタイプのFcタンパク質に存在し得る。IgG2、IgG4又はIgG2/G4アイソタイプのFcバリアント構築物は、2つのFc鎖間のジスルフィド結合の破壊を軽減するために、Fcバリアントのヒンジ領域に単一アミノ酸置換(すなわち、S228P)を含むことができる(8)。本発明により調製されたFcバリアントは、任意選択で、機能性を変更する、例えば、ADCC及びCDC活性等の残存エフェクター機能を除去するように修飾され得る。好ましくは、本発明のFcバリアントは、CDC活性を有さない。好ましくは、本発明のFcバリアントは、野生型FcのADCC活性又はIVIgのADCC活性と比較して、低下されたADCC活性を有する。本発明によるFcバリアントは、Fcガンマ受容体に対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、前記Fcガンマ受容体に対する改変された(増大又は低下された)親和性を有する。一実施形態では、Fcバリアントは、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRIIa(CD32a)及びFcγRI(CD64)に対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、前記FcγRIIIa(CD16a)、FcγRIIa(CD32a)及びFcγRI(CD64)に対する増大された親和性を有する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、アロタイプV158及びF158を含むFcγRIIIa(CD16a)に対して10-7M以下のKDを有する。KD値は、抗体のそのターゲット抗原に対する結合親和性の測定値である。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、ADCCの阻害によって評価される場合、免疫複合体媒介性FcγRの活性化を阻害する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcγRによって媒介される食作用を阻害する。一実施形態では、本発明のFcバリアントは、FcγRによって媒介されるIL-6又はIL-8等のサイトカイン放出を阻害する。本発明は、FcRn及びFcγRに高い親和性で結合し得るFcバリアントを提供する。したがって、本発明のFcバリアントは、FcRn遮断及びFcγR活性化の阻害等、単一の薬物の複数の作用機序の複合効果を有しており、結果として、本発明のFcバリアントの強力な有効性をもたらす。
【0103】
この複合効果は、本発明の非限定的なFcバリアントの1つを用いて本明細書の実施例で説明している。前記Fcバリアントは、Table 3(表3)に記載の配列番号22の置換を有する。本発明の非限定的なFcバリアントのアミノ酸配列は、以下のTable 4(表4)に示すとおりである。配列番号22の特定のバリアント配列番号22bを、本明細書の実施例で述べた異なる実験において使用した。
【0104】
【表4】
【0105】
一態様では、本発明のFcバリアントは、1つ又は複数の位置に非天然アミノ酸を含み得る。ペプチドに非天然アミノ酸を導入することは、当業者には周知である。非天然起源のアミノ酸の製造方法及びタンパク質への導入方法は公知である(米国特許第7,083,970号;及び同第7,524,647号)。一態様では、本発明によるFcバリアントは、増大されたFcRn結合と延長された半減期を有し、ADCC及び/又はCDC活性は変化若しくは低減したか、又は活性がなかった。本発明のFcバリアントのADCC活性及び/又はCDC活性は、野生型Fcタンパク質又はIVIgの前記活性と比較される。一実施形態では、本発明によるFcバリアントは、P329G及び/又はM428L及びN434S変異から選択されるアミノ酸置換を有する。
【0106】
Fcバリアントの調製
本発明のFcバリアントは、本明細書で実施例に記載の部位特異的変異誘発法を使用して変異体ライブラリーを作製した後、ファージディスプレイライブラリー法を使用して調製される。
【0107】
Fcバリアントをコードする核酸分子、ベクター、及び宿主細胞
一実施形態では、本発明は、Fcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質をコードする核酸分子、並びにそのような核酸を含む発現ベクター、及び発現ベクター由来のFcバリアントをコードするそのような核酸分子を含む宿主細胞を提供する。本発明のFcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質を組換え法により産生するための適切なベクターは、当業者には公知である。このような公知のベクターの例は、特許文献の国際公開第2007/017903号、国際公開第2012/046255号に記載されており、これらは本明細書に組み込まれる。本発明による宿主細胞は原核細胞又は真核細胞であり、好ましくは、宿主細胞は哺乳動物細胞であり、より好ましくはCHO細胞である。
【0108】
医薬組成物
本発明のFcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子の1つ又は組合せを、薬学的に許容される担体とともに製剤化した医薬組成物を開発することができる。そのような組成物には、本発明のFcバリアント若しくはFcバリアント含有タンパク質、又は免疫コンジュゲート若しくは二重特異性分子の1つ又は組合せ(例えば、2つ以上の異なる)が含まれ得る。例えば、本発明の医薬組成物は、Fcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質と、ターゲット抗原上の異なるエピトープに結合する抗体(又は免疫コンジュゲート若しくは二重特異性)の組合せを含むことができる。
【0109】
治療上の使用
Fcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子は、FcRnへの薬物の結合を必要とする治療方法を含む、疾患の処置に使用され得る。
【0110】
本発明の一実施形態では、Fcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質は、限定するものではないが、自己免疫疾患及び炎症等の疾患に罹患しているヒトを含む対象のin vivoでのFcRnを阻害するために使用され得る。
ある特定の実施形態では、Fcバリアント又はFcバリアント含有タンパク質又はFcバリアント含有分子は、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、橋本甲状腺炎、インスリン依存性糖尿病(IDDM)、バセドウ病、重症筋無力症、CIDP 糖尿病、抗血清(β-Thalassemia)、造血器官用薬、眼科用薬、骨疾患、神経系遺伝性疾患、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、黄斑疾患、非小細胞肺癌治療、眼部遺伝性疾患、血友病B、循環器系疾患(凝固第IX因子欠損症)治療薬、2型糖尿病、免疫抑制剤、関節リウマチ、移植拒絶反応の処置、脳腫瘍、乳癌、大腸癌、糖尿病性網膜症、消化器系がん、内分泌系がん、女性生殖器系がん、胃がん、泌尿器系がん、黄斑疾患、メラノーマ、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群治療、骨髄性白血病治療、非ホジキンリンパ腫治療、非小細胞肺がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん治療、腎臓がん治療、網膜症、再生不良性貧血、鎮痛薬、血液学的遺伝性疾患、多系統遺伝性疾患、変形性関節症、強皮症、自己免疫疾患の処置、痛風、蕁麻疹、強直性脊椎炎の処置、喘息治療、皮膚科治療薬、特発性炎症性筋疾患、免疫抑制剤、炎症性腸疾患、間質性肺疾患、多発性骨髄腫治療、多発性硬化症、ネフローゼ、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、急性アルコール性肝炎治療剤、アルツハイマー型認知症、抗アレルギー剤/抗喘息剤、抗関節炎剤、鎮痛剤、乳癌治療剤、癌関連疾患、皮膚科治療薬、心不全治療薬、リンパ腫治療薬、腎炎、神経科治療薬(その他)、呼吸器疾患、先天性代謝異常の治療薬から選択される疾患を処置するために使用される。ここで、本発明を以下の非限定的な実施例で説明するが、これらは何ら本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0111】
以下の例は、本明細書で特許請求されている方法及びFcバリアントがどのように実行されるかの開示及び説明を当業者に提供するために提示される。これらは純粋に例示のみを目的としたものであり、本開示の範囲を限定することを意図してはいない。本発明の他のFcバリアントは、提供した実施例に記載された方法を、いくつかの変更を加えて使用して、開発することができる。そのような変更は、当業者には公知である。
【0112】
(実施例1)
ファージディスプレイライブラリーの調製
(a)野生Fcプラスミドの作製
ライブラリーを作製するために、重鎖のCH2及びCH3ドメイン(EU221-447)のヒンジの部分配列を含むヒトIgG1 Fc領域をEcoRI及びBamHIのオーバーハングとともに化学的に合成し、pMA/pMKベクターにクローニングした。
【0113】
Fc遺伝子(配列番号348)は、EcoRIとBamHIで消化した後にこれらの構築物から単離された。クローニングされたFc遺伝子のアミノ配列を配列番号348として本明細書で提供する。
【0114】
【化1】
【0115】
pSEX81(カタログ番号PR3005、Progen社)ファージミドベクターを改変し、ファージミドベクターのpIII遺伝子を切断し、EcoRI及びBamHIで消化し、直鎖化したベクターを消化したFc遺伝子とライゲーションさせた。得られた改変ベクターは、本明細書ではpSEX83と呼ばれる。pSEX83のベクターマップを図1に示す。消化したFcとpSEX83ベクター断片をアガロースゲルで解析し、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen社カタログ番号28706)を使用してゲルから精製した。Fc(挿入物)とpSEX83(ベクター)の両ライゲーション産物をエレクトロコンピテント大腸菌(E. coli)TG1細胞(カタログ番号60502-1、Lucigen社)に形質転換した。形質転換した細胞を、アンピシリン含有(100μg/mL)2xYT寒天培地プレートに播種した。クローンは、EcoRI及びBamHI制限消化並びにSanger法を使用したDNA配列決定により分析した。
【0116】
(b)親和性成熟のための二次ライブラリーの調製
Fcバリアントファージディスプレイライブラリーを調製するために2つの異なる方策をとった。
【0117】
方策1:PCRプライマーに基づく部位特異的変異誘発
Fc遺伝子のCH2-CH3ドメイン(EU250-259、EU307-311、EU375-381、EU432-437)中の4つの異なる領域が、ランダム変異導入及びファージディスプレイライブラリーの調製のためにターゲットとされた。
【0118】
選択した領域の変異は、SapI制限部位を有するそれぞれのプライマー対(RK173/RK174、RK175/RK176、RK177/RK178、RK179/RK180、RK181/RK182及びRK183/RK184)によるPCRを使用して導入した(Table 4(表4))。各プライマー対は、直鎖状形態の完全なプラスミドを増幅し、SapIによる制限消化と、それに続くT4 DNAリガーゼによるライゲーションの後に、プライマー対により導入された変異を含む環状プラスミドが得られるように設計されていた。それぞれの対を使用して、別々のライブラリーを作製した。また、1つのライブラリーからのDNAを使用して、他の領域に変異を加えるためのライブラリーを作製した。
【0119】
簡単に説明すると、pSEX83ベクターのFc遺伝子の鋳型DNA100ngを、Table 5(表5)に記載したプライマー対を使用した増幅に使用した。ランダム化プライマーを使用して鋳型を増幅した後、生成物をSapIで消化し、粘着末端を得た。PCR精製後、消化産物を16℃で一晩ライゲーションした。次いで、ライゲーションしたDNAを、新しく調製したエレクトロコンピテント細胞(TG1)に形質転換した。形質転換した細胞を培養し、ファージを産生した。ファージ産生は、以前に説明されているように(Brockmannら、2011)、各ライブラリーについて別々に行った。
【0120】
【表5】
【0121】
方策2:クンケル変異誘発法(Kunkel mutagenesis)及びsRCA
クンケル変異誘発法は、参考文献9に従ってsRCAにより実施した。CJ236細胞の少量培養物を、Fc遺伝子のプラスミドを担持するファージに感染させた。感染した細胞を、ウリジン(6μg/mL)及びカルベニシリン抗生物質(100μg/mL)を含有する2xYTで増殖させた。ファージをVCS M13ヘルパーファージ(Agilent technologies社、米国)により重複感染させ、PEG6000(4%)とNaCl(500mM)で沈殿させることにより精製した。一本鎖ウリジル化DNA(ss(U)DNA)は、メーカーの説明書に従ってE.Z.N.A.(登録商標) M13 DNAミニキット(OMEGA bio-tek社、米国)のM13精製キットを使用することによって、精製したファージから抽出した。
【0122】
このss(U)DNAをクンケル変異誘発法で鋳型として使用し、ランダムな変異を有する様々なプライマーをライブラリーの作製に使用した。Fcの異なる領域をターゲットとするプライマー(Table 6(表6))をss(U)DNA鋳型に別々にハイブリダイズさせ、クンケル変異誘発法により伸長させた。産物をUDGで処置し、RCAにより選択的に増幅した(9)。RCA産物をHind IIIで消化し、T4 DNAリガーゼを使用して環状化し、SS320細胞に形質転換した。ファージ(二次ライブラリー)は、以下に記載のヘルパーファージによる重複感染によって、各変異誘発プライマーついて別々に作製した。
【0123】
【表6】
【0124】
(実施例2)
PCR及びクンケルライブラリーからの変異Fcファージの産生並びにその精製
カルベニシリン又はアンピシリン(100μL/mL)を含む2xYT培地を入れたフラスコに、上述したライブラリーのグリセロールストックの細胞を初期濃度0.06 OD600で接種した。培養物を250rpmで振盪しながら、37℃でOD600が最高0.4~0.6に達するまで増殖させた。次いで、VCSM13(Agilent社、カタログ番号200251)又はM13KO7(GE healthcare社、カタログ番号27152401)のいずれかのヘルパーファージを、感染倍率(MOI)20で培養物に添加し、最初に37℃で40分間、振盪せずにインキュベートし、その後、更に40分間、37℃で振盪しながらインキュベートした。次いで、カナマイシンを培養物に添加し、培養物を26℃、150rpmで一晩増殖させた。一晩、ファージ培養物を4000gで遠心分離し、細胞ペレットを廃棄した。PEG(20%)/NaCl(2.5M)溶液を1:5の比率で上清に添加し、ファージを沈殿させた。再懸濁した溶液を氷上で20分間インキュベートした後、14,000gで、15分間、4℃で遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを0.01%のアジ化ナトリウムを含む1mLの滅菌PBSに再懸濁した。ファージは、更に使用するまで4℃で保存した。
【0125】
(実施例3)
ファージを発現する高親和性Fcバリアントのバイオパニング
実施例2で調製したFc変異体ライブラリー(1x1012PFU)を、FcRn受容体に対する高親和性Fcバインダーについてスクリーニングを行った。pH6.0でのFcRn/FcGRT抗原(Sino biological社、カタログ番号CT071-H27H)に対する第1ラウンドのパニングは、炭酸バッファー(0.1M、pH9.6)中の5μg/mL FcRnタンパク質溶液とともに4℃で一晩インキュベートして調製した抗原固定化イムノチューブ(Immunotubes)(Quidel社、米国)を使用して実施した。イムノチューブをPBSで3回洗浄し、次いで、PBS中のファージと25℃で2時間、一定の回転をさせながらインキュベートした。チューブをtween 20(0.1%)を含む4mLのPBSで10回洗浄し、続いてPBSで10回洗浄した。結合したファージをグリシン-HCL pH2.1 (0.1M)で溶出させた。溶出したファージをTG1大腸菌細胞の感染によりレスキューし、播種し、ファージを実施例3に記載のように産生した。
【0126】
第2及び第3ラウンドのパニングは、第1ラウンドのパニングからのアウトプットファージ(1x1011CFU)及び第2ラウンドのパニングからのアウトプットファージ(1x1010CFU)を、それぞれ、第2ラウンド及び第3ラウンドのパニングのインプットファージとして使用する方法において、FcRn抗原をコーティングしたイムノチューブに対して実施した。第3ラウンドのパンニング後のファージを前述のようにTG1細胞に感染させ、ファージミドDNAを、適切な発現ベクターにおけるFcバリアントのクローニングのために単離した。
【0127】
(実施例4)
可溶性Fcタンパク質としての個々のFc変異体クローンのスクリーニング
発現ベクターへのクローニング及びタンパク質生産
第3ラウンドのパンニング後に生成された濃縮ライブラリーからのFcバリアント遺伝子を、個々のFc変異体クローンがHISタグ付き融合産物として産生され得るように、発現ベクターpOPE101(カルベニシリン耐性)(Progen社、ドイツ)又はその改良バーションpOPE102(カナマイシン耐性)にクローニングした。ベクターDNA(pOPE101又はpOPE102)及びファージミドDNAの両方を制限酵素(EcoRI及びBamHI)で消化し、それぞれ、ベクター遺伝子及びFcバリアント遺伝子を単離した。制限消化したベクター及びFc遺伝子の両方をライゲーションし、TG1エレクトロコンピテント細胞に形質転換した。形質転換した細胞を、カルベニシリン抗生物質を含む2xYT寒天培地プレートにプレーティングした。2xYT寒天培地プレートから個々のクローンを取り出し、カルベニシリン又はアンピシリン(100μL/mL)を含む2xYT培地5mLを入れた15mLチューブで、32℃、200rpmで一晩培養した。翌日、培養物を、カルベニシリン(100μg/mL)及びグルコース(0.1%)を含有する新鮮な2xYT培地に1:200の容量比で再接種した。OD600が約0.6~0.8に達するまで培養物を増殖させた。その後、1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養物に添加し、30℃、200rpmで一晩増殖させた。一晩、培養物を10,800gで15分間回転させ、上清を除去した。細胞ペレットを、2mg/mLのリゾチーム、0.1%トリトンX、1U/100mLのベンゾナーゼを含有する1xPBSバッファーpH-7.4の元の培養物の1/20容量に再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。再懸濁したペレットを10,800gで15分間遠心分離し、可溶性のHisタグ付きFcバリアントを含有する細胞溶解物として上清を回収した。この細胞溶解物画分をイムノアッセイに使用し、ペリプラズム画分中の可溶性Fcを定量した後、FcRn結合を検討した。
【0128】
ペリプラズム画分中の可溶性Fcの定量
クローンを、上記の可溶性Fcバリアントを産生するため個別に培養した。細胞溶解物又はペリプラズム画分中の総Fcは、マウス抗ヒトIgG抗体(Sigma社、カタログ番号I6760)を播種したmaxisorpプレート上に可溶性Fcを固定化することにより定量した。コーティングバッファー(0.1M NaHCO3、pH9.6)中に2.5μg/mL(100μL/ウェル)の濃度のマウス抗ヒトIgG抗体でコーティングを一晩行った。プレートを2回洗浄した後、細胞溶解物100μL(1xPBS中1/20v/v)を添加し、25℃で1時間インキュベートした。連続希釈した既知濃度の野生型Fc IgG1を、細胞溶解物中のFcタンパク質の量を計算するための標準として使用した。プレートをPBST(1xPBS中0.1% Tween20)で3回洗浄した。100μL(1:10000)のHRPコンジュゲート型ヤギ抗ヒトIgG Fc、F(ab)'2フラグメント(Invitrogen社、カタログ番号A24476)をプレートの各ウェルに添加し、1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBSTで5回洗浄し、続いて、基質のo-フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)(100μL/ウェル)を37℃で15分間添加した。反応を1NのH2SO4(100ul/ウェル)で停止させ、TECAN INFINITE(登録商標)M1000proを使用して、450nmで光学濃度(OD)を測定した。次いで、細胞溶解物中のFc濃度を、参照標準を使用して算出した。
【0129】
Fcバリアントの定性分析
FcRn抗原を、コーティングバッファー(0.1M NaHCO3、pH9.6)中で、一晩4℃にてポリスチレンプレートにコーティングした(100ng/100μL/ウェル)。プレートを2回洗浄した後、100μL PBS pH6.0で希釈した100ngのFcバリアントを各ウェルに加え、25℃で1時間インキュベートした。プレートをPBST(1xPBS pH6.0中0.1% Tween20)で4回洗浄し、続いて、100μL(1:10000)のHRPコンジュゲート型ヤギ抗ヒトIgG Fc、F(ab)'2フラグメント(Invitrogen社、カタログ番号A24476)を添加し、25℃で1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBSTで5回洗浄し、続いて、基質のo-フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)(100μL/ウェル)を37℃で15分間添加した。反応を1NのH2SO4(100μl/ウェル)で停止させ、TECAN INFINITE(登録商標)M1000proを使用して、450nmで光学濃度(OD)を測定した。野生型Fcと比較して比較的高いODシグナルを持つ個々のクローンを、さらなる特徴付けのために選別した。
【0130】
(実施例5)
リコンビナントヒト新生児Fc受容体(rhFcRn)に結合するFcバリアントの速度論的な速度定数の決定
Fcバリアントの組換えヒト新生児Fc受容体(rhFcRn)への結合に関する速度論的定数は、ProteOn(商標)XPR36(Bio-Rad社)を使用した表面プラズモン共鳴法に基づく測定により決定された。rhFcRn受容体(Sino Biologics社)は、製造業者の指示に従いGLCチップに固定した。10mMのリン酸バッファー生理食塩水(PBS)10mMリン酸バッファー、pH6.0、150mMのNaCl、0.005%のTween20を含む)をランニングバッファーとして使用し、速度論的測定を実施した。結合速度定数(Ka)及び解離速度定数(Kd)を測定するために、Fcバリアントの5つの希釈液を上記のランニングバッファーで調製し、結合時間180秒及び解離時間600秒で、100μL/分の流速にて注入した。反応は、PBS(pH6.0、0.005%の界面活性剤P20)中、25℃で行った。各サンプルの実行後、PBS(0.005%の界面活性剤P20)pH7.4を2パルス、続いてグリシンバッファーpH1.5を1パルス使用して、チップ表面を再生させた。センソグラムの形式のデータは、ProteOn(商標)システムのデータ・フィッティングプログラムを使用して分析された。異なるFcバリアントへのrhFcRn結合の速度論的定数をTable 7(表7)に示す。
【0131】
【表7】
【0132】
(実施例6)
異なるpH条件下での組換えヒト新生児Fc受容体(rhFcRn)へのFcバリアント結合の速度論的な速度定数の決定
この実験では、Fcバリアントの組換えヒト新生児Fc受容体(rhFcRn)への結合に関する親和定数を、ProteOn(商標)XPR36(Bio-Rad社)を使用した表面プラズモン共鳴法に基づいた測定によって、2つの異なる条件で決定した。10mMのリン酸バッファー生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸バッファー、150mMのNaCl、0.005%のTween20を含む)をランニングバッファーとして使用し、速度論的測定を実施した。親和定数を測定するために、Fcバリアントの5つの希釈液を調製し、結合時間180秒、解離時間600秒で、100μL/分の流速にて注入した。すべての反応は25℃で行われた。FcRn結合及びFcRnからの分子の解離に対するpHの影響を確認するため、サンプルを異なるpH条件下でFcRn結合について分析した。配列番号22(H11+A4)に示した配列を有するFcバリアントのrhFcRnに対する親和定数を測定した。相互作用の結合相のバッファーはサンプル希釈バッファーであり、相互作用の解離相のバッファーはランニングバッファーである。条件1では、結合相のバッファーはPBST pH6.0であり、解離相のバッファーはPBST pH7.4であった。条件2では、結合相のバッファーはPBST pH7.4であり、解離相のバッファーはPBST pH6.0であった。この実験を行うために使用したFcバリアントは、CHO細胞株で産生された。2つの異なるpH条件でのFcバリアントへのrhFcRn結合の親和定数をTable 8(表8)に示す。
【0133】
【表8】
【0134】
Table 8(表8)から明らかなように、本発明のFcバリアントは、pH7.4と比較して、pH6.0ではより高い親和性でFcRnを遮断することができる。したがって、本発明のFcバリアントは、FcRn相互作用に特徴的なpH依存性(中性付近のpHよりもpH6.0でより高い親和性)の保持を有する。したがって、本発明によって調製されたFcバリアントは、循環中の総血清IgGレベルを低下させることができる。
【0135】
(実施例7)
異なる種の組換え新生児Fc受容体(rFcRn)へのFcバリアント結合の速度論的な速度定数の決定
この実験では、異なる種のFcRnへの本発明のFcバリアントの結合は、ProteOn(商標)XPR36(Bio-Rad社)を使用した表面プラズモン共鳴に基づく測定により決定した。速度論的な速度定数を確認するために、実験は、配列番号22(H11+A4)に示した配列を有するFcバリアントを含むマウス、サル、及びヒトの組換えFcRnを使用して行った。この実験を行うために使用したFcバリアントは、CHO細胞を発現系として使用して作製した。FcRn(異なる種のもの)は、標準的なアミンカップリング化学を使用して、基本的に製造業者の指示に従い、GLCセンサーチップ表面に固定化された。10mMのリン酸バッファー生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸バッファー、pH6.0、150mM NaCl、0.005% Tween20)をランニングバッファーとして使用し、速度論的測定を実施した。結合速度定数(kassoc)及び解離速度定数(kdissoc)を測定するために、Fcムテインの5つの希釈物を上記のランニングバッファーで調製し、100μL/分の流速で、結合時間180秒、解離時間600秒にて注入した。すべての反応は、25℃で実施した。各サンプルを実行後、PBST、pH7.4を使用してチップ表面を再生した。センサーグラムの形式のデータは、ProteOn(商標)システムのデータ・フィッティングプログラムを使用して分析した。
【0136】
Fcバリアントへの(異なる種の)FcRn結合の速度論的定数をTable 9(表9)に示す。
【0137】
【表9】
【0138】
Table 9(表9)から明らかなように、本発明のFcバリアントは、ヒトFcRnだけでなく、マウスFcRn、及びサルFcRnもin-vitroで遮断することができる。サルFcRnとの交差反応性の有利な特徴は、本発明のFcバリアントを非ヒト霊長類において試験することができ、得られたデータが、ヒトにおける本発明のFcバリアントのそれらの薬物動態、薬力学及び毒性を予測するのに非常に有用であり得ることを意味する。
【0139】
(実施例8)
Fcガンマ受容体へのFcバリアント結合の速度論的な速度定数の決定
この実験では、組換えFcガンマ受容体へのFcバリアントの結合に関する速度論的定数を、ProteOn(商標)XPR36(Bio-Rad社)を使用した表面プラズモン共鳴測定により決定した。この実験については、FcγRIIIa(Phe)及びFcγRIIIa(Val)Fcγ受容体を、配列番号22(H11+A4)に示した配列を有する本発明のFcバリアントへの結合について分析した。すべての組換えヒトFc受容体は、標準的なアミンカップリング化学を使用し、基本的に製造業者の指示に従い、GLCセンサーチップ表面に直接固定化した。10mMのリン酸バッファー生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸バッファー、pH7.4、150mMのNaCl、0.005% Tween20を含む)をランニングバッファーとして使用した、すべてのFc受容体の速度論的測定を実施した。結合速度定数(kassoc)及び解離速度定数(kdissoc)を測定するために、Fcバリアントの5つの希釈物を上記のランニングバッファーで調製し、50μL/分の流速で注入した。各相互作用における結合時間及び解離時間は、下の表に記載されている。すべての反応は、25℃で実施した。センサーグラムの形式のデータは、ProteOn(商標)システムで利用可能なデータ・フィッティングプログラムを使用して分析した。
【0140】
【表10】
【0141】
この実験を行うために使用したFcバリアントは、CHO細胞株で産生された。ヒトIgG1対照(本発明の置換基を欠いている)を表す対照分子は、Fcガンマ受容体に対する本発明のFcバリアントの親和性レベルを決定するために維持された。
【0142】
【表11】
【0143】
Table 11(表11)から明らかなように、本発明のFcバリアントは、IgG1対照を表す分子と比較して、高い親和性でFcγRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)を遮断することができる。Fcガンマ受容体を遮断する本発明のFcバリアントのこのように示された活性は、本発明のFcバリアントが免疫複合体媒介性FcγR活性化を阻害することができることを示している。
【0144】
(実施例9)
配列番号22を有するFcバリアントの単量体及び多量体(二量体)DGV-H11A4の構築
Fcバリアント単量体の2つの鎖がグリシン-セリンリンカー(配列番号A-GGGSGGGSGGGSGGGSSGGGSS)と連結されており、第2の鎖のEU226位及び229位のシステイン残基が、自己二量体化を防止するためにセリンに変更されている、配列番号22(H11+A4;H11A4とも呼ぶことができる)のアミノ酸配列を有するFcバリアント単量体と、配列番号22(H11+A4;H11A4とも呼ぶことができる)のアミノ酸配列を有するFc二量体の化学合成遺伝子は、ドイツのGeneart社から入手したpMKベクターで得られた。Fcバリアントの単量体及び二量体遺伝子は、HindIII及びEcoRIによる制限消化により、pMK Geneart構築物から単離した。HindIII及びEcoRIで消化した約0.7kbのFcバリアント単量体H11A4遺伝子と約1.5kbのFcバリアント二量体を、HindIII及びEcoRIで消化したpXC-17.4ベクター(Lonza社)及びpXC-18.4ベクター(Lonza社)に個別にライゲーションさせた。ライゲーション産物を大腸菌Top10F'に形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいてスコア化した。クローンは、HindIII及びEcoRIによる制限消化により分析した。pXC-17.4 H11A4単量体及び二量体並びにpXC-18.4 H11A4単量体及び二量体それぞれからの陽性クローンをSalI及びNotIで消化した。消化産物を1%アガロースゲルで分離させた。pXCH11A4単量体由来の約6.9kb断片とpXC-18.4 H11A4単量体由来の約2.7kb断片とをライゲーションすることにより、2つの発現アセンブリを担持する最終のDGV H11A4単量体を調製した。同様に、pXCH11A4二量体由来の約7.7kbの断片とpXC-18.4 H11A4二量体由来の約3.5kbの断片をライゲーションすることにより、2つの発現アセンブリを担持する最終のDGV H11A4二量体を調製した。ライゲーション産物を大腸菌Top 10F'に形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいてスコア化した。最終のDGV-H11A4単量体及び二量体ベクターは、制限消化特性決定及びサンガーシークエンシングにより確認した。ベクターは、CHO-GS細胞(Lonza社)にトランスフェクションするためにPvuIで直鎖化した。Fc単量体及びFc二量体の調製に使用したベクターのマップを図2としてここに示す。
【0145】
(実施例10)
配列番号22を有するFcバリアントを持つ完全長の抗体DGV-H11A4の構築
FcバリアントH11A4は、Fc領域を、無関係の(ヒト/マウス/NHPに対して交差反応しない)重鎖可変ドメインと、無関係の(ヒト/マウス/NHPに対して交差反応しない)軽鎖と組み合わせて結合させることにより、完全長のモノクローナル抗体分子として調製した。FcバリアントH11A4領域を増幅してCH1ドメインに挿入し、ApaI制限部位を5'末端に、EcoRI制限部位を3'末端に挿入した。この約1.0kbの挿入物をApaI及びEcoRIで消化し、重鎖可変領域を含むフレームにおけるクローニングを促進させた。約0.5kbの遺伝子である、MluI及びApaIで消化した重鎖の可変領域と、ApaI-EcoRIで消化したH11A4 PCRフラグメントを、軽鎖遺伝子を有するMluI及びEcoRIで消化したDGVベクターにライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌Top10F'細胞に形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいてスコア化した。最終のDGV-H11A4 mAbベクターは、制限消化による特性決定及びサンガーシークエンシングによって確認した。ベクターは、CHO-GS細胞(Lonza社)にトランスフェクションするためにPvuIで直鎖化した。Fc単量体を含む完全長の抗体の産生に使用したベクターのマップを図3としてここに示す。
【0146】
(実施例11)
細胞株発現Fc構築物の作製
この実施例では、Fcバリアントを発現する安定的なトランスフェクション細胞株の作製について説明する。実施例9及び実施例10に記載のすべてのベクター構築物をトランスフェクションに使用した。プラスミドを、トランスフェクションの前に、PvuI制限酵素で直鎖化した。組換えタンパク質の発現に適した宿主の1つであるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)を細胞株の作製に使用した。CHO細胞をトランスフェクションの24時間前に50万個/mLの密度で播種し、細胞を対数増殖期にあるようにした。トランスフェクションは、Neon Transfection system (Invitrogen社)を使用し、製造業者の説明書に従ってエレクトロポレーション技術により実施した。トランスフェクション後、細胞を、選択圧を含む予熱したProCHO5無血清培地(Lonza社、スイス)1mLを入れた24ウェル細胞培養プレートに播種し、5% CO2の存在下で、37℃の加湿インキュベーターにてインキュベートした。トランスフェクションされたすべてのプールの細胞数を定期的にモニターし、定期的な培地交換を行った。細胞がトランスフェクションから回復したら、細胞を6ウェル培養プレート、Tフラスコ、及びcultiチューブ(TPP社)に更に拡大した。
【0147】
フェッドバッチ培養は、すべてのFcバリアント候補のトランスフェクトされたプールに対して、組換えタンパク質産生用のcultiチューブ(TPP社)で実施した。細胞は、Hyclone、GE社製のActiPro生産培地に0.3×106細胞/mLの密度で播種した。cultiチューブは、加湿式Kuhnerシェーカーで、温度37℃、CO2レベル5%、振盪速度230RPMでインキュベートした。Hyclone, GE社製の化学的に決定された飼料を使用し、すべてのプールに対して、培養中に毎日一定の給餌計画に従った。培養の72時間後、給餌を開始し、バッチが回収されるまで継続した。
【0148】
回収後、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによるタンパク質精製のために培養上清を収集した。これらの精製タンパク質の候補について、上記の実施例で記載されているように、様々なin-vitroアッセイについて更に試験を行った。多量体形態のFcバリアント(配列番号22)及び完全長の抗体形態のFcバリアントは、Fc単量体と同様の技術的効果を有することが確認されている。したがって、本発明のFcバリアントは、すべての構築された形態(単量体、多量体、及び完全長の抗体)において、同じ技術的効果を達成することができる。
【0149】
(実施例12)
野生型C57BL/6マウスにおける総血清IgGレベルに対するFcバリアントの効果
本試験では、実施例9に従って調製したFc二量体を市販のIVIgと比較し、本発明のFcバリアントが循環中の総血中IgGレベルに対する効果を決定した。野生型C57BL/6マウスを体重に基づいて無作為化した。ゼロ時点(投与前)に採血を行った。1時間以内に、50mg/kgのFc二量体及び1g/kgのIVIgを、試験動物のそれぞれの群(1群当たり6匹のマウス)に静脈内経路により投与した。血液サンプルを、5時間、24時間(1日目)、48時間(2日目)、72時間(3日目)、144時間(6日目)、216時間(9日目)、288時間(12日目)、及び312時間(13日目)の時点で採取した。内因性IgGレベルは、言及した各時点で採取したサンプルからELISAを使用して決定した。グラフにした結果を図4に示す。IVIgとFc二量体は両方とも、対照と比較して、内因性マウスIgGレベルの減少を示し、Fc二量体は、IVIgと比較して、6日目までIgGクリアランスが大きいことを示した。投与前のIgGに対して、IVIgの場合には約66%であるのに対し、Fc二量体の場合には約47%と最も低いIgG減少の%が確認された。アルブミンレベルもまた、言及した時点で決定した。全体として、すべての時点と群で差は観察されなかった(図5)。本発明に従って調製したFc二量体は、血清中のアルブミンレベルに影響を及ぼさなかった。本発明に従って調製したFcバリアントは、FcRn上のアルブミンの結合部位に干渉することなく、FcRnが血清中のアルブミンレベルを維持することを可能にすることが明白である。同様の実験を、本発明のFcバリアントを含有する完全長の抗体、並びに配列番号22を有する本発明のFcバリアントの単量体形態について、本明細書の実施例12に記載されているのと同じ方法に従って実施した。
【0150】
(実施例13)
Fcガンマ受容体依存性ADCC活性に対するFcバリアントの効果
SKBR3細胞をカルセインAM色素で染色し、EC50濃度及びEC75濃度がそれぞれ10.39ng/mL及び31.17ng/mLのトラスツズマブと播種し、37℃及び5%のCO2で30分間インキュベートした。実施例9に従って調製したFc二量体がADCCを遮断することができるかどうかを決定するため、100μg/mLから開始して連続希釈したFc二量体と、ターゲット細胞のエフェクター細胞に対する比率が1:30のヒトPBMCを、SKBR3細胞を含有するウェルに加え、37℃、5%のCO2で4時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを2000rpmで25℃にて5分間遠心分離し、上清100μLを回収し、96ウェルのブラッククリアボトムプレートに移した。プレートリーダーにおいて励起光494nm、発光光515nmで読み取り、カットオフを515nmに設定した。結果を図6に示す。図6から明らかなように、本発明のFc二量体は、トラスツズマブによって媒介されるADCC活性を低下させることができ、Fcガンマ受容体へのその強い結合によって、PBMCに存在するNK細胞へのトラスツズマブの結合を阻止することができることが確認される。
【0151】
(実施例14)
慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)動物モデルにおけるFcバリアントの効果
この研究では、H11+A4(配列番号22)の治療効力を急性免疫性血小板減少症のマウスモデルにおいて試験した。詳細には、C57BL/6マウスを体重に基づいて無作為化し、続いて2つの異なる用量のH11+A4(すなわち、0.5mg/20gmマウス及び1mg/20gmマウス)又はリン酸バッファー生理食塩水を静脈注射により処置した(動物7匹/群)。1時間後、マウスを、抗血小板抗体MWReg30(5μg/20gマウス)又はリン酸バッファー生理食塩水で静脈経路を介して処置した。24時間後、再度マウスを、MWReg30(5μg/20gmマウス)又はリン酸バッファー生理食塩水で腹腔内経路を介して処置した。MWReg30の第1回目注射の72時間後に、血小板数を測定するため血液サンプルを採取した。血小板数は、採取したサンプルから血液分析装置により決定され、プロットした。結果を図7に示す。図7から明らかなように、H11+A4による前処置によって、MWReg30(抗血小板抗体)誘導性血小板減少が用量依存的に両方の用量で低下し、分子は血小板減少性状態を回復させる有効な可能性を有している。
【0152】
本特許出願に組み込まれている参考文献:
(参考文献)
【0153】
参照による組み込み
本明細書で言及されているそれぞれの特許文献及び科学論文の開示全体は、すべての目的のために参照により組み込まれる。
【0154】
等価物
本発明は、その趣旨又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化することができる。前述の実施形態は、したがって、本明細書に記載の発明を限定するものではなく、すべての点において例示であると考慮するものとする。したがって、本発明の範囲は、前述の説明によってではなく添付の特許請求の範囲によって示されており、特許請求の範囲と同等の意味及び範囲内に入るすべての変更は、そこに包含されることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023531141000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型Fcタンパク質と比較して、ヒトFcRnに高い親和性で結合し、
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号117、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121、配列番号122、配列番号123、配列番号124、配列番号125、配列番号126、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号130、配列番号131、配列番号132、配列番号133、配列番号134、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142、配列番号143、配列番号144、配列番号145、配列番号146、配列番号147、配列番号148、配列番号149、配列番号150、配列番号151、配列番号152、配列番号153、配列番号154、配列番号155、配列番号156、配列番号157、配列番号158、配列番号159、配列番号160、配列番号161、配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、配列番号188、配列番号189、配列番号190、配列番号191、配列番号192、配列番号193、配列番号194、配列番号195、配列番号196、配列番号197、配列番号198、配列番号199、配列番号200、配列番号201、配列番号202、配列番号203、配列番号204、配列番号205、配列番号206、配列番号207、配列番号208、配列番号209、配列番号210、配列番号211、配列番号212、配列番号213、配列番号214、配列番号215、配列番号216、配列番号217、配列番号218、配列番号219、配列番号220、配列番号221、配列番号222、配列番号223、配列番号224、配列番号225、配列番号226、配列番号227、配列番号228、配列番号229、配列番号230、配列番号231、配列番号232、配列番号233、配列番号234、配列番号235、配列番号236、配列番号237、配列番号238、配列番号239、配列番号240、配列番号241、配列番号242、配列番号243、配列番号244、配列番号245、配列番号246、配列番号247、配列番号248、配列番号249、配列番号250、配列番号251、配列番号252、配列番号253、配列番号254、配列番号255、配列番号256、配列番号257、配列番号258、配列番号259、配列番号260、配列番号261、配列番号262、配列番号263、配列番号264、配列番号265、配列番号266、配列番号267、配列番号268、配列番号269、配列番号270、配列番号271、配列番号272、配列番号273、配列番号274、配列番号275、配列番号276、配列番号277、配列番号278、配列番号279、配列番号280、配列番号281、配列番号282、配列番号283、配列番号284、配列番号285、配列番号286、配列番号287、配列番号288、配列番号289、配列番号290、配列番号291、配列番号292、配列番号293、配列番号294、配列番号295、配列番号296、配列番号297、配列番号298、配列番号299、配列番号300、配列番号301、配列番号302、配列番号303、配列番号304、配列番号305、配列番号306、配列番号307、配列番号308、配列番号309、配列番号310、配列番号311、配列番号312、配列番号313、配列番号314、配列番号315、配列番号316、配列番号317、配列番号318、配列番号319、配列番号320、配列番号321、配列番号322、配列番号323、配列番号324、配列番号325、配列番号326、配列番号327、配列番号328、配列番号329、配列番号330、配列番号331、配列番号332、配列番号333、配列番号334、配列番号335、配列番号336、配列番号337、配列番号338、配列番号339、配列番号340、配列番号341、配列番号342、配列番号343、配列番号344、配列番号345、配列番号346、及び配列番号347から選択されるアミノ酸配列を含む、野生型Fcタンパク質の特定のEU位での置換アミノ酸の組合せを含むFcバリアント。
【請求項2】
中性pHでの結合親和性と比較して、pH6.0でFcRnに対するより高い前記結合親和性を有する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項3】
FcRnに対して10-8M以下、より好ましくは10-10M以下のKDを有する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項4】
ヒト以外の種由来のFcRnと交差反応する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項5】
IgG1、IgG2、IgG3、IgG4又はIgG2/G4アイソタイプ、好ましくはIgG1アイソタイプのFcタンパク質に存在する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項6】
多量体形態で発現され、Fcバリアントのより高いアビディティを介して分子サイズ及び親和性を増大することによって半減期を延長する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項7】
二量体、三量体、四量体、五量体、及び六量体から選択される、請求項6に記載の多量体形態。
【請求項8】
完全長の抗体形態で存在する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項9】
Fcガンマ受容体に対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、前記Fcガンマ受容体に対する改変された親和性を有する、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項10】
アロタイプV158及びF158を含むFcγRIIIaに対する野生型IgG1 Fc領域の親和性と比較して、FcγRIIIa(CD16a)に対する増大された親和性を有する、請求項9に記載のFcバリアント。
【請求項11】
以下の特徴:
a)対象において延長された半減期を有する;
b)野生型Fcタンパク質と比較して、低下されたADCC活性を有すること/ADCC活性を有さない;
c)FcγRによって媒介される食作用を阻害する、及び、
d)FcγRによって媒介されるサイトカイン放出を阻害する
のうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載のFcバリアント。
【請求項12】
薬物又は治療用ペプチド又はポリエチレングリコール又は免疫原又は中和抗体に融合される、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項13】
EU297位に脱フコシル化N結合型グリカンを含む、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項14】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48及び配列番号49に記載の配列から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項15】
配列番号3、配列番号5、配列番号10、配列番号20又は配列番号22に記載の配列から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のFcバリアント。
【請求項16】
配列番号22が置換T307N、V308P、L309Y、H433R及びN434Wを含む、請求項15に記載のFcバリアント。
【請求項17】
配列番号22が、配列番号22a、配列番号22b、配列番号22c、配列番号22d、配列番号22e及び配列番号22f及び配列番号22gから選択されるアミノ酸配列を有する、請求項16に記載のFcバリアント。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載のFcバリアントと許容される担体とを含む組成物。
【請求項19】
FcRnの活性が有害である疾患を処置するため、又は薬物の循環半減期を延長するため、又はある特定の細胞若しくは組織に薬物をターゲティングするための薬物の調製における使用のための請求項1から17のいずれか一項に記載のFcバリアント。
【請求項20】
疾患が感染症、がん、及び自己免疫障害から選択される、請求項19に記載のFcバリアント。
【国際調査報告】