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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】炭素負極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20230713BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230713BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230713BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230713BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230713BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230713BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230713BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230713BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M10/054
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/0562
H01M10/052
C01B32/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022570453
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 GB2021051251
(87)【国際公開番号】W WO2021234418
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2007627.9
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514065058
【氏名又は名称】ファラディオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】バーカー,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】メイサミ,セイド シャヤン
(72)【発明者】
【氏名】マッザリ,フランチェスコ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA19
4G146AB01
4G146AC02B
4G146AC04B
4G146AC07B
4G146AC11A
4G146AC11B
4G146AD02
4G146AD04
4G146AD15
4G146AD24
4G146BA01
4G146BA12
4G146BA22
4G146BA24
4G146BC02
4G146BC23
4G146BC33B
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM12
5H029DJ13
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ07
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050FA13
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
本発明は、アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアを含む炭素構造を有する炭素含有負極材料に関する。本発明はさらに、そのような炭素含有負極材料の調製に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアと、前記1つ以上の第一級炭素含有材料に化学結合した1つ以上の炭化材料を含む外側表面とを含む炭素構造を有する炭素含有負極材料であって、当該炭素含有負極材料は、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を有し、前記コアは、グラファイト及び完全にグラファイト構造を有する材料から選択された1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていないか、又は本質的にそれらから成っていない、炭素含有負極材料。
【請求項2】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、易黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含む、請求項1に記載の炭素含有負極材料。
【請求項3】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、難黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含む、請求項1に記載の炭素含有負極材料。
【請求項4】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、植物由来材料、動物由来材料、炭化水素材料、炭水化物材料、及び他の炭素含有有機材料の熱分解から得られる、請求項1又は請求項3に記載の炭素含有負極材料。
【請求項5】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、(炭素)-Xで表される1つ以上の炭素複合材料を含み、
ここで、Xは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、炭素、及びマグネシウムを含む群から選択される1つ以上の元素であるか、又は
ここで、Xは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、炭素、及びマグネシウムを含む群から選択される1つ以上の元素の酸化物である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項6】
前記炭化材料は、有機及び炭化水素材料から選択される1つ以上の第二級炭素含有材料から得られる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項7】
外側表面に最大2.5原子パーセントの酸素を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項8】
カールフィッシャー滴定技術を使用し、最長で1時間周囲大気に曝露した後に決定された、最大50ppmの水分を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項9】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、約1nmから約30μmの粒径を有する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項10】
アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、炭素構造を有する炭素含有負極材料の調製方法であって、当該方法は、固形の1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアを、950°Cまでの温度で炭化材料と接触させ、それによって、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を有する炭素含有負極材料を得るステップを含み、前記コアは、グラファイト及び完全にグラファイト構造を有する材料から選択された1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていないか、又は本質的にそれらから成っていない、炭素含有負極材料の調製方法。
【請求項11】
正極電極、負極電極、及び電解質を含むナトリウムイオンセルであって、前記負極電極は、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料を含む、ナトリウムイオンセル。
【請求項12】
前記電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、ガンマブチロラクトン(GBL)スルホラン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキソラン、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の溶媒中の、NaPF、NaBF、ナトリウムビス(シュウ酸)(NaBOB)、ナトリウムトリフレート(NaOTf)から選択される>0から10モルのナトリウム金属塩、NASICON型電解質、硫化物系電解質、水素化合物系電解質、βアルミナ系電解質、及びβ’’アルミナ系電解質から選択される1つ以上を含む、請求項11に記載のナトリウムイオンセル。
【請求項13】
正極電極、負極電極、及び電解質を含むリチウムイオンセルであって、前記負極電極は、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料を含む、リチウムイオンセル。
【請求項14】
前記電解質は、LiPF、LiAsF6、LiBF、LiBOB、LiClO、LiFSi、LiTFSi、Li-トリフレート及びそれらの混合物と、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、ガンマブチロラクトン(GBL)スルホラン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキソラン、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の溶媒とを含む、請求項13に記載のリチウムイオンセル。
【請求項15】
カールフィッシャー滴定技術を使用して決定された、200ppm未満の水分含量を有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の1つ以上の材料を含む負極電極を含むアルカリ金属イオンセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の新規の炭素含有負極材料、そのような炭素含有負極材料を生産する新規のプロセス、そのような新規の炭素含有負極材料を有する負極電極、及び、そのような負極電極を、例えば、電池(特に充電池)、電気化学デバイス及びエレクトロクロミックデバイス等のエネルギー貯蔵デバイスにおいて使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン電池は、今日一般的に使用されているリチウムイオン電池と多くの点で類似しており;いずれも、負極(anode、negative electrode)、正極(cathode、positive electrode)、及び電解質材料を含む再利用可能な二次電池であり、いずれも、エネルギーを貯蔵することができ、いずれも、類似の反応機構を介して充電及び放電を行う。ナトリウムイオン(又はリチウムイオン)電池が充電されると、正極からNa(又はLi)イオンが抽出され、負極に挿入される。その間、チャージバランス電子が、正極から充電器を有する外部回路を通り、電池の負極に入る。放電の間に、同じプロセスが発生するが、その方向は反対である。
【0003】
リチウムイオン電池技術は、近年多くの関心を呼んでおり、今日使用されているほとんどの電子機器に好ましいポータブルバッテリーを提供しているが;しかし、リチウムは、入手するのに安価な金属ではなく、大規模な用途において使用するには高価すぎると考えられている。対照的に、ナトリウムイオン電池技術は依然としてその比較的初期段階にあるが、有利であると見られており;ナトリウムは、リチウムよりもはるかに豊富であり、一部の研究者は、これが、特に電力系統にエネルギーを貯蔵する等の大規模な用途に対して、将来的にエネルギーを貯蔵するためのより安価で耐久性の高い方法を提供すると予測している。それにもかかわらず、ナトリウムイオン電池が製品化されるまでには、まだ多くの研究がなされていない。
【0004】
リチウムイオン電池及びナトリウムイオン電池のいずれに対しても、高い電荷蓄積の能力及びレート能力を有する正極電極材料の開発において研究が大きく進展しているが、しかし、さらなる関心を必要とする分野の1つは、より効率的で新しい負極電極材料の開発である。
【0005】
炭素は、グラファイトの形態で、その高い重量測定能力及び体積測定能力のために、リチウムイオン電池における負極材料としてしばらくの間好まれてきた。黒鉛電極は、360mAh/gを超える可逆容量を実現し、372mAh/gの理論容量に匹敵する。電気化学的還元プロセスでは、グラフェン層の間にLiイオンが挿入され、LiCが得られる。しかし、残念なことに、グラファイトは、ナトリウムに対してはるかに低い電気化学的活性を示し、これは、ナトリウムがリチウムと比較してかなり大きな原子半径を有するという事実と相まって、グラファイト負極内のグラフェン層間のインターカレーションがナトリウムイオンセルにおいて厳しく制限される結果をもたらす。
【0006】
一方、ハードカーボン材料を使用して作られた負極(特許文献1乃至4に記載されているもの等)は、ナトリウムイオンセルにおいてはるかに有利にやっていくことがわかっている。
【0007】
ハードカーボンは、無秩序な構造を有し、ナトリウムイオンに対する挿入問題の多くを克服している。ハードカーボン材料の正確な構造は、依然として解明される必要があるが、一般的な用語では、ハードカーボンは、長距離の結晶秩序を欠いた難黒鉛化性炭素材料として記載される。ハードカーボンは層を有するが、これは長距離ではきれいに積み重なっておらず、微孔性材料である。限定できる結晶学的構造を欠いているけれども、ハードカーボンは、巨視的レベルでは等方性である。ハードカーボンの普遍的な構造モデルを構築することが困難な理由の1つは、短距離の秩序、ドメインサイズ、炭素層の割合、及びマイクロポアが、炭素源、炭化、及び熱分解温度等の合成条件次第であるということである。
【0008】
さらに、炭素層の面が層状に積み重なったグラファイト結晶構造を有するグラファイトとは異なり、ハードカーボンは、炭素層の面が三次元的にずらされた状態で積み重なった乱層構造を有する。従って、高温(例えば3000°C等)でのハードカーボンの熱処理でさえも、乱層構造からグラファイト構造への変質又はグラファイト微結晶の発生をもたらすことはない。このように、ハードカーボンは、グラファイトとは構造的に全く異なり、1つ以上の非黒鉛化ドメイン、並びに1つ以上の難黒鉛化性ドメインを含むと言える。
【0009】
二次電池用途に対する電極において利用され得るハードカーボン材料を生産する通常の方法は、例えば石油コークス及びピッチコークスのような鉱物等、炭素に富む開始物質;スクロース及びグルコース等の植物由来の二次物質;高分子炭化水素及びレゾルシノールホルムアルデヒド等のより小さな有機化合物等の人工の有機材料;肥料等の動物由来の物質;並びに、ココナッツの殻、コーヒー豆、藁、竹、籾殻、バナナの皮等の植物由来の一次物質等;を、酸素のない大気中で500°Cを超える温度まで加熱することを含む。植物由来及び動物由来の材料が炭化される場合は、「バイオ炭」又はバイオマス炭が生成され、これは、ハードカーボン材料を得るためにさらに処理され得る。
【0010】
一方、ソフトカーボンは、グラファイトとは構造的にも異なる別の形態の炭素であるが、易黒鉛化性の形態の炭素であり、高温(例えば3000°C等)で変質してグラファイト構造のドメインを含むことができる。しかし、この熱処理の後でさえも、変質によって完全なグラファイト構造は生じないため、非黒鉛化炭素材料のドメインは依然として存在する。従って、ソフトカーボンは、1つ以上の非黒鉛化ドメインを含むと言えるが、1つ以上の難黒鉛化性ドメインを含むとは言えない。
【0011】
商業的に有用な負極材料の重要な特徴は、初期のアルカリ金属イオン電池の第1の充電サイクル中に電解質と負極表面との間の界面に液体電解質分解生成物が堆積した結果として自然に形成される固体電解質界面(SEI)層を含むことである。このSEI層は、アルカリ金属イオン電池の不可欠な構成要素であることがしばらく理解されており、これは、第一に、負極から電解質への電子の移動を阻害することによって負極を保護するため、第二に、アルカリ金属イオンが電解質から負極へ移動するのを可能にするためであり、これらの2つの因子は、電池のサイクル寿命に影響を与える。従って、理想的なSEI層は、イオン導電体でもあり、電気絶縁体でもある。しかし、SEI層の形成は、最初の充電サイクルの間に正極から抽出されたアルカリ金属イオンの一部分を必ず消費し、これは、次に、将来の充電/放電サイクルに利用可能ではないことを意味する。分離された充電池には充電キャリアの固定された在庫があるため、利用可能なアルカリ金属イオンのこの枯渇は容量の不可逆的な損失をもたらす。最近の研究は、SEI層の形成を制御して(特に、SEI層の安定性を制御して)、そのイオン導電特性及び電子絶縁特性を最大にし、不可逆的な比容量を最小にすることを目的としている。
【0012】
以下に記載されるように、本出願人は、SEI層の安定性及び頑強性を制御し、それによって、第1サイクルの損失の不可逆容量を最小にするために、負極電極材料の表面の化学性質、形態、結晶学、厚さ、及び細孔構造を設計した。
【0013】
特許文献5は、ハードカーボンのコアを含む負極材料を開示しており、これは、次に、備長炭で被覆され、1500°Cまで加熱される。しかし、この高温でさえも、ハードカーボンは備長炭と化学的に結合することができないため、このプロセスは、ハードカーボン材料の表面の化学性質に対するいかなる設計ももたらさない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】PCT/GB2020/050872
【特許文献2】US2002/0192553A1
【特許文献3】US9,899,665B2
【特許文献4】US2018/0287153A1
【特許文献5】CN108963252A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、特に、本発明は、不可逆容量を最小にしながら、最適化され、安定化され、且つ頑強なSEI層を確立するために使用することができる特定の化学的及び/又は物理的特徴を有するように処理された外側表面を有する新規の炭素含有負極材料を提供する。さらに、本発明は、そのような表面処理された炭素含有負極材料を調製するための新規のプロセスを提供する。そのようなプロセスは、特に商業的なスケールでは費用対効果が高く、容易に入手可能な反応物を使用する。結果として生じる表面処理された炭素含有負極材料は、電池(特に二次電池(充電池))、アルカリ金属イオンセル(特にナトリウムイオンセル)、電気化学デバイス、及びエレクトロクロミックデバイス等のエネルギー貯蔵デバイスにおいて有用である。重要なことは、これらの表面処理された炭素含有負極材料は、可逆的な比容量、正極比エネルギー、第1の正極脱ナトリウム化比容量、及び第1の放電容量効率(全サイクルにわたって電池に投入された全充電に対する電池から抽出された全充電の比として計算されるクーロン効率)について優れた結果をもたらし、不可逆容量(第1サイクルの損失)をかなり削減するエネルギー貯蔵デバイスを生産する。さらに、本発明の新規の表面処理された炭素含有負極材料は、特許文献5に開示されている負極材料等、類似の表面処理されていない炭素含有負極材料と比較して、水分感受性の低下及び電極の調製に使用されるスラリーの粘度の低下を含む、驚くほど有利な取り扱い特徴を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの目的を成し遂げるために、本発明は、アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、且つ、1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアと、好ましくは1つ以上の第一級炭素含有材料に化学結合した1つ以上の炭化材料を含む外側表面とを含む炭素構造を有する炭素含有負極材料を提供する。
【0017】
本明細書において使用される場合、「コア」という用語は、炭素構造の中心部を意味する。
【0018】
最も好ましくは、コアは、グラファイト及び完全にグラファイト構造を有する材料から選択された1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていないか、又は本質的にそれらから成っていない。一実施形態において、コアは、本質的に1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていてもよく、さらに好ましくは1つ以上の第一級炭素含有材料から成ってもよい。
【0019】
本明細書において使用される場合、「化学結合した」という語句は、共有結合等の化学結合が1つ以上の第一級炭素含有材料と1つ以上の炭化材料との間に形成されることを意味する。従って、「強い結合」はこの語句の意味に含まれるが、ファンデルワールス相互作用等の「弱い結合」はこの語句の意味に含まれない。
【0020】
炭化材料は、好ましくは本発明に従って化学気相堆積の使用によって、第一級炭素含有材料に「化学結合している」ため、これは、有利に、第一級炭素含有材料の表面に対する処理を可能にする。さらに、本発明の炭化材料は、1つ以上の第一級炭素含有材料上で熱分解され、この「ボトムアップ合成アプローチ」は、1つ以上の第一級炭素含有材料の外側表面に炭素原子が1つずつ堆積されるのを可能にする。
【0021】
そのようなものとして、炭素含有負極材料は、以下に記載されるように特定の表面特徴を示すように処理された外側表面を有する1つ以上の第一級炭素含有材料を含み、最も理想的には、本発明による炭素含有負極材料は、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を示すように処理された外側表面を有する1つ以上の第一級炭素含有材料を含む。好ましくは、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gを超える開放マイクロポアの比表面積である。
【0022】
適した第一級炭素含有材料は、任意の微粒子(例えば、顆粒状又は粉末状等)の形態であり、ナトリウムイオンの挿入及び抽出が可能である。
【0023】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、難黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含む群から選択されたドメインを含んでもよい。上記のように、ハードカーボン材料は、難黒鉛化性ドメイン、並びに非黒鉛化ドメインを含む炭素含有材料の一例である。ソフトカーボン材料は、易黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含む炭素含有材料の一例である。
【0024】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、易黒鉛化性ドメイン及び/又は非黒鉛化ドメインを含んでもよい。この一例は、ソフトカーボンである。
【0025】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、難黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含んでもよい。この一例は、ハードカーボンである。
【0026】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、無秩序な炭素含有材料を含み、さらに好ましくは、従来の炭素負極材料(例えば、ハードカーボン負極材料等);不完全に黒鉛化された高Tハードカーボン(例えば、完全なグラファイトが形成された場合、2000°Cを超えるが、3000°C以下の温度にアニールされたハードカーボン等);炭素-金属、炭素-半金属、又は炭素-非金属の複合材料(例えば、炭素-Sb、炭素-Sn、炭素-Si、炭素-Pb、炭素-Ti、及び炭素-P等)(これらの材料のハードカーボン類似体が特に好ましい);ソフトカーボン材料(例えば、熱分解粉砕炭素繊維等);炭素導電性添加剤混合物(例えば、ハードカーボン-カーボンブラック混合物等、適したカーボンブラックは、Imerysから市販されているSuper C65(商標)材料であってもよい);炭素-酸化物複合材料(例えば、ハードカーボン-Fe3、ハードカーボン-Sb酸化物、ハードカーボンSn酸化物、ハードカーボン-Sb/Sn酸化物等);炭素-炭化物複合材料(例えば、ハードカーボン-SiC複合材料等);及び、活性炭材料(例えば、BET表面積が>100m/gである活性化されたハードカーボン等);から選択された1つ以上の材料を含む。便利なことに、第一級炭素含有材料は、植物性材料、動物由来の材料(食べ物が動物の消化管を通過し、そこから排出された後に得られる「動物由来の廃棄材料」を含む)、炭化水素材料(石炭、コールピッチ、コールタール、石油ピッチ、石油タール、及びオイル等の化石燃料材料を含む)、炭水化物材料、並びに他の炭素含有有機材料等の炭素系開始物質の熱分解(典型的には700°Cから2500°Cを超え、典型的には窒素、二酸化炭素、別の非酸化性ガス、及びアルゴン等の不活性ガスから選択された1つ以上を含む非酸化性雰囲気下での高温処理)によって生成されてもよい。好ましくは、炭素系開始物質は、理想的には熱分解の前に精製されて、黒焼き(典型的には、150℃から≦700℃の温度)、洗浄、分解、化学的消化(例えば、酸性及び/又はアルカリ性の条件を使用)、ろ過、遠心分離、「重液分離」又は「浮沈分離」、イオン交換材料の使用、クロマトグラフィー分離技術、電気泳動分離技術、錯化剤又は化学沈殿技術の使用、並びにミリング(典型的には、約8~25μmのd50粒径まで、15~25μmのふるいでろ過して、より大きな粒子を除外する)から選択された1つ以上を含み得るプロセスのステップを使用して、不要な非炭素含有材料(例えば、遷移金属、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属等)の金属含有イオン、並びに、非金属含有イオン(例えば、リン、酸素、水素等)等)が取り除かれる。
【0027】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料の粒径分布は、約1nmから約30μm、好ましくは約1nmから20μmである。特に、出願人は、本発明の表面処理が1つ以上の第一級炭素含有材料の粒径分布を実質的に変えないことを理解している。従って、この範囲は、炭化材料が1つ以上の第一級炭素含有材料に化学結合する前だけでなく、この処理が行われた後の1つ以上の第一級炭素含有材料の粒径分布に適用される。
【0028】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、約0.01μmから約4μmのd10粒径を有する。
【0029】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、約4μmから約15μmのd50粒径を有する。別の実施形態では、1つ以上の第一級炭素含有材料は、約1から約25μm、好ましくは約8から約25μmのd50粒径を有する。
【0030】
一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料は、約15μmから約30μmのd90粒径を有する。
【0031】
理想的には、本発明の炭素含有負極材料に使用される第一級炭素含有材料は、ハードカーボン及び/又はソフトカーボン材料を含み、さらに理想的には、このハードカーボン及び/又はソフトカーボン材料は、不完全なグラファイト構造を有し、すなわち、非黒鉛化ドメインを含む。
【0032】
他の好ましい第一級炭素含有材料は、1つ以上の元素及び/又は化合物と組み合わせた炭素(例えば、上記のようにハードカーボン、ソフトカーボン等)を含む。特に好ましい例となる組み合わせは、炭素/X材料を含み、ここで、Xは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、炭素、又はマグネシウム等の1つ以上の元素であってもよい。炭素/Sb、炭素/Sn、炭素/SbSny、炭素/リン、炭素/シリコン、炭素/炭化ケイ素(HC/SiC)、又は炭素/ケイ酸ナトリウムが適した炭素含有材料である。これらの材料のうち1つ以上のハードカーボン類似体が特に好ましい。さらに好ましい例となる組み合わせは、炭素/X材料を含み、ここで、Xは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、炭素、及びマグネシウムを含む群から選択される1つ以上の元素の酸化物であってもよい。
【0033】
一部の実施形態において、第一級炭素含有材料は、最終的な炭素含有負極材料においてドーパントとして作用し得る1つ以上の金属及び/又は非金属イオンを有してもよい。これらの金属及び/又は非金属イオンは、以下において記載されるように炭化材料で処理する前に第一級炭素含有材料に添加されてもよく、又は、熱分解前に第一級炭素含有材料を作るために使用される炭素系開始物質に添加されてもよい。或いは、1つ以上の金属及び/又は非金属イオンは、熱分解の前に炭素系開始物質において選択的に保持されてもよく、従って、第一級炭素含有材料に運ばれることになる。
【0034】
本発明による炭素含有負極材料の表面特徴は、炭素含有負極材料の表面に大口が形成されたマイクロポアである開放マイクロポアの比表面積を決定するために、BET技術を使用して調査される。本明細書において、「表面」とは、文字通り炭素含有負極粒子の外側であり、その内部への深さはない。「マイクロポア」と表示される細孔は、直径が2nm未満のものであり、直径が2nmから50nm程度の細孔である「メソポア」とは区別される。
【0035】
本発明による表面処理された炭素含有負極材料を利用する化学電池が、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから最大5m/gまで、好ましくは最大0.9まで、特に好ましくは最大0.5m/gまで、非常に好ましくは最大0.3m/gまで、最も好ましくは最大0.15m/gまでである開放マイクロポアの比表面積を有する場合に、かなり改善された電気化学的性能を達成することができるということを本出願人は見出した。
【0036】
上述のように、1つ以上の第一級炭素含有材料(固形であり、好ましくは粒子状、顆粒状又は粉末状である)が炭化材料で処理されるときに、本発明による表面処理された炭素含有負極材料は便利に生成される。この処理により、炭化材料は、好ましくは、本発明に従って化学気相堆積の使用によって、第一級炭素含有材料に好ましくは化学結合され、より好ましくは化学的に堆積される。
【0037】
しかし、本発明は、化学気相堆積の使用に限定されない。実際、当業者は、一次基質に材料を化学結合させる代替的な方法に気付いている。これらの例として、プラズマ増強堆積、原子層堆積、及び物理気相堆積等を挙げることができる。
【0038】
本明細書において言及される場合「炭化材料」は、好ましくは1つ以上の第二級炭素含有材料から得られる炭素に富む固体種である。最も具体的には、本発明は、1つ以上の第一級炭素含有材料の外側表面上の極めて薄い堆積物として、そのような炭化材料を利用する。炭化材料は、好ましくは内部のコアの表面上に実質的に均一に堆積されるけれども、堆積物は、必ずしも完全な層又は均一なコーティングの形でなくてもよい(すなわち、第一級炭素含有材料及び堆積される炭化材料は必ずしもコア/フルシェルタイプの配置でなくてもよい)ことに注意することが重要である。それにもかかわらず、堆積された場合の材料の厚さは、1nmから500nm未満、さらに好ましくは10nmから500nm未満、非常に好ましくは10nmから250nmであることが好ましい。理想的には、1つ以上の第一級炭素含有材料の外側表面の表面積のうち10%から90%が、1つ以上の第二級炭素含有材料から得られる炭化材料で覆われることになる。堆積物の質量も極めて小さい(典型的には、30分の堆積あたり2.2±0.8wt)。従って、炭化材料は、上述のように1つ以上の第一級炭素含有材料の粒径分布を実質的に変えない。
【0039】
好ましくはそこから炭化材料が得られる適した第二級炭素含有材料を、1つ以上の有機及び/又は炭化水素材料、例えばアルカン、アルケン、アルキン、又はアレーン等から選択することができ、直鎖状、分岐状、又は環状であり得る。第二級炭素含有材料自体は、石炭又は石油ベースのタール又はピッチ、オイル又は植物ベースの材料から得ることができる。一般式:C2n+2(1≦n≦10)の1つ以上のガス状炭化水素を含む第二級炭素含有材料が特に好ましい。
【0040】
一実施形態では、好ましくはそこから炭化材料が得られる第二級炭素含有材料は、約950°C以下から少なくとも1つの温度における蒸気相及び/又は液相及び/又は気相を含んでもよい。好ましくは、約200°C以上から約950°C以下の少なくとも1つの温度における蒸気相及び/又は液相及び/又は気相である。
【0041】
本発明の炭素含有負極材料の開放マイクロポアの比表面積は、例えば(上記の)1つ以上の第二級炭素含有材料から得られた炭化材料で処理する前の第一級炭素含有材料の開放マイクロポアの比表面積よりも劇的に小さいことがわかる。これは、炭素含有負極材料の開放マイクロポア(すなわち表面にあるもの)の少なくとも一部の口が、堆積した炭化材料によって「マスク」又は「プラグ」されているためであると考えられている。好ましくは、1つ以上の第二級炭素含有材料から得られた化学的に堆積した炭化材料の存在が、炭素含有負極材料の表面マイクロポアの表面積を、炭化材料で処理する前の第一級炭素含有材料の開放マイクロポアの表面積と比較して、少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも85%減少させる。開放マイクロポアの表面積の大幅な減少は、堆積された炭化材料が表面(開放)マイクロポアを塞ぐだけであるという出願人の現在の理解を支持するようであり、さらに、この信念は、第一級炭素含有材料における有意な重量増加を、炭化材料による処理後に測定することができないという事実によってさらに裏付けられる。
【0042】
上記のように、本発明は、第一級炭素含有材料の外側表面に堆積又は部分的に堆積された炭化材料を含む炭素含有負極材料を提供する。
【0043】
炭化材料は、炭化プロセスによってある程度黒鉛化される「ソフト」炭素含有種であってもよく、黒鉛化された材料の存在は、例えばラマン分光法、X線回折又は高分解能透過型電子顕微鏡によって検証することができる。しかし、使用されている特定のセルの化学的性質に適した黒鉛化の程度を有するように、炭素含有負極材料の形成を制御することが重要である。例えば、Naイオンセルの場合の黒鉛化は、従来のハードカーボン材料でよく見られるレベルに限定されることが非常に好ましく、すなわち、グラファイトはナトリウムに対してはるかに低く電気化学的に活性であるため、可逆的なナトリウム化を目的として、第一級炭素含有材料の表面上の高度に黒鉛化したソフトカーボン含有種を避けることが望ましい。しかし、リチウムイオンセルの場合は逆である。
【0044】
高度に黒鉛化したドメインは、(例えば、電解質組成物に炭酸プロピレン(PC)を使用している場合等)様々な寄生反応を触媒するため、これらの形成を回避するように注意しなくてはならない。従って、極端なアニーリングは炭素負極効率を高めないことがわかっている。一方、本発明による表面処理は、電解質系にかかわらず、炭素含有負極材料の効率を体系的に改善することが分かった。しかし、本発明の方法は、閉じた細孔の体積には影響しない。これは、炭化材料で処理する前及び後の第一級炭素含有材料が、類似した(脱)ナトリウム電位プロファイルを生成するという事実から明らかである。
【0045】
本発明による炭素含有負極材料の表面の別の好ましい特徴は、表面酸素化の度合いが極めて低いことである。炭素含有材料の表面に酸素含有基を有する化合物が存在すると(例えば、C-O、C=O、及びC(=O)OH官能基)、入ってくる電荷キャリアに対する永久アンカーポイントとして、及び、望ましくない寄生反応に対するプラットフォームとして作用しやすいことが知られており;これらの炭素含有材料が負極材料として使用される場合、これらの因子の両方が潜在的に第1サイクルの損失に寄与することになる。有利には、本発明による炭素含有負極材料は、X線光電子分光法(XPS)を使用して測定された、0原子パーセント(atm.%)から2.5atm.%未満まで、好ましくは0atm.%から1.5atm.%未満まで、非常に好ましくは、0atm.%から1atm.%未満までの表面酸素含有量を有する。従って、1つ以上の第一級炭素含有材料を、例えば本発明による1つ以上の第二級炭素含有材料から得られた炭化材料で処理することは、第一級炭素含有材料の表面酸素含有量を、少なくとも30atm.%、好ましくは少なくとも50atm.%、さらに好ましくは少なくとも90atm.%減少させる効果を有する。一部の実施形態では、100atm.%近くまで表面酸素原子を減らすことが可能である。
【0046】
一般的に、炭素含有負極材料全体の比表面積も、第1サイクルの損失の不可逆容量の程度に影響を与える別の有用な因子であると考えられており;比表面積が大きいほど、負極材料の感受性が高くなり、SEI層を過剰に安定化させ、それによって、不可逆容量を増加させる。しかし、本発明の場合には、1つ以上の第一級炭素含有材料を、例えば1つ以上の第二級炭素含有材料から得られた炭化材料で処理することは、実際に炭素含有負極材料の比表面積を約30%減少させるけれども、この減少は、最大87%にもなり得る表面マイクロポア表面の減少ほど際立っていない。本願において与えられる比表面積値全てが、BET N分析を使用して決定されている。図1は、以下の実験セクションで詳細に議論されており、どのようにして、本発明による炭素含有負極材料の表面が、開放(表面)マイクロポア表面積の観察された大幅な減少をもたらすと同時に、全体の表面積の最小の減少を記録することができ得るかのメカニズムが説明されている。
【0047】
本発明によると、1つ以上の第一級炭素含有材料を(例えば1つ以上の第二級炭素含有材料から得られる)炭化材料と接触させることによって、1つ以上の第一級炭素含有材料は、1つ以上の第二級炭素含有材料で処理されて、所望の表面処理された炭素含有負極材料が達成される。
【0048】
第一級炭素含有材料と炭化材料との接触は、第一級炭素含有材料を炭化材料と直接接触させるか、又は、第一級炭素含有材料を1つ以上の第二級炭素含有材料と接触させ、その後、1つ以上の第二級炭素含有材料からの炭化材料の形成を容易にする等、任意の適した方法を使用して達成することができる。
【0049】
適切には、第一級炭素含有材料を1つ以上の第二級炭素含有材料と接触させることは、固体の第一級炭素系材料を、第二級炭素含有材料が溶解/分散している1つ以上の溶媒及び/又は他の液体と混ぜ合わせ、次に、第二級炭素含有材料の炭化前に溶媒/分散剤を除去する溶媒媒介手順を含み得る。或いは、第二級炭素含有材料の炭化前に(溶媒若しくは他の分散剤を使用せず、又は混合を支援する薬剤を使用して)1つ以上の第一級炭素含有材料及び第二級炭素含有材料が共に混ぜ合わされるメカノケミカル手順が使用されてもよい。或いは、さらに代替的に、固形の1つ以上の第一級炭素含有材料を蒸気及び/又はガス状形態の1つ以上の第二級炭素含有材料と接触させ、続いて加熱して第二級炭素含有材料を炭化させる拡散ベースのシステムが使用される。
【0050】
第2の態様において、本発明は、アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、炭素構造を有する炭素含有負極材料の調製方法を提供し、当該方法は:固形の1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアを、950°Cまでの温度で炭化材料と接触させ、それによって、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を有する炭素含有負極材料を得るステップを含む。
【0051】
一実施形態において、外側表面は、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gを超える開放マイクロポアの比表面積を示すように処理することができる。
【0052】
理想的には、コアは、グラファイト及び完全にグラファイト構造を有する材料から選択された1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていないか、又は本質的にそれらから成っていない。一実施形態において、コアは、本質的に1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていてもよく、好ましくは1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていてもよい。
【0053】
上記のように、1つ以上の固体の第一級炭素含有材料は、好ましくは、任意の粒子状(例えば、顆粒又は粉末)である。一実施形態において、1つ以上の第一級炭素含有材料の粒径分布も上記のように約1nmから約30μmである。本発明の方法で使用される適した第一級炭素含有材料は、本発明による炭素含有負極材料を参照して上述したものである。
【0054】
加熱条件は、i)(第一級炭素含有材料と接触する前に炭化材料が予め形成されている場合に)第一級炭素含有材料の表面への炭化材料の気相堆積を容易にするように、又はii)第一級炭素含有材料の表面に既に存在する1つ以上の第二級炭素含有材料の炭化を容易にするように、又はiii)1つ以上の第二級炭素含有材料の炭化、及び、その後の、結果として生じる炭化材料の第一級炭素含有材料の表面への堆積を容易にするように選択されることになる。
【0055】
いずれの場合も、最終結果は、共有結合等の化学結合が、1つ以上の第一級炭素含有材料と1つ以上の炭化材料との間に形成されるということである。従って、1つ以上の炭化材料は、1つ以上の第一級炭素含有材料の表面に化学結合され、好ましくは化学的に堆積される。
【0056】
好ましくは、使用される温度は、特に(上述のように)結果として生じる炭素含有負極材料がナトリウムイオンセルにおいて使用されることになる場合に、炭化材料の過剰な黒鉛化につながる温度を下回る。しかし、本発明の方法に従って使用される温度は、炭化材料が第一級炭素含有材料に化学結合することにつながるということが重要である。
【0057】
上記のように、好ましくはそこから炭化材料が得られる第二級炭素含有材料は、従って、約950°C以下からの少なくとも1つの温度における蒸気相及び/又は液相及び/又は気相を含んでもよい。好ましくは、約200°C以上から約950°C以下の少なくとも1つの温度における蒸気相及び/又は液相及び/又は気相である。
【0058】
930°Cの最大温度が好ましく、900°Cの最大温度が非常に好ましく、880°Cの最大温度が特に好ましい。最小加熱温度は、炭化が発生するのを可能にする任意の温度であり、それは、使用されている第二級炭素含有材料に依存する。熱触媒的に第二級炭素含有材料を分解して炭化するために必要な活性化エネルギーを減らすために触媒又は他の試薬が使用される場合にはより低い温度も可能であり得るけれども、通常は200°Cの最小温度で十分である。可能な触媒には、少量の、遷移金属又は遷移金属酸化物等の金属化合物又は金属酸化物化合物のうち1つ以上が含まれる。
【0059】
上記のように、好ましくはそこから炭化材料が得られる適した第二級炭素含有材料は、直鎖状、分岐状、又は環状であり得る1つ以上の有機及び/又は炭化水素材料、例えばアルカン、アルケン、アルキン又はアレーン等から選択することができる。第二級炭素含有材料自体は、石炭又は石油ベースのタール又はピッチ、オイル又は植物ベースの材料から得ることができる。一般式:C2n+2(1≦n≦10)の1つ以上のガス状炭化水素を含む第二級炭素含有材料が特に好ましい。
【0060】
本発明の好ましい方法では、第一級炭素含有材料が流体(液体、蒸気、又はガス状)の第二級炭素含有材料又は流体(液体、蒸気、又はガス状)の予め形成された炭化材料と接触されたときの試薬の総圧力、総流量、並びに個々の分圧及び個々の流量が、第一級炭素含有材料上に正確な量の炭化材料が堆積されることを確実にするように最適化される。第二級炭素含有材料の好ましい総圧力、総流量、並びに個々の分圧及び個々の流量は、それぞれ、10-6から3×10Pa、0.001から1000L/min、10-6から3×10Pa、及び0.001から1000L/minの範囲にあり、さらに好ましくは、10から10Pa、0.01から100L/min、10から10Pa、及び0.01から100L/minの範囲にあり、非常に好ましくは、それぞれ5×10から5×10Pa、0.1から10L/min、5×10から5×10Pa、及び0.1から10L/minの範囲にある。
【0061】
射出炭素気相堆積(CVD)システム及びエアロゾル支援反応器が、個々の流体前駆体の圧力及び流量を制御することができる装置の例である。
【0062】
本発明のさらに好ましい方法では、1つ以上の第一級炭素含有材料と接触するために使用される炭化材料の濃度及び/又は1つ以上の第二級炭素含有材料の濃度は、ガス状の第二級炭素含有材料に対するキャリアガス中では0.001~100vol.%、好ましくは0.01~10vol.%、さらに好ましくは0.01から5vol.%、及び非常に好ましくは0.05~0.1vol.%の範囲にあることが好ましく、液体及び半固体の(例えば、ピッチ、タール、オイル等の)第二級炭素含有材料に対する溶媒又はキャリア液体中では0.001~100vol.%の範囲にあることが好ましい。
【0063】
本発明の別のさらに好ましい方法では、加熱ステップの持続時間(アニーリング時間)も、好ましくは、i)炭化材料の過剰の黒鉛化を最小限に抑え、好ましくは防ぐように調整され;加熱時間が長いほど、炭化材料が過剰に黒鉛化される可能性が高くなる。さらに、ii)上述したように、開放マイクロポアの少なくとも一部を塞ぐのに十分な炭化材料を化学的に堆積させるのに十分長いことを確実にするように調整される。
【0064】
上記のように、本発明の方法は化学気相堆積の使用に限定されない。実際、当業者は材料を一次基質に化学結合させる代替的な方法に気付いており、これらは、本発明の範囲内に含まれる。これらの例として、プラズマ増強堆積、原子層堆積、及び物理気相堆積等が含まれてもよい。
【0065】
5分から120分のアニーリング時間が好ましく、30分から90分のアニーリング時間が特に好ましい。アニーリング時間は、第一級炭素含有材料上に炭化材料が堆積するのに必要とされる期間である。
【0066】
本発明の特に好ましい方法では、第一級炭素含有材料の各粒子の表面の少なくとも一部が炭化材料と接触することを確実にするために必要な任意の手段を使用して、固形の1つ以上の第一級炭素含有材料を炭化材料と接触させるステップが実行される。適した手段には:炭化材料と接触させる際に第一級炭素含有材料を混ぜるか又は撹拌すること、第一級炭素含有材料の粒子を、蒸発させた炭化材料を含む大気中に噴霧すること、及び、炭化材料を導入する前に第一級炭素含有材料を平板又は広口反応容器に広げることが含まれる。
【0067】
さらに、本発明の特に好ましい方法では、固形の1つ以上の第一級炭素含有材料を炭化材料と接触させるステップは、本発明の方法の最終段階で行われることが望ましい。特に、1つ以上の第一級炭素含有材料に対して任意の研磨剤処理(例えば、ミリング、研磨、又は粉砕等)を行った後にこのステップを行うことが非常に望ましい。これは、有利に、1つ以上の炭化材料を含む外側表面が1つ以上の第一級炭素含有材料に化学結合するのが妨げられるのを回避する。例えば、研磨剤処理を含む後表面処理は、不活性化された表面をこじ開け、マイクロポアを露出させる可能性がある。
【0068】
いかなる疑いも避けるために、活性物質をバインダーと混ぜ合わせること、電極印刷すること(例えば、被覆すること)、及び電極カレンダー(例えば、ローリング)すること等の後表面処理のステップは、この語句の意味における「研磨処理」とは見なされない。
【0069】
本発明による炭素含有負極材料は、第二級電池用途における、特にアルカリ金属イオンセルにおける、特にナトリウムイオンセルにおける電極活物質としての使用に適している。
【0070】
第3の態様において、本発明は、上記のように少なくとも1つの負極(negative electrode、anode)を含むアルカリ金属イオンセルを提供する。好ましくは、窒素ガスBET分析を使用して決定された0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を有する。
【0071】
アルカリ金属イオンセルは、正極(positive electrode、cathode)も含み、正極は、好ましくは、アルカリ金属を挿入及び抽出することができ、且つ好ましくは酸化物系材料、ポリアニオン材料、及びプルシアンブルー類似体系材料から選択される1つ以上の正極活物質を含む。特に好ましくは、1つ以上の正極活物質は、アルカリ金属含有酸化物系材料及びアルカリ金属含有ポリアニオン材料から選択された1つ以上を含み、ここで、アルカリ金属は、ナトリウム及び/又はカリウムから選択された1つ以上のアルカリ金属であり、任意的に、リチウムと組み合わされている。特定の正極活物質は、微量のアルカリ金属成分としてリチウムを含有しており、すなわち、リチウムの量は、総アルカリ金属含有量の50重量%未満、好ましくは10重量%未満、理想的には5重量%未満である。
【0072】
最も好ましい正極活物質は、以下の一般式:
1±δ 2-c
の化合物であり、
ここで、
Aは、ナトリウム、カリウム、及びリチウムから選択される1つ以上のアルカリ金属であり;
は、酸化状態+2の1つ以上の酸化還元活性金属を含み;
は、0から+4以下の酸化状態の金属を含み;
は、酸化状態+2の金属を含み;
は、0から+4以下の酸化状態の金属を含み;
は、酸化状態+3の金属を含み;
ここで、
0≦δ≦1;
Vは>0であり;
Wは≧0であり;
Xは≧0であり;
Yは≧0であり;
W及びYの少なくとも一方が>0であり;
Zは≧0であり;
Cは0≦c<2の範囲にあり;
ここで、V、W、X、Y、Z、及びCは、電気化学的中立性を維持するように選ばれる。
【0073】
いかなる疑いも避けるために、「ナトリウム、カリウム、及びリチウムから選択される1つ以上のアルカリ金属」という用語は:Na、K、Li、Na+K、Na+Li、K+Li、及びNa+K+Liを含むと解釈されることになる。
【0074】
理想的には、金属Mは、1つ以上の遷移金属を含み、好ましくは、マンガン、チタン、及びジルコニウムから選択され;Mは、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、スズ、亜鉛、及びコバルトから選択される1つ以上であり;Mは、好ましくはマンガン、チタン、及びジルコニウムから選択される1つ以上の遷移金属を含み;さらに、Mは、好ましくは、アルミニウム、鉄、コバルト、スズ、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウム、及びイットリウムから選択される1つ以上である。任意の結晶構造を有する正極活物質を使用することができ、好ましくは、その構造はO3又はP2又はその誘導体であるが、具体的には、正極材料が、相の混合物を含む、すなわちいくつかの異なる結晶形態で構成された不均一な構造を有することも可能である。
【0075】
非常に好ましい正極活物質は、ナトリウム及び/又はカリウム含有遷移金属含有化合物を含み、ナトリウム遷移金属ニッケレート化合物が特に好ましい。特に有利な例として、アルカリ金属層状酸化物、単相及び混合相のO3、P2、及びP3アルカリ金属層状酸化物、アルカリ金属含有ポリアニオン材料、オキシメタレート類プルシオンブルー類似体、及びプルシアンホワイト類似体が挙げられる。具体的な例としては、O3/P2-A0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.1172、O3-A0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083、P2型A2/3Ni1/3Mn1/2Ti1/6、P2-A2/3(Fe1/2Mn1/2)O、P´2-A2/3MnO、P3又はP2-A0.67Mn0.67Ni0.33、A(PO、AVPOF、AVPOF、A(PO、A(PO、A(PO、AFeMn(CN)6.nHO(0≦x,y,z≦2;0≦n≦10)、O3、P2、及び/又はP3-AMnNi(0≦x≦1且つ0≦y、z≦1)、AFe(SO3、NiSbO、及びANiSbOが挙げられ、ここで、「A」は、Li、Na、及びKから選択された1つ以上のアルカリ金属であり、好ましくはNa及び/又はKであり、最も好ましくはNaである。
【0076】
有利には、本発明によるアルカリ金属イオンセルは、任意の形態の電解質を使用することができ、すなわち、固体、液体又はゲル組成物を使用することができ、適した例として以下が含まれる;1)全て、HFE(1,1,2,2-テトラフルオロエチル 2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル)又はD2(1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)等の希釈剤の有無にかかわらず、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)(好ましくは、1:2:1wt./wt.の比のEC:DEC:PC混合物として)、ガンマブチロラクトン(GBL)スルホラン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキソラン、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の溶媒中の、NaPF、NaBF、ナトリウムビス(シュウ酸塩)(NaBOB)、ナトリウムトリフレート(NaOTf)、LiPF、LiAsF、LiBF、LiBOB、LiClO、LiFSi、LiTFSi、Li-トリフレート及びそれらの混合物等の、>0から10モルのアルカリ金属塩等の液体電解質;2)単独又は互いに組み合わせて使用される以下のマトリックス材料のうちいずれか1つに基づくゲル電解質;或いは、3)NaZrSiPO12等のNASICON型、NaPS若しくはNaSbS等の硫化物系、Na1010-Na1212等の水素化合物系、又はNaO.(8-11)Al等のβアルミナ系、若しくはNaO.(5-7)Al等の関連するβ´´アルミナ系等の固体電解質。1,3-プロパンジオール環状硫酸塩(PCS)、P123界面活性剤、トリス(トリメチルシリル)亜リン酸塩(TMSP)、トリス(トリメチルシリル)ボレート(TMSB)、1-プロペン1,3スルトン、1,3-プロパンスルトン等の既知の電解質添加剤も、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(CMC)、及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等のバインダーと同様に、電解質に含めることができる。
【0077】
優れた負極材料であるだけでなく、本発明の表面処理された炭素含有材料は、さらなる商業上の利点も提供するということに留意されたい。
【0078】
これらのうち第1は、水分感受性の改善に関係する。本発明の表面処理された炭素含有負極材料は、極めて低い開放微細孔性のレベルにより、非表面処理の第一級炭素含有材料よりも、曝露時にかなり少ない大気中の水分を吸着する。これは、負極製造中の本発明の負極材料の扱いをより容易にするだけでなく、結果として生じる負極コーティング及び完成したセルの水分含量も減少させる。
【0079】
第2の予想外の利点は、本発明による炭素含有負極材料を含有する電極スラリーの粘度の改善に関係する。セル製造の際、電極スラリーの粘度は、プロセスの円滑な運転及び結果として生じる電極の品質管理に重要な違いをもたらすため、見過ごしてはならない。電極材料(活性剤、バインダー、添加剤)は、典型的には、集電装置上で被覆することができるように、有機溶媒又は水性溶媒に混合して分散される。コーティングプロセスにおいて、溶媒は蒸発し、乾燥した成分が残る。不十分な粘度によって、粘性が低すぎるスラリーが生じ、これによって、コーティングエッジがずれる可能性があり;一方、過度に粘度の高いスラリーは、必要なほどスムーズに流れないため、プロセスの問題が提起される。これは、ドライコーティングの品質に悪影響を及ぼす。典型的に、表面積を減らした電極材料は、所与の最適粘度を達成するために必要な溶媒は少ない。これはコストの観点から有利である。このように、本発明による表面処理された炭素含有負極材料は、より低いマイクロポア表面積の結果として、同じ固体含有量に対してより低い粘度を示し、これにより、より滑らかな表面形態及びより純粋な表面の化学性質が得られる。より少ない溶媒を使用して良質の電極を達成することにより、コストを削減することができる。
【0080】
以下に論じられる具体的な例において実証されるように、本発明による炭素含有負極材料を使用して、有利な電気化学的性能の改善を達成することができるということを、以下のように要約することができる。i)炭素含有材料を特徴とするNaイオンフルセルの不可逆容量及び第1サイクルの損失は、それぞれ25.2mAh/g及び8.6%と低い。これは、従来のハードカーボン負極を特徴とするベンチマークセルから得られた値、それぞれ54.9mAh/g及び16.8%と比較して有意な減少であり、その他の点では同一の化学性質及び成分である。ii)本発明の炭素含有負極材料を特徴とするNaイオンフルセルは、±3Cまでのより速い充電及び放電速度において、容量保持及びサイクル安定性が大幅に改善されたことを示す。iii)本発明による炭素含有負極材料は、水分吸着速度を低下させ、これらの炭素含有負極材料を特徴とするNaイオンフルセルは、全体的な水分含量が低下するため、サイクル安定性を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
次に、本発明は、以下の図を参照して記載される。
図1】元の状態の第一級炭素含有材料の粒子、及び本発明による表面処理された炭素含有負極材料の粒子の概略図である。
図2】本発明の好ましい方法を例示した流れ図である。
図3】本発明に従って炭化材料で処理された同じハードカーボン含有材料と比較して、元の状態のハードカーボン含有材料上に存在する表面酸素(atm.%)の量を例示した棒グラフを示した図である。
図4】本発明に従って炭化材料で処理された同じハードカーボン含有材料と比較して、元の状態のハードカーボン含有材料のBET比表面積(m/g)を例示した棒グラフを示した図である。
図5】本発明に従って炭化材料で処理された同じハードカーボン含有材料と比較して、元の状態のハードカーボン含有材料のBETマイクロポア表面積(m/g)を例示した棒グラフを示した図である。
図6】本発明によるサンプル材料8に対する代表的なT-Plotを示した図である。
図7】本発明による炭素含有負極材料3を使用するNaイオンハーフセルについて得られた電圧対Na+/Na容量曲線を示した図である。
図8】本発明による炭素含有負極材料8を使用するNaイオンハーフセルについて得られた電圧対Na+/Na容量曲線を示した図である。
図9】本発明による炭素含有負極材料4(対照)を使用するNaイオンハーフセルについて得られた電圧対Na+/Na容量曲線を示した図である。
図10】本発明による炭素含有負極材料7を使用する三電極フルセルについて得られた電圧対容量曲線を示した図である。
図11】本発明による炭素含有負極材料8を使用する三電極フルセルについて得られた電圧対容量曲線を示した図である。
図12】本発明による炭素含有負極材料6を使用する三電極フルセルについて得られた電圧対容量曲線を示した図である。
図13】高速放電時の炭素含有負極材料8を含むナトリウムイオンフルセルの正極比容量、サイクル寿命性能、及びクーロン効率を例示した図である。
図14】高速放電時の炭素含有負極材料8を含むナトリウムイオンフルセルの正極比容量、サイクル寿命性能、及びクーロン効率を例示した図である。
図15】高速放電時の炭素含有負極材料6及び8を含むナトリウムイオンフルセルの正極比容量、サイクル寿命性能、及びクーロン効率を例示した図である。
図16】高速放電時の炭素含有負極材料8を含むナトリウムイオンフルセルの正極比容量を例示した図である。
図17】材料4(対照)と比較して、本発明に従って作製された材料6、7、8、9、及び10の炭素含有負極材料によって示される水分に対する感受性の低下を例示するために、水分含量対空気曝露時間のグラフを示した図である。
図18】材料4(対照)と比較して、本発明に従って作製された炭素含有負極材料7、8、及び10を使用して作製された電極の水分に対する感受性を例示する棒グラフを示した図である。
図19】第一級ハードカーボン含有材料のレーザー回折を使用して得られた様々な粒径分布を示した図である。
図20】第一級ハードカーボン含有材料の走査電子顕微鏡像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
本発明による炭素含有負極材料の構造に対する提案されたモデル
図1は、第一級炭素含有材料1を含むコアを含む元の状態の炭素含有材料の粒子の概略図を示している。図1はさらに、第一級炭素含有材料1を含むコアと、第一級炭素含有材料1に化学結合した炭化材料35を含む外側表面15とを含む、本発明による表面処理された炭素含有負極材料10(すなわち、元の状態ではない)の粒子の概略図を示している。より具体的には、図1は、本発明による表面処理された炭素含有負極材料10が、全体の表面積の最小の減少を記録しながら、有意に減少した開放マイクロポア表面積を示すことがどのように可能であり得るかについて提案されたメカニズムを説明するのに寄与している。図1はまた、本発明による表面処理された炭素含有負極材料10が、第一級炭素含有材料1を含むコアを含む元の状態の炭素含有材料と比較して、どのように水分吸着に対してより大きな抵抗性を有するかを説明するのに寄与し得る。
【0083】
図1に示されているように、開放気孔率を有する第一級炭素含有材料1を含むコアを含む元の状態の炭素含有材料の代表的な粒子は、複数の開放メソポア20及び複数の開放マイクロポア25で形成された不規則で不均一な外側表面15を有する。例えば、本発明の方法に従って、第一級炭素含有材料1を含むコアを含む元の状態の炭素含有材料を処理した後、第一級炭素含有材料1を含むコアを含む元の状態の炭素含有材料の外側表面15に、(例えば、第二級炭素含有材料から得られた)炭化材料35の粒子の不均一で不完全な極めて薄い層30を堆積させて、本発明による表面処理された炭素含有負極材料10を生成する。
【0084】
図1に示すように、開放マイクロポア25の多くへの入り口は、極めて薄い層30を形成する堆積された炭化材料35の粒子によって塞がれている。塞がれたマイクロポアは、図1の表面処理された炭素含有負極材料10上で55と示されている。不均一で不完全な層30の極端な薄さによって、より大きなメソポア20の入り口を覆う/塞ぐのに十分である可能性が非常に低くなるが、層30は代わりにメソポアの内部を部分的に被覆することができ、これは、これらの孔の表面積をわずかに減少させることができるということが理解されたい。
【0085】
本発明による表面処理された炭素含有負極材料の疎水性の増加は、元の状態の第一級炭素含有材料1の開放マイクロポア25に入ることができる水分子40の数と比較して、プラグされたか又は塞がれたマイクロポア55に入ることができる水分子40aの数が減少し、それによって、本発明による表面処理された炭素含有材料10を、非表面処理の材料よりも水分に対して耐性にするという事実によっても説明することができる。これは、以下において調査される。
【0086】
本発明による炭素含有負極材料の一般的な調製方法
図2は、本発明による一般的な方法を例示する概略的な流れ図を提供している。典型的な方法において、粒子状の1つ以上の第一級炭素含有材料が、200°Cから950°Cで30-120分、炭化材料で処理され、炭化材料は、上述のように、予め調製された炭化材料であってもよく、又は、1つ以上の第二級炭素含有材料から得られた炭化材料であってもよい。理想的には、処理プロセスは、不活性ガス雰囲気で行われる。さらに理想的には、1つ以上の第二級炭素含有材料は、(上記のように)必要な濃度で提供され、ガス状の第二級炭素含有材料は、好ましくは、キャリアガス(好ましくは不活性キャリアガス)で提供され、液体の第二級炭素含有材料は、好ましくは、キャリア溶媒又は他のキャリア液体で提供される。試験した炭素含有負極材料の詳細が、以下の表1に示されている:
【0087】
【表1】
第一級炭素含有材料のサイズの測定
第一級ハードカーボン含有材料のサイズ測定を、レーザー回折及び走査電子顕微鏡を使用して実行した。得られた結果は、それぞれ図19及び20に示されている。この結果は、第一級炭素含有材料の以下の好ましい粒径分布を示している。
【0088】
【表2】
本明細書において開示されているように、1つ以上の第一級炭素含有材料が:(炭素)-Xで表される1つ以上の炭素複合材料を含む場合、粒径分布は、場合によっては、上記のものとは相違することがある。これは、複合材料のうち一部のサイズが、ナノスケールの範囲にあり得るためである。従って、一実施形態では、本発明の第一級炭素含有材料の粒径分布は、約1nmから約30μm、好ましくは約1nmから約20μmである。
【0089】
本出願人の知る限りでは、本発明の表面処理は、第一級炭素含有材料の粒径分布を実質的に変化させない。本発明の一例において、第二級炭素含有材料の質量堆積は非常に小さいことが分かった(30分の堆積あたり2.2±0.8wt.%)。従って、表面処理後の第一級炭素含有材料の粒径分布は、表面処理前の第一級炭素含有材料の粒径分布と本質的に同じであると考えることができる。
【0090】
本発明による炭素含有負極材料の黒鉛化特徴の測定
上述のように、負極材料が使用されるセルの化学性質の要件に合わせて、第一級炭素含有材料の外側表面に堆積した炭化材料の黒鉛化のレベルを制御することが重要である。以下の表4は、非表面処理の第一級炭素含有材料(すなわち、第一級炭素含有材料を作るために使用される開始物質)の黒鉛化特徴に対して、本発明による表面処理された炭素含有負極材料の黒鉛化特徴(積み重ね(Lc)及び面内(La)の方向における微結晶の黒鉛化間隔距離及びサイズ)を比較している。
【0091】
表4の結果からわかるように、本発明による表面工学の存在は、黒鉛化の程度に大きな影響を与えないため、負極材料3、6~11、及び14は、ナトリウムイオンセルでの使用に非常に適していると予想される。
【0092】
表面酸素含有量(atm。%)の測定
i)本発明による炭素含有負極材料、及びii)炭化材料と接触する前の第一級炭素含有材料の表面に存在する酸素量を、以下の表3に要約された分析仕様のXPSを用いて測定した。表面酸素含有量の結果が図3に示されている。
【0093】
【表3】
BET表面積(m/g)の測定
BET分析を、液体窒素温度で窒素を吸着物として用いたMicromeritics Gemini VII 2390表面積分析器を使用して実行した。全てのサンプルを、分析の前に一晩かけて窒素を流しながら250°Cで脱気した。得られた結果は図4に示されている。
【0094】
BETマイクロポア表面積(m/g)の測定
材料によって吸着されたガスの体積から、モデルを適用することによって、炭素含有負極材料(又は、対照サンプルの場合は元の状態のハードカーボン含有材料)のグラム当たりに計算される、ガスが到達可能なマイクロポア(炭素含有負極材料の表面にあるマイクロポアとして知られる開放マイクロポア)の表面積を推定することが可能である。これは、「t-Plot」解析から達成した。典型的なt-Plotは、標準的な温度及び圧力で吸着されたガスの量対Harkins and Juraの厚さの式(t=[13.99/(0.034-log(p/p°))]^0.5)に従ったHarkins and Juraの統計学的厚さ(nm)から成る。外部表面積とBET(総)表面積との差は、推定されるマイクロポア表面積である。得られた結果は、図5に示されている。代表的な材料8に対するt-Plotが図6に示されている。
【0095】
水分含量(ppm)の測定
曝露せず(0分)、並びに、相対湿度20-50%の大気に30分及び60分曝露した後、MITSUBISHI CHEMICAL ANALYTECH滴定装置から、活性物質及び負極電極(コーティング)の水分含量を、Moisture Meter(Coulometric Titration)Model CA-200を用いて測定した。
【0096】
結果
上記のように得られた黒鉛化特徴、表面酸素含有量、BET表面積、マイクロポア表面積、及び水分含量の結果を以下の表4にまとめた。
【0097】
【表4】
XRDを使用した製品分析
X線回折技術による分析が、Siemens(RTM)D5000粉末回折計を使用して、所望のターゲット材料が調製されたことを確認し、製品材料の相純度を確立し、存在する不純物の種類を決定するために実行される。この情報から単位格子の格子定数を決定することが可能である。
【0098】
材料の分析に使用される一般的なXRD動作条件は次のとおりである。
【0099】
スリットサイズ:1mm
範囲:2θ=10°~60°
X線波長=1.5418A(オングストローム)(Cu Kα)
速度:1.0秒/ステップ
インクリメント:0.025°。
【0100】
電気化学的な結果
本発明に従って作製された炭素含有材料を含む負極は、(上記の)実験的炭素含有材料、バインダー、及び溶媒を含むスラリーを重量比92:6:2で溶媒キャスティングすることによって調製される。スラリーには、C65(商標)カーボン(Timcal)(RTM)等の導電性炭素を含めることができる。バインダーとしてはPVdF及びスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC)が適しており、溶媒としてはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)又は水を用いることができる。次に、スラリーを集電装置ホイル(例えば、元の状態の又は炭素でコーティングされたアルミホイル)にキャストし、溶媒の大部分が蒸発して電極膜が形成されるまで加熱される。次に、負極電極は、約120°Cの動的真空下でさらに乾燥させられ、所望の厚さまでカレンダー処理が行われる。
【0101】
セルテスト
ハーフセル試験では、実験用の炭素含有負極電極が、基準電極と対極として金属ナトリウムの1つのディスクと対にされる。セパレータにはガラス繊維GF/Aが使用され、適切な電解質も利用される。任意の適したNaイオン電解質を使用することができ、好ましくは、これは、1つ以上の塩、例えばNaPF6、NaAsF6、NaClO4、NaBF4、NaSCN、及びNaトリフラート等を、1つ以上の有機溶媒、例えばEC、PC、DEC、DMC、EMC、グリム、エステル、アセテート等と組み合わせて含んでもよい。炭酸ビニレン及びフルオロエチレンカーボネート等のさらなる添加剤を組み込むこともできる。0.5MのNaPF6/EC:PC:DECを含む電解質組成物が好ましい。
【0102】
全てのセルを、サイクリングの前に24時間休ませた。3電極試験では、本発明による炭素含有負極材料が負極として使用され、標準的な酸化物材料が正極として使用され、ナトリウム片が基準として使用され、3つの電極は全て同じ電解液で湿らせる。セパレータには、厚さ24.5μmの2つのポリエチレン膜を用いた。
【0103】
ハーフセルは、定電流サイクル技術を使用してテストされ、3電極セルは定電流-定電圧技術を使用してテストされる。
【0104】
セルは、予め設定された電圧限界間の所与の電流密度でサイクルされる。MTI Inc.(Richmond,CA,USA)又はMaccor(Tulsa,OK,USA)の市販のバッテリーサイクラーを使用した。充電すると、炭素含有負極材料にアルカリイオンが挿入される。放電中、アルカリイオンは負極から抽出され、正極活物質に再挿入される。
【0105】
結果
実験用炭素含有負極材料3-ハーフセル(対Na/Na)の電気化学的試験
図7は、負極比容量の関数としての負極のナトリウム化及び脱ナトリウムの電位曲線を示している。本発明による実験用炭素含有負極材料3を一例として使用すると、不可逆比容量36.0mAh、第1サイクルのクーロン効率89.8%で、315mAh/gの可逆的な脱ナトリウム能力を達成することが可能である。
【0106】
実験用炭素含有負極材料8-ハーフセル(対Na/Na)の電気化学的試験
図8は、負極比容量の関数としての負極のナトリウム化及び脱ナトリウムの電位曲線を示している。本発明による実験用炭素含有負極材料8を一例として使用すると、不可逆比容量29.1mAh、及び第1サイクルのクーロン効率91.9%で、330mAh/gを超える可逆比容量を達成することが可能である。
【0107】
対照の負極材料4(対照)-ハーフセル(対Na/Na)の電気化学的試験
図9は、負極比容量の関数としての負極のナトリウム化及び脱ナトリウムの電位曲線を示している。本発明による対照負極材料4を一例として使用すると、不可逆比容量58.6mAh、及び第1サイクルのクーロン効率82.8%で、281mAh/gの可逆比容量を得た。これらの値を、実験用炭素含有負極材料8の値と比較すると(図7図8)、本発明による表面処理により電気化学的性能が大幅に向上することが明らかである。
【0108】
実験用炭素含有負極材料6、7、及び8の3電極フルセルの電気化学的試験
図10~12は、1.0~4.2V、1.0~4.1V、及び1.0~4.0Vの3つの電圧ウィンドウでのセル容量の関数としてのセル電圧と共に、負極及び正極のナトリウム化及び脱ナトリウム電位曲線を示している。セルは、それぞれ実験用炭素含有負極材料7、8、及び6を特徴としている。3電極フルセル研究の目的は、電荷最上部における負極電位を計測し、負極の表面にデンドライトが形成される可能性を調べることであった。全ての電圧ウィンドウの電荷最上部の負極電位が安全に正であったという事実は、炭素含有材料を特徴とするNaイオンセルがデンドライト形成のリスクがないことを示している。負極と正極との間にNa金属基準が存在するため、そのような3電極フルセル設計は、最高の第1サイクルのクーロン効率を達成するのに最適ではない。従って、炭素含有負極材料を、0.1Ahフルセルでさらにテストして、真の第1サイクルのクーロン効率値を検証した。
【0109】
実験用炭素含有負極材料6~11及び4(対照)-フルセルの電気化学的試験
図13及び14は、サイクル数の関数として、実験用炭素含有負極材料8を負極として特徴とする2つの比較可能なセルのクーロン効率及び正極比放電容量を示している。C/10の充電及び放電の4つの形成サイクルの後、図13のセルはC/5で充電され、C/5から3Cまでの様々な速度で放電されたが、図14のセルは、同じ形成プロトコルに従って、C/5から3Cまでの様々な速度で充電され、C/5で放電された。いずれのセルも、>90%の第1サイクル効率を有し、高速充電/放電サイクル後に、>98%の容量保持を示した。これは、本発明による炭素含有負極材料が優れた高速充電及び高速放電能力を有することを実証している。これは、本発明の材料の強化された電子電荷キャリア特徴に由来する可能性が高い。
【0110】
図15は、3つの異なる電圧ウィンドウにおける、実験用炭素含有負極材料6及び8を特徴とする3つのセルのサイクル安定性を比較している。C/10の充電及び放電の4つの形成サイクルの後、3つのセル全てがC/5及びC/2で充電及び放電され(それぞれ4サイクル)、その後1Cで充電及び放電された。3つのセルは全て、約89%の第1サイクル効率を有した。1.0~4.0V及び1.0~4.1Vでサイクルされたセルは、実験用炭素含有負極材料6を特徴としていた。1.0~4.2Vでサイクルされたセルは、実験用炭素含有負極材料8を特徴としていた。
【0111】
表5は、様々な実験用炭素含有負極材料を特徴とするフルセルのFCL、負極不可逆比容量、及び正極可逆比容量をまとめたものである。
【0112】
【表5】
真の性能向上(負極不可逆比容量及び第1サイクルの損失の減少)を正しく理解するために、炭素含有負極材料4(対照)を特徴とする4つの同様のベンチマークのフルセルは、実験用炭素含有負極材料6~11を特徴とするフルセルに対して使用されるのと同じプロトコルに従って充電及び放電された。第1サイクルの損失、負極不可逆比容量、及び正極可逆比容量値が、表5に要約されている。
【0113】
表5からわかるように、炭素含有負極材料4(対照)を特徴とするベンチマークのフルセルのFCL及び負極不可逆比容量は、実験用炭素含有負極材料6~10を特徴とするフルセルで観察されたものよりも有意且つ体系的に高かった。より高いFCLは、実験用炭素含有負極材料6~9を特徴とするセルから見られるものと比較して、対照セルが約10mAh/g少ない正極可逆比容量値を示す結果となった。
【0114】
実験用炭素含有負極材料11は、実験用炭素含有負極材料6~10に対して得られたものほど低いFCL及び負極不可逆比容量値を示さなかったが、それにもかかわらず、負極材料11の結果は依然として対照サンプル4の結果よりも低い。最大900°Cまで第一級炭素含有材料を表面処理することは、可逆的な(脱)ナトリウム化を阻害する程度まで炭素種が黒鉛化されるのを避けるために最も好ましいと考えられている。結論として、第一級炭素含有材料が本発明に従って、及び、780~900°Cの温度で処理されると、最大の効率が得られることが示されている。
【0115】
実験材料8を特徴とする負極を含むフルセルを、C/5から、C/5の一定放電速度で10Cまで徐々に充電した。試験を通して60%を超える放電容量保持を実証した。100%に近い定格容量(すなわち、セルを、C/5で充放電した場合の正極放電容量)を、高速充電試験終了後に得た。結果が表6及び図16にまとめられている。
【0116】
【表6】
本発明による炭素含有負極材料の水分感受性の低下を実証するための実験
電極、セパレータ、及び電解質を含む全てのセル成分の残留水分含量を下げることが非常に好ましい。本発明による炭素含有負極材料(実験材料6~11)の重要な利点は、炭化材料で処理しない元の状態の第一級炭素含有材料(実験材料4(対照))よりも、水分曝露に対する感受性が有意に低いことがわかったことである。
【0117】
異なる曝露持続時間における実験用炭素含有負極材料6~11及並びに対照材料4の水分含量が、表4及び図17に詳細に示されている。本発明による炭素含有負極材料は水分吸着速度が有意に低下しているのに対し、対照材料4は曝露時に大量の水分を吸着することが明らかである。上述のように、この水分吸収の低下は、第一級ハードカーボン材料を炭化材料の存在下で処理した後の表面マイクロポアの利用可能性の低下によるものと考えられている。
【0118】
図18は、対照材料4を特徴とする負極電極(コーティング)、並びに本発明による炭素含有材料(実験材料7~10)を特徴とする負極電極(コーティング)の残留水分含量を示している。実験用炭素含有材料10を有した負極電極(コーティング)は、最も低い(最も好ましい)残留水分含量を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2022-03-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアと、前記1つ以上の第一級炭素含有材料に化学結合し且つ実質的に均一に堆積した1つ以上の炭化材料を含む外側表面とを含む炭素構造を有する炭素含有負極材料であって、当該炭素含有負極材料は、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を有し、前記コアは、グラファイト及び完全にグラファイト構造を有する材料から選択された1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていないか、又は本質的にそれらから成っていない、炭素含有負極材料。
【請求項2】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、易黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含む、請求項1に記載の炭素含有負極材料。
【請求項3】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、難黒鉛化性ドメイン及び非黒鉛化ドメインを含む、請求項1に記載の炭素含有負極材料。
【請求項4】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、植物由来材料、動物由来材料、炭化水素材料、炭水化物材料、及び他の炭素含有有機材料の熱分解から得られる、請求項1又は請求項3に記載の炭素含有負極材料。
【請求項5】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、(炭素)-Xで表される1つ以上の炭素複合材料を含み、
ここで、Xは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、炭素、及びマグネシウムを含む群から選択される1つ以上の元素であるか、又は
ここで、Xは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、炭素、及びマグネシウムを含む群から選択される1つ以上の元素の酸化物である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項6】
前記炭化材料は、有機及び炭化水素材料から選択される1つ以上の第二級炭素含有材料から得られる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項7】
外側表面に最大2.5原子パーセントの酸素を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項8】
カールフィッシャー滴定技術を使用し、最長で1時間周囲大気に曝露した後に決定された、最大50ppmの水分を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項9】
前記1つ以上の第一級炭素含有材料は、1nmから30μmの粒径を有する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料。
【請求項10】
アルカリ金属イオンの挿入及び抽出が可能であり、炭素構造を有する炭素含有負極材料の調製方法であって、当該方法は、固形の1つ以上の第一級炭素含有材料を含むコアを、950°Cまでの温度で炭化材料と接触させ、それによって、前記1つ以上の第一級炭素含有材料の外側表面に化学結合し且つ実質的に均一に堆積した1つ以上の炭化材料を有する炭素含有負極材料を得るステップを含み、前記炭素含有負極材料は、窒素ガスBET分析を使用して決定された、0m/gから5m/gの開放マイクロポアの比表面積を有、前記コアは、グラファイト及び完全にグラファイト構造を有する材料から選択された1つ以上の第一級炭素含有材料から成っていないか、又は本質的にそれらから成っていない、炭素含有負極材料の調製方法。
【請求項11】
前記第一級炭素含有材料を前記炭化材料と接触させるステップは、前記第一級炭素含有材料を、1つ以上の第二級炭素含有材料と接触させ、その後、前記1つ以上の第二級炭素含有材料からの炭化材料の形成を容易にすることによって達成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の第二級炭素含有材料は、950℃以下からの少なくとも1つの温度において蒸気相及び/又は液相及び/又は気相を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
正極電極、負極電極、及び電解質を含むナトリウムイオンセルであって、前記負極電極は、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料を含む、ナトリウムイオンセル。
【請求項14】
前記電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、ガンマブチロラクトン(GBL)スルホラン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキソラン、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の溶媒中の、NaPF、NaBF、ナトリウムビス(シュウ酸)(NaBOB)、ナトリウムトリフレート(NaOTf)から選択される>0から10モルのナトリウム金属塩、NASICON型電解質、硫化物系電解質、水素化合物系電解質、βアルミナ系電解質、及びβ’’アルミナ系電解質から選択される1つ以上を含む、請求項13に記載のナトリウムイオンセル。
【請求項15】
正極電極、負極電極、及び電解質を含むリチウムイオンセルであって、前記負極電極は、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の炭素含有負極材料を含む、リチウムイオンセル。
【請求項16】
前記電解質は、LiPF、LiAsF6、LiBF、LiBOB、LiClO、LiFSi、LiTFSi、Li-トリフレート及びそれらの混合物と、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、ガンマブチロラクトン(GBL)スルホラン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキソラン、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の溶媒とを含む、請求項15に記載のリチウムイオンセル。
【請求項17】
カールフィッシャー滴定技術を使用して決定された、200ppm未満の水分含量を有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の1つ以上の材料を含む負極電極を含むアルカリ金属イオンセル。
【国際調査報告】