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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】C3植物における生産能力の増強
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230713BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20230713BHJP
   C12N 15/83 20060101ALI20230713BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20230713BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230713BHJP
   C12N 5/14 20060101ALI20230713BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20230713BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20230713BHJP
   A01H 6/54 20180101ALI20230713BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20230713BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A01H1/00 A ZNA
C12N15/09 110
C12N15/83 Z
C12N15/90 Z
C12N15/09 Z
C12N1/21
C12N5/14
A01H5/00 A
A01H5/10
A01H6/54
A01H6/46
C12N15/29
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022570683
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 GB2021051195
(87)【国際公開番号】W WO2021234370
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2007526.3
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518188566
【氏名又は名称】オックスフォード・ユニバーシティ・イノベイション・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロス・ヘンドロン
(72)【発明者】
【氏名】エンリケ・ロペス-ジュエス
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン・ケリー
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD20
2B030CA11
2B030CA14
2B030CA17
2B030CD17
4B065AA11X
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA53
(57)【要約】
C3植物におけるPhytochrome B又はそのバリアントの脈管鞘組織特異的発現は、光合成速度を増加させ、及び/又は炭素再固定メカニズムを導入する。C3植物細胞の遺伝性の遺伝物質は、Phytochrome Bの1つのコピー、又は活性バリアント、又はその機能的断片が脈管鞘細胞において特異的に発現されるように変更される。全草が、これらの遺伝子組み換えされた植物細胞から再生される。或いは、再生された全草の脈管鞘細胞においてPhytochrome Bが発現されるように、脈管鞘特異的調節エレメント、例えば、プロモーター又はエンハンサーエレメント等を挿入するために植物細胞における天然のフィトクロム遺伝子座のCrispr改変が使用される。遺伝子組み換えされた全草は、収量増加関連特性を有しており、例えば、光合成の増強及び/又は炭素再固定メカニズムの導入の結果として、種子収量を増加させた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C3植物の光合成能力を高める方法であって、Phytochrome Bをコードする関心対象の遺伝子(GOI)、又はPHYBのシグナル活性化機能を保持するその活性バリアントが、前記C3植物の少なくとも1つの脈管鞘において特異的に発現されるように、前記C3植物の遺伝性の遺伝物質を変更する工程を含み、前記GOIが、遺伝子発現調節エレメントの制御下において発現され、前記遺伝子発現調節エレメントが、前記C3植物の前記少なくとも1つの脈管鞘において特異的に活性である、方法。
【請求項2】
前記Phytochrome B又は前記活性バリアントが、その機能的断片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GOIが、葉肉細胞において発現されないか又は非常にわずかしか発現されない、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、C3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質に少なくとも1つのポリヌクレオチドを挿入する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、塩基エディター;場合によりプライムエディターの使用を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、遺伝子修復オリゴ核酸塩基(oligonucleobase)(GRON)媒介性突然変異をC3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質の標的DNA配列に導入する工程;場合により、前記C3植物の前記細胞をDNAカッター及びGRONに曝露する工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記DNAカッターが、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Znフィンガー、抗生物質、又はCasタンパク質を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、前記C3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質の部位特異的な相同的組み換えのために亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZNF)及び/又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を使用する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、ウイルスベクターを使用してドナー鋳型を前記C3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質に導入する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスベクターが、タンパク質発現ベクターを含み;場合により、前記タンパク質発現ベクターが、pQE又はpETを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数のポリヌクレオチドが、CRISPR-Casタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、場合によりガイドRNA(gRNA)と、前記遺伝子発現調節エレメントの配列を含むドナーポリヌクレオチドとを含み、前記gRNAが、前記CRISPRCasタンパク質を、前記C3植物の細胞の前記ゲノムにおける前記GOIの少なくとも1つのコピーの遺伝子座に向かわせ、それにより、前記細胞から再生された植物の前記少なくとも1つの脈管鞘において前記GOIの前記コピーの発現を生じるように、前記遺伝子発現調節エレメントが挿入される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記CRISPR-Casタンパク質及び前記gRNAが、リボ核タンパク質(RNP)を形成するためにプレアセンブルされ;場合により、前記RNPが前記細胞にトランスフェクトされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記RNPが、エレクトロポレーションを使用して前記細胞にトランスフェクトされる、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CRISPR-Casタンパク質が、Cas9、Cas12a、又はCas12bを含む、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
CRISPR-Casタンパク質をコードする前記ポリヌクレオチドが、プラスミドによって導入される、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのポリヌクレオチドが、前記発現調節エレメントと、前記GOIをコードするヌクレオチド配列と、場合により、ターミネーターとを含み、さらなるポリヌクレオチドが、CRISPR-Casタンパク質をコードし、前記さらなるポリヌクレオチド又は追加のさらなるポリヌクレオチドが、場合により、前記CRISPR-Casタンパク質を前記C3植物の前記ゲノムにおける所望の遺伝子座へ向かわせるgRNAをコードし、それにより、前記脈管鞘調節エレメントの制御下の非相同GOIが、前記C3植物の前記細胞の前記所望の遺伝子座へ挿入される、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのポリヌクレオチドが、5'から3'へと、前記発現調節エレメントと、Phytochrome B又はその活性バリアント又はその機能的断片をコードする前記ヌクレオチド配列と、場合により前記ターミネーターとを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのポリヌクレオチドが、5'から3'へと、C3植物の少なくともいくつかの脈管鞘において特異的に活性な前記発現調節エレメントと、Phytochrome B、又はその活性バリアント、又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列とを含み、それにより、Phytochrome B又はその活性バリアント又はその機能的断片が前記C3植物のゲノムに挿入される、請求項4に記載の方法。
【請求項19】
5'から3'へと、C3植物の少なくともいくつかの脈管鞘において特異的に活性な発現調節エレメントと、Phytochrome B又はその活性バリアント又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列と、場合により、ターミネーターとを含む単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項20】
前記調節エレメントが、プロモーターを含む、請求項19に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項21】
前記プロモーターが、維管束鞘細胞特異的プロモーター及び/又はメストム鞘(mestome sheath)特異的プロモーター又は前記維管束において活性なプロモーターである、請求項19又は請求項20に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記維管束鞘特異的プロモーター又は前記メストム鞘特異的プロモーター又は前記維管束全体において活性な前記プロモーターが、合成プロモーターであり;好ましくは、前記プロモーターの上流の維管束鞘又はメストム鞘特異的転写因子結合エレメントを含み;場合により、2つ以上の転写因子結合エレメントが存在する、請求項21に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記維管束鞘特異的プロモーター又は前記メストム鞘特異的プロモーター又は前記維管束全体において活性な前記プロモーターが、最小ZmUbi1プロモーター、NOSコアプロモーター、CHSAコアプロモーター、及び最小35Sプロモーターから選択され;好ましくは、前記プロモーターが、配列番号7又は配列番号10又は配列番号13のヌクレオチド配列或いはそれらに対して少なくとも80%同一性の配列を有する、請求項21又は22に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項24】
前記維管束鞘細胞特異的プロモーター又はメストム鞘特異的プロモーター或いは前記維管束全体において活性な前記プロモーターが、それぞれ、維管束鞘特異的遺伝子又はメストム鞘特異的遺伝子に由来する、請求項21から23のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項25】
前記維管束鞘特異的遺伝子が、シロイヌナズナMYB76、フラベリア・トリネビアGLDP、シロイヌナズナSULTR2;2、シロイヌナズナSCR、シロイヌナズナSCRL23、シバPCK、ウロコロア・パニコイデスPCK1、及びオオムギPHT1;1からなる群から選択される植物種に由来する、請求項21から24のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項26】
前記プロモーターが、非植物生物体、例えば、イネツングロ桿菌状ウイルス(RTBV)プロモーター等に由来する、請求項19から25のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項27】
Phytochrome Bをコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号8、又は配列番号11のいずれか、或いは前記配列のいずれかに対して少なくとも65%の同一性の配列、或いはその機能的断片;好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも70%の同一性の配列、或いはその機能的断片;より好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも80%の同一性の配列、或いはその機能的断片である、請求項19から26のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項28】
前記Phytochrome Bの前記機能的断片が、フィトクロムシグナル伝達活性を有するが、光感受性を欠いており;好ましくは、前記機能的断片が、PAS及びGAFドメインからなる、請求項19から27のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項29】
前記Phytochrome Bが光非感受性であり;好ましくは、YHB及び、前記Phytochrome Bをコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号1であるか、又はそれに対して少なくとも70%の同一性の配列、又はその機能的断片である、請求項19から28のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項30】
請求項17から29のいずれか一項に記載のDNAポリヌクレオチドと、複製開始点と、Ti又はRiプラスミドのT-DNA右境界反復配列と;場合により、追加的にTi又はRiプラスミドのT-DNA左境界反復配列と、少なくとも1つの細菌性選択可能マーカーとを含むプラスミド。
【請求項31】
更に、エンハンサー、植物選択可能マーカー、マルチクローニング部位、又は組換え部位のうちの1つ又は複数から選択されるエレメントを含む、請求項29に記載のプラスミド。
【請求項32】
請求項17から29のいずれか一項に記載のDNAポリヌクレオチドを含むTi又はRiプラスミド。
【請求項33】
請求項19から29のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド又は請求項30から32のいずれか一項に記載のプラスミドを含み;場合により、前記DNAポリヌクレオチド又は前記プラスミドでコーティングされたマイクロ粒子を含む、植物細胞の形質転換のための組成物。
【請求項34】
請求項19から29のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド又は請求項30から32のいずれか一項に記載のプラスミドを含む細菌であって;場合により大腸菌である細菌。
【請求項35】
請求項30から32のいずれか一項に記載のプラスミドを含む細菌であって;好ましくは、アグロバクテリウム属であり;より好ましくは、アグロバクテリウム・ツメフアシェンスである細菌。
【請求項36】
少なくともその一部においてC3光合成を行う植物であって、そのゲノムに安定して組み込まれた、好ましくはそのゲノムに遺伝的に組み込まれた、請求項19から29のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチドを含む、植物。
【請求項37】
少なくともその一部においてC3光合成を行う、遺伝子改変された又は遺伝子操作された植物であって、Phytochrome B遺伝子又はその機能的断片の少なくとも1つの追加のコピーを追加的に含むように、遺伝子改変を有するか又は遺伝子操作されており、並びに、遺伝子的に同等な変更されていない植物と比較して、遺伝子的に変更されており、前記変更されている植物のPhytochrome B遺伝子又はその機能的断片の少なくとも1つのコピーの発現調節エレメントが、追加的な少なくとも1つのPhytochrome B遺伝子、又はその機能的断片、前記変更されていない植物と比較して、前記植物の少なくともいくつかの維管束鞘細胞及び/又はメストム鞘細胞及び/又は維管束において特異的な発現を生じる、遺伝子改変された又は遺伝子操作された植物。
【請求項38】
前記発現調節エレメントが、C3植物の前記少なくともいくつかの脈管鞘細胞において特異的に活性なプロモーターである、請求項37に記載の植物。
【請求項39】
前記追加の少なくとも1つのPhytochrome B遺伝子の前記コード配列が、前記植物の天然のPhytochrome B遺伝子と同じである、請求項37又は請求項38に記載の植物。
【請求項40】
前記追加の少なくとも1つのPhytochrome B遺伝子が、前記植物の前記天然のPhytochrome B遺伝子と異なっており;場合により、前記Phytochrome B又は活性バリアント又はその機能的断片が、請求項27から30のいずれか一項において定義される、請求項37又は請求項38に記載の植物。
【請求項41】
CRISPR-Casタンパク質遺伝子改変のプロセスによって得られる、請求項37から40のいずれか一項に記載の植物。
【請求項42】
前記遺伝子改変が、遺伝的に安定である、請求項37から41のいずれか一項に記載の植物。
【請求項43】
C3植物であり;好ましくは、作物、例えば、穀物植物、油種子作物植物、又はマメ科植物である、請求項36から42のいずれか一項に記載の植物。
【請求項44】
前記Phytochrome Bが、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又は配列番号9、又は配列番号12のいずれかのアミノ酸配列、或いは前記配列のいずれかに対して少なくとも65%同一性の配列、又はその機能的断片;好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも70%同一性の配列、又はその機能的断片;より好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも80%同一性の配列、又はその機能的断片を有する、請求項37から43のいずれか一項に記載の植物。
【請求項45】
前記Phytochrome Bの前記機能的断片が、フィトクロムシグナル伝達活性を有するが、光感受性を欠いており;好ましくは、前記断片が、前記PAS及びGAFドメインからなる、請求項37から44のいずれか一項に記載の植物。
【請求項46】
前記Phytochrome Bが、光非感受性配列バリアント又はその機能的断片であり;好ましくは、配列番号4、配列番号12のアミノ酸配列をもつYHB、或いはそれらに対して少なくとも70%同一性の配列、或いはその機能的断片である、請求項37から45のいずれか一項に記載の植物。
【請求項47】
脈管鞘細胞に存在する葉緑体が、同じ期間、同じ条件下で生長したコントロールの未改変植物における同等な脈管鞘細胞における葉緑体と比較して、サイズ又は光合成能力に関して発生的に増強されている、請求項37から46のいずれか一項に記載の植物。
【請求項48】
同じ条件下で生長したコントロールの未改変植物と比較して光合成が増強されている、請求項36から47のいずれか一項に記載の植物。
【請求項49】
葉での光合成効率が、同じ条件下において生長したコントロールの未改変植物の同等の葉よりも高い、請求項36から48のいずれか一項に記載の植物。
【請求項50】
水利用効率が、同じ条件下において生長したコントロールの未改変植物におけるものよりも高い、請求項36から49のいずれか一項に記載の植物。
【請求項51】
同じ条件下において生長したコントロールの未改変植物と比較した場合に、高められた光合成が、以下の特性:高められた生長率、開花への期間短縮、より早い成熟化、高められた種子収量、高められたバイオマス、増加した草高、及び増加した林冠面積のうちの1つ又は複数を結果として生じる、請求項36から49のいずれか一項に記載の植物。
【請求項52】
請求項36から51のいずれか一項に記載の植物に由来するかそれらから得られる、植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子。
【請求項53】
請求項36から49のいずれか一項に記載の植物から得られる加工された植物産物、或いは、請求項52に記載の植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子であって;場合により、前記加工された植物産物が、(i)植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいて特異的に活性な遺伝子発現調節エレメントの下流のPhytochrome B又はその活性断片、又は、(ii)請求項19から29のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドの少なくとも一部分、の検出可能な核酸配列を含む、加工された植物産物、或いは植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、植物分子生物学の分野に関し、並びに、光合成の増加によって植物の収量関連特性を高めるある特定の遺伝子の組織特異的発現のための方法に関する。本発明は、本発明の方法において有用な発現コンストラクトに関する。本発明は、光合成の増強の結果として収量関連特性を増加させた、遺伝子組み換えされた植物にも関する。本発明は、更に、そのような変更された植物の一部、例えば、植物細胞、植物部位、植物器官、果実、種、胚、胚形質、及び加工された植物生産物等にも関する。
【0002】
参照による組み入れ
本明細書において引用される各特許、刊行物、及び非特許文献は、あたかもそれぞれが個別に参照により組み入れられたかのように、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
Phytochrome B(PHYB)は、多数の植物プロセス、例えば、発芽、脱黄化、光媒介性植物発生(光形態形成)、開花、日陰に対する応答、及び葉緑体生合成等の調節に関与する赤色/遠赤色光受容体である。PHYBは、温度依存性の方式において主要な標的遺伝子のプロモーターと関係すること、及びその後にそれらの発現を抑制することによって、温度応答も調節する。PHYBは、昼/夜サイクルの過程に対して温度情報を統合するサーマルタイマーとして機能し得る。
【0004】
PHYBは、2つの相互転換性形態:Pr(暗所では非活性)及びPfr(光の下では活性)として存在する。活性なPfr PHYBは、赤色光への曝露後に核に蓄積し、前述の植物プロセスを制御する多数の調節カスケードを開始するように機能する。YHBとして知られるPHYBの構成的に活性なバリアントが存在する。このバリアントは、PHYB遺伝子のアラビドプシス属(Arabidopsis)変種において、276部位でのYからHへの単一のアミノ酸変化を含む。YHBは、活性PHYBと同じ調節機能を果たすが、活性化されるのに光を必要としない。本願を通して、PHYBに関する場合の用語「活性バリアント」は、PHYBの全ての構成的に活性なバリアントを意味し、並びにYHBを含む。複数の植物プロセスにおけるその調節役割に起因して、PHYB又はYHBの全ての以前の操作は、結果として、この遺伝子の発現のタイミング又は位置の操作を作物の改良にとって不適当にする発生異常を生じた。PHYB又はYHB発現の操作から生じる繰り返し観察される異常としては、矮性、開花期の遅延、肉厚な葉、より小さい塊茎(じゃがいもにおいて)、水利用効率の低下、及び渇水感受性の増加が挙げられる。その上、光合成速度が窒素インベストメントに対して正規化される場合、PHYB又はYHBを過剰発現する植物において、光合成速度が増加しないことが実証されている。
【0005】
アラビドプシス属において見出されるPHYB調節プロセスのほとんど、例えば、発芽、脱黄化、光媒介性植物発生(光形態形成)、開花、日陰に対する応答、及び葉緑体生合成等は、他の植物種においてもPHYBによって調節される。更に、多くの植物は、PHYBの複数のオーソログをコードする遺伝子を有する。顕花植物のゲノムは、他のフィトクロム、例えば、その遺伝子産物はPHYBと拮抗性相関を有し、多くの場合、例えば、日陰耐性応答等において拮抗作用を促進する、Phytochrome A(PHYA)等をコードする遺伝子も有する。PHYAを過剰発現する植物は、植物生産性に対する有害な効果も有する。
【0006】
以下は、PHYB又はYHB(又は他の関連フィトクロム遺伝子)の過剰発現が、結果として、植物の生産性にとって有害な効果を生じた例の一覧である:
Wagnerら、(1991)「Overexpression of Phytochrome B induces a short hypocotyl phenotype in transgenic Arabidopsis」Plant Cell. 3(12): 1275~1288。当該文献は、どのようにアラビドプシス属植物の天然のPHYB又はアラビドプシス属植物のイネPHYBにおける全身性過剰発現が、光形態形成を変更し、結果として、短くなった下子葉部及びより低い植物を生じるかについて説明する。
【0007】
Thieleら、(1999)「Heterologous Expression of Arabidopsis Phytochrome B in Transgenic Potato Influences Photosynthetic Performance and Tuber Development」Plant Physiology.120:73~81。当該文献は、ジャガイモにおけるPHYBの過剰発現について説明する。これは、植物への様々な負の変化を引き起こすことが見出された。開花期の遅延、分枝の増加、より大きい葉肉細胞に起因する、より小さくそしてより厚い葉のより大きい数、及び葉緑素分解の減速が存在した。固定速度が葉緑素の単位に対して正規化される場合、二酸化炭素固定に関して、PHYBを過剰発現する植物と野生型の植物との間に差は存在しなかった。改変された植物は、改変された植物の収量が同じ成長条件において未改変のコントロール植物より低いような、負の効果、例えば、より小さい塊茎及び塊茎形成の遅れ等を有する。
【0008】
Raoら、(2011)「Overexpression of the phytochrome B gene from Arabidopsis thaliana increases plant growth and yield of cotton (Gossypium hirsutum)」J. Zheijiang Univ.Sci.B.12:326~334。当該文献は、綿におけるPHYBの過剰発現がいかにより速い生長を与えたかついて説明するが、それは、多数の負の効果、例えば、蒸散速度の4倍化(すなわち、植物をより高い渇水感受性及びより少ない水利用効率にする)、矮性、肉厚な葉、及び結果としてより多い分枝を生じる、頂芽優性の減少等も引き起こした。
【0009】
Hallidayら、(1997)「Expression of heterologous phytochromes A, B or C in transgenic tobacco plants alters vegetative development and flowering time」The Plant Journal 12:1079~1090。当該文献は、結果として開花の遅れ及び矮性という負の効果を生じる、タバコにおけるPHYBの過剰発現について説明する。
【0010】
Husaineidら、(2007)「Overexpression of homologous phytochrome genes in tomato:exploring the limits in photoperception」J. Exp.Bot.58:615~626。当該文献は、構成的二重-35S(CaMV)プロモーターの制御下における、PHYA、PHYB1、又はPHYB2を過剰発現するトマト系列について説明する。これは、結果として、矮性及びより多いアントシアニン産生という負の効果を生じる。
【0011】
Holeforsら、(2000)「The Arabidopsis phytochrome B gene influences growth of the apple rootstock M26」Plant Cell Reports 19:1049~1056。当該文献は、リンゴ根株M26(マルス・ドメスティカ(Malus domestica))の過剰発現について説明する。これは、結果として、茎長の減少並びにシュート、根、及び植物の乾燥質量の減少という負の効果を生じる。
【0012】
Distefanoら、(2013)「Ectopic expression of Arabidopsis Phytochrome B in Troya citrange affects photosynthesis and plant morphology.」Scientia Horticulturae 159 :1~7。当該文献は、柑橘類におけるPHYBの過剰発現がいかに、光合成遺伝子の発現及び葉の葉緑素含量を、ただし気孔密度も増加させ、分岐角を変更し、並びに光合成速度も低下させたかについて説明する。
【0013】
Zhengら、(2001)「Modification of Plant Architecture in Chrysanthemum by Ectopic Expression of the Tobacco Phytochrome B1 Gene」J. Am.Hort.Soc.Sci.126(1):19~26。当該文献は、CaMV 35Sプロモーターの制御下における、キク属(Chrysanthemum)におけるタバコPHYB1遺伝子の異所性発現について説明する。結果として得られる植物は、負の効果、例えば、野生型の植物より大きい分枝角によるより短い背丈等を示した。PHYB1発現の効果は、市販の生長抑制剤に匹敵し、したがって、著者らは、PHYB1過剰発現の適用は、外因性生長抑制剤の適用の代替手段となり得ることを示唆している。
【0014】
Yangら、(2013)「Deficiency of Phytochrome B alleviates chilling-induced photoinhibition in rice」Am.J.Bot.100(9):1860~1870。当該文献は、どのように、PHYB発現を減じた変異イネ植物が低温ストレスの間及びその後に、野生型植物よりも少ない光阻害を受けるか、並びに、野生型コントロール植物よりも明らかに高い光学系II効率及び葉緑素含量を有したことについて説明する。したがって、この文献は、PHYB発現を減少させることが、光合成の増進を生じることを示した。これらの知見は、作物改良は、PHYB発現を増加させることよりもむしろそれを減少させる戦略に従うべきであることを示唆している。
【0015】
Su及びLagarias (2007)「Light-Independent Phytochrome Signaling Mediated by Dominant GAF Domain Tyrosine Mutants of Arabidopsis Phytochromes in Transgenic Plants. Phytochrome B-Y276H (YHB)」The Plant Cell、Vol 19:2124~2139。当該文献は、位置276のチロシン(Y)がヒスチジン(H)に変換されたYHBとして知られるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)PHYBタンパク質の変異形態について説明する。Y276H変異体は、前蛍光性(profluorescent)及び光非感受性(photoinsensitive)である。YHBが植物において発現される場合、小さい成長の妨げられた植物を結果として生じるこの突然変異に関連する、様々な変更された光シグナル伝達活性が見出される。
【0016】
米国特許第8,735,555号では、アラビドプシス属へ導入された場合に植物の光形態形成特性を変更する変異フィトクロムについて開示されている。PHYBのY276H変異体は、植物においては光安定であり、結果として、同じ種又は変異体を欠く変種と比較した場合に、変更された光形態形成をもたらすことが説明されている。変異Y276Hアラビドプシス属フィトクロムを発現するトランスジェニック植物は、変異フィトクロムを欠く植物の同じ種と比較して、避陰の減少を示し、並びに、結果として矮性を生じる変更された光形態形成を有した。
【0017】
Huら、(2019)「Regulation of monocot and dicot plant development with constitutively active alleles of phytochrome B.」Plant Direct, 4:1~19。当該文献は、アラビドプシス属YHB又はイネYHBのどちらかがアラビドプシス属、イネ、タバコ、トマト、及びヤマカモジグサ属において過剰発現される実験について説明する。全ての場合において、一貫して、変化した植物構造及び減少した草高をもたらす、一連の発達変化が引き起こされた。その上、シュート分枝及び種子収量の両方は、これらの種の全てにおけるYHB過剰発現によって負の影響を受けた。
【0018】
米国特許出願公開第2004/0268443号(Wuら)では、植物構造を変更するため、及びその結果として植物の避陰生長応答を最小化又は克服するために、植物、例えば、バスマティイネ植物等における異種PHYAの蓄積を増加させることについて説明されている。より詳しくは、エリートインディカ米であるプサバスマティ-1(Pusa Basmati-1)(「PBNT」)を、光調節された組織特異的イネRbcSプロモーターの制御下においてアラビドプシス属PHYAによって形質転換させ、結果として多数の独立した形質転換系列を生じた。第五世代(世代「T4」)ホモ接合形質転換系列からの結果は、未改変植物と比較した、光生長植物(light-grown plant)の葉における高レベルのPHYA蓄積及び変更された植物構造を示した。
【0019】
米国特許出願公開第2005/0120412号では、それらの開花シュート、開花、花、種、又は果実が、同様の未改変の長日植物における、対応する前記開花シュート、開花ポット、花、種、又は果実の発生にとって必要とされる実質的により短い日数において発生するように、植物の細胞の少なくとも一部においてPHYA又はPHYBタンパク質を過剰発現するように改変された長日植物について開示されている。機能的プロモーターの制御下のフィトクロムコード配列を含む発現カセットが提供される。詳細には、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターが使用される。
【0020】
中国特許出願公開第106854240号(BIOTECHNOLOGY RES CENTER SHANDONG ACAD OF AGRICULTURAL SCIENCES)では、ピーナッツのフィトクロムAhphyBのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列について開示されている。避陰の高照射量反応を調節及び制御するために、フィトクロムAhphyBが提案されている。ピーナッツのAhphyBは、アラビドプシス属において発現され、並びに、胚軸伸長に対する光条件の効果が試験される。ピーナッツポッドの発生を制御することができ、並びにトウモロコシ及びピーナッツ間作モードにおいて高収量ピーナッツ種を成長させることができるように、phyB発現を上方制御することが提案されている。
【0021】
国際公開第2005093054(A1)号(KANSAI TECH LICENSING ORG)では、どのようにフィトクロム分子のN末端領域が核内のシグナル変換能を有するかについて開示されている。定量化及び核局在化に関与するドメインと融合したフィトクロムのN末端断片は、全長フィトクロム分子よりも100倍以上高い光感度を有する。この人工フィトクロム分子は、光感度を高めるために、植物、例えば、イネ等を改変するために使用され、結果として、色素の増加、開花期間の延長、子房の拡大、又は茎の拡大を生じる。
【0022】
国際公開第99/31242(A1)号(KWS)は、植物にPhytochrome B遺伝子を導入するか又は植物のPhytochrome B遺伝子を活性化することによってPhytochrome Bを過剰発現する植物に関する。キメラシロイヌナズナphyB遺伝子を、アグロバクテリウム・ツメフアシェンス(Agrobacterium tumefaciens)媒介性遺伝子導入によってジャガイモ植物に形質転換させた。アラビドプシス属由来のPhytochrome Bを発現するトランスジェニック植物は、矮性、頂芽優性の減少、及び濃い緑色の葉を示す。様々な表現型の変化が、光合成アウトプットの増加に関連すると考えられた。形質転換植物において、塊茎の数及び収量の増加が見出された。ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のPhytochrome Bによるジャガイモの形質転換も、植物の特性を改良することができるが、それは、シロイスナズナ由来の遺伝子よりも少ない数の特性しか改良できない。
【0023】
米国特許出願公開第2007295252号(Dasgupta)では、トウモロコシ(Zea mays)から識別された核酸分子、例えば、プロモーター、リーダー、及びエンハンサー、並びにキメラ分子における上記調節エレメントの組み合わせ等について開示されている。識別された調節エレメントは、フルクトース1-6二リン酸アルドラーゼ(FDA)、ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ(PPDK)、又はリブロース二リン酸カルボキシラーゼアクチバーゼ(RCA)遺伝子に由来する。当該調節エレメント分子は、好ましくは、葉組織における遺伝子の転写を調整する。当該調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、リーダー、並びにキメラ又はハイブリッド発現エレメントの形態のそのような調節エレメントの組み合わせを含む。異種DNA分子に作動可能に連結されたプロモーター及び調節エレメントを含む、当該DNAコンストラクトを含むトランスジェニックトウモロコシ植物及び種について説明され、それらにより、トランスジェニック植物は、農学的に望ましい表現型を表す。
【0024】
中国特許出願公開第108913717号(UNIV HENAN)では、Crispr-Cas9ベースのイネフィトクロムPHYB遺伝子編集ベクターについて開示されている。当該ベクターは、当該植物における他の遺伝子の突然変異なしに、イネフィトクロムPHYB遺伝子を変異させるために使用される。4つの変異phyB変異体がイネにおいて作製され、次いで、農学的に有用な特性についてスクリーニングされる。当該遺伝子編集ベクターは、phyB変異体を作製するワークロードを簡略化し、変異体を作製するプロセスをより制御可能にする。
【0025】
Ganesanら(2017)「Development of transgenic crops based on photo-biotechnology」Plant Cell Environ.40: 2469~2486は、概して光受容体の調整について考察する、総説論文である。PHYBの調整に関わる様々な試みについて言及されているが(上記にも一覧される)、全てが、植物の生長及び発生に関して望ましくない、植物生産性に対して負の影響を及ぼす結果をもたらす。
【0026】
まとめると、植物におけるPHYB、YHB、及びPHYA発現を操作する多くの試みにもかかわらず、前述の特許開示のいずれも、光合成、生長、収量の改良に成功していない。代わりに、それらは、植物発生、植物構造、水利用効率に負の影響を与えた。フィトクロムは全ての植物において主要な調節的役割を有し、並びにこれらの遺伝子の全ての以前の操作は、結果として、この遺伝子の発現のタイミング又は位置の操作を作物の改良にとって不適当にする発生異常を生じた。
【0027】
Leegood, R. C. (2008)「Roles of the bundle sheath cells in leaves of C3 plants」J. Exp. Bot. vol 59 1663~1673頁は、多くのC3植物の葉の葉脈を囲む維管束鞘細胞(bundle sheath cell)の構造及び機能について説明する総説論文である。維管束鞘及びそれらの延長部の細胞が、例えば、炭水化物の合成及び貯蔵、窒素及び硫黄の取り込み、代謝、及び移動化、並びに抗酸化代謝におけるいくつかの代謝的役割を有することは明白だが、C3植物の葉におけるそれらの活性に関して、はるかにより多くのことを知る必要があることは明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許第8,735,555号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0268443号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0120412号
【特許文献4】中国特許出願公開第106854240号
【特許文献5】国際公開第2005093054(A1)号
【特許文献6】国際公開第99/31242(A1)号
【特許文献7】米国特許出願公開第2007295252号
【特許文献8】中国特許出願公開第108913717号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Wagnerら、(1991)「Overexpression of Phytochrome B induces a short hypocotyl phenotype in transgenic Arabidopsis」Plant Cell. 3(12): 1275~1288
【非特許文献2】Thieleら、(1999)「Heterologous Expression of Arabidopsis Phytochrome B in Transgenic Potato Influences Photosynthetic Performance and Tuber Development」Plant Physiology.120:73~81
【非特許文献3】Raoら、(2011)「Overexpression of the phytochrome B gene from Arabidopsis thaliana increases plant growth and yield of cotton (Gossypium hirsutum)」J. Zheijiang Univ.Sci.B.12:326~334
【非特許文献4】Hallidayら、(1997)「Expression of heterologous phytochromes A, B or C in transgenic tobacco plants alters vegetative development and flowering time」The Plant Journal 12:1079~1090
【非特許文献5】Husaineidら、(2007)「Overexpression of homologous phytochrome genes in tomato:exploring the limits in photoperception」J. Exp.Bot.58:615~626
【非特許文献6】Holeforsら、(2000)「The Arabidopsis phytochrome B gene influences growth of the apple rootstock M26」Plant Cell Reports 19:1049~1056
【非特許文献7】Distefanoら、(2013)「Ectopic expression of Arabidopsis Phytochrome B in Troya citrange affects photosynthesis and plant morphology.」Scientia Horticulturae 159 :1~7
【非特許文献8】Zhengら、(2001)「Modification of Plant Architecture in Chrysanthemum by Ectopic Expression of the Tobacco Phytochrome B1 Gene」J. Am.Hort.Soc.Sci.126(1):19~26
【非特許文献9】Yangら、(2013)「Deficiency of Phytochrome B alleviates chilling-induced photoinhibition in rice」Am.J.Bot.100(9):1860~1870
【非特許文献10】Su及びLagarias (2007)「Light-Independent Phytochrome Signaling Mediated by Dominant GAF Domain Tyrosine Mutants of Arabidopsis Phytochromes in Transgenic Plants. Phytochrome B-Y276H (YHB)」The Plant Cell、Vol 19:2124~2139
【非特許文献11】Huら、(2019)「Regulation of monocot and dicot plant development with constitutively active alleles of phytochrome B.」Plant Direct、4:1~19
【非特許文献12】Ganesanら(2017)「Development of transgenic crops based on photo-biotechnology」Plant Cell Environ.40: 2469~2486
【非特許文献13】Leegood, R. C. (2008)「Roles of the bundle sheath cells in leaves of C3 plants」J. Exp. Bot. vol 59 1663~1673頁
【非特許文献14】Bashirullah A、Cooperstock R、Lipshitz H (2001) Spatial and temporal control of RNA stability. PNAS 98: 7025~7028
【非特許文献15】Certo M T、Gwiazda K S、Kuhar R、Sather B、Curinga Gら(2012) Coupling endonucleases with DNA end-processing enzymes to drive gene disruption. Nature methods 9:973~975
【非特許文献16】Christou, P. (1997) Rice transformation: bombardment. Plant Mol Biol. 35 (1-2):197~203)
【非特許文献17】Gasiunas, G.、Barrangou, R.、Horvath, P.、Siksnys, V. (2012) Cas9-crRNA ribonucleoprotein complex mediates specific DNA cleavage for adaptive immunity in bacteria. PNAS 109(39):E2579~86
【非特許文献18】Kantor, A.ら、(2020) Int. J. Mol. Sci. 21: 6240
【非特許文献19】Khatodia, S.ら(2016) Front. Plant Sci. vol 7 506頁
【非特許文献20】Patelら 2006. J Biol Chem 281(35):25485~91
【非特許文献21】Patelら 2004. Plant Physiology 136(3): 3550~3561
【非特許文献22】A. Fahn、Plant Anatomy Pergamon Press 1995
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【非特許文献24】Wangら、(2017)「Transcriptional control of photosynthetic capacity: conservation and divergence from Arabidopsis to rice.」New Phytol.、216: 32~45
【非特許文献25】Emms and Kelly. Genome Biology 2019. 20: 238
【非特許文献26】Hwangら、(2014) International Journal of Photoenergy
【非特許文献27】Wuら、(2011) PLoS ONE 6(11)
【非特許文献28】Takanoら、(2009) PNAS. 106(34): 14705~14710
【非特許文献29】Potterら、(2018) Nucleic Acids Research 46:W200~W204
【非特許文献30】Okaら(2004)「Functional Analysis of a 450-Amino Acid N-Terminal Fragment of Phytochrome B in Arabidopsis」Plant Cell. 16(8): 2104~2116
【非特許文献31】Engelmannら(2008) Plant Physiology 146(4):1773~1785
【非特許文献32】Zengら New Phytol. 2017 May;214(3):1338~1354
【非特許文献33】Adwyら The Plant Journal 2015 November;84(6)
【非特許文献34】Adwyら Plant Gene 2019 June;18
【非特許文献35】Kirschnerら(2018) Journal of Experimental Botany 69(20): 4897~4906
【非特許文献36】Knerovaら biorxiv https://doi.org/10.1101/380188
【非特許文献37】Lundquistら Molecular Plant. 2014 Jan;7(1):14~29
【非特許文献38】Cuiら The Plant Journal. 2104 78(2): 319~327
【非特許文献39】Nomuraら(2005) Plant Cell Physiology.46(5):754~61
【非特許文献40】Suzuki and Burnell. Plant Science. 2003 165(3):603~611
【非特許文献41】Klotiら(1999) Plant Molecular Biology 40(2): 249~266
【非特許文献42】Petruccelliら 2001 PNAS 98(13) 7635~7640
【非特許文献43】Schunmannら(2004) Plant Physiol. 136(4): 4205~4214
【非特許文献44】Weber, Eら (2011) PLoS ONE doi.org/10.1371/journal.pone.0016765
【非特許文献45】Knerovaら、(2018) 「A single cis-element that controls cell-type specific expression in Arabidopsis」 bioRXiv
【非特許文献46】Nomuraら、(2005)、Plant Cell Physiol.
【非特許文献47】Hongら、(2019) Nat. Comms. 10:2878
【非特許文献48】Begemannら、(2017) Sci. Reps. 7:11606
【非特許文献49】Beum-Chang Kangら、(2018) Nat. Plants. 4:427~431
【非特許文献50】Anzaloneら (2020) Nature Biotechnology, 38:824~844
【非特許文献51】Dickinsonら、(2020) Nature Plants. 6:1468~1479
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者らは、関心対象の遺伝子(GOI)、詳細にはPHYBが、他の植物の細胞又は組織と比較して、植物の維管束鞘細胞において優勢に発現される場合、これは、様々な全体的に有益な特性をもたらし、植物の生長、発生、及び生産性に関して有害な特性はもたらさないことを発見した。
【0031】
したがって、本発明は、C3植物の光合成能力を高める方法であって、GOIが植物の脈管鞘(Vascular sheath)細胞の1つ又は複数において発現されるように、当該植物の遺伝性の遺伝物質を変更する工程を含み、当該GOIが、植物の脈管鞘細胞において活性な遺伝子発現調節エレメントの制御下において発現される、方法を提供する。
【0032】
当業者によって容易に理解されるであろうように、本発明の方法は、正常な植物又は野生型の植物、或いは本発明の方法を施されていない任意の植物と比較して、変更された遺伝子構造を有するC3植物を提供するためのものである。現在、植物のゲノムを変更することができる多くの方法が存在しており、それらを説明するために様々な用語が使用される。これらの用語のそれぞれは、熟練の読者にとってなじみ深いものであろうし、「遺伝子改変された(genetically modified)」、「遺伝子操作された(genetically engineered)」、又は「遺伝子編集された(gene edited)」を包含し、多くの場合、相互互換的に使用される。全てが、未改変コントロール植物に対して変更されたそのゲノム配列を有した植物を意味する。この変更は、任意の形質転換、トランスフェクション、形質導入、又はゲノム操作技術による、標的植物のゲノムへの本発明の1つ又は複数のポリヌクレオチドの挿入によって引き起こすことができた。この変更は、核媒介性ゲノム編集、プライム編集、及び/又は塩基編集によっても引き起こされ得る。
【0033】
本明細書において定義される本発明の方法の実施形態において、好ましくは最初に、植物の細胞の遺伝物質が変更され、次いで、遺伝子組み換えされた全草が、遺伝子組み換えされた細胞から再生される。細胞又は植物組織からの植物の再生は、確立された文献から当業者になじみ深いものである。
【0034】
好ましい方法において、遺伝子発現調節エレメントは、特に植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいて活性であり、それにより、当該調節エレメントの制御下のGOIが、特に遺伝子組み換えされた全草の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいて発現される。用語「特異的」は、本明細書に使用される場合、「排他的な」又は「強く優先的な」の意味も含み得る。
【0035】
追加的に又は代替的に、当該GOIは、本明細書の以下において更に定義されるような、Phytochrome B、又はその活性変異体、又は機能的断片である。
【0036】
遺伝性の遺伝物質を変更する工程は、植物の細胞の当該遺伝性の遺伝物質にポリヌクレオチドを挿入する工程を含み得る。
【0037】
いくつかの方法において、遺伝性の遺伝物質を変更する工程は、遺伝子修復オリゴ核酸塩基(oligonucleobase)(GRON)媒介性突然変異を植物の細胞の遺伝性の遺伝物質の標的DNA配列に導入する工程を含み得る。さらなる方法において、植物の細胞が、DNAカッター及びGRONに曝露され得る。DNAカッターは、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Znフィンガー、抗生物質、又はCasタンパク質を含み得る。
【0038】
遺伝性の遺伝物質を変更する工程は、植物の細胞の遺伝性の遺伝物質の部位特異的な相同的組み換えのために亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZNF)及び/又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を使用する工程を含み得る。したがって、本発明は、その少なくとも一部においてC3光合成を行うような植物の遺伝物質を変更する方法であって、当該変更工程が、改変された植物が、当該植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらか;場合により全てにおいて、PHYB、又はYHB等の活性変異体、又はその機能的断片を発現する工程である、方法が提供される。脈管鞘細胞におけるこの発現は、植物のPHYB遺伝子の少なくとも1つのコピーの正常な発現パターンに追加される。理解されるように、PHYBの少なくとも1つのコピー及び付随する発現制御エレメントは、好ましくは、改変された植物の生長及び発生が同じ遺伝子型の未改変の植物と比較して実質的に変わらないように、変更されないままである。
【0039】
本発明による方法は、形質転換の方法を伴う遺伝子改変の古典的な周知の技術を用い得、それにより、天然又は外因性のPHYB遺伝子の1つ又は複数の追加のコピー、活性バリアント、又はその機能的断片を、必要な脈管鞘細胞発現調節エレメントと共に、植物ゲノムに組み入れることができる。そのような組み入れは、好ましくは、作物植物の特定の系列への改変の導入を可能にするために;有利には、作物改良又は育種プログラムの目的のために、安定でかつ遺伝性である。更に、上記において既に言及したように、CRISPR-Cas遺伝子改変方法が使用され得、それにより、所望のゲノム遺伝子座に対するCRISPR関連タンパク質(Cas)の作用を標的にするように、ガイドRNA(gRNA)が選択され、その結果として、相同的組み換え(HR)事象、すなわち、植物ゲノムへの所望のポリヌクレオチドの挿入-欠失を生じる。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、単純に、脈管鞘発現調節エレメント、例えば、プロモーター配列又はDNA調節エレメント等を、様々な遺伝子編集アプローチによって、ゲノムの既存の天然PHYBコード遺伝子配列の上流の位置に導入する工程を伴い得る。本発明のそのような実施形態の運用において、特定のゲノム領域を切断して、相同的組み換えによって修復DNA鋳型として必要なポリヌクレオチドを導入するために、例えば、gRNA、又は任意の他のゲノム編集ヌクレアーゼ(ZFN、TALEN、及び他のCasタンパク質)によって指示することができるCRISPR関連タンパク質(Cas)を使用する、案内されたアプローチが便利である。
【0041】
CRISPR-Casを伴う本発明の前述の方法によれば、植物材料を形質転換するために使用される1つ又は複数のポリヌクレオチドは、Casタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、場合により、更にガイドRNA(gRNA)とを含み得、この場合、gRNAは、Casタンパク質を、植物細胞ゲノムにおける内因性PHYB遺伝子の少なくとも1つのコピーの遺伝子座へと向かわせ、それにより、特に再生された植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいてPHYBの内因性コピーの発現を引き起こすために、調節エレメントが挿入される。
【0042】
いくつかの実施形態において、gRNAは、一本鎖ガイドRNA(sgRNA)として、又はCRISPR-RNA(crRNA):トランス-活性化CRISPR RNA(tracrRNA)二重鎖として合成される。いくつかの実施形態において、複数のgRNA、crRNA、又はtracrRNAが、例えば、複数のゲノム領域を標的にするために、同時に使用され得る。いくつかの実施形態において、異なるタイプのCRISPR-Casシステム及び直交Casタンパク質が、同時に使用され得る。
【0043】
本明細書において使用される場合、用語「Cas」又は「Casタンパク質」又は「CRISPR-Casタンパク質」又は「Casヌクレアーゼ」又は「Cas部分」又は「Casドメイン」は、任意の同等物又はその機能的断片並びに任意の生物体由来の任意のCasホモログ、オーソログ、又はパラログ、並びに天然に存在するか又は操作されたCasの任意の変異体又はバリアントを含む、CRISPR関連タンパク質を意味する。CRISPR-Casタンパク質は、例えば、Cas9、Cas12a、又はCas12bであり得る。CRISPRエンドヌクレアーゼは、大腸菌(E. coli)発現システムを使用して作り出すことができる。例えば、T7プロモーターによって駆動されるCas遺伝子を大腸菌へとコードすることは、そのメカニズムの1つである。CRISPR-Casタンパク質は、Cas12c(又はC2C3)、Cas12d(又はCasY)、Cas12e(又はCasX)、Cas13a(又はC2C2)、Cas13b(又はC2C6)、Cas13(c)、又はC2C7、Cas13d(又はCasrx)、或いはその機能的断片も含み得る。
【0044】
本明細書において使用される場合、用語「Cas9」又は「Cas9ヌクレアーゼ」又は「Cas9部分」又は「Cas9ドメイン」又は「Csn1」は、CRISPR関連タンパク質9、又はその機能的断片を意味し、並びに任意の生物体に由来する任意の天然に存在するCas9、任意の天然に存在するCas9同等物又はその機能的断片、任意の生物体に由来する任意のCas9ホモログ、オーソログ、又はパラログ、並びに天然に存在するか又は操作された、Cas9の任意の変異体又はバリアントを包含する。更に広い意味では、Cas9は、「RNAプログラマブルヌクレアーゼ」又は「RNAでガイドされたヌクレアーゼ」の1つのタイプであり、より広い意味では、「核酸プログラマブルDNA結合タンパク質(napDNAbp)」の1つのタイプである。用語Cas9は、特に制限を意味するものではなく、並びに「Cas9又は同等物」と呼ばれ得る。例示的Cas9タンパク質は、本明細書において詳細に説明され、及び/又は当技術分野において説明され、並びに参照により本明細書に組み入れられる。本開示は、本発明の発展された塩基エディターにおいて用いられる特定のCas9に関して無制限である。
【0045】
本明細書において使用される場合、用語「Cas12a」又は「Cas12aヌクレアーゼ」又は「Cas12a部分」又は「Cas12aドメイン」は、Cpflと相互互換的に使用される。用語「Cas12a」は、CRISPR関連タンパク質12a、又はその機能的断片も含み得、並びに、任意の生物体に由来する任意の天然に存在するCas12a、任意の天然に存在するCas12a同等物又はその機能的断片、任意の生物体に由来する任意のCasホモログ、オーソログ、又はパラログ並びに天然に存在するか又は操作された、Cas12aの任意の変異体又はバリアントを包含する。これは、Cas12aのオーソログ、並びにそのようなオーソログ又はシステムをコードするポリヌクレオチド配列、及びそれを含むベクター又はベクターシステム、及びそれを含むデリバリーシステムにまで及ぶ。更に広い意味では、Cas12aは、「RNAプログラマブルヌクレアーゼ」又は「RNAでガイドされたヌクレアーゼ」の1つのタイプであり、より広い意味では、「核酸プログラマブルDNA結合タンパク質(napDNAbp)」の1つのタイプである。用語Cas12aは、特に制限を意味するものではなく、並びに、「Cas12又は同等物」と呼ばれ得る。例示的Cas12aタンパク質は、本明細書において詳細に説明され、及び/又は当技術分野において説明され、並びに、参照により本明細書に組み入れられる。
【0046】
本明細書において使用される場合、用語「Cas12b」又は「Cas12bヌクレアーゼ」又は「Cas12b部分」又は「Cas12bドメイン」は、C2c1又はCpf2と相互互換的に使用される。用語「Cas12b」は、CRISPR関連タンパク質12b、又はその機能的断片も含み得、並びに、任意の生物体に由来する任意の天然に存在するCas12b、任意の天然に存在するCas12b同等物又はその機能的断片、任意の生物体に由来する任意のCasホモログ、オーソログ、又はパラログ並びに天然に存在するか又は操作された、Cas12bの任意の変異体又はバリアントを包含する。これは、Cas12bのオーソログ、並びにそのようなオーソログ又はシステムをコードするポリヌクレオチド配列、並びにそれを含むベクター又はベクターシステム、及びそれを含むデリバリーシステムにまで及ぶ。更に広い意味では、Cas12bは、「RNAプログラマブルヌクレアーゼ」又は「RNAでガイドされたヌクレアーゼ」の1つのタイプであり、より広い意味では、「核酸プログラマブルDNA結合タンパク質(napDNAbp)」の1つのタイプである。用語Cas12bは、特に制限を意味するものではなく、並びに「Cas12b又は同等物」と呼ばれ得る。例示的Cas12bタンパク質は、本明細書において詳細に説明され、及び/又は当技術分野において説明され、並びに参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
上述のように、本発明による方法は、遺伝子改変の新興技術も用い得る。例えば、技術は、米国特許第9,957,515号に記載され詳しく説明されているように、遺伝子修復オリゴ核酸塩基(GRON)媒介性突然変異を植物細胞の標的デオキシリボ核酸(DNA)配列に導入する工程を伴い得る。技術は、GRON媒介性突然変異を、他のDNA編集又は組換え技術、例えば、これらに限定されるわけではないが、Znフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又はClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)等と組み合わせて、植物細胞の標的DNA配列へと組み合わせることを伴い得る。技術は、植物細胞をDNAカッター(鎖切断に作用する部分)及びGRONに曝露させることも含み得る。使用され得るDNAカッターの非限定的な例としては、メガヌクレアーゼ、TALEN、抗生物質、Znフィンガー、並びにCRISPR又はCRISPR/Casシステムが挙げられる。
【0048】
技術は、外因性遺伝物質を挿入することを必要とせずに、精製されたヌクレアーゼタンパク質を植物細胞に導入することを伴い得る。これらの技術は、欧州特許第3008186号に記載される技術を伴い得る。特に、当該技術は、改変される外因性遺伝子を含む植物細胞を提供すること;ナイン性遺伝子に標的化されたCas9エンドヌクレアーゼタンパク質を提供すること;並びに、欧州特許第3008186号において開示されるように、植物ゲノムにおける任意の外因性Cas9遺伝物質の存在なしに、検出可能な標的化ゲノム改変を有する植物細胞を作り出すために、Cas9エンドヌクレアーゼがゲノムに1つ又は複数の二本鎖DNA切断(DSB)を導入するように、バイオリスティック又はプロトプラスト形質転換使用して上記Cas9エンドヌクレアーゼタンパク質と共に植物細胞をトランスフェクトすることを伴い得る。トランスフェクションは、単離された植物プロトプラストへの配列特異的ヌクレアーゼのデリバリーによって作用することができる。例えば、トランスフェクションは、ポリエチレングリコール(PEG)媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション法、バイオリスティック媒介性トランスフェクション、超音波処理媒介性トランスフェクション、又はリポソーム媒介性トランスフェクションを使用した、単離された植物プロトプラストへの配列特異的ヌクレアーゼのデリバリーによって作用することができる。
【0049】
RNA鋳型も使用され得る。例えば、本発明の別の態様は、CRISPR Casタンパク質-ガイドRNA複合体のコンジュゲートを対象とし、この場合、ガイドRNAは、crRNA、デュアルガイドRNAs、sgRNA、又は1gRNAと、遺伝子編集のためのドナー鋳型としての1つ又は複数の一本鎖DNA(ssDNA)とのコンジュゲートである。したがって、CRISPR-Casを伴う本発明の前述の方法によれば、植物材料を形質転換するために使用される1つ又は複数のポリヌクレオチドは、CRISPR-Casタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、場合により、更に少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)とを含み得、この場合、gRNAは、CRISPR-Casタンパク質を、植物細胞ゲノムにおける内因性Phytochrome Bの少なくとも1つのコピーの遺伝子座へと向かわせ、それにより、特に再生された植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいてPhytochrome Bのコピーの発現を引き起こすために調節エレメントが挿入される。植物細胞ゲノムに挿入される少なくとも1つのコピーは、ウイルスベクターベースのシステムを使用して挿入され得る。遺伝子工学との関連において、調節エレメントの挿入に対する全ての言及は、例えば、上記において説明されるシステムを使用して、植物細胞ゲノムに挿入される任意のドナー、ドナー配列、又はドナーポリヌクレオチドを意味し得る。ドナー(ドナー配列、又はドナーポリヌクレオチド)は、ポリヌクレオチド、RNA、DNA、又はゲノム挿入を意味し得る。
【0050】
デリバリーされる配列特異的ヌクレアーゼは、精製されたヌクレアーゼタンパク質の形態か、又はトランスフェクション後にタンパク質へと翻訳され得るmRNA分子の形態のどちらかであり得る。ヌクレアーゼタンパク質は、利用可能なタンパク質発現ベクター、例えば、これに限定されるわけではないが、pQE又はpET等を使用する、当業者に既知のいくつかの手段によって調製され得る。好適なベクターは、様々な細胞タイプ(大腸菌、昆虫、哺乳動物)におけるヌクレアーゼタンパク質の発現及びその後の精製を可能にする。mRNAフォーマットでのヌクレアーゼの合成も、当業者に既知の様々な手段、例えば、細胞へのトランスフェクションのためにキャップされたRNAの産生を可能にするT7ベクター(pSF-T7)の使用等によって行われ得る。当該mRNAは、最適な5'非翻訳領域(UTR)及び3'非翻訳領域によって改変され得る。UTRは、ローカリゼーション、安定性、及び翻訳効率の調整による遺伝子発現の翻訳後調節において極めて重要な役割を果たすことが明らかになっている(Bashirullah A、Cooperstock R、Lipshitz H (2001) Spatial and temporal control of RNA stability. PNAS 98: 7025~7028)。上述のように、mRNAデリバリーは、その非トランスジェニック性質により、望ましいが;しかしながら、mRNAは、非常に脆弱な分子であり、植物の形質転換プロセスの際に分解されやすい。植物mRNA形質転換におけるUTRの利用は、mRNA分子の安定性及び局在性の増加を可能にし、それは、非トランスジェニックゲノム改変のための増加した形質転換効率を与える。
【0051】
いくつかの実施形態において、CRISPR試薬は、CRISPR発現カセットを有するDNAによるアグロバクテリウム属媒介性又は粒子衝撃媒介性形質転換を使用してデリバリーされ得る。例えば、いくつかの実施形態ではCasタンパク質をコードするmRNAは、粒子衝撃によって植物にgRNAと共にコデリバリー(co-delivered)され得る。他の実施形態において、Casタンパク質及びgRNAは、リボ核タンパク質(RNP)を形成するためにプレアセンブルすることができ、並びにドナー鋳型によって植物へと導入することができる。植物へのRNPのデリバリーは、様々な方法によって達成され得る。方法としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)媒介性細胞トランスフェクション、粒子衝撃、エレクトロポレーション法、及びリポフェクションが挙げられる。用語「ドナー鋳型」は、ホスト遺伝子座によって組み換え、相同遺伝子修復(HDR)/一本鎖DNAリコンビニアリング(SSDR)によって、変異されたDNAを正しい配列で置き換えるための、相同領域によって隣接される導入遺伝子カセット又は遺伝子編集配列を意味する。本明細書において使用される場合、ドナー鋳型は、「ドナーポリヌクレオチド」とも呼ばれ得る。ドナーポリヌクレオチドは、ssDNA又はdsDNA又はプラスミド/ベクターであり得、並びに共有結合リンカーによってガイドRNA又はCasタンパク質に化学的にコンジュゲートされ得る。ドナー鋳型は、化学的に合成することができ、並びにコンジュゲーション/ライゲーションのための化学的機能を備えることができる。接合するドナー鋳型は、ヌクレオシドトリホスフェート類似物からの化学コンジュゲーション/ライゲーションのためにその5'又は3'末端に酵素的に組み入れられた、化学官能基、例えば、アミン及びアルキン等による、DNAポリメラーゼ存在下でのインビトロ遺伝子合成によっても調製され得る。
【0052】
精製されたヌクレアーゼは、様々な手段によって植物細胞へデリバリーされる。デリバリーされる配列特異的ヌクレアーゼは、精製されたヌクレアーゼタンパク質の形態か、又はトランスフェクション後にタンパク質へと翻訳され得るmRNA分子の形態のどちらかであり得る。ヌクレアーゼタンパク質は、利用可能なタンパク質発現ベクター、例えば、これに限定されるわけではないが、pQE又はpET等を使用する、当業者に既知のいくつかの手段によって調製され得る。好適なベクターは、様々な細胞タイプ(大腸菌、昆虫、哺乳動物)におけるヌクレアーゼタンパク質の発現及びその後の精製を可能にする。mRNA形式でのヌクレアーゼの合成も、当業者に既知の様々な手段、例えば、細胞へのトランスフェクションのためにキャップされたRNAの産生を可能にするT7ベクター(pSF-T7)の使用等によって行われ得る。mRNAは、最適な5'非翻訳領域(UTR)及び3'非翻訳領域によって改変され得る。UTRは、ローカリゼーション、安定性、及び翻訳効率の調整による遺伝子発現の翻訳後調節において極めて重要な役割を果たすことが明らかにされている(Bashirullah A、Cooperstock R、Lipshitz H (2001) Spatial and temporal control of RNA stability. PNAS 98: 7025-7028)。上述のように、mRNAデリバリーは、その非トランスジェニック性質により、望ましいが;しかしながら、mRNAは、非常に脆弱な分子であり、植物の形質転換プロセスの際に分解されやすい。植物mRNA形質転換におけるUTRの利用は、mRNA分子の安定性及び局在性の増加を可能にし、それは、非トランスジェニックゲノム改変のための増加した形質転換効率を与える。
【0053】
更に、バイオリスティック粒子デリバリーシステムは、植物組織を形質転換するために使用され得る。プロトプラスト形質転換のために、標準的PEG及び/又はエレクトロポレーション法を使用することができる。形質転換の後、細胞の分裂、分化、及び再生を可能にするために、植物組織/細胞が培養される。個々の事象に由来するDNAが、単離され、変異に対してスクリーニングされ得る。本明細書において提供される方法がTALエフェクターヌクレアーゼと同様の能力を有する限り、当該方法を実施するために、任意のタイプの配列特異的ヌクレアーゼが使用され得る。したがって、1つ又は複数の標的の遺伝子座において二本鎖DNA切断を引き起こし、その結果としてその遺伝子座において、1つ又は複数の標的化された変異を生じさせる(変異は、NHEJ又は他のメカニズムによる切断の誤った修復によって生じる)ことが可能でなければならない(Certo M T、Gwiazda K S、Kuhar R、Sather B、Curinga Gら(2012) Coupling endonucleases with DNA end-processing enzymes to drive gene disruption. Nature methods 9:973~975。Christou, P. (1997) Rice transformation: bombardment. Plant Mol Biol. 35 (1-2):197~203)。そのような配列特異的ヌクレアーゼとしては、これらに限定されるわけではないが、ZFN、ホーミングエンドヌクレアーゼ、例えば、I-SceI及びI-CreI等、制限エンドヌクレアーゼ、並びに他のホーミングエンドヌクレアーゼ又はTALEN(商標)が挙げられる。特定の実施形態において、使用されるエンドヌクレアーゼは、CRISPR関連Casタンパク質、例えば、Cas9等を含む(Gasiunas, G.、Barrangou, R.、Horvath, P.、Siksnys, V. (2012) Cas9-crRNA ribonucleoprotein complex mediates specific DNA cleavage for adaptive immunity in bacteria. PNAS 109(39):E2579~86)。
【0054】
更に、本発明により、脈管鞘調節エレメントの制御下の外因性PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片が当該植物ゲノム所望の遺伝子座に挿入されるように、5'から3'へと、特に植物の脈管鞘細胞において活性な発現調節エレメントと、PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列と、ターミネーターとを含む少なくとも1つのポリヌクレオチド、並びに、ゲノム編集ヌクレアーゼをコードするさらなるポリヌクレオチド、及び場合により、ゲノム編集ヌクレアーゼタンパク質を当該植物のゲノムにおける所望の遺伝子座へ向かわせるgRNA又はcrRNAをコードする同じ又はさらなるポリヌクレオチドも存在し得る。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態において、外因性PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片が植物のゲノムに挿入されるように5'から3'へと、特に植物の脈管鞘細胞において活性な発現調節エレメントと、PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列とを含む少なくとも1つのポリヌクレオチドも存在し得る。
【0056】
いくつかの実施形態において、所望のDNA配列を組み込むために二本鎖DNA切断の誘導を用いない方法が使用され得る。例えば、プライム編集は、天然のヌクレオチド配列を上書きするために使用することができるそのような方法である。当業者に周知であるように、プライム編集は、特定のゲノム領域を標的にして任意のDNA配列で上書きするために、操作された逆転写酵素と結合したDNAニッカーゼ酵素を使用する(例えば、Kantor, A.ら、(2020) Int. J. Mol. Sci. 21: 6240を参照されたく、当該文献は、CRISPR-Cas9 DNA塩基編集及びプライム編集の総説を提供する)。プライムエディターは、ニッカーゼ、例えば、Cas9ニッカーゼ等に融合した操作された逆転写酵素と、プライム編集ガイドRNA(pegRNA)を使用する。pegRNAは、ニッカーゼをその標的配列に向かわせる標的部位に対して相補的な配列、並びに所望の配列変化をスペリングする追加の配列を含む。プライムエディターは、DNA編集の範囲を、全てではないが、塩基転位型突然変異又は塩基転換型突然変異、並びに小規模な挿入及び欠失突然変異まで拡大し得る。プライム編集において用いられ得るニッカーゼの例としては、これらに限定されるわけではないが、Cas9ニッカーゼ又はCas12ニッカーゼが挙げられる。例えば、Cas 9 D10Aニッカーゼ又はCas9 H840Aニッカーゼが用いられ得る。更に、標的切断に対する明確に認識された塩基の数を広げるために、2つの異なるgRNAによるペアードニッカーゼシステムを使用するCas9nを用いることができ、それは、特異性を改良することができ、オフターゲット現象を緩和するのに役立ち得る(例えば、Khatodia, S.ら(2016) Front. Plant Sci. vol 7 506頁を参照されたく、当該文献は、CRIPSR/Casゲノム編集ツールに関する情報を提供する別の総説論文である)。
【0057】
結果として生じる改変された植物が、特に少なくともいくらかの脈管鞘細胞においてPHYBを発現するように、内因性の天然遺伝子配列、例えば、天然のPHYBの1つのコピーの発現調節エレメントを上書きするために、プライム編集が使用され得る。或いは、例えば、YHB等の活性バリアントになるように、植物の遺伝物質に導入された天然又は外因性の配列を、例えば、PHYBのコード配列に改変を為すことによって更に改変するために、プライム編集が使用され得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、当該方法は、Casエンドヌクレアーゼを用いてもよく、この場合、Casエンドヌクレアーゼは、Casポリヌクレオチドの改変形態を含み得る。当該Casポリペプチドの改変形態は、当該Casタンパク質の天然に存在するヌクレアーゼ活性を減じるアミノ酸変化(例えば、欠失、挿入、又は置換)を含むことができる。場合によって、Casポリペプチドの改変形態は、実質的なヌクレアーゼ活性を有さず、触媒的に「不活性化されたCas」又は「非活性化されたCas(dCas)」と呼ばれる。不活性化されたCas/非活性化されたCasは、例えば、非活性化されたラピスCasエンドヌクレアーゼ(ラピスdCas)を含む。例えば、いくつかの実施形態において、そのような挿入を実践するために、ヌクレアーゼ-非活性化されたCas9(dCas9)が使用される。塩基編集酵素(シチジン又はアデニンデアミナーゼ)と結合したdCasタンパク質を使用することにより、RNA又はDNAを改変することができる。いくつかの実施形態において、直接エフェクター融合設計(direct effector fusion design)が用いられ得、標的化遺伝子の調節(CRISPRi)又は活性化(CRISPRa)は、エフェクタータンパク質-又はそれらの活性ドメイン-をdCas9に遺伝子学的に融合させ、それらを単一の組み換えタンパク質として発現させることによって、達成され得る。例えば、転写活性化因子ドメイン(VP64、p65)又は転写抑制因子ドメイン(KRB、SID)は、特に、標的遺伝子発現を増加又は減少させるために、dCas9に融合され得る。いくつかの実施形態において、エフェクタードメインは、dCas9への融合又は足場RNA(scRNA)におけるRNAアプタマーのどちらかによってsgRNA-dCas9複合体に組み入れられた機能的足場によって増員される。他の実施形態において、エフェクター活性の時空制御は、sgRNA-dCas9複合体又は光誘導性又は化学誘導性ヘテロ二量体化パートナーを介してエフェクターに直接融合したsplit-dCas9の再構成に対するエフェクターの、制御された動員によって得られる。
【0059】
他の実施形態において、本発明の方法は、個々のヌクレオチドの改変を可能にする塩基編集の可能性を含み得る。塩基編集は、DNA塩基エディターを用い得、その2つのクラス:シトシン塩基エディター及びアデニン塩基エディターが報告されている。DNA塩基エディターは、2つの重要な構成要素:プログラマブルDNA結合のためのCas酵素及び標的化ヌクレオチド変更のための一本鎖DNA修飾酵素を包含する。シトシン塩基エディターが使用される場合、シトシン脱アミノ化は、ウラシルを生じ、その塩基は、DNAにおけるチミジンのように対合する。ウラシルDNAグリコシラーゼ阻害剤(UGI)の融合は、ウラシルN-グリコシラーゼ(UNG)の活性を阻害し、細胞におけるシトシン塩基編集の編集効率を増加させ得る。アデニン塩基エディターの場合、アデノシン脱アミノ化はイノシンを生じ、それは、DNAにおけるグアノシンのように、同じ塩基ペアリング優先性を有する。まとめると、シトシン及びアデニン塩基編集は、4つ全ての塩基転位型突然変異(C→T、T→C、A→G、及びG→A)をインストールすることができる。したがって、例えば、シトシンデアミナーゼ酵素の部位特異的作用を使用することにより、ウラシルへの標的化シトシン塩基の変換を触媒することができ、それは、次いで、天然のポリメラーゼによってチミンとして読まれる。したがって、所望され得る場合、天然のフィトクロム配列に作用するために脈管鞘発現調節配列を導入するため、及び天然のPHYBをYHB配列に変換するための両方に対して利用可能な複数の選択肢が存在する。本発明は、5'から3'へと、特にC3植物の脈管鞘細胞において活性な発現調節エレメント、例えば、プロモーター等と、PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列と、ターミネーターとを含む単離されたDNAポリヌクレオチドも提供する。
【0060】
本発明の実施形態において、当該プロモーターは、維管束鞘細胞特異的プロモーターであり得る植物の脈管鞘細胞特異的プロモーター、又はメストム鞘(mestome sheath)細胞特異的プロモーター、又は特に維管束鞘細胞及びメストム鞘細胞の両方において活性なプロモーターである。
【0061】
いくつかの実施形態において、当該単離されたDNAポリヌクレオチドは、転写因子をコードするヌクレオチド配列、及び当該転写因子によって認識される第2のプロモーター(上記において説明した脈管鞘プロモーターではない)をコードするヌクレオチド配列を更に含み得、この場合、第2のプロモーターのヌクレオチド配列は、PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列の上流に存し、並びに、当該脈管鞘特異的プロモーターは、転写因子の発現を駆動する。
【0062】
DNAポリヌクレオチドは、全体又は一部を合成してもよく;又は場合により、全体又は一部をクローニングしてもよい。特にC3植物の脈管鞘細胞において活性なプロモーターは、維管束鞘細胞又はメストム鞘細胞(又はその両方)にかかわらず、維管束の他の細胞においても活性であり得、その非限定的な例としては、篩部及び/又は木部細胞が挙げられる。用語「維管束(vascular bundle)」は、本願において使用される場合、脈管鞘細胞を含む維管束の全ての細胞を意味する。脈管鞘細胞において活性なプロモーターは、他の非脈管細胞タイプにおいても活性であり得、その非限定的な例としては、根細胞、表皮細胞、又は気孔の細胞、例えば、孔辺細胞等が挙げられる。脈管鞘細胞において活性なプロモーターは、脈管鞘の延長部、例えば、維管束鞘延長部及びパラベイナル(paraveinal)葉肉等においても活性であり得る。
【0063】
特にC3脈管鞘細胞において活性なプロモーターも本発明の範囲内であり、すなわち、これらのプロモーターは、C3脈管鞘細胞において活性であるが、任意の他の葉組織又は葉細胞においては活性でなく、しかし、葉において見出されるもの以外の、いくつかの可能性のある植物細胞又は組織タイプのいずれにおいて活性であり得る。
【0064】
終了配列は、当業者に周知であり、任意の適切なターミネーターは、例えば、ターミネーターがNosterである本発明の実施例のように、選択され使用され得る。
【0065】
好ましくは、本明細書において定義される本発明の任意の実施形態において、プロモーターは、脈管鞘プロモーターである(例えば、維管束鞘細胞プロモーター、又はメストム鞘細胞プロモーター、又は維管束鞘細胞及びメストム鞘細胞の両方において発現されるプロモーター)。これは、様々な選択されたエレメントを含む合成プロモーターであり得る。例えば、そのような合成プロモーターは、プロモーターエレメントの上流に脈管鞘細胞特異的転写因子結合エレメントを含み得る。同じ又は異なり得る2つ以上の転写因子結合エレメントが存在し得る。複数のそのような転写因子結合エレメントは、脈管鞘細胞におけるプロモーターの活性及び/又は特異性を高めるのに役立ち得る。
【0066】
例えば、上記において言及された、合成脈管鞘プロモーターに含まれるプロモーターは、最小ZmUbi1プロモーター、NOSコアプロモーター、CHSAコアプロモーター、又は最小35Sプロモーターから選択され得る。当業者に周知の他の最小及び/又はコアプロモーターを使用することもできる。好ましいプロモーターは、配列番号7又は配列番号10又は配列番号13のヌクレオチド配列或いはそれらに対して少なくとも80%同一性の配列を有する。
【0067】
他の実施形態において、当該脈管鞘特異的プロモーターは、維管束鞘又はメストム鞘(又はその両方)において優先的又は特異的に発現される遺伝子から得られ得、そのため、そのようなプロモーターは、天然に存在するプロモーターである。当該遺伝子は、他の細胞タイプ並びに脈管鞘細胞において発現され得るが、好ましくは葉肉細胞では発現され得ないか又は非常にわずかしか発現され得ない。当該遺伝子は、孔辺細胞、脈管鞘延長部、表皮細胞、孔辺細胞、又は他の脈管組織、例えば、木部及び/又は篩部等;或いは、葉組織ではない植物における他の場所、例えば、花、果実、根、茎等においても発現され得る。好ましくは、そのような天然に存在する脈管鞘プロモーターは、特に植物の維管束鞘細胞又はメストム鞘細胞又はその両方において、例えば、維管束鞘細胞のみにおいて、発現されるが、任意の他の植物組織又は細胞タイプにおいて発現されるわけではないような遺伝子に関連し得る。
【0068】
脈管鞘特異的プロモーターは、例えば、以下の遺伝子:シロイヌナズナMYB76、フラベリア・トリネビア(Flaveria trinervia)GLDP、シロイヌナズナSULTR2;2、シロイヌナズナSCR、シロイヌナズナSCL23、ウロコロア・パニコイデス(Urochloa panicoides)、PCK1、シバ(Zoysia japonica)PCK、及びオオムギ(Hordeum vulgare)PHT1;1(これらの遺伝子のホモログを含む)のうちの1つに由来するものであり得る。プロモーターは、植物の種を参照することによって指定されるが、当然のことながら、同じ又は同様のプロモーターが、元の植物種とは異なる植物種から見出されて、使用される場合もある。
【0069】
いくつかの実施形態において、脈管鞘プロモーターは、非植物生物体、例えば、イネツングロ桿菌状ウイルス(Rice tungro bacilliform virus)(RTBV)プロモーター等から得られ得る。
【0070】
当該脈管鞘プロモーターは、脈管構造での遺伝子発現を駆動するプロモーターを識別するための変異体集団のフォワードスクリーニングから得られ得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、脈管鞘の優先的発現は、PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片のために標的コード配列に融合される場合に、たとえ転写産物発現が構成的プロモーターによって駆動されるとしても細胞にタンパク質特異的発現を与えるようなUTR配列の使用によって達成され得る。そのような脈管鞘特異的UTRエレメントの例としては、フラベリア・ビデンティス(Flaveria bidentis)(Patelら 2006. J Biol Chem 281(35):25485~91)又はアマラントウス・ヒポコンドリアクス(Amaranthus hypochondriacus)(Patelら 2004. Plant Physiology 136(3): 3550~3561)(両方とも、翻訳促進及び優先的維管束鞘細胞発現を与える)のどちらかに由来するルビスコ小サブユニットからのUTR配列が挙げられる。
【0072】
本発明のDNAポリヌクレオチドにおいてコードされ得るPHYB又はアミノ酸配列バリアントは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12のアミノ酸配列のいずれかに対応し得る。前述の参照配列に加えて、Table 1(表1)に一覧される受託番号によって識別された配列のコード配列のいずれかが、代わりに、参照配列として使用され得る。PHYBに対する参照配列のバリアントに関して、これらは、それに対して少なくとも65%の同一性;好ましくはそれに対して少なくとも70%の同一性;より好ましくはそれに対して少なくとも80%の同一性の配列を含み得る。
【0073】
本発明の例示において、PHYBバリアントのYHB配列番号4が使用され、それは、配列番号1のヌクレオチド配列によってコードされる。本発明のさらなる例示において、PHYBバリアントのYHB配列番号12が使用され、それは、配列番号11のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0074】
したがって、本発明のポリヌクレオチドにおいて、PHYBをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号8、又は配列番号11のいずれか、或いは、上記配列のいずれかに対して少なくとも65%の同一性の配列;好ましくは上記配列のいずれかに対して少なくとも70%の同一性の配列;より好ましくは上記配列のいずれかに対して少なくとも70%の同一性の配列である。
【0075】
本発明のある特定の実施形態において、PHYBの機能的断片又はそのバリアントが用いられる。そのような機能的断片は、野生型フィトクロムシグナル伝達活性を有するが、光感受性を欠く。換言すれば、PHYBバリアントは、全長未満のアミノ酸配列であり、光センシングドメイン又は光センシング機能のために必須のアミノ酸の不在の結果として光非感受性である。好ましくは、本明細書において言及されるフィトクロム断片は、PAS及びGAFドメインのみからなる。
【0076】
本発明は、DNAポリヌクレオチドを含み、この場合、それによってコードされるPHYBタンパク質分子、活性バリアント、又はその機能的断片は、光非感受性配列バリアントであり;言い換えれば、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入が存在し、その結果として、通常のPHYBシグナル伝達活性機能は保持しつつ、タンパク質の光非感受性を生じる。そのようなバリアントにおける連続するアミノ酸変化の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40アミノ酸から選択される任意の数のアミノ酸であり得る。アミノ酸変化(いくつかの連続する文字を有し得るが全部ではない)の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40アミノ酸から選択され得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書の上述において説明されるDNAポリヌクレオチドと、Ti又はRiプラスミドの複製開始点及びT-DNA右境界反復配列と、少なくとも1つの細菌性選択マーカーとを含むプラスミドを含み得る。多くの場合、当該プラスミドは、Ti又はRiプラスミドの左境界反復配列も含む。
【0078】
本発明によるプラスミドは、更に、以下:エンハンサー、植物選択可能マーカー、マルチクローニング部位、又は組換え部位から選択される1つ又は複数の他のエレメントを含み得る。
【0079】
本発明は、本明細書の前述において定義されるDNAポリヌクレオチドを含むTi又はRiプラスミドも提供する。そのようなプラスミドを組み込むベクターの構造、改変、増殖、及び世代は、当業者に周知である。
【0080】
いくつかの実施形態において、本発明は、バイオリスティック法(biolistic method)を使用する植物細胞の組成物形質転換を含み得る。したがって、当該組成物は、DNAポリヌクレオチド又は本明細書の前述において定義されるプラスミドでコーティングされた、マイクロ粒子を含む。当該マイクロ粒子は、金属又は合成材料によるものであり得る。例えば、マイクロ粒子は、タングステン又は金を含み得る。
【0081】
本発明は、本明細書の前述において定義されるプラスミド、すなわち、シャトルベクターを含む細菌も提供し、並びに本発明のいくつかの実施形態において、当該細菌は大腸菌である。
【0082】
植物物質を形質転換するためにTi又はRiプラスミドが使用される場合、これは、好適な細菌、例えば、アグロバクテリウム属;好ましくはアグロバクテリウム・ツメファシエンス等に含まれ得る。
【0083】
本発明は、本明細書において定義される本発明の方法のいずれかから得られるか又は入手可能な任意の植物又は植物物質、すなわち、細胞、組織、器官、部分、種子、又は果実を含む。
【0084】
本発明による産物は、少なくともその一部においてC3光合成を行う植物を含み、この場合、植物は、そのゲノムに安定して組み込まれた本明細書の前述において定義されるDNAポリヌクレオチドを含み、並びに、脈管鞘細胞(すなわち、維管束鞘細胞及び/又はメストム鞘細胞)の少なくともいくらかにおいて、PHYB、又は活性バリアント、又は本明細書の前述において定義されるその機能的断片を発現する。既に説明したように、このDNAポリヌクレオチドは、遺伝子改変方法によって全長プロモーターと、PHYB、活性バリアント、又は機能的断片とを組み込むこと、或いは天然PHYBゲノムの発現調節領域を、それらの発現ドメインを変更するように遺伝子編集することのどちらかによって植物ゲノムに導入され得る。両方のアプローチは、結果として、同じ結果、すなわち、脈管鞘細胞におけるPHYBの遺伝性発現を生じる。当該PHYB遺伝子、活性バリアント、又はその機能的断片は、実質的に全ての維管束鞘細胞及び/又はメストム鞘細胞において発現され得る。
【0085】
本発明は、更に、少なくともその一部においてC3光合成を行う植物を含み、この場合、当該植物は、PHYB遺伝子の少なくとも1つのコピー、活性バリアント、又は本明細書の前述において定義されるその機能的断片を有し、並びに、当該植物は、同等の未改変植物と比較して遺伝子改変され、PHYB遺伝子、活性バリアント、又はその機能的断片の少なくとも1つのコピーの発現制御エレメントは、結果として当該植物の維管束鞘細胞及び/又はメストム鞘細胞の少なくともいくらかにおいて発現を生じるように改変される。そのような植物において、当該発現制御エレメントは、好ましくは本明細書の前述において定義されるような、特にC3植物脈管鞘細胞において活性なプロモーターである。
【0086】
少なくとも1つのPHYB遺伝子のコード配列は、当該植物の天然のPHYB遺伝子と同じであり得る。したがって、当該PHYB遺伝子の少なくとも1つの天然のコピーは、当該植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいて発現するように改変される。その結果、PHYB遺伝子の2つ以上のコピーを伴う種において、少なくとも1つの天然のPHYB遺伝子は、未改変の天然の発現制御下のままである。
【0087】
改変された植物のある特定の実施形態において、少なくとも1つのPHYB遺伝子は、当該植物の他のPHYB遺伝子と異なる。
【0088】
本発明による植物は、単子葉植物(monocotyledon(単子葉類(monocot))又は真正双子葉植物(eudicotyledon(真性双子葉類(eudicot)、双子葉類(dicot));好ましくは作物植物、例えば、食物、動物飼料、バイオ燃料、又はバイオマス生産のために一般的に使用されるような、果実、野菜、穀類、油料種子作物、マメ科植物、バイオ燃料作物、繊維作物;更に園芸植物、であり得る。
【0089】
好ましい植物において、本明細書において定義されるDNAポリヌクレオチドは、安定であり、そのゲノムに遺伝的に組み込まれる。
【0090】
いくつかの実施形態において、本発明の植物、脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいて発現される当該PHYB遺伝子は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12のいずれかのアミノ酸配列、又はTable 1(表1)に一覧される配列アクセッションのいずれか、又は活性バリアント、又は、上記配列のいずれかに対して少なくとも65%の同一性のアミノ酸配列;好ましくは上記配列のいずれかに対して少なくとも70%の同一性の配列;より好ましくは上記配列のいずれかに対して少なくとも70%の同一性の配列をコードすることによって定義されるその機能的断片を有する。いくつかの実施形態において、当該PHYB遺伝子は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12のアミノ酸配列、又はTable 1(表1)に一覧される配列アクセッションのいずれかを有する。他の実施形態において、当該PHYB遺伝子は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12のいずれかに対して少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸、又はTable 1(表1)に一覧される配列アクセッションのいずれかをコードする。他の実施形態において、当該PHYB遺伝子は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列、又はTable 1(表1)に一覧される配列アクセッションのいずれかをコードする。他の実施形態において、当該PHYB遺伝子は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列、又はTable 1(表1)に一覧される配列アクセッションのいずれかをコードする。他の実施形態において、当該PHYB遺伝子は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号12に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、又はTable 1(表1)に一覧される配列アクセッションのいずれかをコードする。PHYBの機能的断片が発現される本発明の植物において、これらの機能的断片は、本明細書の前述において定義される通りである。
【0091】
当該PHYB遺伝子、活性バリアント、又はその機能的断片は、例えば、アミノ酸残基の置換、挿入、又は欠失を伴う1つ又は複数の変異による、光非感受性配列バリアントであり得る。当該PHYB遺伝子、活性バリアント、又はその機能的断片は、核酸残基の置換、挿入、又は欠失によっても変更され得る。いくつかの実施形態において、例えば、以下において説明されるように、PHYB配列は、活性バリアントYHBの配列であり、配列番号4又は配列番号12のアミノ酸配列或いはそれらに対して少なくとも65%の同一性の配列をコードする。
【0092】
本発明による植物は、同じ期間、同じ条件下で成長したコントロールの未改変植物の同等な細胞の葉緑体より大きい可能性がある、脈管鞘細胞、例えば、維管束鞘細胞及び/又はメストム鞘細胞等に存在する葉緑体を有し得る。
【0093】
本発明による植物は、同じ条件下で成長したコントロールの未改変植物より高い光合成速度を有し得る。
【0094】
本発明による植物は、同じ条件下で成長したコントロールの未改変植物におけるものより高い水利用効率を有し得る。
【0095】
本発明による植物は、同じ条件下で成長したコントロール植物と比べて高められた光合成効率を有し得る。
【0096】
本発明による植物は、以下:同じ条件下で成長させたコントロール植物と比較して、高められた生長率、開花への期間短縮、より早い成熟化、高められた種子収量、高められたバイオマス、増加した草高、及び増加した林冠面積の特性のうちの1つ又は複数を結果として生じるような高められた光合成を有し得る。
【0097】
本発明は、本明細書において説明される任意の種類の植物に由来するか又はそれらから得られる、植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子も提供する。
【0098】
本発明は、本明細書において説明される任意の植物から得られる任意の処理された植物産物も含み、この場合、当該処理された産物は、(i)植物の脈管鞘細胞の少なくともいくらかにおいて活性な遺伝子発現調節エレメントに結合した、PHYB遺伝子又は活性バリアント又はその機能的断片、或いは(ii)本発明のポリヌクレオチドの少なくとも一部をコードする検出可能な核酸配列を含む。そのような検出は、当技術分野において周知の技術、例えば、PCR、qPCR、又は当該処理された植物物質の好適に調製された試料の任意のDNA又はRNA配列決定技術のアプリケーション等を用い得る。
【0099】
上記からのまとめにおいて、本発明者らは、C3植物の光合成能力を高めるC3植物の新規の改変を為した。用語「C3」植物を使用する際、当該用語は、植物のライフサイクルの任意の時点の際に植物の任意の一部(非限定的な例としては、葉鞘組織、絨毛叢、或いは根、茎、及び種子の光合成的に活性な一部が挙げられる)においてC3光合成を行う植物も含む。
【0100】
フィトクロムのシグナル伝達を増加させることによって植物生産性を高めるという以前の試みは、光合成及び収量を減じたか、又は光合成増進を達成したが、それは、葉緑素インベストメント(より多くの窒素インベストメントを必要とする)のみに比例し、結果として、水利用率及び/又は収量の減少を生じた。この遺伝子のこれらの適用は、作物における望ましくない副作用:例えば、矮性、林冠再構築、開花の遅延、より小さい塊茎、より厚い葉等も繰り返し生じた。
【0101】
このC3植物改変の全体的効果は、植物のモルホロジー、発生、又は他の農業特性に対するいかなる有害作用もなく、光合成、植物生長、及び収量を高めることである。本発明は、全てのC3植物に広く適用可能であり、並びに通常の植物発生に対するいかなる混乱もなく、光合成速度、生長率、及び種子収量において30%以上の増加を生じることができる。
【0102】
本発明全体は、改変された植物に対する観察可能な負の又は有害な解剖学的、生理学的、生化学的、又は発生的効果なしに、高められた光合成、生長、及び収量を達成する。
【0103】
本発明の実施形態は、実施例及び添付の図面を参照しながら下記において詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】転写産物及び/又はタンパク質レベルの両方において、PHYBの活性によって影響される遺伝子の非限定的な例を含む、簡素化されたPHYBシグナル伝達カスケードを表す図である。PHYB活性は、抑制からいくつかの遺伝子を解放し、それらは次いで、光合成能力の発達を促進する。完全な遺伝子名:PHYB=Phytochrome B、PIF= Phytochrome Interacting Factor、COP1=Constitutive Photomorphogenic 1、GLK=Golden-2 Like Transcription factor、CGA1=Cytokinin Responsive GATA Factor 1、GNC=GATA, Nitrate-inducible, Carbon Metabolism-involved、HY5=Elongated Hypocotyl 5、HYH=HY5-Homolog。
図2】Phytochrome B遺伝子ファミリーの顕花植物メンバーの非限定的な例を含む、Phytochrome Bに対する系統樹を表す図である。当該系統樹は、顕花植物の基部に樹根がある。代表的な種は、単子葉類(イネ(Oryza sativa))、並びに2つの主要な双子葉類分岐群であるバラ類(シロイヌナズナ及び大豆(Glycine max))及びキク類(トマト(Solanum lycopersicum))に及ぶ。3つ全ての代表的双子葉類の種の場合、PHYBの独立した重複は、結果として、各ゲノムにおいてPHYBの2つのホモログの存在を生じた。
図3】シロイスナズナの維管束においてYHBタンパク質を発現するためにアグロバクテリウム属媒介性のfloral dip法によって使用される遺伝子ベクターの概略図を示す図である。
図4】改変された植物及びコントロール未改変植物における、コントロール遺伝子elF-4E1と比較した場合のYHB発現の大きさを示す図である。コントロールの棒は、野生型植物に対応しており、「C12」とラベルされた棒は、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むアラビドプシス属の植物に対応している。エラーバーは、平均の95%信頼区間を示す。
図5】YHB(「C12」と標識された棒)及びコントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)の維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物に対する葉厚(leaf thickness)測定の結果を示す図である。95%信頼区間が示されている。「n.s.」は、t検定を使用して、C12植物とコントロール植物との間に有意な差が存在しなかったことを示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図6】YHBの維管束鞘発現のために遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(〇)及びコントロール植物(△)における、A/Ci曲線の形態において測定された光合成能力を示す図である(CO2 assimilation rate: CO2同化速度、Intercellular carbon dioxide concentration: 細胞間二酸化炭素濃度)。
図7】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(〇)及びコントロールアラビドプシス属植物(△)に対する気孔コンダクタンス(Stomatal Conductance)測定の結果を示す図である。
図8】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)及びコントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)において光合成が最大限に作動している場合に、水利用効率(water use efficiency)が増強されるかを示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な差を示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図9】コントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)と比較した場合に、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)の維管束鞘細胞(BSC)にはより多くの葉緑素が存在するが葉肉細胞細胞(MSC)ではそうではないことを示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示しており、一方、「n.s.」は、比較された値の間に有意な差が存在しなかったことを示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図10】コントロール植物とYHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物との間の維管束鞘細胞の葉緑体の間の比較を示す図である。(A)は、コントロール植物の維管束鞘細胞葉緑体の代表的な画像である。(B)は、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物の維管束鞘細胞葉緑体の代表な画像である。(C)は、コントロール植物における維管束鞘細胞葉緑体と葉肉細胞葉緑体の代表的な画像である。(D)YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物における維管束鞘細胞葉緑体及び葉肉細胞葉緑体の代表的な画像である。BSC=維管束鞘細胞、MSC=葉肉細胞、スケールバー=2マイクロメートル。
図11】葉物質からの安定な炭素同位体(13C同位体)測定の結果を示す図である。このデータは、コントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)と比較した場合の、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)における、呼吸された二酸化炭素の再固定の増加と一致する。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図12】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)、及びコントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)における、発芽の2週間後と3週間後の間の栄養成長速度測定の結果を示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示し、一方で、「n.s.」は、比較された値の間に有意な差が存在しなかったことを示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた(Increase in leaf rosette area: 葉のロゼット面積の増加)。
図13】コントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)と比較した場合の、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)におけるボルト高さ測定の結果(より高いボルトが発芽の35日後に生じる)を示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図14】通常の光形態形成を経ている、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニック及び野生型のアラビドプシス属植物(「C12」)及びコントロールのアラビドプシス属植物(「野生型」)のトレーの写真である。
図15】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)及びコントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)における抽苔(bolting)までの時間の測定の結果を示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図16】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(C12と標識された)及びコントロールのアラビドプシス属植物(野生型と標識された)における、8週間での長角果生成及び地上バイオマスを示す写真である。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図17】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むアラビドプシス属植物(右側の管)及びコントロール植物(左側の管)から採取した乾燥種子の写真である。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた。
図18】YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(「C12」と標識された棒)及びコントロールのアラビドプシス属植物(「コントロール」と標識された棒)における乾燥種子バイオマス生産の測定を示す図である。測定は、2つの異なる時点、1つは「早期」(early, 発芽後に6.5週間乾燥させた種子)ともう1つは「晩期」(late, 発芽後8週間乾燥させた種子)において行った。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示す。比較は、コントロールの野生型植物と1つの変異株との間が示されるが、調査した3つ全ての変異株は、それらの表現型において一致していた(seed dry weight per plant: 植物あたりの種子乾燥質量)。
図19】C3植物における新規の増強された炭素再固定経路に対する提案されたモデルの線図である。
図20】コントロールの小麦植物(「コントロール」と標識された棒)と比較した場合の、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニック小麦植物(「C12」と標識された棒)における、周囲生長室内条件において測定された周囲光合成速度を示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示す。
図21】コントロールの小麦植物(左側)と比較した場合の、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含む典型的なトランスジェニック小麦植物における植物生長の増進を示す写真である。
図22】7週間の生長後の、コントロールの小麦植物(「コントロール」と標識された)と比較した場合の、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニック小麦植物(「C12」と標識された)における、植物生長を表す高さ測定の結果を示す図である。95%信頼区間が示されている。アスタリスクは、t検定を使用したp<0.05での統計的に有意な鎖を示す。
図23】遠縁の植物属において機能することがわかっている5つの脈管鞘プロモーターでの機能の保存を示す図である。3つの主要な植物分岐群(バラ類、キク類、単子葉類)に及ぶ11の植物属の間での進化的関係は、系統学によって示される(枝の長さは任意である)。5つのプロモーター(SULTR2;2、GLDP、PCK、PHT1;1、及びRBTV)のそれぞれに対して、矢印は、起源の種を示しており、矢尻は、一致した脈管鞘発現が実証されている遠縁の属を指し示している。分岐時間は、2つの種が共通祖先を共有する矢印によって接続されてから何百万年が経過したかを示す。例えば、フラベリア属(Flaveria)とアラビドプシス属は約1億2500年前に分岐したにもかかわらず、フラベリアGLDPプロモーターは、アラビドプシス属においてと一致した発現を駆動する。
図24】異なる種に由来するPHYBオーソログの機能が遠縁の植物の間で保存されていることを示す公開された実験を示す図である。系統発生と進化の距離は、図23と同様に表されている。太字のテキストは、例えば、アラビドプシス属及びナス属(Solanum)(トマト)における過剰発現並びにオリザ属(イネ)における遺伝子のロックアウト等、天然のPHYB発現が変更されている属を示している。矢印は、PHYB遺伝子の起源を示しており、このPHYBホモログが過剰表現された植物を指し示す。例えば、アラビドプシス属PHYBはアラビドプシス属、ナス属(トマト)、及びススキ属(Miscanthus)(ススキ)において過剰表現された。PHYBの起源種及びレシピエント種にかかわらず、PHYBの発現の増加は、結果として、一貫した表現型(より暗い緑色の葉、より短い節間、及び遅延された開花)を生じる。
図25】陸植物進化の>4億年に及ぶPHYBタンパク質の選択のアミノ酸配列における機能的ドメインの保存を示す図である。分岐図は、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、トマト、イネ、イヌカタヒバ(Selaginella moellendorfii)、及びヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の間の進化的関係を示している。PHYBの重複するコピーを有する種、例えば、セイヨウアブラナ及びトマトにおいて、PHYBの全てのコピーが示されている。特徴的PHYBドメインは、全てのPHYBタンパク質において保存され、並びにドメイン(N末端からC末端への順番において):PAS_2、GAF、PHY、PAS、PAS、HisKA、HATPase_cからなる。陸植物の進化における3つの重要な事象:脈管植物の出現(>4億年前(>400 million years ago)(mya))、顕花植物(>160mya)、及びアブラナ科(Brassicaceae)(>40mya)は、バツ印で注釈される。分岐長さは任意であり、進化の距離の反映ではない。
図26】16の異なる栽培品種の葉における3つの異なるセイヨウアブラナPHYB遺伝子の発現(Transcipts Per Million(100万配列あたりの転写産物量))を示す図である。
図27】セイヨウアブラナPHYBをシロイスナズナYHB(強調表示される)と同等である構造的に活性な形態へと変換するために変化することが必要である、単一のヌクレオチドに隣接する50塩基対のアラインメントを示す図である。複数の配列アラインメントの下のアスタリスクは、PHYB遺伝子の3つ全ての全長セイヨウアブラナコピーにおいて保存されているヌクレオチドを示している。下線が引かれた14の塩基は、編集のために個々のコピーを標的にすることを可能にするPHYBコピーの間のバリエーションの位置を示している。
図28】2つの種:Solyc05g053410トマトPHYB遺伝子(上側)及びダイズGlyma.09G035500遺伝子(下側)におけるPHYB発現の遺伝子編集に対する異なるアプローチを例示する2つの設計を示す図である。PHYBゲノム領域が示されており、天然エクソン、5'及び3'非翻訳領域(UTR)、並びにこれらの遺伝子に維管束発現を付与するであろう挿入されたプロモーター及びエンハンサー配列が注釈されている。ゲノムの特徴は、開始コドン(位置0において始まる)に対するそれらの位置に従って標識される。
【発明を実施するための形態】
【0105】
下記の説明において、本発明における異なる態様が、より詳細に説明される。説明又は定義される各態様は、相反することが明確に示されない限り、任意の他の態様と組み合わせてもよい。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴と組み合わせてもよい。
【0106】
本発明を用いる際に使用される植物学、微生物学、組織培養、分子生物学、化学、生化学、組換えDNA技術、及びバイオインフォマティクスの従来技術は、全て容易に知られ、当業者にとって利用可能である。特定の技術は、文献において十分に説明されている。
【0107】
本発明者らは、遺伝子発現の脈管鞘特異的レギュレーターと一緒に光合成及び収量関連特性を増加させる葉緑体活性化のレギュレーターとを含むシステムを作製した。本発明者らは、この技術が真正双子葉類(例えば、シロイスナズナ)及び単子葉植物(例えば、小麦)の両方において機能することを示すことによって、この技術がC3植物に広く適用可能であることを実証した。本発明者らは、PHYB遺伝子の種の起源にかかわらず、並びに使用される脈管鞘プロモーターにかかわらず、この技術が機能することを示した。本発明の重要な態様は、PHYB、活性バリアント、又はその機能的断片が、脈管鞘細胞(本明細書の前述において定義される脈管構造又は脈管構造鞘延長部の他の細胞を含み得る)において発現されるが、葉の葉肉細胞では発現されないことである。このシステムを含むトランスジェニック植物は、驚くべきことに、そして有利なことに、YHB又はPHYBの過剰発現に関連する発生異常を示さない。トランスジェニック植物は、正常な光形態形成を経(矮性、頂芽優性の減少、開花の遅延、又は水利用効率の低下がない)、コントロール植物と同じ葉厚を有し、並びに、正常に開花する。ただし、これらの植物は、より高い光合成速度を有し、より速く生長し、高められた水利用効率を有し、より早く開花段階へと成熟し、より多くの着果構造物を生じ、並びに著しく多い種子を生じる。効果は劇的であり、収量は温室試験において30%を超えて増加する。
【0108】
本発明者らは、これまで可能でなかったこと、つまり、植物発生を邪魔することなく、光合成、植物生長、及び収量のそれぞれを改善するための、植物体におけるPHYB発現の操作を実現した。発明者らの予想しなかった知見は、改良の組み合わせは、植物の維管束又はその構成細胞のみにおいて追加的にPHYBを発現させることによって、PHYB発現の妨害的側面から切り離して達成可能であるということである。
【0109】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書において相互互換的に使用され、ペプチド結合によって一緒に連結された任意の長さの重合形態のアミノ酸を意味する。
【0110】
用語「変更された」、「変化した」、及び「改変された」は、本明細書において相互互換的に使用され得る。コントロール植物は、本明細書に使用される場合、改変されていない植物である。したがって、コントロール植物は、本明細書において説明される本発明のポリヌクレオチドのいずれかの発現を変更するために遺伝的に改変されていない。コントロール植物は、野生型(WT)植物であり得る。たとえ植物が、トランスジェニックであったとしても、本発明のポリヌクレオチドに関してそうではない場合、それは、コントロール植物として機能することができた。WT又はコントロールは、それが、改変された植物物質に対してPHYBの維管束鞘発現を比較することができるような、信頼できる参照を提供し得る限り、それほど特異的である必要はない。
【0111】
用語「増加させる」、「改良する」、又は「高める」は、本明細書において相互互換的に使用される。
【0112】
用語「特異的」は、本明細書において使用される場合、「排他的」又は非常に優先的と同等であると見なされる。
【0113】
脈管鞘及び脈管鞘細胞
C3植物(ほとんどの作物)において、葉脈を囲む細胞(すなわち、脈管鞘)は、維管束鞘細胞として知られる。双子葉植物において、維管束鞘は、葉脈を包囲する細胞の単一の層で構成されており、その一方で、単子葉植物では、維管束鞘は、細胞の単一の層又は細胞の2つの同心円の層で構成され得る(A. Fahn、Plant Anatomy Pergamon Press 1995)。細胞の2つの層が存在する場合、外側の細胞層は、一般的に、維管束鞘と呼ばれ、内側の細胞層は、一般的に、メストム鞘と呼ばれる(A. Fahn、Plant Anatomy Pergamon press 1995)。2つの層が存在する場合、両方の層は一緒に、維管束鞘を構成する(A. Fahn、Plant Anatomy Pergamon press 1995)。したがって、維管束鞘は、維管束鞘細胞の単一の層か、又は外側維管束鞘層と内側メストム鞘層とを含む2層系のどちらかを説明するために使用される用語である。明細書全体を通して使用される場合、用語「維管束鞘」、「維管束鞘細胞」、「脈管鞘」、又は「脈管鞘細胞」は、相互互換的に使用され得、文脈において明確に示されない限り、維管束鞘細胞層の全てのタイプを包含する。維管束鞘細胞層(すなわち、単一の維管束鞘層、或いは外側維管束鞘及び内側メストム鞘)は、葉緑体を含み得る。これらの維管束鞘層における葉緑体の数は、葉肉細胞における数と同じかそれ未満であり得、場合によって、維管束鞘細胞は、葉緑体を欠く場合もある。更に、それらが、C3植物に存在する場合、維管束鞘細胞層における葉緑体のサイズは、一般的に、葉肉細胞よりもはるかに小さい(A. Fahn、Plant Anatomy: Pergamon Press (1995))。維管束鞘細胞は、葉脈を包囲し、そのため、それらは、良好な水供給を確保するため、並びに、生長する植物構造への分配のために葉脈内へ糖を投入するために、理想的に位置される。
【0114】
維管束鞘特異的発現
用語「特異的」は、遺伝子発現に関連して使用される場合、植物内の細胞タイプにおける限定されたサブセット内の、高められた遺伝子発現の生物学的現象を説明する。用語「維管束鞘特異的発現」は、発現される遺伝子が、葉内の周囲の葉肉細胞よりも維管束鞘において実質的により高いレベルにおいて発現される現象を説明するために、「脈管鞘特異的発現」と同じ意味で使用される。これは、遺伝子が葉内又は植物内の他の非葉肉細胞において発現されるのを妨げず、ただ単に維管束鞘での発現のレベルが高く、葉の葉肉での発現のレベルが低いだけである。遺伝子は、脈管鞘細胞以外の他の脈管細胞タイプにおいても発現され得る。これらの細胞タイプは、木部及び/又は篩部等の維管束の細胞のいくらか又は全て並びに関連する細胞タイプを含む。当該遺伝子は、非脈管細胞、例えば、孔辺細胞、脈管鞘延長部の細胞、維管束鞘延長部の細胞、表皮細胞、パラベイナル葉肉細胞(維管束鞘の延長部であり、葉肉細胞ではない)等;或いは葉組織ではない植物における他の場所、例えば、花、果実根、茎等においても発現され得る。重要な決定要素は、発現が維管束鞘において活性化されるが葉肉ではされないことである。
【0115】
本発明における使用のためのフィトクロムタンパク質
本明細書の前述において定義される「PHYB」(Phytochrome B)は、調節光受容体である。図1に示されるように、PHYB活性は、転写リプレッサー、例えば、Phytochrome-Interacting Factor(PIF)等、及び分解のために他のタンパク質を標的にするタンパク質(例えば、Constitutive Photomorphogenic 1、COP1)の作用を阻害することによって調節カスケードを誘導する(Legrisら、(2019)「Molecular mechanisms underlying phytochrome-controlled morphogenesis in plants.」Nat. Comms. 10:5219)。暗所において、リプレッサータンパク質のこの層は、光合成タンパク質、例えば、Elongated Hypocotyl 5(HY5及びそのパラログであるHYH)、Golden-2 Like transcription factor(GLK1及びそのパラログであるGLK2)、及びCytokinin Responsive GATA Factor 1(CGA1及びそのパラログであるGNC)等の発現を活性化する転写因子の蓄積を防ぐことによって、光合成タンパク質の転写を阻害する(Wangら、(2017)「Transcriptional control of photosynthetic capacity: conservation and divergence from Arabidopsis to rice.」New Phytol.、216: 32~45)。光合成を行うために必要なコア機構を含む、何百もの遺伝子の転写は、転写因子のこれらの3つのグループの作用の結果と考えることができる。光の下では、葉肉細胞に存在するPHYBタンパク質が活性化され、これらの転写因子を抑制から解放する。結果として生じる転写カスケードは、最終的に、葉緑体発生及び光合成の活性化をもたらす。
【0116】
そのPHYBタンパク質、活性バリアント、又はその機能的断片が、同じ植物において(相同的発現)、それとも異なる植物において(非相同的発現)発現されるかにかかわらず、任意の植物種に由来するPHYBが、本発明の実施形態において使用され得る。
【0117】
用語「活性バリアント」及び/又は「機能的断片」は、PHYBとの関連において本明細書に使用される場合、PHYB遺伝子又はPHYBのシグナル活性化機能を保持するペプチド配列の、バリアント又は断片を意味する。活性バリアントは、例えば非保存残基における、結果として得られるタンパク質のシグナル活性化機能に影響を及ぼさない配列変更を有するペプチドをコードする関心対象の遺伝子のバリアントも含む。
【0118】
本発明は、本発明の任意の態様による使用のための、PHYBの機能的断片及びPHYBタンパク質の任意のバリアントも含む。
【0119】
配列同一性及びオーソロジー
用語「バリアント」は、植物種に由来する所定のPHYBタンパク質又はその機能的断片に関連して本明細書において使用される場合、他の植物種に由来する異なるアミノ酸配列の任意のPHYBオーソログを意味する。そのようなバリアントは、本明細書において開示される参照ヌクレオチド参照配列(すなわち、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号8又は配列番号11)のいずれかに対するパーセンテージ同一性において発現され得る。アミノ酸参照配列、例えば、配列番号4等に対するパーセンテージ同一性に関して、PHYBのバリアントは、そのアミノ酸参照配列に対して、優先性が増加する順に、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の全体的配列同一性を有し得る。以下の表は、50の商業的に栽培された植物種におけるPHYBオーソログに対する受託番号の非包括的リストを提供する。アラビドプシス属PHYB遺伝子のオーソログは、公的に利用可能な配列データベースのNCBIにおいて見出された。2つ以上のPHYBアクセッションが多くの種に対して見出され、それは、PHYBが異なる植物系統において2つに分かれたことを示しており;これらのパラログの多くが、ゲノム全体の重複の結果として生じた。それぞれの種に対して、1つの代表的な全長のオルソロガスなアミノ酸配列が、アラビドプシス属及び小麦PHYBオーソログ(それぞれAT2G18790.1及びTraes_4AS_1F3163292.1)と比較され、並びに、それぞれに対するパーセンテージ同一性が、デフォルトのパラメータを用いたClustal Omega 2.1によって生成された多重配列アラインメントを使用して定量化された(mBed様クラスタリングガイドツリー及びHHalignを使用した隠れマルコフモデルによってアラインメントを生成する)。アラビドプシス属又は小麦PHYBオーソログに対するこれらのオーソログのメジアンPHYBパーセンテージ同一性は、約75%であった。75%未満の同一性が、所定の種のPHYBオーソログとアラビドプシス属及び小麦オーソログの両方との間で共有されるいくつかの例が存在した。例えば、ニンジン(Daucus carota)(ニンジン(carrot))及びトマト(Solanum lycopersicum)(トマト(tomato))PHYBオーソログは、アラビドプシス属又は小麦PHYBオーソログのどちらかに対して>70%同一であった。同様に、より遠縁の裸子植物種、例えば、オウシュウトウヒ(Picea abies)及びシトカトウヒ(Picea sitchensis)(トウヒ(spruce))等におけるPHYBオーソログは、アミノ酸レベルにおいてアラビドプシス属又は小麦PHYBタンパク質のどちらかに対してまさに66~68%同一であった。近年、重複したPHYBパラログは、表によって示されたPHYB類似性範囲内であるが、より遠縁のフィトクロムは範囲内ではない。例えば、アラビドプシス属PHYB[配列番号5]、PHYD[配列番号9]、及びPHYA(NCBIアクセッションNP_001322907.1)アミノ酸の多重配列アラインメントは、PHYB及びパラロガスPHYDは、81.98%の同一性を共有するが、PHYAは、PHYBとちょうど52.35%の同一性を共有し、PHYDとは52.20%の同一性を共有する。
【0120】
【表1A】
【0121】
【表1B】
【0122】
【表1C】
【0123】
全体的配列同一性は、当技術分野において既知のグローバルアラインメントアルゴリズム、例えば、プログラムGAP(GCG Wisconsin Package、アクセルリス社)におけるNeedleman Wunschアルゴリズム等を使用して特定され得る。
【0124】
好適なPHYB遺伝子のさらなる例も、OrthoFinder等のオーソログ発見プログラム(ortholog finding program)により、技能者によって容易に特定することができる(Emms and Kelly. Genome Biology 2019. 20: 238)。そのような遺伝子の機能は、本明細書において説明されるようにして識別することができ、したがって、技能者は、植物において発現されたときの機能を確認することができるであろう。
【0125】
図2は、顕花植物の3つの主要な分岐群(バラ類、キク類、及び単子葉類)に及ぶ4つの代表的植物種に対するPHYB遺伝子ファミリーを示している。当該系統樹は、顕花植物の起源に樹根があり、分岐長さは任意である。phytochrome B遺伝子は、アブラナ科を生じさせる系列において重複し、その結果として、シロイスナズナにおいてPhytochrome B(AT2G18790)及びPhytochrome D(AT4G16250)として知られるパラロガス遺伝子対を生じた。同様に、Glycine max(大豆)及びSolanum lycopersicum(トマト)は、PHYBの2つのコピーを有し、それらは、独立した遺伝子重複事象から生じた。これらの種において、これらの重複は、代わりに、PHYB1及びPHYB2と呼ばれる。したがって、O.sativa(イネ)PHYBは、両方のシロイヌナズナ(A. thaliana)PHYB(B及びD)及び両方のトマトPHYB(1及び2)に等しく関連している。PHYBの複数のコピーを有する種では、両方のコピーが重複して機能する証拠が存在する。例えば、トマトにおけるトマトPHYB1又はPHYB2のどちらかの過剰発現は、同じ表現型を生じる(Husaineidら、(2007)「Overexpression of homologous phytochrome genes in tomato: exploring the limits in photoperception」J. Exp. Bot. 58: 615~626)。したがって、本願において使用される場合、用語PHYBは、図2に示されるこの遺伝子ファミリーの代表的なメンバーによって例示された完全なPHYB遺伝子ファミリーを包含し、並びに、Phytochrome D等の全てのPHYBパラログを含む。
【0126】
維管束鞘細胞特異的プロモーターに関する場合、これらの全てのバリアント及びオーソログは、本発明に含まれる。そのようなプロモーターに対する参照ヌクレオチド配列が存在する場合、そのようなバリアント及びオーソログは、参照プロモーター配列に対して少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の全体的配列同一性のヌクレオチド配列を含む。
【0127】
本発明に関連して説明される任意のポリヌクレオチドの配列同一性の程度は、参照配列に対するパーセンテージ同一性として表現される代わりに、本明細書において開示される参照配列[配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4又は配列番号8又は配列番号11]のいずれかのポリヌクレオチドに対するハイブリダイゼーションの観点から定義され得る。そのような配列のハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下において実施され得る。「ストリンジェントな条件」又は「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」によって、プローブが他の配列に対してよりも検出可能に大きい程度に(例えば、バックグラウンドより少なくとも2倍大きい)その標的配列へとハイブリダイズするような条件が意図される。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、並びに、異なる状況では異なるであろう。ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件のストリンジェンシーを制御することによって、当該プローブに対して100%相補的な標的配列を識別することができる(相同的プロービング)。或いは、ストリンジェンシー条件は、より低い程度の類似性が検出されるように、配列におけるいくつかのミスマッチを許容するように調節することができる(非相同的プロービング)。概して、プローブは、約1000ヌクレオチド長未満であり、好ましくは500ヌクレオチド長未満である。
【0128】
典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0から8.3において、約1.5M未満のNa+イオン、典型的には約0.01から1.0MのNa+イオン濃度(又は他の塩)であり、並びに温度は、短いプローブ(例えば、10から50ヌクレオチド)に対しては、少なくとも約30℃であり、長いプローブ(例えば、50超のヌクレオチド)に対しては、少なくとも約60℃である、ような条件であろう。ハイブリダイゼーションの所要期間は、概して、約24時間未満、通常は約4時間から12時間である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミド等の不安定化剤の添加によっても達成され得る。
【0129】
PHYBは、高度に保存されたタンパク質であり、その機能は、全ての脈管植物において高度に保存される。これは、天然のPHYBタンパク質の発現を増加させること、他の植物種に由来する外因性PHYBタンパク質を発現させること、又は天然のPHYB遺伝子をノックアウトすることのいずれかによって繰り返し実証されている。図24は、PHYB発現が、遺伝子操作:アラビドプシス属における天然のPHYB又はYHBのどちらかを過剰発現させること(Su及びLagarias、(2007) Plant Cell. 19(7): 2124~2139)、アラビドプシス属PHYBをナス属(トマト)において(Thieleら、(1999) Plant Physiology. 120: 73~81)及びススキ属(スイッチグラス)において(Hwangら、(2014) International Journal of Photoenergy)発現させること、天然のトマトPHYB遺伝子をナス属において過剰発現させること(トマトゲノムにおける2つのPHYBのどちらか、Husaineidら、(2007) J. Exp. Bot. 58: 615~626)、シロイヌナズナにおけるグリシン(大豆)PHYB(Wuら、(2011) PLoS ONE 6(11))、又はオリザ属(イネ)においてフィトクロムをロックアウトすること(Takanoら、(2009) PNAS. 106(34): 14705~14710)によって変更されている、具体的実施例をまとめる。たとえ、この大量の実験証拠が、様々な種及びPHYBタンパク質(約1億6000万年前に分かれたススキ属及びアラビドプシス属)を含んでも、特有の表現型効果は、これらの実験において一貫して観測され:すなわち、発現されるPHYB遺伝子の起源種にかかわらず、葉緑素(葉の色)、矮性(節間長)、及び開花期における一貫した変化が、全ての植物種において観察される。したがって、任意の植物種に由来するPHYB遺伝子は、その植物において発現される場合に任意の他の種においてPHYBの機能を提供することができる。したがって、全てのPHYBタンパク質は、任意の脈管植物において発現される場合に同様の機構機能を誘導すると予想することができる。
【0130】
機能的断片
PHYBタンパク質は、典型的には、7つの容易に認識可能なタンパク質ドメインを含む。これらは、3つのPer-Arnt-Sim(PAS)ドメイン(PF08446及び/又はPF00989のどちらか)、GAFドメイン(PF01590)、PHYドメイン(PF00360)、HisキナーゼAホスホ受容体ドメイン(PF00512)、及びGHKLドメイン(PF02518)を含む。図25は、5つの様々な陸植物種、セイヨウアブラナ、トマト、イネ、イヌカタヒバ、及びヒメツリガネゴケにおいて見出されたPHYBタンパク質に由来するこれらの特徴的PHYB機能的ドメインを例示している。>4億年の進化(ニセツリガネゴケ属(Physcomitrella)からアブラナ属(Brassica)へ)と遺伝子重複の複数の例(例えば、セイヨウアブラナ及びトマト)にもかかわらず、全てのPHYBタンパク質は、同じ長さであり、並びにPAS_2、GAF、PHY、PAS、HisKA、及びHATase_c(/GHKL)ドメインの同じ配置を含む。ドメインは、EBI HMMRツールを使用して識別した(Potterら、(2018) Nucleic Acids Research 46:W200~W204)。
【0131】
これらのタンパク質ドメインは高度に保存されるが、PHYB遺伝子の切除型も、PHYBシグナル伝達を開始するために機能することができる。例えば、Okaら(2004)「Functional Analysis of a 450-Amino Acid N-Terminal Fragment of Phytochrome B in Arabidopsis」Plant Cell. 16(8): 2104~2116では、PHYドメイン(PF00360)を欠くPHYBの450アミノ酸断片、HisキナーゼAホスホ受容体ドメイン(PF00512)、及びGHKLドメインが、核を標的にする場合に、PHYBシグナル変換を開始することができることが示された。したがって、PHYBの機能的断片は、PHYBシグナル伝達を提供することができ、並びにそのような機能的断片も本発明に含まれる。
【0132】
脈管鞘(すなわち、維管束、維管束鞘、及び/又はメストム鞘)プロモーター
当業者は、多くの維管束、脈管鞘、維管束鞘、又はメストム鞘特異的プロモーターを十分に把握している。
【0133】
当業者が様々な植物種において機能すると予想する、いくつかの異なる種から単離されたそのようなプロモーターが存在し;5つのそのような例が、図23に示されている。Engelmannら(2008) Plant Physiology 146(4):1773~1785に記載される、フラベリア・トリネビアにおけるグリシンデカルボキシラーゼのP-サブユニットをコードする遺伝子に由来するプロモーターは、フラベリア・ビデンティスの維管束鞘細胞及び維管束において、更に遠縁の真正双子葉類のシロイスナズナにおいても、発現を駆動する。これらの種は、約1億2500万年前に最後に共通祖先を共有しており、したがって、このプロモーターの活性は、真正双子葉類において保存される(Zengら New Phytol. 2017 May;214(3):1338~1354)。実際に、GLDPプロモーターに関するさらなる研究は、種の間におけるその交差機能性が、アラビドプシス属、アブラナ属、ナズナ属(Capsella)、及びモリカンディア属(Moricandia)の種を含むアブラナ科において保存される調節配列によって付与されることを明らかにした(Adwyら The Plant Journal 2015 November;84(6)及びAdwyら Plant Gene 2019 June;18)。同様に、Kirschnerら(2018) Journal of Experimental Botany 69(20): 4897~4906に記載される、シロイスナズナにおける硫黄トランスポーターSULTR2;2をコードする遺伝子に対するプロモーターは、アラビドプシス属の維管束鞘及び葉脈において、更に遠縁の種のフラベリア・ビデンティスにおいても、発現を駆動する。さらなる実施例において、C3植物の維管束鞘において発現される遺伝子に由来するプロモーターも、これらの植物において維管束鞘特異的発現を付与することができる。これは、アラビドプシス属の維管束において発現される、シロイスナズナに由来するMYB76遺伝子からのプロモーターによって例示される。この遺伝子に由来する当該プロモーターは、アラビドプシス属におけるレポーター遺伝子の維管束特異的発現を駆動するのに十分であり、並びに、アブラナ科のメンバーにおいてゲノムの高度に保存された領域に見出され(Knerovaら biorxiv https://doi.org/10.1101/380188)、それは、交差機能的GLDPプロモーターと特性を共有する。レポーター遺伝子に融合された場合に、維管束において発現を駆動するような、プロモーターの他のそのような例が多数存在する。例えば、ノックアウトされた場合に網状の表現型を与える遺伝子に由来するプロモーターは、脈管又は維管束鞘(BS)細胞において優勢(又は排他的)な発現を提供する(Lundquistら Molecular Plant. 2014 Jan;7(1):14~29)。更に、SCARECROW(SCR)及びSCARECROW-LIKE 23(SCL23)遺伝子の両方のプロモーターは、特に維管束鞘細胞において、レポーター遺伝子の発現を駆動する(Cuiら The Plant Journal. 2104 78(2): 319~327)。
【0134】
単子葉類に対する文献に記載される維管束鞘細胞プロモーターも存在する。例えば、Nomuraら(2005) Plant Cell Physiology.46(5):754~61には、シバPCKプロモーターが、イネ維管束鞘において発現を駆動するように機能することが示されている。同様に、リバーシードグラスPCK1プロモーターは、イネ及びトウモロコシにおけるリポーター遺伝子の維管束鞘発現を対象にする(Suzuki and Burnell. Plant Science. 2003 165(3):603~611)。更に、Klotiら(1999) Plant Molecular Biology 40(2): 249~266にも、維管束及び他の脈管細胞において機能するイネツングロ桿菌状ウイルスプロモーターが示されている。このプロモーターは、これらの種が約1億6000万年前に分かれたにもかかわらず、単子葉類(イネ)及び双子葉類(タバコ)の両方において、維管束における発現を駆動するように機能する。Petruccelliら 2001 PNAS 98(13) 7635~7640。更に、Schunmannら(2004) Plant Physiol. 136(4): 4205~4214にも、オオムギPht1プロモーターを使用するイネ維管束鞘発現が示されている(当該文献の図3Iを参照されたい)。維管束組織は、植物の葉脈における普遍的に保存された特徴であるため、真正双子葉類に由来する維管束鞘プロモーター、例えば、公開されており、遠縁の種、例えば、キク類及びアブラナ属等において機能することがわかっているものも、単子葉類において機能することは、当技術分野において平均的技能の人によって予想されるであろうし、その逆も同様である(単子葉類及び真正双子葉類の両方において機能する、上記において説明されるイネツングロ桿菌状ウイルスプロモーターの場合と同様に)。その上、当技術分野において平均的技能の人に既に知られている維管束鞘プロモーターの大きな多様性が存在し、これらのプロモーターのいずれも(個別において又は併用において)、任意の植物における維管束又は維管束鞘細胞においてPHYB又はYHBの発現を駆動するのに好適であろう。
【0135】
組換えコンストラクト
任意の好適なクローニングシステムを使用してもよい。例えば、Weber, Eら(2011)PLoS ONE doi.org/10.1371/journal.pone.0016765に記載されるゴールデンゲートモジュールシステム。それ以外に、遺伝子コンストラクトは、新たに完全に合成することもでき、又は、他の分子生物学的アプローチを使用して組み立てることもできる。
【0136】
本発明のPHYB、活性バリアント、又は機能的断片配列は、直接的又は間接的にかかわらず、転写及び発現のために、本発明において用いられる脈管鞘プロモーターに作動的に連結され得る。
【0137】
植物の形質転換
現在、植物の形質転換は、多くの種において常用的手段である。有利なことに、いくつかの形質転換方法が、関心対象の遺伝子を植物に導入するために使用され得る。植物組織又は植物細胞からの植物の形質転換及び再生のために説明されるいくつかの方法が、一時的又は安定な形質転換のために利用され得る。形質転換方法としては、リポソームの使用、エレクトロポレーション、遊離DNAの取り込みを増加させる化学薬品、植物へのDNAの直接的注入、パーティクルガン衝撃、ウイルス又は花粉を使用する形質転換、並びにマイクロプロジェクション(microprojection)が挙げられる。方法は、プロトプラストに対するカルシウム/ポリエチレングリコール法、プロトプラストのエレクトロポレーション、植物物質へのマイクロインジェクション、DNA又はRNA被覆粒子衝撃、(非集約的)ウイルスによる伝染等から選択され得る。トランスジェニック作物を含めたトランスジェニック植物は、アグロバクテリウム・ツメフアシェンス(Agrobacterium tumefaciens)媒介性形質転換によっても作製することができる。そのような常用的方法は、ゲノム編集タンパク質、例えば、CRISPR Casヌクレアーゼ、塩基編集ヌクレアーゼ、及び他のゲノム編集ヌクレアーゼ等を導入するためにも使用される。一括して又は別個に、これらのゲノム編集ヌクレアーゼを使用して天然のPHYB遺伝子配列を編集することにより、脈管鞘プロモーター配列、脈管調節エレメントを導入すること、又は天然のPHYB配列を活性バリアント又は機能的断片へと変換することができる。
【0138】
形質転換法は、当技術分野において周知である。したがって、本発明の様々な態様により、本発明のポリヌクレオチドは、植物に導入され、導入遺伝子として発現される。当該核酸配列は、形質転換と呼ばれるプロセスにより、上記植物に導入される。用語「導入」又は「形質転換」は、「形質転換」、「トランスフェクション」、「形質導入」及び、移入のために使用される方法にかかわらず宿主植物細胞への外因性ポリヌクレオチドの移入を結果として生じるような全てのそのような方法を包含するように使用される。器官形成によるかそれとも胚形成によるかにかかわらず、その後のクローン増殖が可能な植物組織は、本発明の遺伝子コンストラクトによって形質転換され得、植物全体がそこで再生され得る。選択された特定の組織は、形質転換される特定の種のために利用可能な、又はそれに最もよく適合した、クローン増殖システムに応じて変わるであろう。例示的な組織の標的としては、葉ディスク、花粉、胚、子葉、下子葉部、大形配偶体、カルス組織、既存の分裂組織(例えば、頂端分裂組織、腋芽、及び根分裂組織)、及び誘発された分裂組織(例えば、子葉分裂組織及び下子葉部分裂組織)が挙げられる。当該ポリヌクレオチドは、宿主細胞に一時的又は安定に導入され得、並びに、例えばプラスミドとして、組み込まれていない状態に維持され得る。或いは、それは、宿主植物ゲノムへと組み込まれ得る。結果として生じる形質転換された植物細胞は、次いで、当技術分野において周知の方法において形質転換された植物を再生するために使用され得る。
【0139】
形質転換された植物を選択するために、形質転換において得られた植物物質は、原則として、形質転換された植物を形質転換されていない植物から区別することができるような選択条件に共され得る。例えば、上記において説明される方法で得られる種子は、栽植することができ、並びに、初期生育期の後、散布による好適な選択に供され得る。さらなる可能性は、適切であれば消毒の後に、形質転換された種子のみが植物へと生長できるように、好適な選択剤を使用して寒天プレートにおいて当該種子を生長させることである。或いは、形質転換された植物は、上記において説明されたような選択可能なマーカーの存在についてスクリーニングされる。DNA移入及び再生の後、形質転換されたと推定される植物は、例えば、サザン解析又は全ゲノム配列決定を使用して、関心対象の遺伝子の存在、コピー数、及び/又はゲノム構成についても評価され得る。択一的に又は追加的に、新たに導入されたDNAの発現レベルが、いずれも当技術分野において周知である、ノーザン解析及び/又はウエスタン解析及び/又はRNA-Seqを使用してモニターされ得る。
【0140】
発生された形質転換植物は、様々な方法、例えば、クローン増殖又は古典的繁殖技術等によって増殖され得る。例えば、第一世代(又はT1)の形質転換植物は、自家受粉され得、並びにホモ接合第二世代(又はT2)の形質転換植物、及びT2植物は、古典的繁殖技術によって更に増殖され得る。発生された形質転換生物体は、様々な形態を取り得る。例えば、それらは、形質転換細胞と非形質転換細胞のキメラ;クローン形質転換体(例えば、当該発現カセットを含むように形質転換された全ての細胞);形質転換組織又は非形質転換組織の移植片(例えば、植物では、非形質転換接ぎ穂に移植された形質転換根株)であり得る。
【0141】
本発明による変更された植物は、有利なことに、より良い収量特性(yield characteristics)を提供する。収量特性は、収量特性(yield trait)としても知られ、以下の非限定的リストの特徴:収量、バイオマス、種子収量、種子/粒のサイズ、粒のデンプン含量、早期草勢、緑度指数、生長率の増加、水利用効率の増加、リソース利用効率の増加の1つ又は複数を含み得る。用語「収量」は、一般的に、典型的には特定の作物、エリア、及び期間に関連する経済価値の測定可能な生産高を意味する。それらの数、サイズ及び/又は質量に基づく収量、又は実際の収量に直接貢献する、個々の植物部分は、作物の1平方メートル及び生長期間あたりの収量であり、植えられた平方メートルで総生産量を割ることによって特定される(収穫された生産量及び査定された生産量の両方を含む)。植物の「収量」なる用語は、植物バイオマス(根及び/又はシュートバイオマス)、その植物の繁殖器官及び/又は珠芽(例えば、種子又は塊茎等)に関連し得る。したがって、本発明により、収量は、以下:植物あたりの種子収量の増加、種子充填速度の増加、充填された種子の数の増加、収穫指数の増加、生存率/発芽効率の増加、種子/朔/さやの数又はサイズの増加、生育の増加又は分枝の増加、例えば、より多くの枝による開花等、バイオマスの増加、登熟の増加、塊茎バイオマスの増加のうちの1つ又は複数を含み、並びにそれらのうちの1つ又は複数を評価することによって測定することができる。好ましくは、収量の増加は、粒/種子/朔/さやの数の増加、バイオマスの増加、生長の増加、花器の数の増加、花の分枝の増加、又は塊茎の増加を含む。収量は、通常、コントロール植物に対して測定され得る。
【0142】
好ましくは、本発明による植物は、作物である。作物によって、ヒト又は動物の消費又は使用のために商業的規模において栽培される任意の植物が意味される。好ましい実施形態において、植物は、穀物、油種子植物又はマメ科植物である。
【0143】
本明細書において説明されるトランスジェニック植物、方法、及び使用を含む、本発明の様々な態様による植物は、単子葉類又は真正双子葉類植物であり得る。
【0144】
関心対象の植物又は作物種
用語「植物」は、本明細書に使用される場合、光合成を起こすことができるか、又はその一部及び部分構成要素と共に光合成を起こし得る構造を生成することができる全てのものを包含する。光合成を起こすか又は起こすことができる一般的な特徴部としては、種子、果物、シュート、茎、葉、根(塊茎を含む)、花、組織、及び器官が挙げられる。用語「植物」は、植物細胞、懸濁培養物、カルス組織、胚、成長点領域、配偶体、胞子体、花粉、及び小胞子も包含する。
【0145】
単子葉類植物は、例えば、ヤシ科(Arecaceae)、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)、又はイネ科(Poaceae)から選択され得る。例えば、当該植物は、穀物、例えば、小麦、イネ、大麦、オート麦、ライ麦、キビ、トウモロコシ、又は作物、例えば、ニンニク、タマネギ、ニラ、山芋、パイナップル、又はバナナ等であり得る。
【0146】
真正双子葉類植物は、これらに限定されるわけではないが、キク科、アブラナ科(例えば、セイヨウアブラナ)、アカザ科、ウリ科、マメ科(ジャケツイバラ科、ネムノキ科、パピロナセアエ科、又はファバセアエ科)、アオイ科、バラ科、又はナス科等を含むファミリーから選択され得る。例えば、当該植物は、ソバ、レタス、ヒマワリ、アラビドプシス属、ブロッコリー、ホウレンソウ、カノーラ、スイカ、カボチャ、キャベツ、トマト、ジャガイモ、サツマイモ、トウガラシ、キュウリ、ズッキーニ、ナス、ニンジン、オリーブ、ササゲ、ホップ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、アーモンド、クルミ、タバコ、綿、キャッサバ、ピーナッツ、ゴマ、ゴム、オクラ、リンゴ、バラ、イチゴ、アルファルファ、マメ、ダイズ、ソラマメ、エンドウマメ、レンズマメ、ピーナッツ、ヒヨコマメ、アプリコット、洋梨、モモ、ブドウ、ピーマン、チリペパー、麻、カメリナ、カンナビス/大麻、サトウダイコン、キノア、カンキツ類、カカオ、茶、又はコーヒー種から選択され得る。一実施形態において、当該植物は、セイヨウアブラナ種子(カノーラ)である。
【0147】
バイオ燃料及びバイオエネルギー作物、例えば、セイヨウアブラナ/カノーラ、ジュート、ヤトロファ属、油ヤシ、アマニ、ハウチワマメ及びヤナギ、ユーカリ属、ポプラ、ポプラ雑種等、或いは、裸子植物、例えば、タエダマツ、ノルウェートウヒ、又はベイトウヒ等も含まれる。サイレージ、放牧、又は飼葉のための作物(草類、クローバー、イガマメ、アルファルファ)、繊維(例えば、大麻、綿、麻)、建築材料(例えば、マツ、オーク、ゴム)、パルプ(例えば、ポプラ)、化学産業用フィーダーストック(例えば、高エルカ酸脂肪種子セイヨウアブラナ、アマニ)及びアメニティー目的用(例えば、ゴルフ場への芝草)、公共及び個人的な庭への装飾物(例えば、キンギョソウ、ツクバネアサガオ、バラ、ゲンノショウコ、タバコ属)及び家用の植物及び切り花(アフリカスミレ、シュウカイドウ、キク、ゲンノショウコ、コレウス属オリヅルラン、ドラセナ、ゴムノキ)も含まれる。
【実施例
【0148】
(実施例1)
YHBの維管束鞘発現のための遺伝子コンストラクトによるシロイヌナズナの形質転換
遺伝子コンストラクトをゴールデンゲートクローニングシステムにより構築し、得られたプラスミドは、図3に示される。LB及びRBは、それぞれ、トランスファーDNA(T-DNA)の左境界及び右境界を意味する。本発明者らによって用いられたポリヌクレオチドは、維管束特異的プロモーター、PHYBバリアントコード配列(この場合はYHB)、及び植物に好適なターミネーター配列の、LBからRBへと読まれる配列であった。合計で、6のヌクレオチド配列変更が、公開されたYHB配列に対して為され、そのいずれも、対応するアミノ酸配列を変えなかった。これらは、当該コンストラクトを構築する分子クローニングプロセスを促進するために、YHB遺伝子配列に対して為された。これらの変更は、不要であろう。一段階でコンストラクトを合成することによってこの作業が反復される場合、又は代替のクローニング戦略が使用される場合には、不要であろう。更に、このプラスミドの構築は、2つの細菌性マーカーカセットの追加を必要としたが、その一方で、機能的に同一のプラスミドは、T-DNA領域内(RBの左方向)の第2の細菌性選択可能マーカーカセットを必要としないで合成することができる。
【0149】
上述のように、遺伝子合成の前に、YHBコード配列[配列番号1]内の6つのヌクレオチドを、制限部位を除去するように変更したが、アミノ酸配列[配列番号4]は変えなかった。DHS維管束特異的プロモーターを使用した。DHSプロモーター配列[配列番号7]を、最初にKnerovaら、(2018)「A single cis-element that controls cell-type specific expression in Arabidopsis」bioRXivに記載されたプラスミドからクローニングした。当該均等な2つのベクターは、当該維管束プロモーターの下流に、除草剤(バスタ)耐性カセット及び栽培植物化されたYHB遺伝子配列を含んだ。構築された後、当該ベクターを、エレクトロポレーションによってアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefasciens)(株AGL-1)細胞に導入した。当該コンストラクトを保持するアグロバクテリウムのコロニーを、LBプレート上において選択し、YEB培地上で培養した。
【0150】
オックスフォード大学の応用植物科学科において繁殖されたシロイヌナズナ(コロンビア生態型)植物を、花出現の時点で選択した(およそ4週齢)。いくつかの個体を取り置き、コントロール植物としての使用のために、野生型系列を発生させるために繁殖させた。残りを花浸漬法(floral dipping)によって形質転換させた。浸漬した後、独立した形質転換イベントへと種子を分配するために、個々を植物のバッチへとグループ分けした。種子をエタノール及びトリトンを使用して断種し、発芽の前に冷たい部屋において3日間かけて重層化した。土壌での発芽の後、1日おきに1週間にわたるバスタ除草剤の適用によって、T1植物を導入遺伝子挿入のためにスクリーニングした。T1形質転換体植物をより大きいポットに移して、T2種子を収集するために栽培した。分離解析を行うために、バスタを使用して、T2種子をMS培地において発芽させた。単一挿入系列を、選択培地において75%の生存率を示したものとして識別し、それは、単一の分離したアレルを示している。それぞれの系列におけるYHB導入遺伝子の発現を確認するために、これらの植物からRNAを抽出した。プライマーを設計し、それらがYHBを特異的に増幅するが天然のシロイスナズナのPhytochrome Bは増幅しないことを確認するために試験した。独立した形質転換イベントを表す3つの系列を、セグリゲーション及び半定量的なPCR結果に基づいて選択し、それぞれの系列からの個々の植物を、発芽の12日後に土壌に移した。これらを、長日条件下において温室で野生型植物と一緒に栽培し、並びに定期的に水を与えた。
【0151】
後続の実施形態における全ての表現型分析は、特に明記しない限り、3つ全ての系列において行い、それらに由来するトランスジェニック系列(図において「C12」と注釈される)とコントロール植物との間における比較が、その後のプロットにおいて示される。全てのエラーバーは、95%信頼区間を示しており、並びに、t検定を使用して、p<0.05において有意(「*」)及び有意でない(「n.s.」)を示した。
【0152】
図4はトランスフェクトされた植物が、真核細胞翻訳開始因子elF-4E1と呼ばれるハウスキーピング遺伝子と比較して、どのようにYHBを発現するかを示している。
【0153】
葉厚をMultispeq V1.0装置を使用して磁気的に測定した。5.5週齢の植物において、n=10のために同じような葉(9枚)を識別し、葉の中心の近くの3か所を測定し、中央値を、各反復試験のために使用した。図5に示されるように、t検定によって測定した場合(p>0.05)、野生型コントロールとYHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物との間で葉厚に観察可能な差はなかった。したがって、PHYBの発現を操作した前の研究とは異なり、本明細書において説明される本発明は、葉厚に対して悪い影響を及ぼさない。
【0154】
(実施例2)
維管束鞘細胞でのYHBの発現はシロイスナズナ光合成能力を高める
非トランスジェニックコントロールと比較した、トランスジェニック植物における光合成の増強を実証するために、実施例1において発生させた植物を、多相蛍光光度計ヘッドを備えるLICOR 6800装置を使用したガス交換測定によって分析した。測定されるのは、葉の周りの特定されたレベルの周囲二酸化炭素を考慮した、コントロール植物及びYHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物が固定することのできる炭素の量(すなわち、それらの光合成速度)である。温室で生長したアラビドプシス属植物を、ガス交換室に葉をクランプ固定して、環境条件を23℃、65%相対湿度に制御し、フローを500μモルs-1に、ファンスピードを10,000rpmに設定することによって分析した。それぞれの植物に対して同じ葉を使用し、全ての植物を、トランスジェニック系列とコントロール植物との混合物を、10amから3pmの間において毎日試験することにより、32日齢から35日齢の間において測定した。植物は、400μmolmol-1のCO2及び1500μmolm-1s-1の光(90%赤色と10%の青色の混合物による)に順応し、次いで、二酸化炭素濃度を段階的に400μmolmol-1から10μmolmol-1へ減少させ、次いで、再び400μmolmol-1に戻し、その後、2000μmolmol-1の最大値まで増加させた。植物がそれぞれの新しいCO2濃度に順応するために5分間を与え、次いで、炭素同化を測定した。葉サイズにおけるわずかな差を調整するように、植物の葉の面積を測定した。結果としてのA/Ci曲線(図6)は、最大光合成能力における顕著な増加及び低い二酸化炭素濃度でのカルボキシル化効率における顕著な増加として現れる、野生型コントロール(n=12)と比較した場合の、トランスジェニック植物における顕著な光合成の増強(n=8)を実証している。
【0155】
YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物は、二酸化炭素が低すぎてどちらの遺伝子型でも光合成を促進することができなくなるまで、一貫してコントロールより優れていた。これらの曲線の初期傾斜は、これらのトランスジェニック植物が、より高いカルボキシル化効率を有することを示しており、並びに頭打ち相(plateauing phase)(試験された二酸化炭素濃度のより高い値に対して)は、これらのトランスジェニック植物の最大光合成速度も増加したことを実証している。周囲二酸化炭素レベル(畑において作物が経験するような)を考慮して、実験が示すものは、これらのトランスジェニック植物は、コントロール植物よりも、周囲空気から著しく多い二酸化炭素を固定するということである。したがって、PHYBの発現を操作した前の研究とは異なり、ここで、本発明は、葉レベルでの光合成速度を実質的に改善することを説明した。
【0156】
(実施例3)
維管束鞘細胞でのYHBの発現はシロイスナズナの水利用効率を高める
コントロール植物と比較して、YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物が、水利用効率に対して負効果を全く示さないことを実証するために、気孔コンダクタンスを測定した。これは重要であり、というのも、PHYB/YHB発現を調整する他者による以前の試み(例えば、Raoら、(2011))は、結果として、水消費の大きな増加を生じたからである。気孔コンダクタンスを、400μmolmol-1のCO2、65%の相対湿度、23℃の温度、500μmols-1に設定された流量、10000rpmのファン速度において測定した。重要なことに、コントロールと比較した場合、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物では、気孔コンダクタンスの増加が全くなかった(図7)。
【0157】
気孔コンダクタンスで炭素同化率を割ることによって、瞬間水利用効率を算出した(水フラックスあたりの捕捉された炭素)。これは、光合成速度は最大であり(図6に示されるように)、瞬間水利用効率も、コントロール植物と比較して、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物において著しく増加することを実証した(図8を参照されたい)。したがって、水利用効率は、本発明の新規の光合成増強によって損なわれなかった。その上、光合成が、最大率において作動している場合、YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物は、コントロール植物と比較して、水利用効率を高めた。したがって、PHYBの発現を操作した前の研究とは異なり、ここで説明される本発明は、水利用効率を改善しつつ、葉レベルでの光合成速度も実質的に改善する。
【0158】
(実施例4)
維管束鞘細胞でのYHBの発現はシロイスナズナにおいて維管束鞘細胞での葉緑体発生を高めるが葉肉細胞では高めない
アラビドプシス属の葉において、葉肉細胞は、完全に発達した光合成的に活性な葉緑体を含有するが、その一方で、維管束鞘細胞は、光合成能力の低い、より小さな葉緑体を含有する。YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物の維管束鞘細胞における葉緑体が、コントロール植物と比較して、増強されることを実証するために、植物に対して共焦点顕微鏡分析と電子顕微鏡分析を行った。同等な葉(葉6枚)を、トランスジェニックアラビドプシス属植物及びコントロールアラビドプシス属植物から、発芽の25日後に収穫した(実施例1で発生させたように)。下面表皮を剥き取って、葉をホルムアルデヒドで固定した。固定した後、並皮切片をスライドガラスの上に置き、共焦点顕微鏡を使用して画像化した。特定の細胞タイプに葉緑体を割り当てるため、葉緑素及びリグニンの自発蛍光の両方を、葉脈を囲む細胞において画像化した。リグニン及び葉緑素の自発蛍光を、458nm及び633nmのレーザーによる励起によって検出し、発光スペクトルを、それぞれ465~599nm及び650~750nmの間において記録した。遺伝子型あたり合計5枚の葉から葉肉細胞及び維管束鞘細胞を捕捉するために、葉脈の周りでZスタックを撮影した。各葉に対して、5つ葉肉細胞及び5つの維管束鞘細胞を、少なくとも2つの異なる画像から識別し、各細胞における5つの最も大きい葉緑体の葉緑体領域プラン(すなわち、Z平面に平行に位置された)を、ImageJを使用して計算した。したがって、遺伝子型あたりの平均葉緑体サイズを、5つの異なる植物の間に分配された25の細胞において合計125の葉緑体を測定することによって計算した。更に、1日の同じ時間(11am)にプラントを植物をサンプリングすることによって、透過電子顕微鏡写真を得た。組織を染色して、樹脂に埋め込み、次いで、ウルトラミクロトームダイヤモンドナイフを使用して、薄片を切断した。シーメンス透過電子顕微鏡において画像を撮影した。
【0159】
図9に示されるように、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物の維管束鞘細胞における葉緑体は、コントロール植物の同じ細胞の葉緑体より著しく大きかった。この細胞タイプにおいて、YHB発現は、これらの葉緑体が葉肉細胞の葉緑体と同じサイズであるように、葉緑体発生を誘導した。葉肉葉緑体は、YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物とコントロールとの間においてサイズは変わらなかった。
【0160】
YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物の電子顕微鏡分析により、光合成器官のサイズ及び構成に関して、維管束の葉緑体は、葉肉細胞の葉緑体と同等であったが(図10B及び10D)、その一方で、コントロール植物における維管束の葉緑体は、同じ植物の葉肉の葉緑体と比べて、明らかに小さく、光合成的にあまり有能ではなかった(図10A及び10C)ことが明らかとなった。したがって、維管束鞘細胞におけるYHBの正確な発現の発明は、維管束鞘の葉緑体にのみ作用し、したがって、実施例2において説明される光合成の増強は、維管束鞘細胞の葉緑体の光合成の活性化によって駆動される。
【0161】
(実施例5)
維管束鞘細胞におけるYHBの発現はシロイスナズナにおいて呼吸される二酸化炭素の再固定を増強する
CO2を糖内に固定するのは光合成細胞であるが、全ての単一の植物細胞は、呼吸し、糖を消費して、CO2を放出する。葉脈の細胞による呼吸は、CO2を放出し、それは、通常、取り囲む維管束鞘細胞によって、葉脈から細胞間隙へと拡散し、そして、葉肉によって再び吸収されるか、又は気孔によって葉から失われる。トランスジェニック植物は、炭素を固定するための増加した能力を示したため、これが、一部において、葉脈によって呼吸されて生長を促進するために糖に戻されたCO2の再固定に起因するか否かを知るために、測定を行った。
【0162】
空気中のCO2は、炭素12及び炭素13同位体の混合物を含むが、植物組織の炭素は、空気中より炭素12に対して炭素13の痕跡をほとんど有さない。これは、空気中から炭素を固定する酵素、C3種の場合はルビスコが、より重い炭素13同位体を判別し、結果として、乾物炭素同位体分析によって測定された場合に、負のδ13C比をもたらすためである。YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(実施例4)が、呼吸された炭素(すなわち、既に、前に一度固定されていた炭素)を再固定する場合、最終的に葉に存在する炭素は、ルビスコ媒介性固定の複数のラウンドを受け、結果として、判別の複数のラウンドを受ける。したがって、YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックア植物において、呼吸されたCO2の増強された再固定が行われる場合、炭素同位体分析においてこの痕跡が見られると予想される。詳細には、コントロール植物に由来する同等の組織においてより負のδ13Cが見られると予想される。
【0163】
35日齢(実施例1において発生させた植物)において、同等な葉(葉9枚)を、液体窒素において急速冷凍し、凍結乾燥器において4日間凍結乾燥させた。約1mgの乾燥葉粉末を、遺伝子型あたり6試料ごとに秤量し(2つの遺伝子型、1つのトランスジェニック系列及び1つのコントロールグループを試験した)、安定同位体分析を施した。これは、YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物が、著しくより負のδ13Cを有することを実証しており、これは、呼吸されたCO2がこれらの植物における重要な炭素源であることを示している(図11を参照されたい)。したがって、これらの植物における光合成増進の成分は、呼吸されたCO2の増強された再固定に起因する。この再固定の増強の程度は、脈管由来の呼吸/蒸散されたCO2のアベイラビリティに応じて、種の間で変わり得る。
【0164】
正常なC3植物は、葉細胞間隙中へと拡散した炭素を糖に固定する。光活性化された葉肉細胞のルビスコは、当該炭素を固定し、それは、次いで、糖として脈管構造へと送り出される。これらの糖は、呼吸によって植物全体において植物の生長を促進する。これは、二酸化炭素を放出し、それは、葉脈から戻されて、維管束鞘細の周り/それを通って、葉の外へと拡散される。図19は、本発明の改変されたC3植物において、初期炭素固定は、主に葉肉細胞によって行われるが、本発明の植物の維管束鞘細胞もこれを行うことができることを示している。ここで、葉脈を囲む維管束鞘細胞にはより活性な葉緑体が存在するため、呼吸された二酸化炭素は、維管束鞘から細胞間隙へと拡散して植物の外に出ることができる前に捕捉される。したがって、この呼吸されたCO2は、糖へと再固定され、炭素同位体比を低くシフトさせ、炭素同化効率を高めて、葉内に拡散した炭素分子あたりの生長を更に促進する。したがって、維管束鞘細胞のみのYHBの正確な発現を駆動する本発明は、増強されたCO2再固定におけるさらなる利点を生じることもできる。
【0165】
(実施例6)
維管束鞘細胞におけるYHBの発現はシロイスナズナの植物生長を増進する
YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物がコントロール植物より高い光合成能力を有すると仮定して(実施例2~5)、どのように正味の炭素取り込みにおけるこの増加が、増加した植物生長を促進し得るかを特定した。発芽後の14日目及び21日目に15の植物(実施例1において発生させたように)のトレーの上から写真を撮影した。画像をImageJにおいて解析して、植物あたりの総ロゼット面積を計算した。これは、光合成速度の増加に一致して、本発明のトランスジェニック植物が、この時間窓において、コントロール植物より早く育つことを示した(図12)。
【0166】
ボルトは、アラビドプシス属の開花構造物である。植物が、栄養成長の際に十分なリソースを得ると、それらは、開花へと成熟し、リソースを生殖構造へと投資する。発芽後からボルトが3mmを超える高さに育つまでの日数として抽苔時間を測定した。これは、抽苔時間が、野生型コントロールと比較して、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物では短縮されることを実証した(図15)。以前に説明した、文献におけるPHYB/YHB過剰発現植物は反対の効果を一貫して示したため(すなわち、抽苔/開花時間までの時間の遅延)、これは重要である。生長する季節が延ばされ、植物は、季節との共時性を失い、損失の危険の増加を被るため、遅延された抽苔時間は、作物生産にとって不利になる。これは、光活性化されたPHYB/YHBが、葉肉細胞におけるFlowering Locus T発現を抑制し、開花を阻害することにより、生じる。本発明において、葉肉細胞でのPHYB/YHBの追加の発現はなく、それで、開花期の経路が妨げられないため、この問題は回避される。したがって、本発明の植物における抽苔までの時間の短縮は、新規の有利な特性である。
【0167】
上記の開花(抽苔)時間の測定に加えて、開花構造体(ボルト)のサイズも測定した。n=12の植物のそれぞれに対して、定規を使って12pmに最も高いボルトを測定した。YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物からのボルトは、発芽後35日目にコントロール植物より高かった。矮性ではなくむしろ、PHYB及びYHBの過剰発現において他者による以前の研究を考慮して予想されるように、本発明者らは、同じ時点においてこれらのトランスジェニック植物がより高いことを見出した(図13を参照されたい)。そうでなければ、当該植物は、通常の光形態形成を経た(図14のトレーの写真を参照されたい)。したがって、PHYBの発現を操作した前の研究とは異なり、ここで説明される本発明は、PHYB/YHB過剰発現の予想される任意の有害な発達的影響なしに、植物生長を実質的に改善する。
【0168】
したがって、維管束鞘細胞におけるYHBの正確な発現を駆動する本発明は、結果として、より速い生長、より早い開花、及びより大きい開花構造物を生じた。これらは、より短い生長季節、悪天候又は有害生物/病原菌により作物が失われるリスクの減少、並びに1年あたりのより多い収穫循環を潜在的に可能にすること、つまり、追加の付加価値を付与するものを意味するので、全て、農業にとって有利な特性である。
【0169】
(実施例7)
維管束鞘細胞におけるYHBの発現はシロイスナズナにおける収量を高める
本発明の植物は、より高い光合成速度を有し、より早く生長し、より早く開花し、並びにより大きい開花構造物を生じた(図16)。これらの有利な特性が、対応する収量の増加を生じるか否かを調査した。
【0170】
図17は、散水を7.5週目に止め、9週目に収穫し、9.5週目に種子を選別して秤量した後の、野生型植物(左側)及びYHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物(右側)の典型的な種子収穫を示している。これは、収量の>30%の増加を表しており、それはT検定統計量<0.0005により統計的に有意である。これは、植物あたりの生産される種子の量が、コントロールと比較して、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物において著しく多いことを実証する。
【0171】
植物におけるPHYB/YHBの過剰発現に対する以前の実験は、多くの場合、収量の増進を報告しているが、これは、誤解を招く恐れがあり、開花における多面的な遅れに起因する作物収穫にはつながらないであろう。例えば、Thieleら(1999)は、ジャガイモにおいてPHYBを過剰発現させ、少数だがより多い数の塊茎を生産し、結果として、収量の増加を報告している。ただし、彼らは、これは、従来のじゃがいもの収穫と同じ時間フレームにおいては生じず;通常のジャガイモ収穫と同じタイミングで収穫した場合、従来のPHYB過剰発現の収量はコントロールより低いことも明確にしている。実際に、上述のHuら(2019)において、YHB(アラビドプシス属又はイネのどちらかに由来する)が、様々な異なる種(アラビドプシス属、イネ、タバコ、トマト、及びヤマカモジグサ属)において過剰発現され、YHBの過剰発現は、一貫して、種子収量に対して負の影響を有した。明瞭に対照的に、本発明者らのトランスジェニック植物は、驚いたことに、同時に収穫した場合、それらが収穫される段階にかかわらず、コントロールよりはるかに多い種子収量を示している。
【0172】
最終的に、YHBの維管束発現のための遺伝子ベクターを含むトランスジェニックアラビドプシス属植物は、コントロールよりも著しく多い種子を生じるようにこれらの長角果を満たし(図18を参照されたい)、それは、種子が早期又は後期に収穫されるかにかかわらず、一貫して高められた。ここで、6.5週齢の「早期」又は8週齢の「後期」のどちらかにおいて、散水を止めた。種子を収穫する前に、植物を1.5週間乾燥させた。乾燥した空中バイオマスを紙袋に収集し、種子を放出させるために振盪した。細かいメッシュを使用して種子を植物デブリから選別し、秤量のためにプラスチック管に注ぎ入れた。したがって、光合成の増進は、首尾よく、収量の増加へと変換された。
【0173】
したがって、本発明は、結果として、コントロール植物と比較して、より高い光合成速度、高められた水利用効率、高められたCO2再固定、より速い生長、早期の開花、より大きい開花構造物、及びより多い収量を生じる。
【0174】
(実施例8)
YHBの維管束鞘発現のための遺伝子コンストラクトによる小麦(Triticum aestivum)の形質転換
本発明の幅広い一般的適用性を実証するため、及び維管束鞘発現されたYHBの作物増強能力を検証するために、単子葉類最適化プラスミドを設計し、単子葉類作物である小麦、小麦(トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum))変種のカデンツァにおいて試験した。合成維管束鞘プロモーターを使用した実施例1とは異なり、ここでは、シバホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼプロモーターを使用した(単子葉類における維管束鞘特異的遺伝子発現を提供するために以前に説明した)(Nomuraら、(2005)、Plant Cell Physiol.及び図23)。このプロモーター配列[配列番号10]は、真正双子葉類のシロイスナズナよりもむしろ、単子葉類のシバから得られる。このプロモーター配列は、位置278のアミノ酸チロシンをヒスチジンに変換(YHB突然変異として知られている)することによってそれを光非感応性にするように改変された、内因性小麦Phytochrome Bコード配列[配列番号11](Traes_4AS_1F3163292)の発現を駆動するように設計した。Clustal 2.1を使用して比較した場合、この小麦遺伝子のコード配列は、実施例1において使用したアラビドプシス属オーソログに対して66.11%の同一性を共有し、アミノ酸配列[配列番号12]は、アラビドプシス属オーソログに対して71.28%の同一性を共有した。
【0175】
全長プロモーター-遺伝子-Nosターミネーター配列を、新たに完全に合成した。この配列を、nptII選択カセットを含むバイナリーベクターに組み込むし、アグロバクテリウム属へ移して、標準的植物組織培養及び形質転換方法を使用して培養した小麦カルスを形質転換するために使用した。成功したゲノム挿入を確認するため、及び、qPCRによって単一挿入トランスジェニック植物を識別するために、形質転換体をスクリーニングした。形質転換体を鉢に植えて、カルス再生を経たがYHBの維管束鞘発現のためのコンストラクトは受けていないコントロール植物と一緒に、栽培箱において栽培した。
【0176】
(実施例9)
維管束鞘細胞でのYHBの発現は小麦における光合成速度を高める
栽培箱での栽培の7週間後、実施例8において発生させた形質転換体である小麦植物の光合成速度を定量化し、コントロール植物と比較した。実施例2のように、LICOR 6800装置を使用して、光合成速度を正確に測定した。環境定数は以下の通りだった:フロー500μmols-1、ファンスピード10,000rpm、葉温25℃、65%相対湿度。栽培箱での周囲光合成速度を測定するために、PAR(光合成的に活性な放射線、すなわち、光合成に利用可能な光の量)を、350μmolm-1s-1(栽培箱の天蓋高さで測定した光強度)に設定し、並びに二酸化炭素を400μmolmol-1に設定した。それぞれの植物に対して、止葉の下の葉を選択し、当該葉の先端から約1/3をクランプ固定した。10分の気候順応化の後(この気候順応化の後に、同化速度、蛍光又は気孔コンダクタンスの変化のないことを観察することによって確認した)、周囲光合成測定を記録した。4つのコントロール及び8つの単一挿入小麦植物を、その日のうちに12:00~14:00の間にスクリーニングした。図20は、この分析の結果:すなわち、光合成速度は、p<0.05でのt検定によってコントロールと比較して、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含む小麦植物において平均で30%高かった。
【0177】
(実施例10)
維管束鞘細胞でのYHBの発現は小麦における生長率を高める
実施例6において実証されたように、アラビドプシス属の維管束における増強されたPhytochrome Bシグナル伝達は、より速い生長に関連しており、それは、同じ時間窓においてコントロールと比較してバイオマス蓄積は増加するが植物構造の発生全体に対しては変化のないことによって示される。同様に、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含む小麦植物は、発生における変化を示さず(例えば、矮性)、正常な開花が観察された。図21によって示されるように、YHBの維管束鞘発現のための遺伝子ベクターを含む典型的な小麦植物は、7週間の生長の後、コントロールより著しく大きかった。
【0178】
実際に、草高(土壌表面から最も高い点の先端までである最大天蓋高さとして測定される)は、コントロール(n=4)よりも、形質転換体において著しく高かった(t検定によって、p<0.05において)(図22)。この時点で、形質転換体は、完全草高(full height)に達しているように思われ、開花を始めたが、その一方で、コントロールは、依然として、この最大高さの約2/3であった。この約30%早い生長は、主に、実施例9において観察された光合成速度の30%増加に起因すると考えられた。したがって、真正双子葉類のシロイヌナズナと単子葉類の小麦との間における大きな遺伝的な差及び進化距離にもかかわらず、本発明は、一貫して、光合成を増強し、発生を妨害せず、植物生産性を高める。
【0179】
したがって、当業者は、維管束発現を活性化することが知られている任意のプロモーター配列(文献において知られているか又は新規のプロモーターを設計することによるもののどちらか)を組み合わせることができ、並びに、任意の所望の作物に本発明を適用するために、内因性Phytochrome B遺伝子又は外因性Phytochrome B遺伝子又はYHBバリアント又はその機能的断片のいずれかを過剰発現させることができる。同様に、関心対象の種に応じて、様々な毛室転換方法を使用することができる(実施例1のような花浸漬法又はこの実施例のようなカルス形質転換にかかわらず)。
【0180】
(実施例11)
PHYB及び/又はYHBの維管束鞘発現のためのセイヨウアブラナの遺伝子編集
図2及び図25において言及されるように、PHYBは、いくつかの農学的に重要な種、例えば、セイヨウアブラナ及び大豆等において重複している。実際に、本発明者らの作物のほとんどが、最近の全ゲノム重複事象を経験し、PHYBの複数の冗長なコピーを含む。これは、他のコピーに影響を及ぼさずに、PHYBの1つのコピーを維管束によって駆動されるYHBに変換することが可能であることを意味する。これは、遺伝子改変によりYHBを導入する場合、植物に対して同じ結果を有するが(実施例1及び8のように)、いかなるトランスジェニック物質の追加も必要とせず、したがって、結果として、代わりに、遺伝子編集された植物を生じる。これは、天然のPHYBシグナル伝達が除去されない(そうでなければ、結果として植物の発生異常を生じるであろう)ことを確保することの追加の恩恵を有する。
【0181】
セイヨウアブラナは、実例の種を提供し、その場合、当業者に既知の標準的ゲノム編集技術を使用してYHBの維管束鞘発現を達成するために、ゲノム編集が使用され得る。図26はこの作物種の16の異なる栽培品種の葉において、セイヨウアブラナゲノム(BnaA05g22950D、BnaC05g36390D、及びBnaC03g39830D、本明細書の以下において、それぞれ、BnaA05、BnaC05、及びBnaC03と呼ばれる)においてコードされる3つのPHYBゲノムの発現を示している(植物が5つの真の葉期にある場合に第2の最も若い葉からRNAを採取した、Hongら、(2019)Nat. Comms. 10:2878)。PHYBホモログのBnaA05及びBnaC05は、全ての変種の葉において発現され、両方とも、各変種において同じ程度に発現され、それらが重複して機能することの証拠を提供する。このパターンに対する例外は、BnaC05が発現されないスパン栽培品種(Span cultivar)である。しかしながら、スパンが正常な光合成発生を経ると仮定すると、これは、両方のPHYBが重複して機能すること、すなわち、BnaA05の発現がBnaC05の発現の欠如を補うことのさらなる証拠である。したがって、正常な光形態形成を邪魔しないで、光合成の増強の目的のために、1つのバリアントを操作することは可能であろう。
【0182】
最初、天然のPHYB遺伝子の遺伝子発現ドメインが、維管束において発現されるように変更されるであろう。これは、天然のPHYB遺伝子(例えば、BnaA05)の5'上流領域への、当業者に既知の短いプロモーター配列(例えば、配列番号7)或いは任意の維管束又は維管束鞘プロモーター或いは維管束鞘エンハンサーエレメントのノックインによって達成されるであろう。本明細書の以下において説明され、図23にも例示される当該維管束鞘プロモーターは、大きな系統発生距離において機能する(9000万~1億6000万年の分岐時間)。GLDP及びSULTR2;2は、アラビドプシス属及びフラベリア属に恒常的発現パターンを与え、それは、約1億2500万年前に分岐したバラ類とキク類との間の深い保存を表す。フラベリア属は、シロイヌナズナに対するのと同等にセイヨウアブラナに関連し、そのため、フラベリア属及びアラビドプシス属の両方において機能するプロモーターは、シロイヌナズナにおいても機能することが予想される。実施例1において使用したMYB76調節エレメントは、アラビドプシス属とアブラナ属との間において高度に保存されることがわかっており、それらは、密接に関係する(ほんの約2000万年前に分岐した)。多くのプロモーターが、当業者に利用可能であり、天然のPHYB遺伝子の発現を対象とするために、それらから選択される。
【0183】
本発明により、脈管鞘プロモーターを挿入する天然のPHYB遺伝子の編集は、結果として、必要な組織におけるPHYBの予想される発現を生じる。安定して遺伝されるPHYB配列は、実施例1及び実施例8において説明されるようにアラビドプシス属又は小麦ゲノムに組み込まれたポリヌクレオチドと機能的に同等である。5'上流領域の任意の領域は、これらのプロモーター配列をノックインするために好適な標的部位であり得る。エンドヌクレアーゼは、二本鎖DNA切断を誘導するために特定の部位を対象とするであろうし、ホモロジーアームは、ホモロジー指向修復(homology directed repair)によってDNAに組み入られるプロモーターポリヌクレオチドをこのエリアに向かわせるであろう。これは、好適な効率の植物において既に実証されている。例えば、>3,000bpのDNA片を8%の効率でイネゲノムにノックインするために、CRISPR-Cpf1が使用されてきた(Begemannら、(2017)Sci. Reps. 7:11606)。維管束プロモーターエレメントがこの実施例よりもはるかに短く、より短い配列は、結果として、より高いノックイン効率をもたらす。と仮定すると、このノックインは、さらなる本発明の段階なしに、実現可能であろう。シロイヌナズナは、アグロバクテリウム属(実施例1のように)、及び独立した形質転換事象を使用して形質転換することができ、プロモーターエレメントが首尾よくPHYBの上流に組み入れられている個体を見出すためにPCRによってスクリーニングされる。これらの個体の系統を引いている植物は、遺伝子発現解析によって試験することができる、維管束における増強されたPHYB発現を有するであろうし、並びに、全草レベルにおけるPHYB発現の変更に関連する発生異常(例えば、PHYBのユビキタス過剰発現から生じる準矮性表現型等)なしに、いくつかの増強された葉緑体発生、光合成速度、及び生産性を示すことが予想されるであろう。当該表現型は、従来の遺伝子改変アプローチを使用した、維管束において発現されるPHYBの導入から、本明細書において説明されるものに類似することが予想されるであろう。
【0184】
シロイヌナズナの脈管構造においてPHYBシグナル伝達活性を更に増幅するために、維管束駆動PHYBをYHBへと変換するために、第2の編集を為すことも必要であり得る。これも、遺伝子編集によってデリバリーすることができるが、二本鎖DNA切断よりもむしろ、点突然変異のみを必要とする。アラビドプシス属PHYBにおいて、チロシンに由来する残基276をヒスチジンへ変換し、並びに、PHYBをYHBへと変えるために、「TAT」コドンが「CAT」へと変えられる。BnaA05の場合、「TAC」コドンは同等なチロシン残基をコードし、それにより、「CAC」へと変更することによって、単一のヌクレオチド変更の導入によるヒスチジンへの同等な改変を為すことができる。図27は、この単一の塩基対の変更を為すことができる、シロイヌナズナPHYBコード配列の領域[配列番号14、15、及び16]を例示している。この編集は、アデノシンデアミナーゼにつながれたニッカーゼ、例えば、Cas9等によって引き起こすことができ;ヌクレアーゼは、アデニンをグアニンに変換するためにデアミナーゼをDNAの特定のセクションに向かわせる一本鎖DNAの小さな窓を作り出すこのタイプの編集は、以前に、アラビドプシス属植物及びシロイヌナズナプロトプラストにおいて実証されており、後者の種において最高で8.8%までの効率であった(Beum-Chang Kangら、(2018)Nat. Plants. 4:427~431)、PHYB遺伝子の逆鎖を標的にすることによって、このシステムは、結果として順鎖上でのチミンからシトシンへの相補変換を生じる、アデニンからグアニンへの変換を誘導するのに十分であり、それにより、「TAC」から「CAC」へのコドンをシフトさせ、その結果、PHYBからYHBへシフトさせる。このTからCへの変異も、プライム編集によって(Anzaloneら(2020)Nature Biotechnology、38:824~844)、又は、CRISPR-Cas又は当業者に既知の技術による他のゲノム編集ヌクレアーゼによる、正しい部位でのランダム標的化変異誘発によって、容易に達成することができた。
【0185】
図27に示されるように、シロイヌナズナゲノムにおけるPHYB遺伝子の複数のコピーのヌクレオチド配列における高度な保存にもかかわらず、各ホモログは、標的にされた塩基編集を特定の遺伝子バリアント、すなわち、その発現ドメインが以前に編集されたPHYB遺伝子のみに向かわせ、それにより、YHB発現が維管束に制限されることを確保するために使用することができる、複数の独特な変種を含む。このYHB編集を含む個体を見出すために、形質転換された植物をPCRによってスクリーニングし、第1の変更によって前に誘導された光合成及び生産性に対する任意の増加は、この第2の変更によって更に増幅され得ることは予想されるであろう。
【0186】
ここで提案される両方のゲノム編集は、形質転換するのが困難で花浸漬法以外の方法、例えば、カルス再生又は粒子衝撃等を必要とする種においてさえ、高いレベルの効率まで植物において実証されている。したがって、このシロイヌナズナの実施例は、PHYBの2つ以上のコピーを含む任意の種において、ゲノム編集によって維管束で発現されたYHBを導入するための一般的手法を提供する。その上、このアプローチは、形質転換体が、PHYBアレルにおける変更されていない1つのコピーと、PHYBアレルにおける変更された1つのコピーとを含む異種接合植物として維持される限り、任意の2倍体植物においても採用することができる。まとめると、PHYBの単一のコピーが、そのコピーに対して特異的であるヌクレオチド変種を使用する編集のために標的される。まず第一に、PHYB発現は、維管束鞘又は維管束特異的プロモーターを5'上流領域にノックインすることによって、維管束において増強される。この同じ遺伝子が、その後に、CDS(コード配列)における単一ヌクレオチド変異のために標的され;天然のPHYBにその光活性形態から戻る能力を与えるチロシン残基をコードするコドンが、ヒスチジンへと変異される。これは、天然のPHYBを構成的に活性なYHBへと変換し、それは更に、維管束におけるPHYBシグナル伝達カスケードを増強する。注目すべき点は、PHYBの重複するコピーを欠く種においてさえ、全長PHYBコピーを最初にノックインすることも可能であり、それにより、更に遺伝子を編集することができるコピーを作り出すことである。とりわけ、これらの遺伝子編集提案の全てが、遺伝子編集方法によって実施例1及び実施例8において実証されたのと同じ最終結果を達成する:脈管鞘細胞において発現されるPHYBホモログ。
【0187】
最後に、PHYB発現を変更する効果(ノックアウト又は過剰発現によって)は、遠縁の種の間において高度に保存され(図24)、並びに、異なる遠縁の種に由来する複数のプロモーターは、脈管鞘発現を脈管細胞の幅にわたって駆動させることができる(図23)。本明細書において提供される例示的実施例は、例示であると理解され、それにより、当業者は、上記において説明される遺伝子操作方法のいずれかによって、この特性を任意の脈管植物種にデリバリーすることができる。
【0188】
(実施例12)
任意の植物種におけるPHYB又はYHBの維管束鞘発現を活性化するための一般化された遺伝子編集プロトコル
実施例11の完全プロモーターノックイン例に加えて、小さい脈管鞘又は維管束モチーフ又はエンハンサーエレメントを内因性PHYB遺伝子のプロモーター領域に導入するだけで、遺伝子編集のサイズを数塩基対に制限することも可能である。図28は、これらの2つのアプローチの間の比較を提供しており、それは、提案された遺伝子編集が前者(Solyc05g053410)及び後者(Glyma.09G035500)の種におけるPHYBオーソログに対するゲノムモデルに関して注釈されている、トマト(Solanum lycopersicum)及び大豆(Glycine max)に対する設計によって実証される。グリシンデカルボキシラーゼPサブユニット(GLDP)プロモーターは、キク類フラベリア・ビデンティス及びバラ類シロイヌナズナにおいて特徴付けされている。一連の欠失により、GLDP1プロモーター領域を含むV-boxは、維管束発現を駆動するのに十分であることが明らかとなった(Adwyら、(2015)The Plant Journal. 84(6):1231~1238)。したがって、トマトにおいて、PHYBの維管束発現は、実施例11において説明されるのと同様の方法を使用して、ここで識別された内因性PHYB遺伝子の第1のエクソンのすぐ上流にプロモーター[配列番号13]を含むGLDP1 V-boxをノックインすることによって導入することができた(図28の上の画像に示されるように)。すなわち、当業者は、選択のプロモーター配列をコードするDNA修復鋳型によって標的の遺伝子座に対して様々なゲノム編集ヌクレアーゼを標的にするために、そのような設計を使用することができ、並びに遺伝子編集植物を発生させることができた。
【0189】
実施例1において使用したMYB76プロモーターは、小さな最小のエンハンサーモチーフの作用によって組織特異的遺伝子発現を駆動することがわかっている(Dickinsonら、(2020)Nature Plants. 6:1468~1479)。そのようなエンハンサーモチーフ配列は、所望の発現パターンを付与するために、大豆のPHYB遺伝子の転写開始部位に非常に近接して導入することができた。上記において説明したトマトの設計とは異なり、このアプローチは、天然の5'UTRの存在によって図28において示されるように(下の画像)、内因性コアプロモーターを完全なまま残すであろう。コアプロモーターは、オープンクロマチン領域を識別するために、様々な一般的技術、例えば、これらに限定されるわけではないが、TSS-seq、CAP-seq、及びCHIP-seq等によって更に特徴付けることができる。この追加のキャラクタリゼーションは、RNAポリメラーゼが転写を開始するために結合する正確な場所を識別するのに役立ち、それにより、維管束エンハンサーモチーフが挿入される正確なゲノム位置がこの領域を妨害しないことを確実にする(単にいくつかの位置を試して、トランスジェニック植物において遺伝子発現分析によって成功を確認することも可能であるが)。したがって、このエンハンサーエレメント挿入方法は、天然の発現パターンを崩すことなく、天然のPHYB遺伝子の編集を可能にし、並びに、この遺伝子の1つのコピーのみを有する種におけるPHYB発現プロファイルの編集を可能にするであろう。これらの利点を考慮して、既知の維管束プロモーター、例えば、GLDP1 V-box等を、例えば、全長MYB76プロモーターを必要十分な最小のエンハンサーモチーフ配列へと減少させる場合に、既に公開されている同じ分子法を使用することによって、できるだけ少ない塩基を編集することによって導入することができる最小のエンハンサー配列へと更に縮小することは好ましい可能性がある(Dickinsonら、(2020)Nature Plants. 6:1468~1479)。場合により、維管束細胞のPHYBシグナル伝達を更に高めるために、実施例11に説明されるような、後続の維管束鞘発現PHYBからYHBへの変換を行うこともできる。この単一のヌクレオチド変異は、塩基編集又はプライム編集によって、或いは、CRISPR-Cas又は当業者に既知の技術による他のゲノム編集ヌクレアーゼによる正しい部位でのランダム標的化変異誘発によっても容易に達成することができた。
【0190】
遺伝子リソース
シロイヌナズナ(コロンビア生態型)の種子を、オックスフォード大学の応用植物科学科の温室から2018年9月に得た。
【0191】
ゴールデンゲートクローニングパーツは、Sylvestre Marillonnet(Liebnitz Institute of Plant Biochemistry: Weberら、(2011)PLOS ONE)によって提供された。DHS維管束プロモーターは、ケンブリッジ大学のJulian Hibberd研究所からPatrick Dickinsonによって提供された(Knerovaら、(2018)bioRxiv)。
【0192】
カデンツァ小麦植物及び小麦形質転換は、NIAB Crop Transformation Servicesによって提供された。
【0193】
ヌクレオチド及びアミノ酸配列
[配列番号1]YHB変異を含む、栽培植物化されたシロイスナズナPHYBコード配列。
[配列番号2]栽培植物化されたシロイスナズナPHYBコード配列(アラビドプシス属_PHYB_AT2G18790.1)。
[配列番号3]イネPHYBコード配列(イネ_PHYB_LOC_Os03g19590.1)。
[配列番号4]シロイヌナズナYHBアミノ酸配列。
[配列番号5]シロイヌナズナPHYBアミノ酸配列(アラビドプシス属_PHYB_AT2G18790.1)。
[配列番号6]イネPHYBアミノ酸配列(イネ_PHYB_LOC_Os03g19590.1)。
[配列番号7]アラビドプシス属由来MYB76維管束プロモーターのヌクレオチド配列。これは、最小のエンハンサーエレメントを含むオリゴマー化されたMYB76配列と、35S最小コアプロモーターエレメントとを含む合成プロモーターである。
[配列番号8]シロイスナズナPhytochrome DヌクレオチドコードDNA配列(アラビドプシス属_PHYD_AT4G16250.1)。
[配列番号9]シロイスナズナPhytochrome Dアミノ酸配列(アラビドプシス属_PHYD_AT4G16250.1)。
[配列番号10]シバPCKプロモーター配列。
[配列番号11]YHB変異を含む小麦PHYBコード配列(Traes_4AS_1F3163292に由来する)。
[配列番号12]YHB変異を含む小麦PHYBアミノ酸配列(Traes_4AS_1F3163292に由来する)。
[配列番号13]プロモーターDNA系列を含むGLDP1 V-box。
[配列番号14]セイヨウアブラナPHYBコード配列抜粋(BnaC03g39830D)。
[配列番号15]セイヨウアブラナPHYBコード配列抜粋(BnaA05g22950D)。
[配列番号16]セイヨウアブラナPHYBコード配列抜粋(BnaC05g36390D)。
【0194】
本明細書の説明及び特許請求の範囲全体を通して、語句「含む(comprise)」及び「含有する(contain)」及びそれらの変形は、「~を含むが、これらに限定されるわけではない(including but not limited to)」を意味し、並びに、それらは、他の部分、添加剤、成分、整数、又は工程を排除することを意図しない(及び排除しない)。本明細書の説明及び特許請求の範囲全体を通して、文脈がそうでないことを必要としない限り、単数は複数を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈がそうでないことを必要としない限り、本明細書は、単数と同様に複数を想定すると理解されるべきである。
【0195】
本発明の特定の態様、実施形態、又は実施例と関連して説明される特徴、整数、特性、化合物、化学部分、又はグループは、非互換性でない限り、本明細書において説明される任意の他の態様、実施形態、又は実施例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)において開示される特徴の全て、及び/又はそのように開示された任意の方法又はプロセスの工程の全ては、そのような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかがお互いに排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせにおいて組み合わせてもよい。本発明は、いかなる先述の実施形態の詳細にも制限されない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)において開示される特徴の任意の新規の1つ、又は任意の新規の組み合わせ、或いはそのように開示された任意の方法又はプロセスの工程の任意の新規の1つ、又は任意の新規の組み合わせにまで及ぶ。
【0196】
読手の注意は、本願と関連して本明細書と同時に又はその前にファイルされた、並びに本明細書によって一般閲覧に対して開放される全ての文書に向けられ、並びにそのような全ての文書の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10(A)】
図10(B)】
図10(C)】
図10(D)】
図11
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図15
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図20
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図28
【配列表】
2023531153000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-09-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C3植物の光合成能力を高める方法であって、Phytochrome Bをコードする関心対象の遺伝子(GOI)、又はPHYBのシグナル活性化機能を保持するその活性バリアントが、前記C3植物の少なくとも1つの維管束鞘及び/又は脈管細胞において特異的に発現されるように、前記C3植物の遺伝性の遺伝物質を変更する工程を含み、前記GOIが、遺伝子発現調節エレメントの制御下において発現され、前記遺伝子発現調節エレメントが、前記C3植物の前記少なくとも1つの維管束鞘及び/又は脈管細胞において特異的に活性である、方法。
【請求項2】
前記Phytochrome B又は前記活性バリアントが、その機能的断片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GOIが、葉肉細胞において発現されないか又は非常にわずかしか発現されない、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、C3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質に少なくとも1つのポリヌクレオチドを挿入する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、塩基エディター;場合によりプライムエディターの使用を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、遺伝子修復オリゴ核酸塩基(oligonucleobase)(GRON)媒介性突然変異をC3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質の標的DNA配列に導入する工程;場合により、前記C3植物の前記細胞をDNAカッター及びGRONに曝露する工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記DNAカッターが、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Znフィンガー、抗生物質、又はCasタンパク質を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、前記C3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質の部位特異的な相同的組み換えのために亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZNF)及び/又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を使用する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝性の遺伝物質を変更する工程が、ウイルスベクターを使用してドナー鋳型を前記C3植物の細胞の前記遺伝性の遺伝物質に導入する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスベクターが、タンパク質発現ベクターを含み;場合により、前記タンパク質発現ベクターが、pQE又はpETを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数のポリヌクレオチドが、CRISPR-Casタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、場合によりガイドRNA(gRNA)と、前記遺伝子発現調節エレメントの配列を含むドナーポリヌクレオチドとを含み、前記gRNAが、前記CRISPRCasタンパク質を、前記C3植物の細胞の前記ゲノムにおける前記GOIの少なくとも1つのコピーの遺伝子座に向かわせ、それにより、前記細胞から再生された植物の前記少なくとも1つの維管束鞘及び/又は脈管細胞において前記GOIの前記コピーの発現を生じるように、前記遺伝子発現調節エレメントが挿入される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記CRISPR-Casタンパク質及び前記gRNAが、リボ核タンパク質(RNP)を形成するためにプレアセンブルされ;場合により、前記RNPが前記細胞にトランスフェクトされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記RNPが、エレクトロポレーションを使用して前記細胞にトランスフェクトされる、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CRISPR-Casタンパク質が、Cas9、Cas12a、又はCas12bを含む、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
CRISPR-Casタンパク質をコードする前記ポリヌクレオチドが、プラスミドによって導入される、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのポリヌクレオチドが、前記発現調節エレメントと、前記GOIをコードするヌクレオチド配列と、場合により、ターミネーターとを含み、さらなるポリヌクレオチドが、CRISPR-Casタンパク質をコードし、前記さらなるポリヌクレオチド又は追加のさらなるポリヌクレオチドが、場合により、前記CRISPR-Casタンパク質を前記C3植物の前記ゲノムにおける所望の遺伝子座へ向かわせるgRNAをコードし、それにより、前記維管束鞘及び/又は脈管調節エレメントの制御下の非相同GOIが、前記C3植物の前記細胞の前記所望の遺伝子座へ挿入される、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのポリヌクレオチドが、5'から3'へと、前記発現調節エレメントと、Phytochrome B又はその活性バリアント又はその機能的断片をコードする前記ヌクレオチド配列と、場合により前記ターミネーターとを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのポリヌクレオチドが、5'から3'へと、C3植物の少なくともいくつかの維管束鞘及び/又は脈管細胞において特異的に活性な前記発現調節エレメントと、Phytochrome B、又はその活性バリアント、又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列とを含み、それにより、Phytochrome B又はその活性バリアント又はその機能的断片が前記C3植物のゲノムに挿入される、請求項4に記載の方法。
【請求項19】
5'から3'へと、C3植物の少なくともいくつかの維管束鞘及び/又は脈管細胞において特異的に活性な発現調節エレメントと、Phytochrome B又はその活性バリアント又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列と、場合により、ターミネーターとを含む単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項20】
前記調節エレメントが、プロモーターを含む、請求項19に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項21】
前記プロモーターが、維管束鞘細胞特異的プロモーター及び/又はメストム鞘(mestome sheath)細胞特異的プロモーター及び/又は前記維管束鞘及び/又は脈管細胞全体において活性な脈管細胞特異的プロモーターである、請求項19又は請求項20に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記維管束鞘細胞特異的プロモーター及び/又は前記メストム鞘細胞特異的プロモーター及び/又は前記維管束鞘及び/又は脈管細胞全体において活性な前記脈管細胞特異的プロモーターが、合成プロモーターであり;好ましくは、前記プロモーターの上流の維管束鞘及び/又はメストム鞘及び/又は脈管特異的転写因子結合エレメントを含み;場合により、2つ以上の転写因子結合エレメントが存在する、請求項21に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記維管束鞘特異的プロモーター又は前記メストム鞘プロモーター又は前記脈管特異的プロモーター又は前記維管束鞘及び/又は脈管細胞全体において活性な前記プロモーターが、最小ZmUbi1プロモーター、NOSコアプロモーター、CHSAコアプロモーター、及び最小35Sプロモーターから選択され;好ましくは、前記プロモーターが、配列番号7又は配列番号10又は配列番号13のヌクレオチド配列或いはそれらに対して少なくとも80%同一性の配列を有する、請求項21又は22に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項24】
前記維管束鞘細胞特異的プロモーター又はメストム鞘プロモーター又は脈管鞘特異的プロモーター或いは前記維管束鞘及び/又は脈管細胞全体において活性な前記プロモーターが、それぞれ、維管束鞘特異的遺伝子又は脈管特異的遺伝子に由来する、請求項21から23のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項25】
前記維管束鞘特異的遺伝子が、シロイヌナズナMYB76、フラベリア・トリネビアGLDP、シロイヌナズナSULTR2;2、シロイヌナズナSCR、シロイヌナズナSCRL23、シバPCK、ウロコロア・パニコイデスPCK1、及びオオムギPHT1;1からなる群から選択される植物種に由来する、請求項21から24のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項26】
前記プロモーターが、非植物生物体、例えば、イネツングロ桿菌状ウイルス(RTBV)プロモーター等に由来する、請求項19から25のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項27】
Phytochrome Bをコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号8、又は配列番号11のいずれか、或いは前記配列のいずれかに対して少なくとも65%の同一性の配列、或いはその機能的断片;好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも70%の同一性の配列、或いはその機能的断片;より好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも80%の同一性の配列、或いはその機能的断片である、請求項19から26のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項28】
前記Phytochrome Bの前記機能的断片が、フィトクロムシグナル伝達活性を有するが、光感受性を欠いており;好ましくは、前記機能的断片が、PAS及びGAFドメインからなる、請求項19から27のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項29】
前記Phytochrome Bが光非感受性であり;好ましくは、YHB及び、前記Phytochrome Bをコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号1であるか、又はそれに対して少なくとも70%の同一性の配列、又はその機能的断片である、請求項19から28のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド。
【請求項30】
請求項17から29のいずれか一項に記載のDNAポリヌクレオチドと、複製開始点と、Ti又はRiプラスミドのT-DNA右境界反復配列と;場合により、追加的にTi又はRiプラスミドのT-DNA左境界反復配列と、少なくとも1つの細菌性選択可能マーカーとを含むプラスミド。
【請求項31】
更に、エンハンサー、植物選択可能マーカー、マルチクローニング部位、又は組換え部位のうちの1つ又は複数から選択されるエレメントを含む、請求項29に記載のプラスミド。
【請求項32】
請求項17から29のいずれか一項に記載のDNAポリヌクレオチドを含むTi又はRiプラスミド。
【請求項33】
請求項19から29のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド又は請求項30から32のいずれか一項に記載のプラスミドを含み;場合により、前記DNAポリヌクレオチド又は前記プラスミドでコーティングされたマイクロ粒子を含む、植物細胞の形質転換のための組成物。
【請求項34】
請求項19から29のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチド又は請求項30から32のいずれか一項に記載のプラスミドを含む細菌であって;場合により大腸菌である細菌。
【請求項35】
請求項30から32のいずれか一項に記載のプラスミドを含む細菌であって;好ましくは、アグロバクテリウム属であり;より好ましくは、アグロバクテリウム・ツメフアシェンスである細菌。
【請求項36】
少なくともその一部においてC3光合成を行う植物であって、そのゲノムに安定して組み込まれた、好ましくはそのゲノムに遺伝的に組み込まれた、請求項19から29のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリヌクレオチドを含む、植物。
【請求項37】
少なくともその一部においてC3光合成を行う、遺伝子改変された又は遺伝子操作された植物であって、Phytochrome B遺伝子又はその機能的断片の少なくとも1つの追加のコピーを追加的に含むように、遺伝子改変を有するか又は遺伝子操作されており、並びに、遺伝子的に同等な変更されていない植物と比較して、遺伝子的に変更されており、前記変更されている植物のPhytochrome B遺伝子又はその機能的断片の少なくとも1つのコピーの発現調節エレメントが、追加的な少なくとも1つのPhytochrome B遺伝子、又はその機能的断片、前記変更されていない植物と比較して、前記植物の少なくともいくつかの維管束鞘細胞及び/又はメストム鞘細胞及び/又は脈管細胞において特異的な発現を生じる、遺伝子改変された又は遺伝子操作された植物。
【請求項38】
前記発現調節エレメントが、C3植物の前記少なくともいくつかの維管束鞘及び/又は管細胞において特異的に活性なプロモーターである、請求項37に記載の植物。
【請求項39】
前記追加の少なくとも1つのPhytochrome B遺伝子の前記コード配列が、前記植物の天然のPhytochrome B遺伝子と同じである、請求項37又は請求項38に記載の植物。
【請求項40】
前記追加の少なくとも1つのPhytochrome B遺伝子が、前記植物の前記天然のPhytochrome B遺伝子と異なっており;場合により、前記Phytochrome B又は活性バリアント又はその機能的断片が、請求項27から30のいずれか一項において定義される、請求項37又は請求項38に記載の植物。
【請求項41】
CRISPR-Casタンパク質遺伝子改変のプロセスによって得られる、請求項37から40のいずれか一項に記載の植物。
【請求項42】
前記遺伝子改変が、遺伝的に安定である、請求項37から41のいずれか一項に記載の植物。
【請求項43】
C3植物であり;好ましくは、作物、例えば、穀物植物、油種子作物植物、又はマメ科植物である、請求項36から42のいずれか一項に記載の植物。
【請求項44】
前記Phytochrome Bが、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又は配列番号9、又は配列番号12のいずれかのアミノ酸配列、或いは前記配列のいずれかに対して少なくとも65%同一性の配列、又はその機能的断片;好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも70%同一性の配列、又はその機能的断片;より好ましくは前記配列のいずれかに対して少なくとも80%同一性の配列、又はその機能的断片を有する、請求項37から43のいずれか一項に記載の植物。
【請求項45】
前記Phytochrome Bの前記機能的断片が、フィトクロムシグナル伝達活性を有するが、光感受性を欠いており;好ましくは、前記断片が、前記PAS及びGAFドメインからなる、請求項37から44のいずれか一項に記載の植物。
【請求項46】
前記Phytochrome Bが、光非感受性配列バリアント又はその機能的断片であり;好ましくは、配列番号4、配列番号12のアミノ酸配列をもつYHB、或いはそれらに対して少なくとも70%同一性の配列、或いはその機能的断片である、請求項37から45のいずれか一項に記載の植物。
【請求項47】
維管束鞘及び/又は脈管細胞に存在する葉緑体が、同じ期間、同じ条件下で生長したコントロールの未改変植物における同等な維管束鞘及び/又は脈管細胞における葉緑体と比較して、サイズ又は光合成能力に関して発生的に増強されている、請求項37から46のいずれか一項に記載の植物。
【請求項48】
同じ条件下で生長したコントロールの未改変植物と比較して光合成が増強されている、請求項36から47のいずれか一項に記載の植物。
【請求項49】
葉での光合成効率が、同じ条件下において生長したコントロールの未改変植物の同等の葉よりも高い、請求項36から48のいずれか一項に記載の植物。
【請求項50】
水利用効率が、同じ条件下において生長したコントロールの未改変植物におけるものよりも高い、請求項36から49のいずれか一項に記載の植物。
【請求項51】
同じ条件下において生長したコントロールの未改変植物と比較した場合に、高められた光合成が、以下の特性:高められた生長率、開花への期間短縮、より早い成熟化、高められた種子収量、高められたバイオマス、増加した草高、及び増加した林冠面積のうちの1つ又は複数を結果として生じる、請求項36から49のいずれか一項に記載の植物。
【請求項52】
請求項36から51のいずれか一項に記載の植物に由来するかそれらから得られる、植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子。
【請求項53】
請求項36から49のいずれか一項に記載の植物から得られる加工された植物産物、或いは、請求項52に記載の植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子であって;場合により、前記加工された植物産物が、(i)植物の維管束鞘及び/又は脈管細胞の少なくともいくらかにおいて特異的に活性な遺伝子発現調節エレメントの下流のPhytochrome B又はその活性断片、又は、(ii)請求項19から29のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドの少なくとも一部分、の検出可能な核酸配列を含む、加工された植物産物、或いは植物部分、植物組織、植物器官、植物細胞、植物プロトプラスト、胚、カルス培養、花粉粒、又は種子。
【国際調査報告】