(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】親水性アクリル-変性ポリウレタン及びその製造方法、並びにそれから製造される水系塗料組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 18/48 20060101AFI20230713BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20230713BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20230713BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C08G18/48 083
C08G18/67
C08F290/06
C09D175/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577559
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 KR2021007548
(87)【国際公開番号】W WO2021256853
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0073533
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500578515
【氏名又は名称】サムヤン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,ゼフン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,スンウェ
(72)【発明者】
【氏名】リュ,フン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ジュンソブ
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J034BA03
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4J034DB05
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(57)【要約】
本発明は、親水性アクリル-変性ポリウレタン及びその製造方法、並びにそれを用いた水系塗料組成物及びその製造方法に関し、より具体的には、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物由来の重合単位、ポリイソシアネート由来の重合単位及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の重合単位を含み、環境への配慮、付着性(接着性)、耐クラック性及び耐水性がいずれも向上された水系塗料組成物を提供することができる親水性アクリル-変性ポリウレタン及びその製造方法、並びにそれを用いた水系塗料組成物及びその製造方法に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物由来の重合単位;
ポリイソシアネート由来の重合単位;及び
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の重合単位;
を含む親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項2】
無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、無水糖アルコールの両末端又は片末端のヒドロキシ基とアルキレンオキサイドを反応して得られるものであり、ここで、前記アルキレンオキサイドは、炭素数2~8の直鎖状又は炭素数3~8の分岐状アルキレンオキサイドである請求項1に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項3】
無水糖アルコールは、イソソルビド、イソマンニド、イソイジド又はそれらの混合物である請求項2に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項4】
無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、
(1)無水糖アルコールを酸成分で処理する工程;及び
(2)前記工程(1)で得られた酸成分処理の無水糖アルコールとアルキレンオキサイドを付加反応させる工程;
を含む製造方法によって製造されたものである請求項1に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項5】
ポリイソシアネートは、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、又はそれらの組み合わせである請求項1に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項6】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート又はそれらの組み合わせである請求項1に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項7】
下記式(2)
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、アルキレン基であり、
R2は、それぞれ独立して、アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基であり、
R3は、それぞれ独立して、アルキレン基であり、
R4は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基であり、
Mは、無水糖アルコールから誘導された2価の有機基であり、
m及びnは、それぞれ独立して、0~15の整数を表し、
m+nは、1~30の整数を表す。)で示されるものである請求項1に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項8】
前記式(2)において、
R1は、それぞれ独立して、C2-C8の直鎖状又はC3-C8の分岐状アルキレン基であり、
R2は、それぞれ独立して、C2-C20の直鎖状又はC3-C20の分岐状アルキレン基、C3-C20のシクロアルキレン基又はC6-C20のアリーレン基であり、
R3は、それぞれ独立して、C1-C8の直鎖状又はC3-C8の分岐状アルキレン基であり、
R4は、それぞれ独立して、水素原子又はC1-C4の直鎖状又はC3-C4の分岐状アルキル基であり、
Mは、イソソルビド、イソマンニド又はイソイジドから誘導された2価の有機基であり、
m及びnは、それぞれ独立して、0~15の整数を表し、
m+nは、1~25の整数を表す、請求項7に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタン。
【請求項9】
(1)無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物とポリイソシアネートとを反応させて、末端イソシアネート基を有する中間体を製造する工程;及び
(2)前記工程(1)から得られた中間体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させる工程;
を含む親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体との重合反応から製造された重合体;及び
水;
を含む水系塗料組成物。
【請求項11】
親水性アクリル単量体は、カルボキシ基を有するアクリル単量体、アミド系アクリル単量体及びヒドロキシ基を有するアクリル単量体からなる群から選ばれる一つ以上である請求項10に記載の水系塗料組成物。
【請求項12】
親水性アクリル-変性ポリウレタンの含量は、親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、30重量部超~85重量部未満である請求項10に記載の水系塗料組成物。
【請求項13】
溶媒として水及び重合開始剤の存在下で、請求項1~8のいずれか1項に記載の親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体とを重合反応させる工程を含む水系塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性アクリル-変性ポリウレタン及びその製造方法、並びにそれを用いた水系塗料組成物及びその製造方法に関し、より具体的には、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物由来の重合単位、ポリイソシアネート由来の重合単位及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の重合単位を含み、環境への配慮、付着性(接着性)、耐クラック性及び耐水性がいずれも向上された水系塗料組成物を提供できる親水性アクリル-変性ポリウレタン及びその製造方法、並びにそれを用いた水系塗料組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンの必須成分であるポリオールとイソシアネートは、通常、石油系原料から製造される。しかし、ポリウレタン分野では、石油資源枯渇の加速化、気候変動に応じた温室効果ガス排出削減の要求、原料価格の上昇、再生可能な原料へのニーズの高まりにより、石油系原料から製造されるポリオール及びイソシアネートの一部又は全部を環境に配慮した成分に置き換える方法が求められている。
【0003】
ポリオールは、植物性天然油脂、セルロース、リグニンなど再生可能なバイオマスから生産可能で、植物性天然油脂由来のバイオポリオールはすでに商業的規模で生産されている。生産されたバイオポリオールの物性は、製造に使用されたバイオマスの種類によって変わる。一般に、ヒマシ油、ヤシ油などは軟質及び硬質ポリウレタンと合成用ポリオールの製造に使用され、大豆油は、軟質ポリウレタン用ポリオールの製造に使用される。しかし、現在製造されているバイオマスを基盤としたバイオポリオールには、粘度が高いという短所がある。
【0004】
植物性天然油系のイソシアネートは、本質的に脂肪族化合物であり、石油系の芳香族ジイソシアネートよりも反応性が低いという短所がある。そのため、バイオマスを用いてジイソシアネートを製造する研究はあまり行われていない。
【0005】
水素化糖(「糖アルコール」ともいう)は、糖類が有する還元性末端基に水素を付加して得られる化合物を意味するものである。一般に、HOCH2(CHOH)nCH2OH(ここで、nは2~5の整数)の式を有し、炭素数に応じて、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール及びヘプチトール(それぞれ、炭素数4、5、6及び7)に分類される。その中で、炭素数6のヘキシトールには、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトールなどが含まれており、ソルビトールとマンニトールは特に効用性が大きな物質である。
【0006】
無水糖アルコールは、分子内ヒドロキシ基が2つのジオール形態を有し、デンプンから由来するヘキシトールを活用して製造することができる(例えば、特許文献1、2)。無水糖アルコールは、再生可能な天然資源由来の環境にやさしい物質であるため、古くから注目され、その生産に関する研究が行われてきた。このような無水糖アルコールの中で、ソルビトールから製造されるイソソルビドが、現在、最も広い産業的利用可能性を有している。
【0007】
無水糖アルコールは、心臓及び血管疾患の治療、パッチの接着剤、口腔清浄剤などの医薬品、化粧品業界の組成物の溶媒、食品業界の乳化剤など、様々な分野で使用できる。また、ポリエステル、PET、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂など高分子物質のガラス転移温度を上昇させ、そのような物質の強度改善効果があり、天然物由来の環境にやさしい素材であるため、バイオプラスチックなどのプラスチック産業で非常に有用である。さらに、無水糖アルコールは、接着剤、環境に優しい可塑剤、生分解性高分子、水溶性ラッカーの環境にやさしい溶媒として使用することができることも知られている。
【0008】
このように無水糖アルコールは、その活用範囲の広さから大きな関心が寄せられており、工業的な実用化レベルが高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許第10-1079518号明細書
【特許文献2】韓国特許出願公開第10-2012-0066904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無水糖アルコールの誘導体を活用することにより、環境への配慮を向上させた親水性アクリル-変性ポリウレタン及びその製造方法、並びにそれを用いることで、環境への配慮だけではなく、付着性(接着性)、耐クラック性及び耐水性がいずれも向上された水系塗料組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために本発明は、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物由来の重合単位;ポリイソシアネート由来の重合単位;及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の重合単位;を含む、親水性アクリル-変性ポリウレタンを提供する。
【0012】
本発明の別の側面によれば、(1)無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物とポリイソシアネートとを反応させて、末端イソシアネート基を有する中間体を製造する工程;及び、(2)前記工程(1)から得られた中間体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させる工程;を含む、親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造方法が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、前記親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体との重合反応から製造された重合体;及び水;を含む、水系塗料組成物が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、溶媒として水及び重合開始剤の存在下で、前記親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体とを重合反応させる工程を含む、水系塗料組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による親水性アクリル-変性ポリウレタンは、環境への配慮に優れており、これを活用して製造される本発明の水系塗料組成物は、有機溶媒を含まないため環境にやさしく、同時に付着性(接着性)、耐クラック性及び耐水性がいずれも向上されて優れた塗料性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
<親水性アクリル-変性ポリウレタン>
本発明の親水性アクリル-変性ポリウレタンは、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物由来の重合単位;ポリイソシアネート由来の重合単位;及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の重合単位;を含む。
【0018】
本発明で使用される無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物(又は、「無水糖アルコール-アルキレングリコール」ともいう)は、無水糖アルコールの両末端又は片末端(好ましくは、両末端)のヒドロキシ基とアルキレンオキサイドとを反応させて得られる付加物であり、無水糖アルコールの両末端又は片末端(好ましくは、両末端)のヒドロキシ基の水素が、アルキレンオキサイドの開環体であるヒドロキシアルキル基で置換された形態の化合物を意味する。
【0019】
一実施形態において、前記アルキレンオキサイドは、炭素数2~8の直鎖状又は炭素数3~8の分岐状アルキレンオキサイドであってもよく、より具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0020】
前記無水糖アルコールは、天然物由来の水素化糖を脱水反応することにより製造することができる。水素化糖(「糖アルコール」ともいう)は、糖の還元性末端基に水素を付加して得られる化合物を意味し、一般に、HOCH2(CHOH)nCH2OH(ここで、nは2~5の整数)の式を有しており、炭素数によって、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール及びヘプチトール(それぞれ、炭素数4、5、6及び7)に分類される。このうち、炭素数が6のヘキシトールにはソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトールなどがあり、ソルビトールとマンニトールは非常に有用な物質である。
【0021】
前記無水糖アルコールは、一無水糖アルコール、二無水糖アルコール又はそれらの混合物であってもよく、特に限定されないが、二無水糖アルコールを使用することができる。
【0022】
一無水糖アルコールは、水素化糖の内部から水分子1つが除去されて形成される無水糖アルコールであり、分子内に4つのヒドロキシ基を有するテトラオール(tetraol)形態を有する。本発明において、前記一無水糖アルコールの種類は、特に限定されないが、好ましくは一無水糖ヘキシトールであってもよく、より具体的には、1,4-アンヒドロヘキシトール、3,6-アンヒドロヘキシトール、2,5-アンヒドロヘキシトール、1,5-アンヒドロヘキシトール、2,6-アンヒドロヘキシトール又はこれらの2つ以上の混合物であってもよい。
【0023】
二無水糖アルコールは、水素化糖の内部から水分子2つが除去されて形成される無水糖アルコールであり、分子内に2つのヒドロキシ基を有するジオール(diol)形態を有し、デンプン由来のヘキシトールを用いて製造することができる。二無水糖アルコールは、再生可能な天然資源由来の環境に優しい物質であるため、古くから注目され、その製造方法に関する研究が進められてきている。このような二無水糖アルコールの中で、ソルビトールから製造されるイソソルビドは、現在、工業的利用可能性を有している。
【0024】
本発明において、前記二無水糖アルコールの種類は特に限定されないが、好ましくは二無水糖ヘキシトールであってもよく、より具体的には1,4-3,6-ジアンヒドロヘキシトールであってもよい。前記1,4-3,6-ジアンヒドロヘキシトールは、イソソルビド、イソマンニド、イソイジド又はこれら中の2以上の混合物であってもよい。
【0025】
一実施形態において、前記無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、下記式(1)
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数2~8の直鎖状又は炭素数3~8の分岐状アルキレン基を表し、
m及びnは、それぞれ独立して、0~15の整数を表し、
m+nは、1~30の整数を表す。)で示される化合物又はそのような化合物の2つ以上の混合物であってもよい。
【0026】
より好ましくは、前記式(1)において、
R1及びR2は、それぞれ独立して、エチレン基、プロピレン基又はイソプロピレン基を表し、好ましくはR1及びR2は、互いに同じであり、
m及びnは、それぞれ独立して、0~14の整数を表し、
但し、m+nは、1以上、2以上、又は3以上の整数であり、25以下、20以下、15以下又は12以下の整数であり、例えば、1~25の整数、好ましくは2~20の整数、より好ましくは3~15の整数である。
【0027】
一実施形態において、前記無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、下記式(1-1)
【化2】
(式中、a及びbは、それぞれ独立して、0~15の整数を表し、
a+bは、1~30の整数を表し、
より好ましくは、a及びbは、それぞれ独立して、0~14の整数を表し、
但し、a+bは、1以上、2以上、又は3以上の整数であり、25以下、20以下、15以下又は12以下の整数であり、例えば、1~25の整数、好ましくは2~20の整数、より好ましくは3~15の整数を表す。)で示される無水糖アルコール-プロピレンオキシド付加物、
下記式(1-2)
【化3】
(式中、c及びdは、それぞれ独立して、0~15の整数を表し、
c+dは、1~30の整数を表し、
より好ましくは、c及びdは、それぞれ独立して、0~14の整数を表し、
但し、c+dは、1以上、2以上、又は3以上の整数であり、25以下、20以下、15以下又は12以下の整数であり、例えば、1~25の整数、好ましくは2~20の整数、より好ましくは3~15の整数を表す。)で示される無水糖アルコール-エチレンオキシド付加物、またはこれらの混合物であってもよい。
【0028】
一実施形態において、前記無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、(1)無水糖アルコールを酸成分で処理する工程;及び、(2)前記工程(1)で得られた酸成分処理の無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとを付加反応させる工程;を含む製造方法により製造されたものであってもよい。
【0029】
より具体的には、前記無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、(1)無水糖アルコールを酸成分で処理する工程;(2)前記工程(1)で得られた酸成分処理の無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとを付加反応させる工程;及び、(3)前記(2)工程で得られた生成物とアルキレンオキサイドとを塩基触媒の存在下で付加反応させる工程;を含む製造方法により製造されたものであってもよい。
【0030】
前記酸成分は、特に限定されず、リン酸、硫酸、酢酸、ギ酸、ヘテロポリ酸又はそれらの混合物からなる群から選択することができる。一実施形態では、前記ヘテロポリ酸として、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、又はケイモリブデン酸などを使用することができ、他の有用な酸成分として、Amberlyst 15(Dow Chemical社製)などの市販の酸成分を使用することができる。
【0031】
一実施形態において、前記酸処理は、無水糖アルコール1モルに対して、0.1~10モル、好ましくは0.1~8モル、より好ましくは0.1~5モルの酸成分を用いて、窒素の雰囲気下で昇温した温度(例えば、80℃~200℃又は90℃~180℃)で行うことができ、その後、真空下減圧して反応器内の水分を除去するが、これに限定されない。
【0032】
前記酸処理において、用いられる酸成分は、後記するアルキレンオキサイドの付加反応において、アルキレンオキサイドの開環を促進するためのものである。
【0033】
一般的に、アルコールにアルキレンオキサイドを付加する反応は、塩基触媒下で進められるが、無水糖アルコールの場合には、構造上の特徴からアルキレンオキサイドの付加速度と塩基触媒により無水糖アルコールの環構造の開環・分解速度が競合する。従って、無水糖アルコールだけでなく、無水糖アルコールの分解物もアルキレンオキサイドと反応し、塩基触媒により分解された無水糖アルコールの分解物とアルキレンオキサイドとの反応生成物が、製品の品質と貯蔵安定性を低下させる要因として作用する可能性がある。逆に、無水糖アルコールをまず酸成分で処理した後、アルキレンオキサイドの付加反応を行うと、塩基触媒による無水糖アルコールの分解物を生成することなく、酸成分がアルキレンオキサイドの開環を促進するため、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物は、無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとの付加反応により容易に製造することができる。従って、酸処理された無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとを付加反応させると、従来の問題を解決することができる。
【0034】
一実施形態において、前記酸成分で処理された無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとの付加反応は、酸成分で処理された無水糖アルコールにアルキレンオキサイドをゆっくり投入しながら、高温(例えば、100℃~180℃又は120℃~160℃)で、例えば、1時間~8時間又は2時間~4時間行われるが、これに限定されない。無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとの反応モル比は、例えば、無水糖アルコール1モル当たり、アルキレンオキサイド1モル以上又は2モル以上であってもよく、また、30モル以下、20モル以下、15モル以下又は12モル以下であってもよく、例えば、1モル~30モル、好ましくは2~20モルであってもよいが、これに限定されない。
【0035】
一実施形態において、前記アルキレンオキサイドの付加反応で得られた生成物と追加のアルキレンオキサイドとの付加反応は、例えば、加圧(例えば、3MPa以上加圧)が可能な高圧反応器内で、塩基触媒(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物又は水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物)の存在下、高温(例えば、100℃~180℃又は120℃~160℃)で、例えば、1時間~8時間又は2時間~4時間の間行われるが、これに限定されない。無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとの反応モル比は、例えば、無水糖アルコール1モル当たり、アルキレンオキサイド1モル以上、2モル以上又は3モル以上、また、30モル以下、20モル以下、15モル以下又は12モル以下であり、例えば、1モル~30モル、好ましくは2~20モル、より好ましくは3~15モルであってもよいが、これに限定されない。前記塩基触媒を投入する前に、処理に使用した酸成分をろ過して除去することができる。
【0036】
酸処理した無水糖アルコールとアルキレンオキサイドとの付加反応で得られる生成物(無水糖アルコールにアルキレンオキサイドが付加された形の化合物)は、非常に安定な構造を有しているため、塩基触媒の存在下でも無水糖アルコールの環構造は高温で簡単に開環されたり分解されたりしない。従って、アルキレンオキサイドのさらなる付加反応に非常に有利である。アルキレンオキサイドのさらなる付加反応中にも酸触媒を使用し続けると、酸触媒はアルキレンオキサイドの開環を促進するのに役に立つが、アルキレンオキサイドの付加モル数が増加するにつれて反応速度が低下する。すなわち、アルキレンオキサイドの付加速度とアルキレンオキサイド自体の開環速度が競合し、このときのアルキレンオキサイドの付加速度が遅くなり、開環アルキレンオキサイドとアルキレンオキサイドとの自己縮合反応及び副産物生成が進み、品質低下の原因となる。従って、アルキレンオキサイドのさらなる付加反応は塩基触媒下で行われる。
【0037】
その後、前記使用済み塩基触媒から流出する金属イオンを除去する工程をさらに行うことができ、そのために、例えば、Ambosol MP20(ケイ酸マグネシウム成分)などの金属イオン吸着剤を使用することができる。
【0038】
一実施形態において、前記ポリイソシアネートの例は、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)(例えば、2,4-又は4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネート)、キシレンジイソシアネート(XDI)、m-又はp-テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジ-又はテトラ-アルキルジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、フェニレンジイソシアネート(例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、又は4,4’-ジベンジルジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;水素化MDI(H12MDI)、1-メチル-2,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、1,12-ジイソシアナトドデカン、1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、テトラメトキシブタン-1,4-ジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)(例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート)、二量体脂肪酸ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート)又はエチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;又はそれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0039】
別の実施形態において、前記ポリイソシアネートの例は、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、エチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1-12-ドデカンジイソシアネート、シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4-ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、2,6-ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(HMDI)、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートが混合されたトルエンジイソシアネート(2,4-/2,6-異性体比=80/20)、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ポリジフェニルメタンジイソシアネート(PMDI)、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート又はそれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0040】
より具体的には、前記ポリイソシアネートは、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0041】
一実施形態において、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの例は、ヒドロキシ基を有する直鎖状又は分岐状アルキルアクリレート、ヒドロキシ基を有する直鎖状又は分岐状アルキルメタクリレート、又はそれらの組み合わせであってもよく、より具体的には、ヒドロキシ基を有する直鎖状又は分岐状C1-C8アルキルアクリレート、ヒドロキシ基を有する直鎖状又は分岐状C1-C8アルキルメタクリレート、又はそれらの組み合わせであってもよく、より具体的には、ヒドロキシアクリル酸メチル、ヒドロキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシペンチルアクリレート、ヒドロキシペンチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルブチルメタクリレート、ヒドロキシオクチルアクリレート、ヒドロキシオクチルメタクリレート又はそれらの組み合わせであってもよく、より具体的には、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート又はそれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0042】
一実施形態において、本発明の親水性アクリル-変性ポリウレタンは、下記式(2)で示される:
【化4】
(式中、R1は、それぞれ独立して、アルキレン基であり、具体的にはC2-C8の直鎖状又はC3-C8の分岐状アルキレン基であり、より具体的にはC2-C6の直鎖状又はC3-C6の分岐状アルキレン基であり、
R2は、それぞれ独立して、アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基であり、具体的にはC2-C20の直鎖状又はC3-C20の分岐状アルキレン基、C3-C20のシクロアルキレン基又はC6-C20のアリーレン基であり、
R3は、それぞれ独立して、アルキレン基であり、具体的にはC1-C8の直鎖状又はC3-C8の分岐状アルキレン基であり、より具体的にはC2-C6の直鎖状又はC3-C6の分岐状アルキレン基であり、
R4は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基であり、具体的には水素原子又はC1-C4の直鎖状又はC3-C4の分岐状アルキル基であり、
Mは、無水糖アルコールから誘導された二価の有機基であり、具体的にはイソソルビド、イソマンニド又はイソイジドから誘導された二価の有機基であり、より具体的には下記式から選ばれるものであり、
【化5】
式中、m及びnは、それぞれ独立して、0~15の整数を表し、
m+nは、1~30の整数、より具体的には1~25の整数、より具体的には1~20の整数、より具体的には3~15の整数、より具体的には5~15の整数を表す。)
【0043】
より具体的には、本発明の親水性アクリル-変性ポリウレタンは、以下の式のいずれかで示すことができるが、これに限定されない:
【化6】
(式中、m、n及びm+nは、それぞれ独立して、前記式(2)で定義されたものと同義である。)
【0044】
本発明の親水性アクリル-変性ポリウレタンは、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物にポリイソシアネートを反応させた後、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを反応させることにより得ることができる。
【0045】
従って、本発明の別の側面によれば、(1)無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物とポリイソシアネートとを反応させ、末端イソシアネート基を有する中間体を製造する工程;及び、(2)前記工程(1)から得られた中間体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させる工程;を含む、親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造方法が提供される。
【0046】
一実施形態によれば、本発明の親水性アクリル-変性ポリウレタンは、2当量のジイソシアネートを1当量の無水糖アルコール(例えば、イソソルビド(ISB))-アルキレンオキサイド付加物と反応させて、末端イソシアネート基を有する中間体を製造した後、前記中間体の末端イソシアネート基を2当量のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート)と反応させて製造することができる。
【0047】
無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物ではなく、一般的なアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドなど)を用いて製造したアクリル-変性ポリウレタンの場合、親水性が低下し、水に溶解しなくなり(ポリプロピレンオキサイドを適用した場合)、又はそれを用いて水系塗料を製造するとき、耐クラック性及び耐水性が低下される(エチレンオキサイドを適用した場合)。
【0048】
一実施形態によれば、前記無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物とポリイソシアネートとの反応は、任意に触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)のような錫系触媒)の存在下、室温又は昇温下(例えば、50~100℃、好ましくは50~70℃)で適正時間(例えば、0.1~5時間、好ましくは0.5時間~2時間)行うことができる。
【0049】
一実施形態によれば、前記無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物とポリイソシアネートとの反応生成物(即ち、前記工程(1)で得られた中間体)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応は、必要に応じて触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)などの錫系触媒)の存在下、昇温下(例えば、50~100℃、好ましくは50~70℃)で、適正時間(例えば、0.1~5時間、好ましくは0.5時間~2時間)行うことができる。
【0050】
<水系塗料組成物>
本発明による水系塗料組成物は、前記親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体との重合反応から製造された重合体;及び水;を含む。
【0051】
一実施形態において、前記水系塗料組成物内に含まれる前記親水性アクリル-変性ポリウレタンの量は、親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、30重量部超~85重量部未満であってもよく、より具体的には31~84重量部であってもよく、より具体的には32~84重量部であってもよく、より具体的には35~80重量部であってもよく、より具体的には40~80重量部であってもよい。水系塗料組成物内に含まれる前記親水性アクリル-変性ポリウレタンの量が、前記水準より少なすぎると、接着力が不十分となり、組成物から形成された塗膜にクラックが生じるおそれがあり、耐水性に劣る場合がある。逆に水系塗料組成物内に含まれる前記親水性アクリル-変性ポリウレタンの量が前記水準より多すぎると、接着力が非常に悪くなるおそれがある。
【0052】
一実施形態において、前記親水性アクリル単量体として、カルボキシ基を有するアクリル単量体、アミド系アクリル単量体及びヒドロキシ基を有するアクリル単量体からなる群から選ばれる一つ以上を使用することができる。
【0053】
より具体的に、前記カルボキシ基を有するアクリル単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及びマレイン酸からなる群から選ばれる一つ以上であってもよいが、これらに限定されず、前記アミド系アクリル単量体は、アクリルアミド、N-メチロールアミド、ジアセトンアクリルアミド及びグリシジルメタクリレートからなる群から選ばれる一つ以上であってもよいが、これらに限定されず、前記ヒドロキシ基を有するアクリル単量体は、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート及びヒドロキシプロピルメタクリレートからなる群から選ばれる一つ以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0054】
一実施形態において、前記水系塗料組成物内に含まれる前記親水性アクリル単量体の量は、親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、10~55重量部であってもよく、より具体的には10~50重量部であってもよく、より具体的には15~50重量部であってもよい。水系塗料組成物内に含まれる前記親水性アクリル単量体の量が前記水準より少なすぎると、接着性が悪くなり、逆に、親水性アクリル単量体の量が前記水準より多すぎると、接着力が不十分となり、組成物から形成された塗膜にクラックが生じるおそれがあり、耐水性が悪くなる。
【0055】
一実施形態において、前記水系塗料組成物100重量部内に含まれる水の量は、親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、5~40重量部であってもよく、より具体的には5~35重量部であってもよく、より具体的には5~30重量部であってもよい。
【0056】
本発明の水系塗料組成物は、水溶媒中で前記親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体を重合反応させることにより得ることができる。
【0057】
従って、本発明のさらに別の側面によれば、溶媒として水及び重合開始剤の存在下で、前記親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体を重合反応させる工程を含む、水系塗料組成物の製造方法が提供される。
【0058】
一実施形態によれば、前記重合反応工程において、親水性アクリル-変性ポリウレタンの使用量は、使用された親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、30重量部超~85重量部未満であってもよく、より具体的には31~84重量部であってもよく、より具体的には32~84重量部であってもよく、より具体的には35~80重量部であってもよく、より具体的には40~80重量部であってもよい。重合反応工程での親水性アクリル-変性ポリウレタンの使用量が前記水準より少なすぎると、接着力が不十分となり、組成物から形成された塗膜にクラックが生じ、耐水性が低下する場合がある。逆に、重合反応工程での親水性アクリル-変性ポリウレタンの使用量が前記水準より多すぎると、接着力が非常に悪くなる場合がある。
【0059】
一実施形態によれば、前記重合反応工程において親水性アクリル単量体の使用量は、使用された親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、10~55重量部であってもよく、より具体的には10~50重量部であってもよく、より具体的には15~50重量部であってもよい。水系塗料組成物内に含まれる重合反応工程における親水性アクリル単量体の使用量が前記水準より少なすぎると、接着性が低下する場合がある。逆に、重合反応工程における親水性アクリル単量体の使用量が前記水準より多すぎると、接着力が不十分となり、組成物から形成された塗膜にクラックが生じ、耐水性が低下する場合がある。
【0060】
一実施形態によれば、前記重合反応工程において、溶媒として水の使用量は、使用される親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、5~40重量部であってもよく、より具体的には5~35重量部であってもよく、より具体的には5~30重量部であってもよい。
【0061】
一実施形態によれば、前記重合反応工程において、重合開始剤の使用量は、使用される親水性アクリル-変性ポリウレタン、親水性アクリル単量体及び水の合計100重量部に対して、0.01~5重量部であってもよく、より具体的には0.1~1重量部であってもよい。
【0062】
一実施形態によれば、前記親水性アクリル-変性ポリウレタンと親水性アクリル単量体の反応は、水溶媒中で、重合触媒(例えば、過硫酸カリウム(KPS)などの過硫酸塩系触媒)の存在下、高温(例えば、50~100℃、好ましくは60~90℃)で適正時間(例えば、0.5~5時間、好ましくは1時間~3時間)行うことができる。
【0063】
本発明の水系塗料組成物は、水系塗料において従来から使用され得る添加剤をさらに含むことができる。
【0064】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明の範囲がこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
<無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物の製造>
製造例A1: イソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の製造
イソソルビド146gと酸成分としてリン酸(85%)0.15gを加圧可能な反応器に入れ、反応器内を窒素置換し、100℃まで加熱し、真空減圧により反応器内水分を除去した。次いで、1回目に、前記反応器中にエチレンオキサイド88gをゆっくりと加えながら、100~140℃の温度で2時間~3時間反応させた。そのとき、反応温度が140℃を超えないように反応温度を制御した。その後、反応器内を50℃まで冷却した後、水酸化カリウム0.3gを加え、反応器内を窒素置換し、100℃まで加熱し、真空減圧により反応器内の水分を除去した。次いで、2回目に、エチレンオキサイド132gをゆっくりと加えながら、100~140℃で2時間~3時間反応させた。反応終了後、反応器内を50℃に冷却し、4.0gのAmbosol MP20を加え、再加熱し、100~120℃の温度で1~5時間撹拌した後、金属イオンを除去した。その際、反応器内を窒素置換及び/又は真空減圧を行った。金属イオンが検出されないことを確認した後、反応器内を60~90℃に冷却し、残留副産物を除去して、透明液体のイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物362gを得た。
【0066】
製造例A2: イソソルビド-エチレンオキサイド10モル付加物の製造
2回目のエチレンオキサイドの投入量を132gから352gに変更したことを除いて、製造例A1と同様の方法で、透明液体のイソソルビド-エチレンオキサイド10モル付加物551gを得た。
【0067】
製造例A3: イソソルビド-プロピレンオキサイド5モル付加物の製造
付加反応の原料として、エチレンオキサイドの代わりにプロピレンオキサイドを用いた。具体的には、エチレンオキサイド88gの代わりにプロピレンオキサイド116gを1回目に加え、エチレンオキサイド132gの代わりにプロピレンオキサイド174gを2回目に加えたことを除いて、製造例A1と同様の方法で、透明液体のイソソルビド-プロピレンオキサイド5モル付加物423gを得た。
【0068】
製造例A4: イソソルビド-プロピレンオキサイド10モル付加物の製造
付加反応原料として、エチレンオキサイドの代わりにプロピレンオキサイドを用いた。具体的に、エチレンオキサイド88gの代わりにプロピレンオキサイド116gを1回目に加え、エチレンオキサイド132gの代わりにプロピレンオキサイド465gを2回目に加えたことを除いて、製造例A1と同様の方法で、透明液体のイソソルビド-プロピレンオキサイド10モル付加物698gを得た。
【0069】
<親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造>
実施例A1: ポリオールとしてイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
撹拌付き3口ガラス反応器に、イソホロンジイソシアネート(IPDI)222gと反応触媒としてジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.1gを加えた。混合物を室温で撹拌しながら、製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物183gをゆっくりと加え、架橋反応を行った。イソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の添加終了後、50℃で1時間撹拌熟成し、2-ヒドロキシエチルメタクリレート65gをゆっくりと加えて、アクリル変性反応を行った。2-ヒドロキシエチルメタクリレートの添加終了後、50℃で1時間撹拌熟成し、反応生成物を室温まで冷却して、下記式(3)の親水性アクリル-変性ポリウレタン467gを得た。
【化7】
【0070】
実施例A2: ポリオールとしてイソソルビド-エチレンオキサイド10モル付加物、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルアクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリイソシアネートとして、イソホロンジイソシアネート(IPDI)の代わりにヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)168gを用い、ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりに製造例A2で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド10モル付加物293gを用い、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートの代わりに2-ヒドロキシエチルアクリレート58gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(4)の親水性アクリル-変性ポリウレタン515gを得た。
【化8】
【0071】
実施例A3: ポリオールとしてイソソルビド-プロピレンオキサイド5モル付加物、ポリイソシアネートとしてメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)の代わりにメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)250g、ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりに製造例A3で得られたイソソルビド-プロピレンオキサイド5モル付加物218gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(5)の親水性アクリル-変性ポリウレタン529gを得た。
【化9】
【0072】
実施例A4: ポリオールとしてイソソルビド-プロピレンオキサイド10モル付加物、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりに製造例A4で得られたイソソルビド-プロピレンオキサイド10モル付加物363gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(6)の親水性アクリル-変性ポリウレタン643gを得た。
【化10】
【0073】
比較例A1: ポリオールとしてイソソルビド、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりにイソソルビド146gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(7)の親水性アクリル-変性ポリウレタン431gを得た。
【化11】
【0074】
比較例A2: ポリオールとしてポリエチレングリコール(数平均分子量:500)、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりにポリエチレングリコール(数平均分子量:500)500gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(8)の親水性アクリル-変性ポリウレタン782gを得た。
【化12】
【0075】
比較例A3: ポリオールとしてポリプロピレングリコール(数平均分子量:500)、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルアクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)の代わりにヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)168g、ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりにポリプロピレングリコール(数平均分子量:500、KUMHO PETROCHEMICAL社製)500g、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートの代わりに2-ヒドロキシエチルアクリレート58gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(9)の親水性アクリル-変性ポリウレタン720gを得た。
【化13】
【0076】
比較例A4: ポリオールとしてポリテトラメチレングリコール(数平均分子量:1,000)、ポリイソシアネートとしてメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた親水性アクリル-変性ポリウレタンの製造
ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)の代わりにメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)250g、ポリオールとして製造例A1で得られたイソソルビド-エチレンオキサイド5モル付加物の代わりにポリテトラメチレングリコール(数平均分子量:1,000、シグマアルドリッチ社製)1,000gを用いたことを除いて、実施例A1と同様の方法で、下記式(10)の親水性アクリル-変性ポリウレタン1,308gを得た。
【化14】
【0077】
<水系塗料組成物の製造>
実施例B1~B4及び比較例B1~B5: 標準製造法
水、重合開始剤として過硫酸カリウム(KPS)、親水性アクリル-変性ポリウレタン及びアクリル単量体を下記表1に記載された重量比で混合した後、高速溶解機を利用して十分に撹拌し、85℃まで加熱し、撹拌した後、3時間十分に重合反応を行い、実施例B1~B4及び比較例B1~B5の水系塗料組成物を製造した。
【0078】
【0079】
<水系塗料の物性評価>
前記実施例B1~B4及び比較にB1~B5で製造された水系塗料組成物をポリ塩化ビニール(PVC)フィルム上に2回塗布した後、乾燥させて、ポリ塩化ビニールフィルム及び前記フィルム上に形成された塗膜を含む試片を製造した。前記試片の接着性、耐クラック性及び耐水性を下記方法で評価し、その結果を下記表2に示した。
【0080】
<物性測定方法>
(1)接着性
コーティング剤の接着力試験標準であるASTM D 3359に準拠して、クロスハッチカッターで前記試片の塗膜に線を交差させて引っ掻き、10mm×10mmの格子片を100個製造した後、前記格子片上にテープを貼り、均一な力で擦りテープを剥がした。前記試片の塗膜から剥がれ、前記剥がしたテープ上に付着した格子片の数を数えた。前記試片の塗膜から剥がれた格子片の数に応じて、以下の0B~5Bまでの等級で接着性を表した。前記試片の塗膜から剥がれた格子片の数が少ないほど、塗膜の接着性が良好であることを意味する(グレード4B以上が求められる)。
【0081】
[クロスカット分類基準(ASTM D3359)]
等級 基準
5B 塗膜から剥がれた格子片はなかった。
4B 1~5個の格子片が塗膜から剥がれた。
3B 6~15個の格子片が塗膜から剥がれた。
2B 16~35個の格子片が塗膜から剥がれた。
1B 36~65個の格子片が塗膜から剥がれた。
0B 66個以上の格子片が塗膜から剥がれた。
【0082】
(2)耐クラック性
前記試片を-20℃の冷凍庫で1時間保管後、80℃の熱風乾燥機で1時間保管することを5回繰り返した後、前記試片の塗膜が割れ、剥がれ、亀裂が発生するなどのクラック発生の有無を肉眼で観察した。
【0083】
(3)耐水性
前記試片を室温で水に72時間浸漬した後、塗膜の膨れ、クラック、剥がれ、変色などの有無を肉眼で観察した。
【0084】
【0085】
前記表2に示すように、本発明の親水性アクリル-変性ポリウレタンを用いて製造された実施例B1~B4の水系塗料組成物の場合、接着性、耐クラック性及び耐水性の基準要件をすべて達成した。すなわち、本発明の水系塗料組成物は、有機溶媒及び/又は界面活性剤を含まない環境にやさしい塗料であり、接着力、耐クラック性及び耐水性に優れている。
【0086】
しかし、無水糖アルコール-アルキレンオキサイド付加物ではなく、無水糖アルコール(ISB)を用いて製造されたアクリル-変性ポリウレタンを用いた比較例B1の場合、室温水中で剥がれが生じて、耐水性に劣る結果となった。
【0087】
また、汎用親水性ポリオールであるポリエチレングリコールを用いて製造されたアクリル-変性ポリウレタンを用いた比較例B2の水系塗料組成物の場合、塗膜にクラックが発生し、室温水中で剥がれが生じ、耐水性が低下した。また、汎用ポリオールであるポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコールを用いて製造されたアクリル-変性ポリウレタンを用いた比較例B3及びB4の水系塗料組成物の場合、塗料組成物内で相分離が発生したため、水系塗料としての物性評価が不可能であった。
【0088】
また、アクリル-変性ポリウレタン自体を用いない比較例B5の水系塗料組成物の場合、接着力が不十分で塗膜にクラックが発生し、室温水中で剥がれが生じて、耐水性に劣っていた。
【国際調査報告】