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特表2023-531285培養培地のための卵黄抽出補助物質及び関連する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】培養培地のための卵黄抽出補助物質及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20230713BHJP
   C07K 14/77 20060101ALN20230713BHJP
   C07K 14/79 20060101ALN20230713BHJP
   C12N 9/36 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
C12N5/02
C07K14/77
C07K14/79
C12N9/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580531
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 CA2021050876
(87)【国際公開番号】W WO2021258216
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/044,499
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514125101
【氏名又は名称】サニーブルック リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レオン、ホン エス.
(72)【発明者】
【氏名】ティレイネーデサン、ゴビ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB23
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA70
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA72
(57)【要約】
本明細書には、遊離/溶解された卵黄顆粒及び/又は卵黄球を含む卵黄抽出物が記載される。殻付き卵の液体内容物を含む卵黄抽出物であって、液体内容物が卵黄顆粒を含む、卵黄抽出物も記載される。また、卵黄球の液体内容物を含む卵黄抽出物と、卵黄顆粒の液体内容物を含む卵黄抽出物と、卵白中にオボアルブミン及び他の抗殺菌性タンパク質を含む卵黄抽出物と、細胞培養培地中で同じ濃度で使用される場合、FBSと少なくとも同等の細胞増殖を支援する卵黄抽出物と、が記載される。関連する補助物質、培地、及び方法も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離卵黄顆粒を含む卵黄抽出物。
【請求項2】
卵黄の液体内容物と、1つ又は複数の任意選択的に溶解された卵黄顆粒とを含む卵黄抽出物。
【請求項3】
卵黄球の液体内容物を含む卵黄抽出物。
【請求項4】
卵黄顆粒の液体内容物を含む卵黄抽出物。
【請求項5】
卵黄の液体内容物と1つ又は複数の卵白タンパク質とを含む卵黄抽出物。
【請求項6】
前記1つ又は複数の卵白タンパク質が、オボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチーム、オボアルブミン関連タンパク質X(OVAX)、デフェンシン、オボインヒビター、AvBD11、又はそれらの組合わせを含む、請求項5に記載の卵黄抽出物。
【請求項7】
細胞培養培地中で同じ濃度で使用される場合、FBSと少なくとも同等の細胞増殖及び/又は生存を支援する卵黄抽出物。
【請求項8】
遊離卵黄顆粒を含む、請求項2~7のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項9】
溶解された卵黄球を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項10】
オボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチーム、オボアルブミン関連タンパク質X(OVAX)、デフェンシン、オボインヒビター、AvBD11、又はそれらの組合わせ等の1つ又は複数の卵白タンパク質を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項11】
均質化された卵黄及び卵白を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項12】
前記卵黄抽出物が、卵黄及び卵白から本質的になり、前記卵黄が溶解された卵黄球を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項13】
前記卵黄抽出物が液体である、請求項1~12のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項14】
前記卵黄抽出物が、任意の卵生種、例えば鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、軟体動物、クモ類、又はそれらの組合わせの卵から抽出される、請求項1~13のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項15】
前記卵黄抽出物が鳥類である、請求項1~13のいずれか一項に記載の卵黄抽出物。
【請求項16】
前記卵黄抽出物が、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジ、ダチョウ、エミュー、又はそれらの組合わせの卵から抽出される、請求項15に記載の卵黄抽出物。
【請求項17】
前記卵黄抽出物がニワトリ、アヒル、又はウズラである、請求項16に記載の卵黄抽出物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の卵黄抽出物を含む、細胞培養培地のための補助物質。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか一項に記載の卵黄抽出物から本質的になる、請求項18に記載の補助物質。
【請求項20】
請求項1~16のいずれか一項に記載の卵黄抽出物からなる、請求項19に記載の補助物質。
【請求項21】
前記卵黄抽出物が希釈されない、請求項1~20のいずれか一項に記載の補助物質。
【請求項22】
前記卵黄抽出物が、PBS等の生理食塩水で希釈されない、請求項21に記載の補助物質。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか一項に記載の卵黄抽出物又は請求項18~22のいずれか一項に記載の補助物質を含む細胞培養培地。
【請求項24】
前記培地が、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI培地、CMRL1066、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、L-15培地、DMEM-F12、EpiLife(登録商標)培地、及び培地171、又はそれらの組合わせである、請求項23に記載の細胞培養培地。
【請求項25】
前記培地が、HBSS等の緩衝生理食塩水である、請求項24に記載の細胞培養培地。
【請求項26】
約1%~約10%v/v、例えば約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、又は約10%の抽出物又は補助物質を含む、請求項23~25のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項27】
FBS及び/又はNCSを含有しない、請求項23~26のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項28】
増殖培地又は凍結培地、例えばDMSOを含まない凍結培地である、請求項23~27のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項29】
前記細胞培養培地が、初代細胞株、例えば食品消費用の初代細胞株、例えば初代ウシ骨格筋細胞を培養するためのものである、請求項23~28のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項30】
前記細胞培養培地が、抗体産生のために細胞を培養する際に使用するためのものである、請求項23~29のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項31】
前記細胞培養培地が、生物製剤製造、例えばインスリン、エリスロポエチン(EPO)、又は顆粒球コロニー刺激因子(C-GSF)等の生物製剤の製造に使用するためのものである、請求項23~29のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項32】
卵黄球を溶解することを含む、卵黄抽出物を製造する方法。
【請求項33】
卵黄球を溶解することが、前記卵黄球を超音波処理又は、例えば高圧均質化によって、均質化することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記方法が、少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、又は約99%の卵黄球を溶解するのに十分である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記超音波処理が、約75W以上で、約15~約20秒/サイクルで約25~約30サイクルである、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記卵黄球が、卵黄及び卵白を含む組成物中にある、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記卵黄球を溶解する前に前記卵黄及び卵白を混合することを更に含み、任意選択的に、前記混合が、約4℃~約25℃で約30分~約24時間、例えば室温で約30分間又は4℃で約12~18時間であり、任意選択的に、前記混合が反転によるものである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記卵黄及び卵白を混合する前又は後に前記卵黄から卵黄膜を除去することを更に含む、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
未溶解の卵黄球及び/又は卵黄顆粒を、例えば、前記溶解した卵黄球をアルカリ化及び/又は塩処理することによって溶解することを更に含む、請求項32~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記溶解した卵黄球をアルカリ化及び/又は塩処理することが、前記溶解した卵黄球に、塩基及び/又は塩、例えば強塩基、例えばNaOH(任意選択的に約100mM~約1M)、KOH(任意選択的に約100mM~約1M)、NaSO(任意選択的に約0.05mM~約0.1M)、(NHSO(任意選択的に約0.05mM~約0.5M)、又はそれらの組合わせ、又はNaCl(任意選択的に約0.1M~約0.5M)等を添加することを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
固形物を除去することを更に含む、請求項32~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
固形物を除去することが、前記溶解された卵黄球を、例えば約15,000g~約30,000gで遠心分離し、上清を保持することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
例えば、約0.22μm又は0.11μmの孔径等、0.4μm以下の孔径を有するフィルタを使用して前記卵黄抽出物を滅菌することを更に含む、請求項32~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
例えば卵黄抽出物1mL当たり約50~約200μLのグリセロールを添加することによって、前記卵黄抽出物を清澄化することを更に含む、請求項32~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
請求項32~44のいずれか一項に記載の方法によって製造された卵黄抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養培地に関する。特に、本発明は、培養培地用の卵黄抽出補助物質及び関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシ胎児血清(FBS)は、培養された細胞が生存可能なままであるのを助ける様々なタンパク質及び脂肪を含有するため、哺乳動物細胞の細胞培養に対して一般的に使用される増殖補助物質である。多くの細胞株又は細胞型について、FBSの非存在は、細胞死並びに細胞生存率の有意な低下及び細胞増殖の欠如をもたらすであろう。通常、FBSは、細胞培養培地の全体積の約5~10%で使用される。
【0003】
FBSは本質的にウシ胎児の血液であり、これを凝固させ、次いで遠心分離して、遠心分離後に形成される透明な淡褐色上清である血清を生成する。各胎児から約3~4Lの全血が抽出され、これは胎児が母体内に存在している間に行われる。血液は、心臓穿刺を介して回収され、容器内に回収され、自然に凝固させる。このプロセスは、主に妊娠中の乳を産生する雌牛において行われる。その結果、FBSのコストは、必要なプロセス及びこれらの妊娠中の雌牛の維持に必要な費用、並びに農業のコスト上昇に起因して高い。2000年には、FBSのボトル(500mL)の価格帯は100~300ドル(USD)であった。しかしながら、過去10年間で、そのコストはボトル当たり300~1,000ドル(USD)に上昇している。この製品のコストの上昇は、最終的に細胞培養の実施が法外なコストとなり、研究生産性の低下につながる可能性があることを意味する。
【0004】
増殖補助物質としてのFBSの使用には代替法があるが、これらは主に生存細胞培養に必要と考えられるタンパク質の精製に依存している。これは、これらの増殖因子の使用のためのコストの実際の削減がなく、場合によっては、精製されたタンパク質は希釈FBSに単に添加されることを意味する。これらの代替物は、合成であり、細胞株に特異的であり、したがって多種多様な細胞株の培養には関連しないと考えられるため、あまり普及していない。
【0005】
卵黄抽出物は、FBSの代替物として細胞培養に使用されてきた。典型的には、卵黄のみが使用される。卵黄膜に穴を開け、放出された卵黄をPBS(生理食塩水)で希釈するためにチューブに回収する。卵黄を希釈したら(多くの場合、希釈剤としてPBSを用いて5~10倍)、次いで200~1,000xgで5~20分間遠心分離する。遠心分離後、次いで得られた上清を細胞培養試験の補充に使用する。これらの卵黄抽出物は、卵黄の液体内容物のみを含有し、それにより、全卵黄内に存在する全栄養素のごく一部を含有する。これらの卵黄抽出物を細胞培養試験に使用すると、増殖効果は僅かであり、FBSよりも劣る。
【0006】
例えば、米国特許第5,356,798号は、リポタンパク質及び脂質を含まない卵黄画分を含む無血清培地を記載している。無血清細胞増殖培地中で当該タンパク質を発現することができる、宿主細胞中の組換えタンパク質の発現を増加させるための、リポタンパク質及び脂質を含まない卵黄画分の使用が開示される。
【0007】
Fujii及びGospodarowicz(In Vitro;19(11):811-817;1983)は、ニワトリ卵黄による組織培養培地の補充が、基底層被覆皿上に維持された低密度ウシ血管及び角膜内皮細胞及び血管平滑筋細胞の増殖を補助することができ、卵白には何ら成長促進活性がなかったことを記載している。
【0008】
Murakami et al.(Cytotechnology;1:159-169;1988)は、卵黄リポタンパク質が、無血清培地中で、形質細胞腫及び上皮細胞株を含む多種多様な哺乳動物細胞株の増殖を促進したことを記載している。リポタンパク質は、タンパク質含有量が僅か1.3%の超低密度リポタンパク質として特性決定された。このリポタンパク質の最適濃度は300gg/ml(4ggタンパク質/ml)であった。これは、タンパク質を沈殿させるために硫酸アンモニウムを添加し、遠心分離後、培地の表面に浮遊したため、細胞によって無血清培地に分泌されたタンパク質性分子から容易に分離可能であった。リポタンパク質が増殖促進活性を示すためには、脂質及びタンパク質の会合構造が依然として必要であると考えられた。
【0009】
培養培地及び関連する方法のための代替の有効な補助物質の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様によれば、遊離卵黄顆粒を含む卵黄抽出物が提供される。
【0011】
一態様によれば、卵黄の液体内容物と、1つ又は複数の任意選択的に溶解された卵黄顆粒とを含む卵黄抽出物が提供される。
【0012】
一態様によれば、卵黄球の液体内容物を含む卵黄抽出物が提供される。
【0013】
一態様によれば、卵黄顆粒の液体内容物を含む卵黄抽出物が提供される。
【0014】
一態様によれば、卵黄の液体内容物と1つ又は複数の卵白タンパク質とを含む卵黄抽出物が提供される。
【0015】
一態様では、1つ又は複数の卵白タンパク質は、オボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチーム、オボアルブミン関連タンパク質X(OVAX)、デフェンシン、オボインヒビター、AvBD11、又はそれらの組合わせを含む。
【0016】
一態様によれば、細胞培養培地中で同じ濃度で使用した場合にFBSと少なくとも同等の細胞増殖及び/又は生存を支援する卵黄抽出物が提供される。
【0017】
一態様では、抽出物は、遊離卵黄顆粒を含む
【0018】
一態様では、抽出物は溶解された卵黄球を含む。
【0019】
一態様では、抽出物は、オボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチーム、オボアルブミン関連タンパク質X(OVAX)、デフェンシン、オボインヒビター、AvBD11、又はそれらの組合わせ等の1つ又は複数の卵白タンパク質を含む。
【0020】
一態様では、抽出物は、均質化された卵黄及び卵白を含む。
【0021】
一態様では、卵黄抽出物は卵黄及び卵白から本質的になり、卵黄は溶解された卵黄球を含む。
【0022】
一態様では、卵黄抽出物は液体である。
【0023】
一態様では、卵黄抽出物は、任意の卵生種、例えば鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、軟体動物、クモ類、又はそれらの組合わせの卵から抽出される。
【0024】
一態様では、卵黄抽出物は鳥類である。
【0025】
一態様では、卵黄抽出物は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジ、ダチョウ、エミュー、又はそれらの組合わせの卵から抽出される。
【0026】
一態様では、卵黄抽出物は、ニワトリ、アヒル、又はウズラである。
【0027】
一態様によれば、本明細書に記載の卵黄抽出物を含む、細胞培養培地のための補助物質が提供される。
【0028】
一態様では、抽出物は、本明細書に記載の卵黄抽出物から本質的になる。
【0029】
一態様では、抽出物は、本明細書に記載の卵黄抽出物からなる。
【0030】
一態様では、卵黄抽出物は希釈されない。
【0031】
一態様では、卵黄抽出物は、PBS等の生理食塩水で希釈されない。
【0032】
一態様によれば、本明細書に記載の卵黄抽出物又は補助物質を含む細胞培養培地が提供される。
【0033】
一態様では、培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI培地、CMRL1066、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、L-15培地、DMEM-F12、EpiLife(登録商標)培地、及び培地171、又はそれらの組合わせである。
【0034】
一態様では、培地は、HBSS等の緩衝生理食塩水である。
【0035】
一態様では、培地は、約1%~約10%v/v、例えば約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、又は約10%の抽出物又は補助物質を含む。
【0036】
一態様では、細胞培養培地はFBS及び/又はNCSを含有しない。
【0037】
一態様では、細胞培養培地は、増殖培地又は凍結培地、例えばDMSOを含まない凍結培地である。
【0038】
一態様では、細胞培養培地は、初代細胞株、例えば食品消費用の初代細胞株、例えば初代ウシ骨格筋細胞を培養するためのものである。
【0039】
一態様では、細胞培養培地は、抗体産生のために細胞を培養する際に使用するためのものである。
【0040】
一態様では、細胞培養培地は、生物製剤製造、例えばインスリン、エリスロポエチン(EPO)又は顆粒球コロニー刺激因子(C-GSF)等の生物製剤の製造に使用するためのものである。
【0041】
一態様によれば、卵黄球を溶解することを含む、卵黄抽出物を製造する方法が提供される。
【0042】
一態様では、卵黄球を溶解することは、卵黄球を超音波処理又は、例えば高圧均質化によって、均質化することを含む。
【0043】
一態様では、方法は、少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、又は約99%の卵黄球を溶解するのに十分である。
【0044】
一態様では、超音波処理は、約75W以上で、約15~約20秒/サイクルで約25~約30サイクルである。
【0045】
一態様では、卵黄球は、卵黄及び卵白を含む組成物中にある。
【0046】
一態様では、方法は、卵黄球を溶解する前に卵黄及び卵白を混合することを更に含み、任意選択的に、混合は、約4℃~約25℃で約30分~約24時間、例えば室温で約30分間又は4℃で約12~18時間であり、任意選択的に、混合は反転によるものである。
【0047】
一態様では、方法は、卵黄及び卵白を混合する前又は後に、卵黄から卵黄膜を除去することを更に含む。
【0048】
一態様では、方法は、例えば溶解した卵黄球をアルカリ化及び/又は塩処理することによって、未溶解の卵黄球及び/又は卵黄顆粒を溶解することを更に含む。
【0049】
一態様では、溶解した卵黄球をアルカリ化及び/又は塩処理することは、溶解した卵黄球に、塩基及び/又は塩、例えば強塩基、例えばNaOH(任意選択的に約100mM~約1M)、KOH(任意選択的に約100mM~約1M)、NaSO(任意選択的に約0.05mM~約0.1M)、(NHSO(任意選択的に約0.05mM~約0.5M)、又はそれらの組合わせ、又はNaCl(任意選択的に約0.1M~約0.5M)等を添加することを含む。
【0050】
一態様では、方法は、固形物を除去することを更に含む。
【0051】
一態様では、固形物を除去することは、溶解された卵黄球を、例えば約15,000g~約30,000gで遠心分離し、上清を保持することを含む。
【0052】
一態様では、方法は、例えば、約0.22μm又は0.11μmの孔径等、0.4μm以下の孔径を有するフィルタを使用して卵黄抽出物を滅菌することを更に含む。
【0053】
一態様では、方法は、例えば卵黄抽出物1mL当たり約50~約200μLのグリセロールを添加することによって、卵黄抽出物を清澄化することを更に含む。
【0054】
一態様によれば、本明細書に記載の方法によって製造された卵黄抽出物が提供される。
【0055】
本発明の新規な特徴は、本発明の以下の詳細な説明を検討することによって当業者に明らかになるであろう。しかしながら、本発明の詳細な説明及び提示される特定の例は、本発明の特定の態様を示しているが、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び修正が本発明の詳細な説明及び以下の特許請求の範囲から当業者に明らかになるため、例示目的でのみ提供されることを理解されるべきである。
【0056】
本発明は、図を参照して以下の説明から更に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】MDA-MB-231細胞の細胞培養に使用した場合の卵黄球ペレットの均質化及び優れた増殖効果における超音波処理の結果の図である。A)14K RPMにおける遠心分離後の超音波処理されていない卵黄+卵白(左の管)及び超音波処理された卵黄+卵白(右の管)の目視検査。ペレットは、卵黄球から構成され、これは、卵黄自体の中の主要な細胞型である非常に大きな細胞(直径30~70μm)である。卵黄球は、脂肪酸、タンパク質、アミノ酸、ビタミン、種々の代謝産物及びグルコース等の栄養素に富む脂質顆粒及び卵黄顆粒(両方とも直径2μm未満)を豊富に含む。超音波処理は、A)及びB)のより小さいペレットによって証明されるように、これらの卵黄球の大部分をこじ開ける。棒グラフは、超音波処理によって処理された、又は処理なしの各卵黄の超音波処理及びその後の遠心分離(14K RPM)後に生成された卵黄球ペレットの量を表す(N=3、エラーバーはSEMである)。C)卵黄+卵白を超音波処理なし、ひかえめな超音波処理(3X、各サイクル1分)及び長時間の超音波処理(25X、各サイクル1分)にかけた。本明細書に「完全卵黄抽出物」(Complete Yolk Extract:CYE、卵黄+卵白を採取し、それを超音波処理+化学処理、遠心分離、濾過にかけることを含む)として記載される抽出物を生成する処理の後、各調製物を使用してMDA-MB-231細胞培養のためのDMEMを補充した。細胞を3日間培養し、次いで、その経時的実験の終了時に細胞を計数した。「長期超音波処理」卵黄+卵白調製物では、最も多数の細胞が観察された。この均質化プロセスは、CYE中に存在する栄養素の量を最大にし、C)で最大の細胞増殖効果をもたらした。
図2】正常な培養条件での完全卵黄抽出物(CYE)及びウシ胎児血清(FBS)の比較の図である。MDA-MB-231細胞を、3%又は5%のDMEM及びCYE(卵黄抽出物として標識)又はFBSと共にインビトロで培養した。細胞を播種し、次いで3日間培養した。3日目の終わりに、代表的な画像を取得し(4倍顕微鏡対物レンズ)、次いで、細胞を採取し、計数した。画像は、FBSと比較してCYEで処理した場合により大きく健康的な細胞を明らかにする。FBS処理と比較して、CYE処理でも健康な高密度単層が観察された。棒グラフは、各タイプの増殖補充の増殖効果を明らかにする。特に、3%CYE条件は、3%FBS条件と比較して優れた増殖効果及び5%FBS条件と比較して同等の増殖効果を示した。
図3】様々なCYE/FBS濃度で培養したMDA-MB-231細胞の図である。培養細胞の画像(4倍顕微鏡対物レンズ)は、細胞をDMEM及び指定濃度のニワトリ完全卵黄抽出物(ニワトリ卵黄として標識されている)、アヒル完全卵黄抽出物(アヒル卵黄として標識されている)及びFBSと共に培養した場合に得られた。対照はDMEMのみを表す。3つの異なるアヒル完全卵黄抽出物を調製し、所与の濃度で互いに比較した。全てのCYE又はFBS補充細胞培養条件の大部分は、3日間の実験終了時にコンフルエントに近い細胞単層を生じた。
図4】細胞増殖に対するCYEバッチの一貫性を示す図である。MDA-MB-231細胞を、指定濃度の増殖因子(CYE/FBS)を含むDMEM中で3日間培養した。2つの異なるバッチのCYEをこの実験に使用した。細胞数は、3%条件のFBSと比較して、両方のCYE補充培地でより高かった。2つのCYEバッチ間に存在する細胞の数は同様であり、CYEバッチ間の一貫性を示した。画像(4倍顕微鏡対物レンズ)は、3日以内に完全なコンフルエントに達するCYE(10%)処理細胞の健康な高密度単層を明らかにする。
図5】様々な濃度の完全卵黄抽出物(CYE)を補充したDMEMで培養したDU145細胞を示す図である。特定の条件下(0~10%CYE)で増殖させたDU145細胞の画像を培養3日後に撮影した。全ての増殖条件の細胞は健康であるが、CYE(1%~10%CYE)による任意の処理で最も高いコンフルエントが観察される。
図6】完全卵黄抽出物(CYE)は、PC3培養細胞においてウシ胎児血清(FBS)よりも優れていることを示す図である。PC3細胞を様々な濃度のA)CYE又はB)FBSと共に3日間培養した。C)各培養条件下(0、1、2、5、7.5、10%のCYE又はFBS)で増殖させた細胞の数は、CYEによる増殖の利点を明らかにする。1~2%のCYE増殖補充で最大の差が観察された。
図7】完全卵黄抽出物(CYE)及びウシ胎児血清(FBS)の比較、並びに細胞増殖に対する低濃度でのそれらの効果を示す図である。MDA-MB-231細胞を、1%FBS又は0.6%CYEのいずれかを含むDMEM中で3日間培養した。これらの低増殖因子条件下で3日間の最後に、0.6%CYE条件は、この代表的な視野(4倍顕微鏡対物レンズ)におけるより多くの接着細胞によって証明されるように、1%FBS条件よりも多くの細胞をもたらした。
図8】完全卵黄抽出物(CYE)は、低濃度下で細胞生存性を維持することができることを示す図である。CYEの有効性を明らかにするために、HepG2細胞(上のパネル)及びMDA-MB-231細胞(下のパネル)を、CYEを含まないDMEM(対照0%;パネルの左側)中で培養するか、又は少量のCYE(0.4%)を含むDMEM中で培養した。3日間の増殖後、接着細胞の代表的な画像を取得した(4倍顕微鏡対物レンズ)。HepG2細胞は、0.4%CYEと共に培養した場合、いくらかの増殖利益を受けた。しかしながら、MDA-MB-231細胞は、対照条件(0%CYE)では生存可能ではなかったが、0.4%CYE補充培養条件では生存可能かつ接着性であった。
図9】CYEを用いた長期培養はMDA-MB-231細胞生存性を保持することを示す図である。遠心分離スピードスピン(超音波処理後)及び細胞培養で使用する前の調製物の保存を変えることによって、異なるCYE調製物を生成した。細胞を、5つの異なる3%CYE「prep」(14/7K RPMでの15分間の遠心分離;使用前の一晩のCYE調製物の+4℃/-20℃貯蔵)又は補充なし(0%)で培養した。細胞を、培地を変えずに10日間培養させた。各培養条件の画像を得た(4倍顕微鏡対物レンズ)。棒グラフは、10日間の培養後に存在する細胞の数を表す。3%CYE群は、3%CYEを含む5つの培養条件(100%+4℃;14Kスピン-20℃;14Kスピン+4℃;7Kスピン-20℃;7Kスピン+4℃)の全てを表す。エラーバーはSEMを表す。
図10】完全卵黄抽出物(CYE)はDMEM培地を必要とせず、ハンクス緩衝生理食塩水(HBSS)と交換することができることを示す図である。培地の異なる組合わせ(PBS、DMEM、HBSS)をCYE(3%卵黄抽出物)と共に使用して、MDA-MB-231細胞を2日間培養した。各増殖条件下で細胞の画像を取得した(4倍顕微鏡対物レンズ)。HBSS及びCYEで増殖させた細胞は、DMEM及びCYEで増殖させた細胞と同様に生存可能であると思われた。
図11】MDA-MB-231細胞培養増殖率において、HBSS+5%CYEがDMEM+5%FBSよりも優れていることを示す図である。A)HBSS+5%CYEで増殖させたMDA-MB-231細胞の代表的な画像(4倍顕微鏡対物レンズ)を撮影した。B)DMEM+5%FBSで増殖させたMDA-MB-231細胞の代表的な画像(4倍顕微鏡対物レンズ)を撮影した。C)培養3日後の細胞数は、DMEM+FBSと比較して、HBSS+CYEの組合わせでの増殖率は同等又はそれを超えることを示している。
図12】完全卵黄抽出物(CYE)は細菌汚染を減少させることを示す図である。細胞培養における細菌汚染を阻害する能力についてCYEを試験した。細胞培養物を周囲空気に一晩曝露して、細菌汚染を誘発した(open)。37℃で48時間培養した培地のODを決定し、ODopen/ODclosedの比を様々な群について決定した。補充は、5%FBS又は5%CYEで行った。FBS対応物と比較した場合、比ODopen/ODclosedの減少が、CYE+Pen/Strep群及びCYE単独群(n=3/群)で観察された。
図13】完全卵黄抽出物(CYE)は、低温保存溶液としてDMSOと同程度に有効であることを示す図である。様々な凍結培地/低温保存溶液を試験した。A)DMEMのみ;B)10%DMSO、90%DMEM;C)10%DMSO、90%FBS、D)CYEのみ;E)FBSのみ。A~E)で48時間低温保存した後、MDA-MB-231細胞を解凍し、DMEM+10%FBS中で24時間培養した。各タイプの凍結培地で低温保存した後の生存細胞及び接着細胞の数の代表的な画像を示す。CYEのみの凍結培地は、解凍し、細胞培養培地で満たされたウェルに播種した後、多数の接着細胞及び生存細胞をもたらした。
【発明を実施するための形態】
【0058】
定義
別段の説明がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。分子生物学における一般的な用語の定義は、Benjamin Lewin,Genes V,Oxford University Pressによって発行,1994(ISBN 0-19-854287-9);Kendrew et al.(eds.),The Encyclopedia of Molecular Biology,Blackwell Science Ltd.によって発行,1994(ISBN 0-632-02182-9);及びRobert A.Meyers(ed.),Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference,VCH Publishers,Inc.によって発行,1995(ISBN 1-56081-569-8)に見出され得る。本明細書に記載のものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、典型的な材料及び方法を本明細書に記載する。本発明の説明及び特許請求の範囲において、以下の用語が使用される。
【0059】
本明細書で使用される用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。本明細書では、記載された態様の理解を助けるために、多くの特許出願、特許、及び刊行物が参照され得る。これらの参考文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
本出願の範囲を理解する際に、冠詞「a」、「an」、「the」、及び「said」は、1つ又は複数の要素が存在することを意味することを意図している。更に、本明細書で使用される「含む(comprising)」という用語及びその派生語は、記載された特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又は工程の存在を指定するが、他の記載されていない特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又は工程の存在を排除しないオープンエンドの用語であることを意図している。上記は、「含む(including)」、「有する(having)」という用語及びそれらの派生語等の同様の意味を有する単語にも適用される。
【0061】
特定の構成要素を「含む(comprising)」と記載される任意の態様はまた、「からなる(consist of)」又は「から本質的になる(consist essentially of)」であってもよく、「からなる(consisting of)」は、クローズドエンド又は制限的な意味を有し、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、指定された構成要素を含むが、不純物として存在する材料、構成要素を提供するために使用されるプロセスの結果として存在する不可避の材料、及び本発明の技術的効果を達成すること以外の目的で追加される構成要素を除く他の構成要素を除外することを意味することが理解されるであろう。例えば、「から本質的になる(consisting essentially of)」という語句を使用して定義される組成物は、任意の既知の許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、担体等を包含する。典型的には、一組の構成要素から本質的になる組成物は、5重量又は体積%未満、典型的には3重量%未満、より典型的には1重量%未満、更により典型的には0.1重量%未満の特定されていない構成要素(複数可)を含むであろう。
【0062】
本明細書に含まれると定義される任意の構成要素は、条件又は否定的な限定によって特許請求される発明から明示的に除外され得ることが理解されるであろう。
【0063】
更に、本明細書で与えられる全ての範囲は、明示的に述べられているか否かにかかわらず、範囲の端部及び任意の中間範囲点も含む。
【0064】
本明細書で使用される「実質的に(substantially)」、「約(about)」、及び「およそ(approximately)」等の程度の用語は、最終結果が有意に変化しないように、修飾された用語の妥当な逸脱量を意味する。これらの程度の用語は、この逸脱が修飾する単語の意味を否定しない場合、修飾された用語の少なくとも±5%の逸脱を含むと解釈されるべきである。
【0065】
本明細書に記載の方法及び材料と類似又は同等の方法及び材料を本開示の実施又は試験に使用することができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。略語「例えば(e.g.)」は、ラテン語「exempli gratia」に由来し、非限定的な例を示すために本明細書で使用される。したがって、略語「例えば(e.g.)」は、用語「例えば(for example)」と同義である。「又は」という単語は、文脈が別段明らかに示さない限り、「及び」を含むことを意図している。
【0066】
完全卵黄抽出物(CYE)
細胞培養培地中で、例えばFBSの代替物として使用することができる完全卵黄抽出物(CYE)が本明細書に記載される。本明細書に記載のCYEは、典型的には殻付き卵からの卵白(アルブミン)及び卵黄の均質化混合物を含む。「完全」という用語は、抽出物が卵又は卵黄の全ての構成要素を含むことを必ずしも意味するのではなく、むしろ、抽出物が一般に細胞の生存及び/又は増殖に十分であると考えられる栄養素を含むことを意味することが理解されるであろう。オボアルブミンを含む卵黄及び卵白内に存在する栄養素は、培養細胞の維持に優れている。卵黄は、卵殻内で単独で成長する際に胚によって消費されるタンパク質、アミノ酸、グルコース、脂肪酸、複合脂質、ビタミン、及び様々な代謝産物の豊富な供給源である。卵白中のオボアルブミンは、血液の重要な構成要素であり、FBSに豊富に含まれるアルブミンと(ヒト又はウシにおいて)機能的に類似しており、両方とも細胞培養のためのタンパク質供給源である。卵黄及び卵白を本明細書に記載のように処理する場合、得られた液体を使用して、バイオテクノロジー製品(ワクチン、抗体、生物製剤/薬物)の研究及び/又は製造に必要な細胞を増殖及び/又は拡大させるための細胞培養培地を補充することができる。以下に示されるデータは、本明細書中に記載されるCYEが、態様において、FBSと同等であるか、又は、FBSよりも優れている十分な細胞成長及び細胞増殖の結果を一貫してもたらすことを実証する。
【0067】
CYEの産生は、鳥類の卵(卵白及び卵黄)等の卵の天然の構成要素を処理して、他の増殖因子による追加の補充なしに細胞増殖を支援することができる水性の使いやすい液体製品に到達することを含む。この処理は、アルブミン(卵白)及び卵黄等の卵の重要な構成要素を分離する膜バリアを除去する。本明細書に記載されるように、これらのバリアは、それらに含まれる液体内容物及び栄養素を放出するために物理的及び/又は化学的に除去される。例えば、卵黄膜は、卵黄と卵白とを分離する。卵黄内には、高度に濃縮された量の脂肪、ビタミン、及びタンパク質を含有する卵黄球(直径30~70μm)と呼ばれる大きな細胞が数百万個存在する。対照的に、卵黄球を除く卵黄の液体内容物は、はるかに低い濃度の脂肪、ビタミン、及びタンパク質を含む。また、特定のタンパク質等の他の構成要素には見られない様々な栄養素も含む卵黄顆粒(直径1~5μmの小胞)があり、細胞の生存率及び細胞増殖にも有用である。卵黄顆粒は卵黄内に見出すことができ、直径30~70μmの卵黄球内にも見出すことができる。本明細書に記載のプロセスは、卵黄球及び卵黄顆粒の内容物を放出し、これらの事前に区画化された栄養素の全てを単一の液体抽出物に均質化する。次いで、この単一の液体抽出物は、FBSと同じ方法で使用されるが、典型的には、CYEに存在する栄養素の密度/濃度がはるかに高いため、より低い濃度で使用される。
【0068】
したがって、態様では、遊離卵黄顆粒を含む卵黄抽出物が本明細書に記載される。換言すれば、卵黄抽出物は、卵黄球から放出されるか、又はもはや卵黄球に含まれない卵黄顆粒を含む。態様では、本明細書に記載の卵黄抽出物(CYE)は、卵黄顆粒の液体内容物を含み、及び/又は溶解された卵黄顆粒を含む。他の態様では、本明細書に記載の卵黄抽出物は、卵黄球の液体内容物を含む。いくつかの態様では、卵黄抽出物は、卵黄球及び卵黄顆粒の両方の液体内容物を含み、更に任意選択的に遊離卵黄顆粒及び/又は溶解された卵黄顆粒を含む。
【0069】
態様では、本明細書に記載されるのは、殻付き卵等の卵の液体内容物を含む卵黄抽出物であり、液体内容物は卵黄顆粒を含む。卵黄顆粒は、全体であってもよく、又は溶解されてもよく、あるいは卵黄抽出物中の全体及び溶解された卵黄顆粒の組合わせであってもよい。
【0070】
更なる態様又は代替の態様では、オボアルブミン及び卵白の他のタンパク質構成要素、例えばオボトランスフェリン、リゾチーム、オボアルブミン関連タンパク質X(OVAX)、デフェンシン、オボインヒビター、AvBD11、又はそれらの組合わせを含む卵黄抽出物が本明細書に記載される。細胞培養培地中で同じ濃度で使用した場合、FBSと少なくとも同等の細胞増殖を支援する卵黄抽出物を本明細書中に更に記載する。
【0071】
態様では、本明細書に記載の卵黄抽出物は、均質化された卵黄及び卵白を含む。典型的には、卵及び卵黄は、以下に記載するように一緒に混合され、その後、卵黄球及び/又は卵黄顆粒から栄養素を放出するために均質化され、卵白中の他の栄養素と混合される。これらの栄養素は放出され、液体混合物に組み合わされ、卵黄抽出物を含む培養培地中で増殖する細胞にとってこれらの栄養素をより利用しやすくする。
【0072】
卵黄抽出物は、均質化された卵黄及び卵白を含み得るが、代わりに、均質化された卵黄及び卵白から本質的になってもよく、又は均質化された卵黄及び卵白のみからなってもよいことが理解されるであろう。卵白及び卵黄は、同じ卵又は同じ種の異なる卵又は異なる種の異なる卵に由来し得る。更に、卵白及び卵黄を異なる比率で複数の卵からプールしてもよい。例えば、1~10個の卵黄ごとに1つの卵白又は1~10個の卵白ごとに1つの卵黄が含まれてもよい。
【0073】
本明細書に記載の卵黄抽出物は、卵生種、例えば鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、軟体動物、クモ類、又はそれらの任意の組合わせのいずれか1つ又は組合わせに由来し得る。典型的には、卵黄抽出物は鳥類であり、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジ、ダチョウ、エミュー、又はそれらの任意の組合わせに由来する。典型的には、本明細書に記載の卵黄抽出物は、ニワトリ、アヒル、又はウズラに由来する。
【0074】
典型的には、本明細書に記載の卵黄抽出物は液体であるが、乾燥(例えば、凍結乾燥又は噴霧乾燥)形態等の他の形態で提供されてもよい。
【0075】
卵黄抽出物を含む細胞培養培地のための補助物質も本明細書に記載される。補助物質は、卵黄抽出物から本質的になっていてもよく、又は卵黄抽出物のみからなっていてもよい。本明細書に記載の卵黄抽出物は、哺乳動物細胞、鳥類細胞、酵母細胞、細菌細胞等の細胞の増殖及び/又は生存を支援するのに十分な栄養素を提供するという点で「完全」であると見なされることが理解されるであろう。
【0076】
典型的な態様では、卵黄抽出補助物質は、培養培地に添加される前に希釈されない。例えば、本明細書に記載の卵黄抽出物は、PBS等の実質的な量の生理食塩水と混合されない。このような希釈されていない卵黄抽出物は、例えば、完全な強度であると記載され得る。
【0077】
上記の卵黄抽出物又は補助物質を含む細胞培養のための培地も本明細書に記載される。本明細書では、任意の培地が企図される。例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI培地、CMRL1066、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、L-15培地、DMEM-F12、EpiLife(登録商標)培地、及び培地171が挙げられる。典型的には、培地は、DMEM又はHBSS等の緩衝生理食塩水である。
【0078】
細胞培養培地は、任意の適切な量の補助物質又は抽出物を含有し得る。例えば、培地は、約1%~約10%v/vの抽出物又は補助物質、例えば約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、又は約10%の抽出物又は補助物質を含み得る。
【0079】
本明細書に記載の抽出物及び補助物質は、FBS又はNCS等の一般的に使用される補助物質の適切な代替物である。したがって、態様では、本明細書に記載の細胞培養培地はFBS及び/又はNCSを含有しない。態様では、本明細書に記載の細胞培養培地は無血清である。態様における細胞培養培地はFBS及び/又はNCSを含み得、細胞培養培地中に通常存在する他の成分が本明細書に記載の培地に含まれ得ることが理解されるであろう。例えば、抗生物質が含まれ得る。
【0080】
本明細書に記載の細胞培養培地は、任意の目的に使用され得る。例えば、培地は、増殖培地又は凍結培地、例えばDMSOを含まない凍結培地であり得る。DMSOを含む従来の凍結培地では、DMSOは細胞傷害性であるため、解凍プロセス中に細胞損失があることが多い。細胞は、生存を確実にするために迅速かつ慎重に解凍する必要がある。DMSOが存在しないか又は減少した濃度である、本明細書に記載の抽出物又は補助物質を含む凍結培地は、典型的には、DMSO等の従来の凍結培地を使用する場合よりも細胞損失のより少ない、より容易な解凍プロセスをもたらす。
【0081】
特定の態様では、細胞培養培地は、初代細胞株、例えば食品消費用の初代細胞株、例えば初代ウシ骨格筋細胞を培養するためのものである。本明細書に記載の細胞培養培地は、例えば、実験室で成長させた肉の培養に特定の用途を見出すことができることが理解されるであろう。典型的には、実験室で成長させた牛肉を成長させるために、使用される培養培地にFBSを補充する必要があり、これはもちろんのことウシ胎児由来である。これは、実験室で成長させた牛肉が依然としてウシ家畜産業に大きく依存していることを意味する。生きているウシに頼ることなく実験室で成長した肉の成長を支援することができる細胞培養培地を使用することは、本明細書に記載の細胞培養培地、補助物質、及び抽出物の明らかな利点である。
【0082】
他の態様では、本明細書に記載の細胞培養培地は、バイオテクノロジー用途で、酵母細胞、細菌細胞、又は哺乳動物細胞、例えばハイブリドーマ細胞等の細胞を培養することにおける用途を見出す。例えば、大量商業規模での抗体産生のために、本明細書に記載の細胞培養培地、補助物質、及び抽出物の使用から利益を得ることができる。本明細書に記載の抽出物、補助物質又は培地を用いてハイブリドーマ細胞株を培養することにより、汚染ウシIgG/IgMタンパク質を単離するリスクなしにIgG/IgM抗体の大量生産が可能になるであろう。そのような夾雑タンパク質(例えば、ウシIgG)はFBSに豊富であるが、卵黄抽出物には存在しない。卵黄抽出物中に見出されるIgYタンパク質は、典型的には、薬物/抗体精製中に単離されず、したがって、薬物/抗体産生を加速及び/又は単純化する。
【0083】
方法
卵黄抽出物を作製する方法も本明細書に記載される。典型的には、方法は卵黄球を溶解することを含む。卵黄球は、任意の既知の方法によって、例えば卵黄球を超音波処理及び/又は均質化することによって、例えば高圧均質化によって溶解又はこじ開けられてもよい。超音波処理が使用される場合、例えば、約25mLが超音波処理される場合、それは典型的には約75W以上で約15~約20秒/サイクル、約25~約30サイクルである。当業者は、これらの超音波処理条件は異なる体積に対して変更され得ることを理解するであろう。
【0084】
卵黄球は他の卵構成要素なしで処理することができるが、典型的には、卵黄球は、卵黄及び/又は卵白の液体内容物等の他の卵構成要素を含む組成物中にある。典型的には、方法は、卵黄及び卵白を混合し、次いで、例えば混合物を超音波処理することによって卵黄球を溶解することを含む。卵白及び卵黄はどのような方法で混合してもよいが、典型的にはインバータを用いる。混合は、典型的には、約4℃~約25℃において約30分~約24時間の期間である。典型的には、より長い混合期間が約4℃で行われることが理解されるであろう。例えば、混合は、室温で約30分間又は4℃で約12~18時間であってもよい。
【0085】
態様では、方法は、卵黄及び卵白を混合する前又は後に、卵黄から卵黄膜を除去することを含む。
【0086】
卵黄球の溶解は、上記の超音波処理等の溶解工程の前、後、及び/又はその間に、溶解した卵黄球をアルカリ化及び/又は塩処理することによって改善することができる。典型的には、溶解した卵黄球をアルカリ化及び/又は塩処理することは、溶解した卵黄球に、塩基及び/又は塩、例えば強塩基、例えばNaOH(任意選択的に約100mM~約1M)、KOH(任意選択的に約100mM~約1M)、Na2SO4(任意選択的に約0.05mM~約0.1M)、(NH4)2SO4(任意選択的に約0.05mM~約0.5M)、又はそれらの組合わせ、又はNaCl(任意選択的に約0.1M~約0.5M)を添加することを含む。
【0087】
溶解が所望のレベルまで完了したら、固形物を組成物から除去し、液体内容物を残すことができる。典型的には、溶解した卵黄球を例えば約15,000g~約30,000gで遠心分離し、上清を保持することによって、固形物を除去する。上清は、この段階で卵黄抽出物細胞培養補助物質として使用することができ、又は最初に滅菌されてもよく、例えば、典型的には0.22μmの孔径を有するフィルタを使用して濾過滅菌されてもよい。
【0088】
必要に応じて、1mLの卵黄抽出物当たり約50~約200μLの任意選択的に滅菌されたグリセロールを添加することによって、卵黄抽出物を清澄化又はより透明にすることができる。
【0089】
一旦調製されると、卵黄抽出物は、所望されるように、典型的には、本明細書中に記載されるような細胞培養補助物質として使用され得る。
【0090】
更なる説明がなければ、当業者は、前述の説明及び以下の例示的な例を使用して、本発明の化合物を作製及び利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の例は、本発明の典型的な態様を具体的に指摘しており、本開示の残りの部分において決して限定するものと解釈されるべきではない。
【0091】

例1:完全卵黄抽出物(CYE)の調製
本明細書に記載のCYEは、典型的には、一般に以下に概説されるように処理された全卵黄及び卵白から構成される。得られた液体生成物は、FBSの代わりに細胞培養補助物質として使用される際、同じ濃度又はそれより低い濃度で比較した場合、FBSよりも優れた態様の細胞成長及び増殖率を生じる。CYE製品はまた、PBSによる希釈を必要とせず、PBSは、増殖補助物質を添加するときの希釈効果を低下させるため、これは重要である。CYEを調製するための一般的な処理工程は以下の通りである。
1.割れた卵から卵白(アルブミン)及び卵黄の両方を得る。
2.卵黄から卵黄膜を除去し、次いで卵白及び卵黄を合わせる。
3.より良好な結果を得るために、卵白+卵黄混合物を室温で30分間又は代替的に4℃で一晩混合する。
4.卵白+卵黄混合物を75ワット超で15~20秒間(1サイクル)、25~30サイクルで超音波処理する。超音波処理中に混合物を冷却することは、混合物の過熱を低減するのに役立つ。
5.10μLの1MのNaOHを添加して、未溶解卵黄球及び卵黄球(直径30~70μm)内に存在する卵黄顆粒(直径1~5μm)のどれかを更に溶解する。
6.室温で15分間、30,000gの14K rpmで、この混合物を遠心分離する。得られたペレットは、超音波処理されていないペレットよりも著しく小さい。
7.上清を確保し、0.22μmの細孔フィルタで濾過滅菌する。
8.滅菌グリセロール(100%ストック、濾過上清1mLにつき10~200μL)を添加する
9.この濾過された上清は「完全卵黄抽出物」又はCYEであり、FBSが使用されるのと同じ使用又は方法で細胞培養補助物質として使用することができる。
【0092】
例2:完全卵黄抽出物(CYE)の試験
第1の実験では、本発明者等は、卵黄球及びそれらの顆粒内に収容された栄養素を遊離させるために、卵混合物(卵白+卵黄)を超音波処理することの重要性を実証した。図1Aにおいて、卵混合物の超音波処理は、卵黄球の溶解をもたらし、超音波処理しなかった卵混合物と比較して、遠心分離後により小さいペレットを生じた(上記工程#6)。これらのペレットを秤量し、図1Bに示す。上清を濾過し、MDA-MB-231細胞の細胞培養に使用した場合、その細胞増殖実験の結果を図1Cに示す。本発明者等は、完全卵黄抽出物/CYE(長い超音波処理、右のバー)、及び軽度の超音波処理による卵黄抽出物(中央のバー)のインキュベーション後に細胞数の有意な増加を観察した。対照的に、超音波処理を受けなかった卵黄抽出物(左のバー)は、同じ時間枠にわたって最低数の細胞増殖をもたらした。したがって、本発明者等は、この完全な卵黄抽出物(CYE)で処理すると、卵黄球中に存在する栄養素の遊離がより大きな細胞増殖をもたらすことを決定した。超音波処理の欠如は、細胞の成長及び増殖について有益ではなかった卵黄抽出物をもたらした。
【0093】
第2の実験では、本発明者等は、3日間の時間枠にわたってMDA-MB-231細胞を培養するために使用した場合のCYE対FBSの増殖効果を比較した。3%CYEの使用は、3%FBSと比較して有意に高い細胞増殖率をもたらした(図2の棒グラフ)。CYEを供給された細胞はまた、プレートが完全なコンフルエントに達したときに細胞単層を形成した場合、形態に関してより健康的であり、より健康的であるように見えた(図2の画像の上部パネル)。このhead to head実験は、CYEが、FBSと比較した場合、より低い濃度で優れた増殖効果を有することを実証した。本発明者等の知る限り、これは別の種類の「卵黄抽出物」によって以前に実証されていない。
【0094】
第3の実験では、ニワトリ由来のもの及びアヒル由来のものである、2つの異なるタイプの卵を調べた。これらの実験(図3)から、本発明者等は、両方のタイプの卵が、MDA-MB-231細胞培養物に対して優れた増殖効果を導くCYEをもたらすことを示した。本発明者等はまた、これらの細胞が細胞単層を形成する場合、より低いコンフルエント又は高いコンフルエントのいずれかでより健康的であるように見えることを示す。本発明者等はまた、細胞を増殖因子補充なしで培養した場合、細胞増殖が最小/減少することを見出した(図3の対照画像)。これは、この細胞株に対する増殖因子補充の必要性を強調するため、非常に重要な陰性対照である。
【0095】
(アヒル卵由来の)CYEのバッチ間の一貫性を実証するために、本発明者等は、バッチ#1、バッチ#2(両方ともCYE)及びFBSで処理した場合に、同じ時間枠にわたって成長/増殖した細胞の数をカウントした(図3と同じデータ)。同じ3%及び5%濃度をCYEバッチ及びFBSに使用した。図4に示すように、成長/増殖率は、3%及び5%でFBSよりも有意に高く、CYEバッチ#1と#2との間に大きな差は観察されない。10%CYEの左側の画像は、図3で使用された同じ代表的な画像である。
【0096】
DU145細胞は、浸潤性前立腺腺癌を表す細胞株であり、アンドロゲン非感受性である(増殖のためにテストステロンを必要としない)。この細胞株を様々な濃度のCYE(0、1、2、5、7.5、10%CYE)と共に培養したところ、3日間にわたる優れた急速な増殖が明らかになった(図5)。増殖因子を補充せずに培養した場合(0%)、増殖因子を必要とせずに生存可能なままであるため、この細胞株を使用した。
【0097】
別の前立腺癌細胞株PC-3も使用し、CYEを様々な濃度でFBSと比較した。図6Aでは、1%FBS当量と比較して、1%CYE濃度でより多くのPC-3細胞が存在した(図6B)。3日間の増殖後、図6A~Bの右側の画像パネルに示すように、3%を超えるCYE/FBSによる処理は、ほぼ完全なコンフルエントをもたらした。図6Cでは、CYEは、対照(0%)を除いてFBSと比較して、使用した全ての濃度でより多数のPC-3細胞を示した。したがって、CYEは、PC-3細胞に使用される様々な濃度の増殖因子補充での細胞増殖に関してFBSよりも優れている。
【0098】
多くの実験室は、より低濃度の増殖因子補助物質で細胞を培養することを試みており、10%FBSの代わりに5%FBSを使用する実験がますます増えている。低濃度でのCYEの有効性を実証するために、MDA-MB-231細胞を0.4%CYE又は1%FBS中で培養した。これらの画像は、より低濃度のCYEが1%FBSよりも多くの細胞増殖をもたらしたことを明らかにする(図7)。これらの結果は、CYEが低増殖因子条件で細胞を培養するために使用することができ、FBSよりも優れていることを示唆している。
【0099】
この低増殖因子条件が他の細胞株に適用されることを実証するために、本発明者等は、対照としてMDA-MB-231細胞を用いてHepG2細胞で同じ実験を行った(図8)。陽性細胞増殖効果は、対照(0%)と比較して、低濃度のCYE(0.4%)でも観察された。CYEの非存在下(0%)で培養したMDA-MB-231細胞は、3日間の培養後にごく僅かな細胞生存率を有し、0.4%CYEで生存細胞が存在した。
【0100】
細胞培養培地を10~11日間変更しないMDA-MB-231細胞の長期培養を行った。この実験では、対照処理細胞(0%CYE)は、エンドポイントでごく僅かな生細胞をもたらした。しかしながら、3%で使用された様々な異なるCYE調製物(14K/7K rpmの間の遠心分離速度、4/-20℃での一晩の貯蔵)は全て、エンドポイントにおいて有意により高い生存細胞の存在をもたらした(図9)。これらの結果は、CYEが細胞の長期培養を提供することができることを示唆している。
【0101】
グルコース及びアミノ酸がCYE内に存在するため、DMEMをPBS(生理食塩水)及びハンクス緩衝生理食塩水等の代替培地で置き換えた実験を行った。これらの培地代替物は、アミノ酸及び他の重要な代謝産物を欠いているが、CYEが有効であれば、より経済的な解決策であり得る。図10において、本発明者等は、CYEが、DMEM及びPBSと比較して、HBSSとの培養で3日後にMDA-MD-231細胞の優れた増殖条件を提供し得ることを実証する(図10A)。グラフで示すと、HBSS培地は、実際には、3日間の時間枠にわたって細胞増殖を促進する点でDMEMよりも有効であった。
【0102】
HBSS及びCYEを使用した優れた製剤と比較して、MDA-MB-231細胞を通常培養するために使用される従来の培地を用いて、head-to-head比較を行った。従来の培地は、HBSS+5%CYEである本発明者等の製剤に対してDMEM+5%FBSであった。図11Aでは、HBSS+5%CYEと共に培養した細胞は、細胞のほぼコンフルエントな単層を示した。図11Bでは、DMEM+5%FBSもまた、細胞のほぼコンフルエントな単層をもたらす。増殖の3日後に細胞を計数した場合、HBSS+5%CYE培養培地は、HBSS+5%FBSよりも高い増殖率をもたらした(図11C)。これは、CYEが、FBSによって補充される従来の培地と同様又はより高い増殖効果をもたらすことができることを示唆している。
【0103】
卵白は抗殺菌性を有する様々なタンパク質を含むことが知られており、そのため卵が汚染されることはほとんどない。培養培地を満たしたプレートを周囲空気に一晩曝露することによって、CYEにおける卵白の包含及びその抗殺菌特性を試験した(図12)。DMEM+5%FBS培養培地は、Pen/Strepの存在にかかわらず等しく汚染された(左端の2つの棒)。しかしながら、DMEM+5%CYEの使用は、細菌負荷量の有意な減少を明らかにした(それぞれの対照と比較して減少したOD;右端の2つのバー)。これは、この濃度(5%)のCYEが培養培地中の細菌汚染の減少をもたらし得ることを示唆する。
【0104】
CYE内に存在するタンパク質及び脂質の量が多いため、DMSO等の凍結培地溶液として作用できるかどうかを調べるために試験した。DMSOは有効な凍結培地であるが、解凍すると、DMSOの存在により細胞は最終的に死滅する。図13では、CYEをDMSO及びFBS凍結培地と比較した。予測されたように、DMEM単独の使用は、解凍時に細胞生存率が不良であった(画像の最上段)。また、DMEM+DMSO(10%)の使用は、予想通り解凍時に非常に高い細胞生存率をもたらした(画像の上から2番目の行)。FBS+DMSO(10%)の使用も有効であり、解凍後に十分なレベルの細胞生存率をもたらした(画像の中段)。しかし、CYEのみ(DMSOなし、画像の第4行)が解凍後に高い細胞生存率をもたらし、細胞は接着性であるように見えた。対照的に、FBSのみが解凍後に高い細胞生存率をもたらさず、DMEM単独と同程度に劣っていた(画像の最下段)。これらの結果は、CYE単独を凍結培地として使用することができ、長期培養条件下で細胞に毒性であり得るDMSO(10%)の必要性を排除することを示す。
【0105】
結論
本明細書に記載の完全卵黄抽出物(CYE)は、哺乳動物細胞の培養物中のFBSの適切な代替物である液体製品である。これは、卵白(アルブミン)及び卵黄ホモジネートから構成され、超音波処理、高圧均質化、及び卵混合物への微量の強塩基の添加等の方法工程を使用して作製される。この製造プロセスには希釈工程は含まれない。このプロセスを使用することにより、CYEを目詰まりすることなく適切に濾過することができ、これは製品の無菌性及び補充された細胞培養培地の透明性にとって重要である。性能の点では、同じ体積の使用されたFBSと比較した場合、細胞増殖率の点で優れている。更に、それは、通常DMEM培地レシピの一部であるアミノ酸、グルコース、ビタミン及び他のタンパク質を豊富に含むため、DMEMを置き換えるためにも使用することができる。このようにして、必要とされるのは、目的の任意の細胞を培養するために1~5%CYEを補充したHBSS(ハンクス緩衝生理食塩水)等の緩衝生理食塩水だけである。これはまた、DMEM又はRPMI等の予め作製された専用培地を使用する必要性を排除する。
【0106】
上記の開示は、本発明を一般的に説明している。本明細書では特定の用語が使用されているが、そのような用語は説明的な意味で意図されており、限定を目的とするものではない。
【0107】
上記の全ての刊行物、特許及び特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許又は特許出願がその全体が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0108】
本発明の好ましい実施形態を本明細書で詳細に説明したが、本発明の趣旨又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく変形が可能であることは当業者には理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12
図13
【国際調査報告】