(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】粗メタノールの精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/10 20060101AFI20230713BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20230713BHJP
C07C 29/80 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C07C29/10
C07C31/04
C07C29/80
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580869
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 FI2021050464
(87)【国際公開番号】W WO2022003237
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520102646
【氏名又は名称】アンドリッツ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルソン、ヨハン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006AD11
(57)【要約】
本開示は、化学的パルプ化得られた粗メタノールを精製する方法を提供し、重油を粗メタノールと混合して沈殿を防止し、メタノール混合物を蒸留又は蒸発させてメタノールを回収する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹の化学的パルプ化からの粗メタノール副流から得られる重油であって、
前記粗メタノール副流を酸性水溶液と混合し、加熱して低沸点硫黄化合物を蒸発させ、酸性化された粗メタノールを提供することを含む酸性化工程と、
前記酸性化された粗メタノールから、液体上部相、液体水性中間相、及び液体底相を分離することを含む分離工程と、
20℃で約1010kg/m
3の密度を有する重油として前記液体底相を回収することと、
を含む方法によって製造される、重油。
【請求項2】
前記重油が、前記粗メタノール副流と比較して有機硫黄化合物が豊富である、請求項1に記載の重油。
【請求項3】
GC/MSによって分析される少なくとも20%の硫黄化合物、好ましくはGC/MSによって分析される30%を超える硫黄化合物を含む、請求項1又は2に記載の重油。
【請求項4】
重油の製造方法であって、
広葉樹のパルプ化からの粗メタノール流を提供することと、
前記粗メタノール副流を酸性水溶液と混合し、加熱して低沸点硫黄化合物を蒸発させ、酸性化された粗メタノールを提供することを含む酸性化工程と、
前記酸性化された粗メタノールから、液体上部相、液体水性中間相、及び液体底相を分離することを含む分離工程と、
20℃で約1010kg/m
3の密度を有する重油として前記底相を回収することと、
を含む方法。
【請求項5】
前記粗メタノール副流が、GC/MSによって分析される50%未満のテルペン及び20%未満の硫黄化合物、好ましくはGC/MSによって分析される45%未満のテルペン及び15%未満の硫黄化合物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
化学的パルプ化で得られた粗メタノールの精製方法であって、
-化学的パルプ化の副生成物として得られた粗メタノールを提供することと、
-粗メタノールを酸性水溶液で酸性化して、酸性化されたメタノールを提供することと、
-請求項1から3のいずれか一項に記載の重油を酸性化されたメタノールと混合して、メタノール混合物を提供することと、
-メタノール混合物を蒸留又は蒸発させて、メタノールを回収することと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記粗メタノールが、メタノール、木材抽出物、硫黄化合物、及び場合により窒素化合物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粗メタノールが、針葉樹、広葉樹又はそれらの混合物の化学的パルプ化から得られる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記メタノール混合物が、一相溶液、分散液又は二相混合物である、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記メタノール混合物が、液体上部相及び液体底相を有する二相系であり、前記底相が硫酸アンモニウムを含み、前記底相が蒸留又は蒸発の前に少なくとも部分的に除去される、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記粗メタノールが、蒸留又は蒸発させる前に7未満のpH値に酸性化される、請求項6から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記重油が、蒸留又は蒸発の前に前記粗メタノールに添加される、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記重油が、前記メタノール混合物の総質量に基づいて、0.0001~5質量%、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.001~4質量%、最も好ましくは0.001~1質量%の範囲から選択される量で添加される、請求項6から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、工業プロセスで得られた粗メタノールの精製に関する。本開示は、特に、限定するものではないが、化学的パルプ化で得られた粗メタノールを精製する方法、並びにそのような粗メタノールから得られた成分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
このセクションは、最新技術を表す本明細書に記載された技術を承認することなく、有用な背景情報を示す。
【0003】
リグニンがアルカリ中で加水分解されると、硫酸塩蒸解中にメタノールが形成される。硫化物及び硫化水素イオンがリグニンと反応すると、メタノールに加えて、蒸解によりメチルメルカプタン、ジメチルスルフィド及びジメチルジスルフィドなどの有機硫黄化合物も生成される。
【0004】
蒸解中、大量のメタノールは最終的に黒液になり、メタノールは非常に揮発性であるため、水と共に蒸発器汚染凝縮物に蒸発して、粗メタノールとして回収される。粗メタノールは、消化槽の排出ガスの凝縮物などの他のパルプ化プロセスのポイントからも回収される。汚染凝縮物は、凝縮物からメタノールをストリッピングすることによって汚染凝縮物ストリッパで処理することができ、その後、メタノールは、粗メタノールの含水量を減少させるメタノールカラム内の粗メタノールとしてストリッパ排出ガスから液化することができる。
【0005】
汚染凝縮物はまた、低沸点であるH2S、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドのような揮発性硫黄化合物を含むが、他の低揮発性硫黄化合物も含む。これらは、ストリッパで処理すると粗メタノールになる。トウヒ又はマツを消化している間に針葉樹パルプ化中にメタノールが回収される場合、粗メタノールは上記硫黄化合物と共にテレビン油及びアンモニアを含有する。
【0006】
針葉樹の化学的パルプ化で得られる粗メタノールは、不純物の複合混合物を含むため、使用前に不純物を除去する必要がある。粗メタノール中に存在する針葉樹テレビン油の溶解度は、酸性化及び希釈後に減少し、デカンテーションによって別個の相を分離することができる。より重い底相を酸性化後に回収することができるが、メタノール及びテレビン油は上の相に残る。一部のテレビン油は、粗メタノールに溶解又は混入したままである可能性がある。テレビン油は、抽出カラム内の粗メタノールから除去することができる。
【0007】
硫黄化合物及び他の化合物からメタノールを精製するいくつかのプロセスが記載されている。例えば、FI52710は、メタノールを酸で処理して塩を沈殿させ、H2S、メチルメルカプタン、及びジメチルスルフィドなどの揮発性硫黄化合物をより軽質の画分として除去するが、メタノールはより重質の底部画分に残るプロセスを記載している。更に、残りの硫黄化合物を酸化剤で処理して、それらをより揮発性にし、蒸留により分離しやすくする。
【0008】
メタノール精製のための別のプロセスは、Metso Power ABによって米国特許第8,440,159号に提示されており、アンモニウムは硫酸によって酸性化され、形成された塩は水で希釈することによって沈殿点未満で可溶性に保たれる。酸性化後、メタノールを蒸発させ、FI52710に記載のように処理する。
【0009】
Andritz Oyによる国際公開第2015/053704号は、粗メタノールを最初に酸性化してH2S、メチルメルカプタン、及びジメチルスルフィドを蒸発させるプロセスを記載している。その後、粗メタノールを非極性有機溶媒で洗浄して、メタノールを更に精製する。最後に、洗浄したメタノール中の水、アセトン及びエタノールを蒸留により減少させる。
【0010】
針葉樹パルプ化からの粗メタノール流の精製における問題は、粗メタノールの酸性化工程で形成された沈殿物も、酸性化された粗メタノールに曝された機器表面に付着して増大することである。そのような沈殿物がプロセス条件中に形成される場合、除去する必要があり、それによって望ましくない妨害及びプロセス中断を引き起こす。
【0011】
本発明は、針葉樹のクラフトパルプ化において、副生成物として得られた粗メタノールを精製する際の沈殿防止方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0012】
添付の特許請求の範囲は、保護の範囲を規定する。特許請求の範囲によってカバーされない説明及び/又は図面における装置、生成物及び/又は方法の任意の例及び技術的説明は、本発明の実施形態としてではなく、本発明を理解するために有用な背景技術又は例として提示される。
【0013】
第1の例示的な態様によれば、広葉樹の化学的パルプ化からの粗メタノール副流から得られる重油が提供され、重油は、
粗メタノール副流を酸性水溶液と混合し、加熱して低沸点硫黄化合物を蒸発させ、酸性化された粗メタノールを提供することを含む酸性化工程と、
酸性化された粗メタノールから、液体上部相、液体水性中間相、及び液体底相を分離することを含む分離工程と、
20℃で約1010kg/m3の密度を有する重油として液体底相を回収することと、を含む方法によって製造される。
【0014】
第2の例示的な態様によれば、重油の製造方法が提供され、
広葉樹のパルプ化からの粗メタノール流を提供することと、
粗メタノール副流を酸性水溶液と混合し、加熱して低沸点硫黄化合物を蒸発させ、酸性化された粗メタノールを提供することを含む酸性化工程と、
酸性化された粗メタノールから、液体上部相、液体水性中間相、及び液体底相を分離することを含む分離工程と、
20℃で約1010kg/m3の密度を有する重油として底相を回収することと、を含む。
【0015】
第2の態様の方法の一実施形態では、方法は、第1の態様の重油を製造するためのものである。この方法を
図2に示す。
【0016】
第3の例示的な態様によれば、化学的パルプ化で得られた粗メタノールの精製方法が提供され、方法は、
-化学的パルプ化の副生成物として得られた粗メタノールを提供することと、
-粗メタノールを酸性水溶液で酸性化して、酸性化されたメタノールを提供することと、
-重油を酸性化されたメタノールと混合して、メタノール混合物を提供することと、
-メタノール混合物を蒸留又は蒸発させて、メタノールを回収することと、を含む。
【0017】
第3の態様の一実施形態では、粗メタノールは、針葉樹の化学的パルプ化から得られる。粗メタノールの精製方法を
図3に示す。
【0018】
別の態様では、化学的パルプ化で得られた粗メタノールの精製における重油の使用が提供される。
【0019】
いくつかの例示的な実施形態が、添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】重油を製造するためのシステムの実施形態を示す図である。
【
図3】本方法の一実施形態による粗メタノールの精製方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明において、同様の参照符号は、同様の要素又は工程を示す。
【0022】
針葉樹又は広葉樹を化学的パルプ化で処理する場合、得られた粗メタノール又は粗メタノール流を、粗メタノールを酸性化することによって処理することができる。場合により、粗メタノール流を水で希釈することもできる。化学的パルプ化プロセスから得られる粗メタノールの化学組成は、パルプ化に使用される木材の種類及び処理パラメータに応じて変化する。したがって、針葉樹パルプ化で得られた粗メタノール流成分は、広葉樹パルプ化で得られた粗メタノール流成分と比較して、酸性化工程及び任意の希釈工程において異なる特性を有し、異なる様式で挙動する可能性がある。
【0023】
重油の製造
驚くべきことに、針葉樹パルプ化から得られた粗メタノールに溶解した成分は、酸性化後に固体沈殿物を形成する傾向があり、広葉樹パルプ化からの粗メタノール流から本方法で得られた重油を使用することによってこの沈殿物を防止できることが見出された。
【0024】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、回収された重油に見られる成分が広葉樹パルプ化プロセス中に形成され、酸性化及び/又は加熱工程中にいくらかの化学変換が更に起こり得ると仮定される。パルプ化プロセスの黒液蒸発工程の間、重油成分はメタノールに追従し、精製プロセスの間、酸性化により分離されて別個の相になり、回収される。
【0025】
重油の例としては、広葉樹油、カバノキ油、ユーカリ油、任意の割合の当該油の混合物、並びに当該油及び混合物から分離することができる成分が挙げられる。また、重油の例としては、酸性化又は加熱(蒸留及び蒸発)中に合成された油又は化合物、及び蒸解プロセス中に生成された硫黄化合物が挙げられる。
【0026】
重油組成物という用語は、任意の量の重油又はその成分を含む組成物を意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」、及び「包含する(comprehending)」のより広い意味、並びに「からなる(consisting of)」及び「のみからなる(consisting only of)」というより狭い表現を含む。
【0028】
重油の一例であるカバノキ油は、2~4個の硫黄原子を有する脂肪族又は環状硫黄化合物を含むことができ、50~200の範囲の分子量を有することができる。
【0029】
一実施形態では、粗メタノール流は、針葉樹の化学的パルプ化からの副流である。
【0030】
粗メタノール流は、連続プロセスで生成される流れなどの粗メタノールの流れを意味する。
【0031】
一実施形態では、粗メタノールを酸と混合すると塩溶液が形成される。アンモニウム塩などの塩は、当技術分野で公知の方法、例えば沈降によって除去することができる。
【0032】
一実施形態では、重油は20℃で約1010kg/m3の密度を有する。
【0033】
本プロセスで重油を回収する場合、回収時の温度は50~80℃である。
【0034】
一実施形態では、粗メタノールは、20℃で約800kg/m3の密度を有する。
【0035】
一実施形態では、重油は、粗メタノール副流と比較して有機硫黄化合物が豊富である。
【0036】
また、重油の例としては、酸性化、加熱、蒸留及び/又は蒸発中に、カバノキ油などの重油から合成される油又は化合物が挙げられる。
【0037】
テルペンの量は、針葉樹の蒸解では増加するが、広葉樹の蒸解ではその量は少ない。通常、化学的パルプ化では、広葉樹と針葉樹の両方のキャンペーンが行われ、その結果、これらのキャンペーンで生成されたメタノール流などの流れを混合することができる。したがって、例えば広葉樹メタノール流又は重油の組成を分析する場合、分析結果は、針葉樹を用いた以前のキャンペーンで形成された成分を明らかにすることができる。しかしながら、広葉樹の蒸解からの重油又は粗メタノール中の典型的な針葉樹のテレビン油成分の量の少ないことは、そのような成分の量が針葉樹のテレビン油中ではるかに多いことを示している。例えば、テルペンの量は、重油の方が少ない。
【0038】
特に、セスキテルペンの量は、本プロセスに従って重油を製造する場合に増加する。
【0039】
GC/MS分析は、広葉樹粗メタノール(Niemela 2020)からの最近の重油について記載されているように実行することができる。MS同定のために、市販のMSデータベースを、NIST Chemistry WebBook(https://webbook.nist.gov)を含む以前の研究及び公開された供給源からのスペクトルの広範なコレクションと共に使用することができる。特定の化合物の同定を支援するために、文献からの更なるMSデータ検索を行うことができる。比較のために、いくつかの以前のメタノール分析からの多数のMSデータファイルをチェックすることができる。重油の化学分析及び針葉樹のテレビン油との比較の結果を表1に示す。
【0040】
当業者が理解するように、本重油組成物は、そのいくつかが揮発性又は分解しやすい数百の異なる化合物を含有し得るので、その正確な化学組成を特徴とするのは実際的ではない。代わりに、本開示は、その製造方法を参照することによって重油を特徴付ける。追加の化学的及び物理的パラメータもまた、重油を特徴付け、例えば針葉樹のテレビン油及び粗メタノール流と区別するために使用される。例えば、粗メタノール流又は針葉樹のテレビン油と比較した、重油の特定の成分の有無又は濃度の変化は、本重油の固有の特徴である化学的特性として役立つ。当業者は、重油又は別の物質におけるそのような特徴の有無を容易に決定することができる。
【0041】
一実施形態では、重油は、粗メタノールと比較して、α-ピネン、β-ピネン、窒素化合物、並びに硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも1つが低減される。
【0042】
一実施形態では、重油は、GC/MSによって分析される少なくとも20%の硫黄化合物、好ましくはGC/MSによって分析される30%を超える硫黄化合物を含む。
【0043】
一実施形態では、重油は、GC/MSによって分析される65%未満のテルペン及び少なくとも40%の硫黄化合物、好ましくはGC/MSによって分析される1~10%のテルペン及び40~50%の硫黄化合物を含む。
【0044】
一実施形態では、重油は、GC/MSによって分析される1~3.5%、好ましくは1.5~2.5%、最も好ましくは約1.8%のβ-ピネンを含む。
【0045】
一実施形態では、重油は、広葉樹パルプ化で得られた粗メタノールから得られる油を含む。
【0046】
一実施形態では、重油は、広葉樹パルプ化及び針葉樹パルプ化からの粗メタノールの混合物から製造される。好ましくは、混合物は主に広葉樹パルプ化からの粗メタノールを含む。しかしながら、この混合物中の針葉樹パルプ化からの粗メタノールは、本プロセスがこのような混合物から重油を分離することができるので、重油の製造を妨げない。
【0047】
一実施形態では、重油が粗メタノール精製に使用される場合、重油は、メタノール混合物の総質量に基づいて、0.0001~5質量%、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.001~4質量%、最も好ましくは0.001~1質量の範囲から選択される量で添加される。
【0048】
図1は、重油を製造するためのシステムの実施形態を示す。システム100の関連する要素は、
図2に記載されているような重油を製造するための対応する方法を参照して以下で詳細に説明される。
【0049】
システム100は、広葉樹パルプ化からの粗メタノール流111が供給される酸性化ユニット110を有する。酸性流112は酸性化ユニット110に供給され、酸性化ユニット110内の粗メタノールを酸性化する。粗メタノール流111の酸性化は、水の任意の添加を含む酸性化工程320として
図2にも示されている。
【0050】
揮発物113は、場合により酸性化ユニット110から除去される。場合により、テレビン油115も除去され、テレビン油回収ユニット1151に導入される。
【0051】
重油116は、場合により、酸性化ユニットから重油回収ユニットに回収すること1161ができ、酸性化後に液相を分離するために使用することもできる。酸性化ユニット110における粗メタノール流の酸性化は塩水溶液の分離をもたらすので、アンモニウム塩などの塩を除去することができる。更に、
図2に示すように、酸性化ユニット110内で相分離325が起こり、液相の沈降後に重油を底相として回収することができる1161。より軽質のメタノール含有相は、酸性化された粗メタノール流114として液体底相の上に形成される。
【0052】
酸性化された粗メタノール流114は、蒸留ユニット120に供給され、蒸留330によって揮発性物質1131を分離する。場合により、工程328として
図2に示すように、蒸留中に形成された硫酸アンモニウム1171を含む塩溶液を除去する。
【0053】
蒸留ユニット120から、粗メタノール蒸留物124は、水131が場合により供給されるバッファタンク130に供給される。水131を添加すると、粗メタノール蒸留物124は、工程340として
図2にも示すように希釈される。希釈340は液相の相分離(
図2の工程350)をもたらし、そこから重油132を重油回収ユニットに回収すること1321ができ、粗メタノール及び水供給物134を抽出カラム140に供給することによってメタノール精製360を継続することができる。
【0054】
水の任意の添加は、メタノールがその溶解度を低下させるので、硫酸アンモニウムが沈殿するのを防ぐのに有利である。粗メタノールの化学組成は工業プロセスにおいて変化する可能性があり、硫酸アンモニウムの濃度がその溶解度レベルを超えて上昇した場合にプロセスを最適化するために、任意の水の添加を使用することができる。
【0055】
抽出カラム140から、供給物141は、場合により、蒸気1453を供給することができる任意の溶媒ストリッピングユニット145に供給される。ガス状供給物1451がリッチガス系に導入され、水を含む凝縮物1452が除去される。脂肪族パラフィン系オイルを含む供給物142は、抽出カラムに戻すことができる。
【0056】
抽出カラムから、メタノール、エタノール、アセトン及び水を含む供給物143が一連の蒸留カラム150、160、170に導入され、蒸留カラム150内のメタノール、エタノール及び水供給物152からアセトン及び揮発性不純物151が最初に除去され、次いで蒸留カラム160内のメタノール及びエタノール供給物から水162が分離され、蒸留カラム170内のプロパノール、ブタノール及びエタノール供給物172などの揮発性の低い不純物からメタノール供給物171が分離される。
【0057】
図2は、重油製造のフロー図を示す。手短に言えば、広葉樹パルプ化からの粗メタノール流が提供され310、任意の水の添加により酸性化される320。酸を添加する320と、メチルメルカプタン(MM)及びH
2Sの蒸発が起こり得る。既存のプロセスではまた、ジメチルスルフィド(DMS)も蒸留カラム(「硫黄カラム」)でMM及びH
2Sと共に除去される。塩は塩溶液として除去され328、別個の液相が分離する325。重油を含む重質底相を回収し1161、酸性化された粗メタノール流を蒸留し330、得られた留出物を場合により水で希釈し340、液相を分離する350。重油を含む重質底相が回収され1321、より軽質のメタノール含有相をメタノール精製360に取り込む。メタノール精製工程360は、
図1のバッファタンク130の下流で実行される工程をまとめて含む。
【0058】
一実施形態では、酸性化工程320は、強酸水溶液、好ましくは10~98重量%のH2SO4を使用することによって実施される。場合により、水が添加される。水の添加は、特に98重量%のH2SO4などの強酸を使用する場合に有利である。酸性化はアンモニウム塩の形成をもたらす。
【0059】
重油の製造方法の一実施形態では、
図2に示すように、粗メタノール副流は、GC/MSによって分析される50%未満のテルペン及び20%未満の硫黄化合物、好ましくはGC/MSによって分析される45%未満のテルペン及び15%未満の硫黄化合物を含む。
【0060】
一実施形態では、
図2に示すように、重油を製造する方法は、中間相を蒸留することと、場合により、得られた蒸留物を水で希釈して相を分離することと、重油を含む重質底相を回収することと1321、を更に含む。このように、蒸留工程330の後に重油を回収することで、重油の回収率を更に高めることができる。
【0061】
更なる実施形態では、重油は蒸留後にのみ回収され、すなわち蒸留前の最初の回収工程1161は省略され、回収ポイント1321のみが使用される。
【0062】
粗メタノール精製
針葉樹パルプ化からの粗メタノール中の沈殿物形成は、5未満の低pHで加速され、酸触媒反応であることを示す。沈殿物の形成は、50℃を超える温度によって更に促進される。粗メタノール流の酸性化はまた、揮発性硫黄化合物を蒸発させ、NH3を溶液中に保つためにも使用される。
【0063】
本発明の重油を添加することにより、粗メタノール中の沈殿物形成を防止することができる。
【0064】
代替又は追加の実施形態では、汚染凝縮物ストリッパ(
図3には示されていない)からのメタノール回収中又は回収後など、メタノール精製プロセスが開始される前に、針葉樹パルプ化から粗メタノールに重油を添加する。
【0065】
別の実施形態では、
図3に破線で示すように、酸を混合した後であるが蒸留の前に、重油を粗メタノールと混合する。粗メタノールを水で希釈する場合、水を添加する前又は後に重油を添加することができる。好ましい実施形態では、重油がテレビン油に溶解しないことを確実にするために、テレビン油分離後に重油を添加する。
【0066】
酸性化工程の後に加熱して、メタノール含有相からH2S、メルカプタン及びジメチルスルフィドなどの揮発性物質を蒸発させ、その後蒸留カラムから蒸留物として回収することができる。
【0067】
好ましい実施形態では、粗メタノール精製方法は、一連の蒸留カラムを含む多段蒸留及び蒸発プロセスを使用することによる蒸留及び蒸発を含む。このようなプロセスでは、蒸留又は蒸発工程が開始される前に、重油をメタノール含有供給物に添加することができる。したがって、重油は、多段階蒸留プロセスが開始される前に少なくとも1回添加することができ、一連の蒸留カラムにおいて個々の蒸留工程が開始される前に添加することができ、又は特定の蒸留工程が開始される前に添加することができる。
【0068】
沈殿物は、主に、メタノールが塩溶液から蒸発/蒸留されるときに形成される。蒸発/蒸留中にメタノール含有量が低くなると、温度が上昇し、沈殿化合物の溶解度が低下する。好ましい実施形態では、この工程の直前に、すなわちメタノール含有量の減少の結果として温度が上昇し始める前に、重油が添加又は供給される。
【0069】
蒸留又は蒸発工程が開始される前に重油が添加される場合、その投与量は0.5~50L/日の範囲から選択することができる。
【0070】
好ましい実施形態では、第1の蒸留カラムは、溶解した(NH4)2SO4で水を分離するように構成される。
【0071】
好ましい実施形態では、第2の蒸留カラムは、アセトンなどのメタノールよりも揮発性の高い化合物を分離するように構成される。
【0072】
好ましい実施形態では、第3の蒸留カラムは水を分離するように構成される。
【0073】
好ましい実施形態では、第4の蒸留カラムは、エタノールなどのメタノールよりも揮発性が低い化合物を分離するように構成される。
【0074】
以下の例に示すように、針葉樹パルプ化から得られた粗メタノール流に重油を添加した場合、得られた粗メタノール混合物は透明なままであり、蒸留中に沈殿形成は観察されなかった。したがって、沈殿物を除去するための更なる工程なしに、粗メタノール混合物に対して蒸留を直接行うことができた。典型的には、蒸留によって粗メタノールを精製するための従来技術の精製プロセスを使用する場合、蒸留カラム及び粗メタノール液中に沈殿物が見られ、蒸留前に沈殿物を除去しなければならない。
【0075】
図3は、重油を用いて粗メタノールを精製する本方法の概要をフロー図で示す。工程510において、粗メタノールが提供され、蒸留工程540の前に重油が添加される530。重油を添加したメタノール混合物を得た後、工程540でメタノール混合物を蒸留し、工程550でメタノールを回収する。
【0076】
好ましい実施形態では、重油の添加は、酸性化された粗メタノールと混合したときに著しい相分離が起こらないように制御される。これは、重油の沈殿防止能力を高めるという利点を有する。
【0077】
図3では、任意の酸性化工程520が破線のボックスとして示されており、この工程が使用される場合、破線の矢印で示すように、酸性化工程520の前又は後に酸性化された粗メタノールに重油が添加される。この実施形態では、添加ポイントのいずれか又は両方を使用することができる。好ましくは、酸性化後に重油を添加する。
【0078】
重油を使用する本プロセスでは、重油を含む粗メタノール混合物を直接蒸留することができるので、メタノール精製プロセスが単純化される。
【0079】
一実施形態では、粗メタノール流510は、主にメタノール、木材抽出物、硫黄化合物、及び場合により窒素化合物を含む。これらの成分の量は、パルプ化に使用される木材の種類、並びにパルプ化のプロセスパラメータに応じて変化し得る。典型的には、水、木材抽出物、硫黄化合物及び窒素化合物の量は、針葉樹パルプ化からの粗メタノール中で15~30質量%の範囲である。
【0080】
針葉樹パルプ化からの粗メタノールのメタノール含有量は、70~85質量%の範囲である。
【0081】
一実施形態では、粗メタノール中に存在する木材抽出物は、テルペン、好ましくはモノテルペン及びセスキテルペンを含む。
【0082】
粗メタノール流は、硫黄化合物及び窒素化合物も含む可能性がある。硫黄化合物(Sulphur compound)及び硫黄化合物(sulfurous compounds)は、ヘテロ原子として少なくとも1つの硫黄原子を含むが窒素を含まない有機化合物を指す。窒素化合物(Nitrogenous compounds)及び窒素化合物(nitrogen compounds)は、ヘテロ原子として少なくとも1つの窒素原子を含むが硫黄を含まない有機化合物を指す。硫黄及び窒素化合物は、ヘテロ原子として少なくとも1つの硫黄及び少なくとも1つの窒素原子を含む有機化合物を指す。
【0083】
一実施形態では、粗メタノールは、針葉樹、広葉樹又はそれらの混合物の化学的パルプ化から得られる。好ましい実施形態では、粗メタノールは、針葉樹の化学的パルプ化からの粗メタノールを含む。
【0084】
別の実施形態では、重油は、針葉樹のパルプ化で得られる粗メタノール中に典型的に存在するピロール及びアミンなどの窒素化合物を含まない。
【0085】
一実施形態では、メタノール混合物は、一相溶液、分散液又は二相混合物である。二相系では、相は分散されていても分散されていなくてもよく、粗メタノールは主に一相であるが、いくらかの分散液を含んでいてもよい(必ずしも目に見えない)。しかしながら、粗メタノールが酸性化されるか、又は/及び水が添加されると、例えばテルペンの溶解度が低下し、より透明な分散液を形成する。好ましい実施形態では、メタノール混合物は一相溶液である。テルペンの溶解度は、希釈水を添加することによって低下する。一実施形態では、強酸のみが添加され、酸は白色アンモニウム塩沈殿を形成することによって消費される。
【0086】
好ましくは、重油の添加後のメタノール混合物に沈殿物が見られない。
【0087】
一実施形態では、粗メタノールは、蒸留又は蒸発の前に7未満のpH値に酸性化され、好ましくは5未満のpH値に酸性化される。別の実施形態では、メタノール混合物は、酸性化後直ちに蒸留される、すなわち、メタノール混合物を蒸留することができる前に沈殿を除去する必要はなく、相のデカント又は沈降は必要ない。
【0088】
一実施形態では、蒸留前に軽質のテレビン油相を除去する。
【0089】
一実施形態では、重油は、蒸留又は蒸発の前に粗メタノールに添加される。
【0090】
一実施形態では、重油は、酸性化後に粗メタノールに添加される。
【0091】
一実施形態では、硫酸アンモニウムが溶液として除去される。アンモニウム塩などの塩は蒸発及び/又は蒸留中に溶解したままであるので、それらは底部生成物として容易に除去することができる。
【0092】
一実施形態では、重油は、メタノール混合物の総質量に基づいて、0.0001~5質量%、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.001~4質量%、最も好ましくは0.001~1質量%の範囲から選択される量で添加される。複数の蒸留カラムが連続して使用される場合、当該量は、第1の蒸留カラム、少なくとも1つの蒸留カラム、一部の蒸留カラム、又は各蒸留カラムの前に添加することができる。
【0093】
本方法の一実施形態では、メタノールは、一連の複数の蒸留カラムを使用することによって蒸留によって回収される。
【0094】
一実施形態では、粗メタノール流510は、針葉樹若しくは広葉樹、又はそれらの混合物の化学的パルプ化から得られる。針葉樹パルプ化から得られる粗メタノールは、本発明において特に有利である。
【0095】
一実施形態では、粗メタノールは、蒸留又は蒸発の前に酸性化される。好ましくは、酸性化された粗メタノールは、沈殿物除去工程及び/又はデカント工程なしで蒸留又は蒸発される。
【0096】
針葉樹粗メタノール精製の一実施形態では、希釈水を添加した後にテレビン油画分を除去する。一実施形態では、テレビン油含有量は、針葉樹由来の粗メタノール中で約10%である。希釈水がなければ、テレビン油は溶解したままであり、次いでメタノールに続いて抽出カラムに至る。
【0097】
一実施形態では、重油の添加後に得られるメタノール混合物は、透明であるか、又は本質的に透明である。メタノール混合物の透明度は、例えば単に目視検査によって確認することができる。
【0098】
当業者には明らかなように、
図2及び
図3に示す方法は、方法の特定の工程又はそれを用いて得られる製品を更に制御又は改善するように修正することができる。例えば、この方法で得られた生成物は、更なる精製、分離、誘導体化、又は生成物中に存在する成分を分離するための少なくとも1つの化学変換工程、又はそれらを更なる生成物に化学変換するために使用することができる。
【0099】
例
本粗メタノール精製方法の性能を従来技術に従って行われた方法と比較するために、以下の実験を行った。
【0100】
重油の製造
重油の分析結果を表1にまとめた。結果が示すように、本重油は、非常に多量の硫黄化合物を特徴とする。また、セスキテルペンの量は多く、例えば針葉樹テレビン油と比較して明らかに異なる。
【表1】
【0101】
比較例1
500mLガラスシリンダー中で、針葉樹パルプ化からの、水中に硫酸アンモニウムを含有する、酸性化された粗メタノール300mLを、メタノール酸性化後の最初の蒸留カラムの条件をシミュレートするために、大気圧で沸騰させた。メタノール水の沸騰中に、メタノール精製プロセスに関連して先の刊行物に記載されたのと同様に、固体沈殿物が形成されることが認められた。固体沈殿物は、アセトン、硫酸、塩酸、パラフィン油、又はNaOHなどの試験した一般的な溶媒に溶解できなかった。
【0102】
例2
この試験は、比較例1と同様に、針葉樹パルプ化からの粗メタノール試料を用いて開始した。加熱及び沸騰の前に、1gの重油(カバノキ油)を添加した。沸騰及びメタノール蒸発中、沈殿は認められなかった。したがって、重油は沈殿を防止した。
【0103】
また、比較例1で形成された固体沈殿物は、重油で溶解できることが見出された。針葉樹キャンペーンから粗メタノールを精製するために使用された深刻に汚染された蒸留カラムは、重油を含む粗メタノールで洗浄することができ、広葉樹粗メタノールで数日後、カラム内の液体露出部分の大部分はほぼ清浄であった。したがって、重油の添加は、沈殿を効果的に防止し、以前に形成された沈殿を溶解さえした。
【0104】
上記の説明は、特定の実施態様及び実施形態の非限定的な例として、本発明を実施するために本発明者らによって現在企図されている最良の態様の完全かつ有益な説明を提供した。しかしながら、本発明が上記で提示された実施形態の詳細に限定されず、本発明の特徴から逸脱することなく、同等の手段を使用して他の実施形態で、又は実施形態の異なる組み合わせで実施することができることは、当業者には明らかである。
【0105】
更に、上記で開示された例示的な実施形態の特徴のいくつかは、他の特徴を対応して使用することなく有利に使用することができる。したがって、前述の説明は、本発明の原理の単なる例示であり、本発明を限定するものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】