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特表2023-531326マレック病ウイルスワクチンの産生のための細胞株並びにそれを作製及び使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(54)【発明の名称】マレック病ウイルスワクチンの産生のための細胞株並びにそれを作製及び使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230713BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230713BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230713BHJP
   A61K 39/255 20060101ALI20230713BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230713BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/09 110
A61P31/12 171
A61K39/255
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521275
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 US2021037306
(87)【国際公開番号】W WO2021257492
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】63/039,021
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230154
【氏名又は名称】ゾエティス・サービシーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】アメイス キース アレン
(72)【発明者】
【氏名】ロゼイ エヴァレット リー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA43
4C085AA03
4C085BA81
4C085BB11
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA17
4C087MA22
4C087MA23
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA66
4C087NA12
4C087NA14
4C087ZB33
4C087ZC61
(57)【要約】
本出願は、シチメンチョウヘルペスウイルス(HVT)を含むマレック病ウイルス(MDV)のウイルス増殖を支持することができる鳥類細胞株、そのような細胞株を作製する方法、並びに細胞株及び得られるワクチンの治療的使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレック病ウイルス(MDV)の高力価増殖を支持することができる、遺伝的に改変された細胞株。
【請求項2】
細胞株が、不死化鳥類細胞株を含む、請求項1に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項3】
マレック病ウイルスが、マレック病ウイルス血清型1、マレック病ウイルス血清型2、及びマレック病ウイルス血清型3からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項4】
マレック病ウイルスが、組換えウイルスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項5】
組換えマレック病ウイルスが、MDVゲノムにおける1つ以上の位置に挿入された1つ以上の異種抗原を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項6】
1つ以上の異種抗原が、病原性鳥類ウイルス由来の抗原を含む、請求項5に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項7】
病原性鳥類ウイルスが、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ニワトリ貧血ウイルス、及び鳥インフルエンザウイルスからなる群から選択される、請求項6に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組換えマレック病ウイルスを含む、薬学的組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の薬学的組成物を含む、免疫原性組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の薬学的組成物を含む、ワクチン。
【請求項11】
マレック病について鳥類を治療する方法であって、治療量の請求項9に記載のワクチンの投与を含む、前記方法。
【請求項12】
マレック病ウイルス(MDV)の高力価増殖を支持することができる遺伝的に改変された細胞株を作製する方法であって、
不死化鳥類細胞株である出発細胞株を提供するステップ、と
前記出発細胞株を遺伝子改変して発現を低減し、それによって遺伝子HTR2A及びSLAMF8の一方又は両方の産物の機能活性を改変することによって遺伝的に改変された細胞株を作製するステップであって、前記遺伝的に改変された細胞株が、同じMDV株に感染した場合に前記出発細胞株と比較して増加したMDVウイルス力価を支持することができるステップ、
とを含む、前記方法。
【請求項13】
出発細胞株が、JBJ-1、DF-1、LF-1、LMH、SL-29、DT-40、ESCDL-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
出発細胞株が、JBJ-1、DF-1、LF-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
出発細胞株が、JBJ-1である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
遺伝子改変が、TALEN、ZFN、CRISPR-Cas9、又は代替のCRISPR-Cas酵素を使用して前記ゲノムを改変することを含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
遺伝子改変が、CRISPR-Cas9を使用して前記ゲノムを改変することを含む、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
遺伝子改変が、CRISPR-Cas9を使用して前記HTRA2A又はSLAMF8遺伝子のホモ接合改変を含む、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
遺伝的に改変された細胞株が、同じMDV株に感染した場合に前記出発細胞株よりも少なくとも10倍高いMDVウイルス力価を支持する、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
遺伝的に改変された細胞株が、同じMDV株に感染した場合に前記出発細胞株よりも少なくとも50倍高いMDVウイルス力価を支持する、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
遺伝的に改変された細胞株が、初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞上で同じMDV株で達成されたウイルス力価の2倍以内にあるMDVウイルス力価を支持する、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
遺伝的に改変された細胞株が、HTR2A遺伝子の産物の機能活性を改変する遺伝子改変を含む、請求項12~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
遺伝的に改変された細胞株が、STAT4、COBBL2、及びCTSLからなる群から選択される1つ以上の追加の遺伝子の産物の機能活性を改変する遺伝子改変を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
追加の遺伝子が、STAT4を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
遺伝子改変が、TALEN、ZFN、又はCRISPR-Cas9、若しくは代替のCRISPR-Cas酵素を使用して前記ゲノムを改変することを含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
遺伝子改変が、CRISPR-Cas9を使用して前記ゲノムを改変することを含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
請求項12~26のいずれか一項に記載の方法によって産生される、MDVの高力価増殖を支持することができる、遺伝的に改変された細胞株。
【請求項28】
MDVが、MDVゲノムにおける1つ以上の位置に挿入された異種抗原をコードする核酸を含む、請求項27に記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項29】
異種抗原が、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、及びニワトリ貧血ウイルスからなる群から選択される家禽病原体に由来する、請求項27又は28のいずれかに記載の遺伝的に改変された細胞株。
【請求項30】
MDVワクチンを調製する方法であって、請求項12~29のいずれか一項に記載の方法によって遺伝的に改変された細胞株を調製することと、前記遺伝的に改変された細胞株において前記MDVを増殖させることと、を含む、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法によって調製される、MDVワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月15日に出願された米国仮出願第63/039021号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張し、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、シチメンチョウヘルペスウイルス(HVT)を含む、マレック病ウイルスのウイルス増殖を支持することができる鳥類細胞株、そのような細胞株を作製する方法、並びに細胞株及び得られるワクチンの治療的使用に関する。ある特定の実施形態では、細胞株は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞株である。他の実施形態では、細胞株は、例えば、CRISPR-Cas9遺伝子編集によって、HTR2A遺伝子又はSLAMF8遺伝子などの、1つ以上の遺伝子のノックアウト又はノックダウン(欠失又は破壊)を含むように遺伝的に改変されている。
【背景技術】
【0003】
マレック病ウイルスは、家禽における腫瘍性リンパ増殖性障害の病因物質である。ウイルスは、主に末梢神経及び内臓器官において、単核細胞浸潤及びリンパ腫の発生を引き起こす。マレック病は、末梢神経の病変、脾臓、肝臓、腎臓、肺、及び心臓を含む、1つ以上の臓器における腫瘍、呼吸困難、眼リンパ腫症、並びに免疫抑制を含む、広範囲の症状をもたらす。免疫ナイーブの群では、マレック病感染は、エピデミックとなり、最大80%の死亡率をもたらし得る。
【0004】
マレック病は、Gallidアルファ-ヘルペスウイルス-2(GaHV-2)又は単に「マレック病ウイルス」(MDV)と称される、高度に感染性のアルファヘルペスウイルスによって引き起こされる。血清型1(MDV-1)、血清型2(MDV-2)、及び血清型3(シチメンチョウヘルペスウイルス又はHVT)の3つMDV血清型が同定されている。これらのうち、最初のもののみが病原性である。
【0005】
現在、MDVに感染した鳥類のための治癒又は治療は知られていない。疾患の制御は、現在、ワクチンの投与のみによって行われる。効果的なワクチンは、その後にMDVに感染した鳥類が腫瘍性疾患を発症するのを防止することができるが、毒性のMDVでの感染又は感染した鳥類からのウイルスの排出を防止しない。天然に存在するMDVにおけるますます増加する毒性のために、ほとんど世界中の家禽業界は、現在、MDVに対して全ての商業的なニワトリの群にワクチンを接種する。よって、MDV及びMDVワクチンの経済的重要性は非常に高い。
【0006】
無毒性MDV、すなわち、MDV-2及びHVTは、1970年代から群のワクチン接種に使用されており、弱毒化血清型1ワクチンと組み合わせて、疾患を成功裏に制御することができる。現在、これらのワクチンウイルスは、孵化卵又は孵化卵由来の初代細胞において増殖される。ウイルス増殖のための孵化卵及び初代細胞の使用は、労働集約的であり、コストがかかる。更に、胚の供給源は特定病原体除去(SPF)群からであるが、群が何らかの異質剤で汚染され、それによってワクチンが汚染される場合があった。このリスクに加えて、SPF群からの卵がインフルエンザなどの特定のヒトワクチンの製造にも使用されるため、供給上の問題もあり得る。これらの理由で、HVT及びMDVワクチンを作製する新しい費用対効果の高い戦略を開発し、それによってワクチン産生のための初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞の使用への依存を低減する必要がある。
【0007】
初代CEFに対するHVTワクチン産生の依存性を克服する1つのアプローチは、初代細胞を置き換えるための不死化細胞株の使用である。不死化細胞は、必要に応じて蓄積及び増殖させることができ、細胞増殖速度又はバッチ間のウイルス複製におけるばらつきをほとんど有さないため、特定の点において優れている。不死化細胞株は現在、他のワクチンの産生に使用されるが、長期間のウイルス適応の不在下で任意の有意なレベルまでHVT増殖を支持することができる自発的に不死化された鳥類細胞株はごく少数しか開発されていない。初代細胞において達成されたものと同等のウイルス収率/力価を提供することができる連続細胞株は、大幅なコスト節約をもたらし、供給及び異質剤でのSPF群による汚染のリスクを排除する。よって、当該技術分野において、MDV増殖を支持することができる改善された細胞株が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
一態様では、本発明は、マレック病ウイルス(MDV)の高力価増殖を支持することができる遺伝的に改変された細胞株を提供する。一実施形態では、前記遺伝的に改変された細胞株が不死化鳥類細胞株を含む出発細胞株を提供する。一実施形態では、出発細胞株は、JBJ-1、DF-1、LF-1、LMH、SL-29、DT-40、ESCDL-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される。一実施形態では、出発細胞株は、JBJ-1、DF-1、LF-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される。一実施形態では、出発細胞株は、JBJ-1である。
【0009】
一実施形態では、本発明の遺伝的に改変された細胞株によって産生されるマレック病ウイルス(MDV)は、MDV血清型-1(MDV-1、例えば、CV 1988)、MDV血清型-2(MDV-2、SB-1)、又はMDV血清型-3(MDV-3、シチメンチョウヘルペスウイルス/HVT)を含む。一実施形態では、MDVは、MDV-1を含む。一実施形態では、MDVは、MDV-2を含み、一実施形態では、MDVは、MDV-3を含む。一実施形態では、本発明のMDVは、組換えではない。一実施形態では、本発明のMDVは、組換えMDVである。
【0010】
一実施形態では、本発明は、本発明の遺伝的に改変された細胞株によって産生されるMDVが、組換えであり、MDVゲノムにおける1つ以上の位置に挿入された1つ以上の異種抗原を含むことを提供する。一実施形態では、1つ以上の異種抗原は、鳥類病原体からの抗原を含む。一実施形態では、鳥類病原体は、病原性鳥類ウイルスを含む。一実施形態では、当該鳥類病原体は、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ニワトリ貧血ウイルス、及び鳥インフルエンザウイルスからなる群から選択される。
【0011】
一実施形態では、本発明は、本発明の遺伝的に改変された細胞株によって産生されるMDVを含む薬学的組成物を提供する。
【0012】
一実施形態では、本発明は、本発明の遺伝的に改変された細胞株によって産生されるMDVを含む本発明の薬学的組成物を含む免疫原性組成物を提供する。
【0013】
一実施形態では、本発明は、本発明の遺伝的に改変された細胞株によって産生されるMDVを含む本発明の薬学的組成物を含むワクチンを提供する。
【0014】
一実施形態では、本発明は、治療量の本発明の遺伝的に改変された細胞株によって産生されるMDVを含む本発明のワクチンを投与することを含む、鳥類を治療する方法を提供する。
【0015】
一態様では、本発明は、マレック病ウイルス(MDV)の高力価増殖を支持することができる遺伝的に改変された細胞株を作製する方法であって、不死化鳥類細胞株である出発細胞株を提供するステップと、前記出発細胞株を遺伝子改変して発現を低減し、それによって遺伝子HTR2A及びSLAMF8の一方又は両方の産物の機能活性を改変することによって遺伝的に改変された細胞株を作製するステップあって、前記遺伝的に改変された細胞株が同じMDV株に感染した場合の出発細胞株と比較して増加したMDVウイルス力価を支持することができる前記ステップ、とを含む、前記方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、本発明は、JBJ-1、DF-1、LF-1、LMH、SL-29、DT-40、ESCDL-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される出発細胞株を提供する。一実施形態では、出発細胞株は、JBJ-1、DF-1、LF-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される。一実施形態では、出発細胞株は、JBJ-1である。
【0017】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、TALEN、ZFN、又はCRISPR-Cas9、若しくは代替のCRISPR-Cas酵素を使用してゲノムを改変することを含む、遺伝子改変を含む細胞株を提供する。一実施形態では、遺伝子改変は、CRISPR-Cas9を使用してゲノムを改変することを含む。
【0018】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、CRISPR-Cas9を使用した、HTRA2A又はSLAMF8遺伝子のホモ接合改変を含む細胞株の遺伝子改変を提供する。
【0019】
1つ以上の実施形態では、本発明は、本発明の方法によって産生されるMDVが、MDV-1(例CV 1988)、MDV-2(SB-1)、及びMDV-3(シチメンチョウヘルペスウイルス/HVT)から選択されることを提供する。1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、同じMDV株に感染した場合に出発細胞株よりも少なくとも10倍高いMDVウイルス力価を支持する遺伝的に改変された細胞株を提供する。
【0020】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、同じMDV株に感染した場合に修飾されていない細胞株よりも少なくとも50倍高いMDVウイルス力価を支持する遺伝的に改変された細胞株を提供する。
【0021】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞上で同じMDV株で達成されたウイルス力価の2倍以内にあるMDVウイルス力価を支持する遺伝的に改変された細胞株を提供する。
【0022】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、遺伝的に改変された細胞株が、HTR2A遺伝子の産物の機能活性を改変する遺伝子改変を含むことを提供する。
【0023】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、遺伝的に改変された細胞株を提供し、STAT4、COBBL2、及びCTSLからなる群から選択される1つ以上の追加の遺伝子の産物の機能活性を改変する遺伝子改変を更に含む。一実施形態では、追加の遺伝子は、STAT4を含む。
【0024】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、TALEN、ZFN、又はCRISPR-Cas9、若しくは代替のCRISPR-Cas酵素を使用してゲノムを改変することを含む、細胞株における遺伝子改変を提供する。1つ以上の実施形態では、遺伝子改変は、CRISPR-Cas9を使用してゲノムを改変することを含む。
【0025】
一態様では、本発明は、本発明の方法の1つ以上の実施形態によって作製される、MDVの高力価増殖を支持することができる遺伝的に改変された細胞株を提供する。一実施形態では、本発明は、遺伝的に改変された細胞株を提供し、MDVは、MDVゲノムにおける1つ以上の位置に挿入された異種抗原をコードする核酸を含む。一実施形態では、異種抗原は、以下からなる群から選択される家禽病原体に由来する遺伝子によってコードされる:ニューカッスル病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、及びニワトリ貧血ウイルス。
【0026】
一態様では、本発明は、MDVワクチンを調製する方法であって、本発明の方法の1つ以上の実施形態によって遺伝的に改変された細胞株を調製することと、当該遺伝的に改変された細胞株においてMDVを増殖させることとを含む、前記方法を提供する。
【0027】
一実施形態では、本発明は、本発明の方法の1つ以上の実施形態によって調製されるMDVを含む免疫原性組成物を提供する。
【0028】
一実施形態では、本発明は、本発明の方法の1つ以上の実施形態によって調製されるMDVワクチンを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】感染後24、48、及び72時間での緑色蛍光タンパク質(GFP)(HVT-ND-GFP)の遺伝子を担持するHVTウイルスに感染したCEF及びHTR2Aで修飾されたJBJ-1細胞の蛍光画像を提示する。
図2】感染後24、48、及び72時間でのHVT-ND-GFPに感染したCEF及びSLAMF8で修飾されたJBJ-1細胞の蛍光画像を提示する。
図3】感染後45時間でのHVT-ND-GFPに感染したCEF細胞、野生型JBJ-1細胞、及び修飾されたJBJ-1細胞の蛍光画像を提示する。
図4】感染後45時間でのHVT-ND-GFPに感染したCEF細胞、野生型JBJ-1細胞、及び修飾されたJBJ-1細胞の蛍光画像を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
配列の簡単な説明
配列番号1は、DNAプライマーSORF1 F1のヌクレオチド配列を含む。
配列番号2は、DNAプライマーSORF1 R1のヌクレオチド配列を含む。
配列番号3は、DNAプライマーSORF1 S1のヌクレオチド配列を含む。
配列番号4は、DNA SORF1 STDのヌクレオチド配列を含む。
配列番号5は、DNAプライマーOVO(TF)F1のヌクレオチド配列を含む。
配列番号6は、DNAプライマーOVO(TF)R1のヌクレオチド配列を含む。
配列番号7は、DNAプライマーOVO(TF)Sのヌクレオチド配列を含む。
配列番号8は、DNA OVO(TF)STDのヌクレオチド配列を含む。
配列番号9は、JBJ-1細胞をトランスフェクトするために使用されるBLEC2 gRNA配列のヌクレオチド配列を含む。
配列番号10は、JBJ-1細胞をトランスフェクトするために使用されるHTR2A gRNA配列のヌクレオチド配列を含む。
配列番号11は、JBJ-1細胞をトランスフェクトするために使用されるSLAMF8 gRNA配列のヌクレオチド配列を含む。
配列番号12は、cbPCRプライマーHTR2A F-outのヌクレオチド配列を含む。
配列番号13は、cbPCRプライマーHTR2A R-outのヌクレオチド配列を含む。
配列番号14は、cbPCRプライマーHTR2A F-Inのヌクレオチド配列を含む。
配列番号15は、SLAMF8プライマーSLAMF8 F-Outのヌクレオチド配列を含む。
配列番号16は、SLAMF8プライマーSLAMF8 R-outのヌクレオチド配列を含む。
配列番号17は、SLAMF8プライマーSLAMF8 F-inのヌクレオチド配列を含む。
配列番号18は、BLEC2プライマーBLEC2 F-Outのヌクレオチド配列を含む。
配列番号19は、BLEC2プライマーBLEC2 R-outのヌクレオチド配列を含む。
配列番号20は、BLEC2プライマーBLEC2 F-inのヌクレオチド配列を含む。
配列番号21は、BLEC2プライマーBLEC2 R-inのヌクレオチド配列を含む。
配列番号22は、STAT4のgRNAのヌクレオチド配列を含む。
配列番号23は、STAT4 F-outのcbPCRプライマーのヌクレオチド配列を含む。
配列番号24は、STAT4 R-outのcbPCRプライマーのヌクレオチド配列を含む。
配列番号25は、STAT4 R-inのcbPCRプライマーのヌクレオチド配列を含む。
配列番号26は、CTSL2のgRNAのヌクレオチド配列を含む。
配列番号27は、CTSL2 F-outのcbPCRのヌクレオチド配列を含む。
配列番号28は、CTSL2 R-outのcbPCRのヌクレオチド配列を含む。
配列番号29は、CTSL2 F-inのcbPCRのヌクレオチド配列を含む。
配列番号30は、CTSL2のgRNAのヌクレオチド配列を含む。
配列番号31は、CTSL2 F-outのcbPCRのヌクレオチド配列を含む。
配列番号32は、CTSL2 R-outのcbPCRのヌクレオチド配列を含む。
配列番号33は、CTSL2 F-inのcbPCRのヌクレオチド配列を含む。
【0031】
別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されるものなどの用語は、関連する技術分野の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されない限り、理想化された又は過度に形式的な意味で解釈されないことが更に理解されるであろう。定義:
【0032】
本発明を詳細に説明する前に、本発明の文脈において使用されるいくつかの用語を定義する。これらの用語に加えて、他の用語は、必要に応じて本明細書の他の場所で定義される。本明細書で明示的に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語は、それらの技術分野で認識される意味を有する。
【0033】
定義
本開示において、「含む(comprises)」、「含んでいた(comprised)」、「含む(comprising)」、「含有する(contains)」、「含有する(containing)」、「からなる」、「からなっていた」、「から本質的になる」、「含む(includes)」、「含んでいた(included)」などの用語は、標準的な米国特許法及び国際的な特許法の慣行に従って定義されることに留意されたい。
【0034】
「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために用いられるデバイス又は方法に関する誤差の標準偏差を含むことを示すために本明細書で使用される。特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみを指すことが明示的に示されない限り、又は代替物が互いに排他的である場合を除き、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみを指す定義及び「及び/又は」を指す定義を支持する。特許請求の範囲において非包括的な文言と併せて使用されない場合、又は別途特に注記されない場合、「a」及び「an」という単語は、「1つ以上」を示す。
【0035】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様の方法で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされたもの、並びに後に修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造(すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合したα炭素、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を有する化合物を指す。かかる類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持する。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の方法で機能する化学化合物を指す。
【0036】
アミノ酸は、本明細書において、一般に知られている3文字記号、又はIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字記号のいずれかによって言及されてもよい。ヌクレオチドは、同様に、それらの一般に受け入れられている一文字コードによって言及されてもよい。ポリペプチド構造などの巨大分子構造は、様々なレベルの組織化の観点から説明され得る。「一次構造」は、特定のペプチドのアミノ酸配列を指す。「二次構造」は、ポリペプチド内の局所的に規則正しい三次元構造を指す。これらの構造は、ドメイン、例えば、酵素ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細孔ドメイン、又は細胞質尾部ドメインとして一般的に知られている。ドメインは、ポリペプチドのコンパクトな単位を形成するポリペプチドの部分である。例示的なドメインとしては、酵素活性を有するドメインが挙げられる。ドメインは、βシートの伸長部及びαヘリックスなどのより小さな構成区画で構成され得る。「三次構造」は、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造を指す。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有会合によって形成される三次元構造を指す。異方性項はエネルギー項としても知られている。
【0037】
本明細書で使用される「鳥」という用語は、Galliformes目のメンバーなどの家禽を含む。より具体的には、ニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒル、キジ、ダチョウ、ハト、及びウズラなどの経済的及び/又は農学的関心を有する鳥類のクラスである。
【0038】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、所与のアミノ酸残基に対する任意のアミノ酸置換を示し、置換残基は、所与の残基のものと化学的に非常に類似しているため、ポリペプチド機能(例えば、酵素活性)の実質的な低下は生じない。保存的アミノ酸置換は、当該技術分野で一般的に知られており、それらの例は、例えば、米国特許第6,790,639号、同第6,774,107号、同第6,194,167号、又は同第5,350,576号に記載されている。好ましい実施形態において、保存的アミノ酸置換は、以下の6つの群のうちの1つ内で生じる任意のものである。
●小さな脂肪族、実質的に非極性残基:Ala、Gly、Pro、Ser、及びThr、
●大きな脂肪族、非極性残基:lie、Leu、及びVal、Met、
●極性、負帯電残基及びそれらのアミド:Asp及びGlu、
●極性、負帯電残基のアミド:Asn及びGin、His、
●極性、正帯電残基:Arg及びLys、His、並びに
●大きな芳香族残基:Trp及びTyr、Phe。
【0039】
保存的アミノ酸置換は、本明細書で使用される場合、天然残基(保存的置換)対として列挙される、以下のいずれか1つであろう:Ala(Ser);Arg(Lys);Asn(Gin;His);Asp(Glu);Gin(Asn);Glu(Asp);Gly(Pro);His(Asn;Gln);lie(Leu;Val);Leu(lie;Val);Lys(Arg;Gin;Glu);Met(Leu;lie);Phe(Met;Leu;Tyr);Ser(Thr);Thr(Ser);Trp(Tyr);Tyr(Trp;Phe)、及びVal(lie;Leu)。
【0040】
本明細書に記載されるようなウイルスの活性を調節する化合物を試験するためのアッセイの文脈における「機能的効果」という語句は、かかるウイルスの影響下、間接的又は直接的な、あるパラメータ、例えば、表現型効果又は化学的効果の決定を含む。「機能的効果」は、インビトロ、インビボ、及びエクスビボ活性を含み得、タンパク質の分光学的特性、形状、クロマトグラフィー、又は溶解特性の変化などの、当業者に既知の任意の手段、タンパク質の誘導性マーカー又は転写活性化を測定すること、結合活性又は結合アッセイ、例えば、抗体への結合を測定すること、リガンド又は基質結合活性の変化を測定すること、ウイルス複製を測定すること、細胞表面マーカー発現を測定すること、タンパク質レベルの変化の測定、RNA安定性の測定、下流又はレポーター遺伝子発現の、例えば、化学発光、蛍光、比色反応、抗体結合、及び/又は誘導性マーカーを介した同定によって測定され得る。
【0041】
「遺伝子」という用語は、DNA若しくはRNA、cDNA、イントロン及びエクソンDNA、人工DNAポリヌクレオチド、又はペプチド、ポリペプチド、タンパク質、若しくはRNA転写物分子をコードする他のDNA、並びに発現の調節に関与するコード配列に隣接し得る遺伝子要素、例えば、天然の遺伝子又は導入遺伝子として存在し得るプロモーター領域、5’リーダー領域、3’非翻訳領域を含む成分を指す。遺伝子又はその断片に対し、遺伝子を含むヌクレオチドの順序を決定するポリヌクレオチド配列決定方法を行うことができる。
【0042】
「シチメンチョウヘルペスウイルス(HVT)」という用語は、家畜のシチメンチョウの非病原性ウイルスとして定義され、抗原的及び遺伝的に関連するリンパ好性トリヘルペスウイルスのマレック病ウイルスの群内の第3の血清型として分類される。
【0043】
「異種」という用語は、核酸の部分を参照しつつ使用される場合、その核酸が、自然界において互いに同じ関係で見出されない2つ以上の配列を含むことを示す。例えば、核酸は、典型的には、組換え的に産生され、新規の機能的核酸を作製するように配置された無関係の遺伝子からの2つ以上の配列、例えば、1つの供給源からのプロモーター及び別の供給源からのコード領域を有する。同様に、異種タンパク質は、そのタンパク質が、自然界において互いに同じ関係で見出されない2つ以上の配列(例えば、融合タンパク質)を含むことを示す。異種とは、ウイルス配列、例えば、遺伝子若しくは導入遺伝子、又はその一部が、典型的に見出されないウイルスゲノムに挿入されていること、又は典型的に見出されない生物に導入された遺伝子を指すこともある。
【0044】
「宿主細胞」という用語は、細胞によって、例えば、遺伝子、DNA又はRNA配列、タンパク質又は酵素の細胞による発現によって物質を作製するために任意の方法で選択、修飾、形質転換、成長、又は使用若しくは操作される任意の生物の任意の細胞を意味する。宿主細胞は、ベクターのため、又は外因性核酸分子、ポリヌクレオチド、及び/又はタンパク質の組み込みのためのレシピエントであり得るか、又はレシピエントであった任意の個々の細胞又は細胞培養物を含むことが意図されている。また、単一細胞の子孫も含むことが意図されている。子孫は、天然の変異、偶発的な変異、又は意図的な変異に起因して、必ずしも(形態、又はゲノム若しくは全DNA相補体において)元の親細胞と完全に同一ではなくてもよい。
【0045】
本明細書で使用される場合、「宿主」、「対象」、「患者」、又は「生物」という用語は、動物、特に鳥類、特に家禽を含んでもよい。獣医学的用途では、鳥類は、ニワトリ、ウズラ、及びシチメンチョウなどを含むGalliformes目からのものであってもよい。「生きている宿主」という用語は、上述の宿主又は生きている別の生物を指す。この用語はまた、宿主又は生物全体を指してもよく、単に生きている宿主から切除された部分(例えば、脳又は他の器官)ではない。これらの用語には、胚期及び胎児期を含む、発生の全ての段階にある個体も含まれる。
【0046】
「同一」又は「同一性パーセント」という用語は、2つ以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈で、以下に記載されるデフォルトパラメータを有するBLAST又はBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを使用して測定される場合、又は手動アラインメント及び目視検査(例えば、ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/などに見出されるNCBIウェブサイトを参照されたい)によって測定される場合、同じであるか、又は同じであるアミノ酸残基若しくはヌクレオチドを特定のパーセンテージ(すなわち、比較ウィンドウ若しくは指定領域にわたって最大対応について比較され、アラインメントされた場合、特定の領域にわたって、約60%同一性、好ましくは、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はもっと高い同一性)で含む、2つ以上の配列又はサブ配列を指す。次いで、そのような配列は、「実質的に同一」と称される。この定義はまた、特定の配列の相補性を指すか、又はそれに適用される。この定義はまた、欠失、付加、及び/又は置換を有する配列を含んでもよい。
【0047】
配列比較のために、1つの配列は、典型的には、参照配列として機能し、これに対して他の配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、参照配列及び比較配列がコンピュータに入力されてもよく、所望な場合、配列アルゴリズムプログラムパラメータが選択される。次いで、選択されたパラメータに基づいて、参照配列に対して、比較配列について配列同一性パーセントを生成する。配列同一性パーセント及び配列類似性を決定するのに好適であり得るアルゴリズムの一例は、BLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムであり、それぞれ、Altschul et al.,(Nuc Acids Res 25:3389-3402,1977)及びAltschul et al.,(J Mol Biol 215:403-410,1990)に記載されている。BLAST及びBLAST 2.0は、当該技術分野で周知であり、本明細書に記載されるものなどの任意の核酸又はタンパク質の配列同一性パーセントを決定するために使用され得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、「免疫原性組成物」又は「薬学的組成物」又は「ワクチン」は、対象、例えば、鳥対象への投与に好適な抗原を含む組成物を包含することを意味する。当該組成物は、一般的に、対象において免疫応答を誘発することを意味する。免疫応答は、T細胞応答、B細胞応答、又はT細胞及びB細胞応答の両方を含むことができる。組成物は、細胞表面にあるMHC分子と会合する抗原の提示によって対象患者を感作する役割を果たし得る。加えて、抗原特異的Tリンパ球又は抗体を生成して、免疫付与された宿主の将来の保護を可能にすることができる。「免疫原性組成物」は、細胞媒介性(T細胞)免疫応答若しくは抗体媒介性(B細胞)免疫応答のいずれか、又は両方を誘導する、生物全体又はそれに由来する免疫原性部分を含む、生ワクチン、弱毒化ワクチン、又は死滅/不活化ワクチンを含有していてもよく、微生物による感染に関連する1つ以上の症状から動物を保護してもよく、又は微生物による感染に起因する死亡から動物を保護してもよい。一般的に、「免疫原性組成物」は、無菌であり、好ましくは、対象内に望ましくない応答を誘発し得る汚染物質を含まない(例えば、免疫原性組成物中の組成物は、医薬品グレードである)。免疫原性組成物は、インオボ、経口、静脈内、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、気管内、筋肉内、皮下、吸入などを含むいくつかの異なる投与経路を介して、それを必要とする対象への投与のために設計され得る。
【0049】
本明細書で使用される「免疫原性」タンパク質又はペプチドという用語は、宿主に投与されると、タンパク質に対して指向される体液型及び/又は細胞型の免疫応答を誘発することができるという意味で、免疫学的に活性であるポリペプチドを含む。好ましくは、タンパク質断片は、全長タンパク質と実質的に同じ免疫学的活性を有するようなものである。したがって、本発明に係るタンパク質断片は、少なくとも1つのエピトープ又は抗原決定基を含むか、又は本質的にそれからなるか、又はそれからなる。「免疫原性」タンパク質又はポリペプチドは、本明細書で使用される場合、タンパク質の完全長配列、その類似体、又はその免疫原性断片を含む。「免疫原性断片」とは、1つ以上のエピトープを含み、したがって上述の免疫応答を誘発するタンパク質の断片を意味する。
【0050】
「免疫原性タンパク質又はペプチド」という用語は、ポリペプチドが本明細書に定義される免疫応答を生じさせるように機能する限り、配列に対する欠失、付加、及び置換を更に企図する。「保存的変種」という用語は、アミノ酸残基を別の生物学的に類似した残基に置き換えること、又はコードされたアミノ酸残基が変化しないか、又は別の生物学的に類似した残基であるように、核酸配列中のヌクレオチドを置き換えることを示す。この観点で、特に好ましい置換は、一般的に、本質的に保存的である、すなわち、アミノ酸のファミリー内で生じる置換である。例えば、アミノ酸は、一般的に、以下の4つのファミリーに分けられる。(1)酸性-アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩、(2)塩基性-リジン、アルギニン、ヒスチジン、(3)非極性-アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、及び(4)非帯電極性-グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは、芳香族アミノ酸として分類されることがある。保存的変種の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン若しくはメチオニンなどの1つの疎水性残基を別の疎水性残基へと置換、又は1つの極性残基を別の極性残基へと置換、例えば、アルギニンをリジンへと置換、グルタミン酸をアスパラギン酸へと置換、若しくはグルタミンをアスパラギンへと置換など、又は生体活性に大きな影響を及ぼさない構造的に関連するアミノ酸によるアミノ酸の同様の保存的置き換えが挙げられる。したがって、参照分子と実質的に同じアミノ酸配列を有するが、タンパク質の免疫原性に実質的に影響を与えないわずかなアミノ酸置換を有するタンパク質は、参照ポリペプチドの定義内にある。これらの修飾によって産生されるポリペプチドの全てが、本明細書に含まれる。「保存的変種」という用語には、未置換親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を使用することも含まれるが、ただし、置換ポリペプチドに挙げられる抗体は、未置換ポリペプチドとも免疫反応する。
【0051】
本明細書で使用される「免疫学的有効量」は、当業者に既知の標準的なアッセイによって測定されるような、細胞性(T細胞)又は液性(B細胞若しくは抗体)応答のいずれかの免疫応答を誘発するのに十分な抗原又はワクチンの量を指す。例えば、本発明に関して、「免疫学的有効量」は、最小限の保護用量(力価)である。免疫原としての抗原の有効性は、増殖アッセイによって、その特定の標的細胞を溶解するT細胞の能力を測定するクロム放出アッセイなどの細胞溶解アッセイによって、又は血清中の抗原に特異的な循環抗体のレベルを測定することによってB細胞活性のレベルを測定することによって、又は当業者に既知であり、かつ使用される他のアッセイのいずれかによって測定することができる。更に、免疫応答の保護レベルは、注射された抗原によって免疫付与された宿主にチャレンジ試験することによって測定することができる。例えば、免疫応答が所望される抗原が、ウイルス又は腫瘍細胞である場合、「免疫学的有効量」の抗原によって誘導される保護レベルは、動物のウイルス又は腫瘍細胞チャレンジ後の生存率又は死亡率を検出することによって測定される。
【0052】
本発明によるワクチンの免疫学的に有効な量の決定は、例えば、ワクチン接種後、又はチャレンジ感染後、例えば、病原体の再単離によって、又は標的の疾患の臨床兆候、若しくは血清学的パラメータを監視し、これらを模擬接種された動物に見られる応答と比較することによって、当業者の十分に手の届く範囲内にある。本発明に係るワクチンを標的生物に適用するための投薬スキームは、単回用量又は複数回用量であってもよく、同時に、又は逐次的に、ワクチンの製剤と適合する方法で、かつ免疫学的に有効であるような量で与えられ得る。
【0053】
ウイルス核酸及びポリペプチド配列の「阻害剤」、「活性化剤」、及び「調節剤」という用語は、ウイルス核酸及びポリペプチド配列のインビトロ及びインビボアッセイを使用して特定された分子を活性化するか、阻害するか、又は調節することを指すために使用される。阻害剤は、ウイルスに結合するか、その活性を部分的に又は完全に遮断するか、ウイルスの活性又は発現を低下させるか、防止するか、活性化を遅らせるか、不活化するか、脱感作するか、又は下方調節し得る化合物である。活性化剤は、ウイルス活性を増加させるか、開放するか、活性化するか、促進するか、活性化を増強するか、感作するか、拮抗するか、又は上方調節する化合物を指す。阻害剤、活性化剤、又は調節剤には、本明細書に記載のウイルスの遺伝的に改変態様、例えば、活性が変化した態様、並びに天然に存在する及び合成のリガンド、基質、アンタゴニスト、アゴニスト、抗体、ペプチド、環状ペプチド、核酸、アンチセンス分子、リボザイム、小化学分子なども含まれる。阻害剤及び活性化剤のアッセイとしては、例えば、本明細書に記載されるように、インビトロ、細胞内、又は細胞膜で、本発明であるウイルスを発現すること、推定調節化合物を適用すること、及び次いで活性に対する機能的効果を決定することが挙げられる。
【0054】
阻害の程度を決定するために、潜在的な活性化剤、阻害剤、又は調節剤で処理される本発明のウイルスを含む試験試料又はアッセイを、阻害剤、活性化剤、又は調節剤を欠く対照試料と比較してもよい。試験試料又はアッセイが比較される対照試料には、100%の相対的なタンパク質活性値が割り当てられてもよい。ウイルスの阻害は、対照試料と比較した試験試料の活性値が、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、及び約0%を含め、約80%より小さい場合に達成される。
【0055】
本明細書で使用される場合、「マレック病ウイルス」又は「MDV」は、本明細書に記載されるような、シチメンチョウヘルペスウイルス(HVT)を含む、Mardivirus属の任意のアルファヘルペスウイルスを指す。特定の実施形態では、本発明は、マレック病ウイルス、その遺伝子成分、遺伝子、及びそれによって産生されるタンパク質に関する。本明細書で使用される場合、そのようなウイルスは、ウイルスの遺伝成分、すなわち、そのゲノム及び転写物、ゲノムによってコードされるタンパク質(構造タンパク質及び非構造タンパク質を含む)、並びに機能的又は非機能的ウイルス粒子を含み得る。かかるウイルスをコードするポリヌクレオチド及びポリペプチド配列は、当該技術分野において周知であり、当業者によって容易に見出されるであろう。
【0056】
「変異体」及び「変異」という用語は、遺伝物質(例えば、DNA)の任意の検出可能な変化、又はそのような変化の任意のプロセス、機構、若しくは結果を意味する。これには、遺伝子の構造(例えば、DNA配列)が変更される遺伝子変異、任意の変異プロセスから生じる任意の遺伝子又はDNA、及び修飾遺伝子又はDNA配列によって発現される任意の発現産物(例えば、タンパク質又は酵素)が挙げられる。「変種」という用語も、修飾又は変更された遺伝子、DNA配列、酵素、細胞など、すなわち、任意の種類の変異体を示すために使用され得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、「核酸」という用語は、5’末端から3’末端まで読み取られたデオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖ポリマーを指す。「核酸」はまた、任意選択で、ポリメラーゼによる正しい読み過しを可能にし、かつその核酸によってコードされるポリペプチドの発現を低下させない、天然に存在しないか、又は変化したヌクレオチド塩基を含有してもよい。「ヌクレオチド配列」又は「核酸配列」という用語は、個々の一本鎖又は二本鎖のいずれかとしての核酸のセンス鎖及びアンチセンス鎖の両方を指す。「リボ核酸」(RNA)という用語は、RNAi(阻害性RNA)、dsRNA(二本鎖RNA)、siRNA(低分子干渉RNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、miRNA(マイクロRNA)、tRNA(対応するアシル化アミノ酸が装荷されているか、又はされていないかにかかわらず、トランスファーRNA)、及びcRNA(相補性RNA)を含む。「核酸セグメント」、「ヌクレオチド配列セグメント」、又はより一般的には「セグメント」という用語は、ゲノム配列、リボソームRNA配列、トランスファーRNA配列、メッセンジャーRNA配列、オペロン配列、及びタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを発現するか、又は発現するように適合され得る、より小さな操作されたヌクレオチド配列を含む機能的用語として、当業者に理解されるであろう。本明細書で使用される命名法は、Title 37 of the United States Code of Federal Regulations §1.822によって要求され、WIPO Standard ST.25(1998),Appendix 2,Tables 1 and 3の表に記載されるものである。
【0058】
「薬学的に許容される担体」という用語は、対象に投与するのに生理学的に適合する、活性成分以外の薬学的製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体としては、限定されないが、緩衝液、賦形剤、安定剤、アジュバント、防腐剤、希釈剤、水性又は非水性ビヒクル、及び他の添加剤が挙げられる。加えて、この用語は、一般に、連邦政府、州政府の規制機関、若しくは他の規制機関によって承認されているか、又はヒト及び非ヒト動物の両方での使用のために米国薬局方若しくは他の一般に認められている薬局方に列挙されている、免疫原性組成物又はワクチンの要素を指す。そのような薬学的担体は、無菌液体、例えば、水及び油であってもよく、石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む。薬学的組成物が静脈内投与される場合、好ましい担体は水である。生理食塩水溶液及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液も、液体担体として、特に注射用溶液に用いることができる。好適な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。所望な場合、組成物はまた、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。組成物は、トリグリセリドなどの従来の結合剤及び担体とともに、坐剤として製剤化することができる。経口製剤は、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含むことができる。好適な薬学的担体の例は、E.W.Martinによる“Remington’s Pharmaceutical Sciences”に記載されている。製剤は、投与様式に適合するものでなければならない。
【0059】
本明細書で使用される場合、「家禽」は、それらが産生する卵のために飼育されている家畜又は商業用の鳥類、並びにそれらの肉及び羽毛を指す。いくつかの実施形態において、家禽は、Galliformes目からの鳥を含んでいてもよく、ニワトリ、ウズラ、及びシチメンチョウを含み、ガチョウ、アヒル、ハクチョウ、ホロホロチョウ、ハトなども含み得る。
【0060】
本明細書に記載のポリヌクレオチドは、プロモーター、イントロン、コード配列、エクソン、5’非翻訳領域、及び3’非翻訳領域を含む、ウイルス遺伝子配列の全て又は一部に相補的であり得る。
【0061】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において互換的に使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。
【0062】
「多価ワクチン(polyvalent vaccine)」、「組み合わせ又はコンボワクチン」、及び「多価ワクチン(multivalent vaccine)」という用語は、1つより多い抗原を含有するワクチンを指すために互換的に使用される。多価ワクチンは、2つ、3つ、4つ、又はそれより多い抗原を含有してもよい。多価ワクチンは、組換えウイルスベクター、活性ウイルス若しくは弱毒化ウイルス若しくは死滅野生型ウイルス、又は活性形態若しくは弱毒化形態若しくは死滅形態での組換えウイルスベクター及び野生型ウイルスの混合物を含み得る。
【0063】
「プロモーター」は、本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼによる遺伝子の転写が始まる場所を定義するDNA配列を指す。プロモーターは、典型的には、転写開始部位の上流に位置する。プロモーターはまた、遠位エンハンサー又はリプレッサー要素を含むことができ、これは、転写開始部位から数千ヌクレオチドも離れた位置に位置し得る。プロモーターは、転写の方向を定義し、どのDNA鎖が転写されるかを示す。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、及び動物を含む供給源に由来し得る。プロモーターは、発現が起こる細胞、組織若しくは器官に関して、又は発現が起こる発達段階に関して、又は生理学的ストレス、病原体、金属イオン、若しくは誘導剤などの外部刺激に応答して、遺伝子構成要素の発現を構成的に又は差次的に調節することができる。プロモーターの代表的な例としては、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレーター-プロモーター、tacプロモーター、RSV-LTRプロモーター、CMV IEプロモーター、ヒトCMVプロモーター、マウスCMVプロモーター、Pecプロモーター、β-ニワトリアクチンプロモーター、モルモットCMVプロモーター、仮性狂犬病ウイルスプロモーター、糖タンパク質Xプロモーター、単純ヘルペスウイルス-1プロモーター、マレック病ウイルスプロモーター、及びSV40プロモーターが挙げられる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「予防的処置」又は「予防的に処置すること」という用語は、疾患又はその症状を完全に、又は部分的に予防することを指し、かつ/又は、この疾患及び/又はこの疾患に起因する有害作用に対する部分的又は完全な治癒という点では、治療的であり得る。
【0065】
「組換え」という用語は、例えば、細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターを参照しつつ使用される場合、その細胞、核酸、タンパク質、又はベクターが、異種核酸若しくはタンパク質の導入又は天然の核酸若しくはタンパク質の改変によって修飾されていること、又はその細胞が、そのように修飾された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、その細胞の天然(非組換え)形態には見られない遺伝子を発現するか、又は他の方法では異常に発現されるか、過小発現されるか、又は全く発現されない天然遺伝子を発現する。いくつかの実施形態において、組換え配列はまた、核酸、タンパク質、又は組換えゲノム(例えば、ウイルスゲノム)を含み得る。本明細書に記載の組換えウイルスベクターは、導入遺伝子の転写を行うために異種プロモーターに作動可能に連結される導入遺伝子を含有し得る。
【0066】
本明細書で使用される「治療有効量」、「有効量」、又は「治療有効用量」という用語は、それが投与される効果を生み出す用量を指す。このような用量又は量はまた、疾患の症状、すなわち、治療される感染のうちの1つ以上をある程度緩和する、投与される薬剤の実施形態の量、及び/又は、治療される宿主が発症するか、又は発症するリスクがある、疾患(すなわち、感染)の症状のうちの1つ以上をある程度防止する量を指し得る。正確な用量は、治療の目的に応じて異なり、当業者は、当該技術分野で既知の技術を使用して、そのような用量を決定することができるであろう。
【0067】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療すること」、及び「治療する」という用語は、疾患、障害、若しくは状態、及び/又はその症状の薬理学的効果及び/又は生理学的効果を低減又は改善するための薬剤を用い、疾患、障害、若しくは状態に作用するものとして定義される。「治療」は、本明細書で使用される場合、対象又は宿主(例えば、獣医学的に関心のある動物)における疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患に罹患しやすいと判定されたが、まだ疾患に感染していると診断されていない対象における疾患の発生リスクを低減すること、(b)疾患の発症を妨げること、並びに(c)疾患を緩和すること、すなわち、疾患の退縮を引き起こすこと、及び/又は1つ以上の疾患症状を緩和することを含む。「治療」はまた、疾患又は状態が存在しない場合であっても、薬理学的効果を提供するための阻害剤の送達を包含することを意味する。例えば、「治療」は、対象における増強した効果又は望ましい効果(例えば、病原体の負荷の減少、疾患症状の低減など)をもたらす疾患又は病原体阻害剤の送達を包含する。
【0068】
「単位剤形」という用語は、本明細書で使用される場合、動物対象のための単位投薬量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位が、薬学的に許容される希釈剤、担体、又はビヒクルと関連して所望な効果を生み出すのに十分な量で計算された所定の量の化合物(例えば、本明細書に記載されるような抗ウイルス化合物)を含有する。単位剤形の仕様は、使用される特定の化合物、投与経路及び投与頻度、達成される効果、並びに宿主中の各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0069】
「ワクチン」又は「ワクチン組成物」という用語は、本明細書で互換的に使用され、対象における免疫応答を誘導する本発明の少なくとも1つの免疫原性組成物を含む薬学的組成物を指す。ワクチン又はワクチン組成物は、疾患又は可能性のある死亡から対象を保護することができ、活性構成要素の免疫活性を増強する1つ以上の追加の構成要素を含んでもよく、又は含まなくてもよい。保護免疫応答を誘導する本発明の組成物は、本発明の細胞株において生成された組換えHVTウイルスを含む。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、HVTに挿入された1つ以上の異種抗原コード遺伝子を有する組換えHVTウイルスを含む。いくつかの実施形態では、抗原コード遺伝子は、ニューカッスル病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、伝染性喉頭気管支炎ウイルス、及び/又はニワトリ貧血ウイルスなどの家禽病原体に由来する抗原である。いくつかの実施形態において、組換えHVTを、家禽において保護免疫応答を引き起こす別の組換えマレック病ウイルスワクチンと組み合わせる。本発明のワクチン又はワクチン組成物は、加えて、例えば、アジュバント又は免疫調節物質を含む、ワクチン又はワクチン組成物に典型的な更なる構成要素を含み得る。ワクチンは、上述の要素のうちの1つを含むか、又は1つより多くを同時に含むことができる。
【0070】
本発明のワクチンは、好適な薬学的担体を更に含んでもよい。「薬学的に許容される担体」という用語は、任意及び全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤を宿主に含むことが意図される。「担体」という用語は、薬学的組成物が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、無菌液体、例えば、水及び油であってもよく、石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む。薬学的組成物が静脈内投与される場合、好ましい担体は水である。生理食塩水溶液及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液も、液体担体として、特に注射用溶液に用いることができる。好適な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。所望な場合、組成物はまた、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。組成物は、投与方法に応じて、トリグリセリドなどの従来の結合剤及び担体で製剤化することができる。特定の製剤は、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含むことができる。好適な薬学的担体の例は、E.W.Martinによる“Remington’s Pharmaceutical Sciences”に記載されている。製剤は、投与様式に適合するものでなければならない。適切な担体は、当業者には明白であり、大部分が投与経路に依存するであろう。本発明において存在し得る追加の成分は、アジュバント、防腐剤、表面活性剤、化学的安定剤、懸濁化剤又は分散剤である。典型的には、安定剤、アジュバント、及び防腐剤は、標的対象における有効性のための最良の製剤を決定するように最適化される。
【0071】
「変種」ペプチドは、本明細書において、親ペプチド配列中の1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失、及び/又は置換によって、「親」ワクチンペプチドアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なり、親ワクチンペプチドの少なくとも1つの所望な活性を保持するペプチドを指す。例えば、変種は、本発明のワクチンの一部として使用されるペプチドの1つ以上のアミノ酸配列において、少なくとも1個、例えば、約1~約10個、好ましくは約2~約5個の置換を含み得る。通常、変種は、親アミノ酸配列と少なくとも50%のアミノ酸配列同一性、好ましくは、少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に関する同一性又は相同性は、配列をアラインメントし、必要な場合、ギャップを導入して最大配列同一性パーセントを達成した後、親ペプチド残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして本明細書で定義される。ペプチド配列へのN末端、C末端、又は内部伸長、欠失、又は挿入のいずれも、配列同一性又は相同性に影響を及ぼすと解釈されるべきではない。変種は、免疫応答を誘発する能力を保持し、好ましくは、親ペプチドの活性よりも優れた所望の活性を有する。
【0072】
変種ペプチドは、完全に機能的であってもよく、又は1つ以上の活性において機能を欠いていてもよい。完全に機能的な変種は、典型的には、保存的変種、又は重要ではない残基若しくは重要ではない領域における変異のみを含有する。機能的変種はまた、機能を変化させないか、又はわずかに変化させる同様のアミノ酸の置換も含有し得る。代替的に、そのような置換は、ある程度まで正又は負の影響を及ぼし得る。非機能的変種は、典型的には、1つ以上の非保存的アミノ酸置換、欠失、挿入、逆位、若しくは切断、又は重要な残基又は重要な領域における置換、挿入、逆位、若しくは欠失を含有する。
【0073】
更に、ポリペプチドは、多くの場合、20の「天然に存在する」アミノ酸以外のアミノ酸を含有する。更に、末端アミノ酸を含む多くのアミノ酸は、プロセシング及び他の翻訳後修飾などの天然プロセスによって、又は当該技術分野で周知の化学修飾技術によって修飾され得る。既知の修飾としては、限定されないが、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、ガンマカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化などのタンパク質に対するアミノ酸のトランスファー-RNA媒介性付加、及びユビキチン化が挙げられる。かかる修飾は、当業者に周知であり、科学文献に詳細に記載されている。いくつかの特に一般的な修飾、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化、及びADPリボシル化は、例えば、Proteins-Structure and Molecular Properties(2nd ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman&Co.,NY,1993)などの最も基本的な教本に記載されている。この主題について、Wold,Posttranslational Covalent Modification of proteins,1-12(Johnson,ed.,Academic Press,NY,1983)、Seifter et al.182 Meth.Enzymol.626-46(1990)、及びRattan et al.663 Ann.NY Acad.Sci.48-62(1992)などによる多くの詳細なレビューが入手可能である。
【0074】
「変種」核酸は、本明細書において、「親」核酸と配列が異なる分子を指す。ポリヌクレオチド配列の逸脱は、1つ以上のヌクレオチドの欠失、置換、又は付加などの変異の変化から生じ得る。これらの変化のそれぞれは、単独で、又は組み合わせて、所与の配列において1つ以上発生し得る。変種核酸は、保存的アミノ酸置換をもたらすヌクレオチド差異、又は翻訳される場合にアミノ酸の差異をもたらすヌクレオチド配列差異を含有し得る。変種核酸はまた、調節要素の変化であり得る。
【0075】
ポリペプチドが保存的アミノ酸置換を含有し得るのと同様に、そのポリヌクレオチドは、保存的コドン置換をコードする核酸配列を含有し得る。コドン置換は、発現されるときに、上述のような保存的アミノ酸置換を生じさせる場合、保存的であるとみなされる。アミノ酸置換を引き起こさない縮退コドン置換は、本発明に係るポリヌクレオチドにおいても有用である。したがって、例えば、本発明の一実施形態で有用な選択されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、それとともに形質転換される発現宿主細胞によって示されるコドン使用頻度に近似させるために、又はそれ以外の方法でその発現を改善するために、縮退コドン置換によって変異され得る。
【0076】
本明細書で使用される場合、「ベクター」は、宿主細胞において目的の1つ以上の遺伝子又は配列を送達し、好ましくは発現させることができる構築物を意味する。ベクターの例としては、限定されないが、ウイルスベクター、ネイキッドDNA又はRNA発現ベクター、プラスミド、コスミド又はファージベクター、カチオン性縮合剤に関連するDNA又はRNA発現ベクター、リポソームに封入されたDNA又はRNA発現ベクター、並びにプロデューサー細胞などの特定の真核細胞が挙げられる。ベクターは、本明細書に記載されるように、核酸の転写を指示する核酸配列を意味する発現制御配列を有する。発現制御配列は、構成的プロモーター又は誘導性プロモーターなどのプロモーター、又はエンハンサーであり得る。発現制御配列は、転写される核酸配列に「作動可能に連結されている」。核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係に配置されるときに、「作動可能に連結される」。例えば、プレ配列又は分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのDNAに作動的に連結され、プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動的に連結され、又はリボソーム結合部位は、翻訳を容易にするように位置付けられる場合、コード配列に作動可能に連結される。一般的に、「作用可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合には、連続しており、かつ読み取り段階にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによって達成される。かかる部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーは、従来の慣行に従って使用される。
【0077】
本発明によれば、本明細書に記載の組換えウイルスベクターは、ウイルス病原体からの遺伝子を発現する組換えウイルスベクターを提供することによって、家禽を、2つ以上の異なるウイルス病原体から保護することを可能にしてもよい。いくつかの実施形態において、本発明の組換えウイルスベクターは、本明細書に記載の免疫原性組成物において、家禽に提供され得る。本明細書に記載の組換えウイルスベクターとともに使用するのに好適な任意のウイルス病原体からの遺伝子を使用してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、組換えウイルスベクターは、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)、鳥インフルエンザウイルス(AIV)、ニワトリ貧血ウイルス(CAV)、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、及び伝染性喉頭気管炎ウイルス(ILTV)などからの遺伝子を発現し得る。
【0078】
本発明の組換えウイルスベクターによる家禽における発現のためのウイルス抗原は、本明細書に記載のウイルス遺伝子などのウイルス遺伝子によってコードされ得る。当業者は、この点に関して、所望の活性及び/又は機能を得るために特定の遺伝子の全体を組み込む必要がない場合があることを理解するであろう。むしろ、かかる遺伝子の一部を使用してもよい。任意の所与の標的化されたウイルス又は複数ウイルスに特異的な、所望の遺伝子の特定の部分を選択することが望ましい場合がある。タンパク質の長さに関係なく、所望のウイルスタンパク質又はそのようなタンパク質をコードする配列の最適化は、本発明とともに使用するのに適切な当該技術分野で既知の方法論を使用して容易に行われ得る。当業者であれば、対象に導入される場合にウイルスタンパク質の活性を増加させるように、1つ以上の遺伝子、又はそれによってコードされるタンパク質に対して修飾が行われ得ることを理解するであろう。ウイルス遺伝子又はタンパク質に対して行われる修飾は、特定のウイルスに対する宿主における応答を増加又は減少させ得る。
【0079】
特定の実施形態において、本発明の組換えマレック病ウイルス又は組換えウイルスベクターは、IBDVウイルスタンパク質又は遺伝子産物、例えばIBDV VP2タンパク質又は遺伝子産物をコードする導入遺伝子を有し得る。別の実施形態において、かかる組換えウイルス又はウイルスベクターは、NDVウイルスタンパク質又は遺伝子産物、例えば、NDV F又はHNタンパク質又は遺伝子産物をコードする導入遺伝子を有し得る。別の実施形態において、かかる組換えウイルス又はウイルスベクターは、鳥インフルエンザウイルス(AIV)ウイルスタンパク質又は遺伝子産物、例えば、AIV HA又はNタンパク質又は遺伝子産物をコードする導入遺伝子を有し得る。別の実施形態において、かかる組換えウイルス又はウイルスベクターは、ILTV gB若しくはgC若しくはgD若しくはgE若しくはgI、UL-32タンパク質若しくは遺伝子産物などの、伝染性喉頭気管炎ウイルス(ILTV)ウイルスタンパク質又は遺伝子産物をコードする導入遺伝子を有し得る。別の実施形態において、かかる組換えウイルス又はウイルスベクターは、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)ウイルスタンパク質又は遺伝子産物、例えば、IBV S1又はS2タンパク質又は遺伝子産物をコードする導入遺伝子を有し得る。本発明の導入遺伝子は、NDV F-HN融合タンパク質、キメラ、又は遺伝子産物などの遺伝子融合タンパク質又は遺伝子産物を含む、1つより多い遺伝子を有し得る。いくつかの実施形態において、そのような遺伝子の完全なコード配列は、完全長又は完全に機能するタンパク質又はポリペプチドが産生されるように使用されてもよい。代替的に、ウイルスタンパク質又はポリペプチドの一部又は断片は、特定のウイルス又は複数ウイルスからの保護又はこれらに対する耐性を提供するのに十分であり得る。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、範囲内に収まる各別個の値を個別に指す速記法としての役割を果たすことを意図するに過ぎず、各別個の値は、本明細書に個別に列挙されるかのように本明細書に組み込まれる。本明細書で提供される任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をより良好に示すことを意図するだけであり、別段の主張がない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書におけるいかなる言語も、本発明の実施に不可欠であると主張されていない任意の要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0080】
ある特定の実施形態では、方法は、不死化鳥類細胞株である出発細胞株を提供することを含む。ある特定の実施形態では、不死化鳥類細胞株は、JBJ-1、DF-1、LF-1、LMH、SL-29、DT-40、ESCDL-1、SC-1、SC-2、及びST-2からなる群から選択される。特定の例では、不死化鳥類細胞株は、ニワトリ線維芽細胞様細胞株である。具体的な例では、不死化鳥類細胞株は、JBJ-1である。
【0081】
ある特定の実施形態では、方法は、出発細胞株の1つ以上の遺伝子要素を遺伝子改変することによって修飾された細胞株を作製することを含む。特定の実施形態では、遺伝子改変は、標的遺伝子のコード部分内にあり得るが、他の実施形態では、遺伝子改変は、標的遺伝子のコード部分から外れるが、そうでなければ発現に影響を与えるゲノムの一部分に対するもの(例えば、プロモーター、エンハンサーなどへの遺伝子改変)であり得る。
【0082】
ある特定の実施形態では、遺伝子改変は、標的遺伝子の発現をノックアウト(欠失)又はノックダウン(破壊)又は増加(改変)し、それによって発現を低減、発現を増加、又は遺伝子産物の機能活性を改変する。そのような遺伝子改変を有する細胞は、本明細書では「欠失変異体」、「破壊変異体」、又は「欠失/破壊変異体」と称され、これらの用語は一般に、全体を通して交換可能に使用される。低減又は増加/改変した発現は、当業者に周知であるいくつかの異なるタイプの遺伝子改変からもたらされ得る。例えば、低減した発現は、遺伝子の機能的形態の低減した転写から及び/又はタンパク質の機能的形態の低減した翻訳からもたらされ得る。例えば、低減した発現は、標的遺伝子のコード領域内で挿入又は欠失(「インデル」)をもたらす改変から生じ得、最終的に転写されるタンパク質は、非機能性であるか、又は低減若しくは増強/改変した機能性、例えば、抑制因子/抑制因子要素の機能性を有するように、(例えば、停止コドンの導入のために)切断されるか、又は(例えば、エクソンの排除又はタンパク質内の複数のアミノ酸残基の変化のために)十分に改変される。別の例では、低減した発現は、遺伝子の転写が低減又は排除されるように、標的遺伝子のプロモーター又はエンハンサーを変異させる改変からもたらされ得る。更なる例では、特定の標的遺伝子の低減した発現は、標的遺伝子(例えば、上流シグナル伝達要素)の発現に関与する別の遺伝子の発現の改変からもたらされ得る。
【0083】
本発明の細胞株において行われる遺伝子改変は、当業者に知られているであろういくつかの異なる方法で増加したMDVウイルス複製又は力価を支持する能力を有する遺伝的に改変された細胞株を提供することができる。特定の例では、遺伝子改変は、細胞内へのMDV侵入並びに/又は細胞内でのMDV生存及び/若しくは複製に関連する1つ以上の遺伝子、並びに/又はMDV感染中の細胞生存に関連する1つ以上の遺伝子に影響を与える。他の例では、遺伝子改変は、ウイルス複製機構の破壊又は隔離に関与する1つ以上の遺伝子の発現を低減する。追加の例では、遺伝子改変は、ウイルス粒子の破壊に関与する1つ以上の遺伝子の発現を低減する。他の例では、遺伝子改変は、ウイルスの複製に関与する1つ以上の遺伝子の発現を増加させる。なお更なる例では、遺伝子改変は、感染した細胞のアポトーシスに関与する1つ以上の遺伝子の発現を低減する。追加の例では、遺伝子改変は、複数の態様、例えば、アポトーシスに関与する1つ以上の遺伝子の発現の低減、及びウイルス粒子の破壊に関与する1つ以上の遺伝子の発現の低減に関与する遺伝子の組み合わせを含む。
【0084】
本明細書で論じられるように、遺伝子改変は、当業者によって周知である、CRISPR/Cas9システムを使用することによって行われる。要するに、CRISPR(クラスター化された規則的な間隔の短い回文反復)は、細菌及び古細菌などの原核生物のゲノムに見出されるDNA配列のファミリーである。これらの配列は、以前に原核生物に感染したバクテリオファージのDNA断片に由来する。配列は、その後の感染中に類似のバクテリオファージからのDNAを検出及び破壊するために使用される。したがって、これらの配列は、原核生物の抗ウイルス(すなわち、抗ファージ)防御システムにおいて重要な役割を果たす。Cas9(又は「CRISPR関連タンパク質9」)は、CRISPR配列に相補的なDNAの特定の鎖を認識及び切断するためのガイドとしてCRISPR配列を使用する酵素である。Cas9酵素は、CRISPR配列とともに、遺伝子を編集するために使用することができるCRISPR-Cas9として知られる技術の基礎を形成する。Cas9エンドヌクレアーゼは、2つの小crRNA分子及びトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)を含む4成分システムである。Cas9エンドヌクレアーゼは、2つのRNA分子を、Cas9と組み合わせると、ガイドRNAによって特定されたDNA標的を発見し、切断することができる、「単一ガイドRNA」に融合させることによって2成分システムに操作した。ガイドRNAのヌクレオチド配列を操作することによって、人工Cas9システムは、切断のために任意のDNA配列を標的とするようにプログラムすることができる。Cas9はまた、そのcrRNAの配列を変更することによって、選択した部位を標的とするように再プログラムすることができることが示された。これらの進歩は、修飾されたCRISPR-Cas9システムでゲノムを編集する努力を促進した。
【0085】
遺伝子改変のための特定の遺伝子標的は、関連するプロセスに関与する細胞遺伝子の文献のレビュー又はMDV感染中の細胞遺伝子発現のバイオインフォマティクス分析を含む、当業者に周知であろう様々な手段を通して同定することができる。特定の例では、遺伝子改変のための特定の遺伝子標的は、MDVに感染させる細胞株における遺伝子発現プロファイルを、未感染細胞における遺伝子発現プロファイルと比較することによって同定することができる。これは、個々の遺伝子若しくは経路レベルで、例えば、PCR、qPCR、若しくはリアルタイムPCR分析によって、又は多数の遺伝子に関してよりグローバルなレベルで、例えば、DNAマイクロアレイ若しくはRNA-Seqを使用して行うことができる。そのような分析は、感染した細胞において上方調節又は下方調節される特定の遺伝子又は経路の同定を可能にし、それによって遺伝子改変のための候補遺伝子を同定するであろう。例えば、抗原提示に関与するタンパク質分解遺伝子が感染中に上方調節されていると同定される場合、この遺伝子は発現の低減のための候補となるであろう。同様に、細胞アポトーシスに関与する遺伝子が感染中に高度に上方調節されていることがわかった場合、この遺伝子は発現の低減のための候補となるであろう。そのような分析を通して、次いで発現を低減又は増加させることができる遺伝子標的を同定して、そのような改変がウイルス複製又はウイルス力価に肯定的な影響をもたらすかを確認することができる。遺伝子発現を低減若しくは増加させるか、又は様々な標的タンパク質の機能活性を改変する遺伝子改変後、細胞は、MDVに感染させて、遺伝子改変がウイルス複製又はウイルス力価に肯定的な影響をもたらしたかを確認することができる。
【0086】
一例では、(未感染のJBJ-1細胞と比較して)JBJ-1細胞のMDV感染中に上方制御される205個の潜在的な候補遺伝子を同定したRNA-Seq分析を行った。その分析において最大の発現変化を示した遺伝子は、SLAMF8、HTR2A、BLEC2、CTSL2、COBLL1、STAT4、SEPP1、VTG1、AHSG、BRCA1、F13A1、GCGR、IL10、CDH5、IFNK、TP53I11、CTGF、及びIRS1であった。ある特定の実施形態では、修飾された細胞株は、これらの遺伝子のうちの1つ以上、例えば、これらの遺伝子のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の低減した発現をもたらす遺伝子改変を含む。特定の実施形態では、修飾された細胞株は、SLAMF8、HTR2A、BLEC2、CTSL2、COBLL1、及びSTAT4のうちの1つ以上の低減した発現をもたらす遺伝子改変を含む。特定の例では、修飾された細胞株は、SLAMF8の低減した発現及び/又は機能をもたらす遺伝子改変を含む。他の実施例では、修飾された細胞株は、HTR2Aの低減した発現/機能をもたらす遺伝子改変を含む。更なる例では、修飾された細胞株は、HTR2A及びCTSL2、COBLL1、又はSTAT4の低減した発現をもたらす遺伝子改変を含む。追加の例では、修飾された細胞株は、HTR2A、STAT4、及びCTSL2又はCOBLL1の低減した発現をもたらす遺伝子改変を含む。更なる例では、修飾された細胞株は、SLAMF8及びCTSL2、COBLL1、又はSTAT4の低減した発現をもたらす遺伝子改変を含む。追加の例では、修飾された細胞株は、SLAMF8、STAT4、及びCTSL2又はCOBLL1の低減した発現をもたらす遺伝子改変を含む。
【0087】
典型的な二倍体細胞において、細胞は、各遺伝子の2つのコピーを有するであろう。遺伝子改変は、ホモ接合変異体を産生する、遺伝子の両方のコピー、又はヘテロ接合変異体を産生する、一方のみのコピーに影響を与えることができる。特定の例では、修飾された細胞は、ヘテロ接合欠失/破壊変異体である。他の例では、修飾された細胞は、ホモ接合欠失/破壊変異体である。
【0088】
ある特定の実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、出発細胞株のものよりも少なくとも約2倍増加する。他の実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、出発細胞株のものよりも少なくとも約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約11倍、約12倍、約13倍、約14倍、約15倍、約16倍、約17倍、約18倍、約19倍、約20倍、約25倍、約30倍、約35倍、約40倍、約45倍、約50倍、約60倍、約70倍、約80倍、約90倍、約100倍、又はそれ以上増加する。他の実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、出発細胞株のものよりも少なくとも約1log増加する。更なる実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、出発細胞株のものよりも1~3log増加する。なお更なる実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、出発細胞株のものよりも1~2log増加する。
【0089】
ある特定の実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、初代CEF細胞において得られたものの1log以内、すなわち、それを下回る約1log以下である。他の実施形態では、修飾された細胞株におけるMDVウイルス複製及び/又は力価は、初代CEF細胞において得られたものを下回る約20倍、約10倍、約9倍、約8倍、約7倍、約6倍、約5倍、約4倍、約3倍、又は約2倍以下である。ある特定の実施形態では、MDVウイルス複製及び/又は力価は、活性感染中、例えば、MDVによる細胞の感染の約12、24、36、48、72、96、又は120時間後に確認される。
【0090】
ウイルス複製及び/又はウイルス力価は、当該技術分野で既知の任意の好適な方法によって決定することができる。ある特定の実施形態では、ウイルス複製は、例えば、qPCRによって、存在する細胞ゲノムDNAの量と比較して存在するウイルスDNAの量を分析することによって決定される。例えば、qPCRを実施して、存在するウイルスDNAの量を試料中に存在する細胞オボトランスフェリンDNAの量と比較することができる。出発細胞株の感染中のウイルス対細胞DNAの比を修飾された細胞株のものと比較することによって、修飾された細胞株が増加したウイルス複製/力価を支持しているかを確認することができる。
【0091】
他の実施形態では、ウイルス力価は、ウイルス調製物を連続的に希釈し、CEFなどの、新鮮な許容細胞を複製物においてこれらの連続希釈物に感染させることによって決定される。次いで、FITCなどの、蛍光分子にコンジュゲートされた、ウイルスに特異的な抗体の使用を通して、病巣の数、又は細胞が感染した周囲の領域を計数することができる。特定の希釈では、調製物中のウイルスのレベルに依存して、個別に計数することができるように、通常は30~300の、非常にわずかな病巣がある。計数可能な病巣を平均化し、希釈因子を補正することによって、次いで、特定の調製物における、伝染性ウイルス単位、又はウイルス力価の数を決定することができる。
【0092】
他の実施形態では、本出願は、本明細書に記載される方法によって作製されるMDVの高力価増殖を支持することができる遺伝的に改変された細胞株に関する。更なる実施形態では、本出願は、本明細書に記載される遺伝的に改変された細胞にMDVを接種又は感染させ、それらの細胞においてMDVを増殖させ、得られる細胞又はウイルス粒子を収集することによって産生されるMDVワクチンを調製又は作製する方法に関する。更なる実施形態では、本出願は、そのような方法を使用して調製されるMDVワクチンに関する。
【0093】
特許請求される実施形態を、限定するのではなく、説明するために、以下の実施例が提供される。本明細書に記載される例及び実施形態は、例示のみを目的としており、当業者は、本開示の趣旨又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく改変することができる様々なパラメータを認識するであろうことを理解されたい。
【実施例
【0094】
実施例1:
細胞株におけるMDV複製/力価を増強するための遺伝子標的の同定
平底組織培養フラスコ、ローラーボトル、及びマイクロキャリアにおいて増殖させることができる、JBJ-1細胞、線維芽細胞様連続ニワトリ細胞株は、HVTを含む安全で有効なMDVの増殖を支持することができるとして以前に同定されている。Geerlings et al.2008を参照されたい。しかしながら、適応の不在下でのHVTウイルス産生の能力は、初代CEF細胞の能力をはるかに下回る。よって、本発明者らは、遺伝子編集を通してウイルスを産生するJBJ-1細胞の能力を増強しようとした。例えば、van der Sanden et al.2016、Wu et al.2017を参照されたい。
【0095】
標的化されたノックアウトのための潜在的な候補遺伝子を同定するために、本発明者らは、RNA-Seqを使用して様々な時点でMDV感染及び未感染JBJ-1細胞における遺伝子発現を調査した。簡潔には、JBJ-1細胞を約90%コンフルエンスで播種し、HVT-FC126に感染させたか、又は感染させなかった。感染した細胞及び感染していない細胞の両方の複製試料は、感染の4、8、24、及び36時間後に収集した。標準的な方法を使用して、RNAを単離した。配列決定のためにライブラリーを調製する前に、RNAについて品質管理を実施して、濃度及びRIN(RNAインテグリティナンバー)を決定する。各試料のライブラリー調製には、適切なトータルRNAキットが使用される。各ライブラリーの最終的な品質管理を行い、次いで試料を正規化し、プールし、適切なシーケンサー(すなわち、NextSeq500)で配列決定し、試料当たり約4000~8000万リードを生成する。リードは、曖昧な塩基、低品質及びアダプター汚染についてトリミングし、次いでEnsemblニワトリゲノム(v.4.82)及びHVTゲノム(NC_002641)にマッピングした。RNA-Seq分析から得られたデータを入力として使用して、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェアを使用して、MDV感染中に高度に誘導又は抑制された遺伝子、並びにそれらの遺伝子の上流及び下流調節因子の両方を同定した。この分析から、改変される場合に増強したウイルス増殖をもたらし得る潜在的な標的であった205個の遺伝子が同定された。
【0096】
使用されるCRISPR/Cas9方法は、当業者に周知である。上記の同定された205個の遺伝子の各々を標的とする615個のCRISPR単一ガイドRNA(sgRNA)を含有するライブラリー。各遺伝子について、CRISPR-Cas9研究中に遺伝子が成功裏に破壊されることを確実にするために、3つの別個のsgRNAを産生した。Cas9をJBJ-1細胞株にトランスフェクトし、Cas9を安定に発現するJBJ-1細胞株を選択した(「Cas9-JBJ-1細胞」)。簡潔には、JBJ-1細胞を、製造業者の推奨(GE-Dharmacon)に従ってEdit-RレンチウイルスCAG-Blast-Cas9ヌクレアーゼ粒子で形質導入し、次いでブラスチシジンの存在下での増殖によって挿入物について選択した。CAS9の発現を、抗体7A9(Novus)及び指定されたJBJ-1:pCAG CAS9を使用してウエスタンブロット又はIFAによって確認した。JBJ-1を、高グルコース、10%FBS、0.02mg/mlゲンタマイシン、L-グルタミンを含む、1.2ug/mlブラスチシジンあり又はなしのDMEM中で増殖させた。
【0097】
24ウェル組織培養プレートを使用して、615個のsgRNAの各々を、Cas9-JBJ-1細胞にトランスフェクトした。簡潔には、JBJ-1:mCMV CAS9を、トランスフェクションの約18時間前に、ウェル当たり3×105細胞で24ウェルプレートに播種した。tracrRNA及び各crRNAを次いで、室温でインキュベートすることによって緩衝液中で二本鎖化した。二本鎖を、製造業者の指示に従ってDharmafect(Dharmacon)溶液に添加し、培地に添加し、次いで細胞に約70時間にわたって添加した。約70時間後、全てのウェルをHVTウイルスに約46時間感染させ、採取し、以下に記載されるようにアッセイした。
【0098】
qPCR方法論は、前述のプライマー及びプローブセットに基づいた(Islam et al.2004、Baigen et al.2005)。簡潔には、ウイルスゲノムの定量化にはSORF1遺伝子(HVT-083/HVT-093)を使用し、ニワトリゲノムの定量化にはオボトランスフェリン(OVO又はTF)遺伝子を使用した。SORF1及びTFのプライマー、プローブ、及び標準物を表1に列挙する。標準曲線はともに、それぞれの遺伝子の領域のIDTからの合成されたgブロックを使用した。各二本鎖反応を3つ組で実行し、SORF1遺伝子のコピー数を、ニワトリ細胞当たりのウイルスゲノムのコピーについてのTF遺伝子のコピー数で割った。各実験において、修飾されたJBJ-1細胞のウイルスコピー数を野生型JBJ-1細胞のウイルスコピー数で割って、遺伝子破壊によるウイルス複製の増加があったかを決定した。
【表1】
【0099】
このスクリーニングを通して、CRISPR-Cas9遺伝子破壊後に増加したウイルス複製を提供した、表2に列挙される18個の遺伝子を同定した。
【表2】


【0100】
これらの18個の遺伝子は全て、増加したMDVウイルス複製/力価を支持することができる不死化細胞株を作製するための遺伝子欠失/破壊の候補である。これらの18個の候補のうち、ウイルス複製の最も大きな増加をもたらした3つの遺伝子破壊を、更なる分析のために選択した。
【0101】
実施例2:
遺伝子欠失/破壊変異体の生成
第1の例においてウイルス複製に最も大きな影響を示した3つの遺伝子:SLAMF8、HTR2A、及びBLEC2遺伝子を、リボ核タンパク質(RNP)複合体を使用して、正常なJBJ-1細胞において欠失/破壊して、ウイルス複製/力価へのそれらの影響を更に評価した。各遺伝子標的について、表3に示されるように、sgRNAを生成した。
【表3】
【0102】
各単一ガイドRNA(sgRNA)をCas9タンパク質と複合体化して、RNPを形成した。次いで、24ウェルプレート形式で市販のトランスフェクション試薬を使用して各RNP複合体をJBJ-1細胞にトランスフェクトし、72時間インキュベートした。全ての集団を、6ウェルプレート、次いでT25フラスコに増殖させ、試料を凍結し戻し、試験し、及び希釈を制限することによってクローニングした。標的化された遺伝子当たり10個の96ウェルプレートへの希釈を制限することによって、クローニングを行った。3~4週間の増殖後、陽性ウェルを更なる増殖及び試験のために24ウェルプレートに移した。各ウェルを、選択された部位におけるホモ接合欠失/破壊の存在について競合結合PCR(cbPCR)によって試験した。陽性クローンを増殖させ、更なる試験に持ち込んだ。
【0103】
競合結合PCR(cbPCR)(Harayama and Riezman 2017)プライマーを3つの遺伝子の各々について作製し、各クローンを目的の遺伝子における欠失の存在についてスクリーニングするために使用した。cbPCR研究に使用されるプライマーを、以下の表4~6に記載する。
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
簡潔には、3つのプライマーを各標的遺伝子のために設計した:アウターフォワードプライマー、アウターリバースプライマー、及びフォワード又はリバース方向のいずれかのインナープライマー。3つのプライマーを使用してPCRを行い、次いで得られたPCR産物をゲル電気泳動によって分析して観察した。プライマーの設計において、インナープライマーは、gRNAの標的部位に重複し、その領域に(CRISPR-Cas9複合体による切断のために)破壊あった場合、インナープライマーは、結合することができず、より大きなPCR産物のみが増幅されることをもたらすであろう。逆に、CRISPR-Cas9複合体がgRNA領域で切断されなかった場合、内部産物は、その標的部位で結合し、より小さなPCR産物が増幅されることをもたらすであろう。したがって、より小さなPCR産物がゲル上で観察される場合(より小さなPCR産物のみ、又は小さなPCR産物及びより大きなPCR産物の両方のいずれか)、標的遺伝子の破壊されていないバージョンが試料遺伝子型に存在する。逆に、より大きなPCR産物の単一バンドのみがゲル上で観察される場合、試料は欠失/破壊変異体のホモ接合集団である。
【0107】
各遺伝子欠失/破壊の8つの24ウェルプレート(192クローン)を、cbPCRによって分析した。HTR2A欠失研究について、ゲル電気泳動研究において12個のクローン(A1、A5、B2、B19、B24、C1、C5、E1、F14、F15、F23、及びH12)が、HTR2Aのホモ接合欠失/破壊変異体として同定された。増殖後、分析を繰り返し、それらのクローンのうちの11個(A1、A5、B19、B24、C1、C5、E1、F14、F15、F23、及びH12)が、HTR2Aのホモ接合欠失/破壊変異体であることが確認された。
【0108】
SLAMF8について、8つの24ウェルプレートの初期分析は、いかなるホモ接合欠失/破壊変異体も同定しなかった。そのようなものとして、追加の8つの24ウェルプレートを調製し、スクリーニングした。ゲル電気泳動研究において、5つのクローン(G10、G13、G15、G24、及びI24)が、SLAMF8のホモ接合欠失/破壊変異体として同定された。
【0109】
BLEC2について、8つの24ウェルプレートの初期分析は、いかなるホモ接合欠失/破壊変異体も同定しなかった。そのようなものとして、追加の8つの24ウェルプレートを調製し、スクリーニングし、同様にBLEC2のホモ接合欠失/破壊変異体は同定されなかった。ホモ接合BLEC2破壊は、細胞にとって致死的であり得ると仮定される。
【0110】
実施例3:
HTR2Aと別の候補遺伝子の二重変異体の生成
複数の候補遺伝子の同時欠失/破壊が、得られた修飾された細胞株におけるウイルス力価を更に増加させることができるかを評価するために、HTR2Aと追加の候補遺伝子の欠失/破壊を有した二重変異体を産生した。実施例2で産生されたHTR2Aの欠失/破壊変異体(JBJ-1 HTR2A-変異体クローンF14)を出発細胞株として使用した。欠失/破壊について標的化された追加の遺伝子は、STAT4、CTSL2、COBLL1、及びSLAMF8であった。これらの追加の遺伝子の欠失/破壊変異体を産生し、表7~10に記載されるgRNA及びプライマー配列を使用して、実施例2に記載されるようにcbPCRによって分析した。
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
【表10】
【0115】
各二重欠失/破壊の2つ及び4つの24ウェルプレート(48~96クローン)間をcbPCRによって分析した。この分析において、STAT4、CTSL2(例えば、クローン34及び48)、及びCOBLL1(例えば、クローン35及び47)と組み合わせてHTR2Aの二重欠失/破壊を有するクローンを同定した。SLAMF8と組み合わせたHTR2Aの成功した二重欠失/破壊変異体は同定されず、本発明者らは、これらの遺伝子の両方のホモ接合破壊が、細胞にとって致命的であり得ると仮定するに至った。
【0116】
実施例4:
MDVウイルス複製のためのqPCRによるHTR2A欠失変異体の試験
MDV複製を支持する欠失/破壊変異体の能力を評価するために、変異体をMDVに感染させ、qPCRを使用して分析して、実施例1に記載されるように、各試料中のニワトリゲノムDNAに対するウイルスDNAの比を決定した。感染は、各細胞型について2つの異なるMOI(0.008及び0.02)で24ウェルプレートにおいてHVT-FC126ウイルスで行った。ウイルスを細胞に添加した直後に試料を採取し、次いで各処理についての残りの感染混合物を2つの24ウェルプレート間で均等に分割した。48時間で1枚及び72時間で1枚のプレートを採取した。この分析の結果を表11に記載する。
【表11】
【0117】
HVTウイルスは、各時点にわたる一貫したHVT/TF比によって証明されるように、JBJ-1野生型細胞においてほとんど又は全く増幅されなかった。逆に、HVT/TF比は、全てのHTRA2変異体の時点にわたって増加し、HTR2A変異体は、一般に、JBJ-1野生型細胞で見られたものよりもはるかに高い比をもたらした。試験されたHTR2A変異体クローンのほとんどは、他のクローンよりもはるかに高いHVT/TF比をもたらしたクローンC1及びF14、並びにJBJ-1野生型細胞と同様にふるまったクローンC5及びF15を顕著な例外として、同様にふるまった。
【0118】
実施例5:
HVT-ND-GFPウイルスによるHTR2A及びSLAMF8変異体の感染
MDVの複製を支持する単一遺伝子欠失/破壊変異体細胞株の能力を更に特徴付けるために、細胞を、HVT-ND-GFPウイルス、ニューカッスル病ウイルス由来の遺伝子及び緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を保有するHVTウイルスの修飾されたバージョンに感染させた。これは、特定の時点でのウイルス増殖の可視化を可能にし、並びに細胞/ウイルスを滴定により適したものにする。初代CEF細胞を対照として使用した。全ての細胞を、1.00×106細胞/cm2の密度でT25フラスコにおいて播種し、0.008のMOIでHVT-ND-GFPウイルスに感染させた。GFP蛍光は、感染後24、48、及び72時間で観察された。
【0119】
得られた画像を、図1(HTR2A-クローン)及び図2(SLAMF8-クローン)に示す。見てわかるように、最も活性なウイルス複製は、感染後48時間でCEF細胞において観察された。欠失/破壊変異体はまた、実質的なウイルス複製を支持した。
【0120】
HTR2A-変異体については、72時間でクローンF14が最も多くの複製を示し、すぐ後に72時間でクローンC1が続いたが、クローンA1はより少ないウイルス複製を支持した。これは、クローンF14が最も高いSORF1/TF比(0.008のMOIについて72時間で1083)を提供し、クローンC1が2番目に最も高いSORF1/TF比(0.008のMOIについて72時間で382)を提供し、クローンA1がはるかに低い比(0.008のMOIについて72時間で23)を提供した、qPCRデータと十分に相関する。
【0121】
SLAMF8-変異体について、クローンG10は、最も多くのウイルス複製を示し、すぐ後にクローンG24時間、次いでクローンG15が続いた。他のクローンも同様にウイルス複製を支持したが、これらのクローンよりもその程度は小さい。
【0122】
実施例6:
異なるHVTウイルスによるJBJ-1及びHTR2A変異体の感染
欠失変異体における増加したウイルス複製が、複数のタイプのHVTウイルスにわたって普遍的であるかを決定するために、CEF、JBJ-1野生型、及びJBJ-1 HTR2A-変異体(クローンF14)細胞を4つの異なるHVTウイルスに感染させ、次いでウイルス力価を決定した。全ての細胞を、1.00×106細胞/cm2の密度でT225フラスコにおいて播種し、0.008のMOIでウイルスに感染させた。約45時間のインキュベーション後、細胞を1ml/75cm2で採取し、USDA CVB試験プロトコルSAM 407:マレック血清型3(シチメンチョウヘルペスウイルス株FC-126)の滴定のための補足アッセイ方法に基づいて標準的なSOPを使用した滴定のために凍結し戻し、凍結乾燥した。この分析の結果を表12に記載する。
【表12】
【0123】
全ての4つのウイルスは、CEF細胞において、JBJ-1細胞よりも良好に増殖した(1~3log高い)。HTR2A変異体細胞株は、JBJ-1野生型細胞で達成されたものよりも大幅に増加したウイルス力価(1~2log高い)を提供した。実際に、HVT-IBDは、CEF細胞よりもHTR2A-細胞においてより高い力価に達した。
【0124】
実施例7:
HVT-ND-GFPに感染したCEF、JBJ-1、及び欠失変異体細胞における蛍光及びウイルス力価の分析
様々な変異体細胞株におけるウイルス複製を更に特徴付けるために、細胞をHVT-ND-GFPウイルスに感染させ、次いで蛍光を観察し、ウイルス力価を決定した。初代CEF細胞及び野生型JBJ-1細胞を対照として使用した。全ての細胞を、1.02×106細胞/cm2の密度でT75フラスコにおいて播種し、0.008のMOIでウイルスに感染させた。GFP蛍光を観察し、感染後約25時間及び45時間で記録した。感染後45時間で、細胞も1ml/75cm2で採取し、上記のように標準SOPを使用して滴定のために凍結し戻した。
【0125】
第1の研究では、JBJ-1 SLAMF8-変異体細胞(クローンG10)及びJBJ-1 HTR2A-変異体細胞(クローンF14)を分析した。HTR2A細胞株について、F14細胞株クローンの低継代(継代9)及び高継代(継代17)培養の両方を利用して、ウイルス複製に対する複数継代の影響を決定した。蛍光画像を図3に示し、ウイルス力価分析の結果を表13に記載する。
【表13】
【0126】
GFP蛍光及びウイルス力価の両方の結果によると、HTR2A変異体及びSLAMF8変異体は、野生型JBJ-1細胞よりも約1log高いウイルス力価をもたらし、低パス又は高パスHTR2A細胞間に差はなかった。全ての場合において、JBJ-1欠失変異体内でのウイルス産生はCEF細胞内でのウイルス産生よりも低かったが、CEFなどの初代鳥類細胞ではなくJBJ-1細胞株が形質転換されるため、生物学的に重要である1log以内であった。
【0127】
第2の研究では、SLAMF8-変異体(クローンG10)及びHTR2A-変異体(クローンF14)細胞を、いくつかの二重変異体:HTR2A-/STAT4-(クローン14及び74)、HTR2A-/CTSL2-(クローン34及び48)、及びHTR2A-/COBLL1-(クローン2)と比較した。蛍光画像を図4に示し、ウイルス力価分析の結果を表14に記載する。
【表14】
【0128】
他の研究と一致して、GFP蛍光及びウイルス力価データの両方によれば、HTR2A変異体及びSLAMF8変異体は、野生型JBJ-1細胞よりも約1log高いウイルス力価をもたらし、初代CEF細胞において得られたものよりもごくわずかに低い力価を有した。二重欠失変異体のうち、HTR2A-/COBLL1-及びHTR2A-/CTSL2-二重変異体は、JBJ-1野生型細胞よりもごくわずかに良好な性能を示した。しかしながら、HTR2A-/STAT4-クローン72は、HTR2A-及びSLAMF8-単一変異体の各々と同様、又はそれよりもわずかに良好な性能であった。
【0129】
参考文献:
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図1
図2
図3
図4
【配列表】
2023531326000001.app
【国際調査報告】