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特表2023-531358ミエリン形成を促進する組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】ミエリン形成を促進する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20230714BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 31/41 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230714BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C12N5/0797
A61K31/47
A61K31/41
A61K31/444
A61K31/454
A61P25/00
A61P25/28
A61P43/00 111
C12Q1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566333
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 US2021029806
(87)【国際公開番号】W WO2021222507
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】63/018,939
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】へ ジーガン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ヘ シュエリアン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QX01
4B065AA91X
4B065AC14
4B065BB04
4B065BB40
4B065CA44
4B065CA46
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC22
4C086BC28
4C086BC62
4C086CB05
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、不十分なミエリン形成によって特徴付けられる疾患、障害、状態、または損傷の治療に有用な方法ならびに組成物を特徴とする。この方法は、GPR17アンタゴニストと、ミクログリア阻害剤または除去剤とを投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸索のミエリン化を増加させる方法であって、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去および/もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項2】
軸索のミエリン化を増加させる方法であって、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項3】
OPCの数および/または分化を増加させる方法であって、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項4】
OPCの数および/または分化を増加させる方法であって、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項5】
GPR17を阻害する薬剤がモンテルカストまたはプランルカストである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤がPLX3397である、請求項1、3または5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
TNFα受容体2またはTNFαを阻害する薬剤がサリドマイドである、請求項2、4または5に記載の方法。
【請求項8】
軸索のミエリン化を増加させる方法であって、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項9】
OPCの数および/または分化を増加させる方法であって、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項10】
CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、モンテルカスト、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、サリドマイド、またはプランルカストである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤がモンテルカストである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤が同時にまたは逐次的に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、損傷の数日後または数週間後に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、損傷の1~2週間後に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記薬剤が、少なくとも14~28日間投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
軸索が損傷および/または脱髄している、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
インビボまたはインビトロで実施される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
対象における軸索のミエリン化を増加させる方法であって、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項23】
対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法であって、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項24】
GPR17を阻害する薬剤がモンテルカストまたはプランルカストである、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤がPLX3397である、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
その必要のある対象における軸索のミエリン化を増加させる方法であって、該対象に、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項27】
その必要のある対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法であって、該対象に、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
【請求項28】
ミエリン形成不全と関連する疾患または損傷を有する対象を治療する方法であって、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項29】
CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記対象が、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脊髄損傷、または視神経損傷を有している、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
白質ジストロフィーが、副腎白質ジストロフィー(ALD)、エカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、カナバン病、脳腱黄色腫症(CTX)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖性の痙性対麻痺)、または中枢神経系の低ミエリン形成を伴う小児運動失調(CACH)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記薬剤が同時にまたは逐次的に投与される、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される、請求項27~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記薬剤が、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される、請求項27~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記薬剤が、損傷の数日後または数週間後に投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記薬剤が、損傷の1~2週間後に投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
外傷性脳損傷が脳震とうである、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
オリゴデンドロサイト前駆細胞がCC1-であり、かつ核内に局在するOligo1を有する、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記OPCが、CC1+でありかつ核内に局在するOligo1を有する初期分化型オリゴデンドロサイトである、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記OPCが、CC1+でありかつ細胞質内に局在するOligo1を有する分化型オリゴデンドロサイトである、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
GPR17アンタゴニストと、ミクログリア阻害剤もしくは除去剤またはTNFα阻害剤とを含む、組成物。
【請求項43】
GPR17アンタゴニストがモンテルカストである、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
ミクログリア阻害剤もしくは除去剤がPLX3397である、請求項42に記載の組成物。
【請求項45】
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法であって、
マウスの視神経を損傷させる工程;
該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;
オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導するために、候補化合物を該マウスに投与する工程;
既知のミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;および
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べたCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、該候補化合物がオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導したことを示している、前記工程
を含む、前記方法。
【請求項46】
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法であって、
マウスの視神経を損傷させる工程;
該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;
該マウスに、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導することが知られている化合物を投与する工程;
予想されるミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;および
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べた細胞質Oligo1を有するCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、予想されるミクログリア阻害剤または除去剤がミクログリア細胞を効果的に阻害または除去したことを示している、前記工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究の下になされた発明に対する権利の声明
本発明は、米国国立衛生研究所が授与する助成金番号5R01EY026939の下に政府の支援を受けて行われたものである。米国政府は、この発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月1日に出願された米国仮出願第63/018,939号の優先権および恩典を主張する国際PCT出願であり、その全内容が参照により本明細書にそのまま組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
外傷性脳損傷および脊髄損傷などの、CNS損傷に関連した機能障害は、長距離投射軸索(long-projection axon)の切断とその後の関連回路の破壊が主な原因となっている。しかし、軸索再生を促進する戦略を開発する上での驚異的な進歩にもかかわらず、これらの方法で達成された行動の改善は、実験的損傷モデルにおいてさえもまだ限定的である。例えば、網膜神経節細胞(retinal ganglion cell:RGC)の内因性の再生能力を高める操作によって誘導された再生中の軸索は、上丘(superior colliculus)などの、その適切な標的において機能的なシナプスを作ることができるが、無髄の(unmyelinated:ミエリン化されない)状態である。軸索伝導を促進する際のミエリン(髄鞘)の十分に確立された役割を踏まえると、これらの観察結果は、正しく評価されない機能回復の障壁としての再生軸索のミエリン形成不全を示唆しており、成人における再生軸索のミエリン形成の調節機構を理解する必要性を指摘している。
【0004】
ミエリン形成は神経発生の完了後もやむことがなく、成人CNSでは引き続き起こることがよく知られている。これは、CNSのあらゆる部分に普遍的に分布しているオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)によって達成される。成功したミエリン形成では、居留しているOPCがしばしば増殖を受け、続いて、多段階の、しかし十分には理解されていない分化過程を経て、最終的にミエリン形成能のあるオリゴデンドロサイトになる。CNSの分化およびミエリン形成の開始とタイミングは、内因性および外因性の両方の因子によって厳密に制御されている。一方、ミエリン形成不全は、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病など、多くの神経疾患の根底にある。例えば、進行性MSと呼ばれる進行期のMSでは、一部の増殖するOPCが病変中心部に残っているものの、成熟オリゴデンドロサイトへと分化することができない。そのため、OPCの増殖と分化を促進する戦略を開発するために、多くの労力が費やされてきた。しかし、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)のような最も一般的に使用される脱髄(demyelination)モデルでは、ある程度の再ミエリン化が自発的に起こる可能性があり、ミエリン化促進(pro-myelination)治療が自発的プロセスを加速させることによって作用するのか、かつ/またはデノボ(de novo)ミエリン形成を開始することによって作用するのか、を判断することを困難にしている。さらに、OPCがオリゴデンドロサイトに成熟するために必要とされる多段階分化の本質が、複数の段階に取り組む操作を要求する可能性がある。
【0005】
現在、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病などのミエリン形成不全と関連する疾患、またはミエリン形成不全と関連する中枢神経系損傷(例えば、外傷性脳損傷、脊髄損傷)に対する有効な治療法は存在していない。
【発明の概要】
【0006】
以下で説明するように、本発明は、不十分なミエリン形成によって特徴付けられる疾患、障害、状態、および損傷を治療するために有用な方法ならびに組成物を特徴とする。
【0007】
一局面において、本発明は、軸索のミエリン化を増加させる方法を提供し、該方法は、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去および/もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させることを含む。いくつかの態様では、軸索は損傷および/または脱髄している。
【0008】
別の局面において、本発明は、軸索のミエリン化を増加させる方法を提供し、該方法は、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させることを含む。いくつかの態様では、TNFα受容体2またはTNFαを阻害する薬剤は、サリドマイドである。
【0009】
さらに別の局面において、本発明は、OPCの数および/または分化を増加させる方法を提供し、該方法は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させることを含む。上記局面のいずれかのいくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、モンテルカスト(Montelukast)またはプランルカスト(Pranlukast)である。
【0010】
さらに別の局面において、本発明は、OPCの数および/または分化を増加させる方法を提供し、該方法は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させることを含む。上記局面のいずれかのいくつかの態様では、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤は、PLX3397である。いくつかの態様では、TNFα受容体2またはTNFαを阻害する薬剤は、サリドマイドである。
【0011】
別の局面において、本発明は、軸索のミエリン化を増加させる方法を提供し、該方法は、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドのいずれか1つまたは複数である薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させることを含む。いくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、モンテルカストである。
【0012】
別の局面において、本発明は、OPCの数および/または分化を増加させる方法を提供し、該方法は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドのいずれか1つまたは複数である薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させることを含む。いくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、モンテルカストである。
【0013】
上記局面のいずれかのいくつかの態様では、該方法は、CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる。いくつかの態様では、該薬剤は、同時にまたは逐次的に投与される。いくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される。いくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される。いくつかの態様では、これらの薬剤は、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される。いくつかの態様では、これらの薬剤は、損傷の数日後または数週間後に投与される。いくつかの態様では、これらの薬剤は、損傷の1~2週間後に投与される。いくつかの態様では、これらの薬剤は、少なくとも14~28日間投与される。いくつかの態様では、該方法は、インビボまたはインビトロで実施される。
【0014】
別の局面において、本発明は、対象における軸索のミエリン化を増加させる方法を提供し、該方法は、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させることを含む。
【0015】
別の局面において、本発明は、対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法を提供し、該方法は、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させることを含む。前記2つの局面のいくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、モンテルカストまたはプランルカストである。いくつかの態様では、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤は、PLX3397である。
【0016】
別の局面において、本発明は、その必要のある対象における軸索のミエリン化を増加させる方法を提供し、該方法は、該対象に、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドのいずれか1つまたは複数である薬剤を投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させることを含む。
【0017】
別の局面において、本発明は、その必要のある対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法を提供し、該方法は、該対象に、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドのいずれか1つまたは複数である薬剤を投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させることを含む。
【0018】
別の局面において、本発明は、ミエリン形成不全と関連する疾患または損傷を有する対象を治療する方法を提供し、該方法は、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与することを含む。上記局面のいずれかのいくつかの態様、または本明細書中の本発明の他のいずれかの局面のいくつかの態様では、該方法は、CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる。上記局面のいずれかのいくつかの態様、または本明細書中の本発明の他のいずれかの局面のいくつかの態様では、該対象は、ミエリン形成不全と関連する疾患、例えば、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脊髄損傷、または視神経損傷を有している。いくつかの態様では、白質ジストロフィーは、副腎白質ジストロフィー(Adrenoleukodystrophy:ALD)、エカルディ・グティエール症候群(Aicardi-Goutieres Syndrome)、アレキサンダー病(Alexander Disease)、カナバン病(Canavan Disease)、脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous Xanthomatosis:CTX)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(Globoid Cell Leukodystrophy)(クラッベ病(Krabbe Disease))、異染性白質ジストロフィー(Metachromatic Leukodystrophy:MLD)、ペリツェウス・メルツバッハ病(Pelizaeus Merzbacher Disease)(X連鎖性の痙性対麻痺)、または中枢神経系の低ミエリン形成を伴う小児運動失調(Childhood Ataxia with Central Nervous System Hypomyelination:CACH)である。
【0019】
上記局面のいずれかのいくつかの態様、または本明細書中の本発明の他のいずれかの局面のいくつかの態様では、該薬剤は、同時にまたは逐次的に投与される。いくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される。いくつかの態様では、GPR17を阻害する薬剤は、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される。いくつかの態様では、該薬剤は、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される。いくつかの態様では、該薬剤は、損傷の数日後または数週間後に投与される。いくつかの態様では、該薬剤は、損傷の1~2週間後に投与される。いくつかの態様では、外傷性脳損傷は脳震とうである。いくつかの態様では、オリゴデンドロサイト前駆細胞は、CC1-であり、かつ核に局在するOligo1を有する。いくつかの態様では、OPCは、CC1+であり、かつ核に局在するOligo1を有する初期分化型オリゴデンドロサイトである。
【0020】
前記局面のいずれかのいくつかの態様では、前記OPCは、CC1+であり、かつ細胞質に局在するOligo1を有する分化型オリゴデンドロサイトである。
【0021】
さらに別の局面において、本発明は、GPR17アンタゴニストと、ミクログリア阻害剤もしくは除去剤、TNFα受容体2阻害剤、またはTNFα阻害剤とを含有する組成物を提供する。いくつかの態様では、GPR17アンタゴニストはモンテルカストである。いくつかの態様では、ミクログリア阻害剤または除去剤はPLX3397である。いくつかの態様では、TNFα阻害剤はサリドマイドである。
【0022】
さらに別の局面において、本発明は、オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法を提供し、該方法は、マウスの視神経を損傷させる工程;該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導するために、候補化合物を該マウスに投与する工程;既知のミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;およびオリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べたCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、該候補化合物がオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導したことを示している前記工程を含む。
【0023】
さらに別の局面において、本発明は、オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法を提供し、該方法は、マウスの視神経を損傷させる工程;該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;該マウスに、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導することが知られている化合物を投与する工程;予想されるミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;およびオリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べた細胞質Oligo1を有するCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、予想されるミクログリア阻害剤または除去剤がミクログリア細胞を効果的に阻害または除去したことを示している前記工程を含む。
【0024】
本発明により定義される組成物および物品は、以下に提供される実施例に関連して分離されたか、または他の方法で製造された。本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明と特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0025】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味を有する。以下の文献は、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を当業者に提供するものである:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991); およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で使用される以下の用語は、別段の指定がない限り、以下の用語に定められた意味を有する。
【0026】
「薬剤」とは、低分子化合物、抗体、核酸分子、もしくはポリペプチド、またはそれらの断片を意味する。一態様では、薬剤は、GPR17アンタゴニスト、またはミクログリア阻害剤もしくは除去剤である。別の態様では、薬剤は、損傷した視神経における分化型OPCの数を(例えば、5、10、20、30、40、50、75、85、90、95または100%)増加させる化合物である。別の態様では、薬剤は、M1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるメシル酸ベンズトロピン(Bzp)(Deshmukh et al., Nature 502, 327-332(2013))、抗ヒスタミン薬および抗コリン薬であり、M1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるクレマスチン(Clem)(Mei et al., Nat.Med. 20, 954-960 (2014))、M3ムスカリン受容体拮抗薬であるソリフェナシン(Sli)(Abiraman et al., J. Neurosci. 35, 3676-3688 (2015))、レチノイドX受容体作動薬であるベキサロテン(Bex)(Natrajan et al., Brain 138, 3581-3597 (2015))、抗コレステロール合成化合物であるイミダゾール(Imi)(Hubler et al., Nature 560, 372-376 (2018))、臨床承認済みのホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤であるイブジラスト(Ibud)(Fox et al., N. Engl. J. Med. 379, 846-855 (2018))、2つの異なるGPR17アンタゴニストであるモンテルカスト(Mon)およびプランルカスト(Pra)(Fumagalli et al., J. Biol. Chem. 286, 10593-10604 (2011); Marschallinger et al., Nat. Commun. 6. (2015); Ou et al., J. Neurosci. 36, 10560-10573 (2016))、mTOR阻害剤であるラパマイシン(Rap)、またはサリドマイド(TNFα阻害剤)である。
【0027】
「変化」とは、本明細書に記載されるような標準的な公知の方法によって検出される、ミエリン形成の変化、またはミエリン形成に関連するマーカー(例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド)の変化(増加または減少)を意味する。本明細書で使用する場合、変化には、発現レベルの10%変化、好ましくは25%変化、より好ましくは40%変化、最も好ましくは発現レベルの50%またはそれ以上の変化が含まれる。
【0028】
「改善する」とは、疾患(例えば、ミエリン形成不全と関連する疾患)の発症または進行を低下、抑制、軽減、減退、停止、または安定化させることを意味する。
【0029】
「アナログ」とは、同一ではないが、類似した機能的または構造的特徴を有する分子を意味する。例えば、ポリペプチドアナログは、対応する天然に存在するポリペプチドの生物学的活性を保持する一方で、天然に存在するポリペプチドに比べて該アナログの機能を向上させる特定の生化学的修飾を有する。そのような生化学的修飾は、例えばリガンド結合を変えることなく、該アナログのプロテアーゼ耐性、膜透過性、または半減期を増加させることができる。アナログは、非天然アミノ酸を含んでいてもよい。
【0030】
本開示において、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(containing)
」、「有する(having)」などは、米国特許法でそれらに定められた意味を有することができ、「含む(includes)」、「含む(including)」などを意味し得る;「本質的に~からなる(consisting essentially of)」または「本質的に~からなる(consists essentially)」も同様に、米国特許法で定められた意味を有し、この用語は、オープンエンドであり、列挙されたものの基本的または新規な特性が列挙された以上のものの存在によって変化しない限り、列挙された以上のものの存在を許容するが、先行技術の実施態様は除外される。
【0031】
「検出する」とは、検出すべきアナライトの存在、不在または量を特定することを指す。
【0032】
「検出可能な標識」とは、対象となる分子に結合したとき、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、または化学的手段により、該分子を検出可能にする組成物を意味する。例えば、有用な標識としては、放射性同位体、磁気ビーズ、金属ビーズ、コロイド粒子、蛍光色素、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAで一般的に使用されているもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、またはハプテンが挙げられる。
【0033】
「疾患」とは、細胞、組織、または臓器の正常な機能を損なったり、妨げたりするあらゆる状態、損傷、または障害を意味する。疾患の例としては、ミエリン形成の不全、欠損、または望ましくない減少を伴う疾患、例えば、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性疾患、アルツハイマー病、ALS、外傷性脳損傷、および脊髄損傷が挙げられるが、これらに限定されない。白質ジストロフィーの例としては、限定するものではないが、以下が含まれる:ミエリン塩基性タンパク質の欠損を伴う18q症候群、副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、成人ポリグルコサン小体病(Adult Polyglucosan Body Disease)、エカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、神経軸索スフェロイドを伴う常染色体優性びまん性白質脳症(HDLS)、AARS、AARS2、カナバン病、脳卒中と白質脳症を伴うカテプシンA関連動脈症(CARASAL)、皮質下梗塞と白質脳症を伴う脳常染色体優性動脈症(CADASIL)、皮質下梗塞と白質脳症を伴う脳常染色体劣性動脈症(CARASIL)、石灰化と嚢胞を伴う脳網膜微細血管造影、脳腱黄色腫症(CTX)、中枢神経系の低ミエリン形成を伴う小児運動失調症(CACH)、ClC2関連白質脳症、コートプラス(Coates plus)、コケイン症候群、超長鎖脂肪酸伸長-4(Elongation of Very Long-Chain Fatty Acids-4:ELOVL4;シュード・シェーグレン・ラルソン(Pseudo-Sjogren-Larsson))、脂肪酸2-ヒドロキシラーゼ欠損症(Fatty Acid 2-Hydroxylase Deficiency)、フコシドートス、先天性筋ジストロフィー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、GM1ガングリオシドーシス、GM2ガングリオシドーシス(テイ-サックス病)、基底核と小脳の萎縮を伴う低ミエリン形成症(H-ABC)、低ミエリン形成症、性腺刺激ホルモン分泌低下症、性腺機能低下症および歯数不足症(Hypomyelination, Hypogonadotropic, Hypogonadism and Hypodontia:4H症候群)、脳幹と脊髄の病変および下肢痙縮を伴う低ミエリン形成症(Hypomyelination with Brainstem and Spinal Cord involvement and Leg Spasticity:HBSL)、先天性白内障を伴う低ミエリン形成症(HCC)、脳幹と脊髄の病変および乳酸上昇を伴う白質脳症(LBSL)、石灰化と嚢胞を伴う白質脳症(LCC)、視床と脳幹の病変および高乳酸を伴う白質脳症(LTBL)、白質ジストロフィーを伴う脂肪膜性骨異形成症(那須病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、皮質下嚢胞を伴う大頭型白質ジストロフィー(MLC)、ミトコンドリア白質ジストロフィー、マルチプルスルファターゼ欠損症、軸索スフェロイドを伴う神経軸索性白質脳症(スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS))、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、大脳白質異常を伴うOculodetatoldigital異形成症、色素性グリアを伴う整色性(Orthochromatic)白質ジストロフィー、卵巣白質ジストロフィー症候群、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖性痙性対麻痺)、ペリツェウス・メルツバッハ様病(PMLD)、RARS2関連低ミエリン形成症、レフサム病、RNAse T2欠損性白質脳症、シアル酸蓄積障害(サラ病、小児シアル酸蓄積病および中間型)、シェーグレン・ラルソン症候群、SOX10関連PCWH:末梢性脱髄性ニューロパチー、中枢性ミエリン形成障害性白質ジストロフィー、ワーデンブルグ症候群、およびヒルシュスプルング病、白質消失病(Vanishing White Matter Disease:VWM)またはびまん性中枢神経系低ミエリン形成を伴う小児運動失調症(CACH)、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)、ならびにツェルウェガー(Zellweger)スペクトラム(ツェルウェガー症候群、新生児副腎白質ジストロフィー、および乳児型レフサム病)。
【0034】
「有効量」とは、未治療の患者と比較して、疾患、障害、状態、または損傷の症状を改善するために必要な治療用組成物の量を意味する。疾患、障害、状態、または損傷の治療的処置のための本発明の実施に用いられる活性化合物の有効量は、投与方法、対象の年齢、体重、および一般的な健康状態によって変化する。最終的には、主治医または獣医師が適切な量と投与計画を決定することになる。そのような量を「有効」量という。一態様では、有効量は、ニューロンのミエリン形成を増加させる、OPC増殖を増加させる、損傷後のOPC数を増やす、またはOPCのCC1およびOligo1陽性細胞への分化を促す量である。
【0035】
本発明の方法は、対象に使用しても安全である治療法を特定するための簡便な手段を提供する。さらに、本発明の方法は、本明細書に記載の疾患に対する効果について実質的にいくつもの化合物を大容量スループット、高感度、および低複雑度で分析するための手段を提供する。
【0036】
「不十分なミエリン形成」とは、対応する対照ニューロンで観察されるミエリン形成のレベルと比較して、標的ニューロンのミエリン形成のレベルが低下していることを意味する。
【0037】
「マーカー」とは、発現レベルまたは活性が疾患もしくは障害に関連して変化する任意のタンパク質またはポリヌクレオチドを意味する。
【0038】
本明細書で使用される「薬剤を得る」という場合の「得る」には、薬剤を合成する、購入する、またはその他の方法で取得することが含まれる。
【0039】
「低下する」とは、少なくとも10%、25%、50%、75%、または100%の負の変化を意味する。
【0040】
「基準」とは、標準または対照条件を意味する。
【0041】
「対象」とは、哺乳動物を意味し、ヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、ネコなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で提供される範囲は、その範囲内の全ての値の省略表現であると理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群からの任意の数、数の組み合わせまたは部分的範囲を含むと理解される。
【0043】
本明細書で使用される用語「治療する」、「治療」などは、疾患、障害、状態、損傷、および/またはそれに関連する症状を軽減または改善することを指す。疾患、障害、状態、または損傷を治療することは、排除されるわけではないが、その疾患、障害、状態、損傷、またはそれに関連する症状が完全に取り除かれることを必要としないことが理解されよう。
【0044】
特に明記しない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される用語「または」は包括的であると理解される。特に明記しない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される用語「a」、「an」および「the」は単数形または複数形であると理解される。
【0045】
特に明記しない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される用語「約」は、当技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均の2標準偏差内と理解される。約は、記載された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内と理解され得る。特に文脈から明らかでない限り、本明細書に記載される全ての数値は、約という用語で修飾される。
【0046】
本明細書での可変要素(variable)の定義における化学基のリストの記載には、その可変要素を、任意の単一の基として、またはリストされた基の組み合わせとして、定義することが含まれる。本明細書における可変要素または局面についてのある態様の記載には、任意の単一の態様としての、または任意の他の態様もしくはその一部と組み合わせた、その態様が含まれる。
【0047】
本明細書で提供される任意の組成物または方法は、本明細書で提供される他の組成物および方法のいずれか1つまたは複数と組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Aは、無傷の視神経または再生軸索を有する損傷視神経における代表的な電子顕微鏡画像および軸索のミエリン化率の定量化を含む。無傷の視神経ではほとんどの軸索がミエリン化されており、成体マウスの視神経挫滅損傷(optic nerve crush injury)後には、ごくまれな再生軸索が自発的ミエリン形成を有する。n=6匹/群。スケールバー:600nm。
図1B図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1B~1Dは、PDGFRα-H2B-GFPレポーターマウスの損傷した(同側)視神経と無傷の(対側)視神経の両方におけるOPC増殖を評価する実験のスキームを示す。図1Bは、損傷した同側視神経および無傷の対側視神経の説明図である。矢印は挫滅損傷部位を示し、灰色の領域は分析された関心対象の領域を示す。
図1C図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1B~1Dは、PDGFRα-H2B-GFPレポーターマウスの損傷した(同側)視神経と無傷の(対側)視神経の両方におけるOPC増殖を評価する実験のスキームを示す。図1Cは、損傷後の異なる時点での損傷視神経における免疫蛍光染色画像を含む。n=3~8匹/群。スケールバー:100μm。
図1D図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1B~1Dは、PDGFRα-H2B-GFPレポーターマウスの損傷した(同側)視神経と無傷の(対側)視神経の両方におけるOPC増殖を評価する実験のスキームを示す。図1Dは、損傷後の異なる時点での損傷視神経におけるOPC数の定量化を示すグラフである。n=3~8匹/群。
図1E図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Eは、PDGFRα-H2B-GPPレポーターマウスからのOligo2および/またはGFPで染色された視神経(損傷またはその対照)の代表的な画像を含み、損傷後の異なる時点での総OPC数の動的変化を示す。スケールバー:100μm。
図1F図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Fは、損傷視神経におけるBrdU/Oligo2二重陽性細胞の代表的な画像を含む。
図1G図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Gは、損傷視神経におけるBrdU/Oligo2二重陽性細胞の定量化を示すグラフである。
図1H図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Hは、OPCの異なる分化段階およびそれらのそれぞれのマーカーの説明図である。スケールバー:50μm。
図1I図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Iは、図1J~1Oに示される、PDGFRα-CreER/iRTMマウスを用いてOPCの子孫を追跡するための実験デザインの概略図である。
図1J図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Jは、損傷視神経と無傷の視神経におけるCC1およびRTM細胞の代表的な画像を含む。
図1K図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Kは、損傷視神経と無傷の視神経におけるCC1およびRTM細胞数のグラフである。
図1L図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Lは、損傷視神経と無傷の視神経におけるCC1およびRTM細胞の割合を示すグラフである。無傷(対側)とは対照的に、損傷した神経ではRTMCC1の割合が有意に少なかった。n=6匹/群。
図1M図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Mは、損傷視神経と無傷の視神経における3つの異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の代表的な画像を含む。対側の矢印はRTM/CC1/Oligo1-Cを示し、同側の矢印はRTM/CC1/Oligo1-N(未分化細胞)を示す。n=6匹/群。スケールバー:100μm 10μm。
図1N図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Nは、損傷視神経と無傷の視神経における3つの異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N(核Oligo1)、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の細胞数を示すグラフである。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図1O図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Oは、損傷視神経と無傷の視神経における3つの異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の割合を示すグラフである。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図1P図1A~1Pは、損傷視神経におけるOPCの増殖増加および分化不全を示す。図1Pは、PDGFRα-CreER/RTMマウスからの損傷視神経の代表的な画像を含み、RTMとGFAPの間に重複がないことを示している。スケールバー:50μm。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図2A図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Aは、野生型C57マウスにおけるインビボ化合物スクリーニングの模式図である。増殖中のOPCを標識するために、dpi4~10に毎日BrdUを注射した。各化合物で4週間処置したマウスの損傷視神経を、表示された抗体で解析した。
図2B図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Bは、抗CC1および抗BrdUで染色された損傷視神経の代表的な画像を含む。n=4~13匹/群。
図2C図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Cは、抗CC1および抗BrdUで染色された損傷視神経を定量化したグラフである。n=4~13匹/群。
図2D図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Dは、PDGFRα-CreER:RTMマウスで図2E~2Gに示されるモンテルカストを用いた研究のための実験デザインの概略図である。n=6匹/群。
図2E図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Eは、Oligo1、CC1、RTMに対する抗体、ならびにDAPI抗CC1およびBrdUで染色された、RTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の損傷視神経または無傷の視神経の代表的な画像を含む。
図2F図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Fは、Oligo1、CC1、RTMに対する抗体、ならびにDAPI抗CC1およびBrdUで染色された、損傷視神経または無傷の視神経におけるRTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の密度を示すグラフである。
図2G図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Gは、RTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の割合を示すグラフである。
図2H図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Hは、損傷誘発性Gpr17発現を示す損傷視神経の代表的なインサイツハイブリダイゼーション画像を含む。スケールバー:100μm。
図2I図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Iは、図2Hにおける損傷誘発性Gpr17発現を示す視神経を定量化したグラフである。n=6匹/群。
図2J図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2J~2Lは、Gpr17ノックアウトがOPC増殖に影響を与えなかったことを示す。図2Jは、GFP(GPR17)、BrdUおよび/またはOligo2で染色された、4dpiから10dpiの間、毎日BrdU注射を受けたGPR17ノックアウトマウスとその対照の損傷視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:200μm。
図2K図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2J~2Lは、Gpr17ノックアウトがOPC増殖に影響を与えなかったことを示す。図2Kは、GFP(GPR17)、BrdU、およびOligo2で染色された図2Jの損傷視神経を定量化したグラフである。
図2L図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2J~2Lは、Gpr17ノックアウトがOPC増殖に影響を与えなかったことを示す。図2Lは、BrdUおよびOligo2で染色された図2Jの損傷視神経を定量化したグラフである。
図2M図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2M~2Oは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経におけるGFP(GPR17)またはCC1に対する抗体を用いたOPC分化解析を示す。図2Mは、損傷後28日でGPR17ノックアウトまたはその対照から採取された損傷視神経の代表的な画像を含む。
図2N図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2M~2Oは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経におけるGFP(GPR17)またはCC1に対する抗体を用いたOPC分化解析を示す。図2Nは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照からのGFPCC1細胞の密度を定量化したグラフである。
図2O図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2M~2Oは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経におけるGFP(GPR17)またはCC1に対する抗体を用いたOPC分化解析を示す。図2Oは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照からのGFP細胞のうちのCC1の割合を定量化したグラフである。
図2P図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Pは、GFP(GPR17)およびCC1で染色された、GPR17ノックアウトとその対照からの損傷視神経の代表的な画像を含む。n=6匹/群。スケールバー:200μm。
図2Q図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Qは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照において、GFP細胞のうちのCC1細胞の割合を定量化したグラフである。
図2R図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Rは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照からのGFPCC1細胞の密度を定量化したグラフである。図2Qおよび2Rは、GPR17ノックアウトが、無傷の視神経ではなく、損傷視神経においてCC1細胞を有意に増加させたことを示している。
図2S図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2S~2UのOPCは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経(損傷後28日)におけるGFP(GPR17)、CC1、Oligo1、DAPIに対する抗体を用いた分化解析を示す。図2Sは、Oligo1、CC1、RTMに対する抗体、ならびにDAPI抗CC1およびBrdUで染色されたGPR17ノックアウトマウスとその対照からの損傷視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:50μm。
図2T図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2S~2UのOPCは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経(損傷後28日)におけるGFP(GPR17)、CC1、Oligo1、DAPIに対する抗体を用いた分化解析を示す。図2Tは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照におけるGFP細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の密度を定量化したグラフである。n=6匹/群。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図2U図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2S~2UのOPCは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経(損傷後28日)におけるGFP(GPR17)、CC1、Oligo1、DAPIに対する抗体を用いた分化解析を示す。図2Uは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照におけるGFP細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の割合を定量化したグラフである。n=6匹/群。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図2V図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2V~2Xは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経(損傷後7日)におけるGFP(GPR17)、CC1、Oligo1、DAPIに対する抗体を用いたOPC分化解析を示す。図2Vは、Oligo1、CC1、RTMに対する抗体、ならびにDAPI抗CC1およびBrdUで染色されたGPR17ノックアウトマウスとその対照からの損傷視神経の代表的な画像、ならびにGFP細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の密度(J)または割合(K)の定量結果を含む。スケールバー:100μm。
図2W図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2V~2Xは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経(損傷後7日)におけるGFP(GPR17)、CC1、Oligo1、DAPIに対する抗体を用いたOPC分化解析を示す。図2Wは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照からのGFP細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の密度を定量化したグラフである。n=6匹/群。
図2X図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2V~2Xは、GPR17ノックアウトマウスの損傷視神経(損傷後7日)におけるGFP(GPR17)、CC1、Oligo1、DAPIに対する抗体を用いたOPC分化解析を示す。図2Xは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照からのGFP細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の割合を定量化したグラフである。n=6匹/群。
図2Y図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Yは、GFP(GPR17)およびCC1(L)で染色された、4dpiから10dpiまで毎日BrdU注射を受けたGPR17ノックアウトマウスとその対照からの損傷視神経の代表的な画像を含む。
図2Z図2A~2Zは、GPR17が損傷視神経におけるOPCの初期オリゴデンドロサイト分化の内因性遮断剤であることを示す。図2Zは、損傷視神経を有するGPR17ノックアウトマウスとその対照からのBrdU細胞のうちのCC1細胞の割合を定量化したグラフである。n=6匹/群。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図3A図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Aは、GFAP、CD68またはP2Y12に対する抗体で染色された、片側視神経挫滅損傷から4週間後の成体マウスからの視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:50μm。
図3B図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Bは、GFAP免疫反応シグナルの定量化を示すグラフである。n=10匹/群。
図3C図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Cは、P2Y12免疫反応シグナルの定量化を示すグラフである。n=10匹/群。
図3D図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Dは、CD68免疫反応シグナルの定量化を示すグラフである。n=10匹/群。
図3E図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Eは、損傷後6週間で成体マウスから採取した、病変から遠位の視神経全体における持続的な活性化ミクログリアを示す画像を含む。スケールバー:500μm。
図3F図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Fは、CD68免疫反応シグナルを定量化したグラフである。n=10匹/群。
図3G図3A~3Gは、損傷視神経における活性化ミクログリアがPLX3397処置によって枯渇されたことを示す。図3Gは、CD68に対する抗体で染色された、片側視神経挫滅損傷後2週間の、PLX3397処置ありまたはなしの成体マウスからの、視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:40μm。
図3H図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Hは、CD68免疫反応シグナルを定量化したグラフである。6=10匹/群。スケールバー:40μm。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図3I図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Iは、PDGFRα-H2B-GFPマウスでPLX3397(PLX)またはそのビヒクル対照(Vec)の処置によりOPC増殖を評価するための実験の概略図である。PLX処置を14日間(損傷の前後7日間)行い、終了の48時間前にBrdUを注射した。
図3J図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Jは、GFP、Oligo2、またはBrdUで染色された損傷視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:100μm。
図3K図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Kは、GFPOligo2BrdU細胞の密度を定量化したグラフである。n=6匹/群。
図3L図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Lは、PDGFRα-CreER:RTMマウスにおいて、図3M~Oに示される結果について、損傷視神経でのOPC分化に対する遅延PLX3397処置の効果を解析するための実験デザインの概略図である。
図3M図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Mは、Oligo1、CC1、RTMに対する抗体、ならびにDAPI抗CC1およびBrdUで染色された損傷視神経または無傷の視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:100μm。
図3N図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Nは、RTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の密度を定量化したグラフである。n=6匹/群。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図3O図3H~3Oは、ミクログリアがOPCの増殖にとって必要であるが、その成熟化には有害であることを示す。図3Oは、RTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の割合を定量化したグラフである。n=6匹/群。*,**,*** それぞれp<0.05,0.01,0.001。
図4A図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4Aは、Oligo1、CC1、RTMに対する抗体、ならびにDAPI抗CC1およびBrdUで染色された、モンテルカストとPLX3397の処置を受けた成体PDGFRα-CreER:RTMマウスからの、損傷視神経の代表的な画像を含む。サンプルは損傷後4週目の終わりに採取した。スケールバー:20μm(A)。
図4B図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4Bは、RTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の密度を定量化したグラフである。n=6匹/群。
図4C図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4Cは、RTM細胞の異なる集団(未分化OPCではCC1/Oligo1-N、ミエリン形成前オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-N、および成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトではCC1/Oligo1-C)の割合を定量化したグラフである。n=6匹/群。
図4D図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4D~Hは、モンテルカストおよび/またはPLX3397で処置したマウスからの損傷視神経の再生軸索(損傷後4週目)のミエリン形成の透過型電子顕微鏡イメージング結果を示す。図4Dは、各処置群の挫滅視神経の冠状断面の低倍率画像である。スケールバー:2μm。
図4E図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4D~Hは、モンテルカストおよび/またはPLX3397で処置したマウスからの損傷視神経の再生軸索(損傷後4週目)のミエリン形成の透過型電子顕微鏡イメージング結果を示す。図4Eは、組み合わせ処置群からの再生軸索における進行中のミエリン形成の拡大画像である。ミエリンの薄層と大きな内舌(inner tongue)は、進行中の新しいミエリン形成を示唆していた。スケールバー:500nm。
図4F図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4D~Hは、モンテルカストおよび/またはPLX3397で処置したマウスからの損傷視神経の再生軸索(損傷後4週目)のミエリン形成の透過型電子顕微鏡イメージング結果を示す。図4Fは、組み合わせ処置を施した挫滅視神経の縦断面からの画像のモンタージュである。完全なインターノード(internode)は、「X」で示される。矢印は、隣接するランビエ絞輪(node of Ranvier)の位置を示す。スケールバー:1400nm。
図4G図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4D~Hは、モンテルカストおよび/またはPLX3397で処置したマウスからの損傷視神経の再生軸索(損傷後4週目)のミエリン形成の透過型電子顕微鏡イメージング結果を示す。図4Gは、Gに示される再生軸索上のランビエ絞輪の半分の拡大画像である。(H)パネルDの定量化。n=4匹/群。スケールバー:200nm。
図4H図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4D~Hは、モンテルカストおよび/またはPLX3397で処置したマウスからの損傷視神経の再生軸索(損傷後4週目)のミエリン形成の透過型電子顕微鏡イメージング結果を示す。図4Hは、図4Dで観察されたミエリン化軸索のパーセンテージを定量化したグラフである。
図4I図4A~4Iは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置が、成体マウスの損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成をもたらすことを示す。図4Iは、ランビエ絞輪のマーカーであるCaspr、AnkGおよびナトリウムチャネルNaV1.6で染色された、組み合わせ処置を施した損傷視神経の代表的な画像を含む。スケールバー:3.5μm。
図4J図4J~4Lは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置を施したマウスにおける再生軸索がよりよく保存されていることを示す。図4Jは、AAV2/2-CNTF/IGF/OPNの硝子体内注射、続いて視神経挫滅を受けた、モンテルカストとPLX3397の処置ありまたはなしの野生型マウスからの損傷視神経(42dpi)におけるCTB標識された再生中の軸索の代表的な画像を含む。スケールバー:750μm。
図4K図4J~4Lは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置を施したマウスにおける再生軸索がよりよく保存されていることを示す。図4Kは、損傷後の時間に対する再生軸索の面積を定量化したグラフである。n=4匹/群。
図4L図4J~4Lは、モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置を施したマウスにおける再生軸索がよりよく保存されていることを示す。図4Lは、挫滅部位からの距離に対して再生中の軸索に関連するシグナルの強度を定量化したグラフである。n=4匹/群。
図5A-1】図5A~5Eは、視神経挫滅後の細胞集団に対するTNFαの阻害を示す。図5Aは、TNFαが視神経挫滅後にアップレギュレートされることを示すベン図およびヒートマップを含む。
図5A-2】図5A-1の説明を参照のこと。
図5B図5A~5Eは、視神経挫滅後の細胞集団に対するTNFαの阻害を示す。図5Bは、TNFαについてプローブされた挫滅後の成体視神経を示す蛍光画像を含む。
図5C図5A~5Eは、視神経挫滅後の細胞集団に対するTNFαの阻害を示す。図5Cは、TNFR1 KOマウスにおける挫滅部位近くの遠位領域でのCC1オリゴデンドロサイトの強力な増加を示す蛍光画像およびグラフを含む。
図5D図5A~5Eは、視神経挫滅後の細胞集団に対するTNFαの阻害を示す。図5Dは、TNFα阻害剤であるサリドマイドで処置したマウスにおける軸索の遠位領域でのBrdU/CC1/Olig2細胞の強力な増加を示す蛍光画像を含む。TNFiはサリドマイドを表す。
図5E図5A~5Eは、視神経挫滅後の細胞集団に対するTNFαの阻害を示す。図5Eは、ビヒクルのみで処置したマウスとサリドマイドで処置したマウスの比較を示す概略図および画像を含む。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
本発明は、特に神経損傷または疾患に起因する脱髄の場合に、ミエリン形成を促進または増加させるのに有用な組成物および方法を特徴とする。
【0050】
本発明は、少なくとも部分的には、GPR17の阻害および活性化ミクログリアの除去が、再生軸索の強固なミエリン形成をもたらしたという発見に基づいている。
【0051】
ミエリン形成は軸索伝導を促進し、神経系の異なる部分間の効率的な情報交換(communication)を可能にする。ニューロンの内因性の再生能力を高める操作は、視神経損傷後の強固な軸索再生をもたらすが、これらの再生中の軸索は自発的なミエリン形成を受けない。このようなミエリン形成不全の根底にある作用機構は、分かりにくいままである。
【0052】
本明細書に示されるように、進行性多発性硬化症を連想させる成体マウスの視神経損傷モデルでは、視神経のオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)が一過性の増殖を受けるが、ミエリン形成能のある成熟オリゴデンドロサイトへと分化することができない。機構的には、OPC内在性のGPR17と、慢性的に活性化されたミクログリアの両方が、OPC分化の異なる段階を阻害している。重要なことは、GPR17とミクログリアの両方の阻害が、再生軸索の強固なミエリン形成につながったことである。段階依存的なOPC分化の調節機構を明らかにしたことに加えて、提示された結果は、本明細書に記載の薬剤が、成体CNSにおける慢性炎症状態の存在下でさえ、強固なデノボミエリン形成を提供することを示した。
【0053】
ニューロンのミエリン形成
神経が適切に機能するためには、成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトによる再生軸索または脱髄軸索のミエリン形成が必要である。オリゴデンドロサイトはミエリン形成に関与しているため、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の拡大と成熟を促すことは、神経損傷または疾患に起因する脱髄を治療する上で大幅な改善を提供する。未分化型、初期分化型、および成熟したミエリン形成性のオリゴデンドロサイトは、細胞のCC1およびOligo1の発現プロファイルに基づいて区別することができる。例えば、未分化型のオリゴデンドロサイトは、Oligo1が核に局在するCC1陰性細胞として特徴付けられる。初期分化型のオリゴデンドロサイトは、Oligo1が核に局在するCC1陽性細胞として特徴付けられる。成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトは、細胞質Oligo1を有するCC1陽性細胞として特徴付けられる。神経損傷に応答して、OPCは増殖拡大する。いくつかの態様では、未分化型OPCから初期分化型OPCへの成熟化は、該細胞をGPR17アンタゴニストまたは阻害剤と接触させることによって促進することができる。いくつかの態様では、GPR17アンタゴニストまたは阻害剤は、M1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるメシル酸ベンズトロピン;抗ヒスタミン薬および抗コリン薬でありかつM1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるクレマスチン;M3ムスカリン受容体拮抗薬であるソリフェナシン;レチノイドX受容体作動薬であるベキサロテン;抗コレステロール合成化合物であるイミダゾール;臨床承認済みのホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤であるイブジラスト;モンテルカストもしくはプランルカスト;またはサリドマイドであり得る。
【0054】
初期分化型OPCは、周囲の環境に存在するミクログリアを除去することで、成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトにさらに分化させることができる。ミクログリアを効果的に除去する除去剤は、当技術分野で知られている。本発明のいくつかの態様では、ミクログリアと阻害剤または除去剤との接触は、初期分化型オリゴデンドロサイトの成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトへの分化を促す環境を提供する。
【0055】
本発明の薬剤
低分子化合物などの本明細書に記載の薬剤は、ミエリン形成を増加させ、OPCの増殖もしくは分化を高め、またはOPC数を増やすのに有用である。一態様では、本発明の薬剤は、マルチキナーゼ阻害活性を有する低分子である、ペキシダルチニブ(Pexidartinib)(PLX3397ともいう)である。ペキシダルチニブ(CAS登録番号1029044-16-3;C20-H15-Cl-F3-N5)は、以下の構造を有している:
【0056】
別の態様では、本発明の薬剤は、レチノイドX受容体結合および活性化活性を有する低分子である、ベキサロテン(例えば、100mg/kg,経口(p.o.))である。ベキサロテン(CAS登録番号153559-49-0;C24H28O2)は、以下の構造を有している:
【0057】
別の態様では、本発明の薬剤は、ドーパミン取り込み阻害活性を有する低分子の中枢性ムスカリン拮抗薬である、メシル酸ベンズトロピン(例えば、10mg/kg,腹腔内(i.p.))である。メシル酸ベンズトロピン(CAS登録番号132-17-2;C22H29NO4S)は、以下の構造を有している:
【0058】
別の態様では、本発明の薬剤は、抗コリン作用、鎮静作用、およびヒスタミンH1拮抗作用を有する低分子である、クレマスチンフマル酸塩(例えば、10mg/kg,p.o.)である。クレマスチンフマル酸塩(CAS登録番号14976-57-9;C25H30ClNO5)は、以下の構造を有している:
【0059】
別の態様では、本発明の薬剤は、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ阻害活性を有する低分子である、イブジラスト(例えば、10mg/kg,i.p.)である。イブジラスト(CAS登録番号50847-11-5;C14H18N2O)は、以下の構造を有している:
【0060】
別の態様では、本発明の薬剤は、塩基でありかつ優れた求核剤である、イミダゾール(例えば、10mg/kg,i.p.)である。イミダゾール(CAS登録番号288-32-4;C3H4N2)は、以下の構造を有している:
【0061】
別の態様では、本発明の薬剤は、ロイコトリエン受容体(例えば、GRP17)拮抗薬である、モンテルカスト(例えば、25mg/kg,p.o.)である。モンテルカスト(CAS登録番号158966-92-8;C35H36ClNO3S)は、以下の構造を有している:
【0062】
別の態様では、本発明の薬剤は、ロイコトリエン受容体(例えば、GRP17)拮抗薬である、プランルカスト(例えば、0.5mg/kg,i.p.)である。プランルカスト(CAS登録番号103177-37-3;C27H23N5O4)は、以下の構造を有している:
【0063】
別の態様では、本発明の薬剤は、mTOR阻害活性を有するラパマイシン(例えば、6mg/kg,i.p.)である。ラパマイシン(CAS登録番号53123-88-9;C51H79NO13)は、以下の構造を有している:
【0064】
別の態様では、本発明の薬剤は、抗コリン作用および痙攣防止作用を有する低分子である、ソリフェナシンコハク酸塩(例えば、20mg/kg,i.p.)である。ソリフェナシンコハク酸塩(CAS登録番号242478-38-2;C27H32N2O6)は、以下の構造を有している:
【0065】
別の態様では、本発明の薬剤は、腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生を阻害する低分子である、サリドマイド(例えば、50mg/kg,i.p.)である。サリドマイド(CAS登録番号50-35-1;C13H10N2O4)は、以下の構造を有している:
【0066】
治療方法
本発明は、治療有効量の、本明細書に記載の薬剤(例えば、Gタンパク質共役型受容体17(GPR17)アンタゴニスト、ミクログリア阻害剤または除去剤)を含む薬学的組成物を投与することを含む、無髄または脱髄ニューロンによって特徴付けられる疾患、障害もしくは損傷、またはその症状を治療する方法を提供する。いくつかの態様では、該疾患は、神経の脱髄によって特徴付けられる。いくつかの態様では、該疾患は、多発性硬化症またはアルツハイマー病などの神経変性疾患である。いくつかの態様では、治療される損傷は、外傷性脳損傷である。
【0067】
いくつかの態様では、該薬剤は、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、ソリフェナシン、ベキサロテン、イミダゾール、イブジラスト、モンテルカスト、プランルカスト、またはサリドマイドである。いくつかの態様では、ミクログリア阻害剤または除去剤は、PLX3397である。したがって、1つの態様は、疾患もしくは障害またはその症状に罹患しているかまたは罹患しやすい対象を治療する方法である。該方法は、疾患もしくは障害またはその症状を治療するのに十分な治療量の本明細書に記載の薬剤を、疾患もしくは障害が治療されるような条件下で、哺乳動物に投与するステップを含む。
【0068】
このような治療を必要とする対象を特定することは、対象または医療専門家の判断に任せることができ、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、検査または診断法によって測定可能)であり得る。このような治療は、疾患、障害、またはその症状に罹患しているか、それを有するか、それに罹りやすいか、またはそのリスクがある対象、特にヒトに、適切に施されるであろう。「リスクがある」対象の判定は、診断試験または対象もしくは医療従事者の意見(例えば、遺伝子検査、酵素またはタンパク質マーカー、家族歴など)による客観的または主観的な判定によって行うことができる。また、本明細書中の化合物は、ミエリン形成不全または欠損が関与している可能性のある、その他の疾患の治療にも使用することができる。
【0069】
組成物
GPR17アンタゴニストとミクログリア阻害剤または除去剤は、組み合わせて投与される場合、ニューロンの不十分なミエリン形成により特徴付けられる疾患、障害または損傷の治療に有用である。いくつかの態様では、GPR17アンタゴニストは、モンテルカスト、またはプランルカストである。いくつかの態様では、ミクログリア阻害剤または除去剤は、PLX3397である。特定の態様では、GPR17アンタゴニストとミクログリア阻害剤または除去剤の組み合わせ治療は、標的ニューロンのミエリン形成を少なくとも10%、25%、50%、75%、または100%も増加させることができる。
【0070】
GPR17アンタゴニストまたはミクログリア阻害剤もしくは除去剤またはその両方の薬学的に許容される塩は、本明細書では、標的ニューロンのミエリン形成を増加させるために企図される。用語「薬学的に許容される塩」は、カルボン酸官能基などの酸性官能基を有するGPR17アンタゴニストまたはミクログリア阻害剤もしくは除去剤と、薬学的に許容される無機または有機塩基とから調製される塩を指す。適切な塩基には、限定するものではないが、以下が含まれる:ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アルミニウム、亜鉛などの他の金属の水酸化物;アンモニア、および有機アミン、例えば、無置換またはヒドロキシ置換されたモノ、ジ、またはトリアルキルアミン;ジシクロヘキシルアミン;トリブチルアミン;ピリジン;N-メチル、N-エチルアミン;ジエチルアミン;トリエチルアミン;モノ、ビス、またはトリス(2-ヒドロキシ低級アルキルアミン)、例えば、モノ、ビス、またはトリス(2-ヒドロキシエチル)アミン、2-ヒドロキシ-tert-ブチルアミン、またはトリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、N,N-ジ低級アルキル-N-(ヒドロキシ低級アルキル)アミン、例えば、N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アミン、またはトリ(2-ヒドロキシエチル)アミン;N-メチル-D-グルカミン;アミノ酸、例えば、アルギニン、リジンなど。用語「薬学的に許容される塩」はまた、アミノ官能基などの塩基性官能基を有するGPR17アンタゴニストおよび/またはミクログリア阻害剤もしくは除去剤と、薬学的に許容される無機または有機酸とから調製される塩を指す。適切な酸には、限定するものではないが、以下が含まれる:硫酸水素、クエン酸、酢酸、シュウ酸、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、硝酸、リン酸、イソニコチン酸、乳酸、サリチル酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、サッカリン酸、ギ酸、安息香酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸。
【0071】
薬学的治療薬
治療用途の場合、本明細書に記載の薬剤を含む組成物は、全身的に投与することができる。好ましい投与経路には、例えば、経口投与、または皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内もしくは皮内注射が含まれ、こうした経路は、患者に継続的で持続的な薬物レベルを提供する。ヒト患者または他の動物の治療は、生理学的に許容される担体中の本明細書で同定された治療薬の治療上有効な量を用いて実施される。一態様では、GPR17アンタゴニスト、ミクログリア阻害剤もしくは除去剤、またはその両方は、生理食塩水などの薬学的に許容される緩衝液中に製剤化され得る。適切な担体とその製剤化については、例えば、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。投与される治療薬の量は、投与方法、患者の年齢と体重に応じて、また、不十分なミエリン形成を特徴とする疾患、障害または損傷の臨床症状によって異なる。一般的に、量は、不十分なミエリン形成を特徴とする他の状態、疾患または損傷の治療に使用される他の薬剤に使用される量の範囲内であろう。いくつかの態様では、本明細書に記載の薬剤(例えば、GPR17アンタゴニストおよび/またはミクログリア阻害剤もしくは除去剤)を含む組成物は、標的ニューロンのミエリン形成を増加させるのに有効な用量で投与される。他の態様では、GPR17アンタゴニストを含む組成物、およびミクログリア阻害剤または除去剤を含む組成物は、標的ニューロンのミエリン形成を増加させるのに有効な用量で投与される。投与の有効性は、当業者に公知の方法により、またはニューロンのミエリン形成を測定する任意のアッセイを用いて判定することができる。
【0072】
薬学的組成物の製剤化
標的ニューロンの不十分なミエリン形成を特徴とする疾患、障害または損傷を治療するための、本明細書に記載の薬剤(例えば、GPR17アンタゴニスト、ミクログリア阻害剤もしくは除去剤、またはその両方)を含む組成物の投与は、他の成分と組み合わせて、標的ニューロンのミエリン形成を増加または安定化させるのに有効な治療薬の濃度をもたらす任意の適切な手段により行うことができる。該組成物は、任意の適切な担体物質中に任意の適切な量で含まれ、一般に、組成物の総重量の1~95重量%の量で存在する。該組成物は、経口投与に適した剤形で提供することができる。いくつかの態様では、該組成物は、非経口(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、または腹腔内)投与経路に適した剤形で提供され得る。薬学的組成物は、従来の製剤プラクティスに従って製剤化することができる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (20th ed.), ed. A. R. Gennaro, Lippincott Williams & Wilkins, 2000およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technology, eds. J. Swarbrick and J. C. Boylan, 1988-1999, Marcel Dekker, New Yorkを参照されたい)。
【0073】
当業者は、ヒトへの投与量を動物モデルと比較して変更することが当技術分野でルーチンであると認識しているので、ヒトへの投与量は、最初に、マウスで使用された薬剤の量から外挿することによって決定することができる。投与量は、標的ニューロンの不十分なミエリン形成を特徴とする当技術分野で知られた状態または損傷の効果的な治療のための投与量に基づいて決定され得る。特定の態様では、本明細書に記載の薬剤の投与量は、約0.1mg~約200mg/日、約0.1mg~約190mg/日、約0.1mg~約180mg/日、約0.1mg~約170mg/日、約0.1mg~約160mg/日、約0.1mg~約150mg/日、約0.1mg~約140mg/日、約0.1mg~約130mg/日、約0.1mg~約120mg/日、約0.1mg~約110mg/日、約0.1mg~約100mg/日、約0.1mg~約90mg/日、約0.1mg~約80mg/日、約0.1mg~約70mg/日、約0.1mg~約60mg/日、約0.1mg~約50mg/日、約0.1mg~約40mg/日、約0.1mg~約30mg/日、約0.1mg~約20mg/日、約0.1mg~約10mg/日、約0.1mg~約5mg/日、約0.1mg~約1mg/日であることが想定される。いくつかの態様では、GPR17アンタゴニストの投与量は、約0.5mg~約200mg/日、約1mg~約200mg/日、約10mg~約200mg/日、約20mg~約200mg/日、約30mg~約200mg/日、約40mg~約200mg/日、約50mg~約200mg/日、約60mg~約200mg/日、約70mg~約200mg/日、約80mg~約200mg/日、約90mg~約200mg/日、約100mg~約200mg/日、約110mg~約200mg/日、約120mg~約200mg/日、約130mg~約200mg/日、約140mg~約200mg/日、約150mg~約200mg/日、約160mg~約200mg/日、約170mg~約200mg/日、約180mg~約200mg/日、または約190mg~約200mg/日である。
【0074】
いくつかの態様では、ミクログリア阻害剤または除去剤の投与量は、1日あたり約250mg~約350mgである。いくつかの態様では、ミクログリア阻害剤または除去剤の投与量は、約250mg~約325mg/日、約250mg~約300mg/日、または約250mg~約275mg/日である。いくつかの態様では、ミクログリア阻害剤または除去剤の投与量は、約275mg~約350mg/日、約300mg~約350mg/日、または約325mg~約350mg/日である。
【0075】
いくつかの態様では、薬剤はベキサロテンであり、約50~約150mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はメシル酸ベンズトロピンであり、約5~約15mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はクレマスチンフマル酸塩であり、約5~約15mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はイブジラストであり、約5~約15mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はイミダゾールであり、約5~約15mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はモンテルカストであり、約10~約40mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はプランルカストであり、約0.1~約1.0mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はラパマイシンであり、約3~約9mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はソリフェナシンコハク酸塩であり、約10~約30mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はサリドマイドであり、約25~約75mg/kgの投与量を有する。いくつかの態様では、薬剤はペキシダルチニブ(PLX 3397)であり、1日あたり約225~約350mg/kgの投与量を有する。当然のことながら、投与量は、このような治療プロトコルで日常的に行われているように、初期の臨床試験の結果および特定の患者の必要性に応じて、上方または下方に調整することができる。
【0076】
本開示の態様による薬学的組成物は、実質的に投与直後に、または投与後のあらかじめ決められた任意の時間もしくは期間に、活性化合物(例えば、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤)を放出するように製剤化され得る。後者のタイプの組成物は、一般に、放出制御製剤として知られており、(i)長期間にわたって体内で実質的に一定の薬物濃度をもたらす製剤;(ii)所定のタイムラグの後、長期間にわたって体内で実質的に一定の薬物濃度をもたらす製剤;(iii)活性物質の血漿レベルの変動に関連する望ましくない副作用を最小限に抑えながら、体内で比較的一定の有効レベルを維持することにより、所定の期間にわたって作用を持続させる製剤(鋸歯状の動態パターン);(iv)例えば、意図された標的細胞(例えば、脳細胞)の近くに放出制御組成物を空間的に配置することによって、作用を局在化させる製剤;(v)用量が、例えば経口的に1日1回または2回、投与されるような、便利な投薬を可能にする製剤;および(vi)治療薬を特定の細胞種(例えば、脳細胞)に送達するために担体または化学的誘導体を使用することにより、カルシウムチャネルおよびアンジオテンシン受容体を標的とする製剤;が含まれる。いくつかの応用例では、放出制御製剤により、血漿レベルを治療レベルに維持するために日中に頻繁に投与する必要性がなくなる。
【0077】
放出速度が問題の化合物の代謝速度を上回る制御された放出を得るために、多くの戦略のいずれかを実行することができる。一例では、制御された放出は、例えば様々なタイプの放出制御組成物およびコーティングを含めて、様々な製剤パラメータと成分を適切に選択することによって得られる。こうして、治療薬は、適切な添加剤を用いて、投与時に治療薬を制御された方法で放出する薬学的組成物に製剤化される。例として、単一ユニットまたは複数ユニットの錠剤またはカプセル組成物、油液剤、懸濁液剤、乳濁液剤、マイクロカプセル、マイクロスフェア、分子複合体、ナノ粒子、パッチ、およびリポソームが含まれる。
【0078】
非経口組成物
薬学的組成物は、慣用の無毒な薬学的に許容される担体およびアジュバントを含む剤形、製剤で、または適切な送達デバイスもしくはインプラントを介して、注射、注入または移植(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内など)により非経口投与することができる。このような組成物の処方および調製は、製剤処方の分野の当業者によく知られている。製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 前掲に見出すことができる。
【0079】
非経口使用のための組成物は、単位剤形(例えば、単回投与アンプル)で、または適切な防腐剤が添加されてもよい、複数用量を含むバイアルで提供され得る(下記参照)。該組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、注入デバイス、または移植用送達デバイスの形態であってもよいし、使用前に水または他の適切なビヒクルを用いて用時調製される乾燥粉末として提示されてもよい。標的ニューロンのミエリン形成を増加させる活性薬剤とは別に、該組成物は、適切な非経口的に許容される担体および/または添加剤を含むことができる。治療用活性薬剤は、制御された放出のために、マイクロスフェア、マイクロカプセル、ナノ粒子、リポソームなどに組み込まれてもよい。さらに、該組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、等張化剤、および/または分散剤を含んでもよい。
【0080】
上記に示したように、本開示の態様による薬学的組成物は、無菌注射に適した形態であり得る。このような組成物を調製するために、GPR17アンタゴニストおよび/またはミクログリア除去剤は、非経口的に許容される液体ビヒクルに溶解または懸濁される。使用できる許容可能なビヒクルおよび溶媒には、水、適量の塩酸、水酸化ナトリウムまたは適切な緩衝剤の添加によって適切なpHに調整された水、1,3-ブタンジオール、リンゲル液、ならびに等張塩化ナトリウム溶液およびデキストロース溶液がある。また、水性製剤は、1種以上の防腐剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチルまたはn-プロピル)を含んでもよい。化合物の1つが水に難溶性であるかまたはわずかにしか溶けない場合、溶解促進剤または可溶化剤を添加することができ、また、溶媒に10~60%w/wのプロピレングリコールなどを含めてもよい。
【0081】
放出制御型の非経口組成物
放出制御型非経口組成物は、水性懸濁液、マイクロスフェア、マイクロカプセル、磁性マイクロスフェア、油溶液、油懸濁液、または乳濁液の形態であり得る。あるいは、活性薬剤が、生体適合性の担体、リポソーム、ナノ粒子、インプラント、または輸液用器具に組み込まれてもよい。
【0082】
マイクロスフェアおよび/またはマイクロカプセルの調製に使用するための材料は、例えば、ポリガラクチン、ポリ(シアノアクリル酸イソブチル)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-L-グルタミン)およびポリ(乳酸)などの、生分解性/生体侵食性ポリマーである。放出制御型非経口製剤を処方する際に使用できる生体適合性担体は、炭水化物(例:デキストラン)、タンパク質(例:アルブミン)、リポタンパク質、または抗体である。インプラントに使用するための材料は、非生分解性(例:ポリジメチルシロキサン)または生分解性(例:ポリ(カプロラクトン)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(オルトエステル)、またはこれらの組み合わせ)であり得る。
【0083】
経口用の固体剤形
経口用の製剤には、活性成分(例えば、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤)を無毒性の薬学的に許容される添加剤と混合して含む錠剤が含まれる。そのような製剤は、当業者には公知である。添加剤としては、例えば、以下が挙げられる:不活性な希釈剤または充填剤(例:スクロース、ソルビトール、砂糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム);造粒剤および崩壊剤(例:微結晶性セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸);結合剤(例:スクロース、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファー化デンプン、微結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール);滑沢剤、流動促進剤、粘着防止剤(例:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油、またはタルク)。その他の薬学的に許容される添加剤には、着色剤、香味剤、可塑剤、湿潤剤、緩衝剤などがある。
【0084】
錠剤は、ある態様ではコーティングされておらず、他の態様ではコーティングされている。錠剤は、任意で、消化管での崩壊および吸収を遅延させ、それによってより長い期間にわたり持続的な作用を提供するために、公知の技術によってコーティングされ得る。コーティングは、活性薬剤を所定のパターンで放出するように適合させることができ(例えば、放出制御製剤を得るため)、または胃の通過後まで活性薬剤を放出しないように適合させることができる(腸溶性コーティング)。コーティングは、いくつかの態様では、糖衣、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリレートコポリマー、ポリエチレングリコールおよび/またはポリビニルピロリドンに基づく)、または腸溶性コーティング(例えば、メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、および/またはエチルセルロースに基づく)である。さらに、時間遅延材料、例えばモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなど、を利用することも可能である。
【0085】
固体錠剤組成物は、いくつかの態様では、該組成物を望まない化学変化(例えば、薬剤の放出前の化学分解)から保護するように適合されたコーティングを含む。いくつかの態様では、コーティングは、Encyclopedia of Pharmaceutical Technology, 前掲に記載されているのと同様の方法で、固体剤形上に適用される。
【0086】
一態様では、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤は、錠剤中で一緒に混合されていてもよいし、分割されていてもよい。一例では、GPR17アンタゴニストは錠剤の内側に含まれ、ミクログリア除去剤は外側にあり、その結果、GPR17アンタゴニストの放出に先立って、ミクログリア除去剤のかなりの部分が放出される。いくつかの態様では、ミクログリア除去剤は錠剤の内側に含まれ、GPR17アンタゴニストは外側にある。
【0087】
経口用の製剤には、活性成分(すなわち、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤)が不活性固体希釈剤(例えば、ジャガイモデンプン、ラクトース、微結晶性セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリン)と混合される、チュアブル錠または硬質ゼラチンカプセルが含まれ、また、活性成分が水または油媒体、例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油と混合される、軟質ゼラチンカプセルが含まれる。粉剤および顆粒剤は、いくつかの態様では、錠剤とカプセル剤について上述した成分を用いて、例えば、混合機、流動床装置、または噴霧乾燥装置を使用する従来の方法で調製される。
【0088】
放出制御型の経口剤形
経口用の薬剤の放出制御組成物は、例えば、活性物質の溶解および/または拡散を制御することによって、薬剤を放出するように構築され得る。溶解または拡散制御放出は、化合物の錠剤、カプセル剤、ペレット剤、もしくは顆粒剤を適切にコーティングすることにより、または薬剤を含む組成物を適切なマトリックスに組み込むことにより達成することができる。放出制御コーティングは、いくつかの態様では、上記のコーティング材料のうちの1種以上、ならびに/または、例えば、シェラック、蜜蝋、グリコワックス、カスターワックス、カルナバワックス、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、エチルセルロース、アクリル樹脂、dl-ポリ乳酸、セルロースアセテートブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリレート、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシメタクリレート、メタクリレートヒドロゲル、1,3ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリレート、および/もしくはポリエチレングリコールを含む。放出制御マトリックス製剤では、マトリックス材料として、例えば、水和メチルセルロース、カルナバワックスとステアリルアルコール、カーボポール934、シリコーン、トリステアリン酸グリセリル、メチルアクリレート-メチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、および/またはハロゲン化フルオロカーボンも挙げられる。
【0089】
薬剤を含む放出制御組成物は、いくつかの態様では、浮遊(buoyant)錠剤またはカプセル剤(すなわち、経口投与したとき、一定期間にわたって胃内容物の上に浮いている錠剤またはカプセル剤)の形態である。該組成物の浮遊錠剤を調製するには、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤の混合物に、賦形剤および20~75%w/wの親水コロイド、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを加えて造粒する。その後、得られた顆粒を錠剤に圧縮することができる。胃液に接触すると、該錠剤は、その表面のまわりに実質的に水不透過性のゲルバリアを形成する。このゲルバリアは、密度を1未満に維持することに関与し、それによって錠剤を胃液中に浮いたままにすることができる。
【0090】
本開示の態様は、治療有効量の、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤を含む薬学的組成物を、対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与することを含む、不十分なミエリン形成を特徴とする疾患、障害、または損傷を治療する方法を提供する。該方法は、疾患、状態、障害、損傷またはその症状を治療するのに十分な量のGPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤を、疾患、状態、障害、損傷またはその症状が治療されるような条件下で対象に投与するステップを含む。治療法には予防的処置も含まれる。いくつかの態様では、対象は、標的ニューロンの不十分なミエリン形成を特徴とする疾患または障害に罹患しているか、それを有するか、それに罹りやすいか、またはそのリスクがある哺乳動物、特にヒトである。
【0091】
組み合わせ治療
任意で、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤は、不十分なミエリン形成を特徴とする疾患、障害、状態、または損傷のための他の標準治療と組み合わせて投与することができる;そのような方法は、当業者に知られており、E. W. MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0092】
キットまたは医薬品システム
本組成物は、標的ニューロンのミエリン形成を増加させる際に使用するためのキットまたは医薬品システムに構築することができる。キットまたは医薬品システムは、バイアル、チューブ、アンプル、ボトルなどの1つまたは複数の容器手段が中に密閉されている、箱、カートン、チューブなどの運搬手段を含む。キットまたは医薬品システムはまた、本開示の態様の薬剤を使用するための関連する説明書を含んでもよい。いくつかの態様では、キットは、GPR17アンタゴニストとミクログリア除去剤を含む。いくつかの態様では、GPR17アンタゴニストは、モンテルカストまたはプランルカストである。いくつかの態様では、ミクログリア除去剤は、PLX3397である。
【0093】
化合物および組成物の同定
本発明は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を初期分化型オリゴデンドロサイトに分化させるために使用され得る、または初期分化型オリゴデンドロサイトを成熟したミエリン形成性オリゴデンドロサイトに分化させるために使用され得る、化合物および組成物を同定するための方法を提供する。不十分なミエリン形成を特徴とするニューロンの損傷および疾患(例えば、多発性硬化症)は、視神経挫滅マウスモデルを用いて試験することができる。このモデルでは、後述するように、または当技術分野で知られるように、視神経を損傷させる必要がある。候補化合物が動物に投与される。いくつかの態様では、オリゴデンドロサイトの分化は、OPCまたは初期分化型オリゴデンドロサイトを分化させるための化合物(複数可)または組成物(複数可)の有効性の測定値として観察される。いくつかの態様では、候補化合物の有効性を決定するために、再生ニューロンのミエリン形成がモニターされる。
【0094】
この同定方法は、多発性硬化症の候補治療薬を同定するのに特に適している。視神経損傷、つまり視神経挫滅(optic crush)は、アンドロゲンをマウスに注射して脱髄を誘発する従来の方法に比べて、多発性硬化症の優れたモデルである。アンドロゲン注射を受けた動物は、アンドロゲン投与を中止した後に自発的なミエリン形成を享受するが、これは視神経挫滅には当てはまらない。視神経挫滅損傷を受けたマウスは、炎症の増加と自発的な再ミエリン形成の欠如を示し、これらはどちらも多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病、ミエリン形成不全と関連する中枢神経系損傷(例えば、外傷性脳損傷、脊髄損傷)に共通している。
【0095】
本開示の態様の実施では、別段の指示がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を採用しており、これらは当業者の視野に十分に入るものである。このような技術は、"Molecular Cloning, A Laboratory Manual", 第2版 (Sambrook, 1989);“Oligonucleotide Synthesis” (Gait, 1984);“Animal Cell Culture” (Freshney, 1987);“Methods in Enzymology” “Handbook of Experimental Immunology” (Weir, 1996);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells” (Miller and Calos, 1987);“Current Protocols in Molecular Biology” (Ausubel, 1987);“PCR: The Polymerase Chain Reaction” (Mullis, 1994);“Current Protocols in Immunology” (Coligan, 1991)などの文献において十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの製造に適用可能であり、そのため、本発明の構成および実施に際して考慮され得るものである。特定の態様のために特に有用な技術については、以下のセクションで説明することにする。
【0096】
以下の実施例は、本発明のアッセイ、スクリーニング、および治療法をどのように構成および使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが発明とみなすものの範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例
【0097】
実施例1: 損傷により誘発されたOPCの増殖
様々な操作が網膜神経節細胞(RGC)の固有の再生能力を高め、視索(optic tract)損傷後の強固な軸索再生を可能にするが、これらの再生された軸索はどれも、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)に対する抗体で共染色されなかったことが知られている。PTEN欠失によって誘発されたこのような再生軸索のミエリン形成状態をさらに評価するために、損傷した神経の電子顕微鏡解析を、全てのRGC軸索が断ち切られた視神経挫滅損傷の4週間後に行った(Park et al., Science 322, 963-966 (2008))。予想通り、ナイーブ軸索と見分けがつかない形態を有する多くの再生された軸索が、病変より遠位の視神経に見られた(図1A)。しかし、解析された数千本の軸索のうち、ミエリンの薄層を有する再生軸索は1本しかなかった(図1A)。したがって、視索損傷モデルと同様に、ほとんどの再生軸索は、損傷した視神経において自発的なミエリン形成を示さない。
【0098】
OPCは成体ではミエリン形成を担っていることから、OPCが損傷に対してどのように反応するかを調べた。まず、全てのOPCが核内H2B-GFPを発現しているPDGFRα-H2B-GFPマウスの損傷視神経(挫滅損傷と同側)および対照視神経(対側)においてOPCの増殖を評価した。このレポーターマウス系統でのGFPは5%未満の血管細胞と軟髄膜細胞(leptomeningeal cells)でも発現しているため、視神経切片をオリゴデンドロサイト系統のマーカーOlig2で共染色して、GFPおよびOlig2二重陽性細胞をOPCとして定義した(図1B~E)。図1Cおよび1Dに示すように、挫滅した神経における総OPC数は、損傷後1週間および2週間で有意に増加したが、4週間では基底レベルに戻っていた。対照的に、無傷の神経では、どの時点でも同程度の数のGFP/Olig2 OPCが見られた(図1D)。このような損傷によるOPC増殖の動態をさらに評価するために、これらのマウスに、損傷後の異なる時点でBrdUを注射したが、各時点で分裂中のOPCを標識することを期待して、損傷後3時間でそれを終了させた(図1F、1G)。その結果として、損傷によるOPCの増殖は、損傷後3~5日目頃に最も顕著に増加し、それ以降の時点では減少に転じ、視神経損傷によって誘発される急速だが可逆的なOPCの増殖が示された(図1G)。まとめると、これらの結果は、挫滅損傷が、損傷した視神経において急速かつ可逆的なOPC増殖を誘発することを示唆していた。
【0099】
実施例2: 損傷した視神経において増殖したOPCの分化不全
次に、これらの増殖したOPCが分化できるかどうかを調べた。OPCの子孫を追跡するために、異なるレポーターマウス系統、すなわち、Rosa26-STOP-Tomatoマウスと交配させたPDGFRα-CreER(Kang et al., Neuron 68, 668-681, 2010)、またはPDGFRα-CreER/iRTMマウス(Arenkiel et al., 2011)を利用した。タモキシフェンを投与すると、Cre発現がPDGFRα OPCにおいて誘導され、これらのOPCだけでなく、それらの分化した子孫でもRTMが発現するようになる。それらの分化をモニターするために、2つの十分に裏付けされたマーカー、すなわちCC1とOligo1を使用した。CC1はOPCから分化した全ての細胞のマーカーである。Oligo1の核から細胞質への移行は、ミエリン形成オリゴデンドロサイトへの後期分化の顕著な特徴として関係している。したがって、これらの免疫組織化学的評価により、これらの細胞を、未分化型OPC(CC1および核内Oligo1)、初期分化型OPC(CC1および核内Oligo1)および成熟型オリゴデンドロサイト(CC1および細胞質内Oligo1)の3段階に分けることができた(図1H)。
【0100】
視神経挫滅の直前に、既存のOPCを標識するために、タモキシフェンをPDGFRα-CreER/iRTMマウスに注射した(Young et al., Neuron 77, 873-885, 2013)。次に、標識したOPCの運命を、損傷後4週目に抗CC1および抗Oligo1を用いた免疫組織化学によって調べた(図1I)。タモキシフェン導入後4週間で、総RTM数は無傷の対側視神経ではより少ないものの、RTM細胞の67%はCC1オリゴデンドロサイトになり、それらの約半数は細胞質Oligo1を示した(図1J~L)。これは、成体における連続的なミエリン形成の概念と一致している。しかし、同じマウスの損傷した視神経では、たった17%のRTM細胞がCC1であり、これらのCC1細胞のほとんどは、細胞質内ではなく核内Oligo1を有しており(図1J~1O)、未分化のOPCを示唆していた。これらの結果は、損傷した視神経において、OPCが成熟オリゴデンドロサイトに分化するためには、初期分化(CC1になる)および後期成熟化(細胞質内Oligo1を有する)という、少なくとも2つの遮断が存在することを示唆している。さらに、OPCは発生過程でアストロサイトに分化する可能性のあることが示されているが(Levison and Goldman, Neuron 10, 201-212, 1993)、アストロサイトマーカーGFAPを発現するRTM細胞は観察されなかった(図1P)。かくして、これらのデータは、無傷の視神経とは対照的に、損傷した神経では増殖OPCが分化遮断(differentiation blockade)を示すことを示唆しており、進行性多発性硬化症の患者の病変で観察されたものによく似ていた(Kuhlmann et al., Brain 132, 1118, 2008)。
【0101】
実施例3: 損傷によるGPR17のアップレギュレーションは、OPCの初期分化不全の一因となる
インビトロおよびEAEモデルに基づいて、以前の研究では、OPCの増殖および/または分化を促進する可能性のある様々な化合物が同定された。しかし、これらの薬剤のうちどれが再生軸索のミエリン形成を促進できるかは不明である。増殖したOPCのこのような分化遮断を調べるための第一歩として、一連の低分子化合物をスクリーニングして、損傷視神経において分化したOPCを増加させるものを同定した(図2A~2C)。候補化合物としては、M1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるメシル酸ベンズトロピン(Bzp);抗ヒスタミン薬および抗コリン薬、M1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるクレマスチン(Clem);M3ムスカリン受容体拮抗薬であるソリフェナシン(Sli);レチノイドX受容体作動薬であるベキサロテン(Bex);抗コレステロール合成化合物であるイミダゾール(Imi);臨床承認済みのホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤であるイブジラスト(Ibud);および2つの異なるGPR17アンタゴニストであるモンテルカスト(Mon)とプランルカスト(Pra)が挙げられる。mTOR阻害剤であるラパマイシン(Rap)は、TSC1ノックアウトマウスにおいてミエリン形成を改善することが示されたため(Meikle et al., 2008)、これもスクリーニングに加えた。
【0102】
これらの化合物はいずれも血液脳関門を通過することができるため、個々の化合物を、野生型C57BL/6マウスに視神経の損傷後4週間にわたり全身投与した。増殖中のOPCの分化を追跡するために、OPCが高い増殖速度を示した損傷後4日目から10日目まで、マウスにBrdUを毎日注射した(図1G)。さらなる3週間で(分化には2~3週間かかることがあるため)、各化合物の分化促進効果を、損傷した視神経でBrdU OPC上のオリゴデンドロサイトマーカーCC1の発現により評価した。図2Bおよび2Cに示すように、モンテルカスト、メシル酸ベンズトロピンおよびソリフェナシンを含む3つの化合物は、BrdUおよびCC1二重陽性細胞の数を有意に増加させた。モンテルカストが最も強い効果を示したため、さらなる研究では、この化合物とその推定標的であるGPR17に焦点を合わせた。
【0103】
この観察結果を検証するための第一歩として、モンテルカスト処置をPDGFRα-CreER/iRTMマウスに施して、図1H~Mのそれと同様に、視神経損傷後のOPCとその子孫を選択的に可視化した(図2D)。4週間のモンテルカスト処置後、RFP細胞の64%がCC1となり、対照的にビヒクル処置マウスでは12%であった(図2E~2G)。驚くべきことに、これらのCC1RTM細胞の77%は、細胞質ではなく核内Oligo1免疫反応を示した(図2E~2G)。さらに、総RTM細胞数は、モンテルカスト処置後に増加した(図2F)。細胞死はOPC分化の失敗に関連しているため、このようなRTM細胞の増加は、分化の改善と細胞死の減少の結果として生じる可能性がある。まとめると、これらの結果は、モンテルカスト処置がOPCの初期分化を促進できるが、これらの細胞はまだ成熟オリゴデンドロサイトに進むことができないことを示唆していた。
【0104】
モンテルカストは、喘息および季節性アレルギーを治療するための臨床的に承認された治療薬である。作用機構的には、それはGタンパク質共役受容体GPR17を含むロイコトリエン受容体のアンタゴニストとして作用する。モンテルカストに加え、別のGPR17アンタゴニストであるプランルカスト(Pra)もOPC分化を増加させたが、統計的有意性には達しなかった(図2C)。これは、血液脳関門透過性などの、薬理学的特性の違いに関連している可能性がある(Marschallinger et al., 2015)。それにもかかわらず、これらの結果は、OPC分化の開始におけるGPR17の役割についての概念を強化するものである。興味深いことに、以前の研究では、GPR17の発現が成体CNSにおいてダウンレギュレートされ、また、成体GPR17ノックアウトマウスではミエリン形成が正常に見えることが示された;それゆえ、GPR17は発生過程におけるOPC分化の内因的タイマー(intrinsic timer)であると示唆された(Chen et al., 2009)。そこで、インサイツハイブリダイゼーションを用いて、異なる状態の視神経におけるGPR17の発現パターンを評価した。以前の報告(Chen et al., 2009)と一致して、GPR17の発現は、成体マウスの無傷の視神経ではまれにしか検出されなかった(図2H,2I)。しかしながら、視神経挫滅損傷は、損傷後1週間または2週間の両方で検出されるように、損傷した神経においてGPR17の有意なアップレギュレーションを誘発する(図2H図2I)。
【0105】
モンテルカストは、GPR17に加えて他のロイコトリエン受容体をも阻害することができるため、GPR17の遺伝子欠失が損傷視神経におけるOPC分化に及ぼす影響を、GPR17ノックインマウス系統を用いて評価した(Chen et al., Nat. Neurosci. 12, 1398-1406, 2009)。この系統では、GPR17コード領域がヒストン2b融合GFP(H2b-GFP)の配列で置き換えられている。したがって、これらのマウスはGPR17発現のモニタリング(ヘテロ接合体とホモ接合体の両方でGFPシグナルによる)および機能喪失研究(ホモ接合体)に使用することができる。予想通り、損傷後7日目から、GFP(GPR17)細胞がGPR17+/-マウスとGPR17-/-マウスの両方で有意に増加した(図2J~2L)。これらのGFPのほとんどはまた、抗Oligo2で共染色され、OPC系統における限定発現と一致した(図2J)。損傷後30日までに、GPR17+/-マウスではGFP細胞のわずか2.3%がCC1オリゴデンドロサイトであったのに対し、GPR17-/-マウスではGFP細胞の61%がCC1であった(図2M~2R)。モンテルカスト処置と一致して、GPR17-/- GFP細胞の大半は、細胞質ではなく核内にOligo1免疫反応シグナルを示した(dpi28については図2S~2U、dpi7については図2V~2X)。さらに、GFP細胞の数は、GPR17+/-マウスと比較して、GPR17-/-マウスで有意に高かった(図2P~2R)。BrdU標識により、同程度の数の標識細胞が両群で認められたことから(図2J,2L)、このようなGFP細胞数の違いはGPR17欠失による分化の増加と、その結果としての細胞死の減少による可能性が高いことを示唆している。一致して、損傷後4週間で、GPR17+/-マウスに比してGPR17-/-マウスではBrdUCC1細胞の約10倍増加が観察された(図2Yおよび2Z)。したがって、モンテルカスト処置と同様に、GPR17ノックアウトは初期分化を促進したが、損傷視神経における増殖OPCの後期成熟を促進することはなかった。
【0106】
実施例4: 急速または持続的に活性化されたミクログリアのOPCの増殖と成熟化に対する示差効果
GPR17の阻害がOPCの分化に及ぼす部分的効果の観察を踏まえて、OPCの分化の後期成熟段階の追加の遮断剤を探し求めた。重要なヒントは、損傷した神経(同側)と対照の非損傷神経(対側)で、細胞質Oligo1を有するCC1細胞の数が異なっていたことである(図1M~1O);これは、この後期分化遮断に環境因子が寄与している可能性を示唆している。非損傷視神経ではなく、損傷視神経においてよく特徴付けられた炎症と慢性ワーラー変性(Wallerian degeneration)と一致して、ミクログリアは損傷視神経で急速かつ持続的に活性化された;これは、抗CD68抗体で陽性染色され、恒常性ミクログリアのマーカーである抗P2Y12との免疫反応性を欠くことによって実証される(図3A~E)。炎症はOPCの増殖と分化を調節することが示唆されているため、OPCの増殖と分化に対する損傷視神経におけるミクログリアの役割についてさらに検討した。
【0107】
コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)阻害剤であるPLX3397の全身投与が、インビボでミクログリアを特異的に枯渇させることができたという観察を利用して(図3G,3H)、PDGFRα-H2B-GFPマウスをPLX3397またはその対照で視神経挫滅前の7日間前処置し、BrdU/GFP/Olig2標識によって損傷後14日目にOPC増殖を検査した(図3I)。図3Jおよび3Kに示すように、PLX3397処置によりOPCの総数が大幅に減少し、その分化について解析するための細胞をほとんど残さなかった。それゆえ、損傷により誘発されるOPC増殖には、ミクログリアの活性化が必要となるようである。
【0108】
OPC増殖の大半は損傷後最初の1週間で起こるため(図1)、損傷後2~4週間での遅延PLX3397処置は、増殖に対するその阻害を回避することができ、OPC分化に対するその影響の評価を可能にする、という仮説を立てた。そのために、図1G~1M、3Lに用いたPDGFRα-CreER:iRTMマウスにおいて、PLX3397を損傷後2週間から4週間まで投与する別の実験を行った。図3M~3Oに示すように、PLX処置はCC1細胞を増加させた。重要なことは、これらのCC1RTM細胞のうち78%が細胞質Oligo1を発現していたことであり、ミクログリアの遅延除去が初期分化型OPCのミエリン形成オリゴデンドロサイトへの成熟化を促したことを示唆している。
【0109】
実施例5: モンテルカストとPLX3397の組み合わせ処置は、再生軸索の強固なミエリン形成につながった
OPC分化に対するGPR17阻害と遅延ミクログリア除去の示差的効果に関する観察は、再生軸索のミエリン形成に対する組み合わせ処置の効果の検討を促した。そのために、オステオポンチン/IGF1/CNTFを発現するAAVをPDGFRα-CreER:iRTMマウスの硝子体に注射して、RGCの固有の再生能力を活性化し、2週間で視神経を損傷させた。次に、これらのマウスをモンテルカスト(dpi1~dpi28の4週間)および/またはPLX3397(dpi15~28の2週間)で処置した。図4A~4Cに示すように、組み合わせ処置はCC1RTM二重陽性細胞の数を劇的に増加させ、これらのCC1細胞の大半は細胞質Oligo1を有していた;このことは、この組み合わせ処置がOPCの初期分化と後期分化の両方を促進するという考えを支持するものであった。
【0110】
各群の一部のマウスを、電子顕微鏡解析(図4D~4H)および追加の免疫組織化学(図4I)に供した。図4Dおよび4Hに示すように、モンテルカストまたはPLX3397のいずれかで処置したマウスでは、再生軸索の一部(約20%)がミエリン化された。しかし、モンテルカスト処置後のミエリン構造はPLX処置後のそれよりも非常に薄かった;これは、モンテルカストまたはPLX3397が、それぞれ、初期分化型OPC(軸索を鞘に収める能力がある)と成熟オリゴデンドロサイト(成熟ミエリンを形成する能力がある)の生成を促進するという結果と一致する。対照的に、組み合わせ処置を施したマウスでは、再生軸索の大半(60%)がミエリン化された(図4Dおよび4H)。これらのミエリン構造の多くは、比較的薄く、かつ大きな内舌(inner tongue)を有しており、新しいミエリン形成が進行していることを示唆している(図4E)。しかし、ランビエ絞輪(node of Ranvier)を明確に観察することができた(図4Fおよび4G)。一致して、パラノーダルジャンクション(paranodal axoglial junction)の成分であるCaspr、ランビエ絞輪の2つの成分であるNavおよびアンキリンGを含む、十分に確立されたマーカーを用いた免疫組織化学によって、ランビエ絞輪と、時には半絞輪(semi-node)が観察された(図4I)。これらの再生軸索のほとんどが視交叉(optic chiasm)を通過していないことに注目することは興味深いことである;これは、これらの再生軸索がその機能的標的との機能的なシナプスを形成する前に、このようなミエリン形成が起こることを示唆している。興味深いことに、ミエリン形成を促進する処置により、有意により多くの、より長い再生軸索が観察された(図4J~4L);これは、おそらく軸索に対するミエリン形成の保護効果に関連している。まとめると、これらの研究により、持続的な炎症を伴う損傷視神経において再生軸索の強固なミエリン形成を可能にする組み合わせ処置が確立された。
【0111】
実施例6: TNFαの発現は視神経損傷によりアップレギュレートされる
シーケンスデータは、TNF発現が視神経損傷後に、損傷後1週間および3週間で、アップレギュレートされることを示した(図5A,5B)。TNFR1 KOマウスのデータでは、同腹のヘテロ接合マウスと比較して、挫滅部位近くの遠位領域でCC1オリゴデンドロサイトの着実な増加が示された(図5C)。BrdUパルスチェイスプロトコルを用いることにより、これらのマウスでは有意により多くのBrdUOlig2細胞が観察された。これにより、OPC前駆細胞に由来する細胞の生存および/または分化が増加したことが示された。3時間のBrdU標識がより少ないBrdUOlig2細胞を示したので(図5C)、この効果はOPC増殖の増加によるものではなかった。
【0112】
TNF阻害剤であるサリドマイドを損傷後2週間から4週間まで投与したところ、BrdU/CC1/Olig2細胞の着実な増加が損傷遠位部に観察された。PDGFRα-CreER/iRTM系統レポーターマウスを用いると、この処置に応答してOPCが成熟したミエリン形成オリゴデンドロサイトに分化することが判明した(図5D)。その形態は、GPR17アンタゴニスト処置などの他の処置とは非常に異なっている(図5E)。
【0113】
視神経損傷モデルで再生軸索のミエリン形成不全の根底にある作用機構を解析した際に、OPCは急速な増殖を示したが、成熟したミエリン形成オリゴデンドロサイトに分化できないことが見出された。機構研究は、OPCのCC1細胞への初期分化を妨げる損傷誘発GPR17、およびミエリン形成オリゴデンドロサイト(細胞質Oligo1を有する)への成熟段階を遮断する損傷活性化ミクログリアという、著しく異なる機構によって媒介される2つの異なる分化遮断を明らかにした。個々の操作はある程度までミエリン形成を増加させたが、組み合わせ操作は再生軸索の強固なミエリン形成につながり、内因性と外因性の両方の機構に同時に対処することの重要性を浮き彫りした。成体CNSにおける軸索再生の促進の最近の進展と合わせて、これらの結果は、機能的に意味のある神経回路の再構築に向かう別の主要な障害に対処する上で重要な洞察力を与えるものである。興味深いことに、損傷した視神経/視索で観察されたOPCの動態は、進行性多発性硬化症の患者の病変で報告されたものと実によく似ており、どちらも増殖したOPCが成熟オリゴデンドロサイトに分化することができない。損傷した視神経と多発性硬化症の病変では活性化ミクログリアが優勢であるため、ここで報告された結果は、進行性MS患者へのミエリン形成促進治療的介入を設計する上で非常に重要な意味を持つ可能性がある。
【0114】
多くの分子が、OPC分化の重要な制御因子として関与している。驚くべきことに、モンテルカストは、OPC分化の初期段階を促進するのに最強であるようだ。モンテルカストは、GPR17と他のシステイニルロイコトリエン受容体を標的とすることができるが、GPR17ノックアウトおよびモンテルカスト処置研究で観察された同様の結果は、最重要の標的としてGPR17を挙げている。この点に関して、GPR17は損傷した視神経で劇的にアップレギュレートされ、初期OPC系統細胞では最大であるが、CC1細胞では非常に少ないことが示され、以前の報告と一致した(Chen et al., 2009; Fumagalli et al., 2011)。しかし、GPR17阻害は、これらの細胞の大半(トランスジェニックマウスではGFP)がCC1細胞に分化するのを促進した。興味深いことに、この系統の細胞数もまた、GPR17阻害後に大幅に増加した。これは発生過程のノックアウトマウスでは観察されなかったことから、これは損傷関連因子に関係している可能性がある。GPR17はシステイニルロイコトリエンによって活性化されるため、炎症誘発因子もまたGPR17を活性化して、GPR17を発現するOPCの分化、さらには増殖を妨げる可能性がある。他の2つのM1/M3ムスカリン受容体拮抗薬であるベンズトロピンとソリフェナシンもまた、OPC分化を有意に増加させたことから、他のいくつかの分子もこのプロセスに関与している可能性があることに留意することが重要である。さらに、別のM1/M3ムスカリン受容体拮抗薬クレマスチンおよびレチノイドX受容体作動薬ベキサロテンもまた、CC1細胞を増加させたものの、統計学的差異には達しなかった。
【0115】
本明細書に提示された結果は、OPCの動態におけるミクログリアの二元的な役割をも示しており、すなわち、急性に活性化されたミクログリアはOPCの増殖を刺激するが、慢性的に活性化されたミクログリアは代わりにOPCの分化、特にミエリン形成オリゴデンドロサイトへの成熟段階、を阻害する。実際、ミクログリアとミエリン形成との関連性が提唱されている。その後、炎症が移植されたOPCによるミエリン形成を刺激できることが報告されており、多くの研究がミエリン形成の重要な制御因子としてミクログリアを挙げた。最近では、メトトレキサートなどの化学療法がミクログリアの持続的な活性化をもたらし、これがOPC分化の障害の一因となることが示されている。
【0116】
まとめると、本開示の研究は、内因性(GPR17)および外因性(ミクログリア)の両因子の同時操作のみが、再生軸索の強固なミエリン形成を達成できることを示している。今後の研究では、このような処置が様々な損傷モデルにおいて行動改善を高めるかどうかを検証する予定である。重要なことは、欠陥のあるミエリン形成が、多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病、およびミエリン形成不全と関連する中枢神経系損傷(例えば、外傷性脳損傷、脊髄損傷)などの、神経変性疾患にも関連していることである。これらの病態では神経炎症が見つかる可能性があるため、ミクログリアの活性化状態を調べ、かつこれらの病態に対する本発明者らの操作の効果を試験することは、興味深いことであろう。
【0117】
本明細書で報告された上記の結果は、以下の材料および方法を用いて得られたものである。
【0118】
マウス系統
全ての実験手順は、Boston Children's HospitalのInstitutional Animal Care and Use Committeeによって承認された動物プロトコルに準拠して実施された。Gpr17トランスジェニックマウスは、Richard Lu博士から入手した(Chen et al., 2009)。その他のマウス系統は、Jackson Laboratoryから入手した(表1)。マウスが6~8週齢になった時点で実験を開始した。雄と雌の両マウスを無作為化し、損傷前に異なる処置群に割り当てた。この動物実験には、その他の特定の無作為化を採用しなかった。定量化は盲検で実施された。
【0119】
抗体
一次抗体として、以下を使用した:ウサギ抗Oligo1(1:50,Charles D Stiles博士から贈られたもの)、ウサギ抗Oligo2(1:300,Novus biologicals社,NBP1-28667)、ラット抗PDGFRα(CD140a)(1:100,BD Bioscience社, 558774)、マウス抗CC1(APC)(1:100,Millipore社,OP80)、ラット抗BrdU(1:300,Abcam社,ab6326)、マウス抗Nav1.6(1:50,Antibodies incorporated社,75-026)、マウス抗アンキリンG(AnkG)(1:50,Antibodies incorporated社,75-146)、ウサギ抗Caspr(1:1000,Abcam社,ab34151)、ラット抗MBP(1:300,Abcam社,ab7349)、マウス抗MAG(1:100,Millipore社,MAB1567)、ラット抗CD68(1:300,Bio-Rad社,MCA1957)、ウサギ抗Iba1(1:500,WAKO Pure Chemicals社,019-19741)、ウサギ抗P2Y12(1:500,AnaSpec社,AS-55043A)、ラット抗GFAP(1:1000,ThermoFisher社,13-0300)、ウサギ抗RFP(1:500,Abcam社,ab34771)。二次抗体(Invitrogen社)は、一次抗体の宿主種に対して各ヤギで産生させ、高度に交差吸着させ(cross adsorbed)、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 594、またはAlex Fluor 647の蛍光色素にコンジュゲート化して、希釈率1:500で使用した。
【0120】
方法の詳細
ウイルス生産
全てのAAVウイルスベクターは、Boston Children's Hospital Viral Coreで作製された。この研究では、AAV血清型2を次のように使用した:AAV2-Cre; AAV2-CNTF; AAV2-IGF1; AAV2-OPN。全てのウイルス製剤の力価は、少なくとも1.0×1013GC/mLであった。
【0121】
外科的処置
全ての外科的処置では、マウスをケタミンとキシラジンで麻酔し、術後鎮痛剤としてブプレノルフィンを投与した。
【0122】
AAVウイルス注射
先に記載したように、硝子体内ウイルス注射は、軸索再生を可能にするために、視神経挫滅損傷の2週間前に実施した。簡単に説明すると、プルド(pulled)グラスマイクロピペットを鋸状縁(ora serrata)の後ろの周辺網膜の近くに挿入し、水晶体への損傷を避けるために意図的に角度をつけた。Pten f/fマウスには、AAV2/2-CAG-Creウイルス2μlを注射した(Park et al., 2008)。他のマウス系統には、AAV2/2-CAG-CNTFとAAV2/2-CAG-IGFとAAV2/2-CAG-OPNの組み合わせ(1:1:1混合物)2μlを注射した(Bei et al., 2016)。
【0123】
視神経損傷
先に記載したように、視神経を眼窩内に露出させ、視神経円板(optic disc)の後方約500μmを細い鉗子(Dumont #5 FST)で5秒間挫滅した。その後、角膜を保護するために術後に眼軟膏を塗布した。強固な軸索再生は、Alexaコンジュゲート化コレラ毒素サブユニットB標識により、挫滅後2週間から観察することができた。
【0124】
化合物投与
PDGFRα-CreERマウスには、視神経挫滅の直前にタモキシフェン(100mg/kg,p.o.)を5日間投与した。OPC増殖アッセイでは、サンプル採取の3時間前にBrdU(100mg/kg,i.p.)を注射した。薬物スクリーニングアッセイでは、視神経挫滅後4日目から10日目まで毎日BrdUを注射した。各化合物または対応するビヒクルを、視神経挫滅後1日目から開始して、1日1回、4週間投与した(表2)。先に記載したように、試験化合物の投与量と投与経路は以下の通りである:ベキサロテン(100mg/kg,p.o.)、メシル酸ベンズトロピン(10mg/kg,i.p.)、クレマスチンフマル酸塩(10mg/kg,p.o.)、イブジラスト(10mg/kg,i.p.)、イミダゾール(10mg/kg,i.p.)、モンテルカスト(25mg/kg,p.o.)、プランルカスト(0.5mg/kg,i.p.)、ラパマイシン(6mg/kg,i.p.)、ソリフェナシンコハク酸塩(20mg/kg,i.p.)。ペキシダルチニブ(PLX 3397)は、LabDiet実験動物用栄養飼料1kgあたり290mg量で飼料に混合した。
【0125】
灌流と組織処理
免疫染色のために、動物に過量の麻酔をかけ、氷冷PBSで、続いて4%パラホルムアルデヒド(PFA, sigma社)で経心的に灌流した。灌流後、視神経を切り離し、4%PFAで一晩4℃にて後固定した。組織は、PBS中の30%スクロースに48時間浸漬して凍結防止した。サンプルは、ドライアイスを用いてOptimal Cutting Temperatureコンパウンド(Tissue Tek)で凍結し、視神経について12mmで切片化した。
【0126】
免疫染色と画像解析
凍結切片(厚さ12μm)を透過処理し、ブロッキング緩衝液(PBS中の0.5%Triton X-100と5%正常ヤギ血清)中で室温にて1時間ブロックして、一次抗体を4℃で一晩重層した(表1)。BrdU染色では、細胞または組織切片を2N HClで37℃、30分間変性させ、その後0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液で10分間中和してから、通常のブロッキング手順に進めた。翌日、対応するAlexa Fluor 488-、594-または647-コンジュゲート化二次抗体を加えた(全ての二次抗体はInvitrogen社から購入した)。染色した全ての切片を、DAPI含有マウンティング液を含む溶液でマウントし、ガラスカバースリップで密封した。全ての免疫蛍光標識画像は、Zeiss 700またはZeiss 710共焦点顕微鏡を用いて取得した。生物学的サンプルごとに、各視神経の3~5切片を、定量化のために10倍または20倍の対物レンズで撮影した。その後、ImageJソフトウェアのPlugins/Analyze/Cell Counter機能を用いて、陽性細胞数を手動で定量化した。蛍光強度解析では、画像を最初にImageJソフトウェアで8ビット深度に変換し、その後平均強度値をビルドイン機能:Analyze/Measureにより算出した。
【0127】
組織クリアリング、イメージングおよび視神経再生の定量化
蛍光色素でタグ付けしたコレラ毒素B(CTB)を注射されたマウスを、4%パラホルムアルデヒドで灌流した。次に、切り離した視神経を、以前に公開されたiDISCO組織クリアリング法から修正された手法にかけて、直接蛍光イメージングのために視神経を透明にした(Renier et al., 2014)。この手法は、組織クリアリング時にCTB蛍光の保存がより良好であること、および視神経の形状変化が最も少ないことを検査済みである。脱水のために、視神経サンプルを暗所で80%テトラヒドロフラン(THF,Sigma-Aldrich 360589-500ML)/H2O中で0.5時間インキュベートし、次いで100%THFに切り替えて1時間インキュベートした。その後、サンプルをジクロロメタン(DCM,Sigma-Aldrich 270997-1L)中で20分間インキュベートした(神経は底に沈むはずである)。最後に、完全に透明になるまで(少なくとも3時間、しかし一晩が推奨される)、サンプルをジベンジルエーテル(DBE,Sigma-Aldrich 33630-250ML)に切り替えた。透明な神経は、CTBの明らかな蛍光減衰なしにDBE中で少なくとも1年間保存することが可能である。イメージングでは、処理済みの神経をDBEにマウントし、Zeiss 710共焦点顕微鏡で撮影することができる。全ての再生軸索を取り込むために、Zスタック(Z-stack)スキャンおよびZスタック画像の最大投影を使用した。画像解析のために、ImageJのビルドイン機能:Analyze/Plot Profileにより、神経に沿った蛍光強度プロファイルを作成した。神経全長にわたる蛍光強度の積分を計算するために、Matlabアルゴリズムを開発して、ImageJで作成されたプロットプロファイルのデータから「曲線下面積」を定量化した。
【0128】
電子顕微鏡法と形態計測解析
マウスを、4%パラホルムアルデヒドと0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中の2.5%グルタルアルデヒドで灌流した。視神経を切り離し、同じ固定液で一晩固定した。その後、Harvard EMコアで以下の手順に基づいてサンプルを処理した。すなわち、神経をPBSで洗浄し、PBS中1%OsO4で1時間後固定し、段階的エタノール系列中で脱水し、プロピレンオキシドを浸潤させて、エポン(Epon)に包埋した。半薄(semithin)切片をトルイジンブルーで染色し、超薄(ultrathin)切片をクエン酸鉛で染色した。超薄切片をJEOL 1200EX - 80kV電子顕微鏡下で撮影した。超薄切片において、神経あたりのミエリン化軸索の数を3,000倍~20,000倍の倍率で解析した。
【0129】
インサイツハイブリダイゼーション
Gpr17の発現パターンを評価するために、インサイツハイブリダイゼーションをハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)(Choi et al., 2018)によって実施したが、その際、DNAプローブセット、DNA HCRアンプリファイア(amplifier)、および異なる緩衝液を含むMolecular Instruments社からの市販キットを用いた。インサイツハイブリダイゼーション用の切片を作成するために、麻酔したマウスをDEPC-PBSで灌流し、その後4%パラホルムアルデヒド(PFA)で灌流した。切り離した視神経を4%PFAで一晩固定し、30%スクロース/DEPC-PBS中4℃で脱水し、OCTに包埋して、14μmの凍結切片を作成した。組織を5%SDS中で室温(RT)にて20分間透過処理し、ハイブリダイゼーション緩衝液中で37℃にて3時間プレハイブリダイズさせた。その後、スライドを、プローブ(各2.5nM)を含む37℃に予め温めたハイブリダイゼーション緩衝液中で一晩インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、スライスを洗浄緩衝液で37℃にて1時間洗浄し、その後2xSSCでRTにて15分間洗浄した。増幅ステップは、B3 HCRアンプリファイアを用いてRTで一晩行った。
【0130】
定量化と統計解析
正規性および分散の類似性は、パラメトリック検定を適用する前に、STATA(バージョン12,College station, TX, USA)で測定した。2群間の単一比較には、両側スチューデントのt検定を使用した。残りのデータは、適切な設計に応じて一元配置または二元配置のANOVAを用いて解析した。事後比較は、一次測定値が統計的有意性を示した場合にのみ実施した。多重比較のp値は、ボンフェローニ(Bonferroni)の補正を用いて調整した。全ての図のエラーバーは、平均値±SEMを表す。一腹の子(litter)、体重および性別が異なるマウスを無作為化し、異なる処置群に割り当てた;この動物実験では、他の特定の無作為化を使用しなかった。
【0131】
その他の態様
前述の説明から、様々な用途および条件に本明細書に記載の発明を導入するために、本発明に変更および修正を加えることができることは明らかであろう。そのような態様もまた、以下の特許請求の範囲に含まれるものである。
【0132】
本明細書での可変要素の定義における要素のリストの記載には、任意の単一の要素としての、またはリストされた要素の組み合わせ(もしくは部分的組み合わせ)としてのその可変要素の定義が含まれる。本明細書における態様の記載には、任意の単一の態様としての、または任意の他の態様もしくはその一部と組み合わせた、その態様が含まれる。
【0133】
本明細書に挙げられた全ての特許および刊行物は、それぞれの独立した特許および刊行物が参照により組み込まれることを具体的かつ個別に示された場合と同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図1N
図1O
図1P
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図2L
図2M
図2N
図2O
図2P
図2Q
図2R
図2S
図2T
図2U
図2V
図2W
図2X
図2Y
図2Z
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図3L
図3M
図3N
図3O
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図4J
図4K
図4L
図5A-1】
図5A-2】
図5B
図5C
図5D
図5E
【手続補正書】
【提出日】2023-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、GPR17を阻害する薬剤、ならびに/または活性化ミクログリアを除去および/もしくは阻害する薬剤を含む、軸索のミエリン化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、軸索の存在下でOPC、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去および/もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項2】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、GPR17を阻害する薬剤、および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤を含む、軸索のミエリン化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、軸索の存在下でOPC、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項3】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、GPR17を阻害する薬剤、および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を含む、OPCの数および/または分化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、OPCを、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項4】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、GPR17を阻害する薬剤、および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤を含む、OPCの数および/または分化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、OPC、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項5】
GPR17を阻害する薬剤がモンテルカストまたはプランルカストである、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項6】
活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤がPLX3397である、請求項1、3または5のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項7】
TNFα受容体2またはTNFαを阻害する薬剤がサリドマイドである、請求項2、4または5に記載の薬学的組成物
【請求項8】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、ならびに/またはメシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を含む、軸索のミエリン化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、軸索の存在下でOPCを、薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項9】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、ならびに/またはメシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を含む、OPCの数および/または分化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、OPCを、薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項10】
CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項11】
前記薬剤が、モンテルカスト、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、サリドマイド、またはプランルカストである、請求項8または9に記載の薬学的組成物
【請求項12】
前記薬剤がモンテルカストである、請求項9に記載の薬学的組成物
【請求項13】
前記薬剤が同時にまたは逐次的に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項14】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項15】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項16】
前記薬剤が、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項17】
前記薬剤が、損傷の数日後または数週間後に投与される、請求項15に記載の薬学的組成物
【請求項18】
前記薬剤が、損傷の1~2週間後に投与される、請求項17に記載の薬学的組成物
【請求項19】
前記薬剤が、少なくとも14~28日間投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項20】
軸索が損傷および/または脱髄している、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項21】
前記方法が、インビボまたはインビトロで実施される、請求項1~20のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項22】
GPR17を阻害する薬剤、および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を含む、対象における軸索のミエリン化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項23】
GPR17を阻害する薬剤、および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を含む、対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項24】
GPR17を阻害する薬剤がモンテルカストまたはプランルカストである、請求項22または23に記載の薬学的組成物
【請求項25】
活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤がPLX3397である、請求項22~24のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項26】
メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を含む、その必要のある対象における軸索のミエリン化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、該対象に、薬剤を投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項27】
メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を含む、その必要のある対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、該対象に、薬剤を投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項28】
GPR17を阻害する薬剤、および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を含む、ミエリン形成不全と関連する疾患または損傷を有する対象を治療する方法に使用するための薬学的組成物であって、該方法は、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与する工程を含む、前記薬学的組成物
【請求項29】
CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる、請求項27または28に記載の薬学的組成物
【請求項30】
前記対象が、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脊髄損傷、または視神経損傷を有している、請求項27~29のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項31】
白質ジストロフィーが、副腎白質ジストロフィー(ALD)、エカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、カナバン病、脳腱黄色腫症(CTX)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖性の痙性対麻痺)、または中枢神経系の低ミエリン形成を伴う小児運動失調(CACH)である、請求項30に記載の薬学的組成物
【請求項32】
前記薬剤が同時にまたは逐次的に投与される、請求項27~29のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項33】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される、請求項27~29のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項34】
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される、請求項27~33のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項35】
前記薬剤が、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される、請求項27~33のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項36】
前記薬剤が、損傷の数日後または数週間後に投与される、請求項35に記載の薬学的組成物
【請求項37】
前記薬剤が、損傷の1~2週間後に投与される、請求項36に記載の薬学的組成物
【請求項38】
外傷性脳損傷が脳震とうである、請求項30に記載の薬学的組成物
【請求項39】
前記OPCがCC1-であり、かつ核内に局在するOligo1を有する、請求項1~38のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項40】
前記OPCが、CC1+でありかつ核内に局在するOligo1を有する初期分化型オリゴデンドロサイトである、請求項1~39のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項41】
前記OPCが、CC1+でありかつ細胞質内に局在するOligo1を有する分化型オリゴデンドロサイトである、請求項1~39のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項42】
GPR17アンタゴニストと、ミクログリア阻害剤もしくは除去剤またはTNFα阻害剤とを含む、組成物。
【請求項43】
GPR17アンタゴニストがモンテルカストである、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
ミクログリア阻害剤もしくは除去剤がPLX3397である、請求項42に記載の組成物。
【請求項45】
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法であって、
マウスの視神経を損傷させる工程;
該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;
オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導するために、候補化合物を該マウスに投与する工程;
既知のミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;および
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べたCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、該候補化合物がオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導したことを示している、前記工程
を含む、前記方法。
【請求項46】
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法であって、
マウスの視神経を損傷させる工程;
該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;
該マウスに、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導することが知られている化合物を投与する工程;
予想されるミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;および
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べた細胞質Oligo1を有するCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、予想されるミクログリア阻害剤または除去剤がミクログリア細胞を効果的に阻害または除去したことを示している、前記工程
を含む、前記方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
本明細書で提供される任意の組成物または方法は、本明細書で提供される他の組成物および方法のいずれか1つまたは複数と組み合わせることができる。
[本発明1001]
軸索のミエリン化を増加させる方法であって、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去および/もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1002]
軸索のミエリン化を増加させる方法であって、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1003]
OPCの数および/または分化を増加させる方法であって、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤ならびに/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1004]
OPCの数および/または分化を増加させる方法であって、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、GPR17を阻害する薬剤および/またはTNFα受容体2もしくはTNFαを阻害する薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1005]
GPR17を阻害する薬剤がモンテルカストまたはプランルカストである、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤がPLX3397である、本発明1001、1003または1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
TNFα受容体2またはTNFαを阻害する薬剤がサリドマイドである、本発明1002、1004または1005の方法。
[本発明1008]
軸索のミエリン化を増加させる方法であって、軸索の存在下でオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤と接触させ、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1009]
OPCの数および/または分化を増加させる方法であって、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤と接触させ、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1010]
CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記薬剤が、モンテルカスト、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、サリドマイド、またはプランルカストである、本発明1008または1009の方法。
[本発明1012]
前記薬剤がモンテルカストである、本発明1009の方法。
[本発明1013]
前記薬剤が同時にまたは逐次的に投与される、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1015]
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記薬剤が、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記薬剤が、損傷の数日後または数週間後に投与される、本発明1015の方法。
[本発明1018]
前記薬剤が、損傷の1~2週間後に投与される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記薬剤が、少なくとも14~28日間投与される、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1020]
軸索が損傷および/または脱髄している、本発明1001の方法。
[本発明1021]
インビボまたはインビトロで実施される、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
対象における軸索のミエリン化を増加させる方法であって、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1023]
対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法であって、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1024]
GPR17を阻害する薬剤がモンテルカストまたはプランルカストである、本発明1022または1023の方法。
[本発明1025]
活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤がPLX3397である、本発明1022~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
その必要のある対象における軸索のミエリン化を増加させる方法であって、該対象に、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を投与し、それによって軸索のミエリン化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1027]
その必要のある対象におけるOPCの数および/または分化を増加させる方法であって、該対象に、メシル酸ベンズトロピン、クレマスチン、モンテルカスト、プランルカスト、およびサリドマイドからなる群より選択される薬剤を投与し、それによってOPCの数および/または分化を増加させる工程を含む、前記方法。
[本発明1028]
ミエリン形成不全と関連する疾患または損傷を有する対象を治療する方法であって、GPR17を阻害する薬剤および/または活性化ミクログリアを除去もしくは阻害する薬剤を該対象に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1029]
CC1および/またはOligo1陽性OPCの数を増加させる、本発明1027または1028の方法。
[本発明1030]
前記対象が、多発性硬化症(MS)、白質ジストロフィー、神経変性アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脊髄損傷、または視神経損傷を有している、本発明1027~1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
白質ジストロフィーが、副腎白質ジストロフィー(ALD)、エカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、カナバン病、脳腱黄色腫症(CTX)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖性の痙性対麻痺)、または中枢神経系の低ミエリン形成を伴う小児運動失調(CACH)である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記薬剤が同時にまたは逐次的に投与される、本発明1027~1029のいずれかの方法。
[本発明1033]
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤と同時に投与される、本発明1027~1029のいずれかの方法。
[本発明1034]
GPR17を阻害する薬剤が、活性化ミクログリアを除去または阻害する薬剤の少なくとも1週間前に投与される、本発明1027~1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
前記薬剤が、損傷の前、損傷と同時、または損傷の後に投与される、本発明1027~1033のいずれかの方法。
[本発明1036]
前記薬剤が、損傷の数日後または数週間後に投与される、本発明1035の方法。
[本発明1037]
前記薬剤が、損傷の1~2週間後に投与される、本発明1036の方法。
[本発明1038]
外傷性脳損傷が脳震とうである、本発明1030の方法。
[本発明1039]
オリゴデンドロサイト前駆細胞がCC1-であり、かつ核内に局在するOligo1を有する、本発明1001~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
前記OPCが、CC1+でありかつ核内に局在するOligo1を有する初期分化型オリゴデンドロサイトである、本発明1001~1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
前記OPCが、CC1+でありかつ細胞質内に局在するOligo1を有する分化型オリゴデンドロサイトである、本発明1001~1039のいずれかの方法。
[本発明1042]
GPR17アンタゴニストと、ミクログリア阻害剤もしくは除去剤またはTNFα阻害剤とを含む、組成物。
[本発明1043]
GPR17アンタゴニストがモンテルカストである、本発明1042の組成物。
[本発明1044]
ミクログリア阻害剤もしくは除去剤がPLX3397である、本発明1042の組成物。
[本発明1045]
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法であって、
マウスの視神経を損傷させる工程;
該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;
オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導するために、候補化合物を該マウスに投与する工程;
既知のミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;および
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べたCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、該候補化合物がオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導したことを示している、前記工程
を含む、前記方法。
[本発明1046]
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する化合物を同定する方法であって、
マウスの視神経を損傷させる工程;
該視神経に、軸索を再生させる薬剤を接触させる工程;
該マウスに、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導することが知られている化合物を投与する工程;
予想されるミクログリア阻害剤または除去剤を投与する工程;および
オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化状態を判定する工程であって、未処置の対照と比べた細胞質Oligo1を有するCCl+オリゴデンドロサイトの増加は、予想されるミクログリア阻害剤または除去剤がミクログリア細胞を効果的に阻害または除去したことを示している、前記工程
を含む、前記方法。
【国際調査報告】