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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】安定な抗CLEVER-1抗体製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230714BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230714BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230714BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230714BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230714BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230714BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K47/26
A61K47/22
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/14
A61K47/20
A61K9/08
A61K9/19
A61P35/00
A61P31/00
A61P3/06
A61P9/10
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577231
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 FI2021050442
(87)【国際公開番号】W WO2021255336
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】20205624
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504459559
【氏名又は名称】ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンデリン、ヤミ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイニオ、マリタ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB13
4C076CC11
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC31
4C076DD09
4C076DD23Q
4C076DD38Q
4C076DD50Z
4C076DD55S
4C076DD60Q
4C076DD60Z
4C076DD67Q
4C076EE23
4C076FF36
4C076FF61
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE07
4C085GG02
4H045AA11
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、緩衝液、及び安定化剤を含む、安定な製剤に関する。本発明はさらに、様々な疾患及び障害の治療に使用するための抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の安定な製剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定な薬学的製剤であって、
-1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
-前記薬学的製剤のpHが、5.5~6.5の範囲である、安定化剤としての150mM~400mMのトレハロース、プロリン、若しくはマンニトールと組み合わせた5~50mMのヒスチジン緩衝液、又は
前記薬学的製剤のpHが、7.0~7.6の範囲である、安定化剤としての100~200mMの塩化ナトリウムと組み合わせた5~50mMのTris緩衝液、及び
-非イオン性界面活性剤としての0.01~0.1%(w/v)のポリソルベートを含み、
前記抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片が、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含む、安定な薬学的製剤。
【請求項2】
前記抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片が、重鎖のアミノ酸配列配列番号7及び軽鎖のアミノ酸配列配列番号8を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記抗CLEVER-1抗体が、WHO Drug Information,Vol.34,No.3(2020)に記載されているベクスマリリマブ、又はベクスマリリマブバリアント、又はベクスマリリマブバイオシミラーにおける抗体である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記抗CLEVER-1抗体が、抗体FP-1305(DSM ACC3361)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記製剤が、ヒスチジン緩衝液を含み、5.5~6.2、好ましくは5.8~6.2のpHを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
前記ヒスチジン緩衝液が、L-ヒスチジンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
前記製剤が、5~20mM又は5~15mMの前記ヒスチジン緩衝液を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項8】
前記製剤が、安定化剤として200~360mM、好ましくは240~320mM、又は270~290mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトールを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
前記製剤が、安定化剤としてトレハロース又はプロリン、好ましくはトレハロースを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項10】
前記製剤が、5~20mM又は5~15mMの前記Tris緩衝液を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項11】
前記製剤が、非イオン性界面活性剤としてポリソルベート20を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項12】
前記製剤が、0.01~0.05%(w/v)のポリソルベート、好ましくはポリソルベート20を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
前記組成物が、抗酸化剤をさらに含み、好ましくは前記抗酸化剤が、L-メチオニンを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項14】
前記組成物が、5~40mM、好ましくは15~25mMのL-メチオニンを含む、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
前記製剤が、10~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、好ましくは20~40mg/ml、より好ましくは20~30mg/mLの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含む、請求項11に記載の製剤。
【請求項16】
前記製剤が、
(i)1mg/ml~100mg/ml、好ましくは20~40mg/ml、より好ましくは20~30mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
(ii)5~50mM、好ましくは5~20mM、又は5~15mMのヒスチジン緩衝液、
(iii)前記安定化剤としての150~400mM、好ましくは200~360mM、より好ましくは240~320mM、又は260~290mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、好ましくはトレハロース又はプロリン、より好ましくはトレハロース、
(iv)前記非イオン性界面活性剤としての0.01~0.1%(w/v)、好ましくは0.01~0.05%(w/v)のポリソルベート、好ましくはポリソルベート20、及び
(v)前記抗酸化剤としての5~40mM、好ましくは15~25mMのL-メチオニンを含み、
前記組成物のpHが、5.5~6.5、好ましくは5.8~6.2である、請求項1~15のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項17】
前記製剤が、液体製剤である又は凍結乾燥形態にある、請求項1~16のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
医薬品として使用するための、請求項1~17のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項19】
がん、慢性感染症、急性炎症性感染症、高コレステロール血症、脂質異常症、又はアテローム硬化性心血管疾患の治療に使用するための、請求項1~18のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項20】
前記製剤が、静脈内投与される、請求項19に記載の使用するための製剤。
【請求項21】
前記製剤が、抗体又はその抗原結合断片として計算して、0.1mg/kg~50mg/kg、好ましくは0.1mg/kg~30mg/kg、又は0.1~10mg/kgの用量で投与される、請求項19又は20に記載の使用するための製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の安定な製剤に関する。本発明はさらに、様々な疾患及び障害の治療において使用するための抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の安定な製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトCLEVER-1(一般的なリンパ管内皮及び血管内皮受容体-1)は、特許文献1に開示されている。Clever-1は、Stabilin-1又はFeel-1としても知られている。CLEVER-1の生物学は、非特許文献1によってもレビューされている。Clever-1は、リンパ管内皮細胞、ある特定の血管内皮細胞において発現されるが、代替的に活性化された免疫抑制マクロファージ、例えば、腫瘍関連マクロファージにおいても発現される。また、特定の抗体によるCLEVER-1の遮断が、悪性腫瘍のサイズ及び/又は悪性腫瘍成長を低減することも、特許文献2に以前に提示されている。また、CLEVER-1の遮断が、代替的に活性化されたマクロファージを免疫抑制(M2)表現型から炎症促進(M1)表現型に変えることも、例えば、特許文献3に以前に提示されている。
【0003】
特許文献1はまた、CLEVER-1が、単球及び顆粒球などの他のタイプの白血球のHEV様血管への結合を媒介することも開示している。したがって、CLEVER-1と悪性腫瘍細胞との相互作用を遮断することにより、CLEVER-1に結合する悪性細胞がリンパ管に取り込まれないようにすることにより、転移を制御することが可能となり、したがって、リンパ節への悪性腫瘍の拡散を防止することが可能となった。
【0004】
抗CLEVER-1抗体は、CLEVER-1の機能を遮断するか、又はCLEVER-1と疾患病因論に関与する細胞との相互作用を遮断するために、CLEVER-1発現を阻害するか、又はCLEVER-1に結合することができる。
【0005】
ヒトで使用するための抗体薬物は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列において、又は可変ドメイン内のそれらのフレームワーク配列において多少異なる場合があるが、それらは典型的には、相補性決定領域(CDR)配列において最も劇的に異なる。これらの相違は、溶液中の賦形剤又は溶液のpHに対する異なる応答性に起因して、溶液中で異なる安定性をもたらす。加えて、アミノ酸の配置の変化、又は1つ若しくはいくつかのアミノ酸残基の変化は、配列特異的分解経路への異なる抗体安定性及び感受性をもたらし得る。さらに、ヒト対象において医薬品として使用するための抗体は、使用前に貯蔵を必要とし、したがって、抗体機能性に影響を及ぼさずに貯蔵するのに好適な安定な製剤も必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/057130号
【特許文献2】国際公開第2010/122217号
【特許文献3】国際公開第2017/182705号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kzhyshkowska J. (2010), TheScientificWorld-JOURNAL 10, 2039-2053,“Multifunctional receptor Stabilin-1 in homeostasis and disease”
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、薬学的使用のための抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の安定な製剤を提供することであり、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の製剤が貯蔵中に安定となるため、臨床使用に十分な長い保存期間を有する。
【0009】
さらに、本発明の目的は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含み、タンパク質の良好なコロイド安定性及び熱力学的安定性、取り扱い中及び貯蔵中の低凝集性、並びに低タンパク質変性を有する薬学的製剤を提供することである。
【0010】
さらに、本発明の目的は、抗CLEVER-1抗体の相補性決定領域(CDR)配列の機能性及び貯蔵中の抗CLEVER-1抗体の有効性を維持するための化学的に安定な製剤を提供することである。
【0011】
とりわけ、上述の目的を達成するために、本発明は、添付の独立請求項に提示されるものによって特徴付けられる。本発明のある好ましい実施形態は、他の請求項に記載される。
【0012】
本明細書で言及される実施形態及び利点は、該当する場合、必ずしも常に具体的に言及されるものではないが、本発明による薬学的製剤及び使用の両方に関する。
【0013】
本発明による典型的な安定な薬学的製剤は、
-1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
-当該薬学的製剤のpHが5.5~6.5の範囲である、安定化剤としての150~400mMのトレハロース、プロリン、若しくはマンニトールと組み合わせた5~50mMのヒスチジン緩衝液、又は
当該薬学的製剤のpHが7.0~7.6の範囲である、安定化剤としての100~200mMの塩化ナトリウムと組み合わせた5~50mMのTris緩衝液、及び
-非イオン性界面活性剤としての0.01~0.1%(w/v)のポリソルベートを含み、
抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含む。
【0014】
本発明の一実施形態による安定な薬学的製剤は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、安定化剤、及びヒスチジン緩衝液をpH5.5~6.5で含む液体製剤である。代替的に、本発明による製剤は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、安定化剤、及びヒスチジン緩衝液をpH5.5~6.5で含む液体組成物を凍結乾燥させることによって作製される凍結乾燥形態にあってよい。本発明の別の実施形態による製剤は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、安定化剤、及びTris緩衝液をpH7.0~7.6で含む液体製剤である。さらに、本発明の一実施形態による製剤は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、安定化剤、及びTris緩衝液をpH7.0~7.6で含む液体組成物を凍結乾燥させることによって作製される凍結乾燥形態にあってよい。本発明はまた、凍結乾燥製剤を再構成することにより得られる水性組成物に関する。
【0015】
本発明による薬学的製剤は、注入又は注射として使用するのに好適である。本発明による薬学的製剤は、特に、静脈内投与に好適である。
【0016】
化学的変性は、抗CLEVER-1抗体の最も重要な分解経路であると思われることが観察されている。したがって、本発明によれば、特に抗CLEVER-1抗体の化学分解は、貯蔵安定組成物を提供することにより回避される。抗体の安定性を維持することは、抗体の機能性及び有効性を維持するためにも重要であり、これは現在、本発明による製剤によって達成される。さらに、本発明による薬学的製剤は、コロイド安定性及び熱力学的安定性を提供する。
【0017】
本発明によれば、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、ヒトCLEVER-1に特異的に結合するか、又はCLEVER-1発現を阻害することができるものを含む。抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を使用して、免疫応答を増加、増強、刺激、又は上方制御することができる。本発明はまた、医薬品として使用するための抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含む製剤にも関係する。本発明による薬学的製剤は、免疫抑制の除去に使用され得る。本発明の薬学的製剤は、がんの治療及び/又は予防に使用するのに好適である。さらに、本発明による薬学的製剤は、免疫疲弊につながる慢性感染症及び/又は急性炎症性感染症の治療に使用するのに好適である。本発明による薬学的製剤は、ワクチンの補助剤として使用することもできる。さらに、本発明による薬学的製剤は、高コレステロール血症、脂質異常症、及び/又はアテローム硬化性心血管疾患の治療に使用するのに好適である。
【0018】
典型的には、本発明による治療方法は、有効量の本発明による薬学的製剤を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、有効量は、0.1~50mg/kgの範囲、好ましくは0.1~10mg/kgの範囲の、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の用量を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好ましい実施形態による抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列を示す。
図2】貯蔵前及び貯蔵後に5℃±3℃及び35℃で1週間の濃度誘発試験の結果、すなわち、抗体の濃度を示す。
図3】貯蔵前及び貯蔵後に5℃±3℃及び35℃で1週間の濃度誘発試験の結果、すなわち、抗体の濁度を示す。
図4】貯蔵前及び貯蔵後に5℃±3℃及び35℃で1週間の濃度誘発試験の結果、すなわち、抗体の凝集体形成を示す。
図5】製剤バリアントが、光ストレス、撹拌による熱ストレス、及び凍結/解凍ストレスに曝露されている、強制分解試験の結果を示す。抗体の濃度を、試験前及びストレス条件下での曝露後に分析した。
図6】製剤バリアントが、光ストレス、撹拌による熱ストレス、及び凍結/解凍ストレスに曝露されている、強制分解試験の結果を示す。抗体の濁度を、試験前及びストレス条件下での曝露後に分析した。
図7】製剤バリアントが、光ストレス、撹拌による熱ストレス、及び凍結/解凍ストレスに曝露されている、強制分解試験の結果を示す。抗体の凝集体形成性を、試験前及びストレス条件下での曝露後に分析した。
図8】製剤バリアントが、光ストレス、撹拌による熱ストレス、及び凍結/解凍ストレスに曝露されている、強制分解試験の結果を示す。抗体の電荷不均一性を、試験前及びストレス条件下での曝露後に分析した。
図9】製剤バリアントが、光ストレス、撹拌による熱ストレス、及び凍結/解凍ストレスに曝露されている、強制分解試験の結果を示す。酸化分解産物を、試験前及びストレス条件下での曝露後に分析した。
図10】5±3℃、25℃、及び35℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、抗体の濃度を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図11】5±3℃、25℃、及び35℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、抗体の濁度を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図12】5±3℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、凝集体及び断片含有率(SE-HPLC)を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図13】25℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、凝集体及び断片含有率(SE-HPLC)を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図14】35℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、凝集体及び断片含有率(SE-HPLC)を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図15】5±3℃、25℃、及び35℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、電荷の不均一性を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図16】5±3℃、25℃、及び35℃での加速安定性試験の結果を示し、すなわち、酸化分解産物を、貯蔵前、貯蔵中、及び12週間の貯蔵後に分析した。
図17】5℃±3℃にて18ヶ月間の貯蔵中及び貯蔵後の安定性試験の結果を示す。
図18】5℃±3℃にて18ヶ月間の貯蔵中及び貯蔵後の安定性試験の結果を示す。
図19】第I/II相臨床試験における最良の応答を有する患者における転移性病変のベースライン及び経過観察のコンピュータ断層撮影走査画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、生物学的に活性である抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の安定な製剤を提供する。「生物学的に活性な」という用語は、CLEVER-1に結合し、生物学的効果を直接的又は間接的に発揮することができる抗体又は抗体断片を指す。本発明による薬学的製剤は、少なくとも薬理学的に有効な量の抗CLEVER-1抗体又はその抗遺伝子結合断片、緩衝液、及び安定化剤を含む。本発明による薬学的製剤は、ヒスチジン緩衝液又はTris(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール)緩衝液を含む。本発明の好ましい実施形態によれば、薬学的製剤は、製剤の安定性をさらに改善するための界面活性剤及び/又は抗酸化剤をさらに含む。
【0021】
本明細書で使用される場合、「抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片」という用語は、所望の生物学的活性を示す任意の形態の抗体又はその抗原結合断片を指す。抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、CLEVER-1の発現を阻害することができるか、又はCLEVER-1の機能を遮断する、若しくはCLEVER-1と疾患病因論に関与する細胞との相互作用を遮断するためにCLEVER-1に結合することができる抗体及びそれらの断片、ペプチドなどを指す。CLEVER-1は、公報WO03/057130に以前に詳細に開示されている。「抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片」という用語は、最も広い意味で使用され、それらが所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は霊長類化抗体、並びに抗体断片及び一本鎖抗体(例えば、Fab、Fv)を含むことが理解されるべきである。
【0022】
本開示の製剤には、生物学的に活性である抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片が含まれる。本発明の一実施形態によれば、CLEVER-1に結合することができる抗CLEVER-1抗体又は抗体断片は、特定のCLEVER-1エピトープに結合することができ、また生物学的効果を直接的又は間接的に発揮することができる。本発明によれば、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含む。
【0023】
本発明による一実施形態では、抗CLEVER-1抗体は、ヒト化モノクローナル抗CLEVER-1抗体である。本発明による一実施形態では、抗CLEVER-1抗体は、特許公報WO03/057130に開示されているモノクローナル抗体3-372に基づくヒト化抗体であってもよい。本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体は、以前に特許公報WO2017/182705に提示されているヒト化モノクローナル抗CLEVER-1抗体である。本発明による一実施形態では、ヒト化抗CLEVER-1抗体は、ヒトIgG4重鎖及びκ軽鎖の定常領域を含む。本発明の一実施形態では、ヒト化抗CLEVER-1抗体は、配列番号9を含む重鎖可変領域及び配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む。本発明による一実施形態では、ヒト化抗CLEVER-1抗体は、ヒト免疫グロブリンG4(IgG4)重鎖及びκ軽鎖由来の定常領域と、配列番号9を含む重鎖可変領域と、配列番号10を含む軽鎖可変領域とを含む。本発明の一実施形態では、ヒトIgG4重鎖及びκ軽鎖由来の定常領域は、変異を含み得、1つ以上の保存的アミノ酸置換が存在する。本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖のアミノ酸配列配列番号7及び軽鎖のアミノ酸配列配列番号8を含む。本発明の好ましい実施形態による抗CLEVER-1抗体の重鎖(配列番号7)及び軽鎖(配列番号8)のアミノ酸配列は図1にも示す。
【0024】
本発明の一実施形態では、抗CLEVER-1抗体は、ヒト化モノクローナル免疫グロブリンG4κ抗体ベクスマリリマブ(提案INNとしてWHO Drug Information,Vol.33,No.4,814-815ページ(2019)に開示され、推奨INNとしてWHO Drug Information,Vol.34,No.3(2020),699-700ページに開示されている国際一般名(INN))、又はベクスマリリマブバリアント、又はベクスマリリマブバイオシミラーにおける抗体である。抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブは、本明細書に記載される安定な製剤に使用される例示的な抗体である。本明細書で使用される場合、「ベクスマリリマブ」は、WHO Drug Information,Vol.33,No.4,814-815ページ(2019)及びWHO Drug Information,Vol.34,No.3(2020)に記載される構造を有するヒト化IgG4モノクローナル抗体を意味する。ヒト化IgG4モノクローナル抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブは、重鎖のアミノ酸配列配列番号7及び軽鎖のアミノ酸配列配列番号8を含む。抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブは、上述の軽鎖及び重鎖CDR(配列番号1~配列番号6)を含む。配列番号7及び配列番号8に示される配列には、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの重鎖及び軽鎖可変領域、すなわち、配列番号9及び配列番号10に対応するアミノ酸配列も含まれる。
【0025】
ベクスマリリマブバイオシミラーとは、ベクスマリリマブバイオシミラーとして上市するために、いずれかの国において規制当局によって承認される生物学的製品を意味する。一実施形態では、ベクスマリリマブバイオシミラーは、薬物物質としてベクスマリリマブバリアントを含む。一実施形態では、ベクスマリリマブバイオシミラーは、ベクスマリリマブと実質的に同じアミノ酸配列の重鎖及び軽鎖を有する。本明細書で使用される場合、「ベクスマリリマブバリアント」とは、軽鎖CDRの外側に位置する位置に1つ以上の保存的アミノ酸置換、及び/又は重鎖CDRの外側に位置する位置に1つ以上の保存的アミノ酸置換を有する、例えば、バリアント位置が、フレームワーク領域又は定常領域内に位置する以外は、ベクスマリリマブと同一の重鎖及び軽鎖の配列(それぞれ、配列番号7及び配列番号8)を含む抗体を意味する。換言すれば、ベクスマリリマブ及びベクスマリリマブバリアントは、同一のCDR配列を含むが、全長軽鎖及び重鎖の配列中の他の位置に保存的アミノ酸置換を有することに起因して、互いに異なっている。ベクスマリリマブバリアントは、CLEVER-1に対する結合親和性に関して、ベクスマリリマブと実質的に同じである。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブ(FP-1305)を産生する細胞株は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条項に基づいて、DSMZ-ジャーマン コレクション オブ マイクロオーガニズム アンド セルカルチャー ゲーエムベーハー(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH)、ドイツ連邦共和国、デー-38124 ブラウンシュヴァイク、インホッフェンシュトラーセ 7ベー(Inhoffenstrasse 7B,D-38124 Braunschweig, Germany)に2020年5月27日に寄託されており、受託番号DSM ACC3361を有する。寄託された実施形態は、本発明の一態様の単一の例示として意図されており、機能的に同等である任意の培養物が、本発明の範囲内であるため、本発明は、寄託された培養物によって範囲が限定されるべきではない。本明細書における材料の寄託は、本明細書に含まれる文書による説明が、そのベストモードを含む本発明の任意の態様の実施を可能にするのに不十分であることを認めることを構成するものではなく、また、それが表す特定の例示に特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0027】
本発明によれば、安定な製剤は、1~100mg/mLの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含んでよい。本発明の実施形態によれば、安定な薬学的製剤中の抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は、1~100mg/ml又は5~100mg/mlの範囲であってよい。本発明の一実施形態による薬学的製剤は、濃縮物であってよく、これは投与前に所望の濃度に希釈されることを意味する。本発明によるいくつかの実施形態では、薬学的製剤は、10~100mg/ml又は20~100mg/ml、好ましくは20~40mg/ml、より好ましくは20~30mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含み得る。本発明によるいくつかの実施形態では、本発明による薬学的製剤は、1~100mg/ml、好ましくは10~100mg/ml、より好ましくは20~40mg/ml又は20~30mg/ml又は約25mg/ml、例えば22.5~27.5mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含む濃縮物であってもよい。
【0028】
本発明による安定な薬学的製剤は、ヒスチジン緩衝液又はTris緩衝液を含む。「緩衝液」という用語は、溶液pHを許容範囲内に維持する、すなわち、十分な緩衝能を提供するこれらの薬剤を包含する。pHは、典型的には、標準的なガラス電球pHメーターを使用して、25℃で測定される。本明細書で使用される場合、「pH Xの緩衝液」を含む薬学的製剤は、pH Xの、緩衝液を含む薬学的製剤溶液を指し、すなわち、pHは、溶液のpHを指すことが意図される。
【0029】
本発明の一実施形態による安定な製剤は、ヒスチジン緩衝液を含む。ヒスチジン緩衝液を含む本発明による製剤のpHは、5.5~6.5の範囲であるように調整される。本発明の一実施形態では、薬学的製剤は、ヒスチジン緩衝液を含み、5.5~6.2、好ましくは5.8~6.2のpHを有し、より好ましくはpHが約6.0である。抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、弱酸性ヒスチジン緩衝系において最も高いコロイド安定性及び熱力学的安定性を有することが観察されている。当該pH範囲はまた、静脈内注入又はボーラス注入の許容範囲である。本発明の一実施形態によれば、ヒスチジン緩衝液は、L-ヒスチジンを含む。さらに、本発明の一実施形態による薬学的製剤は、十分な量の塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを、約5.5~約6.5又は約5.5~約6.2の範囲でpHを調整するためのL-ヒスチジン緩衝液などのヒスチジン緩衝液とともに含んでよく、好ましくは約5.8~約6.2のpHを有し、より好ましくは約6.0のpHを有する。緩衝液としてのL-ヒスチジン/HClは、中性~わずかな酸性pH範囲をカバーする。本発明による一実施形態では、緩衝液は、ヒスチジン、好ましくはL-ヒスチジン、及びHCl(塩酸)を含み、本発明による薬学的製剤のpHは、5.5~6.5、好ましくは5.5~6.2又は5.8~6.2の範囲である。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、製剤は、5~50mMのヒスチジン緩衝液、好ましくは5~20mM又は5~15mMのヒスチジン緩衝液を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、約10mMのヒスチジン緩衝液、例えば、5~15mM又は8~12mM又は9~11mM又は9.5~10.5mMのヒスチジン緩衝液を含む。本発明の一実施形態によれば、製剤は、塩化ナトリウムを含まないヒスチジン緩衝液を含む。
【0031】
本発明の別の実施形態によれば、薬学的製剤は、Tris塩基又はTris塩酸塩などのTris(tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン)緩衝液を含み、7.0~7.6又は7.2~7.6又は7.3~7.5のpHを有する。本発明による一実施形態では、薬学的製剤は、Tris緩衝液を含み、約7.4のpHを有する。本発明の一実施形態では、製剤は、5~50mMのTris緩衝液、好ましくは5~20mM又は5~15mMのTris緩衝液を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、約10mMのTris緩衝液、例えば、5~15mM又は8~12mM又は9~11mM又は9.5~10.5mMのTris緩衝液を含む。さらに、本発明の一実施形態による薬学的製剤は、十分な量の塩酸を、約7.1~約7.6若しくは7.2~7.6若しくは7.3~7.5の範囲で、又はpH約7.4にpHを調整するためのTris緩衝液とともに含み得る。
【0032】
本発明による薬学的製剤は、安定化剤をさらに含む。安定化剤は、コロイド安定性及び熱力学的安定性をさらに増大させるために使用される。本発明による一実施形態では、製剤は、安定化剤としてのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、好ましくはトレハロース又はプロリンをヒスチジン緩衝液と組み合わせて含む。本発明の好ましい実施形態では、安定化剤は、トレハロース二水和物などのトレハロースをヒスチジン緩衝液と組み合わせて含む。本発明の一実施形態では、製剤は、安定化剤として150~400mM、好ましくは200~360mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトールを含む。本発明の一実施形態では、安定化剤は、150~400mM、好ましくは200~360mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトールを含む。本発明の一実施形態によれば、安定化剤は、220~340mM又は240~320mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、好ましくはトレハロース又はプロリンを含み、より好ましくは、安定化剤は、260~300mM又は270~290mM又は約280mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、好ましくはトレハロース又はプロリンを含む。本発明による好ましい実施形態では、薬学的製剤は、安定化剤としてトレハロース、プロリン、又はマンニトールを、好ましくは安定化剤としてトレハロース又はプロリンを、より好ましくは安定化剤としてトレハロース二水和物などのトレハロースを、ヒスチジン緩衝液と組み合わせて含む。本発明の一実施形態では、薬学的製剤は、安定化剤として150~400mM、好ましくは200~360mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトールをヒスチジン緩衝液と組み合わせて含む。本発明の一実施形態によれば、薬学的製剤は、安定化剤として220~340mM又は240~320mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトールを含み、好ましくは安定化剤としてトレハロース又はプロリンを含み、より好ましくは、製剤は、安定化剤として260~300mM又は270~290mM又は約280mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、好ましくはトレハロース又はプロリンを含む。本発明の一実施形態では、約280mMの安定化剤は、約275~285mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、好ましくはトレハロース又はプロリンであり得る。
【0033】
本発明による一実施形態では、製剤がTris緩衝液を含む場合、安定化剤は、塩化ナトリウムを含む。本発明の一実施形態では、製剤は、Tris緩衝液及び安定化剤として塩化ナトリウムを含む。本発明の一実施形態では、製剤は、安定化剤として100~200mM、好ましくは130~180mM又は140~160mMの塩化ナトリウムと組み合わせてTris緩衝液を含む。本発明の一実施形態によれば、製剤は、安定化剤として100~200mM、好ましくは130~180mM又は140~160mMの塩化ナトリウムをTris緩衝液と組み合わせて含む。本発明の一実施形態によれば、製剤は、安定化剤として約150mMの塩化ナトリウムをTris緩衝液と組み合わせて含む。本発明の一実施形態では、約150mMの安定化剤は、Tris緩衝液と組み合わせた安定化剤としての約145~155mMの塩化ナトリウムであり得る。
【0034】
本発明の一実施形態による薬学的製剤は、界面活性剤をさらに含んでよく、好ましくは、界面活性剤は、ポリソルベートを含み、より好ましくは、界面活性剤は、ポリソルベート20を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、非イオン性界面活性剤としてポリソルベート、好ましくはポリソルベート20を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、0.01~0.1%(w/v)、好ましくは0.01~0.05%(w/v)の非イオン性界面活性剤を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、0.01~0.1%(w/v)、好ましくは0.01~0.05%(w/v)のポリソルベート、好ましくはポリソルベート20を含む。本発明の一実施形態によれば、製剤は、0.01~0.03%(w/v)のポリソルベート、好ましくはポリソルベート20を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、約0.02%(w/v)、例えば0.015~0.025%(w/v)のポリソルベート、好ましくはポリソルベート20を含む。ポリソルベート20などの非イオン性界面活性剤の添加は、増加した安定性を提供し、これは貯蔵中により低い濁度で観察され得る。さらに、ポリソルベート20などの非イオン性界面活性剤は、製剤プロセスを促進し、液体製剤中の分子をさらに安定化するために、界面活性剤として使用される。
【0035】
本発明の一実施形態による薬学的製剤は、抗酸化物質をさらに含んでよく、好ましくは、抗酸化物質は、製剤の安定性をさらに向上させるためにL-メチオニンを含む。メチオニンの添加は、わずかに改善された安定化効果を示した。本発明の一実施形態では、製剤は、5~40mM、好ましくは15~25mM又は18~22mMの抗酸化剤を含む。本発明の一実施形態では、製剤は、抗酸化剤として5~40mM、好ましくは15~25mM又は18~22mMのL-メチオニンを含む。本発明の一実施形態では、製剤は、約20mMの抗酸化剤、好ましくはL-メチオニンを含む。製剤の一実施形態では、約20mMの抗酸化剤、好ましくはL-メチオニンは、19~21mM又は19.5~20.5mMの抗酸化剤、好ましくはL-メチオニンであり得る。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、安定な薬学的製剤は、1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、ヒスチジン又はTris緩衝液、安定化剤、界面活性剤、及び抗酸化剤を含む。本発明による一実施形態では、安定な薬学的製剤は、1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、安定化剤としてのヒスチジン緩衝液、トレハロース、又はプロリン、界面活性剤、及び抗酸化剤を含む。本発明による別の実施形態では、安定な薬学的製剤は、1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、Tris緩衝液、安定化剤としての塩化ナトリウム、界面活性剤、及び抗酸化剤を含む。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、製剤は、
(i)1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
(ii)5~50mMのヒスチジン緩衝液、
(iii)安定化剤としての150~400mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、
(iv)非イオン性界面活性剤としての0.01~0.1%(w/v)のポリソルベート20、及び
(v)抗酸化剤としての5~40mMのL-メチオニンを含み、
当該組成物のpHは、5.5~6.5、好ましくは5.8~6.2であり、
抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含み、
好ましくは、抗CLEVER-1抗体は、重鎖配列番号7及び軽鎖配列番号8を含む抗CLEVER-1抗体である。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、製剤は、
(i)20~40mg/ml又は20~30mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
(ii)5~20mM又は5~15mMのヒスチジン緩衝液、
(iii)安定化剤としての200~360mM、好ましくは240~320mM又は260~290mMのトレハロース、プロリン、又はマンニトール、
(iv)非イオン性界面活性剤としての0.01~0.1%(w/v)、好ましくは0.01~0.05%(w/v)のポリソルベート20、及び
(v)抗酸化剤としての5~40mMのL-メチオニンを含み、
当該組成物のpHは、5.5~6.5、好ましくは5.8~6.2であり、
抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含み、
好ましくは、抗CLEVER-1抗体は、重鎖配列番号7及び軽鎖配列番号8を含む抗CLEVER-1抗体である。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、製剤は、
(i)1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
(ii)5~50mMのTris緩衝液、好ましくは5~20mM又は5~15mMのTris緩衝液、
(iii)安定化剤としての100~200mM、好ましくは130~180mMの塩化ナトリウム、
(iv)非イオン性界面活性剤としての0.01~0.1%(w/v)、好ましくは0.01~0.05%(w/v)のポリソルベート20、及び
(v)抗酸化剤としての5~40mMのL-メチオニンを含み、
当該組成物のpHは、7.0~7.6であり、
抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含み、
好ましくは、抗CLEVER-1抗体は、重鎖配列番号7及び軽鎖配列番号8を含む抗CLEVER-1抗体である。
【0040】
好ましい一実施形態では、本発明による製剤は、
(i)1~100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
(ii)10mMのL-ヒスチジン-HCl緩衝液、
(iii)安定化剤としての280mMのトレハロース又はプロリン、好ましくは280mMのトレハロース又はトレハロース二水和物、
(iv)非イオン性界面活性剤としての0.02%(w/v)のポリソルベート20、及び
(v)抗酸化剤としての20mMのL-メチオニンを含み、
当該組成物のpHは、5.8~6.2であり、
抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含み、
好ましくは、抗CLEVER-1抗体は、重鎖配列番号7及び軽鎖配列番号8を含む抗CLEVER-1抗体である。
【0041】
より好ましくは、本発明による一実施形態では、薬学的製剤は、
(i)20~40mg/ml又は20~30mg/ml又は25mg/ml±2.5mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片、
(ii)10mMのL-ヒスチジン-HCl緩衝液、
(iii)安定化剤としての280mMのトレハロース又はプロリン、好ましくは280mMのトレハロース又はトレハロース二水和物、
(iv)非イオン性界面活性剤としての0.02%(w/v)のポリソルベート20、及び
(v)抗酸化剤としての20mMのL-メチオニンを含み、
当該組成物のpHは、5.8~6.2であり、
抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TSGMGIG(配列番号1)、
CDR2:HIWWDDDKRYNPALKS(配列番号2)、及び
CDR3:HYGYDPYYAMDY(配列番号3)、並びに
軽鎖の相補性決定領域(CDR)の以下の配列、
CDR1:TASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2:RTSNLAS(配列番号5)、及び
CDR3:HQYHRSPPT(配列番号6)を含み、
好ましくは、抗CLEVER-1抗体は、重鎖配列番号7及び軽鎖配列番号8を含む抗CLEVER-1抗体である。
【0042】
本発明による製剤は、好ましくは液体製剤である。
【0043】
本発明の例示的な実施形態によれば、液体抗体製剤は、液体形態の抗CLEVER-1抗体を取り出し、それを所望の製剤に緩衝液交換することによって作製することができる。本実施形態では、凍結乾燥工程はない。最終緩衝液中の薬物物質は、所望の濃度に濃縮される。トレハロース二水和物及びポリソルベート20などの賦形剤を溶液に添加し、適切な緩衝液を使用して希釈して最終タンパク質濃度に希釈する。最終の製剤化された薬物物質を、0.22μmフィルターを使用して濾過し、最終容器(例えば、ガラスバイアル)に充填する。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、製剤はまた、凍結乾燥製剤、すなわち凍結乾燥物であり得る。「凍結乾燥物」という用語は、凍結乾燥の生成物を指す。本発明の薬学的製剤に関して「凍結乾燥する」という用語は、製剤の溶液の凍結乾燥を指すことが意図される。治療用タンパク質の凍結乾燥製剤は、より良い化学安定性などの利点を提供し得る。凍結乾燥製剤はまた、投与経路又は投薬経路などの臨床因子に応じて異なる濃度で再構成され得る。「再構成」という用語は、水溶液に到達するための凍結乾燥物の溶解を指す。
【0045】
本発明による薬学的製剤は、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を貯蔵中の分解に対して安定化することが観察されている。本発明の実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含む製剤は、2~8℃での貯蔵安定性を有する。100mg/mlの抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の濃度であっても、高濃度での良好な安定性を達成することができる。本発明の「安定な」薬学的製剤は、少なくとも3ヶ月間、冷蔵温度2~8℃で顕著な変化が観察されない抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含む薬学的製剤である。本発明による製剤は、2~8℃の温度で、少なくとも18ヶ月又は24ヶ月間、貯蔵安定であることが観察されている。薬学的製剤は、2~8℃の温度で、さらには少なくとも30ヶ月、さらには36ヶ月にわたって貯蔵安定であると考えられる。
【0046】
抗体は、SE-HPLCによって測定されるように、凝集及び/若しくは変性の顕著な増加を示さない場合、並びに/又は色及び/若しくは透明度の顕著な増加を示さない場合、薬学的製剤中で「その物理的安定性を保持する」。抗体は、顕著な化学変化を示さない場合、薬学的製剤中で「その化学安定性を保持する」。化学安定性は、タンパク質の化学的に変化した形態を検出及び定量化することによって評価することができる。抗体は、所与の時間における抗体の生物学的活性が、薬学的製剤が調製されたときに示された生物学的活性の所定の範囲内である場合、薬学的製剤中で「その生物学的活性を保持する」。抗体の生物学的活性は、例えば、抗原結合アッセイによって決定され得る。安定性のための典型的な許容基準は、以下のとおりである。典型的には、約10%以下、好ましくは約5%の抗体モノマーが、SE-HPLCによって測定されるように凝集される。薬学的抗体製剤は、視覚分析によって無色であるか又は透明~わずかに不透明である。濃度は、+/-10%以下の変化がある。典型的には、約10%以下、好ましくは約5%以下の分解又はバリアントの変化が観察される。力価は、典型的には、参照の50~200%以内である。
【0047】
本発明の薬学的製剤は、患者に投与され得る。本発明の一実施形態による製剤は、静脈内又は腫瘍内投与の標的とされる。液体形態の製剤は、投与前に希釈することができる。凍結乾燥形態の製剤は、投薬前に異なる濃度で再構成することができる。本発明の好ましい一実施形態によれば、薬学的製剤は、静脈内投与される。静脈内注入又はボーラス注射を介して投与され得る。「静脈内」又は「IV」投与という用語は、血管への投与を指す。
【0048】
抗CLEVER-1抗体又はその抗体断片を含む本発明による製剤は、医薬品として使用され得る。
【0049】
抗CLEVER-1抗体又はその抗体断片を含む本発明による製剤は、腫瘍又は抗原誘導性免疫抑制の除去に使用され得る。本発明による薬学的製剤は、がんの治療又は予防に使用するのに好適である。本発明による一実施形態では、薬学的製剤は、腫瘍を縮小するか、又は腫瘍の成長を阻害するか、又は転移を防止し得る。薬学的製剤は、すべての形態のがんに適用可能である。任意の良性若しくは悪性腫瘍又は悪性腫瘍の転移を治療することができる。また、白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫を治療することができる。
【0050】
抗CLEVER-1抗体又はその抗体断片を含む本発明による製剤はまた、免疫疲弊をもたらす慢性感染症又は急性炎症性感染症の治療又は予防に使用することもでき、マクロファージ表現型の調節は、抗CLEVER-1抗体によって達成される。
【0051】
本発明による薬学的製剤はまた、ワクチンの補助剤として利用することもできる。抗CLEVER-1抗体は、マクロファージの再分極を達成し、したがって、ワクチン抗原に対する免疫抑制を除去するか、又は少なくとも減少させる。
【0052】
さらに、CLEVER-1に結合することができる抗体が、CLEVER-1による修飾された低密度リポタンパク質、特にアセチル化低密度リポタンパク質(acLDL)の取り込み、及び泡沫細胞、すなわち、アテローム硬化性プラークの前駆体の生成を阻害及び/又は遮断する能力を有することも観察されているため、本発明による薬学的製剤は、高コレステロール血症、脂質異常症、及び/又はアテローム硬化性心血管疾患の治療に使用するのに好適である。
【0053】
「治療」又は「治療すること」という用語は、疾患の完全な治癒、及び当該疾患の改善又は軽減を含むと理解されなければならない。「予防」という用語は、完全な防止、予防、及びに当該疾患又は障害に罹患する個体のリスクを低下させることを含むと理解されるべきである。
【0054】
選択される抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片の用量は、薬理学的に有効な量であるべきであり、したがって、所望の治療結果をもたらすのに十分であり、例えば、悪性腫瘍成長を低減し、かつ/又は転移性拡散を阻害し、かつ/又はがん、慢性感染症、感染性疾患、若しくは他の免疫疲弊状態におけるT細胞の負の調節を遮断するのに十分である。本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体は、患者の体重に応じて0.1~50mg/kg、好ましくは0.1~30mg/kg又は0.1~10mg/kgの範囲で投与される。本発明による一実施形態では、抗CLEVER-1抗体は、患者の体重に応じて0.3~10mg/kg、好ましくは0.3~3mg/kgの範囲で投与される。本発明による一実施形態では、がん、慢性感染症、感染性疾患、又は他の免疫疲弊状態を治療するための方法は、患者の体重に応じて、好ましくは0.1~50mg/kg、好ましくは0.1~30mg/kg又は0.1~10mg/kgの量での本発明による薬学的製剤の投与を含む。
【0055】
抗CLEVER-1抗体又はその抗体断片を含む本発明の製剤は、単独で、又は他の薬剤若しくは医薬製品と組み合わせて使用することができる。本発明による一実施形態では、抗CLEVER-1抗体又はその抗原結合断片を含む薬学的製剤は、がん単独の治療又は他の免疫療法剤との組み合わせで使用される。
【0056】
実験部分
本実験部分では、抗CLEVER-1抗体を含む本発明による薬学的製剤の安定性を試験し、確認している。
【0057】
薬物物質
FP-1305は、CHO細胞において産生されるヒト化モノクローナル免疫グロブリンG4κ抗CLEVER-1抗体である。より詳細にはFP-1305は、ヒト化モノクローナル抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブである(提案INNとしてWHO Drug Information.,Vol.33,No.4,814-815ページ(2019)に開示され、推奨INNとしてWHO Drug Information.,Vol.34,No.3(2020),699-700ページに開示されている国際一般名(INN))。FP-1305の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号7及び配列番号8を含む(図1にも提示される)。FP-1305は、配列番号1~配列番号6のCDR配列を含む。FP-1305を産生するための細胞株は、DSMZ-ジャーマン コレクション オブ マイクロオーガニズム アンド セルカルチャー ゲーエムベーハーにおいて受託番号DSM ACC3361で寄託されている。
【0058】
分析手法
製剤の安定性を評価するための分析方法としては、動的レーザー光散乱試験(DLS)、ナノ示差走査熱量測定(nanoDSC)、組成勾配多角度光散乱(CG-MALS)、SE-HPLC(サイズ排除クロマトグラフィー)、還元RP-HPLC、及びキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)が挙げられる。上述の分析の標準的な方法が使用される。
【0059】
DLSは、タンパク質-タンパク質相互作用の決定に使用される。より高い濃度の巨大分子では、隣接する粒子間の相互作用は、非理想的な拡散挙動をもたらす(分子間安定性が影響を受ける)。これは、第2の流体力学的ビリアル係数kDによって説明することができる。kD値は、所与の一連の溶液条件下での非特異的分子会合の傾向を表す。熱変性の開始温度(Tonset)、すなわち、アンフォールディング遷移の開始点(変性開始温度)もまた、DLSによって決定することができる。
【0060】
NanoDSCは、分子安定性スクリーニングを実施するための汎用性及び精度を有する溶液中のタンパク質及び他の巨大分子の変性温度(Tonset)及び熱変性エンタルピーを決定するように特に設計されている。
【0061】
CG-MALSでは、溶液中のタンパク質分子間の相互作用は、異なる濃度での光散乱挙動の変化によって特徴付けられた。この一連の光散乱測定により、分子相互作用を測定するための特性パラメータである第2のビリアル係数A2を計算した。負のA2は、溶解した物質の分子間の引力相互作用を示すが、正のA2は、溶解したタンパク質分子間の反発相互作用の特徴である。
【0062】
SE-HPLC(サイズ排除クロマトグラフィー)は、凝集及び断片化されたタンパク質種を検出するための標準的な方法である。
【0063】
キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)は、天然状態におけるタンパク質の電荷不均一性の分析方法である。CZEは、標準的な方法に従って実施した。
【0064】
還元RP-HPLCは、酸化抗体種の検出のための標準的な方法である。
【0065】
濃度は、UV280吸光測定によって決定した。
【0066】
希釈されていない試料の吸光を、350nm及び510nmの波長で測定し、濁度の増加を特定した。試料の濁度もまた、欧州薬局方に従って濁度計を使用して決定した。目視検査では、試料をバックライト下で目視検査した。
【0067】
抗CLEVER-1製剤の緩衝液及びpH条件を評価する
表1に提示される製剤を、タンパク質の最高のコロイド安定性及び熱力学的安定性に関して、pH、緩衝成分、及びイオン強度に関する薬物物質FP-1305の一般的な挙動を研究するために選択した。試料は、FP-1305(10~15mg/mL)を当該緩衝系に透析することにより調製した。
【0068】
緩衝系におけるコロイド安定性の尺度としてのタンパク質-タンパク質相互作用は、FP-1305の濃度を増加させながらFP-1305の流体力学的半径を測定することによって決定した。データを使用して、取り扱い中及び貯蔵中のタンパク質凝集を予測した。
【0069】
緩衝系中の変性温度(熱力学的安定性)は、温度を上昇させながらFP-1305の流体力学的半径を測定することによって決定した。タンパク質ドメインが変性を開始すると、タンパク質の流体力学的半径は著しく上昇した。アンフォールドディングの開始温度は、タンパク質の二次構造安定性の指標とすることができた。データを使用して、取り扱い中及び貯蔵中のタンパク質変性を予測した。
【0070】
製剤のpHを5.5~7.4(静脈内注射又はボーラス注射の許容範囲)に調節した。選択されたL-ヒスチジン緩衝液は、中性~わずかな酸性pH範囲をカバーする。Tris緩衝液は、生理学的pH領域をカバーする代替の緩衝液成分として試験される。pHを、十分な量の6N塩酸、及び必要に応じて10N水酸化ナトリウムで調整した。
【0071】
Tris緩衝液を有する製剤のイオン強度(最大イオン強度を等張性に設定した)を、塩化ナトリウムを添加することによって調節した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に提示された結果から、FP-1305のコロイド安定性は、中性pH値と比較して酸性pH値でより高いことが観察されている。しかしながら、高いイオン強度は、低pHでの反発相互作用を著しく低減し、避けるべきである。pH5.5及び6.0での塩化ナトリウムを含まないヒスチジン/HCl緩衝液について、明確な反発タンパク質相互作用が観察された。pH7.4では、塩化ナトリウムの添加により引力相互作用が低減したため、コロイド安定性に有益な効果があった。
【0074】
熱力学的安定性は、コロイド安定性とやや反対である。塩化ナトリウムの添加は、Tris緩衝系における熱力学的安定性に有益である。L-ヒスチジン/HClの場合、塩化ナトリウムの添加によりアンフォールディングの開始温度が低下する。したがって、ヒスチジン緩衝液を有する製剤は、好ましくは塩化ナトリウム(NaCl)を含まない。
【0075】
これらの試験の所見に基づいて、表2に提示される製剤バリアントを選択し、等張性につながる濃度の安定化剤トレハロース、マンニトール、及びL-プロリンを添加して、CG-MALS、nano-DSC、DLS、及びSE-HPLCを使用して試験した。バリアント番号6を、生理学的pHで代替バリアントとして評価した。その結果を表3に提示する。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
L-ヒスチジン/HCl緩衝系への安定化剤の添加は、コロイド安定性及び熱力学的安定性の両方に著しい影響を与えなかった。分子間の相互作用は、すべての場合においてほぼゼロ(わずかに反発~わずかに引力)であった。
【0079】
濃度誘発試験
広いpH範囲(pHは、コロイド安定性及び熱力学的安定性に最も強い影響を示す)を、濃度誘発試験においてさらなる安定化剤を添加することなく使用した。試験したバリアントを表1に詳細に提示する。
【0080】
クロスフロー装置を使用して、FP-1305薬物物質の濃度を16mg/mLに増加させた。FP-1305の溶液を4000rpmで5分間遠心分離して、任意の不溶性粒子を除去した。その後、0.22μmの膜フィルターを使用して溶液を濾過した。加速安定性試験のための試料を、3つの透析工程において濃縮されたFP-1305薬物物質(DS)を選択された緩衝液バリアントに透析して、定量的緩衝液交換を達成することにより調製した。およそ16mg/mLを含む50mLのDSを、(透析緩衝液中で)条件付けした透析チューブに移した。充填した透析チューブを1000mLの標的緩衝液中で2時間インキュベートした後、最初の緩衝液交換(1000mL)を実施した。さらに2時間透析した後、2回目の緩衝液交換(1000mL)を行い、一晩透析を終えた。
【0081】
その後、溶液を超濾過により約100mg/mLまで濃縮した。濃縮工程の後、層流下で0.22μmのシリンジフィルターを使用して、溶液を滅菌濾過した。0.5mLの高濃度試料を、滅菌した標準2Rガラスバイアルに充填した。試料を5±3℃(2~8℃)及び35℃で7日間貯蔵した。試料を280nmでUVにより分析し、350nm及び510nmで吸光測定し、貯蔵前後にSE-HPLCを実施した。試料はまた、視覚的に分析される。
【0082】
UV-280nmを使用した濃度測定の結果を図2に示す。すべての製剤バリアントでは、100mg/mLを超えるFP-1305濃度が実現され得る。高濃縮試料の短期安定性試験中、濃度は変わらなかった。
【0083】
350nm及び510nmにおける吸着測定の結果を図3に示す。安定性試験中、5±3℃でも35℃でも、いずれの製剤も濁度の増加を示さなかった。目視検査では、安定性試験の開始時に、すべての製剤が透明でわずかに赤色の溶液を示した。5±3℃及び35℃の両方で7日間貯蔵した後、いずれの試料も目視で見える粒子を示さなかった。
【0084】
図4に示されるように、可溶性凝集体の形成は、上記の分析方法で説明されるSE-HPLCにより、5±3℃及び35℃の両方ですべての製剤バリアントにおいて検出された。35℃では、凝集体の進化が5±3℃よりも速かった。Tris/HCl製剤と比較して、L-ヒスチジン/HCl製剤では凝集体形成が低かった。凝集体形成に対するL-ヒスチジン製剤のpHの著しい影響はなく、より酸性のpH、すなわち、pH5.5及びpH6.0においてより低い凝集体形成の傾向があった。
【0085】
強制分解試験
上記の安定性試験に基づいて、強制分解試験でのさらなる試験のために表4に提示された製剤を選択して、複数のストレス条件(光ストレス、撹拌による熱ストレス、及び凍結/解凍ストレス)に対して最高の安定性を示した製剤バリアントを決定した。製剤は、ポリソルベート20(PS20)を用いて、又は用いずに調製する。ラジカルによって誘導される化学分解に対するL-メチオニンの安定化効果を調べるために、製剤中に20mMのL-メチオニンを添加したバリアント3-1+PS20、3-2+PS20、及び3-3+PS20を用いて、さらなる光ストレス試験を実施した。
【0086】
【表4】
【0087】
FP-1305薬物物質の濃度は、クロスフロー器具を使用して25mg/mLに増加させた。FP-1305の溶液を4000rpmで5分間遠心分離して、任意の不溶性粒子を除去した。その後、0.22μmの膜フィルターを使用して溶液を濾過した。加速安定性試験のための試料を、3つの透析工程において濃縮されたFP-1305薬物物質を選択された緩衝液バリアントに透析して、定量的緩衝液交換を達成することにより調製した。FP-1305の透析を3つの透析工程で完遂して、定量的緩衝液交換を達成した。およそ25mg/mLのFP-1305を含む25mLの溶液を、(透析緩衝液中で)条件付けした透析チューブに移した。充填した透析チューブを1000mLの標的緩衝液中で2時間インキュベートした後、最初の緩衝液交換(1000mL)を実施した。さらに2時間透析した後、2回目の緩衝液交換(1000mL)を行い、一晩透析を終えた。
【0088】
透析工程の後、溶液にポリソルベート20又はポリソルベート20及びL-メチオニンを補充して、所望の製剤バリアントを達成した。その後、層流下で0.22μmのシリンジフィルターを使用して、試料を滅菌濾過した。0.8mLの試料を、滅菌した標準6Rガラスバイアルに充填した。試料を以下のストレス条件に曝露した。
1)撹拌による強制熱ストレス:200rpmの撹拌下、35℃での貯蔵。
2)光への曝露:750W/m2/25℃で7.5時間。
3)凍結解凍ストレス:液体試料を、制御された凍結速度で室温から-50℃に凍結し、制御された加熱速度(バルク凍結条件をシミュレートするために1℃/分)で、再び室温に温めた。
【0089】
各ストレス条件からの各時間点の前後に、各バリアントの2つの液体試料を、沈殿について視覚的に分析した。試料を、UV280nmによる濃度、350nm及び510nmにおける吸光測定による濁度、SE-HPLCによる凝集体状態、CZEによる化学分解、及び還元RP-HPLCに関して分析した。その結果を図5図9に示す。
【0090】
図5は、UV-280nmによる濃度決定の結果を示す。試料の濃度は、すべてのバリアントにおいて一定のままであった。L-メチオニンの溶液も試料(バリアント3-1+PS20+メチオニン、3-2+PS20+メチオニン、及び3-3+PS20+メチオニン)に添加して希釈した。これらの試料の標的濃度は、約24mg/mLであった。濃度は、UV280nmによって測定した。
【0091】
350nm及び510nmでの吸着測定の結果を図6に提示する。凍結/解凍ストレスは、試料の濁度の増加を示さなかった。光ストレス後、350nmでの吸光度はわずかに増加した。ポリソルベート20のいくつかの有益な効果が観察された。メチオニンには、光ストレス後の濁度に有益な効果はない。熱ストレスで2週間後、いくつかの製剤は濁度を示した(バリアント3-2及び3-3)。
【0092】
凍結/解凍ストレス試験後及び光ストレス後に、ポリソルベートを有するすべての製剤バリアントにおいて、視覚的に透明な試料を得た。熱ストレスは、ゲル状粒子の形成を誘導した。2週間の熱ストレスの後、ポリソルベート20を有するすべてのバリアントは透明なままであったが、ポリソルベート20を有しないすべてのバリアントはゲル状粒子を含有していた。
【0093】
考えられる凝集をSE-HPLCで試験した。図7は、安定性試験の開始時及び各ストレス試験後の製剤バリアントの凝集体含有率を示す(バーは左から右へ順に、図7で上から下へ言及されたバリアントに対応する)。
【0094】
凍結/解凍ストレスの後、マンニトールを含むバリアント3-2及び3-2+PS20について、凝集の増加が観察された。Tris緩衝液を含むバリアント6及び6+PS20について、凝集のわずかな増加が観察された。他のバリアントにおいて、追加の凝集体は形成されなかった。
【0095】
光ストレスは、すべての製剤バリアントにおいて凝集を誘導し、バリアント3-3において最も低い凝集であり、続いてバリアント3-1、3-2、及び6であった。ポリソルベート20及びL-メチオニンのいくつかの軽微な有益な効果が観察された。凝集体は、バリアント6において最も強かった熱ストレス/撹拌下、すべての製剤において増加した。35℃で2週間後、すべての製剤バリアントにおいて凝集体含有率が上昇した。
【0096】
キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)は、抗体の電荷不均一性をモニタリングするために使用され、試料の化学安定性の尺度であった。図8は、安定性試験の開始時及び各ストレス試験後の製剤バリアントの電荷不均一性を示す(バーは左から右へ順に、図8で上から下へ言及されたバリアントに対応する)。ストレス後、強力に脱アミド化されたサブバリアント及び他の電荷不均一性である酸性サブバリアントが形成された。凍結/解凍ストレスは、試料の電荷不均一性にわずかな影響を及ぼしただけであった。光ストレス後に最も高い分解が観察された。他のバリアントと比較して、バリアント番号6の分解がより高かった。ポリソルベート20及びメチオニンは、FP-1305の化学安定性に著しい効果を示さなかった。すべての製剤バリアントについて、熱ストレス中に電荷バリアントの形成が観察された。すべてのヒスチジン/HCl緩衝液含有バリアントにおいて、最も高い安定性が観察された。バリアント番号6(Tris/HCl緩衝液)について、最も低い安定性が観察された。ポリソルベート20は、化学分解に対するFP-1305の安定性に正の効果も負の効果も示さなかった。
【0097】
試料を、還元RP-HPLCでも分析して、酸化された分解産物を検出した。図9は、安定性試験の開始時及び各ストレス試験後の製剤バリアントの還元RP-HPLCによる純度を示す(バーは左から右へ順に、図9で上から下へ言及されたバリアントに対応する)。凍結/解凍及び熱ストレス後、35℃で最長2週間撹拌したところ、分解/酸化は観察されなかった。光ストレスの間、試料の純度は低下し、バリアント3-1において最も高い純度であり、続いてバリアント3-2、3-3、及び6であった。ポリソルベート20は、還元RP HPLCによりFP-1305の純度に影響を及ぼさなかった。L-メチオニンは、光ストレス後のFP-1305の純度にわずかに正の効果を示した。
【0098】
結論として、化学安定性が高く、凝集傾向が低いため、Tris/HCl緩衝系よりも、pH6.0のヒスチジン/HCl緩衝系が好まれた。しかしながら、FP-1305の安定性は、わずかに酸性のヒスチジン緩衝系においてより優れているが、Tris/HCl緩衝系は、ヒスチジン/HCl緩衝系の代替を提供するようである。ポリソルベート20の添加は、ポリソルベート20を含まない試料が凍結/解凍試験後に濁度を示したため、凍結/解凍ストレス下で特に安定性を増加させることが証明された。凍結/解凍ストレス中の安定性が高いため、ヒスチジン緩衝液を含むマンニトールよりも、安定化剤トレハロース及びプロリンが好まれた。メチオニンの添加は、ラジカル誘導分解(光ストレス中の凝集体及び不純物の形成)に対するFP-1305に対するわずかな安定化効果を示した。
【0099】
加速安定性試験
表5に提示された2つの製剤を、5℃±3℃、25℃、及び35℃でのFP-1305の安定性を試験するための加速安定性試験に配置した。
【0100】
【表5】
【0101】
FP-1305薬物物質の濃度は、クロスフロー器具を使用して25mg/mLに増加させた。加速安定性試験のための試料を、3つの透析工程において濃縮したFP-1305薬物物質を選択した緩衝液バリアントに透析して、強制分解試験に関して上記に開示したものと同様の定量的緩衝液交換を達成することにより調製した。透析工程後、溶液にポリソルベート20原液及びL-メチオニン溶液を補充して、所望の製剤バリアントを得た。その後、層流下で0.22μmのシリンジフィルターを使用して、試料を滅菌濾過した。1.4mLの試料を、滅菌した標準6Rガラスバイアルに充填した。
【0102】
湿度制御を行わずに12週間、試料を5℃±3℃(2~8℃)、25℃±2℃、及び35℃±2℃で逆さまに貯蔵した。時間点(T0、T4週間、T8週間、T12週間)及び温度当たり2つの液体試料を採取した。280nmでのUVによる濃度、比濁法測定による濁度、SE-HPLCによる凝集体状態、並びに還元RP-HPLC及びCZEによる化学分解に関して、各時間点で、すべての試料を別々に分析した。その結果を図10図16に示す。
【0103】
図10は、UV-280nmによる濃度決定の結果を示す。試料の濃度は、貯蔵温度及び製剤とは無関係に、安定性試験中に一定のままであった。また、すべての製剤バリアントの試料は、目視検査される貯蔵温度とは無関係に、安定性試験中に透明なままであった。
【0104】
図11は、非濁法濁度測定の結果を示す。安定性試験中、試料の濁度は5℃±3℃及び25℃で一定のままであった。35℃で、両方の製剤バリアントについてわずかな濁度の増加が観察された。製剤バリアント3-1+PS20は、製剤バリアント3-3+PS20よりもわずかに濁度が低かった。濁度の増加は、不溶性凝集体の形成の兆候である。しかしながら、試料の濁度は、35℃で12週間経過しても比較的低かった。12週間後、25℃及び35℃でわずかな濁度の減少が観察され、これは、考えられる析出した凝集体の粒径の増加によって引き起こされた可能性がある。
【0105】
図12図14は、安定性試験中の製剤バリアントのモノマー、凝集体、及び断片含有率を示す。SE-HPLC分析は、5℃±3℃及び25℃において、相対モノマー含有率がほぼ一定であったことを明らかにした。35℃で、両方の製剤バリアントについて、相対モノマーピーク面積のわずかな減少が観察された。凝集体含有率は、5℃±3℃の貯蔵温度で一定のままであった。対照的に、凝集体含有率は、25℃及び35℃での安定性試験中に低下した。これは、試料の濁度の増加に合わせて、25℃及び35℃で形成された凝集体の沈殿によって引き起こされた可能性が最も高い。断片含有率は、25℃及び35℃で増加したが、5℃±3℃では両方の製剤においてほぼ一定であった。
【0106】
キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)は、抗体の電荷不均一性をモニタリングするために使用され、試料の化学安定性の尺度である。図15は、安定性試験中の製剤バリアントの電荷不均一性を示す。試料の電荷不均一性は、貯蔵温度とは無関係に、安定性試験の最初の4週間の間、ほぼ一定のままであった。8週間後、主ピーク面積は、両方の製剤バリアントについて3つすべての貯蔵温度で減少した。高温でより高い分解が観察された。12週間後、両方の製剤の主ピーク面積は、5℃±3℃及び25℃の貯蔵温度で変わらなかった。
【0107】
図16は、安定性試験中の製剤バリアント3-1+PS20及び3-3+PS20の還元RP-HPLCによる純度を示す。図中の破線は、安定性試験中に測定されたFP-1305標準の最小及び最大純度を示す(各時間点で、FP-1305標準は、各配列の開始及び終了時に分析された)。還元RP-HPLCは、主に抗体の酸化分解産物を検出する。RP-HPLC分析では、25℃及び35℃での安定性試験中に、製剤バリアント3-1+PS20及び3-3+PS20の両方が分解産物(酸化形態)のわずかな増加を示した。両方の製剤バリアントは、同等の化学分解を示した。化学分解は、FP-1305薬物物質の最も重要な分解経路であることが明らかになった。
【0108】
結果に基づいて、製剤3-1+PS20及び3-3+PS20の両方は、抗CLEVER-1抗体の安定な製剤を提供する。本発明の好ましい実施形態によれば、製剤溶液のpHは、6.0に調整され、L-ヒスチジンで緩衝される。pHは、十分な量(q.s.)の6Nの塩酸で調整され得、必要に応じて、10Nの水酸化ナトリウムで調整され得る。L-メチオニンは、安定性を向上させるために添加され、抗酸化剤として作用する。トレハロース二水和物又はプロリンもまた、安定性を向上させるために製剤に添加され、安定化剤として作用する。非イオン性ポリソルベート20は、液体製剤中の分子をさらに安定化するための界面活性剤として使用される。製剤3-1+PS20は、製剤3-3+PS20よりもわずかに低い濁度であった。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、製剤は、安定化剤としてトレハロース二水和物などのトレハロースを含む。製剤は、少なくとも2~8℃(5℃±3℃)で安定である。
【0109】
安定性試験(5℃±3℃で18ヶ月)
製剤3-1+PS20(FP-1305薬物物質の濃度は、25mg/mLであった)は、加水分解クラスIのDIN 10Rガラスバイアルに5℃±3℃で18ヶ月間貯蔵されている。医薬品と施栓系との間の相互作用を最小限に抑え、容器施栓系の完全性を維持するために、FluroTecコーティングを有するブロモブチルゴムストッパーを選択した。
【0110】
5℃±3℃で18ヶ月貯蔵した後、pH、浸透圧、目視で見えない粒子(HIAC)、濃度(UV)、同一性(画像キャピラリー等電位集束(icIEF))、又は純度(SE-HPLC)について顕著な変動は認められなかった。溶液の外観に関して、試料は以前の時点(わずかに不透明な溶液)とは異なり、透明(水と同等)のままである。その結果を図18に示す。
【0111】
効能試験
製剤3-1+PS20(FP-1305薬物物質の濃度は、25mg/mLであった)は、5℃±3℃で貯蔵され、18ヶ月の貯蔵後、抗CLEVER-1抗体の効力を測定するための生物活性アッセイが実施されている。細胞ベースのアッセイを使用して、生物学的機能を決定する。半数効果を達成するために必要な抗体濃度は、EC50と呼ばれる。試験試料の効力は、試験試料の曲線をEC50の比率によって標準物質と比較することによって評価した。効力は、標準物質の相対効力パーセントとして表した(FP-1305は-70℃で貯蔵した)。本発明による製剤は、長期にわたって(少なくとも約18ヶ月までを含む)生物学的活性を示す。生物学的活性アッセイの結果を図17に提示する。貯蔵期間後の相対効力は、92.3%であった。
【0112】
臨床試験
抗CLEVER-1抗体FP-1305は、進行した固形腫瘍を有する患者における第I/II相試験において、安全性及び予備的有効性について現在試験されている(clinicaltrials.gov NCT03733990:A Study to Evaluate Safety,Tolerability and Preliminary Efficacy of FP-1305 in Cancer Patients(MATINS))。蓄積された安全性情報は、FP-1305の良好な耐容性を示している。これは、従来の細胞傷害性抗がん治療が、用量依存性及び治療規定毒性と関連付けられているため、製品特性の非常にポジティブな指標である。ヒトにおいて観察される耐容性及び望ましくない副作用のレベルは、げっ歯類及びサルにおいてCLEVER-1機能を阻害する前臨床観察にも一致する。第1のヒトデータはまた、非常に進行した転移性腫瘍を有する30人の治療された患者のうち8人の良好な臨床有効性が、標的病変において進行を示さなかったことを示唆し、3人の患者は、経過観察時に明らかな腫瘍縮小を示した(図19)。図19は、最良の応答を有する患者における転移性病変のベースライン及び経過観察のコンピュータ断層撮影走査画像を示す。矢印は、マイクロサテライト安定(MSS)転移性結腸直腸がん(CRC)、黒色腫、及び卵巣がんを有する患者における縮小肺転移を指す。標的病変のサイズ及び経時変化を各図の右側に提示する。
【0113】
第I/II相試験では、抗CLEVER-1抗体FP-1305、表6に示されるような血漿LDL(P-LDL)レベルの増加を受ける患者は、LDLの結合及び取り込みが、CLEVER-1単球/マクロファージによって阻害又は遮断されることを示すことも観察されている。抗CLEVER-1抗体FP-1305は、acLDLが消化されないため、マクロファージLDLコレステロール取り込み及び泡沫細胞の形成を防止する。これは、FP-1305で治療したがん患者のLDLレベルの増加として見られる。
【0114】
FP-1305を開始する前に採取された第1の(投与前の)空腹時血漿試料。抗CLEVER-1抗体FP-1305の最初の3週間の治療サイクルの終了時に採取された第2の空腹時血漿試料(投与後)。結果を表6に示し、血漿LDL(P-LDL)レベルをmmol/Lとして表した。
【0115】
【表6】
図1
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【配列表】
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【国際調査報告】