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特表2023-531422金属酸窒化物層を有する多接合型光起電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】金属酸窒化物層を有する多接合型光起電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/57 20230101AFI20230714BHJP
   H10K 39/15 20230101ALI20230714BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20230714BHJP
   H01L 31/0747 20120101ALI20230714BHJP
   H10K 30/82 20230101ALI20230714BHJP
【FI】
H10K30/57
H10K39/15
H10K30/40
H01L31/06 455
H10K30/82
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577467
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 GB2021051548
(87)【国際公開番号】W WO2021255468
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】20180705.4
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517427978
【氏名又は名称】オックスフォード フォトボルテイクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】キルナー,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ミランダ ペレス,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ケッチャウ,イモ
(72)【発明者】
【氏名】スナイス,ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】クロスランド,エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ケイス,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】シャープ,アラン
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA01
5F251AA05
5F251AA20
5F251BA11
5F251CB12
5F251CB15
5F251DA04
5F251DA07
5F251DA15
5F251DA18
5F251FA06
5F251FA10
5F251FA14
(57)【要約】
第1のサブセルと第2のサブセルの間に金属酸窒化物層を有する多接合型光起電デバイスが開示され、第1のサブセルは、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持つ。さらに、当該多接合型光起電デバイスを製造する方法が開示される。金属酸窒化物は好ましくは酸窒化チタンである。有利なことに、当該デバイスは、単純で、高速で、一貫性があって、安価なやり方で生産され得る一方で、酸窒化チタン層の特性を調整することで、局所的なシャント経路の発生を回避し得るとともに、反射損失を低減させ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のサブセル及び第2のサブセルを有する多接合型光起電デバイスであって、前記第1のサブセルは、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持ち、前記第1のサブセルと前記第2のサブセルとの間に金属酸窒化物層が設けられていることを特徴とする、多接合型光起電デバイス。
【請求項2】
当該デバイスは、モノリシック集積構造を持ち、好ましくはタンデム構造を持つ、請求項1に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項3】
前記金属は早期遷移金属であり、好ましくはTi、W、Mo、Hf、Ta、Nb、Zr、Cr、及びVから選択され、最も好ましくはTiである、請求項1又は2に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項4】
前記第1のサブセルはまた、前記ペロブスカイト光吸収体材料を有する層のそれぞれの側にn型半導体層及びp型半導体層を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項5】
前記金属酸窒化物層は、前記n型半導体層又は前記p型半導体層のいずれかに隣接且つ接触している、請求項4に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項6】
前記n型半導体層又は前記p型半導体層の一方が光透過性導電性酸化物層の主表面と隣接且つ接触し、前記光透過性導電性酸化物層の反対側の主表面が前記金属酸窒化物層と隣接且つ接触している、請求項4に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項7】
前記第2のサブセルは結晶シリコン光吸収体材料の層を有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項8】
前記第2のサブセルはヘテロ接合光起電デバイスを有する、請求項7に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項9】
前記第2のサブセルは、アンドープのアモルファスシリコンの2つの層に挟まれた結晶シリコンの層を有する、請求項8に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項10】
前記アンドープのアモルファスシリコンの層と前記金属酸窒化物層との間に、ドープされたアモルファスシリコンを有する層が設けられている、請求項9に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項11】
前記アンドープのアモルファスシリコンの層と前記金属酸窒化物層との間に、ドープされたナノ結晶シリコン酸化物を有する層が設けられている、請求項9に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項12】
次の順序で、
a)前面電極、
b)ペロブスカイト光吸収体を有する層を持ち、前記ペロブスカイト光吸収体を有する層の一方の表面上のn型半導体層と、前記ペロブスカイト光吸収体を有する層の他方の表面上のp型半導体層とを有したサブセルを有する第1のサブセル、
c)オプションの光透過性導電性酸化物層、
d)前記金属酸窒化物層、
e)ドープされたアモルファスシリコン層、
f)第1及び第2のアンドープのアモルファスシリコン層の間の結晶シリコン光吸収体材料の層を有する第2のサブセル、及び
g)裏面電極、
を有する請求項1に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項13】
前記第1のサブセルの前記p型半導体層は、前記金属酸窒化物層又は前記オプションの光透過性導電性酸化物層に隣接し、
前記ドープされたアモルファスシリコン層はn型アモルファスシリコン層であり、
前記第2のサブセルは更に、前記裏面電極に隣接したp型アモルファスシリコン層を有する、
請求項12に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項14】
好ましくは酸窒化チタンである前記金属酸窒化物層は、2.3と3.7との間、好ましくは2.3と2.9との間の屈折率を持つように適応されている、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項15】
前記金属酸窒化物層は、20nmと200nmとの間の厚さを持つ、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の多接合型光起電デバイス。
【請求項16】
ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持つ第1のサブセルと、第2のサブセルと、を有する多接合型光起電デバイスを製造する方法であって、前記第1のサブセルと前記第2のサブセルとの間に金属酸窒化物層を堆積させる工程を有する方法。
【請求項17】
前記金属酸窒化物層は、物理気相成長法、好ましくはスパッタ堆積によって堆積され、及び/又は前記金属酸窒化物層の堆積速度は0.4nm/s以上である、請求項16に記載の多接合型光起電デバイスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光起電(photovoltaic;PV)デバイスに関し、特に、例えばタンデム型の太陽電池及びPVパネルなどの多接合型光起電デバイス及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギー変換は、再生可能エネルギーを提供する最も有望な技術のうちの1つである。しかしながら、太陽エネルギーを効果的に捕捉するデバイスを製造することのコスト、特に材料及び必要な設備のコスト、を削減することが、それらの普及を促進するために依然として重要なままである。
【0003】
例えばシリコンのpn接合から作られたものなどの単接合型太陽電池は、AM1.5G条件下で約29%の最大理論効率及び26%に至る実用効率を持つ(例えば、A Reinders他によって編集された書籍“Photovoltaic Solar Energy ― from Fundamentals to Applications”,Wiley ISBN9781118927465[2017],p.164(非特許文献1)を参照されたい)。しかし、より高いバンドギャップを持つ材料のセルをシリコンの単接合型セル(又は他の種類の単接合型セル)の上に積み重ねて直列に接続すると、限界理論効率は40%より上まで高まる。従って、タンデム型及びその他の多接合型セル技術が現在、高まる関心を持って迎えられている。
【0004】
特に有望なクラスのモノリシックタンデム型又は多接合型光起電デバイスの太陽電池は、ペロブスカイト(例えば有機メタルハライドペロブスカイトなど)を有するサブセルを、例えば光活性シリコン吸収体を有し得るものである2つめのサブセルと組み合わせる。ペロブスカイトは、好ましいバンドギャップ、高い吸収係数、及び長い拡散長を示すので、PVデバイスにおける理想的な光吸収体であることが当技術分野において知られている。
【0005】
従来のペロブスカイト/シリコンタンデム型太陽電池は、シリコンサブセルとペロブスカイトサブセルとの間に低いオーミックトンネル再結合コンタクトを形成するのに必要な透明導電性酸化物(transparent conductive oxide;TCO)層(シリコンボトムサブセルの上に有する)を組み込んでいる。TCO材料の典型的な例は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、又は、アルミニウム、ガリウム若しくはインジウムドープされた酸化亜鉛(AZO、GZO若しくはIZO)を含み、それらのうちITOが最も一般的に使用されている。
【0006】
しかし、ITOを有する相互接続層の使用は、複数の理由で不利となり得る。第1に、ITO層は、好ましくない順序の屈折率のために、高度に反射性の界面を形成する傾向にある。さらに、それらは高い横方向導電性を示し、それが、完成したデバイスにおいてペロブスカイト吸収体を通るシャント経路の存在につながり得る。
【0007】
ペロブスカイトトップセルとシリコンボトムセルとの間での反射を減らすために、トップセルのp層へのコンタクトを形成するものであるITO層の下、且つアモルファスシリコンi層の上に位置付けての、不足当量のナノ結晶シリコン酸化物(nc-SiO)層の使用が、L.Mazzarella他のAdvanced Energy Materials 2019,9(14),1803241(非特許文献2)によって提案されている。
【0008】
国際公開第2018/150203号(特許文献1)は更に、ペロブスカイト系サブセルと光活性シリコン系サブセルとの間に、シリコン酸化物マトリクスに細長いシリコンナノ結晶を埋め込んだ二相材料を持つ相互接続層を有した中間領域を組み込むことが、局所的なシャント経路の悪影響を抑制し得るとともに、反射損失を低減するように調整され得ることを開示している。
【0009】
しかし、二相材料の堆積のために国際公開第2018/150203号(特許文献1)で使用されているプロセスは、特殊なプラズマ化学気相成長(plasma enhanced chemical vapor deposition;PECVD)であり、それは、所望の横方向及び縦方向導電性を持つ構造を達成するために、選択的エッチング、大きい表面拡散、及び化学アニーリングのような、幾つかの表面化学メカニズムの相互作用に頼っており、従って、それら全てがおよそ0.2nm/sという小さい堆積速度につながっている。加えて、この特定のレジームでの高いガス解離速度と組み合わせられる比較的高いチャンバ圧力は、プロセス中にプラズマ重合につながり得るものであり、それがプロセスの安定性及び再現性に悪影響を及ぼす。全体として、そのPECVDプロセスは高価で複雑な設備も必要とする。
【0010】
以上に鑑みるに、既知の相互接続層の上述の欠点が解消されるとともに、より単純で、より高速で、一貫性があって、より安価なやり方で同時に生産され得るような多接合型光起電デバイスを提供することが依然として望ましいままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2018/150203号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A Reinders他,“Photovoltaic Solar Energy ― from Fundamentals to Applications”,Wiley ISBN9781118927465[2017],p.164
【非特許文献2】L.Mazzarella他,Advanced Energy Materials 2019,9(14),1803241
【発明の概要】
【0013】
本発明は、ここに規定される請求項に係る事項を用いてこれらの欠点を軽減する。本発明の更なる利点については、さらに以下のセクションで詳細に説明されることになる。
【0014】
第1の態様によれば、本発明は、第1のサブセル及び第2のサブセルを有する多接合型光起電デバイスに関し、第1のサブセルは、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持ち、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に金属酸窒化物(M)層が設けられていることを特徴とする。ナノ結晶シリコン酸化物とは異なり、例えば酸窒化チタンなどの金属酸窒化物は、より高い堆積速度で物理気相成長(例えばスパッタリング法など)によって堆積されることができ、結果として得られる層の屈折率を、反射損失の減少を可能にする望ましい屈折率に容易に調整することができ、それがボトムサブセルの層吸光度を実質的に向上させる。同時に、金属(例えばチタン)酸窒化物層は、赤外光に対して透明であるとともに、2つのサブセルの効率的な電気的相互接続にとって優れた導電率特性を示す。
【0015】
本発明の第2の態様は、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持つ第1のサブセルと、第2のサブセルと、を有する多接合型光起電デバイスを製造する方法に関し、当該方法は、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に金属酸窒化物層を堆積させる工程を有する。
【0016】
本発明に従った多接合型光起電デバイスの好適実施形態、その製造方法、及び本発明の他の態様が、以下の説明及び特許請求の範囲に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、発明の実施形態が、添付の概略的な図面を参照して単に例として説明される。
図1】本発明に従ったモノリシック集積多接合型光起電デバイスの一例を概略的に示している。
図2】反転構造を有する本発明に従ったモノリシック集積多接合型光起電デバイスの一具体例を示している。
図3】通常構造を有する本発明に従ったモノリシック集積多接合型光起電デバイスの他の一具体例を示している。
図4】3つは中間層なし分割であり、3つはTiO中間層分割である、6つのタンデムセルについての、電力変換効率(PCE)、短絡電流密度(JSC)、開回路電圧(VOC)、及びフィルファクタ(FF)を示している。結果は、上に列記した4つのパラメータの各々についての中間層なし分割での平均値に対して正規化したものである。
図5】中間層なし分割からの1つと、TiO中間層分割からの他の1つとの、2つの代表的なタンデムセルから測定された外部量子効率(EQE)を波長(nm単位)に対して示している。ペロブスカイトトップセルは300-780nm域で吸収し、シリコンボトムセルは500-1200nmから吸収する。
図6】中間層なし及びTiO中間層について図5のEQEカーブから計算したペロブスカイトサブセル及びシリコンサブセルのJSCのボックスプロットを示している。
図7】中間層なし分割(左)及びTiO中間層分割(右)での多接合型光起電デバイスセルスタックの一例を示している。
図8】中間層なしでの分割である分割1(上)及びTiO中間層ありでの分割である分割2(下)の電流密度JSC-電圧特性を示している。
図9】0sccm(standard cubic centimeters)、40sccm、及び80sccmとガス流量を変えて堆積された一連のTiO膜の光学特性を例証すべく分光偏光解析法によって測定した屈折率(吸収又は吸光係数“nk”を含む)-波長のグラフを示している。
図10】中間層なし分割(上)及びTiO中間層分割(下)の光学シミュレーションの結果を示しており、シミュレーションしたスタック内の層ごとのシミュレーションによるEQEについての吸収が表示されている。スペクトルの右側の凡例は、タンデムセル積層化及びそのそれぞれのコンポーネントに対応している。
図11】様々なTiO中間層、nc-Siリファレンス(ベースライン)、及びnc-SiOリファレンスについてシミュレーションしたボトムサブセルのJSC値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のいっそう完全なる理解のために、次に、その例示的な実施形態の以下の説明を参照する。
【0019】
多接合型光起電デバイス
第1の実施形態において、本発明は、第1のサブセル及び第2のサブセルを有する多接合型光起電デバイスに関し、第1のサブセルは、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持ち、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に金属(例えばチタン)酸窒化物層が設けられていることを特徴とする。“多接合”は2つ以上を意味する。好ましくは、第2のサブセルはシリコンサブセルである。有利には、光起電デバイスは、第1のサブセルと第2のサブセルとを有した、例えばタンデム構造などの、モノリシックに集積された構造を持つ。モノリシックに集積された多接合型光起電デバイスでは、2つ以上の光起電力サブセルが直接的に互いの上に置かれ、故に、電気的に直列に接続される。光起電デバイスはオプションで更に、第1のサブセルを第2のサブセルに接続する中間領域を有してもよく、各中間領域が1つ以上の導電性相互接続層を有する。
【0020】
本発明に従った光起電デバイスの例示的な概略構造を図1に示す。図示したモノリシック多接合型光起電デバイス(100)は、前面電極(101)と裏面電極(102)との間に、第1のサブセル(110)としてのトップペロブスカイト系サブセルと、ボトムの第2のサブセル(120)とを有し、第1のサブセル(110)と第2のサブセル(120)との間に金属(例えばチタン)酸窒化物層(103)が設けられる。この層は、この図中では式MOで表されているが、Mでも等しく表されることができる。理解されることには、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に追加の層が設けられてもよい。
【0021】
用語“前面電極”は、ここで使用されるとき、太陽光にさらされることが意図される光起電デバイスの面又は表面に設けられる電極を指す。従って、前面電極は典型的に、前面電極の下に設けられた光活性層へと光が当該電極を通り抜けることを可能にするよう、透明又は半透明である必要がある。故に、用語“裏面電極”は、ここで使用されるとき、太陽光にさらされることが意図される面又は表面とは反対側の光起電デバイスの面又は表面に設けられる電極を指す。本発明のオプトエレクトロニックデバイスの前面及び裏面電極の選択は、当該技術分野において知られた材料から当業者によって好適に選択されることができ、構造タイプに依存し得る。代表的な材料は、以下に限られないが、例えばスズ酸化物であるITO(インジウムスズ酸化物)、FTO(フッ素ドープされたスズ酸化物)、若しくはAZO(アルミニウムドープされたスズ酸化物)、及び例えばアルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、若しくは白金などの高仕事関数金属などの、金属及び金属酸化物を含む。前面及び裏面電極の厚さは、当業者によって好適に選定されることができ、典型的には50nmから600nmの範囲、より典型的には300nmから500nmの範囲とし得る。例えば、この厚さは400nmとし得る。第1の電極はしばしばガラス基板上に配置される。
【0022】
用語“ペロブスカイト”は、ここで使用されるとき、CaTiOの構造に関連する構造を持つ材料を指す。CaTiOの構造は、式ABXによって表されることができ、ここで、A及びBは異なるサイズのカチオンを表し、Xはアニオンである。単位セル内で、Aカチオンは(0,0,0)にあり、Bカチオンは(1/2,1/2,1/2)にあり、Xアニオンは(1/2,1/2,0)にある。Aカチオンは、通常、Bカチオンよりも大きい。当業者が理解することには、A、B及びXは、ペロブスカイト材料の構造を、CaTiOによって採られる構造から、より低い対称性の歪んだ構造へと歪ませるように変えられ得る。対称性はまた、材料がCaTiOの構造に関連する構造を持つ層を有する場合に低くなる。当業者が理解することには、ペロブスカイト材料は式[A][B][X]によって表されることができ、ここで、[A]は少なくとも1つのカチオンであり、[B]は少なくとも1つのカチオンであり、[X]は少なくとも1つのアニオンである。ペロブスカイトが2つ以上のAカチオンを有するとき、異なるAカチオンが規則的に又は不規則にAサイトに分布され得る。ペロブスカイトが2つ以上のBカチオンを有するとき、異なるBカチオンが規則的に又は不規則にBサイトに分布され得る。ペロブスカイトが2つ以上のXアニオンを有するとき、異なるXアニオンが規則的に又は不規則にXサイトに分布され得る。2つ以上のAカチオン、2つ以上のBカチオン、又は2つ以上のXアニオンを有するペロブスカイトの対称性は、CaTiOの対称性よりも低くなることが多い。
【0023】
一般に、用語“ペロブスカイト”は、ここで使用されるとき、(a)CaTiOの構造に関連する3次元結晶構造を持つ材料、又は(b)CaTiOの構造に関連する構造を持つ材料の層を有する材料を指す。ペロブスカイトのこれらのカテゴリーの双方が本発明に従ったデバイスで使用され得るが、第1カテゴリー(a)のペロブスカイト、すなわち、3次元(3D)結晶構造を持つペロブスカイトを使用することが好ましいとし得る。そのようなペロブスカイトは、典型的に、層間に分離のないペロブスカイト単位セルの3Dネットワークを有する。一方、第2カテゴリー(b)のペロブスカイトは、2次元(2D)の層状構造を持つペロブスカイトを含む。2D層状構造を持つペロブスカイトは、(挿入された)分子によって分離されたペロブスカイト単位セルの層を有することができ、そのような2D層状ペロブスカイトの一例は、[2-(1-シクロヘキセニル)エチルアンモニウム]PbBrである。2D層状ペロブスカイトは、高い励起子結合エネルギーを持つ傾向があり、これは、光励起下で、自由電荷キャリアというより、拘束された電子/正孔対(励起子)の生成に有利に働く。拘束された電子正孔対は、p型又はn型のコンタクト(そこで電子正孔対は自由電荷に伝達(イオン化)して自由電荷を生成することができる)に到達するのに十分な可動性がないとし得る。従って、自由電荷を生成するためには、励起子結合エネルギーに打ち勝たなければならず、これは、電荷生成プロセスへのエネルギーコストを表し、太陽電池における低めの電圧及び低めの効率をもたらす。対照的に、3D結晶構造を持つペロブスカイトは、遥かに低い励起子結合エネルギー(熱エネルギー程度)を持つ傾向があり、故に、光励起に直接従って自由キャリアを生成することができる。従って、本発明のデバイス及びプロセスで使用されるペロブスカイト半導体は、好ましくは、3次元結晶構造を持つペロブスカイトである。
【0024】
好適実施形態において、ペロブスカイト材料は一般式[A][B][X]のものであり、[A]は1つ以上の1価カチオンであり、[B]は1つ以上の2価無機カチオンであり、[X]は1つ以上のハロゲン化物アニオンであり、好ましくはフッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物から選択され、更に好ましくは塩化物、臭化物、及びヨウ化物から選択される。より好ましくは、[X]は、臭化物及びヨウ化物から選択された1つ以上のハロゲン化物アニオンを有する。[A]は好ましくは、メチルアンモニウム(CHNH )、ホルムアミジニウム(HC(NH) )、及びエチルアンモニウム(CHCHNH )から選択された1つ以上の有機カチオンを有し、好ましくは、メチルアンモニウム(CHNH )及びホルムアミジニウム(HC(NH) )から選択された1つの有機カチオンを有する。[A]は、好ましくは、Cs、Rb、Cu、Pd、Pt、Ag、Au、Rh、及びRuから選択された1つ以上の無機カチオンを有する。[B]は、好ましくは、Pb2+及びSn2+から選択された少なくとも1つの2価無機カチオンを有し、好ましくはPb2+を有する。好適なペロブスカイト材料の更なる例は、例えば、Kojima,A他のJournal of the American Chemical Society 2009,131(17),pp.6050-1、Zuo,C他のAdv. Sci. 2016,3,1500324、国際公開第2013/171517号、国際公開第2014/045021号、国際公開第2016/198898号、及び国際公開第2018/150203号に開示されている。
【0025】
用語“ペロブスカイト光吸収体材料”は、ここで使用されるとき、光を吸収し、それによって自由電荷キャリアを生成することが可能なペロブスカイト材料を表す。しかし、ペロブスカイト材料は、その後に再結合して光を発するものである電子と正孔の両方の電荷に受け入れることによって光を発することも可能であり得るペロブスカイト材料であってもよい。
【0026】
当業者が理解するように、本発明で使用されるペロブスカイト材料は、光ドープされたときにn型の電子輸送半導体として作用するペロブスカイトであってもよい。それに代えて、本発明で使用されるペロブスカイト材料は、光ドープされたときにp型の正孔輸送半導体として作用するペロブスカイトであってもよい。従って、ペロブスカイトはn型であってもよいしp型であってもよく、あるいは、真性半導体であってもよい。好適な実施形態において、使用されるペロブスカイトは、光ドープされたときにn型の電子輸送半導体として作用するものである。ペロブスカイト材料は、両極性の電荷輸送を示すことができ、故に、n型半導体及びp型半導体のどちらとしても機能し得る。特に、ペロブスカイトは、ペロブスカイトと隣接材料との間に形成されるジャンクションの型に応じて、n型半導体及びp型半導体のどちらとしても機能し得る。典型的に、本発明で使用されるペロブスカイト半導体は、光増感材料、すなわち、光生成及び電荷輸送の双方を実行することができる材料である。
【0027】
ここで使用される用語“金属酸窒化物”は、式Mを持つ材料を表す。x及びy、並びに濃度比x/y(原子パーセントでの酸素の濃度xと窒素の濃度yとの比として表現され、O/N比としても参照される)を、層の堆積厚さに応じて好適に調整することで、金属酸窒化物層の所望の導電率と光透過率及び反射率とをバランスさせ得る。金属Mは好ましくは、例えば周期表の4族から6族からの金属といった早期遷移金属である。早期遷移金属酸窒化物(M)は、大きい自由キャリア濃度を持つ非化学量論的な侵入型化合物を形成することが知られている。金属酸窒化物の式は好ましくは、nを1又は2とするMである。金属窒化物の、対応するそれらの酸化物に対する利点は、単純な製造方法(それらは全てスパッタリングによって堆積されることができる)を含み、Nの導入は屈折率(RI)の最適化を可能にする。これらの点は、これらの材料を、多接合型光起電デバイスの中間層応用に非常に望ましいものにする。微調整を可能にすることができる系は、最高効率を達成するための利点となる。
【0028】
金属酸窒化物に好適な金属は、Ti、W、Mo、Hf、Ta、Nb、Zr、Cr、及びVであり、これらは以下の酸窒化物を形成する:Ti、W、Mo、Hf、Ta、Nb、Zr、Cr、V。これらの酸窒化物についての対応する金属酸化物のRIを下の表に示す。そして、Nの使用は、本発明での使用に適したものとなるようにRIを更に微調整することができる。この表で与えられる酸化物は単に例示的なものであり、本発明はこれらに限定されない。
【表1】
【0029】
上の表に示した金属酸化物での範囲はおおよそ1.8-2.5である。これらは、本発明での使用に適したものとなるように窒素含有量で更に調整可能であり、金属酸窒化物での好適屈折率は2.39-2.9の間である。
【0030】
最も好適な金属はチタンである。用語“酸窒化チタン”は、ここで使用されるとき、式TiOを持つ材料を表す。x及びy、並びに濃度比x/y(原子パーセントでの酸素の濃度xと窒素の濃度yとの比として表現され、O/N比としても参照される)を、層の堆積厚さに応じて好適に調整することで、酸窒化チタン層の所望の導電率と光透過率及び反射率とをバランスさせ得る。この観点から、xが0.60から0.95の範囲内であり、且つyが0.10から1.2の範囲内であることが好ましい。加えて、あるいは代わりに、0.4から5の範囲内の比x/yが好ましく、0.6から4.5の範囲内の比x/yが特に好ましい。下で第2の実施形態に関連して説明するように、TiO膜のO/N比及び特性は、堆積条件を好適に調整することにより、直接的なやり方で制御され得る。上述したように、酸窒化チタン層の堆積は、物理気相成長(PVD)法(例えばスパッタリングなど)によって行われることができ、故に、既知の相互接続層の調製に使用されるPECVD法と比較して、あまり複雑でない設備を必要とするだけであるとともに、より高い速度での堆積を可能にする。
【0031】
一般に、ペロブスカイト材料層の屈折率と第2のサブセルが基づく材料の屈折率との間の屈折率nを持つように金属(例えばチタン)酸窒化物の層を適応させることが好ましい。また、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に追加の中間層が使用される場合、反射損失を最小限に抑えるために、各層の屈折率を光路方向に増加していくように適応させることが好ましい。好適実施形態において、酸窒化チタンの層は、2.3から3.7の範囲内、更に好ましくは2.3から3.2の範囲内、特に好ましくは例えば2.4から2.8などの2.3と2.9との間の屈折率を持つように適応され、与えられた値は典型的に、600nmの波長を持つ光に関して測定されるものである。好適実施形態において、酸窒化チタンの層は15nmと300nmとの間、更に好ましくは20nmと200nmとの間、そして特に好ましくは40nmと160nmとの間の厚さを持つ。上の範囲に従って酸窒化チタン層の光学厚さ及び屈折率を調整することにより、反射率を効果的に低下させ得る。
【0032】
本発明の好適実施形態において、第1のサブセルはまた、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層の一方の表面上のn型半導体層と、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層の他方の表面(すなわち、n型半導体層とは反対側の表面)上のp型半導体層とを含む。
【0033】
用語“n型”は、ここで使用されるとき、正孔よりも電子の濃度が高い外因性半導体を有する領域、層、又は材料を指す。同様に、用語“n型半導体層”は、電子輸送(すなわち、n型)半導電性材料の層を指す。当該材料は、単一の電子輸送半導体化合物又は元素材料、又は2つ以上の電子輸送半導体化合物又は元素材料の混合物であり得る。電子輸送半導体化合物又は元素材料は、ドープされないこともあれば、1つ以上のドーパント元素でドープされることもある。以下に限られないが、n型半導電性材料の例は、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ガリウム、ネオジム、パラジウム、カドミウムの酸化物、若しくはこれらの金属のうち2つ以上の混合物の酸化物、カドミウム、スズ、銅、亜鉛の硫化物、若しくはこれらの金属のうちの2つ以上の混合物の硫化物、カドミウム、亜鉛、インジウム、ガリウムのセレン化物、若しくはこれらの金属のうちの2つ以上の混合物のセレン化物、又は、カドミウム、亜鉛、カドミウム、スズのテルル化物、若しくはこれらの金属のうちの2つ以上の混合物のテルル化物、から選択される無機材料を含む。更なる例は、例えば、フラーレン若しくはフラーレン誘導体、ペリレン若しくはその誘導体を有する有機電子輸送材料、又はポリ{[N,N 0-ビス(2-オクチルドデシル)-ナフタレン-1,4,5,8-ビス(ジカルボキシミド)-2,6-ジイル]-alt-5,50-(2,20-ビチオフェン)}(P(NDI2OD-T2))などの、有機及び高分子の電子輸送材料並びに電解質を含む。
【0034】
用語“p型”は、ここで使用されるとき、電子よりも正孔の濃度が高い外因性半導体を有する領域、層、又は材料を指す。用語“p型半導体層”は、正孔輸送(すなわち、p型)半導電性材料の層を指す。正孔輸送(すなわち、p型)半導電性材料は、単一の正孔輸送半導電性化合物又は元素材料、又は2つ以上の正孔輸送半導電性化合物又は元素材料の混合物であるとし得る。正孔輸送半導電性化合物又は元素材料は、ドープされないこともあれば、1つ以上のドーパント元素でドープされることもある。本発明のオプトエレクトロニックデバイスで使用されるp型層は、無機又は有機のp型材料を有し得る。以下に限られないが、p型半導電性材料の例は、高分子又は分子正孔輸送体(例えば、spiro-OMeTAD(2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)9,9’-スピロビフルオレン))、P3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン))、PCPDTBT(ポリ[2,1,3-ベンゾチアジアゾール-4,7-ジイル[4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2、1-b:3、4-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル]])、PVK(ポリ(N-ビニルカルバゾール))、HTM-TFSI(1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)、Li-TFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)若しくはtBP(tert-ブチルピリジン)、分子正孔輸送化合物、高分子正孔輸送化合物及び共重合体正孔輸送化合物(例えば、チオフェニル、フェネレニル、ジチアゾリル、ベンゾチアゾリル、ジケトピロロピロリル、エトキシジチオフェニル、アミノ、トリフェニルアミノ、カルボゾリル、エチレンジオキシチオフェニル、ジオキシチオフェニル、又はフルオレニルのうち1つ以上を有する重合体又は共重合体)、m-MTDATA(4,4’,4”-トリス(メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、MeOTPD(N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-ベンジジン)、BP2T(5,5’-ジ(ビフェニル-4-イル)-2,2’-ビチオフェン)、Di-NPB(N,N’-ジ-[(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル]-1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン)、α-NPB(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン)、TNATA(4,4’,4”-トリス-(N-(ナフチレン-2-イル)-N-フェニルアミン)トリフェニルアミン)、BPAPF(9,9-ビス[4-(N,N-ビス-ビフェニル-4-イル-アミノ)フェニル]-9H-フルオレン)、spiro-NPB(N2,N7-Di-1-ナフタレニル-N2,N7-ジフェニル-9,9’-スピロビ[9H-フルオレン]-2,7-ジアミン)、4P-TPD(4,4’-ビス-(N,N-ジフェニルアミノ)-テトラフェニル)、PEDOT:PSS、spiro-OMeTAD、無機正孔輸送化合物(例えば、ニッケル、バナジウム、銅若しくはモリブデンの酸化物、CuI、CuBr、CuSCN、CuO、CuO若しくはCIS、ペロブスカイト、アモルファスSi、p型IV族半導体、p型III-V族半導体、p型II-VI族半導体、p型I-VII族半導体、p型IV-VI族半導体、p型V-VI族半導体、及びp型II-V族半導体)を含む。無機及び有機のどちらのp型半導電性材料も、ドープされないこともあれば、当該技術分野で知られたドーパントでドープされることもある。
【0035】
第1の光起電サブセルは通常構造を有することができ、ペロブスカイト光吸収体材料を有する第1のサブセルは、n型領域が第2のサブセルに隣接するように配置される。そして、光起電デバイスは好ましくは、第1のサブセルのp型領域を通して照射されるように構成される。
【0036】
あるいは、第1の光起電サブセルは反転構造を有してもよく、ペロブスカイト光吸収体材料を有する第1のサブセルは、p型領域が第2のサブセルに隣接するように配置される。そして、光起電デバイスは好ましくは、第1のサブセルのn型領域を通して照射されるように構成される。
【0037】
このような構成では、金属(例えばチタン)酸窒化物の層が、第2のサブセルに近い方の半導体層、すなわち、多接合型デバイスの構成が通常である場合のp型半導体層又は多接合型デバイスの構成が反転される場合のn型半導体層、に隣接且つ接触することが更に好ましいとし得る。
【0038】
他の好適な一構成において、第1のサブセルのn型又はp型半導体層のうちの一方が、光透過性導電性酸化物層の主表面と隣接且つ接触し、光透過性導電性酸化物層の反対側の主表面が酸窒化チタン層と隣接且つ接触する。このような構成において、光透過性導電性酸化物層は有利には、第1のサブセルの堆積中に酸窒化チタン層を保護するのに作用し得る。光透過性導電性酸化物層に使用される材料は、当技術分野において知られた透明及び半透明の導電性酸化物(TCO)から選択され得る。典型的に、透明材料は、光に対して約100%又は90から100%の平均透過率を持ち、半透明材料は典型的に、光に対して10から90%、典型的には40から60%の平均透過率を持つ。それらの例として、ITO(インジウムスズ酸化物)、FTO(フッ素ドープされたスズ酸化物)、又はAZO(アルミニウムドープされたスズ酸化物)が挙げられ得る。光透過性導電性酸化物層は好ましくは、1nmから25nm、好ましくは5nmから22nm、より好ましくは10nmから20nmの厚さを持つ。しかしながら、留意されたいことには、光透過性導電性酸化物層は本質的に必要とされるものではなく、省略されてもよく、それは製造方法を更に単純にし、コストを低減させ得る。この文脈では、第1のサブセルと第2のサブセル層との間の金属(例えばチタン)酸窒化物層に加えて透明導電性酸化物の層が設けられない方が好ましいとし得る。
【0039】
好適実施形態において、第2のサブセルはシリコンサブセルである。それは好ましくは、結晶シリコン光吸収体材料の層を有する。より好ましくは、第2のサブセルはシリコンヘテロ接合(silicon heterojunction;SHJ)を有する。あるいは、第2のサブセルは、他の形態のシリコン系サブセル(例えば、拡散シリコン接合を含む)を有してもよい。
【0040】
用語“シリコンヘテロ接合”は、光活性吸収体としての結晶シリコン(c-Si)ウエハと、ジャンクション形成及び表面パッシベーションのためのアモルファスシリコン(a-Si)薄膜とを使用するアモルファスシリコン/結晶シリコンのヘテロ接合を指す。従って、好適実施形態において、第2のサブセルは、2つのアンドープのアモルファスシリコンの間に挟まれた結晶シリコンの層を有する。
【0041】
パッシベーション/バッファ層として真性アモルファスシリコン(a-Si)の薄層が存在するとき、シリコンヘテロ接合(SHJ)は、真性薄層を持つヘテロ接合(heterojunction with intrinsic thin layer;HIT)として参照されることもある。従って、シリコンヘテロ接合(SHJ)は典型的に、p型a-Siエミッタと、真性a-Siパッシベーション/バッファ層と、n型c-Si光活性吸収体と、別の真性a-Siパッシベーション/バッファ層と、n型a-Siからなる裏面又は前面フィールド(back-又はfront-surface field;BSF又はFSF)層とを有する。オプションで、シリコンヘテロ接合(SHJ)は更に、裏面フィールド(BSF)層と裏面電極との間に透明導電性酸化物(TCO)(例えば、ITO)の層を有することができ、これは、裏面における内部反射率を高めることによって赤外線応答の最大化を促進し得る。SHJセルは、p側又はn側のどちらを通してでも照射されることができる。後者の場合、バックジャンクション太陽電池と称され得る。従って、SHJセルは、通常の又は反転されたペロブスカイトセルと組み合わせて、タンデムセルを形成することができる。
【0042】
好適実施形態において、アンドープのアモルファスシリコンの層と金属(例えばチタン)酸窒化物の層との間に、ドープされたナノ結晶シリコンを有する相互接続層(すなわち、nc-Si:H層)が設けられ得る。
【0043】
本発明に従った多接合型光起電デバイスの好適な一構成は、次の順序で、
a)前面電極、
b)ペロブスカイト光吸収体を有する層を持ち、ペロブスカイト光吸収体を有する層の一方の表面上のn型半導体層と、ペロブスカイト光吸収体を有する層の他方の表面上のp型半導体層とを有したサブセルを有する第1のサブセル、
c)オプションの光透過性導電性酸化物層、
d)金属酸窒化物層、
e)ドープされたアモルファスシリコン層、
f)第1及び第2のアンドープのアモルファスシリコン層の間の結晶シリコン光吸収体材料の層を有する第2のサブセル、及び
g)裏面電極、
を有する。
【0044】
第2のサブセル(すなわち、ボトムセル)にそのようなシリコンヘテロ接合を用いる好適デバイス構成の具体例を図2及び図3に示す。
【0045】
図2は、ペロブスカイト材料を有する光活性領域を有した第1/トップサブセル210を有するモノリシック集積多接合型光起電デバイス200を概略的に示しており、第2/ボトムサブセル220は光活性シリコン吸収体を有している。多接合型光起電デバイス200は、モノリシックに集積された構造を持ち、故に、前面電極201と裏面電極202の2つの電極のみを有し、これら2つの電極間に第1のサブセル210と第2のサブセル220が配置されている。特に、第1のサブセル210が前面電極201と接触し、第2のサブセル220が裏面電極202と接触する。モノリシック集積多接合型光起電デバイスはまた、典型的に、前面電極201の頂面上にトップコンタクトとしての金属グリッド(図示せず)を有し得る。例えば、トップコンタクト上に、銀及び/又は銅ペーストのスクリーン印刷によって作製された金属グリッド又はフィンガーが設けられ得る。図2の例において、第1のサブセル210は反転構造を有している。具体的には、第1のサブセル210は、p型半導体層213が第2のサブセル220に隣接するように配置されている。そして、光起電デバイス200は、第1のサブセル210のn型半導体層212を通して照射されるように構成されている。ペロブスカイト層211によって形成される光活性領域は、p型半導体層213とn型半導体層212との間に配置される。図2の第2のサブセル(ボトムセル)220は、真性a-Si(すなわち、a-Si(i))パッシベーション/バッファ層として機能するものである第1のアンドープのアモルファスシリコン層222と第2のアンドープのアモルファスシリコン層224との間に挟まれた、このケースではn型c-Si光活性吸収体である結晶シリコン層221を備えた、シリコンヘテロ接合(SHJ)を有している。第2のアンドープのアモルファスシリコン層224の下に、裏面電極202に隣接してp型アモルファスシリコン(a-Si)層225が形成される。第1のサブセル210と第2のサブセル220との間に本質的に酸窒化チタン層203が設けられる。図2の好適実施形態に更に示すように、第2のサブセル220と酸窒化チタン層203との間に、ドープされた(すなわち、nドープされた)アモルファスシリコン層205が設けられ、これは、第1のアンドープのアモルファスシリコン層222(すなわち、a-Si(i)層)へのスパッタダメージを防止する役割を果たすとともに、第2のサブセル220に良好な電子選択的コンタクトを提供する。さらに、図2の構造は、第1のサブセル210のp型領域と酸窒化チタン層203との間に、ITO又はそれに類するもので形成され得るものである光透過性導電性酸化物(TCO)層204を有している。TCO層204は、第1のサブセル210のn型領域の堆積前にスタックを酸化から保護し得る。しかしながら、理解されることには、光透過性導電性酸化物層204及びドープされたアモルファスシリコン層205の存在はオプションである。
【0046】
上述したように、本発明に従った多接合型デバイスは、通常構成及び反転構成のどちらも含み得る。通常構造の一例が図3に示されている。それに示された多接合型光起電デバイス300は、前面電極301及び裏面電極302を有し、これら2つの電極間に第1のサブセル310と第2のサブセル320が配置されている。特に、第1のサブセル310が前面電極301と接触し、第2のサブセル320が裏面電極302と接触する。第1のサブセル310は、n型半導体層312が第2のサブセル320に隣接するように配置されている。そして、光起電デバイス300は、第1のサブセル310のp型半導体層313を通して照射されるように構成されている。ペロブスカイト層311によって形成される光活性領域は、p型半導体層313とn型半導体層312との間に配置される。図3の第2のサブセル(ボトムセル)320は、パッシベーション/バッファ層として機能するものである第1のアンドープのアモルファスシリコン層322と第2のアンドープのアモルファスシリコン層324との間に挟まれた結晶シリコン層321を備えたシリコンヘテロ接合(SHJ)を有している。第2のアンドープのアモルファスシリコン層324の下に、裏面電極302に隣接してn型アモルファスシリコン(a-Si)層325が形成される。さらに、第1のアンドープのアモルファスシリコン層322(すなわち、a-Si(i)層)の保護のために、第2のサブセル320と金属酸窒化物層303との間に、ドープされた(すなわち、pドープされた)アモルファスシリコン層305が設けられている。
【0047】
一般に、理解されることには、第1及び第2のサブセルの具体的な構成は特に限定されず、それらは各々、複数のサブレイヤと、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に設けられた1つ以上の中間層とを有し得る。さらに、留意されたいことには、モノリシック集積多接合型光起電デバイスは、個々のサブセルが単一対の端子間で直列に電気接続される限り、3つ以上のサブセルを含んでもよい。トリプルサブセル構造の例は、以下に限られないが、ペロブスカイト材料を含有する光活性領域を有したトップサブセル(第2のサブセル)と、シリコンヘテロ接合(SHJ)を有したミドルサブセル(第1のサブセル)と、ペロブスカイト材料を含有する光活性領域を有したボトムサブセルと、を有する両面モノリシック集積多接合型光起電デバイスを含む。
【0048】
また、当業者が理解することには、例示した本発明の実施形態は全て、トップペロブスカイトサブセルが平面状のヘテロ接合構成を有し、開放多孔性を持たないp型材料及びn型材料の層間にペロブスカイトの緻密層が設けられるように図示された多接合構造を持つ光起電デバイスに関するものであるが、ここに記載した相互接続層は、トップペロブスカイトサブセルが他の構成を持つ多接合型光起電デバイスにも等しく適用可能である。例えば、トップペロブスカイトサブセルが、半導電性又は誘電性の材料の多孔質骨格を有していて、その上に薄層又はキャッピング層のいずれかとしてペロブスカイト材料が設けられてもよい。更なる例として、正孔輸送材料なしでも動作する光活性ペロブスカイトを有する光起電デバイスを形成し得ることが示されているので、トップペロブスカイトサブセルは1つのみの電荷輸送領域を有していてもよい。
【0049】
製造方法
第2の実施形態において、本発明は、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持つ第1のサブセルと、第2のサブセルと、を有する多接合型光起電デバイスを製造する方法に関し、当該方法は、第1のサブセルと第2のサブセルとの間に金属(例えば、チタン)酸窒化物層を堆積させる工程を有する。好適実施形態において、多接合型光起電デバイスは、上の第1の実施形態に関して説明したデバイスである。
【0050】
より具体的には、当該方法は、裏面電極の上にボトムサブセル(すなわち、第2のサブセル)を設ける工程と、ボトムサブセルの上に金属(例えばチタン)酸窒化物層を堆積させる工程と、金属(例えばチタン)酸窒化物層の上に、ペロブスカイト光吸収体材料を有する層を持つトップサブセル(すなわち、第1のサブセル)を設ける工程と、トップサブセルの上に前面電極を設ける工程とを有し得る。
【0051】
理解されることには、第1及び第2のサブセル、並びに前面及び裏面電極を設ける工程は特に限定されず、(サブ)レイヤの各々の性質に応じて、様々な技術から当業者によって適切に選択され得る。典型的な技術は、以下に限られないが、溶液堆積技術(例えば、スクリーン印刷、ドクターブレーディング、スロット染料コーティング、スピンコーティングなどによって)、ゾル-ゲル法、気相堆積(例えば、物理気相成長(PVD)、プラズマ化学気相成長(PECVD))、スパッタ堆積、パルスレーザ堆積、真空蒸着、電気めっき、又はこれらに類するものを含む。しかしながら、単純さ及び設備コストの観点から、本発明の利点を十分に活用するためにはPECVD法を避けることが好ましいとし得る。
【0052】
本発明の好適実施形態において、金属(例えばチタン)酸窒化物層は、物理気相成長(PVD)法によって堆積され、好ましくはスパッタ堆積によって堆積され、特に好ましくは、複雑な設備を必要とせず且つ一貫した結果で迅速な堆積を可能にするものであるマグネトロンスパッタリングによって堆積される。
【0053】
更なる好適実施形態において、マグネトロンスパッタリングシステムを用いることにより、窒化チタン(TiN)ターゲットとAr/O混合ガスを用いてTiO層を堆積させることができ、これは、単に酸素の流量を変えることによってTiO薄膜の光学及び電気特性の微調整を可能にする。スパッタリングのパワー、周波数及びベース圧力は特に限定されず、当業者によって適切に調整され得る。好適な光学及び電気特性を持つTiO層を提供するようにマグネトロンスパッタリング条件を調整する例示的な方法が、F.Chen他のOptical Materials Express 2014,4(9),1833-1847に開示されている。
【0054】
スパッタリング技術の使用により、各値が酸窒化チタン層の平均厚さを指すとして、例えば0.6nm/s以上又は0.8nm/s以上など、0.4nm/s以上の酸窒化チタン層の堆積速度が達成され得る。従って、当技術分野で使用されている特殊なPECVD技術と比較してかなり高い速度で中間層が堆積され得る。
【0055】
理解されることには、第1及び第2の実施形態の好ましい特徴は、それらの特徴のうち少なくとも一部が相互に排他的であるような組み合わせを除いて、任意の組み合わせで自由に組み合わされ得る。
【0056】
以上の開示を所与として、数多くの他の特徴、変更、及び改良が当業者に明らかになる。
【0057】
実施例
本発明を、以下の実施例によって説明する。
【0058】
実施例1:
ペロブスカイト/シリコンタンデム型太陽電池のソーラー・ツー・電気(solar-to-electricity)での電力変換効率(power conversion efficiency;PCE)は、中間層の材料の屈折率nILがペロブスカイト材料の屈折率とシリコン材料の屈折率との間にある(nPVSK<nIL<nSilicon)場合に、2つの吸収体層の間に中間層を配置することによって高められることができる。そうすることにより、そのような層は、2つの吸収体の間の界面領域で発生する赤外光の反射を減らすことができる。この有益な効果を最大化するために、中間層は800nm波長で約2.7の屈折率(nIL,800=2.7)を持つとともに約100nmの厚さを持つべきである。斯くして、中間層の上界面に突き当たる光と下界面に突き当たる光との間での干渉効果が最も効率的に利用される。そのような中間層として非常に効率的に、ドープされたナノ結晶シリコン酸化物(nc-SiOx)を使用できることが例証されている。何故なら、それは、例えば追加の直列抵抗損失などによる電気的性能の劣化なしで、光学効果を活用するオプトエレクトロニクス特性で製造されることができるからである。しかしながら、nc-SiOxの複雑な製造方法(PECVD)及び比較的遅い堆積速度が、もっと容易に生産することができる代替材料の探索の動機付けとなっている。上述の発明に従って、スパッタTiO中間層を備えたペロブスカイト/シリコンタンデムセルを製造した。結果が現下で示すことには、最良の膜は800nm波長で~2.4の屈折率n800を持つ(TiOで達成可能な最大屈折率は、~2.5のn800である)。この低めの最大屈折率に起因して、先行技術のnc-SiOxと比較して僅かに低い光学的増強が予期される。
【0059】
方法
固有の光学中間層を持たないシリコンヘテロ接合(SHJ)の参照(対照)群と並行して製造したSHJ太陽電池の群の上に、100nmの厚さのTiO層を堆積させた。SHJセル製造及びTiO堆積は、Chen他の“Control of optical properties of TiNxOy films and application for high performance solar selective absorbing coatings”, Vol.4,9,1833-1847,(2014)での方法に従って実行した。電気コンタクトに伴う問題を避けるために、上記層を20nm厚さのTCO層同士の間に挟んだ。そのデバイススタックを図7に示す。追加のTCO層は、その薄い厚さにより、光学的に比較的小さい影響のみを持つ。
【0060】
ペロブスカイトトップセルを、Al-Ashouri他の“Monolithic perovskite/silicon tandem solar cell with >29% efficiency by enhanced hole extraction”,Vol.370,6522,1300-1309,(2020)に記載されている最新の方法に従って堆積させた。そして、タンデムセルを、AM1.5G標準太陽スペクトルを適切に模擬するように注意を払っての照明下での電流-電圧(IV)測定によって特徴付けた(代表的なIV測定結果を図8に示す)。さらに、各サブセルを独立に測定するためのバイアス光を用いて外部量子効率測定を行った。光学シミュレーションを行った。膜の光学特性を分光偏光解析法により測定した(抽出された屈折率及び吸収若しくは吸光係数“nk”の例を図9に示す)。転送行列法を用いて光学シミュレーションを行った。光学シミュレーションの結果は裏付け情報(図10及び図11参照)に示されている。
【0061】
結果と考察
図4は、“中間層なし分割”からの3つと、“TiO分割”からの3つとの、合計6つのタンデムセルについての、IV特性:電力変換効率(PCE)、短絡電流密度(JSC)、開回路電圧(VOC)、及びフィルファクタ(FF)の変化(デルタ)を示している。これらの結果は、差を示すために、これら4つのパラメータの各々についての“中間層なし分割”での平均値に対して正規化したものである。
【0062】
図4には、各分布のボックスプロットも示されている。PCEはTiO分割では平均で僅かに低いく、これの理由は平均FFの変化である。一方、Jscの平均が増加することを観察することができる。+0.2から+0.3mA/cmのデルタJscは、つまりは+1.8mA/cmの利得を観察できるMazzarella他の“Infrared Light Management Using a Nanocrystalline Silicon Oxide Interlayer in Monolithic Perovskite/Silicon Heterojunction Tandem Solar Cells with Efficiency above 25%”,Advanced Energy Materials,Vol.9,14,(2019)である別のnc-SiOxリファレンスにおいてよりもかなり低い(図11とも比較されたい)。さらに、平均Vocが僅かに上昇する。
【0063】
図5は、各分割からの2つの代表的なセルの、測定された量子効率を示している。シリコンボトムセルのEQEに干渉効果が見えることがわかる。このような干渉効果は、界面領域で反射される光によって引き起こされることが示されている(Mazzarella他のAdvanced Energy Materials,Vol. 9,Issue 14,2019年4月11日)。さらに、中間層を持つセルのEQEでは干渉縞の振幅が減少することがわかる。この実験的に観測されたEQEカーブを、シミュレーションしたEQE(図10)を比較すると、干渉縞の振幅が小さくなるという同様の挙動が観察される。干渉縞の最大及び最小の位置は完全に同じ位置にあるのでないが、これは、実験とシミュレーションとで僅かに異なるペロブスカイト吸収体厚さに起因していそうである。
【0064】
図6は、中間層なしの3つのセル及びTiO中間層ありの3つのセルのそれぞれについて、EQEカーブ及びAM1.5G標準太陽スペクトルから計算したペロブスカイトサブセル及びシリコンサブセルのJsc値を示している。ボトムセルはTiO中間層から約0.3mA/cmの利益を得ることがわかる。この利得は理論的に予測されるほど高くはない(図11と比較されたい)。これは、セル上での屈折率が、ガラス基板上で測定されるものと比較して幾分異なるためであり得る。あるいは、シミュレーションから省略した追加のコンタクト層が、当初予想したよりも大きい影響を持つのかもしれない。
【0065】
さらに、図6にて見てとれることには、全てのケースにおいてペロブスカイトサブセルのJsc値の方がシリコンサブセルのものよりも大きい。タンデムデバイスのJscは、(モノリシック直列接続のために)より低い電流密度のセルのJscによって制限されるので、図4に見えるJscの利得は、制限する側のサブセルにおけるJscの増加によって説明することができる。従って、EQEとIVの測定結果はよく一致していると推測することができる。幾分驚くのはペロブスカイトサブセルのJscの減少である。トップセルに反射され返す光が少ないので、シミュレーションに基づいて小さい変化を予期することができる。しかしながら、この変化の大きさは、シリコンボトムサブセルにおける利得よりも遥かに小さいはずである。4つのJsc群の中で、“中間層なし”のペロブスカイトサブセルJsc群における変動が最大であるので、この予想外の大きい低下は、例えば測定誤差又はトップセルプロセスのうちの1つにおけるプロセスバラつきなどの、実験とは無関係の何かによって引き起こされているのかもしれない。図5に見える400nm波長付近のトップセルEQEにおける差は、理論予測(図10と比較されたい)では見えていないので、この仮説を支持している。400nm波長の光は中間層を“見る”べきでなく、トップセルによって完全に吸収されるべきである。
【0066】
まとめ
まとめるに、タンデムセルに関する以上の結果は、TiO中間層を用いることで、スペクトルの赤外域で発生するペロブスカイト/シリコンタンデムセルの反射損失を0.3mA/cm相当だけ低減させることができるという理論予測を裏付けている。
【符号の説明】
【0067】
100/200/300: モノリシック多接合型光起電デバイス
110/210/310: 第1のサブセル
120/220/320: 第2のサブセル
101/201/301: 前面電極
102/202/302: 裏面電極
103/203/303: 金属(例えばチタン)酸窒化物層
204: 光透過性導電性酸化物層
205: ドープされたアモルファスシリコン層(n型)
305: ドープされたアモルファスシリコン層(p型)
211: ペロブスカイト層
212/312: n型半導体層
213/313: p型半導体層
221/321: 結晶シリコン層
222/322: 第1のアンドープのアモルファスシリコン層
224/324: 第2のアンドープのアモルファスシリコン層
225: ドープされたアモルファスシリコン層(p型)
325: ドープされたアモルファスシリコン層(n型)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】