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特表2023-531430ヒートパイプ、熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】ヒートパイプ、熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/06 20060101AFI20230714BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20230714BHJP
   F28F 27/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
F28D15/06 Z
F28D15/02 104Z
F28D15/02 102Z
F28F27/00 511E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577654
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2021066424
(87)【国際公開番号】W WO2021255176
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】20180665.0
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595014653
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツール フエルデルング デア アンゲヴァンテン フォルシュング エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】クルーゲ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】クラーデ,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】エーベルル,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィッシャーホフ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】バルトロメ,キリアン
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー‐ヴェルゼン,オラフ
(72)【発明者】
【氏名】トゥトゥス,ムラト
(72)【発明者】
【氏名】クルス,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】タイヒト,クリスチャン
(57)【要約】
本発明は、熱源と作動接続している少なくとも一つの蒸発領域(3)と、ヒートシンクと作動接続している少なくとも一つの凝縮領域(4)とを有する少なくとも一つの作業室(2)を有するヒートパイプ(1)に関し、作業室(2)内には作動流体(5)が設けられ、第一の駆動状態において作動流体(5)によって熱源からヒートシンクに対して熱が輸送される。重要なのは、少なくとも一つの活性化可能な機能材料が設けられ、当該機能材料が第二の駆動状態において蒸発領域を作動流体がない状態に保持するおよび/または作動流体が蒸発するのを防止することで熱輸送を低減するおよび/または防止するおよび/または熱伝導優先方向を変更するように配置されて構成されていることによりヒートパイプが切換可能および/またはプログラミング可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして構成されていることである。本発明はさらにヒートパイプにおける熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするためのシステムおよび方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と作動接続している少なくとも一つの蒸発領域(3)と、ヒートシンクと作動接続している少なくとも一つの凝縮領域(4)とを有する少なくとも一つの作業室(2)を有するヒートパイプ(1)であって、前記作業室(2)内には作動流体(5)が設けられ、第一の駆動状態において前記作動流体(5)によって前記熱源から前記ヒートシンクに対して熱が輸送されるヒートパイプにおいて、
少なくとも一つの活性化可能な機能材料が設けられ、当該機能材料が第二の駆動状態において前記蒸発領域(3)を前記作動流体(5)がない状態に保持するおよび/または前記作動流体(5)が蒸発するのを防止することで熱輸送を低減するおよび/または防止するおよび/または前記熱輸送の熱伝導優先方向を変更するように配置されて構成されていることにより、前記ヒートパイプ(1)が切換可能および/またはプログラミング可能な熱ダイオードまたは切換可能および/またはプログラミング可能な熱スイッチとして構成されていることを特徴とするヒートパイプ。
【請求項2】
前記ヒートパイプ(1)は、前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料が外場において少なくとも部分的に自身の特性を変化させるように構成されていることによって切換可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記ヒートパイプ(1)は、前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料が前記作業室(2)内の条件、特に温度、前記作動流体(5)のpH値および/または前記作動流体(5)のイオン強度に応じて自身の特性を変化させるように構成されていることによってプログラミング可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記作業室(2)は、閉鎖体積として形成されており、当該閉鎖体積は、蒸発した前記作動流体(5)の対流によって熱輸送が実施されて凝縮された前記作動流体(5)の戻り輸送が実施されるように形成され、特に前記閉鎖体積が耐圧システムとして、好ましくは前記耐圧システムから実質的に前記作動流体(5)以外の全ての外部ガスが除去されるように形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記ヒートパイプ(1)には、前記作動流体(5)のための流体回路が形成され、好ましくは前記流体回路が前記凝縮領域(4)から前記蒸発領域(3)への凝縮された前記作動流体(5)の戻り輸送のための流体戻り部を含んでなることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記閉鎖体積は、前記蒸発領域(3)において疎流体性コーティング(6)および/または構造を、さらに/または前記凝縮領域(4)において親流体性コーティング(6)および/または構造を有し、
特に前記閉鎖体積は、前記蒸発領域(3)において親水性コーティング(6)および/または構造を、さらに/または前記凝縮領域(4)において疎水性コーティング(6)および/または構造を有し、または、前記閉鎖体積は、前記蒸発領域(3)において親油性コーティング(6)および/または構造を、さらに/または前記凝縮領域(4)において疎油性コーティング(6)および/または構造を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載のヒートパイプ。
【請求項7】
前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料は、前記蒸発領域(3)および/または前記凝縮領域(4)の切換可能なコーティングの形で形成され、このことは少なくとも前記蒸発領域(3)の前記コーティングの表面特性が親流体性から疎流体性に変更可能であることによって得られることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載のヒートパイプ。
【請求項8】
前記切換可能なコーティング(6)は、ORMOCER(登録商標)としておよび/またはORMOCER(登録商標)を用いて形成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載のヒートパイプ。
【請求項9】
前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料は、前記作動流体(5)のための貯蔵器の形、特に液体貯蔵器の形に形成されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載のヒートパイプ。
【請求項10】
前記作動流体(5)のための前記貯蔵器は、ゲル、特にポリマーゲル、吸着剤またはメゾスコピック構造の表面として形成されることを特徴とする、請求項9に記載のヒートパイプ。
【請求項11】
前記作動流体(5)のための前記貯蔵器は、温度によって引き起こされる体積相転移を有するポリマーゲル、特にUCST型体積相転移を有するポリマーゲルまたはLCST型体積相転移を有するポリマーゲルとして形成されていることを特徴とする、請求項9または10に記載のヒートパイプ。
【請求項12】
前記活性化可能な機能材料の特性を変更するために場を印加するための手段が設けられていることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一つに記載のヒートパイプを含んでなるシステム。
【請求項13】
前記場を印加するための手段として電場、磁場、応力ひずみ場、光、特に紫外光の生成のため、熱の生成のためおよび/または冷気の生成のための場生成装置が設けられていることを特徴とする、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記システムには、二つの機能材料の組み合わせが形成されており、両機能材料のうち一方は請求項9から11のうちいずれか一つの記載の液体貯蔵器として形成され、他方の機能材料は、好ましくは光、特に紫外光の影響下で自身の親流体性/疎流体性の特性を変化させることが可能なORMOCER(登録商標)として形成されていることを特徴とする、請求項12または13に記載のシステム。
【請求項15】
少なくとも一つの蒸発領域(3)と少なくとも一つの凝縮領域(4)とを有する少なくとも一つの作業室(2)と作動流体(5)とを有するヒートパイプにおける熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするための方法であって、
前記蒸発領域(3)において前記作動流体(5)を蒸発させることで気相の前記作動流体(5)によって前記蒸発領域(3)から前記凝縮領域(4)に熱が輸送されるステップAと、
前記凝縮領域(4)において前記作動流体(5)を凝縮させることで前記熱がヒートシンクに放出されるステップBとを含む方法において、
前記ヒートパイプ(1)は、外場の印加および/または前記作業室(2)内の条件に応じて熱伝導性を変更することにより熱ダイオードまたは熱スイッチとして駆動されることを特徴とする方法。
【請求項16】
前記熱ダイオードまたは前記熱スイッチの前記熱伝導性は、前記蒸発領域(3)を前記作動流体(5)がない状態に保持するおよび/または前記作動流体(5)が蒸発するのを防止することによって変更されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
外場を印加することおよび/または前記作業室(2)内の条件に応じて前記蒸発領域(3)および前記凝縮領域(4)の表面特性が交換されることによって前記熱ダイオードの熱伝導優先方向が反転されることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念によるヒートパイプ、請求項12によるヒートパイプを有するシステムおよび請求項15の上位概念によるヒートパイプにおける熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートパイプは、公知であるように蒸発熱を介した熱輸送によって高い熱流束密度を可能にする。一般的にヒートパイプは、高温側、すなわち熱源と、低温側、すなわちヒートシンクとを有する。前記ヒートパイプの中には作動流体が設けられており、当該作動流体は前記熱源の領域において蒸発されて前記ヒートシンクの領域において凝縮される。前記作動流体の輸送と凝縮潜熱および蒸発潜熱とによる伝達により前記熱輸送が実施される。
【0003】
公知であるヒートパイプは、熱流に関する優先方向を有する、すなわち当該ヒートパイプは、熱ダイオードとして構成される。このことは、前記ダイオードが一方向へは良好に熱を伝導し、反対方向への伝導は極めて不良であることを意味する。
【0004】
このような熱ダイオードは、例えばボレイコ他による2011年、アプライド・フィジックス・レターズ誌99(23)号および米国特許第8716689号明細書において記載されている。前記ヒートシンクの領域において超疎水性コーティングを、また前記熱源の領域において超親水性コーティングを使用することで前記熱ダイオードの熱に関する優先方向が生じる:前記超疎水性コーティングによって表面が前記ヒートシンクの領域において前記作動流体をはじくため、当該作動流体が前記熱源の前記超親水性領域に戻るように輸送されてそこで再び蒸発することが可能である。
【0005】
先行技術より既知である各熱ダイオードの欠点は、熱輸送の優先方向が予め与えられており、ダイオード性が構造上定義されている、すなわち駆動中に変更するまたは調整することが不可能であることにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8716689号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ボレイコ他、「アプライド・フィジックス・レターズ」、2011年、99(23)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明の課題は、より可変であって先行技術より公知である方法および装置における限界を克服するヒートパイプまたは熱輸送の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1によるヒートパイプおよび請求項15によるヒートパイプにおける熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするための方法とによって解消される。本発明によるヒートパイプの好ましい各実施態様は、請求項2から11に記載されている。請求項12から14において本発明によるヒートパイプを有するシステムの各実施態様が記載されている。本発明による方法の好ましい各実施態様は、請求項16および17に記載されている。これにより全ての請求項の文言が本明細書において参照により明示的に含まれるものとする。
【0010】
本発明によるヒートパイプは、それ自体公知であるように、少なくとも一つの蒸発領域と少なくとも一つの凝縮領域とを有する少なくとも一つの作業室を有する。前記蒸発領域は熱源に対して作動接続され、前記凝縮領域はヒートシンクに対して接続されている。前記作業室内には作動流体が設けられる。第一の駆動状態において前記作動流体によって前記熱源から前記ヒートシンクに対して熱が輸送される。
【0011】
重要なのは、少なくとも一つの活性化可能な機能材料が設けられ、当該機能材料が第二の駆動状態において前記蒸発領域を前記作動流体がない状態に保持するおよび/または前記作動流体が蒸発するのを防止することで熱輸送を低減するおよび/または防止するおよび/または前記熱輸送の熱伝導優先方向を変更するように配置されて構成されていることにより、前記ヒートパイプが切換可能および/またはプログラミング可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして形成されていることである。
【0012】
前記作動流体は、前記作業室に充満して圧力と温度とに応じて液体または気体の両方の形で存在する。「前記蒸発領域を作動流体がない状態に保持する」という表現は、前記蒸発領域の表面と直接接触および/または直接相互作用する液相の前記作動流体をさす。気相の前記作動流体はヒートパイプの作業室の体積全体に充満するため、前記蒸発領域に気相の前記作動流体が存在することも本発明の範囲内にある。
【0013】
本発明は、作業室における各条件を適宜構成することにより熱輸送が制御可能で反転可能でさえあるという出願人の知見に基づくものである。
【0014】
よって本発明によるヒートパイプは、既知である各ヒートパイプとは本質的な各観点において異なるものである。
【0015】
前記ヒートパイプ内において第一の状態(前記ヒートパイプの第一の駆動状態)から第二の状態(前記ヒートパイプの第二の駆動状態)へと可変である活性化可能な機能材料が設けられている。前記第一の状態において前記活性化可能な機能材料が前記第一の駆動状態の前記熱伝導優先方向への熱輸送を可能にするか前記ヒートパイプの機能に影響を及ぼさない。前記第二の状態において前記活性化可能な機能材料は、前記蒸発領域を前記作動流体がない状態に保持するか前記作動流体が蒸発するのを防止する。前記ヒートパイプにおける熱輸送は、主に前記蒸発領域における前記作動流体の蒸発と蒸発した前記作動流体の前記凝縮領域への輸送とを介して機能するため、このことが前記ヒートパイプにおける熱輸送を減少させるか妨げる。前記活性化可能な機能材料が前記第二の駆動状態において前記熱伝導優先方向が前記活性化可能な機能材料によって変更されるように構成されていることも本発明の範囲内にある。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態において前記ヒートパイプは、前記少なくとも一つの機能材料が外場において少なくとも部分的に自身の特性を変化させるように構成されていることによって切換可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして構成されている。前記外場によって可変である、前記活性化可能な機能材料の可能な特性とは、表面濡れ性、膨張性、流体結合特性あるいは体積などである。
【0017】
本発明の一別途実施形態において前記ヒートパイプは、前記少なくとも一つの機能材料が前記作業室内の条件に応じて少なくとも部分的に自身の特性を変化させるように構成されていることによってプログラミング可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして構成されている。前記外場によって可変である、前記活性化可能な機能材料の可能な特性とは、表面濡れ性、膨張性、流体結合特性あるいは体積などである。
【0018】
よって前記活性化可能な機能材料は、外部または内部の影響によって切換可能またはプログラミング可能であることが好ましい。これに関連して「切換可能」とは、外場を能動的に印加することによって駆動状態を変更することが可能であることを意味する。これに関連して「プログラミング可能」とは、環境条件、特に前記作業室内の条件が変化すると前記ヒートパイプが材料固有の内的要因によって状態を自主的に変更することを意味する。
【0019】
これにより本発明による前記ヒートパイプ内の熱輸送を正確に制御し得るという利点が得られる。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態において前記ヒートパイプは、前記少なくとも一つの機能材料が前記作業室内の条件、特に温度、前記作動流体のpH値および/または前記作動流体のイオン強度に応じて自身の特性を変化させるように構成されていることによってプログラミング可能な熱ダイオードまたは熱スイッチとして構成されている。よって有利なことに外場は必要なく、前記ヒートパイプにおける熱輸送の制御を前記作動流体または前記ヒートパイプの直接的な特性のみによって実施することが可能である。
【0021】
前記作業室は、流体の閉鎖体積として、特に蒸発した前記流体の対流によって熱輸送が実施され、前記凝縮領域から前記蒸発領域への凝縮された前記流体の戻り輸送が実施されるように形成されていることが好ましい。特に前記作業室の前記閉鎖体積は、耐圧システムとして形成されている。特に前記耐圧システムからは実質的に前記作動流体以外の全ての外部ガスが除去される。このためには前記作動流体の戻り輸送が異なる、様々な各構造が可能である。ここではヒートパイプまたは二相熱サイフォンとしての実施形態が公知である。
【0022】
前記活性化可能な機能材料は、前記作業室内に設けられることが好ましい。この際、前記活性化可能な機能材料が前記作業室の一部、例えば作業室の床および天井の一部として設けられることも同様に可能である。
【0023】
本発明の好ましい一実施形態において前記ヒートパイプには、前記作動流体のための流体回路が形成されている。前記流体回路は、前記凝縮領域から前記蒸発領域への凝縮された前記作動流体の戻り輸送のための流体戻り部(Fluidrueckfuehrung)を含んでなることが好ましい。これにより前記作動流体が正確且つ配量されて前記蒸発領域に戻るように導かれることにより前記蒸発領域の乾燥を防止することが可能である。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態において前記閉鎖体積は、前記蒸発領域において疎流体性コーティングを有し、さらに/あるいは前記凝縮領域において親流体性コーティングを有する。前記閉鎖体積、すなわち前記作業室が前記蒸発領域および/または前記凝縮領域において追加の構造を有することも本発明の範囲内にある。これにより例えば各表面の各濡れ性を最適化することが可能である。
【0025】
前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料は、前記作業室の前記蒸発領域および/または前記凝縮領域の切換可能なコーティングの形で形成されていることが好ましく、このことは少なくとも前記蒸発領域の前記コーティングの表面特性が親流体性から疎流体性に変更可能であることによって得られる。前記蒸発領域のみならず前記凝縮領域の前記コーティングは、前記蒸発領域の前記コーティングの前記表面特性が親流体性から疎流体性に変更可能であり、前記凝縮領域の前記コーティングの前記表面特性が疎流体性から親流体性に変更可能であるように形成されていることが好ましい。この場合、前記ヒートパイプは、切換可能な熱ダイオードとして形成されている:外場を印加することにより前記ヒートパイプを前記第一の駆動状態から前記第二の駆動状態に変更することが可能となる。
【0026】
前記第一の駆動状態において前記高温側、すなわち前記蒸発領域が前記熱源によって加熱されると、前記蒸発領域の前記親流体性コーティング上に集まった前記作動流体が蒸発して前記蒸発領域から前記凝縮領域への熱輸送を可能にする。ここで前記作動流体は、前記凝縮領域の前記疎流体性コーティング上に凝縮する。前記凝縮領域における疎流体性表面特性により前記作動流体の液滴が形成される。前記表面が強疎流体性に構成されている場合、前記作動流体は前記蒸発領域に「跳ねて」戻る。別法として、前記液滴の戻り輸送を毛管力を介して例えばヒートパイプに関する先行技術より公知であるように親水性であるウィック構造の形において実施することが可能である。当該状態において前記熱ダイオードは熱伝導性を有する。
【0027】
前記第二の駆動状態(以下、ロック状態とも称する)において前記蒸発領域および/または前記凝縮領域における前記コーティングの前記表面特性を例えば外部電場を印加することによって変更すると、今度は前記高温側、すなわち前記蒸発領域が前記熱源において疎水性を有する。当該コーティング上には前記作動流体が十分に集まらず、そこに集まった前記作動流体はすぐに蒸発して前記凝縮領域の前記親流体性コーティング上で凝縮する。前述の戻るように導く機構が作用しないため、そこに前記作動流体が留まって前記蒸発領域に戻り輸送されない。よって前記作業室の前記高温側が乾燥して前記作動流体を介した熱輸送が実施されない。前記熱ダイオードがロックする。
【0028】
前記切換可能なコーティングは、ORMOCER(登録商標)としておよび/またはORMOCER(登録商標)を用いて形成されることが好ましい。ORMOCER(登録商標)は、多くの基材の表面特性に有利な影響を与え得る無機-有機ハイブリッドポリマーである(例えばSanchez他、ケミカル・ソサエティ・レビューズ誌40号、2011年、696から753を参照)。
【0029】
ORMOCER(登録商標)は、技術文献から公知である機構を用いることによって親水性から疎水性さらには逆に切換可能なコーティングとしても形成され得る(B.シン、J.ハオ、ケミカル・ソサエティ・レビューズ誌39号、2010年、769から782を参照)。したがって本発明によるORMOCER(登録商標)は、電気的に切換可能な表面特性のためにイミダゾリウムアルキル末端基、または光化学的に切換可能な表面特性のためにフルオロアルキルアゾベンゼン末端基またはスピロピラン末端基を含む。
【0030】
特に好ましい一実施形態において前記ORMOCER(登録商標)コーティングは、毛管効果またはロータス効果を用いることで自身の親流体性/疎流体性である特性を高めるマイクロ構造、メソ構造あるいはナノ構造を有する。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態において前記活性化可能な機能材料は、蒸発領域と凝縮領域とが前記第二の駆動状態において特性を交換するように構成されている。よって前記第二の駆動状態は、ロック状態ではなく、前記第一の駆動状態とは反対の方向への熱輸送を可能にする。この場合、前記第二の駆動状態において前記作動流体は、今や蒸発領域として働く元の前記凝縮領域において蒸発し、熱源から熱を吸収し、今や凝縮領域として働く元の前記蒸発領域へと熱を輸送することが可能である。新たな凝縮領域において前記作動流体が凝縮してヒートシンクに対して熱を供給する。これにより前記熱ダイオードの熱伝導優先方向が反転される。
【0032】
前記活性化可能な機能材料は、前記蒸発領域のみならず前記凝縮領域においてもORMOCER(登録商標)コーティングとして形成されていることが好ましい。コーティングは、外場、好ましくは電場または放射場、すなわち(紫外線)光放射を印加することにより蒸発領域および凝縮領域の表面濡れ性が交換されるように選択される。
【0033】
本発明による親流体性/疎流体性の前記特性の電気切換性を実現するために、例えば自身の官能性末端基が「スペーサ」、すなわち2から20のC原子、好ましくは3から12のC原子を有する直鎖状アルキル基を介してORMOCER(登録商標)ネットワークに対して共有結合しているイオン基(トリアルキルアンモニウム基、イミダゾリウム基、スルホネート基など)からなるORMOCER(登録商標)が用いられる。電場を印加することによって(ランガー他、サイエンス誌299号、2003年、371から374を参照)前記イオン末端基は電気的に同一に帯電した基板によってはじかれて前記熱ダイオードの内部に進入するため、このことが前記表面の親水性につながる。これに対して前記イオン末端基は、電気的に反対に帯電された基板に引き寄せられるため、非極性である「スペーサ」鎖が前記熱ダイオードの内部に進入するため、このことが前記表面の疎水性につながる。すなわち前記熱ダイオードの互いに対向する面の両方に対して同一の機能性を有するORMOCER(登録商標)がコーティングされると、電場の印加によって親水性を有する面と疎水性を有する面とが生じ、電場の方向を反転させることにより特性が同様に反転する。前記熱ダイオードに印加すべき電圧は、好ましくは<50V、特に好ましくは<5Vである。
【0034】
本発明の一別途実施形態において前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料は、前記作動流体のための貯蔵器の形、特に液体貯蔵器の形に形成されている。前記貯蔵器によって熱輸送に必要な前記作動流体の収容および放出が制御される。このことは前記作動流体の利用可能な量を可変にすることが可能であることを意味する。前記ヒートパイプの前記第一の駆動状態において前記作動領域は熱伝導のために利用可能である。前記ヒートパイプは熱を伝導する。前記第二の駆動状態、すなわちロック状態において前記作動流体は、特に液体貯蔵器の形における前記貯蔵器において結合されている。この結合された形において前記作動流体は、もはや熱輸送に利用可能することはできない。前記ヒートパイプはもはや熱を伝導しない。
【0035】
本明細書の範囲において「前記ヒートパイプはもはや熱を伝導しない」という表現は、前記ダイオードのロック状態を意味する。このことは、他の切換状態とくらべて熱輸送が著しく低減されていることを意味する。それでもわずかな熱流が例えば部品の熱伝導を介して発生することもある。
【0036】
前記作動流体のための前記貯蔵器は、ゲル、特にポリマーゲル、吸着剤またはメゾスコピック構造の表面として形成されることが好ましい。
【0037】
前記貯蔵器は、化学架橋されたポリマーゲルとして形成されていることが特に好ましい。前記架橋されたポリマーゲルは、前記作動流体によって膨潤した後、好ましくはハイドロゲルの膨潤状態と崩壊状態との間における体積相転移を有するように構成される。
【0038】
特に前記作動流体が水である場合、前記貯蔵器は水結合ハイドロゲルとして形成されていることが好ましい。前記ポリマーゲルは、水結合状態と非水結合状態とを有する。前記ヒートパイプの前記第一の駆動状態から前記ロック状態、すなわち前記ポリマーゲルの非流体結合状態から流体結合状態への転移が温度遷移によって引き起こされることが好ましい。前記ポリマーゲルは、UCST(上限臨界溶解温度)型体積相転移またはLCST(下限臨界溶解温度)型体積層位相を有するポリマーゲルとして形成され得る。UCST型体積相転移の場合、前記架橋ポリマーゲルは臨界温度(限界温度)を超えた時のみ、前記作動流体によって膨潤される。LCST型体積相転移の場合、前記作動流体は臨界温度(限界温度)を超えた時に前記架橋ポリマーゲルから排斥される。その結果、UCST型転移の場合、前記ヒートパイプは臨界温度以上でロックする。LCST型転移の場合、前記ヒートパイプは臨界温度以下でロックする。よって限界温度により前記ヒートパイプの前記第一の駆動状態から前記ロック状態への移行のための切換温度を定義することが可能である。
【0039】
UCST型体積相転移を有する公知であるポリマーは、例えばマクロモル・ラピッド・コミュニケーション誌33号、1898から1920、2012年に記載されている。LCST型体積相転移を有する公知であるポリマーは、例えばアドバンセズ・イン・ポリマー・サイエンス誌242号、29から89、2011年に記載されている。記載されているポリマーゲルは、水と相互作用するため、特に水が作動流体として用いられるヒートパイプに適している。しかしながら、前述の特性と例えば鉱物油などの有機流体とともに前述の挙動とを示す数多くのポリマーが存在する、例えばジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス誌A46号、5724から5733、2008年。この場合、水以外の流体を作動流体として用いることが可能である。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態において前記貯蔵器は、吸収剤として形成されている。吸収剤は、流体を結合する。吸収剤において結合された流体量は、負荷量とも称される。温度上昇(とこれに伴って結合された流体の蒸気圧上昇と)につれて吸収剤の負荷量は減り、流体は再び解放される。
【0041】
前記吸収剤は、限界温度を有することが好ましく、これにより当該限界温度または前記流体の予め定められた蒸気圧を超えた場合に前記流体が比較的急激に前記吸着剤によって再び解放されるようにする。よって前記限界温度により前記ヒートパイプの前記ロック状態から前記第一の駆動状態への移行のための切換温度を定義することが可能である。
【0042】
定義された限界温度やこれに伴う流体の蒸気圧を有する吸収剤の材料の例としては三菱(商標)製の吸着剤AQSOA(商標)-Z05がある。
【0043】
前記液体貯蔵器の特性が温度ではなく、別の物理的または化学的刺激によって影響を受けることも本発明の範囲内にある。このための例としては紫外光照射またはマイクロ波照射ならびにpH値、イオン強度または特定の有機分子の存在などがある。このための例は、アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション55号、6641から6644、2015年に記載されている。よって前記熱ダイオードの切換は、多種多様な要因によって可能であり、相応して応用分野や周囲の条件に適合され得る。
【0044】
本発明による課題は、本発明による前述の特性を有するヒートパイプと、活性化可能な機能材料の特性を変更するために場を印加するための手段とを有するシステムによっても解消される。
前記場を印加するための手段としてE場、B場、応力ひずみ場、光、特に紫外光の生成のため、熱の生成のためおよび/または冷気の生成のための場生成装置が設けられていることが好ましい。前述の場生成装置のうち一つだけ設けてもいいし、あるいは前述の場生成装置のうち複数を組み合わせたものを設けてもよい。このための例は、コンデンサ、コイル、偏心器、(紫外線)光源または加熱・冷却装置である。これにより制御方法を使用される作動流体や使用される活性化可能な機能材料に個別に適合させることが可能である。
【0045】
本発明によるシステムもまた、本発明によるヒートパイプおよび/またはその好ましい一実施例の前述の利点および特徴を有する。
【0046】
前記システムは、高温側と低温側に関してフレキシブルに形成されていることが好ましい。前記ヒートパイプが熱伝導優先方向が反転可能なヒートパイプとして形成されている場合、蒸発領域と凝縮領域とに対して高温側または相応して低温側との接触によって自身の機能が割り当てられるための手段が設けられることが好ましい。蒸発領域と凝縮領域との間および高温側と低温側との間に良好な熱接触が設けられていることが好ましい。ヒートパイプに対するヒートシンクと熱源との間に良好な熱接触が設けられている。
【0047】
好ましい一実施形態において前記システムには、二つの機能材料の組み合わせからなるヒートパイプが形成され、両機能材料のうち一方は前述の液体貯蔵器として、特にポリマーゲルの形に形成されている。他方の機能材料は、好ましくは光、特に紫外光の影響下で自身の親流体性/疎流体性の特性が可変であるORMOCER(登録商標)として形成されていることが好ましい。
【0048】
本発明の課題は、請求項15の特徴を有する方法によっても解消される。それ自体公知であるように熱輸送を切り換えるおよび/またはプログラミングするための方法は、少なくとも一つの蒸発領域と少なくとも一つの凝縮領域とを有する少なくとも一つの作業室を有するヒートパイプと作動流体とによって実施される。この際、当該方法は以下の方法ステップを含んでなる:
A.前記蒸発領域において前記作動流体を蒸発させることで気相の前記作動流体によって前記蒸発領域から前記凝縮領域に熱が輸送され、
B.前記凝縮領域において前記作動流体を凝縮させることで前記熱がヒートシンクに放出される。
【0049】
重要なのは、外場の印加および/または前記作業室内の条件に応じて前記熱伝導性を変更することにより前記ヒートパイプが熱ダイオードまたは熱スイッチとして駆動されることである。
【0050】
本発明による方法は、本発明によるヒートパイプおよび/または本発明によるヒートパイプの好ましい一実施形態によって実施されるように形成されていることが好ましい。これに対して本発明によるヒートパイプは、本発明による方法および/または本発明による方法の好ましい一実施形態を実施するように形成されていることが好ましい。
【0051】
本発明による方法もまた、本発明によるヒートパイプおよび/または本発明によるシステムの前述の利点および特徴を有する。
【0052】
前記ヒートパイプの前記熱伝導性は、前記蒸発領域を前記作動流体がない状態に保持するおよび/または前記作動流体が蒸発するのを防止することによって変更されることが好ましい。
【0053】
本発明の好ましい一実施形態では第一の駆動状態において前記ヒートパイプ内で熱が前記蒸発領域に配置された高温側(熱源)から前記凝縮領域に配置された低温側(ヒートシンク)へ輸送される。ステップCにおいて外場を印加することによって前記ヒートパイプは第二の駆動状態に移行される。このためにE場、B場、応力ひずみ場が生成されるか前記活性化可能な機能材料に光、特に紫外光、熱および/または冷気が印加される。前記第二の駆動状態において前記蒸発領域において作動流体が全くないあるいは少なくとも不十分な量しか利用可能ではない。前記蒸発領域は乾燥して、前記ヒートパイプはもはや前記第一の駆動状態の熱伝導優先方向の方向に熱を伝導しない。
【0054】
別法として前記作動流体は、前記作業室内の各条件に応じて前記第一の駆動状態から前記第二の駆動状態に変更し得る。前記第一の駆動状態から前記第二の駆動状態への変更を開始し得るパラメータは、温度、前記作動流体のpH値および/または前記作動流体のイオン強度である。これにより特定の条件下において外部からの影響を必要とすることなく前記駆動状態を変更するように前記ヒートパイプを「プログラミング」することが可能であるという利点が得られる。
【0055】
前述のように、前記作動流体は、切換可能な表面コーティングによって前記作業室の前記蒸発領域から排斥される。
【0056】
別法として前記作動流体は、活性化可能な機能材料によって結合されることも可能である。この目的のため前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料は、前記作動領域のための貯蔵器の形、好ましくは液体貯蔵器の形に形成されていることが好ましい。前記貯蔵器によって熱輸送に必要な前記作動流体の収容および放出が制御される。このことは前記作動流体の利用可能な量が可変であることを意味する。前記ヒートパイプの前記第一の駆動状態において前記作動流体は熱伝導のために利用可能である。前記ヒートパイプは熱を伝導する。前記第二の駆動状態、すなわちロック状態において前記作動流体は、特に液体貯蔵器の形における前記貯蔵器において結合されている。この結合された形において前記作動流体は、もはや熱輸送に利用可能することはできない。前記ヒートパイプはもはや熱を伝導しない。
【0057】
本発明の好ましい一実施形態において外場を印加することおよび/または前記作業室内の条件に応じて蒸発領域および凝縮領域の前記表面特性が交換されることによって前記熱ダイオードの熱伝導優先方向が反転される。この場合、第二の駆動状態において前記作動流体は、今や蒸発領域として働く元の前記凝縮領域において蒸発し、熱源から熱を吸収し、今や凝縮領域として働く元の前記蒸発領域へと輸送することが可能である。新たな凝縮領域において前記作動流体が凝縮してヒートシンクに対して熱を供給する。これにより前記駆動状態1と比べて熱伝導優先方向が反転される。
【0058】
本発明によるヒートパイプ、本発明によるシステムおよび本発明による方法は、熱流を効果的にオン・オフ切り換えし、または制御もしくは調整することを可能にするのに特に好適である。ヒートパイプを用いる熱スイッチまたは熱ダイオードは、高い切換要因を得ることが可能であり、伝導状態における熱輸送が高いため熱抵抗が極めて低いため特に好適である。さらに当該熱スイッチまたは熱ダイオードは、極めてコンパクトな構造として実現可能であるため、取り付けが容易である。実施形態によっては前記ヒートパイプは簡単な構造で少数の個別部品から構成されて可動部品を含む必要がない。
【0059】
本発明によるヒートパイプと本発明による方法のさらなる好ましい各特徴と各実施形態について以下に各実施形態例および各図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明によるヒートパイプの第一の実施形態例の概略図。
図2】本発明によるヒートパイプの第二の実施形態例の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1は、蒸発領域および凝縮領域における切換可能なコーティングの形における活性化可能な機能材料を有する熱ダイオードの概略図を図示しており、部分図a)は伝導状態、b)はロック状態である。
【0062】
ヒートパイプ1は、少なくとも一つの蒸発領域3と少なくとも一つの凝縮領域4とを有する作業室2を有する。前記蒸発領域3は、ここでは温度T=100℃である熱源(図示せず)と作動接続しており、前記凝縮領域4は、温度T=10℃であるヒートシンク(図示せず)と接続している。前記作業室2の中には作動流体5が設けられる。
【0063】
ここでは前記作業室2が閉鎖された耐圧体積として形成されており、当該体積は気化された前記作動流体5の対流によって熱輸送が実施され、前記凝縮された作動流体5の戻り輸送が実施されるように形成されている。
【0064】
ここでの前記作動流体5は水である。
【0065】
前記蒸発領域3と前記凝縮領域4とには、活性化可能な機能材料からなるコーティング6が形成されている。前記蒸発領域3のコーティング6のみならず前記凝縮領域4のコーティングも前記蒸発領域3のコーティング6aの表面特性が親水性から疎水性に、さらにまた逆に可変であり、前記凝縮領域4のコーティング6bの表面特性が疎水性から親水性に、さらにまた逆に可変であるように形成されている。この際、各コーティング6は、蒸発領域3と凝縮領域4とが真逆の各表面濡れ性を有するように形成されている。
【0066】
ここでは活性化可能な機能材料からなる前記コーティング6がORMOCER(登録商標)からなるおよび/またはORMOCER(登録商標)を用いた切換可能なコーティング6として構成されている。前述のように、ORMOCER(登録商標)は、多くの基材の表面特性に有利な影響を与え得る無機-有機ハイブリッドポリマーである。またORMOCER(登録商標)は、技術文献から公知である機構を用いることによって親水性から疎水性さらには逆に切換可能なコーティング6としても形成され得る(B.シン、J.ハオ、ケミカル・ソサエティ・レビューズ誌39号、2010年、769から782を参照)。
【0067】
ここでは前述のように、前記蒸発領域3における前記コーティング6aと前記凝縮領域4における前記コーティング6bが電気切換可能なORMOCER(登録商標)を用いて形成されている。ここでは前記コーティングがメチルイミダゾリウムドデシルシリル基の形における官能性末端基を有するORMOCER(登録商標)からなる。電場を印加することによって(ランガー他、サイエンス誌299号、2003年、371から374を参照)当該イオン末端基は電気的に同一に帯電した基板によってはじかれてドデシル鎖の「延伸」によって前記熱ダイオードの内部に進入する。ここでは前記蒸発領域において基板が電気的に同一に帯電されるように形成されている。このことが前記蒸発領域3における前記表面6aの親水性につながる。前記凝縮領域4において電気的に反対に帯電された基板が設けられている。これによりイオン基が引き寄せられるため、非極性であるドデシル鎖が前記熱ダイオードの内部に進入するため、このことが前記凝縮領域における前記表面6bの疎水性につながる。
【0068】
電場を印加することにより親水側および疎水側が生じ、電場を反転させることによって前記特性も反転される。
【0069】
よって前記ヒートパイプ1は、ここでは切換可能な熱ダイオードとして形成されている:第一の駆動状態において前記作動流体5を蒸発させることにより前記気相の作動流体5とともに熱が前記蒸発領域3から前記凝縮領域4に輸送されることによって熱が前記熱源から前記ヒートシンクへ輸送される。前記蒸発領域3は、前記熱源によって加熱されて前記蒸発領域3の前記親水性コーティング6a上に集まった前記作動流体5が蒸発し、前記蒸発領域3から前記凝縮領域4への熱輸送を可能にする。前記凝縮領域4において前記作動流体5が前記凝縮領域4の前記疎水性コーティング6b上で凝縮してヒートシンクに対して熱が放出される。前記凝縮領域4における前記疎水性表面特性により前記作動流体5の液滴が形成される。前記表面が強疎水性を有するように構成されているため、前記作動流体5が前記蒸発領域3に「跳ねて」戻る。
【0070】
外場、ここでは5Vの電圧を印加することで前記ヒートパイプ1は、熱を伝導する前記第一の駆動状態から熱を伝導しない前記第二の駆動状態へと切り換えられ得る。
【0071】
前述のとおり、外場を印加することにより前記蒸発領域3と前記凝縮領域4における前記コーティング6の表面特性が変化する。今や前記熱源における前記蒸発領域3は疎水性を有する。前記蒸発領域3の前記コーティング6aには十分な前記作動流体5が集まらず、そこに集まる前記作動流体5はすぐに蒸発して前記凝縮領域4の前記親水性コーティング6a上で凝縮する。前記作動流体5はそこに留まり、前記蒸発領域3に戻るように輸送されないのは前記作動流体5が今や親水性である表面から反発されないからである。よって前記作業室2の前記高温側が乾燥して前記作動流体5を介した熱輸送は実施されない。前記熱ダイオードはロックする。
【0072】
図2は、液体貯蔵器の形における活性化可能な機能材料を有する熱スイッチの概略図を図示しており、部分図a)は伝導状態、b)はロック状態である。
【0073】
繰り返しを避けるために以下においては図1との各相違点のみを説明する。
【0074】
ここでは前記少なくとも一つの活性化可能な機能材料は、前記作動流体5のための貯蔵器の形、すなわち水結合ハイドロゲル7の形で形成されている。前記水結合ハイドロゲル7は、ここでは以下のように形成されている。
【0075】
LCST型体積相転移を有するハイドロゲルは、例えば以下のモノマーを使用したラジカル重合によって製造され得る。記載された組成は、排他的であると理解されるべきではない。
【0076】
【表1】
UCST型体積相転移を有するハイドロゲルは、例えば以下のモノマーを使用したラジカル重合によって製造され得る。記載された組成は、排他的であると理解されるべきではない。
【0077】
【表2】
さらにその後に可溶性ポリマーを架橋することによって体積相転移を示す好適なハイドロゲルを製造することも可能である。このようにしてLCST型体積相転移を有するハイドロゲルを得るためには例えば部分的に加水分解されたポリ(酢酸ビニル)と1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルあるいはその他の二官能性または多官能性であるエポキシとを架橋させることが可能である。
【0078】
前記水結合性ハイドロゲル7によって前記作動流体5の利用可能な量が可変にされる。前記水結合性ハイドロゲル7は、水結合性状態と著しく低い水結合性を有する状態とを有する。ここでは前記第一の駆動状態から前記ヒートパイプ1の前記ロック状態、すなわち前記ハイドロゲル7の著しく低い水結合性の状態から前記ハイドロゲル7の水結合性の状態への転移がここでは室温から約150℃の温度範囲である温度遷移によって引き起こされる。当該加熱は、前記蒸発器側において前記高温側を加熱することによって、すなわち外場なしで実施される。
【0079】
前記ヒートパイプ1の前記第一の駆動状態において前記作動流体5が熱伝導のために利用可能である。前記ヒートパイプ1は熱を伝導する。前記第二の駆動状態、すなわち前記ロック状態において前記作動流体5は前記水結合性ハイドロゲル7に結合される。この結合された形態において前記作動流体5は、もう熱輸送のためには利用できない。前記ヒートパイプ1はもう熱を伝導しない。
【0080】
図1とは異なり、前記凝縮領域4から前記蒸発領域3への前記作動流体5の戻り輸送を確保するためのコーティングは設けられていない。よってここでは前記ヒートパイプ1がウィック構造(図示せず)の形における流体戻り部を有するように形成されている。
図1
図2
【国際調査報告】