(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20230714BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20230714BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20230714BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230714BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230714BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20230714BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/39
A61K39/215
A61P31/14
A61K9/08
C07K14/165 ZNA
C12N15/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578689
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 CN2021100826
(87)【国際公開番号】W WO2021254473
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2021/020277
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522490583
【氏名又は名称】高端疫苗生物製劑股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Medigen Vaccine Biologics Corporation
【住所又は居所原語表記】No.68, Shengyi 3rd Rd., Zhubei City, Hsinchu County 302, Taiwan
(71)【出願人】
【識別番号】522490594
【氏名又は名称】ダイナヴァックス テクノロジーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Dynavax Technologies Corporation
【住所又は居所原語表記】100 Powell Street, Suite 900 Emeryville, California 94608 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】クオ、チュンーヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ウー、チュンーチン
(72)【発明者】
【氏名】リン、イーージウン
(72)【発明者】
【氏名】リン、メーイーユン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ユーチ
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル、ジョン、ディ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンセン、ロバート、エス
(72)【発明者】
【氏名】ノヴァック、ディビッド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB15
4C076CC35
4C076DD22
4C076DD30
4C076FF11
4C076FF68
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC08
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF01
4C085FF02
4C085GG03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫原性組成物、特に、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質およびアジュバントを有する免疫原性組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原組換えタンパク質と、アルミニウム含有アジュバント、非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるアジュバントとを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫原性組成物であって、前記抗原組換えタンパク質は、実質的に、残基986および987にプロリン置換、残基682~685に「GSAS」置換、ならびにC末端T4フィブリチン三量体化ドメインを有するSARS-CoV-2 Sタンパク質の残基14~1208からなることを特徴とする免疫原性組成物。
【請求項2】
残基986および987にプロリン置換、ならびに残基682~685に「GSAS」置換を有する前記SARS-CoV-2 Sタンパク質の残基14~1208は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:1と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記C末端T4フィブリチン三量体化モチーフは、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:2と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一の前記アミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記抗原組換えタンパク質は、SEQ ID NO:5もしくは6のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:5もしくは6と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一の前記アミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記アルミニウム含有アジュバントは、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムゲル、アルミニウムヒドロキシホスフェイト、アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩、非晶質アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩、硫酸アルミニウムカリウム、モノステアリン酸アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
0.5mL用量の前記免疫原性組成物は、約250~約500μgのAl
3+、または約375μgのAl
3+を含むことを特徴とする、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記非メチル化CpGモチーフは、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、またはこれらの組み合わせの合成オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を含むことを特徴とする、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
0.5mL用量の前記免疫原性組成物は、約750~約3000μgの前記オリゴヌクレオチドを含むこと、または前記免疫原性組成物は、約750μg、約1500μg、もしくは約3000μgの前記オリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫応答を前記被験者において誘発する方法。
【請求項10】
前記免疫応答は、SARS-CoV-2に対する中和抗体の産生およびTh1偏向免疫応答を含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫応答を、その必要がある被験者において誘発するための、請求項1~8のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物の使用であって、前記使用は、前記免疫原性組成物の有効量をその必要がある前記被験者に投与することを含む使用。
【請求項12】
前記免疫応答は、SARS-CoV-2に対する中和抗体の産生およびTh1偏向免疫応答を含むことを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染から、その必要がある被験者を保護するための、請求項1~8のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物の使用であって、前記使用は、前記免疫原性組成物の有効量をその必要がある前記被験者に投与することを含む使用。
【請求項14】
その必要がある被験者がCOVID-19疾患に罹患するのを防ぐための、請求項1~8のうちいずれか一項に記載の免疫原性組成物の使用であって、前記使用は、前記免疫原性組成物の有効量をその必要がある前記被験者に投与することを含む使用。
【請求項15】
前記免疫原性組成物は筋肉内注射によって投与されることを特徴とする、請求項11~14のうちいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年6月18日に出願された米国仮特許出願第63/040,696号、および2021年3月1日に出願された国際出願PCT/US21/20277号の優先権および利益を主張し、これらの開示は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫原性組成物、特に組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質およびアジュバントを有する免疫原性組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2019年末に新型コロナウイルスが発生し、呼吸器感染症を引き起こすことが確認された。このウイルス性病原菌は、他の既知のウイルスとは一致せず、後に正式に「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)」と命名された。SARS-CoV-2に起因する疾患の正式名称は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。COVID-19に共通する症状に、発熱、乾性咳、疲労、倦怠、筋肉痛、体の痛み、咽頭痛、下痢、結膜炎、頭痛、味覚または嗅覚の喪失、皮疹、および息切れなどがある。大多数は軽症に終わるものの、一部の症例は、サイトカインストームによって引き起こされる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、多臓器不全、敗血症性ショック、血栓に進行する。コロナウイルス感染症による死亡が初めて確認されたのが2020年1月9日で、2021年6月13日時点で3,792,777人の死亡を含む175,306,598例のCOVID-19感染がWHOに報告されており、この数はなおも急速に拡大している。
【0004】
日々の活動を縮小することなくSARS-CoV-2感染のリスクを抑えるには、COVID-19ワクチンが必要となる。特に、SARS-CoV-2に対する免疫応答を速やかに誘導できるCOVID-19ワクチンが緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Huang et al.,J.Clin.Microbiol.58(8):e01068-e1120,2020
【非特許文献2】Pallesen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,114(35):E7348-E7357,2017
【非特許文献3】Lu et al.Immunology,130(2):254-261,2010
【非特許文献4】Wrapp et al.,Science,367(6483):1260-1263,2020
【非特許文献5】Thomas et al.,Hum.Vaccin.,5(2):79-84,2009
【非特許文献6】Reed and Muench,American Journal of Epidemiology,27(3):493-497,1938
【非特許文献7】Corman et al.,Eurosurveillance.25(3):2000045,2020
【非特許文献8】Garcia-Beltran et al.,Cell,184(9):2372-2383.e9,2021
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本発明は、抗原組換えタンパク質と、アルミニウム含有アジュバント、非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるアジュバントとを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫原性組成物であって、抗原組換えタンパク質が、実質的に、残基986および987にプロリン置換、残基682~685に「GSAS」置換、ならびにC末端T4フィブリチン三量体化ドメインを有するSARS-CoV-2 Sタンパク質の残基14~1208からなる免疫原性組成物を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、本発明の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫応答を被験者において誘発する方法を提供する。
【0008】
別の態様では、本発明は、本発明の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染から被験者を保護する方法を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、被験者がCOVID-19疾患に罹患するのを防ぐ方法を提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫応答を、その必要がある被験者において誘発するための、本発明の免疫原性組成物の使用を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染から、その必要がある被験者を保護するための、本発明の免疫原性組成物の使用を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、その必要がある被験者がCOVID-19疾患に罹患するのを防ぐための、本発明の免疫原性組成物の使用を提供する。
【0013】
これらおよび他の態様は、以下の図面と併せて実施される好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【0014】
添付の図面は、本発明の1つまたは複数の実施形態を示し、説明の記述と合わせて、本発明の原理を説明するのに資するものである。可能な限り、図面全体を通して同じ参照番号で、実施形態の同じまたは同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】リン酸アルミニウムアジュバントを含む、または含まないSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質で免疫したマウスの血清を用いた中和アッセイの結果を示すグラフである。
【
図2】さまざまな処方のSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質で免疫したマウスの血清を用いた中和アッセイの結果を示すグラフである。
【
図3】2回目注射の2週間後における、CpG1018および水酸化アルミニウムでアジュバント化したSARS-CoV-2 S-2Pによる中和抗体の誘導を示すグラフである。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現させ、CpG1018、水酸化アルミニウム、またはその両方の組み合わせでアジュバント化したSARS-CoV-2 S-2Pを用いて、3週間の間隔を空けて2種類の用量レベルでBALB/cマウス(各群N=6)を免疫し、2回目注射の2週間後に、抗血清を採取した。抗血清は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現する偽ウイルスを用いて中和アッセイを行い、中和抗体のID
50(左)およびID
90(右)力価を決定した。**p<0.01、***p<0.001。
【
図4】アジュバントを添加したS-2Pで免疫したマウスの総抗S IgG力価を示すグラフである。CpG1018、水酸化アルミニウム、またはその両方の組み合わせを添加した0、1、または5μgのS-2Pで免疫した
図3のBALB/cマウス(各群N=6)の血清を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で抗S IgGの総量について定量した。***p<0.001。
【
図5】CpG1018および水酸化アルミニウムでアジュバント化したSARS-CoV-2 S-2Pで誘導した抗体による、野生型SARS-CoV-2ウイルスの中和を示すグラフである。
図4(各群N=6)に記載するように抗血清を採取し、野生型SARS-CoV-2を用いて中和アッセイを行い、中和抗体力価を測定した。**p<0.01、***p<0.001。
【
図6】CpG1018および水酸化アルミニウムを添加したS-2Pで免疫したマウスによる、スパイクタンパク質のD614D(野生型)またはD614G(変異株)バージョンを持つ偽ウイルスの阻害を示すグラフである。
図5のように、10μgのCpG1018および50μgの水酸化アルミニウムを添加した1または5μgのS-2Pで免疫したBALB/cマウス(中和能評価のため各群N=5で)の抗血清を採取した。D616DまたはD614Gスパイクタンパク質のいずれかを持つ偽ウイルスで中和アッセイを行った。
【
図7】IFN-γ/IL-4、IFN-γ/IL-5、およびIFN-γ/IL-6比を示すグラフである。比率はサイトカインアッセイ(各群N=6)によるIFN-γ、IL-4、IL-5、およびIL-6値を用いて算出した。比率値が1よりも高ければTh1偏向応答を、1よりも低ければTh2偏向応答を示す。*p<0.05、**p<0.01。
【
図8A】2回目の免疫化から2週間後のハムスターにおける、偽ウイルスアッセイを用いた中和抗体力価を示すグラフである。ハムスター(各群N=10)は、ビヒクル対照(PBS)、150μgのCpG1018および75μgの水酸化アルミニウムでアジュバント化した1μg(LD)もしくは5μg(HD)のS-2P、またはアジュバントのみを用いて、3週間の間隔を空けて2回免疫した。2回目注射の2週間後に抗血清を採取し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現する偽ウイルスを用いた中和アッセイを行い、中和抗体のID
90力価を決定した。結果は幾何平均で示し、エラーバーは95%信頼区間を表す。統計的有意性は、補正したDunnの多重比較検定を用いたKruskal-Wallisで算出した。点線は検出下限および上限を表す(40および5120)。***p<0.001、****p<0.0001。
【
図8B】2回目の免疫化から2週間後のハムスターにおける、偽ウイルスアッセイを用いた抗S IgG力価を示すグラフである。
図8Aのようにハムスターを免疫し、2回目注射の2週間後に抗血清を採取し、ELISAで、総抗S IgG抗体力価を決定した。点線は検出下限および上限を表す(100および1,638,400)。
【
図9A】SARS-CoV-2に感染後3または6日目(dpi)のハムスターのウイルス量を示すグラフである。ハムスターは3または6dpiに安楽死させ、肺組織試料を採取して、ウイルスゲノムRNAの定量PCRでウイルス量を決定した。結果は幾何平均で示し、エラーバーは95%信頼区間を表す。統計的有意性は、補正したDunnの多重比較検定を用いたKruskal-Wallisで算出した。点線は検出下限を表す(100)。*p<0.05、**p<0.01。
【
図9B】
図9Aのようにハムスターの肺組織試料を採取し、TCID
50アッセイを行い、ウイルス力価を決定した。
【
図10】SARS-CoV-2に感染後3または6日目(dpi)のハムスターの肺病理学的スコアリングを示すグラフである。ハムスターは3または6dpiに安楽死させ、肺組織試料を採取し、切片にして染色した。病理組織切片は、方法で概説するようにスコアリングし、結果を集計した。結果は肺病理学的スコアの平均値で示し、エラーバーは標準誤差を表す。統計的有意性は、Tukeyの多重比較検定を用いた一元配置分散分析で算出した。****p<0.0001。
【
図11】第I相臨床試験における非自発報告による有害事象をまとめたグラフである。参加者には、各ワクチン接種後7日間、参加者用日誌カードに局所および全身の非自発報告による有害事象を記録するよう求めた。非自発報告による有害事象(AE)を集計し、軽度、中等度、重度に分類した。
【
図12A】第I相臨床試験における体液性免疫応答の概要を示すグラフである。5、15、または25μgのMVC-COV1901ワクチンを接種した参加者の血清は、ELISAで抗スパイクIgGを測定した。比較のため、COVID-19回復患者35名のヒト回復期血清(HCS)を同じアッセイで分析した。バーは幾何平均力価を示し、エラーバーは95%信頼区間を示す。
【
図12B】
図12Aのようにワクチン接種した参加者の血清は、偽ウイルス中和アッセイで中和力価を測定した。
【
図12C】
図12Aのようにワクチン接種した参加者の血清は、生ウイルス中和アッセイで中和力価を測定した。生ウイルス中和アッセイではNIBSC20/130標準品を基準として使用した(
図12Cの星印)。
【
図13】第I相臨床試験における細胞免疫応答の概要を示すグラフである。細胞はペプチドのS1ペプチドプールで刺激し、37℃で24~48時間インキュベートした。陽性対照として、CD3-2mAbで刺激した細胞を用いた。ELISpotアッセイを使用してIFN-γ(左側)またはIL-4(右側)を検出した。トリプリケートのペプチドプール刺激でカウントしたスポット形成単位(SFU)の平均を計算し、陰性対照複製物(対照培地)の平均を減算して正規化した。結果は、PBMC 100万個当たりのSFUとして表した。バーは平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【
図14】アジュバント化したS-2Pでワクチン接種したラットの抗血清による、野生型またはB.1.351(β)変異株スパイクタンパク質を持つSARS-CoV-2偽ウイルスの中和を示すグラフである。ラットは、アジュバント化したS-2Pの指示量で、2週間の間隔を空けて3回免疫した。雄5匹の抗血清を1つの試料としてプールし、雌5匹の抗血清は別の試料としてプールした。これにより、投与群ごとに2つの試料がプールされた(N=2)。2回目の免疫化の2週間後(29日目)または3回目の免疫化の2週間後(43日目)に抗血清を採取し、上記のようにプールして、SARS-CoV-2武漢野生型またはB.1.351変異株スパイクタンパク質を発現する偽ウイルスを用いた中和アッセイを行い、中和抗体のID
50およびID
90力価を決定した。結果は、幾何平均力価を示すバーとして示し、各試料の値を表す記号を付した。
【
図15A】異なる用量のMVC-COV1901ワクチンを接種した臨床試験被験者の抗血清による、野生型または変異株スパイクタンパク質を持つSARS-CoV-2偽ウイルスの中和を示すグラフである。MVC-COV1901被験者の第I相臨床試験の血清試料は、2回目の免疫化の4週間後(1回目の免疫化から56日後)に採取した。偽ウイルス中和アッセイを用いて、低用量(LD)のID
50中和力価および全用量群を測定した。結果は、各点で個々の血清試料の中和力価を示す。補正したDunnの多重比較検定を用いたKruskal-Wallisを実施し、野生型に対する変異株の統計的有意性は、各カラムの上方に示す。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図15B】
図15Aのように血清試料を採取し、偽ウイルス中和アッセイを用いて、中用量(MD)のID
50中和力価および全用量群を測定した。
【
図15C】
図15Aのように血清試料を採取し、偽ウイルス中和アッセイを用いて、高用量(HD)のID50中和力価および全用量群を測定した。
図15D~Fは、
図15Aのように血清試料を採取し、偽ウイルス中和アッセイを用いて、低用量(LD;
図15D)、中用量(MD;
図15E)、高用量(HD;
図15F)のID90中和力価および全用量群を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、SARS-CoV-2に対する免疫原性組成物に関する。免疫原性組成物は、抗原組換えタンパク質と、アルミニウム含有アジュバントおよび/または非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフを含むアジュバントとを含む。抗原組換えタンパク質は、残基986および987にプロリン置換、残基682~685に「GSAS」置換、ならびにC末端T4フィブリチン三量体化ドメインを有するSARS-CoV-2 Sタンパク質の残基14~1208を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、残基986および987にプロリン置換ならびに残基682~685に「GSAS」置換を有するSARS-CoV-2 Sタンパク質の残基14~1208は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:1と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一のアミノ酸配列を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、C末端T4フィブリチン三量体化モチーフは、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:2と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一のアミノ酸配列を有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、抗原組換えタンパク質は、SEQ ID NO:5もしくは6のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:5もしくは6と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一のアミノ酸配列を有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、アルミニウム含有アジュバントは、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムゲル、アルミニウムヒドロキシホスフェイト、アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩、非晶質アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩、硫酸アルミニウムカリウム、モノステアリン酸アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、0.5mL用量の免疫原性組成物は、約250~約500μgのAl3+、または約375μgのAl3+を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、非メチル化CpGモチーフは、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、またはこれらの組み合わせの合成オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、0.5mL用量の免疫原性組成物は、約750~約3000μgのオリゴヌクレオチドを含む、または免疫原性組成物は、約750μg、約1500μg、もしくは約3000μgのオリゴヌクレオチドを含む。
【0024】
本発明は、本発明の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫応答を被験者において誘発する方法にも関する。
【0025】
本発明は、本発明の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染から被験者を保護する方法にも関する。
【0026】
本発明は、本発明の免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む、被験者がCOVID-19疾患に罹患するのを防ぐ方法にも関する。
【0027】
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫応答を、その必要がある被験者において誘発するための、本発明の免疫原性組成物の使用にも関し、方法は、免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、免疫応答は、SARS-CoV-2に対する中和抗体の産生およびTh1偏向免疫応答を含む。
【0029】
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染から、その必要がある被験者を保護するための、本発明の免疫原性組成物の使用にも関し、方法は、免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む。
【0030】
本発明は、その必要がある被験者がCOVID-19疾患に罹患するのを防ぐための、本発明の免疫原性組成物の使用にも関し、方法は、免疫原性組成物の有効量をその必要がある被験者に投与することを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、免疫原性組成物は筋肉内注射によって投与される。
【0032】
本明細書に記載する科学技術用語の意味は、当業者には明確に理解できるものである。
【0033】
本明細書で使用する単数形「a」、「an」、および「the」は、別段の指示がない限り、複数の言及を含む。例えば、「an excipient(賦形剤)」は、1つまたは複数の賦形剤を含む。
【0034】
本明細書で使用する語句「を含む」はオープンエンド形式であり、かかる実施形態が追加の要素を含み得ることを示す。これに対し「からなる」はクローズドエンド形式であり、かかる実施形態が追加の要素を含まない(微量不純物を除く)ことを示す。「から本質的になる」という語句は部分的にクローズドであり、かかる実施形態が、かかる実施形態の基本的特性を実質的に変化させない要素をさらに含み得ることを示す。
【0035】
本明細書において同義で使用する用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、一本鎖DNA(ssDNA)、二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、および二本鎖RNA(dsRNA)、修飾オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオシド、またはこれらの組み合わせを含む。オリゴヌクレオチドは、直鎖状または環状に構成できる、または直鎖状および環状の両方のセグメントを含むことができる。オリゴヌクレオチドは、一般にホスホジエステル結合を介して結合したヌクレオシドのポリマーであるが、ホスホロチオエートエステルなどの代替結合もオリゴヌクレオチドに用いられ得る。ヌクレオシドは、プリン(アデニン(A)もしくはグアニン(G)、もしくはそれらの誘導体)またはピリミジン(チミン(T)、シトシン(C)、もしくはウラシル(U)、もしくはそれらの誘導体)塩基が糖に結合したものである。DNAの4つのヌクレオシド単位(または塩基)は、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、およびデオキシシチジンと呼ばれる。ヌクレオチドはヌクレオシドのリン酸エステルである。
【0036】
本明細書で使用する用語「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)」は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)を引き起こすコロナウイルスの株を指す。SARS-CoV-2は、ゲノムサイズが29,903塩基のポジティブセンス一本鎖RNAウイルスである。SARS-CoV-2ビリオンはそれぞれ直径が50~200nmで、S(スパイク)、E(エンベロープ)、M(膜)、およびN(ヌクレオカプシド)タンパク質として知られる4種類の構造タンパク質を有する。Nタンパク質はRNAゲノムを有し、S、E、およびMタンパク質が共にウイルスのエンベロープを構築している。スパイクタンパク質は、ウイルスが宿主細胞の膜に付着および融合できるようにするタンパク質であり、具体的には、そのS1サブユニットが付着を、S2サブユニットが融合を触媒する。
【0037】
本明細書で使用する用語「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する免疫原性組成物」は、SARS-CoV-2に対する免疫応答を刺激または誘発する組成物を指す。免疫応答には、SARS-CoV-2に対する中和抗体の産生およびTh1偏向免疫応答があるがこれらに限定されない。
【0038】
本明細書で使用する用語「アルミニウム含有アジュバント」は、アルミニウムを含むアジュバントを指す。いくつかの実施形態では、アルミニウム含有アジュバントは、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムゲル、アルミニウムヒドロキシホスフェイト、アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩、非晶質アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩、硫酸アルミニウムカリウム、モノステアリン酸アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、アルミニウム含有アジュバントは、ヒトへの投与についてFDAの承認を受けたアルミニウム含有アジュバントである。いくつかの実施形態では、アルミニウム含有アジュバントは、ヒトへの投与についてFDAの承認を受けた水酸化アルミニウムアジュバントである。いくつかの実施形態では、アルミニウム含有アジュバントは、ヒトへの投与についてFDAの承認を受けたリン酸アルミニウムアジュバントである。
【0039】
本明細書で使用する用語「非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフ」はCpG含有オリゴヌクレオチドを指し、Cはメチル化されておらず、in vitro、in vivo、および/またはex vivoで測定される、測定可能な免疫応答に寄与する。いくつかの実施形態では、CpG含有オリゴヌクレオチドは、一般式が5’-プリン-プリン-CG-ピリミジン-ピリミジン-3’である回文構造の六量体を含む。いくつかの好ましい実施形態では、非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフはSEQ ID NO:8のオリゴヌクレオチド(5’-TGACTGTGAACGTTCGAGATGA-3’)を有し、CGのCはメチル化されていない。いくつかの実施形態では、CpG含有オリゴヌクレオチドはTCGを含み、Cはメチル化されておらず、鎖長が8~100ヌクレオチド、好ましくは8~50ヌクレオチド、または好ましくは8~25ヌクレオチドである。いくつかの好ましい実施形態では、非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフはSEQ ID NO:9のオリゴヌクレオチド(5’-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3’)を有し、TCGのCはメチル化されていない。非メチル化シトシンリン酸グアノシン(CpG)モチーフの例としてさらに、5’-GGTGCATCGATGCAGGGGGG-3’(SEQ ID NO:10)、5’-TCCATGGACGTTCCTGAGCGTT-3’(SEQ ID NO:11)、5’-TCGTCGTTCGAACGACGTTGAT-3’(SEQ ID NO:12)、および5’-TCGTCGACGATCGGCGCGCGCCG-3’(SEQ ID NO:13)があるがこれらに限定されない。本明細書に記載するCpG含有オリゴヌクレオチドは、別段の指示がない限り、薬学的に許容される塩の形態である。好ましい一実施形態では、CpG含有オリゴヌクレオチドはナトリウム塩の形態である。
【0040】
物質の「有効量」または「十分な量」とは、臨床結果などの有益な、または所望の結果をもたらすのに十分な量であり、したがって「有効量」は、それが適用される状況に応じて異なる。免疫原性組成物を投与するという状況においては、有効量は、免疫応答を誘発するのに十分なアジュバントおよびSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質を含む。有効量は、1回または複数回の用量で投与できる。
【0041】
用語「個人」および「被験者」は哺乳類を指す。「哺乳類」は、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル)、家畜、競技用動物、げっ歯動物(例えば、マウスやラット)、および愛玩動物(例えば、イヌやネコ)を含むがこれらに限定されない。
【0042】
免疫原性組成物に関連して本明細書で使用する用語「用量」は、任意の1回に被験者が取り入れる(投与される、または受け取る)免疫原性組成物の測定された量を指す。
【0043】
本明細書で使用する用語「単離された」および「精製された」は、自然状態でそれが結びついている少なくとも1つの成分から除去された(例えば、元の環境から除去された)物質を指す。用語「単離された」は、組換えタンパク質に関して使用される場合、そのタンパク質を産生した宿主細胞の培地から除去されたタンパク質を指す。
【0044】
反応またはパラメータの「刺激」は、目的のパラメータ以外がすべて同じ条件と比較した場合、あるいは、他の条件と比較した場合に、その反応またはパラメータを誘発および/または増強することを含む(例えば、TLRアゴニスト非存在下と比較した場合のTLRアゴニスト存在下でのTLRシグナルの増加)。例えば、免疫応答の「刺激」は、応答の増加を意味する。測定するパラメータに応じて、増加は5倍から500倍以上、または5、10、50、もしくは100倍から500、1,000、5,000、もしくは10,000倍であってよい。
【0045】
本明細書で使用する用語「免疫化」は、抗原に対する哺乳類被験者の反応を増加させ、それにより感染に抵抗または感染を克服する能力を向上させるプロセスを指す。
【0046】
本明細書で使用する用語「ワクチン接種」は、哺乳類被験者体内へのワクチンの導入を指す。
【0047】
「アジュバント」は、抗原を含む組成物に添加すると、曝露時にレシピエントにおいて抗原に対する免疫応答を非特異的に増強または強化する物質を指す。
【0048】
以下の実施例によって本発明をさらに説明していくが、これらは限定ではなく実証を目的として提供するものである。本開示に照らして、開示される特定の実施形態において多くの変更が可能であり、それでも本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果が得られることを当業者は理解すべきである。
【実施例1】
【0049】
SARS-CoV-2に対する免疫原性組成物の調製
残基986および987にプロリン置換、フューリン切断部位(残基682~685)に「GSAS」置換(SEQ ID NO:14)、およびC末端T4フィブリチン三量体化ドメイン(SEQ ID NO:2)、HRV3Cプロテアーゼ切断部位(SEQ ID NO:3)、8x His Tag、およびTwin-Strep Tag(SEQ ID NO:4)を有するSARS-CoV-2 Sタンパク質(武漢Hu-1株、GenBank:MN908947)の残基1~1208をコードするポリヌクレオチドを有するプラスミドを、ExpiCHO-S細胞(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)にトランスフェクトした。
【0050】
6日後に細胞培養物を回収し、Strep-Tactin樹脂(IBA Lifesciences、ドイツ、ゲッティンゲン)を用いて上清からタンパク質を精製した。HRV3Cプロテアーゼ(1%wt/wt)をタンパク質に添加し、4℃で一晩、反応をインキュベートした。消化されたタンパク質はSuperose6 16/70カラム(GE Healthcare Biosciences、米国イリノイ州シカゴ)を用いてさらに精製した。次いで、精製したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質(SEQ ID NO:5または6)を、非メチル化CpGモチーフ(CpG1018、SEQ ID NO:8)および/またはアルミニウム含有アジュバント、例えば水酸化アルミニウム(Al(OH)3)もしくはリン酸アルミニウム(AlPO4)を用いて、SARS-CoV-2に対する免疫原性組成物として調製した。
【実施例2】
【0051】
マウスにおけるSARS-CoV-2に対する免疫原性組成物の免疫原性
本実施例は、実施例1で得たSARS-CoV-2に対する免疫原性組成物の免疫原性をマウスで評価する前臨床試験を提供する。
【0052】
A.予備試験1:リン酸アルミニウムを用いて調製したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質
材料および方法
マウスの免疫化。6~8週齢のBALB/cマウス(The National Laboratory Animal Center、台湾)(N=5/群)に、0および3週目にSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質をワクチン接種した。PBSで希釈したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質(終濃度が1または10μg/mL)をリン酸アルミニウムと混合した(終濃度が0.5mgアルミニウム/mL)。100μL(各後肢に50μL)をマウスの筋肉内に接種した。最終免疫化の2週間後に血清を採取し、抗体応答を測定した。
【0053】
偽ウイルスの作製。武漢Hu-1株(SEQ ID NO:7)のスパイクタンパク質をコードするcDNAを、QuikChange XLキット(Stratagene、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて合成した後、CMV/Rプラスミドに挿入した。CMV/R-SARS-CoV-2スパイクプラスミドはシークエンシングを用いて確認した。HEK293T細胞はATCCから入手し、10%FBS、2mMグルタミン、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中で、37℃、5%CO2で培養した。SARS-CoV-2偽ウイルスを作製するために、Fugene6トランスフェクション試薬(Promega、米国ウィスコンシン州マディソンン)を用いて、CMV/R-SARS-CoV-2スパイクプラスミドを、パッケージングプラスミドpCMVDR8.2および形質導入プラスミドpHR CMV-Lucと共にHEK293T細胞にコトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後に上清を回収し、ろ過して-80℃で凍結した。
【0054】
偽ウイルスの感染力および中和アッセイ。Huh7.5細胞(RRID:CVCL_7927)は、10%FBS、2mMグルタミン、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中で、37℃、5%CO2で培養した。偽ウイルスの感染力は、96ウェルホワイト/ブラックIsoPlate(PerkinElmer、米国マサチューセッツ州ウォルサム)に一晩播種したHuh7.5細胞で評価した。偽ウイルスの2倍段階希釈液を、静止状態のHuh7.5細胞にトリプリケートで添加した。2時間のインキュベーション後、新鮮な培地を加えた。72時間後に細胞を溶解し、ルシフェラーゼ基質(Promega)を添加した。ルシフェラーゼ活性は、SpectramaxL(Molecular Devices、米国カリフォルニア州サンノゼ)上で、570nmで相対ルシフェラーゼ単位(RLU)として測定した。中和試験のために、マウス血清の段階希釈液(1:40、4倍、8回希釈)を、あらかじめ50,000RLUを目標にタイタリングしたさまざまな偽ウイルス株と混合した。RLUの測定値から、希釈ごとにトリプリケートの平均をとってシグモイド曲線を作成し、未感染細胞を100%中和、ウイルスのみを形質導入した細胞を0%中和とし、50%中和力価(IC50)を算出した。
【0055】
結果
中和アッセイの結果は
図1に示す。リン酸アルミニウムを用いて調製したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質(0.1および1μg/マウス)は、組換えタンパク質(0.1および1μg/マウス)のみよりも優れた中和を誘発した。これらのデータは、リン酸アルミニウムが、コロナウイルス疾患(COVID-19)に対するワクチンの抗原であるSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質の免疫原性を有意に高めることを示している。
【0056】
B.予備試験2:CpGと水酸化アルミニウムの組み合わせを用いて調製したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質
材料および方法
マウスの免疫化。6~8週齢のBALB/cマウス(The National Laboratory Animal Center、台湾)(N=6/群)に、0および3週目にSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質をワクチン接種した。PBSで希釈したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質(終濃度が10または50μg/mL)を、CpG1018(SEQ ID NO:8)(終濃度が0.1mg/mL)、水酸化アルミニウム(終濃度が0.5mgアルミニウム/mL)、またはCpG1018(終濃度が0.1mg/mL)と水酸化アルミニウム(終濃度が0.5mgアルミニウム/mL)の組み合わせのそれぞれと混合した。100μL(各後肢に50μL)をマウスの筋肉内に接種した。最終免疫化の2週間後に血清を採取し、抗体応答を測定した。
【0057】
偽ウイルスの作製、偽ウイルスの感染力、および中和アッセイ。方法はセクションAに記載する。
【0058】
結果
中和試験の結果は
図2に示す。CpGと水酸化アルミニウムの組み合わせを用いて調製したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質は、低用量(1μg/マウス)と高用量(5μg/マウス)の両方で、最高の中和活性を誘発した。加えて、水酸化アルミニウムのみを用いて調製したSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質(1μg/マウス)は、CpGのみを用いて調製した組換えタンパク質(1および5μg/マウス)よりも優れた中和を誘発した。CpGのみを用いて調製した組換えタンパク質は、用量依存的に中和活性を誘発した。これらのデータは、CpGおよび/または水酸化アルミニウムが、コロナウイルス疾患(COVID-19)に対するワクチンの抗原であるSARS-CoV-2 S-2P組換えタンパク質の免疫原性を有意に高めることを示している。
【0059】
C.アジュバント化した安定化前融合SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の作製
材料および方法
偽ウイルスの作製および滴定。SARS-CoV-2偽ウイルスを作製するために、TransIT-LT1トランスフェクション試薬(Mirus Bio)を用いて、全長野生型武漢Hu-1株SARS-CoV-2スパイクタンパク質(SEQ ID NO:7)を発現するプラスミドを、パッケージングプラスミドおよびレポータープラスミドpCMVΔ8.91およびpLAS2w.FLuc.Ppuro(RNAi Core,Academia Sinica)と共にHEK293T細胞にコトランスフェクトした。部位特異的突然変異誘発を用いて、23403の位置(武漢Hu-1参考株)のヌクレオチドをAからGに置き換えてD614G変異株を作製した。偽ウイルスは、p2019-nCoV スパイクを除去して作製した(WT)。トランスフェクションの72時間後に上清を回収し、ろ過して-80℃で凍結した。SARS-CoV-2偽型レンチウイルスの形質導入単位(TU)を、レンチウイルスの限界希釈法により、細胞生存率アッセイを用いて推定した。簡単に述べると、ヒトACE2遺伝子を安定発現するHEK-293T細胞を、レンチウイルス形質導入の1日前に96ウェルプレートに播種した。偽ウイルスのタイタリングのために、さまざまな量の偽ウイルスをポリブレン含有培地に添加した。96ウェルプレートで、1100×g、37℃で30分間、スピン感染を行った。細胞を37℃で16時間インキュベートした後、ウイルスとポリブレンを含む培地を除去し、2.5μg/mLピューロマイシンを含む新鮮な完全DMEMに交換した。ピューロマイシンで48時間処理した後、培地を除去し、製造指示書に従って10%AlarmaBlue試薬を用いて細胞生存率を検出した。未感染細胞(ピューロマイシン処理なし)の生存率を100%として設定した。希釈したウイルス用量に対する生存細胞をプロットして、ウイルス力価(形質導入単位)を決定した。
【0060】
偽ウイルスベースの中和アッセイ。HEK293-hAce2細胞(2×104細胞/ウェル)を96ウェルホワイトIsoPlateに播種し、一晩インキュベートした。血清は56℃で30分間加熱して補体を不活性化し、2%FBSを補充したMEMで20倍の初期希釈で希釈した後に、2倍段階希釈を行った(計8回の希釈ステップで最終希釈率1:5120)。希釈した血清は等量の偽ウイルス(1000TU)と混合し、37℃で1時間インキュベートした後、細胞を入れたプレートに添加した。1時間インキュベートした後、培地を50μLの新鮮な培地に交換した。翌日、培地を100μLの新鮮な培地に交換した。感染の72時間後に細胞を溶解し、相対ルシフェラーゼ単位(RLU)を測定した。ルシフェラーゼ活性は、Tecan i-control(Infinite500)で検出した。未感染細胞を100%中和、ウイルスのみを形質導入した細胞を0%中和とし、50%および90%阻害希釈倍率(ID50およびID90)を算出した。ID50力価が検出上限で常に飽和している場合、ID90力価が有用であることから、逆数ID50とID90の幾何平均力価(GMT)を求めた。
【0061】
野生型SARS-CoV-2の中和。SARS-CoV-2ウイルスを用いた中和アッセイは、以前に報告されているように(非特許文献1)行った。Vero E6細胞(2.5×104細胞/ウェル)を96ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートした。血清は56℃で30分間加熱して補体を不活性化し、無血清MEMで20倍の初期希釈で希釈し、次いでさらに2倍段階希釈を行って、計11回の希釈ステップで最終希釈率1:40,960とした。希釈した血清は等量のSARS-CoV-2ウイルスと100TCID50/50μL(hCoV-19/Taiwan/CGMH-CGU-01/2020、GenBankアクセッション番号:MT192759)で混合し、37℃で2時間インキュベートした。次いで、血清-ウイルス混合物をVero E6細胞と共に96ウェルプレートに添加し、2%FBSを添加したMEMで、37℃で5日間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルに4%ホルマリンを添加して10分間細胞を固定し、0.1%クリスタルバイオレットで染色して可視化した。結果は、ID50力価のlog50%エンドポイントとID90力価のlog90%エンドポイントについてReed-Muench法で算出した。
【0062】
マウスの免疫化。雌のBALB/cおよびC57BL/6マウスをAcademia SinicaのNational Laboratory Animal Center(台湾)およびBioLASCO Taiwan Co.Ltd.から入手した。SARS-CoV-2 S-2Pタンパク質を等量のCpG1018(SEQ ID NO:8)、水酸化アルミニウム、PBS、またはCpG1018+水酸化アルミニウムのいずれかと混合して、抗原を調製した。6~9週齢のマウスは、以前に説明されているように(非特許文献2)3週間の間隔を空けて2回(マウスの左右大腿四頭筋の筋肉内にそれぞれ50μL)免疫した。血清総抗S IgGおよび抗RBD IgG力価は、それぞれS-2P抗原、およびRBD領域を含むSタンパク質の大腸菌発現断片を塗布したカスタム96ウェルプレートを用いた直接ELISA法により検出した。
【0063】
サイトカインアッセイ。以前に説明されているように(非特許文献3)、マウスは2回目注射の2週間後に安楽死させ、脾細胞を単離し、S-2Pタンパク質(2μg/ウェル)で刺激した。IFN-γ、IL-2、IL-4、およびIL-5の検出のために、96ウェルマイクロプレートから培養上清を回収し、Mouse IFN-γ Quantikine ELISA Kit、Mouse IL-2 Quantikine ELISA Kit、Mouse IL-4 Quantikine ELISA Kit、およびMouse IL-5 Quantikine ELISA Kit(R&D System)を用いてELISAでサイトカインのレベルを分析した。OD450値はMultiskan GO(Thermo Fisher Scientific)で測定した。
【0064】
Sprague Dawley(SD)ラットにおける単回および反復筋肉内注射(IM)の用量設定試験。Crl:CD Sprague Dawley(SD)ラットは、BioLASCO Taiwan Co.Ltd.から入手した。動物実験は、台湾のTFBS Bioscience Inc.のTesting Facility for Biological Safetyで実施した。6~8週齢のSDラットは、1500μgのCpG1018のみ、または750μgのCpG1018と375μgの水酸化アルミニウムの組み合わせでアジュバント化した5、25、または50μgのS-2Pで免疫した。各ラットには、1日目(単回投与試験)および15日目(反復投与試験)に試験物質またはビヒクル対照を筋肉内投与(0.25mL/部位、大腿四頭筋の2部位)した。観察期間は14日間(単回投与試験)および28日間(反復投与試験)であった。評価項目は、臨床症状、局所刺激性試験、瀕死/死亡率、体温、体重、および生存期間中の摂餌量とした。血液試料を採取し、凝固検査などの血液学的検査および血液生化学検査を行った。ラットはすべて安楽死させ、剖検して肉眼的病変の検査、臓器重量、ならびに注射部位および肺の病理組織学的評価を行った。
【0065】
統計解析。中和アッセイでは、幾何平均力価はバーの高さで表し、95%信頼区間はエラーバーで表した。サイトカインおよびラットのデータでは、バーまたは記号の高さは平均値を示し、SDはエラーバーで表している。点線は検出下限と検出上限を表す。統計解析にはPrism6.01(GraphPad)の解析パッケージを使用した。データは、アジュバントが異なるS-2Pを同じ用量レベルで、または同じアジュバント系を異なる抗原用量で比較した。3つ以上の実験群間のノンパラメトリック検定には、補正したDunnの多重比較検定を用いたKruskal-Wallisを使用した。2群間の比較にはMann-Whitney U検定を用いた。抗体力価と中和力価の相関には、Spearmanの順位相関係数を用いた。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0066】
結果
CpG1018と水酸化アルミニウムでアジュバント化したS-2Pによる強力な中和抗体の誘導。臨床試験や商業生産のために安定したクローンが確立できるよう、ExpiCHOシステムをS-2P抗原の発現系として使用した。CHO細胞で産生したS-2Pタンパク質とその構造は、クライオ電子顕微鏡下で典型的なスパイク三量体を示し、293で発現したSARS-CoV-2 Sタンパク質のそれと似ており(非特許文献4)、CHO細胞がS-2Pの産生に適していることが示唆された。次に、Th1偏向CpG1018の臨床応用の可能性を検討した。水酸化アルミニウム(以下、ミョウバンと略記する)は、CpG1018と組み合わせると、Th1応答を誘導する特性を保持しながらも、CpGアジュバントの効力を増強する特徴があることから、CpG1018と共に試験した(非特許文献5)。偽ウイルス中和アッセイは、初回注射の3週間後または2回目注射の2週間後に採取した血清で実施した。初回注射の3週間後に、CpG1018とミョウバンを添加した1および5μgのS-2Pの両方でマウスを免疫したとき、中和活性がすでに観察された。2回目注射の2週間後に、CpG1018、ミョウバン、およびCpG1018とミョウバンの両方でアジュバント化した1μgのS-2Pを用いた免疫で、それぞれ245、3109、および5120の50%逆数阻害希釈倍率(ID
50)GMTが得られた(
図3)。同様の傾向は、BALB/c(
図3)およびC57BL/6マウスの両方において、5μgのS-2Pで観察された。
【0067】
次いで、これらのマウスの血清を抗S IgGの量について調べた。CpG1018とミョウバンを組み合わせると、CpG1018のみの場合と比較して、抗S IgGの力価が有意に高まった(
図4)。Sタンパク質の重要な受容体結合ドメイン(RBD)に対する抗体の活性を確認するために、免疫血清で抗RBD IgGを調べたところ、結果は、CpG1018とミョウバンの両方と組み合わせたS-2Pにおける抗S IgGと同様であり、最も高いIgG力価を誘導した。抗S IgGと抗RBD IgG力価の間には、Spearmanの順位相関係数0.6486で示されるように、中程度の相関があった。野生型SARS-CoV-2に対する中和能について、中和アッセイで免疫血清をさらに試験した。S-2Pは、偽ウイルスよりも低い効力ではあるが、1μgの濃度でSARS-CoV-2を阻害できた(
図3、5)。CpG1018、ミョウバン、およびCpG1018とミョウバン両方の存在下での1μgのS-2Pの逆数ID
50 GMTは、それぞれ約60、250、および1500であった(
図5)。現在支配的なD614G変異株スパイクを有する偽ウイルスも作製したところ、CpG1018とミョウバンを添加したS-2Pで免疫したマウスの中和抗体は、スパイクタンパク質の野生型D614および変異株D614Gバージョンを有する偽ウイルスの両方に対して有効であった(
図6)。野生型ウイルスと偽ウイルスの中和力価および総抗S IgG力価は、いずれもSpearmanの順位相関係数が0.8超と、高い相関があることが分かった。
【0068】
CpG1018はTh1免疫を誘導した。CpG1018がワクチン-アジュバント系でTh1応答を誘導できるかを確認するために、ミョウバン、CpG1018、またはこの2つの組み合わせを添加したS-2Pで免疫したマウスの脾細胞でTh1応答とTh2応答に関与するサイトカインを測定した。予想通り、ミョウバンでアジュバント化したS-2Pは、Th1応答の代表的なサイトカインであるIFN-γとIL-2を限定的に誘導した。これに対し、高抗原用量とCpG1018およびミョウバンの組み合わせでは、IFN-γとIL-2の有意な増加が最も強く検出された。Th2応答については、ミョウバンとS-2Pの存在下でIL-4、IL-5、およびIL-6のレベルが増加したのに対し、ミョウバンにCpG1018を追加すると、IL-5およびIL-6のレベルが抑制された。IFN-γ/IL-4、IFN-γ/IL-5、およびIFN-γ/IL-6比はTh1偏向応答を強く示しており、G1018とミョウバンを組み合わせたS-2Pの存在下では、それぞれ約36、130、2倍増加した(
図7)。これらの結果は、高い抗体レベルを保持しながら、細胞媒介応答をTh1応答に向ける場合に、CpG1018の効果はミョウバンよりも優れていることを示唆した。
【0069】
S-2Pはラットに全身性の有害作用をもたらさなかった。ワクチン候補の安全性および潜在的な毒性を評価するために、1500μgのCpG1018、または750μgのCpG1018と375μgの水酸化アルミニウムの組み合わせでアジュバント化した5、25、または50μgのS-2Pを、単回投与試験および反復投与試験でSDラットに投与した。単回投与では、雌雄とも、S-2P(アジュバント添加および非添加)に起因する可能性のある死亡、臨床症状異常、体重変化、体温、および摂餌量の差は認められなかった。投与4時間後または24時間後の体温上昇が、単回投与試験および反復投与試験で雌雄共に認められたが、これらの体温変化は軽度であり、対照群(PBS)を含むすべての投与群で雌雄共に48時間後には回復した。雄ラット1匹を除く、単回投与および反復投与の大部分の雌雄ラットで臓器に肉眼的病変は観察されず、この1匹についても、ワクチンと無関係と判断された。結論として、CpG1018、またはCpG1018とミョウバンの組み合わせをアジュバントとして添加したS-2Pタンパク質をSDラットに1回または2回筋肉内投与しても、全身性の有害作用は発生しなかった。
【0070】
結果から、マウスでは、CpG1018およびミョウバンでアジュバント化した前融合スパイクタンパク質(S-2P)からなるサブユニットワクチンを2回注射すると、野生型およびD614G変異株スパイクタンパク質を発現する偽ウイルスと、野生型SARS-CoV-2の両方に対する強力な中和活性を誘導する上で有効であったことが示される。S-2PとCpG1018およびミョウバンとの組み合わせは、マウスでは中和抗体レベルが高いTh1優位の免疫応答を誘発し、ラットでは重大な有害作用は示されなかった。したがって、本発明者らは、本実施例において、ミョウバンと組み合わせてアジュバントのCpG1018を添加したS-2Pが、変異株ウイルスの交差中和を示す高い抗体量を保持しながらも、野生型ウイルス感染を防ぐ強力なTh1偏向免疫応答を誘導することを実証した。これにより、本発明のSARS-CoV-2に対する免疫原性組成物は、世界的なCOVID-19パンデミックの負担を軽減する上で、理想的なワクチンの役割を果たす。
【実施例3】
【0071】
ハムスターにおけるSARS-CoV-2に対する免疫原性組成物によるSARS-CoV-2曝露からの保護
材料および方法
偽ウイルスベースの中和アッセイおよびIgG ELISA。武漢Hu-1株SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現するレンチウイルスを構築し、実施例2に記載するように中和アッセイを実施した。簡潔に説明すると、HEK293-hACE2細胞を96ウェルホワイトIsoPlateに播種し、一晩インキュベートした。ワクチン接種したハムスターと未接種のハムスターの血清を加熱不活性化し、2%FBSを補充したMEMで20倍の初期希釈で希釈した後に、2倍段階希釈を行って、計8回の希釈ステップで最終希釈率を1:5120とした。希釈した血清は等量の偽ウイルス(1000TU)と混合し、37℃で1時間インキュベートした後、細胞を入れたプレートに添加した。感染の72時間後に細胞を溶解し、相対ルシフェラーゼ単位(RLU)を測定した。未感染細胞を100%中和、ウイルスのみを形質導入した細胞を0%中和とし、50%および90%阻害希釈倍率(ID50およびID90)を算出した。血清総抗S IgG力価は、S-2P抗原を塗布したカスタム96ウェルプレートを用いた直接ELISA法により検出した。
【0072】
ハムスターの免疫化と曝露。試験開始時に6~9週齢の雌のゴールデンシリアンハムスターを、National Laboratory Animal Center(台湾台北市)から入手した。異腹子のハムスターを無作為に4群に分け(各群n=10)、ビヒクル対照(PBS)、150μgのCpG1018および75μgの水酸化アルミニウム(ミョウバン)、またはアジュバントのみでアジュバント化した1または5μgのS-2Pタンパク質を、3週間の間隔を空けて2回、筋肉内注射でワクチン接種した。2回目の免疫化の2週間後にハムスターの顎下静脈から採血し、中和抗体の存在を確認した。2回目の免疫化の4週間後に、1×104PFUのSARS-CoV-2 TCDC#4(hCoV-19/Taiwan/4/2020、GISAIDアクセッション番号:EPI_ISL_411927)を、各ハムスターにつき100μLの量で鼻腔内曝露した。ハムスターは2つのコホートに分け、曝露後3および6日目に安楽死させ、剖検と組織試料の採取を行った。各ハムスターの体重と生存率は感染後毎日記録した。ハムスターは曝露後3および6日目に二酸化炭素で安楽死させた。右肺はウイルス量測定のために採取した(RNA力価およびTCID50アッセイ)。左肺は、病理組織学的検査のために4%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0073】
細胞培養感染アッセイによる肺組織中のウイルス力価の定量(TCID50)。ハムスターの肺の中葉、下葉、下大静脈葉を、ホモジナイザーを用いて2%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む600μLのDMEM中でホモジナイズした。組織ホモジネートを15,000rpmで5分間遠心分離し、上清を生ウイルス滴定のために回収した。簡単に述べると、各試料の10倍段階希釈液をVero E6細胞単層上に4回添加し、4日間インキュベートした。次いで、10%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、0.5%クリスタルバイオレットで20分間染色した。プレートを水道水で洗浄し、感染をスコア化した。50%組織培養感染量(TCID50)/mLはReed-Muench法により算出した(非特許文献6)。
【0074】
SARS-CoV-2RNA定量化のためのリアルタイムRT-PCR。SARS-CoV-2ゲノムのエンベロープ(E)遺伝子の26,141~26,253領域を標的とする特定のプライマーを使用し、TaqManリアルタイムRT-PCR法でSARS-CoV-2のRNAレベルを測定した(非特許文献7)。順方向プライマーE-Sarbeco-F1 5’-ACAGGTACGTTAATAGTTAATAGCGT-3’(SEQ ID NO:15)と逆方向プライマーE-Sarbeco-R2 5’-ATATTGCAGCAGTACGCACACA-3’(SEQ ID NO:16)に加えて、プローブE-Sarbeco-P1 5’-FAM-ACACTAGCCATCCTTACTGCGCTTCG-BBQ-3’(SEQ ID NO:17)を使用した。RNeasy Mini Kit(QIAGEN、ドイツ)を用いて、製造指示書に従って、各肺試料から計30μLのRNA溶液を採取した。5μLのRNA試料を、Platinum Taq Polymerase(Thermo Fisher Scientific、米国)を用いたSuperScript III One-Step RT-PCR Systemの計25μL混合液に添加した。最終反応混合物は、順方向および逆方向プライマー400nM、プローブ200nM、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)1.6mM、硫酸マグネシウム4mM、ROX参照染料50nM、および酵素混合液1μLを含有していた。ワンステップPCRプロトコルを使用し、以下のサイクル条件で実施した:第一鎖cDNA合成に55℃10分、続いて94℃3分、次いで94℃15秒および58℃30秒の増幅サイクルを45回。データはApplied Biosystems7500Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific、米国)で収集し、算出した。113bpの合成オリゴヌクレオチド断片をqPCR標準として使用し、ウイルスゲノムのコピー数を推定した。オリゴヌクレオチドは、Genomics BioSci and Tech Co.Ltd.(台湾台北市)で合成した。
【0075】
結果
SARS-CoV-2ウイルス曝露モデルとしてのハムスター。S2-Pワクチンについて、ハムスターでSARS-CoV-2ウイルス曝露モデルを作製するために、初回試験を実施し、曝露試験に最適なウイルス用量を決定した。ワクチン未接種のハムスターに103、104、または105PFUのSARS-CoV-2を接種し、感染後3または6日目に安楽死させ、組織を採取した。103~105PFUのSARS-CoV-2感染後、ハムスターは用量依存的な体重減少を示した。103PFUを感染させたハムスターは体重が増加したのに対し、104および105PFUを感染させたハムスターは、感染後6日目(dpi)に体重が次第に激しく減少した。しかし、103~105PFUのSARS-CoV-2感染ハムスターで3および6dpiに測定したウイルスゲノムRNAのレベルとウイルス力価との間に有意な差は認められなかった。体重減少が生じなかった103PFUも含め、すべてのウイルス投与量で肺病理学的な上昇が見られた。また、肺病理学的スコアおよび肺ウイルス量にウイルス接種用量依存的な影響は認められなかった。そこで、臨床症状と接種のウイルス力価のバランスが適当であった104PFUをウイルス曝露試験に使用した。
【0076】
高レベルの中和抗体を誘導したハムスターへの、CpG1018と水酸化アルミニウムでアジュバント化したS-2Pの投与。ハムスターは4群に分け、ビヒクル対照(PBSのみ)、アジュバントのみ、CpG1018と水酸化アルミニウムを組み合わせた低用量(LD)または高用量(HD)のS-2P(S-2P+CpG1018+ミョウバン)のいずれかを21日間隔で2回免疫した。ワクチン接種後、4群間で体重変化に差は認められなかった。2回目の免疫化の14日後、LD群とHD群の両方で、90%阻害希釈倍率(ID
90)幾何平均力価(GMT)がそれぞれ2,226および1,783と、高レベルの中和抗体力価が認められた(
図8A)。抗S IgG抗体レベルは、いくつかの個別検体が検出の上限に達するほど高く、LD群およびHD群のGMTはそれぞれ1,492,959および1,198,315であった(
図8B)。全体的には、低用量でも、S-2P+CpG1018+ミョウバンはハムスターで強力な免疫原性を誘導した。
【0077】
アジュバントS-2PはSARS-CoV-2曝露後に臨床症状およびウイルス負荷からハムスターを保護した。2回目の免疫化の4週間後、ハムスターを10
4PFUのSARS-CoV-2ウイルスに曝露し、感染後3または6日目(dpi)まで体重を測定した。ハムスター群は3または6dpiに屠殺し、ウイルス量の測定と病理組織学的解析を行った。LDおよびHD接種群は、ウイルス曝露後3または6日目まで体重減少を示さず、逆に6dpi時点で平均体重がそれぞれ5および3.8g増加した。両方のワクチン接種群で6dpiに保護効果が最も顕著であったのに対し、ビヒクル対照およびアジュバント単独群は著しい体重減少を示した。ウイルスRNAおよびTCID
50アッセイで測定した肺ウイルス量から、ワクチンを接種したハムスターで3dpiにウイルスRNAとウイルス力価の両方が有意に減少し、6dpiには検出下限以下に低下したことが示された(
図9A、9B)。ウイルス量、特にTCID
50で測定したウイルス力価は、ハムスターの自然免疫応答により、6dpiに対照群およびアジュバント単独群で著しく減少したことに注意されたい(
図9A、9B)。肺切片を分析し、病理学的スコアリングをまとめた(
図10)。3dpiでは対照群と実験群との間に差は認められないが、6dpiには、ビヒクル対照群とアジュバント単独群で、HD抗原/アジュバント免疫群と比較して、広範な免疫細胞浸潤やびまん性肺胞損傷などの肺病理が有意に増加した(
図10)。これらの結果から、S-2P+CpG1018+ミョウバンは、感染したハムスターにおいて、肺のウイルス量を抑制し、体重減少および肺病理を防ぐことができる強固な免疫応答を誘導することが示された。
【0078】
S-2P+CpG1018+ミョウバン免疫群のハムスターはいずれも、肺病理が有意に減少し、保護されていた(概ね最小から軽度、LD群およびHD群の平均スコアは1.72)のに対し、対照群では6dpiにハムスターの肺にウイルスによるびまん性肺胞損傷が認められた(中程度から重度で、ビヒクル群およびアジュバント対照群の平均スコアは4.09)。本試験の意義は、in vivoの有効性だけでなく、安全性を実証することにもある。ウイルス曝露試験により、ワクチン候補による疾患増強リスクの評価が可能となった。免疫群の病理組織学的スコアは非曝露動物と差がなく、ワクチンによる病理の増強がないことを示している。本実施例の試験の結果は、ワクチン候補の臨床開発の進行を支持する多くのデータを提供するものである。
【実施例4】
【0079】
CpGでアジュバント化したS-2Pサブユニットワクチン「MVC-COV1901」のヒトにおける安全性および免疫原性
本実施例は、SARS-CoV-2サブユニットワクチン(すなわち、本発明の免疫原性組成物)の安全性および免疫原性を評価するための、健康なヒト被験者を対象とした第I相試験である。本明細書で「S-2P+CpG1018+ミョウバン」または「MVC-COV1901」と称されているSARS-CoV-2サブユニットワクチンについては、実施例1に詳しく説明している。
【0080】
ワクチン。MVC-COV1901は、アジュバントとしてCpG1018と水酸化アルミニウムを添加したSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質を3つの用量で調製した。MVC-COV1901ワクチンはそれぞれ、750μgのCpG1018および375μg(Al換算重量)の水酸化アルミニウムでアジュバント化した5、15、または25μgのS-2Pを含み、1回0.5mLを筋肉内(IM)注射で投与した。
【0081】
参加者。本試験では被験者45名の組み入れを目指した。20~49歳の健康な成人を適格参加者とした。適格性は、病歴、身体検査、臨床検査、および治験責任医師の臨床的判断に基づいて決定した。除外基準には、SARS-CoV-1または2ウイルスへの既知の潜在的な曝露歴、他のCOVID-19ワクチンの接種、免疫機能障害、自己免疫疾患、コントロール不良のHIV、HBV、またはHCV感染の履歴、自己抗体検査異常、初回投与前2日以内の発熱性または急性疾患、および初回投与前14日以内の急性呼吸器疾患が含まれていた。
【0082】
試験デザイン。本試験は、SARS-CoV-2ワクチンMVC-COV1901の安全性および免疫原性を評価する第I相前向き非盲検単施設試験である。本試験では、20~49歳の参加者を3群に分けた、用量漸増試験であった。各サブフェーズは参加者15名からなる。投与量はS-2Pタンパク質5、15、および25μgの3種類とし、それぞれコホート1a、1b、および1cとした。ワクチン接種スケジュールは、28日の間隔を空けて2回(1日目と29日目)、利き腕ではない腕の三角筋にIM注射で投与するものとした。
【0083】
コホート1a:センチネル参加者4名を採用して5μgのS-2Pを含むワクチンを投与し、ワクチンの予備安全性データを評価した。センチネル参加者4名への初回投与後7日以内にグレード3以上の有害事象(AE)または重篤な有害事象(SAE)が起こらなかった場合、フェーズ1aおよびフェーズ1bで残りの参加者への投与に進むものとした。
【0084】
コホート1b:別のセンチネル参加者4名を登録して15μgのS-2Pを含むワクチンを投与した。センチネル参加者4名への初回投与後7日以内にグレード3以上のAEまたはSAEが起こらなかった場合、フェーズ1bおよびフェーズ1cで残りの参加者への投与に進むものとした。
【0085】
コホート1c:別のセンチネル参加者4名を登録して25μgのS-2Pを含むワクチンを投与するものとした。センチネル参加者4名への初回投与後7日以内にグレード3以上のAEまたはSAEが起こらなかった場合、フェーズ1cで残りの参加者への投与に進むものとした。
【0086】
ワクチン接種の前後にバイタルサインおよび心電図(ECG)を実施した。参加者は各投与後に少なくとも30分間観察を行って、急激なAEがないか確認した。また、各投与後7日間、参加者用日誌カードに、非自発報告による局所(疼痛、紅斑、腫脹/硬結)および全身(発熱、筋肉痛、倦怠/疲労、悪心/嘔吐、下痢)AEを記録するよう求めた。自発報告によるAEは、各投与後28日間報告を行い、他のすべてのAE、SAE、および特に注目すべき有害事象(AESI)は、試験期間(約7ヵ月間)を通じて報告が行われた。血清試料を採取し、血液学的、生化学的、免疫学的評価を行った。
【0087】
免疫原性エンドポイントは、初回投与の14日後(15日目)と28日後(29日目)、2回目投与の14日後(43日目)と28日後(57日目)、さらに2回目投与の90日後と180日後に中和抗体力価と結合抗体力価を評価するものとした。COVID-19回復患者35名の回復期血清検体(Mitek COVID-19 Panel 1.1およびCOVID-19 Panel 1.4、Access Biologicals LLC、米国カリフォルニア州ビスタから入手)も検査した。細胞免疫応答は、IFN-γ ELISpotおよびIL-4 ELISpotにより、2回目投与の28日後に評価した。
【0088】
SARS-CoV-2スパイク特異的免疫グロブリンG(IgG):血清総抗スパイクIgG力価は、S-2P抗原を塗布したカスタム96ウェルプレートを用いた直接酵素結合免疫吸着(ELISA)法により検出した。
【0089】
SARS-CoV-2偽ウイルス中和アッセイ:検査試料は段階希釈を行った(初期希釈率が1:20、続いて2倍希釈、最終希釈率が1:2560)。希釈した血清は等量の偽ウイルス(1000TU)と混合し、インキュベートした後、HEK293-hAce2細胞(1×104細胞/ウェル)を入れたプレートに添加した。細胞に侵入した偽ウイルスの量は、細胞の溶解および相対ルシフェラーゼ単位(RLU)の測定により算出した。未感染細胞を100%中和、ウイルスを形質導入した細胞を0%中和として、50%阻害希釈(濃度)力価(ID50)を算出し、逆数ID50幾何平均力価(GMT)は両方とも求めた。
【0090】
野生型SARS-CoV-2中和アッセイ。SARS-CoV-2ウイルス(hCoV-19/Taiwan/CGMH-CGU-01/2020、GenBankアクセッション番号:MT192759)は滴定してTCID50を求め、Vero E6細胞(2.5×104細胞/ウェル)を96ウェルプレートに播種してインキュベートした。血清は2倍希釈を行って最終希釈率を1:8192とし、希釈した血清は、100 TCID50を含む等量のウイルス溶液と混合した。血清-ウイルス混合液はインキュベートした後に、Vero E6細胞を入れたプレートに添加し、さらにインキュベートした。中和力価は、50%の細胞変性効果を阻害できる最高希釈の逆数(CPE NT50)と定義し、Reed-Muench法を用いて算出した。比較対照として、The National Institute for Biological Standards and Control(NIBSC、英国ポッターズ・バー)の参照血清試料20/130を、同一の有効なアッセイを用いて分析した。
【0091】
細胞免疫応答。抗原特異的なIFN-γまたはIL-4分泌スポット形成単位(SFU)の数は、ELISpotアッセイにより決定した。凍結保存された末梢血単核細胞(PBMC)を急速解凍し、一晩静置した。IFN-γ ELISpotアッセイ(Human IFN-γ ELISpot Kit,Mabtech、スウェーデン、ストックホルム)については1×105細胞/ウェル、またはIL-4 ELISpotアッセイ(Human IFN-γ ELISpot Kit,Mabtech、スウェーデン、ストックホルム)については2×105細胞/ウェルで細胞を分配した。SARS-CoV-2のSタンパク質のN末端S1ドメインをカバーする、主に11アミノ酸が重複した15マー配列からなるペプチドのプールで細胞を刺激し(PepTivator SARS-CoV-2 Prot_S1,Miltenyi Biotec)、37℃で24~48時間インキュベートした。CD3-2mAbで刺激した細胞を陽性対照とした。IFN-γまたはIL-4の放出はマニュアルに従って検出し、スポットはCTL自動ELISpotリーダーを使用してカウントした。トリプリケートのペプチドプール刺激でカウントした平均SFUを算出し、陰性対照複製物(対照培地)の平均を差し引いて正規化した。結果は、PBMC 100万個当たりのSFUとして表した。
【0092】
統計解析。安全性解析は、少なくとも1回分のワクチン投与を受けた全ワクチン接種群(TVG)の集団で実施した。免疫原性エンドポイントには、抗原特異的免疫グロブリンの幾何平均力価(GMT)および血清変換率(SCR)、ならびに野生型ウイルスおよび偽ウイルス中和抗体力価が含まれていた。SCRは、ベースラインから、またはベースラインで検出されなかった場合は検出下限(LoD)の半分から力価が4倍以上増加した参加者の割合と定義される。GMTとSCRは、両側95%CIで表される。抗原特異的細胞免疫応答は、IFN-γ ELISpotおよびIL-4 ELISpotにより決定した平均値で示される。
【0093】
結果
安全性。このデータカットオフ時点でSAEもAESIも発生していなかった。試験介入の変更や中断もなかった。非自発報告によるAEの発生は
図11にまとめる。最も多く報告された局所AEは疼痛/圧痛(80.0%)であり、全治療群で最も多く報告された全身AEは倦怠/疲労(28.9%)であった。25μg投与群の倦怠/疲労1例を除き、局所および全身AEのいずれも軽度であった。発熱した参加者はいなかった。初回および2回目投与後の非自発報告によるAEは同様であった。安全性臨床検査値の評価、心電図の解釈、およびその他の自発報告による有害事象から、特別な懸念は明らかにならなかった。
【0094】
体液性免疫応答。体液性免疫原性の結果は
図12A~12Cにまとめる。
図12Aに示すように、Sタンパク質に対する結合IgG力価は2回目投与後に急激に増加し、43および57日目までに全参加者で血清変換が生じた。GMTは、43日目に5、15、および25μg投与群でそれぞれ7178.2(95%CI:4240.3~12151.7)、7746.1(95%CI:5530.2~10849.8)、11220.6(95%CI:8592.293~14652.84)の値でピークに達した。43日目の5、15、および25μg投与群におけるGMTレベルは、回復期血清検体のGMTの3.3~5.1倍の範囲であった(2179.6、[95%CI:1240.9~3828.4])。
【0095】
図12Bに示すように、ベースライン時のアッセイで、試験した血清濃度の下限(1:20希釈)で検出可能な偽ウイルス中和力価(ID
50)を示した被験者はいなかった。43日目の偽ウイルス中和力価(ID
50)は、5、15、および25μg投与群でそれぞれ538.5(95%CI:261.9~1107.0)、993.1(95%CI:655.0~1505.7)、および1905.8(95%CI:1601.7~2267.8)のピークGMTを示した。全参加者(100%)で2回目投与後に血清変換が生じた。43日目の5、15、および25μg投与群におけるGMTレベルは、回復期血清検体のGMTの1.25~4.4倍の範囲であった(430.5、[95%CI:274.9~674.0])。
【0096】
野生型SARS-CoV-2中和抗体力価の結果は
図12Cにまとめる。ワクチン接種前のアッセイでは、検査した血清濃度の下限(1:8希釈)で検出可能な野生型ウイルス中和力価(NT
50)を示した被験者はいなかった。2回目投与投与後、15および25μg投与群の全参加者の血清試料で中和応答が確認された。43日目のGMTは、5、15、および25μg投与群でそれぞれ33.3(95%CI:18.5~59.9)、76.3(95%CI:53.7~108.3)、および167.4(95%CI:122.1~229.6)であった。57日目のGMTは、15および25μg投与群でそれぞれ52.2(95%CI:37.9~71.8)および81.9(95%CI:55.8~120.2)と同程度であった。43日目の5、15、および25μg投与群におけるGMTレベルは、回復期血清検体のGMTの0.8、1.8、および3.9倍の範囲であった(42.7、[95%CI:26.4~69.0];力価は未検出から631.0の範囲)。15および25μg投与群の全参加者で43日目と57日目に血清変換が生じており、一部はNIBSC参照血清20/130(281.8)と同程度であった。
【0097】
細胞免疫応答。細胞免疫応答の結果は
図13にまとめる。すべての参加者が、ベースライン時に最小限のIFN-γ分泌T細胞を有していた。57日目までに、5、15、および25μgのワクチン接種を受けた参加者で、細胞100万個当たりそれぞれ平均161.3、85.5、および94.9個のIFN-γ分泌T細胞が観察された。すべての参加者が、ワクチン接種前に最小限のIL-4分泌T細胞を有していた。57日目までに、5、15、および25μgのワクチン接種を受けた参加者で、細胞100万個当たりそれぞれ平均24.1、16.0、および31.3個のIL-4分泌T細胞が観察された。MVC-COV1901によって誘導された細胞免疫応答では、IFN-γ産生細胞数がかなり増加しており、Th1偏向免疫応答を示唆した。
【0098】
結論として、非自発報告による有害事象は大部分が軽度で類似していた。発熱を呈した被験者はなかった。2回目投与後、評価した3つの投与群のうち15および25μg投与群の両方が高い中和抗体応答を誘導し、すべての参加者で血清変換およびTh1偏向T細胞免疫応答が認められた。したがって、CpG1018および水酸化アルミニウムと組み合わせた15μgのS-2Pは、高い体液性免疫応答を誘発するのに十分であると判断された。結果は、MVC-COV1901ワクチンは忍容性が良好であり、強固な免疫応答を誘発し、開発をさらに進めるのに適していることも示している。
【実施例5】
【0099】
SARS-CoV-2の懸念される変異株(VoC)に対するCpG-アジュバントS-2Pサブユニットワクチン「MVC-COV1901」の中和能力の評価
COVID-19パンデミックが始まって以降、定期的に変異株が検出されてきた。それらの中には、懸念される変異株(VoC)と呼ばれる、抗体の認識および中和のための主要な標的である重要な受容体結合ドメイン(RBD)に変異を有するものも多数発見されている。これらのVoCのうち最も代表的なものは、いずれもスパイクRBDにN501Yの変異を持つ、B.1.1.1.7(α変異株)、B.1.351(β変異株)、およびP1(γ変異株)である。これらの変異を有するVoCは、モノクローナル抗体およびワクチン誘導抗体の中和能を低下させることが判明しており、このため現在の治療薬やワクチンが無効となる可能性がある(非特許文献8)。本実施例は、2つの供給源からの血清、すなわち動物毒性試験のラット血清、および第I相臨床試験のヒト血清を用いた、SARS-CoV-2のVoCに対するMVC-COV1901ワクチンの中和能力の調査を含む試験である。
【0100】
A.ラットにおけるSARS-CoV-2のVoCに対するMVC-COV1901ワクチンの中和能力
材料および方法
動物実験。Crl:CD Sprague Dawley(SD)ラットは、BioLASCO Taiwan Co.Ltd.(台湾台北市)から入手し、試験はTFBS Bioscience Inc.のTesting Facility for Biological Safety(台湾新北市)で実施した。SDラットの免疫化は、実施例2のセクションCに記載の通りに実施した。簡単に述べると、ラットは、1,500μgのCpG1018および750μgの水酸化アルミニウムでアジュバント化した5、25、または50μgのS-2Pで、2週間の間隔を空けて3回免疫した。2回目の免疫化の2週間後(29日目)または3回目の免疫化の2週間後(43日目)に血清を採取し、SARS-CoV-2武漢野生型(WT)またはB.1.351変異株(β変異株)スパイクタンパク質を発現する偽ウイルスを用いた中和アッセイを行った。
【0101】
偽ウイルス中和アッセイ。武漢Hu-1野生型株(WT)のSARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現するレンチウイルスを構築し、実施例2のセクションCに記載の通りに中和アッセイを実施した。B.1.351変異株(β変異株)スパイクタンパク質を発現するレンチウイルスを同じように構築したが、野生型スパイクタンパク質配列は変異株配列(GenBankアクセッション番号:MZ314998.1)に置き換えた。
【0102】
統計解析。統計解析にはPrism6.01(GraphPad Software Inc.、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用した。Tukeyの多重比較検定を用いた二元配置分散分析、および補正したDunnの多重比較検定を用いたKruskal-Wallisを用いて、各図面の説明に記載したように有意性を算出した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【0103】
結果
ラットにおけるMVC-COV1901誘導抗体は、野生型と比較して変異株を効果的に中和した。
図14に示すように、29および43日目には抗体はB.1.351(β変異株)に対して有効性を保持していたが、力価は減少していた。特に、3回目の免疫化の2週間後(43日目)に採取した血清は、2回目の免疫化の2週間後(29日目)に採取した血清よりもID
50およびID
90幾何平均力価(GMT)が高く、3回目の免疫化で、このVoCに対する中和活性が向上傾向にあることを示唆している。この効果は、特に低用量(5μg)で顕著である。43日目までに、B.1.351に対するGMTは、すべての投与群でID
50(
図14、左側)およびID
90(
図14、右側)で同レベルに達した。
【0104】
要約すると、ラット試験は、3回投与レジメンを用いることにより、3回投与群間で同レベルの中和力価を誘導できたことを示している。3回投与レジメンが、変異株に対する高い免疫原性をもたらしたことを考えると、これらの結果は、ヒトでも追加免疫化がVoCに対する免疫を高める戦略であり得ると推定できよう。
【0105】
B.ヒトにおけるSARS-CoV-2のVoCに対するMVC-COV1901ワクチンの中和能力
材料および方法
臨床試験。20~49歳のヒト被験者45名を、前向き非盲検単施設用量漸増第I相試験に組み入れ、20~50歳未満の参加者を3つのサブフェーズに分けた。各サブフェーズは参加者15人からなる。本臨床試験では、750μgのCpG1018および375μgの水酸化アルミニウムでアジュバント化したS-2Pタンパク質を、低用量(LD;5μg)、中用量(MD;15μg)、および高用量(HD;25μg)の3種類の投与量で使用し、それぞれフェーズ1a、1b、および1cとした。ワクチン接種スケジュールは、好ましくは28日の間隔を空けて、1日目と29日目に、利き腕ではない腕の三角筋に0.5mLを筋肉内(IM)注射で投与するものであった。57日目(2回目投与の4週間後)に血清試料を採取し、偽ウイルス中和アッセイを行った。臨床試験の詳細については実施例4に記載する。
【0106】
偽ウイルス中和アッセイ。武漢Hu-1野生型株(WT)のSARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現するレンチウイルスを構築し、実施例2のセクションCに記載の通りに中和アッセイを実施した。D614G、B.1.1.7(α変異株;GenBankアクセッション番号:MZ314997.1)、B.1.351(β変異株;GenBankアクセッション番号:MZ314998.1)、P1(γ変異株;GenBankアクセッション番号:LR963075)、およびB.1.429(ε変異株;GenBankアクセッション番号:MW591579)スパイクタンパク質を発現するレンチウイルスを同じように構築したが、野生型スパイクタンパク質配列は、対応する変異株配列に置き換えた。
【0107】
統計解析。統計解析の方法は、上記のセクションに記載の通りに実施した。
【0108】
結果
MVC-COV1901のワクチン接種を受けたヒト抗血清は、D614G、B.1.1.7(α)、P1(γ)変異株を中和したが、B.1.351(β)およびB.1.429(ε)変異株では中和が減少した。
図15A~Cは、ヒト血清の偽ウイルス中和アッセイのデータを、WT、D614G、B.1.1.7(α)、B.1.351(β)、P1(γ)、およびB.1.429(ε)変異株それぞれについて示したものである。D614GおよびB.1.1.7(α変異株)に対する全群(LD、MD、およびHD群)の中和抗体の力価は、WT(
図15A~C)に対するものと比較して減少したが、この減少は統計的に有意ではなかった。しかし、B.1.351(β変異株)をWTと比較すると、中和抗体の力価は全群(LD、MD、およびHD群)で有意に減少していた。一方、P1(γ変異株)に対する全群(LD、MD、およびHD群)の中和抗体の力価は、WTに対するものよりも高い。B.1.429(ε変異株)をWTと比較すると、中和抗体の力価は、LDおよびMD群(
図15A、B)で有意に減少したが、HD群(
図15C)ではB.1.429(ε変異株)に対する中和抗体の力価に有意差は認められなかった。変異株に対する各投与群の中和力価をプロットすると(
図15A~C)、用量依存効果が確認できた。B.1.351(β)、P1(γ)、およびB.1.429(ε)変異株に対する中和力価は、より高い用量の抗原を用いることにより、増加させることができた。
【0109】
結論として、ワクチン接種した第I相ヒト被験者は、ID90において、特に高用量でB.1.351(β)、P1(γ)、およびB.1.429(ε)変異株に対してより減少が見られたものの、それでもかなりの中和能力を示した。この結果は、MVC-COV1901の2つの用量が、用量依存的にSARS-CoV-2変異株に対する中和抗体を誘発できたことを示す。
【0110】
本発明の上述した実施形態は、当然のことながら、これらの範囲から逸脱することなく、多くの変更および修正が可能である。従って、科学および有用な技術の進歩を促進するために本発明を開示し、また本発明は、添付の請求項の範囲によってのみ限定されることを意図する。
【配列表】
【国際調査報告】