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  • 特表-脳磁図装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】脳磁図装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/245 20210101AFI20230714BHJP
【FI】
A61B5/245
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578783
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 FI2021050479
(87)【国際公開番号】W WO2021260272
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】20205675
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319008236
【氏名又は名称】メギン オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ネノネン ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】カヨラ マッティ
(72)【発明者】
【氏名】タウル サム
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA10
4C127EE08
4C127GG09
4C127GG15
(57)【要約】
脳磁図装置100及び方法が開示されている。この装置は、複数の磁気センサと、1つ以上のプロセッサと、1つ以上のメモリとを含む。この方法は、参照データを取得するステップ、参照データから参照基底を計算するステップ、ソース基底を取得するステップ、ソースデータを取得するステップ、ソース基底と参照基底を加算して結合基底を形成するステップ、及び結合基底におけるソースデータをパラメータ化することにより、ソースの脳磁気活動の推定を決定するステップを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のボリューム内で発生する脳磁気活動を測定するための複数の磁気センサであって、前記第1のボリュームの外側にある第2のボリューム内に位置するように配置された複数の磁気センサと、
脳磁気活動の測定を制御するために前記複数の磁気センサに結合された1つ以上のプロセッサと、
コンピュータプログラムコードを含む1つ以上のメモリと、を含み、
前記1つ以上のメモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサに、
前記第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の前記複数の磁気センサの1つ以上の測定に対応する参照データを取得し、
前記参照データから、前記複数の磁気センサによって画定された信号空間において、前記第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の磁気活動を表す参照基底を計算し、
前記複数の磁気センサによって画定された前記信号空間において、前記第1のボリュームに位置する人間の脳の脳磁気活動を表すソース基底を取得し、
前記第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在する場合の前記複数の磁気センサの1つ以上の測定に対応するソースデータを取得し、
前記ソース基底と前記参照基底とを加算して、前記複数の磁気センサによって画定された前記信号空間内に結合基底を形成し、
前記結合基底における前記ソースデータをパラメータ化することにより、前記ソースの脳磁気活動の推定を決定する、
ことを実行させるように構成される、脳磁図装置(100)。
【請求項2】
前記複数の磁気センサのうちの磁気センサは、全て磁力計、又は全てグラジオメータである、請求項1に記載の装置(100)。
【請求項3】
前記複数の磁気センサのうちの磁気センサは、グラジオメータであるこ、請求項1又は2に記載の装置(100)。
【請求項4】
前記複数の磁気センサのうちの磁気センサは、平面型グラジオメータである、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項5】
前記複数の磁気センサは、48~256個の信号チャネルで脳磁気活動を測定するように配置される、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項6】
前記参照データを取得するために前記複数の磁気センサの1つ以上の測定を自動的に実行するように配置される、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項7】
前記ソース基底は、人間の脳の脳磁気活動に関するマクスウェル方程式の決定論的な解に基づいて取得される、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項8】
前記ソース基底は、確率論的に配置された1つ以上の脳磁気活動のソースを含む人間の脳の脳磁気活動のソースモデルに基づいて取得される、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項9】
第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の複数の磁気センサの1つ以上の測定に対応する参照データを取得するステップであって、前記複数の磁気センサは、
前記第1のボリューム内で発生する脳磁気活動を測定するためのもので、
前記第1のボリュームの外側にある第2のボリューム内に位置する、
ステップと、
前記参照データから、前記複数の磁気センサによって画定された信号空間において、前記第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の磁気活動を表す参照基底を計算するステップと、
前記複数の磁気センサによって画定された前記信号空間において、前記第1のボリュームに位置する人間の脳の脳磁気活動を表すソース基底を取得するステップと、
前記第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在する場合の前記複数の磁気センサの1つ以上の測定に対応するソースデータを取得するステップと、
前記ソース基底と前記参照基底とを加算して、前記複数の磁気センサによって画定された前記信号空間内に結合基底を形成するステップと、
前記結合基底における前記ソースデータをパラメータ化することにより、前記ソースの脳磁気活動の推定を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
前記複数の磁気センサのうちの磁気センサは、全て磁力計、又は全てグラジオメータであり、場合によっては平面型グラジオメータである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の磁気センサは、48~256個の信号チャネルで脳磁気活動を測定するように配置される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記参照データを取得するための前記複数の磁気センサの1つ以上の測定が自動的に実行される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ソース基底は、人間の脳の脳磁気活動に関するマクスウェル方程式の決定論的な解に基づいて取得される、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ソース基底は、確率論的に配置された1つ以上の脳磁気活動のソースを含む人間の脳の脳磁気活動のソースモデルに基づいて取得される、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
プログラムがコンピュータによって実行されると、コンピュータに請求項9~14のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳磁気イメージングに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の技術では、脳磁気イメージング(magnetic brain imaging)は、必要な感度を達成するのに十分な数の測定チャネルを提供する、多数の測定センサを必要とする非常に高感度の測定を使用して実行される。ノイズおよび測定アーチファクト(artifact)の発生源は、様々であり、被測定者から、測定環境から、又は測定機器自体から発生することが可能である。これは、人間の脳の磁場自体が非常に小さく、都市環境の周辺磁気ノイズよりもかなり小さいためである。
【0003】
測定中のノイズを低減するために様々な手段が使用されるが、各々の手段には独自の遮蔽率(shielding factor)がある。第1の例として、特にSQUIDセンサの場合に、測定センサの極低温冷却(cryogenic cooling)がしばしば使用される。第2の例として、光ポンピング磁力計(optically pumped magnetometer)(OPM)測定センサが使用され、SQUIDセンサよりも頭皮の近くに配置される。別の例として、パッシブシールド手段は、磁気シールドルーム(magnetically shielded room)(MSR)で測定を行うことを含む。外部アクティブシールド(external active shielding)(EAS)及び内部アクティブシールド(internal active shielding)(IAS)を含むアクティブシールド手段は、測定センサがそのダイナミックレンジで動作できるように使用されることができる、測定部位での外部干渉を打ち消す一組のコイルを用いて実行されることが可能である。追加の例としての基準センサアセンブリは、実際の測定センサの近くで使用することができ、アセンブリを残りの外部干渉のみを検出するように構成することが可能であり、その後、残りの外部干渉を測定センサの信号から差し引いて、より正確な測定結果をうることができる。最後に、信号空間分離(Signal Space Separation)(SSS)、信号空間投影(Signal Space Projection)(SSP)、独立成分分析(independent component analysis)(ICA)などの技術が使用されている測定センサの信号処理によって、ノイズを低減することができる。前述のノイズ低減手段は、一般に、互いに補完するために一緒に使用される。
【0004】
現在、先行技術システムにおける信号処理は、例えば、特許文献1に開示されているSSS法に基づきうる。この方法の利点は、比較的大きな遮蔽率を提供できることだけでなく、様々な追加の開発と組み合わせて進化させ、この方法を実際の測定環境の非理想的要素により厳密に適合できることでもある。しかしながら、決定論的SSSモデリング(deterministic SSS modelling)に基づくノイズ低減方法を最大限に活用するためには、精密な較正が必要であることがハンディキャップである。精密な較正には資格のある技術者が必要であるので、通常は使用場所でシステムを設置するときにのみ実行され、予定される再較正は、システムの断続的なメンテナンス中にのみ、例えば年に1回行われる。
【0005】
SSSに基づいたノイズ低減方法の開発により、現在、306個のチャネルの脳磁図(magnetoencephalography)(MEG)システムで工場較正を行うSSSベースの方法で、30~40の遮蔽率に達することができる。精密な較正により、SSSベースの方法の遮蔽率は、100を超えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/081595 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目的は、上記の欠点を軽減することである。
【0008】
特に、SSSベースの方法の精密な較正に関与しない脳磁図(磁気脳波)用の装置及び方法を提供することを目的とする。
【0009】
更に、306個未満のチャネルで脳全体を同時にスキャンするために使用できる脳磁図(磁気脳波)用の装置及び方法を提供することを目的とする。
【0010】
最後に、特に従来のSSS法又はSSS法に基づいた方法を考慮して、脳磁図におけるノイズ低減のための新規の装置及び方法を提供することを目的とする。
【0011】
MEG記録は、MEG装置によって実行される測定であり、脳磁気活動を決定するために使用されうる。記録では、MSR、IAS、又はEASなどの1つ以上のノイズ低減手段によって干渉寄与が大幅に抑制されている場合でも、干渉寄与(interference contribution)は、常に存在する。脳磁気活動の存在下では、記録は、干渉寄与と脳磁気活動からの寄与との両方を含む。
【0012】
元のSSS法を含むSSSベースの方法が使用される場合、信号処理は、実際に干渉寄与を外部干渉と内部干渉に分割し、外部干渉には、電力線、無線通信、トラフィック、エレベータなどによる磁気汚染(magnetic pollution)など、測定機器の周囲から発する全ての磁気信号が含まれる。つまり、SSSベースの方法は、空間を、3つの異なる領域、即ち測定対象用の空間に対応する第1の領域と、測定対象の周囲に位置する測定機器用の空間に対応する第2の領域と、測定機器の外側の空間に対応する第3の領域とに分割することを含む。次に、SSSベースの方法の精密な較正処理は、例えば、測定されたセンサデータとモデル化されたセンサデータの間のベストマッチを見つけるように各測定センサの単位法線ベクトル(normal unit vector)を小さなステップで個別に順次回転させることにより、いくつかの係数を最適化することを含む。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これに対して本開示では、決定論的SSS法(deterministic SSS method)は、その精密な較正の要件とともに不必要になる。第1の態様によれば、脳磁図(磁気脳波)装置(「装置」)は、第1のボリューム内で発生する脳磁気活動を測定するように配置された複数の磁気センサ(「センサ」)を含む。複数の磁気センサは、第1のボリュームの外側にある第2のボリューム内に位置するように配置される。これにより、複数の磁気センサは、第1のボリュームを実質的に取り囲むことが可能になる。装置は、脳磁気活動の測定を制御するために複数の磁気センサに結合された1つ以上のプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む1つ以上のメモリとを含む。1つ以上のメモリ及びコンピュータプログラムコードは、1つ以上のプロセッサに、示された順序又は任意の他の適切な順序で以下を実行させるように構成される。以下のいずれか又は全ては、それ自体の方法として、装置とは独立して実行されうる。
【0014】
第1に、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の複数の磁気センサの1つ以上の測定(「参照測定」("reference measurement"))に対応する参照データを取得する。これにより、参照データが装置の外部からの干渉と装置自体から生じる干渉との両方からの干渉寄与を含むため、装置に実際の測定環境のMEG記録を形成することを可能にする。
【0015】
第2に、参照データから、複数の磁気センサによって画定された信号空間において、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の磁気活動を表す第1の基底(「参照基底」("reference basis"))を計算する。これにより、干渉寄与を、各々が電力線又はトラフィックなどの1つ以上の干渉ソースに対応するか又は少なくとも実質的に対応するグループに分割することを可能にする。干渉ソースに対応する干渉信号の大きさは、経時的に変化しうるが、干渉ソースに対応する干渉信号は、複数の磁気センサにわたって、典型的に干渉ソースによって異なる特徴的な大きさ分布(characteristic magnitude distribution)を有する。これにより、大きさ分布を特定の干渉ソースに対応するものとして識別することを可能にする。
【0016】
第3に、複数の磁気センサによって画定された信号空間において、第1のボリュームに位置する人間の脳の脳磁気活動を表す第2の基底(「ソース基底」("source basis"))を取得する。ソース基底は、人間の脳の知識と物理法則を利用して形成することができ、つまり、現在のソースを測定しなくても形成することができる。これは、計算された基底であり、典型的に数値解析のみに基づくことができるが、1つ以上の参照対象の測定値に部分的又は完全に基づくこともできる。ソース基底により、人間の脳によって生成される特徴的な磁場分布の情報を使用して、脳磁気活動からの寄与を決定することを可能にする。例えば、人間の脳の一部における脳磁気活動に対応する信号は、複数の磁気センサにわたって特徴的な大きさ分布を有し、この大きさ分布は、典型的には、人間の脳の異なる部分によって著しく異なり、また複数の磁気センサにわたる任意の干渉信号の特徴的な大きさ分布とは著しく異なる。
【0017】
第4に、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在する場合の複数の磁気センサの1つ以上の測定(「ソース測定」("source measurement"))に対応するソースデータを取得する。これにより、ソース測定の時間に対応する干渉寄与とともに、脳磁気活動からの寄与が存在するMEG記録を形成することを可能にする。
【0018】
第5に、ソース基底と参照基底とを加算して、複数の磁気センサによって画定された信号空間内に結合基底(joint basis)を形成する。この結合により、ソース基底は、脳磁気活動からの寄与のみに対応することが可能になり、そのため、SSSベースの方法に対応する精密な較正を必要としない。それに応じて、参照基底は、干渉寄与のみに対応することができる。結合基底は、結合基底の基底ベクトルがソース基底の基底ベクトルと参照基底の基底ベクトルとを含むように、ソース基底と参照基底の直接結合として構成されることができる。結合基底の基底ベクトルの数は、ソース基底及び参照基底の基底ベクトルの数の合計であることができる。基底を一緒に加算することは、個々の基底ベクトルの数学的加算を意味するものではないが、本明細書では、ソース基底と参照基底の両方からの基底ベクトルを含む結合基底を形成するための基底の結合を指す場合があることが強調される。したがって、結合基底は、ソース基底の次元及び参照基底の次元よりも大きい次元を有しうる。結合基底の直交化(orthogonalization)は、例えば、結合基底の擬似逆行列(pseudo-inverse)を決定する際に実行されうる。そのような直交化は、結合基底の有効次元とみなされうる非ゼロ固有値(non-zero eigenvalue)のセットを定義しうる。結合基底の有効次元は、ソース基底及び参照基底の次元の和以下でありうる。結合基底は、複数の磁気センサによって画定された信号空間をスパンするか又は実質的にスパンしうる。しかしながら、結合基底の基底ベクトルの数はまた、複数の磁気センサの信号チャネルの数よりも少ないか又は実質的に少なくてもよい。結合基底は、干渉寄与の計算上の推定、特にセンサの正確な位置及び/又は向きの決定を必要とする推定を生成することなく、つまり、精密な較正を必要とする計算上の推定なしに、干渉寄与を脳磁気活動からの寄与から分離することができるように、参照基底とソース基底の結合によって構築される。
【0019】
第6に、結合基底におけるソースデータをパラメータ化することにより、ソースの脳磁気活動の推定を決定する。これにより、パラメータ化によって参照基底に対応するサブ基底に分類されるソースデータの一部として、干渉寄与を推定することを可能にする。それに応じて、ソースの脳磁気活動は、パラメータ化によってソース基底に対応するサブ基底に分類されるソースデータの一部として推定されることができる。通常、これら2つの部分の線形結合は、依然として元のソースデータを生成する。
【0020】
前述のように、ステップの順序は、異なる場合がある。例として、第3のステップは、結合基底を形成する前のいかなる時でも、例えば参照測定の前及び/又はソース測定の後に実行されうる。1つ以上のソース基底は、1つ以上のメモリ内に事前に設定されてもよい。それに応じて、参照基底は、1つ以上のメモリ内に事前に設定されうる。事前設定は、装置が使用される場所の現地で行われる場合もあり、装置が使用される場所に設置される前に行われる場合もある。
【0021】
第2の態様によれば、方法は、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の複数の磁気センサの1つ以上の測定、即ち参照測定に対応する参照データを取得することを含む。参照測定において、複数の磁気センサは、第1のボリューム内で発生する脳磁気活動を測定するように配置され、第1のボリュームの外側にある第2のボリューム内に位置する。この方法は、参照データから、複数の磁気センサによって画定された信号空間において、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の磁気活動を表す参照基底を計算することを更に含む。この方法は、複数の磁気センサによって画定された信号空間において、第1のボリュームに位置する人間の脳の脳磁気活動を表すソース基底を取得することを含む。この方法は、ソース基底と参照基底を加算して、複数の磁気センサによって画定された信号空間内に結合基底を形成することを更に含む。この方法は、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在する場合の複数の磁気センサの1つ以上の測定、即ちソース測定に対応するソースデータを取得することを含む。最後に、この方法は、結合基底におけるソースデータをパラメータ化することにより、ソースの脳磁気活動の推定を決定することを含む。
【0022】
第1の態様に関連して上述したことは、第2の態様に当てはまる。特に、これは、第1の態様において1つ以上のプロセッサによって実行される部分に当てはまる。それに応じて、方法のステップは、示された順序又は任意の他の適切な順序でありうる。方法と装置の両方を、特に人間の脳の脳磁気イメージングに適用することができる。両方とも、第1のボリューム内のMEG記録のための複数の磁気センサの1つ以上の測定を含み、これらのセンサは、MEG記録用の多数の信号チャネル(本明細書では「チャネル」ともいう)を画定する。それらを、306個未満の信号チャネルによる脳全体の同時又は実質的に同時のイメージングに適用しうる。本開示によるMEG記録などの脳磁気イメージングの重要な効果は、信号チャネルの数が参照基底とソース基底の次元の和よりもはるかに大きくなければならないという要件が取り除かれることである。例として、信号チャネルの数は、結合基底の次元の2倍未満、及び/又は参照基底及びソース基底の次元の和の2倍未満でありうる。それにもかかわらず、信号チャネルの数は、結合基底の次元以上、又は参照基底及びソース基底の次元の和以上でありうる。この方法及び装置により、決定論的SSSベースの方法を利用することなく、ソースの脳磁気活動を推定する精度を著しく改善することを可能にする。現在使用されている様々なSSSベースの方法とは対照的に、これらは、干渉寄与への計算上の推定を生成することなく使用することができる。このため、外部干渉の数値決定を較正するためにセンサの位置及び/又は向きを決定する必要がある前述のSSSベースの方法のような精密な較正を必要としない。
【0023】
本明細書に記載されている実施形態はいずれも、どの態様にも適用可能である。
【0024】
一実施形態では、複数の磁気センサのうちの磁気センサは、全て磁力計(magnetometer)、又は全てグラジオメータ(gradiometer)である。これらは、特定のタイプのMEG記録専用のセンサでありうる。MEG記録のためにより複雑なマルチセンサ構成を必要とするこれまでのMEG装置とは対照的に、第1の態様による、1つ以上のプロセッサによって実行されるように示された6つのステップを含む方法により、このような均一なセンサ構成を驚くほど正確に利用できることが分かった。これにより、参照測定及び/又はソース測定は、磁力計のみによって、又はグラジオメータのみによって実行されうる。
【0025】
一実施形態では、複数の磁気センサのうちの磁気センサは、グラジオメータである。複数の磁気センサとして全グラジオメータアセンブリを使用すると、驚くほど優れた性能が得られることが分かった。更に、例えば磁力計を磁気センサとして使用する場合と比較して、磁気シールドの要件を減らすことが可能である。全体として、グラジオメータを使用すると、測定のロバスト性が向上し、装置が簡素化され、コストが削減されることが分かった。
【0026】
一実施形態では、複数の磁気センサのうちの磁気センサは、平面型グラジオメータ(planar gradiometer)である。これにより、グラジオメータの感度を低次勾配(low-order gradient)に下げて、参照基底の所与の数の基底ベクトルで精度を向上させることができることが分かった。それに応じて、参照基底のより少ない数の基底ベクトルを使用して、所与のレベルの性能又は精度に達することができる。これにより、脳磁気活動の推定の数値決定を安定化させることが可能である。代替として、グラジオメータの一部又は全部は、軸型グラジオメータ(axial gradiometer)でありうる。
【0027】
一実施形態では、複数の磁気センサは、48~256個の信号チャネルで脳磁気活動を測定するように配置される。これにより、現在使用されている306個のチャネルのシステムを大幅に削減することが可能である。現在のMEGデバイス、特にSQUIDセンサに基づいたデバイスの典型的な測定距離とセンサノイズレベルでは、システムの性能を向上させるために100個以上のチャネルを使用しうることが分かった。数値安定性を向上させるために150個以上のチャネルを使用しうる。それにもかかわらず、この数は、例えば220~256よりも小さくてよい。
【0028】
一実施形態では、装置は、参照データを取得するために複数の磁気センサの1つ以上の測定を自動的に実行するように配置される。これにより装置は、装置の磁気環境のより多くの情報を収集しえて、及び/又は磁気環境の変化に適応しうるように、参照基底を自動的に更新することを可能にする。
【0029】
ソース基底は、人間の脳の知識を効率的に利用し、センサで生成される信号のタイプを推定するために、複数の方法で決定されてもよい。いずれの場合にも、センサのボリュームによって囲まれた第1のボリュームに位置するソースに対して、ソース基底が決定される。一実施形態では、ソース基底は、人間の脳の脳磁気活動に関するマクスウェル方程式(Maxwell's equations)の決定論的な解(deterministic solution)に基づいて取得され、この方程式は、静的近似(static approximation)の下で解かれうる。この解は、例えば、ポテンシャルのスカラーラプラス方程式(scalar Laplace equation for potential)の直接解であることができる。この解は、級数展開(series development)として、例えば、直交関数展開(orthogonal function development)及び/又はテイラー級数展開(Taylor series development)として表現されうる。この解はまた、調和関数展開(harmonic function development)として、例えば球面調和関数展開(spherical harmonic function development)としても表現されうる。それに応じて、ソース基底の基底ベクトルは、ベクトル球面調和関数(vector spherical harmonic function)の基底ベクトルでありうる。一実施形態では、ソース基底は、確率論的に配置された1つ以上の脳磁気活動のソースを含む人間の脳の脳磁気活動のソースモデルに基づいて取得される。ソース基底は、確率論的に配置されたソースのリードフィールド(lead-field)の計算に基づいて取得されうる。例えば、確率論的に配置されたソースは、電流及び/又は磁気双極子を含みうる。それらは、例えば、皮質に配置されてよく、及び/又は脳容積に広がってもよい。
【0030】
第3の態様によれば、コンピュータプログラム製品は、コンピュータプログラム製品がコンピュータによって実行されると、第2の態様及び/又はその実施形態のいずれかに係る方法を単独で又は組み合わせてコンピュータに実行させる命令を含む。
【0031】
上述した態様及び実施形態は、互いに任意の組み合わせで使用されうることが理解されるべきである。いくつかの態様及び実施形態を組み合わせて、本発明の更なる実施形態を形成することができる。
【0032】
添付の図面は、更なる理解を提供し、本明細書の一部を構成し、本開示の原理を説明するのに役立つ説明と共に例示するために含まれる。
【0033】
添付の図面において、同一の参照記号は、同等の又は少なくとも機能的に同等の部品を指定するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】一例に係る装置を側面図で示す。
図2】一例に係る方法を示す。
図3】一例に係る装置を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、例を説明することを意図するものであり、例が構築又は利用される唯一の形態を表すことを意図するものではない。しかしながら、同じ又は同等の機能及び構造は、異なる例によって達成されうる。
【0036】
図1は、脳磁図(MEG)装置であることが可能な装置100の例を示す。測定対象は、人間の被験者10の脳であることが可能である。装置100は、脳の磁気活動を測定するように配置される。この目的のために、装置は、脳の活動を測定するために脳に近接して位置するように配置された複数の磁気センサ110(「センサ」)を含む。MEGは、非侵襲的な方法であるため、センサ110の一部又は全部は、例えば、センサ110の配置が実質的にヘルメット形状になるように、被験者の頭の周りに配置されうる。例えば、対応するセンサ110がOPMセンサである場合、センサ110の一部又は全部を被験者の頭に対して直接にも配置しうる。これにより、センサ110の配置を、頭の形状及び/又はサイズに適合させることができる。一実施形態では、複数の磁気センサ110は、OPMセンサ110からなるか又はOPMセンサ110を含む。装置100及び/又はセンサ110は、脳全体の同時の又は実質的に同時のイメージングに適用されうる。
【0037】
したがって、第1のボリュームは、脳が配置されるボリュームであり、例えば脳の中心点に実質的に対応する原点(origin)を含みうる。第1のボリュームは、測定中にセンサ110が配置される第2のボリュームに対して画定される。第1のボリュームが第2のボリュームの内側にあることによって、第2のボリュームは、第1のボリュームを取り囲むことができる。第1のボリュームは、実質的に球状でありうる。この場合、原点は、第1のボリュームの中心に実質的に位置しうる。第1のボリュームおよび第2のボリュームの結合(union)が、実質的に球形である場合、原点は、結合の中心に実質的に位置しうる。第1のボリュームは、実質的に人間の頭のサイズでありうる。第2のボリュームは、実質的にセンサ110を収容するのに必要なボリュームのサイズ、例えば人間の頭上に位置するヘルメット又はMEGヘルメットのサイズでありうる。センサ110は、第2のボリューム内で円周方向又は実質的に円周方向に位置するように配置されうる。センサ110は、1つ以上の支持体112、例えばヘルメット形状の支持体に配置されうる。これを使用することで、測定中に人間の頭の湾曲部に実質的に従うようにセンサ110を配置することができる。装置100は、支持体112を含むMEGヘルメット114を含みうる。センサ110の互いの距離及び/又は原点からの距離は、MEG記録が装置で実行されることを可能にするように配置される。
【0038】
センサ110は、磁力計(magnetometer)及び/又はグラジオメータ(gradiometer)、特に平面型グラジオメータでありうる。装置100は、グラジオメータのみ又は磁力計のみを使用して脳活動の測定を実行できるように配置されうる。センサ110の各々は、脳磁気活動の測定のために1つ以上の信号チャネルを提供するように配置されるが、センサ100の数は、信号チャネルの数に対応してもよく、複数の信号チャネルを提供するマルチチャネルセンサを使用することもできる。しかしながら、脳磁気活動の測定(measurement of magnetic brain activity)は、これまで使用された306個のチャネルよりも少ない数の信号チャネルで実行されうる。脳全体のMEG記録の場合、信号チャネルの数は、256未満でありうる。例えば、信号チャネルの数は、48、96、148、又は220でありうる。センサノイズの現在のレベルでは、少なくとも96個の信号チャネルを使用すると性能が著しく向上し、少なくとも148個の信号チャネルを使用すると、いくつかの実施形態では、信号処理の数値安定性が大幅に向上することが分かった。当然のことながら、信号チャネルの数は、装置100の能力を向上させるために更に増加されうる。この数は、例えばOPMセンサを利用する装置100の場合、306よりも大きく、又は700よりも大きくてもよい。センサ110は、センサ110によって測定可能な磁気信号の空間として信号空間(signal space)を画定する。信号空間は、ベクトル空間(vector space)であり、基底ベクトル(basis vector)のセットによってスパンされうる。信号空間をスパンする基底ベクトルの数は、信号チャネルの数に対応しうる。実際には、脳磁気活動の推定を決定するのに役立つ信号空間の有効次元は、その数よりも小さく、その半分以下でさえありうる。
【0039】
装置100は、センサ110から測定データを収集するように配置された測定デバイス300を含みうる。測定デバイス300は、有線及び/又は無線接続でセンサ110に接続されるように配置されることが可能であるが、有線接続を使用すると、測定環境における磁気ノイズを低減することができる。
【0040】
図2は、信号処理方法として適用できる脳磁気活動又はその推定を決定するための方法200の例を示す。脳磁気活動は、方法200のいずれか又は全ての部分を実行するために使用されうる装置100について上述したように、第1のボリュームに配置された人間の脳などのソースに関して決定される。測定のために、複数の磁気センサ110が使用され、センサ110は、上述のとおりであることが可能である。特に、センサ110は、上述のように第2のボリューム内に位置するように配置されるので、第1のボリューム内のソースのMEG記録に使用されることができる。この方法は、互いに独立して及び/又は任意の順序で実行されうるいくつかの部分を含む。
【0041】
この方法では、複数の磁気センサ110を用いた参照測定210に対応する参照データが取得される。この参照データは、ソースの脳磁気活動を決定する際に考慮できるように、第1のボリュームの磁気環境を決定するために使用されることができる。典型的に、磁気環境は、ソースの脳磁気活動からの寄与よりも数倍大きい可能性がある干渉寄与(interference contribution)を含む。また、参照データは、測定、特に脳磁気活動のソースが第1のボリューム内に存在するソース測定を行うために使用される装置100及び/又はセンサ110における任意の非理想的要素を捕捉することを可能にする。参照測定は、いかなる時でも、例えばソース測定の前及び/又は後に実行されることができる。参照測定は、例えば、第1のボリューム内に磁気活動のソースが存在しない場合の1分以上のMEG記録を含みうる。参照測定がMSRで行われる場合、MSRには脳磁気活動のソースが存在しない可能性がある。
【0042】
参照データは、第1のボリューム内に脳磁気活動のソースが存在しない場合の磁気活動を表す参照基底(reference basis)を計算する(220)ために使用される。これにより、参照基底の構築において参照測定全体を利用することができる。このようにして、参照データ又は参照測定中に測定された信号を基底ベクトルのセットに分割することができ、オプションで正規化することができる。参照基底は、直交(orthogonal)でありうる。参照基底は、例えば、参照データの主成分分析(principal component analysis)を使用して形成されうる。参照データから共分散行列(covariance matrix)を計算することができ、主成分分析(PCA)を適用して参照データを特徴付ける空間パターンを決定することができる。参照基底の基底ベクトルの数nrefは、信号チャネルの数Nからソース基底の基底ベクトルの数nを引いたもの、つまり、nref=N-nでありうるが、これは参照測定中に測定された信号が別の方法で分割されることを意味するだけなので、より小さい数であることもできる。例えば、基底ベクトルの1つ以上が特定の干渉ソースに対応する明確な干渉形状に対応しえて、1つ以上が一般的なバックグラウンド干渉に対応する場合があり、参照基底のサイズを小さくすると、後者の基底ベクトルに割り当てられる参照データの部分が増大しうる。場合によっては、参照基底において限られた数の基底ベクトルを使用するだけで十分であることが分かった。例えば、参照基底における基底ベクトルの数は、少なくとも5~8でありうる。いくつかの現在関連する実施形態では、参照基底に対して最大で15~50の基底ベクトルを使用することで十分であることが分かった。参照基底の基底ベクトルは、干渉寄与に対応し、脳磁気活動のソースが存在しない場合に生じる全ての信号を含みうる。
【0043】
この方法は、一般的な人間の脳の脳磁気活動に対応するソース基底を取得する(230)ことを更に含む。人間の脳によって生成された磁気活動を記述するための1つ以上の技術が使用されうる。特に、ソース基底は、純粋に決定論的に決定されてもよく、人間の脳の確率的ソースモデルを使用して決定されてもよい。ソース基底は、直交(orthogonal)でありうる。ソース基底は、例えば、最低でも20~30の基底ベクトルを使用して構築されうる。これにより、脳全体に対応するMEG記録を提供することが可能でありうる。効率化のために、ソース基底は、例えば、最大100~120の基底ベクトルを使用して構築されうる。ソース基底は、例えば、原点に関する級数展開(series development)を使用して、原点に関して決定されうる。ソース基底は、この方法が実行される任意の時点で決定又は再決定されることができる。ソース基底の基底ベクトルは、第2ボリュームの外側では非回転的かつソースレス(irrotational and sourceless)である磁場に対応しうる。一実施形態では、ソース基底は、人間の脳の脳磁気活動に関するマクスウェル方程式の決定論的な解に基づいて取得される。基底ベクトルを決定することが可能な方法の1つの例は、Jussi Nurminenによる「生体磁気における静磁多重極展開:用途と意味("The magnetostatic multipole expansion in biomagnetism: applications and implications")」、ISBN978-952-60-5710-1(参照により本明細書に組み込まれるセクション3.2)に示されている。一実施形態では、ソース基底は、確率論的に配置された1つ以上の脳磁気活動のソースを含む人間の脳の脳磁気活動のソースモデルに基づいて取得される。基底ベクトルを決定することが可能な方法の1つの例は、Jussi Nurminenによる「生体磁気における静磁多重極展開:用途と意味」、ISBN978-952-60-5710-1(参照により本明細書に組み込まれるセクション5.7)に示されている。もう1つの例では、ソース基底は、磁気双極子(magnetic dipole)の層が人間の脳の白質(white matter)と灰白質(gray matter)に対応する領域の間に位置するソースモデルを使用することによって決定されうる。上述のソースモデルの場合、ソース基底を決定するために、例えば特異値分解(singular-value decomposition)を使用することによって固有ベクトルを(eigenvector)決定できるリードフィールド行列(lead-field matrix)を計算しうる。
【0044】
この方法では、複数の磁気センサ110を用いたソース測定240に対応するソースデータが取得される。このソースデータは、ソース、例えば人間の脳の磁気活動を決定するために使用されることができる。ソース測定は、いかなる時でも、例えば参照測定の前及び/又は後に実行されることができる。
【0045】
磁気環境の記述の精度を最適化するために、センサ110の位置決め及び/又は向きは、参照測定210及びソース測定240の間、実質的に同じであることが可能である。参照測定及び/又はソース測定は、全ての信号チャネルに対して同時に、又は少なくとも実質的に同時に実行されることができる。参照測定とソース測定の両方は、2つの測定が実質的に類似する干渉寄与に対応することを可能にする、第1のボリューム内の脳磁気活動を決定する試みとして実行されることができる。ソース基底及び/又は参照基底は、線形独立(linearly independent)であってもよい。結合基底(joint basis)もまた、線形独立であってもよい。
【0046】
ソースデータ基底と参照基底を一緒に加算して、センサ110によって画定された信号空間内に結合基底(joint basis)を形成する(250)。したがって、結合基底は、ソース基底と参照基底の両方の基底ベクトルを含むが、それらは分離しているか、特に線形独立であるため、任意の信号は、参照基底に対応する寄与とソース基底に対応する寄与として、結合基底で別々に表現されうる。ソース測定には、干渉寄与とソースの脳磁気活動からの寄与が含まれるため、前者は、参照基底に対応する寄与として記述され、後者は、ソース基底に対応する寄与として記述されうる。干渉寄与は、典型的に、脳磁気活動からの寄与よりもはるかに大きいため、干渉寄与がより正確に推定されるほど、ソースの脳磁気活動をより正確に決定することができる。推定は、結合基底におけるソースデータをパラメータ化する(260)ことによって決定される。この推定は、結合基底において表現される場合、ソース基底の基底ベクトルに対応するソースデータの一部として決定されることができる。
【0047】
全体として、磁気信号は、各々が振幅係数によって重み付けされた基底ベクトルのセットの線形結合(linear combination)として表現されることができる。したがって、ソースの脳磁気活動からの寄与は、結合基底におけるソースデータをパラメータ化することによって取得された振幅係数によって重み付けされたソース基底の線形結合として表現されることができる。それに応じて、総磁場(total magnetic field)は、各々が独自の振幅係数によって重み付けされた結合基底の基底ベクトルの線形結合として表現されることができる。複数の信号チャネルでは、これは、磁場が結合基底に対応する行列と振幅係数に対応するベクトルとの積として取得される行列方程式(matrix equation)として表現されることができる。それに応じて、振幅係数を解くことは、行列の逆行列を求めること(inverting the matrix)に対応するため、典型的に、パラメータ化は、結合基底を記述する行列の逆行列を求めることを含む。ソースの脳磁気活動を決定するには、当然、対応する振幅係数を決定するだけで十分である。磁気信号は、空間内の任意の位置、例えば原点及び/又は磁気センサの位置で決定又は外挿(extrapolate)されることができる。正確なセンサの位置、向き、及び較正の不確実性など、センサアレイの非理想的要素は、測定された参照データに埋め込まれているため、精密な較正調整を必要としない。実際、グラジオメトリックアレイは、SSSベースのシステムで現在使用されている精密な較正手順を利用することさえできない。
【0048】
この方法は、SSS自体を利用するものではないが、SSS方法で利用可能な全ての主な改良点と共に使用することができる。特に、この方法は、第2のボリューム内の頭の動きによる信号外乱を打ち消すことができる。更に、被験者の口の中又は頭皮上の磁化された物体など、近くの干渉ソースからの外乱信号を識別することができ、その情報を使用して脳磁気活動の推定を改善することができる。このために、SSS展開(expansion)と同様の方法と時間領域部分空間法(time-domain subspace method)を使用することができる。外乱として識別された時間波形を投影することができ、ソース基底を使用して干渉のないMEG信号を再構築することができる。また、この方法は、個々のチャネルを分離するための単位ベクトルなどの1つ以上のベクトル、又は個別の測定を含む何らかの方法で特定され、個別に説明できる既知の外乱を表す1つ以上のベクトルを追加することにより、参照基底を拡大することによって、空間的手段で拡張されることができる。別の空間拡張では、無相関の(uncorrelated)チャネル固有のノイズ信号を分離するために交差検証(cross-validation)を使用する。この方法はまた、信号のバックグラウンドノイズを低減するためにソース基底の振幅係数を定義する際に、共分散ベース(covariance-base)の先験的情報を利用することができる。
【0049】
図3は、装置100の例を示す。装置100は、1つ以上のプロセッサ310と、コンピュータプログラムコードを含む1つ以上のメモリ320とを含む。これらは一緒に、1つ以上のプロセッサに方法200の一部又は全ての部分を実行させるように構成されることができる。例えば、これは、センサ110を制御して参照測定及び/又はソース測定を実行することを含みうる。更に、ソースデータを使用して脳磁気活動の推定を決定することを含みうる。装置100は、制御コマンドを装置100に入力するため、及び/又はソースデータ及び/又はそれを示す情報をユーザに伝達するためのユーザインタフェースを含みうる。ユーザインタフェース330は、参照測定及び/又はソース測定を開始するようにユーザを促すように配置されうる。装置100はまた、参照データを自動的に取得し、及び/又は例えば毎日、毎週、又は毎月、参照基底を計算するように配置されうる。装置100は、調整可能及び/又は自己調整可能なスケジュールに従って参照測定を自動的に実行するように配置されうる。装置100は、例えば、潜在的なソースが第1のボリューム内又は装置100の近くに存在するか否かを検出することによって、参照測定及び/又はソース測定を実行できるか否かを検出するように配置された1つ以上の検出器340を含みうる。1つ以上の検出器340は、例えば、第1のボリューム内又は装置100の近くに人間が存在するという指示を検出するように配置された移動検出器及び/又は熱検出器を含みうる。したがって、参照測定を実行する前に、装置100は、1つ以上の検出器340を使用して、参照測定を実行できるか否かを評価するように配置されうる。装置100は、ソース測定のためにソースが装置に存在するか否かに関する指示を検出するための1つ以上の検出器を更に含みうる。装置100は、センサ110に結合されるように配置された別個の測定デバイス300を含みうる。測定デバイス300は、プロセッサ310、メモリ320、ユーザインタフェース330、及び検出器340の任意の組み合わせを含みうる。
【0050】
装置100は、ソース測定中に干渉寄与を測定するように配置された1つ以上の検出器340を更に含みうる。これは、1つ以上の磁力計及び/又はグラジオメータを含みうる。これらの検出器によって得られた測定結果は、ソースの脳磁気活動の推定を改善するために使用されうる。これらの検出器340は、干渉寄与、例えば外部ソースからの磁場を主に測定することを確認するために、第1のボリュームの外側、更に第2のボリュームの外側に配置されることができる。それらはまた、第1のボリュームから離れた向きに配置されうる。
【0051】
例として、この方法を、SSS法を利用した従来の方法と比較した。この目的のために、遮蔽率(shielding factor)は、信号処理前後の信号チャネル信号ベクトルノルム(signal channel signal-vector norm)の比率として定義される。チャネルは、N成分の信号ベクトルb(成分b1...N)に選択され、ノルムMは、
【数1】
として計算され、ここで、この和は信号ベクトルの長さを超える。任意の変数の可能な時間依存性は、「(t)」で括弧内に示される。したがって、ノルムは、信号ベクトルの全ての成分の平方和(sum of squares)の平方根(square root)である。遮蔽率SFは、元のデータ(Mraw)と処理されたデータ(Mpost)からのノルムの比率、SF=Mraw/Mpostである。
【0052】
遮蔽率SFは、時間の関数として推定される。この例では、平均値は、2分間の測定期間にわたって以下の表に示される。スプリアスアーチファクト(spurious artifact)のあるチャネルは、除外される。SFは、9つのTRIUXシステムで実行された空室(empty room)の記録のために磁力計及びグラジオメータチャネルに対して個別に評価される。各システムについて、記録は、大きな干渉で分析され、EASとIASは、適用されていない。
【0053】
干渉抑制のための2つのアプローチを使用して、9つのシステムと2つの記録について、異なる構成と方法の間の遮蔽率を比較した。
1.精密な較正を伴うSSS。306個のチャネルの精密な較正調整は、大量の干渉データから計算された。
2.現行の方法。本出願において開示される方法。
遮蔽率は、システム内の磁気センサのタイプが第1の行に示され、チャネルの形状が第2の行に示される表1にまとめられている。SSSでは、標準的な1D不均衡モデルと改良された3D不均衡モデルである2つの精密な較正モデルが使用されている。
【0054】
現行の方法と3D不均衡モデルを使用したSSS方法の両方が、1D不均衡モデルを使用した標準のSSS精密較正よりも優れていることが分かった。現行の方法は、最良のグラジオメータ遮蔽率をもたらし、信号チャネルの数を減らしても改善された結果が得られる可能性がある。現行の方法とSSP法でも同様の比較が行われて、同様の結果が得られている。拡張された一組のテストにより、現行の方法は、従来のSSSベースの方法だけでなく、従来のSSPベースの方法にも代わるものであることが分かった。特に、現行の方法を使用して、精密な較正がなくても遮蔽率を向上させうる。また、MEG記録に必要なチャネルの数を大幅に削減するためにも使用されうる。
【0055】
【表1】
【0056】
上述の装置は、ソフトウェア、ハードウェア、アプリケーションロジック、又はソフトウェア、ハードウェア及びアプリケーションロジックの組み合わせで実現されうる。アプリケーションロジック、ソフトウェア又は命令セットは、様々な従来のコンピュータ可読媒体のいずれかで維持されうる。「コンピュータ可読媒体」は、コンピュータなどの命令実行システム、装置又はデバイスによって、又はそれらに関連して、使用のための命令を含有、保存、通信、伝播又は伝送することができる任意の媒体又は手段であってもよい。コンピュータ可読媒体は、コンピュータなどの命令実行システム、装置、又はデバイスによって、又はそれに関連して使用するための命令を含む又は格納できる任意の媒体又は手段でありうるコンピュータ可読記憶媒体を含みうる。これらの例は、本明細書で説明する様々なプロセスに関する情報を格納することができる。この情報は、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、RAMなどの1つ以上のメモリに格納することができる。1つ以上のデータベースは、実施形態を実施するために使用される情報を格納することができる。データベースは、本明細書中にリストされた1つ以上のメモリ又は記憶デバイスに含まれるデータ構造(例えば、レコード、テーブル、アレイ、フィールド、グラフ、ツリー、リストなど)を使用して組織されうる。データベースは、サーバなどのローカル及び/又はリモートデバイスを含む1つ以上のデバイス上に配置されてもよい。実施形態に関して説明したプロセスは、実施形態のデバイス及びサブシステムのプロセスによって収集及び/又は生成されたデータを1つ以上のデータベースに格納するための適切なデータ構造を含むことができる。
【0057】
コンピュータ及び/又はソフトウェア分野の当業者には理解されるように、実施形態の全て又は一部は、実施形態の教示に従ってプログラムされた、1つ以上の汎用プロセッサ、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、マイクロコントローラなどを使用して実装されることができる。ソフトウェア分野の当業者には理解されるように、適切なソフトウェアは、実施形態の教示に基づいて、通常の知識を有するプログラマによって容易に準備されることができる。また、実施形態は、電気分野の当業者には理解されるように、特定用途向け集積回路を準備することによって、又は従来のコンポーネント回路の適切なネットワークを相互接続することによって実装されうる。したがって、実施形態は、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の特定の組み合わせに限定されない。
【0058】
本明細書で説明される様々な機能は、異なる順序で、及び/又は、互いに同時に実行されてもよい。
【0059】
本明細書で定めた任意の範囲又はデバイスの値は、別段の指示がない限り、求められる効果を失うことなく、拡張又は変更されてもよい。また、明示的に禁止しない限り、任意の例を別の例と組み合わせてもよい。
【0060】
主題は、構造的特徴及び/又は動作に係る特定のことばで記載されているが、添付の特許請求の範囲に定義される主題は、必ずしも上述した特定の特徴又は動作に限定されないことを理解されたい。むしろ、上述した特定の特徴及び動作は、請求項を実施する例として開示されたものに過ぎず、他の同等の特徴及び動作も、特許請求の範囲内にあることを意図している。
【0061】
上述した利点及びメリットは、1つの実施形態に関連してもよく、いくつかの実施形態に関連してもよいことを理解されたい。実施形態は、記載された問題のいずれか又は全てを解決するもの、又は記載された利点及びメリットのいずれか又は全てを有するものに限定されない。更に、「1つの」項目への言及は、その項目の1つ以上を指す場合があることを理解されたい。
【0062】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、特定された方法、ブロック又は要素を含むことを意味するが、そのようなブロック又は要素は、排他的リストを含まず、方法又は装置は追加のブロック又は要素を含んでもよい。
【0063】
本発明は、特定のタイプの装置及び/又は方法と併せて説明されてきたが、本発明は特定のタイプの装置及び/又は方法に限定されないことを理解されたい。本発明は、多数の例、実施形態及び実施態様に関連して説明されてきたが、本発明はそれに限定されず、むしろ予期される請求項の範囲内に含まれる様々な変形及び等価の構成を含む。様々な例が、ある程度の特殊性で、又は1つ以上の個々の実施形態を参照して以上に説明されたが、当業者は、本明細書の範囲から逸脱することなく、開示された例に対して多数の変更を実施することができる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】