IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイションの特許一覧

特表2023-531506トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法
<>
  • 特表-トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法 図1
  • 特表-トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法 図2
  • 特表-トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法 図3
  • 特表-トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法 図4-1
  • 特表-トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法 図4-2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】トンネルナノチューブ細胞および生体分子の送達のためのその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20230714BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230714BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230714BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C12N15/87 Z ZNA
C12N5/10
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579664
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 US2021038588
(87)【国際公開番号】W WO2021262788
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/042,909
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ジェイ.キース
(72)【発明者】
【氏名】カベセイラス,ピーター
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
トンネルナノチューブ(TNT)細胞であって、TNT促進因子(TPF);およびTNT細胞によって過剰発現される生体分子カーゴを含む、TNT細胞、ならびに生体分子カーゴのTNT細胞から隣接する細胞への送達のためのその使用方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルナノチューブ(TNT)細胞であって、
(i)細胞において過剰発現される、好ましくはM-Sec、白血球特異的転写因子1(Lst1)、およびRAS様がん原遺伝子A(RalA)からなる群から選択される、TNT促進因子(TPF);ならびに
(ii)前記細胞において、サイトゾルにおいて、過剰発現されるか、またはリン脂質二重層内に埋め込まれる、生体分子カーゴ
を含む、前記TNT細胞。
【請求項2】
前記生体分子カーゴが、治療用もしくは診断用タンパク質、または治療用もしくは診断用タンパク質をコードする核酸である、請求項1に記載のTNT細胞。
【請求項3】
前記生体分子カーゴが遺伝子編集試薬である、請求項1に記載のTNT細胞。
【請求項4】
前記遺伝子編集試薬が、ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質;ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質をコードする核酸;またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質を含むリボヌクレオタンパク質複合体(RNP)を含む、請求項1に記載のTNT細胞。
【請求項5】
前記遺伝子編集試薬が、表2、3、4および5に列挙するタンパク質から選択される、請求項4に記載のTNT細胞。
【請求項6】
前記遺伝子編集試薬が、CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質を含み、前記TNT細胞が、前記CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質に結合し、それを標的配列に誘導する1つまたは複数のガイドRNAをさらに含む、請求項4に記載のTNT細胞。
【請求項7】
生体分子を標的細胞、好ましくはインビトロまたはインビボの細胞に送達する方法であって、標的細胞を、カーゴとして前記生体分子を含む請求項1に記載のTNT細胞と接触させることを含む、前記方法。
【請求項8】
生体分子カーゴを含むTNT細胞を産生する方法であって、好ましくはM-Sec、白血球特異的転写因子1(Lst1)からなる群から選択される、1つまたは複数のTPFを過剰発現する細胞を用意すること、ならびに前記細胞を維持することを含む、前記方法。
【請求項9】
産生されたTNT細胞を回収し、任意に精製および/または濃縮することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体分子カーゴが、治療用もしくは診断用タンパク質、または治療用もしくは診断用タパク質をコードする核酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記生体分子カーゴが遺伝子編集試薬である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子編集試薬が、ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質;ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質をコードする核酸;またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質を含むリボヌクレオタンパク質複合体(RNP)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子編集試薬が、表2、3、4、および5に列挙するタンパク質から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子編集試薬が、CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質を含み、前記TNT細胞が、前記CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質に結合し、それを標的配列に誘導する1つまたは複数のガイドRNAをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
好ましくはM-Sec、白血球特異的転写因子1(Lst1)からなる群から選択される1つまたは複数のTPF、およびカーゴ生体分子を過剰発現する細胞。
【請求項16】
前記生体分子カーゴが、治療用もしくは診断用タンパク質、または治療用もしくは診断用タンパク質をコードする核酸である、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
前記生体分子カーゴが遺伝子編集試薬である、請求項15に記載の細胞。
【請求項18】
前記遺伝子編集試薬が、ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質;ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質をコードする核酸;あるいはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質を含むリボヌクレオタンパク質複合体(RNP)を含む、請求項15に記載の細胞。
【請求項19】
前記遺伝子編集試薬が、表2、3、4、および5に列挙するタンパク質から選択される、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
前記遺伝子編集試薬が、CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質を含み、前記TNT細胞が、前記CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質に結合し、それを標的配列に誘導する1つまたは複数のガイドRNAをさらに含む、請求項18に記載の細胞。
【請求項21】
初代のまたは安定的なヒト細胞株である、請求項15~20のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項22】
ヒト胎児腎(HEK)293細胞またはHEK293 T細胞である、請求項21に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2020年6月23日に出願された、米国仮特許出願第63/042,909号明細書の権利を主張するものである。上述の内容全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0002】
連邦政府により資金援助された研究または開発
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)から交付された助成金番号GM118158に基づく政府の支援により行われた。政府は本発明について一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本明細書において、トンネルナノチューブ(TNT)細胞であって、TNT細胞が刺激されて、隣接する細胞との一過性トンネルナノチューブが形成され、それを通じてカーゴをTNT細胞から隣接する細胞に送達することができるような、カーゴおよび1つまたは複数のTNT促進因子を一過性にまたは安定に過剰発現する哺乳動物細胞を含む、TNT細胞を記載する。
【背景技術】
【0004】
タンパク質および核酸等の生体分子を生細胞のサイトゾルに送達することは、生物学的療法の開発において重要な課題となっている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書において、多くの疾患療法に適用可能な、種々のタンパク質および核酸分子と共に使用し得る細胞ベースの生体分子送達のための組成物および方法、例えばゲノム編集、エピゲノム調節、トランスクリプトーム編集およびプロテオーム調節試薬が記載されている。
【0006】
したがって、本明細書において、トンネルナノチューブ(TNT)細胞であって、細胞において過剰発現される、好ましくはM-Sec(腫瘍壊死因子、アルファ-誘導タンパク質2(TNFaip2)、Lst1、およびRAS様がん原遺伝子A(RalA)からなる群から選択される、TNT促進因子(TPF)(例えば、表1に示す);ならびに細胞において、サイトゾルにおいて、過剰発現されるか、またはリン脂質二重層内に埋め込まれる、生体分子カーゴを含む、TNT細胞が提供される。
【0007】
また、本明細書において、標的細胞を、カーゴとして生体分子を含む本明細書に記載するTNT細胞と接触させることによって、生体分子を標的細胞、例えば、インビボまたはインビトロの細胞に送達するための方法が提供される。
【0008】
加えて、本明細書において、生体分子カーゴを含むTNT細胞を産生するための方法であって、1つまたは複数のTPF(例えば、表1に示す)を過剰発現する細胞を用意すること;および例えば培養において、例えば最適な生存条件下で、細胞を維持することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態において、方法は、産生されたTNT細胞を回収し、場合によって精製および/または濃縮することを含む。
【0009】
また、本明細書において、1つまたは複数のTPF(例えば、表1に示す)およびカーゴ生体分子を過剰発現する細胞が提供される。
【0010】
いくつかの実施形態において、生体分子カーゴは、治療用もしくは診断用タンパク質、または治療用もしくは診断用タンパク質をコードする核酸である。
【0011】
いくつかの実施形態において、生体分子カーゴは遺伝子編集試薬であり、例えば、ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質;ジンクフィンガー(ZF)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、および/またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質をコードする核酸;またはCRISPRベースのゲノム編集もしくは調節タンパク質を含むリボヌクレオタンパク質複合体(RNP)である。
【0012】
いくつかの実施形態において、遺伝子編集試薬は、表2、3、4&5に列挙するタンパク質から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、遺伝子編集試薬は、CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質を含み、TNT細胞は、CRISPRベースのゲノム編集または調節タンパク質に結合し、これらを標的配列に向かわせる1つまたは複数のガイドRNAをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、細胞は、哺乳動物、例えば初代のまたは安定的な、哺乳動物の、例えばヒトの細胞株である。
【0015】
いくつかの実施形態において、細胞は、ヒト胎児腎(HEK)293細胞またはHEK293 T細胞である。
【0016】
特に断らない限り、本明細書において使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野において当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。本発明において使用するための方法および材料は本明細書に記載されており、他の、当技術分野において公知の適切な方法および材料もまた使用し得る。材料、方法および例は、例示のためのみであり、限定することを意図するものではない。本明細書において言及する全ての出版物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ、および他の参照文献は、参照によりその全体が取り込まれる。矛盾が生じる場合、定義を含む本明細書が優先される。
【0017】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】例示的なT2 TNT細胞産生およびRNPタンパク質送達の図示。全てのT2 TNT発現コンストラクトは、産生細胞のゲノムに安定的に組み込まれ得る。コンストラクト1は、カーゴ、例えばCas9に対応する。コンストラクト2は、任意のガイドRNAに対応する。1は、サイトゾルにおいて翻訳され、ここで、ガイドRNAと複合体化する。3は、TPF、例えばMSECに対応する。MSECタンパク質は、細胞膜に動員され、アクチンの重合を駆動するのに役立つ。これらのアクチンの重合は、標的細胞と一過性に融合することができる膜状の突起(トンネルナノチューブ)をもたらし、カーゴを、標的細胞に送達することができる。
図2】例示的なT3 TNT細胞産生およびAAV送達の図示。全てのT3 TNT発現コンストラクト、例えばAAV産生コンストラクト(コンストラクトは、複製のために必要なアデノウイルス遺伝子、ITR隣接DNAカーゴ、ならびに特異的AAV複製およびカプシドタンパク質の産生のためのrepおよびcap遺伝子を含む)は、産生細胞のゲノムに安定的に組み込まれている。コンストラクト1は、ITR隣接カーゴに対応する。コンストラクト2および3は、AAVヘルパーおよびrep/capコンストラクトに対応する。AAV粒子は、サイトゾル中で形成され、ITR隣接DNAカーゴを封入する。4は、TPF、例えばMSECに対応する。MSECタンパク質は、細胞膜に動員され、アクチンの重合を駆動するのに役立つ。これらのアクチンの重合は、標的細胞と一過性に融合することができる膜状の突起(トンネルナノチューブ)をもたらし、AAV粒子カーゴを、標的細胞に送達することができる。
図3】インビトロにおけるTNT細胞送達spCas9ゲノム編集。一過性トランスフェクションを使用して、Cas9およびTPF(ヒトMSEC)を発現するHEK293 eGFPおよびU2OS eGFP TNT細胞株(「細胞A」)を作出した。TNT細胞と混合された後にeGFPを発現するWT細胞(「細胞B」)のフローサイトメトリー分析の結果を示すグラフが提供される。
図4-1】インビトロにおける例示的T1 TNT細胞送達spCas9ゲノム編集。4A、Cas、GFPを標的にするsgRNA、およびTPF(ヒトMSEC)を発現するHEK293およびU2OS TNT細胞株の生成を示す概略図。4B、図4Aにおけるようにして生成されたTNT細胞(「細胞A」)と混合されたWT細胞(「細胞B」)におけるeGFPの標的部位のCRISPR媒介編集のPCT分析の結果を示すグラフ。
図4-2】図4-1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
治療用のタンパク質および核酸は、大きな見込みを有するものであるが、これらの多くについて、大きい生体分子の細胞内への送達が、臨床開発への障害となっている。
【0020】
ゲノム編集試薬、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはRNAガイドされた、酵素的に不活性化または/欠損したDNA結合タンパク質、例えばCas9は、実行し得る編集の特異性および種類という観点において急速に進歩しているが、安定なインビボ送達の障害により、未だに有効な遺伝子編集療法は妨げられている。ゲノム編集試薬のタンパク質送達は、好ましい治療用送達様式であり、これは、タンパク質およびリボヌクレオタンパク質(RNP)が、一過性に存在し、ZFNまたはRNAガイドヌクレアーゼ(RGN)のDNAまたはRNA送達と比較して、最低のオフターゲット効果を誘発するためである17。従来の治療用モノクローナル抗体の送達は、タンパク質の直接注入を利用して成功している。残念ながら、遺伝子編集タンパク質を直接注入する戦略は、免疫原性、分解性、細胞特異性の低さ、および細胞膜を越えられない、またはエンドソーム/リソソームを回避できないことが障害となっている4~10。タンパク質療法および遺伝子編集のより広範の適用が、治療用タンパク質カーゴを細胞内に送達することによって達成され得る。
【0021】
ナノ粒子は、DNA、タンパク質、RNA、およびRNPを細胞内に送達するために使用し得る他の送達戦略である9~18。ナノ粒子は、細胞特異性について操作することができ、エンドサイトーシスおよびそれに続くエンドソーム溶解を引き起こすことができる。しかしながら、ナノ粒子は、人工的に得られたビヒクルシェルによって種々のレベルの免疫原性を有し得る9~20。多くのナノ粒子は、粒子の構造的統合性を維持するために強い反対の電荷分布に依存しており、静電気によって毒性となり、多くのインビボ治療場面には適さないものになっている。RNAを送達するナノ粒子は、最近の臨床試験で成功を収めているが、ほとんどはsiRNAまたはshRNAの送達にのみ使用されている。かかるナノ粒子からの毒性は未だに主要な関心事である。ゲノム編集用RNPをコードするmRNAを送達するナノ粒子も近年成功しているが、タンパク質の送達と比較してオフターゲット効果の数が多く、RNAの安定性はタンパク質に比べて低い17。ゲノム編集RNPを送達するナノ粒子は、相同組換え修復(HDR)および非相同末端結合(NHEJ)の両方を利用できるために画期的な突破口であるが、インビトロおよびインビボにおける遺伝子改変頻度が非常に低く、かつそのために療法としてのインビボでの適用が限られている15
【0022】
近年、ウイルス様粒子(VLP)は、mRNAおよびタンパク質のカーゴを細胞のサイトゾルに送達するために利用されている2、3、25~30。しかし、現在までに公知であるゲノム編集試薬を送達する近年考案されたVLPを含むほとんどのVLPは、HIVまたは他のウイルス由来のgag-polタンパク質融合体およびウイルスプロテアーゼを利用してレトロウイルス様粒子を生成する25~27、29、30。第2に、RGNを含むいくつかのVLPはまた、レンチウイルスDNA転写物からのガイドRNAをパッケージングおよび発現しなければならない27。第3に、いくつかのVLPは、機能的な粒子を形成し、ゲノム編集カーゴを放出するために、ウイルスプロテアーゼを必要とする25~27、29。このウイルスプロテアーゼは、複数のアミノ酸モチーフを認識して切断するため、タンパク質カーゴに損傷を与える可能性があり、これは治療適用にとって危険なものであり得る。第4に、現在までに公開されたゲノム編集タンパク質を送達するVLP様式のほとんどは、パッケージングおよび形質導入の効率が低いため、インビトロおよびインビボにおける遺伝子改変効率が低いことが示されている25~27。第5に、これらのVLP構成要素に利用される複雑なウイルスゲノムは、複数のリーディングフレームを有し、擬似的な融合タンパク質産物の送達をもたらし得るRNAスプライシングを使用している25~27、29、30。最後に、これらのVLPに、逆転写酵素、インテグラーゼ、カプシド、およびウイルス由来のエンベロープタンパク質が存在することは、免疫原性およびオフターゲット編集が懸念されるために、ほとんどの治療用途には適していない。
【0023】
現在、ゲノム編集療法を送達するための臨床的な標準ビヒクルは、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVは、治療用カーゴの頑強な発現を達成することができるが、それらは、いくつかの固有の欠点、例えばAAVのための4.7kbのサイズ制限、種々のレベルの免疫原性、抗体による中和、タンパク質の送達と比較してDNA送達についてのオフターゲット効果の増加、DNAがゲノムに組み込まれる低いリスク、および非分裂細胞における持続を持っている21~23
【0024】
トンネルナノチューブは、ある細胞のサイトゾルを他の細胞のサイトゾルに結合することができる動的なアクチンが駆動する膜状の突起である。トンネルナノチューブは、神経細胞および免疫細胞において頻繁に観察される。例えば、単一の骨髄細胞は、最大で75個のナノチューブを支持することができる1、2、3。多くの異なる種類の細胞は、これらの細胞がTNT促進因子(TPF)を過剰発現し、これがTNT細胞の基盤である場合に、トンネルナノチューブを形成することができる。TNT細胞は、TPFおよびカーゴを過剰発現し、DNA、RNAおよび/またはタンパク質を隣接する真核細胞にトンネルナノチューブを通じて送達することができる。本明細書に記載するTNT細胞は、人工的に得られる脂質/金ナノ粒子およびウイルス粒子ベースの送達システム等の従来の生体分子送達システムで達成不可能な生体分子送達のための方法を提供する。ナノ粒子およびウイルス粒子のように、TNT細胞は、どの種類のカーゴ(DNA、RNAおよび/またはタンパク質)が送達されるかをユーザーが特定することを可能にし、カーゴが封入される。しかしながら、ナノ粒子およびウイルス粒子とは異なって、TNT細胞は、カーゴを送達しながら、より多くのカーゴを産生する。同種移植片としてTNT細胞が移植されると、例えば、TNT細胞は、同種移植片が身体中に留まる限り、局所送達を持続することができる。局所送達は、低分子誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター、および他の種類の誘導性プロモーター(すなわち、炎症誘導性プロモーター)によって誘導され得る。さらに、TNT細胞は、TNT細胞がカーゴを送達するのを停止させる「オフスイッチ」を備えることができる。
【0025】
TNT細胞は、有害な免疫反応の機会を最小化する外部に露出した任意のヒト外来性構成要素を有していない。TNT細胞はまた、腫瘍形成をもたらし得る永久的な細胞-細胞融合(シンシチウム)を引き起こさない。TNT細胞は、トンネルナノチューブを介して、隣接する細胞と一過性に融合する。TNT細胞は、ヒト細胞構成要素によって全体的に構成されており、それらは、機能するために任意のウイルス由来構成要素を必要とせず、カーゴは、産生の開始からカーゴが標的細胞に送達される時点まで、TNT細胞内に完全に封入されている。TNT細胞は、TPFをレシピエント細胞に送達することもできる。これは、レシピエント細胞がTNTを形成し、より多くのカーゴを隣接する細胞に送達する原因となり、組織へのより深い送達を増強し得る。種々の異なる細胞型を、自家/同種異系細胞移植療法として患者に導入することができるTNT細胞に変換することができる。TNT細胞は、最初のカスタマイズ可能な細胞ベースの生体分子送達様式であり、この様式は、ゲノム編集試薬のための最初の細胞ベースの送達様式でもある。
【0026】
ゲノム編集試薬、特にCRISPR-CAS、ジンクフィンガー、およびTALヌクレアーゼベースの試薬は、遺伝性疾患の処置のためのインビボ療法となる潜在的可能性を有するが、ゲノム編集試薬を細胞内に送達する技術は、患者にとって厳しい制限があるか、または安全ではない。例えば、Cas9は、リン脂質二重層を効率的に通過して細胞内に進入することができず、自然免疫原性および適応免疫原性を有することが示されている4~8。したがって、直接注入、または細胞毒性および免疫原性を有し、しばしば低レベルの所望の遺伝子改変をもたらす脂質、タンパク質、または金属ベースのナノ粒子への外側/内側コンジュゲートとしてCas9を送達することは実用的でも、好ましくもない9~20。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、真核細胞へのDNAの送達が成功している有望な送達様式であるが、AAVは、4.5kbを超えるDNAコンストラクトを効率的にパッケージングおよび送達することができないため、より大きなDNA発現コンストラクトを必要とする多くのCRISPRベースの遺伝子編集試薬を送達することができていない。CRISPRベースの遺伝子編集試薬は、複数の異なるAAV粒子に分割することができるが、この戦略は送達および編集効率を大幅に低下させる。AAVおよびアデノウイルスベクターは、必要な投与量に応じて、種々のレベルの免疫原性を有し得る。さらに、AAVのDNAコンストラクト中の逆位末端反復(ITR)は、自発的なエピソームの形成を促進し、これがゲノム編集試薬の発現を長引かせ、オフターゲット効果を高める可能性がある。ITRはまた、AAV DNAのゲノムDNAへの望ましくない組み込みを促進し得る21~24
【0027】
ウイルス様粒子(VLP)は、レトロウイルス粒子についての代替的な送達様式として現れたものである。VLPは、レトロウイルスDNAを組み込む能力を欠損しており、タンパク質/RNP/DNAをパッケージングおよび送達するように設計し得る。レンチウイルス粒子等のレトロウイルス粒子のほとんどはVSVGでシュードタイプ化されており、ゲノム編集試薬を送達する、記載されているVLPのほとんど全てはこれまで、VSVGを有し、それを利用している2、3、25~30。我々は、産生細胞を一過性にトランスフェクションすることによって形成されているVSVGベースの粒子が、トランスフェクションされたDNAをパッケージングおよび送達することを発見した。現在のVSVGベースのVLPのバージョンでは、この不用意なDNAの送達を防ぐことができず、これによって、免疫原性およびオフターゲット効果を最小限に抑える必要がある場面でのVLPの使用が妨げられている。さらに、多くのVLPは、臨床ツールとしてVLPをさらに制限する種々の過剰なウイルス構成要素を利用する。
【0028】
細胞外小胞は、エキソソームおよびエクトソーム内でカーゴをパッケージングおよび送達し得る、他の送達様式である31、32。VLPと同様に、細胞外小胞は、哺乳動物細胞由来のリン脂質二重層によって構成されている。VLPとは異なり、細胞外小胞はウイルス構成要素を欠いているため、免疫原性は限定的である。VLPが外側の融合性糖タンパク質(VSVG)により細胞内に入る能力が高いのに対し、細胞外小胞は主にマイクロピノサイトーシスによる細胞取り込みに依存しており、このことによって細胞外小胞の送達効率が制限されている。
【0029】
細胞外小胞、ナノ粒子、AAVおよびVLPと同様に、TNT細胞は、種々の生体分子の一過性の局所送達を達成することができる。しかしながら、TNT細胞は、持続性のまたは時間空間的誘導性の種々の生体分子の局所送達を提供することもできる。本明細書において、ゲノム編集、エピゲノム調節、トランスクリプトーム編集、およびプロテオーム調節をインビトロおよびインビボで適用するためにTNT細胞の産生および投与するための方法および組成物について記載する。望ましい編集結果は、治療の状況によって異なり、異なる遺伝子編集試薬が必要となる。化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)およびアシダミノコッカス属種(acidaminococcus sp.)のCas12a(機能化)は、停止コドンまたは欠失の導入にはNHEJ、または挿入を引き起こすにはHDRを活用する編集用のRNAガイド酵素として最も一般的なものの2つである34~36。塩基編集因子としても公知であるCas9デアミナーゼ融合体は、二本鎖DNAの切断を伴わずに単一ヌクレオチドを正確に編集するための現在の標準である37、38。重要なことに、本発明は、ゲノム編集、エピゲノム調節、トランスクリプトーム編集、およびプロテオーム調節の適用のために、試薬を産生および送達する新しい方法を提供し、これによって可能な治療用インビボゲノム改変の種類が増加する。
【0030】
サイズの制約を抑止し、オフターゲット効果を最小化し、発現の延長を排除するための努力において、我々は、本明細書に記載するデザイナーTNT細胞を使用して、タンパク質、RNP、および非分裂細胞において異なるレベルの持続性を有する種々の特殊なDNA分子のようなゲノム編集試薬を含む生体分子のトンネルナノチューブ送達を本明細書に記載する。
【0031】
2個の細胞間で形成されるトンネルナノチューブは、繊維状(f)アクチンを含む1、2、3。一過性の細胞-細胞膜融合が起こって、開口トンネルが作出される。TPFは、M-Sec(TNFaip2)、Lst1、およびRalA等のエクソシスト複合体と相互作用するタンパク質を含む39~52。トンネルナノチューブは、表面に沿ってまたはナノチューブの内側のいずれかで、ある細胞から他の細胞に内容物を送達することができる。ナノチューブは、基層に付着する必要はない。TPFを発現する細胞は、潜在的に、その細胞を他の隣接する細胞に結合するトンネルナノチューブを形成することができる。これらのトンネルナノチューブは、長さが複数の細胞の直径と同じぐらい、例えば、最大で数百μmであり得、それらは、300~800nmの直径を有すると記載されている。5分以内の細胞-細胞接触は、トンネルナノチューブの結合を2個の細胞間で形成するのに十分であり得る39~52
【0032】
TNT細胞は、目的のタンパク質、DNAおよび/またはRNAを産生およびパッケージングし、このカーゴを細胞のサイトゾルに送達する操作された細胞である。TNT細胞は、ナノチューブの形成に不可欠であることが示されているTPFを活用する1~3。TNT細胞の外側は、細胞膜および細胞膜関連タンパク質によって構成されている。TNT細胞は、ウイルス由来の構成要素を欠き、それらに半特異的細胞形質導入を可能にさせる表面分子により改良することもできる。さらに、TNT細胞は、患者またはFDA承認細胞株に由来する細胞から産生することができ、次いで、患者に再導入され、これらの「自家TNT細胞」または「同種異系TNT細胞」は、自家/同種異系T細胞療法によって達成される類似の方法における免疫原性のリスクをさらに低下させることができる。TNT細胞は、特にゲノム編集試薬の送達のための、VLP、AAVおよびナノ粒子の通常の再投与よりも持続的な生体分子送達のための安全でより有効な選択肢であり、これは、TNT細胞が、全てヒト構成要素によって構成されているが、前述のウイルス粒子が、抗原性であり、インビボで再投与される場合に抗体によって認識および中和されるためである。TNT細胞は、カーゴを産生する送達ビヒクルであり、これは、産生および送達に対する時空間的な制御を与える誘導性プロモーターの使用を可能にする。
【0033】
本明細書において、効率的で部位特異的なゲノム改変、エピゲノム改変、トランスクリプトーム改変およびプロテオーム改変、ならびにインビトロ、および最終的に治療目的のためのインビボでの撹乱を行う目的の、ゲノム編集試薬を含む生体分子をTNT細胞から標的細胞に送達するための組成物および方法が記載される。
【0034】
セクション1:TNT細胞産生および組成物
TNT細胞は、少なくとも1つのプラスミドで一過性にトランスフェクションされたか、または産生細胞株のゲノムDNAに組み込まれたコンストラクトを安定的に発現している細胞から産生される。TNT細胞は、実質的に任意の哺乳動物細胞(すなわち、マクロファージ、破骨細胞、線維芽細胞、間葉系幹細胞等)から作製することができる。一度TNT細胞株が作出されると、TPFおよびカーゴは、構成的または誘導的な方法で産生することができる。
【0035】
いくつかの実施形態において、単一のプラスミドをトランスフェクションに使用する場合、それは、1つまたは複数のTPF(例えば、表1に示す)、1つまたは複数のカーゴ(例えば、治療用タンパク質または遺伝子編集試薬、例えばジンクフィンガー、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、CRISPRベースのゲノム編集/調節タンパク質および/またはRNP、例えば表2、3、4および5に見られる他のもの、あるいは前述の治療用タンパク質および/またはゲノム編集剤をコードするDNAをパッケージングしたAAV)、ならびに必要に応じてガイドRNAをコードする配列を含んでいるべきである。好ましくは、トランスフェクションには2~3個のプラスミドを用いる。これらの2~3個のプラスミドは、以下のものを含むことができる(任意の2つ以上を1つのプラスミドにおいて組み合わせ得る):
1. AAV(ヘルパー配列、rep/cap、およびITR隣接カーゴ移入プラスミド)治療用タンパク質またはゲノム編集試薬をコードする配列を含む、プラスミド。
2. 1つまたは複数のTPF(例えば、表1に列挙するもの)を含む、プラスミド。
3. プラスミド1からのゲノム編集試薬が、1つまたは複数のガイドRNAを必要とする場合、プラスミド1におけるゲノム編集試薬に適切な1つまたは複数のガイドRNAを含むプラスミド。
【0036】
一過性トランスフェクション手法を、TNT細胞を作出するために使用する場合、TNT細胞によって送達されるべきカーゴの組成物は、DNA分子(トランスフェクションから)、タンパク質、RNA、および/または関連AAV DNAカーゴを有するAAVの組合せであり得る。TNT細胞が細胞株の一過性トランスフェクションによって産生される場合、TNT細胞は、DNAおよびRNAの組合せを送達する。細胞にトランスフェクションされたDNAは、サイズ依存性の移動性を有しており、トランスフェクションされたDNAのある画分はサイトゾルに留まるが、トランスフェクションされたDNAの他の画分は核に局在するようになっている53~55。核内のトランスフェクションされたDNAのある画分は、TNT細胞を作出するために必要な構成要素を発現し、サイトゾル中/細胞膜付近の他の画分は、トンネルナノチューブを通して隣接する細胞に輸送される。
【0037】
プラスミド以外の種類のDNA分子を送達することが望ましい場合、二本鎖の閉環直鎖DNA、エピソーム、ミニサークル、二本鎖オリゴヌクレオチドおよび/または他の特殊DNA分子を用いて、上記のトランスフェクションを行うことができる。
【0038】
あるいは、前述の3つの構成要素をコードするDNAは、一過性トランスフェクション手法によって作出されるTNT細胞よりも長い期間TPFおよびカーゴを発現するTNT細胞を作出するために、細胞のゲノムDNAに安定的に組み込まれ得る。前述の3つの構成要素の安定的な組み込みによって産生されたTNT細胞は、プラスミドDNA(トランスフェクション手法から)を送達しないが、代わりに、タンパク質、RNA、および/または関連AAV DNAカーゴを有するAAVを送達する(図1および2)。
【0039】
また、プラスミド、または当技術分野において公知のもしくは上記の他の種類の特殊DNA分子は、好ましくは、コードされた配列の発現または翻訳を駆動するための他の要素、例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、例えば、5’非翻訳領域(UTR)または3’UTR、ポリアデニル化部位、インシュレーター配列、または発現を上昇させる、もしくは制御する他の配列(例えば、誘導性プロモーター要素)も含み得る。
【0040】
好ましくは、TNT細胞産生のための適切な細胞および細胞株は、当業者に公知のトランスフェクション技術の効果に抵抗性のある初代のまたは安定的な、哺乳動物の、例えばヒトの細胞株である。適切な細胞株の例としては、ヒト胎児腎(HEK)293細胞、HEK293 T/17 SF細胞腎臓由来のPhoenix-AMPHO細胞、胎盤由来のBeWo細胞、Jurkat T細胞、U2OS細胞、およびHepG2細胞が挙げられる。例えば、かかる細胞は、接着細胞、または懸濁細胞として成長する能力について選択され得る。いくつかの実施形態において、産生細胞は、血清条件、無血清条件、またはエキソソーム無血清条件において古典的なDMEM中で培養し得る。TNT細胞、例えばT1およびT3 TNT細胞は、患者に由来する細胞(自家TNT細胞)および他のFDA承認細胞株(同種異系TNT細胞)から、これらの細胞に、当技術分野で公知の種々の技術によって前述のTNT細胞産生構成要素をコードするDNAコンストラクトをトランスフェクトし得る限り、産生し得る。
【0041】
さらに、望ましい場合には、2つ以上のゲノム編集試薬をトランスフェクションに含めることができる。DNAコンストラクトは、産生細胞株でタンパク質を過剰発現させるように設計し得る。トランスフェクションに使用されるプラスミド骨格は、例えば、RNAポリメラーゼII転写物のためのCMVプロモーターまたはRNAポリメラーゼIII転写物のためのU6プロモーターを用いるpCDNA3骨格のような、当技術分野の当業者に周知のものであり得る。核酸分子を産生細胞に導入するために、当技術分野で公知の種々の技術を採用することができる。かかる技術としては、リン酸カルシウム、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー等の化合物を用いた化学促進トランスフェクション、LIPOFECTAMINE(LIPOFECTAMINE2000または3000、およびTransIT-X2)のようなカチオン性リポソーム、ポリエチレンイミン等のリポソーム介在トランスフェクション、エレクトロポレーション、粒子ボンバードメント、マイクロインジェクション等の非化学的方法が挙げられる。
【0042】
必要なTNT細胞構成要素を構成的および/または誘導的に安定して発現するヒト産生細胞株を、TNT細胞、例えばT2およびT4TNT細胞の産生に用いることができる。TNT細胞、例えばT2およびT4TNT細胞は、患者に由来する細胞(自家TNT細胞)および他のFDA承認細胞株(同種異系TNT細胞)から、これらの細胞が前述のTNT細胞構成要素を発現する安定的な細胞株に変換されている場合、産生することができる。
【0043】
本明細書において、TNT細胞自体も提供される。
【0044】
カーゴ産生TNT細胞および組成物の産生
好ましくは、TNT細胞コード構成成分を真核細胞に一過性にまたは安定的に導入するためのトランスフェクション/ヌクレオフェクション/形質導入/他の方法の36~48時間後、TNT細胞を回収する。遠心分離の後、TNT細胞を遠心分離物(ペレット)の形態で濃縮し、これを所望の濃度に再懸濁し、他の試薬と混合し、緩衝剤交換に供しても、またはそのまま使用してもよい。いくつかの実施形態において、TNT細胞含有上清をろ過し、沈殿させ、遠心分離し、濃縮溶液に再懸濁し得る。精製された細胞は、液体窒素中で凍結することができ、-270℃で数年間保存しても、TNT細胞構成要素が細胞のゲノムDNAから安定的に発現される場合に適切な活性を失わない。一過性トランスフェクションによって作出されたTNT細胞は、最初のトランスフェクションの1週間以内に使用されなければならない。
【0045】
好ましくは、TNT細胞は再懸濁されるか、または細胞が適切なキャリアに懸濁されるように緩衝剤交換を受ける。いくつかの実施形態において、緩衝剤交換は、限外ろ過または透析によって行うことができる。インビトロ用途に使用するTNT細胞の例示的な適切なキャリアは、好ましくは、TNT細胞と混合され、共培養される細胞に適した細胞培養培地であろう。細胞は、適切な細胞培養インキュベーター(例えば、37℃、5%COの加湿インキュベーター)において、同じ容器中で共培養される。
【0046】
哺乳動物、特にヒトに投与するTNT細胞の適切なキャリアは、好ましくは薬学的に許容される組成物であろう。「薬学的に許容される組成物」は、任意の種類の非毒性の半固体、液体、またはエアロゾル化された充填剤、希釈剤、カプセル化材料、コロイド懸濁液、または製剤補助剤を指す。好ましくは、この組成物は注射に適している。特に等張性の無菌生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウムもしくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩化マグネシウムおよびかかる塩の類似の溶液または混合物)、または乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であって、場合によって滅菌水または生理食塩水を添加することにより、注射用液剤を構成することができるものであり得る。他の適切な医薬形態は、鼻腔内吸入または気管内挿管によって投与するためにエアロゾル化された粒子であり得る。TNT細胞は、同種移植片として投与することもできる。
【0047】
注射使用に適した医薬形態としては、無菌水性液剤または懸濁剤が挙げられる。液剤または懸濁剤は、TNT細胞と適合性である添加物を含んでいてもよい。いずれの場合も、形態は無菌でなければならず、前記形態を注射器で投与できる程度の流動性がなければならない。製造および保存の条件下で安定していなければならず、細菌および真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されていなければならない。適切な液剤の例は、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝剤である。
【0048】
適切な医薬組成物を製剤する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005およびDrugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker、NY)シリーズの書籍を参照されたい。例えば、非経口、皮内、または皮下の適用に使用される液剤または懸濁剤は、以下の構成要素、注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒等の無菌希釈剤、ベンジルアルコール、またはメチルパラベン等の抗菌剤、アスコルビン酸、または重亜硫酸ナトリウム等の抗酸化剤、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩等の緩衝剤、塩化ナトリウムまたはデキストロース等の張性調整剤等を含んでいてもよい。pHは、塩酸または水酸化ナトリウム等の酸または塩基で調整し得る。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数用量バイアルに封入することができる。
【0049】
注射使用に適した医薬組成物は、無菌水性液剤(水溶性の場合)または分散剤、および無菌注射用液剤または分散剤を即座に調製するための無菌粉末を含み得る。静脈内投与に適切なキャリアとしては生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。いずれの場合も、組成物は無菌でなければならず、容易に注射針を追加できる程度の流動性がなければならない。製造および保存の条件下で安定していなければならず、細菌および真菌等の微生物による汚染作用から保護されていなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティング剤の使用、分散剤の場合は必要な粒子径の維持、および界面活性剤の使用によって維持し得る。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサール等の種々の抗菌および抗真菌剤によって達成し得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましいであろう。注射用組成物の長時間の吸収は、吸収を遅延させる剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらし得る。
【0050】
無菌注射用液剤は、必要な量の活性化合物を、上に挙げた成分の1つまたは複数と組み合わせて適切な溶媒に取り込み、その後、必要に応じてろ過滅菌することによって調製し得る。一般的に、分散剤は、無菌ビヒクルに活性化合物を取り込むことによって調製され、これは、基本的な分散媒と上に列挙するものからの必要な他の成分とを含む。無菌注射用液剤を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これらの方法では、活性成分の粉末に加えて、事前に滅菌ろ過された溶液からの任意の追加の所望の成分を得ることができる。
【0051】
カーゴ産生TNT細胞を含む組成物は、投与のための指示書と共に、コンテナ、パック、またはディスペンサーに含め得る。
【0052】
セクション2:TNT細胞カーゴおよび適用
TNT細胞「カーゴ」は、例えば、治療または診断的使用のため、またはゲノム編集、エピゲノム調節、および/もしくはトランスクリプトーム調節の用途のための、例えば、核酸、DNA、RNA、DNAおよびRNPの組合せ、RNP、DNAおよびタンパク質の組合せ、またはタンパク質を含むことができる。これらの区別を簡単にするために、DNAおよびRNPの組合せを1型カーゴ(T1)と称し、RNPを2型カーゴ(T2)と称し、DNAおよびタンパク質の組合せを3型カーゴ(T3)と称し、タンパク質を4型カーゴ(T4)と称する。当業者は、これらが例であり、かつ非限定的であることを認識するであろう。この文脈におけるRNAは、例えば、一本鎖ガイドRNA(sgRNA)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Palindromic Repeat)RNA(crRNA)、および/またはカーゴをコードするmRNAであり得る。ゲノム編集の用途のために開発されたカーゴには、例えば、ヌクレアーゼおよび塩基編集因子も含まれる。ヌクレアーゼとしては、例えば、FokIおよびAcuI ZFN、および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびCRISPRベースのヌクレアーゼまたはその機能的誘導体(例えば、表2に示す)が挙げられる(ZFNは、例えば、米国特許出願公開第20030232410号明細書、第20050208489号明細書、第20050026157号明細書、第20050064474号明細書、第20060188987号明細書、第20060063231号明細書、および国際公開第07/014275号パンフレットに記載されている)(TALENは、例えば、米国特許第9393257号明細書、および国際公開第2014134412号パンフレットに記載されている)(CRISPRベースのヌクレアーゼは、例えば、米国特許第8697359号明細書、米国特許出願公開第20180208976号明細書、および国際公開第2014093661号パンフレット、国際公開第2017184786号パンフレットに記載されている)34~36。本研究によって記載されている塩基編集因子としては、可変長のポリペプチドリンカーを用いた1つまたは複数のウラシルグリコシラーゼインヒビター(UGI)とのC末端での融合を伴う、または伴わない、例えば、表2に示すように、N末端でデアミナーゼと融合した、任意のCRISPRベースのヌクレアーゼオルソログ(wt、ニッカーゼ、または触媒的に不活性(CI))、またはその機能的誘導体(例えば表3に示す)を含む(塩基編集因子は、例えば、米国特許出願公開第20150166982号明細書、米国特許出願公開第20180312825号明細書、米国特許第10113163号明細書、および国際公開第2015089406号パンフレット、国際公開第2018218188号パンフレット、国際公開第2017070632号パンフレット、国際公開第2018027078号パンフレット、国際公開第2018165629号パンフレットに記載されている)37、38。sgRNAは、TNT細胞内での産生の間にゲノム編集試薬と複合体化し、トンネルナノチューブによってTNT細胞に結合した隣接する細胞に共送達される。現在までに、この概念はインビトロにおいて、ヒト外因性部位を部位特異的に編集する目的でRGN、ならびにデアミナーゼおよびUGI(塩基編集因子)に融合されたCI RGNをT1およびT2で送達することを示す実験によって実証されている(図3および4)。例えば、外因性のGFPを編集する目的で、T1 TNT細胞を用いて、U2OSおよびHEK 293細胞にCas9 RNPが送達されている(図3および4)。
【0053】
T3カーゴはAAV(タンパク質カプシドおよびITR隣接DNAカーゴ)を指し得る。
【0054】
エピゲノム調節を目的として設計されたT1~T4カーゴは、エピゲノム調節因子またはエピゲノム調節因子の組合せ、または1つもしくは複数の可変長ポリペプチドリンカーで結合したその機能的誘導体と融合したCI CRISPRベースのヌクレアーゼ、ジンクフィンガー(ZF)およびTALEを含む(表2および4に示す例)。トランスクリプトーム編集を目的として設計されたT1~T4カーゴは、表5のCRISPRベースのヌクレアーゼもしくはその任意の機能的誘導体、または1つもしくは複数の可変長ポリペプチドリンカーによってデアミナーゼ(表3に示す例)と融合した、CI CRISPRベースのヌクレアーゼもしくはその任意の機能的誘導体(表5に示す例)を含む。
【0055】
T1~T4カーゴはまた、治療的または診断的に有用な任意のタンパク質、DNA、RNP、またはDNA、タンパク質および/またはRNPの組合せを含み得る。例えば、国際公開第2014005219号パンフレット、米国特許第10137206号明細書、米国特許出願公開第20180339166号明細書、米国特許第5892020号明細書、欧州特許第2134841号明細書、国際公開第2007020965号パンフレットを参照されたい。例えば、ヌクレアーゼまたは塩基編集タンパク質もしくはRNPまたはその誘導体をコードまたはこれらによって構成されるカーゴを、リーバー先天性甘皮症10型の原因となるスプライシング部位の欠陥を修正する目的で網膜細胞に送達することができる。哺乳動物の内耳では、β-カテニンをより安定化させるために、β-カテニンを編集する(β-カテニンSer33は、Tyr、Pro、またはCysに編集される)目的で、塩基編集試薬またはHDR促進カーゴを蝸牛支持細胞および有毛細胞等の感覚細胞にTNT細胞送達することによって、難聴の回復に役立つ可能性がある。
【0056】
他の適用において、同種移植片の形態のTNT細胞は、shRNA、ジンクフィンガー/dCas9リプレッサー、Cas9、塩基編集因子、およびカルシニューリンを阻害し、免疫抑制薬の必要性を取り除き、かつ同種移植片拒絶を抑制する他の調節因子を局所的に送達するために操作することができる。免疫抑制薬は、同種移植片拒絶のリスクを低下させるが、それらは、適当な感染症およびがんのリスクを増加させる。この文脈では、カーゴは、構成的に発現され得るか、または誘導性プロモーターから発現され得る。誘導性プロモーターは、低分子、組織特異的プロモーター、または炎症誘導性プロモーターの添加によって誘導され得る。
【0057】
他の適用において、TNT細胞は、誘導性のプログラム可能な多重エピジェネティック修飾因子を局所的に送達する。
【0058】
他の適用において、TNT細胞は、AAV粒子の隣接する細胞への完全に封入された(細胞外空間に露出していない)送達のために利用することができる。これは、抗体中和からAAVを遮断することによってAAV送達を増強するのに役立ち得る。
【0059】
他の適用において、RNA編集試薬またはプロテオーム撹乱試薬のTNT細胞送達は、1つまたは複数の特定の目的のタンパク質の細胞レベルの一過性の低下を引き起こし(潜在的には、全身レベルで、特定の器官または腫瘍などの細胞の特定のサブセットにおいて)、これにより、副次的な薬剤を投与できる治療的に作用可能なウィンドウが作成され得る(この副次的な薬剤は、目的のタンパク質が存在しないか、または目的のタンパク質の存在のレベルが低くなっている際に、より効果的である)。例えば、RNA編集試薬またはプロテオーム撹乱試薬のTNT細胞による送達によって、ベムラフェニブ/ダブラフェニブ耐性のBRAF駆動腫瘍細胞において、MAPKおよびPI3K/AKTタンパク質ならびに関連するmRNAの標的化分解が引き起こされ、BFAF阻害剤耐性が一時的に無効化される(MAPK/PI3K/AKT経路に基づく耐性機構がTNT細胞カーゴによって一時的に下方制御される)ために、ベムラフェニブ/ダブラフェニブ投与のためのウィンドウが開かれ得る。この例は、抗原誘導性があり、したがって腫瘍細胞に特異的なTNT細胞と組み合わせた場合に特に適切である。
【0060】
他の適用において、TNT細胞は、山中因子であるOct3/4、Sox2、Klf4、およびc-Mycをヒトまたはマウスの線維芽細胞に送達し、人工多能性幹細胞を作製することができる。
【0061】
他の適用において、TNT細胞は、治療効果を引き出すために、ドミナントネガティブ形態のタンパク質を送達し得る。
【0062】
抗原特異的なTNT細胞を、がん細胞に対して標的化して、アポトーシス促進タンパク質であるBIM、BID、PUMA、NOXA、BAD、BIK、BAX、BAK、および/またはHRKを送達し、がん細胞のアポトーシスを引き起こし得る。
【0063】
膵臓がん患者の90%は切除不能な疾患を呈している。切除不能な膵臓腫瘍患者の約30%は局所的な疾患の進行により死亡するため、局所進行膵臓腫瘍を放射線で切除して処置することが望ましいが、腸管は腫瘍切除を引き起こすのに必要な高線量の放射線に耐えることができない。腸管を選択的に放射線保護することによって、周囲の消化管に対する損傷を最小限に抑えながら、膵臓腫瘍の切除放射線療法を行うことが可能になる。この目的のために、転写抑制因子KRABおよびEGLNを標的とするガイドRNAと融合したdCas9をTNT細胞に導入し得る。EGLNの阻害は、膵臓腫瘍ではなく消化管の選択的な放射線保護を引き起こすため、切除的放射線処置による消化管傷害性を有意に軽減することが示されている56
【0064】
結合していないステロイド受容体は、サイトゾルに存在する。リガンドへの結合後、これらの受容体は核へと局在移行し、応答遺伝子の転写を開始する。TNT細胞は、サイトゾルのステロイド受容体に結合し、それを破壊する一本鎖可変フラグメント(scFv)抗体を細胞のサイトゾルに送達することができる。例えば、scFvは、グルココルチコイド受容体に結合し、デキサメタゾンとの結合を阻害することで、腫瘍形成と関連しているメタロチオネイン1E等の応答遺伝子の転写を阻止し得る57
【0065】
TNT細胞は、タンパク質の標的化破壊を伴う処置に適応し得る。例えば、抗体/scFvを細胞のサイトゾルに送達することによって、細胞のサイトゾル内のタンパク質を標的化し、破壊するために、TNT細胞を利用し得る。従来、細胞膜を介して細胞のサイトゾルに抗体を送達することが、困難かつ非効率的であることが周知されていた。このようなタンパク質の阻害方法は、標的化された低分子がサイトゾル内のタンパク質に結合して破壊する方法と類似しており、多様な疾患の処置に有用であり得る58~60
【0066】
さらに、標的化低分子の標的化は、触媒機能またはタンパク質-タンパク質の相互作用に関連する結合ポケットを含む一定の大きさのタンパク質に限定される。scFvは、触媒機能および他のタンパク質との相互作用を阻害するために、タンパク質の多くの異なる部位に結合するように生成し得るため、これらの制限に妨げられない。例えば、RASがんタンパク質は、多くのがんのサブタイプに関与しており、RASはがんにおいて最も頻繁に観察されるがん遺伝子の1つである。例えば、国際がんゲノムコンソーシアムでは、膵臓腺がんサンプルの95%でKRASが変異していることが見出されている。RASアイソフォームは、PI3K経路およびMAPK経路のような、ヒトのがんで制御不能となっている種々の経路を活性化することが知られている。RASはがんにおいて異常な役割を果たしているにもかかわらず、効果的な薬理学的な直接または間接のRASの低分子阻害剤は開発されておらず、臨床使用が承認されていない。RASを標的とする1つの戦略は、複数のRASアイソフォームに結合し、その機能を阻害するscFvをがん細胞に特異的に送達できるTNT細胞であり得る58~60
【0067】
詳細な方法
T1 TNT細胞は、ポリエチレンイミン(PEI)ベースのプラスミドのトランスフェクションを使用して、WT HEK293等の細胞株から産生された。PEIはポリエチレニミン25kD 直鎖(Polysciences #23966-2)である。「PEI MAX」のストック溶液を作製するために、1gのPEIを1Lの事前に約80℃まで加熱したエンドトキシンフリーのdHOに添加し、室温まで冷却した。この混合物を10NのNaOHの添加によってpH7.1に中和し、0.22μmのポリエーテルスルホン(PES)でろ過滅菌した。PEI MAXは-20℃で保存する。
【0068】
WT HEK293細胞は、トランスフェクション時に70%~90%コンフルエントになるように分割し、10%FBSのDMEM培地で培養する。カーゴベクター、例えば、コドン最適化Cas9の発現を駆動するCMVプロモーターをコードするベクターを、U6プロモーター-sgRNA(GFPを標的にする)コードプラスミド、およびヒトMSEC cDNAコードプラスミドと共トランスフェクションした。トランスフェクション反応は、還元血清培地(Opti-MEM、GIBCO #31985-070)中で組み立てた。10cmプレートでのT1 TNT細胞産生のために、7.5μgのCas9発現プラスミド、7.5μgのsgRNA発現プラスミドおよび5μgのヒトMSEC発現プラスミドを1mLのOpti-MEM中で混合し、次いで27.5μlのPEI MAXを添加した。室温で20~30分インキュベーションした後、トランスフェクション反応物をWT HEK293細胞上に滴下分散させた。
【0069】
T1 TNT HEK293細胞を、トランスフェクションの48時間後に回収した。TNT細胞を、室温で1,500rpmで5分間遠心分離した。遠心分離の後、上清をデカンテーションし、TNT細胞ペレットを、PBSで洗浄し、もう一度、室温で1,500rpmで5分間遠心分離した。遠心分離の後、上清をデカンテーションし、TNT細胞ペレットをDMEM10%FBS培地に再懸濁した。次いで、TNT細胞を、GFPの単一コピーを安定的に発現するHEK293細胞と混合した。これらの2種類の細胞を、24ウェルプレートに播種し、48~72時間共培養した。
【実施例
【0070】
本発明は、以下の実施例でさらに説明されるが、これらは特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0071】
[実施例1]
図3において、一過性トランスフェクションを使用して、Cas9およびTPF(ヒトMSEC)を発現するHEK293 eGFPおよびU2OS eGFP TNT細胞株を作出した。別個の細胞培養容器において、HEK293 eGFPおよびU2OS eGFP細胞株の他の群を、GFP標的化sgRNAでトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、TNT細胞を、sgRNA発現細胞と混合し、共培養した。フローサイトメトリーを共培養の48時間後に行った。GFPノックダウンを起こすために、単一細胞内のsgRNAとのCas9複合体およびこのRNP複合体が、インデルが作出され得るGFP遺伝子に標的とされるように、細胞はsgRNAまたはCas9のいずれかを互いに送達しなければならない。HEK293 eGFPおよびU2OS eGFPは、GFPの単一コピーをそれぞれ安定的に発現する。図3に示す結果は、GFP発現細胞のレベルの著しい低下によって証拠付けられるように、WT細胞への遺伝子編集カーゴの効率的な移入を示した。
【0072】
図4Aにおいて、野生型HEK293およびU2OS細胞の一過性トランスフェクションを使用して、Cas9、GFP標的化sgRNA、およびTPF(ヒトMSEC)を発現するTNT細胞株を作出した。トランスフェクションの48時間後、TNT細胞をGFP発現細胞と混合した。細胞溶解を共培養の72時間後に行った。GFPアニーリングプライマーをPCRで使用して、GFPアンプリコンを生成し、アンプリコン配列決定を行った。GFPノックダウンを起こすために、細胞は、sgRNAおよびCas9の両方を隣接するGFP発現細胞に送達しなければならない。HEK293 eGFPおよびU2OS eGFPは、GFPの単一コピーをそれぞれ安定的に発現する。図4Bに示す結果は、GFP配列中の標的部位の改変の存在によって証拠付けられるように、WT細胞への遺伝子編集カーゴの効率的な移入を示した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
例示的な関連タンパク質配列:
ドブネズミ(Rattus norvegicus)&合成:APOBEC1-XTEN L8-nspCas9-UGI-SV40 NLS
【0079】
【化1】
【0080】
ヒト(Homo sapiens):AID
【0081】
【化2】
【0082】
ヒト(Homo sapiens):N末端のRNA結合領域を欠くAIDv可溶性バリアント
【0083】
【化3】
【0084】
ヒト(Homo sapiens):N末端のRNA結合領域およびC末端の十分に構造化されていない領域を欠くAIDv可溶性バリアント
【0085】
【化4】
【0086】
ドブネズミ(Rattus norvegicus):APOBEC1
【0087】
【化5】
【0088】
ハツカネズミ(Mus musculus):APOBEC3
【0089】
【化6】
【0090】
ハツカネズミ(Mus musculus):APOBEC3触媒ドメイン
【0091】
【化7】
【0092】
ヒト(Homo sapiens):APOBEC3A
【0093】
【化8】
【0094】
ヒト(Homo sapiens):APOBEC3G
【0095】
【化9】
【0096】
ヒト(Homo sapiens):APOBEC3G触媒ドメイン
【0097】
【化10】
【0098】
ヒト(Homo sapiens):APOBEC3H
【0099】
【化11】
【0100】
ヒト(Homo sapiens):APOBEC3F
【0101】
【化12】
【0102】
ヒト(Homo sapiens):APOBEC3F触媒ドメイン
【0103】
【化13】
【0104】
大腸菌(Escherichia coli):TadA
【0105】
【化14】
【0106】
ヒト(Homo sapiens):Adar1
【0107】
【化15】
【0108】
ヒト(Homo sapiens):Adar2
【0109】
【化16】
【0110】
化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes):Cas9双節型NLS
【0111】
【化17】
【0112】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus):Cas9
【0113】
【化18】
【0114】
ジェジュニ菌(Campylobacter jejuni):Cas9
【0115】
【化19】
【0116】
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis):Cas9
【0117】
【化20】
【0118】
アシダミノコッカス属種(Acidaminococcus sp.)Cas12a
【0119】
【化21】
【0120】
ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)菌Cas12a:
【0121】
【化22】
【0122】
レプトトリキア・シャーイイ(Leptotrichia shahii)Cas13a
【0123】
【化23】

レプトトリキア・ウェイディイ(Leptotrichia wadei)Cas13a
【0124】
【化24】
【0125】
ヒト(Homo sapiens):Msec
【0126】
【化25】
【0127】
ハツカネズミ(Mus musculus):Msec
【0128】
【化26】
【0129】
ヒト(Homo sapiens):Lst1アイソフォーム1
MLSRNDDICIYGGLGLGGLLLLAVVLLSACLCWLHRRVKRLERSWHLLSWSQAQGSSEQELHYASLQRLPVPSSEGPDLRGRDKRGTKEDPRADYACIAENKPT (配列番号27)
【0130】
ヒト(Homo sapiens):Lst1アイソフォーム4
MLSRNDDICIYGGLGLGGLLLLAVVLLSACLCWLHRRVKRLERSWAQGSSEQELHYASLQRLPVPSSEGPDLRGRDKRGTKEDPRADYACIAENKPT (配列番号28)
【0131】
ヒト(Homo sapiens):RalA
【0132】
【化27】
【0133】
単純ヘルペスウイルス(HSV)1型:VP16転写活性化ドメイン
PTDALDDFDLDMLPADALDDFDLDMLPADALDDFDLDM (配列番号30)
【0134】
単純ヘルペスウイルス(HSV)1型&合成:VP64
GRADALDDFDLDMLGSDALDDFDLDMLGSDALDDFDLDMLGSDALDDFDLDML (配列番号31)
【0135】
ヒト(Homo sapiens):P65
【0136】
【化28】
【0137】
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルストランス活性化因子:RTA
【0138】
【化29】
【0139】
ヒト(Homo sapiens):KRAB
MDAKSLTAWSRTLVTFKDVFVDFTREEWKLLDTAQQIVYRNVMLENYKNLVSLGYQLTKPDVILRLEKGEEP (配列番号34)
【0140】
ヒト(Homo sapiens):MeCP2
【0141】
【化30】
【0142】
ヒト(Homo sapiens):Tet1
【0143】
【化31】
【0144】
ヒト(Homo sapiens):Dnmt3a
【0145】
【化32】
【0146】
ヒトコドン最適化化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)NLS
【0147】
【化33-1】
【0148】
【化33-2】
【0149】
ヒトコドン最適化化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)双節型(BP)NLS
【0150】
【化34-1】
【0151】
【化34-2】
【0152】
ヒトコドン最適化化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)BE4
【0153】
【化35-1】
【0154】
【化35-2】
【0155】
【化35-3】
【0156】
ヒトコドン最適化化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)ABE
【0157】
【化36-1】
【0158】
【化36-2】
【0159】
【化36-3】
【0160】
参考文献
【0161】
【表6-1】
【0162】
【表6-2】
【0163】
【表6-3】
【0164】
【表6-4】
【0165】
【表6-5】
【0166】
【表6-6】
【0167】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を説明することを目的としており、本発明を限定するものではないことは理解されたい。他の局面、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
【国際調査報告】