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特表2023-531508出血性ショックを処置するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】出血性ショックを処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/42 20060101AFI20230714BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20230714BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20230714BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
A61K38/42
A61P43/00 121
A61P7/08
A61K35/16
A61K35/19
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579666
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 US2021038606
(87)【国際公開番号】W WO2021262803
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/042,668
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521152057
【氏名又は名称】ヴィルテック バイオ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライト,ウィリアム,リチャード,サード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC14
4C076GG41
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA26
4C084DC50
4C084MA02
4C084MA16
4C084MA17
4C084NA05
4C084ZA521
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087BB38
4C087MA02
4C087MA16
4C087MA17
4C087NA05
4C087ZA52
4C087ZC75
(57)【要約】
出血性ショックを予防または処置するための医薬製剤が提供される。この医薬製剤は、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物を含む。この医薬製剤を調製するための関連する方法も提供される。さらに、出血性ショックを予防または処置するための方法も提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物を含む液体医薬製剤。
【請求項2】
前記酸素付加補足物が、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、前記酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項3】
最大約95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含んでおり、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項4】
前記酸素付加補足物が、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、前記酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項5】
最大約95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含んでおり、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項6】
前記HBOCが過重合HBOCである、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項7】
前記補助剤が血小板を含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項8】
出血性ショックを予防または処置する方法であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物の有効量を、投与を必要とする対象の出血性ショックを予防または処置するのに有効な量で前記対象に静脈内投与する工程を含む方法。
【請求項9】
前記酸素付加補足物が、液体HBOC製剤および液体血漿製剤の連続投与により前記対象に投与され、前記液体HBOC製剤は血漿を実質的に含まず、前記液体血漿製剤はHBOCを実質的に含まない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸素付加補足物が、HBOC製剤および血漿製剤の連続投与により前記対象に投与され、前記HBOC製剤は前記血漿製剤の前に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記酸素付加補足物が、HBOC製剤および血漿製剤の連続送達により前記対象に投与され、前記血漿製剤は前記HBOC製剤の前に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
HBOC製剤および血漿製剤が、互いに約6時間以下の間隔を空けて前記対象に投与される、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記酸素付加補足物が、HBOC調製物と血漿調製物とを混合することにより調製された液体医薬製剤を投与することにより投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記液体医薬製剤が、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸素付加補足物が、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、前記酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記液体医薬製剤が、
最大95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含んでおり、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記酸素付加補足物が、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、前記酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記液体医薬製剤が、
最大95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、前記HBOCと前記血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含んでおり、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記補助剤が血小板を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
血小板を含む医薬製剤が前記酸素付加補足物と同時投与される、請求項8から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記出血性ショックが、外傷性失血を負っている対象により生じる、請求項8から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記出血性ショックが、非外傷性失血を負っている対象により生じる、請求項8から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
(i)ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)調製物を含む第1のパッケージと、(ii)血漿調製物を含む第2のパッケージとを含む医薬品パッケージであって、請求項1に記載の液体医薬製剤を調製するための指示書を含む医薬品パッケージ。
【請求項24】
(iii)前記HBOC調製物および前記血漿調製物を混合することにより液体医薬製剤を形成するための薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を含む第3のパッケージをさらに含む、請求項23に記載の医薬品パッケージ。
【請求項25】
前記HBOC調製物および前記血漿製剤のうち少なくとも1つが、水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である乾燥HBOC調製物または乾燥血漿調製物である、請求項23に記載の医薬品パッケージ。
【請求項26】
前記血漿調製物が、水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である乾燥HBOC調製物であり、前記HBOC調製物が、低イオン性溶質HBOC調製物である、請求項23に記載の医薬品パッケージ。
【請求項27】
前記低イオン性溶質HBOC調製物が、約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含み得る、請求項26に記載の医薬品パッケージ。
【請求項28】
請求項1から7のいずれか一項に記載の液体医薬製剤を調製する方法であって、
(i)ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)調製物と、
(ii)血漿調製物と
を混合することにより、酸素付加補足物を構成するか、または液体医薬製剤を製剤化する工程を含む方法。
【請求項29】
前記血漿調製物が、水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である乾燥血漿調製物であり、前記HBOC調製物が、液体低イオン性溶質HBOC調製物である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記液体HBOC調製物が、約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む低イオン性溶質HBOC調製物である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
(iii)薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を前記酸素付加補足物と一体的に混合することにより液体医薬製剤を形成する工程をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記HBOC調製物と前記血漿調製物が、投与を必要とする対象に投与する1時間前までに混合される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
約27ミリ等量(mEq/L)以下のナトリウムイオン(Na)、約0.7mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.92mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.3mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約19.2mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、4.8mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.5mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む液体低イオン性溶質HBOC調製物。
【請求項34】
約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む、請求項33に記載の液体低イオン性溶質HBOC調製物。
【請求項35】
約6.75mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.175mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.23mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.075mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約4.8mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、1.2mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.125mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む、請求項33に記載の液体低イオン性溶質HBOC調製物。
【請求項36】
約5重量%~約50重量%のHBOC分量を含み、前記液体低イオン性溶質HBOC調製物の残部は薬学的に許容可能な希釈剤を含む、請求項33から35のいずれか一項に記載の液体低イオン性溶質HBOC調製物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月23日出願の米国仮特許出願第63/042,668号に基づく利益を主張し、米国仮特許出願第63/042,668号の全内容は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示の分野
本開示は、概して出血性ショックの分野、具体的には、出血性ショックを処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
以下の段落は、本開示の背景技術として提供する。
【0004】
出血性ショックとは、重要臓器が血管損傷による相当な失血により機能を止めたときに発生し得る臨床症候群である。このため、出血性ショックは、例えば、身体深部の裂傷もしくは熱傷を負ったとき、外科処置の実施中、または胃腸管出血など体内出血が生じる場合など、外傷性損傷の後に生じ得る。重要臓器への血流が減少することで酸素の送達が不十分となり、酸素の需要が供給を上回ると、臓器、加えて生物はショック状態に陥るおそれがある。出血性ショック症状は、一般的に生命を脅かす医療緊急事態として処置される。
【0005】
血管損傷による失血を止めるための生得的な身体プロセスは止血として知られており、血管の狭窄および血液凝固を行うことで、栓として機能する血餅が形成される。止血を促進して出血性ショックを処置または予防するための周知の医療技法として、止血帯の適用、圧迫包帯や創傷包帯の適用、または内出血に介入する技法を含む、血流を止めるための技法が挙げられる。しかし、特に重度の血管損傷の場合、このような技法は、適切に失血を止めることができないことが多い。
【0006】
出血性ショックを処置すると知られる他の治療法として、輸血療法が挙げられる。これらの療法は非常に有効な可能性があるが、適切に保管された血液を入手できるかどうかに大きく依存するため、ドナー血液が不足する場合には治療選択肢にならない場合がある。加えて、患者が医療施設から離れた場所、例えば戦場で負傷を受けたとき、輸血療法を実行できない場合がある。さらに、血液提供者とレシピエントの血液型が適合する必要があり、輸血された血液には血液媒介病原性物質が含まれてはならない。
【0007】
出血性ショックを処置すると当該技術分野で知られているまた他の治療法としては、血漿を含み静脈内に送達される治療液、いわゆる血漿増量剤の使用が挙げられる。
【0008】
この点で、血漿の投与により血管液量を増加させ、それにより残りの赤血球が重要臓器に酸素を送達するのを補助することができる。さらに、血漿の投与は止血を補助することができる。しかし、血漿調製物には酸素運搬成分が含まれていない。さらに、既知の血漿調製物の貯蔵寿命は、血漿調製物を凍結保存しない限り比較的短く、典型的には数日(the order of the days)である。
【0009】
血漿増量剤、結晶質またはコロイド系の血漿増量剤は、例えば、血管液量を増加することにより、残る赤血球が重要臓器に酸素を送るのを補助するためにも利用されている。しかし、血漿増量剤の欠点は、投与により赤血球に望ましくない希釈、止血の遅延が生じるおそれがあり、外傷誘発や他の種類の凝固障害、すなわち血液凝固障害を生じさせる可能性がある。さらに、血漿増量剤の調製物中に酸素運搬成分が存在しなければ、出血性ショックの処置におけるこれら調製物の実用性が制限されてしまう。
【0010】
前述の欠陥のいくつかを解消するために、赤血球に存在する天然の酸素運搬タンパク質成分であるヘモグロビンを利用した化合物の分類が、発展している。ヘモグロビン系の酸素運搬体は、HBOCと称されることも多く、血管流量の拡張と酸素送達の両方を可能にすることから望ましいとみなされている。さらに、いくつかのHBOC調製物は冷凍を必要とせず、血液伝播性疾患汚染物質(blood borne disease contaminant)を運ばない。しかし、既知のHBOC調製物に関連する1つの重大な欠点は、投与により高血圧が生じ、凝固血漿成分の血液希釈が原因で止血の遅れを生じさせる可能性があることである。これらの特徴により、既知のHBOC調製物は出血性ショックの処置には十分に適していない。実際、米国食品医薬品局(FDA)は、出血性ショックを処置するためにHBOCを用いる治療法を現在も承認していない(Gupta,A.S.,2019,Shock 52(1S):70-83)。
【0011】
このため、出血性ショックを処置する医学的技法は当該技術分野で公知ではあるが、公知の技法に関連して多くの欠点が残っていることが明白であろう。したがって、当該技術分野では出血性ショックを処置するための技法の改善が必要とされ、具体的には、出血性ショックの処置において流体を用いる治療法の改善が必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
以下の段落は、後述する詳細な説明を読者に紹介することを意図しており、本開示の請求される事項を定義も制限することも意図していない。
【0013】
広範な一態様では、本開示は、概して出血性ショック、および出血性ショックの予防または処置のための医薬製剤に関する。
【0014】
一態様によれば、本明細書の教示に従い、本開示は、少なくとも一実施形態では、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物(oxygenation complement)を含む液体医薬製剤を提供する。
【0015】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むことができ、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0016】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、医薬製剤は、
最大約95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含むことができ、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される。
【0017】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むことができ、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0018】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、医薬製剤は、
最大約95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含むことができ、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される。
【0019】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、HBOCは、過重合HBOCとすることができる。
【0020】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、補助剤は血小板を含むことができる。
【0021】
別の態様では、本開示は、少なくとも一実施形態では、出血性ショックの予防または治療のための液体医薬製剤を調製する方法であって、
(i)ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)調製物と、
(ii)血漿調製物と
を混合することにより、酸素付加補足物を構成するか、または液体医薬製剤を製剤化(formulate)する工程を含む方法を提供する。
【0022】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、HBOC調製物と血漿調製物のうち少なくとも1つは、液体調製物とすることができる。
【0023】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、血漿調製物とHBOC調製物のうち少なくとも1つは、それぞれ水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である、乾燥血漿調製物または乾燥HBOC調製物とすることができる。
【0024】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、血漿調製物は、水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である乾燥血漿調製物とすることができ、HBOC調製物は、液体低イオン性溶質HBOC調製物とすることができる。
【0025】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体HBOC調製物は、約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む低イオン性溶質HBOC調製物とすることができる。
【0026】
少なくとも実施形態では、一態様において、上記方法は、(iii)薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を酸素付加補足物と一体的に混合することで液体医薬製剤を形成する工程をさらに含むことができる。
【0027】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むように構成することができ、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0028】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体製剤は、最大95重量%の酸素付加補足物を中で製剤化することにより製剤化することができ、酸素付加補足物は、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成され、医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される。
【0029】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むように構成することができ、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0030】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体製剤は、最大95重量%の酸素付加補足物を中で製剤化することにより製剤化することができ、酸素付加補足物は、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成され、医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される。
【0031】
少なくとも1つの実施形態では、補助剤は血小板を含むことができる。
【0032】
少なくとも1つの実施形態では、一態様では、HBOC調製物と血漿調製物は、投与を必要とする対象への投与の1時間前までに混合することができる。
【0033】
別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、出血性ショックを予防または処置する方法であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物の有効量を、投与を必要とする対象の出血性ショックを予防または処置するのに有効な量で対象に静脈内投与する工程を含む方法を提供する。
【0034】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、液体HBOC製剤および液体血漿製剤の連続投与により対象に投与することができ、液体HBOC製剤は血漿を実質的に含まず、液体血漿製剤はHBOCを実質的に含まない。
【0035】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、HBOC製剤および血漿製剤の連続投与により対象に投与することができ、HBOC製剤は血漿製剤の前に投与される。
【0036】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、HBOC製剤および血漿製剤の連続送達により対象に投与することができ、血漿製剤はHBOC製剤の前に投与される。
【0037】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、HBOC製剤と血漿製剤は、互いに約6時間以下の間隔を空けて対象に投与することができる。
【0038】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、HBOC調製物と血漿調製物とを混合することにより調製された液体医薬製剤を投与することによって投与することができる。
【0039】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体医薬製剤は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤をさらに含むことができる。
【0040】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むことができ、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0041】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体医薬製剤は、
最大95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含むことができ、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される。
【0042】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、酸素付加補足物は、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むことができ、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0043】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体医薬製剤は、
最大95重量%の酸素付加補足物であって、約5重量%~約50重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含み、HBOCと血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤により構成される、酸素付加補足物
を含むことができ、
医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成される。
【0044】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、補助剤は血小板を含むことができる。
【0045】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、血小板を含む医薬製剤は、酸素付加補足物と同時投与することができる。
【0046】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、出血性ショックは、外傷性失血を負っている対象により生じる可能性がある。
【0047】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、出血性ショックは、非外傷性失血を負っている対象により生じる可能性がある。
【0048】
別の態様では、本開示は、少なくとも一実施形態では、(i)ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)製剤を含む第1のパッケージと、(ii)血漿製剤を含む第2のパッケージとを含む医薬品パッケージであって、HBOC調製物および血漿調製物を混合することにより液体医薬製剤を構成するために使用可能な医薬品パッケージを提供し、形成された液体医薬製剤は、投与を必要とする対象に投与したときに出血性ショックを予防または処置するために使用することが可能であり、医薬品パッケージは、液体医薬製剤を調製するための指示書をさらに含む。
【0049】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、医薬品パッケージは、(iii)HBOC調製物および血漿調製物を混合することにより液体医薬製剤を形成するための薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を含む第3のパッケージをさらに含むことができる。
【0050】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、HBOC調製物と血漿調製物のうち少なくとも1つは、それぞれ水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である、乾燥HBOC調製物または乾燥血漿調製物とすることができる。
【0051】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、血漿調製物は、水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)である乾燥HBOC調製物とすることができ、HBOC調製物は、低イオン性溶質HBOC調製物とすることができる。
【0052】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、低イオン性溶質HBOC調製物は、約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含むことができる。
【0053】
別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、約27ミリ等量(mEq/L)以下のナトリウムイオン(Na)、約0.7mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.92mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.3mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約19.2mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、4.8mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.5mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む液体低イオン性溶質HBOC調製物を提供する。
【0054】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体低イオン性溶質HBOC調製物は、約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含むことができる。
【0055】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、液体低イオン性溶質HBOC調製物は、約6.75mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.175mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.23mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.075mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約4.8mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、1.2mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.125mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含むことができる。
【0056】
少なくとも1つの実施形態では、一態様において、低イオン性溶質HBOC調製物は、約5重量%~約50重量%のHBOC質量を含み、当該調製物の重量残部は、薬学的に許容可能な希釈剤により構成される。
【0057】
別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、出血性ショックを予防または処置するための液体医薬製剤を製剤化するための、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿の使用を提供する。
【0058】
別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、出血性ショックを予防または処置するための液体医薬製剤であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿を含む酸素付加補足物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む液体医薬製剤の使用を提供する。
【0059】
別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、出血性ショックの予防または処置に使用するための液体医薬製剤であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿を含む酸素付加補足物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む液体医薬製剤を提供する。
【0060】
別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、液体医薬製剤であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿または血漿成分を含む酸素付加補足物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む液体医薬製剤の、出血性ショックの予防または処置に使用するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0061】
その他の特徴と利点、または本開示は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、この詳細な説明は、本開示の好ましい実施形態または実施態様を示すが、本開示の趣旨と範囲内での様々な変更と修正が、詳細な説明から当業者に明白となることから、単なる例示として提供されることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
本開示のこれらの特徴と他の特徴は、添付の図面に対する言及がなされる以下の詳細な説明においてさらに明白となるであろう。図面は、例示的な実施形態のより良い理解のため、かつ、様々な例示的な実施形態がどのように実施され得るのかをより明確に示すために、本明細書において提供される。これらの図面は、本開示を限定することを意図していない。
【0063】
図1】本明細書に記載の特定の実験のパフォーマンスの結果を表す棒グラフである。全血(対照)、新鮮冷凍血漿(FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC(FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液(LR)、全血+PlasmaLyte(Dil.対照)、新鮮冷凍血漿+PlasmaLyte(Dil.FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC+PlasmaLyte(Dil.FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液+PlasmaLyte(Dil.LR)を含む、様々な試験済みアッセイ混合物におけるプロトロンビン時間(PT)(PT(s))が示される。薄い灰色の棒は10%希釈を表し、濃い灰色の棒は25%希釈を表す。標準偏差はn=6である。
図2】本明細書に記載の特定の実験のパフォーマンスの結果を表す棒グラフである。全血(対照)、新鮮冷凍血漿(FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC(FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液(LR)、全血+PlasmaLyte(Dil.対照)、新鮮冷凍血漿+PlasmaLyte(Dil.FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC+PlasmaLyte(Dil.FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液+PlasmaLyte(Dil.LR)を含む、様々な試験済みアッセイ混合物(tPAを含むものと含まないもの)における血餅溶解(LY60(%))が示される。薄い灰色の棒は10%希釈を表し、濃い灰色の棒は25%希釈を表す。ストライプ入りの薄い灰色の棒は、tPAを含む場合の10%希釈を表し、ストライプ入りの濃い灰色の棒は、tPAを含む場合の25%希釈を表す。標準偏差はn=6である。
図3】本明細書に記載の特定の実験のパフォーマンスの結果を表す棒グラフである。全血(対照)、新鮮冷凍血漿(FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC(FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液(LR)、全血+PlasmaLyte(Dil.対照)、新鮮冷凍血漿+PlasmaLyte(Dil.FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC+PlasmaLyte(Dil.FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液+PlasmaLyte(Dil.LR)を含む、様々な試験済みアッセイ混合物における血小板数(血小板×10/μl)が示される。薄い灰色の棒は10%希釈を表し、濃い灰色の棒は25%希釈を表す。標準偏差はn=6である。
図4】本明細書に記載の特定の実験のパフォーマンスの結果を表す棒グラフである。全血(対照)、新鮮冷凍血漿(FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC(FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液(LR)、全血+PlasmaLyte(Dil.対照)、新鮮冷凍血漿+PlasmaLyte(Dil.FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC+PlasmaLyte(Dil.FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液+PlasmaLyte(Dil.LR)を含む、様々な試験済みアッセイ混合物におけるヘマトクリット含有量(HGT(%))が示される。薄い灰色の棒は10%希釈を表し、濃い灰色の棒は25%希釈を表す。標準偏差はn=6である。
図5】本明細書に記載の特定の実験のパフォーマンスの結果を表す棒グラフである。全血(対照)、新鮮冷凍血漿(FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC(FFPHBOC)、乳酸リンゲル液(LR)、全血+PlasmaLyte(Dil.対照)、新鮮冷凍血漿+PlasmaLyte(Dil.FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC+PlasmaLyte(Dil.FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液+PlasmaLyte(Dil.LR)を含む、様々な試験済みアッセイ混合物におけるフィブリノゲン濃度(フィブリノゲンmg/dl)が示される。薄い灰色の棒は10%希釈を表し、濃い灰色の棒は25%希釈を表す。標準偏差はn=6である。
図6】本明細書に記載の特定の実験のパフォーマンスの結果を表す棒グラフである。全血(対照)、新鮮冷凍血漿(FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC(FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液(LR)、全血PlasmaLyte(Dil.対照)、新鮮冷凍血漿+PlasmaLyte(Dil.FFP)、新鮮冷凍血漿+HBOC+PlasmaLyte(Dil.FFP+HBOC)、乳酸リンゲル液+PlasmaLyte(Dil.LR)を含む、様々な試験済みアッセイ混合物におけるヘモグロビン濃度(HGB g/dl)が示される。薄い灰色の棒は10%希釈を表し、濃い灰色の棒は25%希釈を表す。標準偏差はn=6である。
【0064】
図面は、以下の詳細な説明とともに、本開示が実際にどのように実施され得るのかを当業者に対して明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0065】
請求される主題の実施形態の一例を提供するべく、様々なプロセス、方法、および組成物を後述する。後述の実施形態は、いかなる請求された主題も制限せず、請求された主題はすべて、後述のものとは異なるプロセス、方法、または組成物を包含する場合がある。請求された主題は、後述のプロセス、方法、または組成物の特徴のすべてを有するいずれかのプロセス、方法、または組成物にも、後述の複数のプロセス、方法、組成物、または組成物に共通する特徴にも限定されない。後述のプロセス、方法、または組成物は、請求された主題の実施形態としないことが可能である。本文書で請求されていない後述のプロセス、方法、または組成物に開示される主題はすべて、別の保護物(protective instrument)、例えば、継続特許出願の主題である場合があり、出願人、発明者、または権利者は、本文書中での開示により、かかる主題をすべて放棄することも、棄却することも、公開することも意図していない。
【0066】
本明細書と特許請求の範囲で使用するとき、単数形、例えば「a」、「an」、「the」は、文脈上明確に別段の定めのない限り複数形を含み、その逆も然りである。本明細書全体を通して、別段の指示のない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」は、明示された整数またはその集まりが、他の1つもしくは複数の明示されていない整数またはその集まりを含み得るように、排他的ではなく包括的に使用される。「または」という用語は、例えば「いずれか(either)」により修飾されない限り、包括的である。「および/または」という用語は、包括的を表すことを意図する。すなわち、「Xおよび/またはY」は、例えば、XもしくはY、またはXおよびYの両方を意味することを意図する。さらなる例として、X、Y、および/またはZは、X、Y、もしくはZ、またはそれらのあらゆる組合せを意味することが意図される。
【0067】
範囲が、分子量などの物理的特性、または化学式などの化学的特性に対して本明細書中で使用されるとき、範囲およびその中の特定の実施形態の組合せと部分的な組合せは、すべて含まれることが意図される。操作例におけるものを除き、または別段の定めがある場合、本明細書で使用される成分または反応条件の量を表す数はすべて、あらゆる例で「約」という用語により修飾されるものと理解されたい。「約」という用語は、数または数値範囲に言及するとき、言及される数または数値範囲が実験的変動内(すなわち、統計的実験誤差内)の近似値であることを意味し、そのため、数または数値範囲は、前後関係により容易に認識されるように、明示された数または数値範囲の1%~15%の間で変動し得る。さらに、本明細書に記載される値の範囲はすべて、範囲の制限値、および所与の範囲内の中間値または部分範囲を具体的に含むことが意図され、かかる中間値と部分範囲はすべて、個々にかつ具体的に開示される(例えば、1~5の範囲は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、および5を含む)。同様に、本明細書で使用される「実質的に」や「およそ」などの程度を表す他の用語は、最終結果が著しく変化しないような、修飾された用語の合理的な偏差量を意味する。これらの程度を表す用語は、このような偏差が修飾対象である用語の意味を否定しない場合、修飾された用語の偏差を含むものと解釈されたい。
【0068】
別段の定めのない限り、本明細書に記載される製剤に関連して使用される科学用語と技術用語は、当業者が共通して理解する意味を有するものとする。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明することを目的としており、特許請求の範囲によって規定される本開示の主題の範囲を制限することは意図されていない。
【0069】
本明細書で言及される刊行物、特許、および特許出願はすべて、刊行物、特許、または特許出願がそれぞれ、その全体を参照により援用されることが具体的に示されているのと同じ程度にまで、その全体を参照により本明細書中で援用される。
【0070】
定義
「有効量」という用語は、本明細書で使用するとき、所望の生物学的効果または治療効果を誘導するのに十分な、活性薬剤または医薬製剤の量をいう。かかる効果は、損傷、障害、もしくは疾患の徴候、症状、または原因、あるいは生体系のあらゆる他の所望の変化に対する効果を含む可能性がある。有効量は、例えば、処置される対象の健康状態、損傷の段階、障害の段階、または疾患の段階、投与のタイミング、投与方法、対象の年齢などに依存して変動する場合があり、これらはすべて当業者が決定することができる。
【0071】
「HBOC」または「ヘモグロビン系酸素運搬体」という用語は、本明細書中で互換的に使用され得るとき、ヘモグロビン分子が、例えば、ヘモグロビン分子の化学的架橋、重合化、またはヘモグロビンの他の分子へのコンジュゲーション、例えばポリエチレングリコール(PEG)もしくはデキストランへのコンジュゲーションにより修飾されている、酸素を運搬するヘモグロビン誘導体をいう。
【0072】
「ヘモグロビン」という用語は、本明細書で使用するとき、生物中で酸素を運ぶ、赤血球に含まれるタンパク質をいう。ヘモグロビンの分子は、それぞれ4つのサブユニットとして2つのα-鎖と2つのβ-鎖を含み、これらは一体となって四量体構造で構成される。各サブユニットには、酸素を結合するヘム基を含有する鉄も含まれる。こうして、ヘモグロビン分子はそれぞれ4つの酸素分子に結合することができる。本明細書で使用するとき、この用語はそれ自体で、自然に生じる変異体を含む天然のヘモグロビンを指し示すとともに、例えばヒトヘモグロビン、ウシヘモグロビン、ヒツジヘモグロビン、ブタヘモグロビン、あらゆる組換えヘモグロビンを含むがこれらに限定されない、無脊椎もしくは脊椎動物、またはヒトから取得可能なヘモグロビンをさらに含む。
【0073】
「出血性ショック」という用語は、本明細書で使用するとき、対象の総血液量が相当量喪失することにより誘導されて、心臓や脳を含む重要器官を通る血流を無力とし、正常な生理学的器官機能が損なわれる、対象の状態をいう。失血は、損傷、深い切傷や熱傷などの鈍的または鋭的な外傷を含む外傷、または例えば外科手術の実施において負う外傷により生じる可能性がある。相当量の失血は、非外傷性出血、例えば、消化性潰瘍や他のいずれかの胃腸障害により生じ得るような胃腸出血の結果としても生じる可能性がある。相当量の失血は、対象の総血液量の少なくとも15%または約15%、少なくとも20%または約20%、少なくとも30%または約30%、少なくとも40%または約40%の損失を含む。
【0074】
「止血」という用語は、本明細書で使用するとき、動脈、静脈、毛細血管を含む1つまたは複数の損傷した血管からの失血のほか、組織または器官からの散在性失血を止めることをいう。止血には、栓として機能する血餅を生じさせる血管の狭窄および血液凝固が含まれる。
【0075】
「酸素付加補足物」という用語は、血漿およびHBOCをまとめて示す。酸素付加補足物は、血漿とHBOCを含む液体混合物として構成することができる。酸素付加補足物は、それを対象に投与後、対象の循環系に存在する酸素化構成要素を補助して補うことができる。この用語はまた、対象に対する別の血漿製剤およびHBOC製剤のほぼ(more or less)同時期の投与をいう可能性もある。
【0076】
「医薬製剤」という用語は、本明細書で使用するとき、担体、希釈剤、または補助剤のうち少なくとも1つと一体となって治療投与に適した活性薬剤をいう。本開示の観点では、活性薬剤は、HBOCと血漿を含む酸素付加補足物とすることができる。医薬製剤はまた、ある実施形態では、治療投与に適した血漿製剤またはHBOC製剤とすることもできる。
【0077】
「薬学的に許容可能」という用語は、本明細書で使用するとき、医薬製剤中の他の材料との適合性があり、かつ、過剰な毒性、アレルギー反応、刺激、または合理的なリスク/ベネフィット比に見合った他の有害反応を生じさせることなくヒトまたは動物に接触させて使用するのに適した合理的な医学的判断の範囲内にある、担体、希釈剤、または補助剤を含む材料をいう。
【0078】
「調製物」という用語は、本明細書で使用するとき、医薬製剤の製造に使用するのに適した組成物をいう。このため、例えばHBOC調製物は、医薬製剤、例えば出血性ショックの処置用の医薬製剤の製造への使用に適したHBOCを含む組成物を指し、血漿調製物は、医薬製剤、例えば出血性ショックの処置用の医薬製剤の製造への使用に適した血漿を含む組成物を指す。医薬製剤の製造は、例えば、薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または補助剤を含む製剤を含む場合がある。
【0079】
「赤血球(red blood cell)」または「赤血球(erythrocyte)」という用語は、本明細書で使用するとき、血液を循環するヘモグロビンを含有し、全体として血液の赤色の基となる非有核細胞を意味する。
【0080】
「対象」という用語は、本明細書で使用するとき、動物、哺乳動物、またはさらにヒトを指す。
【0081】
「処置すること(treating)」や「処置(treatment)」などの用語は、本明細書で使用するとき、所望の生理学的、薬理学的、または生物学的な効果を得ることを意味することが意図される。この効果により、損傷、障害、または疾患に起因する、損傷、障害、または疾患の徴候、症状、または原因が軽快されるか、損傷、障害、または疾患が部分的もしくは完全に治療または治癒される場合がある。処置の臨床的証拠は、損傷、障害、または疾患、対象、および選択した処置によって変動する場合がある。出血性ショックの処置の観点では、生理学的効果には止血が含まれ得る。
【0082】
「実質的に純粋な」は、本明細書で使用するとき、それに自然に付随する構成成分から隔てられている、ヘモグロビンなどの実体、例えば細胞や化学的または生体化学的化合物を記述する。典型的に、実体は、試料中の材料全体の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、または98%、最も好ましくは少なくとも99%(体積、湿重量もしくは乾燥重量、またはモル%もしくはモル分率)が目的の実体であるときに、実質的に純粋である。この用語はさらに、赤血球調製物に関しては、非赤血球、例えば白血球や血小板から隔てられたものを指す可能性もあり、非赤血球を2重量%、1重量%、0.5重量%、または0.1重量%以下しか含まない調製物が挙げられる。また、この用語はさらに、血漿に関しては、血液細胞、例えば赤血球、白血球、血小板から隔てられたものを指す可能性もあり、血液細胞を5重量%、4重量%、3重量%、2重量%、または1重量%しか含まない調製物が挙げられる。純度は、あらゆる適切な方法、例えば、タンパク質の場合はクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法、またはHPLC分析により、赤血球の場合にはフローサイトメトリーにより測定することができる。
【0083】
一般的な実施
概して、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿成分とを含む酸素付加補足物を含む新規な製剤を調製できること、これらの医薬製剤は、出血性ショックを予防または処置するのに予想外かつ有効に使用できることが、実現されている。本開示の医薬製剤は、投与を必要とする対象、特に、出血性ショックを患うリスクのある対象、または出血性ショック、例えば外傷による出血性ショックを患う対象に投与することができる。本開示の医薬製剤は、対象への投与に際して、対象の循環系中に存在する酸素化成分を補うことができる。驚くべきことに、本開示の医薬製剤の投与後、損傷した血管からの失血を制御して、止血を速やかに達成することができる。このため、本開示の医薬製剤は、出血性ショックを予防または処置するのに使用できる。この点で、HBOCまたは血漿のいずれかしか含まない製剤を活性化合物として投与することの有効性は、本開示の医薬製剤を投与することの有効性に比べて大きく劣っていると言えることに留意されたい。特に、活性薬剤としてHBOCしか含まない製剤の投与は、血圧上昇および止血に必要な時間の遅延を生じさせるおそれがあるため、活性薬剤としてHBOCしか含有しない製剤は、出血性ショックの予防または処置に十分に適していない可能性がある。本開示の医薬製剤は安全かつ経済的に製造することができ、本明細書には製造方法も含まれる。
【0084】
さらに、本明細書のある実施形態では、本開示の医薬製剤は、軽量の医薬製品を提供するように構成されてよい。これにより本開示の医薬製剤は、特に、例えば小型で軽量の医療用品の使用が有利であり得る戦場での使用に適したものとなる。
【0085】
このため、本開示は、一態様では出血性ショックの予防と処置のための医薬製剤を提供する。本開示は、さらなる態様では出血性ショックの予防と処置のための医薬製剤を調製する方法を提供する。さらに本開示は、また別の態様では出血性ショックを予防かつ処置する方法を提供する。
【0086】
以下、選択された実施形態を記載する。
【0087】
したがって、本開示は、一態様において、一実施形態では、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物を含む医薬製剤を提供する。医薬製剤は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤をさらに含むことができる。医薬製剤は、出血性ショックを処置または予防するのに使用できる。
【0088】
概して、本開示の医薬製剤は、最初にHBOC調製物と血漿調製物を提供することにより調製できる。このため次に、最初に血漿とHBOC製剤を得るための方法例を論じる。その後、これら調製物を両方含む医薬製剤を調製する方法を論じる。その後、出血性ショックを予防または処置する方法を論じる。
【0089】
一態様では、全血を1つのソースとして使用し、HBOC調製物と血漿調製物の両方を製造することができる。血液は、赤血球、白血球、血漿、凝固因子、小タンパク質、血小板、および/または凍結沈降物を含むがこれらに限定されない、対象の中を循環する血液成分すべてを含むことに留意されたい。これは、典型的にヒト患者が血液提供したときに供与される血液の種類である。本明細書に従い使用され得る好適な血液として、哺乳動物および鳥類血液を含むがこれらに限定されない無脊椎もしくは脊椎動物またはヒトの血液、zるいはいずれかの組換えヘモグロビン製剤が挙げられ、哺乳動物および鳥類血液には、ヒト血液、ウシ血液、ブタ血液、ウマ血液、ヒツジ血液が含まれるがこれらに限定されない。血液溶液は、生きた生物または死亡した生物から集めてよく、例えば、米国特許第5,084,558号明細書や第5,296,465号明細書に記載の方法論を含む、当該技術分野で公知のいずれかの技法やデバイスを使用して集めてよい。血液は新鮮であるか、または古い試料、例えば、血液バンク施設に保管される血液から得たものであってもよい。血液溶液は、血液を媒介とする病原体、例えば、ヒト血液を使用する場合はHIVやB型肝炎などの存在をスクリーニングされるのが好ましい。好ましくは、血液を媒介とする病原体を含まない血液は、本開示の方法にかかる使用のために選択される。採血時には、血液凝固を防止するために抗凝固剤を血液に加えることが好ましい。使用され得る抗凝固剤として、例えば、ヘパリン、ヒルジン、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。抗凝固剤は、水溶液として、または粒子状形態で提供されてよい。抗凝固剤はさらに、採血の前に採取容器に含まれてもよく、例えば、血液をヘパリン被覆採血管中で集めてもよい。
【0090】
血漿は、当該技術分野で、全血中の血液細胞が懸濁されている黄色の液体血液成分として知られている。血漿は総血液量の約55%を占め、約1.025kg/Lの密度を有する。血漿は、水(最大95%の体積)、血清アルブミン、グロブリン、およびフィブリノゲンを含む懸濁血漿タンパク質、グルコース、凝固因子、および電解質(例えば、Na、Ca2+、Mg2+、HCO 、CI)を含んでいる。全血から血漿分画を調製する周知技法の1つは、全血試料の遠心分離を利用する。このため、一態様では、血液試料は遠心分離管などの遠心分離容器内に集めて、高速、例えば約1,000~2,000xgで約10分間~約20分間、冷蔵遠心管を用いて遠心分離することができる。血液細胞は遠心分離容器の底に蓄積し、上清を注ぎ出すか上清から取り除くことにより血漿を集めることができる。集めた血漿分画は、無希釈血漿調製物、すなわち、血液に通常に存在するすべてまたはほぼすべての血漿成分以外実質的に何も含まず、血液に通常存在するものとほぼ同じ相対量の血漿調製物であると言える。血漿試料は、一般に好ましくは、速やかに使用するべく約2℃~約8℃に維持されるか、または-20℃以下の温度で長期間保管できる。さらに使用され得る血液細胞から血漿を単離する他の好適な方法としては、例えば、米国特許第10,088,469号明細書、第6,403,384号明細書、および第5,876,605号明細書に記載の方法が挙げられる。これらもしくは他の技法、組合せ、または調整を選択して実行することにより、血漿調製物を得て、本開示に従って使用できる。選択した一技法または複数の技法に応じて、血漿調製物の純度は変動し得る。好ましい実施形態では、血漿調製物は、赤血球を実質的に含まず、赤血球を例えば約0.5重量%未満または約0.1重量%未満しか含有しない調製物である。
【0091】
このため、いくつかの実施形態では、血漿調製物は無希釈液体調製物とすることができる。
【0092】
一態様では、無希釈液体血漿調製物は、薬学的に許容可能な希釈剤、例えば生理食塩水を使用して希釈されてよい。このため、例えば、無希釈液体血漿調製物の重量は、希釈液体血漿調製物を形成するために約0.5倍~約10倍の重量の希釈剤で希釈されてよい。本開示の目的では、希釈液体血漿調製物は、特定の重量パーセントの無希釈液体血漿調製物を含有していると言える。このため、例えば無希釈液体血漿調製物の重量を9重量の希釈剤で希釈したとき、得られる希釈液体血漿調製物は、10重量%の無希釈液体血漿調製物を含有していると言える。さらに、乾燥血漿製剤を調製するとき、以下でさらに記載するように、乾燥血漿製剤は、例えば、内在する液体が90重量%除去された製剤であってよく、そのため乾燥血漿製剤は、約10重量%の無希釈液体血漿製剤を含有していると言える。
【0093】
いくつかの実施形態では、一態様において、血漿調製物は乾燥血漿調製物とすることができる。概して、乾燥血漿調製物を得るためには、液状の血漿調製物を処理して、液体血漿調製物を粒状血漿調製物に変換する。本明細書にかかる乾燥血漿調製物は、水分含有量が約10%(w/w)以下、例えば、約1%(w/w)~約10%(w/w)、約1%(w/w)~約8%(w/w)、約1%(w/w)~約5%(w/w)、約1%(w/w)~約3%(w/w)、または約1%(w/w)~約2%(w/w)である血漿調製物とすることができる。この点で、乾燥血漿調製物は、例えば、液体血漿調製物を噴霧乾燥または冷凍乾燥(当業者には凍結乾燥としても知られる)することにより調製できる。
【0094】
当業者に知られるように、一般に冷凍乾燥は、液体懸濁液の冷凍、昇華による乾燥、典型的には部分真空条件下での乾燥、その後の乾燥生成物の分離、昇華された水分の除去を含む。血漿を冷凍乾燥する技法は当業者に公知であり、乾燥血漿調製物を得るために当業者によって選択かつ使用される場合がある。これらの技法として、例えば米国特許第7,931,919号明細書や第8,518,452号明細書に記載の、血漿を冷凍乾燥する技法が挙げられ、両特許は参照により本明細書に援用される。
【0095】
当業者に一般に知られるように、噴霧乾燥は、例えば圧力ノズルやアトマイザを用いて液体懸濁液を温乾燥媒体(典型的に空気であるが、窒素などのガスも使用可)に、調製された様式で噴霧することを含む。噴霧した液滴と温乾燥媒体液滴とが接触すると、水分が蒸発し、所望の水分含有量を有する生成物を得ることができる。次いで、生成物を乾燥媒体から離す。この点で使用され得る、血漿を噴霧乾燥する技法として、米国特許第9,545,397号明細書や米国特許出願公開第2018/10153811号明細書に記載の、血漿を噴霧乾燥する技法があげられ、これらはともに参照により本明細書に援用される。
【0096】
乾燥血漿はまた、例えば、Velico Medical(登録商標),Inc.(BEVERLY,MA)やTeleflex(商標),Inc.(Wayne,PA)から市販で購入してもよい。
【0097】
HBOC調製物およびHBOC調製物の製造方法に続いて、一実施形態では、単離された赤血球は、単離されたヘモグロビン調製物を得るためにヘモグロビンを抽出できるソースとして使用される場合がある。ヘモグロビン調製物は、HBOC調製物を調製するために使用できる。
【0098】
赤血球は総血液量の約45%を構成する。赤血球を全血から分離するのに使用され得る技法として、遠心分離ならびに/もしくはストレーニング(straining)および濾過技法、またはこれらの組合せが挙げられる。遠心分離技法は、遠心分離管などの遠心分離容器内での血液試料の収集、および冷蔵遠心管を用いた例えば約500~1,000xgで約10~約20分間の遠心分離を含むことができる。赤血球は遠心分離容器の底にペレットとして集まり、血漿上清を注ぎ出すことにより集めることができる。次いで、赤血球を、好適な等張緩衝液、例えば、0.9%NaCl、5mMリン酸ナトリウム、pH8の中で再懸濁することができる。遠心分離と再懸濁は、赤血球を洗浄して溶存する不純物を取り除くために数回繰り返される場合がある。また、全血の1重量%未満しか構成しない白血球を除去することも望ましい場合がある。特に、血液細胞が長期間保管されると、白血球は劣化してサイトカインを放出し、これにより、最終製剤に含まれる場合には投与後に有害反応を生じさせるおそれがある。白血球の除去は、IMUGARD(登録商標)III-RCフィルタなどの白血球除去フィルタを用いた濾過、例えば、遠心分離前の全血の濾過により達成され得る。赤血球試料は、一般に好ましくは、約2℃~約8℃で維持され、この温度で30~40日間保管されるか、または-20℃以下の温度でさらに長期間保管されてよい。
【0099】
赤血球はまた、赤血球細胞膜の完全性を保つpHとモル浸透圧濃度を有する等張液、例えば、285~315mOsmのモル浸透圧濃度を有するクエン酸ナトリウム(約6.0g/l)溶液や塩化ナトリウム(約8.0g/l)溶液を用いた透析濾過により、全血から単離することもできる。本明細書に従い使用可能である許容可能な透析濾過フィルタとして、赤血球をそれよりも小さな成分から実質的に分離する多孔膜、例えば、Spectrum(登録商標)Labs Inc.から入手可能な修飾ポリエーテルスルホン中空繊維タンジェンシャルフロー濾過膜が挙げられる。等張液は、複数回(batches)で、または連続的、典型的には濾液が喪失するのとほぼ同じ速度で添加することができる。この工程の間、赤血球よりも小さい血液溶液の成分、一般に、細胞外血液タンパク質、例えば抗体および血清アルブミンを含む血液の血漿部分は、赤血球から濾液として分離されて、保持され、連続的または複数回で等張液に添加される。使用される等張液の体積は変動する場合があり、例えば、血液溶液量の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、または7倍の場合がある。いくつかの実施形態では、十分な量の等張液を使用して、少なくとも約90%~95%(モル/モル)の血漿タンパク質が除去され、実質的に純粋な赤血球調製物、例えば、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%純粋である赤血球調製物が得られる。
【0100】
血液から赤血球の単離、および赤血球調製物の取得に使用される技法は、望まれるとおりのものであってよく、例えば、米国特許第5,955,581号明細書に記載される赤血球単離の方法を含む、当該技術分野で公知のいずれかの方法を含む。
【0101】
単離された赤血球からヘモグロビンを単離するべく、単離された赤血球を溶解することができる。機械溶解技法、化学的または物理化学的な流体浸透圧溶解技法を含む、当該技術分野で知られる赤血球溶解の技法が使用されてよいが、かかる技法は、ヘモグロビンの酸素輸送・放出能に実質的に悪影響を及ぼさないことを前提とする。
【0102】
一態様では、単離された赤血球は、赤血球を低浸透圧性ショックに晒して赤血球溶解物を得ることにより、溶解することができる。本明細書に従い使用され得る好適な低浸透圧性溶液として、例えば、赤血球と混合され得るpH7.2のリン酸緩衝液3.75mMや水が挙げられ、この混合物は、溶解赤血球調製物を得るために、氷上で例えば1時間インキュベートされる場合がある。その後、最初に固体クロマトグラフィー媒体上でヘモグロビンを保持した後に溶媒を用いて溶出を行う吸収を利用した方法を含むクロマトグラフィー分離技法や、不純物の保持とヘモグロビンのフロースルー(flow through)を伴うフロースルーを用いた技法を含む、好適なタンパク質精製技法を用いて、赤血球溶解物からヘモグロビン画分を得ることができる。他のクロマトグラフィーを利用した技法としては、親和性クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が挙げられる。ヘモグロビンを単離して、使用可能な単離されたヘモグロビン調製物を得るためのクロマトグラフィー技法としてさらに、例えば、米国特許第5,691,453号明細書、AndradeらによるInt.J.Biol.Macromol.2004,34:233-240、およびLuらによるArtif.Cells Blood Substit.immobil.Biotechnol.2004,32:2004に記載のものが挙げられる。代替的に、ヘモグロビンを単離するために、赤血球は、例えば、水相抽出、膜ベースの精密濾過および限外濾過技法、ならびにタンジェンシャルフローを用いる技法を含む、クロマトグラフィーを用いない精製技法にかけられる場合もある。使用可能な限外濾過を用いる技法として、Feinsらによる2005年のJ.Membr.Sci 248:137-148に記載のものが挙げられる。使用可能なタンジェンシャルフローを用いる技法としては、例えば、Palmerらによる2009年のBiotechnol.Progr.2009,26(1)189-199や、ElmerらによるBiotechnol.Progr.2009,25(5)1402-1410に記載のものが挙げられる。ヘモグロビンを得るために使用可能な水性二相抽出技法として、米国特許第5,407,579号明細書に記載のものが挙げられる。
【0103】
いくつかの実施形態では、前述の技法、その組合せもしくは改変、または他の適切な技法を使用して、実質的に純粋なヘモグロビン調製物、例えば、少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%純粋な調製物を得ることができる。
【0104】
前述の技法を用いて得られるヘモグロビン調製物は、例えばヘモグロビン分子の架橋により、またはヘモグロビン分子を化学的に修飾することにより、重合化HBOC調製物を含むHBOC調製物を調製するために使用できる。ヘモグロビン分子の架橋には、概して、複数のヘモグロビン分子のアミノ酸残基間に連結を生じさせ、ヘモグロビン分子間に分子間結合を形成するために架橋剤の使用が伴う。このため、例えば、約0.15g/l~20g/lの間の最終濃度のポリアルデヒドが架橋剤として使用されてよい。例えば、約0.15g/l~約2g/lの最終濃度のグルタルアルデヒド、または約0.15g/l~約1.7g/lの最終濃度のスクシンアルデヒドを使用して、ヘモグロビン分子を架橋してもよい。重合化ヘモグロビン分子、およびそれを調製する技法の例は、例えば、米国特許第5,955,581号明細書、米国特許第5,895,810号明細書、米国特許出願第2012/0028899号明細書、PCT特許出願PCT/CA2017/051111およびPCT/US2018/042497に記載されている。化学修飾されたヘモグロビン分子、およびそれを調製する技法の例として、例えば、ポリサッカライド抱合ヘモグロビン(例えば、PCT特許出願PCT/CA99/00260を参照)、ポリアルキレンオキシド抱合ヘモグロビン(例えば、米国特許第5,650,388号明細書を参照)、ポリエチレングリコール(PEG)抱合ヘモグロビン(例えば、米国特許第5,750,725号明細書、米国特許第7,144,989号明細書、米国特許第8,609,815号明細書を参照)が挙げられる。
【0105】
一実施形態では、HBOC調製物は、過重合化ヘモグロビン分子を含む場合がある。過重合化ヘモグロビン分子は、少なくとも1,600kDaの分子量を有し、11g/dl[Hb]の酸素運搬能を有し、血管外漏出(すなわち、血管からの漏出)が少ないか全くない場合がある。理論に縛られるものではないが、さらに小さなサイズのHBOC分子は、内皮一酸化窒素(NO)(内皮由来弛緩因子としても知られる)を血管外に遊出して結合することでNO濃度を下げ、血管収縮、血流減少、および血圧上昇を引き起こす場合があると考えられている。
【0106】
いくつかの実施形態では、本明細書に従い使用され得るHBOC調製物は、低イオン性溶質HBOC調製物とすることができる。本明細書中の「低イオン性溶質HBOC調製物」という用語は、ヒト血漿中に存在する生理的可溶性の電解質濃度よりも実質的に低いイオン性可溶性電解質濃度を含むHBOC調製物をいう。この点で、生理学的濃度のイオン性可溶性電解質は、約135~約145ミリ等量(mEq/L)のナトリウムイオン(Na)、約3.5mEq/L~約5.5mEq/Lのカリウムイオン(K)、約4.6mEq/L~約5.5mEq/Lのカルシウムイオン(Ca2+)、約1.5mEq/L~約2.5mEq/Lのマグネシウムイオン(Mg2+)、約96mEq/L~約106mEq/Lの塩化物イオン(Cl-)、約24mEq/L~約30mEq/Lの重炭酸イオン(HCO 2-)、約2.5mEq/L~約4.5mEq/Lのリン酸水素イオン(HPO 2-)である。例示的な実施形態では、低イオン性溶質HBOC調製物は、約27ミリ等量(mEq/L)以下のナトリウムイオン(Na)、約0.7mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.92mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.3mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約19.2mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、4.8mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.5mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)、または、約13.5mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、2.4mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.25mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含むか、または、約6.75mEq/L以下のナトリウムイオン(Na)、約0.175mEq/L以下のカリウムイオン(K)、約0.23mEq/L以下のカルシウムイオン(Ca2+)、約0.075mEq/L以下のマグネシウムイオン(Mg2+)、約4.8mEq/L以下の塩化物イオン(Cl-)、1.2mEq/L以下の重炭酸イオン(HCO 2-)、および約0.125mEq/L以下のリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む、HBOC調製物とすることができる。
【0107】
概して、低イオン性溶質HBOC調製物は、生理学的濃度のイオン性溶質を含むHBOC調製物から始めて、希釈剤または賦形剤を低イオン性溶質緩衝液と交換することにより、調製できる。これは、例えば、低イオン性溶質緩衝液を用いた透析または透析濾過により、または当該技術分野で公知の他のあらゆる適切な技法を用いて達成できる。
【0108】
いくつかの実施形態では、HBOC調製物は、液体調製物とするか、または、例えば生理学的濃度のイオン性溶質または低イオン性溶質を含む生理食塩水などの薬学的に許容可能な希釈剤または賦形剤を添加し、HBOC調製物と希釈剤を混合してHBOC調製物を希釈することにより液体製剤となるように調製することができる。このようにして、好ましい実施形態では、液体HBOC調製物は、約10重量%~約90重量%の量のHBOCの量と、一定量の希釈剤とを構成するように調製でき、その結果、重量残部(すなわち、90重量%~約10重量%)は希釈剤を構成する。
【0109】
いくつかの実施形態では、HBOC調製物は、乾燥HBOC調製物とすることができる。概して、乾燥HBOC調製物を得るために、液状のHBOC調製物を処理して、液体HBOC調製物を粒状HBOC調製物へと変換する場合がある。本明細書にかかる乾燥HBOC調製物は、水分含有量が約10%(w/w)未満、例えば、約1%(w/w)~約10%(w/w)、約1%(w/w)~約8%(w/w)、約1%(w/w)~約5%(w/w)、約1%(w/w)~約3%(w/w)、または約1%(w/w)~約2%(w/w)であるHBOC調製物とすることができる。この点で、乾燥HBOC調製物は、例えば、前述の乾燥血漿調製物を得るための技法と実質的に同様の技法を含む、当業者に公知の技法を用いて、液体HBOC調製物を噴霧乾燥または冷凍乾燥することにより調製できる。
【0110】
血漿調製物、赤血球調製物、およびヘモグロビン調製物は、市販の供給業者から入手することもできる。商用の血漿供給業者として、Sigma-Aldrich(登録商標),St Louis(MO)が挙げられる。商用のヘモグロビン供給業者として、Thomas Scientific,Inc.Swedesboro(NJ)やSigma Aldrich(登録商標)が挙げられる。商用の赤血球供給業者としては、赤十字などの血液バンクが挙げられる。
【0111】
本開示のある態様によれば、液体または乾燥血漿調製物、および液体または乾燥HBOC調製物を提供することができる。血漿調製物およびHBOC調製物を用いて医薬製剤を調製する例示的な実施形態を記載する。
【0112】
例示的な一実施形態では、血漿調製物とHBOC調製物は、互いに接触させられて、例えば、好適な混合容器、例えばビーカー、フラスコ、またはボトルの中、好ましくは2℃~8℃の温度で、例えば磁気スターラや他の機械撹拌デバイスを用いて優しく混合または撹拌することで2つの調製物を混ぜ合わせることによって実質的に均質な液体混合物が得られるまで、混合することができる。こうして構成された、血漿とHBOCを含む液体混合物は、本開示の観点では、本明細書において「酸素付加補足物」と称される。酸素付加補足物は、それを対象に投与後、対象の循環系に存在する酸素付加構成要素を補助して補うことができることに留意されたい。加えて本明細書中の「酸素補体」という用語は、別個の血漿製剤およびHBOC製剤のほぼ同時期の投与も示す可能性があり、このことは前後関係から明示的に明らかとなることにも、さらに留意されたい。
【0113】
酸素付加補足物を構成するHBOC製剤と血漿製剤の相対量は、変動する場合がある。このため、例示的な実施形態では、酸素付加補足物は、約5重量%~約95重量%のHBOC分量、および約5重量%~約95重量%の血漿分量を含むことができ、HBOC分量と血漿分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、さらに、酸素付加補足物の重量残部は、薬学的に許容可能な希釈剤、特に、HBOCおよび血漿調製物を調製するときに含まれる希釈剤を構成するか、またはそれを実質的に構成する。
【0114】
ゆえに、例えば酸素付加補足物は、それが約5重量%のHBOC分量と約5重量%~約90重量%の血漿分量、または約10重量%のHBOC分量と約5重量%~約85重量%の血漿分量、または約15重量%のHBOC分量と約5重量%~約80重量%の血漿分量、または約20重量%のHBOC分量と約5重量%~約75重量%の血漿分量、または約25重量%のHBOC分量と約5重量%~約70重量%の血漿分量、または約30重量%のHBOC分量と約5重量%~約65重量%の血漿分量、または約35重量%のHBOC分量と約5重量%~約60重量%の血漿分量、または約40重量%のHBOC分量と約5重量%~約55重量%の血漿分量、または約45重量%のHBOC分量と約5重量%~約55重量%の血漿分量、約50重量%のHBOC分量と約5重量%~約45重量%の血漿分量、または約55重量%のHBOC分量と約5重量%~約40重量%の血漿分量、または約60重量%のHBOC分量と約5重量%~約35重量%の血漿分量、または約65重量%のHBOC分量と約5重量%~約30重量%の血漿分量、または約70重量%のHBOC分量と約5重量%~約25重量%の血漿分量、または約75重量%のHBOC分量と約5重量%~約20重量%の血漿分量、または約80重量%のHBOC分量と約5重量%~約15重量%の血漿分量、または約85重量%のHBOC分量と約5重量%~約10重量%の血漿分量、または約90重量%のHBOC分量と約5重量%の血漿分量を含むようなHBOC分量と血漿分量を選択することにより構成することができ、前述の選択されたHBOC分量と血漿分量の例のそれぞれにおいて、酸素付加補足物の重量残部は、薬学的に許容可能な希釈剤、すなわち約5重量%~約90重量%の希釈剤を構成するか、またはそれを実質的に構成する。
【0115】
ゆえに、例えば酸素付加補足物は、それが約5重量%の血漿分量と約5重量%~約90重量%のHBOC分量、または約10重量%の血漿分量と約5重量%~約85重量%のHBOC分量、または約15重量%の血漿分量と約5重量%~約80重量%のHBOC分量、または約20重量%の血漿分量と約5重量%~約75重量%のHBOC分量、または約25重量%の血漿分量と約5重量%~約70重量%のHBOC分量、または約30重量%の血漿分量と約5重量%~約65重量%のHBOC分量、または約35重量%の血漿分量と約5重量%~約60重量%のHBOC分量、または約40重量%の血漿分量と約5重量%~約55重量%のHBOC分量、または約45重量%の血漿分量と約5重量%~約55重量%のHBOC分量、約50重量%の血漿分量と約5重量%~約45重量%のHBOC分量、または約55重量%の血漿分量と約5重量%~約40重量%のHBOC分量、または約60重量%の血漿分量と約5重量%~約35重量%のHBOC分量、または約65重量%の血漿分量と約5重量%~約30重量%のHBOC分量、または約70重量%の血漿分量と約5重量%~約25重量%のHBOC分量、または約75重量%の血漿分量と約5重量%~約20重量%のHBOC分量、または約80重量%の血漿分量と約5重量%~約15重量%のHBOC分量、または約85重量%の血漿分量と約5重量%~約10重量%のHBOC分量、または約90重量%の血漿分量と約5重量%のHBOC分量を含むようなHBOC分量と血漿分量を選択することにより構成することができ、前述の選択されたHBOC分量と血漿分量の例のそれぞれにおいて、酸素付加補足物の重量残部は、薬学的に許容可能な希釈剤、すなわち約5重量%~約90重量%の希釈剤を構成するか、またはそれを実質的に構成する。
【0116】
さらに、ほんの非限定的な例として、酸素付加補足物は、10重量%のHBOC分量、35重量%の血漿分量を含有するように構成することができ、重量残部(すなわち55%)は希釈剤によって構成される。このような酸素付加補足物は、例えば、20重量%のHBOC分量および80重量%の希釈剤分量を含有する50重量%のHBOC調製物と、70重量%の血漿分量および30重量%の希釈剤分量を含有する50重量%の血漿調製物とを混合することにより調製できる。
【0117】
酸素付加補足物を製剤化するために乾燥血漿調製物(例えば、約1%(w/w)~約10%(w/w)の水分含有量を有する)が使用される本明細書中の実施形態では、酸素付加補足物を製剤化するには、水分含有量が低いことにより、乾燥血漿を用いて調製した医薬製剤の体積(ゆえに重量)を制限することが可能であることを留意されたい。このような体積(および重量)の制限は、特に、本開示の医薬製剤が、戦場での操作、または他の操作、例えば、交通事故による医療緊急操作で使用されるときに有益である可能性があり、このとき、小型で軽量な医療用具を輸送または保管することが、例えば、操作上のロジスティクスを簡素化するか、輸送コストを削減するのに都合が良いとみなされる。一実施形態では、乾燥血漿調製物を用いて投与用の液体医薬製剤を調製するために、液体HBOC調製物を使用し、乾燥血漿調製物と液体HBOC調製物とを混合することにより乾燥血漿調製物を再構成することができる。
【0118】
乾燥血漿濃縮物では、内在する血漿イオン性電解質は生理学的濃度より上に濃縮され、例えば生理学的濃度の5倍または10倍とされる場合があるため、医薬製剤の体積(および重量)の減少を実現するために、HBOC調製物は低イオン性溶質HBOC製調製物であることが好ましく、これにより、HBOC調製物と乾燥血漿濃縮物とを混合すると、ほぼ生理学的濃度のイオン性電解質を含む製剤が形成される。この点で、生理学的濃度のイオン性電解質は、約135~約145ミリ等量(mEq/L)のナトリウムイオン(Na)、約3.5mEq/L~約5.5mEq/Lのカリウムイオン(K)、約4.6mEq/L~約5.5mEq/Lのカルシウムイオン(Ca2+)、約1.5mEq/L~約2.5mEq/Lのマグネシウムイオン(Mg2+)、約96mEq/L~約106mEq/Lの塩化物イオン(Cl-)、約24mEq/L~約30mEq/Lの重炭酸イオン(HCO 2-)、約2.5mEq/L~約4.5mEq/Lのリン酸水素イオン(HPO 2-)である。このため、例えば乾燥血液濃縮物が、生理学的濃度より約9倍高い濃度で存在する血漿電解質を含む場合、医薬製剤は、約1倍の乾燥血漿濃縮物と、約13.5~約14.5ミリ等量(mEq/L)のナトリウムイオン(Na)、約0.35mEq/L~約0.55mEq/Lのカリウムイオン(K)、約0.46mEq/L~約0.55mEq/Lのカルシウムイオン(Ca2+)、約0.15mEq/L~約0.25mEq/Lのマグネシウムイオン(Mg2+)、約9.6mEq/L~約10.6mEq/Lの塩化物イオン(Cl-)、約2.4mEq/L~約3mEq/Lの重炭酸イオン(HCO 2-)、約0.25mEq/L~約0.45mEq/Lのリン酸水素イオン(HPO 2-)を含む約9倍のHBOC調製物とを混合することにより、調製される場合がある。
【0119】
酸素付加補足物を、1つまたは複数の追加の薬学的に許容可能な成分、具体的に、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤と接触させることで、酸素付加補足物と薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む医薬製剤を製剤化することができる。
【0120】
一態様では、酸素付加補足物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤と接触させて、実質的に均質な液体混合物が得られるまで混合することができる。この点で、酸素付加補足物、および薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤は、好適な混合容器、例えばビーカー、フラスコ、またはボトルの中で再び、好ましくは2℃~約8℃の温度で、例えば磁気スターラなどの機械撹拌デバイスを用いて優しく撹拌することにより混ぜ合わせることができる。
【0121】
好適で薬学的に許容可能な担体として、水、乳酸リンゲル液、N-アセチルシステインなどの酸化防止剤を含む修飾乳酸リンゲル液、リン酸緩衝食塩水などの生理食塩水、高張または低張塩化ナトリウムなどの高張および等張溶液、油/水エマルジョンなどのエマルジョンが挙げられる。
【0122】
本明細書に従い使用され得る好適で薬学的に許容可能な希釈剤として、水、緩衝液、例えば、リンゲル液、ハンクス液、および生理的に緩衝された生理食塩水、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、および乳酸リンゲル液、N-アセチルシステインなどの酸化防止剤を含む修飾乳酸リンゲル液が挙げられる。
【0123】
本開示の医薬製剤はさらに、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニン、塩、またはアジュバントなどの緩衝化剤として機能し得るアミノ酸を含む、防腐剤、抗酸化剤、抗菌剤、結合剤、乳化剤、pH緩衝剤などの補助物質を含むように製剤化されてもよい。これらの補助物質は全体的に少量で含まれており、まとめて本開示の医薬製剤の10重量%以下、5重量%以下、または2.5重量%以下を構成する。
【0124】
一実施形態では、本開示の医薬製剤に含まれ得る補助物質は、血小板である。一般に、血小板は、血液凝固と止血を促進するために医薬製剤中に含まれる場合がある。血小板は、例えば、参照により本明細書に援用されるPCT特許出願PCT/US93/04142および米国特許出願公開第2021/0023140号明細書に記載される技法を含む、当該技術分野で公知の技法を用いて、ヒトまたは動物の血液から調製される場合がある。さらに、血小板は、例えば米国特許第10,426,820号明細書に記載の血小板などの合成血小板であってよい。血小板は、本開示の医薬製剤の製剤化で使用するために、濃縮形態または乾燥形態、例えば噴霧乾燥形態または凍結乾燥形態で提供される場合がある。血小板はまた、例えばCellero(商標)(Lowell,MA)から市販で購入することもできる。概して、本開示の医薬製剤は、例えば、医薬製剤の約0.5重量%~約5重量%、約0.5重量%~約2.5重量%、または約0.5重量%~約1重量%を含めて、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、または約1%以下の量で血小板を含むように製剤化される。
【0125】
酸素付加補足物、および薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤の相対量は、変動する場合がある。一実施形態では、例えば医薬製剤は、最大50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、または95重量%の酸素付加補足物を含むか、または当該酸素付加補足物からなることができ、酸素付加補足物は、約5重量%~約95重量%の分量、および約5重量%~約95重量%の無希釈血漿分量を含み、HBOCと無希釈血漿の分量は、それらが一体となって酸素付加補足物の100重量%未満を構成するように選択され、酸素付加補足物の重量残部は薬学的に許容可能な希釈剤によりとられ、医薬製剤の重量残部は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤により構成されるか、実質的に構成される。
【0126】
ほんの非限定的な例として、酸素付加補足物は、5重量%のHBOC分量、45重量%の血漿分量を含有するように構成することができ、重量残部(すなわち50%)は希釈剤によって構成される。このような酸素付加補足物は、例えば、10重量%のHBOC分量および90重量%の希釈剤を含有する50重量%のHBOC調製物と、90重量%の血漿分量および10重量%の希釈剤を含有する50重量%の血漿調製物とを混合することにより調製される場合がある。医薬製剤は70重量%の酸素化成分を含有するように製剤化することができ、重量残部(すなわち30%)は、28重量%の薬学的に許容可能な希釈剤、および2重量%の薬学的に許容可能な補助剤を含有する。同じ医薬製剤は、3.5重量%のHBOCと31.5重量%の無希釈血漿を含有する。
【0127】
本開示の液体医薬製剤を調製するために、様々な実施形態では、医薬製剤の種々の構成化合物が混合される順序は、所望により変動し得ることに留意されたい。例えば、最初に薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を選択してHBOC調製物と混合した後、得られた混合物を血漿調製物と接触させて、血漿とHBOCとを含む酸素付加補足物を含んでなる医薬製剤を形成することも可能であり、または、最初に薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を選択して血漿調製物と混合した後、得られた混合物をHBOC調製物と接触させて、血漿とHBOCとを含む酸素付加補足物を含んでなる医薬製剤を形成することも可能である。
【0128】
さらに、本開示の液体医薬製剤は、タンパク質可溶性製剤、すなわち、中に含まれるタンパク質が溶解状態で含まれている製剤であると言えることに留意されたい。
【0129】
このため、簡潔に要約すると、本明細書中の一態様によれば、HBOCを含む調製物が調製され、血漿を含む調製物が調製される場合がある。これらの調製物は、酸素付加補足物を調製するために使用され得る。酸素付加補足物は、医薬製剤、特に、出血性ショックの処置または予防を必要とする対象に医薬製剤を投与して出血性ショックを処置または予防するのに有効な量の酸素化成分を含有する医薬製剤を製剤化するために使用され得る。
【0130】
一態様では、本開示は、さらに、一実施形態において出血性ショックの予防または処置のための液体医薬製剤を調製する方法であって、
(i)ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)調製物と、
(ii)血漿調製物と
を混合することにより、酸素付加補足物を構成し、液体医薬製剤を製剤化する工程を含む方法を提供することが、前述から明らかとなる。
【0131】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、医薬品等級の材料の製造に適した製造施設において製剤完成品として製剤化され、その後単一パッケージに入れて輸送され、投与を必要とする対象への投与での使用が望まれるまで保管される場合があることに、留意されたい。
【0132】
他の実施形態では、HBOC調製物と血漿調製物は、製造後に2つ別々のパッケージに包装されてよく、液体製剤は、投与を必要とする対象への投与の直前に、例えば、投与の6時間まで、5時間まで、4時間まで、3時間まで、2時間まで、または1時間までに調製される場合がある。
【0133】
このため、別の態様では、本開示は、(i)ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)調製物を含む第1のパッケージと、(ii)血漿調製物を含む第2のパッケージとを含む医薬キットまたはパッケージを、液体医薬製剤を調製するための指示書とともに提供し、HBOC調製物と血漿調製物との混合後、出血性ショックを予防または処置するための液体医薬製剤が構成される。
【0134】
医薬品パッケージと、第1および第2のパッケージは、広範な容器から選択される場合があり、例えば、医薬品を含有、輸送、および分注するのに好適となるよう製造されたボトル、チューブ、バッグ、パウチ、サシェ、シリンジなどとすることができる。このため、かかる容器は、概して熱、酸素、微生物汚染、湿気などによる腐敗を制限し、本開示の液体医薬製剤の製剤化を容易にするように製造される。
【0135】
いくつかの実施形態では、医薬品パッケージは、HBOC調製物および血漿調製物を混合することにより液体医薬製剤を形成するための薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤を含む第3のパッケージをさらに含む場合がある。
【0136】
軽量の医薬品パッケージは、HBOC調製物および/または血漿調製物を含み、HBOC調製物および/または血漿調製物は、水分含有量が約1%(w/w)~約10%(w/w)の乾燥調製物である。当業者が認識するように、HBOC調製物と血漿調製物がともに乾燥調製物である実施形態では、医薬製剤を調製するために、投与前に乾燥HBOC調製物と乾燥血漿調製物を薬学的に許容可能な希釈剤と組み合わせることが必要となる。
【0137】
パッケージにはさらに、液体医薬製剤を調製するための指示書も備わる場合があり、さらには投与の指示書(例えば、紙に印刷されるかパッケージに直接提供されるもの)も備わる場合があり、および/または指示書にオンラインでアクセスするための参照が提供される場合があり、これらはすべて、パッケージに備えられることが意図される。加えて指示書は、製品とその使用に関する詳細情報、例えば安全性情報を備える場合もある。医薬品パッケージはさらに、液体医薬製剤の静脈内投与のためのデバイス、例えば針やシリンジを備える場合がある。
【0138】
別の態様では、本開示は、一実施形態において酸素付加補足物を調製してタンパク質可溶性液体医薬製剤を製剤化するための、ヘモグロビン系酸素運搬体と血漿の使用を提供する。
【0139】
前述のように、本開示の医薬製剤は、出血性ショックを予防または処置するのに使用される場合がある。したがって、別の態様では、本開示は、少なくとも1つの実施形態では、出血性ショックを予防または処置する方法であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)と血漿とを含む酸素付加補足物の有効量を、投与を必要とする対象の出血性ショックを予防または処置するのに有効な量で対象に静脈内投与する工程を含む方法を提供する。
【0140】
いくつかの実施形態では、酸素付加補足物は、液体HBOC製剤および液体血漿製剤のほぼ同時期の連続投与により対象に投与することができ、液体HBOC製剤は血漿を実質的に含まず、液体血漿製剤はHBOCを実質的に含まない。
【0141】
いくつかの実施形態では、酸素付加補足物は、HBOC製剤および血漿製剤の連続投与により対象に投与することができ、HBOC製剤は血漿製剤の前に投与される。
【0142】
いくつかの実施形態では、HBOC製剤と血漿製剤は、互いに約12時間以下の間隔を空けて、例えば、互いに6時間以下、3時間以下、2時間以下、または1時間以下の間隔を空けて投与することができる。
【0143】
いくつかの実施形態では、酸素付加補足物は、HBOC製剤および血漿製剤の連続送達により対象に投与することができ、血漿製剤はHBOC製剤の前に投与される。
【0144】
いくつかの実施形態では、酸素付加補足物は、HBOC調製物と血漿調製物とを混合することにより調製された液体医薬製剤を投与することによって投与することができる。
【0145】
いくつかの実施形態では、血小板を含む医薬製剤は、酸素付加補足物と同時投与することができる。「同時投与」という用語は、血小板を含む医薬製剤が、酸素付加補足物とは別ではあるがほぼ同時期に、例えば、酸素付加補足物の投与前もしくは投与後の約1時間以下、約30分以下、または約15分以下で投与されることを意味する。
【0146】
別の態様では、本開示は、一実施形態では、出血性ショックを予防または処置するための液体医薬製剤であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿を含む酸素付加補足物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む液体医薬製剤の使用を提供する。
【0147】
別の態様では、本開示は、一実施形態では、出血性ショックの予防または処置に使用するための液体医薬製剤であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿を含む酸素付加補足物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む液体医薬製剤を提供する。
【0148】
別の態様では、本開示は、一実施形態では、液体医薬製剤であって、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿または血漿成分を含む酸素付加補足物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または補助剤とを含む液体医薬製剤の、出血性ショックの予防または処置に使用するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0149】
本開示の液体医薬製剤は、投与を必要とする対象に投与されてよく、通常は出血性ショックを予防または処置するために静脈内投与される。出血性ショックの原因は様々であり、鈍的外傷や鋭的外傷を含む外傷、または非外傷性出血が挙げられる。本開示の目的では、出血性ショックの原因は特に重要ではなく、液体医薬製剤は、その原因とは関係なしに、出血性ショックを被っているか、または出血性ショックを被ると予想される対象を予防または処置するために使用される場合がある。当業者に知られるように、相当量の失血に加えて、出血性ショックの他の臨床診断症状として、頻脈、頻呼吸、狭窄パルス(narrowing pulse)、四肢の冷えが挙げられる。これら症状のいずれかまたはすべてが対象に観察される場合があり、対象への本開示の医薬製剤の投与前に相応の妥当な医学的配慮がなされる。
【0150】
本発明の一態様によれば、有効量の液体製剤が対象に投与される。医薬製剤の投与量は、例えば、出血性ショック状態の重症度、または対象の年齢やサイズに応じて変動し得る。例えば、出血性ショックが総血液量の15%の損失により生じると推定されるとき、約15%にほぼ等しい量の液体医薬製剤が投与され、または、出血性ショックが総血液量の20%の損失により生じると推定されるとき、20%にほぼ等しい量の液体医薬製剤が投与される場合がある。単回用量または複数回用量の液体医薬製剤を対象に投与してもよい。具体的に、初回用量の医薬製剤の投与後、出血が止まらない場合に、1または複数の追加用量の液体医薬製剤が対象に投与されてもよい。
【0151】
本開示の医薬製剤の投与後、出血性ショックの症状が改善され得る。このため、例えば本開示の医薬製剤の投与後に止血が達成され得る。さらに、前述の症状を含む出血性ショックの臨床診断症状が消失する場合もある。
【0152】
現在認識できるように、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)および血漿を含む酸素付加補足物を含んでなる医薬製剤を含む、本開示による医薬製剤を製剤化することができる。医薬製剤は、出血性ショックを予防または処置するために使用できる。
【0153】
本開示で上述される例示的実施形態は単なる例示であり、いかなる形でも限定されることを意図してはいない。記載した実施形態は、組成、詳細、および操作順序に対する多くの変更の影響を受けやすい。むしろ本開示は、特許請求の範囲が規定するように、このような改変をすべてその範囲内に包含するように意図されており、これらには、明細書全体と整合する広範な解釈が与えられるべきである。
【実施例
【0154】
以下、本開示の方法を実行するためのさらに具体的な実施形態の例、ならびに本開示の組成物を表す実施形態を提供する。この実施例は、例示目的だけのために提供され、本開示の範囲をいかなる形でも限定することを意図していない。
【0155】
実施例1 HBOC調製物の調製(「OxyBridge」)
包装済みの赤血球を正規の販売代理店から入手し、0.45μM中空繊維フィルタを介して正常な生理食塩水の6回の透析濾過交換によって洗浄した後、精製水のさらに6回の透析濾過交換により溶解した。次いで、タンパク質を含有する濾液画分を、500kDa中空繊維フィルタを介してリン酸緩衝液の6回の透析濾過交換により精製した後、濾液中に集めたタンパク質をさらに、10kDa中空線フィルタを介してリン酸緩衝液とn-アセチルシステインの6回の透析濾過交換により精製し、残余分を保持した。最後の工程中、ガス交換カートリッジと窒素により溶液を同時に脱酸素化した。得られたタンパク質溶液(2g/dl)をグルタルアルデヒドと1.25g/lの最終濃度で3時間反応させた後、シアノ水素化ホウ素(BHCN)で還元し、n-アセチルシステインを含む乳酸リンゲル液に投入し、そうしてグルタルアルデヒドとシアノ水素化物を透析濾過により除去して、これにより低純度の血液代替調製物(substitute preparation)を得た。タンパク質調製物中に内在する非ヘモグロビンタンパク質補足物の濃度は、SOSゲル評価に基づき、約0.2モル/モルと約20%モル/モルの間であると推定した。すべての工程を室温で行った。得られたHBOC調製物は、本明細書では「Oxybridge」と称する。
【0156】
OxyBridgeは、1.6MDaの平均高分子量の過重合化ヒトHbのヒトヘモグロビン系酸素運搬体生成物であると言うことができ、ポリマーのサイズ範囲は狭い。他のOxyBridgeの特性として、平均を超えるHb濃度(11g/dl)、低い溶液コロイド浸透圧(12mmHg)、高粘性(12cPs)が挙げられる。OxyBridgeの分子設計は、そのサイズの大きさ(MW;ヘモグロビン四量体で64kDa対1600kDa)と高い酸素運搬能(ヘモグロビン濃度;11g/dl)により作用する。この高分子性質により、コロイドおよび粘性特性が得られる。OxyBridgeは、周囲酸素による酸化を受けないように、脱酸素雰囲気下で製剤化される。
【0157】
実施例2 血漿調製物の調製
血漿を調製するべく、抗凝固添加剤を含有する全血試料を2,000xgで20分間遠心分離して血漿層を分離し、これを回収した。回収した血漿は、純度を高めるべく2,000xgで20分間2回目に遠心分離可能であることに留意されたい。代替的に、市販の新鮮冷凍血漿または噴霧乾燥血漿を使用できる。
【0158】
実施例3 低電解質溶質HBOC調製物の調製
低電解質HBOC溶液を調製するべく、HBOCを実施例1に記載のように調製し、次いで、透析濾過を可能とするとともにHBOCの分子量より小さな孔径分子量カットオフ範囲を有するフィルタを用いて、低電解質緩衝液を少なくとも3回、好ましくは6回交換して透析濾過を行うことができる。HBOCポリマーが一定範囲のポリマーサイズを有する調製物を使用する場合、より小さなサイズのポリマーの分子量より小さな孔径を有するフィルタを選択できる。HBOCの収量損失が許容される場合、調製物中の最小のポリマーより大きくてもよいが依然として平均ポリマー分子量よりも小さな分子量サイズカットオフを有する、フィルタの孔径を選択できる。このため、実施例1のHBOC調製物を使用する場合、孔径1.6MDa未満のフィルタを選択できる。
【0159】
実施例4 血漿とHBOCを含む医薬製剤の製剤化
血漿調製物とHBOC調製物をそれぞれ実施例3と1に記載のように調製し、その後、血漿調製物5mlとHBOC調製物5mlを、ねじ蓋付きの10ml管に注ぎ入れた。均質な混合物が得られるまで、ねじ蓋付き管の手動反転を繰り返すことで医薬製剤を調製した。
【0160】
全体として、in vivoでの使用のための医薬製剤を調製するには、HBOC調製物と血漿調製物は、これらをいずれかの比率で混合することで医薬製剤が得られるような互いに対する生理的適合性がある。これらは、ともに濃度により機能が少なくとも部分的に制限される活性成分であるので、実施例6に記載の作業を行うのに使用されるような平衡化された製剤が望まれる場合、1:1の混合物が望ましい。医薬製剤は使用直前に調製するのが好ましい。
【0161】
実施例5 血漿とHBOCを含む医薬製剤の有効性(in vitro)
本実施例では、血漿とHBOCを含む医薬製剤の凝固障害の評価を記述する。
【0162】
承認された制度上の標準操作手順の下、健康なドナー6名に静脈切開を行うことにより、全血(WB)を回収した。異なる10名一組のドナー(群O+)の全血を遠心分離することで新鮮冷凍血漿を得て、これをプールし、等分してから試験日まで-80℃で保管し、使用する場合はその直前に37℃で急速解凍した。これはin vitro評価であったため、HBOCを50mlの円錐管中、100%酸素に曝露し、使用前にRAPIDPoint 500(Siemens)で酸素飽和度を測定した。in vivoでは、HBOCは肺を通過することで酸素付加される。
【0163】
WBと添加剤を異なる比率で混合することにより試料を調製し、様々な蘇生シナリオをシミュレートした。一次試験条件として、対照として使用するWB、OxyBridgeによる10%および25%の容積置換、新鮮冷凍血漿(FFP)、それぞれの50-50分割量、または乳酸リンゲル液(LR)(OxyBridgeビヒクル対照として)を用いて、計18個の試料を調製した。並列組の試料では、WBを25%Plasmalyte(DIL)で予め希釈し、希釈凝固障害をシミュレートしてから、上記に列記した体積置換物を添加した。下記の表1に18組の試料を示す。
【0164】
ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数は、Advia120(Siemens)で判定した。コラーゲン被覆表面上、毛細管流のマイクロ流体モデルで試料を剪断にかけて、BioFlux1000システム(Fluxion Biosciences)中で血小板付着に対する効果を測定した。遠心分離後、液体部分を、STA-R Evolution(Stago)上でプロトロンビン時間(PT)とフィブリノゲン濃度のほか、Calibrated Automated Thrombogram(CAT;Thrombinoscope)上でトロンビン生成について解析した。結果を図1図6に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
図1図6に見られるように、血漿とHBOCを含む医薬製剤を用いても、凝固パラメータに対する負の影響は検出されなかった。具体的に、HBOC+FFPを含む試料中の血小板数に有害な影響は観察されず(図3)、HBOC+FFPを含む試料中に細胞溶解は認められず(図4)、HBOC+FFPを含む試料中のフィブリノゲン濃度に対する影響は認められなかった(図5)。さらに、図1図2の結果が示すところでは、HBOCしか含まない製剤では、凝固パラメータ(プロトロンビン時間、血餅溶解)が低下する。HBOCに加えてFFPを製剤に含めると、前述の影響は否定された。
【0167】
実施例6 血漿とHBOCを含む医薬製剤の有効性(in vivo)
3つの医薬製剤として(i)HBOC(OxyBridge)、(ii)血漿(新鮮な自己血漿)、(iii)HBOC(OxyBridge)+血漿に対し、これら製剤が次のように蘇生救済(resuscitation relief)を提供する能力についての出血制御ラット試験(n=4)を行った。HBOC(Oxybridge)製剤、血漿製剤、HBOC(Oxybridge)+血漿製剤を、それぞれ実施例1、3、4に記載するように調製した。様々な速度で出血を制御(推定総血液量の50%、TBV)して1時間後、医薬製剤を投与した。蘇生体積を単一の20%TBVボーラス(ヒトで1L相当)に制限し、緊迫した洗浄で限られた蘇生への利用可能性をシミュレートした。蘇生後、血液試料を回収し、トロンボエラストメトリーおよび止血アナライザを用いて凝固パネルを評価した。次いで、ラット尾部の80%を切除し、動物に制御不能な出血を誘導した。本試験の一部は、凝固障害指標(例えば、最大血餅高度、プロトロンビン時間)を特定して止血と相関させ、この蘇生戦略がどのように行われたかを確立することであった。新鮮な血液試料をトロンボエラストメトリーに使用した。血漿試料を回収し、止血アナライザに使用するべく保管した(banked)。解析の際、プロトロンビン時間および/またはD二量体に関連する傾向を、止血結果により評価した。
【0168】
HBOC(OxyBridge)でのみ処理した動物のいずれにも止血(0/0)は認められなかったが、線維素溶解の証拠も認められなかった。血漿で処置した動物では25%(1/4)に止血を認め、成功率はわずかに高かった。しかし、予想外で重要なことに、HBOC(OxyBridge)+血漿の組合せでは、動物の100%(4/4)で止血を達成した。
【0169】
そのため、本試験において、HBOC(OxyBridge)(0/0)または血漿(1/4)のいずれかしか用いない蘇生によっては試験動物のすべてまたは大半に止血が認められなかったが、2つの生成物(HBOC)(OxyBridge)+血漿の組合せでは動物の100%(4/4)に止血を認めた。さらに重要なことに、これらの所見が示すところは、HBOC(OxyBridge)は線維素溶解を誘導しなかった。さらに、現場関連用量で投与したとき、従来の血漿増量剤が希釈凝固障害を誘発すると示されているように、HBOC(Oxybridge)は希釈凝固障害を誘発しない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】