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特表2023-531525潜在的に高い中心張力を有するガラス組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】潜在的に高い中心張力を有するガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20230714BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20230714BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20230714BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20230714BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/089
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579749
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 US2021039344
(87)【国際公開番号】W WO2022005956
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】63/046,482
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】グオ,シアオジュー
(72)【発明者】
【氏名】レッツィ,ピーター ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ジエン
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA05
4G062DA06
4G062DB04
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA04
4G062EB02
4G062EB03
4G062EC01
4G062EC02
4G062EC03
4G062ED01
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF01
4G062EF02
4G062EF03
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
イオン交換により高い中心張力値を生成することが可能なガラス組成物を提供する。本ガラス組成物は、SiO、LiO、及びCaOを含むものである。また、このガラス組成物で形成されるガラス基板に対してイオン交換を行うことにより形成されるガラス系物品も提供する。本ガラス系物品は、最大中心張力が150MPa以上であることを特徴とし、この最大中心張力値は、ナトリウム含有溶融塩浴中でイオン交換を行うことにより達成することができる。本ガラス系物品は、消費者向け電子デバイスに利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス系物品であって、
表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域と、
150MPa以上の最大中心張力と、
前記ガラス系物品の中心部の組成と、を有しており、
前記組成が、
30モル%以上のSiO
10モル%以上25モル%以下のLiO、
0モル%以上17モル%以下のCaO、
0モル%以上3モル%以下のKO、及び
0モル%以上14モル%以下のB
を含む、ガラス系物品。
【請求項2】
前記中心部の前記組成が、
57.5モル%以下のSiO
1モル%以上のSrO、及び
0モル%超5モル%以下のB
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のガラス系物品。
【請求項3】
前記中心部の前記組成が、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラス系物品。
【請求項4】
500MPa以上の圧縮応力を有している、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス系物品。
【請求項5】
前記ガラス系物品の厚さをtとした場合に、前記圧縮深さが0.15t以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス系物品。
【請求項6】
ガラス系基板をイオン交換塩に接触させてガラス系物品を形成する、接触ステップを含む方法であって、
前記ガラス系物品は、表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域と、150MPa以上の最大中心張力と、を有しており、
前記イオン交換塩がナトリウムを含み、
前記ガラス系基板が、
30モル%以上のSiO
10モル%以上25モル%以下のLiO、
0モル%以上17モル%以下のCaO、
0モル%以上3モル%以下のKO、及び
0モル%以上14モル%以下のB
を含む、方法。
【請求項7】
前記イオン交換塩がNaNOを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン交換塩が、380℃以上480℃以下の温度の溶融塩浴である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記接触ステップが16時間以下の時間にわたる、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ガラスであって、
30モル%以上のSiOと、
10モル%以上25モル%以下のLiOと、
0.5モル%以上17モル%以下のCaOと、
0モル%以上3モル%以下のKOと、
0モル%以上11モル%以下のBと、
57.5モル%以下のSiO
1モル%以上のSrO、及び
0モル%超5モル%以下のB
のうちの少なくとも1つと、を含み、
SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上である、ガラス。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2020年6月30日を出願日とする米国仮特許出願第63/046482号に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、概して、電子デバイスのカバーガラスの用途に適したガラス組成物に関する。より詳細には、本明細書は、電子デバイスのカバーガラスとして成形することが可能なアルミノケイ酸塩ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
スマートフォン、タブレット端末、ポータブルメディアプレーヤー、パーソナルコンピュータ、カメラなどの携帯型デバイスは、そのモバイル性から、地面などの硬い面に誤って落としてしまう可能性が高い。これらのデバイスには、通常、カバーガラスが組み込まれており、硬い面と衝突するとカバーガラスが破損する恐れがある。そして、これらのデバイスの多くにおいて、カバーガラスはディスプレイカバーとして機能し、タッチ機能を内蔵している場合があるため、カバーガラスが破損するとデバイスの使用に悪影響が出てしまう。
【0004】
カバーガラスを組み込んだ携帯型デバイスを硬い面に落とした場合に生じるカバーガラスの破損には、大きく分けて2つの形態がある。その1つが、硬い面との衝突によりデバイスに動的な負荷がかかってガラスが曲がることによって起こる曲げ破壊である。もう1つが、ガラスの表面に損傷が入ることによって起こる鋭利接触破壊である。ガラスが、アスファルト、花崗岩などの硬い粗面と衝突すると、ガラス表面に鋭いくぼみが生じる場合がある。そしてこのくぼみがガラス表面の破損部位となり、そこからき裂が発生、進展する恐れがある。
【0005】
ガラスの曲げ破壊に対する耐性は、ガラス表面に圧縮応力を生じさせるイオン交換技術によって向上させることができる。しかし、イオン交換ガラスであっても、動的な鋭利接触に対しては依然として脆弱であり、これは、鋭利接触によってガラスに局所的なくぼみが生じると、高い応力集中が発生してしまうことが原因となっている。
【0006】
これまで、携帯デバイスの鋭利接触破壊に対する耐性を向上させるために、ガラス製造業者や携帯デバイス製造業者は継続的な努力を続けてきた。この問題を解決するための取り組みは、カバーガラスにコーティングを施す手法からデバイスを硬い面に落下させた際にカバーガラスが硬い面に直接衝突しないようベゼルを設ける手法まで、多岐にわたっている。しかし、美観や機能面の要件による制約から、カバーガラスが硬い面に衝突することを完全に防ぐのは非常に困難であった。
【0007】
また、携帯型デバイスは可能な限り薄型化することが望まれている。そのため、携帯型デバイスのカバーガラスとして使用されるガラスも、強度に加えて、できる薄型化することも望まれている。よって、カバーガラスの強度向上に加えて、そのガラスの機械的特性を、薄板ガラスなどの肉薄のガラス物品を製造可能なプロセスで成形することのできるものとすることも望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、イオン交換などによる強化を行うことが可能で、且つ肉薄のガラス物品として成形することのできる機械的特性を持ったガラスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
態様(1)によれば、ガラス系物品が提供される。本ガラス系物品は、表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域と、150MPa以上の最大中心張力と、ガラス系物品の中心部の組成と、を有しており、この組成は、30モル%以上のSiO、10モル%以上25モル%以下のLiO、0モル%以上17モル%以下のCaO、0モル%以上3モル%以下のKO、及び0モル%以上14モル%以下のB、を含む。
【0010】
態様(2)によれば、中心部の組成が、0モル%以上11モル%以下のBを含む、態様(1)に記載のガラス系物品が提供される。
【0011】
態様(3)によれば、中心部の組成が、57.5モル%以下のSiO、1モル%以上のSrO、及び0モル%超5モル%以下のBのうちの少なくとも1つを含む、態様(1)又は(2)に記載のガラス系物品が提供される。
【0012】
態様(4)によれば、中心部の組成が、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上であることを特徴とする、態様(1)~(3)のいずれか1つに記載のガラス系物品が提供される。
【0013】
態様(5)によれば、最大中心張力が200MPa以上である、態様(1)~(4)のいずれか1つに記載のガラス系物品が提供される。
【0014】
態様(6)によれば、最大中心張力が300MPa以上である、態様(1)~(5)のいずれか1つに記載のガラス系物品が提供される。
【0015】
態様(7)によれば、500MPa以上の圧縮応力を有している、態様(1)~(6)のいずれか1つに記載のガラス系物品が提供される。
【0016】
態様(8)によれば、ガラス系物品の厚さをtとした場合に、圧縮深さが0.15t以上である、態様(1)~(7)のいずれか1つに記載のガラス系物品が提供される。
【0017】
態様(9)によれば、放物線状の応力プロファイルを有している、態様(1)~(8)のいずれか1つに記載のガラス系物品が提供される。
【0018】
態様(10)によれば、消費者向け電子機器製品が提供される。本消費者向け電子機器製品は、前面、背面及び側面を有する筐体と、筐体の内部に少なくとも一部が収容される電気部品であって、コントローラ、メモリ、及び筐体の前面又はその隣接部に設けられるディスプレイを含む電気部品と、ディスプレイを覆うように配置されるカバーと、を備え、筐体及びカバーの少なくとも一方が、その少なくとも一部に、態様(1)~(9)のいずれか1つに記載のガラス系物品を備えている。
【0019】
態様(11)によれば、方法が提供される。本方法は、ガラス系基板をイオン交換塩に接触させてガラス系物品を形成する、接触ステップを含み、ガラス系物品は、表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域と、150MPa以上の最大中心張力と、を有しており、イオン交換塩がナトリウムを含み、ガラス系基板は、30モル%以上のSiO、10モル%以上25モル%以下のLiO、0モル%以上17モル%以下のCaO、0モル%以上3モル%以下のKO、及び0モル%以上14モル%以下のBを含む。
【0020】
態様(12)によれば、ガラス系基板が、0モル%以上11モル%以下のBを含む、態様(11)に記載の方法が提供される。
【0021】
態様(13)によれば、ガラス系基板が、57.5モル%以下のSiO、1モル%以上のSrO、及び0モル%超5モル%以下のBのうちの少なくとも1つを含む、態様(11)又は(12)に記載の方法が提供される。
【0022】
態様(14)によれば、ガラス系基板が、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上であることを特徴とする、態様(11)~(13)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0023】
態様(15)によれば、最大中心張力が200MPa以上である、態様(11)~(14)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0024】
態様(16)によれば、最大中心張力が300MPa以上である、態様(11)~(15)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0025】
態様(17)によれば、圧縮応力領域が500MPa以上の圧縮応力を有している、態様(11)~(16)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0026】
態様(18)によれば、ガラス系物品の厚さをtとした場合に、圧縮深さが0.15t以上である、態様(11)~(17)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0027】
態様(19)によれば、ガラス系物品が放物線状の応力プロファイルを有している、態様(11)~(18)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0028】
態様(20)によれば、イオン交換塩がNaNOを含む、態様(11)~(19)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0029】
態様(21)によれば、イオン交換塩が100質量%のNaNOを含む、態様(11)~(20)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0030】
態様(22)によれば、イオン交換塩が、380℃以上480℃以下の温度の溶融塩浴である、態様(11)~(20)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0031】
態様(23)によれば、接触ステップが16時間以下の時間にわたる、態様(11)~(21)のいずれか1つに記載の方法が提供される。
【0032】
態様(24)によれば、ガラスが提供される。本ガラスは、30モル%以上のSiOと、10モル%以上25モル%以下のLiOと、0.5モル%以上17モル%以下のCaOと、0モル%以上3モル%以下のKOと、0モル%以上11モル%以下のBと、57.5モル%以下のSiO、1モル%以上のSrO、及び0モル%超5モル%以下のBのうちの少なくとも1つと、を含み、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOは、99.7モル%以上である。
【0033】
態様(25)によれば、57.5モル%以下のSiOを含む、態様(24)に記載のガラスが提供される。
【0034】
態様(26)によれば、1モル%以上のSrOを含む、態様(24)又は(25)に記載のガラスが提供される。
【0035】
態様(27)によれば、0モル%超5モル%以下のBを含む、態様(24)~(26)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0036】
態様(28)によれば、43モル%以上65モル%以下のSiOを含む、態様(24)~(27)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0037】
態様(29)によれば、15モル%以上26モル%以下のAlを含む、態様(24)~(28)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0038】
態様(30)によれば、0モル%以上14モル%以下のMgOを含む、態様(24)~(29)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0039】
態様(31)によれば、0モル%以上10モル%以下のSrOを含む、態様(24)~(30)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0040】
態様(32)によれば、0モル%以上5モル%以下のBaOを含む、態様(24)~(31)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0041】
態様(33)によれば、10モル%以上24モル%以下のLiOを含む、態様(24)~(32)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0042】
態様(34)によれば、0.5モル%以上9モル%以下のNaOを含む、態様(24)~(33)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0043】
態様(35)によれば、0モル%以上1モル%以下のKOを含む、態様(24)~(34)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0044】
態様(36)によれば、0モル%以上1モル%以下のTiOを含む、態様(24)~(35)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0045】
態様(37)によれば、ガラスが0.75MPa√m以上の破壊靭性を有している、態様(24)~(36)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0046】
態様(38)によれば、ガラスが80GPa以上のヤング率を有している、態様(24)~(37)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0047】
態様(39)によれば、該ガラスに対し、100質量%NaNO溶融塩浴中で16時間以下の時間にわたり、イオン交換を行うと、150MPa以上の最大中心張力を示す、態様(24)~(38)のいずれか1つに記載のガラスが提供される。
【0048】
以下の詳細な説明において、さらなる特徴及び利点を記載する。下記のさらなる特徴及び利点は、当業者であれば、ある程度はその説明からただちに理解するであろうし、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、及び添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することによって理解するであろう。
【0049】
上述の概略的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも、種々の実施形態を説明するものであり、特許請求する主題の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを意図するものであることを理解されたい。添付の図面は、種々の実施形態のさらなる理解のために添付するものであり、本明細書に組み込まれ、その一部をなすものとする。図面は、本明細書に記載の種々の実施形態を例示的に示すものであり、以下の詳細な説明と合わせて、特許請求する主題の原理及び作用を説明するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本明細書に開示及び記載する複数の実施形態に係る、表面に圧縮応力層を有するガラスの断面を示す模式図
図2A】本明細書に開示のガラス物品のいずれかを組み込んだ例示的な電子デバイスを示す平面図
図2B図2Aに示す例示的な電子デバイスの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に、種々の実施形態に係るアルミノケイ酸リチウムガラスについて詳細に説明する。アルミノケイ酸リチウムガラスはイオン交換性に優れており、これまで、アルミノケイ酸リチウムガラスに化学強化処理を行うことにより、高い強度及び靭性を実現してきた。置換により、ケイ酸塩ガラスのネットワークにAlを導入することで、イオン交換時の一価カチオンの相互拡散性が向上する。溶融塩浴(例えば、KNO又はNaNO)で化学強化することにより、強度、靭性、及び圧痕き裂耐性の高いガラスを実現することができる。化学強化によって得られる応力プロファイルは、ガラス物品の耐落下性能、強度、靭性などの特質を向上させる様々な形状を有することができる。
【0052】
したがって、物理的特性、化学的耐久性、及びイオン交換性に優れたアルミノケイ酸リチウムガラスがカバーガラスとして注目されている。特に、本明細書においては、イオン交換により中心張力(central tension:CT)値を高くすることが可能なリチウム含有アルミノケイ酸塩ガラスが提供される。一般に、カバーガラスによくある破損の形態は、粗面への落下によるものであるが、イオン交換ガラス物品に蓄積されるエネルギー量と粗面落下時の耐破損性との間には正の相関がある。蓄積エネルギー量は、イオン交換ガラス物品の最大中心張力(最大CT)値によって評価することができ、中心張力値が高いほど、蓄積エネルギーの量が多いことを示している。蓄積エネルギーが高く、よって中心張力値が高いガラス物品は、脆性となる可能性がある。しかし、ユーザに危険を与えないように脆性挙動を適切に制御すれば、機械的性能の向上した高い中心張力値を有するガラス物品を製造することができる。本明細書に記載のガラス組成物は、高い脆性挙動と向上した機械的性能を示す、中心張力値と蓄積エネルギーの高いイオン交換ガラス物品を形成することを可能にするものである。本明細書に記載のガラス物品は150MPa以上という高い中心張力値を有しており、これにより、中心張力値の低い既存のガラス物品よりも、度重なる落下や粗面落下に対して優れた耐性を示し、また平滑面落下に対しても同様の耐性を示す。
【0053】
本明細書に記載のガラス組成物の実施形態において、特に断りのない限り、構成成分(例えば、SiO、Al、LiOなど)の濃度は、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で示す。以下では、複数の実施形態に係るアルミノケイ酸リチウムガラス組成物の各成分について、個別に説明を行う。なお、各成分について様々な範囲を記載しているが、当然ながら、或る成分の様々な範囲のいずれかを他のいずれかの成分の様々な範囲のいずれかと、個別に組み合わせることが可能である。本明細書において、数値末尾の0は、その数値の有効数字を示すことを意図している。例えば、「1.0」という数字の有効数字は2桁、「1.00」という数字の有効数字は3桁である。
【0054】
本明細書において、「ガラス基板(glass substrate)」とは、イオン交換される前のガラス片を指す。同様に、「ガラス物品(glass article)」は、イオン交換済のガラス片を指し、ガラス基板にイオン交換処理を行うことにより形成されるものである。また、「ガラス系基板(glass-based substrate)」及び「ガラス系物品(glass-based article)」の定義もこれに従うものであり、これらは、ガラス基板やガラス物品に加えて、表面に被膜を有するガラス基板などの、全体又は一部がガラスでできている基板や物品も包摂する用語である。なお、本明細書では、便宜上、主にガラス基板やガラス物品について説明を行うが、ガラス基板やガラス物品についての説明は、ガラス系基板やガラス系物品にも同様に適用できるものであることを理解されたい。
【0055】
本明細書は、適切な条件でイオン交換を行うことにより、高い中心張力を示すことが可能なアルミノケイ酸リチウムガラス組成物を開示するものである。
【0056】
本明細書に開示のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物の実施形態において、最も多く含まれる成分がSiOであり、よって、ガラス組成物から形成されるガラスネットワークの主成分もSiOである。純粋なSiOは、熱膨張係数(coefficient of thermal expansion:CTE)が比較的低く、無アルカリである。しかし、純粋なSiOは融点が高い。したがって、SiO濃度が高いほどガラスが溶融しにくくなり、ひいてはガラスの成形性に悪影響を及ぼすため、ガラス組成物に占めるSiOの濃度が高すぎると、ガラス組成物の成形性が低下する恐れがある。複数の実施形態において、ガラス組成物は、30.0モル%以上の量のSiOを含み、例えば、31.0モル%以上、32.0モル%以上、33.0モル%以上、34.0モル%以上、35.0モル%以上、36.0モル%以上、37.0モル%以上、38.0モル%以上、39.0モル%以上、40.0モル%以上、41.0モル%以上、42.0モル%以上、43.0モル%以上、44.0モル%以上、45.0モル%以上、46.0モル%以上、47.0モル%以上、48.0モル%以上、49.0モル%以上、50.0モル%以上、51.0モル%以上、52.0モル%以上、53.0モル%以上、54.0モル%以上、55.0モル%以上、56.0モル%以上、又は57.0モル%以上の量のSiOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、57.5モル%以下の量のSiOを含み、例えば、57.0モル%以下、56.0モル%以下、55.0モル%以下、54.0モル%以下、53.0モル%以下、52.0モル%以下、51.0モル%以下、50.0モル%以下、49.0モル%以下、48.0モル%以下、47.0モル%以下、46.0モル%以下、45.0モル%以下、44.0モル%以下、43.0モル%以下、42.0モル%以下、41.0モル%以下、40.0モル%以下、39.0モル%以下、38.0モル%以下、37.0モル%以下、36.0モル%以下、35.0モル%以下、34.0モル%以下、33.0モル%以下、32.0モル%以下、又は31.0モル%以下の量のSiOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、30.0モル%以上57.5モル%以下の量のSiOを含み、例えば、31.0モル%以上57.0モル%以下、32.0モル%以上56.0モル%以下、33.0モル%以上55.0モル%以下、34.0モル%以上54.0モル%以下、35.0モル%以上53.0モル%以下、36.0モル%以上52.0モル%以下、37.0モル%以上51.0モル%以下、38.0モル%以上50.0モル%以下、39.0モル%以上49.0モル%以下、40.0モル%以上48.0モル%以下、41.0モル%以上47.0モル%以下、42.0モル%以上46.0モル%以下、43.0モル%以上45.0モル%以下、43.0モル%以上44.0モル%以下、43.0モル%以上65.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲のSiOを含む。
【0057】
複数の実施形態に係るガラス組成物は、Alを含む。SiOと同様、Alもガラスネットワーク形成物質として機能することができる。Alは、ガラス組成物から形成されるガラス融液中で四面体配位するため、Alの量が多すぎるとガラス組成物の粘度が上昇し、ガラス組成物の成形性を低下させる恐れがある。しかし、Alの濃度が、ガラス組成物中のSiO濃度及びアルカリ酸化物濃度に対してバランスしている場合、Alによってガラス融液の液相温度が下がるため、液相粘度が上昇し、特定の成形プロセスとのガラス組成物の適合性を向上させることができる。ガラス組成物にAlを含めることにより、破壊靭性値を高くすることができ、イオン交換による応力付与量を増大させることができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、15モル%超の量のAlを含み、例えば、15.5モル%以上、16.0モル%以上、16.5モル%以上、17.0モル%以上、17.5モル%以上、18.0モル%以上、18.5モル%以上、19.0モル%以上、19.5モル%以上、20.0モル%以上、20.5モル%以上、21.0モル%以上、21.5モル%以上、22.0モル%以上、22.5モル%以上、23.0モル%以上、23.5モル%以上、24.0モル%以上、24.5モル%以上、25.0モル%以上、又は25.5モル%以上の量のAlを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、26モル%以下の量のAlを含み、例えば、25.5モル%以下、25.0モル%以下、24.5モル%以下、24.0モル%以下、23.5モル%以下、23.0モル%以下、22.5モル%以下、22.0モル%以下、21.5モル%以下、21.0モル%以下、20.5モル%以下、20.0モル%以下、19.5モル%以下、19.0モル%以下、18.5モル%以下、18.0モル%以下、17.5モル%以下、17.0モル%以下、16.5モル%以下、16.0モル%以下、又は15.5モル%以下の量のAlを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、15モル%超32モル%以下の量のAlを含み、例えば、15.0モル%以上26.0モル%以下、15.5モル%以上25.5モル%以下、16.0モル%以上25.0モル%以下、16.5モル%以上24.5モル%以下、17.0モル%以上24.0モル%以下、17.5モル%以上23.5モル%以下、18.0モル%以上23.0モル%以下、18.5モル%以上22.5モル%以下、19.0モル%以上22.0モル%以下、19.5モル%以上21.5モル%以下、20.0モル%以上21.0モル%以下、20.5モル%以上21.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のAlを含む。
【0058】
SiOやAlと同様、Bも、ネットワーク形成物質としてガラス組成物に添加することにより、(液相線を下方にシフトさせて)ガラス組成物のガラス成形範囲や製造性を向上させることができる。ガラス組成物にBを含めることにより、破壊靭性値を高くすることができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のBを含み、例えば、0モル%超、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上、2.0モル%以上、2.5モル%以上、3.0モル%以上、3.5モル%以上、4.0モル%以上、4.5モル%以上、5.0モル%以上、5.5モル%以上、6.0モル%以上、6.5モル%以上、7.0モル%以上、7.5モル%以上、8.0モル%以上、8.5モル%以上、9.0モル%以上、9.5モル%以上、10.0モル%以上、10.5モル%以上、11.0モル%以上、11.5モル%以上、12.0モル%以上、12.5モル%以上、13.0モル%以上、又は13.5モル%以上の量のBを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、14.0モル%以下の量のBを含むことができ、例えば、13.5モル%以下、13.0モル%以下、12.5モル%以下、12.0モル%以下、11.5モル%以下、11.0モル%以下、10.5モル%以下、10.0モル%以下、9.5モル%以下、9.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、6.5モル%以下、6.0モル%以下、5.5モル%以下、5.0モル%以下、4.5モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下、3.0モル%以下、2.5モル%以下、2.0モル%以下、1.5モル%以下、1.0モル%以下、又は0.5モル%以下の量のBを含むことができる。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上14.0モル%以下の量のBを含み、例えば、0モル%超13.5モル%以下、0.5モル%以上13.0モル%以下、1.0モル%以上12.5モル%以下、1.5モル%以上12.0モル%以下、2.0モル%以上11.5モル%以下、2.5モル%以上11.0モル%以下、3.0モル%以上10.5モル%以下、3.5モル%以上10.0モル%以下、4.0モル%以上9.5モル%以下、4.5モル%以上9.0モル%以下、5.0モル%以上8.5モル%以下、5.5モル%以上8.0モル%以下、6.0モル%以上7.5モル%以下、6.5モル%以上7.0モル%以下、0モル%以上11.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のBを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%超5モル%以下の量のBを含むことができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、Bを実質含まないか、又はBを含まないものとすることができる。
【0059】
ガラス組成物にLiOを含めることにより、イオン交換処理を良好に制御することが可能となり、さらにガラスの軟化点を下げることができるため、ガラスの製造性を向上させることができる。また、ガラス組成物にLiOが存在することで、放物線状の応力プロファイルを形成することができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、10.0モル%以上の量のLiOを含み、例えば、10.5モル%以上、11.0モル%以上、11.5モル%以上、12.0モル%以上、12.5モル%以上、13.0モル%以上、13.5モル%以上、14.0モル%以上、14.5モル%以上、15.0モル%以上、15.5モル%以上、16.0モル%以上、16.5モル%以上、17.0モル%以上、17.5モル%以上、18.0モル%以上、18.5モル%以上、19.0モル%以上、19.5モル%以上、20.0モル%以上、20.5モル%以上、21.0モル%以上、21.5モル%以上、22.0モル%以上、22.5モル%以上、23.0モル%以上、23.5モル%以上、24.0モル%以上、又は24.5モル%以上の量のLiOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、25.0モル%以下の量のLiOを含み、例えば、24.5モル%以下、24.0モル%以下、23.5モル%以下、23.0モル%以下、22.5モル%以下、22.0モル%以下、21.5モル%以下、21.0モル%以下、20.5モル%以下、20.0モル%以下、19.5モル%以下、19.0モル%以下、18.5モル%以下、18.0モル%以下、17.5モル%以下、17.0モル%以下、16.5モル%以下、16.0モル%以下、15.5モル%以下、15.0モル%以下、14.5モル%以下、14.0モル%以下、13.5モル%以下、13.0モル%以下、12.5モル%以下、12.0モル%以下、11.5モル%以下、11.0モル%以下、10.5モル%以下、10.0モル%以下、9.5モル%以下、9.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、6.5モル%以下、6.0モル%以下、5.5モル%以下、5.0モル%以下、又は4.5モル%以下の量のLiOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、10.0モル%以上25.0モル%以下の量のLiOを含み、例えば、10.5モル%以上24.5モル%以下、11.0モル%以上24.0モル%以下、11.5モル%以上23.5モル%以下、12.0モル%以上23.0モル%以下、12.5モル%以上22.5モル%以下、13.0モル%以上22.0モル%以下、13.5モル%以上21.5モル%以下、14.0モル%以上21.0モル%以下、14.5モル%以上20.5モル%以下、15.0モル%以上20.0モル%以下、15.5モル%以上19.5モル%以下、16.0モル%以上19.0モル%以下、16.5モル%以上18.5モル%以下、17.0モル%以上18.0モル%以下、17.0モル%以上17.5モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のLiOを含む。
【0060】
複数の実施形態によれば、ガラス組成物はNaOを含むこともできる。NaOは、ガラス組成物のイオン交換性を補助するとともに、ガラス組成物の成形性、ひいては製造性も向上させる。ただし、NaOを添加しすぎると、ガラス組成物の熱膨張係数(CTE)が低くなりすぎると共に、融点が高くなりすぎる恐れがある。また、ガラス組成物にNaOを含めることにより、イオン交換強化で高い圧縮応力値を実現することができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のNaOを含み、例えば、0モル%超、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上、2.0モル%以上、2.5モル%以上、3.0モル%以上、3.5モル%以上、4.0モル%以上、4.5モル%以上、5.0モル%以上、5.5モル%以上、6.0モル%以上、6.5モル%以上、7.0モル%以上、7.5モル%以上、8.0モル%以上、又は8.5モル%以上の量のNaOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、9.0モル%以下の量のNaOを含み、例えば、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、6.5モル%以下、6.0モル%以下、5.5モル%以下、5.0モル%以下、又は4.5モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下、3.0モル%以下、2.5モル%以下、2.0モル%以下、1.5モル%以下、1.0モル%以下、又は0.5モル%以下の量のNaOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上9.0モル%以下の量のNaOを含み、例えば、0モル%超9.0モル%以下、0.5モル%以上9.0モル%以下、1.0モル%以上8.5モル%以下、1.5モル%以上8.0モル%以下、2.0モル%以上7.5モル%以下、2.5モル%以上7.0モル%以下、3.0モル%以上6.5モル%以下、3.5モル%以上6.0モル%以下、4.0モル%以上5.5モル%以下、4.5モル%以上5.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のNaOを含む。
【0061】
NaOと同様、KOもイオン交換を促進するものあり、イオン交換により形成される圧縮応力層の圧縮深さ(depth of compression:DOC)を増大させる。ただし、KOの添加により、熱膨張係数が低くなりすぎると共に、融点が高くなりすぎる恐れがある。ガラス組成物は、KOを含んでいる。ガラス組成物にKOを含めることにより、イオン交換により製造したガラス物品に深い高圧縮応力スパイク(spike)を生成させることができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、3.0モル%以下の量のKOを含有することができ、例えば、2.9モル%以下、2.8モル%以下、2.7モル%以下、2.6モル%以下、2.5モル%以下、2.4モル%以下、2.3モル%以下、2.2モル%以下、2.1モル%以下、2.0モル%以下、1.9モル%以下、1.8モル%以下、1.7モル%以下、1.6モル%以下、1.5モル%以下、1.4モル%以下、1.3モル%以下、1.2モル%以下、1.1モル%以下、1.0モル%以下、0.9モル%以下、0.8モル%以下、0.7モル%以下、0.6モル%以下、0.5モル%以下、0.4モル%以下、0.3モル%以下、0.2モル%以下、又は0.1モル%以下の量のKOを含有することができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のKOを含有することができ、例えば、0モル%超、0.1モル%以上、0.2モル%以上、0.3モル%以上、0.4モル%以上、0.5モル%以上、0.6モル%以上、0.7モル%以上、0.8モル%以上、0.9モル%以上、1.0モル%以上、1.1モル%以上、1.2モル%以上、1.3モル%以上、1.4モル%以上、1.5モル%以上、1.6モル%以上、1.7モル%以上、1.8モル%以上、1.9モル%以上、2.0モル%以上、2.1モル%以上、2.2モル%以上、2.3モル%以上、2.4モル%以上、2.5モル%以上、2.6モル%以上、2.7モル%以上、2.8モル%以上、又は2.9モル%以上の量のKOを含有することができる。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上3.0モル%以下の量のKOを含み、例えば、0モル%以上1.0モル%以下、0.1モル%以上2.9モル%以下、0.2モル%以上2.8モル%以下、0.3モル%以上2.7モル%以下、0.4モル%以上2.6モル%以下、0.5モル%以上2.5モル%以下、0.6モル%以上2.4モル%以下、0.7モル%以上2.3モル%以下、0.8モル%以上2.2モル%以下、0.9モル%以上2.1モル%以下、1.0モル%以上2.0モル%以下、1.1モル%以上1.9モル%以下、1.2モル%以上1.8モル%以下、1.3モル%以上1.7モル%以下、1.4モル%以上1.6モル%以下、1.5モル%以上1.6モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のKOを含む。
【0062】
ガラスは、マグネシウムを含むこともできる。MgOを含めることによりガラスの粘度が低下し、ガラスの成形性や製造性を向上させることができる。また、ガラス組成物にMgOを含めることにより、ガラス組成物の歪点やヤング率も向上し、イオン交換により高い圧縮応力を得るための性能が向上したガラスが得られる。ただし、ガラス組成物にMgOを添加しすぎると、ガラス組成物の密度や熱膨張係数が望ましくないほど大きくなってしまう。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のMgOを含み、例えば、0モル%超、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上、2.0モル%以上、2.5モル%以上、3.0モル%以上、3.5モル%以上、4.0モル%以上、4.5モル%以上、5.0モル%以上、5.5モル%以上、6.0モル%以上、6.5モル%以上、7.0モル%以上、7.5モル%以上、8.0モル%以上、8.5モル%以上、9.0モル%以上、9.5モル%以上、10.0モル%以上、10.5モル%以上、11.0モル%以上、11.5モル%以上、12.0モル%以上、12.5モル%以上、13.0モル%以上、又は13.5モル%以上の量のMgOを含む。いくつかの実施形態では、ガラス組成物は、14モル%以下の量のMgOを含み、例えば、13.5モル%以下、13.0モル%以下、12.5モル%以下、12.0モル%以下、11.5モル%以下、11.0モル%以下、10.5モル%以下、10.0モル%以下、9.5モル%以下、9.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、6.5モル%以下、6.0モル%以下、5.5モル%以下、5.0モル%以下、4.5モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下、3.0モル%以下、2.5モル%以下、2.0モル%以下、1.5モル%以下、1.0モル%以下、又は0.5モル%以下の量のMgOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上14モル%以下の量のMgOを含み、例えば、0モル%超14.0モル%以下、0.5モル%以上13.5モル%以下、1.0モル%以上13.0モル%以下、1.5モル%以上12.5モル%以下、2.0モル%以上12.0モル%以下、2.5モル%以上11.5モル%以下、3.0モル%以上11.0モル%以下、3.5モル%以上10.5モル%以下、4.0モル%以上10.0モル%以下、4.5モル%以上9.5モル%以下、5.0モル%以上9.0モル%以下、5.5モル%以上8.5モル%以下、6.0モル%以上8.0モル%以下、6.5モル%以上7.5モル%以下、7.0モル%以上8.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のMgOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、MgOを実質含まないか、又はMgOを含まないものとすることができる。
【0063】
ガラス組成物は、CaOを含むこともできる。CaOを含めることにより、ガラスの粘度が低下し、成形性や歪点、ヤング率が向上して、イオン交換により高い圧縮応力を得るための性能が向上したガラスが得られる。ただし、ガラス組成物にCaOを添加しすぎると、ガラス組成物の密度や熱膨張係数が大きくなってしまう。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のCaOを含み、例えば、0モル%超、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上、2.0モル%以上、2.5モル%以上、3.0モル%以上、3.5モル%以上、4.0モル%以上、4.5モル%以上、5.0モル%以上、5.5モル%以上、6.0モル%以上、6.5モル%以上、7.0モル%以上、7.5モル%以上、8.0モル%以上、8.5モル%以上、9.0モル%以上、9.5モル%以上、10.0モル%以上、10.5モル%以上、11.0モル%以上、11.5モル%以上、12.0モル%以上、12.5モル%以上、13.0モル%以上、13.5モル%以上、14.0モル%以上、14.5モル%以上、15.0モル%以上、15.5モル%以上の16.0モル%以上、又は16.5モル%以上の量のCaOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、16.0モル%以下の量のCaOを含み、例えば、15.5モル%以下、15.0モル%以下、14.5モル%以下、14.0モル%以下、13.5モル%以下、13.0モル%以下、12.5モル%以下、12.0モル%以下、11.5モル%以下、11.0モル%以下、10.5モル%以下、10.0モル%以下、9.5モル%以下、9.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、6.5モル%以下、6.0モル%以下、5.5モル%以下、5.0モル%以下、4.5モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下、3.0モル%以下、2.5モル%以下、2.0モル%以下、1.5モル%以下、1.0モル%以下、又は0.5モル%以下の量のCaOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上16.0モル%以下の量のCaOを含み、例えば、0モル%超15.5モル%以下、0.5モル%以上15.0モル%以下、1.0モル%以上14.5モル%以下、1.5モル%以上14.0モル%以下、2.0モル%以上13.5モル%以下、2.5モル%以上13.0モル%以下、3.0モル%以上12.5モル%以下、3.5モル%以上12.0モル%以下、4.0モル%以上11.5モル%以下、4.5モル%以上11.0モル%以下、5.0モル%以上10.5モル%以下、5.5モル%以上10.0モル%以下、6.0モル%以上9.5モル%以下、6.5モル%以上9.0モル%以下、7.0モル%以上8.5モル%以下、7.5モル%以上8.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のCaOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、CaOを実質含まないか、又はCaOを含まないものとすることができる。
【0064】
ガラス組成物は、SrOを含むこともできる。SrOを含めることにより、ガラスの粘度が低下し、成形性や歪点、ヤング率が向上して、イオン交換により高い圧縮応力を得るための性能が向上したガラスが得られる。ただし、ガラス組成物にSrOを添加しすぎると、ガラス組成物の密度や熱膨張係数が大きくなってしまう。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のSrOを含み、例えば、0モル%超、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上、2.0モル%以上、2.5モル%以上、3.0モル%以上、3.5モル%以上、4.0モル%以上、4.5モル%以上、5.0モル%以上、5.5モル%以上、6.0モル%以上、6.5モル%以上、7.0モル%以上、7.5モル%以上、8.0モル%以上、8.5モル%以上、9.0モル%以上、又は9.5モル%以上の量のSrOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、10.0モル%以下の量のSrOを含み、例えば、9.5モル%以下、9.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、8.5モル%以下、8.0モル%以下、7.5モル%以下、7.0モル%以下、6.5モル%以下、6.0モル%以下、5.5モル%以下、5.0モル%以下、4.5モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下、3.0モル%以下、2.5モル%以下、2.0モル%以下、1.5モル%以下、1.0モル%以下、又は0.5モル%以下の量のSrOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上10.0モル%以下の量のSrOを含み、例えば、0モル%超9.5モル%以下、0.5モル%以上9.0モル%以下、1.0モル%以上8.5モル%以下、1.5モル%以上8.0モル%以下、2.0モル%以上7.5モル%以下、2.5モル%以上7.0モル%以下、3.0モル%以上6.5モル%以下、3.5モル%以上6.0モル%以下、4.0モル%以上5.5モル%以下、4.5モル%以上5.0モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のSrOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、1モル%以上の量のSrOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、SrOを実質含まないか、又はSrOを含まないものとすることができる。
【0065】
ガラス組成物は、BaOを含むこともできる。BaOを含めることにより、ガラスの粘度が低下し、成形性や歪点、ヤング率が向上して、イオン交換により高い圧縮応力を得るための性能が向上したガラスが得られる。ただし、ガラス組成物にBaOを添加しすぎると、ガラス組成物の密度や熱膨張係数が大きくなってしまう。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上の量のBaOを含み、例えば、0モル%超、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上、2.0モル%以上、2.5モル%以上、3.0モル%以上、3.5モル%以上、4.0モル%以上、又は4.5モル%以上の量のBaOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、5.0モル%以下の量のBaOを含み、例えば、4.5モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下、3.0モル%以下、2.5モル%以下、2.0モル%以下、1.5モル%以下、1.0モル%以下、又は0.5モル%以下の量のBaOを含む。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス組成物は、0モル%以上5.0モル%以下の量のBaOを含み、例えば、0モル%超4.5モル%以下、0.5モル%以上4.0モル%以下、1.0モル%以上3.5モル%以下、1.5モル%以上3.0モル%以下、2.0モル%以上2.5モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のBaOを含む。複数の実施形態において、ガラス組成物は、BaOを実質含まないか、又はBaOを含まないものとすることができる。
【0066】
ガラス組成物は、TiOを含むこともできる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、TiOを実質含まないか、又はTiOを含まないものとすることができる。本明細書で使用する場合、「実質含まない(substantially free)」という用語は、当該成分が最終ガラス製品中に不純物としてごく少量、例えば約0.01モル%未満で存在することはあるものの、バッチ材料の成分としては添加されていないことを意味している。複数の実施形態において、ガラス組成物は、0モル%以上1.0モル%以下の量のTiOを含み、例えば、0モル%超0.9モル%以下、0.1モル%以上0.8モル%以下、0.2モル%以上0.7モル%以下、0.3モル%以上0.6モル%以下、0.4モル%以上0.5モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量のTiOを含む。ガラス組成物中にTiOが多く含まれすぎると、ガラスが失透しやすくなったり、望ましくない色合いを示したりする恐れがある。
【0067】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、Pを実質含まないか、又はPを含まないものとすることができる。ガラス組成物にPを含めることにより、ガラス組成物の溶融性や成形性が望ましくない程度まで低下し、ガラス組成物の製造性が損なわれる恐れがある。なお、本明細書に記載のガラス組成物にPを含めることは、所望のイオン交換性能を得るために必須というわけではない。このため、ガラス組成物にPを含めないことにより、所望のイオン交換性能を維持しつつ、ガラス組成物の製造性に悪影響を与えないようにすることができる。
【0068】
複数の実施形態において、任意選択的に、ガラス組成物は1つ以上の清澄剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、清澄剤は、例えば、SnOを含むことができる。かかる実施形態では、SnOは、0.2モル%以下の量でガラス組成物中に存在することができ、例えば、0モル%以上0.2モル%以下、0モル%以上0.1モル%以下、0モル%以上0.05モル%以下、0.1モル%以上0.2モル%以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、ガラス組成物は、SnOを実質含まないか、又はSnOを含まないものとすることができる。
【0069】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、ヒ素及びアンチモンのいずれか又は両方を実質含まないものとすることができる。他の実施形態では、ガラス組成物は、ヒ素及びアンチモンのいずれか又は両方を含まないものとすることもできる。
【0070】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、Feを実質含まないか、又はFeを含まないものとすることができる。ただし、鉄は、ガラス組成物の形成に使用する原料中に存在することが多いため、ガラスバッチに積極的には添加されていない場合でも、本明細書に記載のガラス組成物において検出される場合がある。
【0071】
また、本明細書に開示の実施形態に係るガラス組成物は、上記の個々の成分の量に加えて、ガラス組成物が含有するSiO、B、Al、CaO、SrO、LiO、NaO、及びKOの総量によっても特徴付けることができる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOを99.7モル%以上の濃度で含むことができ、例えば99.8モル%以上、99.9モル%以上、又は100%の濃度で含むことができる。これらの成分の総量を所望の範囲に保つことにより、ガラス組成物に所望の特性を持たせることができる。
【0072】
ガラス組成物は、組成に関する特徴の組み合わせの1つ以上を示すことによって特徴付けることもできる。複数の実施形態において、ガラス組成物は、57.5モル%以下の量のSiO、1モル%以上の量のSrO、及び0モル%超5モル%以下の量のBという特徴のうち少なくとも1つの特徴を有することができる。ガラス組成物は、57.5モル%以下の量のSiOと、1モル%以上の量のSrOと、0モル%超5モル%以下の量のBとを含有することができる。
【0073】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、30モル%以上のSiOと、10モル%以上25モル%以下のLiOと、0モル%以上17モル%以下のCaOと、0モル%以上3モル%以下のKOと、0モル%以上14モル%以下のBとを含む。
【0074】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、30モル%以上のSiOと、10モル%以上25モル%以下のLiOと、0.5モル%以上17モル%以下のCaOと、0モル%以上3モル%以下のKOと、0モル%以上11モル%以下のBと、57.5モル%以下のSiO、1モル%以上のSrO、及び0モル%超5モル%以下のBのうちの少なくとも1つと、を含み、総含有量SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上である。
【0075】
次に、上記において開示したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物の物理的特性について説明する。詳細な説明は実施例を参照して後述するが、かかる物理的特性は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物の成分量を変更することにより得ることができるものである。
【0076】
実施形態に係るガラス組成物は、高い破壊靭性を有している。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、ガラス組成物の破壊靭性が高くなると、耐落下性能が向上する。本明細書において、破壊靭性は、KIC値を指し、シェブロンノッチショートバー法(chevron notched short bar:CNSB)で測定した。KIC値は、Reddy, K.P.R. et al著「Fracture Toughness Measurement of Glass and Ceramic Materials Using Chevron-Notched Specimens(シェブロンノッチ試験片を用いたガラス及びセラミック材料の破壊靭性測定)」J. Am. Ceram. Soc.,71[6],C-310-C-313(1988年)に開示のシェブロンノッチショートバー法で測定した。ただし、Y*は、Bubsey, R.T. et al.著「Closed-Form Expressions for Crack-Mouth Displacement and Stress Intensity Factors for Chevron-Notched Short Bar and Short Rod Specimens Based on Experimental Compliance Measurements(実験によるコンプライアンス測定に基づく、シェブロンノッチショートバー及びショートロッド試験片のき裂開口変位と応力拡大係数の閉形式式)」NASA Technical Memorandum 83796,1-30頁(1992年10月)の数式5を使用して計算した。さらに、KIC値は、イオン交換によりガラス物品を得る前にKIC値を測定するなど、非強化ガラス試料で測定した。なお、本明細書で説明するKIC値は、特に断りのない限り、MPa√mの単位で示している。
【0077】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、0.75MPa√m以上のKIC値を示し、例えば、0.76MPa√m以上、0.77MPa√m以上、0.78MPa√m以上、0.79MPa√m以上、0.80MPa√m以上、0.81MPa√m以上、0.82MPa√m以上、0.83MPa√m以上、0.84MPa√m以上、0.85MPa√m以上、0.86MPa√m以上、0.87MPa√m以上、0.88MPa√m以上、0.89MPa√m以上、0.90MPa√m以上、0.91MPa√m以上、0.92MPa√m以上、0.93MPa√m以上、0.94MPa√m以上、0.95MPa√m以上、0.96MPa√m以上、0.97MPa√m以上、0.98MPa√m以上、0.99MPa√m以上、1.0MPa√m以上、又は1.0MPa√m超のKIC値を示す。本明細書に記載のガラス組成物の高い破壊靭性は、損傷に対するガラスの耐性を向上させるものである。
【0078】
複数の実施形態において、ガラス組成物の液相粘度は、1000P以下であり、例えば、950P以下、900P以下、850P以下、800P以下、750P以下、700P以下、650P以下、600P以下、550P以下、500P以下、450P以下、400P以下、350P以下、300P以下、250P以下、200P以下、150P以下、又は100P以下である。複数の実施形態において、液相粘度は、50P以上であり、例えば、100P以上、150P以上、200P以上、250P以上、300P以上、350P以上、400P以上、450P以上、500P以上、550P以上、600P以上、650P以上、700P以上、750P以上、800P以上、850P以上、900P以上、又は950P以上である。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、液相粘度は50P以上1000P以下であり、例えば、100P以上950P以下、150P以上900P以下、200P以上850P以下、250P以上800P以下、300P以上750P以下、350P以上700P以下、400P以上650P以下、450P以上600P以下、500P以上550P以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲にある。液相粘度は、以下の方法で測定した。まず、ガラスの液相温度を、ASTM規格C829-81(2015)「勾配炉法によるガラスの液相温度測定の標準実施法(Standard Practice for Measurement of Liquidus Temperature of Glass by the Gradient Furnace Method)」に従って測定した。次に、液相温度におけるガラスの粘度を、ASTM規格C965-96(2012)「軟化点より高い温度でのガラスの粘度測定の標準実施法(Standard Practice for Measuring Viscosity of Glass Above the Softening Point)」に従って測定した。
【0079】
複数の実施形態において、ガラス組成物のヤング率(E)は、80GPa以上100GPa以下とすることができ、例えば、81GPa以上99GPa以下、82GPa以上98GPa以下、83GPa以上97GPa以下、84GPa以上96GPa以下、85GPa以上95GPa以下、86GPa以上94GPa以下、87GPa以上93GPa以下、88GPa以上92GPa以下、89GPa以上91GPa以下、90GPa以上100GPa以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲とすることができる。複数の実施形態において、ガラス組成物のヤング率(E)は、80GPa以上とすることができ、例えば、81GPa以上、82GPa以上、83GPa以上、84GPa以上、85GPa以上、86GPa以上、87GPa以上、88GPa以上、89GPa以上、90GPa以上、91GPa以上、92GPa以上、93GPa以上、94GPa以上、95GPa以上、又は95GPa超とすることができる。本開示に記載のヤング率値は、ASTM規格E2001-13「金属及び非金属部品の欠陥を検出するための共振超音波スペクトロスコピー法標準ガイド(Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts)」に定める汎用型の共振超音波スペクトロスコピー法により測定した値を指す。
【0080】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、33GPa以上39GPa以下のせん断弾性率(G)を有することができ、例えば、34GPa以上38GPa以下、35GPa以上37GPa以下、34GPa以上36GPa以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲のせん断弾性率を有することができる。本開示に記載のせん断弾性率値は、ASTM規格E2001-13「金属及び非金属部品の欠陥を検出するための共振超音波スペクトロスコピー法標準ガイド」に定める汎用型の共振超音波スペクトロスコピー法により測定した値を指す。
【0081】
複数の実施形態において、ガラス組成物は、0.2以上0.26以下のポアソン比(ν)を有することができ、例えば、0.21以上0.25以下、0.22以上0.24以下、0.23以上、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲のポアソン比(ν)を有することができる。本開示に記載のポアソン比値は、ASTM規格E2001-13「金属及び非金属部品の欠陥を検出するための共振超音波スペクトロスコピー法標準ガイド」に定める汎用型の共振超音波スペクトロスコピー法により測定した値を指す。
【0082】
実施形態に係るガラス物品は、上記の組成物から任意の適切な方法によって成形することができる。複数の実施形態において、ガラス組成物を薄圧延プロセスなどの圧延プロセスにより成形することができる。
【0083】
本発明のガラス組成物、及び該ガラス組成物から製造される物品は、その成形方法を特徴とすることができる。例えば、ガラス組成物を、フロート成形可能な(すなわち、フロートプロセスにより成形を行う)ガラス組成物や、圧延成形可能な(すなわち、圧延プロセスによって成形を行う)ガラス組成物として特徴付けることができる。
【0084】
1つ以上の実施形態において、本明細書に記載のガラス組成物は、非晶質微細構造を示すガラス物品を形成することができ、結晶や結晶子を実質含まないものとすることができる。換言すれば、本明細書に記載のガラス組成物から形成されるガラス物品は、ガラスセラミック材料を含まないものとすることができる。
【0085】
上述したように、複数の実施形態において、本明細書に記載のガラス組成物は、イオン交換などにより強化して、耐損傷性を有するガラス物品を作ることができる。そのようなガラス物品の用途としては、ディスプレイカバーなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。図1を参照すると、ガラス物品の表面から圧縮深さ(DOC)まで延在する、圧縮応力を受ける第1の領域(例えば、図1の第1の圧縮層120及び第2の圧縮層122)と、ガラス物品の圧縮深さから中心領域(内部領域)まで延在する、引張応力又は中心張力(CT)を受ける第2の領域(例えば、図1の中心領域130)と、を有するガラス物品が図示されている。本明細書において、圧縮深さ(DOC)とは、ガラス物品内部で応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さを指す。圧縮深さは、正の(圧縮)応力から負の(引張)応力に応力が変化する深さであり、よって応力値がゼロとなる。
【0086】
当技術分野で通常使用される慣例に従えば、圧縮応力(compression stress,compressive stress)は負(<0)の応力、引張応力(tension stress,tensile stress)は正(>0)の応力として表される。しかし、本明細書の説明を通じて、圧縮応力(CS)を正の値つまり絶対値として表す。すなわち、本明細書において、CS=|CS|とする。圧縮応力(CS)は、ガラス物品の表面又はその近傍で最大となり、表面からの距離dに応じて関数変化する。再び図1を参照すると、第1の区間120は、第1の面110から深さdまで延在し、第2の区間122は、第2の面112から深さdまで延在している。そして、これらの区間の組み合わせにより、ガラス物品100の圧縮応力(CS)が決まる。圧縮応力(表面圧縮応力を含む)は、有限会社折原製作所(日本)製のFSM-6000などの市販の機器を用いて、表面応力計(FSM)で測定することができる。表面応力を測定するためには、ガラスの複屈折に関係している応力光学係数(stress optical coefficient:SOC)の正確な測定が必要である。一方、応力光学係数は、ASTM規格C770-16「ガラスの応力光学係数測定の標準試験法(Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient)」に記載される手順C(ガラスディスク法)に従って測定される。なお、本記載のすべての内容は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0087】
複数の実施形態において、ガラス物品の圧縮応力は、500MPa以上1200MPa以下であり、例えば、525MPa以上1150MPa以下、550MPa以上1100MPa以下、575MPa以上1050MPa以下、600MPa以上1000MPa以下、625MPa以上975MPa以下、650MPa以上950MPa以下、675MPa以上925MPa以下、700MPa以上900MPa以下、725MPa以上875MPa以下、750MPa以上850MPa以下、775MPa以上825MPa以下、700MPa以上800MPa以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。
【0088】
1つ以上の実施形態において、イオン交換によりNaイオン及び/又はKイオンをガラス物品に導入し、ガラス物品においてNaイオンをKイオンよりも深い位置まで拡散させる。Kイオンの浸透深さ(「カリウムDOL(Potassium DOL)」)は、イオン交換処理によってカリウムが浸透した深さを表すため、圧縮深さ(DOC)とは区別される。本明細書に記載の物品の場合、通常、カリウムDOLは圧縮深さよりも小さい。カリウムDOLは、有限会社折原製作所(日本)製のFSM-6000などの市販の表面応力計を用いて測定する。なお、圧縮応力測定に関連して上述したように、カリウムDOLを測定するためには、応力光学係数(SOC)の正確な測定が必要である。カリウムDOLにより、応力プロファイルが急峻なスパイク領域からそれほど急峻ではない深部領域へと遷移する深さである、圧縮応力スパイク深さ(DOLSP)が決まり得る。深部領域は、スパイク底部から圧縮深さまで延在している。ガラス物品のDOLSPは、5μm以上30μm以下とすることができ、例えば、6μm以上25μm以下、7μm以上20μm以下、8μm以上15μm以下、又は9μm以上11μm以下、10μm以上、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲とすることができる。
【0089】
両主面(図1の110、112)の圧縮応力は、ガラス物品の中心領域130に蓄積される張力と釣り合う。最大中心張力(最大CT)値及び圧縮深さ(DOC)値は、当技術分野において公知の散乱光偏光器(scattered light polariscope:SCALP)技術を使用して測定することができる。ガラス物品の応力プロファイルは、屈折近視野(refracted near-field:RNF)法又はSCALP法で測定することができる。RNF法で応力プロファイルを測定する場合、SCALP法により取得した最大中心張力値をRNF法で利用して行う。詳細には、RNF法で測定した応力プロファイルは、SCALP測定によって取得した最大中心張力値に対して力平衡が取られ、較正される。RNF法については、米国特許第8854623号明細書(発明の名称「Systems and methods for measuring a profile characteristic of a glass sample(ガラス試料のプロファイル特性を測定するためのシステムおよび方法)」)に記載されている。なお、本特許明細書のすべての内容は参照することにより本明細書の一部をなすものとする。具体的には、RNF法は、ガラス物品を基準ブロックに隣接して配置するステップと、直交偏波間を1Hz~50Hzの速度で切り替わる偏波スイッチ光ビームを生成するステップと、偏波スイッチ光ビームの出力量を測定するステップと、偏波スイッチ基準信号を生成するステップと、を含み、直交偏波の出力量測定値は、一方が他方の50%以内である、方法である。また、このRNF法は、偏波スイッチ光ビームを、ガラス試料及び基準ブロックを通して透過させて、ガラス試料の異なる複数の深さまで到達させるステップと、その後、透過した偏波スイッチ光ビームを、リレー光学系を用いて信号光検出器に中継して、信号光検出器によって偏波スイッチ検出信号を生成するステップと、をさらに含む。そして、このRNF法は、検出信号を基準信号で除算して、正規化された検出信号を形成するステップと、この正規化された検出信号からガラス試料のプロファイル特性を求めるステップと、をさらに含む。
【0090】
このガラス物品は、高い最大中心張力(最大CT)を有している。ガラス物品の中心張力が高い値を示す場合、イオン交換処理により生成されたエネルギーエネルギーの蓄積が大きいことを示している。ガラス物品の中心張力値が高いこと、またこれに関連して蓄積エネルギーが大きいことにより、ガラス物品の破損に対する耐性、特に度重なる落下や粗面との接触に対する耐性が向上している。本明細書に記載の高い中心張力値は、ガラス基板を、ナトリウムイオン含有の溶融塩浴中で16時間以下の時間にわたりイオン交換処理することによって達成することができる。複数の実施形態において、ガラス物品は、150MPa以上の最大中心張力(最大CT)を有しており、例えば、160MPa以上、170MPa以上、180MPa以上、190MPa以上、200MPa以上、210MPa以上、220MPa以上、230MPa以上、240MPa以上、250MPa以上、260MPa以上、270MPa以上、280MPa以上、290MPa以上、300MPa以上、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の最大中心張力を有している。いくつかの実施形態では、ガラス物品は、400MPa以下の中心張力を有することができ、例えば、390MPa以下、380MPa以下、370MPa以下、360MPa以下、350MPa以下、340MPa以下、330MPa以下、320MPa以下、310MPa以下、300MPa以下、290MPa以下、280MPa以下、270MPa以下、260MPa以下、250MPa以下、240MPa以下、230MPa以下、220MPa以下、210MPa以下、200MPa以下、190MPa以下、180MPa以下、170MPa以下、160MPa以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の中心張力を有することができる。当然ながら、複数の実施形態において、上記のいずれかの範囲を他のいずれかの範囲と組み合わせることができ、ガラス物品は150MPa以上400MPa以下の最大中心張力を有することができ、例えば、160MPa以上390MPa以下、170MPa以上380MPa以下、180MPa以上370MPa以下、190MPa以上360MPa以下、200MPa以上350MPa以下、210MPa以上340MPa以下、220MPa以上330MPa以下、230MPa以上320MPa以下、240MPa以上310MPa以下、250MPa以上300MPa以下、260MPa以上290MPa以下、270MPa以上280MPa以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の最大中心張力を有することができる。
【0091】
本明細書に記載のガラス組成物の高い破壊靭性値は、性能向上を実現するものでもある。ガラス組成物の破壊靭性が高い場合、破壊靭性値の低いガラス組成物に比べて、ガラス物品に対してイオン交換を行う際の耐破損性が向上する。
【0092】
上述したように、圧縮深さは、当技術分野において公知の散乱光偏光器(SCALP)技術を使用して測定することができる。圧縮深さは、本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ガラス物品の厚さ(t)の一部として得られる深さである。複数の実施形態において、ガラス物品は、0.15t以上0.25t以下の圧縮深さ(DOC)を有することができ、例えば、0.16t以上0.24t以下、0.17t以上0.23t以下、0.18t以上0.22t以下、0.19t以上0.21t以下、0.15t以上0.20t以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲の圧縮深さを有することができる。複数の実施形態において、ガラス物品は、0.15t以上の圧縮深さ(DOC)を有することができ、例えば、0.16t以上、0.17t以上、0.18t以上、0.19t以上、0.20t以上、0.21t以上、0.22t以上、0.23t以上、0.24t以上、又は0.24t超の圧縮深さを有することができる。複数の実施形態において、ガラス物品は、100μm以上の圧縮深さ(DOC)を有することができ、例えば、150μm以上又は150μm超の圧縮深さを有することができる。
【0093】
圧縮応力層は、ガラスをイオン交換溶液に曝露することによりガラス中に形成することができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液は、溶融硝酸塩とすることができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液は、ナトリウムイオンを含有する。いくつかの実施形態では、イオン交換溶液は、溶融KNO、溶融NaNO、又はそれらの組み合わせとすることができる。特定の実施形態では、イオン交換溶液は、95%以下の溶融KNOを含むことができ、例えば、90%以下の溶融KNO、80%以下の溶融KNO、70%以下の溶融KNO、60%以下の溶融KNO、50%以下の溶融KNO、40%以下の溶融KNO、30%以下の溶融KNO、20%以下の溶融KNO、10%以下の溶融KNO、又は10%未満の溶融KNOを含むことができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液は、5%以上の溶融NaNOを含むことができ、例えば、10%以上の溶融NaNO、20%以上の溶融NaNO、30%以上の溶融NaNO、40%以上の溶融NaNO、50%以上の溶融NaNO、60%以上の溶融NaNO、70%以上の溶融NaNO、80%以上の溶融NaNO、90%以上の溶融NaNO、又は100%の溶融NaNOを含むことができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液は、90%以下の溶融KNO及び10%以上の溶融NaNOを含むことができ、例えば、80%以下の溶融KNO及び20%以上の溶融NaNO、70%以下の溶融KNO及び30%以上の溶融NaNO、60%以下の溶融KNO及び40%以上の溶融NaNO、50%以下の溶融KNO及び50%以上の溶融NaNO、40%以下の溶融KNO及び60%以上の溶融NaNO、30%以下の溶融KNO及び70%以上の溶融NaNO、20%以下の溶融KNO及び80%以上の溶融NaNO、10%以下の溶融KNO及び90%以上の溶融NaNO、1%以下の溶融KNO及び99%以上の溶融NaNO、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲を含むことができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液に他のナトリウム塩やカリウム塩を用いることもでき、例えば、ナトリウム又はカリウムの亜硝酸塩、リン酸塩、又は硫酸塩を用いることができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液は、LiNOなどのリチウム塩を含むことができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液は、100%NaNOで構成される。なお、本明細書におけるイオン交換溶液の説明は、質量パーセント(質量%)基準で行っている。複数の実施形態において、イオン交換溶液に、ケイ酸などの添加剤が存在することもできる。
【0094】
ガラス組成物のイオン交換溶液への曝露は、ガラス組成物から作製したガラス基板をイオン交換溶液浴に浸す工程、ガラス組成物から作製したガラス基板にイオン交換溶液を吹き付ける工程、又は、その他の方法でガラス組成物から作製したガラス基板にイオン交換溶液を物理的に付着させる工程により行うことができ、これにより、イオン交換ガラス物品を形成することができる。複数の実施形態によれば、ガラス組成物への曝露時のイオン交換溶液の温度は、360℃以上500℃以下とすることができ、例えば、370℃以上490℃以下、380℃以上480℃以下、390℃以上470℃以下、400℃以上460℃以下、410℃以上450℃以下、420℃以上440℃以下、430℃以上、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲とすることができる。
【0095】
複数の実施形態において、イオン交換溶液へのガラス組成物の曝露時間は、16時間以下とすることができ、例えば、15時間以下、14時間以下、13時間以下、12時間以下、11時間以下、10時間以下、9時間以下、8時間以下、7時間以下、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、又は2時間未満とすることができる。複数の実施形態において、イオン交換溶液へのガラス組成物の曝露時間は、1時間以上16時間以下とすることができ、例えば、2時間以上15時間以下、3時間以上14時間以下、4時間以上13時間以下、5時間以上12時間以下、6時間以上11時間以下、7時間以上10時間以下、8時間以上9時間以下、及び上記の値の間のすべての範囲及び部分範囲とすることができる。本明細書に開示のガラス組成物は、ナトリウム含有浴中で16時間以下のイオン交換を行うことにより、高い中心張力値(150MPa以上)を有するガラス物品を実現することができる。
【0096】
イオン交換処理は、イオン交換溶液中で、向上した圧縮応力プロファイルを付与する処理条件の下で行うことができる。そのような圧縮応力プロファイルとしては、例えば、米国特許出願公開第2016/0102011号明細書に開示のプロファイルが挙げられ、そのすべての内容は参照することにより本明細書の一部をなすものとする。いくつかの実施形態では、イオン交換処理は、放物線状の応力プロファイルをガラス物品に形成するように選択することができる。そのような応力プロファイルとしては、例えば、米国特許出願公開第2016/0102014号明細書に開示の応力プロファイルが挙げられ、そのすべての内容は参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0097】
イオン交換処理実施後のイオン交換ガラス物品の表面の組成は、成形時(as-formed)のガラス基板(すなわち、イオン交換処理実施前のガラス基板)の組成とは異なっていることを理解されたい。これは、成形時のガラス基板中の1種類のアルカリ金属イオンが(例えば、Li又はNaが)、より大きなアルカリ金属イオンに(例えば、それぞれNa又はKに)交換されるためである。ただし、複数の実施形態において、ガラス物品の中心又はその近傍におけるガラスの組成は、当該ガラス物品の形成に利用した、イオン交換処理を行っていない成形時のガラス基板の組成をそのまま有していると考えられる。本明細書において、中心(center)とは、ガラス物品の厚さをtとした場合に、ガラス物品のすべての表面から少なくとも0.5tの距離にあるガラス物品内の任意の点を指す。
【0098】
本明細書に開示のガラス物品は、他の物品に組み込むことができる。そのような他の物品としては、例えば、ディスプレイを有する物品(又は、ディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット端末、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどの消費者向け電子機器)や、建築用物品、運輸用物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電化製品物品などの、一定の透明性、耐擦傷性、耐摩耗性、又はそれらの組み合わせを必要とする任意の物品が挙げられる。図2A及び図2Bに、本明細書に開示のガラス物品のいずれかを組み込んだ例示的な物品を示す。具体的には、図2A及び図2Bは消費者向け電子デバイス200を示している。消費者向け電子デバイス200は、前面204、背面206及び側面208を有する筐体202と、筐体の内部に少なくとも一部又は全体が収容され、かつコントローラ、メモリ、及び筐体の前面またはその隣接部に設けられるディスプレイ210を少なくとも備える電気部品(図示せず)と、ディスプレイを覆うように筐体の前面に設けられる又は前面を覆うカバー212と、を備えている。複数の実施形態において、カバー212及び筐体202の少なくとも一方が、その少なくとも一部に、本明細書に開示のガラス物品のいずれかを備えることができる。
【実施例
【0099】
実施形態は、下記の各実施例によりさらに明らかとなるであろう。なお、下記の実施例は、上述の実施形態を限定するものではないことを理解されたい。
【0100】
複数のガラス組成物を調製し、分析を行った。分析は、従来のガラス成形法により調製した、以下の表1に列挙する成分を有するガラス組成物に対して行った。表1において、成分はすべてモル%で示しており、ガラス組成物の歪点、アニール点、軟化点、応力光学係数、屈折率、ポアソン比(ν)、ヤング率(E)、せん断弾性率(G)、及び液相粘度は、本明細書に開示の方法に従って測定した。
【0101】
【表1-1】
【0102】
【表1-2】
【0103】
【表1-3】
【0104】
【表1-4】
【0105】
【表1-5】
【0106】
【表1-6】
【0107】
【表1-7】
【0108】
【表1-8】
【0109】
これらに加えて、以下の表2に列挙する量の成分を含むガラス組成物をさらに調製した。表2において、成分はすべてモル%で示している。
【0110】
【表2-1】
【0111】
【表2-2】
【0112】
【表2-3】
【0113】
【表2-4】
【0114】
【表2-5】
【0115】
【表2-6】
【0116】
【表2-7】
【0117】
【表2-8】
【0118】
【表2-9】
【0119】
【表2-10】
【0120】
【表2-11】
【0121】
表1の組成物から基板を形成後、イオン交換を行って物品例を形成した。イオン交換は、以下の表3に示す時間にわたり、基板を溶融塩浴に浸漬する工程を含むものであった。塩浴は、以下の表3に示す組成(硝酸塩換算)と温度を有していた。そして、本明細書に記載の方法に従って最大中心張力(最大CT)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0122】
【表3-1】
【0123】
【表3-2】
【0124】
【表3-3】
【0125】
【表3-4】
【0126】
本明細書に記載の組成成分、関係、比率は、特に断りのない限り、すべてモル%で記載している。本明細書に開示のすべての範囲は、その範囲の開示箇所の前後にその旨を明記しているか否かにかかわらず、開示した広い範囲が包含するあらゆる範囲及び部分範囲を含むものである。
【0127】
当業者であれば、特許請求の範囲に記載の主題の趣旨及び範囲から逸脱しない範囲で、本明細書に記載の実施形態に種々の変形及び変更を加えることができることは明らかであろう。したがって、本明細書に記載の種々の実施形態の変形及び変更が添付の特許請求の範囲及びその均等物を逸脱しない場合に、そのような変形及び変更も本明細書の範囲に含むことが意図されている。
【0128】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0129】
実施形態1
ガラス系物品であって、
表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域と、
150MPa以上の最大中心張力と、
前記ガラス系物品の中心部の組成と、を有しており、
前記組成が、
30モル%以上のSiO
10モル%以上25モル%以下のLiO、
0モル%以上17モル%以下のCaO、
0モル%以上3モル%以下のKO、及び
0モル%以上14モル%以下のB
を含む、ガラス系物品。
【0130】
実施形態2
前記中心部の前記組成が、0モル%以上11モル%以下のBを含む、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0131】
実施形態3
前記中心部の前記組成が、
57.5モル%以下のSiO
1モル%以上のSrO、及び
0モル%超5モル%以下のB
のうちの少なくとも1つを含む、実施形態1又は2に記載のガラス系物品。
【0132】
実施形態4
前記中心部の前記組成が、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上であることを特徴とする、実施形態1~3のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0133】
実施形態5
前記最大中心張力が200MPa以上である、実施形態1~4のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0134】
実施形態6
前記最大中心張力が300MPa以上である、実施形態1~5のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0135】
実施形態7
500MPa以上の圧縮応力を有している、実施形態1~6のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0136】
実施形態8
前記ガラス系物品の厚さをtとした場合に、前記圧縮深さが0.15t以上である、実施形態1~7のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0137】
実施形態9
放物線状の応力プロファイルを有している、実施形態1~8のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0138】
実施形態10
前面、背面及び側面を有する筐体と、
前記筐体の内部に少なくとも一部が収容される電気部品であって、コントローラ、メモリ、及び前記筐体の前記前面又はその隣接部に設けられるディスプレイを含む電気部品と、
前記ディスプレイを覆うように配置されるカバーと、
を備える消費者向け電子機器製品であって、
前記筐体及び前記カバーの少なくとも一方が、その少なくとも一部に、実施形態1~9のいずれか1つに記載の前記ガラス系物品を備えている、消費者向け電子機器製品。
【0139】
実施形態11
ガラス系基板をイオン交換塩に接触させてガラス系物品を形成する、接触ステップを含む方法であって、
前記ガラス系物品は、表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域と、150MPa以上の最大中心張力と、を有しており、
前記イオン交換塩がナトリウムを含み、
前記ガラス系基板が、
30モル%以上のSiO
10モル%以上25モル%以下のLiO、
0モル%以上17モル%以下のCaO、
0モル%以上3モル%以下のKO、及び
0モル%以上14モル%以下のB
を含む、方法。
【0140】
実施形態12
前記ガラス系基板が、0モル%以上11モル%以下のBを含む、実施形態11に記載の方法。
【0141】
実施形態13
前記ガラス系基板が、
57.5モル%以下のSiO
1モル%以上のSrO、及び
0モル%超5モル%以下のB
のうちの少なくとも1つを含む、実施形態11又は12に記載の方法。
【0142】
実施形態14
前記ガラス系基板が、SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上であることを特徴とする、実施形態11~13のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
実施形態15
前記最大中心張力が200MPa以上である、実施形態11~14のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
実施形態16
前記最大中心張力が300MPa以上である、実施形態11~15のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
実施形態17
前記圧縮応力領域が500MPa以上の圧縮応力を有している、実施形態11~16のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
実施形態18
前記ガラス系物品の厚さをtとした場合に、前記圧縮深さが0.15t以上である、実施形態11~17のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
実施形態19
前記ガラス系物品が放物線状の応力プロファイルを有している、実施形態11~18のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
実施形態20
前記イオン交換塩がNaNOを含む、実施形態11~19のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
実施形態21
前記イオン交換塩が100質量%のNaNOを含む、実施形態11~20のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
実施形態22
前記イオン交換塩が、380℃以上480℃以下の温度の溶融塩浴である、実施形態11~21のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
実施形態23
前記接触ステップが16時間以下の時間にわたる、実施形態11~22のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
実施形態24
ガラスであって、
30モル%以上のSiOと、
10モル%以上25モル%以下のLiOと、
0.5モル%以上17モル%以下のCaOと、
0モル%以上3モル%以下のKOと、
0モル%以上11モル%以下のBと、
57.5モル%以下のSiO
1モル%以上のSrO、及び
0モル%超5モル%以下のB
のうちの少なくとも1つと、を含み、
SiO+B+Al+CaO+SrO+LiO+NaO+KOが99.7モル%以上である、ガラス。
【0153】
実施形態25
57.5モル%以下のSiOを含む、実施形態24に記載のガラス。
【0154】
実施形態26
1モル%以上のSrOを含む、実施形態24又は25に記載のガラス。
【0155】
実施形態27
0モル%超5モル%以下のBを含む、実施形態24~26のいずれか1つに記載のガラス。
【0156】
実施形態28
43モル%以上65モル%以下のSiOを含む、実施形態24~27のいずれか1つに記載のガラス。
【0157】
実施形態29
15モル%以上26モル%以下のAlを含む、実施形態24~28のいずれか1つに記載のガラス。
【0158】
実施形態30
0モル%以上14モル%以下のMgOを含む、実施形態24~29のいずれか1つに記載のガラス。
【0159】
実施形態31
0モル%以上10モル%以下のSrOを含む、実施形態24~30のいずれか1つに記載のガラス。
【0160】
実施形態32
0モル%以上5モル%以下のBaOを含む、実施形態24~31のいずれか1つに記載のガラス。
【0161】
実施形態33
10モル%以上24モル%以下のLiOを含む、実施形態24~32のいずれか1つに記載のガラス。
【0162】
実施形態34
0.5モル%以上9モル%以下のNaOを含む、実施形態24~33のいずれか1つに記載のガラス。
【0163】
実施形態35
0モル%以上1モル%以下のKOを含む、実施形態24~34のいずれか1つに記載のガラス。
【0164】
実施形態36
0モル%以上1モル%以下のTiOを含む、実施形態24~35のいずれか1つに記載のガラス。
【0165】
実施形態37
前記ガラスが0.75MPa√m以上の破壊靭性を有している、実施形態24~36のいずれか1つに記載のガラス。
【0166】
実施形態38
前記ガラスが80GPa以上のヤング率を有している、実施形態24~37のいずれか1つに記載のガラス。
【0167】
実施形態39
該ガラスに対し、100質量%NaNO溶融塩浴中で16時間以下の時間にわたり、イオン交換を行うと、150MPa以上の最大中心張力を示す、実施形態24~38のいずれか1つに記載のガラス。
【符号の説明】
【0168】
100 ガラス物品
110 第1の面
112 第2の面
120 第1の圧縮層
122 第2の圧縮層
130 中心領域
200 消費者向け電子デバイス
202 筐体
204 前面
206 背面
208 側面
210 ディスプレイ
212 カバー
図1
図2A
図2B
【国際調査報告】