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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】水素の電気化学的発生のための電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/097 20210101AFI20230714BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230714BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230714BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20230714BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230714BHJP
   C25B 1/34 20060101ALI20230714BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230714BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230714BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230714BHJP
   B01J 27/057 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C25B11/097
C25B11/052
C25B11/081
C25B11/093
C25B1/04
C25B1/34
C25B9/00 E
B01J37/02 301M
B01J37/08
B01J27/057 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580057
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2021066952
(87)【国際公開番号】W WO2021259914
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】102020000015250
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カルデラーラ, アリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】モーラ, ステファニア
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA17
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC08A
4G169BC12B
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC39A
4G169BC40A
4G169BC41A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BD09A
4G169BD09B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EC28
4G169ED05
4G169EE06
4G169FA02
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC07
4G169FC08
4K011AA10
4K011AA22
4K011AA33
4K011BA07
4K011DA01
4K011DA02
4K021DB18
(57)【要約】
本発明は、電極に関するものであり、特に、ルテニウム及びセレンを含有する外層を含む触媒コーティングを装備した、工業用電気分解プロセスにおける水素の発生のためのカソードとしての使用に適した電極、及びその製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒コーティングを備える金属基材を含む、電気分解的方法におけるガス発生のための電極であって、前記触媒コーティングは、金属又はそれらの酸化物の形態の、貴金属の群から選択される少なくとも1つの元素、並びに任意選択的に、金属又はそれらの酸化物の形態の、希土類の群から選択される1つ又は複数の元素及び/又はアルカリ土類金属の群から選択される元素を含有する内層と、金属又はそれらの酸化物の形態の、前記金属の元素を基準にして80~99.5重量%のルテニウム及び0.5~20重量%のセレンを含む外層と、を含む、電極。
【請求項2】
前記内層の貴金属の群から選択される前記少なくとも1つの元素が、白金及び/又はルテニウムである、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記外層が、前記金属の元素を基準にして90~99重量%のルテニウム及び1~10重量%のセレンを含む、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記内層が、希土類の群から選択される1つ又は複数の元素を含有し、前記内層の希土類の群から選択される前記1つ又は複数の元素が、プラセオジム、セリウム及び/又はランタンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記内層が、ルテニウムと、アルカリ土類金属の群から選択される元素と、を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記触媒コーティングが、金属又はそれらの酸化物の形態の、白金及び/又はパラジウムを含む金属基材と直接接触している更なる層を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
以下の工程:
a.金属基材に、前記内層の成分の前駆体を含有する溶液を塗布する工程と、
b.任意選択で、30~100℃で5~60分間乾燥させる工程と、
c.400~600℃の熱処理により前記溶液を分解する工程と、
d.任意選択で、所望の積載量に達するまで、工程a~cを1回又は複数回繰り返す工程と、
e.前記外層の成分の前駆体を含有する溶液を塗布する工程と、
f.任意選択で、30~100℃で5~60分間乾燥させる工程と、
g.400~600℃の熱処理により前記溶液を分解する工程と、
h.任意選択で、所望の積載量に達するまで、段階e~gを1回又は複数回繰り返す工程と、
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の電極を調製するための方法。
【請求項8】
イオン交換膜又はダイヤフラムによって分離されたアノード区画及びカソード区画を含み、カソード区画が請求項1から6のいずれか一項に記載の電極を装備する、アルカリ塩化物溶液の電気分解のためのセル。
【請求項9】
アルカリブラインから塩素及びアルカリを製造するための電気分解装置であって、セルのモジュール式配置を含み、各セルが請求項8に記載のセルである、電気分解装置。
【請求項10】
ダイヤフラムによって分離されたアノード区画及びカソード区画を含み、カソード区画が請求項1から6のいずれか一項に記載の電極を装備する、水の電気分解による水素の製造のための電気分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、特に、工業用電気分解プロセスにおける水素の発生のためのカソードとしての使用に適した電極、及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素及びアルカリの同時生成のためのアルカリ性ブラインの電気分解、並びに水素及び酸素の生成のための水電気分解のプロセス等の電気分解プロセス産業では、競争力はいくつかの要因に関連しており、その主な要因は、プロセス全体の電流電圧に直接関連するエネルギー消費の削減である。
【0003】
上述の電流電圧の低減は、水素、塩素又は酸素の発生の場合のように、必要な電気化学プロセスを促進するように設計された触媒コーティングを有するアノード及びカソードを使用することによって達成することができる。
【0004】
例えば、アルカリ性ブラインの電気分解の膜プロセスでは、全体的な電圧は、それぞれ塩素及び水素のガス発生の反応に関連する、抵抗降下及び質量輸送、イオン交換膜及び電解質の抵抗、並びにアノード及びカソードの過電圧に関連する要因に依存する。
【0005】
化学的耐性材料の電極を用いて得られるが、炭素の場合のような良好な触媒活性を欠くカソード過電圧は、長い間許容されると考えられてきた。
【0006】
しかしながら、特定の事例では、今日の市場需要はますます高濃度の苛性生成物を得ることに集中しており、これは明らかな腐食問題のために炭素鋼カソードの使用を非現実的にし、更にエネルギー消費及び結果として生じるコストを低減する観点から、水素発生反応の過電圧をますます低減することができる触媒コーティングの研究に注目が集まった。
【0007】
したがって、水素のカソード過電圧を低減することができる触媒コーティングを有する活性化電極の使用が普及しており、ルテニウム又は白金酸化物に基づく触媒コーティングの場合、例えばニッケル、銅又は鋼自体等の金属基材の使用によって良好な結果が得られた。
【0008】
同様の触媒コーティングを有する活性化電極の使用は、貴金属に基づく触媒の使用から生じるコストを補償することができる等のエネルギー節約をもたらした。
【0009】
貴金属に基づく触媒コーティングで活性化された電極を使用する経済的利便性に影響を及ぼす更なる基本的な要因は、高い電流密度における電極の動作寿命に関する。
【0010】
しかし、貴金属に基づく触媒コーティングのほとんどは、工業用プラントで非効率の場合に起こり得る電流逆転の結果として深刻な損傷を被る傾向があり、結果として電極電位の高い値への上昇を伴う、アノード電流への切替えは、白金又はルテニウム酸化物の制御されない溶解を引き起こす可能性がある。
【0011】
この問題の部分的解決は、触媒コーティングの製剤に希土類の群の元素を添加することによって得られた。これらのコーティングを有するカソードは、プラントの通常の動作条件において十分に耐性があることが証明されている。
【0012】
電流逆転に対する耐性の更なる改善は、白金、ロジウム及び/又はパラジウムを含む別個の相からなる触媒コーティングを金属基材に適用することによって得られてきた。しかし、このタイプのコーティングは、触媒相に大量の白金及びロジウムを必要として、かなり高い製造コストを決定する。
【0013】
したがって、先行技術の製剤と比較して、原材料に関して等しいか又はそれより低い総コスト、並びに通常の動作条件以上の偶発的な電流反転に対する持続時間及び耐性を伴う、高い電流密度における改善された触媒活性を特徴とする、工業用電気分解プロセス、特にカソード水素発生を伴う電気分解プロセスのための新しいカソード組成物の必要性が明らかである。
【0014】
米国特許第4,300,992号明細書は、ルテニウムを含有する内層及びセレン外層を含む触媒コーティングを備えた金属基材を含む、電気分解プロセスにおける水素ガス発生のための電極を記載している。米国特許第4,975,161号明細書は、ルテニウム及びセレンを含む単一の触媒コーティングを有する水素ガス発生のための電極を記載している。米国特許出願公開第2014/008215号明細書は、白金層、続いてルテニウム及びプラセオジムを含有する層から作製された触媒コーティングを備えた金属基質を含む水素ガス発生のための電極を記載している。米国特許第3,990,957号明細書は、ルテニウム及びストロンチウムを含む触媒コーティングを備えた金属基材を含む水素ガス発生のための電極を記載している。
【0015】
本発明は、上記の問題を解決することを目的とし、低い水素過電圧及び電気分解を中断した際の電流逆転に対する優れた耐性を特徴とするカソードに関する。本発明はまた、その製造方法及びそれを含有する電気分解装置に関する。
【発明の概要】
【0016】
電気分解プロセスの業界では、電圧の低減において競争力の主な推進要因が求められている。カソードコーティングは、このような電圧の低下を達成するための重要な要素であるが、電圧の改善をもたらす全ての変化は、しばしば、工業用プラントの誤動作の事象において偶発的に起こり得る電流反転に対するより弱いコーティングをもたらす。
【0017】
本発明に記載される触媒コーティングを装備した電極は、最新技術に対して改善されたセル電圧を提供し、逆転に対する耐性に関して最適なロバスト性を維持することによって前述の問題を解決する。
【0018】
第1の態様の下で、本発明は、触媒コーティングを備えた金属基材を含む電気化学的プロセスにおけるガス発生のための電極に関し、当該触媒コーティングは、金属又はそれらの酸化物の形態の、貴金属の群から選択される少なくとも1つの元素、並びに場合により、金属又はそれらの酸化物の形態の、希土類の群から選択される1つ又は複数の元素及び/又はアルカリ土類金属の群から選択される元素を含有する内層と、金属又はそれらの酸化物の形態の、上記金属の元素に対して80~99.5重量%のルテニウム及び0.5~20重量%のセレンを含む外層と、を含む。
【0019】
セレンの使用は、水素カソード過電圧を大幅に低減し、はるかに大量の貴金属を含む触媒組成物の使用によって得られるものに匹敵する安定したセル電圧値に短時間で到達することを可能にする。外層にルテニウムを使用すると、電流逆転に対するコーティングの耐性が向上する。
【0020】
本発明に記載のもののような組成物は、触媒コーティング中の希土類の存在に起因して安定化された多量のルテニウムで得られる最良のものに等しい、シャットダウン事象に対するカソードコーティングの優れたロバスト性を更に得ることを可能にする。
【0021】
本発明によれば、金属基材は、電気化学プロセスのための電極支持体としての使用に適した任意の金属であり得る。特に、カソード用の金属基材としてクロル・アルカリ電気分解及び水電気分解プロセスで使用される。この場合、最も使用される金属基材は、ニッケル、ニッケル合金、銅及び鋼から選択することができる。
【0022】
本発明による電極の一実施形態によれば、当該内層の貴金属の群から選択される当該少なくとも1つの元素は、白金及び/又はルテニウムである。
【0023】
本発明による電極の一実施形態によれば、当該触媒コーティングの当該内層は、60~100重量%のルテニウム及び0~40重量%の希土類の群から選択される金属を含む。
【0024】
希土類の群に属する1つ又は複数の元素の存在は、貴金属のマトリックスを安定化し、制御されない停止事象中に電気分解装置で起こり得る電流反転に対してより耐性にする目的を有する。
【0025】
本発明による電極の一実施形態によれば、当該触媒コーティングの当該外層は、金属を基準にして90~99.5重量%のルテニウム及び0.5~10重量%のセレンを含む。
【0026】
本発明者等は、驚くべきことに、主にルテニウムを含む触媒コーティングに少量であってもセレンを添加することにより、水素発生反応の触媒活性に関して予想外に改善された性能が得られることを観察した。
【0027】
更なる実施形態では、当該触媒コーティングの当該外層は、上記金属を基準にして95~99.5重量%のルテニウム及び0.5~5重量%のセレンを含む組成を有する。
【0028】
更に別の実施形態では、当該触媒コーティングの当該外層は、上記金属を基準にして90~99重量%のルテニウム及び1~10重量%のセレンを含む組成を有する。
【0029】
セレンは、水素発生反応の過電圧を改善する役割を果たす活性成分を構成し、低濃度で存在する場合でも触媒活性の明らかな改善を可能にする。
【0030】
更に、ルテニウムから主に構成されるマトリックス中のセレンの存在は、希土類の群の中から選択された金属の存在と組み合わせて、電極の動作寿命を延ばすという利点を有し、消費された貴金属の量の百分率で表される触媒コーティングの消費量の低減を可能にする。
【0031】
更なる実施形態によれば、本発明は、内層が、希土類の群から選択される1つ又は複数の元素を含有し、希土類の群から選択される金属が、プラセオジム、セリウム及び/又はランタンである、電極に関する。
【0032】
本発明者等によって行われた実験は、プラセオジムが希土類の群に属する他の元素よりも良好な結果を提供することを示したが、本発明はセリウム及び/又はランタンを用いて首尾よく実施することもできる。
【0033】
一実施形態では、当該触媒コーティングの当該内層は、上記金属を基準にして60~90%のルテニウム及び10~40%のプラセオジムを含む重量組成を有し、当該外層は、上記金属を基準にして80~99.5%のルテニウム及び0.5~20%のセレンを含む重量組成を有する。
【0034】
本発明者等は、示された重量組成が、電流逆転に対する優れた耐性と組み合わせて高い触媒活性を付与することができることを見出した。
【0035】
更なる実施形態では、当該触媒コーティングの当該内層は、ルテニウムと、特にストロンチウム、カルシウム及びバリウムから選択されるアルカリ土類金属の群から選択される少なくとも1つの他の元素と、を含む。本発明者等によって行われた実験は、このタイプの製剤が水素過電圧に対する更なる改善を提供し、他の製剤で一般的に観察されるものと比較して改善された時間で定常状態のセル性能の達成も可能にすることを示した。
【0036】
一実施形態では、当該触媒コーティングの当該内層は、金属を基準にして90~99重量%のルテニウム及び1~10重量%のアルカリ土類金属の群から選択される金属を含む組成を有し、当該外層は、金属を基準にして80~99.5重量%のルテニウム及び0.5~20重量%のセレンを含む組成を有する。
【0037】
一実施形態では、当該触媒コーティングは、金属又はそれらの酸化物の形態の、白金及び/又はパラジウムを含む金属基材と直接接触する更なる層を更に含む。これは、電流反転に対する電極の耐性の更なる改善をもたらすことができ、驚くべきことに、大量の白金のみで活性化された電極を特徴付けるものと同様又は更に良好になる。
【0038】
触媒コーティング中に存在する元素は、金属の形態又は酸化物の形態であり得ることを理解されたい。
【0039】
更なる実施形態では、触媒コーティングは、4~15g/mのルテニウムの比積載量を有する。本発明者等は、示された触媒コーティングの場合、ルテニウムに基づく触媒コーティングの先行技術では見られない優れた触媒活性と組み合わせて電流反転に対する良好な耐性を付与するには、ルテニウム積載量の減少が十分すぎるほどであることを見出した。
【0040】
本発明による電極の更なる一実施形態では、好ましい金属基材はニッケル又はニッケル合金である。
【0041】
更なる態様の下で、本発明は、電気分解セルにおけるガス状生成物の発生のための、例えばアルカリ性ブライン電気分解又は水電気分解セルにおける水素発生のための電極の調製方法に関し、以下の段階、
a)金属基材に、当該内層の成分の前駆体を含有する溶液を適用する段階と、
b)30~100℃において5~60分間、任意選択的に乾燥する段階と、
c)400~600℃において熱処理により当該内層の成分の前駆体を含有する当該溶液を分解する段階と、
d)所望の積載量に達するまで、工程a~cを1回又は複数回、任意選択的に繰り返す段階と、
e)当該外層の成分の前駆体を含有する溶液を適用する段階と、
f)30~100℃において5~60分間、任意選択的に乾燥する段階と、
g)400~600℃において熱処理により当該外層の成分の前駆体を含有する当該溶液を分解する段階と、
h)所望の積載量に達するまで、段階e~gを1回又は複数回、任意選択的に繰り返す段階と、
を含む。
【0042】
一実施形態では、当該内層の成分の前駆体を含有する当該溶液は、ルテニウム及び希土類の群から選択される元素の前駆体を含有し、当該外層の成分の前駆体を含有する当該溶液は、ルテニウム及びセレンの前駆体を含有する。
【0043】
更なる実施形態では、当該内層の成分の前駆体を含有する当該溶液は、ルテニウム及びプラセオジムの前駆体を含有し、当該外層の成分の前駆体を含有する当該溶液は、ルテニウム及びセレンの前駆体を含有する。
【0044】
一実施形態では、当該内層の成分の前駆体を含有する当該溶液は、ルテニウム及びアルカリ土類金属の群から選択される元素の前駆体を含有し、当該外層の成分の前駆体を含有する当該溶液は、ルテニウム及びセレンの前駆体を含有する。
【0045】
上記方法の一実施形態によれば、当該方法は、工程(a)の前に、白金を含有する溶液の金属基材と直接接触させて適用する工程と、5~60分からなる時間にわたって30~100℃において任意選択的に乾燥する工程と、400~600℃において熱処理により白金を含有する当該溶液を分解する工程と、を含む更なる工程を含む。
【0046】
更なる態様では、本発明は、イオン交換膜又はダイヤフラムによって分離された、アノード区画及びカソード区画を含むアルカリ塩化物溶液の電気分解のためのセルに関し、カソード区画は、水素発生のためのカソードとして使用される上記の形態のうちの1つの電極を装備する。
【0047】
更なる態様の下で、本発明は、イオン交換膜又はダイヤフラムによって分離されたアノード及びカソード区画を有する電気分解セルのモジュール式配置を含む、アルカリ性ブラインから出発する塩素及びアルカリの製造のための電気分解装置に関し、カソード区画は、カソードとして使用される上記の形態のうちの1つの電極を含む。
【0048】
更なる態様の下で、本発明は、ダイヤフラムによって分離されたアノード区画及びカソード区画を含む、水の電気分解による水素の製造のための電気分解装置に関し、カソード区画は、上記の形態のうちの1つの電極を装備する。
【0049】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を実証するために含まれ、その実用性は、特許請求される値の範囲内で広範囲に試験されている。以下の実施例に記載される組成物及び技術が、本発明者等が本発明の実施においてうまく機能することを見出した組成物及び技術を表すことは、当業者には依然として明らかであるが、当業者はまた、本明細書に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、依然として同一又は同様の結果を生じさせる、記載された様々な実施形態に対して様々な変更を行うことができることを理解するであろう。
【実施例
【0050】
実施例1
100mmx100mmx0.89mmの寸法を有するニッケルメッシュを、当技術分野で公知の手順に従って、コランダムを用いたサンドブラスト、HCl中での酸洗及び熱処理による応力除去のプロセスに供した。
【0051】
95%のRu及び5%のSrに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びストロンチウムの前駆体を含有する溶液を調製した。
【0052】
92%のRu及び8%のSeに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びセレンの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0053】
第1の溶液を6コートでブラッシングすることによってニッケルメッシュに適用した。
【0054】
各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0055】
8g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0056】
続いて、第2の溶液を6コートでブラッシングすることによって適用した。各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0057】
15g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0058】
結果として得られた電極を試料E1とした。
【0059】
実施例2
100mmx100mmx0.89mm2の寸法を有するニッケルメッシュを、当技術分野で公知の手順に従って、コランダムを用いたサンドブラスト、HCl中での酸洗及び熱処理による応力除去のプロセスに供した。
【0060】
83%のRu及び17%のPrに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びプラセオジムの前駆体を含有する溶液を調製した。
【0061】
95%のRu及び5%のSeに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びセレンの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0062】
第1の溶液を5コートでブラッシングすることによってニッケルメッシュに適用した。
【0063】
各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0064】
5g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0065】
続いて、第2の溶液を6コートでブラッシングすることによって適用した。各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0066】
11g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0067】
結果として得られた電極を試料E2とした。
【0068】
実施例3
100mmx100mmx0.89mm2の寸法を有するニッケルメッシュを、当技術分野で公知の手順に従って、コランダムを用いたサンドブラスト、HCl中での酸洗及び熱処理による応力除去のプロセスに供した。
【0069】
84%のRu及び16%のPrに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びプラセオジムの前駆体を含有する溶液を調製した。
【0070】
98.5%のRu及び1.5%のSeに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びセレンの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0071】
第1の溶液を5コートでブラッシングすることによってニッケルメッシュに適用した。
【0072】
各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0073】
5g/mのRu積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0074】
続いて、第2の溶液を5コートでブラッシングすることによって適用した。各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0075】
10.5g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0076】
結果として得られた電極を試料E3とした。
【0077】
反例1
100mmx100mmx0.89mmの寸法を有するニッケルメッシュを、当技術分野で公知の手順に従って、コランダムを用いたサンドブラスト、HCl中での酸洗及び熱処理による応力除去のプロセスに供した。
【0078】
83%のRu及び17%のPrに等しい重量パーセントとして表される組成を有するルテニウム及びプラセオジムの前駆体を含有する100mlの溶液を調製した。
【0079】
次いで、溶液を8コートでブラッシングすることによってニッケルメッシュに適用した。
【0080】
各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0081】
11g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0082】
結果として得られた電極をCE1試料とした。
【0083】
反例2
100mmx100mmx0.89mmの寸法を有するニッケルメッシュを、当技術分野で公知の手順に従って、コランダムを用いたサンドブラスト、HCl中での酸洗及び熱処理による応力除去のプロセスに供した。
【0084】
97%のRu及び3%のSrに等しい重量パーセントで表される組成を有するルテニウム及びストロンチウムの前駆体を含有する100mlの溶液を調製した。
【0085】
次いで、溶液を6コートでブラッシングすることによってニッケルメッシュに適用した。
【0086】
各コーティング後、40~60℃で約10分間乾燥した後、500℃で10分間熱処理した。メッシュは、次のコートを適用する前に毎回空冷した。
【0087】
11g/mの全Ru積載量に達するまで手順を繰り返した。
【0088】
結果として得られた電極をCE2試料とした。
【0089】
上記の実施例の試料を、90℃の温度で32%NaOHを供給した実験用セルにおいて水素発生下での性能試験に供し、更にいくつかの試料を続いて-1~+0.5V/NHEの電位範囲で10mV/sの走査速度でサイクリックボルタンメトリ試験に供した。
【0090】
表1は、9kA/mの電流密度で測定された抵抗降下値に対して補正された初期カソード電位を報告する。
表1:
【0091】
表2は、6kA/mの電流密度で測定された、初期カソード電位並びに反転に対する耐性の指標であるサイクリックボルタンメトリの10及び25サイクル後のカソード電位(10CV、25CV)を報告する。
表2:
【0092】
表3は、定常状態のセル性能に達する時間及び電極の比消費を示し、残留貴金属の割合及び電流反転に対する耐性の更なる指標として表される。8000時間の活性後(HOL)に8kA/mで0.2dmに等しい活性カソード面積を有する実験用膜セルを使用してデータを得た。T=89℃で、NaCl210g/lアノード液、32重量%NaOHカソード液を用いて試験を行った。
表3:
【0093】
前述の説明は、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明は、この目的から逸脱することなく異なる実施形態に従って使用することができ、その範囲は添付の特許請求の範囲によって一義的に定義される。
【0094】
本出願の説明及び特許請求の範囲において、用語「含む(comprises)」及び「含有する(contains)」並びに「含むこと(comprising)」及び「含有すること(containing)」としてのそれらの変形は、他の追加の要素、成分又はプロセス工程の存在を排除することを意図しない。
【0095】
文書の討論、文書、材料、装置、記事等は、本発明に文脈を提供することのみを目的として本文に含まれるが、この事項又はその一部が、本出願に添付された各請求項の優先日より前に本発明に関連する分野における一般的な知識を構成したとは理解されない。
【国際調査報告】