(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】水電解用セパレータ
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20230714BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230714BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C25B13/02 301
C25B1/04
C25B13/08 301
C25B13/08 305
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581387
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2021067951
(87)【国際公開番号】W WO2022002999
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593194476
【氏名又は名称】アグフア-ゲヴエルト,ナームローゼ・フエンノートシヤツプ
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムース,ヴィレム
(72)【発明者】
【氏名】ツディスコ,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェルバエスト,ハンネ
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB40
4K021DB49
(57)【要約】
支持体(10)と、支持体上に設けられた多孔質層(20)とを含むアルカリ電解用セパレータであって、支持体がセパレータから実質的に除去可能であることを特徴とする、アルカリ電解用セパレータ。支持体は、好ましくはアルカリ電解槽の電解質によって除去される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体(10)と、前記支持体上に設けられた多孔質層(20)とを含む水電解用セパレータであって、多孔質支持体がセパレータから実質的に除去可能であることを特徴とする、水電解用セパレータ。
【請求項2】
多孔質支持体が、アルカリ電解槽の電解質によって実質的に除去可能である、請求項に記載のセパレータ。
【請求項3】
多孔質支持体が、電解質によって24~48時間後に実質的に除去可能である、請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
多孔質支持体の厚さが20~400μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項5】
セパレータの厚さが50~500μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項6】
多孔質支持体が、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン又はセルロースを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項7】
第1及び第2の多孔質層が、ポリマー樹脂及び親水性無機粒子を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項8】
ポリマー樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7に記載のセパレータ。
【請求項9】
親水性無機粒子が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化チタン及び硫酸バリウムからなる群の少なくとも1つから選択される、請求項7又は8に記載のセパレータ。
【請求項10】
第1及び第2の多孔質層が、多孔質支持体の一方の側及び他方の側にそれぞれ設けられている、請求項1~9のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項11】
第1の多孔質層と第2の多孔質層が同じである、請求項10に記載のセパレータ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に定義された水電解用セパレータの製造方法であって:- ポリマー樹脂、親水性無機粒子及び溶媒を含むドープ溶液を多孔質支持体上に適用する工程と、
- 適用されたドープ溶液に対して転相を行うことにより、多孔質支持体上に多孔質層を形成する工程とを含む、方法。
【請求項13】
アルカリ溶液中で多孔質支持体をセパレータから実質的に除去する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アルカリ溶液が、50℃以上の温度で10~40重量%のKOH水溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
カソードとアノードとの間に位置する、請求項1~11のいずれか1項に定義されたセパレータを含む、アルカリ水電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解用セパレータの製造方法及びこの方法により得られるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、水素はいくつかの工業プロセス、例えば、化学工業における原料としての、及び冶金工業における還元剤としてのその使用において使用されている。水素は、アンモニア、ひいては肥料、及び多くのポリマーの製造に使用されるメタノールの製造のための基本的な構成単位である。水素が中間油生成物の処理に使用される製油所は、別の使用分野である。
【0003】
水素はまた、重要な将来のエネルギー担体と考えられており、これは水素がエネルギーを使用可能な形態で貯蔵及び送達できることを意味する。酸素との発熱燃焼反応によってエネルギーが放出され、それにより水を形成する。このような燃焼反応の間、炭素を含む温室効果ガスは排出されない。
【0004】
低炭素社会の実現のために、太陽光及び風力等の自然エネルギーを利用した再生可能エネルギーがますます重要になってきている。
【0005】
風力及び太陽光発電システムによる発電は、気象条件に大きく左右されるため、変動が大きく、電気の需要と供給のバランスが崩れてしまう。余剰電力を蓄えるために、電力が水素等の気体燃料を生成するために使用される、いわゆる電力対ガス技術は、近年多くの関心を集めている。再生可能エネルギー源からの電気の生成が増加するにつれて、生成されたエネルギーの貯蔵及び輸送の需要も増加する。
【0006】
アルカリ水電解は、電気が水素に変換される場合がある重要な製造プロセスである。
【0007】
アルカリ水電解セルでは、いわゆるセパレータ又はダイヤフラムを使用して異なる極性の電極を分離して、これらの電子伝導部品(電極)間の短絡を防止し、ガスクロスオーバーを回避することによって(カソードで形成された)水素と(アノードで形成された)酸素との再結合を防止する。これら全ての機能を果たす一方で、セパレータは、カソードからアノードへのヒドロキシルイオンの輸送のための高イオン伝導体であるべきである。
【0008】
セパレータは、典型的には多孔質支持体を含む。このような多孔質支持体は、特許文献1(Hydrogen Systems)に開示されているように、セパレータを補強し、セパレータの操作及び電解槽へのセパレータの導入を容易にする。
【0009】
好ましい多孔質支持体は、高温高濃度アルカリ溶液に対する耐性が高いため、ポリプロピレン(PP)又はポリフェニレンスルフィド(PPS)から調製される。
【0010】
特許文献2(VITO)は、強化セパレータを調製するプロセスを開示している。このプロセスは、対称的な特性を有する膜をもたらす。このプロセスは、ウェブとしての多孔質支持体及び適切なドープ溶液を提供する工程と、ウェブを垂直位置に案内する工程と、ウェブの両側をドープ溶液で等しくコーティングして、ウェブでコーティングされた支持体を生成する工程と、ドープでコーティングされたウェブに、対称的な表面細孔形成工程及び対称的な凝固工程を適用して、強化膜を生成する工程とを含む。
【0011】
特許文献3及び特許文献4(Agfa Gevaert及びVITO)は、特許文献2に記載されているような対称特性を有する強化膜を製造するための製造方法を開示している。
【0012】
しかしながら、多孔質支持体は、セパレータを通るイオン伝導性を低下させ、従って、電解プロセスの効率を低下させる場合がある。
【0013】
従って、高いイオン伝導性と組み合わせて十分な機械的品質を有するセパレータが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第232923号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1776490号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/147084号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/147086号パンフレット
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、十分な機械的品質及び改善されたイオン伝導性を有するセパレータを提供することである。
【0016】
この目的は、請求項1に定義されるセパレータによって実現される。
【0017】
本発明の別の目的は、そのようなセパレータを製造する方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明によるセパレータの一態様を概略的に示す。
【
図2】本発明によるセパレータの別の態様を概略的に示す。
【
図3】本発明によるセパレータの製造方法の一態様を概略的に示す。
【
図4】本発明によるセパレータの調製方法の別の態様を概略的に示す。
【
図5】アルカリ電解槽のための膜電極アセンブリの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
水電解用セパレータ
本発明による水電解用セパレータ、好ましくはアルカリ水電解用セパレータは、多孔質支持体(10)及び多孔質層(20)を含み、多孔質支持体は、セパレータから実質的に除去することができることを特徴とする。
【0021】
多孔質支持体は、好ましくはアルカリ溶液によって、より好ましくはアルカリ電解槽の電解質によって除去される。
【0022】
アルカリ電解槽のアルカリ溶液又は電解質は、好ましくは10~40重量%、より好ましくは20~35重量%のKOH水溶液である。特に好ましいアルカリ溶液又は電解質は、30重量%のKOH水溶液である。
【0023】
アルカリ溶液又は電解質の温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上である。
【0024】
多孔質支持体の除去は、好ましくは、アルカリ溶液又は電解槽内で使用される電解質による支持体の溶解又は支持体の分解の結果である。
【0025】
多孔質支持体は、一時的な支持体である。一時的支持体は、その製造プロセス、即ち以下に記載されるコーティング工程及び/又は凝固工程において、セパレータに支持及び強度を与えるために使用される。製造プロセスにおける一時的支持体によるセパレータの補強はまた、セパレータの洗浄、巻き戻し等を容易にする。
【0026】
一時的支持体はまた、例えばセパレータが異なるフォーマットに切断される変換プロセスにおいて、及びセパレータがアルカリ電解槽の電極間に導入される組立プロセスにおいて、セパレータに強度及び引裂抵抗を与える。
【0027】
一時的支持体は、アルカリ電解槽の電解質によって実質的に除去される。
【0028】
アルカリ電解槽の電解セル内に配置されると、多孔質支持体によるセパレータの補強はもはや必要ではない。特に、以下に記載するいわゆるゼロギャップ構成において、セパレータは気泡を逃がすことによって振動せず、従って、セパレータに亀裂又は引裂をもたらし得る疲労を被らない。従って、本発明によるセパレータは、好ましくは、このようなゼロギャップ構成の膜電極アセンブリに使用される。
【0029】
上述のように、セパレータを補強するための多孔質支持体の存在は、セパレータを通るイオン伝導性に悪影響を及ぼす場合がある。好ましくは、一時的支持体の除去後、セパレータのイオン伝導性は増加する。
【0030】
アルカリ電解槽の電解質による支持体の除去後の支持体からの溶解材料又は支持体の分解生成物は、好ましくは電極の電気触媒特性又は電解プロセスに悪影響を及ぼさない。
【0031】
支持体は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%がアルカリ電解槽のアルカリ溶液又は電解質によって除去される。最も好ましい態様では、支持体は、アルカリ電解槽の電解質によって完全に除去される。
【0032】
好ましくは、支持体は、アルカリ電解槽のアルカリ溶液又は電解質中に24~48時間存在した後に実質的に除去される。しかしながら、支持体はまた、アルカリ電解槽のアルカリ溶液又は電解質中で2週間又は1ヶ月後に実質的に除去される場合がある。
【0033】
しかしながら、一時的支持体は、セパレータの製造方法において使用される成分、特に溶媒に耐える必要がある。
【0034】
例えば、一時的支持体は、ドープ溶液を一時的支持体上に適用するコーティング工程を可能にするために、以下に記載されるセパレータの製造方法で使用されるドープ溶液の溶媒に対して、好ましくは少なくとも0.5分間、より好ましくは少なくとも1分間、最も好ましくは少なくとも2分間、特に好ましくは少なくとも5分間、耐性である必要がある。
【0035】
以下に記載される凝固工程の後、ドープ溶液の溶媒が除去され、支持体にもはや影響を及ぼさない非常に低い残留量(好ましくは<10g/m2、より好ましくは<5g/m2)をもたらす。
【0036】
以下により詳細に記載するように、好ましいセパレータは、ポリマー樹脂、親水性無機
粒子及び溶媒を含む、一般にドープ溶液と称されるコーティング溶液を、多孔質支持体の一方又は両方の表面上に適用することによって調製される。次いで、ポリマー樹脂が三次元多孔質ポリマーネットワークを形成する転相工程の後に多孔質層が得られる。
【0037】
多孔質支持体の表面上にドープ溶液を適用すると、ドープ溶液は支持体に含浸する。多孔質支持体は、好ましくは完全に又は部分的に、ドープ溶液を50重量%超含浸させる。
【0038】
2つのドープ溶液が多孔質支持体の両表面上に適用される場合、両方のドープ溶液が支持体に含浸する。また、この態様では、ドープ溶液が完全に又は部分的に50%超含浸した支持体が好ましい。
【0039】
転相後、支持体の含浸は、三次元多孔質ポリマーネットワーク構造が支持体内にも延在することを確実にする。これは、多孔性親水性層と支持体との間の良好な接着をもたらす。
【0040】
好ましいセパレータ(1)を
図1に概略的に示す。
ドープ溶液20aが多孔質支持体(10)の片側に適用されており、支持体は好ましくは適用されたドープ溶液で完全に含浸されている。転相工程(50)の後、支持体(10)及び多孔質層(20b)を含むセパレータ(1)が得られる。
多孔質支持体は、任意的に、セパレータ(1)をアルカリ溶液(60)で処理してセパレータ(2)を得ることによって、電解槽スタックに組み立てる前に除去される場合がある。
【0041】
別の好ましいセパレータ(1’)を
図2に概略的に示す。
ドープ溶液は多孔質支持体(10)の両側に適用されており、支持体は、好ましくは適用されたドープ溶液で完全に含浸されている。適用されたドープ層は、20a及び30aと称される。
転相工程(50)の後、支持体(10)及び多孔質支持体の両側に多孔質層(20b、30b)を含むセパレータ(1’)が得られる。
多孔質支持体は、任意的に、セパレータ(1’)をアルカリ溶液(60)で処理してセパレータ(2’)をもたらすことによって除去される場合がある。
【0042】
セパレータの細孔径は、ガスクロスオーバーを回避することによって水素と酸素との再結合を防止するために、十分に小さくなければならない。一方、カソードからアノードへのヒドロキシルイオンの効率的な輸送を確実にするために、より大きい細孔径が好ましい。ヒドロキシルイオンの効率的な輸送は、電解質のセパレータへの効率的な浸透を必要とする。
【0043】
セパレータの最大細孔径(PDmax)は、好ましくは0.05~2μm、より好ましくは0.10~1μm、最も好ましくは0.15~0.5μmである。
【0044】
セパレータの両側は、同一又は異なる最大細孔径を有する場合がある。
【0045】
両側が同一の細孔径を有する好ましいセパレータは、上述の特許文献2及び特許文献3に開示されている。
【0046】
両側が異なる細孔径を有する好ましいセパレータは、欧州特許出願公開第3652362号に開示されている。第1の多孔質層の外表面における最大細孔径PDmax(1)は、好ましくは0.05~0.3μm、より好ましくは0.08~0.25μm、最も好ましくは0.1~0.2μmであり、第2の多孔質層の外表面における最大細孔径PDma
x(2)は、好ましくは0.2~6.5μm、より好ましくは0.2~1.50μm、最も好ましくは0.2~0.5μmである。
PDmax(2)とPDmax(1)との比は、好ましくは1.1~20、より好ましくは1.25~10、最も好ましくは2~7.5である。
より小さいPDmax(1)は、水素と酸素の効率的な分離を確実にする一方、より小さいPDmax(2)は、セパレータ中の電解質の良好な浸透を確実にし、十分なイオン伝導性をもたらす。
【0047】
言及される細孔径は、好ましくは米国材料試験協会標準(ASMT)法F316に記載されているバブルポイント試験法を用いて測定される。
【0048】
セパレータの多孔度は、好ましくは30~70%、より好ましくは40~60%である。上記の範囲の多孔度を有するセパレータは、一般に、ダイヤフラムの細孔が電解質溶液で連続的に満たされているため、優れたイオン透過性、及び優れたガスバリア性を有する。
【0049】
セパレータの厚さは、好ましくは50~500μm、より好ましくは75~250μm、最も好ましくは100~200nmである。
【0050】
多孔質支持体
支持体の厚さは、好ましくは20μm~400μm、より好ましくは40μm~200μm、最も好ましくは60μm~100μmである。
【0051】
一時的支持体は電解槽内で除去されるので、高アルカリ性電解質溶液に対して耐性である必要はない。
【0052】
支持体は、好ましくは、特許文献2及び特許文献3に開示されているような製造プロセスを可能にする連続ウェブである。
【0053】
ウェブは、好ましくは30~300cm、より好ましくは40~200cmの幅を有する。
【0054】
一時的支持体は、好ましくは多孔質ポリマー布である。多孔質ポリマー布は、織布又は不織布である場合がある。
【0055】
アルカリ処理後にセパレータから除去される場合がある布を設計するために、以下のアプローチが好ましい:
- 布繊維の主ポリマーにアルカリ可溶化基を導入すること;
- 布繊維の主ポリマーにアルカリ反応性基を導入すること;及び
- 布繊維の主ポリマーの主鎖にアルカリ分解性官能基を導入すること。
【0056】
好ましいアルカリ可溶化基は、10以下、より好ましくは8以下、最も好ましくは6以下のpKaを有する官能基である。特に好ましいアルカリ可溶化基は、フェノール、スルホンアミド、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステル及びスルホン酸からなる群から選択され、カルボン酸が特に好ましい。
【0057】
好ましいアルカリ反応性基は、エステル及び無水物からなる群から選択され、エステルが特に好ましい。
【0058】
好ましいアルカリ分解性基はエステルである。
【0059】
布繊維は、天然ポリマー、合成ポリマー又はそれらの組み合わせから選択することができる。布は、好ましくは、綿布、絹布、亜麻布、ジュート布、麻布、モーダル布、竹布、パイナップル布、玄武岩布、ラミー布、ポリエステルベースの布、アクリルベースの布、ガラス繊維布、アラミド繊維布、ポリアミド布、ポリオレフィン布、ポリウレタン布及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0060】
アルカリ可溶性布を設計するためのいくつかの戦略が開示されている。
【0061】
後修飾によって綿をアルカリ可溶性にすることは、American Dyestuff Reporter,50(19),67-74(1961)及び米国特許第3087775号(US Department of Agriculture)に開示されているように、アルカリ可溶性セルロースベースの布を設計するために使用される長く知られた戦略である。低官能化カルボキシメチルセルロースタイプのポリマーが特に好ましい。
【0062】
ポリアミドは、米国特許第5457144号(Rohm and Haas Company)に開示されているように、アルカリ分解性官能基、例えば特定のエステルで主鎖において官能化して、アルカリ可溶性ポリアミドを設計することができる。
【0063】
ポリオレフィンは、好ましくは無水物及びカルボン酸からなる群から選択される、アルカリ反応性基又はアルカリ可溶化基を含むモノマーで官能化又は共重合することができる。無水マレイン酸でグラフト官能化された、エチレンとアクリル酸又はメタクリル酸とポリエチレンとのコポリマーは、特に好ましい官能化ポリオレフィンである。
【0064】
最も好ましい態様では、布はポリ(エステル)ベースであり、これは、それが固有のアルカリ分解性を有するためである。特に好ましいポリ(エステル)は、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)及びそれらのコポリマーからなる群から選択される。ポリ(乳酸)は、その生分解性及び再生可能資源からのその製造のために特に好ましい。
【0065】
アルカリ溶解性及び分解性が増強されたポリ(エステル)を設計するための戦略が開示されており、それらは、任意的に中国特許第1439751号(Jinan Zhenghao Advanced Fiber Co.)及び韓国特許第2018110827号(Toray Chemical Korea Inc.)に開示されている追加の水可溶化基の導入と組み合わせた、特許第7145509号(Toyo Boseki)に開示されている親水性ブロック、好ましくはポリ(エチレングリコール)断片のポリ(エステル)構造への導入に基づく。さらなる戦略は、ポリ(エステル)主鎖中への反応性エステル、例えばシュウ酸エステルの導入に基づくことができ、これにより、繊維はアルカリ処理に対してより敏感になる。
【0066】
別の好ましい多孔質支持体は、いわゆるサーモトロピック液晶ポリマー(TLCP)-NBC Meshtecから入手可能なポリアリレートメッシュである。例えば、TLCP-0053/47PWは、80℃で30% KOH溶液に1週間後に溶解することが観察されている。
【0067】
ポリマー布は、単独で使用される場合があり、又は2つ以上のポリマー布の組み合わせを使用して支持体を製造する場合がある。
【0068】
多孔質支持体はまた、電解質溶液中で可溶化又は崩壊しない布を含む場合がある。例え
ば、上述のように電解質溶液中で可溶化又は崩壊する糸と、電解質溶液中で可溶化又は崩壊しない糸との両方を含有する布を使用する場合がある。
【0069】
多孔質支持体は、電解質溶液中で可溶化又は崩壊しない糸に対する、上述したような電解質溶液中で可溶化又は崩壊する糸の比が、少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%である布であってもよい。
【0070】
布を構成する糸の少なくとも25重量%が電解槽内で溶解又は崩壊するセパレータは、布が電解槽内で無傷のままであるセパレータと比較して、より高いイオン伝導性を有するであろう。
【0071】
例えば、ポリエステルの糸及びPPSの糸から構成される布が使用される場合がある。
【0072】
ポリマー樹脂
多孔質層は、ポリマー樹脂を含む。
【0073】
ポリマー樹脂は三次元多孔質ネットワークを形成し、これは、以下に記載されるように、セパレータの調製における転相工程の結果である。
【0074】
ポリマー樹脂は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリスチレン(PS)等の芳香族炭化水素樹脂から選択される場合がある。ポリマー樹脂は、単独で使用される場合があり、又はポリマー樹脂の2種以上が組み合わせで使用される場合がある。
【0075】
PVDF及びフッ化ビニリデン(VDF)-コポリマーは、それらの耐酸化性/還元性及びフィルム形成特性のために好ましい。これらの中で、VDF、ヘキサンフルオロプロピレン(HFP)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のターポリマーが、それらの優れた膨潤特性、耐熱性及び電極への接着性のために好ましい。
【0076】
別の好ましいポリマー樹脂は、その優れた耐熱性及び耐アルカリ性のために芳香族炭化水素樹脂である。芳香族炭化水素樹脂の例は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリアクリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドを含む。
【0077】
特に好ましいポリマー樹脂は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群から選択され、ポリスルホンが最も好ましい。
【0078】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンの分子量(Mw)は、好ましくは10000~500000、より好ましくは25000~250000である。Mwが低すぎると、多孔質層の物理的強度が不十分となる場合がある。Mwが高すぎると、ドープ溶液の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0079】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びそれらの組み合わせの例は、欧州特許出願公開第3085815号、段落[0021]~[0032]に開示されている。
【0080】
ポリマー樹脂は、単独で使用される場合があり、又は2種以上のポリマー樹脂が組み合わせで使用される場合がある。
【0081】
無機親水性粒子
また親水性層は、親水性粒子を含む。
【0082】
好ましい親水性粒子は、金属酸化物及び金属水酸化物から選択される。
【0083】
好ましい金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化セリウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される。
【0084】
好ましい金属水酸化物は、水酸化ジルコニウム、水酸化チタン、水酸化ビスマス、水酸化セリウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される。特に好ましい水酸化マグネシウムは、欧州特許出願公開第3660188号、段落[0040]~[0063]に開示されている。
【0085】
他の好ましい親水性粒子は、硫酸バリウム粒子である。
【0086】
使用される場合がある他の親水性粒子は、周期表のIV族元素の窒化物及び炭化物である。
【0087】
親水性粒子は、好ましくは、0.05~2.0μm、より好ましくは0.1~1.5μm、最も好ましくは0.15~1.00μm、特に好ましくは0.2~0.75μmのD50粒子サイズを有する。D50粒子サイズは、好ましくは0.7μm以下、好ましくは0.55μm以下、より好ましくは0.40μm以下である。
【0088】
D50粒子サイズは、粒子サイズ分布の中央径又は中間値としても知られている。D50粒子サイズは、累積分布における50%の粒径の値である。例えば、D50=0.1umの場合、粒子の50%は1.0umより大きく、50%は1.0umより小さい。
【0089】
D50粒子サイズは、好ましくは、レーザー回折を用いて、例えばMalvern PanalyticalからのMastersizerを使用して測定される。
【0090】
多孔質層の総乾燥重量に対する親水性粒子の量は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%である。
【0091】
ポリマー樹脂に対する親水性粒子の重量比は、好ましくは60/40より大きく、より好ましくは70/30より大きく、最も好ましくは75/25より大きい。
【0092】
セパレータの調製
アルカリ水電解用セパレータの製造方法は:
- 以下に記載のドープ溶液を、上述の多孔質支持体上に適用する工程と、
- 適用されたドープ溶液を転相に供する工程と、を含む。
【0093】
別の態様では、セパレータの製造方法は、転相工程の後に形成されたセパレータをアルカリ溶液で処理することによって多孔質支持体を除去する工程をさらに含む。
【0094】
ドープ溶液は、支持体の片側又は支持体の両側に適用される場合がある。ドープ溶液が支持体の両側に適用される場合、支持体の両側に適用されるドープ溶液は、同じであっても異なっていてもよい。
【0095】
強化セパレータの好ましい製造方法は、特許文献1に開示されている。ドープ溶液をまず、不活性平坦基材、例えばガラス又はPET上に適用する。次いで、支持体をドープ溶
液中に浸漬する。転相工程の後、得られたセパレータを不活性平坦基材から除去する。
【0096】
強化セパレータを製造する別の好ましい方法が、対称セパレータに関する特許文献2及び特許文献3、並びに非対称セパレータに関するPCT/EP2018/068515(2018年7月9日出願)に開示されており、ここでドープ溶液はコーティングによって支持体上に適用される。これらの方法は、ウェブ補強セパレータをもたらし、ウェブ、即ち多孔質支持体は、セパレータの表面にウェブが出現することなく、セパレータに良好に埋め込まれている。
【0097】
使用される場合がある他の製造方法は、欧州特許出願公開第3272908号に開示されている。
【0098】
ドープ溶液
ドープ溶液は、好ましくは上述のようなポリマー樹脂、上述のような親水性粒子、及び溶媒を含む。
【0099】
ドープ溶液の溶媒は、ポリマー樹脂を溶解させることができる有機溶媒であることが好ましい。さらに、有機溶媒は、水に混和性であることが好ましい。
【0100】
溶媒は、好ましくは、N-メチル-ピロリドン(NMP)、N-エチル-ピロリドン(NEP)、N-ブチル-ピロリドン(NBP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリル、及びそれらの混合物から選択される。
【0101】
特に健康上及び安全上の理由から、非常に好ましい溶媒はNBPである。
【0102】
ドープ溶液は、得られるポリマー層の特性、例えば、それらの多孔性及びそれらの外表面における最大細孔径を最適化するために、他の成分をさらに含む場合がある。
【0103】
ドープ溶液は、好ましくは、多孔質層の表面及び内部の細孔サイズを最適化するための添加剤を含む。そのような添加剤は、有機若しくは無機化合物、又はそれらの組み合わせである場合がある。
【0104】
多孔質層中の細孔形成に影響を及ぼす場合がある有機化合物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセロール、多価アルコール、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、イソノナン酸又はネオデカン酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、メチルセルロース及びデキストランを含む。
【0105】
多孔質層中の細孔形成に影響を及ぼす場合がある好ましい有機化合物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドンから選択される。
【0106】
好ましいポリエチレングリコールは10000~50000の分子量を有し、好ましいポリエチレンオキシドは50000~300000の分子量を有し、好ましいポリビニルピロリドンは30000~1000000の分子量を有する。
【0107】
多孔質層中の細孔形成に影響を及ぼす場合がある特に好ましい有機化合物は、グリセロールである。
【0108】
細孔形成に影響を及ぼす場合がある化合物の量は、ドープ溶液の総重量に対して、好ましくは0.1~15重量%、より好ましくは0.5~5重量%である。
【0109】
細孔形成に影響を及ぼす場合がある無機化合物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム及び硫酸バリウムを含む。
【0110】
細孔形成に影響を及ぼす2つ以上の添加剤の組み合わせを使用してもよい。
【0111】
多孔質支持体上に2つのポリマー層が適用される場合、両方の層に使用されるドープ溶液は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0112】
ドープ溶液の適用
ドープ溶液は、いずれかのコーティング又はキャスティング技術によって多孔質支持体の表面上に適用される場合がある。
【0113】
しかしながら、ドープ溶液はまた、上述され、特許文献1に開示されているように、支持体をドープ溶液に浸漬することによって適用される場合がある。
【0114】
好ましいコーティング技術は、例えば押出コーティングである。
【0115】
非常に好ましい態様では、ドープ溶液はスロットダイコーティング技術によって適用される。ドープ溶液が支持体の片側に適用される場合、典型的には、1つのスロットコーティングダイが使用される。ドープ溶液が支持体の両側に適用される場合、支持体の両側に位置する2つのスロットコーティングダイが好ましい。
(
図3及び4、200及び300)。スロットコーティングダイは、ドープ溶液を所定の温度で保持し、ドープ溶液を支持体上に均一に分配し、適用されるドープ溶液のコーティング厚さを調整することができる。
【0116】
ドープ溶液の粘度は、スロットダイコーティング技術で使用される場合、コーティング温度及び1s-1の剪断速度で、好ましくは1~500Pa.s、より好ましくは10~100Pa.sである。
【0117】
ドープ溶液は、好ましくは剪断減粘性である。剪断速度100s-1での粘度に対する剪断速度1s-1での粘度の比は、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも2.5、最も好ましくは少なくとも5である。
【0118】
支持体は、好ましくは連続ウェブであり、これは
図3及び
図4に示すように、スロットコーティングダイ(200、300)の間を下方に輸送される。
【0119】
適用の直後に、支持体は好ましくはドープ溶液で含浸される。
【0120】
好ましくは、支持体は適用されたドープ溶液で完全に含浸される。
【0121】
転相工程
支持体上にドープ溶液を適用した後、適用されたドープ溶液を転相に供する。転相工程では、適用されたドープ溶液を多孔質親水性層に変換する。
【0122】
適用されたドープ溶液から多孔質親水性層を調製するために、いずれの転相機構も使用してよい。
【0123】
転相工程は、好ましくは、いわゆる液体誘導相分離(LIPS)工程、蒸気誘導相分離(VIPS)工程、又はVIPS工程とLIPS工程の組み合わせを含む。転相工程は、VIPS工程とLIPS工程の両方を含むことが好ましい。
【0124】
LIPS及びVIPSの両方は、非溶媒誘導転相プロセスである。
【0125】
LIPS工程では、ドープ溶液でコーティングされた支持体を、ドープ溶液の溶媒と混和性である非溶媒と接触させる。
【0126】
典型的には、これはドープ溶液でコーティングされた支持体を、凝固浴とも呼ばれる非溶媒浴中に浸漬することによって行われる。
【0127】
非溶媒は、好ましくは、水、水と、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルアセトアミド(DMAC)からなる群から選択される非プロトン性溶媒との混合物、PVP若しくはPVA等の水溶性ポリマーの水溶液、又は水とエタノール、プロパノール若しくはイソプロパノール等のアルコールとの混合物である。
【0128】
非溶媒は、最も好ましくは水である。
【0129】
水浴の温度は、好ましくは20~90℃、より好ましくは40~70℃である。
【0130】
コーティングされたポリマー層から非溶媒浴への、及び非溶媒からポリマー層への溶媒の移動は、転相及び三次元多孔質ポリマーネットワークの形成をもたらす。適用されたドープ溶液の支持体への含浸は、得られた親水性層の支持体上への十分な接着をもたらす。
【0131】
好ましい態様では、ドープ溶液で片側又は両側にコーティングされた連続ウェブ(100)が、
図3及び
図4に示すように、凝固浴(800)に向かって、垂直位置で下方に輸送される。
【0132】
VIPS工程では、ドープ溶液でコーティングされた支持体は、非溶媒蒸気、好ましくは湿潤空気に曝露される。
【0133】
好ましくは、凝固工程は、VIPS工程とLIPS工程の両方を含んだ。好ましくは、ドープ溶液でコーティングされた支持体は、凝固浴中に浸漬する(LIPS工程)前に、まず湿潤空気に曝露される(VIPS工程)。
【0134】
図3に示す製造方法では、VIPSは、スロットコーティングダイ(200、300)と凝固浴(800)中の非溶媒の表面との間の領域400において行われ、この領域は例えば断熱金属板(500)を用いて環境から遮蔽される。
【0135】
VIPS工程における水の移動の程度及び速度は、空気の速度、空気の相対湿度及び温度、並びに曝露時間を調整することによって制御することができる。
【0136】
曝露時間は、スロットコーティングダイ(200、300)と凝固浴(800)中の非溶媒の表面との間の距離d、及び/又は細長いウェブ100がスロットコーティングダイから凝固浴に向かって輸送される速度を変化させることによって調整される場合がある。
【0137】
VIPS領域(400)内の相対湿度は、凝固浴の温度、並びに環境及び凝固浴からのVIPS領域(400)の遮蔽によって調整される場合がある。
【0138】
空気の速度は、VIPS領域(400)内のベンチレータ(420)の回転速度によって調整される場合がある。
【0139】
セパレータの一方の側及びセパレータの他方の側で行われ、第2の多孔質ポリマー層をもたらすVIPS工程は、互いに同一(
図3)であってもよく、又は異なる(
図4)ものであってもよい。
【0140】
転相工程、好ましくは凝固浴中のLIPS工程の後、洗浄工程を行う場合がある。
【0141】
転相工程又は任意的な洗浄工程の後、乾燥工程を行うことが好ましい。
【0142】
一時的支持体の除去
一時的支持体は、セパレータを電解槽の電極間に配置する前又は配置した後に除去される場合がある。
【0143】
セパレータをアルカリ電解槽内に置く前に一時的支持体を除去する場合、支持体の除去後のアルカリ電解槽の電解質による多孔質支持体からの溶解材料又は多孔質支持体の分解生成物は、電極の電気触媒特性又は電解プロセスに悪影響を及ぼさないであろう。しかしながら、支持体が電解槽の外部で除去される場合、電解槽スタックを組み立てるときにセパレータシートを操作又は取り扱うための余分な補強の利点は存在しないであろう。
【0144】
多孔質支持体を含む強化セパレータは、好ましくは、転相工程後にアルカリ溶液に供される。
【0145】
好ましくは、多孔質支持体を含むセパレータは、アルカリ溶液を含む浴に入れられる。
【0146】
支持体が除去されるアルカリ処理の後、得られたセパレータは好ましくは洗浄工程に供され、任意的に、その後、乾燥工程に供される。
【0147】
アルカリ溶液は、好ましくは20~40重量%のKOH水溶液、より好ましくは30重量%のKOH水溶液である。
【0148】
アルカリ溶液の温度は、好ましくは少なくとも50℃である。
【0149】
セパレータの製造
図3及び
図4は、本発明によるセパレータを製造するための好ましい態様を概略的に示す。
【0150】
多孔質支持体は、好ましくは連続ウェブ(100)である。
【0151】
ウェブは、供給ローラ(600)から巻き出され、2つのコーティングユニット(200)と(300)との間の垂直位置で下方に案内される。
【0152】
これらのコーティングユニットでは、ドープ溶液がウェブの両側にコーティングされる。ウェブの両側のコーティング厚さは、ドープ溶液の粘度及びコーティングユニットとウェブの表面との間の距離を最適化することによって調整される場合がある。好ましいコーティングユニットは、欧州特許出願公開第2296825号、段落[0043]、[0047]、[0048]、[0060]、[0063]、及び
図1に記載されている。
【0153】
次いで、ドープ溶液で両側がコーティングされたウェブは、凝固浴(800)に向かって下方に距離dにわたって輸送される。
【0154】
凝固浴内では、LIPS工程が行われる。
【0155】
VIPS工程は、凝固浴に入る前にVIPS領域内で行われる。
図3では、VIPS領域(400)はコーティングされたウェブの両側で同一であるが、
図4では、VIPS領域(400(1))と(400(2))は、コーティングされたウェブの両側で異なっている。
【0156】
VIPS領域内の相対湿度(RH)及び気温は、断熱金属板を使用して最適化される場合がある。
図3では、VIPS領域(400)は、そのような金属板(500)によって環境から完全に遮蔽されている。従って、RH及び気温は、主に凝固浴の温度によって決定される。VIPS領域内の空気速度は、ベンチレータ(420)によって調整される場合がある。
【0157】
図4では、VIPS領域(400(1))と(400(2))は互いに異なっている。金属板(500(1))を含むコーティングされたウェブの一方の側のVIPS領域(400(1))は、
図2のVIPS領域(400)と同一である。コーティングされたウェブの他方の側のVIPS領域(400(2))は、領域(400(1))とは異なっている。VIPS領域(400(2))を環境から遮蔽する金属板は存在しない。しかしながら、VIPS領域(400(2))は、ここでは断熱金属板(500(2))によって凝固浴から遮蔽されている。さらに、VIPS領域400(2)内にはベンチレータが存在しない。このことは、他方のVIPS領域(400(2))のRH及び気温と比較して、より高いRH及び気温を有するVIPS領域(400(1))をもたらす。
【0158】
VIPS領域内の高いRH及び/又は高い空気速度は、典型的には、より大きい最大細孔径をもたらす。
【0159】
1つのVIPS領域内のRHは、好ましくは85%超、より好ましくは90%超、最も好ましくは95%超である一方、別のVIPS領域内のRHは、好ましくは80%未満、より好ましくは75%未満、最も好ましくは70%未満である。
【0160】
相分離工程の後、強化セパレータは、次いで巻き上げシステム(700)に輸送される。
【0161】
セパレータの片側にライナーを提供した後、セパレータ及び適用されたライナーを巻き上げる場合がある。
【0162】
電解槽
本発明によるアルカリ水電解用セパレータは、アルカリ水電解槽内で使用される場合がある。
【0163】
電解セルは、典型的には、セパレータによって分離された2つの電極、アノード及びカソードからなる。電解質は、両方の電極間に存在する。
【0164】
電解セルに電気エネルギー(電圧)が印加されると、電解質のヒドロキシルイオンがアノードで酸素に酸化され、カソードで水が水素に還元される。カソードで形成されたヒドロキシルイオンは、セパレータを通ってアノードに移動する。セパレータは、電解中に形成された水素ガスと酸素ガスとの混合を防止する。
【0165】
電解質溶液は、典型的にはアルカリ溶液である。好ましい電解質溶液は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムから選択される電解質の水溶液である。水酸化カリウム電解質は、それらのより高い比導電率のために、しばしば好ましい。電解質溶液中の電解質の濃度は、電解質溶液の総重量に対して、好ましくは10~40重量%、より好ましくは20~35重量%である。非常に好ましい電解質は、30重量%のKOH水溶液である。電解質溶液の温度は、好ましくは50~120℃、より好ましくは80~100℃である。
【0166】
電極は、典型的には、いわゆる触媒層が設けられた基材を含む。触媒層は、酸素が形成されるアノードと、水素が形成されるカソードとで異なる場合がある。
【0167】
典型的な基材は、ニッケル、鉄、軟鋼、ステンレス鋼、バナジウム、モリブデン、銅、銀、マンガン、白金族元素、グラファイト、及びクロムからなる群から選択される導電性材料から作製される。基材は、2つ以上の金属の導電性合金、又は2つ以上の導電性材料の混合物から作製される場合がある。好ましい材料は、ニッケル又はニッケル系合金である。ニッケルは、強アルカリ溶液中で良好な安定性を有し、良好な導電性を有し、比較的安価である。
【0168】
アノード上に設けられる触媒層は、高い酸素生成能を有することが好ましい。触媒層は、ニッケル、コバルト、鉄及び白金族元素を含むことが好ましい。触媒層は、元素金属、化合物(例えば、酸化物)、複合酸化物若しくは複数の金属元素からなる合金、又はそれらの混合物としてこれらの元素を含む場合がある。好ましい触媒層は、めっきニッケル、ニッケル及びコバルト若しくはニッケル及び鉄のめっき合金、LaNiO3、LaCoO3及びNiCo2O4等のニッケル及びコバルトを含む複合酸化物、酸化イリジウム等の白金族元素の化合物、又はグラフェン等の炭素材料を含む。
【0169】
ラネーニッケル構造は、Ni-Al又はNi-Zn合金からアルミニウム又は亜鉛を選択的に浸出することによって形成される。浸出中に形成される格子空孔は、大きな表面積及び高密度の格子欠陥をもたらし、これらは電極触媒反応が起こるための活性部位である。
【0170】
触媒層はまた、耐久性及び基材に対する接着性を改善するために、ポリマー等の有機物質を含む場合がある。
【0171】
カソード上に設けられる触媒層は、高い水素生成能を有することが好ましい。触媒層は、好ましくは、ニッケル、コバルト、鉄及び白金族元素を含む。所望の活性及び耐久性を実現するために、触媒層は、金属、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物若しくは合金、又はそれらの混合物を含む場合がある。好ましい触媒層は、ラネーニッケル;複数の材料(例えば、ニッケル及びアルミニウム、ニッケル及びスズ)の組み合わせからなるラネー合金;プラズマ溶射によりニッケル化合物又はコバルト化合物を溶射することによって作製された多孔質コーティング;ニッケルと、例えば、コバルト、鉄、モリブデン、銀及び銅から選択される元素との合金及び複合化合物;高い水素生成能を有する白金族元素(例えば、白金及びルテニウム)の元素金属及び酸化物;それらの白金族元素金属の元素金属又は酸化物と、別の白金族元素(例えば、イリジウム又はパラジウム)の化合物、又は希土類金属(例えば、ランタン及びセリウム)の化合物との混合物;並びに炭素材料(例えば、グラフェン)から形成される。
【0172】
より高い触媒活性及び耐久性を提供するために、上述の材料は、複数の層に積層される場合があり、又は触媒層に含まれる場合がある。
【0173】
耐久性又は基材に対する接着性を改善するために、ポリマー材料等の有機材料が含まれる場合がある。
【0174】
いわゆるゼロギャップ電解セルでは、電極はセパレータと直接接触して配置され、それにより両方の電極間の空間を減少させる。メッシュ型又は多孔質電極は、セパレータに電解質を満たすことを可能にし、形成された酸素及び水素ガスを効率的に除去するために使用される。このようなゼロギャップ電解セルは、より高い電流密度で動作することが観察されている。
【0175】
典型的なアルカリ水電解槽は、上述の電解セルのスタックとも呼ばれる、いくつかの電解セルを含む。
【0176】
図5には、本発明によるゼロギャップ膜電極アセンブリの概略図が示されている。このような膜電極アセンブリは、2つの電極間に介在するセパレータ(膜)を含む。アノード(A)とカソード(C)との間のセパレータアセンブリを含む膜電極アセンブリをアルカリ電解槽内に配置した後(
図5、左側部分)、一時的支持体は電解質によって実質的に除去され、動作可能な膜電極アセンブリが得られるであろう(
図5、右側部分)。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体(10)と、前記支持体上に設けられた多孔質層(20)とを含む水電解用セパレータであって、多孔質支持体がセパレータから実質的に除去可能であることを特徴とする、水電解用セパレータ。
【請求項2】
多孔質支持体が、アルカリ電解槽の電解質によって実質的に除去可能である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
多孔質支持体が、電解質によって24~48時間後に実質的に除去可能である、請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
多孔質支持体の厚さが20~400μmである、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項5】
セパレータの厚さが50~500μmである、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項6】
多孔質支持体が、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン又はセルロースを含む、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項7】
第1及び第2の多孔質層が、多孔質支持体の一方の側及び他方の側にそれぞれ設けられている、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項8】
第1及び第2の多孔質層が、ポリマー樹脂及び親水性無機粒子を含む、請求項7に記載のセパレータ。
【請求項9】
ポリマー樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載のセパレータ。
【請求項10】
親水性無機粒子が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化チタン及び硫酸バリウムからなる群の少なくとも1つから選択される、請求項8に記載のセパレータ。
【請求項11】
第1の多孔質層と第2の多孔質層が同じである、請求項7~10のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項12】
請求項1に定義された水電解用セパレータの製造方法であって:
- ポリマー樹脂、親水性無機粒子及び溶媒を含むドープ溶液を多孔質支持体上に適用する工程と、
- 適用されたドープ溶液に対して転相を行うことにより、多孔質支持体上に多孔質層を形成する工程とを含む、方法。
【請求項13】
アルカリ溶液中で多孔質支持体をセパレータから実質的に除去する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アルカリ溶液が、50℃以上の温度で10~40重量%のKOH水溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
カソードとアノードとの間に位置する、請求項1に定義されたセパレータを含む、アルカリ水電解槽。
【国際調査報告】